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国務大臣(大平正芳君) ここに、
昭和五十一年度
予算の御
審議をお願いするに当たり、当面の
財政金融政策につき、所信を申し述べますとともに、
予算の大綱を御説明いたしたいと存じます。
世界経済は、
石油危機発生以来、激しい
インフレと厳しい
不況に苦しんでまいりましたが、ようやくにして最悪の状態を脱し、このところ、先進諸国を中心に
回復への胎動が見られるようになりました。
わが国経済もまた、
物価もようやく安定し、昨春以来
経済活動も立ち直りの兆しを見せてまいりましたが、
回復の足取りは必ずしも力強いとは言えない状況であります。
御承知の通り、
石油危機発生以来、
政府は
インフレの克服に最
重点を置いた政策
運営に徹してまいりましたが、幸いに
国民各位の
理解と
協力を得まして所期の成果をおさめつつあります。今後におきましては、
物価の安定を
維持しながら、
景気の着実な
回復と
雇用の安定を実現してまいることが最も重要な政策
課題であることは申すまでもございません。
すでに
政府は、昨年二月以来四次にわたる
景気対策を実施し、
日本銀行もまた、これと相呼応いたしまして公定歩合の引き下げ等金融緩和の措置を講じてまいりました。これらの
施策の効果もありまして、
景気は徐々に
回復の過程をたどっておりますが、設備投資の不振その他最終需要の伸び悩みのもとで、
経済活動の水準はなお低く、
雇用不安が遠のいたとは言い得ない事態が続いております。
国民生活の安定と
向上を図るため、新しい年こそは、この
経済の
回復を一層確実なものにすることによりまして、
企業の健全な活動を
維持し、
雇用の
機会を確保してまいらなければなりません。
新しい年は、また、
経済の均衡のとれた
発展を確保するため、その
体質の
改善を図らねばならない年でもございます。しかし、
資源、環境、立地問題等
内外の制約
条件は依然として厳しい反面、高度
成長になれた考え方や慣行は
社会のあらゆる
分野に根強く残っております。このような状況の中で、
国民生活の着実な
向上を図り、
経済の均衡ある
発展を確保してまいることは容易なことではございません。
国民経済の各
分野にわたり、
経済の新しい展開に即応した
体質の
転換を図ってまいる必要が、今日ほど強く
要請されておる時期はないと思うのであります。
申すまでもなく、まず
財政におきまして、今後の新しい環境に適合し得るよう歳出、歳入両面にわたり、従来の惰性を排しつつその
合理化を推進しなければなりません。これまでの高度
成長下におきましては、中央、
地方を通じまして、毎年相当多額な税の自然増収を期待することができ、それによって
国民の多様な欲求が比較的容易に充足されてまいりました。そして、そのことを当然視する傾向さえ生まれてまいりました。しかし、財源面での厳しい制約が予想されまする今後におきましては、限りある財源の配分につきまして厳しい選択を迫られるのは当然のことでございます。その意味におきまして、既存の制度、慣行の見直しを含め、極力歳出の
合理化、効率化を進める一方、
福祉の充実のために必要な負担を
国民がどのような形で分かち合うかという問題についても、真剣に取り組んでまいらなければなりません。とのような観点から私は、租税や
社会保険料の負担、公共料金等の
あり方について、
国民の合意を得ながらその見直しを進めてまいることが、ひとり
財政上の見地からだけではなく、真の
福祉の実現のためにも、避けて通ることのできない
課題であると考えております。
私は、以上申し述べましたような基本的な方向に沿って、今後の
財政金融政策を
運営してまいりたいと考えますが、その際次の三点について特に慎重な配慮を払ってまいる必要があると考えております。
まず、第一は引き続き
物価の安定を図ってまいることでございます。
物価の安定は、正常な
経済活動を
維持し、
社会的公正を確保してまいるための不可欠の前提でございます。現在
物価は
基調として落ちついた動きを示しておりますが、本年三月末において、
消費者物価の上昇率を一けた台にとどめるという
政府の
目標達成に努めることはもちろん、今後とも
物価の動向には周到な注意を払い、
景気の
回復を急ぐ余り
インフレの再燃を招くことのないよう十分留意してまいらなければならぬと考えております。
第二は、国際収支の均衡に配意することでございます。
わが国の国際収支は、
石油危機を契機といたしましてかつてない大幅な赤字を記録し、このため巨額の外貨の取り入れを行って事態に対処してまいりました。幸いにその後は順調な
改善傾向をたどっておりますものの、いまだ相当大幅な赤字の域を脱するに至っておりません。今後、輸出の増加が期待されるとはいえ、国内
景気の
回復に伴う輸入の増加や長期資本収支の悪化が見込まれることなどから、国際収支の赤字幅はむしろさらに増大する傾向さえ予想される状況でございます。かくて国際収支の問題は、
わが国経済にとりまして依然として大きな制約要因であり、このような見地からも
財政金融政策の
運営に厳しい節度が求められておるのでございます。
第三は、
財政の
健全化に努めることでございます。
昭和五十一年度
予算の編成に当たりましては、五十年度に引き続ききわめて厳しい財源事情にありますが、
景気回復のために
財政が果たすべき役割りを考慮し、五十年度補正
予算に引き続き、特例公債を含む多額の公債の発行により対処することといたしました。しかしながら、このことはあくまでも当面の事態に対処するための特例的な措置でありまして、安易な公債依存を排し、速やかに特例公債に依存しない
財政に復帰することが、
財政運営の要諦であることは申すまでもないことであります。
政府としては、中央、
地方を通ずる
財政の正常化をできるだけ速やかに実現いたしますよう
努力を傾けてまいる
決意であります。
昭和五十一年度
予算は、以上申し述べましたような考え方に立って、
国民生活と
経済の安定及び
国民福祉の充実に配意しつつ、
景気の着実な
回復と
雇用の安定を図るとともに、
財政体質の
改善合理化を進めることを主眼として編成いたしました。
その特色は、次の諸点でございます。
第一は、
予算及び
財政投融資
計画を通じ、その規模を
経済の動向に即し、かつ、
財政の
課題にこたえるに足るものとしたことでございます。
すなわち、五十一年度
予算は、総合
予算主義の考え方に立ち、
内外の諸
情勢の変化に伴う新たな状況に即応し得る態勢のもとに、中央、
地方を通ずる適正な行
財政水準の
維持に見合う歳出を計上するよう努めました。また、
公共事業関係費等の拡充によって
景気の
回復を促進するとともに、
財政体質の
改善合理化を図るため一般
行政経費の抑制等に配慮いたしました。
この結果、
一般会計予算の規模は、二十四兆二千九百六十億円となり、前年度当初
予算に比べ一四・一%増となっております。
また、
財政投融資
計画につきましても、厳しい原資の制約のもとにありまして、
国民生活の
向上と
福祉の充実に資する
分野に対し
重点的に資金を配分するとともに、
社会資本の整備と輸出金融の拡充等に意を用いました。その結果、前年度当初
計画額に対し一四・一%増の十兆六千百九十億円となっております。
これらによる中央、
地方を通ずる
政府の財貨サービス購入の伸び率は、
政府の
経済見通しによる
国民総生産の伸び率を上回るものとなっております。
なお、公債につきましては、極力その増加を抑制する
努力を払ってまいりましたが、五十年度に引き続き多額の発行を行わざるを得ないこととなり、発行総額は七兆二千七百五十億円となっております。このうち三兆五千二百五十億円は
財政法第四条第一項ただし書きの規定に基づく公債の発行によることとし、残余の三兆七千五百億円につきましては、別途御
審議をお願いいたしまする
昭和五十一年度の公債の発行の特例に関する法律に基づく公債の発行を予定いたしております。これにより、一般会計における公債依存度は二九・九%となっております。
なお、公債の消化に当たりましては、従来同様、市中消化の原則を堅持してまいる所存でございます。
第二に、税制面におきましては、
現下の
経済情勢及び
財政事情を総合的に勘案し、一般的な減税を行わない反面、一般的な増税もこれを避けつつ、現行税制の仕組みの中で若干の選択的な増収措置を講ずることにとどめました。一方、この
機会に、各種の政策目的から設けられている租税特別措置につきまして、一層の負担の公平を期する見地から全面的な見直しを行い、いわゆる
企業関係の特別措置を中心としまして、相当大幅な整理
合理化を行いますとともに、交際費課税をさらに強化することにいたしております。今回の租税特別措置の整理
合理化は、その規模におきましても、内容におきましても、従来に例を見ない積極的なものであると考えております。
選択的な増収措置といたしましては、自動車関係諸税につきまして、中央、
地方を通ずる
財政状況と自動車に係る税負担の現状にかんがみ、
資源の節約、環境の保全、道路財源の充実等の
要請を勘案して、揮発油税、
地方道路税及び自動車重量税について、税率の引き上げを行うことといたしております。
第三は、
公共事業関係費等の投資的経費の拡充に努めたことでございます。
すなわち、
景気の着実な
回復に資するとともに、
住宅及び
社会資本の充実の
要請にこたえるため、
公共事業関係費を増額し、
住宅、
生活環境施設のほか、治山治水等の国土保全施設、農業
基盤等の整備を進めることといたしております。
なお、
昭和五十一年度
予算の編成に当たりましては、
住宅、下水道、公園、海岸、港湾、空港交通安全施設及び沿岸漁場整備の八
事業につきまして、それぞれ
昭和五十一年度を初年度とする長期
計画を策定することといたしております。
また、
文教及び
社会福祉施設につきましても、
予算の増額に配慮いたしたところであります。
以上のほか、
公共事業等の経費に係る予見し難い
予算の不足に充てるため、新たに
公共事業等予備費一千五百億円を計上し、
経済情勢の推移等に機動的に対処し得るよう配意いたしております。
第四は、財源の
重点的、効率的な配分を図ることにより、最近の諸
情勢に即応した諸
施策の充実に努めたことであります。
まず、
社会保障につきましては、真に必要な
福祉施設について
重点的にその充実を図ることといたしております。すなわち、
社会的、
経済的に弱い立場にある人々の
生活の安定に資するために、
生活扶助基準の引き上げ、各種年金制度の
改善等を行うほか、心身
障害者等に対しきめの細かい配慮を行いました。また、
社会福祉施設の職員の処遇
改善等各般の
施策を積極的に推進いたしますとともに、
社会保険料及び受益者負担の適正化等、制度の
合理化に努めることといたしております。
さらに、最近の
雇用情勢に対処いたしますため、
雇用調整
対策、中高年齢者を中心とする職業
転換対策等につきましても、その充実に配意いたしてあります。
次に、
文教及び
科学技術の振興につきましては、公立
文教施設の整備を促進いたしますほか、高等学校の建物の新増設に対して新たに国の補助を行う道を開くことといたしました。さらに、私立学校に対する助成や育英
事業の充実、原子力の
安全確保対策や
核融合研究の推進等、各般の
施策につきその拡充を図ることといたしております。
また、
中小企業対策につきましては、特に、小
企業経営
改善資金融資制度の大幅拡充等、
小規模事業対策に
重点的に配意いたしますとともに、
政府系
中小企業金融三機関等の融資規模を拡大することといたしております。
以上のほか、
発展途上国に対する
経済協力の充実を図りますとともに、貿易の振興に資するため輸出金融の拡充に特に配意することといたしております。また、国際的な
資源・
エネルギー問題の動向等に顧み、
石油資源の
開発、
石油及び非鉄金属の備蓄の推進等を図ることといたしております。
また、食糧の安定供給の確保、
自給力向上のための諸
施策を推進し、農産物の価格安定、流通
対策の充実を図ることといたしております。公害防止及び環境保全
対策等についても、引き続き各般の
施策を積極的に推進することといたしております。
さらに、国鉄運賃、電話料金等の公共料金につきましては、
物価の落ちつきが定着化しつつあることもあり、受益者負担の原則に立ってその適正化を図ることとし、もって
事業経営の
健全化を進めることといたしております。
なお、
日本国有鉄道の
財政再建問題につきましては、経営の刷新、
合理化、運賃等の改定と並行いたしまして、過去の債務に対する
対策その他所要の助成措置を講ずることといたしております。
第五に、
地方財政対策としましては、
地方交付税交付金について、国税三税の三二%相当分三兆八千九十七億円を計上するほか、臨時
地方特例交付金六百三十六億円及び資金運用部資金からの
借入金一兆三千百四十一億円の特例措置を講じ、これらにより、五十年度当初
予算に比べ一七・一%増の五兆一千八百七十四億円を確保することといたしました。さらに、
地方財政対策の一環として
地方債一兆二千五百億円を特別に発行すること等により、
地方財政の
運営に支障なからしめるよう措置いたしたところでございます。
この際、私は、
地方公共団体に対し、国と同一の
基調により、一般
行政経費の抑制と財源の
重点的かつ効率的配分を行い、節度ある
財政運営を図られるよう
要請するものでございます。
以上、
昭和五十一年度
予算の大要につき御説明申し上げましたが、次に、当面の金融政策の
運営について申し述べたいと思います。
金融政策につきましては、昨年来、預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図るとともに、金融の量的緩和を進めてまいりましたが、その効果は着実にあらわれ、貸し出し金利は順調に低下し、
企業の資金繰りにも余裕が出てまいりました。このたびの預金準備率引き下げもこの
基調を一層強めるものでございます。今後におきましても、
財政政策と同様、
景気の
回復と
雇用の安定を図ることが
現下の緊要な政策
課題であるとの認識のもとに、金融政策の面におきましても、
情勢の推移に応じ弾力的、機動的な
運営に配意してまいる所存でございます。
また、五十一年度におきましては、前年度に引き続き国債、
地方債等公共債の大量発行が予定されております。その発行に当たっては、そのときどきの金融
情勢を勘案し、民間金融の圧迫にならないよう配慮いたしますとともに、公社債市場につきましては、その整備のため積極的な
努力を続けてまいりたいと考えます。民間金融機関におきましても、公共債の円滑な消化に
協力されますとともに、産業金融とりわけ
中小企業金融、あるいは
住宅金融等につき格段の
努力を払われますよう要望するものでございます。
最後に、国際通貨秩序の再建と
わが国の立場について申し添えたいと存じます。
私は、新春早々ジャマイカで開かれましたIMFの暫定委員会に出席してまいりました。
一九七一年八月、米ドルの金交換性停止を契機といたしまして、国際通貨
体制が混乱に陥って以来、これまで種々の
機会を通じて新しい国際通貨秩序の再建についての検討が続けられてまいりました。今回の会合は、その最終的な合意がIMF協定
改正案として結実したものでありまして、いわば画期的な意義を有するものであると思います。
これによりますと、協定
改正後におきましては、IMFを中心とした国際
協調体制のもとに、各国はフロートを含めて自由にそれぞれの為替相場制度を選択できることになります。なお、将来
世界経済が安定した
段階におきましては、安定的なしかし調整可能な平価制度に移行する道が開かれております。
新しい国際通貨秩序に対する合意の成立は、ジャマイカの
会議であわせて合意を見ましたIMFの第六次増資によるその
信用供与力の拡大とともに、
世界経済秩序に対する信認の
回復と
世界貿易の安定的
発展に貢献するものであると考えます。
わが国は、
世界経済に重い
責任を持つ国家といたしまして、この合意を踏まえて、
世界経済の秩序の安定と
発展に積極的な役割りを引き続き果たしてまいらなければならないと考えております。
世界経済の異常な混乱の中で
わが国が直面してまいりました厳しい
試練は、すでに長期に及んでおります。そのため、一部には先行きに対する悲観や焦燥感あるいは活力の減退を
懸念する向きがないではございません。
しかし、
わが国がこの間にたどってまいりました道程を振り返ってみますと、
インフレの克服と国際収支
改善のための
努力は見るべき成果をおさめ、国際的にも評価されております。憂慮されておりました
物価と賃金との
悪循環の問題も、労使の節度ある対応によりまして回避され、また諸
外国に先駆けて
景気回復の糸口をつかむことにも成功しつつあると思うのであります。
もとより、
世界経済の先行きは流動的で、われわれの前途にはなお幾多の困難が横たわっております。しかし、われわれはすでに幾たびかの
試練に際会し、柔軟で弾力性に富む対応力を発揮し、これを乗り越えてまいりました。一歩一歩着実に問題の
解決に当たってまいりますならば、必ずや当面する困難を克服し、明るい展望が開かれてまいるものと確信いたします。
国民各位の一層の御
理解と御
協力をお願い申し上げる次第でございます。(
拍手)
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