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参考人(宮田雄祐君) きょうここで発表の機会を与えてくださいました
委員長並びに諸先生方に心から感謝いたします。
昭和四十八年以来われわれが行ってまいりました自主検診、それの内容につきましては今井
参考人からも
お話がありましたので省略いたしますが、その資料をもとにいたしまして若干の私見を述べさしていただきたいと思います。いろいろ短
縮症の実数並びにその症度、形などにつきましては今井
参考人から十分な説明がございましたので、私は、この四頭
筋短縮症が起こってまいりました意義を若干述べさしていただきまして、今後この問題の解決にいろいろと具体策が講ぜられることと存じますが、それの参考にしていただきたいものと存じます。
大腿四頭
筋短縮症の
文献的な
報告は、先ほ
ども説明がございましたが、諸外国におきましてはせいぜい数百名にとどまっておると
専門家が申しております。わが国ではこの資料No.1を
ごらんいただきますとよくわかりますが、先人の集計によりますと五百四十四名の
文献的な考察がありまして、はるかに外国の
報告を凌駕いたしております。さらに本邦で
昭和二十一年以来
報告がなされてまいりまして
患者数がどんどんと増加してきたということがございますが、外国に比べまして全く例を見ないのは、これらの
報告の中に集団発生があるということでございます。すなわち、湯河原の某医院、大阪岸和田のM医院、福井県今立町のH医院、
山梨県鰍沢のY医院等々でありまして、特定医院より数十名から場合によりますと数百名の大集団発生を見ておるということは、海外にその例を見ない重要な事実でございます。しかも、それぞれ十数年前、十年前、数年前にこういった集団発生がございまして、
整形外科学会でも
報告され、また
文献の論文の中にも某医院で多発しておるということが明確に
記載されております
文献も出ております。
注射との関連につきましては、もはや十分に論ぜられましたので、本症の大
部分が
筋肉注射であるということは疑う余地もございません。ただ、残念なことは、福井県の今立の場合には、
医師会もその実情
調査に参与いたしましてかなりのデータを持ちながら、これの公表を差し控え、国民の健康保持というそういう
立場での資料に供し得なかったということは、まことに残念であると言わざるを得ない問題でございます。
私
どもが自主検診団を結成いたしまして全国的な
実態調査を開始いたしましたのは、資料No.2に示しますごとく、昨年六月、大阪で検診の受診者を見ますと、近畿の地元はもとより、はるか九州、四国、関東、中部、中国、北陸といった、きわめて広範囲からの受診がございました。で、本症と
診断されましてこういった広範な地域にわたる発生がよくわかりまして、特定医療機関でのミス的なものではないという結論を得まして、
全国各地での
実態の
調査をするということにいたしました。この自主検診で二千数百名の患児が
発見され、県並びに
厚生省の
調査で当時患児がゼロと言われておりました幾つかの県で、わずか一日の検診で十数名から数十名の患児を
診断いたしました。私
どもの当初の予想どおり、
日本各地での検診で常に患児を
診断し、やれば必ずいるという恐るべき事実を認識せざるを得なくなったのであります。さらに、こういった地方でも、どの地方でも、要観察者——先ほど今井
参考人からも申されましたが、そのほかの
注射による
障害、たとえば皮膚のきわめて大きなくぼみ、あるいは運動時の痛みなどといった、そういった四頭筋以外の
障害も、非常に大きな数に上っておるということがわかりまして、この
疾患が制度のつくり出した
疾患という印象を深めたのでございます。現在、要観察を加んますというと、七千名から八千名の間になるものと思われております。
制度のつくり出しました
疾患であるということでありますと、一般のポピュレーションの中にどれくらいのこういった
注射による洗礼を受けているのかということを
調査する目的で、私
どもは、大阪で、学童並びに幼稚園、保育所の検診を初めは予備
調査的に行いました。受診者は資料No.3に書いてございますが、約二千八百三十五名。当初はまだ二千名そこそこでございましたが、この
調査の集計に当たりまして、私
ども、当初は、一施設に一人でもおれば大変だと思っておったのでございますが、重症者を含む二千八百三十五名の一三%に本症の患児を
診断するに至りまして、その事の重大さに驚きまして、急拠この事実を発表して今後の
予防の資料にするという
方法をとりました。これはかねがね新聞、ラジオ、テレビなどで御
承知のことだろうと存じます。もちろん、これも予備
調査でございますので、人数も限られております。これが全国の数字であろうとは私
どもは思いません。しかしながら、重要なことは、
症状が定かでなくても、日常健康であると思われておる児童あるいは幼児の中にかなりの数のこういった被害が出ておるということは、今後わが国のこういった
子供たちの健康を考える上におきましてもきわめて重要な事実でございます。この中の重症の二名は、一名は親自身もこの
症状のあることに気がつかないといったありさまでございました。この点につきましては、先ほど
津山参考人からもございました、本症は比較的
症状が軽いということでございますが、私
どもは、これは
症状が軽いから他の身障者とは全然別個に軽く扱うというような考えに対しては反対いたしております。私
どものこの
調査の後、兵庫県でも学校の
調査が行われました。資料No.4になりますが、ここにおきましてもやはり一〇%から約三、四%までの数字が出ております。このように、わが国には四頭
筋短縮症はきわめて広範に分布いたしておりまして、この多発しておる事実を私
どもが真摯に受けとめて今後の
対策を十分に考えませんと、単にいま
治療を急ぐ余りとにかく切って治してしまえばそれで問題が片づくかのごとく解釈をすることは、きわめて危険を含んでおります。私
どもはこの事実をきわめて重要視いたしておりまして、集団発生が持っております根本の
原因を究明するということに現在まだ努力をいたしておりますが、私
どもは第三、第四の四頭
筋短縮症的医療被害——四頭
筋短縮症的医療被害という言葉を使いますが、このようなものを未然に防ぐ必要があるのではないかと考えております。
今回の短
縮症のいろいろな
注射が打たれました
疾患名でございますが、それは資料No.5にいろいろな地方でのデータを並べてございます。やはり、
注射が打たれましたのは、かぜ、下痢、それから発熱といったごく軽いものばかりでございます。こういう値を私
ども見るときに、次の資料No.6を見ていただきますとわかりますが、これは
日本できわめて一般に使われております小児科のネルソン先生の書かれた
教科書でございますが、ここにコモン・コールド——かぜのことについて
記載がございます。八百八十八ページを
ごらんいただきまして、その黒い枠の中を
ごらんいただきますとわかりますように、この
疾患には何ら特別な
治療はない。抗生物質は、効果がないどころか、急性期にこれを使うとかえって悪くなる場合があるので十分注意をするようにということがここに明記されてございます、こういうように、かぜに対する
治療、あるいは、小児はかぜを引きますとすぐ下痢を起こします。こういったいわゆるかぜ症候群というものの
治療には普通は抗生物質を使わないのが原則になっております。こういうような点に思いをはせますというと、単に
注射どころか、不必要な投薬がやはり行われておる、そういうことが重要な
原因になっておったものではないかと思います。中には
注射を必要とする
疾患もございます。結核におけるストレプトマイシンの
注射といったものはございますが、今回の私
どもの
調査では、こういった
筋注しかなかった
薬物による四頭
筋短縮症、あるいは三角
筋短縮症、臀
筋短縮症のケースはきわめて少なく、七千名のこういう患児のうちのわずかに十数名でございます。こういう事実は、よほどわれわれが基本的な
治療ということについての考えを持ち合わしませんと大変な結果になるという
一つの実例でございます。
では、一体このような解熱剤あるいは抗生剤が最も繁用されておりますのは一体どうしてであろうかということについて若干述べてみたいと思います。
現在の医療におきまして、先ほど私が申しましたような、あなたはかぜ引きである、お家へ帰って休みなさいというような、これが本当の
診断と
治療でございますが、このようにいたしますというと、それは収入にならない。やはり何らかの形で
薬物を飲む、あるいは
注射するといった形でないと、現在の医療にとりましてはこれは収益にならないというところに非常に大きな問題があろうかと思うのです。
注射というものを日常診療に
小児科医が繁用せねばならないのは、やはり人件費の削減に
注射、さらには、いろいろ即効性と申しますか、来た
患者がすぐに解熱効果でその先生の人気が出るといった、企業としての医療という点が重要視されてきておるからにほかならないと思います。たとえば
薬物を与えるにつきまして包装あるいはびんにいろいろ盛り分けるというような労働も、
薬剤師を雇ってこれをやらなければならない。しかしながら、これを
注射で済ませれば
看護婦さんだけで済む、あるいは散薬——粉薬、水薬でございますが、これを使用いたしましても、それの処方料はわずか四十円、抗生剤と解熱剤、同じような組み合わせで
注射いたしますと、たとえばかつて繁用されましたクロマイでございますと、当時でございますと四百何がしの開きが出てまいります。さらに、いろいろと
注射では、特に解熱剤では、打って帰ればすぐに熱が下がる、そういったことでの問題、あるいは短時間で
注射をしてしまうことができるという、そういったたぐいの事柄な
どもやはり一般の医家が
注射というものに主として頼ろうとする
一つの
傾向をつくってきたものではないかと思います。先ほど今井
参考人からも出てまいりましたが、こういった
医師の経営を中心にいたしました診療の形態にさらに拍車をかけてくるのがやはり製薬
関係でございます。いろいろな
薬物の能書きを見ましても、
筋注、皮下注ということを効能書きに書いてございます。この薬は
筋注、皮下注ができる。安全である静脈
注射などにいたしますというと、小児にはなかなか使えない。
注射をするにしましても、場合によりますと一時間ぐらいかかる、小
手術ぐらいの手間がかかる。そういった手間は現在の医療の体制ではなかなか出ないというような制約もございまして、どうしてもやはり簡単に投薬を済ますことのできる
筋注、皮下注というようなかっこうになってしまう。これは、製薬にとりましては大量の
薬物を販売することができる
一つの利点でもございまして、私
ども大学あるいはそのほかの一般の医院につきましても、この新しい
注射の薬、この新しい
注射の薬という形で大量にそれを売るようにいままで仕向けられてきたきらいがございます。こういうことはやはり製薬業界のいろいろな販売競争、そういった形での業界の利益追求のかっこうが現在の医療の中に浸透しておる
一つの形として、こういう皮下注、
筋注というものを広範に普及させる結果になったものと考えます。利潤の追求しやすいこういう皮下注、
筋注に対しては多大の労を使ったこういう業界が、より安全な
投与方法についての研究を怠ったということは、やはりこれも利益追求の姿以外の何物でもないと私
どもは思います。さらに、こういった
薬物の安全の確認、さらには、長年月にわたりまして四頭
筋短縮症の
報告がなされておったにもかかわらず、
厚生省がこういったことに対する取り組みがきわめて手ぬるかった。先日ワクチンの事故がございました。直ちに対応をされました。これは
予防注射が
厚生省の管轄に入っておったからであろうと思いますが、一般の医療技術はこれは
医師の自由裁量に任されておる。直接その責任に
関係がなければあえてそれに対する
対策を積極的にやらなかったのではないだろうかというような気がいたします。先年もアメリカでスプレーの発がん効果がございました。二人の肝がんの従業員を剖検し、直ちにアメリカの政府はこれの製造を中止いたしました。このような人間を中心にした即応性というものも
日本のこういった行政の基本として存在すべきものであろうと私
どもは思います。
最後に、資料のNo.7でございますが、これは
坂上参考人並びに
津山参考人の
関係しておられます
日本医師会長武見太郎殿の答申書の一部でございますが、先ほど私申しましたように、
医師が
治療に当たりまして本当の医療、適正な医療をしておった場合にはこのページの右半分の(3)と書いてございますが、その上二行「医療をうける側の強い希望から、止むを得ず
注射が多用される
傾向もあるという実地医家の声もあった。」という一行がございますが、私に言わせますと、こんなばかな話はない。正しい医療をし、そして受診する人にそれを説得するのが
医師でございます。
患者が
注射を望んでも、また投薬を望んでも、不必要であれば持たずに帰ればそれでよろしい。その正しい医療を普及するのが
医師の務めでございますが、あたかも
患者に迎合し、そういう
治療が横行しておるがごとく答申に書いてございますが、これは全く是正されねばならない、私が先ほどから指摘しておる
一つの重要なことでございます。なるほど一般の国民も
薬物に対するきわめて高い信仰のようなものがございます。こういうものをやはり一刻も早くぬぐい去って正しい医療というものを
皆さんの国民の手の中に戻すためにも、一人一人の国民が健康に対する責任を持つ必要がございます。
一番最後に、資料No.8というのがございますが、これは大阪と沖繩の短
縮症患者の年齢分布を表にしたものでございます。大阪は八百九十三、沖繩が千五十八名でほぼ似たような受診者でございますが、四頭
筋短縮症の数はこのように大きな差がございます。大阪では約十四、五、ちょうど国民皆保険になったころを契機にいたしまして急激な増加の立ち上がりが出てまいっております。沖繩は、本土復帰ごろから国民皆保険になりまして、その前後からやや保険が普及し、現在増加しつつあります。それが四歳ぐらいのピークになって出ておるものと私
どもは解釈いたしておりますが、現在の健康保険が確かに助け合いの
一つの
方法として重要なものでもございますが、一方におきますと、これを持つ国民の側からは安易に医療を求め、また、物質に対する、つまり
薬物あるいは
注射というものを要求する
一つの手だてにもなり、
医師の迎合するこの姿と相まってこの多発を起こしてきたものと考えます。
このような四点を考慮いたしますと、
医師におきましても利潤追求の姿、
薬剤関係におきましてもこれまた利益追求の姿、
厚生省にありましても責任に直接
関係なければというやはりこれも役人の利益追求の姿ではないかと私は思うのですが、その姿、あるいは一般国民におきましてもまたそういう物質に対する追求の姿、この欲のかたまりが、
子供の足を、全く無欲のこの
子供の足を針穴にしてしまったのではないかと私は思うのです。いまこの事実をよく反省して、そうして、打ち方を変えればいい、あるいは本数が少なかったらいい、あるいは飲む薬にすればいい、そういったものではございません。それが本当に必要な医療なのかどうかということで医療が支えられますように、今後諸先生方の御賢察をいただきまして、その具体策が出てまいることを私は心から願う次第です。
私も幼子を持っております。そういう点では、親の
立場と全く同じでございます。私が先立ちますと、後は
子供が残ります。こういった
子供が本当に安心をしてどこでも医療を受けられるような形にするということが私
どもの務めではないかと思うのです。憲法には、われわれが健康で文化的な生活をということが書いてございます。きょう、この由緒ある
委員会におきましてこの基本的な問題が討議されるということは、私にとってはきわめて重大なことであると思います。はなはだ僭越で、かつ用語の使用
方法もなかなか知らない私でございますけれ
ども、きわめて重要な今後にわたる問題がございますので、お聞き苦しい点を覚悟の上でこのようなことを申しました。
終わりに、ぜひこういったことを考えて、
医師の適正な医療の労働に対する適正な報酬、さらには国民がガラス張りで常に
医師から情報が提供できるようなそういう施策、そして不必要な
薬物が非常にはんらんし、国民にとってはこういう
薬物を消費する対象になってしまっておる現在の医療の姿を、ぜひ是正していただきたいものと思います。
終わります。