○大成正雄君 私は、新自由クラブを代表して、ただいま提案されました
特定不況産業安定臨時措置法案について、その問題点の一部に触れながら若干の
質疑をいたしたいと存じます。
去る一月二十五日、わが党の河野代表は、
国務大臣の演説に対する
質疑において、本
法案の立法に関して、
企業の活力と創意を尊重した健全な活力ある自由主義経済を志向する私
たち新自由クラブの経済政策の基本に触れるものとして、この問題に重大な関心を持たざるを得ないとし、これが統制への第一歩につながるおそれはないか、また
改正独禁法の形骸化につながることはないかと指摘したところであります。
その後、通産省の当初の案が発表されるや、
関係業界はもとより、経済団体や経済学者の中から同様の
意見が強く主張されるところとなり、特に
公正取引委員会は、
指示カルテルを初め、アウトサイダー規制、合併の独禁法除外など、統制色の強い手法によって
不況業種の
構造改善を進めようとする通産当局の論理は、自由競争条件の維持を期する立場から
産業政策の独走を目指すものとして強く抵抗し、ここに提案された
政府案は、合併や営業譲渡の独禁法適用除外、アウトサイダー規制の削除、
指示カルテルの歯どめの設定等、当初の姿勢を後退させた形での提案となっており、わが党の主張が理にかなったものであり、これを認めた形での
本法の
内容に対して、これを評価するにやぶさかではありません。
しかしながら、
本法実施の一層の効果を期待し、また、
現実に即した
不況の
克服と
構造改善を進めるため、以下、幾つかの問題点を指摘しつつ、
政府の所信をただしたいと存じます。
まず、
総理に承りたいと存じますが、
本法は五年間の時限立法であり、今後五年間にわが国
産業の
構造不況要因を
克服して安定的基盤を確保するためには、五十四年度の
経済成長率七%が完全に達成されることはもとより、特定
不況業種の
安定基本計画がそごなく達成される経済環境が重要な
前提条件であると
考えるが、今後五年間の中期的経済展望と指標について、
総理の
責任ある御答弁を承りたいと存じます。
次に、
本法の
実施に当たって、関連
指定業種の
過剰設備の廃棄や合併譲渡等の
共同行為によって、たとえば一律的な
設備廃棄が、最も最新の優秀
設備までスクラップするといったことによって、わが国
産業の活力や国際競争力を喪失してしまうような結果となってはならないと危惧するところでありますが、わが国
産業の構造改革のあるべき姿とその基本方針について、
総理の所信を承りたいと存じます。
さらに、私はこの際、
特定不況産業の定義について
総理の認識をただしたいと存じます。
さきに成立した特定
不況業種離職者臨時
措置法においても同様でありますが、特定
不況業種とは、内外の経済事情の著しい変化により、その製品または役務の供給能力が過剰となり、かつ、その状態が
長期にわたり継続することが見込まれる
業種と解釈してしかるべきものと思いますが、わが国の
産業の一部にかかる
不況要因を内蔵するに至った原因の究明とその
責任の所在の追及は、
不況要因を排除するためきわめて重要な問題点であると言わざるを得ません。
すなわち、
構造不況というよりは政策
不況といった方が正しい認識ではないかと思われる
業種がある。つまり、
政府の過去と現在の対応の誤りや不決断が
不況要因の重要な部分を占めている
業種があるということであります。たとえば、
本法に掲げる平電炉、合繊もその例外ではありません。平電炉
産業の今日の
過剰設備は、物不足経済当時の通産省の
設備増強誘導政策と、これに油を注いだ商社、
金融機関の結果がもたらしたものであり、見通しの誤りであったと言わなければなりません。また、合繊業界の
不況は、
世界的な生産過剰や
需要の減退も大きな理由でありますが、原料ナフサ
価格が国際相場に比べて七、八千円も割り高のまま
政府の石油製品
価格政策を今日まで放置してきた、すなわち、石油業法の適切な運用が行われなかったことが今日の重大な
不況要因となっている事実であります。
本法適用以前の問題として、政策の貧困と不決断が問われなければならないと思いますが、
総理の所信を承りたいと存じます。
次に、
通産大臣に承りたいと存じます。
その第一は、
本法に定めるアルミ製錬業の
不況対策についてであります。
アルミ製錬業の
不況要因は、石油
価格の高騰による電気料金の高コストにあることは周知のところでありますが、わが国アルミ製錬業全体の財務の不健全さは目に余るものがあります。
昭和五十一年度の決算数字において、借入金残高は六千十三億、負債総額八千百二十九億であり、金利負担は実に三百八十五億余となっております。また、期末の未処分損失は四百八十五億にも及んでいます。また、国内
需要、年百五十万トンに対して、
設備能力は百六十四万トン。これに加えて、安い輸入地金が四十万トン以上入ってきております。すなわち、五十万トンからの
設備が遊んでいるという状態であります。
政府は、このようなアルミ
産業の
構造改善対策として、
設備能力の二四%、三十九万トンの
設備凍結を行うとともに、タリフクォータ制を
実施して、現行税率九%と五・五%との差額三・五%の関税見合い分を
構造改善に使っていく構想であります。それによって
昭和五十八年に国際競争力を回復しようとの
計画でありますが、輸入枠内の関税率をゼロとしての計算で、五年後の赤字を三十四億
程度に持っていこうとしているのでありますが、五・五%の関税率では、五年間で
構造改善することはとうてい不可能であります。
さらに問題なのは、二次関税分九%のコストでも、輸入地金の方が安い現状からすれば、サッシや大手家電メーカーが、みずからのリスクで輸入地金を商社に手当てをして圧延メーカーに委託生産する動きが活発となれば、この
構造改善対策は根本から崩れてしまうことが
考えられます。したがって、アルミ製錬
産業の実効ある
不況対策としては、膨大な借入金利負担の軽減策、タリフクォータ制度の再検討がなされなければならないと思いますが、
通産大臣の所信を承りたいと存じます。
次に、
本法のねらいとするあめとむちのあめの部分に当たる第十三条以下の信用
基金についてでありますが、日本開発銀行八十億、
民間出資二十億、合わせて百億の資本金で千億規模の
債務保証が行われようとしております。平電炉、アルミ、合繊、船舶以外にも、関連業者の三分の二の
申し出によって
業種指定の道は開かれておりますので、その他の
業種として肥料、段ボール、毛紡、綿紡、合板、砂糖等の
構造改善対策ももくろまれておりますので、果たして五年間千億
程度の
債務保証で足りるのかどうかという疑問があります。開銀
出資二十億の増分を見込んでもとても足りないのではないかと思われますが、この一千億
程度の規模を算定した積算の根拠をお示し願いたいと存じます。
また、商社や
金融機関は
不況産業に対しては、不良債権として目いっぱい貸し出しをしており、これ以上のファイナンスは困難ですが、保証限度額を超えた
設備廃棄資金の増枠は困難と思いますが、いかなる行政指導を行い、またその実績が期待できるかどうか、さらに、貸出金利の負担軽減についていかなる方針であるか承りたいと存じます。
次に、
運輸大臣に造船
不況対策について承りたいと存じます。
奈落の底の海運
不況などといった経済誌の見出しに表徴されるごとく、
世界一の造船王国日本の造船業界の
不況は惨たんたる
状況でございます。五十二年度の受注量約六百万トン、手持ち工事量も七百万トン
程度。建造能力二千万トンに対してこれでは、との夏ごろから火が消えたゴーストタウン化することが憂慮されます。しかし、大手造船会社はおかに上がって各種機械やプラント輸出にある
程度転換の余地もありますが、中小造船の運命は暗たんたるものがあります。四百三十億の負債を抱えて倒産した今治市の波止浜造船、神戸市の新山本造船等、関連業界の連鎖倒産にも波及して、容易ならざる状態であります。
かかる造船危機に対して、いま
政府が推進しようとしておる景気
対策はほとんど無力であり、個別
対策として思い切った救済策がとられなければならないと思います。
時間の制約がありますので各論は省略しますが、いますぐなすべき
不況対策は
需要の創出、すなわち、仕事をつくってやる工夫と
努力と決断であろうと思います。
LNG船の建造、海上石油備蓄基地の建設、海洋開発プロジェクトの着手、海上浮体
空港の建設等は、大手
対策としては有効であります。また、中小造船
対策としては、海上保安庁、防衛庁、水産庁等の中小船舶の繰り上げ発注、近海航路の船舶のスクラップ・アンド・ビルド等、
政府がその気になって決断をし、手当てをすれば、ある
程度の
不況対策としての効果は期待できると思います。ほかの
不況産業とは異質の
不況対策がなければ、
現実的な
不況対策とはならないと思います。
運輸大臣は、いま何から手をつけ、何をなさんとしているのか、
本法の適用をいかに具体化しようとしているのか、御
説明を願いたいと存じます。
次に、労働
大臣に承りたいと存じます。
本法第十条は、
特定不況産業に属する
事業者の、
関係労働者の
失業の
予防、その他
雇用の安定に配慮しなければならないものとするとの訓示規定が定められております。
対策の実際は、昨年末議員立法で成立した特定
不況業種離職者臨時
措置法によって対応すべきものと判断するが、まず第一に、
本法の適用
実施現況を承りたいと存じます。
第二に、
特定不況産業安定臨時措置法案では、当該
業種ごとの
安定基本計画に定めるところに従って
雇用対策を配慮するとされているが、一方、離職者臨時
措置法では、特定
不況業種の区分ごとに職業紹介
計画の作成、あるいは再就職援助
計画の作成、認定等が義務づけられています。この二つの法神の整合性と労働省サイドに立っての
安定基本計画に対する基本的な方針を明示願いたいのであります。
特に離職者臨時
措置法には、
失業を
予防するための解雇規制、罰則規定もなく、事業主の
努力義務が規定されているにすぎないことからして、一方の
安定基本計画の
内容いかんでは、発生
失業者は路頭に迷うような結果も予測されると心配されるが、労働
大臣はいかに対処しようとしているのか、その方針を承りたいのであります。
最後に、
本法は五年、離職者臨時
措置法は二年の時限立法となっていますが、完全な
不況対策の
雇用安定上、そごを来すことはないかどうかを承って、
質問を終わりたいと存じます。(
拍手)
〔内閣
総理大臣福田赳夫君
登壇〕