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参考人(
中島篤之助君) 中島でございます。
それじゃ、座ったままで御説明をさしていただきます。
私は、いままで
原子力研究所と
動力炉・
核燃料開発事業団だけに再
処理事業が許されていたものを
民間に移すという
法案については、現在の段階では大変時期尚早であって、現在の
技術の発展段階その他から見て時期尚早であって、むしろ非常に危険であると考えておる立場から、私の
意見を幾つか申し上げたいと思うのであります。
まず第一に、これは皆さんよく御
承知のことかと思いますが、実は、核の
エネルギーというものは
核燃料再
処理に限りませんが、核の
エネルギーというものが軍事
利用と非常に分かちがたく結びついたものであるということは、もう三十年前に有名なアチソン・リリエンソー報告の中の冒頭に、非常に強いインターコネクションがあるんだということが述べられておるわけですけれ
ども、以来三十年たちまして、この
関係が、大変残念なことに、たとえば
核兵器の
利用がなくなって、廃絶されて、そして安心して平和
利用ができるという現状ではないわけでありまして、三十年前よりももっと危険な巨大な
核兵器体系が一方に存在するということは御
承知のとおりであります。それから、その中でも有名な、たとえばマイター報告、これはカーター大統領が最近出したマイター報告の中では、
原子力の平和
利用と軍事
利用を分かつ分水嶺をなしているものがきょう問題になっております再
処理の
技術であるというふうに述べられているわけであります。それで、今度の
法案の中で、もちろん新しくつくられるであろう
民間の再
処理工場の場合、それが平和
利用以外のものに転用されるというような場合には総理大臣はもちろん許可をしないんだという
法律に当然なっておるわけですけれ
ども、その保証がそれ以外には何も見当たらないということをやはり指摘しておく必要があるのではないかと思うのでございます
それから、いま瀬川理事長もおっしゃいましたけれ
ども、日米
核燃料交渉というものは、そもそもやはり
アメリカが
核燃料再
処理工場、従来の
核燃料再
処理工場というものはそのままではそれは即
核兵器工場であるという
認識があったればこそ、非常に厳しい、ある意味では非常に、何といいますか、日本では想像もしてなかったような困難な交渉になったということは皆さんも御
承知のとおりでありまして、この点を考えましても、いまどうして急いで
民間にそれを移さなければならないかということについて私は
理解しかねるわけであります。それが第一の点であります。
それから第二に、
民間の再
処理工場と申しますか、その再
処理の
技術が非常に困難なものである。これについては、繰り返すまでもありませんが、御
承知のように、現在、いわゆる軍事
利用の再
処理工場は別といたしまして、
民間の再
処理工場では成功しているものがないというふうに申し上げてよろしいと思います。というよりも、試験
工場でありますけれ
ども、とにかく動いていたのが
動燃の再
処理工場だけであったというような状態があったわけでありまして、これは私前も申し上げたことでありますが、一九六〇年代の初めには、いわゆるアトム・フォー・ピースが始まりまして十年ぐらいたった時期では、
民間でこういうものを企業化してうまくいくんじゃないかという
考え方がありまして、そして
アメリカの例でございますが、
アメリカのニュークリア・フュエル・サービスという企業が実際に
核燃料の再
処理をいたしました。これは当時のお金で三千万ドルぐらいの費用を費やして
工場ができ、実際に再
処理をやったんでありますけれ
ども、一九六六年から
操業を開始いたしまして六
年間操業いたしましたけれ
ども、七二年に
操業を中止しております。
運転を中止しております。その理由としては、一つは従業員の
被曝が非常に増大したということが一つの理由でありますし、もう一つは、六十万ガロンと言われておりますが、六十万ガロンというのは一ガロンが四リッターとしますと、二百四十万リッターの高
レベル廃棄物が許容限度いっぱいにたまってしまったと、それから
工場を、
施設を新たにつくり直して
拡大したいということで一回停止をしたんですけれ
ども、その後、追加の費用が余りにも巨大だということで、結局企業的には放棄されてしまっておるわけであります。それで、六十万ガロンの高
レベル廃棄物は現在ニューヨーク州という州
政府の
管理になっておりまして、州
政府は大変これをお荷物にして、何とか連邦
政府の所管に移したいということを考えているそうでありますけれ
ども、とにかく企業的にも失敗であった。それから、そのうちの実際に
処理しました
燃料も、三分の二ぐらいが
政府関係の
燃料を
処理したんだということでありまして、これは一つの実績でありますけれ
ども、六
年間で六百三十トンの
燃料を処分したにすぎないということが記録されておるわけであります。
で、そういうふうに、これは
アメリカの場合には実は軍事用の再
処理工場はちゃんと動かしておるわけでありまして、十分な
技術的背景を持っている国だと私は思うのですけれ
ども、その国にしましても、それを企業的に成り立たせてやるという点では非常に困難があるということをその一つの例として申し上げたわけであります。実は、そのほかにも、GEが企画しましたモーリス
工場がせっかく完成したところで
技術的に見通しが甘かったということで放棄されておりますし、それからその後ごく最近完成しておって
操業するばかりになっておったアライドケミカルズのバーンウエルというところにあります再
処理工場も、これは今度問題になっております千五百トンぐらいの大
規模な
工場だそうでありますが、それもいま企業的な
運転開始ができない、そういう困難に遭遇しているというふうに伝えられております。
それで、私がもう一つ申し上げておきたいのは、
民間企業の形態をとった場合に、特に日本の場合に、
原子力基本法に明記されております
原子力三原則、中でも公開の原前ということが
確保されるだろうかということを学術
会議の立場としては申しておかなければならないのでありますが、今度の
法案を拝見いたしましても、それは当然
基本法に従うという規定があるだけで、
民間になったからより公開されるというような保証は全くないのではないかというふうに考えるわけであります。
それから、時間がありませんから次に進ましていただきますが、この再
処理事業の一つの特徴と申しますか、再
処理の結果生じてまいりますいわゆる放射性の高
レベル廃棄物の問題があります。これも
民間の
処理ということになるのかどうかということが明瞭ではございませんけれ
ども、この問題は昨年衆議院でいろいろ議論されましたときにも、現在
原子力安全
委員会の
委員をしていらっしゃいます田島先生も、
民間再
処理ということはともかく、高
レベル廃棄物ということについては国がやはり責任を持つということを考えなければならないのではないかという御
意見を述べておられましたけれ
ども、私も全く同感でありまして、これは当然国として心配せざるを得ない問題であります。たとえば、高
レベル廃棄物を適当な
処理ができて、仮に陸地処分をするというようなことを考えた場合でも、それを一体どこへ保管するのか、どういうふうにして保管するのかということが
民間企業でできるとは私には考えられませんから、その点をぜひお考えいただく必要があろうかと思います。
実は、高
レベル廃棄物の
処理処分の問題につきましては、この機会に申し上げておきますと、国際学術連合、ICSUという機関がございます。インターナショナル・カウンシル・オブ・サイエンティフィック・ユニオンズの略でありますが、そのICSUがこの問題を全く非
政府機関として、つまりノンガバメンタルな形で取り上げようと、つまり、科学的に
政府に拘束されない立場で自由に議論をしようではないかということで、いまその
準備がいろいろ進んでおる。昨年の秋のICSUの理事会でこのことが決まりまして、そして今後ワーキンググループをつくって話し合いをしよう、各国の科学者の間で話し合いをしようと。で、実はICSUには学術
会議が加盟しておりますので、いまそのための
国内の対応体制をつくらなければいけないということがあるわけでありますけれ
ども、日本からは鉱物学の御専門であります渡辺武男氏が
委員としてこれに参加されることになっているわけでありますが、実はその
状況を伺いましても、見通しが全く立ったということではなくて、ただ、原則としては自分の国で発生した
廃棄物は自分で
処理するんだという原則を一応立てて進まざるを得ないけれ
ども、果たしてそれが日本で可能であるかどうかというような点も考えなきゃいかぬ。ですから、私はこの問題に関連して申し上げておきたいのは、再
処理事業を始める前には、むしろ高
レベル廃棄物の
処理処分問題についての見通しをあらかじめ立てた上で着手しても遅くないと申しますか、実は
開発手順としては当然そういうことを行っておくべきであるというふうに思うわけであります。
それから次に、これが
民間に移った場合は特にそうであろうと思うのですが、再
処理の
事業そのものの維持というものを実は考え直す必要があると私は考えております。と申しますのは、
核兵器をつくりますときには、再
処理工場と申しますのはつまり
核兵器に直接つながった
プルトニウムを抽出する工程でございまして、これはどうしても必要な工程だということは明らかでありますけれ
ども、平和
利用という立場から考えます場合に一体どうなるかということであります。つまり、これは申し上げるまでもないことかもしれませんが、仮に再
処理工場が
工場であるというふうにいたしますと、その製品は何であるか。これは、どういう
燃料を
処理するかによって当然製品は変わってくるわけでありますけれ
ども、仮に
ウランを
処理すると、日本の場合にはかつて
天然ウランを
燃料に使った
原子炉がございまして、その場合には減損
ウランが出てくる。しかし、これは残念ながら用途がないであろう。それからもう一つ
プルトニウムが出てくる。これは、ずっと以前に日本で再
処理事業を始めますときに、亡くなられました大山先生を
委員長とする
委員会がございまして、いろいろ議論された報告書を最近読み直してみたんですけれ
ども、それにもそういうふうに書いてございます。
プルトニウムはとりあえず用途がない。高速炉が完成しなければ用途がない。それはしばらくためておくよりほかないだろう。問題は、
軽水炉で使います
濃縮ウランを
処理した場合に出てくる減損
ウランは、これは用途があるはずであります。というのは、二・六%ぐらいの
濃縮度の
ウランを
原子炉に入れて燃焼させまして、そして燃焼した後でも一%近くの
ウラン235を含んでいるわけでありますから、これは当然用途があると考えられやすいのですけれ
ども、実は、それが用途があるためにはその後のプロセスがちゃんと立っていなければいけない。たとえば、それを
ウラン濃縮工場に回すことは考えの上ではできるわけでありますけれ
ども、実際上はいろんな困難がありまして行われておりません。こういうような問題について、
工場を動かして製品はできたけれ
ども使い道がないというようなことでは実は困るわけです。
それから、日米
核燃料交渉が起きました原因はほかならぬその
プルトニウム問題でありまして、それが
核兵器に直結しないか、軍事
利用に直結しないかというようなことからいろいろな問題が出されたことは
皆様御
承知のとおりでありまして、私がここでいま具体的な例を二、三挙げたわけでありますけれ
ども、これは
濃縮ウラン問題がどうなっていくのかということも含めまして、
核燃料サイクル全体をどういうふうに考えるか。つまり、きょうの
政府の説明書でありますが、提案理由によりますと、
ウラン・
プルトニウム・サイクルで進めるであろうということが書かれているだけでありまして、これが現在進行中の
核燃料評価
会議その他国際的な動向から見てそのままでいくのか、あるいはもっとそういう立場を、政治的な立場を離れましても、たとえばトリウムを使うというようなことを考えた場合には別のサイクルが当然考えられる、その場合には当然違った
核燃料サイクルが成り立ち得るはずでありますし、したがって、違った
核燃料再
処理のあり方が出てくるということになろうかと思います。私は、そういう問題の再検討こそ先行すべきでありまして、時間が非常に長いことかかるからいますぐ
民間に移して着手しなければならないというのは大変根拠薄弱ではないかというふうに思うわけであります。
で、実はもう一つ申し上げなければなりませんことは、最近米国で、皆さんも御
承知のように、
スリーマイルアイランドの
原子力発電所が
事故を起こしたわけであります。きょうは再
処理の問題でありますが、その問題の教訓という点で考えますと、
原子力の
技術について根拠のない非常に容易な楽観をしていたのではないか。つまり、
事故は起きないのだというふうな
考え方をとっていた。これは、
技術的にそういう
考え方をとっていたというだけではなくて、あるいは安全装置そのもの、がそういう内容であったということのほかに、安全審査等々も
事故は起きないのだとむしろ考えてやっておられたのではないかと言わざるを得ないわけであります。今後は、
事故はやはり起こり得るものとして安全をきちんと考えるということが当然必要になってくるのではないかと思いますけれ
ども、その点が実は
わが国の場合にも、再
処理技術の取り組みに対してもやはり非常に容易だったのではなかろうかということを申し上げざるを得ないのであります。
動燃の再
処理工場が、いまここに瀬川さんがいらっしゃいますが、非常に困難に遭遇していらっしゃるわけでありますが、いろいろ調べてみますと、やはり私がさっき申し上げました、よその国ではやはりいろいろな理由で企業的に成功していない。
動燃の
工場は別に企業的ということではなくて、
技術的に
自主技術が
確立できればそれでよいのだと私は思いますけれ
ども、それにしても、再
処理というものについて十分自主的な立場で
技術を蓄積するということであったかどうかについては私は大変疑問を持っておるわけであります。そういうことが端的にあらわれておりますのが、実は研究
開発手順が逆転していたのではないかという点であります。これは最近の
原子力発電所の
事故もその例でありますが、たとえば非常用炉心冷却装置、ECCSということで大変有名になりましたけれ
ども、そのECCSというものを安全装置だということで一方では
原子炉に取りつけてしまって
原子力発電所を認可し
運転する、それからECCSの試験等々をやるというのは、これは明らかにおかしいのでありまして、そんなに急ぐ必要はないのであって、ECCSならECCSというものの納得のできる実験が終わった後でそういうことをやればよろしいということが言えるかと思います。
そういう点で、
わが国における再
処理につきましては、私の再
処理そのものについての立場を申しますと、これは、
原子力の
開発をやるということであれば、とにかく真剣に検討すべきテーマであることは明らかでありまして、
わが国でも二十年以前から再
処理をどうすべきかという議論はされておったのでありますけれ
ども、大変残念なことに、たとえば基礎研究
——私は
原子力研究所におりまして
原子炉化学部という化学の部門におるのですけれ
ども、そこの
最初のテーマはやはり
核燃料再
処理の基礎研究ということであるわけですが、大変申し上げにくいのですが、隣におる青地さんのところで原研が
最初に工学試験
施設をつくったことがございます。工学試験
施設をつくりますと、もう基礎研究の方はやらないでよろしいというわけではないのですが、とにかく予算もつかなくなり、仕事はしなくなるというようなことがある。大変これは困ったことですけれ
ども、日本の大変悪い例であります。それから、お隣の
動燃が、
パイロットプラントか何かしりませんが、再
処理工場をおつくりになりますと、今度は工学試験
施設は閉鎖される。これが
歴史的な事実でありまして、これは全く逆であると私は考えるわけです。
動燃の再
処理工場ができたならば、基礎部門はもっと強化し、そしてたとえば工学的な試験
施設というものは
運転しておるというような体制でなければ、
原子力のような奥行きの深い
技術というものは本当はやっていくことができないと私は思うのでありますが、いままでの
開発のやり方は、大変残念ながらそうではなかったということを事実でもって私は申し上げることができるかと思います。
時間が余りありませんが、もう一つだけ、安全審査につきましてもやはり申し上げておきたいのは、最近の、さっき瀬川理事長も触れられた蒸発かんの故障にいたしましても、実は安全審査段階で溶接欠陥で小さいブローホールがあるということがちゃんと書かれております。私見て驚いたんですけれ
ども、しかし大したことはないんだということで、それは結果としては軽視されて、そして長い間
工場がとまるということに私はなったのではないかという感じがいたします。間違っておったら御指摘いただけばよろしいのですけれ
ども、公表されております安全審査資料で見る限り、そういうふうになっておるという
状況がございます。やはり
原子炉技術について少し甘く考えていたのではないかというふうに申し上げざるを得ないのであります。
そういういろいろな点からいたしまして、私は、まず
民間再
処理工場をつくる前に日本の研究
開発体制そのものを基礎から手順を正してつくり直すと申しますか、もう一度再吟味する、
核燃料サイクルの再検討を含めてそういうことをやるというのが先行すべきであろうと思うのであります。
以上でございます。