○国務大臣(
瀬戸山三男君) 人質による
強要行為等の処罰に関する
法律案について、提案の趣旨を御
説明いたします。
一部過激分子による航空機の乗っ取り、在外公館の占拠等の不法事犯は、近時、その手段、態様において一段と過激化、悪質化する傾向にあり、特に昨年九月のダッカ空港における日航機乗っ取り事件に端的に示されているように、爆発物、銃砲等によって武装した数名の集団によって計画的、組織的にこの種犯行が企てられているため、その都度多数の
関係者の生命、身体の安全に重大な危険がもたらされただけでなく、これら
関係者を人質にして、わが国政府に対し、身のしろ金の提供あるいは被拘禁者の
引き渡しを強要するなど、およそ法秩序を確立して民主主義体制を堅持する上から看過し得ない容易ならざる結果を招来するに至っていることは、まことに憂慮にたえないところであります。
もとより、政府としては、かかる事態を前にして、かねてから各般にわたる防止対策を強力に推進してまいったのでありますが、先般のダッカ事件を契機として、さらに一層有効な取り締まりを実施する観点から、法制上の問題点につき緊急の改善措置を講ずるため、さきの第八十二回国会において、航空機の強取等の処罰に関する
法律等の改正を提案し、航空機強取犯人による人質強要に係る罪を設けることなどの措置を定めることとしたのであります。しかしながら、これらの措置は、この種事犯の再発防止のための抜本的対策の一環として法改正を要する対策のうち、早急に取りまとめの可能なものについてなされたものでありまして、その後世論の動向、
関係機関の防止対策の推進等諸般の状況を踏まえて引き続き検討を行った結果、第一、人質による強要に係る特定の行為を処罰する
規定を新たに設けること、第二、人質による強要罪を犯した者が人質を殺害した場合を特に重く処罪することの二点を中心として本
法律案を取りまとめ、御審議を仰ぐこととした次第であります。
この
法律案の骨子は、次のとおりであります。
第一は、人質による強要行為のうち、過激分子によって犯されることが予想される暴力的要素の強い、それだけに人質の生命・身体に対する危険度の大きい特定の行為、すなわち、二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕または監禁した者が、これを人質にして、第三者に対し、不法な要求をする行為を取り上げ、これに対し無期または五年以上の懲役をもって臨むこととするものであります。
申すまでもなく、この種事犯は、人命を盾として自己の不法な
目的の達成を図るという点において、きわめて悪質かつ卑劣な犯罪であり、人質にされた者の生命・身体に対する危険が大きいこと、現行の逮捕・監禁罪あるいは強要罪等をもってしては、これに対応するに十分とはいいがたいこと等を勘案してこの罪を定めることとしたものであります。
第二は、第八十二回国会において新設された航空機強取法第一条第二項の
規定を本法中に取り入れることとするものであります。
すなわち、先般の同法の改正は、当面の緊急を要する措置として、航空機強取を手段とする人質による強要行為を処罰する
規定を同法中に設けたものでありますが、本法が制定されることとなるのに伴い、右の
規定は、人質による強要行為の一類型として、本法において統一的に
規定することが相当と
考えられますので、かような措置をとることとしたものであります。
第三は、人質による強要罪を犯した者が、人質にされている者を殺したときは、死刑または無期懲役に処し、その未遂をも処罰することとするものであります。
さきに述べましたように、過激分子による不法事犯は一段と悪質化の傾向を示しており、勢いのおもむくところ、将来にわたり、その手段、態様も、さらにはその要求の内容も、ますます過激化してくることが憂慮されるのであります。およそ、わが国を含む法治国家は、多年にわたる先人の努力と犠牲の上に定立されたものであり、国の法秩序が厳正に維持されることによって、国民全体が現在及び将来にわたり自由かつ平穏な生活を亨受し得るものであることを
考えるならば、速やかに、この種事犯の根絶を図る必要のあることが痛感されるのでありますが、不幸にして再度事犯の発生を見た場合には、国家みずからが不退転の決意を持ってこれに対処し、人質の生命の安全を図りつつ、種々方策を講じて犯人に反省と悔悟の機会を与え、その要求を断念させた上で人質を解放させることがこの種事犯の再発防止の要諦であることを指摘せざるを得ないのであります。しかしながら、かかる厳然たる対応策を講ずる過程において、人質の生命により重大な危険が及ぶに至ることも十分想定される以上、刑事
立法の面において、およそ不法な要求を実現する手段として人質を殺害することは絶対に許されるべきことではなく、あえてその行為に出る犯人に対しては文字どおり極刑をもって臨むこととする強い国の姿勢を打ち出すことにより、刑罰の本来有する犯罪抑止力と相まって、犯人に要求を断念させ、人質を安全に解放させるに至る
効果が期待されるものと
考え、この罪を設けることとしたものであります。
第四は、この種事犯の防止及び処罰には広く国際的な協力が必要であることにもかんがみ、航空機強取法等の例にならい、これらの罪の国外犯処罰
規定を設け、これを広く処罰し得ることとするものであります。
その他関連
規定の
整理を行うこととしております。
以上がこの
法律案の趣旨であります。
何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。