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山崎政府委員 この
日米漁業協定は、御案内のように
アメリカの一九七六年
漁業保存管理法に基づいて、
アメリカが
規定しております
協定の考え方に従って結ばれたものでございます。その点において基本的に
アメリカの
国内法による制約があったということは、われわれとしても率直に認めるものでございます。しかしながら、これは
日本だけがそれを認めておるのではなくて、
日本、ソ連その他を含む十カ国の国が、やはり同じその
アメリカの考え方に沿ってこういう長期
協定をつくっておるのだということを、まず御理解いただきたいと思います。
次に、先生から御指摘のございました四点について、もう少し具体的に御
説明申し上げたいと思います。
第一に、溯河性魚種のサケ・マス類の問題でございますが、前回にも御指摘のございましたように、この
協定に
規定しておりますサケ・マス類の取り扱いと、第三次国連海洋法
会議の改訂単一草案第五十五条との間には若干の食い違いがございます。
この改訂単一草案第五十五条には次のような趣旨を
規定しております。第一は、溯河性魚種についてはその母川国が第一義的な利益及び責任を有し、適当な規制
措置をとること。第二は、母川国は
漁業国と協議の後、総許容漁獲量を設定すること。第三は、伝統的
漁業国の
経済的な混乱を最小にするため協力すること。第四は、取り締まりについては、
経済水域の外における取り締まりは母川国と他の
関係国との間の合意によること。こういうふうに
規定されております。
他方、本
協定の方を見ますと、第四条におきまして、
アメリカは、
わが国との協議をも
考慮に入れて、毎年の総漁獲可能量、対日割り当て量等を決定する旨を定めております。また第五条では、対日割り当て量の決定に当たっては、
米国は
わが国の伝統的な漁獲、
経済的混乱を最小にする
必要性等を
考慮に入れることを定めております。さらに合意議事録第二項におきましては、二百海里
水域の外における溯河性魚種に関しての
米国の取り締まり行為は、
日本政府と協議を行った後にのみとられる旨が述べられております。そういうわけで、先ほど申しました改訂単一草案五十五条の趣旨は、かなり取り入れられておるものとわれわれは考えております。
しかしながら、この点は必ずしも十分ではないということはわれわれも認める次第でございますが、半年にわたる
協定締結交渉を通じまして、先ほど申し上げましたように、
アメリカの
国内法の
規定を逸脱し得ないという基本的な制約があったわけでございまして、また暫定取り決め及び長期
協定の二本立てで
協定を結ぶことによって本年の
わが国の出漁を確保するという問題もございましたので、この
協定の案文によって
交渉をまとめることが適当と考えた次第でございます。
今後、海洋法
会議の結果によりまして多数国間
条約ができ上がりました際には、この
協定の第十六条の
規定にもあります再検討条項に基づいて、この日米
協定については所要の改定を加えるように
交渉したいと考えておる次第でございます。
第二に、高度回遊性魚種の問題でございますが、この点に関しましては海洋法
会議におきましても、何が高度回遊性魚種であるかということについてはいろいろな議論がございまして、まだ定まった
定義はない次第でございます。ただ、いずれにいたしましても、マグロ類などを中心としますこういう高度回遊性魚種については、その生態学的な特性にかんがみ特別の取り扱いをするということが
規定されておるわけでございます。そしてその考え方としましては、この種の高度回遊性魚種につきましては、まず国際的な
管理のもとに置くこと、及びその保存に関連し沿岸国と
漁業国とが協力することが適当であるという考え方をとっておるわけでございます。そういうふうな特別扱いをするということが書かれておるということを申し上げたいと思います。したがいましてこの
協定におきましても、カツオを含むマグロ類についてその
管理権の対象から除外し、また先ほど述べましたような海洋法単一草案の考え方を合意議事録の第一項に取り入れてある次第でございます。
なお、前回の
委員会におきまして寺前
委員から、カジキはどうなっているのだという御指摘がございました。この点に関しましては、確かにカジキに関しましてはマグロ類と違いましてこの
協定から除外されていないのでございますが、カジキのみを目的とした漁獲は従来から
日本漁船は行ってはおりません。そこで合意議事録第一項に、
わが国マグロ
漁船がマグロを漁獲する際にカジキ等を混獲することがあることを想定した
規定が置かれておりまして、マグロ類の漁獲に当たって実際上問題がないように配慮されておる次第でございます。
第三に、大陸だなの生物資源の問題でございますが、確かに、この
協定におきまして
アメリカは、
アメリカに属する大陸だなの生物資源に
漁業管理権を行使することを認めております。これは
漁業保存水域、この二百海里
水域における一般の魚類と同様にこの大陸だな生物資源につきましても、
漁業資源の保存
管理という観点から、
アメリカが
漁業管轄権を行使することを認めたものでございます。大陸だなの
制度そのものにつきましては、まだ国連海洋法
会議におきまして種々論議が重ねられておりまして、余り意見はまとまっておらないわけでございます。したがいまして、われわれとしましては、大陸だなの
制度そのものから生まれる大陸だなの生物資源に対する
米国の管轄権を直接に認めたものではなくて、先ほども申し上げましたように、この
漁業保存水域の一般の魚類と同じような扱いと考え方でこの生物資源に対する管轄権を認めたものでございます。
第四番目に、取り締まりの問題でございますが、海洋法
会議の改訂単一草案におきましては、適当な供託金等を支払うことによって速やかに釈放されるということ、また刑罰には体罰を含まないという旨が
規定されております。他方、この
協定におきましては、
わが国は
米国が取り締まり行為を行って、違反行為を行った
わが国漁船または乗組員を拿捕または逮捕すること及び違反行為については
米国の裁判所が
米国の
法律に従って刑を科するということを認めております。しかしながら、この
協定におきましては、拿捕された
漁船及び逮捕された乗組員は裁判所が決定する供託金等を条件として速やかに釈放されることが
規定されております。これは第十一条に
規定されております。また、刑には禁錮その他いかなる形の体刑も含まれないよう、裁判所に対して
米国の行
政府が勧告するということが合意議事録に書かれております。
このような次第でございまして、取り締まりに関する
規定に関しましては、極力改訂単一草案の趣旨に沿うよう努力いたした次第でございます。ただ、その点完全に合致していない点は事実でございますが、先ほども申し上げましたように、
米国の
国内法との
関係でその点が十分に達成できなかったわけでございます。しかしながら、これも先ほども申し上げましたが、海洋法
会議の結果として多数国間
条約が採択されました際は、この
協定の第十六条の
規定にある再検討条項を活用いたしまして、その不一致があります場合には
アメリカ側と改めて
交渉いたしたいというふうに考えておる次第でございます。