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参考人(
野口悠紀雄君) お答えいたします。二点御
質問がございましたので、それぞれについてお答えいたします。
最初に、
財政のスケールというものを国際的に見た場合に、
わが国の場合にはまだ低い水準にあるのではないかという御指摘でございましたが、確かにそういうような傾向があると思います。ただ、
財政のスケールの国際比較と申しますのは非常にむずかしい問題でございまして、御
承知のように
財政制度というのが国によって非常に違いますので、どの範囲のものを
財政としてとらえるかという問題があるわけでございます。たとえば、
アメリカの場合に、連邦
予算をとってみるのか、あるいは州や市の
予算まで含めて
考えてみるのかというような
財政制度の違いによる問題がありますので、非常にむずかしいとは思いますが、一般的に申しまして、
日本の場合に
財政支出のスケールが国際的に見て低い水準にあるのは事実だと思います。ただし、これは低いからいいとかあるいは高いからいいとかいうふうに簡単に
議論できる問題でもございませんで、支出の中身の問題というものを当然
考えなくてはいけないわけです。で、
わが国の場合、諸外国と比べてみました場合に二つの特徴があると思います。
一つは、国防費、防衛費の支出が外国と比べてみますと低い水準にあるということです。これが
財政支出のスケールを小さくするのに非常に大きな原因になっていると思います。それからもう
一つは、社会保障
関係の支出が、最近その比率を高めてはおりますけれ
ども、ヨーロッパ諸国と比べてみると低い水準にあると思います。これは
一つは、
わが国の場合に社会保障、特に年金制度というものが比較的最近になってから
整備されてきましたために、まだその本格的な支給が始まっていないというようなことがありますので、年金制度が成熟して年金の支給が本格的になされている西欧諸国と比べてみた場合には、それが原因となって支出の水準が低くなっているというふうに思われます。
それから第二番目の御
質問ですが、これは中長期的な問題というよりは短期的な景気浮揚の観点ということでの御指摘かと存じますが、これまで五十年以降果たして
財政が景気浮揚のために十分な
措置をとってきたかどうかということを国民所得ベースの数字で見てみますと、必ずしもそうは言えない面があるのではないかと思っております。たとえば、
昭和五十
年度には、国民所得ベースで見ました
政府固定資本形成の伸びが対前
年度比一〇・五%でして、これは四十九
年度、この年は御
承知のように総需要抑制策がとられたわけですが、その年の
政府固定資本形成の伸びが二二・七%ということに比べてもかなり低い数字になっているのではないかと思います。それから五十一
年度も
政府固定資本形成の伸びが九・七%ということでかなり低い伸びになっている。つまりこれまで
財政がどちらかといえば景気浮揚に対しては及び腰であったのではないかというふうにむしろ私は評価しております。その原因は中央
政府と地方
政府、あるいは中央
政府の中でも一般会計と企業会計に分けて
考えて見ますと非常に特徴的なことがございまして、それは
昭和五十
年度に
政府固定資本形成の伸びが低かったのは、中央
政府より主として地方
政府が低かったということでして、地方
政府の固定資本形成の伸びが前
年度対比四・九%ということで非常に低い伸びになっております。これは地方
財政の逼迫という問題があったために、おのおのの地方公共団体がどちらかといえば消極的な
財政運営をしたということにあると思いますので、やはりこういったような数字から見ましても、単に国の一般会計の
予算だけではなくて、中央と地方と連動をとった
財政運営というものが必要なのではないかという気持ちを強くするわけです。
それから五十一
年度につきましては、これは地方
財政の方はかなり回復してきているわけですけれ
ども、中央
政府の企業会計、これは
政府関係機関、
国鉄とか電電公社等の
政府固定資本形成ですけれ
ども、これが対前
年度比マイナスということで、むしろふえるのではなくて減っているという事態になっております。この二つのこと、五十
年度におきましては地方
財政、五十一
年度におきましては
政府企業の固定資本形成が非常に低かったということがあって、
財政全般がこの過去数年の間景気浮揚に対して必ずしも積極的には働いてこなかったのではないかというふうに私は評価しております。
五十三
年度におきましては、御指摘のように
公共投資を中心にした景気浮揚というのが図られているわけでして、まあ減税がいいか
公共投資がいいかという
議論はここではなさらないということですので、主として
公共投資に重点を置いて景気浮揚を図ったということについての私の感想を述べさせていただきたいと思うわけですが、やはりいまの不況の一番の大きな原因と申しますのは、民間の
経済主体が将来に対する期待、エクスペクテーションを非常に暗いものとして持っている。つまり投資主体というのは将来の利潤、収益に対する期待が非常に低いわけですし、それから一方家計の方は将来の雇用不安とかあるいは所得がなかなか伸びないのではないかというようなことから、将来に対するその期待というものは非常に悪化しているというのが現状ではないかと思います。まさにそういう民間の
経済主体が将来に対して明るい見通しを持てないというところが私は現在の不況の一番大きな原因ではないかというふうに
考えておりますので、それに対する
対策というのはやはり将来に対するビジョンを非常に明確に示して、民間の
経済主体の将来に対する期待を明るいものにしていくということが非常に大切なのではないかと思うわけです。そういう
意味から申しますと
公共投資の対前
年度伸び率を何%にするということももちろん大切ですが、それだけでは決して十分ではないわけでして、単に量的に
公共投資を
拡大するということではなくて、それが国民生活にどういうふうにつながっていくのか、それがたとえば企業にとってどういう
意味を持つのか、あるいは一人一人の国民にとってどういう
意味を持つのかということをやはり非常に明確なビジョンのもとに描いて、その中においてやはり景気浮揚というものを位置づけていく必要があるのではないかと思うわけです。
そういう
意味から申しますと、先ほど短期的な問題と中長期的な問題は一応別の問題であるというふうに思し上げたわけですけれ
ども、やはり短期的な景気浮揚
政策といえ
ども、決して一年限りの一発勝負であってはいけないというふうに私は思うわけでして、長期的なビジョンのもとにしっかりと位置づけられたものでなければならないというふうに思っております。
そういう点から申しますと、今
年度の
予算というのは確かに量的な面では非常にこれまでの
財政運営に比べて思い切った
政策がなされたとは思いますけれ
ども、それが余りに、単に数字的に
公共事業をふやすというようなことにとどまって、将来の明確なビジョンにどういうふうに結びつくのかということが必ずしもはっきりしてないところに一番大きな問題があるのではないかというふうに私は
考えております。