○杉原
政府委員 お手元に配付いたしました「
昭和五十三年中の
交通事故発生状況」によりまして、昨年の
交通事故の概況につきまして御説明をいたします。
資料の一ページにありますように、
発生件数四十六万三千七百六十一件、
死者数八千七百八十三人、負傷者数五十九万二千九百七十一人。前年に比べまして、
死者数と負傷者数はともに
減少をいたしておりますが、
発生件数はわずかに
増加をいたしております。
特に昨年は、年初から厳しい
交通情勢を反映をいたしまして、全国的に
交通事故が
増加する兆しが見られました。特に七・三〇の時点、七月末には、前年同期に比べまして三・七%も
増加するという、きわめてむずかしい
状況のうちに推移したのでございます。しかし、異例の夏の全国の
交通安全運動を
実施していただいたり、秋の
全国交通安全運動以降におきます
関係機関初め
国民各層の
方々の
努力によってこの増勢に歯どめをかけることができました。さらには、十二月一日から施行されました改正道交法の
運用を通じまして、
交通死亡
事故をかなり大幅に
減少させることができたのでございまして、一時は困難かと思われておりました
交通死亡
事故八年
連続減少の目標を達成することができたのでございます。しかしながら、年間の
交通事故によります
死傷者が六十万人にも達する、しかもこの死亡
事故の
減少傾向がかなり鈍化をし始めているという
状況もございます。また、内容的に見ましても、解決すべき多くの問題が残っておるように思います。
昨年
発生いたしました
交通死亡
事故の特徴を一ページから三ページにかけて書いてございますが、かいつまんで申し上げますと、第一に、都道府県間の
事故率に著しい格差が見られることが問題でございます。人口十万人当たりの
死者の
事故率を都道府県別に見ますと、全国平均では、ここにありますように年間で七・七人でございますが、高いところは、ここにあります香川県、年間に十四・九人に対しまして、東京が二・五人でございます。都道府県間に大きな格差がございます。
次に、問題でありますのは、
歩行者と自転車乗りの
死者の比率が
わが国は非常に高いということでございます。
歩行者の
死者は前年と比較して三%
減少しておりますけれども、なお全体の
死者の中に占める比率は三三・一%、相変わらず高いわけでございまして、自転車乗用車の一二・七%と合わせた、いわゆる
交通弱者の
死者の比率は全死亡
事故の四五・八%を占めておるということでございます。
特徴の第三点は、二ページにございますように、年齢的に見ました場合に、小学生と中学生の層だけが
増加をしておるのでございます。幼児、十六歳以上の年齢層、老人、いずれも
減少しているにもかかわらず、小学生の層が九・八%、中学生の層で六%
増加しているのはこれから考えていかなければならない問題点であろうと思います。
特徴点の第四は、いわゆる五十cc以下の原動機つき自転車と自転車乗車中の
死者が
増加しているということでございます。原動機つき自転車もまた一般の自転車もともにその保有台数がきわめて高い伸びを示していることに伴いまして、
事故も
増加しております。前年と比較して、原付自転車につきましては六・四%、自転車は二・四%、それぞれ
増加しております。しかし、幸いなことに、昨年の十二月一日からの改正道交法の施行後は、自転車乗車中の
死者がかなり
減少いたしまして、十二月中だけを見ましても、前年同期の一昨年の十二月に比べて二〇・六%も
減少しているという
状況が出ております。
特徴点の五は、
事故の第一当事者、
事故を
発生させた方、いわゆる第一当事者別で見ますと、三ページにありますように、
事業用貨物
自動車と
事業用普通乗用
自動車、いわゆるハイタクであります。これによるものが
増加しております。特に
事業用貨物
自動車によるものが目立っておりまして、前年と比べて一〇・八%
増加しておるのが特徴でございます。
特徴点の第六は、酒酔い運転と最高速度違反に起因する死亡
事故が多いということでございます。全体の
死者の中に占める割合を見ましても、酔っぱらい運転が九・二%、最高速度違反が二一・九%、合計しまして三一、二%という比率を占めておるわけでございます。しかし、これも改正道交法の施行後は、特に酔っぱらい運転によります死亡
事故が大幅に
減少いたしまして、十二月を一昨年の十二月と対比いたしますと、五七・一%酔っぱらい運転による死亡
事故は減っております。
以上が昨年中におきます
交通事故の概況でございますが、警察としましては、このような現状を踏まえながら、本年も
交通事故の
減少傾向を長期的に定着させるとともに、
昭和四十五年のピーク時における
死者数の半減目標の達成に向かって所用の
対策を進めていきたいと思っております。
そこで、本年におきます
交通警察の
運営について申し上げたいと思います。
お手元に配付いたしました「
昭和五十四年中における
交通警察の
運営」と題しました資料に基づきまして、本年の
交通警察の取り組み方について申し上げたいと思います。資料の一ページをごらんいただきたいと思います。
御
承知のように、
わが国の
道路交通の規模は、昨年中に
自動車の保有台数が三千五百万台、バイクを含めますと四千五百万台を超える。さらに運転免許人口が三千九百万人を突破しております。逐年かなり大幅に
増加をしておるわけでございまして、ドライバーの面から見ますと、
国民皆
免許時代、車等を含めて考えますと、
大量交通時代と言われる時代を迎えようとしておるわけでございます。したがいまして、今後の
交通警察の
運営に当たりましては、
国民の
方々の
理解と
協力のもとに、このような新しい
情勢に対応した
施策の方向づけを行っていく必要があると考えておるわけでございます。
そこで、本年は特に、一ページの下の方から二ページにかけて書いてございますように、「
交通事故の
減少傾向を定着させるとともに、運転者にとって安全かつ円滑な運転が期待できる
交通環境を、
地域住民にとって安全かつ平穏な生活が期待できる
交通環境を
確保すること。」と、さらに「
社会に対する責任を十分に果たし、他の
交通や沿道の住民に対する思いやりのある運転者の育成を図ること。」この二つを
重点目標として、各種の
対策を進めていきたいと考えております。
以下、これらの
対策の主な点について申し上げたいと思います。
三ページから七ページをごらんいただきたいと思いますが、まず第一に、「運転者管理の新しい展開」という問題でございます。
先ほど申し上げましたように、
国民皆
免許時代を迎えました今日、運転者は、単に
自動車を運転するために必要な知識及び技能を備えているだけにとどまらず、
社会に対する責任を果たし、他の
交通や沿道の住民に対する思いやりのある運転者でなければならないと考えております。
このような観点から、今後体系的な運転者教育の
充実に努める必要があると考えておりまして、そのための
施策の一環として、初心運転者の
段階におきます運転者としての自覚を持たせるための教育、二輪運転免許の初心者、特に高校生等に対する講習の
計画的な
実施、更新時講習あるいは処分者講習の
充実、指定
自動車教習所の近代化と
指導員の資質の向上、教習内容の
改善等運転者教育の
充実を図ることといたしております。
また、運転者の一層の
理解と
協力を得るため、今後の運転免許行政におきましては、運転者
対策の
充実を図り、悪質、危険な運転者の迅速、的確な排除に努める一方で、多くの優良なドライバーに焦点を合わせ、それらの人が
車社会の主流を占めるような
施策を積極的に
推進していく必要があると考えております。
昨年の
道路交通法の改正によりまして、無
事故、無違反の優良ドライバーについてはこれを積極的に評価し、誇りと自覚を持って
安全運転が励行されるような方策が取り入れられることになりましたので、今後その効果的、積極的な活用を図ってまいりたいと考えております。
なお、企業等におきます組織的な
安全運転管理の
徹底を図るため、
改正道路交通法の趣旨に沿って、
安全運転管理者制度の
整備充実に努める一方、企業等の
事業活動に伴う違反行為の
防止に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
第二に、八ページから十一ページでございますが、「多様化する
交通情勢に対応した
交通規制等の
推進」についてでございます。
多様化する
交通情勢に対応するためには、今後の
交通対策は、
交通事故防止を基本に据えながら、
生活環境の保全、
都市交通機能の維持等、多面的に
実施する必要があると考えております。このため、それぞれの地域または路線の
交通情勢及び
交通規制の現状を常に分析検討し、
交通実態に即した合理的な
交通規制を
実施することにいたしております。
第三に、「
交通安全施設の
計画的
整備」についてでございます。資料の十二ページから十四ページまでをごらんいただきたいと思います。
交通安全施設は、
交通規制と相まって
交通事故防止に果たす役割りがきわめて大きいことにかんがみまして、
昭和五十一年度を
初年度とする
交通安全施設整備五カ年
計画に基づいて、
信号機の
増設を初め、
信号機の系統化、感応化、
交通管制センターの
整備等を積極的に
推進したいと思っております。同時に、これらの
交通安全施設を常に良好な状態に保つための保全管理につきましても配意していきたいと考えております。
第四に、「適正かつ効果的な
交通指導取締りの
推進」についてでございます。資料の十五ページから二十ページを御参照いただきたいと思います。
まず、街頭
指導活動につきましては、
歩行者や
自転車利用者に対する保護、誘導活動を積極的に
推進し、特に
改正道路交通法の
定着化を図るようにしていきたいと考えております。
また、運転者に対しましては、悪質な違反の
取り締まりを
強化する一方、危険な行為を
未然に
防止するための
交通監視活動等も積極的に
推進することにいたしております。特に、過積載や過労運転等重大な
事故を引き起こすおそれのある違反につきましては、運転者の行為を取り締まるだけではなくて、その背後にあります
自動車の使用者や荷主の責任を明確にして、
道路交通法改正の際の国会の附帯決議の趣旨に沿って事犯
防止の
徹底を期するよう配意したいと考えております。
また、
交通指導取り締まりの
運営の
適正化を図るために、幹部による
交通指導取り締まり管理を
徹底いたしまして、
事故多発路線、危険な場所及び時間帯を選定した
取り締まりを
実施するとともに、危険個所に標示板を設けるなど、
安全運転を促す措置や違反の再発
防止を図るための措置を講じ、運転者の
理解と共感に支えられた
交通指導取り締まりとなるよう一段の工夫をこらしていきたいと考えております。
なお、暴走族につきましては、改正道交法の施行後現在までのところ、従来のような大規模な暴走行為は影をひそめておりますが、警察の対応いかんによっては再び蠢動するおそれもありますので、今後ともその動向把握に努め、不法事案の
未然防止に努めてまいりたいと考えております。
第五に、「高速
道路における
交通秩序の確立」の問題でございます。資料の二十一ページ以下を御参照いただきたいと思います。
ハイウエー時代を迎えまして、高速
道路における安全で走りやすい
交通環境づくりのためには、運転者の良識とよりよい運転マナーの確立が不可欠でございます。そのため、あらゆる機会を通じて啓発に努めるとともに、高速
道路における運転者の遵守事項、故障等の場合の表示義務、自動二輪車の二人乗り禁止等、改正道交法の内容の周知
徹底と実践
指導に努めたいと考えております。
第六に、「
交通安全教育等の
推進」についてでございます。資料の二十三ページ以下を御参照いただきたいと思います。
子供と老人の
事故率が依然として高い
状況にありますので、
関係機関と
協力しながら、あらゆる機会を利用して
交通安全教育を
推進することにいたしております。
また、
自転車利用者による
交通事故の
防止等を図るために、あらゆる機会を利用して自転車の正しい乗り方、自転車のブレーキ及び反射器材等の
整備など、改正道交法の規定の内容の周知
徹底に努めていくことにいたしております。
以上が、本年の
推進しようとする
施策の概要でございますが、特に本年は、
改正道路交通法の適切かつ積極的な
運用に努め、
交通事故の
減少傾向の
定着化を図る一方、八〇年代の新しい
車社会に対応するための諸
施策について十分検討しなければならない年であると考えております。
諸先生方の一層の御
指導と御
鞭撻を賜りますようお願い申し上げまして、説明を終わります。