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1978-02-21 第84回国会 参議院 外務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年二月二十一日(火曜日)    午前十時十三分開会     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         安孫子藤吉君     理 事                 鳩山威一郎君                 戸叶  武君                 渋谷 邦彦君     委 員                 大鷹 淑子君                 亀井 久興君                 徳永 正利君                 町村 金五君                 上田  哲君                 小野  明君                 田中寿美子君                 立木  洋君    国務大臣        外 務 大 臣  園田  直君        国 務 大 臣  牛場 信彦君    政府委員        外務省アジア局        長        中江 要介君        外務省アジア局        次長       三宅 和助君        外務省欧亜局長  宮澤  泰君        外務省中近東ア        フリカ局長    千葉 一夫君        外務省経済局次        長        溝口 道郎君        外務省経済協力        局長       武藤 利昭君        外務省条約局長  大森 誠一君        外務省国際連合        局長       大川 美雄君        水産庁次長    恩田 幸雄君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    説明員        警察庁警備局外        事課長      城内 康光君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○国際情勢等に関する調査  (日中平和友好条約締結問題に関する件)  (日ソ漁業交渉に関する件)  (日中貿易に関する件)  (ニュージーランドの二百海里水域問題に関す  る件)  (金大中問題に関する件)  (北朝鮮の貿易決済問題に関する件)  (ASEAN特にシンガポールとの文化交流に  関する件)  (日米日欧経済関係に関する件)  (ILO条約批准問題に関する件)  (国際人権規約に関する件)  (婦人に対する差別撤廃に関する条約案に関す  る件)  (韓国防衛産業日韓合弁企業に関する件)     —————————————
  2. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  国際情勢等に関する調査を議題として、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  3. 戸叶武

    ○戸叶武君 日中条約交渉がもう早い時期になされるような発言福田首相並びに外務大臣意見の披瀝によって伝えられておるのでありますが、具体的には、いろいろな問題が煮詰まったと言いますけれども、煮詰まった内容はどのようなものでしょうか。
  4. 園田直

    国務大臣園田直君) 佐藤韓念竜両者会談話し合いがだんだん進んでおりますが、条約内容について煮詰まっているわけではございません。いつも申し上げますとおり、交渉再開についての段取り、手順等についての話し合いがだんだん煮詰まっておるという意味でございます。
  5. 戸叶武

    ○戸叶武君 佐藤韓念竜会談でいろいろいわゆる煮詰められたと言われておりますが、内容がどうこうではないという意味は、覇権問題なり、その他の問題で重要な問題はやはり外務大臣北京を訪れて、それから本格的な話し合いになるものと受けとめてよろしゅうございますか。
  6. 園田直

    国務大臣園田直君) 御意見のとおりに、交渉再開してから内容についての話し合いが始まるわけでありますが、まだ私がいつ訪中するかということは決めておりませんし、総理の指示もありませんが、大体、内容が煮詰まってから私が行っても余り意味はございませんので、なるべく早目に訪中をして、直接そういう交渉をしたいと考えております。
  7. 戸叶武

    ○戸叶武君 すべて出先で煮詰めるということは私らもないと思いますので、もう大体そういう手順は踏まれてきているんではないか、あと福田総理の決断によって外務大臣もすぐ北京に飛び込んでいける姿勢ができているんじゃないかと思うのであります。  したがって交渉再開によって重要な問題はそこで正式な煮詰めが行われるのでありますが、何といっても覇権問題の取り扱いということがその中においては重要な問題で、しかも、この問題をめぐってソ連側は非常な神経を使っているように見受けられるのであります。ソ連にも行って日本政府の決意を外務大臣は示してきたので、それが素直にソ連側に通じておれば、ソ連側においても無用な神経をとがらす必要はないと思うのですが、それにもかかわらずソ連側では何かいきり立ったような形において問題に対して神経をとがらかしていますが、その原因はどこにあると外務大臣は推定いたしますか。
  8. 園田直

    国務大臣園田直君) ソ連のことでありますから、私が独断で判断するわけにまいりませんけれども、日中友好条約締結された後、その条約によってソ連がどうこうおっしゃるなら別ですが、その以前において神経をとがらせる必要はないと私は考えております。どういう意味でか私にはわかりません。
  9. 戸叶武

    ○戸叶武君 外務大臣神経をとがらせる必要はないという判定を下すのも自由でありますが、現に、ソ連側においては、きのうもポリャンスキー日ソ連大使安倍官房長官との会談が行われております。その内容は、どのようなものでありますか。
  10. 園田直

    国務大臣園田直君) 官房長官がきのう記者会見をして発表しているとおりでありますが、大体、主として用件は、ポリャンスキーの方から言ったことは、善隣友好条約の中身を見たかということで、善隣友好条約について若干の説明をし、官房長官の方からは、それは見ていない、正式に受け取っていないもので、わが方としては平和条約締結が先である、こういう返答で、若干の議論があって、その後、先般私が持ってまいりましたブレジネフ書記長に対する総理からの親書の返書が来た、その返事を総理に届けたいから総理と会わせてくれ、これにもなかなかいいことが書いてある、こういう趣旨の会談のようでございます。
  11. 戸叶武

    ○戸叶武君 まだそこいらにソ連側日本側とは意思の十分まだ疎通していない面があると思うのであります。  私は、外交交渉の中でいつも心配なのは、君はそのように考える自由がある、おれはこのように考えるんだと言って、相手立場なり相互の理解というものを十分にしないでいった過ちというものが、たとえば日中関係蘆溝橋事件以来八年の戦争の惨禍は、その出発点において日本軍部はなあに二カ月ぐらいの短期戦電撃戦で片づけてしまうというような意気込みで外交を牽制し、事実上膠着状態になってどろ沼の中へ入ってからあわててしまった。そして日中間における正式に等しいルートが開かれてからでも、宇垣さんと板垣との対立、それからいわゆる軍部不拡大によって問題を処理しようとする者の対立近衛自身不拡大で処理しようと思っていたが、軍部の圧力にぐらついて、そうして蒋介石は相手にせず、言うのは簡単に言っているが、相手に対する刺激というものは、国民政府側においても戦争状態になったんだから強気に言っていくが、その中でどっかで活路を開こうという模索をやっているのに、それを切断せられてしまって、さらに悪化した方向へ行ってしまった事例があるんです。  日本戦争で相当こりたと思いますが、もうああいう戦争はやらぬとは言っているけれども、外交の面においても、私は、そういう単純な面、相手立場を配慮しながらも、相手に支配されないで自分たちの主張を独自な形で展開しようというのが園田さんの独立自主外交をつくり上げようという気構えのようですが、その間の日本側構えというのがソ連側に果たしてどの程度通じたとあなたは受けとめておりますか。
  12. 園田直

    国務大臣園田直君) この前の訪ソで、日にちは短時間ではございましたが、会談は何回もやっておりまするし、少なくとも私の意図ソ連の方にはっきりわかったと存じます。しかし、意図がわかったから後は勝手にやってもよろしいなどとは私は考えておりません。  やはり御指摘のとおりに、日本ソ連善隣友好関係を深めたいところでありまして、領土問題以外は、大体共通する利害に立っておるわけでありますから、その領土以外の問題で、ソ連と相助け合うところはお互いに相互理解して相助け合う。なお、日中平和友好条約締結についても、ソ連中国の現状からして、ソ連の方がこれを必ずしも好まないという相手立場もよくわかっておりますけれども、しかし、友好条約締結については、やはり日本判断でやるべきものはやる、しかしソ連の方にもなるべく理解を求める努力はして、それが効果があろうとあるまいと、また締結した後も、このようなことであるからという努力等は続けていくべきであると考えております。
  13. 戸叶武

    ○戸叶武君 覇権問題の取り扱いというものの背後には、厳然としてやはり北方領土取り扱いの問題が含まれているということは外務大臣も御承知のとおりだと思います。領土問題というものはきわめて取り扱いのむずかしい問題であります。  外務大臣も御承知のように、国際条約理念というものは何もいま新しいものではありませんが、ベルサイユ会議以後ポツダム会談あるいはその後の国際外交の面でもあらわれておりますように、他国領土戦争に勝ったからといって、戦時中に締結した軍事謀略協定によって、それを押し通そうというような形は非道な行為であって、平和条約基本的理念というものは、次の平和を保障し得べき条件を具備して平和条約を結ぶという前向きの姿勢でなければならないのであります。  日本憲法学者並びに国際法学者のいままでの大きな過ちというものは、過去の条約事例にとらわれて、前向きな形において平和共存体制をつくり上げようという意欲に欠けている傾きがあったんです。それがサンフランシスコ講和条約の際における吉田さんにも不徹底なところがあり、また、アメリカ側においても、ソ連戦時中に一九四五年二月十一日にソ連のスターリン、アメリカルーズベルトイギリスのチャーチルで結んだ軍事秘密協定としてのヤルタ協定締結した当事者として、次の平和条約に対する理念というものがきわめて不明朗な形で表現されておったんです。  この間、私が参議院の本会議における質問戦のときにやじを放ったのは、ばかやろうなどというやじじゃありません。やはり共産党のリーダーの人にも、戦争中、戦後におけるヤルタ協定をうのみにした考え方共産党も持っていたので、いま改めたから改めることは非常にいいことだと思います。それと同時に、吉田さん自身にも、ずいぶん平和条約活路を開かなけりゃならないというもがきがあったんだと思いますが、アメリカ側の牽制によって北方領土というものは日本から切り離ったような表現でもって卑屈な外交条約を結んだのであります。  あのときにはやむを得なかったと見る人もありますが、私たちは、社会党外交委員会を通じて、社会党だけでも戦時中における他国の主権を無視して、しかも戦後においてその領土他国が奪い取るというような行為に対しては反対だという表現少数派からでもなされなければ、次に不平等条約を打開することはできないという足がかりをそこにつくっておいたのであります。自民党もだんだん後では変わってきて、自由党は樺太、千島問題にも触れず、何かもがもがしておって、民主党は千島を返せぐらいのことしか言えなかったのであります。  いま、われわれは領土問題そのものにこだわるんじゃないけれども、次の平和を保障すべき平和共存体制樹立の基本的な構えというものは、戦時中に結んだ軍事謀略協定のようなものは、アメリカたりとソ連たりとイギリスたりとを問わず、次の平和共存体制世界に前進させるためには、みずからこれを解消していくというだけの理念の躍動がなければ、平和を語る資格ばないと私たちは思っているんです。  ただ、ソ連側でこだわっている点は、領土問題で日本側に対していわゆるソ連から見れば譲歩をすると、領土問題でいろいろなところで無理がある、そこにがたびしくるんじゃないかという懸念から、私は領土問題に対してソ連ならソ連流一つ考え方があると思うんですが、これは戦後三十二年を経て、この辺でやはりソ連でもアメリカでもイギリスでも、あの戦時中の悪夢を払いのけるために、みずからの姿勢平和共存体制世界にしくための道行きとして、この問題を解消すべきであるという機運が出てこなけりゃならないので、それを廃棄しろとかなんとかと言うと当たりさわりがあるでしょうが、それだけのやはり説得力がなければ、力の政治が横行しているのですから、こっちはこっちとしての構えでいっても、ソ連側はなかなか力の政治——アメリカソ連が超大国として、覇権国と言われるといやがっているが、事実上における覇権主義外交をやっているのは事実だと思います。本当のことを言われると悪いことをやったやつはみんないやがるものですが、そういう点、本当のことを言いながら、相手もみずからの自己批判の上に立って世界の人々の心をかち取るためにはこのようにしなけりゃならぬというところへ踏み切らせることが日本外務大臣役割りとしては非常に大きいことだと思います。  どうも、園田さんも、そういうところを目指して大分男っぽい発言であったが、相当しりをまくってきたのは事実だと思います。あと、それによって逆にソ連側が、いままで日本は何か眠ったネコのようにおとなしかったが、急にトラのような外務大臣が来てほえたというんで、それで私は相手を刺激しているんだと思いますが、その後遺症の方はどのようにあなたは受けとめておりますか。
  14. 園田直

    国務大臣園田直君) 外交相手のあることでありますが、いま御意見のような信念ソ連に対するばかりでなく、世界各国に対する日本外交基本理念であり、信念でなければならぬと考えております。戦争及び占領政策後遺症というのは相手にもあるかもわかりませんが、われわれ自身にも大変残っているわけでありまして、われわれ自身がまずみずから、いまおっしゃいましたように、一つ理念信念に向かっては力関係を考えずに世界各国に向かって訴える、こういうことはもう確かに一番大事なことだと考えております。
  15. 戸叶武

    ○戸叶武君 外務大臣が言われたように、外交には一貫性が必要なんです。特に東洋において典型的なのは中国で、やはり貫くものを持とう、それから信義というものを重んじよう。これは孫文以来、西洋的な覇道と東洋的な王道というものを対立的に見て、ソ連と一九一四年に北京で手を握る前の年に日本に参って、神戸における孫文の演説の大アジア主義というのも——大アジア主義というのは日本の方で勝手につけた題名ですが、ねらいは不平等条約を廃棄するところに力点があったので、治外法権なり不平等条約を全部廃棄していくという、革命後のソ連中国に及ぼした外交というものに飛びついて、孫文ソ連の力をかりようとソ連とまず提携し、米英に意地悪をやられている日本とドイツをさらに結びつけて、中国治外法権撤廃不平等条約の廃棄、そういうことによって近代国家をつくろうというところに踏み切ったんであります。そういう意味において日本中国の置かれている立場は若干違いますけれども、園田さんがモスクワで放った発言というものはあたりまえのことを言ったんだけれども、ソ連としては聞きなれないことをはっきり日本政府から申されたものだといって、そこいらに私は一つの衝撃があるんだと思います。  きのうの会合において、ポリャンスキー大使は、会談の中で、日中条約内容交渉再開への動きについていろいろ質問して、そうして反覇権条項ソ連を敵視する日中同盟的なものではないかとの立場から日中条約に対する日本姿勢をただした。「安倍長官は「日中条約は二国間の問題であり、ソ連とは無関係ソ連との友好関係は変わらない」と、日本政府基本的立場を主張した。」というふうになっておりますが、このことは安倍官房長官に聞かなくとも、モスクワに行った外務大臣からソ連側は十分聞いてわかっているはずでありますが、なおかつポリャンスキー大使をしてこれを確かめようとしているのは、どこに脇の落ちないところがソ連側ではあると外務大臣は受けとめていますか。
  16. 園田直

    国務大臣園田直君) ソ連としては、現在のソ連中国関係からして、日本中国の間に友好条約締結されることは必ずしも好んでいない、そういうあたりからそういう発言がしばしば繰り返されるものと判断をいたしております。
  17. 戸叶武

    ○戸叶武君 ソ連ソ連立場を主張するのはソ連としては当然のことだと思いますが、ソ連ヤルタ協定をつくり上げてから後、朝鮮事変の起こる前に、軍事条項を入れて中ソ友好同盟条約軍事条約的なものにしたのは、日本アメリカとの間に軍事条約を結ぶものという想定のもとに一年前につくり上げたものであります。  それから、ヤルタ協定後に中ソ友好同盟条約が結ばれた際においても、一九四五年の八月十四日まで宋子文モスクワに行って引っ張られたはずであります。ソ連側アメリカ、それからイギリスとの間に何か秘密軍事協定が結ばれているという一つ情報が流れたのは、ルーズベルトが病気になって死ぬかもしれないという情報ソ連に入ってから、ソ連は死んでしまってごまかされては大変と思ったのかどうかしれないが、ヤルタ秘密協定をあるところまで暴露して流したのであります。そのとき一番驚いたのが、ポツダムまでの道程において連合国の主要な国として招かれていた中国はオミットせられ、ヤルタ協定には中国ヨーロッパ戦線における重要な役割りを果たした連合国のフランスがシャットアウトされていた。これが一つ問題点になって、アメリカルーズベルトのところへ、国務省のところへ行って中国側は何かあるんじゃないかと言ったときに、アメリカ側からソ連に行って真相をただしてみろと言われて引っ張られたのが八月十四日、日本が八月十五日に全面降伏の手を挙げた前日ですが、そういうむごい仕打ちを中国でも受けているんです。このプライドが、中国ソ連は別々な受けとめ方でありますが、原爆を持たなければ、力を持たなければ、国際関係外交場裏において真の発言権はないんじゃないかという感じから原爆開発にも導かれたものだと思いますが、そういう形において国際的な外交の裏表というものはきわめてどす黒い深刻な渦が戦中、戦後に渦巻いておったのであります。  しかし、こんなばかげた権謀術策外交によって世界をいつまでも支配することはできないというのは、ソ連アメリカもわかっていないはずはないんです。わかっているけれども、自分がやったんだから自分の方からなかなか言い出せない。原爆被害国である日本なり発展途上国の国々なり、国際世論が凝結するならば、ここに初めてもう戦争はやらない、核兵器は使わない、軍縮は断行しろというような潮流と一緒に、この戦争が生んだ鬼っ子のような条約は、当然、解消されるなり廃棄されてしかるべきものだと思うので、いま日本がその先頭に——いままではへっぴり腰であったが、このごろは園田さんあたりになってからラッパを吹きながら前進してきたのが一つの新しい私は外交における芽だと思うんです。これは表現はよほど気をつけなくちゃならないが、だれかがやはりこの突破路をつくらなければ、世界の不安定と不信感というものはぬぐい去ることができないと思うんです。  いま、急に、手品のごとく問題を簡単に片づけることはできないけれども、言い出した以上は、しり込むことなく、ひたむきに、私は、この平和共存外交路線を行く以外に日本は生きる道がないという信念でこれを貫き通すことが一番大切で、この途中でふらふらしてしまっては何にもやらない方がよかったという悔いを残すことになるんですが、あの戦争におけるぶざまな醜態をきわめて、そうして無条件降伏にまで転落した外交、戦後においてこれだけの平和憲法国民の犠牲の中から血涙をしぼってつくり上げたにもかかわらず、それをまたまたぐらぐらするような外交、これでは日本信義というものはどこにも聞かれないことになるんで、園田さんは、自分の性格上の志向というよりは、民族の魂を維持するためには、この道以外にないという信念で私はモスクワにも乗り込んだんだと思うんで、ポリャンスキーさんは園田はどうも苦手だなんというんで安倍さんあたりにまず一緒に飯を食ってお話ししよう。それからおもむろに福田さんというのはまどろっこしいんですが、外務大臣は、外務大臣らしい機能を備えた人が三人いるけれども、本物はやっぱりあなたが中心なんだから、何も総理大臣にも遠慮しないで、日本に来ている大使ソ連の本国からの訓令もあるんでしょうが、よくのみ込んでいない以上は、外務大臣のところへ来てもらいたいというだけのことを言わないと、外務大臣外務省にいるんかどうかといってちょうちんつけて捜されるようなことになると思うんです。そこいらはどうなんでしょうか。
  18. 園田直

    国務大臣園田直君) いまの御注意の点は、十分守りながら、今後やっていきたいと思います。  なおまた、平和外交平和共存路線は、日本が武力がないから仕方なしにやるということではなくて、いま御指摘のとおり、本当に今後全世界力関係関係なしに道理に従って、そして世界の人類の平和と繁栄ということでやっていくように必ずなる、しなきゃならぬ、こういう信念でやっていきたいと考えております。
  19. 戸叶武

    ○戸叶武君 安倍長官は、やっぱり外務大臣の言ったように、北方領土問題が未解決だ、領土問題が解決した後、善隣友好条約でも何でもやりましょうというふうに答えているということで、これは答えとしては無難の方かと思います。  問題は、最近の日ソ漁業交渉の中でもソ連が公海上のサケマス全面禁漁を提案したことは、これは日本側としては絶対に認められないのでありましょうが、これはやはりソ連が、日本中国接近に対して、何か報復的な処置でも加えようとする意図に出たものかどうか。そういう点は、外務大臣としてははっきり物を言えない立場にあるでしょうが、日ソ漁業交渉に当たっている当事者及びその報告を受けているはずですから、外務大臣はどのようにそれを受けとめておりますか。
  20. 園田直

    国務大臣園田直君) ただいまの日ソ漁業交渉サケマスに対するソ連態度が厳しいのは、日中友好条約進展に伴う報復主義ではないと私は判断をいたしております。  御承知のとおり、昨年夏の国連海洋法会議でも、ソ連サケマス沖取り全面禁止を打ち出したこともあるし、それから母川主義というのは、大体、世界各国の趨勢でありまして、一方、ソ連立場から考えると、北欧の方では非常に厳しく締め出されておりまして、こちらでも母川主義を打ち出して、ソ連ソ連の国の利害から言えば相当つらい立場にあるわけでございます。  したがって、そういう意味から、ソ連の今度の態度はつとに予測されたところでありまして、当事者は一生懸命にこれに対して交渉を続けておりますから、交渉の細部、見通しについては関係者から御報告を願いますけれども、必ずしもこれが日中問題に関する報復主義ではない、このように私は判断をいたしております。
  21. 戸叶武

    ○戸叶武君 ソ連側も、園田さんの発言を聞くと、なかなかわかりのいい外務大臣だなというその理解の深さには私は敬意を表すると思うのです。  しかし、問題は、ソ連にはソ連立場があり、日本にも日本立場があり、日本労働者である漁民というものが生活をかけての漁業でどんなに苦労をしているかわからない。どうも日本政府アメリカの方のピーナツ畑の若だんななり、あるいは小麦だけでなくていろんな農業、畜産に関係している人が、中間選挙までのボートを得るためにはおれたちの言うことも聞いてくれということに対しても、大分わかりのよい返事をしておる。こういうことになると、日本アメリカの農民、ソ連側の要求に対してはばかにわかりがいいが、日本の働く農民、漁民に対してはずいぶん犠牲を強いるようなことを平気でやっている、どこの国の外務大臣か、どこの国の農林大臣かわけがわからなくなって戸惑うこともあると思うんですが、そこいらの点のけじめはどういうふうにつけていくつもりですか。
  22. 園田直

    国務大臣園田直君) 私が先ほど申し上げましたのは、ソ連サケマス規制について厳しい態度に出てきたのは、日中問題に関する報復手段ではないという判断をしたわけでありまして、だから、これを認めるという意味ではございません。日本の漁民の立場も考えて、代表団はただいまこれに対して全面的に反対をして激しく交渉しておるところでございます。
  23. 戸叶武

    ○戸叶武君 そこで、私は、日本では積極的な外交というのは遠慮して、いつも受け身の外交、これは軍備がないからだということを言うが、は今後だって持ったってしようがないんですよ、役に立たないんですから。問題は、一つのもっと積極的な具体的な提案を——漁業をもっと協力して増殖しようではないか、日本でも沿岸二百海里以内というものにはヘドロや何かをなくして沿岸漁業を盛んにするような施策をする。こういう技術的な協力は、魚に関しては日本ソ連よりは少なくとも経験が豊富であって、権威者も多いんだから、協力をやろうというぐらいな積極的な方針を打ち出していって、どこかでプラスになる結びつきの面も考えなくちゃならないと思うんですが、そういうことは外務大臣よりは漁業関係の農林省関係でありましょうが、何か試みているんですか。いつでも締めつけられるから、そこで首を締めるのはやめてくれと言うだけじゃなく、もう少しゆとりのある積極的な対策というものを躍動させるということが必要だと思いますが、漁業関係当事者並びにこれを外務大臣から御答弁願います。
  24. 園田直

    国務大臣園田直君) 御指摘のとおりに、魚源、資源の確保、養殖、科学調査等については、両方がお互いに協力をしてやるという方針で、そのもとから必要な魚をとる、こういうことに持っていくべきだと思いますが、趨勢としては、世界各国とも漁業については相当厳しい規制が出てくるわけでありますから、ソ連の方はソ連の方でつらい立場もあるわけでありますから、お互いに相互理解をして、いま言われたとおり、魚源の確保、その他、これの増殖あるいは科学的な漁船操業、こういうことから話を進めていかなければならぬと思っていることは御指摘のとおりでございます。
  25. 恩田幸雄

    政府委員(恩田幸雄君) 今回の交渉におきましては、大体、私どもがやっておりますのは三つの交渉でございます。先ほどお話のございましたサケマスの問題、それからただいま御指摘のございました協力の問題、さらにそれらの協力関係あるいはサケマスの資源管理、これを実質的に審議してまいります委員会、この三つの柱をもって現在交渉に当たっているわけでございますが、ソ連側から今回出てまいりましたものがサケマスについてきわめて厳しい問題でございますので、まず、その問題について相互に理解をさらに深めるということで、現在、交渉を行っている次第でございます。
  26. 戸叶武

    ○戸叶武君 私は北海道の北端における羅臼の漁業組合に行って、国後において拿捕された漁業組合の幹部とも話し合ったのですが、国との関係は別といたしまして、あの地域の漁民がとにかくいまソ連側で押さえている島に近いところまで行かなければ魚はとれないんだ、それ以外に他意はないんだということで、この漁民の望みというものをソ連側でも聞いてもらわなくちゃ困るというような話し合いをしたところが、向こう側では、別に軍事的な影響のないところだから、まあ大目に見ようという形において、その地域まで行って漁業ができるようになり、また、もう一つは、羅臼においてサケマスの稚魚を放ってやると、その習性から帰ってくるのが事実であって、そういう形において他に見られないような漁獲高を得ることができたということを話してくれましたが、このことは余り外務省に言わないでくれ、言うとぎくしゃくして、漁民の立場からという形において確保されたこともかえってマイナスのようになっては困るからというような心配をしている発言も聞いたことがあります。  どうぞ、そういう意味において、国は国としての外交が必要であるが、日本の沿岸漁民の真実の訴えというものも、労働者の国家と言われるソ連側に十分浸透させていくことも私は必要だと思うのであります。  また、私の親友である東海大学の学長の松前君なんかは、魚族保護並びに増殖の問題において技術的にソ連側との協力の話も進めております。これは純学術的な、研究的なものから出発しての発展でありますが、これからの外交というものも、そうした形において、条約上の解釈や何かだけではなく、一つ突破路をつくるということが必要じゃないかと思いますが、園田さんは、その辺のことはどのような配慮を持っておりますか。
  27. 園田直

    国務大臣園田直君) 御意見のとおりでありまして、そういう点に十分注意をし、実際に日本国民の要求、並びに関係主管省ともよく相談をして、間違いのないようにやっていきたいと存じます。
  28. 戸叶武

    ○戸叶武君 これは一つの例でありますが、アムールにおいて、私たちはいわゆるウハ料理という人間より大きいコイの料理をごちそうになったことがありますが、あの川に沿うての漁業などというものはソ連においてはそれほど発達しているものとは見られないのであります。かずのこの生産でも、いろいろな点において日本側漁業の技術の協力ができるならば、私はあのような大きな川における資源の開発というものはぐっと伸びるんじゃないか。  そういう点、われわれは、領土的野心というのでなくて、シベリアの未開発地における開発、人類的な一つの宝庫のかぎを開くという意味において、領土問題は領土問題とし、シベリア開発はシベリア開発として、技術協力なり何なりの面を積極的に具体的に打ち出して、話し合って進めるということも必要じゃないかと思いますが、そういう面において何か具体的な一つ突破路は現在開かれておるでしょうか。
  29. 園田直

    国務大臣園田直君) 日ソ経済関係閣僚会議を初め、それぞれの機関で合意いたしまして、いま御指摘のような線で相互理解をし、助け合うべきところは助け合っていくという方向で善処いたしております。
  30. 戸叶武

    ○戸叶武君 一転して中国の問題ですが、日本中国との平和友好条約が近々結ばれる。その前に、貿易関係の協定もどんどん実業団が入ってやられているということにおいて、なかなか日本はすばしっこいが、これでは中国の市場というものを目当てに二十世紀においていろんな争覇戦をやったイギリスなりドイツなりアメリカはたまったもんじゃないというやっかみもあるんでしょうが、日本の足を引っ張っていいかげんにしろというような動きもあるように私は漏れ承っているのでありますが、外務大臣は都合の悪いことはあんまり耳に入らぬようだが、そういう関係ソ連だけのことじゃないが、どういうふうな面にあらわれてきておるでしょうか。
  31. 園田直

    国務大臣園田直君) 先日、合意された日中長期貿易契約というのは、これはこれからよって、派生するいろんな問題、それから具体的に言うとはばかりますけれども、やはりよその国々の日本に対する経済貿易上の観点から、高く評価すべきものであると私は考えております。
  32. 戸叶武

    ○戸叶武君 私の質問するのは、園田さんの考えを聞いたんじゃなくて、アメリカやあるいはイギリス、西ドイツというものも、二十世紀における中国分割のあれを見ればわかるように、世界一の市場がここにあるというので全部あそこにかぶりついて、かぶりつき方で一番えげつながったのが、ほかの国の悪いところだけを学んでそれ以上に悪いことをやったのが日本だということになって日本はおだぶつしてしまったのですが、その間違いを再び繰り返さないという形において、たとえば社会主義国家としての中国が五カ年計画なり十カ年計画という長期的計画によって近代化を進めようとしているときに、当然、日本の貿易というものはこれに見合った延べ払い方式を採用しなければ貿易がスムーズに発展しない。それをどういう形でつくり上げようというのか。  いまの日本の実業界なり通産省なり、いろいろと配慮だと思うんですが、そういう問題に対しても一々具体的にアメリカあたりは利子はこうしなけりゃならない、あるいはこうだと、言うのはごもっともだと思いますが、政府の腹さえあれば、やり方は幾らでもあると思います。けさもテレビにおいて八一年度からの十カ年計画あるいは二十カ年計画ということも考えなけりゃならないというふうに通産省当局なんかでは打ち出しておるようですが、もちろん通産省だけの独走にゆだねるべきものではなくて、日本外交の基本的な構えの中に、社会主義的な国家計画経済とこれに自由主義各国における貿易その他の取り組みというものがどうなければならないかという一定の一つの基本的な方針というものがいま確立されなけりゃならないときだと思いますが、日本外務大臣はそれに対してはどのような考え方構えを持っておいででしょうか。
  33. 園田直

    国務大臣園田直君) この問題については、通産省、外務省は緊密に連携をして、将来にわたる具体的な検討並びに実行について相談をいたしたいと思っております。  私が先ほど申し上げましたのは、戸叶先生と同じ意見でありまして、今度の契約によって他の国国、いわゆるECあるいは米国、こういうものに与える影響等もかんがみて高く評価する、こういうことを言ったわけでありまして、延べ払いその他については、いろいろ問題もありますけれども、重大な問題でありまするから、実質的に何らかの方向でいきたいと考えております。
  34. 戸叶武

    ○戸叶武君 私は、一九六〇年の安保条約改定阻止国民会議の団長として、浅沼発言をなめらかに受け取る目的もありましたが、北京を訪れたことがあります。そのときにおいても、やはり私たち中国の悩みというものが自分の体に響いてくるほど深刻なものであるということを受けとめてまいったのであります。  日中の接近というものは、昔からカイザーが黄禍、黄色人種を警戒しろというような発言をしたように、白人をいたずらに刺激することも必要としない。しかし、日本なくしてアジアの進歩はなく、中国を除いてアジア問題の解決はないというのが私の信念であります。そういう意味において、素朴な大アジア主義的な考え方でなくて、日本中国との結びつきによってアジアの暗黒に光を与えることができる、日本中国がアジアの灯台たり得るという確信を、日本中国も、イデオロギーを超えて、国家性格を超えて、その自覚の上に立って世界に貢献しなければならない歴史的な役割りがいまあると思うのです。  そういう歴史的な役割りに沿うての日本外交において、いま日中平和友好条約が結ばれるというときに、この中国側の近代化の中においてどういう点に問題点があるか。それには、いままでのような自由主義各国の、保護貿易はいけない、自由貿易でいかなくちゃいけないという理念も受けとめなければならないけれども、長期的な国家計画経済に見合うように日本の見通しとプログラムを持たなければ相手国との手をとっての前進はあり得ないので、当然、日中平和友好条約締結と並行して、私は、この問題はいち早く外務大臣、通産大臣その他関係各大臣の協力によって、日本の今後のいわゆる平和共存外交というものは、抽象的なものでなくて、中国を通じてモデルをつくる、アジアの近代化における、これを見よというような具体的な指針を示さなければならない段階にあると思うのでありますが、条約さえ結んでしまえばいい、そのことば後で何とかくっつけようというのではどろなわ的で間に合わないと思うのでありまして、大綱はすでに私は福田内閣ともあろうものがつくっていないはずはないと思うのですが、その大綱はいかなるものか、その片りんでも示してもらいたいと思うのです。
  35. 園田直

    国務大臣園田直君) いまの御意見は非常に重大な問題でありますので、拝聴して十分検討いたしますが、少なくとも日中友好条約締結は目的ではなくて手段であり、入口でありますから、これから先どのように中国との関係を発展さしていくか、そしてまたアジアの国々との提携、経済等の協力をどのように進めていくかということは一番大事なことであるということだけお答えをいたしておきます。
  36. 戸叶武

    ○戸叶武君 最後に、問題なのは、やはりヒューマニティーの問題だと思うのです、信義の問題です、人の問題です。いままでのような、タイに行った、インドネシアに、フィリピンに、あるいは韓国に、台湾に、あのみっともない一つの賄賂政治、これは私は中国においてはきかないと思うのであります。そういうような形で、アメリカでもロッキード問題はきわめて不明朗であって、アメリカはいいかげんにして日本だけ、韓国だけをいじめているんじゃないかという受けとめ方をする人もありますが、一気には直らないにしても、やはり私はもっと清潔な経済的な活動、外交、防衛の問題が善処されなけりゃならないという段階において、いままでのような日本政治構えでいくと、中国においてまた失敗したらどうなることかということが懸念でならないのであります。  一九六〇年に行って、周恩来氏とは三回、廖承志君とともに懇談したことがありましたが、そのときにも、日中関係のブリッジになる人は、問題は人だと、いわゆるイデオロギー的に考え方においてわれわれと違うが、やはり村田省蔵さんのようなナショナリストであって愛国者であるが、信義を重んずるような人、あるいは高碕達之助さんのように、満州重工業の施設を壊さないで、ソ連のようなやり方をしないで、中国に引き渡してくれた人、そういう人を求めるというので、華興銀行にあっても悪いこと一つやらなかった岡崎嘉平太さんのような人を、延べ払い方式を考えるならば日銀出身のエキスパートをやはり活用しなけりゃならぬというので、国家間貿易前進の布石として私は推薦してまいったのでありますが、このごろ、福田内閣の姿勢を私は余り言いたくありませんけれども、何でもかんでもうまく隠してしまう神隠し内閣のような面があるのであって、隠せば隠すことはできるけれども、そこに真実というものがこもっていなければ、隠し事は長く信義を維持することはできないのであります。  日中関係というものは、今後、少なくとも百年の歴史をここでつくり上げるという決意がなければ、この成就は困難なのでありまして、そういう関係において適材適所を活用して、そうしていろんな貿易は、つまみ食い的な貿易などと言われるような卑しい形のものをなくさして、公明正大な貿易がなされるような、また、いろんな経済建設に対する協力がなされるような方向づけが少なくとも外務大臣を中心として行われなけりゃならないと思いますが、もちろん同感と思いますが、具体的においてはどのような手をあなたは打っていきますか、これから。
  37. 園田直

    国務大臣園田直君) 中国のみならず、武力のない日本外交は特にそうでありますが、人と人との外交であり、誠実を旨とした外交でなければならぬということは、御指摘のとおりであります。今後、お互いに経済的な密接な協力で共存共栄を考えれば考えるほど、少なくとも疑惑を受けるようなことがないように進めていかなければならぬと考えております。
  38. 戸叶武

    ○戸叶武君 これは小さな質問ですが、新聞によると、ニュージーランドにおいて二百海里の問題が、ソ連側とは協定ができたというが、日本側とはいまだに二百海里の問題における協定ができないというのは、やはり畜産物、その製品を日本が十分買ってくれないというところに若干含むところがあるんでしょうか、それはどういう点から日本はおくれているんでしょうか。
  39. 園田直

    国務大臣園田直君) ニュージーランドのマルドーン政権は、御承知のとおりに、昨年の初めから、漁業問題と同国の農林畜産品の対日輸出問題と絡めまして、これを総合的な関係を打ち立てて、こっちを買ってくれなければ漁業の問題は相談に乗らぬという態度でございますので、いままでのところ交渉に応じられない。  しかしながら、同国の周辺海域はわが国のトロール船、それからマグロはえなわ、イカ釣り船等が操業しておりまして、重要な水域であり、しかも二百海里を四月一日から打ち出しておりますから、わが方はこれまでも対日輸出問題についてはできるだけの努力をしてきましたし、なおまた漁業協力に伴う専門家の派遣、それから研修員の受け入れ、漁具の供与、合弁事業等の促進を提案しておりますが、ソ連とは交渉しておりますが、まだ妥結に至っていない模様であり、韓国とは交渉しておりますが、これは大体妥結をしたと、にもかかわらず日本とは交渉を始めない。これはまあ向こう側にも選挙その他いろいろな背景もあったようでございますが、ただいま鈴木前農林大臣が向こうへ参っておりまして、きょう、あす、向こうの国の要人と会談されるはずでありますが、わが国としましても、向こうのニュージーランドの農林畜産物品の輸出についてはいろいろ努力をし、あるいはまた便法等を考え協力するつもりで話を進めておりますので、なかなか厳しい状況ではありますけれども、見通しは必ずしも暗くない、このように判断をいたしております。
  40. 戸叶武

    ○戸叶武君 日本に一番近いところは韓国、朝鮮ですが、近いところが一番わからなくて、真っ暗で、もやもやしている形ですが、金大中さんは許されるようですが、日本に来られるんでしょうか。日本に行っちゃいけない、アメリカへ行けというふうに取り扱いを受けるんでしょうか。その辺はどういうふうな情報が入っておりますか。
  41. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 金大中氏の釈放についてのうわさはソウルあたりでもちょいちょい出ておりますけれども、外交チャネルを通じまして、いま先生が言われましたように、近く釈放されるが、というような確たる情報は何ら入っておりません。私どもとしては、韓国政府がどういうふうに取り扱っていかれるか、これは絶えず注意を持って見守っているというのが現状でございます。
  42. 戸叶武

    ○戸叶武君 北鮮の経済事情が必ずしもよくない。特に貿易関係において支払いも十分円滑に行われていない。それは外貨が不足しているからだと思うのですが、プリミティブなナショナリズムを強行する場合においては、いつもそういう欠陥が伴う危険性はあると思うのであります。  資本主義と社会主義とを問わず、国際信用の確立しない世界に貿易の発展はあり得ないと思うのでありますけれども、日本は、韓国は承認しているからと言うが、韓国には親切過ぎるほど少し親切の度が過ぎておりますが、北朝鮮に対しては非常に何となく冷たい面があると思いますが、やはり言うべきことは言っても近隣諸国に不安な情勢がつくられないような協力の仕方というもの、援助の仕方というものはあり得ると思うのであります。そういう形において北鮮との貿易においては延べ払いに準ずるような方式というものは何ら考えられないのかどうか、そのことを承ります。
  43. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 北朝鮮の経済事情が相当困難な状況にあるのではないかということにつきましては、先生が御指摘のように、私どもも受けとめてはおりますけれども、御承知のように、直接の政府間の外交チャネルがないために主として日朝貿易に従事しておられる民間の方々の御努力に負うところが多いわけでございまして、現在、この日朝間の貿易の不払いの問題をどういうふうにして解決していくかということは民間レベルで鋭意御検討中と承っておりますし、主管の通産省と外務省とで情報を交換しながら、今後の対策はいま検討しているという段階でございます。  いずれにいたしましても、朝鮮半島は、御指摘のように、日本に最も近い地域でございますので、この地域に不安がないように、特に国際不安が高ずることがないようにということは、私どもも絶えず心にとめているところでございます。
  44. 戸叶武

    ○戸叶武君 最後に、シンガポールのことをお聞きします。  千七百万華僑の目玉は私はシンガポールだと思うのであります。やはりリー・クアンユーというすぐれた政治家がおり、共産主義には同調しないでこれは排斥しておりますけれども、そういうことはいずれにしてもシンガポールには治安が維持せられ、アジアにおいては珍しい一つの安定した地域を形成しているのは事実であって、ここに一つのコンビナートがつくられたり、あるいは今度は大学もシンガポール大学と南洋大学が合併いたしましたが、銀行もいろいろな形においてASEAN体制を背景につくり上げられようとする向きが幾つかあるようであります。  このシンガポールは、ASEAN体制における情報が最もスムーズに入ってくる一つの土地であると同時に、日本の文化施設が必要なところではないかと私は思いますが、シンガポールに対して、インドネシアやあるいはフィリピンに日本が払っているような努力は余りいままで見受けられないように見えるのですが、現実的にどういう手をシンガポールに現在打っておりますか。
  45. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 御質問は、日本とシンガポールとの間の文化交流についての具体的な施策という点のように承りましたが、二種類ございまして、日本とシンガポールの二国間の文化交流につきましては、これはいままでございますように、国際交流基金その他を通じて年々の年次計画によって実行しておるということと、他方、今度はインドネシアに認められましたが、行く行くはシンガポールにも文化センターのようなものの建設ということは私どもの課題というふうに心得ております。  他方、今度はASEANとの文化交流につきましては、昨年の夏に福田総理があの地域を歴訪されましたときに、ASEAN全体としてASEANの域内文化交流というものについて、具体的な計画と受け皿ができるのであれば、日本としても応分の協力をするという話が持ち上がっておりますが、これにつきましては、本年に入りまして一度、二度と技術的な検討会を重ねておりまして、それが具体化いたしますれば、日本も応分の寄与をしていく、ASEANとしての文化交流日本が寄与をするという形であの地域に貢献してまいりたい、こういう方針で臨んでおります。
  46. 田中寿美子

    田中寿美子君 先ほど来、戸叶大先輩から大変高邁な、視野の広い日中平和友好条約に関連した御質問がございました。私は、格調低く、もっと具体的にいまの日中平和友好条約に関連して二、三点を念押しをさせていただきたいと思います。  先ほど、外務大臣は、いま佐藤韓念竜会談で事務的な折衝が進んでいると思いますが、内容が煮詰まってから行ったってしようがないというふうにおっしゃいました。ですから、近いうちに外務大臣はおいでになるんだろうと思いますが、いつごろ正式の交渉開始をなさいます御予定か、おっしゃることができるでしょうか。
  47. 園田直

    国務大臣園田直君) いつごろと申しますと、相手のあることでございますし、微妙なときでございますから、私が言うわけにまいりませんけれども……
  48. 田中寿美子

    田中寿美子君 非常に早い機会に。
  49. 園田直

    国務大臣園田直君) 日中双方が再開を合意をしたということを正式に打ち出して、総理から御指示を受けたら、なるべく早く行きたい、こう思っております。
  50. 田中寿美子

    田中寿美子君 大変近いうちにという感じが最近してきておりますが、交渉再開のときは条約締結のときだというようなニュアンスのことがいま報道されておりますね。総理大臣もそのようなニュアンスのことをおっしゃっているように思いますが、そうですか。今度交渉を再開されたときは条約締結のときだというふうに外務大臣もお考えですか。
  51. 園田直

    国務大臣園田直君) 再開されたら直ちに一秒間で日中平和友好条約をやるということはできませんけれども、少なくとも、交渉を再開したら、この前みたいに中断したり、あるいはいろんな問題で蹉跌をすることはないようにスムーズに進んで、交渉再開されたら、大体、締結までいけるというような心組みでしたいと思っております。
  52. 田中寿美子

    田中寿美子君 そうしますと、交渉再開のときは条約締結のときだというのは、一応、私たちもそう思っていてよろしいですね。
  53. 園田直

    国務大臣園田直君) ちょっと、そうきめつけられると、外務大臣としては、ここで……。
  54. 田中寿美子

    田中寿美子君 すぐその日とは申しませんけど。  それから、先ほどからのお話で、日中平和友好条約を必ずしもソ連は好んではいないと。しかし、園田外務大臣外交演説の中にも「日中共同声明を誠実に遵守する」ということをおっしゃっていますし、いつも外務大臣もそうおっしゃっておりますので、その内容に関しては、仮にソ連漁業交渉で相当厳しいことを持ってきても、それは報復手段と考えないと先ほどおっしゃっておりましたので、どのようなことがあっても、ソ連ソ連、日中は日中というやり方でやっていく、そういうことでございますね。
  55. 園田直

    国務大臣園田直君) それはその方針でいかなければ、こういう問題はまとまらぬと、こう考えておりますので……。
  56. 田中寿美子

    田中寿美子君 ですから、したがいまして覇権条項に関しては、この日中共同声明の精神で貫いていくということで確認してよろしいですね。
  57. 園田直

    国務大臣園田直君) これはしばしば正式に表明しておりますが、覇権問題については、日中共同声明に言われた立場でやる所存でございます。これをどう取り扱うかは、今後の問題でございます。
  58. 田中寿美子

    田中寿美子君 それでは、経済問題の方を少しお尋ねしたいと思っているのですが、外務大臣の演説の中にも、世界経済の混乱の中で保護主義の風潮があるというふうにおっしゃっております。それで昨年来も牛場大臣を派遣をされて、そして日米交渉をやってきた。でアメリカで行き詰まりそうになったときに、日本が七%の成長率を約束して、成功して帰ってきたというふうに年末には言われておりました。外務大臣も、大変日本の「努力が米国とECを初めとする関係諸国からも高く評価されております」と、特に、アメリカについては昨年末の牛場国務大臣の訪米と、それからさきのストラウス通商交渉特別代表の訪日をもって日米間の協議は決着を見るに至ったというふうにおっしゃっておりますが、しかし、その後の経緯を見ておりますと、必ずしも決着しておりませんですね。そんなに甘い観測はできないと思うんですが、外務大臣は、その後の状況をどういうふうに見ていらっしゃいますか。
  59. 園田直

    国務大臣園田直君) これは御懸念のとおりでありまして、私が外交演説で言いましたのは、日米経済問題が決着したと言っているのではなくて、協議が決着した、こう言っているわけでありますが、米国の方とECの方とはいささか趣を異にしておりまして、米国の方は、協議が決着した線に従って、日本の方でもいろいろ問題が残っておりますとおり、米国でも国内産業、地域問題あるいは国会、こういうところで起こっているいろんな、ややもすると感情的にも似た問題をこの協議に基づいて理解を求め、説得をするという段階でありまして、保護貿易主義が強くなっておるとは思いませんけれども、協議は決着したが、アメリカの行政府もこれを説得をして国民の協力を求めるということについては若干苦労をしているようでございます。そこで、今後も、この問題を両方で努力をし、あるいは輸入に関する商業ミッションを向こうへ送るとか、あるいはその後いろいろ問題を連絡しつつ、この協議が米国国民にも理解されるように努力をしているところでございます。  ECの方は、アメリカとは少し違いまして、アメリカとの方は話はついたが、おれの方は何も考えていないじゃないかと言わんばかりの空気でございました。これは日米通商交渉の最中にも特に意を払って、米国にいろんな通報をするときには、ECの在外公館並びにEC各国にも、EC本部にも電報で連絡するなり、牛場君を特に帰りにはECの本部を訪問させて、緊密に連絡はとりましたものの、米国との協議に盛られた中では、われわれの方はなかなか満足はできないと品目を次次に挙げておりまして、御承知のとおりに、ECとの協議をやっておりますが、これは必ずしもまだなかなかアメリカとのようにECの方でEC地域の理解を求める段階ではなくて、ECの方からいろいろ主張を出してきて、これをお互いに相互理解を深めるために話し合いを詰めておるところでありまして、わが方としても、やはりECはきわめて大事でありますから、これまたECの方で保護主義に火がついてまいりますると、これは流行性感冒のように各国に伝染するおそれもございますので、向こうの要請についてはできる限り協力するよう、ただいま努力をしているところでございます。
  60. 田中寿美子

    田中寿美子君 ECの関係も非常に問題ですけれども、アメリカとの関係も、大臣はごらんにならなかったかもしれませんが、二月の十四日にNHKの夕方の放送で、アメリカの上院の貿易委員会の公聴会で、ストラウス代表と、それから上院の一番強硬派の二人の方とインタビューをしているところが出たんですが、それは大変な強硬なものであったと思います。  それで第一、これは牛場大臣にも話ししなきゃならないことだと思っておりますけれども、日本が約束してきたことの中に、ことし五十三年度で経常収支を六十億ドルの黒字まで抑える、それから基礎収支はゼロにする、均衡させる、そういうようなことを言っているけれども、そんなことはつまり二年間で黒字を解消するなんということはあり得ない、恐らく七年はかかるだろうというようなことを言っておりました。それから、農作物を輸入するぐらいでは間に合わないから、もっとどんどん工業製品を輸入するべきである。それから、日本アメリカに投資をして、そしてアメリカの中に雇用をどんどん拡大せよ、そんなことも言っておりました。それから政府が企業を余りに保護し過ぎている。これは低利の融資をするという問題だということなんですね。それから、最後には、例の安保ただ乗り論も出てきたわけです。アメリカ国民の税金で日本の防衛をやっているではないかと、こういうふうなことを言って、非常に厳しく、このままでいけば下院の方に保護主義者がたくさんいるから非常なことになりますよと、日本はよっぽどの決意を持ってやらなければいけないというようなことを述べておりました。  このような状況に対しての把握の仕方が、日米関係の問題は約束してきたことがそれがみんな果たして実現できるかどうかということがありますが、多少甘いんではないですか、観測が。いかがでしょうか。
  61. 園田直

    国務大臣園田直君) これも私から答弁することはいろいろ問題があると思いますけれども、米国の方がそういう放送をされたことも、直接ではございませんが、間接に承ったことがございます。そしてまた、そういう意見は米国の中でしばしば言われんとする意見でございます。  しかし、日米通商問題をお互いが自分の国の立場から言い合っておれば、これはなかなかまとまらない問題でありまして、日米通商の問題を、日米の経済の利害を主張し合うということではなくて、世界経済の不況を突破するために日本アメリカがどのように話し合って貢献するか、苦しみを分かち合うということでなければ、私は解決はしないと考えるわけであります。  向こうがそういうことを言えば、こちらだって言い分は幾らでもあるわけでありまして、日本が過去十数年苦労して企業の体質改善をやっておった。そのとき、アメリカは、それをやらずに、海外投資をして人に金を貸してそれで食っておったわけでありますから、これは金融資本の一番弱点として自分の方の企業が弱くなって雇用不安が出てくるのは当然だと、こういう理屈を言えばこれはけんかになるわけでありまして、なおまた赤字にしましても、半分は、石油を買い込んでいる、これが赤字であります。それから私はアメリカの方に言ったわけでありますが、残念ながら日本の物価とアメリカの物価と比べると、日本の住宅はアメリカの十倍、肉は六倍から七倍、米は五・五倍、電力は七倍、こういうことから計算すると、百何十億の黒字だと言ってみたって、その物価から計算していくと、それは二十数億の黒字にしかならぬじゃないか、だから日本に黒字解消を言うからにはアメリカも赤字を解消して黒字になるように努力をすることが当然でありますと、まあしかし、そういうことをお互いに言い合っておってはいかぬから、そういうことはやめましてという話を私はしたんです。  ややもすれば起ころうとする保護貿易、これはいまアメリカで起こっている意見は、むしろ選挙区の関係もこれある地域、産業、それから鉄鋼会社が閉鎖になって五千人馘首した、こういうことから起こった意見でありますから、お互いに助け合うということでやっていくには、今後ともいろいろと問題があると思います。簡単に、その協議が決着したからもうこれで日米はいいんだというように甘くは考えておりませんけれども、そういう努力を重ねつつ相互理解を深め、そしてアメリカ日本立場理解してもらう、それから日本理解する。そしてまた日本ももっと思い切って自分立場アメリカ理解さすことも大事だ、こう思っておりますので、決して甘く見ておるわけではございません。
  62. 田中寿美子

    田中寿美子君 ただ、私は、日本アメリカの言い分に対して非常にたくさん譲歩し過ぎ、非常にたくさんのことを約束し過ぎているという感じがして、果たしてそれが実行できるかどうか懸念するわけなんですが、EC諸国の方は、もっと、いま大臣がおっしゃいましたように、非常に厳しいですね。  日本に対して、日米関係のような関係がありませんので、フランスの新聞の報道によって日本人を批判した言葉が出ておりますけれども、日本人というのは輸入をしない異分子だと、輸入品というと舶来品としてデパートなんかでは特別のコーナーを設けて、これは特別の物のように扱っているとか、あるいは航空機ですね、エアバスのことだと思いますが、航空機をなかなか輸入しようとしない、あれはロッキード・アレルギーだとか、まあいろいろ厳しいことを言っております。  それだけじゃなくて、日本国民の生活水準の問題を、しばしばこれはILO関係でもそうですし、それから欧米諸国から非難というか、批判されるわけですけれども、もちろん単なる賃金の比較というところで見れば、これはこのごろでは円高の関係もあって、アメリカ、西ドイツの次ぐらいまで名目の賃金ではきておりますですね、そしてフランス、イギリスよりちょっと高い程度です。ですけれども、さっき外務大臣もおっしゃったように、日本がとっても物価が高い。一番生活するのに必要な住宅が非常に高い話をいまなさいました。それから肉類でも、そのほか衣食住に必要な物が非常に高いという問題が一つあります。  それから、私は、たびたびよく言われることなんだけれども、フローの所得に比べて、これは最近は政府もそうおっしゃるけれども、ストックの所得が非常に貧弱だ。特にその中で一番ひどいのは私はやっぱり住宅だと思いますね。今度、五十三年度予算の中では、公共投資で五兆四千億か、大変大きな予算を計上しておるわけですけれども、その中の住宅はたしか五千何百億かですが、これは持ち家住宅の制度を奨励したり、それから住宅金融公庫からお金を貸してもらっても、それだけでは頭金も間に合わないし、土地も手に入れなきゃならないということで、それにさらに民間の借金をします、これは自分の持っている貯金をみんな出していくわけですから。そうしますと、家は建てたけれども、その後のローンを返済したり、別に借りた金を返したりすることに追われるから、フローの賃金で欧米に近づいてきたといっても、欧米諸国では、ストックの所得の中の住宅なんかが一番大きなものだと思いますが、非常に安い家賃でちゃんと完備した家にいつでも入れるということであれば、自分のお金を出してわざわざ建てる必要もないという状況にあるわけですね。  そういう点とか、それから上下水道なんかも、私は、ことし減税よりは公共投資と、この前大臣もおっしゃいましたけれども、公共投資の中身を見てみて、上下水道なんかでも、実は、水洗トイレの率はまだ低いけれども、それを都市で実行しようとするときには、各世帯の持ち出し分がずいぶん高いんですよ、九万円とか十万円とか出さなきゃいけない。それから、そのほかに暖房なんか、集中暖房でありませんから、それぞれガスバーナーも買う。つまり欧米諸国でストックの所得としてすでにちゃんとあるものをフローの所得の中から支出する、賃金の名目が高くても、その中から非常に高い比率で出していかなきゃならないものが欧米諸国より多いという状況ですね。  それから、振賛所得ですけれども、年金だとか保険だとかいう、ああいうものだって非常に比率は、最近私が調べましたら上がってきているようですけれども、それでもヨーロッパの諸国、フランス、西ドイツ、スウェーデンその他の国々に比べたら、ずっとまだ低い。だから、そういうものすべてが生活を圧迫しますので、日本人の生活水準がその点ではまだGNP第二位に相当していない。一人当たり国民所得が十六位、大体百万円ぐらいですね、五十二年度で、その程度でしかない。  つまり、人口が多くて一人当たりの所得がまだ低いということを考えますと、政府として、国民の生活を高めるためにしなければならないことがいっぱいあるのじゃないか。それをやらないで、質はよくなって、そして価格もわりあいに安い日本の製品をどんどんどんどん輸出するということに対する非難があると思うんですね。ですから、この辺のことは外務大臣も国際的な視野と、やっぱり国内のその問題とをくっつけて指導していかなきゃならないと思うのですが、いかがですか。
  63. 園田直

    国務大臣園田直君) この前の日米通商交渉のときには、私はモスコーに行っておりまして、ほとんどその入り口と一番最後のときだけ会談や相談に乗ったわけでありますが、一番痛切に感じましたことは、いま御指摘されたことで、あれだけの大問題になってきたのは国内経済と国際経済とのギャップが大き過ぎる、これがいつの間にかこういう差が出てきた。ちょうど円高と同じように逐次円が上がってくればまだしも、急激に円高を受けたのでひどい目に遭ったのと同じで、この点が一番痛切に感じたわけであります。  そこで、それをもっと具体的に言いますと、外務省と農林省と通産省、こういう関係各省の間で意見が開き過ぎておって連絡が緊密でなかった。曲がりなりにもああいう問題をやっているうちに、だんだん眼が各省とも国際経済にやってきて、そして日本もここで考えなければならぬというふうになってきたということを痛切に感じたことは、もう御指摘のとおりであります。  それからまた、住宅問題その他にいたしましても、いろいろ委員会で御質問を受けて、あれだけの公共事業をやったが果たしてこなせるか、こういうわけでありますが、これは単に地方自治の財政その他ばかりじゃなくて、いまおっしゃいましたような税制から何から全部考えてやらぬと個人というものがこれについていけない、こういう点も御指摘のとおりであると思います。私も経済閣僚の一人でございますから、十分いまの御指摘は頭にとめて、よく勉強して、つらい問題でありますけれども、何とかこれを克服しなければいかぬ、それ以外に日本の生きる道はないということは同感でございます。
  64. 田中寿美子

    田中寿美子君 ですから、公共投資の中身のあり方で、本四架橋だとか新幹線だとか、雇用創出に役に立つでしょうし、あるいは産業の不況克服に役に立たないとは申しませんけれども、国民生活の水準が上がれば個人消費支出が上がるわけですから、不況克服の一番の道ですので、私は、そういう点を強く主張していただきたいと思っているわけです。  次に、私はILO条約の批准の問題にちょっと触れたいと思うのですけれども、その前に、アメリカがILOから脱退しましたね。二年間の猶予期限を置いて脱退したんですけれども、その主な理由は何だとお思いになっていらっしゃいますか。
  65. 園田直

    国務大臣園田直君) ILOからアメリカが脱退した時期は、ちょうど前の石田労働大臣のときであります、私は官房長官をいたしておりました。各国からアメリカが脱退されたらなかなかもっていけない、だから脱退しないようにぜひ努力をしてくれという話で、いろいろ新聞にもちらちら出ましたように、非常に努力をしたわけでありますけれども、現在のままのILOの状態ではアメリカは束縛されるだけで何にもならぬというのが大体本心だと思いますが、しかし、これは一遍脱退しましたけれども、なるべく早くまた復帰されるように日本努力すべきだ、こう思っております。
  66. 田中寿美子

    田中寿美子君 アメリカは、いまの国連の構成がいわゆる第三世界が三分の二以上になってきた、それでアメリカの思うような決議になっていかない。アメリカから言わせれば、イスラエル問題、アラブの問題なんかでアメリカの意思に反したイスラエル非難の声の方が大きく出てくるとか、それから共産圏の宣伝の場になるとかというようなことを言っているようでございますけれども、しかし、ILOというのは国際的に労働者の権利、公正な条件を守るということを趣旨にしている機構でございますから、人権尊重のカーター外交からすれば、それから脱退するということは大変な矛盾だと思います。カーターさんの前の大統領のときに決めていたことだと思いますけれども、いま、外務大臣アメリカが復帰するような努力をしていらっしゃるかどうか、ILOの財政の四分の一をアメリカが負担していたわけですが、そのために復帰の努力をしていらっしゃるかということと、それから、アメリカが脱退したためにいまILO事務局は財政難に陥っていて職員も削減しなければならない状況で、それで各国がお金を出し合っているというときに、日本は渋ってまだ拠出していないようですが、その辺いかがですか。
  67. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) 日本は、アメリカがILOに復帰できますように、ILOの中から志を同じゅうする国々と協力して、アメリカが帰ってこれるような条件づくりに努力しております。  具体的に申しますと、たとえばいまもおっしゃいました特定国を非難する決議の取り扱いですが、それはまさしく先週ジュネーブで開かれておりましたILOの作業部会でそういう決議の取り扱いについてもう少し客観的な手続を決められないかどうかというようなことを検討しているところでありますし、その他の問題についても、いろいろ作業が進んでおります。  財政の問題につきましては、確かにアメリカの脱退後二五%の穴があきまして、そのうちの二一・七%までは事業の削減ないし職員の解雇でもって一応解決して、残りは各国からの自発的拠出にまつという姿勢を事務局でとっておりますけれども、これにつきましては、わが国としては、各国の態度を慎重にながめながら、日本として究極的にどうすべきかということを目下検討中でございます。
  68. 田中寿美子

    田中寿美子君 やっぱりそういうところを渋るから日本は国際的に非難を受けるので、GNP大国で、先ほどGNP大国だけど庶民のふところの方が低い、そのギャップが大変問題だと言われたけれども、こういうときの拠出というのは積極的にやってもらいたいということを私は要望いたしておきます。  それから、今国会では、ILO批准案件として百三十四号条約、船員の職業上の災害の防止に関する条約というのと、百四十二号条約、人的資源の開発における職業指導及び職業訓練に関する条約、この二つだけが批准案件として載せられているようですけれども、一九七五年、三年前になりますが、国際婦人年の年に、私どもはILO百二号条約ですね、社会保障の最低基準に関する条約ですけれども、それを政府はどうしても批准したいと言われたので、私どもは、大鷹さんなんかもみんな一緒でしたけれども、超党派で婦人の議員たちが、百二号条約の批准には協力するけれども、批准する際に九部門のうち三つ、婦人に関するところは全部未批准なんです、批准できない状況で批准したわけです。その三つというのは、一つは遺族給付ですね、遺族年金。もう一つは母性給付です、妊娠出産に起因する障害について所得保障と医療保障をせよということなんですね。それからもう一つは家族給付で児童手当なんですね。この三つとも及第しないままで百二号条約を批准することは、国際婦人年のわれわれとしては、非常に遺憾だから、ぜひ少なくとも遺族年金、遺族給付のところぐらいはわれわれの意に合うようにして百二号条約に沿うようにしてほしいということを、これはもう自民党から共産党、二院クラブ全部がやったわけなんです。しかし、未批准のままで批准いたしました。  そのときに附帯決議を衆参両方でつけております。それで「政府は、一〇二号条約に関し今回受諾しない部門、特に母性給付及び遺族給付については、本条約の趣旨をふまえてその改善をはかり、もつて、可及的すみやかに条約第四条1の規定に基づく義務受諾の通告を行うよう努力すべきである。」という決議をしまして、当時の厚生大臣は田中大臣でしたけれども、もう特に遺族給付なんかは至近距離にあるんだから早速やりますとおっしゃいましたけれども、その後、これに関して窓口になっている外務省から督励するというようなこと、これは宮澤さん、当時の外務大臣が督励いたしますとおっしゃいましたけれども、督励された形跡がございますかしら。
  69. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) 御指摘の点は、確かに日本はあのときにあの三部門を含めて批准することができなかったんでございます。  外務省といたしましては、両院の御決議の御趣旨を体しまして、できるだけ国内の問題点を克服した上で、できるだけ早く残りの三部門についても受諾するような方向で努力してまいったつもりでございますけれども、いまだにやっぱり国内法制上の問題が十分整備されておりませんので、今後も、努力を続けてまいりたいということでございます。
  70. 田中寿美子

    田中寿美子君 実際には何にもやっていないですね。私どもの攻め方もちょっと手薄だったと思いますので、改めて攻勢を開始しなけりゃならないと思っております。それじゃ、その問題はまた別の機会にやりたいと思っております。  次に、国際人権規約の批准の問題なんですが、これはたしか三月の中旬ごろに、自民党の中で方針を決められるというので、外務省としても微妙な段階で、余り言いたくないというところが外務大臣にもおありになるかと思うんですが、まず、私は、国際人権規約世界人権宣言の三十周年に当たるからことしはぜひともというような動きが日本じゅうにありますわけですが、こういう時期でありますけれども、外務省国際人権規約の翻訳をお出しになっていないんですね。ですから、請求しても仮訳だから出されないということで原文をいただいておりますけれども、私どもも婦人団体で翻訳したのを持っているわけなんですが、どうしてこんなふうに人権規約のきちんとした翻訳を出されないんでしょうか。
  71. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) その点につきましては、実は、一般にこういった多数国間の条約の正式の和文のテキストは、いよいよ国会提出が決まりました段階で、関係省庁と御一緒に法制局の審査を受けるために法制局に持ち込みまして、その場で非常に厳重な審査を受けながら逐語的にできるだけ正確な日本語の文章をつくっていくというやり方でやっております。でございますのて、人権規約につきましては、おっしゃいますとおり仮訳しかございません。今度いよいよ正式の提案ということになりますれば、早速に法制局との審査の段階でその正訳をつくっていくことになろうかと思います。
  72. 田中寿美子

    田中寿美子君 そういうことで、私どもは仮訳やら原文で見ているわけなんですけれども、その国際人権規約の中にA規約とB規約があって、A規約の方は漸進的に到達すればいい、B規約の方は即座に国内法と合致させて実現しなきゃいけないということになっているようですけれども、そのA規約の中で問題点として指摘されている点、これはマスコミで大分報道されておりますけれども、政府としては、大体、どういうところが問題になりそうだなというふうに思っていらっしゃいますでしょうか。
  73. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) ただいま提出に至る前の最後の努力をいたしておりますけれども、その過程で報ぜられておりますように、幾つかの点につきまして問題が出てまいったわけでございます。それらについて最終的にどのような方針で処理していくかということについては、まだ最終的な各省間の合意と申しますか詰めができておりませんので、具体的なことはこの場で申し上げることは、できれば御遠慮させていただきたいと思います。
  74. 田中寿美子

    田中寿美子君 外務省の側から言いにくいかと思いますが、一つは、公休日の報酬に関してはこの条約採択のときにもう留保してありますですね。公休日に報酬を支払うという問題は、これはもうすでに保留してある。  それから問題になりますのは、公務員初めすべての労働者に対するスト権の保障の問題。それから初等教育の無償化はいいとして、中等、高等教育を漸進的に無償化するという問題。それから、これは日本でする場合は日本に住んでいる人すべてですから、在日の外国人にも教育、社会保障の権利をすべて与えなきゃならないというようなこと、そのあたりがひっかかっているんじゃないかと思うんですけれども、これらのことはA規約の中にあるんですが、漸進的に到達するということであればよろしいんではないでしょうか。その解釈をどうお考えになりますか。仮に批准しても、これは漸進的に到達すればよいということになっているわけですから、ですから問題はないんじゃないかと思うんですけれども、どうでしょう。
  75. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) いま議論されております各問題点のうちで、漸進的に実現の方向へ進める問題もございますし、たとえ漸進的でありましても、現在の日本の法制あるいは考え方からしてなかなか実現がしにくい問題とがございます。ですから、すべての問題が漸進的という書き方で救われるということでは必ずしもございません。
  76. 田中寿美子

    田中寿美子君 その意味はわかりました。たとえば高等教育を無償化するというようなことはいろいろ議論があるようですね。ですから、それは漸進的と言ってもできない、たとえば大学教育までですね。そういうような意味であろうかと思うんですが、それならその条項に関してはそれなりの取り扱いをすればいいと思うし、公務員のスト権の問題はいま公共企業体等基本問題会議でスト権の問題を審議しているから、六月ごろ答申が出るというので、中立的な留保をするとか、いろんなやり方があるんじゃないかと思います。  要するに、先進資本主義国がほとんど皆批准してしまっていて、日本はまだこういう市民的な権利あるいは社会的な権利、経済的な権利に関しての国際人権規約を批准しないということは、いろんな意味で経済的にいま袋だたきに遭っているような時期に、非常に大事じゃないかと思うんですね。ですから、外務大臣はそれは前に進ませる方向で努力するというふうなことをおっしゃっておりますが、そういうふうに理解しておいてよろしいですか、余りおっしゃりたくないんだと思いますが。
  77. 園田直

    国務大臣園田直君) 外務大臣としては、その方向で努力をいたしております。
  78. 田中寿美子

    田中寿美子君 じゃ最後に、婦人に対する差別撤廃条約案というのがこの間の国連に提出されているわけです。  日本から国連の経済社会理事会の人権委員会に婦人の代表を派遣されましたね、佐藤欣子さんを。そうしてこの人権委員会に出ていらっしゃっていたわけなんで、この婦人に対する差別撤廃条約案というのは、これは国際婦人年の指導理念になっております婦人に対する差別撤廃宣言というのを国連が六七年にいたしましたが、それを骨子にして条約にしていったもので、いま国連婦人の十年で、この十年間に世界じゅうにある男女の差別を撤廃して本当に平等なものにさせるための努力をしようということでキャンペーンをやっているわけなんです。そのために、この間の国連総会ではこの婦人に対する差別撤廃条約は必ず通すということを各国の婦人たち努力していたわけなんですけれども、これは審議未了に終わりましたですね。そのときの事情はおわかりですか。
  79. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) 昨年の国連総会で、この条約案が審議されましたのは、国連総会第三委員会のもとでこの条約だけを専門的に検討するための作業部会をつくって審議をやったわけです。  その審議の対象になりましたテキストは、婦人の地位委員会においてつくられたテキストでございまして、それは非常に限られた人たちの間での審議の結果作成されたものでございまして、国連総会に出ますと、加盟国全部がいろいろ意見を申し述べる初めての機会になったものでございますから、大変議論が続出いたしまして、結果的には、昨年の総会の期間中に、わずか九カ条であったかと思いますけれども、しか審議が終わらなかったということで、ことしの秋に開かれますこの次の国連総会の第三委員会でまたその作業グループの作業を継続することになったわけでございます。
  80. 田中寿美子

    田中寿美子君 国連の婦人の地位委員会というのは、労働省の婦人少年局が所管——外務省はもちろんですけれども、婦人少年局が所管していたわけなんで、国際婦人年の一連のキャンペーンの中でこの性差別撤廃宣言というのは非常に大きな働きをしてきたわけです。これを今度条約にするという動きに関して、私は、外務省もPR不足だと思うし、労働省もPR不足だと思います。  国際婦人年は、七五年一年で終わったんじゃなくて、十年間を展望して国内行動計画をつくったり、世界行動計画をつくった後で、二年ごとにモニターをするというようなことまでやっているときに、婦人に対する差別撤廃条約案が国連に提出されているぞというようなことは少しも知らされていないと思います。私ども民間の方で運動する間で知らせ合っている程度でございますね。もっとあのとき非常に熱心に取り組むということをお約束くださった外務省であるし、外務大臣がそのように言われたわけで、園田外務大臣、この問題に知らぬ顔をしていただきたくない。国際人権規約の中に、性別による差別は一切してはいけないということになっております。それで、それに関係した条項が幾つかありますけれども、これらはまた別の機会に私はやりたいと思っておりますが、国連で扱われるそのような婦人に関係した条約案のことはもっとPRすべきだと思いますが、いかがですか。
  81. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) 婦人に対する差別を撤廃することを趣旨といたしておりますこの条約案には、もちろん日本政府として賛成でございます。で先ほど申し上げましたように、条約案の作成段階にあるものでございますので、その審議を尽くして、一部の国だけによって批准されるんではなくて、できる限り多くの国が批准できるような内容のものに持っていくべく努力してまいったわけでございますし、今後とも、その努力を続ける予定でございます。  国内的に、これにつきまして十分いわゆるPRをしていなかったのではないかという御指摘は、謙虚に受けとめたいと思います。外務省が毎年出しております「わが外交の近況」外交青書のようなものでございますけれども、これには若干指摘したことはございますけれども、恐らく不十分であったかと思いますが、御指摘の御趣旨を体しまして、今後努力いたしたいと思います。
  82. 田中寿美子

    田中寿美子君 そうしますと、この婦人に対する差別撤廃条約案の審議に当たっては、賛成をするようにということで、佐藤欣子さんを送られたときに、そういう指示をされていたわけですか。
  83. 大川美雄

    政府委員(大川美雄君) 作業全体については、いま申しました積極的な態度で臨むということでございますけれども、各条文につきましては、その個々の問題点がございますので、それを各国と十分協議しながら一つ一つの条文の書き方に応じて日本立場を言う、こういう指示でございます。
  84. 田中寿美子

    田中寿美子君 最後ですが、外務大臣ね、そのような問題が国連で審議されるということを婦人大衆に知らせるべきだと思うんです。  あの内容は非常に多岐にわたっているわけです、婦人に対する差別撤廃というのは。社会的、政治的、経済的、文化的あらゆる面にわたった非常に細かい条文があるものなんですね。そして国連婦人の十年にしろ国際婦人年にしろ、これは政府がやる仕事というよりは、日本の女性全体が一緒になってやる、すべての非政府の団体が参加してということになっているわけで、何か官庁の仕事というふうにしないで、もっと一般の婦人にも知らせて、問題点の討議ができるようなふうにさせていただきたいんですが、外務大臣いかがでしょう。
  85. 園田直

    国務大臣園田直君) まず、総会に臨む政府の今年の態度ですが、いま御報告申し上げましたとおりに、昨年は本条約の趣旨に賛成をし、なるべく多数の国がこれに賛成をして議決されるように努力をしたわけでありますから、ことしの秋も、普遍的に実効性を確保する考えで、この条約が通るように積極的にこの会議に参加をいたし、また、国内については、御指摘のとおり、PRまたは理解を求め、あるいは婦人のおのおのの方々がこれについて真剣に注意をされ、自分立場から議論をされるというように、労働省とも連絡をしてやる所存でございます。
  86. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 午前の質疑はこの程度として、午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時十一分休憩      —————・—————    午後一時三十三分開会
  87. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) ただいまから外務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、国際情勢等に関する調査を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  88. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 最初に、日中問題について再びお尋ねをいたしたいと思います。  午前中にも日中問題についての条約をめぐる質疑が取り交わされたわけでありますが、いままで繰り返し政府側の答弁を伺っておりまして、機が熟しているなという印象を受けますと同時に、福田総理自身北京駐在の佐藤大使に対して新しい訓令を出した、にわかにあわただしさが加わってきたような印象を受けますし、この分だと、かねがね表明されてまいりましたように、早い時期に多年の懸案であった日中条約締結へもうそう時間はかからぬだろう、こういうふうに受けとめることができるわけであります。  ただ、今後、予備折衝というんですか、大使と韓念竜外務次官、二、三回ぐらい必要であろうということも伝えられておるようであります。それから福田総理がかねて言明されている中に、一切の条件が整備されれば、一気に、そう時間をかけずに、条約締結へ持っていくんだ、こういう趣旨のお話をなさっていらっしゃいました。となりますと、この予備交渉というものは非常に重要な役割りを持つんではないだろうか、こう思えてならないわけであります。その点は、どのように外務省としてはお考えになっていらっしゃいますか。
  89. 園田直

    国務大臣園田直君) 佐藤韓念竜会談手順についての打ち合わせをやっているわけでありますが、いまおっしゃいましたとおりに、あと一回で済むか、二回かかるかなと、こういうことでございまして、何回になるかわかりませんけれども、その会談でまた何か問題があってひっかかるというようなことは、ちょっといまのところ心配しなくてもいいんじゃないか。だんだん回を重ねるごとに手順は進んでいくのではなかろうかと想像をいたしております。  そこで、総理が新しい指令を出した、こういうことでありますが、これはそのとおりでございまして、交渉再開ということになれば、一気にはいきませんけれども、これはもう二国間の長きにわたることを決めるわけでありますから、いろいろ話すこともありましょうけれども、しかし、それで特別の支障があって中断するとか、あるいは途中でひっかかるとかということばなしに、順調に話が進むものであろうという心組みでただいま準備をいたしております。
  90. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 おっしゃるとおり、締結への段取りといたしましては、手順に粗漏がない、これは常識でございましょう。しかし、やはり問題になりますのは、本交渉に入られて、当然、外務大臣として園田さんが御出席になられる。あらあらそこでは煮詰まったものが一つの草案として、もちろんいまの予備交渉では最終結論にまではいかないにいたしましても、大体のアウトラインというものが、あるいは骨格といいますか輪郭といいますか、条約のそういう内容というものが手順と並行的に、これは条約締結の場合、当然、そういう順序を経ていくんではないだろうか、こう思うんでございますが、内容については、いま佐藤大使と韓念竜次官の間には、打ち合わせといいますか討議といいますか、全くなされていないんでございましょうか。
  91. 園田直

    国務大臣園田直君) 内容については、先方との約束もこれあり、特に、その際、いつでも私の方から内容が漏れることは一回もない、日本の方からばかり漏れてくるなどといういきさつもありましたので、申し上げるわけにはまいりませんけれども、少なくとも条約の中身について交渉はいたしておりません。おりませんが、お互いにこういう時期でありますから、会談をすれば、お互いに腹の探り合いぐらいはやっているんじゃなかろうか、想像でございます。
  92. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 お立場上、それはストレートに言えない場合があることを私も理解いたしますが、大変後の方は含みのある御発言であったかに存じますし、当然、これはくどいようですけれども、条約の案文までお互いの腹の探り合いかどうかわかりませんけれども、どこに一体難点があるのか、どこを整理すれば日中間において合意が得られるその方向に持っていくことができるかぐらいは、これは当然外交折衝の前提として行われるのが筋でございましょう。  何回も何回もこの中で特に問題になってきたのは、反覇権条項という問題、恐らくそれをどういうふうに修正して条文の中に入れるか等々が中心になってくるんだろうと思うんでありますが、いまとやかく条約の中身まで云々しようとは私思っておりません。思っておりませんけれども、やはりこの段階まで来た以上、政府としても、最後の決着をつける段階に来たなと、最後の決着ということは、いま申し上げたように、一応条約の草案と申しますか、原案の原案であるかもしれません。それは本交渉に臨むに当たってのやりやすい一つの段取りとして、それも私は手順に入るのではないだろうかというふうに思うのでございますが、重ねていかがでございましょうか。
  93. 園田直

    国務大臣園田直君) 条約内容については、条文等も全くこれはやっておりません。問題になりそうな点は腹の探り合いぐらいはしておるかと思いますが、条約の案文とか、それから条約内容については全く交渉はいたしておりません。
  94. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 先ほど御答弁がございましたように、支障がなければ予備交渉あと一、二回という、こういうことでございます。一、二回ということは、もうその次の段階には本交渉へ入れる見通しが立つというふうに受けとめてよろしいのでございましょうか。
  95. 園田直

    国務大臣園田直君) 両方の呼吸が合えば、どこで、いつから両方合意をして交渉を再開しよう、こういうところまでがいまの両氏の会談の目的でございますから、それが始まれば、いよいよ交渉が始まるわけでございます。
  96. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 特に、この手順の問題で、懸案といいますか、障害になっていることがあるのでございましょうか。
  97. 園田直

    国務大臣園田直君) 特に懸案になっている問題はございません。
  98. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 これから時期とか場所とか、担当者をだれにするとか、いろんなそういう具体的な問題が展開されていくんだろうと思うんですが、いま、政府としては、正式会談の場所あるいは条約締結の場所、東京にされるおつもりなのか、北京にされるおつもりなのか、これも相手国があることでございますから、話し合いでもって決める以外はないでしょうけれども、日本側としての希望はいかがでございますか。
  99. 園田直

    国務大臣園田直君) これも、いまおっしゃるとおりに、話し合いになるわけでありますから、話し合いだから話し合わぬと言えないということではなくて、話し合いの段階でございますから、お答えすることは控えたいと存じます。
  100. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 これは別に中国側に気がねをする必要はないのであって、あくまでも日本側としての希望はこういうふうに描いているぐらいの程度はいかがなんでしょうか。
  101. 園田直

    国務大臣園田直君) ちょっと微妙でございますから、お許しを願いたいと思います。
  102. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 日中問題が質疑の場に持ち込まれますと、必ずといっていいくらいに、また日本としても大変懸念をしてきたのがソビエトの出方である。これは今日も私は変わりがないだろうと思うんです。  午前中にも問題が出されておりましたけれども、官房長官ポリャンスキー大使との会談、その中でも、いみじくも今回の日中条約に対して、中身までは触れておりませんけれども、大変激しい口調でやり合ったということが実は伝えられているわけです。となると、相当根深いものが、この日中条約締結によって与えるもろもろの影響というものをソ連はやはり捨て切れない。その捨て切れないものは一体何かという問題なんでございますけれども、これはどうしようもない問題ですか。  たとえば、いままで、園田さんは、一貫して、覇権反対は国際的な常識である、あくまでも日中は日中、日ソは日ソなんだと、ソビエトの権益を侵すようなことは条約締結することによって生ずることは毛頭ない、また、訪ソされたときにもそういうような趣旨の説明をされてきた。にもかかわらず、依然としてその暗雲といいますか、彼らの霧を払うまでに至っていない。その辺の情勢分析というものは、その後も、国際情勢はその都度変化していくわけでございますから、依然として一貫してお変わりがないのか、その辺いかがでございましょうか。
  103. 園田直

    国務大臣園田直君) 日中の平和友好条約は、もうよく御存じのとおりに、日中の永遠の平和、  そうしてまた、よって来るアジアの平和を考えているわけでありますので、第三国に対してどうこうというものではない、こういうことはしばしば繰り返して申しておりますが、先般、ソ連に参りましたときにも、先方から間接的な形で提起されましたので、私はその点は十分説明したつもりでございまするし、なおまた、日本外交の基本方針は、憲法並びにその他からいきまして、私の外交演説でも申し上げましたとおり、どこの国とも敵対しない、どこの国とも友好関係を進めていく、こういうのが基本方針であります。  ソ連の言い分は、条約をどういうかっこうで結ぼうと、日本はそのつもりかもしらぬが、向こうは違うつもりだと、こういうことを繰り返しておるわけでありますが、私は、あくまで日中は日中、日ソは日ソ、こういうことでいきたいと考えております。
  104. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 おっしゃるとおり、話し合いというものがすんなり理解されていけば問題はないんだろうと思うんでありますが、最近、いろんな情報の中で、ソビエトの軍事力がアジアを中心として増強されているということが言われているんです。これはアメリカあたりが分析したデータによりましても、海軍力あるいは空軍力、その勢力ははるかにソビエトの方がしのいでいると。これは何を一体意図しているのか、意識しているのか。当然、これは隣接する日本として捨てておけない問題点一つではなかろうか。  われわれ素人ですから、軍事的にどうこうということはなかなか正鵠を得ない場合があるかもしれません。ただし、ソビエトが、かねがね、日中条約締結することは即日中同盟であり、そしてまた日中を主軸にした新しい軍事力の増強につながるということで、大変ないままで憶測もございましょう、あるいは警戒の色もあるんではないだろうか。そういうような観点に立って、この反覇権条項というものはあくまでも反ソ的な一つの取り決めにつながると、これは捨てていないんですね。園田さんが訪ソされて、大変御熱心に日本立場というものを貫くために、繰り返しその点の理解を深めさせる一環として話をされたことはいまの御答弁にもあるとおりでありますけれども、それが昨日のポリャンスキーの言動を通じましても一向に捨て切れていない。その辺に、あるいはソビエトの感情を阻害するような要因というものがこうした日中条約締結によって起きる可能性というものは全く考えられないのかどうなのか。今後の外交展望というものは、そういった条約締結で当然お考えになっていらっしゃると思いますけれども、あらゆる事態というものを考慮の中に入れて進めなければならぬことは言うまでもありませんけれども、その辺の分析はどうなさっておられますか。
  105. 園田直

    国務大臣園田直君) 太平洋艦隊——ウラジオストクの海軍を中心にしてソビエトが強化の方向に行っていることは私も想像をいたしております。これは、しかし、大局的に見れば、ソ連ソ連として、抑止力による平和を維持しようという考え方でありますから、私はそのように見ておるわけであります。必ずしも日本に対する脅威を与えるために強化をしておるとは判断をいたしません。  なお、日中友好条約締結については、中ソの今日の現況から言って、ソ連側が好まざることはこれはよく私も理解をいたします。いたしますが、だからと言って、力をもって日本をどうこうしようとか、日本中国と手を握ってソ連に敵対行為をやった場合は別でありますが、社会常識で考えて、世界の国々も全部、ソ連が怒る方が無理だと言うか、あるいは怒る方があたりまえだと言うかということの一点にかかっておると考えるわけでありまして、特に今日ソ連が感情的に刺激をされて激怒しておるとは判断をいたしません。ポリャンスキー大使というのは大体が口調は激しい口調でありますから、特別にソ連が近ごろになって何か怒っているというふうには考えておりません。  また、日中友好条約を結ぶについては、いま御指摘の諸般の情勢をよくわきまえ判断しつつ、進めていかなければならぬということは、私も同様に考えております。
  106. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いまおっしゃられたとおりだと大変ありがたいと思うんですけれどもね、脅威を与えているものではない、いろんな見方というものはあるかもしれません。しかし、やはり軍事力の増強というのは好ましいことじゃないですね。たとえ力関係というものが平和への抑止力につながるんだという、これはもう一遍この辺で考え方を改めていかなければならない、そういう段階に来ているんじゃないかという感じすら私自身は持ちます。  同時に、つい先ごろも北海道の積丹半島に六機編隊のソビエトの空軍機が飛来して来ている。前のミグ25の場合と同じような——どういう目的で飛来してきたかわかりません。あるいはソ連艦隊が日本列島領海すれすれ、あるいは領海の中にも入ってくるというようなこと、それが威嚇なのか間違って入ってきたのか、日本国民としては決して気持ちのいいものではございませんね。暗に牽制をするという、その意図のためにそういうような意図的な行動をやっているのか、その辺は、当然、外務省としては、いま日中条約締結という課題を背負いながら、いろんな想定をしながらできるだけ穏便な方向で条約締結へ持っていきたいという配慮もあるでしょうから、そのためにはやっぱりいろんな事態というものを想定してかからなければならぬ。いま申し上げたような一連の最近だけの事実関係を考えましても、どのように一体お受けとめになっていらっしゃいますか。
  107. 園田直

    国務大臣園田直君) 私が訪ソした際には、ソ連の飛行機あるいはソ連の軍艦が日本の周辺を、飛行機など定期的にやってきておる。ときには領空すれすれまで来る、あるいは侵犯をする、こういうことをやっておっては善隣友好というのは、どのように言葉で言われても、日本国民は信用しない、こういう点はひとつ考えてもらいたいということを言っておきました。  ただ、今日、ソ連がやっていることを脅威であるとか脅迫であるとかということを、外務大臣が公開の席上で判断発言することは、それはソ連は覇権であるということを言わざるを得なくなってまいります。私は、むしろソ連の行動というのはソ連自身立場からやっていることであって、日本に対する脅威ではない、こういう解釈をあえてお答え申し上げているわけでございます。
  108. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 絶えずソビエト外交というのは忍耐強くということが一つの前提にならざるを得ないという苦い経験のもとに、今後もそれが続けられていくんだろうというふうに思うわけです。非常に悲しい現実だと思うんです。  しかし、いまそうしたような一連の関係を踏まえ、新しいアジアにおける環境がいまでき上がっていこうとするときに、ソビエトがどうして一体理解ができないのか。そこには、あくまでも、先ほど申し上げましたように、日中条約イコール日中同盟であり、それは軍事同盟につながる一環であると。たとえば、いま御存じのとおり、中国は四つの近代化を目指して新生中国の建設にいそしんでおりますね、その中で最も大きなポイントとなっているのが科学技術の振興なんです。これは確かにおくれていることは事実でしょう。周恩来首相が存命中にも、そのことを明確に北京の大会堂で、私どもが参りましたときに申しておりました。いま世界に肩を並べられる技術力、頭脳というものを日本に求めるのが手近いし、また、中国側もそれを希望しているということは否めないし、また、平和共存の上からそれが役立てば大変これはわれわれとしても願ってもないことだ、そういう受けとめ方ですね、これは常識としては。  ところが、ソビエトは、どういう分析をしながらそれを判断しておられるかわかりませんけれども、そうしたことが科学技術の振興につながり、ひいては軍事力につながるという、そういったことを捨て切れない以上は、どうしてもソビエトの日本に対する友好関係というものが果たして将来持続できるのかどうなのか、そういった配慮もされながら、いま日中条約締結へ向かって予備交渉なり本交渉へ入るという考え方も当然お持ちになりながら、いま臨んでいらっしゃるんでしょうか。
  109. 園田直

    国務大臣園田直君) 御発言のとおりでございます。
  110. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いまおっしゃられたことがどこで整理されるのか。恐らく整理されるという結論を得ないままに本交渉に入るという段取りになるのではないかというふうに思うのです。それはそれでいいと思うんです。あくまでもいままでの日中は日中だというこの一点を貫き通せば、その後に起こった問題についてはまたその後において対応しなければならぬということだろうと思うんですが、やはりせっかくこれから長期間にわたる日中両国の友好というものと両国の繁栄というものにつながる中身のものであれば、将来展望に立ってそういった摩擦をできるだけ最小限度に食いとめながら本交渉に臨んでいただきたい。  そのためには、条文の中身の検討ということになるのだろうと思うんですが、その点についてはこれも明確には御答弁ができないという答えしか返ってこないだろうと思うんですけれども、その点は十分踏まえて条約の中に盛り込んでいきたいというお考えはおありになるんですか。
  111. 園田直

    国務大臣園田直君) ソ連が言うように、文章はどういうようにしようと、日本の考えとは別個に中国は違うのだ、条約を結ぶこと自体が、文言にかかわらず、これはソ連に対する敵対行為である、こういう解釈なら別でありますけれども、しかし、日本中国条約締結、あるいはした後、日本中国が軍事同盟でもなく、あるいは共同行動をとってソ連に敵対するものでもないということは逐次判明してくると存じます。そういうことを念頭に置きながらやるべきである。  なおまた、ソ連がなさることがどういうことかは別といたしまして、脅威があればあるほど、日本は米国との関係を基軸にし、かたくしていかなければならぬ問題でありまして、ソ連日本外交方針を理解されることが、日ソは日ソ、日中は日中で、善隣友好関係を進める道である、こういうことを逐次御理解願えると私は信じております。
  112. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いまおっしゃったとおり、当然、日米というものが基軸になって、また、日中との友好関係のきずなも強めてということを一番恐れているのはソビエトじゃないか。この辺、確かに上手にやらなければならぬという言い方しか、いまのところ、抽象的な言い方ですけれども、ないんだろうと思うんですね。恐らく一番頭にくるのはそこだと思うんです、ソビエトが。その辺をよくやはりわれわれ野党としても整理をしてかからなくちゃならぬ問題かもしれませんけれども、確かにそういったこともどの程度までに、また、あるいはその条文の中に盛り込まれるのかどうなのかということになると、これはちょっと言いにくい問題だろうと私は思います。  もう一つは、昨年、福田総理がASEAN諸国を回られましたね。これに対する反響をいろいろアジア局長がまとめておられるものがあるんです。  中国はこれに対して大歓迎をしたんですね。ソビエトは物すごい勢いでもって批判、中傷を加えてきた。かつて一九七一年、クアラルンプール宣言の際には、新しいアジア安全地帯というものをつくるという構想が実はASEAN諸国において発表されたんですね。これについては、ソビエトは、いわゆるアジア集団安保体制というものの手がかりが一つできるであろうという、そういう判断のもとに歓迎されたという反響をまとめておられました。多分、そういう受けとめ方をしたであろうということも想像にかたくありません。  ところが、今回の日中条約締結に向かって相当含みを持ちながら、福田総理のASEAN諸国に対しては、集団安保体制への足がかりを踏みにじるものである。その辺の脈絡というものが、今回の日中条約との関係においてソビエトはいろんな見方をしているんだなということをもう一遍整理をしてまとめて考えますと、かつて確かにソビエトは日米安保体制対立する——対抗すると言った方がよろしいかもしれませんが、一つ考え方としてアジア集団安保体制というものを提起したことがあります。それが今度は日中条約締結という問題に進んでいきますと、残念ながらソビエトの考え方は足元から崩れざるを得ない。そういうような感情的というのは、国対国の関係でございますから、余り大仰なことを申し上げたいとは思いませんけれども、そういうような絡みの中でこの日中というものをとらまえているんではないだろうかという側面があることが感じられてならないんです。その辺は、外務省というよりもむしろ園田さんとして、大臣としてどういうふうに受けとめ、また御判断なさっていらっしゃるのか。たしか官房長官としてあのとき福田さんに随行されていたんじゃなかったかと記憶しているんですけれども。
  113. 園田直

    国務大臣園田直君) ソビエトとしては、いまおっしゃいましたような懸念を持っておるのかもわからぬと私も判断いたしております。
  114. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 いろいろこれから交渉再開条約締結、そこまでにはいろんな問題が出てくるだろうと思います。非常に大事な段階に入った。  ところで、昨日ですか、自民党の藤尾さんという議員が個人という資格において台湾を訪問されるということがあったそうであります。個人と言うと大変聞こえがいいんですけれども、これはいらっしゃる前に、福田総理にも会っていろいろ話し合いをしながら、どういう話し合いをされたか私にはわかりませんが、いわゆる台湾を訪問する。何かいま日中条約の機運が盛り上がっているというときに逆なでするみたいな印象を受けないでもないんですけれども、この辺はどうなっているんでしょうか。
  115. 園田直

    国務大臣園田直君) 藤尾議員が台湾を訪問したということは、何の用件で訪問したか全く私聞いておりませんけれども、逆なでするようなことで行ったのではなかろうと想像いたしております。
  116. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ただ、こうしたいま目まぐるしく変わる外交折衝の途上において、やはり台湾というのは、いままで大変この日中間における、あるいは米中間におけるいろんな障害として取り上げられてきたいきさつがございまして、外務省自体が全然御存じないということは私も腑に落ちないと思いますしね、しかも閣内においてもその中心をなす外務大臣園田さんがそれを御存じないということは私はいただけないんじゃないか。  これはやっぱり何か目的がなければならない。ただし、それは公式で行った場合、非公式で行った場合といろいろな反響の出方というものは当然違ってくるでしょう。しかし、いま事態が事態だけに、その辺の正確な判断をその目的に応じてしなければならないでしょうし、また、中国側に対しても、その説明を求められた場合に、どういう一体答え方をするのかということも問題になってくるのと違いますかと言うんです。
  117. 園田直

    国務大臣園田直君) 藤尾議員が総理の指令で行ったか、あるいは何か公的な使命で行ったなら別でございますが、個人の資格で旅行されたわけで、台湾とは知人も非常に多いわけだそうでありますから、日本と台湾の関係と、アメリカと台湾の関係——いわゆる政府としては台湾には関係はないわけでありまして、民間ベースでいろいろやっているわけでありますから、この点はさほど支障にはならぬと、誤解を受けないようによく話すつもりでおります。
  118. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 往々にしてこの種の行動というのは誤解を受けがちになるんじゃないでしょうか、まあ意地悪く申し上げますとね。しかも元福田派ですね、この藤尾さんという方は。しかも、いまおっしゃったように、台湾には相当の知己の方がいらっしゃる。その知己とは一体何か、政界なのか財界なのか文化界なのか、こう考えていきますとね、やはり一番交流があると、これもわれわれ自己流的な考え方になるかもしれませんが、当然、政界。となると、今回の日中条約締結が間近である、暗々裏の中に一応の了解、そういうものを求める一つの手段として隠密裏ということにはいきませんね、これはすでに表面に出ている問題でございますから。一応の了解を、あるいは根回しをというふうに見るのが妥当ではないかというふうに思うんですが、それでもやっぱり個人の資格ですか、何か民間貿易か何かの取り交わしのために行ったとはぼくには思えないんですがね。
  119. 園田直

    国務大臣園田直君) 全くおしかりを受けるとおりで、外務大臣としてはまことに不行き届きでありますが、何の用件で行かれたか全く存じません。
  120. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 言いにくいこともおありになるでしょうから、それ以上のことをお尋ねしようとは思いません。知らないということは、知っていても知らないと言う場合があるかもしれませんし。  それで、もう一つお尋ねしておきたいんですが、来月の二十二日から一週間にわたって陸上自衛隊の幕僚監部調査部の第二班長をやっておられる志摩篤一佐ですか、この方が訪中される予定になっているそうですね。目的は、北京駐在の宮寄武官に会い、そして意見の交換、情報の交換が一つ目的だと、場合によっては人民解放軍の施設等も視察することも考えられるというようなことが伝えられております。この事実関係についてはどうなっておりましょうか。
  121. 園田直

    国務大臣園田直君) よく存じておりますが、事務当局から間違いないようにお答えいたします。
  122. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) 私たち承知しておりますのは、いま先生が御指摘になったとおりでございまして、大使館の館員と意見交換のために一週間程度、二十二日から出張するというぐあいに聞いております。
  123. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 中国側から入国の許可がおりることの可能性はもう確実と見てよろしゅうございますか。
  124. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) まだはっきりわかりませんが、そういうことになるだろうと予想しております。
  125. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 自衛隊の幹部、しかも現職が訪中をするというのは、調べてみますと今回初めてのようですね。いわゆる自衛隊のOBの方はいままで一、二回、たしか私の記憶の中でもかつて陸将あたりを務められた方が訪中をされておられる。今回の場合は、現職というところに非常に一つ意味合いを持つんではないだろうか。しかも三月二十二日から二十九日という期間は大変デリケートな期間じゃないか。ひょっとすると、もうその以前において日中条約締結され、その見通しが立ったがゆえに武官の交流というものもあわせてやるような一つの道が開けてきているんではなかろうか、これは勘ぐりかどうかわかりませんけれども。
  126. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) この件につきましては、大使館員との事務打ち合わせということを主要な目的としておりまして、特に相手政府とのそういうような交流とか、そういうようなことを主たる目的としているとは私たち承知しておりません。
  127. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 ただ、いま私が申し上げたように、現職の自衛隊の幹部が訪中するというのは今回初めてでございましょう。
  128. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) さように承知しております。
  129. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そういたしますと、やはり何かあるんじゃないか。もし現職の自衛隊の幹部が行こうとすれば行ける機会も過去においてあったかもしれないし、あるいは条約締結までいろんな憶測、あるいは国際間の感情刺激というようなものも配慮しながら、行きたいけれども、慎重に事態の推移を見守りながら、時期が来ればという判断で今日まで待っておられたんじゃないか。待っておられたということになると、単なる意見の交換、情報の交換だけでしょうかね。
  130. 三宅和助

    政府委員(三宅和助君) これは全く事務的な打ち合わせでございますので、特に第三国に通報するとか、そういう種類の性格のものでないものですから、特にいまのところ考えておりません。
  131. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そう言われてみればそれっきりということになりますけれども、時期が時期であるという面もございます。あるいは中国側からぜひ軍事施設というものを見てくれという要請があったかどうか。いまおっしゃったように、あくまでもこれは事務的な連絡であって、それ以外のものは何物もないというのか、この辺は非常に微妙じゃないかなという感じがするのですね。  いま触れましたように、時期が時期ということは、いま締結へ一気かせいにいく時期でもありますし、それが先になるのか、あるいは後になるのか、もし条約締結が後になるというようなことになると、これはまた一つの紛争の種にならないかなということを心配もいたしますし、その辺はよく外務省としても、防衛庁と連携をとりながら、今回の訪中に際しては十分その目的としていることについては合意し合っているのではないんだろうかというふうに思えるのですが、外務省が、単に、事務的なそういうことで意見の交換、情報の交換——しかも一佐ですよ、立場立場です。しかも調査部ですから、いろんなことをおやりになるお立場の方だと私は思うのです。全然御存じないんですか。
  132. 園田直

    国務大臣園田直君) この問題は、いま起こったことではなくて、私が官房長官時代から起こった話でございます。そのいきさつは両方のことでもありますので、この席では申し上げられませんが、少なくとも時期がいまになったのは偶然時期がいまになったということ。それからまた現役の軍人が向こうへ行って視察するからソ連の方を刺激するというようなことは断じてない。これだけ答弁をいたしておきたいと思います。
  133. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 重ねて申し上げたいと思うのですが、いま、これまた大変含みのある官房長官時代の当時の模様を通しておっしゃられました。となりますと、いま次長が言われた話とはちょっと矛盾するんですよね。単なる事務的な問題ではない。その意図がここでははっきりさせることはできないということになれば、やはり軍事的な、そういうかかわり合いを持った使命を帯びて行くのではあるまいかというふうに感じられてくるわけです、いまの外務大臣の御答弁を通じまして。
  134. 園田直

    国務大臣園田直君) いまのような疑問を持たれやすい、誤解を受けてはなりませんから、私があえて発言をしたわけでありますが、いろいろ折衝の結果、防衛庁で正式に決めて、通知があったのはこれだけでありますから、事務当局は先ほどの答弁をしたわけでありますが、このことによって日中の間に誤解が出たり、あるいは揣摩憶測がされたり、あるいはソ連の方でこれを誤解されたり、こういうことはございませんということだけで御了承を願いたいと思います。
  135. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 この問題は、またいずれ別の機会で申し上げることもあろうかと思います。日中問題は一応これで打ち切ります。  次に、これも午前中ちょっと質疑の課題になった問題でありますが、いまモスクワにおいて日ソ第三次漁業交渉が進められております。先ほどの答弁を伺っておりましても、先行き大変暗たんたるものがあるという、こういう印象を受けるわけでございます。とにかく、いままでのこの漁業交渉の経過を振りかえるまでもなく、日本としてはずいぶん譲歩し続けてきたんではないか、これは極端かどうかわかりませんけれども、そう思えるぐらいにソビエトの出方が大変厳しい。  で、いまこの話し合いされております特にサケマスの今後の漁獲の問題につきまして、展望は確かに明るいものではありませんし、しかもソ連水域二百海里の中ではとれない。混合する海域でなければ、それも認めるかどうかという問題が一つ懸案として残っているようであります。その上に母川国方式というものを貫くとするならば、申すまでもなく、九〇%はソ連の河川で生まれたサケマスである。こうなりますと、これはもうだれが考えても、サケマス漁業者にとっては大変な打撃になる。この点もう一遍整理をしていただきながら、交渉の現在の経過と、これからどういう方向で日本政府としては主張を貫けるのか、また貫けた主張というものが合意に達し得る可能性があるのかどうなのか、この点についてお伺いをいたしたいと思います。
  136. 宮澤泰

    政府委員(宮澤泰君) 今回の交渉は、二月十五日からモスクワで開始されているわけでございますが、交渉の対象となっておりますのは、日ソ間の漁業協力——これは漁業の漁獲物の持続的再生産性を効果的に維持する。これが日ソ両国の最大限目でございますので、このために人工増殖、ふ化、その他資源の増殖等を目指しまして、あわせて加工事業その他につきまして協力するようなことについてソ連側と話し合うことを目的とするわけでございます。これとともに、ただいま御指摘サケマスの漁獲の問題を話し合う。次に、これらの目的のために漁業委員会を設置して双方の意見交換を行う。こういうことを交渉の対象としておるわけでございます。  ただいまおっしゃいましたサケマスの問題は、御承知のとおり母川国主義ソ連が主張しておりますが、この問題はなお海洋法会議で取り上げられております問題でございまして、国際的に必ずしも統一的見解が樹立されておらない。こういう現状のもとで、日本政府といたしましては、一九五六年に漁業条約ができましてからすでに二十有余年にわたりまして、ソ連との間に共同取り締まりという体制のもとで円満にサケマスの漁獲を続けてきたわけでございます。したがいまして北洋におきましては、すでにそれ以前からも日本は漁場開拓という経験と実績を重ねてきたわけでございますので、ただいまおっしゃいましたように、世界全般二百海里体制及び母川国主義というようなものもまじりまして、大変厳しい環境でございますが、その中にありまして、特に日ソ間におきましては、漁業、その中でも大きな重要性を持ちますサケマス漁業というものが日ソ間の柱となっていることを考えまして、日本代表団といたしましては、このような厳しい環境の中におきましても、できるだけ過去の実績と経験とを尊重してもらって、できる限りの漁獲高を上げるべくソ連側交渉を続けているわけでございます。
  137. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 昨年の日ソ漁業協定、ソ日漁業協定の際にも問題があったんですが、いまお話しのとおり、実績、経験、これはほとんど、ほとんどと言うのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、大変無視された、そういう状況のもとで日本側がむしろソ連の主張をのまなきゃならぬという経過があったわけですね。今回のサケマスについては、むしろあれ以上に厳しいものがあるんではないだろうか。  午前中の答弁を伺っておりましても、園田さんはこれはもう世界の趨勢である、これはやむを得ない一面もあるんだという、そういう趣旨のお答えがありました。それはそれとして一応伏せておきながら、いまは日ソという——海洋法会議の結論なんていうのはもうなかなか待ち切れぬと思うんです、いつ結論が出るかわかったものじゃございませんから。やはり当事国同士が話し合いを進めながら、今後の新しい展開を期待していかなきゃならぬというふうになるんだろうと思うんですね。  この母川国主義というのは、私も素人ですからわからないんですが、まあサケの習性というものはあるんでしょう。しかし、混合海域でそれは見分けがつくんですかねというささやかな素朴な疑問がわいてくるわけですね。一々旗を立てて泳いでいるわけじゃございませんのでね。ともあれ、これがどういうこれからの経過を経て妥結に持っていくのかどうなのか。日本としては、母川国主義というものは世界の趨勢であるがゆえに理解もし、これは認めざるを得ないという、重ねてこの確認をさしていただきたいわけでございますけれども、やはりそれを原則として認めるという御方針でこれからもお臨みになるおつもりですか。
  138. 園田直

    国務大臣園田直君) 私が言いましたのは、ソ連の言い分が理解できるという言い分を言っただけでありまして、日本はあくまで実績主義ソ連交渉を進めているわけでございます。
  139. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そうすると、必ずしも母川国主義というものを原則的に認めるんではなくして、あくまでも実績と経験の上にのっとって漁獲量なら漁獲量、漁場なら漁場というものを指定してもらいたい、また決めてもらいたい、こういう判断でよろしいんでございましょうか。
  140. 大森誠一

    政府委員(大森誠一君) 先ほど先生から御指摘のありました、現在、行われてまいりました国連の第三次海洋法会議でできております非公式統合交渉草案というのがございます。  そこに反映されている考え方と申しますのは、いわゆるサケマスのような遡河性魚種、それが生まれる河川を持っている国、いわゆる母川国でございます、母川国というものは、このサケマス等に対しまして一次的な利権と責任を有するという規定が置かれてございます。他方、二百海里の経済水域内において、母川国は規制を実施し得るわけでございますけれども、この場合においても、母川国以外の国において経済的混乱を引き起こすような場合はこの限りではないということで、従来の伝統的実績を持っている国の立場、特に経済的混乱を引き起こさないことを配慮しなければならないという規定が置かれております。  また、母川国は、こういうサケマス等の漁獲を行っている国の通常の漁獲高でありますとか操業の態様でありますとか操業の区域というものを考慮しまして、このような従来の伝統的漁業国の経済的混乱を最小限にするように協力しなければならないという規定も置かれております。  さらに、二百海里水域を越えるサケマス等に関する規制の実施は、母川国とそのほかの関連を有する国との間の協定、つまり合意によってでなければ実施してはならない、かような規定ぶりとなっているわけでございます。  このような規定ぶりをも考慮に入れまして、わが国としては、先ほど大臣が申されましたように、伝統的な実績を確保すべく最大限の努力を払っていく、こういうことでございます。
  141. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 そういたしますと、真っ向からこれば対立ですね。  もうすでに外務省としても現地からの報告も刻刻お入りになっていると思うのでありますが、いまソ連側が新しい協定の中に盛り込もうとしている第一項目は、午前中にも問題になりました母川国主義をぜひ認めてもらいたいという一項目がございますね。それを協定の中に盛り込もうという考え方があるわけでございましょう。その辺はもう全く妥協の余地がないのか、それとも新しいこちらの主張が通るという展望が開けるのか。これからの交渉の結果を待たなければならぬと言えばそれまでかもしれませんけれども、しかし、何かめどがなければその突破口というものは開けないのではあるまいかということを心配するわけです。
  142. 宮澤泰

    政府委員(宮澤泰君) ただいま現地で交渉中の問題でございますので細目にわたることは控えさしていただきたいと思いますが、元来、このサケマスの遡河性の母川国主義という思想は、ここ一、二年ではございませんで、ソ連は過去何年にもわたってそのような思想を抱懐しておったわけでございますので、五六年の漁業条約がただいまなお生きておりますが、この漁業条約のもとで日ソが漁業をやっておりましたその最中にも、ソ連側としてはそのような思想を持ち続けてきたわけでございます。  二百海里の趨勢が世界的になりまして、かつまた海洋法会議が開かれるに至りまして、ソ連はこのような主張を国際場裏で表立って始めたわけでございまして、ただいまソ連側との交渉におきましてソ連側がそのような思想をかなりはっきりとまず持ち出してきたことは事実でございますが、この点につきまして、現在、日本側は、ただいま条約局長から申しましたような、そういう立場からソ連側と折衝を続けておるわけでございますので、このソ連側立場を今回の取り決めの中で明文で認めるかどうか、こういうような点につきましては、なお今後の折衝の問題でございますし、ただいま話し合い中でございますので、これ以上は控えさしていただきたいと思います。
  143. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 控えなければならないことも当然だと思うのですが、大きな柱として、何か三つの項目に分けてソ連側が提起しようとしておることが伝えられているわけですね。  一番問題になりますのは、この第一項目のいま申し上げた母川国主義。それから第三項目の、これも御存じのとおり、特にソ連系と日本系が混在する海域におけるサケマスについては、合理的管理、これをやろうではないか、日ソの責任においてと。それはどういう訳文になっているか私わかりませんよ、その辺のやりとりの状況はですね。この合理的管理というのは、一体、大変抽象的な言い方なんですが、これもこれからの話し合いの推移ということによって一つの輪郭がはっきりしてくるんだろうと思うのですけれども、どういう形を一体合理的な管理と言えるのか。この辺でもまた新しい一つの難題というものを日本が背負わなければならない、そういう羽目に落ち込むんじゃないかなという懸念もないではない。第一項はいまお尋ねしました。こうした第三項目についての一つの見解と、これからの先行きの見通しというものをわれわれとしても知っておきたいという気持ちがありますので、それを含めて宮澤さんと園田さんから最後の締めくくりでお話をしていただきたい、こう思うわけです。
  144. 宮澤泰

    政府委員(宮澤泰君) ただいまおっしゃいました合理的管理という点等を含めまして、現在、日本代表団がソ連側の終局的に考えております点を確かめ、こちらの意見も述べまして、何らか一つの解決を見出すべく努力をしておりますのが現状でございますので、ただいまおっしゃいました合理的管理という点が果たしてどういう点でございますか、私ただいまそれを申し上げ得ませんけれども、先ほどおっしゃいましたように、サケ自体が旗を立てて泳いでおるわけでございませんので、日本系のサケマスも当然おるわけでございますから、いかにソ連側がその主権的権利を及ぼすと言いましても、日本系のものにまで及ぼすわけにまいらないわけで、ここに私どもの主張の根拠の一つもあるわけでございます。  こういう点を含めまして、それこそ先ほど最初に私が申し上げましたように、貴重な資源の持続的再生産を維持するにはどういうことが最も合理的であるか、こういう一つの数式を見つけることが交渉の目的であると思います。そういう点に立って努力をしておる現状でございます。
  145. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 大臣、もう一つ申し上げてからまとめて、限られた時間が来たようでありますので、お願いしたいと思いますが、いまの問題に触れて、昨年の暮れにも、協定締結に当たりまして大変問題になりました長期漁業協定ですね、これが結べるのかどうなのか。恐らく今回のサケマス話し合いに並行して、あるいはその話も持ち込まれているんではなかろうかと推察するわけでございます。これは日本の漁民にとっても多年待ち望んでいる事柄でもありますし、そういった長期漁業協定の見通しがあるのかどうなのか、今後のサケマスの問題に絡みまして、その展望と、こちらの確信ある解決の方向へ必ず交渉は向けられていくのかどうなのか、こうした点についてまとめてひとつお答えをいただければよろしいと思います。
  146. 園田直

    国務大臣園田直君) 先ほど言われた問題は、局長からすでに答弁いたしましたけれども、ソ連の方も、新聞に書いたように、全面禁止という強い線ではない、こう言っているわけです。したがいまして条約局長説明しました条約上の諸問題、国際環境、こういう点と、ソ連の言う母川主義、それから条約その他に基づいてわれわれが主張する実績、伝統、こういうものを含めて、わが方はわが方で混乱の起きない合理的な折衝をしたい、こういうことが主張でありまして、ただいま折衝中でありますけれども、その線を強く推していきたいと考えております。  長期協定の問題は、わが方では、このようにまとまりましたものを長期協定に持っていきたいということで折衝はしておりますものの、ソ連の方では、なかなかそれにはまだ乗ってこない、こういうことでありますが、あくまで日本側は長期協定の方向にこれを進めていきたい、こう思っております。
  147. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 可能性はいかがですか。
  148. 園田直

    国務大臣園田直君) まだいまのところは見通しを言える段階ではないと存じます。
  149. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 大変むずかしいということですね。
  150. 園田直

    国務大臣園田直君) なかなか大変ではあります。
  151. 立木洋

    ○立木洋君 大臣が今度の国会で所信を述べられた中で「朝鮮半島、中東、アフリカ等における緊張の継続は、国際政治の不安定要因になっている」ということを述べられました。  最初にお伺いしておきたいのは、この朝鮮半島の緊張の継続という点について、具体的に大臣としてはどのように判断をされておられるのか、その点についてお伺いしたいと思います。
  152. 園田直

    国務大臣園田直君) 朝鮮半島では、いろいろ言われておりますけれども、当面、予見する近い将来において朝鮮半島で大規模の紛争が起こるとは考えておりません。現実は御承知のとおりでございますが、日本としては、なるべく朝鮮半島で紛争が起こらず、逐次、話し合いで将来は統一される、こういうことを望んでおるわけでございます。
  153. 立木洋

    ○立木洋君 いままでも、朝鮮半島に対しては一日も早く緊張が緩和されるような事態を政府としても望んでおるということを繰り返し言っておられたわけですが、この点できわめて思わしくない事態があるんではないかということで、昨年の十一月、実は、私が韓国の防衛産業に日本の企業が協力しておるのではないかという疑惑の問題について質問をいたしました。  あれは韓国の昌原団地の中で大韓重機と言われる防衛産業、これは明確に韓国側がそのように述べておるわけですが、そこに対して日立製作所、東芝等が技術提携を行っている、この点について調査をお願いしたいということで、この点で韓国の商工部から回答があったということで先日もお伺いしたわけですが、委員会の席上で、その点、韓国の商工部からの回答なるものを説明していただきたいと思います。
  154. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 御指摘の点につきまして、この委員会で御質問がありまして、早速韓国の商工部に問い合わせました。そうしましたところ、いまの技術提携の件でございますけれども、韓国側では個別の企業の技術提携の内容についてまでは公表する立場にはない、こういうことであったわけです。  合弁企業の方は、これは日韓の合弁企業が実は軍需産業になっているのではないかというような御疑問に対する照会でございましたが、韓国としては、いわゆる指定されております軍需産業と個個の民間企業とのかかわり合いについて、具体的な事実関係というのは一切公表しないことになっている。しかし、一般論としては、韓国は自主国防というのを国是にしておりますので、外国との合弁企業が防衛産業に参加するということはないし、また、参加させないということにしている、こういう説明があったわけでございます。
  155. 立木洋

    ○立木洋君 韓国の商工部からのいわゆる回答について、政府としては、どういうふうに考えられるのかという点なんですが、先般も中江さんが、いま大韓重機の実情あるいは実態について確認を急いでいるという趣旨の答弁をされました。事実上、大韓重機というのは韓国が防衛産業であるということを公にしているわけですから、ところが、今回の回答では、大韓重機については全く触れていない。こういうふうな回答について、政府は、これで結構だというふうなお考えなのかどうなのか、その点重ねてお尋ねしておきたいと思います。
  156. 中江要介

    政府委員(中江要介君) 私どもの照会に対しまして、具体的に個々の企業について回答がなかった、したがって明快に解明することができなかったことは事実なんですけれども、他方、韓国が言っておりますように、韓国の立場からしてそういった個々の企業についての技術提携の具体的内容を公表しない、こういう政策をとっております以上、韓国政府を通じてこれ以上照会いたしましても、少し実態の把握がむずかしいのではないかという感じを持っております。
  157. 立木洋

    ○立木洋君 先般も、この点で中江さんが「まず第一義的には、当然、相手国の権限ある官庁の説明というものを聴取して、それをまず信頼するということでないと、二国間の関係というのはなかなか進まないと思います。」というふうに述べられた。ところが、その後に「しかし、」として「それにもかかわらず、何らか問題があるということであれば、またさらに調べる必要もあろうかと思います」というふうに述べられているわけですが、今日のこのような回答で、それで前段の「信頼する」ということかもしれませんけれども、しかし、これで問題は解決されていないと思うんですね。やっぱり大韓重機が防衛産業であるということが明確に韓国側で認められて、そこに技術提携が行われている事実としては依然として残っているわけですから、この点については、相手側のいわゆる昌原団地を防衛産業として視察派遣した委員会の議事録あるいはその報告内容、国会の議事録等もあるでしょうし、あるいは日本における企業等々から事実を確かめてみるとか、それらの方法というのは講じられるはずだと思いますが、そういう点についてはさらに調査をして、明らかにしておく必要があるんではないかと思いますが、いかがでしょうか。
  158. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま特にお取り上げになりました大韓重機につきましては、私どもがいままでに承知しておりますところでは、輸出プラントを承認いたしますとき、つまり具体的には昨年の十月ごろに大韓重機向けに特殊鋼製造プラントを輸出します際に、このプラントが民生用であるということについては確認を得ておりますし、当時、韓国の商工部からも、民生用のものである、造船とか鉄道車両のような民生用のものであるということを確認した経緯がございますので、それに付随する技術提携である限りは民生用というふうに考えていいんじゃないか、こういうふうに思います。  それ以外のものがあるかどうかにつきましては、これは先ほど申し上げましたように、韓国の方でそういう説明があり、それに対しましてわが方から権力をもって調査をする、韓国内でそういう強制的な調査権を行使するということができません以上、すぐに的確に実情を把握するということはなかなか困難ではないか、こういう感触でございます。
  159. 立木洋

    ○立木洋君 大臣、お聞きのような経過でありますけれども、朝鮮半島における緊張状態を何とか緩和しなければならないし、一日も早くそうなるように日本政府としては努力すると。先般もこの問題でお伺いしたときでも、いわゆるそういう防衛産業等々に直接かかわりがあるというふうなことは好ましくない趣旨のお話もありましたし、現実にそういう事態になっておる疑惑がある状態のもとでは、この問題についてやはり積極的に、何も権力を行使して韓国内を調べろというふうな問題ではなくて、可能な限りの調査をやって、そういう疑惑が疑惑であるならば、それはそれでいいわけですから、それを晴らしていく、問題があるならば、問題があるような措置をするというふうな必要があるんではないかと思うんですが、この点、この問題について大臣のお考えをお伺いしておきたいと思います。
  160. 園田直

    国務大臣園田直君) 外国における企業の実態について強制的な調査権を発動し得ないことは御承知のとおりであります。したがって、おのずからその把握には限界があるわけでありますが、また一方、緊張緩和という点については、南北両方に対してわれわれはそれをしなけりゃならぬわけでありますが、南の方だけわかっておって、北の方は全然皆目わからない、こういう点でございますので、その調査、実態の把握には非常に苦労しておる、こういうことでございます。
  161. 立木洋

    ○立木洋君 ただいまの答弁、大変私にとっては不満でありますけれども、次の問題がありますので、改めてこの問題については次の機会に譲りたいと思います。  次に、先日も問題になりましたけれども、十四日に日韓外相会談が行われた。その際の新聞の報道によりますと、最近の金大中氏の釈放の動きについて意見が交わされたかのような新聞報道がございましたが、このような問題については外相会談の席上で話し合いが行われたのかどうなのか、行われたとしたら、どういうふうな話し合いだったのか、その点について。
  162. 園田直

    国務大臣園田直君) 金大中事件も話題になりました。しかし、これは両方とも、町方から外部に話さない、こういう約束でございますから、その話の内容を申し上げるわけにはまいりません。
  163. 立木洋

    ○立木洋君 話し合いはされたけれども、その内容については述べられないということですから、それ以上その内容についてはあれしませんけれども、この点について、いわゆる一九七三年十一月二日に外交決着がなされた。このこと自体私たちは反対をして、捜査を明らかにして、原状回復等等いままでも繰り返し問題にしてきたわけですが、あの際におけるいわゆる了解事項といいますか、金大中氏の自由の問題、それからそれまでの発言に対する責任を問わない等々の問題については、今日では、あの了解と言われるものはそのまま生きているわけですか、どうなっているんですか。
  164. 中江要介

    政府委員(中江要介君) その点は、韓国政府はこれに触れて、あの了解はそのまま生きておるし、韓国政府は一度お約束したことは守ることには間違いがありませんということを繰り返しております。
  165. 立木洋

    ○立木洋君 それで、先般も、金大中氏が釈放されるかというふうな報道もありまして、その後、若干延期されたかのようなまた重ねて報道もありました。この間の委員会の中江さんのお話では、一般的に人権問題について緩和の方向が示されておるというように承知しておるというふうなお話もありました。  遠からず、これほど国際的な世論も高まっている状況の中で、金大中氏が釈放されるということも現実の問題になるかと思いますが、その際、日本政府としては、金大中氏の原状回復の問題について、金大中氏が自由になった場合、何らかの意思表示を行うお考えがございますか。
  166. 中江要介

    政府委員(中江要介君) まず、金大中氏が釈放になって自由の身になるかならないかという問題については、いまのところは、うわさはいろいろございますけれども、確たる見通しも情報もございませんので、それを前提としてどうするかということは、申し上げるのは適当でないというふうに思います。  しかし、他方、金大中氏の原状回復を要求するかという御質問でございますれば、これは金大中氏が釈放されるとされないとにかかわらず、原状回復を権利として韓国に要求するというためには、少なくとも公権力の行使について確たる証拠が挙がらなければできない話であるということは、累次、御説明申し上げてきたとおりでございますし、その考え方にはいまも変わりありませんので、金大中氏の原状回復という問題は、これは外交的決着の了解の中にも含まれていない。外交的決着の了解は、御承知のように、一般韓国人と同様に出国を含めて自由というところでとどまっておるわけでございまして、原状回復を国際法上の権利として要求するためには、その前提として、わが国における韓国の公権力の行使ということが明確な証拠をもって明らかにならなければだめだと、この考えは一貫しておるわけでございます。
  167. 立木洋

    ○立木洋君 昨年の七月、この問題について中江さんが答弁されたのを見てみますと、金大中氏の原状回復ということが方々で要望され、また議論されていることは事実でございますし、私どももそのことを全く無視しているわけではございません、という趣旨の答弁がございました。  金大中氏が釈放されて、訪日したいというふうになった場合には、日本政府としては、それは何ら問題がないわけですね。
  168. 中江要介

    政府委員(中江要介君) これは全く仮定の問題ですので、そういう抽象的な仮定の問題としてとらえますと、自由な韓国人が日本に来るというときには、これは一般韓国人の来日という手続がございますから、韓国政府の決めております手続に従って日本に来ることの手続を始められると思います。そのときに、先ほど申し上げました了解では、一般韓国人と同様に自由ということですから、一般韓国人と同じように恐らく旅券を発給し、これに日本の査証を求め、そして渡航してくる、こういう手続になろうかと思います。で、日本としては、通常の韓国人の来日のときと同じ手続をするということになろうかと、こう思います。
  169. 立木洋

    ○立木洋君 警察庁に。  前回の委員会でもちょっと問題になりましたけれども、いままで金大中事件の問題について、警察の方々のお話によれば、金東雲の問題に関しては全く金大中事件に関与していなかったということではないだろう、関与していただろうというふうなことがほぼ確定的なお話がありましたし、捜査の常道から言うならば、被害者から話を聞く、事情を聴取するというのが本来のあり方だと思うんですね。だけれども、先般のお話では、三井さんの話によりますと、結局、あの当時日本にもちんいなかったと。いて、聞けるような事情があれば聞いたかもしれないけれども、というふうなお話がありましたけれども、このような考え方には間違いございませんか。
  170. 城内康光

    説明員(城内康光君) 金東雲についての御質問でございますが、繰り返し申し上げておりますように、金東雲は金大中氏をホテルから連行した犯人グループの一人であるというふうに私どもは考えておるわけでございます。  それから、さらに、私どもが現場付近の証言あるいは指紋などを総合いたしまして、九月五日に外交ルートを通じて同人の出頭方を要請したわけでございますが、外交慣例を理由にこれが拒否されたわけでございます。さらに申し上げれば、それに先立って金東雲は八月十九日に日本を出国しておって日本にいなかった、こういうことでございます。
  171. 立木洋

    ○立木洋君 金大中氏の問題についてはどうですか。
  172. 城内康光

    説明員(城内康光君) 釈放されるということがあるというようなことを報道では承知しておりますが、私ども、その真偽のほどはわからないわけでございます。  仮に釈放されたらどうかと。これは実は仮定の問題でございまして、どういう状況に置かれるのか全くわかりませんので申し上げにくいわけでございますが、せっかくの御質問ですのでお答えいたしますと、仮に釈放になったといたしましても、同氏からの事情聴取は、日本国内において行うのが捜査の常道であろうというふうに考えております。
  173. 立木洋

    ○立木洋君 その点なんですけれども、ですから、警察側としては、金大中氏が自由になったと——一般の韓国人と同様に旅券をもらって日本に来ることも可能になるということが先ほどの中江さんのあれで確認された。そうすると、自由になった場合に、たとえば警察当局としては、金大中氏に、私たち調査に協力してほしいので日本においでいただけるかどうかということを金大中氏自身に伝えるような意思はおありですか、どうですか。
  174. 城内康光

    説明員(城内康光君) 金大中氏は被害者でございますので、来日された場合、その協力を求めるということは事件の解明のために必要なことであろうというふうに考えておりますが、ただ、それを実現するために警察として何かするかということでございますが、すでに金東雲の問題につきまして昭和五十年の十月から十一月にかけまして同人の来日方について韓国側に要請をした。しかし、そういうわけにはまいらないというようなことで、結局、実現しなかったという経緯もございまして、そういう経緯にかんがみれば、私どもとして特に何かをするというようなことは考えておらないわけでございます。
  175. 立木洋

    ○立木洋君 そうしたら、金大中氏が自由になって、本人の意思で日本に来たというふうな場合には、警察当局としては、金大中氏に御協力を願うというふうなことはあり得るわけですね、いろいろ事情を聞くと。
  176. 城内康光

    説明員(城内康光君) 金大中氏が来日されるようなことが将来にあった場合に、先ほど申し上げましたように、事件解明のためには御本人の協力を求めたいというふうに考えております。
  177. 立木洋

    ○立木洋君 大臣、その点なんですけどね、いわゆる一九七三年十一月二日に第一次の外交決着をつけて、七五年の七月二十二日ですか、その後、さらに宮澤さんとの間で政治決着がつけられた。こういう経過の中で、いまの警察当局のお話もお聞き及びのように、あのような政治決着が、現在でも、大臣としては現時点に立ってあれは一〇〇%正しかったんだというふうにお考えになっておるのかどうか、あるいはあの時期でやむを得ないというふうにお考えになっておるのか、いまの判断としてはいかがですか。
  178. 園田直

    国務大臣園田直君) 外交的には決着済みであるというもう既定の事実でございますから、いまの立場では、これが正しいと、こう思います。  ただし、今後、捜査当局の捜査の結果、韓国側による公権力行使が明白に裏づけられた証拠が出た場合には、これはまた別でございます。
  179. 立木洋

    ○立木洋君 いや、大臣、ある意味では決着は出ているんですよ、結論が。金東雲氏はもう犯人の一人であるといって警察当局は断定しているんですよ。あの政治決着というのは、あれは金東雲はシロだと、韓国内でいろいろ事情を調べてみたけれども、シロだと。大臣としては、韓国の言い分を尊重されるのか、日本警察の捜査された結果を尊重されるのか。全く違った結論が出ているんですよね、その時点で行われたのが政治決着なんですよ。だから、私はやむを得ないというふうに言われるかと思ったら、正しいと言われたから、これは大変に心外なんですけれどもね。やむを得ないと言われたって、それでも私は満足はしませんけれども。その点、はっきりしておいてください。
  180. 中江要介

    政府委員(中江要介君) いま立木先生の御引用になりました昭和四十八年十一月二日の外交的決着、これは繰り返し申しておりますように、この外交的決着の中では、日本の捜査当局の御努力の結果、少なくとも金東雲元一等書記官については犯罪に参加した容疑が濃厚であるということで、韓国側に、本人はすでに韓国に行っておりましたから、これについては韓国側で捜査を継続してその結果を知らせてもらいたい、日本としては非常に濃い容疑を持っているんだということをはっきりした上でそういう外交的決着をいたしたわけですから、この四十八年十一月二日の段階で、金東雲一等書記官についての容疑についてもうこれ以上何もしないということを決めたわけではないわけです。  したがいまして、その後、日本政府は、この外交的決着の中の金東雲一等書記官に関する韓国側の捜査結果というものを再三要求したわけです、御承知のとおりです。そして、その翌年の八月の十四日に一応の捜査の結果が韓国側から寄せられましたけれども、これは日本としては、日本の捜査当局の捜査の結果とは余りにもかけ離れている、満足できないということで突き返しまして、さらに捜査を継続してもらいたいということをその年の十月に申し入れたわけです。韓国側では、一応結論は出ているけれども、日本側でさらにそういう要請があったので、ひそかに金東雲一等書記官の容疑について捜査を継続してみた。そして、その結果が昭和五十年の七月二十二日の例の口上書によって、さらにひそかに捜査を継続したけれども、金東雲一等書記官を起訴するに足るだけのものは出てこなかった、したがって不起訴処分にした、しかし、本人が日韓両国のいろいろの関係に及ぼしたその影響にかんがみて、本人を完全に公務員の地位を剥奪して処分をしたということを言ってきたわけです。  当時、日本政府の当時の宮澤外務大臣も国会でおっしゃっておりますが、日本政府としては、韓国政府としてそこまで捜査をして、その結果がわが方の捜査当局がそうではあるまいかと思ったものと完全に一致しなかった点ではまだまだ、それで十分満足ができるというわけではないけれども、しかし、韓国側のそういう通報にかんがみて、一応、これでけじめをつけたものとして評価せざるを得ないという形で、七月二十二日の口上書をもって金東雲一等書記官についての韓国側の捜査報告というものにわが方で一応の評価を与えたということでとどまっている、これが実情だというふうに思います。
  181. 立木洋

    ○立木洋君 それを評価できないんです。  それは、大臣、アメリカでは、朴東宣という人が米国の議員を買収したという問題が大きな問題になりましたね。あのいろいろな調査に関してもアメリカは大変な外交努力を重ねて、事実上調査をできるような事態にまでこぎつけたわけでしょう。ところが、日本の場合には、もう日本の警察当局が犯人の一人だとほぼ断定しているわけですよ、間違いないだろうと。本当外交努力を重ねて、いわゆる努力をして事態を究明するという努力をやっぱりもっとすべきだ。そうではなくて、韓国側が問題がございません、起訴する証拠まで挙がらなかったといって事実上シロとするというふうな事態で政治決着をつけたということ、これを朴東宣に対するアメリカ外交姿勢の問題と対比して、大臣はどのようにお考えですか。
  182. 園田直

    国務大臣園田直君) 金大中事件に対するわが当局の捜査が決着いたしまして、これが韓国側による公権力の行使になるかならぬかということが明白になった場合に、この外交決着をどうするかということでありまして、現在のところでは、まだそういう立場にはなっておらぬということです。
  183. 立木洋

    ○立木洋君 それで、時間がなくなってきましたから最後の方に入るわけですが、先ほど城内さんが言われた点で、金大中氏が来日するというふうな事態があったら事情聴取をしてみたいというふうなこともあった。先般の国会での答弁でも、この問題に関しては重大な事実が判明したり、あるいは新たな事態が起こった場合には、外交決着は再検討するという趣旨の答弁も政府側からあったわけですね。  ですから、新たな事態がわかるか、新たな証拠が挙がるかどうかということは、まず被害者である本人から事情を聞くというのが捜査の常道であるということも言われているわけですし、だから、当然、金大中氏が自由になった場合には、日本政府としては金大中氏の来日を求めるというぐらいのことは少なくともすべきだと思いますけれども、その点はいかがですか。
  184. 中江要介

    政府委員(中江要介君) まず第一義的には、これは捜査の問題でございますので、捜査当局と相談しながら、外務省としては外交的に必要な措置があれば、これを講じていくということでございますが、その場合に、先ほど大臣も言われましたように、日本政府としては外交的決着をつけて、残っている部分は二つの点、その中の一つは金東雲の容疑について、口上書によって日本としても一応のけじめをつけたということでありますから、あとは金大中氏が一般韓国人として出国を含めて自由であるかどうかという点にしぼられておるわけでございますから、捜査の問題について、いま外交的な行動を起こすということは、これは先ほど来大臣も申しておられますように、いまの状況では行うことは考えていない、こういうことでございます。
  185. 立木洋

    ○立木洋君 じゃ最後に、大臣ね、いまの状況では考えられないというのが中江さんのいまの答弁でしたけれども、先ほど来問題になってきていますように、いわゆる人権に関する問題では緩和の方向に向かっているというふうなことは政府側としても述べられておるし、そうすると、外相会談で一体何が話されたかということはますます問題になってくるわけですよ。日本政府としては、明確な姿勢をとるためにも、金大中氏が自由になったならば、来日を求めるというぐらいなことは当然行うべきだと思いますが、重ねてその点、大臣に——いまではないです、自由になったとき。
  186. 園田直

    国務大臣園田直君) 仮定の事実でありますが、そのような場合には、捜査当局と相談して、捜査当局の要求によって行います。     —————————————
  187. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) この際、牛場国務大臣から発言を求められておりまするので、これを許します。牛場大臣。
  188. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 昨年の九月以来、日米間で経済問題に対する協議が行われておりまして、去る一月の十二日及び十三日の協議によりましてこれに決着をつけまして、日米の共同声明というものを発表いたしました。その経緯につきまして簡単に御報告申し上げます。  この共同声明の趣旨は、日米両国が、共通する目的、つまりインフレなき、できるだけ高度の成長、保護主義の防遏、それからさらに日本の非常に大きな経常収支の黒字の削減、こういうような目的につきまして、これを達成するためにおのおのいかなる施策をとるかということを通報し合ったというのがこの共同声明の主なる趣旨でございます。もちろん、日米間でいろいろ意見の交換がございまして、お互いに注文はつけ合いましたけれども、最終的に発表いたしましたものは、これは日本及びアメリカが、それぞれ独自の立場からとる政策をお互いに通報し合ったという趣旨でございます。  この共通目的達成のために、日本といたしましては、大体七%程度の高度の経済成長を目指す、これは明年度についてでございますが。それから経常収支の黒字を漸次削減いたしまして、これをなるべく早い機会に均衡まで持ってまいる。そうしてその間に赤字が出ることがあっても、それに対してそれは回避しない、こういうことを声明したわけでございます。アメリカの方は、この問題に関しまして、アメリカとしては輸出の振興に一層努力をする。それからまた、ドルのよってもって立つ基盤を強化するために、国際収支の改善に力を用いて、なかんずく石油の輸入に関してこれを抑制するように努力をする、そうして今後九十日間にエネルギー法案の国会通過を図るということを申したわけでございます。  これがいわゆるマクロの問題でございまして、そのほかにもう一つマクロの問題としまして、日本の製品輸入の拡大という問題がございます。これにつきまして、当初、一定の目標を一定の期間内に達成できないかという話もあったわけでございますけれども、この点は自由経済のもとにおいては不可能であるということで、できるだけ努力をする。そうしてそれが達成できるように日米間において常時協議をいたしていこうということが決まったわけでございます。  そのほか、この共同声明の中におきましては、日本のとる措置につきまして、相当詳細な記述がございます。これはいずれもアメリカに対して約束したということではございません。世界的な意味で、いわゆるグローバルに日本としてこういう政策をとるということを宣明したということなんでございまして、たとえば関税の前倒しの問題、これは御承知のとおり、目下ジュネーブにおいて進行中の東京ラウンドにおきましていずれ関税の引き下げが多角的に決まるわけでございます。その決定に先立ちまして、日本が一方的に若干の品物について関税の引き下げを行うということを宣明したわけでございます。そのほか数個の品目につきまして自由化ということも声明いたしました。  また、特に、いま世界的に非常に注目を浴びております日本の国内市場の開放という点につきまして、輸入手続の簡素化でありますとか、あるいは輸入金融の緩和、ないしは為替管理の緩和、それから政府調達の面におきまして外国企業の参入を認めるようにするというような点、これらはいずれも日本側の措置として共同声明において明らかにしている次第でございます。  そのほかに、日米間だけで合意した点も若干あるわけでございまして、たとえばアメリカに対して、できるだけ早い機会に買い付けミッションを派遣するという話でございますとか、木材に関してやはりこれもミッションを交換するというようなこと。ないしは昨年の九月に第一回を行いましたいわゆる高級官吏会合というもの、これをことしの夏前に第二回を行うということ。さらに十月には、ストラウス氏と私とがもう一遍会おうというようなことを決めておりまして、いま申しましたうちの後の二つは、これは結局、共同声明において目標として掲げられていることが今後いかに達成されていくか、それをお互いにフォローして確かめ合おうという趣旨なんでございます。  この共同声明の性質は、したがいまして日米間の昨年の九月に始まりました協議に一応の終止符を打ったということでございます。しかし、これはあくまでもそれだけの意味を持っているわけでございまして、日米の問題はこれで全部片づいたわけではもちろんございません。この次の段階としまして、日米間の問題が討議されますのは、多くのものが論議されますのが恐らくガットの東京ラウンドの交渉ということになると思いますし、それ以外においても、日米の間におきましてバイラテラルに、双務的に話があることは、これは当然予期されるわけでございます。  そうして掲げました目標のうちで、一番アメリカのみならず世界的にも注目していると思われますのが、日本の経常収支の削減という問題でございまして、これがいかにして実現されるかということを恐らくこれはアメリカのみならず世界も注視しているところではないか。これにつきましては、アメリカ内部におきましてもこれを厳しくウォッチ、注視していこうという動きもございます。また、多角的な場では、たとえばOECDの会議でありますとか、あるいは先進国間の首脳会議、これは七月にボンで開かれるはずになっておりますが、そういうような機会にまた論議の対象になるということ、これは当然予期しなければならないところであろうと思うのであります。他方、また、アメリカのとりますエネルギー節約の措置でありますとか、あるいはエネルギー法案の成立を図るというような約束、これはこれとしてまた両国間におきましても、また世界的にも、注視の的となるということではないかと思うのでございます。  以上が、大体、日米の間の話し合いに対する御報告でございます。  引き続きまして、日本とヨーロッパ共同体との間でもって現在話し合いが行われておる次第でございまして、これはなお進行中でございますので全貌を申し上げるわけにはいかないと存じますが、大体の筋道といたしましては、ヨーロッパ共同体側におきましては、今回の日米の協議の成果、もちろんこれは一応評価しているわけでございますけれども、これが日本アメリカだけの話し合いでもって行われた点に少なからず抵抗を感じておるようであります。これに対して、私どもの方といたしましては、日米の共同声明の成果というものは、これはすべて一般的、グローバルなものであって、決してヨーロッパを差別待遇しているものではない。また、現に、たとえば関税の前倒しにいたしましても、内容をごらんになれば、ヨーロッパの利益をむしろ日本としては重視しているということがわかるではないかということを申しておるのでございますが、先方としましては、やはり何かヨーロッパの委員会との間におきましても、アメリカとの間で行ったような協議を日本がやってくれることを非常に希望しており、また、それに引き続いて恐らく一種の共同声明みたいなものの発表も期待しているのではないかと思われる節があるわけでございます。  そこで、ヨーロッパの委員会の方からは、最近の外相理事会、これは二月の初めに行われたわけでございますが、その結果、共同体の委員長のジェンキンズ氏から総理あての手紙が参りました。それからまた、ヨーロッパの首脳会議の議長を務めておりますデンマークの首相から総理あての手紙が参っておりまして、いずれも日本とECとの間において経済問題に関する協議を行いたいという趣旨のものでございます。そしてそれをぜひ成功裏に終結せしめたい。そのために、すでにECの方からは一人局長級の人が参りまして、わが方と協議をして帰りました。来月の半ばごろには、今度は次官級の人が参ることになっておりまして、わが方と協議を重ねて、その結果うまくいく見通しがつけば、向こうの副委員長でありますハフェルカンプという人が東京へ来る、来月の末にはそういう運びにいたしたいということでございます。ECの方は、四月七日、八日に首脳会議を予定しておりまして、その首脳会議に対して報告をしたいということのようであります。  これに対しまして、もちろん、われわれとしてできるだけの努力をして、彼らの正当な要求は入れるつもりでやっておるのでございますけれども、何分にも対米協議の際に、先ほど申しましたように、グローバルな立場からわが方のやれることはほとんど全部やってしまったという関係もありますので、さらにヨーロッパに対して、この際、ことにガットの交渉が行われている際に、追加的な措置をとるということはなかなかむずかしい次第なんでございます。  ヨーロッパが特に問題にしておりますのは、ヨーロッパと日本との間の貿易が非常に片貿易になっている、日本の輸出超過になっていることなんでございますが、この点は確かに数字的にはそうなっておるわけでありますけれども、さて、それでは、ヨーロッパから日本に輸出できるものが非常にあるかと申しますと、これは先方の努力いかんにもよるところが非常に多いのでありますけれども、なかなかいまのところ見通しがつきにくい。しかし、先方としては、ことしの夏ぐらいまでにはぜひ貿易の基調が変わったということを示してもらいたい、こういうような希望があるわけでございまして、困難な交渉でございますけれども、できるだけわれわれとしましてもヨーロッパ側との関係をよくしていきたいわけでございますから、日米欧、この三者の関係を強化するという点から申しましても、日本とヨーロッパとの関係を強くすることは非常に必要でありますので、総理からも、そういう趣旨でジェンキンズ委員長及びデンマークの首相に返事が出ております。また、この二十七日には、デンマークの外務大臣がわざわざこの問題のために日本へ参られるということで、先方としても、決して日本と事を構えるというんじゃなくて、日本との関係をよくする意味において大いに努力をしたいということでございますので、そういう精神におきまして、われわれもこの協議を続けてまいりたいと思っておる次第でございます。  はなはだ簡単でございますが、以上で報告を終わります。
  189. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 引き続き、本調査に関し、質疑を行います。
  190. 戸叶武

    ○戸叶武君 牛場さんがアメリカとヨーロッパを回っている間に、日本の景気は幾らか上向いてくるかと思ったが、これは世界の中の日本であってグローバルな形において日本の景気対策も考えられなければならないと言われているが、福田さんのもとにおいては湿っぽくてなかなかそういう空気が盛り上がらなかったのであります。  それにもかかわらず、福田さんはデノミなんという放言を——それは景気が上向いて若干の安定ができたときに四年なり五年なりを目指してデノミということも考えられるが、フランスでドゴールがやったような形をそのまま日本に持ってくることもできないのではないかと思いますが、あなたがアメリカ及びEC諸国で受けとめた、景気回復に対してアメリカはもちろん自分もやろうと思っているんでしょうが、西ドイツと日本に期待しているような期待が西ドイツなり日本において実現可能かどうか、それはどういうふうに受けとめてまいりましたか。
  191. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) アメリカ考え方でございますけれども、アメリカは、御承知のとおり、依然として日本及びドイツが世界景気を引っ張り上げるために機関車的役割りを果たしてくれという感じを持っていることを私は感じたわけでございます。  そのうちの日本につきましては、一番大事なのはやはり日本の経常収支の黒字を減らすことだということでございまして、そのためには相当高度の経済成長が必要じゃないか、これは前から言っておったところでございますけれども、結局、七%という数字が出まして、これにつきましてはアメリカの中でもいろいろ評価がございまして、シュトラウス氏自身も、自分も七%が達成できるかどうかということはわからない。しかし、福田総理は達成できると言っておられるし、また、こういう高い目標を掲げること自体が、そういう目標を掲げなかったときよりは、日本の経済成長を高くする効果はあるだろう、こういうことを、この間、上院の公聴会で申しておりました。したがいまして日本につきましては相当高い期待を持っておると存じますし、また、こういう問題に必要なのは政治的な意思であるということを申しておりまして、その政治的意思を福田総理は十分に持っておられるんだということを申しておりますので、その点につきましては、相当な信頼を置いておるという感じがいたした次第でございます。  ヨーロッパにおきましては、これは各国いろいろ話が違っておりましたけれども、たとえばイギリスでございますけれども、イギリスあたりでは、七%達成は、いまの日本のやろうとしている措置ではまだ不十分じゃないのかという感じを大蔵大臣あたりは申しておりました。これはどういう措置をとれということを言ったわけじゃないんですけれども、いまのままだと七%はむずかしいんじゃないかということを申しておったような次第でございますが、ヨーロッパにおきましても、しかし、日本の黒字の削減ということに非常に大きなウエートを置いて考えていることが認められた次第でございます。
  192. 戸叶武

    ○戸叶武君 アメリカ日本と西ドイツの置かれている立場は若干違うんじゃないかと思うのですが、福田さんも、第一次世界大戦後における一九二三年と四八年のインフレーションによってヨーロッパが揺すぶられた時代の苦い経験を、イギリスにおって、ドイツの体験なりフランスの体験も見ておるから、インフレというものには非常に警戒性が強かった人でありますが、この景気刺激政策、リフレーションという問題を問題にするとドイツで政治家は必ず落選すると言われるほど、あのインフレの悪夢というものはドイツでもフランスでもイギリスでも消しとめることのできない印象を深く持っていると思うんです。  で、この七%の問題でありますが、西欧諸国とアメリカと七%を約束したからといって、アメリカはそれを約束したんだから日本はやらざるを得ないだろうという形に締めつけておりますけれども、西ドイツでも、どこの国でも、七%は無理だと見ているのが常識ではないかと思うんです。それにもかかわらず、それをやり抜いていくというのは、日本がそれをやり抜けるという根拠をあなたはどういうふうに見ておりますか。また、諸外国は、その問題をめぐってどのような観察をしておりますか。
  193. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) いま日本が約束したというお話でございましたが、これはそうじゃないんでございまして、先ほど申しましたように、経済成長の問題というのは各国が独自に決めるべきもので、もちろんその決める過程においていろいろ注文も聞き論議もするわけでございますけれども、決定はあくまで当該国がやるんだということは、これは私どもも方々で言ってまいりましたし、その点につきましては諸外国において何も誤解はないと思うんであります。  それから七%達成の手段としまして、これは私の権限外のことにわたるんでございますけれども、今度は、全く国内経済の拡大によってこれを達成する、対外援助に一切頼らないということを申しました。その国内経済拡大の手段としては、財政手段によるほかないんだ、主として財政によるほかないんだと。そのために、たとえば予算の赤字を三割以内にとどめるというようなことを今度は一時的に放棄して、三七%までの赤字ファイナンシングを認めていくんだということで、非常な決意でやるんだということを申しまして、この点は、各国において相当深く認められると私は思っております。  それから、また、日本のインフレの危険につきましては、現在のように非常に生産力が余っておりますし、労働力の点においても決して詰まっておらないという状況では、相当程度財政の赤字が出ても、インフレの危険はないんではないかということで、この点はドイツ等におきましても別に疑問は出なかったというのが実情でございます。
  194. 戸叶武

    ○戸叶武君 ドイツの方では、先進国会議で五%の成長率を約束したが、一九七七年の実際の成長率は二・五%にすぎなかった、したがって一九七八年の成長目標は三・五%程度であるということを打ち出しております。これも約束でなく努力目標ということになっておりますが、西ドイツの努力目標をそれほど低いところで抑えているのに、日本が七%と強気で出していった根拠は、西ドイツと日本との違いはどこにあるんでしょうか。
  195. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これは私の私見でございますけれども、日本にとりましては、やはりこの経常収支の黒字を削減するということが非常に必要なわけでございまして、そうでないというと、円に対する押し上げる力が非常に強くなりまして、国内経済面におきましても国際的にも非常に困るということがございます。それをやるためには、どうしでも相当程度高い経済成長が必要である。これはまた日本のいまの景気の状況から申しましても、そういうことが必要ではないかということで、対外的な考慮もございますけれども、これは全く日本自体の必要から考えての政策であると存ずる次第でございます。  ドイツは、これはその点ちょっと日本と違っておりまして、三・五%と言っておりますけれども、これはドイツ人に言わせますと、去年のげたが非常に低いものですから、ことしの初めから終わりの間をとってみると四・五ないし五%の成長になる、この点で十分世界の景気回復には貢献できるんだ、こういう説明もしておるようでございます。
  196. 戸叶武

    ○戸叶武君 西ドイツで、二十年ほど前に、農業基本法をつくったときの経済政策の根底にあったのは、アデナウアーの世界観とエアハルトの世界観の相違からきているのであって、エアハルトは日本の池田さんなり下村治君たちのような高度経済成長政策によってドイツの繁栄をもたらす、ドイツの経済的奇跡をもたらすというような形でかなり暴走したのでありますが、苦労人のアデナウアーは、成長率が高く所得が高い第二次、第三次産業よりも、成長率が低く所得が低いところの第一次産業としての農業を、農家の収入をアンバランスな状態に置くのでなく、国の責任において成長率あるいは所得の調整を行っていかなけりゃならないというところに、西ドイツ農業基本法が農畜産物の価格の調整に重点を置いたんです。  日本では逆です。とにかく安上がり農政をやって、どうやって擬足に金を渡さないで農民を死なせないようにやっと生きる程度にして、国際分業の中へ追い込もうというふうに、農村の労働力を重化学工業の方に引き出していこうというような考え方を持って、米だけの支持価格にしぼって、畜産その他の農家における生産に従事しなければならないタバコやあるいは麦、ソバ、豆、こんなものをつくったんじゃ農家収入がないように追い込んでしまって、いまのような農業の食糧自給が困難なようなところに追い込み、また、それをさらに減反政策で追い込もうというところに来ているんです。  あなたは、アメリカからの通信によると、アメリカ中間選挙を目指しての農村を背景とした国会議員諸君の日本に対する要求に対して、日本の農民をかなり弁護する立場から日本の実情を訴えていたようでありますが、どうも青嵐会あたりの農村背景の議員というのは、国内じゃすさまじい勢いを持っているのだが、アメリカへ行っちゃぺしゃんこになってきたようですが、その間の違いはどういうところにあるんでしょうか。
  197. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) どうもこれは私からお答えするのははなはだむずかしいんでございますけれども、日本の農業の保護が必要だということにつきましては、これは私どももちろんそう思っておりますし、世界的にも問題ないと思うのです。  ただ、問題にされておりますのは、いま要するに日本の農業保護が、これは間違っている点も多いと思いますけれども、非常に多くの面におきまして輸入制限に頼っておる、そしてその結果としまして消費者は非常に高い食べ物を食べなければならないようになっている。これはどうも少し不合理じゃないかという考え方が、これはいま相当世界的に牛肉なんかは一つの例としまして、あるわけでございまして、したがいまして、私どもは、もちろん日本の農業の困難な点は十分できるだけ説明もしておったわけでございますけれども、これは単に日米関係というだけではございませんで、これからのガットの交渉等におきましても常に問題にされるところでありまして、こういう点で、農業あるいは農民に対する保護は減らさないで、それと同時に、しかし、消費者に対しても安い輸入の利益を、全部でないまでも、相当部分は与えるというようなシステムはないものか、これがこれから先の私はポイントじゃないかと、これは全く私見でございますけれども、考えておる次第でございます。
  198. 戸叶武

    ○戸叶武君 私は牛場さんにお世辞を言うんじゃないけれども、わりあいに人柄がいいから得なところもあるんでしょうが、本当のことをアメリカ側にも言ってきたと思うのです。  いままでの日本の外務官僚なんかというのは、アメリカのことになるとしびれちゃうのか何かからっきしだめですが、たとえば、あなたが、日本の黒字減らしの問題、それからアメリカにおける赤字の問題に対しても具体的データを示して、アメリカの赤字は石油を買い過ぎるせいじゃないか、あの石油が赤字の三分の二は占めておるのであって、日本との貿易による赤字だけがアメリカの赤字をつくっているのでないから、アメリカはよけいな、よけいなというか、あなたはもっと上品に言ったようだが、とにかく余りたくさん石油を買わないで、自分で赤字にならないようにアメリカ側も調整してしかるべきだというようなことをぬけぬけと言っても、あなただと素通りしたようですが、その反響はどうでしたか。
  199. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) アメリカの国際収支の赤字は、少なくとも半分以上は石油の輸入で起こっているんだということは、これはアメリカ自身もよく知っているところでございまして、また、この調子でいっちゃ困る、これはやはり何とか抑えなければならぬという気持ちもみんな持っている次第でございまして、ただ、彼らが一番困っておりますのは、カーター大統領のエネルギー法案というものがなかなか議会を通らない。いまでもまだはっきりした見通しがないというような状況で、これが通らないと、政府としてエネルギー消費抑制のいろいろな措置がとれないといういま立場にあるわけでございまして、その点は、われわれとしても考えてやらなければならない。しかし、それはそれとして、やはり石油の輸入はぜひ抑制してもらわなければ困るということを申しまして、先方も二、三の責任者がことしは去年以上の石油を輸入しないということをはっきり申しているような状況でございます。  それから、この日米の共同声明におきましても、さっき申しましたとおり、石油の輸入抑制については一層努力をし、かつエネルギー法案の通過を図るということを申しており、この点は、向こうはきわめて素直に受け入れておったと存じます。
  200. 戸叶武

    ○戸叶武君 西ドイツのラムスドルフ経済相が、ニューズウイークのインタビューの中においても、米国の石油輸入、四百五十万ドルもの輸入が赤字の原因だから、その辺の問題をやはりアメリカは自主的に片づける必要があるというような主張をやっておりますが、これはいち早くあなたの方がアメリカにこの問題点を提示したのですが、その大統領のエネルギー法案というものは、エネルギーを節約する法案と思うのですが、これは消費者が協力しないのか、それともアメリカ政治を支配しているメジャーがこれに承服しないのか、どちらに問題があるとあなたは見ておりますか。
  201. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) この問題は、現在、アメリカの上下両院の合同委員会で論議されたところでございまして、大体、私の知っている範囲、あるいは間違っているかもしれませんけれども、二つ問題がございまして、一つは、天然ガスの価格統制をすぐ外すか、あるいはずっと価格統制を続けていくかという問題。もう一つは、今後アメリカの国内の石油の値段をだんだん上げていかなければなりませんので、その際に生ずる、主としてこれはメジャーが得るところの利益でございますね、これを全部税金で取り上げて政府が使うか、あるいはメジャーの手に残して、メジャーをして新資源の開発その他に使わせるか、この二つの点が大きな争点になっておりまして、アメリカは、御承知のとおり、大きな国でありますので、南部と北部とでは全然議員の利害関係が違うわけでございます。そのために非常にむずかしいことになっておる。最近、ようやく天然ガスの値段の統制の問題につきましてはどうやら妥協ができそうだという話も聞きましたのですけれども、いつになったらこれが片がつくのか、ちょっといまのところ見通しがつきかねておるのではないかと思います。
  202. 戸叶武

    ○戸叶武君 アメリカは、一九七〇年代に入ってから、エネルギー、食糧、すべてそれらを戦略物資として取り扱っております。そのほか、アメリカにおいて強力な戦略物資は兵器だと思いますが、特に航空機であります。また、このエネルギーの中に原子力の問題も含まれております。こういうふうにアメリカは航空機なりあるいはエネルギーなり食糧なりというものを国の戦略物資として取り扱って、世界を揺すぶっているのが現実であると思うのであります。  そういう点において、エネルギーの問題あるいは軍事産業がもたらす航空機や兵器の問題、また食糧の問題、こういう問題に対してはすべてグローバルな問題でありまして、国連なり国際会議においてこれをあるところまで規制しないと、アメリカソ連は何をやっても、悪いことをやっても大体大統領でもふん縛られない、こういうような状態になっている。ロッキードでも示されておりますが、まあニクソンさんや田中さんみたいなことをやっても権力を握ってりゃ大丈夫だと、金でほっぺたをたたけばどこでもまかり通る、こういうことになると、世界じゅうが政治的な道義的な水準というものは落ちてくると思うんです。  人権宣言その他において、ずいぶん新味を出そうとしておりますが、政治の根底にあるこの人間を尊重し、モラルをもっと高めなくちゃならないという、こういう考え方、あなたは経済担当の大臣でありますが、経済を取り扱う場合においても、中心はやはり政治です、人の姿勢です。そういう問題に対してアメリカはどういうふうに考えておりますか。
  203. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 大変大きな問題でございますけれども、最近のアメリカの傾向としまして、自分の資源、これは非常に資源の多い国でございますが、そういうものについても国際的な規則、規約というものを受け入れよう、そういうものに頼って自分の国の資源の開発も行っていこう、こういう考えが非常に出て来ているように思うんでございます。特に食糧なんかは、最近、これは余っているせいもあるんでございますけれども、国際的な協定の成立、備蓄の問題なんかにつきましても国際協力をやろうということが非常に強く方針として出ております。  それから、エネルギーにつきましては、御承知のとおり、国際エネルギー機関というのがございまして、これはアメリカが主唱してつくったものでございまして、ここにおきまして新資源の開発とかあるいは節約などについて、また特に非常の場合の融通というようなことにつきまして相当手の込んだ合意ができております。節約の問題につきましては、さっき申しましたように、アメリカ自身がまだどうもふらふらしていますので、なかなか思うようにいかないんでございますけれども、ほかの分野におきましては、相当手の込んだ合意もできておりまして、これはやはりエネルギー問題を今後考えていく上におきまして、われわれとしてはプラスとして考えていっていいんじゃないか。そのすべての基礎にカーター大統領の人権尊重の考えがあるかと言われれば、私は確かにそれはあると申していいんじゃないかと存じます。
  204. 戸叶武

    ○戸叶武君 いまあなたが食糧の備蓄の問題を事例として出しましたが、アメリカに私は五、六回戦後往来しておりますけれども、アメリカの食糧が余って、アメリカの農業地帯をよぎると、入道雲のようににょきにょきと丘にサイロが立って、そこにはあり余った小麦が貯蔵されて、とてもこれだけでは済まないからもっと温度の低い南極あたりに小麦を貯蔵しなけりゃならないというような説も出ていたはずでありますが、数年前におけるソ連中国の飢饉によってアメリカの小麦は全部出払ってしまって、アメリカは大もうけをした、その味はいまだにアメリカの小麦生産者は忘れないと思うのです。  いま世界で、インドなりアフリカにおいて餓死する人も何百万というふうにあるときに、食糧問題でローマ会議が持たれているが、国際的な協力によって、飢餓によって餓死する人を救うための食糧の備蓄というものは、一国の責任じゃなくて、国際連帯の力でそれをなさなければならないのじゃないかと思うのでありまして、国連の機能の中において不足している点は、具体的においてそういう建設的な対策が不足していることだと思います。今後、国際会議において、この問題はどういう方向に方向づけられるか、あなたの予測を承りたいと思います。
  205. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これも私が申すのははなはだ大き過ぎる問題なんでございますが、いま東京ラウンドの交渉と関連して行われておりますのが国際小麦協定の改定の問題でございまして、その中では、この備蓄の問題が相当大きな役割りを占めております。  われわれ日本のような消費者の立場から申しますれば、備蓄は主として生産国の責任でやるベきだということなんで、これは日本の伝統的な主張でございますけれども、アメリカの方は、これは生産国だけじゃなく消費国も責任を分担してくれということで、そういう話をただいましているところでございます。いずれにしましても、数量はまだはっきりいたしておりませんけれども、小麦を主としまして、あるいはそれに若干の粗粒穀物などを加えた国際備蓄、これはいま先生御指摘のように、一国の責任じゃなくて、国際的な備蓄ということをやろうという考え方がいま交渉の対象になっている次第でございます。
  206. 戸叶武

    ○戸叶武君 いまアメリカのドルが安くなっている、日本の円なり西ドイツのマルクなりは高くなっている。そういう形において、日本の方を貿易面において窮屈に追い込んでいこうという作戦がアメリカにおいては立てられているように通貨政策その他で私は感ずるのであります。  そこで、問題なのは、グローバルな時代に基準通貨の問題が当然問題にならなけりゃならないのであって、基準通貨の問題が最初に問題になったときにも、金が不足している、金にかわるべき基準通貨をつくらなければならないというときに、アメリカのホワイトとイギリスのケインズとの意見対立もありましたが、アメリカは、ドルの威力をもって、あたかも国際通貨の基準的な役割りはドルが果たすというような形において、世界じゅうを大体支配してきたと思うのであります。その国際基準通貨に準ずべきドルがいろいろな操作によって不安定な状態で揺すぶられているということは、もうすでにドルが国際基準通貨的な信用を持たなくなったことを意味するのであって、これにかわるべきところの国際基準通貨というものを当然設けなければならないというところへ通貨政策においても私は落ちてきたんじゃないかと思うんです。  亡くなった愛知君のごときも、この問題を、亡くなる前において、やはり国際会議で真剣に主張しております。いま、あなたなり、宮澤君なり、園田君なり、外務大臣が三人もいるような状態でありますが、おのおのそのファンクションの分担が決まっているんでしょうが、これらの国際経済外交一つの指導性を持たなけりゃならないときに来たときに、グローバルな時代だからといって世界の中で昼寝しているんじゃなくて、その世界の混沌たる流れの中に方向を与えるというのが日本外交の主目的でなけりゃならないと思いますが、そういう方向づけをどのように、いま、あなただけでなく、福田内閣の外交、経済政策においては持っているか。これは大きなことじゃなくて、あなたが言ったように、グローバルな時代です。世界の中における日本がつえを持たない盲みたいになって、あっちへよろよろこっちへよろよろしちゃみっともないので、少なくともこの世界の混迷の中に方向づけをやる役割りというものは日本に課せられた重要な問題だと思いますが、あなたは国際外交に対しては最高の権威者ですから、ひとつそれを承りたいと思います。
  207. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 通貨問題は非常にむずかしい問題でございまして、私もよくわかりませんので、なるべく意見を申し上げるのは差し控えたいんですが、基準通貨として確かにいまドルが非常に不安定な状況にあることはわれわれとしても非常に困ったことでございまして、だからこそわれわれはアメリカに対して自省を大いに要求しているわけなんでございます。  いま強い通貨と申しますれば、アメリカのドルのほかには、やはりドイツのマルクと日本の円ということになりますので、この間の関係を何とかして安定させるように持っていきたい、これは大体識者の皆考えているところだろうと思うんであります。ただ、それを実現する上におきまして障害になっているのが、一つはやはり日本の大きな黒字でありますし、もう一つアメリカの大きな赤字、こういうことじゃないかと思うんでありまして、これらが大体合理的な範囲におさまってくれば、そこでもう少し安定した通貨情勢というものが生まれてくるのじゃないか、これは私の本当に私見でございますけれども、そういうふうに考えております。
  208. 田中寿美子

    田中寿美子君 牛場大臣、先ほど牛場・ストラウス共同声明の内容のことをごく簡単にそのいきさつなども説明になりましたが、そしてその日米共同声明は、さっきからしばしばグローバルという言葉が出て、対米の経済交渉というよりはグローバルな視点でつくられたものだということを盛んにおっしゃいましたけれども、でもやっぱり日米経済紛争とまで言われた状況の中で、牛場さんはアメリカにいらっしゃって、そして実質七%の成長率というのを打ち上げてアメリカをなだめることができて、それで後で一月になって、それでもアメリカは最初は五十三年度中に赤字を減らせと言っていたぐらいなんですが、日本側のそういう問題について必ずしも納得しなかったということで、私はストラウスさんとの話し合いの結果、共同声明の中にある部分は相当対米関係のところに重点がもちろんあると思います。  それで、その中で、日本は、五十三年度中に実質七%経済成長率を達成するということ、それから五十四年度以降に経常収支を均衡させる。五十三年度中に六十億ドルというのは政府の見通しのようですね、五十四年度以降は黒字をなくすということだろうと思いますが、そういうのが共同声明の中にありますね。それからアメリカから工業製品の輸入を二年間で倍増するというのがありますね。それから日本に原子力周辺機器の輸入をふやす。それから日本は対外政府援助を五年間で倍増するというような大きなポイントがあると思うんです。それで一応対米関係はもうこれで決着したというようなことをよく言われますけれども、そのように楽観できるのかどうか、大変厳しい意見が出ていることは御存じだと思います。  先ごろ、私もNHKのテレビ放送を聞いておりまして、二月十四日ですが、アメリカの上院の貿易委員会の公聴会のことを報道した後、ストラウスさんのほかに、上院の中でも、民主党のバニック議員、バンパー議員ですか、大変強硬派のようですが、このお二人にインタビューをしておりました。そのときに非常に厳しいことを言っておりましたですね。たとえば、けさもちょっと園田外務大臣にも申し上げましたけれども、まず七%成長も非常に危うい、それから黒字を二年間のうちになくすなんてとうていできるものじゃない、恐らく七年ぐらいはかかるだろうというようなことを言っておりました。それから牛肉とかオレンジとか柑橘類なんという農作物の輸入ぐらいではもう大したことはない、だから工業製品をうんと日本アメリカから買わなければだめだ。それから米国内に日本はどんどん投資をして、そして工場なんかを建設してアメリカの失業者を救わなけりゃいけないとか、それから政府日本の企業に過剰な保護をやっている——それはインタビューしているアナウンサーがどういう意味かちょっとわからなくて聞き返しておりましたけれども、多分財投なんかの低利融資のことを意味しているのかと思います。それから国民の消費水準を引き上げなきゃいけないとかいろいろ言って、しまいには安保ただ乗り論みたいなこと、日本の防衛はアメリカ国民の税金でやられているんだというようなことも言っておりまして、大変厳しい言い方をしておりました。  それで、いまのような状況で実際に貿易はまださらに輸出がふえているんですね、黒字はふえていっているでしょう。こういう状況が続いていったら、下院の方では選挙があるから、保護貿易主義者が勝っていくという、まあおどかしのようにも聞こえる発言があったんですけれども、こういうのは牛場大臣から見れば、そんなに心配することのない発言なんでしょうか。
  209. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 私も、バニックさんとは二、三度会いましたし、彼の主張も聞いております。そのほか議会の方面でいわゆる保護貿易論者が非常に多いことも知っておるわけでございます。  第一に、この間の日米の共同声明というのは、九月以来の一連の協議に一応終止符を打ったというだけでございまして、先ほど申しましたように、日米問題はまだまだこれからずっと続くでありましょうし、ストラウス自身も、これは日米の新しい経済関係の第一歩であるということを申しておりまして、その点は、われわれの認識にも違いはないわけなんでございます。  それから、日本の目標が達成できないんじゃないかという話、これは実は日本の中にもずいぶんあるわけでございまして、そういう意見をバニックさんあたりも聞いて帰って言っている面が相当あると思います。しかし、これはいずれ実績によって証明しなきゃならない点でございまして、こういう点で余りその議論をしても意味はないんじゃないか。ただ、日本の誠意と意思というものは十分認めてくれていると私は思うんでございますけれども、いわゆる保護主義に走りやすい傾向がアメリカ議会に非常に強いことは確かに認められるところでございまして、そういう人たち考え方というのは、要するに、対日輸出をふやすことによっていまの日米間の不均衡を是正するということは非常にむずかしい、それよりは手っ取り早く日本からの輸入をとめた方がいいという、基本的にはそういう考え方でございますね、これはどうしてもあるもんでございますから、そういう日本のいまの施策の有効性という点について非常に厳しい言い方をするわけでございますけれども、これは、しかし、やっぱり実際の成績によって反駁していくのが一番いいと私は考えております。
  210. 田中寿美子

    田中寿美子君 ですから、余り楽観的に見ていることはできないということだと思います。  で、政府は、その日米共同声明を受けて、閣議でもってそういうふうな五十三年度中に経常収支の黒字は六十億ドルに減らし、基礎的収支は均衡させ、五十四年度からはその黒字がなくなるようにするというような見通しを立てておりますね。それから七%成長の見通しも立てているわけで、牛場大臣のおっしゃる政治的意思ですか、意思の表現だということだと思うんですが、それを達成することは、一体、どういうふうにしていくかという問題については、私は経済閣僚会議なんかで牛場大臣も強力に発言なさらなければならないと思います。さっきも国内経済の問題は自分の権限外だとおっしゃいましたけれども、対外経済に関してあちこち回って歩いて折衝していらっしゃる大臣ですから、国内の経済の政策に対していろいろと強い発言をなさる必要が私はあると思います。  そこで、時間がありませんのでもう一点にしぼってしまいますが、今度はECの方ですけど、先ほど、ECとはいま協議中で、ジェンキンズ委員長ともお会いになった。ECの方は非常に厳しいことをいま言っておりますが、四月ごろに決着の予定というふうに発表されております。アメリカは貿易のシェアが大きいから日本アメリカに非常に譲歩したというようなことで、EC側が相当反発した点があるように伝えられておりますですね。  ある新聞報道によると、日本人というのは輸入をしない国民だ、舶来品というのはもう上等品で、デパートへ行っても特別の場所を設けて舶来品コーナーがある、そういう癖がある国民だとか、これはあるフランスの財界の人の発言として報道されておりますけれども。それから、いまだに特攻隊精神でしゃにむに輸出してくる、しかし前のように質が悪い物ではないし、質がよくて比較的安くて、しかも賃金は、いまでは日本の名目賃金はアメリカや西独よりは低いけれども、フランス、イギリスよりちょっと多いというぐらいになってきているからソシアルダンピングとは言えない、全く困ったものだということだと思います。それから航空機を買えと言うと、ロッキード・アレルギーで買おうとしない、農作物を買えと言うと、日本政治家は農民に遠慮して農作物を買おうとしない、全く困った国民だと言わんばかりのことを言っているようです。  それで、牛場さんは海外の生活もたくさん知っていらっしゃって、私は、七%成長を達成するためにも国内の個人消費支出を高めていかなければいけない。いま伸びておりませんですね。それから賃金だって、実質賃金は年の初めに二%ぐらいは伸びていたはずですが、もういまではマイナスにすらなりつつある。こういう状況で、国民の生活水準が高められなければ消費水準は上がっていかないし、それで不況の克服も成長もできないんじゃないかという心配を私はするわけです。  先ほど外務大臣ともちょっとお話ししましたけれども、日本の働く人たちの賃金は、フローの所得ではそういうふうに欧米に近づいてきているけれども、ストックの所得は大変まだおくれている。たとえば住宅あるいは上下水道、集中暖房、そういったものとか、それから振替所得ですね、年金だとか保険とか、そういうものだってほかの欧米諸国よりおくれている。だから手に取ったお金をもって本来ストックであるべきものに個人個人が支出しなきゃならないから、生活水準が上がっていかない。そういうことはよく御存じだと思います。私どもも多少外国を知っているものですから、そういう点で非常におくれている。  それを高めていくような公共投資が必要なんで、大きな本四架橋だとか、それから大きな高速道路だとか、それから新幹線だとかというような投資以上に、そういう方面に投資をしていかなければ、つまり生活環境施設を高めたり、振替所得に充てたり、あるいは教育費とか医療費の方に充てて国民がどんどん消費支出にお金を回すことができるように、心配なために貯金をしなきゃならないというようなことにならないようにすることが必要だと思うんですけれども、そういうようなことについて、国内の国民の生活水準を上げるとか、それから本当意味のストックの所得を上げるような社会投資をしていくとかいうことについて、牛場さんが経済閣僚会議なんかで強力に発言なさることはできないでしょうか。
  211. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これは国の経済、財政全般にかかわる問題でございますから、私の所掌をしておる事務の見地からもちろん意見を申しておるわけでございますが、ただいまお示しのように、確かに日本の社会資本がおくれておる、それから労働条件についても改善の余地が非常に大きいというようなことは、これは痛感しているところでございまして、したがいまして今度の予算におきましても、そういう点の改善に大きな重点を置いて財政支出を行うということになっておると了解しておる次第でございます。  個人の支出という点になりますと、たとえば住宅建設なんというのは、非常に私は今後そういう個人の支出をふやしていく上において大きな役割りを果たすんではないか。欧米へ参りますれば、よく御存じのとおり、家具とか、そういうものが非常に支出のうちの大きな部分を占めるわけですが、ただいまの日本の状況では、まだなかなかそこまでいかないということもあると思うんでございまして、そういう点で住宅投資、住宅の改善というようなことが今後非常に重要な役割りを果たしていくんじゃないかと考えております。
  212. 田中寿美子

    田中寿美子君 時間がもうありませんから詳しいお話はできないんですけれども、さっき戸叶さんが外務大臣が三人いるみたいな話をなすって、園田さん、宮澤さん、それから牛場さん——やはり対外経済相というそのいすを設けて、対外的に経済折衝していくときに国内の経済にバックアップされなきゃならないし、国内の経済の中で私は国民の生活を高めるということが非常に大事なんだということで、強力な発言を閣議でもやっていただかなければいけないと思うんですよ。  移動大使のような役割りじゃなくて、やっぱり大臣でいらっしゃいますから、国務大臣でいらっしゃいますから発言力はおありになると思いますし、実際に海外の生活をよく御存じでございますから、ですから、住宅投資がいいと言っても、その投資の仕方ですね、いまのようなやり方では住宅ローンに追われてかえって苦しくなる。そうじゃない。欧米諸国は低家賃で、家具もくっついて、いつでもそういう家に入れるから家を買わなくたって済む。そういうストックの投資をしていかなきゃいけないというようなこと、これ一例でございます。そういうことを、どうか強力な発言をしていただきたいということを御要望申し上げて、私は終わります。
  213. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 昨年十一月に、わが党の矢野書記長を団長とする訪米団が参りまして、カーター、モンデール、バンス、それからいま話題のストラウス、こういった米国の最高首脳と会談をし、帰国してから、その印象を通じての話を聞きました。確かに私どもの予想をはるかに超えるアメリカ日本に対する経済攻勢と申しますか、そういった印象をきわめて強く持ったわけであります。  そうした経過の中で、牛場さんが、十二月、アメリカまたECをお回りになって大変御苦労なさった点を私ども大変敬意を持っているわけでございます。  この訪米団が参りましたときに、いろんなエピソードがございまして、アメリカ日本に対する認識というものが非常に浅いものがあるんではなかろうかという感じを私自身は受けたんです。同行した一員に渡部君という機械工学を専攻した者が入っておりまして、それで実際に倒産をいたしましたスチール工場、そういったところを見学をしたそうです。ところが、この機械設備を見るに及んで、残念ながら日本よりはるかにおくれている、一体アメリカの企業経営者の経営努力というものは那辺にあるのかということを大変厳しく尋ねたという一幕も聞きました。また一方、日本に買ってもらいたいというズックぐつメーカーの責任者に会いましたときに、何でこのアメリカのズックぐつを買ってくれないんだと、こういう話が端的に出たそうであります。あなたは日本のマーケットというものを十分調査をいたしましたか、全然したことはありません、アメリカの子供が履くのを日本の子供が履けると思いますかと、ナンセンスな話のやりとりもあったようであります。大体、大きさが違いますね。そういう認識であるとするならば、これは今後の日米通商交渉というものは大変デッドロックに乗り上げる危険性もあるんではないかということを、そういう具体的な問題点を通じて、感じたわけです。  牛場さんが今回行かれて、日米交渉においても大変御苦労された跡がありありと見えて、最終的には、先ほど来から問題として提起されておりますように、日本としては経済成長率七%をやろう、そういうことで一応の妥協的な決着を見て、まあほっと一息と。しかし、将来展望を考えた場合に、果たしてそれだけで事が済むんだろうか。牛肉、オレンジ、それだけの輸入で恐らくがまんはできないであろうというのがアメリカの偽らざる実態であろう。  先ほどお話が出ましたように、私もNHKの特派員報告を見ました。もうストラウスはいかにもつかみかからんばかりの色をなした状態で証言をしているわけですね。そのときに大変印象的だと思ったのは、この七%がいつも問題になるんですけれども、福田さんを初めこれはあくまでも国内的な問題であって、他国からいろいろ介入される筋合いのものではないと。先ほども牛場さんはそれに触れておっしゃっておられたように私感じておるんですが、ところが、ストラウスの受け取り方は、これはあくまでも日本政府との約束だと、こう言うわけですね、これは明確に述べておりました。ところが、日本政府は、そればあくまでも努力目標であると。一体、この違い、ずれというものは何で起こっているんだろうか。もしそれができなかったとするならば、アメリカというものはもっと硬直せざるを得ない、そういう姿勢を示してくるんであるまいかという心配も実は考えられるわけでございます。  いずれにせよ、日本に対する市場の調査にいたしましても、何を一体日本が欲しているのか、またアメリカとして売れる物は何かという勉強不足というものがいろんな障壁をつくっているんであるまいか。もちろん、それには日米間におけるコミュニケーションというものが絶えず行われて、その積み重ねによって突破口を開くということが望ましいのでありましょうけれども、どうしても気がかりになって仕方がないわけでございます。この問題の淵源というものを振り返ってみますと、すでに十数年前に繊維の輸入規制に端を発すると言っても言い過ぎじゃないと思うんです。これが最終的には日本の中小企業、零細企業というものをどれほど圧迫することにつながるか、あるいは中小零細農業者をどれだけ窮地に陥れるかということは、日本人であるならだれでもがこれは否めない現実としてわきまえているわけです。  アメリカアメリカで、やはり同じようなことを考えているわけですね。その辺の接点というものは調整ができないものなのかどうなのか、そういったところから足がかりというものをつくっていきませんと、すでにテレビにおいて輸入制限を加えられたと同じように、あるいは将来日本の花形産業と言われる自動車業界が同じような轍を踏むということになった場合、一体、日本のこれから生き延びる方向というものはどうなっていくんだろうか。そうしたようなことは絶えず、特に牛場さんのように通商に明るいお立場に立ってみれば、いろんな角度から分析もされ、また、日本の将来、アメリカとあくまでも友好ということを基軸にして進む以上、その辺の隘路というものを突破もしなければならぬと、こう思うわけでございますが、そうした点について総括的に牛場さんの所見を伺っておきたいと思うわけでございます。
  214. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) アメリカの中に確かに日本についての認識不足があることはもう認められる、いま伺いましたとおりでございまして、これはもうわれわれとしてあらゆる機会を通じて直していかなければならない、また先方にもそういう気を起こさせなきゃならない、これは一番の急務であることは私もそのとおりと思うのであります。現在、特にそういうことが目立っておりますのは、これはやはり日本というものに対する関心が急に非常に深くなったということに大きく影響されておると思うのでありまして、日本に対する関心は非常に深くなったけれども、新しく関心を持つに至った人たちの間では、日本に対して余り知識のない人が相当いるということでありまして、これは日米協力して教育していかなきゃならないということではないかと思うのであります。  それから、ストラウスとの関係でございますけれども、ストラウスは、この間の上院の公聴会——NHKのテレビを私実は見ませんでしたので何とも申し上げられないんですけれども、上院の公聴会におきまして、七%につきましては、これは福田さんは必ず達成できると言っておる、したがって自分はそれだけ達成できるかどうか若干の疑問は持っておるけれども、しかし、こういう高い目標を掲げること自体が日本の経済成長を、そういう目標がなかったときに比べれば、より高くすることはできると思うということを言っておりました。そういう物の言い方から申しましても、これがいわゆる約束とはとっておらないと私は思うのであります。もちろん、去年のロンドンの会議のときに、日・米・ドイツ三カ国が経済成長をコミットしたという字を使ったコミュニケが出ましたですけれども、しかし、三国とも成長率を達成することはできなかった。そうかといって、しかし、それだから何も国際的な責任問題なんか起こっていることはないのでございまして、コミットという字にもいろいろ意味はございますけれども、少なくとも対外的に義務を負うということじゃないことは私申し上げられると思うのであります。  それから、これから先、日本の品物に対して日本からの輸入をとめようという動きが非常に出てくるんじゃないかというお話でございますが、これは確かにいままでもそういうことがございましたし、今後も出てこないとは限らない。しかし、私どもは、あくまでもこういう問題は国際的なルールに従って対処すべきだと思っている次第でありまして、アメリカがもしルール違反のようなことを考えるとすれば、これはわれわれとしてもちろん再考を促さなければならぬ、それが一つの点であると思うのであります。  それから、やはりそういう保護的な動きを抑えますためには、日本の輸入をふやす、これは何もアメリカだけからではないんでありますけれども、全体として輸入をふやして、非常に大きな額に達しております経常収支の黒字を減らしていく、こういう努力はどうしても必要だと思う次第でございまして、そういうようないろいろな措置が相まってアメリカにおける保護主義の台頭を抑えなきゃならぬと私ども考えておる次第でございます。
  215. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 確かに、これからの課題の一つとして、いま御指摘になりましたように経常収支の黒字を減らす。ただ、別な角度から見た場合に、これも何回か話題になった問題点一つでありますけれども、どうも大国エゴというものがちらちらするような印象すら受ける昨今でございます。確かに黒字を減らすということも全体の経済秩序というものを安定に導く一つの解決策として必要な条件かもしれません。しかし、アメリカ日本の国情というものはおのずから違うと思うのですね。  先ほど、園田外務大臣からも答弁がございました。たとえば物価を比較いたしましても日本の方がはるかに高い。住宅を初めとして家賃なんかの例を引き合いに出すまでもなく、そういったことを一体アメリカ側としてはどういうふうに受けとめているのだろうか。確かに黒字になっているかもしれませんが、物価の面から見た場合に、必ずしもドルが蓄積されているとは言えないんじゃないかという一つの見方もございましょう。また、アメリカ自体を考えて見た場合に、石油の買い占めでもってそれが赤字につながった。これはあくまでも一方的な考え方に立った日本への押しつけではあるまいかという極端な見方も出ないではない。その辺はどういうふうにお受けとめになっていらっしゃいますか。
  216. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 日本の物価が、特に食べ物の高いことは世界的にも有名でございまして、日本に来たアメリカ人も非常に驚くわけなんでございますが、そういう事情があるにもかかわらず、日本の輸出が非常に強い。それで黒字がたまっていくということで、向こう側としても非常にこの点は奇異に感じていることもまたあるかと存じます。  しかし、為替レートというのは、いまそういう物価の問題とはやや離れまして、貿易の収支とかあるいは貿易外の収支というようなことによって動いてまいる面が非常に多いものでございますから、いわゆる昔の購買力平価というような点から申しますと、いまの円というのは非常に過度に評価されておるという感じがいたしますけれども、しかし、一方また、日本の輸出がこれだけ伸びているという点からいうと、まだ円が高くなってもしかるべきだという感じもあるわけでございまして、そういう観念の違いというものは、これはなかなかむつかしい問題だと思います。
  217. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 確かに、いまの世界の動きというのは国際間の評価もございまして、日本アメリカ、西ドイツ、これは先ほども基軸通貨の問題が出ました、また、国際経済のあり方も、その三国を基調として今後の新しい道しるべというものをつくっていかなければならぬという認識もあるようでございます。  そうなった場合に、やはり考えなければならないのは、日米間の経済問題というものが相当大きなウエートを持つであろう。いまの段階では、アメリカから時に農産物の輸入というものを日本は認めてくれということで一応の決着がついた。しかし、牛場さんが先ほど述べておられましたように、工業製品なんかについても今後日本は大いに買ってくれ、そういうふうに今度エスカレートしてまいりますと、それだけで果たして済むんだろうか。  私が一番懸念することは、先ほどもちょっと触れましたように、いま自動車業界やなんかでもそろそろとその危険性を感じている。あるいは聞くところによりますと、フォルクスワーゲンの工場がアメリカに設けられて、それでアメリカで生産段階に入る。こうなりますと、日本の製品というものが大変な比重を持っておりますだけに、また、そこでいろんな問題が起きないとも限らない。もうこれは決して遠い将来のことじゃなくて、差し迫った問題であろうというふうにも感じられます。もし自動車産業界までそういったことの影響が及ぶということになった場合に、一体、日本としては、これからどういう方向へ新しいマーケットを設けなければならぬかという大変複雑な気持ちにならざるを得ない。こうしたことについても、当然、大きな問題でありますだけに調整も図られていかなければならない、話し合いも積み重ねられていかなければならぬ。この辺の今後の方向ですね、いままで駐米大使としても長い、また深い御経験をお持ちになっている牛場さんとして、いろいろな角度からごらんになったという豊富な御経験をお持ちになっていらっしゃるわけですから、その動き等についてはどのようにお受けとめになっていらっしゃいますか。
  218. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 自動車の対米輸出、これは非常に焦点であることは確かでございますね。いまアメリカで輸入車は大体全体の車の需要の中の、私が大使をしておりましたころは一五%だったんです、いまは二〇%ぐらいまでになっておりまして、二〇%というのはやはり一つの目安ではないかと思います。これを著しく急に超過するようなことになると、向こうで自動車の輸入を抑制しろという声が起こってくることが予想される。この点では、これは自動車業界もよく知っておられると思いますが、われわれとしても十分注意しながら輸出していく必要があると思っております。  それから、フォルクスワーゲンの工場がことしの四月からたしか動きだすんでございますね。そうしますと、ドイツからのアメリカに対する完成車の輸出というものはだんだん減ってくる。そうすると、日本からの輸出が非常に大きく映ることはまた事実でございまして、そういうものに対して、やはり自動車業界としましても自分立場からいろいろ考えるところがなきやならぬじゃないかと思っております。  それから、また、自動車につきましては部品の問題がございまして、日本でもひとつ、ことにこれはイギリスあたりから非常に要求が強いんでございますが、外国の部品を買ってくれという話でございますね。これはヨーロッパあたりではもう各国の間で部品の実際上の交換が行われていることは通例なんですけれども、日本はいままでそういう点は余りやっておらなかったが、そういうことをやってくれという注文がございます。これはすべて能率とか何とかという点から言えばマイナスになるかもしれませんけれども、しかし、国際的にアクセプトされるような行き方をしていくという点から申しますと、考えなきゃならない点かとも思っておる次第でございます。
  219. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 現在のアメリカ自体の経済環境はいろいろな地域によっても違いがあるんだろうと思うのですが、一つは、やはり社会問題にまで発展しております失業者の問題、その救済策としていまのフォルクスワーゲンの問題にしても、アメリカとしてむしろあるいは願っていたところかもしれません。こうした国際的に非常に不況な時代を迎えている現状にかんがみて見た場合に、失業者の割合というものはふえこそすれ減ることはなかろうという一つの見通しも成り立つのではなかろうか。そうなった場合に、アメリカはどうしても従来のモンロー主義的なそういう考え方に閉じこもった政策を貫いてくる可能性も十分考えられる。  となりますと、日本のこれから唯一の大きなマーケットとして依存をしてきました輸出というものが、あるいは時ならぬときに相当大きなショックを受ける状態に追い込まれることも予測され得るんではあるまいかというような感じもするのですが、今回、ずっとアメリカを回られ、また交渉に当たられたその経過から、どんなふうにそれをお感じになっていらっしゃいますか。
  220. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) いまお示しのとおり、失業問題を短絡的にすぐ輸入と結びつける、輸入が失業の原因だと、特に日本からの輸入が失業の原因だと、こういう一種の風潮が去年十二月にアメリカに参りましたときにあったことは事実でございますね。これは何としても直さなければならない印象であろうと思うのです。経済的にもそういうことはナンセンスだと思うのです。  アメリカの失業問題というのは、御承知のとおり、非常に構造的な面を持っておりまして、たとえば黒人のティーンエージャー、十代の失業率は四〇%、これに対して二十五歳から五十五歳までの成年白人男子の失業率は三・四%というようなぐあいでございまして、今後、アメリカの経済が成長してくるにつれて、そういう白人の成年労働者は恐らく人手不足になるだろう、それに反して黒人の労働者はいつまでも失業状態が続くのじゃないか。それからもう一つは、メキシコから非常にたくさん毎年入ってまいります不法入国者の問題もございます。これもやはりアメリカ人の職を奪っていると言えば言えないこともない。そういうような問題がありまして、これはもう日本からの輸入と全然無関係なものでございますね。それから、それに加えて、このごろアメリカでは最低賃金法が非常に励行されておりまして、これがしかもだんだん上がってきておるわけでございますね。そうしますと、そういう高い賃金を払って、全然熟練度のない若年の黒人労働者なんかが雇われる機会があるだろうかと申しますと、これはなかなかむずかしい問題だと思うのでございますね。  そういう人種的な問題、それから構造的な問題、こういうことは私もアメリカ人に対して機会あるごとにリマインドしておるのでございますけれども、とにかく輸入と失業ということがそんなにすぐ短絡的に連絡するものじゃないんだということは日本として大いにこれから主張していかなければならない点だろうと思います。
  221. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 次に、EC関係について若干触れてみたいと思います。  先ほども御説明がございましたように、今月末、デンマークのアンデルセンEC議長ですか外務大臣、それから委員会のメイネルとかデンマンとかハフェルカンプですか、相次いで来る。もうすでに事務レベルでの折衝というものはついこの間行われた。これが恐らく余り成果を得ないまま帰ったという印象があるのですね。それに不満をもちろん持っておるということがうかがい知れるところでありますか、何とか日本との間においてその詰めをして、日本から色よい返事をという期待感があるんではなかろうか。  相次いでECの各責任者が来られ、何を要求し、何を訴えられ、日本としてそれにまた応じることができるかどうか、問題点はもうはっきりしていると思うんですね。これについては、ECを回ってこられた牛場さんとしてはいろんな感触をお持ちになっていらっしゃると思うんです。どういうふうに対応されるいまお考えをお持ちになっておられましょうか。
  222. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) ただいま、まだこの問題は協議の最中でございますので細かいことはちょっと控えさしていただきますが、要するに、ECの方の要求というのは、日本アメリカに対して、グローバル、グローバルと言っているけれども、実際は何か特別な譲許をしたんではないか、それに見合うような譲許をECも欲しいと、これはそういう端的な言い方もしておりませんけれども、そういう感じが非常に強いわけでございます。  それから、もう一つは、ECの日本との間の貿易の赤字が非常に最近ふえておる、その傾向を早く変えてもらいたい。したがって、これはECの品物をもっと日本は買ってくれということになるわけでございますが、その裏には、もしそうでないというと、ECの方で対日輸入制限をやらざるを得なくなりますよと、こういうただし書きがついておるわけなんでございます。  具体的な問題は、これは非常にいまわれわれとしましていろいろ苦心しておりますけれども、この間、日米の共同声明を出しましたときにやりましたことに加えて何か新しい措置をとるということも非常にむずかしいんですね。関税の問題なんかを向こうもいろいろ言っておりますけれども、これは現にガットの東京ラウンドの交渉が始まっておりまして、それが少なくとも七月いっぱいかかるわけでございますが、それが終わる前に、ECだけに対して何か関税上の譲許をするということは非常にむずかしいわけでございます。  そのほか、輸入金融とかなんとか、政府調達とか、そういう面につきましては、この間のアメリカとの協議の際に一切もう日本はできることはみんなやってしまったわけでございまして、若干の税関の手続とか、あるいは薬品類の検査の手続とか、それから二、三の品物についてはなおECと話をしているものがございますけれども、きわめて少ないものでありまして、そういう状況のもとに何とか話をまとめなきゃならぬということは非常にむずかしいことでありますが、ECの方でも、先ほど申しましたように、決して日本と争いを起こそうというわけではないようであります。私どもの方ももちろんそう考えておりますので、何とかひとつとりつくろっていきたい。そういう点では、はっきりした見通しは実際にいまのところつけかねるわけでございますけれども、できるだけ努力をいたしてまいりたいと考えておる次第であります。  ECとのバランスの問題でございますけれども、これは確かに去年あたりを見ますと、日本のECに対する輸出が、大体、日本の総輸出の一割でございますので八十億ドルちょっとでございますね。それでいて日本の対EC輸出超過が五十億ドルぐらいになっている。非常に不均衡がひどいんでありますね、向こうから見ました場合には。ただ、これにはいろいろわれわれの方から申しますと、考えなきゃならない点は、第一は、貿易外において日本は少なくとも二十五億ドルぐらいはECに対して払っておるはずでございまして、これを入れますと経常収支の対EC黒字というものは恐らく三十億ドルは切るだろうということが考えられます。  それから、EC自体の国際収支でございますけれども、これは大体ことしは黒字になるんじゃないか、来年も恐らく黒字だろうという見通しがあるわけでございまして、そうなりますと、大体、貿易収支とか経常収支というものはグローバルに見るのが原則でございますから、そうすれば日本に対する赤字というものはそれほど重要なことにならないはずでございまして、そういうような点もよく話をしまして、わわれわとしてはECからの品物の輸入のために市場を開放することはもちろんやるわけでありますから、ただ、それがすぐ効果をあらわすということはなかなかむずかしいということで話をしてまいりたいと思っております。
  223. 渋谷邦彦

    ○渋谷邦彦君 まだ若干あるんですけれども、限られた時間がもうありませんので、いままとめて一、二伺って終わりにしたいと思うんです。  今月の七日にEC外相理事会が持たれて、それでEC委員会の方に日本とのいわゆる貿易不均衡是正の協議に入るようにという指示がなされた中で、何か三項目柱を立てたようでありますが、その中で非常に印象に残る問題は、先ほど来から問題になっております日米共同声明、これは日本の今後の方向としての大変グローバルな考え方に立って取り決めたものであると。ところが、ECの方の受けとめ方は、そうじゃなくて、協議はもう日米経済交渉と全く別個のものだということ、つまり日米共同声明に盛られたその内容とは全く反対のいわゆる否定的なそういう表明をしているということ、そうなればECとしては日本から何らかの譲歩を認めさせようというねらいがあるんではないかということが一点。  そして大変ミクロ的な見方になるかもしれませんけれども、ECとしてもしきりに買ってもらいたいものを幾つかこう列挙しているわけですね。もう御存じのとおり、共同開発したエアバスの購入だとか、原子力発電の機械類であるとか、あるいはチョコレートとか洋酒に至るまで買ってくれと。そういうような、アメリカにもやったんだからECの方にも同じような措置をとって、多少でも不均衡是正の方に日本としては向けてくれぬかと。もしそういった決着ができない場合には、四月七日、八日に予定されている外相理事会において、これは恐らく日本のその考え方、主張というものは認めるわけにいかぬ、こういうことになって各国が輸入制限にそれぞれの立場から踏み切るおそれがあるんではないかということが言われているわけですが、そういった点をまとめて御答弁をいただきまして、きょうのところは、これでおしまいにしたいと思います。
  224. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) ECは、日米の間で話したその結果が共同声明に出ているわけですけれども、グローバルということを、これは私わかっていると思うんですけれども、なかなかわかったとは言わないんで非常に困るんですけれども、しかし、あれはあくまでもグローバルなものでありまして、だから私もECに申しておるんですが、あなた方ひとつ、日本はこういうふうにやっているんだから、だから来て試してごらんなさい、それを試しもしないで、あれは役に立たないとかなんとか言っていたんじゃいつまでたってもものが進まない、あなた方の方の輸出業者、これがもっと努力をして、そして日本へ来て実際に物を売るようにやってごらんなさい、われわれはそれを十分わきからお助けしますからということを申しておるわけなんですが、先方は、やはり日本政府がもっとやってくれ、それに乗っかってすうっと入っていきたいというようなことを言っておりまして、なかなかそこのところがぴんとこないわけなんです。  それから、具体的に何を買ってくれということになりますと、いま向こうで一番言っておりますのが、いまちょっとおっしゃっいましたエアバスでございますね、これを買ってくれということなんですけれども、これはいろいろむずかしい問題がございまして、なかなか急には決まらないというのが現状でございます。そのほか濃縮ウランとか原子力関係のことを申しておりますし、こういうものはまだすぐというわけにはいきませんけれども、将来の問題として確かに考慮に値するものもあるわけであります。  それから、もし協議が不調に終わったときは、何が起こるかということでございますけれども、私は、第一、向こうもそういうことにしたくないでありましょうし、われわれの方からもそういうことにはならないようにできるだけ努力はいたします。万一うまくいかなかったときということにになりますと、ECの委員会の言葉をかりますれば、そうするとECの委員会の各国に対する統制力が弱っちゃって各国が勝手なことをやり出すぞと、こういうことを言っているわけでございます。  各国が、一体、日本に対してどういう問題を抱えているかと申しますと、日本との間で一番貿易も大きいし、また対日赤字も大きいのはドイツでございますけれども、ドイツはもう全然そういうものは日本に対して何も問題ないと言っておるわけでございます。それからベネルックスとかデンマークは若干の問題がございますけれども、これはもう別に何もそういう措置をとる考えはないと思います。それから、フランスは、これは現在例の選挙でございまして、しばらくはどういうふうになりますかちょっとわからない。イタリアもいまのような状況で、そう急に何か措置をとるようなことになるとも思えないわけでして、結局、残るのがイギリスなんですね。  イギリスだけなんですけれども、イギリスも特にいま問題になっているのは自動車なんですね。これは私は危険性がないとは申しませんけれども、しかし、日英の間には通商航海条約もございますし、ガットのルールもございますし、そういうものを一切無視して勝手なことを向こうがやるということは私はないんじゃないかと思っております。  もちろん、繰り返すようですけれども、そういう危険性が全然ないとは申しませんけれども、しかし、わわわれとしてはそういうふうにイギリス政府の良識は信頼していいんじゃないか。それと同時に、われわれの方からの自動車の輸出につきましては、これはもうすでに業界において適当な自粛をしておられるわけですから、それが有効に行われる限り、問題はなくて進められるんじゃないかと思っておる次第でございます。
  225. 立木洋

    ○立木洋君 いま日本経済の不況の問題や、それから物価の問題、そうした中での円高問題、これが大変な日本経済あるいは国民生活に非常に大きな犠牲を強いておるという点については、私が申し上げるまでもなく、大臣は十分御理解されておると思うんです。  この円高の問題について、大臣のお立場で、基本的にはどういうふうな対応策をいまお考えになっておられるのか、まず、その点から最初にお伺いしておきたいと思います。
  226. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これはもう通貨当局の考えは私も一々存じているわけではないんですけれども、日銀の介入ということは、とにかく相場の乱高下をスムーズアウト、円滑にするという限りにとどめるという方針と承知しております。したがいまして基本的にこの円筒の趨勢をとめるためには、どうしてもやはり日本の経常収支というものの黒字がだんだん減ってまいるという状況が出てこないと困ると思うんですね。それが一番のの基本的な状況じゃないかと思います。
  227. 立木洋

    ○立木洋君 いま申し述べられた点なんですが、きょうのニュースですか、円が二百三十六円ですね。それで大変な事態になってくるというようなことも考えられるわけですが、大臣のお立場としては、二百四十円ぐらいの状態ですね、いまの状態を既定の事実として、そして問題に対応策を考えられるのか、あるいはさらに円安ということも含めて対応策をお考えになるのか。少なくとも二百七十円前後でないと何としても困るというふうな声もあるわけですし、そういう点についてはいかがでしょう。
  228. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これはもう全くお答えが困難な問題でございますけれども、急に円が安くなる状況というのはちょっとないようでございますね(笑声)。それ以上はちょっとお答えしかねます。
  229. 立木洋

    ○立木洋君 それでは、時間がありませんから、この問題だけでやりとりしておったんじゃあれですから、ちょっと幾つか具体的な問題でお尋ねしたいんです。  先般、ストラウスとの共同声明が終わった後、大臣が記者会見の席で述べられた点ですけれども、農産物の輸入問題で、国内農家に対する保護政策の仕組み自体を考え直す時期にあるというふうにお述べになっておると思うんですね。一方、経団連の土光会長は、農作物を中心とした非自由化二十七品目を基本的には完全に自由化すべきだというふうに主張なさっておる。こういう主張と大臣がお述べになったいわゆる仕組み自体を考え直す時期ということとは同じ意味なのか、あるいは別のお考えなのか。別のお考えだとすると、どういうことなのかという点をちょっとお伺いしておきたいと思います。
  230. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) 私ども土光さんとはこの問題についてちょっとお話ししたことがございますが、土光さんもすぐ自由化ができるとは思っておられないと思いますですね。私も、もちろん自由化という旗をおろすことはできないと思いますけれども、しかし、それがすぐできるとは思いませんし、また、事実、日本の農業というのは非常に自然条件の悪い中でやっておるわけでございますから、これを保護する必要があるということは、私はもう常々と世界に対しても主張できるし、また世界でもこれは認められるところだと思います。
  231. 立木洋

    ○立木洋君 農林水産物の二十二品目ですか、年間の輸入にしましても五億ドルぐらいですし、これを倍としましても、百億ドルの黒字を減らすといったって一割程度にしかならない。ところが、これがこういうふうにされた場合の日本の農家あるいは漁民等々の受ける影響というのはきわめて大きな事態が起こってくる。日本政府も、食糧の自給率向上という問題を提起しながら、なかなかそれもうまく進行していないというふうな状態があり、食糧危機等も世界的に言われておる状況があるわけですから、こういう国内的な問題も、先ほど来指摘されている点ですが、当然、考えに入れた対応策というのは大臣としてはお考えになるわけでしょうね。
  232. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これはもう日本に対して世界的にいろいろ注文の出てくる分野でございまして、いまの東京ラウンドにおきましても、農業ということが大きな問題になっておりますし、その中で特に食肉とか、それから酪農ということが取り上げられておる。これは日本に対して相当やはりいろいろ注文が出てくるということは予期せざるを得ないと思うのであります。私は、日本の農業につきましては、本当に知識が乏しいのですけれども、基本的には日本はどうしてもある程度は輸入に頼らなければならないわけでございますから、食糧の自給度の向上ということも、同時に安定した輸入先の確保という問題とあわせて考えていかなければならないのじゃないかと考えておる次第です。  それから、いまの問題は、日本の農業を保護することには私はだれも文句ないと思うんでございますけれども、その保護のやり方で、輸入制限だけにこれを頼っておる態勢はおかしいんじゃないか、それからまた、その結果として消費者が非常に高い物を食べているじゃないか、こういう指摘があるわけでございまして、ことに牛肉なんかについて、いま日本の牛肉の高いということは世界的に一つのトピックになってしまっておるような状況なんで、そういう観点からの日本に対する注文は出てきておるということですね。
  233. 立木洋

    ○立木洋君 国内の農業政策の問題については、別の場所でまたやりたいと思いますが、先ほど挙げた共同声明の九項のところに、政府開発援助に関しての問題が述べられておりますが、「五年間に援助を倍増以上にするという日本政府意図を再確認し、」というふうに述べられているわけですけれども、今度の五十三年度の政府開発援助の内容を見てみましても、対前年度比伸び率としては、後追加をされましたけれども、一五・八%。しかし、実際に五年間に倍増ということになれば年間二〇%ぐらいの伸び率ということを考えないと達成できないというふうなこともあるわけですし、いまのようなこういう状態で、政府開発援助が五年間に倍増以上というふうなことが達成できるのかどうなのか、この点についてはどういうふうにお考えになっておられますか。
  234. 武藤利昭

    政府委員(武藤利昭君) 予算の伸び率についてのお話でございますが、私ども、予算の伸び率を考えますとき、常に前年度に対する比率ということでとっておりまして、それを単純に計算いたしますと、毎年一五%ずつ伸ばせば、これは一種の複利計算になりまして、大体、五年間で倍になるということになるわけでございます。それで五十三年度の予算原案におきましては、倍増以上ということを目標にしていることもございまして、一五・八%という伸び率にしたということでございます。
  235. 立木洋

    ○立木洋君 日米関係で言えば、先ほど来問題になっておりましたけれども、一方的に日本が黒字減らしのために輸入をふやすとかいうふうな対策だけでは十分ではなくて、現実にアメリカが赤字になっておる、この問題については大臣もお述べになったという話ですけれども、直接的には、確かに石油の備蓄の問題がアメリカの赤字の問題では大きな問題になっておりますけれども、アメリカの赤字の全体的な原因というのは、どういう点にあるとお考えになっておられるんでしょうか、大臣。
  236. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) アメリカ政府は、半分は石油の輸入で起こっておるんで、半分は貿易関係だと、こう申しておりますが、数字で申しますれば、大体、石油輸入の額が昨年あたり四百五十億ドルほどでございますか、それでアメリカ自体の赤字が二百六十億ドルでございますから、石油の輸入による赤字の方が非常に大きいということを私どもは感じております。
  237. 立木洋

    ○立木洋君 いろいろ調べた点で見てみますと、たとえばアメリカの赤字の問題に関して言いますと、これは長期的な問題があるし、アメリカの対外政策を考えてみましても、たとえば外国の基地や軍事援助等々、一九七六年では八十三億ドル。あるいは多国籍企業による海外の子会社、これが非常にふえてきておる。その売り上げが一九七五年で見てみますとアメリカの輸出額の四・三倍にも上り、これの逆輸入もまたふえてきておるというふうな状態もありますし、あるいは海外投資をふやしており、一九七六年では海外投融資の額が四百億ドルにも上っておる。それは直接的には石油備蓄という問題も大きな問題になっておりますけれども、しかし、こうしたアメリカの対外政策による赤字のツケを日本に回すというふうなこと自体、これは大変問題だと思うんです。  当然、アメリカ自身も、赤字をどのようにして克服するかということは明確にされるべきだと思うんですが、この共同声明を見た限りにおきますと、日本側ではこういう努力をするということは大分詳細に述べられてありますけれども、アメリカの問題についてはきわめて抽象的な一、二行で済まされておる。これは先ほど他の議員からも指摘があった点ですけれども、牛場さんが向こうに行って、アメリカもやってもらわぬと困るということを言ったけれども、結局は、向こう側に押し切られてしまったということなんでしょうか。
  238. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) アメリカがここで言っておりますことは、一つは、アメリカがこれからやる政策の詳細は近くカーター大統領のいろいろな議会に対する教書で明らかにされるということを申しておりまして、これはその後詳細なものが出ておるわけでございます。アメリカはああいうことをやるということを共同声明のときにすでに言っておりまして、ですから、日本の方だけがここでは詳しく述べておりますけれども、実際は、アメリカはカーター大統領の教書というものをここで引用しておりますから、その限りにおいて相当詳しく言っておるということでございます。  それから、もう一つは、「輸入石油への依存度を低下させ、輸出を増大する」そして「ドルの価値が基本的に依拠している基礎的条件を改善する意向」だと、これはアメリカとしては相当重大なコミットメントだと私は思うんでございますね。今後九十日以内にエネルギー法案が立法化されるだろう、ということまで申しておるわけでありまして、この点をアメリカが重要視している一つの証拠は、これにつきまして、上院の公聴会で、ある議員がこういうことを言っておる。アメリカがもしエネルギー法案を通せないということになると、日本は全部免責されるのか、という質問をしまして、それはそうじゃないんだという答弁をストラウスがしておったようですが、要するに、これは日米のある程度均衡のとれた仕組みになっているということは私は申し上げられると思うんです。
  239. 立木洋

    ○立木洋君 いままでも当委員会では、繰り返し、漁業の問題にしろ貿易の問題にしろいろいろ議論された場合に、結局、一応は言うけれども、結論的にはアメリカの意向どおりになってしまうというふうな問題が多かったわけですし、そうい点では、アメリカの事情を牛場さんはよく御存じなわけですし、もっと強力な主張をすべきだというふうに考えるわけです。  ECとの関係でも、ECがいろいろ出して述べておる不満の中にはいろいろあるようですけれども、もちろん、それ自体がいいというふうな意味で言っているわけではありませんが、たとえば、わが国が余りにもアメリカに傾斜し過ぎているんではないかというふうな不満をECの側としては持っておるかのように報道されていますが、その点はどういうふうにお考えでしょうか。
  240. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これはまあお互いさまでございまして、じゃECがいままで日本アメリカと同様に重要に考えていたかと言いますと、そんなことはないんですね。やはり彼らもアメリカの方にずっと傾斜しているわけですから、これはまあそんなことを言うと口争いになりますから、そんなことは言いませんけれども、しかし、大体はそういうもので、いまいわゆる三角関係——三角関係と言うとおかしいけれども、日米欧の関係の中で日欧の関係が一番弱いことは確かでございますね。しかし、これは私はだんだん強化していかなければならないと思いますので、今度も非常に困難ではありますけれども、ひとつ何とかECとの間をまとめてまいりたいと思っている次第です。
  241. 立木洋

    ○立木洋君 ある新聞で、牛場さんの記者会見発言だというふうに述べられている点があるわけですが、これが事実かどうか。  「ECが求める象徴的措置を日本がとれるならば、できればフランスの総選挙前に打ち出したいもの」だというふうに漏らしたということが書いてあるんですが、これが本当だとするとちょっと問題だと思うんですが、いかがですか。これはそういうことをお話しになったんですか。
  242. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これはどうも、私、そういうことを言った覚えがございますので、はなはだ軽率な発言だと思っております。
  243. 立木洋

    ○立木洋君 これはやっぱり対外経済大臣としてはこういう発言をされるとちょっと困るわけですね。大きな問題になりますから、そのことだけ指摘しておきたいと思うんです。  それから、先ほど一番最初、大臣が述べられた所信表明のお話の中で、日米欧の関係を強化するという立場についての御説明があったわけですが、いまの経済の中では、特に開発途上国の問題、これは非常に大きな問題でありますし、それから南北問題というのはUNCTADの会議等々でもいろいろ問題にされてきていますけれども、依然として経済格差というのは重大な問題になっておる。  非同盟諸国の運動というのは、国際的に見てみましても、国連でも多数を占める、三分の二近くになる。こういう動きを無視しては、いまの日本の経済の将来も考え得られないということも当然のことだろうと思うんですね。ただ単に先進諸国との関係だけを念頭に入れて、世界の圧倒的な多数を占めておる開発途上国との正しい意味での経済協力ということは、当然、正確な位置づけと正しい対応とがなければ、いわゆる先進諸国だけが手を握って何か開発途上国に対応するというふうな形では問題の解決にはならないだろう。  こういう点では、いままでもいろいろ問題になってきたアメリカが使っているいわゆる戦略物資だと言われているエネルギーの問題、食糧の問題等々、いろいろと強硬な発言もあったわけですし、そういう事態に日本が巻き込まれることはやはり賢明ではないという問題等々も当該委員会では議論されてきたわけですけれども、こういう南北問題、つまり開発途上国との今後の協力の問題等については、大臣は、どういうふうにお考えになっておられるのか、その点だけ質問して、私の質問を終わりたいと思います。
  244. 牛場信彦

    国務大臣牛場信彦君) これは確かに南北問題の重要なことはもう疑う余地のないことでございまして、東西問題、南北問題とよく言われますけれども、これから先は南北問題の方がむしろ重要になってくるんじゃないかという考え方すらあるわけでございます。  ただ、具体的にそれじゃどういうことをやっていくかということになりますと、大体、おととしから去年にかけて、この問題は非常に国際的にも議論されまして、いろんな案が出てきまして、激しい論争が行われた反面、だんだん話が具体的になってきていることがあるんでございますね。ですから、これから先の南北問題というのは、単にイデオロギーをぶつけ合うということではなくして、具体的な問題について話し合うという段階に入ってきたと思うんです。たとえばジュネーブで近いうちにやるんですか、例の累積債務の問題とか、あるいはいわゆる商品協定の問題とか共通基金の問題とか、そういうふうにもう問題が決まってきておりますから、そういう中でもって日本がどういう立場をとるかということがいま重要でございまして、この際に、特にアジアの開発途上国なんかに対して日本が友好的な立場をとっていくということは当然考えていかなければいけないことだと思っております。
  245. 安孫子藤吉

    委員長安孫子藤吉君) 本日の調査はこの程度とし、これにて散会いたします。    午後四時五十九分散会