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1975-11-12 第76回国会 衆議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年十一月十二日(水曜日)     午前十時十三分開議  出席委員    委員長 小宮山重四郎君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊三次君 理事 田中  覚君    理事 横山 利秋君 理事 青柳 盛雄君       小澤 太郎君    瓦   力君       千葉 三郎君    福永 健司君       宮崎 茂一君    山本 幸一君       諫山  博君    沖本 泰幸君  出席国務大臣         法 務 大 臣 稻葉  修君  出席政府委員         法務省刑事局長 安原 美穂君         厚生省援護局長 山高 章夫君  委員外出席者         警察庁警備局公         安第三課長   福井 与明君         法務委員会調査         室長      家弓 吉己君     ――――――――――――― 委員の異動 十一月十二日  辞任         補欠選任   木村 武雄君     宮崎 茂一君   中垣 國男君     瓦   力君 同日  辞任         補欠選任   瓦   力君     中垣 國男君   宮崎 茂一君     木村 武雄君     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  法務行政及び検察行政に関する件      ――――◇―――――
  2. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 これより会議を開きます。  法務行政及び検察行政に関する件について調査を進めます。  この際、クアラルンプール事件について、政府から発言を求められておりますので、これを許します。稻葉法務大臣
  3. 稻葉修

    稻葉国務大臣 去る八月四日、いわゆるクアラルンプール事件が発生し、犯人らの要求を入れ、わが国において拘束中の被告人ら五名を釈放したことにつきましては、すでに各位御承知のとおりであります。  事件発生後、政府としても種々その対応策を協議いたしましたが、人質とされた多数人の生命の安全を確保するためには、犯人要求を入れるもやむなしとの結論に達し、閣議においてその旨の決定が行われ、これを受けて私の命により、五名をマレーシア護送の上、同地において釈放したものであります。  今回の釈放措置につきましては、緊急かつ異常な事態のもとにおけるまことにやむを得ない措置として、委員各位並びに国民各位の御理解もいただけるものと考えるのでありますが、事柄重大性にかんがみ、過般総理大臣から国会における所信表明演説の中で特に御報告いたした次第であります。  もとより、法治国家わが国において、いかに多数の人質生命身体の安全を図るためとはいえ、実定法に定めのない措置により犯人らの要求を受け入れざるを得なかったことは、法秩序維持責任ある私の立場といたしましても、きわめて遺憾とするところであり、今後、このような事態が再発することのなきを期するとともに、法務省としても、関係省庁連絡協議しつつ、種々対策を検討しているところでありますが、事案概要釈放措置法的性格等の詳細については、刑事局長をして報告いたさせます。  委員各位におかれましても、この上ともこの種事犯根絶のため私どもに対し各般にわたり御支援、御協力を賜りますようお願い申し上げる次第であります。
  4. 小宮山重四郎

  5. 安原美穂

    安原政府委員 いま大臣から概況の御報告がございましたが、さらに詳しく事案概要政府がとった措置法的性格、今後の対策等につきまして、御報告申し上げたいと存じます。  事案概要でございますが、本年八月四日午後零時三十分ころ、日本時間でございますが、日本赤軍と称する五名の者が、拳銃、手製爆弾等で武装して、在マレーシアアメリカ合衆国大使館及びスウェーデン大使館に侵入して同所を占拠し、スウェーデン臨時代理大使アメリカ合衆国領事等五十三名を人質とした上、わが国において勾留中の西川純ら七名の釈放等要求するという事件が発生したのであります。  政府は、直ちに内閣官房長官本部長とする対策本部を設けますとともに、福田内閣総理大臣臨時代理井出官房長官稻葉法務大臣木村運輸大臣等関係閣僚を中心に対策を協議いたしましたが、人質を救出するための適切な方策が見出せない上、マレーシア政府の強い要請もあり、多数人の生命の安全を確保するためにはこの際犯人らの要求を入れ、マレーシア政府の方針に協力して事態の解決を図る以外に適当な方策はないとの結論に達し、同日深更、閣議において、犯人らが釈放等要求する七名については、その意思を確認の上、クアラルンプールに向けて出国せしめる等適宜の措置をとることが決定されたのであります。  そこで、法務大臣は、この閣議決定に基づき、同月五日未明、検事総長に対し、犯人らの意向に応ずる旨意思表示した西川純ら五名について、これをマレーシア護送の上、釈放することを命じ、これを受けた検事総長は、同日東京高等検察庁検事長を通じ、東京地方検察察庁検事正に右の措置をとるよう命じたのであります。東京地方検察庁においては、検事正等東京拘置所長に対し、右五名の護送及び釈放指揮した次第であります。  そこで、西川純ら五名は、同日東京拘置所職員十二名の戒護のもとに、東京地方検察庁検事一名が同行して、日本航空特別機マレーシアまで護送され、翌六日午前十時三十分ころ、同特別機から降機する際、同国クアラルンプール国際空港において釈放され、以後マレーシア官憲に引き渡され、その戒護のもとに置かれたのであります。  その後、右西川純ら五名は、犯人らが抑留していた人質と交換に犯人側に引き渡され、同日午後七時十五分ころ、新たに犯人側人質となった外務省越智領事移住部長、同村田中近東アフリカ局参事官マレーシア国通信政務次官及び同内務次官とともに前記特別機でクアラルプールを出発し、同月八日午前十時十五分ころ、リビアアラブ共和国トリポリ空港に到着し、犯人ら五名とともに同国警察当局拘束下に入り、同時に、人質となっていた趣智部長ら四名は釈放されたのであります。犯人ら及び西川純ら計十名は、現在なお、リビアアラブ共和国官憲により引き続き拘束されている模様であります。  以上が事案概要でございますが、次に、本件釈放措置法的性格について御報告を申し上げます。  今回の事件では、裁判執行として現に身柄拘束している行政府が、刑罰権の適正な実現と多数人の生命身体の安全の確保とのいずれを選ぶかの速やかな判断を迫られたのでありまするが、このような異常かつ緊急な事態は、現行実定法規が予想するところでなく、これに対処するための手続規定されておりません上、急を要することでありましたので、司法機関判断を求める余地がなく、また、立法府による措置を求めるにも由なきものでございましたので、行政最高機関たる内閣責任において、マレーシア政府要請に応じ、多数人の生命身体安全確保のためには身柄を一時釈放するのもやむを得ないと判断し、その旨の措置をとったものであります。  その意味におきまして、今回の措置は、実定法上の手続に従ってなされたものではありませんが、本件のようなきわめて異常かつ緊急な事態のもとでは、真にやむを得ない措置として法秩序全体の見地から許容されるものと考えられるのであります。諸外国においても、たとえば西ドイツにおいて、本年三月いわゆるローレンツ事件に際し、在監者五名釈放した事例がございます。  なお、今回の釈放措置は、緊急の事態にかんがみ、人質人命救助のため一時被告人等身柄拘束を解いたにすぎないものでありまして、勾留裁判確定判決効力等はこれによって何ら影響を受けるものではなく、被告人等に対しては勾留状または確定判決効力により、原状回復のため再度身柄を収監することのできるものであると考えております。したがいまして、外務省を通じ、右の五名につきましては、わが国において身柄の引き渡しを受ける用意がある旨申し入れ済みであります。  また、釈放手続検察官を関与させましたのは、法律明文根拠に基づくものではございませんが、公訴を行い裁判執行を監督する検察本来の事務と密接に関連いたしますので、手続の適正を期するため、検察官をして行わしめることとし、法務大臣検察庁法第十四条に準じた手続により検事総長指揮したものであります。  続いて、今後の対策等でありまするが、今回の釈放措置は、多数の人質生命の安全を確保するためまことにやむを得なかったものとはいうものの、犯人らの不法な要求に応じ法律によって適法に拘束している者を釈放せざるを得なかったことは、法秩序維持の根幹に触れるものとしてきわめて遺憾であり、今後かかる事態が再発することのないよう各般措置を講ずる必要があるものと考えられるのであります。このため、法務省におきましても、外務省等関係機関と密接な連絡をとりながら、前記犯人ら及び釈放した五人の身柄確保及び原状回復について鋭意努力することはもとより、類似の犯罪発生の場合における有効な対応策につき検討いたしますとともに、今後におけるこの種事件防止のため、内外における日本赤軍関係組織の実態の解明関係者出入国等についての監視体制強化に努め、さらには、当面必要とされる国内法令の整備について検討を加えるほか、先般開催されました国際連合主催犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第五回国際会議におきましても、広くこの種事犯防止方策について各国の理解協力要請するなど、国際協力強化を図っているところであります。  以上をもって報告を終わります。
  6. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 これにて説明は終わりました。     ―――――――――――――
  7. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。横山利秋君。
  8. 横山利秋

    横山委員 いま御報告を伺ったのですが、この御報告の前に、総理大臣国民国会の批判を仰ぐ意味所信表明演説報告した、こういうことなんでありますが、この報告という意味はどういうことなんでありましょうか。実定法にあらざる特別措置を勝手にしたから国会了承をしてもらいたいという了解を求めた、とう解釈をされるべきものでしょうか。大臣がいま御報告なさったのは、いかなる趣旨で御報告になったのでありましょうか。
  9. 稻葉修

    稻葉国務大臣 横山委員のおっしゃるとおりの趣旨報告したものと思います。現に、日にちは忘れましたけれども、参議院の予算委員会秦野章委員質問にも同様なことがあって、本来行政権判断が、行政権自体は正しいと思っているのかもしらぬけれども国民、その代表たる国会、国権の最高機関たる国会に承認を求めるべきではないか、こういう御質問に対し総理大臣は、御報告を申し上げ、了承を得たいと思っている次第でありますという答弁をしておりまして、横山委員の仰せのように、報告をして国民理解を得たい、こういう趣旨でございます。
  10. 横山利秋

    横山委員 超法規的な高度の政治判断からの統治行為論であるからと言えばそれまでのことではありますが、念のために将来のために一、二聞いておきたいと思うのであります。  裁判官令状なしに釈放したということなんであります。きょうは最高裁を呼ぶのをちょっと失念をいたしておって恐縮なのでありますが、法務大臣にお聞きいたしますが、裁判官拘束下にある者を裁判官に黙って、了解も得ないで持っていってしまうということについて、一体どうお考えだったのでしょうか。つまり、裁判所に相談をして裁判所に四の五の言われても困るし、あるいは迷惑をかけても気の毒だし、おれが勝手にやることだから、おれの責任でやることだから目をつぶっておってくれ、こういう意味でありましょうか。
  11. 稻葉修

    稻葉国務大臣 これはきわめて重要な御質問ですが、私どもの当時の感覚としては、私自身ですが、専門の法律家でないものですから、政治感覚として、これは三権分立を紛淆するような疑惑もないわけでないがと思ったのであります。そこで、今回の釈放に当たって、結果としてはお説のように裁判所了解を求めないでやったのです。事実はおっしゃるとおりで、了解を求めないでいたしました。今回のような異常かつ緊急な事態現行実定法が予定するところではなく、これに対処するための手続規定されてない以上、これは急を要することであって司法機関判断を求める余地がないので、行政最高機関たる内閣責任判断において釈放するほかない、こう思ったわけであります。しかし、釈放に当たっては、裁判所に対しその都度事件経緯等連絡してあると私は聞いておりますが、その他の詳細につきましては、刑事局長に専門的な法的、理論的な解明をしてもらいます。
  12. 安原美穂

    安原政府委員 いま大臣の申されましたように、今回の釈放措置につきましては、裁判所と協議したということはございませんし、意見を求めたこともないわけでありまするが、ただ、いま横山委員指摘のように、裁判官勾留状に基づいて検察官執行指揮して刑事拘禁施設に収容しているという関係にございますので、裁判所に対しましては、許可を得るとか協議をするということはございませんでしたが、釈放に当たりましては、事前に、最高裁判所事務総局に対しまして当省の刑事局担当官から、それから東京地方裁判所等それぞれの裁判所に対しましては東京地検公判部長から、釈放する旨の事務連絡をいたしております。それからさらに、事後におきましては、八月の十二日に私自身最高裁事務総長事務総局刑事局長を訪問いたしまして、今回政府がとった措置についての説明をいたしまして、私ども理解するところでは御了承を得たというふうに考えております。  そこで、そういうことがなぜできたかということは、いま法務大臣の申されましたように、緊急かつ異常な事態における超法規的措置としてやむを得なかったということによってその合法性が認められる、あるいは法秩序全体として許されるということでございまして、御案内のとおり通常の事態におきましては、勾留中の被告人釈放するためには、勾留の取り消しなり保釈なり勾留の一時停止というようなことでなければなりませんし、刑の執行中の者につきましては、検察官指揮によって刑の執行停止するという刑事訴訟法上の手続が必要でございますが、そういう手続は、実定法上今回の事態を賄うような規定がなかったことながら、緊急の事態人質生命を守るという他の法益との関係において、実定法にはないがそういう措置をすることが法秩序全体としては許されるのではないか。しかも、裁判官令状が出ておる場合でも、現実にその身柄拘束すること、そのことは行政権に属することでもございますし、まして刑の執行ということは行政権の範囲に属することでもございますので、行政に全然権限のないことではないことにつきまして、いまのような異常な状態において行政府責任においてそのような措置をとったということでございます。
  13. 横山利秋

    横山委員 いつも思うのですが、あなたの説を聞いておるといかにももっともなんだけれども、私のような素人から言うと回りくどくて、どうも後で、ああ何だったかなという気がするのです。要するに、私が聞いておるのはこういうことなんですよ。あなた方だって徹夜してでも会議をして決断ができるものを、裁判所決断ができないはずはないと私は思う。あなた方は、通告をした、釈放するから承知してくれ――承知してくれと言わずに、通告をすることはちゃんとしたと言うのですね。ところが、向こうの返事はわざともらわずに、釈放してしまったということなんですよ、わざと。向こうに、裁判所側決断する時間がないというわけではなかったと私は思うのですね。あなた方だって決断ができたのだから裁判所だって決断できないはずはない。決断ができる、けれども、わざと決断をさせないで、通告をしただけで自分たちが自主的な判断でやらしてもらった、こういうふうに理解をしてよろしいかというのが一つ。  それから二つ目は、どろぼうをつかまえて、これをちょっと縛っていてくれ、許可をもらいたいと言っておいたものが、どろぼうを、つかまえたやつを、自分がどろぼう釈放してくれと言う理由がない。そのことを法律にちっとも書いてないから、手紙、書類の持っていきようがない、そういう言い方ですわな。いわゆる実定法上のあれがないということなんですね。だけれども、これはお役人的な言葉だと思うのですよ。こういうような事情、超法規的なかかる特殊事態であるから御了承願いたいと書いて持っていけば、それだけの話じゃないですか。それがやむを得ざる緊急避難的な措置であるとするならば、法務大臣判こをついた、やむを得ざる緊急避難措置であるから釈放さしていただくという書類を持っていけばそれだけの話じゃないですか。言葉で言うことはいかようでもいい、文書では書けない、こんなばかなことはないですよ。これは非常に将来に残る問題でありますから、あなたの言う、そういう文書を書いて裁判官に持っていく法規の例文が法律にどこにもない、実定法上の定義がないという論というのはお役人の言うことである、私はそう思うのですが、法務大臣はどうお考えですか。
  14. 安原美穂

    安原政府委員 後の方から申し上げますと、口頭でやったということは、文書でやることが困るから、ぐあいが悪いから文書を出さなかったというような理由は全然ないのでございまして、裁判所からそういう連絡を受けたということの文書をよこせと仰せられれば、当然に渡すことは可能なわけでありますが、いずれにいたしましても、文書を渡すにいたしましても、そういう手続法律には書いてないわけでございます。  そこで、なぜ裁判所判断を求めなかったかという理由につきましては、われわれ行政府といたしましては、先ほど来るる申し上げておりますように、司法裁判所というものは、実定法規定のある法律を適用するということを本来の仕事としておるにかかわらず、今回の処置は実定法上何ら示されておらない、明文根拠のないことを裁判所に対して求めることは相当ではないのではないかということと、もう一つは、やはりおまえらが判断できたのだから裁判所判断できるだけの時間の余裕があったと申されますが、当時非常に緊急に要請されておりましたとともに、御案内と思いまするが、正式に裁判判断を求めるとすれば、それは最高裁判所に求めるのではなくて、それぞれ裁判をいたしました当該被告事件の係属しております裁判部裁判官勾留停止ということを求めるというほかはないわけでありまするが、今回のような緊急の事態におきましては、このようなことの結論というものはいわば画一的に統一的になされることが必要でありまするが、今回のような場合は、爆弾事件の者はある部に、それからその他の、浅間山荘事件被告人は別の部にというように、各部に分かれておりますので、各部に分かれた裁判官にそれぞれ判断を求め、それが結果において一致すればよろしいですが、それは必ずしも一致することの保証もない。それで、さらにそれを抗告をするというようなことに相なることは緊急の間に合わないことでありますので、区々に分かれることを避けるという意味においても、緊急の要請からいって行政責任においてやるのが妥当であり、その方が緊急の間に合うという意味において、裁判所判断を求める余地がなかったというのが、実情であります。
  15. 横山利秋

    横山委員 それは少し思い上がりではありませんか。裁判所側に対する侮辱ではありませんか。おまえに任して判断しておったら、時間もたつだろうしまとまらぬだろうから、なおおれが勝手にやらしてもらうから、さよう心得ろ、簡単に言えばそういうことじゃないですか。どうですか、同僚の諸君はどう思いますかね。裁判官令状下にあるという厳然たる事実を無視した、これは間違いないことですね。裁判官令状なしには釈放できない、裁判官権限下にある者を勝手に行政府措置をした、間違いないことです。その間違いないことをこれからどう解釈されるかという点について、私は――あなた方は勝手にやらしてもらった、勝手にやったのは、裁判所は時間がかかってしょうがないし、意見でも分かれたらえらいことになっちゃうから、まあ勝手にやらしてもらった。そういうことについて、裁判所側暗黙にそれを認めた。あなた方の理論は、暗黙に認めた、黙示の了承を得た、そういうふうに判断をしていらっしゃるわけですか。
  16. 安原美穂

    安原政府委員 念のために申し上げしておきますが、裁判所責任をおっかぶせるつもりは毛頭ございませんので、裁判所了承したからやったということではございません。ただ、御指摘のとおり、私ども勝手にというような言葉には価値判断が入っておりまするが、緊急の事態においていろいろ考えた末で、超法規的に法秩序として許されるという信念のもとにやったわけでありまして、勝手に裁判を無視したという御評価はいささか遺憾に存じますが、それは別といたしまして、裁判所了承を得たからやったということではございません。ただ、御指摘のように裁判官勾留の出ておる被告人釈放したということは厳然たる事実でございますから、その意味において、公訴を提起して裁判所裁判の係属中の人間を釈放したということについては、裁判所に御通知を申し上げておくのが礼儀であるという意味において御連絡を申し上げたわけであります。ただ、実際問題として、裁判所としてはその措置が不当であったということをおっしゃったという事実はないということを、念のために申し上げた次第でございます。
  17. 横山利秋

    横山委員 大臣にもよく言うておきたいと思いますが、いかに超法規的な措置とはいえ、いかにこれがやむを得なかった措置とはいえ、今回の措置が大変適切、果断、機敏であったというふうに自己満足なさったり、おれのやったことは全くよかったという思い上がりをなさったり、これが例となって、今後もこういうことが許されるとお考えになったり、あるいはここで一つの端緒が開けたから、今後さらにこれがある意味において前例となって拡大できる可能性がありとお考えになったり、そういうことがあっては困るのであります。したがって、私は水をぶっかけるような言い方ばかりして恐縮ではありますけれども、思い違いをしないようにしてもらいたいと思うのであります。  その次に質問をしたいのは、五人の釈放に際して、検事総長への指揮検察庁法第十四条による法相指揮権によるものではないが、被告人服役者釈放検察本来の任務と密接に関係するので、適正を図るために十四条に準じた措置をとったということだそうであります。まあこれもまた素人考えなんでありますけれども閣議なり法務大臣がこの超法規的な決断をしたならば、後、検事総長への指揮をなさるということについて、検察庁法十四条による指揮権によるものではないが、結局それと同じことをしたというあいまいなことをどうして言うのか。事実上は十四条による行為が行われて、十四条による作業が行われた、こう見て差し支えないのではないか、そう思いますが、いかがですか。
  18. 安原美穂

    安原政府委員 検察庁法十四条に準じた手続大臣総長指揮されたということは、なぜ準ずるという言葉を使ったかということは、要するに、今回のような釈放あるいは刑の事実上の執行停止というようなことは実定法にないことでございますので、本来の検察庁法が予想しておる検察事務ではないという意味において、今回の指揮は、本来検察庁法が予定しておる具体的な事件の取り調べ、処分についての検事総長への大臣指揮という十四条そのものではない。しかしながら、先ほど来大臣が申されておりますように、裁判執行を監督しておる検察官がそれを釈放するということ、あるいは刑の執行停止と同じようなことをするということは、本来の検察庁法が予定しておる検察事務に密接に関連する事柄ではあるという意味において、そのものではないが、密接に関連するものとして、十四条に準じた手続大臣の命令が検事総長指揮されることが適当であるということでございます。
  19. 横山利秋

    横山委員 これも私にはわかりません、そういう持って回った理由は。しかし、法規的にそういうふうに筋を通さなければいかぬということをやかましく言うのなら、私に言わせれば、そっちの方は、十四条ではないけれども十四条と同じことをやらせてもらうと言って、法規のところをうまいこと逃げながら、犯人にはわざわざきちんと旅券をつくって持たせてやって、向こうで別れるときに旅券を返せ、何でそういうしゃくし定規なおかしなことをなさるのか。一方において十四条でないと言うのなら、旅券なんかわざわざつくって犯人に持たせてやるばかがどこにありますか。私は笑止千万だと思うのであります。その矛盾についてどうお考えですか。
  20. 安原美穂

    安原政府委員 彼ら五名につきまして旅券を出すかどうかということは、実は外務省当局の御判断の問題でございまして、私どもとしては関知しないところでございますが、確かに御指摘のような疑問もございましたので、外務省当局に聞いてみましたところ、先般、衆議院の予算委員会で申し上げましたように、一応超法規的とはいえ、当該日本人を外国に出国させるというためには、やはり旅券を持たせるという手続をしておかないと、マレーシアへ行って、それを受け入れないということがあってはならないという配慮から、一応旅券を出したのだということでございまして、旅券という形はございますが、恐らく旅券法の適用というよりも、あれもやはり一種の準用ではなかったかというふうに私は思っております。
  21. 横山利秋

    横山委員 そんなことはないですよ。正規の旅券を出しておいて、それも旅券法の準用だなんてあほうなことはないですよ。そっちの方だけはきちんと法規令達に従わなければいかぬというふうにやっておいて、この検察庁法十四条の問題やそのほかの措置については法規によらない法規、上から下まであくまでそれをその方式でおやりになるということについては、私は納得できません。ですから、最高判断がそういう異例な措置でやるのはいいけれども、最高判断において行われたら、それ以下は法務大臣責任において十四条でやれ、間違いないように行動しろ。おまえらは十四条によるものではないが十四条と同じように行動しろと、そんな無責任なことを言って、それなら、検事がそんな法規にないこと私は従いませんと言うたら、これは一体どうなるのですか。十四条によって指揮権を発動した、それはもうそのやったことについては法務大臣の全責任、その後は検察陣なりおまわりさんが法規に従って命令があったから行動いたしました、こういうことならわかるけれども、行動したことは十四条じゃありませんぜ、そうか、それなら一体おれは何の法規によって行動しておるのか、そんなことならわしはいやだ、従いませんと言うたら、それは処分の対象になりますか、なりませんか。念のために伺っておきます。
  22. 安原美穂

    安原政府委員 十四条に準じない場合におきましては、これは法務大臣の職務命令ということで、検察庁法以外の法務大臣検察官に対する指揮監督ということに相なるわけでありまするから、そういう意味において、従わなければ命令違反であるということになると思いますが、私どもは、準ずるから従う必要はないというよりも、準ずるというのはいま申し上げたような意味において準ずるという言葉を使ったのでありまして、従っても従わなくてもよい準ずるという意味で準ずるという言葉を使っておるわけではないので、強いて類型化いたしますれば、まさに検察庁法十四条の指揮権であるというふうに判断されてもいい程度の準じ方であるというふうに理解しておりますので、そういたしますと、十四条の指揮というものは、違法でない限りは、一応検事総長はそれに従う法律上は義務があるということでございます。
  23. 横山利秋

    横山委員 それは納得できませんな。十四条に準ずるということは、十四条による責任、権利義務、そういうものが発生するんだ、そんなあいまいなことまで許されたらえらいことだと私は思うのです。十四条が適用されるか適用されないか、たったそれだけの話であります。準ずるなんということが適当に使われたら、えらい迷惑千万じゃありませんか。国民にとっても同じこと、部下にとっても同じこと。十四条じゃないけれども十四条に準ずるよという言い方というものは、あいまいもこにして、一体その責任はいずれにありや明白じゃありませんよ、そんなもの。十四条によるかよらないか、それだけの話で、十四条によらなければ、何法の何条によって指揮権が行われたかということを明示すべきである。当然のことだと思う。いいころかげんに準ずるなんという言葉を使われて、それによって万一のことが起こった場合に、だれが一体責任をとるか。その人間にも責任が生ずるんだ。
  24. 稻葉修

    稻葉国務大臣 私はまあ素人論として、刑事訴訟法とか検察庁法とかいうことを離れて、これはわれわれのとった選択をこういうふうにした、釈放して、そして新たにマレーシア政府の言うとおりに、またゲリラの言うとおりにきちんと引き渡して、人質を助けなければいかぬ、こういう判断でございますからね。確実に向こうに渡るようなやり方をするには、やはり検察官にタッチさせて確実に渡した方がいいというふうに思いましたものですから、私自身は、検察庁法十四条の指揮権の発動ではなく、高度の政治判断からして法務大臣検事総長指揮をする、こういう姿をとるのが適当である、こう思ったわけであります。  それからもう一つ、先生、敏速、果断にやって、何だか思い上がったような態度であってはいかぬぞということについては、もう重々、思い上がるどころの話でないんです、私は。あくまでもわが国法秩序を守って――これはマレーシア政府の言うことを聞かなくても、わが国法秩序を守るということは永久の問題だから、まあ外国もがまんしてくれやという判断と、いまわれわれ政府判断をしたような、両方あるわけでございまして、われわれはそういう判断をやったんでございますが、それが果たしていいでしょうか、国民はどう思うだろうか。ことにあの犯人の中には実に凶悪な爆弾事件犯人や、あの優秀な警察官を殺した浅間山荘事件犯人ども含んでおる。こういう人たちの遺族の気持ちを思ったりすると、これはまことに申しわけないことをやるんじゃないか、そういう気持ちは私の気持ちとしては永久にこれは残るわけでございまして、果たしてこの判断がそういう遺族の気持ちをも含めた国民の割り切れない感情を包括して、政府のやったことは正しいという判断を得られるような気持ちはしないんですね。だから、国民の代表たる国権の最高機関たる国会報告をして了承を仰がなければならぬ、こういう気持ちでああいう措置をとり、いまでもそういう方向の別な判断をしないでこっちの判断をしたために、非常に気持ちのおさまらない人たちに対しては申しわけないと思っている次第です。決して思い上がったりそういう気持ちは毛頭ございません。
  25. 横山利秋

    横山委員 私の質問趣旨は、超法規的な措置をとる、その決断をした人は責任を負う人並びに機関は最高のトップの人ならそれでよろしい。その人が責任を負い、その人が将来いかなる問題が起ころうとも、私のやったことです、責任を負いますということでよろしい。それ以下の人、その下部の人、現地の人、そういう人たちについて誤解ないしは判断余地が生じるようなあいまいな措置は避けなさいよ、こう言っているんです。私が、十四条に準ずるとかなんとかいう点に疑問を感ずるのも、そういう疑問を感ずるようなやり方で行動させない方がいいのではないか。責任はその判断をした総理大臣なり法務大臣なり閣議なりにとどめて、あとはきちんとした、後で問題のない措置というものをやっておかなければいかぬのではないか、こういう意味なんであります。  念のために伺いますが、現地におけるハイジャックの犯人は、日本国法によっていまどういう罪といいますか、刑法上どういう罪に該当いたしますか。
  26. 安原美穂

    安原政府委員 いまのお尋ねで、恐縮でございますが、五名というのは釈放された人間のことでございますか。
  27. 横山利秋

    横山委員 向こうで……。
  28. 安原美穂

    安原政府委員 いわゆる日本赤軍ゲリラにつきましては、殺人未遂とかあるいは逮捕監禁というようなわが国の刑法で罰せられる罪が成立しているものと思います。
  29. 横山利秋

    横山委員 ある学者が、国外地であるがゆえに適用できない罪があると言うのですが、それはどういうことですか。
  30. 安原美穂

    安原政府委員 刑法の規定の中に国外犯の規定がございますので、国外犯の規定、つまり国外で犯した場合にも刑法の適用のある罪にいま申し上げたのはなると思いまするが、強いて考えますならば、強盗予備というようなものにつきましては国外犯の規定がございませんので処罰できないということがございましょうが、基本的な彼らの犯した行為と思われるものにつきましては国外犯の規定がございますので、わが国裁判権を行使できる状態になりますれば処罰ができるというふうに考えております。
  31. 横山利秋

    横山委員 先ほど御報告の中で、犯人の引き渡しの問題について外国政府に要望をしたというくだりがございましたが、この問、現地リビア政府の内務長官が日本へいらっしゃって、警視総監並びに警察庁長官にお目にかかられたという話だそうでありますが、その際警察庁として犯人の引き渡しを要求されましたか。また、その内務長官の来日以外にいかなる方法でリビア政府犯人引き渡しの要望の手続が行われていますか。
  32. 安原美穂

    安原政府委員 先ほど御報告にも申し上げましたように、検察庁を所管する法務省といたしましては、現地の在リビア日本大使館の大使を通じましてリビア政府に、わが国はいつでも身柄を引き受けて裁判権を行使する用意があるということの申し出をしていただいておりますし、同じことを外務省当局にも申しております。  それから、先般リビア内務次官がおいでになったということを聞いておりまするが、この目的は、日本の警察制度を視察、見学したいという御趣旨でございましたので、われわれとしてはこの点についてタッチはいたしておりません。警察当局が制度という観点から便宜を図られたように聞いておりまするが、その間のいきさつについては許されれば警察当局からお聞き取りを願いたいと思います。
  33. 福井与明

    ○福井説明員 お答えいたします。  犯人ら十人の身柄措置につきましては、リビア国での必要な取り調べ等が終わり次第、わが国として身柄の引き渡しを受ける用意がある旨、八月下旬と九月の上旬の二回にわたって外務省から申し入れがなされておると聞いておりますが、リビアの内務省の次官が来日された機会に、釈放された五人を含めました犯人らの犯した事件の悪質性なり、その事件わが国でどのように受けとめられたかということを、当時の新聞報道等を紹介して説明をいたしまして、警察としてもさきに外務省からなされております申し入れが実現することを強く期待しておる旨、お伝えしております。これに対して同次官からは、自分は直接これに答え得る立場にはないけれども、その趣旨は帰国次第リビア国の政府の上部に伝えるという旨の回答を得ております。
  34. 横山利秋

    横山委員 刑事局長、伝えたということはお話しになりましたが、外務省を通ずるルートでリビア政府がどういうふうにこの問題について答えてきておるのか、まだ何にも言ってきてないのですか。
  35. 安原美穂

    安原政府委員 結論からいたしますと、リビア政府から外務省を介して当方にそれに対しての返答はまだない状態でございます。
  36. 横山利秋

    横山委員 後の質問の関連もございますので、ややまだ物足りない点がございますけれども本件に関するさしあたりの御質問をこれで終わることにいたしたいと思うのですが、途中で私が申し上げましたように、これは国民的な了承が私は得られておるとは思います。得られておるとは思いますけれども、これはまだ終わったのではないのでありまして、法務大臣がお認めになるように、これからどういうふうに発展するかまだわからないさまざまな問題が伏在をしています。  それは、本件犯人がこれからの生涯どういう活動をするであろうか、また日本へ、いま質問いたしましたように、引き渡しが行われるであろうか、あるいはまた、この今回の超法規的措置というものが、日本の三権分立の歴史の中でもうぬぐうことのできない一つの事実行為を行ったわけでありますから、この歴史的事実というものが今後どういうふうに発展をするだろうかと思いますと、まことに容易ならざることだと私は思います。  したがいまして、今回は、国民はやむを得ない措置として了承したけれども、その国民が何かのときに、あれはまずかったと思うことがないようにしてもらいたい。これはいろいろな意味がございますけれども、もうこの措置は、金庫の中に入れてかぎをかって、余人がもう開くことができないというくらいの気持ちでしていただかないと、大変な誤解なり発展を生ずると私は思いますので、くれぐれも法務大臣判断を十分にしてもらいたいと思いますが、最後にその点をお伺いをいたします。
  37. 稻葉修

    稻葉国務大臣 まことに適切な御注意でございまして、私も同様に深刻に苦悩し考えておるところでございますので、御説のような将来に悪い影響の残らないように対処したいと考えております。
  38. 横山利秋

    横山委員 先般、新聞のスクープのようでありますが、「犯罪による被害についての補償に関する法律要綱案」、これが新聞に大々的に掲載をされました。本件につきましては、当法務委員会で超党派ですでに何回も質疑応答を行い、法務大臣並びに法務省も十分誠意を持って検討する旨の従来の御答弁のあるところでございますから、それはそれでよろしいのでありますが、これほど膨大に新聞に載りました「犯罪による被害についての補償に関する法律要綱案」、この問題について法務大臣はどういう立場でございますか。何かあなた、責任がないとかあるとかいう話が伝わっておるのですが……。
  39. 稻葉修

    稻葉国務大臣 過日、毎日新聞に報道された要綱案は、この制度について検討をしておる法務省刑事局の事務担当者が検討の素材とするため試みの案として作成したものであって、法務省においてこれを要綱案として決定した事実はございません。法務省としては、被害者補償制度を採用するものとした場合、その内容や手続をどうするかについて鋭意検討している段階でございます。詳細につきましては、事務当局から答弁をいたさせます。
  40. 安原美穂

    安原政府委員 お尋ねは、補償法の内容のことじゃなくて、この間、毎日新聞に掲載されましたあの記事に関する事柄と思いますので、その点に限ってお答えを申し上げます。  いま、法務大臣の申されましたように、あれは検討しておるわが刑事局の担当官のいわば試案にすぎないものでございまして、実は私自身も見たことのない案でございまして、まだそういう段階のものが新聞に載せられたわけであります。新聞に報道されるということにつきましては、そのようなことが、いま横山先生の御疑問のように、何か法務省がすでに要綱をつくったというふうに誤解をさせる原因になったわけでもございますので、その担当者に対しましては、その不注意を厳しく注意をいたしまして始末書を徴して、今後かかることのないよう処置をしたというのが現状でございます。
  41. 横山利秋

    横山委員 それでは正式に伺いますが、かねて院議とでも申しましょうか超党派で要望し、政府側としても了承しておるこの問題に関する法案は、いつごろ法務省内部でまとまり、国会に提出をされる予定でございますか。
  42. 安原美穂

    安原政府委員 検討を始めてから相当の日時を経過しておりますので、全般的な問題点については一通りの検討をしたわけでございまするが、なお問題とするところ、たとえば故意犯に限るか過失犯を含むか、あるいは暴力事犯に限るかというような補償の要件とする犯罪の範囲をどうするかとか、あるいは補償するとして一時金方式にするか年金と一時金との併用方式、労災補償法のようにするかとか、あるいは問題の補償の裁定機関をどういう形にするかというような点が非常にむずかしい問題がございますし、刑事裁判とこの補償の裁定との関係というようなことにつきましても、認定の違いあるいは認定の時期の違い等において問題があるというような点が特に検討を要する問題でございまして、いまだ結論を得ていないのが実情でございます。  もう一つ、やはりお金のかかることでございますので、実は昭和四十九年とことしいっぱいかかりまして、いわゆる暴力事犯で生命を失いあるいは重大な傷害を受けた者についての事件調査を全国でいたしまして、その人たちがどのような状態におり、弁償はどうなっているか、あるいはそういう事件については被害をこうむる人に過失があるかというような実態調査をしなければならぬ。その実態調査の結果が大体来年の三月には集計ができるという状況にありますので、そういうものを見ませんと、どういう補償をするかとか方式というものも決めかねる問題もございますので、そういう意味で、三月末ごろに一つの集計ができる、また別途他の補償制度とのバランスというようなこともございますので、そのころまでに厚生省等の御意見も伺わなければならぬ、あるいは財政当局の理解も得なければならぬという問題もございますので、いまのところ四月以降できるだけ早い時期にそういう手続を経まして法制審議会に諮問を申し上げたいというふうに考えておりまするが、四月にすぐできるかどうかということは、まだ先のことでございますが、まあ遅くとも四月から秋ごろまでには法制審議会にかけて御審議を願って御答申を得たいというような心づもりでおります。
  43. 横山利秋

    横山委員 大臣に念のために伺っておきますが、本件についてはいま刑事局長のおっしゃったようなもろもろの問題があるにしても、法務省としてはこれを法案化し国会へ提出したい、また超党派で私どもがお願いをいたしておりますこの問題について責任を持って国会上程の運びに御努力くださる、そう考えてよろしゅうございますね。
  44. 稻葉修

    稻葉国務大臣 そのとおりお考えくだすって結構であると思います。
  45. 横山利秋

    横山委員 それから、この新聞の解説の中で少し確かめておきたいと思いますのは、いま作業をされております立法の趣旨の問題です。この立法の趣旨は、私どもはきわめて平ったく、国は犯罪防止義務があるからその義務に違反して犯罪を発生さしたことについて被害者に損害賠償責任がある、詰めて言えばこういうことなんですけれども、まあまあこういうことだろうというふうに私ども理解をしておるわけですが、この編集の中身を見ますと、法務省のいま作業をされておる立法の趣旨が必ずしもそうでもないような書き方がしてあるのです。いま検討されておるその法案の趣旨を、ひとつ法務省考え方を明白にしてもらいたいと思う。
  46. 稻葉修

    稻葉国務大臣 そこが非常にむずかしい、また諸外国の立法例等も、そういうのもあり、そうでないのもあったりいたしまして、きわめてむずかしいところであります。補償制度の立法精神というか立法理由趣旨といいますか、種々の考え方があり、必ずしも一義的に決められるものではない、こういうのがいまの段階における法務省の立場でございまして、毎日新聞に報道された要綱案は、この制度について検討している刑事局の事務担当者が検討の素材とするための試みの案として作成されたものにすぎず、法務省においてこれを要綱案として決定した事実はありませんことは先ほど申し上げたとおりであります。  そうして、この試案について、横山先生立案の理由が必ずしも一義的に犯罪防止義務の懈怠に求めるということになっていないようだがとおっしゃるのはそのとおりでございまして、まだそこまで決定しておらぬのでございます。お尋ねのように、すべての犯罪の発生が国の犯罪防止義務違反によるということはできないと私は思います。現実に犯罪の発生について国に故意、過失がなくとも、原因行為が認められるような場合、たとえば刑務所から脱走した受刑者による犯罪もあり得るので、このようなときにはやはり防止義務懈怠という理由も存立し得る場合でありますが、そのほかの場合もいろいろございまして、一義的に国の犯罪防止義務懈怠の国の賠償責任というふうに割り切ってこの法案の立法の趣旨を一義的に決めることはできないで悩んでおるというのが現在の段階であります。
  47. 横山利秋

    横山委員 そのほかにどういう理由があるのか。この解説の中には、抽象的には書いてありますけれども、この抽象的に書いてありますことは、国民の総保険とでも申しますか、そんなことで、余り説得力のある理由がここには整理がされていません。たとえば「現代国家は、国民の福祉を推進する政治的義務があるから、犯罪の被害者に対しても福祉政策の一環として救済する責任がある」こういう理屈というのはどうも余りぱっとしません。「国家社会には一定量の不可避的な犯罪があり、民主主義国家では国民の行動の自由を最大限に保障しているから、その半面、全体主義国家よりも多い犯罪発生を許す結果となっている。従って国家社会は不可避的な犯罪による被害という危険を特定の被害者のみに不平等に分担させることを防ぎ、危険を分散させて社会の各成員が平等に分担することが衡平にかなう」この考え方も持って回ったような考え方だと思います。  むしろ私は、国、政府というものは犯罪防止義務がある、そんなことを言ったところで、まあ義務はあるけれどもとても全部が全部手が回らないから、そういうことが直接ないし間接的に影響して被害ができた、その人間に対して国が補償をするということがわかりやすい論理だ。それによって国に何もかにも責任を負わせようというつもりではないけれども、しかしながら、私はその理論がわりあいに説得力があると思うのです。  安原刑事局長、いま討議の中における立法の趣旨の有力意見といいますか、まとまっていきそうな理論というのはどういう理論ですか。
  48. 安原美穂

    安原政府委員 まことにむずかしい問題でございまして、各国の立法例を見ましても、いま横山先生御指摘のことは、いわば被害者補償制度の理念というものであろうかと思います。  理論的根拠というものでございますが、いま大臣も申されましたように、国家に犯罪防止の義務があるからその賠償責任だという考え方が有力であることは事実でありますが、必ずしもそれだけでは律せられないのじゃないか。そういう理念に立つならば、やはり理論的には現実の損害額を補償するということになるのが制度の理論的な帰結になるように思われますが、各国の制度を見ますと、生活保護的な限度にとどまっているのもございますし、いわゆる一定額補償という意味で保険のような考え方のようなものもございますので、横山先生の言われた賠償義務というような形からとらえるということは、学界でも有力な一つの議論ではございますが、やはり社会福祉政策としてとらえていくとか、あるいは国民の相互の保険というような考えでとらえていく考え方もございますので、一概に一つのもので割り切るわけにはいかない。したがって、制度発足のときの理論的根拠をどのように求めるかはまさに非常にむずかしい問題であって、いまどれが有力ということを決しかねておる状態でございます。  それは理論的根拠でございますが、なおもう一つの問題として、なぜ犯罪の被害者だけを補償するのかということ、他のいわゆる自然の災害などに比べて犯罪の被害者だけを――いわば一種の災害ではないか、その中で犯罪の被害者だけを優先して補償される理由は何かということに相なりますと、これは理論的根拠のほかに、いわば刑事政策との関連ということからその優先性を理由づけるのが大体各国の考え方のようでございまして、要するに、今日御案内のとおり、犯罪人につきましてはいろいろ国は費用をかけております。その健全な社会復帰を図るために国費を使用しておるが、一方において犯罪の被害者が被害を弁償されずに放置されているというようなことでは刑事政策としてもアンバランスであって、本当の意味での正義というものが実現されていないではないか、そういう意味において犯罪の被害者を放置してはならない。と同時に、犯罪の被害者を放置しないで、そういう意味で補償しておくことによって、やがてその犯罪人が帰ってくる社会が温かくそれを迎えることができるであろうという意味において、被害感情をいわば宥恕されるような状況に置くことが犯人の社会復帰に資するところであるという意味で、刑事政策的に再犯の防止というようなことから被害者補償というものが有力になされなければならないというのが、刑事政策的な理由として、自然の災害とは違う、優先性を持たしめる理由ではないかというふうなことが、大体今日の学界における通説のようになっておりますが、そういうこともあるということもひとつ御理解をいただきたいと思っております。
  49. 横山利秋

    横山委員 少し局面を変えて質問をしたいのですけれども日本におけるこの国の責任の問題は、歴史的に見ますと、お上は悪いことをしない、国が悪いことをするはずがないという考え方が法律論の根拠になっておったような気がするわけでありますが、最近は有名な飛騨川事件の判決を見ましても、あるいはいろんな事象を見ましても、国家賠償法の改正問題や、あるいは当委員会でやっております刑事補償法の改正の問題等を見ましても、国の責任というものをきわめて重要視して、その補償を十分にするようにというふうに時代が動いてきたことを痛感をされます。もとよりいま御説明のように、この補償要綱は、補償をしようという考え方は、――私もすべて国に責任を帰して、国の責任があるから補償するのだというふうに言っているわけではありません。しかし、立法の趣旨の中に、犯罪防止義務なり、あるいはいま刑事局長からお話のあったような刑事政策的な立場からも、国の必要に基づいて補償をするという要素が私はかなりあると思うのであります。  そこで、そういう国の責任というものが、この種直接責任でなくても間接責任をも含めて力説されるときに、もっと直接的な国の責任は一体十分に果たしているであろうかどうかということなのであります。私がいまから質問をしますからとて、犯罪被害者の補償が不十分であっていい、こんなものは遅くてもいい、そういう気持ちではさらさらありません。しかし、この補償をわれわれが超党派でやる、政府も一生懸命にやるというのであるならば、積年の問題をも忘れてはいけない。一つは原爆被爆者の補償法案の問題であります。これこそは全くそのものずばりなんでございますが、原爆が落ちてからもう三十年、この三十年間、原爆被爆者の補償という問題がなおざりにされておるということについて、閣僚としてどうお考えであろうか。  それから、おととしでございますか、私どもの同僚が参議院で提案をいたしました戦時災害援護法案、要するに戦争の際に空襲その他の政令で定める戦時災害にかかった者で、いまなお病気あるいは傷のいえない者、そういう者について戦時災害援護法を制定すべきであると参議院において提起がされました。  戦争責任という問題についていまさらどうかという意見がありますけれども、赤軍派のような問題で被害者が出た、その被害に国が税金をもって補償しようとする、そうであるならば、原爆で被爆された諸君の補償、また空襲で被害を受けていまなお傷のいえない人たちの補償、そういうことについて政府は百尺竿頭一歩を進めるべきではないか、こう考えておりますが、閣僚の一員として法務大臣はどうお考えでございましょうか。
  50. 稻葉修

    稻葉国務大臣 原爆被災者補償の問題を含めて空襲等で死んだ人の戦時災害の補償につきましては、法務省の所管外の事項でございますので、私から意見を申し述べることは適当でもございませんし、筋違いであるように思いますので、厚生省から出向いておりますから、いまどういうふうになっているかを聞いていただきたいと思います。  ただ、犯罪被害者補償制度を検討するに当たっては、これらの犠牲者の補償もいまだできていない現状にありますので、権衡上非常に関心を持っているということだけは申し上げて差し支えないと思います。
  51. 山高章夫

    ○山高政府委員 先年、戦時災害援護法を御提案になって、それについてのお話でございますが、原爆の方は私、所管いたしておりませんので、恐縮でございますけれどもなにしまして、戦時災害援護法の方について主として御答弁申し上げさせていただきます。  戦時災害援護法案は、国内における一般戦災者等の負傷、疾病、障害、死亡、こういうような事故につきまして、現在軍人、軍属につきましては戦傷病者戦没者遺族等援護法あるいは戦傷病者特別援護法によって措置をいたしておりますが、それと同様の措置をしろという御趣旨の法案であったと思います。これにつきましては、実は戦傷病者戦没者遺族等援護法あるいは戦傷病者特別援護法は、いずれも国と使用関係のありました、端的に申し上げますと旧陸海軍の公務員あるいは公務員に準ずる者を対象とするものでございまして、そういう関係にない方々につきましては、これはやはり一般社会保障施策の拡充なり推進の中で十分に措置をしていくのが妥当であるというふうに考えておる次第でございます。
  52. 横山利秋

    横山委員 山高局長、あなたも先ほどからそこへお座りになって、私と法務省との質疑応答を十分お聞きになっておったと思うのです。いまあなたがお答えになったのは、ここへいらっしゃる前に準備された原稿をそのままお読み上げになられたと思う。また、そういうつもりでお読みになったと思う。いま私と法務大臣並びに法務省と質疑応答いたしておりました論理、少なくとも赤軍派の爆弾で人が殺された、その殺された被害者にも国が税金で補償しようという時代なんですよ。その理由はどういう理由であるかということでいまやり合っておったわけですね。赤軍派を壊滅するのが政府責任である、しかし、それができませんでした、手不足もございまして申しわけない、だから補償します、そうまでは言わぬにしても、その気持ちも若干あるわけですよね。つまり、国の責任というものがかなり重要視されてきておる今日の時代であると、あなたの目の前でくどくどやり合ったのじゃありませんか。それをいまあなたは、戦時災害援護法の問題で、あのときは身分関係がございません、戦争中の国家公務員や軍属なら軍人軍属援護法でやりますけれども、雇用関係がありませんからできませんという木で鼻をくくったような答弁は、先ほどからの答弁の後にあなたが答弁されるにしてはいかがなものでしょうか。もう三十年たってもなおかつ空襲で片腕のない人や、あるいは目の見えない人や、そういう人たちがまだこの世の中に生きておるのですよ。満州や朝鮮からの引き揚げ者は援護法が適用されています、軍人も軍属も、家族も遺族も援護されています。ところが、内地におって一番激しい空襲を受けて、一番激しい壊滅的な打撃を受けた国民には何もしていないということについて、あなたは雇用関係がないからということで、いまの私どもの議論と相対比するときにいかにもそらぞらしいと思いませんか。ここへいらっしゃる前はそれでもよかったであろうが、先ほどからの議論の後に、だれか議事録を読まれたときに、いかにもあなたが三十年前の人間のように思えて仕方がないと読んだ人は思いますよ。  ですから私は、こういう時勢になってきたのであるから心新たに、戦争で被害を受けた人の中で一番最後に残ったのが民間災害の人たちで、しかも財産を補償してくれと言っているわけではないですよ。けがした、傷を負った、そういうような人たちのために援護をしたらどうかと言っておる。戦争というものはだれが始めたわけじゃない。赤軍が始めたわけじゃありません。まさに国がその全責任をもって戦争を始めた。その国の遂行した戦争によって被害を受けた人はほとんど何かかにかの形で補償されておる。しかし、その被爆者の頂点とするものはこの原爆による被害者、それからその周辺に全国にある空襲による被爆者、そういう人たちについて、民間災害であろうともこの際何か考えべきであろうという点について厚生省は一顧も値しませんか。そういう理論について、この犯罪による補償法案がいま法務省でまじめに立案され、まじめに理論の組み立てがされていく過程の中で、あなた方はそれに対して一顧も値しない問題だとお考えですか。本来、きょうは大臣か政務次官に出てもらいたいと言ったら、どうしても御都合が悪いというので援護局長が出ると言う。援護局長はそんな政治的な答弁できるのかと言ったら、必ずいたしますからぜひ御了承願いたいということであったから、あなたに答弁してもらったのですが、そんな答弁なら何の必要もありません。もう一遍ひとつ、あなたも厚生省を代表して行きますからという以上は、この問題について誠意ある答弁を願いたい。
  53. 山高章夫

    ○山高政府委員 戦時中の各種の災害があるわけでございますが、若干繰り返しになりますけれども、そのうち、旧陸海軍の公務員につきましては、戦時中は恩給なり陸海軍の共済組合があったわけでございます。それから軍人の家族とかいろいろ戦災者がございますが、そういう方々には援護法とか母子保護法とか、あるいは軍事扶助法とか、そういった各種の制度で処遇を考えていたわけでございます。  こういう一般の方々の処遇につきましては、戦後いち早く昭和二十一年に旧生活保護法を制定しまして、これは実はこれらの各種の法律を統合しまして旧生活保護法をつくり、社会保障制度の中でこういう方々の福祉の向上に努めていくという姿勢が昭和二十一年にすでにできたわけでございます。  陸海軍の公務員につきましては、これは軍人恩給が停止されるとか、あるいは共済組合が停止されるというような問題がありまして、これは戦後昭和二十七年になって日米平和条約前後になりまして初めて停止されたものを復活する、しかしながら恩給法の直接の復活になりませんで、これは先ほど申し上げました援護法等を制定して御処置を申し上げるということになったわけで、この当時から一般のそういう戦時中御苦労なりあるいは災害を負われた方は社会保障制度で見ていく、それを充実を図っていくという方針で今日まで参ったわけでございまして、今後も引き続きそういうことでいかざるを得ないのではないか、いくべきではないかと思っておる次第でございます。
  54. 横山利秋

    横山委員 私がいま言ったことを聞いておったのでしょうかね。私の言っておったことをあなたは承知の上でお話しなすっているのでしょうかね。もう一遍言いますよ。お帰りになって十分大臣や省議にかけてもらいたいと思う。犯罪によって被害を受けた人たちに対しても国家は補償しよう、そういう検討がいま超党派で法務省に要望があり、法務大臣がこれを承知し、法務省が検討をしておる段階である。そして飛騨川事件を初め数々の判決をもってしても国の責任というものが強く指摘をされ、国がそれにこたえておる段階である。あなたのお仕事、援護関係のお仕事について最後に残ったのが原爆や空襲でやられた民間災害の人たちである。そういう一連の新しい最近における状況を判断をしたならば、被爆者援護法やあるいは参議院において一昨年出ました戦時災害援護法ということについて改めて厚生省は検討を開始すべきではないか。いままではいままでで、いろいろ言ったってしようがない、言いませんよ。こういう時勢であるから、厚生省として被爆者援護法や戦時災害援護法案について改めて検討を開始すべきではないかと私は言っているのです。もう一回お答えを願いたい。
  55. 山高章夫

    ○山高政府委員 現在厚生省が考えておりますのはただいま御答弁申し上げたとおりでございますが、なお、戦時中の災害の実態調査も実はことしの十月、全国身体障害者実態調査にあわせて、その中で実情も調べるようにいたしておりますので、ただいまの先生のお話はこれは大変重大な問題でございますので、大臣にもお伝えして十分に御報告しておきたいと思っております。
  56. 横山利秋

    横山委員 局長としてお答えになる限界があろうと思いますから、だから私はあなたではいかぬと言ったわけでありますけれども、そういうことでありましたら、いまお話しのようにお帰りくださって、また改めて機会を得て厚生大臣やあるいは政務次官においでを願いまして、私から直接確かめたいと思います。そのためにも、きょう本委員会におきましてのいろいろな理論的な根拠判断、状況、私ども意見、そういうものを大臣、政務次官、省議に十分御報告され、御検討されるように期待いたしたいと思いますが、よろしゅうございますか。
  57. 山高章夫

    ○山高政府委員 一般戦災につきましては、厚生省としては先ほどから御答弁申し上げているとおりでございますが、先ほども申し上げましたように、十分に報告さしていただきたいと思います。
  58. 横山利秋

    横山委員 まだほかの問題もございますけれども、思いのほか時間をとりましたので、同僚委員関係もございますから、私のきょうの質問はこれで終わることにいたします。
  59. 田中覚

    田中(覚)委員長代理 青柳盛雄君。
  60. 青柳盛雄

    ○青柳委員 私は、いわゆる田中金脈問題で大きな関心の的になっております信濃川河川敷買い占め事件について、これが普通の商取引あるいは民法上の取引の形はとっておるけれども、実質は犯罪的な行為である、いわゆる犯罪行為そのものであるという認識のもとに、関係者に対して刑事的な訴追を求める告発がなされた、その問題についてお尋ねをしたいと思います。  その告発は、本年の九月二十九日、新潟県の民主的な団体であります安保破棄諸要求貫徹新潟県実行委員会を初めとし、国鉄労働組合新潟地方本部あるいは新潟県厚生連労働組合、農村労働組合新潟県連合会、全日本自由労働組合新潟県支部、新潟県医療労働組合協議会、日本民主青年同盟新潟県委員会、新潟県商工団体連合会、長岡民主商工会、以上九つの団体及び渡辺和幸、真貝秀二、小林由市という三名の個人、合計十二名から最高検察庁あてに出されたものでありまして、被告発人は田中角榮、佐藤昭、入内島金一、片岡甚松、庭山康徳という五名であります。  その中身は、ここで紹介しますと非常に長いものになりますけれども、要するに、信濃川河川敷に昭和三十八年ころ霞堤と称する新しい堤防が築かれるという計画があり、それが実施され、しかもその霞堤なるものは名目であって、実質上は新しい堤防、連続堤である。したがって、古い堤防と新しい堤防との間に河川敷を廃止してもいいような陸地が完全に造成される。そういう状況のもとで、その土地を耕作している土地の所有者あるいは小作人というか耕作者などからいま告発されております。田中角榮氏らがっくりました室町産業株式会社と言われる株式会社がありまして、その会社がそれらの土地の買収に当たった。その買収は、そういう開発が行われて、いい、りっぱな土地になるんだということを買収をする被告発人らは十分情報としてキャッチしながら、農民がそのことを知らないのをいい幸いに、また、積極的にそういう開発が行われる可能性があるんだということは見込みはないと思い込ませて、坪当たり百円ないし五百円で買い占めた。ところが現状は、その新しい堤防ができ、しかも新しいバイパス道路が新設され、新しい長岡大橋というものが新設されたということで、その土地は十万円から十五万円坪当たりするようになって、買い占めた土地七十五ヘクタールは現在約三百億円の価値を生じている、こういう不当な利益を得た。そういう犯罪だということで告発がなされているわけでございます。  これはもう国会でもしばしば論議され、また一般新聞等でも、あるいは雑誌などでも大きく報道されておりますので、国民はその真相について相当の知識を得、大きな疑惑を持っておるわけでございます。したがって、この問題についてどのような措置検察庁がとられたか、まずお答え願いたいと思います。
  61. 稻葉修

    稻葉法務大臣 お尋ねの事件につきましては、本年九月二十九日、詐欺未遂罪により最高検察庁に告発がなされ、最高検察庁としては十月九日、右事件を新潟地方検察庁に移送し、目下同地検において基礎資料の収集、検討等を行っておると聞いております。検察当局としては本件につきましても、告発人がだれであるとか被告発人がだれであるとか、そういうことに全く左右されることなく、他の刑事事件と同様、あくまでも厳正公平な立場で捜査処理を行っておるものと確信いたしております。
  62. 青柳盛雄

    ○青柳委員 大臣のお答えのように、あくまでも公正な立場で、一般事件と何ら差別なくこれを明らかにする、扱っていくということでございますので、私どもはそれを強く求めますが、それにしても、もしこの告発どおりだったとするならば、大きな政治的なスキャンダルであろうかと思います。単純な、政治に無関係なものではなく、まさに政治に絡んでいる。行政の有力な地位にあり、国の施策を速やかに知り得る立場、つまり、一般人がなかなか知り得ない国の機密といいますか、行政上あるいは政府の施策上のまだ公表されていないようなものをあらかじめ入手して、そして一般よりも先に特定の土地とかそういうものを手に入れるという、まあよくある地位利用のやり方でありますが、これも一般人を欺いてやるのでなければ役得のような形であって、必ずしも犯罪行為とすぐ言えるかどうか疑問。つまり、普通の商取引というか民事上の取引であって、問題にすることができないというような法律的な扱いになるかもしれませんけれども、しかし、非常に不公正な感じ、不公明な感じを持つことは当然であります。  そこで、この事件、本当に厳正公平に検察庁が調べを行って措置をとるということが強く求められるわけでございますが、政治的なスキャンダルは、また検察庁の仕事についてもスキャンダルを巻き起こさないという保証がない。つまり、もみ消しといいますか、歪曲というか、そういうことが人為的になされるという危険性をわれわれは感ずるわけでございます。  そこで、長岡の方の地検の係の人は何名くらいで、どういう方が現在担当しているか、われわれはそれは大きな関心を持ちます。というのは、担当者に対して外部から正しくない働きかけが行われるようなことが予想されないわけでもありませんので、もし明らかにすることができるならばしておいていただきたい、かように思うわけであります。
  63. 安原美穂

    安原政府委員 先ほど大臣からお答になりましたように、現在新潟地検におきましてやっておりますことは、基礎資料の収集を近く終える段階でございます。つまり、青柳委員案内のとおり、本件につきましては取引の相手先が私の記憶では三百五十人を超える相手方がおるということに告訴状ではなっておるわけでございまして、そして私の聞くところでは、関係の土地が千筆ぐらいはあるのじゃないかということでございまして、現在新潟地検におきましては、この千筆に余る土地につきまして、土地の登記簿の謄本を取り寄せておる、これはなかなか大変な仕事でございまして、これが近く終わる段階であるというふうに報告を受けております。したがいまして、近く終わりましたならば、それを基本にいたしまして告訴事実の有無につきまして関係人の取り調べを開始するということに相なる手はずになっております。したがいまして、いま何名のということについては具体的に報告は受けておりませんが、まだ基礎資料収集を終わる段階でございますから、今後関係人の取り調べに入るということになりますれば人数もふえることかと思いまするが、詳細はまだ承知いたしておりません。  いずれにいたしましても、着々と基礎資料収集の終わる、終結の段階でございまして、何度も申し上げますように、厳正公平、いやしくも歪曲をするというようなことのないことは、ひとつ検察をお信頼いただきたいと、かように思っております。
  64. 青柳盛雄

    ○青柳委員 新潟地検には長岡支部もございますが、いまのお話では、新潟地検の本庁の方の職員がやっているというふうにもとれますし、あるいは支部の職員というふうにもとれますが、少なくとも総括的な立場、最終的には断を下す者は検事正でありましょうけれども、その直前までの調べのいろいろの責任を持つ人はまだ決まっておりませんでしょうか。それとも何係という程度の抽象的な決まりはあるのでしょうか。
  65. 安原美穂

    安原政府委員 いま最初お尋ねのことにつきましては、支部ではなくて新潟地検本庁みずから検事正が指揮して事案の処理に当たっておるわけでございまして、何と申しましても耳目を聳動しておる告発事件でございますので、その取り扱いには慎重を期しておるわけでございます。  なお、これは詐欺未遂ということで、いわば事件としては一般の刑事犯罪そのものでございますが、特別の係をして担当せしめるということでなくて、いまのところは、先ほど申しましたように、検事正みずから指揮して基礎資料の収集を終わるという段階でございますので、その後恐らく有能な検事を配して関係人の取り調べ等に入るものと考えております。
  66. 青柳盛雄

    ○青柳委員 基礎資料として、たとえば登記簿謄本の収集などに当たっておられるということでありますので、それが非常に重要なものであることは当然でありますが、この告訴状の写しを私の手元にありますのを見ますと、いわゆる告発人の提供する証拠方法として、供述の録取書というのもありますし、それから衆参両院における会議録というようなものもたくさんあります。また、長岡市議会における会議録というようなものもございます。さらには昭和四十一年当時、この問題の買収工作の行われた当時の東京新聞、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞、新潟日報というような新聞もございます。また、建設省の資料などもございますし、長岡都市計画総括図というような図面も提出されているようでございます。こういうものも当然基礎資料として取り調べされていると思いますし、さらにこれに関連して、そういういろいろの必要な資料を収集されることを私は期待いたします。ただ供述調書などは、結局は生きておられる方である限りはその人自身について聞くということが必要になってこようかと思いますので、関係者と言われる中には、この供述調書の人物も入っていると思いますが、その点はどうでしょうか。
  67. 安原美穂

    安原政府委員 告発に当たりまして最高検察庁に御提供いただきました資料は、直ちに移送のときに新潟地検に送っておりますので、当然検討の対象になっているものと思います。  なお、これから関係人の取り調べに入ると申しましたが、どういう関係人を取り調べるかというようなことは、もう御理解いただけると思いますが、これから行います捜査の秘密に属することでございますので申し上げるわけにはまいりませんが、いずれにいたしましても、必要な者につきましては取り調べをするということは、ひとつ御信頼いただきたいと思います。
  68. 青柳盛雄

    ○青柳委員 事実をあくまでも厳正に調べるという前提でやっていただかなければなりませんが、いままでに、検察庁がこの告発を受ける前に職権的な立場で何らかの取り調べを行ったというようなことはあったのでしょうか、なかったのでしょうか。
  69. 安原美穂

    安原政府委員 信濃川の河川敷問題というのは国会でもいろいろ論議され、新聞にも報道されましたので、当然、新潟地方検察庁としては関心は持っておったと思いますけれども、私どもが現在受けている報告では、告発を受けます前におきまして何らかの捜査活動をしたという報告は受けておりません。
  70. 青柳盛雄

    ○青柳委員 いわゆる被害者という方々が進んで申し出をしないと、なかなか職権で捜査を開始するというようなことは困難な面もあろうかと思いますけれども国会で問題になったのですから、ある程度の情報収集というようなことはあってもよかったのではないかと思います。しかし、検察庁の仕事の性質上、情報収集が目的ではありませんで、具体的なケースごとに立件をするというようなことでございましょうから、いまのようなお答えになると思いますけれども、もう正式に告発が出たわけでありますし、関係者の名前もその中から幾つか出ております。たとえば買収工作に当たった人物の名前なども、風祭康彦とか笠井伊忠次とか松木明正などの名前もこの告発状には出ております。ですから、被告発人以外の重要参考人といいますか、こういう人には当時の模様もお聞きになると思いますから、それは厳重にやっていただきたいと思いますし、また何よりも、買収された三百数十名のうちの何名かからはどういう事情でそれを売るようになったのか。普通、もし開発計画が進んでおる、新しい堤防ができて河川敷が廃止になるかもしれない、そしてりっぱな土地になるということが予想されておれば、やすやす手放すはずはないと思うのですね。なぜ手放すに至ったか、恐らくだまされたということが真相ではないか。水をしょっちゅうかぶるのでもう持っていても余り価値はない、将来の見込みが薄いから田中氏のような有力者に売っておけば金の払いも間違いないし、まあ悪いことにはなるまいというようなことで、だまされて売ったのではないかと思いますけれども、その辺の真相をどうしても明らかにしないと、ただ告発という形をとって告訴という形をとってないために、何か被害者の人たちは被害意識がないのじゃないかというふうな誤解あるいは曲解、そういうものがあって、そして検察庁もよけいなおせっかいで告発が出ているのだというふうに、あるいは何か狭い政略ですか、政治的な策略でこういうようなものが出ているのじゃないかというような予断や偏見を持たないで、先ほどお話にもありましたように、普通の刑事事件として、告発人がどういう意図でやったとかどういう人だとかいうことにはこだわらないと先ほど大臣おっしゃいましたけれども、それをあくまでも貫いて厳正にやっていただくように期待いたします。  そして、今後また折に触れて取り調べの進捗状況についてお尋ねをすることがあると思いますが、そのことを申し上げて、私の質問を終わります。
  71. 田中覚

    田中(覚)委員長代理 諫山博君。
  72. 諫山博

    ○諫山委員 いまの青柳委員質問に関連して、私も少し補足して質問さしていただきます。  いまの答弁で、取り調べの状況はわかりました。また、告発がなされるまで刑事捜査をしなかったということもわかったわけですが、それにしてもこの事件が発生したのは十数年前です。わが党の議員が一番最初に国会で取り上げたのが一九六六年十月二十日、衆議院の予算委員会です。そして一連の黒い霧の一つの事例として信濃川河川敷問題を論じております。一九七二年十一月七日には、衆議院予算委員会で松本善明議員がやはり同じ問題を取り上げて、この土地は国に寄付してもいいというような田中角榮氏の答弁もなされております。  さらに刑事事件としての追及としては、昨年の十一月十四日、参議院の法務委員会で橋本議員が取り上げました。このとき安原刑事局長は、詐欺というのは積極的にうそをついてだます場合だけではなくて、取引上当然相手方に知らせなければならないようなことをわざと知らせなかった、こういう場合にも詐欺が成立し得るのだということを、一般的な議論として答弁されております。議論はまさに本件の信濃川河川敷をめぐって刑事事件としてどうなのかというような立場で発展してきたわけです。  さらに、行政管理庁が動く。あるいはことしの六月五日、橋本議員が再び検察当局に厳正な捜査を要求する、こういう経過があったわけですが、それでもやはり検察庁は捜査に踏み切らなかった。そして告発がなされてようやく本格的な捜査に踏み切ったという経過のようですが、どうしてこれほど問題になり世間からも注目を浴びたのに刑事事件として検察庁が取り上げようとしなかったのか、私はまず法務大臣にお聞きしたいと思います。――では刑事局長からどうぞ。
  73. 安原美穂

    安原政府委員 恐縮でございますが、先ほども申し上げましたように、国会でも議論になり、私自身も一般の法律論としてそういう趣旨のことを申し上げたわけでございまして、当時いわゆる田中金脈事件ということで世間で問題になっておったわけでありますので、当然新潟地検においても関心は持っていたわけでありますが、要するに犯罪の捜査を開始するだけの端緒を得なかったということであるというふうに理解しております。
  74. 諫山博

    ○諫山委員 法務大臣、とにかく共産党がこれだけ一貫して追及する、しかも具体的な資料を突きつけながら追及する。これは政治責任を追及するだけではなくて、刑事的な側面からも追及する。そして田中角榮氏は、一たんは国に提供してもいいということまで発言する。これだけの事実があるのに捜査に踏み切らないというのは、私たちはやはり田中角榮氏の政治的な影響力を恐れたのではないかというふうに思わざるを得ないわけです。これがいま世間の常識のようになっております。法務大臣、いかがでしょう。
  75. 稻葉修

    稻葉国務大臣 堤防がさっとできたら、ある会社の所有地にみんななっていたなどということはおかしな話だなという一般の国民の感情はあるけれども、それが果たしてどういう犯罪になるかということについては、いま、詐欺未遂事件ということで告発がありましたから、よろしいということで鋭意捜査している。あの当時、共産党の人がいろいろ言うけれども、果たしてそれをどういうふうにするかということが非常にむずかしい問題だったから、まだ職権捜査の段階ではないなということではなかったのでしょうかと私は思っております。
  76. 諫山博

    ○諫山委員 刑事局長、正式に告発がなされるまで刑事事件として本格的な捜査をしなかったのは、検察庁のあり方として適切でなかった。おくればせながらも今度は告発があったのだから、いままでの不適切をカバーするぐらいの覚悟で捜査を強めていくという決意はありますか。
  77. 安原美穂

    安原政府委員 お言葉でございますが、先ほど申しましたように、捜査を開始しなかったのは、捜査の端緒をつかまなかったからでありまして、その不明を論議されるとすればいたし方ございませんが、知ってやらなかったというようないわゆる不作為犯のようなことは、検察庁はいたしておらないことは確信を持って申せるかと思います。  なお、告発がございまして端緒を得たわけでごいますので、こうなりますれば、だれだれに対する告発だからといって特に力を入れるということはなく、厳正公平な立場から鋭意捜査を進めることも御信頼いただいていいのではないかと思っております。
  78. 諫山博

    ○諫山委員 この点、もう一遍法務大臣質問します。  検察庁が鋭意これから捜査に努力する、これは当然のことです。しかし、その場合、いままでのこの事件の取り扱いが適切でなかった。たとえばことしの六月五日に参議員の法務委員会で、わが党の議員から検察当局の厳正な捜査を要求するというようなことがなされたのに、刑事局長説明では、捜査の端緒を得られなかったというようなことで、捜査に踏み切らなかった。やはりこれは適切でなかったのだという反省に立って、この不明を挽回するというぐらいの取り組みが必要だと思うのですが、いかがでしょうか。
  79. 稻葉修

    稻葉国務大臣 気持ちとしてはそういうような気分で厳正公平にやる、こういうことです。
  80. 諫山博

    ○諫山委員 とにかくこの事件は、さまざまな政治的なスキャンダルの中では一番大きなスケールのものです。そして、国民の関心も非常に強まっている、こういう点を十分法務大臣は念頭に入れながら、政治的な圧力でもみ消されたんだというようなことを言われないように捜査していただくことを希望して、次の問題に移りたいと思いますが……。
  81. 稻葉修

    稻葉国務大臣 あなたはそうやってやられるが、これは政治的にもスケールの大きな問題です。したがって、法秩序維持当局としては非常に重大に考えておるが、具体的な事件でございますから、新潟地検が厳正公平な厳粛な態度でもってこれに臨むことを信じておる。私は安心しております。決してもみ消されるようなうやむやな、そんなおかしなことは断じてありません。
  82. 諫山博

    ○諫山委員 次の問題に入ります。犯罪被害者補償法の問題です。  現在、犯罪被害者に適切な補償措置をとるべきだということは、もう国民の共通の願いになったと思います。新しい立法化への国民的な合意はすでに成熟したと言っていいと思います。そして、ことしの二月、私が法務大臣質問したとき、法務大臣は、日本でこういう制度がいまなおつくられていないというのは、文明国として恥ずかしいという趣旨の答弁をされました。  この点について、私たち共産党としても法案の要綱を作成いたしました。すでに公表しております。ただ、これは予算の伴う法案で、残念ながら共産党独自では国会に出せないという状況もありまして、法務省の作業がどのように進んでいるのかという点にも私は非常な関心を払っているわけです。  さっきの横山委員質問に対する答弁で、この間、毎日新聞に発表された案がどういう性格のものであるかということはわかりました。現在、法務省としては成案を得るために鋭意検討中だということですが、いまりっぱな案を法務省につくっていただくということは、私たち非常に必要だと思うのです。  そこで、毎日新聞に発表された試案、これは法務省の担当者の中のきわめて有力な人の試案だそうで、法務省の意向を相当反映していると思われますから、この試案に基づいて二、三、私たちの意見、要望を申し上げたいと思います。  毎日新聞に発表された試案によりますと、「暴力、毒物もしくは火力の使用その他、人の生命もしくは身体に危害を及ぼすような態様または方法で実行された故意の犯罪行為」のみに補償を限定するというたてまえのようです。さっきの刑事局長説明で、この点は必ずしも法務省として固まったわけではないという説明がありました。  私は、この問題で二つの疑問を持っております。第一は、なざ故意犯に限らなければならないのか、なぜ過失犯を除外するのかという点です。もう一つは、殺人、重傷害という犯罪に対して補償するとして、犯罪の方法をなぜこのように限定しなければならないのかという点が疑問です。殺人とか傷害致死とかあるいは重傷害であれば、犯罪の手段いかんにかかわらず被害者に補償制度をつくるべきではないか。また、過失については、なるほど、労災法とか自賠法などで別の救済措置がとられる要素が多いわけですが、それにしても理念としては過失を除外する根拠は全くない。この二つについて現在どういう検討をされているのか、刑事局長説明を聞きたいと思います。
  83. 安原美穂

    安原政府委員 たびたびくどいようでございますが、毎日新聞に報道されました要綱案は、事務担当者の単なる試案でありまして、先ほど横山委員のお尋ねにも申し上げましたように、私自身見たことがない案でございます。そういう意味で、試案ではございますが、いま御指摘のようなことを法務省として決定したわけではない。つまり、過失犯を除外するなどということを決定したわけではございません。ただ、検討の過程で私ども考えております一つ考え方として、諸外国の立法例を見ますと、過失犯を除外しているものが多いということは事実のようであります。そして、その過失犯の場合、ほとんどが自動車事故とかあるいは労働災害であって、すでに保険による補償制度があったり、またそういうものがなくとも、その他の過失による致死傷の場合でございましても、加害者にいわゆる賠償能力があるのが通常と思われるということが、過失犯が除かれている理由ではないかというふうに思われるわけでございます。しかしながら、被害者の立場から見ますれば、故意犯による場合も過失犯による場合も、生命を失いあるいは身体に傷害を受けたということに変わりはないわけでございますので、過失犯の場合にもそういう場合は補償する。ただ、自賠法とか労災法による補償を受けた場合にはそれを除外するというような立法も十分に考えられるところでございまして、何度も申しますように、現在その点を慎重に検討を進めておるわけでございます。  なお、傷害あるいは死亡というような事態の生じた場合の故意の暴力犯につきましては、手段を限っておるわけではなくて、故意によるそういう犯罪行為であれば、結果に生命の喪失あるいは身体の重大な傷害があれば含むということに方向としては進んでおるわけでございまして、手段、方法を特に制限したというふうには私ども考えておりません。
  84. 諫山博

    ○諫山委員 確かに外国の立法例では、過失を除外するということも行われている例があるようです。しかし、理論的に除外しなければならない根拠は全くないと思うのです。たとえば、「警察学論集」に発表された藤永参事官の「犯罪被害者補償制度の問題点」を見ますと、過失犯を除外する根拠として、他に救済措置がとられる場合が多いということが指摘されています。これはそのとおりだと思います。しかし、他に救済措置がとられる場合には、この試案でも述べられていますように、他の法令による補償との関係、損害賠償との関係というような条項で処理すればいいわけで、犯罪被害者の補償という点から見れば、過失犯を除外すべきではない。私の党の発表している法律要綱でも過失犯は除外しなかったという点を、ぜひ検討していただきたいと思います。  それから、殺人とか重傷害について手段を限定しているわけではないという説明がありました。そういう立場で検討されているのなら結構です。さまざまな犯罪手段があるわけで、これを特定の類型だけに限定するというのは妥当性がないというふうに考えます。  次の問題です。私がこの試案を見て一番問題だと感じたのは、補償をしないことができる場合についての規定です。たとえば「被害者等が被害の事実をすみやかに捜査機関に対して申告しなかったとき、捜査機関により出頭を求められまたは裁判所により証人としての召喚を受け、正当な理由なく出頭しなかったとき、その他犯罪行為に対する捜査または裁判協力しなかったとき。」このような場合には、「補償の全部または一部をしないことができる。」という内容になっている。これはきわめて重大です。この問題で参考人からの説明が第七十五国会で行われましたが、そのとき一人の参考人からこういう傾向を恐れるという警告がなされていたわけですが、まさに試案では参考人の言うおそれ、私も絶対あってはならないと思う内容がここに盛り込まれようとしていることを重大視するわけです。もともと現在の法律では、たとえば捜査機関に対して申告する義務とか、あるいは犯罪捜査に協力する義務というようなものは国民にはありません。ところが、この新しい法律をつくることによって、実質上国民に犯罪に協力する義務を負わせようとする、これは現在の刑事裁判の大原則に対する修正だと思うのです。法務省としてはこの点どういう検討をされているのか、御説明ください。
  85. 安原美穂

    安原政府委員 一つお願いでございますが、先ほど申し上げましたように、試案はあくまでも法務省事務担当者の一試案にすぎないのでございますから、それを前提にして御質問いただくことはひとつ御勘弁を願いまして、一般論として、立法論として諫山先生のお考えを聞き、それに対して事務当局としていまどういう検討をしておるか、それについてどう考えておるかというふうなスタイルでひとつお尋ねいただき、お答えをさせていただくというふうにお願いをしたいと思います。  そういう御了承のもとに、いまの点でございまするが、要するに、御案内のとおり現在、参考人につきましては、捜査に対して出頭するというような義務はないわけでございますし、そういう意味において法律上の義務はないのでございますが、これが証人ということになりますと、御案内のとおり出頭し、陳述の義務が原則としてあるということになるわけであります。  しかしながら、この制度を考えますときには、それはやはり諸外国の立法例でも数多く見られるところでございまして、そういう犯罪の被害をこうむった者が捜査または裁判協力しなかったときというのは、諸外国の立法例でもそれを補償しない一つの原因にしておるところでございますし、また、補償を受ける者はやはり補償の要件となる犯罪事実を立証すべきではないかというふうにも考えられることでありますし、また虚偽申請を防止するという観点からも、協力をした者ということに条件をしぼるべきではないかというふうに一応は考えられておるわけでございますが、そういうことはまだ決定したという段階ではございませんので、最終的、確定的な御意見を申し上げることは差し控させていただきたいと思います。
  86. 諫山博

    ○諫山委員 法務大臣質問します。  私たちは犯罪被害者補償法というようなものがつくられることを望んでおります。ただ、学者の中には、このような法律と引きかえに治安対策に利用しようとする動きが法務省にあるのではないかというような意見があるのです。その一つのあらわれが私はこの試案の精神だと思うのです。  諸外国の例を引用されましたが、日本の場合には憲法があり、刑事訴訟法があり、この内容は諸外国とは非常に大きく変わっております。この法律をつくることによって、憲法はもちろんのこと、刑事訴訟法の大原則をいささかでも崩してはならない。これはきわめて重要なことだと思うのです。被害者は国からお金をもらうのだから協力してもいいじゃないかというような安易な立場で、治安条項と見られるような内容を少しでも盛り込もうとするような根性があってはいけないと私たちは考えますが、いかででしょう。
  87. 稻葉修

    稻葉国務大臣 そういうおかしな根性は持っておりません。  それから一般論として、憲法が実質上おかしくなったり刑事訴訟法がおかしくなったりするような、そんなやり方はいたしませんが、いまあなたがお問いになる根拠が、そう言って試案ばかりをやられますけれども、これはまだ局議も経てない、省議も経てないものですから、それだけを根拠にして、まるでそういうふうなおかしな根性を持っていることを前提とされるような質問は困るのですな。そういうことはありませんから。まあ一般論としてお答えしているわけで、その試案なるものを根拠として質問されたことに対して私は答えているのではありませんから、その点はお間違いのないようにしていただきたい。
  88. 諫山博

    ○諫山委員 刑事局長質問します。  いまの法務大臣説明では、刑事訴訟法の大原則を崩したり修正したりするようなことはしないつもりだというふうに言われました。だとすれば、一般国民が犯罪捜査に協力しなかったからといって不利益を受けるというようなことはあってはならないと思うのですが、そういう考え方は新しい法案の中には取り入れないということをお約束できますか。
  89. 安原美穂

    安原政府委員 刑事訴訟法の原則ということでございますが、要するに憲法、現在の諸法規を曲げるような補償法をつくるというつもりはございませんけれども法律上の義務としてではないが、一つの道義として犯罪の捜査に、意に反して供述を強制されるということはないにしても、任意に犯罪の捜査に協力するという道徳的な義務は国民にはあるんじゃないかということは私はかねがね思っておるわけでございまして、そういう意味で、法律上それを強制するという場合の義務ではないにしても、結局司法制度、捜査制度を支えるのは国民でございますので、国民が捜査制度、司法制度の健全な運営のために協力するという基本的なモラルというものは否定すべきではないというふうに考えておる次第でございます。
  90. 諫山博

    ○諫山委員 モラルの問題を持ち出されましたが、私がいま議論しているのは、法律上義務づけられていないことをしなかったからといって不利益な取り扱いを受けるようなことがあってはならない。毎日新聞に報道されているのはあくまでも試案だからこれを引用するなという御注文のようですが、しかし、毎日新聞に報道されている案のような立場であれば、法律に義務づけられないことをしなかったからといって不利益を受ける結果が起こり得る、こういう考え方というのは法務省としてはとってはならない。これは法律上の義務として述べているわけですが、その点はいいですか。
  91. 安原美穂

    安原政府委員 デリケートな問題でございまして、法律上義務でないことをやらなかったから不利益を与えてはならないというふうに抽象化されますといろいろ問題があろうかと思いますので、ここで、そういうことでございますから被害者補償立法についてもそういうことはいたしませんというお約束はいたしかねる。万事それは相当性の問題であり、合理性の問題でございますので、その法案を決定する段階においていろいろそういう御意見のあったことも含めて慎重に検討いたしたい、かように思っております。
  92. 諫山博

    ○諫山委員 あなたが抽象的と言うから、私が具体的にすでに発表されている一つの案を引用したところが、それは引用するなと言うし、それはフェアな議論じゃないと思います。ですから、具体的に言うと、犯罪行為に対する捜査または裁判協力しなかったから不利益を受けるというような考え方はとるべきではないと思うがどうか、この具体的な質問に対してはどうですか。
  93. 安原美穂

    安原政府委員 まだ決定した段階ではございませんので確定的なことは申し上げられませんが、仮にそういう考えをとるといたしましても、それは必要的除外ではなくて裁量的除外ということになるような方向で検討しておるという報告を受けております。そういう意味において、先ほど申しましたように、抽象的にそういうときはやらない、やるということでなくて、その程度、度合い、ケース・バイ・ケースで考えていくような問題ではなかろうかと思うわけでありまして、たとえば内ゲバ事件等のような場合におきまして、自分の名前も言わないというようなことで犯罪の捜査当局に全然協力をしないというものについて被害者補償ということを考える必要があるかどうかというのは、むしろ一つの大きな意味での立法政策の問題として、その裁量の余地を残してもらっていい問題ではなかろうかというふうにも考えておるという段階でございます。いずれにしても、決定的な問題ではございませんので、ここで確約を申し上げる段階でもないように思います。第七十五国会で行われましたが、そのとき一人の参考人からこういう傾向を恐れるという警告がなされていたわけですが、まさに試案では参考人の言うおそれ、私も絶対あってはならないと思う内容がここに盛り込まれようとしていることを重大視するわけです。もともと現在の法律では、たとえば捜査機関に対して申告する義務とか、あるいは犯罪捜査に協力する義務というようなものは国民にはありません。ところが、この新しい法律をつくることによって、実質上国民に犯罪に協力する義務を負わせようとする、これは現在の刑事裁判の大原則に対する修正だと思うのです。法務省としてはこの点どういう検討をされているのか、御説明ください。
  94. 安原美穂

    安原政府委員 一つお願いでございますが、先ほど申し上げましたように、試案はあくまでも法務省事務担当者の一試案にすぎないのでございますから、それを前提にして御質問いただくことはひとつ御勘弁を願いまして、一般論として、立法論として諫山先生のお考えを聞き、それに対して事務当局としていまどういう検討をしておるか、それについてどう考えておるかというふうなスタイルでひとつお尋ねいただき、お答えをさせていただくというふうにお願いをしたいと思います。  そういう御了承のもとに、いまの点でございまするが、要するに、御案内のとおり現在、参考人につきましては、捜査に対して出頭するというような義務はないわけでございますし、そういう意味において法律上の義務はないのでございますが、これが証人ということになりますと、御案内のとおり出頭し、陳述の義務が原則としてあるということになるわけであります。  しかしながら、この制度を考えますときには、それはやはり諸外国の立法例でも数多く見られるところでございまして、そういう犯罪の被害をこうむった者が捜査または裁判協力しなかったときというのは、諸外国の立法例でもそれを補償しない一つの原因にしておるところでございますし、また、補償を受ける者はやはり補償の要件となる犯罪事実を立証すべきではないかというふうにも考えられることでありますし、また虚偽申請を防止するという観点からも、協力をした者ということに条件をしぼるべきではないかというふうに一応は考えられておるわけでございますが、そういうことはまだ決定したという段階ではございませんので、最終的、確定的な御意見を申し上げることは差し控させていただきたいと思います。
  95. 諫山博

    ○諫山委員 法務大臣質問します。  私たちは犯罪被害者補償法というようなものがつくられることを望んでおります。ただ、学者の中には、このような法律と引きかえに治安対策に利用しようとする動きが法務省にあるのではないかというような意見があるのです。その一つのあらわれが私はこの試案の精神だと思うのです。  諸外国の例を引用されましたが、日本の場合には憲法があり、刑事訴訟法があり、この内容は諸外国とは非常に大きく変わっております。この法律をつくることによって、憲法はもちろんのこと、刑事訴訟法の大原則をいささかでも崩してはならない。これはきわめて重要なことだと思うのです。被害者は国からお金をもらうのだから協力してもいいじゃないかというような安易な立場で、治安条項と見られるような内容を少しでも盛り込もうとするような根性があってはいけないと私たちは考えますが、いかででしょう。
  96. 稻葉修

    稻葉国務大臣 そういうおかしな根性は持っておりません。  それから一般論として、憲法が実質上おかしくなったり刑事訴訟法がおかしくなったりするような、そんなやり方はいたしませんが、いまあなたがお問いになる根拠が、そう言って試案ばかりをやられますけれども、これはまだ局議も経てない、省議も経てないものですから、それだけを根拠にして、まるでそういうふうなおかしな根性を持っていることを前提とされるような質問は困るのですな。そういうことはありませんから。まあ一般論としてお答えしているわけで、その試案なるものを根拠として質問されたことに対して私は答えているのではありませんから、その点はお間違いのないようにしていただきたい。
  97. 諫山博

    ○諫山委員 刑事局長質問します。  いまの法務大臣説明では、刑事訴訟法の大原則を崩したり修正したりするようなことはしないつもりだというふうに言われました。だとすれば、一般国民が犯罪捜査に協力しなかったからといって不利益を受けるというようなことはあってはならないと思うのですが、そういう考え方は新しい法案の中には取り入れないということをお約束できますか。
  98. 安原美穂

    安原政府委員 刑事訴訟法の原則ということでございますが、要するに憲法、現在の諸法規を曲げるような補償法をつくるというつもりはございませんけれども法律上の義務としてではないが、一つの道義として犯罪の捜査に、意に反して供述を強制されるということはないにしても、任意に犯罪の捜査に協力するという道徳的な義務は国民にはあるんじゃないかということは私はかねがね思っておるわけでございまして、そういう意味で、法律上それを強制するという場合の義務ではないにしても、結局司法制度、捜査制度を支えるのは国民でございますので、国民が捜査制度、司法制度の健全な運営のために協力するという基本的なモラルというものは否定すべきではないというふうに考えておる次第でございます。
  99. 諫山博

    ○諫山委員 モラルの問題を持ち出されましたが、私がいま議論しているのは、法律上義務づけられていないことをしなかったからといって不利益な取り扱いを受けるようなことがあってはならない。毎日新聞に報道されているのはあくまでも試案だからこれを引用するなという御注文のようですが、しかし、毎日新聞に報道されている案のような立場であれば、法律に義務づけられないことをしなかったからといって不利益を受ける結果が起こり得る、こういう考え方というのは法務省としてはとってはならない。これは法律上の義務として述べているわけですが、その点はいいですか。
  100. 安原美穂

    安原政府委員 デリケートな問題でございまして、法律上義務でないことをやらなかったから不利益を与えてはならないというふうに抽象化されますといろいろ問題があろうかと思いますので、ここで、そういうことでございますから被害者補償立法についてもそういうことはいたしませんというお約束はいたしかねる。万事それは相当性の問題であり、合理性の問題でございますので、その法案を決定する段階においていろいろそういう御意見のあったことも含めて慎重に検討いたしたい、かように思っております。
  101. 諫山博

    ○諫山委員 あなたが抽象的と言うから、私が具体的にすでに発表されている一つの案を引用したところが、それは引用するなと言うし、それはフェアな議論じゃないと思います。ですから、具体的に言うと、犯罪行為に対する捜査または裁判協力しなかったから不利益を受けるというような考え方はとるべきではないと思うがどうか、この具体的な質問に対してはどうですか。
  102. 安原美穂

    安原政府委員 まだ決定した段階ではございませんので確定的なことは申し上げられませんが、仮にそういう考えをとるといたしましても、それは必要的除外ではなくて裁量的除外ということになるような方向で検討しておるという報告を受けております。そういう意味において、先ほど申しましたように、抽象的にそういうときはやらない、やるということでなくて、その程度、度合い、ケース・バイ・ケースで考えていくような問題ではなかろうかと思うわけでありまして、たとえば内ゲバ事件等のような場合におきまして、自分の名前も言わないというようなことで犯罪の捜査当局に全然協力をしないというものについて被害者補償ということを考える必要があるかどうかというのは、むしろ一つの大きな意味での立法政策の問題として、その裁量の余地を残してもらっていい問題ではなかろうかというふうにも考えておるという段階でございます。いずれにしても、決定的な問題ではございませんので、ここで確約を申し上げる段階でもないように思います。