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国務大臣(
鈴木善幸君) まず、交渉の当事者として私から申し上げて、
条約文の問題につきましては外務当局から説明を願うことにいたします。
まず、第一条の規定でございますが、当初、三月三日にイシコフ
大臣と私とが交渉の結果合意いたしましたのは、
ソ連邦の
沖合いに接続する
北西太平洋の海域で、かつ、
幹部会令の適用を受ける海域、これを対象の適用海域とすると、まあこういうことで合意したわけでございます。私は、四月交渉におきましてから、一遍両者の間で、責任者同士で合意されたこの表現をそのまま第一条に表示すべきだと、こういうことを強くわが方として要求し続けてきたわけでございます。
しかるところ、
ソ連の
政府全体として検討した結果であろうかと思うのでありますが、
ソ連の提示いたしましたところの草案というものはただいまの表現に相なっておるわけでございます。この論争、この折衝が、背景に北方四島の領土の問題が絡んでおりますだけに最大の争点になったわけでございます。
そこで、いろいろイシコフ
大臣と
話し合いをいたしました結果、これは純然たる
漁業問題としての取り決めである。したがって、この適用の海域を表示する線も純然たる
漁業上の
幹部会令の適用を受ける海域である、こういうことで基本的な考え方は一致いたしたわけでございます。しかし、これが領土絡みの問題として扱われては困るというようなことから、第八条におきまして、本
条約のいかなる規定も、
国連海洋法会議で検討されておる諸問題についても、相互の関係の諸問題についても、いずれの
政府の
立場及び
見解を害するものとみなしてはならない、この条文、これを置くことによりましてようやく長い間のこの一条絡みの論争、交渉に決着をつけたわけでございます。
そもそもこの
幹部会令の適用を受けるところの海域、これを認めなければ今回の日ソの
漁業交渉には入れない、ちょうど
アメリカの二百海里の
保存管理法というあの線引きを認めなければ
わが国の
漁船は
アメリカの二百海里専管
水域内において一隻も
操業ができない、これと同様でございます。と同時に、今後交渉され、
締結をされるであろうソ日
協定におきましても、午前中に申し上げましたように、わが方の
漁業水域に関する
暫定措置法、これによってすでに定められておる海域、これを認めなければソ日
協定は
締結をされない、こういう関係に相なるわけでございます。
私は、そういうような観点から、一条の表現は二月二十四日の
ソ連の
閣僚会議決定と実体的に同じものではありますけれ
ども、これを
漁業に関するところの純然たる適用
水域を表示するラインである、こういうことを認め、それに領土の問題が絡み、かつ、今後の平和
条約交渉にいささかの支障を与えたりわが方の
立場を害してはならないということで、第八条の問題をあのように規定することによってこの問題を処理したと、こういう
経過に相なっておる次第でございます。
第二条の問題についてでありますが、伝統的
実績、この表現が、あるいは三海里の外で
ソ連漁船が
操業をやってきたというようなことから、今後もこの第二条の表現が、ソ日
協定等において
わが国の十二海里領海内での、三海里と十二海里の間の
操業を再び
ソ連が持ち出してくるのではないかと、こういう御懸念がこの「伝統的
操業」の「権利を維持する」、こういう表現によって条文上どうも不安がある、こういう御
指摘でございます。しかしこの点につきましては、確かに
ソ連はこのことを執拗に要求をしてまいりましたけれ
ども、五月二日の
領海法の
成立によりまして、わが方としては絶対にこれは
承認することができない。そこでいままでの三海里及び十二海里の中において
操業したところの
漁獲量というものはこれを
実績として認めて、十二海里の外百八十八海里の
漁業水域内におけるクォータを算定するところの基礎数字の中にこれを加算して
実績として認めてやろうと、こういうことでるる説明をし、また、そのためにイワシ等の
漁獲量が思うようにいかない場合においては、これはわが方の
関心を持つところの魚種と
評価を適正にしてバーター等もやろうと、こういうことで
ソ側を説得をいたしまして、わが方の十二海里領海内の
操業は
ソ側が断念をしたと、こういう経緯に相なっております。
なお、その間の事情を御説明申し上げるためにつけ加えるわけでございますが、
ソ側は、こういう第二文をぜひ置きたいということを強く主張しておったところでございます。第二文を、削除された部分を読んでみます。「この
原則に基づき両締約国は、この
協定の発効前に行われていた
ソ連邦及び
日本国の領海の若干の
水域における伝統的
操業の
実施問題を検討する。」、こういう第二文を設けることを主張してきたわけでございます。「
ソ連邦及び
日本国の領海の若干の
水域における伝統的
操業の
実施問題を検討する。」、こういう第二文でございます。私は、わが方の
領海法というのは、いかなる外国船といえ
どもこの中では
操業させないと、こういう
立法の趣旨になっておる。また、領海を三海里から十二海里に拡張するに至った経緯その他からいって、これは断じて外国
漁船の
操業というものはこの中では認められないということを申し上げ、そういう中において「検討する。」ということ、これは
両国が合意しなければ領海内
操業ということは
実施されないことはわかっております。しかし「検討」というこの第三文を設けることによって将来に問題を残すということ、また
領海法立法の精神、趣旨、経緯等にかんがみましてこれは
国会の御意思に沿わないものである、こう考えましてこの第二文の削除を要求をし、これに
ソ側も同意をしたと、こういう経緯もございます。したがいまして、午前中にお答えを申し上げましたように、ソ日
協定におきましても領海内
操業について
ソ側が蒸し返してくるということは断じてない。これはソ旧
協定において実証して
国民の皆さんに御安心を願うつもりでございます。
第八条の問題は一条の問題を申し上げた際に申し上げたとおりでございまして、この点は一番大事な点でございます。
そこで私は、私と御一緒を願ったところの、ここにおいでになる宮澤欧亜局長それから
外務省の斎藤
条約課長あるいは重光大使等々の
条約の専門家にも御検討願うと同時に、さらに慎重を期して本国
政府に請訓をいたしました。
条約局長、法制局長官等々の法律専門家を中心に
政府であらゆる角度から御検討願った結果、これによって
漁業問題と領土問題をはっきりと区別をして、純然たる
漁業問題としての
協定である、わが方の戦後未解決の問題という北方四島に関するところの今後の領土交渉、平和
条約交渉にはいささかもわが方の
立場を害するものでない、こういうことを確認をいたしましてこの
協定を
締結するに至ったと、こういう
経過でございます。