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1977-10-26 第82回国会 衆議院 公害対策並びに環境保全特別委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十二年十月二十六日(水曜日)     午前十時開議  出席委員    委員長 島本 虎三君    理事 染谷  誠君 理事 登坂重次郎君    理事 林  義郎君 理事 向山 一人君    理事 土井たか子君 理事 水田  稔君    理事 古寺  宏君 理事 中井  洽君       相沢 英之君    池田 行彦君       戸井田三郎君    友納 武人君       永田 亮一君    福島 譲二君       細谷 治嘉君    山本 政弘君       竹内 勝彦君    東中 光雄君       大原 一三君  出席政府委員         環境庁企画調整         局環境保健部長 山本 宜正君  委員外出席者         参  考  人         (経済団体連合         会環境安全委員         会委員長代理) 徳永 久次君         参  考  人         (尼崎環境保         全局環境部長) 佐竹三木夫君         参  考  人         (横浜公害研         究所所長)   助川 信彦君         参  考  人         (名古屋保健衛         生大学医学部教         授)      梅田 博道君         参  考  人         (岡山大学医学         部助教授)   青山 英康君         参  考  人          (日本弁護士連         合会公害対策委         員会委員長) 鈴木 繁次君         特別委員会調査         室長      綿貫 敏行君     ————————————— 委員の異動 十月二十六日  辞任         補欠選任   阿部未喜男君     細谷 治嘉君   刀祢館正也君     大原 一三君 同日  辞任         補欠選任   大原 一三君     刀祢館正也君     ————————————— 本日の会議に付した案件  公害対策並びに環境保全に関する件(公害健康  被害補償に関する問題)      ————◇—————
  2. 島本虎三

    島本委員長 これより会議を開きます。  公害対策並びに環境保全に関する件、特に公害健康被害補償に関する問題について調査を進めます。  本日、お招きいたしました参考人は、経済団体連合会環境安全委員会委員長代理徳永久次君、尼崎環境保全局環境部長佐竹三木夫君横浜公害研究所所長助川信彦君、名古屋保健衛生大学医学部教授梅田博道君、岡山大学医学部助教授青山英康君、日本弁護士連合会公害対策委員会委員長鈴木繁次君、以上六名の方々であります。  なお、本日は、議事の整理上、午前中は徳永参考人佐竹参考人助川参考人からまず御意見を承り、続いて、各参考人に対し質疑を行うことといたします。  また、午後からは、梅田参考人青山参考人鈴木参考人の御出席をいただき、同様に意見聴取の後、質疑を行います。  この際、委員会を代表いたしまして、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。御承知のとおり、公害健康被害補償法施行されて三年を経過いたしましたが、公害健康被害補償に関する問題については、関係各方面より多くの提言、要望等問題提起がなされているところであります。本日、皆様方をお招きいたしましたのは、本問題について、関係各界の率直な御意見をお伺いし、今後の委員会審査参考に資することがその主目的であります。何とぞそれぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。  なお、御意見の開陳は、おのおの二十分程度に要約してお述べいただき、その後、委員質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、徳永参考人からお願いいたします。徳永参考人
  3. 徳永久次

    徳永参考人 本日は、公害健康被害補償制度の問題につきまして、意見陳述機会が与えられましたことに対しまして、まず厚く御礼申し上げます。この問題につきましては、経団連といたしましてもかねてより再三意見書も出し、制度基本的改正並びに運用適正化要望してきたところでございまするが、本日は、せっかくの機会でもありまするので、この問題に対する経済界の率直な見解を申し上げ、諸先生方の御理解を賜りたいと考えております。  それでは、早速本論に入りますが、まず、具体的な要望意見を申し上げるに先立ちまして、本問題に対する私ども経済界の基本的な考え方を若干申し述べさせていただきたいと思います。  制度改正についての基本的考え方でございますが、本制度は、いまさら私が申すまでもなくすでによく御案内のとおり、四日市裁判を初めとする四大公害裁判に象徴されるような深刻な公害問題を背景に、著しい汚染による被害者の迅速な救済を図る緊急措置として制定されたものであります。  昭和四十九年九月に発足以来、制度運営にかかわる関係各位の御努力もありまして、指定地域内の多数の認定患者に対する補償給付等を通じまして、制度創設の所期の機能が一応果たされてきたということは確かでございまして、私どもとしてもこの点は十分に評価している次第であります。  しかしながら、本制度では特に大気汚染にかかわる健康被害、いわゆる第一種地域関係につきましては、汚染による病気とそうでないものを医学的に区別することが困難であるとの理由で、大気汚染によらない患者補償対象としており、このような大胆な制度的割り切りが現在に至って多くの矛盾を生み出す原因となっております。特に、経済界では制度創設当初、大気汚染起因しない患者に対しても補償することから、これに相当する部分につきましては当然国または地方公共団体等公費を導入すべきであると主張し、法案作成の際も政府等へ強く要望したのでありまするが、当時の社会情勢等もありまして経済界要望が反映されないままに、きわめて不合理な形で制度発足を見たのであります。これに対し、私どもは、こうした制度としての問題点はともかくとして、被害救済緊急性ということからも、制度ができた以上は賦課金納付等については、企業に課せられた責務として全面的に協力してきたところでございます。  しかしながら、最近のように、特に大気汚染の方は、産業界、各企業としても公害防止対策に非常な努力をし、著しく改善されてきたにもかかわらず、逆に認定患者は増加し、補償費用が急増する一方という制度実態を見ますと、私どもとしては本制度あり方について改めて大きな疑問と不安を禁じ得ないというのが偽らざる気持ちであります。その意味で、私どもは現在、制度の抜本的な見直し関係御当局に強く要望しているところであります。  今後の方向としては、何よりもまず科学的な因果関係をできる限り究明して、それを踏まえて少しでも合理的な制度改正していくことが必要であります。また、それと同時に、根本的には今後はこれらの病気を積極的に治して、公害病患者と言われるような人がいなくなるような方向に持っていくべきであり、そのためにも病気原因等因果関係を徹底的に究明し、各原因に応じた治療法確立普及を図る必要があると考えます。  次に、制度改正に関する具体的な要望事項について申し上げたいと思います。  以上が私どもの基本的な考え方でありますが、次にこのような考え方に立ちまして制度改善していく上での具体的な方向について、私どもの考えているところを幾つか申し上げてみたいと存じます。  第一は、因果関係徹底的究明という乙とであります。  本制度は、特に大気汚染にかかわるいわゆる非特異的疾患について、先ほども申しましたとおり、患者個々因果関係を明らかにすることが困難であるという理由から、指定地域一定期間居住して指定疾病にかかっている者はすべて公害病患者として認定し、補償対象とするというきわめて大胆な割り切りをもって発足いたしました。  確かに、こうした非特異的な疾患について、病気汚染因果関係を明らかにしていくことはむずかしい面はあると思いまするが、だからといって断念していいという問題ではないと思います。可能な限り科学的な因果関係に即した制度あり方に持っていくためにも、少なくともそうした因果関係の科学的、定量的な解明努力はもっと十分になされるべきであると思います。制度発足以来三年以上たっておりますが、この点で政府の方で必ずしも十分な努力が払われていないように見受けられることは、私どもとしてもはなはだ残念に思っております。  当面早急にやるべきことといたしましては、たとえば、患者個々因果関係究明ということはなかなか困難にしても、人口集団をとらえた場合の汚染疾病に対する影響寄与度等はもっと厳密に解明されるべきであると考えます。ちなみに、私どもで、地域指定の際環境庁が実施している大気汚染状況並びに健康影響調査データなどをもとに、民間中立的シンクタンクに委託いたしまして統計的解析を行ってもらいましたところ、汚染健康影響との間には必ずしも明らかな因果関係は認められないなどという結果も出ております。この辺については、やはり政府の責任において、より広範なデータもとに十分な研究をしてもらいたいと要望しているところでございます。  第二の問題点は、必ずしも大気汚染起因しない患者の取り扱いの問題であります。  本来、汚染と無関係な人は補償給付対象とはなり得ないものと考えます。したがいまして、因果関係の明らかでない患者については本制度対象から外し、一般福祉医療制度の充実によって救済していくことが正しい制度あり方であると考えます。  その意味で早急にぜひ取り組んでもらいたい問題は、いわゆる暴露要件見直し地域指定解除要件の設定であります。御承知のとおり、現行患者認定の際の暴露要件は、指定地域内に一定期間以上居住ないし通勤するということだけで定められております。しかしながら現在、各指定地域については、環境庁データによってもSOx粉じん等汚染は著しい改善がなされ、NO2については若干増加ないし横ばい程度ということで、総合的に見てこれら地域の現在の大気汚染状況は、地域指定の根拠となった過去の著しい汚染というものに比べまして大幅に改善されてきていることは明らかであります。したがいまして、たとえば、このように総合的に大気環境濃度改善されて実質的に指定地域要件を欠くに至った後に誕生した人であるとか、新たに非指定地域から移り住んできた人などは、本制度に定められた著しい大気汚染に暴露されたわけではありませんので、公害病患者として認定されるのは不合理であります。こうした問題を初め汚染改善を全く反映しない形で定められている現行暴露要件には各種の問題がありまするので、早急に改正方実施をお願いしたいと存じます。  また、地域指定解除要件についても、その具体的基準を明確化すべきであると考えます。この点については、中公審答申でも一応の考え方が示されております。しかし、その中で患者新規発生率自然発生率並みになるという要件は、必ずしも合理的とは言いがたいと思います。なぜなら、ぜんそく等慢性呼吸器疾患文明病とも呼ばれ、大気汚染とは関係なく現代の都市構造生活様式等起因している面が大きいと言われ、将来必ずしも患者数が減少するとは考えられないからであります。この際、より実態に即した合理的な解除要件を早急に検討してもらいたいと考えております。  さらに、本制度において喫煙患者をどう取り扱うかも改めて十分検討すべきであると考えます。喫煙呼吸器に悪影響があることは明らかであり、たばこ慢性気管支炎や肺気腫の大きな原因一つであるというのが国際的にも医学界の常識であると聞いております。また、先般、環境庁が発表いたしました複合大気汚染健康影響調査等でも、喫煙者有症率について顕著な結果が出ております。このほか、喫煙には、本人以外の家族等喫煙による健康影響の問題もあります。このように健康への影響が大きいとされている喫煙を無視したまま補償を続けることは、どう考えても不合理ではないかと考えます。患者認定もしくは補償給付に際して、喫煙影響の問題を何らかの形で考慮する必要があると考えます。さらに、いま述べた各種たばこ健康影響を考えると原因者負担原則から見ても、たとえば、専売公社益金たばこ消費税等財源から、その相当費用を充当させることなども検討すべきではないかと考えます。  第三に重要な問題点は、患者の治癒の促進であります。  冒頭にも述べましたように、この補償制度の問題の根本的解決には、制度自体改正とあわせて閉塞性慢性呼吸器疾患医療体制を充実し、積極的に患者を治していくことが何よりも肝要かと考えます。  医学につきましては、私は素人ではございますが、専門医学者に言わせると、ぜんそく等閉塞性慢性呼吸器疾患は、人口過密な都市に多い病気で、加齢によっても病人の数が増加することから、一般文明病とも呼ばれており、特に気管支ぜんそく原因がきわめて多方面にわたり、アレルギーや心因的要因等大気汚染に無関係なものが多いとのことであります。これをすべて大気汚染によるものと決めつけてしまうことは、治療法を誤り、治る病気も治らなくなるおそれがあると考えます。  汚染改善しているにもかかわらず認定患者がふえる一方という矛盾をなくすためにも、公害病に限らず、ぜんそく等慢性呼吸器疾患一般について、国が中心となって原因解明、各原因に応じた適正な治療方針治療法確立普及、そのための総合的専門医療体制の整備を図るべきであると考えます。これらの面では、実はわれわれ民間側でも、治療法研究等について、医学界への研究助成等も始めておりますが、本来このことは国が腰を据えて取り組むべき問題でもあり、ぜひそうした方向に進むよう諸先生方の御尽力をお願いしたいと存じます。  第四の問題は、合理的な費用負担あり方確立ということでございます。  費用負担の問題については、さきに述べましたように、汚染との因果関係が不明確な患者までも結果的に補償対象に取り込むのであれば、その相当分はたとえば地方自治体、国の公費のような別途の財源によるべきことが妥当であると考えます。この点は法律制定時より経済界が特に強く主張してきたところでありまするが、十分御理解いただけず制度に反映されないままになっていることはわれわれとしてもはなはだ遺憾に存じております。この分を除いた本来汚染原因者負担すべき分の負担あり方についても、今後できる限り汚染発生源被害発生への寄与度に応じた合理的な費用負担の仕組みに変えていく必要があると考えます。  その意味でたとえば、いわゆる地域別収支の不均衡是正、この点は、五十二年度より一部是正が図られましたが、なお必ずしも十分とは言えませんので、不均衡是正を図るよう要望しているところでございます。また、固定と移動両発生源費用負担あり方につきましても、科学的な因果関係究明を踏まえた上で、できる限り原因者負担原則を反映させるような方向で検討してもらいたいと考えております。  最後に、本制度NOx問題との関係につきまして、この際、私ども見解を申し上げておきたいと存じます。NOxを新たに本制度地域指定要件あるいは賦課対象物質に加えるべきだという声が一部にあることは私ども承知しております。しかしながら、現段階では、少なくとも現状程度NOx大気環境濃度については、その健康被害との関係は明らかにされておりませんし、先般、環境庁が発表いたしました複合大気汚染健康影響調査自動車道沿道住民健康影響調査によりましても、NOxによって補償制度に取り入れなければならないような明確な健康被害があるとの知見は得られておりません。したがって、NOxをこの制度具体的運用に組み込む理由はないと考えます。  以上、いろいろと申し上げましたが、本制度は、昨年十一月開催されたOECDの日本環境政策レビュー会議でも指摘されましたように、本来経過的な措置であって、将来はいわゆる公害病患者の存在がなくなり、制度が終息することがもちろん最も望ましいが、現に患者が存在している実態にかんがみ、患者救済が迅速、確実に行われるよう経済界としても補償給付費用負担いたし、協力している次第であります。  しかし、それには納付義務者が十分納得して、また広く国民的コンセンサスが得られるような制度にすることが重要であると考えます。そうすることによって初めて本制度の円滑な運営を期せられるものと思います。その意味で私どもは、本制度の持つ矛盾問題点をなくし、少しでもよりよい制度改善してもらいたいということでいろいろ御要望申し上げているわけで、諸先生方の御理解と御尽力をお願いする次第でございます。  ありがとうございました。
  4. 島本虎三

    島本委員長 ありがとうございました。  次に、佐竹参考人にお願いいたします。佐竹参考人
  5. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 ただいま御紹介にあずかりました尼崎市の環境保全局環境公害部長佐竹でございます。  公害健康補償制度の問題につきまして意見を述べる機会を与えられましたことを厚く感謝するものでございます。  まず、日ごろ直接企業とかあるいは患者と接触いたしまして生の声を耳にいたしまして、その実態を踏まえて意見を率直に述べさせていただきたい、こういうふうに考えております。  まず第一の問題でございます。これは患者からの強い要望によるところの過去分補償の問題でございます。旧特別措置法によりまして認定された患者は、充実した補償新法施行までの間になされていなかったということを理由にいたしまして、施行までの期間に対して過去にさかのぼって補償することを強く要求してございます。他市におきましては、この格差地元企業負担によって補償しているところもあるやに聞き及んでおります。患者の所在によりましてこういうふうな制度の差別というものが出てくる結果、問題があるということが第一点でございます。  それから第二点の問題として起因死亡、これは公害病によって直接死亡した者と他の原因によって死亡した方たちの問題でございます。指定疾病起因して死亡いたしました場合には、起因割合に応じまして一〇〇%あるいは七五%、五〇%、こういうふうな割合遺族補償現行でなされてございます。起因寄与率が五〇%以下の場合には現在では一切補償がなされていないという問題がございます。しかし、全く起因しないと判断できないが、全く給付をしないということについては問題があるような事例がございます。こういう点で相当因果関係があるというものに準ずるものとして五〇%以下にもう一つのランクの補償割合、たとえば二五%を出すとかいうような考え方というものが制度として取り入れられないものであろうかというふうに考えるわけでございます。  尼崎市はこれらの間接死亡者に対しましては、条例によりまして五十万円の死亡見舞い金を支給してきております。しかし、この期限が本年の三月で切れまして、以後、市議会におきましていろいろ問題等が提起されまして、この死亡見舞い金漸減方式によりまして打ち切るということに定まったわけでございます。しかしながら、他都市におきましては将来も継続して間接死亡につきまして見舞い金制度が存続するというようなことで、やはり各自治体におきまして制度格差というものが生じてまいります。間接死亡につきましては、患者の苦しみというものを考慮した場合には葬祭費用相当するような何らかの補償措置というものが法によって設けられるべきではないか、かように考えております。  それから三番目の問題として医療給付の問題がございます。  現在の医療保険制度の中でいわゆる差額ベッド料徴収というような制度がございます。そしていかなるケースにつきましても給付対象とはなってございません。認定患者は、発作等の症状から、いわゆる大部屋と言われるような多数入院するような部屋に入院することが困難なケースがございます。どうしても二人とかあるいは四人部屋ぐらいに入りたいというような希望が非常に高いわけでございます。この場合に、たとえば個室でございますと平均して一日に三千円程度、二人部屋で二千円程度自己負担というものが強いられるわけでございます。このために認定患者の中には、経済的にどうしてもこの負担金が、差額ベッド料が払えないというようなことで、十分な治療を受けないままに退院されるというケースが見受けられます。特に生活保護世帯患者長期入院が必要な場合、非常に深刻な問題であるというような訴えを聞いてございます。  第四番目に保健福祉事業の問題でございます。  患者健康回復、これは最も重要な問題である、かように考えております。そして尼崎市では、特に患者健康回復事業というものを重点に置きまして取り組んでおるわけでございます。しかし、補助対象になる事業につきましては、現行制度では未就学児童患者につきましては二泊三日、その他の患者対象とする事業については三泊四日以上であるというような規定がございます。より多くの患者が参加できて、一日も早く健康の回復を取り戻していただくというためには、あらゆる方法によるところの福祉事業について補助となるような基準の緩和、拡大、こういうものをお願いしとうございます。  それから第五番目の問題として、これら健康被害救済制度を実施していくための事務費の問題がございます。事務費のうち特に人件費にかかわる補助については、実態に即したものに改めていただきたいというのが意見でございます。  本市の場合には、公害健康補償課を設けまして、現在四千七百人に上る患者補償事務、こういうものを行っておりますが、きめ細かな対応を必要とするために三係二十一名の職員を配置しております。しかしながら、補助対象人員は現在四名とされておりまして、余りにもかけ離れた実態でございます。ちなみに人件費は、五十一年度でございますが、年間五千五百万に上っておりますが、補助額は五百八十万である。二分の一の補助率とされているものでございますけれども、その実態は約十分の一になっているというような状況でございます。自治体財政逼迫状況の中でこれが非常に大きな負担でございまして、ぜひとも超過負担の解消というものを図っていただきたいということでございます。  それから第六番目の問題といたしまして、健康調査手法の開発の問題でございます。  自動車排気ガス等による健康影響調査については、五十年に国において実施されたわけでございますが、医学的に未解明の分野も多く、その結果は結論が見出し得なかった、こういうように発表されてございます。本市では、裁判中の国道四十三号線沿道住民健康影響の問題というものが非常に問題化している現状でございます。  この種の健康調査手法を早急に確立されまして、健康調査を実施していただき、被害実態の把握とその必要な対策、こういうものを検討していただきたい、かように考えております。  次に、第一種地域指定要件についてでございますが、現在の指定要件につきましては、大気汚染程度については二酸化硫黄で代表されておりまして、その濃度年平均〇・〇五ppm以上、いわゆる三度以上とされてございます。そして、健康被害程度につきましては、有症率自然有症率のおおむね二ないし三倍、こういうふうにされてございます。  本市におきましては、二酸化硫黄による汚染は大幅に改善されまして、昭和五十年度には環境基準を達成し、五十一年度もこれを維持しておる現状でございます。それにかかわらず、新たな患者が依然として発生しており、五十年以降に生まれた方についても認定を受けるというような状況でございます。このために費用負担されておられます企業から疑問視する声が多く出ているのが現状でございます。  また、窒素酸化物による健康影響については、六都市の複合大気汚染健康影響調査では二酸化窒素濃度と持続性のせき、たんの有症率との間に相関が見られるとする一方、硫黄酸化物の汚染改善されれば有症率は低下傾向を示すことが指摘されてございます。先にも述べました自動車沿道の住民の健康影響調査と同様に、まだ明確な結論が出ていないというような現状ではないかと思います。  現在、われわれは、五十三年度締結を目指しまして公害防止協定の改定作業をやらさしていただいておりますが、こういうふうな現状の中から、産業界では環境基準の科学的根拠を疑問視しておりまして、発生源対策を引き延ばす動きが見られてございます。そして、そのことによりまして、窒素酸化物対策というものが足踏みをしているというような状態を強いられてございます。  われわれ地方自治体は、こういうふうな混乱の状況から一日も早く脱却いたしまして、平常な軌道に乗せることが急務である、かように考えております。そのためには、本年三月中央公害対策審議会に諮問されました「二酸化窒素の人の健康影響に関する判定条件等について」の早期答申によって、窒素酸化物が健康に及ぼす影響について科学的根拠が明確化されることを希望するものでございます。そして同時に、法的な規制の強化、あるいは総量規制の問題等によりまして、移動発生源を含めた総合的な長期的な対策、こういうものが確立されるよう強く希望するものでございます。  環境公害行政につきましては、市民あるいは企業の双方から信頼を得るためにも、こういうふうな問題に関しまして早期に解決し、国が積極的に対処されるようお願いするものでございます。  以上で公害健康被害補償問題点、あるいは公害の問題点につきましての私の説明を終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  6. 島本虎三

    島本委員長 ありがとうございました。  次に、助川参考人にお願いいたします。
  7. 助川信彦

    助川参考人 横浜公害研究所の助川でございます。  最近研究所の方に移りまして、この問題につきまして十分な研究成果をおさめたというところにはまいっておりません。行政に携わりました経験も含めて申し上げさせていただきます。ただいまも尼崎の部長さんからお話がるるございました。私も同様に地方自治体に属しておりますので、重複する問題は省いて申し上げようと思います。  公害健康被害補償制度は、わが国だけに見られる特殊な制度でありますことは、これまでも御指摘がありました。当初から幾つもの行政的な割り切りをした上で発足をいたしましたので、問題の多いことは事実であります。  申し上げるまでもなく、四日市あるいは水俣病、一連の公害裁判の判決結果を踏まえて、本来は健康被害者が民事訴訟によってかち取るべき補償を、迅速円滑にてん補するために制度化されたのでございまして、この制度はあくまでも完全賠償ではございません。損害の一部てん補にすぎないというふうに参考人は思っております。  たとえば、制度による補償は過去にさかのぼっては行われませんでしたし、したがって、慰謝料や逸失利益分が含まれておりません。障害補償費にいたしましても、前年度の男女別、年齢別の全国、平均賃金の八割を最高限度として障害等級に応じて給付されているのでありますし、遺族補償費も七割が最高であります。個人別に異なる被害の実情は考慮されない一律の基準による給付となっておりまして、婦人や老人のように平均賃金の低い階層にとりましてはかなり不利な内容となっております。制度は、民事訴訟の提起を押さえてはおりませんけれども、これらの社会的弱者は実態として手続の複雑な訴訟にたえられない人々であるかと存じます。せめて一定の限度で低い額の方を切り捨てるというふうな、前年度の賃金ベースを土台にいたしました場合に、そうした措置がとれないものかと思います。  本来的に申しますならば、このような行政的な割り切りは廃止して、より完全賠償に近い形の制度に拡充すべきものというふうに存じておりますけれども、最近、経済低成長下におきまして、一部から、制度の後退を求めるかとも解せられる発言を聞くこともございまして、遺憾に存じます。  ただ、移動発生源に係る費用負担汚染負担分の二〇%にすぎないことは、確かに是正を要する問題でございますし、固定と移動が五〇%ずつ、ないしそれに近い形が望ましいかとも存じます。  また、先ほど徳永さんが申されました、たばこ問題等につきまして、専売公社負担という案なども当然検討されてよろしいかと思います。  現に五万五千人の公害病患者が病苦に悩まされているのでございますけれども因果関係の明白な第二種地域の特異的疾患につきましても、これは参考人はつまびらかではございませんけれども自治体研究者の一員といたしまして関心を抱いております。  水俣病の認定のおくれにつきまして、熊本地裁から地元の熊本県が不作為違法の判決を受けておりまして、県の未処分申請患者は三千八百人にも上るというふうに仄聞をいたしております。過般、政府におきましては、地元に、疾病の判断条件を示し、検診能力の増強を図って処分を促進するように指示した模様でありますが、自分自身には全く過失も責任もない多数の患者の方々がいつまでもヘビの生殺しのような状態に置かれておりますこと自体が人道問題でありますので、国におかれましては、地方自治体と一体的な協力を深められまして、認定業務を一層具体的に促進されたいと存じます。  申すまでもなく、環境行政は国民から信頼されて初めて成果を生むものでございますから、誠意のこもった総合施策を積極的に推進するという基本姿勢の確立こそが先決ではないかと思います。  参考人の所属しております横浜市の中に川崎市と隣り合った鶴見臨海地域がございまして、第一種地域の大気系公害病指定地域となりましてからすでに五カ年を経過しておりますが、本年の八月末で七百七十一人の患者がおります。本年じゅうには八百人に達するかと推測されます。人口八万の地域でありまして、約一%の割合ということになります。ちなみに、お隣の川崎市の指定地域の人口は約三十万人と推定されますけれども、たしか三千人程度患者がおられます。四日市などの例を見ましても、地域患者が一%に達しまして、大気が清浄化の方向に進みますれば、患者の発生が頭打ちとなる傾きがあるようでございます。  一方、横浜全市の工場等から排出されます二酸化硫黄は一ころ十万トンを上回っておりましたけれども、総量規制に企業の御協力をちょうだいいたしまして、一万五百トンまで下げることができました。十分の一に近くなってまいったわけでございますが、川崎市でも同様の措置が進みまして、一ころはSO2につきまして〇・一ppmに近い汚染でありましたのが、厳しい環境基準を満足する地域がほとんどとなってきております。さらに窒素酸化物の総量規制に取り組んでいるところでございます。  こうした規制によりまして、指定地域内におきましてこれまで咲かなかったキンモクセイの花が咲いたとか、あるいは昭和四十九年九月以降、補償法が施行されました際、公害病は二年ないし三年の有期認定期間が決まっている認定となったのでございますけれども、小児のぜんそく性気管支炎が回復して再認定とならなかったようなケースもたしか二十数人に及びまして、障害等級におきましても重い等級から軽い等級へ移行した患者も現在かなりの数に上りつつあります。しかし、地元の住民はキンモクセイよりも複雑な体質を持っておりますし、相当の重濃度汚染に数年さらされました後に相前後して発病したわけでございますので、長期間にわたる重荷に耐えかねて発症したのでありますから、その重荷が逐次軽くなったからといってすぐにすべて治癒するというわけにはまいらないのではないかと存じます。  補償施行以来、考え方によりましてはわずか三年でございますから、制度の効果はこれからではないかと思います。ここで制度を廃止ないし後退させるようなことが万一にでもございましたならば、仏つくって魂入れずという結果に終ろうかと存じます。  ただ、全般的なSO2による大気の汚染改善にもかかわらず、幹線道路周辺の地域におきまして、私どもはBMRC法によって全市の有症率調査の結果を見ましても、やはり幹線道路周辺は有症率がやや高目に出る傾向がございます。これはNOx、窒素酸化物が主因ではないかと言われておりますけれども、人によりましてはディーゼルトラックが発散いたします硫酸ミストに注目せよという発言もございまして、いずれにいたしましても一般住民は、窒素酸化物であろうがあるいはSO2であろうが、浮遊粒子状物質であろうが選択的に影響を受けているわけではございませんので、それらのミックスいたしました大気による被害を受けているのが実態でございますから、対策の実施に当たりましては、このような複合大気汚染そのものを一つのメルクマール、指標といたしまして、適切な影響調査を実施いたしまして対処の方策を立てるということが急務であると存じております。  ここで非常に簡単に横浜市のとったこれまでの措置にちょっと触れさせていただきます。そして自治体側の意見を重ねて申し述べることにいたします。  昭和四十六年、つまり指定地域になります前年、住民の要望に沿いまして健康調査を行いました。市独自の措置として指定地域を設けたところでございましたが、四十九年の補償施行時には横浜市と川崎市が手を組みまして、地元の企業六十五工場に協力を依頼して、法ではさかのぼらないことになっております過去分の補償をいたしました。これは四日市裁判を範といたしまして、直接死因一千二百万円、あるいは他原因死亡によるものは六百万円、患者に対する一時補償金が最高百五十万円。当時川崎市で千八百五十六人、横浜市で四百六十七人の患者がおりまして二千三百二十三人でございますが、それまでに公害病で亡くなられたお方は両市の合計で百十四人でございます。それらの人々を対象といたしまして支払いまして、両市合計、地元の企業からいただいて補償をさせていただいた額は四十億余円でございました。  さらに補償法におきましては、それまでの救済法と異なりまして、一カ月の入院または通院の数が三日以内の患者さんには療養手当が支給されなくなりましたので、既得権を守りますために両市は独自の措置を現在も講じておるわけでございます。  また、真に患者の福祉を守ろうとするならば経済補償で事足るはずはございませんので、両市で相図りまして、医師や患者の代表を加えた財団をつくり、公害保健センターを両市の市境付近につくるべくすでに着工をいたしまして、本年中に落成の見込みとなっております。  このセンターは療養上の相談や住宅あっせん、社会復帰の手引きなどとともに、大気系公害病の本態を究明し、患者の早期治療を促進、再発を防止する、先ほど徳永さんが御指摘がありましたような仕事をやるよう、スパイロメーターあるいは動脈血のガス組成、心電図、エックス線装置等の専門的検査設備を整え、空気清浄室等も設けまして、患者や患児を対象とするぜんそく教室の開催やぜんそく体操の指導を行う場として、地元保健所や医療機関とも協力いたしまして、患者の既往症や投薬の経過等を明らかにするようなことをいたしまして、一人一人の患者に親身になってお世話をさせていただくべく、健康回復事業を行おうとしているわけです。  国としても、水俣病研究センターの建設を手がけておられることは承知しておりますが、大気系公害病センターにつきましても御配慮をいただきたいというふうに思います。特にこれは開所後、運営費等に赤字を生ずることは目に見えておりますので、この際お願い申し上げておく次第でございます。  その他、現行制度改正せずとも実行できるかと思われる要望事項をこの席で二、三申し上げてみます。  第一に、転地療養事業にかかわる補助対象基準を緩和して、各地の実情に即したそれぞれの公害保健福祉事業に対して可能な限り助成を行っていただくことにすれば、もう少し事業費が消化できるわけでございます。たとえば、国は現在、指定地域外に転出した患者保健福祉事業対象外とせよ、こういう指導でございますが、このような差別は速やかに撤廃すべきでございます。人件費等を含めて超過負担自治体に強いている現状も改めてほしいこと。最も有効な福祉施策は患者に対する家庭訪問、看護事業なのでございますが、専任保健婦の人件費等を認めてほしいこと。その他この事業人件費にかなりのお金がかかるのでございますから、実態に即した基準を立てて補助をいただきたい。  ここに昭和五十一年の横浜市の交付金積算書がございますが、横浜の場合、担当職員の給与支出額は二千七百余万円でございますが、国の定めにより支給を受けた金は二百九十万円と、十分の一、尼崎と同様でございまして、総事務費の合計でも三千九百六十五万円の市費を支出済みのところへ交付金は八百余万円にすぎない実情でございまして、これ以上自治体公費を出せと言われましても、貧乏な地方財政ではちょっとむずかしいと思います。実際は五分の一のものを、補助基準額を抑えることによりまして事務費を二分の一負担しているということでございます。  また、療養手当支給を入院、通院四日以上である者だけに限定している点にもはなはだ疑問がございまして、同じ制度の第二種地域では通院二日以上となっており、予防接種法あるいは結核予防法、原爆被爆者法などの関連制度は通院一日以上となって、それが手当の支給対象となっておるわけでございますので、通院四日で線引きをしていることに根拠は乏しいのではないかというふうに存じます。  その他申し上げたいこともございますけれども、御質問にお答えする形にいたしたいと思いますので、これで打ち切らせていただきます。
  8. 島本虎三

    島本委員長 どうもありがとうございました。  以上で午前中の参考人意見陳述は終わりました。     —————————————
  9. 島本虎三

    島本委員長 この際、質疑の申し出がありますので、順次これを許します。林義郎君。
  10. 林義郎

    ○林(義)委員 参考人各位には、お忙しいところわざわざ御出席いただきましてありがとうございました。質問を始める前に、まず心からお礼を申し上げたいと思います。  陳述の順序でお尋ねをいたしますが、徳永参考人にお尋ねをいたします。  先ほどちょっとお話がございましたが、経済界では、現在の不況下で、本制度の重い負担にたえがたくなっているという不安もあるというお話がありました。私もそういうお話は聞いておりますが、経済界を代表する立場から、一体この点をどういうふうにお考えになりますか、という点が第一点です。  次には、NOxを賦課金の対象とすることにつきまして、いろいろと御意見がありますが、この辺についての御意見をお述べいただきたいのが第二点です。  第三点は、実は公害健康被害補償制度というものは、先ほども助川参考人からございましたように、完全なものではないし、日本でユニークなものであるし、本来は、こういった制度補償することなく、公害対策がまっとうに行われて、だれも払わなければいいというふうな制度に持っていくべきであろうし、私は、そうした意味では臨時的な措置ではなかったかと思うのです。いろいろと制度としても問題がありますが、中でもいろいろ聞きますのは、地域的なアンバランスがある、自分の各地域から出てくる金というのは必ずしも高くない、ところが、その地域に要る金は非常に多いというところがありますが、この地域的なアンバランスの問題につきましてどういうふうに改善していったらよろしいか、まず徳永参考人にお尋ねをいたします。時間がございませんので、一つ一つ簡単に御見解をいただければ幸いだと思います。
  11. 島本虎三

    島本委員長 以上、三点の質問がございました。徳永参考人
  12. 徳永久次

    徳永参考人 最初の経済界負担でございますが、自動車は、御承知のように重量税の中から出ておりますけれども、固定発生源関係で、ことしは年間で四百七、八十億だったかと思います。最初は少なかったのですけれども、だんだんふえまして、そうなっております。しかしながら、私どもるる先ほど申し上げましたのは、負担が重いことも事実でございますけれども、それよりも、制度そのものの中で直していただきたいという希望の方が主でございまして、合理的なものに直していただければ、負担する人も納得するのじゃないかと思いますけれども、その点の方に問題がいろいろございまして、一部苦情が出たりもしております。しかし、現実をお調べいただければわかりますけれども、納付金は、ほとんど一〇〇%きわめて順調に期限内に納付されているということで、産業界制度にいろいろな不満はありながら、四百数十億の金をちゃんと出しておるというのが実情でございます。  それから第二の、NOxの問題を基準の中に入れることの可否というものは、冒頭の意見の中でも申し上げましたけれどもNOxが、環境庁でお調べになりました高速道路の沿道の調査とか六大都市調査によりましても、それと公害病患者との有意な条件は何も出てこなかった。ごく一部関連があるというような指標も出るが、しかし逆に相関しないことの結果の方がたくさん出ておって有意性は認められないというふうに、環境庁から公式に発表されておるようなことでございまして、そういう状況から見まして、NOxを入れるということについては、私ども納得がいかないという気がいたします。  それから、最後にお尋ねがございました地域負担の不公平といいますか、患者の少ないところであっても負担金が多い、患者の多いところでは負担金が少ないという問題、これは前から議論されておるところでございまして、私ども、多少の地ならしというものは昨年ちょっと行われましたけれども、この地ならしではまだ不十分じゃないかと思います。これはいわば産業間内部の地域負担だけの問題といえば問題でございますけれども、しかし地域ごとの不満もありますわけで、これは環境庁にもお願いいたしまして逐次是正していただきますようにということをお願いしておりますが、まあ昨年のはいわば第一ステップであった、負担が余り急激に変化するということも実際問題とさわりがあるものですからあの程度になさったことであると思いますけれども、順を追って、もう少しいまの格差是正がなされるのは必要かつ適当ではなかろうかと考えております。  以上、お答えいたします。
  13. 林義郎

    ○林(義)委員 次に、佐竹参考人にお尋ねしますが、本制度あり方企業負担あり方としまして、自然有症患者等、大気汚染関係のない患者も、先ほどもお話がありましたが、一応給付対象には入っておるのですね。もしもその分も公費負担ということになりますと、当然地方自治体負担をしなければならない、こういうことになりますが、この自然有症分の取り扱い、そして公費負担を全部国だとかなんとかというわけになかなかいかないと思いますから、どういうふうな形で自治体負担するのが望ましいのか、この辺につきましてどう考えておられるのか、お尋ねをいたしたいのが一点です。  それから第二点は、公害保健福祉事業の充実のために大変苦労をされておると思うのですが、一体今後配慮すべき点はどういう点なのか、助川さんからも大分話がございましたが、佐竹さんの方からも何かあれば、この機会ですからお話しをいただきたいと思います。
  14. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 自然有症率の取り扱いの問題でございます。  たとえば、自然有症率の部分だけ公費負担したらいかがかという御質問でございます。この自然有症率というのは、汚染の広まっておらないところの四十歳から六十歳までの方のぜんそくあるいは慢性気管支炎の症状を示す者の率でございまして、大体二・五%ぐらいあるとされてございます。しかしながら、個々の事例の中で、この方は自然に発症した者である、あるいはこの方は公害による被害者であるというような臨床的な判別というものが非常にむずかしかろうと思います。こういうふうな二・五というふうな計数をもとにいたしましてこういうものを公費負担していくいうこと自体、先ほど申しましたように、自治体がいま非常に財政的に困難な状況にある中で、さらに負担を大きくしていくということで、他の福祉関係事業等につきまして大幅に制約が加えられるということになってまいるかと思いますので、公費負担については、自治体としては問題があると申し上げなければならないと思います。  それから第二点の御質問でございますけれども、この制度についての配慮すべき具体的な点の御質問でございます。私の方で先ほどいろいろ制度の問題に関しましてお話しいたしましたように、患者におきましては、きめの細かい行政、こういうものを望んでおるわけでございます。われわれは健康回復福祉事業というものを最重点施策としてやっておるのでございますけれども、たとえば未就学児童福祉事業ということになりますと、付き添い者がどうしても要るというような問題になってまいります。それから、すべての方たちにこういうふうな健康回復事業をやってまいろうと思えば、重症の方についてはそういうふうな制度がどうしても当てはまらないということになります。そういう点で、できるだけ幅の広い事業に取り組んでいただいて、そしてあまねくこういうふうな方たちが健康回復事業に参加できるような制度、こういうことをわれわれとしては念願する次第でございます。
  15. 林義郎

    ○林(義)委員 助川さんにお尋ねいたしますが、今度は公害研究所長になられましておめでとうございます。  先ほどお話の中にありましたが、SOxの環境濃度は次第に減少してきておる。NOxは横ばいだというふうに私も聞いておるのですが、公害健康被害補償法で指定されているところの四疾病慢性気管支炎気管支ぜんそく、ぜんそく性気管支炎、肺気腫の発生は、以前よりもふえておるのでしょうか、減っておるのでしょうか。普通にざっと考えますと、濃度が減ってきておるのだから、本当ならば、疾病原因であるならば当然に減ってしかるべきだろうというのが、何かふえているということになりますと、一体そういう関係を見ていいのかどうかということすら問題になるのではないかと思いますが、事実としてどういうふうになっておるのか、この辺をまずお尋ねをいたしたいと思います。  それから、第二点はたばこの話でありますが、実は、たばこの話は同僚の向山議員がきのう質問いたしまして、専売公社なんかに来てもらって、専売公社の方もやはり疫学的には因果関係ありというお話をされていました。そうすると、やはりたばこの方からも出す、何らかの形で負担をするということは、私は理の当然としてあることだろうと思いますが、そのほかにNOxにつきましていろいろと問題がある。助川さんのおっしゃった点と徳永さんのおっしゃった点とはちょっと違いますが、いずれもいま詰めておるところですから、その結果を見なければならない、こう思うのです。思いますが、NOxの問題につきまして当委員会で大分前に議論されたのですが、屋外の大気汚染の問題と室内の汚染についても考慮する必要があるという考え方があるのです。この辺、助川さんは御専門ですから、この機会にどういうふうに考えたらいいかということをお尋ねしておきたいと思います。  たばこも、自分が喫煙する場合と、パッシブスモーカーというのですか、要するに、おやじさんが部屋の中でたばこを吸っていると子供に悪影響を与えるという問題がありますから、そういうような問題と同じことが言えるのじゃないかと私は思いますし、その辺についてどういうように考えたらいいか、専門家としてひとつ御答弁をいただきたいと思います。  それから、公害保健福祉事業について先ほどお話がございましたが、あとなおつけ加えてお話をなさるようなことが何かありましたならば出していただきたいと思います。  それからもう一つの問題は、いま佐竹さんから御答弁がありまして、地方自治体は確かに苦しいというお話であります。地方自治体にこれ以上の負担はというお話でありますが、国の方も実は大変な財源難ということになっておりまして、一体自然有症率のようなものとか、そういったものをだれが負担をするのが一番適当なのか、どういう負担をした方が望ましいのか、いまの健康保険法であるとか、いろいろの国の制度とかは別にしまして、一体基本的に考えて、どういう形での負担を考えたらよいのか。健康保険法などもやはり抜本的な改正あるいは医療制度全般について見直しをすることが必要な時期に来ておると思うのです。来ておりますが、なかなか進みません。きょうはせっかくいい先生が来られましたから、ひとつその辺の専門的な御見解を賜りたい。  以上、御質問申し上げます。
  16. 助川信彦

    助川参考人 それでは簡単にお答えをさせていただきます。  公害病患者は、地域によって差はございますが、残念ながら増加の傾向にございます。早くから指定地域になりまして幾らか頭打ちになってきたというような感じがしてまいっておるところがございます。そういったものを一つの傾向線を引いて予測をするような作業にも取り組んでみておるのでございますけれども、いろいろな資料を環境庁からもちょうだいしましたが、まだ申し上げられるところまで行っておりません。現実はどうだというと、やはり増加しております。  それから、たばこの問題は、専売公社に負担させる、これは財源的にも非常に楽でございまして、いいお話だと思いますけれどもたばこは健康に害があるということがちゃんと張り出してあるわけでございますから、個々の喫煙者が節煙するなり、徳義的な問題がやはり基本にあろうかと存じます。財源問題として考える場合はまた別でございますけれども、子供さんをぜんそくにしてまで室内でたばこをすぱすぱやっていて、ただ工場のような公害発生源にはかみつくということでは、本来なかなか徹底した施策ができ上がらないことになろうと思います。ただし、私もたばこを全然断つわけにまいりませんので残念でございます。ひとつこの機会に、苦しいですけれども喫煙を考えてみることにいたします。  福祉事業につきまして、徳永先生から経団連の立場でお話がございましたけれども患者自身がたばこを吸いながら補償を受けているという姿にはわれわれも疑問を感ずるところがあるわけでございます。これは考えてみますと、医師が患者を指導すべき事柄の一つでございまして、法律で、おまえ、たばこを吸うなら補償費をやらないぞというふうな方向でいくべき問題ではあるまいと思うのでございますが、こうしたお話も出ているところでございますし、保健婦が家庭訪問、看護、指導をしておるわけでございます。こうした問題につきましては、やはり相手方の納得を得て、せめて病気の療養中はたばこを最小限度にとどめるとか、とにかく人の前で吸っているということではちょっとまずいのじゃないか。患者であるからには、ほとんどのお医者さんは、たばこは吸わない方がいいよと言うはずの問題であろうかと思います。  余りお答えにならなかったかもしれませんが、この程度で……。
  17. 林義郎

    ○林(義)委員 終わります。
  18. 島本虎三

    島本委員長 次に、水田稔君。
  19. 水田稔

    ○水田委員 参考人の皆さん、御苦労さんでございます。  最初に、経団連の徳永さんにお伺いしたいのですが、これは林さんの質問と同じようなことになるのですが、いま地域によって賦課金と給付の大変なアンバランスがあります。それは水島と大牟田が一番ひどい状態になっています。ことし一部賦課率の改正をやられたわけですが、なお大幅なアンバランスがあるわけです。そういう点について、業界としてどういうぐあいにお考えになっているか、まずお伺いしたいと思うのです。  それからもう一つは、NOxの問題につきまして、これは環境庁研究複合大気汚染健康影響調査、自動車沿道住民健康影響調査というものなどから、とるべきでない、こういう御意見でありますが、私ども調査そのものについて、なお、午後専門の方に御質問もしてみたいと思うのですが、それ以外に断定的にNOxを否定される独自の調査か何かを持たれてそういう御見解なのかどうかを伺っておきたいと思います。
  20. 徳永久次

    徳永参考人 ただいまの第一の地域負担の問題でございますが、これは業界内でもいろいろございまして、いま先生御指摘の大牟田市では負担が約七、八億か八、九億になっておるけれども、実際に地域患者の分に要る金は三、四億にすぎない。まあ半分ぐらいで、取られ過ぎといいますか、そういうことになっておる。水島も似たような感じですが、数字は正確に記憶いたしておりません。それは結局、大阪とか川崎とかいうようなところにはよけい行っておるという感じになっておりまして、発生者が適正に負担するということはいわば公平という意味では常識であろうと思いますが、先ほどちょっとお答えしましたように、現在の制度を急に負担を変更するというのも大変なということになるので、段階を追って変えられていくというふうに環境庁もお考えになっておるのだろうと思います。一部、昨年の改正のときにも、もう少し幅広い、均衡をとるような案があったのですけれども、これは産業界の中からもそんなに急にされても困るというような意見も出ましたようなことで、時間を追ってというのが実際的な、常識的な計らいになるんじゃないだろうかと考えております。しかし、そういう姿勢を否定しておるわけではございません。  それから第二のお尋ねのNOxの問題についてどういうふうに考えておるか、あるいは独自の調査でもしておるかということでございますが、実は私ども、この問題は前から、NOx基準ができましたときに業界で専門委員会のリポートを読ましていただいたわけですけれども、そこの、簡単に申し上げれば、使われたデータと結論との結びつけ方について大変な疑問がございまして、医者じゃございませんけれども、われわれの企業等にはいわゆる科学者というのはたくさんおりますから、これは全然納得いきませんよという疑問を最初から出しております。  それから、国際的に見ましても、その問題は日本のは飛び離れて厳しいし、そうしなければならぬということは何もどこからも出てないということでございます。そういう意味で、本当によく勉強してくださいということを環境庁にもお願いしておるというのがわれわれの立場であったわけですが、率直に言わせていただきますと、なかなかそういうわれわれを納得さすような行政的努力をしていただけないというのがわれわれの不満でございまして、それで実は昨年でも、業界であれいたしまして、自分たちは医者じゃございませんから、りっぱなお医者さんにお願いして、世界じゅうの文献調査を——文献と言いますと、NOx関係ある研究論文が世界じゅうにたくさんございますが、そういうものを整理、分類してもらって、そこからある何らかのものが得られるであろうというようなことも、実は財界で、そういうことを勉強してやろうという先生もいらっしゃいましたので、われわれ喜んで、若干の費用なら出しますから、どうぞ勉強してくださいということをお願いしたりしました。  それからまた、いま北里研究所に私どもお願いいたしまして、疫学調査を、動物実験をやってもらっております。これはお約束してお引き受けいただいたのは大分前だったのですけれども、設備をつくるのに正確を期すといいますか、ということでずいぶん苦労もされたようでございまするし、またその研究設備を設置するのに地元との話し合いでなかなか時間がかかったというようなことでございますが、一カ月のデータは出たようでございまするし、三月の実験については解析が行われておるというふうに聞いております。まだ短期間でございますが、一月のデータでは何も影響がない。これは〇・〇二どころか、〇四ぐらいでやっても何も影響がないという答えが出ておるようでございます。これは実験よりも後の解析といいますか、の方に大変時間がかかるようでございまして、三月の研究はお済みになったようでございますが、それを解剖その他いろいろなさるのに時間がかかるようで、まだ答えは出ておりません。  それから別途、環境庁では御案内のように環境の研究所ができたわけですが、これも最近になってNOx研究に着手しておられて、三月分ぐらいのデータというものは出ておるように聞いております。しかし、われわれ仄聞するところでは、まだ正式には発表されてない。発表されておりませんけれども研究データでは、高い濃度でも何も影響は出てないというふうに聞かされておりますけれども、しかし、これは公式にはいずれ研究が整理されて発表されることになるのだろうと思います。  私ども、国がいままでそういうことをやってくれないものですから、自分でもやって、少しでも正しい答えになるようにということをしておったわけでありますが、政府でも最近委員会をおつくりいただきまして、新しいクライテリアをつくるといいますか、そのための研究が始まっておるようでございますから、いろいろな研究、学術研究論文等は当然に参考にされるのではないのかなとは思っておりますけれども……。
  21. 水田稔

    ○水田委員 NOxに関しまして私ども理解も、今回の環境庁調査というのは、これで否定できるものではなくて、むしろNOxに関する調査研究はきわめて不十分だというそういうデータと、こういうぐあいに理解しております。いまの御答弁を聞きますと、経済団体でも結論的なものをほかに持っておられるわけではなくて、そういう点では、なお国の解明が非常におくれておる、そのために、そういう点がこの補償制度について十分、何と何という汚染物質の負荷によって合理的なあれができない、それがいまの経済団体の御理解程度と、こういうぐあいに理解してよろしゅうございますか。
  22. 徳永久次

    徳永参考人 私もう一つ申し忘れましたが、NOxにつきましては、その発生メカニズムというものも国では解明されておりません。いま、これはもう約三年になりまするけれども、通産省が音頭を取りまして、経済界が数億の金も出しまして、兵庫県を舞台にしましていろいろな研究をやっていただいております。これは学者が中心でございますが。それでとにかくSOxとNOxは全然違うのだ、SOxは簡単に申しますればほこりみたいなもの、ほこりは拡散したりはいたしますけれども、有毒なほこり、それは変化するわけじゃありません。それはただどう拡散するかという問題でございますが、NOxの場合は、NOが出てそれがNO2にどうなるかという、どういうことでどう変化するかとか、そういうそのもの自体がわかってないというので、それをわかるような勉強をしてみようじゃないかということで、いま勉強しておるというような状況でございます。  それから先生お尋ねの、この基準に入れるとか入れないという問題につきましては、環境庁がやりました六大都市調査及び高速道路近間の調査では有意性が認められないというのが公式発表でございまして、そういうものであるのに、何か関係がありそうな気がするから基準に入れようという議論というのは適当でないんじゃないかというのが私ども意見でございます。
  23. 水田稔

    ○水田委員 時間の関係がありますので、そればかりというわけにまいりませんので、あと土井先にその問題を詰めていただきたいと思います。  尼崎佐竹さんですか、いわゆるNOx解明がおくれておるために、そのことが、脱硝の、NOxを除去するということの免罪符のような形で使われておる、足踏み状態というようなそういう御説明があったのですが、尼崎でたとえば企業と市で公害防止協定を結んで年次でやっている、そういう中で、そういうことが理由でなかなか進まないというようなことが具体的におありでしょうか。  それからもう一つは、五十年にすでにSOxに関しては環境基準を達成し、五十一年も引き続いて達成しておる。そういう中で患者がふえてきておるということですが、そういうことについての御調査を、一体その理由はというようなことを、市独自で何か医学的にでも調査されたことがあればお聞かせいただきたいと思います。
  24. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 窒素酸化物の問題でございます。われわれ、国の方でやられました自動車道沿道の住民の健康調査あるいは六都市調査というものは、いわゆる技術的な面、手法的な面で解明でき得なかったということで、決して健康に関しましてNOx影響がないのだというふうに受けとめてはおりません。もう少し手法が開発されれば当然こういうふうな健康との因果関係というものが究明できるのではないか、こういうふうに考えております。また環境庁でも、やはり自動車道沿道の健康調査の中でも端的に窒素酸化物については灰色であるというような表現をとっておられまして、決して健康に影響がないんだ、こういうふうにはおっしゃっておられないわけでございます。  窒素酸化物の対策でございますけれども尼崎市におきましては五カ所で環境測定をやらせていただいております。五十一年度の環境基準の適合率、これはそれぞれの測点によって適合率が違っておりますが、一八%から五一%ぐらいの幅がございます。当市におきまして、この窒素酸化物につきましては、昭和五十年度を初年度にいたしまして、大量発生の企業と四十八年度をベースに固定発生源の総量を三六%カットするということで公害防止協定を締結させていただきました。これの期限が五十二年度末まで三年間の協定でございます。しかしながら、先ほど申しましたように、環境基準の適合率が非常に低うございます。たとえば、国の方の環境基準でございます中間目標を達成するということになりますと、四十八年度、未規制のときからの比較でございますけれども、窒素酸化物は未規制のときから七〇%ぐらいのカットをしなければ中間目標に到達できない。それから環境基準、これを達成しようとすれば、四十八年度のベースから考えますと八五ないし九〇%をカットしないと窒素酸化物の環境基準には到達できないというような現状でございます。そういうことを踏まえまして、ちょうどこの公害防止協定の改定時期に当たっておりますので、企業とお話し合いを続けておるわけでございますけれども徳永参考人がおっしゃったようなかっこうで、窒素酸化物はいわゆる健康とのかかわり合いがないのだ、あるいは現在の窒素酸化物の環境基準というものは科学的な根拠がないというようなことを理由に、これよりも進んだら、窒素酸化物対策というものは、われわれとしてはどうしても防いでいかないといけないということで、対立したような状況といいますか、現在、膠着したような状況にあるというのが現状でございます。  それから、窒素酸化物の健康調査を市独自でやったかという御質問でございますけれども、もちろん国のレベルにおいてもでき得ないような問題もございますし、われわれの方で積極的にこの健康調査をここ数年やった経験はございません。  以上でございます。
  25. 水田稔

    ○水田委員 横浜助川さんに一つだけ。  御説明の中で、固定発生源と移動発生源と五〇%が望ましいというようにちょっと言われたと思うのです。それはどういうことなのか、ちょっと御説明いただけたらありがたいと思います。
  26. 助川信彦

    助川参考人 公害の費用負担をいたします場合、現在自動車重量税から二〇%を負担しておる、そして固定発生源の方、工場の方は八〇%を負担している。これは確かに負担割合として、幹線道路、高速道路、その他の道路公害等の状況が主になっております現在の状況から見まして、そこから出てまいります物質がNOxであろうがSOxであろうが微粒子状物質でございましょうが、そういったものが皆出てまいるわけでございますから、やはり自動車の負担割合は高めるべきであろうというつもりで申し上げました。
  27. 水田稔

    ○水田委員 ありがとうございました。終わります。
  28. 島本虎三

    島本委員長 次は、土井たか子君。
  29. 土井たか子

    ○土井委員 大変お忙しい中をお三方の参考人の方々、きょうは時間をお割きいただいて本当にありがとうございます。  さて、先ほど尼崎環境保全局の佐竹環境部長の方からの御発言の最後の方で、現在、環境基準の科学的根拠を企業者側が問題にされているので、窒素酸化物に対しての環境基準の達成という問題が引き延ばされつつあるようであるというふうな趣旨の御発言がございましたが、その窒素酸化物の対策尼崎の中ではどういうふうな引き延ばし対策として具体的にあって、それが足踏みを現にさせることになっているかという実情について少し伺いたいのです。尼崎では、鉄鋼関係なんかの工場もあったりいたしますので、最近、鉄鋼連盟から各自治体にいろいろ申し入れが具体的にあったやにも私たちはお聞きしているわけでありますが、そういうこともあわせて、ひとつ実態についてお聞かせいただけませんか。
  30. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 先ほどの御質問でお答えいたしましたのですが、現在われわれは、窒素酸化物の環境基準を達成するために、いわゆる法あるいは条例に基づく規制以外に地域ぐるみの公害防止協定の強化、こういうことによりまして窒素酸化物を少なくしていこうというような考え方で、防止協定の締結、ちょうど先ほども申しましたように五十二年度で切れますので、第五次の協定、これは五十三年度からその実行にかかるわけでございますけれども、これの詰めをやっておる段階でございます。もちろんこの詰めに関しましては、県、市それから企業側、この三者で特に技術論争を中心にいたしましてやっておるわけでございますが、その技術論争の中で、窒素酸化物対策についてはいわゆる現状凍結をしてほしい、前回四次協定を結びましたのが無規制時代の三六%カットでございますが、これをそのまま凍結してほしいという希望が非常に強うございます。それの理由といたしましては、先ほど申しましたようにやはり健康との因果関係がないのである、あるいは環境基準というものは科学的な根拠がないということを中心に言われるわけでございます。これで五十三年度から発足しようとする公害防止協定というものが、もう十一月近くになりますのにまだその詰めができないというのが現状でございまして、われわれとしては少なくとも中間目標なりを到達するべく、さらにカットということでのお話し合いを続けておるわけですが、一向にその話が前進しないというのが実情でございます。
  31. 土井たか子

    ○土井委員 いまのお話の中でも、窒素酸化物がいわゆる呼吸器症状というものをいろいろと起こしていく原因になるということに対して、何ら科学的根拠がない、むしろその科学的根拠に乏しいということをいままで財界、産業界の方は言われ続けてきたわけでございますが、御承知のとおりに環境庁の方の複合大気汚染健康影響調査総合解析企画評価小委員会、非常に長い名前でございますが、こういう小委員会がございます。そこでこの年の二月だったと思いますが、統計学的な手法による解析結果というのを出しておりますが、窒素酸化物が呼吸器症状に対して一〇〇%近く関連性を持っているという具体的な分析結果がこの中でも明らかにされているのですが、助川所長はこういう問題についてもやはり専門的お立場をお持ちになって研究をされているお一人でもございますので、窒素酸化物と呼吸器症状との関連について、因果関係ありやなしやということでお考えをひとつ御披瀝いただけませんか。
  32. 助川信彦

    助川参考人 古い話から始めますと、労働衛生のいろいろな知見がございます。つまり、八時間労働で職場で働きますような場合、とても環境基準のような濃度ではございませんけれども、そうした高濃度の中で働きまして、そして因果関係が、窒素酸化物のうちのNO2につきましては呼吸器に障害を与える。NOという状態は、先ほどお話がございましたように、NOからNO2へ変わったりまた戻ったりということがございますけれども、NOという状態ではCO、一酸化炭素と同じようにヘモグロビンと結びつきまして、たとえばネコがこたつの中で気を失うというふうなことが昔ございましたが、それと似たような、全くCOと似たような症状が、また実験的には一酸化炭素よりもかなり影響が強いというふうに言われております。ただ、自然界の中では、NOはNO2になったりあるいはまた光化学オキシダントになったりいたしまして、またその方で急性の一過性の障害を学童や郵便配達の方などに与えるといったふうなこともございまして、NOの問題はその両面から非常に急性の一過性の健康障害を与えることがある。そしてオキシダントに変化した場合に、しかも思っていたよりもかなり広範囲にまたがってこのNOなりNO2なりあるいはオキシダントなりが流れている、移送されているようであるということが逐次最近わかってきております。  したがいまして、要は検査の仕方でございまして、たとえば道路の周り、沿道の地域におきまして細かく測定点をとり、あるいはそうしたいろんな物質をよく調べて、また、その中に住んでおります方の有症率を調べれば、すぐ道路のそばの人たちの有症率が高くなるというようなことは常識で考えてもわかることでございます。ある程度の広さをとりますと、道路から離れたところ、たとえば戸塚の原宿では、われわれが調べたところでは、国道から五十メートルぐらいが濃度が高くなっている一つの範囲でございます。これが東名高速道路あたりになりますともっと広い範囲、百メートル近くの問が高濃度汚染にさらされるということで、このNO2そのものが確かに呼吸器に害があるということは実験的にも証明されているのでございますけれども、われわれはそうした物質別にとらえていくということではなくて、その沿道にお住まいになっている方々が実際に呼吸をしておられる毎日の大気の質を明らかにしていく。その中にNO2なりNOがどの程度含まれているか。あるいは場合によりますと、案外NOの状態で道路のすぐそばの人が被害を受けておる。少し離れたところに参りますとNO2の被害を受けておるというようなことが出てまいるかと思います。いずれにしましてもさらに検討をしてみたいと思いますが、呼吸器に対して影響がないというようなことは言えない状況でございます。
  33. 土井たか子

    ○土井委員 経団連の委員会委員長代理徳永参考人にお尋ねしたいと思うのですが、きょういただきました資料の中で「汚染疾病に対する影響寄与度解明」という部分がございまして、そこで貴会では、限られたデータだけれども入手をして、そして汚染健康影響との関係を分析されつつあるわけでありましょうけれども、この九都市とおっしゃるのは一体どういう都市でございますか。
  34. 徳永久次

    徳永参考人 これは環境庁地域指定なさいまして、全地域データが集まったわけではございませんが、千葉市、東京都、川崎市、三重県楠町、大阪市、吹田市、尼崎市、堺市、北九州市、以上の九都市でございます。  これは日本システム開発研究所にお願いいたしまして、環境庁、各市がお持ちになっておりますいろんなデータとの関係を調べてみたわけでございますが、その中の答えでは、先ほど冒頭で申し上げましたように相関が不明確という答えになっております。そこで私どもは、これは九都市で限られておることでございますから、こういうことこそ、環境庁がもっと広範なデータをお持ちのはずですから、よく解明していただきたいものだということをお願いしておるということでございます。
  35. 土井たか子

    ○土井委員 相関関係が不明確というただいまのお話でございますが、各自治体に対してでございましょう、科学的、経済的な面から見たわが国のただいまのNO2の環境基準に対する疑問点をおまとめになった、鉄鋼連盟の名によるパンフというのがございます。  これについてちょっとお伺いいたしますが、鉄鋼連盟の話でございますけれども尼崎についても横浜についても、そういうパンフのたぐいが具体的に自治体で入手されているかどうか、どういうかっこうでそれが自治体に配られたか、その辺ちょっと聞かせて下さいませんか。
  36. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 鉄鋼連盟の方から窒素酸化物の人体影響等についてのパンフなり、それから先ほど徳永参考人が申されました、いままでのそういう窒素酸化物等の人体影響に関する知見でございますか、データを集積したものでございますが、こういうものについて郵送なりの方法でわれわれの方に送ってきておられます。
  37. 助川信彦

    助川参考人 行政をやっている方の公害対策局の大気課あたりでちょっと拝見いたしました。かなり部厚いものだったように思います。
  38. 土井たか子

    ○土井委員 実はこの中で、ただいまのわが国のNO2について科学的、経済的な面から見た疑問点というものが掲げられているわけですが、むしろ疑問点というよりも中身は、これに対しては全く根拠がないと言わんばかりの内容ではないかと私は思うのです。先ほど徳永参考人の方は、世界的な規模でこういう問題に対しての研究をさらに鋭意努力を払いたいというような向きの御発言もここでお伺いすることができたわけですけれども、この鉄鋼連盟あたりの見解は、きょう徳永参考人がここで御発言なすっていらっしゃる中身と合致する点が多分にありますので、そういう点から申し上げれば、世界的規模から考えまして、一日平均値で〇・〇四ppm程度を考えておりますWHO値、窒素酸化物に関する環境保健クライテリアから考えてまいりましたWHOの一日平均値から考えますと、いまの日本の環境基準〇・〇二ppmの中間目標値とこれを置きかえて考えてみると、ほぼ同様のものであるという認識がいま環境庁でもございます。これは置きかえて考えてみたら、大体WHOの言っているところと日本のいまの環境基準矛盾していない。だから、日本の環境基準が世界に類を見ないくらい厳しいものというのには全く根拠がない。現に鉄鋼連盟のパンフには、世界に類を見ない厳しいものとちゃんと書いてあるわけですから、一体どういうお調べ方をなさってこういうふうな発言が出てきているのか、ちょっと私たちも理解に苦しみますし、また科学的合理性を欠くというふうにこれでもって批判される根拠は、どうもそういう点から言ったら説得性に欠けるのじゃないかとすら思えるわけであります。  特に私がここで申し上げたいのは、疫学データが万全ではない。これは徳永参考人がおっしゃるとおりなのであります。ただしかし、これは環境庁の方でも、疫学データが万全ではないということはただいまお認めだろうと思うのです。私は、万全にするための努力をぜひ環境庁のみならず各省庁が力を合わせて果たしていただかなければならぬと考えている一人でございますけれども、しかし、疫学データが万全になるのを待っていたら一体予防措置がとれるかどうか、確かにこれは問題になってくると思うのです。四日市の二の舞いが起こってしまっては遅いわけでありまして、やはり刻々進展しつつある状況の中で逐一払うことができる努力を最大限に払っていかなければならないということが私は鉄則だと思うのです。  そういう点から考えますと、徳永参考人にお尋ねをしたいのですけれども、鉄綱連盟のパンフの中にある、日本の環境基準は世界に類を見ない厳しいものであるとか、科学的合理性を欠くということに対してどういうように考えていらっしゃるかという御意見をひとつお尋ねすると同時に、佐竹参考人助川参考人に、その後で、大体いま疫学データが十全ではないということで、データが十分になるまで待っていていいかどうか、その辺、自治体としての悩みもおありになるでございましょうから、それも含めてお答えいただければ幸いだと思います。  以上です。
  39. 徳永久次

    徳永参考人 結論だけ申し上げますが、いま先生は、WHOの結論は環境庁基準を裏づけるものであるというようなお話でありましたけれども、私どもはそう理解しておりません。と申しますのは、WHOの基準というのは一時間値として〇・一ないし〇・一七というのが、先生特に御存じだと思いますが、いまそれを一日量に換算いたしますと、いろいろな換算の仕方があるようでございますが、従来やっておるような九〇%たえるといいますか、多少の誤差があるものがございますから、極端な誤差の分を整理して、そういう整理の仕方で換算いたしますと、日量にすれば、私どもの計算では〇・〇五ないし〇・〇九という数字が出ております。これは計算の仕方でございまして、一〇〇%というふうに例外的な現象も全部取り込めば〇・〇四も出るというふうには聞いております。しかし、それはいまの中間目標値の数字とやや似た数字になるということでございまして、〇・〇二とは全然かけ離れた数字でございます。しかも一時間値であるということでございまして、一時間値をとるのがいいのか日量換算がいいのか、そこにも問題があると思います。これは各地域データをお調べになればわかりますけれども、大気のNOxの量というのは日によって波がございます。波があるというのは、簡単に申し上げれば、たとえば自動車がよけい通るときにはカーブが上がっておる、濃度が上がっておる、それからあとどきは下がっておる、そういう波がございまして、したがって、これは今後どうしたらいいのかということは環境庁でもいろいろと勉強なさっておることであろうと思います。  私どもきわめて常識的に考えまして、WHOというのは世界のお医者さんが集まって、専門家が集まってのことでございますから、これはいままでよりも、日本の環境庁が調べたよりもはるかに高い裏づけがあるものであるのではないのかと考えるわけでございます。  そういたしますと、もし基準をつくるなら、〇・一から〇・一七ということになっておるなら、その一時間値にすれば、その中間くらいをとるというくらいのがきわめて常識的なことではないのかなと私ども考えておりますけれども、しかしこれはお役所がお決めになることでございますが、〇・一ないし〇・一七という答えに一時間値でなっておるわけでございますから、いままでよりも一つの根拠のある数字が出たなと思っております。したがいまして、先生のおっしゃった環境庁の〇・〇二が裏づけられたとはわれわれ毛頭考えておりません。むしろ否定されたということしかわれわれ考えておりません。
  40. 助川信彦

    助川参考人 昭和四十八年でございましたか、例のNOx環境基準が決められたことがございます。あのときの決め方というのは、わが国における疫学的所見が十分であったというわけでもないと思うのでございますけれども、主として東京都の資料が使われました。東京は御存じのように、ビル暖房や自動車が前から多うございまして、つまり東京都内のSO2の影響はさほどでもない、しかしNO2の影響は見られる。そのほか粉じんその他あるわけでございますけれども、そういったところで東京都の職員がたしか細かい疫学調査をなさいまして、それを決める場合の資料の一つに使ったように記憶しております。  当時、やはり初めのSO2の環境基準のように、学者の方々の答申を行政が少し緩めまして、曲げて〇・〇五などというのを決めたことがございますけれども、そういう姿勢から脱却をいたしまして、専門家の方々が健康に損傷がない程度ということであれが決められたというふうに理解をしておりまして、あれはあれで正しいものであろうと思っております。  われわれ行政の目標として五十三年ぐらいまでにせめて〇・〇四ppmを達成しよう、これはいまいろいろと計算をしたりいたしまして、排煙脱硝の技術の進展その他いろいろなその対策をぎりぎりまで企業に講じさせて、やっと五十三年に〇・〇四が達成されれば——そこまでしかどうも実際的にいきそうもないということで、横浜でも窒素酸化物の五万四千トンを一万トンに減らすという総量規制の手法を決めて工場といま話し合いをしているところでございます。このようなお話でよろしいのか——WHOの基準なりあるいはわが国のそうした基準なりとの間に矛盾があるかないかということは詳しく存じ上げないのでございますけれども、われわれ日本人の体質ということを考えてみましても、そんなにWHOの基準にとらわれる必要はないのではないかというふうに思っております。
  41. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 疫学の調査の結果を見てから対策なり救済をするのはどうかというようなただいま御質問の御趣旨だったと思いますが、疫学調査は非常にむずかしい問題がございます。たとえば乳幼児とかあるいは学童とか、こういう方たちを対象にして果たしてできるのかどうかというようないろいろむずかしい問題があろうかと思いますけれども、ぜひともこういうふうな手法なりを確立した中で調査はお続けいただきたい。その反面、患者救済につきましては、やはり今日的な問題でございますので、この調査の結果いかんによって救済するということではなくて、患者救済の問題はやはり現実の面として続けていっていただきたいというのがわれわれの希望でございます。
  42. 土井たか子

    ○土井委員 それでは、最後に一問だけ徳永参考人に申し上げさせていただいて、次、細谷委員の方に質問を……。
  43. 島本虎三

    島本委員長 土井君に申し上げますが、あなたの時間はあと三十秒くらいになっております。それでもなおかつよければ……。
  44. 土井たか子

    ○土井委員 それでは、終わります。
  45. 島本虎三

    島本委員長 土井たか子君の質問は終わりまして、次は、古寺宏君。
  46. 古寺宏

    ○古寺委員 きょうは参考人の方々から非常に有意義なお話をいろいろと承ったわけでございますが、最初に徳永参考人に御質問申し上げたいと思います。  先ほど徳永参考人から、認定患者が非常にふえているけれども、これは制度上の欠陥であって、経団連といたしましては病気を積極的に治し、公害病はなくすべきである、こういうお話がございました。そこで、私がお尋ねしたいのは、経団連としてはこういう公害病をなくするために現在の制度のどういう点を改善したらいいとお考えになっていらっしゃるのか、その点をまずお伺いしたいと思います。
  47. 徳永久次

    徳永参考人 私は医者でございませんで、先生はお医者さんのように承知しておりますが、私ども素人でございますけれども、経団連でいろいろ議論いたしておりますのは、患者さんにいろいろな補償金を差し上げるということよりも治してあげることの方が大事なことではないのか、その方の施設は本来国がやるべきではないのでしょうかということで厚生省等にもお願いもしておりますが、少なくとも、たとえばぜんそくとか気管支炎とかにつきましてどういう治療法をやったらいいよということを全部のお医者さんに、教えるというと語弊がありますが、そういうシステムをつくり上げてもらってやっていただいたらいいのではないのか、そのための基本的な研究をどこかでおやりいただいたらどんなものであろうかというようなことを考えまして、経団連では、そう大した金じゃございませんけれども、そういう研究をしていただくお医者さんに研究費を差し上げまして、そこで研究の成果がまとまって、それが一般化されることを実は希望いたしておりまして、そういうことをやっております。私事にわたりますけれども、私の弟が戦前からぜんそくで苦しんでおりまして、最近ではほとんどおきまっておりますけれども、昨年川崎市にあります虎の門病院の分院というのがぜんそくの相当の権威の高いところだということで、そこへ約一月入院いたしておりました。素人でございますけれども、話を聞きますと、ぜんそくにはいろいろな原因があるので、そこでは二十数種の注射をして、それで何からきたぜんそくであるかということをチェックして、本人の持っておる体質、いろいろなことございますが、それに合わせた治療法をおとりいただいているということでうまくいっておるということを身近な例でも聞いておるわけでございます。いまの虎の門病院のあれが一番権威があるのかどうか、あそこは虎の門病院ですから権威が高いのだろうと思いますけれども、その種のことが一般普及するようなことがどうしてできないものだろうかな、もっとシステム的にとり行われるようにありたいものだなという希望で、一部研究者に、お医者さんでございますけれども研究費を差し上げて、そういう治療法の勉強をシステム的にやるためのデータづくりをお願いしておるということでございます。
  48. 古寺宏

    ○古寺委員 病気は早期診断、早期治療ということが非常に大事な問題でございまして、特にぜんそくなんかもそうでございますが、公害の健康被害補償法の底流には疑わしきは救済するという基本理念と申しますか指導理念があるわけですね。そういう疑わしきは救済するという理念については徳永参考人はどういうふうにお考えになっていらっしゃるか、承りたいと思います。
  49. 徳永久次

    徳永参考人 公害に起因する場合の疑わしいものについて万全を期すという気持ちは産業界もあえて否定してはいないと思います。  ただ、先ほど私の冒頭陳述で申し上げましたように、あるいは尼崎の部長さんがおっしゃいましたように、もともと自然有症率というものがあるんだ、しかしそれを、この人は自然の、もとからのぜんそくの体質とかアレルギー質とかいろいろなことでなったのであろうかとか、あるいは公害でなったのであろうかということは臨床的には区別しがたいから、それを全部補償対象にしておるというのがいまのシステムでございます。しかし自然有症率が先ほど尼崎市の部長さんのお話で二・五ということでございます。公害指定になりますのはそれの二、三倍ということでございます。そういたしますと、仮に二倍としますれば、五の病人があるとしまして、そのうち二・五は自然有症の人であるということの類推もできるわけでございますので、その分は公費負担という考え方が入れられていいんじゃないのか。その公費負担の考えの中に、もっと細かく、先ほど申し上げましたたばことの相関関係というものが統計的にも医学的にも証明されておるわけでございますから、たばこをのむ人にも、のむがゆえにぜんそくや気管支炎になっている人がいるということは間違いないということでございますれば、財源対策としてたばこの益金から回すということもお考えいただいていいのではないか。自然有症率も含めて全部企業負担というのはいかがなものでございましょうかというところで、納得いかないということを申し上げて、制度をうまく直していただきたいということをお願いしておるわけでございます。
  50. 古寺宏

    ○古寺委員 公害病であるのか、他の疾患であるのかという鑑別はこれからの非常にむずかしい問題であろうかと思いますが、やはり疑わしきは救済するという基本的な考えにおいては、徳永先生も同感であるように承ったのでございます。  そこで、ただいまいただきました資料の中で、NOxに関しては、「NOxを本制度具体的運用に組み込むことについては厳にこれを避けるべきである。」と、非常に厳しい表現になっているのでございますが、先ほどからお話がございましたWHOあるいはわが国の基準等におきましては、いわゆる小児、お年寄り、あるいは複合汚染、こういうものが十分に含まれていないように承っておるのでございます。そういう点を配慮した場合には当然このNOxについても今後十分に検討すべき課題であると思うのでございますが、その点についてはいかがでございましょうか。
  51. 徳永久次

    徳永参考人 私どもNOxにつきまして政府にぜひいろいろな勉強をしてもらいたいということを前からしばしばお願いしておるのでございますけれども、なかなか勉強してもらえないというのが悩みでございます。  そこで、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、実は鉄鋼連盟で、NOxの技術対策のために——これも日本では方法が全然未開発でございます。また測定技術も未開発でございます。これは自分たちでも研究いたしますけれども、私ども何千人かの人、大手各社だけでも何百億かかけていろいろな技術開発もいたしております。しかし、自分たちだけの手に負えないというので、広く学界、ほかの業界、いわゆる公害産業関係のいろいろな人もおられますから、そういう方にもお願いして技術開発を進めてもらいたいという制度をつくっております。これは基準ができて間もなくでございますけれども、どうも政府は、基準はつくったけれどもNOxの発生メカニズムから測定方法から対策から、何も解明されていない、大変な問題であるということを言いながら、その種の対策は何もとってくれないというので、これは自分でやるよりしようがないなということで、私どもの業界では何十億の金を集めまして、それで研究開発に大学の先生、産業界の他の業界の人にもお願いする、自分は自分でやろう、また別に研究組合もつくって、これならもしかしたらうまくいくかもしれないなというテーマを選んで研究開発に取り組むということをいたしておるわけでございます。  しかし、現状は目ぼしい進展はございません。これは世界のよその国がどんなことをしておるかも調べましたけれどもございません。その中の一部としまして、疫学調査といいますか、NOxの動物実験を、先ほどちょっと御紹介申し上げましたように、北里研究所で勉強してやろうというお話がございましたので、よろしくお願いしますということでやっていただいておりますが、まだ一カ月のデータしか出ていない、三カ月の分は解析中であるということでございます。実はいままで、NOxの勉強としまして大阪の中島先生のデータ等もありますけれども、本当に実験設備が公正にできてうまく管理されてなされたのかどうなのかという点もございまして、いま、中島先生にもまた御相談して、北里研究所の調査に一緒に参加してもらって、やり方から結果からよく確かめてもらいたいということをお願いしようとしておるということでございます。  世界じゅうが、移動発生源以外、どこもNOxについてディスカスしていない、日本のように厳しい基準も持っていないというところに私どもきわめて常識的に最初疑問を持ったわけでありますけれども、ただそんなことを言っておるだけではしようがないというので、自分で納得のいくデータを見つけたいものだな、また同時にNOxの防除技術の開発も進めたいものだな、測定技術も進めたいものだなということで一生懸命に努力しておりますが、何さま、測定技術にしましても、〇・〇二なんというのは一億分の二ということでございまして、いまの技術では測定不可能でございます。これは大学の先生何人かにもお願いし、産業界にも測定の専門家はいろいろおりますけれども、そういう人に一生懸命その機器の開発のインプルーブをすることをお願いしております。もう三年たっていろいろな中間報告が出ておりますけれども、総括して申し上げればまだ信頼すべき測定機器はないというのが現状である、こういう状況でございます。
  52. 古寺宏

    ○古寺委員 次に、助川参考人にお伺いいたします。  現在、公害病認定に関してはもっと迅速にしていただきたい、また、再発を防止する意味で公害保健福祉事業をもっと充実していただきたい、こういう要望が非常に強いわけでございますが、政府はどういうような基本姿勢に立ってこの問題の改善に努めるべきかという点につきまして御意見を承りたいと思います。
  53. 助川信彦

    助川参考人 これは厚生省、環境庁その他関係省庁がございますが、あるいは文部省等があるかもわかりませんが、そうした役所が総合的に医療あるいは疾病予防の問題について体制を組みまして、特に保健福祉事業的な意味健康回復事業と取り組んでいくということは、大気汚染の——もちろん正常化へ向けての公害当局の努力とあわせて、それぞれの疾病、特に大気系の公害病等につきまして、先ほどからいろいろお話がありましたように未解明の問題もございますけれども、ぜんそくの発作が起きて苦しくなると医者のところへ行く。われわれも歯が痛いときなどそういう傾向がございます。先生は難病対策について権威と承っておりますけれども、省庁を通して医療行政を進展させようとしている方々が御一緒の体制を組んで、健康回復事業に本腰を入れて取り組んでいただく、あるいは一つの知見を集めて、それでわれわれ自治体を御指導いただく。また現在、国立病院が大部分名前を変えたりしておりますけれども、こうしたところは、肺結核も呼吸器疾患でございますから、やはりその方面の専門家もおられるわけでございますし、また、肺機能その他を調べます診療設備等も整っておるわけでございますし、山間の国立療養所などの場合、空気の非常に清浄なところもあるわけでございます。患者さんがそういうところへ行くのをいやがる場合は仕方がございませんけれども、極力お勧めしてそうした方面に誘導をしていくとか、国としても直接やれる手がいろいろあるに違いないと思うのでございます。この事業発足以来すでに三年を経過しておりますが、さらに一つの転機を迎えますためには、いまの制度では保健婦さんを年に二回雇い上げて訪問させるという制度になっておるわけでございますけれども、そうしたことでは、健康回復事業への専門的な努力という点において保健婦さんも欠けるところがあろうかと思います。公害担当の保健婦の専任者を配置いたしまして、人件費等についても補助をいただき、教育研修等もしていただきまして、国は専門家をみずからお持ちにもなっておられるわけでございますので、国立療養所あたりで多年研さんを積まれた方々を中心にいたしまして、自治体なり、あるいは場合によっては直接患者さん方に働きかけるような動きをして、十分模範を示していただきたい、このように思っております。
  54. 古寺宏

    ○古寺委員 時間でございますので、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
  55. 島本虎三

    島本委員長 次に、中井洽君。
  56. 中井洽

    ○中井委員 参考人の皆さん、きょうはありがとうございました。  最初に、徳永参考人にお尋ねをさせていただきます。  先ほどからのお話の中で、たとえば因果関係の科学的な究明とか患者さんの治療の徹底的な解明、こういったことについては私どもも大賛成でありますが、私の聞き違いであればいいのですけれども、先ほどからずっとお話を承っておりますと、制度全体に対する経済界、経団連、あるいは徳永参考人さんの御理解というのが何かちょっと私どもと違うように思うのであります。  実は、私は三重県の選出で、四日市が選挙区でございます。四日市の公害裁判のときには住民は非常に苦しんだわけであります。そしてこの苦しみの結果、十分満足とはいかないけれども、この制度ができたことによって救われた人もたくさんおる。救われた中で、特に企業が助かっているのではないかと私は思うわけであります。たとえば、いま公害病認定患者の皆さんがそれぞれ裁判をするというようなことになれば大変な月日がかかる、費用もかかる。こういったことを何とかしょうということで、先ほどの助川参考人さんのお話にありました、思い切った形でこの制度をつくったわけでございます。  ところが、先ほどからるるお話がございました要点を私なりに理解をいたしますと、どうもこの不況下になって、こういう時期だから、この制度自体を何か違った方向へ変えていただきたい、こういった話が出てくるように感じるわけであります。因果関係云々という話の中で、現在、払っているけれども因果関係がはっきりしないじゃないか、あるいはNOxについても因果関係がはっきりしていないじゃないか、しかしたばこはお金を出せ、それではたばこの方もあなたのおっしゃるようにはっきりと科学的に因果関係が証明されているのかというと、私は証明されていないと思うのであります。そういった矛盾点について、詳しくなくて結構でございますから、経済界全体として、この制度に対する御理解あるいは四日市裁判等における反省というものについてどういうふうにいまお考えなのか、お聞かせをいただきたいと思います。
  57. 徳永久次

    徳永参考人 お答えいたします。  制度をやめてくれとか、そんなことは一切申しておりません。ただ、先ほどの繰り返しになりますけれども、大変な割り切りになっておるわけであります。割り切りは、臨床的に区別しにくいということでわからぬことはないけれども自然有症率を含めてやるということなら、それ相当分は国も金を出す、財界も金を出すというシステムであるべきではないでしょうかということを、実は最初から経団連は申し上げておったわけであります。これは、まああのときのああいう社会情勢の雰囲気の中で全部財界に押しつけられてきておるということでございます。私ども申し上げておるのは、自然有症率との関係について全部財界が金を出すという形は少し行き過ぎではないのでしょうか、もう三年もたったことですから直してくださいねということをお願いしておるというのが一番大きなポイントでございます。  それから、たばことの関係でございますが、これはお手元にお配りしてないかと思いますけれども環境庁で六大都市等でお調べいただきました年齢別等のデータがございまして、気管支炎とかぜんそくになった患者たばこをのむ人、のまない人で大変な差が出ておるわけでございまして、これは環境庁データでございますので、そういうデータから考えれば何か答えがありそうなものだなということでございます。
  58. 中井洽

    ○中井委員 時間がございませんので、次に移らせていただきます。  徳永さんに一つだけお願いをいたしておきます。  先ほど土井先生の御質疑へのお答えの中にございました九都市の中で、三重県「くすのきちょう」とございましたのは、これは「くすちょう」でございます。  それから、もう一つお願いいたしておきたいのは、経団連の皆さんで御調査をいただくならば、たとえばこの楠町というのは四日市の隣でございます。この四日市・楠町というのは全体の一次指定になっているわけでございます。そして楠町では煙の排出量としては全体の一%でございます。しかし患者は四日市・楠町の一割いるわけでございます。これは四日市のすぐ隣、しかもコンビナートのすぐ隣で、通勤している人もいっぱいいるわけでございます。経団連の方もデータをお集めになるのだったら、ぜひとも詳しいデータをお集めいただきたいと思います。  それでは、佐竹参考人にお尋ねをいたします。  先ほどの御答弁の中で、またいまの徳永参考人のお話にもございましたが、自然有症患者の分は地方自治体、国で持っていただきたいという点に関して、地方自治体としては財政困難なときに困るのだ、こういう御答弁であったと思いますが、財政困難でなければ地方自治体は持つのか、あるいは何%ぐらい持つのがいいとお考えなのか、そういった点についてお聞かせをいただきたいと思います。
  59. 佐竹三木夫

    佐竹参考人 自然有症率部分の公費負担の件の御質問でございます。もちろん現在疫学的な手法によって患者というものが認定されております。そういう中で、この患者は公害によるものだ、あるいはこの患者は自然有症というのですか、自然的な原因による患者だというような、いわゆる臨床的な区別というものはなされないわけでございます。それで、現在の救済制度医療給付補償給付と両面ございます。医療面の給付と経済的な給付という両面立てでございますので、やはり片一方して片一方しないというわけにはまいりませんし、患者個々を区別していくというのは非常にむずかしいと思います。先ほどの私の発言のように、地方財政が非常に窮迫している時期にさらに自然発症率部分を自治体負担することについては、現在でも福祉の切り捨てということがよく言われておるわけですが、これは非常に大きな部分を占めるのではないか、こういうふうに考えております。もちろん、ぜんそく等については総合的な対策の中で、たとえば難病対策なりで医療費の負担は考えられるのではないかと思いますが、ただ補償給付等につきましては、これは出どころがないわけでございますので、こういうふうな部分については、やはりその制度なり何なり、総合的な検討をしていただくということがまず第一だと思いますし、それから、原因物質であるのが、いままで硫黄酸化物だけであったということでございますけれども、窒素酸化物あるいは浮遊粒子状物質、こういうふうな因果関係をも求めながら、それの相乗相加作用というものを考慮した中で、いわゆる全般的にコンセンサスの得られるような配分方法というものがあれば、われわれとしても決して拒んでいく筋合いのものではない、こういうふうに考えております。
  60. 中井洽

    ○中井委員 それでは、助川参考人に二つだけ御質問申し上げます。  先ほどのお話の中で、福祉事業の中で、転地療法をもう少し利用したらいいのではないかということですが、時間がなくて申しわけないのですが、具体的にお考えをお教えいただければありがたいと思います。  それから、先ほどの水田先生への御答弁と重なるかもしれませんが、いわゆる窒素酸化物の関係で、自動車に負担を五〇%、五〇%ぐらいまでという御意見がございます。これは上げろという形での御意見か、はっきり五〇%、五〇%にすべきだとお考えなのか、その点についてお答え願いたいと思います。
  61. 助川信彦

    助川参考人 後の御質問から先にお答えしますと、一つの提案にすぎないわけでございまして、一つの総枠の中で、それだけかかるものなら、自動車の割合を上げる必要はあろうという考え方でございます。  それから、転地療養事業は実際問題としては大変むずかしい事業なのでございますけれども、まあ転地療養事業もいろいろなやり方がございましょう。あるいは子供を集めてぜんそく体操をやるというようなところもございますし、個々まちまち、やはり住民なり母親なりの意向に沿って自治体が動いているわけでございますし、また保健所等もそういう仕事をしているところもありますので、そうしたものを、一つ基準にはまらないからお金を上げないのだ、福祉事業の予算は残ったって構わないのだという発想でなくて、できるだけ取り上げて、自治体が住民サイドで働きやすいようにめんどうを見ていくのが環境庁の仕事ではないか、こういうつもりで申し上げました。
  62. 中井洽

    ○中井委員 ありがとうございました。
  63. 島本虎三

    島本委員長 次に、東中光雄君。
  64. 東中光雄

    ○東中委員 参考人の皆さん御苦労さまでございます。  時間がありませんので、徳永参考人だけにお伺いいたしたいと思うのでありますが、補償制度の賦課金は、納付意欲がなくなるということを理由にして、企業別の納付額は公表されていないわけですけれども産業界としてはむしろ積極的に公表されたらどうかというふうに私は思っておるわけですが、どういうふうにお考えか、公表されない理由はやはりあるのかどうか、お伺いしたいと思います。
  65. 徳永久次

    徳永参考人 法律で取られる基準が決まるような仕組みになっておりまして、いまの基準では、SO2の発生量に応じて、補償協会でかかる費用を二割は自動車、八割は固定発生源からというような仕掛けになっておりまして、毎年毎年発生は減っておりますけれども、単価はぐんぐん上がっておるという状況でございます。ちょっと正確ではございませんけれども、固定発生源から総額四百数十億ということになっておりますが、個別に公表するとかせぬとか、一覧表をつくるとかつくらぬとか、そんなことは考えたこともございませんけれども、聞かれればこれぐらい出しておりますよということは申し上げることにいたしております。鉄連で約八十億ぐらいだったかと記憶しております。企業別には、私の会社が恐らくその半分ぐらいは出しておるだろうと思います。正確に私は記憶しておりませんけれども、数十億の単位になっておることは間違いございません。
  66. 東中光雄

    ○東中委員 その点については、公表をされるお考えがあるのかないのかということと、されないなら、なぜされないのかということをお伺いしたいというのが先ほどの質問の趣旨でございます。  それから、時間がございませんのであわせて伺いますが、これは経団連月報の昨年六月の分でありますが、「公害健康被害補償制度問題点」というのが出されておるわけです。その中で、「政府も本制度見直しの必要性については基本的に了承し、現在既に環境庁、通産省の事務レベルでその検討を開始している」というふうに書かれています。どういう点について政府が了承したと言われるのか。その後ことしの二月八日の「公害健康被害補償制度改正に関する意見」によりますと、「その後の政府見直し作業は期待する程進捗しておらず、」云々となっているのです。昨年の六月に了解をしたというのがあって、ことしの二月には進捗しておらぬ、こう言われておるわけですが、了解された問題点見直し点、そしてその後期待するほど進捗しておらぬけれども、幾らか進捗しておるということであろうと思うのですが、どういうふうに経団連の方では見ていらっしゃるのか、お伺いしたいと思います。
  67. 徳永久次

    徳永参考人 私ども要望はいろいろオープンにいたしておるわけでございますけれども、経団連月報に書いてある意味は、こういうことであろうと思います。政府の方でも、確かに問題があるのだなということで、ある委員会をおつくりになっている。正式の審議会ということではないと思いますけれども専門家を集めて問題点のディスカスを始める委員会のようなものをおつくりになっているということは承知いたしておりますので、いよいよ問題に取り組んでいただいておるなというふうに経団連では理解したのだと思います。
  68. 東中光雄

    ○東中委員 先ほどの質問で公表の問題を申し上げましたので、その点どうですか。
  69. 徳永久次

    徳永参考人 公表の問題、これは私の会社の分を正確に調べて報告あるいは公表するということは、私、何も差し支えないと思いますけれども、ただ経団連でそんなことを議論したこともございませんので、これは大ぜいの人のことでございますから、私から何ともお答えいたしかねると思います。お許しいただきたいと思います。
  70. 東中光雄

    ○東中委員 くどいようでございますけれども政府の方は、賦課金を公表すれば納付意欲がなくなるということを強調されて、公害健康被害補償協会では公表しないことになっているのだというのが、いままでの経緯なんです。ですから、経団連としては公表をしたら何でそういう納付意欲がなくなるのか。公害をなくしていこうというのでしょう。いま出ているということについて公表し、それをなくしていくように努力していく、それから、それについての補償をするということだから、いま参考人からお答えいただいたのは政府の言っていることとちょっとずれがあるように私思いますので、そうでなければ公表をするように、あるいは特に公表をしないというふうな方向ではないんだというふうにお聞きしてもいいのかどうか、そこのところだけ、もう時間がありませんのでちょっと……。
  71. 徳永久次

    徳永参考人 きょう私の会社、川鉄の人も来ておられますけれども、先ほど申し上げましたように、聞かれたら発表するということはしておりますけれども、先ほどちょっとお話がございましたような、政府で公表したら意欲がなくなるからとかなんとか、そういうことも実は初耳でございます。私、経団連の環境対策委員会にも関係いたしておりますけれども、そういう問題を経団連では議論したことございませんので、経団連でみんなが、大ぜいの人がどう考えますか、私限りでちょっとお答えは御容赦いただきたいと思います。
  72. 東中光雄

    ○東中委員 時間ですので……。
  73. 島本虎三

    島本委員長 以上で午前中の参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  この際、午後一時三十分より再開することとし、暫時休憩いたします。     午後零時三十二分休憩      ————◇—————     午後一時三十三分開議
  74. 島本虎三

    島本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  公害健康被害補償に関する問題について、午前中に引き続き参考人から御意見を聴取いたします。  ただいま御出席いただいております参考人は、名古屋保健衛生大学医学部教授梅田博道君、岡山大学医学部助教授青山英康君、日本弁護士連合会公害対策委員会委員長鈴木繁次君の三名の方々であります。  この際、委員会を代表いたしまして、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、また、遠路にもかかわらず本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  御承知のとおり、公害健康被害補償法施行されて三年を経過いたしましたが、公害健康被害補償に関する問題については、関係各方面より多くの提言、要望等問題提起がなされているところであります。  本日、皆様方をお招きいたしましたのは、本問題について関係各界の率直な御意見をお伺いし、今後の委員会審査参考に資することがその主目的であります。何とぞそれぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。  なお、御意見の開陳はおのおの二十分程度に要約してお述べいただき、その後、委員質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、梅田参考人からお願いいたします。梅田参考人
  75. 梅田博道

    梅田参考人 梅田でございます。私は臨床をやっておる人間でございますので、その立場からのお話が主となると思います。  現在、特別措置法から補償法に引き継がれて、大気汚染と関連する公害病といたしまして閉塞性呼吸器疾患というものが取り扱われているわけであります。この閉塞性呼吸器疾患とは、慢性気管支炎、肺気腫、気管支ぜんそく、ぜんそく性気管支炎及びその続発症をいうと法では言っておるのでありますが、まず、その閉塞性呼吸器疾患というものについてちょっと触れておきたい。  そもそも慢性閉塞性肺疾患、これは呼吸器疾患と言っても肺疾患と言っても同じですが、クローニック・オブストラクティブ・ラング・デイジーズ、これは持続性の呼吸困難を主とし、障害生理学的に気道閉塞を示す病態をいうというふうになっておりまして、世界的に、当初はぜんそく及びたんだけを示す慢性気管支炎は入っておりません。というのは、この慢性気管支炎、肺気腫、この一連の病気というものが一番問題になりましたのはイギリスでありますが、イギリスのフレッチャーが言っております慢性気管支炎とアメリカのバローズが言っております肺気腫とがどうも似たようなもの、だということで共同研究をやった結果、大体似たようなものを言っている、そして余り特異的でなく普遍的な命名がよいということで、非特異性肺疾患または慢性閉塞性肺疾患というふうな提言をし、Aタイプ、Bタイプに分けたわけです。Aタイプというのはどちらかというと肺気腫のファクターの強いものをAタイプ、それから炎症症状が強いもの、つまり気管支炎症状が前景に立っているものをBタイプ。われわれはどうもうまい分け方だ、アメリカンエンフィジーマ、ブリティッシュブロンカイティス、Aタイプ、Bタイプというものは非常にうまくいっておるというふうに私は思っておるのですが、こんなふうなことから、慢性閉塞性肺疾患ということは起こっておるわけです。そもそも閉塞性というのは空気が気道をうまく流れない状態、こういうふうに御理解願えればいいと思うので、そういうような概念で始まっておりましたが、次第にそれが拡大され、これを基本にして特別措置法が、何年でしたか忘れましたが施行されたわけで、その当時の厚生省の研究班ですかが、この慢性非特異性肺疾患というものを一つの素材にして慢性気管支炎、肺気腫、気管支ぜんそく——気管支ぜんそくはここで入ってきたわけです——を入れて閉塞性呼吸器疾患とした。それでぜんそく性気管支炎というのは、専門家の間では余り認めている病気ではないのでありまして、これを入れるについては大変に論議があったように聞いております。しかし、日本の一般のドクターが盛んに使っておられる病名だから加えたとその報告書には書いてあるわけであります。  そんなことで閉塞性肺疾患というものが認められておるのでございますが、ここで公害病——私は公害病という言葉はきらいです。そんな特別な病気はないのであって、ふだんある病気を公害と関連あるとしてあるのでございますから、私はきらいでありますが、本当の公害病という言葉をあえて使えば、これには二つあるわけです。その一つは、私は余り詳しくはありませんが、水質汚染を中心としたような水俣病ないしはイタイイタイ病というふうなもの。これは私、学生のころには余り聞いたことがない。それから、将来公害を完全に退治すれば、そういうたれ流すような工場がなくなれば、今後の教科書から省いていいだろう、歴史としては残るかもしれませんが。しかし、大気汚染と関連する閉塞性肺疾患慢性気管支炎、肺気腫、気管支ぜんそくというふうな病気は、いかに公害がなくなっても存在する病気でありますし、公害がないときにもある病気であります。  かつてAPCDC、アジア太平洋胸部疾患会議で、もう十河年前ですが、いまはインドネシアももう大分いろいろあるかもしれませんが、当時インドネシアのドクターがやってきて、われわれの国は日本と違って空は青い、しかし慢性気管支炎もぜんそくもある。それから、慢性気管支炎は冬増悪するというのが一つの大事なファクターですが、インドネシアには冬はない、だけど慢性気管支炎は増悪しますというふうなことを申してわれわれ笑ったものでありますが、そういうものを法では第一種、第二種に分けているわけです。  すなわち、第一種は——法律のところを先生方にお話しするのはちょっと釈迦に説法みたいなのでやめておきましょうか。第一種、第二種ということで、そもそも大気汚染と関連する公害病とされているこれらの疾患は、非特異的であるということがまず第一に問題になるわけでございます。つまり、現在補償法で認めているのは、一定の地域指定をし、これには一つ条件がありますが、そしてそこに居住期間というものが一つあって、そしてこの病気になったらば指定する、こういう非常に行政的な割り切りでやっているわけです。これをある方たちは疫学的因果関係という言葉を使っておりますが、個々の症例についての因果関係は全く不明の場合が多い。因果関係をはっきりさせろと言うと、まず臨床家はできないであろう。現代の医学ではできないであろう。将来でもなかなかむずかしいだろうと私は思います。  大気汚染が以上述べた閉塞性肺疾患、閉塞性呼吸器疾患の増悪因子であることは確かであります。そういうことで、関係がないとは言わない。確かに関係がある。だから法で認めておるのだ、こうなんですが、個々の症例で因果関係を求められると臨床家はとても答えられない。たとえば慢性気管支炎患者さんがやってきて、私のこの症状は大気汚染のためでしょうかと言われたときに、われわれはそうだとはとても言えない。一番大きなファクターは私はたばこだと思います。それから、加齢による変化がそのもとになります。しかし、そうでないとはまた言えないわけです。ですから、そういう個々の症例について臨床家は大変に戸惑っておると思うのですね。しかも、この法をつくるとき、疫学を基礎とした人口集団として大気汚染地区をとらえ、しかもそれは有病率ではなくて有症率で決めているわけです。しかし、実際に審査するのは臨床家でありまして、臨床家は個々の患者と当たるわけです。この辺に現在のこの法の実際面における大変なむずかしさがあると私思っております。  短かい時間でありますが、個々に指定された病気についてちょっと私、解説させていただきたい、こう思います。  まず、慢性気管支炎。これを臨床的にとらえようとする試みはイギリスにスタートしておりまして、スチュアート・ハリス委員長もとにイギリスの慢性気管支炎の成因に関する委員会というので一九六五年に示されております。これが有名なフレッチャーの基準と同じで、肺・気管支・上気道の限局性病巣によらないで起こる慢性持続性——二冬連続的に、少なくも三カ月間ほとんど毎日——のたんを伴ったせきを示すもの、つまり、慢性気管支炎の本質を気道の分泌過多ということでとらえているわけです。簡単に申しますと、長く続くたんを伴ったせき、ただし上気道及び気管支、肺の限局性病巣によらないもの、つまり、鼻が悪いとかのどが悪いとか、または結核があるとか、気管支拡張症があるとか、そういう限局性病巣によるものは除く、こういうことです。  ついでに申しておきますが、慢性気管支炎は、学問的には急性気管支炎の繰り返しではありません。これは実地ではどういうふうにいきますか、大変むずかしいところだと思いますが、急性気管支炎というのはかぜ症候群です。そして、これを何回も反復してもそれはかぜを引きやすいということであって、慢性気管支炎ではない。慢性気管支炎というのは、慢性の刺激が続いて、それによって特異な気管支壁の変化が起こったものです。したがって、気管支造影をやれば明らかに気管支の破壊像がびまん性に見られます。それから、私の専門であります肺機能検査をやりましても肺機能障害がはっきり出ます。ただし詳しい肺機能検査ですよ、動脈血をとりましてやりますと変化が出ます。それでも判定が、正確な診断が大変にむずかしい。われわれどうしてもわからないときには生検をやります。肺を開いて昔は生検というのはやりますが、いまは経気管支的にバイオプシー、肺の生検をやって確認をしますと、慢性炎症が明らかにありまして、かぜ症候群とは違う。要するに急性気管支炎はかぜ症候群でウイルスである。慢性気管支炎は感染以外の刺激によることが多い。つまり大気汚染またはたばこですね。  それで、これは大気汚染との関係が大変にはっきりしているように私思うのです。有症率とSOx、降下ばいじん量、そういうふうなものとの関連を見ましても、やはり相関があるのではないか。ただし、慢性気管支炎と閉塞性肺疾患というのは、この中でたんがあるだけではなくて呼吸困難を伴うものを言うわけです。  慢性気管支炎の成因についてはいろいろ言われておりますけれども、年齢因子もあるし人種の差もあるということですが、やはり一番多いのはたばこでしょう。たばこを吸った人と吸わない人と吸っていた人との差、ウォルフのデータをちょっと挙げてみましても、たばこを吸わない人の慢性気管支炎の発生率二・一%、たばこ十本以下の方が一二・五%、十本ないし二十本の方が二三・八%、二十本以上の方が三一%というふうなデータを出しております。大変にたばことの関連が強い。大気汚染も当然これに関連するであろうと私思います。  次が慢性肺気腫ですが、これは肺胞壁の破壊と肺胞から終末気管支までの間の異常拡張を来している状態、つまりこれは肺の構造的破壊を示す疾患です。  これの原因はいろいろ言われておりますが、一番強いのはやはりエージング、年をとるということですね。高齢者の肺には肺気腫の所見が高率に認められます。しかし、七十歳以上の高齢者でもたばこを吸わない人は肺実質の変化が四十五歳以下のたばこを吸う人より少ないという報告が出ています。したがって、やはりたばこが非常に大きな——この肺気腫の患者を何人も私診ておりますが、肺気腫の患者たばこを吸わなかった人はいません。  それから、素因的には、これも外国で言われていることですが、血清のアルファワン・アンチトリプシン欠乏が肺気腫を起こすんだということが言われています。したがって、素因的にはそういう気管支肺胞系の構造的破壊を起こしやすい状態があって、それにエージングという加齢現象が加わり、それに外因としてのたばこが加わって成立するのではないか。それで、その外因としてはやはり慢性気管支炎と一連のところがあるというふうに思います。  次は気管支ぜんそく気管支ぜんそくは、広範な気管支の狭窄による疾患で、その強さが自然に、あるいは治療によって短時間で変化し、かつ心臓血管系疾患によらないものというふうに言われています。  ぜんそくの本体は何かというと、気道過敏性というものでありまして、これが素因です。気道過敏性が生まれつきある。それにアレルギーなり、または心因性のファクター、あるいはたばこ、あるいは大気汚染、こういうものがトリガーになって発症する、こういうふうに考えられるのでありますが、この本体であります気道過敏性が大気汚染によって高進するか、これが問題のところですが、大気汚染地区の方たちを調べていって、気道過敏性が高進するというデータはいまのところありません。したがって、大気汚染とぜんそくとの因果関係は、大方の専門家の意見はノーであります。ただ、発症のトリガーとして大気汚染がある。それから、でき上がったぜんそくにたばこがいけないのと同じように、大気汚染が悪影響を及ぼすことは当然であります。  ぜんそく性気管支炎、これは余りしゃべりたくないところですが、本来から言いますとぜんそく性気管支炎は閉塞性肺疾患ではありません。これは反復性気管支炎だと思います。したがって、本来の閉塞性肺疾患ではない。しかし、臨床の医学というのは大変にむずかしいものでありまして、たとえばぜんそくの前段階でありますアレルギー性気管支炎または子供の慢性気管支炎、こんなふうなものはとても診断がつけにくい。そういうときに一応ぜんそく性気管支炎という診断をつけておいて、そして一年後、二年後にそれを直していく。フォローしていって、そして病名を確かめていくというのも臨床医学あり方としては間違いではないと私思っています。  そんなところが現在、私御説明申し上げたい大気汚染と関連する病気についてでありますが、問題点は何かということになりますと、やはりいま挙げました、法で定められた閉塞性呼吸器疾患というものが非特異性であるということに端を発していると思うのです。こういうことで、こういう法律で公害で病んでいる人たちを救済しようという趣旨はまことにりっぱなものでありますし、また、救済を急がなければならない人たちがいることも確かでありましょう。しかし、現在行われているこういうような法で公正な保護が図れるか、この公正というところが私大変に疑問を持たざるを得ないのです。というのは、やはりこれは非特異性疾患である、しかも、疾病地域、こういうものを行政的な割り切りでやっておるのでありまして、私に言わせれば、学問的な追求が不十分なうちに世論を背景に急遽登場したような感じがしてなりません。  そして、われわれが何をしなければならないかということでございますが、これはやはり一番大事なのは公害の被害者を出さないようにする、こういう影響者を出さないようにするということですが、非特異性の病気ですから、おっぽっといたってあるわけであります。問題は、こういうときには、私は、明らかに因果関係がはっきりしているところはこれはもう全面的な補償をしてあげなければいけないと思うのですが、かつての四日市とかかつての川崎のような。現在定められた、広がった地域指定の地で、先生方が行って、本当にそう感じましょうか、ほかの地域と。これは実感でもってお感じ願いたい。ということは、補償されていいだろうといっても、補償されない非指定地域患者はかわいそうじゃありませんか。これは公正でないと私思うのです。  ということになりますと、私は、補償よりも大事なのは、やはり管理だと思う。こういう病気を出さないようにする、それから、出たならばそういう人たちを日常管理をもっと上手にしてやるということ。これはどんな病気でもそうですか、慢性病の医療では、公害病に限らずすべて言えることでありますが、単なる対症療法だけでなくて、根本的な治療が困難なだけに、いま述べたような病気は、ぜんそく性気管支炎を除いては大変に治療がむずかしい。それだけに病変の進展を防止し、続発症の発生を予防する対策が必要です。それには、単なる投薬だけではなくて、呼吸の訓練とか体位性ドレナージ、こういうフィジカルセラピー、これに私は力点を置きたい。それから、自覚症状のはっきりしているときの医療だけでなくて、日常生活の積極的な医学的管理、こういう中に一つたばこがありますが、私、大気汚染に対して非常にアレルギーというか神経質になっているわりにたばこに対して余りにも寛容過ぎると思う。これはやはり私は、こういう患者さんたちがたばこを吸っていたら絶対うまく治せない、また管理できない。そういうことを言う医者自身がたばこを吸ってはいけないと私は学生に教育しておりますが、私自身ヘビースモーカーでありましたが、これに関与した八年前にすっぱりやめました。私は、先生方にまことに申しわけないのですが、たばこを吸いながら大気汚染を論ずることがナンセンスであると思っております。これはパーソナル・エア・ポリューション。問題になりますSOx、NOxたばこを一回はかってごらんになったらいいと思う。多分いまの指定地域なんかよりよっぽど高いと私思います。これは臨床でございませんので口幅ったい言い方でございますが、大変に問題だと思います。  それから、私自身の方の今度は臨床家としての反省がなければいけない。それは、こういう長期にわたる医学的管理というものは、特に補償法というのが存在する以上、金銭が絡みますと、これをうまく運用するのは、やはり医師の権威と医師への信頼がベースになります。これなくしては現在の補償法みたいなものは特にうまく運営できないと私は思っています。  それで、対策として私特に最後に申し上げたい。これは補償よりも次のことをもっと力を入れてほしい。一、地域住民に対する正しい医学知識、特に呼吸の訓練、フィジカルセラピー、こういうような病気の知識を持ってほしい、正しい知識を持ってほしい。要するに、おれの体は体が悪くないんだ、あの煙だけで起こったんだ、そんなことはないのでありまして、いかなる病気も環境の影響を受けます。どんな病気でも、環境によって影響を受けない病気はありません。しかし、素因が関係しない病気もありません。どんな汚染地域におったって、かからない人はいっぱいいるのですから。そういう本当の知識、この病気、この障害をどうするかという正しい知識を持ってほしい、そういう教育をしなければいけない、こう思うわけです。  それから、現在、昔と違って大分、呼吸生理、肺生理が進歩しておりますので、そういうものを今度は臨床に導入しなければいけない。要するにこれも私の方の自己反省になるわけですが、診療のレベルアップを図らなければいかぬ。それから三番目、呼吸のリハビリセンターですね、呼吸の訓練、そういうものを教育する場。  それからもう一つ、不幸にしてこういう病気がやはり増悪することが、それはあります。増悪してもこういう閉塞性肺疾患で殺してはいかぬ。実は脳卒中や心臓病でもこのごろは死なないのですよ。一番最後は吸呼不全なんです。それで脳卒中、循環器または脳神経系をやっているドクターに、われわれは殺さぬようになった、大抵最後に死ぬのはあなたの領域だよ、こう言われるのです。呼吸器なんです。実はこれが呼吸不全なんです。だから呼吸不全、これはこの大気汚染とも最も関連する一番最後の悪いところですが、この呼吸不全というのは、治すにはやはりプログレッシブ・ケア・ユニットが欲しい。何といいますか、IRCUというのですね、インテンシブ・レスピラトリー・ケア・ユニット、こういう救急センターを置きたい。だから、こういうものをまとめた大気汚染と関連したような、そういう問題の地域にはチェストクリニックというか、または呼吸センターというふうなものをつくって、住民の教育、それからリハビリテーション、物理的治療、そういう訓練をする。そして一方では救急ユニットを置いて、救急センターを置く。こういうものでは殺さない、こういうような対策をつくってほしい。これは私、実は四十五年に川崎市でしゃべりまして、川崎を初めかなりこれに乗っかった施策が現在行われておるのです。  ただ私が言いたいのは、もっとこういうことが世の中に広く伝わって、そして世論がそういうものに乗っかってほしいということです。関心を持っておられる行政の方はこれに乗っかって着々とやっておられますが、なかなかその実が上がりにくい、こういう慢性病の対策というのは本当に急性病の対策と違ってやりにくいということをお話しして、一応私のお話はやめたいと思います。
  76. 島本虎三

    島本委員長 ありがとうございました。  次に、青山参考人にお願いいたします。
  77. 青山英康

    青山参考人 青山でございます。いま臨床の立場から梅田先生がいろいろ御意見を述べられた、私は衛生学を担当いたしておりますので、若干その意見が食い違うことだろうと思いますので、御了承いただきたいと思います。  私、さきに、昭和五十年の三月に第七十五回国会の参議院の予算委員会におきましても、参考人として公害健康被害補償法に基づく公害被害の認定について意見を述べさせていただきました。その際に、公害被害の認定現状というのが、いまの梅田先生の御意見の中にもございましたが、いわゆる臨床所見とかそれから検査成績、そういった形で認定をされている、そのために多くの被害者が切り捨てられているという実態を、私、意見を述べさせてもらいました。  私たちは疫学的な立場でこの公害被害の実態というものを把握する必要があるということを述べさせていただいたわけでございますが、その際、公害被害の認定について臨床医家の方々の指導、助言はあるけれども、われわれ疫学の立場からの指導、助言がないという回答であったわけですが、たまたま私、そのときに日本衛生学会の幹事をいたしておりましたので、急遽幹事会に諮りまして、ただいま日本衛生学会の方で学会規約に基づく正式の研究会、一般的にはこういうのを委員会と呼んでおりますけれども、衛生学会では学会規約の中に委員会という規定がございませんので、正式の総会に認められた研究会として公害被害の認定とその救済に係る検討研究会というのを発足させております。当番幹事として、岡大の医学部の大平教授、日大の西川教授が代表幹事としてお世話をなさって、私はいま事務局を担当いたしておりますけれども、ここで各地の公害被害の現地にも調査に参りまして、現在公害被害の認定あり方、さらには救済あり方について検討いたしております。近く報告書もまとめられる予定でございますので、その報告書が出された暁には、この意見書を十分尊重していただきたいということをお願い申し上げたいと思います。  ただ、きょうお話をさせていただきますのは、私がこの会を代表しているわけでもございませんし、また、この会は最終的には学会総会にかけて意見をまとめて報告をいたすことになっておりますので、この研究会とは関係なく、私どもの教室の多数の教室員が長年各地の公害被害の実態に触れて調査をし、研究をいたしてまいりました結果を教室会議のまとめとして報告をさせていただきたい、意見を述べさせていただきたい、こういうふうに考えております。その点、研究会の意見と私ども教室の意見というのは分けていただきたいというふうに考えております。  まず第一点でございますが、公害被害の実態を把握する場合に、二通りの方法があるだろうというふうに考えます。まず第一の方法は、環境汚染状況を把握する方法だろう、さらには、そういった環境汚染の進行に伴って生体である人間の健康がどういうふうに変化をしていくのか、どういうふうに健康被害が進行していくのか、こういうとらえ方だろうというふうに考えます。  その第一の方向、いわゆる環境汚染実態を把握する方法でございますが、環境汚染がどういうふうに生体の健康に影響を及ぼすのか。たとえば瞬間濃度が高いのが問題なのか、それともある一定濃度汚染物質があるということが持続する、そういう状況が問題なのか、また幾ら低くてもそれが長年そういう状況にあるということが問題なのか、この辺はまだまだ科学的に十分解明されているとは言えないわけです。その意味で、環境汚染実態をどういうふうに把握するのかということが問題になるわけです。  さらには、いままでは亜硫酸ガス、いわゆるSOxということが非常に問題になっておりました。したがって、SOxというのは大気汚染状況一つの指標として、これが生体の健康被害と非常に相関を持っているという形でSOx濃度汚染物質、また汚染状況を示す指標としていままでは用いられてきたと思うわけです。ところが最近は確かにSOx濃度については改善が認められております。これ自体は決して悪いことではないわけですが、たとえば燃料重油の低硫黄化の方向、また脱硫装置の企業化というような形でSOxそのものは下がってきておりますが、それがそのまま大気汚染状況改善されたと言うには、これは問題があるのではないだろうかというふうに思います。問題は、今日大気汚染対策がおくれている、逆にNOxだとか、いまだになお大気汚染状況が残っている、そういったものを指標として汚染対策を進めるのが公害対策としての環境対策あり方だろうというふうに考えます。そういった意味で、第一点は、SOxを指標とするのではなくて、いま対策がおくれているNOxだとかオキシダントだとか、そういったものを指標として環境改善あり方を検討すべきだということを強調しておきたいというふうに思うわけです。  第二番目に、人体の健康に対する影響の場面からこの問題を考えていきたいというふうに思うわけです。  先ほども申し上げましたように、環境汚染の指標と生体、人間の健康に及ぼす影響の問題について、まだまだ科学的に未解明な部分がたくさんありますが、われわれは疫学的な所見としていろいろな健康問題に対する警告を発してまいりました。  健康被害実態ということを考えていった場合に、確かにいま梅田先生がおっしゃったような形でのレントゲンの所見とか、また気管支におけるバイオプシーの経過とかということも非常に重要でございますが、逆に、たとえばあの工場が誘致されて以後この地域においてかぜを引きやすい人たちがふえてきた、こういうふうな疫学的所見というのも非常に重視しなければならないのじゃないだろうかというふうに思います。先ほどのたばことエージングの問題に関しましても、最近の疫学的な分析においては必ずこの点を考慮した上で公害被害の実態を明らかにするようにはいたしております。  そこで、住民の健康の実態を把握するということを考えた場合には、たとえば、私どもと一緒に共同研究の形でも進めさせていただいておりますが、姫路市の医師会、また和歌山市の医師会、山口県も県として三年間継続されましたが、現在は下松市、光市、岩国市、そういった地域の医師会の先生方が、各人がモニターとなって、いわゆるモニタリングシステムという形で、日常の診療を通じて、呼吸器疾患がどういうふうな罹患の状況を示すのかという調査を長年続けていらっしゃいます。この結果を見ますと、必ずしも現在の大気汚染状況を示す指標と一致しておりません。SOx濃度が低下してもなおかつ呼吸器疾患の発病状況というのはふえております。一応乙の場合の呼吸器疾患の分類は、先ほど梅田先生が御指摘になりましたいわゆる閉塞性呼吸器疾患という形の問題だけの有症率を検討しているわけでございますけれども、そういったものが必ずしもこれまでの環境測定データとは並行関係がない、逆に呼吸器疾患は今日もふえているという実態を示しております。そういった意味で、地域に広がっている開業医さんの日常診療を通じての呼吸器疾患の有症準、そういったものに十分注目をした対策が立てられるべきだろう、こういうふうに考えております。  第三に、今日、公害被害の認定あり方の問題でございますが、先ほどの梅田先生の御指摘にもありましたように、地域指定における線引き、また症状指定では非常に問題の多いことは私もそのとおりだと考えております。  そこで、地域の住民と一緒にいわゆるかかりつけの、医者としてその地域に生活をして、そして日常診療の中で子供のときからずっと体を診ているかかりつけの先生の御診断が、いわゆる審査委員会というところで、一定の臨床症状があるかないか、また検査成績によってこういった申請が否定をされるということがたびたび起こっております。かかりつけのお医者さんの診断が権威ある大学の先生の診断によって否定されるということが繰り返されていきますと、地元の先生としては診断書を書くことを非常に恐れることになりますし、さらには診断書を書くことさえ断るということが起こっております。最も身近で最も長い期間日常的に診てもらった先生の診断がただ一片の書類で否定をされるという現状が繰り返されるとき、医療において最も基本となる医師と患者との人間関係、信頼関係はどういうことになるでしょうか。そういった審査状況が今日行われる中で、地域における医療が崩壊をしているのではないだろうかと考えるわけです。  その意味で、公害被害の認定に当たっては、こういった生まれてこの方、長期間にわたって日常診察をし続けてきたかかりつけの先生の御診断が尊重されるような被害認定あり方ということが検討されるべきではなかろうかと思います。先ほどの梅田先生の御指摘にもありましたように、医学的に科学的に詰めてまいりますとき、個々の患者さんの臨床症状や検査でもってその原因を突きとめることは至難なことだと思います。それだけに、疫学的な所見として現在の被害認定の方策が行われている以上、そういった形で地域の生活の中での環境汚染による被害の実態という形でとらえるべきであり、臨床検査だとか検査成績結果だけでもって被害の認定条件の有無を検討するということは、私は医学的にも明らかに間違っていることだろうというふうに考えます。  第四番目に、被害の実態については、地域指定という線引き、また症状指定、そういった形で被害者が現実には多く切り捨てられているのではないだろうかというふうに考えます。先ほどは被害者救済されることをもって差別を生じるというふうな梅田先生の御疑念もございましたけれども、逆に一人の被害者でもそのことを恐れるばかりに切り捨てられることは、これはまた許されないことだろうというふうに思います。いわゆるいま指定がされている症状がなくても、いま指定されている検査の結果と合わなくても、多くの人たちが、たとえばかぜを引きやすいということ、また症状がなくても、検査の結果がなくても、大気の汚染が進んで以後は自分の健康に対する将来的不安を持つというようなこと、こういったことも大きな環境汚染による被害ということができるだろうと思います。私は被害者認定救済をお金でもって片づけろとは決して申し上げておりませんが、そういった日常的な健康に対する不安、そういったものに対する総合的な対策が立てられてないときにはますます不安が不安を呼んで、そういった健康問題に対する重大な問題が社会的に出てくることを恐れるわけでございます。たとえば私どもの教室の方で調査させていただいた結果につきましても、大工さんだとかそういった戸外で働く方々は、必ずしも指定地域に住んでいませんが、汚染地域で日常働かなければならない方もいらっしゃいます。また郵便を配達するとか電報を届ける、こういった外勤の労働者が日常的には汚染地域で長時間働かなければならないという実態もございます。こういった方々に対する影響、これも私どもの方で疫学的な調査を進めておりますが、確かに呼吸機能の検査においても差があるということは認められております。そういった意味でそういった方々に対する公害被害の実態、この公害被害をどういうふうに認定し、そして救済するのかという問題も考えられなければならないのじゃないだろうかというふうに考えます。  そういった意味で今日の公害被害の認定、そしてそれに対する対策とというものは、現状を見た場合に、現在、大気汚染による生体、特に人体の健康に及ぼした影響というものが正確に把握され、そしてその上に立った認定がされ、そして救済されているというふうには必ずしも思えない、数多くの問題があるし、今後改良すべき点が多いのじゃないだろうかというふうに考えております。その意味で、近く日本衛生学会としての、研究会の方で報告書も出されますので、ぜひその際にはそれを尊重した対策が立てられることを期待申し上げまして、私の一応の時間をこれで終わらせていただきます。
  78. 島本虎三

    島本委員長 大変ありがとうございました。  次に、鈴木参考人にお願いいたします。
  79. 鈴木繁次

    鈴木参考人 日本弁護士連合会の鈴木でございます。私は弁護士でありますので、法律の立場から公害健康被害補償法についての御意見を申し上げることになるかと思います。また、日弁連では、ことしの五月にこの公害健康被害補償制度の全国実態調査をした報告書を、「公害被害者救済はこれでよいか」というようにこういう形でまとめて公表しております。こうした報告書に沿ってこれから主な問題点について御意見を申し上げようと思います。  補償法は御承知のように昭和四十八年十月に制定されまして、四十九年九月から実施されております。その認定患者は現在五万七千名余に達し、さらに今後増加の一途をたどっております。補償法は公害健康被害者に対する迅速かつ公正な救済を目的として発足した制度でございまして、世界にその類がございません。世界的にもその成果が注目されていると言ってよいかと思います。日弁連が昨年八月に実施しました米国の環境公害問題視察の際にも、ニューヨークあたりではこの補償法に関心を持っておりまして、この制度類似の制度を制定するやの動きを見てきました。このようにその成果が期待されている補償法も、過去三年余の実施過程を見ますと、補償法の目的としたところとはほど遠く、すでに関東弁護士会連合会におきましても昨年の九月の定期大会で本制度改善に関する決議をして、関係当局にその改善方の要求をしております。日弁連でもこのような経緯を踏まえて、この制度に対する救済はいまなお緊急かつ重大であるとの認識のもとに、本制度の実施状況を、先ほど申しましたように全国実態調査を行いまして、五月、その報告書を公表し、本制度改善に関する提言を行うと同時に、五月十四日、川崎市において弁護士、被害者約三百名余の出席を得て、公害健康被害補償制度現状問題点に関する公害シンポジウムを実施いたしました。そのシンポジウムの成果も踏まえて若干問題点を指摘したいと思います。  まず第一に、補償法は大気汚染と水質汚濁による健康被害者を救済することになっていて、大気汚染による被害救済については、因果関係につきましては制度上の取り決めを行っております。すなわち、疫学を基礎とする人口集団につき因果関係ありと判断される大気汚染地域にある指定疾病患者は、一定の暴露要件を満たしておれば因果関係ありとみなす、いわば指定地域暴露要件指定疾病という三つの要件をもって、個々の患者につき大気汚染との間に因果関係を認めております。  そこでこの指定地域の問題につきましてまず指摘されますのは、先ほどの青山先生の御意見にもありましたように、線引きが公害の汚染状況に合致してないのではないか。たとえば富士市の場合によりますと、東は赤淵川、西は身延線、北は東名高速自動車道で区切られております。これは高速自動車道路による大気汚染の実情を無視した指定地域の線引きではなかろうかと思われます。また、東京都では、条例によって都全域を対象地域として、十八歳未満の健康被害者に対して医療費の給付を行っています。しかし、補償法の指定地域としては現在、世田谷区、中野区、杉並区、練馬区は除外されております。世田谷区などは御承知のように、環七、環八、甲州街道、二四六、目黒通りと自動車の幹線道路が多く、著しい大気汚染が発生しております。富山県の北部、重化学工業地帯なども指定されておりません。こう見てきますと、第一種地域の指定の仕方には汚染状態と一致しない線引きがなされており、第一種地域に近接したところに住んでいる住民の間からは線引きの不合理性が指摘されておりまして、これらの住民に認定患者と同じような症状があるのに、道路一つ隔てたというだけで補償法の救済制度対象にならないというのはおかしいという主張はもっともなところがあるだろうと思われます。  指定地域の次の問題としましては、指定地域要件一つであります大気汚染程度を判断するのに現在は硫黄酸化物のデータだけで考えております。中公審の答申でも、大気汚染が複合汚染であり、その汚染には幾つかの汚染物質が考えられ、特に窒素酸化物等による汚染状況も考慮されなければならないということは認めております。そして環境庁が今年一月まとめた複合大気汚染健康影響調査によりますと、窒素酸化物汚染呼吸器障害と関連していることが統計的に裏づけられております。日弁連では、こうした実態を踏まえて、補償法の指定地域を拡大するべく、その指定用件の一つであります大気汚染程度を判断する際に窒素酸化物をも考慮して、大気汚染の複合汚染実態を正しく反映できるような指定地域が拡大されるべきであると考えているわけであります。  問題点の二としましては、公害病認定に当たりましては、患者治療を担当している主治医の意見が尊重されるよう配慮をすべきであるというようにこの補償法制定の際の附帯決議がございます。この附帯決議がまだ確実には遵守されていないのではなかろうかという点でございます。公害病認定に当たりましては、御承知のように、患者は近くの主治医に診断してもらって、指定疾病、たとえば慢性気管支炎であれば慢性気管支炎であるとの診断書をもらって、それを添えて公害病認定申請をいたします。それに対して認定する側では、非特異性疾患について言えば、レントゲン、肺機能等の医学検査あるいは患者の問診を行い、これらの資料を添えて、認定審査会の意見を聞いて認定することになっております。認定審査会ではともすると、この主治医の診断書より医学的検査に重きを置いて審査しがちなのではなかろうかと思っております。その結果が、非特異性疾患につきましては一〇〇%近く認定されております大阪市から八二%程度にしか認定されていない大牟田市に至るまで、地域格差があるということでございます。また、水俣病等の特異性疾患認定の場合は、主治医の診断書はほとんど尊重されていない。主治医の診断書は認定申請事務開始の一つの端緒になっているにすぎないというように考えられます。主治医の意見尊重についてはこのような差があるところから、非特異性疾患の場合の等級づけに当たりましても、この等級づけの資料としても主治医は診断報告書によって何級相当というように意見を出すことになっておりますが、これが完全に認められなくて、この補償法制定当初は例外と考えられていました等級外の患者の数が多いという現象を生じております。  問題点の三としましては、補償内容が不十分であるということでございます。補償法による救済は、民事の不法行為の損害賠償の性格を有しております。損害賠償ということであれば、健康を害した者に対する救済としましては、治療費、休業損害、労働能力喪失割合による逸失利益、慰謝料等の全額が支払われなければならないだろうと思われます。しかるに補償法による給付にはこの慰謝料が含まれておりません。これは重大なことであろうと思います。また補償法による中心的な補償であります障害補償費について考えますと、これは休業損害あるいは労働能力喪失による逸失利益に相当するものでございますが、この最高限が、特級、一級患者といった、入院等によって一〇〇%働けない、労働能力を喪失する者に対する給付は全国労働者の平均賃金の八〇%に限定されております。二級患者はその五〇%でありますから、全国労働者平均賃金の四〇%、三級患者はその三〇%でありますから、全国労働者平均賃金の二四%しか補償されていない。その他、損害賠償は実損てん補であるという点から考えますと、いろいろ問題がございますが、少なくともこの補償法による救済方式を前提として考えても、障害補償費の標準給付基礎月額は全国労働者平均賃金の一〇〇%とすべきであろうと思います。また、二級患者、三級患者に対する格差が非常に大きい。二級患者は七五%ぐらい、三級患者は五〇%ぐらいに引き上げてしかるべきだろうと思います。  問題点の四としましては、公害保健福祉事業を充実すべきだということでございます。損害賠償ということになりますと、法律上も金銭賠償が原則的形態となっております。しかし、公害の特殊性からいって原状回復救済、いわゆる損なわれた健康を回復するということが中心となるべきであろうと思われます。日弁連の今回の実態調査によりましても、被害者は口々に、金はどうでもよい、体をもとに戻してほしいという要求が切実でございます。こうした点から考えますと、補償法による救済の中でも原状回復救済意味する公害保健福祉事業を充実すべきではなかろうかと思います。しかるにその実態は形骸化していると言わざるを得ません。公害保健福祉事業としては、現在行われているのは転地療養、リハビリテーション事業と、ごくわずかしか実施されていません。比較的実施されていると思われます転地療養事業についても、これを実施するには環境庁の承認を得なければならないことになっておりますが、環境庁の承認基準としては、五泊六日の転地療養ということになっております。これぐらいの期間がないと効果があらわれないというふうに考えているものと思われますが、このように五泊六日ですと比較的長期になりまして、実施する側では医者の確保が困難であるとか、患者の方でも長いと参加できないということで、結局は五泊六日ということになると実施しかねる。結果的には二泊三日とか三泊四日に限定せざるを得なくなる。そうしますと、これは環境庁の承認を得られませんから、勢い自治体の予算でもって実施するということになります。そうしますと、財政上の理由からいって実施できないところがあるとか、あるいは回数を少なくせざるを得ないというような状況が出てきまして、これは非常に問題ではなかろうかと思われます。  問題点の五としましては、水俣病認定業務の改善の問題でございます。御承知のように、これは新聞報道等で十分報道されておって御承知のとおりと思われますが、熊本県では一カ月に二回認定審査会を開いて、この二回が限度だろうと言われておりまして、この二回では平均八十件ぐらい審査し、そのうち約二十件ぐらいが認定されておる。残りの六十件ぐらいは留保になってしまう。そうすると、これがだんだん滞貨していって、現在は処理保留件数が三千五百名余になっている。この三千五百名余の未処理件数を審査するのに、今後約二十年ぐらいかかるだろう。そうすると、現在認定申請してもそれが認められるかどうか結着がつくのは二十年先になる。これは非常に常識外のことであります。これは何としても改善されなければならないのではないかと思います。  このおくれている原因はいろいろ考えられますが、一つには、認定審査会で認定基準がそのまま遵守されていない。審査員の個々の人が厳格な基準もとに判断しているという点ではなかろうかと思います。環境庁の水俣病の認定基準によりますと、当該症状のすべてが明らかに他原因によるものであると認められる場合以外は水俣病と認定できるということになっておりまして、この方針に沿って審査すれば認定業務も一層促進されるのではないかと考えられます。  問題点の六としましては、慢性砒素中毒症の認定枠を拡大すべきだということでございます。現在の慢性砒素中毒症の認定基準は、皮膚、鼻、神経の三つの症状に限定されておりまして、これは狭く、多くの被害者が切り捨てられている結果になっております。疫学条件が整えば、個々の被害者疾病と砒素との関係が明白に否定されない場合は救済するという方針のもとに、内臓疾患を含む全身的症状を加えるなどして、従来の認定枠を拡大すべきではなかろうかと思うわけでございます。  その他補償法の欠陥はいろいろございますが、時間の関係で割愛させていただきます。  こうした問題点を考えてみますと、現状は、現行制度実態補償法の目的としたところと非常にほど遠いと言わざるを得ないと思います。最近の中公審の動きでは、地域指定解除の要件などの再検討に入っているということでございますが、そうしたことで環境行政が後退するおそれのある今日、補償法は他の救済制度、たとえば予防接種事故あるいは薬害被害者に対する救済制度影響を与える重要な立場にあるだろうと思われます。そうしたことを考えますと、公害被害者救済のためには、完全な真の被害者救済制度確立が急務であろうかと思われます。  日弁連がさきに提言した提言が真剣に検討されて、本制度改善されることを念願しまして、私の意見とさせていただきます。
  80. 島本虎三

    島本委員長 大変ありがとうございました。  以上で参考人意見陳述は終わりました。     —————————————
  81. 島本虎三

    島本委員長 引き続き、参考人に対する質疑の申し出がありますので、順次これを許します。林義郎君。
  82. 林義郎

    ○林(義)委員 三人の参考人の方々には、大変お忙しいところを御出席いただきましてありがとうございました。心から御礼を申し上げます。  順番に従ってお尋ねをさせていただきたいと思いますが、梅田先生は臨床で、鈴木先生、青山先生は衛生学の方だと、こういうふうに承っておりますが、間違いございませんでしょうね。  梅田先生にお尋ねします。きょうは大変おもしろい話というか、非常にためになるお話を聞かせていただきましてありがとうございました。長年実際の治療に当たっておられる方であるというふうに聞いておりますが、その中から学問的な研究の成果をお話しいただいて本当に稗益するところが多かったと思うのです。  四つの病種というのが挙げてございまして、先生からお話がありました中で、最後にありましたぜんそく性気管支炎、アレルギー性ないし子供の気管支炎、こういうふうなお話がございましたが、聞きますと、アレルギーであるとか、それからもう一つ気管支ぜんそくでございますか、気道過敏性というようなものになりますと、先生のお話の中での、いわゆる素因としての要因が非常に大きい、環境の影響もさることながら、素因としての影響が大きい、こういうふうなお話のように私は承ったのです。  われわれ、ここで公害問題を取り上げているときに、環境問題とその素因という問題、本来自分が持っているところの体質であるとか、かかりやすいというような性格、そういったようなものであるとかというようなものを、病理学的に申して何かそういったことがある学説というのが一体あるんだろうかどうだろうか。臨床のお立場からすれば、アレルギー性であるとか心因性であるとかいうようなことをお話されますが、これはなかなか、それは確かにそういうことだと思いますけれども、さあそれが一体どの程度影響があってどうなるかという話になりますと、これは臨床の域を離れまして、病理の問題というふうな形になるのかもしれませんけれども、その辺は一体どういうふうにこれからこれを考えていくのがいいんだろうか。医学の立場で、ひとつ梅田先生からお答えをいただけたらというのが第一点です。あと二、三問ございますから、ついでに御質問だけ申し上げて、お答えいただきたいと思います。  それから第二の問題は、たばこぜんそく等の閉塞性呼吸器疾患との関係についてもう少しお尋ねをしたいのですが、たばこと閉塞性呼吸器疾病との関係については、たばこが指定四疾病に与える影響というのは、そのほかのものに対してはどういうふうな影響になるのかというのももうちょっと御説明いただきたいというのが第一点です。  第二に、病気治療上禁煙というのはぜひ必要なことなのかどうか。いまのお話だと、どうもそれが必要だというようなお話でございます。実はたばこの問題は、昨日わが党の同僚議員から、専売公社にも来ていただいてお話をしたんです。専売公社の方でも、疫学的な有症率との関係はあるだろう、たばことこれはあるんじゃないか、ただし病理的にはどうもというようなお話がありまして、この辺一体どういうふうに考えて、特に病気治療上禁煙というのが必要なのかどうなのかということでございます。  第三点は、実際の公害病認定患者治療に当たっておられるわけでございますけれども、こうした禁煙の指導に対して従わない患者に対しては補償金を支給する必要がないではないかという意見があるのです。この意見については、まあそこまでする必要はないという御意見もありますが、臨床医として率直にお考えになったときに、たばこを吸うなと言ったところで吸う者に対してどうするかという問題があるのでありますが、それに対して補償金を払うというようなシステムがいいのかどうか、この辺についての先生のお考えをいただきたいと思うのです。  それから第四番目の問題としまして、たばこを値上げして財源措置を考えるべきじゃないかという意見があるのですが、この辺の実情についてはどういうふうにお考えになりますか。  以上、五点になりますか、お答えをいただきたいと思います。
  83. 梅田博道

    梅田参考人 ただいまの御質問にお答えいたします。  素因と環境ということですが、これは先ほども申したことでありますが、すべての病気はこの両方が関与する。ただ、その寄与度がどっちが強いかということが問題だろうと思うのですが、これは疾患によって違うわけであります。病理的にはということをおっしゃったのですが、病理というのはもうなれの果てでございますので、なれの果てとしては、慢性炎症ならば大気汚染であろうがたばこであろうが、同じ慢性炎症の形で出てくると私は思うのです。ただ、病理の専門家によって多少のあれが違うかもしれません。これは病理の専門家にひとつ伺わないと、私としてはちょっと正確なお答えはできませんが、病理はあくまでもなれの果てであります。われわれは生きているときの状態でもって判断しなければいけない、こういうふうに思いますので、ちょっと付言させていただきます。  素因の問題は、一番強いのはやはりぜんそくでしょう。ぜんそくは、私は基本的には大気汚染ではないと思います。ただ、悪化因子として大気汚染がある。たばこもそうです。ぜんそくはたばこ関係ありません。どこでも、いつ調べても、大体同じ自然発症だと思うのです。これもちょっと数字を忘れちゃっておりますが、大体百人に一人か二人くらいは必ずいる。これは汚染地区であろうがそうでなくたってあります。私、ぜんそく友の会のようなものをやりまして、やはり予防が大事ですから、予防というか、早くに管理することを教えませんといけませんで、あちこち行きましたが、鹿児島なんかでも何百人と集まります。離島からもわんさと来ます。もうぜんそくの会をやったら患者さん集まること受け合いです。企業だったらもうかると思います。ぜんそくはどこでもそうです。だから、それがもとでありまして、ただ近ごろは、私ども、ぜんそくの中に、いわゆるアレルギー性ぜんそく以外に、ある種の薬または有色、着色剤ですね、これは食品でもそうです。たとえばたくあんを食べると発作が起こる。かん詰めで起こるものがある。はなはだしいのは、ぜんそく発作の引き金は感染なんで、かぜを引いて悪くなったというので抗生物質を与えたらものすごい発作を起こした、何かと思ったら、抗生物質のカプセルが黄色いカプセルだった、こういうふうな症例を私どものところは大変集めております。薬としてはアスピリン系統の抗炎症剤ですが、これがぜんそく患者の一〇%あります。一割あります。これも完全に大気汚染関係ありません。これはまだ成因がはっきりわかっておりませんが、われわれは組織におけるプロスタグランディンの生成異常であろうというふうにいま考えておるので、大気汚染関係ない。大気汚染の因子が強いのはやはり慢性気管支炎ですが、慢性気管支炎でもすべてが大気汚染ではなくて、慢性気管支炎の成因というのは非常にいろいろなことが言われておるわけで、たとえば肺のうっ血があるとか気管支拡張、そういうふうなものがあると全身的な発生しやすい条件が起こるのだということが言われていますし、性別で見ましても男の方が圧倒的に多い。人種で見ますと白人の方が黒人より約二倍に多い。たばこはもちろんそういうことですね。ということで、もちろん大気汚染は寄与しますけれども関係はもちろん大きにあるのですが、すべてではない。この寄与度の問題をもうちょっと今後掘り下げないと、補償制度としてはぐあいが悪いのじゃないか。予防法としては結構なんです。先ほどの話は、全部予防法としてはいいのですが、補償ということになりますと率直に言って大変に疑問を感じざるを得ないのです。  次いで、たばこに行ってしまいましたけれどもたばこの病理的なこともやはり気管支・肺胞系の慢性炎症ということで、病理では同じ形だろうと私は思いますが、たばこということは出てこないと思います。これは当然でありますが。     〔委員長退席、水田委員長代理着席〕  それから禁煙が必要かということですね。私は、禁煙が必要なんじゃなくて、たばこで起こったんだ、発生源だと思っております。それから慢性気管支炎、それから肺気腫の患者、ぜんそくはちょっと別ですが、慢性気管支炎・肺気腫症候群、この一連の病気たばこを吸っていたら管理ができない。絶対にうまく管理することができない。ですから、私の目の前で吸っていたら怒ります。健康な方が吸っていたって怒りませんが、患者が吸っていたら私は怒ります。なぜかと言うと、私の所期の目的は達せられないからです。しかし患者さんが、ことにお年寄りでどうしてもやめられない、便所で隠れて吸っている、これだったら私は大目に見ます。目の前で吸ったら怒ります。いいとは絶対に言えません。できればやめさせたい。これは臨床家の心意気でございます。  それから次に、たばこ補償ですか、補償の話、補償金の話は、私は余り深く自分自身で考えられないので、これはもっとお答えするのに適切な方があるんではないかと思います。しかしいま言ったように、これが原因だと私は思っておりますので、だから当然寄与度としてたばこの分が入らなければいけない。それから、実は最近の胸部疾患学会の報告では、狭い部屋で、コンパートメントの中にたばこ吸いがいると隣の人間の血中濃度でCOが明らかに高くなります。それから、私ども肺のガス交換を調べるのに微量の、〇・〇一%のCOをまぜてガス交換の効率を測定するのがありますが、たばこ吸いの場合には閾値を変えないといけない。判断基準を変えないと全部おかしく出てしまうのです。だから、たばこ吸いは、検査する前にちゃんと聞きます。聞いて正常値を狂わせておかないとおかしくなってしまう。そのくらいにたばこというのは影響があるのです。ですから、いまこういう大気汚染補償だとかそれから賠償だということをおっしゃるのなら、私は、たばこ吸いがらたばこを吸わない者はいただきたいと思います。たばこを吸わない者はたばこを吸っている人から賠償していただきたいと思います。  一番最後の、たばこに賦課というのはごく当然だと思います。これだけはっきりしているのですから。企業だけでなくて自動車からも取るわけですが、この取り方はいろいろ問題のようでございますけれども、自動車は確かに出しておりますが、われわれに有用なものです。汚染だ、汚染だ、大気汚染大変だ、補償せよと言うけど、その方は大抵自動車に乗っていると思います。バスに乗っているか、何か使っていると思うのです。たばこはそういう点では全く無用の存在でございますから、簡単じゃないかと思います。  それから、たばこ影響云々というお話がちょっと二番で省けちゃったのですが、たばこ影響というのは、実は肺機能で、一秒率のようないま現在補償法で使っておりますような検査ではなかなか検出できません。なぜかというと、先ほど問題になりましたNOxと同じ関係でこれは細気管支を冒しますから、大きな気管支の変化としてはなかなかとらえにくい。しかも症状が出にくい。だから長い間たばこを吸っていても大丈夫なんですよ。しかし、四十を過ぎたころから、朝起きると、ころっとたんが出る。冷たい空気を吸うと何か胸苦しくなってくる。かぜを引くともっと汚いたんになる。これが慢性気管支炎の始まりでございます。こういうのは急に起こるのではなくて、長い間の積み重ねで四十、四十五、五十ぐらいから起こってくるのですから、いままでの検査ではそういう初期症状としてはつかまらないのです。それで最近新しい細気管支をつかまえるような検査方法が大分開発されてきたわけで、われわれとしてはそういうものによってたばこの初期変化は多分つかまります。学会のデータとしてはつかまった。そして、禁煙することによってリバーシブルだ。非常にうれしいことですが、一年間の禁煙の後をフォローしたならば非常によくなっている、こういう報告が胸部疾患学会で出ております。ということは、NOxとへ関連で予防法というたてまえで——公害病という言葉は余りよくないのですが、こういう一連の閉塞性肺疾患の予防というたてまえで、そういうような早期検診をかっての結核予防法のように展開すれば、これは非常にいいことだ。しかし、そういう細気管支の変化を見つけたといっても、まだサイレントゾーンと言われているぐらい無症状です。これが直ちに補償法につながるとは私思いません。
  84. 林義郎

    ○林(義)委員 ちょっと時間の関係がございますので、もう一つ梅田先生にお尋ねをしたいのは、先ほど、予防の知識の普及をしなければならない、こういうふうなお話でございますが、具体的にどういうことをやったらいいのかというのをやっていただきたいのが一つです。これは一般に対する知識の普及、それから開業医の方にもそういった知識を普及していくことが私は必要だろうと思うので、そのための医療体制というものをどういうふうな形で整備していくべきかということがあるだろうと思いますが、その辺のお考えがございましたら、お述べいただきたいと思います。  ついでに、ほかの先生方にも御質問申し上げておきますが、青山先生にお尋ね申し上げますけれども、先ほどお話がありまして、地元の医療で判断をされる、ところが大学に行きましたら一片の診断でこれが覆されると、医師との信頼関係がなくなる、やはり医療に一番大切なのは医師との信頼関係だ。私はこの医師との信頼関係が一番大切だと思います。しかし、われわれ素人で考えまして、Aという医者の診断と、Bという医者の診断と、Cという医者の診断と、それぞれ診断で違う問題が出てくる可能性はあるわけです。そうしたときに、どういうふうな形でそれぞれのお医者さんの診断に客観性を与えるか。この病気はなかなか大変な話でありますし、実は梅田先生もお話しありますように、要因としては環境の問題でなくてむしろ素因的なものの方が大きい、こういうふうな話でもありますし、そこをどう判断していくかというのは非常にむずかしい点が多々あるのではないかと私は思うのです。そうした点をどういうふうにしてやっていったらよろしいのか、ここをひとつ御意見がありましたならばお教えをいただきたい、こう思います。  それから鈴木さんにお尋ねしますが、鈴木さんからいろいろお話がございまして、一つだけ言っておきますが、因果関係がある、こういうことで補償の問題というのは出てくるだろうと思うのです。この法律をつくりましたときも、私もずいぶん立法に参画いたしましたし、それから国会でもいろいろ議論いたしましたが、いわゆる民法七百九条の損害賠償の議論というものが当然出てくるわけなんです。いまずっとお話を聞いておられまして、医学的な因果関係というものはなかなかはっきりわからない。どちらかというと疫学的な因果関係——因果関係というより、私は相関関係と申し上げた方がいいだろうと思うのですが、その相関関係というものをもっていわゆる相当因果関係にかえるということが一体どうだろうか。これは民事責任の問題と刑事責任の問題と、恐らく違う点があるだろうと思うのです。違いますが、その因果関係論というものはやはり相当程度だれが見ても納得するような形の因果関係でなければならないし、個々具体的にこうやっていくという一つ一つの、民事訴訟かなんかで争うといったときには、個々具体的な話で、こういった因果関係ありということを証明してやるということである。そこをある程度までの推定というか前提を置きましてのこういうふうな制度であるから、私は、最初つくるときから、余り慰謝料とかなんとかというものを広げると、本当に補償法、損害賠償法という形になるし、それの一歩手前ぐらいのところまで考えておいたらいいのじゃないかという考え方で、はっきりわからないけれども、そのぐらいのところじゃないか、因果関係の方がはっきりしないのだから、こちらの方も余りはっきりしたところまでやるわけにはいかないのじゃないかという考え方で、当時立案作業に当たったのです。そういったようなことでありますから、医学的な方の因果関係というのは、いまお話を聞くとこれはもう全然詰まらないということである。そうすると、何か全然別なところで金を出して、それでもって医者の医療、予防をやっていきます。治療もやっていきますという制度にしなくちゃならないと思うのです。そんな形にしたときに、それは公費負担でありますから、いまのような賦課金を取ったり自動車重量税から取ったりという話ではなくなっっちゃって、一般公費負担、こういうふうな話になる。公費負担ということになれば、地方自治体かあるいは国の一般会計の財政でもってやる、こういうふうなのが筋じゃないかという議論になっちゃうのですね。その辺を私も、やったときから考えておったのですけれども、なかなかいい知恵が実はないのです。先生、因果関係ありという最初の話で、それからスタートしてずっときましたから、そういうことで言えば全く間違いないことだけれども、どうもそこの辺が割り切れてないのがこの問題だろうと思うのです。梅田先生が御指摘になったのも、まさにそこだろうと思うのです。そこの辺をどうするのかというのが、この問題の一番大きなところだと思うのです。     〔水田委員長代理退席、委員長着席〕  そういった点で鈴木さんにお尋ねするのは、いま民法の相当因果関係論というのは一体どういうことであるのか。公害の場合、カドミのような問題とか、いろいろ裁判でありますが、私は、やはり民事責任とというものを本来的に追及するのには、だれが見ても客観的にわかるところの因果関係相当に厳密な意味での因果関係というものがなければならない、これが法律の態度ではないだろうかと思うのですが、弁護士会ですから、法律の専門家ととして、その辺を教えていただきたい。  以上、三点だけ、それぞれの先生方にお尋ねをいたします。
  85. 梅田博道

    梅田参考人 簡単にお答えいたします。知識の普及ということですが、かつて医者は患者さんに、任せとけ、おれの言うとおりにすればいい、こう言うドクターがかなりおったと思います。急性疾患の場合にはこれで結構なんです。治っちゃうんだから。慢性疾患の場合には、とても四六時中患者さんのそばにいるわけにはいきませんから、どうしても正しい知識を患者さん自身の問題として持っていただかなければいけない。私は、そのためにはやはり、先ほど申したようなチェストクリニックみたいなものがあって、呼吸器センターみたいなものがあって、専門家がいるんだから、そこの講堂で実際の呼吸の訓練や何かをやる場をつくってというのが一番いいと思うのです。だけれども、その前段階として、すでにぜんそく友の会のような、公害認定患者さんを集めて講演会をやったり、そういう努力は、地方自治体が一生懸命おやりになったりしておりますし、私も何回か呼ばれております。  それから次に、ドクター側もレベルアップしなければならぬ。これもあたりまえの話でありますが、この呼吸生理に関する治療というのは戦後急速に、ことに最近また細気管支の病変に関する知識は、ここ四、五年の間に急速に進歩しております。こういうことで、やはり医師会側にもう少しそういうような講習会を行ってもらいたいというふうな希望は持っております。医師会は盛んにやっておりますし、私ももう何回かやっておりますが、やはりなかなか多忙なせいか、全員集まるわけではございませんので、特に、こういう公害関係が問題になるような地域のドクターの特別な、そういう講習会というふうなものを、ぜひ推進してほしいというふうに私は思います。
  86. 青山英康

    青山参考人 お答えします。  診断の食い違いは、医者が複数おれば複数の診断がつくという可能性は十分あるわけでございます。この場合に非常に大切なことは、公害被害というものをどういうふうに見るのかという、いわゆる空気が汚れてきたその結果、人間の健康にどういうふうな影響をもたらしたのかという、この点の問題だろうというふうに思うわけです。その判断が必要なわけで、あとのレントゲンの所見の読み方とかこういった点については、先ほど申しましたようにいろいろな見方もあるだろうと思います。私、いつも申し上げておるのですが、医者というのが誤診をするたびに刑務所にほうり込まれておったら、刑務所に行った方がいい診断が受げられるのではないかというぐらい、これは前の東大の沖中教授の誤診率の問題もございますように、医者というのはそれぞれの見方があるだろうと思います。その客観化の問題の場合に一番基本的なのは、そういったレントゲンの一つ一つの読み方の客観性の問題を先生お尋ねじゃなくて、被害があったかなかったかということにおいてはかなり客観性のある診断ができるんじゃないだろうかというふうに思うわけです。それをどの時点でとらえるのかというときに、レントゲンの所見とか、それから症状で診るのか、それともその人の生活歴の中で診るのかという点で食い違いがあるのではないだろうか。たとえば開業医さん、地元のかかりつけの先生というのは、その患者さんと生活をともにしているという点で重点を置きますでしょうし、それから、審査委員にたまたま選ばれた何々科の専門の先生ということになると、そういったことは全然知っていらっしゃらないわけですから、検査結果だけで判断をしようというところで食い違いを生じている、こういうように私は申し上げたわけであります。じゃ、どちらがより正しい診断なのかということになりますと、いまの梅田先生の御説明もあったと思いますが、はっきり申し上げて、患者さんがより納得できるのかどうかということ、これは医師法にもありますように、診断をした以上は保健指導をしなければならない。したがって、患者さんが納得がいくような説明ができるのかどうかということ。さらにもう一つ大切なことは、そういった治療の効果があったのかどうかということが二番目に問題になってくるだろう。診断を間違えておれば当然効果は上がらないわけですし、診断が正しく保健指導が正しければ当然効果が上がってくるわけですから、そういった面で、客観的にはどちらがより正しかったのかということが明らかになってくるのじゃないだろうかというふうに私は思います。  その意味で、いまの状況というのはそういった保健指導が伴うわけでもない。ただ臨床症状の有無とか検査結果だけでの認定の判断がされている。そして、それがなおかつ、被害があったかなかったかという形でそういったものがされているというところに不満があるし、問題が起こっているのじゃないだろうかというふうに私は思います。  私は先ほどから梅田先生のお話を伺っていて、補償の問題だけでなくて、もっとこういった公害被害をどうすればなくすことができるのかという形で手を打つべきだというのは、私も全くそのとおりだと思いますが、公害健康被害補償ということになれば、何をもって被害とみなすのかということが非常に大切なことであって、単に臨床所見があるなしとか、検査結果だけでその被害の存在をも否定することは許されないことじゃないだろうか。  もう一つ、先ほどの素因の問題とも絡みますけれども、たとえばある病気原因といった場合に、たとえば赤痢は何で発生するのか。いまだれに聞いたところで赤痢菌というだろうと思います。結核は何で起こるかというと、結核菌だというだろう。しかし、現在、結核の発生、赤痢の発生というものを考えてみた場合に、所得階層別に、社会的に非常に偏って発生していることも事実です。そういうことになれば、じゃ、それでもって赤痢の発生を赤痢菌といわないのかどうかというと、やはり赤痢菌というように、現在の大気汚染地域におけるさまざまな閉塞性の気管支炎、また私が先ほども申しましたように、かぜを引きやすいなんということの頻度についても、これは大気汚染との関係でとらえるべきだ、こういうふうに私は考えます。
  87. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  因果関係については、御存じのように非常にむずかしい問題があるかと思うのですけれども、科学的な因果関係を要求しないということはほぼ争いないだろうと思うのです。  それで、この問題を考える場合には、やはり四日市判決でもって疫学的因果関係を法的因果関係と認めて一つの決断がなされたということの前提で考えなければならないのではないだろうか。因果関係については、この公害問題は立証がむずかしいということから、いわゆる蓋然性説に従って、数字的に言えば五一%以上の証明がなされれば一応認めるということで、疫学的因果関係が認められればその証明がなされたということで四日市判決が出たわけでして、そういう一つ裁判の洗礼を受けた以上は、因果関係についてはそれを出発点として考えるべきだろう。補償法につきましては、地域指定については大気汚染有症率でもって判断して、一応疫学条件が整っているということで地域指定がなされたとすれば、それは疫学的因果関係、法的因果関係があるということが前提になっているだろうと思います。その因果関係制度的に割り切って認められ、それが前提になっている以上は、そしてこの補償法は損害賠償的な性格を持ったものだとすれば、あとは普通の交通事故による損害賠償と同じように被害者の損害全部に対して賠償がなされるべきではなかろうか、こういうふうに考えて先ほど申し上げたわけでございます。
  88. 島本虎三

    島本委員長 次に、細谷治嘉君。
  89. 細谷治嘉

    細谷委員 最初に青山先生にお尋ねしたいのでありますが、環境の問題と医師の診断尊重という先生の御指摘について質問したいと思うのです。  附帯決議があるにかかわらず、申請に対して認定された数、これを認容率と言っておるようでありますが、この割合地域によって大きな差がある。たとえば大阪の場合ですと、五十年が四千六百九十九件の申請に対して四千六百九十九件、一〇〇%認容されております。五十一年を見ますと、三千五百五十五件に対して三千五百五十四でありますから、一件だけ落ちて九九・九七%。お話にありました福岡県の大牟田市の場合は、五百十八件で四百二十三件の認定でありますから、認容率が八二%、四日市の場合は、昭和五十年度で申請数が百八件で認定が八十一、認容率が七五%、こういう数字が出ております。地域によって格差があるというのはこの数字でも明らかでございますが、こういう格差が起こった原因というのは、主治医の意見、子供のときからずっとかかりつけの、一番よく知っている医師の診断の結果というのが尊重されないことから起こっているのか、あるいは地域によって医師の認定というのが甘いとか辛いとか、そういうことから起こっているのか、どういうふうに見ていらっしゃるのか、まず伺いたいと思います。
  90. 青山英康

    青山参考人 お答えいたします。  私たちも現地に赴きまして、いろいろな先生方のお話も聞かしていただいているところでございますけれども、これは単一原因ではなくて、主治医の先生の判断が尊重される形で審査されている場合と、たとえば北九州などの場合には、主治医の先生の申請そのものが否定されているという状況もございますし、そういった形で主治医の先生の判断が尊重されるかされないかということでも私は違うと思います。  もう一つは、審査の先生方認定基準によっても違うだろうということも大事な因子だろうと思います。  第三番目には、同じ大気汚染でも、地域によって大気汚染影響のあらわれ方が非常に違うということも私は一つの事実だろうと思いますけれども、現在そういった形で申請件数が異なってきているのは、認定審査のあり方の問題に大きく影響されていると私は考えております。
  91. 細谷治嘉

    細谷委員 認定審査のあり方について、医者の認定が甘い辛いということは、やはり医者というのは科学者でありますから、そんなばかなことはないのじゃないか。したがって、かかりつけの主治医の診断、これはとにかく認定していいのだ。だけれども、中央に来ますと、どうも書類だけで決定をしてしまう。言ってみますと、主治医の意見というものが尊重されておらない、これが大きくあらわれておるのではないかと思うのであります。あらわれておると私が思っておるのが、素人考えでありますから間違いなのか。数字を見ますとそう考える以外にないわけですが、いかがでしょうか。
  92. 青山英康

    青山参考人 いま申し上げましたように、主治医の先生の意見が十分尊重されているかされていないかという、その差はそのままあらわれているだろうと私は思います。ただそれだけとは言いかねるということで、審査の基準についても、これは大気汚染でなくて、たとえば水俣でも、熊本県の水俣と新潟県の水俣、それから砒素に関しては、宮崎県の土呂久と島根県の笹ケ谷でも明らかに認定基準に差がございますので、認定基準は必ずしも先生がおっしゃっているように客観的に最高のところでレベルが統一されているとは思えない。私はこの点もつけ加えたいということで申し上げたわけです。
  93. 細谷治嘉

    細谷委員 この本を拝見させていただきますと、日弁連ではいろいろなところをお調べになっておるわけでありますが、青山先生も各地を調べられたということを私はお聞きしているわけです。私の住んでおるところでも、県境であるということで、その県境というのがわずか四メーターぐらいのクリークなのですよ。クリークのセンターラインが県の境なのですが、そのクリークのAの県の方には、地域認定を受けておりますから認定患者がおるわけです。ところが、クリーク一つ隔てますと、自治体が違うどころじゃなくて、県境でありますから、そこは指定にならないわけですよ。そこで、科学的に医師として、あるいは実際に、この報告書を見ますと日弁連も御調査になったようでありますが、川を一つ隔てて、それも利根川か筑後川のような広いところですと、大分環境が違っていますから話は別ですけれども、五メーターぐらいのところで、片や指定になり、片や指定にならないために、実際に患者が起こっておるかもしらぬのに認定されない。認定されるはずもない、こういう事態にあることを私は承知しているわけですけれども、こういう姿はどうでしょうか。科学的に認められるでしょうか、あるいは法律的に認められるでしょうか。青山先生と鈴木先生、両方お調べになっておられるようですから、お聞きしたいと思います。
  94. 青山英康

    青山参考人 お答えいたします。  御指摘のとおりだと思います。きょうも私、実を言えば写真も持ってきて——同じ煙突が見えて、同じ煙突から同じように煙が落ちてきて、そして一メートルも隔たりのない隣り合わせの家で、こちらに起これば認定される、こちらに起これば、というようなところもございます。そういう写真もたくさん私のところでも用意しているわけですけれども、きょうは持ってまいりませんでしたけれども、そういった状況が起こっているということが非常にこれは問題じゃないだろうかというふうに私も先ほども申し上げたとおりで、もう先生の御指摘のとおりだと思います。
  95. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  線引きされた指定地域に近接したところの被害者救済の問題につきましては、これは一応線引きした中では因果関係は、先ほど申し上げましたように指定地域暴露要件指定疾病の三つの要件が備われば因果関係制度的に認められるということでわかりやすいのですが、その指定地域以外ですと、今度は救済を受けるためには、個々的に因果関係を証明して損害賠償請求ということになるだろうと思うのです。それはなかなか非常にむずかしいだろうと考えるわけです。それで、道路一つ隔てて救済される人とされない人が出てくるということは、これは何としてもおかしいことなんでして、やはり線引きというのは、自然の汚染状態に合った線引きがなされなければならないんではなかろうか。そうしますと、地域指定する場合に、汚染状態、有症率を判断するときに、大気汚染程度調査を、細かく測定点を設けて、それからそれに合った、その地域有症率調査する。細かい調査でもって自然の汚染状態に合った線引きがなされてしかるべきではなかろうかというふうに考えるわけでございます。
  96. 細谷治嘉

    細谷委員 先ほど梅田先生なり青山先生の科学者という立場から見ても、やはり少なくとも理想にアプローチしていかなければいかぬけれども現状では医学的に言っても、これがもう犯人だということは、一〇〇%科学的に一足す一は二であるというようには把握できないというのが現状であるとすれば、鈴木先生おっしゃるように、四日市にあらわれたように、ずっと道を詰めていって、その工場の門前に至ればそれが犯人だ、こういう形で四日市の裁判が判決されたいきさつからいきますと、四、五メートルの川を隔てて、県の境だからこちらは指定してこちらは指定されておらないで、そしてあなたは病気になってもそれは対象にならないというのは、いかに法律といえども、その法律の趣旨というのが、自治体の境、県境とかそういうもので科学がひねり殺されているということは、私は大変問題だとこう思っておるのです。ここに今日の補償法の大きな欠陥があるということで、先生方の御指摘どおりであります。  時間がございませんが、もう一つ御質問したいのでありますけれども、この日弁連のあれについて、五十二ページに大変重要なことが書いてあるわけです。いわゆる地域格差ということですが、賦課料率の問題で、ある地域、たとえば四日市あるいは北九州市なり大牟田市等では、その企業が納めた金額の半分以下しか地元に返ってこない。これはおかしいじゃないか、PPP原則からいっておかしいじゃないか、こういうこと。それからもう一つは、指定地域、同じ市で、先ほどは県の境と言いましたが、同じ地域でたとえば同じように火力発電所で石炭をたいておる会社、それから電力会社、こういうものがありますけれども、それはその指定地域から除かれておるわけですよ。でありますから、同じように亜硫酸ガスは出しているわけですけれども九分の一しか納めないということで、地域内において企業内の負担についてもけんかになっちゃっている、こういう事態があります。そういう地域では、ここに書いてありますように、たとえば四日市は十億円もよその方に払っているので、同市の企業間で指定を解除して、もっと効果的な市独自の制度を打ち立てようということで、条例制定の動きが現実に起こってきているわけです。こうなってまいりますと、これはやはり補償制度そのものを突き崩すような——正しい方向にアプローチ、充実したものにアプローチするということじゃなくて、これはもうやはり制度を壊していく、こういうことになるのではないか、こういうふうに憂慮いたしております。  そこで、私は、この五十二ページの日弁連の考えとしては、「原因者責任を貫徹する立場からすれば、負担方法につき地域性を導入するのが望ましい」、その前提としては、先ほどおっしゃったように被害者救済制度の内容を現状より充実する。それはあくまでもPPPの原則を貫いていく。その場合に、やはりPPP原則からいま現実には外れているわけですが、制度が起こって三年間でありますからやむを得ない。しかし実態に、理想的な姿、PPP原則にアプローチしていくためには、これに書いてあるような地域性を導入するということが望ましいということが本当だろうと思うのです。原則を踏まえていきさえすれば。こういう点についてなり、あるいは今日の午前中の参考人のあれで公費負担問題等、地方財政の今日の中で公費負担も大変なんだ、こういう声もありましたが、そういう問題も含めて三人の参考人から意見をお聞きして、私の質問を終わります。
  97. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  日弁連は最初から、このPPPの原則に従って汚染負担原則を徹底させようということは一貫しているのでございまして、この報告書に書いてあるとおりでございます。いま御指摘の一つ地域で集めた賦課金がほかのところへ流用されるという不合理の点でございますが、これは、現在はやはりSOx、硫黄酸化物だけで判断しているからこういう問題が出てくるのだろうと思われます。硫黄酸化物は幾らかきれいになったということで修正され、これに窒素酸化物が加わって、それにその窒素酸化物の汚染状況に合った賦課金制度が考えられれば、この点もまた改善されていくのではなかろうかというぐあいに考えるわけであります。
  98. 青山英康

    青山参考人 私の専門とはちょっと外れちゃいますので、その負担金がどうあるべきなのかというのは問題があるだろうと思いますけれども、この点は私も、この法が制定される以前にもある雑誌で指摘したところでございまして、環境汚染状況をどういった形で評価をしてそして分担をさせるのかということは非常にむずかしい問題だろう、それだけに、国としての統一的な形での負担あり方を検討すべきではないだろうかというふうに考えます。  先ほどの線引きの問題一つ取り上げてみましても、ただ単に小さな地方財政の形での行政的な施策として行われるところに問題があるので、もっと科学的なメッシュを引いて、汚染状況がどういうふうに広がっているのかというような形で明らかにしていくことは決してむずかしいことではないわけで、そういった点が非常に抜けた形でやられているということが、いま科学が否定されている現状だろうと思います。
  99. 梅田博道

    梅田参考人 私、一番冒頭にしゃべりましたときに、口幅ったくも学問的追求が不十分なうちに世論を背景に事を取り急いできたのではないかということを申しましたが、確かに私はそれを思うのです。  それで、その当時救済を急ぐところがあった。確かに四日市がそうだ、川崎もそうだ。だから当初に指定のところは、御質問の先生おっしゃるとおり、あの当時そこへ入っていったら実感としてわかりましたよ。そういうところでこれを行っているうちはいいのですが、そのうちにどんどん拡大されてしまうと、高濃度汚染のときには非常によくわかる、だけれども、現在のようにちょっとのところで問題になってくる。しかも五年前にSOxが基準値よりちょっと高かったくらいで指定してきますと、その線引きで不公平が出てくるというふうに私思うのです。それに付随していろいろな問題が出てくる。  それでSOxではいけないじゃないか、NOxNOxとおっしゃるが、その当時はNOxは測定できない。いまだってNOxははっきりしていないのですよ。実験的にはわかっておりますけれどもNOx影響というのははっきりしていない。それから、高濃度NOxは、北海道のサイロディジーズのように急性暴露ははっきりしています。しかし慢性暴露はまだはっきりしていない。それはいま追求しているところです。だから、それを行政に取り入れるのは同じことをまた繰り返すことになる。  それで、いまの賦課金の問題は、私は医者でその点になるとまことに弱いのですが、そのアンバランスが出てきているのは、先ほど御質問のとおり、認定患者のアンバランスがもとなのでありまして、私は汚染物質だとは思いません。
  100. 細谷治嘉

    細谷委員 終わります。
  101. 島本虎三

    島本委員長 次に、土井たか子君。
  102. 土井たか子

    ○土井委員 お忙しい中をどうも本当にありがとうございました。  それで簡単に私お尋ねしたいと思うのです。まことに非科学的な問い方をいたしますけれども、先ほど青山先生の方から赤痢の問題と結核の問題を取り上げられて、それは赤痢菌や結核菌という直接の問題とは別に、所得という問題と無関係では決してあり得ないというふうな御発言がございましたが、同じようにこの表現については、この言葉を使うことを余り適切とはお考えにならない先生もおありになるようでありますけれども、いわゆる公害病というふうに言われる病気についても同様にそういうことが認識し得るかどうか、この点はどういうふうにお考えになるかを、梅田参考人青山参考人からひとつ率直にお聞かせいただければと思うのです。  それと、あともう一つの問題は、鈴木参考人の方にお伺いしたいのでございます。  先ほど来、公費負担制度の問題についてるる御質問がございました。本来、補償の問題に対してはPPPの原則によって考えられなければならないということがあるべきだと私は思うのです。ただ、この補償法の内容を見ますと、このPPPの原則から外れます国、地方自治体において認められるいわゆる公費負担の部分がございます。これは従来日本弁護士会から、汚染負担原則からの逸脱であるということを事あるたびに指摘をされ続けてきております。しかし、これは率直に考えまして、いろいろ公害健康回復事業であるとか福祉行政というふうな問題を運営していく上から言うと、どうしても公費負担導入の部分というものをなくするわけにはいかないという、これに対しては反論も繰り返し今日までくるわけなんですね。それで、日本弁護士会の立場とは別に、そういう立場も一つは御指摘いただければ結構なんですが、鈴木参考人とされては、この公費負担の部分というものを全面的に認めない、つまりPPPの原則による補償というのが最も望ましくて、それに対してむしろ法律で義務づけていこうとするとこういうふうにそれが具体的に考えられなければならない重要なポイントがあるということが、もしお気づきの点があるならば御指摘をいただきたいと思います。  あわせて、私は、給付費それ自身に大変問題があるだろうと思うのです。先ほどのお二方、梅田参考人青山参考人の御意見もあわせて考えなければいけないことだと思いますが、本来、この給付を受けたために、いまの生活保護世帯を下回る給付であることのために、一家の働き手がこの給付を受けることを潔しとしない、そういう現象があちこちでございます。たとえば西淀川とか尼崎では、こういう世帯があるということは現実の問題でございますから、そういう点から考えてまいりますと、この給付という問題のあり方、お金で万事解決というのは私は間違った話だと思いますけれども、やはり給付の問題に対しては考えられなければならないと思うのです。  そこでお伺いをしたいのは次の問題なんですが、これは男女についての格差がございます。私もお見かけどおり女性の一員でございまして、こういう問題のたびごとに矛盾を感じて口やかましく言うわけでございますけれども、そこで問題にされるのは、一般国民のいわゆる賃金平均というものを考えていったことを基準に置いて常に問題にされるのです。私は、事健康被害の問題はそんなことではないと考えているわけでありまして、むしろ命を大切にするという点からすれば、母性が損なわれる、母体が損なわれることくらい深刻でありしたがって真剣に考えられなければならない問題はないのじゃないかとさえ私は言いたいわけであります。  こういう給付の上で男女において格差があるということに対して、いままで日本弁護士会とされては声を挙げてこられましたが、鈴木参考人のそれについての御意見をお伺いしたい。  以上でございます。
  103. 梅田博道

    梅田参考人 いまの御質問に私なりにお答えします。  赤痢、チフスと比べて大気汚染の場合の問題ですが、低所得のことですね。  これは私が考えておりますことで申しますと、気管支ぜんそくでは関係ないと思います。慢性気管支炎は明らかに低所得の方が高いと思います。しかし私は、それは他の救済措置でやるべきで、補償法とは関係ないと思います。  それからPPPですが、公費負担は困るとかおっしゃる。これは原因者負担とおっしゃるが、大気汚染に関しては御自分はたばこを吸っている、御自分が自動車に乗っている、御自分テトロンの服を着ているじゃないですか。自己責任を考えれば全部現在の状態でいいとは私思いません。日本の教育でいま一番欠如しているのは、自己責任が全くなくなってしまった、これが昔の日本人と違うところだと思うので、これをはっきりさせたい。  それから三番目の男女のことは、私が言うことではないのかもしれませんが、これは労働能力の障害度についての補償で、私は予防法だったら文句ないのですが、補償ということなら、労働能力の損傷度に対して補償するのでありますから、労働省の平均労働賃金から算出して当然だと思います。  また、その男女差がいかぬというのは、私もそう思います。それはまた別のところで論ずるべきで、賃金格差をなくしたらそれに乗っかってくるべきで、現実としてある以上、それに乗っかって算出するよりしょうがないのではないか、こう私は思います。
  104. 青山英康

    青山参考人 お答えします。  公害病という疾病概念について、私もこういう言葉を使っていいのかどうかというのは疑問を感じます。しかし、この疾病概念については、たとえば成人病という言葉もございます。これを英語でそのままアダルトディジーズなんて言ってアメリカで使いますと性病のことと間違ってしまうというくらい——成人病というのも人間のいまの生活、いわゆる家庭生活の支柱を失うという意味で成人病というのを非常にソーシャルに、社会的に行政的に名づけられたのだろう、そういった意味で、公害によって大きな健康被害があるということを前提としますと、公害病というような使われ方をしてもいいのじゃないかということが言えるだろうと思います。いわゆる公害によってどうやって健康が被害を受けるのか、さらにはそれに対する対策はどう立てるべきなのかといった点での共通点を検討すべきだろうと思います。  それから、先ほどからたばこの問題が出ておりますけれども、私も確かに外国で生活をしましたし、また、たばこ肺がん説を唱えたジョンスホプキンス大学のリリエンフェルドという先生のところでも私は講義を受け、単位をとってきた男ですけれどもたばこの問題というのはきわめてプライベートな問題でございますし、それから大気の汚染の場合は好むと好まざるとにかかわらず受けるという害でございますし、その辺を一緒にすることは私は避けておきたいというふうに考えております。確かに人前でたばこを吸う場合に相手が吸っていない場合には許可を受けるなんというエチケットはあるだろうと思いますけれども、個別の私生活の問題と、それから公の、好むと好まざるとにかかわらず、しかも大気の汚染の場合は——人間にはいろいろな素因があるだろうと思います。目の丈夫な人もおれば目の弱い人もおる。歯の丈夫な人もおれば歯の弱い人もおる。肺の丈夫な人もおれば弱い人もおる。これはあたりまえのことで、肺の弱い人はここに生活をしてはいけないという法律か何かそういう決まりでもない限りは、肺の弱い人も吸収器の弱い人も生活をする。そういったところでの空気の汚染をどうやって減らしていくのかというのが公害対策の基本にならなければならないだろうというふうに考えますので、たばこに関してはまた私たちもいろいろな検討をしております。ところが、これの被害の実態というのは非常にむずかしいわけですね。長く捨てる人もおれば、最後までがんばって吸う人もおりますし、その本数の問題もありますし、非常にとらえ方がむずかしい。これも大気汚染以上にむずかしい問題がございますので、私はただ、私の衛生学の立場で言えば、たばこを吸えということではございませんで、たばこの害と大気の汚染の害は分けて考えたい、こういうふうに考えております。
  105. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  御質問の公費負担の問題につきましては、この補償制度の性格をどう考えるかで違ってくると思うわけでございます。これを社会保障的な救済なんだというように考えれば公費負担ということも問題になってくるだろうと思いますが、一応現在のように損害賠償的な性格を持っているのだということであれば、これはPPPの原則に従って、汚染負担原則に従って経費は一切汚染者が負担するということになるだろうと思う。ただ、どちらがいいかということでございますが、公害をなくすためには公害予防と救済は車の両輪だろうと思うのです。どちらも欠けたらこれは完全なものではありません。そして、健康被害救済ということは、人権にかかわることで、他に優先してなされるべきだろうというふうに考えるわけです。そうしますと、これは損害賠償的な考えでもって制度をつくるべきであろうというふうに考えるわけでございまして、損害賠償的に考えて一切の経費を汚染者が負担し、公害の責任を明確にすることがまた公害をなくすことにつながるわけでございまして、損害賠償的に考えてPPPの原則に徹するべきであろうというふうに考えるわけであります。  それから男女格差の点につきましては、現在の法律理論から言いますと、損害賠償といいますのは実損てん補でございまして、一応収入に左右されざるを得ないだろうと思います。現在、交通事故の損害賠償などでは、有職婦人の場合には給料でもってわかりますが、家庭の主婦の場合には一応全国労働者の平均賃金を基準にして考えているわけでございまして、この面だけとらえれば、いわゆる休業損害あるいは労働能力喪失に対する利益の問題についてはどうしても現在の法理論から言うと男女格差は出てこざるを得ないのではなかろうか。しかし、公害病にかかって苦しめばこれは男女同じであるということは争いないわけでございまして、われわれが実態調査しても、女性の側からは男女格差があるのはおかしいというようにいろいろ指摘されました。これは当然だろうと思う。  これはどういうように解決するかの問題でございますが、この補償法による救済には慰謝料が認められていないわけですね。この慰謝料を認めることによって男女格差を解消するというように持っていくべきではなかろうかと思うのです。慰謝料的な要素が含まれていないことで現在の給付は男女格差が歴然としているということになるだろうと考えておるわけでございまして、慰謝料的な要素を含めることによって男女格差を解消していくというふうにしていったらよかろうかと考えておるわけでございます。
  106. 土井たか子

    ○土井委員 どうもありがとうございました。
  107. 島本虎三

    島本委員長 次に、水田稔君。
  108. 水田稔

    ○水田委員 時間がもうありませんので、青山先生にだけちょっとお伺いしたいのです。  一つは、先ほどの御説明の中で、姫路とか和歌山、そして山口などで医師会の皆さんにお願いしていろいろな調査をやっておられる、それと現在のSOxを中心にした指標では全く一致しない。そういうことで、新しい指標として、全体の環境総量といいますか、NOxなりオキシダントなりそういうものを含めた新しい指標でこれは考えなければならぬ。地域指定も、そしてまた負担もだと思うのですが、たとえばそういうことを具体的にはどういう形でやるか、指標のつくり方の問題ですね、それについてお考えがあれば聞かせていただきたい。  それからもう一つは、細谷さんの質問のお答えの中でもちょっとありましたが、環境庁がやりました自動車沿道住民健康影響調査、いわゆる川崎、兵庫の調査の中で私もちょっと気になりますのが、兵庫県で前にやった五十メートル、百五十メートルというのをそのまま川崎に当てはめてやっておる。バックグラウンドは恐らく全部違うだろうと思うのです。そういう調査地点のとり方で正確ないわゆる疫学的な調査ができるのかどうか、先ほど先生は、ずっと疫学的に全体を見なければだめだ、こういうことを言われていますので、もし方法についてお考えがあればちょっと御意見を聞かせていただきたい。  以上、二点です。
  109. 青山英康

    青山参考人 お答えいたします。  疫学とは、医学の方法論であって、人間の健康と疾病にかかわるもろもろの要因を頻度と分布によって明らかにする学問であるというのが疫学の定義になっておりますが、そういった意味で、疫学的に調査をするということは、先ほど申しましたが、環境の面とそれからその影響を受ける人間の健康の面と二つに分けて疫学的な調査を行わなければならないだろう。この環境の場合には、メッシュを引いて正方形で切っていって汚染源別にどういうふうな影響を受けているのかということをまず明らかにした上で、その汚染状況と人間の健康の方の指標、これはたとえば先ほど申し上げましたように国民健康保険の受診率もいいでしょうし、それから各開業医の先生のモニタリングの結果としての有病率も結構だろうし、発病率も結構だろうと思いますが、そういった健康の方の指標と二つを照らし合わせた上で判断をすべきだろうと思います。第二番目の問題とも絡みますけれども、川崎と兵庫というバックグラウンドがまるっきり違う、また汚染も、ただ一つ道路なのかそれとも工場街なのかという、汚染源が複数に存在する場合に、一律にそれを見るということは、基本的に調査の方法の立て方として誤りがあるというふうに私は考えます。
  110. 島本虎三

    島本委員長 その問題について、梅田参考人意見がございましたら……。
  111. 梅田博道

    梅田参考人 特にございません。
  112. 水田稔

    ○水田委員 それでは、時間がありましたら、あと二分間いただきます。  梅田参考人に。先ほどもたばこは別にいたしまして、全体的にいままでは指標はSOxなんですが、いわゆる労働衛生所調べでは、高濃度NOx影響があるということはわかっておる。いま排出される中で、量から言えばNOxが大量にあることも事実です。ですから、そういうNOxとかSOxなんかの影響が、SOxについては減ってきておる、それからNOxは大体横ばいぐらいのところにある、そして患者はふえてきておる、こういう状態を、素人としては、おかしい、こういう感じがするわけですが、お医者さんの立場でどういうぐあいに考えられておるか、ちょっとお伺いしたいと思います。
  113. 梅田博道

    梅田参考人 SOxが減って、NOxは横ばいで、決して余りふえているわけではない。NOx影響はあることはあると私は思います。高濃度ならあるのです。これは、疫学的ではなくて、臨床的にあるのです。だけど、現在調べられておる、汚染地域とされているところのNOx程度では、ちょっとまだはっきりわからないわけで、それからSOxなんかでも、やはり一回吸入でやりますと、肺機能検査をやりますと明らかに気道閉塞が起こりますが、汚染から離しますとすぐもとに戻ってしまうのです。ですから、こういうような状態になるにはかなり長い年月を要しますから、短期決戦でもって結論を急ぐことはできないということが私は一つあると思います。  それからもう一つは、病気というものは、やはり補償されれば、金が出れば、ふえるだろうと思います。この病気は前からある病気ですから。要するに、いままで知らなかったものが、この病気ならとれるのかといえば申請を出すだろうと思います。そういうことでだんだんとふえてくる。しかし、あるところで頭打ちになるだろうと思います。
  114. 水田稔

    ○水田委員 終わります。
  115. 島本虎三

    島本委員長 次に、古寺君。
  116. 古寺宏

    ○古寺委員 それでは、日弁連の提言がございますが、報告書の提言でございますが、その中に、慢性砒素中毒症について認定基準を改めるべきであるということが載っておりますが、この提言に関しまして、鈴木参考人、また青山先生にひとつお伺いしたいと思います。
  117. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  慢性砒素中毒症の認定につきましては、現在環境庁認定基準からいって、指定疾病を皮膚と鼻と神経の三つの症状に限定されているわけでございます。しかし、実態は、この三つの症状に限らず、内臓疾患を含む全身的な障害、症状、たとえば消化器系の障害の中で胃腸障害、肝障害、あるいは皮膚・粘膜系の障害、それから心臓・循環系障害、呼吸器障害、歯の障害と、全身症状が問題になっているのが実情のようでございます。現在この三つの症状に限定されるということは、この三つは砒素との関係が明らかだということで認定基準になっているのだろうと考えるわけでございますが、先ほども申し上げましたように、水俣病の認定の場合には、当該疾病が水銀の影響によることが完全に否定されない場合には認めるようになっておりますが、この慢性砒素中毒症の場合には、この疾病と砒素の関係が完全に証明されないと救済されないようになっている、ちょうど逆になっているように考えられるわけでございます。そこで日弁連としましては、疫学条件が整えば、当該症状と砒素との関係が完全に否定されない場合には救済すべきではなかろうか、ですから、この三つの症状に限定せず、内臓疾患を含む全身的な障害、症状が砒素の影響によるものでないことが完全に明確にされない場合はすべて救済するように認定基準を改めるべきだと、こういうように考えて提言したわけでございます。
  118. 青山英康

    青山参考人 お答えします。  これは、先ほども申し上げましたように、さっきの参議院の予算委員会ですか、のときにも私、指摘をさしていただいたわけなんですが、砒素中毒に関しては、その際にも文献をお見せしたわけですが、「ポイズニング」という有名な本があるのですが、そこで百八項目からの症状が砒素中毒の所見として出ているわけです。その中でいま認められているのは、鼻中隔穿孔という鼻に穴があくのと、皮膚の色素沈着、色素異常ですね。宮崎の土呂久の場合にはこの二つですね。あとそれに対して島根県の笹ケ谷で末梢神経が入っている。ところがこれは私は非常に問題だと思いますのは、たとえば労働省が職業病としての砒素中毒を考えた場合には、肝機能障害をちゃんと書いてあるわけです。それから末梢神経の方も押さえておけというのが書いてある。また、血液検査をきちっとすべきだということを書いてある。それから森永砒素ミルク中毒事件のときには、厚生省の判断は、皮膚が黒いなんというのはもう関係ない、こんなものは治癒判断で落としてしまえ、あってもいいんだ、治ったことにしろと。そこで問題になったのは肝臓のはれと血液の検査結果だけなんですね、貧血があるかないかだけなんです。そうすると、同じ砒素中毒が、省庁が違えば全部基準が違うというふうな形です。先日も宮崎県の審査委員会先生方と不服審査のところで話をしたわけですけれども、この記録をまたごらんいただきたいと思うのですが、自信を持ってこんな委員会はやめたいと審査の先生方がおっしゃっているわけです。枠をはめられて、これで判断をしろといったら医学的にはどうしようもない、だから医師の良心に基づいてこんなことはもうできないと言っているのが現実の、実際の審査の状況だと、こういうことです。したがって、この三つや四つの項目で砒素の中毒の診断をするというのは、全く医学的には何らの根拠がないと言ってもいいだろうと思います。
  119. 古寺宏

    ○古寺委員 次に梅田先生にお伺いいたしますが、現在行われておりますところの公害保健福祉事業でございますが、この問題につきましてはいろいろと改善をしなければならない問題点が多々あるようでございますが、この点につきまして梅田先生は御専門の立場からひとつお話をしていただきたいと思いますが、あわせて青山先生と鈴木先生にもお願いしたいと思います。
  120. 梅田博道

    梅田参考人 私、それがこの公害対策で最も大事なことだと思います。先ほど私申しましたように、公害の対策補償より予防であり、そして早く治してやる、そして早く社会復帰させる、そういうことで呼吸センターというふうなものをつくればいいなあ、というふうなことを申しておるのですが、その一つがリハビリであり、一つが救急です。それで、その柱になります初めのリハビリというのがいま御質問のものに当たると思います。すでに昭和四十九年に公害に係る指定疾病医療研究会というもので、呼吸の物理療法に関する研究を私が座長でまとめまして、環境庁に提出してございます。それから本年、公害保健福祉事業の基本的問題についての検討会を、これまた私が座長で行い、なお検討中でございます。こういうことでいくのですが、その内容はやはり薬剤はもちろん必要によって使いますが、薬だけでなくて物理的な治療方法、たとえば体位性ドレナージ、呼吸体操、こういうようなもので公害にもめげず人間の体の方の閾値を高めていこうという、大げさな言い方でありますが、そういう対策が必要だ。私思いますのに、そういうものはそのどれが必要かということはなかなか言いがたい。いろいろなものを含めて、先ほど申しました病気に対する知識、そういうことから始まって呼吸体操、体位ドレナージ、さらには運動療法、近ごろそういうことを横文字で恐れ入りますが、コンプリヘンシブ・ケア・プログラム、これは外国で言っておることですが、日本語で申しますと総合治療計画というふうなものが必要で、われわれの考え方ではまずそういう教育をする、知識をとる、どうしてこれがいいのだ、それで納得して体位ドレナージをやる、呼吸体操、ブリージングエクササイズ、そういうふうなことを一連ずっと組みますと、そのカリキュラムが大体一週間になるのです。それで基本的な方針としては一週間が妥当であろう、こういうことであります。そういうことで修得したものはそれでおしまいではなくて、家庭に帰って、また職場に帰って、そこで身に修得したものを常日ごろやらなければこういうことの効果は上がらないわけでございます。そういう教育をする一つのプログラムをつくり、検討しているところでございます。
  121. 青山英康

    青山参考人 お答えします。  私は、いま梅田先生のおっしゃったような疾病別の病院といいますか、診療所からの治療を通じての地域へのアプローチというのも一つあるだろうと思いますが、もっと基本的には、地域の健康問題を地域で解決していくという立場で、公的な唯一の保健施設としてはいま保健所がございます。ところが、一方においてはそういった保健所の機能というのが、人員が足りない、予算が足りない、施設も不十分だという形で、全く地域保健に役割りを果たし得なくなってきている。そういう中で、たとえば公害の発生についても一番最初にこれに警鐘を発したのが、この保健所で日常地域の人たちと一緒に働いていたいわゆる自治体労働者の方々なんですね。そういった意味で、そういった自治体労働者の方々が日常の保健所の活動の中でもっと環境測定をしたいとか、もっと対人保健サービスをして健康問題の実態をつかみたいと言っているときに、それに対する対応策が全くとられなかった。そして、公害発生に保健所は役に立たなくなったからというのでもう保健所は要らないなどというのは全く主客転倒の話だというふうに思うわけです。そういった意味で、いまからでも決して遅くないわけで、もっとそういった自治体労働者の地域の健康状態を守るという意味でのこの保健所の充実なんというのがまず第一に考えられるべきですし、さらには、現在明らかになっている公害発生地区の保健所なんかには、さらにそういった意味でもっと充実させるというふうな施策がなされるべきだろうというふうに私は考えております。
  122. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  この公害保健福祉事業につきましては、日弁連はかねてから、この事業こそが補償法の中心的な救済として位置づけられるべきであるというふうに主張しているわけでございます。  なぜかと言いますと、金銭賠償もさることながら、被害者の要求は健康に戻してほしいということが切実な願いでございまして、公害の特殊性から言いまして、原状回復的な救済に当たるこの保健福祉事業こそ充実すべきではなかろうか。現在補償法に基づいて認められている保健福祉事業といいますのはリハビリテーションに関する事業、転地療養に関する事業、療養用具支給事業、家庭療養指導事業、この四つでございますが、この中で比較的行われていると思われる転地療養に関する事業につきまして、先ほど申し上げましたように、環境庁の承認基準が五泊六日と比較的長期になっています。そうしますと、それだけの期間付き添える医者の確保がむずかしいとか、五泊六日ですと長過ぎて行けないということで患者が敬遠するとかということで、なかなか実施しにくい。勢い二泊三日とか三泊四日とかという転地療養になるわけでございますが、この二泊三日とか三泊四日でも、実施した結果についての医者あるいは患者の感想から言えば非常に効果があったということで、効果が認められているわけでございます。しかし、二泊三日とか三泊四日ということになりますと、財政的には、環境庁の承認が得られませんから、地方自治体負担ということになる。そうしますと、その自治体の財政状況によって、やるところとあるいは回数を少なくするところが出てきて、充実していけないということになっているのが現状だろうと思います。したがいまして、こういうきめの細かい事業をやらないといけない場合には、その実施主体にその権限を与えて臨機応変にやっていくようにすべきではなかろうかというふうに考えているわけでございます。
  123. 古寺宏

    ○古寺委員 現在の補償法にはいろいろな欠陥があるということで、本日も参考人先生方の御意見を承っているわけでございますが、現在の補償法を改善するとしたらどこに主眼を置いてやるべきかということをずばり一言ずつ、時間がございませんので各先生方の御意見を承りたいと思います。
  124. 梅田博道

    梅田参考人 基本的には、補償よりも予防に力点を置けということであります。
  125. 青山英康

    青山参考人 被害認定についてはやはり加害責任を明確にするという形で認定をされなければならないと思いますし、もちろん先ほどから申し上げているように、予防に力を入れるべきだということも考えられます。しかし、先ほどちょっと私落としたのですけれども、たとえば今度は公害に負けない体操をしろ、体力づくりだなどということになりますと、今度はぜんそくになったときは、おまえ、その体操をサボっていたんじゃないかということにもなってしまうわけで、たとえば年に一回か二回きれいな空気を吸わして、その日に腹いっぱいきれいな空気を吸ったからといって、これが何日もつかという問題もございます。そういう意味で、そういった形での予防じゃなくて、もっと日常的な地域における保健活動を推進するということが基盤にあって、加害責任を明確にする形での被害認定をしてもらいたい、こういうふうに考えております。
  126. 鈴木繁次

    鈴木参考人 お答えします。  一たん発生してしまった被害の救済は他に優先してなされるべきであろうと思います。そして、しかもそれは完全にすべての被害者に対してなされるべきだろうと思います。すべての被害者に対してなされるためには、現在の補償法では不十分でございまして、窒素酸化物も加えた複合汚染状況を適正に判断して、まず地域指定を拡大すべきであるということ。それから完全な補償がなされるべきであるということについては、補償内容を充実する。現在障害補償費については全国労働者平均賃金の八〇%に限定されているのを一〇〇%に上げる。それから二級、三級の給付率を引き上げるということ。それから先ほど申し上げました公害保健福祉事業を充実させることが最も重要であろうかと考えるわけでございます。
  127. 古寺宏

    ○古寺委員 どうもありがとうございました。
  128. 島本虎三

    島本委員長 次に、中井洽君。
  129. 中井洽

    ○中井委員 最初に、梅田先生にお尋ねをいたします。  大変思い切った、ためになるお話をいただきましてありがとうございました。時間もございませんので、二つ、三つお尋ねをさせていただいて、お答えをいただければありがたいと思います。  お話の中心といいますか基礎は、公害、特に四日市公害等が非常に騒がれたというか、補償をしなければならないというときに、医学的な究明といったものが不明のままにやられたのはやむを得なかった、その後まだ病理学的にも十分やられていないし、私どもも違ったふうに考えている面もある、こういうお話であったと思うわけです。そのお話の中で、四日市、川崎に関しては因果関係がはっきりしている、他の地域についてはしていないし、その他指定されていない地域云々というお言葉があったように思うのであります。この点を、私も四日市の出身でございますので、少し御説明をいただきたいというのが一つでございます。  それからもう一つは、先ほどからたばこの害について非常に強調されました。青山先生とちょっとお立場が違うようでもございますが、私も大変ヘビースモーカーでございます。先ほどから恐ろしくなっているのですが、四十になったらというので、まだ五歳ほどあるので安心をしているわけであります。補償法、四日市の公害裁判等が言われた当時からたばこの問題というのは言われておったのか。私は自分の身内にずいぶんお医者さんもいますものですから、あの当時そういった先生のような御意見はなかなか言いにくい雰囲気もあったと思うのです。そういった形でたばこの問題が出てこなかったのか。  もう一つ、最後に、これは大変失礼な恐縮な話でありますが、先ほどから問題にございましたように、申請をして審査が一〇〇%のところもあるし、何%のところもある、こういうお話でございましたけれども、純粋に先生の、医学的な立場、病理学的立場からいけば、先生がそういった件で審査をされると一〇〇%というのはあり得ないという形になると私は思うのです。そういった場合に、疫学的なところとの話し合いによって、これでお互いまあまあ満足だというような一つ基準がつくれるものかどうか、このような点についてお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  130. 梅田博道

    梅田参考人 第一点でございますが、かなり誤解を受けるような発言をしたように私、思います。一番当初四日市、川崎はというのは、当初問題になりました四日市の地域、川崎の地域、これはもう先生方おわかりだと思う。京浜なり羽田へ行く道を車で走れば、ある瞬間からものすごい。ああいうふうに、だれが見てもわかっておるようなところがあったのですよ。私、いま名古屋におりますので、余り飛行場に行かないからわからないのですが、四日市もそういうところで、初めに出てきました、裁判になりましたあの方たちは、いろいろうるさいことを言わなくても因果関係ありと私は思います。これはもうきわめて常識的にそういうふうに思うのです。  それで、その当時は高濃度汚染であって、そのときの指標がSOxだった。SOxというのは、要するにSO2を一つのインデックスにしてああいうことをつくったわけです。だからSO2だけだとだれも言っていないのです。あれが一つのインデックスでつくったんだと私は思うのです。当初私がつくったのじゃないから私の責任ではないのですけれども、そういうことででき上がった。それはいい。だからそこまでは私も常識的に賛成なのですが、あとどんどん地域が拡大していったときに、同じ概念をそのまま広げていくと大変に問題が出てくるということなのです。  第一種の指定疾患というのは非特異的である。だから、一番当初の病人もやはり非特異的なのですよ。あのとき鑑定をされました佐川教授は、決して因果関係ありとは言っていない、こう言っています。私たちの研究会で、因果関係ありなどと言っていない、ぜんそくなどとも言っていない、これは肺機能障害が高度だと言っただけである、こういうことです。因果関係は初めから決まっておったのですよ、世の中のムードか何かわからぬけれども。だから私もそう思う。あのときは、あんなひどいところでもってひいひいいえば、私たちが行ったってひゅうというのだから、やはりそうだろうと思うのです。だから、現在もうSOxは非常にきれいでNOxは横ばいだ、そういう地点と同じ考え方で押しつけてくるところにそもそもの間違いがありはしないかと思うわけです。いまの時点では予防対策とか、もっとおおらかに、もっと前向きの姿勢でいく。あれは逆行ですからね。助けるという方ですから、救済を急ぐという点では、あのときは事実そのとおりだったと思います。NOxの問題も、これから予防ということだったら、NOxに対する対策をどんどんやらなければいけない。  第二点のたばこの問題ですが、たばこの害というのは、たばこが出現したときから外国でわんわん言われておるのでありまして、現在の時点では日本ほど甘い国はないのじゃないでしょうか。北欧なんかではもう二十年計画で禁煙国にしようという計画だという話を私聞いたことがありますし、イギリスなんかも大分減ってきたようです。われわれは呼吸器だから特にそうかもしれませんが、呼吸器専門家の会でたばこを吸っていると、外国の連中には、おまえ、医者なのになぜ吸うのだと言われますし、これはもう常識だ。たばこは自分の勝手だと言う。それは吸って自分が悪くなるのは勝手だけれども認定だ何だといったときには、自己責任としてやはりある程度持たなければいかぬ。それから、吸うのは勝手ですが、吐くのは決して勝手ではありません。  三番目は審査の問題ですね。私は特別措置法のときには審査に携わっておりましたが、現在私のおる地点はきれいなところで、審査に携わっておりませんので、現状を正しく知っておりませんからいささか間違いがあるかもしれませんけれども、やはり審査というのは正確にやらなければいけない。主治医の意見はもちろん大切です。だけれども、ドクターというのはいろいろな症状を間違えることがあります。なぜかというと、それは急ぐからです。ゆっくり診れば間違えません。大学の先生は間違いが少ない、開業している先生は間違いが多い、それは当然です。一番最初に診るのは開業医だからです。ぐるぐるっと回って、ある程度いろいろなデータが集まってから大学へ来るから、われわれ大学にいる人間は比較的開業している方よりも正しくできるのです。審査に出すときは、慢性気管支炎というのは簡単におわかりかと思う、ぜんそくとは簡単におわかりかと思う、そんなことはありません。だから、十分な検査をやれば正しく出せますが、出せ出せということになりますと——患者さんがなぜふえるか。いままで知らなかったのに、私の地区はこうなのか、それじゃ先生お願いしますと言って急に持ってこられたって、すぐに正しい診断ができない場合があるわけです。そういう場合に正しく審査して、資料で検討して、場合によっては電話でも、また翌日でも主治医と相談して、納得のいった上で決めていかなければならない。  なぜかというと、ひゅうといえばぜんそくだと思います。しかし、子供には先天喘鳴というのがあります。のどがはれているだけでぜいぜいいいます。こんなものを認定する必要はありません。かえってためになりません。それから、同じぜんそくでも、これはもう数多くあります。心臓が肥大していて、左室不全の場合にもぜんそく発作と同じようなことが起こります。こんなのを、私は苦しくてひゅうひゅういうからと言って出されて、それを気管支ぜんそくとして認定されたら治療方針を間違えます。まるっきり治療が違うことなのですから。同じ症状であっても治療の違うことがあります。だから正しく審査しなければいけないと思います。
  131. 中井洽

    ○中井委員 時間がございませんので、鈴木先生にお尋ねできなくて申しわけございません。  青山先生に一つだけお尋ねをいたします。  私どもが公害を防止していく場合には科学を基礎にしていかなければならない、これはもちろんであります。しかし、先ほどからお聞きしておっても全然違う科学でございまして、お二人の先生だけでも違うということで非常に迷うわけでございますが、先ほどのお話の中で、主治医が診たのに認定で落ちるというのは医学的にいっても間違いである、ここまではっきりおっしゃったわけでございます。そうしますと、先生のお話ですと、いわゆる主治医が認定をして審査に出したら、これは全部通すべきだ、このようにお考えなのか、ある意味では先ほど梅田先生がおっしゃった、何か講習会みたいなものをつくって、基礎づくりあるいはそういった基礎の一致する面をつくっていって、それから認定というものを考えていった方がいいのか、どのようにお思いですか。
  132. 青山英康

    青山参考人 私は必ずしも梅田先生と意見が対立しているわけではないと思います。と申しますのは、たとえば、臨床の立場で慢性気管支炎を正しく診断をつける方法は何かということと、大気汚染の被害をどうとらえるのかという診断とは明らかに違ってくると思うのです。したがって、公害健康被害としての診断が必要なのか、それとも慢性疾患、それも環境庁が定めた基準による慢性気管支炎の診断をつけろと言っているのかというところの食い違いが、いま梅田先生と私の意見で違うように聞こえていらっしゃるのではないかというふうに私は思うわけです。したがって、公害健康被害補償法というのは公害被害を補償しようとしているのか、それとも慢性気管支炎を救おうとしているのかということをまずはっきりさせていただかなければならないだろうと思うのです。  それから、かかりつけの先生が診断書を出したら全部通せと私は申し上げているのじゃないわけです。いまも梅田先生もおっしゃったように、診断を間違えますと治療を間違えます。治療を間違えますとせっかくの医療がむだになりますし、かえって悪いこともございます。したがって、審査委員というのは、本当にそれは大気汚染影響によるものであるのかどうか、それはどういうふうな治療をすべきであるか、これは大気汚染というよりももっとこの辺をやった方がいいのじゃないか、たとえばたばこの矯正をした方がいいのじゃないかと考えられる場合にはそれをアドバイスするのが審査のあり方だろう。したがって、決して開業医のかかりつけの先生が出せばそのまま通せということではなくて、被害の実態は一番よく知っていらっしゃるだろう、その被害の実態をまるっきり——まる一言と言っては怒られるかもしれないけれども、ほとんど知らない先生が書類だけの審査結果で救済の方法を考えるのも間違いがある、こういうふうに私は申し上げておるのであります。
  133. 中井洽

    ○中井委員 ありがとうございました。
  134. 島本虎三

    島本委員長 次に、東中光雄君。
  135. 東中光雄

    ○東中委員 梅田参考人にお願いします。  現在の地域指定要件を中公審が決めたとき、たしか梅田先生は環境保健部会に所属しておられたと思うのであります。だからこの審議に直接当たっておられるわけですが、答申には、窒素酸化物については当然要件として入れるべきであるという立場に立って資料を集めるということになっておったように思うのでありますが、答申によりますと、「地域指定要件等に関する資料は必ずしも十分ではなく、大気の汚染程度は現時点においては硫黄酸化物を指標として表さざるを得なかった。したがって、今後とも窒素酸化物及び浮遊粒子状物質と呼吸器症状有症率関係を量的に検討した研究に関する資料等を集めて地域指定要件等の見直しを行う必要がある。」こうなっております。前提が窒素酸化物も指定要件に入れるいとうことであったように思うのでありますが、その後の経緯、あれから三年たっておりますが、どういうふうにお考えになっておるか、お伺いしたいと思います。
  136. 梅田博道

    梅田参考人 そのとおりであります。先ほどお話ししていたのとちょっと食い違うようでありますが、先ほどのお話は、現行問題点をえぐるときにそういうことで、一番当初がSOxをインデックスとして高濃度汚染の場合だと私は思うということでございます。現在の委員会では当然SOxは解決しておるのですから、何も補償だけでなくて、先ほど問題になりましたように福祉事業なんかも展開して病気をなくしていこう、さらにはこういうものの発生を少なくしていこう、要するに大気汚染による因子をなくそう。そのほかのところまではとてもこの法律では無理かもしれませんが、医者としては全部やらなければならぬ。そういうことでNOxも当然問題になるわけでありますが、先ほどもちょっと触れましたようにNOx影響というのはまだ不明の点が大変多いのです。それで現在、大気部会の中のNOx影響特別委員会で内外の文献を全部集めて検討中でありますから、近いうちにその結果が出てきて、それを参考にして次のことを考えるということで、余りせっかちには事を運べない。でも、もうかなり短い間に結論が出てくるだろう、こう思います。
  137. 東中光雄

    ○東中委員 鈴木参考人にお伺いしたいのでありますが、日弁連公害対策委員会の提言では「地域指定一つ要件である大気汚染汚染原因物質に窒素酸化物も加えられるべきこと。」と言っておりますが、こういうふうに言われている日弁連としての考え方、それと同時に、財界はいま地域指定の解除の要件を定めることをむしろ要求してきておる、逆の方向へ行っておるわけですが、被害の実態や窒素酸化物の状況などから見て、こういう点についてどのようにお考えか、お伺いしたいと思います。
  138. 鈴木繁次

    鈴木参考人 この窒素酸化物につきましては、現在は硫黄酸化物だけでもって地域指定がなされておりまして、そして硫黄酸化物が改善されてきていることは明白だろうと思うわけですが、現在の大気汚染一つの物質だけではなくて窒素酸化物、硫黄酸化物を含めたいわゆる複合汚染が問題だろうと思うわけでございます。先ほども申し上げましたように、複合汚染について今年一月、環境庁調査した報告書によりますと、その関連性が統計的に裏づけられているように考えられるわけでございまして、東京都の中で現在、世田谷区などは幾つもの自動車の幹線道路が入っておって大気汚染が現実化しているのに指定されていない。そしてその幹線道路の沿線住民は補償法の指定疾病と同様な疾病で苦しんでいる。そういうような状況を踏まえて、公害による被害者のすべてを救済するためにはこの窒素酸化物をも含めた複合汚染を適正に調査して指定地域を拡大すべきであろう、こういうふうに考えて提言したわけでございます。
  139. 東中光雄

    ○東中委員 先ほども土井委員の方から御質問があった公費負担制度の問題を鈴木さんに重ねてお伺いしたいのですが、けさの経団連代表の参考人の御意見でも、自然有症の患者を含んでいるから公費負担制度あるいは公費負担分を拡大していくことは当然であるというふうな趣旨の発言があったわけであります。それについて先ほどお話をお伺いしたわけですけれども、重ねて日弁連としての考え方をお聞きしておきたいと思います。
  140. 鈴木繁次

    鈴木参考人 われわれの考え方としましては、現在補償法で指定されている地域は疫学条件が整っている地域、いわゆる疫学的な因果関係が認められた地域だというふうに理解しているわけでございます。そしてこの補償法による救済が損害賠償的な性格を持っているとすれば、全額汚染負担原則でもって、その経費は汚染者が負担すべきであろうということを考えているわけでございまして、自然有症患者の問題はありますけれども、いわゆる医学因果関係が認められれば結局損害賠償をしなければいけないわけでして、多少紛らわしいものが含まれておっても、そのことのために損害賠償の原則が曲げられてはいけないだろう、こういうように考えるわけでございます。
  141. 東中光雄

    ○東中委員 私も同じ意見なんです。日弁連の会員でもありますので、同じ意見でございます。  時間がございませんので、これで終わりたいと思います。
  142. 島本虎三

    島本委員長 東中光雄君の質問は終わりました。  以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ長時間にわたり貴重な御意見を述べていただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、厚く御礼を申し上げる次第であります。どうもありがとうございました。  次回は、明二十七日木曜日午前十時理事会、十時三十分より委員会を開くこととし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時二十二分散会