○栗林卓司君 私は、民社党を代表して、ただいま
議題となりました
昭和五十
年度公債発行の
特例に関する
法律案について、
総理並びに
関係大臣に
お尋ねをいたします。
この
法律案は、かねて生活の先行きを
心配する
国民各層から早期成立が強く要望されてまいりました。
審議が効果的に促進するよう
政府の真剣な取り組みを求めておきます。
この
審議を通じて民社党として明らかにしたいのは、一つは
政治責任の問題であり、二つには
財政危機克服に関する
政策の問題であります。民社党は、
政府が
歳入欠陥を認めるに至る以前から警鐘を鳴らし、
財政法の抜本的改正を主張し続けてまいりました。
経済の
安定的成長を図るためには、多
年度にわたる
財政の調整と
計画的運用が必要不可欠であると
考えたからであります。これに対し現行の
財政法は、単
年度の収支が均衡すればよしとするだけであり、
赤字が出たときの処理についても全く
規定がありません。そして、わずかに事実上建設
公債が安全弁の
役割りを果たしているにすぎません。
経済の高度成長から安定成長への移行という困難な課題に取り組むにしては、欠陥のある
財政法規であると言わなければなりません。しかし、悪法もまた法であります。現行の
財政法は
赤字決算を全く許しておりません。したがって、
赤字決算を招くような行政は、
財政法に照らして見る限り全く不当であり、違法的行為であるとさえ言えるでありましょう。しかも
政府は、
赤字対策の安全弁として使える建設
公債の
発行可能限度をはるかに超える
赤字を出してしまったのであります。
赤字の処理を問う前に、
赤字を出してしまった行政の違法性がまず問題とされなければなりません。私は、今日の
状況は単に
財政の
危機であるばかりでなく、社会そのものの
危機でもあると思います。
政府が声を強めて法秩序の重要性を訴えているのもそのためではありませんか。振り返ってみると、マレーシアのクアラルンプールで起こった事件に対し、
政府は法律を無視し、超法規的処理をいたしました。また今回の大幅な
財政赤字に対しては、超
財政法規的処理で対処しようとしております。個々の事象について見ると、それぞれやむを得ない面があったとしても、同時に、そこで踏みにじられた法律に対する政治的
責任がないがしろにされてよいというものでは決してありません。何ら
責任を明らかにすることなしに、超法規的処理が何度も許されていくということになれば、法秩序に対する
国民の感覚も次第に麻痺していくことになるのではありませんか。悪法もまた法であるとは、きわめてかたくなな論理であります。しかし、そのかたくなさを身をもって実践することが
政府の責務なのではありませんか。かつて同様の
事態に直面したエアハルト内閣が敢然と
責任をとって総辞職し、このことが西ドイツの
財政再建の大きな
起動力となっていったことをしのびながら
総理の
見解を伺います。
次に、
特例公債の
発行と、その
影響について
お尋ねをします。
特例公債を
発行しても、
日本銀行が直接引き受けなければ
インフレの
心配はないと一般に言われております。しかし、この見方は、もう一つの重要な側面を見落としております。
市中消化の場合でも、市中の
金融機関が引き受けた場合には、回り回って結局
赤字公債発行高の相当な
部分が
金融機関の預金となっていくわけでありますから、
赤字公債の
発行に伴って
金融機関の預金もふえてまいります。言いかえれば、資金の供給が増大するわけであります。そしてこの傾向が顕著になると、常に
物価に
影響を及ぼし、
物価上昇を招いてきたのが従来からの例であります。今
年度及び来
年度における
国債、
地方債の
発行高を
考え、しかもそのほとんどが市中
金融機関の引き受けに頼っている現状を思うと、
日銀引き受けの有無にかかわらず、われわれはいまや大きな
インフレ要因を抱えたと言わざるを得ません。
これを回避する対策の一つは、
日銀による
金融引き締めであります。しかし、それができるような環境ではありません。逆に、
公債発行が市中
金融を圧迫することがないよう
日銀貸し出しをふやさざるを得ないのが実情だと思います。また、
不況対策という本来の目的から言っても、
日銀は
金融緩和
政策を進めざるを得ないのではありますまいか。したがって、引き締めどころか、
日銀貸し出し、あるいは
市場操作を通じて、この面からも
インフレ要因が増大することを警戒しなければなりません。
残されたもう一つの
手段は、市中
金融機関の引き受け割合を極力下げ、
個人消化の割合を思い切って高めることであります。
国民にとって魅力のある
発行条件を
整備することが中心的課題であることは申し上げるまでもありません。これは市中
金融機関にとって決して好ましいことではないと思います。しかし、いまやお互いにかきねを意識し、かきねを守りながら切り抜けていけるほどなまやさしい
危機ではないはずであります。むしろ
特例公債の
発行を契機として、
金融機関のあり方に根本的にメスを入れる時期を迎えたと理解すべきであります。
以上、これまで述べてまいりましたことを踏まえながら、
特例公債発行の
物価への
影響について副
総理に、
金融市場への
影響及び
公債の
個人消化の問題について
大蔵大臣にお伺いをします。
次に、
特例公債発行の歯どめと
償還の問題について
大蔵大臣に
お尋ねをします。
今
年度は二兆円を超える
特例公債の
発行を予定しております。果たして消化し得るか否かは今後の経験に待つ
部分が相当あると思います。たとえば
新聞報道を見ても、「大量
国債、住宅ローンも圧迫、新規貸し出し急降下」、あるいは、「自治体の
需要急増、
地方銀行資金繰り急速に悪化」などの見出しを探すことは大してむずかしいことではありません。ところで、市中に思ったほど消化能力がない場合、大臣としてどうされますか。それでも予定した額は
発行するという
態度をとった場合、現実の消化能力との差は、結局は
日銀に
依存せざるを得ません。一方、
特例公債は
歳出予算の裏づけであるわけですから、一度決めてしまったら、市中に消化能力があろうとなかろうと
発行せざるを得ません。
特例公債の最低限の歯どめは
日銀引き受けにしないということだと思います。しかし、その歯どめを守るためには、市中の消化能力よりも内輪の
公債発行をすること、すなわち、消化能力を超えるような
予算は組まないということだと思います。したがって、歯どめの問題は、最終的には市中の消化能力に対する
政府の判断と見通しの問題に帰着します。この意味で、まず大臣の判断と見通しを伺いたいと思います。
次の歯どめとしては、
政府の
財政計画の一環としての
公債の
償還計画の問題があります。
政府は、
特例公債に関して借りかえはしないとたびたび言明しております。しかし、その真意はしないのではなくて、したくないということではありませんか。確実な裏づけなしに、十年先のことだからといって軽々しく約束することは、約束という言葉の意味の重さに照らして私は賛同できません。それとも自信があると言われるなら、裏づけのある
償還計画を
国民に示すべきであります。
最後に、重ねて伺います。
特例法の問題も、
財政再建の問題も、縮めて言えば、所得税や法人税が満足に取れないようになってはどうしようもないということであります。その意味で、いま求められているのは、
増税なのでしょうか、減税なのでしょうか。
景気がよいときには減税、
不況のいまは
増税というのは、余りにも平仄が合わないとお
考えになりませんか。この点を最後に
お尋ねして私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣三木武夫君
登壇、
拍手〕