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北野参考人 日本大学の
北野であります。ちょっとかぜを引いておりますので、お聞き苦しい点があるかと思いますけれども、あしからず御了承願いたいと思います。
私、きょう御
出席の
参考人と違っておりまして、お三方ともに経済学の
観点から税財政を研究していらっしゃる方でありますけれども、私の専門は主として法律学の
観点から税財政を研究するということでありますので、問題についての力点が若干違ってくると思いますけれども、その点お含みおきの上、御理解いただきたいと考えております。
それから今回の
改正案につきましても、さまざまなメリットがあるということにつきましては、ただいま
肥後、
佐藤両
参考人からも御指摘がございまして、私も基本的には賛成であります。ただ、時間の
関係上、もっぱら
問題点だけを
重点的に申し上げるということにしたいと思っておりますので、この点も御了承願いたいと思います。
まず
最初に、第一点としまして、
個人の
住民税に関する問題について申し上げます。
個人住民税の
課税最低限の
引き上げが今回においてもなされております。そのことにつきましては異論がないのでありますけれども、これにつきまして若干のことを申し上げておきたいと思います。
自治省の筋合いからは、
個人住民税というのは
所得税と異なる税金であるということがしばしば指摘されておるのであります。すなわち、住民というのは
地方自治体からさまざまな行政上のサービスを受ける、
個人住民税というのは、そういう住民が受けるサービスの度合いに応じて納付する税金である、必ずしも
所得税のような応能
課税に基づくものではない、こういったことが指摘されておるのであります。したがいまして、
住民税の
課税最低限というものは、
所得税のそれよりも低くなっても差し支えない、こういう議論がなされるのであります。また、
現行の
所得割の
道府県民税率というものは、単に二
段階税率になっておりますけれども、この点も必ずしも
所得税のような超過累進
税率にしなくちゃならないということにはならないという議論がなされておるのであります。このような
考え方に対しまして、私かねてから疑問を感じておるのでありますが、四つばかりの疑問点を申し上げたいと思います。
まず第一に、負担分任というものは必ずしも応益
課税という問題につながらないということであります。応能
課税に基づく負担分任ということも理論上も考えられますし、実際上も可能である。現代におきましては、応能
課税に基づく負担分任こそが強調されなくちゃならないということであります。
第二点は、憲法上、応能負担こそ租税立法上の最重要原則になっておりまして、この
考え方は
個人住民税についても当てはまります。このような
考え方が従来全く無視されてきましたのは、わが国では憲法論、人権論の
観点から
税制を考えるという
姿勢がきわめて希薄であったということに原因いたします。
第三点といたしまして、
個人住民税の
性格というものは、結局はインカムタックスである、
所得税であるということになります。それゆえに、
個人住民税につきましては、
所得税と同じ
所得課税構造が妥当しなくちゃならない、こういうことになります。
第四点としまして、応能負担の原則というものからはもとよりでありますけれども、さらに
税制の所得再
配分機能を十分なものにするという
観点からも申しまして、
所得税と
個人住民税とを総合化した形での累進
所得課税の構造というものが確保されねばならない、こういうことになってくるのであります。
以上のような
考え方から、私としましては、かねてから六つの問題を提起しておりまして、それをこの機会にも御
紹介申し上げさせていただきたいと思います。
第一は、
個人住民税の諸
控除を
所得税と同額とする。これに伴いまして
課税最低限も同額とする。
第二番目に、
個人住民税の
均等割を廃止するということであります。
第三番目に、
個人住民税につきましては、理論上、
現行のような前年
所得課税主義をとらねばならないという必然性はありません。
所得税と同様に当年
所得課税主義をとるということであります。
第四番目に、
道府県民税、
市町村民税の双方の
税率構造も
所得税の総合累進
税率構造の一環として構築するということであります。
第五番目に、利子、配当であるとか、土地、有価証券の譲渡所得等に対する
税制上の優遇
措置を
所得税、
個人住民税の双方について廃止する。
第六番目に、国、道府県、市町村の三者の
税源配分を根本的に検討しまして、その成果に基づく合理的な
配分率に基づいて
所得税、
道府県民税、
市町村民税の各具体的な構造を決定する。
現行では余りにも国に偏在し過ぎている、こういうことであります。
この
税源配分の問題は、従来もっぱら財政政策の
観点から
論議されてきましたけれども、私のかねての主張から申しますと、これは詳しくは、「法律時報」という雑誌の最近発売されました五十年三月号で議論を展開しておりますけれども、自治体の財政権、
課税権は憲法上自治体に保障された固有権であると私は理解しております。そういうことでありますので、
税源配分の問題は、単に財政政策の問題ではなくて、まさに憲法上の問題でもあるということが、この際留意されるべきであるというふうに考えております。
なお、諸
控除の
引き上げとは別に、恒久的な税法制度としまして、
所得税、
個人住民税の双方につきまして、現代におけるインフレ下におきまして、
物価調整税額
控除制度というものを設置すべきであるということも、この機会に申し上げておきたいと思います。
また、基本的には
所得税のレベルの問題ではありますけれども、土地等の
譲渡所得課税のあり方につきましては、
現行のような、保有期間の長短によって
課税のあり方を別個に考えるという方法をとるのではなくて、保有期間の長短を問わないで適正価格を超える譲渡益部分に対して高率の
課税を行うという方法がとられるべきであるということを私もかねてから主張しておりますが、これも、
住民税の問題をも考慮しながらぜひ御検討願いたいというふうに考えております。
第二の問題は、
法人事業税についてであります。
これについては、さまざまな問題がありますけれども、
一つだけ申し上げておきたいと思いますが、
事業税につきましては、御承知のように、多年にわたりまして
制限税率というものが存在しなかったのでありまして、今回、
制限税率を設けることが予定されておるのであります。これは、
東京都の大
企業に対する
超過課税と中小零細
企業に対する不均一
課税の
動きに対処するためのものと考えられます。
事業税を
法人税法上損金に算入すべきかどうかという問題は、理論的には立法政策の問題にすぎないのでありまして、
事業税を絶対に損金に算入しなければならないという論理必然性は存在しないのであります。
法人事業税におきましては、
法人税と同じように、所得を
課税標準とするたてまえが
現行税制ではとられております。この点を重視いたしますと、むしろ
法人税との均衡上、
法人税法におきまして損金に算入すべきではないという
考え方が妥当性を持つとも言えるのであります。
したがいまして、
東京都方式によると
地方交付税であるとか
法人住民税等が減少するという
理由は、本質論的なものではないということになってきます。
東京都方式は、
現行税法制度の枠の中で自治体の
財源拡充方策として案出されたものでありまして、それはむしろ、憲法で保障された自治体の固有の財政権の趣旨に適合し、望ましいものでありまして、もとより法理論的には適法な
措置であります。事は国と
地方との間の
税源配分のあり方という根本的な問題に関するのでありまして、この根本的な問題に手をつけないで、財政自治の
観点から案出されました
東京都の
動きに対しまして、まさに報復的な形でこのような
制限税率を突如として導入しようという
姿勢は妥当とは言えない、このように考えております。憲法上の固有権としての自治体の財政権の趣旨から申しまして、従来の
標準税率を規定するだけでよろしいのではないかと私は考えておるのであります。今回の
措置は、御承知の摂津訴訟の提起後になされましたあのまさに報復的な児童
福祉法の政令
改正措置と同じ性質のものでありまして、とうてい
国民の理解を得られない、きわめてアンフェアな
措置と言わねばならない、このように考えております。
第三番目に、時間の
関係で急ぎますが、
固定資産税の問題について簡単に申し上げます。
固定資産税制のあり方につきましては、さまざまな問題があると思いますけれども、憲法論、人権論の
観点から抜本的に検討される必要がある、このように私は考えております。
現行の
固定資産税制というものは、収益税的な財産税として、しかも徹底した物税論の
観点に立って
構成されております。このため、固定
資産の所有の実態、つまり、所有主体であるとか用途であるとか面積等を全く考慮しないで、画一的な
課税標準、つまり時価でありますが、
課税標準と
標準税率一・四%が規定されておるということになっております。このため、周辺の地価が高騰いたしますと、庶民の生存的な財産に対する
固定資産税額までが自動的に異常に
上昇するという仕組みになっております。
このような悲劇に対処するためには、基本
税制のレベルにおきまして
固定資産税制を憲法秩序に組み込むという
観点から、つまり人権論の
観点から
現行の
固定資産税制の基本的な仕組み
自体を抜本的に改める必要があるというふうに私は考えております。
憲法理論上、生存的な財産というものは人権として保護されねばならないのでありまして、一方、資本的な財産であるとか投機的な財産というものは、人権として保護されるに値しないのであります。つまり、これらの財産権の憲法的な価値が違うのでありまして、これに基づきまして
税制の構造が考えらるべきである、こういうふうに私は考えております。このような
観点から、
固定資産税制を抜本的に、可能な
限度において人税化すべきであるという要請が、法律学の
観点から出てきておるのであります。
すなわち、現代における土地所有の実態を幾つかに類型化いたしまして、各類型にふさわしい
課税標準であるとか
税率の仕組みをそれぞれ規定いたします。たとえば農民にとっては、一定面積までの農地はまさに生存的な財産であります。また庶民にとりましては、その持っております一定面積以下の住宅地は、まさしく生存的な財産であります。このような生存的財産に対する固定
資産につきましては、現実的にも、通例、市民的な取引価格、つまり市場的な売買価格というものは存在しないと見なければならぬのでありまして、理論的にも市民的取引価格で
課税標準を計算することは合理的ではないということになってくるのであります。この種の類型につきましては、特別の
評価方式、たとえば収益還元方式で
課税標準価格を計算するというのが望ましい、こういうことになってくるのであります。また
税率もできるだけ低くする、場合によっては非
課税にするということも、憲法理論の
観点から申しますと可能であります。
住宅地と申しましても、他人に賃貸しておりますような場合には、所有主自身の生存的な財産であると言うことはできません。このような場合には、所有主自身の生存的財産という
理由で特別の
課税上の扱いをすることはできないのであります。このような場合には、広く庶民の生存に必要な住宅地として賃貸されておるという点を重視いたしまして、所有主自身の生存的財産の場合に準ずる特別の類型を設けまして、それにふさわしい
課税の仕組みを考えるというのが望ましいと思います。一方、巨大
企業の所有いたします資本的な財産であるとか投機的な財産に対しましては、その
課税標準につきましては市民的な取引価格を適用いたします。その
税率につきましては、むしろ超過累進
税率を適用するのが望ましいと考えられるのであります。なお、
固定資産税を人税化するということの一環としまして、
現行の免税点制度を
基礎控除制度に改めるというのが望ましいと考えております。
第四番目の問題としまして
事業所税でありますけれども、ただいま
佐藤参考人から述べられました基本的な
問題点の指摘につきましては、私も全く賛成であります。もちろん、この税の導入につきましては、これまた賛成でありまして、今回
事業所税というものが設置されることになりましたことにつきましては、
最大の賛意を表明するものでありますけれども、
一つだけ
問題点を申し上げておきます。
事業所税につきましては、この税が
大都市における自治体の
財源を拡充するという趣旨のものであるという点からいきましても、
課税標準につきましては、一定の大
企業につきましては償却
資産をも
課税の対象にすべきではあるまいか、このように考えておりますので、この点をこの
委員会で御検討願いたい。
第五の問題としまして、
電気税の
非課税措置あるいは広く租税上の優遇
措置の問題につきまして所見を述べまして、私の所見の開陳を終えたいと思いますけれども、
電気税の
非課税措置のうち、たとえば道路であるとか公園
関係であるとか教育学術研究
関係、児童
福祉関係に関するものにつきましては、社会政策的な
観点からのものであると見ていいと思います。したがいまして、こういったものにつきましては、むしろ憲法上望ましい
非課税措置であるということになってくるのであります。しかし、特定の巨大
企業に対する
非課税措置というものは憲法上問題がございます。目下大牟田市で検討されておるところでありますけれども、私としましては詳しく申し上げる時間はありませんけれども、このような
非課税措置というものは、憲法上保障された自治体の固有の財政権を侵害するものである、そういうことで憲法九十二条に違反する疑いがあるのではないかという
考え方を持っております。
それはどういうことかと申しますと、一般の住民の納得を得られないアンリーズナブルな、不合理な租税特別
措置というものを、自治対側の
事情を全く無視しまして、一方的に国の法律で規定しましてそれを自治体側に押しつけるということは、憲法九十二条に違反するのではないかということであります。
第二点としまして、このような
措置は憲法九十二条のほかに、憲法理論上容認できない不合理な差別を規定するものであるということで、憲法十四条に違反する疑いがあるということも考えられるのであります。あるいはそのほかに憲法二十二条との連関での
問題点もございますし、さらに憲法八十三条、八十五条で規定する財政立憲主義の
考え方、これはもっぱら憲法の規定は
国税に関するものだとしますと、
地方税の問題につきましては、一応そういった憲法の趣旨との連関で問題になってくると思いますけれども、そういう
観点の問題も考えられるのであります。
この問題につきましては、これらの産業に
課税した場合にはかえってコスト高となって
国民経済的
観点からも好ましくないという結果がもたらされるという反論が、
自治省筋から示されておるということを聞いておるのですけれども、しかし一般の
消費者を保護するということにつきましては、別途
措置されるべきでありまして、このことを
理由にして特定の巨大産業を
税制上保護することは許されないのであります。それは別個の問題であるということであります。
もっとも戦後の混乱期と申しますか、あるいは日本経済が戦前の
段階に復帰するまでのあの
段階、すなわち敗戦で完全に崩壊しました日本経済というものを再建するための一環として、まさに至上命令的に日本経済というものを建て直すという、そういう
観点が一般の
国民の理解を得ておる
段階、つまり戦後のある
段階まではこのような
措置を行いましてもあるいは
国民の納得を得られたかもしれませんけれども、戦後三十年という今日の時点では果たして
国民の納得が得られるかどうかは疑問でありまして、すでにいまから十年以上前に、政府の税調の答申でもこのことが批判的な形で検討されておるのであります。こういったことは、この種の
税制上の優遇
措置全体について言えるのでありまして、たとえば
固定資産税であるとか、
事業税、
住民税等につきましても、同じような問題が存在します。むしろ
電気税の場合以上に、
固定資産税、
事業税、
住民税等につきましては社会的な非難は高いと考えるのであります。それによりまして自治体は巨額の税収を失っております。
電気税だけではなくて、こういった
地方税制全般に関する巨大
企業に対する
税制上の優遇
措置あるいは高額の
資産所得者等に対する
税制上の優遇
措置につきまして、この際鋭い憲法論的メスを本
委員会で加えられることを
期待したいのであります。要するに、租税特別
措置の整理合理化ということが今後引き続き検討される必要がある、こういうふうに考えております。
以上で私の
意見の開陳を終えたいと思います。(拍手)