運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1975-03-25 第75回国会 衆議院 法務委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年三月二十五日(火曜日)     午前十時十六分開議  出席委員    委員長 小宮山重四郎君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊三次君 理事 田中  覚君    理事 保岡 興治君 理事 横山 利秋君    理事 青柳 盛雄君       小坂徳三郎君    小平 久雄君     早稻田柳右エ門君    中澤 茂一君       日野 吉夫君    諫山  博君       沖本 泰幸君    山田 太郎君  出席政府委員         法務政務次官  松永  光君         法務大臣官房長 香川 保一君         法務省刑事局長 安原 美穂君  委員外出席者         衆議院法制局第         一部長     大竹 清一君         警察庁刑事局参         事官      森永正比古君         警察庁警備局警         備課長     佐々 淳行君         厚生省公衆衛生         局精神衛生課長 山本 二郎君         法務委員会調査         室長      家弓 吉己君     ————————————— 三月十九日  法務局、更生保護官署及び地方入国管理官署職  員の増員等に関する請願(横山利秋君紹介)(  第一六五八号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑事補償法の一部を改正する法律案内閣提出  第四八号)  刑事補償法及び刑事訴訟法の一部を改正する法  律案横山利秋君外六名提出衆法第二号)      ————◇—————
  2. 小宮山重四郎

    ○小宮山委員長 これより会議を開きます。  内閣提出刑事補償法の一部を改正する法律案並び横山利秋君外六名提出刑事補償法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。青柳君。
  3. 青柳盛雄

    青柳委員 ただいま議題になっております政府提案刑事補償法の一部を改正する法律案は、前々の国会で一応金額改正があって、二年後にこれが行われるわけでありますが、この期間内に裁判の上で、前回改正された金額と実際に行われた賠償金額との関係を知りたいと思うわけであります。これは最高裁判所の方で一応調査をしておられるようならば最高裁判所から、それからまた法務省の方で調査をされておられれば法務省からでも、どちらでも結構ですが、お知らせをいただきたいと思います。
  4. 安原美穂

    安原政府委員 最高裁から教えていただいた一日当たり補償金額旧法新法で見てまいりますと、昭和四十八年度の刑事補償の件数が全部で百九十五件ございますが、そのうち新法適用、いわゆる上限が二千二百円のケースでございますが、新法適用になったものが九件ございまして、一日当たり補償金額が千百円というのが一件で、二千円が三件、それから二千二百円、最上限が五件となっております。それから旧法関係は百八十六件ございまして、これは最低限の六百円が二件、それから六百五十円というのが十一件、七百円が一件、九百円が一件、千円が四件、千百円が一件、千三百円が百六十六件。このときは最高限の千三百円というのが百六十六件ございます。つまり、旧法当時の四十八年の刑事補償最高限の方に非常に多かった。それから新法になりましても、数から言えば二千二百円という最高限にいったものが五件で過半数を占めておるということに相なろうかと思います。  それから昭和四十九年におきます刑事補償を見ますると、旧法の場合におきましては五件ございまして、一件が千円で、最高限の千三百円が四件でございます。新法適用になりましたものが五十七件ございまして、この場合、最下限は六百円の場合でございますが、七百円というのが一件ございます。あと千二百円が一件、千三百円が五件、千五百円が十六件、千八百円二件、二千円十六件、二千二百円十六件ということで、これを概観いたしまするに、最高限過半数ではなくて、千五百円から二千円の間に過半数が集まっておるということで、必ずしも天井をついておらなかったということが四十九年の刑事補償では言えるのではないか、かように思います。
  5. 青柳盛雄

    青柳委員 前回改正は、その以前の金額が長い間低いままで抑えられていたために、実際上裁判所補償額を決める上で上限につかえてしまうというような傾向もあり、また実情に合わないという点もあって二千二百円に改正されたわけでありますが、いまの御説明ですと、必ずしも上へつかえてしまっているという状況はこの二年間には出ていないようにも受け取れるわけであります。にもかかわらず今度の改正案をお出しになったというのは何か特別な事情があるのか。前回金額算定基準にしたものと今回の基準にしたものとは何か基礎が変わってきているのかどうか。前回の場合にはいろいろの基準にのっとって改正をしたと思いますが、今度も同じような基準改正を提案されているのかどうか。この辺のところの御説明をいただきたいと思います。
  6. 安原美穂

    安原政府委員 結論から申しますと、考え方そのもの前回改正考え方と同じでございまして、いわゆる平均的補償ではございますが、一種の損害補償ということでございますので、損害というのを補償する場合はお金ということになりますと、その間における貨幣価値の変動なり、賃金物価の変動ということを考慮して平均的補償をするのが相当であるという考え方の基本には変わりはなくて、しかも計算の仕方におきましても、前回と同様に消費者物価賃金の水準の上昇率というものの数値を平均いたしまして、今回は一四三・三という上昇率現行の二千二百円に掛けまして最高限を決めたわけであります。たまたま、先ほど申しましたように、運用実情を見ますると、前回における改正のときよりは運用実情天井をついておりませんけれども考え方としては同じ考え方で今回も改正をすべきであるということになったわけでございます。
  7. 青柳盛雄

    青柳委員 前回も今回も同じような議論が出ておりますが、国家賠償法に基づく賠償刑事補償法による補償とはおのずから概念的な違いがある、いわゆる故意過失を必ずしも前提にしないというところに刑事補償の特徴があるという、それはわかると思いますけれども、まず最初にお尋ねしておきたいのは、刑事補償でも、故意過失の方は全然除外されて、故意過失のあるときは賠償法の方でいくのであって、故意過失がない場合だけが刑事補償補償されるというのでもないというふうに理解されるのでありますが、その辺のところはどんなぐあいに考えてこの刑事補償という制度を法定しておられるのか。すでに御説明があったと思いますけれども、もう一遍お尋ねしておきたい。
  8. 安原美穂

    安原政府委員 いま青柳委員指摘のとおり、刑事補償制度故意過失を問わないで、いわば公平の原則から、当該被告人負担にしないである程度国家、それを打ち割って言えばその他の国民全体の負担にするかという、公平の原則による負担の分配の問題であるという、いわば平均的補償制度であるという点で、国家賠償法のように公権力の行使に当たる者の過失故意による損害補償ではないという点で、本質的にその点が違うわけでございます。しかし、だからといって、補償する場合に一律にやらなければならないということもないということで、若干被告人の方に落ち度のあるような場合と、そういう落ち度のないような場合というようなこと、あるいは責任能力があるかないかというようなこと、というふうに千差万別でございまして、一定額にする必要はないという考え方で、一定範囲で、現行法では六百円—二千二百円の範囲の中でいろいろな事情を考慮して決めるという制度になっております。その場合におきましては、この第四条の第二項に規定がございますように、裁判所が「補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間長短」、最後の方で「警察、検察及び裁判の各機関の故意過失有無その他一切の事情を」ということになっていまして、故意過失をその金額決定当たりましては考慮いたしまするけれども、いたすことは別に差し支えはない。しかしながら本質的には故意過失有無を問わない平均的な補償であるという点が違うので、必ずしも全損害補償しなければならないということではない。しかし補償する場合においては、事情としては故意過失を論じてもよろしい、また論じて具体的な適正を期すべきだ、こういう考え方でこの補償法ができておるものと理解をいたしております。
  9. 青柳盛雄

    青柳委員 そういたしますと、たてまえとすれば故意過失はあえて刑事補償前提にはしない。しかし故意過失のある場合も刑事補償でカバーされるという考え方も出てくるわけでありまして、言ってみると、裁判というもの、検察というもの、すべて、わかりやすく言いますと人間のやることで神様のやることではないから完全なものとは言えない。したがって間違いというものは善意でも起こり得るのだ。そういう危険というのはすべての国民が一律に負担をせざるを得ない。その対象にされた個々の人たちにのみその間違いの犠牲を負わしていたのでは不公平だ。だから国民が一律にこれを補償してやるというか、保険とちょっと似たような概念。つまり検察裁判という国家事務の中で特定の人が一定犠牲をこうむった場合には、そういう犠牲をこうむらない他の国民の拠出した、まあ自分を含めてかもしれませんが、税金で補償してあげましょうという保険みたいなものだということになれば、特定の人の責任としてこれを追及する、つまり国家賠償の場合でも国が補償するのだけれども故意過失を行った公務員に対して求償権を行使できるたてまえもとっておりますから、つまり国家賠償刑事補償とはたてまえが違うのだ、これで貫いてしまうと、故意過失有無を考えるというようなことが刑事補償法規定の中に入ってくるというのはちょっとおかしいような気が私どもはするわけです。いまのお話でも金額算定する場合にそれを考慮する。この点は単純に考えると非常におかしいのじゃないか。国家賠償はあくまでも故意過失前提にし、刑事補償故意過失のないときをやるのだ。だから、故意過失有無金額算定に当たって参酌するというのは矛盾ではないかという議論になってくるわけでありますが、この辺のところはどういうふうに考えたらいいのか。  つまり、一々国家賠償請求をして、そして口頭弁論を開いて、国側故意過失のないことを主張し立証する。それに失敗した場合には払うけれども、成功したときには払わない。そのときに初めて刑事補償の方へ行くのだというようなことであれば、犠牲をこうむった人々にとってみると負担が大変に重過ぎる。泣き寝入りにならざるを得ない。だから刑事補償の方はもっと簡便な手続でもっと早目に——国側の方では、つまり国を代表する法務大臣の方では刑事補償についての裁判所決定に対して不服を言う余地もあるのかもしれませんけれども、いわゆる国家賠償法による訴訟の場合などとは違って、きわめてスピーディーに補償がされる。そういう便宜があるのだから、故意過失があった場合でもそれをカバーしておいても、その中に入れておいてもいいのではないか。この実務的な点から言うと、理論的にはともかくとしても、わかるような気もするのです。  そこで、そうだとすれば、口頭弁論は経ないのだけれども刑事補償額裁判所が諸般の事情を勘案して決めることのできる最高限というものは、故意過失がある場合にまで上げておいてもいいのではないか。裁判所は、最高限があれば必ずいつも故意過失並みに扱うということではないと私は思うのですね。ですから、一方で故意過失有無を参酌して決めるという規定を設けておくならば、故意過失の場合に賠償するであろうところの最高限を決めておいてもいいのではないか、必ず裁判所はその最高限を払うわけではないのだから。そうすれば、裁判無罪になった場合の拘禁による、拘束または抑留による損害というものは刑事補償でカバーできる、それ以外の損害については国家賠償法で行くという柔軟性が出てくるのじゃないかというふうに考えるのですが、この点はどう考えておられますか、見解を示していただきたいと思うのです。きょうは法務大臣がおりませんから、政務次官でもあるいは局長でも結構です。
  10. 安原美穂

    安原政府委員 青柳委員指摘のところは、私自身も非常にデリケートな関係だとは理解をしておるわけでございます。条文どおり見ますると、そういう故意過失のある場合も刑事補償をするのだから、故意過失のある場合として国家賠償と同じような最高限を決めておいてもいいのではないかという御議論それなりに理屈はあるように思います。しかし基本的には、故意過失のある場合を含む補償制度とは言いながら、この決定手続等の全体の流れを見ますると、先ほど御指摘のように、国家賠償のように故意過失有無口頭弁論を通じて、厳密な証拠判断に基づいて判断するのではなくて、結局、この補償制度が期待しておりますところは簡単な書面審査による決定であるということにかんがみますと、故意過失有無を本来目的として決定手続で認定するのでなくて、むしろ、たまたま故意過失がある場合に、故意過失があるという認定が簡単な書面審査でわかる場合にそれも考慮する程度のことであって、いわば理論としては、故意過失のある場合を含む制度であるとは言いながら、結局は故意過失を論じない制度であるというのがこの刑事補償法のたてまえであろうと思いますので、論じない制度であるということになれば、やはり論じない制度としての金額の決め方としては、故意過失のある場合の最高限を決めておくということでなくてもいいのではないかということでございまして、現にそういう意味で、この刑事補償法はそういう場合もあり得べしということで、刑事補償で足らぬ場合を想定いたしまして、国家賠償請求に出ることを予想して、法律にも、刑事補償を受けた場合には不足の部分は国家賠償をするということで、そこに一つのリンク、連携をして制度を考えておるというのはその辺に理由があるのではなかろうかというふうに理解をいたしておる次第でございます。
  11. 青柳盛雄

    青柳委員 一応の御説明として承りました。そしてそれにはそれなり理論的な根拠もないわけではないというふうに私も考えますが、これは裁判手続が、片方口頭弁論審理証拠を十分に勘案する、片方書面審理であり、もちろん不服申し立ての道はあるにしても、必ずしも十分な審理を必要としないという面があるから、最高限法律で決めておいても、それが乱用される危険があって、国の方が非常に損をするというような場合も絶無ではないということも考えられないわけではありませんので、この辺もなお研究課題としてもっと突き詰めていきたいと思っております。  それにしても、いまの御説明のような制度であるといたしましても、最高限を、国家賠償で決められるであろうところの一日当たり損失といいますか、拘束または抑留による一日当たり損失額の何%ぐらいのところを最高限に抑えているのか。下限の方はきわめて下の方まで持っていってあります、今度の改正でもあるいは前回改正でもそうでありますけれども。もし国家賠償なりせばこの辺までは裁判所も認めるであろう、しかしこれは刑事補償であるがゆえにそれの何割程度で抑えてあるのだ、そういう何か標準的な考え方があるのかどうか、これも説明していただきたいと思います。
  12. 安原美穂

    安原政府委員 実は国家賠償の一日当たりというものの平均的数値というのがわかりません。と同時に、実はその国家賠償における損害の一日当たり平均額の何%に刑事補償を抑えるべきだ、それだけディスカウントするというようなたてまえで補償の一日当たりを決めておりませんのでいまの御質問には的確にお答えいたしかねるわけでありまするが、それにいたしましても、前回にも申し上げましたように、一日当たり損害補償というもの、補償対象というのは、きわめてよく深く精神的、物質的損害というものをにらみながら、いわゆる故意過失を問わない平均的な補償としてはこの程度を一日当たり考えれば、まあ公平の原則からする補償国民全体が負担したということになるというような考え方で決めた。いわば論理的に何か決まった確定数値があって、それにパーセンテージを掛けるというようなことで決まっていない。いわゆる達観で、この程度やればいいのではないかということで本来この制度の一日当たり金額が発足をしたということが、歴史的、沿革的にも見られるわけであります。ただ、それを考える場合に、証人の一日当たり日当とか陪審員公判審理に出たときの日当とかいうようなものも横目でにらみながら決められたようでございますけれども、これ自体が、いわば座標があって、それに合わせて決めたというものではなくて、この程度であればまあ平均的な補償としては補償したということになるのではないかという達観からスタートしている。いわばきわめてあいまいと言えばあいまい、常識と言えば常識的なことから出発しておりますので、国家賠償のように厳密な損害額というものの何%というようなことで決めていない。そういう意味で、お答えになるかならないか知りませんけれども、要するにこの程度であれば一応、国家財政現状から見て、国民が全体で負担して被告人自体負担をカバーしたということになるのではないかということで決められたのであるというふうに私どもとしては理解し、その後は物価賃金上昇に応じまして引き上げを図ってきたというのが現状でございます。
  13. 青柳盛雄

    青柳委員 私自身質問するに当たって勉強しておりませんので、これ以上この問題について深く質問を続けていくのは別な機会に譲らざるを得ないと思いますけれども、きょうは最高裁判所の方を呼んでありませんのでわかりませんが、裁判例で、従来無罪になって、そして国家賠償訴訟が起きて、刑事補償をカバーするような一日当たり賠償金額現実に与えているのかどうか。つまり判決の上で、刑事補償では一日二千円なら二千円もらったけれども、実は故意過失があるからこれは三千円あるいは四千円にしなければ不公平であるということで、言ってみると、差額を相当程度計算して賠償を命じたというような判決がどのくらいあるのかどうかですね。そういうものを統計的に見ると、いま局長説明は抽象的でありましたけれども、その比較というものはおのずから出てきて、それが全部とは言えないまでも、国家賠償ならばもっとたくさん一日当たり払う、それで法定の刑事補償最高額との差はおのずから何%ぐらいというふうに出るのではないだろうかというふうに考えるわけです。この点、私は調べておりませんので、もしそういうことを法務省の方で調べたことがあるのならばそれを説明してもらいたいし、調べてないのならば調べて、今後の参考資料として提供すべきではないかというふうに思いますが、その点いかがですか。
  14. 安原美穂

    安原政府委員 基本的な国家賠償の場合は、裁判所当局にお尋ねするまでもなく、実は刑事補償は一日当たり幾らということで拘束期間で掛け算をいたしまして一応出てくるわけでありますが、国家賠償は、期間長短はもとより考慮はいたしますけれども、結局精神的、物質的損害をトータルに考えて、一日当たりという計算で出ていないのでございまして、結果的にそれを期間で逆算するということは計数的に比較できぬこともないわけでありますけれども、本来、国家賠償というのは一日当たり幾らで何日だから幾らという拘束による損害というよりも、結局は広い意味での無罪補償という意味で精神的、物質的損害すべてをやりますので、直ちに比較にはならないと思います。  いずれにいたしましても、私どもの手元に参っておる資料で、たとえば松川事件の場合は刑事補償がなされまして、さらに国家賠償請求があったケースでございますが、これにつきましては、第一次の控訴審で確定した人々については、刑事補償は一日当たり三百円で三名分で九十七万五千六百円、それがら第二次の上告審で確定したものが一日当たり四百円で十七名分でございますが、これが千五百十二万九千六百円、合わせまして刑事補償額が千六百十万五千二百円でございますが、その後これらの人々全部につきましての国家賠償につきましては、東京高裁で七千六百二十五万九千八百三十三円、これは刑事補償金を差し引いた額でございますので、結局国家賠償といたしましては七千六百万円に千六百万円を足しますから、約九千五百万円の国家賠償としての額が算定されまして、それから刑事補償を差し引いて約七千六百万円という国家賠償がなされたわけでございまするが、その間におきまして千六百万円差し引かなければ九千五百万円ですから、結局五倍強の差が国家賠償刑事補償ではあったという結果にはなるわけでございます。  なお、そういう関係でもう一つございますが、いま御指摘のようなことにつきまして、もちろんいますぐに計算をするのは複雑でございますけれども、おっしゃるように、国家賠償の場合を一日当たりに換算した場合においてどれぐらいの差があるかということは計算としてはできますが、先ほど申しましたように、一日当たり幾ら拘束期間を掛けて国家賠償というのは出ていないものですから、比較すること自体意味があるかどうか、やや疑問があるのじゃないかというふうにも思われます。
  15. 青柳盛雄

    青柳委員 それにいたしましても、私どもの勘でございますが、刑事補償法の決める最高限というのは今度の改正案を見ましても、社会党さんから出されているのは六千円というのを最高限にしておりますが、どうもやはり三千円余りというのでは現実に沿わないんじゃないか。精神的なものは全然加味しないのだということでもないようなんですね、刑事補償は。精神的なものも加味するという点では、損害賠償の場合と比較して余り違いがないわけです。結局は故意過失を含まないがゆえに幾らか控え目に——相当控え目にと言った方がいいですか、決めてあるというふうに思うので、そこの科学的な根拠は一体どういうところにあるのかということがやはりもっともっと追及されなければならないというふうに私は考えます。これは現在の説明だけではきわめて漠然としておりまして、もっとお互いに研究し、たとえば社会党の案の六千円というのがこれは高過ぎるというのであるならば、なぜ高いのか。それからまた私どもはいま政府原案が低いというならば、なぜそれが低いのかということについての理論的根拠を、もっともっとお互いに深めていく必要があるというふうに考えます。いずれにしても、結論的に申しますれば、私は現在の改正案をもってしても最高限としては少ないのじゃないかというこうに考えます。  さて、論を進めまするが、最低限もまた今度小し上がりました。最低限は非常にいま少ない。全然ゼロではなくて、最低といえども一定金額は決めてある。無罪になったのだが最低の辺のところで決まるというのは一体何なのかということを考えてみますると、これはどうも本人の責めに帰すべき事由に近いことが裁判にかけられた大きな原因になっておる、だから余り刑事補償はもらえないのだ、がまんせざるを得ないのだというようにしか考えられないですね。まさか、社会的な地位が非常に低いから、まあわかりやすく言うとルンペンみたいな人間だから一日当たり計算最低でもいいのだというような、そういう、人間余り身分とか社会的な地位で差別をするのではなくて、具体的なケースにおける被告人の態度にも十分でないものがあった、だから、国の方にも故意過失があったかなかったかはともかくとしても、相殺されるような面があるから低いところでがまんせいというようなどころがあるから低いのだ、こういう説明だとすると、それならばわかる。比較的道理がありそうな感じがする。  ところがこういう言葉を聞いて私も実はまた考え込まざるを得なかったのですけれども、いわゆる灰色無罪という、完全なシロではない、要するに捜査の方の不十分さのために有罪の立証に失敗をした。     〔委員長退席、保岡委員長代理着席〕  だから、スポーツで言うならば腕がなかったために負けたのであって、本来はこれは捜査のミス、公訴維持のミスの結果無罪になっただけにすぎない。いわゆる灰色無罪なので、もっと上手にやればクロにすることができたのだ。だから、免れて恥なしと言うか、そういうスポーツに勝って、本来ならば犯人として処罰を受けなければならないような、つまり、本来ならばというのをもっと正確に言うならば、検察官側が立証に失敗しないで成功するならば当然有罪。それが、いわゆる疑わしきは罰せずの民主主義の証拠法則に基づいて、証拠不十分、証明不十分ということで無罪になったのだから、こんなのにたくさんの刑事補償をやるのはどろぼうに追い銭というか、きわめて不公平な話だ。無罪になっただけでもありがたく思え、これが民主主義というもののありがたさだ。この次はもう二度とこんなことをするな、今度は失敗しないぞ。ぴしぴし取り締まるぞ、断固有罪にしてみせるからということで、刑事補償をもらうなどというのはおこがましい、だけれども請求してきているのだから仕方なしに少し払ってやる、最低限払う。ずいぶんくどくしゃべりましたけれども、要するに灰色無罪に対しての国民感情を満足させるのには、なるべく最下限は低いところに抑えておいた方がいいのだ、名目的なものでいいのだというような、そういう考え方がこの中にあるとすれば、これは果たしていいだろうかどうだろうか。  一体、刑事裁判をスポーツになぞらえて、民事訴訟と同じように考えて、そして被告弁護人が腕がよければ、本来有罪であるべきものも無罪にすることができるというようなものであっていいのかどうか。この辺のところを非常に私ども考えさせられてしまうのですが、民主主義社会における刑事手続の限界というか、寛容さというか、そういうものをわれわれはやはり無条件に尊重する。つまり、百人のうち九十九人までは逃しても一人の無事の者を罰しないというルールから言って、九十九人に無罪を言い渡した。しかしそれは客観的に見ればあるいは犯人であるかもしれないけれども、一人の無実も罰しないというこの民主主義のルールから言えばやむを得ないのだし、また世の中というものは、民主主義というものはそれでいいのじゃないか。そうでないと、無実の者が国家権力によって死刑に処されてしまうということをわれわれが承認せざるを得ないことになって、これはもうとてもがまんがならない。だから、考えてみれば、そういうルールの裏をくぐって九十九人の者が無罪になり、しかも刑事補償をもらうというのは非常に不合理だ。確かに私は不合理だという面もあると思いますけれども、しかし、一人の無実の者を罰しないということの原則を尊重する限りにおいては、灰色無罪と俗に言われるものであっても、あとは裁判所に任せて、灰色なのか、そうでないのか、ひとつ書面審理で判断してもらう。だから低いところで抑えておくというのが果たしていいのかどうか。この辺のところを、灰色無罪ということについて政府の方ではどう考えておられるのか、お尋ねしたいと思います。
  16. 安原美穂

    安原政府委員 民主主義憲法下における刑事裁判というもののあり方の問題でございまして、私も青柳委員指摘のとおり、一人の無辜を罰するな、そのために九十九の有罪の者を逃してもというのがこの民主主義憲法下における刑事裁判のあり方であるという点から端的にスタートして、刑事補償制度も考えなければならないし、刑事裁判も考えなければならないわけでございますので、いまの灰色の無罪といえども刑事補償法においては、あるいは刑事裁判においてはシロと同じような扱いをするということからスタートして補償というものを考えるべきで、その間に差異があってはならない。それは民主主義憲法における大きな、人権を守るためにやむを得ざる負担であるというふうに考えていくべきだという点は、まさに同感させていただきたいと思います。  したがいまして、今回この補償額最低が決められておりますが、さような灰色の無罪の者をこの最低限補償することによって国民感情を満足させるということではなくて、ここでわれわれが考えております最低限補償を受ける者として予想されるものといたしましては、結論から申しますならば、抑留または拘禁の前後を通じまして定職がなくて収入が皆無であるという方、したがって抑留または拘禁によって財産上の損害をこうむることがなかったと認められる者とか、あるいは精神障害や飲酒による異常酩酊のために責任能力がないと認められる者というような、いわば、そういう民主主義憲法下におきましても、高額の補償をすることが国民感情に反するというふうに理解しても合理的であるというものに限ってこれを考えるべきだというふうに考えておるわけでございます。  そこで、なぜこういう収入のない者については最低限でいくかということにつきましては、要するに補償というのは財産上、精神上の損害というものをある程度平均的に補償していくということでありまするから、そしていま申したような定職のない人はそういう財産上の損害というものはないと一応推定はできるわけでございますから、あとはいわば一種の慰謝料、精神的損害に対する慰謝としてどの程度やればよかったかというふうに考えまして、こういうものについては六百円というのが現行法でございますが、この慰謝料にいたしましても、いわばお金の価値というものが物価の変動によって下がっておりますので、今回この六百円を八百円に上げるというのは、賃金上昇というよりも物価上昇率をある程度勘案して、六百円では低過ぎる、八百円に引き上げるべきではないかというのが今回の改正の理由でございます。
  17. 青柳盛雄

    青柳委員 灰色無罪というようなことのために最下限が決められたなどということは絶対ないという御説明でございますので、これは恐らく裁判所もそういう点で補償金額は決めるようにしていると思いますから、私はこれ以上時間をとってこの問題をやろうと思いません。  きょうは、あと他の委員の方からの質問の予定がありますので、これで終わります。
  18. 保岡興治

    ○保岡委員長代理 沖本泰幸君。
  19. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私は、ただいまの御質問灰色無罪、心神喪失による無罪刑事補償について、同じような御質問になっていくのじゃないかと思いますが、最近犯罪被害者の補償が社会の問題になってきまして、私たちも犯罪被害者補償法要綱というのをつくって、御検討いただくようなことで当委員会提出しておるわけですけれども、そういう観点の中から、犯罪者である当事者に国が刑事補償をする、ところが被害を受けた人は全然補償がない、こういう点は全く不合理ではないかというふうに考えるわけでございます。憲法四十条の刑事補償、いわゆる「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」こういうふうにあるわけですが、ここで言う「無罪」という憲法の精神は、殺人行為を犯した者まで刑事補償を積極的にしなければならないと解釈すべきではない、こういうふうに考えるわけでございます。  具体的な例といたしまして、過去に殺人行為を犯しながら、精神病による心神喪失のため無罪となった方からの刑事補償請求に対して補償決定が行われた実例として、一つは東京地裁に係属した事件でありますけれども昭和四十二年五月二十二日午後九時ごろに起こった事件で、名前は伏せたいと思います。いわゆる殺人者Xは隣に住むY、当時三十一歳、及び同人の妻Iが故意に喧騒な振る舞いをしXの安眠を妨害しているものと信じ込み、Xの部屋を訪れたYを刺殺するとともに、その妻Iの腹部を刺して一カ月の重傷を負わした。しかし、この事件の裁判所判決は「妄想による恐怖から衝動的に行った犯行である」と認定されて、心神喪失の犯行であるという理由によって昭和四十三年八月六日無罪判決。この無罪判決を得たXは、その犯行により拘禁された四百四十三日間に対する刑事補償を請求した。これに対して裁判所は、昭和四十三年十二月十日に二十六万五千八百円の補償決定をしておるわけであります。  二番目は神戸地裁姫路支部に係属した事件でありまして、これは昭和三十六年八月二十六日に起こった事件で、学生Xは、Xの自宅に寄宿している女子学生A子を強姦しようと企て、日本刀を持って午前四時一二十分ごろA子の部屋に忍び込み近寄ったところ、A子が目を覚ましたので、Xは持っていた日本刀でA子を刺殺したという事件で、この殺人行為に対して、裁判所は「病的妄想状態のもとになされたもの」と認定されて、その結果、この殺人者も心神喪失中の犯行という理由で昭和三十八年十二月九日無罪判決。そこで、この無罪判決を得た殺人行為者も刑事補償を請求し、これに対して昭和三十九年六月十日、十万八百円の補償裁判所決定しております。  そこで、殺された者とかその家族は何も補償されないで、殺人を犯した者は国から補償金までもらっている、こういう点であります。先ほど青柳先生が盗人に追い銭的な国民感情というふうにお述べになっておられましたが、そういう考えを持たざるを得ないのではないか、こう考えるわけであります。  そこでお伺いいたしますが、同じようなことで、四十八年に刑事補償法改正された後刑事補償決定のあった事例としては、広島地裁の殺人事件、神戸地裁の詐欺、長崎地裁の強制わいせつ致傷、これはすべて精神分裂あるいは慢性アルコール中毒あるいは精神分裂、こういうふうな形のものが私の拾った中にあるわけですけれども、この十年間に心神喪失で無罪判決を得た者は何名ぐらいいらっしゃるわけでしょうか。
  20. 安原美穂

    安原政府委員 十年間の資料はございませんけれども、四十五年、四十六年、四十七年、四十八年の四年間にわたります第一審における無罪判決の中で、主として心神喪失ということだと思いまするが、責任能力がないということで無罪になった者が四十五年には三十二人、四十六年には三十七人、四十七年には二十八人、四十八年には二十九人、四年間で合計百二十六名おります。
  21. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それから、心神喪失で不起訴になったのは何人ぐらいですか。五年間ぐらい。
  22. 安原美穂

    安原政府委員 心神喪失を理由として不起訴処分を行った事件数でございますが、道路交通法等の違反事件を除きまして、昭和四十四年は三百五十六件、昭和四十五年は三百八十四件、昭和四十六年は三百九十二件、昭和四十七年は四百二十三件、昭和四十八年は四百十一件、以上でございます。
  23. 沖本泰幸

    ○沖本委員 憲法四十条の刑事補償の精神は、無実の者に対して国が補償するのであって、殺人行為者、犯罪行為者まで補償することはこの憲法精神に反しているのではないか、こういう解釈でこの憲法四十条を考えるべきではないか。あくまでも憲法で言う補償は無実の者に補償するのであって、有実の者まで補償しなければならないようなことではないのではないか、こういう考えを持つわけでございますが、この点に対してどういう解釈をお持ちか、お答え願いたいと思います。
  24. 安原美穂

    安原政府委員 旧刑事補償法では、いま御指摘責任無能力で無罪になったという場合は補償しないということになっていたわけでございますが、新憲法下におきまして、憲法四十条は無罪というものの裁判の中身について区別をいたしておりません。  なお、有実と仰せのお言葉でございますけれども、犯罪の成立の一般要件といたしましては、いわゆる刑法に規定しております罪の構成要件に該当すること、それを沖本委員は有実とおっしゃっておるのだと思いますけれども、それだけでは罪にはならないわけでございまして、釈迦に説法のようで失礼でございますが、構成要件に該当するとともに、それが正当行為ではない、違法な行為である、業務等の正当な行為ではないという違法性ということと、責任能力、いわゆる心神喪失等で責任能力がないという場合でない、責任能力がある、いわば三つの要件、構成要件に当たり、違法であり、かつ責任能力があるという三つの条件が満足いたしませんと犯罪というのは成立しないということに相なっておるわけでございますが、その三つの要件のいずれかを欠いて罪にならない場合は補償しないというふうには憲法四十条は命じていないように思われますので、現行刑事補償法では、新憲法下におきまして、その三つのいずれかを欠いて無罪という場合には補償すべきだというのが憲法四十条の精神だというように理解して刑事補償法ができておるわけでございます。その点が旧刑事補償法とは違うわけでございまして、憲法はそういう意味では、犯罪の成立要件のすべてについてどれかを欠いて無罪の場合は一律に原則として補償すべきだ。あとは、先ほどお答えいたしましたように、補償の額の範囲の問題として、それらの事情のどの事情によって無罪になったかを考えながら、裁判所が裁量で補償額決定するということの運用に任せておるものと理解するほかはないわけでございます。
  25. 沖本泰幸

    ○沖本委員 しばらく食い違った御質問をするようなことになりますけれども、憲法は法の中の最高の法である、こういう観点に立って、この憲法の精神に照らしてみたとき、四十条の真意を本当に理解しないで、刑法及び刑事訴訟法という下位法で用いられている無罪の言葉の解釈で憲法の無罪という用語を解釈しておるために根本的な誤りがあるんではないか、こういう考え方があるわけですが、それに対してどういうふうな考えをお持ちなんでしょうか。
  26. 安原美穂

    安原政府委員 まさに憲法四十条の解釈の違いということに相なるわけでございますが、やはり無罪ということは単なる常識的無罪ということでなくて、刑法、刑事訴訟法という犯罪の成否を論ずる法規に照らして憲法を解釈すべきだというのがわれわれの考え方でございまして、憲法の方から下におりてくるというよりも、それを実践する刑罰法規から上がっていって憲法を解釈するというのが私どもの立場であるというふうに御理解いただきたいと思います。
  27. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これも事実あったことで、日本刀で刺殺した学生Xに対して、「病的妄想状態のもとになされたもの」と認定されて、心神喪失として無罪判決となり、これに十万円、先ほど述べたとおりの刑事補償決定された。  これに対しての意見が「判例時報」の中にあります。これには「新刑事補償法昭和二十五年)以来十数年、このようなケースははじめてであるらしい。それは、心神喪失等を除外していた旧刑事補償法の戦前の習慣や観念が残存していたためなのか、あるいは、より根本的に、いやしくも事実として殺人を犯しておきながら、刑事補償を要求するなどとは、という、法律以前の道義感が、この種の補償請求をする考えを起こさせなかったのか、いずれかであろう。」という意見を述べておられます。また、この補償決定に対して法律の専門家は、「一般に現行法の解釈、適用として妥当であるばかりでなく、刑事補償の除外範囲を拡大するという立法的批判の問題としても、現在の民主的法秩序の全体的安定の上からも適切ではない」という意見のようにとるわけですが、これに対してどういう御意見をお持ちなんでしょうか。
  28. 安原美穂

    安原政府委員 確かに、国民感情の中にそういう感情として割り切れないものがあるであろうことはわかるわけでございますけれども、やはり先ほど申しましたように、憲法四十条というものを忠実に解釈するならば先ほど申したようなことになるわけでございますとともに、やはりこれが抑留、拘禁という異例な、本来結果的には抑留、拘禁を受けるべきでなかった者が抑留、拘禁を受けたということによる損害補償であるという点において、責任無能力者でありましても、結局は無罪になった者というものについて抑留、拘禁による補償をするという点が、非拘禁補償のような場合とは違いまして、やはりそういう責任無能力の場合の無罪にまで広げて補償する妥当性なり公平性をある程度理由づけるんではないかとも思います。基本的には憲法四十条の解釈上そういうことになるのはやむを得ない。ただ、補償額範囲決定というようなところで、そういう国民感情を考慮しながら決めていくということが最も憲法に忠実ではないかというのが私どもの立場でございます。
  29. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この「法曹時報」の中にあるわけですが、井上五郎氏は「刑事補償法の一部を改正する法律について」の中で意見を述べておられるのです。  「旧刑事補償法は、本人の行為が刑法第三十九条(心神喪失)ないし第四十一条(未成年者)に規定する事由によって無罪等となったものであるときには、補償しないことにしていた。  実際問題として、殺人等の凶悪な犯行を敢行したことは事実であるが、それは酩酊のため心神喪失中の行為であったので無罪となったにすぎないような者に対して、刑事補償を与えるものとすることは、常識的に考えて、些かどうかと考えられる節もないではない。  しかし、憲法第四十条は、無罪裁判に何等の区別をしていないのであり、他方犯罪成立の一般要件として、構成要件該当、違法及び有責の三者がそれぞれ同等の地位を占めていると見られるのに、責任能力不存在を理由とする無罪の場合だけを特異なものと見て補償範囲から除外することは、憲法の趣旨から適当ではないと考えられたので、今回の改正では、この点について触れるところはなかった」という、このような意見もあるわけです。しかし、構成要件該当、違法、有責はその一つを欠いても有罪とならないという意味で、三者同等の地位を占めているにすぎないと考えておる。この三者同等の地位を占めているといっても、構成要件該当、違法は行為のいわば現象的客観的法概念であるが、有責はいわば行為主体の内在的価値概念であって、本質的に両者は異質のものである。  いずれにしても、これらの意見から考えられることは、心神喪失中の行為とはいえ、人を殺したという事実があるというのに、ただ無罪となったがゆえに国家から補償をもらうというのは不合理に思われる。しかし、現在の刑事補償法のもとでは、先ほどの井上五郎氏の意見もやむを得ないということもあります。それでもなおかつ、常識的に考えて、殺人行為をした者に国家補償するというところに何かすっきりしない、こういうものが出てくるわけでありますが、この刑事補償法そのものに問題があるのではないか。とするならば、刑事補償法改正する必要があるんじゃないか、こういう考えもあるわけですが、その点についていかがでしょうか。
  30. 安原美穂

    安原政府委員 先ほど申しましたように、私ども、憲法の解釈を先ほどのような解釈であるという前提にいたしますと、刑事補償法改正してそういう者は補償しないということをする立法は、いわば憲法に反することに相なりますので、そういう改正をするつもりはございません。
  31. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これは前に、川井刑事局長時代にわが党の山田太郎君がこの点について同じような質問をやったわけですが、当時の川井刑事局長は、「確かに異常な感じを持つ。それでどうすればよいか、もうすでに部内で検討を進めておるところだ」こういうふうにお答えになっているわけです。そうしますと、それから七年ぐらいたっておりますが、この点について御検討があったのでしょうか、なかったのでしょうか。あったのであればどういう御検討をされたか。
  32. 安原美穂

    安原政府委員 川井元局長時代にどういう議論がなされたかは存じませんが、少なくとも現在におきましてその改正の問題というものは私の方に引き継がれてはおりませんし、先ほどの憲法の解釈をするという立場を変えることのない限りは、そういうことを議論する余地もないということになるわけでございます。  ただ、念のため申し上げておきますが、大臣訓令でございます被疑者補償規程という、御案内の、被疑者として抑留、拘禁を受けた者に対する刑事補償の場合におきましては、補償の要件自体が、被疑者が「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」ということで、非常にしぼって補償の要件を決めておるのでございます。その場合におきましては、補償規程の中に「本人の行為が刑法第三十九条から第四十一条までに規定する事由によって罪とならない場合」は補償しないということにしております。つまり、補償する要件が「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」ということにしぼっておるバランスからいって責任無能力で罪とならない者まで補償する必要はないという、一つの公平の感覚からこの場合は補償しないというのが被疑者補償規程でございますけれども、これは憲法に基づく補償でもないということからそういう要件自体がしほられますとともに、つまり被疑者補償規程の「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」と違って、刑事補償ではいわば真っ白でなくても、先ほど御議論になった灰色のときでも無罪であれば補償するわけでございます。それとのバランスからいきましても、責任無能力というような場合も、憲法が明示し、かつそれを補償しておることとはバランスがとれるわけでございますが、被疑者補償規程の場合には、憲法の規定に基づくものでないということと、それから補償規程の要件をシロと認められる場合というふうに限定しておることからくるバランスからいって、責任無能力のときは補償を被疑者補償の場合はしないとしております。そういうような一つの均衡論もあるわけでございます。
  33. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それから、憲法四十条を受けている現在の刑事補償法は、第九十帝国議会に憲法改正案提出された当初においてはこの刑事補償に関する規定はなかったわけでありますが、公務員の不法行為による国または公共団体の賠償責任刑事補償に関する規定の必要があって追加されたということであります。この憲法改正委員長であった芦田さんが本会議で、「從來我ガ國ニ於テハ公務員ノ不法行爲ニ依ツテ損害ヲ受ケタ場合、又罪ナクシテ虚罰ヲ受ケル、即チ冤罪ノ場合ニ賠償又ハ補償ヲ受ケル權利ガ十分保護セラレテ居ナカツタコトハ既ニ御承知ノ通りデアリマス、是等ノ權利ヲ憲法ニ明記シテ、國家又ハ公共團體ノ賠償責任ヲ明カニスル爲メ、特ニ二ツノ場合ヲ直別シテ第十七條ト第四十條トニ新タナ規定ヲ設ケルコトト致シマシタ、」こういう立法趣旨を説明しておられるわけで、いわゆるその精神は冤罪に対する補償であるという点にあるわけで、この立法趣旨の学説を見てみますと、「刑事司法が誤っていたことに対する補償」「一定の嫌疑による適法な抑留、拘禁が、後にその根拠、嫌疑がないとわかったとき、その自由の拘束補償」または「青天白日の者に対する補償」「抑留、拘禁が結果として不当であったことの補償」その他表現の差こそあれ、無実の者を拘束したことに対する補償が憲法第四十条の立法の趣旨であった、こういうふうな議論があるわけです。  この憲法の立法精神から考えた場合、刑法や刑事訴訟法無罪とはおのずから異なってくる、こういうふうに考えられるわけですけれども、心神喪失による無罪に対して、旧刑事補償法ではその第四条に「無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者ニ付左ノ事由アルトキハ補償ヲ為サズ」として、「一 刑法第三十九条乃至第四十一条ニ規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴ノ言渡アリタルトキ」は補償をしないこととなっておる。ここで問題にしているのは刑法第三十九条の場合であります。  この刑事補償法の当時の立案者であった横井氏によりますと、「刑事補償」の中で次のように述べられておるわけです。  「殺人罪で起訴された被告人が、飲酒酩酊のため犯行当時心神喪失の状態にあったというので無罪裁判を受け、その上弁護人を通じて相当多額の補償まで請求しようとした事件があって、この問題が世の注目するところになったのである。旧法は、刑法三十九条乃至四十一条に規定する事由により無罪となった場合を明文をもって補償対象から除外していた。  このように除外規定すなわち補償の消極的要件を復活すべきではないか、それで広すぎるのであれば酩酊による心神喪失を理由とする無罪の場合は補償対象から除くべきではないかという主張が相当強いのである。」というように、当時、法務省における法の立案担当者が心神喪失を補償対象から除くべきであるという主張をしておられるものもあるわけです。  そういう点もあるので、このいわゆる責任能力不存在を理由とする無罪の場合のみを補償範囲から除外することはおかしいという意見もあるかもしれませんけれども、心神喪失を理由に無罪となった者まで刑事補償しなければならないという点について法務省内でもいまのような意見があるわけですが、重ねて同じような意味での省内の議論はなかったかという点についてお伺いしたいわけです。
  34. 安原美穂

    安原政府委員 同じようなお答えで恐縮でございますが、憲法四十条の解釈につきまして、無罪の理由を区別することはできないという立場をとります以上は、あの憲法の規定はいわばそういう国民の権利の規定でございますので、その権利をある部分について制限するとすれば、憲法四十条に認めた請求権をいかなる立場から制限できるかという、一種の公共の福祉論というようなものを持ってきて制限する合理的理由があるかという大議論になるわけでございまして、私どもは目下のところ、無罪のある責任無能力の場合には請求権を否定しても憲法としての解釈としては合理性があるという解釈には立たないわけでございますので、遺憾ながら、沖本先生の御質問のように、責任無能力のときには刑事補償をしないという議論には賛同いたしかねるわけでございます。  なお、旧刑事補償法ではそういうことで無能力の場合は補償しなかったのでございますが、これは御案内のとおり、憲法四十条による国民の権利としての補償請求権ではなくて、いわば旧憲法時代における国の恩恵としての補償であったということで、そこには請求権というような権利ではなくて、恩恵としての補償であったというところから、広く一種の常識論のようなものから補償しないということにしたのではないかと、いまでは推測をいたしておる次第でございます。
  35. 沖本泰幸

    ○沖本委員 厚生省にお伺いいたしますが、不起訴になった精神障害者に対してどのような措置をいまとっておられるわけですか。
  36. 山本二郎

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  精神衛生法の規定によりまして検察官等から通報が都道府県知事にございまして、その際保健所長を経由していくわけでございますが、その際に保健所の方が調査をいたしまして、必要があると認めます場合には、精神衛生法の第二十七条によりまして精神衛生鑑定医の鑑定にかける。そして鑑定の結果、入院措置を必要とするということが決まりますれば措置入院の措置をとる、こういうことに相なっております。
  37. 沖本泰幸

    ○沖本委員 現在の精神病室の病床数は、入院の必要がある患者数を収容できるだけ整っておるのでしょうか、どうでしょうか。
  38. 山本二郎

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  昭和四十八年の十二月末の全国の精神病床数は二十六万八千六百六十九床でございまして、この時点におきまして入院をしている患者の数は二十六万八千五百四十六人でございます。したがいまして、病床の利用率は一〇〇%を若干割っているということでございます。
  39. 沖本泰幸

    ○沖本委員 保健所の精神衛生相談及び訪問指導の実態は現在どういうふうな状態なんですか。
  40. 山本二郎

    ○山本説明員 ただいま先生の御質問がございました保健所の精神衛生相談、訪問指導の実績でございますが、これは精神衛生法の第四十三条に基づきまして実施をいたしております。一番最近の年間の数字といたしましては、昭和四十八年の一年間に精神衛生相談を受けた人の数は、細かい数でございますが、十一万四千七人でございます。これは保健所の中で相談を受けた数でございますが、一方、必要がございまして保健所から出向いてまいりまして、訪問指導という形で指導をいたしました数は、同じ昭和四十八年の一年間におきまして十四万九千八百十六人という数に相なっております。
  41. 沖本泰幸

    ○沖本委員 都道府県の知事は、通報された件については入院の措置をどうするかを決定できるようになっておるわけですね。そういうことが十分でないために、入院の措置をとらずに再び犯罪につながるというような事件がいろいろと新聞紙上をにぎわしておるというふうに考えるわけで、精神衛生法二十九条そのものに不備があるんじゃないかというふうにも考えられるわけですけれども、この点、改善すべき点があるかないか、この点についてお答えいただきたいと思います。
  42. 山本二郎

    ○山本説明員 ただいま先生から御質問のございました、まず最初に訪問相談及び訪問指導の件でございますが、これはただいま数字を申し上げましたとおりでございますが、精神衛生法の先ほど申し上げました四十三条の条文によりまして、この条文では、一般的に保健所で相談指導に応じてほしいという方々が保健所に見えまして、あるいはそういう方々を訪問して保健所で指導することもございますが、一方、条文にも書いてございますように、第二十九条の措置入院が終わりまして、措置が解除になって退院された方々に対しまして相談指導をひとつ行う。それからまた、先ほど申し上げましたように精神衛生法の第二十七条によりまして行いました鑑定の結果、精神障害者であるが入院措置は必要としない、しかしやはり障害を持っておられるということになりました場合、二十七条の鑑定によりましてそういうことになりました方につきましてもこの四十三条の条文によりましてやはり訪問指導等必要な指導をする、こういう体制になっております。また、この保健所におきまする精神衛生の相談、あるいは所内の相談、あるいは訪問指導の件数は年々ふえておりまして、こういう点では私ども、これらの措置を解除になった方、あるいは鑑定の結果要措置にはならなかったがやはり障害があると診断された方々に対する措置は十分行われているものと考えておりますし、また今後ともこの面を十分にひとつ実施をしてまいりたいと思っております。  それからまた精神病床につきましても、先ほど申しましたように、一時病床数の利用率が一〇〇%をオーバーしていたことがあるのでございますが、昭和四十八年の末からそういう状態が改善されてまいりまして、必要な方が入院をするという上においても支障がないものと考えておりまして、今後ともそういう医療の必要な方に対する充実ということに努めてまいる所存でございます。
  43. 沖本泰幸

    ○沖本委員 刑事局長にいまのに類したことでお伺いするわけですが、刑法全面改正についていろいろ御検討されているわけですけれども、その中での保安処分という問題に対して精神神経学会等が法務省に反対を表明しておられるわけであります。これも、厚生省側の方でまだこれに対する意見を述べる段階ではないと思われますけれども法務省から相談されるというような場合にはどういうふうな対応策をお考えか。また、法務省の方は犯罪者を社会から隔離するという面から、治療の面からもお考えになっているんじゃないかと思うのですが、この点について厚生省の方と法務省の方と両方の御意見をお伺いしてみたいと思うのですが。
  44. 安原美穂

    安原政府委員 法制審議会の刑法改正草案によりまして、いわゆる精神障害のある犯罪者についての保安処分というものの制度の導入が答申されておりまして、目下政府案の作成の過程でございますが、いまだこの保安処分についてどうするかという点についてのいわゆる政府案の作成という段階に最終的になっておりませんので、いずれそういうものについて政府案をつくるという段階におきましてはもとより厚生省御当局とも十分に御相談申し上げたいと考えております。なお、何もこの保安処分施設は法務省の所管にしなければならないという必然性もないわけでありますから、広く精神に障害のある犯罪者の処遇という方法の問題として、厚生省御当局の意見も十分に聞いて法務省としての態度を決めたい、かように考えております。
  45. 山本二郎

    ○山本説明員 お答え申し上げます。  私どもは、ただいま法務省の刑事局長が申されましたようなことで、私どもの方に具体的ないろいろなお話し合いがございました時点におきまして、十分にこの問題をひとつ検討させていただきたいと存じております。
  46. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この議論はまだ未熟なので、もう少したってからまた御質問したいと思います。  あと少し時間があるのですが、大分あるので——じゃその分だけ次回に留保いたしまして、あとの時間を横山先生にお譲りしたいと思います。ありがとうございました。
  47. 保岡興治

    ○保岡委員長代理 横山利秋君。
  48. 横山利秋

    横山委員 実はこの法律案、政府案並びに私が提出いたしました法案並びに被疑者補償に関する一連の諸問題に関しまして、最近警察官の諸問題にどんな問題があるかということを検討いたしましたところ、まあ本当にわんさというほど、これ新聞記事の抜粋ばかりでありますが、きわめて多いことに実は一驚を喫しました。  この法案に若干関係いたしますことを御披露いたしますと、たとえばことしの三月十日、「“誤逮捕で詐欺犯人に” 柏の金融業者 きょう法務局へ訴え」こういう記事がございます。簡単に言いますと、金融業者が茨城県の取手署に逮捕されたが、私は加害者じゃない、被害者だ、こう言いまして、結局不起訴処分となり、釈放となった。そんなばかなことがあるか、人権じゅうりんであると言って訴えたケースであります。  それから去年の三月七日、「“先生のタマゴ”のわいせつ容疑 警察が誤認逮捕 所沢学校の調査でわかる」事もあろうに教員志望の大学生が強制わいせつなどの疑いで逮捕されたが、その後の調べでアリバイが立証され、事実無根となったというのであります。それで県警刑事部は「被害者の女子小学生二人が証言していたし、捜査の手続きとして逮捕はやむを得なかった。しかし、結果的に本人に大きな迷惑をかけたわけで、申訳ない」と言っています。  去年の四月一日、「また勇み足手配?」というわけで、香川県警が資産家女性殺しで愛媛県松山市生まれのAという人を緊急指名手配をした。建造物放火未遂の疑いでやったわけでございますが、これは別件でありまして、本人は殺人の疑いもあるわけでありますが、結局勇み足ということでAさんは緊急手配から引き取らせたということであります。「警察がダブルミス 札幌 既逮捕者に逮捕状出し、それを使って別人を逮捕」という奇妙なやり方が出ております。  こういう例を引用いたしますと全く枚挙にいとまがない。もちろんたくさんの警察官でございますから、私からもこれがすべてではないとは言います。けれども、先ほど刑事局長がお話しなさったように、九十九人の犯人を見過ごしても一人の無事の人を罪にしてはならぬという思想から言いますと、これらの警察のミス、あるいはそのほか大変な問題がございまして、酔っぱらいのひき逃げだとか、あるいは若い警察官が、この記事によりますと、暴力団におどかされて「命だけは助けて」と言って情報を漏らしたなどを考えますと、この法案の必要性、積極性というものがきわめて多いわけであります。  つまり、これらの警察官の故意または過失の状況で、すべてこの被害を受けた人が救済されておるかといいますと、いま引用いたしました例で救済をされたのもありますけれども、ほとんどが、シロになったのだからそれでいいじゃないかということで過ぎておるような気がいたします。ですから、私が法案を出し、それから被疑者補償規程の問題を例にいたしておりますのは、これらの現実的な必要性が、現実がきわめて毎年毎年存在をしているということについて政府関係者は十分ひとつ承知をしてもらわなければならぬと思うのであります。  そこで法務省に伺いたいと思いますが、法務省は、判決による無罪というものは覆されるおそれはない、覆されない。ところが不起訴による無罪といいますか、それは将来覆される可能性がある、つまり、もう一遍調べ直したら犯人だったという可能性がある。だからこの不起訴による無罪に対する法律的権利義務としての補償は適当ではない、そういう論拠が、この間お出しになりました論拠の第一になっておるわけであります。それも確かに一つの論拠であるように私も思います。しかし、そうであるとするならば、一体被疑者補償規程を制定する論拠が失われる。その論拠を深く進めていきますならば、それならばなぜ被疑者補償規程をつくったのか。被疑者補償規程で補償をしたならば、補償をしたものは後になって絶対に覆される可能性は皆無であるかということになりますと、しぼっておるからその可能性は少ないにいたしましても、可能性がないとは言えない。そうでしょう。したがって、この提出されました被疑者補償規程を立法化するについての第一の問題点というのは、被疑者補償規程を政府がつくっておる限りにおいては第一の論拠は希薄じゃないかという点について、どう思います。
  49. 安原美穂

    安原政府委員 被疑者補償規程を立法化すべきではないという論拠の一つではございますが、それがすべてではないということを御理解いただきたいと思うのでございます。  それはそれといたしまして、刑事補償制度というものは、原則として確定不動なものを前提として、先ほど青柳委員の御質問にも答えましたように、裁判所決定という手続で、書面審理補償ができるようなものであるのが本質的なもので去り、それがまた活用が図られる道であると考えますと、不起訴処分のような不確定なものを前提として請求権を認め、裁判所決定するというのは制度としてなじまないのではないかというのが一つの理屈でございますが、それがすべてではございません。それが証拠には、私どもは必ずしも賛成ではございませんけれども現行法にある刑事補償法の二十五条、つまり公訴棄却または免訴の裁判を受けた者が実際の裁判を受けたら無罪裁判を受けたであろうという場合の補償の問題は、これまた、公訴棄却の裁判はきわめて不確定な裁判でありながらこういう補償をすること自体制度としてどうかということで政府案にはなかったのでございますが、これにつきましてもやはりそういうものを認められておるわけでありますから、不確定なものだから補償制度にはなじまない、絶対にだめだということではないと思いまするし、非常になじまない、なじみにくいものであるということは言えないのではないかというふうに思います。  なお、先ほど、被疑者補償規程はしからばなぜつくったのかということでございますが、確かに、嫌疑なしあるいは罪とならず、特に嫌疑なしという判断をいたしました場合も不確定でございますから、後に証拠が出てきた場合には起訴ができるし、その処分が変わるという意味においては確定力はないわけでありますけれども、一応検察官の目で見て罪を犯さなかったと認めるに足る十分な理由があるということになりますれば、被疑者として逮捕勾留されたという被害とのバランスにおいて、そこまで検察官において判断ができるものならばその程度補償をすることは、それ自体公平の観念からいっていいことではないかというので、法律化はしなかったけれども、公平の観念からその程度補償検察官の判断においてすることも妥当ではないかということで大臣訓令ができたわけでございまして、私ども決してそれが立法化を認めないことと矛盾するとは思っておりません。
  50. 横山利秋

    横山委員 矛盾しますよ。あなたはいろいろあちこちから言っておるけれども、たとえば、あなたは裁判無罪になった。こちらは不起訴になった。裁判無罪になったあなたはもう犯人になるようなことは絶対にない。こちらの方は不起訴であるから、また何かの都合で調べ直したら犯罪をしたということが明らかになって罪になるかもしれぬ、犯人になるかもしれぬ、だから補償はできないのだ、これがこの問題点の論拠の主要な論拠になっている。いろいろあるけれども法律化できない主要な論拠の一つになっているでしょう。そこをお認めになるでしょう。  しかし、そういう論拠であるならば、あなたを被疑者補償規程で補償することについては理論的な矛盾を来しているではないかというのが私の主張です。わかりやすい主張です。あなたはそれに対して、いや、そうかもしれぬけれども、こっちだけ払ってこっちは払わぬというのは公平を失する点があるから、問題を限定して、これは大丈夫だろうと思うやつだけは恩恵的に補償してもいい、こう言うわけですね。しかし、補償したには変わりはないじゃないかとぼくは言うのです。体裁のいいことを言ったって、こっちの補償をしてこっちの補償をせぬというのは公平の概念に反するからこっちも恩恵的に補償するのだ、こういうことであるから、もう一遍犯人になる可能性のある人間については補償しない、不起訴については補償は適当でないという論拠はもうそこで破れたではないか。みずから、政府が被疑者補償規程をつくったときにもうその論拠は破れたではないか、こう言うのですよ。そこのところを素直にあなたは認めなければいかぬです。これが第一です。  第二番目に、前にも一遍言ったことがあるけれども、被疑者補償規程というのは大臣訓令なんですけれども、一体何法に基づいてやっているのですか。何法に基づいてわれわれの税金を支出をしているのですか。法律に基づかずしてどうしてそういう銭が出せるのですか。
  51. 安原美穂

    安原政府委員 まず、法律に基づかないでではなくて、予算というものに基づいてやっているわけであります。賠償金という、国会で御承認を得た予算という法律に基づいて支出をしておるわけであります。(横山委員「予算という法律……」と呼ぶ)はい。つまり、国民の御承認を得て支出をしておるわけであります。
  52. 横山利秋

    横山委員 予算というものは、法律に基づいて一方で予算案が審議をされ、一方ではそれを支出すべき案件、具体的な法律案、そういう、憲法並びに法律に基づいて、この人にはこういう補償をする、建物はこういうふうにつくるというものについて根拠法というものがそれぞれあるはずですよ。あなたはそれをお認めになるのですね、この根拠法はない、しかし予算で賠償金の項目があるから支出をして何ら違法ではない、こういう論拠ですね。
  53. 安原美穂

    安原政府委員 予算で認められておるのみならず、大臣訓令というものは法務大臣の、いわゆる法務省設置法に基づく行政所管大臣の行政権の作用として、特にこのことが国民の権利義務を拘束するようなものではございませんから、行政権の範囲において、それは法律に基づかずともやれるということにもなると思います。
  54. 横山利秋

    横山委員 だめですよ、そんなことは認めませんよ。訓令とか通達、規定は、役人は拘束される。しかし国民拘束されないのですから、そんな勝手に大臣が一存で金を出して、国民に都合のいいことだから勘弁してくれと言ったってそれはだめですよ。
  55. 安原美穂

    安原政府委員 法律に基づかずというのは、明文の法律というより、法務省設置法という法律に基づいてやっておるわけです。
  56. 横山利秋

    横山委員 法務省設置法にどう書いてあるのでですか。この被疑者補償規程についてこの支出をする、そういうことの根拠が明白になっているのですか。
  57. 安原美穂

    安原政府委員 被疑者補償をするという明文の根拠はございませんけれども法務省設置法の中には、刑事政策の実施、犯罪の予防あるいは人権の保障というようなことが法務省の所管事務になっておりますので、そういう包括的な法務省設置の目的から見て妥当な措置として大臣が訓令をした、かように理解しております。
  58. 横山利秋

    横山委員 だめです。認めません。これは前にも一遍言ったことなのですけれども国民の人権に関する重要な問題であり、しかもこの論争の焦点になっておる問題なのです。すべからく、よかれあしかれ——このよかれあしかれというのは、あなたの方にとっては、国民は喜んでくれるはずだからそう文句をおっしゃるなという立場らしい。けれども、私どもにしてみれば、このやり方はいかぬという立場ですから、政府と私どもと意見が違うのですから、そういう違うものを、何ら明白な法律根拠によらずに国民の税金を使ってもらっては困るのです。だから、もしどうしても被疑者補償規程が、あなた方のおっしゃるように限定される条件のもとでも出すのが妥当であると言うならば法律にしなさいよ。法律によって実行しなさいよ。  私は二つの面から常に言っている。一つは、明文がないところに税金を出してもらっては困る、しかも政府の自由裁量で勝手にやってもらっては困るという法律論。もう一つの論拠は、本来これは立法化さるべきである。警察官や検事や何かの間違いによって、間違って犯人にされた者に対して、犯人に仕立てた検事やあるいは警察官が、同じ穴のムジナが恩恵的に、えらい済まなかった、銭持っていってくれ、こんなシステムはだめだ、こう言っているのです。裁判官が、ほかの人が、ああ、あなた無実でしたか、えらい御迷惑をかけましたねと、ほかの人が出すならいい。けれども、おまえ犯人だろう、来い、こう言って拘禁して取り調べて、ああ間違っておった、おまえ帰れ、帰りにまあひとつこれ持っていけ。持っていけということも自由なら、持っていかさなくていいことも自由なら、そういうばかげた方式というものはいかぬという、この二つの論拠から被疑者補償規程はだめだ、こう言っているのです。
  59. 安原美穂

    安原政府委員 先ほどの支出の根拠につきましては財政法の解釈の問題でもあると思います。私どもは、財政法の解釈からいって予算の承認を得れば出せるということと、法務省設置法の趣旨からいっても行政権の裁量でやれるという解釈を持っております。  なお、次の問題でございますが、確かに被疑者補償というものは検察官の自由裁量ではございますけれども、それは検察官の恣意的な裁量に基づくものではなくて、自由裁量といえども法規あるいは訓令の趣旨に従って適正に運用されることが期待されておるわけでありますから、恣意的に、おまえ持っていけ、おまえ持っていくなということではないということは御理解をいただきたいと思います。  なお、被疑者、補償規程を立法化できない理由は、不確定な処分を前提とする補償制度というものが制度としては相当でないということが一つでございます。  もう一つは、やはりこういう制度を認めるとするならば、請求権を認めるということになるといたしますと、検察官の不起訴処分の内容というものが、たとえば起訴猶予をした場合に、起訴猶予でなくて罪を犯さなかったのだという主張のもとに国民裁判所に請求をする、そして検察官を被告とするというような形をとらないといけないことに相なろうかと思うのであります。そうなりました場合におきましては、わが国の検察制度あるいは刑事訴訟法の構造からいきまして、検察官の不起訴処分がすべて裁判所の審査の対象になるということは、それは決定手続であるということ自体がなじまない問題であるのみならず、裁判所がいわば検察官の行う捜査を事件について行うということに相なるわけでありますが、現在のわが国の刑事訴訟法検察官に公訴権を原則として独占させておりまして、そして良識のある運営に期待し、ただ、準起訴手続という例外と、それから検察審査会法による不起訴処分に対する抑制ということのほかは検察官に独占をさせておる不起訴、公訴提起権というものの中に裁判所という司法権が介入してくるということは、刑事訴訟法あるいは刑事訴訟法の捜査、処理の、公訴提起の基本的な体系に重大な変革を加えるものである。それまでにして故意過失のない場合の被疑者補償を立法化する必要というものがあるか。それは制度としての失う利益と得る利益とのバランスの問題として、われわれは現在の刑事訴訟制度というものの根幹を変える必要はないというふうに考えておるわけであります。それもまた被疑者補償制度を立法化しないということの重要な理由の一つでございます。
  60. 横山利秋

    横山委員 自分の都合のいいことばかりあちこちしゃべってしまって、それはいかぬですよ。一つ一つ問題をやりましょうよ。  まず第一に、財政法と法務省設置法との二つによって支出可能であるという論拠は、内容も何も言わずにそういう高飛車な言い方はだめです。財政法の第何条と、それから法務省設置法のどこであるかということを、それもあなたがお読み上げになったらすぐまた論争になりますから、この際要求します、文書をもって、被疑者補償規程が財政法並びに法務省設置法の第何条のどこそこにおいて適法であるという論拠をひとつあしたまでに提出をお願いします。  それで、ちょうど法制局がお見えになっていますね。突然の話ですから、きょうあなたに答弁してもらおうと思わないが、国会の法制局としても本問題について検討願いたい。そして法制局としての見解をいただくように御連絡を願いたい。それが第一です。  第二番目に、あなたのおっしゃる論拠は、検察官の自由裁量といってもかなりの法規裁量でやっているのだから、私の言うような同じ穴のムジナが適当にやっていることはありませんよ、一生懸命やっております、そういうことが期待されておるとあなたはおっしゃったが、期待されておっても、被疑者補償規程の適用がきわめて少ないということはもうだれだって知っている。毎年毎年言っておっても年に数件しかない。ゼロのときもある。これで何が期待されておるものか、何が実行されておるものか、実績は皆無であると言っても差し支えない。  それからもう一つのあなたの重要な論拠は、これが不服のときに裁判所に訴えられてはやりようがない、検察官の仕事、士気に影響すると言わんばかりの話ですね。検察官がこの人をどろぼうだとつかまえて、違っておった。そして国がそれを補償する。——田中さんにはえらい悪いけれどもちょうどここにおられるから、あなたを「どろぼうだ」「違う」「えらい済まなんだ」と銭を出す。田中さんは「こんな現ナマでは少ないがな」と言って怒る。どこへ持っていったらいいですか。民主国家として裁判所に持っていくのはあたりまえのことじゃないですか。それを裁判所に持っていかれたのでは今度は検事が被告になる、かっこう悪いでやめてくれという話ですよ、あなたの話は。どうしてそんなことが起こったか。検事や警察官が間違って、ミスを犯してこの人を犯人だと言ったことに原因がある。犯人だと言ったことに原因があって、それに対する補償をした。補償の仕方が少ない、そうしてこんなばかなことはけしからぬと言って、その被疑者にされた人が持っていくところと言ったら裁判所しかないじゃないですか。裁判所へ行くと今度は検事が被告になって、田中さんが原告になるわけだ。立場がややこしくなるので、そんなことはどうもならぬので勘弁してくれ、簡単に言うとこういうことなのだ。あなたは法律家だからむずかしい言い方をするけれども、私は庶民的にやさしく言うのだが、あなたの言うのは、そんなかっこうの悪いことはやめてくれということですよ。だけれども、かっこうの悪いことをした張本人、真犯人がそんな罪を免れていいものじゃないですよ。——いかぬ、いかぬ、あなたはちょっと黙っていなさい。政務次官、わかるでしょう、あなたは。政治家としてあなたが答弁してください。私の言うことは間違っておるか、どうですか。
  61. 松永光

    ○松永(光)政府委員 お答えいたします。  公権力の行使によって、しかもそれが誤っておった場合に、その被害者に対してどういう措置をするかという問題だろうと思うのですが、その場合に、先生御承知のように、公権力を行使する側に故意過失がある場合には国家賠償法で措置がなされる。故意過失がなかった場合にどうするかという問題と思いますが、刑事補償法は憲法の規定に基づいてその措置がなされるわけでありますけれども、しからざる場合にどうするかというのは、私は立法政策の問題であろう、こう思うのです。  ところで、わが国の捜査手続、刑事手続等のたてまえから言って、先ほど刑事局長の方からお答えがありましたように、起訴便宜主義をとっておるというようなこと、それから被疑者として取り扱われた人が確定的に無罪であるということが必ずしも言えないということ等もありますので、現在のところ法律にはしていない、こういうことであろうと思います。  そこで望ましいことは、警察も、あるいは検察官もそうでありますけれども、結果的に誤った捜査がないように、誤認逮捕等がないようにやっていくことが政務次官の立場としては大切なことであろう、こういうふうに私は理解をいたしておるわけでございます。
  62. 横山利秋

    横山委員 それは、あなたのおっしゃったのは前文だ。本文を答弁してもらわなければならない。わかっておってもこれはあなたが答弁しにくいものだろうとは思うのだ。あなたが私の質問の趣旨はわかっておっても、前段だけ言って本論が答弁できないということは、大変むずかしい、半ば私の論理にもう納得せざるを得ない、答弁すれば横山委員のおっしゃるとおりと言わざるを得たいので、それを言うと隣が気の毒だからよう言わぬというところじゃないんですか。田中さんもそばで笑っているけれども、それはもっともな話ですよ。  もう一遍言いましょうか。よそうか。——それでは皆さんはおわかりでしょうね。私が投げかけている問題はそういうことなんですよ。もう一遍言いますけれども法律論として、被疑者補償相程はこれは違法である、違法な支出である、これが一つ。  それから二つ目は、刑事局長がいろいろ言うこと、土壇場、最後の言うことは、そんなことをして、出し方が少ないと言われて裁判になって、検事が被告になるようなことはどうもならぬ、威信に関する、簡単に言うとそういうことなんですね。そんなことはあたりまえのことじゃないか。検事が「どろぼうだ」「人殺しだ」と言って間違ってやって——警察官でも同じだ、間違ってやって、それが無実だった。不起訴になった。それで自分らが悪かったと言って、被疑者補償規程を発動して銭を出す。もうそのときには法律ですね。法律を発動して、えらい済まなかったと言って銭を出す。銭が少ない、もっとよこすのがあたりまえだと言って争う。争うのは裁判所へ行かざるを得ないんじゃないか。裁判所へ行くと出した検事が被告になる、そんなかっこうの悪いことはいやだというのが刑事局長の——そういうことじゃないですか。あなたはむずかしく言いなさんな、わかりやすく言いなさい。あなたは専門家だからいつもひねくったような言い方をする。もっと庶民的にわかりやすく説明しなければいかぬ。
  63. 安原美穂

    安原政府委員 庶民的に心がけて申し上げますが、まず何から申し上げていいのか——検事の威信にかかわるからというようなこと、そういうけちな根性で申し上げているわけではございませんで、やはりわが国の刑事訴訟構造というのは、検察官に起訴、不起訴の決定権を与えて、それについては信頼し、そして検察審査会というものが不起訴処分に対しての抑制効力を発揮するが、それは検察官の起訴を強制するものではないというたてまえになっておる。その点はドイツとは違いまして、ドイツには、いま横山先生御指摘のような被疑者補償のような制度が請求権としてあるわけでありますが、ドイツの刑事訴訟法における検事の立場あるいは捜査の立場というのはまさに裁判所裁判の前置手続のようなものでございまして、すべて裁判官が中心となりまして、検事が不起訴にするときにも裁判所の許可を得る。検事が公訴を提起いたしますのは起訴法定主義で、必ず証拠があれば起訴をしなければならない。起訴をしない場合には裁判所の許可を得なければならない。起訴をいたしました場合にも直ちに裁判にかからないで、そこでもう一度裁判所が審査をいたしまして、公判を開始するかどうかを決めるというように、裁判官を中心に検察官なり警察があるという、裁判官が捜査、公判を通じて刑事手続を主宰するという立場になっておるのであります。いわば職権主義の裁判のもとにおける被疑者補償につきましては裁判所がそれを審査するたてまえになっております。  しかしながら、わが国の刑事訴訟法は、捜査、公訴提起までは警察と検審官においてそれを主宰する。公訴を提起したならば、裁判所は第三者として、当事者主義で被告人検察官との間の主張、立証を客観的に判断するということでありまして、そういう第三者的立場に立たれるのが裁判所ということであります。そういう裁判所にいまの横山先生のような補償請求を検事として認めて、裁判所が審査するということになりますと、捜査の中に裁判所が入ってくるということが重大な刑事訴訟法の構造の改革ではないか。当事者主義ではなくて、いわば一種の職権主義のようになってくるのではないかという構造改革ではないか。それほどにしなければならないのか。被疑者補償につきましては、先ほどから検事が被告になると申しますが、国家賠償の場合は検事は被告になります。しかしながら刑事補償法においては、たとえ検察官が不起訴処分を法律で認めたとしても、それは決定手続でございますから裁判所と申し立て人との間のことであって、検事は被告にはならないわけでございます。そんな法律論はまた庶民的ではございませんが、要するに故意過失があればいまでも国家賠償という制度があるわけでありますから、その制度で争うという程度にとどめるのが、訴訟構造あるいは刑事訴訟法の全体から見てその程度におさめておくのが訴訟法のたてまえから言っても妥当ではないか。そこを立法化するという必要がそんなにあるかというのがわれわれの考えであるということを重ねて申し上げますと同時に、それは決して検察官のメンツにこだわるというような反対論ではないことも十分に御理解いただきたい、かように思います。
  64. 横山利秋

    横山委員 御理解できませんね。これはきょうだけの論争で終わるものではございませんから次回に譲りますけれども、結局あなたの最後の答弁は、故意過失の場合においてはいたし方がないことになっておるし、故意過失の場合においては、いかなる故意があったか、いかなる過失があったかということを検察内部に追及されてもいたし方がない、そこは認めているわけですね。故意過失については補償もし、検察内部の取り調べの状況についていろいろ調べられてもいいけれども故意過失でなかったものについては、受忍義務があるから国民は泣いてくれと言わんばかりですね。私が冒頭に例を出しましたようなことは日常茶飯、遺憾ながらそういうことがあるのですから、これが全部故意過失だとは思わない。故意だとは思わないし、過失だとも思わない。お巡りさんが調べていって間違っておったということなんですよ。これを故意過失だと立証することはむずかしい事案があるわけですからね。「警察がダブルミス 既逮捕者に逮捕状を出し、それを使って別人を逮捕」なんということは、行政としてはおかしいけれども、しかし全く故意に、わざわざ犯人に仕上げようと思ったわけでもどうもないらしいのです。そういう点ではあなたの論拠は、十分了解してくれとおっしゃっても十分了解するわけにはまいりません。これはまた別の機会にさらに発展をさしたいと思います。  この機会に、先ほど私がお巡りさんの問題についていろいろ事例を挙げましたが、いま当面いたしております問題について少し警察庁に、あわせて法案に関連して質問をしたいと思うのであります。  もうすでに警察庁では十分御存じだと思いますが、大阪におきまして上組という、無法なと言われております会社が暴力団を使いまして、全港湾の労働組合の下部組織に対して全く暴力的な行為をいたしておるわけであります。これはもうたくさん質問がありますし、時間もございませんので、私の質問に対して、もうほかの委員会でも議論が出ておるようでありますから、警察庁として本当に簡潔にお答え願えれば結構でございます。  まず第一に、この事案というものは、労使間の紛争と警察は見ておるのか。これは暴力問題であるというふうに私どもは提起しておるのでありますが、どちらとお考えでありましょうか。労使間の紛争となれば、警察は仲介だとか調停なんということは必要ないのであります。暴力問題となれば、暴力が起こったその原因について、またバックグラウンドについて追及しなければなりません。どっちだとお考えでございますか。
  65. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お尋ねの上組の問題につきましては、もとより正当な労働運動として行われております分野につきましては警察が介入すべき問題ではございませんけれども、不当労働行為に伴う暴力事犯、あるいは、現在御承知のように上組労組と全港湾系の労組の対立がございまして、幾多の事件を私ども認知をいたし、これに対する捜査を行っておりますけれども、このような暴力事犯につきましては刑事事件の対象といたしまして厳正公平な取り締まりを実施する、こういう姿勢をもって臨んでおります。
  66. 横山利秋

    横山委員 「神戸、大阪両港における(株)上組の労働者は、建設支部、阪神支部、沿岸南支部の三支部にそれぞれ上組分会として加入していたが、昨年八月頃、山口組系暴力団を正面に立てて大々的に全港湾の組合つぶしを開始するとの、情報という形をとった予告が関西地本に対して行われ、その後九月中、下旬より一斉に各支部に所属する上組分会に対して攻撃が開始されてきた。」こういう条件下にありました。そして、いろいろの事案がございますが、その事案の一つに、  「十二月三日の深夜には、「秀和商事」の重役と称する入江某は前記尾崎代行になぐりかかり、「お前さんも命はわかっているだろうな」などと脅迫した。あるいは十二月十九日、就労行動をとる分会員等に対し、「秀和商事」の榊原某は支部、分会の役員を名ざしで「おぼえとれ、お前を一番先にやったる。殺したる」と暴言をはき、警戒にあたる機動隊員らはこれを放置する。食事搬入の分会乗用車のボンネットの上に六、七名が乗り立往生させる。深夜には入江某がドスをふところに組合事務所に乱入。ガラスコップをたたきつけ岩石を投げつけた。  一月二十一日には、上組「秀和商事」連合暴力集団が、それぞれ会社幹部に指揮されて組合事務所に乱入、太さ二センチのワイヤーロープをふりまわして南分会長に傷を負わせた他多数の分会員に傷を負わせ、衣服を引きちぎるなど暴行を加えた。その後も野球。ハットをふりまわし、自転車でぶつかって来た。上組「秀和商事」連合暴力集団は、会社幹部の黙認あるいは直接指揮をうけて、その暴力行為は連日の事であり書きつくせぬほどである。」と指摘をいたしておりますが、これらの秀和商事の暴力関係について、警察はどういう考え方を持っていますか。
  67. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お尋ねの山口組の介入の問題につきましては、これは私、警備課長で、所管外でございますがい私の承知いたしましている限りでは、昭和四十一年以来の山口組壊滅作戦と称する一連の捜査の結果、この山口組勢力はこの種港湾関係企業からは一掃をされて、現時点においては、捜査の段階では山口組介入の事実は把握されておらないと承知いたしております。しかしながら、万が一、暴力団がこのような港湾関係企業に食い込み、違法事犯を引き起こす、こういうことでございますれば、暴力団に対する取り締まりは従来同然厳重に実施をいたしてまいりたい、かように考えております。  お尋ねの一連の事件につきましては、昨年の八月以降暴力事犯が続いておりまして、現在まで大阪府警が被害申告、告訴などで認知をいたしております事件は十四件でございますが、このうち現在までに四件、十二名を検挙をいたしまして大阪地検に送致済み、残りの事件についても鋭意捜査中でございます。
  68. 横山利秋

    横山委員 「阪神支部上組分会の組合員が就労する現場では、特にフォーマンの就労する現場では月間相当時間の時間外労働が行われているが、労働者との間に、労働基準法第三十六条に基づく時間外協定が行われていない。このため阪神支部では、昭和五十年一月二十九日、神戸東労働監督署及び兵庫県警察本部に対して告発を行った。」という報告がございますが、これに対してどうなさいましたか。
  69. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お答えいたします。  大阪府警が上組関係でこれまでに受理をいたしました告訴は全部で八件、全港湾による告訴が三件、上組労組による告訴が五件。     〔保岡委員長代理退席、田中(覚)委員長代理着席〕  このうち、全港湾側からの告訴一件につきましては捜査を終えてすでに送致済みであり、現在専従捜査員三十名の体制をもって捜査に従事をいたしておる現状でございます。
  70. 横山利秋

    横山委員 私の質問は、五十年一月二十九日の告発についてどう処理をされたかと聞いている。
  71. 佐々淳行

    ○佐々説明員 失礼いたしました。  お尋ねの一月二十九日付の兵庫県警並びに神戸束労働基準監督署に対する労基法三十二条違反の容疑で会社側を告発をいたしておりますが、この件につきまして一月三十日告訴を受理いたしまして、二月の三日、組合側の代表弁護人からいろいろ事情を伺いました結果、労働基準監督署にあわせて告発しているので、その捜査が進展するようであれば、証拠品の提出は労働基準監督署の方に行い、警察への告訴は取り下げたい、こういう御趣旨でありましたので、本件の取り扱いにつきまして警察と神戸東労働基準監督署と協議の結果、一月三十一日、同監督署では、すでに関係個所の捜索を実施した、こういうことで、現在労働基準監督署において捜査が行われておると承知をいたしております。県警といたしましても、この捜査の進展状況や組合の意向を十分尊重いたしまして、これを見きわめた上で誤りのないように措置をいたしたい、かように考えております。
  72. 横山利秋

    横山委員 沿岸南支部関係の問題として、七十名ぐらい加入をいたしました際に、上組は着実な組織の拡大と労働条件の前進に恐れをなしたか、不当にも組合つぶしの攻撃を加えてきたのでありますが、そのころから、「近く上組は山口組系暴力団を使って大々的に全港湾の組織つぶしにかかる」あるいは「黒塗りの乗用車四台と鉄砲玉二十名を組合幹部を攻撃するためにすでに配置した」などという情報が全港湾に予告をされました。「その予告を裏づけるように、去年の九月十八日頃から矢倉副分会長の自宅へ、某暴力団に所属しているといわれる某人物よりたびたび電話がかかり、あるいは職場に押しかけてきて「全港湾を脱退しろ」「会社をやめろ、退職金にプラスアルファをつける」などと組合脱退や退職を強要し、「きかなければお前の体の保障はできないぞ」と脅迫を行う」こういうふうに脅迫、強要が森本分会長初め他に数名の者になされてきた。こういう事実を御存じでございますか。この某人物という者の調査が行き届いておりますか。
  73. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お答えいたします。  本件は警備課長の所管外でございますが、私の承知いたしております範囲でお答えいたしますと、若干の被疑者、容疑者の名前が浮かんでおり、現在この人物について捜査を行っておる。脅迫の事実については正式にはまだ被害申告がなされておりませんので、事実関係調査の上、法に照らして処置をしたい、かように考えております。
  74. 横山利秋

    横山委員 同じく「十月二十一日、全港湾関西地本は、約二千名の組合員により合同庁舎前で集会を開催したが、職場に復帰したあと、約二百名の上組暴力集団が午後一時過ぎ、泉大津市、泉北埠頭の上組泉北作業所でリフトを運転して作業に従事していた全港湾の組合員一名を二百名全員によって取り囲み、集団脅迫を加え、その上四、五個のマイクを同人の耳に近づけ「全港湾やめろ」「アンコに行け」などと大声にわめきちらし十五分乃至二十分間にわたってこのような暴行、脅迫を行った。つづいてこの暴力集団は、同泉北埠頭の豊国倉庫にも押しかけ、同倉庫内で作業をしていた全港湾の組合員の内、二名に対して前記同様の集団脅迫、暴行を行った。後刻、三名は耳鳴りと難聴のため医師の診断を受けたところ全治一週間の傷害を受けていることが判明したので大阪府泉大津署に対して告訴を行った」のでありますが、その告訴についてどういう措置が行われましたか。
  75. 佐々淳行

    ○佐々説明員 お尋ねの事件につきましてはすでに、被害申告を受けました泉大津署では実況見分調書作成等所要の捜査を終えまして、昭和四十九年十二月十八日に被告訴人三人を被疑者として傷害罪及び脅迫罪容疑で大阪地検に送致済みでございます。  なお、十月二十二日の事案につきましても告訴がございまして、所要の捜査を遂げ、同じく十二月十八日、被疑者二名を傷害罪及び脅迫罪容疑で送致済みでございます。
  76. 横山利秋

    横山委員 この上組本社との団体交渉をしておる段階で、「沿岸南支部上組分会の組合員に対し某暴力団に所属しているといわれる人物による切り崩しが開始されるとともに関西地本の事務所周辺に正体不明の人物がうろつき始めた。事態を重視した関西地本は上組の本社に対して団体交渉を申入れ、十月七日神戸市のポートアイランドの上組営業所で団体交渉を行い、暴力を使っての組合切り崩しに対して厳重に抗議を行うとともに直ちにそれらの不法行為を中止するよう申入れた。これに対して会社は下請会社の企業防衛の立場からの動きであるかもしれないなどと事実関係を匂わせながらも会社は関知しないことであると責任回避の無責任な発言を行っておる」由、報告を受けておるわけであります。  あなたは最初、山口組は余り介入してないというようなお話がございましたが、常に暴力団がこの団体交渉の周辺に介在をしておると思いますが、どうお考えですか。
  77. 佐々淳行

    ○佐々説明員 私どもの現在把握しております捜査の事実関係では山口組の介入の事実は確認されておりませんけれども、万が一そういう暴力団の介入の事実がございました場合には、御承知のように山口組に対する頂上壊滅作戦を現在特に兵庫県警において力を入れてやっておりますので、そういう事実関係について端緒を得た場合には適切な捜査を行って、これに対する厳重な措置をとりたいと考えております。
  78. 横山利秋

    横山委員 ストライキ中における警察の不当弾圧並びに警察の警備のあり方について報告を受けておるわけでありますが、これによりますと、たとえば  二月二十一日、全港湾の組合員が第三突堤入口付近のたばこ店前の公衆電話で関西地本事務宙と連絡をとっているとき、上組労連の腕章をまいたスキャップの数十名の一団がこれを見て押しかけ、なぐる、けるの暴行を働いた。数十メートル離れた地点からこれを目撃した全港湾の組合員十数名がこれを阻止し、救出すべく暴行を受けている現場へかけ出すと、数メートル手前の地点で機動隊がこともあろうに救出を図ろうとする全港湾側を阻止し、目前でさらになぐり、けりつづけている上組スキャップの行動を放置した。現場の機動隊指揮官に抗議するとともに、暴行を行った者を逮捕せよとせまったが、逮捕するどころか、その暴行を行った集団を別の場所に移動させ犯人の逃亡を容易にするなど不可解な行動をとった。この直後、大阪水上警察署交通課長にこの事実の釈明を求めたところ、その間の事情をみていなかったと主張するのみで調査、逮捕などの必要措置もとらず機動隊員に取り囲まれて逃げてしまう状況であった。」  こういうことであります。要するに、この一件から、ほかにもそういう警備のあり方について指摘があるわけでありますけれども、暴力を働こうとする山口系の暴力団及びその下部組織と、それから正規な法的な労働組合、その行動との真ん中に立って、どちらともなく中立どころではない、暴行しようとしておる暴力団の方をかばって労働組合を阻止しようとするがごとき態度に見られたことはまことに遺憾千万なことだとありますが、いかがですか。
  79. 佐々淳行

    ○佐々説明員 当日の警備実施の状況を詳細につきまして必ずしも承知をいたしておりませんが、大阪府警からの報告によりますれば、現場では上組約三百五十名と全港湾系約百六十名の多数の人々が衝突をするというような対峙状態を続けておったために、不測の事態を防止するために警察官職務執行法五条によりまして部隊を間に入れ、こういうエキサイトした雰囲気に対処すべくこれに対する所要の警戒配備を行った。その意味では、犯罪の予防、起こり得べき不法事犯の未然防止のために部隊配備を行ってこれを阻止した、こういうことであるというふうに承知をいたしております。
  80. 横山利秋

    横山委員 とにかくこの警備のあり方について、現地側としては大変不愉快というか、暴力団にかえってプラスになるような警備のあり方が一部にあったという指摘をしておるわけであります。  ストライキ中ではありませんが、「一月十六日、午後三時頃、上組労連の腕章をまいた百名を越える集団が市内港区築港一丁目の全港湾関西地本の組合事務所に殺到し、全港湾の組合員に威迫を加え、恐怖感を与えるなどの暴挙を行った。この情報を近畿海運局において聞いた沿岸南支部委員長は、事態を警察に知らせるべく港警察署に電話しようとしたところ、話し中で、やむを得ず一一〇番によって急報した。ところがその直後港警察署警備課の塩田刑事より電話によって「一一〇番に電話をするとはけしからん、人が殺されかけているのでもないのに」などとおこりつけさらに其の後関西地本の事務所に立ち寄り、沿岸南支部書記長にも同様の暴言をはいた。」という報告がございます。一体それはどういうことなんですか。
  81. 佐々淳行

    ○佐々説明員 御質問のように、万が一、一一〇番をかけた者に対してそういうような応答をしたとすれば、これはまことに遺憾なことでございますが、私どもの方で事実関係調査いたしましたところ、一一〇番は一月十六日午後三時二十五分ごろ、「争議中ですが、いま上組の従業員百名ぐらいが殴り込みに来ておる」ということを通報してきた。これに対しまして事実関係を把握すべく折り返し通報者にお尋ねしたところ、「私は現場におらず、組合員から聞いたので詳しいことは知らない」こういう御返事でございましたので、現場に係官を派遣するとともに、詳細を聴取すべくいろいろ事情を伺った。その際に、一一〇番よりは、もう少し詳細に事情を聞かせていただくためには一般的な加入電話でかけていただいた方がいい、こういうことを申し上げたようでありまして、必ずしも、一一〇番をかけるのはけしからぬ、こういうようなことを申したのではないというふうに承知をいたしております。いずれにせよ、一一〇番通報というのは市民の警察に対する非常通報でございますので、これをこのような扱いをすることのないよう——この事実関係につきましてはこういうことで私ども承知しておりますが、今後遺憾のないよう、よく指導いたしたいと考えております。
  82. 横山利秋

    横山委員 上司であるあなたの方がそのときの状況を聞いた。そうしたら、「一一〇番に電話するとはけしからぬ、人が殺されかけているのでもないのに何だと怒りつけるように言いました」と報告するばかはないのです。言われた方が率直にこういうふうになったんだと言ってきたのでありますから、「おまえ本当にそう言ったのか、言われた相手にそういうふうに誤解を与える余地はなかったか」こういうふうに調べなければ、「何言ったんだ」「いえ、そんなこと言いません」「はい、さよなら」そんなことをここであなたぬけぬけ言ったって、それはだめなんですよ。  まあ、いままでいろいろと、私の意見を言わないで、この報告を受けました点を指摘をしてきたところなんでありますが、あなたが二、三回にわたって、私は刑事じゃありません、警備でありますから私の所管ではございませんがという言い方が気に食わぬのです。だから最初私は、一体これは労使紛争と見るのか、暴力事犯と見るのか、こう言ったのです。労使紛争ということであるならばある程度警備のあなたの所管でもあろう。しかし暴力事犯だと見ればこれはもうあなたの所管じゃないんだから、あなたに答弁を承ろうったってどうしようもないのです。そういう点では森永さん、あなたはどう考えますか。
  83. 森永正比古

    ○森永説明員 私どもの方といたしましては、現在までの捜査の結果、暴力団の介入した事実は承知しておりませんので、労使間の問題だ、このように承知いたしております。
  84. 横山利秋

    横山委員 それはあなた、所管にしては少しこの事態の把握が不十分じゃないんですか。少なくともこの上組それ自身、これは実際の労働組合ではないのです。実際はきちんとなった労働組合ではないのでありますが、その上組のやっておること、上組の労働組合とかなんとかかんとか、会社の職員がやっておること自身がまず第一に暴力事犯であるということが言える。そのバックグラウンドに暴力団の会がうごめいておる。そしてその一番最後には山口糸が蠢動しておるということは現地では周知の事実なんです。そのことをあなたの方で少しは、まあそういう形跡があるので十分注意をしておると言うならともかくとして、これは暴力事犯ではありません、労使紛争だという認識なんというのは言語道断だと思うのです。ほかの委員会でももうすでに指摘をしておるところなんですが、それでもあなたはこれは労使紛争だ、私が指摘しておるこの事犯はそういうふうだと言うのですか。
  85. 森永正比古

    ○森永説明員 ただいまお答えいたしましたのは、暴力団の事件として考えているのか、あるいは労使間の問題として考えているかという、二者択一の御質問でございましたのではっきり申し上げたわけでございますが、私どもといたしましても、上組の背景等、十分承知いたしておりますので、事件としては労使間の事件でございますけれども、刑事局といたしましても、暴力団の介在するおそれもありますので十分監視はいたしております。もしそのような事案が発生した場合には断固たる措置をとるように、態勢も十分考えてやっておるところでございます。御了承をお願いいたします。
  86. 横山利秋

    横山委員 断固たると言ったって、いま言ったんでは遅いんですよ。もっと早く断固をやってもらわなければいけないのです。  あなたは耳が痛いかもしれませんけれども、一月二十四日の読売新聞、「暴力団 のさばらせるな 若い警官、情報もらす「命だけは助けて」と」という記事を参考のために読みますが、  「警官は福岡署防犯課少年係、安藤誠巡査で、調べによると、さる二十日午前零時三十分ごろ福岡市春吉二の酒場「みき」で、一人で飲みながらホステスに「暴力団中丸組を壊滅させる」などと話していたところ、居合わせた三人連れの男が「お前はどこの組の者か」といいがかりをつけ「警察官だ」という同巡査を店の外に連れ出して袋だたきにした。  このあと、むりやり乗用車に押し込んで監禁、車中でさらに頭をなぐるなどしながら福岡市郊外の油山へ向かい「おれたちは中丸組の組員だ。われわれに協力」ないと別府で殺された後藤巡査のようにする」とおどして同巡査の警察手帳を奪い、暴力団関係の情報をもらすよう迫った。  危険を感じた安藤巡査は「情報を提供するから命だけは助けてくれ」と、同日午前七時三十分から行なわれることになっていた中丸組手入れの情報をもらした。車は油山から市内に引き返し、午前二時ごろ同巡査を別のバーにつれ込み「よく情報をもらしてくれた。これからも頼む」と、三人はそのまま姿をくらました。  これに対して安藤巡査の話は、「事件があったあと、すぐ上司に報告しようと思ったが、不名誉なことなので言いそびれた。たとえおどされても警察官らしく、もっとき然たる態度を取らなければならなかったと深く反省している。こうなった以上、自分で責任を取りたい。」  小牟田安雄福岡署長の話は、「本人は車に連れ込まれるとき、警察手帳を見せ、おれは警察官だとはっきりいったにもかかわらず、車に監禁してなぐられている。これは暴力団の警察に対する挑戦だ。しかし、たとえおどされたとはいえ、秘密を暴力団員にもらしたことは非常に残念だ。生命に危険があったとはいえ、もっとほかに方法があったはずだ」  こうあります。このことと上組と直接関連させようとは私は思ってないのですよ。思ってないけれども、どうもその上組問題に対するあなたの方の警察官並びに警察署の態度は、この暴力事犯について真ん中に立とうとしているか。さっきも指摘したように、向こう側の立場に見られるような誤解を現場の労働者に与えたこともあり、そうして、恐らく情報は双方から取ってみえると思うのだが、向こうの情報が取りたいために向こうに不要な接触をしていらっしゃるのじゃなかろうかとも私は思うのです。はっきりしたけじめというものがついてないからこういうような問題が起こるのではないか。この若い警察官がなぜそこへ飲みに行ったか。なぜ偶然にも三人そこにおったか。これは、少年係がそんなところに手入れの直前に飲みに行くというのは恐らく何か情報でも取りに行ったのではないか。この人は手入れがあることを知っておったのですね。そういう何かの接触があったんじゃないかと思うのでありますが、この上組の事案について姿勢がよくないのじゃないかと私は忠告したいのです。どうですか。
  87. 森永正比古

    ○森永説明員 私どもは、暴力から善良な国民を守るという立場で仕事をやってきておるわけでございます。暴力団の取り締まりにつきましては、先ほど警備課長の方から申し上げましたように、特に山口組に対しましては四十一年以降、兵庫県警を中心にいたしまして取り締まり対策本部を設けまして、強力なる取り締まりをやってまいっております。今後とも暴力団の蠢動を許さないような厳しい監視と取り締まりをやっていくと同時に、そのような犯罪事実があれば厳しい立場でこれを処置してまいりたい、そして暴力を排除してまいりたい、このように考えております。
  88. 横山利秋

    横山委員 耳の痛いことばかりですが、「暴力団とグルの警官有罪」「暴力団組長からワイロを受け取った大阪府警捜査四課の元警部、浜口浩一(四六)に対し、二十九日、大阪地裁小瀬裁判官は「暴力団と警察の間にいささかもくされ縁があってはならない」と懲役二年、執行猶予四年、追徴金六十四万円を言い渡した。また、金を贈った暴力団組長に懲役一年六月、執行猶予四年を言い渡した。」いまでもこんなことがあるのですね。本当に情けない話だと思います。  新聞の論説を見ましても、「連続不祥事と警察の体質」と題しまして、たとえばサンケイが九月二十五日に言っておりますのによりますと、「さいきん、警官の不祥事件が続出している。」云々と挙げて、「警察庁に報告された警官の非行件数は年々減ってきている。たしかに、数字の上ではそうであろうし、非行警官は全国十八万人の警官の例外中の例外であろう。だが、数は減ってきても、不祥事がだんだん悪質になっている現実に目をそむけてはなるまい。さきに警察庁は「七〇年代の警察」として、“明るく、市民から信頼される警察”を、その目標にかかげたはずである。しかし、一連の不祥事をみるかぎり、明るさはどこにもなく、むしろ警察への不信をかき立てるだけである。」と書いてある。  それが出た次には「警官がタクシー強盗」「汚れ県警幹部 信号機の業者と飲食」「マイカー警官が暴走」「今度は警官汚職 二億円サギの片棒」「とんだ警官2人 酔払い、女性乗せ運転 死のドライブ」「酔っ払い警官大暴れ」 「警官が密輸を手助け」「警官、密輸の片棒」「酒酔い警官、ひき逃げ」等々、きょうはいやなことばかり言って大変恐縮ですが、全部が全部だとは思いませんよ。思いませんけれども、たまに一つ載っても私ども法務委員をやっている人間はいやな気がしますね。あなた方はさぞかしだろうと思うのです。たまに新聞に一つ警官の問題が載っても、職掌柄、野党であろうと与党であろうと、法務委員としてはいやな気がするですよ。それを整理してみると、これは容易ならぬことだという感じが私はいたします。  だから、私がきょう提起をしているのは、一つは、この大阪の問題、兵庫の問題をもう少し納得するような措置をしてもらわなければ困るということが一つです。  それから本題に返って、こういう警察官が中におるんだから、私が力説しておるような、被疑者補償規程なりの恩恵的なやり方では困る。もう警察庁としては法務省に本件はお任せきり、答弁もひとつ安原さんよろしく頼むと言うかもしらぬけれども、そうはいきませんぜ。これからも出てきてもらって——警察が御迷惑をかけた国民に対してどうしておるのか、全部が全部じゃないが、中には御迷惑をかけた者に対してどういうふうにその被害を救済しておるのかという点については、毎年私が言うておるのですよ。だからそれをこの際、本法案と同時に恒久的な補償の方式という本のを考えてもらわなければいかぬと言っておるのですから、法務省と協議をされて、私どもの主鴨に耳を傾けて、本法案が成立いたします際には、不幸にして間違われた被疑者、誤認逮捕等々についての警察の補償のあり方について具体的な提案をされるように要望いたしたいと思いますが、いかがでしょう。
  89. 森永正比古

    ○森永説明員 上組の取り締まりにつきましては、現在でも厳しい姿勢で捜査を進めているところでございますけれども、先生御指摘のように、納得のいく取り締まりを行うようさらに努力をしてまいりたいと考えております。  第二の被疑者補償の問題にりきましては、これは法務省の所管でございますので、警察としてもできるだけ連絡をとりながら検討をしてまいりたいと考えておりますけれども、警察といたしましては、誤認逮捕の大多数の者は警察官の行為によるものでございますので、これは府県の問題であるということも言えるかと思います。そこで府県の段階で補償することができないかどうか、あるいはできるとすればどういう方法があるのか、そういうことも含めましてひとつ十分に検討してまいりたい、このように考えております。
  90. 横山利秋

    横山委員 おっしゃるとおりなんで、そこのところが大事なところなんですが、御検討なさるについて、私は愛知県でありますが、愛知県で、警察官のやったことについて県議会は議会の議決をもって五十万円補償したことがございます。そんな例のような、議会の議決を経なければ補償ができないようないまの状況ではだめだと私は言うのであります。そういうシステムのままではとても補償は実行され得ないであろう。もっと、議会の議決を経なくとも、地方自治体、警察本部が行い得るようなシステムに変えなければ、こういう方式にしなければだめだという点を指摘をして検討を願っておきたいと思います。
  91. 田中覚

    田中(覚)委員長代理 次回は、明二十六日水曜日、午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時五十九分散会