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政府委員(
中江要介君) 詳細にとおっしゃいましたので、私
どもの承知しておりますところをできるだけ詳細に、中国との間でどういう経緯があったかということを申し上げます。
本来、この
協定を締結いたします交渉をしておりまして、この一九七三年の末になりましてだんだんとこの
協定のテキストが決まってきた。そして、七四年に入りますと、この
協定の
署名ができるという見通しになってまいったわけでございまして、その七四年の一月に当時の大平
外務大臣が貿易
協定の
署名のために訪中されたことがございました。その訪中されました機会に、ところで、中国側に申し上げておきたいことは、
日本と
韓国との間でかねがね進めていたこの
大陸だなの
協定のうちで、北部の方はこれは中間線で合意されておりますが、
南部の方はこれは中国が隣接してまいります東シナ海の
大陸だなにずっとつながっていくわけでありますので、この
日本と
韓国とで話をした
大陸だな
協定が近くまとまることになってきたということを中国側に説明されました。これが七四年の一月四日でございまして、このときに初めて中国側に、つまり、通常でございますと、他国との
協定を交渉してまだまとまっていないときに、第三国にその
内容を話をするということは異例のことでございますけれ
ども、何分にもこの
大陸だなが東シナ海の
大陸だなの一部でございますので、一月四日に大平
外務大臣が姫鵬飛外交部長にこのことを説明されたわけです。
そのときの中国側の返事はこういうことであったわけで、中国側としてはまだ一般国際法上の
大陸だなについての中国側の立場、つまりそれは恐らく具体的に言いますと、自然延長論か中間線論かというようなこともその
一つであろうと思いますけれ
ども、
大陸だなに関する立場をまだ決めていない、いまはそれを研究しているところでありますと、こういう返事であったわけです。これはもう一月三十日に
署名の日がだんだん決まってきている、
署名の一月足らず前の段階で、中国は
大陸だなについての中国
政府の態度というものはまだ検討中で決めていない、こういうことであったわけです。
日本側はもう決めておるわけでございますから、
日本側の立場ではこうこうこういうことであって、
韓国との間で、中国側の
権利を害しないように細心の注意を払って今度の
協定はできていますと、こういうことを説明して帰られたわけでございます。
そこから始まりまして、その後一月三十日の
署名の前日には、いよいよこれから明日
署名することになります、これは大平
外務大臣から姫鵬飛外交部長にお話ししたとおりの、中国の
権利を害しないように
日韓両国で細心の注意を払って締結した
協定でありますということを説明いたしまして、一月三十日に
署名されたわけでございます。
署名されましたその日に——これは、私自身でやったのでよく覚えておりますが、在京の中国大使館の当時の米国鈞参事官を呼びまして大平
外務大臣から話をし、明日北京でも東京でも、これは外務次官から陳楚大使に申し入れておったわけですが、昨日もお話しした
協定は、きょう
署名されました、その
内容はこういうものですと言いまして、大きな東シナ海の地図を示しまして、いかにこの
共同開発区域の境界線というものが、中国の
権利を害しないようにできているかということを私はるる説明いたしました。米国鈞参事官はその説明を一生懸命注意深く聞いて、これは本国
政府に報告いたしますと、こういうことであったわけです。
本国
政府に報告された結果でございましょうか、二月四日になりまして突如として外交部スポークスマン声明というものが出されまして、中国はどうも態度を
決定したらしくて、
韓国と同じように自然延長論だ、しかもこれは
韓国よりももっと広くて、東シナ海全部はこれは中国の
大陸だななんだから、この
大陸だなの
開発は中国の合意なくしては、いずれの国も手を触れるべきものでないというような、
関係国の協議によって決めなければいけないというスポークスマン声明が出ました。その立場というのは、実はそのままもしとりますと、これはいまの国際社会を支配しております国際法のルールには合わない主張なんでございます。したがいまして、
日本はその中国側の立場を慎重に分析いたしまして、この
協定を
国会に提出いたしますその年の四月十五日でございますが、
国会に提出いたします前に中国側のそういう外交部スポークスマン声明はあったけれ
ども、その中のこういう点はわれわれとしては承服できない、こういう点はわれわれとしても同意である、つまり
関係国が合意で決めていくという点は、われわれはそのとおりに思うけれ
ども、先ほど来申しておりますように、いまの
韓国と中国との
関係にかんがみますとそれは実現可能ではない、そういう状況のもとでは、
日本と
韓国が中国の
権利を害しないように、こういうふうな
協定を締結したことは国際法上先例もあるし、許されることでもあるし、十分合法的なものであるという説明をいたしまして、
国会に
協定を提出いたしました。
そして
国会で何度か継続審査になったり廃案になったり、長い歴史を繰り返しましたが、昨年の四月に外務
委員会を通過いたしましたとき、それにさらに衆議院の本
会議で可決されましたとき、そのときには北京及び東京でそれぞれその事実を通報いたします、そのたびごとに中国は、その一番最初の二月四日の外交部スポークスマン声明の立場を繰り返すだけでありました。私
どもといたしましては、中国のその原則的な立場はわかるけれ
ども、私
どもは具体的に
日韓大陸だな
協定ということで区画を決めたわけですから、この区画の中のどの線が中国としては問題がある、あるいはどの線については認めることができないというような具体的な話があれば、これはいつでも話に応ずるばかりでなくて、本来
日本と中国で話し合うべき、さらにその南の方の琉球列島に沿ってずっと南下していきます大きな
大陸だなについては、これは
日本と中国が話し合うべき問題でありますから、その話もいたしましょうということを何度も申し上げました。そのときにいつも私
どもが中国側の注意を喚起いたしましたのは、
協定の第二十八条でございまして、この
協定の第二十八条には、「この
協定のいかなる
規定も、
共同開発区域の全部若しくは一部に対する主権的
権利の問題を
決定し又は
大陸棚の境界画定に関する各締約国の立場を害するものとみなしてはならない。」つまりこれが国際法上画定してしまうものではない。また、こういうことをしたからといって、
日本が中間線論を引っ込めたわけでもないし、
韓国が自然延長論を引っ込めたわけでもない、
基本的な立場を害するものではないという
権利留保をしておるわけでございます。したがって、将来中国と話が進みましたならば、その話の結果に基づいて国際法的には画定するということを何度も説明いたしまして、その後機会のありますごとに東京及び北京で申し入れました。
昨年の六月八日に
協定が自然
成立いたしました。自然
成立いたしまして
協定は批准し得る状況になりました。そのことを中国側に説明しようと思って、中国側に説明のためのアポイントを求めましたけれ
ども、中国側はこれに応じてこなかった。
日本側の説明を聞くことなく、六月十三日に再び外交部声明が出まして、これが当初のスポークスマン声明よりもさらに強い調子のものになっていった。それでもしかし、私
どもとしては正しいと思って進めておることでございますので、あくまでも中国側の理解を得る努力をしなければいけないし、究極的には理解を得ることができるという確信を持っておりますのも、
日本の主張が国際法に照らして決して外れたものでないということが
一つと、日中
関係に
基本的な友好信頼
関係がさらに発展していけば、この理解を得ることができる、またそういう日中
関係でなければならない。なぜかなれば、いまの
協定の対象にしている
区域よりももっと広い
大陸だなの問題が将来日中間で話し合われなければならないわけでございますので、これさえ通ればいいと、そんな態度ではないわけでございまして、その後も繰り返して中国側の理解を得る努力をしてまいりました。
ことしに入りまして、一月でございますが、かねがね中国側はいまの国連のやっております
海洋法
会議の動き、つまり新しい
海洋法秩序というものがどういうふうに発展してきているかということについて、中国は国連に加盟したのが
日本よりもずっと後なものですから、ひとつ
日本側から一般的な話を聞きたいという希望がかねがねありましたので、この機会に
日本側から専門家を北京に派遣いたしまして、中国側と
海洋法秩序全般についていろいろ国際的な流れ、あるいはいままでの経緯、いろいろな国の立場、そういったものを説明をすることによって、
海洋法秩序についても理解を深める、当然その中には
大陸だな理論についてのいままでの発展も説明されたわけでございます。
そういうことで、
日本政府といたしましてはあくまでもこれは中国が首を縦に振らなければ発効しないというようなものではない。これは
日本と
韓国との間の
協定でございまして、これはたとえば
日本とどこかの国との
協定について、第三国が首を縦に振らなければその
協定が結べないと、そういうたぐいのものではありません。自主的に相手国との間で合意したものは、あくまでもこれを
実施に移していく努力をする、しかし他方、これに関心を示している国につきましては、あくまでもその理解を求めていく、こういう努力を続けてまいっている、こういうことでございます。