○野田哲君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題となりました
元号法案について、
総理並びに関係大臣に対し次の数点について
質問いたします。
まず、
総理、あなたは、皇位の継承によって年月日の表示方法が
変更されるというアナクロニズムに満ちた一世一元
制度について、現行憲法との関係において基本的にどのような認識を持っておられるのでしょうか。
年月日の表示に支配者の名を冠して人民に使用を強制する
制度がとられたのは、古代中国の前漢・武帝の時代と言われており、その思想の根幹をなすものは、権力者が領土を支配し、人民を支配し、あわせて時間の経過をも支配するという絶対主義的思想のあらわれであり、人民は元号を使用することによって権力者に服従の意をあらわす、支配者と被支配者の関係の中でできた
制度だと言われています。
明治憲法に基づく旧皇室典範で
規定された一世一元制はまさにこの思想を受け継いだものであり、旧皇室典範が当時の
国会の議決を必要としない超
法律的
制度であったことからしても、これに
規定された一世一元制は、統治者の権威の保持の手段として
国民とは無縁に
制度化されたものであります。この思想は、現行憲法の制定によってすでに葬り去られ、一世一元制は、
制度としては過去の遺物となっていることは明確な事実であります。
一九四六年一月一日、それまでの
わが国の統治の総攬者として君臨し、現人神と言われていた天皇は、第二次世界大戦の敗戦を契機に、みずから人間宣言をされ、天皇は
国民とともにあり、神話と伝説によって生じたものではないと述べられています。そして、現行憲法は、その前文において、
日本国の主権は
国民に存することを高らかに宣言しています。いま
国民の間に多くの議論が存在する元号法をあえて推進しようとする行為は、天皇みずからが旧憲法の思想を否定して人間であることを宣言された精神と、
日本国の主権者は
国民であることを基本とした現憲法の理念に大きく逆行するものと言わなければなりません。この点について、
法律解釈論に矮小化するのではなくて、憲法の理念、民主主義の理念としての
総理の認識を、まず伺うものであります。
第二に、元号
制度と天皇の追号との関係について、
総理並びに総務長官の
見解を伺います。
旧憲法に基づく皇室典範によって一世一元制が設けられて以来、明治、大正と、元号は天皇の追号と密接不可分のものとなっています。今回制定しようとする元号は天皇の追号とどのような関係を持つものであるのか、以下、次の点について、その
見解を求めるものであります。
まず、天皇の追号の決定
手続を定めていた大正十五年十月二十一日付皇室令第十一号皇室喪儀令はすでに廃止されているが、今後天皇の追号はどのような
手続によって決定されるのか、また、追号の決定は私的行為であるのか、あるいは従来の例によって
政府の行政行為としてなされるものであるのか。次に、現在制定しようとしている元号法に基づく元号と今後の天皇の追号とは明確に分離されるものであるのか、あるいは従前の例にならって元号がそのまま追号として決定されるのかどうか。以上の点について
政府の
見解を求めるものであります。
第三に、この元号法に基づいて制定された元号の
国民に対する拘束力について伺います。
政府見解によると、この法案には元号の使用を義務づける
規定はないが、国の機関が元号を使用することを予定し、地方公共団体においても国と歩調を合わせて元号を使用することを期待する、
国民に対しては、統一的事務処理のために元号の使用について
協力を求める、となっています。この
見解は、
現状においても事実を曲解したはなはだしい認識不足と言わなければなりません。
法務大臣、あなたは、現在、
国民が戸籍法に基づく出生、婚姻、死亡等の届け出を行うに際して西暦を主張し元号の使用を拒んだ場合、素直にこれが受理されていると認識されておられますか。
自治大臣、あなたは、現在、市町村において、戸籍法に基づく各種届け出や住民登録、印鑑登録等がどのように処理されているか、その
実態を承知されておられますか。元号が
法律的根拠を失っている現在においてさえも、事務の統一的処理という名目と、明治、大正、
昭和を既定の事実として印刷した用紙や記載例によって、事実上その使用を強制されているのが
現状の姿であります。もし、元号の使用を強制しない、
国民に元号の使用を義務づけないと明言されるのであれば、
国民が公的機関に提出するすべての届け出用紙や記載例の様式から明治、大正、
昭和の文字を抹消し、どのように年月日の表示を行うかは
国民の自主的判断にゆだねるべきであると
考えますが、そのような
措置をとる用意があるかどうか。法務大臣、
自治大臣、総務長官、それぞれにその
見解を伺うものであります。
次に、
総理の政治
姿勢と元号法の関係について伺います。
総理は、就任に際して、「信頼と合意の政治」を推進することをその政治
姿勢の基本として
国民に約束されました。しかし、今回の元号法制化は
国民の間に不信と亀裂をもたらし、
総理の掲げた政治
姿勢が全く空疎なものであることを
指摘せざるを得ません。今回の
元号法案の提出が、いわゆる右翼集団に大きなはずみをつけ、学園においては
元号法案に反対をする学者が暴行を受けたり、静かな宗教家の街頭での反対署名活動が暴行によって妨害されるなどの事例が数多く
発生しています。私たち
国会議員として反対の意見を持っている者に対してはもちろん、
国会からの
要請によって参考人として出席して反対意見を述べた有識者に対してまでも過激な脅迫状が送りつけられている
現状を、信頼と合意の政治を進めるという
総理はどのように認識されるのでしょうか。
総理、あなたが提出した
元号法案は、このように、思想、信教、言論の自由を暴力と脅迫によって封殺しようとする集団に大きなはずみをつけ、民主主義が損われつつあるのです。このような風潮に対し、
総理並びに国家公安
委員長はどのような
見解を持っておられるか、その所見を伺いたいのであります。
元号法案が誘発した危険な風潮は、右翼集団の行動だけにとどまらず、公的機関の行動にまで及んでいることを
指摘し、重ねて
総理の
見解を求めたいと思います。
去る二月十一日、宮城県民会館において開催された「建国記念日奉祝宮城県民大会」と称する集会は、自主憲法の制定、一世一元の法制化実現をスローガンに掲げ、大会決議としても同様の
趣旨を採択しています。この集会に、陸上自衛隊東北方面総監柏葉陸将が参加し、あわせて陸上自衛隊東北方面音楽隊がこの集会に協賛して参加している事実があります。このような、現行憲法を否定し、元号法の実現を図ろうとする特定の政治目的を持った集会に自衛隊の高級幹部や音楽隊が参加するという行為が容認されていいのでしょうか。このような行為が公然と行われることにこそ、今回の憲法理念に逆行する
元号法案提出という
政府の政治
姿勢が自衛隊にまで投影して、絶対越えてはならない枠を踏み越える行為に走らしていると
指摘をしなければなりません。自衛隊の最高指揮官である
総理は、このような自衛隊の行動にどのような
見解を持たれるのか、明確な答弁を求めます。
次に、元号法の制定が今後の教育に及ぼす
影響について伺います。
総理府や各種報道機関の
調査によって明らかなことは、若い世代ほど西暦使用の比率が高く、法制化に批判的な傾向が強いという事実であります。
昭和の後はどうするかという問題は、まさに若い世代の選択にゆだねるべき課題であって、「明治三十八歳」などという言葉がまかり通る世代の郷愁によって選択されるべき課題ではないのであります。この若い世代の意向は、世界の中の一員という立場に立った学校教育の成果であり、年々拡大しつつある国際交流の反映、そして西暦使用が日常生活の中で定着しつつあることを明瞭に物語っているのであります。皇位の継承と年月日の表示とは無縁のものであるという意識のあらわれであります。元号法の制定は、これからの
日本の主人公となるこの若い世代の意向を
法律という公権力によってねじ曲げ、時代に逆行させようとする行為にほかなりません。
特に、現在の若い世代の意識構造を形成した教育に対する
影響について、次の点で文部大臣の
見解を求めるものであります。
まず、天皇がかわれば年月日の呼び方も変わるということの理由、根拠を、現行憲法の精神のもとで教師はどのように科学的、合理的に青少年に教育の場で
説明することができるのですか。
次に、教科書の取り扱いについて伺います。現在使用されている教科書が、世界史が西暦で表示されているのは当然でありますが、
日本史についても、世界の歴史の進行の中で時を同じくしてどのような歴史が形成されてきたかという観点から、西暦が表示の主体となっていることはきわめて合理的かつ正当であると
考えます。しかし、元号法がもし制定された場合、教科書などの検定において現行の西暦による表示に
変更を及ぼすような
措置がとられるのではないか、この点について文部大臣の
見解を伺うものであります。
次に、明治以降の数十年の時期において天皇が統治の総攬者として存在したときと異なり、現在では、天皇の皇位の継承は
国民の生活には何らの
影響、
変化をもたらさない
制度となっています。しかし、元号法の制定によって、皇位の継承の都度教育現場や教科書、教材等に
変化が生じることは、新たな混乱と不合理感を生み出すことになるのであります。元号
制度がもたらすこのような教育現場への
影響について、文部大臣はどのような
見解を持っておられるか、その
見解を伺うものであります。
最後に、
総理、あなたが真に信頼と合意の政治を展開されようとするのであれば、そして、世界の中の
日本として国際社会を歩もうと
考えられるのであれば、この法案の審議を凍結して、広く
国民の合意を求めるための最善の方途について各党と協議を行うべきではないでしょうか。与党の総裁である
総理は、そのリーダーシップをとる用意があるかどうか、その
見解を最後に伺って、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣大平正芳君
登壇、
拍手〕