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1975-03-20 第75回国会 衆議院 大蔵委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年三月二十日(木曜日)     午前十時三十二分開議  出席委員    委員長 上村千一郎君    理事 伊藤宗一郎君 理事 村山 達雄君    理事 山下 元利君 理事 山本 幸雄君    理事 佐藤 観樹君 理事 山田 耻目君    理事 増本 一彦君       越智 伊平君    大石 千八君       大村 襄治君    金子 一平君       鴨田 宗一君    瓦   力君       小泉純一郎君    塩谷 一夫君       戸井田三郎君    野田  毅君       原田  憲君    藤本 孝雄君       坊  秀男君    宮崎 茂一君       村岡 兼造君    山中 貞則君       綿貫 民輔君    高沢 寅男君       広瀬 秀吉君    武藤 山治君       村山 喜一君    荒木  宏君       坂口  力君    広沢 直樹君       内海  清君    竹本 孫一君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 大平 正芳君  出席政府委員         大蔵政務次官  森  美秀君         大蔵大臣官房審         議官      旦  弘昌君         大蔵省主税局長 中橋敬次郎君  委員外出席者         議     員 武藤 山治君         参  考  人         (日本経営者団         体連盟会長)  櫻田  武君         参  考  人         (経済団体連合         会副会長)   大槻 文平君         参  考  人         (日本労働組合         総評議会事務局         長)      大木 正吾君         大蔵委員会調査         室長      末松 経正君     ————————————— 委員の異動 三月二十日  辞任         補欠選任   奥田 敬和君     大村 襄治君   齋藤 邦吉君     綿貫 民輔君   中川 一郎君     藤本 孝雄君   山中 貞則君     戸井田三郎君 同日  辞任         補欠選任   大村 襄治君     奥田 敬和君   戸井田三郎君     山中 貞則君   藤本 孝雄君     中川 一郎君   綿貫 民輔君     齋藤 邦吉君     ————————————— 三月十九日  昭和五十年分の所得税臨時特例に関する法律  案(武藤山治君外三名提出衆法第一三号)  所得税法の一部を改正する法律案武藤山治君  外三名提出衆法第一四号)  法人税法の一部を改正する法律案武藤山治君  外三名提出衆法第一五号)  租税特別措置法の一部を改正する法律案武藤  山治君外三名提出衆法第一六号) 同日  音楽・舞踊・演劇・演芸等入場税撤廃に関す  る請願梅田勝紹介)(第一五二二号)  同(近江巳記夫紹介)(第一五二三号)  同(井上泉紹介)(第一五七一号)  同(島田琢郎紹介)(第一五七二号)  同(斉藤正男紹介)(第一五七三号)  同(中島武敏紹介)(第一五七四号)  同(林孝矩紹介)(第一五七五号)  同(山本幸一紹介)(第一五七六号)  個人立幼稚園事業用財産に対する相続税の減  免に関する請願谷川和穗紹介)(第一五二  四号)  同(宮澤喜一紹介)(第一五二五号)  同(増岡博之紹介)(第一五七七号)  同(粟山ひで紹介)(第一五七八号)  同外四件(福田篤泰紹介)(第一五七九号)  同(島村一郎紹介)(第一六一三号)  同外一件(原健三郎紹介)(第一六一四号)  同(天野光晴紹介)(第一六六四号)  同外三件(越智通雄紹介)(第一六六五号)  同(齋藤邦吉紹介)(第一六六六号)  同(橋本登美三郎紹介)(第一六六七号)  企業組合に対する課税の適正化に関する請願  (三枝三郎紹介)(第一五六九号)  同(武藤嘉文紹介)(第一六一二号)  同(鬼木勝利紹介)(第一六六〇号)  同(地崎宇三郎紹介)(第一六六一号)  大和基地跡地公共的利用に関する請願(和田  耕作君紹介)(第一五七〇号)  相続税法等の改正に関する請願外十八件(中村  寅太紹介)(第一六一五号)  住宅ローンの緩和に関する請願橋本登美三郎  君紹介)(第一六六二号)  土地譲渡所得重課制度の運用に関する請願(橋  本登美三郎紹介)(第一六六三号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和五十年分の所得税臨時特例に関する法律  案(武藤山治君外三名提出衆法第一三号)  所得税法の一部を改正する法律案武藤山治君  外三名提出衆法第一四号)  法人税法の一部を改正する法律案武藤山治君  外三名提出衆法第一五号)  租税特別措置法の一部を改正する法律案武藤  山治君外三名提出衆法第一六号)  所得税法の一部を改正する法律案内閣提出第  七号)  法人税法の一部を改正する法律案内閣提出第  八号)  租税特別措置法の一部を改正する法律案内閣  提出第二二号)  国の会計税制及び金融に関する件(最近の経  済事情)      ————◇—————
  2. 上村千一郎

    上村委員長 これより会議を開きます。  国の会計税制及び金融に関する件について調査を進めます。  本日は、最近の経済事情について参考人から意見を聴取することといたしております。  本日御出席いただきました参考人は、日本経営者団体連盟会長櫻田武君、経済団体連合会会長大槻文平君、日本労働組合評議会事務局長大木正吾君の各位であります。  なお、参考人として本日出席を予定しておりました全日本労働同盟会長天池清次君は、急病のため出席できないとの申し出がありました。御了承をお願い申し上げます。  参考人各位には、御多用のところ御出席をいただき、まことにありがとうございます。最近の経済事情について、各位のそれぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。  なお、御意見は、議事進行の都合もあり、まことに恐縮ですが、十分程度にお取りまとめをいただき、その後、委員からの質疑にお答え願うことといたしたいと存じます。何とぞよろしくお願い申し上げます。  それでは、まず最初に櫻田参考人よりお願いいたします。
  3. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいま御紹介いただきました櫻田武でございます。  実は前もって、いま問題になっております賃上げ問題につきまして、「大幅賃上げ行方研究委員会報告」と、それから最近私が世話人代表をいたしております産計懇の「「安心のいく世の中」を作るために」という提言を諸先生方の御参考になればと思ってお手元に差し出しておきましたので、お暇な節にお読みいただきとうございます。  私の考えるところによりますと、現在の経済情勢と申しますれば、一言で申しますると、インフレーション抑止対策効果が確かに出てきた、これは間違いなくインフレは終息の方向に向かいつつある、同時に、インフレ抑制策としてとられましたところの総需要抑制、すなわち財政金融引き締め政策と、同時に金利の引き上げもございまするが、これを一口にタイトマネーポリシーと申しましょうか、お金の流通量を減す政策、これの副作用が非常に表面化してきた、一言で言えばこういうふうに申せるかと思うのでございます。  御承知のように、インフレーションと言いますのは、先般おいでになりましたハイエク教授と私一晩議論したのでございますが、ハイエクさんに言わせますると、持続的な物価上昇と、それから物価上昇するであろうという一つのサイコロジカルな期待感、これをインフレ先生は称しておるのであります。そうしてハイエク先生は、まことに簡単なことじゃないか、シンプルシングとおっしゃられた。通貨の量を減せばよろしいのだというふうな簡単なことをおっしゃいまするが、しかしながら、インフレというものをそういうタイトマネーポリシー一本でやりますると、どうしても副作用が出る。どういう副作用かと申しますれば、これは不景気倒産失業の増大というところにあらわれております。  失業率は、一月の数字しかまだ労働省の統計に出ておりませんけれども、これは失業率にいたしまして大体一・六七程度でございまして、失業の数から言いますと、季節修正をいたしまして九十八万人程度でございます。ちなみに外国の例を申し上げますると、これは一月でございますが、アメリカが八・二の失業率、そうして七百五十万人、これは世界一でございます。ドイツが五・二%の失業率で百十五万、イギリスが四%の失業率で百万というふうに、諸外国も同じように、インフレ抑制するためのタイトマネーポリシーをやりますると、どうしても不景気になって倒産と同時に失業が出るというふうになるのは、これはやむを得ないところでございます。  こういうふうなことで、インフレーションとそれから不景気とが共存しておるのが現状でございます。  インフレ要因は、私が申すまでもなく、はっきり言いますと、昭和三十五年のあの池田内閣創立以来とられた十カ年所得倍増計画がうまく行き過ぎまして、倍増が四倍増を達成いたしました、四十五年と三十五年と比べてごらんになればわかりまするが。それから、これはどうしてもオーバーローン中心にした、財政は積極、金融オーバーローンを許すといった政策でございまして、これをやりますれば、なるほど高度成長はどんどんいき、そしてエンプロイメント、雇用完全雇用を達成したのでございます。雇用完全雇用を越えて——学者に言わせますると、これはヨーロッパですが、三%の失業率をもって完全雇用と称しておりますが、日本でも大体三ないし三・五%でございましょう。アメリカ完全雇用は、学者に言わせますると五%半ぐらいの失業完全雇用と称しております。  ところが、こういった高度成長政策で、やはり生産性を上回る賃金上昇によってコストが高くなった。昭和四十三年以来、ベースアップ率生産性上昇率を上回っております。それから、御承知オイルショック等外国から入る油が四倍半に上がった。そしてその量にも限界が来た。鉄鉱石、強粘結炭を初めといたしましてモリブデン、ニッケル、それから衣料、これもほとんど一〇〇%、生糸を除けば全部ですが、それから食糧が半分近く、これらの外国から入れる物が二倍半ぐらいに上がっております。  それから、こういうことで皆コストが高くなる。そこヘインフレ対策の不景気でもって操業が短縮して、いまはまあいい自動車あたりで二割から二割五分、一番大きい繊維は半分以上の操業短縮をいたしておりまするので、操短をやればこれまたコスト高になるというふうなところで、このコストアップがまたさらにインフレをあおるというようなところでございます。  インフレ対策は、タイトマネーポリシーもございまするが、インカムズポリシーという所得政策はとんぷくみたいなもので、アメリカイギリスも二年以上続いておりません。タイトマネーポリシー需要抑制するしかないが、同時に、技術開発をして生産性を上げるということが一等正しい行き方でありますが、これは三年、五年でできるものではございません。したがって、副作用程度を見ながら適当な策を講ぜざるを得ないというふうに思うのでございます。ただ、現在の景気は、金融を緩め、金利を下げた程度では直らないということだけはひとつ特に御留意願いたいのでございます。  われわれの、特に繊維業のように構造的な変化昭和四十年を一〇〇といたしまして、繊維業に従事する人で、三十人以上の規模企業に勤めておる人が昭和四十五年には大体百万人おったのでございます。いまは五十万、半分に減っております。それから、その当時を一〇〇といたしまして生産高がちょうど六〇%、六割に減っておりますが、これはもっと減ります。出来高は半分に減り、従業者数は四割に減るというふうな、構造的に変わりつつあるということでございまして、大体景気の底はついたというのは、これはマクロの見方でございます。ミクロの企業段階においては、無配がこれから始まります、人員整理が始まるでありましょう、経費もどんどんカットせざるを得なくなる、そうして企業同士整理統合が始まるというような状態でございます。  と同時に、これはまあ先生方一等御苦心なさるところでありましょうが、地方中央財政が非常に硬直化いたしておりまするので、この財政難、特に税金も減るようなことでございますので、戦後三十年、初めてこういった苦しみに遭うわけであります。  しかし、いままでのようなやり方で行きまするというと、肥満児みたいになるのでございますから、私はこれを天の与えた一つ好機として、どうか政治の場におかれましてもこれをいい方向に、天の与えた好機として生かしていただくようにぜひ御配慮をいただくよう、お願いを兼ねて、最近の情勢の御報告を申し上げる次第でございます。
  4. 上村千一郎

    上村委員長 次に、大槻参考人にお願いいたします。
  5. 大槻文平

    大槻参考人 私、経団連の副会長をいたしております大槻文平でございます。実は、経団連会長の土光がやってまいりましてお話をすることになっておったのでございますが、急用のために、私が代理で参ったような次第でございます。  経団連といたしましては、経済情勢の的確なる把握ということが最も必要なことであるというふうに考えまして、昨年の五月以来、日本の各地で経営者の方々との懇談会を開きまして、そして生の正しい認識を把握しようということで努力をしてまいったのでございます。  その上、実は本年の二月に、景気動向に関する経営者側意見調査というものをやっております。アンケートをとったわけでございます。これは日本の各業種の百四十八の会社に対しまして照会したのでございますが、回答のありましたのはその六八%の百通でございました。そのアンケートの大略をそのまま御報告いたしまして、さすれば、いまの経営者は一体どういうふうに現在の情勢考えておるのかということをおくみ取り願えるかと存ずる次第でございます。  まず、アンケートの第一は、景気と需給の問題でございますが、質問が、貴業界不況感が最も強くなる、または強かったのはいつごろとお考えであるかという質問に対しまして、ことしの一月−三月であると答えたのが四七%でございます。いやそうじゃない、ことしの四月から六月が一番不況感が強くなるのだと答えたのが二五%。いずれにしましても、この上半期六月までが一番ひどいのではないかと答えたのが、約七〇%をちょっと超しておるという状態でございます。  それでは、在庫調整が終わる、あるいは終わったのはいつごろと考えておるかという質問に対しましては、この四月−六月で終わるのだというふうに答えたのが四四%、それから、いやそうではなくて、七月−九月に延びるのだというふうに答えたのが三一%。いずれにしましても、四月から九月までの間に終わるのだと答えたのが全体の七五%に相当しておる、こういうことでございます。  それでは、現在非常に不況になっておるわけでございますが、稼働率についてはどういうふうに考えておるか。現在業界稼働率は平均してA%程度で正常な稼働率を約B%下回っているが、何%稼働率が下がっておるかという質問に対しまして、景気回復すれば正常な水準に復帰できるだろうと答えたのが四七%、景気回復しても業界構造的要因があるので正常な水準への復帰は困難であると答えたのが四六%、まあ約五〇%ずつでございます。そして、その稼働率の低下につきましては、ここに業界別のものがございますけれども、大体において二〇%ないし三〇%台低下しておるというのが大体の趨勢でございます。  次に、能力増強のための設備投資についてはどういうふうに考えておるかという質問に対しまして、今後低成長が予想されるので、少なくとも五十年度中は設備増強の必要はないと答えたのが実に六五%でございます。ほとんど大半のものがことしじゅうには設備投資はやる必要もない、またできないというふうに考えておるようでございます。  また、価格問題についてはどういうふうにお考えですかということについて質問しているのでございますが、これは、稼働率が正常に戻っても、これまでのコストプッシュ要因を吸収することはできないので、現在よりA%程度製品価格上昇することを期待する、要するに稼働率が正常に戻っても、なかなか現在のいろいろなコストプッシュ要因を解消することはできない、何%かの値上げをしなければできないというふうに答えた企業が六四%でございます。  ちなみに、現在の原価売価との差額は大体おしなべて一五%程度と言われておりますが、その一五%程度価格上昇がなければ大体企業はペイしない、こういう見方でございます。  それから、貿易、為替レートに関してでございますが、貴業界の五十年度の輸出動向についてはどう考えておるかということに対しまして、四十九年度の横ばい程度であるというふうに答えたのが三七%、それから四十九年度より増加率は落ちるけれどもなお増加を続けるであろうというのが三二%、それから四十九年度より減少するというのが三〇%、この三つがおのおの三分の一ずつという状態でございます。  次に、輸出の将来に問題が生ずるとすればどの要因によるところが大きいと考えるかということについての質問でございますが、海外の景気不振によって影響が出てくるというのが四四%でございます。次は、コスト等関係国際競争力が低下するということのために輸出が阻まれるというのが三一%。それから相手国外貨事情によるものが二五%という状態でございます。  それから、為替レートの面でございますが、円は五十年度中を大観してどんな強弱を示すかという質問でございますが、これに対しましては余り変らないという答えをしたものが四九%、前半は強いが後半弱くなるというのが三二%でございます。  次に、景気浮揚要因でございますが、今後景気が浮揚するとすれば、その要因としてどれが中心になるとお考えになるかという質問に対しまして、まず財政てこ入れだというふうに答えたのが四七%、それから物価の安定による実質消費増加であるというふうに答えたのが三九%でございます。  それから、政策運営の姿勢についてどういうふうに考えられるかという問題でございますが、これに対しましては、総需要抑制を緩和しても物価へ影響する懸念は少ないので、これ以上の不況進行を防ぐためさしあたり財政支出を促進するとともに、金融面でもきめ細い手当てを行う等、段階的に総需要抑制を緩和する方向政策転換すべきである、というふうに答えたのが四六%でございます。そして、すでに経済オーバーキル状態にあり、早急に景気浮揚のための手を打たないと、日本経済全体として不必要な犠牲を払う結果になる、というふうに答えたのが三二%でございます。  以上が経団連で行いました景気に関するアンケート結論でございますが、私どもはこの結論に基づきまして、やはり景気回復は相当おくれるのではないか、それから設備投資の面から見ましても自律回復力というものはほとんどなくなっておるのではないか。また個人消費の点につきましても、大体その伸びが御承知のように相当低下いたしておりますので、そうしてまた、個人消費パターンというものがかなり変わってきておると思われますので、この面からも自律回復力というものはない。したがって、やはりどうしても景気てこ入れをしてもらわなければならない。要するに景気オーバーキル段階にあると見て、そして財政支出の促進、拡大によって、まず金よりも仕事を与えてくれということを政府に要望しておるわけでございます。  もちろん、政府におきましても、大体そういう方針にのっとってやっておられるようでございますけれども、しかし、その本格的な効果を発揮するまでには相当な時間がかかるために、なお非常な低迷を続けておる、こういう状態でございます。  企業経営でございますが、ただいま申し上げましたように、二〇%ないし三〇%の操短、ひどいものになると五〇%も操短をしておるということのために、原価の中に占める固定費が非常にアップしておる、あるいは原材料、賃金等も上がっておる。そのためにコストが上がる一方である。また一方、売価先ほども申しましたように大体一五%程度の売り値とコストとの逆ざやになっておる、こういう状態でございます。  したがいまして、企業側の収益の状態というものは非常に悪化いたしておりまして、先ほど櫻田会長からもお話がございましたように、これから先、今期内部蓄積等によって多少の調整をやって決算をするとしましても、この九月期等には相当問題が起こってくるのではないか、今期見通しは、ある証券会社見通しとしては大体において一六・一%くらいの減になるのではないかというふうに見ておるようでございます。  以上、簡単でございますが、私の情勢報告を終わらしていただきたいと思います。
  6. 上村千一郎

    上村委員長 次に、大木参考人にお願いいたします。
  7. 大木正吾

    大木参考人 今日の物価問題なりあるいは景気問題、労働者国民の生活問題につきましてはたくさん意見がございますが、きょうは大蔵委員会という関係もございまして、なるべく問題をしぼって、二点ほど申し上げておきたいと思います。  今日、高度成長時代を終わりまして、中央財政では財政硬直化が再び問題となりましたし、地方財政昭和二十九年から三十年の危機に次ぐ転機を迎えています。もはや従来のように自然増収を当て込んだ財政政策は許されない時代に入っています。  政府や自民党は、この問題を間接税増税地方公務員の人件費問題に矮小化しようとしていますが、事の本質はそのような単純なものではありません。高成長時代から低成長時代への転換民間経済部門でも大変なことでございますが、実は行政財政部門における転換はもっと重要な問題を含んでいます。単なる財政規模の圧縮や増税といった量の処理では、福祉公害対策など国民生活を守るために増大してきました財政需要にこたえられません。変化した社会の要求政治は対応できないのが今日の姿であります。  高度成長民間資本育成を基軸としましてGNPの拡大であったといたしますれば、低成長時代とはそのために生じた諸種のゆがみ、不公正の是正や福祉の取り戻し、住宅や農業問題や生活環境の整備に政治の主眼が置かれることが妥当でしょう。そのためには、一方ではきめの細かい個別の福祉政策も重要でございますが、他方ではそのためにも、全体といたしまして政治あり方福祉に移行できる体制をつくるために、実は中央政府自治体を関連づけた抜本的な検討、対策が必要と考えます。言いかえますれば、国民のための政治は国家と自治体のいまのあり方との関係を逆転させなければ、具体的な福祉政治すらも達成できないと考えます。  三木総理施政方針演説の中で、賢明にもこのを点を強調され、こういう大きな変化時代中央地方を通じての行財政根本的改革を唱えられ、特に地方自治体問題を取り上げた施政方針演説は異例のことと言われていますが、その後の現実の政策を見る限り、羊頭狗肉に終わっていると私は指摘をせざるを得ないのであります。  今日の自治体財政状況は四十七年度決算で見て、三三%は地方税収入、一七%が地方交付税、二三%が国庫支出金、いわゆる補助金でございます。一一%が地方債であります。総理施政方針の中で「国民は美しい自然環境の保全、文化の発展、快適な生活環境、医療と教育の充実、公共施設増強を求めています。そうした住民の要求に直接こたえなければならぬのが地方行政であります。」と述べていますが、実はそれを制約しているのが自主財源の欠乏と交付税制度の分割支配と補助金行政の悪弊であります。  自治体自主財源を与えよということは、保革を問わず地方自治体の共通の要求となっています。また、高度成長の結果である日本の著しい過疎過密は税源のない地方を生み出しておりますし、こうした自治体からは交付税の改善が要望されています。ところが、この地方交付税は法人税、所得税、酒税の三税の三二%を財源としておりまして、中央の一方的査定による交付金ですから、そのこと自体が自治の侵害と制約の原因ともなっているわけです。その配分が、自治省の地方財政計画による上からの査定でありまして、その水準は社会の歴史的、文化的発展、住民の現代的要求に合わぬことおびただしいものがございます。それは戦後のシャウプ勧告に端を発しました制度でございまして、戦争直後的な最低限の行政を保障するものでありまして、今日では、自治体行政を戦後型に縛りつけるくさびになっているとも言えます。しかも、道路や産業基盤投資などは、四十二年以降補正されておりまして、そのことが逆に民生的行政の圧迫の要因にもなっているわけであります。  しかしながら、反面において、過疎過密の現実から、法人税、所得税の地域的偏りが大きいのも日本の現実でありまして、自治体相互の配分が必要であることも事実です。この総理の言う現代的行政の必要と自主財源自治体調整中央に支配されない自治の四者を同時に成立させるためには、法人税、所得税の税源を地方に移譲すると同時に、集団としての自治体自身に財源の相互配分の権限を与えるべき段階ではないでしょうか。これが、生活保護的地方自治から現代的自治への移行、地方政治の国家への従属から抜け出す条件であります。言いかえますれば、真の地方自治は孤立した自治体ではなく、地方自治は集団として保障されるべきであります。そのことこそが超過負担克服の第一の制度的方法でありましょう。  また、超過負担の第二の源泉であります膨大な国庫支出金補助金行政は、このような中央地方関係のシステムの転換と税源の移譲によって、当然縮小されることになります。自治の充実と中央政治の変革整理は、表と裏の関係であります。中央補助金行政こそが、道路と産業基盤と乱開発と公害を日本列島にまき散らし、交付税の締めつけや自主税源の欠乏と三位一体となって、自治体を高成長行政に誘導した物的な基盤であります。中央財政構造が、道路や産業基盤優先、大企業育成型であって、それが補助金として流れればそうなるのは理の当然でありましょう。  したがって、地方財政財源の充実との見合いで、これからの中央財政が置くべき課題は、歳入、税制、歳出を含めて大企業優先型列島改造型を根本的に転換させるものでなければなりません。大企業に軽い税制を改め、道路や産業基盤、大企業育成の予算の大胆な打ち切りです。そのかわりに、中央財政の重点は、高度成長時代とはまさに反対のことを志向しなければなりません。産業政策は大企業の育成から独禁政策に、公共投資は産業基盤から生活環境改善と公害防止に、道路行政中心から福祉行政に変えられていかなければなりません。とりわけ、市場メカニズムに任しておいたのではもはや回復の見込みのない農業の再建——食糧対策の面からも物価政策の面からも——と、中小企業流通機構の構造改善に公的資金を投入すべきです。  同様に、今日では都市の住宅や大学教育を家計の負担で賄うことはもはや不可能となっていますから、公的施策の重点はこうした分野に置かれるべきでありましょう。とりわけ、公的住宅政策インフレ不況の被害によって絶対的縮小を来していますが、これは現行の政府方針にも反していることでもあります。また、今後低成長時代になれば、現状のままでは社会不安の拡大という問題にもつながりますが、この点に関して言えば、財政、民生的公共投資を圧迫しているのは諸外国の三倍から十倍と言われる日本の異常な地価の高さです。このことを放置しておいては、土地を主要な生産手段とする農業の再建も、公的住宅政策の拡充も、自治体福祉の充実も不可能と考えます。学校やごみ処理場や文化福祉施設の土地が買えないのです。土地や自然は国民の財産であります。法人や大土地所有者の私的な所有と利用に任せておいては、今後の福祉はあり得ません。  ここで述べてきたことの意味は、中央政治の最大の課題は、独占の支配下の市場メカニズムのもとでは、もはや農業や住宅や自治の展望はないのですから、資金の誘導の面でも、土地制度の面でも、そしてあらゆる民生的政策の面でも、もっと社会化と公的規制と民主的計画化を進めるべきだということであります。その意味で、これからの中央政府の性格は実に国民生活上重要であります。問題は、地方財政の充実は福祉の必須の条件であり、それが旧来の国家の産業育成の任務を不要にしながら、それとは別の新しい任務を必要としているのだというこの関係でありましょう。  残念なことに、総理中央地方を通ずる行財政の根本的な再検討と言いながらも、現実の予算編成の態度は旧態依然たるものでしかありません。政府の予算の説明は、不況物価対策による総需要の引き締めに見合った予算規模の圧縮論と、その中での福祉や公共投資の対前年伸び率の視点しかないと言わざるを得ません。大蔵大臣、福田企画庁長官の説明も大同小異でございます。政府首脳がこのような対前年比の量的比較論しかやっていないということは、政府財政政策中央地方を含めてかつての高度成長時代から根本的転換ができていないということの何よりの証拠であります。  本委員会が、国の会計税制金融に関する件について調査をしていて、われわれをそのための参考人として呼んで意見を求められたのでありますから、私は本委員会調査は、枝葉末節の問題よりも、もっとグローバルな、中央地方を同時に含めた現代日本にふさわしい行財政全体のあり方について調査研究をされることを心から希望するものであります。  第二に、第一の最後で触れた本年度予算編成と経済政策、特に金融を含めた問題に一言触れさしていただきます。  昨年秋からの政府日本銀行の金融引き締め政策は、明らかに春闘における賃金の抑圧を主たる目的とした政策であると断ぜざるを得ないのであります。このことは、予算の審議において野党の皆さんがすでに指摘をしているところであります。  なぜわれわれがそのような判断をするかと言えば、総需要の引き締めは、いわゆる需要超過が存在するときに物価抑制政策としての効果があることは経済の常識でありますが、一年前はいざ知らず、今日経済の実態は、まさにその反対であります。それどころか、現状は引き締めの長期化それ自身が操短によるコスト上昇を生み、それが次の大きな物価上昇要因を形成しています。本来、物価政策はカルテルの規制や中小企業や農業流通などの構造政策、土地政策税制、公的部門の充実など、質量合わせた総合的な経済社会政策であるべきなのに、大企業擁護の立場を捨て切れずに総需要抑制政策一辺倒に傾斜したところに、賃金抑制を射程に入れざるを得ない第一の限界があり、第二に、それが需要上の効果を失ってもなお継続していることは、もはや賃金政策以外の何ものでもないと私は主張いたします。  かつて日本銀行は、田中内閣の列島改造論と為替レート維持に振り回されて、膨大な十兆円に上る過剰流動資金をつくり出し、狂乱インフレの基本的原因をつくり上げました。そしていま日本銀行は、あつものにこりてなますを吹くのたとえのとおり、一万数千件の倒産と百万人の私たちの仲間の失業者をみずからの政策目的としてつくり出しつつ、その効果によって賃金の抑圧をねらおうとしているのであります。一つ政策は、必ずそれに照応する政治的、経済的、社会的結果をもたらさずにはおきません。国内の経済動向と国際環境から見て、この政策は必ず次の段階の正当な国民の審判を受けざるを得ないと考えます。  何よりも労働者は、政府中央銀行の政策労働者の生活を向上させたか抑圧したかを、体をもって感じております。狂乱インフレ高度成長の神話と大企業の社会支配を国民に教えてくれました。そして狂乱に続く引き締め政策もまた、次の歴史の教訓として、労働者に対して物価上昇失業不安という問題を教えています。このことは、日本の社会の今後のあり方につきまして新しいエネルギーとして必ず民主的な政策につながっていくことを私は確信しております。ぜひ本委員会がその種の労働者自身の悩み、なお今日迎えていますところの大きな政治経済全体の転換の枠組みをお考えいただきまして、慎重に御議論願うことを希望いたしまして、終わらせていただきます。     —————————————
  8. 上村千一郎

    上村委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。村山喜一君。
  9. 村山喜一

    村山(喜)委員 参考人各位には御苦労さまでございます。  まず初めに、櫻田さん、大槻さんにお尋ねをいたしてみたいと思うのですが、昨年の十一月、私たちも日本経営者団体連盟の「大幅賃上げ行方研究委員会報告」なるものを送っていただきまして、拝見をさせていただいたところでございます。いまの三木内閣、特に副総理の福田さんを中心にいたしました基本的な考え方は、全くこの日経連の出されました一五%という賃金のガイドラインというものを一つの目安にいたしまして、いま春闘の問題が、いろいろそういうような基本的な考え方で指導されているようでございまして、私は、なるほど日経連の影響力というものは大したものだなということを、いまさらながら見直しているところでございます。  そこで、そういうような経営者の立場から、賃金引き上げの問題についてのお考えはよくわかっておりますが、次のようなことについて、どういうふうにお考えになっているのかということをお尋ねをいたしてみたいのでございます。  第一は、ことしの二月二十八日に、総理府の統計局が家計調査報告書を出しておりますが、これをごらんをいただいているだろうかどうだろうかということでございます。  内容はもう私から申し上げるまでもございませんで、昨年三二%も大幅の賃上げが実施をされたということでございますが、四十九年の通算によりますると、実質所得において〇・三%、可処分所得において〇・一%の減であったということが、その数字にはっきりと出されているわけでございます。  そこで、もし大幅賃上げがなかりせば、もっと所得は減収になり、そうして可処分所得ももっと減ってきたであろうということは言えるかと思うのでございます。したがいまして、私たちは、あの狂乱物価と言われた卸売物価を主導型にいたします物価上昇、それに引きずられまして消費者物価が大幅に上昇をしていった、その後から賃金がそれを追っかけていったという、そういう経済の現象というものは認めないわけにはいかないと思うのであります。したがいまして、私は、そういうような意味において、物価上昇というものと賃金引き上げの問題との間には非常に大きな相関性がある、そういうふうなとらえ方をしてもらわなければならないというのが、これは国民の共通の意識といいますか、同意される事項ではなかろうかと思うのでございます。  もちろん、賃金を決める場合には、その他の雇用状態なりあるいは生産活動の状態なりあるいは企業の収益なり、そういうようなものは影響をすると思いますが、いま共通的に言えるのは、労働者の賃金が実質的に下がってよろしいなどというふうには経営者の皆さん方も決してお考えになってはいらっしゃらないだろうと思うのでございますが、その点についてどういうふうにお考えでございましょうか、この点が初めにお伺いをいたしたい点でございます。
  10. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいま仰せになりました二月二十八日の家計調査報告はもちろん読んでおるのでございますが、三二・九%上げましたものの、消費者物価が、これは昨年の三月と今年の三月との差が一五%以下ということは私も自信がございますが、昨年じゅうに二四%ぐらいはどうしても上がっておるのでございますから、したがって、これが完全に所得の増大につながっていないということは認めざるを得ません。  それから、ただいま先生のおっしゃったベースアップ、賃金問題というものは、これは人類とともに、大げさな言い方でございますが、社会主義でも資本主義でも共産主義でも生き残る問題でございますので、決定的な賃金決定の要素というものを摘出するわけにもいきませんが、現状においては、第一に、何と申しましても労働力の需給関係一つでございます。いま一つは、労働者の生活防衛要求でございます。これが労働組合運動の強い圧力としてかかってくるのでございます。第三は、企業の支払い能力でございます。この三つで大体賃金が決められていく。  そして過去十一年間、昭和三十八年から四十八年までの間、賃金は毎年毎年平均して一四%ずつ上がっております。そして消費者物価は六・七%ぐらい上がっておりますので、その面で見ます限り労働者諸君の生活が向上しておることは間違いない。私どもは決して雇用主の方の立場として労働者の生活内容が低下してもいいというふうには絶対に考えておりませんが、企業収益というものは、国の経済成長と同じように、過去十一年間の経済成長率が平均いたしまして一〇・五%でございます。それが四十九年には三%のマイナスにたる。これは三月にならぬとわかりませんが、カレンダーイヤーでありますと一・八、九でございますので、そういう事態のときには企業収益も——確かに昭和四十八年、九年の物価狂乱のときにむちゃくちゃにもうけた企業があることは否定いたしませんが、それを全部吐き出しまして、株主配当も大体二分ないし三分は必ず下げております。上場会社の九割までは減配、無配に陥る。それから管理職も大体二%カット、それから役員報酬も全部辞退あるいはカットする会社がほとんどであるという場合には、労働組合の諸君も、企業経営の三要素として、私どもは資本の持ち主であります株主さんから資本を預かって、そうして労働組合の諸君と一緒にこれを運営するという立場にありますので、そういった場合に一期、二期ぐらいのところは、実際問題としてがまんをしていただくということをお願いせざるを得ない立場に立っておることは、これまた否定できない。  特に私は、繊維業としては本当に心苦しいことでありますけれども、レイオフもいたしておりますし、ベースアップもやめてくれろ、ベースアップをやめたら消費者物価が上がっただけ生活内容は下がるじゃないか、これは間違いなく下がります。しかし後で埋め合わせをするから、長い間のことだから貸し借りの一回や二回はひとつ頼むというぐらいなところで、みんなで一蓮托生の運命共同体を進めていくというところでございます。これが偽らざるところでございますから、御了解いただきたいと思います。
  11. 村山喜一

    村山(喜)委員 個別の企業の中では、繊維にあらわれておりますように、非常に不況な業種があることなどはよく私たちも認識をしております。しかし、きょうおいでをいただいたのは、先ほどからお話をいただいておりますように、日本経営者の団体の会長としておいでをいただいているのでございますから、やはりマクロ的な立場から、全体の問題についてお答えをいただきたいと思うのでございます。  そこで、賃金のあり方の問題につきまして日本生産性本部の賃金白書で、金子委員長が見解を発表されたわけでございます。その中で、前年度の消費者物価指数に定昇分を加えたものと、ことしの物価上昇率の大体二分の一、先取りスライドとして、それで計算した場合には率としては二二%程度というものが妥当なものではないかということで、大変皆さん方の団体ではいろいろと物議が醸し出されまして、いまになお論争の種として残っているわけでございますが、その考え方というものを私たちは実質賃金の維持を基本にする考え方だ、そういうふうなとらえ方をしているわけでございまして、そういう立場から言うならば、今日このインフレ不況の間にはさまりながら、しかもあれだけ昨年賃金を引き上げたにもかかわらず、実質所得は減少をしているということから考えまするならば、やはりフローの問題だけでなくて、ストックの問題まで含めた問題として賃金の問題をお考えをいただくという態度が経営者として正しいのではなかろうかと思うのでございますが、それについての再度の御意見をいただきたいのと、それに対する大木さんの御意見も、賃金引き上げの問題についての御所見があれば承りたいのでございます。
  12. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問には私も全面的に同感でございまして、われわれ経営者として人をエンプロイヤーとして雇用した以上は、被用者の生活の向上、維持、改善がなければ経営者の資格はない。私は労務法制審議会というものが戦後厚生省にできまして、労働省ができる前でございますが、その労務法制審議会の委員をやったときに、労働条件の維持、改善ということ、そしてこの日本経済の産業の発達に寄与するんだという条文をつくったことを自分で覚えておるのです。それはもうそのとおりでございます。  それから、マクロと仰せになりましたが、ただ私どもが心配する点が一点ありますのは、日本の原材料にいたしましても、エネルギーにいたしましても、外国から輸入せざるを得ない。したがって、外国の、特に日本と同じ条件にあります西独の一時間当たりの賃金水準日本との差が、いまやほとんど同じになってしまった。そしてアメリカがちょっと飛び抜けておりますが、日本を一〇〇といたしまして一五五ぐらいでございます。これは昨年度の一時間当たりの一ドル三百円の計算でそうなっておるのでございまして、やはり日本人全体の生活水準というものは、われわれの輸入物資の量によって非常に左右される。したがいまして、アメリカ日本、ドイツの賃金水準の差を考えまして、余りに一気に上げるということでは困る。  それと、いま一つは、雇用をできるだけ維持するということのためには上げられるところはどんどん上げて、そしてそれがために労働組合組織のない、御承知のように雇用者数が日本でいま三千六百万人でございまして、その中でほとんど三千万近い者は中小企業、零細企業の未組織労働者でございます。ここらの賃金はそう高くはございませんので、それで余り上げますと、これらの雇用の維持がむずかしくなる。したがって、さっき申し上げましたように、失業率失業者の数というものが危険信号といいますか、ゴーストップの黄色い信号なんで、これを見てやはり政策はよほど考えなければいけない。  私は、日本のいまの百万人、九十九万人の失業者を多い少ないと申すのではございませんが、外国と比べますと、半分の就業者でありまするドイツ、これが百十五万の五・二%の失業者というところなんで、日本はそれに比べればまだよろしいので、これをなるべくふやさないことのためには、上げられるところの部面でも、名目賃金を上げるよりは福祉とかその面を充実させる。できればそういうふうにして、一つの相場賃金というものをそう余り上げない。  それから、いま一つ大事なのは、製品とサービスの値段を自粛し、できればそれを下げていくという方向にいくように、日経連としてはさように提唱し、経営者諸君の同意を得るために努力しておるのが現状でございます。  以上でございます。
  13. 大木正吾

    大木参考人 端的に申し上げて、村山先生の御質問のところも非常に大事なんですけれども、昨年の十月に国鉄運賃と米価が上がりました月に労働者の実質賃金はすでにマイナス二・九という数字を、これは総理府の統計、労働省統計がはじき出しておりまして、十一月に同じく三・一%というマイナスを出しているわけです。  この根拠というのは、四十八年の十月の物価と四十九年の十月の物価がほぼ二五%、二五・七%の上昇であるという中で、結果的にはその間の労働者の所得が、実は三二%とった、とったとよくおっしゃるのですが、実際には総需要抑制金融引き締めの影響を受けまして、時間外労働あるいは出かせぎ、アルバイト、そういったものがどんどん切られていますから、当時の労働者の実収の上昇が二二%強でございますから、そのときからもうすでに実際には賃金は相当大きな目減り状態に入っているわけでありまして、年間をずっと通算して見ていきましても、福田さんなどは盛んに一四・五%ぐらいにいく、こうおっしゃいますけれども、やはりだれが犠牲を払って物価がそういう方向に向いているかというところが問題のポイントなのでございます。  私どもは、やはり日本列島というものは昭和五十年の一月一日に忽然としてあらわれたものでもございませんし、ストックというものを、まあ言いますれば、土地、株式あるいはいろいろな原素材料がございましょうが、そういうものを結局インフレーションなり経済政策動向でため込んでおきながら、結果的には労働者の働く時間帯等を減らしながら賃金が下がる。しかもそれが最近の状態ですと、大変これは大きな問題なんですが、要するに住宅ローンを家内がアルバイトしながらどうやら三万円ぐらいの収入でもって払っている、そういう世帯のところあたりまでがローンが払えないという問題とか、自動車産業なんかでしたら、もう車を持つのはやめなければいけないということがございます。  さっき大槻さんもおっしゃったのですが、やはり率直に申し上げて、日経連さんも号令はかけているし、相当裏でひもを引いていることは事実だし、鉄鋼のおとといの申し合わせを見て乾杯されたというようなお話もございますから、そういう点では、経済というものはやはり労働者の実質生活はなるべく下落をさせない、こういう立場であってもらいたいし、私たちはやはり、石油が四倍値上がりする、同時に、日本経済、世界経済がだんだん低成長状態、わかりますけれども、しかし、分配率自身を三二・三%に維持せんとすれば、労働者の生活はまさしく実質面でがた落ちになりますから、それが国内経済にどういう影響を与えるか。  要するに、櫻田さんの方も、結果的には自分たちの企業の中にまで影響を与えない程度にしておかないとまずいのじゃないか、こういう感じを持っておりまして、ぜひその辺は、乾杯をせずに、鉄鋼の回答などもっとたくさん出せ、こう言っていただいた方がやはり日本経済全体のためにはいい、私はこういう感じがいたします。
  14. 村山喜一

    村山(喜)委員 大槻さんにお尋ねをいたしたいと思うのですが、いまの労働分配率が一体どういうふうになっているのだろうか。私は資本分配率の最近の状況を調べてみましたが、四十九年の上期の分までしかございませんが、四八・一という数字が出ております。製造業関係の中に占める人件費比率というのは、総コストの中の一一%、けさの新聞に出ておりましたが、森永日銀総裁のその話の中に、いわゆる資金コストというものが五%を占めておる、こういうような表現がございました。  そこで、総付加価値の中に占める人件費率の国際比較ですね、これをやはり念頭に置いて問題を処理をしなければならないのではないかと私は思うのですが、普通鋼の場合には、日本の三社平均が、人件費が四五・〇七、それに比べて、アメリカが大体七四から七七、西ドイツの場合は六三、四輪車の場合には、日本が三三の場合にアメリカが五八、西ドイツのベンツの場合には六九というような数字、あるいは総合電機の場合でも五八に対してアメリカ七四、西ドイツ八〇、総合化学の場合でも、日本の場合は三七に対してアメリカが五〇%台、西ドイツの場合が四五%台というような数字がございます。そういうような点から考えてまいりますと、日本のいわゆる国際的な競争力というものは、まだまだそういう国に比べたらあるのだ。  一体いまの経済をどういうふうに見ていくのかということについては、景気の動向については非常にむずかしい問題をはらんでいると思いますが、物価が上がったために貯蓄性向というものは下がるのだという考え方は、みごとに客観的な実証として否定をされたわけです。そして、第一、いわゆる階層別の消費性向等を調べてまいりますると、第一分位から第四分位までは、消費性向というものはほとんど減退の一途をたどっておるのに対して、第五分位の比較的に上層の階層では、消費性向は非常に高まっているという状態が統計的にも出ております。第一分位の場合にはエンゲル係数がもう四〇%を超えている。それに対して第五分位の場合にはエンゲル係数は下がってきている。その約半分ぐらいでございます。  そういうようなものを考えていきながら、一体これから先はどういうふうに見ていくのかという経済見通しの問題について、たとえばきょうの新聞にも出ておりますが、積水ハウスの田鍋社長は、経営者にベースアップはできるだけ低く抑えようという風潮があるが、これは間違いだ、やはりこの際、景気見通し等を考えた場合に、現在の財政規模程度では景気がなかなか回復をしない。賃上げを抑えるということになったらなおさら景気回復をしないことになって、日本景気全体が縮小をしていく、小さくなっていく方向に動いていくのだという説明をされておるようでございます。  いまの状態から見ると、勤労者の場合には、貯蓄性向は非常に強まって、消費はもう切り詰めるだけ切り詰めていこうという形の中で生活態度が生まれております。そういうようなふうになっていきまするし、おまけに企業の場合には設備投資は控えていくというような形になっていったら、日本経済全体が縮小再生産の方向に向かう可能性というものがある。そういうことから全体的な今度の賃金の問題を考えていかなければならない立場にあるのではないかと私は思いますが、それに対する大槻さんの、先ほど経団連の方で調査をしていただいたトップクラスの経済見通し等に対するいろいろな御意見がございましたので、それに対するあなたの御見解を承りたいと思うのでございます。
  15. 大槻文平

    大槻参考人 私は、日本経済というものはこれから先、低成長にならざるを得ない、その点については問題ないと思うのでございます。したがって、四十九年度のようなことはほとんど実現しないだろうというふうに考えておるわけでございます。したがって、企業家といたしましては、その低成長下にあって国際競争力をいかにして持たせるか、そういうことを考えながら経営していかなければいけないのではないかと思います。何しろ、日本は原材料の大部分というものをほとんど外国から買っているような状態でございますので、なるほど賃金の占めるパーセンテージというものについてはあるいはいろいろあるかもしれませんけれども、その外国から高いものを買わなくてはならぬというハンディが日本経済にはあるわけでございますね。ですから、そういうものも克服しながらどういうふうにしていかなければいかぬか、それには、やはり新しい技術を開発して生産能率を上げていくというようなことがどうしても必要になってくるのではないかと思います。  ただ、現状におきましては、低成長に移る過程でありますので、いろいろな面でひずみが出てくるどは思いますけれども、これは労使、政府一体となってひとつできるだけなだらかな線でこの低成長、やがて安定成長という方向に持っていくべきであるというふうに考えております。
  16. 村山喜一

    村山(喜)委員 もう時間がありませんのでこれでやめますが、昨年三二・五%でございますか、大変大幅な賃金引き上げがなされたときに、経営者団体の皆さん方は、もう日本経済はこれで破滅をするのだというような、非常に国際的な競争力を失って大変な事態に立ち至る、おまけに原油は四倍になり諸原材料は値上がりになって、海外からの輸入に仰がなければならないのだから、日本は国際的な競争力を失うという大きなキャンペーンがございました。  ところが、昨年の九月から貿易収支は黒字に転化して、その黒字基調というのは依然として続いている。最近においては、そういうようなのを背景にいたしまして、日本経済のバイタリティーというものに対する再評価が行われて、二月段階あたりでは外資が二億ドルも日本の株やその他の投資に回ってくるというような状態であります。  こういうような状態考えてまいりますると、なるほど原材料を外国から買うというそのなにはありますが、もちろん国際的にも値上がりをする傾向にありますけれども、しかし、そういうような状態であっても、製品価格はまた上がっていくという相関関係にあるわけでございますから、そういうような面からは問題をあえて提起する必要はないだろうというふうに私は考えるのでございまして、そういうような意味において、一体いまの景気の落ち込みは本当にもう底になったのだ、先ほど櫻田さんの方からは、マクロ的に見たら底になったというふうに言われておりまするように、私たちもそういうふうに考えております。  とするならば、これから労使の間においてどういうような結論が賃金引き上げについては生まれるかわかりませんが、労働者の実質賃金が低下をしていくような中で、フローの面だけではなくてストックまで含めて考えなきゃならないときに、企業だけがインフレ蓄積をさらに拡大していくというような姿があらわれてきて、そして春闘が済むまでは公定歩合も引き上げるな、そして金融もある程度緩めないでやってもらいたい、春闘が済んだら今度は一七%も、先ほどございましたように値上げをしたいという希望がある。これが一遍に吹き出してきたら、これはたまったものではない。インフレが再燃することは間違いないわけでございます。  その中で、結局インフレのツケは労働者だけが、国民大衆だけが犠牲を負うというかっこうになってしまう。そういうふうにならないように配慮をぜひ御三方に私は要請を申し上げておきたいと思います。これは答弁は要りませんから、ひとつ先ほどお話のように、鉄鋼一五%、造船一〇%と、どういうような形で乾杯をされたかわかりませんが、そういうようなことでないように要請を申し上げておきたいと思います。  以上です。
  17. 上村千一郎

    上村委員長 佐藤観樹君。
  18. 佐藤観樹

    ○佐藤(観)委員 きょうはどうも御苦労さまでございます。  私は、いまの村山委員質問の前提として、先ほど大槻さんからもお話がございましたように、いまの不況というものを一体どういうふうにとらえていくかということが、今後の春闘のとらえ方の前提になると思うのです。そこで、村山委員の表現の仕方では、フローとストックという言葉を使われましたけれども、操業率なりあるいは失業者が九十九万人、百万人近く出ているというこういう現状、あるいは企業の持っている資金、これも非常に底をついているという状況、そういった面では確かに不況になっておりますけれども、片やストックの面で見ますと、これは当委員会でもさんざんもう引当金、準備金というものについて種々討議をしてきたところでありますけれども、九月期の決算を見ますと、必ずしも、果たしてこれが本当に不況というような状況にあるんだろうかというぐらい引当金、準備金という形で社内留保がされているのではないだろうか。  たとえば、櫻田さんのところは繊維でございます。私のところも繊維と非常に関係が深いのでありますけれども、たな卸し資産、市価の変動引当金あるいは災害引当金、こういったもので、ある会社では二十六億四千五百万円というものが前期に比べて引当金がふえている。  銀行というのは景気が悪くなっても景気がいいですから、これはちょっと例になりませんかもしれませんが、たとえば退職給与引当金、これが八十五億円前期に比べて積み増しされている。その一期に払うのは大体十二億円の退職金があればいいわけでありますけれども、八十五億円という膨大な額が積み増しをされている。  そのほかいろいろな引当金がありますから、もう挙げる必要がないと思いますけれども、こういったことを考えますと、どうもこの春闘に向けて九月期のときからもうすでに引当金、準備金という社内留保という形で着々とためていかれて、そうして最終的な税引き後の利益は低いんです低いんですと言って、先ほどお話がございましたように、配当は二分、三分減らしております、管理職の給与も減らしております、こう言うところに、私はこの景気の底と言われる現在における一つの春闘対策として、こういった不況感というものが醸し出されているのではないかというふうに考える部分が多分にあるわけであります。その点について櫻田参考人大木参考人にお伺いをしたいと思います。
  19. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問にお答えする前に、大木さん、村山さん、乾杯は絶対にいたしておりません。あれは確かに四業種の社長さんが集まっていろいろ情報交換しましたところが、新聞社が全く当て推量の記事を出されたので、IMF・JCの宮田さんから大変にしかられて、きょう午後面会いたしまして抗議文に対する私の返答を出しますから、ひとつ誤解のないように。乾杯どころか、あなた、朝鮮ニンジン食わぬと身がもちません。  それから、いまの御質問は、昨年の九月は仰せのとおりの現実は確かにございました。どういうわけかと言いますると、実際の景気の落ち込みの顕著になりましたのが五月、六月でございまして、それから非常に悪くなるというなにが急激に起こったのです。したがいまして、九月のときにはある程度利益の計上ができましたもので、これはとにかく三月決算にはえらいことになる。三月決算は、今度商法も改正になりますから、大体五月にはわかるのでございますが、そのときに余りにぶざまなことをしたのでは銀行も金を貸すのを渋るであろうし、社会的信用も悪くなるからというので、できるだけ退職給与引当金あるいは災害引当金あるいはたな卸し資産の評価損引当金等に社内蓄積を持ち越したことは事実でございますよ。したがって、それが今度の三月決算においてどれほど大きく減るかということは御注目なんでございます。  それからもう一つ、その一つの証拠は、大幅賃上げの行方研究委員会。昨年の十一月五日に私ども海外から帰って、これはとてもえらいことだということで一五%以下という数字を出したところが、そんなことをやったら日経連はつぶされてしまうぞというぐらいのなにであったのです。あのころはさっきの話の金子さんあたりでも二二、三%、これは大槻さんがいらっしゃるので言いにくいけれども、三菱総合研究所あたりも二三%、二二%の賃金上昇率になるであろうと言っておる、これは単なるエスティメートでございますが。  ところが十二月になり、一、二月になってからの景気の落ち込みというものは大変きつくて、もう一五%以下というようなことは——私は毎月各府県の経営者協会に呼びつけられて行っておりまするが、そのときに最も経営者からしかられたのは、あんな高いことを決められて困る、もっと低く何で決めなかった。それほどこの四、五カ月に変わっておりますのですから、今年の三月の決算と四月の決算それから今年の九月、十月の決算をごらんいただければ、企業が非常に痛手をこうむっておるということは必ずおわかりでございます。  皆さん方は、日本企業が非常に強いと言う。少しこれは買いかぶっていらっしゃるのですけれども、日本企業は強くございません。私はアラビア石油を自分で設立委員でやってみましたけれども、メジャーのエクソンとかモービルとかブリティッシュ・ペトローリアム、これは比較にならぬ、百対一どころか千対一の力で、もうパーティシペーションの一〇〇%ものまなければならぬ。これはもう赤子の手をねじるがごとく弱うございますから、少し企業の方にも御同情いただきとうございます。
  20. 大木正吾

    大木参考人 先ほども申し上げたのですが、日本経済自身が何もことしから急に始まったわけじゃございません。やはり十八年間の高成長と、特に後半の三年間の狂乱状態、こういう問題が実は問題でして、櫻田さんがおっしゃったような形で、確かに半期あるいは短期的に見た場合には三月期の決算赤字といったものが出てくるわけですが、私たちががまんがならないのは、いま佐藤委員もおっしゃったのですけれども、確かに引当金などで昨年の九月ずいぶんと隠した会社がたくさんあるわけですね。それ以外にたとえば土地、買い占めてなお放置してある土地が、東京周辺ですと東京都区内二十三区分くらいある。これは不動産研究所の発表ですから、私どもの発表ではありませんが、間違いない数字だと思います。  同時に、株式の占有度と言いましょうか、法人の持ち合い状態がますます進んでいるわけでありまして、そういった問題について、労働組合が賃上げを四万五千円だと出しますと、自民党の方々はけしからぬ、こうおっしゃるかもしれませんが、実はこの中にはささやかな住宅を持った住宅ローンというものに対する返済金が含まれておるわけでございまして、そういったことを考えた場合には、さっきも冒頭に私少し偏った言い方をしたのですが、土地政策とかそういったもので、ある程度質的なといいますか、ストック的なものに対する政策の前進がないと、いまの日経連のとっている政策で一〇%、一五%も大変だということをおっしゃっていく限りは、労働者はマイカーを持つことはできません。  同時に、私自身も、総評事務局長で大変な高給取りかと見られがちですが、実際家内に手渡す金は大体十四、五万円でしかございませんから、私自身も自分の車をいずれは乗り捨てするしかない、こういうような状態でございまして、中小企業経営者が日経連を突き上げるということをおっしゃいますけれども、自分のところの賃金を抑えておいて自分のところでつくった品物が売れるなんというようなことは、経済の論理としてはまことにナンセンスなことなのでございまして、私は常に櫻田代表その他経団連の幹部の方や福田さんにも申し上げているのですが、とにかく前任者のことを非難をしてもいけませんが、経済の取りかじを猛スピードで上げてしまった、十兆という大変な過剰流動資金を生んでしまったものによる狂乱状態を収斂せしめるには、余り摩擦を大きくした状態でいきますと、逆に今度は、抗生物質を飲ませ過ぎたかぜの患者が肝臓を悪くしまして生涯肝臓が治らない、最終的には肝硬変なんということになりかねませんから、その辺のことを櫻田さんにもぜひ御理解いただきたい。  やはり政策面と同時に企業内賃金交渉面においてもそういった三年程度経済見方に立って、分配率自身を次第にヨーロッパ並みに上げていかなければいけないと思うし、名目賃金がドイツに近づいたという話もございますけれども、実際には名目賃金はイタリア、フランスと並んでいるかもしれませんが、櫻田さんがさっきおっしゃった数字と少しく違いますが、三千八百万の雇用者中二千四百万人の中小企業労働者、この諸君の場合の賃金は明らかにイタリア並みの賃金以下であることは間違いありませんし、同時に、大企業労働者の賃金と言いましても、住宅費用等はヨーロッパに比べたら大変なものでございまして、住宅費用、教育費用、医療費用、こういったものを考えたときに、低成長に入るなら入るに従って、国なり経営側が負担すべきものがあってしかるべきだ、私たちはこういうふうに主張したいわけでございます。  そのためには、やはり一年半程度の短期決戦というのじゃなくて、村山先生もおっしゃったのですけれども、やはり実質賃金を守りながら——インフレを喜ぶ者はだれもありません。五千四百円のライスカレーを櫻田さんは食べたいらしいけれども、私は食べたくありませんから、そういったことはお互いにナンセンスな議論だから、やはりライスカレーは五千四百円じゃなしに三百円程度で食べられる状態に置きたいわけでありまして、そのためには政策面あるいは実質賃金の水準が守られる分配率の問題、同時に、経営側といたしましても短期に物を考えない。同時に、今後の展望の場合にはぜひ経済研究センターとか竹中さんのところとか、いろいろな見方がありますから、……。  石油問題についてもある程度、四倍に値上がりをしたと言いながらも、さっきどなたかがおっしゃったけれども百四十億ドルの黒字、そして毎月の黒字基調は続いていきますから、ヨーロッパからまたダンピングで反撃される危険もなしとしないわけですから、そういう点は私たちは余り労働運動として激しいといいましょうか、労働運動全体としまして話し合いでもって物の解決をしたい気持ちは変わりませんけれども、問題を余りにも何か労働側に犠牲を転嫁し過ぎるということになりますと、おとなしい総評も黙ってはおりませんから、そういったこともぜひお考えおきいただきたいと思います。
  21. 佐藤観樹

    ○佐藤(観)委員 それで、生産性本部にいらした金子美雄氏の二二%論、これについてお伺いをしたいわけでありますが、この案は説明するまでもなく四十九年度の物価上昇率一五%、政府は三月までに消費者物価はそうすると言っているわけでありますから、一五%に定期昇給の二%、それに五十年度に物価上昇するであろう一〇%の半分を加えて二二%、こういう目安を出されているわけであります。  この二二%という線は、ちょうど一月十五日に生産性本部が発表した上場三百十四社のアンケート調査に対する各社の答え、それの平均が二二%になっているということで、奇しくもこの二二%という数字が一致しているわけでありますけれども、二二%というこの数字についても、昨年の十月で大体昨年の賃上げ分というものは事実上食ってしまっている、これは先ほど村山委員が指摘したとおりに、実質的な可処分所得が減っているという現状、それから将来を見てみますれば、いまがおそらく景気の底であって、春闘後は公定歩合が引き下げになるでしょう、あるいは窓口規制が緩くなる。そうなると、おのずといまのシステムでまたまた物価上昇が避け得ないであろうと思うわけであります。これはどのくらい物価上昇になるかはいろいろ問題がありますが、そういったことを考えてみますと、この二二%という数字の目安にした一五%、これは三月の一つの数字にすぎなくて、四十九年度の平均をとってみるとさらに高くなる。それから先を見てみますと、果たして今後の物価上昇がどのくらいになるだろうか、こういうことを考えてみますと、二二%という数字についても、働く側からいくと私は疑問を持たざるを得ないのではないかと思うわけでございますが、この点について簡単で結構でございますので、御三方のお考えをお伺いしたいと思うのです。
  22. 櫻田武

    櫻田参考人 それでは私から簡単に申しますが、景気の今後のなには、マクロから見ると底をはっているように思いまするが、V字型となべ底型とL字型がございますが、私はL字型だと思っておるのです。ずっとはってちょっとLの字の型、しかも各企業段階に至っては、不況はむしろ非常に深刻になっていく、こういう見方でございます。  それから、金子さんのお考え方も、これは一案としてわれわれは参考にはいたします。先ほど申し上げましたように、賃金理論というものは、結論というものは終生かかっても出ませんから、現状においては来年の三月までに一〇%あるから、その半分をとってというようなことは、それは望ましいことでございましょうけれども、企業の負担というもの、支払い能力というものを全然考えていらっしゃらなければ、それは親方日の丸のところで働いていらっしゃる方はそれでよろしゅうございますけれども、われわれとしてはそれはとてもやれた話ではないので、そこは良識ある労働組合との話し合いでもって、企業の内容はもちろんガラス張りに、できるだけのことは、機密に属しないことは労働組合に全部ぶち明けておりますので、そういった考え方で決めさせていただくしかない、かように考えておるわけでございます。
  23. 大槻文平

    大槻参考人 賃金は原則として生産性の伸び率の範囲内でなければ、健全なる企業経営はできないということは申すまでもないことであります。日本の五十年度の成長率は政府では四・三%というふうなことを言っておりますけれども、私どもの経済団体連合会では三・四%ということを言っております。この程度の伸びでは、高い賃金が払えるわけのないことはもうはっきりしているわけであります。のみならず、この三・四%じゃない、ゼロ%のところまで持っていくにしましても、これから先四半期ごとに年率平均にしまして一六%ぐらいの伸びを示さないと、ゼロ%のところまで持っていけないというのが現状だと思います。そういうことが果たしてできるものかどうかということを私は非常に心配しておるような状態でございます。
  24. 大木正吾

    大木参考人 ずばり申し上げますと、私たちの手元の統計、これは総理府統計でございますが、確かに三月の段階で一四・五とか一四・七という数字になるかもしれませんが、結果的にはこの一年間の数字をずっとトータルしますと、昨年の四月一日から本年の二月末までで二三・四%、これが若干下がると見ても、一年間に物価が二二%上昇します。これは、賃金についてよくいろいろな話が出ますが、いまの大槻さんの話にもありましたけれども、生産性の枠内とか賃上げはゼロにしろとか、こういうふざけた議論が出てくるわけです。下村さんのようなお話をされる方もございますけれども、こういう方々は、国民生活の低下なり失業者が何人出てもいいという議論でありまして、結果的に、企業が活動したものの買い手がないということにもなりかねませんから、私は暴論と考えざるを得ないですね。  ですから、そういう一四%台の前年比でとるかとなりますと、今度はこれは昨年の底が高い二七%の仰角を持ったものの上に一四という数字が乗るわけですから、そういう関係なども考えて見ていただきますと、私たちは一年間の伸び状態をとらなければいけない。金子さんのおっしゃったその半分の九・九というのは政策目標ですから、だからそんな数字のでっち上げができるわけだけれども、余り変なことをでっち上げたら、私は企画庁の総合部会のメンバーだけれども、結局やめてしまおうと思っております。  そういう点でとらえていきますと、九・九というのは来年の三月でございますから、その過程でもって、たとえば六月が一三・幾ら、仮に福田さんの考えでいったと仮定いたしまして、九月になったときは一五が一六に、この方々はまたばあっと仕事を始めますから上がるかもしれません。平均値をならしての到達ですから、その中間時点で三分の一が五%ぐらいであって、私たちはプラスをするんだったらむしろ一四から九・九、政府のおっしゃっていることが正しいと仮定しての議論なんですけれども、とすれば、その三分の二は積んでもらわなければ実質生活を守れぬ、こういうふうなことが妥当する見解だと思います。  下村さんの議論と大槻さんの議論、生産性の枠内とおっしゃるならば、日本企業はまさしく縮小再生産どころじゃなくて、どんぶりこんと日本列島沈没すればいいということになりますから、余りそういった単純な議論はこの段階ではしていただきたくない、こう考えます。
  25. 櫻田武

    櫻田参考人 いまちょっと大事なことを申し落としましたので、一言加えさせていただきたいと思うのは、インフレーションをどうしても収束するということが、消費者の立場からも預金者の立場からも企業の立場からも、それから特に国、地方財政の立場からも必要だ。これが一番大きなナショナルインタレストだということでありますれば、経済成長がゼロあるいは二、三%のときにもし賃金を一〇%も上げたらどうなるか。これは物価にはね返る率は、七〇%は必ずはね返る。これはもう学者がずっと——計量経済学だから理屈がないと言われるかもしれないが、実績でございますので、そういった意味でも、どうしてもインフレをおさめるということのためには経営ももちろん大きい犠牲を払いますが、ベースアップについても自粛はどうしても必要なことである。これは経済原則として私は申すのでございます。
  26. 佐藤観樹

    ○佐藤(観)委員 いま櫻田参考人が最後に言われたことは、ぼくは非常に重要なことだと思うのです。現在の経済機構をそのままいじらなければ、確かに三%の物価上昇の中でそれ以上はるかに上回るような賃上げということになりますと、櫻田参考人が心配になるのは一つの論理は論理だと思うのです。問題は、松下幸之助さんがPHPの今度の号に書いておりますけれども、これだけ景気が悪くなっているのにちっとも物の値段が下がらない、こんなおかしな世の中は初めてだというふうに、長い経営経験の中から言っていらっしゃるわけです。そこが問題なんじゃないかと私は思うのです。  そこでお伺いをしたいのは、これだけ寡占状態が進んでしまって、景気が悪くなっても物が下がらない、こういったいまの経済機構のあり方自体にメスを入れないと、本当にいまナショナルインタレストとして一番重要なインフレーション収束という問題について解決ができないのではないか。  そこで、いま御存じのように国会の方でも独占禁止法の問題が大きくクローズアップをされ、営業譲渡、企業の営業分割の問題というのが大変大きく取り上げられているわけですね。この点にメスを入れないと、寡占価格がこれだけ進んで位置してしまうと、どうやってもインフレーションというものは収束できないのではないかと私は思うわけであります。そういった意味におきまして、この独占禁止法の問題、とりわけ企業の営業分割の問題、それとこのインフレーションとの問題、この点についてどういうふうにお考えになっているか。このインフレーション収束のためには単に景気景気というマネーサプライだけの問題ではなくして、経済機構そのものまでもいじらないと物価の問題というのは解決できないのではないかと私は考えますが、その点についてはどういうふうに考えていらっしゃるか、時間が大変追ってまいりましたので、櫻田参考人大木参考人にお伺いしたいと思うのです。
  27. 櫻田武

    櫻田参考人 経済機構は徐々に変わってまいっております。それに従うしかない、これが私の結論です。  それから独占禁止法が改正されることについては、私は改正すべきものは改正すべきだと思います。  ただ一点だけ、議会制民主主義のもとにおいては、立法、司法、行政の三権が分立しておる。それなのに、公正取引委員会というわずか百人か二百人の機構しかないところで、行政権と司法権と一緒に持ったようなことで決められるということには、私は非常な危惧の念を持たざるを得ない。やはり議会制民主主義のもとにおいて責任内閣を持った以上は、責任内閣を組織する国務大臣の責任においておやりになるのならば、これは国民としては当然この裁決を受けるべきであろうと思います。  それと、独占が大きいと仰せられまするが、具体的におっしゃらぬので、経済学者は非常に疑心暗鬼で、一体、麒麟麦酒がどうなるのかとか新日鉄が大き過ぎるんだとかいうようなことになるのかどうか。そこらがよくわからないのでもたもたとしておるのでございますけれども、日本では余りそれほどのなにはないのじゃないか。基本はやはり、何とか責任内閣の国務大臣の責任においておやりになる、うまくいったらいいが、悪くいったら責任をとるという体制を、私は強く要求したいのでございます。
  28. 大木正吾

    大木参考人 これはたしか昨年十一月の通産省か企画庁かの統計で、きょうは持ってまいりませんが、実は量的引き締めを強めてきました段階で、大企業製品はやはり上昇傾向を続けておりながら、中小企業製品が相当低下傾向をたどったというグラフがあるわけです。この関係を見てみますと、特に最近などは大分在庫が動き始めつつありますけれども、二月、一月段階等を見てみますと、いわば在庫状態、一三〇とか一五〇という数字を業種によっては残しながらも全然その値段が下がらぬというところに、やはり国民が見た場合に、不思議な現象があるのですね。だから、自由主義経済を主張される経団連や日経連の方々が、供給が強くて需要が減っているときに物が下がらぬということを認めないということ自身が、非常に歯に物がひっかかる感じがいたしますので、こういう席上ではすっきりと櫻田さんにも大槻さんにも、私は独禁法は不満だけれども、せめて高橋委員会ぐらいのものは全部認めてもらいたいということを言うことが、むしろ構造的なインフレーションをなくす一つの大きな要因だと考えております。  それから、山下さんがいなくなってしまったのですが、結果的には自民党の方にもお願いいたしたいのですけれども、土地政策ですね、土地問題。私も国土庁の審議会のメンバーになりましたのでぜひ提言をしたいのですが、要するに公示価格で結局据え置いていくのか、あるいはいまこそチャンスですから、インフレが量的引き締めで若干上昇カーブが落ちてきたというときに、すぱっとそこに質的な政策をはめ込んでいく、そうしないとまた狂乱が起きるわけですよ。そこのところを福田さんにも考えてくれとこの間話したのですけれども、土地問題も同じですね。若干上昇が鈍っている、そのときに公債を一兆ぐらい発行しまして、大都市、大阪とか東京周辺の土地をずっと買い集めて——そういう場合には五十年公債でもいいのですから、そういうことをやる方が本当にインフレーションをとめるためには政策問題として大事だと考えるわけです。  櫻田さんは日本企業は強くないとおっしゃるけれども、フォーチュンの調べでいきますと、大体いまから八年ほど前には三百社中三十六社しかなかったのが、いま八十七社もあるのですから、ベストテンに三社入っているのだから、ここで個人別の名前を挙げると悪いから挙げませんけれども、大体お気づきでしょう。そういう状態で、これは横浜国立大学の宮崎先生が書いた著書の中にはっきり書いてありますよ。岩波新書で安いですから、ぜひお読みいただきたいと思うのです、日本企業が大変強くなったここ数年間の実績が書いてございますから。もし櫻田さんが日本企業は弱いのだとおっしゃるのならば、ぜひああいったものを御一読いただきまして、そして日本の将来の社会というものを心配する立場は同じ立場ですから、自分たちが国民の資金をあれしながらいろいろな産業立地などもやってきたのですから、この際には社会的にそういった財政構造を媒介しながら還元をしてもらうということが労働組合の私たちを余り怒らせぬ方法じゃないか、こういう感じがいたしますね。
  29. 大槻文平

    大槻参考人 独禁法の問題が出ましたので、経団連としても関係しておりますので、一つ、二つ申し上げます。  企業の分割あるいは一部譲渡の問題でございますけれども、これは中山委員会その他でも大分論議をされたようでありますが、やはり商法との関係その他非常にむずかしい問題がいっぱいあるわけでございますね。それからまた、実際分離するというような場合、営業譲渡するというような場合に、たとえば麒麟麦酒というものを例にとって言いますならば、麒麟麦酒のトレードというものを一体どういうふうにして分けるのか、きわめてむずかしい問題が伏在すると思うのですね。それからまた、従業員はそういうことに対して賛成するのか反対するのか、こういうことも非常に大きな問題になってくると思うのでございます。  ただいま櫻田会長も言われましたように、公正取引委員会というものは強大な権限を持って、そこで一切を解決してしまうというのでは、やはり内閣というものの存在がおかしくなるのじゃないか。そういうふうに考えてきますと、この企業の譲渡とか分割という問題は、もう少し慎重に時間をかけて検討をしてもらうべきではないだろうかというふうに考えます。  それからまた、同時並行的に値上がりした場合の問題でございますね。これなども、要するに材料が同じ、人件費が大体同じだ、そしてやっていけるかやっていけないかということなので、ある一社が上がれば同業社も追随して上げざるを得ないというのが日本の実情でございます。それを公取法違反だということで摘発されるということでは、これは企業家の方としてはまことに困るのですね。しかも国会に原価の内容を報告する。その報告するというのが、どういうふうなぐあいでどうされるかという問題もあるでしょうけれども、それいかんによりましてはやはり相当大きな影響があり、国際競争をやっておる業種としては問題じゃないかというふうに考えられるわけです。  その他いろいろな問題がありますが、要するに公正取引委員会を基本的にどうあらしめるべきかということを論議しないで、そして目先のやみカルテルがどうだとかこうだとかということばかりではうまくないのじゃないか。やはり本当に時間をかけて、公取委というものはかくあるべきだということを内閣との関連において吟味をしまして、そして法律を改正するなら改正してもらいたいというのが私の考えであります。  それから先ほど、こういう不景気になってきているのに値段がさっぱり下がらないじゃないかというお話がございましたが、これは私の見解で申し上げますと、要するに、日本の値段が上がったというのはほとんどエネルギーが上がったということに起因しているのですね。四倍もエネルギーが上がっている。それも経営者側としてはどうにもならないような外的な要因で上がっておる。その四倍のエネルギーコストというものを商品に転嫁し得ないでおる。したがって、本来から言うならばそれを全部商品に転嫁して、そして新物価体系というものをつくれば一番いいのかと私は思いますけれども、それができない。それを徐々にやる以外にないのじゃないかというようなやり方を現在やっておる。したがって、物価というものは余り下がらないのじゃないかというふうに考えます。  またもう一つ、ついでですから申し上げたいと思いますが、昨年十月ごろでしたか十一月ごろでしたか、私は孫を連れて箱根に行ったわけです。そこで昼飯を食べた。ところが、そのとき飲んだ小さなジュース一ぱいが、四百五十円という値段がついているわけです。私は支払いのときにカウンターの女の子に、これは間違っているのじゃないかと示したところが、なるほど四百五十円は高いですねと言って、裏に駆け込んで行ってマネージャーに聞いてきたのですね。そして、これでいいのだそうですという話です。びん詰めの七十円くらいのジュースが、しかもそれが二分の一くらいになって氷が入っているくらいで四百五十円というのはひど過ぎる。これはやはり流通機構のどこかに欠陥があるのじゃないか、そういうふうに私は考えますので、そういう最先端における物価についても相当吟味していただかなければならないのじゃないか。  つまり、日本経済というものは、メーカー、それから数段階を経て小売ということになる。みんなその間にぶら下がっておる。そのぶら下がりをどうするかということ。しかし、これは一朝一夕に変えられるものじゃないかもしれませんけれども、そこにまでメスを入れないと、小売の価格というものはなかなか下がらないのじゃないかというふうに考えます。
  30. 佐藤観樹

    ○佐藤(観)委員 終わります。
  31. 上村千一郎

    上村委員長 増本一彦君。
  32. 増本一彦

    ○増本委員 実は何をお伺いするかいろいろ考えたのですけれども、櫻田さん、大槻さんは私どもの言うことはなかなかお聞きになるようなお方じゃないし、大木さんのおっしゃることは私たちも十分承知している。こういう中で、いろいろ考えて若干お伺いをしてみたいと思うのです。  一つは、先ほど大木さんもおっしゃったのですが、日本列島というものは突如として生まれたものじゃない、今日の経済情勢そのものはだれの責任によってこういう状態を招来したのか、ここのところの責任がまだ私ははっきりしないというように思うのです。何と言っても、これまでの高度経済成長、生産第一主義、この結果が今日のインフレ物価高を生み出してきているし、そういう中で、あの狂乱物価のときに見られるように、大きな企業中心にしてやみカルテルはやる、売り惜しみ買い占めや便乗値上げはやるというような企業のビヘービアというものを、やはりもっと突き詰めて反省していただかなくちゃならない問題だというように思うのですね。  そういう意味で、特に櫻田さん、大槻さんは今日のインフレ不況による経済状態を招来した大きな責任を担っていらっしゃるのじゃないかというように考えるのですが、その点はどのようにお考えになっていらっしゃるでしょうか、まずお伺いしたいと思います。
  33. 櫻田武

    櫻田参考人 増本先生にあらかじめ申し上げて、誤解のないように願いたいのですが、私は第一回の中労委の委員で徳田球一君と一緒に大いにやった、労務法制審議会では志賀義雄君と大いにやった。決してさような先入観を持たないでいただきたい。ようございますね。このことだけをお願いして、だから増本さんとひざを突き合わして何ぼでも話せば話は合います。御心配なく。  インフレーションというものが起こりましたのは、要するに戦後の非常に疲弊した、世界じゅうの物が不足になってどうすればいいかというときには、ケインズが言ったような完全雇用を達成することを目指して成長経済をやらなければいけない、そのときには財政はある程度積極財政をやって、金もオーバーローンまでも許していくという、この言い方によっては語弊があるかもしれませんけれども、インフレ経済をある程度容認した経済をやることが一等うまくいったのですね。それをやった結果、御承知のようにずっと伸びまして、十年間に四倍増のGNPが達成できた。それじゃこれが人間のハッピーにつながらなかったかというと、決してそうではございませんで、これはつながった。私はこれは否定できない数字で言えると思うのでございます。  ただ、これが昭和四十三年以降は、生産性が大体一二%ぐらいしか上昇しないのに、賃金上昇率は前よりも一四%上がる、それから消費者物価は六%ずつ上がって、まだそれでもどうにかいったんだというところで、結局インフレの伸びの方が実際の生活よりも多くなった一つの原因は、私は生産性上昇を上回る賃金の上昇も一役を買っておるということは否定できないと思うのでございます。  しかし、ここまで来ますると、インフレを何とか抑圧しなければならぬ。インフレの責任を私は決して労働者だけに、労働組合だけに、賃金だけに帰するというふうな狭い考えではございません。組合側からはいつもそう言ってしかられているのでございますけれども、その方が攻撃がしやすいから、それも甘んじて受けますけれども、これは科学的には私はそうだとは思いません、ワン・オブ・ゼムであることは認めますけれども。そういった考え方でございますから、どうぞ……。
  34. 増本一彦

    ○増本委員 しかし、その後ずっととられてきた財政主導のインフレ政策で、やはり一番利益を受けたのは大きな企業であるという事実も間違いありませんし、それからもう一つは、生産性向上率を上回る賃上げになっていると言われるこの点については、いろいろ私は疑問があります。  その点は次におくとしまして、しかし、そういう中で生産第一主義、輸出第一主義で日本高度成長がずっと進んできた。しかし、それを支えてきたのは、やはりこれまでの日本労働者の低賃金であるという事実も否めないのじゃないでしょうか。たとえば、国際競争力との関係で見ましても、先ほどもほかの委員から触れられたけれども、たとえば三月七日に四十九年度の世界の企業経営分析調査というのを通産省が出した。お読みになったと思うのですが、あの中でも、労働分配率の国際比較が出ておりまして、国際的に先進諸国と比べても労働分配率は非常に低いという事実は否めない。  あの調査は、一九六七年と七二年ですから、ちょうど高度成長政策がまだ拍車がかかっている時期なんです。櫻田さんが先ほど、四十三年ごろから生産性上昇率を上回る賃金になったというようにおっしゃっていましたけれども、しかしそういう中で、労働分配率というそこで見れば、依然として分配率そのものは停滞したままで一向に上昇していない。西欧並みにもなっていない。こういう事実から見ますと、やはり今日までの日本経済労働者の低賃金のもとで支えられてきたという事実は否めないのでして、従来も単に生産性基準原理で賃金を押しとどめよう押しとどめようというぐあいにやってこられた。  それを、いま高成長から低成長という、いわゆる転換期だと言われているこの時期にも、さらにその枠の中に押し込めて賃金を抑えていこう、そういうやり方のままでいいのか。ここのところももっと見て、そこから日本労働者に対して、いまのこの困難な状況に対してどうするかということで考えていかなければならない問題じゃないかというように思うのですね。  その点でひとつ櫻田さんの御意見を伺いたいし、また大木さんはそういう問題についてどのようにお考えになっているか。今後の労働者の賃金闘争の方向をも決める基本的な問題にも関連すると思いますので、ひとつ御意見を伺いたいと思うのです。
  35. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいま労働分配率についてのお話がございましたが、ヨーロッパで言われております労働分配率と日本の労働分配率とが非常に違う条件がありまするのは、ヨーロッパでは、大体自己資本比率が六割で他人資本比率が四割ぐらい。日本は残念ながら、戦後荒廃の中から、経済力集中排除でもって物産、商事も解体させられるわ、財閥は全部解体させられるわというところから出発したがために、ほとんどがオーバーローンといいますか、借金経営でやりましたもので、現在二〇%以下に自己資本比率がおっこちております。企業経営の立場から申しますると、確かに労働分配率というものはそれほど上がっておりません。趨勢的に見ますると、やはり好不況でその数字は変動しますけれども、資本分配率というものも、企業の方から見ると、ほとんどが借金に対する金融費に払わなければならぬものでございますから、できるだけ労働分配率の方を今後はふやしていく方向に努力するというふうに申し上げるしかないのでございます。  それから、今後の賃金につきましては、もちろんベースアップと労働生産性上昇というものとが乖離してしまいますと、インフレにつながるという心配があります。インフレにつながらぬで、おまえの方が損すればいいじゃないかと仰せられますが、それでは企業が成り立たないで、今度は失業がふえるということになりますので、企業の方の所得、それから雇用の増大、それからインフレ、この三つを何らかの形でうまいところに持っていくということに努力すると申し上げるしかない。ですから、私は労働組合の諸君ともいつも、たたかれようがたたかれようが、会って話をするのです。教えてもらいたいんですな。それから、こういう席にも私はできるだけ伺って、教えていただきたいと思っているわけです。三つみんな矛盾した要素でございますから、うまいところに持っていきませんと国のためにならぬ、こう考えておるわけでございます。
  36. 大木正吾

    大木参考人 経済の諸現象というものは、やはり国の経済計画あるいは金融、日銀券の発行高ですね。ケインズさんが考えたクリーピング方式そのもの自身はやはりそういったものを含んでいたと思います。  そういった中で、ミクロの個別企業の中での生産性基準原理というものを振り回してみましても、これは労働者国民の生活と全く違った土台のもとにありますから、その辺をぜひ財界の方々にも考えていただきたいし、総合的な面で賃金だけがインフレの原因だというとらえ方は明らかに根本的に間違いでございますから、ケインズ理論を主張するならば、ぜひそういった立場をおとりいただきたいということを私は冒頭にお願いいたしておきたいわけです。  それから、分配率の問題につきまして、増本さんから私に御質問がございましたが、やはり私は、社会党の村山先生からのお話にもありましたが、確かに日本企業成長が銀行を媒介とする借金で成長したことは、おっしゃるとおり認めていいと思うのです。だからこそ、日本の銀行はデフレでもインフレでもいつでももうかっておるわけですから。私が本当にけしからぬと思うのは、大阪の御堂筋に行きましたって、だあっと三百メートル余りも銀行と信託会社だけですよ、あんなでっかいビルをおっ建てて。  それで、少し余談になりますけれども、例の事業所得税等の問題につきまして、非常に低率のものを納めておるわけですね。だから、そういう点では借金経済は認めますけれども、大体コストから見ていきますと、鉄鋼の場合などでしたら金融費用というのは一二%、そして人件費コストアメリカあるいはドイツなどと比較した場合にほぼ半分以下ですね。だから、よく分配率の論争をする場合に粗付加価値での論争というのを日経連さんなり財界は出すのですが、これは国際統計資料には余りない話で、日本的な発想なんですね。しかし、国際統計でいきますと、先生おっしゃるとおり、三二、三%というところはやはり粗付加のところの議論から始まるのであって、結果的には純利あるいは付加価値というところに歪曲していって、分配率は低くないぞといって無理なでっち上げをやるわけですね。  やはり国際的な公正競争をしようとおっしゃるならば、ILOなり国際統計というものを引用してもらいたいとすれば、大まけにまけたとしまして、金融費用の一二%ぐらいは人件費、分配率から引いてもいいよというように妥協しながら考えて、日本の分配率はやはり四二、三%ぐらいはあってヨーロッパとちょうどいいバランスではないか。  それが三二、三%に低迷しているところは、まさしく先生のおっしゃったとおり、賃金というものは生産性基準原理とか個別企業内の問題ではなくて、もっと総合的な経済動向の中にあるんだ、賃金即生活ですから、生活というものはパブリックサービスなりあるいはいろいろな国家的な、地方的な政策との兼ね合いもございますけれども、そういうことを含めてやはりもう少し経済動向——ケインズ理論というものは私は余り賛成せぬけれども、しかし、それを継承されて認める立場の方はもうちょっとやはり、クリーピングインフレーションはなぜ起きてくるかということは経済の総合性からきているわけですから、そういうことを認めていただいて、大まけにまけても後一〇%ぐらいの分配率は上げてもらわぬと、貿易関係の国際競争場裏の公正競争はできないのじゃないか、こう考えています。
  37. 増本一彦

    ○増本委員 高度成長から低成長への端境期といいますか、いまそういう時期だという指摘が特に経済界のお二人からあったわけですが、そういう中で、その犠牲をやはり勤労者の方に押しつけて、自分たちの方はこれからの低成長にできるだけヘッジしていこうというそのことだけが、実はいまの企業の側のビヘービアとしてあるのではないかということを私は考えざるを得ないのです。それはどういうことかといいますと、もうこれ以上高度成長はだめだ、いま日本経済転換期に差しかかっているということが指摘をされて、そういうことが経済界の中で大勢を占めてきますと、ちょうど軌を同じくして、たとえば四十九年三月期では、和光証券の調査部の調査などもお読みになっていらっしゃると思いますけれども、東京証券取引所の一部上場の三百八十三社で、各種引当金で二千五百九十四億円の積み増しをやった。ところが、九月期になると、それがさらに四千九十四億円の積み増しになって、アップ率だけで一五八%になる。こういうところでいわばストックを大きくして、そして自分たちだけはこれからの不況あるいは低成長に対処していこう、その上に立って生産性上昇率の枠内での賃金に抑え込んでいこうというようなやり方がやはり全体として貫かれているのじゃないだろうか。こういうことでは、結局幾ら皆さんの方で声を枯らされても、勤労者、国民との間にコンセンサスを得ることはできないというように私は考えざるを得ないのですね。そういう企業のビヘービアに対して皆さんとしてはどのようにお考えになるか、その点をお伺いしたい。
  38. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいまの御質問にお答えいたしまするが、蓄積、積み立てをしたと仰せになりますが、法人税、法人税割り並びに事業税、固定資産税等を入れますると、その五五%ぐらいを引いた四五%程度が積み立てになるのでございまして、これがあったればこそ財政も運営ができた、これだけはひとつお忘れにならないように……。出たときにとにかく税金くぐって残った四割余りのものをやっとこさ積み立てて、しかも、これが今度えらい不景気になるぞというときの賃金支払いの原資になるのでございますから、この点はひとつさように御理解いただきたい。  それから、いま増本先生は低賃金低賃金とおっしゃいますが、これは大分時代がずれております。これはむしろ社長、重役はもっと高く取れとおっしゃっていただかぬと困るので、戦前のことは申しません、その賃金格差。いまほど賃金格差がないときはない。それから、国際的に見ましても、大木さんからちょっと御議論があったようでございますけれども、もう決して日本労働者諸君の賃金は低い段階ではないので、これは大いばりだとひとつお考えを直していただきとうございます。
  39. 増本一彦

    ○増本委員 しかし、実態を見てみますと、法人税の限度額を超えてこの時期にやはり積み増しをしている企業もかなりあるわけですね。それからもう一つは、いまでも存在する各種の優遇税制措置で、実質的には実効税率そのものは資本の大きいところほど低くなっているという実態もあるわけで、決して四〇%を超えるものになっているというぐあいにはなかなかいかないということもひとつ考慮に置いて、この事態というものをやはり素直に見ていただきたいというのが私の希望であります。  最後に、もう時間がございませんので、こういう中でいまの春闘をめぐる情勢では、一方で、労働者に対しては賃上げ幅をできるだけ抑えようということで皆さん努力されておりながら、実は、三月十三日にはその大手の企業そのものが企業献金を再開するという決断をされたようであります。一体、企業献金というものがなぜ必要なのかということなんですよ。私たちがいろいろ調べたり事態を見てみますと、たとえば先ほど御議論があった独禁法の改正を、私たちから見ると骨抜きにしようとか、あるいは五十一年規制の問題でも、規制値が非常に甘くなったとかいうような、やはり政府・与党との間の見返りがあるから献金をするんではないかというように疑わざるを得ない。これは国民の共通した疑惑といいますか、疑問の一つであろうと思うのです。  しかし、そういうことで企業献金ばかりを続けていくというようなことになると、実は皆さんもおっしゃっている近代的な組織政党というものはいつまでたってもできない。先ほど櫻田さんも議会制民主主義というお話をされました。まさに議会制民主主義の土台は政党政治ですね。しかも、それが近代的な組織政党でなくてはならない。近代的な組織政党というのは、これは三木総理も言っておるように、やはり党員の党費で、そうして個人献金で賄うというのが鉄則だということであるはずですし、それを皆さん方の現在のこういう経済体制とかあるいはいろいろな期待のもとで企業献金を再開するというような事態は、これはやはり大いに問題だし、このところは厳重に発想そのものの転換が必要ではないかというように私は考えるわけであります。その点について、時間がございませんので、最後にお伺いをしたいと思うのです。
  40. 櫻田武

    櫻田参考人 昭和二十二、三年から企業献金のことをお世話しておりますので、ざっくばらんに申し上げます。  当時は個人では出しようがなかった。ところが、どうしてもマッカーサー占領軍にもそれから極東委員会にも何とかちゃんとやれる外交力の強い内閣総理を置きたかった。それでやむを得ずして——当時私が一番心配したのは、しっかりした先輩が次々パージされるのを何とか防がなければいかぬ。いま一つは、このままほっておくと極東委員会に分割占領される。何とか防がなければ、そのためにはというので、個人はとても、財産税は取られるし、新円発行で金がないから、企業から出した。これが事実です。  それが依然として、今度は所得税がだんだん高くなりまして、現在私で見ますると、二千万円以上の収入がございますので、三分の一くらいが大体私の実収入、三分の二は所得税所得税割り、その他固定資産税等に取られるのでありまして、現在の私のように、社長、会長を二十五年もやって、さらにまたどこかの会社をやっておる者でもそうそう献金ができません。  したがいまして、企業献金というのはそういう必要でできたのでございますが、ただそのときに、さっきおっしゃるようにトレード、取引関係でということは、確かに造船疑獄がございました。これは吉田内閣のときでございますけれども、このときにこういうことではいかぬ。あのときには確かに船舶会社の幹部も捜査を受けたりなんかいたしましたものでございますから、こういうふうに一つ企業の利害関係と政党献金とを結びつけるように誤解されることはいかぬ、これは断ち切ろうじゃないかということで、岩田宙造先生中心にした国民協会というものでやりまして、そうしてそれは野党の方にも、これは多くは出せませんでしたけれども、議会制民主主義育成という意味でやったというのが、これが一つの経過、それは三十六年でございます。  それから今度は後は、個人に対する所得税はふえても決して減らない、やはり企業に依存せざるを得ないというふうな状況で今日までまいったのでございますから、いま直ちに企業献金なり、それから同じようなことは労働組合献金についても、それは確かに多少違いますよ。企業献金というものは企業コストに入るのだ、労働組合の分はちゃんとおれが月給を取った中から、ふところから自分で出すのだという点が違うことは、私は決してこれは否定はいたしませんよ。(「そこが大事なんです」と呼ぶ者あり)大事ですよ、大事だから言っているのだから。ようございますか、大事だから言っているのでして、その差はありますけれども、しかし、やはり政治というものが、いまの政治資金規正法なりそれから選挙法なりというようなたてまえから、やはり要るものは要るということになると、どうしても企業の利害関係というものを別にした、できるだけ弊害のない方法でやる段階にいまある。ところが、その段階をだんだん減らして個人の献金の方向へ移すという方向に、党の、内閣の責任者もお考えになっておるようであります。われわれは全くそれを首を長くして待っておる、これが事実でございます。  本当に新日鉄の裁判で判決が下って、この程度のものならば取締役の背任行為ではないというふうなことも出ましたので、出たからと言って、安易にそれでよろしいのだというふうに経済界は決して考えてはおりませんでございますから、何年のうちに理想的な形になるかは、これはひとつ政治家皆様の御良識に訴えて、われわれはその日の早く来ることを望んでおることを申し添えておきます。
  41. 増本一彦

    ○増本委員 これで終わりますけれども、先ほど野党にも企業献金が回ったというお話があった。しかし、私たちはもらっていませんよ。  それからもう一つは、やはり私たちはすべての企業それから団体の政治献金というのはやめるべきだ。やはり個人でなくてはいかぬ。つまり、参政権というのは自然人に帰属するものですから、そこからいろいろ政治活動の一部として出てくる、そういう性質のものだというように思うわけです。  それからもう一つは、もっと近代的な組織政党を積極的に育成していくといいますか、発展させていくということが実は国民一人一人の責任でもありますし、中でも現在の産業界の責任者であられる皆さん方ですから、自由民主党の対応をいたずらに待つということではなくて、そこはやはり厳しい態度をおとりになっていただきたいということを特にお願いしまして、時間ですので終わります。
  42. 上村千一郎

    上村委員長 参考人の方にこの際ちょっと申し上げておきます。  時間の関係がございますので、きわめて重要な質疑でございまして何かとむずかしい点も多いと思いますけれども、答弁はひとつ簡潔にお願いをいたしたいと思います。  坂口力君。
  43. 坂口力

    ○坂口委員 参考人の皆さん方には大変お忙しい中をありがとうございます。いま委員長からのお話もございましたとおり、時間が非常に限られておりまして、私の持ち時間も二十分ということでございますので、ひとつ簡潔にお聞きをしたいと思うわけでございます。  まず第一番に大槻参考人にお聞きをしたいわけでございますが、先ほどアンケート調査結果を報告していただきまして、その中に在庫調整についての分野がございました。私の聞き間違いがなければ、たしか四月から六月までが四四%、そして七月から九月までが三一%というふうにおっしゃったように思います。この在庫調整は一月から三月くらいの間に終わるのではないかというふうに言われておりましたけれども、それが四月から六月、あるいは七月から九月というふうにかなりなパーセントの人がお答えになっているわけであります。  こういうふうにだんだんとずれ込んできておりますのをどう評価するかということはいろいろの意見があろうかと思いますが、しかし、こういうふうにことしの九月ごろまでにずれ込んできておりますのは、一つ見方によりましては、企業にかなり余裕があるのではないか、たとえば倉庫代だとかそういったものを計算に入れても、寝かせておく方が得ではないかというふうな見方もできないことはないと思うわけでありますが、これについての御意見がございましたら、ひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  44. 大槻文平

    大槻参考人 これは余裕があるから寝かせておる、そういう簡単な見方もできるわけですけれども、企業家の方から言わせれば、売れない物をつくってそれをストックしておくということは一番ばかばかしいことでございますから、その販売に合わしたような生産をさせるために企業を縮小したい。しかし、縮小させるにはやはり相当いろいろなことがあるので、がまんするだけがまんしていこう、こういう立場だと思います。
  45. 坂口力

    ○坂口委員 引当金の問題でございますとか準備金の問題は先ほど議論になりましたので私は割愛をさせていただきますが、内部留保が中には非常に多い会社がございますので、こういったものと絡めて考えますと、先ほど私が申し上げたよううな意見も成立するのではないかと思うわけでございますが、大木参考人、簡単で結構でございますが、これに対する御意見がございましたらお願いいたします。
  46. 大木正吾

    大木参考人 先ほどもお答えをいたしたのですけれども、やはり現実的には在庫問題あるいは最近の企業と中小企業の卸売物価、消費者物価などを見てみますと、やはり操短の中でむしろ逆にコスト上昇しているということは、基本的には独禁法問題とも関連するかもしれませんけれども、やはり企業の側は一定の採算というラインを保持しながら、在庫も価格もすべてその面の操作があるのではないか、こういうふうな感じを持っております。  それから非常に問題なことは、やはり日本の二重構造の問題がございますから、いまの状態では、福田さんも公定歩合で頭を痛めているという新聞記事も拝見いたしましたけれども、副作用の面が非常に強過ぎまして、百万の失業者ということは、アルバイトとかあるいは出かせぎとか時間外を含めていきますと、労働者の労働時間の稼働日数の減というものをとらえますと、七%から八%という状態が率直な日本におけるいまの失業率状態と把握いたしますから、やはりこの辺になりますと、引き締めの副作用は強過ぎるし、引き締めによりましても大企業は痛くないという感触が、きわめて統計資料的にも強いというふうに考えております。
  47. 坂口力

    ○坂口委員 次に櫻田参考人にお聞きをしたいと思います。  きょうお配りをいただきましたパンフレットを拝見いたしました。全部拝見したわけではございませんで、ぱらぱらと部分的に拝見をしたわけでございますが、この中で「過去の賃上げを可能にした日本経済の体質変化」というのが五ページに書かれておりまして、その中で「技術革新の進行とその一段落」「豊富低廉な海外資源の入手難」「環境問題の激化」「労働需給の変化」、こういう四項目が挙げてございます。この中で、「実質一〇%の成長率を維持することは困難となった。」ということが書かれておりまして、「賃上げの基礎条件に根本的変化が起こったことを認識しなければならない。」と、この項の最後を結んでおみえになるわけでありますが、ならば、過去の物価上昇インフレを可能にした日本経済の体質変化というものに対してどのようにお考えになっているかということをひとつお聞きをしたいわけなんです。  もう一度申しますが、「過去の賃上げを可能にした日本経済の体質変化」ということをここで論じておみえになるわけですけれども、一方において過去の物価上昇インフレを可能にした日本経済のこの体質変化というものをどうお考えになっているか、この一面がこの中に述べられておりませんので、それをひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  48. 櫻田武

    櫻田参考人 五ページに書いてありまするのは、三十八年から四十八年までのことの年々の前の年に比べての集約でございまして、経済成長が実質一〇・五%ずつ毎年伸びた。いま仰せのように七%ずつ伸びますと十年でちょうど倍になるんでございます。ところが一〇・五%ずつも非常な高成長をしている。しかし生産性もうまくよく伸びてくれたので、消費者物価指数も六%ずつしか伸びず、卸売物価指数も二・七%ずつしか伸びなかった。  ところが、食糧それから輸入の鉱物資源は二倍半、それから油が四倍以上に伸びちゃったものでございますから、コストアップが、ここにきて今度は消費者物価も卸売物価も上がらざるを得ないというインフレ体質になって、しかもインフレがなかなかとどまりがたくなった。インフレ生産性上昇なり経済成長なりでうまくカバーできておる間はそれでいけたのでございますけれども、そこの変化がもうカバーできなくなると、悪性インフレのみが跳梁する。そうすると国民全般が非常な苦しみにあえぐから、これを何とかして処理しなければいけない、こういった立場でございます。
  49. 坂口力

    ○坂口委員 もう少しつけ加えていただきたいと思いますのは、私いまお聞きしましたのは、過去の十年間の経緯というもの、これはよくわかるわけであります。この中での日本経済変化してきた過程というものもわかるわけでありますが、「過去の賃上げを可能にした日本経済の体質変化」という形でここでまとめておみえになっているわけです。それはこれでいまわかるわけでありますが、もういままでのような経済状態は続かないぞ、これはもう変わってきたぞ、ただし一方において、それならばインフレはどうなるのか、これが変化をしなければ、インフレはいままでどおりで、物価上昇はいままでどおりで、そして賃上げの方はいままでどおりはいかぬぞというのでは、国民は納得しないわけなんです。過去の賃上げを可能にした日本経済の体質変化というものが論じられるならば、一方において、物価上昇インフレというものを可能にした日本経済の体質変化というものはこうだということがなければ、これは説得ができないのではないか、こう思うわけであります。そこの辺をお聞きしているわけであります。
  50. 櫻田武

    櫻田参考人 申し上げますと、一つは、このインフレを収束するためにも、企業の不景気と申しますか企業倒産失業が非常にふえてまいりましたので、したがって、企業倒産をしたり、それによって失業がふえるということになりますと、完全雇用状態のときにはどうしても賃金の上昇をしないと人が集まってくれませんものでございますから、そこの基本の状態が変わってきておる、これはございますね。しかし、雇用を安定しようと思えば、やはりそこそこの賃上げで雇用をできるだけ多くキープしていきたい、これが一つでございます。  いま一つは、国際的に見ましてやはりインフレでみんな困り、それに対するインフレ抑圧策でもって各国が一等困っておるのが、先ほども言いましたアメリカの八・七%、七百五十万人の失業者、それからドイツの百十五万人、五・二%の失業率イギリスの四%の失業率の百万人の失業者、こういうところだから、それに陥らないためには何とか雇用を維持しておきたい。しかし、このままでスタグフレーション、不況インフレが併存すると、企業倒産失業が出ざるを得なくなるから、これを何とかお互いにがまんし合って救済しなければいかぬい直さなければいかぬ、こういう立場でございます。
  51. 坂口力

    ○坂口委員 時間があればもう少し実はお聞きしたいわけなんです。賃上げの方は非常にむずかしくなるけれども、物価上昇の方はやむを得ないという感じに聞こえないこともないものですから、もう少し本当のところをお聞きしたいのですが、大木参考人、何かございましたらひとつ簡単にお願いします。
  52. 大木正吾

    大木参考人 その書類を私も何回も拝見いたしておりますが、石油問題が落ちつきました、同時に、国内的には総需要抑制で大体インフレ要因はなくしました、残っているのは賃金です、こういう言い方などが非常にはっきり出てくるわけでございます。  ですから、問題は、日本経済の今後の動向に絡みまして、先ほど大槻さんもおっしゃったんでございますが、これは去年の論争ですけれども、石油が四倍になったときに大体総合的に電力などにはどれぐらいの影響が出るか。業種によって違うわけですけれども、平均しまして物価にはね返る石油値上げの影響は、あの当時の議論でたしか一二、三%だったと思います。そういったものをむしろ便乗的に、さっきジュースのお話があったのですが、そういった形になったのでしょうが、やはり過去のものと将来のものとの関係で論ずる場合には、どうしても過去における、要するに総合的な経済の総量から見たストックの問題、私的経済におけるストックの問題から公的経済に対する移行の問題、財政を媒介にしながら公共料金等の引き下げあるいは引き上げ率の低下、そういう公的な部面に抜けていく問題とか、土地問題等が非常に大きな問題でございます。  いまがちょうどチャンスでございますから、国土庁の問題もございますが、ある程度土地問題について売買を制約する、キャピタルゲインの原因を排除する、そういうことにして質的な面で問題を考えていきませんと、いまの物価の鎮静化現象はひとえに労働者国民の負担のもとになっておりまして、さっきの大槻さんのお話しのような形で、この際手術をしないで、再びまた今度食べたいものを食べさせていきますと脂ぎった太ったものになりますから、それを媒介にしながら結果的には社会的不公平が増大していくわけでございますから、そういう点では、ぜひ財界の各位にもこの辺の問題についてはしっかり受けとめていただきまして、労働界側といたしましても、実質賃金の確保なり分配構造問題等を中心にねらいながらも、せめてヨーロッパ程度のパブリック的な責任体制、社会的なコンセンサスといったものを求める状態に持っていってもらいたい。こういった面でぜひ私たちといたしましても両財界巨頭と話し合いを継続的に持ち合ってみたい。  しかし、どうもマクロでは結構なことをおっしゃるのですが、ミクロの段階へいきますとなかなか実行されませんので、どうしても摩擦現象が起きてときどき御迷惑をかけて申しわけないと思いますけれども、こういう席をおかりしてそういったこともぜひ財界の方々にもお願いいたしたいし、諸先生方にもお願いしておきたいと思います。
  53. 櫻田武

    櫻田参考人 坂口先生に最後にちょっと申し上げたいのですが、経営者としましてもインフレーションは公敵第一号、インフレを抑えるためにすべての施策が出るということに御了解いただきたいのです。とにかく物価上昇だけは抑えなければいけません。
  54. 坂口力

    ○坂口委員 もう一点だけ櫻田参考人にお聞きしたいと思いますが、やはり同じパンフレットの中で「経済活動の目的は豊かな社会を実現し、国民福祉を向上させることにある。」こう述べております。ところが「真にそれを実現するものは生産性の向上であり、それなくしては豊かな生活も福祉も実現しないことを労使ともにこの際十分認識すべきである。」こう書いておいでになるわけでありますが、この参考人がお考えになっている福祉というのは何かということですね。どういう福祉というものを考えておいでになるのか、このことにについて、時間がございませんので簡潔にお答えいただきたいと思います。
  55. 櫻田武

    櫻田参考人 「「安心のいく世の中」を作るために」という黄色いパンフレットの中に福祉考え方がございます。福祉とは、ただ国が財政でもって与えるということだけを福祉考えてはいけない、やはり社会全体において、相互扶助も含めて福祉の向上を図らなければいけない、イギリスの轍を踏むようなことになってはいけない、こういう考え方でございます。  それと、国民福祉社会の実現のためにやるだけやりまして、企業が公害でこれを害するとか、企業活動が国民生活を害するように働く部分だけは、どんな犠牲を払ってでもその企業の責任においてやめさせる、それができなければ企業は廃業してもらってもいいんだ、そこまで私は考えておるのでございます。
  56. 坂口力

    ○坂口委員 生産性の向上があって初めて福祉が実現できる、こういうことを一方で述べられておるわけでありますが、その生産性がいままでのような調子にいかないということもまた述べられているわけであります。この論法からいきますと、福祉というのは実現されないということになりかねない。  「「安心のいく世の中」を作るために」の中をちょっと拝見いたしますと、「“国民福祉とは、政府がその政策によって作り出すべきもの”といった考え方は、厳重に再吟味にかけて、然るべき訂正を行わねばならぬ。」というふうに述べられております。ところが、福祉についての皆さんの考え方がここに出ていないものですから、生産性福祉について述べられていながらその考え方がはっきりしない。そういたしますと、国民の側としては納得しかねる、われわれの立場からすれば納得しかねるということになるわけであります。つけ加えていただくことがございましたら……。
  57. 櫻田武

    櫻田参考人 生産性はどうしても上げなければいけない。それで、こういう場合を想定していただきたいのです。もし、生産性がゼロということが続くんだという世の中だったら、分配のパイは大きくならぬ。自分のパイをふやそうと思ったら、人様のものを取ってくる以外にない。人口はますますふえ続けるということになると、これは自由社会の破壊につながるんだ。  それでは、いかにすれば生産性は向上するかと言いますと、技術革新を進めると同時に、やはり働いて質の向上を図らなければいけない。マクロで言いますと、GNPの伸びは低成長であっても、これが実現できなかったら必ず封建社会に入る、あるいは非常な権力によるところの全体主義社会になるというおそれがありますので、自由社会を守るためには、低成長でも構わぬから成長の持続ということだけは生産性向上によって必ず実現しなければいけない。それには技術革新もございましょうし、設備投資とかいろいろなことがある。これをやらなければいけない。これは、成長は鈍化してもいいとは決して考えておらぬ。しかし、高成長は不可能な状態になったということを少し強く書き過ぎたかもしれません。
  58. 坂口力

    ○坂口委員 いまおっしゃった、パイをいかに分配するかということだろうと思うのですが、残念ながらもう時間がございませんので、きょうはこれだけにさせていただきます。ありがとうございました。
  59. 上村千一郎

    上村委員長 竹本孫一君。
  60. 竹本孫一

    ○竹本委員 参考人の御三方、きょうは大変御苦労さまでした。櫻田参考人中心に、きわめて簡単に、二つばかりお伺いいたします。  その前に、櫻田さんが最近いろいろと労作を発表していらっしゃるのを拝見させていただいておりますが、特に、石油の確保の量を二億五千万キロリッターに一応抑えて、それを中心日本経済の総合計画というものを立てたらどうか、そしてまた、ある程度、石油だけではなくて、消費抑制についても真剣に取り組まなければならぬではないかという御提言がありましたけれども、私はこの点は非常に高く評価をいたしております。最近いろいろの経済論策を私も目を通しておりますけれども、このくらいまとまって御提案をいただいておるものは余りない、そういう点は私は党派を超えて、またイデオロギーを超えて評価をいたしております。  「「安心のいく世の中」を作るために」というのは新しい御提言でございまして、この中にも数多く教えられるところもあるし、また若干は御賛同できない問題もありますけれども、しかし、経営者経営者の立場において積極的にこうした御提言をいただくということは非常にいい傾向だと思って歓迎をいたしております。  そこで、まず一つ二つお伺いしたいのでございますが、その第一は、いままでのやり方は非常な錯覚に国民全体が立っておったという御意見が出ておるようでありますけれども、私もそのとおりだと思います。その中で特に錯覚の大きかったものは、グレートイリュージョンを持っていたものは、私は日本政府だと思うのですね。次には経営者の方々である。その点についての反省をこれから本当に厳しくやらないことには、新しい取り組みができないのではないかというふうに思うわけであります。  いわゆる高度成長の問題でございますけれども、こんなに毎年毎年一〇%ずつ高度成長が続けられると思ったこと自体に大きなイリュージョンがあった。アメリカ等の評論、批評等を見れば、まず第一に、日本経済はランニング・ツー・ファースト、余りに早く走り過ぎるということを言っておりました。またある評論家は、こんなに毎年一〇%ずつ伸ばしていって日本はどこへ行くつもりだろうかということで、天井まで行ったならばまあ高度成長が押さえられるであろうと思っていたら、とうとう日本経済は天井も突き抜けて上へ出ちゃったというような批評をした人もあります。いずれにしましても、これは大きなグレートイリュージョンであったと思うのですが、どうでしょうか。  私は、佐藤さんが大蔵大臣のときであるか総理になってからか覚えておりませんけれども、佐藤さんに、第一、安定成長なんという言葉がけしからぬ、安定というのはある程度チェックをしコントロールをすることだ、成長というのは伸びるということだ、佐藤さんにおわかりいただくように言うならば、汽車には上り下りというのがあるけれども、上りと下りは違うのだ、それを上り下り列車みたいなことを言うて安定成長なんて言うのは、それこそ大きな錯覚である。特にドイツの安定成長論というものを日本は翻訳してわいわい言っているわけですけれども、あの原文を見ると、安定そして成長と書いてある。スタビリテート・ウント・バクスツームと書いてある。安定が根本なんです。だから佐藤さんに私が言ったのは、もうこの段階になれば、すべての経済の基本は安定ということに中心を置くべきだ、それがまた本当の意味の成長の基礎になるんだということを言ったこともあります。  ところがそれを間違えて、わけのわからない安定成長論でいまだにみんなわいわい言っているが、私は安定なら安定ということに重心を置き、そして石油が二億五千万キロリッターなら二億五千万キロリッターを中心にして、四%伸びるかどうかは別にしまして、それを大きな経済政策の根本目標にしてすべてを総合調整するということが一番根本ではないか、また、そういう形にならなければ本当の安定はできないと思うがどうかということが一つ。  それから第二番目の質問は、日本政治もあるいは労使関係も、これは私反省して申し上げるわけですが、余りにホットイデオロギー、イデオロギーが過熱し過ぎている面がどうもある。そういう点については、もう少しお互いが落ちついて冷静にものごとを見ていかなければならぬのではないかという意味で、私は御質問というよりもむしろ御提言をしたいのでありますが、大体、経済先ほど高度成長、ランニング・ツー・ファーストの問題もそうですけれども、いままでは金本位なら金本位制度という大きな歯どめがかかっておる、また一時は為替レートは固定相場制という一つの歯どめがかかっておった。それが金本位を離れる、固定相場はフロートする、こういうことになると、日本経済日本の物の考え方というものに、抑制し歯どめをかけるものが一体何があるかということをわれわれは考えなきゃならぬと思うのですね。  そういう意味から申しますと、ヨーロッパの諸国にはあるいは宗教というものがある、あるいは政治家にステーツマンシップというものがある、国民に愛国心もあれば良心もある。ところが日本では、それこそ櫻田さんの御提言の中にも書いてあるように、安心がいかないような面がたくさんある。そういうことを考えると、これからの日本経済社会全般についての歯どめをどこに求めるかということについて真剣に考えて、これはひとつ科学的なデータというものをお互いに集めて、そしてまた、情報は世界的な規模において各国のあり方、各国の動きというものをもう少し科学的に全面的に収集して、その広い情報の上に立ち、科学的なデータの上に立って議論をすれば、議論がイデオロギーに引っ張り回されないで、じみな堅実な基礎の上に立ってできるのではないかというふうに思うのです。  そういう意味で、たとえばいま私がそういうデータがひとつ必要だと思いますのは、先ほど来御議論がありました賃上げの問題にしても、一体、賃上げの波及効果がどうなるかということについて、経営者経営者、労働組合は労働組合それぞれ自分の立場で議論をしておる。しかしながら、客観的には何とか調整をしなければならぬと思うけれども、調整する話し合いの場を持ってもデータがない。たとえば大蔵委員会では法人税という問題もありますけれども、法人税の負担率が幾らであるかということについても、いまだにみんなが納得する、四〇%がいいか、先ほどの五五%が多いか、それらについて、その数字自身についてお互いに異論があるのです。けれども、これは四〇なら四〇、四二なら四二ということについては科学的なデータを出して、それが高いとか低いとかいうことはそれぞれの立場で批判する、データそのものは、みんなが共通の基盤の上に立って議論をするというような努力をしなければならぬと私は思うのです。  そういう意味で、財界にはいまいろいろのシンクタンク等もできつつあるようでございますから、賃上げの問題にしても、あるいはそのはね返りの問題にしても、あるいは賃金コスト金融コストの比較の問題にしても、先ほどまた櫻田さんからタイトマネーポリシーお話がありましたけれども、そういう総需要抑制抑制の仕方についても、また抑制でいけるものの限界についても、海外的要因がどの程度あるかということについても、非常にまた意見が分かれております。これもデータはある意味においてはない。そういうデータも探さなければならぬ。さらにまた、低成長下の労使関係をスムーズに持っていくためにはどうすればよいかということについても、それぞれ勝手な演説をしているだけではいけないので、やはり話し合いの場と話し合いの根拠になるデータがなければならぬ、こういうふうに私は思う。  この点については、大槻さんと大木さんにあとで、低成長下の労使関係をスムーズにするための経営参加というものについてどういうふうにお考えか、結論だけ一口お伺いをいたしたい。  さらに、いまの福祉国家の問題についても、悪平等は国を滅ぼすというような御提言がありましたけれども、私は悪平等は困ると思いますけれども、しかし、その高度成長のメカニズムを全部そのままにしておいて、間接金融もあるいは金利あり方もすべての税制も、いままでの高度成長を支えた柱をそのままにしておいて、それで一遍に福祉国家の建設というものができるものかどうか。御提言の中には産業構造の改革というのがありますが、産業構造の改革にしろ、あるいは精神構造の改革ももっと大事だと思いますが、そういう問題に取り組むにしろ、やはり世界的な情報を集め、そうして科学的なデータを出して、イデオロギー議論するのはその次にして、前段階で科学的な情報とデータを集めるという努力をする。そういう意味のシンクタンクを、ひとつ財界においても、それこそ労働者の代表も含めて、国民的な基礎におけるデータを集め情報を集約する場をつくったらどうかと思いますが、どうでございますか。  以上、きわめて簡単に御答弁だけいただけば結構でございます。
  61. 櫻田武

    櫻田参考人 ただいま私どもが差し出したものをよく読んでいただいて教えていただいてありがとうございます。私は、半分くらいはおしかりを受けるくらいなつもりでこれは出しておりますので、今後もお気づきの点はぜひ教えてください。これは勝手でございますが、私はお願いいたします。  ただいま仰せになりました、十年どころじゃない、三十五年から本式に発達したのでありますが、十五年、二十年も日本高度成長になれた頭が転換していないということはもう仰せのとおりで、毎日毎日われわれはそれに悩んでおるのでございます。私自身の頭もまだうまく変わっておらぬのでございますが、経営陣営ははなはだこれにおくれております。政府はどうかということは、それは政府も多少おくれていらっしゃるところはあると思いますが、まず政府を責める前に、私は特に経済界のリーダー、特に社長諸君の頭を本当に変えていただかなければいけない、これを痛感しておるのでございます。  その具体的な例ははっきり申し上げませんけれども、ただ借金経営規模さえ大きくすればいいとか、それからナンバーワン、売上高の大きいのを競ったりというふうなことではないので、結局、製品の質と値段、それからそれに働く従業員の幸福、それから国家に対する貢献度、要するに納税をちゃんとしておるというところで、私は税金についての考え方でも、納税を非常にやっている企業にはほう賞ぐらいしてやっていただきたいですね。そういうようにお願いをし、いまの点へのお答えとして、不景気はわれわれは困りますけれども、この不景気がいままでの誤った考え方を根っこからたたき直すのに大変ないい薬になっているということだけを申し上げます。  それからいま一つは、こういった不安定な状態になった根っこには、思いがけない——語弊があるかもしれませんが、こじきが馬をもらったという言葉が私のくにの悪口にあるのですね。貧乏人が一遍に金持ちになる。日本人は物質的に恵まれ過ぎて精神と物質とのアンバランスが埋まっておらない。もっと精神的な要素の方を高めて、そうして物質と精神とのバランスを回復するということに、これは政治の場で教育とかその他の面でぜひ御尽力願いたいし、われわれは企業で人を雇ってたくさんの人間関係を持っておるという関係からでもそれに努めたい、こう考えます。
  62. 大槻文平

    大槻参考人 経営参加に関してのお尋ねでございますが、企業経営は御承知のように労使の二人三脚とか、あるいは労使は車の両輪だというふうに言われておりますように、労使双方の真の意味の協調がなければ企業はうまくいかないと思います。したがいまして、各企業におきましても、それぞれ組合側の経営参加ということを考えまして、大抵の会社においては経営協議会というようなものを持って、双方で話し合っておるのが実情じゃないかと思います。  したがって、経営者としまして組合側の経営参加というものを忌避する理由は何もない。ただ、その時々の状態に応じた範囲で、程度問題というものはあるかもしれませんけれども、ともかくも経営の参加ということについては恐らく異議を差しはさむ者はないのじゃないか、組合側の各人に経営的な感覚を持ちながら参画してもらうことはむしろ歓迎しておるんじゃないかというふうに考えております。
  63. 大木正吾

    大木参考人 竹本先生の非常に高邁な御議論を熱心に拝聴いたしまして尊敬いたしますが、いま日本で一番必要な問題は何かと言いますと、まさしく私的経済から公的経済に対する問題の移し方だと思うのですね。どんなに賃金を取りましても、三十歳前後の東大出の若い官庁の役人にいたしましても会社員にいたしましても、東京都内で自分の家を持つことはできない世の中になってしまったんですね。これをどうするかということを考えてみますと、これはもう賃金では、要するに資本なり経営との交渉では、どうにもならぬわけでしょう。教育、医療等もそういう問題がございますから、だから私は、こういったパブリック的な解決策を求める政治動向ということが、非常に労働運動というものに対して一定の方向を志向さすものだと考えるわけですね。ですから、そういったものが目の前の経営者大幅賃上げ問題としてぶつかっていくわけです。  だから、私に言わしめれば、やはり先ほど皆さん方から御質問があったのですが、高成長の中でもって蓄積をした部分が財政税制を媒介にしつつ、結果的にはそういった住宅問題、医療問題、教育問題等に対して配慮されるということが、要するにまさしく櫻田さんのおっしゃる安心できる社会への最大のコンセンサスだと思います。  ただ、竹本さん御承知のとおり、労働組合法がございますから、労働条件に対する団体交渉権というものは厳然として存在いたします。ただ、団体交渉だけではこういった産業構造の大変大きな変化の際にはなかなか片づかない問題が多くなりますから、構造変化段階になりますとどうしても産業動向がどうなるか、あるいは製品なり業種がどうなるか、そういったものを含めて、いわゆる経営の展望等を含めたお話し合いというものを私たちは大いに歓迎いたしたい。ただ、労働条件だけは団体交渉を基本として決めさせていただきたい、こういうふうに考えます。  労働界側といたしましても、最低賃金問題で四団体が意見をまとめた段階でございまして、データバンク革新側版といいましょうか、野党四党の方々もぜひ歩調をそろえていただきまして、野党連合政権なんというスローガンを掲げるならば、ひとつそういったことも民社党さんも含めてお考えいただきたいものだと考えます。  私たちはいまの二億五千万キロリッター問題について櫻田提案について評価いたしますが、ただちょっと日本の産業動向と違いますのは、どこの経済研究センターを信用するかということはございますが、たとえば金森先生のやられている日本経済研究センターですね、この場合ですと、燃料問題というものは石油依存度がだんだんと減りまして液化天然ガス等にかわる、こういうこともございまして、そういったものを根拠にしながら経済成長は六、七%いくだろう、こういう見方に立っていますから、その辺は日経連の作戦に基づく四%程度しか成長しないぞというところは、これはいずれ来年のいまごろになったらどっちが本当か大体見当がつくでしょうけれども、やはり二億五千万キロリッターぐらいからですが、燃料あるいはエネルギー全体というものはそういった方向でいくでしょう。  私が希望したいのは、やはりどうでしょうか、もしも社会契約的な発想などをお持ちならば、思い切って電力とか石油とかあるいは石炭とか、そういったものは人間が食べる米と同じですから、産業にとっては米ですから、そういったものは国がだんだん株式を取得しながら公有化などをしていくということも一つの方法じゃないかと思うし、そういった中でこそ日本の新しい安定成長、私も安定成長という言葉を初めて先生に教わって、このことは九%程度成長でどうかということをいつも天池さんと言っておったのですけれども、それが大変な成長で来てしまったわけですから、そういうことを考えますと、まさしく今後の経済動向に対する労働側の新しい対応というものは、データは要するに労働組合、革新政党全体がまとまったものでもいいし、あるいは統計は財界の方々と一緒になって議論してもいいでしょうし、そういった議論については私たちは反対ではありません。むしろ歓迎したいという気持ちがございます。
  64. 竹本孫一

    ○竹本委員 ありがとうございました。
  65. 上村千一郎

    上村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、御多用のところ御出席の上貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。どうぞお引き取りください。      ————◇—————
  66. 上村千一郎

    上村委員長 次に、武藤山治君外三名提出昭和五十年分の所得税臨時特例に関する法律案所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案及び租税特別措置法の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。  これより各案について提出者より順次提案理由の説明を求めます。武藤山治君。     ————————————— 昭和五十年分の所得税臨時特例に関する法律  案所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案租税特別措置法の一部を改正する法律案     —————————————
  67. 武藤山治

    武藤(山)議員 私は、提出者を代表いたしまして、ただいま提案されております昭和五十年分の所得税臨時特例に関する法律案所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案及び租税特別措置法の一部を改正する法律案につき、提案理由及びその概要を御説明いたします。  政府は社会的不公正の是正を政策目標に掲げていますが、その主要な手段である今回の税制改正案の内容は、勤労国民には依然として重い税負担を求め、資産所得者を優遇し、法人の税負担強化には触れないといった不公平税制を温存しているのであります。四十九年度のいわゆる二兆円減税を盾に五十年度所得税減税を物価調整減税のミニ減税に抑えようとするのは、低所得層に重く、高額所得層に軽い現行所得税制によって引き起こされる不公平な税負担をさらに拡大することになり、一方、インフレ経済のもとに拡大した富と所得の不公平を是正するため資産所得の重課、法人税制の改革など、高度成長税制の根本的転換の展望に立って、生活優先の経済福祉税制の確立を指向すべきであるにもかかわらず、その姿勢は見られないのであります。  このような政府税制改正案では、不公正は拡大しても、その縮小、是正は行われず、勤労国民のための税制改革の布石とは言えないのであり、これが、四法案提出の根本理由であります。  まず、昭和五十年分の所得税臨時特例に関する法律案について申し上げます。  本臨時特例法案は、インフレによる課税最低限の実質低下、名目所得増加による実質増税の実態を考慮し、低所得者層中心の緊急調整減税を実施するものであり、しかも、従来の課税最低限の底上げ方式では、高額所得者優遇の減税となり、税負担の不公平を拡大し、税の再分配機能を弱化させる結果を招き、かつ、インフレ刺激的効果をもたらすことになるので、この点を配慮した減税方法をとるものであります。  このため、生活費非課税の原則に立ち、所得税は四人家族年収二百八十万円まで無税とするよう世帯構成に応じた税額控除を行い低所得者層中心の減税を行うこととしたものであります。また、同時に、高額所得者層の税負担を強化しようとするものであります。  まず第一に、昭和五十年分の所得税については、現行税法で算出された所得税額から居住者につき三万円、居住者が控除対象配偶者または扶養親族を有する場合には、その控除対象配偶者または扶養親族一人につき一万五千円を加算した金額を控除するものとしております。  したがって、四人世帯の場合の税額控除額は七万五千円となり、これにより給与所得者は年収二百八十万円まで無税になります。  なお、この税額控除は課税所得一千万円、年収約千三百万円以上に対しては適用しないことにしております。  第二は、給与所得控除の控除限度額の設定であります。現行制度では給与所得控除額はいわゆる青天井で高額所得者優遇の制度となっておりますので、この不合理を正すため控除限度額を百九十万円とし、いわゆる控除頭打ち制度を設けることとしております。この結果、年収八百五十万円以上の給与所得控除額は百九十万円の一定額となります。  第三は、課税所得一千万円以上の部分に対する一〇%付加税の新設であります。インフレのもとで、所得格差は拡大し、しかも低所得に重い現行所得課税の不公平により高額所得者の税負担は相対的に軽減されております。物価対策の上からも、不公平課税の是正の上からも付加税を課すことにいたしたわけであります。  第四は、内職収入について、その実態を考慮して配偶者控除の適用要件である配偶者の所得限度を五十万円に引き上げるとともに、勤労学生控除についても、学費、生活費の高騰を配慮して、その所得要件を七十万円に引き上げることにしております。さらに、寡婦控除、老年者控除についての所得要件もそれぞれ六百万円、一千万円に引き上げることにしております。  次に、所得税法の一部を改正する法律案について申し上げます。  この法律案は、さきの昭和五十年分の臨時特例法案とあわせて、現行法のもとで税負担が他の所得者に比べて重くなっている給与所得者について、各種の所得控除または非課税措置を設けて税負担の軽減を図るとともに、他方、ある種の資産所得について課税を強化しようとするものであります。  まず第一に、通勤費の非課税であります。現行制度では、実際支給した通勤手当のうち一定限度までの金額について非課税としておりますが、通勤費は明らかに必要な経費でありますから、その制限を外し、通勤費の実費相当額は全額これを非課税とすることにいたしております。  第二は、夜勤手当の非課税であります。警察官、看護婦等のように夜間勤務をする者の場合は、心身の消耗が激しく、その回復のためにはかなりの経費が必要でありますが、この点を考慮して、一定額の夜勤手当についてこれを非課税とすることにいたしております。  第三は、労働組合費控除の創設でありますが、労働組合が労働者経済的地位の向上、福利増進を図るものであることは明らかであり、組合費はそのための費用でありますから、今日の社会通念から見て当然給与所得者の必要経費と考えられるのであります。したがって、組合の経常的な費用に充てられる組合費につきましては、所得控除を認めることといたしております。  第四は、寒冷地控除の創設であります。寒冷地域におきましては、暖房費等の生計費が他の地域に比べて多額にかかることは言うまでもありません。これに対し、公務員等の場合は寒冷地手当等が支給されておりますが、これは課税所得の中に含まれており、また、それ以外の所得者の場合は所得の中からその経費を賄わなければならず、いずれにいたしましても、他の地域の居住者とのバランスを欠くものと言えるのであります。そこで、本改正案におきましては、その経費相当分を総所得金額等から控除する制度を新たに設けることといたしております。  第五は、有価証券の譲渡等による所得に対する課税であります。現行制度では、株式等についてのキャピタルゲインは非課税となっておりますが、これは資産家優遇の税制であり、著しく社会的公正を損なうものであります。このような観点から、現行非課税制度を廃止し、有価証券及びその類似のものの譲渡所得については、すべて課税することといたしております。  第六は、配当控除制度の廃止であります。現行制度は、いわゆる法人擬制説に立って、所得税の前払いである法人税を清算する意味で配当控除が行われておりますが、この制度によれば、配当のみの所得者は夫婦子二人の場合、課税最低限が三百八十七万円となり、給与所得者と比較して著しく不均衡を生ずる資産所得優遇の制度となっております。したがって、法人擬制説を維持するという考え方をやめて、税負担の公平を図るため、配当控除制度を廃止することといたしております。  次に、法人税法の一部を改正する法律案について申し上げます。  この改正案は、法人税についても負担能力に応じた課税を行うため、現行の比例税率を廃止し、所得区分による超過累進税率を採用するとともに、大企業に有利な受取配当の益金不算入制度を廃止する等の改正を行うものであります。  まず第一に税率の改正でありますが、現行の普通法人に対する四〇%の税率を、年所得一億円以下の金額については三七%、一億円超十億円以下の金額については四二%、十億円超の金額については四七%の税率に改めることとし解散または合併の場合の清算所得に対する税率についても、これに準ずる改正を行うことといたしております。  第二に、現行の受取配当の益金不算入制度は、法人間の配当について二重課税を防止するという見地から設けられているものでありますが、大法人の株式投資が増大し、その持ち株比率がきわめて高くなっている現在におきましては、いたずらに大企業の税負担を軽くする制度となっておりますので、これを廃止し、配当金はすべて課税所得の中に含めることといたしております。  第三に、法人の寄付金につきましては、資本金基準及び所得基準による一定限度の範囲内で損金算入が認められることとなっておりますが、昨今では資本金または所得の増大によりその限度額が相当巨額となり、法人の寄付金支出を容易にしております。そこで改正案においては、両基準をいずれも大幅に引き下げて、適正な限度といたしております。  第四に、法人の貸倒引当金の繰入限度は政令で定められておりますが、そのうち、金融及び保険業につきましては、貸し金の千分の十の繰入率となっております。金融機関等の貸し倒れがきわめて少ないことは周知の事実であり、それに対して現行の繰入限度ははるかに多額となっており、これでは利益留保の色彩が濃厚でありますから、その繰入率を千分の五に引き下げることとし、これを本法に規定することといたしているのであります。  最後に、租税特別措置法の一部を改正する法律案について申し上げます。  この法律案は、現在三大不公正税制と称されている利子配当課税の特例、社会保険診療報酬課税の特例及び個人の土地譲渡所得課税の特例のすべてについて徹底的な是正を行うとともに、大企業と中小企業の税負担に大きな差をつけている支払い配当軽課制度を廃止する等の改正を行おうとするものであります。  まず第一に、利子配当課税でありますが、現行の源泉分離選択課税制度は、資産所得優遇の最たるものであり、所得税本来の姿である総合課税の原則に反するものでありますから、これを廃止することといたしております。  第二に、医師の社会保険診療報酬課税の特例につきましては、昨年十二月に税制調査会から具体策を示して答申があったにもかかわらず、政府は改正を見送っております。答申案はやや不徹底なところがありますが、この制度が二十数年間実施されてきた事実にかんがみ、答申案どおり改正を行うこととし、収入千五百万円以下の金額に対する経費控除率七二%から、順次金額が多くなるに従って控除率を下げ、収入五千万円超の金額に対する控除率を五二%とすることといたしております。  第三に、個人の土地譲渡所得課税につきましては、悪評の高かった長期譲渡所得の分離比例課税制度を廃止し、譲渡益に対して一段と課税の強化を図ることといたしております。すなわち、短期譲渡所得に対する重課制度はこれを存続し、長期譲渡所得に対しては、譲渡益二千万円以下の部分は二〇%の税率で課税し、二千万円超の部分については全額総合課税とすることといたしております。  第四に、法人の支払い配当軽課制度につきましては、この特例が、当初の目的である法人の自己資本の充実に何ら貢献せず、いたずらに大企業の税負担を軽減する役割りしか果たしていないことにかんがみ、この制度を全廃することといたしております。  第五に、交際費課税につきましては、社用支出の実情にかんがみ一層の強化を図ることとし、損金算入限度額の定額部分を三百万円に引き下げ、限度超過額の全額を損金不算入とすることといたしております。  第六に、公害対策に資するための措置として、昭和五十一年度の自動車排ガス基準に適合する乗用自動車等については、物品税の課税標準を減額し、同基準に適合しない乗用自動車については、高公害車として現行税率より一〇%高い税率で物品税の課税を行うことといたしております。  以上が税制による所得再配分と社会的不公正の是正を目的とした四法律案の内容であります。  何とぞ御審議の上、御賛成賜りますようお願い申し上げます。
  68. 上村千一郎

    上村委員長 これにて提案理由の説明は終わりました。      ————◇—————
  69. 上村千一郎

    上村委員長 次に、内閣提出所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案及び租税特別措置法の一部を改正する法律案の各案を一括して議題といたします。  各案に対する質疑はこれにて終了いたします。  これより各案を一括して討論に入ります。  討論の通告がありますので、順次これを許します。大石千八君。
  70. 大石千八

    ○大石(千)委員 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案並びに租税特別措置法の一部を改正する法律案に賛成の意向を表明するものであります。  昨年来の総需要抑制政策のもとでは、需要面から物価を刺激する要因を極力少なくする必要があることは言うまでもありません。このような経済政策上の要請にこたえて、政府は、五十年度予算の編成では歳出の増加をできるだけ抑制していますが、他方、歳入面でも所得税の減税規模をある程度小幅にとどめざるを得ず、その事情は十分理解できます。  今回の所得税法改正案では、中小所得者のために人的控除について若干の引き上げを行っていますが、昨年度の大幅減税の平年度化による減税額が相当に大きいことを考えますと、納税者の実質的な税負担はかなり軽減されることになります。すなわち、夫婦と子供二人の給与所得者の課税最低限は、前年の百五十万円から百八十三万円に引き上げられることになり、その引き上げ率は物価上昇率見込みの約二倍であり、十分に物価調整の役割りを果たすものと見られます。  次に、障害者控除、老年者控除等の特別な人的控除につきましては、一般的な人的控除の倍額の四万円の引き上げを行っておりますが、これは去年に引き続く大幅な引き上げであり、福祉政策上の配慮を十分に盛り込んだものであります。さらに、医療費控除につきまして、その最高限度を引き上げ、足切り限度を引き下げて控除の適用範囲を大幅に広げておりますことは、医療費の支出が家計に及ぼす影響を排除するものとして高く評価されるものであります。  そのほか、退職所得の特別控除額の引き上げにより勤続三十年の場合の退職金の非課税限度を一千万円に引き上げていること、白色申告の場合の専従者控除を大幅に引き上げていること等いずれも妥当な措置であります。  次に、法人税法改正案におきましては、同族会社の留保金課税についてその定額控除額を一千五百万円に引き上げておりますが、この制度については毎年見直しを行い、今回もまた五割の引き上げを行っておりますことは、中小企業の内部留保の充実を図るものとしてきわめて重要な意義を有するのであります。すなわち、この改正により特別の課税を受ける者はわずかの数に限定され、課税を受ける場合でも、その大部分の法人に減税効果が及ぶからであります。  また、法人税の確定申告書の提出期限について一カ月の延長を認める等の改正を行っておりますが、これは改正商法の施行に伴い、会計鑑査人の鑑査を要する等の理由で決算の確定がおくれる法人にとりましてはぜひとも必要な事項であり、改正の内容も妥当なものであります。  最後に、租税特別措置法改正案について申し上げます。  社会的不公正の是正という命題は、時代の要請であり、現内閣政治的課題として取り上げているものでありますが、今回の改正案は、その見地から税制上の問題と真正面から取り組み、いろいろ難関にぶつかりながらもその解決を図っております。  すなわち、利子配当課税の改善、合理化を図り、源泉選択税率を二五%から三〇%に引き上げておりますことは、総合課税が実際上困難である現在においては、きわめて適切かつ具体的な資産所得重課の方法であります。  また、土地の譲渡所得の分離比例課税制度を廃止し、そのまま本則に戻ることなく、それよりも重い四分の三総合課税制度等を採用しておりますことは、土地の譲渡益に対してきわめて厳しい姿勢を示すものであり、これによって悪評の高い土地成金の続出は根絶されるでありましょう。また、このような重課制度の実施によって公共用地の取得に支障を来すことがないようにするため、特別控除額の大幅な引き上げを行い、一年早く実施することにしておりますが、これらはきわめてきめの細かい配慮と言えるのであります。  なお、もう一つの不公平税制と目される社会保険診療報酬課税の特例につきましては、次回診療報酬改定と同時に実施するとされており、税法改正はもはや時間の問題と見られるのであります。  さらに、農地の相続税について納税猶予制度を創設し、農業を継続する限り一定額の相続税の納税を猶予し、最終的には免除することとしておりますことは、懸案となっていた課題の解決を図るものであり、農業経営の維持というわが国の農業政策の基本に関連する画期的な改正事項と言えるのであります。  そのほか、既存の特別措置の整理合理化を図るとともに、福祉対策住宅対策、中小企業対策公害対策、資源対策等のため所要の改正を行っておりますことは、いずれも当を得た措置と認められます。  以上申し述べました理由により、三法律案に賛成する態度を表明して、私の討論を終わります。(拍手)
  71. 上村千一郎

    上村委員長 佐藤観樹君。
  72. 佐藤観樹

    ○佐藤(観)委員 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題になりました政府提案にかかる租税三法律案に対して反対の討論を行うものであります。  政府は、今回の所得税法改正において、消費需要抑制という理由と、昨年度の税制改正の平年度化による減税額が大きいという観点から、本年度の減税をわずか二千三百九十億円としておりますが、これは全く理解のできないところであります。  過去二年来のインフレ物価高の被害を受けているのは、一般勤労大衆や低所得層の人たちであります。このような人たちにとっては、昨年大幅なベースアップがあったとしても、依然として生活は苦しく、名目的な所得の上昇に伴う税負担は重いのであります。昨年、政府・自民党があれほど誇大に宣伝した二兆円減税が、狂乱物価のために色あせてしまった現在、その平年度化分で五十年度の物価調整減税を賄おうというやり方は、いかにしても納得できないものであります。  われわれは、昨年度の減税効果は昨年度に帰属させるべきであり、本年に繰り越すべきでないと考えるものでありますが、本年度の改正による減税は、いわゆる物価調整所要額の半額にすぎず、まさに超ミニ減税と呼ばれても仕方のないものであります。今後、本年のベースアップが行われれば、国民の重税感はまた一層増大するでありましょう。このような事態の中で、われわれは、さきに提案されました五十年分所得税臨時特例法案において、課税最低限二百八十万円を目途として税額控除を行うこととしておりますが、これは、現在の低所得層の生活実態を深く見きわめ、生活費非課税の原則の上に立って、国民の生活を守ろうとするものであり、これこそが勤労大衆の要望している税法改正案であります。  次に、法人税法関係におきましては、長年懸案となっております法人企業課税の基本的なあり方の確立と、それによる現行税制の見直しについて、政府が全く手をつけていないのはきわめて怠慢と言うべきであります。今回の政府改正案は、同族会社の留保所得課税の軽減のみを取り上げておりますが、これは今回で四年連続して行っている改正事項であり、中小法人の名目所得の増加に伴う物価調整的な意味を持つものにすぎず、とても本格的な中小企業対策と言えるものではありません。  法人税につきましては、現在百万を超える会社の中で、大、中、小の規模に応じて、その担税力に大きな差がありますから、その所得区分に応じて超過累進的な課税を行うことが適正な税制と言えるのであります。また、大企業に有利な受取配当の益金不算入制度や、特別措置により大企業の減税にのみ役立つ支払い配当軽課制度は、負担の公平の見地から速やかに廃止さるべきものであります。  次に、租税特別措置法改正案につきましては、いわゆる三大不公正税制の是正が国民的な要請であるにもかかわらず、その解決の仕方がきわめて不徹底であります。  第一に、医師の社会保険診療報酬課税の特例につきましては、昨年十月税制調査会が改善の方向を示して積極的な解決を図るべきことを答申し、さらに同十二月に具体的な改善策を定めて、五十年度改正で是非とも是正すべきであると答申しているにもかかわらず、政府はこれを実行していないのであります。これは非常に長い年月にわたる懸案事項であり、当委員会でも何度も議論を重ねてまいりました。税制調査会もしばしば改善方を答申しております。五万の税務職員は、納税者からその不公平性を指摘されて泣いてまいりました。これを除外して何のための税制改正かと言いたいのであります。三木内閣は、その金看板である社会的不公正の是正の面目にかけて、速やかに改正を行うべきであります。  第二に、利子配当課税の特例につきましては、源泉選択税率を五%上げただけで、これをさらに五年間も存続させようとしております。この特例が資産所得優遇の税制であり、総合課税という所得税の原則に反することは明らかでありますから、当然この時期に廃止すべきものであります。それを政府は、無記名預金とか架空預金が現存するという税務執行上の所得総合の難点を挙げて制度の存続を図っておりますが、架空預金などは本来脱税の隠れみのであり、これが横行するのは金融機関や証券業者の営業姿勢にも一半の責任があるのであります。それを正さずして、その前提のもとに制度を考えるのは、不公正の上に不公正を積み重ねるようなものであります。税制調査会の答申にも述べておりますが、五年間という長い検討期間を置くことなく、速やかに廃止に踏み切るよう政府に強く要求するものであります。  第三に、土地の譲渡所得課税の特例につきましては、改正案は相当に厳しい線を出しており、一応の評価をするものでありますが、土地の譲渡益は、近年の異常な土地の値上がりによるものであり、これを吸収することは所得再配分の見地からぜひとも必要なことであります。この意味で、高額の譲渡益につきましては、政府案の四分の三総合ではまだまだ手ぬるく、四分の四総合が望ましいと考える次第であります。  次に、農地の相続税の納税猶予制度の創設でありますが、わが党が前々から主張してきた懸案の実現でありますから、評価を惜しむものではありません。しかしながら、この制度の基本となる農業投資価格の意義が不明確であり、適用要件である農業継続年数にもいささか問題がありますので、税務執行の段階で十分の配慮が望ましいのであります。  最後に、公害対策としての低公害自動車に対する物品税の軽減でありますが、排出ガス規制基準の決め方に問題がある上に、今回の措置は、前回の特例の踏襲であり、公害対策としての何らの前進もなく、いかにもなまぬるいものであります。この際、基準に合わないものは高公害車として重税を課すべきであると考えます。  以上申し述べました理由からも、今回の税制改正案全体を通じて、高度成長税制から生活優先型税制への転換が見られないと断ぜざるを得ないのであり、かかる観点により、政府提案に係る三法律案に反対して、私の討論を終わります。(拍手)
  73. 上村千一郎

    上村委員長 増本一彦君。
  74. 増本一彦

    ○増本委員 私は、日本共産党・革新共同を代表して、政府提出の租税三法各改正案について、反対の立場を表明して討論をいたします。  今日、国民生活は、インフレ不況の同時進行という未曽有の困難な状態にあり、この二重の打撃のために、急増する失業倒産などきわめて深刻な事態であります。この危機を乗り切るためには、これまでどおりの経済政策の重要な柱の一つである租税政策についても、大企業本位の姿勢を改め、真に国民本位の税制の仕組みに転換させることが緊急の課題であり、このことを国民は強く要求しているのであります。  しかし、政府提案の租税三法各改正案は、依然として大企業と高額所得者優遇の税制を維持しあるいは強化して、国民の期待に背を向けたものになっているのであります。  まず、所得税法改正案について申しますと、政府案では、昨年課税されなかった人で、独身者の場合四%の賃上げ、標準世帯四人家族の場合には二二%の賃上げであれば課税されることとなり、さらに二〇%の賃上げがあった場合、四人家族で昨年の収入が二百万円の人は二万円、二百五十万円の人は三万二千円もの実質増税となるのであります。この結果、納税人口は雇用者の伸びを差し引いても約百三十万人以上の増加が見込まれており、大衆課税が一層強化されているのであります。  また、政府案によりますと、減税額は二千三百九十億円にすぎず、五十年度一般会計のうちの所得税自然増収額二兆八百五十億円のわずか一一・九%にしかならないのであります。このことは昨年の所得税改正で給与所得控除の上限を取り払い、累進税率を緩和し、高額所得者の税負担を著しく軽減したこととあわせて見るならば、自民党政府が推し進めている高福祉高負担路線の高負担自身が、勤労者、国民だけの犠牲で実現されようとしていることが一層明白になるものであります。  このような改正案ではなく、わが党は予算全体につき生活防衛とつり合いのとれた日本経済発展のための歳出増加と、大企業に対する特権的減免税の改廃や軍事費の大幅削減など歳入増加を詳細に検討し、昭和五十年度予算を国民本位のものに切りかえるための財源措置を現実に検討した中で、四人家族の課税最低限を二百五十万円にすることを強く要求したのであります。この点を重視することこそ、真に国民要求にこたえる道であり、この点から見るならば、政府案は改正の名に値しないものと言わなければなりません。  次に、法人税法の改正案についてであります。  政府案は、全体として大企業優遇の仕組みを何ら変えることなく、監査の強化を表向きの理由にしながら、実際は大企業の利益隠しや利益操作を制度的に合理化するさきの商法改正に沿って、法人税法上中間配当や納期限の延長を認め、一層大企業に有利な法人税法とするものであり、とうてい容認できるものではありません。  さらに、租税特別措置法改正案についてでありますが、第一に、利子配当所得の優遇措置についてであります。この制度は、税制調査会で不公平税制であり、総合課税への復帰の努力をすべきことが指摘されてからすでに久しいにもかかわらず、全くその努力を放棄したまま、本年に至ってもなお、技術的な問題を理由に、若干の税率引き上げがなされただけで世論の批判をかわし、この優遇措置をさらに五年間も延長しようとしていることは、絶対に認められないものであります。  第二に、大企業に対する特権的減免税をほとんどそのまま残し、省エネルギー設備について初年度三分の一の特別償却制度を創設するなど、新たに資源対策の名目で平等互恵の立場を無視した海外進出を優遇する措置を拡大するなど、大企業に対する優遇税制が一層強化されていることであります。  最後に、農地の相続税についてでありますが、かねてから農民から強い要求があり、相続に当たって農地を売却しなければ納税できない事態は絶対に避けなければなりません。農業発展のためにも、農地の評価についてわが党は農業収益を基本とすることを主張するものであります。政府案は、たとえば二〇%条項のごとく、なお相続税と譲渡所得税を二重に支払わなければならない条項を含んでいるなど、このことは、農家経営に重大な影響を与えるものであり、農民の要求に沿わない面があります。  以上の点を強く指摘し、政府提出租税三法案について反対の態度を表明して、討論を終わります。(拍手)
  75. 上村千一郎

    上村委員長 坂口力君。
  76. 坂口力

    ○坂口委員 私は、公明党を代表して、ただいま議題となりました政府提案の租税三法案に反対の討論をいたします。  政府は、昭和五十年度税制改正に対する政府の基本的姿勢として、当面する政治の最重要課題は、社会的不公正の是正にあることは論をまたないと公約しているのであります。  政府が真に公約した社会的不公正の是正を図る決意があるならば、その最も効果的な方法は、税制が本来持っている所得再配分機能からいって、高度経済成長を至上政策とした中で体系化された大企業や有資産者を優先する不公平税制を根本的に改革し、生活を優先する公平な税制の確立を行うべきであります。  しかるに、政府提案の租税三法案は、社会的不公正を是正するどころか、逆に不公正を拡大するものであり、このような税制改正に対する政府の基本姿勢は、国民に対する背信的行為であり、断じて容認するわけにはいきません。  次に、所得税についてであります。  現在、国民生活は、インフレ物価高、加えて不況の直撃を受け、生活が破壊されるという危機に直面しております。  こうした社会、経済状況下で、五十年度の所得減税をわずか二千億円程度の超ミニ減税にとどめたことは、国民の納得するところではありません。しかも、毎年行われてきた物価調整減税すら行わず、逆に大衆増税を図っているのであります。  その他、所得税については、自然増収に対する所得税の減税割合が一一・九%と過去十年間で最も低く抑えられているのであります。加えて、政府福祉税制の目玉とした障害者控除などは、二万円とか四万円とかいうわずかの控除額であり、税制改正の目玉などとはとうてい言えないものであります。  以上の理由から、政府所得税改正案に反対し、課税最低限を二百八十万円に引き上げ、高額所得者に対する課税強化を行うべきであります。  次に、法人税についてであります。  政府は、四十九年度の法人税改正でベターとしておりますが、その政府の法人税に対する認識は、国民が大企業に対する社会的責任を求めている現状を、全く無視しているものと言わざるを得ません。  税の公平化が求められている今日、大企業に対して、配当軽課、受取配当の益金不算入、各種引当金、準備金等の優遇措置を温存しようとすることは、税の公平化に逆行するものであります。  したがって、法人税については、税の公平化を図るために、日本社会党及び公明党が主張する軽減税率の適用区分を一千万円に拡大し、累進税率を導入し、しかも配当軽課措置の撤廃、受取配当の全額益金算入等を行うべきであります。  最後に、租税特別措置についてであります。  福祉社会への移行が叫ばれているとき、不公平税制の根本原因となっている租税特別措置を改廃し、総合課税方式をとるべきであります。  しかるに、政府は、期間の延長や、微調整にとどめ、租税特別措置を最も利用する大企業の税負担を軽くし、利用できない中小零細企業には、全く税の軽減にならないという税負担の割合の逆累進の状態を改めようとせず、従来からの大企業優遇策を堅持したことは、断じて容認することはできません。  以上述べました理由により、政府提案の租税三法案に反対する要旨を述べ、私の討論を終わります。(拍手)
  77. 上村千一郎

    上村委員長 竹本孫一君。
  78. 竹本孫一

    ○竹本委員 私は、民社党を代表いたしまして、ただいま議題となりました政府提案に係る租税三法の各一部改正法律案に対して反対の討論を行うものであります。  昨年来の物価高とスランプフレーションの中にあって、国民生活は非常に厳しさを加えておりますが、今回の租税改正は、これらの多くの国民の要請に必ずしもこたえているとは言いがたいのであります。  まず、所得税法の改正については、人的諸控除の引き上げ、退職所得の特別控除の引き上げ、白色申告者の専従者控除の引き上げ、医療費控除の拡充、山林所得等の特別控除額の引き上げ等所得税負担の軽減を図ろうとする努力は、事務的には一応評価するものでありますが、これらの所得税の減税額は二千四百八十億円でありまして、これを昨年度の減税額に比べると余りにも格差があり、均衡と整合性に欠けるものと言わざるを得ないのであります。税額控除方式によるインフレ弱者の救済と所得の再分配が絶対に必要であります。インフレによって富める者はますます富み、貧しい者はますます貧困に陥っている現在の社会情勢に対して、不公正是正の姿勢がはなはだ欠けていると思われることは遺憾であります。  私どもが熱心に要望している富裕税の創設についても、政府はきわめて消極的で、税制調査会の審議に諮ることさえもしようとしないその態度は、全く理解できないのであります。  次に、法人税法の改正につきましては、同族会社の留保所得課税についての定額控除額を現行の一千万円から一千五百万円に引き上げた程度でお茶を濁し、多段階税制の導入や法人の支払い配当軽課制度や受取配当の益金不算入制度等大企業に有利な法人税制の改正問題については、今回も何ら検討の跡や前進が見られず、これを避けて通った感があるのであります。  さらに、租税特別措置法の改正につきましては、三大不公正税制と言われる利子配当課税と土地譲渡所得課税については、その改善、合理化に一歩を進めたことも事実でありますけれども、社会保険診療報酬課税の特別措置についてはこれを見送っております。その他、既存の租税特別措置の整理、合理化もきわめて不十分であります。  また、法人の支出する交際費等につきましても、一兆数千億円にも及ぶその支出額は過大に過ぎるので、もっと交際費課税の強化を図るべきであったと思われます。  以上の理由によりまして、今回政府提出に係る租税三法案はきわめて不十分なものとしてこれに対して反対の意向を表明して、私の討論を終わります。(拍手)
  79. 上村千一郎

    上村委員長 これにて討論は終局いたしました。     —————————————
  80. 上村千一郎

    上村委員長 これより順次採決に入ります。  まず、所得税法の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  81. 上村千一郎

    上村委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決いたしました。  次に、法人税法の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  82. 上村千一郎

    上村委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決いたしました。  次に、租税特別措置法の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  83. 上村千一郎

    上村委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決いたしました。     —————————————
  84. 上村千一郎

    上村委員長 ただいま議決いたしました所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案及び租税特別措置法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党、日本社会党、日本共産党・革新共同、公明党及び民社党を代表して村山達雄君外四名より附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  この際、提出者より趣旨の説明を求めます。山田耻目君。
  85. 山田耻目

    ○山田(耻)委員 ただいま議題となりました所得税法の一部を改正する法律案法人税法の一部を改正する法律案及び租税特別措置法の一部を改正する法律案に対する附帯決議案につきまして、提案者を代表して簡単に御説明申し上げます。  この決議案は、今後において中小所得者の所得税負担を軽減し、また法人税の基本的あり方を検討することの必要性を認め、医師課税の特例の合理化、税務職員の処遇改善等とともに、政府の十分な努力を要請するものであります。  個々の事項の趣旨につきましては、法案の審査の中で明らかにされており、大要は案文で尽きているものと考えられますので、案文朗読により趣旨説明にかえさせていただきます。  一、政府は、今後においても、所得、物価水準の推移等に即応し中小所得者を中心とする所得税負担の軽減合理化(配偶者控除の適用要件である配偶者の所得限度の引上げ等を含む)に努力すべきである。  一、通勤手当の非課税限度額については、通勤の実情の推移に応じ、適宜見直しを行うべきである。  一、深夜労働に伴う割増賃金については、一定の非課税限度を設けることの是非について検討すべきである。  一、法人の受取配当益金不算入制度及び支払配当軽課制度等法人課税の基本的あり方や利子配当課税の総合課税の方向について今後さらに検討を進めるべきである。  一、社会保険診療報酬課税の特例については、その合理化について早期に実現を図るべきである。  一、交際費の支出が社会に与える影響にかえりみ、課税の強化措置につきさらに検討すべきである。  一、社会福祉充実の見地から、住宅、年金及び高公害車等に関する課税の合理化を検討すべきである。  一、医療費控除のいわゆる足切り限度額については、そのあり方につきさらに検討すべきである。  一、政府は、変動する納税環境の下において、複雑、困難で、かつ、高度の専門的知識を要する職務に従事している国税職員について、職員構成の特殊性等従来の経緯にかんがみ今後ともその処遇の改善に一層配慮すべきである。 以上であります。  何とぞ満場一致の御賛同をいただきたく、お願い申し上げます。
  86. 上村千一郎

    上村委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。  お諮りいたします。  本動議のごとく附帯決議を付するに御異議ありませんか。
  87. 上村千一郎

    上村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  本附帯決議に対し、政府より発言を求められておりますので、これを許します。大平大蔵大臣。
  88. 大平正芳

    ○大平国務大臣 ただいま御決議のありました事項につきましては、政府といたしまして御趣旨に沿って十分配慮いたします。     —————————————
  89. 上村千一郎

    上村委員長 お諮りいたします。  ただいま議決いたしました各法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。
  90. 上村千一郎

    上村委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————     —————————————
  91. 上村千一郎

    上村委員長 次回は、来る二十五日火曜日、午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後二時十三分散会