○国務
大臣(河本敏夫君) 第七十五回国会における
商工委員会の御審議に先立ち、通商産業行政に対する私の所信の一端を申し述べます。
その基本的方向でありますが、わが国経済は、これまで、世界に例を見ない順調な発展を遂げてまいりましたが、反面、この目覚ましい成長の過程において、
環境汚染・物価問題の深刻化、社会資本の立ちおくれ等のいわゆる高度成長のひずみが顕在化する一方、国際的にも
資源ナショナリズムの高まり等経済成長の制約要因に直面するに至りました。とりわけ、一昨年秋の中東戦争に端を発した
石油危機は、価格と量の両面からわが国経済及び国民生活を大きく揺さぶり、狂乱物価と物不足を引き起こし、わが国経済は、戦後これまでに
経験したことのない混迷に陥ったのであります。幸い、このような混乱も、近時、ようやく収束いたしましたが、後遺症が治癒するまでには、なお相当の期間を要するものと思われます。
以上のような内外経済情勢の変化を
考えるとき、わが国経済は、今後、新しい安定成長路線へと、その進路を転換していくことが必要とされるのであります。それは、わが国にとりまして、未知の道程であるばかりでなく、従来のように先例を求めて進むことも困難であります。したがいまして、われわれは、これまで幾多の困難を克服する際に発揮されたあのたくましい国民のエネルギーと英知を結集し、新たなる国民的連帯のもとに、当面する諸問題を一日も早く解決しながら、調和のとれた安定成長への道を切り開いていくべきであると
考えます。
私は、こうした認識のもとに、国民福祉の一層の充実と国際社会への貢献を目指して、通商産業行政を積極的に展開してまいる所存であります。以下その概要を申し述べます。
第一に、当面の経済運営のあり方と物価の安定でありますが、物価の安定こそは、すべての国民の切望するところであり、福祉社会を実現するための基本であります。
このため、政府といたしましては、これまで物価の安定を最重要
政策課題として、総
需要抑制策を中心とする各般の施策を実施してまいりました。この結果、最近に至り、本年三月における消費者物価対前年同月比上昇率を一五%
程度にとどめるとの
目標も、ほぼ達成可能と見込まれるに至りました。しかしながら、コスト面からの物価上昇圧力は根強く、また物価と賃金の
関係が強まることも予想されますので、物価の動向には、今後とも警戒が必要であります。
一方、最近の鉱工業生産の動向を見ますると、低下幅は期を追って拡大し、昨年十二月には、過去最大の落ち込みを示しました。また、景気動向の実態を把握するため、先月、私は産業界の方々と懇談いたしましたが、主要産業の景気の実態は、昨年十二月末ないし本年一月から急速にさま変わりし、不況の進行には著しいものがあると
判断されます。
このように、長期にわたる引き締めの結果、摩擦現象やひずみが深刻化しつつあることにかんがみ、政府といたしましては、先般経済対策閣僚会議を開催するなど真剣な検討を重ね、今後、総
需要抑制基調の枠内におきまして、財政面、金融面等からきめ細かい対策を機動的に講じていくことにいたしております。また、景気が過度に停滞し、わが国経済が失速するおそれがある場合には、物価動向に留意しつつ、機動的な経済運営を行ってまいります。
同時に、経済運営に当たりましては、物価問題の重要性にかんがみ、当省といたしましても、中小企業・流通部門の合理化、近代化等に努めるとともに、生活関連物資基礎資材等につきまして、需給・価格動向の監視等の施策を引き続き行ってまいります。その
一環として、五十
年度におきましては、小売
段階における生活関連物資の需給・価格情報を収集し、状況の急変に即応した措置を講ずるなど物価対策の強化・拡充を図ってまいる所存であります。
また、秩序と活力のある産業社会を実現するため、競争条件の整備には特段の配慮を行ってまいります。独占禁止法改正問題につきましても、現在、総理府を中心に、検討が進められておりますが、私といたしましては、わが国経済のバイタリティを損なうことのないよう配慮しつつ、前向きに取り組んでまいる決意であります。
次に、
資源エネルギーの安定供給の確保の問題について申し上げます。
一昨年の
石油危機を通じ、われわれは、
資源エネルギーのほとんどすべてを海外に依存するわが国経済の脆弱性を痛感するとともに、
資源エネルギーの安定供給の確保がわが国経済及び国民生活を営む上で、いかに重要であるかを、改めて認識いたしました。
一方、世界の
資源エネルギー情勢をみますと、
資源の制約化傾向と
資源ナショナリズムの台頭がますます強まりつつあり、わが国経済の前途の厳しさが憂慮されます。われわれは、かかる認識の上に立って、わが国経済のセキュリティ基盤を培養すべく、
資源エネルギーの安定供給の確保に全力を傾注していく必要があります。
まず第一に、もはや、個々の国家単位では対処し得ない
資源エネルギー問題の現状にかんがみ、わが国は、
資源保有国、消費国等すべての
関係国との協調を図ってまいります。このため、国際エネルギー
計画(IEP)に基づく緊急時における
石油相互融通、エネルギー節約等を推進していく一方、産油国とは対話を通じて、相互の理解を深めるとともに、経済協力を中心とする経済交流を促進するなど国際協調を図っていくことにしております。
第二に、わが国エネルギー供給の大宗を占める
石油につきましては、緊急時における
石油の安定供給を確保するため、
石油備蓄対策の抜本的強化を図るとともに、
資源確保のため、
石油開発対策を強力に推進することが肝要であります。すなわち、備蓄対策につきましては、
昭和五十四
年度末までに九十日分の備蓄を達成することを
目標として財政面、金融面等からの各般の施策を拡充するとともに、
石油開発につきましても、
石油開発公団機能の強化・拡充を図ってまいる必要があります。
このため、今国会におきまして、
石油開発公団法の改正等
石油開発・
石油備蓄促進のための所要の
法案を提出する予定ですので、よろしく御審議をお願いいたします。
第三に、今後におけるエネルギーの安定供給を図るため、国産エネルギーである水力、地熱、
国内炭の確保に努めるとともに、準国産エネルギーといわれる原子力の
開発を積極的に推進してまいる所存であります。
さらに、新エネルギーの
開発は、将来のわが国エネルギー供給の長期安定化を図る上できわめて重要でありますので、太陽エネルギー、地熱エネルギー等の豊富かつクリーンな新エネルギー技術の研究
開発を行うサンシャイン
計画を、引き続き強力に推進してまいる
考えであります。
一方、エネルギーと並ぶ貴重な金属
資源につきましても、内外における探
鉱開発を積極的に進めてまいります。
また、
資源に乏しいわが国にとりましては、
資源の有効利用を図ることが特に必要でありますので、廃棄物の再
資源化事業等を強力に推進してまいります。
以上の供給面における施策と並んで、
需要面におきましても、内閣に
設置されたいわゆる「
資源とエネルギーを大切にする運動本部」を中心にして消費節約の国民運動を引き続き強力に展開してまいるとともに、産業及び民生両面におけるエネルギー使用の合理化、省
資源省エネルギーのための技術
開発等に全力を傾注いたします。
また、長期的
観点から省
資源省エネルギー型産業構造を構築すべく、国際分業の理念に即応した海外立地の合理的展開を図るとともに、技術集約型産業の育成に努めてまいります。
次に、
保安の確保と公害防止対策の充実について申し上げます。
無公害で快適な社会は全国民の希求するところであり、その実現に全力を注いでまいります。
まず、工場立地に当たって、公共の安全の確保と
環境保全のため万全の措置を講ずることが何よりも重要であります。昨年末の瀬戸内海における
石油流出事故は、
関係方面に多大の影響を与えており、私は、この事故を大きな教訓として、今後の防災安全行政の強化に全力を傾注してまいる所存であります。
環境保全を図る上で最も重要なことは、工場立地の
計画段階で十分な
調査及び評価をすることであります。このような
観点から、従来の産業公害総合事前
調査を一層拡充するほか、大規模工場の立地に当たっては、企業みずからも十分な
環境アセスメントを実施するよう指導してまいる
方針であります。
次に、一昨年における
石油コンビナートの爆発事故や、最近の家庭におけるLPガスの爆発事故など高圧ガスによる事故が後を絶たず、その
保安対策の強化が緊急の課題となっておりますが、この問題につきましては、昨年七月に高圧ガス及び火薬類
保安審議会の答申を得ましたので、今国会に高圧ガス取締法の改正をお願いすることといたしております。
第三に、自動車排気ガス規制につきましては、昨年末、中央公害対策審議会の答申が出され、いわゆる五十一
年度規制は暫定値によることになりましたが、当省といたしましても、今後とも答申尊重の立場から、規制が円滑に実施されるよう
関係業界を強力に指導してまいる所存であります。
また、金属鉱業等に係る蓄積鉱害の問題につきましても、施策の充実を図ってまいります。
次に、中小企業行政の一層の推進について申し上げます。
中小企業の経営の安定を図り、その健全な発展を促すことは、わが国経済の発展にとって不可欠であります。このため、従来から中小企業施策の拡充を図っているところでありますが、現在、長期にわたる総
需要抑制策の結果、中小企業を取り巻く経済
環境が極度に悪化しておりますので、健全な経営を行う中小企業等に不当なしわ寄せが生ずることのないよう、摩擦現象の回避に万全を期してまいる所存であります。
さらに、わが国経済が高度成長から安定成長へと転換するのに伴い、中小企業をめぐる経済社会
環境は著しい変貌を遂げつつありますので、五十
年度におきましては、新たな構想を加え、一層の施策の充実を図ってまいります。
すなわち、金融面におきましては、政府
関係中小企業金融機関の貸付規模の大幅増加、貸付条件の改善、信用補完制度の充実等中小企業に対する資金供給の円滑化を図ることといたしております。
また、中小企業の約八割を占める小規模企業者につきましては、その施策の充実に特に留意する必要がありますので、無担保無保証の小企業経営改善資金融資制度を飛躍的に拡充するとともに、経営指導員の大幅増員と待遇改善、研修体制の拡充等に努めてまいります。
さらに、中小企業を取り巻く経済的社会的
環境の変化に適切に対処しつつ、中小企業の構造改善及び新事業分野への進出を図っていくため、中小企業近代化促進法の改正案を提出いたしますので、よろしく御審議をお願いいたします。
次に、対外経済
政策の積極的展開について申し上げます。
近時、国際経済は、原油価格の大幅引き上げに伴う国際流動性の著しい偏在、国際的規模でのインフレの高進と不況の深刻化等、戦後最大の困難に直面いたしております。
こうした多難な時代にありましては、通貨、通商両面における一層の国際協調のもとに、新しい国際経済秩序を構築することが必要であり、わが国も、この新秩序建設に積極的に貢献していくべきであると
考えます。
特に、通商面におきまして、今般米国の新通商法の成立により、新国際ラウンドの本格的交渉を始める基盤が整いましたことは、貿易立国として自由無差別を基本理念とするわが国にとりまして、まことに喜ばしいことであり、本ラウンドの成立に全力を傾注してまいる
方針であります。
次に、経済協力につきましては、先進国、
開発途上国双方の調和ある発展なくして国際経済の安定と繁栄はあり得ないとの認識に立ちつつ、わが国としては、今後、量的拡充のみならず、質及び
方法の面におきましても、抜本的拡充を図ってまいる必要があります。
その具体的実施に当たっては、相手国の真のニーズを見きわめつつ、その実情に応じ、適切な協力を行ってまいります。
国際経済社会の一員として重要な地位を占めつつある中東諸国に対しましては、これら諸国の工業化推進等のための技術の供与、技術者の訓練等技術面での協力を初め、各種の総合的な諸措置を積極的に講じてまいる必要があると
考えております。
また、わが国企業の海外活動の適正化についても、十分配意してまいる所存であります。
次に、工業所有権制度の拡充等について申し上げます。
工業所有権制度につきましては、長年の懸案である物質特許制度の導入、累増する商標未処理案件の解消を図るため、特許法等の改正をお願いすることといたしております。
また、本年は、「海
——その望ましい未来」をテーマとする沖繩国際海洋博覧会の開催の年に当たりますので、その成功に万全を期する所存であります。
最後に、以上申し述べましたように、本年は、
国内的には調和のとれた安定成長を、また国際的には新しい国際経済秩序構築を目指して、新たな時代を切り開くために、力強い一歩を踏み出す年であります。
私は、こうした重大な時期に通商産業行政を相当する者として、その責務の重大さを痛感いたしますとともに、歴史を誤らぬよう、激動する時代の流れを直視し、発生する諸問題に対しては、的確な
判断と果断かつ迅速な決断を行い、国民各位の御理解と御協力のもとにこの難局の克服に全力を傾注してまいる決意であります。
委員各位におかれましても、一層の御理解と御支援を賜りますようお願い申し上げます。輝かしく、かつ希望に満ちた福祉社会が一日も早く訪れることを希求いたしまして、私の
所信表明といたします。