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最高裁判所長官代理者(
矢口洪一君)
修習生になっていただく方は、毎年、過去数年来を見てまいりますと漸増いたしてまいりまして、五百人前後ということで相当、十数年前に比べますと倍近い人数になっているわけでございます。その点から見てみますと、最終的に
裁判官あるいは
検察官を
希望される方のその中に占める割合というものは、
かなり御
指摘のように低下してきております。
この点はどういう
事情に基づくものかということの御質問と拝察いたしますが、私
ども機会ありました際にも申し上げたかと思いますが、まず、
修習生を御
希望になる当初の将来の志望という点で見てまいりますと、最近、
裁判官の場合でございますと、大体百四十人前後の方が
最初は
裁判官を
希望するのだというふうにお書きになっております。ところが、二年間修習をおやりになっておりまして、
最後の御
希望ということになりますと、その数が七十名前後というところまで減ってまいるわけでございます。
これはいろいろの理由があろうかと思います。何と申しましても現在の世相と申しますか、そういったものが
在野法曹の御活躍になる部面が広がってきている。そして、何ものにもいわば拘束されずに自由に仕事をおやりになる
弁護士さんの活躍ということについての若い
人たちのあこがれと申しますか、そういったものが
かなり大きなウエートを占めた職業選択の事由になっておるということが一点あろうかと思います。しかし、私
どもの方の立場から申しますと、
法曹の活躍分野というものは何も
在野だけではないわけでございまして、
裁判官になりあるいは
検察官になっていただいても十分そういった意味の、自分の良心に従った活躍というものはできるというふうなりっぱな方ができるだけ多く
裁判官を志望していただくということに対しまして大きな期待を持ってきているわけでございます。
しかし、現実の問題といたしますと、たとえば
在野法曹におなりになる方は東京に居を定めよう、あるいは大阪に居を定めようというふうにお
考えになりますれば、ずっと終生その地でお働きをいただけるわけでございます。ところが、
裁判官になりますとそうはまいらないわけでございまして、現在三年ごとに転勤をしていただいている。いろいろの経験をしていただく必要があるということもございまして、東京に三年おっていただく、あるいは大阪に三年おっていただくということをいたしますと、その次には九州に行っていただくとか、四国に行っていただく、北海道に行っていただくというような転勤の問題がございます。この転勤の問題は、お若い間はある意味ではいろんな土地を見ていただくという意味において好ましいのでございますが、子供さんの教育の問題でございますとか、年寄りの世話をしなければいけないという問題でございますとか、そういった問題と絡んでまいりますと、非常に
一つの、その道にとどまる、
裁判官にとどまるということの
隘路というような形で出てまいるわけでございます。
そういったことは、
修習生におなりになる際に抽象的にお
考えになっております場合と、二年たちまして
裁判所の中、
弁護士会の中、検察庁の中というものを十分にごらんになった上で最終
希望をお決めになります場合とでは
かなり違ってまいりまして、最終の
希望は相当な現実性を持った考慮がなされるというようなことになるのではなかろうかと思います。少し口はばったいことを言わしていただければ、
裁判官をおやりいただくということについての厳しさといったようなものもお
考えの中には入ってきておろうかと思います。何はともあれ、そういうことがございまして、当初百四十人ぐらいの御
希望の方が七十名前後に減っておるということでございます。
しかし、ここ数年詳細に見てまいりますと、その中にもある
程度の変化があるわけでございまして、先ほど
法務省のほうからもお答えがございましたが、
裁判官の
希望というものは、ここ数年を見てまいりましても六十数名というのが続いておりましたが、昨年は最終的に八十五名の方に
裁判官になっていただいた、ことしもまた九十名の方が
裁判官を
希望していただいておるというふうな状況でございます。そういうことになりますと、一般の経済
事情の変動といったようなこともあろうかとは思いますが、
裁判官の
希望者というものは、当初の
希望者から現実の
希望者になる、その減耗率と申しますか、減る率というものは若干ながらも詰まってきておるというふうに
考えておるわけでございまして、こういった傾向はさらに、
裁判官になられてからの転勤の問題でございますとかいろいろの点で妥当な配慮をいたしていくことによって、なお
希望者の増大を招来することは不可能ではないのではないかというふうに現在
希望を持っておるわけでございます。しかし、何はともあれ、やはり当初お
考えになりました抽象的なことと、それから現実の二年の修習を終わられて、どちらの道に進むかということをお決めになります時点とではいろいろと問題が、いま申し上げたような点を考慮されてかと思いますが、変わってきておる、これが現状でございます。