○倉成国務大臣 多方面にわたる御質問でございますが、各項目について簡潔にお答え申し上げたいと思います。
まず、アメリカの日本に対する非公式の協議、今回のリバーズ代表の来日は、交渉ではなくて協議ということでございます。それはどういう意味かと申しますと、今日の国際情勢のもとで世界の主要先進国が低成長に悩んでおる、また失業問題を非常に多く抱えておる、工場閉鎖とか多くの失業、日本の失業率よりもはるかに高い失業率、アメリカも七%以上の失業率、ドイツにいたしましても四・六%程度、その他の先進国もそれぞれかなり高い失業を抱えておる、こういう状況のもとで、日米両国はそれぞれこの国際情勢にかんがみてそれぞれの責任を果たすべきである、アメリカは貿易収支の赤字という形でそれらの国々の輸出を助けておる、日本は経常収支の大幅な黒字によって十分な責任を果たしていないと思うので、こういう状況のもとではアメリカ国内における保護主義の台頭、あるいは世界の国々の非難を免れることはできないと思うので、友好国として、ひとつ保護主義の台頭を抑えるために日本の経常収支の均衡を図ってもらいたい、また、市場を開放してもらいたいという二つの柱を日本に友人としてサジェストしてきたというのが今回の来日の趣旨でございます。
したがって、これに対して私どもといたしましては、友人としてのこのような日本に対するサジェストに対して、これを素直に受け取って、ひとつわれわれも日米共同して保護主義の台頭を抑えていくということが、世界の
経済にとっても好ましいことでありますし、また、日米の友好関係を維持していく上においても大切なことであります。したがって、誠心誠意、日本としてできる最大限の努力をいたしましょうというのが日本政府のとりました態度でございます。
そこで、具体的な問題に入ってまいりますと、やはり経常収支をいつ均衡するかということになってまいりますと、これは自由主義
経済体制をとっております日本としまして、いつ、どれだけ均衡ができるかということをここで明らかにするということはむずかしい、しかし、経常収支の黒字幅の縮小には最大限の努力をいたします。また、市場開放の点については、農産物等の自由化という問題については非常にむずかしい問題を抱えております。同時に、工業製品をいつまでに幾らふやすかということになってくると、これもまたわれわれとしては最大の努力をするけれども、これの時期を明示することも市場
経済のたてまえ上むずかしい、こういうことを私どもの立場からアメリカ側には申し上げたわけでございます。
同時に、先方が非常に深い関心を持っております項目を挙げてまいりますと、まず第一は東京ラウンドの推進でございます。多角的な多国間における関税の問題として東京ラウンドの推進。
それから、東京ラウンドを待たずして関税を前倒し引き下げをするという項目。
それから残存輸入制限品目の二十七、これは通産が五、農林が二十二あるわけでございますが、いずれも国内にいろいろな問題を控えている項目でございますが、こういう残存輸入制限品目についてどういう考え方をわれわれが持っているかという問題。
それから三番目には、貿易に影響を及ぼす措置の改善。日本の貿易に関しまして、外国から見るとどうもいろいろな障壁を設けているのではなかろうか――ある場合には誤解もあり、ある場合には当たっている問題があるわけでございますが、そういう問題についての改善。
四番目には、貿易信用。日本はどうも輸出を中心に貿易信用を考えているのではないか、もっと輸入のことを考えたらどうかという問題もございまして、この点については、外貨準備を輸銀に預託をしまして、輸入信用の道を開いていく、そういう問題をいま日本は検討しておるという問題。
それから、輸出に関する問題は、もう別に通産当局からもほとんど出ておりません。ただ、日本側としては集中豪雨的な輸出を避けるという姿勢を貫いていくということでございます。
それから、日本がいま考えております備蓄の問題、食糧の備蓄であるとかいろいろなものについて前払い購入をしたいというものがございますので、これは緊急輸入でございますが、こういうことについてアメリカ側に協力を要請する。
また、
経済協力についても、日本の
経済協力の条件が世界的に見ますと必ずしも十分でない。かたいと申しますか、もう少し
経済協力について条件を緩和をしていく問題。
こういうような問題について率直な意見の交換を図ったわけでございまして、この点については、リバーズ代表を初め開係の方々がそれぞれ
経済に詳しい専門家ですから、リバーズさんは
法律顧問でございますけれども、それにしてもそれぞれ事務レベルにおいて非常に詳しい方たちでありますので、日本の立場については十分理解をしてもらったと思っておるわけであります。会議は終始友好裏に行われまして、相互理解の増進には役立ったと思っておる次第でございます。
したがって、この事務レベルでいろいろ意見を交換したものをアメリカ側が本国に持ち帰りまして、もう少しハイレベルの人たちにこれを報告する、そしてこれの評価をすることになろうかと思うわけでございます。その評価の結果等につきましては、お互いに外交ルートを通じて話し合っていくことではなかろうかと思うわけであります。先般、二十一日にリバーズさんが帰りますときには、双方は外交ルートを通じて引き続き接触を維持して、今次会合で双方で協議した諸問題については月末までに共通のアプローチをしたいということになっておるわけでございます。
さらに、この問題は大きく前進しつつあると思うのでございますけれども、日米間で意見が分かれた点と申しますか、いつ経常収支を均衡し得るか――経常収支の黒字幅を減らす手だてとして、日本は総合
経済対策等でいろいろ努力をしておるけれども、向こうから見ると、もう少し何かその具体的な担保が欲しいということではなかろうかと思うわけでありますので、そういう問題についてもう少しわが方もいろいろ詰めてまいりまして、自由主義
経済体制のもとでやれる限界はありますけれども、しかし、なるほど日本は経常収支の黒字幅を縮小するのに努力しているということを目に見える形で示すことが大切であると思うわけであります。
そういうことを日本側として態度を十分確立しまして、今回協議しました関税問題やいろいろな残存輸入制限品目であるとか貿易の障害の問題であるとか、そういうものを一括して、ワンパッケージで、日米間の呼吸が合ったところでストラウスさんが日本に来られるのが適当じゃないかということでございます。いつになるかということは、まだ私ども、先方の意向も、また外務省を通じても聞いておりませんけれども、呼吸が合えばなるべく早く来日されることが望ましいのではないか。そして、日米間のわだかまりがなくて、日米両国が共同して保護主義を抑えていく、そして世界の
経済の発展に貢献していくことが日本の国益にも合することである、そう考えておるわけでございます。精力的にこの問題を詰めていくことを期しておる次第でございます。
なお、これに関連して、特使を派遣したらどうかという問題が巷間伝えられておるわけでございます。これも一つの方法であろうかと思いますけれども、本来は、アメリカにあります日本大使館が日本国を代表して日本の意思を十分先方に伝え、また先方の意思を日本に伝えてくるというのがたてまえであろうかと思います。これを補強する意味においていろいろな手だてを考えるのも一つの方法だと思います。ただ、仮にそういう方法をとるにしましても、日本の立場というか、日本側が向こうを説得し得るだけのしっかりした材料を十分整えることが先決であって、ただ漠然と人が向こうに参りましても、それは余り意味のないことであると私は考えております。
それから、三十億ドル云々の問題は、すでに衆参両院の予算
委員会で論議が闘わされたところでございますから、これをここで繰り返すことはいたさないつもりでございますけれども、総理がお約束をしたという性格のものではございません。これは政調会長が総理に三十億ドル程度の輸入をしたらどうかという話をされたというのが実情でございまして、政府として緊急輸入についていろいろな手立てを講じまして、いろいろなものを積み上げてみましても、現在国会で皆様方の前で言い得る数字というのは十億ドル前後ということでございます。しかし、そのほかに石油の備蓄であるとかいろいろなものについて、私ども最善を尽くして努力をしておるわけでございますけれども、これは相手国があることでもございますし、余り不利な条件で日本がそういうものを買うということもいかがなものであろうかということもございますし、また、これについて先方がどの程度の評価をするかという問題もございますので、余りこの三十億ドルという数字にこだわるのは適切ではないんではなかろうかと私は考えております。率直に申しますと、そういうことじゃなかろうか。しかし、十億ドルでは足らないから、ぜひひとつふやすように努力するようにという総理の指示でございまして、この線に沿って最大の努力をいたしておるというのが実情でございます。
それから、来年度予算の問題については、これはいまから
経済見通しをつくり、そしてその
経済見通しの中で、来年度の輸出がどうなるか、あるいは民間の設備投資あるいは個人消費がどうなるかというような諸項目がいろいろあるものですから、その中で予算すなわち財政がどういう役割りを果たすかということになろうかと思うわけでありますので、いませっかく
経済企画庁におきましては
経済見通しについて、また大蔵省におきましては財源について、いろいろ検討されているところであろうかと思います。したがって、この来年度予算がどうなるかということは、ここで私が申し上げるわけにはまいりません。ただ、財政にかなり大きく期待されてくるであろうということだけは率直に申すことができると思います。
それから、一体こういう場合にどういう為替レートを考えているかということになりますけれども、この為替レートについては、これからどうなるかということはだれもまだ予測できないわけでございますから、やはり
経済見通し等をつくります際には何かの基準を置かないと計算ができないわけでございますけれども、現在のところ、為替レートをどこに置いたらよいかあるいは日本の
産業の競争力がどうかということについては、内部においてはいろいろ検討いたしておりますけれども、いまここで申し上げるような段階ではないということをつけ加えさせていただきたいと思います。
以上でございます。