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池尻参考人 私は全漁連の専務
理事の
池尻でございます。
私どもは従来、多年にわたりまして関係
漁民とともに
領海十二海里の実現を訴え続けてまいったわけでございます。数多く
漁民大会を開きましたし、また国
会議員の皆様方の署名をいただく運動をいたしましたし、その署名も衆参両院七百三十三名のうち六百二十三名、まさに八四%という高率の署名を取りつけるところまで至りました。また、各政党に対しましては、
領海十二海里設定の際のいろいろな問題点につきまして公開質問状の形で御
意見を聞いてまいりましたし、ありとあらゆる可能な手段をも尽くして訴え続けたわけでございますが、その限りにおきましては本
法案の提案がまさに遅きに失したと考える次第でございます。しかしながら、やっとここに至りまして関係
漁民にとって長かった暗い夜が明けつつあるという実感でございまして、ぜひとも本
法案を皆様方の御協力によりまして
早期に成立をさせていただき、
漁民の多年の切ない悲願にこたえていただきたいと存ずる次第でございます。
およそ
沿岸漁業者にとりまして、
漁場に対する執着力というものはまことに異常なものがございます。私もかつては第一線の単協の組合長をしておりましたが、国内の問題でございましても、
沿岸の
漁場に底びき船の違反船がやってまいりますと、監視船その他の取り締まり船の到着を待てないで、
沿岸漁業者はみずからの船を総動員をしてこの船を追っかけるわけであります。そしてときには追跡しかねて、そのトロール船のスクリューにロープを巻きつけて、まさに血で血を洗うような紛争を起こした実例を私も知っております。
なお、私は鹿児島でございまして、そのときの漁連の会長さんはすでにお亡くなりになりました皆様方の衆議院の先輩の原捨思
先生でございましたが、この方は
沿岸、沖合い、遠洋にわたる
漁業の非常な功績者でございましたが、終戦後の食糧難のときに、ただ一回食糧増産のために底びき船をやったばっかりに、その後の選挙になりましては、私どもがある漁村に行って運動をやるわけでございますが、かつて底びきをやっただけの経験のために、
沿岸漁業者がこのわれわれの組織の大将に票を入れないということが長く続いたことからも察しまして、
沿岸漁場というものは、まさに保護してもらわなければそこで
漁民は生きられないという
実態を物語っておると思います。
近時見られる
ソ連船あるいは韓国船の
操業は、もうすでに皆様方御案内のとおりでございまして、その船団の規模はきわめて大規模でございますし、
操業は苛烈にわたっておるわけでございます。まさに大洋
漁業の船団が三海里すれすれのところで
操業しておるという
実態でございます。そのために
漁民の受ける
被害というものは逐年増大をいたしてまいりまして、このことが今日最小限十二海里の設定というものを強く悲痛な訴えで皆様方にお願いをしてきたゆえんのものでございます。
私は、自国の領土の
周辺で、むずかしい
議論は知りませんけれども、このような悲惨な
事態というものを数年にわたって容認するような、そしてそれに対する有効な手を打たない国は、世界のどこを探してもないと確信をしておるものでございます。そういう
意味から、
漁業者により大きな国益の前に忍べという説得は絶対に効力のないものであるということを、私は過去の例に照らしましてしみじみと痛感をいたしてまいりました。したがいまして、遅きに失したと申し上げましたけれども、こういう国の基本問題につきまして、単に
政府を責めるだけではなく、政党全体がこの機会に強い深い反省をしていただく必要があるのではないか、かようにさえ考えておる次第でございます。
政府も決して傍観しておったわけではございません。
昭和五十年十月二十三日に皆様方のお力添えによりまして日ソの
漁業操業協定を批准をしていただきまして、
漁船、
漁具の標識、あるいは灯火、信号、その他の
操業の
トラブルの防止につきましては一応のルールづくりをしていただきましたが、御案内のとおり、先ほど申し上げましたように、向こうの船は一万トン級の母船を
中心とした三千トンのトロールあるいはまき網で構成されておる大きな集団の
操業でございまして、これが昼、夜となく行われるわけでございますので、この
協定さえも実際の効果というものは余りなかったと私は信ずる次第でございます。
私ども民間も、先ほど
高橋参考人の御報告のとおり、私も昨年第一回の民間の代表といたしまして、特に韓国船の道東沖の
トラブル問題の処理につきましては韓国の民間団体と樽俎折衝、その
被害の防止のためのあるいは
トラブル防止のための
措置につきまして話し合いをいたしましたけれども、これまた余り実効が期せられないままに今日に至っておるというのが
実情でございまして、いまや皆様方の力におすがりいたしまして、早急にこの十二海里を一日も早く設置していただく以外に最小限度
漁業者の
利益を確保する道はないと信じておる次第でございます。
私は、
法案の中で特に問題となるのは、いわゆる
国際海峡をどう扱うかの点であろうかと思うものでございます。実は運動を推進するに当たりまして、先ほども申し上げました公開質問状等で各政党の対応性を聴取いたした場合に、
政府ははっきり申してはおりませんけれども、何としてもこの
国際海峡の
扱いの問題が各政党のコンセンサスがどうも得られないというのがいわゆる本音で、十二海里の対策が実はおくれてきた
一つの大きな原因ではなかったのであろうか、かように考えておる次第でございます。
今日の
政府の御提案になった
法案の内容では、いわゆる
国際海峡につきましては現状のままにしばらく凍結をし、
一つには、先ほども御説明がございましたように、国連
海洋法会議で、
国際海峡の
通航問題につきましては、現在の無害
航行よりもさらに自由な
航行を確保するという
一つの
方向は見出されておりますけれども、いまだファイナルの結論が得られていないということが第一点。それから、ここは先ほど申し上げました
わが国の非核三原則、いわゆる非核の政策と
国際海峡が十二海里の設定で完全
領海化した場合の非常にむずかしい問題に逢着するわけでございますが、この問題は、いまいかに問題を
早期に詰めようとしたって、これはなかなか詰まる問題ではないと判断をされるわけでございまして、したがいまして、現在
政府が現状のままで
特定海域という
制度を設定をして、従来の
通航は暫定的に自由の
航行を確保するというのは、やはり最上の知恵を発揮したのではないだろうかということで、この点はやむを得ざる
措置であるというふうに評価をせざるを得ないと考える次第でございます。
ただ、最初の法律の案のときに私どもが一番困りましたのは、いわゆる三海里のままで据え置かれる
海域の
漁民から、おれ
たちをどうしてくれるのだという非常に強い訴えが出てまいりました。この問題にはまことに苦労をいたしたわけでございますが、幸いにも、追っかけて出されます二百海里の
漁業水域法案の中で、この
特定海域部分については
外国漁業の
操業を禁止するという条項が入っておるやに承っておりますので、この点につきましては関係
漁民の不安が除かれたものと考えまして、
領海法と二百海里の
漁業水域のセットの
法案を速やかに成立させていただきますようにお願いを申し上げる次第でございます。
それから、その次に、先ほど
日ソ漁業操業協定に触れましたけれども、その
協定の大きな柱として、いわゆる損害が起こった場合の和解、仲裁の機関として、日ソ
漁業損害賠償請求処理
委員会が設置をされまして、一年有半の活動を続けております。不肖私も常任の顧問として、その
会議に参画をいたしておるわけでございます。決して
委員会はサボタージュしておったり、怠けておったりするものではございません。しかし、先ほど
釧路の
市長さんからもお訴えがございましたが、裁定になったものがまだ一件もございません。ただ二件ほどはモスコーの
委員会に書類を送っておりまするし、さらに三十六件につきましては、東京の
委員会で近くモスコーに申請をするということになっております。
ここで私が訴えてみたいのは、いわゆる日ソ
漁業損害賠償請求処理
委員会の中で
議論をするにいたしましても、もともとその申請書というのは、
日本の
被害を受けた
漁民から出されるわけでございますが、いかに
損害賠償請求
委員会でいろいろ
議論をして、早く損害の額をまとめようといたしましても、
相手のあることでございまするし、はっきりとした証拠の裏づけがないというものは、まことにこれを通過させるのに非常な困難が伴うわけでございます。先ほど申し上げましたが、
ソ連の船は一万トン級の母船を
中心として、キャッチャーも三千トンの船である。それに網をひっかけられた
漁業者が確認を求めようとしても、「おうい」と言っても丸ビルの頂上に物を言うようなことで、どうして確認がとれるものでしょうか。それからまた、一番かわいそうなのは、いわゆる
刺し網を敷設をして、三、四日して揚げに行きますと、それがずたずたに切られているという
漁業者は、これは損害が
ソ連船であるという実証をすることは全く不可能でございます。したがいまして、この種の問題というものは、いかに書類が完備されておりましても、それは台風でやられたのではないだろうか、あるいは韓国船が切ったのではないか、あるいは
日本のほかの船で切られたのではないだろうかという反問に対して、一々、いやそれはあなたのところの船でありますということの論争をするのはまことにむずかしゅうございまして、そういう種類のものが非常に膨大でございます。
したがいまして、私どもは
漁業者から請求された、いわゆる請求権のあるものにつきましては、途中で放棄しないで、最後まで、その
委員会における
交渉がいかにむずかしかろうとも、これは月日をかけてもやらなければならぬと思いますが、私は結果にそう大きな期待はできないと考えておる次第でございます。したがいまして、私どもは、いままで受けてきた関係の
漁民の救済の対策につきましては、請求処理
委員会の活動は続けながら、これは最後までがんばりますけれども、泣き寝入りをしている
漁業者のためには、今度の二百海里の
法案ができるのを機会に、何らかの救済の手を差し伸べていただきたいということを、非常にお訴え申し上げたい次第でございます。
今後は、二百海里で少なくとも
わが国の
政府が管轄権を持つわけでございますから、
ソ連の船といえども、
日本政府の許可をもって
操業するというふうに、全く
地位が逆転をするわけでございますから、十二海里の設定、それから
操業秩序の維持、さらに管轄権の行使によって、いろいろな不当な
トラブルが仮に起きましても、それが実証可能なところまでできるというような状態に、二百海里
法案の成立によって、状態が変わるわけでございますので、この点につきましては、
被害漁業者の救済のことにつきまして、あえてお願いを申し上げる次第でございます。
二百海里
法案の問題につきましては、先ほども大水の
高橋参考人からも申されましたとおり、私はこの二百海里
法案ができていよいよ日ソの
交渉というものが対等の
立場に立って行われるという
事態でございますから、一刻も早くこの
法案を十二海里
法案と一緒に通していただくということが大前提でございますが、先ほども申し上げましたとおり、この
わが国の
漁業構造というものはいろろと複雑の面を持っておりまして、これを急角度にストレートに実施しようといたしましても、先ほどの韓国船の例に漏れなく、道東の沖で韓国船を追い出すということになりますれば、直ちに西の方の
線引き問題に火がつく、そういうことになりますると、また西の
漁業関係者にとりましては、まことに予期せざる大混乱が起こるという
事態も想定をされますので、この点につきましては、いわゆる運営、実施という面からは、きわめて緩やかに、そして弾力を持って、逐次運用を図っていくという現在の
政府の二百海里
法案というものは、その点できわめて妥当なものではないか、かように考えておる次第でございます。
以上、数点にわたりまして
意見を申し上げまして、私の御要望にかえさせていただく次第でございます。
ありがとうございました。(
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