○神沢浄君 いま院外におきましては、本年度生産者米価決定を前にいたしまして、中央、地方を問わず、
全国各地域で数多くの農民、農業
団体の
要求運動が激しく展開をされてまいっております。
この際、私は、
日本社会党を代表して、
昭和五十年産米及び麦の政府買い入れ価格の問題に関して、総理及び農林、大蔵両大臣に対し
質問をいたします。
まず第一に、麦の価格について何ゆえに政府は、昨年の米審に
おいての、麦類の算定方式は見直すべきであるという建議をあえて無視してまで本年もパリティ方式による算定に固執したかという点であります。パリティによる麦価が今日までわが国の麦類の生産を大きく後退をさしてしまったことは余りにも明らかであります。いかに農民が土を愛し勤労をとうとぶといいましても、生活の成り立たないことを続けるわけにはまいりません。数字が
如実に証明しておりますように、
昭和三十五年百四十四万ヘクタールあった作付は、四十八年にはわずかに十五万ヘクタール、すなわち十分の一に激減をしているのであります。したがって、自給率も急テンポで落ちたのであります。三十五年に六三%あったものが、四十八年には小麦が何と四%、大麦、裸麦で一〇%と、まさにいまや壊滅寸前の
状態と化してしまっておるわけであります。(「そのとおりだ」と呼ぶ者あり)なるほど食糧管理法には、「麦の買い入れ価格は、基準年度の平均価格に農業のパリティ指数を乗じて得たる額を下らざるものとし」と、こうなっております。したがって、政府は、あるいはパリティ方式を採用していることは
法律どおりに行っているのだと強弁をしたいのかもしれません。しかし、どう読んでみても、
法律にはパリティでやれとは書いてないのであります。それを下回ってはいけないとあるだけであります。いや、むしろもっと重要のことが後に続けて書かれてあります。すなわち、「其ノ額ヲ基準トシテ麦ノ生産事情其ノ他ノ経済事情ヲ参酌シ麦ノ再生産ヲ確保スルコトヲ旨トシテ之ヲ定ム」と、こうあるのであります。大切のところですから繰り返しますが、「麦ノ再生産ヲ確保スルコトヲ旨トシテ之ヲ定ム」と、こうあるわけであります。したがって、事はきわめて明瞭であります。今日まで政府みずからが、
法律どおりどころか、
法律を犯し続けてきて、農民に対して、再生産の確保できない価格を押しつけてきたからこそ、わが国の麦作は今日のように壊滅寸前に追い込まれてきたわけであります。その方式を、米審の建議にも耳をふさいで、今回もまた頑強に踏襲した政府の
態度が、何としても納得できないところであります。農林大臣に明確な解明を求めます。
三木総理はその施政
方針演説に
おいて、また、安倍農林大臣はその所信表明に
おいて、それぞれ食糧の自給力の高揚を、また、農業再建を高々とうたわれております。農民の
期待もそこにかかっているわけであります。それだけに、施政
方針や所信表明が、単なるお得意の山吹流リップサービスだけであっては困るのであります。それでは今回の麦価の決定
方針は、言うところの自給力の向上、農業再建とどう結びつくのでありましょう。この際、総理からは改めて
日本農業再建の基本構想を、農林大臣からは自給度向上と今回の麦価との関係を詳しくお聞かせをいただきたいと存じます。
ところで、あるいは政府は生産の振興奨励についての施策は別に講じてあると、こう言われるのかもしれません。しかし、農民にとってはそこが一番問題のところであります。補助金、奨励金は価格ではありません。いつでも打ち切られればそれまでであります。いまは外麦が高いが、いつか値段が下がればいつでも打ち切れるようにしておくのではないかという農民の不信を解くことにはならないのであります。しかも、外麦価格の高騰は、いまや食管会計の新たな重荷となってまいっております。自給度向上を目指す以上、同じ金をかけるなら国内にかけるべきだと私は確信をいたします。そのためには、農民が安心して麦作に投資できるよう生産費と所得が補償される価格そのものが制度として確立される以外にはないと私は確信をいたします。農林大臣の御
所見を伺いたいと存じます。
さて、次にお尋ねするのは米価の問題についてであります。伝えられるところによりますと、政府は七月十日前後に米審に対して五十年産米の生産者価格の諮問を行う予定とのことでありますが、わが党はすでにしばしば政府に対して、バルクライン八〇%による生産費及び所得補償方式によって算定すべきであることを主張をしてまいっておるところでありますが、この際、農林大臣よりその点についてのお
考えと、政府の試算
方針につきましての基本的
見解をお伺いをしておきたいと思います。
あわせて、消費者米価についての諮問の時期についてもお尋ねをしておきたいと存じます。
一時伝えられました同時諮問は、一応断念をしたように言われているのでありますが、しかし、実際にはいささかの変わりもないわずかの時間差だけをつけて、連続諮問が依然予定されているとのことでありますが、その予定に相違がないかどうか、まずお聞かせをいただきたいと存じます。もしそうであるとするならば、ことさらに従来の慣行を破る政府の意図するものは何であるかを私はお尋ねをいたしたいのであります。
仮に、巷間言われておりますように、政府のねらいとするものが、生産者と消費者の間の利害の相違に乗じ、逆ざや解消のための相互の牽制であるとでもいたしますならば、これは明らかに生産者米価と消費者米価は基本的に異なることを定めました食管法の精神に違背をすることになるわけでありますから、いずれにせよ、このような疑いのあることはやめるべきだと思いますが、政府の
考えをお聞きをいたしたいと存じます。
さらに、伝えられるところによりますと、今回の生産者米価決定に当たっては、政府は一五%ガイドライン内での一発回答方式だ、こう言われておるのであります。もし、それが真相であるとすれば、このくらい農民無視の
態度はないと思います。あるいは
労働組合などの場合に
おいては、賃上げ交渉などでそのような方式があるのかもしれません。しかし、農民には直接交渉の場は与えられていないのであります。農民にとっては死活に値するような重大な米の価格の決定に関しても、農民の主張が直接反映できるような方途が現行制度のどこに開かれておりますか。一発回答と言っても、それは交渉の場に
おいてのものではなくて、政府が一方的に決めて押しつけるというにすぎないではありませんか。政府が一発回答を言う以上、私はこの際、生産者との
団体交渉の制度化を
提案をいたしたいと存じます。政府の
見解をお伺いをします。
なお、この際、農民
団体の
要求米価は、これは当然尊重されるべきだと思いますが、その点につきましても御
見解をあわせて伺っておきたいと思います。
さて、予想される生産者米価の政府試算に
おいて農民が特に大きな不満を表明をいたしておる問題は、自家労働費の算定についてであります。政府は、みずからの職員である公務員給与の算定に当たっては、民間の企業規模百人以上で、上限を定めない範囲での企業賃金を基準としているのであります。しかるに、生産者米価の算定については、何と五人以上、千人未満の事業所の平均賃金を基準としております。何ゆえこのような差別を押しつけるのでしょうか。私は、政府はこの際、農業労働の質の評価を正しく行うべきであると
考えます。農作業の一時間は、役所で机に向かう人の労働の三倍も五倍ものエネルギーの消耗があるということを十分に認識すべきではないでしょうか。しかも、農民には手当も賞与もないのであります。それが逆に労働の評価に
おいて格差をつけている政府の
考え方には、大きな誤りのあるものと私は確信をいたします。したがって、自家労働費の算定について、少なくとも当然公務員と同様基準にくらいはすべきであると
考えますが、政府の
見解をお伺いをいたしたいと存じます。
さて、次に私は総理並びに大蔵大臣にお尋ねをいたしたいのであります。それぞれの御
見解をいただきたいと存じます。
大蔵省の「生産者米価及び消費者米価について」というPR文書がございますが、これによりますと、五十年度の食糧管理費は九千八十六億円に上り、農林関係予算の四二%を占めている。国際的な食糧危機の中で、食糧自給度向上の要請が高まっているとき、米麦の逆ざや関係のため多額の財政負担を行って、そのために前向きの生産対策、構造政策などの必要の経費を圧迫していることは問題ですと、こう述べておるわけであります。大体政府は、食管制度というものをどのように理解をしているのでしょうか。この際私は、総理を初め、特に大蔵大臣には食糧管理法をしっかりともう一度読み直していただきたいと存じます。食糧管理法は、その第一条の目的に
おいて「本法ハ
国民食糧ノ確保及
国民経済ノ安定ヲ図ル為食糧ヲ管理シ其ノ需給及価格ノ調整並二配給ノ統制ヲ行フコトヲ目的トス」と、こう規定をしております。それを受けて、第三条及び第四条に
おいて、生産者価格は「再生産ヲ確保スルコトヲ旨トシテ」定め、消費者価格は「家計ヲ安定セシムルコトヲ旨トシテ」定めると、こうされているのであります。
そこで、まず私がお尋ねしたいのは、食管制度はわが国の
社会経済政策の基盤をなすものであり、農業政策とは全く次元を異にするものであって、したがって、その会計が農林予算と同一の枠組みの中に置かれておるということ自体に根本的の誤りがあると
考えますけれども、どうでしょうか。したがって、食管会計の増幅が農業政策を圧迫するなどという
考え方は、国の行財政運用の上で大きな筋違いだと
考えますが、いかがでしょうか。
また、食管赤字とか逆ざやとか言われるが、二重米価は食管制度の本来のあり方であります。このような
国民に誤解をさせるような言い方を政府自体がすることは大きな間違いであって、直ちにやめるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
さらに、一口に食管赤字九千八十六億円と言われますが、このうちいわゆる米価の売買逆ざや分は半分以下の四千百八十億円であります。そのほかは政府が当然負担すべき役人の人件費、保管料、運賃などを初め、米の生産調整費から、いまや外麦の高騰によって一千四百億円にも及ぶような輸入食糧勘定までも含まれているのであります。この実態をことさら覆って米価勘定のみに関心を集中させようとする財政当局の意図は那辺にあるのか、お尋ねをしておきたいのであります。
しかも、予算の中で食管会計だけが特に増大をしておるわけではありません。国の予算に占める割合は、本年の四・三%に対して昨年が五・二、一昨年が五・三、それ以前もおおむね類似をしているのであります。要するに、金額の伸びは、インフレによって、一般予算も食管費も同様に大きくなっているにすぎないと思うのであります。それを特に食管費について誇大宣伝する政府の
態度は、生産者の
立場を無視してまでも無理やりに上げ幅を一五%ガイドライン内に押さえ込もうとする意図以外の何ものでもないと
考えざるを得ないのでありまして、私はこの際、政府はあくまでもガイドラインにこだわるのかどうか、もしそうであるならば、消費者米価の場合も同様であるかどうか、これらの点をお伺いをするとともに、政府の猛反省を強く求めてやまないところであります。これは農林大臣から
お答えをいただきたいと存じます。
さて、最後に、私は特に三木総理にお尋ねをいたしたいのであります。それは
日本の米というものに対しての総理の御認識について伺いたいのであります。
長い歴史の中で
日本の国家、民族を育て上げてきたもの、それが
日本の米であると私は確信をいたしております。
日本の決して豊かでない食糧資源の中で一〇〇%の自給が可能なのは米のみであります。世界の食糧危機が展望されるという情勢の中で、食糧の自給がわが国の喫緊の政治課題になってきた今日、米の生産調整が行われているなどということは、どこかが狂っているからではないでしょうか。いまや高い外麦を買い入れて輸入食糧の赤字を増大をさせ、アメリカやカナダのために
日本が輸出補助をしていると同様な姿はおかしいとはお思いになりませんか。時代がどのように変わっても、米は
日本農業の
中心であると私は確信をいたします。それを忘れたところに今日の
日本の食糧また農業の危機があるのだと私は
考えます。
国民にもっと米をつくってもらい、もっと米を食べてもらわなければ
日本の食糧の安定は成り立たないのではないでしょうか。いまほど
日本の政治として米への見直しが必要に迫られているときはないと私は確信をいたしますが、総理の御
所見を伺いまして私の
質問を終わります。(
拍手)
〔国務大臣三木武夫君
登壇、
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