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1976-02-12 第77回国会 衆議院 予算委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十一年二月十二日(木曜日)     午前十時二分開議  出席委員    委員長 荒舩清十郎君    理事 井原 岸高君 理事 小山 長規君    理事 塩谷 一夫君 理事 正示啓次郎君    理事 山村新治郎君 理事 小林  進君    理事 楢崎弥之助君 理事 松本 善明君    理事 山田 太郎君       愛野興一郎君    伊東 正義君       上村千一郎君    植木庚子郎君       小澤 太郎君    大野 市郎君       奥野 誠亮君    北澤 直吉君       倉成  正君    黒金 泰美君       櫻内 義雄君    笹山茂太郎君       瀬戸山三男君    田中 龍夫君       谷垣 專一君    西村 直己君       根本龍太郎君    野田 卯一君       藤井 勝志君    保利  茂君       細田 吉藏君    前田 正男君       森山 欽司君    安宅 常彦君       阿部 昭吾君    阿部 助哉君       石野 久男君    田中 武夫君       多賀谷真稔君    堀  昌雄君       安井 吉典君    湯山  勇君       石母田 達君    田代 文久君       林  百郎君    沖本 泰幸君       鬼木 勝利君    河村  勝君       小平  忠君    和田 耕作君  出席国務大臣         国 務 大 臣         (経済企画庁長         官)      福田 赳夫君         大 蔵 大 臣 大平 正芳君         文 部 大 臣 永井 道雄君         厚 生 大 臣 田中 正巳君         通商産業大臣  河本 敏夫君         労 働 大 臣 長谷川 峻君         建 設 大 臣 竹下  登君         自 治 大 臣         国家公安委員会         委員長         北海道開発庁長         官       福田  一君  出席政府委員         総理府統計局長 川村 皓章君         警察庁刑事局保         安部長     吉田 六郎君         経済企画庁長官         官房参事官   朴木  正君         経済企画庁調整         局長      青木 慎三君         経済企画庁国民         生活局長    藤井 直樹君         経済企画庁物価         局長      喜多村治雄君         経済企画庁総合         計画局長    宮崎  勇君         経済企画庁調査         局長      岩田 幸基君         大蔵省主計局長 吉瀬 維哉君         大蔵省主税局長 大倉 眞隆君         大蔵省銀行局長 田辺 博通君         文部省大学局長 佐野文一郎君         厚生省医務局長 石丸 隆治君         厚生省社会局長 翁 久次郎君         厚生省児童家庭         局長      石野 清治君         厚生省保険局長 八木 哲夫君         厚生省年金局長 曾根田郁夫君         社会保険庁医療         保険部長    山縣 習作君         社会保険庁年金         保険部長    河野 共之君         通商産業省産業         政策局長    和田 敏信君         労働政務次官  石井  一君         労働大臣官房審         議官      細野  正君         労働省労働基準         局長      藤繩 正勝君         労働省職業安定         局長      遠藤 政夫君         建設省計画局長 大塩洋一郎君         建設省住宅局長 山岡 一男君         自治省財政局長 首藤  堯君  委員外出席者         参  考  人         (経済団体連合         会会長)    土光 敏夫君         参  考  人         (日本経営者団         体連盟会長)  櫻田  武君         参  考  人         (日本労働組合         総評議会企画局         担当幹事)   安恒 良一君         参  考  人         (全日本労働総         同盟調査局長) 河野 徳三君         参  考  人         (全日本自由労         働組合委員長) 近藤 一雄君         予算委員会調査         室長      三樹 秀夫君     —————————————  委員の異動 二月十二日  辞任         補欠選任   江崎 真澄君     愛野興一郎君   青柳 盛雄君     田代 文久君   山原健二郎君     石母田 達君   正木 良明君     鬼木 勝利君   矢野 絢也君     沖本 泰幸君   河村  勝君     和田 耕作君 同日  辞任         補欠選任   愛野興一郎君     江崎 真澄君   沖本 泰幸君     矢野 絢也君   鬼木 勝利君     正木 良明君   和田 耕作君     河村  勝君     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和五十一年度一般会計予算  昭和五十一年度特別会計予算  昭和五十一年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 これより会議を開きます。  昭和五十一年度一般会計予算昭和五十一年度特別会計予算及び昭和五十一年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  本日は、不況、雇用問題について参考人として土光経団連会長櫻田日経連会長安恒総評幹事河野同盟調査局長近藤全日自労委員長をお招きしております。  参考人各位には、御多用中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。  参考人各位には、委員質疑お答えを願う方法で順次意見を承ることといたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。お忙しいところ参考人においでいただいたんですから、失礼のないように御質疑を願います。上村千一郎君。
  3. 上村千一郎

    上村委員 本日は、国民が最も注目をいたし、なお国としましても最も重要課題になっておりまする不況問題、雇用問題につきまして、きょう、あす、あさってと、この委員会集中審議が行われるに際しまして、その道の代表的な方々参考意見をお述べになるわけでございます。この問題につきましては、私どもといたしましても、政府当局お尋ねする点もたくさんございますし、また私ども意見もたくさんあるわけでございまするが、非常にお忙しい中を万障お繰り合わせ賜って当委員会に御出席をされておられる参考人の方方でございまするので、私は参考人方々だけにお尋ねをいたしていきたいと思います。  なお、きょう私に与えられた時間は一時間でございますので、きわめて短時間でございます。そんなわけで、私の意見なりその他を十分述べてお尋ねするという時間的余裕はございませんので、参考人方々の御意見お尋ねしてまいりまするが、率直な御意見を御披瀝賜りまして、この重要課題審議にぜひひとつ役立たせていただきたいと存ずるわけでございます。  この不況問題、その次に雇用問題という点についてお尋ねするわけですが、不況問題につきまして当面どういう認識を持っておるかという点でございます。これは、きょう参考人として御出席賜っておりまする櫻田参考人が、産業計画懇談会代表世話人に御就任になっておられ、五十年の十二月十七日に、「新路線の発見と各界の適合−「低成長時代」といわれる新時代にどう対応するか−」という点につきましてパンフレットをお出しになっておられます。その冒頭におきまして、「日本経済実質成長は伸びず、他方不況は深刻化し、企業も、中央地方財政も、公共企業体破産状態に陥りつゝあります。」、こういう一つ認識が披瀝されております。なお、雇用問題につきましても、昨年の初頭におきまして多少の明るさを感じられましたけれども、まだ依然として雇用問題は深刻化する様相を来たしておる。こういう二つ認識のもとに御質問を進めていきたい、こう思うのでございます。  まず、経団連土光会長お尋ねをいたしていきたいと思います。  経団連では、ことしの重要課題といたしまして、業界の再編成と、それから業務提携などの産業構造政策を積極的に推進するとともに、公正取引委員会のあり方を中心に独占禁止法改正問題について検討することを柱としておるというふうに新聞紙報道をいたしておりまするが、この点につきましてはどんなふうになっておりますか、冒頭におきまして土光参考人お尋ねをいたしていきたいと思います。
  4. 土光敏夫

    土光参考人 土光でございます。  いまお尋ねの御趣旨でございますが、いま述べられましたように、現在の景気の状況というものは、政府議会等においていろいろ御配慮をいただいておりますけれども、現状におきましては、五十年度といたしましては、それほどの景気の改善の進展は、われわれは見られておらないと思っておるのであります。御承知のように、雇用問題も含めまして、非常に深刻な状態になりつつあるのであります。  まず、本年度におきましても、すでに四、五月ごろには底を入れた、上りカーブにあるというようなことでありましたが、われわれの認識といたしましては、多少、マクロ的にはそういう傾向がありましたけれども、その後の経過をごらんいただけばわかりますように、生産は、初めにおいては多少上昇いたしました、GNPもごくわずかふえましたけれども、同時にストック在庫が非常にふえております。四—六におきましては多少生産はふえたけれども、その後において在庫がずいぶんふえております。いわば企業におきましては、仕事が非常に不足しておりますので、雇用を維持するいろいろの点で操業度が下がっておるのでありますが、何とかこれを維持しようという努力もあったと思いますが、実際においてhaストックが昨年末までずっとふえてまいっております。いわゆる見かけの生産が多少上がったけれども、実質的の売れ行きはそれにフォローしておらない。したがって在庫は非常にふえておる。これがまた非常に不況様相を、企業内におきましても非常に不安感を持たしてまいったのであります。そういう次第でありまして、われわれといたしましては何とかして第四次対策並びに今度の新年度におきます予算を、できるだけ不況から脱却できるようにお願いしてまいった次第であります。  ところが、一面政府でも御計画になられておりますように、この不況を本年度で打ち切って、そして今度は安定成長路線にこれを乗っけるということであります。そこでわれわれとしましては、一面この不況対策として企業自身としても非常にいろいろの問題をやっていかなければならない。すでにわれわれ、昨年いろいろ企業間の話し合いをしてみましても、もうここでやることは人員整理以外はないんだという声が非常に多かったのでありますが、これは多く社会問題にも関係いたしますので、非常にわれわれとしても慎重で隠忍したわけであります。  そういう次第でありますから、企業合理化、これはもうわれわれとしてはすでにやってまいったのでありますが、各企業だけでは限界がありますので、業界におきましても、お互いが一緒に合理化をやる。たとえば提携であるとか、あるいは合併であるとか、いろいろな問題が起きたのであります。その前に生産調整等の問題もありますけれども、これは御承知のように、油ショック影響を非常に受けまして、公取委員会におかれても非常にシビアな態度をとられまして、業界もそのために余分に恐怖を感じたという面もありまして、なかなかその点がスムーズにいかない面もありましたが、われわれはそういうので現不況に対して、企業自体としましても何とかこれは最後の努力をしなければいかぬということが一つと、同時にまた政府の御計画安定路線、六%程度GNP成長ということであればこのままでいくわけでありませんので、すでにわれわれとしてもそれに備えた企業間の合理化企業合理化、こういうものを促進しようと寄り寄りいろいろと研究してまいったのであります。いま御質問企業間の提携合併等は、その二つ意味を含んでおるということを申し上げたいと思います。
  5. 上村千一郎

    上村委員 少し、いまの御意見について掘り下げてまいりたいと思いますけれども、時間がございませんので、多少問題点だけを大まかに触れてまいりますけれども、お願いをいたしたいと思います。  独禁法改正問題でございまするけれども、この独禁法改正の問題につきましては、認識としましては二つの大きな流れがあると思うのであります。と申しますのは、自由主義経済を守るためには昨年国会に提案された程度改正が必要であると、こういう御意見と、それから経済界が現在の不況から脱出するためには、死力を尽くして懸命に努力していかなければならないのにかかわらず、公取委員会事ごとにこれにいろんな問題を提起してくる。そういう意味から独禁法が強化されれば、産業政策としばしば矛盾対立が起きてきて経済の回復、発展を妨げるのではなかろうか。こういうような二つの大きな考え方があるであろうと思うのでございまするが、土光参考人としましてはどういうお考えをお持ちになっておりますか。この際御見解を披瀝賜りたいと思うわけです。
  6. 土光敏夫

    土光参考人 独禁法につきましては、油ショック混乱以後いろいろ問題が出たのでありますが、経団連といたしましても、時代に即応した独禁法改正に対しては決して異議を申し上げるものじゃない。われわれとしても、進んでこれには自分も研究する必要があるという態度を持ってきておるのであります。  これが去年の独禁法の問題につきましては、経団連としても意見はその都度申し上げてまいったのでありますが、われわれとしては公正な競争をしていくということは、市場経済自由経済については絶対に根幹になるべき問題であろうと思うのであります。  そういう意味におきまして、いまの御質問にあります、われわれとしては本当の十分研究された改正に対して決して反対するものじゃないのであります。しかしながら、とにかく構造規制に対するいろいろ価格関与であるとか、いろいろな問題点を含んでおるのでありまして、これを十分研究の上実施していただきませんと、業界としても非常に重大な問題であるというふうに考えるのであります。  ことに、減速経済にわれわれとしては今度進んでいかなければならぬという非常に重大な時点におきましては、業界間のいろいろな調整等も非常に高度に、かつ微妙になってくると思うのでありますが、現在制定されようとする独禁法は、そういう点に十分全般的な御研究がいただいていないんじゃないかという心配を持っておるのであります。ことに、これが制定されるという動機におきましても、油の非常なショック混乱のときに急遽立案されたというような点に、われわれは非常に不安を感じておるのであります。平常な正常な、しかも公正な経済活動を実行していくのに対しましては、ことにまた高度な産業構造になっていく今後におきましては、十分に御研究の上ひとつやっていただきたい。われわれ、決して独禁法改正に対して異議を申し上げるものじゃありません。いろいろとわれわれの意見はすでに出しておりますから、時間が非常にありませんから省略いたしますが、根本的にそういう考えを持っております。
  7. 上村千一郎

    上村委員 過般大蔵省の方で財政中期見通し、そういうものの御発表があったわけです。いまの財政あるいは経済見通しというものが非常にむずかしいものであるということは、これはだれしもわかるわけなんです。日本だけでなくて、世界全体が模索をいたしておるわけですから、非常にむずかしいわけでございますが、しかしながら少なくとも中期程度見通しというものは立てて、そしてそれに沿うように努力をいたしていくということは、これは当然なことであろう、こう思うのでございます。で、大蔵省試案としてケースIケースIIというふうに、大体二つのような試案出しておりますが、要するにこれから財政支出は伸びていくというふうに思われます。  そうすると、いまでも国債を発行いたしまして、そうしていわゆる借金財政をとらざるを得ないということになりますと、今後中期計画におきましてもこの財政支出は伸びる、こういうような意味国債の発行も増加していく。これが非常な不安になり、場合によりましてはインフレにつながるのではなかろうかという国民的な心配があるわけなんです。  そういうわけで、これをどう打開するかということになりますれば、これは一般に言われておりますように、できるだけ節約をいたしていくと同時に、ある程度国民の負担をお願いしなければならぬということに帰せざるを得ないと思うのでございます。  こういう点から見ますと、経団連といたしましてはいろいろとこの点につきまして御意見をお出しになっておられることが新聞紙によりましてわれわれも拝見できるわけであります。御承知のように、現在の日本税制は、直接税と間接税ウエートにおきまして諸外国と比べて直接税の方のウエートが多過ぎる。だからこの際、間接税の点も検討しなければならぬというように政府当局も大体お話しになっておられますが、この点につきまして経団連はどうお考えになっておられるか。また、間接税の点を考える場合にはどういう税費目をお考えになっておられるのか。この点につきまして御意見をお述べ賜りたいと思うわけです。
  8. 土光敏夫

    土光参考人 現在のような赤字財政をいつまでもいまのお話のように続けていくということはできないのでありまして、長期的な財政計画をさらに設定し、財政健全に対して努力するということはわれわれも絶対に必要であろうと思います。その際、新税の創設を含む税の体系、これはもう根本的に研究しなければならぬことはわれわれも十分認識しております。付加価値税もその一つ検討課題であろうかと思うのでありますが、経団連といたしましてはこれは目下研究中でありまして、決してわれわれが付加価値税どうこうと言っておるのじゃありませんが、これが一応意見を述べたところが決定でない意見の中に含まれておりましたので、経団連としては付加価値税やるべしとなっておりますが、これは十分御研究の上、またわれわれも研究しましてこれをやるべきである、影響するところが非常に多い、税制としては非常に重大である、ということはわれわれも認識しておるのであります。直接税と間接税の比率をどういうふうに持っていくとか、あるいは現行の所得税とか法人税をどういうふうな兼ね合いにするのか、また物価に与える影響も、その他もろもろの問題を十分検討する必要があるということはわれわれ認識しております。したがいまして、政府におかれても御研究あられるでありましょうが、経団連も今後の問題として十分われわれも研究してまいりたい、こういうふうに考えております。
  9. 上村千一郎

    上村委員 新聞紙などの報道によりますと、経団連としては企業課税それから付加価値税導入、こういうようなことを主張されておられるというようなニュアンスの報道もあるわけですが、いまのお話によりますと、付加価値税導入というものについては経団連として何もそう確たる意見とか、確定したとか、そういう既定方針があるわけではない。要するに、検討の一課題としておる、こういう意味でございましょうか。  それからなお関連いたしまして、企業課税というようなことが報道されておりますが、何かそれに新しい御構想でもありましたならば承りたいと思います。
  10. 土光敏夫

    土光参考人 この企業課税につきましても、税制一般、新しい経済体系にもなりますので、いろいろな問題を含めまして目下税制委員会研究中でございまして、決定いたしておりません。
  11. 上村千一郎

    上村委員 要は、日本の現在の経済体制というものが自由主義経済体制であることは論をまちません。この自由主義経済体制を維持するためには、法的規制を強化するよりも企業社会的責任を自覚いたしまして、そして節度あるビヘービアをとることがまず大切であるというふうに言われております。こういう点につきまして、この際でございますので、土光参考人からひとつ見解を御披瀝賜りたいと思います。
  12. 土光敏夫

    土光参考人 ただいま御質問いただきました企業社会的責任、これは油ショックの際にことにこの問題が非常に全国的に巻き起こったわけでありまして、われわれとしましては自来二年間、経団連におきましても企業社会的責任という大きな問題について最重点を置いて委員会を実行しております。われわれとしましては、もちろん企業が国家的な、社会の中において非常に重要な地位を占めておりますことは十分認識しております。つきましては、この社会的責任についてもわれわれとしてもいろいろ考える点はありますけれども、とにかく社会の信頼をわれわれ受けることが第一であろうというので、目下内省的にいろいろとわれわれ反省すべき点は十分反省しております。しかしながら、また企業が存立していくために企業としてそういう面における社会的責任も十分考えなければならぬ点があると思うので、たとえて言えば、決してわれわれは現在社会的に受けている責任をここでどうこうと言うのじゃない、これは十分われわれは考えるが、一面また企業責任としては、やはり企業が、社会が要望する社会進展とともに非常に高度化されたあるいはまた多角化された需要に対して、われわれはその必要性に対してこたえていくという点が一番大きい本質的な問題であろうと思うのであります。そういう問題も、今度不況並びに安定成長に進む産業構造の転換というような意味におきましては、さらにわれわれも研究しなければならぬ問題である、そういうものを含みまして目下研究中であります。  非常にむずかしい問題でありまして、お答えが十分でありませんかと思いますが、時間がありませんからこの点で……。
  13. 上村千一郎

    上村委員 次に、櫻田参考人お尋ねいたしたいと思います。  櫻田参考人はいろいろと日経連の指導的なお立場にもなっておりますし、いろいろと御意見、御理論を拝聴する機会も多いし、それからパンフレットその他でも拝見をいたしておりますので、少しく理論的な点をひとつお尋ねをいたしていきたいと思います。  実は日経連では先月の二十六日に、今年度賃上げはゼロかまたは一けたかという賃上げガイドラインを決められた、こういうふうに報道されておりますが、この点から先にお尋ねをいたしていきたいと思います。
  14. 櫻田武

    櫻田参考人 櫻田でございますが、昨年の初めから、春闘が第二十回のが済みまして、五月から日経連賃金問題研究委員会というものをつくりまして、それで七回にわたりまして研究委員会を開きまして、そして学者、評論家、諸先生も参加いただいて、賃金問題研究委員会報告を、さっき上村先生の仰せのように一月二十六日に完成して、これを研究委員会の議長の私から日経連の一番上層の機関でございます常任理事会に諮りまして、研究委員会報告日経連どうなさいますかというお尋ねをしましたら、日経連としても地方部会それから業種別部会、これを採択して、業種別地方別にこの趣旨に基づいて経営者としては春季賃金交渉に対して善処をしよう、そして労働組合経営者とがこの「賃金問題研究委員会報告書」に基づいて団体交渉を重ねてよき妥結の結果をもたらすべく努力しようということに決めたような次第でございます。  経過はそういう次第で、この現在の不況下でわれわれが一番ねらっておりまするのは雇用の安定向上でございます。雇用の安定向上のためにはやはり企業の存立と、それからそれに従事しておりまする労働者諸君の生活の防衛。生活を守る。そのためには企業を何とか存続させなければいかぬ。企業防衛と生活防衛とを同心円的に一致させるためにはどうしても業種別地方別に、賃上げは今年はできない企業もあるだろう、それはひとつ貸しておいてくれないかというところで話し合いをおつけになるがよろしかろう。それから、賃上げができる企業においてもやはり一けた台以上には無理だ、一けた台におとめいただく方がよろしかろうというふうな一つの賃金ゾーンを決めたわけでございます。と申しまするのは、一昨年までは高度成長が続いておりましたので大体一つに、賃上げのばらつきというものが一対一・五倍ぐらいにおさまっておったのでございますが、昨年は大企業におきましては六倍半、それから中小企業におきましても二・六倍、それから地方におきましても二・五倍というふうに非常にばらつきますので、ばらついておるときにはもういたし方ないから一けた台という程度一つのゾーンを決めた。腰だめのゾーンでお互いに話し合いを進めるしかないという立場でああいった一けた台というふうなところを打ち出して、それが日経連地方別業種別の部会で採択されて、それに基づいて今後の労使間の団体交渉が行われるという状態になっておるのが現状でございます。
  15. 上村千一郎

    上村委員 先ほどお話がございましたように、日経連の「賃金問題研究委員会報告」、五十一年一月二十六日付で、「実質賃金と雇用の維持向上のため労使協力を」という。パンフレットを拝見いたしました。非常に貴重な御意見が非常にたくさん盛られておりまして、私ども読ましていただきまして非常に参考になりましたが、昭和五十年度の春季賃上げの場合に平均一三・一%におさまった。まあ、この問題が、いまずっとその後の経済不況その他が来た際にこれが妥当であるか妥当でないのか、いろいろな論議があるとしましても、櫻田参考人を御中心に日経連の御意向というものが大きく影響を持ったことは否定ができないと思うのであります。そういう意味で今後の問題につきましても御貴重な御意見であろう、こう思って意見を承るわけです。  櫻田会長は、賃上げが一〇%以上になったら会社は倒産するか従業員の首を切るしかないと思われる——そのままかどうかわかりませんが、私なりに趣旨を要約したわけです。で、日本経済の実態はきわめて深刻で、実際に企業経営をしている人でなければわからない、その窮状というものはとうていわからないと思われる。これは私どももそういうふうに思います。政治家はどうしてもマクロ的に物を見る、また見やすい。また資料関係、そういう面でいいましても、実際上一線に立っておるわけではございませんので、どうしてもそういう傾向になりやすいわけでございまするが、この不況にあえぐ個々の業種につきましても、実際を見ますと、相当な収益を上げておる企業もございますし、また漸次回復しつつある企業もある。また企業間の格差、ばらつきも非常に見受けられる。こういうような諸般の状態があると思いまするが、この実態につきまして櫻田会長、どういうふうな御認識をお持ちになっておられるのか、承っておきたいと思います。
  16. 櫻田武

    櫻田参考人 現在の不況状態をわれわれ経営者の側から見まして、この不況の原因とそれから不況の実態をこういうふうにわれわれは認識しておることをひとつ御披露申し上げたいのでございます。  不況になった原因は二つある。一つはオイルショックでございます。これは国民全部が背負わなければいけない。一番いい例は、御承知のように油は二億五千万キロリットル——いま私はアラビヤ石油の重役をしておりますので調べさせたので確定数字ではございませんが、昨年は二億三千万キロリットル入っております。四十九年は二億八千万キロリットル、四十八年が二億五千万キロリットルぐらい原油は入れておる。そのときに、オイルショック以前は五十億ドルぐらい払えばこれが入れられたのです。五十億ドルかせいぜい六十億ドル。ところが、一遍に四倍に上げられたものだから、二百億ドルも払わなければならぬことになっております。差引百五十億ドルというものは、いわばはっきり言うとOPECに余分に取られておる。一ドル三百円としますと四兆五千億円になりますので、一億一千万人で割りますると、赤ん坊も年寄りも四万一千円ぐらいは毎年損しておる、貧乏になっておるのだという、これが大きい不況の原因。いま一つの原因は、これはこんなことを申し上げるのは——印刷にはしなかったのですが、ドルを過去十年間ベトナム戦費で非常にばらまいて、それが世界じゅうの、特に日本の仕事量をふやした。これは間違いない事実でございます。多い年には、アメリカのバジェットをごらんになればわかりまするが、バジェット・オブ・ディフェンス・モビリゼーション、国防動員予算の中で二百五十億ドルぐらいがベトナム戦費に使われておる。十年間の私の計算だと千五百億ドル使っております。そしてアメリカが日本からどんどん、いろいろな生活物資にしましても、トランジスタテレビにしましても、衣料品にしましても買わざるを得なかった。そしてわれわれはドルをためた。これが御承知のベトナムの停戦によりまして四十八年、ぴたりとやめになった。四十九年には五十二万人もおった兵隊を全部引き揚げてしまった。そしてベトナム戦費というものがゼロになりました。この反動はやはり不況をもたらさずにおれない。なぜなら、昨年アメリカは一年間に百十億ドル、ドルを回収しておりますが、日本は貿易収支だけで三十億ドル、ドルを失っておる。ここに端的にあらわれておるのでございまして、これがそう一年、二年で直るものではないということ。不況の原因と言うては変でございますが……。  それでは、不況とは何だという点をはっきりさせておきたいと思います。不況とは、一つは仕事が減るということでございます。ジョブが減るのだ。仕事が減るということは、失業がふえるということ。失業というのは、日本ではイコール首切りではございません。週休二日半になるとかあるいはオーバータイム、超過労働時間、時間外労働が減るとかというふうなことで、要するに仕事が減って、したがって失業する。失業には顕在失業もあれば潜在失業もある。ヨーロッパやアメリカは、仕事が減っただけレイオフしてしまいますが、日本は過剰雇用を自分のところで抱えますから、それで赤字をふやすのであります。要するに、仕事が減るという一つの現象。いま一つは、企業の利潤が赤字もしくはゼロになるということでございます。これはもう公共企業といえども企業といえども同じことでございまして、一等大きい例は御承知の国鉄で、私は国鉄の諮問委員長をいたしておりまするが、運賃、あのままで大きくなると一年間に一兆円近い赤字でございまして、貨物、旅客運賃収入で月給が払えなくなるという、これに大体似たのが民間企業でございます。いま上村先生のお説のように、もうかっている企業、もちろんございます。テレビ会社なんかはもうかっておりますが、繊維のように毎年、毎月六十社以上が倒産するのがもう二年以上続いておるというようなことで、私企業、公共企業ともに利潤がない、あるいはマイナスである。この二つ不況というものの現象なのでございます。  こういった現象からしてやはりわれわれは、当委員会でもよく雇用者所得の御議論が出ておるようでございまするが、雇用者所得というものは賃金掛ける雇用量でございまして、これが国民全般のマクロでごらんになった雇用者所得。国民所得の一等大きい部分を占めるのでございます。われわれは雇用者所得を絶対に——減らすと国民の不幸になるから雇用者所得を少しでも実質的に上げさせたい。そのためには仕事は減っても無理してでもやはり人間の雇用を安定させたい。そのためには企業の倒産を少なくしょう。そうすると企業があるためには、残すためには、つぶれかけておるときには銀行の融資もしなければならぬが、そう無理やり、むちゃくちゃなコストアップの要因になるような人件費増はやめなければいけない。これは長いことではないから、この苦しいときを切り抜けるためにやはり労使でうまく話し合って、労働組合の労働者の生活防衛と企業の存続のための企業防衛とを一致させるために、苦しいときはお互いにがまんしようじゃないか。不景気日本が貧乏になったといったってたかが知れておるのです。いままで十五年間非常にリッチになったのですから、少々のことはがまんしていただこう、ということのために労使の協力をぜひともお願いを申し上げたいというので、労働組合との間にこれから精力的な団体交渉で合意を得たい、こういう考えでおる次第でございます。
  17. 上村千一郎

    上村委員 佐々木経済同友会代表幹事さんが、賃金は物価との関連で見ていくべきで、現在の物価の落ちつきぶりから見て、消費者物価上昇に見合った一けた台が望ましいというようなことを述べながら、賃上げの時期についても、もっと弾力的に考えてもいいのではないか。企業も中間配当を中止するケースがふえているのだから、経済見通しがはっきりしてくる秋以降に賃上げを決めるのも、経営者、労働者双方にとってプラスになるのではないかと思う、というようなことが述べられておるわけであります。これについて櫻田会長、どんな御意見をお持ちでございますか、承りたいと思います。
  18. 櫻田武

    櫻田参考人 お答え申し上げます。  ただいまのように、賃金のべースアップの交渉はいま仰せのようなことになるのがもうそれは一等われわれは望ましいと思いますけれども、何せお互いに相手のあることでございますから、やはり二十一年続いた春の賃金交渉というものはいま急にと申しましても、これはちょっと困難と思います。  それからいま一つ、賃金決定の要因は仰せのように三つ現状においてはあります。それは、一つは労働力の需給関係でございます。これは失業率というのは労働省の調べで非常にアンビギュアスでございますので、一番わかりやすいのは有効求人倍率でございますが、一対〇・五二が十一月、十二月の労働省の御発表になっていらっしゃるところで、一人仕事をしたいというのに対して、雇いましょうというのはその半分しかない、要するに労働市場ではちょっと労働力の方が余って、雇いたいという方がその半分だ、これが一つ。いま一つは、企業の雇い主の方の支払い能力、これが第二番目でございます。支払い能力はいまのところ本当に借金してやっと払っておるというのが多くの分の現実でございます。第三番目は、もちろん消費者物価にあらわれておりますような労働組合側の生活防衛意欲といいますか、どうしても生活を防衛しなければいかぬという、この三つの要素が重なって一つの賃金が決められておるというのが現在なのでございまして、これが適当な場所に今後交渉でもって決められる、その目安は私はどうしても一けた台でないと——支払い能力の上からいいましても、労働需給からいいましても、それからただいま仰せの消費者物価の動向からいっても、これはがまんできない線ではないというふうにして今後交渉で進められていくことと思います。
  19. 上村千一郎

    上村委員 この際、安恒参考人河野参考人近藤参考人に順次その点にしぼってお尋ねをいたしていきたいと思います。  実は、櫻田日経連会長は、この賃金の問題、また雇用維持というものを中心にして賃金の問題を考えていく際、ぜひひとつ労使協力をもっていかなければこの重要問題は打開できぬだろう、こういうような御主張が大きな柱であろうとこう思うのです。そういう点と、並びに先ほどの経済同友会の代表幹事の佐々木さんがちょっとお触れになっておる賃上げの時期につきまして、秋以降というように、相当こう大幅におさまった時期の方が労使双方にとって利益ではなかろうかというような御発言、これにつきましてどういうふうにお考えになられておるか、順次ひとつ御意見を承りたいと思います。
  20. 安恒良一

    安恒参考人 安恒であります。  賃上げ交渉の時期につきましては、私たちはいま日経連櫻田会長も言われましたように、二十数年来、春の時期に賃金を決めてきております。そしてこれはすでに各企業では労使協定になって、新賃金は四月一日から、こういう協定も非常にたくさんあるわけでありますから、私たちはいままでどおりに春の時期に賃上げを決定していきたいものだ、このように考えております。  それから第二番目の問題でありますが、もちろんだれが考えましても、いわゆるマイナス成長がいいとか、操短の状況がいいとか、不況、いわゆる失業者が多い方がいい、こういう状況は国民の一人として好まないものであります。ですから、こういう状態を直すということについては賛成でありますが、問題はその方法論において非常に意見の食い違いがあるのではないだろうかと思っております。  時間がありませんから申し上げられませんけれども、後からいろいろな委員先生の御質問に答えたいと思いますが、私たちは現在の不況、雇用不安問題について次のような基本的な認識を持っております。  率直に申し上げまして、御承知のように現在非常に不況になった、それから不況になったから賃金が上がらないのだとか、不況になったから雇用問題が深刻化しているというのではなくして、率直に申し上げまして、去年の春闘の時期に賃金を上げないための不況政策が強行された、すなわち雇用問題あるいは労働市場の条件の悪化、中小企業の倒産、マイナス成長、あえてそういうことを御承知の上で政府自体のいわゆる金融財政引き締め、これがされた、その結果が今日の状況にあると思いますから、こういう問題について今日の不況、雇用問題に対する政府の施策責任ということについてわれわれは意見を持っている、こういうことを私は申し上げておきたいと思います。  以上です。
  21. 河野徳三

    河野参考人 河野でございます。  今日の不況の基本的な原因についてどう考えているかということからまず申し上げたいと思いますけれども、もちろん今日の不況の原因については、昨年における輸出の停滞あるいは政府不況対策のおくれといったようなこともございますけれども、やはり一番基本的には、個人消費支出が余り伸びなかったというところにあろうかと思います。  ところで、これから雇用不安を解決していくためには、何としてもこれからの景気を回復さしていかなければならぬわけですけれども、ここでちょっと申し上げたいのは、これまでの高度成長からこれからは減速経済に移行するのだ、あるいは低率成長に移行するのだということが言われておりますけれども、このことは単に成長率が下がるということだけではなくて、日本経済成長のメカニズムが変わったということを意味しているのではないか。つまり、これまでは設備投資が設備投資を生むという形で成長をし、あるいは輸出の飛躍的な伸びというものが日本成長を支えてきた。しかし、御承知のように最近では、設備投資が設備投資を生むという形はもはや基本的にはなくなってきているのであって、設備投資を引き出すのがむしろ他の財政であるとかあるいは個人消費支出に移ってきている。つまり減速経済下においては財政の一定の拡大、それから個人消費支出の着実な増大ということを考えないと、経済の安定的な成長自体が不可能になってきている。  ところで、個人消費支出の伸びというのは一体何に依存しているかというと、これは基本的には雇用者所得の着実な増大でございます。ですから、賃金は確かに企業の面から見ればコストかもしれません。そこで、企業のミクロという立場から見れば雇用か賃金かという問題が提起される。しかし賃金は、一方ではそういう日本経済成長を基本的に支えていく最終需要要因であるという意味の方が現在ではむしろ強くなっているわけです。ですから、この問題を今日の段階では、むしろ高度成長時代であれば逆に賃金というものをコストという観点でとらえることが可能であったかもしれませんけれども、あるいはそれでよかったかもしれませんけれども減速経済ならば、むしろ逆に賃金というものをそういう国民経済全体の総体の関連の中で考えなければならないということが必要になってきているのではないかと思います。そういう意味では、日経連さんの考え方にはわれわれとしてはどうも賛成するわけにいかない。  次に、佐々木さんの発言の問題ですけれども、これまで申しましたことと関連しまして、もし賃上げの時期を延ばす、春に全然賃上げが行われないということになれば、だれが考えてもわかることですけれども、個人消費支出の停滞はなお一層深刻になってまいります。そうすると景気回復ができるはずはないのであって、その場合には当然仕事がなくなるという問題が出てきます。先ほど櫻田さんがおっしゃいましたように、不況というのは仕事がなくなることで、これがまさに問題である。そうすると、仮に賃上げを延ばしてみても、その間に仕事が引き続き今後なくなるあるいは減るということになれば、むしろそのことが企業倒産を激化させるということにならざるを得ないと思います。したがって、賃金協定とかなんとかという問題とは別に、われわれとしては佐々木さんのような見解にはとうてい賛成するわけにはいかないということを申し上げておきたいと思います。
  22. 近藤一雄

    近藤参考人 近藤です。  ただいまの御質問趣旨は、日本の現在のこの経済危機の根本問題に触れる問題であろうかと思いますけれども、端的に賃金問題だけにしぼって言うならば、現在の賃金の状態が非常にアンバランスであるということ、しかも低い部分が非常に大きく拡大されているということ、しかもその低い部分は現在の消費水準、そうしたものから非常に立ちおくれているということからすると、下の部分を相当大幅に引き上げるということが当面差し迫った問題であろうというふうに考えます。しかも低い部分を大幅に引き上げる、特に低所得の部分を大幅に引き上げるということが現在のこの経済危機を打開する、そして不況を少しでも打開するという非常に重要な購買力の増加をもたらす、日本国民全体の購買力の増加をもたらすということが不況克服への重要な要素となるということは明らかでありますので、その購買力の増大のためにも特に大幅賃上げの問題は、いまゼロか一けたかというふうなことではなしに、そうした所得の格差の是正を含めて根本的に考え方を改めてもらうということが必要だろうというふうに思います。  時期については、現在すでに春の時期に行われておるということが一定の慣習になっておるし、別にこれは新しく時期を設定したらまた大幅に引き上げるというふうな条件が生まれてくるなら別でありますけれども、そうでないとすれば、時期を変えることではなしに、この時期にどうするかということを真剣に考える必要があるというふうに考えます。
  23. 上村千一郎

    上村委員 諸先生からいろいろ貴重な御意見を承っておるし、またいろいろ基本的なお考えにおいても違っておられる点もよくわかるわけでございますが、要は、これだけ現在の日本経済が重要な段階になっておるということになりますれば、ここでお互いにいい知恵を出し合っていくというような姿勢をとっていくということは望ましいものだと思いますので、希望意見を申し上げておきたいと思うわけでございます。  もう時間が七分程度になっておりますので、櫻田会長に少しお尋ねをしていきたいと思います。  これはお出しになっております賃金問題研究委員会報告書に関連するわけでございますが、実はこの中に、政府不況対策に大きな期待がかけられておる。そして財政は巨額の赤字公債を発行してその財源を賄わなければならない状態である。当面早急に大幅な需要創出効果は期待できない。要するに、相当政府の方が力を入れてきておるけれども、現在のところでは早期に大幅な需要創出効果というものは期待できない。こういう点でいろいろな論点をお挙げになっておられますね。  それで、この当面の不況対策といたしまして、いま大企業におきましては金融という問題において辛うじて倒産が防がれておる。中小企業においては政府のいろいろな諸施策によってある程度救済をされておる。大企業は結局銀行の金融ということによって辛うじて失業者も出さず、そして倒産も防いでおるのだというような御趣旨が書かれております。そしてそのためにはここ三年間ぐらい日銀とも御相談の上に銀行の融資につきましていろいろたな上げをしてほしい、そして危機を切り抜けていきたい。そして三年たったらひとつ新しい路線を、それまでにはできるだろうから、それまでに整理のできる会社は整理をするであろうし、立ち直るのは立ち直るであろう、こういう猶予期間がほしい。要するに、暫定金融政策という御主張が出ておりますが、その点につきまして少し御意見を承っておきたいと思います。
  24. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問は、実はこの「賃金問題研究委員会報告」ではなくて、私が多少世話人をやっております産業計画懇談会意見なのでございます。私個人の意見としては、不況対策というものは財政政策でもって不況のこれ以上の落ち込みを防ぐというところまではいけますけれども、何せ七兆二千七百五十億も公債を発行して公債依存度が二九・九%というような財政では、増税をやるのはちょっと困難だし、これ以上の非常な落ち込みを防ぐというくらいなところしかちょっと期待できないのじゃないか。そうなるとやはりとりあえず破産、倒産を金融面で防ぐということしかない。しかしながら破産、倒産を防ぐにしましても、金融機関が持っておる審査機能というものはちゃんと生かすのでなければいけない。外れたものはつぶれるのはいたし方ない。審査に適合した分はとにかく少し金融でもって助けて倒産を防止するということが必要である。特融みたいなことは現実に今度はインフレ関係から言いましても非常に困難でございますから。これが私個人の考え方。それといま一つ金融で気をつけなければいけませんのは金利の方で、たとえば郵便貯金の利子をまだ去年の十一月に下げたばかりなのでございますから、実際問題としていま実効金利がまだ一割以下になかなかならない点で非常に焦慮がわれわれの仲間にあることも事実なんでございますが、預金金利を全然そのままほっておいて、そして貸付金利だけをこれ以上下げるということは金利体系としては非常なゆがみができますので、郵便貯金で御承知のように一度預金金利を下げた以上は四、五ヵ月はたってみませんとこれが本当に貸付金利の方へうまく響いてこない。金利の自由化の方向には漸次行かなければいけませんけれども、それにはある程度のタイムラグというものを考えなければ、これは実際問題として困難であると考えております。実効金利は本当に——公定歩合を昨年一年に四回もばたばたと下げたのですけれども、少し間を置いてみませんと、われわれ会社が払います実効金利の方へ及んでくるのに相当の時間がかかる、この間はある程度がまんせざるを得ないのじゃないかと実は考えているような次第で、そこは銀行が審査機能を発揮した上での倒産防止金融だけは日銀と市中金融機関とでやってできないことではないと思っておるわけでございます。
  25. 上村千一郎

    上村委員 時間が参りましたので、いろいろとまだお尋ねしたい点もたくさんございますけれども、貴重な御意見を拝聴したことにお礼を申し上げて、これで私の質問を打ち切らせていただきます。
  26. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 堀昌雄君。
  27. 堀昌雄

    ○堀委員 与えられておる時間三十分しかございません。そこで労働組合の皆さんにはひとつ午後に質問させていただくことにして、もっぱら土光さんと櫻田さんにお伺いをいたします。それから、三十分でございますので御答弁をできるだけ簡潔にお願いをいたしたいと思います。  まず最初に櫻田参考人にお伺いをいたします。私もいまこの賃金問題研究委員会報告を土台として、どうも報告の中にも矛盾があるように感じられますので伺いたいと思います。  櫻田参考人財政制度審議会その他各般のところに御出席でございまして、経済合理主義という点では私は立場を異にいたしますけれども敬意を表しておるわけでございます。一昨年の会社臨時特別税の取り扱いの際、自由民主党を初め各党が超過利得税という発想でこれに臨もうとされたときに、わが党は御承知のような付加税で処理をしようということでございましたが、それに対して社会党の案が最もましだというおほめをいただいたことも、経済合理性の立場から御評価をいただいたものだと私は考えておるわけであります。本日は、この問題の中で賃金の上昇部分は生産性の範囲内あるいは企業の支払い能力に限るべきで、これまで生産性の上昇分プラス物価上昇分というのを賃金のべースにしてきたのはおかしいという御指摘があるわけであります。しかし、実は皆さんの方の資料で拝見をいたしますと、一六ぺ−ジに「各国賃金・生産性の上昇率・下降率の比較」という図表がございます。アメリカが、賃金上昇率は一五・六%、生産性上昇率は二・七%となっておりますから、アメリカの一九七三年七月から九月、一九七五年四月から六月の間の生産性上昇分を差し引きますと、まさにアメリカでは一二・九%プラスアルファの賃金上昇がなされておる。アメリカでも決して生産性の上昇分に見合ったかっこうでの賃上げは行われていないということがこの資料で明らかでございます。  西ドイツになりますと、西ドイツのこの間の消費者物価の上昇率は一二・七%でございます。生産性上昇率が二・五%、足しまして一五・二%。物価上昇分プラス生産性上昇分を足しましたので一五・二%になります。さらに二・四%プラスアルファが西ドイツの賃金の上昇率には実は加えられておるわけであります。私は西ドイツの経済はいま資本主義社会では最も模範とすべきものだ、こう考えておりますが、この点からすでにデータをお出しになっている部分については、生産性の上昇プラス物価上昇、さらに二・四%プラスアルファというのが西ドイツで現実に行われておるデータも出ておりますので、この点私はどうもこの御提起に大きな疑問を感じておるわけであります。  では一体日本生産性の最近の状態はどうかというのをちょっと調べてみますと、五十年八月の時期で個別労働生産性指数というもので一〇%を超えておる生産指数を上げておりますのが、アルミニウム圧延品が一三・八、電線・ケーブルが一二一、金属製品工業の中のばねが一三・五、電気機械の中のラジオ・テレビ、音響機器は一六・一、輸送機械全体として一二・二で、自動車は何と五一・一の生産性上昇率になっておるわけであります。さらにセメント製品二・五、石綿スレート二八・八、たくさんありますから申し上げませんが、特に櫻田さんの御関係の紡績は一九・六、織物一四・六、染色整理二五・九というのが対前年比の生産性上昇率として出ておるわけでありまして、全体としては大変低いのでありますが、非常に高い生産性の上がっておるものも実はあるわけでございます。  先ほど、幾ら生産性が上がっていても一けたに抑えるべきだという櫻田さんのお考えのようでありますけれども、各種のデータから見ましてどうも私はこの賃金問題研究委員会のいろいろな御方針というのはやや恣意的な経団連の意向を表現されておるような感じがいたしますが、ひとつこの問題についてお答えをいただきたいと思います。
  28. 櫻田武

    櫻田参考人 堀先生の御指摘は私も一々反対するつもりはない、そういう事実は私も認めるのでございますよ。ただ賃金決定要因というものは、労働需給とそれから雇い主の方の企業の支払い能力、そうして消費者物価をもとにするところの労働組合の方の生活防衛意欲といいますか圧力、これで大体決まってきておる。いま堀先生の仰せのは、実際の、やった結果からの御指摘でございますが、インフレを起こさずに、そうして会社の存立を維持させながらこの不況の事態を乗り切っていこうということのためには、マクロの点で見ましてやはり一けた台が精いっぱいだという結論に到達したのでありまして、ただ、いま御列挙になりました業種は繊維を除いてはわりあいに景気のいいところでございます。それから、その生産性というものは円で表示された生産性であろうと思いますので、これが一人の労働力、一時間当たりの物的生産性上昇ということになりますと、繊維なんかはむしろ大変なマイナスに実際はなっておる。人間を抱えて、余り整理をしないで、そして操業短縮が二五%にもなっておるのでございますから。それで、ただそのノミナルな値段が上がっておる場合には、円で計算しますと生産性が上がっておるように見えますが、本当の意味の、物的な生産性というものについてはむしろ下がっておるところがかなりある。  しかもいま一つ御留意願いたいのは、ばらつきが昭和四十九年、五十年は非常に大きくばらつくようになってまいりました。大企業の中でも六・五倍ぐらいにばらついておりますので、御指摘のような生産性が非常に上がっている、自動車なんかは私は非常に上がっていると思いますが、物的生産性も上がってないところがまた非常に大きい。このばらつきがあるものでございますから、それでこれは一つのゾーンとして示したので、その間にこれとこれは矛盾じゃないかと仰せになれば、そういうこともございましょう。  ただ、一つ私の基本的態度を申しますと、賃金問題というものは人類とともに永遠の問題でございまして、あらゆる矛盾が常にある。そして出す方も、もらう方も、満足したためしは神武天皇以来一遍もない。(笑声)それで、どの学者を見ましても、アダム・スミスもマルクスもケインズもハイエクも理論で割り切られたことがない。しかし、月末には払わなければならぬ。これが賃金というものでございますから、私は仰せの矛盾はある程度認めざるを得ない。しかし、やはり妥協して払わなければならぬものでございますので、払えるようなところでお互いにがまんしてもらわなければならぬというところが最後になるのでございます。
  29. 堀昌雄

    ○堀委員 ここの中で御指摘の、インフレを避けなければならないということは、労使双方にとって共通の課題だと私も思います。ところが、いま申し上げました西ドイツの例をとりますと、インフレが先進諸国の中で一番低いのが実は西ドイツでございます。  では、その西ドイツでどうしてこれが可能になっているかというのは、私はやはり企業の側に実は問題があると思います。日本の場合には、これも皆さんの方の昨年の資料を引用さしていただくわけでございますけれども、主要国の財務比率といいますか、「付加価値構成の比較」というのがございますけれども、その中で日本は七一年には四七・八の人件費、西ドイツは六一・六の人件費を払っております。ところが減価償却は一八・八と一六ですからほぼ変わりませんが、日本は金融費用が一八・七%、西ドイツは金融費用は四・八%でございます。ここに実は決定的な問題があって、利益は一四・七と一七・六でございます。日本企業は高度成長の中でともかく借入金に依存して、どんどん借金をして企業設備を拡大をしてきた。その拡大をしてきた今日の状態で、これらの多額の金融費用負担があるために実は本来払えるべき賃金も払えないというのが現在の情勢ではないだろうか、実は私はこう見ておるわけであります。  特に、これは同じく昨年の皆さんの資料でありますが、「主要工業国の資金調達状況」というので、日本は外部資金が六二・六%、その中の銀行借り入れが四九%と、まさに銀行借り入れによって今日の企業ができておる。これは私は非常に重要な問題だと思っております。  ですから、この昨年の資料から見ましても、これから設備投資をさらに借金でふやそうなどということは厳に慎むべきで、やはり内部留保なり増資をするなりして、内部資金によって今後の設備投資を賄うことにしなければ、櫻田さんのおっしゃっておることは百年河清を待つに等しいのではないか。労働者だけに賃金のしわ寄せをして、そしてさらにまだ借り入れをして設備投資を今後もしようというようなことであれば、これはインフレの問題を含めて日本経済に重要な禍根を残すことになる、私はこう思うのでございますが、その点はいかがでございましょうか。
  30. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの堀先生のなには私もほとんど実は同感なんで困るのですが、私は「我国経済に関する私見」の中にも述べましたように、池田内閣が昭和三十五年にできまして、そして四十八年までの十四年間の日本経済は、実質成長率平均一〇%以上という世界一の高度成長を記録した。このことは私はよかったか悪かったかと言いますと、そう悪いことではなかった。ただ公害が非常に多くなり、鉱物資源に限界がきた。それから人のマンパワーにも制限があるという壁にぶつかったところへ、石油ショックがあって非常に経済が転換しちゃって、高度成長経済は無理になってしまったのでございますから、この際にわれわれはなるべくいままでのよくなかったところは反省して直さなければいかぬ。しかし、この十四年間にわれわれの頭はどういうふうになったかと言いますと、われわれの頭の観念に固定されたのは、物は多くつくるほどいい、仕事は大きくやるほどいい、余ったら輸出すればいい、世界は広いのだ、必要な原料もエネルギー資源も金さえ出せば幾らでも手に入る、金が足りなければ借金が一番安い、返す折にはインフレで金の値打ちは下がっておる、こういう頭になってしまって、いまの御指摘のとおり自己資本比率が二〇%を割って一五%なんということになる。  それで、売り上げの中に占める支払い利息割引料のパーセンテージが一〇%になったら企業はつぶれるのです。国鉄と一緒ですな。国鉄が六兆八千億の国鉄債を持ち、そして三兆円の、今度の三月末にはそうなりますが、累積赤字を持つに至った。国鉄の金利負担というものはむちゃくちゃに大きいですね。それから最近つぶれた大きい会社の支払い利息割引料の売り上げに対する比率は大体一〇%内外です。二%ぐらいなところが売り上げに対する支払い利息割引料のいいパーセントなんです。私どもアメリカと一緒にジョイントベンチャーをつくるときに、アメリカの会社の連中はもう三%以上の支払い利息割引料だったらこれはだめだ、五%以上だったらもう倒産するということで非常に強い計画書をつくらせますけれども、私はこれが正しいと思います。  したがって、この際はわれわれも反省しまして——これがすっかり裏目に出たのが昭和四十九年、五十年の不況状態ですね。しかしながらOECDで昨年の十二月十七日に発表いたしました昭和五十年度実質成長率はOECDの主要七カ国の中で日本が一等よくて一・五%くらいのとにかくプラスになっておって、アメリカもイギリスも西ドイツもフランスもイタリアもみなマイナスである。それから一九七六年のフォアキャストといいますか見通しについては、これはアメリカが一等伸びますけれども日本はまあぶつくさ文句は言い、いろいろ政府を攻撃しながらも、四十九年、五十年の二年間でこれをどうにかこうにか吸収して、ほかは非常なマイナス成長であったのに日本は五十年にはいささかプラス成長になった。これは、政府経営者もそうばかなことばかりしたのでは決してないので、大いに努力して、この分ならまあ卒業だから、もうちょっとうまくやれば今年一年で何とか見込みがついて、来年の下半期くらいにはちょっと明るくなりはせぬかというふうに、私は見込みを持っておるわけでございます。
  31. 堀昌雄

    ○堀委員 もう一問だけ櫻田参考人に伺いますが、実は十八ページに「企業収益動向の各国比較」というのがございます。  私は、この中で非常に奇異に感じますのは、一九七四年の下期の日本は、一九七二年下期の一〇〇に対して七三、一九七五年上期は、推計でありますが三三と、半分以下になるということであります。しかし、この期の平均鉱工業生産指数で比率を見ますと、この一九七四年下期と一九七五年上期の比率との差はわずか一〇%しか落ち込んでいないわけです、平均しますと。一〇%の落ち込みによって企業収益が半分以下になるというのも、いまの金融費用の問題その他日本企業のあり方に問題があるのであって、私はこの点は十分ひとつお考えをいただきたいと思います。  それに関連をして、やはり今日の日本経済を、少なくともいまお話しのようにゼロないし一けたという問題にいたしますと、これは、現在の政府経済見通しどおりにはまいらないだろうという判断を私はいたしておるわけでありますが、この際、個人消費を堅調にするためには、もちろん賃金の上昇も必要でありますが、同時にあわせて所得減税が必要ではないか、私どもはこう考えているわけであります。実はアメリカと日本と西ドイツの平均消費性向を調べてみますと、一九七四年暦年で、アメリカは九二・五という高い平均消費性向でございます。西ドイツは八五・二で、日本は七四・七であります。西ドイツとの差が一〇・五アメリカとの差が一七・八あります。こんなに高い平均消費性向の国がいずれも所得減税を行って景気浮揚をやっておるときに、七四・七、この報告でも消費は適当な水準に来ておるとおっしゃいますが、実は日本の消費水準はニクソンショック以前には八〇台をずっと維持しておったわけであります。それがニクソンショックで少し下がってきて、そうして石油ショック以後いまの七五くらいのところまで下がってきたわけでありまして、この消費性向から見て、私は、日本は所得減税を行って、個人消費を堅調にすることが当面必要ではないかと思うのでありますが、櫻田参考人の御見解を承りたいと思います。
  32. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問お答えしますが、当初に第一点、七四年と七五年との日本の、日銀の「主要企業経営分析」にあらわれておる数字がひどく下がって半分以下になっておるのにかかわらず、実際の鉱工業生産指数はそれほど下がっていないじゃないか、これは仰せのとおりの数字でございます。ただし、いまの金利負担なり金融費用とそれからもう一つは、過剰雇用——過剰雇用という言葉は余りいい言葉ではありませんけれども、終身雇用という慣行慣例のも一とに、実際の鉱工業生産指数が二一%下がったにかかわらず四・六%しか人間が減ってない。アメリカやドイツは、御承知のように一二、三%鉱工業生産指数が減りますとそれだけ人間をレイオフしてしまいますが、日本は人件費負担とそれから金融負担で、そいつが非常にこたえてしまってこうなったというふうに私は考えております。  それからいま一つの所得減税につきましては、私もできればやったにこしたことはないと思いますけれども、現在の日本財政事情から、特に昭和五十五年まで、どう考えましても国債の累積残が四十八兆円から五十一兆円くらいになる。そのときの日本GNPが大体二百八十兆円くらいに考えられておる。そうしますと、いかに財政支出を削減しましても、それから可能な限りのいろいろな直接税、間接税の増税をいたしましても、とうてい所得減税を実行し得る状態にない。アメリカとかドイツの例は、いま仰せのとおり確かにアメリカも所得減税をやりましたのでございますけれども、ベトナム戦費がゼロになってからのアメリカの経済の非常な強さというものは恐るべきものがありますのであれができた。日本はその逆が来ておる。そしてアメリカの三千九百五十億ドルの今度の予算教書のものは前に比べて五・五%増にしかすぎない。もう何とかインフレを心配しなければならぬというところになっておりますので、私も基本的に所得減税は望ましいと思いますけれども、これは困難で、そのときに無理してやりますと財政にひずみが来て、私は財政制度審議会の会長として申すのじゃ決してございませんが、政府は非常にお困りになるだろうということを申し上げておきます。
  33. 堀昌雄

    ○堀委員 所得減税を一遍やると後に続くだろうというお話ですが、私はたとえば時限の所得減税でもいいと思いますし、所得減税をやり、賃金を一定の望ましい条件にして、個人消費が堅調になって、経済が回復の方向に乗れば赤字の分は減ってくるわけでありまして、ここで一歩踏み込んで、先に黒字になる方向への転換をするのか、だらだら赤字になる方向に行くのかという選択の問題だと思いますので、そういう私の意見を申し添えて、土光参考人にお伺いをいたします。  実は今度のロッキード問題に関連をして、私は、日本企業を含め、日本全体の中にこういう社用の費用について非常に真剣さに欠けるものがあるのではないかという感じがいたします。その一つの例は交際費の問題であります。すでに大蔵省が発表しておりますように、昭和四十九年の交際費は一兆九千二百三十六億五千万円ということでございまして、この費用はこのときの所得金額の一二・八%に実は当たっておるわけであります。  実は私櫻田さんを非常に尊敬しておりますのは、櫻田さんが会長をしておられました日清紡績の資料を拝見いたしますと、四十九年の四月から四十九年十月までの百三十一期においては、交際費は千九百八十九万五千円でございまして、これはこのときの当期利益の一・四%にしかすぎません。それからもう一つ、余談でありますが、売上高に対する金融費用もさっきおっしゃった三%程度ということで、日清紡が現在黒字経営をやっておられますのは、高度成長の中で日清紡の経営というものがきわめて堅実であったということを私は評価をいたしたい、こう考えておるわけであります。  そこで、土光参考人にお伺いをいたしますが、このように多額の交際費を使う、たとえば有価証券報告書によりますと、三井物産は三十五億三百万円、これは四十八年十月から四十九年九月でありますが、まさに一日約一千万円の交際費を使っておるということであります。何か仕事するのに飲んだり食ったり、言うなれば、私どもの常識からすれば、ある意味では贈収賄のにおいのするやり方が公然と認められているところにロッキード問題の背景がある。私はこういうふうに考えるのでありますが、四十九年という少なくともこの厳しい時期にこのように交際費を企業が使っておるということに対して、土光参考人はどのようにお考えになるのか、お伺いをいたしたい。
  34. 土光敏夫

    土光参考人 土光でございます。  ただいま御質問のとおり、従来、交際費についてはすでに長い間いろいろ社会的批判もありましたし、また問題になってきたのでありますが、私個人としましては、いわゆる交際費というものは、いま御質問のとおり、企業においては最も厳正にやって、最小限に本当に必要なものに食いとめるべきであるということは私の年来の主張であります。ところが、実際問題としまして、私どもはずいぶんこの問題を調べてみたことがあるのでありますが、とにかく交際費という名目でありながら実際は企業を保っていくためのいろいろな必要な経費が相当含まれておるということも事実であります。いま例に挙げられました貿易商社等においても、われわれ見ておりましても、受注その他の商売上の費用も相当要ることは事実であります。しかし、これはともあれ、社会一般の批判もありますし、現在の企業態度といたしまして、私はこれを最も厳正にすべきである。経団連におきましても、私は着任と同時に、交際費の問題についてもっと研究を進めていこうということでやっております。ことに、いろいろの不幸な問題が生起しておりますが、そういう意味におきまして、われわれ経団連といたしましても、各業界ともそういう点で、たとえば政府とは、経済問題等においても政策については真っ正面からいろいろお話を申し上げたい、決してそれをテーブルの下で議論するようなことは経団連はやらないということを言っております。いろいろの問題が起きまして、国全体にも大変問題が起きておりますが、これは正否は私は現在存じません。しかし、いまの御趣旨については、われわれも全力を挙げてこの際やるつもりでおります。
  35. 堀昌雄

    ○堀委員 質は違いますけれども、やはり私はもう一つの問題は政治献金の問題があると思います。昨年の暮れ、私ども承知しておる範囲では、自由民主党の百億円の借入金のうち五十億円を財界の皆さんの協力でお返しになった、こういうことであります。あと五十億円残って、これは今後、政治資金規正法によって明らかにどこがお返しになったかははっきりするわけでありますが、やはり、皆さんの方が賃金を上げることにいろいろと問題を提起しておられますならば、交際費であるとか政治献金であるとか、このような問題も内部に対して十分反省を求められなければ、労働者に対して賃上げを抑制しようという姿勢は、国民としてあるいは労働者として納得のできないものだ、私はこう考えておりますので、この点について一言だけお答えをいただいて、私の質問を終わります。
  36. 土光敏夫

    土光参考人 政治献金につきましては、私、経団連の会長に就任する前に私的の発言をしまして、あるいは社会に非常に御迷惑をかけたかと思うのでありますが、実際において政治献金なるものは、やはり自分の政治主張といいますか、どういう政策を支持するかによって個人的にこれを献金すべきである。各政党を支持するならば、むしろその政党員になるとかあるいはそれを支持するメンバーになっていくのが私は本当であろうと思う。しかし、現状におきましては日本ではそういう状態になっておりませんが、根本的には個人がその政策を支持するという積極的な姿勢において必要な金は出すということが私は第一義であろう。しかし、その上に立って、まだ一挙にいきませんので、個人にそれだけの思想が普及しないならば、これは自由主義経済あるいは社会主義経済、もろもろの支持する政党に対してできるだけ、企業においてもその政策を支持するためにある程度の正当な献金をすることは次善の策であろう、こういうふうに考えております。
  37. 堀昌雄

    ○堀委員 終わります。
  38. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 次に、多賀谷真稔君。
  39. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 櫻田参考人も、また正式に日経連から出ております「賃金問題研究委員会報告」にも、日本の慣行として終身雇用制があるということを言われておるわけであります。私は第一、その終身雇用制というものに非常に疑問を持つのです。果たして日本では終身雇用制であるだろうか。  と申しますのは、人生の一番大事な時期に解雇をされる、そして大きな企業から小さな企業へ行く、こういう状態であります。そうして定年制が大部分の企業にありまして、その定年制は五十五の定年制が五二%もある。そして五千名以上の企業は五十八歳までの定年制が九〇%、千名以上から四千九百九十九名までのは大体八〇%までが五十五歳までである。そしてそれらの人々が、では年金やその他のもので食っていけるかというと食っていけない。はなはだしきは六十五歳以上で勤めておるという数が、六十五歳以上の男子で六七、八%も日本ではある。これは外国に例を見ないところです。西ドイツだって六十五歳以上だったら大体一五%ぐらいです。そうして、人生の大部分を一企業に勤めるけれども、肝心なところで解雇になっていく。一体こういう制度が果たして終身雇用制であるだろうか。しかも、五十五歳の定年のときに子供がまだ学校に行っているのが大体三二、三%もおる。  こういう点について一体どういうようにお考えであるのか。これを私はぜひお聞かせを願いたいと思う。何か終身雇用制で日本の場合は雇用が非常に安定しておるように宣伝をされておるけれども、肝心かなめのところで解雇をされるという、こういう制度が一体真の意味の終身雇用制であるだろうか。これに私は疑問を持っておるわけでありますが、ひとつ櫻田参考人からお聞かせ願いたい。
  40. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの終身雇用制の看板に偽りありという点、そういった意味においては看板に偽りございます。五十五歳定年が大体多いのでございますから。ただ、これは経営者がつけた名前ではないので、外国がこういう名前をつけたり何かしてくれたのでついそれがはやっておるのでございますが、この意味するところは、現在仕事が一割減った、そうすると一割をぱんとレイオフするということは日本の雇用関係ではしないという意味においての慣行、慣例が終身雇用制という、ちょっとよ過ぎる看板がそこに出てしまったということは仰せのとおりでございます。私はそれを否定いたしません。そして同時に、五十五歳というのが、多くの企業においては一年ずつ延び二年ずつ延びというようにして、だんだんとこれが六十歳に近づきつつあるということも、これは労働組合の要求と使用者の方の努力でもっていきつつある。  それでいま一つは、いま先生のおっしゃったように、五十五までは本当に余り病気しないですね。そこでぴしゃっとやめられて健康保険組合員でなくなるというふうな、病気が多くなり出してから健康保険組合員でなくなって国民健康保険組合員になる、これは不都合だというわけで、私ども、健保連とも相談いたしまして、国家の医療に頼れるまでの間は、その属しておった健康保険組合で本人なり家族の一部の、配偶者くらいのなには見れるようにするという方向にいま努力中であります。  そういうところで、理想としては終身雇用というところを、完全なものはできませんので、子会社をつくって、本社の方をやめた者を子会社の方に連れて行って、これは月給はもちろん下げますが、使うとかということで、努力だけはしておるのでございます。
  41. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 いま医療保険のことまでおっしゃったわけですが、まさにそのとおりですが、なぜいままでできなかったのか、私は疑問に思っておるわけです。  そこで、いま子会社の話がありましたけれども、五百名以上の企業では五十歳から五十四歳まで大体二九%就業者がおるわけです。五十五歳から五十九歳になると一九%。みな小さな企業に行ってしまっておるわけですね。これは私は非常に無責任だと思うのですよ。小さな企業はそれでなくても若い労働力を欲しいところへ、大きな企業から全部小さな企業に移ってくる。労働力がどちらかといえば老化した者が小さい企業へ入ってくる。これでは小さい企業はたまりませんよ。私は、そういうところに非常に問題があると思うのです、日本企業形態に。  今度も非常に遺憾に思いますのは、最近、昨年の上期の雇用情勢を労働省が発表しておりますけれども、五十五歳以上の離職者が三〇%も前年同月比でふえておる。しかも十年以上勤務した者が二六%もふえておるということでしょう。外国では、なるほど終身雇用制という言葉は使っておりませんけれども、御存じのように先任権がアメリカではある。ですから勤続年数の長い者はなかなか解雇されない。それからドイツのように、御存じのように協定によって、十年以上勤務した者は五十五歳から六十歳までは解雇しない、こういう労使協定があるのですね。ですから、日本の場合は、名前はなかなかよろしいけれども、中身はまるきり反対の中身になっておる。あるいはアメリカの場合は年齢による雇用差別禁止法がある。それで現実に定年制が六十歳なり六十五歳年金につながるわけですよ。ですから、日本の雇用情勢というのは、一番弱者である高齢者に全部しわ寄せが行っている。そしてそれを労働省が今度は高齢者対策と言いますけれども、大企業でできないものをどうして労働省がやれますか。これはわずかな奨励金ぐらいつけたのではできませんよ。  ひとつ経団連の会長も——これは重要な問題ですね。あなた方のように高齢でもなかなか第一線で働いておられる人もあるけれども、とにかく寿命が延びておるわけですから、こういうような情勢の中で一番しわ寄せの行く高齢者、中高年齢者に対してどういう態度で臨むのか。これは政府の施策を待つだけではいかないと私は思うのです。大企業の団体である経団連が率先して定年制の延長をやるべきじゃないでしょうか。どうでしょうか、経団連の会長。
  42. 土光敏夫

    土光参考人 終身雇用につきましては、いま言われたように、われわれとしても、五十五歳でこれで仕事が終わった、人生が終わったということは問題にならないことであろうと思うのであります。法制的にこういうことを順次改善していくということはわれわれも必要と思います。  しかし、いまのお話の、われわれがどういうふうに考えているかということは、私は従来から、五十五歳でまだ働けるというのにこれを定年制にひっかけるのは無理であるというので、一挙にいきませんから、順次上げて、少なくとも第一段階では六十歳ぐらいまで上げるべきであろうというので、すでに私が現職でやっておりましたときもその方針で進んでまいっておったのであります。実質的にはそういうふうにしようということであります。しかし、全般的に一挙にそういうことにはいかないでしょう。これは政府の施策と、われわれがそれを合わせながらやっていくということであろうと思います。  ところが、日本経済も大分発展してきて、順次いろいろな問題を整備すべきときにこの不況が来て、しかも、もっと若い人までも失業するというような不幸な事態になっておるのであります。しかし、今後、経団連におきましてもこういう点を十分考慮しながら、ひとつ生きておるうちは、理想的に言えば何らかの働く職場があるということが必要であろうと思うのであります。同時にまた、若い世代に対してわれわれのような老年者が邪魔者になっておるということも非常に問題でありますから、こういう点もわれわれは十分考えていごうということで、なかなかむずかしい問題でありますが、先生の御趣旨はわれわれも同じような思想でありますから、今後われわれも十分努力するつもりでおりますということを申し上げておきます。
  43. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 いまからの雇用情勢で一番むずかしいのは、求人倍率が〇・五になっておりますけれども、四十九年度の求人倍率が一・一四の場合でも、五十六歳以上、ことに五十歳から五十九歳までが〇・三五、それから六十歳から六十四歳が〇・二〇です。一・一四のときですらそれでありますから、ましてや〇・五になりますと〇・〇幾らになる。しかも地域的な差が非常にありますから、もう五十五でほうり出された人は全く行くところがない。ここに一番大きな問題がある。  そこで、土光会長は私のところはそういうように踏み切ったとおっしゃるが、ひとつこれこそ経団連としても日経連としても号令をかけるべきじゃないかと思うのです。これは年次計画でもいいですけれども、これこそ号令をかけるべきじゃないか。幸いにしてこの席は国会の席ですから、もう少し明快にその意欲のあるところをお示し願いたい。
  44. 土光敏夫

    土光参考人 こういうふうな労使関係その他の問題につきましては、もちろん経団連も第一番に関心を持つべき点でありますが、お互いにそういう問題は、日本全体におきまして日経連という連合体を持っておりまして、もっぱらこれでそういう点についても順次研究され、進展しつつあることも承知しております。これをすべて経団連が何でもかんでもやるのだということでなしに、お互いに分担しながら協力し、改善していこうという趣旨でありますから、むしろ、私がどういうふうにやるということよりは、日経連の方がこれに対して主導的に御研究いただいて、われわれはこれに大いにいいことは協力していくという趣旨でありますので、はなはだ適切な御質問でありますが、経団連の会長としてここで発言するのをちょっと差し控えさせていただきたいと思います。
  45. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では櫻田参考人
  46. 櫻田武

    櫻田参考人 いま御指摘のように、四十八年十一月が、有効求人倍率が一対一・九二ですね。これが一等ピークで、一人働きたいというのに対して雇いたいというのが倍おったわけですね。これがいま、御承知の昨年の暮れになりますと一対〇・五二というふうに下がった。いまわれわれが使用者として一等直面しておりまするのは、鉱工業生産指数が二割五分も減ってしまったのに、そのときにぽんと要らぬ者を出してしまうということを何とかやめてくれろということに、目先に追いまくられておるのが正直な話実際でございまして、それですら一月中に三菱レーヨン、豊田紡織それから興人、明治製糖、揖斐川電工、大和製鋼、日本軽金属、ホクセイアルミ、大隈鉄工、日立精機、ワシノ機械、トヤマキカイ、川崎重工、三菱重工——これは一々事情を聞いてみると無理がないのでなんでございますけれども、それを防ぐのが精いっぱいでございまして、しかし、四十八年にそれだったのがこう下がったにしては、わりあいに日本は失業者なり失業率を急激に変化させずに、企業が赤字を出しておりますけれども、ここでどうにか踏みこたえておるのが現状だと思うのです。もう少し長い目でもって、私は、日経連も定年延長、それから医療問題も含めての定年延長というものを、これはどちらも一挙にはできませんけれども、その方向には極力努力をいたします。号令をせよとおっしゃいますが、これはいまはちょっといたしかねますので、それは御勘弁を……。
  47. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これは私は、経営者団体の方で労働組合と強力な折衝をなさって行うべきであって、政府のやる政策はまさに隔靴掻痒。ことに大企業がやらなければ、中小企業にしわ寄せやったんでは中小企業はたまらない。  そこで私はこれをひとつ要望をしておきますと同時に、この終身雇用制という言葉はどうも本工員だけの言葉ではないか、こういうように私は感ずるわけですよ。日本企業は、造船所に行っても鉄鋼に行きましても、その門の前に立っておりますと、約三割から四割が社外工という下請、臨時工あるいはパートというものです。そうしてこれが雇用の調整弁になっておるわけです。確かに常用雇用者はわりあいに解雇率は少ないかもしれません。しかし、下請中小企業、臨時工というのは雇用調整弁としてほとんど一掃をされておる。これが私は非常に問題だと思うのですよ。でありますから、日本には終身雇用というそれは本工員だけのことであって、外国にない社外工という制度がある。同じ職場で同じ仕事をして、賃金は六割で災害が三倍という。それは労働省の統計でも、鉄鋼、造船、化学、皆三倍なんです。賃金が六割で災害が三倍であるという雇用調整弁がある。日本には労働の賃金の市場が確立しておりませんから、比較的企業別賃金になっておる。しかも、それは本工員である。ですから、この労働の調査にOECDからやってまいりまして、日本はセカンドシチズンがおる、第二市民がおる、要するに同じ企業で同じように働いてこんなに賃金差があるかと。それが一つはやはり日本の高度成長を支えた秘密かもしれませんけれども、これは一掃しなければならぬ問題だ。非常に不公正であるということですよ、日本の雇用構造は。この点をどういうように考えられておるのか。ただ、これは雇用構造というよりも、下請という形で出ておるわけです。これはひとつ両責任者から御答弁願いたい。もう時間もありませんから余り申し上げられませんが、これは非常に不公正な状態です。義憤を感ずるわけですよ。そうして、そこは非常に災害が多いから下請に出そうなんという話が行われておる。ですから下請はたまらないわけです。ひとつ櫻田土光参考人からお聞かせ願いたい。
  48. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまのお答え申し上げますが、季節工、臨時工、パートタイマーという形で企業が一これは双方でございますから、雇用契約関係は御承知のように雇う方が勝手に雇うのではないので、雇用契約関係をパートタイマーでやる、あるいは季節工でやる、臨時工でやるという考え方で、本人と雇い主の方とでやる。ということは、これはその人たちがほかに本業を持っておる、あるいは兼業をしておるんだということで、要するにこれが多いときというものは日本経済社会に仕事が多い、不況でないという事態でございます。  それから、下請を使い過ぎるという御指摘は、これは確かに、いま仰せのような造船とかあるいは鉄鋼とかいった重工業にはそういったなにはございますけれども、これも、下請をなくして、これを全部それじゃ本工に採用してしまえということも急にはいきませんので、徐々に合理化さるべきものである、こういうふうに考えております。したがって、結局その仕事がふえるという経済社会の情勢を何とかして早くつくり出す、そのためには、企業の利潤というものは、正当な妥当な利潤というものは必ずとれるんだというかっこうに持っていきませんと、いまは余りに利潤無視の、経済法則に反した要求ばかりが表に出ておりますので、何としましても経済法則というものは、これは経済体制が違おうが政治体制が違おうが、どうにもならない一つの鉄則、要するに、私がさっき申し上げました、不況というものはジョブ、仕事が減るんだ、企業体の利潤がゼロあるいはマイナスになるんだ、これをどうすればもとに戻すかということについて、やはり貿易をふやすとか、それから技術革新をやるとか、生産性を上げるとかというじみちな努力でいかざるを得ない、かように考えておるわけでございます。
  49. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 徐々に合理化されるべきであるというお話でありましたけれども、私は逆に、臨時工やパートは労働需給の関係でいろいろありましょうけれども、下請ですね、これは専門的なものというなら別なんですよ、ただ賃金を安くするための下請というのに許せないものがある。これは御存じのように、日本の職業安定法ができ、基準法ができたときはなかったわけです。昭和二十七年にその安定法の施行規則を改正さして——これはもう財界がかなり圧力をかけたことも事実であります。そして、従来はその資材は下請業者が自分で持たなきゃならぬ、あるいは施設も下請業者が持たなきゃならぬ、専門的技術も必要であるという条件を、全部専門的経験ということに一本にして、資材は親会社から借りる、そうして設備も親会社から借りる、こういうことにして全部今日のような状態になってきたわけですよ。最近はこれを見習って地方自治体までそれをやるようになった。だんだんこの傾向がふえてきたわけです。これは私はゆゆしき問題だと思うのですよ。こういうような状態が続くと、本当の減速経済に入ってきますと、まず第一に公平ということです。公平ということを一番乱すものである。これは非常に弱い層。組合としても強くない。そうして仕事量を削られるわけですから、すぐこれは首を切られる。それから団体交渉能力は、国鉄の問題でいろいろ言われておりますけれども、大体下請の業者ほど団体交渉能力のないものはないんですよ。ですから私は、そういうものを解消するということが、ことに安定経済に入っていく場合に必要じゃないか。この雇用の二重構造、これがただ賃金が安いからということだけで行われておる問題、私どもは外国に例を見ないわけです。どこの国もこの社外工なんというのはいません。それは専門、たとえばその中の運輸部門を日通が持つとか、そういうことを私は言っているのじゃないのです。ただ単にその企業に隷属したる下請、しかもそれは全部工賃の問題である、こういうものはやはり一掃すべきではないか、こういうように思うのですが、もう一度御答弁を願いたい。簡単にお願いいたしたいと思います。
  50. 土光敏夫

    土光参考人 いま御質問の点は、いま櫻田参考人から御答弁がありましたが、その範囲は私も同感であります。ただし、いま先生触れられましたもっと広範な範囲におきましては、私も先生意見に賛成します。現に造船所あたりにおきまして、私も直接やりましたが、ただ下請であるというのじゃなしに、造船も非常にシステム産業になりまして、製作まで、船体の一部等は、何も大きな設備の要らないところはどんどん別な企業に発注しておるわけであります。そういう問題は、むしろそのものを持ち込んできてやるというので、総称して、まあ分担作業も社外工というような従来の名称で言っておりますが、決して社外工じゃない。協力会社の協力工と言った方がいいかもわかりません。そういうふうに順次変わっております。  それからなお、その他の企業におきましても、できるだけ、何でもかんでも大企業が従来のように一から十まで皆やるというのじゃなしに、専門的に分担してやるということが行われておりまして、これが従来自分の系列会社というのであったわけであります。今後産業構造の転換の問題は、中小企業と大企業との関連、これが一番大きい問題になりますので、いまわれわれも研究しておりますが、これはただ単に従属した直系的な子会社というような観念でなく、別に存在した中堅あるいはもっと零細な企業等もともども一つの目標を分けてやる、全国的にそういう組織を持っていこうというのでありま号から、順次この点は産業構造の改善とともにやっているわけです。たとえば、外国から大きなプロジェクトが来ましても、こういう問題は数百の分業でやっているわけでありまして、現地の組み立て等も非常に多数の企業が出かけていってやっているようなわけでありまして、この点はだんだんと大きくいま変わりつつありますから、もう少しそういう点、お待ち願いたいと思います。
  51. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 最後に一いまの点は、私は主として低い労賃を使うということが客観的に見てきわめて明らかなような場合、かなりあります。専門的なメーカーではない。そういう点は、私はやはり市場賃金というものを考えれば、そういう存在はあり得ないと思いまして、今後そういう方向でお願いをいたしたい。  最後に、土光参考人独禁法の問題ですけれども、これは御存じのように、衆議院では各党が一致して修正議決したわけです。ですから、これは衆議院としてもこういうような法案が全会一致の修正というのは非常に珍しい。まさに画期的であったわけです。それが、いわば、率直に言いますと、経済界の圧力でいまどちらの方向に行くかもわからない、行き着く先の港がわからないような、まあ沈んではいないと言うんですよ、自民党に聞くと。沈んではいないけれども、これは寄港先まではわからないんだと言う。一体こういう法案の扱い方は、私どもはきわめて不見識であると思う。  そこで、とにかく衆議院では一応意思決定がされたわけですから、ひとつ経団連の方もその線で、一応参議院に送って参議院もまだその審議をしてないわけですから、いや、経団連の方で文句が言われておるわけですから、これは何を言っても。ですから、その大元の方をはっきりしてもらわないと困るわけですから、その点をもう一度お聞かせ願いたい。
  52. 土光敏夫

    土光参考人 独禁法の問題についてお答えしろということでありますが、これはいま議会でどういうふうになっているか、私存じません。しかし、経団連としては政府に圧力をかけたとかなんとかいうことは一つもありません。われわれとしては、経済界の総意をまとめまして、そして政府に対して意見を開陳しているのであります。夜陰に乗じて政府の門をたたいたことは一度もありません。堂々と総理を初め表門から参ったわけであります。  ところが、政府の方におかれては、われわれの認識といたしましては、どうも経済界これだけの重要問題について発言しておるのにかかわらず、これに対してはほとんど重要な点にお考えを及ぼしていただいてないというので非常に不審に思っております。ですから、われわれといたしましては、あれが前の国会で、衆議院では可決されたのでありますが、途中で時間の都合か何か知りませんが、あれが成立しなかったことは非常に喜んでおるわけであります。今度新しくやられるのならば、やはり財界の意見も十分御承知いただき、かつまたわれわれもこの不況の際に、現在の独禁法でもいろいろな問題を起こしております。そういう点も御参考の上、ひとつ皆さん方の、先生方の御慎重な御判断をいただきたいと思います。
  53. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 最後に……。
  54. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 だめです。時間が来ました。  次に、石母田達君。十分ですから、要点だけ。
  55. 石母田達

    石母田委員 いま委員長の言うとおりでございますので、しかも、土光参考人櫻田参考人が午前中で帰られるというので、お二人に御質問いたしますので、簡潔にお答え願いたいと思います。  二つの点であります。  第一問は、櫻田参考人に御質問します。私ども日経連の事務当局にお尋ねし、また一月二十五日付の日経新聞によりますと、一月二十六日に開かれた日経連常任理事会で雇用安定措置法案なるものが検討された。その中身は、先ほどから出ております過剰労働者の長期の休職に対する給与について、国が企業に対して一定割合の助成を行うこと、これが骨子になっておると言われております。  ところがその常任理事会で、この法案を制定する運動といいますか、そうしたことを決定されなかったというふうにも伝えられております。その決定されなかったのは、今後こうした法案を出すというようなことを断念して、さらにその中身まで御破算になったのかどうかということを櫻田参考人にお伺いしたいと思います。
  56. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問に対しましては、なくしてしまったということでは決してございません。時限立法でもいいから、何らかの形で超過雇用に対しては金融措置なり、あるいはこれに対する雇用調整交付金制度をもっと拡充するとか、あるいは失業手当法を何とかするとかというふうにしていただくことにずっと研究をしぼっていこう。新しい法案を出しますと、皆さん方も財政関係の法案でとてもいっぱいで、これは半年待ってもできぬぞ、むしろわれわれが苦しいところを何とか政府財政措置で多少でも助けてもらうということだったら、雇用調整交付金制度あるいはいまの失業手当法の改正でもっていった方が可能で早いという考え方で一時これを見送った。新しい法案をつくって政府へ建議することは見送った、これが事実でございます。
  57. 石母田達

    石母田委員 そうしますと、法案をいますぐ出すという点での時期とかいろいろなあれですけれども、中身について、つまりこれは下川雇用特別委員長が提言の中で言っておりますが、過剰労働者を解雇しないで在籍のまま休職にして、三ヵ月ないし二ヵ年ほどの保障は企業と国家で負担する方法をやりたい、こういうことは日経連としては依然として持って、何とかいろいろな予算措置とかほかの法案の改正とか、あるいはこの独自の立法ということについてはいろいろいまだに考えておられる、こういうことで理解してよろしゅうございますか。
  58. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいま石母田さんのおっしゃるとおりでございます。これは決してあきらめたわけではございません。  ただ、申し上げておきますが、昭和三十五年のころに、御存じのように炭労の組織者は三十五万人おりました。それが十ヵ年間に三万人、ああいうときには、公団をつくってぱっと一遍にやれたのでございます。これは高度成長のせいで非常にうまくいったのでございますが、いまはとてもそういうことではいけないので、このやり方については、考えれば考えるほど非常にむずかしい問題がありますので、しばらく時間をいただきたい、これだけでございます。
  59. 石母田達

    石母田委員 土光参考人に自民党に対する政治献金についてお伺いしたいと思います。  新聞などで御承知のように、自民党に対して五十億円の財界からの政治献金ということが言われております。この点について、土光参考人は昨年一五月の東洋経済の中で、個人としてはわらじをはいても金集めをしていくということを答えられておりますけれども、このことはそうであるか。そうしてそうだとすれば、こうしたものは一体、企業においてはどういう支出の項目になるのか。われわれの理解するところでは、かなりいわゆる税金のかからない交際費という、これがいまの二兆円とか三兆円とか言われておる交際費の中身にもなるのじゃないかというふうに考えております。  さらに、そういうことが一体、先ほどから皆さんの答えている、労働者に対しては金がないのだからゼロ%とか一けたと言っていることについて、そういうことで納得させられると思っていらっしゃるかどうか、この点について土光参考人にお伺いしたいと思います。
  60. 土光敏夫

    土光参考人 私が金を集める必要があるならばわらじをはいて集めると言ったのは、報道における——どう言うのか、言ったことは事実でありますが、それだけ切り離して、それと何を結びつけて判断するかということになれば、これは私は意を尽くしていない報道であろうと思うのであります。  私が申しましたのは、従来のような企業ぐるみの献金をするということに対して私は疑問を持って発言したわけであります。したがいまして、さっきも私が意見を申しましたように、とにかくこれは個人をベースにして各政党も金を集められる、必要な金を集められるということは、政治に金は要るのでありますから当然であろうと思います。またわれわれも支持する政策、政党に対して個人で出すということは、これはある意味から言えば義務であるかもわかりません。  そこで、いままで誤解を受けておったような事実があった話は知りませんけれども一般にそういうことはわれわれ経団連としては今後はやらない。したがって、もしも正当な金が必要であるならば、個人をベースならば、私は必要なものはわらじをはいても集めるべきじゃないかということを申したのが、それだけ切り離して報道されているのであります。決して私は何でもかんでも、ある政党が金が要るから集めるためにわらじをはいて歩くということじゃありません。そのように訂正しておきます。
  61. 石母田達

    石母田委員 櫻田会長にこの問題で。そうした自民党に財界あるいは大企業といわれる人たちが五十億円も政治献金をするということは、先ほどあなたが言われたような、あなたの望むような法案とかその中身を取り入れさせろという点では一つの大きな力になるというふうにわれわれは考えますけれども、あなたはどう思っていらっしゃいますか。
  62. 櫻田武

    櫻田参考人 私は、私の友人、たとえば池田前総理が総理になられたときに困ったと思ったのは、物が頼みに行けなくなったということであります。私は政治にそういうことを、献金によって物を頼むということは一切しない。これは私の信念であり、過去私が社長になりましてから三十年間実行してきたところでございますが、ほかの経済界においてもそうあっていただきたい。日経連の会長としてもそういうふうに考えております。決して法案を何とかしていただくためのものではない。これは議会制民主主義の健全な発達のために——これは人間のすることだから金は要る、金が要るんだったら、どこかで何とかお世話せんならぬ。これは合理的で正しい行き方でやらなければいけない。また政治資金規正法ができまして、今年になってからはいままでとは大変に違った状況になっておることは石母田先生も御承知だろうと思うのでございますが、これからはこの勢いで、もっと合理的で、公明で、正しいフェアな政治資金の集め方に政党の方も御努力なさると思いますが、われわれもそういうふうに努力するつもりでございますから御了承いただきます。
  63. 石母田達

    石母田委員 質問を終わります。
  64. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 沖本泰幸君。
  65. 沖本泰幸

    沖本委員 私も持ち時間十分でございますから、端的にお答えいただきたいと思います。  先ほど多賀谷さんがお伺いしたところと同じ点になるわけですけれども、終身雇用制であるから不況の場合に解雇は容易でない、こういうふうな経営者側の御意見があるわけですが、先ほど話がありましたとおり、下請社外工、臨時工やパートの女子労働者も同じように終身雇用と言えるかどうかという点と、また不況になるとこの人たちが一番先に首を切られておるという現実、こういうものをとらえて申し上げたいわけですけれども、特に女子労働者の場合、不況が訪れてきて働き口が少なくなってくるということになると、働く意欲をなくしているという問題が出てくるわけです。そうすると、いわゆる失業の人口あるいは稼働されている労働人口の中にこの女子労働者を入れるか入れないか。そういうものを総体的に日本の労働力としてどういうふうなとらえ方をしていかれるのか。そのこと自体やはり経営側としては同じような終身雇用制というものの枠の中でお考えになっておるのか。こういう人たちの扱い方を今後どういうふうなとらえ方でおとらえになっていらっしゃるのか、この点についてお伺いしたいと思います。  櫻田会長お願いいたします。
  66. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問につきましては、女を一番使っておりますのはわれわれ繊維が多いのでございます。これはパートタイマーにいたしましても、季節工あるいは臨時工で女子の方を使う場合は多くございますが、これはやはり向こうさんも職場によりましてだんだんだんだん合理化されてきまして、たとえばミシンなんかは、午前中はおっかさんが来て午後は娘さんが来るとかいうふうなやり方等でわりあいにうまくいっておる。ただ仕事が全然なくなりますれば、これは仕方がないから仕事の時間を減すとか休日をふやしていただくということは、本工とそう変わりなくやっておるのが事実。  それから下請の問題は非常な不合理であるという御説がございましたが、造船とか自動車とかいう問題は、これはアセンブルでございますから、分担しての仕事が対等の立場で行われておる。一等不合理な問題が起こりやすいのは土木建築業等の職場でございます。これは日経連でも土木建築関係の皆様ともよく懇談の機会を持ちまして、この間でなるべく早く合理化なさるようにというふうな方向には——これは土木建築側もその方向に向かっておられます。したがって、小さい土建業で店をお閉めになるのが一等多うございます。繊維以上に多うございますが、やはりこの一つのあらわれでございまして、さように御了承いただきたいと思います。
  67. 沖本泰幸

    沖本委員 先ほどお伺いしたのですが、結局失業者がふえてこれからどれぐらい出るかというような問題、そういうものによってこれからの雇用対策なり何なりというものがあるわけですし、経済の移行というものに大きな影響を及ぼしていくわけですけれども、そういう中に女子の労働者を労働人口としてとらえていらっしゃるのか、いらっしゃらないのか。これは外してお考えになっているのか。パートタイマーだから入らないんだとかいうことになると、先ほどお伺いしたとおりに終身雇用制であるという概念の中にこの人たちは入ってないということになると、日本の労働人口のとらえ方にばらつきがいっぱい起きてくるわけです。そうなってくると、いろいろな数字の誤りも出てきますし、またその扱い方によっては、女子だけが特別の考え方で扱われておるというふうな問題も出てくるということになるわけですが、これからのため、あるいは現在の統計のためにも、あるいは経済の移行のためにも、女子労働者の扱い方をどういうお考えでとらえていらっしゃるか。そこのところをお伺いしたいわけです。
  68. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問お答え申し上げますが、女の人の職場については、元来の本工と申しますか、これは雇用契約をちゃんと結びまして、決まった時間に決まった仕事をきちっとやってもらう。そのほかにパーセンテージはそう大きくはございませんが、一割あるか五%あるかという程度だと思います、職場にもよりますけれども、これはパートタイマーとかあるいは臨時工、季節工が入っておる。これは本工とは別の扱いになっております。ただ労働統計の上で、この人たちが職場から離れたときの調査に対して、失業率の調査は、御承知であろうと思いますが、三千四百世帯ぐらいにつきまして調査票を送ってやるわけでございますから、これを、自分は失業じゃないんだというお届けをなさる方もありますし、そうでなく、これは失業だとお考えになってなさるところもあるし、その点は統計製作上は確率というものについては少し不分明なところは、これは現状においてはいたし方がないとわれわれは考えております。臨時工、パートタイマーは雇用労働者数の中から全然別にするかせぬかということは、雇い主の方からすれば、これはもちろん自分のところの使用人で雇用契約を、短期の雇用契約を時間、日にちを限ってやるのでございますから、雇用契約関係で使用者と心得ておることは間違いございません。
  69. 沖本泰幸

    沖本委員 その辺のとらえ方に、先ほど多賀谷先生が御質問された問題と同じ底があるように私は考えるわけです。こういう点もやはり労働力あるいは労働資源という内容からお考えになる面からは考えを改めていただいて、女子労働者もりっぱな労働者であるという概念の中からとらえていただくような方向で改めていただきたいと思います。  それからもう一つでございますけれども、これは先ほど少しお触れになっておられましたけれども、やはり歩積み両建てと同じような意味合いになるわけですけれども、ほとんど建設事業とかそういう仕事の中に多くあるわけですけれども、下請していらっしゃる方々が労務者を連れて中へ入っておるけれども、その労務費までも一緒に六ヵ月、八ヵ月という手形で支払われる。そのために、労務費そのものを現金で労務者には払わなければならない。小さな下請になると、そのつなぎに四苦八苦する。そのためにどこかに逃げてしまう。こういうふうな問題で、全然支払ってもらえないような人たちがだんだんだんだんいまふえてきているわけです。こういうふうなものも、企業の側に行くと、そういう文句を言うんなら、幾らでもどこからでも雇えるというようなことが盛んに言われて、泣き泣き六ヵ月、八ヵ月という手形をそのままのみ込んで、労務者を連れて仕事をしなければならない。これが実態なんです。これは下請の小さな問題になってくるわけですけれども、先ほどお話があったとおり、土光会長もおっしゃっていましたけれども、大型プロジェクトになってくると、いろいろな分担の仕事を、いろいろな立場から、いろいろな人が集まってやってくる、その中で起きてくるわけです。そうすると、もろに不況の波をかぶって、苦しんで、ふるいにかけられていくのはこの人たちということになるわけです。こういう点について将来これから改善していただくか。そういうお考えがあるか。業界の中にそういう問題をとらえて内容を改善するような方向でおやりになるかどうか、この点についてお答え願いたいと思います。
  70. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまおっしゃるような事実が現にあることは私も承知いたしておりますが、特に土木建築関係にある。そういう場合で、ひどく質の悪いのは労働基準局なり職業安定所の方からやはり相当行政指導もしていただかなければいけない。それからいま一つは、下請の方と本請の方とがやはり合理化努力していただかなければならない。経済団体といたしましてはそれの指導、と言うと言葉が過ぎるかもしれませんが、リコメンド、一緒にこれは何とか是正しようではないかということの努力はいたしております。ただ実際問題として、それがいやなら雇わないぞ、それほど雇用は優位ではございませんので、そう簡単にそれはやめるというようなことはできはいたしません。それほどいま簡単に人間は、下請といえどもそう入れる状態ではございませんよ。全然の素人で身体検査もせずに入れるなら別ですけれども……。
  71. 沖本泰幸

    沖本委員 時間が来ましたので終わります。
  72. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 和田耕作君。
  73. 和田耕作

    和田(耕)委員 先ほど櫻田参考人の御答弁にありましたことですけれども、またそれはそのとおりだと思いますが、いまの企業の金利負担と人件費負担というものが企業の経営を非常に苦しくしているというお話がございました。そこで人件費負担ということになると、アメリカ等であればレイオフが行われて一応合理的に解決されるけれども日本の場合は終身雇用制というものがあるので、なかなかそうはいかないのだという問題がある。そうしてまた金利負担ということになると、自己資本が二〇%を割って一五%前後だという状態から見れば、なかなかこれも解決するわけにはいかない。もしこれを解決しようとすれば、少なくとも一〇%近い成長を維持するという状態が続かなければ、この金利負担と人件費負担に耐えて相当の支払い収益を持っていくことはできないということになりますと、しかし今後、福田副総理もおられるのですけれども、継続して一〇%内外の成長というものは絶望的なものであるということになると、結局いまの二つの問題に対して、経営者企業としてはどういう基本的な態度をおとりになるのか。これをひとつ土光参考人櫻田参考人にお伺いしたい。
  74. 土光敏夫

    土光参考人 いまの御質問でございますが、この問題はやはり日本産業構造もこれから変わってまいるわけであります。政府が発表されております産業構造のビジョンを見ましても、一〇%の成長は今後はできないでありましょう。しかし、企業によっては潜在成長力を持って発展する種類の企業もありましょうし、あるいは六%もいかないのもありましょう。しかし雇用問題につきましては、昭和六十年を見当にしましても、決してそれで余るということにはなっておらないと思うのです、増加率を見ても。そこでわれわれとしましても、とにかく能率を上げて、賃金は順次上げなければならないけれども、やはり完全雇用の線に沿うてわれわれも努力すべきであるので、結局のところ単純労働というようなものはなくなって、いろいろな人員の組み合わせの率が変わってくると思うのであります。目下われわれもこの点を非常に研究しておりますけれども、私はそういうことは起きないだろうと思っております。ことにソフトと申しますか、ただ物をつくるというだけでなく、もっともっと高度の知能的な産業がふえてくる。それから輸出にしましても、ただハードのもの、機械を売るというのでなしに、もっと知能的な要素を組み込んだ、ソフトが相当パーセンテージを占めたものを今後やっていくために、われわれはどういうふうにあるべきかということを目下やっておりますし、現に順次それが発展しつつあるのであります。いろいろと諸先生も御心配いただいておりますが、われわれとしても、決して大企業は勝手なことをやればいいというのじゃなしに、全体的な問題をわれわれも大きく研究しながら進んでいく、そういう意味で、目下非常に不況でありますけれども、一面安定成長にいかに取り組んでいくかという点の研究も怠ることができないので、二重の意味で二重苦にわれわれはいま苦しんでいるわけであります。  そういうわけで完全な形でお答えできませんけれども、われわれはそういういま先生の御心配の点は十分ひとつ今後の展開でやっていこうというふうに考えておりますから、どうぞ御指導をお願いしたいと思います。
  75. 和田耕作

    和田(耕)委員 櫻田参考人からの御意見もお聞きしたいのですけれども、十分という時間でございますので、後で関連したところでお答えをいただきたいと思います。  私が心配をしますのは、そういう基本的な体質を持っている日本経済というものが、今後、安定成長といってもいわゆる八%前後の成長を続けていくことができるかどうかという問題。その問題についての基本的な一つ対策というものを考えておかないと、今後いろいろな場面でめんどうな問題を起こしてくるのではないか。  時間がありませんから、ここで一つだけ終身雇用制の問題についてお聞きしたい。  アメリカの場合はレイオフだということですけれども日本は終身雇用制があるから企業で抱えている。しかし、この各企業で抱えている限度が今後守られていくかどうか、非常にあやしいものだということを思うのですね。そういう場合に、しかし、まあ日本の伝統的な慣習だから終身雇用制だけは何とか維持したいということになれば、高齢者の雇用という問題について特別な配慮が必要だと私は思うのです。その問題について政府も労働省の方もいろいろと考えておられるようですけれども、定年延長の問題と関連して、高齢者を先に事実上首切るようなことをやめるという、そういうふうな配慮を考えておられるかどうか、櫻田さんからひとつお伺いしたい。
  76. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問につきましては、私は石炭の整理を昭和三十五年から十年ぐらいかかってやったときに、雇用促進事業団とかそれから石炭労務者の転職のための職業教育の公団とか、ちょうどあのとき公団を三つつくったはずでございますが、ああいうもので——これはもちろん定年でやめさせる人の会社もある程度負担をしなければなりませんし、政府の方もせっかくのこの労働力の雇用をうまく促進させて新しい雇用面を開く、それから身体障害者についても同じような、こういう一つ機関をつくってやるうまい方法はないものだろうかということも、私の方も日経連として研究中でございますので、これは仰せのようにやらなければいけない、こう思います。  それから、もう一点の経済成長率につきましては、私の基本的な考え方は、実質成長は少なくてもいいから年々なければいけない。これがやまったら、パイが大きくならないのにパイの分配を受けようという人間がいっぱいふえるのですから、もう自由社会は破滅してしまって、統制経済で憲兵と経済警察がなければ分配はできないというふうなことになるからして、どうしても実質経済成長を伸ばさなければいけない。ただ伸ばし方については、七%潜在成長力があるから七%ということは少し無理なので、これは外国の方ともにらみ合わせた上で、アメリカのまねは日本はとうていできませんが、ヨーロッパ諸国ぐらいのところに負けない程度のところができれば、それである程度満足しなければいけないのではないか、そのかわり安定した経済成長というものは絶対にキープしなければいけない、こういう考えでございます。OECDの調べに私は満幅の信頼を寄せるわけではございませんが、まだまだ日本はイタリアやイギリスに比べればはるかにできのいい方でございます。ドイツに比べますとときどき負けるのでございますけれども、われわれが技術開発を一生懸命にやって、生産性の向上に十分努めますれば、私はほかに負けないだけのことは可能だ、こう信じておるのでございますが。
  77. 和田耕作

    和田(耕)委員 時間がもうなくなりましたが、福田副総理が昨年の経済指導、物価安定のために非常に御苦労なさった、これは非常によくわかります。わかりますけれども物価ということが非常に念頭にあったので景気回復がおくれたということも事実だと思います。これはだれを非難するよりも日本国じゅう、全体の人がそういう感じを持ったのですが、全部の学者、経済学者も福田さんの主張はある程度支持しておったのですから、しかしそれが間違ったということも事実なわけで、端的にお伺いしますけれども不況対策が進められておりますけれども、今後物価が少々上がっても不況対策をやるべきだとお考えになっていらっしゃるのか。どちらもということはわかりますけれども、それじゃどちらもうまくいかないわけで多少物価は上がっても不況対策をやるべきだとお考えになっておるのかどうか、お二人からお伺いしたい。
  78. 土光敏夫

    土光参考人 われわれは過去をどうこう言う段階でもないと思います。ですから、われわれは、いま先生方が非常に御苦心いただいている新年度予算を一刻も早く設定していただいて、そうしてこれを一刻も早く、ことに前半において重点的に持っていってもらう。経済界におきましてはこれに呼応して本当に背水の陣をしいていかなければ、今年度経済成長政府の御計画は、われわれは悲観しておりませんけれども、なかなか達成できないと思っております。  つきましては、いま申しますように決して悲観しておるわけではありませんけれども、絶対にこれはやっていかなければならない。そのために物価はどうであるかといいますと、経団連の申し上げておりますのは、ことしの消費者物価政府の御健闘、御努力によって、多少いま生鮮食料品で一月は上がったようでありますが、一けた台にいくだろう、こうわれわれは考えております。ただ問題は、卸売物価に至っては今年度はほとんど横ばいであります。とても三%、四%も上がっておりません。しかし、これはわれわれとしてはさらに努力して物価が上がらぬようにいたしますけれども、油の値段が四倍以上になった。その他輸入物資が全部上がっている。その中において政府の一昨年からの御施策で物価は第一に考える、これをわれわれは尊重してやってきた。結果は、御承知のようにまだ卸売物価においては、つくっても赤字でなければ売れないというコスト割れの物価がずいぶんあるのであります。これはとりもなおさず企業の安全をもうすでに非常に危なくしておるのみならず、こういうことでは来年度の税金もお払いしようとしてもできないというのでありますから、これは物価を上げるというのではなしに、物価の適正な調整をひとつお願いしたいということがわれわれの考えであります。決して物価を上げようというのではありません。
  79. 櫻田武

    櫻田参考人 私は、この日本の国柄としてどうしてもインフレ体質というものはぬぐい去れないと思う。どういう面かといいますと、三つに分けけます。一つ財政インフレのおそれがある。いま一つはコストインフレですね。これは先ほど申し上げたように賃金と物価の悪循環、それから金利の負担等々でコストインフレのおそれがある。第三番目は、それで貿易が弱ってきますと、どうしても円の価値が保ちがたい。三百円内外ならまだよろしゅうございますけれども、三百十円、二十円というようなことになりますと、これは大変な為替インフレのおそれがある。インフレというものは、いまの労働力人口は御承知の五千二百万人でございます。その中で雇用関係にある者は三千六百十万人でございますけれども、それ以外の子供にしましても老人にしましても、社会保障を受ける人たちは物価が上がるということが一番困るのでございます。ですから、不況対策のために物価が上がってもいいとかいうことは、これは困る。こういった一番弱者——という言葉は言いたくございませんけれども物価騰貴によって自分の生活を切り詰めざるを得ない人間が一億一千万のうちで半分以上はおるのだということから言いますと、インフレ防止をまず第一にするということで、その上で不況対策をやっていただかなければいけない。ただ不況対策も、日本のような体質でございますと、貿易がふえんならぬのは相手もあることでございますのでこれはある程度待たなければいけない。それからわれわれの労働、勤勉に働くということなり技術革新もやりながら、結局やればよろしいという考え方で、外国と比べて日本の成績がひどく悪ければ別でございますけれども、そう悪くはないというふうに私は存じております。
  80. 和田耕作

    和田(耕)委員 終わります。
  81. 荒舩清十郎

    ○荒舩委員長 以上をもちまして、土光参考人及び櫻田参考人に対する質疑は終了いたしました。  お忙しいところをまことにありがとうございました。御苦労さまでございます。お帰り願って結構でございます。  午後一時二十分より再開いたします。  暫時休憩いたします。     午後零時四十一分休憩      ————◇—————     午後一時三十二分開議
  82. 小山長規

    ○小山(長)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。掘昌雄君。
  83. 堀昌雄

    ○堀委員 参考人の皆さん、大変御苦労さまでございます。  本日は、不況の問題あるいは今後重要な課題になります賃金の問題、あるいはまた物価の問題等重要な問題があるわけでありますが、まず最初に安恒参考人から、当面するこれらの問題についての皆さんのお考えをひとつ簡単にお述べいただきたいと思います。
  84. 安恒良一

    安恒参考人 私は、不況、雇用問題、賃金、物価問題等に対する私どもの現在における基本的な考え方について申し述べたいと思います。  まず、これは委員先生も御承知のように、高度経済成長政策というものは、わが国におきまして忍び寄るインフレということで、徐々に高度経済成長政策の中にインフレが高進をしてきておったのでありますが、それが爆発的になりましたのは、一つ昭和四十八年の秋、いわゆるオイルショックと言われる世界的な原料高の問題、それに加えて、当時田中内閣がとられておりました列島改造方針、こういうものが爆発的なインフレを引き起こしたことば御承知のとおりであります。  そこで、四十八年の秋から、政府の施策といたしましては、財政金融の引き締めを行ってインフレを防止をする、こういうことがとられたわけであります。このような中で、実は四十九年の春闘は、消費者物価が二五%も上がっておりましたし、卸売物価が三〇%も上がっておりましたから、そこで私たちは平均で約三三%の賃上げを行いました。  問題は、それから先のことが重要なのでありますが、四十九年の秋からとられましたところの政府の政策というのは、私も午前中に申し上げましたように、いわゆる七五年、五十年の春闘を意識をいたしまして、賃金を上げないための不況政策というものが強行されたというふうに思います。すなわち、もうすでに当時、このまま引き締め政策を堅持をしていくならば、労働市場の悪化、雇用問題、さらにわが国の経済成長がマイナスになるということ、中小企業の倒産等がたくさん出る、こういうことは非常に問題になっておったのでありまして、いわゆる財政金融引き締め政策を堅持するのかどうかというのが当時国会の中でも非常な議論になったところであります。ところが、あえて政府、財界は一体となってこれをやられましたのは、一にかかって、率直に申し上げて、七五年春闘の賃金抑制ということを意識をされた上で引き締め政策が継続、強化されたというふうに私たちは考えるわけであります。  その結果、物価は上昇が低下したことは事実であります。もちろん物価上昇が低下したと言っても、現在でもなお対前年同月比一〇%前後でありますから、私は高いと思います。しかし、その結果何が起こってきたかと言いますと、御承知のように実質賃金の停滞、それから雇用不安、福祉の停滞、いわば労働者と国民生活の犠牲の中で物価安定というふうに向かったのは事実だろうというふうに思います。もちろん、私たちもこのような政策を黙って見ておったわけではありません。七四年の秋ごろから、この引き締め政策を日本的所得政策というふうに名づけまして、私たちはいわゆる賃金、雇用を犠牲にする引き締め政策について不当性を主張してきたところであります。  そこで、問題になりますのは現在の局面でありますが、いまの局面は、戦後最大の不況から回復の過程へあるというふうにわれわれは考えます。ところが、この回復の過程の中で一番大きい問題は何かというと、いわゆる雇用情勢の悪化問題と、個人消費が一向に伸び悩んでいる、これが大きな問題だろうと思います。率直に申し上げて、今回の景気回復というのは従来の型と違って、きわめて複雑な様相を含めながら徐々に回復していると思います。しかし、いま申し上げましたように、これをミクロで見ますと、いまもってやはりどろ沼の状態にあるというふうに私たちは見ているわけであります。  したがって、私は、これを放置しておったならば、景気の回復ということはさらに問題が出てくると思います。特に、日経連が、きょうも午前中参考人として述べられましたが、いわゆる本年の賃上げを一〇%からゼロにする。こういうようなことでもしも推移しますならば、私は、このどろ沼状態というものはますます悪化することになるだろうというふうに考えるわけであります。ですから、こういう状態を救うのが、私は政府の施策の責任であろう。そういう意味から言いますと、政府の施策の責任というのは非常に重要だと思います。  それはなぜかといいますと、結局現在の不況というのは、政府みずからの施策的に生み出されたのが現在の不況であります。でありますから、この雇用不安問題、不況問題を回復するのは、やはり私は政府の施策の責任として行われるべきではないだろうかというふうに考えます。だれが考えましても、率直に申し上げまして、マイナス成長とか不況が好ましいと考える人は一人もいません。また、操短が続いて失業が多くなるというような問題についても、これは反対でありまして、わが国の経済が安定した成長を求めることは当然であります。ただ、そこで問題になりますのは、どんな方法で景気を回復するのかというところだと思います。また、ただ単にむちゃくちゃに成長率が上がればいいというふうに私たちは考えないものであります。  そこで、私は、不況対策、雇用対策について、次のように実は考えるわけであります。  まず第一に、第四次不況対策、それから、いまこの予算委員会先生方が五十一年度予算について十分な御審議をされているのでありますが、私たちから言わせますと、政府の四次不況対策、それから五十一年度予算は、主たるものを見ますと、率直に申し上げて、たとえば本四架橋の設置の問題であるとか新幹線の建設の問題であるとか、いわば田中内閣の当時に列島改造政策ということで準備されました大型プロジェクトを中心とする景気対策であるように私たちは考えるわけです。すなわち、この路線というのは、投資財部門を中心とする需要の増大を起動力といたしまして大企業の利潤を増大させる、それによって投資成長率を高める、こういう路線だというふうに思います。わかりやすく言うならば、基軸産業中心型あるいは大企業の利潤中心型であります。すなわち、これらの利潤を増大することによって景気を回復させようとされているのであります。  私はここで考えますと、列島改造というものが狂乱インフレを引き起こした、そしてその対策として引き締め政策が行われた、そしてまたその引き締め政策の行き過ぎを直すために再び列島改造型方法をとられようとしている。このことはどういうことを意味するかというと、経済成長したときも停滞をしたときも常に労働者と国民が犠牲になっているということであります。  そこで、じゃぼくたちはどういうことを考えるのかというと、私たちはいまの景気回復の局面を次のようにやるべきではないだろうかというふうに思っています。  まず私たちは、福祉型政策というふうに呼ぶのでありますが、狂乱インフレと戦後最大の不況の過程で非常な犠牲をこうむっております国民生活と福祉の改善、それから消費支出の増大、これをてことする景気回復政策をやるべきではないだろうかというふうに思うのであります。  特に重要な視点といたしましては、短期的成長率の上昇ではなく、中期的に国民福祉の充実になることを十分考えるべきであろうということが第一点であります。それから第二番目には、雇用効果が具体的に出るような政策をとらなければいけないということではないだろうかというふうに思います。  じゃどんなことを具体的に考えているのかということになりますと、第一点は、私は午前中にも議論になりましたようないわゆる所得税減税、それから社会保障給付費の拡大、これは率直に申し上げて低所得者を中心とする消費の拡大ということに連なっていくわけであります。  それから第二番目には、率直に申し上げまして、国家財政投資、地方自治体の財政投資、公共投資のあり方という問題では、一つは、私はやはり公営の賃貸し住宅の建設を中心とする住宅建設が必要であろう。それから第二番目には、義務教育や高校の不足に悩んでいる都市が非常にあるわけでありますから、こういう学校の建設を行うことが必要であろう。いま一つは、住宅環境整備ということで、上下水道の問題なり、公園の問題なり、このような問題をやはり積極的に取り上げていただくということが必要ではないだろうか。  それから雇用効果の面につきましては、一つは、やはり積極的な雇用拡大ということについてやるべきではないか。たとえば週休二日、週四十時間制について、公務員は試行を行うということを決めておったのでありますが、今日の局面で政府がちゅうちょされています。私は、公務員や金融機関にまずリードさせる、そして週休二日制というものをきちっと絶対的に設定していく、こういうことをぜひお考えをお願いしたいと思います。  率直に申し上げまして、五十一年度一般会計は二十四兆二千九百六十億千百万で、これを政府の皆さん方は、「景気浮揚に苦労していい予算」と、こういうふうにごろを合わせられているというふうに聞きますが、私たちはあの予算の中身を見ますと、低福祉で、大企業にはいい予算でありますが、国民にとりましては、「福祉を袋だたきにするいいかげんな予算」、同じ数字でも読み方によるとこう読めるわけでございまして、そういう中身について十分なお考えをひとつお願いをしたいと思います。  それから賃金との関係についてでございますが、私たちは、わが国の景気を拡大していくためには、ざっくばらんに言って^一つは、国際的に輸出がどう伸びるか、第二番目には、いわゆる設備投資がどう伸びるか、第三番目には、やはり個人消費の拡大がどうされるか、第四番目は、やはり投資の中でいわゆる国家並びに地方自治体の財政投資、これがどのように使われるか、このことが景気浮揚政策につながっていくと思うのでありますが、その中のいわゆる個人消費の伸びの問題につきましては、私たちは、賃金をふやしていく、でなければ、一つは減税政策をとるか、これが必要ではないだろうかと思います。  その場合に、賃金について私ども考え方を申し上げますならば、率直に言って、昨年の春闘は、賃金を上げました直後において、物価上昇にも及ばなかったわけでありますから、実質賃金がマイナスになっています。ですから私は、個人消費の枠を拡大するためにことしは適切な賃上げが必要だと思います。  それがために私たちが考えますことは、まず物価上昇に見合うということが一つでありましょう。第二番目には、わが国の経済成長に従った、いわゆる国民生活の成長に従う労働者の実質生活の向上ということを考えなければなりません。第三番目には、私は政府の税調委員もしているのでありますが、ことしは十六年ぶりに所得税減税が行われません。率直に申し上げて、いまの高度累進課税でありますから、べースアップをすればそれだけ所得税はふえるわけでありますから、実質増税になります。この面についての配慮をやはり賃金の中でしなければなりません。また、来年度予算の中を見ますと、健康保険の掛金や厚生年金の掛金や一部負担等の増大が考えられています。こういうような問題におけるところの労働者の実質所得が減るわけでありますから、このような問題を考えなければなりませんし、さらに御承知のように、インフレに対するところの労働者の預金の目減り、このような問題等についても私たちは考える、こういう観点からやはりこの賃上げを決めていきたいものだと思います。  でありますから、私が申し上げたいことは、どうしてもいまの景気の局面というものを、いわゆる日経連やそれから土光さんの御主張を聞いておりますと、どうも縮小再生産の方向にとろうとされているんじゃないかと思いますが、私たちはやはり国民や労働者の生活、福祉を豊かにしながら、景気拡大を中期的に行っていく、こういうやり方をとることが国民全体のためになるのではないだろうかと思いますので、ちょっと時間が長くなりましたが、基本的な考え方について申し述べました。  以上であります。
  85. 堀昌雄

    ○堀委員 河野参考人からもちょっと簡単にひとつそのお立場から、不況と賃金、雇用の関係についてお触れいただきたいと思います。
  86. 河野徳三

    河野参考人 お答えいたします。  午前中にもちょっと申し上げたのですけれども、それとの関連でまた申し上げたいと思います。  まず、ちょっと話が大きくなりますけれども、これからの経済政策の方向ということでございますが、われわれはこれからの経済政策の目標というのは、やはり何といってもまず第一に、完全雇用の確保というところに置かれなければならない、あるいは労働力需給の均衡を維持していくというところに置かれなければならないと考えているわけです。これは、労働者の生活を安定させるという意味でも重要であることはもちろんでございますけれども、同時に、今後大量の失業が常時存在するというような状態になれば、これは当然非常な大きな社会不安、社会的緊張を激化するわけでございまして、そういう事態が起こらないようにするためにも、完全雇用の確保というのは最も重要な政策目標でなければならないと、こう考えているわけです。  ところで、これから完全雇用を確保していくためには一体どうしなければならないのかということなんですけれども、これは二つの面からの接近が必要だと考えております。簡単に言えば、質量両面からの接近ということになりましょうか、質的な側面というのは、つまり制度の問題でございます。これは後で申しますけれども、これから完全雇用を確保していこうとすれば、当然一定の経済成長というものを続けていかなければならないと思いますけれども、いずれにしても、これまでのような非常に高い高度成長、それに伴う極端な労働力不足経済というのは、これは期待できないし、またそのことが望ましいかどうかということもきわめて問題でございます。いずれにしても、多かれ少なかれ、雇用不安がつきまとう、こういった状態にならざるを得ないのではないかと考えます。  そういたしますと、そういう雇用保障をする雇用保障制度というのは、先ほど申しましたように、完全雇用の確保が最大の目標であるとするならば、まさにこの減速経済下では、そういう制度が社会経済の中の必要不可欠な制度としてビルトインされていなければならないということが言えるんじゃないかと思います。ところが、じゃ、こういった制度的な側面で日本の制度は果たして十分であるかどうかということを考えてみますと、われわれはきわめて不満な状態にあると考えざるを得ないわけでございます。  余り細かい問題点を指摘する余裕がありませんから、ごく大まかに申し上げたいと思いますけれども、確かにわが国には失業給付もありますし、あるいは職業訓練制度もあります。一応制度は皆そろっておりますけれども、残念ながらその一つ一つの制度がみんな寸足らずでございます。いわゆるミニチュアでございます。おまけに今度はそういう制度がそれぞればらばらに運営されていて、そこに一貫した雇用保障体系というものが浮かび上がってきていない。したがって、実際に労働者が失業をしたときに、そういう制度の適用を受ける場合に、本当に国が失業者のめんどうを見てくれているのだという実感を伴わないような、そういう制度になってしまっておる。したがって、政策的な側面から、そういうような制度を改善をし、かつ、それらを一つの雇用保障制度というシステムにまとめ上げていくということが当面まず最も重要なことではなかろうかと思います。かといいまして、今後仮に常時大量の失業者が発生するような非常な低率経済成長あるいはゼロ成長経済ということになりますと、いわゆるそういう雇用保障制度を維持するために膨大なコストがかかるわけでございまして、一面では可能な限り失業者が出ないような、そういう経済の姿をつくっていくということを考えなければなりません。  これにはもちろん、先ほど安恒さんが御指摘なさったように、時間短縮の問題とか、そういう問題もきわめて重要であることは言うまでもありませんけれども、また同時に、われわれは大いに時間短縮をやるべきだと考えておりますけれども、しかし残念ながら、時間短縮というのは、いわゆる雇用機会を新しくつくるということに対してはそれほど即効的な効果を持たないのではないかと思います。したがって、当面まず考えなければならないのは、やはり景気を回復し、日本経済を一定の安定的な成長の軌道に乗せるということがぜひとも必要ではなかろうかと思います。  ところで、これから日本経済を安定的な成長の軌道に乗せるといった場合に、どうやってそれを安定的な軌道に乗せるのかということが次の問題点ではなかろうかと思います。なお、ここには完全雇用を維持するためには一体どの程度成長がこれから必要なんだといったような議論も当然あるわけですけれども、時間がありませんので、いまその問題はここでは省かしていただきます。これは午前中申し上げましたけれども日本経済がこれから減速経済に移行するということは一単に成長率が下がるということだけじゃなくて、まさに成長のメカニズム自体が変わるのだということをこの際強く認識する必要があるのではないか。このことは、すでに昭和四十五年ごろからいわゆる設備投資主導型の日本経済にだんだんと変化が見え始めているということが多くの方面から指摘されておりますけれども、いずれにしましても、これまでのように設備投資が設備投資を呼ぶとか、あるいは輸出の非常な高い伸びが日本経済を引っ張っていくといった姿にはこれはなり得ないのであって、午前中申しましたように、成長を支えていく最大の要因というのは、結局は財政と個人消費ということになっていかざるを得ない。もちろんそれだけで決まるというわけじゃありません。もちろん輸出の役割りがなくなったと言っているわけじゃありませんけれども、基本的にはそういういわゆる成長を規定する要因というものが変化をしているのだということをもっと見詰める必要があるんではなかろうかと考えているわけでございます。  ところで、その個人消費支出を着実に伸ばしていくためには一体何が必要なのかということでございますけれども、これは当然賃金の問題と、それから午前中にも先生から御指摘ありましたけれども、減税の問題が出てくるわけでございます。  まず、減税の問題についてどう考えているかということを申し上げますと、われわれは従来からいわゆるインフレ調整減税ということを主張しているわけでございまして、ことしの場合も少なくともインフレ調整減税的な減税はぜひともやるべきである、こう考えております。しかし、一部の学者が御主張なさっているように、それを超える大幅な減税をこの際やることがいいかどうかということについてばかなりの疑問を持っているわけでございます。それは、一方ではこれからも福祉を拡充しなければならないという、いわば至上命令があるわけでございまして、そのためには当然一定の財源の拡大が必要であるということにこれはなってくるわけでございます。もちろん、その場合には今日の税制の不公平とか、いろいろな問題が介在をしておりますけれども、仮に先ほど申しました調整減税を超えるような大幅な個人減税というものを限定なしにやりますと、後でこれは別の意味で非常な困難な状態を招くおそれがある。そこで、午前中堀先生がおっしゃっていました、いわゆる時限的に大幅な個人減税をやったらどうか、こういう御意見がありましたけれども、そういう形での個人減税には私どもは大いに賛成でございます。しかし、話の順序が逆になりましたけれども、だからといって、じゃことしの賃上げが低くていいかということはわれわれは考えないのであって、やはり賃金の引き上げについても適正な賃上げをぜひともやるべきである、こう考えているわけでございます。  じゃ、どの程度賃上げがことしの場合に果たして妥当なのかということが、その次の問題になりますけれども、この場合には、当然、ことしの経済成長率を一体どうするのか、あるいは賃金と物価との関係をどう考えるのかといったような、いわゆる具体的な数字の問題が介在をしてまいりますので、また後で御質問があればお答えすることにいたしまして、さしあたりは基本的な考え方だけで終わらせていただきたいと思います。
  87. 堀昌雄

    ○堀委員 いま基本的な問題についてお二人からお話がございました。そこで私は、特にけさほども伺っておりますが、賃金問題と物価の関係というところを中心としながらお伺いをしてまいりたいと思います。  けさほど日本経営者団体連盟がお出しになっております「賃金問題研究委員会報告」というものに触れながら櫻田さんにお伺いをしたわけでありますが、ここの中で、実は私も指摘をしてまいりましたけれども、これまでの生産性プラス物価上昇分という賃上げ考え方は間違っているんだという問題提起がされておりましたけれども、アメリカにしても西ドイツにしても、先進諸国ではどうもそうではなくて、物価の上昇と生産性の向上部分というものと、西ドイツの場合にはプラスアルファがさらにまだ加わっているという状態で、そういうことであっても西ドイツは物価は世界で一番安定しているということになると、どうもここでいろいろ言われておりますことは必ずしも私は実証的でないんじゃないか。経営者の皆さんの立場からしてはかくありたいという希望を述べておられることば、私はわかるのですが、どうも日経連の方たちがおっしゃると、それが希望ではなくて経営者全体を拘束する形になるというところに実は問題がある、私はこう考えておるわけであります。  そこで、総評とか同盟とか、おのおののナショナルセンターではおのおの賃上げについてのいろいろなお考えがありますし、そのことの個別的な問題を伺う気持ちはありませんけれども、まず私どもは、何としてもいまの日本経済を浮揚させるためには少なくとも政府考えておる程度の個人消費が拡大をしないことには、政府考えておる成長、実質で五・六という成長は達成できないんだ。この間、私は当委員会福田副総理に伺いまして、大体雇用者所得の伸びが一二・八%と分配国民所得の中で提示されておるが、雇用者の増加分一%と見ると、残る二・八が実は時間内給与と言いますか、の伸びだ、こういうことになるわけでありますから、これから換算すると、まあまあこれは九ないし一〇%程度というところの賃金の上昇を大体期待しておるんではないだろうかということについて、福田副総理もあえて反論はしません、こういうことでございました。ですから、実は日経連の昨年の資料の中にこういう表が出ておるわけであります。昭和五十年の賃上げを一四%、五十一年の賃上げを八%、五十二年の賃上げを七%とするならば、カレーライスの値段は余り変わらない、さらに為替も安定をし、国民の貯蓄も余り目減りをしないようにいけるという資料が実は日経連の方で出されておるわけでありますが、それを見ますと、日経連といえどもどうも八%ぐらいは一けたでも考えているということのように思うのですが、しかし、ゼロから一けたという表現は、なかなかどうもそれよりはもっと厳しそうに聞こえるニュアンスがあるわけですね。  そこで、ひとつ安恒参考人に伺いたいのですけれども、これを皆さんはどういうふうに受けとめておられるか。昨年も一五%と言って、これはまあ完全に押し切られたかっこうになったのですが、ことしもまたゼロから一けたというので、これは私は、もしそれがいま言われるように八%でも問題があります、私が九ないし一〇というのは、少なくともこれは下支えの、最低これだけいかなければまずいんじゃないかとこう見ておるのですが、その点について安恒参考人はどうお考えになっているか、ちょっとお答え願います。
  88. 安恒良一

    安恒参考人 私は、去年の賃上げとことしの違いを申し上げますと、去年は、ここに御出席福田副総理みずから先頭に立たれまして、率直に申し上げて政府、財界一体となって賃金を一五%以内におさめると、こういう御努力をされたのであります。ことしは、私ども承りますところによりますと、財界の日経連経済同友会、経団連、商工会議所、まあ財界四団体は一致してゼロから一〇%ということでありますが、政府の御姿勢は、どうもいま堀先生がおっしゃいましたようにまあ九・五から九・九ぐらいを想定するとか、もしくは経企庁の方では一〇%ぐらいが妥当ではないのかと、こういうのが新聞でも承っていますから、若干違うと思います。  これは一つは、私たち労働運動がかなりなめられているのではないかと思うのは、おととしは三十数%上がりましたから、あのままほっておったら二〇%以上も取られるかもわからぬと、こういう御心配がありましたから福田副総理みずから陣頭指揮をされたのではないかと思いますが、まあ去年一五と言ったのが実際は一三・一になったと、だからことしは大して心配もないと、こういうことが一つあるんだろうと思います。  いま一つは、率直に申し上げて、何としても景気の側面を直さないことにはいけない。これは御承知のように、まあ選挙は自民党でお決めくださるのでありますが、四月か五月に総選挙とか、来年の六月には参議院選挙があるわけですが、いまの不況の局面のままで戦うことは、私は率直に申し上げて、政府・自民党の皆さん方もこれはお困りになることだ。その意味から言うと、どうしても景気浮揚ということをお考えくださっているんじゃないか。その意味から言うと、個人消費の伸びというものを行わない限り、簡単に国家の財政投資だけではいわゆる景気が浮揚しないというお考えが、そのように財界と政府・自民党の首脳の皆さん方の間に食い違いが出ているのではないだろうかというふうに私ども考えます。  それからいま一つ、ことしやはり特徴的なのは、いわゆるエコノミストと言われている経済界の皆さん方の学者の間にも意見の食い違いが非常にある。これは池田内閣の高度経済成長政策のブレーンでありましたところの下村さんは、依然として生産性の向上に見合った賃上げということでゼロ%を言われている。日本賃金研究センターの所長である金子美雄さん、これは公労委の有力な調停委員でありますが、金子さんは同じ席上のゼミの中で、経営者のガイドラインは最低一二%にすべきだ、これを最低にして、あとは支払い能力に応じてやれと、こういうことを金子さんがおっしゃって、聞いておられるトップ経営者方々はどちらも理路整然ということであって大変困ったと、こういうことが新聞の論評に出ている。これはやはり私は率直に言って、日本のエコノミストと言われている方々の中にも、このようないわゆる意見の違い、これは一にかかっていわゆる今日の不況をどのように克服をしていくか、その中において、率直に申し上げて戦後三十年の間、世界の先進的資本主義諸国は福祉国家というのを旗印にしてまいりました。高度経済成長政策は、これを可能にしたわけであります。福祉国家の旗印の第一は完全雇用でありました。第二の旗印は何かというと、率直に申し上げまして社会保障、社会福祉の充実であります。ところが、すでにこれは四十八年のいわゆる石油パニック以来、日本はもちろんのこと、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス等、いずれもいわゆる雇用不安の増大。ですから完全雇用の旗はおろさざるを得なくなってしまっていますし、また、国家財政の赤字を理由とする福祉、社会保障の切り捨てが行われています。まあこういうような状況の中におけるところの、いわゆる安定経済成長に移行する過程としてのどのような政策を持つのかというところに食い違いが出ているのじゃないかと思います。  そこで、私たちは賃金についてどう考えるかということは、前段で申し上げましたように、少なくとも私は、労働者の賃金というのは実質賃金をやはり確保していく、そういうことになれば消費者物価の上昇分については、これはまず最低として第一に考えていかなければならぬ問題である。それから、御承知のように国家でも、すでに五十一年度経済の伸びを実質で五・六%というふうに御計算なされています。そうすると消費者物価が一けたということで、いろいろの言い方をする人があります。たとえば五十一年度は八・八%だという言い方をしますが、まあこれ二つを足しましても、すでに賃上げというものは十数%ですね。金子さんがそこらを見て一二と言われていますが、私は、たとえば物価が一〇%で落ちつくなら一〇、それに加えて国民経済成長が五・六というならばこの五六、計算すればすでにそれで一五%の賃上げが必要でありますし、さらに、私が申し上げましたようないわゆる減税の目減りの分、それから社会保障の掛金の分等々を加えますと、私ども春闘共闘委員会は二〇%程度賃上げ、金額で言いますと三万円程度賃上げがどうしても必要だというふうに、でなければ労働者の実質賃金の確保ができなくなる。また、いま一つは、そのような賃上げがないと私は、いま政府がお考えくださっている個人消費の伸びということの期待は、その面からおいて崩れていくだろうと、このように考えているということを申し上げておきます。  以上です。
  89. 堀昌雄

    ○堀委員 河野参考人、簡単にひとつお願いいたします。
  90. 河野徳三

    河野参考人 お答えします。  ことしの賃上げについてですけれども、まず第一に五十一年度消費者物価指数の上昇率、最終的にはどうなるかわかりませんけれども、大体一一%前後と目されますので、少なくともその程度賃上げ、これはもちろん定期昇給を加えますと一三%ということになりますけれども、その程度賃上げは最低限必要であると考えております。しかし、それだけで十分であるかというとどうもそうはいかないのではないかと思っておるわけです。一つは、先ほど申しましたように、これからの経済というのは個人消費の動向と非常に結びついているわけでございまして、その面から問題を考える必要がありますし、さらにわれわれは、幾ら賃金を上げてもそれが一切消費者物価の上昇にはね返らないということは考えておりません。何がしかばやはりこれははね返らざるを得ないと考えているわけでございます。したがって、われわれが賃金要求を考える場合には、そういう必要な成長を達成するという側面と、それから再び物価上昇率が——物価は引き続き上昇していますけれども物価上昇率が再び高くなるというような事態は避ける、こういう両面から、ことしの賃金の問題は考えなければならないと考えております。率直に言いまして、そのあたりは総予算とかなり見解の異なるところであろうかと思います。  ところで、ことしの経済成長について政府は一応五・六という見通しをお出しになっていますけれども、われわれはもし今日の雇用不安を早期に解消する、そういうめどを立てるためには、この程度成長では不十分であって、少なくとも六%台の成長ということを考えるべきである。そのためには、では個人消費支出は一体どの程度引き上げなければならないかということなんですけれども、われわれは大体個人消費支出も六%程度引き上げるべきである。そうすれば六%の成長を実現できる条件は少なくとも整備できる。もちろんそのほかに輸出の問題とかいろいろな問題がございますけれども、少なくともそういう条件は整備できると考えております。  一方、ことしの物価については、政府年度間八・八という数字をお示しになっていますけれども、われわれは八%あるいは若干それを下回る水準に抑えるべきであると考えているわけです。一方では六%の実質個人消費の伸びを可能にし、一方では消費者物価指数を八%ないしは若干それを下回る水準に抑える、こういう両面から考えまして、ことしの適正な賃上げ率はベア一三%である、こういう考え方を持っておるわけでございまして、これは以上言ったような経緯から出された数字でございますからそれほど掛け値のない数字であるとわれわれは考えているわけでございます。  ところで、先ほどちょっと御質問の中で触れられました、これは日本経済新聞の一月二十八日号のトップ記事に掲載されたものですが、政府はことしの経済見通しの中で、結局は春闘賃上げは九・五から九・九、こういう計算になるという作業をしているという記事が載っております。これは公式見解として公表されたものじゃありませんからこれについて批判をするということはあるいは当を得てないかもしれませんが、ただこれを引き合いに出すという意味で申し上げたいと思います。  これで見ますと、政府は、ことしの経済見通し、名目で一三・〇、実質で五・六、こう押さえているわけでございます。その中で、個人消費については一三・七%、実質で五・一、こう見ているわけです。この数字は公表されているわけでございまして、この両者の関係は一応妥当であると考えます。この程度の個人消費支出の伸びがなければ、この程度の実質経済成長率は実現できないという、この点ではかなり整合的であろうかと思います。ところが、その次の雇用者所得につきましては、いま申しました個人消費支出の伸び一三・七%に対して雇用者所得の伸びは一二・八と押さえているわけでございます。つまり、個人消費支出の伸びの方が高いわけでございます。もちろん、これは個人消費に関連するのは雇用者所得だけではございません、個人業所得等々がございますけれども。いずれにしましても、こういう関係が実現するためにはかなり消費性向が上昇をしなければならないということになろうかと思います。しかし、仮にわれわれが主張しているような賃上げが実現すれば、将来着実な所得上昇に対する期待も生まれてきますし、また景気回復に対する期待も生まれてまいりますけれども、もし仮にここで言われているような一けたの賃上げあるいは日経連がおっしゃっているようなゼロないし一けたの賃上げといったような事態になった場合に、果たして消費性向が大幅に伸びるであろうかどうかということを考えてみますと、それはかなり疑問であると考えざるを得ない。そうすると、ここで引き算をするときに、その点はかなり多目に引き算をされていて、結局雇用者所得は一%減の一二・八%に押さえているんではないかという疑念をどうも感ぜざるを得ません。その次に今度は、さらに雇用者総数の伸びが一%あるから一人当たり雇用者所得の伸びはほぼ一%引いた一一・七%であるということになっています。果たして政府経済見通し程度で一%雇用が伸びるであろうかどうか、これもまたかなり問題があるんではなかろうかという感じがいたします。もし仮に、これが〇・五%程度の雇用の増加ということになりますと、九・九という数字は容易に二けたの台に乗らざるを得ないわけでございます。  次に、さらにもう一つだけ、余り細かいことになっても失礼ですけれども細かいことを申しますと、一一・七%の一人当たり雇用者所得の伸びになるためには賃上げ率は九・五から九・九だ、こうなっていて、その間に約二%の開きがあるわけです。この二%の開きができるためには、五十一年度においてかなり残業が伸びるか、あるいは一時金がかなり大幅に上昇するか、いずれかのことがない限りこういう形にはならないわけでございます。われわれは簡単にこれを試算をしてみたわけですけれども、こういう事態になるためには少なくとも五十一年度には残業賃金が二〇%ぐらいふえないと、それからさらに一時金の支給率が——これは支給率でございます。金額ではございません。支給率が〇・二ヵ月ぐらいふえることにならないと、九・五ないし九・九の賃上げに対して一人当たり雇用者所得の伸びは二・七%にはならないわけでございます。最近すでに若干の景気回復に伴って残業時間数は増加傾向にありますから、残業賃金の二〇%増というのはかなり可能性があると思いますけれども、一時金の支給率の〇・二ヵ月の伸びというのはほとんど期待できないのではないか。昭和四十九年ですか、あの狂乱インフレのときには大体一挙に〇・四ヵ月一時金の支給率は上がっていますけれども昭和四十年から四十七年、約七年間の間に一時金の支給率の上昇はわずか〇・五ヵ月程度でございまして、それが、五十一年度若干景気が回復したからといっていきなりそれほど支給率が伸びるかどうかというのはきわめて疑問でございます。そこで、仮にもし五十一年度、一時金の金額は伸びても支給率は変わらない、こう考えますと、この春闘賃上げ率は少なくとも一一%から一一・五%程度でないと、さっき言った一人当たり雇用者所得にはならないし、同時にそれは二二・七%に及ぶ個人消費支出の伸びにはならないということにならざるを得ないわけでございます。  したがって、この作業が公式のものかどうか知りませんけれども、どうもこの数字を見てみますと、まず個人消費の伸びを決めて、後からだんだんと引き算をしていくわけですけれども、その引き算の数字をふくらましてふくらまして辛うじて一けたに抑えたという印象を受けざるを得ないわけでございまして、もし政府経済見通しに基づくならば、当然春闘賃上げ率は二けたを超える賃上げということにならざるを得ないのではなかろうかという感じを非常に強く持つわけでございまして、その点では、先ほども安恒さんが引用されました日本賃金研究センターの金子美雄さんが、ことしの賃上げ率少なくとも一二%にならないと政府経済見通しでさえも達成が不可能になるということをおっしゃっておりますし、さらに国民経済研究協会の会長をやっております竹中一雄氏も、少なくとも二%を下回れば政府経済見通しは達成できないということをおっしゃっているわけですけれども、それといま私が申し上げましたこの関連というのはかなり一致しているわけであって、そういう点から申しまして、これはスクープかもしれませんけれども政府が、何らかの形でとにかくこういう数字が表に出るということは、結局はことしの春闘相場を一けた台に抑えるという客観的な役割りを、あるいはそういうムードをつくらざるを得ないことになるのではないか。あるいはそれがねらいであろうとまでは申しませんけれども、いずれにしてもそういうことが言えるのであって、むしろこの際——もちろん賃金は労使の団体交渉で決まるわけですから、政府が介入するのは好ましくありませんけれども、いずれにしてもこういう数字が部内で行われる、あるいは何らかの形で発表されるということについては、きわめて遺憾だということを申し上げておきたいと思います。
  91. 堀昌雄

    ○堀委員 いまいろいろと話がございました。通産大臣は午前中の話も聞いていただいておりましたでしょうから——現在の賃金問題というのは、確かに支払い能力の十分でない企業もあることを私も認めます。午前中に個別労働生産性の資料を見ましても、マイナスのところもかなりあります。高いところは自動車のように五〇%という、対前年比で八月に上がっているところもありますし、二〇%、三〇%のところもありますけれども、マイナスのところもあります。ただ私は、いま政府考えておる、民間設備が景気浮揚に役立つからといっていま民間設備をやらせるとすれば、それは内部資金ではなくてやはり依然として借り入れでなければ民間設備というのはできないのだ、そうなると、私が午前中に指摘をしました金融費用というのはますます高くなっていく、損益分岐点はますます高くなる。これは日経連の皆さんは、賃金が上がることが国際競争力に非常に大きな問題だと言っていらっしゃるのですが、私から言えば、金融費用が大きくなることの方が国際競争力に非常に問題がある、こう思うのですね。  そこで、通産大臣、民間設備の問題について、一体今後日本のそういう財務内容の改善を期待しないで景気浮揚だけやればいいのだということではないのじゃないか、やはり今後の日本経済の長期的な国際競争力を含めて考えていく場合には、内部資金なり増資等による自己資金によるか、何らかやはりそういう財務内容の改善なくして安易な景気浮揚を考えるべきではないと思うのですが、通産大臣、その点についてどうお考えになる一か、ちょっとお答え願いたいと思います。
  92. 河本敏夫

    ○河本国務大臣 けさほど来、いまお話しのような議論がずっと続いたわけでありますが、私も理想的に言えば、自己資金による設備投資を進めるということが大変望ましい、こう思います。ただしかし、日本の場合は、なかなかそれが自己資本だけで果たしてこの設備投資ができるかどうかということになりますと、これは大変疑問だと思うのです。でありますから、いまの御質問は、私はそれは理想だと思います。しかし、理想ばかりを追っておったのではなかなか現実に問題が解決しませんので、当分の間は、やはり借入金によって、も設備投資は進めていくべきである、こういうふうに思うのです。  と申しますのは、ことしの経済成長を五・六%というふうに想定しておりますし、今後五年間も六%台、六%強というふうに一応の想定がしてあります。そのためには、ある程度の設備投資が必要でありますし、それからまた、その程度経済成長をいたしませんと、毎年日本の場合は人口が非常に多いものですから、六、七十万人ぐらいの新しい雇用を持たぬ人たちが出てくるわけですね。それを解決するためにはどうしてもやはり少なくとも六%台の経済成長というものは必要である。それを自己資金だけでやっていこうと思いますと、なかなかむずかしいわけですね。  でありますから、当分の間は、いまの御質問は大変望ましいことでありますけれども、やはりある程度借入金によってこの設備投資もやっていかなければならぬ。ただし、そのパーセンテージをどうするかということは、個々の企業考えていくべきことだと思いますが、自己資金だけでそれを進めるということは、これは日本の現状から不可能である。順次これは改善していかなければならぬ、こういうふうに考えております。
  93. 堀昌雄

    ○堀委員 私も、いますぐ全部自己資本でやれということを言っているわけではないのですけれども、しかし、これをある程度漸減をしていかなければ、賃金の問題が仮に経営者が思うようになったとしても、この部分で日本の国際競争力は大幅に弱くなることは間違いありませんね。だから、私はそういう意味では、これはアメリカの経済を見ておりまして、ケネディが成長政策をとるまでは、アメリカの投資というのはほとんど内部留保によっていたのが、実はあの高度成長政策に転換してから借入金が非常にふえてきたわけです。そうすると、今後は日本は高度成長から低成長へ転換していくわけですから、裏返せば、それのちょうど裏返しになった、自己資金を中心にしながら足らざる分を借り入れで賄うという考え方に転換をしてこなければいけないのじゃないか。それでなければ、今後の問題として、経営者はいつも低賃金で高投資というようなことを考える時期が来るならば、これは日本経済の安定的な成長というのは不可能になるのじゃないか。  私が前回総括質問の中で個人消費重視論を申し上げたときに、福田副総理は、日本成長の寄与率の中で個人消費が大きいからおおむね日本の個人消費というのはいいんだというお話でしたが、そのとき私はたまたま西ドイツやアメリカの消費性向を持っていませんでしたからそこまでにしておったのですが、きょう午前中にもお話をしたように、こういう姿になっていますね。一九六五年には日本は八二・三%というのが、暦年ですけれども平均消費性向です。そのとき西ドイツは八四・一でありますから、日本と西ドイツは一九六五年から不況の年でありますが、このときはほぼ近いところにありました。それで日本は一九六六年が八二・六、一九六七年八一・〇、一九六八年八〇・三、一九六九年八〇・八というふうに、おおむね八〇%より上にあったのですけれども、御承知のニクソン・ショックが起きました一九七一年以降八〇%を割って七九、七七、七五、そして一九七四年には七四・七まで下がってきた。アメリカを見ますと、アメリカはもう大体九〇%を少し超えたところ、九二ぐらいから九四ぐらいの間をずっと上下しておるだけできわめて消費性向は安定しております。西ドイツも大体八四、五のあたりをニクソン・ショックがあろうと石油ショックがあろうと影響なくずっときておるわけですね。  なぜこういうふうに消費性向も安定しているか。それはその国の経済の全体が実は底が深いといいますか、いまの企業そのものから見ましても、自己資本比率は高い。外部の借入金は少ない。金融費用は少ない。要するに、それがけさ私がちょっと櫻田さんに伺った日銀の統計によって、日本の場合には企業の収益動向が一九七五年の上期は、一九七二年の下期を一〇〇として、三三まで下がっている。ところが、アメリカは一〇三であり、西ドイツは一〇二である。一九七二年に比べてアメリカや西ドイツの企業の収益はちっとも変わらない。だから企業もしっかりしておるし、そして同時に、ストックとしての生活環境その他に対する社会資本のストックは十分あって、あらゆる点で実は西ドイツなりアメリカというのは、経済構造が言うなればバランスのとれたきちんとしたものができている。日本の場合にはまさに砂上の楼閣の経済を高度成長の中でつくってきた、こう見ていいのじゃないかと思うのですね。  だから、そうなれば、今日賃金問題を何か経済問題の非常に重要な点だと政府も財界も考えておられるようだけれども、それは順序が逆なのではないか。経済のこの情勢に企業はいかに対応すべきかということが基本的に考えられて、それに対する中期的な経営に対する考え方ができて、そういう考え方の中で、賃金はこういう考えでわれわれやっていきます。あるいはことしは情勢によって十分払えないかもしれないけれども、これは必ずこういう形で労働分配率を上げていきながら賃金も必ず上げます、こういう話があるのならば、労働者の皆さんも、経営の側がそれだけ真剣に内部をきちんとして、その上で自分たちに協力を求めてくるというのならわかるということになるのでしょうが、さっき私が午前中に触れましたように、交際費はともかくどんどんどんどん経営者は使いまくる。政治献金は、政府ですから余り言いませんけれども、皆さんの方が必要なんでしょうからそんなにも言いませんが、それだってわれわれから見るとずいぶん目に余る政治献金が行われる。そうして賃金はともかくゼロから一けただというのでは、これは私はどうも筋が通らないと思うのですが、経済企画庁長官、いかがでございましょうか。
  94. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 日本経済社会が当面して一おる問題は、これは不況からの脱出という問題もありますが、その後の新しい社会路線といいますか経済路線、これに備える転換もまた並行して進めなければならぬ、こういう点に大きく見ますとある、こういうふうに思う。その点は私は堀さんと全く見解は同じなんです。堀さんの御指摘される企業の体質改善、そういう問題、これはまさにもう非常に重大な問題です。  企業体質の問題に関連して申し上げますれば、いまわが国の経済は、とにかく上昇過程に転じ、また転じようとしておる。しかるに、不況不況だという声が非常に強い。つまりマクロ状態ではいい傾向をたどりつつある。しかるにミクロ、個個の企業とすると大変深刻な事態にある。それは過去長い間培われた企業体質、つまり高度成長企業体質、そこから来ておる。それが低成長になったもんだから非常に当惑しておる状態、私は去年の国会でも、本会議でも委員会でも申し上げておりますが、わが国はとにかく遊ぶ人手に対する賃金を払っておるという状態ですね、終身雇用制と言われる。こういうことで外国と非常に違う点がある。それからもう一つは、金利費の負担。不況ですから設備も遊びます、その設備に対して金利費の負担をしておる、この状態、これがまた非常に違うんだ。そこが、マクロで見ると諸外国がひとしくマイナス成長である、その中でわが国がプラス成長だ。その状態であるにかかわらず、わが国は個々の企業が非常に重態だということを申し上げたことを思い出しますが、自己資本比率が非常に小さくなってしまった。これは急速にそういうふうになってきたんですが、これはやはり高度成長時代に毎年一〇%、一一%、一二%、設備を拡大するわけです、成長につれて。その資金の調達が自己資金じゃ間に合わぬ。そこで手軽な借入資本に依存するというところからずっと来て今日になっている、こういうふうに思いますが、経済がこれから路線が転換するということになれば、今度逆戻りしなければならぬ、やはり自己資本の充実ということを考えなければならぬ、こういうふうに考えますが、自己資本比率のみならず、企業体質全体にわたって対応体制を固めなければならぬ、いま企業にそれを要請しているのです。また政府内部におきましても、新しい企業体質はどうあるべきかという検討を始めておるのです。その点におきましては完全に私はそのように思います。
  95. 堀昌雄

    ○堀委員 そこで大蔵大臣、実は総評の代表の方も同盟の代表の方も、やはり所得税の減税をやったらどうか。けさほど私、櫻田さんに伺ったら、減税は望ましいけれども、いまの財政赤字の状態ではちょっと首をかしげるというお話だったわけですね。私は、確かに今後の後年度にずっと及ぶような減税をもし仮にやるとすると、これは財政当局としては今後赤字が非常に続くという心配もあろうと思うのですけれども、この際ひとつ時限的に緊急避難的に減税をやる。さっき朝、大平さんいらっしゃらなかったからあれですが、個人消費が、消費性向が九二%にも達しておるアメリカあるいは八五%の西ドイツが所得減税によって景気浮揚を考える、そして平均消費性向が七四の日本が減税を考えないというのは、私はどう見てもこれは筋が通らないという感じがするのです。ですから、とりあえず緊急避難で、一年でも、ことしだけでも一応ともかく減税をするというようなやり方をとることが——結局景気が浮揚してくれば結果としては赤字部分が減るわけですから、赤字部分と景気浮揚というのは一つの関係なんですから、それをどこでやるかという問題になるとするならば、それを前で処理をすることによって、全体の後での赤字負担を軽減するというのも私は一つの方法ではないかと思うのです。そしてその出し方も、普通の形ではなかなかまずいので、ちょうど年末調整をやるようなかっこうで、わが党が提案をしておるような戻し税の形で皆さんの手元に戻れば、これは消費に回る確率は非常に高い、こう思うのですけれども、大蔵大臣の御見解を、けさほどからの議論、先ほどの議論に関連してお答えをいただきたいと思います。
  96. 大平正芳

    ○大平国務大臣 財政の立場から、ただいま大変減税がやりにくい事情でありますことをここで繰り返そうと思いません。したがって、きょうは別な角度から私はお答えしたいと思いますが、わが国の消費需要が、最終需要がふるわないというわけは、これはよほど根が深いと思うのであります。  一つには、人口が都市に移動いたしまして、核家族化が非常に進んで、物に対する需要がそういう方面から急激に起こってきたという事情はもう御案内のように解消したと思うのであります。核家族化の傾向は一応ストップしてしまったというのがいまの状況だろうと思うのです。それから、カラーテレビとかいうような新しい魅力のある技術がいま世界的にあらわれていない。もし、いま非常に魅力がある商品が開発されたとしたら、隣の奥さんが持っているんだからこちらも持ちたいという、日本人というのはそういう傾向を持っておりまして、私は相当需要が出てくると思うのでございますけれども、世界的にそういう新しいテクノロジーは出てきてないということでございますし、それから、ガルプレイスの言うところの依存効果というものがいま働く状況でない、非常に不況が進んできておるわけでございますので、そこでいま消費需要を政策的に喚起する道というのは大変私はむずかしいと思うのです。  そこで、皆さんが減税ということに着目されるのは無理ないと思うのでありますけれども、この点につきましては、従来政府お答え申し上げておりますように、いまの景気浮揚効果を招来するためには、むしろ減税よりも公共投資にいま期待すべきではないかということを申し上げておりますし、またさらに私も、この答えは財政全体でいたしてあるじゃありませんか、ひとり公共投資だけでなくて財政投融資も含めまして、財政全体でその役割りを果たしていくことによって、浮揚効果を期待するという仕組みを政府はとっておるわけでございますので、その方が健全であり、実効的であるのではないかという判断でございます。一概に減税をやりましても効果がないというのではなくて、むしろ選択の問題といたしましては、いま政府がとっておるような姿勢の方が適切じゃないかということを、強弁する意味じゃなくて申し上げておるわけです。
  97. 堀昌雄

    ○堀委員 いまの選択の意味というのはわかりますが、そうすると、もしいま政府考えておる成長が、たとえば九月か十月ごろになるとややめどが出てきますね。四月からやってきても見当がついてくる。どうも現実に政府が期待したほどの景気浮揚が行われない。私がなぜ行われないと言うのかといえば、輸出は大体あのくらい行くんじゃないかと私も思うのですけれども、公共事業の伸びは、補正後六・四%しか伸びませんね。補正後六・四というので——当初と当初の比較というのは、予算技術の比較として私はあると思いますよ、二一・幾らでしたか、ありますが、経済効果としては、要するに前年度の補正後の予算と今度の予算を比較するのでなければ経済実体としての比較にならない。そうすると六・四しか伸びてないというのは、多少前の分のずれ込みがあるかもしれません、第四次不況対策のずれ込みが五十一年度にあるかもしれないけれども、そんなに公共事業が景気浮揚に力があるとは私は思えないのです。だから、もしそうすると、思うように上半期でいかないときには、選択の問題であるならば減税について考慮することもあり得る、こう考えてもよろしいですか、大蔵大臣。
  98. 大平正芳

    ○大平国務大臣 非常にむずかしい御質問でございまして、これからの経済の状況がどういうふうに推移してまいりますか、私どもは、いまの想定では、第四次の景気対策というようなものも改まった年に尾を引いておりますので、これである程度の期待が持てる、そこへ五十一年度予算財政投融資とともに追っかけてまいりますので、緩やかではございますけれども、着実な景気の回復が図れないはずはないということを考えておりますので、これで——ところがいまあなたの御質問は、それがうまくいかないときにどうするのだということなんですが、うまくいくつもりでこれをやっておるわけなんでございまして、うまくいかないときを想定して答案を出す政府はないと思うのでございます。したがって、あなたがおっしゃるようにこれで行かしていただきまして、なるべく予算も早く通していただいて、それで今後の推移を慎重に見さしていただいて、しかし政府国民のためによきことをしなければならぬ責任を持っておるわけでございまして、非常にむずかしい事態が出てきたならば、それに対応した措置をとるのは当然だと思うのでございますけれども、いまのところそういうことは考えていないということだけは御理解をいただいておきたいと思います。
  99. 堀昌雄

    ○堀委員 労働大臣に一つだけ伺っておきたいのですけれども、実はこの「賃金問題研究委員会報告」の中に、「雇用維持と賃上げとはトレード・オフの関係にあり」とこういうことを言っておるのですよ。賃上げと雇用の維持はトレードオフの関係にあるということを言っているわけですね。これは経営者の皆さんの考えですから、それはあの人たちがそう思うということを私が否定をするわけにはいきませんね。しかし政府として、賃金が上がったら雇用保障がだめになる、雇用保障を安定させようと思えば賃金を上げちゃだめですよ、こういう論理は私はちょっとおかしいんじゃないかと思うのですね。だから、やや中立的立場といいますか、政府は賃金問題には介入しないとこう言うのですが、あなたの方は雇用には責任がありますからね、労働大臣は。そこで一体こういう考え方が、労使の中間にある立場として、しかし雇用を安定をさせるという任務を持たれる労働大臣としてはどう考えられるか、ひとつお答えをいただきたい。
  100. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 午前中からの参考人の話を聞いておりましても、非常に雇用問題が大事であるということをみんな御認識いただき、また今度の予算というものが景気の浮揚と雇用の安定ということをねらっておるわけであります。  そこで、いま出ました消費の着実な増加というものが所得の増加をもたらすということもありますけれども、私はやはり物価の安定と雇用の不安の除去がそれ以上重要である、こういうふうに考えております。仮にいま一番心配していることは、賃上げが雇用不安を激化させるんじゃなかろうかということだとか、逆にそういうことがあると国民の消費態度をかえって慎重にするということもある、ひいてはまた景気の回復にも影響があるんじゃなかろうかということを理解しているわけでありまして、賃金は労使でやることですが、こういう大事なときであればあるほど、ひとつ国民経済的立場に立ってよき決定が行われ、そしてまた雇用不安が、私の方は失業者が出ないようにすることが先でございますが、出たものに対してもまた手当てをする、こういうことからすると、よき慣行が生まれることを期待しているものです。
  101. 堀昌雄

    ○堀委員 何か蒸留水みたいな答弁でして、さっぱり味も何もないのですね。官僚の書いた答弁をお読みになったのでしょうけれども、これではどうも私納得できない。私が聞いているのは非常に素朴なことなんですよね。要するに、賃上げと雇用安定というものはトレードオフだという物の考え方は少しおかしいんじゃないですかということを言っているわけですね。そうだからといって、私がいま三〇%の賃上げをやりなさいと言っているわけじゃないのですよね。要するに、いまもうすでに総評でも同盟でも、少なくとも現状の経済状態というものを頭に置いていろいろ物を言っておられるわけです。そうして同様に、インフレは困ります、物価、それから雇用を安定さしてもらいたい、こう言っておられるのですからね。べース共通しているわけなんですね。私は、べース共通の中であえて賃上げと雇用の安定はトレードオフだという言い方をするのはおかしいのじゃないか、こう言って伺っているわけですよ。だから、それは極端にいけばトレードオフになるでしょう。しかし、ある一定の段階までは私はそういうトレードオフの関係の問題ではない、こう考えておるのですね。そこを伺いたいわけです。  三〇%の賃上げをいまやると言えば、それは首切りさしてもらいましょうという話になるでしょう。そういう話を前提としてトレードオフになるというようなことはおかしいのであって、そうではなしに均衡のとれたバランスのところがあるはずですね。雇用も安定しながら、しかし賃金も上げられるというところがあるのだから、こういうふうにぽんと、要するに雇用の安定と賃上げとはトレードオフだなんという物の発想はおかしいじゃないかということを伺っておるのですが、ちょっとそこのところをはっきり答えてください。
  102. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 私が先ほどお答えしたのは原則論で、これは御理解いただいたと思います。  やはり調和というものが大事でございます。そういう意味からしますというと、適正に労使で話し合いをし、一方においてはそうしたことが雇用不安をもたらさないような、そういう調和の中に物事が進むことを期待しているものです。
  103. 堀昌雄

    ○堀委員 あなたが期待するしないじゃなくて、要するにそういう物の考え方は、だから裏返せば、いまおっしゃったのは、調和のとれた範囲まではトレードオフではありません、こう言ってもらったらいいのですよ。それを答弁してください。
  104. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 調和というものはそういうことでございます。
  105. 堀昌雄

    ○堀委員 終わります。
  106. 小山長規

    ○小山(長)委員長代理 次に多賀谷真稔君。
  107. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 参考人質問する前にいまの話ですね、賃金と雇用、それがトレードオフの関係にある、これは賃金基金説なんですね。賃金というのはトータルが同じなんだから、賃金を上げれば雇用者は少ないぞ。こんな古い感覚というのはいまはそもそも通用しないのです。若干、個別企業ではそういうこともないことはないのです。しかし、これはいま生産が落ち込んでおるのですからね。結局生産は一定にして、そうして需要が全然伸びない、こういうときに賃金だけ上げれば雇用を減らさざるを得ない、こういういわゆるマクロの、しかもこれは日経連出しておるのですよ。ここにおられぬから、ちょっと批判しにくいですけれどもね。これはやはり政府としては需要喚起、不況対策というものは本来生産を伸ばすということでしょう。こういう考え方を部分的にもいまの日本の総資本の本山といわれる日経連がとるというところに私は非常に問題がある、ごまかしがあるのですよ。日経連方々は非常な見識がありますから、私は知らないでうっかりして使ったのじゃないと思うのですよ。これはもう知っておって、そういう言葉をもっていま賃金を抑えよう、こういう物の考え方はきわめて近代的な労使関係で私はあり得ないと思うのですね。こういう点はどうですか、これはむしろ副総理に聞いた方がいいかもしれませんね。
  108. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 企業の事業量が一定だという前提をとりますれば、賃金に支払うその支払い額が多くなれば、これは他の部門に対する支払がこれはそれだけ制約される、そういうふうになると思います。たとえば賃上げが非常に高かったということになると、工場をつくろうと思っておるのを差し控えたり、あるいはいろいろな会社の事業を拡大するためのいろいろな活動をしようと思うその社用支出ですね、それが制限される。そういうようなこともあるだろう。それと同じように、単位当たりの賃金が非常に上がるということになると、人をそんなには抱えてはおられない、こういう問題もあるだろうと思うのです。  私は日経連のその書類をまだ精読しておりませんが、これは日経連が非常に努力をしてつくった論文であるようであります。  そこで、それをいま欠席のまま批判することは差し控えさしていただきますが、極端なことを言えば、それはトレードオフという関係にもなりましょうが、それは先ほど労働大臣がおっしゃっておりますように、要は調和の問題じゃないでしょうか。程度の問題じゃないでしょうか。そんなふうに考えます。
  109. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 いま景気浮揚対策をやろうというので、賃金を上げることあるいは減税が需要喚起になるのだという、こういう議論がなされておるわけです。また、そういう情勢にある。ケインズなどはそう言っておるのですから、ちょっとこれは、きわめて都合のいいところだけを部分的にとったという感じがするわけです。この論争に入っておりますと時間がありませんから、続いて次にいきます。  そこで、いま参考人から現在の失業発生と仕事の確保の具体的な状況、これを御三人からひとつ承りたいと思うのです。実例でありましても結構です。
  110. 安恒良一

    安恒参考人 全国的な統計は、労働省の大臣並びに局、長が出ておられますから、そちら側からすでに議会に報告があったと思いますが、私は失業発生と仕事の確保状況について私どもで調査した実態を申し上げ、問題点を指摘をしたいのですが、これは一つは石川県、一つは福岡で調べました。  まず石川県で調べましたら、いわゆる解雇する場合には解雇予告をし、そして手当を出すことになっておりますが、四百四十名中二百一名が解雇予告がない、こういう形の中において失業しているというのが一つ問題点であります。  それから第二番目の問題は、賃金や退職金や一時金等未払い労働債権は、当然解雇すれば支払ってもらわなければならぬのでありますが、退職金や一時金が支払われなかったというのが、石川県の場合千百六名の中で六百三名、五四・五%が退職金や賃金が支払われないまま解雇されている。  それから、解雇されましたならば、今度は雇用保険法に基づいて手当が支給されるわけでありますが、これは福岡県で八幡だけを部分的に調査したのでありますが、百八十名失業した、そして雇用保険法の給付を受けておったのでありますが、それがすでに雇用保険法の給付期限が切れてなお就職ができない、こういう実情が三三%ある。これは八幡の実情であります。全国的な統計についてはすでに関係審議会、国会等に出されていると思いますが、こういう状況からまいりますと、いま失業している人が一番望んでいるのは、一つはやはり給付延長の改善、こういう問題が一つあると思うのです。  いま一つは、倒産をしない方がいいのでありますが、どうしてもやはり今日のような財政金融政策の中では倒産が出てまいりますから、倒産をした場合に、賃金や退職金や一時金、いわゆる労働債権が十分に支払われる、こういうことの国家的な保障の制度の問題、こういうような問題であります。  それから第三点目にやはり希望しておりますのは、職業転換に当たっての教育訓練でありますが、これについても、これは午前中にも河野さんからも話があったと思いますが、いまの教育訓練というのが大変中途半端もしくは企業ペースの教育訓練がされているということでありますから、こういうような問題点について、ぜひ今国会の中で取り上げて御審議をし、改正をしていただきたい。これが現在の失業をする場合の問題と失業した後の一番当面の端的な問題であります。  以上です。
  111. 河野徳三

    河野参考人 いまの失業者の実態等については、すでに皆さん御承知のことだと思いますので、余り個別的な例は申し上げませんけれども、特にわれわれが今日要望しております対策を重点をしぼって申し上げたいと思います。  同盟あるいは労働四団体が今日の雇用問題についてどういう制度を要求しているかという点については、すでに労働四団体で統一の見解をまとめて政府に提出をしておりますので、この際ぜひともその実現を図ってほしい、こう考えておるわけですけれども、特にお願い申し上げたいのは、全国延長規定の適用の問題でございます。いまの雇用保険法の中には、失業保険受給率が四%を超える場合には失業保険給付期間の全国一斉延長をやる、こういう規定があるわけですけれども、今日の失業保険受給率、これは大体三%前後だと思いますが、これが四%になるということは、今日以上によほど雇用情勢が深刻化しないと、事実上、規定がせっかくあっても発動されないわけです。     〔小山(長)委員長代理退席、正示委員長代理着席〕 しかし、われわれの考えますには、今日程度の雇用不安の場合には当然全国延長が適用されてしかるべきだ、こう考えております。そこで、いまの失業保険受給率が四%というのをもう少し下げて、もっと弾力的にこれが適用できるようにぜひともしてくれ、こういう要望をしているわけですけれども、実はこれは昨年三月でしたか、職業安定審議会で四%という線が決まっているわけで、なかなかできない理由は、昨年三月に決まったばかりでたちまちまたこれをこの段階で変えるということにはかなり問題がある、こういうことがあるようでございますけれども、もちろんこれは審議会でそうなったわけで、率直に申しまして、労働側の委員も結局は結果的にはこれに賛成したわけですけれども、そういう経緯があったにしろ、また当時労働側の委員がその点について認識がかなり不十分な点があったということは認めざるを得ないわけでございますけれども、そういうことを認めた上で、ぜひともこの規定の改正を早急に実施をしてほしい、これが第一点でございます。  それから、午前中も多賀谷先生から問題になされました中高年層雇用の問題でございます。この問題について、今日、法改正の準備が進められているわけでございますけれども、その方向は、大体五十五歳以上の高年者に対して企業ごとに一定の雇用率を設定する、その雇用率を超えて高年層を雇用している場合には一定の補助金ですか、付加金を給付する、こういうことのようでございますけれども、もっとこれは進んで、せっかく雇用率を設定するわけですから、一定の雇用率に満たないところからはむしろ課徴金なり何なりを積極的に徴収をして、それをもって、雇用率を超えて雇用しているところに十分な補助金を支給する、こういったことをもっと積極的に考えるべきではないか。つまり、かつてイギリスで雇用税制度というのが行われたことがありますけれども、これを日本において——あれは二次産業、三次産業の問題だったと思いますけれども、高年層に対してそういう考え方をこの際はっきり導入すべきではないか。でないと、午前中の議論にもありましたように、終身雇用制の取り崩しの問題とかいろいろな問題がすでに出ているわけでございまして、とうてい高年層の雇用を保障するということにはならないのではないか、こう考えております。ぜひともこれは今国会で実現をしてほしい、こう考えております。
  112. 近藤一雄

    近藤参考人 失業問題が非常に深刻であることは理解されているわけでありますが、特に大きな特徴を申し上げると、大都市における失業の問題と、それから失業多発地帯、先生も御存じのいわゆる炭鉱地帯における失業多発の問題、それから高齢者問題があるし、それに婦人の問題がある。それから特に最近問題になっております出かせぎを含めた農村地帯における失業の問題が深刻であるというふうに言われておる。それに加えれば、沖縄の問題があるというふうに思います。大体この失業問題で特に深刻な事態にあるというのはそうした問題が挙げられるのではないだろうか。  私は、特に東京であるとか横浜であるとか名古屋であるとか大阪、神戸、強いて言えば福岡などもその範疇に入るであろうと思いますけれども、そうした中における日雇い失業者の問題が大都市における問題としては非常に深刻な問題としてある。  それから多発地帯の問題は、これはもう地域ぐるみ重大問題になっておりますので、また機会があれば詳しく申し上げたいと思いますけれども、深刻な事態がその地域においては発生している。特に筑豊地帯においては非常に悲惨な状態が生まれておるということ、これは単に失業者が多発しているというだけじゃなしに、それによって生まれてきた貧困から来るいろいろな問題がすでに起きておりますので、そうしたことも考えておかなければならないというふうに思います。  それから特に出かせぎの問題については、これは東北地帯や南西部といいますか、そうしたところにはたくさんいままであったわけであります。しかし出かせぎは、最近伝えられるだけでも明らかなように、大変な事態であります。しかもこれは、農村地帯全体に及ぼす影響というのは非常に大きいわけでありまして、雇用保険の改正等も含めて実は大きな問題になっているということは、北海道の例が詳しくこれを示しております。機会がありましたら詳しく申し上げたいと思いますけれども、北海道等においては求人倍率が〇・〇九というふうに新聞が発表しているわけであります。〇・〇九というのは十人に対して一人でありますから、これは全く求職が不可能というふうな状態にあります。  それから婦人の問題について若干申し上げますと、婦人はパートタイマーからはじき出された場合は再就職の可能性が全くないというふうに最近は言われております。しかもこれは、労働省の言い分によれば、非労働力として、いわゆる失業者としてさえ取り扱いを受けていない。ですから、職安にあらわれなければ失業者としてさえ取り扱いが受けられないという事態であります。  それから、六十五歳以上の問題を高齢者問題として若干申し上げておきますと、六十五歳以上の問題は、いわゆる雇用対策法によれば六十五歳以上が労働力とみなされないというふうに言われておるわけでありますから、六十歳から六十五歳までの高齢者を雇い入れる場合は、事業主に対して雇用奨励金が六十四歳まではつくけれども六十五歳以上はつかない。そうすると、六十五歳以上の高齢者は全く就職の機会がない。しかし、わが国の現状からすれば、六十五歳以上は遊んでいられる状態ではありませんし、もちろん社会保障の年金等の問題について言うならば、六十五歳以上で遊んでいられるような年金の支給が受けられないという状態からしても、高齢者に対する取り扱いは全くひどい状態だというふうに言って差し支えないと思います。  沖繩の問題は申し上げませんけれども、非常に失業が広がっておりますことをつけ加えまして、私、状況についてと若干意見を申し上げまして、先生質問に答えたいと思います。
  113. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 労働省にお尋ねいたしますが、最近の雇用動向をどういうふうにお考えであるのか。  まず、毎勤統計でありますが、常用雇用指数を調査産業を対象にして見ますと、大体四十九年十二月が一〇五・〇であったのが一〇二になっておる。ですから五十年全体は約一〇三になっておる。ここに常用労働者の二%の落ち込みがあるわけです。それから製造業は、昭和四十五年を一〇〇といたしますと、あのピーク時すなわち四十八年でも九九・〇で、四十五年よりも常用者が減っておるわけですよ。そしてさらに五十年の今日、十二月になりますと九一・九という数字になっている。これは労働省の統計です。  そうすると、ここで一つ考えられることは、残念ながら午前中時間がありませんので余り質問できなかったのですが、盛んに過剰労働と言っておるけれども、本工員については、あれだけ景気のよかった四十八年でも常用は四十五年の指数よりも減っておるということですよ。ですから常用は、ずっと雇うのを控えて、そして臨時やパートや社外工に追い込んでおる、第一にこういう体制にあるわけです。その常用がすでにまた急角度に減ってきたということです。ですから、この動向をどういうように見られるのか、これをひとつお聞かせ願いたい。かように思うわけです。  それから、あなたの方の完全失業者というこれは総理府の統計でありますが、十二月は百五万人と熟字を出されております。これは総理府の方では三月には百四十四万人になるであろう、こういうことを言っておるのですが、これをどういうように把握されておるのか、これらの点についてお聞かせ願いたい。
  114. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 御承知のように、重化学工業が非常に盛んになりましてから、ああいう機械の能率化ということで、従来言われたように製造業の雇用労働者はふえてない、こういうふうなかっこうです。でありますから、いまから先、雇用労働者がふえる場合には業種を別な方向に求めていくという形に出てくる。  もう一つは、やはり第四次の不況対策というものが浸透し、そして、まだことしの予算はあれですけれども、そういうものによって最近残業が若干ずつふえているという数字が出ております。そういうことからしますと、第四次の不況対策が一−三月、こういうところに浸透し、また皆さんに御審議いただく予算、こういうものによってことしの半ば以降はいまの有効求人倍率も、いま〇・五二ですが、〇・六、それ以上になるであろうということを期待しながら全国の労働市場をいま検討調査しているわけであります。
  115. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これは残業が非常に落ち込んでおったのが、業種によって違いますけれども、やや伸びている。それは前年同月比で比べれば伸びておるわけです。前月に比べればもち合いになっておるわけです。もっともこれは季節調整をやれば若干伸びているのです。しかし、大体製造業で一三%ぐらい生産が伸びても、昭和四十八年十一月ぐらいの残業をやれば雇用は全然ふえないのですよ。ですから製造業においては、あのピーク時の四十八年の十一月程度の残業をやれば、一番下がった時期から生産を一三%伸ばしても雇用はふえないという数字になるのです。ですから私は、雇用問題というのは生産が若干伸びても、景気が回復してもずっと残っていくのじゃないか、こういう感じを持っているのですね、副総理。私はここが一番問題じゃないかと思う。ですから若干残業が伸びても人を雇うところまでいかないのですよ。それは業種によっては違いますよ。もう電機とか繊維のようにざあっと整理の終わったところは、これはもう整理が済んでおりますから、雇用調整交付金の出る前に整理したところあたりは若干伸びております。しかし、全体的に言いますと、雇用問題はとても回復の見込みがあるような情勢ではないわけです。ですから、これは一体どういうようにお考えであるのか、お聞かせ願いたい。  それから、さっき経済企画庁がつくった雇用所得と一人当たりの雇用所得、これも雇用者数の伸びをどのぐらい見ておるのか。従来のような伸びはないんじゃないか、こういうように思うわけです。ですから、そういう点を見ると、どうも労働省や政府考えている雇用問題は非常に甘過ぎるんじゃないか、こういうように思うのですが、どうでしょうか。
  116. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 経済が回復の過程にあっても雇用はなかなか大変で、そう簡単にいかないのじゃないかという御指摘でございますが、まさにそのとおりでございまして、昨年の三月以来、経済はスローテンポながら回復の軌道をたどっておるわけでございます。  そこで、雇用面は私ども当初予想よりは昨年の秋以来落ち込みが続いておりますけれども、昨年の十二月に、ただいま御指摘になりましたように残業時間が延びてきておる。それから求人も、業種によってばらつきがありますけれども、相当伸びてきております。  まあ、こういう事態でございますが、御承知のように景気が落ち込んでおります場合には、まず残業時間のカットをやる、それから中途採用の手控えをやる、さらに一時休業というようなことで、企業内の雇用調整措置がとられるわけでございます。回復してまいりますと、まず一時休業が中止される。一時休業も、雇用調整給付金制度の活用によりまして失業が防止されておりますが、昨年の六、七月をピークにしまして一時休業がだんだん減ってまいっております。それが十一月、十二月になりまして、残業時間がふえてきておる。確かに、対前年同月比でございますけれども、一〇%ぐらい残業がふえてきている。  それから企業の求人でございますが、これは電機とか繊維とか、いわゆる一時休業、景気の落ち込みが一番先行しました業種ではすでにもう回復に向かっておりまして、求人も、昨年の十二月で対前年同月比で比較いたしまして非常に求人が伸びてきております。製造業全体としても求人が一年半ぶりにプラスに転じております。  こういうことでございますので、経済が回復いたしましても、雇用の面で完全に回復するまでには相当のタイムラグがありますので、私ども見通しとしては、五十一年度いっぱいぐらいは、もとに戻るまでにはかかるのではないかというような感じがしておりますが、その中で、こういったように順調に回復の過程をたどってきておるのではないか、こういうふうに考えております。
  117. 青木慎三

    ○青木(慎)政府委員 けさほどから議論になっております雇用者所得と一人当たり雇用者所得の関係でございますが、私どもの試算によりますと、雇用者所得は前年度比、五十一年度が一二・八%増と見ております。それに対しまして、いろいろモデルを使って計算しました雇用者総数が一%伸びますので、一人当たり雇用者所得は一一・八のプラスと、こういう計算になっておるわけでございます。
  118. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 一%伸びるでしょうかね。私は非常に問題があると思う。と申しますのは、私ども非常に不思議なのは、日本の統計から失業者が消えてなくなるのですよ。どこへ行ったかわからない、どこの統計にも出てこない。これがまさに日本的だと私は思うのですよ。たとえば、五十年の三月に初回の雇用保険の受給者が十七万六千で、前年度比五一・七%増、それから、四月が十五万八千で五六・四%も伸びて、この時期が受給者総数が一番多いのですよ。三月が百八万七千、四月が百四万九千、失業者はふえておるけれども、どんどん減っている。そうして今日にいきますと、大体百四万でありましたのが十一月は六十八万に減っておる。ですから、この諸君が就職をしておれば問題はないのです。しかし、常用の方は、雇用者総数は依然としてこうずっと減ってきておるわけですよ。この諸君は一体どこへ行ったろうかというと、これは完全失業者に若干入っている面もある。しかし、労働省の言う非労働力の中に入っている。ですから、完全失業者にも入ってこない。  日本の完全失業者というのは三つ条件がありまして、まず調査期間中に一月のうち最後の一週間一時間も働かなかった者ということと、就職を希望しておること。その次がむずかしいんですね。就職活動をしておるということですよ。この就職活動をしておるという条件でなかなか適用されない。そこで、失業者がどんどんふえておるけれども、完全失業者にあらわれてこない。それは安定所をそれほど信用しておらぬということもあるんですよ。保険金をもらえるときには毎月行くけれども、保険金が切れてしまったら、行ってみてもだめだというので初めから行かない。これは完全失業者にならないのです。それは就職活動をしていないということで完全失業者にならない。  そこで、では雇用保険が切れた者はどうしておりますかという追跡調査が、残念ながら安定所に一つもない。この人は就職しましたか、いや、しません、それでは何しているんですか、わかりません。——そんな費用はないんですよ。これが一番問題ですよ。要するに、雇用保険が切れた者の行く先が全然つかめていない。どの統計にもあらわれてこない。今日のように雇用問題がこれだけ重要になってくると、その追跡調査というものが統計上どこにもあらわれぬという仕組みが、日本の失業者が、いや二百万人おるんだとか、あれよりも三倍もおるんだとか言われておるゆえんですね。ですから、これを一体労働省はどういうように考えておるのか。とにかく三月、四月に百万以上おった受給者が十一月現在で六十八万しかいないのだが、この人たちは一体どこへ行ったのか、どういうように考えられておるか、これをお聞かせ願いたい。
  119. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 いま御指摘になりましたように、雇用保険の受給者の実態は、昨年の五十年の三月、四月、百八万、百四万、こういうのが、五月、六月以降だんだん減ってまいりまして、十一月に六十八万、こういう数字になっております。ただ、いま先生お持ちのように、その右側に前年との比較が出ておりまして、たとえば三月の百八万の当時は四四%増ということで、八十三万に減りました五月の場合が六六%、その次の七月の場合、八十四万のときが七四%、前の年に比べて、実数は減っておりますけれども、増加率は非常に高くなってきております。それが十一月、十二月とだんだん減ってまいりまして、十一月は五〇%増、十二月は三九%増、だんだん増加傾向が減少してきております。そのことは初回受給者、いわゆる新規発生の失業者の発生状況をごらんいただきますと、十一月、十二月、ここいらずっと対前年度と比較いたしまして減少してきております。むしろ逆にマイナスになってきている。新規受給者も十一月、十二月減少いたしてまいりまして、十二万、十万と対前年、一年前の同月に比べますと、逆に三角でマイナスになってきておる、こういう傾向がございます。  そこで問題は、百四万あったものあるいは百八万あったものが八十万、七十万とどうして下がってきたのだ、下がってきてその減った人間はどこへ行ったのだ、こういうことですが、昨年の十二月の労働力調査と比べてみますと、就業者が五十四万ふえております。雇用者数で七十八万ふえている。率にいたしまして一・一%、雇用者の比率で二・二%ふえている。こういう現実が十二月にははっきり出てまいっております。と同時に、この雇用保険の受給者の中には、先生承知のように、いわゆる出かせぎを中心にした出かせぎ受給者があります。それから若年の女子を中心にしました、先ほどからお話しになっておりますいわゆる非労働力化層、要するに保険金がもらえるから、失業給付がもらえるから、もらえる間は出てくるけれども、もらい終わってしまうと家庭に還流して非労働力化してしまう、こういう層があるわけでございます。そういう季節的な要因といわゆる不景気による非労働力化層が含まれておりまして、したがって百八万が六十万台に減っても、その人たちが完全失業者の中に出てこない者がかなりある。しかしその反面、また最近の新しい特徴的な傾向としましては、こういった完全失業者の中に、従来は非労働力化して表面化しなかった人たちが、意識の変化と申しますか、そういう形で完全失業者の中にかなり含まれるようになってきているということで、いままでの傾向からいたしますと、こういった雇用保険の受給の実態と完全失業者の実数とがかなり格差が出てまいりました。本来なら完全失業者が、いままでの傾向ですともっと減ってしかるべきものがふえてきている。それが十二月百五万というような数字になってあらわれておりまして、必ずしも宙に消えてしまってわからなくなっているということではないということは御理解いただけると思います。
  120. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 まだ、雇用保険が切れたばかりですから、一応まだ完全失業者として就職活動をしておると思うのです。まあやがて消えてなくなるんじゃないか。と申しますのは、ちょっと不思議なのは、これはあなたの方の毎勤の統計の常用雇用者指数は、十月、十一月、十二月と、もちろん製造業も減っておりますから、一般も減っているんですよ。それは常用雇用数が減っている。それから入職者と離職者の関係も、離職者率の方が高いのですよね。ですから、結局やはり失業者はどんどん出ておるという形になる。しかし、統計で実数は減っておるとこう言う。私はやはりここの政策が非常に問題じゃないかと思うのですよ。ですから一年間、五十一年度までは雇用関係がまだ軌道に乗らないと言うならば、何とかその失業保険の切れた人を延長さす必要がある。先ほどから参考人お話しになっているのは、要するに失業給付の期間を延長してくれ。しかも全国的な延長の場合、四%という数字があるけれども、これは日本では実情に沿わないという話が出ておるわけですね。  そこで、私ばまず全国延長をするかどうかという点と、もう一つなかなか制度がきめ細かく、あなたの方はつくってあります。雇用保険法のときにまず個別延長、それから訓練延長、広域延長、全国延長と出ておる。しからば、個別延長はいままでどのぐらいその適用になったのか。実数ですね。それから広域延長は一体どのくらいになっておるのか。訓練延長ば何人ぐらいされておるのか。全国延長はもちろんありませんが、これをひとつ実数でお示し願いたい。
  121. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 先ほどから私どもの方の雇用の統計数字をお挙げになりまして、入職率が依然として離職率を下回っている、だから失業者がふえているんだ、そこが問題だという御指摘でございますが、まさしく入職率が離職率を下回っている、こういう状態が続いている。これは、三十四、五年当時あるいは四十年代の二回にわたる不況の場合も同じでございますが、ただその当時よりもこの不況の幅なり、質的にも量的にもかなり大きな差があるということは従来私ども指摘をしてまいっておるわけでございます。昨年の十二月の時点で申し上げましたような製造業につきまして、雇用指数もかなり好転しておりますし、これは生産の回復過程を後づけておるわけでございますが、それでなおかついろいろ問題が出ていることは確かでございまして、いま御指摘になりました雇用保険の受給期間切れ、もうすでに昨年から出てまいっております。これは、個別延長なり広域延長なりあるいは訓練延長なり、そういった幾つかの延長制度がございまして、個別延長につきましても昨年の四月この法律が施行されまして、不況業種からの離職者で、若年層の人たちにつきましてもごくわずかではございますが、すでにこの延長の対象になった人がございます。個別延長給付で、若年層で対象になりましたものが、昨年からことしにかけまして出始めておりまして、これが二百六十二件でございます。それから訓練延長で、訓練を受けることによって給付期間が延長になりましたのが実人員で二万九千五百九十八件でございます。人数でございます。それから広域延長が二十四名でございます。  以上でございます。
  122. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 法律をつくり、それから政令をつくり、しかも、今日のような雇用情勢の悪いときに個別延長が二百六十二件とか、それから広域延長が二十四名とかという、これは一体どういうことですか。全国で失業者が百万も出ておるのに、広域延長がたった二十四名とか、これはどういうようにしてこういう適用をしておるのか。われわれは法律をつくったわけですよ。ああ、これで大体個別延長もできるな、広域延長もできるな、こう言っておるのに、実際当たってみたら二百六十二件であったり、たった二十四件であった。これじゃ法律をつくった価値がないじゃないですか。どういう運営をしているのですか。
  123. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 広域延長が非常に件数が少ない、対象人員が少ないのは、先生承知のとおり、広域延長は広域の指定地域がございまして、そこからその地域外へ就職をしたい、そういう申し出があれば当然対象になるわけですが、たとえば過去における筑豊地区あるいは北海道の炭鉱合理化によりまして離職者が多数出ました際には、この広域延長の対象が非常に多かったわけでございます。最近はそういった人たちがもう出る者は出てしまって、後は当該地域内でということになって、その地域から外へ出ることを希望しないということで対象になりませんが、いまでもその地域外への就職を希望すれば当然対象になる、適用されて延長になる、こういうことでございます。  それから個別延長につきましては、この法律の施行が昨年の四月でございました。いま申し上げました数字は実は九月一日現在でございまして、非常に少ないのは、結局給付日数が九十日あるいは百八十日ということで、その短い給付日数の人たちがわずかに出始めたわけでございます。十一月現在になりますとその数が約倍以上になっておりまして、給付期間が、就職のむずかしい人ほど、年齢の高い人ほど給付日数を長くするという新しい制度によりまして、中高年層につきましては、ことしに入りませんとまだ延長の対象にならなくなってくるということになっております。したがって、若年層の不況業種からの離職者だけが、ごくわずかその対象として出始めた時点の調査でございますので、したがって非常に数が少ないということでございます。
  124. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 やはり一つは、広域延長の場合は問題があるのは、失業者の非常に多発地域という、こういうもののとらえ方をすべきであったんじゃないか。それはいまわざわざ京阪神まで来ても就職ないのですから、行きませんよ。ですからこの法律が死んでしまっているわけですよ、本来。それは炭鉱があれだけ失業者が出たときは高度成長にあったわけです。ですから、いまは全国的に失業者のときに、広域転換をやろうとしたって、本来それは無理なんです。それは大体われわれも含めて立法者が悪い。しかし、これは大体多発地域という意味なんですよ。ですから、あなたの方がその運用をするのに問題があったんじゃないか。それから実ば私も若干十一月の数字を持っておりますが、局長が九月でお話しになりましたからやめますけれども、十一月でも大したことないですよ。個別延長が全実数にして九百六十六人でしょう。広域延長が全部実数にして三十六人です。ですから全く絵にかいたもちのような運営しかなされていない。そこで、これはせっかく制度がありますから、実のあるものにしてもらいたい、こういうように思います。  そこで、全国延長ですね。やはりいまのように五十一年度まで雇用問題は見通しが暗いというんでしょう。ここで大臣は、制度があるんですから、立法者はあなたに任せておるわけですから、今日のように、永遠にあるというならばまた問題があるのですが、大体五十一年度までは雇用情勢が暗いというなら、やはり全国延長を考えるべきじゃないか、こういうように思うわけです。参考人の方もそのことを非常に希望されておりますし、そうして失業保険が切れてもう困っている例はわれわれの周辺には幾らもあるわけです。何ともしがたい、救いようがないですよ。じゃ、生活保護に全部入れるかといいましても、それはせっかく意欲のある者が訓練を受けた。訓練期間を終わったけれども方法がない。いま訓練を受けてもみんな仕事がないんですよ。ですからそれはひとつぜひ全国延長をすべきではないか、こういうように思うのです。  それから都市型の失業の話が出ましたが、日雇い失業保険の資格のない諸君が非常に多いですね。そこで、例の印紙が売買されているという問題が起こるわけです。これを一体どういうように見ておるのか、これをお聞かせ願いたい。
  125. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 雇用問題は目下の一番大事なことでございます。そこで、昨年皆さんに御審議いただいた雇用保険法、これは、いまのようなことなどもありますけれども、まず第一番に、昨年の一月から雇用調整給付金で失業者を出さない手当てができたこと、そして、いまの全国延長等々の話は、法律上は非常に詳しく書いてあり、それを一つ一つやっておることも事実でございます。また、その中の訓練延長などは今日非常に歓迎されていることは御承知のとおり。そういう中でもございますが、ただいまの全国延長の問題等々は、審議会等々にいろいろ御相談しながら、こうしたときに万全の対策を将来ともに図っていきたい、こう思っております。
  126. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そうすると、審議会におかけになるんですね。近くおかけになる……。
  127. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 先般、社会労働委員会においてこの件を御検討になりました際に、労働大臣から延長問題、いろいろな延長の制度がございますが、こういったものの運用等につきまして中央職業安定審議会の御意見も聞いてみますということで、すでに御議論を願っておる最中でございます。
  128. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 それは、政府の意思をはっきりして、諮問をした形でやっているんですか。
  129. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 労働関係四団体の御要請もあることでありますし、国会でも御意見のありました点でございますので、今後こういう問題についてどういうふうに検討したらよろしいか、考え方について審議会でも御議論願いたいということで、正式の諮問ではございませんけれども、関係の諸条項につきましていま現在いろいろと検討を続けていただいている最中でございます。
  130. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 いろいろな審議会には、本来政府の案を出して、ことに財政と関係があるわけでしょう、大蔵大臣おられるけれども財政と関係があるんですから、政府態度を示してこれは諮問すべきですよ、正確に。どんな様子ですかなんて言ったってだめでしょう。正式な機関に、政府としてははっきりした意見を持って、こういうようにしたいがどうですかと、こういうように諮問すべきじゃないですか。恐らく、社会労働委員会のその質問に対する答弁も、そういうように議員の諸君は受け取っておるんじゃないですか。ですから、寄り寄り話もしてもらっておりますじゃ、私は済まぬと思うのです。正式な政府意見を決めて、それで労働大臣から審議会に諮問をしてもらいたい。どうですか。
  131. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 これは労働大臣からの諮問をすべき事項ということではございませんが、関係方面からいろいろと御要請のあることでもございますし、国会でも御検討になった問題で、今後この制度の運用なり制度の改定についてどういった方向で考えたらいいか、検討したらいいのか、たくさん問題がございまして、その中の一環として、この給付延長の諸制度につきましても審議会の御意見が承れれば今後の参考にしたい、こういうことで御検討いただいておるわけでございます。
  132. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 この四%というのは、いろいろ外国の事例であるならば、私は、四%の失業率というのはある程度の妥当性があると思います。ところが、日本の場合の四%というのは、余り妥当性がないんですよ。一体、四%になった時期はいつなんですか。あなた方の基準で四%になった時期はいつが四%になっているんですか、いままでの失業保険ができてから。
  133. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 現行の雇用保険法によります失業給付の受給率と、それから一昨年までの旧失業保険法によります失業保険金の受給率と、これは若干、制度内容等に変更がございますので、必ずしもこの数字がそのまま当てはまるというわけではございませんけれども、旧失業保険法によります受給率が四%を超えておりますのは、二十八年、二十九年、三十年の時点におきましては、いわゆる二十八、九年の不況時、このときばずっと四%を超えておりまして、二十九年度年度を通じて五%を超える、こういう状態が続いております。  私どもがこの四%を決めます際には、国会審議の過程でも非常に議論のあるところでございましたし、審議会でも非常に大激論が闘わされまして、五%は高過ぎるのじゃないか、三%では低過ぎるのじゃないか、三・五%がいいのか、四・五%がいいのかといったようなことで、いろいろと具体的な数字、データを挙げて御検討いただいたわけでございます。その結果が四%ということで一応決定されまして、昨年の四月から施行になっているわけでございます。私どもは通常の状態で——現在三%前後の受給率を示しておりますが、御承知のように昨年の四月の新法の施行によりまして、中小零細企業が全面適用になりましていわゆる全面適用、手続ができなくても、その零細企業の雇用労働者が失業した場合には、離職をした場合には当然給付の対象になり得る、こういうことで、不況になればそういった受給者がふえておることも事実でございます。そういったことから、この受給率をどういうふうに見ていったらいいのか、そういう観点からこの四%という数字が一応決められたわけでございまして、私どもとしては、この四%という数字が適正な水準ではないか、かように考えておるわけでございます。  しかし、それに対していろいろな御意見がございますので、先般の国会の先生方の御質問に対して、労働大臣が、確認答弁という形で、審議会の御意見も御検討していただきたいということをお願いすることにいたしますということによって審議会の検討を続けていただいているわけでございます。
  134. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 福田副総理、この離職することも非常に問題がありますけれども、再雇用というのが今度は非常にむずかしくなる。再雇用、要するに再就職というのが非常にむずかしくなるのです。これはいままでは高度成長でしたから、大体期待感も企業にありましたから、ある程度の雇用を抱えてもいいという、今度は企業としては、比較的低成長へ入るので非常に用心をするわけです。ですからこれは再就職が非常にむずかしい。それから、すぐ景気が回復するといっても、設備投資をどんどんするような情勢にない。ですから、いままでの雇用で何とかやりくりたい、あるいはまた、私は、いまからはいわゆる常用の解雇が起こるのじゃないかという心配をしているのです。むしろ雇用は女子労働とか、あるいは臨時工とかは入れるでしょうけれども、いわゆる本採用というのは非常にむずかしい情勢になる、こういうように思うわけですよ。ですから、私はむしろ、いままでに例がない回復が非常におくれるのだから、全国延長をしたらどうか、こういうときこそ全国延長をしないでいつやるのですか。このときが一番必要ではないか。いま話がありましたように、昭和二十七年、八年、九年だと言う。このときに四%を超えた例があるのだと言うが、その後はずっとないわけです。四十年不況とかいろいろ言われてもないのですから、これはひとつぜひ実施をすべきではないか。これはどうですか、副総理、大蔵大臣、ひとつ労働大臣を応援して——いま本当に再就職はものすごくむずかしいですよ。後から新規学卒も聞きたいと思うのですが、時間がありませんが、とにかく再就職までが非常にむずかしい情勢の中で全国延長というのを考えたらどうか、こういうふうに思いますが、どうでしょうか。
  135. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 これからの雇用状況を見てみますと、なかなか厳しい状態だと思うのです。特にこの一−三ですね、これは季節的な関係もありまして、どうもそう改善はしない。ただ、春先ごろから改善するだろう、私どもとしてはこういうふうに見ておるんですがね。それから、さらに長期的に見れば、だんだん生産年齢人口が、これは伸び率が落ちていく、こういうふうな見解です。逆に需要の方から見ますれば、これは企業構造の変化、労働力を必要とする状態がかなり出てくるんじゃないか。そこでかなり改善されるという方向では動いていく、こういうふうに見るのです。しかし雇用問題、これはなかなか重要でありますので、労働大臣を中心といたしましていろいろ協議して万全を尽くしてまいりたい、かように考えます。
  136. 大平正芳

    ○大平国務大臣 再就職問題、仰せのとおり雇用政策の一つの重点であり盲点でありますことは、われわれも理解に苦しゅうないところでございます。ことしの予算におきましては、中高年齢層の雇用問題につきまして若干の配慮をさしていただいておるわけでございますが、その実効を確保してまいることはもとよりでございますが、さらに事態の進展に応じてどのような施策を政府として構えてまいりますか、これは部内におきまして労働省を中心にいろいろ練りまして、御期待にこたえるように検討を進めていかなければならぬと考えております。
  137. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 次に、この三月に卒業をする新卒いわゆる学卒ですね。この就職の見込みは大体どういうようになっていますか。
  138. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 昨年の委員会でもことしの三月卒業する大学のいわゆる新卒者の就職について大変御議論が出ましたが、その後私の方あるいは私立大学連盟、さらに文部省、日経連、全国の各商工会議所、いろんなところに督促あるいは勧奨などをいたしまして、今日まで得たる情報では、私立大学十三大学の最近の統計を見ますと七三%、いい大学は私立でありながら九三%、そういうふうな状況をとっております。なお詳しい数字は、あるいは局長から御要請によってはお答えさせます。
  139. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 大体大学生が三十五万ぐらい卒業をするわけですけれども、そのうちにいわばいままでホワイトカラー、言葉は必ずしも正確でないですが、それは二七%ぐらいですよ。ですから、これからの卒業生というのはいままでのような考え方でいかないという問題が実はあるわけです。ですから、それは本人たちまたは親御さんも十分いまの雇用情勢というものを考えていかなければならないのであります。  私は、五十年度から六十年度に向かっての雇用動向の見通しについて実は質問をしたかったのですが、時間がありませんから、せっかく組合の方が見えておられますから、私どもが賃金問題等で一番胸を痛めているのは住宅問題です。これは賃金が高いとか安いとか言っていますけれども、いまのように政府が持ち家制度を推進しますと、いま東京で千二百万円ぐらいの家なんというのは全くマンションでも小さいですよ。しかし、いま三百万円ぐらいの手持ちがなければとてもだめだと言っておりますから、あと九百万円ですよね。九百万円といいますと、二十年で八万数千円月に納めなきゃならぬですよ。いままではインフレでかなり資材が上がった。ですから土地の値段も上がったし資材も上がったから、いま建てるよりもよっぽどよかった。しかし、これが減速経済になってまいりますと、賃金もそれほど上がらぬということになりますと、これは大変な重荷になる。それで一体、労働者の皆さんはどういうようにこれを考えておるか。政府の方はどちらかといえば持ち家制度だ、こう言っておるでしょう。しかし、一月に九万円もどうして捻出するかです。ローンが払えぬで自殺者が出ておるというのは、もうすでに各地に出ておる。これが家庭の紛争の大きな種になりつつある。これは私は、自分が家を持っておる者と持たない者の差というものは人生二十年にわたって大きな差になって、重圧になってくると思う。ですからこの問題は、政府にはやがて聞きますけれども、あなた方、きょうの参考人の方は一体どういう感覚でおられるか、これをひとつお聞かせ願いたい。
  140. 安恒良一

    安恒参考人 いま多賀谷先生から御指摘のあった点は非常に重要な問題でありまして、私たちは率直なことを申し上げまして、昭和三十年代から四十年代の前半に新しく労働者になった人々は、場合によればいま申されたような、東京で言うと千数百万の分譲住宅を買って月々のローンで払っていくということができたと思うのです。しかし、もうそれ以降新しく労働者になった人々は、いま先生がおっしゃったとおりに大体東京で三DKで千四百万というのが普通だ。そうしますと、月々の支払いが約八万から十万になり、そこでわが国でやはり住宅政策で一番おくれているのはいわゆる公営の賃貸し住宅、これはヨーロッパのドイツ、フランス、イタリア等に比べて全住宅の中で安い公営の賃貸し住宅の不足というのがわが国では特徴的であります。  そこで、私たちの労働者の住宅政策というのは、持ち家というまりも安い公営の賃貸し住宅を実は大量建設をしてもらいたい。ところが、ここ数年来建設省の住宅政策というのは賃貸し住宅の比率がだんだんと落ちて、そしてむしろ持ち家政策というところに国の政策の重点が置かれていることはこれは大変時代逆行だということが一つの問題であります。  それから、私があえて安いということを申し上げたのは、今日住宅公団等が建てますところの賃貸し住宅自体に労働者が入り得ない。率直に申し上げて、私たちは賃上げをしていきますけれども、いまも御承知のように安定経済成長に入りますと、高度経済成長政策のような大幅な賃上げというのはなかなか困難な実情にある。ですから、安い公営住宅をつくるためのいわゆる国の安い公営住宅の建設の仕方、たとえば二十年というのを三十年なら三十年にやはり延ばすとか、それから金利問題、こういうものを考えていただかないと公営住宅にすら労働者が入り得ないというのが今日の状況じゃないかと思いますが、とにもかくにも結論といたしますならば、安い賃貸しの公営住宅のやはり大量建設ということをぜひ国会の場で取り上げていただきたいものだ、このように考えています。  以上です。
  141. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 河野さん、申しわけありませんが、時間がありませんので次の質問をさしていただきたいと思います。  実は労働省は、失業対策制度調査研究報告というのを先生方に依頼をしておられたのをこのたび受理されたわけです。この具体化についてどういうようにされるのか。労働者の方が一番心配しておるのは、賃金下げられるのじゃないかとか、あるいは仕事が変わるのじゃないかとか、あるいは首を切られるのではないかとか、いろいろ心配をしているわけですよ。ですから、その点についてひとつこの席で明快にお答えを願いたい、こういうように思うのです。
  142. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 失対の問題については、おっしゃるとおりいろいろ研究会などをやっていただきまして、この方々はやめてもらうとかなんとかということは全然考えておりません。非常に高年齢者が多くなりましたので、年齢に応じて仕事を二つぐらいに分けて仕事をしてもらうようにしたらどうか、こういうふうな考え方でございます。
  143. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 じゃ具体的に聞きますね。時間は若干短くなるわけです。種類も多くなるわけです。まず第一に心配しているのは、時間は短くなるが賃金はいままででも各地にあります最低賃金の若干上積みのところですね。あなた方は失対の賃金を抑えておいて最低賃金を決めるわけですから、まあそれはリンクしているわけですよ。ですから賃金が下げられるんじゃないかという心配ですね。それからもう一つは、社会保障が完備していくので追い出されるんじゃないか、こういう心配、ひとつ局長から明快にお答えを願いたい。
  144. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 ただいま大臣からお答えございましたように、失業対策事業の就労者につきましては、もうすでに全体が六十歳を超えるような高齢化をしております。こういった人たちの就労につきましては、健康管理の面あるいは作業の安全の面、いろんな問題が出てまいっておりますので、五年前に中高年齢者の特別措置法が成立いたしました際に、緊急失対法によります就労者につきましては、今後とも就労事業を打ち切るというようなことをいたしませんということを国会で明確に御答弁申し上げたわけでございます。そうやって現在就労しておられる方々、十一万人余りおられますが、こういう人たちのそういう就労実態にかんがみまして、いま大臣から御答弁ございましたように、非常に老齢化をした人たち、あるいは病弱で体力的に非常に劣っている人たち、こういった人たちを同じように画一的に土木作業をやらせるということにつきましてはいろいろな面で問題がございますので、こういった老齢化したあるいは病弱な人たちとそれ以外の人たちとグループを二つに分けまして、それぞれ体力、年齢に相応したふさわしい事業に働いていただこう、こういう趣旨検討願った結果、その結論によって来年度から実施をしたい、こういうことでございます。  そこで問題は、そういった老齢化した、体力の劣る人たちにつきましては、現在八時間制をとっておりますものを一日六時間、それ以外の一般のグループにつきましては七時間、こういうことで労働時間の短縮を図る。で、それに応じた作業内容をそれぞれ各地域ごとに実態に応じて作業を選定させよう、こういうことでございます。  そこで問題は、そういった労働時間短縮に伴って賃金が下げられるんじゃないかということでございますが、これは現行の賃金をそれ以上に引き下げるということは考えておりませんので、問題は、もう一つは、いまお話しになりました社会保障制度が完備するに従ってこれは打ち切るのじゃないか、これも数年前のお約束どおり打ち切ることは考えておりません。
  145. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 失対を打ち切るほどまだ年金が上がりませんからそういうことでしょうけれども、とにかく働いておる人はそれで生きがいを感じているわけですから、その点を十分考えていただきたい。  それから、私はむしろ、長期的ではないのですけれども、短期的に言いますと、失対を部分的に復活さしたらどうか。出かせぎだってそうですよ。そうして自治体がいま単独事業としてぜひやりたいという仕事を起こしたらどうかと思うのです。むしろ一つは全国延長をするか、そういう資格のない人は失対事業を起こすか、それも長期ということになると非常に問題があるから、この特定の事業に限り新規に行う。外国は全部そうしているのですよ。いまの減税とか、それから賃金アップとか、年金を上げるというほかに、各国とも失対事業をやっておる。それはもう長期的にやるから、そしてこの仕事というきわめて短期的な、しかもその仕事をとらえて、ひとつ失対事業というものを復活さしたらどうか、こういうように思うのです。それは地域的にそういうことが可能です。ですから、そういう点はきょう櫻田さんの産業計画懇談会の方からも別の意味でそういう提案が出ておるんですね。ですから、そういうことをむしろ積極的にやったらどうですか。そうしなければ皆厚生省へ行きますよ。私はそう思いますが、どうでしょうか、最後に。
  146. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 いまのところ、何よりとにかく失業者を出さないということに重点を置いてやってまいりたい、こう思っております。
  147. 正示啓次郎

    ○正示委員長代理 次に石母田達君。
  148. 石母田達

    石母田委員 私は、きょう、失業者の生活、就労保障と、特に大量解雇の規制の問題について主として質問したいと思います。  まず最初に、失業者の生活と就労保障の問題でございますけれども、先ほどから経営者団体の話を聞いても非常に深刻な状況である。私どもが国会議員団として、特に民間日雇い労働者の就労実態を、昨年の秋、不破書記局長を先頭にいたしまして全国的に行いました。その結果でも、きわめて劣悪な状況であります。さらにこの点に基づきまして政府に緊急対策を申し入れました。  まず、私は最初に、この受け入れ側の方の経営の実態がわかりましたけれども、この結果、ことしの大学などを卒業された諸君が一体どういう就職状況であるか、また、わかるならば、その中で採用されたが、つまり一時自宅で待機をさせられている、あるいはまた、一たん採用と通知が来たけれども取り消されている者とか、そういう人たちがありましたら、その点での調べがありましたら聞かしてほしいと思います。まず文部大臣にお伺いしたいと思います。
  149. 永井道雄

    ○永井国務大臣 ただいまのまず第一の問題でございますが、大学卒業者の就職状況でございます。これは昨年の春先、経済状況が悪いというので心配をいたしておりました。そこで求人の時期を少しずらしたわけです。求人の時期をずらしまして、一ヵ月後の比較では、これは危惧するほどではなく、その前年度の求人の一ヵ月後とほぼ同じ程度の求人があったということでございます。それが九月末でございますが、しかしさらに、その後どの程度の事実上の就職内定があるかという調査を十一月、それから十二月、一月、三度に分けて行っております。まず十一月の……(石母田委員「一番最近のものを」と呼ぶ)そうでございますか、しかし、一番最近の一月のはまだ集計中でございますから……。十二月末現在では内定率約六割でございます。  それから第二の先生の御質問の一時待機、採用取り消しの問題でございますが、これも昨年問題になりましたので、労働省とも協力をいたしまして、これはやはり危惧をいたしておりましたが、幸いに本年は採用内定ということがありながら、しかも一時待機とか採用取り消しという事態は生じていないということでございます。
  150. 石母田達

    石母田委員 いまの数字は、三十六万人のうち、未就職者数が約十五万人というふうに文部省からも受け取っておりますけれども、大体六〇%というのはそういう数字として理解してよろしゅうございますか。
  151. 永井道雄

    ○永井国務大臣 結構です。
  152. 石母田達

    石母田委員 そういう状況のもとで、私は近藤参考人に、まず、一体失業者がどういう生活、就労状況にあるかという実態を現場におられるあなたから知らしてほしいと思います。
  153. 近藤一雄

    近藤参考人 近藤です。ただいま先生御指摘の、特に職安登録日雇い労働者の就労と生活の状況について最初に申し上げたいと思います。  これは特に東京の場合がひどいのでありますので、就労の状況について最初、玉姫、河原町労働出張所に限定されますが、両出張所合わせて約五千名登録しておりますけれども、一月の延べ求人数が一万二千七百五十二名、うち東京都の特別就労対策として六千五百五十五ありますので、一般求人の約五割強をこれが占めているという状況であります。  輪番の回転、これは紹介を受ける機会が回りばんこに来るわけでありますが、その状況は、玉姫の場合は、一月の場合四回から五回、河原町の場合は七回から八回、最低月十四日就労しないと、雇用保険の日雇い失業給付というお金があるわけですけれども、それももらえない。それから日雇い健康保険の受給資格もなくなるという状況であるわけです。きょう傍聴に来ました仲間の手帳を若干持ってきておりますが、こういう状況であります。これは一月がこのとおり三日しか働いてない。それから、十二月が同じく三日であります。これは全部調べればあれですが、時間がありませんから申し上げませんが、中には一日しか働けないという状態もある。それはたまたま回る場合、自分の就労に適さない、たとえば労働の強度だとかあるいは賃金の問題だとかありまして、適さないといった場合は希望しないわけでありますから、そうするとどんどん回りばんこが回っていきますので、回数としては四回から五回、七回から八回ということになっておりますけれども、実際にはそれ以下の場合もあり得るという状況であります。私たちは少なくとも十四日以上の確保を切実な要求として、これは労働省当局にも要求してまいりましたし、昨年十一月の十一日の衆議院社会労働委員会でも労働省の遠藤局長は、月十四日の就労の保障について期待に沿うべく努力するというふうにお答えがあったわけであります。しかし、実際の状況はいま申し上げたような状況で、全く就労の状況は最悪の事態だというふうに言われております。  次に、生活の状況を若干申し上げますと、これは一月二十四日の朝日新聞が伝えておりましたいわゆる年末年始の青カン、露天で寝た労働者の凍死について伝えておりますが、その際は年末年始に六名、そうした状況でいわゆる青カンで亡くなっているわけであります。しかし実際にはもっと数が多いのでありまして、たとえばドヤで、その日たまたまおったということで外ではないけれども凍死をしたという例もありますので、私たちの全日自労の組織が調べたのによれば、少なくともこの山谷のかいわいでは年末年始の時期に三十名を下らない、そういうふうに言われているところであります。     〔小山(長)委員長代理退席、井原委員長代理着席〕  現在ドヤ賃は、宿賃でありますね、ドヤ賃と言っておりますけれども、それは四百三十円が最低であります。ですから、最近特に地下道だとかそういうところで寝る者、それから軒下に寝る者がふえております。対策はどういう対策が行われておるかということを率直に申し上げますと、いま寒いわけですから、この寒さに寝入りますと死んでしまいますので、警察官がときどき回ってきては寝るな、死んでしまうぞ、こういうことで起こして歩くというのが最大の対策だというふうにわれわれは見ているところであります。何らこれらの労働者に対して仕事を与えるとか、それから生活を保障するという対策がとられてない。  それから、最近ますますまた売血がふえているということを申し上げておきたいと思いますし、月四回から六回も売血する者もおるという状況であります。  先ほど若干生活保護の話もありましたけれども、生活保護の適用についてもこの地帯においては病気でなければ適用しない。いわゆる働く意思と能力があれば当然働くことが第一でありますので、働く機会があるなしは別として希望しろということになりますから、診断書を持ってこいというふうに最近言っております。これについては非常に重大な問題だというふうに思います。働く場所がないことは非常に明らかなのでありますから、当然生活保護の適用が無条件に行われなければならないというふうに思います。  二つ目の問題は、私はいま特に職安登録の日雇い労働者の問題を申し上げましたが、失業多発地帯、特に筑豊の問題について若干申し上げたいと思います。  筑豊全体で失業対策の事業に従事している労働者は約一万七千名であります。一般失対は八千五百、緊就が二千五百、開就が二千八百、特開が三千ということになっておりますが、その中心であります田川の職安管内を見ますと、田川の職安管内全体の人口が十六万四千二百十三人に対して世帯が五万一千三百五十三世帯というふうに言われております。そのうち失対諸事業が八千、それから、いま中高年雇用促進特別措置法による手帳によって就職促進の措置を受けているものが約千五百、それに生活保護を受けている世帯が一万百十四世帯あります。ですから約三割から四割が生活保護だとか失対事業だとかいうのによって、それでなければ生活ができないという状態にある。  こうした失業と貧困による生活の環境は、特に少年の非行が顕著になっているということ、これは田川署が二月五日に少年非行白書というのを発表しておりますけれども、それによると、昨年補導した刑法犯の検挙数が三百五十四名、そのうち小学校の生徒が六十四名、一昨年よりも二十九人ふえているというふうに言われております。犯罪の内容も非常に凶暴化している。だから最近の傾向はいわゆる失業と貧困による非常に大きな影響をこれに与えているというふうに言われているところであります。特に失業と貧困の家庭環境について川崎町立中学校で調べたのによりますと、川崎のこの学校は四百四十七名検査をしたわけでありますが、その中で特殊学級に入らなければならないという対象者が七十九名おるというふうに言われておって、非常に大変な実は事態だというふうに言われております。  ぜひこの地帯では公共事業を大規模に起こして失業者を吸収すること、失対事業の改善によって生活状況を改善すること、地方自治体の負担を軽減するというふうなことが強く求められております。特に緊就、開就事業が五十二年以降実施されるかされないかということを非常に仲間は心配しておりますので、その不安をぜひ除去してほしいという希望が強いわけであります。  失対労働者の生活を概括的に申し上げますと、失対事業の賃金は現在二千百四十円、五十一年度からは一応予算案によれば二千三百六十八円であります。一〇・六%の引き上げになっておりますけれども、しかし、月約五万円前後でありますので改善する必要があるというふうに思います。それから、失対労働者の家計調査を私たちは三年間連続して行って、特に中央大学の江口教授などの協力を得てその集計等を行っておりますけれども、昨年十月の状況は、七十一世帯の平均でエンゲル係数が五二・七%、これは前年でありますけれども、四十九年が四四・〇%でありますから非常に悪化しているということがここで言われるわけであります。まさに動物的な生活を強いられている。賃金の状況からしてそういうことになっております。  この深刻な失業者の状態に対して緊急に仕事と生活の不安を取り除く対策が強く求められておりますし、先ほど私はちょっと申し上げましたけれども、北海道における出かせぎ問題などについても非常に深刻であります。北海道だけじゃない、東北も含めてでありますけれども、出かせぎ問題が深刻でありますので、そうした問題についても十分ひとつ労働者に働く機会と生活の保障を確立するために国会で十分御論議を願いたいことを常に念願しておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
  154. 石母田達

    石母田委員 いま聞いていて非常にはだ寒い感じがするわけであります。私も、いまの近藤参考人お話のような経験を一つしているわけですが、私どもの住む横浜には、いわゆる釜ヶ崎、山谷と並んで寿町というところがございます。失業者の密集地帯ですが、これを管轄する伊勢佐木署の発表によりますと、管内で昨年一年間に行路人の死亡者数、つまり行き倒れで死亡した数が百四体中、その七〇%が寿地区と報告されております。こうした点でこの地域でも、いまのお話にありましたような防犯上の事犯が失業の多発と同時に起きているわけであります。  私は、ここで公安委員長としての福田自治大臣にお伺いしたいと思いますが、昨年東京都に対し、こうした失業の悪化という中で、警察当局から、防犯上の立場からも失業救済の緊急対策を要請したというふうに聞いておりますけれども、この点についてお伺いしたいと思います。
  155. 福田一

    福田(一)国務大臣 お答えをいたします。  この雇用不安による防犯上どのような処置をしておるかということで、特にいまの伊勢佐木町ですかの問題を御質問があったわけでございますが、われわれとしては、この雇用不安による影響として、行路病人とかあるいは定まった住居を有しない者が、保護する者がだんだんふえておるという事情も踏まえまして、常に雇用情勢の変化に注目して、地域的に必要があるところでは、保護、それから防犯活動の強化、関係機関への要望などの措置を実は講じております。もし具体的な問題でありましたら保安部長からお答えいたさせます。
  156. 石母田達

    石母田委員 質問意味は、東京都にそういう要請を行った事実があるかどうかということを聞いておるわけでございます。
  157. 福田一

    福田(一)国務大臣 それも実はございます。昭和五十年の七月四日に、警察庁の保安部長から東京都の労働局長及び民生局長に対して、山谷地域日雇い労働者の求人対象について依頼をしております。その趣旨は、山谷地域内の簡易宿泊所の人口が減少しているとはいえ、玉姫労働出張所において最高一日四百十三人というようにかつてないほどの多数の就労できない者が出るなど、労働者の不満がうっせきしていることから考えて、ひとつ十分にこういう面について処置をしてもらいたいというようなことを通知をしております。
  158. 石母田達

    石母田委員 私は、こういう状況は、もはや失業者の問題というのがいわゆる地域的な、年齢別あるいは部分的なものではなくて、全面的な問題になっているし、あらゆる職種に及んでいることは言うまでもないと思います。こうした点で、私は、この失業者の生活保障というものが国の施策としてもきわめて重大な緊急な課題になっているというふうに考えておりますけれども、この点について、労働大臣には常々聞いておりますので、きょうは、政府を代表するという意味で総理大臣が来ておりませんで、その次に当たる福田副総理に聞きたいと思います。
  159. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 ただいま伺ったところでも、この日雇いの方々状態は非常に深刻なように思われるわけでありますが、それにはどうしても失対事業的性格の公共事業を起こす必要があろう。そこでそういうことにも着目いたしまして、政府といたしましては本年度は第四次不況対策、それから引き続きまして五十一年度におきましては公共事業を、五十年度また四十九年度はかなり抑えたのですが、今度はこれを非常に拡大をいたしておる。これがとにかく一番有効な手段ではあるまいか、さように考えますると同時に、早く予算を議決していただきまして、その執行を取り急がなければならぬというふうに考え、その施行をいかに早くいたすかということにつきまして鋭意いま政府部内においても検討いたしておるというところでございます。
  160. 石母田達

    石母田委員 いまは公共事業に失業者を吸収することが一番の施策だというふうに答えられる。なるほどそうだと思います。  私は近藤参考人に、それではその施策というふうに考えられている実態は一体どういうものであるか、近藤参考人に聞きたいと思います。
  161. 近藤一雄

    近藤参考人 公共事業に失業者を吸収するということについては、失対事業が開始された当時からこのことは言われておったし、しかも実際にそのことが行われてまいりました。特に特別失業対策事業だとか臨時緊急就労対策事業だとかということで、これは公共事業に対する吸収率ということでそういう措置が行われたわけでありますが、最近は公共事業に失業者を吸収するということについてほとんど行われてないというのが実情であります。当局は住宅建設等に失業者を吸収する、そのために努力をするというふうにわれわれにも言明しておるわけでありますけれども、余り実施をされていないという、実際には働いていないというのが実情であります。  例を一つ申し上げますと、東京足立の大谷田地区というところで公団住、宅建設を行っておりますけれども、ここで躯体工事では十五社、付帯工事では三十六社あって、その協力会の会長は戸田組が行っておりますけれども、これは何回戸田組に申し入れをしても登録日雇い労働者を雇い入れしない、求人をしないという状況であります。彼らの言い分によれば、不況のために手持ち労働者を使うだけでいっぱいであるということです。設備工事は技能工中心だから日雇いの仕事はない。材料運搬などくらいはあるだろう、こうこちらが問い詰めているのに対しても、言を左右してなかなかそのことについて答えないという状況であります。特に大成建設などでは五百二十人の無技能労働者を使うということになっているというふうに聞いたものですから、それを再三申し入れを一これは同じく足立地区であります、同じく公団の建設をやっております関係で、そういうことを聞いたので、再三申し入れをやったところが、には十名求人があったというだけで、五百二十名という数は全くこれは架空な数字だということになっているという状況であります。したがって、公共事業によって失業者を吸収するということは、私たちもぜひやってほしいわけでありますけれども、実際にはなかなかそうなっていかない。特に手持ち労務でいっぱいだというのが現在の状況で、なかなか日雇い労働者のところにまで渡ってこないという状況になっております。
  162. 石母田達

    石母田委員 これが実態だと思います。幾ら公共事業を起こしても、そこで職安を通じての民間の日雇いの人たち、そういう人たちが入れないという状況ではこれは一切問題は解決しない。  いまのお話でちょうど住宅公団の話が出ておりますが、建設大臣に私はお伺いしたい。これは昨年、あなたもそのときは大臣だったと思いますが、十一月でしたか、閣議でも関係大臣に労働大臣から協力要請をしたというふうに聞いております。またその前の十月には、各都道府県知事へ要請を職安局長の名前で出して、いわゆる公共事業の発注状況をよく知らしてもらって、そして職安がそういう人たちを吸収できるようにしたいという要請が行っているわけです。特に建設大臣は、こういう公団など公法人を含めまして、かなりの公共事業を持っておられる部門なので、建設大臣として、一体、公団などがそういう事業をやる、大成建設その他にやらせるときにこういう指導をどういうふうにやっておられるか、あるいは今後どうするつもりであるか、お伺いしたいと思います。
  163. 竹下登

    ○竹下国務大臣 石母田委員お答えをいたします。  建設業は、もう御承知のごとく、日雇い、臨時の職員が比較的多い業種であります。過断な機会でございますから、率直にその内容を申し上げますと、製造業は、大体日雇いが〇・八%、臨時が一二・一%。これが建設業ともなりますと、日雇いが一二・一%、臨時が八・八%。そういうふうに、この建設業というものは製造業に比してはるかに日雇い、臨時の雇用者総数というものは多いわけであります。それが副総理から申されましたように、公共事業の執行に当たって当然のこととしてそういう方の雇用の場を確保できる、こういう理屈につながるわけでありますが、先ほどの参考人お話にもありましたごとく、率直に言って今日の段階におきましては、いわゆる手持ちの労働力とでも申しましょうか、そういうことから、それに、おっしゃっている状態の中にまだ来ていないというのが実態であります。今後これらの職員を雇い入れる必要が生じたときは、もとより職安のあっせんによるようにこれは指導してまいっておりますが、私の就任前でございましたけれども、労働大臣からの御要請の点につきましては、関係公社、公団あるいは都道府県等に対しましてそれぞれ指示をいたしておる、もうすでにその通達がなされておる、こういうことであります。ただ現実の問題として、まだ手持ちの労働力をもって事に当たっているというのは、率直に私も肯定をいたすわけであります。
  164. 石母田達

    石母田委員 私の聞いている話とはずいぶん違うのです。建設省がこういうものでは余り協力的じゃないという政府部内の話も聞いているのです。実態がそうなっているのだから、特に先ほどの話のように、公共事業に、民間はもうそうでなくてもなかなか雇い入れる条件はないわけでしょう、先ほどの話から。ですから公共事業がまずそういう方向で失業対策としてやらぬと、これはなかなかできないですよ。ですから建設大臣、もう一度……。  私はこういう経験があるのです。この間、これは運輸省関係ですけれども、やはり地元の中小業者を、入札のときに雇うように指導してほしいということで、それが非常に成果があって、運輸省が行政指導したのでしょう、それでそういう成果があらわれているのです。ですから、建設省としても、通達を出し出したと言うのじゃなくて、実態がそうなっているのだから、やはり大臣としてもそういう点での行政指導を強める、あるいはそれを徹底させるような具体的な措置をぜひとってほしいと思いますが、建設大臣、どうです。
  165. 竹下登

    ○竹下国務大臣 私にも御趣旨は理解をできますので、具体的に、通牒をもって措置すると言ってしまえばそれまでになりますが、そういう姿勢のもとに行政の実施に当たりたい、このように思います。
  166. 石母田達

    石母田委員 各省に一々またこういうふうに確認すると大変なものですから、政府を代表して福田副総理に重ねてお願いしたいのですが、こういう意味で公共事業、特に政府機関ですね、各省、こういうものについては失業者、特に職安を通じての失業者を吸収することを、閣議などで一定の吸収率を決めまして、いまいろいろばらばらがありますから、大体一定の割合でやるように指導する、こういうことを、まあできれば、連名の次官通達という例もあるそうですけれども、そういうことなどでぜひ緊急に徹底するような諸施策を講じてほしいということを政府を代表してお答え願いたいと思います。
  167. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 いまちょうどそういう諸問題、公共事業をどういうふうに質的にうまく配分していくかというような問題につきまして協議する仕組みを考えていこうというような段階になっておりますので、早急にさような方向で措置いたします。
  168. 石母田達

    石母田委員 そこで、どうしてこういう政府の失業対策というものがおくれるかという一つの理由の中で、現在の失業の実態を把握する上でわが国の統計では、完全失業者の百万人とかいうようなものが主になっているのです。これ以外に、失業者というものを決める政府の資料がなかなかないのです。その完全失業者の定義というものについて私は非常に疑問を持ちまして、この三年間国会でたびたび労働大臣とやり合ってきたわけであります。  それは、日本の完全失業者というのは一週間一時間も仕事につかない、働かないということです。しかも求職活動、職を求めている労働者だということになりますと、日本のような社会保障の現在で、そういう人が一体どういう人なんだろうかと首をかしげたくなるような、国際的にもきわめて違った内容なんですけれども、総理府の統計局長が労働力調査でこういう定義をやっておりますが、まず事実の確認として、完全失業者というのは、いま私が申しました、一週間一時間も収入を伴うような仕事につかない者で、しかも求職活動をしている者というふうに理解しておりますけれども、そのとおりですか。
  169. 川村皓章

    ○川村政府委員 お答えをいたします。ただいま先生のおっしゃるとおりでございます。
  170. 石母田達

    石母田委員 これは私は、諸外国の問題でよく出すのですが、アメリカは十六歳以上です。日本は十五歳以上ですが、過去四週間中特別の求職活動をした人という問題とか、この中には、レイオフになっている、復職を待っている人も皆含めているのですね。それからイギリスは、毎月中旬の月曜日だけで失業している人、職安に登録している人とかというふうに、日本のように一時間も働かなかった、この人がまあ百万人いるというだけでも大変なことだと思うのだけれども、先ほど近藤参考人にあるような、月に一日でも働いたというと、これはもう一週間一時間になりますから、これは含まれない。果たしてそういう完全失業者というだけで日本の失業の実態が反映できるかどうか、こういう批判がありまして、最近、労働大臣の私的諮問機関ですか、いろいろ諮問機関があります、雇用政策調査研究会というところで、「諸外国においては失業者数ないし失業率が政策判断の指針として有効に機能しているが、我が国の労働力調査による完全失業者数および失業率は労働市場の状況を必ずしも的確に示していない」こういうことで、この失業の定義等の面で、いわゆる諸外国と比較できるようなものにする工夫も必要だろう、こういう報告意見が出ておりますが、労働省の意見として、一体こういう労働力調査による完全失業者、こういう定義の仕方などについて検討を加える必要があるかどうかというものについて答弁していただきたいと思います。
  171. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 完全失業者につきましての統計のとり方について、アメリカあるいは西ドイツ、イギリスと比較して日本ははなはだ不備ではないかという御指摘でございますが、実は完全失業者の統計のとり方、基準につきましては、日本とアメリカは全く同じでございます。ただ違う点は、日本は月末の一週間をとっております。それと十五歳以上ということ。アメリカは月の半ばの一週間をとって十六歳以上という点が違うだけで、あとは全く同じでございます。日本では一時間も働かなかった、アメリカは何らの就業をしなかったということで、統計の基準のとり方は全く同じであることを御理解いただきたいと思います。  そこで問題は、こういった完全失業者の統計が日本の失業の実態を的確に反映しているかどうかということになりますといろいろ問題があることも事実でございますし、これからの安定成長経済下の経済運営の指針になるようなそういった意味での雇用失業統計、雇用失業の指標ということになりますと、いわゆる労働力調査による完全失業統計だけでは必ずしも十分でない。あるいは御承知のように最近毎月有効求人倍率という安定所の求職統計が出ておりますが、これも必ずしも全体の情勢を完全に把握できるものでもない。こういうことから、いわゆる馬場委員会におきまして、こういった雇用失業の的確な指標を再度開発する必要があるのではないか、こういう御意見でございますので、私どもは現在あります労働力統計によります完全失業者数、完全失業率、それから安定所の業務統計によります有効求人倍率、こういったものを加味しながら、さらにもっと的確に雇用失業情勢を象徴できるような指標を開発すべく現在いろいろ検討を加えておる段階でございます。
  172. 石母田達

    石母田委員 では労働大臣、重ねて聞きましょう。一昨年、四十九年の四月二日社会労働委員会で私があなたに説明して、鈴木という労働省の方が私の説明に「そのとおりであります。」というふうに答えています。それでアメリカでは十六歳以上です。日本では十五歳以上じゃないのですか。違うでしょう、全く同じだというのはどういう意味だ。全く同じではない完全失業者の定義並びにそういうもので、いわゆる失業率が二・二%で、アメリカが五・何%という比較をすることはもう違うじゃないか。これは割り算で分母と分子があって、そして分母が大きくなって分子が少なくなれば、当然これは比較検討できない。そういう意味で私は、労働大臣、あなたの私的諮問機関でこういう雇用失業指標の確立について、失業の定義等の面で、いわゆるアメリカその他と比較可能なものをやるようにしようというような報告、提案を行っているので、これを一体尊重する方向でやるのかどうかということで、では労働大臣に聞きましょう。
  173. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 局長の答弁の中にも十六歳と十五歳という話がはっきり出ているわけです。いま日本の場合には、よその国と比べると非常に失業率の問題でパーセンテージがよく問題になりますので、調べている内容は同じでございますけれども、改めてそういうものを洗い直してみるということで、ちょうど馬場さんの方にもそういう研究をしてもらっておりますから、さらにその研究を続けてもらいたい、こう思っております。
  174. 石母田達

    石母田委員 いや、その研究した結果がこう出ているんだから。労働大臣、あなたはこれを見たのでしょう。この雇用政策調査研究会のを見てあなたはどう思っておるのか。もうこれはだめだと言って、もう一回差し戻しでもっと研究しろというのか、これを尊重する方向で検討するのか。
  175. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 馬場先生の提案、そのとおりでございますから、そういう面で御研究を願いたい、こう思っております。
  176. 石母田達

    石母田委員 それでは次に、先ほどの日経連経団連の代表の方々の話を聞いて、これは一体どういうことになるんだろう、二百万人以上の製造業者の中で過剰労働者、これは企業内浪人、失業統計に当然加えられるべきものだ、こう言って書いておられたのがありますけれども、そういう人たちをどんどん整理する、あるいはまたそれを抱え切れない場合も出てくるというような状況のもとで、大量の解雇あるいはそれに伴うような企業整理が今後続発するだろう、あるいは現に私どもそれを聞いているわけであります。この点について、一体これをこのままにしていて、国も自治体も何らの手も打たないで野放しにしていいのだろうか。最近では地域的な自治体全体に影響を与えるような大量の解雇というのですか企業整理、あるいは工業再配置促進法とか農村における工業導入促進法とかというものに基づいてどんどん企業を誘致している、それが倒産する、そこに金をつぎ込んだ、何をつぎ込んだというようなことが、逆に自治体に大きな裏目になって出ているという非常に深刻な事態も出ているわけであります。  私は、まず安恒参考人近藤参考人から簡単にそうした状況についてお聞きしたいと思います。
  177. 安恒良一

    安恒参考人 私は、いま御質問されました点で一番先にまず取り上げなければならぬのは、高度経済成長政策時代の雇用政策と質的相違がある雇用政策というものをぜひこの国会で取り上げていただきたい。これはなぜかというと、高成長の場合には経済成長のメカニズムに任せまして、いわば全体的量的なバランスだけでよかったわけです。ところが、いま先生も御指摘のように、低成長時代になりますと、人員整理をされましたならば、その人員整理された力が顕在的失業者がなくならないわけであります。そういたしますとどうしても量的質的保障が必要だというふうに思います。  でありますから、私どもはすでに労働四団体の中で抜本的な問題といたしまして、いま御指摘のありました大量解雇ができないような解雇制限法をつくってもらいたいという問題、それからいま一つは失業中の諸制度の確立、特に強調しておきたいのは、雇用保険が切れました後、諸外国では失業手当というのがあるわけですが、わが国にはその制度がありませんから、そういうものの確保。それからいま一つは、やはりそれだけではどうにもならぬ。わが国には中小企業、零細企業がありますから、たとえばいま先生が取り上げられておりますところの建設労働、日雇い、パート、こういう問題。でありますから、わが国の失業保険というのはともすれば、いままではどちらかと言うと本工中心でありましたが、これからは未組織労働者、不安定雇用を含めた全体の労働者の雇用確保ということに新しい角度から制度を整備していただきたい。  こういう中で、いま御指摘のありました地方自治体の問題についてわれわれが申し上げますと、いや、地方自治体が仕事を出せばいいのだ、こういうことを労働省は言いますが、現実に国家財政の赤字の影響を受けました地方財政の赤字の中で、これを地方自治体のみに求めても無理があると思いますから、やはり抜本的な雇用保障制度の改革をこの際やっていただきたい。と同時に、これには若干時間がかかりますから、すでに前に陳述いたしました当面労働四団体で決めておりますところの四つの項目の早期実現というものがいま先生の御指摘されたことの問題の解決になると思います。  以上です。
  178. 近藤一雄

    近藤参考人 御指摘になっております大量解雇ですでに予定されておりますものを、私たちがちょっとつかんだものを申し上げますと、三菱レーヨンで千五百人、日本通運で三千五百人、日立製作所で七千人、東芝電気が三千人、三菱電機でも七千人、三菱重工では一万人、三井造船四千人、富士電機で二千人、川崎重工で二千三百人、こういうふうに大量解雇をすでに予定されている大企業があるわけであります。これはいまも安恒参考人から言われましたように、いわゆる解雇制限の内容を含めた法案が現在提起もされておりますので、そうした議論が十分尽くされて、解雇についての制限がそれぞれの場所で十分検討できるような、たとえば県段階とか地域段階とか、そういうところで検討される、地域に非常に重大な影響を与えますのでそういうふうなことが検討される、チェックをするというふうなことができる仕組みを国会で御論議を願いたいというふうにわれわれも思います。  もう一つ、地域社会に重大な影響を与える解雇の問題について若干触れてみたいと思うのですが、これは例を申し上げますと、日魯漁業の山形事業所の話であります。これは、白鷹工場と大江工場という二つの工場を持つ山形事業所では二月二十一日に再建合理化計画を発表して、この二つの事業所の閉鎖を提案したわけであります。この山形事業所は、日魯の果物かん詰め工場として、県と町の地域経済の発展、農工一体という宣伝のもとに昭和三十五年五月に誘致されたものであります。いわゆる誘致企業であります。町当局としては、その際土地二万一千三百坪、それの買収費のうち四分の三を町が持っているわけであります。ですから地元負担が千九百十七万円になっておる。その工場建設協力金として二百五十二万円出し、その他税の減免なんかをやって非常に優遇をしてきたわけであります。四十七年には、日魯の要請で、この給水量をふやすということで、水道の施設をわざわざやっているわけであります。これの費用として四億二千万円かかったというふうに言っておりますが、その工事の三〇%……(石母田委員「簡単に」と呼ぶ)はい、わかりました。そういう非常に莫大な金をかけて、町当局で援助をしてつくった日魯のかん詰め工場がいとも簡単に閉鎖をされる。それによって町全体の打撃は非常に大きい。労働者は全部で百四十五人でありますので、その賃金分や税収入減や水道料の減、果物に全部転換いたしましたので、その果物に転換した農地の問題なども加えると莫大な損害を地域全体が受けるという状況になるわけであります。こういった大量解雇といいますか、量としては百四十五名の問題であっても、地域全体に及ぼす影響というのは非常に大きい。こういう解雇についてもぜひひとつチェックできるような制度をおつくりを願いたいというのがわれわれの強い希望であります。  以上であります。
  179. 石母田達

    石母田委員 いま言ったのは氷山の一角だろうと思いますが、こうした問題が今後続発するのではないかというふうにも考えられるわけです。したがって、国や自治体が——このような自治体にも地域にも全体に影響を与えるような大量の解雇とかあるいはそれを伴うような企業整理というものが、現在の不況経済的な変動という関係で行われる。こうした問題について、経営者は労働者とか地域住民にそういうことをなるべく知らせないで、極秘裏に突然それを行うという例もあるのです。あるいはまた労使関係というだけで見て、組合と協議して、それでやむを得ないということだけでやっておるところもある。しかし、このような社会的な、地域的に見ても国全体から見ても、雇用構造あるいは社会構造に根本から影響を与えるような事態を、国や自治体がただ起きたら何かすればいいというようなことでいいのかどうか、こういう点で、福田副総理に、これまた政府としての、いま参考人から出ていましたようなチェックというか、そういうものを地域であれば都道府県知事とか、あるいは全国的なものであれば国とかというようなものに届けさして、事前に対策を協議できるような、そうしてこういう解雇を防止するような対策というふうな問題について考えられないかということをぜひお願いしたいと思います。
  180. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 今日はとにかく戦前戦後を通じて最大の社会経済の転換期でありますので、いろいろな事態に当面するだろう、こういうふうに思っております。いま御指摘の解雇の動き、こういうものもぼつぼつ私どもも耳にしております。しかし、そういう事態が高じてまいったその先は、企業の倒産とか企業の解散とか、そういう事態まで発展しかねないものもあるわけでありますが、一番大事なことは、そういういろいろな好ましからざる事態が起きてこないような環境をつくることが必要であろうというので、政府としてはいま最大の努力をいたし、ことしで大体不況状態の粗ごなしをいたしたい、こういうふうに考えております。しかし、その状態は、私どもといたしましてはまあ五十一年度末くらいの時点までかかるのじゃないか。そうすると、いまとにかく石油ショック後の最も企業として苦しい時期だ。その苦しい時期にいろいろな問題が起こってくる。  そういう事態に対処しまして、いろいろあるんですよ。たとえば、ほっておけば倒産するかもしらぬというような事業もあります。そういうものに対してはそういう事態にならないようにいろいろケース・バイ・ケースで手当てもしておる。また、解雇というような動きもあるようでございますが、企業が存立するためにやむを得ざる措置として、恐らくそういうことも考える向きもあろうと思いますけれども、各企業にタッチしておる通産省あるいは労働省、そういうところでなるべくそれが非常に大きな社会的な影響がないようにやっていただく、そういうことについて意を用いることは当然のことである、こういうふうに考えます。とにかく景気をまず回復させる、そのつなぎとしていろいろな事業が起こりますが、なるべく摩擦の起こらない形にいたしたいというのが政府考え方でございます。
  181. 石母田達

    石母田委員 その意を用いて通産省とかあるいは労働省というところに任せるのじゃなくて、これはやはり国としても非常に重大な問題ですから、ただ企業の独自の立場からやるのだろうとかあるいは労務対策、労働者の対策ということからだけでなくて、国の経済にも大きな影響を与える問題ですから、意を用いるというのを政府としても具体的な措置としてぜひやっていただきたい、これを検討していただきたいと思いますが、もう一度福田副総理に。
  182. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 いろいろ企業にも動きがありましょうが、それが社会的不安につながるというようなことのないように政府としては最大の努力をいたします。
  183. 石母田達

    石母田委員 それでは大平大蔵大臣にお伺いしたいのですが、ことしの予算を見て私一つ驚いたことがあるのです。  それは、労働省の予算のうち、雇用勘定のところで、「雇用保険制度の充実と適正な運営」という項目が私どもに出された資料にあるのですが、これで見ますと、労働省が要求した五千百八十三億円、あと切ります、に対して政府の方でつけてくれたのが七千三百八十七億円という、まさに五十年度当初に比べますと六三・九%のアップです。概算要求というのは普通削られるのがあたりまえみたいな形になっておりまして、ことしは労働省としては一五%アップに抑えろというのでやったところが、案に相違したかどうか知らぬけれども、四二・五%も概算よりも多くなった。あるいは「産業構造の変化等に対応する雇用対策の推進」という点では、これまた概算の労働省の要求額に対して三四・一%も多い。昨年の当初に比べますと五六・五%もよけいに大幅に増額されておりますが、私も議員生活はそう長くはありませんけれども、このようなものがこうした予算で組まれたというのには、特に一体どうした理由があるのか、根拠があるのか、時間がありませんので、簡単にお答え願いたいと思います。
  184. 大平正芳

    ○大平国務大臣 特別の理由はございません。誠実に積算いたしますとそういう数字になったわけでございますが、詳細は主計局長から説明させます。
  185. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 確かに石母田委員の御指摘のとおり、労働省の概算要求額に対しまして、失業給付費などが、要求額に対しても四三%、前年度に対しましては六四%という増でございます。これは、いま大臣が答弁申し上げましたとおり、概算要求時における雇用の計数と、それから予算編成時における雇用の計数に、労働省と綿密に詰め合わせました結果、相当計数のそごが出ておりまして、いわばこういうような経費は義務的な経費でございまして、それに基づきまして私ども積算いたしたわけでございます。
  186. 石母田達

    石母田委員 一切が削られる中でこうした大幅な予算の増額の積算の基礎というのは、恐らく失業給付の受給人員その他額の問題だと思いますけれども、私は、けさそのことについて日経連の代表がここで、いわゆる一時帰休の賃金保障とされた雇用保険の調整給付金の問題、あるいはまた長期の休職者に対する給与を国から取って保障させる、こういうようなことは断念はしていない、法案を制定して出すことについては時期やその他であるけれども、中身については何かの機会にこれをいろいろな形で貫きたいということをはっきりと言われたこともありますけれども、この問題と、きょうは時間がないからあれですけれども、雇用調整給付金をそういう長期的な形にしようという政府部内の動きとか、あるいはいまのこうした概算要求よりも大幅な増額ということが、この日経連や財界の要望にこたえるような内容のものではないかということを、深く疑問に思っております。こういう点については、いずれの機会にか明らかにしたいと思います。  きょう私は、非常に短時間でございますけれども質問の中で、政府全体の施策を見ますと、いわゆる失業対策ということをきわめて軽視している。この失業者の生活保障についても、いわゆる雇用保険法では給付額を削減している、一部の高年者については若干の改善がありましたけれども。こういうことはなぜ起きるかというと、政府の施策の中で、特に昭和四十六年の中高年法の中で附則第二条というものがあって、現在の緊急失対法をすべて凍結しているわけです。ところがこの緊急失対法は、まさにこの公共事業を河川とか道路あるいはまた失業対策事業に分けて、そこに失業者を吸収するということがこの法律のたてまえになっておる。これが凍結されておる。そうして同時に、その出された情勢はいまの情勢ときわめて似ております。このころは失業者は百万から百五十万と政府は推定しておりますが、大体いまと同じ状況です。ところが、この凍結をした昭和四十六年あるいは打ち切りを出した三十八年というのは、まさに高度経済成長政策の過程にありまして、この四十六年に出した中高年法は、全体として労働力不足は一層深刻化する、今後とも経済はなお相当の成長を続けていくという見通しのもとでつくられたものであります。したがって、私は、このような附則第二条を撤廃して、そうして緊急失対法を発動させろ、あるいはまたそれができるまで、先ほど申し上げましたような緊急対策を実施しろ、こういう点で私ども他の三党と一体となって、四党が雇用及び失業対策緊急措置法案を国会に提出しているわけであります。  こういう点で、政府にそうした点を強く要望いたしまして、私のきょうの質問を終わりたいと思います。
  187. 井原岸高

    ○井原委員長代理 沖本泰幸君。
  188. 沖本泰幸

    沖本委員 まず最初に、福田副総理にお伺い申し上げます。  社会党の堀先生からの御質問もいろいろあったわけでございますが、五十一年度経済見通し実質成長五・六%ということの中で、個人消費が五七二%見込まれておるわけであります。そこで、個人消費は景気回復の主役ではない、いわゆる財政支出の結果としてのあらわれだとか、あるいは景気の回復は公共投資の中からどんどん出てくるからというようなお話がずっとあったわけでございますけれども、そういう中にありましても、やはり最終需要の中で個人消費の占める率はきわめて大きいわけでありまして、実質で五・一%、名目で一三・七%見込まれておるというふうに見ておるわけでございますが、これは大きな要素であると私は考えますけれども、この点いかがでございますか。
  189. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 個人消費は景気動向に最も大きな影響があるのです。五十年度をとってみますと、設備投資が前年度に比べますと大幅な落ち込みをいたしておる。それから輸出がほとんどもう横ばいの状態であった。そうすると、その二つの点から見ると、わが国の経済成長はかなりのマイナス成長になったはずなんです。それがならないで、二%以上の成長になろうとしておる。なぜかと言うと、個人消費、これが着実に伸びておる。寄与率からいうと、堀さんから求められた資料、それで明らかにしておりますが、これは一〇〇%を超えるという寄与率になるわけなんです、ほかの方がマイナスなものですから。  そういうことで、これは重大な景気指標という考え方になるわけですが、五十一年度は一体どうなるかといいますと、私は、五十年度の伸び率は実質五%ばかり伸びておるのですが、この勢いが大体続くと見ておるのです。その反面、設備投資はそうは伸びない。しかし、政府財政投資による影響、これはかなり高い。七%程度と見ております。それから輸出も、幾らかたく見ましてもこれは七%以下ということはありません。そういうことを総合いたしまして、五%ないし六%の成長は達成できる、こういうふうな見解でございます。
  190. 沖本泰幸

    沖本委員 結局、個人消費が国民生産に及ぼす影響は大きいわけですけれども、雇用者所得全体で一二・八%の増加率であり、一人当たりの雇用者所得が七%の増で、春闘の賃上げ率は九・五%から九・九%という点につきましては、九%から一〇%というのは、きょうの堀先生お話でもまた再びおっしゃったわけですけども、雇用者所得から見ますと、賃上げの一%は八千億に当たるわけで、仮に賃上げ分が全部消費に回ったといたしますと、名目で一二・七%個人消費を伸ばすためには一四・五%の賃上げが必要になってくる。こういう計算が出てくるわけです。そういうところから、日経連が言うところのゼロまたは一〇%以下というような結果が出てきますと、雇用者所得全体の伸びが政府見込みの個人消費支出の伸び率と合わなくなってくる。こういうものも出てきますし、結局、一〇%だけ賃上げをやってみても、雇用者所得は八兆円ということになりますと、個人消費の増が十一兆六千億円。この差が三兆六千億。これは何で埋めるのかということが考えられるわけですけれども、この点については考えでございますか。
  191. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 個人消費支出は五%程度伸びるだろう、こういうふうに見ておるわけなんですが、その一番大きな根拠といたしましては、いま沖本さんの御指摘の雇用者所得、これが名目一二八%伸びる、こういう見解です。そこで、一二・八%というのはどういうふうなものかと申しますると、賃上げの対象になる基本賃金というか、所定内賃金とも言います、これが雇用者所得の中で約半分を占めるわけであります。それから、残りの半分がこれは時間外手当でありますとか、ボーナスでありますとか、その他若干細かいものがありますが、そういう種類のものです。その合計が一二・八%伸びます、こういうことなんです。その中で所定内賃金、つまり春闘の対象になる所定内賃金、これは私どもはそれよりもかなり低い、一二・八%の水準よりはかなり低いものである、そのかわり時間外手当でありますとか、あるいはボーナスでありますとか、その他の給与はそれだけかなり高いものである、その総平均が一二・八だ、こういうわけなんです。この前、堀先生から、それじゃ所定内賃金、つまりべースアップの対象となる賃金は九ないし一〇と推定していいか、こう言うから、私はそれに対してはあえて反論はいたしません、こう答えておるわけです。  さて、べースアップが低位に決まったら景気にどういうふうな影響があるかという沖本さんのお話だろう、こういうふうに思うのでありますが、これは非常に低位に決まったというようなことになると、私は景気影響があると思うのです。しかし、若干動いたという程度では、私はそう景気影響はしないと思います。つまり、それは企業がとにかく給与は払うわけですが、さあ賃金にうんと払いましたということになれば、その他の会社の支払い能力、つまり設備投資をやろうと思っておったのが差し控えになるとか、あるいはその他のいろいろな企業の活動計画を持っておった、それを取りやめにするとか、そういう問題になってくるわけであります。つまり賃金が上がりましたその際に、賃金の支払いがよけいになる、その反射的な影響といたしまして、他の部門の企業活動に対する支払いが減る、こういうことで、国の経済全体としますとそう大きな影響はあるまい、こういうふうに見ておるわけであります。
  192. 沖本泰幸

    沖本委員 そこで名目個人消費支出の一三・七%というものについてでありますけれども昭和四十年以後の春闘の賃上げ率と一人当たり雇用者所得、雇用者所得と名目個人消費支出の関係を、労働省の民間大手二百六十一社ベースで、その他は経企庁の国民所得統計の中から調べてみたわけですけれども、春闘のベア率と一人当たり雇用者所得の関係では、春闘のベア率よりも一人当たり雇用者所得が低くなっております。例外として四十年不況の後の四十一年度では〇・七%一人当たり雇用者所得がふえている。四十七年度は同じく〇・四%多い。これも過剰流動性と四十六年不況の後であります。四十八年は〇・二%多い。これは狂乱物価のときであります。ですから、雇用者所得と、名目個人消費支出の関係は、毎年度雇用者所得の増よりも名目個人消費支出の増の方が低いわけで、その差の一%以下というのは、四十一年度、四十二年度、四十三年度、それからべースアップの率の高い四十八年度はこれは五%低いわけです。四十九年度は二・六%ということになるわけですけれども、五十一年度政府見通しでは、雇用者所得の伸びが一二・八%に対し、名目個人消費支出は一三・七%で、〇・九%増になっており、この十年間の例をずっととって見ても全く例がないわけで、全然合っていないということになります。そうなってきますと、これからの貯蓄性の向上が急転するような要素もありませんし、雇用者所得の伸びより名目個人消費支出の伸びがまださらに落ち込む要素が並んでおるという点を考えてきますと、この一三・七%というのはどういうふうなことになっていくのか、これを埋めるのにはどうやるかということになるわけです。
  193. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 個人消費は、雇用者所得だけじゃないのです。この雇用者所得のほかに、個人事業者の所得がどうなるとか、そういう要素も含まれますので、必ずしも一致しないわけです。それから賃金、いわゆるべースアップの対象となる所定内賃金と、今度はその雇用者所得の関係はどうか、こういいますと、先ほど申し上げましたように、雇用者所得は二つの要素からなっておる。春季賃金決定の対象となる賃金、それが約半分でございますが、それは私どもは平均の一二・八よりは低く見ておる。それから時間外手当でありますとかボーナスとか、そういう所定外の要素は平均より高くなる。総平均が一二・八、こういうふうに見ておりますが、その所定外が高くなるというのは、大体景気上昇期におきましては、まず時間外、労働時間の延長が先に来るとか、あるいはボーナスがよけいに一時的に支払われるとか、そういうところから始まる。いま五十一年度景気上昇期に向かうという判断からそうしておるわけであります。
  194. 沖本泰幸

    沖本委員 景気上昇期とおっしゃいますけれども、きのうニュースで、ことしは住民税については少し変わってきたあれが発表されましたけれども、所得減税もないわけですし、むしろ現在のままでいくと、所得者にとっては増税になっていくということになってきて、結局は社会保険料やその他の公共料金が上がっていく。そういうものによって、あなたのおっしゃるいわゆる所定外の入ってくる収入というものが全然考えられないということが考えられることになるわけですけれども、そうなってきますと、この一三・七%、非常に不安定になってくる。こういうことにならざるを得ないということになるわけで、結局この見通しの中身というものが非常に危うくなってくるのじゃないだろうか。そうなってくると、結局この一三・七%を埋めていくためには、計算してみると二兆円ぐらい減税しないとだめなんじゃないか。こういうふうな考えが出てくるのですけれども、この点についていかがでございますか。
  195. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 問題は、名目賃金が幾らふえたって、それで勤労者の生活が楽になる、こういうふうには私は考えておらないのです。手取り実質の賃金というものがふえなければならぬ。それには、これは物価、特に消費者物価の安定ということが非常に大事である。五十年度におきましては、恐らく個人消費支出は名目では一五%ぐらいふえるのじゃないかと思う。私どもは、それを五十一年度は一三%台、こういうふうに見ておりますが、実質から言いますと、これは物価がことしの一けたという目標に比べまして八%、そこへいくわけですから、実質価値といたしますと、これは五・一%という五十年度の水準を五十一年度においては維持できる。こういうふうに考えておるのでありまして、私は、今度の経済見通しは、五十年度は相当狂いましたから、これは本当になますを吹くというような姿勢でやっているのです。大体私はその程度成長は実現できる、こういう見解でございます。
  196. 沖本泰幸

    沖本委員 いま述べましたとおりに、私たちの調べたところでは、非常に不安定であるということが考えられるわけでありまして、このもの自体に狂いが生じてきますと、先ほどの議論の中で、もし間違ったら、大蔵大臣どうするのだというふうな議論もあったわけですから、この点は、やはりまたいろいろな問題が国民の肩にかかってこないように、いままででも見通しにいろいろ狂いがあったという点、先ほど副総理もなますを吹くというような表現でおっしゃっているわけで、再びそういうことのないようにというお考えでありますけれども、そういう点、今後の日本の一番重大な問題になるわけでありますから、この点は重大な課題として、今後再びこの国会で間違っておったということがあれば、速やかに改めていただくという形でお願いしたいと思います。  時間がありませんので、この議論はまたしていただくことにいたしまして、次に進ましていただきます。  労働大臣にお伺いいたしますが、全国一律最低賃金制の制定につきまして、前の国会で政府は、四野党共同提案の最低賃金法案を重要な参考にして、その方法を審議会に諮り、早急に結論を出す、こういうお約束をなさっておるわけでありますけれども、これは昨年の三月二十六日の社労委員会で、社会党の田邊先生の御質問に大臣は、「労働四団体の全国一律最低賃金制についての統一要求及び野党四党の最低賃金法案を重要参考資料として提出する考えであります。」、こういうことをお述べになっておるわけで、間を抜きますけれども、「なお、答申までの期間につきましては、審議会の独自の御決定にゆだねるべきでありますけれども、できる限り速やかに御審議いただけることを期待しているものであります。」、こうお述べになっていらっしゃるわけです。  そこで、これは二月九日ですかの新聞によりますと、労働省は「経済官庁へ脱皮図る」、こういう見出しで、雇用庁、労働経済局、産業安全局、こういうふうなものに向かって方針を固めつつある、こういうふうなことが出ておりますけれども、この関係につきまして、一体四野党の出したこれをいつごろはっきりとした形にする方向で大臣はお考えになっておるのか、お答え願いたいと思います。
  197. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 あなたのおっしゃったように、去年の三月二十六日ですか、衆議院の社会労働委員会で、当時四野党が最低一律賃金制について提案してまいりましたので、早速答弁のとおり、五月三十日に全国一律最低賃金制の問題を含めて中央最低賃金審議会に諮問いたしました。その後、去年の暮れまでに約六回ほど開きまして、労使の主張と現行制度に見られる問題点について討議を行いまして、さらに昨年の暮れから小委員会を三回にわたって現在まで開いております。私といたしますと、審議会の結論を待って対処してまいりたい、こう思っております。
  198. 沖本泰幸

    沖本委員 ただいま労働大臣はああいうお答えなんですが、これは現在も続いておるわけでございますが、労働団体の方として、この経緯について、今後のあり方として、何か御注文があるようであればお答え願いたいと思います。
  199. 安恒良一

    安恒参考人 私、総評を代表してお願いしたいのは、審議会ではいま議論が続けられていますが、当時私たちが政府と話し合いをしました中の一つといたしまして、衆議院の社労委員会の中にもそのような全国一律最低賃金制の問題等を検討する特別委員会をつくっていただくようにお願いをしておりましたが、まだ衆議院の社労委員会にそれができておりませんので、私は審議会は審議会として議論してまいりますが、そこだけでは十分進みませんので、国会の中におきましても、全国一律最低賃金制の検討のためのそのような委員会をぜひおつくりをお願いして、そうして審議を進めていただきたいということを要望申し上げます。
  200. 河野徳三

    河野参考人 審議会の今後の問題でございますけれども、われわれとしては、大体ことしの三月ごろまでに今後の基本的な方向について一定の考え方を出し、その後、大体来年の予算あるいは今回に間に合うよう、もっと基本的な方針に沿った具体的な今後の最賃の方向というものをぴしゃっと決める、こういう形でやっていきたいと考えていますし、そのように政府としても対処してほしい、こう考えております。  なお、社労委との関係でございますけれども、私どもはこの最賃の問題が社労委にかかり、あるいはまた審議会にかけられた経緯からいたしまして、別に社労の審議を軽視するわけじゃございませんけれども、この問題については、労働四団体の考え方あるいは審議会での審議というものがむしろ優先すると考えますので、どちらかと言えば審議会重点にこの問題は処理をしていきたい、またそうしていただきたい、こう考えております。念のために申し上げておきたいと思います。
  201. 近藤一雄

    近藤参考人 私は、野党四党で出された最低賃金制を内容とする法案は、現行のいわゆる最低賃金法を否定した態度といいますか、あれが悪いからこれをつくってくれというふうに提起をされているというふうに考えます。  内容としても、全国一律の内容でありますから、現在の中央最低賃金審議会が審議をするということは、現行法に基づいて存在する審議会がそれを審議することは大体筋が違う。本来、野党四党が提起をした法案は、国会において議論をして国会において成立を図る、そのための審議が尽くされるということが一番望ましい方法だ、そう考えて、審議の促進を強く求めているものであります。
  202. 沖本泰幸

    沖本委員 いろいろ御意見をお述べいただいたわけでございますけれども、これは本日のこの委員会限りではないわけでありまして、今後、野党間によっていろいろ話し合いを進めていきたいと思いますし、また各党の政審の方でも常時打ち合わせをやっておるわけでございますから、その辺で煮詰めていきたいわけでございます。まあ、こちらが答えるようなかっこうになって恐縮でございます。  そこで、さらにお伺いしたいわけですけれども、きょうのいろいろの御質問の中に、再就職の困難な中高年労働者について、その雇用機会を確実にするための雇用率の義務化、定年延長についての問題についていろいろ議論があったわけでございますけれども、昨年の十月二十七日、中野のサンプラザで全国職業安定主務課長会議があって、その席上で職業安定局長の訓示がありました。一部を読んでみますが、これは「定年延長の新しい考え方」として、「今までタブーとして触れるべくして触れ得なかった、定年延長の壁、ネックとなっている問題、その一つは賃金源資の問題、もう一つは人事管理上の問題であります。定年延長については、いくら奨励金を出し、キャンペーンをやっても、それだけでは限度があります。そこで、どうしてもこのネックとなっている問題を解決しなければならない。それは、五五歳の定年をさしあたり六〇歳まで延ばすために、五五歳を越える時点で賃金を能力に応じて横ばいないしは下げることもやむを得ない、退職金も五五歳の時点で精算し凍結する、ということをこの夏以来打ち出してきたわけです。定年延長になれば賃金を下げても良いではないかということは、仮りに五五歳定年で傍系会社へ出向するとか、退職して中小企業へ再就職する場合の実績をみると、大体二割ないし三割賃金が下っています。仮に五五歳の定年が六〇歳に延長になり、今まで何十年も働いてきた企業で安心して働けるということになれば、たとえ賃金が下っても、六〇歳まで安心して働けるだけ労働者本人にとっても得である。また、二十年、三十年の技能を引き続き生かせるということになれば、企業にとってもプラスである。こういうことから、今までタブーとして触れられなかった賃金、退職金の問題を、あえてこの夏以来、労働省の定年延長に対する基本的な考え方として打ち出してきたわけです。」、こういう点が述べられておるわけでありますけれども、この問題につきまして、これをいわゆる雇用慣行の改善と言っていいんだろうか、あるいはそうした措置が能力に応じた公正な雇用を保障するということになるんであろうか、こういう点に非常に疑問が出てくるわけでありますけれども、この問題につきましてもお三方から御意見を伺ってみたいと思います。
  203. 安恒良一

    安恒参考人 私どもも、その問題を過日日経連と議論をしたときに、賃金を下げるという問題じゃなくて、御承知のようにわが国の賃金は年功序列賃金でありますから、いままでどおり、五十五歳以上定年を延ばしたときに、それを全部延ばしていくのがいいのかどうかということについては、これは私は、たとえば物価上昇分はカバーしてもらわなければなりませんが、定期昇給という分についての扱い等については別個に相談をしてもいいじゃないかとか、もしくは退職金も、本来ならばずっとそのまま引き継がれることが望ましいのでありますが、一挙にそこにいかなければ、一回精算をして、残りの五年なら五年分の退職金をどう考えるのか、こういうことについてはある程度柔軟性を持って労使で話し合いする用意がある、こういうことを言っておきましたが、賃金を下げるとか、それから退職金を全然払わないとか、そういう考え方は持っておりません。  以上です。
  204. 河野徳三

    河野参考人 御承知のように、日本のいわゆる生計費、これは、生計費には皆ライフサイクルがありますけれども、たとえば、午前中から話が出ておりますように、住宅事情が非常におくれている、あるいは社会保障が非常におくれている、学費が非常にかかるといったようなことから、日本ではこの生計費のカーブが非常に立たざるを得ない、そういう経済的ないしは社会的な条件の中に置かれている。皆さん年功賃金とおっしゃいますけれども、むしろこれは年功賃金というよりは生活給体系であって、日本の労働者の生活実態というものが、中高年者の賃金を相対的に高くしなければ世帯を維持できないような条件になっているから、賃金体系がそういうことになっておる。そういうことから考えますと、中高年層になったからといって、あるいは定年延長になったからといって、直ちに賃金を大幅に下げるということになりますと、そういう労働者は生計が維持できないという基本的な問題にこれはかかってまいります。  そこで、もちろん、かといって五十五歳以上もそのまま真っすぐ賃金の上昇カーブを上に延ばしていけということを主張しているわけではないわけであって、これは安恒さんとちょっと見解が違うのですけれども、定昇をやるということはこれまでのカーブをそのまま維持するということを意味しますから、定昇はやめても、毎年のべースアップ、これはやっていかないと、後から退職した人の方が賃金が高くなって、前に退職した人の賃金が低くなるという、きわめて大きな矛盾が発生するわけで、先ほど申しましたように、定昇はストップしても、少なくともべースアップ分は保障するというかっこうで、賃金のカーブを寝せるあるいは横ばいにするということは、これは場合によっては必要である、こう考えておりますけれども、極端に下げるということについては、先ほども申しましたように、日本の労働者の生活構造が決してそれを許す状態になっていない。したがって、ついでに申し上げておきますが、この問題は、単に定年延長に対する企業努力を要請するといったような問題で片がつく問題ではないわけであって、もっと広く社会保障の問題であるとか住宅の問題であるとかあるいは教育制度の問題であるとか、もっと総合的な観点からこの問題は対処していかなければ基本的な解決はできない問題だ、こう考えておりますので、ひとつよろしくお願いしたいと思います。
  205. 近藤一雄

    近藤参考人 時間がないようでありますから簡単に申し上げますが、現在の五十五歳定年というのは、子供ができて大きくなって大変だという時期をちょうど越したか越さないかというそういう時期でありますから、私はこれは当然延長されなければなるまい。そのときに退職金ががたっと下がるような措置がとられたのでは、いわゆる将来の設計ができませんから、それについても当然それは考慮されなければなるまい。下がってもよろしいというふうな判断にはなるまい。  それからあわせて、私は、それでは高年齢になってもなお賃金が上昇してよろしいか。それはやはりそれぞれの能力がありますから、その生かすべき能力では賃金が上昇してもよろしい分野で働く人についてはそれだけの手だてが必要であろうし、そうでない、一般的に言うなら平行線をたどると言いますか、一定の水準が保たれるという条件で、他の若い労働者たちよりもその率が低いという場合があってもよろしいということは考慮されていいと思いますけれども、急激に下がるということだとか、いま申し上げたような五十五歳というようなことそのものが現状に合っていないということで、それを急激に変更するということは非常に大きな問題を残すことになるだろうというふうに思います。
  206. 沖本泰幸

    沖本委員 いまそれぞれ参考人からの御意見があったとおりですから、これはやはり労働省の方で考えていただいて、今後の方法をとる上の重大な内容としてとらえていただかなければならないと考えるわけです。  午前中に御質問しました中で、パートタイマーなんかの女子の労働者を労働力と見るか見ないかという点で、日経連櫻田さんのお答えに対して、労働側の方のお考えを述べてみていただきたいと思います。時間がありませんので、簡単にお願いします。
  207. 安恒良一

    安恒参考人 これは当然労働力でありまして、わが国の就業人口の中に約半分に近い女子労働者がおるわけでありますから、これは当然正規の労働力と見てすべての労働行政をやってもらいたい、こういうことです。
  208. 河野徳三

    河野参考人 細かいことを申し上げるとたくさんありますけれども、基本的にはいま安恒参考人お答えになったことと変わりません。
  209. 近藤一雄

    近藤参考人 大体労働力と見ないという方がおかしいのであって、当然労働力であるし、しかもその労働力は、いままで活用したが、今度不要になったから労働力と見ないというふうな論理は全く資本の論理であって、人間を何か物として扱っているということにしか考えられないものだ。だから、労働力としてぜひ統計などについてもきちっと挙げてほしいというふうに思います。
  210. 沖本泰幸

    沖本委員 労働大臣にお伺いしますが、先ほどの一つ飛んだ前のいわゆる定年延長あるいは義務化の問題についての参考人の御意見に対して、大臣はどういうふうにお考えになりますか。
  211. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 午前中の経営者参考人の方方も、自分のところでは五十五、六、七、八というふうに漸次定年延長しているという実例も言われておりました。私はやはりいまの時代は、敗戦後三十年、企業の中でしっかりがんばってきて自分の生活を維持した、こういう方々、しかも日本は高年齢社会になるのですから、こういう意味での定年延長をぜひ何とか実現したい。今度の予算の中にも、そういう意味からしますと、若干でございますが、奨励金を出しているというふうな進め方をしつつ、いまお話の出ましたようなことも参考にされつつ、労使の間で定年延長が実現されることを期待しているものであります。
  212. 沖本泰幸

    沖本委員 しかし、職業安定局長お話ではそうではなくて、もう決まっておるようなお話に聞こえるわけですけれども、その点についてはどうなんですか。
  213. 遠藤政夫

    ○遠藤政府委員 昨年の十月ですか十一月に全国課長会議で私が話をいたしましたことは、ただいまお読み上げになりましたとおりでございます。私どもは、何としてもこれからの雇用対策の中で一番重点になりますのは中高年齢、特に高年齢者の雇用を確保するということでございます。そういたしますと、何としても現在一般的に行われております五十五歳定年を少なくとも当面六十歳まで延長する、こういうことに政策の重点を置いていかなければならぬ。その場合問題になりますのは、やはりどうしてもいまお読みになりました第一、第二の点で、賃金原資が増加する、それから人事管理上のネックが定年延長を阻んでおりますということであれば、私はやはりこのネックになっておる問題をどうやって解決するかということが一番大きな問題であろうと思います。  そこで、私どもは現状からいたしまして実害のないようなそういう方向を具体的に指示いたしまして、それを問題点として労使の間で話し合いをしながら定年延長を制度として進めていただきたい、こういう行政指導をし、キャンペーンをやっているわけでございます。私がそういうことを全国的に指示したからそれで決まったというわけではなく、そういう基本方針のもとに労使の間で定年延長の具体的な措置をとってもらいたい、こういう指導をいたしておるわけでございます。
  214. 沖本泰幸

    沖本委員 けさからの議論を伺っていると、職業安定局長お話はけさの経営者側のお話と合っているような話になるのですね。ですから、先取りして、それを援護したようなお話みたいに私たち感じるわけです。やはりそこのところは労働省としては十分、これからの重要な問題になってくるわけですから、中高年齢の人たちの処遇という問題はいまが問題であり、さらにこれから重要度を増していくことになるわけですから、これは軽軽にこういう結論を出していただいて、全国のそれぞれの衝に当たる方がこういう考えに立って物事の中間的な扱いをしていくなり指導をしていただくようなことになってくると、まずいことになっていくということになるわけですから、むしろやはりこれから異常な事態を迎えていく、将来に不安を残す人たちの立場に立った物の考え方で、物事を進めていただかなければならないと私は考えるわけです。その点、十分配慮していただきたいと思うわけでございます。  こういう点を含めまして、時間が来ましたから、これで終わります。
  215. 井原岸高

    ○井原委員長代理 次に、和田耕作君。
  216. 和田耕作

    和田(耕)委員 けさのいろいろな審議において、私が一番最後の質問になるわけですけれども日経連の方と経団連土光さんの方も、この春の賃上げはゼロないし一けたということを強く印象づけるような発言があったわけです。そして、その理由としては、企業の支払い能力という問題と生産性の問題を非常に重視して、物価の問題に目をつむったという感じの発言だったと思います。これに対しまして、総評の安恒さんは二〇%以上という表現でございまして、これは当然物価考え経済成長考え、いろいろな目減りその他の生活難を考えたその対策として二〇%以上の賃上げが必要だ、こう主張なさったわけでございます。同盟の方では、これも物価を非常に重視して二二%、定昇抜きの一三%というのですから、当然一五%以上のものになるという御主張だと思います。この問題については学者、エコノミストの中でもいろいろと見解がありまして、日経連の主張を支持する方もおればあるいは労働組合側の主張を支持する方もおられるわけでございますけれども、この問題について政府は——もっともガイドラインはどうしなさいとまで昨年の春闘みたいなことは言わないとしても、つまり景気を回復するという問題を考えた場合に、労働者の賃金、国民の消費購買力というものを増大させなければ景気はよくならないということははっきりしているわけですけれども、この場合にどういうふうな考え方、つまり日経連が端的に示したような考え方と労働組合側が示しておる考え方というものを、景気不況対策の面から見てどのように評価なさるのか。賃上げを何%にしていくかということを問うておるわけではありません。考え方として、どういうふうに評価なさっておられるのか。これを福田副総理と労働大臣にお聞かせいただきたいと思います。
  217. 長谷川峻

    ○長谷川国務大臣 石油ショック以来の狂乱物価国民全体の努力によって安定した。一番大事なものは物価の安定じゃないでしょうか。それが余りにも物価が高騰すれば、得たる賃金というものが狂乱になったりしたら、賃金は生活の原資ですから、もらった奥さん方が非常に不安だ。そういう意味からしますと、やはり物価安定を重点に置きつつ景気浮揚を考えるべきだ、私はこういうふうに考えております。
  218. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 私ども政府といたしましては、賃金決定には介入いたしません。そういう基本的な態度です。ただ今朝来、昨年の賃金が一三%で決まった、あれがいまの不況の原因だという説があると述べられましたが、私はそれと全く反対な見解なんですよ。そのことを申し上げることによってお答えとしたいのですが、ちょうど昨年のいまごろ私は皆さんに申し上げておったのですが、この春闘がどういうふうに決まるか、これが日本経済が発展に向うかあるいは混乱の極に達するか、それを決める天王山、関ヶ原である。そういう意味において私はこの春闘の成り行きを非常に重視し、労使の良識を期待するという発言をずっとしておったわけです。ところがそれが、とにかくおととしは三三%、その前は二〇%なんというのが、その惰性でなくとにかく一三%という線に決まった。あれは本当によかったと私は思うんですよ。私はあの瞬間に、これで日本経済の再建はできる、こういう確信を持ちましたが、物価はどうかといいますれば、とにかくあれからずっと鎮静の方向を示してきておる。それから不況不況と言うが、とにかく第一次から第四次にわたる対策をとることができる。そしてその結果は、世界の先進諸国が総沈みである、そういう中においてわが国はひとりプラス成長を実現する、こういう実績を上げることになり、そしてこれからも相当強力な景気対策をとり得ることになってきておる。私は、それはひとえに昨年の春闘にあったんだ、いま不景気だという、それが去年の春闘に由来しているなんというのはとんでもない考え方だ、こういう見解を持っているのです。それをもって私のことしの春闘に対する見解いかんということに対するお答えといたしたいと思います。
  219. 和田耕作

    和田(耕)委員 いまの福田副総理の御答弁に対しましてさらに細かく質問をしたいのですけれども、副総理は、いまの不況対策として、国民の消費購買力を引き上げるような施策が必要だという点は異議はないですね。
  220. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 ことさらに工夫をして消費購買力を直接的に刺激する、こういう考え方は妥当でない、こういうふうに考えておるのです。経済全体が繁栄に向かって、そして自然に賃金が上昇し、そして購買力化する、こういうことになることを期待する、こういう考えでございます。
  221. 和田耕作

    和田(耕)委員 また、労働者としても非常に苦しい中でがんばって仕事をして、そして生活をしているわけですから、物価が何ぼになるか——まあ副総理の努力でこの年度末の物価が幸い八%になったとしても、それに対して何割かの上昇を含めたものの要求はやはり労働者としても当然の要求だ、また、政府ができるだけそれが実現できるように努力をすることは、これは近代国家の政治指導者の任務であるという点についてはいかがでしょう。
  222. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 それに直接お答えいたしますと、私の姿勢である賃金問題には介入せずということにつきまして、それとは逆に介入するということになるので申し上げかねますが、とにかく景気をよくして、そしてみんながその影響を享受するという状態を実現いたしたい、かように考えております。
  223. 和田耕作

    和田(耕)委員 この問題は、いま櫻田さんがおられるとちょうどよかったのですけれども、こういう事態で不況対策をする場合に、余り個別個別の状態を考慮すると政策は成り立たないのではないかと私は思う。特に、日経連出したこれを拝見しておりますと、昨年、一昨年までのような状態、つまり労働市場が窮迫している状態では、苦しくても賃金を上げなければ人が来なくなるという状態があった。しかし、最近ではそうじゃないんだ。労働需要は非常に緩和しているから、個別個別の企業賃上げを仮にしなくてもその企業は困らないような状態もあるのだというような個所がありますけれども、つまり、こういうふうな感じで——労働者としては、できるだけ平等の施策を政府に対しても経営者に対しても要求するのは当然の理由があると思うのですね。こういうふうな常識的な考えに対して、個別企業の支払い能力というものが一これは大事ですよ。大事ですけれども、余り強くこれが出てまいりますと非常な混乱が起きるし、そしてまた、一人一人の不平等感というものが出てくるということであって、この問題はぜひとも政府としては、特に福田副総理はいま経済指導者ですから、近代国家の経済指導者ですから、この問題は特に御考慮いただいて、そしてあなたが、つまり一二%上げますなんということを言う必要はないのですよ。やはり現在では、国民の消費購買力を上げるということは非常に重要なことだ。政府が何ぼ財政支出をしても、公共事業をしても、それではとてもじゃない、いまの不況の問題は解決できないのだというお考えを持ってほしいと思うし、持っておられると思うのです、賢明な福田副総理のことですから。その点は異議ないでしょう。異議ないというそれだけで結構です。
  224. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 国全体といたしまして、つまりマクロで見た日本経済というものは、五十一年度中にはますます穴暮らしの不況からの脱出ということができる、こういうふうに私は考えております。ただ、今日では企業操業度が非常に低いわけです。それが五十一年度中にはかなり改善をされて、望ましい水準に近いところまでいくわけなんでございますが、これは全体の話です。マクロの話です。いま、マクロではとにかく成長過程にある、こういうふうに見て差し支えないと思うのですが、しかし個々の企業は非常に苦しい。ミクロとマクロの乖離という現象があるのですよ。それで、マクロの日本経済というものが改善されまして、そしてその改善が五十一年度中にはかなり進んで、まあ年度末の時点ぐらいになりますとその乖離というものが大方解消される、こういうことを展望し、ぜひそういうふうにいたしたい、こういうふうに考えておるわけです。ミクロで見ると、まだそこまでの段階に達するまでには十四ヵ月あるわけですから、今日からそれまでの過程というのは企業は非常に苦しい状態だろう、こういうふうに思います。  それからもう一つ、いまの点について申し上げておきたいのは、それは大方五十一年度中に企業操業度も改善され得る、こういうふうに申し上げましたが、改善されて、一体その結果がどうなるのだと言いますと、夢よもう一度というか、高度成長時代のようなああいう状態には再びならぬ。ですから、高度成長時代への復元を展望している、期待しているという人につきましては、これはとてもとてもという状態だろうと思うのです。しかし、これから先の日本経済というものはかなり腰を落とした成長過程、そういうところに入るんだという人に対しましては、大方まずまずというところに来たなという感じを十四ヵ月後ぐらいの時点ではお持ち願えるような状態にしてみたい。ただ、いまそれまでに至る過程というものは、きわめて不況が長引いているだけに深刻な状態であろう、こういうふうに考えます。
  225. 和田耕作

    和田(耕)委員 それから、これも午前中、櫻田参考人のお述べになった点ですけれども、現在、企業の中では必要でないけれどもとにかく終身雇用という慣行もあって、苦労、苦労、苦しんでも抱えておる労働者が相当おるんだという発言がございました。この発言を労働組合側としてどのようにこれを受け取っておられるのか。果たしてそういうものがあるのか、あるいは、あっても企業側が言うような状態ではないと考えておられるのか。この問題、ひとつ安恒さんと同盟の河野さんにお伺いしたい。
  226. 安恒良一

    安恒参考人 経営者の過剰雇用論について、私たち反対の意見を持っているのですが、まず、あの出された数字の根拠がかなり恣意的だと思います。それはどういうことかというと、一つは基準時のとり方が問題がありまして、四十九年の六月が一つの基準時になっています。その当時はまだまだ狂乱インフレの影響が残っておりまして、時間外や残業、パート等いわば補強していた異常な時期だったと思います。これが一つあります。それから、いわゆる業種別の差異を無視して、ただ単に統計的にいわゆる過剰率を出すというところにも問題があると思います。そこで一番問題になりますのは、いろいろ午前中からの御議論の中でも、政府の、副総理以下皆さんが御答弁されているように、わが国の経済能力というものは非常に優等生だ、こう言われているわけです。そういうものから見まして、じゃ、週休二日、時間短縮の徹底度合いというものを西独やそれからアメリカやその他ヨーロッパ諸国に比べますと、これはまことに劣悪なんであります。でありますから、私たちは少なくともわが国の経済能力がアメリカに次ぐ資本主義では第二の経済大国にのし上がっていますから、やはり今後国際的な競争をやるにしてもフェアにやらなければならぬとしますと、そういう労働条件をそろえるということが必要だろうと思います。その観点から考えてまいりまして、私たちはいわゆるいま政府並びに経営者が言っているような、単なる計数的な労働者の過剰雇用ということについては反対でありまして、まずヨーロッパ並み、アメリカ並みに雇用条件を全体をそろえる、その中で果たしてどれだけ余剰労働力を抱えているのか、こういうことの検討をしなければならぬと思います。以上です。
  227. 河野徳三

    河野参考人 過剰雇用という場合に、二つに分けて考える必要があるんじゃないかと思います。  一つは絶対的な過剰雇用といいますか、それから相対的な過剰雇用。まず第一に絶対的な過剰雇用というのは、これはもう御説明するまでもないと思いますけれども、仮に今日の操業度がかなり回復したとしてもなおかなりの過剰雇用があるという意味だと言っていいと思うのですけれども、では、そういう絶対的な過剰雇用が存在するかというとこれは存在しないのではないか。これはきわめて簡単に考えますと、過去十数年来、日本生産性の上昇率というのは大体ヨーロッパ諸国の二、三倍のテンポで上昇してきている。それは単なるいわゆる設備の近代化を通じてだけではなくて、やはり労働能率の強化ということを通じてかなりこれは行われてきているわけであって、そういう意味では、数十年前だったら別ですけれども、今日の段階では正直のところ目いっぱい働いているというのが現状じゃないかと思います。さらにまた、石油危機以後、もちろん回復が行われているわけですから、そういうことを背景にして今日の時点で考えれば、絶対的な過剰雇用は存在をしないとむしろ言うべきではないか。  ただし、相対的過剰雇用という点については、今日、操業度が極度に低下しているわけですから、そういう面では、一時的にそういうものが多かれ少なかれ存在するということは否定できないと思います。ただ、それを、このまま経済政策の運用を誤って、景気回復が順調にいかないということになりますと、あるいは今後長きにわたって非常に低い成長経済にならざるを得ないということになりますと、まさにこれは絶対的な過剰雇用に転化するわけで、そうしないためにはどういうことが必要なのかということをいま考えることが一番大事なんだ。  それには二つあると思います。一つは、いま福田副総理は年末ごろになれば景気は回復するとおっしゃいましたけれども、先ほどから御質問がありますように、ことしの日経連の賃金に対する考えとか等々から総合判断しまして、むしろ国民の多くは、果たして政府が言うとおりに景気が回復するのだろうかという感じを持っているのが多いんじゃないか。これはむしろ経営者自身もそうじゃないかと思うのですね。ですから、そういう景気は着実に回復するのだというまず期待感をいかに与えるかというのが、いま当面政府がなすべき第一の仕事ではないだろうか。そういうことになりますと、いま和田先生からいろいろ御質問がありましたけれども、そういう点についてやはり政府は姿勢を明確にすべきであるということが第一。  それから第二点の問題としては、いま申しましたように、相対的過剰雇用という問題はありますけれども、しかし、果たしていまの労働態様というものが、先ほど和田先生がおっしゃっているように、いわゆる現代社会に適応した形になっているのかどうかということをもう一遍再検討する必要があるのじゃないか。最近では労働の人間化といったような問題が盛んに先進ヨーロッパ諸国では論じられているわけです。これはもちろん労働時間の問題も含めて、あるいは労働強度の問題も含めて、あるいはベルトコンベヤーをどうするかというような問題も含めてこれは議論されているわけで、結局それは人の問題にかかってくるわけです。先進諸国ではすでにそういった角度からこういった問題が問題とされているにもかかわらず、日本ではそういう面が非常におくれている。もちろん経営者の対応もおくれているし、それに対する政府のいわゆる指導体制というものも非常におくれているんではないかと考えております。ですから、そういったいわゆる質的な側面からも、この問題に対しては今後十分な対応をしていって、そういった相対的過剰雇用の問題の解決の一助にすべきである、こう考えております。
  228. 和田耕作

    和田(耕)委員 いまお聞きのように、総評の安恒さんも同盟の河野さんも、つまり現在過剰な労働力のように見える状態はあるけれども、すぐこれを整理するとかいうような対象ではなくて、安恒さんの方は、これはまあ河野さんもそういう意味も含まれておると思いますが、もっと先進国並みの労働条件、職場環境というものができれば過剰というものではないのだという論点を持っておられる。河野さんの方は、一時帰休の制度が雇用保険法に従ってありますから、一時帰休が一時的な現象としてはあるけれども、恒常的なものとしてはそういうふうに考えないで、一時的な現象がなくなるような政府景気指導が必要だ、こう強調しておられるわけですね。  そこで、福田さんにお伺いしたいのですけれども、朝もちょっと私、質問の一番最後でお二人の経営者の代表の方にお伺いしたのですが、昨年の状態は、福田さんいろいろ御自分では意見は持っておられると思いますけれども、確かに何としても物価を抑えなければならないということで、部分的な景気不況の現象に対しては手を打ったとお考えになっておられると思いますけれども、それがなかなか効果を上げていない。上げてなかった理由も、多分賢明な副総理ですから、どういうところにネックがあったということは御存じであったと思うんですけれども、格別それに対して手をお打ちにならなかったということは、物価に悪い影響を及ぼしてはいけないという感じが中心にあったからだと思うんですね。それだから、物価政策に対しては非常に際立った成功をおさめたと思うんですけれども不況の問題については手のつけられないようなことになってきた。そういう意味の反省に立ってみれば、この際は、まあ年度末の問題は別として、来年の春から夏にかけてあるいは物価が多少上がってきても、その心配の余り不況対策を思い切ってやらないというようなことになれば、私は大きな悔いを残すような結果にもなりかねないと思うわけですよね。したがって、物価はどうでもいいということを申し上げているわけではない。物価は多少は上がるようなことがあっても、とにかくこの際不況対策を中心にやっていくんだという心構えがないと、いまの、つまり潜在的な失業者というふうに言われておるこの人たちが顕在化するんじゃないかという感じが私はするのですね。先ほど共産党の委員もそういうことを申されておったのですけれども、そういうふうに思うのですけれども、私、いま申したような意味で、とにかく今度の不況対策に対しては実効のあるような形で景気を立て直す政策をとるんだ、物価のことは黙っておってもいいでしょう、そういうふうなことは副総理としては言明できると思うのですが、いかがでしょう。
  229. 福田赳夫

    福田(赳)国務大臣 和田さんのけさからの話を伺っていますと、まあ多少物価の方は犠牲にしてもこの際は景気対策だ、こういうお話なんです。私はお気持ちはわかりますが、物価を犠牲にするわけにいかぬ。しかしながら、物価を犠牲にしないで景気対策ができるようにいまなってきているのです。ですから、結論としてはそう違ったことにはならぬわけです。かなり積極的な景気対策をとれる、物価を犠牲にしないでとれる、そういう状態になっておるというので、ひとつその方のことは御安心願いたいと思います。
  230. 和田耕作

    和田(耕)委員 つまりそこのところの考え方が、国民の消費購買力の問題に対する対処の仕方の分かれるところなんだとぼくは思うのです。つまり、いまの購買力を何としても上げないとこの沈滞した景気はよくならないのだというそこのところを強く意識しておれば、これはとにかく多少弊害はあっても——多少の弊害ということにいたしましょう。弊害はあっても、不況対策をやるために国民の購買力をふやす。賃上げの問題についてもそうです。そういうふうな考え方を持たないと、私は実効のあるものは出てこないのじゃないかという感じがしてならないのです。第一、スタグフレーションというものはそういうものじゃないのでしょうか。ある時期に両方のものを考えておると、これはぐずぐずぐずぐずした状態しか残らない。やはりあなたが昨年やったように、とにかく不況の問題は多少起こったってこれは何とかなるのだ、物価をおさめなければならぬということだからああいう成果を上げた。これが行き過ぎたから、今度はとにかく、物価の問題は心配だけれども、まあこれは何とか対策を示してくれるということで不況対策をやる、そしてこの不況を切り上げていく、こういう形で四、五年かけて対処していくというのがスタグフレーションに対する対策じゃないのでしょうか。これを、物価もあるいは不況も大事だ、両方ともあっち見こっち見じゃ、私は結局成果は上がらないという感じがしてならないのです。あなた自身去年やった物価対策の問題を考えてみれば、そういうことが御理解いただけると私は思うのです。あなたは、確かにどう言いましても不況なんか少しくらいあったって、とにかく物価を直すのだということで、その気構えがあったから成功なすったのですよ。いまはちょうど逆ですよ。といって、私、極端なことを言っているわけじゃありません。全体はそういうバランスをとって言っていることを御了解いただけると思うのですけれども、そういう点で消費購買力というものを引き上げることなしにはいまの景気が効果のあるようによくならないという問題は、どうかひとつ経済指導者として強く考えていただきたいと思います。  以上です。
  231. 井原岸高

    ○井原委員長代理 以上で参考人各位に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には長時間にわたりまして御協力を賜りましてまことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。(拍手)  次回は、明十三日午前十時より開会し、引き続き集中審議を行います。  本日はこれにて散会いたします。     午後六時六分散会