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1978-04-25 第84回国会 衆議院 法務委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十三年四月二十五日(火曜日)     午前十時十五分開議  出席委員    委員長 鴨田 宗一君    理事 羽田野忠文君 理事 濱野 清吾君    理事 山崎武三郎君 理事 稲葉 誠一君    理事 横山 利秋君 理事 沖本 泰幸君    理事 高橋 高望君       稻葉  修君    上村千一郎君       田中伊三次君    中島  衛君       松永  光君    三池  信君       西宮  弘君    飯田 忠雄君       長谷雄幸久君    正森 成二君       加地  和君    鳩山 邦夫君       阿部 昭吾君  出席国務大臣         法 務 大 臣 瀬戸山三男君  出席政府委員         法務政務次官  青木 正久君         法務大臣官房長 前田  宏君         法務省刑事局長 伊藤 榮樹君         法務省入国管理         局長      吉田 長雄君  委員外出席者         内閣官房内閣審         議官      黒木 忠正君         警察庁刑事局国         際刑事課長   水町  治君         警察庁警備局外         事課長     城内 康光君         外務大臣官房領         事移住部領事第         二課長     野口 雅昭君         外務省条約局条         約課長     斎藤 邦彦君         法務委員会調査         室長      清水 達雄君     ————————————— 委員の異動 四月二十五日  辞任         補欠選任   木村 武雄君     中島  衛君   前尾繁三郎君     松永  光君 同日  辞任         補欠選任   中島  衛君     木村 武雄君   松永  光君     前尾繁三郎君     ————————————— 四月二十四日  民事執行法案内閣提出第七六号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案(内  閣提出第五六号)  刑事事件公判開廷についての暫定的特例を  定め法律案内閣提出第五三号)      ————◇—————
  2. 鴨田宗一

    鴨田委員長 これより会議を開きます。  内閣提出逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案及び刑事事件公判開廷についての暫定的特例定め法律案の両案を議題といたします。  まず、政府から順次趣旨説明を聴取いたします。瀬戸山法務大臣
  3. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 まず、逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案について、提案趣旨を御説明いたします。  明治十九年に締結された日本国亜米利加合衆国犯罪人引渡条約及び明治三十九年に締結された日米間追加犯罪人引渡条約は、いわゆる引き渡し犯罪殺人等の伝統的な犯罪に限定されている等の理由により、近年における著しい交通機関発達に伴ういわゆる国際犯罪増加等事態に適合しない面があり、この種事犯抑圧のための国際協力必要性がますます高まったため、主として引き渡し犯罪罪種の拡大を目的として数次にわたりこれらの条約改定交渉を行った結果、去る三月三日東京において日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約署名が行われたのであります。  そこで、まず、日米条約締結されたことに伴い、犯罪人引き渡しに関する国内手続について、所要整備を行う必要が生じたのであります。  それとともに、現行逃亡犯罪人引渡法のもとにおいて、いわゆる仮拘禁制度は、わが国との間で引き渡し条約締結されている外国から同条約に基づいて請求があった場合に限って適用されるため、たとえば、犯罪人わが国に潜入する可能性があるとの情報により、わが国との間に引き渡し条約締結されていない外国から、犯罪人発見に備えて、わが国に仮拘禁請求があっても、これに応ずることができないこととなっているのでありますが、いわゆる国際犯罪が増大し、犯罪者国外逃亡事例がますますふえつつある今日、このような取り扱いは、必ずしも適当でないと考えられますので、この際、犯罪人引き渡しに関する国際的協力を一層推進するため、相互主義保証要件として、引き渡し条約に基づかないで仮拘禁請求が行われた場合にも、これに応ずることができるものとし、この場合における仮拘禁要件手続等に関する規定整備する必要があるのであります。  改正の要点は、次の四点であります。  その一は、日米条約においては、犯罪人引き渡し請求に係る犯罪について第三国無罪判決を受け、もしくは刑罰執行を終えているとき、または締約国及び第三国からの引き渡し請求が競合するときは、引き渡しを行うかどうかを被請求国裁量に任せる旨の規定が設けられましたので、このような場合を含め、一般に現行逃亡犯罪人引渡法第四条第二号に定める場合のほか、逃亡犯罪人を引き渡すかどうかについて日本国裁量に任せる旨の引渡し条約定めがある場合において、法務大臣外務大臣と協議して、当該定めに該当し、かつ、逃亡罪人を引き渡すことが相当でないと認めるときは、当該犯罪人を引き渡さないことができるものとする点であります。  その二は、引渡し条約に基づかないで犯罪人を仮に拘禁することの請求があったときは、当該請求をした外国から日本国が行う同種の請求に応ずべき旨の保証がなされた場合に限り、(一)請求に係る者を逮捕すべき旨の令状が発せられ、または刑の言い渡しがなされていることの通知がないとき、(二)請求に係る者の引き渡し請求を行うべき旨の保証がなされないときを除きまして、これに応ずることができるものとする点であります。  なお、この引渡し条約に基づかない仮拘禁は、右のように、当該請求をした外国において逮捕状等が発せられまたは刑の言い渡しがなされていること及びその外国が必ず引き渡し請求を行うことの保証がなされていることを要件とするものでありますが、この仮拘禁も、東京高等裁判所の裁判官があらかじめ発する仮拘禁許可状により行われるものであり、また、仮拘禁後二カ月以内に引き渡し請求が行われないときは当該犯罪人を釈放することとしているのでありまして、これらの点は、引渡し条約に基づく仮拘禁の場合と同様であります。  その三は、日米条約において、一方の締約国他方締約国から、その国の官憲第三国から引き渡しを受けた犯罪人当該締約国領域内を通過して護送することの承認請求を受けた場合には、一定要件のもとでこれを承認すべき旨のいわゆる通過護送承認に関する規定が新設されたことに伴い、外国から外交機関を経由して当該外国官憲が他の外国から引き渡しを受けた者を日本国内を通過して護送することの承認請求があったときは、(一)請求に係る者の引き渡し原因となった行為日本国内において行われたとした場合において、当該行為日本国法令により罪となるものでないとき、(二)請求に係る者の引き渡し原因となった犯罪政治犯罪であるとき、または当該引き渡し請求政治犯罪について審判し、もしくは刑罰執行する目的で行われたものと認められるとき、日請求引渡し条約に基づかないで行われたものである場合において、請求に係る者が日本国民であるときを除きまして、法務大臣外務大臣と協議して、これを承認することができるものとする点であります。  その四は、以上の改正に伴い、関連規定につき所要整備を行う点であります。  以上がこの法律案要旨であります。  何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。  次に、刑事事件公判開廷についての暫定的特例定め法律案について、提案趣旨を御説明いたします。  現行刑事訴訟法第二百八十九条は、死刑または無期もしくは長期三年を超える懲役もしくは禁錮に当たる事件に関する公判弁護人がなければ開廷することができないこととしておりますが、最近、一部過激派関係等のこの種事件において、弁護人が、被告人意思を同じくして、いわゆる法廷闘争戦術として、正当な理由がなく公判期日出頭せず、裁判長許可を受けないで退廷し、あるいは、法廷秩序を乱して裁判長から退廷を命ぜられ、更には、訴訟を遅延させる目的辞任するなどしたため、当該公判期日に予定されていた審理が行えないのはもちろん、その後の手続の進行が阻止されるという事態が生じ、これが訴訟手続を遅延させている実情にあります。  このような異常な事態を放置するときは、国民法秩序に対する信頼を大きく揺るがせることとなると考えられるのでありまして、速やかにこのような事態を是正し、この種事件審理適正迅速化を図るため、刑事訴訟法第二百八十九条第一項に規定する事件について、一定要件のもとに、弁護人がなくても開廷することができることとする特例定め、もって刑事裁判の運営の正常化に資することとする緊急の必要性があるのであります。  この法律案は、まず、第一条において、本特例が一部過激派等事件審理に見られるような異常な状況に対処するためのものであり、また、事態抜本的解決が図られるまでの間の暫定的な措置であることを明らかにしております。  次に、第二条において、弁護人がなくても開廷することができる要件及び開廷することができる期間定めることとしております。まず、要件としては、必要最小限度と認められる次の四つの場合、すなわち、(一)被告人訴訟を遅延させる目的私選弁護人を解任し、または辞任するに至らせたとき、(二)私選弁護人訴訟を遅延させる目的辞任したとき、(三)私選弁護人が、正当な理由なく公判期日出頭しないとき、または裁判長許可を受けないで退廷したとき、(四)私選弁護人裁判長から法廷における秩序を維持するため命じられて退廷したときのいずれかの場合であって、当該辞任、不出頭退廷または退廷命令理由となった行為被告人意思に反すると認められないときであり、かつ、裁判所審理状況その他の事情を考慮して相当と認めるときに限るものとしております。次に、弁護人がなくても開廷することのできる期間については、弁護人の不出頭または退廷の場合には当該公判期日に限るものとし、弁護人の解任または辞任により、被告人弁護人が付せられていない状態となった場合には、新たに弁護人選任されるまでの間とすることとしております。なお、この場合、被告人は、いつでもみずからの意思私選弁護人選任するか、国選弁護人選任請求することにより、新たな弁護人選任を実現できることは言うまでもありません。  以上がこの法律案要旨であります。  何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
  4. 鴨田宗一

    鴨田委員長 これにて両案の趣旨説明は終わりました。     —————————————
  5. 鴨田宗一

    鴨田委員長 これより逃亡犯罪人引渡法の一部を改正する法律案について質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山崎武三郎君。
  6. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 本改正案提案理由説明によりますと、改正案は、逃亡犯罪人引渡しに関する日米条約締結に伴い、その国内手続について所要整備を行うため提出されたものでありますが、この日米条約締結されるに至るまでの経緯条約内容、並びに本法案との関係などについて、その概要を御説明願います。  なお、明治十九年に日米犯罪人引渡条約が締結されて以来、条約に基づきあるいは基づかないで逃亡犯罪人引き渡し事例は、現在までにどのくらいあるのか、あわせて御説明をお願いします。
  7. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 お尋ねの順序に従ってお答えを申し上げます。  まず、日米条約成立経緯について御説明申し上げます。  現行日米犯罪人引渡条約は明治十九年に締結されまして、その後明治三十九年に追加犯罪人引渡条約の締結によって修正されて現在に至っておるわけでございます。しかし、先ほどの提案理由説明にございましたように、現行条約は、引き渡し対象となっております犯罪殺人罪等の伝統的な犯罪に限定されておりまして、国際的な交通機関発達等により増加しつつあります麻薬関係ハイジャック等の新規の犯罪は、引き渡し対象として明記されておりませんなど、最近の事態に適合しなくなってきておるのでございます。  そこで、かかる状況にどのように対処するかにつきまして、昭和四十四年以来日米双方の間で非公式な意見の交換が行われてきたのでありますが、昭和五十年八月のクアラルンプール事件などを契機といたしまして、犯罪抑圧のための国際的な協力必要性についての認識が一層高まってまいりましたので、政府といたしましては、現行条約の全面的な改定を図ることといたしまして、昭和五十一年一月に米国側に対して交渉の開始を提案したのでございます。両国政府は、これによりまして五十二年二月及び七月に改定交渉を行い、その後、外交経路を通じまして調整を重ねました結果、この条約最終案文について合意を見るに至り、今年三月三日東京におきまして、日本側園田外務大臣アメリカ側マンスフィールド駐日大使との間で条約署名が行われた次第でございます。  交渉の過程におきましては、引き渡し犯罪を拡大するためにどのような規定を置いたらよいかという点が最も重要な問題となったのでございます。引き渡し犯罪規定方式につきましては、両国それぞれの法令により一定限度以上の可罰性がある犯罪引き渡し可能とするいわゆる包括主義方式とするか、あるいは現行条約のように条約に明示した犯罪のみを引き渡し対象とするいわゆる罪種列挙主義方式とするかについて検討が重ねられました結果、最終的に包括主義方式基本とすることに合意がなされたわけでございます。また、引き渡し請求する国の国外で犯された犯罪、いわゆる国外犯取り扱いにつきましても、種々検討の結果、可能な限りこれを引き渡し対象とすることに合意を見たのでございます。  以上が条約締結に至る経緯でございます。  次に、条約内容のうち注目すべき点を挙げますと、次の三点になろうかと思います。  第一は、引き渡し対象犯罪が大幅に拡大されたことであります。現行条約は、殺人、強盗、放火、海賊といった古典的な十五の罪種に分類された限られた犯罪引き渡し犯罪として列挙しておるわけでございますが、新条約は、四十七の代表的な引き渡し犯罪を付表に列挙いたしましたほか、その他の犯罪日本国法令及び合衆国連邦法令により死刑または無期、もしくは長期一年を超える拘禁刑に当たる犯罪引き渡し対象といたしました。いわゆる包括主義基本としたわけでございますが、これは引き渡し犯罪について公平さを期しますとともに、将来生じ得る新たな犯罪についても適宜対処できる余地を残すためのものでございます。また、現行条約において引き渡し対象とされなかった国外犯引き渡しが大幅に認められることとなっております。  第二に、犯罪抑圧のための国際協力をより実効あらしめるための各種規定整備されております。たとえば、被請求国法令の許す範囲内で証拠品を引き渡すこと、相手の国が第三国から犯罪人引き渡しを受けました場合に、自分の国の領域を通過してその人を護送する権利を認めたことなどがその例でございます。  第三に、この条約によりまして引き渡し手続を円滑化し、また、より明確化するための各種規定整備されております。  以上が新条約の主な内容でございますが、この新条約と本法案との関係について申し上げますと、日米条約締結に伴う改正点といたしましては、第一に、日米条約におきましては、犯罪人引き渡し請求にかかる犯罪について第三国無罪判決を受けたときなど、及び引き渡し請求が数個の国から競合するときには、引き渡しを行うかどうかを被請求国裁量にゆだねることとしておりますので、このような場合を含めて、条約犯罪人引き渡しが被請求国裁量に任されている場合には、法務大臣裁量権を行使し得ることを引渡し法において明定する必要がある、こういう観点から四条一項三号の新設を行っております。  第二に、日米条約では、一方の締約国が、他方から、その国の官憲第三国から引き渡しを受けた犯罪人当該締約国領域内を通過して護送することの承認請求があった場合には、一定要件のもとでこれを承認すべき旨のいわゆる通過護送承認に関する規定が新設されましたので、引渡し法上も、これを受けまして法務大臣通過護送承認に関する規定を設ける必要が生じましたので、引渡し法の三十四条を新設することといたしております。  第三は、仮拘禁期間は、引渡法上二カ月とされておりますが、日米条約では特に四十五日とされましたために、引き渡されます犯罪人人権保護の見地からも、条約上仮拘禁期間が二カ月より短い定めがある場合には、これによるものとすることを明定する必要がございますので、引渡法三十条三項の改正を行うことといたしております。  さらに、本法案におきましては、日米条約に伴う必然的な要請ではございませんが、あわせて犯罪人引き渡しに関する国際的協力を一層推進いたしますため、わが国に対し、引渡し条約に基づかないで犯罪人を仮に拘禁することの請求があった場合の手続等に関する規定を新設いたしております。二十三条の改正等がこれでございます。  お尋ねの最後の点でございますが、これまで条約に基づき、あるいは基づかないで外国から犯罪人引き渡しを受け、あるいは引き渡し事例について申し上げますと、戦前におきまして、現在判明しております限り、わが国から外国犯罪人引き渡しました事例は二十五件、二十八名でございまして、また、わが国外国から引き渡しを受けました事例は三件、三名でございますが、その詳細は、戦災によりまして司法省の建物とともに資料が焼失いたしておりますために、必ずしも判明いたしません。  戦後におきまして、わが国外国犯罪人引き渡し事例はございません。逆に、わが国外国から犯罪人引き渡しを受けました事例は四件、五名でございまして、アメリカから殺人罪で二件二名、スイスから詐欺罪で一件二名、フランスから背任罪で一件一名、こういう状況でございます。
  8. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 次に、改正案内容について少しく御質問いたします。  まず第一に、四条一項三号は、逃亡犯罪人を引き渡さないことができる場合について新たに規定しておりますが、その理由は何なのか、御説明をお願いします。
  9. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほども概略申し上げましたが、日米条約におきましては、現行条約規定されておりません二つの場合について引き渡しを求められた場合に、これに応ずるかどうかを被請求国裁量にゆだねることとしております。すなわち、その一つは、引き渡しを求められております者が、引き渡し請求にかかる犯罪につきまして日米以外の第三国無罪判決を受けておる、あるいは刑罰執行を終わっている、こういう場合でございます。これは条約の四条二項の関係になります。もう一つは、締約国からの引き渡し請求第三国からの引き渡し請求が競合する場合でございます。これは条約の十一条関係でございますが、このいずれの場合も、日米条約では、引き渡しを行うかどうか、あるいは請求が競合した場合にどちらの国に引き渡すかというようなことは、被請求国裁量にゆだねることとしておるわけでございます。  かような場合を含めまして、現行逃亡犯罪人引渡法の四条二号に定めます場合のほか、およそ逃亡犯罪人を引き渡すかどうかにつきまして日本国裁量に任せる旨の引渡し条約定めがある場合におきまして、法務大臣裁量権につきましてその根拠規定を明らかに定めますとともに、このような法務大臣裁量権を行使することによって引き渡しを行わないことができる場合の手続定めるのが四条一項三号を新設する理由でございます。
  10. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 二十三条は、条約に基づかなくても逃亡犯罪人の仮拘禁請求があった場合、これに応ずることができるよう改正しておりますが、そのように改正することによってどのようなメリットがあるのか、また仮拘禁請求に応ずる場合の条件手続はどうなのか、御説明願います。
  11. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 お尋ねが二点に分かれておりますので、まず改正メリットから申し上げます。  現在の引渡法におきましては、引渡条約に基づかない引き渡し請求につきましては仮拘禁制度を認めておらないのでございます。そのために、条約に基づかない引き渡し請求の場合に逃亡犯罪人身柄確保する方法といたしましては、いわゆる本拘禁によるほか方法がないわけでございます。ところが本拘禁と申しますのは、まず請求国から引き渡し請求があったことが前提となるわけでございまして、この場合には、実際には引き渡し請求が書面、たとえば口上書等によって行われ、また証拠資料その他の関係資料、これがいずれも翻訳が必要でございますが、そういうものを添付して行われることが通常であると思われますが、そうであるとしますと、仮にある外国からその行方を探索中の犯罪人わが国内に所在することが明らかとなりました場合でも、当該外国から引き渡し請求が現実に行われるに至るまでには若干の日時が必要となりまして、この間における身柄確保手段としての仮拘禁制度が必要となるわけでございます。  次に、外国から引き渡し請求があったといたしましても、現行法定め手続によりますと、引き渡し請求が受理されてから本拘禁が行われるまでの間はある程度の日時が必要でございまして、その間にその者の逃亡を許す結果となるおそれもある。こういう点を考えますと、この期間内において犯罪人身柄確保手段としての仮拘禁を行う必要性が高いと考えられるのでございます。  また、引き渡し請求は、その本来の性格から申しまして、犯罪人がその国に存在することが明らかになって初めて行われるべきものでございますけれども、仮拘禁につきましては、こういう場合にはもとより所在が必ずしも明らかでなくても、犯罪人発見に備えてその請求を行うことが可能でございまして、たとえば、わが国内に潜入しておるおそれがあるあるいは潜入する可能性があるという情報によりまして、犯罪人発見に備えてあらかじめわが国に仮拘禁請求を行うことができるわけでございまして、そのような場合に、相互主義保証さえあれば、あらかじめ仮拘禁許可状発付を受けた上で、当該身柄所在が判明し次第、迅速にその確保のための手段を講ずることができることになるわけでございます。  さらに、逆に、わが国から引渡し条約締結していない外国に対しましても外交ルートにより仮拘禁請求することが可能となるわけでございまして、過激派対策一つの有効な手段としての役割りも果たし得ると思うのでございます。すなわち、現行法のもとでは、引渡条約の締結されていない外国に対しまして仮拘禁についての相互主義保証をすることができません。したがいまして、相互主義保証要件といたします外国に対しては、わが国の方からも仮拘禁請求ができないうらみがあったわけでございます。以上のような点から申しまして、今回の改正によりまして初めてわが国としても外国に対して相互主義保証が可能となります結果、たとえば過激派が潜入しそうな外国に対しまして、あらかじめ外交ルートを通じてその者について仮拘禁請求を行っておけば相手国の仮拘禁を期待することができるわけでございまして、国際犯罪対策として大きな前進であると考えるわけでございます。  次に、仮拘禁請求に応ずる場合の条件手続等でございますが、まず請求に応ずる場合の条件といたしましては、当該請求引渡し条約に基づく場合であると否とを問わず、仮拘禁をした国において請求に係る犯罪人を逮捕すべき旨の令状が発せられ、または刑の言い渡しがなされていること、及び当該犯罪人引き渡し請求を行うべき旨の保証がなされたこと、この二つが条件でございます。さらに、条約に基づかない場合には、当該請求をした外国から日本国が行う同種の請求に応ずべき旨の保証、すなわち相互主義保証をしてくることがもう一つ条件となります。  なお、仮拘禁手続は、ただいま申し上げましたような要件が充足されておりまして、かつ法務大臣が仮拘禁を相当と認めますと、東京高検検事長に当該犯罪人を仮拘禁すべき旨を命じ、同検事長は東京高検の検察官をして東京高等裁判所の裁判官から仮拘禁許可状発付を得てその身柄を拘束させ、当該請求をいたしました外国からの正規の引き渡し請求を待つ、こういう段取りになるわけでございます。
  12. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 現行二十九条は、仮拘禁許可状による拘禁期間を拘束された日から二カ月と定めております。今回の改正は「引渡条約に二箇月より短い期間定めがあるときは、その期間」としているが、今回の日米条約の場合はどうなっているのか、御説明願います。
  13. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 日米条約第九条の二項によりますと、仮拘禁期間は四十五日以内、こういうふうに定めております。これは現在の日米間の通信手段のもとでは、正規の引き渡し請求を行うためには仮拘禁後四十五日あれば十分と考えられ、また引き渡される犯罪人人権保護の見地からも四十五日が適当である、こういう観点で条約ができておるわけでございます。したがいまして、今回の引渡し法改正におきましても、条約定めがあります場合には、当該犯罪人人権保護の観点から、一般原則の二カ月というのを適用しないで、これより短い定めがあればそれによる、こういうふうにしておるわけでございます。
  14. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 三十四条は、第三国から相手国に引き渡される者を自国の領域内を経由の上護送する権利を相手国に認めるいわゆる通過護送承認に関する規定でありますが、これが新設されたことによってどのようなメリットがあるのか。また通過護送承認することについて三つの除外規定を設けておりますが、その内容について、政治犯罪の定義などもあわせて御説明願います。
  15. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 このたび新たに三十四条におきまして通過護送ということを規定するわけでございますが、これは新条約十五条におきまして通過護送承認に関する規定を設けましたことにかんがみまして新たに置くこととしたわけでございます。したがいまして、アメリカとの関係におきましては、条約上の義務を履行するための国内手続定める、こういう意味になるわけでございますし、アメリカ以外の国に対しましては、犯罪防止のための国際協力を一層推進する意味で設けることとした規定でございます。  条約交渉の経過におきまして、特に通過護送の問題は米側から強力に主張された問題でございまして、アメリカにおきます人身保護法の適用と若干関連を有する問題点があったわけでございます。それを申し上げますとこの規定メリットが具体的に出てくるわけでございます。たとえば、ヨーロッパ諸国からアンカレジ経由で米国籍の犯罪人を日本に護送する場合、あるいは中南米諸国からロサンゼルス経由で犯罪人を日本に護送する場合に、この新条約十五条の規定がございませんと、当該犯罪人がアンカレジあるいはロサンゼルスに着いた時点におきまして、人身保護法上の申し立てができることとなるわけでございまして、その結果、その申し立てについて裁判所の審判結果が出るまで身柄の護送が継続できなくなるおそれがあるというのが米側の説明でございます。このような事態を防ぐ意味で条約十五条が置かれたわけでございますが、さような点を考えますと、この条約十五条の通過護送規定というのは、日米両方比較いたしてみますと、日本側にとって大きなメリットがある、こういう規定だと考えておりますので、これをわが国として享受いたしますために、日本側でも相互主義の精神から同種の便益を米国に与えることとして、この三十四条の規定が必要となったわけでございます。  次に、通過護送承認しない場合を定めた各号の内容でございますが、第一号は、お手元の資料にございますように「請求に係る者の引渡しの原因となった行為日本国内において行われたとした場合において、当該行為日本国法令により罪となるものでないとき。」ということでございます。これは、国際法上広く認められております双方処罰の原則の考え方に基づくものでございます。すなわち通過護送は、自国が引き渡したか、他の外国引き渡したかを別にいたしますと、外国官憲犯罪人身柄を拘束したまま国内を通過することを承認する点におきまして、犯罪人引き渡しと同じ法的性格を有しております。したがいまして、このため犯罪人引き渡し基本原則の一つでございます双方処罰の原則をこの通過護送についても適用することとしたものでございます。  第二号は「請求に係る者の引渡しの原因となった犯罪政治犯罪であるとき、又は当該引渡しの請求政治犯罪について審判し、若しくは刑罰執行する目的で行われたものと認められるとき。」と規定しておりまして、これは引渡法の第二条一号、二号の規定と同様で、政治犯罪人不引き渡しの原則の考え方に基づくものでございます。  そこで、政治犯罪人不引き渡しの、原則について申し上げますが、今日、諸外国並びにわが国いずれも例外なく、逃亡犯罪人引き渡しに関する国内法におきまして、政治犯人の不引き渡しの原則を規定いたしております。また、逃亡犯罪人引き渡しに関する各種条約におきましても、例外なくこのことがうたわれておるわけでございます。  ところで、政治犯罪とは何かということでございますが、抽象的に申し上げれば、特定国の政治的秩序を破壊する犯罪である、こういうことが言えると思いますが、今日、世界的にこの政治犯罪の概念について確立された定義はないように見受けております。いろいろ理論的な観点から論ぜられるわけでございますが、たとえば講学上、政治犯罪を純粋政治犯罪と相対的政治犯罪に分ける考え方がございます。比較的多く行われておる考え方だと思いますが、純粋政治犯罪と申しますのは、たとえば反逆罪あるいは革命、クーデターの陰謀といった、もっぱら政治的秩序を侵害する行為であるというふうに言われております。これに対して相対的政治犯罪と申しますのは、政治的な秩序の侵害に関連して普通犯罪が犯される場合というふうに言われております。  いずれの場合でも、原則としては引き渡しを行わないという慣行から、引き渡しの運用が行われてきたようでございますが、いずれにいたしましても、当該犯罪政治犯罪であるかどうか認定する権限は被請求国にあるとするのが国際法上の通説でございますので、政治犯罪に当たるかどうかというような点は、わが国引き渡しを求められました場合には、わが国の独自の判断において決すべきものであろうというふうに考えられるわけでございます。  なお、先ほど申しました相対的政治犯につきましては、近時これを政治犯扱いとすることを制限しよう、限定的に解釈しようという傾向が国際的に出ておりまして、ベルギー加害条項を初めといたします。政治秩序の侵害を目的とする行為でありましても一国の元首等に対する加害行為政治犯罪と見ないというような条項が、たとえばヨーロッパの多国間引渡条約等にも見られるところでございまして、さらにハイジャック等につきましては、目的のいかんを問わず引き渡し犯罪とするという国際的な合意が、ハーグ条約等でなされておることも御承知のとおりでございます。  次に、通過護送を拒む場合の第三号としまして「請求引渡条約に基づかないで行われたものである場合において、請求に係る者が日本国民であるとき。」と規定いたしております。これは、今日わが引渡法がとっております自国民引き渡しの原則という考え方によったものでございます。本来、引渡条約に別段の定めがある場合は格別、そういう定めがない場合には、自国民逃亡犯罪人引き渡し請求があっても引き渡さないというのが、引渡法第二条でとっております原則でございますが、これとの均衡上、通過護送につきましても、同様に自国民については通過護送を認めないという立場をとったわけでございます。しかしながら、条約に基づいて行います場合にはこの例外というふうに、二条で一般原則を修正しておるわけでございます。いずれにいたしましても、条約に基づかない通過護送承認申請がありました場合には、承認請求してきました国が、わが国と文化程度あるいは政治体制、司法制度等が著しく異なっておりましたり、あるいは将来わが国が同様の承認を求めてもこれに応じないことが明らかでありましたり、あるいは通過護送承認することが著しく国民感情に反する、さらにはわが国の公共の秩序が損なわれるというような場合もあり得ると思われますので、諸外国の立法例が通過承認について自国民の場合を除外しておるという実情にあることも勘案いたしまして、自国民についてはこれを承認しない、こういうたてまえをとった次第でございます。  以上が通過護送に関するお答えでございます。
  16. 山崎武三郎

    山崎(武)委員 終わります。
  17. 鴨田宗一

    鴨田委員長 横山利秋君。
  18. 横山利秋

    ○横山委員 まず最初に、理論的な問題を少し伺いたいと思うのでありますが、逃亡犯罪人を引き渡すということはいかなる国際的な理論に立っているのでありますか。
  19. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 私も法制史の勉強を必ずしも十分しておるわけでございませんので、古い話につきましては若干自信がないのでございますが、およそ逃亡犯罪人引き渡しということは、もとをただすと、西暦の十二、三世紀ごろから特定国間で行われ始めたようでございますが、そのころのやり方と申しますのは、むしろある国の政治的な秩序を乱して、よその国へ逃げ込んだ者を渡せと要求する。すなわち、ただいまの原則と逆の政治犯を引き渡すような方向で行われたようでございますが、十八世紀の終わりから十九世紀にかけまして考え方が非常に変わってまいりまして、要するに、犯罪というものは、地球上のどこで行われても犯罪人は裁かれるべきであり処罰されるべきである、こういう国際的な一般的な考え方に基づきまして、最も有効に犯罪人を処罰し、犯罪に対して国際的な闘争を行うというために、逃亡犯罪人引き渡しということが逐次認められてきたようでございます。引き渡すか罰するかしろ、こういうような考え方で、およそ罪を犯して、免れて安穏としておる者を世界は認めるべきでない、こういう考え方から現在の逃亡犯罪人引き渡しが行われておる、かように考えております。
  20. 横山利秋

    ○横山委員 わかりやすく言うて、一体、引き渡しというものは国際的な原則になっているのか、あるいはまた国家としての原則、義務になっているのか、国家として国際慣習として認めているのか、あるいは国家として国際的礼儀の上からそうしているのか、その点はどうですか。
  21. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 現在の国際法の発展の段階におきましては、国家は引き渡し請求に応ずる義務はないとされております。したがいまして、国家といたしましては、特定国との間に条約が存在する場合に条約上の義務の履行として引き渡しを行う場合、それからもう一つは、相互主義保証を前提といたしまして一種の国際礼譲として引き渡しを行う、この二つの場合に限られておるようでございます。
  22. 横山利秋

    ○横山委員 国際礼譲というのは一体どういう意味でありますか。礼儀上渡してもらいたい、あなたのところと仲よしですから、それじゃお渡ししましょうかということなんですか。礼譲という意味が、国に対するやや義務的な感覚を与えるということはどういう意味なんですか。
  23. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 特定の国と国との間におきまして、その相互友好関係あるいは協力関係を促進するという観点から、それぞれの国が判断をして引き渡しをするかどうか、こういうことを決めていく、こういうことでございます。
  24. 横山利秋

    ○横山委員 この間、どなたですか、外務委員会でお答えになったが、条約締結するとすれば三つの条件がある、一つは、相手国の法制度が民主的であること、二つは、相手国の法制度が安定していること、三つ目は、相手国の法制度の運用が文化的であること、これが条約締結の三原則、三条件だとおっしゃったのでありますが、そうお考えでありますか。
  25. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 表現はやや異なるかもしれませんけれども、条約締結をいたしますと、相互間に引き渡しの義務を負うことになります。したがいまして、引き渡される者の人権保障の観点等を十分考慮しなければなりませんので、ただいまお挙げになりましたような要件が近似しておる国相互間でございませんと、そういう点の担保がなされないというふうに考えられるわけでございます。したがいまして、その国の司法制度のあり方あるいは政治的な安定度、あるいは一般的な文化的なレベルと申しますか、そういうものが近似しておる国との間に条約を結ぶのが相当であろう、かように考えております。
  26. 横山利秋

    ○横山委員 第一の、法制度が近似しておる、民主的であるということの意味は、社会主義国だとかあるいは後進国というところと結べない、結ばないという意味があるわけですか。
  27. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 いわゆる発展途上国と言われます国あるいは社会主義国と言われます国におきましても、先ほど申しましたように司法制度そのものにおきまして、わが国と同程度に人権が保障されている、また、その体制というものが軽々に変革されることはないというような条件があればできると思います。  ただ、一般的に申しまして、発展途上国の場合におきましては、司法制度そのものがまだ未発展の場合が多いと思います。そういうような点は、具体的に相手国の法制度のあり方を十分把握をいたしまして、その法制度の変革の可能性等も吟味をして、そうして検討する、こういうことになろうかと思います。
  28. 横山利秋

    ○横山委員 社会主義国についてもう一回言ってください。
  29. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 社会主義国におきましても、私どもとしましては、司法制度においてわが国手続におけると同程度の人権の保障、担保がなされており、その状態を含めた一般社会体制というものが急変する可能性がないというような条件がございますれば、検討対象となり得ると思います。
  30. 横山利秋

    ○横山委員 アメリカ合衆国は四十を超える国との間に、イギリスがまた十数ヵ国と聞いておるのでありますが、ヨーロッパでは、この引渡条約が広範に結ばれておる。それにもかかわらず、日本がアメリカだけとしかこの条約がないということは、いままでどうしておったのですか。そういう交渉をしていなかったのですか。そういう必要がなかったのですか。これからどうしようというのですか。
  31. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まず端的に申しまして、アメリカ以外の国との条約はきわめて必要を痛感するという事情がなかったということでございます。これを御説明いたしますと、ヨーロッパの諸国はほとんど例外なく、条約に基づかない場合でも、相互主義保証があれば、かつ、請求国が先ほど申し上げましたような状況にあるというふうに認めれば、引き渡しを行うという法制を持っております。したがいまして、戦後、他の委員の御質問にもお答えいたしましたように、フランスとかスイスとかからは、条約に基づかないで現に引き渡しを受けてきたところでございます。ところがアメリカ合衆国は、条約に基づかない引き渡しは行わないことになっておりますために、アメリカとの間には条約がございませんと引き渡しあるいは引き取り、これが一切できないことになるわけでございます。したがいまして、日米間において条約締結するということは、日米間の犯罪人引き渡しを行いますための必須の条件である、こういうことから日米間にいち早く条約が結ばれ、今回も事態に即応するような全面改定を試みたわけでございます。  そういうことから、ヨーロッパ諸国との間には必ずしも条約がなくても一応の引き渡しは受けられるという状況でありますが、先ほどもちょっと御説明いたしましたように、それらの国々とわが国との友好関係をさらに増進していくという観点、さらには、条約がございますれば一々双方の法制等をその都度吟味をする、あるいはその都度相互主義保証を相互になすことなく迅速に引き渡しが行い得ることとなるわけでございます。したがいまして、将来の方向といたしましては努めて犯罪人引渡し条約締約国をふやすような方向で外務省と協力をして努力をしてまいりたい、かように考えております。
  32. 横山利秋

    ○横山委員 理論的な問題よりも、私の質問に対して警察庁は条約による方式並びに相互主義のやり方による方式、警察庁として実感的にいま積極的必要性があるのか、どんな事案があるのか。外務省はこの条約交渉をどういうふうに現実的に展開しておるのか、それを伺います。
  33. 水町治

    ○水町説明員 ただいまの御質問でございますが、現時点において非常に多くの犯人が海外に逃げておる、膨大な数が逃げておるという状況はございません。しかしながら、もし条約があるならば、その条約に基づいて引き渡しがスムーズに行われるという事情がございますので、一般論として申しますならば、なるべく多くの国と条約が結ばれることが好ましいと考えております。
  34. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 犯罪人引渡し条約締結方針につきましては、ただいま伊藤局長から申し上げたとおりでございます。現実にいま米国以外の国と犯罪人引渡し条約締結する交渉は行っておりませんが、日米犯罪人引渡し条約の新条約が発効いたしました後には、先ほど申し上げましたような原則に従って犯罪人引渡し条約締結相手国をふやすという方針から、積極的に交渉に取り組んでいきたいと考えております。
  35. 横山利秋

    ○横山委員 どうも私の感ずるのは、日米条約改定だけをして、後の点についてはしばしば本委員会でも請求しておるのですが、現実的に法務省も外務省も、また警察庁も条約締結についてさまで熱心でないような気がしてならないのであります。  伺いますが、一九六〇年のコロンボ会議で作成したアジア・アフリカ法律諮問委員会、ビルマ、セイロン、インド、インドネシア、イラク、日本、パキスタン、スーダン、アラブ連合が加盟しておるそうでありますが、その犯罪人引渡しに関する条約の草案があるそうであります。それは一体どうなっておるのですか、まずその内容はどんなものなのですか、日本側としてはどういう態度をしているのですか。
  36. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 ただいま御指摘のアジア諸国問におきまして統一的な犯罪人引渡し条約の草案がつくられたことはわれわれも承知しておりますが、これは依然として草案の段階でございまして、アジア諸国の問でこの草案が実際に条約の形をとって締結されたということは承知しておりません。わが国といたしましては、先ほどから申し上げておりますとおり、まず米国との間の明治時代に締結されました条約改正するということが最初に行うべき仕事であるとの考え方から、つくられた草案を実際の条約の形にしてアジアの諸国の間で犯罪人引渡し条約締結するための作業は行っておりません。
  37. 横山利秋

    ○横山委員 一九六〇年といえばもう十年以上も前のことなんですが、これらの国の名前をずっといま考えてみますと、実際問題として日本が一番その推進役をしなければならない条件下にあるのではないかと思われます。外務省、いま人ごとみたいにおっしゃいますけれども、このアジア・アフリカ法律諮問委員会がつくった草案を日本が推進をする気持ちはないのですか。実際問題として、私は逃亡犯罪人の現実的な諸問題として、日本へ入ってくる、あるいは日本から逃亡する可能性のあるそれらの国とは速やかに条約締結しなければならぬと思うのですが、重ねて外務省として一九六〇年の草案についてどういう作業をそれからしたのか、伺いたいと思います。
  38. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 犯罪人引渡し条約締結方針につきましては、まず第一に、人の往来が多くて、したがって犯罪人引き渡しを要求する必要が生ずる可能性の多い国、次に、先ほど御説明いたしました法制上それほどの差異がない発展段階あるいは法制の内容を持っている国、第三に、相手国の法律上、条約がなくても引き渡せるか、あるいはなければ引き渡せないかというその三点に注目しつつ、今後の締結交渉を行っていきたいと思っているところでございます。そこで、繰り返しになりまして恐縮でございますが、現在までのところは、この三つの観点から判断いたしまして、米国との引渡条約を現在の情勢に適合した形に改正することが急務であるという方針から、米国との条約改正に集中していたわけでございます。したがいまして、アジア・アフリカ法律諮問委員会で採択いたしました草案につきましても、これをどの相手国とどういう形で結ぶかという作業はいままでのところ行っていなかったのが実情でございます。ただいま御指摘の点につきましては、事務当局といたしましても十分慎重に考慮させていただきたいと考えます。
  39. 横山利秋

    ○横山委員 大臣に伺いますが、逃亡犯罪人引き渡しということが今後どういうふうに発展するかといいますと、まあどうも熱意がないようなお話を承りましたが、一応法務省も外務省も警察庁も、逃亡犯罪人についての国際的協力を推進をする立場であることが明白になりました。世界各国の間に逃亡犯罪人引渡の条約か、いろいろな障害はあるけれどもそれが時代の趨勢であるとするならば、終局的には一体どんなことが考えられるかということであります。  第十回国際刑法学会における附帯決議にこういう文句がございます。「将来において達成さるべき理想としては、世界犯罪人引渡し条約をつくり、その適用を国際刑事裁判所にゆだねることが考えられるべきであろう。」非常に理想的だという感じがしないではありませんけれども、世界が犯罪に関する国際協力をだんだん推進していくとするならば、一つの方向としてもそういうことが考えられることだと思うのですが、どう思いますか。
  40. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 おっしゃるように世界は非常に交流が激しくなりました。したがって、犯罪も国際的に行われる、こういうことでございますから、理想としては世界じゅうが同じような立場に立つというのが理想と私は思いますが、現実の問題としてなかなかそこまでいかない。いま国際司法裁判所云々の話がありましたが、国際司法裁判所だけでそれがカバーできるかということもそう簡単なものじゃないと思います。  いずれにしても、アジア地域あるいはヨーロッパ地域と、先ほどいろいろ条件、前提というものが出ておりますが、できるだけ可能なところから推進をしていかなければならない。法務省としても外務省と協力をして、特にヨーロッパ地域、現実に相互主義でやっておるという説明がありましたが、やはり可能な限り条約によって明らかにする、これが必要だと考えております。
  41. 横山利秋

    ○横山委員 可能な限り漸進的にやるという点については、私も、そのようなことだ、一挙にできないと思うけれども、これから逃亡犯罪人引き渡しの各国との交渉なりいろいろなことをなさるについて一歩一歩行くにしても、将来どういう姿になっていくかということについて、政治家としてのあなたの御意見を伺いたいのですが、その第一は、条約に基づかない限り引き渡しは義務でないと先ほど話がございました。なるほどそうであろう。しかし、条約がなくても相互主義でお互いに引き渡そうという雰囲気ができていく、条約もまたいろいろ締結される。そういうことは、要するに世界各国が協力をしていく、自分のところの主権というものについてある程度制限していく、いわばおれのところの国だからだれが逃げ込んでこようとよそから言われる筋はない、条約締結しないというような考え方がだんだん後退していって、世界共同体、犯罪に対する協力という意味において主権は次第に後退する、こう考えますが、同感ですか。
  42. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 犯罪ばかりでなくて、経済その他もやはり世界が相協力してその国々の国民が幸せになる、こういう傾向にあることは事実でございますが、そういう趨勢の方に向かって前進する、これは当然なことであろうと私は思います。
  43. 横山利秋

    ○横山委員 第二番目は、今回の改正が制限列挙方式から包括的に引き渡し条件が広がりました。このことは、私が言った情勢を見る意味においていろいろ前提を申し上げたのですが、引き渡し犯罪の範囲がどんどんこれから拡大していくのではないか、そう考えるわけですが、その点も同感ですか。
  44. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いまも申し上げましたように、これはいろいろ国際間といいますか、世界は連帯の方に行くのが理想だと私は思います。でありますから、各国ともお互いに犯罪を防遏し、また犯罪者は法に従って処断する、こういうことはお互いに世界全体が連帯感を持つという傾向がなければ十分ではないと思います。そういう方向に行くのが望ましい、かように考えております。
  45. 横山利秋

    ○横山委員 第三番目に政治犯です。政治犯についてはこれから恐らく同僚委員の熱心な質疑の焦点になると思うのですけれども、先ほども話がありましたように、純粋政治犯と関連政治犯とでも申しましょうか、犯罪を犯していない純粋な政治犯、それから政治犯が逃亡してくるときにはやはり何らかの犯罪がその請求国なりあるいは被請求国の中でまあ付帯的に起こるのが普通だと私は思っています。そして、どうも政治犯不引き渡しの原則というものは、いい悪いは別として、純粋政治犯に限られていくという傾向になるのではないか。そういう傾向から言って、政治犯不引き渡しの原則もだんだん狭まっていくというふうに思いますが、どうですか。
  46. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 政治犯というのはその国の政治体制あるいはそれに応ずる法体系によっていろいろ違っておると思います。でありますから、これが同じようにいくのかどうか、私もここで明言するだけの知識を持ちませんが、しかし、だんだんそういう傾向になっていくことは事実であろう、かように思います。先ほど説明がありましたいわゆる純粋政治犯というものは、もう政治上の見解の相違で、それをそれぞれの国でどう処罰の対象にするのか、これは相当違ってくると思いますが、やはりだんだん共通点が出てくる世界になるのじゃないか、かように考えております。
  47. 横山利秋

    ○横山委員 その次に、自国民は引き渡さないという原則なんですが、この自国民は引き渡さないという原則はなるほどもっともだと思われるけれども、条約によって引き渡す、あるいは法務大臣外務大臣の判断によって自国民も引き渡す。次第に国際的協力が発展していきますと、自国民引き渡しの原則もだんだん消滅していくのではないか、そう思いますが、どう思いますか。
  48. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 もともと自国民引き渡しの原則と申しますのは、自国民に対してはその国が保護すべき責任がある、さような立場にある国家が、よその国ではその者がどういうふうに扱われるかもわからぬ、そういうところへ引き渡すというのは自国民に対する保護を十分に行うゆえんではないという考え方から、自国民引き渡しの原則というのが十八世紀以来基本的には確立されておるわけでございますが、これに対しまして、たとえばアメリカ合衆国とかイギリスのように、裁判管轄権を属地的に設定しておりますところの国から見ますと、さようにいたしておりますと、結局アメリカあるいはイギリス以外の地で犯罪を犯した者がアメリカあるいはイギリスへ戻ってきておる、こういう場合にはついに処罰をされることがなくなるというような結果になりますので、かような場合には自国民引き渡してでも処罰を受けさせるべきであるという考え方がその方面から出てきておる。そういうことでございまして、現在国際的な学説といたしましても、自国民引き渡しの原則というのは必ずしも理論的根拠がないのではないかという説もちらほら見られるようなところでございます。     〔委員長退席、山崎(武)委員長代理着席〕  したがいまして、個々具体的な条約締結します場合には、例外的にもせよ、自国民引き渡しを行うこともあり得るというような立て方をとるものが多うございまして、そういう意味におきましては、ただいまお尋ねのように、自国民引き渡しの原則は実際においてある程度揺らぎつつある、こう申していいのじゃないかと思います。
  49. 横山利秋

    ○横山委員 その次に、この法案なりあるいは現行法をずっと見てまいりまして非常に感じるわけですが、国内手続についても非常に精密に書いてある。それから国家間の関係についても、保証——保証は後でどんな保証か、一遍いろいろお伺いするのですが、国家間の関係も非常に厳しく書いてある。こういう引き渡しに関する国家間の手続国内手続というものは、日本ばかりでなくて国際協力が発展していきますと簡素化される、そして信頼に基づいて簡単に——簡単にという言葉は適当ではありませんけれども、引き渡しがかなり円滑に行われるように障害がだんだん少なくなっていく、そういうふうに考えますが、どうですか。
  50. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 確かに御指摘のような傾向はあるわけでございまして、きわめて頻繁に引き渡しが相互に行われるというようなことになりますと、わが国引渡法に決めておりますようなきわめて丁重な手続というものが煩わしいと思われる場合もあるわけでございます。そういう観点も含めまして、アメリカ合衆国におきましては、引き渡しを求められております者が国内手続の細かい厳格な手続を放棄することを認めておりまして、これを放棄いたしました場合には、いわゆる簡易な引き渡し手続によることができる国内法制があるようでございます。そういうことを受けまして、新条約の第十条でそういう手続をとることあるべきことを規定しておるわけでございますが、さような意味におきまして、ある程度本人の同意あるいは権利の放棄というものを前提として簡略化される傾向が一部の国においてはすでに出ておる。これが、将来犯罪人引き渡しがきわめて頻繁に行われるようになりますと、比較的多数の国々に波及するというようなことも十分考え得るのではないかと思います。
  51. 横山利秋

    ○横山委員 いま整理をいたしました今後の展望として五つばかり、私の意見も付して述べたわけでありますが、それらが集約されていくと、いつのことかそれは判断ができませんけれども、第十回国際刑法学会における附帯決議「将来において達成さるべき理想としては、世界犯罪人引渡し条約をつくり、その運用を国際刑事裁判所にゆだねることが考えられるべきであろう。」ということも決して夢ではない、理想ではあるけれども夢ではないという感じが私はいたすわけでありますが、法案審議に先立って以上のことを質問いたしましたのは、現行法並びに改正法審査をいたしましても、かなりわかりにくい、難解、それから手続が繁雑、解釈がいろいろ考えられるという点があるわけでございますから、適切な機会にこの逃亡犯罪人の引渡しに関する法律については、世界の趨勢に基づいて、いま挙げましたような五つの諸問題について随時改正をさるべきだと思いますが、法務大臣はどうお考えでありましょう。
  52. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 もちろん法律というのは情勢の変化、事情の移り変わりによって改正すべきことは当然でございますから、いま御指摘のようなことも勘案して将来も考えていかなければならない、かように考えております。
  53. 横山利秋

    ○横山委員 それでは前提を終わりまして、まず第一条から入ります。  現行法の一条で「定義」がありますが、ここに言う第二項の「犯罪人の引渡しを請求した外国」というのは一体、先ほどもお話をちょっと、社会主義国、後進国、言うたわけですけれども、この「外国」というのはあらゆる国、つまり未承認国だとかあるいは国交未回復国だとか、そういうもののすべてを言っておると解釈していいのですか。  それから第四項でありますが「この法律において「逃亡犯罪人」とは、引渡犯罪について請求国の刑事に関する手続が行なわれた者」——「手続が行なわれた者」というのは一体、判決を受けた、確定した者は当然でありますが、起訴をされておる、あるいは起訴はされていないけれども、どうにも緊急性があるというものがあろうかと思うのですが、どういう意味でありますか。     〔山崎(武)委員長代理退席、委員長着席〕
  54. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まず「外国」でございますが、「外国」と申しますのは、日本国以外のすべての国を指しておりますので、御指摘のような国もすべて「外国」の中に入るわけでございます。  それから「引渡犯罪について請求国の刑事に関する手続が行なわれた者」と申しますのは、刑事に関する手続がいやしくも一部でも行われた者をすべて言うわけでございますから、たとえば逮捕状が出ておる者、それから裁判中の者、さらには確定判決を得た者、これらすべてを含む趣旨でございます。
  55. 横山利秋

    ○横山委員 わかりました。  次に、第二条「引渡に関する制限」に入りまして、まず何はともあれ、第一号の「引渡犯罪政治犯罪であるとき。」ということが本法案の最もポイントになると思うのでございます。先ほども話が出ましたように、一体政治犯罪とはどういうものなのか、純粋政治犯とそれから付随して一般刑法に触れたその併合的な政治犯といいますか、広義の意味の政治犯といいますか、ここにいう第二条の「引渡犯罪政治犯罪であるとき。」という、この法律の政治犯の確定的な解釈をひとつ伺いたい。
  56. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 政治犯罪という概念は、国際的に必ずしも統一的な定義がないということは、先ほどもちょっと申し上げたところでございますが、わが国逃亡犯罪人引渡法におきます政治犯罪というものの解釈は、わが国におきまして専権的にこれを行うことができるわけでございます。しかしながら一面におきまして、逃亡犯罪人引き渡しという行為は、常に他の国との関係において生ずる問題でございますので、外国との関係をも考慮しないで全く一方的に政治犯罪の定義を決めるということはまたできかねる。したがいまして、多くの国と引き渡しをやるという前提に立ちますと、やはり国際的にある程度共通した政治犯罪という概念を頭に描いて、わが国としても対応する必要があろうと思うわけでございます。したがいまして個々具体的な事案に応じて、これが政治犯罪であるかどうかということを検討せざるを得ないというのが実情でございます。先ほど申し上げました言葉を用いますれば、純粋政治犯に属するものはそういう観点を全く入れることなく比較的明確に判断できると思うのでございますが、相対的政治犯につきましては、たとえばヨーロッパの十五カ国が締結いたしましたヨーロッパ条約におきます規定でございますとか、あるいは国際的にある程度是認されておると認められるベルギー加害条項、これは一八三三年のベルギー犯罪人引渡法によって打ち出されたものでございますが、こういうものを考慮し、さらにハイジャック防止に関する各種条約、こういうものも考慮して相対的政治犯の概念を念頭に置いて、具体的事案に応じて判断するより仕方がないのではないか、抽象的に相対的政治犯はわが国としてはここからここまでを言うのだということはなかなか困難な問題であろう、かように考えております。
  57. 横山利秋

    ○横山委員 しかし、それでは法律としての体をなさないと私は思うのであります。少なくとも純粋政治犯はお互いにわかった、あとの広義の意味の政治犯、複合的な政治犯、そういうものについては、いまのお話によれば国際的な慣習あるいは相手国との話し合い、そういうことであれば、法律的な、日本のこの法による「引渡犯罪政治犯罪であるとき。」という定義がないではないか。またあったとしても、ある国とは政治犯と解釈し、ある国とは同じ事案であっても政治犯でないと解釈する、そういうこともあり得るわけですか。それではこの法律の「政治犯罪であるとき。」という解釈が、日本の中で適用する場合に、きわめて公平を欠くと思いませんか。
  58. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 私がお答え申し上げておりますのは、ある国との引き渡し関係では政治犯の定義がAならAという定義になり、他の国との引き渡し関係ではBならBという定義になるというふうに申し上げておるわけではございませんで、国際的な政治犯の概念を念頭に置きながら、わが国としてはその時点時点で具体的事案に応じた解釈をすべきである、こういうことでございます。  ちなみに、いずれの国におきましても政治犯というものの積極的な定義をすることがきわめて困難でございますために、立法例あるいは条約等におきまして、こういうものは政治犯でないというふうに除く方向で次第に定義の統一を図っておるというのが現状でございまして、非常に抽象的に申し上げますれば、相対的政治犯、すなわち政治目的を持って普通犯罪を犯しましたもの、こういうもののうち、社会通念から見てまことに許すべからざるような犯罪、こういうものについては政治犯罪として扱わないということであろうと思います。
  59. 横山利秋

    ○横山委員 よくわかりませんが、それでは逆にお伺いします。  一八九二年の国際法学会の決議、四項目の解釈をしておりますね。一つは「純粋の政治犯罪人は、これを引き渡さない。」これはいいですね。第二番目に「政治犯罪に結合、関連した犯罪は、これを引き渡さない。ただし、道徳及び普通法に照らして重大な犯罪、故殺、謀殺、毒殺、持凶器強盗、放火等はこの限りではない。」第三番目に「一揆、内乱の際になされた行為については、その行為が戦争法規に照らして野蛮行為、または不要な破壊行為である場合のほかは引き渡さない。」四「以上の規定を適用するに当たって、特定の国家もしくは特定の政体に対する不法行為でなくて、社会の組織に対する不法行為であるものは政治犯罪とみなさない。」この国際法学会の決議については、日本政府としてはどう考えているのですか。
  60. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 国際法学会の一八九二年の決議につきましては、もちろんこれが国際法的な意味を持つものではございませんけれども、当時の国際法学者のいわば英知を結集したものでございまして、一から四まで掲げておりますただいま御指摘になりました定義というものは、政治犯であるかどうかということを判定するに当たっての一つの貴重なメルクマールになるものであろうと思っております。
  61. 横山利秋

    ○横山委員 貴重な要素であるとはおっしゃったんだけれども、しかし、この法律に明白に、引き渡さない犯罪政治犯罪であるときは引き渡さない、先ほどそれも将来は若干後退していくだろう、厳密なものに制限されていくだろうという予見はいたしましたものの、現行法政治犯罪は引き渡さないと言っておるその政治犯の定義についてあいまいであって、解釈がいろいろと区々になるおそれありという点については、私は納得できないと思うのです。少なくともこの国際法学会の決議について、政府はこれによるんだ、ほぼこの原則によるんだとか何かが明白になることが必要だと私は思うのです。その意味において、いまお答えができなければ、この政治犯についての定義をひとつ本委員会に文書をもって出していただきたい。少なくとも純粋政治犯以外の政治犯について一応の解釈というものがなければならぬ。それが法律的な解釈なのか、あるいはいま局長が言われたような国際的な慣習というか、そういうものなのか、少なくとも政治犯罪の定義について後刻ひとつ文書をもって提出をしていただきたいと思いますが、いかがですか。
  62. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 文書ではっきり書けるかどうかわかりませんが、努力をしてみます。
  63. 横山利秋

    ○横山委員 政治犯とあわせて亡命者の問題であります。  私は政治亡命者の法案を提出しているわけです。政治亡命者もまた政治犯とほぼ同様な観点に立っておるわけでありますが、法務大臣にお伺いをいたします。  私ども野党が一生懸命に、長年かかってこの政治亡命者法案を提出いたしました。いまの政治犯は引き渡さないという定義がある程度出てくるとするならば、政治亡命者は保護をする。ただ引き渡さないばかりでなくて、この人は政治犯だという定義を国がする以上は、それが母国へ帰りましたら被害を受けるおそれがあるわけでありますから、一歩進んで政治亡命者の保護をしてやらなければならぬということに発展をすると思うのでありますが、その点、政治亡命者の保護についてかねがね私どもが提起しております問題をどうお考えになりますか。
  64. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いわゆる政治亡命者、これは直接には政治犯罪とは違いますけれども、わが国では御承知のとおり、出入国管理令に従ってその処置をしておる。新たな立法を必要とするかどうか、相当検討の要があると思いますが、現状はそれで解決ができる、かように考えております。
  65. 横山利秋

    ○横山委員 現状は解決できるけれども、私が言ったような意味においては、将来どうしてもそういうところへ進まざるを得ないという私の予見をあなたに聞いておるのです。現状は、いまあなたの話したことでわかるのだけれども、政治亡命者に対する国際会議ももうすでに行われておるのでありますから、その点外務省かあるいは入管で、政治亡命者に関する国際決議、国際会議、その後の状況について報告をいただきたいと思います。
  66. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 政治亡命者保護法案というものがさきに社会党の方から出ておりますけれども、先生のただいまの御質問でございますが、まず順序といたしまして私が考えておりますのは、今度政府が人権条約を国会に出すべく努力をしておりますが、それとまた、将来できるだけ早い機会に難民条約というものが問題になってくると思います。その難民条約というものがまず先であろうと思います。その次に、国連が中心となりまして領土的庇護に関する条約というものを、昨年ジュネーブで国際会議を開きまして審議いたしました。これはあと一、二回国際会議をやる必要がある。そして国際条約がまとまってくると思います。そうした場合に、わが国がそれに加入するかどうかという問題が出てまいります。それにまた、難民条約及び領土的庇護に関する条約というものは、先生が御指摘の政治亡命者に対する扱いと非常に密接な関係を持つわけでございますが、そういうものにわが国が加入に際して、現行法とどういう関係になるか、果たして現行法どおりでいいのかあるいは現行法改定する必要があるのかどうか、こういう検討がなされるのが順序であろう、こういうふうに考えておる次第でございます。
  67. 横山利秋

    ○横山委員 現実の問題について多少質問します。  成田においてああいう騒動を起こしたいわゆる過激派、あれは一体政治犯罪でありますか。
  68. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 あのような犯罪は、結局、仮に彼らが主観的に政治目的を持っておりましても、その態様に徴しまして全くの普通犯罪でございます。したがいまして、政治犯罪というようなものでは全くないと考えております。
  69. 横山利秋

    ○横山委員 北朝鮮へハイジャックをして行ったあの連中がやったことは政治犯罪と思いますか。
  70. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほど来御指摘に対してお答えをいたしております私どもの政治犯の物の考え方からいたしまして、現在世界の大勢におきましてハイジャック行為というようなものは普通犯罪というふうに観念をしてきておる、そういう状況を踏まえましてわが国として判断いたしますれば、当然政治犯罪には当たらない、かように考えます。
  71. 横山利秋

    ○横山委員 ミグ25で函館へ逃げてきたソビエトの飛行士、あれはどういう解釈をするのですか。
  72. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 ベレンコ中尉でございましたかの具体的な意図は必ずしもはっきりいたしませんが、形式から見まして、仮に政治目的が一部あるといたしましても、ソ連邦にとりましての軍事犯罪であるかもしれませんが、政治犯罪ではないと思います。
  73. 横山利秋

    ○横山委員 政治亡命者であるという定義は日本政府はしましたか。
  74. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 ミグ事件のベレンコ中尉でございますが、日本政府に関する限り、ベレンコ中尉から日本に政治亡命をしたいという申し出は一切ございませんでした。私の解釈といたしましては、日本を通過した、彼はアメリカへ行きたかったのでございますので、日本はその通過の場所になった、こう解釈いたしております。
  75. 横山利秋

    ○横山委員 通過はいいのですけれども、何のためにアメリカへ行きたかったのですか。アメリカへ政治亡命するという意味ではないのですか。
  76. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 これはアメリカ政府とベレンコ中尉との関係でございまして、日本政府とは彼がどういう意図であったかということは関係しないと思います。
  77. 横山利秋

    ○横山委員 何かはぐらかされているような気がするのですが、ベレンコ中尉が函館へ参りましたときに日本政府がベレンコ中尉からいろいろな事情を聞いた。アメリカへ行きたい。なぜ行きたいか。それはソビエトにおるのがいやだ、アメリカへ行きたい。それならば当然のように政治亡命としてアメリカへ行きたいのだというふうに理解するのが当然ではありませんか。何かその辺をわざわざ避けて通っていらっしゃる気持ちがよくわからないのですが、ソビエトにとっては軍事犯罪であり逃亡犯罪人かもしれぬけれども、しかし、われわれがこの法案審議するに際して、いま具体的に起こっておる諸問題についてどう解釈したらいいかということを聞いているのですから、何の顧慮をなさる必要もないと思うのです。
  78. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 刑事局長の答弁にもありましたと思いますが、政治犯罪であるかどうかというのはその政府が決める問題でございます。彼は正確にどういう言葉を使ったかは、私いまここに資料がございませんが、ただアメリカへ行きたいということを言ったことは確かでございまして、それが政治亡命ということを意味するかどうかは、私ここに資料がございませんので答弁できない立場にございます。
  79. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 私の方の直接の所管ではございませんが、ベレンコ中尉の密入国事案等につきまして検察庁で取り調べをいたしまして、事件の処理をいたしておりますその間の状況によりますと、ベレンコ中尉はソ連におきまして政治的迫害を受けるということのゆえをもって飛び出してきたのではなく、ただ単にアメリカへ行きたいということで飛び出してきたというふうなことであったという報告を受けておるわけでございまして、そういう点からいいますと政治亡命という定義には当たらないのじゃないかという感じがしております。
  80. 横山利秋

    ○横山委員 その次に、ベトナムから日本へ、まあ最近ベトナムは片づいておるのですけれども、ベトナムから米兵が脱走して日本へやってきた。そしてこれも理由がいろいろあるかもしれぬけれども、米国政府の戦争政策、外交政策に反対して逃亡してきたと仮定をいたします。そういうのは一体政治犯になるのでしょうか。
  81. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 どういう犯罪を犯してきたかわかりませんが、いまのお尋ねからまず考えられるのは、アメリカ軍法上の脱走か何かになるのじゃないかと思うのですが、そういう場合にはわが国においてはそれに照応する規定がございませんので、引渡し法に掲げてあります双方処罰の原則に照らしまして逃亡犯罪人引渡し法上の対象になりませんので、その点で政治犯かどうかも考える必要がないということになると思います。ただ一般的にそういうものが政治亡命になるかどうかという点は、私の感じとしては、そういうものは政治亡命と言わないのじゃないかと思うのでございますが、所管でございませんのでこの程度に……。
  82. 横山利秋

    ○横山委員 脱走兵は引渡し条約を適用しない。日本には自衛隊にそういう規定がないから、双方に当てはまる法律がないからどうしようもない。逮捕することもできませんね。
  83. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 入ってくる過程におきましてわが日本の法令を犯しておれば、もちろんその法令によって逮捕することはできますが、逃亡犯罪人引渡し法の関係拘禁するということはちょっと考えられません。
  84. 横山利秋

    ○横山委員 この条約並びに引渡し法と米軍軍人軍属、その関係については一体どういうふうに解釈したらいいのですか。
  85. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 今回の日米条約といわゆる安保条約に基づく地位協定の関係でございますが、日米双方の考え方によりますと、地位協定の刑事裁判権の関係規定日米条約に対して特別規定関係に立つ。したがいまして、日米条約ができましても、日本に駐留いたしますアメリカ合衆国軍隊の構成員の犯罪の扱いについては地位協定による、こういう解釈が共通しておりまして、そのことを念のために新条約の交換公文によって明らかにしておるところでございます。
  86. 横山利秋

    ○横山委員 地位協定が優先をするというのですが、ここに先月末の新聞がございます。これは申すまでもなくあなたもよく御存じのことで、講和条約発効から五十二年十一月までの米軍軍人軍属の事件、事故を整理して「裁かれざる米兵」という特集をしております。これによりますと、この二十六年に公務上の犯罪事故は三万六千七十五件、死者が四百八十六件、公務外の犯罪事故が十一万三百十八件、死者が四百七十件、合計いたしますと、件数として十四万六千三百九十三件、死者が九百五十六件、これについて、時間の関係上、ほかの委員会でされました詰めを整理をいたしますと  「米軍が起こした公務中の事件、事故で軍事裁判が開かれたのは何回か。その結果はどうなのか」と聞いたところ、法務省の答えはなんと「一回もありません」だった。あとで、この委員会のもようを録音で聞いたが、一瞬の静寂のあと、ざわめきが起こった。裁判はやらなくとも降等、減給などの懲戒処分はあったハズだから、それはどうか、という質問には「そのような処分の記録は本人の移動とともに移動するから、よくわからない」という返事だった。   さすがに、瀬戸山法相も「事務当局のいまの答弁を聞いて私も意外に思っている。今後は厳重に、その結果を報告してもらうようにする」と述べたが、法務大臣が驚いてすむ問題ではない。全部が全部、米兵側に非があるワケではなかろうが、ただの一人も刑事責任が追及されなかった、というのは国辱的大問題だ、と思うのは私一人だけではあるまい。 という記事が載っています。これについて何かコメントなさることがありますか。
  87. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まず、何万件という数字でございますが、防衛施設庁等から出された数字のようでございますが、その中身は、犯罪によるものはごく一部でございまして、いわゆる一般の事故でありますとか、自過失というものを全部含んでおる数字のようでございまして、その大きな数字に対して、現実の検察当局等が扱いました事件の数と対比されますことが、すでにして相当ではないと思うのでございますが、いずれにいたしましても、現在私どもの方で手元に資料がございます昭和四十七年以降におきまして、米軍の公務中の犯罪で、地位協定に基づきまして第一次裁判権がわが国にないために米側にゆだねた件数の中で、ただいま申し上げます年度の中で米側で有罪とされたものが一件もないということは事実でございます。またその間、統一軍法によります懲戒処分につきましては、米側からの懲戒結果の通報が的確に来ておらなかったということも事実でございまして、この点は、私どもとしてもきわめて手落ちであったと深く反省をいたしまして、早速、今後は懲戒処分の結果についても逐一通報を受けますように厳重に米側に申し入れ、その承諾を得ておるところでございます。特にコメントすることもございませんが、そんなことでございます。
  88. 横山利秋

    ○横山委員 私の手元に、大分前からでありますが、米軍関係の事故の状況がずっと来ております。  四十三年の四月、これはお母さんと十二歳の子供が横断しようとしたところ、米軍の特別捜査員ジョン・J・フェイ准尉の乗用車にはねられて、お嬢さんは即死、お母さんも内臓破裂で重体。夜の九時過ぎでございますから、公務中とは考えられない。自宅へ帰る途中であったという事案。それから、同じく四十三年「ベトナム帰休兵が横須賀バーで乱暴」「料金が高いと、同店のバーテンと口論、ハラを立てて」広永チヨさん、七十四歳に乱暴、傷害犯で引き渡される。結果がどうなっているかわからない。それから四十三年「横浜市で六人死傷」「米軍人による交通事故が三件あり、日本人二人がはねられて死に、四人が重軽傷 うち一件は酔払い運転」。それから四十五年、逃亡の強盗米兵の身柄アメリカから送還させたという、これは本法案に該当する問題。四十八年、強盗米兵本国へ逃亡。「タクシー強盗を働き、一審で実刑判決を受け、控訴した米兵の被告が、東京高裁の初公判直前に、身柄を監視されていた神奈川県・横須賀基地からアメリカ逃亡」これは「東京高検の十八日までの調べでわかったもので、同高検では、法務省を通じて米軍当局に身柄引き渡しを要求」これも結果がどうなったかわからない。それから四十八年十一月「神奈川県警保安課と横須賀署は、米軍の協力で 麻薬を密売買していた米兵グループを摘発、十五日までに米兵十四人と日本女性一人を麻薬取締法違反の疑いで逮捕」これも結果がどうなったかわからない。四十九年九月五日「元米兵に死刑判決 那覇地裁“密告者焼殺”で」これは那覇地裁で死刑言い渡し、「犯行に加わった米兵のうち、死亡者を除く残る二人の米兵の一人は米軍法会議で懲役十年の刑が確定し服役中。もう一人は免責特権で処分なしとなっている。」四十九年四月「基地従業員射殺の米兵 那覇地裁が政「無罪」」無罪理由は、「精神分裂病で心神喪失状態であったと認められる」となっている。これが確定をしたのかどうかということがわからない。また、精神分裂病で心神喪失状態であったと認められるならば、先般来本委員会で問題になっておる刑事補償が適用されてお金が出ておるのかどうか、それがわからない。四十九年七月三十日「米、裁判権行使を通告」これは「伊江島の米軍射撃演習場で起きた地元民に対する米兵の発砲不祥事件について」在沖繩米空軍司令官から那覇地検に、これは公務中だという通告書が届いた。その前に公務証明書は出さないと言っておったにかかわらず、いきなり公務中だというふうになったので、最高検、法務、外務両省などに指揮を仰ぎ、今後の対策を検討しておると言っている。最終的に日米両国政府の問題として結論を出さなければならないことだろうと言っておるが、これも結果がわからない。それから四十九年七月「沖繩発砲米兵の裁判権」これはいまのものと同じ問題です。五十一年六月二十四日の新聞によりますと「酒酔い運転の米兵が起こした事故で夫を失なった妻が「公務外の犯罪被害についても、国が責任を負え」」と言うて、結局は「国と米軍がそれぞれ百三十余万円の見舞金を支払う形で、当事者間の示談が成立した。国はこれまで、日米安保条約に基づく地位協定などをもとに「賠償責任はない」とする建前を取ってきており、「見舞金」の形とはいえ百万円を超す支払いに応じたのは異例のことである。」と言っている。五十二年五月二十六日、米軍の「佐官級が大麻密売米海軍 横須賀基地に衝撃」となっているが、これによりますと「シュナイダーは基地の統合人事部次長の要職にあって、」これは逮捕。もう一人の三等兵曹は、ある情報で、横須賀署が逮捕。「この自供からシュナイダーの名がうかび、シュナイダーが休暇をとって米国へ一時帰国しようとしたところを、」五月二十四日「羽田空港で逮捕した。同署は、組織的な大麻密売が基地内部で行われていたとみて、組織の解明に全力をあげている。」。その結果はわからない。  私が朗読いたしましたのは、私が集められるだけのことでありますが、要するに、本国会におきまして、予算委員会なり外務委員会なり当委員会において、逃亡犯罪人の問題を議論いたします過程で、米軍犯罪は、地位協定が優先するというのだけれども、優先して米軍の軍事裁判で行われた裁判が、余りにも国民の納得が得られない。軍事裁判で一回も処分された者がない。降等、減給などの懲戒処分があったということもわからないということについては、さまざまな問題をここに提起をしております。  一つは、軍事裁判が仲間裁判であって、いいかげんになっているではないか。これについて、米国政府あるいは米軍当局について注意を喚起をしてもらわなければ困るではないか、これが一つであります。  それから、いま伊藤局長から、どうも今後はという話があったのだけれども、裁判をやらなくても降等、減給などの懲戒処分があったはずだからということについて、一回全部この際整理をして、本委員会に報告をしてもらいたい。  それから第三番目に、日本に裁判権が移った問題。向こうが一次裁判権を放棄して、日本に裁判権が移った問題が、これがまた世論として、非常に軽過ぎるという批判がある。たとえば、三十二年のジラードの事件は、これはもう古いのですけれども、薬きょう拾いのおばさんを「ママさん、だいじょうぶ」と言って、引き寄せておいて発砲して殺した。アメリカが裁判権を放棄した。日米双方で大騒ぎになったが、ジラードに対する前橋地裁の判決執行猶予四年で、彼は大手をふってアメリカへ帰った。それから、そのほかの例がまだここにありますが、時間の関係で省略をいたしますが、米軍が裁判権を放棄して、日本の裁判所で裁判をしたものの処分がきわめて軽いということについて批判が強い。これらのことを一体どう考えたらいいであろうかと思うのでありますが、法務大臣、お帰りになりまして、国会側の各委員会からの主張、追及について、何かとるべき方法がございますか。  つまり、もう一回言いますと、アメリカが軍事裁判をやる問題について、処分がきわめて軽いということについての国民の非難。二番目は、裁判はやらなくても、減給、降等なんかのことについて何も知らぬということはいかぬから、これから調べるとおっしゃるが、いままでのことについて調べて、われわれとして判断の材料をつくるべきだということ。それから日本側でやる場合にも、裁判がきわめて軽い。米軍がやろうと日本側がやろうと、米軍関係についての裁判の結果というものはきわめて軽過ぎるという批判は、いまやごうごうたるものがあると思うのですが、法務大臣、どういう手を打ってくれますか。
  89. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 大臣にお答えいただきます前に、もっと多岐にわたる御質問でしたので、問題点を私どもの承知しておる範囲で整理をさせていただきたいと思います。  まず、米軍構成員の犯しました犯罪で公務外のものにつきましては、私ども、厳正に処理をしておるつもりでございます。一部、御指摘のように裁判の結果についての御批判があることも承知いたしておりますが、検察当局としては、一審裁判が軽きに失するという場合には、検事控訴等によって是正を試みておりますし、最終的に裁判所が御判決になりましたものにつきましては、私ども批判の限りではない、かように考えておるわけでございますが、いずれにいたしましても、公務外の犯罪につきましては十分厳正にやっており、日本人であると米軍人等であるとによりまして、そこに刑の、あるいは求刑等の差別をする、あるいは処理について緩やかにするというようなことは一切しておりませんことを申し上げておきます。先ほどお読み上げになりました具体的事案につきましても、昭和四十八年以降のものにつきましては、調べればすべて結果がわかると思いますが、ただいま資料を持ち合わせませんので、その点はなお調査してみたいと思っております。  それから、公務中の犯罪でございますが、米軍人の公務中の犯罪は、防衛施設庁が提供いたしました、いわゆる事故の総数というものを念頭に置かれますと別の御見解があると思いますが、試みに過去三年間をとってみますと、昭和五十年が百四十二件、五十一年が百三十八件、五十二年が百五十一件と、大体百三十から百五十程度の公務中の犯罪があるわけでございまして、これらにつきましては、すべてわが方では第一次裁判権なしということで不起訴処分にしておるわけでございますが、これらの内容を見ますと、業務上過失致死傷あるいは道路交通法違反が九九%でございますが、これはいずれもわが方が十分捜査をいたしました結果、米軍に対して第一次裁判権の放棄をするに足るだけの嫌疑あるいは情状がないということで、米側の処置にゆだねたわけでございます。それにつきまして、米側で軍事裁判にかけた事例がないということは事実でございますが、これは証拠の関係その他いろいろな事情があるのではないかと思われるわけでございます。  それからさらに、懲戒処分につきましては、先般来種々御指摘がございましたので、米軍当局と鋭意折衝いたしまして、過去にさかのぼって懲戒処分の状況を調べてもらおうということで要望したわけでありますが、米当局におきましても、もはや調べる手だてがないということでございまして、やむなく私どもといたしましては、将来に向かってすべて把握するように努めたい、かように考えておる次第でございます。
  90. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 米軍関係犯罪については、あらましいま刑事局長からお答えいたしたとおりでありますが、この問題は、当委員会のみならず、予算委員会等でも強く指摘を受けたところでございます。でありますから、第一次裁判権が向こうにある、あるいは第一次裁判権を放棄してもらってこっちにある場合もあるわけでございますが、いずれにしてもその結末がどういうふうになったかということが明らかになっておらない。この点は、日米の信頼関係国民間の信頼関係に非常に支障があると私どもも考えております。でありますから、そういうことで外務当局とも相談をして、今後は、どういう措置をとったか、これだけはひとつ明らかにしてもらいたい、こういうことで話し合い中でございまして、やはりそうしないと、うやむやになってしまって後がどうなったかわからないということでは日米関係の信頼に大きく影響しますから、さような措置をとる、こういう方針でございます。
  91. 横山利秋

    ○横山委員 私がいま読み上げました例示、これは法務省と警察庁と両方にわたっておりますが、一つ一ついま結果をお伺いするには時間がかかりますから、法務省と警察庁と協力して、事案が解決済みのものもありますが、先ほどどうなったかわからないとかいろいろ疑問を出しました問題について、後刻文書をもって結果を報告願いたいと思いますが、よろしゅうございますか。
  92. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 資料が存在する限りにおきまして、法務省でお答えできると思います。
  93. 横山利秋

    ○横山委員 次にお伺いいたしますが、この法案が通過をいたしまして、現在の例示列挙から包括的な引き渡し条件というものになるわけでありますが、金東雲元書記官の身柄がこれによってアメリカに要求できるということを、この間警察庁並びに法務省は条件はこれでできるというふうにおっしゃいましたが、間違いございませんか。
  94. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 金東雲がアメリカにおれば、引き渡し請求ができると思います。
  95. 横山利秋

    ○横山委員 金東雲は昨年までカナダに滞在し、いまは親戚を頼って米国西海岸に移っているそうであります。問題は判断の問題でありますが、金大中事件、白昼堂々東京都内のホテルから金大中氏が奪い去られた事件の最も元凶であるのが金東雲氏であります。この問題についてはもう何回も何回も本委員会において歴代の法務大臣に善処を求めており、あるいは警察庁も鋭意さらに捜査中でありと言い、そして確定した政府の態度としては、新しい事態が起これば政治的解決もまた別途考える、こういうふうになっておるわけであります。はからずもこの条約締結され、引渡し条約が発効いたしますれば、当然のことのように日本政府アメリカ政府に対して金東雲書記官の身柄引き渡しの要求をなさるものだと私は確信いたしますが、法務大臣、いかがですか。
  96. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 アメリカにおるということでございますが、これは外務省あるいは警察庁と相談して、できるだけこちらに来てもらうように努力をしたい、かように考えております。
  97. 横山利秋

    ○横山委員 これは条約に基づいた手続を、条約が発効し法律が成立をすれば直ちにその手続をなさる、こういうふうに理解してよろしいのでしょうね。
  98. 城内康光

    ○城内説明員 御質問にお答えいたしますが、金東雲がアメリカにいるとすればという大きな前提に立っての御質問でございますけれども、私ども警察といたしましては、これまで金東雲がアメリカにいるという事実をつかんでいないわけでございます。昨年カナダにいるというような風評が伝えられましたけれども、私どもは鋭意努力いたしましたが、そういう事実をつかむに至らなかったわけでございます。本人がアメリカにおるかどうかわからない、こういう段階では本人がどういう立場にあるのかわかりませんし、したがってまた、条約上のいろいろな要件を充足するのかどうなのか、そういう点がわからないわけでございます。警察といたしましては、本人の所在についてある程度見当がついた段階で具体的に関係向きと一緒に詰めてまいりたいと考えております。
  99. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 ただいまお尋ねの点につきましては、先日外務委員会外務大臣が答弁しておりますので、外務省の考え方を御説明させていただきたいと思いますが、外務大臣は、金東雲がアメリカにいるのであれば、金東雲が犯罪人引渡し条約条約のもとでの要件を満たすと日本側が判断した場合には、新条約に基づいて請求することができるということを申し上げた次第でございます。したがいまして、外務省といたしましては、具体的な金東雲という人間がアメリカにいた場合、これに対して新条約要件が満たされているかどうか、したがって、日本として請求するかどうかという点についての最終的な判断はまだ下していないというふうに了解しております。
  100. 横山利秋

    ○横山委員 二つの問題が起こりました。  一つは、日本から逃げていった犯罪人、あるいは外国から、日本におるらしいから捜してくれと言われて、いや、それはおるかおらぬかわからぬものを協力できません、こういうことにこの法律はなるのですかね。これが一つ。もう一回言いますと、日本から請求する、それが向こうにおるかおらぬかわからない。それから日本としても、引き渡し請求を受けたけれども、おるかおらぬかわからない。おるらしいということでは全然協力できません、こういう体系にこの法律はなっておるのですか。本人を確認しなければ一切の協力をしないというものですか。これが質問の一つ。  それから外務省、いま条件を満たしておるとするならばという、ばかに抽象的な言葉をおっしゃるのですが、私どもはきょう初めてこの法案について質問するのですけれども、いままで政府内部でも何回も何回も詰めてこられたのだろうし、あるいはほかの委員会でもこの問題の質問が出ておるのだろうし、いまさら満たしておるとするならばという、わざわざ問題をはぐらかせるような言葉をおっしゃるのはいささか無責任ではなかろうか。こうして皆さんが法案審査に応じて責任を持った答弁をなさっておるときに、いまごろ何ということをおっしゃるのか。条件を満たしておるかどうかということは、過去歴年の警察の努力、本委員会に対する報告、そのほかに新しい事態、事実というものはないのですから、その中における判断が当然できてしかるべきであるにもかかわらず、この条約及び法律案条件を満たしておるとするならばということをいまさら判断をしなければならないようなことでは、できるならば要求をしたくないという気持ちがあるやに見れるのですが、明白にしてもらいたいと思います。
  101. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まず引渡し法の運用のあり方等についてお尋ねでございますからお答えいたします。  逃亡犯罪人引き渡し請求は、従来から被請求国内にその者がいるということが客観的に明らかな場合に請求するというのが国際的な慣行であろうと思います。したがいまして、多少でもいわゆる被請求国にあらわれる可能性があるからということで、いわば当てずっぽうにたくさんの国に引き渡し請求するのは国際慣行上行われていないように承知をいたしております。
  102. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 ただいま私が申し上げましたのは、先日の外務委員会における外務大臣の答弁の趣旨を御説明したつもりでございまして、外務省として、できれば引き渡しの要求をしたくないというような考えは全くございません。
  103. 横山利秋

    ○横山委員 それでは、法務大臣もうお立ちでございますし、本会議も迫っておりますから、午前中の質問を終わることにいたしますが、最後に、いま両省の担当の諸君からお話を承ったわけですが、当然政府としては金東雲の身柄引き渡しを本法案並びに条約の発効によって行わなければ、この法律が何か最初からあいまいなものになるという感じを私は受けるのですが、恐らく私ばかりじゃないと思うのです。この法律が通過して、まず国家の意思というものが最初に実行されるか否か、厳格に法律が実行できるか否かは、まさに金東雲の身柄引き渡しアメリカに要求するか否かにまずかかると私は思うのですよ。私どもの確信というか期待というものが実行される、そう理解してよろしゅうございますか。
  104. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 いわゆる金大中氏誘拐事件については金東雲という人が関係をしておる、これは警察の捜査によって明確だということになっておりますので、そういう意味の犯罪人でございます。でありますから、先ほど来申し上げておりますように、アメリカにおるらしいとか、おるかもしれぬでは、これはそうあいまいなことでは引き渡し外国に対して要求するわけにいきませんが、おるという明確な認定ができれば当然に引き渡しを求める、かような考えでございます。
  105. 横山利秋

    ○横山委員 午前中の質問を終わります。
  106. 鴨田宗一

    鴨田委員長 午後二時再開することにし、この際、暫時休憩いたします。     午後零時三十二分休憩      ————◇—————     午後二時十二分開議
  107. 鴨田宗一

    鴨田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。横山利秋君。
  108. 横山利秋

    ○横山委員 けさほどの理事会で自民党の出席が悪いと言っておいたのですが、いま二時十二分でありますが、ごらんのとおり、自由民主党の議席は山崎武三郎さん、田中伊三次さん、御精勤の方以外には御出席がないのは大変遺憾でございます。理事会の申し合わせもございますから、委員長におきましては、自由民主党の欠席者を繰り出していただくようにお願い申し上げたいと存じます。
  109. 鴨田宗一

    鴨田委員長 横山君の御意見はごもっともでありまして、速記に残るように、いまの御意見はそういう意味だろうと思います。わかりました。
  110. 横山利秋

    ○横山委員 それでは、第二条の三号に移ります。  先ほど「引渡犯罪政治犯罪であるとき。」ということについて、文書で御回答をお願いすることにいたしました。法律の二条の三号「死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑にあたるものでないとき。」今度の引渡しに関する条約におきましては「長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものについて並びに付表に掲げる犯罪以外の犯罪であって日本国法令及び合衆国連邦法令により死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものについて行われる。」この法律上の三年と条約上の一年とはどういうふうな違いがあるわけでありますか、お伺いをいたします。
  111. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 第二条の前の方にございますように、第二条第三号の規定は「引渡条約に別段の定があるときは、」それに従うわけでございます。今度の日米条約において包括主義をとりまして、一年を超える法定刑というものを一つのめどにいたしておりますが、これはアメリカ合衆国においていわゆる重罪の概念が一年を超える罪というところにあることをも考慮いたしまして、なるべく日米間の犯罪に対する対策の上での協力を密にするという観点から特にそのような条約定められたわけでございます。  したがって、第二条の第三号の「死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑にあたるもの」に限って引き渡しをすると申しますのは、引渡し条約締結されていない国からの請求に基づく場合のことを考えておるわけでございまして、引渡し条約に基づかない引き渡しをやります場合に、一応考えられますこととしては、余り軽微な犯罪について引き渡しを行うことといたしますと、引き渡されます犯罪人の人権の問題にも関係いたしてまいりますし、ある程度の重い罪について条約に基づかないでも引き渡しを行う政策をとることが望ましいという観点からこういう規定になっておるわけでございます。この「三年以上」と申しますのは、わが国刑事訴訟法で、たとえば緊急逮捕の要件をこういうことで定めたりしております。そういうように、わが国の刑事法制のもとで比較的重い罪というものを区別いたしますのに使われている基準に従ってここに規定してあるわけでございます。
  112. 横山利秋

    ○横山委員 日米間だけは一年で、一年を超えたら引き渡す、よその条約のないところでは三年以上でなければ引き渡さないということについて、法の公平を欠くという考えはあり得ると思うのですが、どうですか。
  113. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 現在条約のありますアメリカ合衆国以外の国からの請求につきましては、いかなる国から請求が来るかわかりません。そういう場合に、わずかの間に相手国の刑罪に関する法制あるいは刑事手続に関する法制を慎重に調査いたさなければならぬわけでございますが、わが国が将来、条約に基づかないで引き渡し請求をしてまいる国と対応します場合に、ともかくにも、わが国において俗な言葉で言う重罪とされているものについては、その刑罰法令に触れるという要件については無条件で判断しましょう、それ以上のことについては、お互いに条約を結んで、相互主義的な義務を課し合うことによって対処したいということでございまして、将来条約を結びますときには、それぞれの国とのすり合わせをいたしまして、両方の意見の合致するところで刑を決めていく、こういうことになろうかと思います。
  114. 横山利秋

    ○横山委員 そうしますと、日米間では一年、ほかの国と条約を結んだときには二年もあり得る、三年もあり得るということで、私は引き渡しの均衡を欠くと思いますが、そういう解釈であることを承知をいたしました。  五号の「引渡犯罪に係る行為日本国内において行われ、又は引渡犯罪に係る裁判が日本国裁判所において行われたとした場合において、日本国法令により逃亡犯罪人刑罰を科し、又はこれを執行することができないと認められるとき。」というのは、具体的にはどういうことですか。たとえば、よその国と日本国との間に刑罰の違いがあって、外国では罪だけれども、日本国では罪にならないということですね。どんなことが想定されますか。スパイ罪等でございますか、それとも米軍に関する問題でありますか。具体的事例をもって五号を説明してもらいたい。
  115. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 御説明いたします前に、ただいま御質問いただきましたような趣旨でこれを規定しておるわけではございませんで、いわゆる双方処罰の原則と言われるものを規定化しておるわけでございまして、たとえば例を挙げますと、アメリカ人がアメリカ殺人を犯して日本に逃げ込んできておる、こういう場を考えますと、そういう行為は、日本の刑法そのものずばりでは刑法の適用がなくて処罰ができないわけでありますが、第五号に書いてありますように、日本国内で行われたとすれば、日本の裁判所にもちろん管轄権があるわけでありますから、殺人罪として処罰をすることができる、こういうことでございます。  それからまた、たとえばいまの例で言いますと、アメリカ人がアメリカで人を殺したという事件がずいぶん古い事件でありまして、もしそれをただいま日本の裁判所で裁判できるとして裁判した場合に、すでに公訴の時効が完成しておる、こういうことのために、日本の裁判所で裁判を行うと仮定しても有罪の裁判ができない、こういう場合を除外する趣旨で置いてあるわけでございます。
  116. 横山利秋

    ○横山委員 なるほど、日本でその行為をやったとしたら、という意味ですね。  そこで、先ほど質問いたしました例示なんですが、具体的にはスパイ罪だとかあるいは酔っぱらい運転して人を殺したという者についての各国の刑の違いというものがあることが先般わかっておりますが、そういう場合ですか。具体的にもう少し事例を挙げていただきたいと思います。
  117. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 日本以外の国の法令の刑がちょっとわかりませんので的確なお答えができませんけれども、たとえば軽い程度の傷害罪、こういうものを犯した者が日本へ逃げ込んでおったと仮定しまして、請求国法令によりますと、そういう軽い傷害罪というのはたとえば二年以下の懲役であるというような仮定をいたします。わが国におきましては、軽い傷害、重い傷害という区別がございませんから、十年以下ということになっておるわけでございます。そういう場合を想定いたしますと、そのいまの想定いたしました傷害事件は、日本国において行われれば、日本国法令で懲役十年以下で処断できる。また、日本の裁判所で裁判をするとすれば、やはり同じように有罪の裁判ができる、こういうことで、五号の関係では引き渡すことができる犯罪ということになるわけですが、一方、第二条の第三号によりまして、その犯罪請求国法令によって長期三年以上の拘禁刑に当たることが要件でありますから、いまの例で言いますと、軽い傷害罪について請求国では懲役二年以下ということになっておるといたしますと、この第三号の方で引き渡すことができないということになってまいるわけでございます。
  118. 横山利秋

    ○横山委員 第六号で「引渡犯罪について請求国の有罪の裁判がある場合を除き、逃亡犯罪人がその引渡犯罪に係る行為を行ったことを疑うに足りる相当な理由がないとき。」とあります。たとえばアメリカから引き渡してくれと言ってきた、有罪の裁判があればそれは別だ、しかし、その裁判がない場合に、日本がその犯罪人が本当にやったかどうかを疑うに足りる相当な理由があるかないかという判断が一体どうしてできるか。ここに一項目を置かなければならない積極的な理由がないではないかと思いますが、どうですか。
  119. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 この第六号が仮にないといたしますと、請求国において逮捕状が出ておる、あるいは勾留状が出ておる、その事実だけで引き渡せることになるわけでございますが、外国の司法官憲もそう軽々に逮捕状あるいは勾留状を出すわけではないと思いますが、いずれにいたしましても、裁判所による確定裁判がないわけでありますから、人権保護の観点から、その者に相当程度の嫌疑がある場合でなければ引き渡さないことにするのが相当であろうと思うわけでございます。そういう意味で、確定裁判がある場合以外、すなわち捜査中の場合あるいは公判中の場合につきましては、請求国から必要な疎明資料の提供を求めまして、これによってまず法務大臣が疑うに足りる相当な理由があるかどうかを判断いたしまして、さらに東京高等裁判所がこの点をさらに判断をするというシステムにしておるわけでございまして、引き渡し犯罪に係る行為を行ったことを疑うに足りる相当な理由と申しますのは、わが国の法制でいいますと勾留の要件に匹敵する程度の犯罪の疎明ということでございます。
  120. 横山利秋

    ○横山委員 九号は「逃亡犯罪人日本国民であるとき。」と確定的な言い方をしているのですが、もちろんただし書きで「条約に別段の定があるときは、この限りでない。」と言っています。この解釈は、条約がなければ九号は絶対的に生きるわけですか。いままでの例から言っても、引き渡しているときがあるのではありませんか。
  121. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 九号は、ただいま御指摘のとおり、条約が存在しない国との間においては日本国民は絶対に引き渡さない、こういう主義を宣明しておるものでございます。なお、この法律ができましてから、外国人といわず日本人といわず、外国引き渡した例は皆無でございますので、ただいま御指摘のような事例はございません。
  122. 横山利秋

    ○横山委員 一番最初に私がこれからの趨勢として申し上げたわけでありますが、条約がなくても相互主義で、重要な事案であって、自国民といえども引き渡すということを、まあ非常に制限つきであろうともそういうことが必要になってくるのではないでしょうかね。その点を、条約がなければ絶対に引き渡さないということが果たして適当なものであるかどうかについてはどうお考えになりますか。     〔委員長退席、山崎(武)委員長代理着席〕
  123. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 午前中にも御説明いたしましたように、自国民引き渡しの原則というものが十八世紀以降ずっと確立された国際慣行としてあるわけでございますが、これまた申し上げましたように、将来の問題としては、自国民といえども最も適切な刑罰を科し得る地へ引き渡して、そこで裁判をする方向にあるいは趨勢が参るかもしれない、こういうふうに考えておりますが、今日の段階では、わが国刑罰法令の適用上属人主義をとっておることから、ほとんど例外なく、引き渡し対象となるような犯罪につきましてはわが国で一応の処罰ができるという体制になっておりますので、今日いまだ自国民引き渡しの原則を一般的な原則としてとることを変更するまでには至っていないように考えております。ただ、将来、先ほども御指摘のありましたように、世界的な趨勢として、自国民といわず、便宜の地で裁判をする方が望ましいということで、世界の趨勢がそちらの方へ参りますれば、いずれ検討しなければならぬ時期が来るかというふうにも考えております。
  124. 横山利秋

    ○横山委員 イギリスやアメリカは自国民引き渡しの原則をとってないのでありまして、日本がこれから国際的に、少なくとも非常に活躍をいまでもしておるわけであります。そうなりました場合に、この自国民引き渡しの原則にいつまでも固執しておっていいものか、どちらが一体国益になるかということ、どちらが国際協力的であるかということについては、検討を要することではないかと思います。  次に第三条に入りますが、第三条の二号「請求引渡条約に基づかないで行なわれたものである場合において、請求国から日本国が行なう同種の請求に応ずべき旨の保証がなされないとき。」ここに言う「同種」というのは、犯罪が同種であるのか、あるいは刑罰が同種であるのか、何が一体同種であるかということと。一体、その相互主義保証というのは、あなたの方からも要求があったら行いますよという抽象的な作文さえもらえばいいのか、保証についての条件というものは一体何でありますか。
  125. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 相互主義保証とこれを俗に言っておるわけでございますが、相互主義と申しますのは、一般に、平等な立場にある国家間の国際関係におきましては、他方から一方が与えられる一定の待遇に対して、一方が返礼として同等の待遇を与える、そうして双方が相手方から受ける待遇において均衡が保たれておる、こういうことが原則であるべきだという考え方が相互主義の考え方だと思いますが、一般の条約交渉等につきましても、こういう意味の相互主義が常に念頭に置かれて行われるものであろうと思っております。そこで、第三条の第二号にあります「同種の請求に応ずべき旨の保証」これは具体的には引き渡し請求の際の口上書等の中でその旨の保証文言がなされるのが普通だろうと思うのでございまして、過去にわが国がフランス等につきまして請求をいたしましたときも、そういう意味の相互主義保証をいたしますということを、口上書で、引き渡し請求とともに述べておるわけでございます。  さて、この「同種の請求」という概念は、これまた必ずしも厳密な概念ではありませんで、国際的な社会通念あるいは法律常識に照らしてその性質、態様などがおおむね同価値と評価される犯罪、こういうものについては引き渡しを行いましょう、こういう約束になるわけでございます。したがって、たとえば罪名が同じなら同種かというと、必ずしもそうは言えない。なぜならば、同じ詐欺罪でありましても、被害額のきわめて軽微な犯罪態様と、きわめて巨額な犯罪態様、これはやはり同種のものとは言いがたいと思われるわけであります。また逆に、一方が渡したのは窃盗であり、他方が渡すべきものとして問題になるのが詐欺というようなものでありましても、その性質、態様などが社会通念、法律常識に照らしてほぼ相匹敵するものである、こういうことになりますれば同種ということになるわけでございまして、具体的には、相互主義保証を与えました国が今度は被請求国になりましたような場合に、両当事国間で、前例に徴しまして、性質、態様においてほぼ匹敵するかどうかということを話し合いまして、これを同種の請求と認めるかどうか、こういうことになるのだと思います。
  126. 横山利秋

    ○横山委員 「同種」という言葉は不必要ではないかと私は思うのであります。それは、たとえば詐欺罪でフランスへ逃げておる人間を渡してくれと言う、フランスからは人殺しの犯人が日本へ逃げて行ったからそれを引き渡してくれと言う。詐欺罪と人殺しが一体同種であるかといいますと、同種であるという見解の成り立つ場合もあるし、成り立たぬ場合もある。ちょうどうまくかみ合うようなことはあり得ないと私は思うのです。国が必要に基づいて、少なくとも双方が、たとえば三年以上のものだというふうに、フランスも三年以上、日本も三年以上だというなら何種であろうと、異種であろうと同種であろうと、渡してくれと言ってきたら、あなたの方も私の方が渡してくれと言ったときには渡してくれますか、ええ渡しますよ、それでいいのではないか、なぜここに「同種」を書かなければならないかという積極的な意味が私にはわからないのです。「同種」と書いてあるために、かえって引き渡しの作業というものがつまらぬ論争になっていくのではないか。これは、なるべく引き渡したくないという意味で書いてあるか、あるいは、なるべく引き渡し国際協力をするという意味で書いてあるか、もしも、なるべく引き渡しましょうということであるならば「同種」と書いてあったら、かえって阻害するのではないか、これは不必要な文句ではないか。
  127. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 「同種の」という言葉がありますのは、かえって引き渡しを容易ならしめる一つの要素だというふうに考えております。と申しますのは、罪名のいかんにかかわらず、一回当該国からの引き渡し請求に応ずれば、今度は相手国としてはいかなる犯罪であっても逆に引き渡さなければならぬということになりますと、その相手国としては非常に慎重にならざるを得ないというふうに思います。したがって、たとえば詐欺事件について相互主義保証があったから引き渡した、今度は、逆の立場になりましたときに、殺人の問題があった、そうなりましたら、またそれはそのときに相互主義保証をして引き渡す、そういうふうに個々的に相互主義保証という、いわばその引き渡しがそのことによって将来義務的に拘束を受ける範囲がなるべく少ないということによって引き渡しがスムーズに行われる、こういう関係に立つわけでございまして、その意味では、事柄を限定して、同種の請求について相互主義保証をするという範囲で引き渡しのやりとりをするということの方が、相互主義保証を与える方も、与えられる方もやりやすい、こういう関係になるのだと思います。
  128. 横山利秋

    ○横山委員 これは意見の相違になると思うのですが、私は、現実問題として、きょう日本がフランスに要求した、フランスが三年過ぎか五年過ぎに言ってくるかもしれない。そんなタイミングが合う、内容が似通うというようなことは、そんなにあるはずがないと思っている。そのときに、同種であったか同種でないか、同種の見解は何かかんかと言うて援用して、そしてこの法律の運用がうまくいかないということを私は心配しておるわけであります。  次に第四条に移るわけですが「法務大臣の措置」、四条が改正をされたわけですね。「法務大臣の措置」として「法務大臣は、前項第三号の認定をしようとするときは、あらかじめ外務大臣と協議しなければならない。」とあります。三号というのは「引渡しの請求引渡条約に基づかないで行なわれたものである場合において、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるとき。」とありますが、法務大臣が、条約はないけれども逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認める条件というのは一体どんなことがあるのですか。ここは法務大臣の自由裁量権、わずかに外務大臣と協議しろと言っておるわけでありますが、法務大臣が各条項に照らした以外に逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるというのはどういうときですか。
  129. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まさに御指摘のように、第四条第一項第三号は、第二条の各号に掲げますような理由には当たらないけれども、なおかつ引き渡すことが相当でないと法務大臣が認める場合のことを言っておるわけでございますが、いまだこういう事例がありませんので、すべて仮定の問題としてお答えするわけでございますが、たとえば請求国がどういう国であるか。先ほど申し上げましたように、請求してきた国の司法制度、社会、政治の状況あるいは一般的な文化水準といったようなものがどうであるかというようなこと、あるいは請求をしてきました当該犯罪人の犯しました犯罪がどんなものであるか、すなわち相互主義保証をしてもらいましても、それがわが国にとって実効性のあるものであるかどうか、すなわち将来わが国が同種の事柄について引き渡し請求相手国に対して行う可能性のあるようなものであるかどうか。     〔山崎(武)委員長代理退席、委員長着席〕 さらには、引き渡し請求をしております意図が那辺にあるか。たとえば隠された政治的な意図がありはしないか、政治犯罪には当たらないにしても、隠された政治的意図があるのではないかとか、そういう諸般の事情を考えまして、当該引き渡されようとしておる犯罪人の人権の保障というものと、それから当該国との友好関係の維持、その他諸般の状況、ただいま御説明いたしましたような状況を総合勘案して判断されることになると思います。
  130. 横山利秋

    ○横山委員 審議すればするほど、なるべくは引き渡したくないという感じが濃厚なんですが、とにかく第三条で、まず外務大臣が自分の裁量で、一号、二号に該当するかどうか、門前払いを食わせる場合がある。その次に法務大臣が受け取って、法務大臣の自由裁量権があって、それも引き渡さない場合がある。その次に今度は高等裁判所へ移って、高等裁判所判決で引き渡さない場合がある。三段階にわたってなるべく引き渡したくない、引き渡したくないということがにじみ出ておると思うのですが、一体この法律案の名前は、逃亡犯罪人引渡法であって引渡し法ではないのじゃありませんか。どうしてかくもむずかしく、かくも難解な条文づくりができておるのですか。私はきのうの晩、夜遅くまで見たのですけれども、きのう御都合が悪かった同僚諸君が先ほどもばか話をしておったわけでありますが、本当にこの法律案というのはむずかしい。しかし極端に言うと、何とかして引き渡したくない、引き渡さないためには理屈はどうつけたらいいかということが細々と書かれておると思いますが、法務大臣、あなたもずいぶん御研究なさったと思うのですが、どうなんですかね。なるべく渡したくない、それでもかっこう悪いから引渡し法と名前はつけておくけれども、なるべくチェックをどんどんあらゆるところにつけてくれ、こういうふうになっているのじゃないですか。
  131. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 率直に言いまして、この逃亡犯罪人引渡し法の一番のねらっておりますことは、外国からの逃亡犯罪人の引き取りを容易ならしめたいという考えがまず第一でございます。と申しますのは、条約の存在しない外国に対して逃亡犯罪人引き渡しを要求します場合に、相互主義保証をしますためにはかような法制が必要でございますので、まずもってこういう法律が絶対的に必要となってきておるわけでございまして、ただいまおっしゃいましたように、引き渡さない方向でつくっておるものだといたしますと、相互主義保証もしたがっていたしかねるようになるわけでございまして、そういうことでは全くありません。現にフランス、スイス等から引き渡しを受けましたときにも相互主義保証をしておりますし、したがって、それらの国から引き渡し請求がありますれば、やはり前に相互主義保証条件引き渡してもらったという事実がありますから、こちらも、向こうが相互主義保証をしてくれればこれに応ずるという前向きの姿勢で常に臨まなければならぬというふうに考えておるわけであります。
  132. 横山利秋

    ○横山委員 それは言葉だけ前向きで、手はこうやって後ろを向いて、やるなやるな、こういうふうにやっておることが歴然としておるわけであります。まあ今回は別としましても、かくも厳重に不引き渡し条件整備されておるということは私はまことに残念だと思うのです。  第五条、逃亡犯罪人拘禁についてであります。これも私ずっと見てまいりまして、私のような素人が考えておりましてもなかなか小むずかしいことがたくさん書いてあるなと思うのであります。これは、東京高等検察庁検事長が法務大臣の命令を受けたときには、高等裁判所の裁判官のあらかじめ発する拘禁許可状により逃亡犯罪人拘禁させなければならない。ただし、住所がはっきりしておって犯人が逃亡するおそれがないと認めるときはこの限りではない。住所がはっきりしておって逃亡するおそれがないと認めておっても逃げてしまう場合があるわけですね。たとえばけさほど引用いたしましたアメリカの軍人さんですね。けさほど引用いたしましたのは、基地から逃げちゃった。そういう場合、常識的に、米国の基地におるんだから住所が決まっておるから、検事長は逃亡犯罪人逃亡するおそれがないと認めるのでしょうかね。  それから、条件が多少ありますけれども、原則として逃亡犯罪人拘禁させなければならないのですか。これは刑事手続によるものじゃないのですから、憲法三十三条及び三十四条の適用を受けないというふうに理解されるわけですが、いかなる場合であってもどうしても拘禁をするのが原則ですか。
  133. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 この逃亡犯罪人と申しますのは、請求国手続によりまして逮捕状、勾留状等のたぐいが出ておったり、あるいは有罪判決が確定しておる者でありますから、その請求国内におれば当然拘束されておってしかるべきものでございます。そういう点も考慮いたしますし、さらに、逃亡犯罪人がさらに逃亡するということになりますと、当該請求国との間の条約上の義務の履行の問題、あるいは条約のない請求国との間の国際的友誼の関係に著しく悪影響を及ぼすことは明らかでございますので、引渡し法の第五条は、原則は拘禁をしなければならないというふうにしておるわけでございます。そうすることによりまして引き渡しの履行の確実性を担保しよう、こういうわけでございます。しかしながら、当該逃亡犯罪人の人権保障の観点から、ただし書きといたしまして、定まった住居を有する場合であって東京高検検事長が逃亡のおそれがないと認めるときに限って拘禁をしないことができるというふうに特に規定を置いておる次第でございます。
  134. 横山利秋

    ○横山委員 そうしますと、これは、東京高等検察庁検事長において逃亡犯罪人逃亡するおそれがないと認めたときは、全くこれは検事長が最終判断権を持つわけですね。第三項で裁判所の裁判官は記名押印しなければならないと書いてあるのですが、検事長が逃亡のおそれがないと判断したら裁判官はいやがおうでも判こを押さなければならぬということなんですか。
  135. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡のおそれがないという判断権は東京高検検事長にのみありますので、東京高等裁判所の裁判官は、逃亡のおそれがあるとかないとかいう判断はできないたてまえでございます。
  136. 横山利秋

    ○横山委員 そんなことなら、検事長の判こでやったらどうだね。裁判官はおもちゃかね。おまえさん、そんなこと、いろいろなこと文句言うな、おれが判断したんだから、裁判官、おまえ判こを押せ、文句言うなということなんです。それならどうして裁判官に判こをもらう必要があるのですか。
  137. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 裁判所拘禁許可状請求がございますと、請求手続法令に違反しているかどうか、それから、さらにもう一回、明らかに逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合に該当するかどうか、これを判断することになっております。すなわち、請求の適式かどうかという点と、それから、引渡し法二条に掲げる各要件、これの存否を裁判所としてもう一回判断をして、その上で拘禁許可状発付する、こういう手続になっております。そのことが、逃亡犯罪人引渡法による審査等の手続に関する最高裁判所規則というので定められております。
  138. 横山利秋

    ○横山委員 しかし、どう考えてもそれはおかしいですね。ここのところの条項の重要な点は、拘禁をするかしないかは、東京高等検察庁検事長以外には何者も判断してはならぬ、検事長が最終責任を持って、これはおそれがある、おそれがないと決めるだけであって、他の人をもってこの判断をしてはいけない、裁判官は余分なことを考えぬでもいい、検事長が逃亡するおそれがある、ないと判断した以上は、どんなに裁判官がそれはおかしいと思っても、文句を言うな、おまえさんは判こだけ押せばいいというのは少しどうかと思いますが、伊藤局長に聞くとまた同じことばかり答えそうだものだから……。これは納得できないのです。押し問答です。  あなたは高い次元で答えてくださいよ。おかしいと思う。裁判官は何も文句言うな、検事長が判断したら、後はおまえさんは判こを押すだけだという論理というのはおかしくありませんかね。
  139. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引き渡し手続は行政手続でございます。したがいまして、行政権において全責任を負うわけでございます。したがって、この引き渡しの審査手続においても、東京高等裁判所が行いますのは、二条各号に掲げる場合に当たるか当たらないか、こういう点を判断するわけでございまして、引き渡すことの相当性の判断はいたしません。それは法務大臣がやるわけでございます。  一方、逃亡のおそれが全くないかどうか、これも行政権の責任において身柄不拘束の状態に置くわけでございまして、その点が一番的確に把握できる者として、検察の実務をやっております検察庁のしかるべきポストにある検事長というものを最終判断者として考えておるわけでございます。
  140. 横山利秋

    ○横山委員 これは納得できませんね、私は。これは納得できないものの一つに数えておきます。  それから第六条に移りまして——第五条の関係か、何か聞けば、拘禁許可状請求をしたら何通でも出すことができるそうですね。検事長が裁判官のところへ行って、あんた文句言うな、おれが拘禁するかしないかを決めるんだから、あんた判こを押せというほかに、ちょっと十通ほど判こを押してくれ、同じものを。えっと言って、一通でいいじゃないかと言うと、いかぬ、十通押せといって、何通でもこれは発行できるという話だそうであります。それは一体どういうことで、そうたくさん必要がある場合があるのでありますか。その犯罪人が住所が確定していれば一通でいい、住所が不確定であるから何通も要る、こういうことになるのですか。
  141. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 最高裁規則によりまして、「拘禁許可状は、請求により、数通を発することができる。」とされております。これは、逃亡犯罪人所在を突きとめまして、大体見当はついておるにしても、逃亡犯罪人でありますから、定まった住居を持たない場合が多いわけでありますから、数通の拘禁許可状を得て、そうして当該公務員が手分けをしてそれを拘束する、こういうことから、この数通というものが出てきておるものと思います。
  142. 横山利秋

    ○横山委員 だから、ぼくが言うんじゃないですか。フランスから要求があった、要求があったが国内におるかどうかはわからぬ、わからぬ者にやれぬじゃないかとさっき、午前中に答弁がありました。日本におるらしいけれども、どこにおるかわからぬで十通ぐらい出してこまいか、どこか一生懸命捜せということは、日本におるかおらぬかわからぬけれども、まあおるらしいけれどもひとつ引き渡し協力しようということなら、先ほどのアメリカへ行っておる金東雲か、アメリカにおるらしいけれども、しかしまあどこにおるかわからぬから、断られたら、ああそうですかということになるのですか。この条文は、日本におるらしいけれどもどこにおるかわからぬから、一通のみならず数通出してそいつを一生懸命捜せと、こういうわけですか。
  143. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほど申し上げましたように、逃亡犯罪人引き渡し請求をいたします際には、被請求国にその者が存在するということが明らかな場合に行うというのが国際的な慣行である、こういうことを申し上げたわけでありますが、被請求国の中にその逃亡犯罪人がおるといたしましても、常に一定の場所にとどまっておるわけではございませんで、その逃亡犯罪人という言葉からも推測されますように、きわめてしばしば、さらに国外逃亡を企てたり、あるいは国内を転々とするという場合があり得るわけでありまして、そういう場合には数通拘禁許可状を発することができるというだけのことでございまして、住居がはっきりしておれば、一通でもちろん足るわけでございます。
  144. 横山利秋

    ○横山委員 そうすると、たとえば十通発行したけれども、十通、北海道から沖縄まで全部手配をして、その辺捜せと。ところが名古屋におった、それで検察官が、あそこにおると言うて現認をして、本人が逃げようとした、そのときに勾引許可状がなかったら拘束はできませんか。
  145. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 一応、刑事訴訟法に言う緊急執行規定の準用がございます。ある程度の範囲は、拘禁許可状が出ている旨を告げて執行して、そして速やかに拘禁許可状を示すという方法もとり得ると思います。
  146. 横山利秋

    ○横山委員 どこにそんなことが書いてありますか。拘禁許可状なしで拘束できるとどこに書いてありますか。
  147. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 引渡し法第六条第四項に、刑訴の七十三条第三項を準用することにしております。
  148. 横山利秋

    ○横山委員 それなら、何も数通出す必要はないと私は思うのです。  第七条へ移りまして、第二項、人違いかどうか調べろというのも、これはばかばかしい法文だと思うのですけれども、何で人違いでないかどうかを取り調べなければならない——そんなこと、あたりまえのことじゃないかと思うのでありますが、これが法律用語であれば別でありますが、第二項に「人違でないときは、直ちに、拘束の事由を告げた上、拘禁すべき監獄を指定し、すみやかに且つ直接、」とありますね、その「直接」というのはだれが主語の——検察官が直ちに、かつ自分でという意味でありますか。なぜ「直接」がここへ入ってこなければならぬのですか。
  149. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まあ「すみやかに」というのは速やかにでございますが、「直接」と申しますのは、たとえば護送途中の仮留置というようなことをすることなくすぐに監獄へ連れていく、こういうことでございまして、この拘禁が始まりますことが、それから八条以下の手続にずっとございますように、審査の請求等のあるいは引き渡しの命令等の日限あるいは時限の始まりになりますので、特に厳密な手続を要求しておる趣旨でございます。
  150. 横山利秋

    ○横山委員 つまり「直接」というのは、速やかにかつよそを回っておらぬで真っすぐに、ストレートに行け、こういうことであって、検察官が自分で連れていけという意味ではない、こういう意味ですか。
  151. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 そのとおりでございます。
  152. 横山利秋

    ○横山委員 はい、わかりました。  その次は、第八条の「二十四時間以内」、第九条の「二箇月以内」という項目がありますね。「二十四時間以内に審査の請求をしなければならない。」それから九条では、拘束を受けてから「二箇月以内に決定」をしなければならないとありますが、こんなことを書いたところで、二十四時間以上たったら、二カ月以上たったら逃亡犯罪人は白紙になる、釈放するということでもありますまいに、この「二十四時間以内」「二箇月以内」というのは何のために書いてあるのか。速やかにというなら話はわかるけれども、ここまではっきり書いてたら、二十四時間以上たったら、二カ月以上たったらもう本人は釈放してもいいという意味があるのですか。
  153. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 まず第八条の「二十四時間」の方でございますが、これは身柄の拘束を受けるという状態に至ったわけでございますから、犯罪人の人権の保障の観点からもなるべく早く裁判所の審査手続を始めるべきである、何ほどの時間が適当かというのはいろいろな考え方があると思いますけれども、もうすでにして法務大臣一定の判断を経ておりますし、それから東京高等検察庁におきましても一応の資料外国政府から外交ルートを経由して入手しておるわけでございますから、一日いわゆる二十四時間という期間があれば審査の請求は当然できるわけでございますので、なるべく短い時間ということで「二十四時間」としておるわけでございます。二十四時間以内に審査の請求をいたしませんと、審査の請求が不適法であるということで却下されることになるのではないかと思います。  それから、第九条の東京高等裁判所は「おそくとも、拘束を受けた日から二箇月以内に決定をするものとする。」ということでございまして、これは明らかに訓示規定でございまして、逃亡犯罪人引き渡しを迅速化するためになるべく短い期間で審査をしてもらいたいという観点から「二箇月以内に決定をするものとする。」というたてまえとしての条文を置いておるわけでございます。
  154. 横山利秋

    ○横山委員 第十条の一項の一、二、三、東京高等裁判所の審査結果ですが、一番の「審査の請求が不適法であるときは、これは却下する決定」二番は「逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合に該当するときは、その旨の決定」三番は「逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当するときは、その旨の決定」この決定は、裁判所の決定に対する異議申請あるいはまた政府裁量権、要するにこの一、二、三号の効力というものをどう考えたらいいのですか。
  155. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 第十条第一項第一号の決定は、形式的な裁判でございますから余り問題はないと思いますが……(横山委員「問題ないというのは異議申請ができるのですか」と呼ぶ)後で申し上げます。第二号は「逃亡犯罪人を引き渡すことができない」という決定でありますから、逃亡犯罪人にとって争う実益がございません。第三号は「逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当する」という判断を示すわけでございますが、最終的な判断は第十四条によりまして、法務大臣がさらに引き渡すごとが相当であるかどうかを判断して実際の決定が行われることになっております。したがいまして、この第十条の東京高等裁判所の決定の段階につきましては、これを争う道を開いておらないことはごらんのとおりでございまして、この点については、争うとすれば第十四条の法務大臣の命令の段階で不服を申し立てる、こういうことになろうかと思います。
  156. 横山利秋

    ○横山委員 この東京高等裁判所の審査決定に基づく異議申請も、第一号については可能だけれども、二号、三号はだめだと言いながら、三号で引き渡すことがいいと言っても、法務大臣がさらに、おれはいかぬと言えばしまいだ、こういうわけですね。その辺も、何のためにこんなことを、むずかしいことを決めておいて、また最後になると、だめと、知恵のある人間か引き渡したくない人間か知りませんけれども、ようまあこうも条件をつくるものだなと思います。  十四条の法務大臣の命令です。ここにも「十日以内に前項の規定による引渡の命令がないときは、直ちに、拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人を釈放しなければならない。」とあります。第三項に、法務大臣が「引き渡すことが相当でないと認める旨の通知をした後は、当該引渡請求につき逃亡犯罪人の引渡を命ずることができない。」とありますね。ここでまた法務大臣が最終判断をするわけですが、この最終判断——裁判所が渡してやってもいいと言うにかかわらず法務大臣が、いや渡すなということを考えるその要件はどういうことがありますか。
  157. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 裁判所がその者を引き渡してよろしいというふうに言うわけではなくて、引き渡すことができる場合に当たるということを認定するわけでありまして、最終的には、先ほど来申し上げておりますように行政権の権限と責任において渡すわけでございますので、裁判所の判断があったことを前提にして法務大臣は再度の考案をする。再度の考案の中身としては、引き渡し請求があり、これを東京高等検察庁に審査請求を指示した時点から後の事情の変更等もございますでしょうし、それから、その間に判明した諸事情によって、改めてこの者については引き渡すことが相当でないと認めるような事実関係が出てきたというような場合のことをおもんぱかって、最終的にもう一回法務大臣が判断する、こういうことになっておるわけであります。
  158. 横山利秋

    ○横山委員 苦情ばかり言ってもしようがないから次へ入りますが、十五条で聞きたいことは「引渡の期限は、引渡命令の日の翌日から起算して三十日目」である、三十日たっても請求国が受け取りに来なかったらそれは釈放する一ここでは三十日がぴしっと生きるのですか。  それからその次に「引渡の場所は、逃亡犯罪人拘禁許可状により拘禁されている監獄とし、」とありますが、監獄ばかりではなく、拘禁されない逃亡犯罪人がおるわけですね、検事長が認めて。それにもかかわらず、ここで法律的に、逃亡犯罪人引き渡しの場所は監獄だと言うのですから、勾留しないで普通の家に許可されて住まっている逃亡犯罪人も、わざわざまず監獄へ行って、監獄でなければ引き渡さない、こういうふうに解釈をすべきですか。
  159. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 十七条の二項というのがありまして、法務大臣から引き渡しの命令を受けますと、東京高検検事長は、ただいま御指摘のような、いわゆる在宅の形になっておる逃亡犯罪人については、まずもって拘禁をするわけであります。その拘禁された監獄で引き渡す、こういうことになっております。  それから、三十日を経過しましても引き取りに来なければ当然釈放されて、手続は終わります。
  160. 横山利秋

    ○横山委員 大騒ぎをして渡すか渡さぬかを決めておいて、そして渡すとなって監獄で待っておったら取りに来ない、おまえはもう用済みだ、まあ釈放してやれ——あほみたいな話ですが、これが法律ですかね。これは、引き取りに来ない方が悪いということになるわけですか。  それから、いまの在宅におる人間を、どうしても監獄の中でなければ引き渡さぬ、監獄のところへどうしても持っていって、監獄でなければ引き渡さぬ——そんなもの、在宅で東京におるのだから、本人は逃げやせぬのだからそこで引き渡してくれと言っても、いかぬ、監獄へ行け監獄へと、どうしてそんなやぼなこと言うんでしょうね。
  161. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引き渡し外国請求してきたわけでありますから、引き取りに来ないということはそもそも考えられないことでありますけれども、もし万一にも取りに来なければ、人権保障の観点から三十日で釈放するということを申し上げたわけでございまして、いままで実例が一件もありませんから何とも申し上げられませんが、必ず取りに来るのじゃないかというふうに思います。  それから、引き渡すときには、やはり身柄を拘束した状態で相手引き渡し相手国官憲身柄を拘束された状態で引き取って本国へ連れて帰る、こういう手続を、引き渡しを考えておりますので、したがって、すべて拘束をした状態で、あるべきところに置いておく、こういうことを考えておるわけであります。
  162. 横山利秋

    ○横山委員 そんなやぼなこと言わなくたって、監獄でなくたって、本人の在宅を認めておって、そのまま、ちゃんと責任者がおるのだから、ここで引き渡してくれと言っても、だめだ、監獄でなければ引き渡さぬというので、仕方がない、監獄へ行った。監獄で待っておったら取りに来やせぬ。人をばかにしておるじゃないか、勝手にしやがれ、こっちもやるべきことはやったから、おい、おまえ、どこへでも行って遊んで来い、後は野となれ山となれだと。何だか、私は考えておるうちにあほらしくなってきたわけでありますがね。  二十二条、二十三条、仮拘禁の方へ入りますが、拘禁と仮拘禁との違いを簡潔に言ってください。
  163. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 拘禁と申しますのは、私ども仮拘禁と区別するために俗に本拘禁と言っておりますが、本拘禁の方は、引き渡し請求があってから初めて始まる手続でございます。これに対して仮拘禁の場合は、引き渡し請求を間もなくいたします。その前提として、とりあえず仮に拘禁しておいてください、こういう請求に対してこたえるためのものでございます。したがいまして、本拘禁の場合は、先ほど来申し上げておりますように犯罪人所在がある程度把握されておることが前提になるわけでございますが、仮拘禁の場合は、もう少し緩やかに考えてよろしいのではないかと思っております。すなわち、その者がわが国ならわが国に潜入する可能性が相当大きいとか、あるいはわが国に隠れておる可能性が相当大きいというような段階で、仮拘禁請求をするということも運用としてはあり得ることではないか、かように考えております。
  164. 横山利秋

    ○横山委員 これは、引渡し条約がなければ仮拘禁は認められないのですね。
  165. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 現行法のもとではさようでございます。したがいまして、今回の改正によりまして、引渡し条約の存在しない国からの請求でありましても、相互主義保証等がなされれば、できるようにしたい、こういうわけでございます。
  166. 横山利秋

    ○横山委員 そこで、引渡し条約に基づかない相互主義、または同種の請求に応ずべき旨の保証があればということなのですが、この仮拘禁に関する運用はどういうふうにお考えになっておられるかということであります。たとえば、先ほど赤軍派は政治犯罪とは考えないということを午前中におっしゃったですね。これには、理論上だけ考えますとずいぶん議論があると私は思うのですが、政府過激派、赤軍派は政治犯罪でないとすれば、赤軍派の各国におる者に対して、この改正法の二十三条の二項を適用して仮拘禁の要求をする場合があり得るわけですか。
  167. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 仮拘禁の制度を拡充いたしますことの結果、二つのメリットが出てくると思います。  一つは、ただいま御指摘の赤軍の問題を例にとりますと、従来わが警察はICPO、国際刑事警察機構を通じて青色手配というのをやっておるわけであります。青色手配と申しますのは、その者についての情報を知らせてくれという手配であります。しかしながら、わが国に仮拘禁という制度がございませんから、それらが立ち回りそうな国に対しても、見つけたら仮拘禁をしてくれという要望ができないでおったわけであります。ところが、今度法改正ができますと、その意味の仮拘禁についての相互主義保証ができますので、たとえばヨーロッパ諸国等が、わが国がなします相互主義保証によりまして仮拘禁をしてくれるということがあり得るわけでございます。  それからもう一つメリットとしては、たとえばバーダー・マインホフというような者がわが国へ潜入する可能性が濃いというような場合がございますれば、西ドイツからわが国に対して、見つけ次第仮拘禁をしてほしい、追いかけて引き渡し請求するから、こういうことの申し入れがあれば、相互主義保証があることを前提にこれに応ずることができる、こういう二つのメリットが生じようかと思っております。
  168. 横山利秋

    ○横山委員 まだ二十三条に入ったばかりでありますが、まだ時間が大分かかりそうでありますから、一応後のことは、時間があればまた取り上げることにいたしまして、次に、別なことについて伺います。  先日新聞を見ましたら、アメリカから、日本における難民の扱いは不親切であるということを非難する記事が載っておりました。私もベトナム難民を初め、午前中にも入管局長から答弁がありましたように、亡命者保護法、人権条約あるいは難民条約等についてこれを推進をしてきた者として、事情のいかんにかかわらず、米国から、日本の難民の取り扱いが非常に不親切であるという指摘を受けておることは大変遺憾なことだと思っておるのであります。つい数日前、ベトナムから五十何名の人たちが日本の漁船に救われて日本へ入国をしたという記事が載っております。この難民について先般取り上げました際には、主管大臣がはっきりしないので、総理府が関係各庁を集めて相談をいたしたということになっておるわけですが、現在、日本に庇護を求めてきた難民について、基本的に日本政府はどういう態度であるか、まず、難民に対する基本的な方針を聞きたいと思います。
  169. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 わが国がとっております難民に対する対策は、すでに御承知だと思いますが、やはり人道的立場でこれをできるだけ受け入れる、そして国連の難民高等弁務官と相談をして、後の処理をする、こういうことにしておるわけでございますが、ただ問題は、日本にずっと定住させるか否かというところに問題があるわけでございます。御承知のように、非常に狭いところに人口の多い国で、しかも社会生活が激烈といいますか、競争が非常に激しいところで、ああいうベトナムの人のような方々がちゃんと職について安住の地を得られるかどうか。日本はアメリカその他の広大な国とは違って、そういうところに問題がある。それで、難民の人をここに受け入れて定住をさせて、かえってそれが幸せであるかどうか、そういうところで検討に悩んでおるというのが実情でございまして、できるだけ難民高等弁務官と連絡をしながら、行く先が決まればそちらに移ってもらう、こういうことを現在しておるわけでございますが、今後のそういう定住の問題等については、いまお話しのように、総理府に特別対策室をつくって検討を進めておる、こういう実情でございます。
  170. 横山利秋

    ○横山委員 では総理府、おいでになっていますか。現状における難民対策は、具体的にはどういうふうになっていますか。
  171. 黒木忠正

    ○黒木説明員 御説明いたします。  先ほど先生からお話がございましたように、昨年外国、特に米国等から日本の難民に対する対策が冷たいのじゃないかというような話も現にございました。たまたまわが国におきましても当時約八百数十名の難民がおりまして、これに対しまして国としても難民の援護を行うべきであるという機運がございまして、昨年の九月二十日でございますが、閣議了解に基づきまして、制度的に申しますと、内閣に連絡会議というものを置き、かつ総理府の中に対策室を置いて難民の問題に対処する、こういうことになったわけでございます。  ただいまの内容につきましては、一つは難民の収容施設についてその確保に努める。それから緊急に医療を要するような場合の措置を講ずる。それから難民に対する職業技術訓練の供与についても検討を行う。それから、これらの施策の実施に当たりましては、赤十字等関係団体の協力を得て円滑な運営を図る。当面の問題としてこのような方針を定め、そのような作業を進めてきているわけでございます。そのほかに当面の対策といたしましては、国連に対します難民関係の拠出金の問題につきましても今後積極的に国連に協力するということと、難民の本邦における定住等の問題については引き続き今後も検討するということでございますが、この点につきましては、いま法務大臣からお答えがございましたように、非常に広範にわたる問題がございまして、目下検討中である、こういうことでございます。
  172. 横山利秋

    ○横山委員 わずかいま七百名や八百名の難民に日本政府外国政府から冷たいじゃないかと言われることは、大変心外だと私は思うのです。なるほど国土は狭いし、人口は多い。けれども、七百名や八百名の難民、緩和すればふえるかもしれませんけれども、いずれにしてもそれだけの容量が日本政府の中にないというのは気の小さな話だと私は思います。難民対策についてさらに格段のひとつ配慮を要望したいところであります。  入管局長にお伺いいたしますが、午前中政治亡命者について話を聞きました。法務大臣は、亡命者保護法案というものは現段階においてはまだいいじゃないかというお話でございます。実際問題としては、亡命をしてきておる人間がもうすでにあり、そのように出入国管理令によって措置されておると思うのでありますが、実際にいま日本に事実上の政治亡命者はどのくらいいますか。
  173. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 政治亡命者の定義がまたなかなかむずかしいのでございますが、われわれがこれを政治亡命者と認めているか認めていないかということではなしに、本人が私は政治亡命したとか、政治亡命したいのです。政治亡命という形で日本におらしてください、こういう本人の申し立てがあって、いまいるという人ですね、これは大体十五名でございます。
  174. 横山利秋

    ○横山委員 国籍別に言ってください。
  175. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 大体ほとんどが韓国から来た人でございます。
  176. 横山利秋

    ○横山委員 私はそうだろうと見ておるわけですが、日韓の関係から言ってわりあいに政府が憶病でありますけれども、政治亡命にしろ逃亡犯罪人にしても、実はこれから適用すれば日韓が一番多くなると私は思っているわけです。ところが、何となく臭い物にふたをするような感覚で、日韓の問題については双方とも余り法律的、公式的にきちんとした規制をしない。何となくこそこそやっておるという感じがしないではありません。いまの入管局長の話によれば、本人が言っていることでわれわれが政治亡命者と考えたわけではないと言われますけれども、そういうことを本人が言った、うそか本当かわからぬけれども、そういうことを言ったので、いろいろ考えてみて、特別在留許可ですか、それを認めておるということは、形式論は別とし、実質論では政治亡命者が日本に大分来ておる。韓国が相当多い。それから同時に、私は日韓関係が潜在的な逃亡犯罪人が一番多いのではないかと思っているわけであります。かたがた、先般同僚委員が取り上げましたけれども、大村収容所に犯罪人を送って、強制送還を命じてもちっとも取りに来ない。余り長いので釈放してもらいたいというのが私どもの言い分でありますが、それ以前に韓国政府が少しも取りに来ないということについては、日韓関係のこの種の問題についていささか適正を欠くということが痛感されるわけでありますが、司法問題を中心にして法務大臣は韓国政府とひとつ話し合いをいろいろな角度でなさる必要はありはせぬかと思うのですが、どうですか。
  177. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 事、外交に関係があると思いますから法務大臣が直接やるというのもどうかと思いますが、これは外務省、外交の方でよく調整をしなければならぬ問題だと思います。
  178. 横山利秋

    ○横山委員 しかし、重ねて、なんですけれども、司法関係の問題が実は日韓関係として一番重要な問題だと思って見ているわけです。だから、外務大臣がやるにしても、法務大臣から外務大臣に、おれのところの商売と言っては悪いけれども、おれのところの仕事で日韓関係が一番どうも歯切れが悪い、密入国は山ほどやってくる、日本海の水際で入国管理事務所の入国審査官がぱらぱらっとおって、イナゴの大群を一つ一つつぶそうと思ったってつぶせはせぬ、もう少し密入国もおまえの方で何とか警備も厳重にしてもらいたい、大村収安所は受け取ってもらいたい、それから政治亡命者がおるが、少し考えたらどうかとか、逃亡犯罪人がたくさんやってきておるのだけれどもどうなんだということは、いま経済問題はいいですが、司法問題、あなたの所管の問題が一番臭い物にふたで、そしてちっとも問題が解決しないということなんですから、法務大臣から外務大臣に、日韓に関する司法関係の問題を少しきちんとするように言ったらどうでしょうか。
  179. 吉田長雄

    ○吉田政府委員 先生のただいまの御指摘の点でございますが、これは法務省と外務省と事務当局同士で相談をいたしまして、現に一昨年から韓国側の実務者と両国の実務者会談というものを非公式にやっております。ただいま先生のおっしゃいました密入国がなかなか韓国から多いのでございますが、この点についても韓国政府側に、向こうから言いますと密出国ですが、これを厳重に取り締まってもらいたいという要請もいたしておりますし、また、現在大村なんかに韓国が引き取らずにおられる人々というものも、日韓条約及び地位協定に基づいてできるだけ速やかに引き取っていただきたい、こういう話し合いも現に行われております。これがなかなか時間がかかっておる現状でございますが、できるだけこの実務者会談をまとめていきたいというつもりで、外務省とも協力の上、今後も努力いたす所存でございます。
  180. 横山利秋

    ○横山委員 そういう局長の言う実務者会談は三年も前から私は聞いておるのです。それが少しも進展をしないと言っては失礼だけれども、実務者には実務者の限界があると私は思うのです。ですから、それをバックアップする意味において、もう少し大臣クラス、ハイクラスの会談を、もっと効果あらしむるように外交ベースで即刻申し入れたらどうかというのが私の意見なんですが、法務大臣どうですか、ひとつ決断を……。
  181. 瀬戸山三男

    瀬戸山国務大臣 外交関係でも実務的にずっと詰めていって処置をするわけでございますから、いま申し上げたようなことを進めておるわけでございますが、おっしゃるように外務大臣ともよく相談をいたしたいと思います。
  182. 横山利秋

    ○横山委員 外務省にお伺いいたしますが、これは旅券の関係だからちょっといらっしゃる方とは違うかもしれませんが、法務省にも関係をいたします。  今度日米関係は一年以上、条約がないところは三年以上ということに逃亡犯罪人の法律はなったわけですが、旅券法では二十三条で「次の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」そして「この法律に基づく申請又は請求に関する書類に虚偽の記載をすることその他不正の行為によって当該申請又は請求に係る旅券又は渡航書の交付を受けた者」つまり旅券申請にうそのことを書いたり、不正の行為請求をした者は三年以下の懲役または十万円以下の罰金に処する。二十四条では「前条の規定は、国外において同条の罪を犯した者にも適用する。」となっているわけであります。私が去年からやかましく言っておる原理運動の問題ですが、渡航目的は観光として旅券の交付を受けて、そして向こうへ行ったら居座る、あるいは向こうで今度こういう商売をやりたいから滞在目的の変更申請をするということが普遍的、一般的なんであります。そこで先般、アメリカの移民局では、そんなことは許さぬ、強制送還する、強制送還がいやだったら自費で帰れということで大分帰ってきたわけであります。しかし、この間の本委員会で私がまた言いましたように、集団結婚の可能性があって、香港へ行くという申請になっておるわけであります。内では結婚だと言っておるが、申請は観光ということで申請をしておる模様であります。この統一教会の海外渡航の旅券申請は、申請または請求に関する書類がほとんど虚偽の記載をしておるというのが歴然でございますが、この問題は、本法案によって日米犯罪人引渡し条約が一年以上ということになるのでありますから、旅券法違反で向こうへ行くということになれば、当然新法が適用される、こういうふうに理解してよろしいですか。
  183. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 わが国の旅券法二十三条違反の点については御指摘のとおりでありますが、米国におきましては、連邦法典によりまして旅券の虚偽申請が五年以下の拘禁等になっておりますので、相互可罰性がある。したがって、御指摘の原理運動の場合にわが国の旅券法違反の虚偽申請が成立するかどうかは、私具体的事情がわかりませんからお答えできませんけれども、わが国の旅券法違反の虚偽申請罪が成立するものという前提に立ちますれば、新条約の適用があろうと思います。
  184. 横山利秋

    ○横山委員 外務省、きょうは条約課長、領事二課長ですか、この点は旅券課長にひとつおことづけを願いたいのであります。要するに、私は統一教会の違法、不当、人権じゅうりんのありようを指摘してもう二年になるわけであります。旅券課長もその点はよく承知をしておられて、渡航申請があった場合には十分親子の話し合いをさせるようにする、また旅券法違反の状況がわかればそれについて十分念査する、こういうことでありますから、今後この申請があって、そういう疑いがある場合においては旅券法の罰則並びに逃亡犯罪人引渡し法の新法の説明もしてもらって、そして相手に反省を与えるようにひとつおことづけを願いたいと存じます。
  185. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 ただいま御発言の趣旨は、外務省の旅券課長に必ず十分伝えることをお約束いたします。
  186. 横山利秋

    ○横山委員 二十四、五条以降がまだ大分残っておるわけでありますが、余りにも私だけが時間をとりましては恐縮でございますから、一応私の質問は終わることにいたしますが、先ほど保留いたしました政治犯罪の解釈並びに米軍に関する資料は別途御提出を本委員会に願いまして、その中で若干の質問がもしありましたならばお許しを願いたい。以上であります。
  187. 鴨田宗一

    鴨田委員長 飯田君。
  188. 飯田忠雄

    ○飯田委員 逃亡犯罪人引き渡しに関しまして、少しく問題点を法務大臣、法務省、外務省並びに検察庁の方にお尋ねをいたしたいと思います。同僚議員から大変詳しい質問がございました後ですので、私問題を整理しましたけれども、あるいは重複することがあるかもしれませんが、お許しを願いたいと思います。  まず最初に、外務省にお尋ねをいたします。犯罪人引渡条約は今日までわが国とどの国との間で締結されてまいったのでございましょうか。あるいは廃止になったところもあると思いますが、そういう点につきましてもお教えを願えればありがたいと思います。  また、現在はどこの国と締結されておるか、この問題についてお尋ねいたします。
  189. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 現在わが国が結んでおります犯罪人引渡条約は、現行日米犯罪人引渡条約が唯一の例でございます。  なお、過去に帝政ロシアとの間で犯罪人引渡条約が結ばれたことがございましたけれども、この条約は、現在は効力を有しておりません。
  190. 飯田忠雄

    ○飯田委員 私の方へいただきました資料によりますと、現実にはわが日本から要求しました事件アメリカ合衆国四件四人、それ以外の国が六件七人、このようになっております。また、そのほか、外国からわが国に要求した事件が八十三件九十一人、このように多数の事件がいままであるのでございます。しかも、それは、わが国アメリカ合衆国との間の問題だけではない、このようになっております。また、諸外国逃亡犯罪人引渡し法を有する国は、仮拘禁で十一、通過護送で十と、こうなっておりますし、犯罪人引渡に関するヨーロッパ条約もある、こういう資料をいただいております。  これで見ますと、こうした逃亡犯罪人引き渡しに関する要望は、各国とも相当強く持っておるように思われます。また、わが国もそのような希望があるように認められますが、わが国との間でこうした多数国間の条約ができない理由はどういうところにございますか。その根本的な理由お尋ねいたします。外務省お願いします。
  191. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 わが国といたしましては、犯罪人引渡し条約締結に当たりましては、相手の国との間の人の往来がどの程度頻繁であるか、つまり犯罪人引き渡しを要求する必要性が生ずる可能性がどれほど大きいかという点、それから次に、相手国の法制がわが国の法制と同じように民主的なものであるかどうか、第三点といたしまして、相手国犯罪人引渡し条約がなくても犯罪人を引き渡せる体制になっているか否か、この三点を勘案しながら締結相手国を拡大していきたいという方針でございます。  現在までのところ、その方針に基づきまして、米国との間で、若干現状には即さなくなりました現行の古い条約を新しくするのが急務であると考えまして、改正の新犯罪人引渡し条約署名をしたわけでございます。したがいまして、現在のところ、若干の国からわが国との問で犯罪人引渡し条約を結びたいという申し入れはございますけれども、実際の交渉というのは、米国以外の国とはまだ行われておりません。
  192. 飯田忠雄

    ○飯田委員 憲法によりますと、国際協力ということを大分書いておりますね。前文にもあります。これからは争うのではなしに協力してやっていこうという思想があらわれております。総理大臣も協調と連帯ということをしょっちゅうおっしゃられるのですが、これは憲法の根本精神だと思います。にもかかわらず、外国の方で逃亡犯罪人の問題について何とか条約を結びたい、こういう希望がある、わが方もあるということになっておりながら、しかもこれができないのは、双方にこれをやろうという努力がないのではないかと思われますが、いままでわが外務省としまして、外国とこういう条約を結ぼうという話し合いは、過去においてどのぐらいなされたのでございましょうか、お尋ねいたします。
  193. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 逃亡犯罪人引渡し条約締結国を拡大したいというのが政府の方針でございますが、現在までは、ただいま申し上げましたように、米国との間で新条約締結することが急務であるという立場から、その交渉に努力を集中しておりましたので、ほかの国との間では、申し入れを受けたことはございますが、それ以上に進みまして具体的な話し合いというのは行い得なかった状況でございます。今後、この日米犯罪人引渡し条約が発効いたしました後には、先ほど申し上げました方針に基づきまして、どのような国と具体的に交渉を進めていくべきかということを検討することになるかと存じます。
  194. 飯田忠雄

    ○飯田委員 外務省がいままで余り努力をなさらなかった背景には、そういうことをやればかえって国内的にめんどうな問題が起こる、だからやめておこうという、そういう国内的な方面からの圧力はあったかなかったか、どちらでしょう。
  195. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引渡し条約と申しますのは、ただいま種々御審議をいただいておりますところからもおわかりのように、両締約当事国の間で、法律制度あるいは刑罰体系、こういうものを初めとしまして、詰めるべき要素が非常に多いわけでございます。したがいまして、もちろん条約でございますから主管は外務省でございますけれども、実質的には私ども法務省が相手国の当該部局と、事前の根回しと申しますか、これを十分遂げなければならぬ、こういう性質の条約ではないかと思うのでございます。そういう意味におきまして、私ども法務省といたしまして、先ほど外務省からも御答弁がありましたように、とりあえず条約がなければ引き渡しをしないことにしている国でございますアメリカとの間をまずやろうということで専心しておったということで、その他の諸外国との間の根回し作業がややおくれておるわけでございます。この点につきましても、このたび予算の成立とともに刑事局に国際犯罪対策室ができまして、条約等の勉強その他につきましての機構とスタッフがそろいましたので、鋭意検討して、根回しのできたものから外務省とお話し合いをして、本当の意味の外交交渉に移す、こういうふうにしてまいりたいと思っておるところでございます。
  196. 飯田忠雄

    ○飯田委員 よくわかりました。  それでは、次に警察庁にお尋ねいたします。  犯罪捜査に関する国際協力機構、ICPOというのがあるということを聞いておりますが、これはどういう機関でございましょうか。
  197. 水町治

    ○水町説明員 ICPO、日本語で申しますと国際刑事警察機構でございますが、これは、犯罪捜査に関しまして各国警察間の協力確保及びその推進を目的とした組織でございます。現時点において百二十六カ国が加盟しておるわけでございます。目的は、憲章によりますと三つございますが、一つは「加盟各国の国内法の範囲内で、かつ、「世界人権宣言」の精神にもとづき、加盟各国刑事警察相互の最大限の協力確保し、及び推進すること」以上が第一点でございます。第二点は「犯罪の予防及び鎮圧に効果があると認められるあらゆる制度を確立し、及び発展させること」第三点は、ICPOは「政治的、軍事的、宗教的または人種的性格をもつ干渉または活動をしてはならない」こと。以上三つの目的を有しているわけでございます。
  198. 飯田忠雄

    ○飯田委員 このICPOは、逃亡犯罪人引き渡しに関しても関係を持ちますか、持ちませんか。
  199. 水町治

    ○水町説明員 ICPOの組織と逃亡犯罪人引渡し条約との法律上の関係は直接ございません。しかしながら、事実上の問題といたしまして、ある逃亡犯罪人がいるという場合におきまして、その所在を捜す、あるいはその人定を確かめる、そういう作業はICPOルートを通じて行う場合もありますし、外交ルートを通じて行う場合もあります。したがいまして、逃亡犯罪人引き渡しの前段階、それからその後の段階、途中の過程におきましても、ICPOルートを活用し捜査資料の交換等を行うということでございますので、事実上の関係はあると承知しております。
  200. 飯田忠雄

    ○飯田委員 アメリカ合衆国との間では逃亡犯罪人引渡しに関する条約がございますが、それ以外の国ではない。ない場合に、ICPOの機構を通じて、実際上そうした業務をやってしまうということは不可能でございますか、それともできるのですか。
  201. 水町治

    ○水町説明員 現在やっておりますことを御説明申し上げますと、一般的に犯人が逃亡したという場合に、ICPOルートあるいは外交ルートを通じまして、その外国の警察の協力を得まして被疑者の所在を確認いたします。確認いたしました後に、幾つかの手段によりまして、その被疑者を日本に取り戻すと申しますか、引き渡しを受けるという手続をとるわけでございます。  いろいろな手続がございますが、第一には、逃亡犯罪人引渡し条約によって身柄引き渡しを受けるという場合もございます。あるいは発見国の逃亡犯罪人引渡法によりまして、その手続によりまして身柄引き渡しを受けるという場合もございます。あるいは、その被疑者が当該外国法令に基づきまして国外退去の措置がとられるという場合におきまして、外交ルート、またはICPOルートを通じましてわが国にそのことが通報されまして、わが国裁判所発付いたしました逮捕令状によってその者を逮捕するというケースもございます。あるいは、わが国の在外公館員等の説得によって被疑者本人が自発的に帰国をする、その帰国を待って逮捕するという場合もあります。いろいろなケースがあるわけでございます。
  202. 飯田忠雄

    ○飯田委員 大変ありがとうございました。  では次の問題に移ります。このたびの改正法の提案理由の御説明の中で、次のようなことがございました。国際犯罪が増大し、犯罪者国外逃亡事例がふえつつある今日、犯罪人引き渡しに関する国際的協力を一層推進する必要がある、こういうふうにおっしゃったのでございます。これはもっともなことだと思いますが、そこで次のことをお尋ねをいたします。  「引渡犯罪」の定義といたしまして「請求国からの犯罪人の引渡しの請求において当該犯罪人が犯したとする犯罪」そういうものを引き渡し犯罪と言うのだと書かれております。この定義において言われておりまする「引渡犯罪」という言葉は、その定義だけを見ますと、請求国における刑罰法令違反となる犯罪のように読めます。日本国では別に犯罪ではなくても、請求国犯罪であればそれを引き渡すことは差し支えないというように読めるような定義になっております。また、そういうように読んだ方が、日本国憲法の考え方からいいますならば妥当ではないか、相互主義保証要件とすれば、わが国刑罰法に書いてない犯罪であっても、請求国犯罪であれば協力して引き渡すのが国際協調主義から言って妥当ではないか、このように解されるのですが、その点につきましての法務省の御見解をお尋ねいたします。
  203. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引渡法で使っております「引渡犯罪」という言葉は、ただいま御指摘のとおり、請求国において犯罪とされるもの、これを言っております。そういう引き渡し犯罪については、第二条各号などに掲げますような条件に当たらない限りは引き渡す方向で検討する、これが引渡法の考え方でございます。
  204. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは次にお尋ねいたしますが、逃亡犯罪人引渡法の二条五号には、引き渡し請求のあった犯罪について、もしそれが日本国内で行われたならば、日本国刑罰法規の適用をして刑罰を科し得る場合でなければ逃亡犯罪人引き渡しをしてはならない、こうあります。つまり、請求国犯罪であることはもちろんなんだが、同時にそれと同じような行為が日本で行われた場合に、日本の刑罰法令にも違反することになる、そういう事件についてでなければ逃亡犯罪人引き渡しをしてはいかぬ、こういうふうに規定されておりますが、この規定は、外国犯罪人を仮拘禁して引き渡すという司法共助についての重大な制限を設けるものであるように思われますが、この点はいかがかと思いますのでお尋ねいたします。この規定もやはりナショナリズムを根拠に置いたものであるのかどうか、あるいはそうじゃなくて、何かそうしなければならぬ特別の要請が国家的にあるのかどうか、この規定を置いた根本的な理由お尋ねをいたします。
  205. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 確かに逃亡犯罪人引き渡しというのは、広い意味の司法共助の一環でございまして、なるべくこれが広範囲に行われることが望ましいということは言うまでもありません。しかしながら、引き渡しによって行われます事柄と申しますものは、現在わが国に存在する者を強制的に外国へ連れていってもらう、こういう手続でございますので、やはり日本国民の一般的な感情というものも尊重しなければならないのではないか。そういたしますと、たとえば、仮に請求国においては犯罪であるとしましても、日本でその罪を裁こうとするともう時効になっておるとか、あるいはそういうものはわが国の法律では責任能力の問題があって有罪にならないというような場合であっても、外国には責任無能力でも刑罰を科してもいいというような規定があるというような場合を想定いたしますと、そういう場合にもこれを強制的な力で外国引き渡してしまうということにつきましては、やはり国民感情の上から常識的に割り切れないものを感ずるのではないか。その辺を考慮いたしまして、双方処罰の原則とでもいいますか、そういう意味でこの五号を置いておるわけでございます。
  206. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは次の問題をお尋ねいたしますが、逃亡犯罪人引き渡しにつきまして、日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約、こういう条約がございますが、この条約の第二条一項におきましては、次のように言うております。「両締約国法令により死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものについて」こうなっております。ところが、わが国逃亡犯罪人引渡法では、請求国の法律では長期三年以上の拘禁刑に当たる罪でありましても、日本国の刑法では長期三年以下の懲役、禁錮に当たる罪であるならばこれは引き渡し犯罪としない、こういう規定になっておりますね。そこで、この刑罰条約と法律で違ってきておるわけなんです。条約の方では長期一年を超える拘禁刑わが国の法律では長期三年以上の懲役、禁錮、こうなっております。そこで、こういう違いが生じてまいりました理由は一体どこにあるのだろうかということを私は大変不思議に思うわけでございます。  それで、条約の付表を見てみました。条約の付表に掲げられた犯罪を見てみますと、日本刑法で長期三年未満の刑罰のものを掲げられておるわけですね。これは当然そうだと思います。条約では長期一年となっているのですから。そうしますと、引き渡し犯罪として付表に掲げられている犯罪でありましても、日本国逃亡犯罪人引渡法という法律によって、日本国の一方的な行為によって、その条約を制限していってしまっているということが起こるのでございますが、こういうことにしなければならぬ実質的な、根本的な理由というのは何でございましょうか、お尋ねいたします。
  207. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引渡法の第二条の第四号あたりに定めておりますのは、引渡し条約の存在しない相手国との間の引き渡しの場合に適用されるものとして規定が置かれておるわけでございます。  引渡し条約が存在しない国に対してどの程度のものを引き渡したらいいかということにつきましてはいろいろ考え方があると思います。余り軽微な犯罪についてまで引き渡すということになりますと、引き渡される者の人権に影響を及ぼしますし、また仮にわが国がそれらの国へ引き渡しを求める場合も、そう軽微なものについて多額の国費を使用したりなどいたしまして引き渡しを求めるということも、現実には余り考えられないことでございます。それらを勘案いたしまして、わが国の現在の法律体系で比較的重い罪と軽い罪に分けますと、長期三年以上というところが、たとえば緊急逮捕の要件その他のところに出てまいりますように、一応の標準でございますので「長期三年以上の懲役若しくは禁錮」というところで区切っておるわけでございます。しかしながら、第二条の一番最初のところにもございますように、この第四号の規定は「条約に別段の定があるときは、この限りでない。」ということになっておりまして、条約が存在する場合には条約規定が優先するわけでございます。  そこで、今度は日米条約締結に当たりまして、どの程度の犯罪について引き渡しを行うものとするのが相当かということを米側と大いに議論したわけでございます。片方は、わが方の引渡法によれば「長期三年以上」となっており、条約では結果的に「長期一年を超える」ということになっておりますから、日本的に、法定刑が一年何カ月というのが日本にはないわけでございますが、同じような考え方をしますと「長期一年を超える」ということになりますと二年以上の懲役等となります。引渡法は「三年以上」ということで、そこに一年の差ができるわけでございます。この点は、日米間の協力をさらに緊密なものにするという含みが一つと、それからもう一つは、アメリカにおきましては罪の重い軽いを分別します一つの標準として、一年を超えるということが一つの概念としてございますので、ただいま申しますように双方の司法協力逃亡犯罪人引渡法の一般原則よりもさらに緊密にするという観点を含めまして、米側の考え方に歩調を合わせたというのが実態でございます。  なお、御指摘のように、条約の付表の中には一部長期三年以上にならない罪があるわけでございますが、そういうものでありましても、条約の二条一項本文にございますような、付表に書いてあるものであって、かつ「長期一年を超える拘禁刑に処することとされているもの」こういうものについて条約を適用する、こういうことにして締結を見たわけでございます。
  208. 飯田忠雄

    ○飯田委員 私まだちょっと理解がいかぬ点がありますのでお尋ねいたしますが、長期一年を超える拘禁刑に処することとされておる犯罪、それを引き渡し犯罪とする、こういう条約になっていますね。  そこで、それにもかかわらずわが国国内法で長期三年以上の懲役刑、禁錮刑、こういうふうにいたしますが、引き渡し犯罪そのものの判断について条約国内法との間で違いが生じてまいりまして、これが国際法上の争いにならないかどうか、またこういう問題は国内法をつくるときに事前にアメリカ合衆国との問で話が詰めてあるのかどうか、この点について御意見をお伺いいたします。
  209. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 第二条の俗に柱と申します部分を読んでみますと「左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人引き渡してはならない。但し、」といたしまして第三号、第四号等に該当する場合において「引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。」ということでございますので、日米間の逃亡犯罪人引き渡し手続におきましては、第二条の第三号及び第四号は読まないことに法律上なっておるわけでございますから、その部分にかえまして条約の二条一項だけを読んでいく、こういうことでございまして、その辺は米側にも十分理解を得ておりますし、また、ただいま申し上げるような立法的な手当てができておるわけでございます。
  210. 飯田忠雄

    ○飯田委員 刑事局長のおっしゃいますこと、私は頭が悪いのでどうもわからないのですが、二条一項に書いてある「長期一年を超える拘禁刑に処することとされているもの」こういうのが引き渡し犯罪である、こういうことに決めておりまして、これにも例外があるという意味ですか。
  211. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 大変失礼いたしました。法律も条約もどっちも二条でございますので、ちょっとこんがらかったかと思いますが、条約の二条が優先をし、法律の二条の三号、四号、これは条約が存在するときは読まないということが法律の第二条の柱のところに書いてございます。「左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人引き渡してはならない。」ただし第三号、第四号等に該当する場合において「引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。」こういうふうに法律の方で書いております。したがって、重ねて申し上げますと、法律の第二条で引き渡しに関する制限を書いておって、その第三号では、請求国法令によって長期三年以上のものでなければならない、四号で、日本国法令長期三年以上のものでなければならないと書いてありますけれども、第二条の柱のところで、この三号、四号は条約に別段の規定があるときは適用しないことになっております。したがって、条約の二条一項だけを読んで引き渡し犯罪内容を決める、こういうことになるわけでございます。
  212. 飯田忠雄

    ○飯田委員 わかりました。結局要約すれば、アメリカ合衆国との間に結んだ条約については条約の文章でいく、しかし条約を結んでおらぬほかの外国国内法の方でいくよ、こういうことだというふうに理解してよろしいですか。——それでは、次にまた別の問題に移ります。  犯罪人拘禁請求がありました場合に、その犯罪が日本において行われたならば犯罪となる事件であるかどうかという判断、そういう判断を加えた後に、仮に拘禁することができる、規定はこういうことになっております。そこで一つ御質問しますが、あるいはこの点について私の誤解があるかもしれませんけれども、御検討願いたいのです。  憲法の三十三条によりますと、何人も「理由となってみる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」こうありますが、この場合の「犯罪を明示する令状」の犯罪というのは、日本国の国法による犯罪のことではないかというふうに私は思っております。あるいは外国犯罪も含むかもしれませんが、この件についての法務省の御見解を承りたい。  それから、憲法三十四条によりますと、拘禁要件といたしまして、理由の告知、弁護人依頼権を与えること、それから正当な理由、こういうものが掲げられております。わが国で行われていない犯罪で、わが国が裁判管轄権を有しないものについて、これをわが国犯罪とすることができるのかどうか。つまりこれをわが国犯罪として、そういうものに拘禁状を出すことができるのかどうか、憲法上の根拠につきましていささか疑問があるように思いますが、これも憲法の解釈によって変わると思います。しかし、あるように思いますので、法務省の方の御見解あるいは法務大臣の御見解、どのような御見解であるのかお尋ねをいたします。
  213. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 憲法三十三条あるいは三十四条の規定は、わが国における刑事手続に関する基本的な保障を定めた条文でございます。したがいまして、そこに書いてあります犯罪というのは、やはりわが国刑罰法令における犯罪であろうと思うわけでございます。翻って逃亡犯罪人引き渡し手続の性質でございますが、これは行政権限の判断によって行う行政上の手続である。ちょうど似たようなものに入管令による強制退去というのがございますが、そういう手続であるというたてまえでございますから、憲法三十三条あるいは三十四条がストレートに適用されるというわけではない、こういうふうに考えております。しかしながら、外国の刑事手続であるとはいえ、この逃亡犯罪人引き渡し手続は刑事手続につながるものでございますから、やはり引き渡し手続について、憲法三十三条あるいは三十四条の示しておりますような精神と申しますか、そういうものを十分に勘案することは望ましいところであろうと思います。そこで、引渡法におきましては、逃亡犯罪人拘禁につきまして、裁判官のあらかじめ発する令状によって拘禁をする、こういうことにいたして、三十三条あるいは三十四条の精神を勘案したシステムにしておるわけでございますが、ストレートな適用があるというわけではございませんので、必ずしも刑事訴訟手続と同じ程度の丁重さにはなっていない、こういうことでございます。
  214. 飯田忠雄

    ○飯田委員 これは憲法の解釈の問題なので、余りしつこく申し上げることは失礼かと思いますので、簡単にしますけれども、わが国犯罪人でない外国犯罪人外国犯罪人であるのだけれどもわが国犯罪人じゃないのだ、そういう者をわが国の国法で拘禁する。わが国では犯罪人でない者を、それを拘禁する。拘禁ということは、形は自由を拘束することですから、憲法に言う逮捕と同じではないか。逮捕と拘禁というものが主観的要件によって変わってくるだろうかという疑念があるわけです。行政法によりまして立入検査などというものがあります。立入検査は、これは令状主義によっていないけれども、行政行為としてできるんだということが現在わが国では通説になってしまっております。これが憲法違反かどうかは、通説は憲法違反でないということになっておりますが、そういう見解からこの拘禁というものは逮捕じゃないんだ、こういう御見解をとっておいでになるのかどうか、重ねて御質問申し上げます。
  215. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 憲法三十三条に言う逮捕には当たらないというふうに考えております。すなわち行政手続による身柄の拘束でございますので、憲法三十三条、三十四条のストレートな適用はない。しかし、その精神とするところは十分尊重すべきである、かような考え方でございます。
  216. 飯田忠雄

    ○飯田委員 この問題は残しておきます。憲法論争をしましてもしようがありませんので、残しておきまして、次に行きましょう。  次に、逃亡犯罪人かどうかということの認定基準について、法務省と外務省にお尋ねをいたします。  逃亡犯罪人は、引き渡し犯罪について刑事の手続が行われた者を言う、こういうふうに書かれておりまして、ここに言う刑事の手続というのは一体何を言うのかということであります。捜査中であるという通告が外国から来れば、それで刑事の手続があると言い得るのかどうかという問題です。日本国アメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約の第三条を見ますと、「引渡しは、」「被請求国法令上引渡しの請求に係る犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由があること又は 請求国裁判所により有罪の判決を受けた者であることを証明する十分な証拠がある場合に限り、行われる。」こうなっております。この条約による要件とそれから法によるところの要件とを比べてみますと、法による要件の方が、逃亡犯罪人かどうかの認定基準について要件が緩やかになっておるように思われますが、こういうふうにしましたのは、実質上どういう理由から起こったんだろうか。これは実体上の手続の問題であります。この実体上の手続の問題がこのように変わってきたというその根拠について御質問いたします。
  217. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 ただいま御指摘の日米条約第三条は、逃亡犯罪人の定義をしておるわけではございませんで、引き渡し要件定めておるわけでございます。そこで、逃亡犯罪人引渡法におきまして条約三条に照応します部分は、法第二条第六号でございます。第六号は「引渡犯罪について請求国の有罪の裁判がある場合を除き、逃亡犯罪人がその引渡犯罪に係る行為を行ったことを疑うに足りる相当な理由がないとき。」には引き渡してはならないとしておるわけでございまして、そのことは条約三条のただいま御指摘になりました部分とまさに照応するわけでございまして、実体は完全に一致しておるというふうに考えております。  なお、有罪の証明、「有罪の判決を受けた者であることを証明する十分な証拠」というような文言が条約三条にございますが、その点につきましては、逃亡犯罪人引き渡しの審査手続におきましてそのような証明を要することとしておりますので、それらを合わせますと、まさに法と条約とはそのお尋ねの部分については完全に合体しておると思います。
  218. 飯田忠雄

    ○飯田委員 先ほど質問しました問題は、そういうこともありますが、もう一つは、刑事の手続が行われた者を言う、こうされておる。その法に言うておる刑事の手続というのは一体何を言うのかという問題、これはどうでございましょう。
  219. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引渡法第一条四項に申します「請求国の刑事に関する手続が行なわれた」ということは、刑事に関する手続の一部または全部が行われたということでございますから、逮捕状が出ておる者もそうでございますし、公判係属中の者もそうでございますし、また裁判が確定した者もそうでございます。それらをすべて含む趣旨でございます。
  220. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それはそうだと思いますが、それは外国からわが国にそういうことを通告すれば、通告があればそれで証拠があったことにするのでしょうか、それとも何か特別の証拠物を持ってきてやることになるのでしょうか。
  221. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 有罪判決が確定しております場合には、その確定した有罪判決の認証ある写しと、それが確定したものであることを証明する書面、これを要求いたすことになっております。それから裁判確定前の者につきましては、わが国で申しますと、勾留状発付要件に当たる程度の犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由の存在することを疎明いたします関係資料を要求する、こういうことになっております。
  222. 飯田忠雄

    ○飯田委員 これは外務省にお尋ねいたします。別の問題ですが、条約締結国、これも請求国となり得るということになっていますね。そういうことは、国際慣例でそうなっているのでしょうか、それとも国際法の何か別の確立されたものがあるのでしょうか、お尋ねいたします。
  223. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 御質問の趣旨を必ずしも把握しなかったかもしれませんが、日米犯罪人引渡条約におきましては、いずれの締約国請求することができるとなっておりまして、個々の事案につきまして、請求した方が請求国として扱われるという体制になっております。これは、いずれの犯罪人引渡条約においても同じような立て方になっております。
  224. 飯田忠雄

    ○飯田委員 いまお尋ねしましたのは、条約を結んでいない国も請求国となることができるのでしょうね。できないならばできないでいいのですが、できるかどうかをまず外務省にお尋ねしまして、そういうことができるとするとすれば、国際法における根拠は、条約なのか、あるいは国際慣習法なのか、それとも慣例なのか、お尋ねします。
  225. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 日米間の犯罪人引渡条約に基づきましては、日米両国以外の第三国は、請求国となる、つまり引き渡し請求することはできないわけでございます。ただし、国際的にいずれの国も犯罪人引き渡しを要求する権利というのは認められております。その請求を受けた国がその引き渡し要求に応じる義務がないということも、国際法上確立していると存じますけれども、その意味六おきまして、条約規定ということを離れて申し上げれば、いずれの国も犯罪人引き渡し請求をすることができるという点は、これは間違いのないところだろうと存じます。
  226. 飯田忠雄

    ○飯田委員 いまの点につきまして、法務省も同様の御見解ですか、法務省の御見解をちょっと承りたいと思います。
  227. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 逃亡犯罪人引渡法上使っております「請求国」という言葉は、日本以外の国のどの国も請求国たり得るというたてまえで使っております。  なお、条約がない場合の逃亡犯罪人引き渡しというのは、国際慣習法にはまだなっておらない。請求を受けたものがこれを受けるかどうか、受けて引き渡すかどうかは、全くその国の判断にゆだねられておるということでございます。ただ、引き渡し請求があれば、その事柄について一応真摯に検討するという意味において、いわば国際礼譲というような発展段階であるとされておるようでございます。
  228. 飯田忠雄

    ○飯田委員 では、次の問題をお尋ねいたします。  先ほど同僚議員からも大変詳しく御質問になりましたので、重複かもしれませんが、政治犯罪は引き渡さないという規定が法の二条一号にございます。そこで、政治犯罪とは一体どのようなものを言うのかということにつきまして、先ほど刑事局長の御説明で、絶対的政治犯、これは政治的秩序侵害のものである、そのほかに相対的政治犯があって、政治的秩序に関連して普通の犯罪を行ったような場合、こういうものは相対的政治犯というのだ、こういう御説明がございました。私も御説明を聞いて大変感心しております。  そこで、それはそれでいいのですが、政治犯罪かどうかという問題これは現実に、引き渡すか引き渡さないかという問題に関連いたしますので、わが国刑罰法令において具体的にどの罪が政治犯罪に当たるのかという点で問題があるのじゃないかと思います。これもひとつぜひお聞きしたい点なのです。たとえば内乱罪、外患罪、騒擾罪、破壊活動防止法の罪、こういうようなものがありますが、こういうものの該当者を政治犯罪というのかどうか。あるいはそうではなくて、そのほかのまた別の基準があるのかどうか。別の基準があるとすると、それは一体どういうものなんだろうかという点について疑問を持っておるものでございます。御説明願えればありがたいと思います。よろしくお願いします。
  229. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 政治犯罪とは何ぞやということは、常に確定的な定義のない概念であるということはすでにお答えしたわけでございますが、政治犯罪という概念が法律的に意味を持ってまいりますのは、一つ国内法的に申しますと、そういう政治犯罪というものは破廉恥罪とは違うものである、したがって名誉刑を科すべきではないかという方向での議論の基礎になっておると思います。国際的には、先ほど御指摘になりましたように、これを引き渡すか引き渡さないかという観点で一つの問題があると思います。そういうことで、国内的な観点と国際的な観点と必ずしも完全に一致するかどうかわかりませんけれども、現行刑罰法令で名誉刑的なもので臨むものとしておるものは、やはり典型的な形態を政治犯と見ておるというふうに考えてよろしいのじゃないかと思うのであります。そういたしますと、内乱罪などは禁錮をもって臨むことにいたしておりますので、典型的な内乱罪の形というものは政治犯であるというとらえ方をしておるのであろうと思います。また、犯罪によりましては、懲役または禁錮と選択的に規定しておるものがございます。こういうようなものにおきましては、時に政治犯として犯される場合が優に考えられるということを考慮してそういうふうな定め方をしたものもあるようでございます。  問題は、国内法で申しますと懲役と禁錮が両方規定してあるというようなもの、これが、どこが政治犯罪とそうでないところのボーダーラインかということが常に議論になるわけでございます。その点は国際間でも同様でございまして、すでに御説明申し上げましたが、相対的政治犯罪、すなわち政治上の主義主張のために普通犯罪を犯します場合に、もともとがさようなものもすべて政治犯罪として不引き渡し対象とされてきたわけでございますが、その後次第に諸外国あるいは国際的な考え方が変わってまいりまして、普通犯罪がきわめて非難に値すること重きもの、こういうものについては、目的のいかんにかかわらず、普通犯罪として扱い、政治犯罪として扱わないという方向に世界の趨勢は動きつつあると思うわけでございます。したがって、相対的政治犯罪の定義を真っ正面からすることが非常に困難なものでございますから、各国の立法例あるいはいろいろな条約におきまして、こういうものは政治犯罪とは見ないというような規定を次々と置いてきておる。その典型的な例が、ベルギー加害条項と言われます。国家の元首等を殺害するような場合にはいかなる目的であっても政治犯罪とは見ないということでございますし、また、十九世紀の末に国際法学会で提示しました一つの基準というものも、普通犯罪の方がきわめて重大である場合、これは政治犯罪と見ないということを言っておりますし、あるいは最近の条約で申しますと、ハイジャック関係条約でございますとか、あるいは、まだ日本は加盟しておりませんが、大量虐殺の行為を禁じましたジェノサイド条約とか、こういうようなものにおきましては、それぞれそういった行為政治犯罪に当たらないというふうに見るようになってきておるわけでございまして、そういう趨勢を念頭に置きながら、政治犯罪の概念というものを理解していくべきではないか、かように思っておるわけでございます。
  230. 飯田忠雄

    ○飯田委員 わかりました。  それで、一つまだはっきりしない点は、たとえば外患罪ですが、外国外国人が、自分の国の不利益になるような外患行為を行った、あるいは外国人が自分の国において破壊活動を行った、そういうようなことをやりまして、しかもそれが全部政治体制を変えるのが目的でそういうことをしたという場合に、その人がわが国に亡命してきたという場合、これは政治犯罪となるのかどうか。といいますのは、わが国刑罰法規からいきますと、外患罪は、どうもこれは内乱と同じような刑罰ではないように見えます。それから、破壊活動の場合もそうでないように見えますので、こういうような場合に、そういう犯人が日本に来た場合には、政治犯として扱うのかそうでないのか、この点はどうでございましょうか。
  231. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 一般抽象的には、きわめて断定することは困難でありまして、その当該外国人がその行為によって実現しようとした目的、これをよく把握をしてみなければなりませんし、その目的に対して行った行為の重大さ、あるいはその行った行為の破廉恥性と申しますか、そういうようなものを総合勘案して決めざるを得ないというふうに思うわけでございまして、大変お答えにならないようなお答えで恐縮でございますけれども、具体的事案に即して考えるよりいたし方がないのではないかと思っております。
  232. 飯田忠雄

    ○飯田委員 これは、こういうことを言うとちょっと名誉棄損になってしかられるかもしれませんが、たとえば現在イスラエルとかアラブの方で争いがあります。あの争いをやっておる人たちが、たとえばアラブゲリラというのがときどき新聞に載りますが、こういう人たちが日本に来た場合に、これは政治犯となるのでしょうか、あるいは政治犯罪としては認めないのか、どういうことになりましょうか。
  233. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 はなはだ微妙かつ困難なお尋ねでございますが、アラブ諸国というふうに限定してお尋ねをいただきますとちょっとお答えがしにくいのでございますが、たとえば地球上のどこかに局地的な戦争状態がありまして、それで負けた者がわが国逃亡してきたというような場合を観念的に考えてみまして、たとえばその者について、戦争中に一般人を大量に殺害したというような理由引き渡し請求があったと仮定いたしますと、これも政治犯罪に当たるかどうかは、行為の態様、動機、目的など、諸般の事情を総合勘案して考えなければなりませんけれども、一般的に申し上げますと、そういう戦争中に一般人を大量に殺害したというようなことを理由とするということになりますと、先ほどちょっと申し上げました、ジェノサイド条約の精神等から言って、政治犯罪には該当しないというふうに見ざるを得ないだろうと思います。  それからまた、そうではなくて、どこかの地域で革命運動をやっておった人がわが国に逃げてきたという場合を想定しまして、その引き渡し請求理由となっておる犯罪が、たとえば内乱を企てて失敗に終わったとか、あるいは政治体制の変革を目的として一般の殺人を犯したというような事例でありますときには、前者の内乱を企てて失敗したというようなことになりますと政治犯罪というふうな認定をすることになる場合が多いと思いますが、後者の政治体制の変革を目的として一般の殺人を犯したという場合には、先ほど来申し上げておりますように、犯行の態様ですとか動機、目的、あるいはそれによって犯しました、ただいまの例で言いますと一般の人を殺したという行為の性格、態様、その卑劣さの度合いといいますか、そういうようなものを総合勘案して考えることになるのではないか、こういうふうに思います。
  234. 飯田忠雄

    ○飯田委員 ついでにと言っては申しわけないのですが、外務省にお尋ねしますが、外国にとっての戦争犯罪、それから内乱犯人、これは国際法上政治犯として扱われますか、いかがでしょう。
  235. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 戦争犯罪というのは、大きく分けまして二種類あるかと存じますが、一つは古典的な戦争犯罪と申しますか、戦争の過程において行われた戦争法規に違反したような犯罪、これを戦争犯罪と言えるかと思います。もう一つは、第二次大戦後あらわれてまいりました概念でございまして、ドイツにおける裁判、それから日本における裁判で見られましたように、平和に対する罪及び人道に対する罪として裁かれる罪、これも戦争犯罪のもう一つの種類であろうかと存じます。  これらが政治犯罪に当たるかどうかという点は大変むずかしい点でございますけれども、政治犯罪が、一般的な概念といたしましては、ある国の政治秩序を侵害する目的をもってなされる行為というふうに観念できるといたしますと、いま申し上げましたような戦争犯罪というのは、政治犯罪に当たるというふうに一概に言うことは困難であろうと存じます。
  236. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは、先ほど刑事局長のお話で、革命運動者が一般人を殺した場合には、これは政治犯罪とならぬ場合もあり得るというお話でございましたが、革命運動者が内乱の手段として行った政敵殺害行為、そういう政敵殺害行為をしてわが国に亡命してきた場合、これは政治犯罪として扱うことになるのでしょうか、それともならないのでしょうか。
  237. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほど申し上げましたように、内乱の手段としての普通犯罪、この普通犯罪の態様、それから内乱目的の中身、こういうものを比較考量いたしまして決めなければならぬ、こういうふうに思います。
  238. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは、内乱の手段ということはわからぬ、これはわかりませんが、とにかく革命運動者が政敵を殺して、そうして日本へ逃げてきた、こういうような場合は政治犯罪とすることができるでしょうか。
  239. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 殺した動機がちょっとわかりませんので即断はできませんが、ただいまのお尋ねのようなケースですと政治犯罪でない方向に相当傾くものではないかと思います。
  240. 飯田忠雄

    ○飯田委員 これは政敵ですから政治上の敵を殺したのですが、殺すということがいけないのだ、わが国の憲法のたてまえから、とにかく人間の命というものは最大限に尊重する、そういうたてまえに立ちますと、何びとを殺そうとも、殺害行為はこれはいけないというたてまえに立てば、革命運動者が殺そうが、そうでない人が殺そうが、とにかくこれは犯罪であって許すことはできぬという議論が成り立つと思います。しかし、国際間の問題ですから、たとえば強国がわが国に対して圧迫を加えた場合にはのまざるを得ぬし、相手の国が弱いときには当方は大きな顔をしてこれを拒否できる、そういったような状態で事を処理することになる可能性が相当強いと思いますが、この点についてはいかがでしょう。
  241. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 その点は、請求国がいわゆる大国でありましょうとも小国でありましょうとも、わが国としては国際的な趨勢あるいは国際的に観念されております政治犯というものの考え方、これを一般論として念頭に置きまして、具体的な事案について先ほど来申し上げておりますような、目的とか行為の態様等を客観的に吟味をいたしまして判断するわけでございますから、相手国のいかんによってその判断が変わるということはあり得ないところでございます。
  242. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは、これは過去の例を挙げて申しわけないのですが、日本で起こった事件で五・一五事件というのがあります。二・二六事件というのもありますが、こうした五・一五とか二・二六、こういうような事件外国に起こって、その犯人が日本に来た場合に、これを政治犯として認めるか認めないかという問題がございますが、いかがでしょう。
  243. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 過去にありましたきわめて具体的な事件についてのお尋ねでございまして、これまた非常にお答えしにくいお尋ね一つであるわけでありますが、考えてみますと、当時、五・一五事件あるいは二・二六事件被告人はほとんど軍法会議で裁かれ、一部一般の裁判所で裁かれておりますけれども、おおむね禁錮刑をもって処せられておるようでございます。そういう点からいたしますと、当時としては、わが国民感情はそういうものを政治犯というふうに考えておったのではないかと思うのでございます。しかしながら、翻って見てみますと、五・一五、二・二六の被告人の処断罪名は内乱罪ではなくて軍刑法の反逆罪でございますとか、あるいは民間人につきまして一部殺人、爆発物取締罰則等で裁かれておるわけでございます。  そういう状況を頭に置きましてただいまの御設問に対してお答えをしようとしますと、これを一律に政治犯罪だ、今日の時点においてなおかつ政治犯罪と観念すべきであるというふうに申し上げるのにはいささかちゅうちょを感ぜざるを得ないというのが率直な気持ちでございます。
  244. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは質問を変えます。  ハーグ条約によりましてハイジャックは引き渡し犯罪とするというふうになっておる。だから政治的信念または政治的目的に基づいて行ったハイジャックであっても、これは政治犯として認めないという御説明が先般ございました。ところで、ハーグ条約でも全部が加入しておるわけじゃありませんので、加入していない国があります場合に、その国が引き渡し犯罪だと考えないで引き渡しを要求してきた場合に、これはどういうふうに考えたらいいことになるのでしょうか。もともとは政治信念に基づく犯罪であるのだけれども、ハーグ条約によって引き渡し犯罪とした、ところが、ハーグ条約に加盟していない国が引き渡し犯罪と考えませんで要求してきた、こういう場合についての御見解はいかがでございましょうか。
  245. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 ハイジャック犯人を政治犯と見ないというのは、ハーグ条約上の義務の履行として政治犯人と見ないというのではなくて、ハーグ条約に代表されるような国際的な考え方、これをとっておるわけでございます。世界の多数の国が、まさに過半数の国がハーグ条約に加盟をしておるわけでございまして、それらの共通した認識として、ハイジャック行為などは政治犯罪ではないという認識があるわけでございます。したがって、わが国としてはその共通な認識の上に立って対処をする、こういうことでございまして、条約の加盟国であるからどう、非加盟国であるからどうというような考え方にはならないと思います。
  246. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それではまた別の問題に移ります。  条約の四条一項一号では「疑義が生じたときは、被請求国の決定による。」とあります。被請求国の決定機関についてお尋ねいたしますが、これはわが国で言う場合に裁判所でありますか、法務省でありますか、あるいは外務省でございましょうか。
  247. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 最終的には法務大臣でございます。ただ、法務大臣が最終的な御判断をなさいます前提として、裁判所政治犯罪なら政治犯罪に当たると認めれば、法務大臣はそれと異なる判断をすることは許されない、こういう関係になります。
  248. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは次の問題に移ります。  外務省に質問をいたしますが、政治亡命は国際法上取り上げられておるのでしょうか。これに関する国際法上の根拠、政治亡命というものが国際法上どういうものとして考えられておるのか、あるいはそれは国際法によって決められておるのか、あるいは国際慣例によって決められておるのか、国際慣習法によって決められておるのか、あるいは何もないのか、そういう点はいかがでございましよう。
  249. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 国際法上、亡命者とか政治的亡命者という言葉の定義はございません。一般には政治亡命者というのは、ある国における政治的な迫害を逃れる目的をもって他国へ庇護を求めて逃れてきた者をいうというふうに理解されていると存じます。国際法上、政治的亡命者に対して庇護を求められた国が庇護を与える義務があるかどうかという点につきましては、そのような義務が庇護を求められた国にあるというふうには解されないというふうにわれわれは考えております。
  250. 飯田忠雄

    ○飯田委員 政治亡命者につきまして法務省にお尋ねいたしますが、締約国の一方から、その政治亡命者の本国法に触れるということを理由引き渡し請求がありました場合に、これは引き渡し犯罪となるのでしょうか、いかがでございましょう。
  251. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 政治亡命者の定義にもよることでございますが、請求国内におることによってその国からの迫害を受ける、そういう理由でもってわが国へ出てきた、こういう場合に、そのわが国へ出てきたこと自体が犯罪であるということで引き渡し請求を受けましても、わが国においてはこれに見合うような処罰規定もないわけでございますので、さような場合には引き渡し対象にはならないというふうに思います。ただ、その政治亡命者と言われます人が何らかの別の犯罪をその国で犯してこちらへ来た、こういう場合には、その犯した犯罪内容いかんによって逃亡犯罪人引渡し法の適用があるかどうかが決まってくる、こういうふうに思います。
  252. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それじゃ別の問題にしますが、わが国に密入国して亡命を求めたといたします。ところが、本国法上は逃亡犯人、何か別の犯罪の犯人であって政治犯人ではない、そして、そういうことを理由にして本国から引き渡し請求してきた、しかしその請求国が未締約国である、こういう場合に、この引き渡し請求に対してどういう取り扱いをしたものか、お尋ねいたします。
  253. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 具体的な事案にならないとはっきりしたことは申し上げられませんが、政治亡命者について一般犯罪によって引き渡し請求をしてきた、なるほど引き渡し犯罪は一般犯罪である、しかしながらよく見てみると、結局は政治亡命者をこらしめるために一般犯罪にかこつけて請求をしてきておるのである、こういうことになりますれば、引渡し法の四条一項三号によりまして、法務大臣として「逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるとき」、これにまさに当たってくると思います。
  254. 飯田忠雄

    ○飯田委員 では次の問題に移ります。  国際法上、自国民引き渡し原則というものがあるのかどうか、もしそういうものがあるとすると、それはどの程度国際法として確立されておるのか、この問題につきまして外務省にお尋ねいたします。
  255. 斎藤邦彦

    ○斎藤説明員 自国民引き渡し原則という言葉が、自国民引き渡してはならないということを意味するといたしますと、そのような原則は全く存在しておりません。現に日米犯罪人引渡条約におきましても、自国民引き渡し裁量によるとされておりまして、引き渡す場合があるということが想定されております。それから、条約によりましては自国民も引き渡すことをたてまえとしている条約がございますので、その意味におきましては、自国民引き渡し原則というのが国際法上存在しているということは言えないと考えます。
  256. 飯田忠雄

    ○飯田委員 それでは法務省にお尋ねいたしますが、犯罪人が自国民であるときに原則として引き渡し犯罪としない、こういうふうに法では決めてございますが、その理由をお伺いするわけです。  ところで、たとえば往来危険罪というのが百二十五条にあります。これは二年以上の懲役です。それから汽車電車転覆致死罪というのがございます。刑法百二十六条、これは死刑無期、こうなっておりますが、こういう罪につきましては国民国外犯を処罰する規定がございません。日本国民外国で汽車をひっくり返しても、往来危険をやりましても、それは日本の刑法では処罰しないことになりますね。国民国外犯の処罰規定には当たらない。ところで、こういう犯罪外国でしでかしたので日本に逃げ帰ってきた、それを外国の方で引き渡してくれ、こういうことを言ってきた場合に、これは日本の国の刑法では処罰しないのだから犯罪ではないから引き渡さないと言い切れるかどうか、この点についてお伺いをするわけでございます。自国民を引き渡さないという法的根拠、このものが実は国際法上は余り根拠のあるものじゃないといたしますと、憲法では国際協力精神をうたっております。その憲法前文の精神からいきましても、国際協力ということは必要ではないか。そうしますと、そういう状態にある場合に、日本国民だから、外国において犯した犯罪、それを日本の刑法では処罰しないことになっているから引き渡さないと言い切れるかどうか、またそういうことを言うのは不自然ではないかという問題があると思いますが、この点についていかがでございますか。
  257. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 先ほど外務省から御説明がありましたように、自国民引き渡してはならないという原則はないと思うのでございますが、自国民を引き渡すかどうかは当該主権国の裁量であるという考え方は、現在一部の英米法系諸国を除いては一般的であろうと思います。その考え方の基本は、やはり国というものは自国民を保護すべき義務がある、そういう義務がある国が、余り事情のわかっていない他国へ自国民引き渡してその処罰にゆだねるということは国民の保護に欠けるところがあるという基本的な考え方から、そういういわゆる自国民引き渡しの原則というものをとっておる国がまだ相当あるわけでございます。わが国もそのような態度をとっておるわけでございますが、これまた先ほど外務省からも御説明ありましたように、条約一定の国と締結いたします場合には、その相手国の法律制度あるいは裁判の公正さ、こういうものを信頼し得る限りにおきましては、この自国民はどうしても引き渡さないという原則は漸次例外を認めていくべきだろうというふうに考えておるわけでございます。ただ、世界の多くの国がまだ自国民引き渡しというたてまえをとっております今日、一般法であります逃亡犯罪人引渡法の原則を一挙に変えるということはいかがなものか。これまた諸外国の趨勢を見ながら、かつ各種条約締結を待ちながら、次第に御指摘のような場合に対処できるような制度に持っていくべきであろうと考えております。
  258. 飯田忠雄

    ○飯田委員 もう少し時間を下さい、もうわずかですから。  別の問題に入りますが、この法資料に言っておりますところの「逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるとき。」こういう言葉がございますね。これは一体何を想定してこういう表現をなさったのでしょうか。具体的に何か想定されておることがございますか。
  259. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 行政権を代表しまして法務大臣が最終的な決断をされる場合のことが書いてあるわけでございますが、法務大臣といたしましては、条約に基づかない犯罪人引き渡し請求がある都度、請求国との友好関係の維持促進、さらには逃亡犯罪人引き渡しに関します国際的協力の円滑化といったような観点、それからわが国の便益、当該犯罪人の人権の保護という見地から、具体的事案に即して慎重に引き渡しの当否を検討されるわけでありまして、四条一項三号によって引き渡しを拒む場合を一般的、抽象的に申し上げることはきわめて困難でございますが、ただ、法務大臣がこういった検討に当たって一般的に考慮されるであろうと思われます若干の点を例示いたしますと、請求国がたとえばわが国による未承認国あるいは国交未回復国でないかどうかといった点、あるいは請求国逃亡犯罪人の国籍国あるいは当該犯罪犯罪地国であるかどうかといった点、それから当該犯罪わが国において裁判権を行使し得るものである場合において、これをわが国が行使しないことが適当であるかどうかという点、それから当該犯罪の性質はどうか、すなわち、先ほどちょっと申し上げましたように、政治犯罪には当たらないとしても政治犯人としてこらしめるような意図を持ったものでないかどうか、さらにはわが国請求国とで法的評価が極端に異なるものではないかどうか、たとえばこちらでは懲役三年ぐらいの刑で評価しておるのに、向こうでは死刑で評価しておるというようなことがないかどうか、それから当該犯罪請求国のたとえば遡及効を認めた刑罰法令によって処罰の対象とされたものでないかどうか、それからまた、逃亡犯罪人が刑の確定者であるというような場合、確定しておる刑が罰金刑とかそういった非常に軽い刑ではないかどうか、あるいは請求国における刑事手続が人権保障に欠けたものであるかどうか、さらにやや国家的な便益の観点ですが、将来そういった国にわが国から引き渡し請求を行う可能性があるかどうか、こういったようなことが、例示いたせばいたせるかと思うのでございます。
  260. 飯田忠雄

    ○飯田委員 まだ二、三質問がありますけれども、時間の関係で抜きますが、最後に一つだけお尋ねいたします。  日本国内を通過して護送するということがございますね、その護送することを承認事項としなければならない法的根拠は一体何だったろうか。法三十四条を新設しなければならぬ理由、この承認は入国、出国について旅券発給を制限しないという、そういうことの確認の意味かどうか。つまり護送することを承認するという、日本の国を通過するだけでしょう、通過するだけのものを一々承認事項としなければならぬ法的根拠は一体何だろうか。法的根拠があるとすると、それは旅券の発給だとか何かを制限をしない、いつでも発行してやるよ、そういう意味の規定なのかどうかという問題。  それから、国内通過護送承認は、外国官憲による護送を承認する、そのことは、言いかえれば、その外国官憲及び護送者の安全保障をわが国が負う、それからわが国が責任を持って保護を加えるのだ、こういう問題を意味しておるのかどうか、こういう点についてお伺いします。
  261. 伊藤榮樹

    伊藤(榮)政府委員 わが国を通過してある国の官憲逃亡犯罪人を護送するという場合、これは具体的に申し上げますと、たとえば航空機なら航空機に乗せて手錠をかけて通過していくわけでございます。すなわち、その姿を見ますと、わが国領域内において外国の公権力が、刑事手続という最も強い形の公権力の行使がなされるわけでございまして、さような場合につきまして無条件でこれを認めるということは適当でございませんし、外国の最もむき出しの主権行使をわが国領域内に認めることになりますので、やはり法的根拠を必要とする、こういうふうに考えておるわけでございます。  なお、出入国の点につきましては、護送者はやはり、通過でございますからビザの問題はないかと思いますけれども、正規の旅券を持って通過してもらわなければならない。ただ、護送されます逃亡犯罪人そのものについては一種の、たとえば悪うございますが、護送します官憲の携帯品のような感じでございまして、必ずしも旅券を必要としないというふうに考えております。  なお、通過して護送をいたしますから、通過護送承認をいたしました上でわが国領域内において不慮の事柄がございますと、わが国が道義的な非難を受けることがあるかもしれませんけれども、そうであるからといいまして、通過護送を認めたから完全に安全を保障してやらなければならないということではない、理論上はそういうことではない、こういうふうに考えております。
  262. 飯田忠雄

    ○飯田委員 時間が来ましたので、私の質問はこれでやめます。
  263. 鴨田宗一

    鴨田委員長 次回は、明二十六日水曜日午前十時理事会、十時十分委員会を開会することにし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時二分散会      ————◇—————