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1975-02-14 第75回国会 衆議院 大蔵委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年二月十四日(金曜日)     午後三時開議  出席委員    委員長 上村千一郎君    理事 伊藤宗一郎君 理事 浜田 幸一君    理事 村山 達雄君 理事 山下 元利君    理事 山本 幸雄君 理事 佐藤 観樹君    理事 増本 一彦君       越智 伊平君    大石 千八君       奥田 敬和君    鴨田 宗一君       瓦   力君    小泉純一郎君       塩谷 一夫君    野田  毅君       原田  憲君    坊  秀男君       宮崎 茂一君    村岡 兼造君       毛利 松平君    高沢 寅男君       武藤 山治君    村山 喜一君       山中 吾郎君    横路 孝弘君       小林 政子君    坂口  力君       広沢 直樹君    竹本 孫一君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 大平 正芳君  出席政府委員         大蔵政務次官  森  美秀君         大蔵省主計局次         長       辻  敬一君         大蔵省理財局長 吉瀬 維哉君         大蔵省国際金融         局長      大倉 眞隆君  委員外出席者         参  考  人         (日本銀行総         裁)      森永貞一郎君         大蔵委員会調査         室長      末松 経正君     ――――――――――――― 委員の異動 二月十三日  辞任         補欠選任   松浦 利尚君     下平 正一君 同日  辞任         補欠選任   下平 正一君     松浦 利尚君     ――――――――――――― 二月十二日  相続税法の一部を改正する法律案内閣提出第  二号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 二月十二日  国有地等管理委任事務改善に関する陳情書  (第四号)  貸金業金利引下げに関する陳情書  (第五号)  昭和五十年度税制改正に関する陳情書外二件  (第五一号)  預貯金金利物価スライド制創設に関する陳情  書外一件(第  五二号)  農地等相続税軽減措置等に関する陳情書外一  件(第五三号)  農業所得税課税措置に関する陳情書  (第  五四号)  清酒等酒税増徴反対に関する陳情書外一件  (第五五号)  付加価値税新設反対に関する陳情書外一件  (第五六号)  法定外公共物管理適正化に関する陳情書外一  件(第五七号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和四十八年度歳入歳出の決算上の剰余金の処  理の特例に関する法律案内閣提出第一号)  金融に関する件      ――――◇―――――
  2. 上村千一郎

    上村委員長 これより会議を開きます。  金融に関する件について調査を進めます。  本日は、参考人として日本銀行総裁森永貞一郎君が出席しております。  森永参考人には、御多用中のところ御出席いただき、まことにありがとうございます。最近の金融事情等について、何とぞ忌憚のない御意見をお述べいただきまするようお願い申し上げます。  なお、御意見十分程度にお取りまとめいただき、その後委員からの質疑にお答え願うことといたしたいと存じます。何とぞよろしくお願い申し上げます。森永参考人
  3. 森永貞一郎

    森永参考人 昨年十二月十七日に総裁に新任されました森永でございます。当委員会には、日本銀行といたしましてかねがね大変お世話になっておりまして、感謝にたえません。新任の私、もとより至って不敏、未熟の者ではございますが、何とぞよろしく御指導、御鞭撻を賜りますようお願い申し上げる次第であります。  最近の国内経済動向につきまして所見を申し上げ、あわせてこれに処すべき日銀運営方針などにつきまして、簡単に申し上げたいと存じます。  日本銀行は、物価の安定を実現するために昭和四十八年初め以来金融引き締めを続けてまいりましたが、特に四十八年の十二月には石油問題の発生に伴う仮需要の増大、物価高騰といったような情勢に対処いたしまして、公定歩合を大幅に引き上げるなど引き締めを一段と強化いたしました。こうした引き締め効果は漸次実体経済面に浸透いたしまして、昨年の春以降需給緩和した状態を続けております。  ただ、昨年秋ごろから個人消費設備投資などの最終需要の不振と在庫調整動きを反映いたしまして経済停滞色を濃くしており、各業界減産強化にもかかわりませず、メーカー製品在庫はなお増勢を続けておる状況でございます。このため、最近では多くの業界不況感が広がりまして、また雇用調整動きも顕著に出てきておるのでございます。  このような経済動きを反映して、石油ショック直後異常な高騰を示しました卸売物価も次第に落ちつきを取り戻し・月々の上昇率は昨年春ごろの〇・六、七%から昨年の暮れごろには〇・二、三%まで縮小し、さらにこの一月には三年ぶりに〇・四%の下落を示しました。また、消費者物価も、昨年秋ごろまではいろいろなコスト上昇季節商品の値上がりというようなこともありまして、根強い騰勢を続けてきたのでありましたが、最近は上昇幅が漸次縮まってまいりまして、ようやく鎮静化兆しがうかがわれるのであります。  しかしながら、私どもは、物価先行きにつきましては、まだまだ安心できない状態だと思っております。コスト圧力が依然として根強く、一般インフレ心理も十分に払拭されたとは言い切れない状態でございまして、決して楽観を許さないと思うのでございます。現状は、ここ数年来燃え上がってまいりましたインフレ心理が本当に鎮静して、真の物価安定の実現ができるのかどうかという山場とも言うべき大切な時期であると考えるのでございまして、ここでもし九仭の功を一簣に欠くといったようなことになっては大変なことでございますので、そういうことにならないよう、私どもといたしましては引き締め基調を維持していかなければならないと考えておる次第でございます。  ただ、引き締めもここまで浸透してきますと、従来以上に経済各般動きに注目し、必要な手当てを行っていくことが大切であることは申すまでもありません。この点、政府におかれましても経済の実態に即した対策をいろいろと検討しておられるのでありますが、私どもといたしましても窓口指導等運営に当たりましては、どうしても必要な資金は供給していく方針で臨んでおりますので、金融の量的な面から問題を生ずるようなことはまずないと思っておるのでございます。また、中小企業金融住宅金融につきましては、窓口指導の大枠の中でなるべく優先的に資金配分を行うよう金融機関指導してまいりましたが、今後ともこうした指導を続けるとともに、経済停滞に伴うもろもろの現象につきましては、個別の事情に応じまして、従来以上に一層きめの細かな配慮を払ってまいる所存であります。  以上、当面の金融政策運営について申し上げましたが、今後やや長い目で見ましても、わが国経済は、資源、エネルギーの制約であるとかあるいは公害問題などいろいろな条件の変化から、かつてのような高度成長は望めない状態に立ち至っておることは申し上げるまでもありません。もちろんいまの景気がいつまでも現在のような停滞を続けるわけのものではなく、いずれ回復に向かうと思われるのではありますが、その場合にも、これまでの景気変動に見られたようなV字型の回復を望むことは困難でございまして、きわめて緩やかな回復にとどまると思われるのであります。  また、私どもといたしましても、日本経済の直面する種々の制約要因考えますと、中期的にも抑制ぎみ政策運営を続けていかない限り真の安定は望み得ないと考えておる次第であります。この点、一般経済界には苦しい時期がまだまだ続くということを念頭に置いていただきまして、経営の合理化企業体質改善に真剣に取り組んでいただきたいと考えておる次第でございます。  最後に、対外面の問題でありますが、わが国国際収支は、石油代金の支払いの激増にもかかわりませず、貿易収支中心として昨夏以降著しい改善を示してまいりました。しかしながら、経常収支は依然として大幅な赤字基調にありますし、また今後は、主要工業国景気停滞発展途上国外貨不足などの面からわが国の輸出が鈍化していく可能性も大きいのでございますので、わが国にとって国際収支問題は、本当にむずかしくなるのはむしろこれからではないかと考えております。  ただ、こうした国際収支問題は、石油価格大幅引き上げ背景として出てきておるだけに、各国共通の悩みになっておるのでございまして、基本的には国際協調のもとでじっくり時間をかけて取り組んでいかなければならないと思います。この点、去る一月のワシントンの会議で、IMFのオイルファシリティーの拡大であるとかあるいは先進国間の金融相互援助機構創設などにつきましては大きな進展が見られましたことの意義は、大変大きいと考えます。私どもといたしましても、国際協調の精神に即し、各国の理解を得ながら、国内面でも国際収支面でも安定した経済実現努力していく必要があると痛感をいたしておる次第でございます。  以上、最近の経済情勢と当面の政策運営につき所見を申し上げましたが、私どもといたしましては、物価の安定を定着させ、経済を安定した軌道に乗せるために、金融政策の適切な運営に全力を傾け、日本銀行に与えられました責務を全うしていく決心でございます。  以上、大変簡単でございますが……。     —————————————
  4. 上村千一郎

    上村委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。佐藤観樹君。
  5. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 森永参考人、きょうは御苦労さまでございます。  いまお話がございましたように、いま何といっても政策重要課題は、このインフレの克服と同時に片方で起こってくる不況をどうしていくか、この二面の問題をどうやって解決をしていくかということでございます。もちろん金融だけの話ではございませんが、私が総裁にお伺いをいたしますのは、金融のサイドでどういうふうにこのぎくしゃくとした部分を直していくかということになろうかと思うのであります。  私は、第一点としてお伺いをしたいのは、現在のこのインフレ不況というものを短期的にどういうふうに克服していくか。それと同時に、もう少し背景に、いまの日銀というものの中立性独立性機構、こういったものは果たして十分であろうかどうか。大きく言ってこの二点にわたってお伺いをしたいと思うわけであります。  まず第一点の、現在の経済状況でございますけれども、いまお話がございましたように、確かに当初総需要抑制策で目標といたしました卸売物価消費者物価、これはある程度成果が出ているのではないか。たとえば経済企画庁の二月十二日に発表になりました月例経済報告、これによりましても、卸売物価は一月に対前月比の〇・四%下落、これを対前年同月比にしますと一〇%程度上昇ではないか。このままでいくと、うまくすれば三月の末には対前年同月比一三%台の物価上昇で抑えることもできるのではないだろうか、こういう見通しが出ているわけです。それから消費者物価にしましても、季節商品を除きます総合で、東京都の区部指数が一月には〇・二%下がっているわけですね。こういったことを見ますと、当初の目的である総需要抑制策効果というものが、卸売物価なり消費者物価には確かにあらわれてきている。これはもう私は事実だと思うのですね。  それと同時に、片方では、確かにそういった物価の面では顕著にあらわれてきましたけれども、これだけの成果をあらわすためにはかなり経済に無理をしてきている。その無理が非常に出ているわけで、その部分はやはり考えなければいかぬだろう。この部分不況というものに結びついてきているわけでありまして、たとえば鉱工業の生産を見ても、昨年の十一月、十二月は、対前年同月比一〇%以上減少している。  お話がございましたように、消費需要についても、百貨店の販売額を見てみましても、昨年の十月から十二月は前月比一・二%減と、かなり大型ボーナスがありましたけれども、実質的には減少になっている。設備投資にいたしましても繰り延べが続いている。  それから労働需給求人倍率がもう一を割るどころか〇・八〇と大変な数字になっているわけですね。失業者数が大体百万人じゃないか、このくらいの飛び抜けた数字になっておりますし、企業倒産についても千三百件台の大台に出ている。これはもう四十三年不況のときに三月に記録をした千四百三十二件という最大の倒産件数に迫っているわけであります。  それから在庫も、いま総裁からお話がございましたように、引き続き増加をしていって、十二月の生産者製品在庫率指数が一四五・一、前月に比べて八・六%なお上昇しているわけですね。こういうことで、いまお話がございましたように、在庫調整も一月から三月くらいに済むんではないかというのが四分の一クォーターずれてきている。  物価は確かに下がった。消費者物価卸売物価もある程度下がってきたけれども片方の面ではかなりオーバーキルのところが出てきている。これは経済企画庁数字を使った現状でありますけれども、この辺の認識について、まあこれが一番景気の底なんだ——これから詳しくお伺いをしますが、財政支出をする、あるいはお話がございましたように、金融についても量的には年末の金融、あるいは政府がきょう決めましたように、中小企業に対して七百億ですか、低金利特別融資をする、こういうようなことで、この辺の条件をある程度続けるならば、この辺が景気の底なんだ、あるいはさらに、まだまだこれは、いま申しましたように在庫調整が半旬ずれておりますから、もう少しひどくなるんだ、この辺のいまの景気状況というものを端的にもう少し表現していただくとどういうような表現になるんだろうか、もうそろそろこの辺で太陽が見えるようになるのだろうか、その辺のまず概括的なことからお伺いしたいと思うわけです。
  6. 森永貞一郎

    森永参考人 景気予測というのはなかなかむずかしい問題でございまして、私も自信を持って必ずこうなるというふうには申し上げにくいのでございます。  お説のように、もう二年余にわたる引き締めの結果、景気停滞し、最近非常に不況感が浸透してきたことはまさにそのとおりでございまして、先行きにつきましていろいろと暗い予測をせられる向きもあるのでございますが、私は、いま進行中の在庫調整も、若干これは私どもが当初考えたよりもおくれぎみではございますが、そういつまでも続くものではございますまいし、また個人消費も、先々もう消費者物価がそんなに上がらないんだ、物価鎮静化したんだというような状態が来ますれば、将来に対する不安感も薄れて、そのための消費の控えといったようなことも幾分傾向としては変わってくることでございましょうし、また財政の面、何しろ二四%前後の財政の膨張になっておるわけでございます。もちろん公共事業費その他の刺激的な経費の増加はわりに少ないのでございますが、そういう大型予算影響というようなこともございますし、それが下支えになるということも考えられますので、いま以上にスパイラル景気が降下していくということではないのではないかというふうに考えております。  それでは、いつになったら景気回復するかというお尋ねでもあろうかと存じますが、その辺のところはなかなか、景気予測はもともとむずかしい問題でございまして、自信を持って何月からというようなことは申し上げない方がよいかと存じます。ただ、累積的にスパイラルに悪くなるようなことはないのではないかということだけを申し上げまして、お答えにいたします。
  7. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 産業界あるいはわれわれの働く側から言ってみても、少し金融緩和しなければいかぬではないかという基調を踏まえて私も御質問をするわけでありますが、先ほどのお話の中に、まだまだ需給が逼迫をしてくればコストが上がる要因というもの、インフレをさらに強くする側に働く要因というものが残っているんだ、あるいは一般の中にもインフレに対する感じというものが非常にまだ強いんだ、こういうことが直接金融緩和に対して、まだ少し考えさしていただきたいという、そういう表現は使われませんでしたが、あったように私は思うわけであります。  その中で考えなければいかぬことは、一部で言われておりますように、たとえば石油とか化学、こういったところにかなりまだ根強い設備投資意欲がある。  かなり全体的な設備投資も先に延ばし延ばしになっておりますが、石油とか化学など、こういった一部の基幹産業にはまだかなり根強い設備投資意欲というものがあるんだ。だから、もしここで金融を緩めるというと、これは量の問題と質の問題がございますから非常にむずかしいのでありますが、まだまだこれだけの設備投資意欲があるから、物価が再燃する火種になるおそれがある。そのくらいいまの日本経済の中で、まあ例として石油なり化学なりのこういった基幹産業設備投資意欲というものはまだかなり強いんだ、そういう判断というのはおありなんでしょうか。
  8. 森永貞一郎

    森永参考人 設備投資についてのお尋ねでございますが、現状大分設備投資意欲が冷え切っておるのは事実だと存じます。ただ、鉄などの基幹産業におきましては、将来における供給不足というようなことも考えまして、当面のところまだ設備投資計画を繰り延べるあるいは削減するといったようなことは考えていないようでございます。  その他産業の種類によりましていろいろでございますが、いまの冷え切ったこの投資意欲がこのままでずっと続くのかどうか、その辺のところはいろんな見方ができると思うのでございまして、十一、十二月には設備投資先行指標である機械の受注統計では二〇%足らずではございますが、前月よりも増加いたしました。もっともこれは十月、十一月の落ち込みがひどうございましたので、十月−十二月を通期で見ますと、前年同期よりもかなり落ち込んでおるようでございますが、一−三月のこの予測数字経済企画庁でとっておられるようですが、それによりますと、四五%の増加、もっともこの予測統計は余り当てにならないようでございまして、昨年の達成率はこの予測の半分ぐらいということでしたから、この四五がいまの基調であるというふうには私ども考えません。やはり相当低い線を低迷するかと存じますが、十二月までに見受けられたような低迷した状態がいつまでも続くかというと、どうもそうでもないような気配もあるわけでございます。  なおまた、二月になりましてからの市況商品動きを見てみますと、そのころから新聞紙上緩和のかけ声が出始めたわけてすが、それだけが原因でもございますまいが、鉄鋼とか繊維、セメント等々の、なかんずく鉄鋼繊維でございますが、大変強調的な様相があらわれてまいりまして、棒鋼のごときは七、八千円もこの月初来上がってきておる、これは実需じゃなくて仮需的なものが多いように聞いております。  したがって、それをもって全体を推しはかることはできないと思いますが、そういうところに緩和をすれば、また一遍に物価が噴き出すような要素が多分に残っておるような感じがいたします。  さらにはまた、各産業メーカー動きでございますが、需給緩和のいまの状態では値上げは抑えられておるわけですけれども、一たび需要が刺激されますれば、それを好機として値上げをしたいという動きが幾多の業種において見受けられる。それがいまの需給緩和状態で辛じて抑えられておるというような状態でございますので、なかなかまだ安心はできない。  もちろん、コスト圧力の中で、当然、価格に転嫁しなければならないものもあるわけですが、それが一度に噴き出してまいりますと、また物価の急騰を招き、国民のインフレ心理もあおるということになりかねないわけでして、少し時間をかけて、そしてその間にコストアップをできるだけ吸収する努力企業側にもしていただいて、なだらかな形で経済運営していく、そのためには、現在、引き締め基調緩和できないというのが私ども考え方でございます。
  9. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 やはりお伺いしていると、かなり警戒心現状のこの設備投資中心とするところに総裁が持たれているというのがだんだんはっきりしてきたわけですが、昨年の年末に米代金あるいは額だけはかなり大型ボーナスが出ているわけですし、公務員のいろいろな差額も出ているわけですから、何十億という数字になるものが、本来は個人消費に出るはずであるわけですけれども現状では出ていない。これがある程度物価が落ちつけば、個人消費に回ってくるという可能性もあるんじゃないかと私は思うわけですね。それからいまの設備投資の問題、あるいは政府がやる財政支出、あるいは若干日銀においても金融緩和兆しではないかと思うようなことが出ているわけですね。  つまり、いま総裁からお話がございましたような設備投資あるいは昨年年末からの個人に回った分の個人消費動向、それから日銀の、金融緩和という言葉はお使いにならぬでしょうが、金融支出といいますか、量の若干窓口を開いた状態で、日本経済というのは果たして自律的に、私はV字型まで回復する必要はないと思いますが、自律的な回復の力というのがあるんだろうか。現状財政支出あるいは金融こころもち緩和、このままでいいんだろうか、日本経済自律回復の力はどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。
  10. 森永貞一郎

    森永参考人 自律的回復というのは、一体、正確に言ってどういうことなのか。なかなかむずかしい問題であると思いまして、私も余り自律的回復という言葉は使わないようにいたしておるわけでございますが、先ほども申し上げましたように、まあ時間がかかる、かからないの問題はございましても、いまのような状態がそう長くいつまでも続くわけじゃございますまい。いつの日か回復する。ただ、それが少し遅過ぎないかどうか。その間に多少でも摩擦現象に対する救済措置などを講じて、余り急激な落ち込みを防ぐ必要があるかどうか、そういう問題じゃないかと思うのでございます。  私どものところにもよく財界の方々からいろんなお話がございますが、どうも最近は金よりも仕事だというような感じお話が多くなりまして、金融の方を大幅にゆるめろという話よりは、何かやはり仕事が欲しいんだ。そこで政府でも、たとえば住宅金融公庫の枠をふやすとか、公共事業完全消化努力するとかいうような対策をお考えになっておられるようでございますし、私どもの方でも、ごく一部の業種あるいは企業で何か問題があって、その影響が大変大きいというようなものについては、きめ細かい弾力的な措置を講ずる、いわば摩擦面現象に対しましては手を打っていくというようなことでございまして、それによって落ち込みもこれ以上激しくなることはございますまい、そのように努力をしなくちゃならぬと思いますし、そういうことがございますれば、ほうっておけば少しおくれるはずの回復も幾分早まるといったようなことはあるかもしれません。そんなようなことで、いま政府でもこの摩擦現象に対する対策がいろいろと論議せられておる段階だと存じます。
  11. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 いま総裁の御発言の中にありましたのですが、私もずっと総裁就任以来、記者会見やら講演の、新聞記事でございますけれども、追ってみますと、総裁のお考えの中に、いままさにお話のございましたように、現状の場合、金融手当てをするよりも、むしろ即効性のある財政手当てをすべきではないか、こういう発言があるように新聞記事を通して私は見るわけでございます。  確かに即効性の面でいきますと財政の方があるわけでございますけれども、しかし財政も、きょう決めたようでありますが、あと残りのものを全部使い切れ。ところが、地方財政の方もかなり厳しいものですから、事実上国が独自でやる仕事しか財政の方にもそうないのではないだろうかということが言われているわけですね。ですからその辺の問題、財政も頼るといってもあまり頼れないのじゃないかという側面が一つあります。  それと同時に、金融をある程度緩めるということによって、これだけ金融が迫っているからというので延ばしていた設備投資を、六カ月延ばしていたのを三カ月に縮めようかとか、もう少しやろうかとか、こういった効果も、金融緩和というのは私から申すまでもなくあるわけですね。  その辺のところで、総裁のお言葉の方に、現状では金融緩和金融政策よりも財政政策で手を打つべきだ、むしろそちらの方を重視すべきだ、これだけ冷え込んでくると金融をつけてもしようがないのではないか——しようがないという御表現はなさっていませんが、あるのではないかというふうに感じるわけなんですが、その財政金融かという問題、これについてはどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。
  12. 森永貞一郎

    森永参考人 金融引き締めは確かに厳しいのでございまして、大企業中小企業も大変苦しい状態に置かれておることは申し上げるまでもないのでございますが、最近の様子で感じられますことは、一ころのような資金需要増加の勢いがやや鈍ってきておるような感じもいたすわけでございます。これは特に中小企業は小回りがきくというような関係もございましょうか、早く現在のような大勢に順応する体制を整えてこられた、しかも前向きの資金需要はまだそんなに強くないというようなことなど、一ころに比べると苦しいには苦しいのですが、資金需要の増勢がやや鈍ってきておるような感じもしないではないわけでございまして、このところ、一、二月、いままでのところでは、金融は至って平穏に推移しておるように見受けられます。  もちろん問題がないわけではございませんので、その問題に対しましては、きめ細かく対処をして、摩擦現象から大事に至らぬようにということに配慮しておるわけでございますが、そういう配慮の影響もございましょう、小康を得ておる。皆さんがいまおっしゃっておることは、もう金融について政策を転換しろとか緩和しろとか言う前に、むしろ仕事の方のことを考えてくれというようなニュアンスが出かけておるような感じでございまして、政府の今度の対策でも、住宅問題あるいは公共投資等の面でこたえようとしておられるわけでございますが、それによっていまの物価上昇に悪い影響はほとんどないのじゃないかというふうに考えて、結構なことではないかと思っておるわけでございます。  ただ、先ほどもちょっと申し上げましたが、いままでと違ってこれからの日本経済は、資源の制約、立地問題、公害問題等いろいろなことを考えますと、昔のような高度成長は許されないのでございまして、経済運営も抑制的に持っていかざるを得ない。その中での金融政策のあり方といたしましては、引き締めぎみに推移しなければならぬわけでございまして、そういうような事情もあわせ考えまして、当面のこの物価情勢も先ほど申し上げたとおりでございますが、現在のところ、私どもといたしましては、当面金融引き締め基調を変えるべきではないというふうに判断をいたしておるわけでございます。
  13. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 ちょっと観点を変えるのですけれども、そもそも総需要の抑制が物価の安定ということで始まったわけでありますが、かなり現状としてはオーバーキルになってはいないだろうかというその認識の問題が、どのくらいのオーバーキルかが問題なわけでありますけれども、私は物価安定ということから来た総需要抑制では、ある程度もう物価に対する効果というのは来てしまったのではないだろうか、総需要の抑制策ということで物価を安定させるという政策的な限度というのはこれぐらいではないだろうか。もしこれ以上やれば、それは確かに下がりますけれども、そのかわり倒産がふえ、失業者が町にあふれるというような状況になって、まさにオーバーキルで悪影響の方が大変強くなると思う。  そこで、物価の安定ということを考える場合には、たとえば独占禁止法を強くするなり、あるいはそのほかのいろいろな施策が複合的になって初めてできることであって、もう総需要の抑制策による物価の安定というのはこのぐらいが限度ではないか、私はこういう感を持っているわけなんですが、その点についてはいかがお考えでございますか。
  14. 森永貞一郎

    森永参考人 一時のようなひどい狂乱的物価高騰、しかも仮需要ないしは需要が牽引していくようなデマンドプル型のインフレーションのときには総需要抑制策効果が非常に大きかったということは、もうおっしゃるとおりでございます。デマンドプル型でなくてコストプッシュ型のインフレーションということになってまいりますと、デマンドプル型の対策だけでは効果が十分上がり得ないという点も、おっしゃるとおりだと思います。  したがって、私どもといたしましては、金融政策だけがこの際物価抑制のブレーキになるということでなくて、いろいろな意味でのコストが上がらないようにという対策が必要になってくる、その意味で、経済界、各方面の御協力をいただかなくちゃならぬと思いますし、特に賃金のあり方などについてこの辺で冷静に労使双方が考えていただくことが必要だと思うのでありますが、しかし、先ほど来申し上げておりますように、現在の価格体系の中にはコストプッシュの圧力が非常に大きく潜在しておって、それがまだ価格に転嫁されないで抑え込まれておる。それは総需要抑制の結果そうなっておるわけでございますので、もしここで総需要抑制のおもしを取り下げますと、そのコスト圧力が一度に噴き出して、安易に価格に転嫁されるような雰囲気がまだ残っておる。いわば転嫁がされにくいような、火事が燃えつきにくいような、湿度の高い経済を当分維持しなければならないと考えておるわけでございまして、その意味で、やはり総需要抑制型の経済を当面、もちろん中期的にも、日本経済としては維持しなければならないような段階にある、私はそう考えます。
  15. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 いままで日銀の方でもそれなりの、オーバーキルにならぬ程度の、摩擦を調整なさるために、一番最近でも、たとえば銅の業界への窓口規制を若干広げる、あるいは都銀の昨年十月−十二月分の窓口規制の枠を二百七十億、ことしの一月−三月の分を昨年先食い、と言うのだそうですけれども、なさる。これは、ある面ではオーバーキルにならぬ、摩擦を除去する——おそらく緩和という言葉は使われぬと思いますが、微調整と申しますか、窓口規制の枠自体をある程度さわられているように私は感ずるわけですね。  その辺で、総裁から緩和をするという発言があると、これまたいままでお話があったように、一挙に火がついて、またまた値上げの火種になりかねないわけでありますけれども、それでは一体緩和の度合いにもよりますけれども、そろそろ少し手綱を緩めてもいいのではないだろうかというような指標と申しますか、いまじっとウォッチされているところだと思いますけれども、何を一番重要な指標として、これはもう少し急速に金融緩和を進めなければいかぬなと、もう一歩前に日銀が踏み出す状況というのは、たとえばどういうふうになったら総裁が安心して金融緩和をしましょうという、大変むずかしい質問ですが、その辺はいかがでございますか。
  16. 森永貞一郎

    森永参考人 繰り返して申し上げますが、まだ緩和の時期ではない。ただし、摩擦現象に対しましては、その影響が深刻化して、それこそオーバーキル的な状態にならないようにきめ細かく対処していく。これは金融の面だけでなくて、財政面もそうだと思っております。そういう段階でございまして、緩和とは思っておりません。そういうきめ細かい弾力的な措置を図ることは緩和ではなく、むしろ引き締め基調そのものを維持するために必要な摩擦排除の手段であるというふうに考えておるわけでございます。  したがいまして、いま緩和のタイミングについてどう考えているかというお尋ねでございますが、いまは緩和のタイミングを考えるような段階ではない、そういうことを日程に上すべき時期では全然ないというふうにお答えをせざるを得ないのでございます。
  17. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 どうもなかなかむずかしい論議で恐縮なんでございますけれども総裁の頭の中に、これ以上景気が冷え過ぎたら大変だ、取り返しがつかなくなる、火種さえもなくなってしまって、設備投資も全く全部なくなってしまったら、また取り返すのに逆の意味で大変なことになる、こういう認識があられないかどうか。  それと、西ドイツにおいても、アメリカにおいても、かなり金融緩和というのが進んできているわけですね。そうしますと、当然、金利差が出てくるわけでありますけれども、こういった内外の金利差の拡大によって、外資が日本に流入してくる。そうなると、当然、外貨準備が日本は非常に高くなってくる。そういったことで、外国から金融引き締め緩和を求める外圧と申しますか、圧力と申しますか、これが出てくるのじゃないだろうか、こういう心配もあるわけでございますけれども、その辺の景気の冷え過ぎの問題、それと、そういった意味での外圧についてはどういうふうに認識なさっているか、お伺いしたいと思います。
  18. 森永貞一郎

    森永参考人 先ほど九仞の功を一簣に欠かないようにがんばっているのだということを申し上げましたが、と同時に、角をためて牛を殺すことも困るわけでございますので、本当におっしゃるように、経済が失速して転換をはかろうにも立ち上がる能力がないような状態まで冷え込ませることは、考えものだと思います。しかし、私はいまはそういう状態ではない、そういう心配はないというふうに申し上げておるわけでございます。  なお、海外との関係でございますが、お話のように、西ドイツ、アメリカとも、昨年末から二カ月ちょっとの間に三回ぐらい公定歩合を引き下げたのでございますが、これは各国の特殊な事情がございます。  西ドイツについて申し上げますと、御承知のように、西ドイツの政府物価対策を大変万全な体制で運用してまいりまして、また国民もインフレに対する抵抗感が大変強いというようなことがございまして、厳しい政府物価抑制策を耐え忍び、物価が一番早く安定したことは御承知のとおりでございます。その反面、ドイツとしては二、三十年来の失業者が出るような不況状態がいま起っておるわけでございますので、そのほうの手当てをするために、若干金融緩和をしなければならない。しかしながら、物価騰貴抑制の努力を、もちろんこれによって放棄するわけではございません。依然として中央銀行の頭の中には、インフレ抑制第一ということが厳存するわけでございますが、ちょっと緩和をして不況の度を少し過ごさないようにということを考える余裕があった、こういうことだろうと思います。  アメリカの場合は、決してそんな余裕はまだないと思います。悪くすればまたインフレが再然するような恐れもあるのですが、しかし、これまた二十何年来の失業者の激増、八・二%というあの高い失業率はほんとうにだれしも予測しなかったことじゃないかと思います。そういう現実の不況現象の行き過ぎということに対処いたしまして、二カ月余りの間に三回という非常に頻繁な公定歩合の引き下げに踏み切らざるを得なかった。しかし、このアメリカの場合、引き下げが果たして効果を上げるかどうか、インフレにならぬで済むかどうか、その辺につきましてはいろいろな見方があるところでございまして、各国の中央銀行などの間にも、少し冒険に過ぎないかというような批判も出ておるくらいでございます。  そういうことで、米独とも公定歩合を引き下げたのですが、やはり日本は日本の事情があるわけでございまして、その事情と申し上げますのは、先ほど来るる申し上げましたような、いまが一番大切な物価安定の仕上げの時期である、この時期には安易に外国に追随するわけにはいかないということで、これは日本としてはわが道を行かざるを得ないと考える次第でございます。  もちろんお話のように、金利差が日本経済に一体どういう影響を持ってくるかという問題がございます。しかし、その点は 日本は為替管理が大変巧妙と申しますか、厳重にできておりまして、短期資金の移動につきましてはコントロールが十分できておりますので、あまり心配は要らないと思います。ただ、たとえば証券投資などの面に今後どういう影響を持ってくるか、その辺の状況は、私どもといたしましても慎重に見守っていかなければならない問題だと考えております。
  19. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 それから、産業界においても失業者が非常にふえてきているという状況から、金融緩和を求める声がかなり強いわけでありますが、まだ、決断を下せないのは、どうも春闘の関係ではないかということがいろいろ言われるし、景気が悪いからということで春闘の前段において賃金アップを抑える道具に不況感というものを使ってはいないだろうかということが言われるわけであります。  私たちに言わせれば、昨年春闘でとったものもいまのインフレでだめになった いつも後追い後追いさせられるのが勤労者の側だ、実質はほとんどふえていないのだというふうな私たちの認識なわけでありますけれども、その辺のところで、春闘の時期とこの金融緩和の時期とが、春闘のほうが先で、春闘である程度片がついてコストインフレにならないという目安がついたら緩和をするのだという話も、総裁からは別に直接は出ておりませんが、世間ではあるわけでございますね。その春闘との関連についてはどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。
  20. 森永貞一郎

    森永参考人 はっきり申し上げられることは、金融引き締め基調を維持しておりますのは、春闘のためではないということでございます。物価の安定を確実なものにするために、当面引き締め基調を維持しなければならないということでございまして、タイミングを議論いたします場合に、私どもとしては、春闘とは何らの関係づけもいたすべきものではないと考えております。
  21. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 少し観点を変えて、もう少し根深いところについてお伺いをしたいのでありますが、それはいまの日銀の権限、中立性と申しますか独立性と申しますか、その機構の問題なんですけれども、先ほどいみじくも総裁からお話がございましたように、西ドイツの場合にはいろいろな条件がありますけれども、とにかく第一次世界大戦後のインフレーションというものに対する脅威、恐怖というものを身にしみて国民自体が持っている。それとわが国とはかなり認識が違うわけですね。  いろいろ条件がありますけれども、西ドイツがヨーロッパの中でも、あるいは世界的に見ても、石油は高くなったんだけれども、為替政策でうまいことかわした、まるまる一〇〇%かわしたわけではございませんが、うまいことかわした。こういった為替政策の問題もありましょうし、そのほかいろいろな問題があるわけですね、労使関係の問題もありますし。こういったことを考えてみますと、かなり現状インフレ対策について、単なる総需要の抑制という一枚岩の上からおもしをつければいいというような問題だけじゃなくて、もう少しきめ細かに学ぶべきところは学んでいかなければいかぬのじゃないかと思うわけです。  釈迦に説法になるかもわかりませんが、その点で私は、西ドイツにおける中央銀行の位置というものが、失礼でありますが、日銀の位置に比べてみて格段の相違がある、全くそれは独立性が守られていると言ってもいいくらい地位があると思うのですね。日銀法の改正ということは前々から言われているわけでありますけれども、その辺も観点に置きながら考えていかなければならぬと私は思うのでありますが、その前段といたしまして、今日まで、特に田中内閣になってからのインフレというのは、一つは経済成長に見合わない、経済成長よりも非常に大きな、ほぼ一〇%ぐらい大きな通貨の供給量、経済成長を一五%としますと、田中内閣のときのマネーサプライが二〇%、二五%という大変大きな通貨の供給になっている。これにもインフレの一つの原因があるんじゃないだろうか、私はこう思うわけなんです。まず、この御認識についてはいかがでございますか。
  22. 森永貞一郎

    森永参考人 西ドイツの場合は、お話のように、早くから物価対策に着手し、しかも、金融だけではなくて、財政、為替、その他もろもろの政策を巧妙に、総合的に実施した、これは大変効果があったと思います。と同時に、何度もインフレーションの惨たんたる結果をなめてまいりました国民の間に、通貨価値を守るインフレ抵抗心が大変強く、その辺がやはりブンデスバンクの権限の中立性を明記するというところにもあらわれておるのではないかと私も考えます。ライヒスバンク時代には、ライヒスバンクは総統に直隷する機関であるというような全くの付属機関的存在でございましたのが、今日では中立性がほぼ満足にうたわれておる、これが世界でも一番確立されておるものの一つではないかと思います。  日本銀行の場合は、日本銀行法が戦時中の所産でございますために、戦時統制経済の色合いが大変強く、目的、性格など、今日の事態に合わないものがございまして、いつの日かそれらの点を改正し、将来の展望をも踏まえて、現在にふさわしい法律に改正していただくことを私どもも切に望むものでございますが、運用上の問題として考えますと、日銀中立性が脅かされて、その結果通貨が増発され、インフレを招いた、そういうことはどうもないように私は見ております。佐々木前総裁からも、それらの点は引き継ぎに際してつぶさに承りましたが、政治的に中立性が侵されたということはかつてなかった。要は運用の問題でもあるわけでございまして、私どもといたしましては、この古い法体系の日本銀行法ではございますが、その中で極力運用上、万全を期していきたいと存じておる次第でございます。  もちろん、機会がございますれば、できるだけ早い時期に改正されて、すっきりした形になることを望むものではございますが、日本銀行法は何分にも金融の基本法の一つでございますので、そう拙速にもまいりません。やはり相当な準備期間をかけて、慎重な審議をしていただいたその結果ということにならざるを得ないかと存じますが、いずれはそういうことにしていただきたいと思っておる次第でございます。
  23. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 その日銀法の改正自体についてはまたあとから少しお伺いしますけれども、私が申し上げたいのは、四十七年全部のクォーターを見ても、二二、三%のマネーサプライになっている。四十八年にも七−九までは二三、四、五%とと皆二三%から二五%くらいまでになっているわけですね。やっと四十八年の十月−十二月が一八・八とマネーサプライが落ちてきたわけでありますけれども、それと経済成長を考えてみますと、マネーサプライの方が余りにも大き過ぎないだろうか。これが通貨インフレー通貨インフレという言葉は余り熟していませんけれども、要するに、需給関係のアンバランスというだけではなくて、異常にマネーサプライが多かったのではないだろうか、こういう感がするわけですね。  それと関連をして、日銀法の三十条に発行限度額の決定の規定があるわけでありますけれども、これが毎年だんだん変えられてきているわけですね。たとえば、四十四年の発行限度額が四兆一千億ということになっていますが、四十九年の十月三十日で九兆四千億、こういうふうに膨張していく。これはある程度インフレになり、あるいはGNPが大きくなってくれば当然のことでありますけれども、いわゆる発行限度額の決定の仕方あるいは限外発行のやり方、この辺の一番肝心かなめの通貨の供給量、これに対して田中内閣のときに少しルーズ過ぎたのではないだろうか、こういう感を私は持つわけなんですが、この辺についてはいかがでございますか。
  24. 森永貞一郎

    森永参考人 いまから振り返ってみますと、確かにあの当時のマネーサプライの成長率は高かったというような感じもいたします。しかし、これは同時に、高度成長時代における成長に必要なる通貨の供給という役割りも果たしておったわけでございまして、その辺のところはもう少し分析して考えなければ何とも言えない問題がいろいろあろうかと存じます。  ただ、将来の問題を考えます場合には、これからの低成長あるいは安定成長時代にふさわしいマネーサプライの成長をやはり考えていかなければならぬわけでございまして、お話のごとく、いま限外発行税の制度もございますが、これはむしろ形骸化しておるような感じもいたします。安定成長時代にふさわしい通貨発行の基準は何かということを私どももこれから十分検討していかなければならぬかと思うわけでございまして、その場合にはやはり銀行券だけではございません、預金の一部等も加えましたM1とかM2といったようなものが一体どの程度におさまったらいいのか、インフレを起こさないためにはどの程度にとどまるべきかといったようなことも十分検討していかなければならぬというふうに考えております。
  25. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 それで、先ほどの総裁発言になるわけでありますけれども、まさにブンデスバンクの場合にははっきりと法律で、通貨政策上の権限行使に当たって政府の指令を受けない、十二条にそうなっているのだそうでありますけれども日銀の監督権限あるいは目的、使命というものは、昭和十七年ですから全くの戦時下、私が生まれた年でありますけれども、全くのこれは「国家経済総力ノ適切ナル発揮ヲ図ル」ということですね。おのずと日銀の位置づけというのは違ってくるわけですね。  それで、総裁でありますから、大蔵省が上にいますからなかなか発言はむずかしいかと思いますが、機構上は問題ないのだ、運営の問題なんだということの御発言がいまあったわけでありますけれども、私たちが考えるのに、基本的に日銀というものが通貨の価値を安定させる、維持させるという経済の最高の政策の柱、これをするためには、通貨の発行量についても発行限度額についてもある程度政府経済政策と独立した位置を持たなければやはりそれができないんじゃないだろうか。  それはもちろん全く経済政策と遮断するということでなくて、ドイツの場合のように、公定歩合の引き下げ引き上げの場合には総裁政府の閣議に赴くとか、あるいはそのほかのいろいろなときには、議決権はありませんけれども政府からも意見を述べるとか、そういった連絡はもちろん必要でありますが、通貨価値の安定ということを考える場合には、いまの日銀が主務大臣である大蔵大臣の監督のもとに置かれている体制では、果たしてそのことができるであろうかということを考えるわけであります。  いまの日銀日本経済における、あるいは大蔵省という機構の中における位置づけというものは 森永さんも大蔵省の大先輩でありますから、これはなかなかむずかしい質問になろうかと思いますが、その立場を離れて、日銀総裁として、また再びこういうインフレを起こさないという中央銀行としての任務という観点から、いまの日銀の権限 独立性、これについてはどういうふうにお考えになっていらっしゃるか、お考え伺いたいと思います。
  26. 森永貞一郎

    森永参考人 いまの規定では「日本銀行ハ主務大臣之ヲ監督ス」とございまして、業務施行命令権、定款変更命令権あるいは監督命令権等いろいろ主務大臣に監督権限が付与されておるわけでございます。日本銀行のつかさどる金融政策も広い意味の経済政策の一環でございますから、政府経済政策との調和が必要であることは無論でございまして、政府との関係についてはいろいろな配慮をしなければならないわけでございますが、しかし、通貨価値維持の観点からする日銀本来の業務につきましては、できるだけ中立的な立場に置かなければならぬことはお話しのとおりでございまして、実は三十六年に金融制度調査会で日本銀行法の改正が論議せられました、その結論を出す際にも大問題になりまして、どうするかということでいろいろな案がございました。また四十年に一応でき上がりました法案の中にも、その辺についての一つの解決案が示されておるわけでございますが、その辺を一体どういうふうに調整するか。これは何せ重要な問題でもございますので、私がここで、こうありたいと申し上げる前に、各方面において慎重な御検討をいただき、世論の動向ども徴して、りっぱな結論を出していただきたいと思っておる次第でございます。  ちなみに、ドイツの場合にもその辺は大変苦心されておるわけでございまして、独立と申しますか、中立であるが、しかし政府との間にも終始連携を失わないようにという周到な配慮が行われておることは御承知のとおりでございます。
  27. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 それと、運営の問題にも関係してくるかと思うのでありますけれども政策委員会のあり方の問題であります。これはいまの機構上においても、あるいは将来においても、総裁を補佐するあるいは中央銀行としての政策を決定するという非常に重要な位置づけがあるわけでありますが、大変失礼でありますけれども、私たちの耳に入った話では、政策委員会と言ってもほとんど議論はないということでございます。  この前、政策委員を決定する際にも、私たちも、日銀側にあるいは大蔵省に物を言ったことがあるわけであります。これは何も政策委員になられた個々の方々の能力云々という問題じゃなくて、いまの政策委員会というのは、聞いてみますと全く形骸化している。たとえば、いまの政策委員七名、もちろん総裁も入っていらっしゃいますが、政策委員の中でインフレの被害者になるような立場の人はいない。たとえば勤労者の代表とか、中小企業の代表とか、こういったインフレの被害を受けているような人は、現在の七名の中には入っていないわけですね。そういった意味で、政策委員会の持ち方についてもかなり考えなければいけないのじゃないか。  それから、西ドイツあるいはアメリカのように、政策委員会というきわめて重要な委員会発言については公開にしたらどうだろうかということを、私たち社会党としても提案しているわけであります。このようなことについては、いま総裁からお話がございましたように、もっともっと煮詰めていかなければならぬと思いますが、いまの政策委員会のあり方について、これは総裁の口からはなかなか言いにくいところもあろうかと思いますが、いかがお考えでございましょうか。
  28. 森永貞一郎

    森永参考人 政策委員会が形骸化しておるのではないかというおしかりでございましたが、本来政策委員会に属しておる事項の審議決定に当たりましては、政策委員会は決して形骸化いたしておりません。フルにその機能を発揮しておると思っております。私といたしましても日ごろからできるだけ政策委員会の皆さんの意見を拝聴するような運営に努めておるわけでございまして、私は決して形骸化しておるとは思いません。  いま私を含めまして七名の委員がおりまして、大蔵省代表、企画庁代表のほかに、都市銀行、地方銀行、商工業、農業それぞれの有識者ということで国会の承認を得て任命されておるわけでございますが、国会の承認にゆだねられておるゆえんのものは、やはりその人の経験なり学識なりから考えて、国民的視野において議案を審議決定する方を選ぶ、そういうことを期待したいという趣旨かと思うのでございまして、現実の会議運営におきましても、きわめて幅広い国民的視野からいろいろと御議論をいただいておるということを申し上げておきたいと存ずる次第でございます。
  29. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 もう時間がありませんから結論的に。  またちょっと戻るようでありますけれども 通貨の発行、これは信用膨張も呼んでくるわけでありますが、現状機構の中で一番重要な通貨の発行限度額の決定とか、そのほかの政策の決定についても——もちろん、いまの日銀法の目的、使命、これは全然違います。戦前のものでありますから違いますが、私たちがインフレを体験し、そしていまの機構の中で改革をしなければいかぬ、しかも西ドイツ等に学んでしなければいかぬことは、やはり通貨の発行量についても日銀が権威をもってと申しますか、外資が入ってくるときには、これはいずれ国内の通貨になっくてるわけでありますから、当然しぼらなければいけませんし、その辺のことを考えながらある程度権限を持ってやるについても、第三十条の発行限度額あるいはその後の監督権限その他の基本的なところについては運用だけでできるんだ、そういうふうにお考えでございましょうか。繰り返しそれだけお伺いします。
  30. 森永貞一郎

    森永参考人 現在の運用上格別の支障がないという意味で申し上げたわけでございますが、いずれ機会が熟して改正が現実の議題に上りました際には、ただいまお示しのような点がやはりいろいろな意味で当然重要な問題になってくると思っております。
  31. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 どうもありがとうございました。
  32. 上村千一郎

    上村委員長 小林政子君。
  33. 小林政子

    ○小林(政)委員 日銀総裁にお伺いをいたしたいと思いますけれども、今後の景気の見通しやその対策などについて、まず冒頭にお伺いをいたしたいと思います。  もうすでにいろいろと議論もされておりますとおり、インフレ不況が同時に進行するというまさに異常な、非常に深刻な経済の事態のもとに私たちは立たされてまいりましたけれども、実際に国民生活は、本当に破壊的なと言っても言い過ぎでないほどの危機に直面しているということが言えると思います。こういう中で、いままでいつの時代もそうでしたけれども景気がよくなるときは、中小企業者あるいはまた一般の庶民というのは一番後にその恩恵を受ける、景気が悪くなりますと、もうもろに正面から一番先にその被害をこうむる。  こういう状況の中で、御承知のとおり、中小企業倒産件数も、昨年の十二月末で、年間を通しまして負債額一千万以上の倒産だけでも一万一千七百五件という、まさに史上最高というふうな状態でございますし、また国民は、何とか先行きの不安を補いたいということで将来の保障のために預貯金をしてまいりましたけれども、これも目減りで減価する。こういうような状況のもとで、今日のこういうインフレの被害を、不況もそうですけれども、もろにかぶっている中小企業者やあるいは国民の立場に立って、本当に通貨の安定という問題については重要な責任を負う立場にいらっしゃる日銀総裁は、今日の事態というもの、あるいは今日の事態を招いたこの問題について、一体どう本当に認識をされ、またこの問題を本当に解決していくためにどのような具体策を持って積極的に解決の方向を打ち出そうとされていらっしゃるのか、この点についてまずお伺いをいたしたいと思います。
  34. 森永貞一郎

    森永参考人 いまのインフレがどのようにして起こったか、その問題に触れますと大変長くなりまして、短時間ではなかなか論議し尽くせないと存じますが、一番致命的な影響をもたらしましたのは、やはり一昨年十月の石油問題であったと思います。  それまでも若干インフレ傾向はございまして、金融引き締めが行なわれておりましたのでございますが、そこへ持ってきてこの石油危機が起こった。初めは石油の供給が大幅に削減されるのではないかと思って、心配と申しますか周章ろうばいもいたしたわけでございますが、幸いにして量的な制限の方は緩和されましたけれども、二、三カ月の間に四倍にも値段が上がってしまった。そのことがコスト高を招き、また、コスト高になるであろうという物価の先高見越しからいろいろな方面で便乗値上げも行われたようでございますし、先取り値上げも行われたようでございますし、また国民も、これは大変だというので、自衛的に買い占め等の現象も一部にはございましたでしょう。  まあ、そういうようなことで、これではいかぬというので総需要抑制策が強化されまして、それ以来厳しい総需要抑制、なかんずくその一翼としての金融引き締め基調が続いてきておるわけでございます。  その結果、お話のように、景気停滞の結果不況感が浸透し、減産、雇用調整等々の状態も起こっておりまして、大変苦しい状態も一部に見受けられるのでありますが、反面物価はやや落ちつきかげんになってきた。  そこで、もうそろそろ総需要抑制を緩和し、金融もゆるめたらどうかというような声があるんですけれども、私はまだまだ安心できない。やはりインフレを克服するということが目下の最大の優先課題でございまして、その意味から申しますと、国民の皆さんにもまだまだいろいろ御苦労をおかけするわけですが、この際は何と言ってもインフレを克服し、インフレ心理を払拭するということに重きを置いて考えなければならぬというので、当面、引き締め基調を推持しておるというのが現状でございます。  もちろん、引き締め基調を維持すると申しましても、いたずらに企業を苦しめ、景気を深刻化するのが目的ではないわけでございまして、その間にあるいは業種別に企業等におきまして大変に困った事態が起こり、その影響するところが大変広いというような問題が起こってまいりますれば、そういう事態に対しましては、きめ細かく弾力的に対処して大事に至らぬようにという手当てをしておる、いわゆる摩擦現象に対しては十分救済の手を差し伸べておるということでございまして、当分そういうことを継続し、とにもかくにもインフレを克服するというのが現在の私どもの最大の課題であるというふうに考えております。
  35. 小林政子

    ○小林(政)委員 私、本来日銀というものは当然中立的な、しかも通貨の安定という問題については、何と言いますか責任を負わなければならない、こういう立場から、総裁のこれに対して立ち向かっていく基本的な姿勢をお聞かせ願えるということで期待をしておりましたけれども、どうもいまのお話を伺っておりますと、いや、それは石油がここで上がってということで、いままで大蔵委員会その他で政府が言っていることと変わらない。  しかし、高度経済成長政策をずうっと一貫してとり続けてきた、この中で物価はどんどん上がっていたんですね。それは急激な狂乱というような形で上がったことではなかったかもしれませんけれども、しかし、マネーサプライはもうそれこそ経済成長を上回るような勢いでふえていき、そして物価が上がる、こういう状態というものが続いていたわけです。確かに最終段階ではああいう狂乱物価ということになりましたけれども、この問題はやはり経済の基本の問題、高度経済成長をとり続けてきた政策の中で、今日のようなこういう事態を招いたんだというふうに私ども考えております。  しかも、このような中で本当に一番困っているのは国民です。この問題はどうしても解決をしなければならないし、私ども町を歩いておりましても痛切に感じますことは、まあこれは極端と言われるかもしれませんけれども、いま政治が解決しなきゃならない最大の課題は、本当に国民の生活の安定であり、中小業者の危機の突破であるということを、もうしみじみと痛感しているわけです。こういう中で私は、きょう日銀総裁をお迎えして、本当にこの問題について積極的にこれを解決していく、そういう立場に立っての御意見をぜひお聞かせいただきたいというふうに考えております。  特に、いま窓口規制を通じまして貸出増加額の割り当て等が各銀行等にも行われているわけでございますけれども、この中で、ただ貸出増加額の総量規制という形で割り当てが行われるということだけではなくて、政策当局といたしまして、融資活動の面で、本当に現在最も必要な資金をどう配分していくか、どれほど大切なところに資金を回していくかということがやはり当然あってしかるべきだと私は思いますし、そのための資金確保ということは当然なことではないかというふうに考えますけれども、いかがでございますか。
  36. 森永貞一郎

    森永参考人 先ほどまずもってインフレを克服することが最大の課題であるということを申し上げましたが、これこそ日本銀行の使命であると考えておるわけでございまして、通貨価値の安定をあくまでも守り抜くという観点から責任を痛感し、仕事をいたしておるのでございます。そのことを申し上げておきたいと存じます。  なお、窓口規制に当たり単なる量的な配慮だけでなく質的な配慮も必要ではないか、まさにごもっともでございまして、私どもこの窓口規制に対しましては、中小企業あるいは住宅ローンなど、国民の立場を十二分に考えて、従来とかくしわ寄せを食いがちであったそういう人たちの利益を十分擁護していただく、そういう趣旨での貸し出しをしていただくようにという指導的立場を金融機関に対しましても終始とり続けておりますことをお答えいたしたいと存じます。
  37. 小林政子

    ○小林(政)委員 当然のことであるという御答弁でございますし、そういう点から私どもの荒木議員が、銀行の、いわゆる民間金融機関による中小企業救済特別融資、これの三千二百億の枠ですね、これに対して実際には現在千二百億しかそれが消化されていない、まだ相当の枠がそのまま残されている、あるいはまた住宅ローンにつきましても、事実上一月、二月は貸し出しをストップしていた銀行があるというような点を問題にいたしましたけれども、私の住んでおります地域でも実は都銀の支店が何カ所かございます。そしてその都銀の支店に住宅ローンを申し込まれた方々がもう皆さん大変憤慨されまして、名前は一々申し上げませんけれども、四つの都銀の支店です。そこへ申し込まれた方々が、みんな違うのですけれども、全部断られているのですね。  そして、その中で銀行などともいろいろと取引もある方が、大変憤慨もされたのでしょう、一体貸付額はどうなっているのだと言ったところが、六百万しかないと言うのですね。これじゃもう一件でしょう。いま一軒の家も六百万じゃ、幾ら頭金云々と言ってもとてもじゃないけれどもどうにもなりません。こういうようなことで、恐らくその問題がさらにまた皆さんの話題にもなり、私の申し込んだ支店も何か大したことなかったみたいだとか、非常に融資枠が少なかったとか、そういうようなことがずっと話になりまして——私、これは非常に重要な問題だというふうに考えております。できれば近く具体的な調査もいたしたいというふうに思ったほど、非常に深刻な問題を地域の中に起こしております。  本当にこのような不公平なといいますか、大蔵省の銀行局の通達でも、住宅ローンについてはこれを維持するというようなことが出されている中で、このような住宅ローンあるいは中小企業の民間融資について実際に差別されている。こういう問題につきまして、私は、民間の不況業種への規制の枠については融資の促進を本当に積極的に図っていくということが非常に大事ではないかというふうに思いますけれども総裁の御意見伺いたいと思います。
  38. 森永貞一郎

    森永参考人 都銀を中心とする各金融機関中小企業向けの特別融資の枠三千二百億円がまだ千二百億円しか使われていなかったわけでございますが、今度それを七百億使うことにいたしまして千九百億円、今後また情勢に応じてそれを使用していくということだと存じます。これは特別に金利の安い、特殊な中小企業、困った中小企業の事態に応ずるものでございまして、それ以外にも中小企業向けの貸し出しが割りを食わないようにという点はくどいほど私ども指導いたしておるわけでございまして、また各金融機関におきましても、そういう趣旨で現実に運用しておられるように見ております。  政府関係の中小企業金融機関、これは政府で特別の増枠もございまして、その方の活躍に期待する面も多いわけでございますが、それを含めました全金融機関中小企業向けの貸し出しのシェアは大体五割を超えておる現状でございまして、金融機関の業態別に見ましても、決して中小企業向けの貸し出しがなおざりに付されておるというふうには考えておりません。しかし、今後ともなお一層中小企業向けの資金融通に努力するようにというような方向で指導を続けてまいりたいと思っております。  住宅ローンでございますが、その点も、やはり窓口指導に当たりまして、各金融機関とも窓口指導の枠の少なくとも一割以上は住宅ローンに回すようにということで運用をいたしております。当一−三月で、都市銀行の例を申しますと、窓口指導の枠が九千百億円でございますが、一割ということになりますと九百十億ということでございますが、この点につきましては特に各都市銀行は努力をいたしまして、一二%ぐらい、金額にして千百億円ぐらいのものを住宅ローンの方に振り向ける体制がもうすでに整っておるようでございます。  しかし 千百億円と申しましても、支店に割りますと、あるいはお話しのように一店当たりでは少ないというようなこともあるかもしれませんが、全体では千百億円、また各銀行をそれぞれ集計しますとやはり相当大きな金額になるわけでございまして、恐らくはその辺のところはいろいろな銀行のやり方がございまして、本店に集めてやるやり方とか、あるいは各支店に配って支店で処理するやり方とか、いろいろなやり方があろうかと存じますが、その場合に、一支店では六百万ですかにすぎなかったというような例もあるいはあるかもしれませんけれども、全体としては千百億円の金額に達しておるということを御承知いただきたいと存じます。  なお、先般予算委員会における荒木委員の御質問、私も伺っておりましたが、住宅ローンの実施の面での能率を上げるために、一、二月は受け付けるにとどめ又実際の実行は三月にまとめてやるというような方針で三月に繰り延べたということのようでございますので、その点も御了承いただきたいと思います。
  39. 小林政子

    ○小林(政)委員 ともかくいま六百万という数字が出ましたけれども、実際にその支店は相当規模が大きいのですよ。ですから、ちょっとこれはゼロということにすると、何だ全然ゼロじゃないか、一月はゼロなのかというようなことで恐らくいろいろ問題にもなるということで、その方はそう言っておりました。枠がないのでとてもという断りの一つの、ゼロというとこれは問題になってくるというようなことがあるんじゃないかというようなことまで私に話しておりましたけれども、私はやはりこういったあり方というものは問題だと思うのです。  日銀の場合には、取引のある金融機関と契約を結んで、そして実際にはその取引先の営業の状態だとかあるいは貸付金の現状だとかあるいは運営のあり方、資産の内容というものを調査されているわけですね。私はこういう立場から、具体的に住宅ローンだとか中小企業問題を日銀が本当に考査されたという事例をお持ちなんでしょうか、またおやりになったんでしょうか、またやろうとされているんでしょうか、お伺いをいたしたいと思います。
  40. 森永貞一郎

    森永参考人 日本銀行では各金融機関に対しまして一年に一遍ですか、二年に一度ぐらいになるそうですが、考査をいたしておることは御承知のとおりでございまして、その考査に際しましては、その貸し出しのしぶり、その中にはもちろん中小企業向けの配慮が十分かどうか、住宅ローン等についてどうなっておるかというようなことも無論含めて考査をいたしておりますが、何しろ個々の窓口における融資を一々日銀が管理しておるわけではございませんので、全体としての動向を把握し、指導をするという程度にとどまらざるを得ないのは当然だと存じます。
  41. 小林政子

    ○小林(政)委員 二年に一回というお話でございますけれども、この引き締めがこのように続いている中で、最近一番新しいときで一体いつおやりになったんでしょうか。
  42. 森永貞一郎

    森永参考人 これは各金融機関について随時やっておるわけです。しかし、何しろ金融機関がたくさんございまして、日本銀行のこの考査役の員数にも限度がございますので、しょっちゅう継続的に実行いたしておるわけでございますが、ある一つの金融機関について考えると、それが二年に一遍ぐらいの頻度になる、そういうふうに御承知いただきたいと思います。
  43. 小林政子

    ○小林(政)委員 考査は一つの銀行については二年に一回ということになるけれども、常時引き続いてやられているのだということですが、私はやはりこういう事態が特定の銀行だけで起こっている問題だというふうには考えていないのです。こういう考査の中で、こういう事例に具体的にぶつかり、その実態というものを調査されたのかどうなのか、この点まずお伺いいたしたいと思います。
  44. 森永貞一郎

    森永参考人 考査はその銀行の業務全般にわたるものでございまして、その中には当然貸し出しの方針とかしぶりみたいなものも含まれる。中小企業向けの貸し出しがどうであるとか、それから住宅ローンの状況がどうであるとか、もちろんこれは重要な対象になるわけでございます。  そのほかに、考査ではございませんが、報告をとりまして、統計的には常時その数字がどうなっておるかということは把握いたしております。  さらにはまた、個別的にいつも各金融機関動きを、別に系統的なものではございませんが、常時把握するようにという努力はもちろんいたしております。
  45. 小林政子

    ○小林(政)委員 何かどうもお話を伺っておりまして、こういった事態がいま起こっているにもかかわらず、そのことに対して中央銀行として具体的にどう指導したとか、あるいはまたその事実をある銀行で把握したとかというようなお話が全然出ていらっしゃらないわけですし、私はやはりいままでの考査が、本当に的確にそういう貸し出しの状況といったものについてやられていたのかどうなのかなという、こういう印象を非常に強く受けました。今後考査を引き続いて行います場合には、住宅ローンあるいは中小企業金融、あるいはまた歩積み両建てその他の問題については、特段の調査項目として御調査なさるということをお約束していただけますか。
  46. 森永貞一郎

    森永参考人 その考査は二年に一遍ですけれども、先ほど申し上げましたように、統計的に貸し出しの内容は毎月把握いたしておりますから、もし必要がございますれば、中小企業向けの貸し出しの数字あるいは住宅ローンの数字、各金融機関の種類別にはいつでも申し上げられます。  ただ、お話のございましたある特定の銀行の特定の支店における特定の案件についてどうということになりますと、これは日本銀行がとうていそこまで把握することはできませんので、やはり数字の上で大数的に把握して誤りなきを期するという、それが限度でございますので、その点御了承いただきたいと存じます。
  47. 小林政子

    ○小林(政)委員 私は、先ほど総裁が、必要なところに資金は重点的に配分もしていかなければいけないと言われたお話を伺って、それは今後、いま論議されておりましたこういう問題等についても本当にもっと毅然とした態度で庶民の立場に立ち、そして中小業者や住宅ローン等についてそういう事実はもうこれからは起こさない、また行政指導の上で起こさせないように指導していきたい、考査の中でそれらの点も特段と注意していきたいという立場に当然立たれるんではないかというふうに思っておりましたけれども、そういう御答弁を伺えないで、これらの問題について、中央銀行として基本的に今後どうされていこうとされているのか、その点をひとつお伺いをいたしたいと思います。
  48. 森永貞一郎

    森永参考人 都銀の場合に千百億円ぐらいということを申し上げたわけですけれども、これは各銀行別にどのくらいになりますか、その銀行でそれを支店に全部割って貸し付けるところもございましょうし、あるいは申し込みは各支店で受け付けて本店でそれを総合的に処理するということもございましょうし、それぞれいろいろなやり方があろうかと存じますけれども、この千百億円ということで支店別にそれが一体どういう数字になるかということになりますと、これは当然細分化されるわけでございますので、あらゆる住宅ローンの申し込みに応じ切れるというわけのものでもありますまい。したがって、それぞれ個々の案件についてまでは私どもは把握し切れないということを申し上げておるわけでございまして、全体として住宅ローンの水準が適正に維持されるようにということにつきましては、私ども今後も窓口指導の上において適正に指導を続けてまいりたいと存じます。
  49. 小林政子

    ○小林(政)委員 その問題ももう少し私、具体的なお話伺いたかったわけですけれども、時間が来ておりますので、一つだけ次の質問に入りたいと思います。  それは、金融政策としてはいろいろな預金準備率の問題や公定歩合、あるいはまた窓口規制の問題、そういうものがございますけれども、国債の問題です。いわゆる公開市場操作で、国債と政保債の残高が去年の十二月は急激にふえているんですね。そして、前年の十二月に比べますと二三三%、額にしては三兆円もふえている。これは恐らく公開と言っても銀行対銀行との取引でこういったような問題も出てくるのだろうと思いますけれども、やはり日銀の国債の買いオペは異常な形でふえているのではないか。この点が第一点。  それから、時間がありませんので一つ二つ一緒に聞いてしまいますけれども、かつて日銀は、一九六三年の当時の資料を見てみますと、いわゆる対象債券の範囲内に地方債を含めていたんですね、資料をここに持っておりますけれども。御承知のとおり、いま地方公共団体は、もう地方債を出そうにも引き受けるところがなくてきわめて困難になってきているのです。こういう点から、かつて日銀がこの地方債も買いオペの対象として認めていたということを考えますと、私は、公債の買いオペがこんな異常に高くなるという点についてはやはり検討しなければならない問題だと思いますけれども、地方債をむしろひとつ、法律にもこれは日銀政策委員会が決定をすることであるというふうに書いてございますので、買いオペの対象として含めるべきではないか、この点だけをお伺いいたして、終わりたいと思います。
  50. 森永貞一郎

    森永参考人 現在オペレーションの対象にいたしておりますのは、国債と政府保証債でございます。  オペの対象債券をどういう基準で選ぶかということなんでございますが、中央銀行の資産あるいは通貨発行の裏づけとしてふさわしい信用力と市場性を持っておるかどうかというのが第一点でございます。それから第二点は、オペの対象としてやはりある程度の規模以上のものでないと困る。つまり、買い入れ可能額が十分であるかどうかという問題。それから第三点は、広く各金融機関に分布しておって、オペレーションに際して公平な買い入れができるかどうか。その三点からオペレーションの対象を選んでおるわけでございます。  そういう観点から、現在は国債と政府保証債ということでございまして、日銀本来の役割りでございまする金融調節上からも、その二つだけに限定しても別に支障は生じていない。  他面、地方債につきましては、ただいまお話がございましたような意味で、オペの対象にならないかというような御意見も承っておるのでございますが、いま申し上げました三つの条件、第一点は、信用力という点で国債、政府保証債に次ぐものだとは存じますが、まあこれは団体によるわけでございまして、その辺にも若干問題がございますし、また買い入れ可能額が少ない。公募地方債の現存額が昨年末で七千二百四十一億円でございまして、それに対して国債の方は八兆二千三十五億円、政府保証債は二兆二千億というような量でございますが、公募地方債の量がオペの対象としては少な過ぎはしないかということ。それからまた、金融機関別の分布も偏っておりまして、オペが公平に実施されるという面からちょっと問題がありはしないかというようなことで、今日のところはオペレーションの対象にしておりませんし、またオペの対象にする必要もないのではないかと思っております。  ただ、公募地方債は、現在日本銀行の貸し出しの適格担保にはいたしておりますので、オペの対象になっていなくても、債券の流動性は確保されておるというふうに考えます。
  51. 上村千一郎

    上村委員長 坂口力君。
  52. 坂口力

    ○坂口委員 総裁には大変お忙しい中をありがとうございました。すでにお聞きしたいと思っておりました問題の幾つかはお話し合いの中に出ましたし、総裁もお疲れだと思いますので、その分は省略させていただきたいと思います。  そのお話の中で先ほど中小企業の問題が出てまいりまして、そのときに総裁は、中小企業は小回りがきく体制であって、いわゆる大勢に順応しやすい性質を持っているという意味の御発言があったわけであります。詳しくはもう一度お聞きをしなければわからないと思うわけでありますが、先日もこの委員会に都市銀行や相互銀行、それから信用金庫等の会長さんにお見えをいただきまして、いろいろお話伺いましたときにも、この中小企業の現在の金融状況についての認識にかなりのずれと申しますか、開きがあったように思うわけであります。  いま総裁お話をお聞きしましたところでは、私には、何となく、現在の段階ではかなり状態はよくなってきているというふうな意味にお話になったように受け取れたものでございますので、この点もう一度ひとつお願いをしたいと思うわけです。  念のために、先日のお話を申し上げますと、都市銀行の会長さんは、どちらかと言えば若干好転しつつあるというような発言でございましたし、それから、その他の相互銀行や信用金庫の方のお話は、上の方から下の方へ、小さい方へとだんだん厳しさが波及してきているというお話であったわけであります。そこでひとつ、この点からお話伺いたいと思います。
  53. 森永貞一郎

    森永参考人 銀行協会長ほか各協会の会長さんがどういう御見解であられるか、私は直接には伺っておりませんですが、中小企業と申しましてもいろいろな業種がございますし、また企業内容も多種多様でございまして、中小企業全体についての困っているとか困っていないとかというような表現は、なかなか困難ではないかと思うのでありますが、平均的に考えまして中小企業の場合には小回りがきくと申し上げましたのですが、大企業よりも身軽であるだけに、引き締め体制に比較的早めに対応して、在庫調整も早くから進めておられたということはあるようでございます。  だからと言って、もちろん困っていないと言うわけじゃございません。全般的には大変苦しい状態にあるわけでございますが、一ころに比べると、資金需要の増勢がやや鎮静化しておるような感じがする、そういう感触でございます。  私どものところでは、アンケート調査で、大企業中小企業、それぞれサンプリングによりまして、金融の苦しさとか借り入れの難易等について感触を承っておるのですけれども、大企業に比べて特に中小企業の方が困っておるというような結果は出ておりません。むしろ困っておられる程度は、どちらかと言うと、中小の方が少し、まあほんの少しですが、軽いような感じもいたしますし、ということは、ここへ来て、大企業の方の後向きの資金需要が大変苦しいものになっておるということの反面でもあろうかと存じます。  大体そういうふうに見ておるわけでございますが、といって、決して中小企業はもうこれでいいのだということを申し上げておるつもりはございません。窓口指導上におきましては、今後も一層中小企業動向に注意して、不当なしわ寄せが中小企業にいかないようにという点の指導を怠らないつもりでございますし、また政府三機関におきましても、いろいろと資金力を充実し、弾力的に処置していかれることと存ずるわけでございます。
  54. 坂口力

    ○坂口委員 もう一点だけ中小企業についてお聞きをしておきたいと思うわけでありますが、これからの低成長下におきまして、いわゆる海外から入ってまいります材料等は割り高になってくる、あるいはまた、公害を出してはならないという社会環境もございます。また、賃金は一応上げていかなければならないというような諸条件、こういった中で、中小企業の生きる道というのは、今後非常に厳しいものがあると思うわけでありますが、この中で中小企業が生き抜くといたしましたならば、これに対して金融の面からどういう手を打って救っていくべきか、この点についてお考えがありましたら、ひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  55. 森永貞一郎

    森永参考人 お話のように、これからの経済運営は安定成長型に入るわけでございますので、いままでの高度成長期におけるような安易な体制は許されない、これは中小企業についてもそのとおりであると考えます。私も実はかつて中小企業金融公庫におったことがございまして、中小企業問題につきましては大変関心を持っておる次第でございますが、そういう新しい安定成長時代における中小企業のあり方、これはやはりいろいろな意味で大変むずかしい問題が関連して出てくるわけでございまして、なかんずく、中小企業をより一層近代化、機械化していくというような問題、そのためには資金も必要でございましょうし、そういう面につきましての配慮も大変大切な場面がこれから出てくるのではないかと思っております。  中小企業金融公庫からもう十何年もたっておりますので、現在の的確な情勢判断はできませんですが、今後一層中小企業の育成、近代化、合理化等については政府が援助の手を差し伸べていかなければならない問題がたくさんあるのではないかと思っております。
  56. 坂口力

    ○坂口委員 先ほども日銀中立性の問題が話題になりましたけれども、田中内閣から三木内閣へ、経済動向も高度経済成長から低成長へ——先ほど総裁は安定成長という言葉をお使いになりましたが、低成長と安定成長がイコールになるかどうかは別といたしまして、低成長へという形に変わってまいりました。  こういうふうに揺れます政治の中で、日銀としての先ほどお話の出ました中立性の問題、これは非常に重要な問題だと思うわけであります。この二、三年の間のインフレ、そして、それから引き締め下におきます現在、この過程を振り返られて、日銀としての、これは間違いであったというような何か反省点というようなものがあれば、ひとつこの際にお聞かせいただきたいと思います。
  57. 森永貞一郎

    森永参考人 私、当時、日本銀行にはおりませんでしたので、どういうやむを得ざる事情があったのか、その辺のところはよく存じませんが、ニクソン・ショック以後における過剰流動性の発生に対処しましては、いささか金融措置の出動が遅きに失したのではないかというような感じがしないではございません。と申しますのは、日本銀行の責任と申しますより、日本経済があのときに為替の切り上げをアレルギー的にきらっておった。そこで、不況対策というようなことの方にウエートが置かれ過ぎて、そうして結局ああいうことになったわけでございますが、これは日本銀行と申しますよりは、日本の経済全体として反省しなければならない点の一つではないかと思います。  これからの安定成長時代に対処しまして、やはり通貨の供給量、マネーサプライの成長率を適正な限度にとどめる、あるいは維持するという問題が大変重要な問題になるわけでございまして、それにはどうしたらいいか、私どもとしても真剣に検討しなければならぬ問題がひそんでおると思っております。
  58. 坂口力

    ○坂口委員 今後の経済状態につきましては、先ほど、抑制を基調とした中で打つべき手は打っていくというお話があったわけでありますけれども、これをもう少し長期的な目で見ました場合に、長期展望としての日本におけるインフレの問題、これはすでにもうこのままでインフレがおさまっていくのか、あるいはまた、いま一時こういった形になっているが、将来かなりな危険性を持っているのかということもあろうかと思います。そういったことも含めて、この質問にはかなり不安定な要素もたくさんあるわけでありますからお答えにくい点もあろうかと思いますけれども、いま総裁がお考えになっている、中期展望でも結構でございますが、どういうふうにお考えになっているか。
  59. 森永貞一郎

    森永参考人 結局それは中期経済計画の問題になろうかと思います。その点につきましては、目下せっかく経済企画庁等を中心にして計画が練られつつある、あるいはその準備が行われつつあると存ずる次第でございまして、私自身が個人的にいろいろな姿を描くことは許されない、少なくともここで申し上げることは適当でないと思いますが、石油の問題一つ考えましても、いままでのように高度成長はできない。まあ恐らく四、五%、六、七%ということでしょうか。どの辺が適正成長率になりますか、その辺は経済計画にまたなければなりませんが、そういう成長率ということになりますと、いままでのように財政が二〇%近くも、あるいはことしは二四%ということですが、そういうような膨張をすることは許されないわけですね。  また、日本銀行がつかさどっておるマネーサプライにつきましても、かつてございましたような二十何%というようなマネーサプライの膨張は許されないわけでございまして、安定成長の姿にふさわしい財政のあり方あるいは金融のあり方、当然これは抑制的に考えていかなければならない。  その抑制的な姿というのが具体的な数字でどのくらいになるか、これはいろんな問題がございまして、検討しなければなりませんが、やはり実質成長率プラス耐え得られる程度物価騰貴ということが一つの基準みたいなことで、財政金融もあるいは国民消費も、いままでのようなわけにはいかなくなっている。その辺をどういうふうにビジョンを描くか、これは中期経済計画にまちたいと思っておりますので、余りここでみだりなことを申し上げられません。
  60. 坂口力

    ○坂口委員 いまおっしゃいましだ経済社会基本計画も、中をひもといてみますと、いま総裁がおっしゃいましたような路線に大体よく似た路線のことが言われていると思うわけであります。それで、特に経済社会基本計画の中でも述べられておりますし、これはこの中に述べられるだけではなしに、一般にも言われていることでございますけれども、いわゆる人口の増加、日本の人口も恐らく一億一千万を超えているだろうと思いますし、世界の人口は本年末には四十億の大台を超えるというような状態になってきております。この人口の増加、それからもう一つは、それに対する食糧自給の問題がございます。先日も審議会の七五%自給という案が発表になったりしたわけでありますが、こういうふうな人口と食糧自給という大きな問題が近い将来にやってくるわけであります。  大変大きな問題でございますし、きょうの金融の問題からしますと、若干問題のずれる感じもいたしますけれども、こういう社会状態が訪れるという中での日本経済全体の運営にどういうふうな可能性が秘められているか、いわゆる金融面からどういうふうな努力をしていかなければならないか、せっかくの機会でございますので、ちょっと問題は大きくなりますが、もしもお考えがございましたら、この際に伺っておきたいと思います。
  61. 森永貞一郎

    森永参考人 大変大きな問題でございまして、私お答えする能力も資格もないのではございますが、ごく長期的に見た場合には、またおのずから別な見方もあろうかと存じます。たとえば、イギリスのエコノミスト誌が、一九七五年から後の百年間は日本並びに太平洋諸国の世紀だと大変持ち上げておりまして、私どもこれはちょっとくすぐったいような感じで、少しハーマン・カーンみたいな感じで、まゆつばみたいな感じで見ておりますが、少なくともそういう長期のことは別にして、中期的にはいろんな意味でイバラの道を歩かなければならないのが日本経済の運命だと思っております。  その間における金融政策のあり方としては、あくまでも通貨価値の維持を第一義といたしまして、インフレーションに陥れないということに徹しなければならぬわけでありまして、その意味で、どちらかと言えば抑制的な、引き締めぎみ状態が当分は続かざるを得ないのじゃないか、少なくとも中期的にはそうじゃないかと思っておる次第でございます。
  62. 坂口力

    ○坂口委員 この問題をなぜお聞きしたかと申しますと、先ほども申しましたように、日銀中立性の問題とからみまして、いまは政府も一応低成長ということを打ち出しておるわけでありますが、たとえばまた三木内閣がかわったといたしまして、次の内閣が出てまいりましたときに、あるいはまた高度成長というようなことを言わないとも限らないわけであります。そういうふうな政治の流れの変化によって、いま総裁が言われたような問題が右に左に揺れるということは、これは国民の側からすれば大変困るわけでありまして、そういう意味で、長期展望の中でいまおっしゃったような方向にどうしても行っていただきたいと思うわけでありますし、そのことについての自信のほどをお聞きしたかったわけであります。  それから、私の時間が余りありませんので、もう一つこれは若干問題が変わりますけれども、海外に目を向けると、アメリカが本年一月に金の個人保有というものを自由にするということがございましたし、それから昨年の十二月でございましたか、マルチニク島で米仏が会談をいたしまして、そのあと金価格についての合意発表がございました。フランスのフールカード蔵相は、一月初めから恐らくフランスの金準備は再評価されることになるであろうし、今後二年以内に各国中央銀行も同様の措置をとるであろうというようなことを言っておるわけであります。しかし、その後西ドイツや英国の方ではそういう意思はないというようなことも言っておりますし、必ずしもEC内においても一致しておるとは言えないわけでありますが、この金に対する再評価の問題にからみまして、わが国として国際的な視野からどのように対処していくべきだというふうにお考えになるのか、この点をもう一つお聞きしておきたい。
  63. 森永貞一郎

    森永参考人 金の問題は、一月に開かれました十カ国蔵相会議あるいはその後におけるIMFの暫定委員会ですか、インテリムコミッティーなどにおきましても大問題でございまして、各国いろいろ立場の相違はございますが、その相違を少しずつでも歩み寄って何らかの妥協に達しようという動きは見られたわけでございますが、最終的にはまだ方向が決まっておりません。  ただ言えることは、IMF制度の根幹をなしておった金本位制度は崩壊しておるわけでございまして、その制度の中における金の通貨としての位置はこれを除去していく、そういう方向では各国一致しておるわけでございます。どうもフランスは、そうは言っても、金の通貨資産的な価値にまだ執着しておるような感じもございますし、それに対してアメリカは、いやもう完全に金を廃貨するのだというような、哲学の相違がどうも見受けられるような感じがいたしまして、国際的にその問題がどういうふうに結末がつけられるのか、これはまだちょっとにわかに予断ができません。  日本の場合、幸か不幸か金の保有額が少ないのでございまして、これを再評価するしないという問題のウエートが大変少ないわけでございます。フランスの場合は御承知のように再評価によって一挙に外貨準備が何倍にもなったわけですが、日本の場合にはきわめて数量的なウエートが少ないわけでございまして、当面のところは再評価をする必要もないし、またすることは考えていない。最終的にどうなるか、これはもう少し金の運命の成り行きを見きわめてからでも遅くはないのではないか、そういうふうに考えております。
  64. 坂口力

    ○坂口委員 もう一つだけお伺いしたいと思います。非常に大きな問題から小さな問題に下って恐縮でございますが、先ほど共産党の小林先生の中にも出てまいりました歩積みの問題でございますけれども、先日も実は都市銀行の会長さんがお見えになりましたときにもお聞きをしたわけでございます。これは私どもの方にもたくさんな方からの陳情等が来ておりますが、ただし、余りはっきりこれを言ってくれるなという条件が皆ついておりまして、私たちも取り扱いに非常に困るわけでありますし、また大変お気の毒にも思うわけであります。  先日も各代表の方にいろいろお話を申し上げましたところ、このことについては善処をするというようなお話はございましたけれども、何かもう一つ奥歯に物のはさまったようなところがございまして、なかなかやりにくい問題だというお話があったわけであります。  これは日銀総裁に御要望申し上げるにしてはいささか方向が違っているかもしれませんけれども、しかし非常に重要な問題でありますし、庶民にとりましては大変な問題でございますので、これに対して、先ほどもちょっとお話がございましたが、もう少し詳しいお話をひとつお聞かせいた、だきたい。
  65. 森永貞一郎

    森永参考人 金融機関が貸し手である強い立場を利用いたしまして、債務者に過当な預金を強制するということは、確かによくないことでございまして、そういうことがないようにということを私も望んでおります。  そういう立場から、従来政府でも何度も通達を出しまして、金融機関に対しまして是正方を要請してきておられるのでございますが、昔に比べれば大分事態が改善されて、余り問題になるような極端なケースも少なくなってはきておるというふうに伺っておるわけでございます。しかし、それでもなおそういう過当な事例が恐らく絶無ではございますまい。といたしますれば、私ども大変遺憾に思うわけでございまして、一層指導の徹底を期していかなければならないと思います。  最近では、金融機関の内部におきましても、そのための責任体制を確立しておるというようなことのようでございますし、また政府でも継続的に報告をとる、また検査に際しましては厳しいチエックをしておる。あるいは預金者にも一々金融機関から、あなたの場合は拘束預金はありませんですねというようなことを確認させるというようなこともやっておるようでございますが、そんなようなことでだんだん努力をしておられるわけでございますし、日本銀行といたしましても、もちろん金融機関指導に際しましては、その点を十分念頭に置いて善処してまいりたいと思っております。そういう努力を積み重ねることによりまして、だんだんに御指摘のようなケースがなくなっていくことを切に期待をしておるというのが現状でございます。
  66. 坂口力

    ○坂口委員 実際問題は、それほどおっしゃるほどはなくなっていない、減ってはいない、かなりこれが多いという現実がありますので、この点を強く要望いたしまして、私の質問を終わらせていただきます。
  67. 上村千一郎

    上村委員長 竹本孫一君。
  68. 竹本孫一

    ○竹本委員 どうも御苦労さまです。三点ほど簡単にお伺いいたします。  第一は、不景気の株高という問題について森永総裁はどういう感想を持っておられるかということであります。  すなわち、一つは、もちろん外人の買いもありますから全部とは言えないわけだけれども、国内に金融引き締めがまだ足りない、金がまだ余っておるという結果こういうことになると見るべきであるか、あるいは見ておられるか。  第二には、いまや国際的に見ても、また国内的に見ても、政策の転換は必至であるということで、転換を期待するというか、催促するというか、先取りしておると見るか、いずれにいたしましても、政策転換を前提にした株高であると見るべきか。  第三には、その両者をも含めながら、いずれにしても証券界が少し走り過ぎておる、相変わらず自粛自重というようなものが足りないんだというふうに見るべきであるか。  まあ簡単に言えば三つぐらい見方があるだろうと思うのですけれども、きょうは政策についての論議とかいう問題を離れまして、いまの事実としての不景気の株高を総裁はどう見ておられるか、率直な御感想を承りたい。これが第一点であります。
  69. 森永貞一郎

    森永参考人 アメリカとかイギリスではもっと株価が上がっておるようでございますが、それに比べれば日本の場合はややモデレートなような感じもいたしますけれども、それにいたしましても、一月の底値から申しますと大分上がりました。私どももどういうことなんだろうかと思ってちょっと首をかしげておるというのが現状でございます。引き締めが緩くて、株式投資に回る金がふんだんにあって上がっているとも思えません。また、証券会社がむやみやたらにお客に対しまして勧誘活動をして、その結果上がっているとも思えません。  どうも日本の株式市場、私、七年間おりましたけれども、ついにその目的を達しなかったような挫折感もあるのでございますが、とかく上がる場合にも下がる場合にも瞬間風速が大き過ぎて、波乱を大きくするきらいがございます。なぜかと申しますと、やはり投機的な要素の支配力がまだまだ大き過ぎる。御存じのように最近個人株主が減少いたしまして、いわゆる浮動株が減ってきておるわけですが、そうしますと、投機的な信用取引等の動きが市場を支配する影響力が大変大きくなっておる。そのためにどうも上がるにしろ下がるにしろ動きが大き過ぎておるのではないか。  いまの動きもやや大き過ぎるような感じで、三つのうちのどれかとおっしゃるならば、漠然と政策の転換期待というようなことで動いているのかもしれませんが、現実にはそう転換が行われるわけのものではございませんし、今後一体どういう推移をたどるのであろうか、けが人が出なければいいがと実はひそかに心配はいたしております。  しかし、株価は需給によって決まるわけでございますので、みだりに私どもが介入をしたりよけいな警告をしたりするべき性質のものでもございませんので、現在ではただ心配しながら見つめておるという現状でございます。
  70. 竹本孫一

    ○竹本委員 まあ大変むずかしい見方がいろいろあると思うのですけれども、経験豊かな森永さんの御意見として承っておきます。  第二番目の質問は、いわゆる目減り補償の問題についての結論でございますが、施策の問題ではないのです。御承知のように、これはいま裁判に一つなっております。  これに対して政府がいま抗弁しておるのは、これは統治行為である、したがって裁判になじまないではないかという抗弁をしておるようであります。説明に困ると統治行為に逃げるのが最近政府の癖みたいになっておるわけですけれども、仮にそういうことだとすると、要するに過去のまじめな蓄積に対して政府が損をさせた。簡単に考えましても、去年の消費者物価上昇が二四・五というようなところで、一世帯平均二百四十数万円貯蓄をしておるとすると、ちょうど六十万円目減りをするという計算になるわけですね。これをどうするかということが目減り補償の問題であるわけですが、それに対して政府は、それは統治行為であると言うて逃げていこうという考え方だ。第二に、民間の銀行はこれに対して、そんな目減り補償を背負い込んだら大変だ、やるならむしろ政府が補償すべきではないかといった考えが根底に流れておると思うのです。  裁判が一体どうなるかといった問題もありましょうし、また政府が知恵をしぼって、かっこうだけつけようというここで、私は寸志と言っているが、金一封で二%前後上乗せした金利にして、特別利子で一〇%ぐらいの利子を年金をもらっておるような人に対してひとつ五十万円か百万円かを限度としてつけよう、あるいは貯蓄国債を考えよう、いろいろ御苦心があるようだけれども、しかしこの二つともむしろこれからの問題ですね。国民がいま求めておるものは、むしろ現在並びに過去におけるインフレによる非常な目減りの損害をどうしてくれるかという点なんだ。  そこで、焦点がずれていると思うからお伺いをするのですけれども、将来の問題は将来の問題として、要するに現在並びに過去におけるインフレによる損害について、政府は統治行為で逃げる、銀行も自力でそれはできないと言うて逃げる。こういうことになると、結局庶民は泣き寝入りということにならざるを得ない。あるいはそんな政党におまえは投票したんだから、おまえの責任だという議論がまた別に成り立つかもしらぬけれども、これは政治論だ。実際問題として経済的にこの問題を考えた場合に、庶民はどこでどういうふうに救われるのであろうかという点を私は心配しておるわけです。その点について、日銀総裁はどんな感想を持っておられるのか、これも結論を承るだけで結構です。
  71. 森永貞一郎

    森永参考人 預金者が目減りによりまして不利な立場に置かれておるという事情には大変同情しております。私どもといたしましても、できるだけ預金利子を上げる、五回ぐらい上げましたが、そういうことで処理してきたわけでございます。  しかし、一般論として目減りを利子の問題で片づけるのには限界があるんじゃないかと思います。インフレによる目減りということになりますと、預金だけではございませんで、あらゆる金銭債権に及ぶわけでございますし、またあらゆる所得に及んでくるわけでございます。そうなりますと、それが一体できるかどうか、そこにも問題がございますが、仮にできるといたしましても、もうインフレーションに対する国民の抵抗感を大変弱める結果になりはせぬだろうか。幾ら物価が上がっても、結局は目減り補償で損はしないんだからということで、インフレを敵として戦う意欲を非常に阻害することになりはせぬだろうか。その点が私は一番心配でございまして、その意味でインデクセーションには反対的な立場をとりたいと思っております。  限られた範囲で金融機関も負担できるというようなことで何か妙案がございますれば、私どもも研究するにやぶさかではありませんが、小口ということになりますとなかなか名寄せがむずかしいという問題もあるし、また中小金融機関個人預金が圧倒的に多くて、そういうところの負担が大変ふえる。そうすると貸出金利にもまた及んでいかなくてはならぬとか、あるいは経済が安定してからでも高い金利を保持していかなければならぬとか、いろいろな問題がありまして、非常にむずかしい問題ではないか。どちらかと言えば消極的な立場でおるわけでございます。
  72. 竹本孫一

    ○竹本委員 これも大変むずかしい問題でありますから、きょうは議論をいたしません。これは何といっても政府の問題だから、政府に改めてやる問題だということにいたしたいと思います。  ただ、いま総裁から、心から同情するというお言葉もあったと思うのだけれども、同情だけでは解決しない問題だ。同情はポエトリーにはなるけれども、ポリティックスにはならぬということが一つ。それから、限界論も出ましたし、インデクセーションの問題も出ましたが、私もインデクセーションというのはそう簡単にやれないということはよくわかっておりますので申しません。  ただ、いずれにしましても、いろいろな計算の仕方があることも知っておりますが、大ざっぱに言って一世帯二百四十万円の貯金の四分の一が去年は減ったのだということに対して、インデクセーションはむずかしいとか、あるいはいろいろ政策をやっても限界があるとか言ってみても、庶民のふところには何の関係もない。それを政府としてあるいは金融機関の立場において見過ごすか見放すか、とにかく見ておるだけかというところに一つの問題があるという点を私は指摘したいということでありますから、そういうことも御留意を願って、ひとつ検討もしていただければありがたいと思います。  第三の点は貯蓄奨励の問題でありますが、私はいま目減り補償の問題を取り上げました。私が取り上げたきっかけは、森永さんにはまだ申し上げなかったかと思うから申し上げるのだけれども、実は、資本主義であろうと共産主義であろうと、資本の蓄積あるいは貯蓄というものが経済の根本であるし、またなければならぬという考えに立っておるのです。  最近調べてみた結果わかったのだけれども、私が昭和三十年に読んだ内山完造の「平均有銭」という本がある。この本の中に書いてあるのですが、中国においては蓄積を増強していかなければならぬという必要もあったのでしょう。だれが知恵を出したのか知りませんけれども、米一斤、これは食糧だ。薪炭一斤、これは今日で言う油エネルギー。布一尺、これは衣服。それから油一両。この四つの生活必需物資を基本単位にとりまして、それだけの基礎単位を取るのにどれだけの金がかかるか、何元要るかということを調べて、それが十年なら十年、三年なら三年後に二倍の高さになって、xが二xになった場合には、貯金のyは二yにして返す、こういうような制度を考えて、それを——私も中国語は専門家ではありませんからよくわからないが、「折実単位儲欸」と書いてある。要するに実質的な安定価値計算ということらしいのだけれども、意味は違うかもしれませんが、大体内容はそれである。  要するに、私が言いたいことは、中国共産主義といえども、あるいは共産主義であるからなおさらという議論も成り立つでしょうが、資本の蓄積をやらなければ経済建設は大変だということから、工夫をしてそういうことを考え出したと思うのです。  同じようなことをフルシチョフがやはり演説をしたことがある。これも私はびっくりしたんだけども、共産主義といえども勤剣貯蓄は経済の根本であるといったような演説をしたことがある。ぼくはそれを読んで、フルシチョフがそういう演説をするということにおいて特にびっくりしまして、私の友人に、あるいは総裁も御存じかもしれませんが、直井武夫君がいる。これはソ連研究者でございますから、フルシチョフがどういうわけでそういう演説をしたのだろうかということをぼくは直井君に聞いたことがあるんです。そうしましたら、直井君が言うには、君知らないか、フルシチョフは世界で一番の二宮尊徳先生の研究家である、こういうことを言った。それで勤倹貯蓄という言葉が出たという意味がわかったのです。  これは要するに、共産主義、フルシチョフといえどもやはり経済の基本は勤倹貯蓄であるということだ。今日、中国は「勤倹建国」と言っておりますね。勤倹貯蓄によって国を建てるという意味で勤倹建国ということを言っておる。共産主義の国が、資本の蓄積が少なければ少ないだけなおさらそういうことに努力するという気持ち、経過もわかりますが、いずれにしても、共産主義といえども勤倹貯蓄が経済の根本であり、建国の根本だ。  しかし、そうなれば、それ以上に、あるいはそれ以前に資本主義の国は勤倹建国がより根本的な政治の基調にならなければならぬではないか。そうすると、まじめに勤倹貯蓄をした連中に損をさせるような政治は、およそ非資本主義的というか非現実的というか、とぼけた政治であるということが、私がこの目減りの問題をいち早く取り上げた動機なんですよ。  そういう意味から言って、先ほど来申し上げたように、二百四十三万円平均一世帯なら一世帯が貯金しておる。物価が上がったのは、自分の原因が全然ないとは言えませんけれども、おおむね政府の責任だ。それがために六十万円に近い目減りが行なわれて、しかも政府は、統治行為だから裁判ざたでも御免こうむると言って逃げてしまう。民間も、われわれがやると言うわけにもいかない、限界があるとかいうようなことで逃げてしまう。結局泣き寝入りである。こんなことでいま国民は、インフレがこわいとおどかされながら、やむを得ず貯金に走っておるわけだけれども、その貯金あるいは貯蓄心というものを本当に培養することになるかどうか。そういう意味から、私はいまの政治のあり方に根本的な疑いを持っておるわけです。  私は、いまの目減り問題のきっかけ、動機を申し上げたんですけれども、いずれにいたしましても勤倹建国ということ、あるいは勤倹貯蓄ということが経済の根本でなければならぬと思うが、しかし、いま日本の政府では一体どこがそれに真剣に取り組んでおるかということ、これもまた政府に聞かなければならぬ問題だけれども、さっぱりわからない。  聞くところによれば、日銀はさすがにこの問題にいち早く目をつけてやっておられるということであるから、総裁にお伺いしたいのだけれども、時間がありませんから一緒に申し上げますが、まず第一は、現在までにこの貯蓄奨励運動というものにいかなる決意といかなる規模で取り組まれて、いかなる実績を上げておられるかということが一つ。  それから第二番目は、日本人の一番大きな欠点はムードに弱いということをよく言われますけれども、裏から言えば、頭が科学的でないということだと思うのです。もう一つ具体的に言えば、数字が苦手だという人間が日本には多過ぎる。みんな数字に弱い。そこで生活の科学化もあるいは日本経済全体の計画化もできはしない、根本の数字に弱いのだから。そこで、日本人に新しい経済秩序をつくるあるいはもっと計画的な体制をつくるという場合に必要な条件の一つとして、私は数字にもう少し国民が親しむ訓練をしなければならぬと思うが総裁はどういうふうに考えられるか。  この二つをお伺いいたします。
  73. 森永貞一郎

    森永参考人 貯蓄の意義につきましてお述べになりましたことにつきましては、私も全然同感でございます。  日銀では、昭和二十七年に貯蓄増強中央委員会というようなものをつくりまして、それが中心になり、各都道府県にも貯蓄推進委員会を設けまして、積極的な貯蓄推進の実践活動を行っておるわけでございます。予算規模は、四十九年度で、中央の委員会で約六億ぐらいを投じております。各地方におきましては、まあ二、三百万ぐらいずつの予算でございます。  どういうことをやっているかと申しますと、全国に千二百六十人の貯蓄推進員というのを配置しまして、それらの人々が具体的な生活設計に関する啓蒙運動みたいなものを行っておるわけでございまして、その手段として、家計簿であるとかあるいは小遣い帳であるとか、いろいろなものを印刷して配ったりなどいたしまして、貯蓄の習慣を養うことに日ごろから啓蒙運動をしておる。それからまた、ボーナス時などには、そのほかにテレビ、ラジオ、ポスターあるいは講演会等を通じまして、貯蓄の重要性について一般の認識を深める努力をしておるということでございます。特に昨年、石油危機に際しましては、物価抑制特別貯蓄運動というのを展開いたしまして、国民の節約心の醸成に努めたような次第でございました。  その結果どの程度効果が上がったか。これはなかなか数字的にはつかめません。幾ら貯蓄がふえたかということは出ないのでございますが、私どもとしては、むしろこういう日ごろのじみちな啓蒙運動を通じまして、国民の間に根強い貯蓄の習慣を植えつけていこう、そういう気持ちでやっておるわけでございまして、今後ともそういう方面の運動には一層力を入れてまいりたいと思っております。担当者の話を聞きますと、講演会等での聴衆も大変熱心に傾聴してくれておるようでございます。  なお、竹本委員が目減りの問題を取り上げた動機について触れられたのでございますが、その辺は大変よくわかりました。私どもがポリティックスの問題としては、あくまでももうこれ以上物価を上げないようにする、インフレーションの克服に勇猛心をもって取り組むということがポリティックスの問題としては答えじゃないかと思っておるわけでございまして、一層その面で努力をいたしたいと思っております。
  74. 竹本孫一

    ○竹本委員 ありがとうございました。これで終わります。
  75. 上村千一郎

    上村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  森永参考人には、御多用のところ御出席の上、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。     —————————————
  76. 上村千一郎

    上村委員長 次に、昭和四十八年度歳入歳出の決算上の剰余金の処理の特例に関する法律案を議題とし、質疑を続行いたします。増本一彦君。
  77. 増本一彦

    ○増本委員 来年度の予算では、二兆円の公債発行になっています。全体の歳出予算の中でも、公債費の割合は五%以内ということになっていますけれども、それでも一兆三百九十三億円、非常に膨大な額になっているわけですね。  せんだっての大臣のお話によりますと、公債は極力抑えていこうというお話もありましたけれども、こういう公債費の負担がやはり財政の硬直化を招く一つの大きな原因になっているのではないか。これからの償還等々を考えていくと、なおさら財政硬直化の問題が将来に向かって非常に重要な問題になる。ここでは、やはり根本的にこういう公債に頼っていく予算編成のやり方あるいは財源確保のやり方というものを検討し直す必要があるのではないかということを強く考えるわけですけれども、まずこの点について大臣のお考えをお伺いしておきたいと思います。
  78. 大平正芳

    ○大平国務大臣 公債財源に頼ることが財政のあり方といたしまして絶対的に悪いことであると私は考えておるものではありません。ある場合においてそれは許されてしかるべきものと思います。すなわち、公債がある節度ある範囲にとどめられておりますこと、そしてその市中消化が円滑に行われる状況にありますこと、それからそういう財源の調達の方法がそのときの経済情勢から申しまして適切であると考えられる等の事情がある場合におきましては、あえてこれは悪いことではないと思うのであります。  しかし、そうではなくて、この公債発行のやり方は元来イージーな財源調達の方法でございますから、これになれて、他の方法によって苦心して財源を調達すべきところを、安易に公債財源に頼るということがないという保証はあり得ないわけでございますので、公債に頼るということは私はよほど警戒的でなければならぬと考えておるわけでございます。  すなわち、あくまでも節度ある程度において、インフレを招かないような限度内において考えるべき財政手法であると考えております。
  79. 増本一彦

    ○増本委員 そこで、公債発行のいま大臣のおっしゃった節度の問題ですが、その節度というのは、経済の具体的な実態、情勢から見て、インフレにならない程度というのが一つの目安になると思います。  それからもう一つは、歳出予算の規模の中で占める公債の割合ということも一つ問題になると思いますし、そういう点で、具体的に節度ということを大臣はどのようにお考えになっておられるか、その辺はいかがでしょうか。
  80. 大平正芳

    ○大平国務大臣 節度ということを数字で示すということは、大変困難だと思うのです。たとえば、経済界が非常に不況でございまして、大いに減税をやりまして国民消費を刺激していかなければならぬというような時期でございますならば、公債を発行して財源を別途調達することによって同時に減税もやるというようなことが、場合によっては必要である場合があるわけでございます。そしてそれは、相当大規模の公債を発行いたしましても、差し支えがない状況がある場合がないとは言えぬと思うのであります。しかし、場合によりましては、少額の公債発行もよほど警戒しなければならぬような状態もあり得るわけでございますから、一概に公債依存率が何%までが健全で、何%以上が不健全だなんという物差しはないと思うわけでございます。それはそのときの状況にかかわるであろうと思いまして、財政当局の健全な判断にまたなければならぬと私は思います。
  81. 増本一彦

    ○増本委員 では、いま審議中の五十年度予算案にしぼらせていただいて少しお伺いしたいと思うのですが、今回の場合、二兆円の公債発行ということになっているわけですが、これは私どもから見ると、もっと圧縮が可能であったのではないかということが一つであります。その点についてはいま審議中でありますし、それから予算委員会等でも御答弁があったと思いますけれども、さらにほかの歳出費目のところで大いに削るところを削れば、そういう意味での二兆円の公債発行というものは圧縮が可能であったというように考えますが、その点はいかがですか。
  82. 大平正芳

    ○大平国務大臣 私も、欲を言えばもっともっと圧縮したかったわけなんです。だけれども、最政策的な経費に対する需要要請というものは相当強烈でございまして、大蔵省としてなかなか防ぎ切れないものがございました。これは例年のことでございますけれども……。したがって、歳出の盛り方によりましては圧縮が全然不可能でできないものではなかったじゃないかという御質問に対しましては、それは工夫の仕方によって圧縮ができないものじゃなかったと、私は正直にそう思います。ただしかし、いま置かれた環境の中で、政府・与党の間で一つのコンセンサスを得た予算でございます以上、これがベストの予算であると申し上げるよりほかに私としては言いようがないと思います。
  83. 増本一彦

    ○増本委員 では、率直に大臣の個人的なお考えで結構なんですが、歳出費目等での節約ですね、これはあとどの点をもっと節約すべきであったというようにお考えなんでしょうか。そうすればこの二兆円の公債はもっと圧縮できた、そういう感触で私はいまの答弁を伺ったわけですが、その点はいかがでしょう。
  84. 大平正芳

    ○大平国務大臣 それは早い話が三割近くもの人件費の値上げですね、あれがもう少し安くおさまればことしの予算の肩のこりも軽かったろうにと思っておりますが、これは春闘の後を受けて人事院の勧告がございまして、それを実行するというそういう仕組みになっておりますのでやむを得なかったわけでございますけれども、欲を言えばもう少し低目であってほしかったと思います。
  85. 増本一彦

    ○増本委員 私の方は、たとえば道路整備費一つとりましても、四十八年のいわゆる列島改造予算と言われているものの引き継ぎ分や、四十九年の後年度の負担分のずれ込みということも含めて九千四百億円以上のものが入ってきているわけですね、こういうものの交通整理というものがもっと可能であったのではないか。あるいは防衛予算を見ましても一兆円を超えていますけれども、たとえば過去の分のずれ込みが二千億円あるし、国庫債務負担行為や継続費を合わせますと、五千億円ぐらいがやはり入るわけですね。こういうところが四次防との関係で、ましてや低成長というような時代を迎える状況の中で、交通整理ないし大幅な圧縮整理というものが当然可能であったのではないか。そういうところにもう一つメスを入れれば、二兆円の公債発行というものはもっと大幅に現実的な圧縮が、現在の三木内閣の政治のもとでも可能な範囲というものはあったのではないかというように感ずるのです。  そこで、次の点をお伺いしたいのですが、今度の公債費一兆三百九十三億円というのは、これもまた非常に高額であります。ちょっと計算してみますと住宅対策費の三・五倍、失業対策費の六倍ぐらいになりますし、生活保護費の二倍、文教施設費の大体四・八倍ぐらい。こういう額がこれからさらに来年度以降の予算編成の中でも占める割合が多くなってくるということはもう火を見るより明らかだと思うのです。  そういうことを考えますと、今後の建設公債あるいは新規公債の発行というものは、日本の財政の将来を展望していく上でも、まさに大なたをふるって圧縮しなければならない現実的な要請が来年度五十年度予算案の中にもすでにはらまれている問題だというように考えるのですが、そういう視点からこの公債問題についてどういうようにお考えになるか、その点をひとつお伺いしておきたいと思います。
  86. 大平正芳

    ○大平国務大臣 御指摘を待つまでもなく、公債費の増高ということは大変警戒すべきことでございます。いま幸いにわが国の公債発行残高は、諸外国に比しましてまだ低位にあるわけでございます。これがだんだんふえてまいって利払いあるいは償還というようなことがふえてまいりますと、いま仰せのとおり、財政の硬直化を決定的にする要因に成長してまいるわけでございまして、公債政策といたしましては、いまのうちに警戒ラインを超さないように非常に気をつけていなければならぬと考えます。  したがって、ことしは、実額、公債発行額そのものを去年より、予算はふえるけれども減らす、したがって、公債依存率もうんと減らすという方向をとったわけでございます。これでまだ十分ではございませんけれども、われわれといたしましては、今後そういう方向に鋭意努力していきたい、そしてあなたが御指摘のような硬直化要因の肥大化ということは、極力避けていかなければならぬと考えております。
  87. 増本一彦

    ○増本委員 ちょっと政府委員にお伺いしたいのですが、たとえば来年度現金償還する分が、いままでのあれでいきますと、六十分の七ずつ出てくるわけですね、現体制のもとで。そのほかに金利の負担がある。これが来年度は四十三年度分のものが入ってきて、それ以降、あと三年もたつと今度は一兆二千億という四十六年度発行分のものも入ってくることになりますね。これは七年もので七千百六十三億円あって、十年ものが四千九百二十六億円ある。それ以降は二兆円近い、あるいは二兆円を超すような公債発行が十年ものとして、将来を見通しますと続々出てくる。  大体、公債費の中で現金償還とそれから金利負担というものの推移がどういうようになっていくかというような点は検討されていますでしょうか。もしおわかりでしたら、その数字を教えていただくとよいと思うのです。これは特に公債費というのは、すでに発行された分についてその償還をどうしていくかという問題ですから、この時点で公債の発行を圧縮しましても、後々ずっとその負担は将来にわたってかなり大規模な金額で続いていくわけですね。その点についてはどうでしょう。
  88. 辻敬一

    ○辻政府委員 五十年度の国債費の予算額は、先ほど増本委員も御指摘になりましたように一兆三百九十四億円でございまして、その内訳が、債務償還費が二千九百四十億円、利払い費が七千三百三十五億円、事務取り扱い費百十九億円ということになっております。一般会計に占めます国債費の割合が四・九%でございますが、この率はここ三年ほどは、当初予算ベースで申しますと、四十八年度が四・九%、四十九年度五・〇%、五十年度四・九%というように、比較的安定的に推移をしているところでございます。  それから、将来の国債費及びその歳出に占めます割合につきましては、これはなかなかむずかしい問題でございまして、毎年度の財政規模なりあるいは税収等の財源事情などのいかんによりますので、なかなか予測が困難ではないかと思います。
  89. 増本一彦

    ○増本委員 いまの既定の方針でいくとどういう推移になるかということは、これは数字として出ますでしょうか。いまわかりますか。
  90. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 増本委員御指摘の、将来の利払い費まで含めたということになりますと、大体、将来におけるそのときどきの国債残高にそのとき現在の金利を想定したような形で試算することができます。ただ、その金利までは計算してございませんが、毎年度の償還の額につきましては、たとえば五十一年度におきましては四千四百億円、五十二年度につきましては三千八百七十二億円、五十三年度が非常に大きくなりまして七千四百六十七億となる、そういうような数字はございます。
  91. 増本一彦

    ○増本委員 将来非常な財政負担を及ぼすということは明らかだと思うのです。いま歳出総額に占める公債費の割合というのはほぼ五%内外でおさまっているようですけれども、これからの日本の経済運営は、これはだれが考えましても、いわゆる抑制型にならざるを得ないし、そうしていくということになるわけです。そうしますと、財政の面でもいままでとは違って、やはり抑制的にやらなければならない。予算そのものもそういう方向を考えていかなければならぬわけですね。  そうしますと、その中で公債の償還のために現実に歳出される部分の割合というものが、五%にとどまらなくなるというおそれも当然出てくる。五十三年度以降になれば、現実にそういう問題というものも起こり得るんではないか。そこのところを考えれば、私たちは、なおさら公債の発行そのものに安易に依存していくということは、これは根本的に改めていかなければならないんではないかというように考えるわけです。その点での一層の検討を強く要求したいと思うのです。  それからもう一つは、国債財源の使い道の問題なんですが、いま建設公債ということで公共事業関係費の財源にされているわけですね。来年度の予算を見ましても、特定財源と一般会計を全部見込んで三兆八千七百九十三億円、これはいろいろ予算の歳出を使途別に割り振って考えてみますと、もともと公共事業は私どもは大企業優先だというように指摘してきたわけですが、やはり大企業中心産業基盤整備というものの比率が二で、国民生活関連の基盤の方が一というような運用になっている。  ここで私は考えてほしいのは、国債の消化の実態を見ましても、一つは市中銀行とそれから資金運用部資金ということになるわけですけれども、その原資というものは、いずれもやはり大部分個人、勤労者、国民の零細な預金がもともと引き受けの原資の重要な構成部分になっているということも明らかだと思うのです。しかもそれが将来に国民にツケが回ってくるという国債ですから、そういう中で公共事業関係費の財源に使われるわけですから、ここでそういう観点からも公共事業関係の投資については、国民生活の基盤整備のために思い切った財政を投入していく。いまの二対一の比率をそういう意味からも逆転させる必要があるのではないだろうか、そういう面での努力を大蔵大臣にも強くお願いをしたいのですが、いかがでしょうか。
  92. 辻敬一

    ○辻政府委員 公共事業予算の編成に際しましては、従来から国民生活に直接関係のございます事業につきまして重点的に配慮を行ってきたところでございます。五十年度につきましても、全体といたしましては、御承知のようにおおむね前年度横ばいということに抑制いたします一方で、その枠内におきまして、ただいま御指摘になりました国民生活に関係するものにつきまして配慮を行っているところでございます。  二、三例を挙げますと、下水道につきましては特別の地方債措置を講じまして、総事業費では二七・三%というふうにふえておりますし、住宅は二〇%増の国費を投入する。あるいはまた、上水道、ごみ処理施設、公園等につきましても、それぞれ相当の増額をいたしておるわけでございます。  こういうものに対しまして、道路とか港湾等、従来から産業基盤整備に分類されております事業の予算は、三・六%減ということになっておるわけでございます。ただ産業基盤整備に分類されております、たとえば道路につきましても、その中でも国民生活に直結した事業があるわけでございまして、たとえて申しますと、市町村道の整備でございますとか、交通安全施設などにつきましては、重点的に配慮をいたしておるところでございます。  このような考え方を持ちまして、今後とも国民生活に密着いたしました事業につきまして特に配慮をしてまいりたいと考えております。
  93. 増本一彦

    ○増本委員 次長の御答弁は別として、やはり財政運営を実質的に所管する大臣として、私は、当然こういう公共事業関係については、これからは特に国民生活の環境整備を中心にした財政投入というものにもっと努力をすべきだというように考えるわけですが、ひとつ大臣のそういう意味での政治姿勢、抱負というものについて御答弁いただきたいと思うのです。
  94. 大平正芳

    ○大平国務大臣 公共事業費に一つ偏見がございまして、これは大企業に奉仕する財政支出であるというような見方が一部にあるようでございますけれども、私どもは初めからそう考えていないのであります。欧米各国に比べまして、そういういわばインフラストラクチュアと申しますか、生活環境施設というものが貧弱である、バランスがとれないということは、都市、田舎を通じまして、これが日本の国民生活、国民経済運営のネックになっておったわけでございまして、これをできるだけ早く打開しなければならぬということであったわけでございまして、大資本に奉仕するなどというちゃちな根性ではないわけなんでございます。  しかし、それはともかくといたしまして、この公共事業費も歴史の経過とともにだんだんと内容が変わってまいっておりますこと、いま辻次長からお話し申し上げたとおりでございます。私も戦争直後、日本の公共事業全体の所管課長をしたことがございますが、その当時は、たとえば治水事業費というようなものが約四割も占めた時期もあったわけでございますが、その後だんだんと道路が王座を占めるようになってまいりまして、それがいま申したように住宅でございますとか下水道でございますとか、あるいは公共用地の確保でございますとか、そういうものにだんだんと重点が移りつつあるわけでございまして、どうぞ先入観にとらわれないで、内容がだんだん更新しつつあることも評価していただきたいと思うのであります。  財政当局といたしまして、今後の公共事業費のつけ方につきましては、福祉あるいは生活という視点に立って考えてまいりますことは、経済政策全体をそういう軸においてもう一度見直してみようという政府全体の姿勢との関連におきまして、当然追求していかなければならぬことであると私ども考えております。
  95. 増本一彦

    ○増本委員 たとえば港湾のための大型のプロジェクトであるとか、あるいはその他の産業基盤育成という点は、これは抑制ぎみであるとはいえ、やはりそういうものの予算に占める比重というものは非常に大きい。そこのところを、私たちは生活関連の方に、公共下水道を初めいま深刻な都市問題として矛盾が噴き出している、そういうところをもっとお考えいただきたいという意味で申し上げているわけです。  最後にお伺いしたいのですが、前回他の同僚委員からも指摘がございましたけれども、国債の日銀による買いオペレーションが昨年十二月末に非常に急激にふえている。四十八年十二月と比べますと三兆円もふえて、五兆二千五百億というような膨大な金額になっている。それは十一月と比べてもほぼ二兆円近くふえている。つまりここで、日銀引き締めを堅持しているという点は、たとえば割引手形や貸付金は抑えているけれども、買い入れ手形等でふやしたり、あるいは買いオペで資金需要を賄って供給をふやしていくということをやっておる。これはもちろん年末で資金需要が多かったという点を考慮しましても一つの問題だと思いますし、それから大臣自身も、国債そのものがインフレ要因になるというのはこのオペレーションに問題があるということをおっしゃっているわけですね。  そこで、政府として、この日銀のオペの問題について、資金需要やその他金融情勢を見て、日銀と相談をしてコントロールしていくというシステムなり機能というものをもっと十分に活用するなり確立する必要があるんじゃないだろうか、私はこういうように考えるわけですけれども、これは金融政策の一番中心の問題の一つにもわたると思いますので、その点について大臣はどのようにお考えになっておられるか、御意見を伺っておきたいと思います。
  96. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 御指摘のとおり、膨大な量の国債の日銀保有でございますので、日銀が一つのオペレーションとして市中から国債を買い入れるということにつきましては、私ども国債発行者として非常に関心を持っているわけでございます。いま増本委員御指摘の日銀における国債保有高、これが四十八年十二月に比べまして、二兆二千億から五兆二千億までふえておりますが、その大部分のボリュームを占めますものがいわゆる糧券とか為券とかの短期証券でございます。これはすでに御承知のとおりと思います。  短期証券につきましては、短期の資金繰りの都合上、日銀がいつも引き受けて、また短期間後にはそれを償還されるという形でございますので、いわゆる国民の将来の租税負担にある影響を与えるという性格のものでございません。問題は長期国債、これにつきまして日銀がどういう保有形態をとるかという問題かと思います。  なるほど最近の事例を見ますと、国債を発行以後一年以降に、日本銀行が市中からオペレーションの一環として国債を買い入れておるという例はございますが、これをさらに四、五年前までさかのぼってみますと、必ずしもそうではございませんので、一年経過どころか、二年、三年たってもなかなか全額を日銀が引き受けていないという場合もございますし、対民間の日銀のオペレーションの結果をみますと、年度によりましては千億ほどむしろ逆に売るというときもございますし、八百億ほど売った例もございますし、やはりそのときどきの金融情勢に応じまして日本銀行が国債の操作をやっておるということでございます。  なお最後に御指摘がございました問題は、私どもたとえば国債の買入れ消却などを昨年行ったわけでございますが、こういう種類の私どもの方を通ずる操作をやる場合には、日本銀行当局と十分相談しておるわけでございます。  また、資金運用部が現在国債を保有しておりますが、国債総保有高のうち相当部分が短期の資金運用形態として保有しておるわけでございまして、こういうときには当然日本銀行と相談しながらやっておるということでございます。
  97. 増本一彦

    ○増本委員 大蔵省からもらったこの資料によりますと、新規国債の所有者別残高、四十九年十二月末というところで、日銀が二兆三千百六十億というぐあいになっておるわけですね。そうすると、日銀の十二月末の残高で見ますと、短期がやはりほぼ三兆円くらい保有をしておる、こういうことになるわけですね。売りもやっているというお話ですけれども、四十九年の三月で、いままでの八千五百五十億が三兆六千九百八十億くらいに一挙にふえて、それ以降売りと買いをちょこちょこやりながら、十二月になって一挙に買いに入ったという推移がこの数字でもわかると思うのです、「財政金融統計月報」の三十一ページを見ましても。  だから、そこで私が言うのは、金融政策として、必要な資金需要があったときにはそれに対して資金の供給をしてあげるというのは日銀として当然のことです。だけれども、いまその金が不要なところへ行くとか、ましてや国債そのものの引き受けは都市銀行が中心だし、大蔵省も大口の融資規制をやるというぐあいに、金融については都市銀行を中心に大企業向け系列融資を含めたそういう問題にきちっとたがをはめようということで始めている段階でこれだけのものが出るというのは、これはやはり引き締めのしり抜けになる原因にもなりますし、そういうところでもっと金融政策全体として日銀と大蔵省との協議によってきちっとした調節をとっていく、そういうシステムをつくり上げる必要があるんじゃないだろうか、こういう意味で私は申し上げておる。その点を大臣としてどうお考えなのか、ひとつ御答弁いただきたいと思います。
  98. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 御指摘のように、四十九年の三月には短期証券を中心にして相当ふえております。これはたとえば年度末になりまして国庫余裕金とそれから短期証券との振りかえがあるというようなことでふえておるわけでございますが、いまも御指摘の、こういう種類のことによる、いわゆる日銀が短期証券なり長期国債を買い入れることによって、金融がそこで非常に緩んだんじゃないかということでございますが、これはこの表だけで見ると確かにそうでございますが、日本銀行がこういうような操作をやるには、財政資金の揚げ超とか散超とかいうぐあいの全体の通貨供給の事情を見ながら調整していくわけでございます。御承知のように、三月におきましては財政資金が申告等のこともありまして揚げ超になっていくとか、そういう全体の姿を見てやっておりまして、結果における通貨増発量その他あるいは貸出枠その他、こういうことにつきましては、御指摘の説を踏まえまして、日本銀行それから大蔵省、十分相談してやっておるつもりでございます。
  99. 増本一彦

    ○増本委員 それでは終わります。
  100. 上村千一郎

    上村委員長 村山喜一君。
  101. 村山喜一

    村山(喜)委員 大臣、私は角度を変えましてこの国債の問題を取り上げてみたいと思うのですが、最近西ドイツが公定歩合を引き下げまして五・五%になった。それからアメリカの場合でも同じように公定歩合の引き下げをやりまして、このプライムレートも八・七五%というふうにして下がってきている状態にあります。そういうような状態やあるいはインパクトローンの受け入れの問題等をめぐりまして、最近の不況対策というものが世界的に大きく取り上げられて、日本の場合もそれに合わせたような形の中で、金融の量的な緩和が進むのではないかという報道がもっぱらなされているわけでございます。  そういったような状況はやはり債券相場の中にもあらわれてまいりまして、利付電話債の最長期ものは最終利回りが九・六一%になった。それは新発事業債のAA格債に比較をいたしますと、この場合が九・六九六%でございますから、最長期もの利回りは新発債を下回る状態になってきた、こういうような報道がなされているわけでございます。  そこで、そういう状態の中で今度行われるこの国債発行条件考えてまいりますと、表面利率が八%、国債の応募者利回りが八・四一四ということで行われようといたしているわけでございますが、この発行条件は、ことしはどういうふうにお考えになってこれからやろうとしておられるのか、私はその点をお尋ねをしておきたいと思うのでございます。日本の場合でもやがて公定歩合の引き下げというような事態が出てくる、そういうような中において、長期貸出金利が低下をしていった場合に、一体どういうつもりでこれからの国債発行条件をセットされようとしているのか、その点についてまずお伺いをしてみたいと思うのでございます。
  102. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 すでに御指摘のとおり、国債発行条件につきましては、最近における長期債の金利改定に伴いまして、五回にわたりまして事業債とか長期貸出金利と歩調を合わせまして改定を行った結果が現在の金利でございます。  御指摘のとおり、今後安定成長の道に行く、それからいろいろな意味で設備投資その他の資金需要が場合によっては緩んでくる。そのときに金利情勢がどうなるかということは将来の問題で、まだ予測不可能でございますが、従来と同じような考え方で、やはり社債とかその他の長期金利一般とバランスをとりながら、一般金利変動と弾力的に調整を行っていきたいというのが基本的考えでございます。
  103. 村山喜一

    村山(喜)委員 金利機能の活用という問題をお考えになっているのだろうと思うのですが、この市場における金利裁定の機能というものが日本の場合にはどの程度働いているのかということが、やはり国債発行に当たりますその条件設定の場合に必要であろうと思うのです。いま事務当局の方からの説明はありましたが、大臣はこの国債発行条件を決められる場合にどういうようなことを基準にしながらお考えになるつもりなのか、その点の大臣の考え方を私はお示しをいただきたいと思うのですが、いかがですか。
  104. 大平正芳

    ○大平国務大臣 いま御指摘のとおり、わが国の場合、金利機能がどれだけの働きをしておるかという評価に御疑問を持たれるのも、私は無理ないと思うのでございます。とりわけ国債金利というものにまつわる評価は、大変むずかしいことと思います。本来もっともっと活発に金利機能を活用して経済に活力を与えていかなければならぬではないかというのが、私は本筋の考え方だと思います。そういう条件を漸次つくっていかなければならぬというように基本的には考えておるわけでございます。  しかしながら、それよりも何よりも、公債経済考える場合に一番根本的には、大きく日本の財政が公債にディペンドするという状態、公債に依存するという状態にだけはできるだけ持っていきたくない。公債にどうしても依存せざるを得ないという抜き差しならぬ状態になってまいりますと、公債政策という問題が金融政策におきましても一番中心的な問題になってくるわけでございますが、わが国の場合はできるだけそういうことにならぬように、公債政策全体を考えていかなければいけないのじゃないかという配慮が先に立っておるわけでございます。  しかし、金利政策全体から申しますと、村山委員のお説のとおり、金利機能を活発に働かすような条件の整備に鋭意大蔵省としては当たってまいらなければならぬことと考えておるわけでございまして、いまの国債の金利政策がこれでベストな道を歩いておるものと、私はそううぬぼれておるわけではございません。
  105. 村山喜一

    村山(喜)委員 そこで、最近の利付金融債の流通利回りの推移を見てまいりますと、大分落ちついた動きを示しておりまして、応募者利回りとの乖離がきわめて少なくなってきているわけでございますが、いま大蔵省としては、大臣がおっしゃったように、十分な段階ではないと思うがこれからさらに努力をするとおっしゃる、その認識の中には、現在どの程度の段階にあるのだということがあると思うのですね。たとえば金利機能の弾力化の問題は大体不十分ながらその段階は達成をした、これからは国債を市場原理に従って発行していくというその慣行を公社債市場の発展とともにつくり上げていくのだということになるならば、大体いつをめどにしてやっていこうというふうにお考えになっているのか、その展望をお示しいただかなければ、現在はこういう段階だが将来はこうなるのだという見通しの説明を願っておかないと、やはりインフレの中で債務者利得は発生をし、債権者は損をするということから預金の目減りの問題等が出てきた状態考えますと、この国債発行という問題が一つの大きなそういうような方向づけを決めることになると私は思いますので、その点についての長期展望を明らかにしてもらいたいと思うのです。
  106. 大平正芳

    ○大平国務大臣 結論から申しますと、実はいま確たる展望を持っておりません。むしろ経済をできるだけ早い機会に安定化させるということがいま当面の目標でございまして、これでほぼ安定の目安がついてきたという段階において、逆説的でございますけれども村山委員のおっしゃるような国債金利政策というようなものを本格的に考えられる環境ができてくるのじゃないかとむしろ考えておるわけでございます。  ことしも、ことしの予算をつくります際に国債発行等懇談会を開いて各方面の御意見を承ったわけでございますけれども、一応二兆円程度の国債でありますならば、現在の金利政策でどこも一応支障なく納得ずくで御協力できますということでございますので、いまやっている行き方を急に変えるというつもりはないわけでございまして、しばらくこれでやらしていただいて、もう少し経済が固まってきてから本格的なことを考えるのが手順じゃないかと私は考えております。
  107. 村山喜一

    村山(喜)委員 そのシンジケートが引き受けをする二兆円の消化は、現在の国債発行条件をもとにして引き受けは支障がない、こういう判断が成り立つのだろうと思うのですが、将来これが公社債市場における他のそういう条件の変化が生まれてきた場合には変更するのだということになった場合には、大丈夫それは消化ができますか。
  108. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 御質問の趣旨は、現行の発行条件で消化可能かということでございますので……(村山(喜)委員「いや、違う違う」と呼ぶ)それは公社債市場の条件が相当変化した場合に消化可能かという御質問かと思いますが……。
  109. 村山喜一

    村山(喜)委員 私が尋ねているのは、現行の国債発行条件というものは、先ほど私が言いましたように、表面利率が八%、そして応募者利回りが八・四一四、現在の段階においては発行条件はずっとこの線で進めていこうとしておられるわけでしょう。その条件のもとでは二兆円というものの消化は可能だろうと私も見ているわけです。しかしそれは、条件の変化が仮りにありとした場合に、いまのような形で将来も消化ができるかということを聞いているわけです。
  110. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 条件の変化の問題でございますが、私どもはやはり現在見通したいろいろな経済情勢の見通し、それから現在の金利全般のバランスということで考えたわけでございまして、御質問の条件の変化が、金利水準なりあるいは市中金融の遍迫度なりそういう種類のものに相当急激に、あるいは相当なボリュームで行われるというふうな場合には、私どもは先ほどお答え申し上げましたとおり、国債の発行条件につきましてももう一回考え直さなければいかぬ時期が来るかもしれないということでございます。
  111. 村山喜一

    村山(喜)委員 現在の状態の中では発行条件の変更ということはあり得ない、こういうふうに受け取っておっていいですか。そうすると、仮に公定歩合が下げられるような事態があっても、それに連動して直ちに変更するということはない、こういうふうに受けとめておっていいですか。
  112. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 一つの将来の見通しの問題でございますが、国債の発行条件はあくまでも長期貸出金利、それからほかの社債その他とのバランス問題でございますので、御質問の趣旨のような事情が生じた場合にも、そこら辺の変動がなければ、あえて国債金利の改定を行う必要はなかろうかと思っております。
  113. 村山喜一

    村山(喜)委員 そこで、いま発行残高が約十兆あるわけですが、これの保有の形態を考えますと、いままで武藤委員の方からもいろいろ指摘がありましたように、日銀保有とそれから預金部運用資金で抱えている割合がきわめて多いわけでございまして、市中の流通市場に出回っているものは、聞いてみますと、大体六千億から七千億程度だ、こういうふうに聞いているわけでございますが、いまこの国債発行の原則というものが二つの条件の中でセットされているわけです。いわゆる建設公債としてこれを充てていくのだ、それからもう一つは市中消化だ。  この原則の中で、ことし二兆円を出そうということでございますが、この市中消化という概念規定の中には、シンジケート団で引き受けましたものが一年たったら日銀なりあるいは預金部運用資金の方に集まっていくという形態は、これは一つの市中消化の形態ではありましょうが、そういうことを初めから予測をしていたのかどうか。  それとも国民の中に、これは優良な金融資産として保持する方向に誘導をするのだという形で考えていたものかどうか。日銀が成長通貨を供給する場合に、市中銀行等が持っているものを買いオペの対象として、それを吸い上げて成長資金を出すという形で初めから考えていたものなのか。  その市中消化というものがきわめてあいまいでございますから、その点についてきちっとしておいた方がこれからの国債管理政策の上においていいのではないかと思いますので、市中消化の原則というものは、これからまだ国債発行というものは続いていくであろうという想定に立ちますときわめて重要でございますから、お伺いをしておきたいと思うのです。
  114. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 非常に重大な問題でございます。  と申しますのは、昭和四十一年でございますかか、国債発行に踏み切りまして、相当多額の国債をある時期に発行せざるを得なかった。しかも、その後国債の依存率を順次下げたわけでございますが、財政事情によりまして、また二兆というような相当多額の国債の発行が継続されている。  そういう場合に、私ども、御指摘のとおり、まず市中金融機関あるいは証券会社、それからまたそれを通じての個人というようなことの一つの割り振りを考えたわけでございますが、現在の日本のマーケットといいますか、そういう面からいきますと、やはり一番大きな資金力を持っている市中金融機関がほぼ九割程度を引き受け、それがまた一つの日銀発行につながらないように、日銀の自主的判断に基づくオペレーションとして、日本銀行が一年経過後のものを適宜の時期に買い入れる、あるいは売り渡す場合もございますが、そういうような形態をとっております。そのこと自体は決して一つのインフレ傾向につながるというような話ではないと思いますが、私どもとしては、やはり理想は、できるだけ個人が安定的な資産形成として国債を保有するという形が望ましいわけでございます。  ただ、御承知のように日本の個人の資産保有の構成を見てみますと、預貯金は多いのですが、株式とか直接投資に向かうものあるいは社債等に向かうものは、遺憾ながらまだ少ない。こういう構成につきましては、すでに村山委員御承知のとおり、長い公社債市場の歴史がありまして、一朝一夕には片づかないわけでございます。  なお、私ども資金運用部資金をいま四兆五千億ほど保有しております。ただ、この資金運用部資金が保有しているうちの一兆三千億ほどが当初引き受けでございまして、あとの三兆二千億ほどは資金運用部資金の運用といたしまして日銀から買い戻し条件つきで預かっているという形でございまして、結局は、実質的な所有は日銀に集中しているというのが現状でございます。  将来これはどういう形の市中消化が望ましいかということでございますが、やはりこれは、銀行局あるいは証券局の方の問題も絡むかもしれませんが、わが国における一つの金融市場なり公社債市場なりその構成を考え、また国債の発行量が適度に減っていって、そういうふうな形でなくても相当安定的に消化できる環境ができたときの判断だと思いますが、私どもといたしましては、気分的には個人消化の拡大、個人の保有する国債の拡大というものも十分考えていきたい。そのためには、一つの別枠の特別減税措置などを一般のマル優に加えまして考えたり、累積投資の措置考えたり、あるいは価格維持のための一つのオペレーションを国債整理基金で行っていったり、中間的な努力を今後も続けてまいりたい、こう思っております。
  115. 村山喜一

    村山(喜)委員 そこで公社債等の税引き前後の利回り比較を資料として私もらったのですが、税引き前の利回りが八・四一四%だ、税引き後の利回りを計算すれば六・三六八だということで資料をいただいております。  それをほかのものに比べてまいりますと、税引き後の利回りで計算をするならば、郵便貯金の場合には定額三年以上の場合には八%の利回りになる。他の事業債の場合等に比較をしても、国債の利回りというものは決して高くないわけですね。高くないからいわゆる税法の上でメリットを与えまして、税引き前の利回りが確保されるようにということで計算をしていくならば、郵便局の貯金をするよりも、あるいは他の事業債や利付金融債を買うよりも有利になります、こういうことで優良な金融資産として各個人が持つように勧めていくんだというふうに受けとめてよろしいのですか。
  116. 吉瀬維哉

    ○吉瀬政府委員 端的に利回りを比較いたしますと、税引き後でもほかの債券その他と若干の格差がございます。ただ、私どもといたしましては、国債が発行条件におきまして他の債券に比べましてやや低利である、この基本はやはり国債の信用度だとかあるいは市中における変動が少なくて安定的な投資だという面があるんじゃなかろうかと思います。  いま御指摘の税引き後の利回り、こういうものも、私ども全体の体系で、税法の体系もございますし、いまのこのバランスというもので相当な優遇措置を講じているので、これをさらに国債の安定性等をいろいろPRしていけば、国債の消化もある程度は可能か、こう考えておるわけであります。
  117. 村山喜一

    村山(喜)委員 いままでの成績を見ますと、必ずしも理財局長が期待しておられるような方向に行っていないように私は受けとめるわけです。  それで、大蔵大臣は、国債の発行というものは経済に拡張的な効果が及ぶから節度を持って、これからもできるだけ圧縮していきたいという方針を述べられたわけです。しかし、いまの状態の中では、日本の国債のGNPの中に占める比率の上から見ましても、あるいは一般会計の歳出の中における割合から見ましても、これを圧縮して、そしてなくしていくという方向に持っていくのには、なかなか大変な努力を必要とすると思っているのです。  というのは、租税負担率について諸外国と比較をしてみましても、日本の場合にはこれは少ないわけですね。だから、平常時においては異常なほど国債の依存をしておるということが端的に指摘できると思うのです。そうなれば、いわゆる歳入を税収という形で増加を図らなければならない。それはなかなか国民の抵抗がありまして、今度の社会的不公正是正のための税制改革も中途半端なものになってしまっておるのは、そういうようなことから見ても明らかでございます。  となれば、やはり公債に対する依存というものは、ある程度これからも続いていくということを覚悟しなければならない。その大臣の気持ちはよくわかるのですが、実際問題としてはこれから脱却をすることはなかなかむずかしいと思う。  むずかしいという判断に立つならば、いかにして個人がそういう優良金融資産として保有できるようなふうにするのか。もちろん、財政負担の問題が国債の金利負担の問題として出てまいります。出てまいるけれども、こういうような発行をこれからも続けていかなければならないとするならば、そこにはやはりそういうような政策的な配慮というものがなければこれは安定をしないのではないだろうかと思うのですが、それについて大臣のお気持ちはお気持ちとしながらも、現実に国債発行をやはりある程度続けなければならないという状態を想定をしました上で、そういう国債管理の問題についてどういうふうにあるべきかということについての御所見をお伺いしておきたいと思うのです。
  118. 大平正芳

    ○大平国務大臣 国債ばかりでなく公社債市場自体がまだ大変未熟な状態にありますことは御案内のとおりでございまして、この育成が叫ばれてから久しいのでございますけれども、一向わが国ではこの公社債市場が熟してこないわけなんで、これは一つの問題だと考えております。  それから、国債という一つの商品でございますが、これ自体がまたわが国においては余り魅力のない投資物件でございまして、いわば相当お義理に持ってもらっておる。理財局長は非常に上品な言葉で言っておりましたけれども、正直に申しまして、金融機関におきましても、村山先生御指摘のとおり、あまり魅力のある投資物件じゃないけれども、一応政府のことだからこの程度はおつき合いいたしましょうというようなところが本音じゃないかと私は思うのです。したがって、これが本格的に魅力のあるものとして公社債市場で定着していく公債政策考えていくのが本筋なんでございますが、なかなか道は険しいのじゃないかという感じが、率直に申しましていたしておるわけでございます。  しかし、それはいかにむずかしくても、公債財政から脱却が大丈夫できるという見通しが立たない限りは、いやおうなしに公債政策との取り組みをわれわれは覚悟せねばいかぬ。とすれば、その道は険しくともやはり開拓していかなければいかぬ道じゃないか。もっと公債政策というものを地についたものにし、魅力のあるものにして、市場性を十分持ったものにすべく努力していかなければいけないのではないかと思います。  同時に、しかしながら、忘れてはならないのは、公債政策に依存するというようなイージーな財政政策は十分戒めてかかる必要は、いつの場合でも十分心得ていなければならないのじゃないかと私は考えております。
  119. 村山喜一

    村山(喜)委員 現在、公社債のGNPの比率を求めてみますと、九・二七%であるようでございます。うち国債が七%。この割合がこれからどういう方向へいくのか、またその発行限度額というものは、ただ財政の収入と支出の中で、不足をするものを国債発行して埋めればいいというような単純なものではないと思うのですが この公共債のGNPに対する比率がまあ一〇%に近くなってきたということは、アメリカ、イギリス等の先進国に続いて日本の場合が世界で三番目であろうと思うのです。西ドイツやフランスよりも高うなっておるはずでございます。  そういうふうになってまいりますと、これからやはりそういう中における問題をどういうふうに枠の中で考えるかという一つの長期的な見方も立てなければならない時期に来るのではなかろうかと思うのですが、そういうような意味において、将来これらの問題をどういうふうにされるのか、その点をひとつ最後にお伺いをしておきたいと思うのであります。それから、民間の金融機関の運用資産の残高に占める国債の割合もいまでは一・二九くらいになっておりますし、全国銀行勘定でございますが、公共債全体では四・九七%だという資料ももらっております。それが将来どういうふうに変わっていき、その民間の金融機関の中における運用資産残高の中で公共債がどの程度め割合になればいいのかという問題も総合的にこれは検討いたしませんと、やはり公共部門の資金、民間部門の資金、海外部門の資金という、その資金配分の計画の中においてわれわれが問題をとらえていかなければならないかと思いますので、そういうような面からこれらの国債の管理政策というものについてはいろいろな問題がひそんでおりますので、十分な検討をするために何らかそういうような検討のための委員会というようなものをおつくりになって、長期的な展望を打ち出されるつもりはないのか、この点について大平大蔵大臣から御所見を承って、私の質問を終わりたいと思うのです。
  120. 大平正芳

    ○大平国務大臣  公債、長期政府債の残高がGNPとの対比におきまして一割に近づいてきた、仰せのように西ドイツ六%内外、フランスは三%内外でございますから、それをはるかに凌駕いたしておりまして、アメリカ、イギリスは論外といたしましても、西独、フランスを凌駕しておることは事実でございまして、そういう上から、この公債政策財政の上から真剣に取り上げて一つの定着したルールをつくり上げなければならぬような時期に来たのではないかという御指摘、仰せのとおりでございまして、その点につきましては、私、全く同感に存じます。  それから第二の、わが国の市場における公債の消化状況、これはいま仰せのように、まだいびつな状態になっておりまするけれども、これがそのままでいいというはずのものでもないわけでございまして、財政面におきましても、金融面におきましても、また公社債政策といたしましても、また市場政策といたしましても、いろいろな角度からもう一度公債政策というものは広く深く討議を深めなければならぬ時期が来たのではないか、そのために一つの討議のマシナリーをつくってこれに当たる必要を感じないかという建設的な御提議でございます。私はきわめて示唆に富んだ御建策だと思いますので、そういう方向で篤と検討さしていただきます。
  121. 上村千一郎

    上村委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。  次回は、来る十八日火曜日、午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後六時五十八分散会