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国務大臣(
中川一郎君) 当面する
農政についていろいろ御指摘がございました。
御承知のように、
日本農業は、世界各国に比べて、特に豪州やあるいはアメリカ等に比べて違いますのは、
土地が非常に少ないということでございます。したがいまして、
農家経済がこれら諸
外国に比べると
生産性がなかなか上がらないと。したがって
農家所得が大きくならない。のみならず、
国内の他産業に比べてその所得が専業
農家においては低い。なおかつ
農業は総合
食糧といいますか、
食糧の自給率というものは国の
安全保障にもかかわるということでございますから、何としても
生産を上げていかなければなりませんし、また
農家経済もよくしていかなければならぬという非常に厳しい二面を持っていることも、御理解いただけるところだと存じます。
ところが、最近米が余ってまいったと、
日本農業の根幹をなします
食糧が過剰
生産になってきたと、これがまず政府の責任ではないかという御指摘でございますが、確かに政府の見通しがあるいは甘かったのかもしれませんが、この傾向は
昭和四十四、五年ころから出てまいりました。米の
生産意欲が強いと、一方消費は減退をするということで、七百万トンに及ぶ
生産調整を
昭和四十五、六年からいたしました。なおかつそれでもということで、単年二百三十万トンからの
生産調整をやらなきゃならぬということの
状況になりましたのはその当時からでございます。かくて五年間を目標にして
生産調整をやってまいりまして、ほぼ過剰米の処理、
需給のバランスがとれたのでございますが、その後さらに
生産は伸びる、一方消費は減退をするということになりまして、昨年、一昨年ごろから
昭和四十四、五年ごろの厳しい
情勢が再びやってきたということでございますので、何とかこの過剰米について利用の方法はないかと工夫はいたしたのでございますけれども、輸出にしても、あるいは家畜への払い下げにいたしましても、経済的にもあるいは品質的にもこれはどうも処理の方法がないと。やはりこの際は、
国民経済的に見ても
生産調整をやることが一番望ましいことであり、しかも、麦や
大豆や
飼料作物等、自給率の低い作物がありますから、単に
生産調整をするということではなく、そういう方面へ転換することが
要請されることであるということから、このたびの
水田利用再編対策というものを緊急的に措置をせざるを得ない、こういうことになったわけでございます。
そこで、取り巻く
情勢、さらに厳しくなりましたのは
外国からの
農産物の
輸入に対する
要請でございます。これに対処するに、私はあたかも日本の
農産物を犠牲にして
外国から入れるべきだというふうに受け取られたことは、私の発言のミスもあったかと存じますが、私がしばしば申し上げておりましたのは、いまは
水田利用再編対策を行って、米から
畜産あるいは果樹、
畑作の作物等へ転換している時期であるので、この
政策に支障のない範囲内で、なおかつ
農家経済に影響を与えないということを
基本として、対米折衝、対外折衝をやってまいりたいということをしばしば申し上げてきたわけでございます。
したがいまして、その結果を見ていただきましても、たとえば牛肉について申し上げますならば、確かにアメリカのホテル枠千トンを三千トンに、そしてまた、いい肉があるならば一万トンヘの
需要開発に努力しようというお約束はいたしましたけれども、これは約三十万トンが
国内で
生産されております。約十万トンに近いものが
外国からの
輸入肉で賄われておるわけでございます。その十万トンに近い枠の中で、アメリカの関心品目となっております高級牛肉について買えるものがあったらば買う努力をしましょう、しかもこれはグローバルでございまして、決してアメリカからだけ買うということではなくて、国際競争によってアメリカが勝ちそうなものということにいたしております。
なお、牛肉につきましては、御承知のように
畜産振興事業団がこれを買いまして放出する仕組みになっております。その際、
国内価格が下がった場合には買い上げるし、
国内価格が上がった場合には放出をする、そして、へそ
価格と言われるいわゆる
中心価格を維持する、こういう仕組みがありますので、
輸入枠全体を調整し、放出においてこれを適正なものにしていくならば
国内の
畜産には影響を与えない、こういう歯どめがございますので、現に卸売
価格、
畜産物
価格安定法にねらっております
価格については下がっておらない、非常に理想的なところに進んでおる仕組みになっておるわけでございます。そのほか
生産対策としていろいろの
施策を講じて
畜産農家の安定を図っていく、特にえさの安売り等も思い切っていたしまして、
畜産農家の安定を図ることに最善の努力をいたしておるところでございます。
また、オレンジにつきまして、アメリカ側は季節自由化をして一向に差し支えないではないか、競合品目でありますミカンは三月、四月にはなくなるはずであるというので、
国民大衆に向かってもオレンジぐらいは変易の端境期に
輸入してしかるべきである、なぜこれができないかという強い
要請があったのでございますが、最近の貯蔵技術から見て、季節自由化は通年自由化に通ずるということからこれを返上いたしまして、しかも四月、五月はさらにタンカンその他が出回りますということから、この季節も避けて、全く柑橘類、特に果実の異常に少ない六月、七月、八月については
消費者の方からも安い果物をその時期に食べたい、こういう
要請もありましたので、柑橘
農家には影響を与えない範囲内において二万二千五百トンを入れることにしたわけでございまして、柑橘
農家に対しても十分配慮し、影響を与えないということを
基本としてやったつもりでございます。
また、オレンジジュースにつきましても、ブレンド用として果樹業者から、現在までは従来千トン入っておりましたが、もっとこれを入れて、ブレンドすることによってミカンジュースの消費が
拡大をされるという強い
要請がありましたので、これを三千トンを限度とし、しかもブレンド用という用途指定を行った上で、そして入れることにしたわけでございまして、決して
国内農産物を犠牲にして
輸入をするという考え方はみじんもとっておらないところでございます。
また、二十二品目についてはこれを洗い直す、確かに世界じゅうが自由化品目をたくさん持っております。日本も二十二品目、多い少ないの議論はありますけれども、北海道から鹿児島、沖繩へと、非常に気象の違うこの細長い日本では、数の多いことも当然であろう。世界各国が保護貿易をやっておりますので、
農産物についてはこれを自由化ということはなかなかできるものではないという
基本姿勢ではありましたが、特に
農産物ではなくして、どちらかというと
農産物を原料とするたとえば味の素の調製品、これはまあ典型的でございますが、このようなものを洗い直しても
農家には影響がない、こういったものをきめ細かく洗い直して、
農家の
生産に影響のない枝葉のものを十一ほど探したわけでございまして、姿勢を示しただけであって、決して
農家には影響を与えないという結果を見ていただければ、御理解がいただけるものと存じます。
今後とも私の
基本方針としては、やはり
食糧の自給度を
向上するということは、これはもう国家
安全保障上避けて通れないきわめて重要な
施策である。かたがた、
農家経済も十分配慮をしなければならない。そして不足で、また対外
協力してもいいというようなものがあれば、
農家やあるいは
農業団体の御理解を得ながら安定的に
輸入をしていく、そうして
消費者にもこたえていく、こういう姿勢で進みたいと存じておるところでございます。