○
参考人(
北沢洋子君)
北沢でございます。
現在、
参議院外務委員会において審議されている案件、
日本国と
大韓民国との間の
両国に隣接する
大陸棚の
北部の
境界画定に関する
協定及び
日本国と
大韓民国との間の
両国に隣接する
大陸棚の
南部の
共同開発に関する
協定、すなわち
日韓大陸だな
協定についての私の
意見を述べたいと思います。
わが国外務省は、一九七四年一月三十日に
日韓両
政府間によって
ソウルで署名されたこの
協定の
批准を本
国会に求めるに当たって、次のような三つの理由を挙げております。
その一、
日韓両
政府が署名してからすでに三年以上も経過している。したがって、これ以上
日本が
批准を延ばせば
韓国に対する
国際信義にもとる。
その二、この
協定の早期
批准は
日本の国益に合致する。もし
国連海洋法会議の結果を待つとしたら、それだけ
日本に不利な情勢が生まれる。
その三、
日本のような
資源小国、
石油大消費国にとってエネルギー自給に役立つ、などであります。
まず、私はこれら
日本政府の
主張が全く根拠がないばかりか、事実をねじ曲げてさえいるものであるということを証明していきたいと思います。次いで、
日韓大陸だな
協定の中で、特に
南部の
共同開発に関する
協定の内容について幾つかの
問題点を指摘していきたいと思います。
最後に、この
協定は
日本国民ばかりでなく、
韓国国民の
利益をも害するものであるばかりでなく、この
共同開発区域に隣接する全
東アジア諸国間の平和と友好の発展に対する最大の阻害要因の一つとなるであろうということを指摘し、この
協定の廃棄を強く
主張したいと思います。
では本願に入ります。
第一点、
日本政府は一九七七年四月、外務省情報文化局の名前で、「
日韓大陸棚
協定 早期
締結の必要な理由」というパンフレットを作成しました。そこには、この
協定は七四年一月三十日に
日韓両国間で署名され、
韓国国会はこれを七四年十二月十七日に
批准している。したがって、これ以上
日本国会が
批准を引き延ばすのは
韓国に対する
国際信義にもとると言っております。
この
主張に対する私の反論は次のようであります。
韓国政府は、一九七四年十二月十三日
韓国国会に提出した資料によりますと、
日韓両
政府間でこの
協定案が作成されたのは一九七三年七月であります。にもかかわらず、
日本政府はこの行為を
国会及び
国民の目からひた隠しにしてきました。
日本政府が
協定文の存在とその内容を明らかにしたのは、何と
両国政府が署名した一九七四年一月以降のことであります。このこと自体、すでに憲法七十三条第三号の
規定に違反しているのであります。その上、
日本国会は早くから
政府に対して再三
協定文の内容を明らかにするよう要求してきたのであります。たとえば、七三年十月九日の
衆議院決算委員会においては、野党の松浦
委員が
協定文の提出を
政府に要求いたしております。これに対して外務省大森アジア局次長はこれを拒否しました。
このような経過から見て、
国会側、つまり立法府側が怠慢であったと言うことはできません。憲法第七十三条に基づいて
政府が事前の
承認を
国会に要求すべきであったのであります。このことは、
日韓大陸だな
協定の署名に至るまでの経過が、ひとえに
日本政府の独善的な秘密外交であったことを示しています。
また
韓国側について言っても、
韓国側に対しても
日本政府はあたかも
国民の
合意の上の行為であるかのように見せかけて
協定の署名を行ったのであります。したがって、
韓国に対して
国際信義を守らなかったのは
日本政府自体であります。
政府は
韓国政府、
国会に対して、
日本国憲法に違反した行為であったことを説明し自己批判すべきであり、事態を七三年七月前の段階に戻すべきであります。したがって、今
国会がこの
協定を廃棄したとしても、
韓国に対する
国際信義に反するなどといったいわば脅迫を
日韓両国政府から受けるいわれはないのであります。
第二点、
日本政府はこの
協定の早期
批准は
日本の国益に合致すると言っております。この国益なるものについて、六八年エカフェ
調査から七四年一月の
協定署名に至るまでと、それ以後今日に至るまでとの二つの期間に分けて私は考えていきたいと思います。
まず第一段階について、エカフェ
調査が行われたのは六八年秋でした。この時期はベトナム戦争が進行しており、テト攻勢の直後でありました。当時ポストベトナムのアジアに備えて
国際石油資本が東シナ海全域にわたって埋蔵されているとされていた
海底石油の
調査に動いていたころであって、国連は確かにその隠れみのに使われたとしか言えません。エカフェの
調査自体、米
日韓台の科学者の手によって行われております。エカフェの
調査が公表されたのは一九六九年五月ですが、それを待つまでもなく、
日韓台各国は競って東シナ海の
大陸だなに鉱区を設定し、これを
石油会社に売り渡したのであります。
鉱区の紛争が起こったのはそのうちの二カ所でした。一つは、日台間で起こった尖閣列島付近、それに
日韓間で西
九州沖の、つまり現在の
共同開発地域に当たるその二カ所でした。
この問題に関して、ここに興味深い本があります。東洋経済新報社七三年十月五日発行の矢次一夫著、「わが浪人外交を語る」という本であります。その中の二百六十一ページには、紛争の火種になる
大陸だな
開発についてとありまして、
日韓台の三国の連絡
委員会が連絡することにしたとあります。尖閣列島の方は中共を刺激するだろうからしばらく様子を見ることにして、まずモデルケースとして
日韓間の
大陸だなを中心に話を進めていこうということになった。新聞が大きく書き立てたので、以後極秘というか、忍者的な
方法で、
日韓協力
委員会常任
委員会が
ソウルで開かれた際、私が
政府首脳者に話を持ち込み、これがとんとん拍子に決まったと書いてあります。この
日韓協力
委員会とは七二年七月に
ソウルで開かれたもので、岸信介氏を会長にし、現田中通産大臣が事務局長をしているものであります。
私は、
参議院外務委員会に対して次のことを提案したいと思います。
この七二年七月、
日韓協力
委員会に
出席した岸信介氏、矢次一夫及び田中龍夫氏の三名を
参考人として
出席を要求すること。そこで、どのようなプロセスでもって
日本、
韓国両
政府はそれぞれに対してそれまでの
主張を取り下げさせて、しかも
日韓の
両国の
共同開発区域にするということをそれら
政府に受け入れさせたかという、そのプロセスについて
国民が抱いている疑惑を明らかにすべきであるからであります。
このように、
日韓協力
委員会の忍者的工作で
共同開発の話が進められていた同じころ、
日本政府のレベルでは、一貫してこの
区域の
大陸だなの領有権、つまりこの
大陸だなに
主権的権利を
日本が持っていると
主張していました。七二年四月二十四日には、
日本外務省は
韓国に対して国際司法裁に調停を求める提案をさえ行っております。これは
日韓間のケースによく似た
北海大陸だなをめぐるイギリス、
ノルウェーの
境界線の画定に当たって、すでに一九六五年の
両国政府間協定で
中間線が引かれた事実を外務省当局はよく
承知していたからであります。イギリスが島国で
ノルウェー海溝が
ノルウェーに近いというそのような違いはあっても、ちょうど
日本と
韓国との
関係で言えば逆になっていたとしても、この
境界の画定は
中間線をもってなされています。これに従うと
日韓の場合は紛争
区域はほとんど
日本の
大陸だなになってしまったのであります。
日韓両国政府の間で紛争
区域を
共同開発するということが決まったのは、七二年九月の第六回
日韓閣僚
会議の際でした。この事実が明らかになったのは何と昨年秋の
国会でありました。すると、
日本政府がそれまでの
主張を引っ込めて
共同開発に賛成するという百八十度の
態度の転換は、わずか七二年四月から九月までの数カ月間に起こったということになります。この間に矢次氏の言う
日韓協力
委員会が開かれています。したがって、
日本政府の
態度を変えさせたのは
大陸だな
条約という
国際法が変わったわけではなく、
日韓協力
委員会の人々の裏工作の結果であると推測されるのであります。彼らのために
日本政府はみずから
主張してきた当
大陸だなに対する
日本の
主権的権利を放棄したのであります。したがって、この
協定が
日本の国益に合致するというのはこの段階でもすでに証明できないところであります。
第二段階に入ります。この
協定の署名は作成時より半年間もおくれて行われました。この間には金大中氏誘拐
事件が起こっております。いずれにせよ、七四年一月に署名した段階ではすでに国連の第三次
海洋法会議が開かれておりました。そして、この
会議の第六
会期がニューヨークでことしの五月二十三日より始まっていることは皆さんもよく御存じだと思います。
第三次
国連海洋法会議では、
日本政府は
大陸だな
条約、
領海条約、公海
条約、漁業
水域条約など四木の
海洋法を採択した一九五八年当時と
世界情勢が全く変わっていることを理解せず、国際的に孤立しました。七四年五月のカラカス
会期では、第三
世界ばかりでなく、先進工業国までが二百海里
経済水域に踏み切っているのも知らず、ひとり反対をいたしました。問題を
大陸だなに限定しても、七六年五月のニューヨーク第四
会期の第二
委員会でつくられた改訂単一
草案では、第四十六条で二百海里の
排他的経済水域が制定されております。海岸線から十二海里の
領海プラス百八十八海里の
水域内の
天然資源については
沿岸国の
主権的権利が及ぶとしたものであります。この
天然資源については
生物ばかりではなく、
石油などの鉱物
資源のすべてを含んでいるのであります。
一方、
大陸だなと言えば第六十四条で
領土の
自然延長と定義されておりますが、二百海里プラス二百、つまり四百海里の中に相対する
沿岸国がある場合、つまり
日韓のケースのような場合には
衡平の
原則に基づいて
中間線をもって
境界とするということになっております。
外務省のパンフレットの十一ページには、
経済水域理論は
大陸だな理論に優先すると
規定されていないと書いてありますが、全く逆であります。二百海里
経済水域理論が
大陸だな理論に優先しているのであります。それは二つの根拠によって証明されます。
同じ第六十四条にコンチネンタルマージンの外縁、つまり
大陸だなが二百海里の距離に達しない場合、つまり
大陸だなが二百海里よりもっと短い場合に二百海里の
海底区域にするとあります。
さらに第七十条には、
大陸だなが二百海里を越える場合には、その越えた
部分の鉱物
資源のX%を国際的に還元すべきだと決められております。つまり、その
部分に関しては
主権的権利を一〇〇%ふるうことができないのであります。
大陸だなが狭い場合は二百海里をとり、二百海里の外側
部分についての二百海里を越える
部分については外側
部分についての
資源の領有権は一〇〇%ないと決めているのであります。言いかえれば、いかように考えても
大陸だな
自然延長論が優先するとは言えません。しかも
日韓の場合、双方の二百海里が重複しております。いずれにせよ、
中間線をもってここに
境界とされるわけであります。
韓国の言う
自然延長論が問題となるのは、
大陸だなが大西洋に向かって二百海里の
範囲を越えて広がっている南米のような場合であります。この場合でさえ、
自然延長論に基づいて二百海里を越える
部分の
天然資源の
主権的権利を
沿岸国が
主張し得るわけではないのであります。この
部分のX%は海のない国のために国際的に拠出しなければなりません。たとえ
日本という相対国がなくて
韓国の
大陸だなが太平洋に広がっていると仮定したとしても、
韓国は
自然延長の
部分のすべての
天然資源に対して自分の物とすることはできないのであります。
今日の
世界は、かつてのように大国が力に任せて
世界の富を一人占めにしていた時代ではありません。今日の
世界は富める国が貧しい国に富をシェアする時代に入ったのであります。
日本政府はこのことを理解できないばかりか、
日本が
資源のないことを理由にしてよその国の
資源を金や技術に任せて買い占めることはできない時代だということを理解しておりません。
日本政府はそのような
世界が新しい時代に入ったということを認識すべきであり、その上にエネルギー政策を抜本的に立て直す必要があります。
今回、ニューヨークの
海洋法会議は、この
草案の採択をすることになっております。とすれば、
日本側はここに二百海里
経済水域を設定できるわけで、そうすると
共同開発区域は
日本側の水城内にほとんど入ることになります。したがって、
日本は
海洋法会議の結論を待てば不利になるという
政府の
主張は間違っているのであって、反対に有利になるわけであります。これは二国間
条約である
日韓大陸だな
協定を今
国会会期中に成立させれば、たとえそれと反する
国際法である
海洋法が決まったとしても、
国際法より優先するということで押し通してしまおうとする
日本政府の魂胆がありありとうかがえます。ここでも国益に反しているのは
日本政府であって、もし
国会がこの
協定の廃棄を決定すれば、それは国益を守ったことになるのであります。
第三点、
日韓大陸だな
協定が成立すれば
日本のエネルギー自給ができるというふうに
日本政府は
主張しています。
政府はこの
区域の
石油埋蔵量七億キロリットルというのは根拠のない数字であったことはすでに外務大臣自身明らかにされたわけですから、私が繰り返す必要もありません。また、四月二十三日の
衆議院外務委員会で
参考人としてすでに
意見を述べましたので、
議事録をよくごらんください。
しかし、ここで注意を喚起したいのは、この
区域に
石油が埋蔵されているかどうかはこの
協定の根本問題にかかわるところであります。ここで採掘可能な
石油埋蔵量を算出し、
わが国年間需要量に占める割合を算出し、
共同開発するに足るものであるか、まず検討されるべきであります。この場合、生産される
石油の
開発費を計数に入れるべきであることは言うまでもありません。
第四点、
協定文の中で特に問題と思われる個所について条文に従って検討し、私の
意見を述べたいと思います。
まず第一に、
政府はこれを
日韓で
海底石油の
共同開発を行うのだ、費用も折半して出して、そして
石油も
両国で折半する、こんなすばらしい例は
世界でないではないかと宣伝しています。しかし実態はそうではないのです。この
協定の各条項をよく読めば、
日韓両国によるところの
石油の
共同開発ではなくて、単に
区域を共同にしたにすぎません。しかも、問題はこの
協定が起草される以前にすでに
両国政府ともそれぞれ鉱区を設定し、
石油会社に鉱区権を売り渡してしまっているのであります。もっとも
日本の場合は鉱業法によって
開発業者は鉱区権を申請できるというわけで、鉱区を取得したということはないというふうに言うでしょうが、いずれにせよデ・ファクトとして鉱区と
開発業者が決まっているわけであります。しかも、この場合その上に立って
日韓大陸だな
協定が起草されたのであります。しかも、この場合
両国政府の
開発に関する法律がそれぞれ異なっているのです。
協定はこれらのデ・ファクトを単に条文化したにすぎないのです。ですから、二国間
条約として見た場合、次に述べるようにまことに抜け穴、矛盾だらけの
協定であるのは当然のことと言えましょう。
この
協定で重要な点は、一体だれの手によって
開発されることになるかという点であります。
第六条は操業管理者、すなわちオペレーターは
両国政府がそれぞれ許可した、認可した
開発業者の間の
合意によって決まるとあります。この場合、各小
区域には
日本政府の許可した業者か、または
韓国政府が認可した業者の二者が並ぶことになります。
日本の場合は、
開発業者が
日本国籍を持っているということにいまのところなっています。今日までのところ、明治時代に制定された鉱業法に基づいて
共同開発区域のほぼ大
部分を
日本石油開発、その他一部を帝国
石油、西
日本石油が鉱区申請をして先願権を持っております。各社の資産内容については本
委員会に通産省が出した資料の九ページから十一ページをごらんください。
韓国の方は、一九七〇年五月三十日に公布された
海底鉱物
資源開発法に基づいて今日ではテキサコ・コリアが一万平方キロ、コアムが七万平方キロの鉱区権を七六年七月五日に
韓国商工部と再協約しております。二つの会社とも米国
石油会社であります。
ここでわかりやすく説明するために、
区域の中で
水深が百五十メートル以内で堆積層の存在する
可能性がある第五小
区域を
協定文第四十九ページを例にとってみましょう。ここは最も
中国寄りの
区域であります。第五小
区域の
開発権者は
日本側は日石
開発、
韓国側はテキサコ・コリアです。この三社間の話し合いで、もし
日本側の日石
開発がオペレーターに決まった場合とする。日石
開発はカルテックスと五〇、五〇の
開発契約を結んでおります、この場合、
開発費の半分は日石が出して、操業はカルテックスが行います。とれた
石油の半分は
韓国のものとなり、残りの半分のそのまた半分が日石のものとなります。残りの二五%については日石が金を出してカルテックスから買い取ることになるのであります。この場合、
協定のどこにもとれた
石油の価格については
規定してありません。
開発費が高ければ価格は高くなるのが常識です。
政府はこれを
石油の半分は
日本のものとなるというふうに決められている、どこにも他国に輸出することができないと説明しています。そうすると、逆に日石はとれた
石油の半分を引き取る義務があるということです。ですから、カルテックスの二五%の分について言えば、それがどんなに高くても、たとえアラビア湾価格プラスタンカー代より高くても買い取らねばならないのです。つまり、カルテックス側は
開発費がどんなにかさんでも、みずからの利潤がなくなることを心配する必要なく
開発できるので、
世界じゅうどこを探してもこんなうまい商売はないと言えます。
第二に、今度は
韓国側が鉱区権を取得したらテキサコ・コリアがオペレーターとなるわけで、テキサコは
開発費の半分を日石
開発からとります。そして、とれた
石油は
韓国政府との契約に基づいてまず一二・五%を原油で
韓国政府にロイアルティーとして払うわけです。残りの八七・五%をテキサコと日石とが半分に分けるわけであります。つまり日石の取り分は、
開発費は五〇%を負担しておきながら四三・七五%しかないわけです。この場合、また
開発費の半分負担といっても、
開発費とは何を指すのかはっきりしておりません。たとえば
韓国政府が取るところの税金、テキサコの利潤は入るのかどうかなどという。しかも、第八条にはテキサコ側が
韓国と結んだ契約を法令とみなし、日石
開発側はその履行を妨げてはならないと書いてあります。つまり、日石側はどんな契約をテキサコと
韓国の間に決められていようとも、それを自分に不利となった場合でも法令として認めなければならないのです。この
協定は
日本に
石油が半分入ってくるという保証はないし、またどんなに高くても引き取らねばならないという義務がかえって課せられているのであります。
ここで
参考のために、
両国政府から鉱区権を取得している業者を簡単に説明します。日石
開発はカルテックス、帝石はガルフ、西
日本はシェルというメジャーと五〇対五〇の業務契約を結んでいます。いずれにしても、
海底石油の
開発に関してはこれらメジャーの手によるわけです。テキサコ・コリアは資本金千ドル、約三十万円、
韓国政府の資本が二〇%入り、残りの八〇%をメジャーのテキサコとソーカル、つまりカルテックスが持っています。カルテックスはサウジアラビア、インドネシアの
石油を掘っているメジャーであります。コアムは、私の知る限りでは、七〇年九月に
韓国から鉱区権を買ったフィリップス
石油の後身であって、資本金一万ドル、三百万円、
韓国政府が資本の二〇%、残り五〇%をフィリップス
石油、残りの三〇%をユニバーサル、ハミルトン、LGウイークスの三社が分割して所有しています。
第二に、第十七条において
開発業者に対する課税が決められています。オペレーターが
韓国政府と鉱区権を結んだ業者となった場合、十七条一項の
規定により、
日本側は
政府、地方公共団体ともいかなる課税もできないのです。もしこれら
韓国側と契約を結んだ
開発業者が全
区域にわたって米系
石油資本に決まった場合、つまり彼らに決まった場合、
日本側は何の税金も入ってこないことになります。
政府はそんなことはないと、
議事録の第六項によってそんなことはないと言うでしょう。
議事録の第六項によれば、オペレーターの指定は
衡平になるようにしてあると言うでしょうが、これは単にそうなるように
両国政府が努力するとなっているだけで、ねばならないという義務
規定ではないのであります。
北海のケースで
参考のために申し上げますと、一九七六年から一九八〇年間のイギリス
政府の税収入の見込みは、ロイアルティー、
石油収入税、法人税ともに合わせて七十八億八千万ドル、約二兆四千億円が予測されています。米国
石油会社が
開発することになった場合、
海底石油開発に伴う巨額な
日本への税収入が全く入ってこないことになります。
第三に、第十八条ではこの
共同開発区域で使われる資材に対して関税をかけないということが決まっています。すでに第七条においては、この
区域での
石油開発に必要な資材をいずれの国でも調達したり処分したりすることはできると決めてあります。そして、それを
区域内に搬出入するときには無税になっております。つまり、何が持ち込まれるかということを関税のレベルでもってチェックすることができないのです。このことは、もしテキサコなり日石なりがオペレーターになった場合、資材を
日本の
領土内において調達し、これを
共同開発区域を通って
韓国に持ち込み処分した場合、全く税金がかからないことになります。つまり
共同開発区域をトンネルにして
日韓間の大がかりな密輸ができるわけであります。しかも十七条に見たように、これがテキサコの場合、
日本側は法人税、事業税をかけられないのですから、この
区域への立ち入りする権限を
日本政府並びに地方公共団体は持っていないわけで、密輸がわかっていてもお手上げの状態になると言わなければなりません。
第三に、この
協定の第九条には、
日韓それぞれの国に認可された業者がこの
区域でとれた
石油の半分を取得すると決めてあります。ここで注意したいのは、半分の取り分を持っているのは国ではなくてあくまで業者であるということであります。業者がここでとれた
石油の半分を取得することができるということの法的根拠は第十六条に書いてあります。なぜならば、この
共同開発区域は
日韓の
領海外の公海であるから、そこでとれた生産物を取得するためにはここに
主権的権利を定めなければなりません。ここでは
日本、
韓国それぞれがこの
区域の
大陸だなに
主権的権利を持っているがゆえに
石油の半分を取得する権利があるのだと書いてあります。ところが、同じ
協定の第二十八条には、この
協定のいかなる
規定、つまり十六条も含めて
共同開発区域の全部もしくは一部に対する
主権的権利の問題を決定するのではないと書いてあります。
協定正文の英語ではもっとはっきり決定しないと書いてあります。まさに矢次一夫氏の言うように、この
協定は
大陸だなの領有権問題をたな上げしたところに作成されているわけです。とすると、この
大陸だなは
主権的権利がだれのものとも決められていない公海になります。
日韓以外の国が領有権にクレームをつけたとしても、それに対抗できる法的根拠を持っておりません。そして、現実問題としては
中国側が
自然延長論をもってして、この
区域の
大陸だなの領有権をすでに何度か
主張しているのであります。それからまた、
海洋法会議の結論を待ってもし
中国が二百海里
経済水域を宣言するとすれば、
中国側の二百海里がこの
区域内に入り込んでくるわけで、
中国政府はここに産出された
石油を取得する権利を持っているということになります。この
協定はその場合対抗する法定根拠を持っていないばかりか、
協定は無効になってしまうのであります。つまり平たく言えば、
日韓両国は何も法的根拠のない公海で、お互いが認可した業者が
石油を掘ったり取得したり生産物を取得したりすることはできるということをいっているだけであって、ここでは国際
条約としてのていをなしているとは言えないのであります。
もう一つの問題は、この
協定には
開発業者に対する
政府の権限がほとんど明記されていないという点であります。確かに
政府は
開発業者を認可します。しかし、その後はほとんど業者間の取り決めによって進められるわけであります。ここの
石油開発は
協定成立後のいわば将来のことであります。しかし、これまでエネルギー
資源の確保について業者主導であった例がほとんどであります。たとえば、原子力発電所用のウラン
資源確保についても、七〇年に三菱商事と関電がナミビアから八千二百トンの買い付け契約を結んだケースがあります。後七四年九月、国連はナミビアの
天然資源をこの国が独立するまで一切買い付けてはならないと決めました。そういう法令を制定したのであります。
日本政府は、
国会において総理大臣みずから国連決議に従って処理すると言明しておきながら、今日
政府は国連非加盟国であるところのスイスを通じて堂々とナミビア産ウランが輸入されているという事実を知っているのにもかかわらず、
企業の自由をたてまえにしてその不法行為に目をつぶっているのであります。そしてこの行為は非常に近い将来、思わぬところから厳しい糾弾を受けるであろうということを私はここに警告しておきたいと思います。ナミビアのウランの例に見られるように、
日本政府は事エネルギー問題に関しては行政指導する権限さえ行使しようとしていないのです。このような
政府が、
韓国政府と米系
石油資本と
共同開発すれば一体どのような事態が将来到来するか、
外務委員会の方々には明確におわかりいただけると思います。
最後に、
海洋汚染について一言述べたいと思います。
外務省はパンフレットの中で、一九六九年、
サンタバーバラの
事故を挙げていますが、それは噴出防止装置をつけていなかったから起こった特異なケースであるといって、今回の
共同開発区域ではこのような
事故は不可能なものだというふうに断言しています。しかし、このパンフレットが発行された直後に、
北海の
ノルウェー沖でフィリップス
石油がプラットホームから
石油を噴出させました。エコフィスク
油田群のブラボ十四号
油田で噴出防止装置がはずれたのであります。ここでわかっていることは、このような
事故を直すことのできる会社は
世界に一つしかなく、それも六十二歳になるテキサス男が現地に飛んでやっとふたをしたということであります。この間二週間にわたって五百万ガロン、すなわち約一千八百八十五万キロリットルの原油が直径八十キロの広さの海に流れ、ゆっくりとヨーロッパの
海洋に向かって流れていったのであります。海に流れた原油を回収する技術は、残念ながら
開発されていません。水島
石油のときのように手杓子ですくいとるということしかできないということなのであります。
石油会社は利潤の追求に熱心であって、このような
事故対策の技術の
開発を怠ってきたのだということを私たちははっきりとここに認識しなければなりません。特にこの
共同開発区域が
政府も認めるように
日本の重要な漁場となっています。無責任な
政府の保証など
国会は聞かずに、独自に
北海のフィリップス
石油の
事故の
調査報告を手に入れ、検討すべきだと思います。なぜなら、
共同開発区域の最大の鉱区権保持者コアムの前身は同じフィリップス
石油であるからで、決して遠い
北海の
事故ではないのです。
以上述べたところでも明らかなように、この
協定は余りにも多くの欠陥、矛盾を含んでおり、しかも二国間
条約としての法的根拠すらないというしろものであります。にもかかわらず、この
協定は
日韓両国を五十年という長期にわたって縛ることになるのであります。この
協定こそは今日これまで
韓国政権を
朝鮮半島唯一の合法政権とみなして軍事的、経済的、政治的に
朴政権を支えてきた米国が、その対韓政策を大きく転換させ、軍事撤退、人権侵害、KCIA贈賄などをもってゆさぶり始めているとき、国際的に孤立した
朴政権の危機を救う唯一の国際的援助となっているのであります。この
協定は
朝鮮半島の分断を永久化することにつながり、朴独裁政権の寿命を保証することになるのです。この
意味において、この
協定を廃棄すべきであると同時に、
海洋法会議の結論を待つばかりでなく、
東アジアの政治情勢が正常化するまでこの
地域の
海底石油開発を延期すべきであります。いやむしろ
日本は
朝鮮の平和的統一、日中平和
条約の
締結などに対して積極的に努力すべきなのであります。