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1976-01-23 第77回国会 衆議院 本会議 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十一年一月二十三日(金曜日)     —————————————     開 会 式 午前十時五十九分 参議院議長衆議院参議院の副議長常任委員長議員及び内閣総理大臣その他の国務大臣は、式場である参議院議場に入り、所定の位置に着いた。 午前十一時 天皇陛下は、衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。 衆議院議長は、左の式辞を述べた。     …………………………………   天皇陛下の御臨席をいただき、第七十七回国会開会式をあげるにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。   わが国をめぐる現下内外の諸情勢はきわめてきびしく、緊急に解決すべき幾多の問題があります。   われわれは、この際、当面する諸問題に対処して十分な審議を行い、適切な施策を強力に推進し、もてわが国経済の円滑な運営を期し、国民生活安定向上をはかるとともに、広く諸外国との友好親善を深め、世界平和の維持増進に一層の努力を払わなければなりません。   ここに、開会式を行うにあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もって国民の委託にこたえようとするものであります。     ………………………………… 次いで、天皇陛下から左のおことばを賜った。     …………………………………   本日、第七十七回国会開会式に臨み、ここに、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。   永年にわたり、国会が、世界の平和と我が国繁栄のため、たゆみない努力を続けていることは、深く多とするところであります。   現下内外の諸情勢は、極めて厳しいものがありますが、このときに当たり、内にあつっては、全国民が相協力し、国運の進展と国民福祉向上を図るため、不断の努力を重ね、また、外にあつては、我が国が、国際社会のと一員して、広く諸外国との友好親善を深め世界平和の確立に貢献するため、なお一層努力することが必要であると思います。   ここに、国会が、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。     ………………………………… 衆議院議長は、おことば書をお受けした。 午前十一時六分 天皇陛下は、参議院議長の前行で式場を出られた。 次いで、一同は式場を出た。     午前十一時七分式を終わる      ————◇————— 昭和五十一年一月二十三日(金曜日)     —————————————  議事日程 第二号   昭和五十一年一月二十三日     午後一時開議  一 国務大臣演説     ————————————— ○本日の会議に付した案件  議院運営内閣地方行政法務外務大蔵、   文教社会労働農林水産商工運輸、逓   信、建設予算決算及び懲罰の各常任委員   長辞任の件  議院運営委員長外十五常任委員長選挙議員請  暇の件  三木内閣総理大臣施政方針に関する演説  宮澤外務大臣外交に関する演説  大平大蔵大臣財政に関する演説  福田国務大臣経済に関する演説     午後一時四分開議
  2. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) これより会議を開きます。      ————◇—————  常任委員長辞任の件
  3. 前尾繁三郎

  4. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 御異議なしと認めます。よって、許可するに決しました。      ————◇—————  常任委員長選挙
  5. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) つきましては、これより各常任委員長選挙を行います。
  6. 三塚博

    三塚博君 各常任委員長選挙は、その手続を省略して、議長において指名されんことを望みます。
  7. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 三塚博君の動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。  議長は、各常任委員長を指名いたします。         議院運営委員長 田澤 吉郎君     〔拍手〕           内閣委員長 坂村 吉正君     〔拍手〕         地方行政委員長 小山 省二君     〔拍手〕           法務委員長 大竹 太郎君     〔拍手〕           外務委員長 鯨岡 兵輔君     〔拍手〕           大蔵委員長 田中 六助君     〔拍手〕           文教委員長 登坂重次郎君     〔拍手〕         社会労働委員長 熊谷 義雄君     〔拍手〕         農林水産委員長 湊  徹郎君     〔拍手〕           商工委員長 稻村左近四郎君     〔拍手〕           運輸委員長 中川 一郎君     〔拍手〕           逓信委員長 伊藤宗一郎君     〔拍手〕           建設委員長 渡辺 栄一君     〔拍手〕           予算委員長 荒舩清十郎君     〔拍手〕           決算委員長 村山 達雄君     〔拍手〕           懲罰委員長 宇田 國榮君     〔拍手〕      ————◇—————  議員請暇の件
  9. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 議員請暇の件につきお諮りいたします。  中山正暉君から、海外旅行のため、一月二十七日から二月三日まで八日間、請暇申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  10. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 御異議なしと認めます。よって、許可するに決しました。      ————◇—————  国務大臣演説
  11. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説外務大臣から外交に関する演説大蔵大臣から財政に関する演説福田国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣三木武夫君。     〔内閣総理大臣三木武夫君登壇〕
  12. 三木武夫

    内閣総理大臣三木武夫君) ここに第七十七回国会が再開されるに当たり、政府施政に対する基本方針を申し述べ、国民を代表する議員皆さん国民皆さんの御理解と御協力を得たいと存じます。  今年、昭和五十一年、一九七六年は、二十世紀最後の四半世紀を踏み出す第一年目であります。二十一世紀へのスタートの年としての新しい芽を育てる決意であります。  しかしながら、このスタートの年は、国内的にも国際的にも、歴史的な大転換期に遭遇しております。  日本経済は、石油危機を契機として、年間実質成長率一〇%程度から、ゼロ成長に転落いたしました。高度成長路線を支えてきた条件、たとえば、安い石油とか、工場の容易な立地条件といった内外の支えは、いまやほとんど失われてしまいました。われわれは、二度と再びかつてのような高度成長路線には戻れないことを覚悟しなければなりません。これからの日本経済は、成長スピードを減速した適正な成長路線に切りかえられなければなりません。しかし、私は、それをいたずらに嘆くのではなく、むしろこれに積極的に取り組んで、健全な安定路線への転換を図るべきものと信じます。  しかしながら、設備も雇用借入金も、すべていまだ高度成長時代の引き継ぎであります。それを新しい路線に円滑に切りかえ、いかに適応させていくかは、大変な難事業であります。しかし、この障害を突破せずしては、日本経済は立ち直れません。  この路線転換の難事業を、できるだけ犠牲をなくしてなし遂げることが緊急の要請であります。国民総ぐるみで、英知をしぼり、協調精神を発揮して、この困難を突破する覚悟を持たなければならぬと思います。  それは企業にだけ求められる問題ではありません。行政財政においても同じことで、高度成長時代の安易な考え方を断ち切って、発想を転換し、行政財政の両面にわたって合理化を進めてまいりたいと思います。  こうした経済路線転換の問題に加えて、今日、世界経済を苦しめている不況物価高の同居する、いわゆるスタグフレーションの難問題日本経済も直面しております。  一方に不況と失業の谷、もう一方に高物価インフレの谷がありますが、われわれは、どちらの谷にも落ちずに、インフレなき経済発展を図らなければならないのであります。それを、全体主義的な統制経済やり方ではなく、政府企業、組合、個人良識と自制と協調に基づく自由・民主やり方でやろうというのが、われわれの決意であります。(拍手)  昨年十一月に、パリ郊外古城ランブイエに集まりました先進民主主義工業国の六カ国首脳会議で約束したことも、まさにそれでありまして、民主的な手法と国際協力とによって、不況物価高難問題解決しようとお互いに決意を固めた次第であります。  今日の世界相互依存がますます深まっています。それだけに、従来のやり方を繰り返しているだけでは決して問題は解決いたしません。  先進民主主義工業国の団結と協力が必要であることは言うまでもありません。しかし、それだけでは不十分であります。社会主義国影響力にも、産油国発言力にも、そして、石油を産出しない発展途上国窮状にも、十分なる考慮が払われなければなりません。  特に、非産油途上国窮状を放置しておいては、世界経済の本格的な立ち直りを期待することは困難であります。  国家間には表面上のいさかいの姿があるにもかかわらず、人類は、いまや、いやおうなしに、一つの運命、一つ世界に、追い込まれつつあります。われわれはこの世界史の趨勢を深く認識しなければなりません。  このように、国内的にも、国際的にも、われわれは、いまだ経験したことのないほどの、新しくかつきわめて困難な問題に直面しております。まさしく世界試練日本試練であると思います。  これらの課題に対処する三木内閣施政方針基本的態度を以下四項目に分けて申し述べたいと存じます。  第一は、当面の緊急課題であります。第二は、二十一世紀への挑戦であります。第三は、防衛と外交路線確立であります。そして最後に、以上の三項目の実行についての私の国民皆さんに対する訴えであります。  私は、当面の緊急課題二つの問題にしぼって申し上げたいと存じます。それは不況政治不信の問題であります。第一に、今年の最大緊急課題は、不況を脱出して、適正な安定成長路線への転換を図ることであります。  もちろん、物価に対する監視は常に怠ってはなりませんが、当面は景気浮揚に全力を挙げる方針であります。  三木内閣が発足したときの最大緊急課題は、何といっても、あの異常なる物価を鎮静させることでありました。  政府の総需要抑制政策による物価対策は成功をいたしました。昨年三月を目標とした消費者物価一五%以下は、予定通り達成いたしましたし、今年の三月を目標とした一〇%以下も達成される見通しであります。  ところが、不況の方は、四回にわたる景気対策にもかかわらず、回復力はいまだ弱い段階にあります。  もっとも、全般的に見れば、いわゆるマクロ的には、鉱工業生産は昨年の春に底入れし、その景気回復基調はできたのでありますが、いわゆるミクロ的には、個々の業種や企業にばらつきがあり、また日本企業の持つ雇用借入金依存特殊事情も手伝い、まだかなり深刻な問題が残っていることも事実であります。  しかし、第四次景気対策に引き続き、今国会で御審議を願う来年度予算及び経済運営では、景気の順調な回復雇用の安定を図ることを最優先目標としております。財政においても公共事業住宅重点を置きました。公共事業予算は、予算全体の規模が前年比一四%増であるにかかわらず、二一%増にいたしました。住宅に関しては、第三期住宅建設五カ年計画を策定して、公的資金による住宅建設三百五十五尺民間の自力建設と合わせて八百六十万戸の建設を目指しております。  すべての努力を傾け、五十一年度は、実質五ないし六%程度経済成長を達成できると考えております。  また、アメリカ経済の上昇とヨーロッパ経済回復徴候は、日本経済を勇気づける材料であります。  しかしながら、先ほど申し述べましたように、日本経済はその体質構造とを変革しつつ転換期に処さなければならぬという二重の課題を抱えております。したがって、景気回復を図るとともに、新しい経済秩序建設のために、創造的努力を怠ってはならぬということであります。  緊急課題のもう一つは、政治不信の解消であります。  国民行政国会運営とに不信感を抱き、議会制民主主義に懐疑的になるときには、独裁政治と全体主義の誘惑が出てまいります。  対話協調、清潔と改革を唱えて発足した三木内閣に対し、現在いろいろな批判がなされていることを承知しております。  政治浄化近代化とは、空念仏に終わらないか。社会的公正の実が上がらないのではないか。不況からの脱却がおくれるのではないか。国会対話どころか対決の場ではないかといった国民の厳しい声が聞こえてまいります。  私はえりを正してその声を聞き、私の全エネルギーを燃焼し尽くしても、その声にこたえなければならぬという深い責任感を覚えております。(拍手)非才ではありますが、私は一身をなげうってもやる決意であります。(拍手)  国民の要望にこたえて政治信用回復するために、政府のなすべき仕事は、数多くありますが、中でも、現下緊急課題として、先に述べました不況対策のほかに、私は四つの点を考えています。  一つは、ルールと約束事を守るという法治国の精神に基づいた社会秩序確立二つは、対話協調精神徹底三つは、誠実に努力するものが報いられる社会的公正の保障四つは、生命をいたわる人間尊重主義徹底。この四点であります。  具体的に申せば、第一の、法秩序社会秩序維持の中には、スト権ストの問題が含まれます。  三公社五現業のスト権問題でありますが、私は、違法スト処分抗議スト処分という悪循環を断ち切る転換点は、違法ストを自制することにあると思うのであります。(拍手違法ストは強行するが、処分はやめてもらいたいということでは、悪循環は永久に断ち切れるものではありません。(拍手)  他方、政府もまた、経営のあり方当事者能力関係法令改正の三問題について、専門家の意見を十分に聞いた上で最終方針を決定いたします。公労協側も、法を守るという基本的態度確立することを要請するものであります。(拍手)  また、改正された政治資金規正法公職選挙法のもとで行われる来るべき総選挙でも、この法律尊重精神が生かされて、清潔な選挙を通じて、政治への信頼回復されることを大いに期待いたすものであります。金力、権力など手段を選ばず式のやり方がはびこる限り、政治への信頼回復されません。  第二の、対話協調精神徹底については、特に国会運営与野党関係あり方改善が重要と考えます。  国会良識の府として、また、重要なる国政審議の場としての機能を発揮し、国民の期待にこたえるのでなくては、議会制民主政治維持できるものではありません。  審議拒否の独善も、数のみに頼る安易な態度も、いずれも国会の権威と信用を落とす以外の何物でもありません。国会運営与野党間の対話協調につき、格段の工夫、改善がなされることを強く要望するものであります。  第三の社会的公正の中には、教育機会均等、諸種の社会保障税制改革、その他多くの問題が含まれます。中でも、老人、心身障害児者母子世帯生活保護世帯等経済的、社会的に弱い立場の人々の生活の安定と福祉を図るととには、来年度予算でも特に配慮いたしました。  しかし、社会的公正に関連して、特に論議の対象となっているものは、独禁法改正問題であります。  独禁法競争公正化消費者利益擁護を図ろうというものであります。基調は、あくまでも自由経済市場経済でありまして、社会主義経済ではありません。  ですから、独禁法改正というものは、時代要請にこたえる節度のある自由経済体制を堅持するためのルールづくりをするということであります。  この点をよく理解していただいて、関係者の納得のいく形で再度改正案を提案して、国会の御審議を願おうと思っております。  第四の、国民生命の安全を保障する上で、政府責任はきわめて重大であると考えております。  毎日の新聞紙上には、さまざまな暴力行為などの殺伐なニュースが絶えません。災害ニュースも絶えません。交通事故では一年に一万人以上の生命が失われています。薬や環境汚染による被害があります。このことについては、私も心を痛めております。  生命の安全は、人間が最も本能的に求めるものであるだけに、政府もその安全確保には万全を期さなければならぬことは言うまでもありません。  交通事故対策としては、死亡者数を五年間のうちに、少なくとも一番多かった年の半分にするべく、五カ年計画を発足させます。  災害対策としては、科学技術を総動員して、事前の予防に最善を尽くします。  薬や環境汚染対策としては、事前検査事前環境調査を厳重にいたします。  しかし、中でも最も国民協力を得て達成したいことは、種類のいかんを問わず、目的のいかんを問わず、あらゆる暴力を根本的に否定するという思想と風潮を全国民に浸透させたいということであります。(拍手)  以上申し述べました緊急課題解決も、その場しのぎのものではなく、二十一世紀を展望した長期視野に立つものでなければなりません。  そういう意味で、息の長い、民族発展の将来に思いをいたすときに、私は、特に次の四つの問題を重要と考えております。それは、一、教育、二、科学技術、三、福祉、四、繁栄基盤の四点であります。  第一は教育でありますが、その重要性はいかに強調してもし切れるものではありません。  資源に恵まれない日本ですが、天の与えた最大の恵みは人であります。無限能力を秘めた人間こそが日本の宝であります。その能力を引き出すのが教育責任であります。  現在、教育を受けつつある青少年こそ、二十一世紀に活躍する未来の創造者であります。今日の教育をおろそかにすることは、二十一世紀に対する責任の回避にほかなりません。  ところが、今日の教育が、日本青少年の知、徳、体の均衡のとれた教育の成果を上げ得るや否やについては、各方面の強い批判があります。現状では、伸び伸びとした創造的な人間の育成が期待できがたいのではないかという懸念も広く国民の中にあります。  政府は、こうした批判にこたえ、こういう懸念を解消するために、三つの方向の教育改革を実行したいと考えております。  第一は、国立大学共通学力テストを試みる等、入学試験制度改革であります。  第二は、高校新増設のための国庫補助専修学校制度の新設など、学校教育機会の拡充であります。  第三は、教育指導面の強化による学校教育質的充実であります。  私は、教育政争の外に置くことと、がりがりの競争第一主義と入試第一主義を排することを期待しております。最近文相が提唱した「助け合い教育」などは教育界に新風を吹き込むものとして、私も賛同するところであります。  第二は、科学技術の重視、活用であります。  二十一世紀は、人類連帯科学技術時代となるでありましょう。科学技術面での教育研究あるいは開発におくれをとる国民は、二十一世紀後進国となりかねません。  それだけに、科学技術分野に携わる人の責任は重大であります。教育同様に科学技術分野政争の外にあらなければなりません。  原子力発電及び原子力船安全性環境汚染災害の防止、都市再開発、さらには二十一世紀無限エネルギー源となる可能性があるといわれる核融合の問題等々、人類資源と自然とをめぐる無数の課題は、科学技術者の公平なる判断力創造的能力に依存しなければならぬ問題ばかりであります。  政府としては、本当に信頼のできる科学技術発展、本当に平和に奉仕できる科学技術発展のために一層努力いたします。  第三は、国民福祉に対する新しい総合的な取り組みであります。  当面の福祉対策についても、優先度について厳しい選択を行いつつ、真に必要な施策計画的かつ積極的に推進をすることとし、社会保障関係費は五十年度に比し二二・四%増額し、一般会計予算に占める割合も一九・八%に高めました。  私は、福祉社会建設こそ近代民主政治目標であると考え、多年、この問題を真剣に検討いたしてまいりました。  人生にはいろいろな段階がありますが、そのいずれの段階においても、各人の人生観価値観に従って、自由で生きがいのある社会を実現することが必要であります。それが私の描く福祉社会でありますが、そうした福祉社会を支える二つの柱となる基本精神があると思います。  一つの柱は、生涯のそれぞれの段階機会さえ公平に保障されるならば、後は個人の意志と努力次第という独立、自助の精神であります。  もう一つの柱は、生涯のいずれの段階であれ、個人努力ではどうにも解決のつかない経済的、社会的困難に陥った人に対しては、国が救済の手を差し伸べるという最低限の保障であります。連帯相互扶助精神であります。  また、私の構想する生涯設計計画は、教育も就職も住宅も、医療も、老後も、すべてを含む総合的なものであります。  私は、英国型あるいは北欧型でもない日本型福祉政策を目指しておるものであります。この計画を具体化する第一歩として、ことしから政府においても総合的検討を進めることにいたしました。  第四は、二十一世紀へかけての民族繁栄基礎固めであります。  さきに述べましたとおり、日本経済は適正な安定成長路線への転換とともに、その体質構造を変えていかなくてはなりませんが、そのためには中小企業農林漁業地方行財政労使関係国際協力という四つの重要な課題があります。  第一の中小企業農林漁業につきましては、その振興なくして日本経済繁栄はないということであります。  当面の対策としては、中小企業においては、金融対策及び小規模事業対策重点を置きました。また、農林漁業対策としては、自給力向上のための基盤整備生産対策等を重視いたしました。しかし、そのいずれも構造改革による生産性向上という長期構想の一環としてとらえてまいります。  第二は、国民生活向上のために地方行財政健全化を図ることが不可欠であります。このため、地方自主的努力を期待するとともに、政府もこれがため、一層努力をいたしてまいります。  第三の労使関係につきましては、相互理解信頼の上に立ったよりよき労使関係が生まれることを期待しております。  二十一世紀に向かうにつれ、日本企業は低賃金の発展途上国政治優先社会主義国合理化の進む先進工業国の三方からの競争にさらされることになります。  このような国際的条件のもとで、より合理的な労使関係が樹立されて、勤労者生活の安定が図られることを願うものであります。政府としても、それに役立つ環境づくりに労をいとうものではないということでございます。  第四の国際協力は、ランブイエ精神にあらわれているように、先進民主主義工業諸国間の協力体制を異にする社会主義国との協力発展途上国との協力が必要であります。  中でも、発展途上国との協力は、わが国にとって重要であります。  政府としては、長期展望に立って、発展途上国国民生活向上と国際平和につながる協力を進めてまいります。  ことに、今後予想される世界的な食糧と人口の不均衡対策として、発展途上国の食糧増産計画に対する国際的協力を促進したいと考えております。  私は外交と防衛を、国の安全を図るという政府に課された重大なる責任の両面としてとらえております。  複雑な内外情勢に対処して、国の安全を図るには、外交と防衛と内政の全般にわたって総合的対応策を必要といたします。  ベトナム情勢の急転後、わが国の防衛論議に変化が見られます。問題を現実に即して考えようという傾向があらわれておることを歓迎いたします。これをきっかけとして、いままで余りにも距離のあり過ぎた与野党間の防衛に対する基本的な考え方についての対話が進められ、防衛問題が国民全体の問題として建設的に取り上げられるようになることを期待いたすものであります。(拍手)  私は国の守りの基本として四点をあげます。  第一は、国民の抵抗の決意であります。国民生命、財産、生活、独立を侵すものには断固として抵抗するという国民決意であります。(拍手)その決意のあらわれが自衛隊であります。  第二は、堅実なる国内体制確立であります。政治社会が腐敗し、経済が疲弊し、国民が自信を失うときには、国は内部から崩壊をいたします。  第三は、平和を維持する外交であります。日本みずからが平和を乱すもとになってはならぬことはもちろんですが、日本を取り巻く国際環境を安定させる外交努力は、国の安全を守る重要な要素であります。  第四は、国際協力に基づく集団安全保障体制であります。今日、いかなる軍事大国といえども、一国だけの力で安全を全うすることはできません。軍備はむだだから非武装でよいというのでは余りにも飛躍し過ぎた非現実論であると言わなければなりません。  世界の現状においては、集団安全保障体制日本のとるべき道であると考え、日米安保体制を継続していく決意であります。  以上、私は、四点に集約された考え方のもとに、国民的支持を背景として、量よりも質を重視し、基盤的防衛力を整備しようという新しい防衛構想を推進してまいりたいと思います。  また、非核三原則を堅持いたしますから、核武装は絶対にあり得ません。この点を内外に明らかにする意味からも、核拡散防止条約の批准のための承認が今国会で行われることを切望いたします。  やろうと思えばできる技術と経済力を持ちながら、日本国民が核武装をみずから放棄する決意をした点にこそ、世界に訴える平和説得の道義力が生まれるものと私は信ずるものであります。(拍手)  アジア・太平洋地域の安定は、日本の安全にとっての大前提要件であります。  アジア・太平洋地域の安定のために、日米、日中、日ソ、日韓の関係強化、ASEAN及び大洋州諸国との関係強化を図り、さらにインドシナ諸国との外交関係、北朝鮮との交流を進めてまいります。  中でも、強固なる日米関係の推進、発展日本外交の基軸であることは変わりありません。  安全保障の観点からも、民主主義の観点からも、また、経済貿易の観点からも、いずれをとらえてみても、日米はきわめて自然なパートナーであります。(拍手)  本年は米国にとって建国二百年を迎える記念すべき年であります。政府はそれを心から祝福するとともに、日米間の相互理解、相互信頼、相互協力を一層増進する決意であります。(拍手)  日中関係につきましては、四年前の日中国交正常化以来、約束された四つの実務協定の締結はすべて完了し、残るは平和友好条約の締結のみであります。私は相互理解を一層深めて、できるだけ早い機会に条約締結にこぎつけ得るよう努力をいたしたいと考えております。  この機会に、私は改めて、日中国交正常化に多大の貢献をされた偉大なる政治家、周恩来国務院総理の逝去を心から悼むものであります。(拍手)  日ソ関係についても、政府は、日ソの友好、協力関係の増進に努力しております。しかし、日ソ間には、依然として領土問題が未解決の問題として残っております。  先般、グロムイコ外相の訪日の機会に、この問題を話し合いましたが、ソ連のかたい態度は依然として変わりはありませんでした。政府は今後とも、この問題の解決のために忍耐強い努力を続けてまいりますので、国民の御支援を得たいと思います。  しかし、日中、日ソ間には、それぞれの懸案があるとはいえ、経済、文化及び人の往来の面では、着実に関係は深まりつつあります。  日韓関係は、いろいろ問題が介在しましたが、友好関係の根底には揺るぎはありません。しかし、相互理解増進の努力を怠ってはならぬと考えます。  また、日韓大陸棚協定の批准のための承認が、他の外交案件同様、今国会で行われるよう希望いたします。  ASEAN諸国と大洋州諸国との関係の緊密化は、アジア・太平洋地域の安定と繁栄のために歴史が新しく求めているものであると考えますので、これら諸国との相互理解と友好関係の増進には一層の努力を払います。  長い戦火の終息を見たインドシナ諸国との新しい外交関係は、政府の重視するところであります。この地域の新しい政権の動向は、今後のアジア・太平洋地域の安定と密接に関連しております。  同様に、朝鮮半島における南北関係の動向もまた、アジア・太平洋地域の安定と密接に関連しております。  朝鮮半島の現状に急激な変化をもたらすことは、かえって朝鮮半島の安定を損なうものと考えます。しかし、わが国と北朝鮮側とが互いに正確な情報を欠いているという状況は、不要な疑心暗鬼と警戒心を起こさすことになりかねません。ですから、漸進的に北朝鮮との交流を進めてまいり、相互が正確に理解し合えるようにしたいと考えています。  以上、アジア・太平洋地域の問題を申し述べましたが、それは世界の他の地域への関心が低いという意味では決してありません。  現に、昨年十一月のランブイエ会議にも積極的に参加しましたように、政府は、日本、北米、西欧、それに大洋州も加わるべき先進民主主義工業諸国との協力に大いに貢献したいと考えています。日米に比べては、比較的立ちおくれている日本とヨーロッパの間の相互理解の増進にも大いに努めたいと考えています。  中東紛争については、日本石油問題を通じて死活的な関係を持っておりますだけに、その関心度はきわめて深いものがあります。  政府は、国連安全保障理事会決議二四二号が完全に実行され、パレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認されるとともに、イスラエルとPLOの対話の実現を切望するものであります。そうした対話協調精神にのっとって、中東地域に正しく、かつ永続できる平和が訪れることを強く希望しておるものでございます。  また、アンゴラの武力紛争による不幸な事態に対しては深い関心を持っておりますが、外国の軍事介入が停止され、一日も早く平和が達成されるよう願っておるものであります。  もとより、中近東、アフリカ、さらに中南米の諸国との間においては、相互理解と友好協力関係の一層の強化に今後とも努力してまいります。  平和憲法の精神からいっても、貿易に依存する資源小国たる日本の立場からいっても、平和世界なくして日本の存立はあり得ないのであります。  それだけに、世界の平和と安定のためには、日本は特別の関心を持ち、できるだけの努力をいたすべきものと考えます。わが国は軍事的には何もできませんが、経済政治、文化の諸分野では貢献できる余地は少なくないと考えております。  以上、率直にわが国の実情並びに私の信ずる政治理念と政策を申し述べてまいりました。  この際、特に国民の皆様に訴えたいことがあります。  それは、自主性と協調の問題、国益の問題それに権利と責任の問題であります。  いま、自主外交が求められています。しかし、それは決して反対することが自主で、協調することが追随というわけではありません。協調することを自主的に決めることも自主外交であります。(拍手)  また、国益とは、国際協調を排した一方的なる利己利益主張と理解されることがあります。  しかし、これほど相亙依存度の強まった今日の世界では、そうした狭隘な国益論というものは通用いたしません。  また、権利を主張することに急で、その半面の責任や義務が無視されることが、いろいろな国内問題を引き起こしております。  こうしたことが、外交政治をときにきわめて困難にすることがあります。  世界にも、日本にも、多様な考え方があります。それを力によらず、相互理解と善意と良識によって調整していくのが民主政治であり、平和外交であると信じます。(拍手)  政治体制にもいろいろありますが、私は、長く議会政治に携わってきた議会人として、日本にとっては、やはり議会制民主主義が最も適合している政治体制であると信じて疑わないものであります。  しかし、それば、内政においても、外交においても、議会運営は言うまでもありませんが、私の言う対話協調でなければ、その真価は発揮できない制度であります。  私は重ねて対話協調とを訴えて、民主政治擁護に挺身するということを誓うものであります。(拍手)  以上、私は内外の諸問題につき、きわめて厳しいことを申し述べてまいりましたが、それは私が日本国民を信ずるがゆえに、あえて申し上げた次第であります。私は、いざというときに日本国民が発揮してきた英知と和の精神と献身の歴史を信ずるものであります。過去幾多の困難を乗り越えてきた日本国民であります。  必ずや日本民族の活力を発揮して現下の困難を乗り切り、明るい明日への道を切り開くことができることを確信いたします。  私も根限り献身いたします。  議員皆さん国民皆さんの御理解と御協力を願ってやまない次第であります。(拍手)     —————————————
  13. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 外務大臣宮澤喜一君。     〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
  14. 宮澤喜一

    国務大臣(宮澤喜一君) 第七十七回国会の再開に当たり、わが国をめぐる国際情勢を概観し、わが国外交基本方針につき、所信を申し述べます。  過去数年来、国際関係の構造は著しい変容を遂げつつあり、人類社会は二十世紀最後の四半世紀を迎えて、新たな安定と発展への道を求めております。  世界経済は、一部に景気回復の動きがあり、最悪の事態を脱したと見られますものの、なお多くの問題が残されております。特に、開発途上諸国の抱える困難は、一部の産油国を除き、現下世界不況によって一層増大しております。このような状況のもとで、世界経済が直面する諸問題の解決及び南北間の対話協力の促進を目指して、昨年来、一連の国際的努力が緒につきましたことは、世界の将来にとって重要な意義を有するものでございます。  国際政治について見ますならば、米ソ関係においては、多少の停滞が見られますものの基本的には両国間の対話が継続されており、また、米中間でも、フォード大統領の訪中が行われ、両国関係改善のための接触と努力が続けられております。中東においては、関係当事者間の努力によってシナイ半島に関する新協定が成立するに至っております。また、東南アジアにおいては、インドシナ情勢の大きな変化を見ました後、インドシナ諸国及び近隣のアジア諸国は、それぞれ新たな秩序と安定を求める動きを示しております。  このような動きがある中で、世界には依然不安定要因を抱える地域が各所にございます。また、各国の間には政治体制経済発展段階あるいは歴史的背景等による立場の相違があり、さらに開発途上諸国は国際社会におけるみずからの主張を一層強める傾向が見られます。  しかしながら、国際的相互依存関係がかつてなく深まりました今日では、いかなる国も孤立して平和と繁栄を享受することは困難でございます。したがって、各国が政治経済いずれの分野においても相互尊重と互譲の精神に基づき、対決を回避し、協調を進めることが時代要請となっているのであります。  このような情勢のもとでわが国は、いかにしてみずからの安全と発展を確保し、また、国際社会全体の平和と進歩に貢献すべきでありましょうか。  第一に、わが国は、平和憲法のもとで安定した平和国家としての外交に徹し、いかなる国とも敵対関係に立たず、対話を旨として体制や立場の相違を超えて多角的な外交を展開し、もって国際関係の安定に寄与する必要がございます。  第二に、広く国際協力の増進を図り、わが国としても適切な役割りを果たすことによりまして、世界各国が当面する共通の諸困難の解決と、国際社会全体の調和ある発展に貢献する必要があると存じます。  以上の二つ基本方針に基づき、わが国外交を推進するに当たりましては、日米間の友好協力関係をわが国外交の基軸として維持増進することが不可欠であり、さらに、同じ理念を有する西側の民主主義諸国との緊密な提携に努めることが基本的に重要でございます。また、身近なアジアの諸国との友好関係の促進に特段の努力を払うことも当然でございます。  このような基本的な立場に基づいて、若干の主要な国際問題に関しとるべき施策について申し述べます。  まず、国際経済関係について申し上げます。  世界経済に活力を吹き込み、これを安定的発展の軌道に乗せることは当面の最大課題であります。この課題は、全世界努力を要するものでございますが、ことに国際経済において大きな地位と責任を有するわが国を初めとする主要先進諸国が果たすべき役割りは重大であります。昨年十一月開催されました先進六カ国のランブイエ首脳会議は、このような意識に基づくものであります。この会議を通じ、各国首脳は、もろもろの困難を克服するための決意を分かち合い、国際経済上の諸問題の取り組み方について原則的な合意を得ることができたのであります。わが国としては、ランブイエ宣言にうたわれた協力精神に基づき、具体的成果を逐次達成するよう諸国とともに努力してまいる所存でございます。  エネルギー問題は、今後とも世界が取り組まねばならない困難な問題の一つであります。この問題の帰趨に重大な関心を有するわが国は、関係国間において、協調精神により妥当な解決が見出されることを強く希望し、このため従来、各般の努力を払ってまいりました。その意味で、昨年十二月、国際経済協力会議閣僚会議が開催され、産油国を含む開発途上国と先進工業国との間で、具体的対話が開始される運びになりましたことは、まことに喜ばしいことでありまして、わが国といたしましても、今後ともこの対話が成果を十分上げるように協力をしていく所存でございます。  南北問題は、今日、世界の最重要課題一つとなっております。昨年九月の国連特別総会以来、南北間において対話を進める新たな動きが見られ、また、国際経済協力会議の結果、本年二月より、エネルギーを初め一次産品、開発、金融の各分野において、具体的検討が開始されることとなりました。  わが国は、今後とも、国際経済協力会議や第四回国連貿易開発会議等の場を通じまして、南北間の対話協力の進展に積極的に寄与する考えであります。政府としては、このような各種の協議によって、一次産品問題の解決策や援助、貿易等に関する実行可能な諸提案につき、検討が促進されるよう期待をするものでございます。また、政府援助についても、農業や社会開発重要性に留意しつつ、その増大に従来以上の努力を行うとともに、開発途上諸国との幅広い経済協力の推進に努める所存でございます。  次に、世界各国、各地域との関係について申し上げます。  日米間の友好協力関係は、今日きわめて強固なものとなっております。昨年秋の天皇、皇后両陛下の御訪米の際に、日米両国民の間の友情が大きな高まりを見せましたことは、われわれの記憶に新しいところであります。日米関係は、このような両国民間の揺るぎない友情と安全保障政治経済、文化、科学等広範な分野における両国共通の利益によって支えられております。  昨年一年間、日米両国は、三木総理の訪米、私とキッシンジャー国務長官のたび重なる話し合いなどを通じまして、国際政治経済上の諸問題について、相協力して解決策を見出すための努力を払ってまいりました。わが国としては、今後とも世界的規模において、米国との効果的な協力を進めるよう努力を傾ける所存でございます。  今日の世界において、国際関係の安定化と国際協調の増進を図るためには、北米、西欧及び大洋州の先進民主主義諸国との緊密な協力が、わが国にとって不可欠であります。EC諸国は、国際社会の重要な問題の解決に当たって、一層大きな役割りを果たしつつございます。わが国としては、EC諸国を初めとする西欧諸国との協力の拡大と相互理解の増進に一層の努力を払う所存でございます。同時に、同じ太平洋に面する先進諸国の間で、太平洋地域の安定と発展のため、相互の提携を深める努力も重ねてまいりたいと考えております。  アジア地域は、わが国と長い交流の歴史があるのみならず、わが国の安全に深いかかわり合いを持ち、経済的にもきわめて密接な関係を有する地域であります。  昨年は、インドシナの政治地図が塗りかえられ、この地域の情勢は大きく変化をいたしました。長い戦火の終息を見たインドシナの諸国においては、この地域に新しい秩序を形成し、そのもとにおいて復興と建設を進めることに努力しているように見受けられます。ベトナム民主共和国との関係につきましては、双方の大使館が開設される等、友好関係を発展させるための基礎づくりが、わが国との間に進んでおります。政府としては、日越関係を初めとしてインドシナ半島全域との関係を着実に発展させるように今後とも努めてまいりたいと考えております。  他方、インドシナの新情勢に直面したASEAN諸国は、その地域的な連帯と自主性を強化し、おのおの自国の国力培養に努力をしております。わが国としても、このような動きを歓迎するものであり、二月下旬に予定されておりますASEAN首脳会議の成果に期待したいと考えます。政府としては、今後とも、ASEAN諸国、さらにこの地域に隣接するビルマとの友好協力関係を一層強化し、もって東南アジア全体の平和と発展に貢献していきたいと考えております。  朝鮮半島につきましては、その平和と安定が、わが国のみならず東アジア全体にとってきわめて重要であることは論をまたないところでございます。わが国としては、南北双方の当事者が対決的姿勢を避け、一九七二年七月の共同声明の精神に基づき、民族の願望である平和的統一に向かって実質対話を再開するよう強く希望するものでございます。政府としては、国際的な均衡や枠組みが同半島の平和の維持に貢献してきた事実を十分に評価し、尊重するとともに、南北朝鮮間の関係改善を促進するような国際環境の醸成のため、あらゆる機会を通じて関係諸国と協力してまいりたいと考えております。  一九六五年に正常化された日韓関係は、十年余の期間種々の障害を乗り越えて発展してまいりました。両国間の善隣友好協力関係は、日韓両国民のたゆまない努力によって引き続き維持発展させていく必要があると考えます。かかる見地からも、また、新たな石油供給源の確保のためにも、日韓大陸棚協定が今国会において承認を得られるよう強く希望する次第でございます。  北朝鮮との関係については、今後とも貿易、人物、文化等の分野における交流を漸次積み重ね、相互が正しく理解し合えるようにいたしたいと考えております。  中国との関係については、昨年十二月に漁業協定が発効いたしましたことにより、一九七二年九月の日中共同声明に明記された四つの実務協定のすべてが締結されたこととなり、日中関係は着実に進展をいたしております。政府としては、今後とも、この共同声明を基礎として、両国間の善隣友好関係をより一層確固たるものにしていく方針でございます。  日中平和友好条約の交渉については、両国とも、その早期妥結の熱意において一致しております。政府としては、日中永遠の平和友好関係の基礎とするにふさわしい条約が、両国国民に真に納得のいく姿で早期に締結されるよう格段の努力を払ってまいる所存でございます。  昨年九月、パプア・ニューギニアが独立し、アジア・太平洋地域の新たな一員となりました。わが国は、これを心から歓迎し、同国との間の友好協力関係の増進にできる限りの努力を払う考えであります。  インド亜大陸諸国との関係については、わが国としては、従来よりこれら諸国との間に存する良好な関係を今後とも維持増進いたしますとともに、同地域の安定と発展に寄与するため、引き続き努力をいたす所存であります。  ソ連との関係につきましては、今般グロムイコ外務大臣を四年ぶりにわが国に迎え、平和条約の締結交渉を行い、あわせて漁業問題等の日ソ間の諸問題及び国際情勢一般について率直な話し合いをいたしました。平和条約交渉において、私は、北方四島の返還を強く求め、今や日ソ両国は領土問題を解決し平和条約を締結すべき時期であると強調いたしました。これに対するソ連側の態度には遺憾ながら依然としてかたいものがございましたが、会談の結果、双方は、一九七三年の共同声明を再確認し、平和条約の早期締結のため交渉を継続することに合意いたしました。  政府としては、今後とも、経済、貿易、文化等を中心に、幅広い分野において日ソ関係の発展に努めるとともに、領土問題を解決して平和条約を締結する努力を粘り強く続けてまいる所存であります。  東欧諸国との関係は、近年、人的交流及び貿易経済関係を中心に発展してきておりますが、わが国としてもこのような傾向を歓迎し、今後ともこれら諸国との相互理解と交流の増進に努める考えでございます。  中東紛争に関しましては、今般の国連安全保障理事会の討議に見られますように、パレスチナ問題が次第に焦点となりつつあります。わが国は、国連安全保障理事会決議二四二号が完全に実行されるとともに、パレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認されなければ、中東紛争の全面的解決はあり得ないと考えております。その糸口を見出すためにも、イスラエルとパレスチナ人を代表するPLOとが現実的立場に立って、何らかの形で話し合いを始めることが必要と考えます。わが国としては、中東紛争が話し合いの精神に基づき一日も早く公正に解決されますよう、関係当事者が引き続き可能な限りの努力を払うことを切望するものであります。  また、政府としては、今後とも、中東諸国との人的、文化的、経済的交流、及び経済、技術協力の一層の拡大を図ることにより友好協力関係の増進に努め、もって中東地域の発展に寄与するよう努力する所存でございます。  アフリカにおいては、昨年、幾つかの非自治地域が独立を達成したことはまことに喜ばしいと考えております。わが国としては、これら新生国を含めたアフリカ諸国との交流を多面的に進め、また、その国づくりに対し各般の分野協力を一層拡大していく所存であります。ただ、アンゴラにおきまして、現在武力抗争が続いておりますことはきわめて不幸なことであり、わが国としては、諸外国の軍事介入が停止され、一日も早く平和が訪れるよう衷心より希望する次第でございます。  わが国は、中南米諸国との間で、伝統的友好関係を踏まえ、経済、技術協力を中心に幅広く緊密な関係の確立に努めてまいりました。わが国としては、これら諸国の近年の発展ぶりにも留意しつつ、今後とも友好関係の維持強化に努力するとともに、各種の交流を通じ相互理解の増進を図っていく所存でございます。  次に、本年は、わが国の国際連合加盟二十周年に当たります。わが国としては、今後とも国連憲章の目的実現のために協力し、普遍的な国際機関としての国際連合の活動に積極的に参加してまいる所存でございます。  核兵器不拡散条約については、わが国がこの条約に署名してからすでに六年近くが経過しております。政府としては、第七十五回国会から引き続き審議が継続されておりますこの条約について、その批准のための承認が今国会で得られることを心から希望するものでございます。この条約の批准により、核拡散防止のための国際的協力に積極的に参加するばかりでなく、非核平和国家として、軍縮特に核軍縮の推進に一層の努力を尽くしてまいりたいと存じます。  次に、海洋法については、来る三月中旬より海洋法会議が再開され、引き続き新しい海洋法条約作成のための交渉が行われる予定でございます。政府としては、わが国国民的利益をできる限り擁護すべく全力を尽くしますとともに、今日の世界の趨勢にも留意して、衡平な海洋の新秩序確立に向かって努力を傾ける所存でございます。  国際文化交流は、諸国民との間の相互理解の促進に大きな役割りを果たすものであり、政府としては、今後とも国際交流基金等を通ずる文化交流事業を海外広報活動とあわせ拡充していく所存でございます。  最後に、変動を続ける国際情勢に機動的に対処し、わが国外交を広く積極的に展開してまいりますために、政府としては、引き続き外交体制の整備に努めていく考えでございます。  以上、わが国を取り巻く国際情勢を概観し、わが国外交につき所信の一端を申し上げました。  国民各位の御理解と御支援をお願いいたします。(拍手)     —————————————
  15. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 大蔵大臣大平正芳君。     〔国務大臣大平正芳君登壇〕
  16. 大平正芳

    国務大臣(大平正芳君) ここに、昭和五十一年度予算の御審議をお願いするに当たり、当面の財政金融政策につき、所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明いたしたいと存じます。  世界経済は、石油危機発生以来、激しいインフレと厳しい不況に苦しんでまいりましたが、ようやくにして最悪の状態を脱し、このところ、先進諸国を中心に回復への胎動が見られるようになりました。わが国経済もまた、物価もようやく安定し、昨春以来経済活動も立ち直りの兆しを見せてまいりましたが、回復の足取りは必ずしも力強いとは言えない状況であります。  御承知の通り、石油危機発生以来、政府インフレの克服に最重点を置いた政策運営に徹してまいりましたが、幸いに国民各位の理解協力を得まして所期の成果をおさめつつあります。今後におきましては、物価の安定を維持しながら、景気の着実な回復雇用の安定を実現してまいることが最も重要な政策課題であることは申すまでもございません。  すでに政府は、昨年二月以来四次にわたる景気対策を実施し、日本銀行もまた、これと相呼応いたしまして公定歩合の引き下げ等金融緩和の措置を講じてまいりました。これらの施策の効果もありまして、景気は徐々に回復の過程をたどっておりますが、設備投資の不振その他最終需要の伸び悩みのもとで、経済活動の水準はなお低く、雇用不安が遠のいたとは言い得ない事態が続いております。国民生活の安定と向上を図るため、新しい年こそは、この経済回復を一層確実なものにすることによりまして、企業の健全な活動を維持し、雇用機会を確保してまいらなければなりません。  新しい年は、また、経済の均衡のとれた発展を確保するため、その体質改善を図らねばならない年でもございます。しかし、資源、環境、立地問題等内外の制約条件は依然として厳しい反面、高度成長になれた考え方や慣行は社会のあらゆる分野に根強く残っております。このような状況の中で、国民生活の着実な向上を図り、経済の均衡ある発展を確保してまいることは容易なことではございません。国民経済の各分野にわたり、経済の新しい展開に即応した体質転換を図ってまいる必要が、今日ほど強く要請されておる時期はないと思うのであります。  申すまでもなく、まず財政におきまして、今後の新しい環境に適合し得るよう歳出、歳入両面にわたり、従来の惰性を排しつつその合理化を推進しなければなりません。これまでの高度成長下におきましては、中央、地方を通じまして、毎年相当多額な税の自然増収を期待することができ、それによって国民の多様な欲求が比較的容易に充足されてまいりました。そして、そのことを当然視する傾向さえ生まれてまいりました。しかし、財源面での厳しい制約が予想されまする今後におきましては、限りある財源の配分につきまして厳しい選択を迫られるのは当然のことでございます。その意味におきまして、既存の制度、慣行の見直しを含め、極力歳出の合理化、効率化を進める一方、福祉の充実のために必要な負担を国民がどのような形で分かち合うかという問題についても、真剣に取り組んでまいらなければなりません。とのような観点から私は、租税や社会保険料の負担、公共料金等のあり方について、国民の合意を得ながらその見直しを進めてまいることが、ひとり財政上の見地からだけではなく、真の福祉の実現のためにも、避けて通ることのできない課題であると考えております。  私は、以上申し述べましたような基本的な方向に沿って、今後の財政金融政策を運営してまいりたいと考えますが、その際次の三点について特に慎重な配慮を払ってまいる必要があると考えております。  まず、第一は引き続き物価の安定を図ってまいることでございます。  物価の安定は、正常な経済活動を維持し、社会的公正を確保してまいるための不可欠の前提でございます。現在物価基調として落ちついた動きを示しておりますが、本年三月末において、消費者物価の上昇率を一けた台にとどめるという政府目標達成に努めることはもちろん、今後とも物価の動向には周到な注意を払い、景気回復を急ぐ余りインフレの再燃を招くことのないよう十分留意してまいらなければならぬと考えております。  第二は、国際収支の均衡に配意することでございます。  わが国の国際収支は、石油危機を契機といたしましてかつてない大幅な赤字を記録し、このため巨額の外貨の取り入れを行って事態に対処してまいりました。幸いにその後は順調な改善傾向をたどっておりますものの、いまだ相当大幅な赤字の域を脱するに至っておりません。今後、輸出の増加が期待されるとはいえ、国内景気回復に伴う輸入の増加や長期資本収支の悪化が見込まれることなどから、国際収支の赤字幅はむしろさらに増大する傾向さえ予想される状況でございます。かくて国際収支の問題は、わが国経済にとりまして依然として大きな制約要因であり、このような見地からも財政金融政策の運営に厳しい節度が求められておるのでございます。  第三は、財政健全化に努めることでございます。  昭和五十一年度予算の編成に当たりましては、五十年度に引き続ききわめて厳しい財源事情にありますが、景気回復のために財政が果たすべき役割りを考慮し、五十年度補正予算に引き続き、特例公債を含む多額の公債の発行により対処することといたしました。しかしながら、このことはあくまでも当面の事態に対処するための特例的な措置でありまして、安易な公債依存を排し、速やかに特例公債に依存しない財政に復帰することが、財政運営の要諦であることは申すまでもないことであります。政府としては、中央、地方を通ずる財政の正常化をできるだけ速やかに実現いたしますよう努力を傾けてまいる決意であります。  昭和五十一年度予算は、以上申し述べましたような考え方に立って、国民生活経済の安定及び国民福祉の充実に配意しつつ、景気の着実な回復雇用の安定を図るとともに、財政体質改善合理化を進めることを主眼として編成いたしました。  その特色は、次の諸点でございます。  第一は、予算及び財政投融資計画を通じ、その規模を経済の動向に即し、かつ、財政課題にこたえるに足るものとしたことでございます。  すなわち、五十一年度予算は、総合予算主義の考え方に立ち、内外の諸情勢の変化に伴う新たな状況に即応し得る態勢のもとに、中央、地方を通ずる適正な行財政水準の維持に見合う歳出を計上するよう努めました。また、公共事業関係費等の拡充によって景気回復を促進するとともに、財政体質改善合理化を図るため一般行政経費の抑制等に配慮いたしました。  この結果、一般会計予算の規模は、二十四兆二千九百六十億円となり、前年度当初予算に比べ一四・一%増となっております。  また、財政投融資計画につきましても、厳しい原資の制約のもとにありまして、国民生活向上福祉の充実に資する分野に対し重点的に資金を配分するとともに、社会資本の整備と輸出金融の拡充等に意を用いました。その結果、前年度当初計画額に対し一四・一%増の十兆六千百九十億円となっております。  これらによる中央、地方を通ずる政府の財貨サービス購入の伸び率は、政府経済見通しによる国民総生産の伸び率を上回るものとなっております。  なお、公債につきましては、極力その増加を抑制する努力を払ってまいりましたが、五十年度に引き続き多額の発行を行わざるを得ないこととなり、発行総額は七兆二千七百五十億円となっております。このうち三兆五千二百五十億円は財政法第四条第一項ただし書きの規定に基づく公債の発行によることとし、残余の三兆七千五百億円につきましては、別途御審議をお願いいたしまする昭和五十一年度の公債の発行の特例に関する法律に基づく公債の発行を予定いたしております。これにより、一般会計における公債依存度は二九・九%となっております。  なお、公債の消化に当たりましては、従来同様、市中消化の原則を堅持してまいる所存でございます。  第二に、税制面におきましては、現下経済情勢及び財政事情を総合的に勘案し、一般的な減税を行わない反面、一般的な増税もこれを避けつつ、現行税制の仕組みの中で若干の選択的な増収措置を講ずることにとどめました。一方、この機会に、各種の政策目的から設けられている租税特別措置につきまして、一層の負担の公平を期する見地から全面的な見直しを行い、いわゆる企業関係の特別措置を中心としまして、相当大幅な整理合理化を行いますとともに、交際費課税をさらに強化することにいたしております。今回の租税特別措置の整理合理化は、その規模におきましても、内容におきましても、従来に例を見ない積極的なものであると考えております。  選択的な増収措置といたしましては、自動車関係諸税につきまして、中央、地方を通ずる財政状況と自動車に係る税負担の現状にかんがみ、資源の節約、環境の保全、道路財源の充実等の要請を勘案して、揮発油税、地方道路税及び自動車重量税について、税率の引き上げを行うことといたしております。  第三は、公共事業関係費等の投資的経費の拡充に努めたことでございます。  すなわち、景気の着実な回復に資するとともに、住宅及び社会資本の充実の要請にこたえるため、公共事業関係費を増額し、住宅生活環境施設のほか、治山治水等の国土保全施設、農業基盤等の整備を進めることといたしております。  なお、昭和五十一年度予算の編成に当たりましては、住宅、下水道、公園、海岸、港湾、空港交通安全施設及び沿岸漁場整備の八事業につきまして、それぞれ昭和五十一年度を初年度とする長期計画を策定することといたしております。  また、文教及び社会福祉施設につきましても、予算の増額に配慮いたしたところであります。  以上のほか、公共事業等の経費に係る予見し難い予算の不足に充てるため、新たに公共事業等予備費一千五百億円を計上し、経済情勢の推移等に機動的に対処し得るよう配意いたしております。  第四は、財源の重点的、効率的な配分を図ることにより、最近の諸情勢に即応した諸施策の充実に努めたことであります。  まず、社会保障につきましては、真に必要な福祉施設について重点的にその充実を図ることといたしております。すなわち、社会的、経済的に弱い立場にある人々の生活の安定に資するために、生活扶助基準の引き上げ、各種年金制度の改善等を行うほか、心身障害者等に対しきめの細かい配慮を行いました。また、社会福祉施設の職員の処遇改善等各般の施策を積極的に推進いたしますとともに、社会保険料及び受益者負担の適正化等、制度の合理化に努めることといたしております。  さらに、最近の雇用情勢に対処いたしますため、雇用調整対策、中高年齢者を中心とする職業転換対策等につきましても、その充実に配意いたしてあります。  次に、文教及び科学技術の振興につきましては、公立文教施設の整備を促進いたしますほか、高等学校の建物の新増設に対して新たに国の補助を行う道を開くことといたしました。さらに、私立学校に対する助成や育英事業の充実、原子力の安全確保対策核融合研究の推進等、各般の施策につきその拡充を図ることといたしております。  また、中小企業対策につきましては、特に、小企業経営改善資金融資制度の大幅拡充等、小規模事業対策重点的に配意いたしますとともに、政府中小企業金融三機関等の融資規模を拡大することといたしております。  以上のほか、発展途上国に対する経済協力の充実を図りますとともに、貿易の振興に資するため輸出金融の拡充に特に配意することといたしております。また、国際的な資源エネルギー問題の動向等に顧み、石油資源開発石油及び非鉄金属の備蓄の推進等を図ることといたしております。  また、食糧の安定供給の確保、自給力向上のための諸施策を推進し、農産物の価格安定、流通対策の充実を図ることといたしております。公害防止及び環境保全対策等についても、引き続き各般の施策を積極的に推進することといたしております。  さらに、国鉄運賃、電話料金等の公共料金につきましては、物価の落ちつきが定着化しつつあることもあり、受益者負担の原則に立ってその適正化を図ることとし、もって事業経営の健全化を進めることといたしております。  なお、日本国有鉄道の財政再建問題につきましては、経営の刷新、合理化、運賃等の改定と並行いたしまして、過去の債務に対する対策その他所要の助成措置を講ずることといたしております。  第五に、地方財政対策としましては、地方交付税交付金について、国税三税の三二%相当分三兆八千九十七億円を計上するほか、臨時地方特例交付金六百三十六億円及び資金運用部資金からの借入金一兆三千百四十一億円の特例措置を講じ、これらにより、五十年度当初予算に比べ一七・一%増の五兆一千八百七十四億円を確保することといたしました。さらに、地方財政対策の一環として地方債一兆二千五百億円を特別に発行すること等により、地方財政運営に支障なからしめるよう措置いたしたところでございます。  この際、私は、地方公共団体に対し、国と同一の基調により、一般行政経費の抑制と財源の重点的かつ効率的配分を行い、節度ある財政運営を図られるよう要請するものでございます。  以上、昭和五十一年度予算の大要につき御説明申し上げましたが、次に、当面の金融政策の運営について申し述べたいと思います。  金融政策につきましては、昨年来、預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図るとともに、金融の量的緩和を進めてまいりましたが、その効果は着実にあらわれ、貸し出し金利は順調に低下し、企業の資金繰りにも余裕が出てまいりました。このたびの預金準備率引き下げもこの基調を一層強めるものでございます。今後におきましても、財政政策と同様、景気回復雇用の安定を図ることが現下の緊要な政策課題であるとの認識のもとに、金融政策の面におきましても、情勢の推移に応じ弾力的、機動的な運営に配意してまいる所存でございます。  また、五十一年度におきましては、前年度に引き続き国債、地方債等公共債の大量発行が予定されております。その発行に当たっては、そのときどきの金融情勢を勘案し、民間金融の圧迫にならないよう配慮いたしますとともに、公社債市場につきましては、その整備のため積極的な努力を続けてまいりたいと考えます。民間金融機関におきましても、公共債の円滑な消化に協力されますとともに、産業金融とりわけ中小企業金融、あるいは住宅金融等につき格段の努力を払われますよう要望するものでございます。  最後に、国際通貨秩序の再建とわが国の立場について申し添えたいと存じます。  私は、新春早々ジャマイカで開かれましたIMFの暫定委員会に出席してまいりました。  一九七一年八月、米ドルの金交換性停止を契機といたしまして、国際通貨体制が混乱に陥って以来、これまで種々の機会を通じて新しい国際通貨秩序の再建についての検討が続けられてまいりました。今回の会合は、その最終的な合意がIMF協定改正案として結実したものでありまして、いわば画期的な意義を有するものであると思います。  これによりますと、協定改正後におきましては、IMFを中心とした国際協調体制のもとに、各国はフロートを含めて自由にそれぞれの為替相場制度を選択できることになります。なお、将来世界経済が安定した段階におきましては、安定的なしかし調整可能な平価制度に移行する道が開かれております。  新しい国際通貨秩序に対する合意の成立は、ジャマイカの会議であわせて合意を見ましたIMFの第六次増資によるその信用供与力の拡大とともに、世界経済秩序に対する信認の回復世界貿易の安定的発展に貢献するものであると考えます。わが国は、世界経済に重い責任を持つ国家といたしまして、この合意を踏まえて、世界経済の秩序の安定と発展に積極的な役割りを引き続き果たしてまいらなければならないと考えております。  世界経済の異常な混乱の中でわが国が直面してまいりました厳しい試練は、すでに長期に及んでおります。そのため、一部には先行きに対する悲観や焦燥感あるいは活力の減退を懸念する向きがないではございません。  しかし、わが国がこの間にたどってまいりました道程を振り返ってみますと、インフレの克服と国際収支改善のための努力は見るべき成果をおさめ、国際的にも評価されております。憂慮されておりました物価と賃金との悪循環の問題も、労使の節度ある対応によりまして回避され、また諸外国に先駆けて景気回復の糸口をつかむことにも成功しつつあると思うのであります。  もとより、世界経済の先行きは流動的で、われわれの前途にはなお幾多の困難が横たわっております。しかし、われわれはすでに幾たびかの試練に際会し、柔軟で弾力性に富む対応力を発揮し、これを乗り越えてまいりました。一歩一歩着実に問題の解決に当たってまいりますならば、必ずや当面する困難を克服し、明るい展望が開かれてまいるものと確信いたします。  国民各位の一層の御理解と御協力をお願い申し上げる次第でございます。(拍手)     —————————————
  17. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 国務大臣福田赳夫君。     〔国務大臣福田赳夫君登壇〕
  18. 福田赳夫

    国務大臣(福田赳夫君) わが国経済の当面する課題経済運営の基本的な考え方につきまして所信を申し述べたいと存じます。  昭和四十八年秋の石油危機によりわが国経済は深刻な打撃を受けたのであります。その傷をいやし健康体を回復するには、おおむね三カ年の調整期間を必要とするということは、私がしばしば申し上げたとおりであります。  さて、調整過程の第一年目に当たる昭和四十九年度の課題は、燃え盛るインフレの火を静め、にわかに悪化した国際収支の改善を図ることでありましたが、総需要抑制の政策効果は浸透し、インフレは次第におさまり、国際収支も著しい改善を示し、ここにわが国経済は再建の基礎固めをすることができたのであります。  調整過程の第二年目に当たる昭和五十年度の課題は、物価の安定をさらに推し進めるとともに、景気を着実な回復軌道に乗せることにありました。  その推移を顧みますと、物価安定の傾向はさらに確実なものとなり、消費者物価は昨年十月には前年同月比ですでに一けたの水準となったのであります。  他方、経済活動は、昨年三月から微弱ながら次第に上向いてまいりましたが、世界経済の予想外の停滞から輸出が不振を続け、また、民間設備投資も大きな落ち込みとなったため、景気はなお盛り上がりの迫力に欠けるという状態であったわけであります。また、生産水準が大幅に低下しているため、操業度の低下が重荷となり、個々の企業の収益や雇用の面で厳しい事態も見られるのであります。  このような情勢の中で、政府は機動的な政策運営に努めてまいり、特に、昨年九月には、財政需要の追加を主軸として、総合的な第四次対策を決定し、景気の着実な回復雇用の安定を図ったのであります。  この対策の効果の浸透には若干のおくれが見られるのは事実であります。けれども、今後、諸対策の実行を促進することにより、景気は次第に着実な回復軌道に乗るものと期待されるのであります。  このような情勢の中で、われわれはいま、昭和五十一年度を迎えようといたしております。  昭和五十一年度は、調整過程の総仕上げの年であり、インフレの再燃を避けながら、景気の順調な回復を実現し、これを長期的な安定成長路線につないでいくべき重要な年柄であります。  幸い、世界経済にはようやく明るい展望が開けてまいりました。石油危機を境に時を同じゅうして不況に陥った世界経済も、底入れから回復に転じようとしておるのであります。  このような世界経済回復基調を背景として、景気の順調な回復雇用の安定を図ることが、この昭和五十一年度における最優先の政策課題であると考えるのであります。  ところで、昭和五十一年度の経済についてその見通しを申し上げますと、まず、個人消費は前年度に引き続き増加を示すものと見込まれます。また、民間設備投資は増勢に転ずるとはいうものの、企業の抱えている過剰設備の状況から見て、これに多くを期待することはできません。他方、輸出につきましては、世界貿易の好転から、かなりの増加が期待されるのであります。  このように、これら最終需要は総じて増加の傾向にはありますが、景気の浮揚を決定的なものとするには、いま一つ力不足と言わざるを得ないのであります。したがいまして、昭和五十一年度におきましても、引き続いて財政に大きな役割りを期待せざるを得ないという状況でございます。昭和五十一年度の財政におきましては、公共事業及び住宅重点を置くことにより需要の増加を図るとともに、貿易の拡大のため輸出金融を拡充するなど、財政非常の際ではありまするが、景気浮揚のため格段の配慮をいたしておりますのはこのような考え方に基づくものであります。なお、その執行に当たりましては、景気情勢の推移に応じまして、金融政策とあわせ弾力的かつ機動的に対処してまいる所存でございます。  この結果、昭和五十一年度におきましては、財政と輸出が牽引力となりまして、景気は順調な回復を示し、実質で五ないし六%程度成長を実現し得るものと考えます。  これに伴い、昭和五十一年度中には企業の生産活動も次第に適正な水準に戻り、また雇用情勢改善されるなど、経済全般に明るい見通しと安心感が出てくるものと考えておるのであります。  また、このような景気回復の過程で物価安定の基調が損なわれないよう細心の注意を払わなければならないことは、これはもちろんでございます。  公共料金につきましては、さきの物価狂乱を収束するに当たりまして、非常の措置として、厳にこれが引き上げを抑制してまいりました。しかし、この状態を長く放置することは許されないのであります。企業経営の合理化を進めるとともに、料金につきましても、これを適正な水準に改定する必要があるのであります。ただ、その改定に当たりましては、物価政策の見地から、一挙大幅という性急な行き方は避け、極力段階的に行うよう配慮いたしたいと存じます。  このようにして、昭和五十一年度の物価動向につきましては、卸売物価は、景気回復の過程におきまして、ある程度の上昇が見込まれますが、消費者物価につきましては、一層の安定化を図り、年度末には、前年同月比で八%程度の上昇にとどめるよう努力いたしたいと存ずるのであります。  先般の石油危機によりまして触発された異常の事態は、わが国経済を取り巻く諸条件の変化を浮き彫りにいたしておるのであります。  すなわち、対外的には、資源有限時代を迎えて、世界経済構造は大きく変化しておるのであります。わが国は、今後、一九六〇年代までのように豊富、低廉な資源の輸入を前提とした成長政策をとることは許されなくなってきておるのであります。  また、国内的には、土地、水、環境など国土資源の有限性が明らかになってきておるのであります。これら国土資源の制約と調和を保った経済運営を行うことがますます必要となってきております。  このような経済環境の変化に呼応するように、国民意識にも大きな変化が見られるのであります。すなわち、高度成長時代における大量消費と使い捨ての風潮から、より合理的な生活あり方を求め、また、生活の質的向上を重視する傾向が強まってきておるのであります。  しかも、現在なお、企業収益、雇用などの面で困難な情勢が続いておるため、企業や家計がわが国経済の先行きにはっきりした見通しを持ちがたい状況にあることもまた否めない事実であります。  わが国経済は、いまや大きな岐路に立っておると申せましょう。  われわれは当面する難局を切り抜けなければなりませんが、それと同時に、わが国経済のこれからの正しい進路をしかと見定め、新しい経済社会のあるべき姿を明らかにすることもまた重要な課題であります。  政府が、このたび、昭和五十一年度を初年度とする新しい長期経済計画の概案を策定いたしましたのも、このような趣旨によるものであります。  わが国経済は、さきに申し述べました内外条件の変化の中で、もはや、従来のような高度成長を続けることは許されません。  新しい長期経済計画の対象となる今後五年間のわが国経済は、平均六%強の成長率をとるべきものと考えるのであります。このような安定的な成長路線のもとで、高度成長時代のひずみを是正し、社会的公正の確保に十分配慮し、バランスのとれた経済社会建設していく必要があるのであります。  新しい長期経済計画を貫くもの、それは成長中心から生活中心へという理念であり、インフレのない繁栄をという決意でございます。  もちろん、わが国経済の歩む道は決してたんたんたるものではありません。今後、世界経済の荒波が強く押し寄せてくることでもありましょう。もとより、荒波覚悟の船出ではあります。  しかしながら、この新しい長期経済計画を指針とし、国民が一致協力して努力すれば、いかなる困難にも打ちかつことができるものと確信いたします。  このような展望のもとに、国民が相携え心豊かな日本社会建設し、これを後代に引き継ぐ、これが今日のわれわれの使命と考える次第でございます。(拍手)  昭和五十一年度は、調整過程の最終年であるとともに、新しい長期経済計画の門出の年でもあるわけであります。  すなわち、わが国経済の正常な姿を取り戻し、これを安定成長路線につないでいく記念すべき時代の幕開けの年でございます。  時あたかも、世界経済は長い不況のトンネルを抜け出し、景気回復への道を歩み始めております。  米国経済は着実な回復軌道に乗っております。ヨーロッパ諸国でも景気回復に向かっております。  わが国におきましても、ことしこそは、インフレ不況もこれでおしまいということにしようではございませんか。(拍手)  国民がその英知と総力を結集いたしますれば、それは必ずできることだと信じます。政府は全力を尽くします。  国民各位の御理解と御協力をお願い申し上げます。(拍手)      ————◇—————
  19. 三塚博

    三塚博君 国務大臣演説に対する質疑は延期し、来る二十六日午後一時より本会議を開きこれを行うこととし、本日はこれにて散会されんことを望みます。
  20. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 三塚博君の動議に御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  21. 前尾繁三郎

    議長前尾繁三郎君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。  本日は、これにて散会いたします。     午後二時五十三分散会      ————◇—————  出席国務大臣         内閣総理大臣  三木 武夫君         法 務 大 臣 稻葉  修君         外 務 大 臣 宮澤 喜一君         大 蔵 大 臣 大平 正芳君         文 部 大 臣 永井 道雄君         厚 生 大 臣 田中 正巳君         農 林 大 臣 安倍晋太郎君         通商産業大臣  河本 敏夫君         運 輸 大 臣 木村 睦男君         郵 政 大 臣 村上  勇君         労 働 大 臣 長谷川 峻君         建 設 大 臣 竹下  登君         自 治 大 臣 福田  一君         国 務 大 臣 井出一太郎君         国 務 大 臣 植木 光教君         国 務 大 臣 小沢 辰男君         国 務 大 臣 金丸  信君         国 務 大 臣 佐々木義武君         国 務 大 臣 坂田 道太君         国 務 大 臣 福田 赳夫君         国 務 大 臣 松澤 雄藏君      ————◇—————