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小口参考人 総評繊維労連の
小口でございます。
繊維工業構造改善法一部改正に関する
参考意見を述べさせていただきたいと思います。
本法の大筋において、私
たちはこれを了解いたします。しかし、他の方からも述べられましたように、過去の実績や運営に多くの問題をはらんでおりますので、私
たちとしては、以下述べますような運営についての
要望を強調したいと思います。
第一点は、
繊維産業を、産業構造全体の中でどのように戦略的に
位置づけるか、このことを
政府は明らかにしてもらいたいという点が
一つです。
御案内のように、高度成長過程で、
日本の
輸出貿易の上で、重化学工業
製品の
輸出比率は非常に進みました。昨年で八五・八%の重化学工業比率に達し、これに対して、かつて
輸出産業の担い手だった
繊維産業は、今日、繊維原料と繊維
製品の
輸出比率だけを見ますと、五%に低下しております。加えて、国際収支の面から見まして、米国市場との間では百十六億ドルの黒字があり、東京サミットでこれがまた問題になるわけですが、そのほかに、ヨーロッパ市場との間でも六十三億以上の黒字があり、かつ韓国、台湾、香港、タイ、パキスタン等、東南アジア市場に対しても、五十八億ドルの
輸出超過にあります。
そのほか米国EC市場では、
日本製品に対する厳しい
輸入規制が行われ、このような国際的な
生産と
輸出の
条件に阻まれまして、とりわけ
日本で大きな市場である東南アジアとの関係については、
輸出品目は一次産品が多いために、将来開拓しようという東南アジア市場に対して、財界、とりわけ重化学工
業界では、繊維軽工業
製品はもう韓国、台湾、香港に任したらどうかという
意見が一方で強くあります。それから
輸出入大手
商社は、本質的に
輸出勘定と
輸入勘定のバランスをとるのが営業の主体でありますので、このような産業構造、貿易構造が持っておる矛盾を、
商社から見ますと、
輸出入バランスを合わせるという観点から、
中国、韓国を繊維加工基地として利用するというような動きが起こっております。
こういう風潮があるために、一方ではアパレル産業の
国際競争力を高めるために、過去五年だけ見ましても、総額五千億円余に上る財政資金の投入をしてまいりました。そして、
過剰設備の処理と
設備近代化が進められてきたのですが、昨年は、とりわけ綿糸は九万九千トン、平年度の三倍、このうち六六%が韓国から
輸入されました。また綿
織物については、短繊維
織物で三・三億平方メートル、前年の一・九倍も
輸入されて、この中身の六九%は
中国からです。
私
たちは、日米間繊維の不当な
輸入規制に対して反対してまいりました。そのときに、
日本がアメリカに
輸出した毛
織物、化合繊の繊維
輸出額は、アメリカの
国内消費のわずか五%にすぎなかったのです。そしてヨーロッパでもアメリカでも、それぞれの労働
組合は、それぞれの雇用を守るという
立場から、一定の貿易政策を持っています。ヨーロッパの労働
組合は、繊維貿易に関する国際取り決めについては、おおむね
輸入伸び率は五、六%という範囲でとどめるべきだというのが常識になっています。これらの動きを見ますと、今日
政府が進めております
構造改善施策の推進と、一方、進行する繊維品の
輸入政策との間には大きな矛盾があります。このままの状態で何ぼ
構造改善を進めても、これは一体
過剰設備かどうか、
業者自身が判断がつかないという苦境に立たされています。
一方、国民一人当たりの衣料消費の点から見ますと、必ずしも
日本は過剰
生産ではありません。アメリカが二十四キロから二十五キロ、ヨーロッパは十七キロから十八キロ、
日本は一番伸びたときが一九七三年の十五キロで、最近は実質賃金の低下とともに、十キロに低下しています。東南アジアは四、五キロの水準にあって、国際的に衣料
商品における消費力の地域的な差というものも、非常に大きなものがあります。
こういうようなことを考えますと、私
たちは
繊維産業に働く労働者として、国民によい品を安くかつ安定的に供給するということを義務と考え、また伝統産業の中で働く誇りも持っています。しかし、安ければ買えばいいというような
施策で、私は
繊維産業を考えてほしくないと思います。国民の衣料品の大半を他国から供給を受けている国はありません。また、
繊維産業の中で工夫されてつくり上げられてくる衣装というものは、その国の民族の文化というものの担い手でもありました。それらを考えますと、私
たちは、最近の風潮について大変に疑問を持っています。
それらを考えまして、まず、産業構造の上で一体
日本の繊維衣服産業の
位置づけはどうしたらいいか、
国内生産と
輸入、
輸出、海外投資、これらの問題についてもう少し確たる方針を出していただきたい。そうでないと、いろいろなメニューをつくって、金を貸します、金利もまけますと言ってみたところで、
業界はそれを生かすだけの食欲が起きてこないのです。
二番目は、
構造改善施策のビジョンと、その手段としての体制金融の
役割りを明確にしてほしいという点です。
一九七四年の五月に
構造改善臨時措置法が可決されたときに、これが最後だということで、
業界も
政府もそういう形で答申が行われましたけれ
ども、今回また五年の延長になった。顧みると、一九五六年に
繊維工業設備臨時措置法が制定されて以来、二十三年の期間が経過しています。その間、
過剰設備の処理やカルテルによる勧告操短等が継続されて、いろいろなことが行われてまいりました。しかし、先ほど瀧澤先生の方からも御
発言がありましたように、この長い努力にもかかわらず、歴年の
構造改善施策が、成果を上げたと公言できる実績に乏しいわけです。これは、
環境的には韓国、台湾、香港等の繊維品の
輸出競争力の強化とか、原油値上げのような問題とか、
円高の問題等があることは事実です。しかし、反面、最初に述べましたように、
政府と大手メーカー、
商社の間においても、
繊維産業の
位置づけというものについて、必ずしも明確な合意があったとは思えません。むしろそのときの
法律のそれぞれの
事業対象は、
経済の変化におくれて対応してきたきらいがないとは言えません。特に、
構造改善が終わったら、
繊維産業の
生産力と
事業所数と雇用者とは、それぞれの
業界はどのくらいの割合で全体的に
結合していただいたらいいか、このビジョンが必ずしもはっきりしているとは言えないと思います。
私
たちは中小二次加工に働いている労働者で、いろいろ
仕事をやっておりまして、本来
構造改善施策の基本というのは、次の四点でいいのではないかということを一貫して言ってまいりました。
すなわち、加工賃の適正化と
付加価値の適正配分、二番目は、
取引契約の
近代化、言葉をかえて言えば、
商品の売り買いについてお互いにもっと自己責任を徹底してほしい、返品制度というような不明朗な、無責任な押しつけは、とても中小
企業労働者としてがまんできません。それから秩序ある
輸入規制
措置です。四番目は、最低賃金法、家内労働法の強化による公正
競争の基盤の整備です。
この四つの原則というものは、中小
企業の現場で労働問題に携わっておりますと、
繊維産業のように、原糸の供給メーカーと大手
商社が発注者になって、二次加工は中小
企業で、ほとんどが受注
生産による系列
生産が体系的に完備している中において、加工賃とか
取引契約とかいうようなものは、非常に不公正な
競争で行われ、いろいろな意匠を考え、いろいろなデザインを考えた中小
企業の
付加価値は、不当に収奪されておるというのが実感でございます。そして現実に進められてまいりましたのは、
過剰設備の処理との交換に、
設備の
近代化資金の融資とか、異業種間
結合による
事業共同化資金の融資というものが中心でした。その結果、確かに
業界では木の織機が鉄の織機にかわったとか、高速編み立て機が入ったとか、ニット化とか既成服化が進行したことは事実です。しかし反面、
織物業者を初め二次加工
業者にとっては、
近代化投資を急いだ
産地と
業者ほど、借金が残ったこともまた事実です。
私
たちは、本来発注者と受注者の共同努力によって、
設備の
近代化、
生産性の向上、品質の安定が図られ、二次加工
業者の
近代化投資は、
生産性の向上と、加工賃の中での減価償却分として、調達吸収されていくべきものではないかと考えておるわけです。ところが、二次加工の中間段階において、体制金融が行われているために、この体制金融がこれを代位して、借金は
自分の責任で機械を入れながら、それで織った
製品及びそれによって
生産性が上がったものは、加工賃の切り下げに回ってしまって、借金の返済の余裕が出ないというのが二次加工
業者の実態です。そのために、常に
不況の都度、返済期限の猶予というのが国会に陳情されております。
私
たちから見れば、営業の自由ということから見ても、どの糸でどの
織物を織るか、あるいはどこのメーカーの繊維機械を入れたら一番採算に合うか、どこの系列に入ってどういう
商品生産をしたらよいかとか、あるいは
自分の
設備が過剰であるかどうかとか、これらは本来
事業主自身が自主決定する問題であって、
政府側がどのくらいの
過剰設備があるからどのくらいスクラップしたらいいというようなことは、本来それ自身は
施策の中心であるべきでないと思っています。ところが、いま言いましたような系列
生産のもとでの、
生産関係が固定されている
条件下では、どんなに
業者が考えても、糸は
自分では買えない、生地は先方から与えられてそれを縫製する、そして
自分が縫製したものは、またどこの
商社を通して売る、全部決まっておるわけです。こういうような中での体制金融というのは、かえって大手メーカー、
商社のリスクというものを結果的に肩がわりしているのではないか。
そのような意味で、二十三年の経過を経てみますと、
政府側が、中小
企業の強化ということが大義名分になりますが、結果的にこのような体制金融が、
業界の体質について
自助努力を欠かし、
政府依存をつくったということを、一面私
たちは疑問に思わざるを得ません。
そういう意味で、今回、
産元、親機等が加わったことについても、今後この
構造改善施策のビジョンというものを詰める場合に、資本の縦系列による工程間
結合を強めるか、
繊維産地の
経済共同体としての機能を強めるか。この
経済共同体としての機能については、先ほど
藤原さんから四つの点を指摘されました。今日、
日本の
繊維産業が、五%という
輸出の
条件で、
国内産業を、
国内の市場をいかに守るかということになった場合に、長い目で見て、いまの
輸出入
商社が果たしている繊維に対する機能というものは、とりわけ
産元、親機との関係で、再点検すべきではないかという
意見を持っております。
最後に、三番目として、
人材育成基金の運営に
組合の
代表を参加させてほしいということです。今後の
日本の
繊維産業が、アパレルの
技術の向上、
製品の向上などにあるということは、他の
先生方から述べられたとおりです。しかし、現状は、ここでの
人材と
技術の
育成、情報収集
能力の実態については、やはりある程度の援助をする必要があるということを、私
たち中小の縫製労働者、
企業に接してみて痛感しています。その場合に、現有の工業試験所、
技術開発センター、これらの施設を活用して、
技術者の再訓練と受講者の雇用保障、技能検定制度というものを、総体的に
配慮していただきたいと思っています。
いずれにしましても、
繊維産業の
事業所、雇用者は、長期的に見て一部他業種、他産業に転換せざるを得ない
条件を抱えているということを、私
たちは認めざるを得ません。その雇用転換を円滑に進める上でも、職業訓練の科目とか、学習要領の編成、
人材育成基金の運営等について、産業別労働
組合の役員を積極的に登用することによって、これらの
措置の有効性を発揮していただくことが必要だ。
以上三点を述べまして、時間の超過したことをおわびしながら、私の
発言を終わります。(
拍手)