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参考人(
江間教夫君) それでは、簡単に
お答えいたします。
祥和丸の
事故につきましては、私たちもまことに遺憾であるし、残念に思っておりますけれども、マラッカ海峡の
現状とそれから航路上の欠陥ということから考えまして、これは当然起こるべくして起こったというように私たちは考えております。
その
理由といたしまして、
先ほど来るる問題になっておりますように、船型を次々と大型化いたしまして、最近は二十五万トン、これは重量トンでございますけれども、二十五万トンぐらいまでが次々とマラッカ海峡を通っております。大型化しますと、当然船の喫水というのは深くなりまして、現在では船主協会は、一九・五メートルの喫水までは通航できるというような指導をしておると聞いております。それから大きくなりますと、まあたとえば祥和丸の例をとってみましても、船の長さは三百二十メートル、幅は五十二メートル以上、深さは二十六メートルというような、もう
ほんとうに大きなタンクでございます。これを狭いところで、しかも浅い海域にどんどん導入しておるわけでございますから、これは非常に操船
一つをとりましてもむずかしいわけでございます。
また、シンガポール海峡はマラッカ海峡の中では最も狭い海域で、最も浅い、しかも、浅い部分が航路の中央付近にまで張り出しておるというような非常に困った海域でございます。まあ過去におきましては、マラッカ海峡というのはインド洋と太平洋を結ぶ重要な拠点でございますから、帆船当時からこの部分を使いまして通航をしておったわけでございます。ところが
先ほど申しましたとおり、船が大型化しまして初めていろいろな不都合な点が出てまいりました。まあこれらにつきましては後ほど、どういう
事故例があったか具体的にお示しするといたしまして、実際にはこれは船主協会、石油連盟、それから造船工業会などがたび重なる船艇の接触
事故、これを憂慮いたしまして、昭和四十三年にマラッカ海峡協議会というものを
設置いたしまして、ここで三国と協議をいたしまして測量を始めております。
これも
先ほどから話が出ておりますけれども、航路標識の
設置、あるいは海図の改補というようなことを進めてきたというふうに聞いておりますけれども、実は昨年末にやっと第四次の測量が終わったところで、目下これは海上
保安庁の水路部のほうに報告しておる
段階でございます。したがいまして、まだここらにつきまして精測をした海図というものは出ておりません。ところが、四十三年ごろから次々と船を大型化いたしまして現在に至っておるわけでございます。こういうことで非常に危険な海域に次々に乗り入れておったということは事実でございます。
これは私たちのほうでも従来から絶えず言ってきたことでございますけれども、つい最近になりましても、これは山下新日本汽船の光珠丸というやっぱり二十万トンクラスの船からの報告で、これは船主協会が推薦をいたしておりますマラッカ海峡の中での一番狭い部分のシンガポール海峡、これの推薦コースの上付近にたまたま新しい浅所が発見されたという報告が昨年の四月の十三日に出ております。そういうことを見ますと、実際に二十万トンクラスで喫水が十九・五というような船を通しますとなると、これは新聞紙上なんかでも出ておりましたけれども、
ほんとうの狭い部分というのは可航水域としてせいぜい三百五十メートルから四百メートルぐらいのところを通さねばならない、その付近は、各通航船舶の集まるところであり、しかもその辺は漁場となっておる
関係で、漁船の出没しておる回数が非常に多い、非常な航海の難所でございます。この航海の難所を、片方ではマラッカ海峡協議会というようなものを
設置をいたしまして水路の精測をしておる、あるいは航路標識を
設置したというようなことで、半ば無言の圧力と申しますか、強要と申しますか、船舶のほうでは非常に
心配をしながらその通峡を余儀なくされておる。
現在も毎日百何十隻という船が通っております。現在でも通っておりますけれども、そういう非常に苦労をしておるということだけは事実でございます。特にこの狭い部分につきましては、潮流が二・五ノットから三ノットぐらいの速力がございます。ところが大型船というのは、もし速力をゆるめますと、操縦性能というのが著しく悪くなります。それから、浅い海域に入りますと、これまたさらに操縦性能が落ちまして、非常にむずかしい。再三再四むずかしいことを申しましたけれども、そういう中で日本の原油を輸送する動脈を確保しておった、これこそ船員の非常な努力であったと私も自負をするものでございます。
それから次に、船主協会がどういう指導をしておったかということにつきまして簡単に申しますと、マラッカ海峡の浅い部分というのは三カ所ございます。
一つは東側の入り口付近と、それから
先ほど申しましたシンガポール海峡、さらにずうっとインド洋寄りに、ワンファゾムバンクというのがございます。この三ヵ所が、深さで二十三メートルの水深があるということで、
先ほど申しました十九・五ぐらいが適当であろうというような指導をいたしまして、マラッカ海峡協議会などでは一部分航路標識の
設置はいたしましたけれども、まだ精測を、
先ほど申しましたように海図が出ておりませんけれども、精測をしておるということです。
そういう中に、一方通航というのを、これは船主協会が指導をいたしまして、世界に呼びかけておりますけれども、いまだ世界的にオーソライズされてはおりませんけれども、シンガポール海峡の一番狭い部分を安全に通航できるような指導をしております。ただ、これも国際的にオーソライズされないということで、全部の船あるいは国際的に各国の船が入るわけなんですけれども、他の船にまで周知徹底していないのか、いまだに一方通航の原則というのは必ずしも守られておらない、これが
現状でございまして、今後も、たとえばIMCOの場でこれは一方通航帯をきめるのだとか、あるいは海洋法
会議の問題であるとかいうようなことを考えられますけれども、よしんばIMCOの場におきましてこれが審議されましても、これが実際に批准をしていない国の問題があります。それから、それを周知徹底する期間がございます。これらは相当の年月を要するというおそれもありますので、ここらは非常にまず問題があるというような理解をしております。
それから、潮流が激しいということを
先ほど申しましたけれども、実はこの一番狭い部分の海峡部分で、潮流が激しいために、浅い部分、浅所が絶えず移動するというようなことがございます。ですから、マラッカ海峡協議会できょうはかったものも、来月になったらあるいはその部分が深くなっておるかもしれないというようなおそれもあると、これは過去にも各船からの報告がありまして、その事実は報告されておるところでございます。
次に、過去にどういうような船の
事故があったかということにつきまして、簡単に申し上げます。
私たちのほうで入手できる範囲というのは、非常にごく限られた範囲でございます。これは船からの、乗り組み員の報告、あるいはマラッカ海峡協議会からの報告、あるいは海上
保安庁からの報告というようなことを総合いたしまして、私たちがキャッチをしております
事故の例、まあ具体例申し上げますけれども、それはほんの一部分ではないかと思います。と申しますのは、たとえば船底を軽くすって、大過なく、まあ底がへこむぐらいで通ってきた船は、そのまま次のドックに入りましてこっそりと申しますと、これはニュースとして報道されなかった範囲で処理をしておるというのが
実態でございます。
具体的に申しますと、日本船の場合について見ますと、昭和四十二年に東京丸、これは東京タンカーの船で十五万重量トン、この船が船底接触を起こしております。それから昭和四十六年、これは照国丸、照国海運の二十五万トン型の船です。これも同様船底接触を起こしております。それから昭和四十七年に明原丸、これは明治海運の二十一万トン型のタンカーです。それからつい最近で海燕丸、これは商船三井の二十一万トン型のタンカーですけれども、これにつきましては、どこで座礁したのかちょっとはっきりわかりませんけれども、座礁をして帰ってきております。それから今度の昭和五十年の祥和丸二十四万トン、太平洋海運というように続いておるわけでございます。
それから、外国船の例を見ましても、昭和四十六年にはS・ニアルチエス号、これはリベリアの二十一万トン型のタンカーでございます。それから同じく昭和四十六年にはアラビア号、クウェートの二十一万トン型のタンカー、それから四十七年にはJ・ボウル・ゲッティ号、これはちょっとトン数は不詳ですけれども、英国のタンカーでございます。それから同じく昭和四十七年のミラタ号、これも二十一万トン型の英国船。それから昭和四十八年にはペリネーション、これは四万トンのイタリア船。これらがそれぞれ船底接触を起こしているわけでございます。これは船底接触の事例でございますけれども、たとえば衝突を起こしたとかいうような事例をあげましたら、枚挙にいとまがないくらい非常な海難
事故の多い場所であるということがおわかりだと思います。
次に、これは
全日本海員組合が、じゃどういうような対処を従来からしてきたかと申しますと、大型船の建造はとにかくやめなさいと。これはぼりばあ丸、かりふおるにあ丸という大型船の
事故がございましたあと、さっそく運輸省あるいは
関係業界に申し入れて、いろいろな問題があるから、まず安全確保の上から大型化するのをやめなさいということを言っております。
その
一つは船体の強度の問題、その
一つば航行の安全の問題、さらには環境保全の問題でございます。この三つの問題を
一つの柱といたしましてやってまいったわけでございますけれども、ここでまた私たちは、あらためてシンガポール海峡においては喫水十五メートル以上の大型船、重量トン数で十五万トン以上の船舶、これらはより安全なロンボク海峡などを通航しなさいということを、これはさっそく船主協会などに申し入れをいたしまして、目下これは協議中でございます。
いずれ何らかの回答か出てくると思いますけれども、ただ私たちは、もしも国際的なルールができまして、シンガポール海峡が十分しゅんせつをされまして、航路幅が十分確保できるというようなことができた暁にはこんなことは申しません。まず、いまの未精測で、しかも非常にあぶない、航路幅も十分ないというようなところには入れないで、安全な航路を迂回して通りなさいということで折衝を進めております。したがいまして、これは国際的には隣接三国の問題もありましょうし、それから海洋
会議の問題なんかも関連をしてくる問題だろうと考えております。また、もしも国際的に大型船が、私たちの言っております喫水十五メートル以上の船は、ロンボク海峡を回れということになりますと、これはまた非常に願った事象になるというようにも考えております。
次に、マラッカ海峡とロンボク海峡を通航する船舶の経済上の問題でございますけれども、これはきょうの朝日新聞なんかにも、船主協会と石油連盟が一緒になりまして計算をした試算の結果が出ておりました。それを見ますと、コスト増になるのは全体から見まして〇・二%ぐらいであろうと。それから、原油の価格にして一トン当たり百二十五円ぐらいじゃないかというような試算をしておりましたけれども、実は船主協会はこれは独自にやられておりますんで、私たちのほうでもいろいろ検討しております
段階でございます。もしも両者を比較するとなりますと、これは新聞でもありましたとおり、行きも帰りもロンボク海峡を通るとなりますと千百マイルの増加になります。したがいまして、十五ノットの船のスピードで走りますと三日間の日数を要します。三日間というのはこれは船主協会に言わせますと、一日約一千万ぐらいのコストがかかるのだから、約三千万だというような
言い方をしております。
実はこれは、
先ほど来申しましたとおり、シンガポール海峡の浅い部分、しかも狭い部分を通峡するために、各船ともペルシァ湾を出てインド洋に入ったらすぐに速力の調整というのをいたします。と申しますのは、その狭い部分をできるだけ明るい日中に通って、しかも、満潮時に通りたいというために調整をするわけでございます。そういう調整をするとかれこれ約二十四時間ぐらい、約一昼夜ぐらいの調整期間というのがかかるわけです。そうしますと、よしんばロンボクを回って三日よけいにかかったということは、その調整期間を入れますと、一日ぐらいはセーブできるのじゃないかということがいえまして、さらに船主協会あたりがはじいておりますそのコスト増よりも減少するということは当然考えられます。
それから、
先ほど申しました一千万円という一日当たりのコストでございますけれども、これも
計画造船でつくったものか自己資金船であったのかなどによりましても、それぞれ金利の
問題等が違いますし、それから、減価償却の問題なんかも違ってまいります。ただ言えることは、海運界におきましては、減価償却というのは非常にもうかったときには多くする。極端に申しますと、もうかったときには三年も四年も償却をするというような、これは過去のいろいろな実績がございまして、必ずしも全部が全部一千万というふうに判断はできません。だから経年変化と申しますか、建造以来の経過年数がたった船につきましては、このコストが著しく安くなるということはいえると思います。そういうことから考えますと、これらも若干マイナス要素になるので、さらに価格そのものについては安いものにつくであろうと私たちは判断をしております。そういうことで、これが即石油へのはねっ返りになるだろうというような懸念は、私たちは全く考えておりません。
まあそのほかいろいろあったと思いますけれども、大体、
先ほど質問がありました回答でございます。