○松前達郎君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま提案されました原子力基本法の一部を改正する
法律案について、
総理並びに
関係閣僚に
質問を行うものであります。
エネルギー資源に乏しいわが国にとって、今日の生活レベルを維持し、もしくは向上させようとするとき、エネルギーの
確保は最も重要な
課題であることは言うまでもありません。
本来、原子力基本法が制定された経過は、
昭和三十年十二月、
日本社会党と自由民主党の共同提案で、しかも全議員の名前をもって
提出されたものと理解をいたしておりますが、その原子力基本法に盛り込まれている原子力開発及び利用に関する基本的精神は、平和・民主・自主・公開の四原則であったはずであります。
当時、提案理由説明の中で、原子力基本法の制定に当たり強く強調された点は、第一に、核兵器へと発展させない平和利用であるべきであり、第二に、
国民の協力を得ることであり、第三には、長期
計画の中でわが国の個性を生かさなければならないことであったと思います。特に原子力発電の場合、わが国においては、核燃料に天然ウランを用い、減速材に重水あるいは黒鉛を使用するタイプの原子力発電方式が適当であるとし、さらに、燃料を国外から輸入せざるを得ない点などをあわせ考え、原子力利用は自主性を失わぬよう努力しなければならないと述べておるのであります力
ここで注目しなければならないことは、その後わが国は、小型で
建設期間が短く、しかも
建設費が安いアメリカの原子炉を続々と輸入し、いまや日本の原子力発電はアメリカのGE社とウエスチングハウス社の原子炉で独占された形となり、しかも、これらの原子炉は
欠陥が多く、いまだに稼働率がきわめて低い現状であります。これに反し、皮肉にも、先ほど申し上げました天然ウランを用い、黒鉛を減速材とするわが国最初の発電用原子炉「東海」は、出力はやや小さいが、今日もなお最も高い稼働率で正常な運転を続けていることであります。
提案理由の第四は、わが国の有能な学者の協力のもとに原子力開発を行うということであり、中立の
立場から平和利用を
推進しようと説明しているのであります。
これら原子力基本法の原則を踏まえて今日に至るまでの原子力開発を見ますと、平和利用の面では、原子力開発は核拡散防止に関する論議を生んで国際的な問題へと進展し、また一方では、放射性物質の持つ脅威が生活への大きな危惧をもたらすものとして問題を提起し、特に安全性に関する問題がクローズアップされてきたのであります。したがって、今日における原子力開発は、平和・自主・民主・公開の四原則と同時に、安全でなければならないことは言うまでもありません。
まず、
総理にお伺いいたしますが、原子力開発に当たり、基本的な原則について、まさか考え方が変わっておられるとは思いませんが、
総理のお考えと方針をお聞かせいただきたいのであります。
原子力開発は、平和・民主・自主・公開・安全の五つの原則に基づいて行われるべきであると述べましたが、私は、今日までのわが国の原子力開発は、目先の経済
効果のみを追求し、手っ取り早い国外からの技術導入や原子炉輸入に走り、余りにも企業ペースで進められてきた感を抱くものであります。また、民主、公開の原則にしましても、特に安全に関し地域社会や
国民の理解と信頼を得るための積極的な努力が足りなかったことと、公開の原則の基本的問題である原子炉事故にいたしましても、たとえば美浜の一号炉の燃料棒破損事故を四年間も隠蔽するような事態を引き起こしたのでありまして、必ずしも民主・公開の原則をわきまえての
行政であったとは言えないのであります。このような今日までの
行政に対し、
総理並びに科学技術庁長官、通産
大臣に大きな反省を求めるものであります。
また一方、今日までの原子力
行政は、原子力開発をばらばらに進めてきた感を抱かざるを得ないのであります。原子力開発に当たっては、
行政と専門が車の両輪のように一つの軸で回ってこそ初めてその
効果が発揮できることは言うまでもありません。しかし、いままでの
行政においては、
行政はひたすらに規制と問題
処理に専念し、専門家はただ専門的な
立場から意見を具申するのみで、その
実態に立ち入って検討することが少なかった点が問題であります。しかもその上、発電用原子炉の導入に関する意思決定が業界の力で行われてきて、わが国の原子力
行政は全く主導権を確立できなかったのであります。したがって、その結果として、原子力
行政に当たっての
責任が不明確となり、行き詰まりを感じさせるようになったのは当然であります。私は、これらの諸問題の解決には、まさに人的環境と科学技術的環境がかみ合って相乗的な
効果を生み出すよう検討
改善が行われるべきだと考えますが、いかがでしょうか。
総理の御
見解をお聞かせいただきたいと思います。
また、ただ単に専門家や担当者を
行政面で異動、再配置するのみでは、原子力開発における安全性の問題は解決しないと思いますが、いかがでしょうか。
原子力安全委員会の機構が果たして相乗的
効果を生み出すことができるでありましょうか。問題提起は原子力委員会が行い、データは企業が
提出するといった、そういった
状況がどのように
改善されるというのでありましょうか、科学技術庁長官の
見解をお伺いいたします。
また、うたい文句の原子力安全委員会によるダブルチェックにいたしましても、
行政の隠れみのになりはしないか。ただ
行政をいじったのみで果たして実効が上がるものかどうか、大変疑わしい面があるのであります。このような機構の中で、専門的な
立場から自由な検討と
実態との対話、すなわち、机上の論議だけではなく、現場との接触の中での検討がどのように保証されるのでありましょうか。この点について科学技術庁長官及び通産
大臣にお伺いいたします。
原子力安全委員会がダブルチェックの機能を十分発揮し、
国民の信頼にこたえられるかどうか、また、今後の原子力
行政の中でどのような力を持つことになるかは、先ほど述べました人的環境のいかんによって大きく左右されるものと考えます。安全委員会が
行政の隠れみの的存在にならないようにするための委員の選出に関し
政府の考えを伺うと同時に、先般衆議院において修正された点につき、通産
大臣並びに科学技術庁長官の
見解をお伺いします。
私は、このたびの
原子力基本法等の一部を改正する動きは、原子力船「むつ」の初歩的な放射線漏れが引き金になったと考えますが、「むつ」についても、安全性につき
国民のコンセンサスを得ないままに、ただ母港や修理港をたらい回しにしても問題解決にはなりません。「むつ」問題にしても、小型原子炉に関する基本的な技術開発と総合的な検討が行われなかったために生じた問題であり、長期的な
計画のもとに自主的に開発が行われ、十分な基礎技術の上に立ってつくり上げられたものであれば、このような事故は起きなかったでありましよう。
原子力発電も、わが国の発電用原子炉の稼働率がきわめて低く、その原因の大部分が基礎技術や条件設定などが未完成である点にあると考えられる今日、私は、発電用原子炉はいまだ開発の段階にあると考えます。しかるに、本法案では、通産省、運輸省が原子炉設置に関し許可認可及び必要な命令権を持つことになるのでありますが、
政府は、発電用原子炉はすでに開発段階を終え、商用炉として完成され、十分な機能と安全性が確立しているものと判断されているのかどうか、これについて通産
大臣の
見解を承りたいと思います。
わが国の原子炉に関する技術が未熟である現状のままで通産省、運輸省が許可認可をすることは、自動車で言えば
欠陥車が堂々と町を走り回ることになるのであります。原子力開発は、西ドイツの例にもあるように、自主技術確立のため一歩一歩慎重に積み重ねる必要があるものであって、ただ、がむしゃらに促進すればよいというものではないと思います。
行政的な取り扱いを変えたり、印象だけは目玉的な安全委員会を設置しても、必ずしもそれだけで安全が
確保できるものではないと考えますが、この点について
総理並びに科学技術庁長官の所信を伺います。
私は、将来のエネルギー対策の一つとして原子力エネルギーを対象として考えることを否定するものではありませんが、その原子力エネルギーの利用にしても、総合的なエネルギー
政策が立てられてのことであります。見方によっては、原子力発電は、ごく短期間に急
成長する場合、発電のみを考えるとコストの点では確かに有利ではありますが、総合的なエネルギー消費の面から見ると必ずしも有利ではなく、かえってエネルギー
収支は
赤字になる場合があるといった見方がございます。わが国に例をとってみますと、たとえば、
昭和五十一年の原子力発電の総出力は七百二十六万キロワットであり、これに対し、原子力発電所
建設に投入したエネルギーは約五百六十億キロワットアワー、核燃料の精製等のコストは五ヵ年で約三十六億キロワットアワー、産出したエネルギーは六年間で約七百億キロワットアワーであるので、差し引きしますと、エネルギー
収支は、たかだか百億キロワットアワー程度にしかならないというのであります。これは、わが国最初の東海原子力発電所が一基で
昭和五十二年まで動いて生産してきたエネルギー約百八億キロワットアワーと同程度しか生産できなかったことになるのであります。このような
関係にあるので、現在の不安定な原子炉を急速に
建設すると、長期的にはエネルギー
収支はかえってマイナスになる場合が起こり得るのであります。
次に、通産
大臣にお伺いします。
昭和五十三
年度の石油輸入量は
昭和五十二年のわずか〇・八%増であり、きわめて低い
増加率を示しております。産業構造の転換を強いられる中で、かつてのエネルギー需給見通しは大きく修正されるような状態となりつつあります。
昭和五十二年六月の総合エネルギー調査会のエネルギー需給見通しを再検討し、総合的にエネルギー
政策を立て直す必要があると考えますが、いかがでしょうか。
高度
経済成長時代のように、エネルギーの大量消費によって
成長が行われた時代は終わり、
成長率が示す数字の割りにはエネルギー消費が
増加しない時代となったと思います。今後、新しいエネルギー開発と省エネルギーに新しい技術革新が必要な時代となったと考えますが、本法案を見ますと、
総理がかつて提唱され実現できなかった
行政改革として、本来国が積極的に行うべき技術革新のかなめとしての
行政機関を次第に弱体化していくような時代逆行的な感じさえ抱くのですが、この点について
総理はどうお考えでしょうか。
日本社会党は、かつてエネルギー
政策として、エネルギー研究開発とエネルギー供給
計画、省エネルギー
政策を提唱いたしましたが、
政府は、これに対し、
昭和五十年になってエネルギー節約に関する法案を
提出すると約束したはずであります。いますぐできる省エネルギー
関係法案を作成
提出し、省エネルギーに関する研究開発を抜本的に
推進する用意があるかどうか、
総理にお伺いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣福田赳夫君
登壇、
拍手〕