○
伊藤(榮)
政府委員 この罪を
ごらんいただけばおよそそういう懸念をお感じになる方はないのではないかと思いますが、それでもごく二部にそういうことを御懸念になる向きがあるやに伺っておるわけでございますので、その点について申し上げたいと思います。
申し上げるまでもなく、この罪は
過激分子による
人質強要事犯に対処することを直接のねらいとして設けたものでありますので、通常の労使交渉あるいは学内交渉がこれに当たることはあり得ないと思うわけでございます。すなわち、通常の
集団交渉におきまして、たまたま一部の者がたとえばプラカードといったようなものを持っておったとしましても、そのプラカードが用法上の
凶器に該当するという場合といたしましては、判例によりますと、社会通念に照らして人の視覚、聴覚上、直ちに
危険性を感ぜしめる
状況となっていないときはまだ
凶器とみなすことはできない、したがって、人の殺傷に使用される意図が明らかに外部的に覚知され、社会通念に照らして直ちに
危険性を感ぜしめる
状況になったとき初めて
凶器性を帯びるというふうに判例上解釈されております。したがいまして、ただプラカードがそこにあるというだけではこの罪に該当する余地は全くないわけでございます。
さらに、「
人質にして」とこうなっておりますので、被
逮捕者などの
生命、
身体の安全を条件として
第三者に
不法な
要求をするというのがこの罪の要件でございますが、通常の団体交渉等におきましては、たとえ一時的に緊迫した
状況が出ましても、その基本にはやはり労使間あるいは師弟の間の信頼
関係は維持されておりまして、
第三者が
要求に応じないことを
理由に
会社役員でありますとか学校
関係者を殺害する
行為に出るというようなことは全く予想されないところでございまして、「
人質にして」という要件にも当てはまらない。こういう
意味におきまして、学生運動とか労使交渉の弾圧に利用されるという御懸念は全くないものと考えております。