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1978-02-28 第84回国会 衆議院 予算委員会第一分科会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年二月二十八日(火曜日)     午前十時開議  出席分科員    主 査 塩崎  潤君       谷川 寛三君    中野 四郎君       井上 普方君    武部  文君       山田 芳治君    湯山  勇君       林  孝矩君    工藤  晃君       小林 正巳君    兼務 井上  泉君 兼務 小林  進君    兼務 土井たか子君 兼務 中野 寛成君  出席国務大臣         法 務 大 臣 瀬戸山三男君  出席政府委員         法務大臣官房会         計課長     石山  陽君         法務省民事局長 香川 保一君         法務省刑事局長 伊藤 榮樹君         法務省矯正局長 石原 一彦君         法務省保護局長 常井  善君         法務省人権擁護         局長      鬼塚賢太郎君         法務省入国管理         局長      吉田 長雄君  分科員外出席者         国土庁土地局国         土調査課長   高田 徳博君         大蔵省主計局主         計官      塚越 則男君         大蔵省理財局国         有財産第二課長 山口 健治君         国税庁直税部審         理課長     掃部  實君     ――――――――――――― 分科員の異動 二月二十八日  辞任         補欠選任   井上 普方君     山田 芳治君   小林 正巳君     工藤  晃君 同日  辞任         補欠選任   山田 芳治君     武部  文君   工藤  晃君     小林 正巳君 同日  辞任         補欠選任   武部  文君     湯山  勇君 同日  辞任         補欠選任   湯山  勇君     井上 普方君 同日  第二分科員井上泉君、第三分科員小林進君、第  四分科員土井たか子君及び第五分科員中野寛成  君が本分科兼務となった。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和五十三年度一般会計予算  昭和五十三年度特別会計予算  昭和五十三年度政府関係機関予算法務省所  管)      ――――◇―――――
  2. 塩崎潤

    塩崎主査 これより予算委員会第一分科会を開会いたします。  昭和五十三年度一般会計予算昭和五十三年度特別会計予算及び昭和五十三年度政府関係機関予算中、法務省所管について審査を進めます。  まず、政府から説明を求めます。瀬戸山法務大臣
  3. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 昭和五十三年度法務省所管予定経費要求内容につきまして、大要を御説明申し上げます。  昭和五十三年度の予定経費要求額は三千七億一千九百九十六万九千円であります。前年度予算額二千七百七十七億三千六百三十七万八千円と比較いたしますと、二百二十九億八千三百五十九万一千円の増額となっております。  さて、予定経費の増減について、内容を大別して御説明いたしますと、第一に、人件費関係の増百七十四億六千二百四十七万九千円であります。これは、昇給等の原資として職員基本給増額分が主なものでありますが、そのほかに、法務事務官検察事務官等四百三十人の増員に要する人件費が含まれております。  ここで、増員内容について申し上げますと、一、特殊事件財政経済事件交通事件公安労働事件公害事件等に対処するとともに、公判審理迅速化を図るため、検察事務官九十五人、二、登記事件、国の利害に関係のある争訟事件及び人権侵犯相談事件に対処するため、法務事務官二百十人、三、刑務所における保安体制充実並びに医療体制充実を図るため、看守等四十八人、看護士(婦)十二人、四、非行青少年対策充実するため、少年鑑別所教官七人、保護観察官十四人、五、出入国審査及び在留資格審査に対処するため、入国審査官十七人、入国警備官七人、六、暴力主義的破壊活動に対する調査機能充実するため、公安調査官十六人、七、法務本省国際犯罪対策室を設置すること等に伴い法務事務官四人となっております。  他方、昭和五十一年の閣議決定に基づく「昭和五十二年度以降の定員管理計画の実施について」による昭和五十三年度定員削減分として、三百三十五人が減員されることとなりますので、これを差し引きますと、九十五人の定員増加となるのであります。  なお、昭和五十三年度においては、沖繩特別措置法に基づく定員十五人が、別途、減員されることとなっております。  第二に、一般事務費の増五十五億二千百十一万二千円であります。これは、事務量増加に伴って増額されたもののほか、職員執務環境整備改善並びに保護司実費弁償金及び人権擁護委員実費弁償金単価引き上げに伴う増額分等であります。  次に、主な事項の経費について概略を御説明いたします。  第一に、法務局地方法務局において登記、供託、戸籍等事務を処理するために要する経費として三十八億七千六百十五万五千円、第二に、検察庁において刑事事件を処理するための検察活動に要する経費として十九億六千二百五十四万三千円、第三に、拘置所刑務所少年刑務所少年院少年鑑別所及び婦人補導院の被収容者の衣食、医療、教育、作業等に要する経費として百八十億三千百八十三万円、第四に、保護観察に付された少年等を更生させるための補導援護に要する経費として二十九億七千百三十四万六千円、第五に、出入国審査在日外国人在留資格審査及び不法入国者等の護送、収容送還等を行うのに要する経費として四億一千八百七十六万円、外国人登録法に基づく在日外国人登録等事務を処理するだめに要する経費として十億二千四百七万五千円、第六に、公安調査庁において処理する破壊活動防止のための調査活動等に要する経費として十五億四千百三十八万三千円、第七に、法務局検察庁等の庁舎及び刑務所少年院等収容施設の新営整備に要する経費として百二十五億九千四百二十五万六千円が計上されております。  最後に、当省主管歳入予算について一言御説明申し上げます。  昭和五十三年度法務省主管歳入予算額は七百六十五億七千四百十五万七千円でありまして、前年度予算額七百十二億七百八十万八千円と比較いたしますと、五十三億六千六百三十四万九千円の増額となっております。  以上、法務省関係昭和五十三年度予算案について、その概要を御説明申し上げました。  よろしく御審議を賜りますようお願い申し上げます。
  4. 塩崎潤

    塩崎主査 以上で説明は終わりました。     ―――――――――――――
  5. 塩崎潤

    塩崎主査 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小林進君。
  6. 小林進

    小林(進)分科員 法務省は昨年の十一月二十八日法制審議会に諮り、今年の一月二十三日、審議会提出をされたと同じような内容審議会からの答申がございました。それを受けて、刑事訴訟法の一部を改正する法律案要綱を、刑事事件公判開廷についての特例を定める法律と銘を打たれて、刑訴法に対する特例法として、特別立法として今次国会に上程されるやに聞いておりますが、本当にもうお出しになる決意が決まったのか、あるいはまだ再考慮の余地あるとして一時それを見合わせることにされたのか、承っておきたいと思います。
  7. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 お話しのごとき特例法を今国会提出いたしまして御審議をいただく予定にいたしております。
  8. 小林進

    小林(進)分科員 いつごろ御提出になる予定でいらっしゃいますか。
  9. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 まだ日ははっきり決めておるわけでありませんが、三月上旬には提案の運びにいたしたいと思います。
  10. 小林進

    小林(進)分科員 この法案は、私どもざっと拝見いたしましたところでは、単なる一条、二条ということで、条文としては簡潔そのものでございますが、その内容を見てまいりますと、これは刑事裁判制度の根幹を揺るがす大変重大な法案である、日本憲法が保障いたしております弁護人依頼権というものを侵すものと考える。その意味からは、明らかに憲法第三十七条第三項、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辨護人を依頼することができる。」この第三項の本旨に全く相反するものと考えますが、この点、法務大臣はいかがお考えになっておりますか。
  11. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 結論から申し上げますと、憲法三十七条ですか何条ですか、弁護人依頼権を決めております憲法違反するものではないと思っております。  これは、刑事裁判において弁護人を付することを排除するための、またそういう目的で法案をつくろう、提案しようという考えではないのでありまして、むしろ憲法あるいは刑事訴訟法等予定しております刑事裁判を公正に、迅速に進めることができるようにし、そして法治国家の究極の実を上げるためにという考え方提案考えておるわけでございまして、決して刑事裁判弁護人を排除するという気持ちではなくて、むしろ堂々と参加をしてもらって、憲法刑事訴訟法が期待しております公正、迅速な裁判ができるようにしたい、こういうことでございますから、御理解をいただきたいと思います。
  12. 小林進

    小林(進)分科員 法務大臣は、この特例法案はむしろ裁判を公正かつ迅速に行うために必要なのであって、憲法第三十七条第三項違反ではない、こういうふうな御説明でございますが、これについては法制審議会における刑事局長説明なるものも私は見ております。これは伊藤さんですか、前の安原さんですか。――伊藤さんですか、それじゃなおさらよろしゅうございますが、それを見ても、この内容の中には憲法第三十七条違反ではないという主張を続けられておりますが、これは私ども、その説明は了承するわけにいきません。ここにやはり官側と、民間といいますか、基本的な人権をいつも侵害されるという被害者立場にある民間人と、基本的な大きな見解の差があると思いますが、その問題はしばらくおくといたしまして、いま申されました、結論的には憲法第三十七条違反でないというその説明は、私どもは了承できません。  次に、法務省は、この特例法案により弁護人抜き裁判ができる場合は、いわゆる過激派事件のみに限定したものである。これは法案の中には出てまいりませんけれども説明その他解説を聞いておりますと、そういうふうに説明をされている。過激派事件のみに限定したものであるということになっている。この特例法案は、先ほども申し上げましたように、刑事訴訟法の一部を改正する法律案要綱そのものを第二条として持ってきた。これにいわゆる独立法とするために第一条を加えているのでありますが、この第一条には何が書いてあるかといえば「この法律は、最近における一部の刑事事件審理にみられるような異常な状況に対処するための当面の措置として、刑事訴訟法第二百八十九条第一項に規定する事件公判開廷についての特例を定めるものとする。」こういう条項を第一条に加えたにすぎないものであります。ここでは、いまも言うように、適用の対象というものは法文の中に少しもあらわれていないのであります。どうして過激派事件のみに限定したという根拠がおありになるのか、どこにその解釈が生まれてくるのか、法務大臣にお伺いいたしたいと思うのであります。
  13. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 詳細な御説明が必要であれば刑事局長からお答えをさせるようにいたしますが、もともとこういう法律提案しようということを考えましたのは、近来いわゆる爆弾事件その他の過激派事件裁判において、弁護人なりあるいは被告人等がその裁判遅延をはかる、あるいは裁判制度を否定するがような態度裁判に対応いたしておる、そのためにいわゆるこの種の事犯に対する刑事裁判が非常におくれておる、これは私ども憲法刑事訴訟法あるいは法治国家の国民として容認すべからざる事態である、こういう考えもとから、そういうものについては、憲法といえども刑事訴訟法といえども、これを容認するものでないという立場から、これにある程度のチェックを加える必要がある、こういう考えもとからこういう提案を申し上げているわけでありまして、そういう事犯以外にはそういう傾向がないわけでございます。でありますから、いまおっしゃったように、そういう事犯裁判がいま申し上げたような事態によって非常におくれる、刑事訴訟法の二百八十九条のいわゆる必要的弁護制度というものを逆用して、弁護士がいなければ裁判は絶対進まないのだ、こういう態度に出ることは、憲法刑事訴訟法が志向しておる点ではない、これをチェックしよう、こういう考え方で出しておりますので、その他の事犯を想定しておるわけではありません。  しかし、そういう傾向が広がりまして、いわゆる過激派事件以外にもそういう事態が起こりますと、法律でございますから、当然にそれを適用する事態が起こり得る、かように考えておるわけでございます。
  14. 小林進

    小林(進)分科員 法務大臣のお言葉は、半分ばかり口の中でもごもごとおっしゃられるから、ちょっとどうも後半理解に苦しむところもあるのでありますけれども、何かお話によると、これは過激派だけでなくて、こういう過激派的な法廷戦術が行われた場合にはそれを他に類推適用していくというようなお言葉のようにも解したのでありますが、そういうことになれば、なおさらこの法案は非常に危険であります。こんな恐ろしい法律一般事件に全部持っていかれたら、これは事実上、憲法、刑法、刑事訴訟法刑事裁判のよって来る根拠を根本的に揺るがして、昔の治安維持法よりももっと恐ろしい適用を受けることになるのであります。いま過激派だけに限定すると言われているのでありますが、その過激派だけに限定しても、これは基本的人権に関する重大問題である。われわれこれをなかなか認容するわけにはいかない。こういうふうに論じているのに、それを超越いたしまして、一般刑事事件にまで全部適用するとなれば、これはもう大変な問題であります。われわれははだにあわを生ずるくらいの恐ろしさを感ずるのでありまして、そういうことはやめていただかなければいけない。  本論に返りまするけれども、まあしかし、いまのお話が本当であるならば、これは清盛じゃありませんけれども、墨染めの衣の下からよろいがちらちらしているようなものでございまして、とてもこれは了承することができません。はっきり申し上げます。ただハイジャック等を防止するための過激派だけに限られた問題であると限定しても、こういうノー弁護士弁護士をなくして迅速に裁判を行うことが一体どうして過激派を防止することにつながっていくのか、さっぱり因果関係がわからないのであります。こういうふうにやることが一体どうしてハイジャック防止になるのですか、どうして過激派の発生を防止するような関係になるのか、因果関係がわかりません。お聞かせを願いたいのであります。
  15. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 まず最初に前段からといいますか、後段からといいますか、申し上げておきますが、一般刑事事件にそういうことをずっとやるんだというような印象でお聞き取り願ったということでありますと、それはこの提案の趣旨を逸脱しておるお考えだと思います。それをさっき申し上げましたように、こういう法律がなくて、こういう提案をする必要がないのがあたりまえのことであります。あたりまえが通っておらないいまの一部の刑事裁判において、さっきも申し上げましたように、そういうことはわが国の憲法なり刑事訴訟法が認めておる事態ではない、しかし文字だけからいいますと、二百八十九条の刑事訴訟法のたてまえからいいますと、弁護士がおらなければ裁判ができないと書いてありますから、それを逆用して、弁護士が退席したり出て来なかったりすると、国家裁判は絶対に進められない、そういう立場で立ち向かっておる被告人なり弁護人憲法刑事訴訟法は許すわけにはいかないということで、チェックをしようということでありますから、仮にこれが成立いたしますと、そういう関係裁判だけにしか適用がないわけでございます。  しかし、私が後で申し上げましたのは、仮にそういうやり方がびまんいたしまして――やり方というのは弁護人あるいは被告人やり方がでございます。ほかにもそういう事態があれば、法律でありますから当然に適用される場合が起こり得る、こういうことを申し上げておるのでありまして、現にこういう種類の事件のほかには、弁護人がそういうかっこうで二百八十九条を逆用して裁判に出頭しないとか遅延させるという事態は起こっておらないわけでありますから、弁護人があたりまえに憲法なり刑事訴訟法あるいは弁護士法が期待しておるような態度でお臨みになれば、こういう過激派等裁判についてもこの法律は全然動かないわけでございまして、人権侵害であるなどということをおっしゃいますけれども、そういうことは反対せんがための反対であるど私どもは受け取っておるわけでございます。
  16. 小林進

    小林(進)分科員 どうも法務大臣お話を聞いておりますと、やはり官側と言いましょうか、三権分立でありますけれども、いわゆる司法、裁判長あるいは検事側、そういう者の法廷維持の姿勢がいつも正しいのである、被告ないし弁護士の側はいつも不当、不法な行為をしているという前提に立っている。ここにむしろ危険があるとわれわれは思う。しかし、私も、弁護士が、あるいはまた被告が、裁判を拒否したり、弁護士を辞退したり、遅延さしたり、法廷を空白にしたり、そういうことがむげに正しいと言っているのじゃない。それはそれなりに反省してもらわなければならぬが、その反省を促して裁判の公正、迅速を期するためには、一方側がこういう強権的な権力で抑えようとする前に、まだなすべき手が幾つもあるのじゃないか。裁判が確定するまでは、極悪非道な被告であろうとも、人間としては対等なんです。検事とも対等なんです。弁護士とも対等なんです。それを一方的な権力で抑えようとするところに、ファッショに通ずる、治安維持法をつくったときの思想に通ずるものがある。確定しなければ犯罪人じゃないのですから、対等の権利を持っている。その人たちに言わせれば、刑事被告人として三年以上、死刑、無期懲役ですか、いささかでも罪は軽くしたい、何とか逃れたい、そのためにあらゆる法廷戦術を使うということは、これは考え得ることなんです。それはいずこの社会でも、あなた方は早く判決を下して罰したいと思うだろうし、片っ方はいささかでもこれを逃れたい、罪を軽くしたい、この争いなんですから、それを一方的な者が、自分たちのつくったいわゆる法廷の秩序に入ってこないから、あるいは自分たちのつくったさらに乗ってこないから、これを別な権力で抑えようなんというところに私は大変間違いがあると思う。ですから、あなたの説明は聞けば聞くほど了承できません。刑事被告人として法廷に立ったその瞬間においてこれを犯罪人としてきめつける考え方に立っているのでありますから、非常に危険です。  そこで、私は御質問いたしますけれども、第一条で言う「異常な状況」というのは、一体どういう状況でありましょうか。
  17. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほど来大臣がお答えしておりますことに帰するわけでありますが、全国一万一千人の弁護士さんがおられますが、そのほとんどがりっぱな方であります。しかしながら、ほんの一握りの弁護士さんがおられまして、いわゆる過激派被告人事件におつきになりまして、その場合に、被告人の行います裁判拒否闘争、こういうものに意を同じくされまして、裁判を粉砕する一つの手段として、気に食わないときには法廷から出ていってしまう、あるいは期日に出頭しない、こういう状況が、ごく一部の事件でありますが、存在するわけでございます。その状況を「異常な状況」と申しておるわけでございます。
  18. 小林進

    小林(進)分科員 「異常な状況」というのは、軽井沢じゃないですか、そういう事件とか連続の放火事件とか、そういう問題を指して言われておりますけれども、これに対しても、私ども第三者立場で見れば、言い分なきにしもあらずです。統一裁判をやってくれ、判事の場合は分離裁判だ、そういうような意見の対立がこういう法廷拒否闘争になったり、あるいは弁護士を辞退したり、裁判長の許可を得ないで途中に法廷から弁護士が退場していったりというような問題を惹起している。しかし、その前に、あなたがおっしゃったような異常な問題も、いまはある程度軌道に乗っているじゃありませんか。四十年裁判と言われたのでありますが、このままの状態でいけば、三年くらいにどうも結審できるのではないかというところまで行っておる。それは何か。裁判長あるいは検事弁護士側被告側と三者が事前に話し合いをしていれば、ちゃんと軌道に乗っていく。その労苦をやらないというところに問題があると私は思いますし、また仮に軌道に乗らないと仮定しても、あなたが言われるように、一万一千ですか一万二千人の弁護士の中のほんの少数だとおっしゃるが、その少数人たちはやがて仲間の弁護士からも捨てられてしまうときもあるだろうし、また皆さん方の方でも、拒否したら、弁護士会に申請して、早く官選弁護士をつけてくれと、そういうような手続を依頼する。むしろあなたの言われるように、大ぜいの弁護士良識派でりっぱであるというならば、その大ぜいのりっぱな弁護士がちゃんと構成している弁護士会に、いま少し皆さん方の方でそういう修正の意見を出されたらいいじゃないですか。国家権力で抑えるなんという前に、そういう綿密な血の通った政策をとっていけば軌道に乗せられる。ましてや過激派だとかあるいは異常な状況だとか、そういうような問題のためにノー弁護士裁判をやるなんというときになったら、その異常な状況というものはやはり細かく例示的に、制限的に、具体的に示して、これとこれとこの場合だけはやむを得ずノー弁護士でいくのだ、そういうことでなくちゃいけない。裁判官の一方的な考え方で、これは過激派裁判だからノー弁護士でよろしいとか、そういう法律に基づかざる主観的な判断で裁判が進められるということになったら、これは大変危険であります。ここでも私は賛成できない。過激派という定義が何にも法律に明確にされていないし、またその過激派以外の者も、法務大臣は、やはり裁判長に気に入らない、判事検事に気に入らない裁判闘争弁護士側被告側が持ってくれば、それをノー弁護士でやる場合もあるなんと言うのですから、ますますもってこれは危険千万だ。それで異常な状況とは何だと言ったら、その異常な状況も、いまの刑事局長お話では、ほんの少数だけれども悪いやつがいて、そういう裁判延期闘争などをやる場合にはやってしまうのだということで、何も具体的に示されているわけではありませんから、これは了承できません。  次に、もう時間が来て非常に残念でありまするけれども、その過激派なるものがきわめて不明瞭であるということはその意味において申し上げましたが、もし仮に、その過激派というものだからノー弁護士でもよろしいということになったら、同一の事件殺人罪だあるいは凶器準備集合罪だ、こういうときに、被告人が一緒に来たときに、おまえは過激派だからノー弁護士でやってしまうのだ、おまえは過激派じゃないから同じ殺人罪でも凶器準備集合罪でも弁護士をつけてやる、弁護士が来なければ裁判を延期してやる。同じ被告人の中にこうやって差別が生まれてくる。これは大変なことだ。過激派である、過激派でないというだけの裁判官の判定で非常に法廷における差別待遇が行われる。これは重大な問題でありまして、被告人でも判決が下るまでは、法のもとにみんな平等と定めた憲法第十四条で守られている。これは憲法第十四条からいって、私は重大な差別待遇であると考えるが、この問題、一体どうするか。  時間もないからいま一つ申し上げます。法務省は、この法律はいわゆる時限立法である、こういうことを発表しているが、一体時限立法であるという規定がどこに書いてあるか。ただ言葉だけで時限立法と言っておるのでありますが、その言葉として、特例法の第一条には「当面の措置として」と規定してあるだけだけれども、その「当面」というのは一体いつのことか。しかも、それじゃその「当面」を「当面」じゃなくして、この時限立法を廃止するときにどうするのだ、同じように国会に出して、同じような廃止の手続、法的手続を経なければこれを廃止することはできないのでありまするから、当面の措置とはいいながらも、一たん動き出せばずっと延びていく、永久立法とちっとも変わりがない、こういう一つの危険性がある。これを具体的に時限立法とおっしゃるならば、いつこれを廃止できるのか。ごまかしている。こういうごまかしはひとつやめてもらいたい。  それから第三番目として、私は世界を全部見て歩いておりまするけれども弁護士の処置によらずして、こういう生殺与奪の権を握るような法律は、一体日本以外のどこの国にありますか。寡聞にして、私も見てきたけれども、ユーゴスラビア、社会主義国家にさえもこういう残酷非道な、人権を抑圧するような法律根拠はない。どうも法務省はどこかの法律を例示的に見られているけれども、それをよく見ていくと、法務省はむしろ逆の宣伝のための資料をお出しになっている。そこに私は実に大きなごまかしがあるように思うのであります。  以上の三点についてひとつお答えをいただきたいと思うのであります。
  19. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いろいろお話が出ましたが、先ほどのお話の中で、何か被告人立場を認めないような考え方でこの提案をしているような御発言がありました。私どもから言いますと、これはとんでもないことであると思います。被告人立場を認めるからこそ、堂々と法廷弁護人に来てもらって弁護すべきところ、あるいは真実発見のために活動をしていただきたい、これが最大のねらいであります。そういうことをやられないで、さっきも申し上げましたように、裁判を拒否するがごとく、あるいは裁判遅延させるために活動するということは、繰り返すようでありますが、憲法刑事訴訟法の認めるところでない、こういうことを申し上げておるのであります。やはり弁護も法律の定めるルールに従ってやってもらわなければならない。私どもは、何も裁判官があるいは検察官がいいので弁護人が悪いのだという考えは毛頭持っておらないのであります。  先ほど刑事局長が申し上げましたように、全体からいいますと、一部少数と申し上げていいと思いますが、そういう特別な考えを持っておられる弁護人の方にそういう事例がある。小林さんも考えてもらえばいいのであって、ほかの刑事裁判はたくさんあるわけでありますが、そういう事例はないのでありまして、そういう事例がなければ弁護ができない、公正な裁判被告人立場を守っていこうという弁護人裁判に関与することはできないということはないわけであります。一般はそうであります。特別な事態に対処をしよう、こういうことであります。  それから、過激派だから弁護人を排除するのだ、そういう考えはございません。過激派であろうが何であろうが、弁護人が堂々と裁判に参加をしてもらって、そしてルールに従って裁判を進めていただきたい。それができないものですから、こういう特別な措置を講じなければならないという事態がありますということを申し上げておるのであります。  それから、「当面の措置」云々というお話がありました。私どもはこの問題の根本的解決はかようにしたらどうかという考えを持っておるわけでございます。一番よろしい方法は、失礼でありますけれども、そういう事件弁護人の方が正々堂々と法律のルールに従ってやってもらえれば、これで問題は解決するわけでありますが、なかなか裁判官といえども、検察官といえども弁護人弁護士といえどもやはり人間でありますから、必ずしも神、仏みたいにいかない場合がある。ありますから、そこで御承知のとおり、裁判官については、もし裁判官に非違があり適当でないという場合には、やはり国民監視のもとで、御承知のとおり裁判官を弾劾する制度ができておるわけであります。これは国会にあるわけであります。検察については検察官適格審査会という第三者機関があって、検察官の品位やあるいは処置について不適当であれば、これを処置する、こういう制度、これは民主主義国家では当然のことであります。法曹三位一体となって裁判を進めなければなりませんが、その際に、弁護士については第三者機関としてこれをチェックする機能が残念ながら、ない。弁護士法にありますが、弁護士さんはそういうことをなさらないであろうということで、これは議員立法でありますけれども昭和二十二、三年ごろつくったのだと思いますが、弁護士会の自治に任されておる。その自治能力は、率直に申し上げて、現在行われておりません。そこでこういう事態が起こってくるのだと思います。  それから、国選弁護のお話がありましたが、そういう手続をたびたびやっておりますけれども、こういうことをぜひ頭に置いていただきたい。これは私が言うのではなくて、弁護士会の人、あるいは弁護士会の今日の立場を援護される学者の皆さん、皆さんというか学者の中で言っておられるわけでありますが、こういう事件関係する国選弁護人になったらどうかという意見があるが、本人はもとより家族の生命まで危険にさらすようなことで国選弁護人になる者がおるか、こういうことを言われておるのが現状でありますから、そういう事態の中でおっしゃるようなことを期待してもなかなかかなわない。  そこで、私どもは、できれば国会等でもよく御検討願って、弁護士に対しても第三者機関としての弾劾裁判所、検察官適格審査会のような特別な機能を持つものを国会なりどこかに置いてもらうということになれば、こういう問題の根本的解決につながるであろう、こういうことを考えておりますが、これはなかなかそう簡単に急にはまいらない。でありますから、そういう事態を検討しながら、そういう国民的監視の制度ができればこういう制度は要らなくなるであろうという意味で、暫定的に一応こういう制度をつくりたい、こういうことでございますから、御了解を願いたい。  外国の立法例については刑事局長からお答えいたします。
  20. 塩崎潤

    塩崎主査 刑事局長。時間がありませんので、簡潔に願います。
  21. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 諸外国の立法例を見まして、このいま私どもが準備しております法案のような制度をとっておるところはございません。それは、ただいま法務大臣が御説明申し上げましたように、法廷においてはなはだしく品位を害するというような行為がありました弁護士は、必ず懲戒処分を受けるように法制がきちんとされておりますから、そういう弁護士さんは弁護士業務から排除される、こういうことになっておるわけでございます。わが国においても、暫定的な特例法が成立しました暁に、なるべく早い機会に関係各者の話し合いを詰めまして、先ほど大臣が申し上げましたような第三者機関というものがつくられることが究極的には望ましい、かように考えておるわけでございます。
  22. 小林進

    小林(進)分科員 これで終わりますが、いまの御答弁でございますけれども、これはみんな法務省がお出しになった資料ですが、確かにドイツ連邦共和国、オーストリア共和国、フランス共和国、チェコスロバキア社会主義共和国、各刑事訴訟法及びスペイン国テロ活動防止法等にも、みんないまの日本のようなこういうファッショ的な法はございません。  結論を申し上げますけれども法務大臣、いろいろお話を承りましたが、断じて賛成できません。何といっても、いまのあなたのおっしゃることは、これは法廷被告人弁護人の防御権なんですよ。そうして弁護権なんです。彼らは弁護し、自分たちを防衛する。そのためのいわゆる裁判法廷戦術というものの一環なんだ。それが悪ければ、あなたのおっしゃったように、世間の非難を受けるのです。同じ弁護士会の仲間でも、そういう悪徳、と言っては悪いですけれども少数の者もやがては落ちていく。依頼者もなくなってくる。そこは民主主義下における世間の厳しい目というものがあるのでありますから、その審判に任せればいいのであります。  なお、私は繰り返して言いまするけれども、ここに日本一流紙の新聞社の社説があります。朝日、毎日、読売を初め各社説とも全部、この法案はいわゆる被告人権をじゅうりんする実に恐るべき法案であると言って反対をしております。  それこれを考えまして、残念ながら法務大臣の御説明は断じて了承できませんので、すべからく原点に返って、そういう法案提出を見合わせられることを強く要望をいたしまして、私の質問を終わらせていただきます。
  23. 塩崎潤

    塩崎主査 以上で小林君の質疑は終わりました。  次に、山田芳治君。
  24. 山田芳治

    山田(芳)分科員 私は二線引き畦畔の問題について質問をいたしたいと思いますが、法務大臣、二線引き畦畔とは何か御承知ですか。
  25. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 農耕地等において畦畔があります。いろんな耕作その他に使っておるわけでございますが、それは、二つの線を引いて、ここは国有地である、これは一般の農作に従事する方々が使ってよろしい、こういうようなものは昔からある。それをそうおっしゃるのではないかと私は思っておるわけであります。
  26. 山田芳治

    山田(芳)分科員 大蔵省の方、二線引き畦畔ができた経緯をちょっと御説明いただけますか。
  27. 山口健治

    ○山口説明員 いま先生おっしゃった二線引き畦畔はどうしてできたかという御質問ですけれども、これはうちの方で古文書その他いろいろ調査いたしておりますけれども、どのようにしてできたかということを完全につまびらかにするようなものはございません。ただ、察するに、明治維新の際に、地租改正その他土地制度が確立して、公図をつくる際にそういうものができた、そういうふうに理解しております。
  28. 山田芳治

    山田(芳)分科員 畦畔はいま大臣は国有地であるというふうに言われましたですね。その根拠はどこにあるのか。要するに、畦畔は本来的には農地に付属するもの、農地を維持するために畦畔があるわけであります。昔は、生産農地だけに課税をされるという形の中で、畦畔は付属はするけれどもそこからは生産が上がらないから、したがって免租地となっていた。したがって、それはあくまでも農民の所有であるにもかかわらず、いつの間にか国有地になっている、そして二線を引かれてそこは国有地だ、こうなっているわけですね。一体これが国有地であるという法律根拠は何ですか、大臣。
  29. 山口健治

    ○山口説明員 お答えいたします。  畦畔について実定法上これを国有とするという規定は現在の法制にはございません。ただし、畦畔についていろいろ制度の変遷があったのですが、登記簿あるいは土地台帳に記載があって地番が付されているものについては、これは民有地として昔から認めておりまして、そうでないもの、すなわち、登記簿にも登載がないし、公図にも記載がなくて無地番なもの、こういうものについては、民法のたしか二百三十九条だと思いますが、無主の不動産は国の所有に属すという規定がございますが、それによって国の所有ということになっております。
  30. 山田芳治

    山田(芳)分科員 大臣、いまお聞きになられたと思うのですが、要するに畦畔は、明治あるいは幕府以来、民有地だけれども、しかしそれは免租地になっておる。だから農民のものであるということははっきりしているのだけれども、そこはいろいろの地図やその他について畦畔というか二線引きみたいな形で書いてある。いま大蔵省の山口課長の話にあるように、法律根拠は何もないのですよ。ただ、民法によって、民有地でないものは国有地だ。いまならそういう法律はとてもできぬと思うのですけれども、戦前でありますから、民有地でないものは国有地だ、こういう規定であるという考えで国有地になっている。ところが、国有であるとするなら国有財産台帳にあるのか、実際大蔵省は管理しているのか、何もしてないのですよ。国有財産というものは、国有財産法によって台帳なり管理というものが行われなければならないことになっているわけですね。その点についてどうですか。
  31. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 細かいことは専門家からお答えさせますが、民有地、国有地というお話がありましたが、私も詳細にそういう専門的なことを研究しているわけじゃありませんから、あるいは間違った考えを持っておるかもしれませんが、御承知のように、いわゆる明治維新、百年余り前にやりまして新しい日本国家の制度をつくるということを進めたわけでございます。その際に、明治四、五年ごろからといいますか、十五、六年までに土地の所有権というものが非常に問題になりました。土地から税金を取る、いわゆる地租というものを取るときに、どこを一体民有地にするかということをやった時代があります。相当トラブルもあった時代があるわけでございますが、もともと旧封建時代といいますが、徳川時代には明確な所有権というものがなかったと私は思います。山林田畑、宅地その他何となく、これはそう決めてあるわけではありませんけれども藩主のものであるとかあるいは国のもの、国という概念はその当時は余り深くなかったと思いますが、いわゆる藩のもの、こういう考え方で、個人の所有権というものを今日のように明確にしておらなかった。しかし、新しい民法その他の制度をつくって近代国家とするについては、最初は税金を土地から取る、いわゆる地租、そういうことからどうしても官民の区分をしなければならない、そういう時代が十四、五年続いて相当争いのあった歴史があると思いますが、そういう時代でございますから、おっしゃるように、もともと国土というものは日本の場合は天子のものであるとかあるいは藩主のものであるという概念があった。今日のような明確な法律的な問題ではないと思いますけれども、そういう概念があった。でありますから、国民の個人有に帰すべきものであると決めた以外は国のものである、こういう概念で処置をされておる、私はこう見ておるわけでございます。
  32. 山田芳治

    山田(芳)分科員 いまの質問は、明確な規定というのは民法にあるというのですけれども、この規定に一つ問題があるということと、もう一つは、いま私が申し上げたように、国有財産であるとするなら、台帳なり管理ということが明確になされていなければならないはずだけれども、それがなされていないのではないかという質問を実はしたわけなんで、もうそうなっているわけです。  そこで、いわゆる近代国家としてそういう土地の所有権なり何なりが明確化をするということになったわけですけれども、現在においては相も変わらず絵図面のような地域がたくさんあるわけですね。そこで、国土調査法という法律に基づいて近代国家としての土地の所有権を含め、土地を調査して、それを明確に登記をしながら近代国家としての土地の区分を始めたのが、この国土調査法なんです。ところが、これはもうこれで二十年もやっておりますけれども、遅々として進まないというところに一つ問題があります。それはいま言ったように、近代国家への転換の中で、いま話がありましたように、従来の問題を新しい法律に適合してどうしていくかというところに大きな一つの問題があるわけです。したがって、こういう問題について国土調査法という法律により国土全体を調査して、実態に基づいて新しい登記をしていくということは一日も早くなされなければならないので、近代国家だ先進国だと言っているけれども、土地については日本は国土調査がまだまだ十分やられていない、義務化もされておらなくて、やりたい町村が任意にやる、いまはこういう方式なんですよ。  こういう状態の中で、いま言ったように、租税を納めないという関係の中でいわゆる二線引き畦畔というものが出てきました。いま大臣がおっしゃったように、確かに国有であるかもしれないけれども、すでに平穏かつ無事に農民が全部占有をしているわけです。だから、民法の規定によってこれは当然取得時効にかかわる問題の内容になっているということであります。したがって、これは確かに農民自身としては自分の土地であるというふうに考えているし、またそれを平穏かつ無事にずっと占有をしてきているのですから、当然農民のものなんだということで、当然この畦畔の取り扱いは民有地として扱われるべき筋のものであるというふうに思うわけであります。現在の絵図面の中でも、官有地であるところのものはこれは明確に色分けがされております。そうでないところの畦畔は民有地の表示がされてないから国有地だなどと、こういうふうに言うわけですけれども、現実はいま言うように、平穏かつ無事に農民が占有をしているわけですから、取得時効が発生をしている。  もっとも、これは国有地になったということになるのかどうかわかりません。これはわからない。本来的に言えば、裁判で確認の訴訟でもやらなければならない。やってみても、これははっきりしないという部分があるのですが、そこで私は、もう時間もありませんから一つの提案をいたしたいということでお願いをしたいと思うわけでありますが、私どもの選挙区の、たとえば田辺町の例を一つ申し上げると、官有の畦畔というのは黒地として図面に表示されています。民有畦畔は本地に付属したものとして色分けをされている。だから、民有地として色分けをされているわけでありますが、昭和三十五年に関東財務局の公文書が関東の法務部局に対して、国有地としての取り扱いとして、一件一件国有地として時効取得によって農民に払い下げる、そういう形の中で、農民としてはいままで当然自分の土地であったと思うのに、財務局あるいは財務部の立ち会いのもとに手数料を払って、そして国有財産であったけれども取得時効だからという形を一件一件とって、その証明がない限り法務省登記をしない、こういう形になってきたわけですね。これでは農家は、いままで平穏かつ無事に自分の土地として耕作をし維持管理をしてきたというものを、いまさら国有地なんだから、こう言っても、これは納得ができないわけです。  しかし、いま言ったように、いろいろの事情がある。民有地でなければ国有地だ、しかし国有地といえども国有財産法による管理も何もなされていない、こういう土地ですから、私としては次善の策、決してこれは農民のものだという主張を捨てているわけではないけれども、しかし国土調査法によるところのそういう図面をきちっとしてこの際明確にしていくためには、農民に負担をかけないように、すなわち市町村長に一括この問題を処理をさせる。内容的に言えば、取得時効で結構であります。それで市町村長が一括して処理をして、法務省の方もそういう手数料など、いまさら農民の土地であるのか国有地であるのかわからない、国有地としても管理もしていない、しかも取得時効に当たる土地であるということであるならば、手数料を払わないで一括市町村長にこの処理を任せて、そしてそれがきちっと確認が包括的にできるならば、これは登記をして、民有地として国土調査法の手続に従ってやっていくというような処理をぜひやってもらいたい。そうしなければ、またこのいまの問題が、明治以来のいろいろの問題を含めて国有地であると言ってみたところで、国有地であるところの表示もない、管理もされていない、ただ国有地だ国有地だと言っているだけである、こういう状況では現実の問題としての処理が進まないという問題があります。だから、私は国有地であるかないかは別として、国有地であるとしても取得時効が完成をしている、それだから市町村長が一括して、この手数料は免除をして、そして法務省において登記をするということについて、大蔵省、国土庁並びに法務省当局の私の提案に対する御意見をひとつ伺って、私の質問を終わりたい、このように思うわけであります。
  33. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いまのお尋ねに端的にお答えする段階ではないと私は思いますが、おっしゃるようなことは各地にあると思うわけです。私もそういう実例に直面したことがあります。それは畦畔ばかりでなくて、小さな流水、みぞと申しますか、そういうものも、それはたてまえは全部国有になっておるわけでございます。しかし、現状は明治以来人の屋敷の中に入っておる。みぞ地はない、原形は。しかし、図面上はみぞ地で国有地になっておるところが各地にある。そういうことで区画整理をしたり、あるいは道路拡張をしたりするときに、土地を見るとそういうふうになっておる。もう何十年、五十年、六十年以来だれも気づかなかったところにそういうものがあるという事態があるわけでございます。私が経験した実例を申し上げて恐縮でありますが、そういうことが発見されて、実は大蔵省財務局から現在の価格で買い取れと言われて飛び上がった事例があるわけでございますが、これは非常にむちゃなことで、どっちも気づかない。まあ、日本人の緩やかといいますか、気持ちでいいますと、時効を主張するのも大人げないという気持ちがある。さればといって、現在の価格でそれを買えと言われても、とてもじゃないができない。そういう事態がありまして、そこはお互いに相談をして、もう国有地で管理したこともないし、長く、たとえば人の屋敷になっておる、あるいは畑になっておる、田地になっておるところもあると思います。そういうところは地租を納めておらぬ、ずっと納めておらぬ、ただで使っておったかっこうになっておりますから、そこら辺は考えて、余り負担のかからないような方法で処置したらどうかといった事例があります。  そういうこともありますから、おっしゃるところが全国にたくさんあると思いますが、具体的にはいまそう起こっておらぬと思いますが、そういうものについて、法務省登記だけでございますけれども、財産管理の大蔵省あるいは国土庁とよく相談して、そういうときにいわゆる実社会に合った処置の方法をとる必要がある。おっしゃるように、明治以来、日本の国土というものは明確になっておりません。これほど近代国家になって、こんな土地の状況が不明確な国は余りないと私は思っております。そういう意味で、国土調査法を施行してやっておりますが、まだ全面的にやるのには経費がかかってどうのこうのということで、進んでおらないのが実情でありますから、そこら辺は後で各省の事務当局からお答えさせますけれども、そういう現状に沿った、また長く使っておった人は悪意でも何でもないのでありますから、そういう大きな負担のかからない方法で整理をする、明確な整理をするという方式をここら辺でもう打ち立てておく必要があるのではないかと私も考えます。あとは各当局から説明いたします。
  34. 山口健治

    ○山口説明員 お答え申し上げます。  いま先生のおっしゃった御指摘の点については、実は法務省とも連絡して、国有財産時効確認連絡会というものを設けまして、そこで訴訟によらずに取得時効の完成したものについてはこれを認めて手続を簡素化してきているわけです。昭和四十六年には国土庁の御了承も得て、国土調査の際につくった地図を利用することができるというように、徐々にその簡素化はしているのですが、何分にもその土地の間の、特に隣接地との間の争いというものは絶えず起こっておりまして、事柄が非常に重要な財産である土地の基本的な所有権という問題であるということが一つ。それから、いままでもかなり争いが後になっていろいろ起こっている。特に処理をあいまいにして能率的にどんどんやって、早くずっとやった場合に、そういうことが現実に非常に起こっている。それから、御承知と思いますが、たんぼあるいは畑には里道とか水路とか、いわゆる法定外公共物というものがありまして、それと畦畔と間違って認定したりしますと、後で建設省とか何かとの間で大変な問題が起こる。こういういろいろな問題が起こっているわけでございます。  ただ、先生御指摘のように、この取得時効が完成した場合に、これを個々人が所定の手続に従って申請をし、かつ付属書類というものをつけて財務局へ出すことになっているのですが、その付属書類というものはかなりいろいろな種類のものを要求しているわけです。それは、いま申し上げたような争いを後からなくすためにやむを得ずやっている部面も多いのでございますけれども、確かに取得時効を主張し、手続をなさる方にとっては申請は個々にやっていただかなければならないということは、これは変えることはできないと思うのですが、付属資料については、御指摘のように、なるべく負担のかからないように前向きの方向で検討する、こういうことはお約束できると思います。
  35. 香川保一

    ○香川政府委員 地籍調査が行われました場合に、御指摘のような二線引畦畔につきまして、調査過程におきまして、財務当局の了解もあって、それが時効取得か何かは別といたしまして、民有になっているというふうなことでございますれば、当然地籍調査を実施する市町村におきましては御承知の地籍簿に、現に登記されていない、そういう民有の土地があるということの記載がされるわけでございます。そういう記載がされてまいりますれば、登記所といたしましては、その地籍簿に基づきましてその民有の名義で土地の表示の登記をする、こういうことになりますので、所有者にとっては少なくとも登記関係におきましては手数も費用もかからぬということで処理される、これは当然のことだと考えております。
  36. 高田徳博

    ○高田説明員 従来とも二線引畦畔につきましては、その占有者が時効取得を申請する場合には、そこで実施いたしました地籍調査の測量の結果を利用することができるという取り扱いにしておりますが、なお今後とも関係の省庁とも協議してまいりまして進めたい、こう思っておる次第でございます。
  37. 山田芳治

    山田(芳)分科員 いま発言がありましたように、非常に問題がある。しかも国土調査というものはできるだけ早くやらなければ、明治というより明治の初年以来の絵図面がまだ残っていて近代国家だなんて言っているようなことでは、日本の国土は土地の処理の上においてはまことに後進国並みである。地図にかいた高低もなければ、現実と合っていないというような絵図面だけであるということは驚くべきことなんで、この国土調査をスムーズにやるためにも、いま言ったように、二線引畦畔というものは大きな障害になっています。  そこで、私がいま申し上げましたように、できるだけ金がかからないで、農民に申請だけはやらせなければいかぬというのは、それは最小限度の手続は必要としても、また争いがある場合云々というふうに言って、何か争いが一つあればそれをてこにしてやらないということではなくて、争いのないところからは一括して市町村長が処理をする。そしてできるだけ、申請書も膨大なものがかかるというような実態でありますけれども、そういう点もぜひひとつ全国の関係者を呼び集めて具体的な処理についても打ち合わせをしていただいて――これは単に京都だけではありません。神奈川県も静岡県も、全国的にこの二線引畦畔という問題があるわけですから、この国土調査の進行を非常に阻害をしている一つの大きな問題になっているわけですから、関係省庁が本当に国土調査をスムーズに進める意味において、経費等も含め、そして地図その他についても簡潔にし、できれば私が申し上げたように、市町村長に一括をする、市町村長が住民から申請書も一括して受け取るというような前向きの姿勢でこれをやっていただかないと、困ると思うのは、昭和四十年に大蔵委員会でもこの問題は取り上げられていろいろと論議をされている経過があるわけです。一定の改善は行われたとはいえ、現在でもなおこの問題が一つの障害になっておる。それ以来十数年もたっているのにこの問題が処理できないというかっこうになっているので、市町村の関係当局、農民の間では非常に問題になっておるということを申し上げて、ひとつ早急にこの問題解決のために――各関係省庁にわたっておるものですから、いまの日本の政府というのは一つの省で処理できるものはわりにやれるのですけれども関係省庁が幾つかにわたるというと、あっちがこうしてくれ、こっちへ行ったらこっちでなくあっちがやってくれといって、お互いなわ張り、セクショナリズムというものがあるのではないかと思われる点があるわけで、この点は関係省庁それぞれにわたっておりますので、国務大臣としての法務大臣に、前向きに早急に処理していただくということについてひとつ決意をお述べいただいて、私の質問を終わりたいと思います。
  38. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 関係省庁からも先ほどお話を申し上げましたが、確かにそういう点がおくれておるとさっき事例を申し上げて恐縮でございましたが、私も痛感をいたしております。いま国土調査をしてこれから本格的な整備をしようという時期に入っておりますから、山田さんの御意見等も含めて善処をするように努力をしたいと思います。
  39. 塩崎潤

    塩崎主査 以上で山田君の質疑は終了いたしました。  次に、土井たか子君。
  40. 土井たか子

    ○土井分科員 昭和二十二年の五月に起こりましたいわゆる福岡事件におきまして、その後昭和三十一年の四月と五月にわたりまして死刑の確定判決を受けた二人の死刑囚が当時あったわけでありますが、現在この二人についてどういうことになっているかを、まず簡単にあらまし御説明賜りたいと思います。
  41. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 二人の共犯者のうち一名につきましては、今日までに刑執行済みでございます。一名につきましては昭和五十年六月十七日に無期懲役に恩赦減刑になっております。
  42. 土井たか子

    ○土井分科員 死刑が執行されました死刑囚に対してまずお尋ねをいたしますが、いつ死刑が執行されたわけでございますか。
  43. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 死刑執行の具体的な日取りにつきましては、なるべく御勘弁をいただくことにいたしておるわけでございますが、昭和五十年の夏の初めごろでございます。
  44. 土井たか子

    ○土井分科員 昭和五十年の夏の初めごろに死刑が執行されるに先立ちまして、本人から恩赦願が出されていた事実があると存じますが、それはいかがでございますか。
  45. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 その者が二回にわたって恩赦の出願をいたしておりまして、第一回が昭和三十六年十一月出願、三十七年二月恩赦不相当の決定、それから第二回が昭和四十四年九月出願、五十年六月不相当の決定、こうなっております。
  46. 土井たか子

    ○土井分科員 死刑が執行された死刑囚と同時に、減刑をされた死刑囚も二度目の恩赦願を出しているはずでございますが、それは事実でございますか。いかがでございますか。
  47. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 減刑されました者も二回にわたって恩赦の出願をいたしまして、一回目は不相当、二回目が先ほど申しましたように、減刑になっておるわけです。
  48. 土井たか子

    ○土井分科員 その二回目は、すでに刑が執行されてしまった死刑囚と同時に、減刑をされた当時の死刑囚も恩赦願を提出しておるわけでありますね。そして片方の方は相当、片方は不相当という取り扱いのもとに、不相当であった死刑囚については刑が執行された、こういう関係にあるわけでありますね。いかがでございますか。
  49. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 そのとおりでございます。
  50. 土井たか子

    ○土井分科員 このいずれも二人の死刑囚は、減刑を申し出るに当たりまして、終始一貫無罪を主張していたという事実があると思いますが、この点はいかがでございますか。
  51. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 恩赦の出願に当たりましては、無罪の主張とかそういうことはいたしておらないと思います。無罪の主張は別途再審申し立ての形でやっておったようでございます。
  52. 土井たか子

    ○土井分科員 この再審請求の問題が当衆議院の法務委員会におきましても再三再四にわたって取り上げられたという経緯があるわけでありますが、この再審請求についての、再審がどうしても必要だと言われる主張の当時の根拠と申しますか、その理由と申しますか、それは那辺にあったというふうに理解をされておりますか。それは特に本件に当たりましても該当するわけでありますけれども昭和二十二年五月当時の福岡事件の経緯、起訴をされて確定判決に至るまでのそのときの背景、そういうものも含めて簡単に御説明を賜りたいと思います。
  53. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 何分古いことでございますし、記録も膨大になっておりますので、簡潔に申し上げられるかどうか自信がないのですけれども昭和二十三年二月二十七日に第一審の福岡地裁で死刑の判決がございました。この公判の過程におきまして、ただいままでに死刑の執行を受けました者は全面否認であったようでございます。それから恩赦になりました者は、強盗殺人という起訴罪名に対して、殺人を認め強盗を否認するという態度であったようでございます。そういう裁判を経まして、いま申し上げますように、一審で死刑の判決があり、昭和二十六年四月三十日福岡高裁で同じく死刑の判決があり、昭和三十一年四月十七日に最高裁で上告棄却となって確定した、こういう経緯になっております。
  54. 土井たか子

    ○土井分科員 当衆議院の法務委員会でも、いまの伊藤刑事局長の御説明のとおりの経緯を踏まえての再審特例法案についての主張が再三再四にわたってなされたと思いますが、昭和四十四年の七月八日の衆議院法務委員会の議事録によっても明らかなとおりでありまして、当時の西郷法務大臣が「恩赦の積極的運用について努力する」というふうなお約束で、再審の特例法案についての実現が見られなかったわけであります。これは、戦後の占領下における混乱期において審理が持たれたというふうな事情のある事件に該当すると言わなければなりません。したがって、そういう点から言うと、再審の特例法案というのもその時期に着目をいたしまして非常に強力にこれを主張したという経緯もあるわけでありますが、いま申し上げたとおり、四十四年七月八日の西郷法務大臣の御発言によりまして、再審の特例法案ではなく、恩赦の積極的な運用ということで、この事件についてその後何らかの措置が得られようということで今日に至ったわけであります。ところが、その後二人の死刑囚につきまして、片方は死刑が執行されてしまいました。片方は個別恩赦ということで減刑がなされたというかつこうにただいまなっている。これが現在に至る事実関係だと思いますが、このとおりに考えさせていただいてよろしゅうございますね、刑事局長
  55. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 たまたま御指摘の再審特例法案が議論になりましたころ、私、刑事局に勤務しておりまして、おおむね状況を承知しておりますが、大筋においてお述べになったとおりだと思います。
  56. 土井たか子

    ○土井分科員 ところで、ただいま減刑になりまして無期懲役という刑に服しておりますこの方についての問題でありますが、死刑の判決確定後に減刑された者に対して、刑期の起算はいつから起算されるようになっておりますか、いかがでございますか。
  57. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 現行法律の解釈といたしまして、減刑になったその日が無期懲役の起算点と、こういうふうに考えられております。
  58. 土井たか子

    ○土井分科員 いま現行法律とおっしゃいましたが、それは何法の何条をこの根拠にいたしておりますか。
  59. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 基本的には刑法の第十二条で「懲役ハ監獄二拘置シ定役二服ス」と、懲役の執行が始まった時点が懲役刑の始期である。したがって、無期懲役の場合は、無期懲役服役者として監獄に拘置し定役に服せしめられたときから刑期が始まる、こういうふうに考えるわけです。
  60. 土井たか子

    ○土井分科員 一般に刑期の算定というのは、一体いつを起算といたしておりますか。
  61. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 一般に刑の執行を始めたときからでございます。
  62. 土井たか子

    ○土井分科員 裁判が確定したときからじゃございませんか。
  63. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 恐らく御指摘は、刑法二十三条に「刑期ハ裁判確定ノ日ヨリ起算ス」、こう書かれておることをおっしゃっていると思いますが、第二項で「拘禁セラレサル日数ハ裁判確定後ト雖モ刑期ニ算入セス」とございまして、実務の運用としては、実際に服役を開始したときから、こういうふうに取り扱っております。
  64. 土井たか子

    ○土井分科員 おっしゃるとおり、刑法の二十三条からすると第二項の規定があるわけでございますが、まず第一項を原則として読むべきであろうというふうに一般理解をいたしております。  そういたしますと、「刑期ハ裁判確定ノ日ヨリ起算ス」とございますが、裁判確定ということと減刑ということは同じでございますか。いかがでございますか。  裁判確定というのは、判決が確定の手続を終了したときというふうに一般には理解をされるわけでございますが、減刑というのは、これは判決確定ではございません。減刑と確定は違うというふうに思いますが、いかがですか。すなわち、判決確定手続というのは、これは司法行為でございますが、減刑というのは行政行為だというふうに認識をいたします。この点もいかがでございますか。
  65. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 裁判確定という概念と減刑という概念とは、御指摘のように異なった概念でございます。
  66. 土井たか子

    ○土井分科員 そうすると、このただいまの私が述べております具体的事例に当たってみますと、この無期懲役に服しております人は減刑の結果無期懲役になったわけでありまして、判決確定の手続終了ということを問題にしているわけではありません。したがって、この刑法の二十三条に言う「刑期ハ裁判確定ノ日ヨリ起算ス」ということになりますと、死刑の判決確定の手続が終了されたそのときに算出をしていく、起算のときはそのときに置くべきだというふうに理解をいたしますが、この点はいかがですか。
  67. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 無期懲役でございますから、一般的には起算点がどこでありましても、無限大の刑期でありますから変わりはないわけでございますが、減刑によって無期懲役となりました者は、それまでは死刑確定者として監獄法によりまして被告人に準ずる拘禁を受けておった。すなわち刑の執行の内容として拘禁されていたわけではない。そういう意味において、起算点は減刑になって無期懲役の執行が始まったときから、こういうふうに考えるべきだと思っております。
  68. 土井たか子

    ○土井分科員 それは考えるべきだとおっしゃいますが、やはり憲法の三十一条からいたしますと、これは法の手続についての罪刑法定主義の大原則がここに明らかに定められているわけであります。三十一条の条文では、「何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」ということになっているわけであります。したがいまして、いまおっしゃいました監獄法の何条にどのようにこの事柄を明らかにしているかということをひとつお知らせいただけませんか。
  69. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 ただいま御指摘の点は、監獄法第九条で「本法中別段ノ規定アルモノヲ除ク外刑事被告人適用ス可キ規定」を死刑確定者に準用する、こういう規定がございます。
  70. 土井たか子

    ○土井分科員 ただしかし、最初におしゃったその拘禁ということからいたしますと、死刑囚もこれはれっきとした拘禁を受けている立場でございますから、拘禁が開始されたということから算定いたしますと、この死刑囚になった途端からこれは拘禁の状況で、それを起算日として考えていかなければならないというかっこうになるはずなんであります。いまお示しいただきました監獄法の第九条というのは、あくまで準用の規定なんでありますね。そのものずばりを規定している規定ではありませんで、準用の規定なんですね。したがって考えていく場合の参照に供するということだろうと思いますし、これは具体的にずばりそのことを規定していないけれども、ずばり規定している規定がないために、この規定をそれにかわって考えてみてはどうかという内容だろうと思うわけであります。したがって、そういうことからいたしますと、これは憲法三十一条の条文というのを厳密に考えたら、やはりこれは人権という点から考えても自由の問題から考えましても、具体的にはっきりこのことに対しては明定の規定が本来あるべきであるというふうに考えますが、この点は刑事局長はいかがお考えになっていらっしゃいますか。
  71. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 無期懲役の場合に刑期が問題になりますのは、仮釈放の場合に問題になるわけです。その仮釈放の場合に、どこから計算を始めるかという考え方については、現在の刑法で私どもがとっておるような考え方と、それから改正刑法草案でお示ししておるような死刑確定者としての拘置期間も刑期に入れて勘定するという考え方と、二つ立法政策としてはあろうかと思っております。
  72. 土井たか子

    ○土井分科員 立法政策の問題はこれからの問題でもありますから、現実の適用を問題にしていく法の根拠にはなり得ません。したがって、刑事局長、いまたまたまおっしゃった現行刑法においてはこういう規定が具体的にない。ところが、改正刑法の草案を見ますと、特にその八十二条で具体的にこれを明定している規定を用意すべきであるという考え方がここに出ているわけですね。それは「(執行期間の計算)」ということだと思いますが、「減刑によって死刑を無期刑に変更された者に対する仮釈放の処分については、判決確定後の拘置日数は、規定する期間に算入する。」こうなっているわけであります。したがいまして、この判決確定後の拘置日数というと、死刑判決を得て後、拘置された日数を全部算定の中に入れるということをはっきりここで確かめているわけですね。現行刑法では、これに匹敵する、具体的に刑期を計算するための規定はございません。そうですね。したがって、現行刑法にないこういう規定を新たに改正刑法草案の中では織り込まなければならないという意識はどこから出てきたのでございましょう。この点はいかがでございますか。
  73. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 改正刑法草案で現行刑法の考え方を改めております理由は二つあります。一つは、幾ら懲役と違う拘禁内容だからといっても、実際に自由を奪われて拘禁されておる苦痛というものは大差がないのではないか。したがって、それも刑期の中に入れてやった方がいいという常識的な考え方が一つです。  もう一つは、懲役というものの内容が改正刑法草案は現行刑法と変わっております。現行刑法では、御承知のように、十二条の二項で、先ほど申し上げましたように「懲役ハ監獄ニ拘置シ定役ニ服ス」ということで、監獄の中に拘置されるということと定役に服すということを同じウエートで要件としております。これに対して改正刑法草案では、三十五条二項で「懲役は、刑事施設に拘置する。」ということで、次に第三項に「作業を課し、その他矯正に必要な処遇を行なう。」という規定がございますけれども、刑の内容の本質は、刑事施設に拘置する、こういうことに一応限定しておるわけです。したがいまして、現行刑法の立場からしますと、定役に服さない拘置期間というものを懲役の期間に算入するということに疑問が生じてくるわけであります。ところが、改正刑法草案の立場をとりますと、矯正施設に拘置されておるという事態については死刑確定者でも懲役受刑者でも変わりませんので、その懲役というものの内容、本質についての考え方の相違、これが第二の理由であろうと思います。
  74. 土井たか子

    ○土井分科員 いずれにいたしましても、その根底にあるのは、やはり罪刑法定主義の立場から考えますと、死刑から無期に減刑された者に対するはっきりした取り扱いの条文を用意してしかるべきだということが、一つの動きとしてあることは事実否めないことだろうと思います。現にいろいろ刑法について、ただいまの死刑から無期懲役になった、しかし仮釈放の処分に対しての期間の起算というものは、死刑が確定されたときからではなくて、減刑がされた、無期懲役になったそのときから起算することになると言われている根拠になっているのは、恐らくは大正十三年の二月に行刑局長通達として出されている「死刑ノ判決確定後減刑ニ浴シタル者ノ刑期ノ起算点ニ関スル件」という通達によるものだろうと私たちは思います。これは刑法上明記の規定がございませんから。しかし、考えてみますと、これは旧刑法当時の問題でございまして、いま刑法は新憲法の精神に従って運用されるべきときでありますし、またいまこの刑法の改正草案の中には、そういう点からすればこの刑期をどういうふうに考えるかということについて執行期間の計算というのを、先ほど来申しておりますように、明定の規定として置く用意をすでにしておるわけであります。  こういう前後の事情から考えますと、いま九州の方で減刑を受けまして無期懲役の刑に服している一人の囚人の立場を思いますと、これはもう何とかしてあげなければならないという気持ちに駆られるわけであります。これはほかにも戦後の混乱期に同じような、刑事訴訟法もとで、占領下の体制のもとでの裁判を受けて、そして死刑を確定判決されながら無罪を主張している死刑囚もあったということも事実であります。しかし、いまここで問題として取り上げている――これは名前を具体的に申し上げてもいいと思います。もう知られておりますから。石井健次郎さんについて言いますと、拘禁生活三十一年です。死刑判決が確定されてから二十二年に及んでおります。ただいま六十一歳のよわいでございます。人生の大半を拘禁生活で送ってきた人としては一日千秋の思いで、一体いつ仮釈放されるだろうか、あと生き長らえる年を数えながら、ただ一つの希望は私は本当にその点にあるんじゃないかと思います。いま全国広しといえども、一つの罪で四十年以上も拘禁されているという例がほかにございますか。私は恐らくないのではないかと思います。  こういう立場の人に対して、仮釈放の処分に対する期間の起算というのが、無期懲役としてその減刑をされたときからというのを数えてまいりますと、これはさらに十年ですね。これはいろいろの勘案すべき事情もほかにございます。たとえば、被害者であった中国人の肉親の方々から、減刑に対してひとつ嘆願をともにやろうというふうな申し出もあるくらいに、いろいろな客観的事情というのも、具体的に減刑を受けるだけの事情があったわけでありますから、この点はいまの改正刑法草案の中にも織り込まれていっているこの執行期間の算定ということとも考え合わせてみていただいて、大正十三年に出されましたこの通達をひとつつくりかえていただくわけにはまいりませんか、特例を用意して。いかがでございますか。
  75. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 この通達に基づいてやっておるというのは正確ではございませんで、刑法全体の規定を踏まえた解釈を通達の形で示しておるわけでございまして、その解釈そのものは現在でも変える余地がないというふうに思っております。  具体的な人のことを仰せになりますと、私も常識人としてはお気の毒な感じにたえないわけであります。そのためにも、一日も早く刑法の全面改正を実現させていただけたらと思っておる次第でございます。
  76. 土井たか子

    ○土井分科員 この刑法の全面改正ということを、こういう問題を取り上げると必ず持ち出されるであろうと私も予期をいたしておりました。刑法と同時に監獄法の改正案という作業も進んでおりますから、監獄法の改正ということでこの問題に対処するということもあるかもしれません。しかし、現在この監獄法や刑法の改正ということが、これは国会での審議を経なければなりませんから、国会にいつ上程をされるのか、また国会審議の上でこれはいろいろな立場があるわけであります。十年の間に必ずできるという約束も、これはなかなか先にできる問題じゃありません。  法務大臣、いかがでございますか、死刑を判決されてから後、一つの罪で四十年以上の拘禁を受けているという、ただいま無期懲役に服している者に対しまして、何らかの措置が別途考えられる必要があるのじゃないか。ただいまの刑法の改正や監獄法の改正を待てば、それはそのとおりでありましょう。しかしながら、日本は法治国家であり、法を守るというお立場法務大臣からされますと、私たちが非常に期待をかけ一縷の望みをそこに託するのが、憲法の精神や憲法の趣旨に従って現在の刑法に対しての運用もあるべきではないかという点でございます。  そういうことからいたしますと、旧憲法当時の刑法に対する認識や運用によって賄われてまいりますと同様の運用や認識というものが、この問題に対しても相変わらずなされるというときではもうないんじゃないか。だからこそ、刑法の改正草案の中では、減刑によって死刑を無期懲役に変更されたものについては、その死刑が確定された後の拘置期間日数というのを全部算入するということをきちっと定めているわけであります。こういうこともひとつお考えいただいて、何らかの措置がこれに対してとられてしかるべきではないかと考えておりますけれども、いかがでございますか。
  77. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いまも土井さんからいろいろお話がありましたが、私はそういう事実関係についてきょう初めて承ったわけでございます。心情としては、土井さんのおっしゃることはよく理解ができるような気がいたしますが、先ほど来事務当局から申し上げておりますように、法務行政は、申し上げるまでもなく、法律に従って進めなければならない。  そこで、現在の刑法あるいは監獄法、それから改正刑法草案といろいろ出てまいりましたが、死刑は実行することによって死刑の執行があったということでございます。懲役刑は、一面こらしめのために刑務所収容する、と同時に、できれば社会更生のためにいろいろな指導、啓発をする、こういう二面があるわけでございまして、それが現行刑法のいわゆる懲役刑の趣旨だろうと思います。  でありますから、その刑を執行するということになりますと、やはりその執行が始まったときからという、これは、論理的といいますか、法律上そうなるわけでございます。でありますから、刑事局長はさような法律の趣旨を申し上げておる。大正十二年か十三年の通達というのは、そういう趣旨を通達してある。こういう事態で、いま石井とかいう人の事例は、おっしゃるように、やや気の毒な感じがいたしておる。  そこで、刑法改正草案のことは、先ほども説明がありましたように、刑というものをやや違った感触で規定をしよう。でありますから、拘禁そのものは、死刑囚として拘禁しておる者も通算してよろしいじゃないかと、こういう考え方に立っておること、これは法律の立法政策としてはやむを得ないことである。でありますから、そういうジレンマがあるわけでございます。心情としては、刑事局長が申し上げましたが、私も同じ心情でございます。そういう点を、こういうケースが他にあったかどうかわかりませんけれども、異例なケースになって、具体的にケースになっておりますから、それが現行法とどういう関連に立つか、そういう点を検討してみて、刑法全面改正ということになりますと、それが一番ベターといいますか、いい方法でありますけれども、これは一年や二年でなかなか解決するという見通しに至っておりません。でありますから、やはり法律の運用といいますか、人間全体の問題を解決するときには事例に適した方法を講ずることが一番適当であると私は思います。でありますから、この点は結論がどうなるかまだわかりませんけれども、刑法理論にかかわりがありますから、検討してみたい、かように考えます。
  78. 土井たか子

    ○土井分科員 これで私はきょうの質問を終わらせていただきます。ひとつ法務大臣、いまの御答弁のとおりに、現行刑法のもとでの時宜に適した運用という意味で、私がきょう取り上げました案件につきましてお調べをいただき、御検討いただきますように重ねて申し上げまして、終わりにいたします。よろしゅうございますね。
  79. 塩崎潤

    塩崎主査 以上で土井君の質疑は終了いたしました。  午後一時三十分から再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午前十一時四十四分休憩      ――――◇―――――     午後一時三十三分開議
  80. 谷川寛三

    ○谷川主査代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。井上泉君。
  81. 井上泉

    井上(泉)分科員 差別というものに対する大臣の認識を私はまず承りたいと思うわけですが、今日差別問題というものはまだ多く存在をしておる、こう認識をしておられるかどうか、まずその点を。
  82. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 遺憾ながら、まだまだそういうことがある、かように私、認識しております。
  83. 井上泉

    井上(泉)分科員 そういう認識をされた上に立って、法務省としてもそういう差別問題を解消するために取り組まねばならないことが、法務省関係の中でもたくさんあろうと思うわけですが、そういう点についてお考えになったことがあるかどうか。
  84. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 どういうことをお尋ねなのかちょっとぴんときませんが、法務省のみならず、全国民がそういうことのないように心を新たにすべきだ、かように考えております。法務省の内部にはもちろんそういうことで指導といいますか指揮をしておる、かようなことでございます。
  85. 井上泉

    井上(泉)分科員 それでは、法務省としての所管の中で差別問題に対してこれをなくするためにやらねばならないこと、これはあなた、法務大臣ですから、それで差別が遺憾ながら存在をするということを認識されておったなら、法務省としてはそういう差別をなくするためにはどうしたらいいのか、どういう問題があるのか、そういうことをお考えになるのが理の当然じゃないかと思うわけですが、そういうお考えはまだ持ってないですか。
  86. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 法務省としてあるいは法務大臣としてはということですが、私、正直なところ、ちょっとぴんとこないのです。これは当然のこととして、人権擁護局等もあるわけでございますから、むずかしい問題でありますけれども、これに全力を挙げておるというのが実情でございます。
  87. 井上泉

    井上(泉)分科員 それで、法務省では人権擁護局というのがあって国民の人権を守る大事な役目ですが、こういう問題というものは、まず第一番が、基本的な人権を侵害した問題が差別問題の根源にあると私は思うわけです。そういう点で、地名総鑑というのがこの数年来やかましく論議をされておるわけですが、これについての認識があるのですか。
  88. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 四十何年ですか、最後は五十年までと思いますが、過去に七回くらいそういう事案があって、そういうことは認識しております。
  89. 井上泉

    井上(泉)分科員 よく聞き取れなかったわけですけれども、そういう部落の地名総鑑という差別事件が発覚してからもう二年になっておるわけですが、これに対する真相究明はほとんどなされていないと言っては語弊があるかもしれませんけれども、きわめて不十分な究明の仕方であるわけです。これを今後どういうふうに究明をされていくおつもりがあるのか。この問題はもう一件落着したという認識をしておるのかどうか。
  90. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 御承知のとおりに、これは強制力がございませんから、その都度配付先を調査したり、任意に提出を求めて集めたものは焼却する、こういうことをやって今日に至っておりますが、全部これが消えてしまったかどうかということについては明確にしておりません。
  91. 井上泉

    井上(泉)分科員 強制力がないと言われるわけですけれども、やはり人権擁護局として法務省内で、基本的人権を大きく侵害しておるこういうものを印刷をし配付をし、そしてまだその行き先が明らかにされていないという事態に対して、これは法務省だけではなしに各省に関係をするところがあるわけだが、少なくともこれに対しては対策本部的なものを設けて、徹底的にこの行方を追及し、これを出しておる者を洗い出すということは当然なさねばならないことじゃないかと私は思うわけですけれども、どうですか。
  92. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 これは当然法務省だけでなくて、関係各省協力して解明しなければならない点が多々あるわけでございますが、その御指摘の点につきましては、昨年、総理府長官が内閣委員会において、その対策本部的なものとして現在総理府に同和対策協議会がございますが、その中の幹事会――これは各省の関係者が寄って構成されておるわけでございますが、この幹事会によって対処したいということを申されましたので、私どもといたしましては、この幹事会におきまして各省とも緊密な連携をとって対処している次第でございます。
  93. 井上泉

    井上(泉)分科員 幹事会と言われるわけですけれども差別を商売の道具に使うてやるようなことは全く許されないことだと私は思うわけです。それを幹事会というような形で、幹事会でやっておると言いましても、やった実績というのはここで報告していただかなくとも、われわれの資料によっても本当にごく一部しか判明していないわけですが、今後どうするつもりですか。
  94. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 特に問題の一つとして、そういう特に悪質な事犯に対する法的な規制の問題があろうかと存じますが、その点につきましても、その幹事会におきましてお互いに連携をとりまして検討しているわけでございます。
  95. 井上泉

    井上(泉)分科員 それでは、あなた自身は、これはやはり法的規制をせねばならないというお考えを持っておるのかどうか。これは法務省ですから、何といいましてもあなたの発言が一番大きな影響力があるわけですが、あなた自身、そういうお考えを持っておるかどうか。
  96. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 非常にいろいろむずかしい問題があるのでございますけれども、やはり悪質なものについては法的な規制が必要ではないかという観点から検討しているわけでございます。
  97. 井上泉

    井上(泉)分科員 その検討が、また来年のこの機会にどうなったかという質問をする必要のないようなめどをつけることができるのですか。
  98. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 先ほど申し上げましたように、これは非常にいろいろな困難な問題がございまして、ただいま資料を集めたり、いろいろな角度から問題点を検討しておりますが、まだちょっとめどがついては申し上げかねる次第でございます。
  99. 井上泉

    井上(泉)分科員 めどについては申し上げることができないと。これは、いつまでにこういうことをやるというめどをあなたはなぜ立てないのですか。もうこれが持ち上がってから、きのうやきょうのことじゃないでしょう。もう二年余りを経過しておるでしょう。国際的にもこうしたことについてはちゃんとした人権規約というものがある中で、やはり日本でそのことの規制ができないというようなことは、民主主義憲法をもって任ずるわが国の法務省としては、これは非常に非時代的じゃないですか。もう大体のめどをつけなければならないのじゃないですか。
  100. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 井上さんのお話、私もそう思うのですけれども、御承知のとおり、こういうふうに一つの利益を得るために、ああいう冊子といいますか文書といいますかを発行してそれぞれ売っておるのだろう、こう思うのですが、これはいわゆる言論の自由、出版の自由という問題、またこれは一面憲法の自由権に関係があるわけでございます。そこで、こういう人の名誉や信用に関係する出版物を法律で規制することはどの程度可能であるか。これをやりますと、ほかにもまたそういう問題があるかもしれません。この問題があるものですから、やはりいろいろな場合を想定し、これを総合的に判断をしなければならないという、率直に申し上げてむずかしい問題があるわけでございます。  私は、前の予算委員会湯山さんにもお答えしたのですけれども、これは現在も、先ほど申し上げましたように、こういう事案はきわめて遺憾なことである、遺憾なことであるけれども、これをいま法律もとでやっておりますように、啓発をしたり、あるいは干渉をしたりというようなことでやられねば、強制的に罰し、あるいは没収する、こういう規定がないわけですから、これをとめるのにどうしても法律が要るのではないか、法律的な規制が要るのではないかという感じを私、持っておる、そういうことを湯山さんにもお答えしたことがあるのです。  さて、しからばそういう言論、出版の自由に関係するものを、これだけだということになりますと非常に簡単なように思いますけれども、これに類似のいろいろな言論、出版があるわけでございまして、そういうものとの関係等いろいろ考えますと、それはいつまでには結論を出しますということは残念ながら申し上げられないのが現状でございます。皆さんの方にもお知恵があったらぜひかしていただきたい。  私は、率直に申し上げて、こういうものは長い歴史の流れから来ておりますから、これはみんなが全力を挙げてやらなければこういうものは解決しない、この問題だけではなくて、差別的な感情なり、差別的な行為なり、これは相当根強くやらなければ解決しないのではないかと率直に思っておる。ですから、あらゆる衆知といいますか、知恵を集めて、可能な手段は永続的に講じていかなければこういう問題の解決にはなかなかならない、こういう考えを持っておるのです。  立法措置をした方がいいような気がしますが、さて、それでは具体的に法律でどういう規定をするか、どういうふうなやり方をするか、こういうことも考えておるのです。刑罰を科する場合がある、そういうことになりますと、これは刑事事件となります。そうすると、関係の証人を調べたりなんかすることによってさらにまた別な問題が起こりはしないか、こういうこともいろいろ考え合わせますと、そう短兵急に何かの法律をつくるようにいかないという事情があることは、これは御理解を願いたいと思います。
  101. 井上泉

    井上(泉)分科員 それは、大臣は法的にも非常に明るい専門家でありますし、われわれに法的な規制についての知恵をかせと言ったところで、これはまた知恵をかしてそのことが受け入れられるような要素というものは私はないと思うのです。あくまでも法務省は、国民の基本的な人権を守るために人権擁護局というものも存在をしておるわけだから、その基本的人権に対して大きな問題を  つくり出しておる地名総鑑というものは、これは普通でいう言論、出版の自由というものとは全然趣を異にするという認識は大臣、持ってもらわぬと、これは普通の出版物と同じように出版の自由というふうな形で片づけられると、これは非常に困るわけです。まさか、これを同じ出版の自由というふうな形で一般図書と同じように位置づけてはいないと思うわけですが、大臣、どうですか。
  102. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 このことを肯定する意味において出版の自由あるいは言論の自由と、こういうふうには解しておりません。おりませんが、やはり形は出版の自由、言論の自由の一角をなしておりますから、たとえば週刊誌なんかにいろいろな記事が載りますけれども、そういうものを一体名誉棄損するのか、あるいは人の人権を侵害するのかということがしばしば起こります。これは御承知のとおりであります。しからば、そういうものをどうするかという問題も立法する場合には考えなければならない、そういうことを申し上げておるわけでございます。
  103. 井上泉

    井上(泉)分科員 それでは、大臣のそういう答弁を踏まえて考えますと、同じようには考えてない、同じようには考えてないけれども、これに類似をしたものがいろいろあってと、こういうふうにちとつかみどころがないわけです。私は、立法措置を講じてやるということがいま直ちにできなければ、いま直ちにできることといえば、これは幹事会とかいうような弱いものではなしに、もっと事態の重要性、重大性というものを認識するならば、少なくとも対策本部的な性格を持った組織に改編をして、そうして差別を商品としてあがなうような、そういう者に対しては法的な措置を講ずるのがいいのか、あるいはどういう措置がいいのか、そういう場で検討されて、少なくとも今年度中には、次々にこういうものが起こらないような、これに対する規制というものを何らか役人の知恵で、行政者としての知恵で考えてもらいたいと思うわけです。そのことをいつまでというて日を切ってはいけなくとも、少なくとも今年中ということで何かめどをつけられないか、いつまでとかいうめどは持てないですか。それくらい持ってもらわぬと、検討、検討ばかりで何年も過ごしては、国民として納得いかぬですよ。
  104. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 簡単でありますれば直ちにやりたいと思うのですけれども、おっしゃるように、現に幹事会で検討しておるわけでございますから、どういう措置がとれるのか、現にやっております措置はやっておるわけでございますが、もっと強い規制といいますか阻止する方法、こういうものをできるだけ早く結論を出させたいと思います。
  105. 井上泉

    井上(泉)分科員 この問題については、他の議員からもまた質疑があろうかと思いますので、この年鑑については以上でとどめて、私は、同じく狭山問題を追及しておったところのルポライターが変死をした事件があるわけです。このことは、法務大臣あるいはお耳に入っておるかどうかは存じませんけれども、片桐軍造というこの軍造君でありますが、その死体検案書によりましても、頭部右側への暴力と、これは括弧で推定というふうなのが載っておりますけれども、明らかにこれはその暴力行為によって殺されたものだということが推定をされるわけですが、これについて捜査を進められておるのかどうか、この事件内容はどうであるのか、可能な限りの説明をお願いしたいと思います。
  106. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 お尋ねの件につきましては、御指摘の片桐軍造氏、この方が昨年十二月二十日午前一時十五分、池袋二丁目の路上で倒れているのを発見されまして、直ちに赤羽中央病院に収容しましたが、翌二十一日の午前八時五十二分に亡くなられた。死因は右側頭部頭骸骨クモ膜下出血である、こういうことでございましたので、即日東大病院におきまして司法検死、司法解剖をいたしまして、所轄であります池袋警察署が、傷害致死事件として立件いたしました上、本年二月十七日東京地方検察庁におきまして池袋警察署から被疑者不詳に対する傷害致死事件として事件の送致を受けまして、現在捜査中でございますが、ただいま御指摘のように、他人の暴力によって死の結果が発生したという可能性と自過失の可能性とどちらもあるわけでございますが、その点も含めて現在慎重に捜査を進めておるところでございます。
  107. 井上泉

    井上(泉)分科員 この死体検案書によりましても、明らかにそういうふうなことが、暴力ということが書かれてあるし、それで暴力というならば、法医学の面から暴力と言えば、これはだれかから加えられたことによって生じた。自分から暴力をふるって自分の頭を殴る者はないわけですから、これは明らかに他の暴力によってやられたものだ、こういうことになると思うわけなので、その点についてはいま刑事局長が慎重に多方面から調査中ということでありますが、なお一層この問題については、これは狭山の問題では、狭山に関連する人はもう何人か亡くなっておるわけです。この片桐君なんかは、これは本当に熱心にこの問題を追及をして、そうしてこの石川君の無実だとすることを立証する証言を所沢の署長が発言をしたわけですが、そういう発言を引き出したところのすぐれたルポライターで、しかも三十六歳の若さでこうした暴力行為によって命を失っておるのでありまするから、だから私はその背景にはかなり問題があろうと思うので、この点についてはなお慎重に捜査を進めて、この暴力、どういう状態によって、だれがどういう背景で暴力を加えたかということを厳重に捜査を進めていただきたいということを重ねて要望するわけですが、刑事局長の見解をもう一度承っておきたいと思います。
  108. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 ただいま仰せになりました御趣旨を検察当局にも直ちに伝えまして、慎重に対処させたいと思います。
  109. 井上泉

    井上(泉)分科員 そこで、私はこの差別問題とは別に、帝銀事件の平沢さんがもう九十歳に近い年齢の中でまだ拘置をされておるわけですが、それでこれはまだ――判決ではこれは殺人でいわゆる死刑の刑を言い渡されておるけれども、それがいろんな問題があって、平沢氏自身そしてまたそれを支援する人たちとの間では、これは明らかに無実であるということで争われておる。そういうような関係で今日まで死刑の執行が、そういう関係かどうか、これは私、当局でないからわかりませんけれども、死刑の執行というものがなされてなしに、平沢さんの方では無実を訴えるいろんな手記も出されておるわけですが、そのことの事件内容はともかくといたしましても、もうかなり年をとっておるしするが、ひとつお年寄り、いわゆる老人に対する敬愛の気持ちからも、もう釈放してやったらどうですか。仮出獄か何かそういうふうなことをしてやったらどうか。これは瀬戸山法務大臣がこの死刑の判を押すよりか、釈放するということがどれだけ世間的に、そうしてまた人権的にも評価されるかわからぬわけですが、大臣、どうですか。
  110. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 平沢事件というのは長く、いまおっしゃるようになっております。現在八十六歳だということでございますが、この事件は次々と再審の請求がなされておりまして、それからまた、恩赦の請求もなされておる、こういう事情になって今日に至っておりますが、再審請求をされたり恩赦の請求がされたという場合においては、刑事訴訟法のたてまえ上これは直ちに死刑の執行を差し控えるということで今日に至っておるわけでございます。  釈放の話がありましたが、現在の法律では、これを直ちに釈放するということは法律上できないことになっております。  なお、恩赦のことは、審査会でこれが決まりますと、その上で法務大臣がそれをどう処置するかという判断をすることになっておりますが、その方もまだ審査会の方からこちらに上がってこない、こういう事情にあることを御理解願いたいと思います。
  111. 井上泉

    井上(泉)分科員 それは審査会からの報告が上がってこないということですが、この審査会というのは、ぼくは知識がないのですが、これは法務省の所管の中でやられておるのだと思うのですが、これは早くその促進をして、恩赦の手続なり何なりのことができるようなことにはならぬものですか。
  112. 常井善

    ○常井政府委員 平沢からの出願に基づきます上申は過去二回ございまして、不相当の議決がなされております。現在三回目につきまして、中央更生保護審査会で慎重に審議しておる段階でございますが、これは、中央更生保護審査会は独立の機関でございまして、法務省に付設された関係にございますので、私どももこういう御要求があったということをお伝えいたします。
  113. 井上泉

    井上(泉)分科員 そうすると、それは審査会で審査中の場合には、俗に言う死刑を、いわゆる執行というのはこれは猶予することに法的になっておるのですか。
  114. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 刑事訴訟法によりまして、死刑の判決が確定しましてから六カ月以内に法務大臣が執行命令を発しなければならぬこととされております。  ただし、例外がございまして、再審申し立ての審理期間、それから恩赦の出願がありましてその審査期間、これはただいま申し上げました六カ月の期間から差し引いてよろしい、こういうことになっております。したがって、たてまえとしては再審請求中でありましても、恩赦の申し出をしております間でありましても執行してはいけないということはないんでありますが、ただいま申し上げましたような法律の精神をくみまして、なるべくその間は執行を差し控えるように実際上の運用をしておるわけでございます。
  115. 井上泉

    井上(泉)分科員 私は、平沢さんがそうやって八十六歳というずいぶんな高齢ですから、その高齢の人の命を法務当局の手で閉ざすというようなことをすることのないように、そしてまた長い間の拘禁の中で、ずいぶん精神的にも肉体的にも衰弱をしておる状態なので、何らかの形で外に出て療養さすなりなんなりの措置が、法的に全然閉ざされておるものならどうにもならないかもしれぬけれども、法的に許される範囲なら、外で療養さすというようなことはできないものかどうか、こういうように思うのですけれども、そういうようなことはできないのですか。
  116. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 現在の法制上は、死刑確定者については身柄を放すということは一切できないということでございますから、ただいま大臣が申しましたような恩赦等によりまして無期懲役等に減刑になりました場合には、刑の執行停止も可能になりますし、病院の外へ出すことも可能になろうかと思っております。
  117. 井上泉

    井上(泉)分科員 もう時間が参りましたので質問を終わるわけですが、最後に、いま私が最初に問うたときにも、法務大臣差別というものが存在するということはお認めになり、そしてこの問題をなくするような措置を講じなければいかぬ、こういうことを言われたわけですが、検察庁法務省関係の中で、たとえば高知県におきましても一昨年だったと思うのですが、検事差別発言の問題があって、私も湯山先輩と一緒に検察庁の方に抗議に行って、そして検事正も陳謝をし、本人も陳謝をし、その後その検事は転任をしたわけですが、そのことはやはり差別に対する認識の欠如だ、こう思うわけです。そういう点をもっと理解を深めさすためにも――同和対策事業特別措置法という法律が現在存在をするわけですが、この同和対策事業特別措置法というものの期限が来ておるわけです。今年度に限りですが、いま延長の問題が論議され、きのうは総理府長官も同和対策事業特別措置法の期限延長をしなければならぬ、こういうふうなことを発言されておったんですが、法務大臣としてはこの措置法の延長についてはどういうお考えを持っておるのか、承りたいと思います。
  118. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 先ほど申し上げましたように、この問題は長い歴史の過程を経て今日に至っておりますから、これを改めるのには相当根強くやらなければいけないのじゃないか、私はそう思っております。ですから、環境の整備、その他国民の間の心情といいますか、考え方といいますか、これを改めることに、先ほど申し上げましたように、全国民がその気になるようにしなければ、この問題は解決しない。また環境整備、その他生活の安定、こういうものを考えますと、これはまだまだ政府部内で統一した協議はこれからであろうと思いますけれども、私の個人的な考えを申し上げると、もっとこれは努力を続けなければならない、こういう考えを持っておることを申し上げておきます。
  119. 谷川寛三

    ○谷川主査代理 以上で井上泉君の質疑は終わりました。  次に、中野寛成君。
  120. 中野寛成

    中野(寛)分科員 いま国際人権規約の批准が大きな話題になって注目を集めております。私は、人権に対する日本の感覚というものが世界からまさに注目されていると思いますし、同時に、その中で一つの克服しなければいけない課題として、在日外国人の権利をいかに擁護していくかということもきわめて大きな課題の一つだというふうに思うわけであります。そういう意味で、きょうはその中でも特に在日外国人と一括して包含するには、むしろ問題が余りにもわれわれに身近過ぎると思いますが、在日韓国人の皆さんの日本における生活権がどのようにして守られるか、そのことについてお尋ねをしたいと思います。  特に、日本に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する協定というのがございますけれども、その中に「多年の間日本国に居住している大韓民国国民が日本国の社会と特別な関係を有するに至っていることを考慮し、これらの大韓民国国民が日本国の社会秩序の下で安定した生活を営むことができるようにすることが、両国間及び両国民間の友好関係の増進に寄与する」と、まず冒頭に書かれております。私はこの言葉意味するものがきわめて大きいと思うわけでありますし、今日、国際人権規約の批准の問題もあわせまして、法務省として、また特に法務大臣として、一つの大きな問題を抱えている在日韓国人の人権の問題について基本的な御所見をお伺いしたいと思います。
  121. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 国際人権規約の批准の問題が現に検討をされております。法務省だけの立場で申し上げますと、法務省関係の諸案件との関係では、これは速やかに批准した方がよろしい、こういう考えを持っておりますが、国内法との関係でまだ検討中でありますから、いつこれが批准の手続になるか、こういうことは私から明言はできませんけれども、やはり早く批准した方がよろしい、こういう考えを持っておるわけでございます。  在日韓国人の皆さんの問題については、先ほどもお話のように、日韓間で協定ができておりますから、地位協定と簡単に申しますけれども、その決まりに従ってわれわれは行政をいたしておる、こういうたてまえでございます。
  122. 中野寛成

    中野(寛)分科員 国際人権規約については、法務省としては部分的に留保するものがあったりとかいうことではなくて、むしろ法務省の管轄の部分においては積極的にそれを批准する方向に大臣としては御賛同のようにいまお聞きをいたしました。そのように受けとめさせていただいてよろしゅうございましょうか。
  123. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 そのとおりでございます。
  124. 中野寛成

    中野(寛)分科員 私どもはその人権規約の中に記されております社会保障の問題や、その他の文字どおり人権に関する諸問題について考えますときに、今日その法的地位協定の内容のみではそれを十分にそしゃくし得ない、消化し得ない部分があるのではないかというふうにも思うわけであります。人権規約の問題と絡ませるのみならず、日本人の人権に関する考え方というものが問われるという意味で幾つかの問題をお聞きしたいと思いますが、いま大臣の御答弁の中で、法的地位協定に決められたそのことに基づいて運用していくという非常に簡潔な御答弁になったわけでございますけれども、むしろ私は、その運用の中で、この地位協定が結ばれた意味、なぜ特別に在日韓国人のみがこういう協定を結んで、永住権等を含めて一つの地位が与えられたかという歴史的な意義というものが十分そこに生かされなければ、私はいろいろな末端における運用の面でそごが起こってくるのではないかというふうに思うものであります。  そういう観点で、私はここに幾つかの問題点を項目的にお尋ねをしていきたいと思いますが、まずその前提として、この問題を論議するときに常に問題になるものの一つとして、法務省入管局の坂中さんが最近出されました論文の中で、「外国人に対して閉鎖的な面が強い日本の社会的風土を考慮するとき、将来にわたって、在日朝鮮人が外国人として日本社会で生き、日本政府がこれを外国人として処遇していくことが、果たして適当であるかという根本的な疑問が残っているといえよう」というふうにお書きになっているように、私、お聞きをいたしております。このことは大変重要な問題です。その分析が合っているとか間違っているとかということではなくて、実は、昔よく島国根性という言葉が使われましたけれども、こういう外国人の処遇については、ややもすると白人に弱かったり、そしてまた昨日も別のことでこの言葉が使われて大変問題になっておりますけれども、そういう意味ではなくて、本来の意味としての、いわゆる人種差別的な感覚というものが日本人にないかと言えば、むしろそれは国際性の乏しさとともに、何かそのことが一つの日本人の弱点としてあるような気がしてなりません。いまわれわれが、特に日本人として直面している在日韓国人の皆さん、それはわれわれの生活の中にきわめて密接に入り込んで、そしてその中で日本人と同様の感覚の中で生活をし、われわれもまたおつき合いをさせていただいているわけであります。歴史的な意味の中で、日本人がどうしても克服しなければならない問題として、私はこの問題を考えなければいけないのではないかというふうに思うわけでございます。  同時に、もう一つは、最近のあのハイジャックやその他ゲリラ事件等によって、特に出入国管理の問題、そして対外国人の問題等をむしろ一層厳しくすべきだという動きがあることもよく承知をいたしております。しかし、その根底には、あくまでもあらゆる人の人権を守るという思想が流れていなければならないというふうに思うわけでございまして、改めてひとつ、大臣の先ほどの、協定に基づいて行政を執行していくんだという御答弁でございますが、その基本的な感覚というものを、この在日韓国人の処遇の問題の場合には特に大きな配慮が払われてしかるべきだというふうにも私は考えますので、そういう意味から大臣の御答弁を重ねてお願いしたいと思います。
  125. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 申し上げるまでもないことでありますが、在日韓国人は、長い歴史の過程で、相当長期間日本国の国民として、同居といいますか、構成をしておったわけでございます。そういうこともありまして、御指摘のように、日韓間で話し合いをし、多くの韓国人の皆さんがおりますから、両国話し合いの上で、できるだけ日本国内において安住ができるような措置をやろう、こういう立場で協定ができたものと私は見ております。ただ、おっしゃいますけれども、どこの国でもやはり自国の安全、自国の社会の秩序の維持、こういうことを前提にして考えることはこれまた当然でありますから、そういうことに支障のない限り、安住の地を与えるといいますか、おってもらいたい、こういうたてまえでやっておることは御理解をいただきたいと思います。
  126. 中野寛成

    中野(寛)分科員 大臣が最後に触れられました、自国の安全、そして自国国民の福祉のことを考えながらということは、私も、至極当然、まずそれが根底にあることは言うまでもないことと思います。同時に、しかし、自国の安全はまさに諸外国との平和的なおつき合いの中から生まれるわけですし、それはそれぞれの国の国籍を持つ皆さんが日本に住まっている、そういう方々に対する処遇もまた日本を平和的に守る一つの手段であろうと思います。また、在日韓国人の皆さんが単に日本に寄生しているという考えではなくて、日本の経済、社会その他にも大きな貢献をもしている部分がきわめて大きいこともあわせて評価しながらこれらの問題を今後とも考えていただきたいし、また私ども考えていきたいというふうに思うものでございます。  現在そういう在日韓国人の皆さんが日本で生活をしておられてどういうことを具体的に望んでおられるのか。つい数日前に法務省あてに居留民団の皆様方から一つの要望書が提出をされております。その作成の経過の中で私自身も若干携わった関係もございまして、それらの項目についてお尋ねをさせていただきたいと思います。  特に、在日韓国人は、出入国管理令及び外国人登録法等によって規制を受けているわけでありますけれども、その運用において、地位協定の精神等を踏まえて、もっと幅を持ち、弾力を持ち、人権を守るという立場に立って運用をしていただけないだろうか、また、場合によっては、すでにもうこれらの法令が制定をされて十数年たっている、社会的な感覚も変わってきた、生活の態様も変わってきた、国際情勢も変わってきた、そういう中で、むしろ法改正も含めて考慮されなければいけないのでは、という問題の提起がされているわけでありまして、若干のお尋ねをしたいと思います。  まず第一に、外国人登録証明書の常時携帯、呈示義務の免除のための改正のことであります。  交通取り締まり警察官から運転免許証を見せろと言われ、そしてその運転免許証を見て、同時に、それが韓国人だとわかりますと外国人登録証明書の呈示を求められる。しかし、果たしてそういう場合に二つとも本当に実務的には必要なんだろうかという疑問が私どもは持たれてならないわけであります。運転免許証にちゃんと写真が張りつけられているわけでありますし、一つの証明書の役割りが十分果たせると私は思うわけであります。そしてまた、今日まで本当に長年日本に住み、そして日本に生まれ、そして日本に永住しようとしている、そういう人たちのことを考えるときに、むしろこの常時携帯義務というものはもう少し検討がなされてしかるべきではなかろうかというふうに思うわけでありますが、まずこの点からお伺いをいたします。
  127. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 ただいま大臣から御答弁がありましたように、政府としてはできるだけ韓国の方々に安定した生活をしていただくということを眼目に置いております。それで、両国間には地位協定ができているわけでございまして、それに基づいていろいろな国内法ができております。  ただいまお尋ねの件については、外国人登録法がございまして、それは法律事項として常時携帯義務を課しているわけでございます。この常時携帯義務と申しますのは、何か日本だけが非常に過酷な条件だというふうに一部の方はおとりになるときもございますけれども、諸外国をいろいろ調べてみましても、相当な国でやはり常時携帯義務はあるわけでございます。  ただいま御質問の中に、運転免許等をなぜ二重に見せるのだという、これは警察当局でやっていることでございまして、私、直接タッチいたしておりませんので、その内容についてここで私がまた詳しく御説明する立場にもないわけでございます。ただ問題は、非常に残念ながらいまだに朝鮮半島から密入国者が絶えない、それから潜在的にもぐっておられる人が相当おられる、こういう一つの現実があるわけでございます。したがいまして、そういう現実のもとに取り締まり当局がいろいろなことをするわけでございまして、その辺の現実が将来改善されてまいりますと、また当局の取り扱いが非常に違ってくるのではないかというふうに私は期待しておる次第でございます。
  128. 中野寛成

    中野(寛)分科員 時間がありませんから次々に項目に沿ってお聞きするわけでありますけれども、それだけではなくて、いろんなこういうことに関連して、現場では警察官の皆さん、その使命感に徹した警察官がなおさら厳しい取り調べをするというようなケースも事例として私どもも経験しているわけでありまして、運用上法務省としてその適正な指導というものも、所管は違いますけれども、一つのこういう基本的な人権の問題を扱う法務省としてその要請がなされてしかるべきではないかというふうに実は思うわけであります。  そのほかに、この外国人登録法に関連いたしましては、外国人登録証明書等への指紋押捺の問題がやはり非常に一つの苦痛だとして実は訴えられているわけであります。たとえば、これは外登法の規定により、一年以上滞在する場合には、留学生といえども、外国へ留学している場合でもそういう義務があるわけですから、どうしてもいやがおうでも帰ってこなければいけないというふうなこともございますし、そしてまた、それをやるときには、どうしても市区町村の役場で三年に一回ずつ人目の多い中でやらされるわけですね。何かまさに犯罪人扱いされている。周囲から見れば何か奇異の目で見られる。このことは、多くの韓国人の皆さんにとって、確かにわれわれが見ても苦痛だと思うのです。たとえばもしわれわれが何か官憲の立場から指紋をとると言われた場合に、これは人権問題としてわれわれはそれに対して抗議をする。そういうのがむしろいまの日本の人権に関する考え方だと思うわけです。安易な手続上の問題としてこれが考えられるのではなくて、むしろ省略できるところは省略をし、そしてむしろ前向きにこれらのことが判断されることが大切なのではないかというふうに私も思います。同時に、このことについては、それぞれの地方自治体からむしろ行政改革の一環としてぜひ取り上げていただきたいという声が出ていることも多分御承知なのではなかろうかと思うわけでございますが、この点についてもひとつ簡単にお答えいただきたいと思います。
  129. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 ただいま御質問の真っ先に指紋の問題がございましたが、この指紋をとるという問題につきましてちょっと誤解があるのではないかと思いますので御説明いたしますと、これは外国人登録法に基づいて指紋をいただくわけでございますけれども、何もこれを韓国の人にだけ要求しているわけではございませんで、アメリカ人でもイギリス人でも、事外国人に関する限りは平等に要求されているわけでございます。それからまた、諸外国の例を見ましても、インドとかフィリピン、インドネシア、米国、ブラジル、ドミニカ、こういう国々もやはり指紋はとっているわけでございまして、日本のみが非常に過酷な条件を強いているということは言えないのではないかと思うわけでございます。  それからもう一つ私はここで御説明しておきたいのは、この登録制度は昭和二十二年から発足したわけでございますけれども、実は初めのうちは指紋がなかったのでございます。そうしますと、偽造、それから他人のものを乱用した、非常な不正な事実が続出いたしまして、それで何かいい方法がないかということでやむを得ずこの指紋制度を導入した次第でございます。したがって、私が申したいのは、外国人の皆様がそういう不正をできるだけ慎んでいただく、ほとんどそういう心配がなくなるということになれば、おのずからそういうためにこれは必要はなくなってくるのだ、こういうことが言えるのじゃないかと思います。
  130. 中野寛成

    中野(寛)分科員 これは鶏が先か卵が先かという議論もありまして、そういう制度があることがある意味では違反者が多いという数字になってあらわれてくる。そうすると、結局これだけ違反者があるのだからこの制度をなくせない、こういうことになって、むしろ違反者をつくるための制度みたいに――当初の趣旨はそうではないと思いますよ。しかし、結果的にそういう結果が生まれてきているというふうにも考えられるのではないかと思います。全然とらないというのではなくて、経過措置として、たとえばどこかの段階で一回とれば、あとは事務手続の方法を改善することによって、三年ごとに毎回とられるというふうなことをしなくても済むのではないか、そういう改善の方法がやはりあると思うわけでありまして、そういう意味で、このことをむしろ前向きに御検討願えないか、こう申し上げたわけであります。
  131. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 ただいま先生のおっしゃいました最後の点については、われわれとしても実は慎重にいま検討中でございます。ただ、これはいろいろの面から検討しなくてはならない。考慮はいたしております。
  132. 中野寛成

    中野(寛)分科員 それこそ時間がなくなっちゃったのですが、あと要望いたしております項目が幾つかありますが、そのうちはしょってお尋ねをいたします。  再入国許可測度の問題なんですけれども、いま許可期限が最大限一年と規定されているわけでありますが、やはり短かい、長期海外滞在者は一年ごとに日本に帰らないといけないというのではどうしても困る場合が出てくるわけでありまして、これについても、先ほどのことと同じように、事務手続上付か方法がないものだろうか。出国地の日本の在外公館、そこで再入国期限の延長を認めていただく方法だとか、また帰る意思があるんだということをちゃんと証明できるどなたか代理の方で肩がわりできるとか、何かそういうふうなことにつきましての方法というものはないものでございましょうか。
  133. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 再入国許可期限が一年であるというのは法律事項でございまして、これは国会を通して法律改正しない限り、ちょっといま行政当局としてはいかんともしがたいのでございます。ただ、先生がおっしゃいましたその許可期限内なら何回も往復、数次使えるような制度にすればいいんじゃないかということはわれわれも考えておりまして、これは日韓双方で相互主義がございますので、それで韓国政府側ともそういう点はひとつ検討しようじゃないかということになって、われわれいま検討中でございます。先生のいまの御意見は、われわれ十分頭に入れて今後対処したいと思っております。
  134. 中野寛成

    中野(寛)分科員 特に相互主義の問題が出されますと、私ども非常にひっかかってしまうわけです。もちろん、在韓日本人の問題、われわれとしては最大の関心がありますが、いわゆる協定によって永住権を得ている在日韓国人の場合に、その相互主義の問題というのはちょっと――当てはまるというよりも、むしろそれを超越した感覚というものが必要なんではないのかということが、実はいま私一番最初に申し上げた扱い方の精神の問題でございまして、そのことについては再度お尋ねしませんが、そういう意味で前向きに御検討いただきたいと思います。  次に、どうしても協定永住権者や永住者が配偶者だとか直系親族、特に御両親ですね、お父さんやお母さん、そういう人たちを親族訪問や同居等の目的で招請する機会があるわけですけれども、私も何回かそういう方々に御相談を受けました。結婚をされて夫婦別れ別れに住んでいるとかというようなケースもまだ大変たくさんあるようでございます。そういう場合の入国許可緩和の方法というものがもっと講じられないものだろうか、人道的な配慮というものがなされないだろうか。それから、六十日を経過するときには、たとえば外国人登録証明書の交付を申請しなければいけないというようなことがありますけれども、これももっと延長して二倍くらいに延ばすとか、そういう意味でのこれはまさに人権というよりも人道上の問題かとも思うわけでございますが、この点についての御検討もなされているかと思うのですが、いかがでございましょうか。
  135. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 先生が冒頭に述べられました、韓国の方は特別だからと、われわれも確かにそう思っておるのでございますが、これは両国政府間で国交を設定いたしますときに基本条約を結び、地位協定を結んで、その地位協定の第五条には、特にこの地位協定に書いてあること以外は一般外国人と同等でございますというのを両国政府間で確認をしている次第でございます。それをちょっとここで申し上げておきます。  それから、結婚されたとか、親族の同居とかの関係で入国基準をもう少し緩和できないだろうかというお話でございますが、ただいまいろいろ書類を出していただいているのですけれども、どうも現在の書類としては必要最小限度であるということで係の方も申しております。と申しますのは、非常に申しわけないのでございますが、現状はやはりいろいろなことを言って入ってこられる方が、たとえば擬装結婚であるとかいろいろなことが現実の問題としてあるわけでございまして、そういうようなのをどうして見分けるかということがわれわれの本当の悩みの種でございます。したがいまして、そういう擬装結婚とかいろいろな、何と言うか、うそを言われて入ってこられる方々と本当に正直に真実を述べておられる方々とを見分けるということはどうしてもむずかしいのでございます。そこで、やはりその証拠になるようなものを出していただきたいという要望になるわけでございまして、この点も現実苦心の存するところをひとつ御了承願いたいと思います。
  136. 中野寛成

    中野(寛)分科員 時間が参りましたから、最後に一点だけお伺いします。  いま局長の御答弁の中に、法律事項でございますというお言葉がたくさん出てまいりました。むしろ、国際人権規約の批准にも絡めて、法務省として当然検討はなされていると思いますけれども、現状をより一層前向きに進めていくために、事務の簡素化も含め、また在日韓国人の皆さんの人権をより一層守るという観点からも考えて、法改正の御用意というものは、今日まで国会審議の過程でいろいろなことがあったことは承知をいたしておりますが、法務省としてむしろ前向きに、私ども要望しております方向での法改正のお気持ち、御用意はございませんでしょうか。  それから、と同時に、これらの諸問題について、たとえばこういう在日韓国人の団体の皆さん方と、申し入れがありました場合には、法務省は一つの窓口的なものをおつくりいただいて、前向きに定期的にでも協議をしていく、そういう人たちの悩みをもっと間口を広げて聞いていくというふうな意味での今後の御配慮というものがいただけないだろうか。この二点について最後にお伺いいたします。
  137. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 法改正の問題は、先生も御承知のとおり、入管令について過去に四回改正案が出たわけでございますが、残念ながら廃案になった。外国人登録法も、いろいろ手直しも国会に対して行われた。そういう努力というものが行われたわけでございますが、国会内の意見もなかなか一致しない。要するに、これは国論が統一されないという現状でございます。しかしながら、われわれとしては、いろいろな研究は、先生がいまおっしゃられたいろいろな問題点を頭に置いて終始検討はいたしております。われわれとしては、この問題について国論が統一することをなお一日も早からんことを期待するわけでございます。  第二の問題につきましては、先生の御意見もなかなか検討に値すると思いますので、私といたしましては、具体的にどうするかというのはこれから検討させていただきたいと思います。
  138. 谷川寛三

    ○谷川主査代理 以上で中野君の質疑は終わりました。  次に、武部文君。
  139. 武部文

    武部分科員 私は、きょうは、いわゆるネズミ講の問題について法務省の見解なりをお伺いいたしたいのであります。  ネズミ講というものがいま全国に蔓延をして、大変多くの被害が出ております。一々申し上げませんが、その後、集団訴訟等も各地で行われておりまして、総理大臣が座長である消費者保護会議では、すでに五十年、五十一年、五十二年の三回にわたってこの問題が取り上げられて、ネズミ講の取り締まりのため、出資法の改正を含め新規立法を検討する、こういうことが三回連続決定をいたしております。私どもは消費者保護の立場から物価問題特別委員会でこの問題を論議し、さらに小委員会を設けて、ネズミ講並びにこれに類似するマルチ商法の問題を論議いたしておるところであります。さらにこれが訴訟問題に発展をして、去年の三月三十日には長野地方裁判所において、ネズミ講の元祖とも言う天下一家の会は公序良俗に違反する、こういう画期的な判決が出て、入会金の返還を命じたのであります。これはいま高裁で争われております。  こういう中で私どもが取り上げたのは、その勧誘のやり方、国民をだますやり方の中に、天下一家の会と称するネズミ講は財団法人を名のった、このことが非常に巧妙に行われてきたという事実をつかみ、この問題に焦点を当てていろいろと委員会で論議をいたしたわけであります。その結果、昨年の十二月に至って、法務省は、この財団法人天下一家の会というものは詐称であるとして、法人登記を職権によって抹消された。このことは大臣も恐らくお聞きだろうと思うのであります。  そこで、私どもが問題にしたい第一点は、このもともと許可を受けていない財団法人が登記官をだまし、登記官もそれを見抜くことができないままに登記を引き受けてしまった。そのことによってこのネズミ講は、天下一家の会というのはこれを悪用し、多くの被害者を出したわけでありまして、職権抹消というのは当然であります。ところが、職権抹消されたにもかかわらず、相も変わらず財団法人の看板はおろしておりません。おろさないどころか、それをまたどんどん利用してこの被害を広めておる、こういう事実があります。私は衆議院の九段宿舎におりますから、実は毎日それを見るわけでありますが、靖国神社の隣に東京支社の十階建てのビルがあります。その十階建てのビルの屋上に財団法人天下一家の会なる大看板がいまも厳然としてそびえておるわけであります。これは「天下一家の会研究号」というりっぱな本ですが、ちょっと大臣見てください。ここに十階建てのビルがあって、その大きさを見ていただけばわかると思いますが、そういう看板が東京のど真ん中にいまもなお残っておるのであります。そうして全国にもこれに類似するような行為がなされておるわけです。  職権で抹消されたにもかかわらず、一体なぜそういうものが相も変わらず横行しておるかということについて、所管官庁である厚生省にこの問題についての問い合わせをわれわれはしたわけであります。そうすると、厚生省の社会局長名をもって天下一家の会代表内村健一なる者に、ことしの一月二十四日付で「財団法人名の撤回について」という文書が出たという報告がわれわれにございました。全員の委員が受け取ったわけです。これに何と書いてあるかというと、「貴会が設立許可を受けることなく、あたかも厚生省所管事務に係る事業を目的とするかのごとき「財団法人」を称していることは、極めて遺憾であり、これを撤回するよう申し入れる。」こういう文書を代表者の内村健一なる者に出しておることがわかりました。そして、私ども小委員全員に対して厚生省の社会局から「「天下一家の会」の財団法人名詐称についての見解」という文書が来ました。大臣、これはちょっと聞いておいていただきたいと思うのですが、「「天下一家の会」が設立の許可を受けないで財団法人を名乗っていることはきわめて遺憾なことであり、別添の申し入れ書により、これを撤回するように申し入れたところであります。ただし、財団法人でない者が「財団法人」を名乗ることに対しては法律上禁止規定がないので、撤回命令を出すこと及びそれに従わない場合の行政代執行を行うことはできないものであります。」、こういう厚生省の文書を私ども委員全員受け取りました。財団法人でもない者、しかもそれは虚偽の申告をし、登記官をだまし、職権によって抹消された、この者が相も変わらず、いまごらんになっていただいたように、あの大看板を出し、なおこれを使って被害を広めておることについて、一体法務大臣はどういうふうにお考えでしょう。これをお聞きしたいのであります。
  140. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 御承知のように、財団法人は、民法であると思いますが、公益法人としてそれぞれの管轄の政府機関が認可といいますか許可することになっております。それなくしてやるということは全く詐称でございます。詐称でございますが、そういう場合に、現在の法制のもとでは罰則といいますか処置する手段がない、これが現状でございます。
  141. 武部文

    武部分科員 まことにばかげたことであって、私どもは与野党を通じて、一体こんなばかなことがどうして存在するだろうかということを実は話し合ったのであります。たとえば類似のことを調べてみました。ちょっと内容が違うかもしれませんが、会社の場合ですと、商法です。商法の第十八条では「会社ニ非ズシテ商号中ニ会社タルコトヲ示スベキ文字ヲ用フルコトヲ得ズ」、そして「前項ノ規定ニ違反シタル者ハ五万円以下ノ過料ニ処ス」、罰則がついておりますね。銀行もそうであります。一々申し上げませんが、全部調べてみました。協同組合法から農林漁業金融公庫、社会福祉法人、学校法人、たくさんの類似のものを全部条文を調べてみたわけです。いずれもそういう名称をそうでない者が使ってはならぬ、もし使った場合には過料とか罰金とかみんな書いてある。全部そうなっておるのであります。そうでなければ、会社でない者が会社と称したり、あるいは生活協同組合とか農業協同組合でない者がそういうものを勝手に詐称する、何にも罰則がない、そんなことはあり得るはずがないわけですから、全部そういう罰則と禁止規定があるわけです。一体なぜ公益法人の財団法人にだけそういうことがないのか、これは大変不思議に思うのであります。  これを私どもが主張するのはなぜかというと、財団法人というものを非常に宣伝をしているということを先ほど申し上げました。ここに彼らの宣伝の文書をみんな持っておるわけですが、ただ単なるネズミに国が財団法人を許可するわけがない、こういうことを言っておるのであります。被害を受けた人にいろいろ後で聞くと、国が認めた財団法人だというので信用してわれわれは入った、こういうことを随所に述べておるのであります。特にいまあちこちで被害者の会が集団訴訟の用意をいたしておりますが、どうしてそういう者にだまされて入ったか。実は後でいろいろ調べてみると、やはり財団法人というそのことに惑わされて入ったということをたくさんの人が述べておるのであります。彼らにとってはこのことが全くにしきの御旗だということになるのであります。それだからこそ、この職権抹消ということが表面化した場合に、あらゆる手段をもって彼らは抵抗したのであります。しかし、法務省は十分な調査の結果、ほとんど例がございませんが職権によってこれを抹消した、これは私どもは高く評価していいと思います。しかし、その効果が何にも上がらないということになれば、これは一体どういうことだろうか、こうなるのであります。  もう一つ、いろいろな話を聞く前にこのことを申し上げておきたい。いかに天下一家の会、ネズミ講が財団法人というものに執着をしておるかという点を一つの雑誌の記事から出してみたいと思います。このことが問題になってわれわれが取り上げてから、天下一家の会というのは政治結社をつくりました。これも新聞に出ましたからあるいは御存じかもしれません。政治結社をつくって、そうして今度は政界に進出すると言う。それは自由でしょう。参議院に出ようが衆議院に出ようが、右だろうが左だろうが、そんなことは自由であります。ところが、それは何のために、いかなる理由で政治結社をつくり政界に進出するかということは、この財団法人の問題と実は関係するのであります。  ついせんだって出された、これは「週刊サンケイ」であります。この中に、今度天下一家の会のいわゆるネズミ講の中から立候補する予定の某がこういうことを言っているのであります。「「天下一家の会が、財団法人から抹消されたことに義憤を感じたんですよ。あれは法務省の指導の誤りと、県庁福祉社会部の役人の逃げ腰こそ、非難されるべきなんだ。で、内村会長からキミ(衆院選)出てくれと言われまして……」早い話が、ネズミ講の錦の御旗、「財団法人」の看板を奪回せよ、と内村会長から白羽の矢が立てられた次第。」こうなっておるのであります。この職権抹消後に彼らがどういう抵抗をしたか、われわれもよくそのことを知っておるのであります。これは、やはり財団法人というその名称が彼らにとっては非常に重要だということは、そのことが、裏を返せば、そのことによって多くの被害者を出した勧誘をしたということになるのです。そしてこれは大変なことを言っておるのです。雑誌ですから、余り大した何もせぬでもいいと思いますが、われわれは「何十人かの自民党議員に資金援助をする。そして、現職の代議士を引っ込ませ、私が無投票で選出されるぐらいの根回しをする」とか、「私が当選するのは、きわめて簡単なこと。まあ、そのための高等戦略として、一億円は軽くかかる」、適当なことを言っておるのであります。  そんなことはどうでもいいでしょう。しかし、このねらいは一体何かということをわれわれは考えてみなければならぬ。しかも職権抹消をされた者が堂々と看板を出し、そういうことを相も変わらず勧誘に使っても、何ら法的に制約を受けないということは、一体どういうことでしょう。国民の側としては全く納得できない。いまの民法上から言うと、いま大臣のように、何もこれを取り締まる法律がない。一体このままでいいでしょうか。したがって、こういう問題が現実に起きたわけですから、直ちに民法を改正するというような措置を、そして規制をし罰則をつけるという、そういう措置をとるべきではないか、こう思うのですが、いかがでしょう。
  142. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いまおっしゃるように、財団法人なりあるいは社団法人、これは民法上の公益法人として許可をしなければ使ってはならないことになっておるわけでございます。しかし、罰則はない。そのかわり、銀行あるいは株式会社等のお話がありましたが、法律上決めた名称を使うということは、それに関係する国民その他がそれを信用する立場になるわけでございます。こういう内容の組織であるということ、それを信頼する。したがって、勝手に使われるとそれを処罰するという規定がほかの法律はあるわけでございます。残念ながら、この点にない。私もこういうことは従来は経験がありませんが、たまたま出てきますと、これは法制の欠陥のように私は感じます。でありますから、これはその点を検討すべき問題だと思います。詳細については事務当局からお答えさせます。
  143. 香川保一

    ○香川政府委員 ただいま御指摘の民法の公益法人、社団法人、財団法人につきまして、商法の十八条のような規定を設けていない理由は、これは恐らく民法は、会社の場合は株式会社あるいは合資会社というのがその商号の中に含まれる名称的なものとして考えておるわけでございますが、民法のこの財団法人、社団法人というのはその法人の性格をあらわす意味で、名称的なものとして考えていなかったのではないか。したがって、商法と同様な規定を設けていなかったのではないか、かように考えておるわけでございます。  しかし、御指摘のような、財団法人という名称を冠することによって世を惑わすようなことが現実にあるといたしますならば、やはり早急に検討して立法措置を講ずべきものだろうというふうに考えるわけでございますが、この天下一家の会の関係は、私ども主務官庁でございませんので詳細よくわかりませんが、これは恐らくは財団法人としても雲散霧消してしまったのかどうかという点も一つの問題点だろうと思うのであります。つまり、経緯を見ますと、肥後厚生会という財団法人が正式に許可を受けて設立されておるわけでございます。それの名称変更、肥後厚生会を天下一家の会というふうに名称を変更するについて主務官庁の許可が要るという関係にあったわけでございますが、その前に理事が大半交代いたしておりまして、その理事の交代が実は財団法人の寄付行為に違反しておるということから、その後の理事選任の登記なり名称変更の登記が一切無効だということが形式的に明らかでございますので、職権抹消をした、こういう次第でございます。したがって、一つの見方としましては、現に財団法人の肥後厚生会というものが生きておりまして、その天下一家の会を名のっておった財団法人が名称がもとへ戻って肥後厚生会という名称で存続しているというふうに見ますと、名称を偽っておることになるわけでございまして、さような見方をいたしますと、財団法人であることには変わりないというふうな考え方も出てこようかと思うのでありますが、しかしその点が実態上も肥後厚生会が雲散霧消して別の組織ができて、それが財団法人でないのに財団法人を名のっているという実態というふうに見るかどうか。これはいろいろな見方がございますが、いずれにいたしましても民法の財団法人がその財団法人という名称を必ずつけなければならぬというふうに規制することも、これはいろいろ問題があると思うのです。したがって、商法並みにはいかないので、逆に財団法人でない者が財団法人を名のってはいかぬという商法の片面的な面だけを過料の制裁のもとに取り締まるというふうなことを検討すべきだろう、かように考えておるわけでございます。
  144. 武部文

    武部分科員 私も言っているのは、そういう意味です。ですから、詐称したあの問題は後で言いますが、財団法人天下一家の会というのは法律上存在をしていないのですよ。これは抹消されたのですから。そういうものは存在をしていないのに、そういう名前を使って、しかも大きな看板を立てたり、あるいはほかの書類にそれを載せたり、その他、このネズミ講というのは、一々内容を言いませんが、それを非常にうまく利用し、活用して被害を深めている。さっきから何遍も言うようですが、そういうことをやっておる。このことは明らかに財団法人でない者が財団法人と名のっておるんだ。これに対して何で罰則というものがないのかということを大変不思議に思うのですよ。ですから、大臣も言われるように、これは法の欠陥だということがいまわかったでしょう。われわれもまさかこういうものが出るとは夢にも思わなかった。こういうことになったわけです。私どもの協議の結果でも。委員会でもそういう意見になりました。ですから、ほかの商法その他のたくさんのものはみんな、そうでないものがそういうものを名のったら、名のることはできないぞ、またやったら罰則だというので、こうあるのですから、したがってこの民法上にも、改正をして、そういうものを設ける必要があるのではないかということを言っておるのであって、今後もそういうものが出る可能性はありますよ。いまたまたまこれだけのことなんですけれども。たまたまこれはそういう被害を与える。現実にいまほっとけば、これを利用してやるのですから。いまお見せしたように、こんなことをちゃんとやっておるのですから、そういう点について法律の改正をする意思が法務省にあるかどうか。これだけをお聞きすればいいです。
  145. 香川保一

    ○香川政府委員 法制審議会におきましてこの法人の問題は検討事項の一つになっておりますので、その検討の際にこの問題も加えて討議していただくというふうに考えております。
  146. 武部文

    武部分科員 早急にやっていただきたいのであります。随所に被害が起きているわけですから、この点はぜひ急いでやっていただきたいということを特に要請をしておきたい。  時間もございませんから法務省にもう一点だけお聞きいたしますが、この抹消されるときにわれわれが経過をいろいろ調べ、また法務省もなぜこういうことになったのかというのでいろいろお調べになった。私どもの調べたところによると、これは明らかに作為的に法務省をだまし、虚偽の寄附行為を添付して、法人登記、いわゆる財団法人の登記をやったというふうにわれわれは理解をしたわけです。そのことは委員会で何回か法務省とやりとりをいたしました。したがって、作為的に登記の変更申請書を出したということになれば、これは明らかに公正証書原本不実記載罪に該当するのではないかということを申したところが、法務省としては、確かにそういうことも考えられるので具体的に調査をいたしますということになったわけです。したがって、この肥後厚生会なるものが天下一家の会に変わっていった経過、そこに添付された虚偽の登記変更申請書の寄附行為、こういうものについてわれわれは当然公正証書原本不実記載罪が該当するというふうに思うのですが、法務省の見解を承りたい。
  147. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 御指摘のとおりの公正証書原本不実記載になるのではないかという問題点をめぐって、現在関係検察庁で鋭意調査中でございまして、やがて結論が出ると思っております。
  148. 武部文

    武部分科員 わかりました。ぜひ早急に調査をしていただきたいと思います。  もう時間がございませんからあと一点だけ。国税庁、お見えになっておりますか。――財団法人天下一家の会は先ほど申し上げたように法人が抹消になったわけですが、この時点ですでに財団法人天下一家の会の財産は約百億、これは収支計算書に出ておるのであります。したがって、これは財団法人でないということになれば、当然内村健一なる者の個人の財産として課税の対象になるべきものではないかということを私どもは主張してきたわけですが、この百億円以上の財産についての課税はどのように考えておるか、これをお伺いしたいのであります。
  149. 掃部實

    ○掃部説明員 お答えいたします。  財団法人天下一家の会は、昭和五十二年十二月十日に名称変更登記と理事の選任登記が職権によって抹消されたことは御案内のとおりでございますが、このような事例は異例でありまして、先例もないところから、当該財団に帰属した財産がどこに帰属するかについて目下慎重に検討いたしておるところでございます。検討の方法といたしましていろいろな考え方があるわけでございますが、お説のように、財団法人天下一家の会の理事長であった内村健一氏個人に帰属するものとして所得税課税を行うことも十分考えられるところでございますが、いずれにいたしましても、事実関係を見きわめながら適切な課税処理をしたい、かように考えておる次第でございます。
  150. 武部文

    武部分科員 この天下一家の会というのは御承知のように三つございまして、第一相互経済研究所、財団法人天下一家の会、宗教法人大観宮、この三つが実は一緒になって運営されておって、その三つの中の最高の人物が内村健一という会長であります。これは三位一体、自由にこれを操っておって、区別することはできないと判決文になっておるわけであります。したがって、この財産なるものは、私がいま申し上げたように、個人でどうにでも自由にできるような、そういう仕組みになっておる。したがって、課税の対象として十分検討すべきものだ、私はこういうふうに思いますから、国税庁は早急にこの課税の問題について態度を決めて、私どもに報告していただきたい、このことを要望して、終わりたいと思います。
  151. 谷川寛三

    ○谷川主査代理 以上で武部文君の質疑は終わりました。  次に、湯山勇君。
  152. 湯山勇

    湯山分科員 私は、同和問題についてお尋ねいたしたいのですが、先ほど井上泉委員から法務大臣に対しましていろいろ質疑がございまして、私も拝聴しておりましたから、私の聞きたいことと井上委員の質問と重複しておる点も多々ございますので、そのことに関連して若干観点を変えてお尋ねいたしたいと思います。  まずその第一は、法的に差別事象を排除していくということは、地名総鑑が出てから急に考え出されたことではなくて、昭和四十年八月十一日に同対審の答申が出ましたが、その答申の中にちゃんと「差別に対する法的規制、差別から保護するための必要な立法措置を講じ、司法的に救済する道を拡大すること。」というのがございます。これは十三年も前に出されたものであって、これについてはそれなりの御検討を法務省当局においてはなされたと思います。その上で、これは法的に排除措置をとるということよりも、啓蒙、教育でいこうという方針をおとりになったことは私もよく存じております。いま井上泉委員の質問に対しまして、そうしなければならないという方向は決まっておるけれども、まだいろいろ問題があってめどが立っていないということでございました。しかし、私がたとえば地名総鑑について考えてみましても、これを印刷して販売した者、これ、一つ問題があると思います。それから第二は、これを購入して雇用あるいは昇進等の差別に使った、これ、一つ問題があると思います。それから第三は、探偵社とか興信所とか、こういう人たちが自分の仕事のためにそれを購入して、一括請負でそういう調査をやっていく、つまり仕事の上でそれを専門にやっていくということのために購入した、それぞれ段階、区別があると思うのですが、現在検討しておられる中で、これは局長の方からで結構ですが、どういうことならばやれるという一番手近なもの、それは何かありますか。むずかしいのは別としても、こういうのは法的にできるというような見当の立ったものはないですか。あればひとつお述べを願いたい。
  153. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 お答えいたします。  御指摘のように、大きく分けましても発行者の問題、それから購入者の問題、それからその使用者の問題と三つありまして、そして規制に当たりまして考えてみますと、それぞれに非常に困難な問題があるわけでございますけれども、範囲として一番狭いと申しますか、それはやはり発行の関係ではないかというふうに考えております。
  154. 湯山勇

    湯山分科員 じゃ、発行は法的に規制できますか。
  155. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 いまその点を鋭意検討中なのでございます。
  156. 湯山勇

    湯山分科員 以前にお尋ねしたときに、資料の入手先をまず調べなければならないということでございましたし、それから「同和対策の現況」にも法務省の御意見としてそういうことが書いてあります。資料の入手先、これはわかりましたでしょうか。
  157. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 御質問の趣旨は、いわゆる地名総鑑等の差別図書の資料入手先が判明したかどうかという御趣旨だろうと思いますが、これは鋭意調査しておりまして、判明しておるものもございますけれども、発行者が死亡いたしましたり、それから関係者が行方をくらましたりしております関係で、わからないものが多いわけでございます。
  158. 湯山勇

    湯山分科員 いまのような問題ですね。たとえば発行者が行方不明になっているというような場合には、もはやそれは正規の出版物ではないということになるのじゃないでしょうか、全然責任を持ってないのですから。その辺はどういうことでしょうか。
  159. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 まことに申しわけありません。御質問の趣旨がちょっとその点よく理解できませんので、別の角度から質問していただくとありがたいのですが。
  160. 湯山勇

    湯山分科員 著作物には、発行者、発行所、それぞれ備えていなければならない要件があります。それは書いてあるけれども、行ってみたらそこにいない。どこへ行ったかわからない。もう少し言えば、たとえば出版とか言論とか、そういうものの自由まで保護するという責任があるのでしょうか。
  161. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 御質問の趣旨はわかりました。要するに、このような種類の図書について、あくまでそれは出版の自由であるということで保護する必要があるかどうか、そういうことの一例として先ほどの状況をおっしゃった趣旨と思いますが、出版の自由でありましても、図書の内容によりましては、やはりその自由は制限されることも当然あり得るわけでございます。これは出版の自由もありますし、また公共の福祉との関係で制限ということもありますので、発行者がいなくなったからその自由がどうこうということは、私もちょっと専門家でございませんのでわかりませんが、図書そのものが問題があるとすれば、その関係でその自由の制限ということを考えてよろしいのではないかというふうに考えております。
  162. 湯山勇

    湯山分科員 著作権にはちゃんと著作権法というのがありまして、著作権の設定が行われております。これはマルCというのが万国著作権の印であって、だから著作権が保障されていない、まして出版物として備えていなければならないそういうものを備えていないという場合に、それをいまのように一般化して考えなくても、そういうものはもう法的に排除するということに踏み切って私は不都合がないと思うのですが、なおそれでも心配であれば、そういうものについては審議会のようなものを設けて、どうするかということを諮ってやるという道もあると思いますし、また資料の提出を求めてその上で調べていくという道もあると思いますので、私は、この同対審の答申にあるように、一遍で完全なものをつくろうと思うとそれは無理だと思います。しかし、この部分はもうだれが見ても問題ないという今度のような場合、答申にあるとおりそれを限定してやって、そして次第に拡大していくという道をとれば方法はあると思いますので、これは拡張判断ではできにくいと思うのですが、大臣、いかがでしょうか。いまのようにして速やかに排除していかないと、この地名総鑑は、ただそういうことだけじゃなくて、たとえば何県の同村の何部落というのが出ておりますと、それは当然被差別地域もありましょうし、そうでない人もごっちゃになっている。すべての人が同じように被害を受けているということになりますので、こういった問題はだれが考えても不都合であるし、その中に思想とか言論とかそういったものがあるわけじゃないのです。ただもうけんがために、悪用するがためにつくっている。明瞭なんですから。それをあえていまのような御配慮、それは私はないと思うのですが、大臣のお考え、いかがでしょうか。
  163. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 周到に検討した上でのお答えでありませんから、それを前提にして申し上げますと、おっしゃるように、いままでにあらわれました事例を見ますると、それを発行したという人がどこにおるかわからぬ、逃げ回っておるというような事態を見ますると、これは非常に悪意に満ちた行動のように感じられるわけであります。でありますから、これをどこに配付してどう利用したかということまでやりますと、非常に問題が複雑になってくる。根を絶つという意味においては、明らかに平和憲法の精神に反する。人を傷つける結果になることは明らかだ。こういうものを発行する者はその時点で処罰の対象にするというような立法措置が私はベターじゃないかと思います。ただ、私は、そこをまだ広く研究しているわけじゃありませんからなんですけれども、学問研究、歴史研究の中でこういうものが出たときにどうするか、こういう問題もやはりあわせ考えないと、その態様によって処罰するということにしないと、なかなか問題じゃないかという点もありますから、十分検討さしていただきたいと思います。
  164. 湯山勇

    湯山分科員 最終的に大臣のお気持ちをお聞きしたいのですが、たとえば研究のためというのは、歴史的な研究等であるかと思います。それは別途届け出をするなりあるいは認可を得るなり、大学ならば学長の証明とか、何か道はあると思いますが、最終的には、いまおっしゃったように、そういう悪質なものはやるというお気持ちでいらっしゃるのか、検討した上でどうするかを決めるというお気持ちなのか、このことだけひとつはっきりお聞きいたしたいと思います。
  165. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 先般もあなたにお答えしたように、そういうことをしなければ根は絶てないのじゃないか、残念ながら立法措置でこれを取り締まるということをしなければ、善意の理解だけを求めておるという事態ではこの問題は解決しないように思いますから、そういう方向で、できるだけ速やかに検討してみたい、こういう意味でございます。
  166. 湯山勇

    湯山分科員 大臣のお気持ち、よくわかりました。ひとつ速やかにやっていただきたいと思います。いまの、広い、全体の問題は第二次でいいと思います。このことについて、法的排除の姿勢がとられたということだけでも、私は非常に大きい効果があると思いますので、お願いいたしたいと思います。  それから、同時に、差別事件はふえてきているということを、この前も大臣から御答弁ございました。これは住民の自覚が高まっていくのと相伴っているもので、必ずしも心配しなくてもいいということもありますけれども、私は、ただこれをいままでのように説諭をしていくとか、勧告するとかあるいは被害者を援助するように手助けをしてやるとか、これをやっていくのにはなかなか手が足りないのじゃないか。現在、地方法務局法務局人権担当の職員は二百名くらいでしょうか。
  167. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 仰せのとおり、約二百名でございます。
  168. 湯山勇

    湯山分科員 地方法務局法務局の数はどれだけありますか。
  169. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 とっさの御質問でございますが、約五十かと思います。
  170. 湯山勇

    湯山分科員 そうすると、平均すると一法務局、一地方法務局四人くらいですね。それで果たしてやれるでしょうか、いまのようにどんどんふえていっているというのに対して。もちろん人権擁護委員もあるにはありますけれども、それは片手間といいますか、常勤でも常駐でもありません。やはり職員がふえなければならないので、これもしばしばお願いしておって、いま厳しい中ですが、ほんの申しわけ程度にふえていることは、それは認めます。しかし、かなり大幅にふやさないとやっていけないと私は考えますが、たびたびお願いしておるのですけれども、まだまだふえ方が足りないと思います。いかがですか、局長
  171. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 人権擁護職員は一生懸命努力しておりまして、十分かと言われますと、率直に申し上げて決してそうではない。ただ、増員につきましては、御承知のとおり、一般的には非常に困難な情勢でございますが、鋭意この後も努力していきたいと存じております。
  172. 湯山勇

    湯山分科員 非常に困難な問題ですし、一番簡単な文書での勧告にしたって、するまでの手数、それからこれを説示するとすればわけのわからないのもたくさんあります。それを読んでずいぶん手間をかけてやっておるので、私は、やはりこれは相当大幅な増員が必要ではないかということを痛感しておりますので、むずかしいことはわかりますけれども、しかしそれよりももっとこういう差別問題があるということが重大でございますので、大臣もぜひひとつ御尽力を願いたいと思いますが、いかがでしょうか。
  173. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 湯山さんも、公務員の増員というのは非常にむずかしいといいますか、簡単ではないということで御理解いただいておりますが、局長からも申し上げましたように、できるだけこれに対応したい、こういうことに考えておるわけでございます。
  174. 湯山勇

    湯山分科員 地方法務局なんかへ参りますと、人権週間には差別をなくするというたれ幕の大きいのを掲げて一生懸命やっています。入っていってみると、二人か三人しかいない。その気持ちは本当にとうといものがあるし、御苦労は察するのですけれども、これでは気の毒だなという感じもいたしますし、また、それへ頼っていって問題を処理してもらおうという側にしても、やはりつい二の足を踏むということもありますので、ひとつこの問題は、特にいま大臣のお話にありましたが、五十三年度はやむを得ないとしても、五十四年度におきましてはぜひひとつ一層の御尽力を願いたいと思います。
  175. 鬼塚賢太郎

    ○鬼塚政府委員 仰せのとおり、人権擁護に直接専従しております職員は非常に少ないのでございますが、仕事に関しましては、実は法務局のほかの職員もできるだけ応援してくれておりまして、決して専従職員だけでやっているということではないのでございますが、それでも確かに十分ではございませんので、先ほども大臣から申し上げましたように、今後とも努力したいと思います。
  176. 湯山勇

    湯山分科員 そういう御答弁があると、私はまた言わなければいかぬことになるのです。法務局はそんなにゆっくりして手伝う余裕がありますか。登記はどうなんですか。これももう本当に必死ですよ。     〔谷川主査代理退席、主査着席〕 法務局へ行ってみて、ここは暇だな、のんびりしているなというところは一つもありませんよ。あなたは人権擁護局長だから、ほかが暇だろうと思ったりしておるのでしょうけれども、そうじゃない。登記もふやさなければならぬ。ですから、大臣、いまの局長のは、無理して手伝わしておるのであって、やはりそうじゃないのです。ですから、もう私はよく知っていますから、そういうことを言わないで、真っすぐに直接担当の人をふやすということをやってもらいたいと思うのです。  それからいま一つ、時間が余りないのですが、私は、狭山の問題は一応最高裁の決定が出まして片づいておるように見えますけれども、何か腑に落ちないもやもやしたものが残っている。一体こういうのはどうしたらいいかということをお聞きしたいのです。  それは、この問題に関係のある人で自殺をした人が七名あります。御存じと思いますけれども、殺された中田善枝さん、その殺された五日後に奥富玄二という、中田家の作男をしておって、もうあす結婚式をやる、新築の家もできたというのが農薬自殺というので井戸の中へ落ちて死んでおる。しかも農薬自殺かどうかという点については、警察庁科学警察研究所の科学捜査部長、医学博士の渡辺孚という人が「犯人を追う科学」という書物で、農薬中毒という断を下すことは不可能だ、解剖しなければわからないということをみずから述べています。  それから田中昇という人、これは犯行の当日に三人の怪しい者を目撃したというので、警察へこれを届けております。この人が事件のあった十日後に胸を刺して自殺している。これは目撃者ですから、事件としては非常に重要な参考人である。これが死んでおる。  それから、その後、つまり石川君が死刑の判決を第一審で受けたその一週間ばかり後、増田秀雄というPTAの会長さん、これは姉さんがお金を持って行ったときに付き添っていた人、この人は脳内出血で倒れたというのですが、血圧は高くなかった。この人は警察の批判をしょっちゅうしておったということですが、いずれにしても、これもそういう死に方をしている。  それから、今度はその人と一緒に行った姉さん、これがやはり判決のあった七月、農薬で自殺をしたというのですが、これは鈴木という医師が診断して、農薬ならばもっと苦しんでおるだろうし、それから失禁等があるのですが、全然そういうことがなくて、安らかに死んでおった。鈴木医師は、これは外見だけじゃわからない、解剖しなければわからないと言ったのですが、どういうわけか、当時許されなかったということを公判で述べておるのです。  それから、今度は、石川青年も行っておった豚小屋の石田一義君の兄さん、これが初め、容疑者らしいというので調べを受けたこともあるそうですか、この人が四十一年に鉄道で事故死か自殺死か、自殺のようですが、しかしこれは駅の中間ですが、両側の駅ともに、駅は事故の日誌から抹殺しておるというようなことがあります。  それから今度は、この石川一雄君がハンストをやっておったときに、それを診断した加登豊という医師ですが、その後、東京高裁の裁判中にアルコール中毒で行方不明になって、結局タイ国で船の中で死んでおるのが見つかった。これが四十五年です。  それから、最近では、中田善枝さんの兄さん、これがラーメン屋をやっておったのですが、結局これも自殺をした。自殺したのは、家族の希望というので警察は発表していなかったのですが、結局外へわかったので、死んだ翌日発表したというようなことです。  こうしてみると、被害者の中田善枝さんにつながる人が五人もずらっと自殺しています。こういうこと、一つ一つは自殺というので処理されて問題はないように見えますけれども、これだけこの事件につながる人たちがそういう形で自殺なりあるいは事故死なり、そういうことをしているということになると、この事件は、ただだれが加害者、だれが被害者、こういうことでいまの石川一雄君を刑に処する、無期ですけれども、とにかく決めたということで終わっていいのかどうなのか。こういう一連のそれを取り巻く事象というもの、そういうものは一体調べなくてもいいのだろうか。調べたとすれば、それはどうなっているだろうか。私は、司法は厳正であり、そして司法は国民のためのものであるということを考えると、そういう問題もまたほうっておけない問題ではないかというように考えますので、この点について大臣のお考えを伺いたいと思います。
  177. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いわゆる狭山事件では、石川被告は第一審で死刑、二審で無期、上告で棄却をされて確定をしております。その石川被告被害者でございますか、被害者の周辺の比較的近くにいまおっしゃったような死亡事故がある、私もこれは非常に奇妙なという感想を持つわけでございます。しかし、裁判は、いま再審の請求がなされて、再審の審理が行われておると承知をいたしておりますが、それについて、私ども立場裁判状況にとやかく言うことは差し控えますが、他の自殺か何かの死亡事故については警察等が一応調査したようでございます。しかし、それについて犯罪のあるような報告は出てきておらない、こういう状況でありますが、詳細なことについては刑事局長からお答えすることにいたします。
  178. 湯山勇

    湯山分科員 これは、大臣も非常に奇妙だというようにお感じになったように、ただ私が感じ、大臣がお感じになっただけではなくて、全国民、知った人は全体がそういうことを感じておると思うのです。そこで、一体そういう問題についてどう考え、どうしなければならないという大きい方針等も含めて、時間がないですから、ひとつ御答弁願いたいと思います。
  179. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 大臣から申し上げましたように、狭山事件そのものは一応裁判上けりがついております。それにまつわる自殺された方々の問題、これにつきましてはいずれも犯罪と関係があると警察で認めておりますれば、私どもとしても検察当局を通じまして鋭意調査をするわけでございますが、そういう状況にございませんために、結局は、ただいま申し立てられております再審請求の手続の中で、それらの点にもし疑問があれば解明されていくべきだろうと思います。
  180. 湯山勇

    湯山分科員 それでは時間が参りましたので、大臣にもお願いしたいのですが、いま局長の言われたこと、了解いたします。再審請求が出されておるので、再審の中でそれらも明らかにされていくだろうということでございますが、私は、国民全体、司法の権威のためにも、ぜひひとつそれをやっていただくようにお願いして、質問を終わります。
  181. 塩崎潤

    塩崎主査 以上で湯山君の質疑は終了いたしました。  次に、工藤晃君。
  182. 工藤晃

    工藤(晃)分科員(新自) 最近のニュースに赤ちゃんあっせんで大変世論をにぎわしておりました菊田医師が起訴される、こういう報道がなされております。  冒頭、私は誤解を生まないために、まず私の立場を明確にしながら、未成年養子の基本的人権あるいは福祉について質疑をさしていただきたい、かように思うわけでございます。  まず第一番に、菊田事件が起訴されるということは、これは法治国家において違法行為をされた方は公平に裁かれるのは道理でございます。そういう意味において、私は菊田さんを支援するとか応援するという立場では毛頭ないわけでございます。しかし、菊田事件が起訴され、それによる判決が下って一応事件は解決されたといたしましても、そういう問題の社会的背景にある未成年養子、もらわれっ子という、こういう子供たちの基本的人権その他について、あるいは血縁のない親子のこういう福祉については何ら解決をする糸口すら見出し得ないのであります。そういう立場から慎重に菊田事件というものとそれから未成年養子という問題について、次元が全く異なるところで考え、考慮なさらなければならない、こういうふうに私は考えているし、また、菊田事件によって、そういう問題まで含めて没し去られることのないように、あえて私はこの機会に発言をしたい、かように考えるわけでございます。  実は、私も菊田事件の起きました昭和四十八年直後から、この社会的背景にあります未成年養子の人権についていささか運動を続けてまいりました。そういうことについて、ここで改めて法務大臣の御見解を伺いながら、こういう問題をどう処理すべきであるか、あるいは放置しておいていいものかどうか、こういう問題について、時間の許される限り質疑をさせていただきたい、かように思います。  その前に、私が運動をいたしておりました昭和四十八年ごろに、私の手元に何百通というそういう方々からのいろいろな御意見をお手紙でちょうだいいたしました。その中の数例を御披露申し上げたい、かように思います。   前略御免下さいませ。今朝のテレビで此の度の運動を知り、本当に良い事だと心より感謝して居ります。私も子供に恵まれず、長男は養子、長女はある医師の御厚意で実子として届出ました。長男は現在高校生で、長女は小学校でございます。長男に養子であると云ふ事を分らせない様にどれだけ心をくだきましたか、実の子をお持ちの方には分って戴けないと思います。お米の配給通帳にも「養子」と書かれてしまいます。ですからお米の配給を受けた事はございません。現在はまだ知らない様でございますが、もう少しで大学ですから、その折に話して聞かそうと思って居ります。私共は生活に少しゆとりもありますので、子供が小学校一年の折、御近所の方が「自分の子でもないのに、よくそれ程なさいますね」と言はれました。これは子供によくないと思い、現在の住所に移りました。戸籍さえ「養子」と書いてなければと、どんなに思ったか知れません。どうぞ小さな子供達の為に此の運動を実らせて下さいませ。私共には何も出来ませんが、唯々心より、主人共々声援させていただきます。 富山県のある主婦からです。  あとは、その中の関係する部分だけ、時間の都合で割愛して読ませていただきます。   実は、私の家でも現在中学二年になる子を二歳の時に養子としました。この十一年の間、子供に養子であるといふことが知られたらと考えますと、不安の気持がいっぱいで暮らしてきました。もし知れた時の子供の衝撃を思いますと、何んとかして知られたくないと願っております。今道は、幸いなことに、御近所の方からも遊び友達からも知れることもなくとおってきましたが、進学、就職、結婚等も控えて、いつまで現在の幸福な家庭が保っていかれるのか分りません。子供は親を慕い、親は子供を愛しておりましても、たった一枚の謄本のために人の一生をも狂わす様なことになってよいものなのでしょうか。私の姉も実子を病で失い、子供を頂いて育てましたが、お産婆さんの計いで、生れたときからですので戸籍も養子としないですみました。今はその子供も三十を越し、お嫁さんも迎え、高校の教師をして幸福な家庭をもっております。法律では悪いことかも知れませんが、戸籍が実子としてあったため、小学校の時遊び友達から貰い子だと云われ泣いて帰った時にも、もらい子ではないよと云いきることができたそうです。うそはいけないことですが、真実を明かしてその人が不幸となるようなら、真実をかくすうそも貴いと思います。しかし、もし戸籍が養子としてあったら、姉の家も現在のようにはならなかったかもしれません。お願いします。早く法律が定まって、養子の子を持つ親が安心して子供を慈しみ育てることが出来ますようにしてください。 第三番目の例です。   ほんとにだれしもが実の子をと思いますが、こればかりは神の授りものと言いきかせ、さびしい気持の中でかわいい赤ちゃんを貰い、縁あって育てた子はもう中学三年生です。本人は勿論顔こそ似てはいませんが、何の疑問ももたず、ほんとに良い子に育ちました。ただ、進学を控えて戸籍の事であと半年の間私はまだまだ胸を痛めなければなりません。担任の先生さえ知らぬ養子の事を如何に話しだそうかと時をきざむのが恐しいのです。ほんとに戸籍に養子とかきこまれている二字のために私達夫婦の事を先生始めこれを知った人達はどんな事を言ふでしょうか。私達夫婦はそんな事にはたえきっていきますけど、子供がこの入試を控えた大事な時に、しかも成績と言ふ競争の中で、もっともっと大きな愛情があるのではないかと疑いをもってよその父と母を眺めた時を思ふと、もう夫婦でいてもたってもいられず涙を浮べます。やっと入った高校も戸籍、大学も戸籍、自動車の免許も戸籍、就職も戸籍、考へただけでも戸籍がこんなにつきまとふなんて!!それに中三ともなると我が家の家系図を夏休みに作るんだと言ってます。原本、除籍を集める仕事からやり出す時……もう恐しくて毎日々々大弱りです。中学から高校の時はどうやらかくせると思ってます。学校でも一、二の成績の子故、当然職員室での話題は覚悟ですが、ほんとに悲しい事です。良い子は我が子と自慢の子ですもの。“宗教的に子供に説明しようか”“なるようにしかならない”とあれこれ思いわずらっての毎日です。 中略いたします。   ほんとに「法」と言ふものはむごいもので、一行あるなしによって官庁は冷めたく扱ふ所です。 こういうことが書かれております。  もう一例読ませていただきます。   私も長い間子供に恵まれず、生後一ケ月ほどの女児を養女として縁組して育てたのです。中学生頃迄は何事もなく本当に明るい心配のない幸福な日々を送ったのですが、ふとした事から身の上を知られ、詳しい事を教えろとせまられ苦労しました。その間に娘はすっかりグレてしまい、我が家の幸福は一ぺんに吹き飛んでしまいました。口を開けば「どうせ私は貰い子だから」の連発で、あげくの果ては産みの母を探せとか家出をして自分で探すとか情ない思いでした。とうとう私も根負けして産みの母に会はせれば素直さを取り戻してくれるかも知れない、グレた生活も元に戻してくるかも知れないと思い、若しかして再び戻らないかも知れぬ事を覚悟して、そんな事になるような娘ならもうあきらめようと思った時の私の気持ちは誰に解るでしょうか。死にたい死にたいと唯それだけでした。私は勇気とあきらめで産みの母を教え、会はせてやり、「本当のお母さんの所に行くなら行きなさい」と云ってあげました。娘は産みの母に会い暫らくそちらへ行っていたのか家へは帰って来ませんでした。しかしやはり私がよかつたのか帰って来たのですが、まるで不良少女を絵にかいたような娘になってしまいました。幾つか例を挙げましたが、数え上げれば切りのないこのような不幸な問題がこの中に含まれていると思うわけです。  それで、実は私が申し上げたいことは、こういう大きな社会的問題、ましていま叫びたくても叫べない、そういう精神的な苦痛をやはり社会が救済すべきではないだろうか、国が救済してあげなければならぬのではないか、こう私は考えるわけです。こういうふうな問題で、たった一片の戸籍謄本あるいは抄本からこういう悲劇が生み出されるとするならば、これを放置していいものだろうか、こうも考えるわけです。こういう方々は、私はそうだ、うちはそうなんだと声を大にして叫びたい、しかしながらその叫べないところに私は大きな悲劇があると思うのです。この文章にも書いてございましたが、経験のない人たちに本当にわかるのだろうか、この悲しみがわかるのだろうか、この恐しさがわかるのだろうか、こういう不安を与え続けているのが、現在いまの戸籍のあり方だと思います。  同時に、いまの養子の問題についても、要するに、未成年養子の基本的人権というのは決して嫡出子と同じではない。親子関係も一方的に親の方から離縁されてしまうという不安定な立場に立っているわけです。そしてまた、同じ養子であっても、父親についた子供は実子です。しかしながら、母親について別れて、再婚した場合には、それは養子になってしまう。その子供には何の罪もないのに、同じ子供でも父親についた場合には実子になり、母親について再婚した場合には養子になってしまう、こういう差別も大きな差別だろうと思います。何はさてあれ、菊田事件の解決と一緒にこういう問題まで没し去られてはならない。こういう方々は日本全国に物すごくたくさんいらっしゃる。後で数字を挙げますが、そういうものから類推しても非常に大きな数だろうと思います。  同時に、不妊症を宣告されたという御家庭が一般家庭の中で約一〇%から二〇%いるのではないか、こういうふうに言われております。子供のいない家庭、これは本当の家庭じゃないと思う。大変不幸だと思う。そういう方々がいつも求めるのは、恵まれない自分たちに対して子供を与えていただきたい、子供が欲しい。また、親のない子供をただ保育所に入れて、施設に入れて、そして大きくすることが福祉ではないと私は思う。そういう親のない子供に与える最高の福祉は親だろうと思います。そういう親になりたい人がこんなにたくさんいる。しかしながら、その中で一番問題になってくるのは、戸籍の中に、一般公開される謄本あるいは抄本の中に、養子という差別が書かれるということによって大きな障害が起きている。こういう問題について私は、このままこれは仕方がないんだというふうに、あるいはこれは天の定めなんだというふうに考えて、そういう方々の問題を放棄したまま、現在の問題を解決しないで先へ延ばしていくことは決していいことじゃないし、また福祉という立場に立っても許せないことだ、こう思うのです。  ところで、まず第一番にお伺いいたしたいと思うのは、一体現在の戸籍というのはどういうものなのかということでございます。私が存じている限りでは、公的身分証明書であって、血縁をたどっていくということは不可能な状態になっている。だから、血統書ではなくて、公的身分証明書だというふうに理解しておりますが、その点、法務大臣、どのようにお考えなのか、伺いたいと思います。
  183. 香川保一

    ○香川政府委員 言葉の問題かと思いますけれども、戸籍は身分関係を公証する制度でございますので、これを公的身分証明書というふうにお考えになっても、そのこと自体それで結構だと思うのでございます。しかし、同一戸籍に記載すべき者というのはまさに血族あるいは法定血族関係の者によって構成されておるわけでございます。さような意味では、血族関係は全然ないんだというふうな意味での公的身分証明書ということでございますれば、現行の戸籍とはちょっと違ってくるように感じられます。
  184. 工藤晃

    工藤(晃)分科員(新自) もちろん、戸籍には血縁も証明しておく必要があると思います。しかしながら、血縁のない親子も現在いるということも事実でございます。血縁がないから親子ではないという前提には立てないと私は思います。そういう意味において、血縁のない親子の人権をどう守ってやるかということが大きな問題になろうと考えるのです。ですから、血縁のある親子のために血縁のない親子がみずから求めもしないことに対して養子という烙印を押される。そのためにどんな悲劇が起きてもそれは仕方がないんだというふうには私は考えられない。だから、やはりこういう方々の基本的人権というものを守る、こういう社会が福祉社会だと思いますので、そういう意味においては、戸籍の原本においてはそういう血縁も必要でございましょう、やはり血族結婚を避けなければならないということも必要でございますから、そういうこともちゃんと記載しておくことは必要でしょうが、一般に公開される戸籍の謄本あるいは妙本については、その人たちのプライバシーを侵害しないような配慮が必要ではないか、こういうふうに考えるわけでございます。  私は法律の専門家じゃございません。しかしながら、社会正義の立場からそういう方々のために話を進め、またそれについて御理解のある御回答を得たい、こういうふうに考えているわけですが、そういう意味で、戸籍という一つの問題をとらえても、非公開にする部分と公開する部分に分けて考えたらどうか。そして公的身分証明書として必要な謄本あるいは妙本については戸籍の様式を変えて――そういう血縁欄が書かれているから血縁欄に何かを記入しなければならぬので、親子関係というものを証明するのには長幼の序列だけでいいと私は思うのです。長男、長女、次男、次女、こういうふうな長幼の序列によって親子関係は立証できると思います。戸籍の原本はいじっちゃいけないと思いますけれども、そういう就職だとかあるいは高校受験だとか、ましていろいろな意味においてその戸籍一つによって、みずから求めもしないのに、何の罪もない人たちの人生を狂わしてしまうような危険性を持った、あるいはまた一生精神的に大きなハンディを負わせるような――罪にも時効というのがあります。しかし、この方々は生まれたときから死ぬまで烙印をしょっていかなければならない。そんな不幸な人生を歩ませるようなことは、考えていただかなければならない、私はこう思うのです。そういう意味で、非公開の部分と公開する部分とにおいてそういう様式を変えてもらえないだろうか、こういうふうに考えるのですが、大臣、その点について。
  185. 香川保一

    ○香川政府委員 一般論で申しますと、身分関係を公証する意味から、戸籍にはどうしても明らかにしておかなければならない事項でもこれを一般に公開する必要性がない、むしろ公開することによっていろいろのトラブルを生じあるいは人権上問題になるようなことは、現在、事柄によりましては戸籍に記載しないことに改正したり、あるいは公開しないという措置をとっております。しかし、いま御指摘の養子の問題でございますが、原本には養子関係を明らかにしておいて、これを公開すると申しますか、親子関係を証明するのに必要な場合には、一種の特別の証明書を考えまして、養子であることを伏せるというやり方考えられないことではないと思うのであります。しかし、いま伺っておりますと、いかなる場合においてもその養子関係がどこにも顕出しない、明らかにならないようなことになりますと、たとえば実親の死亡の場合には、養子に行っておる者も実の親子関係でございますので、当然相続権があるわけでございます。こういう場合に、その相続の関係を明らかにする証明書ということになりますと、実は養子に行ってないんだという形での虚偽の証明書を出すわけにもまいりませんので、そういうところから養子関係が明らかになってくるというようなことも考えられるわけでございまして、いろいろ技術的に検討してみなければ、全くこれを抹殺すると申しますか、公開されないようにしてしまうという点が果たしてできるかどうか、ただいまのところ自信がございません。  いずれにしましても、従来、法制審議会の民法部会におきまして養子制度が取り上げられて検討されたことがあるのでございます。いまお説のようないろいろの問題点も指摘がございまして、さような点を何とか民法の分野で適当な措置がとれないかということが議論されたわけでございますが、その際にも、当然戸籍の関係も含めていろいろ議論があったようでございますが、結局なかなかうまい案が見つからないということで中断しておるわけでございます。ただいま民法の身分法関係につきまして法制審議会の方で相続等が議論されておりますので、やがては親族関係につきましても審議を願うことになろうかと思いますが、その際にも取り上げて検討していただく予定にはいたしておりますけれども、ただいまのところ、いろいろの場面がございますので、お説のような関係を全部防止できるような十分な措置が戸籍の操作だけで果たしてとれるかどうかということについては、残念ながらちょっと自信がない次第でございます。
  186. 工藤晃

    工藤(晃)分科員(新自) 私は法律の専門家じゃないものだから、そういう説明はよく理解しがたいということを結論として申し上げます。  私が申し上げているのは、原本をごまかせとか、あるいはごまかして実子にしろというのじゃなくて、そういうプライバシーの部分を書くところがあるから、そこに書かなければいけない。書くものは正直に書かなければいけないから、そこに差別が生まれてくるわけで、養子とか嫡出子とかを書く欄をなくしてしまって、一般公開する部分についてはそういうものを発行したらどうかということを申し上げているので、疑似実子にしなさいということは一言も言っていない。そういうことをしてはいかぬ。そういうことをしたら戸籍の信憑性が失われます。  これに関連してちょっと申し上げますが、おたくの方の資料をちょうだいしたのだけれども、親子関係不存在確認の事件というのがございまして、昭和四十九年に新しく受け付けたのは二千六百十一件、すでに済んでいるのが二千五百七十二件、昭和五十年は新規受け付け二千五百八十八件、すでに済んだのが二千五百九十件、昭和五十一年は二千四百四十七件、すでに済んだのが二千五百八十四件、こういうふうな数字をちょうだいしております。これは親子関係不存在確認の事件ですから、親子関係が疑似実子で、菊田さんのように、これは困るから、そんなことを幾ら言ったってどうしても実子にしたいと思って隠れてそういうことをするわけですが、明るみに出た事件がこれだけある。こういう数字というのは大変大きな数字だと思うのです。隠れた部分にどれだけあるかわからない。それこそあなたたちが心配なさる血族結婚につながる何の証明もないじゃないか、ごまかして入籍した場合には。それよりも、原本においてはそういうものをはっきりと明記しておいて、一般に公開する部分にそういうものを書き入れないように様式を変えたらどうかということを申し上げているのです。そういうごまかした戸籍でもって信憑性――戸籍というのは信憑性があります。こういうふうな数字を見れば、どこに信憑性があるかということを逆に私は聞きたい。こういうことをやらせておくことの方が戸籍そのものの信憑性が低下するのじゃないかと思うのです。  それから、あと養子縁組みの件ですけれども昭和四十九年に新しく受け付けたのが七千四百八十三件、昭和五十年六千七百七十二件、昭和五十一年六千三百三十三件、この中には未成年養子がどれだけ含まれるかわかりません。わかりませんけれども、相当数含まれているはずなのですね。同時に、こういう恵まれない子供を何とか引き取って自分の子供以上に大事に育ててあげたいという潜在的な需要が物すごくたくさんある。そういうものに対して、いやこれはちょっとまずいとあなたがおっしゃっていることが私にはわからない。なぜならば、血縁を立証する戸籍になっていないじゃないですか。メンデルの法則からいったって、親の代までわかれば、あとはわからなくても血縁をたどっていくことができるのですか。私はできないと思う。血族結婚を否定するなら、もっともっと、三代も四代も前まではっきり書いておくならいいですよ。親の代までしか書いてない。私は血族結婚のための防波堤にもなっていないのじゃないかと思う。真実を書かなければいかぬということはよくわかります。原本だけははっきりと書けばいい。それはちょっとまずいと言う。まずいところを私は教えてもらいたいからきょうは言ったわけです。  時間が来ましたから失礼しますが、最後に、私は法律の専門家じゃございませんから、大臣にひとつお願いします。これは大臣から答えていただきたい。  法務省の見解は、私、理解できないので、文書でこれに対する回答をしていただきたい。そして、それについてまた私どもも一生懸命勉強したい。何もここで全部正確に回答してくださいとは申し上げない。申し上げないけれども、こういう問題について叫べない人たちのかわりに私はここでしゃべっているのですから、法律の末節的なところでどうだこうだと言うのじゃなくて、私はきょうはもっと本質論で論議したかった。そういうことを最後に申し上げて、文書で御回答いただけるかどうか、大臣にお願いをしておきたいと思います。
  187. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いまあなたがおっしゃったような悩みが人間社会にあると私も思います。また別の悩みもあると思います。妙なことを言いますが、人生は悩みの連続である、私はそういう考えを持っております。そこで、そういう悩みを他に悪い波及がないようにして解決できるかというところが、われわれの考えなければならぬ問題だと思います。これは先ほど民事局長からお話し申し上げましたが、今日までいろいろ検討をいたしております。でありますから、その点は、法制審議会等専門家が集まっていろいろ御協議願う機会がありますから、どういういい方法があるか、こういうことをさらに検討する機会をつくりたいと思います。  いまのお話の点で、現状はこういう状況でありますということを文書でお答えすることはちっとも差し支えありませんから、お答えすることにいたします。
  188. 工藤晃

    工藤(晃)分科員(新自) それじゃ、近いうちに文書で御回答いただくのをお待ちしております。  それから、いま大臣から、法制審議会の方でもこういう問題について積極的に検討いただくということでございますが、私、主査に提言があるのです。こういう問題をやはり国民的なコンセンサスの場で論議していただきたいと思うのです。ですから、法務委員会で今度そういう問題に対する小委員会を設けていただいて、いい悪いは別として、どういうふうに解決していけばいいか、そういう問題について具体的に国会の中で御審議いただくようなことはできないかどうか、ひとつ主査にお願いをしておきたいと思うのです。
  189. 塩崎潤

    塩崎主査 工藤君の御希望は承りました。ここは予算分科会でございますので、法務委員会に対して権限はございませんが、工藤先生からも法務委員会に出席されて御要望されることを御期待申し上げます。  以上で工藤君の質疑は終了いたしました。  以上で法務省所管の質疑は終了いたしました。  この際、暫時休憩いたします。     午後四時八分休憩      ――――◇―――――     〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕