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参考人(
三原脩君)
三原でございます。
最前、
井原コミッ
ショナー事務局長は、
ドラフト制度が施行されるまでの一応の経過を御説明申し上げましたし、続いての
荒川、
川上両氏は、それぞれの選手としてまた
プロ野球の監督としての立場から
意見を開陳されたというふうに解釈をいたしております。また、
鈴木会長は、セ・リーグの会長、それから野球機構の実行
委員会議長としての立場からの御発言であったかと思うのです。私はパ・リーグの
理事でございますが、本日ここで申し述べますことは、ただ単にパ・リーグの
理事としての立場からではなく、私の個人的な見解としていろいろなことを申し上げてみたいと思うわけでございます。
いままでの四人の方のお話を聞いておりますと、皆様は全部うんそうだとうなずかれたであろうと、またそういうことを期待してこの
委員会が開かれたのであると、わが意を得たりと、そういうふうに思われておるのではないかと私は思うのです。いや、実は、この各
委員の方々の中には、白木さんとか、下村さんだとか、
山本さんだとか、すでに周知の方、また新聞紙上で皆様のお名前は承っておりますが、私的におつき合いを願ったり御交際を願ったり、過去におつき合いをしていただいた方もおりますので、私としては非常に気安くいろいろなことがお話しできると、そういうふうに思いまして、
委員長は特にそういうような御配慮をいただいて、われわれが気軽に話ができるような雰囲気をつくっていただいたのではないかと非常に感謝をいたしております。
実は、本日、パ・リーグの岡野会長が
出席をいたしまして——岡野会長は、実は、この
ドラフト制度の発起者の一人なんでございます。亡くなりました西鉄ライオンズの元の球団社長である西亦次郎氏と、それから岡野祐氏、このお二人がこの
ドラフト制度の発起者となって各球団を説得をして回られたと、そういういきさつがございますので、パリーグの会長が本席におられますならば、野球機構の一員としてはもちろんのこと、
ドラフト制度の発起者の一人として、皆さんに十分意を尽くした御説明ができたのではないかと、そのように私は思うわけなんです。しかし、岡野会長は、先ほども申し上げましたように、きょうからまた入院加療、手術の必要ありと、そういうふうな診断をいただきまして、本席に
出席できないのは非常に残念だけれども、君の考えとぼくの考えは非常に似ておるから、ひとつ十分に皆さんに御説明をして御批判をいただいてくるようにしてくれと、そういうことがございましたのでお伺いをしたわけでございます。
先ほど
井原事務
局長からちょっと触れられた問題でございますが、
昭和四十二年に、衆議院の
法務委員会で、東海大学の学長の松前先生が当時衆議院の
議員さんであったと思うのですが、その松前先生の御発言で、選手の人権問題、特に高等学校の選手の人権問題が論議されたことがございます。それはもうすでに皆様御
承知のとおりであると思うのですが、そのときの先生の一つの質問のテーマは、人身売買ではないかと、そういうようなお話がそのテーマであったと思うのです。今日の問題は、特に恐らく
委員の皆さんは江川問題に端を発した御発想かと思うのですが、江川君の場合を例にとりますと、これは、いままでの、いままでと申しますよりも、先ほど申しました松前先生のおっしゃられておる人身売買というような観点とは違って、江川君が、まあ先ほど
荒川君も言いましたように、自分の欲する球団に行きたいと、行かれないと、それが不満であると、だから選手契約はしないということで、同じ人権問題につきましても、以前の松前先生の提起されておるテーマと今日のテーマとは若干違うと思うわけなんです。
まず、
荒川君とか江川君の問題はさておきまして、松前先生が提起されたときの問題は、高校生が入団する場合に多額の金が動いておると、しかも、球団
関係者はもちろんのこと、若い未成年の選手を取り巻く
関係者——親、親権者その他がお金をもらうためにその選手の意思に反していろいろ行動しておるのではないか、発言をしておるのではないか、それが人身売買というような印象を世間に与えておるのではないかと、そういうことを質問をされておるわけです。もちろん、これに対して、
人権擁護局長のお答えは、そうではないんだと、しかし運用を誤るとそういう危険性も十分にあると、そういうふうにお答えになって一応決着をみておるわけでございます。しかし、その松前先生がおっしゃられたことは、まあ人身売買という言葉ではありますけれども、その言葉の裏には、
プロ野球は少しお金を出し過ぎておるのではないかと、それがいろいろ世間にいろいろな悪い影響を与えておるのではないかと。まあこれは何も私どもだけの問題じゃなしに、新聞の方で非常に太鼓をたたきまして、一を十とは申しませんが、一を二か三ぐらいに誇張していろいろ報道すると、そういうようなことがやはり世間にいろいろな悪い影響を及ぼしておると、そういうことに対する一つの警鐘的な意味での御発言であったのではないかと、そういうふうに思うわけでございます。
プロ野球が
ドラフト制度を施行いたしました前後の事情は、私は当時西鉄でございましたか大洋でございましたか、チームの監督をしておったわけでございますが、やはり、スカウトは、まあ悪い言葉で言えば暗躍ということになるわけでございます。と申しますのは、一人のいい選手、まあ一人のいい選手じゃなしに、一つの球団は二十人も三十人も目をつけておるわけですが、一つの球団が目をつけておる選手というものは、やはりお互いに探って、どこの球団はあれを目標にしておるということをまあ忍者みたいなものですから探って、情報を手に入れて、そしてその情報をもとに自分も
調査をする。そして、
調査をしてそれがいい選手であるということがわかればアタックするということになるわけですが、その選手を一人と仮に仮定いたします。そうしますと、その一人の選手に対して、十二の球団が、一球団にある場合にはスカウトが二人ぐらい寄って選手を攻めるということもあり得るわけです。選手一人ではなしに、選手を取り巻く何人かの
関係者——両親だとか、親族、縁者、監督とか、そういう人たちに手を回してがんじがらめの攻勢をしかける。それは何も
プロ野球の
関係者がまあ猟師が獲物を追って山の中へ入っていくようなことではないわけですけれども、やはりどうしても採りたいということになりますと、勢いそういうふうなことにならざるを得ない。確かにそれはわれわれとして非常に反省しなければならぬわけですけれども、交渉相手の選手の側にしますと、言うならば一世一代のひのき舞台−選手を取り巻く親御さんとか、親戚、縁者、それから非常に有名ないい選手が出ればそれを後押ししておる何人かの
関係者ということになろうかと思いますが、その人たちが、一世一代のひのき舞台ですから、ありとあらゆる策略を講じて、そしてプロ側と折衝をする。したがって、その中に伊賀之亮が出てくることは十分予想されることでございます。そのために、
プロ野球は非常に被害を受ける、操られる。それも舞台裏だけでそれが推移するならば何の影響もないと思うのですけれども、新聞は逐一これを報道する。そうしたら、お金は、まあ先日もある人が江川君の値段はどのぐらいでしょうかと、一億円ぐらいでしょうか、二億円ぐらいでしょうかといって私に質問をするのです。一億円というのは非常に莫大なお金で、いままで
プロ野球界が払ったことのないお金の額でございます。また、幾らインフレの世の中とは言いながら、まだ海のものとも山のものともわからない、何の実績も何の裏づけもない人に一億円の金を出すと。あすの日にもその人が病気をしたりけがをしたり、野球ができなくなるかもしれない。まあそれは私はいま野球のことだけを申しておるのと違うのです、一般
社会のことを申しておるわけなんです。そんなお金をだれが出す人があるのだと、出しておるのは野球だけであるということさえ言えるわけです。そのときに私は申したんです。一円が二円になるのと一億円が二億円になるのとは同じ倍であってもお金のけたが違うんだと、そういう感覚でとにかく活字を扱ってもらっちゃわれわれは非常に迷惑するということも申したわけなんですが、それは一例なんでございますが、そのように、つまり選手を取り巻くスカウトの一つのスカウト合戦と申しますか、虚々実々の駆け引きと申しますか、それは皆さんの想像される以上のものがあるわけなんです。それから起こってくる弊害、これもまた皆さんの想像に絶するものがあるということなのでございます。
そういったようなことがドラフトをしがなければならないという一つの背景になっておるわけでございますが、その一つの例としまして私の経験したことなんですが、ある明治大学出身の遊撃手を私が大洋
時代に採ろうとしたことがあるわけです。もちろん、私は、監督ですから、その選手を見ることもできないし、見に行くこともできないし、その選手と直接折衝する機会もシーズン中ですからございません。すべてスカウトからの報告によってこういう選手がおるということをデータによって
承知するわけでございます。それは、十月ごろだったと思うのですが、六大学のゲームがもう終わっておりましたから十月半ばを過ぎておった時期でございますが、その明治大学出身の遊撃手、静岡県の出身の選手なんです。その選手は、大洋と広島と両方のチームから誘いを受ける。そして、もちろん私は絶対に採ってもらいたいということを要求をしておったわけなんですが、その選手が、契約が最終段階に来ましたときに、こういうふうなことを言っておるわけです。大洋の
三原監督は静岡の私の家へやってきてこれこれの金額を提示したんだと、ですから私はもし広島へ入るとすればそれ以上の金を広島がくれなければ入らないと、こういうことを新聞で言っておるわけですね。私はその選手に会ったこともないし、話をしたこともないし、条件提示をしたこともない。しかるに、そういうことを言って、これは新聞に言っておると同時に相手の球団に対してそういうふうな攻勢をかけて自分の契約を有利に持ち運ぼうと、そういうふうにしておった事例があるわけです。これは一つの例なんです。
そういうようなことで、これは
ドラフト制度の始まる前の話なんです。ですから、そういうような状況、特に、先ほど申しましたが、松前先生が非常に懸念をされておりました高校生の問題なんですが、高校生に確かにいい選手もおると思うのです。われわれとして相当な高額な金を払ってでも
プロ野球の選手として球団に誘致したいと、そういう選手もおります。しかし、それらの選手が、先ほどもちょっと例に挙げましたように、とにかく一億円か二億円と、このドラフトが始まったころの例をとりますと一晩のうちに百万円とか二百万円とか上がっちゃうわけですね、値段が。実体は同じですね。人間がそんなに一尺も二尺も背が伸びたわけでもないし、体重が一晩のうちに二貫目も三貫目もふえたわけではないし、一晩のうちにスピードがえらい速くなったと。あいつはきのう一晩寝ておる間にスピードが十分の一秒速うなったらしいぞ、だからちょっと上げてやれ、上げにゃ採られぬと、そういうようなことならこれはいざ知らず、その対象にしておる選手の実体というものは全く変わっておらない。それなのに、お互いのそういうような駆け引きによってどんどん上がっちゃう。そういうことが、高等学校のつまり年末の試験、それから翌年の大学受験を目指して一生懸命に勉強しておる子供たち、そういう子供たちにどういう精神的な影響を与えるか。これを考えたときに、
プロ野球として、それを、
プロ野球が全く
社会のすみでひっそりとやっておるものならばいざ知らず、今日のように
プロ野球の
社会性というものは、皆さんがわれわれをここにお招きいただいてそして
プロ野球はどうなっているんだというふうに関心を持たれるほど、日本国じゅうが
プロ野球の
社会性というものを認識をしておる今日、そういうことを
プロ野球の
関係者が放置していいということはないわけです。さるがゆえにこの
ドラフト制度というものは発足したわけのものでございます。
アメリカにも
ドラフト制度というのはございます。もちろん、ドラフトというのは英語でございますから、その制度及びその言葉を日本がまあまねをしたということではないのでございますが導入したことは事実でございます。アメリカの
ドラフト制度につきましても、恐らくどなたかから御質問があると思いますが、アメリカの
ドラフト制度は、一月と六月、年二回になっております。制度は全く日本と同じで、日本はアメリカの
ドラフト制度を導入して、そして
プロ野球の健全な発達に努めたいと、そういうことが
ドラフト制度を導入したゆえんのものでございます。
少し長くなりましたけれども、皆さんが今日この会合を持たれておるのは、やはり
ドラフト制度に対する一つの批判を大いに持たれておるがゆえにこの会合を開かれておるのでございますので、少し皆さんの御
意見とは食い違って牽強付会の説をする男であると、そういうふうに思われるかもしれませんけれども、私は至って素直でございますので、皆さんからどのような御質問をいただきましても素直にお答えいたしますから、どうぞ御質問いただくときにはひねくれた質問でない質問をしていただきたいとお願いをいたします。