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1978-04-27 第84回国会 参議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年四月二十七日(木曜日)    午前十時九分開会     ―――――――――――――    委員異動  四月二十七日     辞任         補欠選任      宮本 顕治君     沓脱タケ子君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         中尾 辰義君     理 事                 八木 一郎君                 山本 富雄君                 寺田 熊雄君                 宮崎 正義君     委 員                 大石 武一君                 上條 勝久君                 初村滝一郎君                 丸茂 重貞君                 阿具根 登君                 秋山 長造君                 小谷  守君                 沓脱タケ子君                 円山 雅也君                 江田 五月君    国務大臣        法 務 大 臣  瀬戸山三男君    政府委員        法務政務次官   青木 正久君        法務大臣官房長  前田  宏君        法務省民事局長  香川 保一君        法務省刑事局長  伊藤 榮樹君    事務局側        常任委員会専門        員        奧村 俊光君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○仮登記担保契約に関する法律案内閣提出) ○人質による強要行為等の処罰に関する法律案  (内閣提出衆議院送付)     ―――――――――――――
  2. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  本日、宮本顕治君が委員を辞任され、その補欠として沓脱タケ子君が選任されました。     ―――――――――――――
  3. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 仮登記担保契約に関する法律案を議題といたします。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  4. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 仮登記担保債権者がその所有権を自己に取得しようとして清算金の提示をしますね。それに先順位抵当権者があった場合の法律関係についてはどういうふうに理解したらいいでしょうか。
  5. 香川保一

    政府委員香川保一君) 仮登記担保権者清算金を提供しまして所有権取得いたしました場合には、当然先順位担保権はそのまま存続するわけでございます。つまり、先順位担保権のついたままの所有権を仮登記担保権者取得する、こういう法律関係になるわけでございます。
  6. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから複数の抵当権者の中で、Aが清算金額に対して了承して差し押えをする、それからBは清算金額に不満で競売請求をするということになりますね。そうしますと、競売手続は開始されますね。そうすると差し押さえをいたしました抵当権者はどうします。
  7. 香川保一

    政府委員香川保一君) 競売申し立てをしない抵当権者も当然競売手続に参加いたしまして配当を受けることができるわけでございます。
  8. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その場合、清算金額差し押さえたものはそのまま放置しますか、あるいは差し押さえを解除してその清算金額というものを債務者はもう一遍取り戻すことができますか、そういう関係をちょっと明らかにしてほしいのです。
  9. 香川保一

    政府委員香川保一君) 通常の場合には競売に参加してきた抵当権者清算金差し押さえているものは清算金の方の差し押さえ申し立てを取り下げることになろうかと思いますけれども、これは必ずしも取り下げなくたって構わないわけでございまして、ただその場合には競売の方でもう解決するという法律関係になりますので、清算金を供託した債権者供託金の取り戻しができることになるわけであります。
  10. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 局長が中間でおっしゃったことは、この間も伺ったのだけれども、そうじゃなくて、もともと差し押さえ債権者競売請求をするのじゃなくて、Aは競売請求をすると、つまり差し押さえせずに、それからBが清算金額をのんで差し押さえをした、こういう場合ですよ。そのBをどうするかという問題です。
  11. 香川保一

    政府委員香川保一君) 同じ関係になるわけでございまして、この法案の七条の三項で、「十五条第一項に規定する場合を除き、供託金を取り戻すことができない。」と規定いたしておりまして、十五条第一項の場合と申しますのは、自分であれほかの者であれ、つまり競売手続申し立てによって始まった場合のことでございますから、つまり競売でいくということになりますと、もう担保登記権者清算金を支払って所有権取得するということができなくなる状態になるわけでございます。競売手続一本でいく、こういう構成になるわけでございます。
  12. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 終わります。
  13. 宮崎正義

    宮崎正義君 前回委員会質問をいたしまして確認をしておかなかったので、確認意味でもう一度お伺いをいたしたいと思うのですが、仮登記担保契約の運用の実態についてお伺いしました。その折に、仮登記及び抵当権につきましては四十三年から四十六年までの古いデータで御説明をいただいたわけですが、その後の実態調査というものがなされていないというようなお話を伺ったのですが、これはおやりになるのかどうなのかということ。もう一つは、ぜひこれはやらなきゃいけないのじゃないかという立場の上から申し上げますと、登記簿上の担保契約、この件につきましては少なくとも過去五カ年間ぐらいの担保契約件数調査しておかなきゃいけないのじゃないかと思います。過去の実態がわかると同時に、本法施行後の実績が国民の間にどのように反映し、成果を上げたか。そのためにももちろん、対照の意味にも、本案施行後におけるお骨折りをなさったその実績というものが実態の面にあらわれてくるという関係から、将来における担保契約統計等というものは非常に大事なことになると思いますので、この点についてお伺いをしておきたいと思います。
  14. 香川保一

    政府委員香川保一君) この前の委員会で、いわゆるここで言う担保登記実態調査の結果を御報告申し上げたわけでありますが、そのときは遺憾ながら昭和四十六年までの数字しか申し上げられなかったのでございます。その後の登記の面から見ました実態ということも非常に問題になるわけでございますので、仮登記全般統計から調査いたしました結果をただいま御報告申し上げますが、これはお許しを願いたいのですが、仮登記全部でございますので、つまりここで言う仮登記担保に当たるものも、それから本来そういう債務担保のためでない純然たる所有権取得関係の、たとえば売買契約によるものというふうな、そういうものも入ってございますが、これは過去の実績から申しますと、仮登記のうちで大体約一割から一割五分ぐらいが本来的な仮登記というふうに考えられますので、さような前提でこの数字をお聞き取り願いたいと思うのであります。  昭和四十七年の統計によりますと、仮登記が全部で二十二万六千件、抵当権設定登記が百五十五万件、四十八年は仮登記が二十一万七千件、抵当権が百八十一万件、四十九年は仮登記が二十一万八千件、抵当権が百八十七万件、昭和五十年が仮登記が二十万二千件、抵当権が百八十九万件、昭和五十一年が仮登記が二十一万二千件、抵当権が二百六万件と、こういう数字になっております。
  15. 宮崎正義

    宮崎正義君 お話の筋はわかるのですけれども、特に登記簿上における担保登記という、これだけは少なくとも明確にしておかなきゃいけないのじゃないかと、こう私は思うわけなんです。それで確認意味質問を申し上げたわけです。それで前回の折には四十六年まで、いま五十一年までの報告をいただきましたのですが、これによりましても相当な件数が伸びているわけであります。石油ショック以来特に問題が大きいわけなんですね。ですから、それ以後の最近における五十二年度ぐらいまでのものについて石油ショック以来のものが相当複雑なものが出てくると思っているのですがね。ですからそういうことが今後のこの法律施行後にどのような実績を上げたかということが、せっかくお骨折りなさってこの法案をおつくりになったわけですから、それを知るためにも少なくとも担保契約に対するものは実態というものを掌握しておかなきゃいけないのじゃないかということを申し上げているわけなんです。
  16. 香川保一

    政府委員香川保一君) 全体的な傾向から見ますと、ただいまお話石油ショック以後は担保権、つまり通常抵当権あるいは根抵当権を利用するものが非常にふえてきておりますが、逆に仮登記は若干でございますが、減少しつつある。これは私どもの推測でございますが、ちょうどその時期に根抵当立法がなされまして法律関係が明確に相なりましたので根抵当を利用するものがふえてまいった、その関係で反射的に仮登記が減ってきたのではないかというふうに考えております。ただこの法律が成立いたしました後の利用関係実態というもの、ただいま御指示のとおり十分追跡調査をいたしまして、将来の立法にも備えたいと考えておりますが、恐らくこの立法ができますと仮登記もやはり法律関係がきわめて明確になりますので、利用されることも多くなってくるのではないかというふうに見られる半面、いままでのまる取り的な、いわば言葉は悪うございますが、悪質なそういうものはむしろやってみても意味がないことに相なりますので、減少の方向に向かう、そういうふうに予測いたしております。もちろん法律が成立いたしました後の実態につきましても、十分その推移を見守りまして、さらに何らかの立法措置が必要かどうかということを十分考えてみたい、かように考えます。
  17. 宮崎正義

    宮崎正義君 それはそのような方向でひとつ御検討を願いたいと思います。  もう一つ伺いすることを落としておりましたものは、二十条の「仮登記担保契約で、土地等所有権以外の権利取得目的とするものについて準用する。」ということがあるのですが、これらの財産権にはどんなものがあるのか、具体的にお伺いをいたしたいと思います。
  18. 香川保一

    政府委員香川保一君) まずこの前御議論にも出ました立木法上の立木、それから不動産とみなされます工場財団漁業財団工業財団、それから港湾運送事業財団道路交通事業財団観光施設財団、これはいずれも不動産とみなされるものでございますが、以上のものにつきましては、余り仮登記担保というふうなことが実務上は行われないようでございます。それからさらに登記のできる動産でございます建設機械、それから仮登録のできる物件としてのダム使用権、それから同じく仮登録のできます漁業権、それから入漁権、それから特許権商標権実用新案権意匠権、こういった工業所有権はいずれも仮登録ができるわけでございます。  それから仮登記のできるものとして、登記し得る船舶があるわけでございます。それから仮登録のできる航空機、以上申し上げたようなのがこの二十条でいう所有権以外の権利で仮登録ができるものという範疇に入ろうかと思います。
  19. 宮崎正義

    宮崎正義君 いま御答弁になりましたそれぞれの問題につきましては、具体的に事例なんかを、私も二、三あるわけですが、それを挙げてやりたかったのですけれども、この中の建設機械の問題なんかで問題があるわけなんですけれども、時間がございませんのできょうは質問はいたしませんけれども、この点については省きますけれども、もう一つ登記担保契約に関する法律案参照条文による国税徴収法との関係で、この附則の国税徴収法等整理を行っているあれが出ておりますが、参考資料に。これらの骨子というものを御説明願えれば幸いだと思います。
  20. 香川保一

    政府委員香川保一君) これはごたごた規定を改正いたしておりますけれども、実質申し上げますと、仮登記担保立法による単なる整理でございまして、実質的には変えているところはございません。
  21. 宮崎正義

    宮崎正義君 読んでみて大概字句の違いみたいなのが多いようですから、大体そういうことだろうと思って伺ったわけなんですが、もう一つは、これも時間をかけてゆっくりやらなきゃならない問題なんですが、二カ月の清算期間を定めた根拠、その理由ですかね、何かこうちょっと仄聞するところによりますと、最初は二週間でいいのじゃないかというような説もあった、それから今度は民法の方からいくと一カ月という説もあった、一カ月じゃ少ないから二カ月、いや三カ月ぐらいやるのが普通の証明なんかの、印税だとか、戸籍抄本等証明期間というのは大体九十日間ということである、そういう間でやったらどうかというふうなことも聞いているわけなんですが、この清算期間を二カ月にしたということについて、契約の当事者及び利害関係人たちはどうすればよいのか、何を予想し、要求していくのか、まとめて端的に御説明を願えれば幸いだと思います。
  22. 香川保一

    政府委員香川保一君) この二カ月の期間は、率直に申し上げまして全く腰だめ的なものでございまして、合理的な説得力がある説明はできない。申しわけないのでございますが、法制審議会におきましていろいろの意見がございまして、いま宮崎委員の御指摘のようないろいろの考え方がいろいろ議論されたわけでございますが、結局二カ月ということで落ちついたわけでございます。私ども強いて二カ月の期間が必要だということを考えますのは、これは全く予想的なことでございますけれども、ときには郵便事情が非常に悪いこともあるわけでございます。そういう郵便事情が非常に悪いときには通常郵便が一週間ぐらいかかるというふうなこと、そういう場合を考えますと、まず債務者に対して通知いたしまして、債務者から返事がくるというのがそれぞれ一週間かかりますと二週間になる。そして、その上で債権者登記簿等調査いたしまして、その時点における後順位抵当権者等いわゆる登記上の利害関係人調査いたしまして、そしてそれにまた通知をする。これがやはり一週間ぐらいかかるといたしますと、調査期間を含めまして約三週間から一月ぐらいかかるであろうと。その上で、今度は通知を受けた利害関係人の方がその清算金の額が妥当かどうかというふうなことを勘案するわけでございまして、そのためにはやはり相当の調査も必要な場合が考えられる。そういたしますと、結局、債権者の方は急ぐという理由があろうかと思いますけれども、債務者あるいはその他の利害関係人から言えば、やはり慎重に対処するという意味から言えば、大まかに申し上げて二カ月ぐらい合計かかるのじゃなかろうか、こういうふうなことを考えておるわけでありますが、しかし、これは強いての理屈でございまして、率直に申し上げて二カ月が一番合理的だというだけの説明はなかなか困難かと思います。いろいろの皆さん方の御意見を拝聴して大方の落ちつくところ二カ月ということに落ちついたと、こういう経緯でございます。
  23. 宮崎正義

    宮崎正義君 御説明ありましたけれども、確かに競売のことにいたしましても、競売上の問題等考えてみましても、登記上の問題、それからいまのお話がありましたような郵便物の輸送の問題、札幌あたりでは配達しない個所が時折あるわけです。二週間も三週間も一カ月ぐらいも配達しないところがあるのです。サボタージュか何かわかりませんですけれども、やらないところがあるのです。そういうふうな面から考えていきまして、どうかなということもありますし、また債務者の方の立場から言わせれば、ふなれな問題もありますし、また対応していく期間というものがなかなかつかめないのじゃないかというようなこともありますし、これでいいのかなという私も疑義を持ったままこの法案を初めから首をかしげながら、いまに至ってやはり首をかしげているのか――局長の御答弁でも首をかしげているような御答弁なものですから、ちょっと判断がつきかねるのでございますけれども、もう一度競売等がこの期間でうまくいくのかどうか、後順位者競売等がうまくいくのかどうか、そういった点もひとつもう一回御説明願いたいと思うのです。
  24. 香川保一

    政府委員香川保一君) さっき申しましたように、郵便事情の悪いときを想定して利害関係人がいわば合理的な行動をとるということでありますならば二カ月で十分だというふうに思うのでありますが、私が先ほど申し上げましたのは二カ月では、さっき申しましたようないろいろな悪条件のもとでの二カ月を考えておりますので、ちょっと期間がむしろ長きに失するのじゃないかという御批判が出てこようかと、そういうことを考えまして、ぜひとも二カ月でなきゃならぬという理由がなかなか説明申し上げにくいと申し上げたわけでありまして、利害関係人の利益の保護という観点から申しますれば二カ月で私は十分だろうというふうに考えております。
  25. 宮崎正義

    宮崎正義君 これは実際問題、果たしていいかどうかということが今後に残されている私は問題になってくると思うのです。ですから、これは見守っていく以外にないのじゃなかろうかと思いますし、先ほど御答弁がありましたように、本法律施行後、状態を見ていきながら、また法律改正等も勘案していかれるという御答弁がございましたので、そういう意味で私ども見守っていくというようなことにしたいと思いますが、十二分にこの点は御留意を願いたいということを申し上げて、要望して私の質問を終わります。
  26. 江田五月

    江田五月君 この仮登記担保契約のもとでは、まず被担保債権弁済期が来て、そしてその後に契約において所有権取得するものとされている日の後に債務者に対して通知をし、通知到達から清算期間経過後にその目的物所有権移転し、そして同時に清算金支払い債務所有権移転登記義務及び引き渡し義務が生ずる、そういう理解でよろしいわけですね。
  27. 香川保一

    政府委員香川保一君) そのとおりでございます。
  28. 江田五月

    江田五月君 この引き渡し債務、それから移転登記義務と、これは契約効果として契約上生ずるのか、それともその移転された所有権に基づく請求権として生ずるのかというようなことはどうなんでしょうか。つまり、時効との関係は一体どういうことになるのでしょうか。
  29. 香川保一

    政府委員香川保一君) これはやっぱり所有権取得したことによっての所有権に基づく引き渡し請求権、それから移転登記請求権というふうに考えるべきだろうと思うのであります。
  30. 江田五月

    江田五月君 で、その清算金債務所有権移転登記義務引き渡し義務、これが同時履行関係になるということはいいわけですが、その所有権移転効果は、この二条一項によりますと、通知到達の日から二カ月を経過したときということになるのですが、これは契約上変更することができるというお考えですか、できないわけでしょうか。
  31. 香川保一

    政府委員香川保一君) 事前の契約でこれを短縮するということは債務者にとって不利益でございますので、したがって、この法案三条三項の規定によりまして、無効になるわけでございますが、伸長することは特約でやっても差し支えないだろうというふうに考えております。
  32. 江田五月

    江田五月君 三条三項というのはお間違いじゃございませんか。三条三項は「前二項の規定」ですから、三条の一項、二項が無効であるということを言っているのであって、二条の方については何も触れてないのじゃありませんか。
  33. 香川保一

    政府委員香川保一君) 三条二項は清算金支払い移転登記引き渡し同時履行規定でございますが、所有権取得されるといたしますと、この所有権移転の時期を縮めるという関係になりました場合には、つまりそれだけ所有権移転債権者に早くいくわけでございますから、したがって清算金支払いの方も早く受けられるということになるわけでございますけれども、やはり同時履行関係に立っておる面から考えまして、短くするということは許されないと、こういうふうに解釈しておるわけでございます。
  34. 江田五月

    江田五月君 いや、二条一項、二項ともにいわば公序に属する規定であるわけで、三条三項の規定によって債務者に不利であるから無効だということではなくて、この規定自体から強行法規性が認められるのじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
  35. 香川保一

    政府委員香川保一君) 二条一項、二項はまさに強行法規でございます。そのような意味でこれを変更することは原則的には無効なんでございますけれども、長くする方まで無効としなきゃならぬかどうかという意味におきまして、三条の三項を持ってきて御答弁申し上げたわけであります。
  36. 江田五月

    江田五月君 所有権移転、それから移転登記引き渡し、それと清算金債務、これはよろしいのですが、被担保債権いつ消滅するというお考えですか。
  37. 香川保一

    政府委員香川保一君) 清算期間満了と同時に消滅するという解釈でございます。
  38. 江田五月

    江田五月君 それは条文上の根拠とすれば、たとえば九条、それから十一条の括弧書きなんかがあるようですが、まあそれを前提にした規定というように読めなくもないということであって、はっきりした根拠はあるのかどうか多少疑問の余地もあろうかと思いますが、いかがですか。
  39. 香川保一

    政府委員香川保一君) ただいまお示しの条文一つ解釈根拠規定になろうかと思いますけれども、たとえば三条清算金を支払うときの算定時期の問題があるわけでございますが、このときに本来の担保されておる債務消滅いたしませんと清算金支払いという関係が出てこないわけでございますから、そういうところを根拠にいたしまして、清算期間満了時に本来の債務消滅する、こういう解釈が当然出てこようかと、こう考えております。
  40. 江田五月

    江田五月君 清算期間満了したら清算が終わるわけじゃないわけですね。清算が終わった段階で被担保債権消滅するという考え方も成り立ち得るのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
  41. 香川保一

    政府委員香川保一君) 清算金支払い債務が発生する時点というのが、まさに逆に申しますと、担保されておる債務消滅時期ということになろうかと思うのであります。それが二カ月を経過したとき、つまり清算期間満了したときから清算金支払い債務が発生するということになっておりますので、その時点債務消滅するというふうに解釈するのが一番妥当だろう、こういうことでございます。
  42. 江田五月

    江田五月君 そうしますと、通常民法上の代物弁済の場合には、対抗要件も具備させた段階弁済効果が生ずるというのが普通の考え方、これは争いか恐らくないのだと思いますが――と、この法律の成り立ち、仕組みとは異なるということになるわけですね。
  43. 香川保一

    政府委員香川保一君) 一般に不動産代物弁済に提供した場合の債務消滅時期につきまして、あれはたしか大審院時代の古い判例だと思いますが、所有権移転登記がされたときに債務消滅するということになっておるわけであります。あの当時の、あの当時といいますか、こういう清算というふうなことを法律上明確にしない時期におきましては、代物弁済効果というのは、消滅する債務がいかほどであったって問題にならないわけでございますから、債務者にとっては何ら痛痒を感じないわけでございます。しかし、清算するというふうなことを考えますと、移転登記の時期に債務消滅すると申しますと、それまでの期間は、つまり利息あるいは遅延損害金が増加するわけでございますから、したがって、差し引かれる方の債務がそれだけふえる、そういうことになりますと、結局何らかの事情登記がおくれておればおくれておるほど債務者にとっては酷な結果になってくるわけでございますので、そういうことを考えますと、やはり債務消滅は一般的には不動産の場合の移転登記というその原則を修正して、清算期間満了時というふうにいたしませんと、債務者保護に欠けるのじゃないか、こういうふうな立法趣旨でございます。
  44. 江田五月

    江田五月君 そこで、清算期間満了して、目的物所有権債権者移転をした後に、債務者による引き渡しなり移転登記なりが行われるより前に目的物が滅失した場合の危険負担は、債権者の方になると考えてよろしいわけですか。
  45. 香川保一

    政府委員香川保一君) 民法危険負担の原則どおり、債権者が危険を負担するということでございます。
  46. 江田五月

    江田五月君 この清算型の代物弁済考え方が出てくる以前ですと、旧債務消滅をしていないわけですから、対抗要件具備までの間に目的物が滅失しても、それは債務者の負担になるということであったわけですね。
  47. 香川保一

    政府委員香川保一君) そのとおりでございます。
  48. 江田五月

    江田五月君 その点については、本法によって債務者の利益が普通の民法上の原則よりも大分拡大されたということになると考えていいわけですか。
  49. 香川保一

    政府委員香川保一君) 債務消滅時期を先ほど申しましたような時点にいたしましたのも、そういうことを考えてのことでございます。
  50. 江田五月

    江田五月君 それで、この二条一項の通知なんですが、これは二条一項によりますと、清算金の見積額を通知するということでありますから、先般の大臣の提案理由説明の第一のところにあります所有権取得の旨を通知するということとは異っているわけですが、これは見積額を通知するという、条文がそうでありますから、そう考えてよろしいわけですね。
  51. 香川保一

    政府委員香川保一君) 実質は同じことなんでございますが、条文上は見積額を通知するということでございます。
  52. 江田五月

    江田五月君 実質が多少違う場合も恐らく実際の問題としては出てこようかと思いますが、金額だけを通知するというので、もう最小限の要件としては満たされていることに条文上はなるわけでありませんか。
  53. 香川保一

    政府委員香川保一君) 通知が正当であるという意味ではお説のとおりでございます。しかしその趣旨は所有権を取るぞということでございます。
  54. 江田五月

    江田五月君 次に受け戻しですが、この受戻権の行使によって――これはこの受戻権というのは形成権と考えてよろしいわけでしょうね。
  55. 香川保一

    政府委員香川保一君) いわゆる形成権でございます。
  56. 江田五月

    江田五月君 受戻権を行使したら、目的物所有権等はもとに戻って、結局債権者移転しなかったことになるのか、それともその行使の時期にもう一度債権者から債務者にあるいは第三者に移転することになるのか、どちらでしょう。
  57. 香川保一

    政府委員香川保一君) 実体的には、一たん債権者に移った所有権債権者から債務者に戻ってくる、再度移転があるというふうに考えております。
  58. 江田五月

    江田五月君 そうしますと、たとえばその間の使用損害金とか引き渡し債務の履行遅滞に基づく損害金なども、そういう債務も当然発生するということになりましょうか。
  59. 香川保一

    政府委員香川保一君) そういうことになります。
  60. 江田五月

    江田五月君 それからやはり先般の大臣の説明の中にあります「第一」と書いてあるところの登記の無効ですが、所有権移転登記が無効になる場合というのはどういう場合ですか。
  61. 香川保一

    政府委員香川保一君) 今日におきましては、こういう担保登記を利用する金融の通常の形態としまして、金を貸すときに移転登記に必要な一切の書類をとっておく。そうして債務不履行になりますと、債務者の知らぬうちに移転登記がされてしまう、こういうことになるわけでありますが、それの弊害がいろいろございますので、今回の法案で先ほども御議論のありました二条の規定を設けて、通知をして明確に所有権取得するという意思表示を含んだ清算金の見積額の通知ということを絶対的な要件にいたしまして、その弊害を防止しようということでございますが、そういう通知を全然しないで、今日と同じようなやり方で、あらかじめとっておった書類で移転登記をしてしまったというふうな場合はこの登記は無効だと、こういうことになろうかと思います。
  62. 江田五月

    江田五月君 そうしますと、契約において所有権取得するものとされている日の後、通知到達して二カ月以内、二カ月の清算期間満了する、満了した後にはもう所有権移転しているわけでありますから、したがって、その満了した後に仮に清算金支払い債務の履行をしていなくても、何らかの理由移転登記が行われますと、その登記は有効と考えざるを得ないことになりましょうか。
  63. 香川保一

    政府委員香川保一君) 現在の判例理論では実体に合った登記ということに相なりますので、登記は有効ということになるわけでございます。
  64. 江田五月

    江田五月君 次に、清算期間満了より前に移転登記が行われた場合は、これは所有権がまだ移転していないわけですから無効ですけれども、その状態のままで清算期間を経過すると、やはり無効な登記ではあったけれども、期間経過後は実体関係に符合してしまうわけですから有効と考えざるを得ないことになりましょうか。
  65. 香川保一

    政府委員香川保一君) 現在の判例では、登記がされた時点では実体関係が伴ってないことで無効であっても、後に実体関係が伴うことになればその登記は有効になると、こういうふうに言っておるわけでございます。そういう判例理論をとりますれば、お説のような結果になろうかと思います。
  66. 江田五月

    江田五月君 その場合には清算期間内に登記がなされた場合でなくても、それよりさらに前、通知の前あるいは弁済期の前であっても、やはりその後に弁済期が到来し、通知到達して二カ月たてば、やはり登記は有効になってしまうということになってしまうわけですか。
  67. 香川保一

    政府委員香川保一君) 判例理論の基本的な考え方が変わらなければそういうことになるわけなんでございますけれども、私は個人的にはその判例理論そのものに若干疑問があるのではないかと……。この法案ができました場合に、先ほどもおっしゃいましたように、二条の規定というのは、これは強行法規だということを考えますと、強行法規違反のそういう登記がされて、しかも、後日実体が伴ってきたからといって、その登記を有効というふうに解釈するのはいかがかという感じはいたしますけれども、現在の判例理論のもとではそういうことにはなるだろうというふうに考えます。
  68. 江田五月

    江田五月君 いずれにしても三条同時履行関係登記が有効になったり、無効になったりするということはないわけですね。
  69. 香川保一

    政府委員香川保一君) これは実体には関係ない、いわば手続的な側面でございますので、この点は同時履行に反してやったからといって、登記が有効無効というふうな議論はないと思います。
  70. 江田五月

    江田五月君 そうしますと、ちょっと心配になるのが、せっかく同時履行で、同時履行自体は結構なんですが、実際にはなかなか債権者債務者の力関係あるいはいろいろな法律知識あるいは経験の問題等考えますと、債務者の方が適当にちょろまかされて登記だけはやられてしまうということを防ぐために、余り同時履行というのは目覚ましい効果、実効性を持たないのじゃないかという心配があるのですが、どうでしょう。
  71. 香川保一

    政府委員香川保一君) 債務者は金を借りるときにはいわば弱者的な地位にございますので、債権者の無理も聞かなきゃならぬというふうなこと、やむを得ない面があろうかと思うのでありますが、しかし、この段階になってきて、移転登記をするという場合におきましては、必ずしも債務者は弱者的な地位にあるとは言えないわけでございまして、それをしも、しかし債務者が何でも債権者の言うなりになるということでありますれば、これはもう法律をもってしてもいかんともしがたいわけでございまして、私どもそういうことも考えますと、先ほど二カ月の期間が問題になりましたけれども現在の登記実務におきましては、法令上、所有権移転登記をする際には印鑑証明書が要ることになっております。これはその有効期間が三カ月ということになっておりますので、そうしますと通常の金を借りる場合にその段階で印鑑証明書をとる、そうしまして弁済期まで大体不動産の仮登記担保を使うような場合というのは、どんなに少なくたって一月くらいの弁済期間があるはずでございますから、そうしますとさらにプラス二カ月でございますから最小限三カ月はかかるわけでございまして、したがって、もう一度印鑑証明書を債務者に要求しなけりゃならぬということになってくるわけでございます。そういうことによって債務者同時履行の抗弁権の行使が容易になってくると、こういうふうにこれは法律論じゃございませんけれども、実際問題としてそう相なるだろうというふうに考えておるわけでございまして、それ以上の債務者保護ということは法律をもってしては無理なことではなかろうかと思います。
  72. 江田五月

    江田五月君 それから、この代物弁済予約あるいは停止条件付代物弁済契約というものは、合理性を持つ場合に民法九十条違反ということで無効になってきたのがそもそものスタートで、その後に九十条違反から進んで清算義務があるのだという判例理論が出てまいりまして、清算義務があるというそういう構成が確立した段階で九十条違反ということはもうなくなったわけですね。で、その清算義務があるという法律構成をする最初のころは、恐らくたしか著しく債権額と不動産の価格が均衡を失しているというような要件があったかと思いますが、その要件がだんだんとなくなっていると、いまこの法律になってまいりますと清算金が全然ない場合にも金銭債務担保目的権利移転目的としてなされた契約で、そしてその権利について仮登記、仮登録の制度がある場合というのが、すべて仮担保契約、仮登記担保契約に入ってしまうわけで、そうすると先ほどの危険負担債権者主義を回避しようというような形で債権額にちょうど見合う物件をとって、民法上の代物弁済の典型的な、典型的といいますか民法上予定されているそのままの形の代物弁済予約なり停止条件付代物弁済契約なりをしようということはもうできなくなったと考えてよろしいわけですか。
  73. 香川保一

    政府委員香川保一君) 法律的にできなくなったということまでは言わなくてもいいかと思いますけれども、不動産の価格の変動がない時期におきまして、目いっぱいの債権で不動産をとるということは非常に、何といいますか、債権者としては使いづらくなるということは確かにあろうかと思います。
  74. 江田五月

    江田五月君 それから、いまの危険負担関係ですが、目的物の滅失ではなくて、何かの関係でこの移転登記義務とか引き渡し義務とかが履行不能になった場合、まあちょっと細かく検討しないと事例としてはわかりませんけれども、たとえば第三者の方に移って、そして第三者の、また関係のない第三者に移って先に登記がなされてしまって、仮登記をもってしても負けてしまうというような場合には、被担保債権消滅はしないのでしょうね。
  75. 香川保一

    政府委員香川保一君) 仮登記がされていません場合には、おっしゃるように第三者に先に移転登記がされて、それが実体を伴っているものであれば、まさに対抗要件の問題として債権者は負けるわけでございますから、これはおっしゃるとおりの結果になるわけでございます。仮登記がしてございますれば、その後で第三者に所有権移転登記がされましても、これは債権者法律的には一向痛痒を感じない、つまり所有権取得して本登記をいたしますれば、第三者の所有権取得が無効になってしまうわけでございますから、したがって履行不能ということにはならないだろうと思います。
  76. 江田五月

    江田五月君 何かの関係で履行不能が起こった場合という、ちょっとその事例をいま思い浮かべる暇がないのですが、たとえばその仮登記担保に係る仮登記より前に普通の仮登記があって、それが本登記になったとかですね……。
  77. 香川保一

    政府委員香川保一君) 先順位の仮登記があってそれが先に登記されますと、その後順位の仮登記消滅して消されてしまうわけでございますから、その場合にはまさに履行不能といえば履行不能になるわけでございますが、ちょっと危険負担の問題として債権者負担にならない場合の履行不能というのはちょっと私、事例としてただいま思いつかないのでございますが……。
  78. 江田五月

    江田五月君 本法は判例によってでき上がった一つ法律体系を判例法のままではいろいろ手当てもできない、不十分であるということから、立法府がそれに呼応する形で判例理論を法律の形に仕上げようという、そういうものであろうと思いますが、そういうふうに判例ででき上がってきているいろいろな法律体系を立法府が常に注意をして見ていて、それに呼応する形で立法的手当てが必要な場合にはしなければいけないということは、まさしくその法の支配のもとで必要なことだと思いますが、大臣にひとつ伺っておきたいのですが、この法律もそうですけれども、もっと判例あるいは最高裁の判決に立法府が速やかに対応していかなきゃいけないものとして、やはり最高裁判所によって違憲であると判断された場合のことがあろうかと思いますが、刑法二百条の関係というのは一体どういうふうになさるおつもりであるのか、伺いたいと思います。
  79. 瀬戸山三男

    ○国務大臣(瀬戸山三男君) おっしゃるように、法律の最終判断は最高裁判所で判決がありますと、もし違憲等の判決があれば、この裁判所の判断を尊重して、それに合致するように法律を改正する、これが政府なり立法府の責務であろうかと思います。  そこで、おっしゃる刑法二百条尊属殺の規定でございますが、これについて昭和四十八年だったと思いますが、憲法十四条の規定から見て尊属殺を重く罰しておるのは違憲である、こういうことで、その事案については、二百条の規定でなくて、百九十九条一般殺人罪の規定で判決があったわけでございます。法務省といたしましては、その判決の趣旨を受けて刑法の改正をしなければならない、こういう考え方から検討いたしたわけでありますが、ただ最高裁の判決の趣旨が、二百条の尊属殺が憲法十四条の法のもとにおける平等、この原則に直接的に反するという趣旨にも解せられない。問題は一般殺人の死刑、無期または三年以上というのを尊属殺に限って死刑、無期だけに限定して重い刑を予定しておる、これが実態の尊属殺の場合、いろいろなケースがあるわけでございますが、当該の事件については、死刑、無期の範囲だけで処罰をするということはいかにも実態に合わないといいますか、酷過ぎるという趣旨の裁判であったと思います。その際に尊属というもの、親を尊重するというこの人倫の道を間違っているわけじゃないけれども、余りに、ただ親であるからというだけで殺人の場合に無期以上でなければ処罰の方法がないというのは、憲法の法のもとにおける平等の趣旨にそぐわない、こういう趣旨だと私、解しておるのです。それはそれとして法務省はその判決を受けて、いま申し上げましたように二百条の改正をしなければならない、と同時に二百条の改正というよりも二百条を削除する。同時に、尊属に関するほかに尊属傷害致死とか、あるいは尊属遺棄とかあるいは尊属の逮捕、監禁、親に対する子としての不当な行為を罰する規定は御承知のとおりありますが、それまでも削除する意味法案を用意いたしまして、七十一国会に提案を準備したのであります、実際は。ところが、いま申し上げましたように、問題は法理論的に考えますと、御承知のとおり現行刑法は裁判所の裁量の余地が非常にありますから、実際の事案の処理については法務省が考えたとおりでいいと思うのですけれども、ただこの際、刑法の尊属の観念を削除してしまう、この点については、大きなまた別に異論がありまして、それでは人倫の道というものが、親子の人倫の道といいますか、親に対する報恩、感謝の念、尊重の念、こういうものを法律上から抹殺するということは、わが国の国民感情といいますか、社会感情からいってきわめて不適当じゃないかという有力な意見もまたあるわけでございます。そういうことで最終決定をしかねて今日に至っておる、このことは適当でないと思います。でありますから、各方面の意見を十分に調整をして早く最高裁の判決に適合する改正をしなきゃならない、かように思っております。思っておりますが、実際の裁判で江田さん御承知のとおり、少なくとも尊属殺については最高裁の判決の判例に従って実際裁判が行われておるという、直ちにいま不都合はないという問題もありまして、ややおくれたのは、これはまことに恐縮でありますが、できるだけ早く実定法の上で改正をしたい、かように考えておるわけでございます。
  80. 江田五月

    江田五月君 終わります。
  81. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 他に御発言もなければ、質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  82. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認めます。  それでは、これより討論に入ります。  御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。――別に御発言もないようですから、これより直ちに採決に入ります。  仮登記担保契約に関する法律案を問題に供します。  本案に賛成の方の挙手を願います。   〔賛成者挙手〕
  83. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  84. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  午後一時まで休憩をいたします。    午前十一時十二分休憩      ―――――・―――――    午後一時五分開会
  85. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  人質による強要行為等の処罰に関する法律案を議題といたします。  まず、政府から趣旨説明を聴取いたします。瀬戸山法務大臣。
  86. 瀬戸山三男

    ○国務大臣(瀬戸山三男君) 人質による強要行為等の処罰に関する法律案について、提案の趣旨を御説明いたします。  一部過激分子による航空機の乗っ取り、在外公館の占拠等の不法事犯は、近時、その手段、態様において一段と過激化、悪質化する傾向にあり、特に昨年九月のダッカ空港における日航機乗っ取り事件に端的に示されているように、爆発物、銃砲等によって武装した数名の集団によって計画的、組織的にこの種犯行が企てられているため、その都度多数の関係者の生命、身体の安全に重大な危険がもたらされただけでなく、これら関係者を人質にして、わが国政府に対し、身のしろ金の提供あるいは被拘禁者の引き渡しを強要するなど、およそ法秩序を確立して民主主義体制を堅持する上から看過し得ない容易ならざる結果を招来するに至っていることは、まことに憂慮にたえないところであります。  もとより、政府としては、かかる事態を前にして、かねてから各般にわたる防止対策を強力に推進してまいったのでありますが、先般のダッカ事件を契機として、さらに一層有効な取り締まりを実施する観点から、法制上の問題点につき緊急の改善措置を講ずるため、さきの第八十二回国会において、航空機の強取等の処罰に関する法律等の改正を提案し、航空機強取犯人による人質強要に係る罪を設けることなどの措置を定めることとしたのであります。しかしながら、これらの措置は、この種事犯の再発防止のための抜本的対策の一環として法改正を要する対策のうち、早急に取りまとめの可能なものについてなされたものでありまして、その後世論の動向、関係機関の防止対策の推進等諸般の状況を踏まえて引き続き検討を行った結果、第一、人質による強要に係る特定の行為を処罰する規定を新たに設けること、第二、人質による強要罪を犯した者が人質を殺害した場合を特に重く処罪することの二点を中心として本法律案を取りまとめ、御審議を仰ぐこととした次第であります。  この法律案の骨子は、次のとおりであります。  第一は、人質による強要行為のうち、過激分子によって犯されることが予想される暴力的要素の強い、それだけに人質の生命・身体に対する危険度の大きい特定の行為、すなわち、二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕または監禁した者が、これを人質にして、第三者に対し、不法な要求をする行為を取り上げ、これに対し無期または五年以上の懲役をもって臨むこととするものであります。  申すまでもなく、この種事犯は、人命を盾として自己の不法な目的の達成を図るという点において、きわめて悪質かつ卑劣な犯罪であり、人質にされた者の生命・身体に対する危険が大きいこと、現行の逮捕・監禁罪あるいは強要罪等をもってしては、これに対応するに十分とはいいがたいこと等を勘案してこの罪を定めることとしたものであります。  第二は、第八十二回国会において新設された航空機強取法第一条第二項の規定を本法中に取り入れることとするものであります。  すなわち、先般の同法の改正は、当面の緊急を要する措置として、航空機強取を手段とする人質による強要行為を処罰する規定を同法中に設けたものでありますが、本法が制定されることとなるのに伴い、右の規定は、人質による強要行為の一類型として、本法において統一的に規定することが相当と考えられますので、かような措置をとることとしたものであります。  第三は、人質による強要罪を犯した者が、人質にされている者を殺したときは、死刑または無期懲役に処し、その未遂をも処罰することとするものであります。  さきに述べましたように、過激分子による不法事犯は一段と悪質化の傾向を示しており、勢いのおもむくところ、将来にわたり、その手段、態様も、さらにはその要求の内容も、ますます過激化してくることが憂慮されるのであります。およそ、わが国を含む法治国家は、多年にわたる先人の努力と犠牲の上に定立されたものであり、国の法秩序が厳正に維持されることによって、国民全体が現在及び将来にわたり自由かつ平穏な生活を亨受し得るものであることを考えるならば、速やかに、この種事犯の根絶を図る必要のあることが痛感されるのでありますが、不幸にして再度事犯の発生を見た場合には、国家みずからが不退転の決意を持ってこれに対処し、人質の生命の安全を図りつつ、種々方策を講じて犯人に反省と悔悟の機会を与え、その要求を断念させた上で人質を解放させることがこの種事犯の再発防止の要諦であることを指摘せざるを得ないのであります。しかしながら、かかる厳然たる対応策を講ずる過程において、人質の生命により重大な危険が及ぶに至ることも十分想定される以上、刑事立法の面において、およそ不法な要求を実現する手段として人質を殺害することは絶対に許されるべきことではなく、あえてその行為に出る犯人に対しては文字どおり極刑をもって臨むこととする強い国の姿勢を打ち出すことにより、刑罰の本来有する犯罪抑止力と相まって、犯人に要求を断念させ、人質を安全に解放させるに至る効果が期待されるものと考え、この罪を設けることとしたものであります。  第四は、この種事犯の防止及び処罰には広く国際的な協力が必要であることにもかんがみ、航空機強取法等の例にならい、これらの罪の国外犯処罰規定を設け、これを広く処罰し得ることとするものであります。  その他関連規定整理を行うこととしております。  以上がこの法律案の趣旨であります。  何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
  87. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。  これより質疑に入ります。質疑のある方は御発言を願います。
  88. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この法案の第一条ですね、「二人以上共同して、」ということと「凶器を示して」ということが構成要件になっておりますが、一人でやった場合、あるいは凶器を示さなかった場合、これは刑法の監禁罪あるいは強要罪というようなことで処理することになりますか。
  89. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) さようでございます。
  90. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうといたしますと、非常に刑の均衡が失われておるような感じもしますね。たとえば、一人でやっても二人でやっても全く同じ場合が予想されますね。それから凶器を示さなくても三人以上で同じような被害を与える場合も考えられますね。それを考えますと、ちょっと刑の均衡が余りにも離れているような印象を受けますが、この点いかがでしょう。
  91. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 今回のこの法案作成の経緯を申し上げますと、大綱は先ほど大臣が御説明申し上げたとおりでございますが、当面予想されますたとえばクアラルンプール事件のような過激分子によって犯されますような事態に対処するという緊急の必要性があって立案をいたしたわけでございます。そういう観点から、過激分子によって犯されることが例となっており、かつ今後予想される、そういう犯罪類型をここで取り上げたわけでございます。そういう過激分子等が犯します人質犯罪の典型的な事例と申しますのは特徴が二点ございまして、一点は、複数の者が力を合わせてかかってくるということが一つでございます。もう一つは、武装した集団という形でやってまいる、これが第二の特徴点でございます。さしあたり、私どもといたしましては、そのような分子によるこの種の事犯を防遏し、かつ事犯が発生しました場合にこれに対応するという目的でこの法案をまとめたわけでございます。  御指摘のように、もし、たった一人の者が行うとか、あるいは複数の者が凶器を示さないで行うという場合でありましても、たとえば、その一人の者が物すごい力持ちであるというような場合でございますとか、あるいは凶器はなくても三人組の威力が非常に強いというような場合には、同じような結果が発生する場合が考えられないでもございませんが、そういうことを考えまして一人の場合あるいは凶器を示さない場合もこのような構成要件に取り込んでくるということになりますと、いささか範囲が広くなり過ぎる。たとえば思慮浅薄な者が一人で果物ナイフを示してやった場合というようなものまで入ってまいる、これは適当ではないのではないかということで、こういう構成要件にいたしておるわけでございます。  そこで、抜本的な一つ立法政策としては、単純な形の人質強要罪というような類型を一つ設けまして、これをただいま御審議いただきます第一条の一般類型として規定をするということがございますと、ちょうど逮捕、監禁、強要の併合罪とこの本条の罪との間に、まあ中二階と申しますか、が一つできるということで、法的な整合性といいますか、小野清一郎博士なんかがおっしゃいます言葉を使えば法の美学に適した立法になろうかと思いますが、それらの点につきましては改正刑法草案にも一応の提案がなされておりますところでございまして、将来刑法の全面改正の際に十分考慮して立法化してまいりたい、かように考えておるわけでございます。
  92. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうしますと、局長、これは過激分子の犯罪に限るというふうに理解していいでしょうか。
  93. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 過激分子による犯行を想定してそれに対処するためにつくるわけでございますが、法律でございますから、この構成要件に該当してまいりますれば、必ずしも過激派によって犯されないものでございましても適用されることは申すまでもございません。たとえば、暴力団等がこういう挙に出ることも考えられますし、現実にありました事例としては、ダッカのハイジャックの直後にございました長崎でのいわゆるバスジャックというのが二人組で爆発物等を使用して行われましたが、これなどは過激分子と言うには当たらないと思いますけれども、この構成要件に該当いたしますので、これによって処断されることになるか、こういうふうに考えております。
  94. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いまちょっと局長は爆発物ということをおっしゃったですね。これもこの法条に言う凶器に当たるわけですね。  それからもう一つは、凶器にあらざるものを凶器のごとく擬装する犯罪がありますね。これはやはりこれに当たると見ていますか、どうですか。
  95. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 刑罰法規でありますから厳格に解釈する必要があるわけでございまして、「凶器を示して」と、こういう構成要件にいたしておりますから、凶器らしいものではこの構成要件には当たらないと、あるいは凶器に見せかけて凶器でないものを示すというのもこの構成要件に当たらないと、こういうふうに考えております。
  96. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 爆発物は。
  97. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 爆発物、銃器、刀剣、かようなものは凶器であると考えております。
  98. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 局長がいまおっしゃったように、過激分子ということを想定してつくった法律ではあっても、構成要件に該当する限りは過激分子でなくてもやはりこの法条による罰則を受けるということになりましたね。そこで問題になるのですよね。局長は小野清一郎先生の法の美学の理論を持ち出されましたけれども、そういうわれわれの観念的な要請を満たす問題でなくて、現実の問題として、これが刑法の一般の逮捕、監禁や強要罪と比べまして刑の下限、上限が特段に重いですから、そこで、これがほかの犯罪に当てはまるべきものがこれによって規律されるおそれはないだろうか、つまり乱用のおそれはないだろうかということが非常にわれわれは憂慮するわけです。この憂慮は必ずしも私だけではないようで、衆議院の方でもこの点附帯決議をつけているようですけれども、この法条が労働運動やあるいは市民運動に適用をされるようなことはないだろうかと。そうすると、過激分子にあらざる一般の労働組合の活動家であるとか、あるいは市民運動の活動家であるとか、そういう人々が、労働運動の場合には団体交渉ですね、団体交渉の場合しばしばトラブルが起きます。そのトラブルが起きる。警察、検察のお立場にある方は行為の結果だけをとらまえますから、それがいかにどういう理由で起きたかというような原因の問題、縁由の問題、被告人の動機その他について余り重きを置かない。これは弁護人と治安当局との間の大きな相違点になりますが、これが乱用されるおそれはないかということが非常にわれわれ憂慮するのですが、その点いかがでしょう。
  99. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 私ども、この人質強要罪の規定が、市民運動、労働運動、あるいは学内の諸問題、こういうものに適用されるというようなことはちょっとも想像ができないわけでございますが、一応御説明申し上げてみますと、ここにございますように、二人以上の者が凶器を示して人質を取って第三者に強要すると、こういうことでございまして、人質にしてと申しますのは、申し上げるまでもないと思いますけれども、逮捕あるいは監禁されました者の生命身体の安全に関する第三者の憂慮に乗じまして、この逮捕、監禁されました人の釈放、返還、あるいは生命身体の安全に対する代償として第三者に不法な要求をする、そういう目的で人間を拘束するということを言うわけでございまして、およそ労働運動あるいは市民運動等の中におきまして、凶器を示してたとえば経営者から経営者を逮捕、監禁して、この生命身体の安全が脅かされるであろうことを示して、そして第三者に何かの無法な要求をするということは、ちょっと考えにくいところでございます。団体交渉の場に刃物とか銃器、爆弾というようなものを持って来るわけもございません。  ただ、考えられますのが、いわゆる用法上の凶器というものが考えられますので、その点での御心配があるいはあるのではないかと思いますけれども、判例によって明らかになっておりますように、用法上の凶器、本来人を殺傷するために使用されるものでないけれども用い方によってはそういう用途に供することができるそういうもの、これは直ちにそのものが存在するということで凶器になるわけではございませんで、判例の言いますように、人の殺傷に使用される意図が明らかに外部的に確知され、社会通念に照らし人の視聴覚上直ちに危険性を感ぜしめる状態になったときに初めて凶器性を帯びると、こういうことになっておるわけでございます。したがいまして、団体交渉の場にたとえばやや太めの柄のついたプラカードがあったとかあるいは旗ざおがあったということで直ちに凶器を示したことにならないことは言うまでもないところでございます。そのプラカードの板に当たるところをたとえば取り払って角材でもって殴りかかるような気勢を示す、あるいは竹ざおで殴りかかるような気勢を示すというような状況に及ばない限りは「凶器を示して」ということにならないことはもう当然でございます。  それから何よりも団体交渉の場合等におきましては、やはり基本的にそこに労使間の信頼関係というものがあればこそ交渉ということが行われるのだろうと思います。そういう点におきまして、そういう団体交渉の場において経営者の生命身体の危険をもたらすべきことを示しておどかし上げるというようなことは、通常の団体交渉はもちろん、いろいろな団体交渉を考えてみましても、あり得べからざることではないかというふうに考えるわけでございまして、そういういろいろな観点から考えまして、要するに凶器を示して逮捕、監禁するというようなことが考え得られないのと同時に、経営者なら経営者、あるいは学内の問題であれば学校当局者、これを人質にしてやるということはちょっと考えられないのではないか。もし仮にそんなものすごい事象が万一起きるとすればこの構成要件に該当してもしようがないのではないかと思いますけれども、ちょっと私どもとしてはそういう事態になるということは事柄の性質上考えにくいと、こういうふうに考えております。
  100. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 局長が用法上の凶器の問題に触れたのでちょうど議論がしやすくなったわけですが、凶器準備集合罪が刑法の中に取り入れられたときも、プラカードとか旗ざおなんというのは凶器でないというふうな前提のもとにこの国会でも法案が審議されたと思いますね。ところが、用法上の凶器ということで学生運動などでこれが凶器だという判例が出ておりますね。そういうふうに用いられた場合にやっぱり凶器だというような認定を受けて有罪の判決がある。高裁で敗れてまた最高裁でそれが敗れてまた高裁に返ってくるというような事例も現実に起きておりますね。そういうことになりますと、こういう平穏な場でわれわれが常識的に考えてまずあり得ないだろうと思うことがひょっと起きる場合が実はないではないようですね。私どもは弁護士生活の中でそういう事例を経験しないでもないですね。これはまあ局長は信頼関係ということをおっしゃったけれども、ですから団体交渉を拒否するなんというのはまさにその信頼関係を使用者の方が破ることになりますね。現実に団体交渉を拒否する使用者があって、これは労働関係調整法でたとえストライキ中といえども使用者は団体交渉をして自主的に解決しなきゃいかぬということを使用者側に義務づけております。ところが、そういう労調法の規定などを無視して、ストライキをやるような組合とはもう話をせぬというような労働法に無理解な経営者が現実におります。それで団体交渉を拒否する。裁判所に団交に応じなければいけないなんという仮処分とって持って行ったって、なかなかそれは強制執行の方法がありませんから、事実上効果がない。そうすると、労働者の方はもう激高して工場に詰めかける。経営者の方は奥の方に入ってだんまりを決め込んでもう動かない、だれが行っても。そこで応援団やなんかが詰めかけて、その中には旗ざおを持った人もプラカードを持った人もおる。ガードマンなんかと小競り合いがあって、局長のおっしゃるように、中にはプラカードを振り上げたりなんかするような場合も派生的に起きるんですよね、そういう場合には。そういうことで経営者が仮に二十四時間外に出られませんでしたというようなことを言って、そしてまた工場の一角ではプラカードで殴り合いがあったとか旗が林立したとかいうようなことで、それやこれやもう二人以上共同して凶器を示して監禁したのだと、そうして工場長が監禁されている、工場長の生命が危ないなんということで本社の方で要求をのむとかのまないとかいうようなことででっち上げられるおそれがあるのですね、やっぱし。われわれは非常にそういうことを憂慮する。そういう現実の事例にやっぱり遭遇していますからね。だから、つまり局長の言われるような冷静な気持ちで、いわば学問的に考えますと、そういうことはあり得ませんと、こう言われるのだけれども現実の生々しい労働運動の舞台ではとかくそういうことがでっち上げられて針小棒大にされてしまった場合に非常にこわいことになるのじゃないかと思うのですね。どう思われますか。
  101. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 確かに、経営者側が団体交渉に応ずべきであるという労働法上の当然の原理を踏みにじっておるような場合に、御指摘のような大挙して労聞者側が押しかける、そして実力で交渉を求めるというような事態が過去にも何回かありましたし、また将来もあり得ると思うのです。しかしながら、その場合に、当該経営者の命が危ないとかそういうような状態で閉じ込めて、そして第三者と言うんですからだれかほかの人に要求を突きつけて、要求に応じなければこのいま閉じ込められておる、先ほどの例で申しますと工場長なら工場長の命がないぞとか、あるいは体を傷つけるぞというような、そういう交渉の仕方ですね、そういうものはちょっと考えられないのじゃないかというふうに思うわけです。  でっち上げということがあるかもしれないという御指摘でございますけれども、でっち上げようにも余りに去るところが遠くて、どんな警察でありましても、ちょっと人質という概念と、それから経営者が二十四時間なら二十四時間その場所から出られない状態で組合員に囲まれておるという状態とは、明らかに本質的に異なりますから、まあそういう御心配は万々ないと私は思います。
  102. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは実例をお話ししないとわからないかもしれないけれども、昭和二十五年に、岡山県の備前市ですね、これは品川白煉瓦というところであった。当時の社長が国家公安委員長なんということで少し頭にタコのくそが上がっておったのかもしれないけれども、それは東京におる。備前市には工場長がおる。局長、相互に関連がないように思うけれども、実は大いに関連があるのでね。それは、日本経営者連盟というところから、私の高等学校時代の後輩が、後でそれがわかったのだけれども、日経連から派遣されて来ておった。そうしていろいろとこう指導しておったのですね。それでそのために結局三日ぐらい事実上かん詰めに遭ったのです、工場長もその日経連から派遣されてきた人も。それがいろいろ指導して東京からの指揮を仰ぐものだから、なかなか組合との間に正常な団体交渉なんかができないのですね。そういうふうな実例で、その応援団の中で組合員をつるし上げたりした者が刑事処分になりまして、まあこれは執行猶予の判決で有罪にはなりましたけれども、信頼関係を使用者の方が裏切ってそのことのため労働関係が非常に紛争が激化するということがあります。  それから労働者を組合活動をしたというために大量に解雇するとか、その解雇の撤回を労働組合側が求めるとか、あるいはもうこれはだめだというので工場を閉鎖してしまう。すると、労働組合の方では、これは擬装の閉鎖である、組合活動を弱体化するための閉鎖であると、工場閉鎖の撤回を求めるというような場合には、組合の方は死にもの狂いになりますね。経営者の方は組合を弱体化させることが目的でありますからして、がんとして引かないというような場合に、非常な混乱に陥る。そういう場合に私どもはこういうような条文が乱用されるおそれがないだろうかということを非常に警戒をするわけであります。  いま用法上の凶器というような判例が次第に凶器の概念の幅を広げていきますから、これは運用に当たって、検察庁の方が、労働事件なんかの場合には、単なる事実上の結果だけでなくして、それがよって来るゆえんのものというものをよっぽど的確に見ていただくということ、それが必要だと思いますね。  それからもう一つは、学生運動の場合、東大などで、後に総長になられた林文学部長がいわゆるかん詰めになったということがありました。ああいうような場合、この条文が乱用されて適用を見るようなことはないだろうかということが非常にわれわれ憂慮するわけでありますが、これは刑事局長は明快に断定しておられるようでありますけれども、これはよほど警察庁の方で現地の警察官などのやはり乱用の危険というものに対する教育指導を徹底さしていただく。と同時に、これはまあ過激派の行動にかんがみて制定されたものであって、労働運動とか学生運動、あるいは市民運動、農民運動等の正常な一般の市民の団体的な行動を対象としたものではないということを明確にしていただく必要があると思うのですよ。この点、局長とそれから大臣のお二方に御答弁を願いたいと思います。
  103. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 私どもはそういう運動などにこの条項が適用されるというようなことは夢にも考えておりませんけれども、やはり一部にせよそういう乱用の危険性というものをお感じになる向きがあるということは事実のようでございまして、衆議院におきましても附帯決議をちょうだいしておりますし、ただいまも寺田委員から御指摘がございました。そういう御意見が一部にしろあります以上、当然それを十分に体しまして、本法成立の暁にその運用につきまして検察当局を中心に法の正当な解釈に従って運用されるように当然十分な指導を尽くすべきものだと思っておりますし、またそうする決意でおります。
  104. 瀬戸山三男

    ○国務大臣(瀬戸山三男君) 趣旨はいま刑事局長から申し上げたとおりでございますが、ごらんになってわかりますように、この立法をしようというのは、最初から凶器を示してこれを人質にして別の要求をしようと、こういう犯罪が趣旨でございますから、労働運動とか市民運動とか、最初からそれを人質にしてやるという行動には全然考えられない。私どもそういう観念でこの法律立法しておるわけでございます。とにかく人質をとって要求するという目的でやっておるわけでございますから、全然性質が違うものであると、こういう観念から、まあしかし法律があればいまのような乱用の危険があるという懸念も全然否定はできませんから、十分これは注意しなければならぬと、かように考えております。
  105. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは刑事局長、そういう趣旨を徹底させるということでそれで結構なんですが、決して一部の心配じゃないのですよ。衆議院の附帯決議もこれは各党一致した決議であって、やはり法の乱用というものがこの現実の社会になければ問題ないけれども、しばしばあるわけでしょう。それから立法の趣旨と違うようなことは非常に経験いたしますね。たとえば、憲法なんて、もう最初吉田総理が憲法制定のときには、自衛のためといえども戦力は持てませんなんということをはっきり答弁しているけれども、次第次第にその答弁が変遷してしまうのですね。それから公安官なんというものも、労働運動にはこれは全然使用することはありませんと言ったけれども、公労法の十七条関係で違法だというようなことを盾にとってその後どんどんと公安官が出て来ますね、労働運動にね。つまり法律が一人歩きしちゃうものだから、だからやはりそれはわれわれとしても十分注意しなければいけないということが私どもの考え方なんであります。その点をよくお考えをいただきたいと思う。  それから本件の場合に逮捕、監禁だけを構成要件の中に取り入れまして、略取、誘拐を除外したというのは、やはりこれは凶器関係その他を考えてのことですか。
  106. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) まず誘拐の点でございますが、誘拐と申しますのは、申し上げるまでもなく、欺罔とか誘惑を手段として人をおびき出すことでございます。二人以上が共同して刃物を示して行うそういう行為というものはちょっと考えられないわけでございまして、およそ刃物を示して誘拐するということは、それ自体自己矛盾の概念でございますので、取り入れる必要がないと。それから略取でございますが、略取というのも、御承知のように、主として未成年等をひっ抱えて逃げていくというような概念が基本になっているわけでございますが、ごらんいただきますように、凶器を示して人の自由を拘束するという行為は、略取と言わなくても逮捕あるいは監禁であることは明らかでございますので、そういう意味におきまして略取という概念も用いる必要がないと、こういう観点から略取、誘拐というのは用いていないわけでございます。
  107. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 確かに、この凶器の関係で略取、誘拐ということはないということは大体わかるのだけれども、こういう条件――逮捕、監禁して人質を取った場合と、略取誘拐によって人質を取った場合と、両方が考えられるのだけれども、これは刑法の二百二十五条ノ二の身のしろ金誘拐ですか、こういうような規定、あるいは二百二十四条、五条、こういうことで賄えば足りるというそういう意図で本件のような場合に略取、誘拐というものを入れなかったのでしょうかね。その点はどうでしょう。
  108. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 考えられる犯罪の態様としては、たとえば要人なら要人をまず誘拐をいたしまして、どこかにまんまと連れ込んだところで刃物を示して監禁してしまうと、こういうことも考えられるわけでございます。さような場合には、最初の誘拐の段階は先ほど御指摘の刑法の誘拐罪で評価をする。いよいよどこか隠れ家へ連れ込んで二人以上共同して凶器を示して監禁状態に陥れたと、その時点からこの第一条の規定が動いてくると、こういう考え方をしております。したがいまして、逆に言いますと、単に誘拐はしたけれども、監禁には失敗したというようなことでございますれば、誘拐罪だけで処断をすればよろしいと、こういう考え方でございます。
  109. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから刑法の改正草案の三百七条との比較で、特に改正草案の三百七条の罰則よりずば抜けて重い罰則にしたこの合理的な理由というのはどこにありますか。
  110. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 改正刑法草案三百七条に人質による強要罪というのを設けておりまして、その刑を「二年以上の有期懲役」ということにしているわけでございますが、これは身のしろ金誘拐に関します現行法であります刑法二百二十五条ノ二と対比してごらんいただきますと、明らかに草案の三百七条は一般規定でございまして、身のしろ金誘拐がこの三百七条に対する特別規定関係になるわけでございます。したがいまして、身のしろ金誘拐の刑が「無期又ハ三年以上ノ懲役」ということになっておりますのに対して、それの一般規定でございますので、「二年以上の有期懲役」というようにそれよりも軽い刑を定めておると、こういうことでございます。
  111. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはそうなんだけれどもね。まあ身のしろ金誘拐の現行法は「三年以上」ですから、これとの均衡を著しく逸脱したというところまでは言えないかもしれないけれども、刑法改正草案ですと、人質を死に至らしめたとき、これがこの法案の第一条の刑と一緒になっておりますね。それが「無期又は五年以上」ですから、ちょうどこの法案の第一条と一緒になりますね。人質を傷害したときは「三年以上の有期懲役」と。これが身のしろ金誘拐の二百二十五条ノ二と同じ刑になっている。ですから、明らかに刑法草案の三百七条と比べますと、刑の下限、上限ともに著しく重いというのは、初めに返って、やはりこれは過激派というものを想定したためにこう重くなったと理解する以外にないのじゃないかと思うのですがね。どうでしょう。
  112. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 現行法と改正刑法草案という一つの草案とを同一平面で論ずるということは必ずしも厳密に言えば適切でないかもしれませんけれども、あえて申し上げますと、一般法から特別法の順序に並べてみますと、草案の三百七条が一番基礎的な一般規定で、身のしろ金誘拐はこれの特別規定で、ただいま御提案申し上げております第一条は身のしろ金誘拐に対する関係においても特別規定になるということでございます。そういう形をとりましたのは、二人以上共同して、かつ凶器を示して行うという悪質かつ卑劣な行為であると、その行為の典型的なものは過激分子によって最近行われたクアラルンプール事件その他の事件であると、こういう観点から、上限につきましては無期懲役というものを設定しておるわけでございます。下限につきましては、このような集団で凶器を示して行います犯罪で、かつ人質となった人の生命身体の安全も危殆に瀕するというような状況になり、かつ第三者の憂慮もはなはだしいものがあると、また要求の内容もいろいろな形がありますが、いずれにしても無法な要求であると、こういうような点を総合いたしますと、現行刑法のいろいろな法定刑の定めがありますが、それらを通観いたしますと、やはり強盗罪の法定刑の下限というものが一つのめどになるのではないかと、同じような悪質かつ卑劣な犯罪であると、こういう観点から下を五年と、こういうふうに設定したわけでございます。  なお、先ほど草案の人質強要致死罪の刑のお話がございましたけれども、もう御承知と思いますが、改正刑法草案におきましては死刑の数を極度に減らすようにいたしておりまして、およそ死の結果について故意のない場合には死刑をもって臨まないということにしてすべて無期で頭打ちにしておりますので、そういう関係から確かに御指摘いただきますように、草案の三百七条の第三項、これが人質強要致死でも上が無期で下が五年だと、こういう御指摘が出るのかと思いますけれども、現行法の体系でまいりますと、致死の場合には死刑を規定するというようなことになるものではなかろうか。ただ、改正刑法草案の死刑に対する全体的な立場というものがございますことを一言だけ申し上げておきます。
  113. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは非常に方法が卑劣であると、それから要求が途方もない無法な要求であるというような局長の御説明伺いますと、これは全くやはり過激分子の、つまりすでに刑を受けて執行中の受刑者を釈放しろというような、そういうようなことが念頭にあって規定したものとしか考えられないわけです。労働運動で、たとえば団体交渉に応じろとか、解雇を撤回しろとか、あるいは工場閉鎖を解けとかというようなことが途方もない無法な要求だなんということを言い得ないことは明らかなんで、それから方法としても、卑劣だなんということは言えないので、ですから、やっぱしこれは初めに返って、過激分子を念頭に置いて法務当局がこの条文を起案したものであって、その起案のときにはもうまさに労働運動とか市民運動とか学生運動なんというものは念頭になかったと、こう理解せざるを得ないですね。実際そうでしょう、そういうことは念頭になかったのでしょう。
  114. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 立案過程の考え方は、要するに過激分子によります最近見られるような異常な状況、こういうものに対処するものをつくりたいということで出発をいたしまして、次いでそういう構成要件をつくるのですけれども、まことに似ても似つかぬ程度の軽いもの、これが紛れ込まないようにということを次に考えまして、そこで、再々申し上げます集団犯罪でありかつ凶器を示すと、こういう要件でしぼりをかけて、この二つの要件を兼ね備えたような形で行われるものということになりますと、まず私どもの念頭に出てまいりますのはやはり最近の過激分子の行為と、しからずとするも長崎のバスジャックのようなああいう行為というものが対象になるというふうに考えるわけでございまして、反面、たとえば一時はやりました女子社員を便所へ連れ込んで人質にするといういわゆるトイレジャックというようなものは入らないというようなふうに、ある程度間違って重い罪の構成要件に当たるものがなるべくないようにという観点で検討した上でこの構成要件を定めたつもりでおります。
  115. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 なお、刑法の第二百二十五条ノ二、これは身のしろ金誘拐ですね。それから二百二十七条第二項もしくは第四項、これは拐取幇助、被拐取者収受の罪の犯人の蔵匿ですか、あるいは隠避をはかったもの、それから被拐取者収受罪、こういうものについては解放減軽の規定がありますね。これは改正刑法草案にもやはり解放減軽の規定があるようですが、本法の罪についても、これはやはりいかなる場合といえども人質の安全というものが非常にわれわれの希望になりますので、それを図るために解放減軽の規定を置いた方がよかったのではないかという感じもいたしますが、この点どう思われますか。
  116. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) ただいま御指摘の刑法二百二十八条ノ二、これは身のしろ金誘拐の罪が新設されましたときにあわせて新設された規定でございまして、公訴の提起前にかどわかされた人を安全な場所に解放すれば必要的に刑を軽減するというきわめて特異な規定でございます。これは当時の立法の過程において、きわめて異例な特殊な刑事政策的な配慮から設けられた規定でございます。すなわち、身のしろ金誘拐の規定ができましたころと申しますと、赤ちゃんの誘拐が非常に横行いたしました時代でございまして、結局その手口は、親のすきを見て赤ちゃんをかどわかしまして所在不明の状態に置きまして、そうして親御さんなんかが非常に心配をしておられるそれに乗じて多額の身のしろ金を要求するということが横行いたしまして、中にはかどわかしてから泣いたりむずかったりするというので殺してしまって、かつ知らぬ顔をして身のしろ金を要求するというきわめて悪質な事犯が横行したわけでございます。そこで、当時は、赤ちゃんの命だけは何とかして助けたいということから、身のしろ金はもう払ってしまった後であっても、公訴の提起前に、たとえば犯人がそのかどわかした赤ちゃんはここにいるよというようなことを捜査当局に教えるなら教えるということでその赤ちゃんの命だけは何とか取りとめるためにその所在をはっきりさせたいと、こういう考えから、特に警察を中心とする捜査当局におきまして身のしろ金誘拐犯人の説得をいたしますのに、おまえ、もし赤ちゃんだけ無事に返せば刑が半分にまかるぞというような説得をするというようなことにも用いたいということで入った特殊な規定でございます。  ところで、改正刑法草案の三百七条の人質強要罪にも解放減軽規定が付加されておりますが、これは先ほど来申し上げておりますように、草案の人質強要罪と申しますのが身のしろ金誘拐罪に対する一般法の関係になりますので、特別の関係にある上限が無期というような重い罪についても解放減軽の規定があるわけでございますから、その人質強要の一般法につきましても解放減軽を置くことが権衡上相当であると、こういう考え方がとられておるものと承知しておるわけでございます。  ところが、ただいま私どもが御提案申し上げております関係の犯罪と申しますのは、もう御承知のように、どこかへかどわかしてわからなくしてしまってそうしておどかし上げるということではなくて、やはり私どもの念頭にすぐ浮かんでまいりますクアラルンプール事件とかあるいはオランダにおけるフランス大使館の占拠事件のように、犯人たちは、正々堂々という言葉はおかしゅうございますけれども、しかるべきところに立てこもり、あるいは列車、バス、船舶等の中に立てこもって、そこに人質を抱え込んでおどかし上げる。そうして、結局は、自分は人質とともにきわめて遠隔の地まで参りまして、そこで初めて人質を解放する。自分は目的を遂げ、かつ、安全なところまで落ち延びた上で人質を解放する、たとえばアフリカへ行って解放すると、こういうような事案が最近顕著でございまして、さような事案に対しまして、たとえばクアラルンプールの事件を想起いたしましても、リビアへ行って人質をとにもかくにも安全に解放したと、だからといって必要的に刑を半分にしてやるというのは、いかにも国民感情に合わないのではないか。さような場合は、裁判所の健全な判断によりましてしかるべき情状があれば酌量減軽すれば済むことではなかろうかと、こういうふうに思うわけでございます。特に八十二国会で御可決いただきました航空機強取法の一条二項の関係になりますと、これに解放減軽を置くということになりますと、ハイジャックそのものの刑よりももっと軽い刑になってしまう。ハイジャックをした者が受けるべき刑よりも、ハイジャックをし、かつ要求をし、これが満たされた場合の方が人質さえ安全に解放すれば刑が軽くなってしまう、こういう矛盾した結果にもなります。そういうことも考え合わせますと、この解放減軽規定をこのような悪質な罪に置くということは、最近の実情からして適当でないと、かように考えるわけでございます。  なお、そもそも身のしろ金誘拐のところにも置きました解放減軽規定も、これまでほとんど適用事例がございません。そういうことにもかんがみまして、私どもといたしましては、刑法全面改正の際には改めてこの解放減軽規定を見直しをいたしまして、本当に置く必要があるのかどうか、必要的に減軽しなければいかぬというのはいかにも一見合理的であるけれども不合理な点がありはしないかと、こういう点をさらに再検討したいと、かように考えておる次第でございます。
  117. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 局長のいまの前半の御説明を聞きますと、やはりこの法案局長考えておられたときには頭の中はこれはもうハイジャックなどでいっぱいであって、それだけが何か考慮の対象になっていたというふうに考えられますね。ですから、その限りにおいては局長のおっしゃる方が正しいのかもしれませんね、これは。  それからあと、後半のこの規定の適用がいままでにないので見直すことを考慮していると、こういう点はちょっとまだまだにわかに賛同しがたいけれども、これは将来の問題ですからここでは余りこだわらぬことにしましょう。  それからこれはまあ法の美学の問題になるのかもしれませんが、第二条ですね、これは確かに人質という点に重点を置いて考えますと本法の中に入れた方が論理的に合うのかもしれませんけれども、ただ、いままで私どもが航空機の占拠、そして航空機の中で乗客なり乗員を人質にするという場合は、何といっても特色は航空機そのものにありましたからね。ですから、これをやはり航空機というその特色を重く見て、航空機の強取等の処罰に関する法律の中に入れていった方が、何かこう、法の美学はともあれ、私どもの常識的な考え方に合致するようなふうに思うのですが、この点はどういうふうに考えられましたか。
  118. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 確かに、ただいまの御指摘も、それなりに一つ考え方として私どもも十分検討したわけでございます。将来刑法の全面改正というようなことがございますれば、恐らく航空機強取処罰法の主要規定も、それからただいま御提案申し上げているようなこういう規定関係も、刑法典の中に取り込まれるべきものであろうと、そういういわゆる自然犯の一種だというふうに思っておるわけでございますが、今日の段階におきましては、やはり刑法の体系のどこへ入れるべきか、入れどころもなかなかむずかしゅうございますし、とりあえずの立法でございますので、こういう単独立法の形をとっておるわけでございます。  そういう前提をとってあれいたしますと、前回八十二回国会で航空機強取法の一条二項にハイジャック人質強要罪というのを入れていただいたわけでございますが、その時点はとりあえず立法作業が間に合ったというものを御承知のように大まかに言って三つばかりを御提案申し上げたわけでございます。航空機強取法の一部改正と、それから航空危険処罰法の一部改正、旅券法の一部改正と、こういうことでございまして、その時点におきましては、ハイジャック人質強要罪と申しますのが、ハイジャックをした者というのがもちろん前提になっておりますから、そういう意味で当時の法律の既存の法律というもののどこへはめ込むかということになれば、もう当然航空機強取法の一条二項へはめ込むのが最も相当であると、こういうことでここへ置かせていただいたわけでございます。しかしながら、考えてみますと、航空機強取処罰法と申しますのは、刑法の体系で申しますと、強盗罪の特別類型を中心に規定をしておるわけでございます。一方、今回御提案申し上げておりますのは、刑法の体系で申しますと、強要罪の特別類型になるわけでございます。そういう意味におきまして、航空機強取法にせっかく入れていただきました一条二項でございますけれども、これを航空機強取処罰法から除きますことによりまして、この当該法律は、強盗罪の特別類型を規定した法律と、それから一方ただいま御提案申し上げておりますのは強要罪の特別類型を規定した法律と、こういうふうにいたしまして、理屈の上での整合性を図りたいと、こういう考え方でございます。
  119. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それからここにいう「人質」というのはいずれまた判例で明確になってくるとは思いますけれども、立法の担当者として局長は人質の概念というものをどういうふうに規定しておられますか。
  120. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 一応正確に私どもの理解しているところを申し上げますと、「人質にして、」と申しますのは、「逮捕され、もしくは監禁された者の生命身体等の安全に関する第三者の憂慮に乗じ、釈放、返還または生命、身体の安全に対する代償として第三者に作為または不作為を要求する目的で被逮捕者、被監禁者の自由を拘束することをいう」と、かように考えております。  なお、蛇足でございますが、「人質にして、」という用語は、実定法といたしましては先ほど来御指摘の航空機強取法一条二項で初めて使うということになったわけでございますが、改正刑法草案にございますことは先ほど御指摘のとおりでございますし、さらに諸外国の立法例によりましても、ドイツ刑法二百二十九条のb人質罪、ここでオッペルズという、人質という言葉を使っております。それからフランス刑法三百四十二条におきましても、人質、オタージュというのを使っております。それからアメリカ法律協会模範刑法典第二百十二の一条におきましても、人質、ポステージという言葉を使っておりまして、外国の例を申し上げても直接わが国の法律用語の適否を決める材料にはならないかと思いますけれども、一応国際的にも人質という言葉が固定しつつあるというふうに私どもは考えております。
  121. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから当然のことだけれども、第三者の憂慮というものが社会通念上合理的なものでなきゃいけないでしょうね。たとえば、心配せぬでもいいような状態を非常に神経質にあんまり心配して、その心配が合理性を欠くという場合はやっぱり適当ではないと。だから、第三者の憂慮を利用するというその憂慮というものが、結局私ども考えるのは、あんまり主観的に過ぎて客観性を持たない、合理性を持たない、社会通念上度を外れているというようなものは除外されるというふうに理解していいわけでしょう。
  122. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 理論上の話として申し上げますれば、この「第三者」というのはいかなる人であってもよろしいわけですし、法人であれ、人格なき社団であれ、国家機関であれ、国そのものであれ、何でもよろしいわけでございますが、実際問題として憂慮をしそうにもない人に対して要求するということも考えにくいことでございまして、そういう実際の面から見ますと、ただいま御指摘のようなことになると思います。
  123. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それは確かに局長がおっしゃるようにそれもそうなんだけれども、そういう犯人の何をなすであろうかというようなことを的確に把握しないで対応する、対応を過つと、それこそ人質の生命などを危うくするような危険性があるわけですね。そういうことを考慮してお尋ねしたわけなんで、理屈から言えばあるいは局長の言われることが正しいかもしれないですね。  それからこの間八十二国会のときに航空機強取罪の審議をしましたときに、船舶ジャックの場合、あるいは在外公館ジャックの場合、この人質罪についても鋭意検討中であるというような御答弁がありましたね。これはその後どうなっていますか。
  124. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 前回の国会で申し上げました検討中の事項は二つございまして、一つは、ハイジャック人質強要のほかのまあ俗に言うその他ジャックの場合の対策を考えますと。それからもう一つは、こういう人質犯罪について死刑をもって臨む場合があり得るかどうか、そういうことをするのがいいのかどうか、これも検討しておりますと、この二点お答えしたように記憶しておるわけでございますが、最初のいわゆるその他ジャックに対応するためのものとして考えましたのが、ただいまごらんいただいております第一条でございます。それからもう一つの死刑の問題につきましては、やはり死刑の適用は非常に慎重であるべきであるという世界的な趨勢、これを受けましたわが国の趨勢、特に改正刑法草案でとろうとしております死刑の適用をきわめて局限したいという考え方、そういう考え方を踏まえまして、ただいま御提案申し上げております第三条のような人質をとって無法な要求をする、そういう卑劣な行為をしただけでも許せないのに、万一その人質を彼らの言葉で言う処刑するなどという、まことに天、人ともに許すべからざる行為に出た場合には、「死刑又は無期」といういわば極刑で臨む、こういう姿勢をとると、こういうことに結論がなりまして、このような法案を御提出申し上げておる次第でございます。
  125. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうすると、もう局長は、検討を約した在外公館で在外公館を占拠して大使を人質にとるとか、あるいは船舶で船舶を船舶ジャックをしてそして船員並びに乗客を人質にとるというのを全部これにもう盛り込んでしまって、その問題はこの第一条によって解決したと、こう言われるわけですね。
  126. 伊藤榮樹

    政府委員(伊藤榮樹君) 端的に申し上げますとさようでございまして、たとえばシンガポールでかつて起きましたランチをジャックして人質をとって要求をしたような案件、それからこれはわが国の関係ではありませんが、オランダで列車を占領して人質をとって立てこもったような事件、こういうようなものにつきましても、あるいはクアラルンプール事件のように在外公館をいわゆるジャックをした事件、いずれも第一条で対処をいたしたい。  なお、場合によってはこのほかに既存の強盗罪、刑法の強盗罪の一連の規定が使える場合があるのではないか。たとえばシンガポール事件でいいますと、ランチを乗っ取ったという点につきまして、これは犯人をつかまえて犯意を確かめなきゃわかりませんが、ランチの強盗罪、こういうものが適用になる余地もあると、したがいまして、既存の刑法その他の刑罰法令に今回の法案の第一条、これを加えましたもので、検討をお約束しましたものは全部賄わせていただく、こういうつもりでございます。
  127. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 本日はこれで終わりまして、あと少し残しまして……。
  128. 中尾辰義

    委員長中尾辰義君) 本案に対する本日の審査はこの程度といたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後二時二十分散会