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参考人(
小橋一男君) ただいま御
指名をいただきました
弁理士会会長小橋一男でございます。
特許法等の一部を
改正する
法律案に関し、
弁理士会を代表して
意見を申し述べる
機会を与えられましたことを光栄に存じます。
さて、この
改正法律案の
原案が
弁理士会に示されたのは去る一月三十一日でありまして、その際の
特許庁の御要請により、
弁理士会は、とりあえず二月三日にこれに対する
要望書、お
手元に差し上げております
資料1でございますが、を
長官あてに差し出しましたが、それよりわずか二週間を
経過したにすぎない、二月十七日にはすでに
国会に上程されたのでありまして、私の個人の
意見であればともかく、このような短期間に
弁理士会としての十分な
意見を出すことはとうてい不可能でありました。
そこで、
弁理士会内の
専門委員会において急
拠審議の上
答申を得まして、三月十一日に緊急常
議員会を招集し、常
議員会の決議に基づきましてこの
改正法律案に対する
建議書、お
手元に差し上げてあります
資料2でございますが、これを
特許庁長官に差し出した次第であります。そこで私は、お
手元に差し出しました
資料2の
建議書に取り上げました
問題点につきまして、
弁理士会の
意見を
説明申し上げたいと存じます。
まず、
特許法、
実用新案法に関する
改正は、
物質特許制度の
採用と
多項制の
採用とを二本の柱といたしております。
弁理士会では、この
物質特許制度の
採用については
時宜を得たものとして
賛成を表明し、今後その
運用等についても御協力申し上げようと存じております。
次に、
多項制の
採用につきましては、従来、
わが国は世界独特とも言うべき
単項制をもって実に九十年の長い歴史を歩んできておりますが、
特許制度の
国際化という視野から、このたび、一の
発明について
複数の
項目で
請求の
範囲を
記載する
多項制の導入に敢然と踏み切られました点につきましては、
弁理士会は心から
敬意を表する次第であります。
ところで、
特許請求の
範囲ということは、
明細書の
記載だけの問題ではなく、その
出願が
特許になった後、すなわち、
特許権として独占排他的な
権利が確定された後においてさらに重要な
内容を持つものであります。
従来の、
単項制を
主体とする
現行特許法第三十六条第五項は、
工業所有権審議会の
答申書において、「
多項制の
採用にあたっての
基本的考え方」という
項目中で、
わが国の
単項制の
基本条文として
説明しており、
多項制の
採用に当たっては、この「第三十六条第五項を改めることが必要である。」云々の旨を強調されております。
しかるに、今回
提案されております
改正案では、この
単項制の
基本条文に、「ただし、その
発明の
実施態様を併せて
記載することを妨げない。」というきわめて漠然とした、たとえば
実施態様を書いても書かなくてもよい、「妨げない」ですから、書いても余り役に立たないということを暗示するような
ただし書きを加えて、
特許法上の他に
関連する重要な
部分にはほとんど手を加えないで、これで従来の
単項制を
主体とする
わが国の
特許法の
体系が国際的な
多項制にくるっと変わる、そしてスムーズに
運用できると考えるのはきわめて問題があるのではないかという問題が生じてきたわけであります。
さて、この
ただし書きの項の
実施態様という
言葉がまことに漠然としております。
特許庁の御
説明によりますと、
実施態様という
言葉をどう定義されようとしているのか、まことに心もとないと言わざるを得ません。したがって、われわれ
専門家でも不明瞭だと思っておるこの
実施態様という
用語を一般の
発明家や
出願人にも明確にするように、
条文中ではっきりしてほしいと希望するわけであります。
次に、この重要な
多項制の
特許請求の
範囲の
記載については、第三十六条第六項で、
通商産業省令で定める旨を
規定しております。ところがこの条項は、
特許出願の
拒絶理由に引用される重要な問題でもあり、また、
PCT——特許協力条約との
関連においてもすこぶる大切な
条文であります。しかるに、この
省令については、一切何も具体的に示されておりません。したがって、
省令の
内容を把握しなければ
意見を申し上げるわけにはまいりませんが、その
内容のいかんによっては、
PCTの
規則に違反するところも出てくるのではないかと心配しているわけであります。
以上のような
観点に立って、最善の
特許法に
改正していただきたいというところから
問題点を取り上げて、
建議事項の(イ)、(ロ)、(ハ)として取り上げたものでございます。(イ)、(ロ)、(ハ)は
資料2に
記載してございますが、まずこの(イ)の点について申し上げますと、「
実施態様」という
用語は、
大正十年法の
施行規則にあった、「
實施ノ
態様ヲ別項二
附記スルコトヲ妨ケス」という
条文を直ちに思い起させる
言葉でありますが、今度
実施態様として書くことができるものはやはり単なる付記ではないかという疑問を抱かせる一方に、先ほども申し上げましたように、
実施態様という
言葉は種々の
意味で使用されており、
特許審査上ないし
明細書記載上とうてい定着した
意味を持つ明確な
概念とは言えません。したがって、この
実施態様という
言葉は
発明の「一部又は全部の
構成を具体化した
事項」というように
訂正した方がわかりやすく、明瞭になるのではないかと考えたわけであります。この
訂正案は一例でありまして、最善であるとは考えておりませんが、いずれにしてもこの点を明確に
規定して、混乱なく、スムーズに
運用できるようにしていただきたいというのが私どもの本心であります。
次に、(ロ)の点でございますが、
特許法第三十六条第六項で、「
特許請求の
範囲の
記載は、
通商産業省令で定めるところにより、しなければならない。」と
規定したことについての要望でありますが、このように
省令に委任した形のままで、しかも、この
規定に違反するということで
出願が拒絶されるというのは好ましくないのではないか。
省令にどのような
規定が置かれるのか十分に明らかではありませんが、
拒絶理由になる
部分、特に従属
クレームの書き方については本法に明確に
規定していただいて、最初からその書き方などによって
拒絶理由を出すというような、
特許庁でも厄介なことのないようにすべきであると考えるのであります。さらに、この(ロ)のことにつきましては、
省令案が示されていないということに多くの問題が集中しているのであります。
PCTの
規定に違反することがあってはいけないというような不安も抱いております。
最後に(ハ)の点は、
権利設定後の各
クレームの取り扱いの問題であります。
今回の
改正案によりますと、独立
クレームとこれに従属した二以上の従属
クレーム、すなわち、いわゆる
実施態様クレームを持った
特許権または実用新案権が得られるわけでありますが、この独立
クレームがなくなった場合に、そのような従属
クレームはどうなるのかの問題があります。
特許庁の
説明によりますと、独立
クレームのみに無効事由がある場合は
訂正の審判で独立
クレームを
削除し、従属
クレームを独立
クレームに
訂正することを認めるということでありますが、そのような
訂正ですべて
運用がスムーズに行われるものであるかどうか、また、
実施態様であるとして書かれている従属
クレームが、実は
実施態様ではないというような場合があった場合にはどうなるかというような疑問も生ずるわけであります。そこで、
訂正の審判でもし
一つの
発明または
一つの考案が二以上になること、すなわち、二以上の従属
クレームを必要に応じてそれぞれ独立
クレームに
訂正すること、これを認めるというのであれば、その点について
法文上に明確にすることが必要ではないかと考えるわけであります。
次は
商標法の
関係でございますが、その第一点は、更新登録
出願の際の使用証明書提出の時期の問題であります。
改正法案によれば、このような証明書類は更新登録
出願と同時に提出すべきことになっております。今般の
商標法改正は
審議会の
答申にもありますとおり、滞貨の一掃、
審査期間の短縮、これを当面の大
目的としてなされたものでありまして、この
観点のみからすれば使用証明書類提出時期について寛大になり得ないことは理解できます。しかしながら、実際に使用している事実があるにもかかわらず、たまたまこの事実を証する書類が出せなかったという
理由で大事な商標権を失効せしめるということは大きな問題であります。そこで、「同時に」という文言を
削除することにより、
拒絶理由に対する
意見書と同時に完全な証明書を提出し得るようにされるべきであります。このようにしたからといって滞貨の一掃、
審査期間の短縮という
目的が著しく阻害されることは考えられません。
特許庁の従来からの御
説明によれば、更新登録をするまでの十年間の期間内に十分な準備ができたはずであり、同時提出を求めても酷ではないとされております。しかしながら、たとえば、同時に二件の更新登録
出願をする場合に使用証明書を取り違えた、あるいはその他幾多の事例を想定できますが、このような場合にも個々の
出願について見れば、そのための使用証明書は同時に提出されなかったことになります。私ども弁理士が代理する場合はこのようなミスはなかろうと思いますが、かかる立証書類のごときについてちょっとした
出願人のミスで更新を許さないとするがごときは、この種
法律手続のあり方としていかがでありましょうか。
しかも、現在の
運用要綱試案によれば、この証明書類の
補正は許さないとしております。これに至りましては大いに問題であります。提出せられるべき証明書類の微妙な点において理解、認識にそごがあり、
出願人側としては使用の事実を証する書類の提出があったと確信しているにかかわらず、
審査官の判断によればそれでは立証不十分であるとされる場合を想定されれば、事の重大性は御理解いただけると考えます。このような場合に
意見書提出の際、証明書類の追完が許されなければ、更新登録
出願人すなわち商標権者の立場はきわめて不安定なものとなります。
商標法関係の第二点は、いわゆる
出願時のチェックの問題であります。
前述しました
運用要綱試案によれば、商標登録
出願願書に
出願人の業種を掲記せしめ、これと指定商品との
関連で当該商標使用の意思の有無を推認しようとしておられるようであります。この根拠
条文を現行の
商標法第三条に求められているようでありますが、これははなはだ疑問であります。けだし同条の柱書は、「自己の業務に係る商品について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」というのでありまして、以降に述べる商標登録の要件を規制するのが、本条の
趣旨であり、現に当該
条文の見出しも「(商標登録の要件)」となっております。この
条文を将来使用する意思を必要とする根拠
条文として、
省令により上述のごとく願書に業種を掲記することを要求し、もって
出願時のチェックをしようとすることは、実質的に
法律をもって規制されるべきであることを
省令で律することに帰しはしないかと恐れるのであります。
最後に料金でございますが、弁理士は料金について直接の利害
関係は持ちません。しかしながら、組織を持たない
出願人ないしは
権利者、ことに中小企業の
方々の声を代弁し、ことに国際的に見て
わが国工業所有権関係の適正な料金額につき御
意見を申し述べ、かつまた修正をお願い申し上げるべき責任があると確信いたしております。
今回の料金は、一般的に二倍、すなわち一〇〇%の値上げとなっていることは、ここ数年来の異常な物価上昇、人件費の高騰を考えればやむを得ないという
考え方もありますが、この種料金は光熱料金、交通料金等のごとき公共料金と同一には断じ得ないにしても、物価上昇等に即応して値上げすることを直ちに容認し得る性格のものではないと考えます。ことに、商標
出願手数料が一挙に五倍に引き上げられることは、意匠のそれの三倍との
関係においても均衡を失し、きわめて高い引き上げ率であり、また、一万円という額そのものも国際的に見て高きに失すると考えられます。
たとえばイギリスの四千二百円、ドイツの三千八百円、フランスの四千八百円に比べると約二・六倍ないし二・一倍であり、アメリカの登録料を含めた一万三百円に比較して、この
改正額一万円に登録料二万四千円を加えた三万四千円は実に三倍以上となります。このように、国際的水準より見ても異常に高い
出願手数料をもって
出願件数を抑制せんとする
考え方は正当ではありません。
出願時のチェック、取り消し審判における挙証責任の転換、更新登録
出願に際しての使用証明書の提出等の一連の使用主義的色彩の強化措置により、商標登録
出願の抑制は十分に期待し得るのであります、料金を高く取って
出願件数を滅らそうとする
考え方は健全でないのみならず、
出願しなければならない商標については
出願せざるを得ないのでありまして、この点から中小企業者にとって酷であるのみならず、
意図しておられる抑制
効果そのものもはなはだ疑わしいものであります。
なお、本件に関しましては、お
手元に差し出してあります
資料3、4をごらんいただきたいと思います。
資料3は、
発明協会か商標の
出願手数料などにつきまして求めたアンケートの回答でございまして、二倍
程度が六〇・七%、三倍
程度が一一・四%、五倍
程度が五・八%でありまして、今回の値上げ案の五倍はその回答の結果と大いに違っておるんではないかと考えられます。また
資料4には、四ページから六ぺ−ジに外国の例を掲載してございますし、十一ぺ−ジには
わが国の印紙代の変遷が示されておりますが、
昭和三十四年以来商標と意匠との比率は十対六が保たれてまいっておりますが、今回の値上げ案による十対三・六の比率は、その歴史的事実を無視するものではないかと考えられます。
次に、更新登録料でありますが、これは従来の二倍ということが予定されております。実に四万五千円であります。アメリカ、イギリス、フランスともに更新登録料を別途に取ってはおりません。そのために、手続きに要する手数料はそれぞれ七千円、一万四千円ないし二万一千円、八千七百五十円、七千八百円等でありまして、これらに比べれば更新に要する料金が異常に高額であることは一目瞭然であります。
以下省略いたしますが、
最後に料金の値上げの時期でございます。
本
改正法は、附則によりますれば、料金は公布の日からということになっておりますが、公布の日は事前予知が困難であり、私どもは代理人として、ことに外国の依頼者に周知せしめる時間的余裕がほとんどありません、しかるにかかわらず、前述した高率の諸料金の値上げが行われ、ことに高額の登録料が二倍に値上げになりますと大変な混乱を生ずることが予想されます、これらの事情をお考えの上、料金の
改正実施施行時期につきましても、御考慮を賜りたいと御要望申し上げる次第でございます。
御静聴ありがとうございました。