○谷口是巨君 私は、公明党・
国民会議を代表して、ただいま
説明のありました
医薬品副作用被害救済基金法案について、
総理並びに
関係閣僚に対し、若干の質問を行うものであります。
現在、
わが国において、サリドマイドによる被害者千二百名、スモン病患者約一万名、その他コラルジル、クロロキン、エタンブトール等による薬害に見られるごとく、広
範囲にわたって
医薬品の
副作用による被害が多発しており、その薬害の
内容はきわめて深刻かつ多様であります。これらの被害者は、ある者は生命を奪われ、ある者は身体奇形となり、さらには失明、寝たきり等の回復しがたい薬害によって、日々さながらの生き地獄の苦しみにさいなまれております。
かかる状況下で被害者が
救済される手段として、現状では、被害者に多大の時間と労力、
負担を要求する訴訟しかほかに方法がなく、その
救済が大幅におくれてきたことはきわめて遺憾であります。その意味において、多くの被害や
国民から被害者
救済の立法が強く望まれていたところであります。しかるに、
政府提出による本
法案の
内容はその期待に十分こたえられるものではなく、幾つかの問題をはらんでおります。以下、順次
問題点を明らかにし、
政府の見解を求めるものであります。
まず第一に、
制度の性格についてであります。
本
法案の性格は、民事責任の欠如した、企業の恩恵的
給付制度であると言わざるを得ません。すなわち、
基金制度の
給付対象となる
副作用被害は、企業等第三者の民事責任のないものとなっておりますが、企業にも
医療機関等にも何らの責任がない
副作用被害というものが果たしてあり得るものでありましょうか、はなはだ疑問であります。なぜならば、現実の
副作用被害のほとんどが
医療機関の責任とか企業の過失とか、さまざまの原因が複合して
発生しているのが実態であるからであります。
かかる意味において、本
制度の性格として、企業の恩恵的
給付制度としてではなく、民事責任原則に基づく損害賠償
制度として立法化すべきであると考えるものでありますが、見解を承りたいのであります。(
拍手)
第二は、無過失責任の
導入の可否についてであります。
本
法案については、無過失責任について採用するところとはならなかったのでありますが、その人命尊重及び被害者
救済の立場からすれば、無過失責任の
導入は必要不可欠であります。それは世界の国々の趨勢でもあり、
わが国においてはすでに公害立法、鉱業法、自動車損害賠償保障法、原子力損害賠償法等において実現し、西独においては、薬事法において限定的無過失責任を採用しております。
被害者の迅速かつ広
範囲な
救済を図ろうとするならば、当然この考え方に立つべきであり、
わが国において何ゆえに採用し得なかったのか、その
理由を明らかにしていただきたいのであります。第三に、被害者
救済の
範囲についてであります。
本
法案においては、既
発生の薬害についてその対象から除外しておりますが、
法案の土台となったと言われる厚生省の
医薬品の
副作用による被害者の
救済制度研究会
報告においては、既
発生の被害については
一定の被害を指定し、それらに限定して
救済を行うこととするのが妥当であると述べているのであります。そもそもこの
制度が考えられた
理由は、スモンとかサリドマイド等の悲惨な薬害に苦しんでいる被害者を何とか
救済しようとするところにあったのであります。
その意味で、過去のものについて切り捨てようとすることは、こうした
制度の存在意義の大半を失わせるものでありますが、何ゆえに除外したのか、その
理由を明らかにしていただきたいのであります。
さらにまた、過去の
副作用被害を除くほか、たとえば企業に過失があるもの、
医療過誤、自己の不適正使用、軽い
副作用、制がん剤、免疫抑制剤による
副作用等々を対象の
範囲から除くとするならば、果たして現実に本
制度によってどの程度の
救済が行われるのか、はなはだ疑問であり、きわめて限定されたものしか
救済されないのではないかと危惧するものであります。
わが党は、初めから
救済の対象を狭く限定せず、できるだけ広
範囲の
副作用被害をその対象とすべきであると主張してきたところでありますが、この点についてどのように考えているか、所見を承りたいのであります。
第四に、
副作用被害の
判定についてであります。
本
法案においては、
副作用被害であるかどうかの判断は
中央薬事審議会の
判定部会が行うことになっているが、
判定の基礎になる必要な資料を
医療機関や企業に対し請求する権限が明記されておらず、どのようにして資料を収集するのか疑問であります。
また、
副作用被害の
給付を受けるためには、あくまで被害者が必要な資料を
提出した上で決定されることになっておりますが、その必要な資料が企業や
医療機関の拒否に遭って収集できない場合は、いつまでも
救済が放置されるのかどうか、明確にしていただきたいのであります。現状においてはその可能性がきわめて濃厚なのであります。
したがって、このような場合、被害者本人にかわって、
判定部会が必要な資料を収集できる権限を付与すべきであると考えるのでありますが、見解を承りたいのであります。
さらに、
中央薬事審議会判定部会の委員の構成についてお伺いいたします。
判定部会の委員の構成について、多くの被害者は、これまでの
政府の態度に見られたように企業サイドの
学識経験者や専門家のみをもって構成するのではなく、被害者の推薦する
学識経験者を含めて構成すべきであると主張するものでありますが、この点についての御見解を承りたいのであります。
第五に、
給付水準についてであります。
給付水準については、今後政令によって決定されることになりますが、
政府においては、予防接種法の
給付と同一水準となると
説明しております。
給付水準については、当初、公害
健康被害補償法と同一水準で検討されていたのでありますが、これは明らかな後退と言わざるを得ません。現に、
政府の
医薬品副作用被害者
救済制度研究会のある委員は、当然公害
健康被害補償法と同一水準にすべきであると主張しております。また、予防接種被害に対する
給付補償は、社会防衛上必要欠くべからざる予防接種を
国民に強制する結果
発生する被害に対して国が補償
給付を行うものであり、企業責任が必ず伴う薬害とはその性格を全く異にするのであります。さらに、薬害被害者の置かれている悲惨な現状を考えれば、当然最低限、少なくとも公害
健康被害補償法と同一水準にすべきであると主張しますが、いかがでしょうか。
さらに問題は、厚生省の最初の試案に含まれていた保健福祉
事業がきれいさっぱりと削除されていることであります。公害補償法の中で「公害保健福祉
事業」として
規定されているように、被害者にとっては、単なる金銭
給付よりも、むしろ、被害者の受けた被害を治癒させ、健康回復を図る
事業の実施がきわめて重要であります。
その意味で、
給付の対象から除外したことは
制度の画竜点睛を欠くものとなったと考えるものでありますが、御見解を承りたいのであります。
第六に、本法第三十条において、
救済給付を受けている者に係る疾病、廃疾または死亡について民事責任が明らかにされた場合には、以後、
救済給付が中止されるとされております。しかし、
救済給付は年金等の形で
給付されるのであり、その被害者の療養設計や生活設計に組み込まれているのであります。したがって、その突然の中止は被害者の生活を大きく狂わすことになるのではないか。そうした場合、被害者が影響を受けないようにする
措置が必要であると考えますが、
政府の見解を承りたい。
第七に、本
制度における国の責任についてであります。
われわれは、薬害の
発生については、あくまで企業が第一義責任を負うものであり、国は、
医薬品の
安全性をチェックすべき責任があることから、第二義的責任があるものと考えるのであります。また、被害者が長きにわたって悲惨な状態に置かれていることを考えれば、社会保障的見地からも十分の責任を果たすべきことは当然であると考えるのであります。しかしながら、本
法案における国の果たすべき役割りとして、サリドマイドやスモン並みの大規模な薬害が
発生した場合の企業に対する
補助が
規定されているのみであります。その
補助も、今後サリドマイドやスモン等の大規模の薬害が
発生することはあり得ないとされているのでありますから、
政府のこうした立場からは、通常は国の責任を果たす
規定が全くないと言わざるを得ません。
しかし、被害者にとって重要なのは、一日も早い健康回復であり、社会復帰であります。それを
促進し、
助成する保健福祉
事業が当然
給付の
内容に含まるべきであり、それに対して、
政府は応分の
負担を行ってその責任を果たすべきであると主張するものであり、
補助のみでなく、相当の
負担金で対処すべきであると考えますが、
政府の見解を伺いたい。
第八に、本
制度の対象から除外される
医療過誤による
副作用被害の
救済についてであります。
現実には、
医療過誤による
副作用被害が被害の中でかなりの比重を占めていると推定されており、それが除外されるとなれば、数多くの
副作用被害が放置されることになることが考えられるのであります。したがって、それらに対して何らかの
救済措置が新たに必要になると考えますが、この点についての
政府の見解を求めるものであります。
第九に、今日、薬害多発の背景に、乱診乱療、薬づけ
医療とか言われることが存在していることは否定できない事実であります。
一つには、
現行健康保険
制度の中で薬の大量消費を助長する側面があり、二つには、企業の大量生産に基づく添付や値引きの不当な販売姿勢に原因を求めることができるのであります。したがって、薬害防止のためには、薬事法の改正のみならず、健康保険
制度の改革や一日も早い医薬分業の完全実施等の強力な施策が要求されるのであります。さらに重要なことは、企業のプロモーション活動に対する法的規制が必要であると考えられるのでありますが、
政府はいかに対応する考えか、見解を承りたいのであります。
最後に、
製造物責任の法制化について
総理にお伺いいたします。
医薬品を含め、各種各様の
製造物の瑕疵、欠陥によって生ずる生命、身体及び財産に対する被害は、経済企画庁の推計によれば、年間二百七十七万件にも及ぶ膨大な数に上っております。こうした被害について、現状においては何ら
救済策がなく、ほとんどの
国民が泣き寝入りしている現状であります。
欧米先進国においては、
製造物責任が各種の形で立法化され、消費者の受けた被害に対して機敏に対応がなされているのであります。
わが国においてもさきに、
国民生活審議会の消費者保護部会が五十一年十一月に
製造物責任
制度の確立を提言し、民間の学者たちもすでに
製造物責任法要綱試案を発表しております。聞くところによりますと、この
製造物責任の法制化について、
政府はきわめて消極的であると言われ、その実現が危ぶまれているのであります。もし
政府がこうした態度に終始するならば、
国民や消費者が受けている被害の
救済について全く熱意がないと断ぜざるを得ないのであります。
製造物責任があらゆる分野に影響を与える性質のものである以上、その法制化には
総理の強力なリーダーシップが必要であります。
総理の御見解を承って、私の代表質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣大平正芳君
登壇〕