○
工藤公述人 全国消費者団体連絡会代表幹事の
工藤でございます。
私は、
国鉄運賃の
値上げに
反対する
公述を行います。
第一は、この
値上げが
国民生活にどのように圧迫をもたらすかということであります。二番目は、
国鉄が非常に不当に
赤字宣伝をやっておりますので、この
赤字宣伝の不当性について申し上げたい。三番目は、
値上げをするというのでありますが、何ゆえにするのかという点であります。いわば
財政危機を
理由にして
値上げをするのでありますが、それでは
財政危機をつくり出した
原因はどこにあるのか、
原因を解明することなくして対策は立てられないという観点から、
財政危機をつくり出した
原因をはっきりさせたいと思います。その上で、われわれはこの
運賃の
値上げをやらないで
国鉄の
財政再建をどのようにできるかというような提案をしてみたいと思います。
ことしの一月七日に
国鉄は運輸大臣に
運賃、料金の
値上げ申請をしたわけであります。
値上げ率は、普通
旅客運賃では基本賃率を五五%
引き上げる。つまり、六百キロまで一キロ当たり五円十銭を七円九十銭にするということで、五四・九%の
値上げでありまして、また、六百一キロ以上を同様に二円五十銭を三円九十銭に五六%
値上げするというわけでありますが、しかし、最低
運賃は現行の三十円が六十円に、四十円が八十円になるわけでありますから、これは一〇〇%の
値上げであります。また、定期
旅客運賃では、平均して通勤定期五六%、通学定期五五・八%と言いますけれども、近距離区間では非常に高い
値上げであります。東京−御茶ノ水間などは倍の
値上げであります。また、東京−浦和、東京−船橋、東京−三鷹間でも五八%というふうに高い
値上げになるわけであります。ですから、平均して何%ということについては当たらないわけでありまして、具体的に見ますと非常に高い
値上げをこうむるわけで、特に都市通勤者は大変な打撃を受けるということが現実の問題としてあります。また、特急料金、急行料金なども昨年の暮れに上げたばかりでありますが、また
値上げをするということであります。
今回の
値上げの特徴点ないし
国民生活に及ぼす効果を見てみますと、
旅客運賃では
昭和二十四年六月一日以来今回を含めて九回目の
値上げになるわけでありますが、その中で
旅客では最高の
値上げ率になります。
貨物運賃では七回の
値上げになりますが、二番目に高いということで、大変高額な
値上げになるわけであります。また、四十九年の
値上げから引き続いて五十二年、五十三年までやるといたしますと連続五回ということで、これも従来に例のない特徴であり、大変困ったことでございます。
国民生活に影響を及ぼす点では、直接的にはたとえば東京−浦和、三鷹、船橋間といったような通勤定期代の
値上げで見ると、現行が三千六百円でありますが、これが五千七百円と、五八%の
値上げになりますから、一カ月の
負担増が二千百円で、年間では二万五千二百円になります。企業
負担にしろ、結局企業製品の値上がりを誘発いたしますから
国民負担になります。
新幹線の
値上げを見ますと、東京−新大阪間は、現行五千五百円が二千八百円上がりますから八千三百円、博多まででありますと、現行九千十円が四千九百九十円上がりまして一万四千円です。さらにグリーン料金を入れると、東京−新大阪間では、航空
運賃が現在一万四百円でありますから、それを三千九百円も上回って一万四千三百円になるわけであります。東京−仙台間では特急A寝台を利用すると、これまた航空
運賃の八千百円を八百円も上回るということになります。私は九州の出身でありますが、仮に一家四人で九州まで子供二人を連れて帰るといたしますと、
交通費だけで大体八万四千円で、普通のサラリーマンの給料の半分は九州まで里帰りしただけで——これは
新幹線料金だけでありますから、私大分でありますが、なかなか大分までは帰り着かないのですね。博多どまりでありまして、それから先はまた弁当代も要りますし、ちょっと十万円は軽く見ておかなければならない。大変なことであります。
これによってまた歳費の
値上げや
交通費の
値上げなどに関連してくるのではないかというふうに考えておるわけであります。さらに、これが上がりますと
私鉄、航空
運賃が待ちかまえておるわけであります。このように、すべての物価
値上げの引き金になるということは従来の例を見ても明らかであります。こういう大幅な集中
値上げを強行するということは、
政府が公共的な大衆輸送機関としての
国鉄に対する位置づけ、
政策を放棄したのではないかというふうに私は思うわけであります。
先生方の顔色を見てみても、どうも真剣にこの問題を取り上げてやっていこうという——
委員会の皆さん方も必ずしも余り御出席がよくないことも残念に思いますけれども、それを放棄したのじゃないかと思っておるわけでございます。
国有鉄道法の第一条には、設立目的として、「公共の福祉を増進することを目的として、」となっておりまして、そしてこれで設立をするのだということになっております。また、
運賃法の一条には、
運賃や料金は公正妥当なものでなければならぬ、賃金及び物価の安定に寄与するものでなければならぬということがうたわれておるのですが、今日の状況はこの
運賃法や日鉄法とはおよそかけ離れてしまっておる。こういう意味からも残念でございます。
次に、
赤字の宣伝の問題でございます。
国鉄さんは昨年から新聞などの
意見広告欄などを使って大々的な宣伝活動をやられてきたわけでございますけれども、
一つは、一般の庶民の家計簿などの
赤字、黒字の問題と
国鉄企業における
赤字、黒字の問題とは非常に違うわけでありますから、この辺をもっとわかりやすく言わなければならぬと思います。
第一に違う点は、一般には
収入と
支出の
関係でアンバランスが生ずればこれが
赤字になるというわけでありますが、
国鉄の場合は御存じのように実質上の
赤字は——
運輸省の資料にもございますように、
運輸省は三十九
年度から
赤字になったと言っておりますが、実際上の収支差が出たのは四十六
年度からであります。つまり、減価償却前の
赤字は四十六
年度から出たということでありまして、この減価償却のあり方が
一つ問題になるわけです。
それから、もう
一つは支払い利息のことが問題になる。企業会計で言いますと、この両者をあわせて資本費と言っているわけでありますが、資本費を入れて勘定した場合と入れないで勘定した場合とは大きく異なるわけであります。最近、電力、大手ガスが
値上げをしております。この資本費を見ますと、九電力の
値上げが行われましたが、資本費は減価償却費と事業報酬、事業報酬の中には予定配当額と利息が入っておるわけでありますが、これを合わせた場合でも九電力で資本費は一六%であります。また、最近
値上げをいたしました東京ガスの場合は二一%です。ところが、
国鉄の五十
年度の
運賃総
原価を見ますと、資本費は二五・六%であります。一方の電力やガスの場合の資本費も高いと私
たちはいつも
指摘しておる。しかもその中には予定配当額まで入っておるわけですから、いわゆる利潤まで入っておるわけですから、不当ではあるし、また高いと
指摘しておるのでありますが、
国鉄の場合はこれを入れなくても資本費で二五・六%です。つまり、利子が一五・三、減価償却費が一〇・三でありますから、合わせて二五・六と非常に高いわけでございます。
ですから、これを差っ引いて考えてみますと、
赤字赤字と言いますけれども、
国鉄の
赤字は減価償却と利息を取ってしまいますと、五十
年度で見ますと六千九百九十一億円も違ってくるわけです。ですから、これは後で申し上げますが、費用
負担のあり方などとの関連で、この減価償却費や支払い利息というのは当然国がめんどうを見るものだという考え方に立つならば、
国鉄は決して大幅な
赤字ではない。さらに、累積したいままでの減価償却費も二兆円を超えておるわけであります。
さらに、資産でございます。借金借金と言いますが、膨大な資産を借金
財政でつくり上げてきたというわけであります。長期借入金が六兆八千億だと言いますけれども、大体六兆八千億に見合う資産があるわけであります。固定資産と投資資産と積立金と入れますと大体六兆八千億資産があるわけでありますから、この
赤字宣伝は、余り
国民に対して脅迫的に
赤字だ
赤字だ、大変だ、あしたにでも鉄道がとまるんじゃないかと——先ほどの
公述人の御婦人の方も心配されておりましたが、そういうふうに
国民を惑わすということは大変よくない。
運賃法にも言うように、公共の福祉に寄与しなければならぬし、物価だけでなくて心理的な安定をもたらさなければ行政当局としては
責任を果たしたことにはならぬのでありますから、そういう点が私は問題だと思います。
さて、こういった
財政危機をつくり出した
原因の第一は借金
政策であります。これは独立採算制によって
新幹線などの莫大な設備投資をされたことは御存じのとおりであります。
政府は二十四年に、
国鉄が当時の鉄道省から独立して発足した当時に御存じのように四十九億一千八百万出した。また、二十五年には米軍の対日見返り
資金特別会計から四十億を出している。合わせて八十九億余りでスタートしてきた。それで、四十六年に至るまでびた一文追加出資をしなかった。先ほどの
安恒公述人が言われたとおりであります。言うまでもなく、三十五年の池田内閣以来の高度
経済成長
政策のもとで
国鉄が東海道
新幹線の
建設に取り組みました。
建設費が三千八百億、キロ当たりが七億三千八百万、一センチが七万八千円でありますが、こういったようなことをやり始めて、借金
政策でずっと進んできたわけであります。しかも、三十二年から五十年の投資総額は六兆四千八百九十八億です。
特に、列島改造論が出てまいりますと、これに悪乗りをいたしまして、四十四年から五十年には総投資額の五八%に当たる三兆七千百六十六億を投資したのであります。このうち
新幹線への投資は三八%に上っております。しかも借金
政策でやったわけでありますが、長期借入金の六兆八千億のうち四兆四千億というのはだれから借りたかというと、財投
資金から借りておるわけでありますから、親元である国から借りた。だれから借りたのかということを考えてみると、六兆八千億も長期借入金があるじゃないかと言うかもしれませんが、本来国が出資をしなければならぬもので、その出資をしなければならぬはずの
政府が出資をせぬで貸したという
関係でありますから、この点も
国民がよくよく事情を聞くと、ああそうだったのかというふうにうなずけるわけでございます。
その二は減価償却の問題でございますが、先ほど申し上げましたように、減価償却の累計で二兆二千三百八十八億ございます。こういうことでございますが、これは本来国がこういうものは
負担をしてもいいのではないかという
意見を私は持っておりますが、そうでなくても、減価償却の
方法についても、たとえば客車の耐用年数を二十五年から三十年に変えたり——これは三十六年以降やりましたし、固定資産の再評価を三十年にはいたしましたし、償却対象資産に三十九年から電線や線路も入れるなどという形でやるとか、つまり、償却が多くなるように仕向けた。ですから、
昭和三十年代の後半から減価償却が非常にふえておるわけでございます。これは専門家の
意見によりますと、三十六年以降だけで八千四百八十一億くらいの過大償却が行われるというふうに見ておるわけでございます。
三番目は、長年にわたって大企業
貨物を
原価を割って運んできたということにやはり問題があると思います。これは出荷トン数契約ということでありますが、
運賃法の八条に基づいて総裁がやる。これは総
原価に対して軽微な変更であるならばいいというのでありますが、御存じのように、
貨物の
赤字というものは、
昭和四十一年から四十七
年度の間だけでも、
旅客が三百六十四億の黒字を出しておるのに対して
貨物が一兆四百七十八億の
赤字を出しているのですから、これは総
収入に対して軽微な変更であるかどうか、これは
運賃法上も大変な問題になるわけでありますから、出荷トン数契約の割引契約は洗い直す必要があるのではないかと思います。磯崎前
国鉄総裁も、
自動車や冷蔵庫や工作機械など平均して一二・七%の割引をしていると当時私どもに言われたわけでありますが、こういうことはもっと早く改めるべきであったのではないかといまにして思うわけでございます。
そういうことが
赤字の
原因でございまして、結局、
国鉄に対して
政府が適時適切に出資をしなかったということが今日の大きな
財政危機を招いた
原因ではないだろうかと思いますが、おもしろいことに、
昭和三十九
年度に設立されました鉄道
建設公団が今日で設立後十二年になりますが、鉄道
建設公団に出した金というのは、十二年間で一兆一千九百億ございます。
国鉄は
昭和二十四年から今日まで二十五年間でありまして、鉄建公団の倍以上の年を食っているのでありますが、これに対して出したのが一兆三千五百五十億で、ほぼ匹敵するわけであります。鉄建公団の方にはどんどんお金を出すが
国鉄の方には出さない。鉄建公団が今日果たしている
役割りというものは——設備投資をするのに、本当の
財政の運用といいますか、日常的な運用をやっている
国鉄の
意見とか、あるいは
国会の御
意見であるとか
国民の意向ということはほぼ無視して勝手にどんどん投資をされておるということでは
赤字が出てくるのもやむを得ないと思います。
政府の方も、鉄建公団の方にはどんどんお金をつぎ込んでいく、いわば、本妻の方にはお金を出さないでめかけの方にはうんとお金を出す、そうして出てきた放蕩息子の
赤字路線は本妻である
国鉄が引き受けてこれを育てなければならぬ、そのしりぬぐいは
国民がするといったようなぐあいで、まことにたとえがよくないのでありますけれども、よくあることでありますが、めかけの方にうんと出すということでは本当にわれわれはやりきれない感じを持つわけでございます。
鉄建公団のあり方ということは、つまり設備投資のあり方です。われわれは、
原価がどういうふうに高くなったか、どこの要素が高いかということを見るわけでありますが、さらに、
原価を生み出す発生源といいますか、
原価は何によってつくられるかということ、つまり、基本的には青写真、設備投資
計画があるわけでありますがこの設備投資
計画が本当に
国民本位に行われておるかどうかということで、
国鉄関連企業がたくさんありますけれども、その特定の企業のための景気浮揚策としてだけやられていはせぬかと今日大変心配をするわけであります。これは電力などでも同じであります。こういうことがあったのではせっかくの新
線建設等の設備投資
計画は
国民本位になりません。そういうことです。そしてどら息子を抱えた
国鉄さん、本妻の方は大変御迷惑になるということでございますから、この点はぜひ改めていただかなければならぬと思います。
このように見ますと、
国鉄が今日ぶっ倒れてしまうのではないかというような御
意見に私はくみすることができないわけでございます。そして、今回の
運賃値上げの本当のねらいというものは那辺にあるのかということを改めて考えなければならないと思います。
ここに四十八年三月八日の本
会議で当時の田中総理が答えた
部分がございます。
国鉄運賃をなぜ上げるかということのくだりであります。これは
石田幸四郎議員が質問された
部分に対する答えなどでございます。中略いたしますが、「そういうような
状態でございまして、」というのは
国鉄の
現状でありますが、「
政府は、今度の対策で
赤字解消だけをやろうとしておるのではありません。
赤字解消も
一つの目標ではございますが、長期の視野に立って、
国有鉄道が
国民生活確保のために果たさなければならない公益性を確保するために、ぜひとも必要な施策として今次提案を行なっておることを理解していただきたいと思う」ということで、
赤字解消というのは
一つの目的だということを当時の総理は言っておるわけです。では
国鉄は将来どうなるのかということで、これは兒玉議員に対する答弁のくだりでございますけれども、列島改造論で想定したわけですね。「
昭和六十
年度における
国民が必要とする
貨物の量は一兆億トンキロをはるかにこえると思います。そうすれば、いま
国鉄でもって運び得るものは、わずか六百億トンキロしかないではありませんか。ですから、先ほども述べましたように、内国海運のシェア四〇%を五〇%にしても、残りの五千億トンキロは何によって運ばなければならないか。それは
国民生活を
維持するために、最低に必要なのであります。そうすると、それをいま概算をいたしてみますと、陸運だけで運ぶとすれば二千万台の車を必要といたします。」と言っています。二千万人のトラックの運転手が必要だということになりますね。そして、「しかし、
昭和六十
年度における
交通労働者で確保できるものはわずかに三百五十万人であります。」と言っているわけで、こういう想定をして、そして列島改造論に沿って莫大な
貨物輸送量を想定したのであります。したがって、その代替手段として、既存の路線は
貨物輸送で、そして人間は
新幹線で運ぼうという
計画をされたのが列島改造論の
国鉄版であったことは明確であります。
その列島改造論が
国鉄版として今日通用するのかしないのか、これは
国会でぜひとも明らかにしてもらいたい。そして
国民の前に、今日の低成長
経済に入るというお言葉はあるけれども、実態として
国鉄の場合はどうするのか。この辺が将来の設備
計画になってあらわれると思う。ここのところをきちんと議論いたしませんと将来どれだけの金が要るのかさっぱりわからぬ。このままでいきますと、どうも列島改造論の延長線上をいまなお
国鉄が歩いているのではないかという気がする。特に鉄建公団にはその具体的な事例として新
線建設などが顕著に見られるわけであります。ですから、
地方線を云々するということは、そういった問題を抜きにしては論じられないのだと思うわけであります。
最後になりますが、この
運賃法案の問題については、まさかきょうあすの段階で強行されるというようなことを私は夢にも思っておりませんでした。というのは、二十二日に私は
国鉄総裁にお会いいたしました。
国鉄総裁と今後の
国鉄のあり方について話しました。これは
運賃問題だけじゃないが、総裁の方から
工藤さんぜひ会いたいと言って私のところに来たのですから、それはお会いしましょうということで、全国消団連でちゃんと会いました。そして
一つ一つ各論について、
貨物のあり方はどうしよう、新
線建設はどうしよう、これは新
線建設の
計画段階で
国会審議をすべきじゃないか、なるほどそう思うというようなやりとりがあって、
国鉄総裁、あなたは大蔵次官をやられていて、長年の間
道路整備五カ年
計画で
高速道路に十九兆もお金をつぎ込んだのはあなたじゃないか、
国鉄の
貨物を今日苦しめることにしたのはあなたじゃないかと言ったら、いまにして思えばそういうことも考えられるということを言ったばかりなんですよ。これが二十二日ですよ。各論について話をして、この前のは第一回だが、今後第二回、第三回として、広範な
国民の
合意が得られるように話をしよう、
国鉄を殺しちゃならぬよ、だから話をしましょうというふうに言ったばかりでございますから、まさか
運輸委員会の皆さん方が
国鉄総裁の意向を無視して
値上げをするなどということは夢にも考えておりませんので、どうかひとつその点は……。(発言する者あり)
国鉄総裁が運輸大臣に対して
値上げ申請をしたことから考えて、その辺も、私は
国鉄総裁とそういう話をしましたので、経過的に御報告を申し上げまして私の陳述を終わりたいと思います。(
拍手)