○田英夫君 私も詳細な内容はまだ入手しておりませんけれども、大まかなところは、
一つは特に北部から、ユエが落ち、それからダナンが危険だという状態の中で、多数の難民が南部へ移動しているけれども、これはグェン・バン・チュー政権が住民を追い立てているのだという
意味の言い方をしているようであります。そして非常に悲惨な状態に陥っている。この責任はグェン・バン・チュー政権の姿勢にある。これが
一つと、もう
一つは
アメリカが海軍を、艦艇をベトナム沖に展開をしているけれども、これは重大なパリ協定違反につながる、こういう
意味の内容だと聞いているのですけれども、私はそこで一言申し上げたいのは、先ほどのカンボジアの状況も、そしていまのこのベトナムの状況も、以前がそうであったので私は申し上げるのですが、
日本のマスコミもそして
日本の政府も、入手できる情報というのが実は
アメリカ側からの情報であるという
現実の中で、本当の事態をつかみ切っていないのじゃないだろうか。このことをいまの激動する中で再び心配するわけです。カンボジアの場合は明らかにロン・ノル政権は消滅していくという方向を考えなければならないし、ベトナムの場合もグェン・バン・チュー政権は崩壊していくという状況を想定して考えなければならないと思うのですが、どうしても情報が
アメリカ側に偏ってくる、
日本の、マスコミの皆さんもおられるけれども、最近のベトナムの報道はやはり
アメリカ側の情報を基礎にしていると思います。つまり、多くの難民が非常に苦しい状態に陥っているということは伝えられてきていますけれども、それはサイゴンから出かけて行った内外の報道陣の見方ですね。きょう初めて臨時革命政府の側からの声明という形でこの難民の問題が取り上げられた。これはグェン・バン・チュー政権が追い立てたのだ、一部の報道に、選挙を控えて南側に、
自分たちの側にグェン・バン・チュー政権として多数の住民を確保しておく必要があるのだということを伝えた報道がありますが、これは私は非常に適切な指摘だというふうに読んだわけです。そういうことが政府の場合には単なる報道、情報ということではなくて、これからの
日本の外交を動かしていく基本的な姿勢を決めていくもとになるものですから、正確な情報をつかむということを、いまの状態の中で特に留意をしていただきたい。
実は、ここに一九七〇年に
外務省がおつくりになったアジアの問題についての
一つの何と言いますか、見通しをまとめたものがあります。
わが国のアジア政策試論、
外務省アジア局という表題がついているわけですが、もちろんこれは内容を拝見するとアジア局の内部で、あるいは
外務省の内部で幹部の皆さんが参考資料として読まれるためにアジア局の中で担当の方がまとめられたというふうに拝見をしました。あるいは私ども外部のものが本来拝見できるものではないかもしれませんが、古いものですから、私最近入手をしたのですが、大変興味深く読みました。同時に、私がきょうなぜこういうことを申し上げるかと言えば、これを拝見してみると一九七〇年、つまり日
中国交正常化の二年ないし三年前、まあ正常化が九月ですから、これが七〇年の何月につくられたかで若干ずれがあるでしょうけれども、二、三年前ですね。その時点で全く日
中国交回復という方向に進むようなことは当時の
外務省は見通しておられない。それから米中
関係についても、対立の図式というものをやはり基本に置いておられて、しかし、ベトナム戦争がすでに終結に向かっているということは前提にされて、その中で
アメリカがどう変わっていくだろうかということは把握をしておられる。だから米中間が変わるかもしれないということはすでにある
程度予想をほのかに、におう
程度に書いています。非常に驚くべきことは、朝鮮の問題については全くこれは私どもの知っている
現実と違うふうにとらえている。たとえば朝鮮の問題については、「韓国の国力及び民生安定度を高め、北朝鮮が暴力その他の手段による韓国の内政撹乱を通じて統一を計る余地」がないようにしなければいけないというようなことを
日本政府は、
外務省はこれに書いているのですね。さらに、「時至れば韓国が北朝鮮と対等又はそれ以上の立場で平和統一問題に処し得るよう政治経済両面にわたり
協力政策の有機的展開を行なう」必要がある、こう書いています。ところがその翌々年、七二年の七月四日には、南北統一についての共同声明が出されたのは御存じのとおりです。こういう
程度の認識で外交を展開しておられるとすると、情報不足というか、基本的な姿勢において非常に危惧を感ぜざるを得ない。ですからこれを読み、一方で現在の
インドシナ情勢に対する御判断というものを伺って非常に私は危惧の念を抱いているわけですが、宮澤外務大臣、私の言うことは少し間違っているでしょうか、いかがでしょうか。