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1975-09-19 第76回国会 参議院 本会議 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年九月十九日(金曜日)    午前十時四分開議     ━━━━━━━━━━━━━議事日程 第三号   昭和五十年九月十九日    午前十時開議  第一 国務大臣演説に関する件(第二日)     ━━━━━━━━━━━━━ ○本日の会議に付した案件  議事日程のとおり      —————・—————
  2. 河野謙三

    ○議長(河野謙三君) これより会議を開きます。  日程第一 国務大臣演説に関する件(第二日)  去る十六日の国務大臣演説に対し、これより順次質疑を許します。戸田菊雄君。    〔戸田菊雄君登壇、拍手〕
  3. 戸田菊雄

    戸田菊雄君 私は、日本社会党を代表いたしまして、経済問題を中心に、総理並びに関係閣僚に質問をいたします。  まず第一に、経済運営失敗責任追及不況対策についてお伺いをいたします。  かつて資本主義には、古くから貧困、恐慌、そして失業の三つの病気が存在すると言われました。高度経済成長によってこの三つの病気はなくなったとの説は政府や一部の評論家、学者にもございましたが、今日のわが国実情は、資本主義では治りがたい古くからの三病は厳として存在し、その上に高度成長の過程を通じて慢性的なインフレーションと、表面的には所得はふえても階層間の不公平の拡大、さらに環境破壊や資源の不足といった新しい三病が出現をいたしておるのであります。総理、あなたは資本主義経済運営の基本は守るとよく言われますが、今日のこの混乱と矛盾に満ちたわが国経済の中で何を守り、何を改めようと考えられておるのか、日本経済再建の手順と方法国民に明確にお示し願いたいと思います。  大蔵省の法人企業統計によりますると、昭和四十七年三月末決算昭和四十九年三月末決算の二年間の比較で、全産業法人自己資本は二十六兆一千三百四十一億円から三十七兆一千三百十四億円、十兆九千九百七十三億円の増加、そのうち四一%に当たる四兆五千二百十一億円は資本金十億円以上の大企業であります。自己資本のうち実質的には利潤でありながらほとんど非課税になっている資本剰余金は、一兆二千三百八十三億円から二兆四千六百九億円と一兆二千二百二十六億円の増加、そのうち八一%に当たる九千九百四十九億円は資本金十億円以上の法人で占められております。また、非課税になっている引当金固定負債に計上された負債性引当金だけでも、四兆三千七百十三億円から六兆七千八百五十二億円と二兆四千百三十九億円増加し、そのうち六〇%の一兆四千五百三億円、これも同様であります。資本金十億円以上の大企業はたった二年間で五兆九千七百十五億円の自己資本を、負債性引当金を含めまして、増加いたしておるのであります。そのうち二兆四千四百五十二億円はほとんど非課税であります。資本金十億円以上の特別償却費七千六百五億円、剰余金を合わせますと三兆二千五十七億円となります。これに仮に三〇%の税率で課税をいたしますと九千六百十七億円となります。また、資本金十億円以上の自己資本二十二兆四千五百八十四億円に二%の税率で課税をいたしますると四千四百九十一億円の税収を得ることができるのであります。さらに、土地の譲渡収入は約二十四兆円と見積もられております。これに純資産税を大企業同様に課税すれば数千億の財源を得ることは明らかであります。  ほかに租税特別措置の廃止あるいは縮小と累進税の強化、あるいは大企業や大資本の横暴を抑えて財源捻出を図るならば、今日の歳入欠陥を埋め尽くすことは当然できるはずであります。こういった根本的検討と再分配機能復活強化は欠くことのできない経済再建前提条件だと思いますが、総理見解を具体的にお伺いをいたしたいと思うのであります。大企業や大資本の横暴を抑えると同時に、税財政制度を通じて所得再分配の機能復活は、欠かすことのできない具体的にして国民に示される内容ではないかと思うのでありますが、総理見解いかがでしょう。  次に、五十年度の日本経済は非常な低成長に終わることは、政府が先ごろ発表いたしました修正経済見通しで明らかであります。下期の景気を六%に引き上げたと仮定いたしましても、当初政府見通しの四・三%の半分程度にしかなりません。政府経済見通しを改定すれば済むかもしれませんが、しかし、政府経済運営失敗によって毎月一千件もの倒産をさせられた中小零細企業、倒産しないまでにも発注の激減と製品価格の買いたたきによる経営不振による多くの中小零細企業、また、ごまかしの政府統計でも百万人——実質はもっとはるかに多いと思うのでありまするが——近い失業者、さらに、失業しないまでにも、不況の影響によるレイオフ賃金不払い残業カット等による労働者の非常なる生活苦などを考えるとき、成長率は半分に落ちましたと涼しい顔をされたのでは国民はたまったものではありません。三木総理はこの経済見通しの誤りと経済運用失敗責任をどうおとりになりますか、御答弁を願います。  三木総理は、昨年の十二月十四日の最初の所信表明演説で、「国民の声は、インフレの克服と不況防止による経済の安定と、広く社会的不公正の是正を求めている。そこに私の実行力が求められていると受けとめております。私はこれにこたえる決意である」と述べておるのであります。しかし、それが程度を超せば不況を深刻にし、大きな社会的問題を引き起こす。現に倒産も少なくない。私は、総需要抑制の枠組みは崩さないが、その枠の中で実情に応じ、きめ細かい現実政策をとる考えだ」と述べたのであります。  また、前国会の一月二十四日の施政方針演説では、「景気は停滞の色を濃くしつつあり、西独や米国でインフレ対策から不況対策に重点を移行し始めたが、わが国では引き続き抑制政策を続けるが、その中で健全な経営を行う中小企業に対して不当なしわ寄せが生ずることのないようきめ細かい対策を講ずる」とも公約をいたしました。さらにつけ加えて、「三木内閣は正直な政治をやる」とも言明されたのであります。三木内閣はこのような公約を実行なさいましたでしょうか。五十年度の日本経済が極端の不況に落ち込んだのは、三木内閣政策転換の時期と方法、すなわち、対策を間違えた結果であって、政策不況政治不況の結果であり、三木総理責任は重大であると思います。  政策転換に関連して言えば、わが党、公明、民社三党は、三月四日、五十年度予算通過の際、編成替えの動議を提出し、基本方針の第二項で、総需要抑制質的転換中小企業不況打開雇用の安定を掲げ、政府予算組み替えを要求したのでありますが、三木内閣は、政府案が最善という独善的な態度に終始し、この建設的なわれわれの主張を取り入れませんでした。  さらに四月二日、参議院予算委員会でも、わが党を初め、公明、民社、第二院クラブの四会派共同修正案を提出いたし、その後提出された附帯決議でも、「当面の景気状況に対処するため、再び物価の上昇を招くことのないよう警戒しつつ、総需要抑制策の一部を手直しすること」を第一項に要求いたしております。二項で中小零細企業対策、三項で雇用情勢の悪化の防止など、いわゆるそれまでの政府の総需要抑制策転換の必要を説いたのでありまするけれども、これも自民党の反対で押しつぶされました。  このように、わが党は、三月、四月の時点で政策転換を主張したのにもかかわらず、政府はこれは無視し続け、今日に至ったわけであります。わが党提案からすでに半年以上もおくれ、その間、いわれなき理由で多くの国民不況の直撃を受け政治被害をこうむっているのであります。まさに、三木内閣の失政と独善による政治不況と言わなければなりません。国会建設的なわが党の提言には振り向きもしなかった三木内閣政治休戦を呼びかけたり、不況対策では与野党の別はないので野党は協力してくれるだろうといった安易な総理の言明は、許されるものではありません。自分に都合のよいときは国会や野党を利用し、自分責任を回避なさろうとのおつもりですか。総理の提唱されました政治休戦の本意は何ですか。さらに、それによって何をやろうというのですか。また、国会審議の結果、わが党が今日の深刻な不況を事前に防止するために行った組み替え動議予算修正を否認させた総理・総裁の責任をどう反省なさいましたか。総理が真に政治休戦を熱望し、不況対策には与野党協力でと言うなら、間もなく提出される五十年度補正予算国会修正総理無条件で応じるとここで答弁をすべきであります。  わが党が提唱している雇用保障法総理は賛成されるべきだと考えますが、どうでありましょうか。過去の反省も将来への決断もないままに、自分に都合のよい言い分だけをその都度振り回すのは、責任ある政治家のなすべきことではないと存じますが、いかがでしょうか。御答弁を求めるものであります。  次に、不況対策中身について質問をいたします。  景気政策転換時期を誤った政府は、さらにその対策についても大きな間違いを犯してまいりました。過去三回の不況対策は、住宅建設融資以外はおおむね作文に終わっておるのであります。四回にわたる公定歩合の引き下げもわずか二%と小出しにすぎず、景気浮揚の効果を上げていないことは、今日の深刻な状況が如実に証明していると思います。これまでの不況対策中身は、思いつき的対策の吹き寄せにすぎなかったことが生産消費、在庫の悪循環をらせん状拡大したのであります。そして、今日のデフレギャップは二十兆円を超えておるのであります。企業操業率は七五%程度に落ちておるのであります。政府は、第四次不況対策で、自民党と財界を納得させるために、公共事業の追加に伴う地方負担分や年末金融として恒例化しているのであります。不況対策とは異質の中小三金融機関への五千億円の追加まで計算に加えるなどして、事業費ベースで二兆円の対策だと宣伝をいたしております。したがって、水増し分を差し引くと本当に使える中身はきわめて小さいのじゃないでしょうか。政府が宣伝するほどの景気回復力があるとは思われません。政府は、第四次不況対策がどの程度デフレギャップの解消となって、生産を何%引き上げ、完全失業者をどこまで引き上げ得ると判断しておられるか、詳細に御答弁を願いたいと思います。  また、多数の繊維産業女子労働者レイオフ失業者があり、さらにはパートタイマーの名による低賃金、無保障の五十万人に及ぶ主婦の失業があることは御存じでしょう。政府はこれらを故意に軽視しているのではないかと思うが、御答弁を願いたいと思います。  ことしは国際婦人年であります。七五年の初頭における三木総理所信表明においても、婦人の地位向上のために全力を尽くす旨の決意表明がありました。衆参両院決議でも、男女差別撤廃に努力する旨、宣言がありました。去る六月開催のジュネーブでのILO第六十回総会並びにメキシコにおける国連の婦人年世界会議においても、雇用における女性に対する差別待遇を撤廃することの決議を行いました。そうして日本政府はこれらの決議に賛成をいたしましたが、雇用における男女差別社会関係における不公平撤廃のための行動計画をどう立てて実施するつもりか、具体的政策を明示願いたいと思います。  こうした科学的なデータに基づいた不況対策国民大衆に明らかにすることを強く要求いたしておるのであります。これまでの国会での経済論議は水かけ論に終わることが多かったと思います。これは、多くの場合、政府経済運営中身を計量化して明らかにしないところにその理由があったと思います。原因がありました。したがって、これから始まる本院での不況克服国会の論議をより建設的で実りあるものとするためには、ぜひとも第四次不況対策のねらいと改善される経済指標を明らかにしていただきたいと思います。  次に、政府が今回の不況対策として取り上げる公共事業は、本四架橋を初め全国高速自動車道網新幹線網建設に主力が置かれておるのであります。大規模建設プロジェクトで、これは三木総理や福田副総理が痛烈に批判し、お蔵にしまい込んだ前国中首相列島改造論のお蔵出しと国民の目には映るのでありますが、そう理解してよろしいでございましょうか。三木内閣不況対策は、アンチ田中で政権奪取のために批判や非難はしても、列島改造の焼き直しで、公共事業拡大は結局大手建設会社や鉄鋼、セメント会社等利益保証以外の何物でもございません。わが党は、こうした景気回復策には反対であります。同じ公共事業でも、上下水道の環境整備、学校、病院、保育園、農業基盤整備等を行うべきを提言するものであります。国民大衆の身近で日常生活福祉向上に直結する事業を選ぶとともに、都市といわず農村といわず、全国に蔓延した不況の被害から国民経済を救うためには、全国どこでも着工できる公共事業不況対策中心に据えるべきであり、このことが、回復が鈍いと言われる地方経済のためにも絶対必要だと考えますが、政府見解はいかがでしょうか、御答弁を願います。  従来の不況では景気落ち込み下支え要因であった個人消費が、今七五春闘への政府不当介入で低賃金に抑えつけられました。結果は、不況促進に拍車をかけたのであります。政府不況対策公共投資拡大が重点で、この個人消費拡大することによる不況対策が全然考慮されておりません。たとえば、減税による消費拡大生活保護世帯母子家庭手当引き上げによる消費拡大も考慮してもよいのではないかと思うのでありますが、総理見解はいかがでありましょうか、御答弁を願いたいと思います。  また、不況に伴って、新規学卒者の就職に対し取りざたされているように、企業指定校制度を復活したり、東大なら無条件に面接に応ずるといった状況にあります。また、女子学生就職戦線から締め出されているとの報道がしきりであります。三木総理は、まさに人材独禁法の構想を打ち上げ、永井文部大臣学歴偏重学校差東大偏重教育面で改めると公約されました。人生におけるほとんど唯一の重大な選択期であるそうした経済界での差別扱いの体質を改善させなくては、過熱化する進学競争も是正できないものと考えるが、人材独禁具体化をどう進めるのか、総理見解をお伺いいたします。  第三に、弱者層しわ寄せした物価鎮静のからくりとその責任についてお伺いをいたします。  三木内閣は、最近物価鎮静化の傾向にあり、五十年度末一けたの政策目標がことしじゅうには実現すると宣伝し、これでインフレが克服できるかのごとき言辞を弄しております。政府は石油の値上げ公共料金値上げなど、前途いかなる事態が発生しようとも、消費者物価一けた実現の自信がおありでしょうか。  しかし三木総理、あなたが国民に公約したことは、五十年度経済運営基本的態度に明らかなごとく、雇用者数一・一%増、雇用者所得一八・四%増、法人所得一〇・八%の増、鉱工業生産で五・四%の増、そして輸出は一五・五%と、いずれも対前年度比増加のトータルで名目一五・九%、実体で四・三%の日本経済拡大のもとで、なお消費物価を一けたにするとの約束であったはずであると思います。今日の実態は、完全失業者が百万人、春闘平均賃上げが一二%、法人企業の軒並みの赤字経営鉱工業生産は対前年比で二〇%の減、そして輸出は前年度並みの五百十八億ドル達成がやっという状況ではございませんか。不況縮小経済の中で消費者物価を一けたにし、それを大々的に宣伝しておりますが、それは大切な前提条件を無視し、故意に隠蔽しておるのでありまして、まさに悪意に満ちた宣伝と虚像と言わなければなりません。国民三木内閣に五十年度経済運営で期待するものは、方法論抜き消費者物価の一けた実現ではなかったはずであります。今日見られる三木内閣不況政策の結果、たとえ消費者物価だけが一けたになったとしても、それで国民大衆の福祉が高まったと総理は判断されますか、御見解を求めます。こんな血も涙もないやり方消費者物価が仮に一けたになっても、勤労大衆の福祉はいささかも高まることはございません。完全雇用保障近代資本主義国家の義務であり責任であります。働いて賃金を得なくては生きていけない労働者の職を奪い、また、職を与えないでおいて、物価が一けたに下がったら政治責任を果たしたことになりますか。極論するならば、食えない不安に脅かされる人たちにとって、物価が九・九%にいつなるかなどということは問題になりません。総理国民物価の安定を希望いたしました。また、現在でも強く希望いたしておることは間違いありません。しかしそれは、国民のだれもが、自分たち失業させられ、食うこともできないそんな状況をよしとして物価安定を希望したのではありません。物価鎮静政策選択と実行に誤りがあったことを素直に反省すべきだと思いますが、いかがでしょうか。  さらに、物価鎮静の過程で階級間格差拡大し、結局、経済的、社会的弱者の皆さんに非常に大きな犠牲が強いられた点を指摘しなければなりません。政府は、統計的手法とある種の約束を前提にした、言うならば、平均化された数字の動きだけで物価対策は成功したと判断されておりますが、総理府統計局家計調査の五分位階級別消費実情を調べると、高額所得者層平均消費性向は、五十年一月以降毎月一〇〇を超え、可処分所得以上に貯金を下げて消費に回しておるのであります。逆に、低所得者層平均消費性向は、五十年一月の九〇・二%から逐月着実に低下して、このごろでは七五%程度になっております。不況下雇用不安と生活不安にさらされながら消費を切り詰め貯金をして、わずかでも自分生活を防衛しなければならないという低所得階級消費行動が大きなてことなって買い控え、節約が行われ、結果的に消費者物価鎮静化させているというのが本当の姿なのであります。  また、同じ家計調査から五分位階級別購入品目、数量を見てまいりますると、生鮮魚介では、低所得層は四十九年七百グラム消費量を減らしておりますが、高所得層は二キロ三百グラム消費をふやしております。牛乳や肉類についてもこうした傾向は明らかに読み取れるのであります。教養娯楽費雑費等所得階級間の格差拡大は大変大きくなっております。  さらに、ここで強く指摘しておかなければならないのは、子供たち学用品購入でも、総理府統計局統計は、低所得層へのしわ寄せを明らかに示しております。たとえば、ノートブックの購入は、四十六年当時第一分位が五・六冊、第五分位が九・二冊であったものが、四十九年には第五分位は九・二冊でありますが、第一分位は三・九冊に落ちました。これは一例で、鉛筆、文房具に至るまで、子供たちが勉強に必要な品が切り詰めを強いられているのは低所得層なのであります。  総理は盛んに節約を説かれますが、あなたの真意ではないかもしれませんが、本来節約すべき階級節約をせず、節約の余地がない、生活を向上させねばならない階級が逆に節約を強いられております。こうした人たちが買えない結果が、平均化された消費者物価鎮静化するという状況で、政府はこの平均だけの数字を振り回されるのですが、大多数の低所得階級の人々は、こうした政府態度を、生活実情を知らないものと批判をいたしております。  総理、あなたは就任以来、社会的不公正の是正を看板に掲げておりますが、そのもとで、産業活動は大企業による中小企業犠牲労働面でも、ことに未組織労働者中高年齢者婦人労働者のより大きい犠牲が、そして消費や家計の面でも高所得階級より低所得階級犠牲しわ寄せが行われているというのが現状であります。これは、まさに不公正と不正義の拡大ではありませんか。総理の看板には偽りがあると言っていいのではないでしょうか。総理の明確な御答弁を求めます。  第四に、赤字国債中心にしての財政問題についてお伺いをいたします。  五十年度のわが国財政は、政府経済運営失敗と当初予算租税収入見積もりの二割にも相当すると言われる歳入見込み違いによって中央・地方ともにかつてない大混乱に陥っております。政府は、この歳入欠陥を補てんするために赤字国債発行の窮地に立たされておるわけでありますが、いまだに財政当局から正確で責任ある説明がなされておりません。各種報道は、四月初め一兆五千億程度と言われた財政赤字は、日に従って膨張し、九月三日主税局長税制調査会で行った説明では、年間に三兆六千億となっております。半年間に赤字は二・五倍にもふえております。大蔵大臣に五十年度の財政赤字の正確な数字とその補てんのための対策説明を求めます。  五十年度予算審議の際、わが党の宮之原委員歳入欠陥の危険を指摘しております。その際、蔵相は、三月期決算数字が固まりませんと見通しが困難と答弁しております。しかし、一野党議員歳入欠陥見通し得たのに、主税局、国税庁といった膨大な機構を持ち、しかも、税関係の仕事の専門屋がおりながら、三兆六千億円もの見込み違いをするとはどういうことでありますか。大平蔵相は、そうした歳入欠陥を生じた責任をどう感じておられますか。  さらに、三木内閣は、憲法七十三条の内閣の責務を果たさなかった責任として、総辞職すべきではないかと思います。御所見をお伺いをいたします。  前代未聞の財政混乱を引き起こしても、その責任の所在は全くあいまいもことしております。そんな民主主義政治が許されるとお思いですか。財政運営失敗責任はだれがとるのか明らかにしていただきたいと思います。  私は、かつて四十年の赤字国債発行特例法反対討論をここの席で行いました。その際私は、憲法九条と表裏の関係にあり、その財政的歯どめの公債不発行主義を破ることは、日本軍国主義復活ファッショ化に道を開くことであり、非常に危険であり、こうしたやり方は必ず財政民主主義を破壊し、インフレ通貨の膨張を招き、赤字のツケだけが国民大衆に押しつけられることを指摘いたしました。それから十年、五十年度は、赤字国債を三兆円余を出す事態を招いても政府責任をとらず、さらに、四十一年度以降建設国債と名は変えても、実質の赤字国債を出し続け、五十年度当初予算まで累積総額は十二兆五千億円となり、との借金のために払われる国債費は一兆四百億円の巨額に達し、完全に国債に抱かれた財政に変質をし、国民大衆負担増加を強いると同時に、国債に抱かれた財政となりました。四十年から四十九年までの消費者物価上昇率は九九・一%となったのであります。四十八年の狂乱物価を除いても四五・三%の騰貴であります。これに対し三十年から三十九年までの消費者物価上昇率は三九%の騰貴にとどまっております。  さらに、通貨増発率は、国債発行された四十年代は平均一八%、国債発行時代の三十年代は年平均一二%となっており、インフレ通貨の膨張が通貨価値をますます落とし、主婦たちは一万円札の使いでのないことを嘆いておるのであります。最初、国債は苦し紛れの一時しのぎであっても、麻薬は必ず常用せざるを得なくなり、日本財政日本経済をむしばむのであります。われわれは、五十年度に歳入欠陥が三兆円余の巨額に達するとか、他に穴埋めの妙手はないといった調子の赤字国債論に賛成するわけにはまいりません。政府赤字穴埋めにどれほど真剣に取り組んだでしょうか。歳出の切り詰め見直しは十分行ったでありましょうか。防衛庁の装備品、艦艇、飛行機等の未発注分の即時取りやめ、また、自民党選挙基盤の培養のための圧力団体向けの効果の上がらない補助金の大整理、さらに大企業特定企業のための産業基盤づくりに使われる予算見直し等々はほとんど手がつけられません。歳入増加見直しは十分でありましょうか。東京都の税制調査会が明らかにしているように、法人個人ともに高所得者が税金は低負担で免れるという全くの逆累進の税構造を、財政危機の今日抜本的に改革し、前述したとおり、本当に取るべきところから税を取るという税制度を確立することが緊要かと思います。  次に、五十年度の赤字国債発行問題点についてお伺いをいたします。  まず、五十年度赤字国債発行の限度額を補正予算の総則に全額を明示せず、金額を明示せず、歳入見込み額と歳入額の差額分を発行できるといったことに財務当局は改めたいと考えているようでありまするが、この点についての御見解を承りたいと思います。発行限度額という歯どめを取るようなことがあれば、十年前私が指摘したとおり、財政民主主義を根源から否定するものになり、絶対許すことはできません。  次に、公債発行の歯どめと政府が主張してきた市中消化の原則は、これまでも引き受け後一年で日銀が買い取っており、間接的な日銀引き受けとの正当な批判がなされてまいりましたが、五十年度下期だけで三兆六千億円もの赤字国債は、当初の発行引き受けすら市中金融機関にとっては大変困難が伴うと思うのでありますが、この点の政府の御見解を承りたいと思います。  さらに、国債の市中消化を促進するために、全面的な金融緩和、公定歩合引き下げ、資金運用部保有国債の日銀買い取り等々の手の込んだ事前の資金散布対策が進められておりますし、さらに日銀買い取り期限の短縮が議論されております。こうした人為的な国債引き受けの資金づくりは財政インフレを招く危険が高いし、そうした行動自体、まさにお上の御用金調達思想に根差すもので、真の市中消化と言えないのではありませんか。御用金調達のあおりを受けて、近く預金の利子が引き下げられると聞くが、昨年あれほど問題になった貯金の目減りは、今日の二けた台の物価上昇のもとで解消したのでありますか。  現在、日本銀行調べでの全国銀行ベースの貸出残高総額は約八十一兆円でございます。このうち、公定歩合引き下げの直接影響を受ける短期貸し付けはほぼ半分であります。したがって、公定歩合仮に一%引き下げで企業はざっと四千億もうかるのであります。企業収益はゼロでも金利引き下げだけでこれだけもうかるのであります。他方預金者は、全国銀行ベースでの預金総額八十四兆円で、そのうち、今回の預金金利引き下げでその対象となる定期預金は四十六兆円でありまするから、仮に一%引き下げられるということになりますると、逆に四千六百億円の損失となるのであります。国民大衆の零細な貯金目減りに追い打ちをかけ、それをてこに赤字国債発行と財界の借金負担軽減を行わんとする政府やり方に猛省を促すとともに、総理見解を求めたいのであります。  赤字国債の最後の質問は、三兆を超える五十年国債の償還についてであります。政府は、五十年の赤字国債を借りかえなしの十年償還とする計画のようであります。前回の四十年の赤字国債が七年で完済できたことに安易にならおうとしている、これはきわめて危険だと思う。四十年赤字は、一千九百七十億円で、五十年赤字国債の十分の一の少額であります。しかも、四十年代が予想外の高度成長で自然増収も多額に発生したことに助けられまして償還が可能であったと思います。今後もし、蔵相の言う自然減収の財政状況に置かれますと、償還財源を生み出すことは不可能だと思います。さらに、単純に計算しても、四十年赤字国債が七年かかって償還した二千億円を、今後は毎年度償還しなくてはなりません。また、国債残高の増高に伴って、国債費財政を大きく圧迫いたします。こうした予想される条件を考えただけでも、五十年赤字国債の償還は政府が言うほど簡単ではございません。この際、インフレ利得者に課税をして、これを引き当てに赤字国債の償還財源をつくる必要があるのではないかと考えます。政府説明では、赤字国債建設国債と異なり、裏づけとなる資産が残るわけでもなく、したがって、将来の税収入がふえる保証は全くゼロであります。そうだとすれば、政府の従来の国債理論からいっても、特定の償還財源構想を立てるべきで、単純に将来の税金で償還するとは言えないはずであります。間もなく提出される補正予算の公債償還計画表に赤字国債償還の具体的財源措置を明示すべきであると思いますが、総理の御見解はいかがでございますか。もし明示されない場合は、われわれは審議を差し控えねばならないことを警告しておくものであります。  財政の質問の最後にただしたいことは、財政当局財政難を理由に、四十八年度にあなた方が国民に公約した「福祉型財政への転換」を修正して福祉予算に歯どめをかけ、財源節約のために一部負担の制度の導入強化を図るほか、拠出制の老齢年金の支給開始を六十歳から六十五歳への引き上げ、老齢福祉年金を五十一年二万円の公約を一万五千円に値切る等の構想が伝えられております。財政が苦しいときは、財政以上にお年寄りや子供を抱えた母親などの生活は困窮するのであります。このとき救いの手を差し伸べず、財政当局が財布のひもさえがっちり握っていればというような財政エゴの考えは許されません。財政は人々の福祉向上の手段であって、財政の黒字それ自体を目的のごとくに考えるべきではありません。さきに指摘したとおり、今日の日本財政は、歳入歳出とも、福祉後退の前にやらなきゃならない措置が山積しております。社会的公正確保の見地からも、老人、婦人、身障者、年金生活者、生活保護世帯等への財源切り詰めはしないとの約束を蔵相はすべきでありますが、御答弁を願います。  第五に、食糧自給の確保と今後の農政の進め方についてお伺いをいたします。  三木内閣のもとで、一月に農政審議会の「食糧問題の展望と食糧政策の方向」、六月に農業問題懇談会の「食糧安定供給に関する提言」、そして農林省の「総合食糧政策」が八月、それぞれ発表されました。そうした提言の行われたことの背景は、世界的な食糧不足のつのる中で、わが国の農業生産力が重工業中心高度成長とは反比例して衰え切って、食糧自給率は四十八年度七一%にまで落ちてしまったことの反省と、国民生活及び国民経済の安全保障の観点から、安定的な食糧確保対策が迫られたからにほかなりません。これまでの自民党政府の農政は、農民に米をつくらせない農政であり、輸入食糧に頼り、日本農業を破壊して、世界の工場でやっていけるという全く誤った農政を進めてまいりました。そうした失政を改めるためには、ただ答申をつくっても実現されるわけではありません。何よりも大切なことは、米でも麦でも大豆でも、一日当たり農業所得が農外所得と遜色のないところの所得保障の実現が第一であります。次には中核的な農家の土地利用拡大策であります。第三は農業基盤投資の拡大で思い切った整備を実施することであります。  ほとんどの答申が六十年度の食糧自給率を七五%に引き上げることを主張しておりますが、目標達成には相当巨額な資金を投入しなければならないはずでありますが、今後の食糧の安定供給と自給率向上の具体的な構想について総理の御答弁をお願いをいたします。  さらに、自民党の農工併進のかけ声で農村に進出した企業は、この不況で閉鎖、首切り、パートの打ち切りなどを行わざるを得ない状況に追い込まれ、また、出せかぎの就職口も非常に少なくなっております。農村ではいま現金収入の道を閉ざされ大変な問題になっておるのであり、政府は大規模プロジェクトによる不況対策を主要なものにしているようでありますが、農村での不況対策として、土地基盤整備事業や市町村が中心に行える公共事業を財源対策をあわせ実施すべきだと思いますが、総理の御見解をただしたいのであります。
  4. 河野謙三

    ○議長(河野謙三君) 戸田君。戸田君。時間が大分経過いたしております。簡単に願います。
  5. 戸田菊雄

    戸田菊雄君(続) はい。  最後に、三木内閣政治姿勢について一言触れておきたいと思います。  その一つは、前国会の積み残し案件の処理が一つの大きな召集目的と言われております。積み残し法案と言えば、衆院で五党修正、全会一致で通過した独占禁止改正法案こそ第一に数えられるべきものであるはずであります。しかも、三木総理は、前国会で死に体になったと取りざたされた独禁法改正を執念で復活させ衆議院通過に持ち込んだ経過にかんがみれば、今国会に再提出されるべきものと思いますが、これに対する総理見解をお伺いをいたします。  最後に(笑声)、今次国会における値上げ法案の取り扱いについてでありますが、これは野党がこぞっていま反対をいたしておるわけでございまするから、議会の子、民主人と言われる総理は、良識をもってその野党の意見を採用すべきだと思います。これに対する見解をお伺いをいたします。  最後に(笑声)、ごく簡単にスト権問題について三点質問をいたします。
  6. 河野謙三

    ○議長(河野謙三君) 戸田君。戸田君。大分経過していますよ。大分経過しています。どうぞ簡単に願います。
  7. 戸田菊雄

    戸田菊雄君(続) はい。  それでは、以上で、議長の警告もありますので、終わりたいと思いますが、  最後に(笑声)、総理国会を解散して、直ちに国民に信を問い、選挙に臨むべきではないかと思いますが、見解いかん、お伺いをいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)    〔国務大臣三木武夫君登壇、拍手〕
  8. 三木武夫

    国務大臣(三木武夫君) 戸田君の御質問にお答えをいたします。  大変、戸田君の御質問は多岐にわたっておりまして、私並びに関係閣僚への答弁を求められたわけでございますが、基本的な問題は私が答えまして、経済計画につきましては福田副総理、税制、公債、予算については大蔵大臣からお答えをいたします。  最初に、戸田君は、私の経済運営基本について御質問を願ったわけであります。私は、いろいろな経済の仕組みというものをいままで経験をしてきたもので、その経験に徴しても、やはり日本経済の運営は自由経済体制が好ましいと考えておるわけでございます。それはやはり自由経済体制のもとでは、人間の自由、創意工夫、こういうものが発揮できる一つの仕組みでありますから、日本経済はやはり自由経済の精神を基本にして、しかもあまり近視眼的でなく、長期的な展望に立って、しかも国際協調の中にあって日本経済を健全に発展さしていく、こういうことでまいりますことが日本経済発展のために好ましい一つの姿である、そういうふうに考えておるわけでございます。  また、三木内閣経済政策についていろいろ失敗をしたという御批判がございましたし、総辞職せよというような御発言もございました。いま、戸田君がごらんになってもわかりますように、不況失業問題は先進工業国共通の悩みであり、これはやはり今日の国際経済というものが、それだけに相互の関連性というものが強くなってきておるわけです。そういうことでございますから、これは日本だけの現象であるとは言えないわけであります。しかし、日本経済はこの世界的なインフレの中にあっても異常なものでありまして、私が責任を持つことになりましての昨年十二月、これも一年間で消費者物価が二四・五%も上昇するという異常な中にあったわけでございますから、どうしてもこれを、インフレを抑制するということが一番日本経済政策の最重点課題であると私は考えている。それで物価安定というものを最重点の施策として取り上げたわけであります。当時としては大胆と思われるような公約をいたしたわけです。翌年の三月——ことしの三月末までに消費者物価を一五%以下に抑えるという、しかし、それはその以下の水準で抑えることができて、次の政府の目標である来年の年度末、三月までには一けた台にするという、この目標に向かって鋭意努力をしておるわけでございます。また、これに対して、実現しなければどうするんだということでございましたが、いまは万難を排して物価の水準をその程度に抑えたいと努力をいたしておる次第でございます。これはやはり日本の場合のようなスタグフレーションという、インフレ不況が併存する中で、どちらかに重点を置くという経済政策はとらざるを得ないと、そのために総需要抑制政策をとれば、ある程度不況というものは覚悟しなければならぬ。しかし、私が強調したいことは、日本は安定経済成長への——高度経済成長から安定経済成長への非常な重大な転換期である。この転換期を乗り切っていくためには、どうしても、一時はやはりわれわれが耐え忍ばなければならぬ苦難の道であることはわれわれ政府としても十分に覚悟したわけでございます。しかし、やはり物価の安定ということで、景気を全然犠牲にしたものではなくして、御承知のように、第一次、第二次、第三次と不況対策をとってまいって、まあ、景気をある程度維持しながら物価の安定に重点を置いたわけであって、そのために物価が鎮静の様相を呈してきたということで、今度は思い切って第四次の不況対策と申しますか、総合景気対策をとれる段階になってきたわけでございまして、やはりこの三木内閣経済政策の後を振り返ってみると、やはりこの困難な日本経済情勢、しかも世界的な影響を多分に受けておる日本経済運営として経済政策の誤りを私は犯してはいない。そういう点で、私はこの日本経済政策というものは誤りのない選択をしてきておる、こういうふうに考えるわけでございますから、戸田君の言われる総辞職をせよというような、そういうことは、総辞職などは考えてもいないことでございます。  また、私のこの政治休戦ということにも御批判がございましたけれども、私も、戸田君御承知のように長い議員の経歴を持つ者ですから、建設的な御意見が、国会においてどんなに激しくとも、どんなに厳しくともあることは、これはもう大歓迎であって、これを抑制する考えはございません。しかし、今日のようなこういう困難な時局でありますので、何でも反対反対のための反対と、こういうことではなかなか今日の時局は乗り切れないし、また議会制民主主義というものも健全に育たないということを申したかったのが私の真意でございまして、建設的な論議を封ずるなどというような考え方は毛頭ないわけでございます。  また、五十年度の補正予算についていろいろお触れになりましたが、修正が必要のないような最善の案をとりたいと努力をしておる次第でございます。  また、国際婦人年についてもいろいろ御発言ございました。今年は先般メキシコで国際婦人年の世界大会が行われて、行動計画も発表されました。こういう国際婦人年に協力して、男女の不平等をできる限り是正することを推進したいと、総理府に対策室を設ける考えでございます。  また、公共事業についていろいろその内容について御提案がありましたが、御承知のごとく、公共事業費については八千億円以上の事業費を追加を予定いたしておりますが、その内容については検討中でございます。各事業の緊急性、施行能力、効果などに留意して、水資源対策であるとか、生活環境施設であるとか、国土保全事業であるとか、農業の基盤整備、道路などに適切に配分をいたしていきたいと考えております。  また、学歴偏重などのことでいろいろ御発言ございましたが、まあ、就職などについて学歴偏重、いわゆる有名校に入学希望者が殺到して、これは非常なやっぱり日本の教育に問題を投げかけておると思います。遺憾なことだと思っております4このために文部大臣がいわゆる有名校への集中を排除するよう学校間の格差是正等の施策に意欲的に取り組んでおって、この文部大臣の考え方というものを私は支持して、これを推進させていきたいと考えておる次第でございます。  また、インフレというものが、政府インフレに対しての物価鎮静策、これは弱者へのしわ寄せであるということで御批判がございましたが、インフレというものが進行すれば一番しわ寄せを受けるのはいわゆる社会的弱者である。インフレは弱者のためにもこれはもう公敵第一号である。こういう点でインフレを抑制せなければならぬということで今日まで努力をしてきて、まあ、着々効を奏しつつあるわけであります。  また、福祉政策の充実のためには、今年度予算、戸田君ごらんになってもわかりますように、社会保障関係費というものは一兆円増額した。前年比一兆円の増額でありますから、政府福祉の増進に対して、いわゆる社会的弱者というものに対しても十分な配慮をしておるということが御理解願えると思うのでございます。したがって、三木内閣によって社会的な不公正が拡大したとは私は考えておらないわけでございます。  それから金利の引き下げについていろいろな御批判がございましたけれども、日本経済を適正な回復過程に導くためにはやっぱり金利を引き下げる必要がある。その結果雇用が安定し、所得水準が着実に上昇するという形で、また一般国民も全体的には還元されるという考え方でございます。したがって、預金金利が引き下げられても一般国民が大損であるというふうには政府は考えていないわけでございます。  それから農業のことについていろいろ御発言がございました。今後この食糧というものは重大な世界的な課題でもあるわけでございますから、国内の生産体制というものを整備して、わが国の農業の自給力というものの向上を図るということが、これ、根本でございます。そのためには、農業生産の基盤の整備であるとか、需要が増加するであろう作物の増産とか、農業生産の中核となる担い手の育成などを進めてまいりたいと思っております。また、水産業についても漁業経営の安定や漁場の整備に努めてまいりたいと考えております。しかし、また一方において、すべての食糧を自給するということは不可能なことでございますから、輸入の安定化というものもこれは確保しなければなりませんので、この確保についても十分努力をいたしてまいりたいと考えております。  農業の基盤整備事業というものは、食糧の自給力の向上を初め、農業と農村の発展を図るために基礎になる重要な事業でありますから、この問題については、五十年度の補正予算の編成についても積極的に考えてまいりたいと思う次第でございます。  最後に、解散の問題についてお話がございましたけれども、戸田君お考えになっても、この難局は戦後最大の難局でございます。これをどう切り抜けていくかということが私の頭にいっぱいあることでございます。責任を持っておる者としては当然のことで、解散などは頭の一隅にもないとお考え願いたいのでございます。(拍手)    〔国務大臣福田赳夫君登壇、拍手〕
  9. 福田赳夫

    国務大臣(福田赳夫君) 私に対しましては、第四次景気対策のねらいと経済指標は一体どうなるかというまずお尋ねでございます。また、お尋ねの中でいろいろのおしかりも受けておるわけです。おしかりはおしかりとしてよく承りました。  ただ、政府が当面しておる課題というのは、なかなかこれは容易なものじゃない、非常に困難な問題であるということを特に申し上げたいんです。  一昨年のあの事態、これはとにかく卸売物価は三七%上がります、消費者物価が二六%ですと、たった一年間で国際収支の赤字が百三十億ドルである。まさに経済秩序は狂乱の状態、まあ、日本経済崩壊かとまで国際社会では騒がれるというような状態だったわけです。ですから、これから脱出する、それはもう簡単にはできないんです。三年の調整期間が必要であると、こういうふうに申し上げたのはそういう趣旨でございます。  そこで、第一年目の施策は一体何だと言いますれば、何といってもこれは燃え盛るインフレの火を消す、これが主要課題でなければならぬ、そのための施策を積極的に展開したわけです。そこで第一年目である昭和四十九年度を回顧すると、これは大体成果をおさめた。物価はいま総理から申し上げたとおりであります。国際収支の方も百三十億ドルというのが、まあとにかく四十四億ドルの赤字というところまで改善された。これはいろいろの見方もありましょうけれども、国際社会では、とにかく日本はよくやったと言って高く評価をされておるということをひとつ申し上げておきます。(拍手)  そこで、いま問題の第二年目に入っており、ちょうどその半ばにあるわけでございますが、この第二年目の課題は、やっぱりそういう物価鎮静の中でいかにして経済活動を活発にする、景気を常道に戻すかと、こういう点にあるわけです。まあ物価安定の中で成長実現する。そこで、その経過を見ますと、物価の方はさらに鎮静化を進めておる。問題の消費者物価、これは八月で、東京区部しかまだわかっておりませんけれども、それが全国水準だとしますと、もうちょうど一〇%、一けたにはなりませんけれども、一けたに接近しております。卸売物価は八月の時点で〇・七%、一年間の上昇だ、ほとんど横ばい、まあ、そういう基調を示しておるんです。  ところが、経済活動の方はどうかと言いますると、これは私どもが思ったよりは微弱な上昇傾向を示しておるのです。三月から生産はずっとふえております。それから出荷もふえる。したがって、企業の操業度も上がっているのです。ところが、財界には非常に苦悩の色が満ち満ちておるというような状態であります。それは一体何だと、こう申し上げますと、経済活動はなだらかな上昇を示しておる。そして、三月の時点におきましては稼働率指数が七七の底でありました。これが七月になりますると八三というところまで回復をしておるのです。それにもかかわらず苦悩の色が濃いというゆえんのものは、八三までいったと、稼働率が八三までいきましたけれども、しかしなお一七%残っておる。つまり、企業において過剰の設備を抱えておる、そのための金利負担という問題がある。企業におきましてはまた過剰の人員を抱えておる、その人件費負担が非常に重圧となっておる。そこに、マクロで見まするときには、日本経済はそう悪い状態ではない、しかしミクロ、個々の企業について見るときには非常に苦しい状態だというゆえんのものがある。そういう認識で、まあ物価の安定の基調が出てきた。それを踏まえて景気対策をひとつとろうと、こういうふうな方針をとったわけであります。したがいまして、この稼働率を上げる、そのための生産活動を興す、それは必然的にこれは最終消費需要を興さなければならぬということになるのです。最終消費需要とは何ぞやといえば、一番大きなものは何といっても国民消費です。国民消費、これは私はインフレがおさまり、また経済が安定しますにつれて回復すると、こういうふうに見ております。正常化すると、こういうふうに見ております。  しかし、いまここで、まあ、いまお話もありましたが、減税だというような、人為的な手段までこらしてこれを刺激するか、こういうことになりますると、いま資源有限時代になっておるそういう中で、政府消費刺激の人為的政策をとるというようなことになり、過ってまた大量消費社会へ復元するというようなことになっても困るのです。  それから、さらに国債が多額に増発されるというようなこともいま考えておるわけでありますが、この国債の消化ということを考えましても、これはまあどうしても貯蓄ということを国民に協力を願わなければならぬという立場にもある。そういうことを考えまするときに、どうも人為的な手段をもちまして消費を刺激するという考え方はとるべきじゃない。  また、設備投資は一体どうだといいますると、これは設備過剰の状態だから、これを、一般的に言いますると、増大するということはなかなかむずかしい。輸出はどうだといいますると、世界が非常に厳しい環境だということで、どうも輸出に多くを期待することはできない。そこで、第四次景気対策ということになりますると、これはどうしても財政にその任務を求めなければならぬということになるのです。さあ、財政は一体どうだといいますれば、非常に厳しい状態でありまするけれども、しかし、日本経済があっての財政です、これは。ですから、財政に、厳しいところではあるけれども、その任務を尽くしてもらいたい。こういうことになりまして、総額一兆五千億円の財政措置を行う、こういうことにいたしたわけであります。その一兆五千億円の財政措置が及ぼす消費喚起の効果は約三兆円であります。その三兆円のうち約六割、一兆八千億円が昭和五十年度において実効を上げる、こういうふうに見ております。その結果、本年の下半期の年率経済成長率は六%になる、こういうふうに見ておるわけであります。その結果、雇用指数がどうなるかとか、あるいは生産指数がどうなるか、これは補正予算の段階で申し上げます。ただ、この稼働率指数が大体九〇%より接近するということは申し上げることができます。  次に、そういう中で物価は一体どうだというような質問でありまするが、これはそういう政策はとりまするけれども、他方において物価政策をないがしろにするわけじゃございません。やはり幾ら景気対策景気対策と申しましても、物価がまだ混乱をするということになったんでは、これは元も子もない。そこで、まあ本年度内消費者物価一けたということを申し上げておりまするけれども、この目標につきましてはいささかも変えることはいたしません。これが実現の方向に向かって万難を排して進む、こういう考えでございます。  私どもは、インフレのない成長、これをねらいといたしまして、経済諸施策を進めていきたいということを申し上げます。(拍手)    〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
  10. 大平正芳

    国務大臣(大平正芳君) 第一の御質問は、五十年度の歳入不足はどの程度になるかという具体的な答えをしろということでございます。主税局長は、三兆六千億になるのではないかという一応の見込みを申し上げたそうでございますけれども、その後、御案内のように第四次景気対策に伴う今年度の経済見通しが出てまいりましたので、それを基礎にいたしますと同時に、九月決算法人につきまして逐一状況を当たっておるわけでございますが、ただいまこの席で申し上げられますことは、三兆六千億を下回るというのでなく、若干遺憾ながら上回るのではないかというように考えておるわけでございますが、まだ具体的な計数を申し上げるまでには至っておりません。で、これに対する責任でございますが、財政を預かっておりまする私として厳しい責任を感じております。  それから、この問題に関連いたしまして戸田さんは、この巨大な歳入欠陥補てんの方法として、企業引当金、準備金あるいは租税特別措置等の徹底的な洗い直しによって巨額財源を確保すべきでないかという御提言がございました。その基本的な態度、御方針につきましては私も全く同感でございます。ただ、引当金、準備金等は、御案内のように企業会計の原則上も認められておるものでございまするし、将来の税源を維持していく上から申しまして、これを圧縮するにいたしましても、おのずから限度があるということを御承知願いたいと思います。  また、租税特別措置の洗い直しでございますけれども、これは毎回本院におきましても御答弁申し上げておりますとおり、毎年毎年洗い直しを行っておるわけでございますが、今後も鋭意努めてまいりたいと思います。  それから、第二の御質問は公債政策についてでございました。  まず第一に、今度巨額の公債の発行になるおそれがあるようだが、発行額を国会にどういう姿で諮るかということについてのお尋ねでございました。私といたしましては、従来どおり、公債の発行につきましては具体的に発行額について国会の御承認を得る必要があると考えまして、そういう方向でいま法律案の検討を急がせておる次第でございます。  第二に、市中消化——この巨額の公債の市中消化に一体まあ自信があるかという意味のお尋ねでございました。このいまの財政状況から申しますと、中央・地方を通じまして相当巨額財政資金が金融市場に流れていくわけでございますので、マクロ的に見ます限りにおきまして、私どもがお願いする公債の消化が市中においてできないことはないと思うのであります。したがって、施策そのよろしきを得れば、市中消化ができないとは考えませんが、御指摘もございまして、十分この消化につきましては周到な配慮をやってまいりたいと考えております。  それから、第三の問題として、この償還、消却についてどう考えておるかということ、それが明確にならない限り補正予算の審議を差し控えなければならないかもしれないという御警告でございました。で、御案内のように、四条公債につきましては、公債対象資産の耐用命数の範囲内において消却が行われておりますこと、御案内のとおりでございます。しかし、われわれがいま考えておりまする特例公債につきましては、そういう歯どめはございません。したがって、仰せのように、これは短期間の間に明確な道標をつくって計画的に消却していくようにしないといけないと存ずるのでございまして、その点につきましては鋭意いま検討中でございますので、補正予算とともに御審議を願うことにいたしたいと思います。  最後に、福祉予算についての財政当局決意についてのお尋ねでございました。福祉政策は政治にとりまして最大な問題でございまするし、福祉年金等は、申すまでもなく、これは所得保障的な年金でございまして、景気の消長ということにかかわりなく保障して差し上げねばならぬ財政上の責任があると心得ておるわけでございます。したがって、ことし、厚生年金、国民年金、これは八月、九月、それぞれ二二%ずつの引き上げをいたし、生活保護基準や失対賃金につきましても四月から引き上げ、米価改定とともに若干の補正をいたしたことでございまするし、老齢福祉年金、母子福祉年金等につきましては十月から大幅な引き上げが予想されておりますが、財政上の都合によりましてこういうもくろみを変えるつもりは毛頭ないのでありまして、これは厳しい責任といたしまして忠実に実行してまいるつもりでございます。(拍手)
  11. 河野謙三

    ○議長(河野謙三君) 答弁の補足があります。三木内閣総理大臣。    〔国務大臣三木武夫君登壇、拍手〕
  12. 三木武夫

    国務大臣(三木武夫君) 戸田君の御質問の中で独禁法、それから酒、たばこ、郵便等の料金の引き上げについてちょっとお触れになりまして、答弁が漏れましたことは失礼をいたした次第でございます。  独禁法の問題については、御承知のように衆議院では可決をされたわけでありますが、参議院において、会期末のああいう事情で廃案になったわけです。これは出直さなければならなくなったわけでございますので、この国会のような緊急に解決をせなければならぬ問題をたくさん抱えておる国会にいきなり独禁法の改正を再提出いたしまして、そのことによってその緊急を要する案件の審議に支障を来すようなことがあってはならないと、ただいま自民党の中において再調整をいたしておる状態でございます。その再調整の結果を待って提出するかどうかの問題というものを決めたいと考えておるわけでございます。  また、酒、たばこ、郵便料金などについては、すでに国会で御承認を願いました五十年度の予算の中にもう計上されておるわけでございまして、それが国会の承認を受けなければ、それだけの予算の執行に対して歳入の不足が生ずるわけであります。まあ酒、たばこ、郵便料金、この問題については、もしそれを御承認願わなければ、たばこをのまない人にも、酒を飲まない人にも同様にやっぱり税によってこれを補う以外にはないわけでございますから、公共料金というものについては、やはりある程度それを利用される方、それを消費される方、こういう方々に応分の御負担を願うということでなければ、かえって私は公平を期されないのではないか。それはもしそういう財源がないとすれば、これ、一般の税金によって賄うよりほかにはないというわけでございますから、その場合に、その負担の公平ということからすれば、そういういろんな施設を利用したり、そういうものを消費する人たちに応分の御負担を願うということが妥当な行き方である、こう考えておりますので、酒、たばこ、郵便料金の値上げ等は、予算案は通っておることでもありまするから、どうかこの国会において御審議を願い、ぜひともこれは可決をしていただきたいとお願いをする次第でございます。(拍手)     —————————————
  13. 河野謙三

    ○議長(河野謙三君) 八木一郎君。    〔八木一郎君登壇、拍手〕
  14. 八木一郎

    ○八木一郎君 私は、自由民主党を代表いたしまして、三木内閣総理大臣所信表明演説に対し、いささかの意見を交えつつ質問を行うことといたします。  質問に先立ち、一言申し上げておきたいことがあります。  天皇、皇后両陛下におかれましては、このたびアメリカ大統領の招きにより御訪米されることになりましたが、両陛下の御訪米は日米修好史上初めてのことであり、日米友好親善の上からもきわめて意義深いものと存じます。ここに、両陛下の御旅行中の御平安を心から祈念する次第であります。(拍手)    〔議長退席、副議長着席〕  さて、第一にお伺いいたしたいのは、総理政治姿勢についてであります。  三木総理が、政治国民のもの、国民との信頼関係がしっかりしていない政治政治にはならない、信なければ立たずだ、できないことは約束しない、約束したことは必ず実行するという政治信条、特に国民の心に触れてのこの御信条には深甚の敬意を表します。しかし、私が第七十五回の国会の体験から感じていることですが、多数決原理が踏み外されるようなこと、すなわち、多数党の主体性を越えての妥協を図るようなことになってくると、対話も協調も実りある成果を期待することができなくなるばかりか、一種の政治不安さえ生じてくるのであります。率直な所見をお伺いいたしたいと思います。  もう一つ、それは日本の心、道義の基本についての考えであります。  ことしの終戦記念日に三木総理が靖国神社に参拝をしたことについて、総理の資格では問題があるとして、個人参拝になったとのことでありますが、私は国民を代表する内閣総理大臣の靖国参拝は、国のために殉じておられる英霊に対する国民の礼儀だ、外国へ行けば正式参拝してくるのに、自分の国では問題があるというのでは、何か中途半端で申しわけない感じがいたします。(拍手)国家的な行事として、国として正々堂々と公式な参拝をすべきだ、こう思います。  戦後三十年たってもなお、敗戦で植えつけられた敗北思想によってか、極端な利己主義に走り、集団エゴによって、国家のために戦没した英霊に対する恩義さえも忘れ去ったかのように思われる一部の声があるのは残念です。和をもってたっとしとなす日本の心を生かすために、新しい国づくり、新しい人づくりのために総理のお気持ちをお伺いいたします。  次に、なお政策以前の課題としてすでにしばしば問題になってきましたが、解散問題です。お尋ねいたします。  私は、三木総理が議会制民主主義の擁護を旗印として、国民国民による国民のための政治は、当面インフレ物価高を鎮静させ、未曾有の不況克服することだとし、毅然たる態度で解散はしない、ただいまも解散は毛頭頭にないと言っておられます。これは政治の空白を避けるためでもあり、また主権在民の精神にも沿うりっぱな姿勢だと思います。解散は憲法七条によらないで国民主権に徹するということも一つの態度ではないでしょうか。民主政治国会解散についてお尋ねいたします。三木首相御自身の口からこの見解を承ることができれば幸せであります。  政府がさしあたり迫られている緊急な問題は、何といっても不況対策であり、財政赤字の措置ではないでしょうか。  大蔵大臣にお尋ねいたします。これから、いや現に行おうとしておる財政運営のあり方についてどのようにお考えになっておられますか。自然増収で多額の税収入を得ていた時代ではなく、中央も地方も財政がみんな赤字になってきました。財政制度審議会の指摘を待つまでもなく、経済構造が変化する時代に安易な財政運営を続けるならば、財政破綻に追いやられることは火を見るよりも明らかです。これらのことは新しい問題ではなく、一刻もゆるがせにすることのできない緊急の課題であります。この際、政府大蔵大臣の果断な御所見を承りたいのであります。  次いで、副総理福田経済企画庁長官と大蔵大臣より歳入欠陥景気対策についてお伺いをいたします。  物価が一応落ちつきの様相を示しておることは何よりであり、ただいまもお話が出たとおり、見通しを、物価の点から政府のこの労を多とするものではありますが、私はこの辺で政策に区切りをつけて、物価は一応落ちつけた、警戒はしていくけれども、さあ、これからは不況対策だ、こういうように区切りをつけて、はっきり不況対策一色でやれと、こう申し上げたいのであります。景気対策は多分に心理的波及効果を伴わせないとだめではないでしょうか。不況対策もやるが物価も考えながらやるというのでは、せっかく打ち出した第四次対策も、過去三回にわたって進めてきた対策と変わりばえもないことになりはせぬでしょうか。この際、本来効き目の遅い財政措置よりも、早道の金融政策と本格的に取り組むことだ。一%の金利引き下げは一兆円近い産業助成金を出すのと同じこと、困難でも真剣に金融政策に取り組み、相当の波及効果が期待できるように何とか工夫をしていくことがこの際最も必要ではないでしょうか。預金金利の引き下げは政治としては一番いやな仕事でありましょうが、安易な財政政策に逃げ込むと問題を後に残すばかりと思わねばなりません。  政府は大型投資を主軸に、大型プロジェクト主義の景気浮揚策をやれば、繊維その他不況に悩む分野への波及効果も大きいし、また、雇用喚起にも役立つと見ておるようでありますが、今日の不況は、長期にわたる引締めの政策によりまして深刻化し、それに世界的不況とも重なって、個人消費や設備投資が沈滞し、さらに輸出の不振もあって、戦後の不況としては最大規模のものになっていると言われています。それが四十九年度のマイナス成長の記録となり、五十年度も当初の見通しを大きく下回ること必至、すでに減額四十九年度で七千七百億円、五十年度は三兆円を相当上回る税収不足だと言われております。これからさらに給与改定や災害対策などの補正要因と、酒、たばこ、郵便料金値上げ見送りの減収、これらを加えて考えてみますと、歳入欠陥はかつてこれまでにない巨額に達することであります。  すなわち、今年度の税収は、不況の深刻化に伴い法人税と所得税を中心に大幅に落ち込み、三兆五、六千億円の歳入欠陥が生ずる見込みと言われています。一方、財政による不況対策が急がれ、一兆円の建設国債の増発に加え、特例法による二兆円の赤字国債発行によってこれに対処される方針が打ち出されているのであります。  そこで心配されることは、仮にこの額が発行された場合どのように消化されるのか。資金運用部の引き受けにも限度があるとすれば、よほど利回りをよくするとか、範囲を広げるとか、税制面で考えて措置するとか、後日日銀に回りインフレ要因となるおそれなしとしないことも考え合わせますと、これまでの国債発行は、歯どめとして建設国債と市中消化の二原則があったのですが、今度のような赤字国債の歯どめをどう考えるか。歯どめなしに後年度も引き続いて発行を続けるならば、財制審の答申にもあるとおり、国民負担は莫大なことになることを考え合わせて、節度と歯どめには慎重を期せられたいと思うのであります。また、償還計画もどうしてやるか。なお、このような大量の国債発行に当たってまずなすべきことは、これはやはり古くから言われておる、いわゆる入るを計って出るを制することだというに尽きると思います。政府みずからの姿勢を正し、行政改革や行政経費の節減を初め、歳出をできるだけ圧縮し、歳入の確保、この歳入の確保を図ることが先決と思うのであります。これらの点について大蔵大臣の御所見をお伺いいたします。  次に、景気対策を実施するに当たり、特に緊急な措置を要する中小企業対策並びに雇用問題について総理並びに労働大臣にお尋ねいたします。  今日の深刻な不況の影響を最も手ひどく受けているのは、申すまでもなく中小企業、そうして雇用不安におびえている労働者の方々であります。政府の一次、二次、三次と相次ぐ対策にもかかわらず、中小企業経営は一段と悪化し、生産は落ち込み、倒産は多発し、季節的にこの傾向に拍車がかかるおそれがあると見なければならない情勢、特に大企業に依存して、大企業不振のあおりを受けている下請や取引企業が苦況に立たされているのであります。労使が頼みの綱としてきた雇用調整給付金制度によって一時帰休制をとり、解雇を見合わせてきた企業も目立って多く、一時帰休者の休業手当の支給のために、本年度分の政府雇用調整給付金百四十二億円は早くもパンクするほどの事態になっております。しかも、なお受注が回復する見通しがないことから、大規模な雇用調整に続いて本格的な雇用合理化を進め、今後の低成長時代を企業が生き抜くために経営の体質の改革に取り組もうとしているのであります。政府におかれても金融と信用保証との両面からきめ細かい不況対策を練っていることと思いますが、中小企業のこれ以上の悪化は何としても食いとめなければならない。第四次の不況対策を含めて、どのような対策を考えているかお尋ねいたします。  したがって、このような情勢から、多くの企業では新規採用のストップないし大幅採用減の方向が打ち出され、総理はすでに自民党内に学生就職対策委員会を設けられていますが、これも失業者の大量発生が心配されている際だからであります。このように、不況は底入れと言われながら、雇用情勢に関する限りでは、じわじわ悪い方向に動いており、大きな社会問題になろうとしているのであります。これは、今回の不況がかつてなかったほど深刻だからかもしれません。が、それ以上に、これからの日本経済を長期的に見て、夢よもう一度と高度成長へ復帰するのでないとすれば、この雇用問題、失業者問題は簡単に立て直しすることができるかどうか、この辺を伺いたいのであります。雇用の現況と先行きの見通しはどうか、また当面の雇用不安を乗り切るための具体策と完全雇用を貫く根本施策があれば承りたいところであります。大蔵大臣並びに労働大臣にお尋ねいたします。  三木総理はこのほど、三木内閣の大きな夢として、新しい福祉国家の建設を目指す長期ビジョンとして生涯設計計画、いわゆるライフサイクル計画をまとめられ、その構想を明らかにされたのでありますが、この構想は、繁栄や発展を全体としてとらえるものでなく、人の一生涯を中心に据えた、生きがい、人生を考えた総合的な福祉計画として高く評価されているところであります。しかし、この計画の実現には数々の困難が予想されるものも多く含まれていると思われます。総理には、これを前向きに受けとめ、強力な指導力を期待するものであります。総理は、すでに自民党政調会に強力な調査会を設け、党内の合意を図るとともに、各関係省庁にも検討を指示し、来年度予算案にできるものから盛り込みたい意向と言われていますが、どの程度のことを考えておられましょうか。  本計画の実現について最大の問題は、これが実施予算財源でありましょう。また、これを支える経済社会の考え方そのものでもありましょう。この構想は、人間一生を通じて充実し安定した生活保障する社会をつくることを目標として四つの柱で諸施策を進めるべきだとしているようでありますが、このように大きな政治の夢が現実の政治となるかどうかは、相当長期にわたって物心両面から幅広く論議を起こし、国民的な合意を得ることが必要ではないでしょうか。私としては、物より心を大切にせよと言いたいのです。哲学者の鈴木大拙氏や出光佐三氏が六十年間の血のにじむような体験に基づいて提唱しておられ、また実践しておられる精神面から日本人の真の姿の回復日本の道徳の実行を図ること、まずここから行うべきだということを主張したいのであります。  この計画の対象は広範で、その内容も複雑多岐にわたっていることから、この構想を推進するための核となるべき担当の役所及び審議会を指定した方が効率的だと思われます。三木総理よりこの点承りたいところであります。  次に、治安対策について総理にお尋ねいたします。  犯罪は社会を映す鏡だとも言われますが、昨今爆弾テロの暴挙を重ねる傍若無人の過激派の振る舞いは、憎んでも憎み足りないほどの強い憤りを感ずるものであります。一連の企業爆破を行った東アジア反日武装戦線爆弾グループの一斉検挙で全容が解明され、私たちはほっと胸をなでおろしたのでありますが、最近また頻繁に見られる爆破襲撃事件は、当面の目標を天皇陛下御訪米阻止に向け一斉に動き出したものと見られております。相次いで起こるこの爆弾闘争は、相当なすそ野の広がりがうかがわれ、連鎖反応を恐れるのであり。爆弾事件は起きてからでは手おくれです。先般の企業爆破事件捜査に見られたような厳重な徹底的な検挙体制をしいて、未然に防止する手だてを切に望まれるのであります。そのための費用や人員の投入を惜しんで悔いを残してはならない。爆弾をもてあそぶ不穏分子は、その隠れみのとして平凡な市民生活を装っているために、犯人の所在を突きとめるのは警察の力だけでは限度があります。市民一人一人が被害者意識を持って、社会を挙げて立ち向かう心構えが必要と思うのであります。この際、当局に徹底的な措置を強く要望するものであります。なお、立法措置によって爆弾対策を講ずべきであるとの意見もありますが、総理の御所見を承りたいと存じます。  次に、地方財政問題について大蔵大臣にお尋ねいたします。  今日、地方自治体もまた国の財政欠陥に見られるとおり深刻な財政難に陥っております。五十年度の地方財政は、都道府県がすでに予算に計上した税収が確保できず、一兆円近い歳入不足を生じると見込まれ、各府県では、国からの財政措置がない限り大幅な歳入欠陥は避けられない実情にあります。府県の税収の四〇%以上を占める法人事業税の大幅な見込み違いと、国税三税の減収に伴う地方交付税減額による財源不足は、待ったなしに地方財政を危機に追い込んでおります。危機を招いた原因についてはこれまでもたびたび指摘されているところでありますが、要するに、財源が足りないというのでなく、高度成長時代の税収の伸びに合わせ財政規模を急速に拡大したところに問題があると言われています。国家公務員給与を上回る給与のあり方や先取り福祉見直しなど、正すべきは正し、一日も早く健全な財政の立て直しを図られんことを望むものであります。しかし、今日、地方財政の危機を打開していくためには、自治体の自助努力だけでは限界のあることは確かであります。政府は、今回提案される補正予算措置と財政を軸とする景気浮揚対策を打ち出すに当たり、地方財政についても、次の積極的な対策を講じ、中央・地方とも不況の脱出を図るべきものと考えます。その一つは、地方交付税落ち込み分の補てん、その二つは、不況による地方税減収補てん、その三つは、公共事業費の増額に伴う財源措置であります。また、地方財政負担となっている超過負担の年度内解消に積極的に取り組むとともに、悪化している市町村財政についてもこの際きめ細かな配慮が必要と思うが、大蔵大臣の御所見を承りたいのであります。  次に、外交問題について総理並びに外務大臣にお伺いいたします。  質問に入る前に、去る十四日母港に帰ってきた悲しみの松生丸事件について、現時点における関係を承っておきたい。  このたびの日米会談は、差し迫った懸案こそなかったが、野党諸君などのためにする批判は論外として、現実に安全保障インフレ、エネルギー問題など重大問題を抱える国際社会の視野に立って日米間の相互の信頼と理解が深められ、緊密な協調が再確認されたことは、世界、特にベトナム、インドシナ以後のアジアの安定に寄与するところ大なるものがあったと思うのであります。今日、わが国にとって、朝鮮半島の平和維持がアジアの安定や日本の安全にどのような意味合いを持っているのか、的確な現実認識を得ることが何よりも大事であると思います。この点、戦争巻き込まれ論に巻き込まれずに真意を徹底させることが何より必要だと考えます。  なお、わが国の安全保障と核防条約をどのように位置づけて考えるべきか、あわせてお伺いします。  次に、先般行われた日韓閣僚会議について承りたいのであります。金大中事件、そして朴大統領狙撃事件などの不幸な出来事によって中断されていた日韓閣僚会議がソウルで開かれたのでありますが、ベトナム以後を迎えたアジアでは、朝鮮半島の動向が国際政治の大きな焦点になっている。この会議は、そうした情勢の中での日韓関係を方向づけるものとして重要な意味があり、また、そういうところに意義深いものがあると思うのでありますが、外務大臣の御所見を伺いたい。  日中平和友好条約と覇権問題についてお尋ねします。政府は当初、日中平和友好条約は両国永遠の平和友好関係の基盤とするにふさわしい原則をうたったもので問題はない、こう報ぜられていましたが、その後いわゆる覇権条項で硬直状態を続けています。外務大臣はこの問題の打開のために、国連総会に出席するのを機会に中国の外相と会談することを明らかにされました。この際、いわゆる覇権問題をどのように理解すべきか、御所見があれば承りたいのであります。  次に、中東和平の進展は、第四次戦争から一年十カ月を経て現実に大きな進展を見せたことは、画期的な意義を持つものとして心から歓迎するものであります。もちろん、中東情勢が真に安定するかどうかはむしろこれからでありましょう。私は、国連安全保障理事会の決議を尊重し、次の和平に向かって恒久性を考慮しつつ協力すべきであると考えますが、御所見を承りたいのであります。  以上、私の質問国民的関心事にしぼってきましたが、最後に一言申し述べさせていただきたいことがあります。  現下の重大時局は、総理所信表明演説のとおり、今日民主政治と議会制度とが、この困難な時局を突破するために、果たしてその担い手になれるかどうか歴史的な試練に直面していると思います。私はこの試練に耐え抜いていく唯一の道、ただ一つの道は、国民多数の支持を得て政権を担当している自由民主党が積極的に国政の責めを持つことだと思います。各政党も国会も、この事実をお互いに認め合いながら、三木総理のいわゆる対話と協調の政治によって、新しい理想主義と新しい現実主義の担い手となって、この難局の打開に全力を傾けられんことを切に望んで私の質問を終わります。(拍手)    〔国務大臣三木武夫君登壇、拍手〕
  15. 三木武夫

    国務大臣(三木武夫君) 八木君の御質問にお答えをいたします。  最初に、私の政治姿勢に関しての御質問がございましたが、八木君も御記憶にあることと存じますが、私は訪米の前後二回にわたって両院議員総会、自民党の両院議員総会でありますが、申し上げたのであります。私の政治の姿勢として対話と協調という姿勢は崩さない。しかし、対話と協調といっても、それにはやはり越えられない限界はある。それは自民党なら自民党の立党の精神、基本的な立場であると。これは各政党とも同じだと思うのであります。それを崩さない限り、建設的な妥協もこれは拒否するということでは、私はそういうオール・オア・ナッシング、何でも反対というような行き方では議会制民主政治は育たないと思っておるわけでございます。  いま八木君も御指摘になりましたが、日本の議会制民主主義というものは、八木君御指摘のとおり、いわゆる大きな試練期に私はある。こういう複雑な世の中で、一体、議会制民主政治のもとで、この問題を処理する能力を議会制民主主義が持ち続けることができるかどうかということは、これは日本ばかりではございません、世界的にも大きなやっぱり民主政治の試練期だと私は思っておるわけであります。やはりこれを、どうしても議会制民主主義を守るためには、与党ばかりでなしに、野党もこれを守るための共同の責任者であるという自覚を持ってもらわなければならぬと思うのでございます。そのためには私は、この対話と協調の精神に基づいて善意とまた寛容さというものが与野党ともに要求されていると思うんです、善意と寛容さ。それに反して対決主義というものは、こう何でも対決主義というものは、民主政治を危殆に陥れて政治不安が私は起こると思う。だから、対話と協調ということが政治不安に陥れるのではなくして、対決主義こそが政治不安をもたらすものだということが私の信念でございます。そういうことで、今後の国会にも対処してまいりたいと考えております。  また、靖国神社の参拝の問題についてお触れになりましたが、御指摘のように、八月の十五日、私は靖国神社と千鳥ケ淵の戦没者墓苑を参拝いたしました。これはやはり戦後三十年であるという、歴史の、何といいますか、区切りであるといいますか、そういう一つの節目であるというか、そういう考えが私にあったわけでございます。八木君も御指摘のごとく、諸外国はどこでも国家、国民のために生命をささげた人々のみたまに、宗教とかイデオロギー、政治を超越して、だれもがいつでもお参りのできる共通の祈りの場というものを各国とも持っておるわけでございます。だから、日本の場合も、国民的合意のもとにこういう共通の祈りの場というものを持ちたいものだという強い念願を私は持つものでございます。そういうことで、個人の資格でありましたけれども、八月十五日に参拝をいたしたわけでございます。しかし、憲法二十条の三項による宗教と政治との分離の規定というものは厳格に守らなければならぬと考えております。  次に、国会解散について私の所信を御質問になりましたが、これはもう前から言うがごとく、国民の願いも、今日のような経済的難局をやはり政府は全力を挙げて打開してもらいたいということが国民の願いと私は受けとめております。したがって、全力を傾けてこの難局打開に当たる考えでございまして、私の頭の一隅にも解散という問題はないということを申し上げておきたいと思います。  また、今日の中小企業の問題について八木君はいろいろとお触れになりました。私も、日本経済における中小企業のウエートというものはよその国とは違う、中小企業が安定しないと日本経済は安定をしないということで、中小企業対策には政府としても非常に配慮をいたしておるわけでございます。今回の非常な不況の中にあって、中小企業には特に厳しいものがありますので、第四次の景気対策においても、中小企業金融の円滑化であるとか、その他中小企業に対しては細かい対策を講ずることにいたしております。  また、私のライフサイクル計画と申しますか、総合福祉生涯計画とでも申すべきこういう計画についていろいろお話がございました。私は、人間の寿命というものを調べてみたことがあるわけですが、昭和十一年の人間の寿命と今日の人間の寿命とでは約二十五年間やっぱり人間の寿命が延びた。短い人生の中で二十五年間平均の寿命が延びたということは大変なこれは大きなやっぱり変化であります。こういう人間の生涯の計画の中にも大きな変化が生じておるわけでありますから、この長い人生を安心して、しかも希望を持って、努力する者は報いられるような福祉社会、まあ、そのためには人間の生涯のあらゆる段階において、経済的、社会的不安を除くための体系的な保障を与えられて、国民の一人一人が安心して、自分の信念に従って生きがいを追求しながら一生送れるような福祉社会、しかも外国の福祉政策をまねをするんでなくして、日本の風土に適した福祉社会、すなわち、自主的な努力を促し、みんなやっぱり国とか地方団体に頼るのではなくして、自主的な努力を促す機会の均等と社会的連帯によって安定を保障するような日本的な福祉社会ができないかということが私の年来の願いであったわけであります。こういう総合福祉の生涯計画というものに共鳴をされた若い学者、それが相当時間をかけて具体的な施策を検討して今回成案を得まして、東畑精一氏から私はそれをちょうだいをいたしたわけであります。むろん、この制度、慣行という面では、検討さるべき点が非常に多いのでありますけれども、この問題は、今日の段階において取り上げるべき大きな課題であると考えまして、自民党には生涯計画調査会を設け、内閣官房に生涯計画連絡会議をそれぞれ設置して検討を始めてもらっております。これは長期的なビジョンでありますから、すぐあしたから動き出すというものではございませんが、どうか、八木君の御指摘のような、国民的合意のもとにこの構想がひとつ日の目を見るように願っておるものでございまして、これからどうするかということは、手続も含めて十分この連絡会議とか調査会において検討をしてもらいたいと思うわけでございます。  また次に、爆弾のテロの暴挙なんぞについていろいろお挙げになりまして、私も八木君と同じように、この問題は大変に心配をいたしておるわけであります。政府といたしましても、総力を挙げて断固たる処置をとって、この種事件を未然に防止するということが大事である。これを効果あらしめるためには、御指摘のように、国民がもう暴力というものはどんな理由があろうとも絶対に許さないと、こういう国民の固い決意あるいはまた国民の協力というものが、私はこういうふうな事件を防止するためには絶対に必要だと思うわけでございます。国民の御協力を得たいと期待をいたしておるわけでございます。まあ、政府としては現行の法令を活用して取り締まりの徹底を図っておりますが、再発防止の観点から立法措置の必要性というものの有無についてもいま検討をいたしておるわけでございます。  しかし、私は最後に触れたいのは、八木君も御指摘になった、人間の心というものが大切であるということにお触れになりましたが、私は全くそう思うんであります。いま人間の心の問題というものを私は問われておる時代だと思う。何でも自分が、自分の言うこと以外は絶対に認めない、自分の考え方以外は切って捨てると、こういうふうな社会的な風潮というものが起こりましたならば、民主主義の社会というものは健全に育っていくものではないわけでありますから、国民生活の場においても、政治の場においても、そういう社会的風潮というものを起こさせないように防止をする努力というものも、いろんな極端な行動というようなものを防いでいく一つの社会的な背景になる。人間の心の持ち方というものは、きわめてやはり重要な問題を今日投げかけておる、こういうふうに考えて、八木君の、人間の心が大切であるということは私も同感でございます。  また、松生丸事件、日韓会談等については外務大臣からお答えいたしますが、朝鮮半島の平和維持というものは、日本の安定、日本の安全にとってきわめて重要であることはいまさら言うまでもないと私は思います。朝鮮半島に限らず、アジア・太平洋のいかなる地域においても武力衝突が起これば日本の安全は脅かされるわけで、ましてや目と鼻の先の朝鮮半島にそのようなことになればまことに容易ならぬ事態と考えられますので、どのようにして朝鮮半島における平和を維持していくか、こういうことに対して、日米会談においてもこれが一番の大きな一つの関心事であります。日米首脳会談を、ある野党の方々は軍事力の強化というふうに評価をされる方がおりますが、これは事実に反するもので、私どもはフォード大統領と有事を話したんじゃなくして、朝鮮半島の有事をどうして防ぐかということが最大の関心であったということを明らかにいたしておく次第でございます。したがって、われわれは、朝鮮半島の平和維持というものが非常にきわめて重要である、そういう観点から朝鮮半島の緊張緩和に今後とも努力をしていく所存でございます。  また、安全保障と核防条約についての位置づけというお話でございましたが、日本は核武装をしない、これはもうほとんど国民の私は合意だと思う。一部に反対もあるかもしれぬが、国民のこれは合意である。亡くなられた佐藤前首相も非核三原則でノーベル賞までもらって国際的にも評価されたわけであります。そうして核武装をしないということが国民決意であるとするならば、やはり核防条約は批准すべきもので、それをこう核防条約の批准をおくらしているというのは、核武装をするのじゃないかという疑惑を国際的に生じておることは事実ですね。だから、日本のこの安全保障政策というものに何かこう各国に不安定な感じを与えておることは私は否定できぬと思う。そのことが対日政策について不確定な要素になっている、疑心暗鬼をこう持つわけですから。こういうことはこの地域の安定に私は役立つとは思わないんです。やはり日本の安全保障という面から大きく考えてみても、やはり日本が核防条約に対しての毅然たる態度を示して、それを基礎にしてこれからは核戦争を防止することが人類の最大課題ですから、そういう意味において、核軍縮とかこの世界の恒久平和に対して、開発すれば開発することができるんだと、核武装もできる国がその開発の手を縛って国際社会において発言をするというのは説得力を持ちますね。できない国が言うんでないんだから、やろうとすればできる国がみずからその道を断ち切って世界に訴えるというのは迫力を持っています。そういう点で私はやはり核防条約というものを批准することが日本の安全のためにプラスである、こう判断するものでございます。  それから中東問題については、所信表明演説でも申しましたごとく、国連安保の理事会の決議二四二号——私、外務大臣をいたしておったわけであります——これを全面的に実施するということが、この中東和平のこれは非常に大きな原則だと思います。それにパレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利の回復というものを加えまして——二四二号の中ではそれはなかった。これを加えて、これがやはり中東和平の基礎だと思いますから、こういう大きな原則のもとに、中東に公正かつ恒久的な平和が実現するように、われわれとしても日本の力で及ぶ限りの協力をしていく考えでございます。まあ、そういう意味においてエジプトとイスラエルの新協定成立は、これは一つの全面的な解決ではありませんが、やっぱり一歩一歩ずつ積み上げていくよりほかには、一気にすべての問題解決できないわけでございますから、こういうことに対しては私は評価をいたすものでございます。  他はいろいろ各大臣に対しての御質問の、大臣の名前の御指定もございましたから、各大臣からお答えをいたす次第でございます。(拍手)    〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
  16. 大平正芳

    国務大臣(大平正芳君) 財政運営やり方につきましての御質疑がございました。仰せのとおりでございまして、歳入、歳出両面にわたりまして、厳しい態度で臨まなければならぬわけでございます。  歳出につきましては、すでに本年度も節減をお願いいたしておりますけれども、定員、機構の簡素・合理化を一層徹底を図り、厳しい政策的な選択をいたしまして、硬直化がこれ以上進むことのないように配慮してまいりたいと考えます。  歳入につきましては、現行税制のもとでの増収につきましてもいろいろ努力をいたしておりますこと御案内のとおりでございますが、いずれ増税をお願いしなければならないのではないかと思いますけれども、いまのような経済状況におきまして増税をお願いすることはいささか無理でございますので、とりあえずは、不本意ながら公債に依存せざるを得ないことと思うのでございます。  第二に、景気政策について、金融政策を早目に弾力的に活用すべきでないかという御意見でございました。私、全く同感でございまして、さればこそ、政府といたしましても、金利全体につきましてこの際引き下げを図りまして、景気の立ち直りに寄与いたしたいと努力をいたしておるところでございます。  第三に、公債政策についてのお尋ねでございました。仰せのように、大量の公債の発行自体について慎重を期さなければならぬことは当然でございますが、その公債の消化につきまして、資金運用部資金の活用、発行条件、税制上の措置等につきましては、仰せのような趣旨を体しまして、目下鋭意検討をいたしておるところでございます。  第四に、雇用政策についての財政当局の所見が求められたわけでございます。雇用政策は、現下経済政策の一番根幹になる重要な政策でございますので、財政面からもその推進に一層貢献してまいりたいと考えております。  最後に、地方財政についてのお尋ねでございました。仰せのように、景気の後退を反映いたしまして、交付税額の減収、地方税の減収、そういったものがあらわになってまいったわけでございまして、この問題につきましては、見込み額の確定を待ちまして自治大臣とよく相談いたしまして、仰せのような趣旨を体しながら具体的に処置方法を決めてまいりたいと考えております。景気対策に伴う地方負担の処置につきましても仰せのように配慮してまいるつもりでございます。もとより地方自治団体自体におかれましても、中央と同様のお気持ちで財政危機に対処していただく自助努力を私からも要請いたしたいと思います。  超過負担の解消でございますが、これは財政危機に見舞われたからと申しまして、既定の方針で超過負担を解消していこうというもくろみを変えるつもりはございません。五十年度におきましても千八百五十九億円という予算を計上いたしまして超過負担の解消に努めておりますけれども、今後も既定の方針に沿いまして鋭意この超過負担の解消には努力してまいりたいと思います。(拍手)    〔国務大臣福田赳夫君登壇、拍手〕
  17. 福田赳夫

    国務大臣(福田赳夫君) 景気対策には心理的効果が大事だと、そこでこの際、政府の方では景気対策物価対策に優先させる必要があるんじゃないかと、こういうような御所見でございます。まあ、ベテランであられる八木さんのことでありますので、おそらくこの趣旨は、物価の方もなかなか落ちついてきたじゃないかと、そういう状態を踏まえて、この際は景気政策に大胆な施策を打ち出したらどうだと、こういう御提言かと思うんです。そうでありますれば、私は全く全面的に同じ考えでございまして、いままさにそのような方向で施策を進めておる、こういうことでございます。  ただ、世の中の一部には、もうインフレはどうでもいいと、物価の方はどうでもいいと、もう一切景気政策でやったらどうだと、こういうことを言う人があります。まあ、恐らく八木さんはそういう一部の意見じゃないと思いまするけれども、もし物価はどうでもいいんだと、景気政策もっぱらやれという、そういう考え方に対しましては、物価のことを考えなけりゃ、景気政策をとってそうして景気上昇させる、いともこれは簡単です。しかし、それに伴ってインフレが起こる。これはもうつかの間のしかし繁栄なんです。あの一昨年のインフレ、その結果この不況が出てきた。今日、まあそれに直面しているわけですが、ここでまたインフレ政策をとったということになれば、再びまた深刻な不況になる。そればかりじゃない。インフレ社会ということになれば、社会の秩序、また社会そのものを混乱させるということになりますので、景気政策はとりまするけれども、物価インフレ、この問題につきましては目を離すことはできない。われわれの期するところは、インフレもまた克服しなけりゃならぬ、同時に景気上昇過程に持っていかなきゃならぬ、そういうことでありますので、ひとつ御理解のほどをお願い申し上げます。(拍手)    〔国務大臣長谷川峻君登壇、拍手〕
  18. 長谷川峻

    国務大臣(長谷川峻君) 最近の不況によりまして、完全失業者は、本年七月で八十七万、失業率は一・六%となっております。特に、この完全失業者の中で男子中高年齢者の割合が非常に高まっているということが非常に注目されることでありまして、今般の政府の第四次景気対策効果が本年度下期以降に浸透してくるもの、それを期待し、待っているものでありますが、企業の中におきましては、当面、残業規制の緩和、さらには一時帰休、そういうものの解除、そちらの方をやって、雇用回復そのものというものはなかなか注目してやるべき姿じゃなかろうか、こう思います。  先ほど大蔵大臣からもお話がありましたように、現下の雇用問題は大変な問題でございますから、ありとあらゆる持っております政策をフルに活用して、先ほど八木さんからお話しのありました雇用調整給付金などは九五%が中小企業の方々に適用されているわけでありまして、これによっての失業防止、あるいはまた失業している方々に対しましては雇用保険の給付金、さらにまた職業転換給付金制度を活用しながら機動的に職業紹介、さらにまた、いまはどうしても職業訓練の必要な時代ですから、そういう訓練の手当などを出しながら再就職の促進に全力を尽くしたい。  いまから先は経済の安定成長の時代でございますから、ここで考えなきゃならぬのは、やはりいままでのようなことじゃだめでして、雇用対策基本計画を見直しをやっておりまして、こういうときで特に高年齢者の雇用対策、産業構造の変化に対応した職業転換対策というものを重点にしながら、完全雇用推進に向かって内閣全体として推進してまいりたい、こう思っております。(拍手)    〔国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手〕
  19. 宮澤喜一

    国務大臣(宮澤喜一君) まず、松生丸の問題につきまして、その後のことを報告をせよという御質問でございました。  一昨日の夕刻、日赤から先方の赤十字に対しまして、二人の負傷者の帰還がいつごろできるであろうかということ及びその方法につきまして照会をいたしております。これについての返事は、ただいま現在、まだ到着をいたしておりません。  なお、北鮮に対します申し入れにつきましては、いろいろあらゆる場合を想定して事務的には準備を実はいたしております。事実の確認等から入らなければならないのではないかと考えておりますが、いずれにいたしましても、負傷者の帰還ということを先決にいたしたいと思っております。  日韓閣僚会議につきましては、仰せのように、このたびの閣僚会議で相互の理解を増進することができたと考えておりますが、共同声明の中で、両国間の善隣友好、協力の精神で東南アジアの平和安定に貢献をしようではないか、また、現在存在している緊張緩和について両国がいろいろ国際的な場で協力をしようではないかというようなことを約束いたしておりまして、御指摘のように、両国間の理解の増進に寄与するところがあったと考えております。  それから最後の一点は、日中間の平和友好条約交渉に関してでございまして、ニューヨークの国連総会において中国の外相とどのように接触をするのかというお尋ねであったわけでございます。で、できますならば、中国の外相とはかなり長い時間をかけて話をしてみたいと考えておりまして、まあ私の気持ちといたしましては、この交渉を過去九カ月ほどやってまいりまして、どうも思わしくないということについて、何か両国間に思い違い、誤解をしていたようなことはなかったであろうか、責任者が二人してこの問題を話し合いますのは初めてでございますので、まず、その辺のところから誤解はなかったであろうかというようなことを確かめておかなければならないと思いますし、それから早期の締結ということにわが国としては依然として熱意を持っているわけでございますけれども、その点中国はどうであろうかというようなこと、また、仮に早期妥結に両方とも熱意を持っておるとすれば、それをいままで妨げてきた障害といったようなものは何であったかといったようなことを少し時間をかけてゆっくり話をしてみたいと思っておりまして、あるいは場合によりますと、もっと具体的に覇権というものをどういうふうに考えるべきか、考え方の意見交換をするというようなことまで、場合によりまして話が及ぶこともあるかと存じますが、いずれにいたしましても、基本的な心構えはただいま申し上げましたようなことで話をいたしてみたいと考えております。  中東問題、日米につきましては、総理の御答弁がございましたので省略をさせていただきます。(拍手)
  20. 前田佳都男

    ○副議長(前田佳都男君) 質疑はなおございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  21. 前田佳都男

    ○副議長(前田佳都男君) 御異議ないと認めます。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時三十一分散会