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1975-04-23 第75回国会 衆議院 社会労働委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年四月二十三日(水曜日)     午前十時五分開議  出席委員    委員長 大野  明君    理事 住  栄作君 理事 戸井田三郎君    理事 葉梨 信行君 理事 枝村 要作君    理事 石母田 達君       大橋 武夫君    加藤 紘一君       片岡 清一君    小林 正巳君       島田 安夫君    田川 誠一君       登坂重次郎君    羽生田 進君       萩原 幸雄君    橋本龍太郎君       増岡 博之君    綿貫 民輔君       田口 一男君    田邊  誠君       中村 重光君    森井 忠良君       吉田 法晴君    田中美智子君       大橋 敏雄君    安里積千代君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 田中 正巳君  出席政府委員         厚生省公衆衛生         局長      佐分利輝彦君         厚生省社会局長 翁 久次郎君         厚生省年金局長 曽根田郁夫君         厚生省援護局長 八木 哲夫君         社会保険庁年金         保険部長    河野 義男君  委員外出席者         外務省アメリカ         局外務参事官  深田  宏君         大蔵省主計局主         計官      梅澤 節男君         社会労働委員会         調査室長    濱中雄太郎君     ————————————— 委員の異動 四月十八日  辞任         補欠選任   高橋 千寿君     細田 吉藏君 同日  辞任         補欠選任   細田 吉藏君     高橋 千寿君 同月二十三日  辞任         補欠選任   伊東 正義君     片岡 清一君   粕谷  茂君     島田 安夫君   瓦   力君     増岡 博之君   田中  覚君     萩原 幸雄君   高橋 千寿君     綿貫 民輔君   稲葉 誠一君     中村 重光君   小宮 武喜君     安里積千代君 同日  辞任         補欠選任   片岡 清一君     伊東 正義君   島田 安夫君     粕谷  茂君   萩原 幸雄君     田中  覚君   増岡 博之君     瓦   力君   綿貫 民輔君     高橋 千寿君   中村 重光君     稲葉 誠一君   安里積千代君     小宮 武喜君     ————————————— 四月十六日  原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律  の一部を改正する法律案内閣提出第三六号) 同月十八日  社会保障基本法案小平芳平君外一名提出、参  法第一五号)(予)  母子保健法の一部を改正する法律案柏原ヤス  君外一名提出参法第一六号)(予) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  国民年金法等の一部を改正する法律案内閣提  出出第二四号)  原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律  の一部を改正する法律案内閣提出第三六号)      ————◇—————
  2. 大野明

    大野委員長 これより会議を開きます。  国民年金法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、これを許します。田中美智子君。
  3. 田中美智子

    田中(美)委員 時間が非常に短いので、簡潔にお答え願いたいと思います。  まず付加保険料がなぜスライドされていないのか、このことについてお尋ねいたします。
  4. 曽根田郁夫

    曽根田政府委員 付加保険料に対応する付加年金部門でございますが、これは御承知のように一応本人希望によって入れる任意加入制度でもございますし、またスライドは四十八年の改正で初めて取り入れられたわけでございますが、スライドに伴う追加費用負担をどうするか、これは一応国庫と本人負担保険料という考えになっておりますけれども国民年金の場合にこのスライド実施に伴う追加費用の問題というのがかなり保険料にはね返るという事態もございますので、いわば四十八年改正におきましては付加年金の性格と保険料負担、そういったものを総合的に考えまして、最小限度スライドということで付加保険料はその対象外にしたということでございます。
  5. 田中美智子

    田中(美)委員 いま本人希望任意にというふうに言われましたけれども農業者年金の場合は強制になっていますね。これもスライドになっていないというのはどういうことですか、簡単にお答えください。
  6. 曽根田郁夫

    曽根田政府委員 農業者年金の方に入られた方については、付加年金部門は当然適用ということに一応なっておりますけれども、いま付加年金全体をスライド対象として考える場合に、やはり農民年金でそのような扱いになっているからということではなくて、付加年金部門が全体として任意加入のものであるということで考えなければいけませんので、いまの段階農民年金がこうであるから当然にスライド対象ということはいささか問題があるのではないかというふうに考えております。
  7. 田中美智子

    田中(美)委員 任意加入だからスライドはいいと言っていながら、農業年金強制なんだ、それなのに全体としてはそうではないからといっても、農業年金はいまどんどんふえているわけです。これはこれからどんどん支給が始まるわけですからね。これは任意だから要らないという理屈は成り立たないというふうに思うのです。  もう一つ国民年金法の附則二十二条に、障害者母子、準母子老齢福祉年金は除くというただし書きが書いてあるわけです。その中に付加保険料は除くとは書いてないわけです。それではどうしてこの中に除くと書かないのですか。法的にもこれを除けば矛盾すると思うわけです。
  8. 曽根田郁夫

    曽根田政府委員 二十二条の関係は、一応福祉年金スライド対象外にするということで法律で除いておりますが、付加年金の方は政令の段階対象外にいたしておりますので、別段問題はないと思います。
  9. 田中美智子

    田中(美)委員 実際にはこの付加保険に入れる場合に、スライドするからということを窓口で言っているところはたくさんあるわけです。私が聞いてきたところでは、愛知県の渥美郡の田原町というところがあります。ここでは三五%ぐらいが付加保険料を払っているわけです。全国でも非常に高率だというので、どういうふうにして付加保険に入れたのかということであちこちから調査に行くわけですね。そうすると、そこではスライド制をするからというふうに言ってやっているわけです。担当者に聞いたら、担当者は全くスライドをしないということは聞いていない、全部するというふうに言われているということで、非常に趣旨徹底していないわけです。そうしていろいろ通達だやれ何だと言いますけれども、実際には二十二条においても除外規定にはなっていないし、そしてもともとこれは普通の定額保険料と同じように、それが足らないからというのでくっつけているわけでしょう。これをスライドしないということは、結果的にはまさに詐欺行為と思うのですよ。これは大臣どう思われますか。
  10. 田中正巳

    田中国務大臣 いろいろなお話がございましたが、付加給付スライドしないということは、これはいまたてまえ上加入あるいは脱退が自由であるというようなこともございますが、さらにこれのスライド財源をどこへ求めるかということはなかなか年金の処理の上でむずかしい。それから農業者年金については、これは御承知のとおり付加年金を納めている者について農業者年金加入できる、こういう制度になっているものですから、国民年金そのもの強制というわけではない。その辺にちょっと問題のむずかしいところがあるだろうと思うので、要するに農業者年金に入るためにはこういうことが必要だよということで、国民年金制度の中における強制ではないというところにいろいろ問題があろうと思われるわけでありまして、まあこういう点については、今後ひとつスライド財源の問題ともあわせて検討しなければなるまいと思っておりまして、私は現在のところはスライドできないことについては無理がないと思いますが、今後絶対に検討しないということではないというふうな問題だろうというふうに思っております。  なお、末端でもって付加年金スライドするんだというふうなことを言っておるとすれば、これは明らかに指導の間違いでございますので、先生のおっしゃられるようなことを言われても仕方がございませんから、調査をいたすと同時に、さようなことは現行制度ではございませんから、そのようなことは絶対に申さないようにひとつ指導をいたさなければならぬ、かように思います。
  11. 田中美智子

    田中(美)委員 いまおっしゃったように、その財源の問題があるからむずかしいというふうにおっしゃるし、それから農業者年金の場合でも、付加年金に入ってなければ農業者年金に入れないんだ、こう言いますけれども、実際の指導というのは、農業者年金はもう強制なんだ、現に厚生省の方もこれは強制になっているんだ、こういうふうに結果的には強制になっているわけですよ。そうしていて理由は、任意だからスライドしないというのは理論的にはそこに矛盾があるわけですね。だからむずかしいという言葉大臣お使いになったのでしょうけれども、むずかしいということじゃなくて、理論的に矛盾があるし一貫していない。これはやはり一貫させるということは必要だと思います。大臣がおっしゃったように、決してしないわけではないとおっしゃるわけですから、一日も早くこれは一貫性をきちっと持たせて、そしてスライドを一日も早くしていく。それからいまの指導を徹底的に——現場でいいかげんな、担当者にさえきっちり教えてないわけですから、担当者は罪の意識なくうそをやっているわけです。そうしていて厚生省の方は知らぬ存ぜぬでは、これは政治不信になるのはあたりまえだと思うのです。ですから、そこをきちっとした、指導性をきっちりと持って、そして、こうした理論的にも矛盾のあるもの、誤解のあるものは解いていかなければいけない。何といってもこの付加保険料金というものは、こうした障害福祉年金とか母子年金などのようなものとは違うわけですから、ですからこれはやはりスライドにすべきだと思います。一日も早くスライド制をとっていただきたい、これを要請して、次の質問に入ります。  その次には、明治四十四年四月二日以後に生まれた人は老齢福祉年金対象にはならないわけですね。一言でお答え下さい。
  12. 曽根田郁夫

    曽根田政府委員 そのとおりでございます。
  13. 田中美智子

    田中(美)委員 いままで国民年金に入れという勧誘をした場合、国民年金に入らないと老齢福祉年金はもらえないんだというふうなPRはしているでしょうか。イエスかノーかで結構です。
  14. 河野義男

    河野(義)政府委員 これらの人は強制適用保険者でございますので、当然老齢福祉年金は受給されないということは一線関係者は十分承知しておりますので、いま具体的にそういう指導をしたかどうかということは把握しておりませんが、当然そういう人たち老齢福祉年金適用はないんだということを頭に置いて指導がされておるというふうに私ども考えております。
  15. 田中美智子

    田中(美)委員 担当者は一切承知していると——これは担当者承知しているのは当然です。承知していながら、私がいままで調査したところでは、一カ所も発見することができなかったわけです。国民年金に入らないと一切の年金はもらえませんよ、一切のという言葉を使っているわけですね。しかし老齢福祉年金はもらえませんというPRをしているところは一つもないわけです。私が聞いて歩いたところでは一カ所もそういうことはしていないのですね。厚生省はその事実を御存じないといまおっしゃったわけですけれども……。  年金制度というのは、これは私の年代、私はいま五十二歳ですからね、私の年代には、若いときから、結婚してからも年金をもらえるという常識はなかったんです。日本は社会保障がおくれていますから、年金がもらえるという常識はなかったんですね。ですから、この老齢福祉年金がもらえるようになったときは、これは驚いたわけですね。掛金を掛けなくてももらえるのだということは、非常にもらえたお年寄りも驚いたし、その次の世代の人たちも驚いたわけです。そういう意味で、初めてこれは相当定着したわけです。七十歳になればもらえるんだという考え方が頭に定着しているわけですよ。しかし、明治四十四年以前の人しかもらえないんだということをよくわからなかったわけですね。そうして、いまの年金制度の中身を見てください。八つの制度があって、これがいろいろ農業者年金だとかやれ付加保険料だとか定額保険料だとか、厚年の中でも遺族年金とかやあ何だと、たくさんあるわけでしょう。厚生省担当者に聞いたって、これは私の方でないからこっちに聞いてお返事しましょうとか、こちらの人を呼んでくださいとか、厚生省の中にだって、全部を一貫して知っている人がいないというぐらいわからない。むずかしいわけです。ですから一般の人が理解できる方が不思議なんですよ。  ですから、よほど懇切丁寧にこれを教えませんと、結局、これに入らなければならないということさえ知らない人がいるわけですね。途中で気がついて、これは大変だ、入ってないと大変だと思ったけれども、もう年が四十も過ぎている。まあそれなら七十歳までは何とか、貯金だとか不動産からの収入だとかそういうものを考えて、七十歳までは何とか食べよう、自分の力で食べていこう、しかし七十になれば福祉年金があるのだから、そこから先の人生設計は考えなくてもいいというふうにいまの若い人たちで考えている人が圧倒的に多いわけです。ましてそういう中で、明治四十四年以後から大正五年までの人というのは特別に年限を短くしていますね。この方たちというのは、本当に知らないで落ちこぼれているわけです。これは政府としても二回、三回、五年年金に入るようにというふうな制度をつくり、延ばしているわけですけれども、これはことしもうなくなったわけですね。五年年金は再加入できませんね。そしていまになって、それじゃこの人たちをどうやって救うか。との方たちはもういま一番年取った方で六十三歳になっています。明治四十四年の人が六十四歳か三歳になっていますね。そうすると、この人が七十歳になったらもらえると思っているわけですね。福祉年金というのは拠出なしでくれるんだと思っている方が悪いと言うかもしれませんけれども、そちらが周知徹底していないから思っているわけです。それがもらえないのだというので大騒ぎになっているわけですね。これはどうやって救えますか。
  16. 河野義男

    河野(義)政府委員 明治四十四年四月二日以降のいわゆる強制適用保険者であって、かつ制度発足時三十五歳以後の人は、御指摘のように六十歳までの間に被保険者期間を満たさないと年金がもらえないということで、前回特例の方の制度がありましたが、この機会におきましてもまた今回も、この十二月末日までに……(田中(美)委員「それはわかっていますので、どうしたら救えるかという……」と呼ぶ)したがいまして、この制度を活用して年金に結びつけるよう、われわれ最重点を置いていま指導しておるわけでございます。
  17. 田中美智子

    田中(美)委員 どういう指導をしているんですか。道がありますか。全然掛けてなかった人をどういう救い道があるかと聞いているのです。ほかのことはわかっているのですから、時間がないので、どうしたら、指導しているというのはどうやったら救えるかと聞いているのです。
  18. 河野義男

    河野(義)政府委員 過去の未納期間につきまして保険料を納めていただくように指導しております。
  19. 田中美智子

    田中(美)委員 その指導は間違いありませんね。
  20. 河野義男

    河野(義)政府委員 そのとおりでございます。
  21. 田中美智子

    田中(美)委員 実際には、窓口へ行きますともう六十歳以後の人というのはとてもきらいます。六十歳ちょっと前になっても五十七、八ごろになりますと、何だかんだと言って窓口では特別納付をきらうわけです。してくれないわけです。  お聞きしますけれども社会保険事務所で五十年度何名増員しますか。数だけ言ってください。
  22. 河野義男

    河野(義)政府委員 特例納付につきましては、重点的にそういう人たちに対しまして保険料を納付するよう行政指導しております。
  23. 田中美智子

    田中(美)委員 私の聞いていることにだけ答えてください。社会保険事務所がいま全国に二百四十カ所ありますね。それに五十年度は増員は何名ですかと聞いているのです。
  24. 河野義男

    河野(義)政府委員 国民年金関係増員はいまちょっと手元に正確な数字ございませんが、二十数名であったと思います。
  25. 田中美智子

    田中(美)委員 二十数名ですか、二百四十カ所に対して。ということは、もうほとんど増員なしということですね。いま業務はどんどんふえているのです。ですから、そういう相談に行っても相談に乗ってくれないわけですよ。そういう特例納付の人なんというのは、もうはじき出されるわけです。それで、たとえば松山市の例ですけれどもカウンターのところで立ち話です。ですから、そこで相手はお年寄りですから、くどくどといろいろ過去のことを、なぜ自分加入しなかったか、どうして知らなかったか、新聞をとっていなかったとか聞いていなかったとか、そういうようなことを言うわけです。そして三十分もしゃべっている間に卒倒したという事例さえ出ているわけです。それでお年寄りが聞きに行っても、もうとても忙しいので、気の弱い人は相談できないで帰ってしまう。何が何でも相談したいという人は、事務をとっているそこに働いている人の机の横に来て話をする、そうするとそこの職員は仕方がないからペンを置いてやむを得ず相談に乗る。相談する場所もなければ部屋もなければ人数もいない、人もいない。それでいて、あなたは指導していますなんて、上では何でもしています、していますと言われるが、下には全然人員がいない、業務はどんどんふえている。いまおっしゃったように二百四十カ所に二十人ぐらいの増員しかないということでは、増員していないところがほとんどだ。こういうふうになりますと、いまだってやっていけないのに、ますます多くなってくるし、ましていままで落ちこぼれた人たち相談になんかほとんど乗ってくれないということで、いまこの人たちが集まりまして、何とかやってくれという陳情書がおたくにも出ていると思うのですけれども、やれるものはすぐに早くやらないと、ことしの十二月まででしょう。一体どんな指導をしているのか。全然できていないですよ、この指導というのは。ですからやはりまず増員をすること、増員を多くすること、そして相談する場所と人というものをちゃんと見つけてそれを配置して、その相談に乗って、救えるところはいまの現行法では特別納付するなり何なりで救っていく。それで救えない人たちに対しては新しい制度をつくって、たとえば五年年金のようなものをもう一つ七年年金とかなんとかというような形で制度をつくって、それを何とか救っていく。それでも救えないというなら、老齢福祉年金に特別として福祉年金を七十歳になったら上げるというふうな措置というのはとれないものでしょうか。これは大臣にお聞きしたいと思うのです。それは何とかとれないのですか。
  26. 河野義男

    河野(義)政府委員 先ほど、国民年金関係定員増を二十名と申し上げましたのは、これはトータルで申し上げたわけでございますが、いま先生指摘の点は主として社会保険事務所における相談体制がどのように強化されたかというような御趣旨でございまして、この点につきましては、本年度におきましては年金専門官を、四十九年度は二百四十九名であったわけでございますが、五十年度におきましてはこれを三百七十二名。それから社会保険相談員というのがございますが、これを四十九年度は五百二十六名でございますが五百八十六名というふうに、人の面ではこのように増員しておりますし、また御指摘がございましたように、社会保険事務所に来られても事務所が非常に古いところもありますし狭いところもございますので、気持ちよく相談ができる環境づくりということも考えております。たとえばカウンターを改造するとか、あるいはそこでの設備をよくするとか、あるいは相談に見えた場合の時間を使って、待たれる時間に関係の資料、パネルを整備するとか、そういう人あるいは物的整備の面におきまして改善していこうというふうに考えております。  それから、さらにこういった年金に関する相談が増加するというのは当然見込まれますので、長期的にも相談に対応できる、人あるいは設備の面の計画をいま検討しておるわけでございます。
  27. 田中美智子

    田中(美)委員 いま私、聞きましたのは、それはそれで、いま五百何名とかなんとかおっしゃいましたけれども、この中にはやめていった人が二百何名いるというふうに聞いておりますので、結局やめた分というものが帳消しになって、実質的増加にはなっておりませんので、いまおっしゃった数というのは非常におかしい。大体これは半分というふうに、私の調べたところでは半分になっているわけです。  もうこの話はわかりましたので、これを早急にふやして、いまおっしゃったように十分に相談に乗って、どういう状態にしても相手はお年寄りなんですし、のみ込みがおそいわけですから、懇切丁寧に周知徹底させる。いままで周知徹底が足らなかったためにこういう事故が起きているわけです。これからの若い人たち年寄りになったときには、これは年金制度ということを知っていますからわかりも早いと思いますが、いまのお年寄り年金制度というのは知らないわけですから、懇切丁寧にやっていただかなければ困る。そのためには人員を増加しないことには、いまの人員ではもう職員はやっていけないわけですね。  それをまずお願いしたいということと、いまもう一つ聞いていますことは、先ほどの問題にこれはつながっているわけですけれども、この落ちこぼれた人たちをどうして救うかということですね。これに対して大臣にお聞きしたいわけですけれども、たとえば新しい制度をもう一度つくるとか、何かこの人たちに、ちょうど谷間老人のような特別の措置をとるというふうな新しい制度でもって救うことはできないかということを言っているわけです。それを御返事願いたいと思います。
  28. 曽根田郁夫

    曽根田政府委員 私どもは、四十八年改正の際に五年年金再開という制度をつくったわけでございますけれども、実は高齢者の方々の処遇としては……(田中(美)委員「簡単におっしゃってください」と呼ぶ)この再開五年年金が一応最後の機会であるというふうに私ども考えておりまして、したがいまして、現在は先ほど来年金部長が申しておりますように本年いっぱいPRに努めまして、特例納付の成果を上げるように努力するということが私どもの立場でございます。
  29. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、それを徹底的に指導していただく。それでは落ちている人たち、それからそのときに十万円ぐらい払わなければならない人があるわけですね、これの融資というものもある程度は考えていただきたいということ。そして、それでも落ちた人たちを七十歳からどうするかという問題ですね。この問題はこれは大臣にお聞きしたいんですけれども、こういう人を何か特例でもって——谷間老人に対して周知徹底が悪かったということが大部分の原因です。本人がうかつであったという面も多少ありますけれども、それについて何か新しい方法でこの老人たちを救う道はないのか、一言でお答え願いたい。検討していただけないか。
  30. 田中正巳

    田中国務大臣 いまの特例納付についてはさらに周知徹底するよう馬力をかけます。  それから、いままでそれによってもなおかつ救えなかった者につきましては、現在は特例納付制度を督励しておりますので、この制度でいっていただきたい。この後またこういったようなものについての、何というのですか、特別な年金制度をつくることは私どもの方では今日は考えておりません。それで、できるだけそういったようなことについて周知徹底をして、その方向でいくというふうにいまお答えする以外に、私どもとしてはお約束のできる道はないというふうに答えておきます。
  31. 田中美智子

    田中(美)委員 いま政府はそれはないということですけれども、年々これは、いま六十三歳の方が七十歳になりますと一大正五年以後の人でも、国民年金に入っていない小さな業者のおやじさんとか、それから住所が転々と移った方だとか、入っていたけれども厚年に入ってそれが通算するということを知らないものですから、全部捨ててしまってわからなくなってしまったというような人というのは、年金制度が複雑なために幾ら周知徹底といっても、私でもよくわからないわけですからね。途中でわからなくなって、結局どの年金にもひっかからないという人が相当たくさん出てくるわけです。そのときに、日本の国は国民皆年金だといって「皆」の中から落ちこぼれる人たちが、特に七十歳になってから大量に出てくるということはいまから予測できると思うのですね。それで、大臣は、この落ちこぼれをどうしようもないといまの時点では言っていらっしゃるわけですから、これは将来必ずそういうものが非常に多く出てくるということで、今後の検討課題として十分に検討していただきたいということはきょうお願いしておきます。  それで、最後にもう一つ遺族年金の場合ですけれども遺族年金が五〇%であるということは、これはもう非常に間違っていると思うのですね。これをできれば一〇〇%、少なくとも八〇%にしていただかないと——大体女の方か残る例が多いわけですからね。遺族年金というのは女の方しかもらえないわけですからね。この婦人の生活保障という点にとって非常に重大な問題だと思いますので、この点にちょっとだけ御返事いただきたいのです。
  32. 田中正巳

    田中国務大臣 遺族年金五〇%、これはもう昔から日本の通り相場でございましたが、いろいろなお声がございますから検討してみたいというふうに思っております。
  33. 田中美智子

    田中(美)委員 遺族年金を検討するという機運というのは、いま厚生省の中でも高まっているということは存じておりますので、一日も早くこれを八〇%なり一〇〇%に近づけていくという努力をしていただきたいというふうに思います。  そしてもう一つ、これはもう早急にしていただきたいと思うのですけれども、通算年金の場合に、やっと通算ということができるようになった、これは知らない人がまだたくさんいます。それで、放棄している人があるわけですね。ですから、これも通算でもらえるんだということを一日も早く周知徹底していただきたいということですね。そうして、通算年金の場合には、妻たちは夫が年金をもらっていれば、夫が亡くなったときには半分もらえるものと確信しているわけですね。これも世間の通り相場になっているわけです。それが、夫が亡くなってみたら自分の場合はもらえなかったんだというふうになったときの悲劇というのが非常に出てくるわけです。一銭ももらえなくなるわけですね。この点をどのようにお考えになっているか。
  34. 田中正巳

    田中国務大臣 遺族年金については、通算制度が現在ないことは事実であります。これについてもいろいろ先ごろ来国会で論議があります、世間でもいろいろ御要請がございますので、これもひとつ速やかに前向きで検討いたしたい。同時にこのことについては、通算制度のメリットが、そういうふうになっていくという過程において、通算制度がいかに国民にフェーバーをもたらすものであるかということについてのPRを十分いたさなければいかぬ、かように思っております。
  35. 田中美智子

    田中(美)委員 いまこういう日本の年金制度というものを見ていますと、実に複雑でわかりにくいということにも問題がありますが、やはり窓口で聞いてくることと、厚生省で聞くこととではうんと違うわけです。私自身が歩いたところは日本全体からすればはんのわずかですけれども、ほとんどのところが、いまそちらでおっしゃっているのとは違うわけですね。ですから、周知徹底指導、末端までのまず担当者に対する周知徹底指導、決して国民に対しては結果的にもうそを言わないような指導をしていただきたい。この指導ができなかったために、いままでこうしてたくさんの漏れた人たちがいるんだと思いますので、それを強く要請して私の質問を終わりますが、その前に、今度の国民年金法の一部改正は、福祉年金など一部の改善というものは見られますけれども、給付の抜本的の改善なしに被保険者負担増を押しつける保険料の値上げということには賛成を私たちはすることはできません。共産党・革新共同はこれに賛成することはできませんので、態度としては棄権という態度をとりたいと思います。  それではこれで質問を終わります。
  36. 大野明

    大野委員長 枝村要作君。
  37. 枝村要作

    ○枝村委員 三月の二十六日の当委員会におきまして、わが方の田邊委員年金問題について質問いたしました。厚生大臣はやや前向きの答弁をしておるのでありますが、私はいままでの政府答弁を総括的に判断をして次のようなことについて質問をいたしますので、厚生大臣はさらに発展的な所信、決意を述べていただくように期待をいたします。  その第一は、年金制度については、国民的な要望にこたえて抜本的な改善策を講ずることに対する用意があるかどうかをお伺いいたします。
  38. 田中正巳

    田中国務大臣 年金制度については、これを大幅に改善をしなければならないということを考えておりまして、したがって五十三年度に予定をしている財政再計算期を二年間繰り上げまして、五十一年に相当広範囲な改善を試みたいと思っていまいろいろと作業をいたしております。
  39. 枝村要作

    ○枝村委員 その際には、年金水準の引き上げについてどのように対処するのか考え方を明らかにしていただきたい。
  40. 田中正巳

    田中国務大臣 現在の年金水準につきましてはスライド制を導入をいたしましたことによってかなりの改善を見ていることは事実でございますが、しかしその他の要件も入れなければならないということで財政再計算時を繰り上げるわけでありますので、したがってそういう角度から見るときに、年金水準のある程度の向上は私は期待できるものと思います。
  41. 枝村要作

    ○枝村委員 たとえば水準についてはどのように考えてやるか。水準は賃金とかあるいは生活水準等の動向を勘案して適正な水準を確保するようにすることですか。
  42. 田中正巳

    田中国務大臣 いままで物価スライドをやっておりましたが、財政再計算時には賃金や生活水準の向上分、これを吸収するというのが財政再計算時における一つの物の考え方でございますので、したがって、そのような視点の改善が行われるということになるだろうと思います。
  43. 枝村要作

    ○枝村委員 その次に、スライドの実施時期の繰り上げについても努力すべきであると思うのでありますが、いかがでしょう。
  44. 田中正巳

    田中国務大臣 スライドの実施時期は、基本的には事務体制との関連がございます。したがいまして、今日までいろいろ努力をしてまいりまして、できるだけ早めてまいりましたが、今後この業務体制との関連においてどの程度できますか、いまのところはっきりは申し上げかねるわけですが、少なくとも私どもとしては、この業務体制を整備することによっていまより前進したいものだと考えているわけであります。
  45. 枝村要作

    ○枝村委員 ぼくらが一番心配するのは、業務体制の整備ということを一つの大きな前提にする、それが壁になったらどうにもならぬという、こういうことじゃいけないと思うのです。やはり繰り上げについてやるということを前提として、そのためにいま言いましたようなことを整備する、そういう考え方ですか、基本的な考え方があってはしいと思うのです。
  46. 田中正巳

    田中国務大臣 業務体制のことを申し上げたのは、決してスライド時期を遅めるための口実に申しているわけではございません。現実にこの問題のあることはお互いに承知をしておかなければならぬということですから、その中にあっても何とかひとつやりたいものだという前向きの姿勢でもって業務体制を改善しようというのですから、私どもの意のあるところはお察し願いたいと思うのであります。
  47. 枝村要作

    ○枝村委員 その次に、遺族給付の改善についてどういうふうに考えていらっしゃるか。
  48. 田中正巳

    田中国務大臣 遺族給付は各年金共通の問題として、また過去におけるわが国のこの種の物の考え方は五割ということに定着をしておったわけですが、今日の社会情勢、経済情勢を踏まえてみて、私どもとしてはこの五割という線を相当に引き上げたいというふうに思っているわけですが、各年金間の、制度間のいろいろな調整の話し合いも必要でございますので、今後ひとつ鋭意詰めて、何とか現在の五割という相場を引き上げるようにいたさなければならないと思っておるわけでありまして、いまいろいろと努力をいたしております。
  49. 枝村要作

    ○枝村委員 在職老齢年金の支給制限の緩和をすべきであると思うのですが、二の点についてお伺いします。
  50. 田中正巳

    田中国務大臣 在職老齢年金、これは厚生年金等ではいわゆる退職ということをかねては要件にいたしておったわけですが、しかし高齢者の低所得の者については、この退職という制度を一応取っ払ったわけでありまして、それはそれなりにその当時としては喜ばれておったわけでございますが、実施をいたしまするといろいろ再就職者の問題等も具体的に出てまいりましたものですから、これについてはひとつ関係審議会とも御相談を申し上げまして、在職老齢年金制度の中にあっていろいろと不利のないような方向で努力をいたしたいと思っていますが、問題は、これは非常に広範な年金制度そのものとの絡み合いがあるものでございますから相当複雑な問題ですが、少なくとも私どもは今日の制度以上にこれを前進させるように努力をいたしたいと思っています。
  51. 枝村要作

    ○枝村委員 その次に、障害年金遺族年金について通算措置を講ずるべきであると思うのでありますが、どのようにお考えになっていますか。
  52. 田中正巳

    田中国務大臣 いまお話しのとおり、通算年金については、障害、遺族についての通算措置が欠けておるということはこれは問題でございますので、各年金制度にこれこそまたがる問題でございますので、したがって、公的年金制度調整連絡会議等を煩わしまして、この制度が起こされるように、実施されるように、これは私どもとしてはぜひやらなければいかぬ、こう思っているわけでございます。
  53. 枝村要作

    ○枝村委員 次に財政方式の問題ですが、年金の財政方式は賦課方式に切りかえるべきであるという圧倒的な要望があるわけなのでありますが、この点についてどうお考えか。
  54. 田中正巳

    田中国務大臣 年金の財政方式についても、私は今後見直しをしていくべきものだというふうに基本的に考えております。  そこで、賦課方式というのは、かねがね私も答弁しているとおり、今後の年金の財政方式としては十分これは検討に値するものであるというふうに私は思っています。ただ、これをどのようにして移行させるかということについては、十分な配慮と十分な検討、そしてまたこれは何よりも国民のPRと理解と納得が必要だというふうに最近思っているというのが私の偽らざる心境でございまして、この点についての努力をお互いにやらなければ、理論の上では賦課方式についての評価というものはできるのですが、しかし、これについて具体的に踏み出す場合には、国民の賦課方式に対する理解をどのように持っていくかということについて今後ひとつさらに努力を続けなければならない。基本的に私は十分考えられる制度であるというふうに評価をいたしております。
  55. 枝村要作

    ○枝村委員 最後に、わが国の公的年金制度は分立しているために給付内容等に差があります。ですから、その総合調整ないし再編成を図る必要があると思うのでありますが、特に、たとえばことしの春闘で大きく問題になっております年金の実施時期の統一の問題があります。共済年金は八月、厚生年金も八月、国民年金の拠出が九月、それから福祉年金は十月、このようにばらばらで進められておるのであります。これを同一時期にそろえるというような考え方もあるわけでありますが、これらを含めて、先ほど言いました質問に答えていただきたいと思います。
  56. 田中正巳

    田中国務大臣 わが国の年金制度がほぼ八つほどに分立をいたしておるわけでありまして、理想的に申しますると、これはできるだけ一本化したいというふうに考えるわけでございますが、これはでき上がったときの背景なり目的なり沿革なりがそれぞれ違っておるわけでございますので、言うべくして簡単にこれを完全に統合するということはそう簡単なものではないというふうに思われるわけでございますが、しかし、そうした理想に向かって今後いろいろと改善努力を加えていくことが必要である。そして、ことにいま申したような受給権等についてはできるだけ整合性のとれたものにしていかなければならないと考えておるわけであります。  ただいま御指摘の問題は、スライドの実施時期についてのお話であったと思いますが、これについては、私どもは、さっき申し上げたように事務体制との問題もありますが、これをできるだけ早めたいと思っておりますが、実際問題として一カ月ほどずれているものについては、福年の場合は別でありますが、その他のものについては、例の支給の時期、インターバルが違うためにそういったような問題が起こっているわけでありまして、これを基本的に一緒にすることは理論的にもできないことではございませんが、これまた窓口の問題等もございますので、そういったようなことがいま直ちにできるかどうか、これはさらに検討をいたさなければなるまいというふうに思っております。
  57. 枝村要作

    ○枝村委員 田中厚生大臣には、率直に申し上げますが、国民の多く、われわれを含めて、やはり積極的な動きをされることに非常に注目をしておりますし、また情熱を傾けていろいろ仕事をされることにその意味からも期待しておりますので、ひとついま私がまとめたような事項については、御答弁は余りはっきりはいたしませんが、その前向きの姿勢だけは私どもは非常に快く受けますので、一生懸命やっていただくように申し上げまして、私の質問を終わります。
  58. 大野明

    大野委員長 これにて国民年金法等の一部を改正する法律案についての質疑は終了いたしました。     —————————————
  59. 大野明

    大野委員長 これより本案を討論に付するのでありますが、別に申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  60. 大野明

    大野委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。     —————————————
  61. 大野明

    大野委員長 この際、住栄作君、枝村要作君、石母田達君、大橋敏雄君及び安里積千代君より、本案に対し附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  その趣旨の説明を聴取いたします。住栄作君。
  62. 住栄作

    ○住委員 私は、自由民主党、日本社会党、日本共産党・革新共同、公明党及び民社党を代表いたしまして、本動議について御説明申し上げます。  案文を朗読して説明にかえさせていただきます。     国民年金法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議   政府は、次の事項について、適切な措置を講ずるよう配慮すべきである。  一 昭和五十一年度に繰上げ実施する財政再計算期に際し、各制度間の関連を考慮しつつ、年金制度の抜本的な改善を図ること。  二 遺族年金の改善について検討すること。  三 各年金制度間において、遺族年金、障害年金の通算措置の実現に努めること。  四 在職老齢年金制度の支給制限の大幅緩和について検討すること。  五 標準報酬月額の上下限については、近年における報酬の上昇を考慮して適正な改定を行うこと。  六 加給年金については、速やかに改善を図ること。  七 各福祉年金について、その年金額を更に大幅に引き上げるとともに、その実施時期について検討を加え、本人の所得制限及び他の公的年金との併給制限についても改善を図ること。  八 すべての年金は、非課税とするよう努めること。  九 国庫負担の増額に努めるとともに、年金の財政方式特に賦課方式への移行については、将来にわたる人口老齢化の動向を勘案しつつ、積極的に検討を進めること。  十 被用者年金加入者の妻の年金権の整備に努めること。  十一 五人未満の事業所に対する厚生年金保険の適用を検討すること。  十二 積立金の管理運用については、被保険者の福祉を最優先とし、民主的運用に努めること。 以上であります。  何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。
  63. 大野明

    大野委員長 本動議について採決いたします。  本動議のごとく決するに賛成の諸君の起立を求めます。
  64. 大野明

    大野委員長 起立総員。よって、本案については、住栄作君外四名提出の動議のごとく附帯決議を付することに決しました。  この際、厚生大臣から発言を求められております。これを許します。田中厚生大臣
  65. 田中正巳

    田中国務大臣 ただいま御議決になられました附帯決議につきましては、その御趣旨を十分尊重いたしまして努力をいたす所存でございます。     —————————————
  66. 大野明

    大野委員長 なお、本案に関する委員会報告書の作成等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
  67. 大野明

    大野委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。     —————————————     —————————————
  68. 大野明

    大野委員長 この際、十分間休憩いたします。     午前十時五十二分休憩      ————◇—————     午前十一時二分開議
  69. 大野明

    大野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。  まず、政府より提案理由の説明を聴取いたします。田中厚生大臣。     ————————————— 原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律  の一部を改正する法律案     —————————————
  70. 田中正巳

    田中国務大臣 ただいま議題となりました原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律案について、その提案の理由を御説明申し上げます。  昭和二十年八月広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者につきましては、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により健康診断及び医療の給付を行うほか、原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律により特別手当、健康管理手当その他の手当等の支給を行い、被爆者の健康の保持向上によりその生活の安定を図ってまいったところであります。  今回の改正は、原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律についてでありますが、その内容について御説明申し上げます。  改正の第一点は保健手当の創設であります。爆心地から二キロメートルの区域内で被爆した者は、原子爆弾の放射線を特に多量に浴びておりますので、その健康保持を図るため、特別手当または健康管理手当の支給を受けていない場合、新たに保健手当を支給することとし、その額を月額六千円とするものであります。  なお、保健手当の支給対象者には、原子爆弾投下当時に、爆心地から二キロメートルの区域内で被爆した者の胎児であった者をも含めることといたしております。  改正の第二点は特別手当の改善であります。特別手当は、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律に基づき、いわゆる原爆症である旨の厚生大臣の認定を受けた被爆者に対して支給されるものでありますが、この特別手当の額について、現に当該認定に係る負傷または疾病の状態にある者に支給する特別手当の額を現行の月額一万五千円から二万四千円に引き上げ、当該認定に係る負傷または疾病の状態にない者に支給する特別手当の額を現行の月額七千五百円から一万二千円に引き上げるものであります。  改正の第三点は健康管理手当の改善であります。健康管理手当は、原子爆弾の放射能の影響に関連があると思われる造血機能障害等の特定の障害を伴う疾病にかかっている被爆者に対して支給されるものでありますが、現在は、その支給要件の一つとして四十五歳以上という年齢制限がありますので、今回の改正においてこの制限を撤廃するとともに、その支給額を現行の月額七千五百円から一万二千円に引き上げるものであります。  改正の第四点は介護手当の改善であります。現行の介護手当は、介護を要する状態にある被爆者が現に介護に要する費用を支払って介護を受けている場合に支給することとなっておりますが、今回、その支給対象者の範囲を拡大し、重度の障害者につきましては、介護に要する費用を支払わずに介護を受けている場合にも介護手当を支給することといたすものであります。  これらの改正を通じまして被爆者の福祉を一層増進しようとするものであります。  以上がこの法律案提出する理由でありますが、何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
  71. 大野明

    大野委員長 これにて提案理由の説明は終わりました。     —————————————
  72. 大野明

    大野委員長 これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。増岡博之君。
  73. 増岡博之

    増岡委員 今回、保健手当が支給されることに相なったわけでございますが、過去におきまして各種の手当が毎年毎年額も増額され、支給範囲も拡大されてまいったわけでございます。私どもは特に健康管理手当の年齢制限の撤廃を前から主張してまいったわけでございますが、     〔委員長退席、戸井田委員長代理着席〕 大体の各種手当の拡充の状況、それと、なお最近、保健手当ができますとさらに手当の種類が非常に多くなって複雑でございますからそれを整理できないかという意見がありますけれども、その双方につきまして局長から御答弁願いたい。
  74. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 現在、手当といたしましては特別手当、健康管理手当、医療手当、介護手当、それに本年度創設いたします保健手当がございます。さらに葬祭料も支給されております。しかし、これにつきましては、それぞれの被爆者の実情に応じて支給しておるものでございまして、こういったいろいろな手当があることによりまして、被爆者の福祉がそれぞれの実情に応じて講ぜられておるわけでございます。したがって、今後とも従来の方針に従いまして、現在ございます手当等の額の引き上げ、対象範囲の拡大、所得制限の緩和等を図っていく所存でございます。
  75. 田中正巳

    田中国務大臣 いま現状についてはかように公衆衛生局長から御説明を申し上げましたが、これについては先生ただいま申されましたとおり手当の種類も非常に多く、支給要件等についても非常に複雑でございますので、したがいましてこれを整理統合し組み直しをすることがどうだろうかという御質問がございました。私もこの制度を取り扱ってみてそのような気がいたさぬわけではございませんし、またそういうことを考えたこともございますが、やはり既得権との絡み合いにおいて、これを組み直しをいたし整理統合をするというようなことについては相当に困難な問題であるというふうに思いますので、いま直ちにそのようなことに踏み出すことは私は簡単にできるものではないというふうに思っている次第であります。
  76. 増岡博之

    増岡委員 ただいま大臣の申されましたように、それぞれの手当はそれぞれの意味合いから行われておるわけでございますから、簡単に整理するということは非常に困難であろうと思うのです。  そこで、局長にお尋ねいたしますけれども、たとえば健康管理手当が四十三年度に九千五百十六人、恐らく今年度は六万人に支給対象がふえるのじゃないかというふうに考えられるわけでありますけれども、大体そのような数字に間違いございませんか。
  77. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 健康管理手当につきましては、年齢制限等を撤廃しておりますし、また所得制限もかなりの緩和を図っておりますので、予算におきましては約七万九千人の支給予定者を計上いたしております。
  78. 増岡博之

    増岡委員 健康管理手当にしましても、この手当の意味合いというものは、政府側は障害がある人に対する手当だというふうに考えておりますし、また私ども年金に類するものであるというふうにも解釈いたしておるわけでございます。受給される方もそのような考え方を持っておられる方々が多かろうと思うわけであります。したがいまして、この手当の意味合いをここで煮詰めて議論をするつもりはございませんけれども、今回の保健手当につきましては、これまでと相当違った意味合いがあると思います。その趣旨につきまして、またさらに爆心地から二キロメートル以内という限定をされた根拠につきまして、局長から御答弁願いたいと思います。
  79. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 従来から原爆症の認定患者につきましては特別手当を、また原爆に関連のある等の健康障害を持っております方々については健康管理手当を支給してきたのでございますけれども、今回、二キロ以内で多量の放射線を浴びた方々につきましては、たとえ現在健康に障害がなくても、今後病気が起こってくるというおそれが非常にございますので、そういった方々の健康増進の需要を満たすために保健手当を創設したものでございます。  また、二キロ以内の被爆者といたしました根拠は、日本を初め各国が放射線防護について準拠をいたしております国際放射線防護委員会の基準によりますと、人が一生のうちただ一度被曝する放射線の最大許容線量は二十五レムとなっております。またアメリカの放射線防護測定委員会の基準によりますと、原子炉等に事故が起こりまして、緊急にそういった放射線濃厚地域に立ち入らなければならないような場合の基準も二十五レム以下となっています。さらに、従来の医学的、臨床的経験から申しますと、一回の被曝で障害が起こってまいります放射線量は二十五レム以上となっておりますので、こういったことを勘案いたしまして二キロとしたものでございます。
  80. 増岡博之

    増岡委員 ただいまの説明で国際放射線防護委員会の勧告ということでございます。これは国際的に認められた権威あるものと考えてよろしいわけですね。
  81. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのとおりでございまして、現在世界各国がその勧告に基づく基準を採用しておるところでございます。
  82. 増岡博之

    増岡委員 保健手当の性格につきまして、将来可能性のある病気を防ぐという意味合い、これで保健手当というものが出されることになるのだろうと思うのですけれども、そのことは、ほかの社会保障制度の中にそのような手当があるかないか、お尋ねいたしたいと思います。
  83. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 私の存じておりますところでは、そのような手当は初めてではないかと考えております。
  84. 増岡博之

    増岡委員 そこにこの特別措置法の特殊性というものが明らかに浮かんできておるのではなかろうかと思うわけであります。従来から援護法の要請もありますし、また援護法になった場合には逆差別だという意見もありますし、厚生省が相当苦心された結果であろうかと思うわけでございます。そういうふうな各種手当が現実の要請に基づいて行われております。  ところが、生活保護家庭に支給されました場合には、それが収入の認定になるということで、従来からわれわれもいろいろ議論をして、現在半額程度は収入に認定するが、半額はそう見ないというようなことになっておるというふうに聞いておるわけでありますけれども、しかし厚生省が、われわれは健康管理手当も保健手当も年金的な色彩があると思っておるけれども、理論上はそうでないのだ、実際に必要に応じて出しておるという以上は、生活保護の問題について全額収入認定から外すべきではないかというように思いますけれども、それについての御意見と今後の対策をお答え願いたいと思います。
  85. 翁久次郎

    ○翁政府委員 ただいま御質問のありました各種手当でございますが、現在の生活保護法上の取り扱いといたしましては、医療手当あるいは健康管理手当、介護手当、葬祭料等につきましては収入認定から除外をする処置をとっておるわけでございます。ただ特別手当につきましては生活援護的な色彩もございますので、一応収入認定をした上で、特別に必要なものにつきまして加算という措置で対応しているわけでございます。ただいま御質問のございました保健手当につきましては、先ほど公衆衛生局長から御答弁がありましたような本法の趣旨にかんがみまして、できるだけただいま先生御質問のあった趣旨に即応できるような対応をいたしてまいりたい、このように考えておる次第でございます。
  86. 増岡博之

    増岡委員 一度に全部解決するということは非常にむずかしいかとも思うわけでありますけれども、後ほどまたお尋ねいたしたいと思いますが、特に一番気の毒な人、これが特別手当の対象になっておられる方々だろうと思うのです。そういう方々に対しての御配慮をお願いしたいと思います。また後ほどそのことについて触れたいと思うわけでございます。  先ほど来各種手当につきましては、それはその手当ごとにそれなりの理由があり根拠があって支給されており、その整理統合ということも非常に困難であるということが言われております。私も事実そうであろうと思うわけであります。  そこで、次の問題に入りたいと思うわけでありますけれども、いま一般の戦災傷病者の中で特別に援護措置をしてもらっておるのは、この原爆被爆者特別措置法に基づいての被爆者に限られておるわけでございます。巷間被爆者団体その他で、それを飛躍させて援護法を制定してくれないかという声もありますし、また逆に被爆者団体の中にも援護法というものについては疑問視をする向きもあるわけであります。ところが、団体としては非常に強い力で援護法の立法措置を要請をいたしておるわけでございます。この点につきまして大臣の基本的な御意見を承りたいと思います。
  87. 田中正巳

    田中国務大臣 原子爆弾被爆者につきましては、これが戦争犠牲者の一つのカテゴリーに属するということで、今日まで原子爆弾被爆者関係二法によっていろいろと特別な措置をしているわけであります。  そこで、この扱いについては世上いろいろな議論がございます。私どもは各種の戦争犠牲者、被害者等々からいろいろとこれに対する対策の御要請がございますが、原子爆弾被爆者を今日なおこれについて特別な措置をしなければならないという理由は一体どこにあるかということを考えてみるときに、放射能を多量に浴びて、現に身体、健康等に非常な障害がある、ないしはそのおそれのあるという、いま何でもなくても、あの原子爆弾による放射能を多量に浴びたということによって良体について不安を持つという、そういったようなことに着目をしたわけであります。その他の戦争犠牲者、被害者、述べ立てればいろいろと実はたくさんあるわけでございますが、この方々に対しましては、今日もう戦後三十年もたっているのですから、それぞれ自立によってリカバーができたというふうに思っておるものでございますから、これらについては特別の措置をしておらないわけであります。ただ従来、いわゆる国家との特別な権力関係にあった軍人軍属等についてはやっておりますが、その他の者については、すでに継続的な措置をしておらない。継続的な措置をとっているのはこの原子爆弾被爆者だけでございまして、それはなぜであるかというと、放射能を多量に浴びて、そのような特殊な状態にあるということに着目して、このような措置をとっているわけであります。できるだけ措置をいたしたいということで、しかしあくまでも健康あるいは障害といったような点を離れないでやっているというのも実はそこにあるわけでございます。したがいまして、それを離れた一般的な援護の措置ということをとる場合には、他の戦争被害者との関連においていろいろと問題を生ずると思いますので、私どもはその一点を離れることができないというふうに思い、今日原爆二法の範疇の中でもって施策の充実に努めておるというのも実はそこにあるわけであります。したがいまして、いろいろ諸説があり運動もありますが、援護法的なものについては、今日私どもとしては生み出すというような考えを持っておらないというのも実は理由がそこにあるわけでございます。
  88. 増岡博之

    増岡委員 ただいま大臣のお話のように、われわれはすべて憲法によって法のもとで平等を保障されておるわけでございます。しかしながら、合理的な理由がある場合、社会的に認められる場合には差別が可能であろうと思う。そういう意味合いから、いまなお特別な状態にあるというそのことに着目されてこの特別措置法ができたわけでありますし、また特別措置法ができます過程におきましての国会の議論を顧みましても、援護法という要求に対して、ただいま大臣が言われたような理由から特別措置法に相なっておるわけでございます。したがいまして議論としてはもう済んでおるような気持ちがするわけでありますけれども、しかし実態といたしましては依然として被爆者の間にそういう強い声があります。これは、私自体被爆者の団体にしょっちゅう接触をいたしておりますので、なぜそういうことになるのか、被害者の団体の中には、援護法というものを直ちに適用するということが無理だということはよくよく承知しておるけれども、何か国に対して物を言わなければならぬ、そういう気持ちがあるのだろうと思うのです。それをいろいろ話し合ってみますと、その人たちの心理的な状況というものは、まず被爆の際のあの悲惨な状態、それから昭和二十七年ごろまでをピークといたします白血病の後遺症、そういう時期に国が何らの手を差し伸べてくれなかった。後になって医療法や特別措置ができた。そうして、先ほど局長から話がありましたように、特別措置法ができてから、毎年改善されてきた。人数にしましても、健康管理手当一つにしましても、一万人足らずから五万人、六万人というふうになってきておるわけであります。これは一つには、厚生省の努力とわれわれは見なければならないと思いますけれども、被爆者の方から見ますと、できるものを一寸ずりにずって、じりじり小出しをしてきたではないかというような気持ちもあろうかと思うわけであります。私はそのことに同意をしていま言っておるわけではありませんけれども、そういう気持ちになるということは当然考えられるわけでありまして、ある被団協の幹部にも会いました。援護法と言っておりますけれども、これは物質的なものを求めるのではないのです、そういうふうな、われわれが長年にわたっていわゆる陰にこもった怨念と申しますか恨みといいますか、そういうものに対して、精神的な意味での慰労といいますか慰めといいますか、そういうものがなかった、そこでそれが爆発して具体的になると援護法になるのだ、年金を少したくさん下さいということになるのです、という言い方をしておるわけであります。これは私は、一人、二人のことではございませんで、実は故郷では毎年、各郡部ごとの被爆者団体と会合をいたしておりますし、全国大会へも何回も出ております。そういう私と団体との話し合いの成果を踏まえて、そういうふうな感じがするという気持ちがしておるわけであります。  そこで、現在それではどういうことが象徴的に残っておるかといいますと、まず私が感じますのは、いまなお特別な状態にある人々の中で一番気の毒なのは、原爆病院に入院しておる方々だろうと思うのです。ところが原爆病院へ行ってみますと、これは厚生省の方で早く建物をお建ていただいたせいか知りませんけれども、いまや老朽化しまして、壁は真っ黒になっておるし、それから床もがたがたになっておるというところへ、個室ではなくして大人数の部屋に大ぜいのベッドで入れられておる。ただむなしく千羽ヅルが飾られておるというような状況であります。そういうのを見ますと、被爆者たらずとも、先ほどから申しましたようなそういう気持ち、そういう精神状態に同情の意を覚えて、そうして援護法というような飛躍した話が出てくるのではないかというふうに思うわけでございます。  したがいまして、まず原爆病院、それが見かけがそういう老朽化し環境が悪いというだけじゃなくして、赤字でございます。その赤字の原因も、いろいろ考えてみますと、入院患者は老人が多い、下のお手伝いもしなければならぬから看護婦がよけい要る、そういうことから赤字になっておろうと思うのです。そうかと言って、看護婦を減らしますと、老人に対する介護が十分でなくなってまいります。そういう意味から、原爆病院の、これは設備をすっかり建て直してくれということではございませんで、少なくとも見かけはきれいにして、安息できるような、あるいは見舞いに行った人が、なるほどきれいにしてやってくれておるというぐらいのことはやってやらなくてはならないと思いますし、また病院が赤字であって将来ぶつつぶれるかもしれぬというようなところに入院して、安心しておれるわけではございませんから、そういう意味で、人件費の補助を行うことによって赤字を防いで、安心して入院できるような、そういうふうな一番気の毒な人に対しての象徴的なものを行うということが、原爆被爆者全体に対しての心理的な影響というものも非常に大きかろうと思うわけでございます。その点御答弁願いたいと思います。
  89. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 原爆病院のうち、特に広島の原爆病院につきましては、現在広島県、広島市、また広島日赤の間で、病院の改善についていろいろと協議が進められておりますので、その結論を待って国としても善処をしてまいりたいと思っております。  原爆病院に対しましては、国といたしましても四十三年度から建物、設備などについて必要があれば補助金を交付してまいりました。また、そのころから原爆病院も経営が苦しくなってきたわけでございますけれども、その内容を見ますと、高齢の被爆者が多くて長期の療養にわたって余り高度の医療ができない、医療費も収入が上がらない。また、そういう方々でございますから、非常に多くの看護婦その他の介護人が必要であるということのほかに、原爆後遺症の研究をやっておりますので、その研究費の負担がかなりのものになる、そういったことがございました。そこで、地元の県や市は四十八年度からその研究について補助金を出したわけでございますが、国も四十九年度から各病院にそれぞれ一千百万円の原爆後遺症の研究費を交付したわけでございますし、また本年度においてはさらにそれを増額して、それぞれ二千二百五十万円ずつ研究費が差し上げられるということになっております。  人件費の問題につきましては、国の方もいろいろ検討しておるわけでございますけれども、これも公的医療機関に対する特殊診療部門の補助金といたしまして、四十七年度から医務局の補助金が交付されておるところでございますし、今後の問題といたしまして、慎重に県や市また病院当局と協議をして対策を練ってまいりたいと考えております。
  90. 増岡博之

    増岡委員 施設の改善ということにつきましては財務当局との交渉もわりと楽であろうと思うわけでありますが、人件費の補助ということになりますと、私どもが予算編成の際お手伝いしてみましても、他に波及するということで非常にむずかしい面があろうかと思うわけであります。しかし、先ほど申しましたように、この被爆者団体の運動というものが多分に心情的なものであり、感情的なものであり、なおかつ世間を相当にお騒がせするぐらいな激しい運動になっておることを考えますと、何らかの方法でやっていただけないかという気がするのです。先ほども健康管理手当や保健手当というものが、ほかの社会保障制度の中にはない、そういうものができておるわけでありますから、そのことと同じことであろうと思いますから、いろいろお考え願いたいと思うわけであります。  先ほどもちょっと触れましたように、いまのことと同じような意味で、やはり特別手当につきましては、生活保護世帯における収入認定の問題、これを外していただきたいということと、またそういう意味合いで一番気の毒な人に対する特別手当でありますから、ほかの諸手当も同様でありますけれども、特にこの特別手当だけは所得制限を撤廃をすべきではないかというふうに考えておるわけであります。  またさらに、被爆者が多分に将来への不安あるいは過去への不満、そういう心情的な行動に駆られておる現状から考えますと、被爆者に対する相談業務、これを充実強化すべきだということが終始言われておるわけであります。しかしまた反面、被爆者の中にも一部では相談事業に反対する声もあるように聞いておるわけでございます。  特別手当に対する収入認定解除の問題、所得制限の撤廃あるいは相談業務の充実につきまして御答弁願いたいと思います。
  91. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 特別手当に対する所得制限の撤廃の問題でございますが、この制度は、先ほど大臣が申し上げましたように、被爆者が多量の放射線をお浴びになったという特殊な事情にかんがみまして、社会保障の精神にのっとって行っておる特別措置でございます。したがって、非常に所得の多い方にもこういった特別手当をお払いするということは困難ではないかと思うのでございますけれども、これまで政府が努力してまいりましたように、所得制限の緩和は年々図っていかなければならないと考えておりまして、本年度におきましてもかなりの緩和をいたしたところでございます。たとえば四十九年度は所得税額が八万円までの方に手当を支給しておったわけでございますが、本年度は十一万七千五百円までの方に支給することにしておりまして これを支給率で見ますと四十九年度の八〇%を五十年度は八五%にしようといたしております。このように年々改善の努力をしておるところでございますが、今後もなお一層所得制限の緩和については特別の配慮をいたしたいと考えております。  次に、被爆者に対する相談業務でございますが、まず被爆者のガイドブックのようなものをつくりまして全被爆者にお配りしておるところでございますが、そのほかに、広島や長崎を中心といたしまして、県や市、保健所、それに福祉事務所等が相談事業に当たっておるところでございます。なお、この点については今後ともさらに強化をしてまいりたいと考えておりますけれども、被爆者の中には被爆したということをプライバシーの問題として余り表に出したくないという方もあるわけでございますので、そういった点については十分な配慮を今後ともしてまいりたいと考えております。
  92. 翁久次郎

    ○翁政府委員 生活保護法上との関係について申し上げます。  特別手当につきましては、先ほども御答弁申し上げましたように、他の制度でもそうでございますけれども、原爆によって傷害を受けられ病気になっておられる方々に対するいわば生活援護的なものでございます。したがいまして、生活保護法上では一応これを収入認定をいたしました上で、これらの方の栄養補給なりあるいは通院という特殊の需要に対応するために、加算制度で対応しておるわけでございます。したがいまして、今後こういった加算制度の充実、改善ということについては、われわれとしても努力を続けてまいりたいというように考えておりまして、他のいわゆる実費補てん的な、慰安的なものについての収入認定除外というものとは若干性格を異にするものである、かように感じている次第でございます。
  93. 増岡博之

    増岡委員 いまの最後の収入認定の問題、これが従来からわれわれと社会局と意見の食い違うところでございます。しかし、加算をするといいますか、収入認定から外していく分をどんどん広げていくということについては、あなたのお考えではやはり相当根拠のあるものでなければならない、リーズナブルなものでなければならないという考え方が非常に多いと思うのですが、しかし特別手当というものが生活と医療、栄養補給というようなことのミックスしている中で、どうやって抽出するかということが非常にむずかしいと思うのです。そこで、特別措置法の考え方は、患者の認定に際しましても疑わしきは救済するということに原則が相なっておるわけであります。そういうことでやっていただきたい。と同時に、最終的にはこういうものをいつまでも収入として考えるということは、社会局の考え方は合理的であるかもしれませんけれども、世間一般の常識、社会通念からすると、かえって非常に不合理なような印象を与えておって、せっかく特別措置法でいろいろやってあげましても、その効果が半減するということになっておる、そういうふうに思われてならない。今後の御検討をお願いいたしたいと思うわけであります。  それから相談業務のことにつきましては、ただいま公衆衛生局長から話がありましたように、やはり被爆者というものは、先ほど申し上げた過去における不満、原爆被災当時の怨念というもの、さらにはその後につながる遺伝その他のことから、就職や結婚にも差し支えるというような社会的な差別を受けてきた。現在ではもう現実には余りそういう差別が行われておりませんけれども、しかし心の底にはやはりそういうものが人に知られたくない、しかし何とか国の援助はしてもらいたいという複雑な心境にあろうかと思うわけであります。したがって、この相談業務を充実する場合に、相談員というものを創設されるならば、その相談員というものがどういう人であるか、その人選が非常にむずかしかろうかと思うわけであります。その点については十分注意をした上、採用せられるなら採用していただきたいと思うわけでありますが、大ざっぱに言いますと、そういう選択を迫られた場合には、大概公務員であれば大体いろんな各種法規も心得ておるから、あるいは常識も心得ておるから差し支えないではないかというふうなことになりがちなものであります。しかし片一方では、傷痍軍人の中からそういう相談員を選んでおるように聞いておるわけでございます。この点についてもう一ぺん局長から将来にどう対処されるか、お考えをお話し願いたいと思うのです。
  94. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 原爆被爆者に対する相談制度につきましては、ただいまもお話がございましたようないろいろむずかしい問題がございますので、将来この制度を実現いたします場合には、相談員としてふさわしい方を選ばなければならないと考えております。ただ、先ほど申し上げましたように、現在かなりの被爆者の方に、むしろそういうふうな制度を設けてもらうとプライバシーの関係から迷惑だというような御意見もございますので、その辺の意見の調整を図った上で将来その制度の実現を考えてみたいと考えております。
  95. 増岡博之

    増岡委員 その点については本当に慎重な態度で臨んでもらいたいと思いますし、さらには、そうかといっていつまでもほっておいていい問題ではなかろうと思うわけであります。特に御注意を願いたいと思うわけであります。  また、先ほど所得制限のことは特別手当に関してだけ申し上げましたけれども、これは私の趣旨は、特別手当は所得制限を撤廃、ほかの手当についても大幅緩和してくれろという意味合いから申し上げておるわけであります。そこで、ほかの手当に関しましての、特別手当も含めてでありますけれども、所得制限のやり方がいま老齢福祉年金の所得制限のやり方とは全く違う制度でやっておるわけであります。したがって、どちらが有利でどちらが不利かということは一言では言いにくいかもしれませんが、しかしだんだん被爆者が老齢化してくる事態というものを考えると、何か被爆者に二つか三つの制度をつくってやって選択をさせるというようなことも考えられないかというようなことも含めて、大いに検討していただきますように、これは要請をいたしておきたいと思うわけでございます。  それから前からずっと私は申し上げておるのですけれども、医療法の認定制度については、その法律が制定せられましてから今日に至るまでなかなかやってくれないとか、いいかげんに扱うとかいう声を聞くわけであります。これは必ずしもその声が現状の実態であると私は考えませんで、被爆者の方にも手続に関しましての知識がないとか、あるいは手続に詳しい人に尋ねればいいものを自分勝手にやろうとしてしくじるとか、いろいろなことがあると思うのです。しかし、基本はやはり認定制度自体を合理化して簡素化をするということが一番大事でありましょうし、またそのことを被爆者全体にPRする、知らせるという必要もあろうかと思うわけであります。この二点について今後どのように努力されるか、御答弁願いたいと思います。
  96. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 原爆症の認定制度につきましては、ただいま御指摘がございましたような問題点がございます。ただ、この認定は非常にむずかしい認定でございまして、個々のケースについて専門家の御意見を、しかもいろいろな方面の専門家の御意見を聞かなければならないわけでございますし、また認定に当たってはそれを証明するようないろいろな資料が必要でございます。ところが、被爆後すでに二十九年とか三十年たっておりますので、そういった証拠書類、必要資料を収集することが非常に困難になってきてまいりました。しかし、従来の実績を見ますと、申請に対する承認率は八五・二%ということになっておりまして、これはかなり高い承認率ではないかと思っております。そのほかに数%、現在差し戻しをしましていろいろな証拠書類等を集めていただいておるものがあるわけでございます。しかしながら、これについてはいろいろな問題がございますので、認定制度の合理化についてさらに慎重に検討する必要があると考えております。また、こういった認定制度があるというようなことにつきましては、県や市はもちろん、報道関係等の御協力も得て、徹底するようにPRに今後力をさらに入れてまいりたいと考えております。
  97. 増岡博之

    増岡委員 いま局長がパーセンテージを挙げられたのは恐らく書類が出てからの話であろうと思うのですけれども、書類を出そうとする際に町の開業医に相談をする、その際に頭からだめですと言われてすごすごと引き下がっておる、そういうのが相当あろうかと思うのです。これは厚生省が、そういう開業医に対して大分前に決めました疑わしき者は救うんだというようなことが徹底をしていない、そういう場合が非常にあろうかと思うのです。私も実際にそういう方々のお手伝いをしてみて、そういうことに気がついておるわけでありますから、その点は徹底をさしていただきたいというふうに思うわけであります。  次に、ABCCの問題に移りますけれども、これはこの前私が厚生政務次官をやっておりました当時から、改組しなければならないということで与野党を通じての合意のもとにやってきたわけであります。私は広島でありますから広島に限って申し上げますけれども、ABCCというのは被爆者をモルモット扱いにしておる、研究材料にするだけである、あるいはまた、その研究の結果を秘密にしてアメリカに持って帰っておるということを言われておったわけであります。これも私は真偽のほどは、その言葉のとおりではないと思います。研究の成果を秘密にしておったと言っておりますけれども、ABCC時代から広島の医師会にはその研究の結果が全部記載されておったわけでありますから、そういうふうな誤解に基づいて非常に不評判であったわけであります。またモルモット扱いするというのも、アメリカ人の性格と日本人の性格との国民性の差というものもありましょうから、そういう面からも多分に誤解を生じておったと思うわけでございます。  幸いにして今回財団法人放射線影響研究所に改組されたわけでありまして、これによって日本がどの程度主体性を持って放射線の影響の研究をする体制ができるのか、また今後その活動計画はどういうふうになっておるのかということをまずお尋ねいたしたいと思います。
  98. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 新しく財団法人放射線影響研究所は四月一日に発足いたしましたが、昨年暮れの日米交換公文、また新法人の寄付行為によりましても役員は日米それぞれ半数ずつ出ることになっておりますし、またその予算も日米が半分ずつ折半負担をするということになっておりまして、日本の主体性が確保できるようになったのではないかと考えております。  また、この法人は従来のABCCと国立予防衛生研究所が行っておりました業務を受け継ぐわけでございまして、たとえば被爆者の寿命に関する調査研究、被爆者の健康に関する調査研究、被爆者に関する病理学的調査研究、被爆者の健康診断、こういったものを中心にすることになっておりますが、近く専門評議員が日米双方五名ずつ発令されまして、その専門評議員会において今後どのような具体的な研究調査活動をするかを決めることになっております。
  99. 増岡博之

    増岡委員 せっかく十数億の費用を投じて新たにスタートするわけでありますから、十分に日本側の考えておる研究あるいは健康診断というものができるようにしていただかないと——私がいま被爆者の立場から言いますと、ABCCの予算が被爆者対策の予算の中へ入っておりますけれども、これは別にしてもらわなければならぬ、残りの分がどれだけふえたかという計算でやっていただかなければならぬという気持ちすらあるわけでございますから、それはそれでやっていただかなければなりませんけれども、せっかくのこの改組も十分に効果が上がるように御配慮願いたいと思うわけであります。  そこで、従来からABCCは原爆の放射線が二世に及ぼす影響について研究が行われておるはずでございますが、その結果についてはただいまのところどういうふうになっておるか、お知らせ願いたいと思います。
  100. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 被爆二世についての調査研究でございますが、従来までに被爆二世の白血病の発生率が一般の人たちよりも多いかどうかという点、それからもう一つは被爆二世の寿命が一般の方々と比べた場合に短いかどうかと言う点が調べられておるわけでございます。現在のところは、いずれも特に被爆二世であるから白血病が多いとかあるいは死亡が多い、寿命が短いということは証明されておりません。
  101. 増岡博之

    増岡委員 この前、四十年ですか、厚生省調査された結果にも、これは統計的な数字であろうかと思いますが、そのような被爆者以外の子供さんと被爆者の子供さんと大差がないという結果が出ておるわけでございます。そこで、これはもうすでに断定をするわけにはまいらないかと思いますけれども、今後そのような被爆二、三世の問題については、援護するとかどうとかということではなくして、調査するとか研究をするとかそのことについてどのように考えておられるかお知らせ願いたいと思います。
  102. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 財団法人放射線影響研究所においては、引き続きそのような調査を実施いたします。また厚生省は、特に四十九年度から被爆世帯の健康調査に関する研究を委託してやっておりまして、その中で被爆二世の健康問題も取り上げておるわけでございますが、この調査研究についても今後続けていく所存でございます。
  103. 増岡博之

    増岡委員 これは学問的に研究をしますと、聞くところによると五十年もかかるということでありますが、その結論が出てから対策をするということではとても間に合わないと思うのです。それで私は、前から直接にはあなた方に、統計学的にやって早急に結論を出してそれに対する対策を考えなくてはならないのではないかということを申し上げておるわけであります。  そこで、今秋予定しておられます被爆者の実態調査につきましてお尋ねいたしたいと思いますけれども、この実態調査をどういう方法またどういう目的でやって、そしてその結果を現実の行政にどのように反映させていくのかということについてお尋ねいたしたいと思います。
  104. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 まず、今秋に予定しております昭和五十年度原爆被爆者実態調査の目的でございますけれども、被爆者の生活とか健康の状態を総合的に把握して今後の原爆対策に資するために行おうとするものでございます。  調査の方法でございますが、現在実態調査委員会において細目について御検討をいただいておりますけれども、基本的な調査といたしましては三つございまして、基本調査と生活調査と事例調査の三本立てになっております。  まず基本調査は、被爆者健康手帳をお持ちの方全部につきまして、氏名とか性とか年齢とか傷病の状況とかそういったものを調べようとするものでございます。また生活調査につきましては、二十分の一の抽出率で、ただし沖縄だけは全数調査をいたします、そういった標本で被爆者の職業だとか傷病の状況だとか生活の状態、こういったものを調べることにいたしております。最後の事例調査は、四十年の調査で事例調査対象になりました方々を調査対象といたしまして、どんな御苦労をお持ちであろうか、またそういった御苦労はどういう理由によってどういうふうに起こってきたのであろうかというようなことを、十年間比較しながら調査しようとするものでございます。  最後に、この調査の結果は、先ほども申し上げましたように今後の原爆医療法、原爆特別措置法の改正等に大いに活用してまいろうと考えておるものでございます。
  105. 増岡博之

    増岡委員 いまお話しのあったような事柄から推察をいたしますと、被爆者の福祉対策の強化、これは今回の保健手当の創設によって、あるいはその前の、特別手当を治療後の方にも差し上げるという制度に踏み切った、そこに第一歩があるわけでございます。その福祉対策の強化を今後行ってまいりたい、そういうふうに考えてよろしいわけですか。
  106. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのとおりでございます。
  107. 増岡博之

    増岡委員 最後の質問に入ります前に、先ほど聞き漏らしたのかもしれませんけれども、もう一度お尋ねいたしたいのですが、特別手当、健康管理手当、医療手当、介護手当、葬祭料、保健手当の五十年度の支給予定数を概略で結構ですからおっしゃってください。
  108. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 まず特別手当でございますけれども、三千七百人でございます。健康管理手当は七万九千人。それから保健手当は四万三千人でございまして、この三つの手当を合わせまして十二万六千人程度になっております。そのほか、数の少ないものといたしまして、介護手当は年間約千五百件。それから今回新設されます介護の費用を支払わない場合の介護手当でございますが、これが六百五十件。それから手当ではございませんが、葬祭料は四千八百人。このように予算では計上されております。
  109. 増岡博之

    増岡委員 数年前の数字から比べますと飛躍的に人数もふえたわけであります。私どもが一生懸命やっておりました時期には、健康管理手当の年齢制限を五歳引き下げる、そんなことで一万人ぐらいの方々を救済できたわけでありますけれども、今回の改正はそれと比べますと、保健手当の四万三千人、あるいは健康管理手当の年齢制限を撤廃することによって約三万人、そういう新規の方々が手当を受けられることになるわけでございまして結構なことでございますが、先ほどから申し上げておりますように、被爆者の現在の運動の心理的な精神的な要因というものは、被爆時の怨念あるいは医療法ができますまでの間のほっておかれた不満、また特別措置法ができましてからも順次改善されましたことが裏目に出て、小出しにしておるのではないかというふうな言われ方をしておる。そういうことでございます。  しかし翻って、また大臣もお話しございましたように、援護法に踏み切るということであるならば、原爆以外の一般被災者でけがをされた人、さらには被爆者の中でも即死をなさった人等のことを考えてだんだんやってみますと、やはりここには援護法に踏み切れない逆差別になるおそれがある。それ全部をやろうとすると、国家財政ももたない状態になってくる。特にいま一般戦災者も何らかのことを考えてくれろというような運動も起きておるわけでございますから、その全部を対象にした援護法ということにならなければ法の前に平等というわけにはまいらないわけであります。したがって、合理的な差別ということから特別な状態にあるという事情を引き出されて、これまでのような特別措置法、医療法で対処されようとするわけであります。  が、しかし、私がたびたび申し上げておりますように、被爆者あるいは被爆者団体、これは地方、全国の団体を問わず、その幹部を含めての意見の中には、そういうふうな精神的な代償が欲しい、何か象徴的なものとして、国が、あなた方はいままで御苦労さんでありましたあるいはまた家族をたくさん失われて残念でありました、そういう意思表示をしてくれないかという声が非常に強いわけでありまして、現在の援護法を要求するそういう運動に直接タッチをしておられる方々と一人一人お会いしてお話をすると、腹の底はそういうことである。そういうこともやってくれないから援護法援護法と言っておるのだということが真相であるというふうに私は見ておるわけでございます。事実、私に対して相当な幹部や被爆者の方々が相当数、援護法というものは物質的なものを求めておるようでありますけれどもそれが本当の目的ではないんです、国がそういうことを、霊を慰めるあるいはまた長い間の不満を勘弁してください——勘弁してくださいという言葉は語弊かあるかもしれませんけれども、そういうことをやってくださいということがあるわけでございまして、具体的にはどうしてくれろということまでありますけれども、これを申し上げますと厚生大臣もお困りであろうと思います。何らかの形でそういうことができないものか。佐藤総理が広島の慰霊祭においでになったのもその一つであろうと思うわけでありますけれども、しかしあの当時は学生運動の華やかな時代で、かえっておいでになったことが逆効果のようなかっこうで終わったわけでありますが、そういう気持ちをあらわすことを将来におきまして御検討をいただきますようにお願いを申し上げまして、私の質問を終わらしていただきたいと思います。
  110. 戸井田三郎

    ○戸井田委員長代理 これにて増岡君の質疑は終わりました。      ————◇—————
  111. 戸井田三郎

    ○戸井田委員長代理 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律案審議のため、明二十四日木曜日午前十時から参考人の出席を求め、この意見を聴取することとし、その人選等については委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
  112. 戸井田三郎

    ○戸井田委員長代理 御異議なしと認め、さよう決しました。  この際、午後零時四十分まで休憩いたします。     午後零時十分休憩      ————◇—————     午後零時四十五分開議
  113. 戸井田三郎

    ○戸井田委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律案の質疑を続けます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中村重光君。
  114. 中村重光

    中村(重)委員 先国会で当委員会の附帯決議がつけられたわけですが、御承知のとおり「政府は、被爆者が現在もなお置かれている特別の状態と被爆者の援護対策充実強化の要望に配慮し、今後被爆者の援護措置全般にわたる制度改善を図ること。更に政府は本法の施行に当たり、次の事項についてその実現に努めること。」こうあるわけですが、これを生かすためにどのような措置をおとりになったのか。いま提案されております改正法案では附帯決議の趣旨が生かされたというようには必ずしも理解できないわけでございますが、この点について基本的な問題ですから一応大臣からお答えをいただきまして、具体的な点については局長からお答えをいただきます。
  115. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 先国会の衆参両院の附帯決議も尊重いたしまして、本年度におきましては、まず爆心地から二キロ以内の直接被爆者で従来の特別手当、健康管理手当を支給されていない方々に対して、新たに保健手当六千円を本年十月から支給することにいたしました。また従来の諸手当、葬祭料についてもその給付額を大幅に引き上げております。たとえば特別手当でございますと、四十九年度は一万五千円でございましたものを本年度は二万四千円に六〇%引き上げておるわけでございます。このような給付額の大幅な引き上げのほかに範囲の拡大もございまして、健康管理手当は従来四十五歳以上の人あるいは心身障害者または母子世帯の母、こういった制限がございましたが、それを全部撤廃いたしました。また所得制限につきましても、四十九年度は前年の所得税額が八万円以下の方々が対象になっておりましたが、それを引き上げて本年度は十一万七千五百円以下の方々に支給することにいたしました。簡単に申し上げますと、従来普通の手当の支給率が八〇%であったものを八五%に引き上げたものでございます。そのほか、介護手当の中に新たに介護料を支払わなかった場合にも支給するという制度を創設したわけでございまして、これはいわゆる家族介護手当に相当するものでございます。そのように、私どもといたしましては附帯決議の趣旨を生かしてかなりの改善を図ったと考えております。
  116. 中村重光

    中村(重)委員 いまお答えになったように、量的な面において前進があったということは私は率直に認めることにやぶさかではないわけです。ただしかし、インフレ、物価高の中でこれは毎国会特別措置法の改正の際は前進を見ているわけでございますが、それが必ずしも生活の安定につながったというようには言えないのではないかと思うわけでございます。  ただ、私がお尋ねしたいのは、この特別措置法に対する附帯決議をつけましたときの経過というのは大臣にいたしましても局長も御記憶があるだろう。私ども野党といたしましては、実は援護法の共同提案をした。ですから、この共同提案によるところの援護法に日の目を見せたいという考え方、そこでずいぶん長い間時間をかけて与党との間の折衝を続けてきた。もちろん政府ともいろいろな将来にわたっての施策について折衝したことは事実であるわけです。その結果、援護法というのはここに入れなかったわけでありますけれども、「今後被爆者の援護措置全般にわたる制度改善を図ること。」というところに実は援護法というようなもの——それは援護法の制定かなかったにしても、実質的に援護法の内容にふさわしいような改正案というものが出ることを期待をした附帯決議であるわけでございますが、そうした基本的な点について、いまお答えになったような量的な問題ではなくて、基本的にどう変わったというように政府としては提案するに当たって理解をしておられるのか、それを伺ってみたいのであります。
  117. 田中正巳

    田中国務大臣 当時附帯決議を付したときには私は厚生大臣ではございませんでしたが、党の政務調査会におりまして、この取り扱いについていろいろ苦慮をいたした経緯がございますので、ある程度存じているわけでありますが、当時といたしましても、与党筋ではやはりいわゆる援護法的なものについてはこれは適当ではないという考え方が支配的でございまして、したがいまして、出先の社会労働委員会理事から来たそれらしい文言についてはこれを削除するようにいろいろと折衝があった事実を私は記憶をしているわけであります。したがいまして、当時から今日に至るまでわれわれの立場としては一貫して、いわゆる援護法的な考え方はこれをとらない、しかし、現行二法の範囲内でもってできるだけ施策を向上していくというようなことを考えなければなるまい、被爆者の置かれている特別な立場あるいは特にお気の毒だということからいろいろと知恵をしぼったわけでございまして、それが象徴的に出ているのは、今回審議をお願いをいたしております保健手当等によく見られるところではなかろうか、要するにあの現行の二法の範囲内では、この保健手当というのはもう制度のぎりぎりの線まで実は前進をしている制度というふうに私どもは見ているわけでございまして、かような趣旨で私どもとしては現行二法の範疇の中でもって施策の向上を図るべきである、いま公衆衛生局長がいろいろと他の施策についての向上の点についても申し上げましたが、象徴的にあらわれているのはこの保健手当だろうというふうに認識をいたしておりますので、今後ともそういう方向で相進みたいものだというふうに思っておりまして、そして、附帯決議の御趣旨を、文言上明らかにされているものを私どもは没却をいたしたいというふうには考えていないわけであります。
  118. 中村重光

    中村(重)委員 私も、いまの大臣の近距離保健手当の問題についてこの附帯決議を生かすという点に十分留意したということは、いろいろ議論のあるところでありますけれども、それは理解できるわけであります。確かに質的な点に従来の改正法案との違いがあるということは認めたいと思います。  ところが、二キロ以内の直接被爆者に限定をしたのはなぜかということでございますが、その点についてひとつ局長からお答えをいただきましょう。
  119. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 保健手当は多量の放射線を浴びた方々にその健康を守るために支給しようとするものでございまして、その場合国際的な基準等を勘案いたしまして、二十五レム以上浴びた人々を対象にしたわけでございます。  そこで、この二十五レム以上にしたのはなぜかという問題が起こってまいりますが、それは、一九五八年の国際放射線防護委員会の勧告によりますと、一生でただ一回の被爆の最大許容線量は二十五レム以下である、このようになっております。また一九七一年のアメリカの放射線防護測定委員会が決めております、事故などがございまして、放射線濃厚地域に立ち入る場合の許容線量も二十五レム以下、こうされております。また医学的な経験によりますと、一回の被曝ではっきりと身体に障害があらわれてまいります放射線の線量も二十五レム以上、こういうことになっておりますので、これを基準にすることにしたわけでございます。  次に、その二十五レムで距離を計算をいたしますと、広島の場合と長崎の場合で原子爆弾の種類が違っております。広島はウラニウム爆弾、長崎はプルトニウム爆弾でございまして、はっきり申しますと、中性子線の量が広島は多いわけでございます。長崎は広島の八分の三でございます。そういう関係がございまして、一九六五年の新しい当時の推定線量をもとにして計算いたしますと、広島の場合には一・七キロ、長崎の場合には二キロとなるわけでございます。ところが、第一回の推定線量が一九五七年に発表されておりますが、その古い推定線量によりますと、広島も長崎もほぼ相違がございませんで、それぞれ二キロとなるわけでございます。  こういった医学的、科学的な考え方のほかに、御案内のように、原爆医療法で昭和三十五年に特別被爆者の制度をつくりましたけれども、そのときも二キロとされたわけでございまして、行政的には二キロで線を引くのが一番対象者の把握をしやすいし、事務もスムーズに進むわけでございますので、そういった事務的な面も考慮したわけでございます。  また、なぜ直接被爆者だけにしたのかという問題でございますけれども、もちろん原爆の爆発によって生ずる中性子線によりまして誘導される核分裂物質、いわゆる死の灰という問題が起こってくるわけでございますけれども、この死の灰の放射線は時間によって非常に著しく減っていくわけでございます。たとえば十時間で半分になり、二十七時間で四分の一に線量が減るわけでございます。こういったこと、さらに、中性子によって誘導された放射線の量が広島の爆心地では八十ラド、これは永久線量でございますが、爆発直後から無限大までの永久の蓄積線量でございますが、八十ラドでございまして、簡単に申しますと、二十四時間以内の蓄積線量は六十ラドになってくるわけでございます。このような関係から、当時あのような激しい爆発が起こりましたので、二十四時間以内に爆心地あるいはそれから数百メートル以内には入れなかったと言われておるのでございますけれども、二十四時間以内にそういったところに入った方々でないと二十五レム以上の放射線は浴びなかったということになります。そこでまず入市者は対象から除外したわけでございます。それから次に、死の灰が三キロばかり離れた遠隔の地に降っておるわけでございますけれども、これは代表的な長崎の西山地区で申し上げますと、その灰によります放射線の無限大の集積線量は、学者によって意見がまちまちでございまして、通説によりますと、三十ラドとなっておりますが、多い方で六十ラドと申しております。これも無限大の集積線量でございますが、しかしながら家の中に入っておりますと被曝線量は減ってくるわけでございますし、また家の外に出ておりました時間によりまして非常に影響を受けるわけでございまして、実際的にはその四分の一程度の放射線を浴びたと考えるべきであろうというのが現在の通説になっております。そのようにいたしますと、やはりこれも二十五レムに達しませんので、そういった死の灰の降りましたような地域、放射能残留地域も今回の保健手当の対象者から除外した次第でございます。
  120. 中村重光

    中村(重)委員 放射線を浴びた被爆者に対して近距離保健手当を支給するということを肯定するといたしますと、私は直接被爆者に限ったことは理解できないではないのです。ただ、二キロに限ったということで、たとえば長崎の場合、二キロで十八・三ということですね。二キロ五百になってくると二・九というように極度に数字が落ちているわけですよね。どうも二キロにするために無理にこうしたデータをつくったというような印象を強く受ける。それから、西山の場合、風があちらに吹いておった、こういうことなんですが、いまお答えになりましたような数字になるのだろうというように思うのですが、それをまたいまのお答えですと、被曝線量であるとかそういったいろいろな理由づけをしてこれを外していこう、家の中におった者はこうだ、家の外にいた人はこうだといったような、どうも二キロに限定をするために無理にこじつけをやっておるような印象をお答えの中から私は受けるのですが、そうではなくて、今回は二キロにしたのだ、なお十分調査をしてこれを直すところは直していくということにしなければならないという、もっと率直な考え方というものをもって当然お答えをなさるべきじゃないかというように私は感じるのですが、その点いかがですか。
  121. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 まず当時の放射線の推定線量の問題がございまして、先ほども申し上げましたように、一九五七年と一九六五年と二回出ておるわけでございます。二回目の場合には広島、長崎のABCCと国立予防衛生研究所支所が計算したものでございまして、その数字はまた同時に科学技術庁の付属機関である放射線医学総合研究所の推定線量と一致したわけでございまして、国際的にも高い信用を得ておるデータではないかと思うわけでございます。しかし、こういった科学的なデータには必ず誤差の範囲が定められることになっておりまして、一九六五年の推定線量でもプラスマイナス三〇%という誤差の範囲が設けてございますし、一九五七年の場合にはプラスマイナス五〇%という誤差の範囲が設けられておったわけでございます。このようなことからもわかりますように、この推定線量については、あるいは今後の調査研究によってさらに改正されるかもしれません。そういった要素が残ってまいります。  また、たとえば具体的な例でございますが、西山地区につきまして被爆後一カ月から二カ月の間に住民の白血球が非常にふえたという事実がございます。ところが、従来医学的には放射線を浴びると白血球が減るということしか経験されていなかったわけでございますので、白血球がふえたというのは全くの新事実でございまして、いろいろな説が出てきたわけでございます。たとえばごく弱い放射線に被曝されるとむしろ白血球がふえるのじゃなかろうかというような説も出てきたわけでございますけれども、現在のところは、やはり従来のその他の経験どおり、放射線の白血球に対する影響は白血球が減る方にあらわれてくるのであって、西山地区の白血球の増多症は何かその当時感染症がその地域に流行したのではなかろうかということになっているわけでございますけれども、この点につきましても新しく設立されました財団法人放射線影響研究所を初めその他の関係研究機関、大学等でなお研究が行われておるところでございますので、今後新たな知見が出てくるかもしれません。  しかし、現時点におきましては、先ほど申し上げましたように、国際的な基準、それに基づく距離数、そういったものを考えてまいりますと、若干の誤差はございますけれども、二キロというのが最も適当な線であり、また直接被爆者以外はそれほど多くの放射線を浴びなかったということが通説になっておるわけでございます。
  122. 中村重光

    中村(重)委員 この問題については同僚委員から詳しくお尋ねをすることになっていますから、私はこの点は深く入りませんが、いまお答えになりました西山地区の問題にいたしましても、西山だけだということにならないのですよ。西山だけを調査をしたわけです。ほかはやっていないわけですよ。そこに問題があるのです。私はこの問題についてはもう二十年来取り組んできておりますから、厚生省政府がおやりになったこと、ABCCがやられたこと等々伺っているわけですがね。ですから、当初西山だけを特別手帳交付地区に入れられた際、その根拠が薄弱であるということを指摘しまして、範囲の拡大を図ったという事実も実はあるわけです。  それと私は、政府が出しておられる資料を頭から否定をするような根拠の上に立って申し上げるのではないのですけれども常識的に考えてみまして、二キロ以内が十八・三であったのが五百伸びただけで二・九とこんなに数字ががたっと下がるということは私は考えられないと思います。ですから、こういうことではなくて、距離でいくという場合には、どこかで線を引かなければならぬということは私は理解をいたします。私どもは、援護法の中身から申し上げますと、その当時生命を奪われた犠牲者の遺族に対しては遺族年金を、それから被爆者全体に対しては被爆年金を支給しなさいというような私どもの基本的な考え方から言いますならば距離を引くべきではないというように思いますが、政府の考え方はやはり距離ということの上に立っておられますから、その場合はやはり一線をどこかに引かなければならないであろうというように思います。引かれる場合は、やはり疾病率であるとかあるいは死亡率であるとか、そういうものを十分加味した形で線をお引きになるのでなければ、このデータだけでもってこれが絶対的なものであるという考え方で保健手当の支給をお決めになるということは適当ではないであろうと私は思います。ですから、被爆者の人たちが素朴に政府の説明を受け入れ得るということでなければ、被爆者感情としてでもこれは許されないのじゃないかというような感じがいたします。ですから、国際的な点でそれが改正されるかもしれないというのではなくて、やはり政府として今度は一応これでやったのだが、将来あらゆる角度から十分検討して適切な措置を講じていく、拡大について十分配慮していくというようなお答えを私は当然なさるべきではないかというように感じますが、これは大臣いかがですか。
  123. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 放射線のエネルギーが距離の二乗に逆比例して減少していくということは、これは揺るぎのない国際的な定説でございます。したがって、二千メートルと二千五百メートルでは、ただいまお話がございましたように非常に数字が変わってくるわけでございます。  そこで問題は、しかし疾病の状況、死亡の状況を見て弾力的に考えるべきではないかという御提案でございますけれども、もともと被爆者に対しましては、認定患者には特別手当が、また十の障害を持っております方々については健康管理手当が支給されるわけでございまして、そういった手当が支給されない方々で多量の放射線を浴びた方々の健康の不安を解消し健康の保持増進を図るために創設したのがこの保健手当でございますので、この手当の対象者はそうやたらにふやすわけにはいかないであろうと考えます。やはり厳格な、国際的にも認められた基準に準拠して判断していくべきではないかと考えております。
  124. 中村重光

    中村(重)委員 いまのお答えは私は理解できないのですよ。併給するのならば、いまのお答え理解できます。併給しないわけだから。健康管理手当というのは、長崎県の場合は長与、時津という地域を除いてはすべて被爆手帳を交付して、そして今度は年齢制限を撤廃になったんだけれども、その年齢の範囲の者、それから厚生省が指定する十の疾病の一つにかかっておったという場合は、これはもう全地域にわたって、手帳交付の全地域の被爆者に対して健康管理手当を支給するわけですから、これ併給がないというところにいまのお答えは私は当たらない、こう思います。やはり申し上げたように併給しないんだから、したがって二キロという形で限定すべきではないではないかというのがいわゆる私の考え方であるわけです。だから絶対的にこの線を改めるという意思はないのかどうか。私が申し上げましたように疾病であるとかあるいは死亡であるとか、もう総合的に判断をして、将来これを改めるための検討をするという余地がないのかどうか、その点をひとつお答えをいただきたい。
  125. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 現在の科学的、医学的な知見によりますと、やはり放射線の影響を受けるというのはそのような基準になってくるわけでございまして、もともと特別手当あるいは健康管理手当の恩恵に浴さない方々で問題のある方々を救おうとする制度でございますので、現在のところは今回設けましたような基準でこの制度を運用していく以外にないのではなかろうかと考えております。これはやはりその辺を非常に甘くしてまいりますと、いつも出てまいります一般戦災者等との関連も起こってまいりまして、被爆者の特性が薄らいでくるわけでございまして、当面はどうしてもいま申し上げたような基準によってこの制度を運営していくことになろうかと考えております。
  126. 中村重光

    中村(重)委員 いま御提案になっているんだから、そうした答弁というものは出てくるであろう。しかし健康管理手当を支給されていない者に支給をするんだから、だからあなたの方はこれを拡大をするということは適当でないという考え方。私は、その健康管理手当を支給していない人たちに支給する、併給はしないんだから、したがって余り厳しくやるということは適当ではないんじゃないかという考え方の上に立つのですね。ですから、そこにやはり違いがあると思う。  それから、この数字にいたしましても、必ずしも私はこれか——このデータというものはどこでおとりになったのか、それは二回にわたってこういうデータが出ているのだとおっしゃるのだけれども、いままでの範囲の拡大の場合だって、疾病率であるとかあるいは死亡率であるとかいったようなものを十分加味してきたんですよ。それで拡大をしてきたんですよ。それが政府の方針なんです。このことに関してだけ疾病率であるとか死亡率ということを全然加味しないということは私は一貫性がないと思う。いままで政府がとってきたその方針と申しますか施策からいたしますと。だからいままでのがそれじゃ間違いであったというようなお考えの上に立ちますか。いかがですか。
  127. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 従来の考え方が間違いであったとは考えておりません。ただ、この新たな保健手当創設の趣旨から見まして、先ほど来御説明しておりますような基準で運用すべきではなかろうかと考えておる次第でございます。
  128. 中村重光

    中村(重)委員 それじゃ時間の関係もありますからこの点は保留いたしまして、次に進みます。  この六千円の支給の積算根拠は何ですか。
  129. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 特に積み上げ計算をしたものではございません。簡単に申し上げますと、現行の健康管理手当の半額になっているわけでございますが、その理由は、多量の放射線を浴びまして、いつ病気が起こってくるかもしれないという方々の健康の保持、増進のために、たとえば栄養剤を補給していただくとか、休養をとっていただくとかあるいはレクリエーションをとっていただく、そういった需要に充てるための手当でございますので、おおむねこの程度でいいのではないかと考えたわけでございます。
  130. 中村重光

    中村(重)委員 いまのお答えは健康管理手当の場合にお考えにならなければならないことですよ。大体健康管理手当を病気にかかった者でなければ支給しないということが間違いなんです。病気にかかっているんだったら、これは医療手当ですよ。だから医療手当というものはあるのだから、この健康管理手当というのは第二医療手当的な性格を持っている。それを健康管理手当という形で支給しているところに問題がある。健康管理手当というなら、いまこの近距離保健手当の場合支給する、その支給の考え方、それが健康管理手当の支給の考え方でなければならない。これは間違いなんです実際は。  なおこの認定被爆者で治癒した者は一万二千円を支給することに今度はなるわけですが、これとのバランスというものは私はとれないような感じがいたしますが、いかがですか。
  131. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 認定患者で傷病の状態にない方々は四十九年度から特別手当の半額を支給しておるわけでございまして、本年度で言えば一万二千円になるわけでございますが、これらの方々には一たん原爆症があってそれが治癒するか軽快するかして傷病の状態になくなった方でございます。したがって再発の可能性も高いし、またいろいろ体全体として弱っているというような面も普通の方々とは違うわけでございます。そういった関係から、やはりそういった方々には今回の保健手当よりは多い手当を差し上げるべきではないかと考えております。
  132. 中村重光

    中村(重)委員 それは私はこの手当を減せと言っているのじゃないのですからね。これはもっとふやさなければいけないわけなんで、保健手当が低いという考え方の上に立ってお尋ねをしているわけですから。一方は再発のおそれある。一方は疾病にかからないようにこの手当を支給する。再発のおそれ、疾病にかかるおそれ、そのいずれにしてもその場合のおそれがあるわけですね。だから私は、そういういまお答えのような考え方であるならば、この差をつけるべきじゃないというように考えますね。だから片や六千円、片や一万二千円というのは何としても理解できない。もっとこの額を引き上げるべきであるというように思います。引き上げるべきでないということは——同じような答弁が返ってくるのかもしれませんけれども、少し私は考え方を明らかにしてお尋ねをいたしましたから、もう一度簡単にひとつ。
  133. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 諸手当の額の引き上げとかあるいは所得制限の緩和、こういったことは従来も政府は大いに努力をしてきたところでございまして、そういう意味で、この保健手当等についても今後額の改定に努力されなければならないと思うわけでございますけれども、各手当の間のバランスというものはおおむね現行どおり将来も残っていくのではなかろうかと考えております。
  134. 中村重光

    中村(重)委員 それから健康管理手当について先ほど私は私の意見を申し上げましたが、その厚生省指定の疾病にかかっている、その一つにかかっていることという制約条件がある。いままでは年齢の制約条件もありましたが、これは今度はお外しになるわけです。この疾病にかかっているというような条件も撤廃をすることが、先ほども申し上げたように健康管理手当という性格に合致するのではないかと思いますが、その点いかがですか。
  135. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのような考え方もあろうかと思いますけれども、もしそのようにする場合には、先ほども申し上げましたように、特別手当とのバランスとかそういったことが新たに問題になってくるのではなかろうかと考えます。
  136. 中村重光

    中村(重)委員 それはよろしいと思うのです。私どもも、被爆者援護法の中にある被爆者手当というのは、その症状に応じて、いわば差をつけなければならないと考えていますから、その差をつけられることはよろしいと思います。だからそうした考え方もあるというふうなお答えがありましたから、やはりそういう制約条件を外すということについて今後十分検討してもらいたいということを申し上げておきます。  それから先ほど所得制限のことについてお答えがございましたが、私は所得制限を撤廃すべきではないか。これは厚生省は概算要求の際は所得制限撤廃でもって大蔵省に要求しておられるわけですから。ところが大蔵省との予算折衝の段階で所得制限がついてくるわけですから、この点は大蔵省御出席でございましょうから、なぜに厚生省の概算要求の所得制限撤廃ということをお認めにならないのか、これをひとつお答えいただきたいと思います。
  137. 梅澤節男

    ○梅澤説明員 五十年度の原爆被爆者対策につきましては先ほど来厚生省の方から御説明がございましたように、各種手当の大幅な引き上げ、それから保健手当の新設、あるいは健康管理手当につきましては従来ございました年齢制限等の撤廃をいたしました。あるいは在宅サービスの施策につきましても新しい考え方を入れるということで、被爆者対策としては飛躍的な前進をしておるというふうに私どもは考えております。  そこで、いま委員指摘になりました所得制限の問題でございますが、基本的な考え方といたしましては、現在の被爆者対策というのはいろいろ議論があるところでございますけれども政府の基本的な考え方は、これはあくまで社会保障であるという考え方に立っておるわけでございます。つまりセキュリティーであってコンペンセーションではない。そういうことになりますと、各種手当、これは一種の所得保障ということになるかと思いますけれども、租税の一般財源で賄っております以上は、この種の手当の支給につきましては、単に原爆の関係の手当にとどまりませず、各種の、たとえば福祉年金とかいろいろの社会保障給付がございますけれども、いずれにいたしましても、その方々の稼得能力と申しますか、そういうものを全然無視しましてこれを支給するという考え方に立つのは非常に困難であると存じます。  ただ五十年度の所得制限の問題につきましては、ただいま委員の御指摘のありましたように、厚生省の方から非常にこの問題についての改善方の強い御意向もございまして、相互間で入念に検討いたしまして、その支給率の改善と申しますか、従来までの所得制限のために支給を受けられなかった方にも新たに支給を受けられるようにするというふうな観点に立ちまして、大体五%ぐらいの方が新たに支給を受けられるというかっこうになると思いますけれども、そういう形での所得制限の改善を行った。ただ基本的な考え方としましては、原爆の手当に限りませず、一般租税財源で賄っているたぐいの社会保障給付につきましては所得制限を全然外してしまうという考え方はとり得ない、こういう考え方でございます。
  138. 中村重光

    中村(重)委員 私のいままでの理解も、いま梅澤主計官がお答えになったように、社会保障であるから所得制限というものは撤廃できないのであろうというように理解をしておったわけです。私どもは原爆被爆者の場合においては社会保障ということは適当ではない、国家補償でなければならないという考え方の上に立っておりますし、援護法の精神もそこに実はある。社会保障であるということを十分承知をしていてこの所得制限の撤廃を厚生省は要求をしてきたわけですが、厚生省厚生省なりの考え方があるのではないかと思いますが、その点いかがですか。
  139. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 私どもといたしましても、現在の特別措置法は社会保障制度でございますので高額所得者に手当を支給するということは困難であると考えておるわけでございますけれども、従来からやってまいりましたように、所得制限の緩和については今後とも大いに努力をいたしたいと考えておるわけでございます。先ほども申し上げましたように、本年度は従来の八〇%の支給率を八五%に上げたわけでございますが、明年度においてはさらにそれを改善するように大いに努力をしたいと考えております。
  140. 中村重光

    中村(重)委員 特別措置法が、これは梅澤主計官に申し上げるのですけれども、これは国家補償でなくて社会保障という精神の上に立っているということになっているところに問題が実はあるわけですね。私はこれは時間の関係もありますから、そのことを余り強調しようとは思いませんけれども、原爆被爆者の場合に社会保障ということ、これは適当でないと思うのですよ。これは国際法に許されてない殺戮兵器を使って皆殺しをやって、本来これはアメリカが補償しなければならない。しかしそれを日本政府は講和条約の際に権利放棄をやっているのでしょう。被爆者と相談をしてやっているんじゃないのです。だから日本政府は当然被爆者に対して補償をする義務がある。だから国家補償でなければならない。その点を全く無視して、社会保障、救貧対策であるというところは私は適当でないと思います。だから、社会保障であるから、それに所得制限というものは撤廃できないのだというようなことでなくて、被爆者の場合においては特別な考え方というようなものをもって対処していくということでなければ、被爆者は納得しないだろうということだけはひとつ申し上げておきたいと思うのですが、大臣、この点はどうお考えになりますか。
  141. 田中正巳

    田中国務大臣 この原爆特別措置法、これは援護法の思想から出ているものではございません。しかし、従来の一般にあるような社会保障のものとは独特な地歩を占めているものと私は理解をいたしております。したがいまして、これについて特別な措置をとっているわけですが、しかし反面、またそういうことで、手当の性質にもよりまするけれども、これについて全く所得制限を付さないということについてはいろいろ議論があろうと思いますが、特別な措置であるがゆえに、私はこれについての所得保障の考え方は十分しさいに検討をしてみる必要があろうと考えております。
  142. 中村重光

    中村(重)委員 じゃ、先に進めますが、二世、三世対策ですが、これは大きな政治課題ということになっているように私は思うのですが、この二世、三世に対しては、今後どういう態度でお臨みになるおつもりですか。
  143. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 二世、三世につきましては、理論遺伝学的にはいろいろな意見が出ておるわけでございますけれども、これまでのABCC、国立予防衛生研究所支所等が行いました調査によりますと、たとえば白血病とかあるいはお子さんの寿命の問題もございますが、いずれも普通のお子さんと大差はないわけでございまして、二世、三世に対する原爆放射線の影響は、いまのところ証明されておりません。したがって、原爆二法の対象にする考えはないわけでございますけれども、これらの方々につきましては、今後さらに新設されました財団法人放射線影響研究所を初めとして、調査研究を続けますと同時に、厚生省も昨年度から被爆世帯の健康調査という調査研究を委託したしまして、その一環として二世、三世の健康調査もいたしておりますので、今後それを引き続き継続してまいりたいと考えております。
  144. 中村重光

    中村(重)委員 大臣がかわっても局長がかわっても同じような答弁ばかり返ってくるのですね。いつまで研究をしようとしているのですか。それでいまあなたは、ほかのお子さんと変わりないと言う。しかし、現実に原爆症にかかって病床に伏し、亡くなっている人たちがいるという事実を、あなたこれに目をつむっていくつもりですか。これは、そういったようなことを言ったら本当に被爆者二世、三世怒りますよ。現実を無視してはだめなのです。だからして、もっと前進した答弁というものがなければならぬ。たとえば、本人希望するならば被爆手帳を交付をして、国費で治療することにいたしますなり、そういったようなことが当然考えられなければならないじゃありませんか。議事録をお読みになればわかりましょう、いつも同じなのです、答弁が。そういうことで、答弁のための答弁をされるということは、私は納得できないですね。今後どうなさいますか。
  145. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 ただいまも申し上げましたように、これまでの調査研究の結果によれば、被爆二世、三世について特別な状態は認められていないわけでございますので、原爆健康手帳の交付等、現行制度適用していくことは困難であると考えられます。
  146. 中村重光

    中村(重)委員 それでは、現実にこの原爆症にかかって床に伏し、あるいは死亡しているということに対しては、どうお考えになりますか。
  147. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 被爆の当時胎児であった方々についてははっきりしておりまして、国際的にも認められておるわけでございますが、その後、妊娠されて出生をされたという方については、いままでのところそのような結果が出ていないと私は考えております。
  148. 中村重光

    中村(重)委員 あなたは国際的、国際的ということをおっしゃるのだけれども、世界で日本が唯一の被爆国ですよ。何をもって国際的ということをおっしゃるのですか。どうもおかしいね、局長。あなたのような答弁が答弁のための答弁だと言うのだ。官僚答弁と言うのですか、誠意がない答弁じゃ困る。大臣からこの点お答えください。
  149. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 原爆の、またさらに一般放射線の人に対する影響については、いろいろな方法をもって世界各国で研究が進められておるわけでございます。確かに原爆被爆という点についてはわが国だけでございますけれども、諸外国においてはいろいろな実験研究が行われておるわけでございまして、それらの調査研究結果をもとにいたしますと、先ほど申し上げたようなことになるわけでございます。
  150. 中村重光

    中村(重)委員 あなた感情的になって答弁しているのかどうかわかりませんけれども言葉はやわらかだから、まあ感情的になっているのじゃないだろうと思うのですが、もう少し親切でないといけないように思いますね。  それから現場では、やはり私と同じような考え方を持っている病院等があるだろうと思うのですね、公立の病院が、ですよ。現実に原爆症にかかっている、これは治療をしないという冷淡な態度はとれないということで、公立病院に収容して医療を供給しているところがあるのです。いまのあなたの考え方からくれば、それが間違いだということになる。そういうことまであなたは否定なさいますか、いかがですか。
  151. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 たとえば子供の白血病をとりました場合に、それが普通のお子さんと同じような意味の白血病なのかあるいは原爆二世、三世であるがための白血病なのかということは、個々のケースについて判断することはむずかしいわけでございます。そこで集団……(中村(重)委員「二世、三世について質問しているのだから」と呼ぶ)はい、二世、三世について従来もABCCとか国立予防衛生研究所で集団的に調査をしてきたわけでございますけれども、被爆二世、三世の集団と一般集団とでは差がないわけでございまして、現在のところは証明されていないわけでございます。
  152. 中村重光

    中村(重)委員 それでは現場の公立病院等で、原爆症にかかっている二世、三世を、これは放置できないということで入院等をして無料でもって医療を供給しているという病院があるのですね。そういうことは間違いだとあなたはおっしゃいますか。
  153. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのあたりになりますと、医学者の見解の相違というようなことになってくるのかもしれません。ただ、行政的にも、四十七年でございましたか、京都府とか北海道の衛生部が被爆二世の健康診断をやっておりますが、そのときの報告によりましても、現在のところ被爆二世に対しては、原子爆弾放射線の影響は認められないという報告をいただいておるわけでございます。
  154. 中村重光

    中村(重)委員 質問に対してはまともにお答えをいただきたい。そうした温かいと申しますか、目をつむるわけにまいらないということで医療供給をやっていることが間違いだというようにあなたはお考えになるのかという問いだから、その問いにはまともにお答えをいただくということにしてもらわなければいけないと思いますね。  それから、本人希望しても手帳交付をする意思はないということになりますか。
  155. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 ございません。
  156. 中村重光

    中村(重)委員 じゃ、将来ともにないということですか。
  157. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 被爆二世、三世の調査研究は今後も続けられるわけでございますので、何か二世、三世と原爆放射線との影響が認められるようになれば、そういった時点においては法の対象になるという時代もくるかと考えておりますが、現在のところはそのようなことは考えられないように思われます。
  158. 中村重光

    中村(重)委員 重大な答弁ですが、この点は二世、三世問題というのは大きな政治課題であり、社会問題であり、また原爆治療という問題にとって非常に関心事でもあるわけですから、大臣からこの点についてはお答えいただきます。
  159. 田中正巳

    田中国務大臣 原爆二世、三世の問題については、社会事象としていろいろ議論をされていることは私も存じております。しかし、私は科学的医学的な問題については素人でございまして、したがいまして、権威ある科学がこれを実証する場合においてはこれを取り入れることについてはやぶさかでございませんが、ただいまのところ、私どもがかような専門家にお聞きするところによりますと、ただいま局長が答弁したところでございますので、したがって結論的には、ただいまのところはただいま局長が申したような取り扱いをしておるわけでありますが、権威ある科学的な結論が出るならば、そうした方々に対し法律に定める措置というものをとるようになることが絶対ないというふうには考えません。要は科学的検討の結果によるものというふうに御理解を賜りたいというふうに思います。
  160. 中村重光

    中村(重)委員 時間の関係がありますから先に進みますが、この被爆手帳ですけれども、いつもこれも問題になるんですが、被爆手帳を持っていると、広島、長崎の場合は登録している病院が多いからいいんですが、ところが他の都道府県に行ったらほとんどこの被爆手帳というのは有効に働かないんですね。被爆者がもっと登録病院をふやすか登録病院制度というものを撤廃をしてもらいたいということをいつも言っている。どこに行っても社会保険手帳と被爆手帳と持っていったらば医療が無料で支給されるということでなければならないのじゃないか、こう言うんですが、その願いが満たされない。今後はどういう態度でお臨みになりますか。
  161. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 現在厚生大臣の指定医療機関は、これは認定患者のための指定医療機関でございますが、約四百あるわけであります。またいわゆる一般疾病の医療給付をいたします知事の指定医療機関、これは三万三千あるわけでございまして、毎年数百ずつは指定医療機関の数がふえておるわけでございます。ただ、ただいま先生指摘のように特に東京、大阪のような大都市で一般指定医療機関の数が不足しておるように思われますので、先般の全国衛生部長会議におきましても、その点特に強く要請をしておいた次第でございます。できるだけ早く指定医療機関の数を、特にそういった大都市においてふやしまして、被爆者に御迷惑がかからないようにしてまいりたいと考えております。
  162. 中村重光

    中村(重)委員 いまのようなお答えもいつも同じような答弁が返ってくるわけですが、なかなか進まない。数字の面ではいまこうしてふえているんだとあなたはおっしゃるんですけれども、被爆者のこの点に対する不平、不満というものは絶えない。ただ医療の供給だけではなくて、健康管理手当等の支給をしてもらいたいという場合も、そうした登録している病院がないと、証明を出してもらえない。医療の供給もそういうことですし、それからいま言う当然受けるべき各種手当がもらえないということです。これは非常に問題なんです。いまのような答弁で、できるだけこれをふやしてもらいたい。これは相手が応じなければできないことなんですね。だから、そうではなくて、国がつくった法律なんだから、その法律全国に有効に働くということでなければならない。ですから、ただ何とかひとつ登録病院になってもらいたいというような要請ということだけでなくて、国の法律が有効に働くためにはどうしたらよろしいのか。この登録制度そのものが、こういう制度がいいのかどうかといったことでそういう不平、不満というものを全くなくす、そういったことでなければ法のもとに平等でないということになってくるんですよ。その点は抜本的に検討して対策を立て直す必要が私はあるだろうと思います。もう一度ひとつお答えをいただきたい。
  163. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 原爆二法関係の事務を担当してもらいますためには、医療機関とも一定の契約を結んでおかなければならないわけでございます。そういう意味で指定医療機関制度があるわけでございますが、はっきりした契約を結んでやりませんとかえって被爆者に御迷惑がかかるという事態が起こるのではなかろうかと思います。したがって、いまの医療機関指定制度をさらに充実していくのが一番いい方法ではないかと私は考えております。
  164. 中村重光

    中村(重)委員 だから私が言っているのは、困っているから言っているんですよ。あなたのおっしゃられるその契約が必要だということは承知しています。しかしそういう制約条件があるために現実には被爆者は困っているんだから、被爆者を困らせないためにはどうするのかということを言っているわけです。だからいまのお答えは、先ほど来私が何回か繰り返し申し上げましたが、答弁のための答弁ということになりますよ。被爆者を困らせないためにはどうしていくのですか。いつも同じような答弁が返ってくるのでは困る。ただ期待だけでは話にならぬじゃありませんか。私が指摘しているようなことは毎年、毎国会において、どの委員会でも必ず言っているわけなんだ。ところが被爆者の不平、不満というものは少しも減っていない。何とかしてもらいたい、これは切実な訴えなんです。だからそれにこたえるという施策でなければいけないと私は思いますよ。こういう指定医療契約が必要なんだから、この制度は崩すわけにはまいらないということだけの答弁では、これは話にならぬじゃありませんか。この契約は必要だから——必要なことは必要なことで結構です。被爆者を困らせないために今後こうするというような積極的な答弁がなされ、そうしたことを現実に実施されていかなければならないと私は考えます、いかがでしょう。
  165. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 具体的に指定医療機関の数をふやす以外に方法はないと考えております。しかし国公立並びに公的法人でございますれば無理もききますが、一般民間医療機関ということになりますと、指定されたくないというものを指定するわけにはまいらないわけでございまして、そこに府県当局の悩み、私どもの悩みがあるわけでございますが、先ほども申し上げましたように、先般の全国衛生部長会議でも特に強力にお願いいたしておきましたので、できるだけ早く指定医療機関の数をふやしてまいりたいと考えております。
  166. 中村重光

    中村(重)委員 指定医療機関をもっとふやすための積極的な施策がどうなされたかということについては、改めてまた適当な機会に具体的に実施されたことをひとつ伺ってみたいというように思います。  なお、この被爆者の専門病院なんですけれども、いま原爆病院は広島、長崎とも日赤の経営である。独算制であるためにどうしても一般の患者を治療しあるいは入院をさせるということになり、肝心の被爆者が締め出されるというのが現実なんです。それは好ましくないことだからそういうことをしないように指導するということに当然お答えが出てくるのだろうと思うのだけれども、これも、私はいつも言っているのだけれども、なかなか改まらないですね。だから、もう日赤経営でなくてこれを国立にする。そして一般の施療をすることと研究と一緒にやらせることにしたらどうか。そしてそれに今度改組したABCCを吸収していくということになると、これはすべてがおさまることになるのだけれども、そういうことは考えられませんか。
  167. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのような構想は私も聞いたことがございます。ただ国立の機関といたしましては、広島大学、長崎大学に大学付属病院もあれば、付属の研究所、研究施設もあるわけでございまして、国立機関としてはそういうところが使命を果たしているのではないかと思います。そういう関係もあり、現在の原爆病院、これは日赤経営でございますけれども、いまのままの経営主体でどういうふうに国や県や市が応援をすれば、日赤のいい点を生かしていい原爆病院の運営ができるかということを皆さんと協議をしておるところでございまして、当面は、いま申し上げましたように、現在のままで経営なり内容なりの改善を図っていくというのが私どもの方針でございます。
  168. 中村重光

    中村(重)委員 そういう方針であるとすれば、いま直ちにそれを改める、直ちに国立にするというお答えはなかなかできないであろう、きわめて重要な問題ですからね。ですけれども、いまの日赤経営の中で問題点が多々あるわけですから、やはりこれはその問題点を積極的に取り組んで解消する、それをおやりになる必要があるということですね。  それから、私が提起いたしましたことも当然お考えになってしかるべきだろうと私は思います。いまのABCCの問題も、今度改組なさいましたね。これを吸収できますからね。そして一般の疾病、被爆者の施療とそれから研究と並行していくということはより好ましいことであるでしょうし、そうしてくることにおいてABCCを吸収することだってできるわけですから、三方おさまるという形になってくる。それはひとつ十分検討してもらいたいというように思います。その点大臣、考えられませんか。
  169. 田中正巳

    田中国務大臣 原爆被爆者の原爆疾病、これに事を欠くようなことであってはいけない、かように私は思います。それで、現在までやっている諸医療機関、研究機関のあり方、現在のままでこれを助成していくことがよろしいのか、あるいはその助成の仕方が十分であるか不十分であるか、あるいは手法として適当であるかどうか、これは今後とも検討は続けていくつもりでございます。問題は、ただいまのところ、いまの体制というものが十分でないというお声がございますので、そうしたことに対応する施策というものは、これを全部改編してしまうということがいいのか悪いのか、ここでにわかにお答えするだけの用意を私は持っておりませんが、要は、原爆疾病に対する治療と研究ができるだけ十全にできるようにいたすような方向でさらに検討を続けたいというふうに思っております。
  170. 中村重光

    中村(重)委員 それから被爆地域とか健康診断地域を拡大をすることについてどうお考えになるのか。局長は、浅く広くすることよりも、余り広げないで深く行くということの方が好ましいというのが考え方のようであるわけです。それも理解できないではありません。しかし、現に健康診断地域に指定したところがありますね。それとのバランスというものがやはりあるわけです。長崎の場合は、長崎を中心にいたしますと長崎市の周辺、それはもう非常に熱線、爆風というもの、あるいは離島になりますと、海をばあっと走るという形になって相当強い影響を受けているという事実があるわけですね。これはやはり無視できないであろう。それから二、三年前でしたが、健康診断地域に指定をしたところがありますが、それよりももっと近い距離のところ、それから影響をもっと強く受けているであろうと考えられるところ、それが実は対象になっていないということはやはり問題があるだろう、こう思うのですよ。局長持論の、浅く広くということよりも狭く深くということだけで片づけられない問題点ではなかろうかというような感じがいたします。その点をどうお思いになりますか。
  171. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 確かに昨年指定いたしました健康診断地域も爆風の影響は受けておるのでございますけれども、先ほど来お答えしておりますように放射線の影響はほとんどないわけでございます。自然放射能に近い状態であるわけでございまして、そういったところに問題がございます。したがって、現在、長崎、広島で出てきております地域拡大申請地域についてもそのような問題がございまして、現在のところ、地域をさらに拡大する考えは全くございません。しかし、ただいま御指摘がございましたようにアンバランスの問題が起こっておるわけでございまして、その点をどうしていくかという非常にむずかしい問題が今後残されておることは事実でございます。
  172. 中村重光

    中村(重)委員 いまあなたもお答えになりましたように、長崎の例だけを申し上げると、東長崎というのが四・五、福田というのが三・六、それから式見が四、三重が五・八、それから前回指定をいたしました時津町、これが九キロ、こういうことになっておりまして、健康診断地域に現に指定しているところの方が距離としてははるかに遠い。それから状況からいたしましても、むしろいま残されているところの方が熱線、爆風あるいは放射線というものを多量に浴びておるだろう、影響を非常に強く受けておるであろうと考えられるところです。これが放置されているということはやはり問題だということになるのですね。だから、拡大する意思はありませんということだけで片づけられない。いまあなたはアンバランスの点をどうするかというようなお答えもつけ加えられたのだけれども、これはこのままではおさまらないです。これはやはり地域拡大をする以外にはないだろうというように私は思います。この点は大臣、あなたは前から取っ組んできておる問題ですから、これだけはおわかりだからお答えができると思うのです。
  173. 田中正巳

    田中国務大臣 私はいま厚生大臣をしておりますけれども、しかも私は北海道出身でございますが、実は原爆二法は妙な御縁でずうっとやってきたわけでございます。そういう妙な御縁で原爆二法を制定当時からずうっとやってきた私でございますので、いまの中村先生のお話はよくわかるわけでございます。  それで、一体どうしてこういうことが起こるのかということについて私もいろいろ考えてみました。原爆被爆というもののショックが非常に激しいものですから、そこにサイコロジカルな一面を持っていることも私は否定できないと思うのであります。しかしまた、片や科学的判断、この科学的判断も人間の下す科学的判断でございますし、研究の成果等によって、これが固定的なものでなしに流動的なものであるということも認めていかなきゃならぬと思いますが、いずれにしても科学的判断とその当事者の考え方の乖離という問題については、ほとほとこの措置を扱う者にとっては非常に悩みの種でございまして、一体どうするのか。まあ政治家の立場から見ますると、科学的判断はあっても、そういったような当事者の心情というものをできるだけ入れていったらいいだろう、こういうふうに考えていままで努力をしてまいりましたものの、やはり基底には、科学的根拠というものを離れることができない、ここにこの問題があるんだろう、私は素人ながらさように思っているわけであります。  したがいまして、私どもとしてはあくまでも科学的判断を基底にいたしまして、当事者の考え方というものを多少は組み込んで実際の措置をとるというのが政治的だろうと思いますが、余り政治に走ってもこれは問題でございますので、その辺はお互いにひとつ冷静に考えていかなければいかぬというふうに思っております。でありまするから、科学的判断についてもなお流動的なものがあり、また政治的な判断についても限度があるということを考えて、そこのところはお互いに良識を持ってやっていかなければならぬというふうに思っているわけでありますので、やはりこの間の問題の取り扱いについては、当事者の間でお互いにひとつ冷静に話し合いをしていかなければなるまいというふうに思っております。
  174. 中村重光

    中村(重)委員 いまの大臣の答弁は私は肯定をいたします。素人だということをおっしゃいましたが、決して素人ではない。政治家であると同時に、厚生大臣としての見識を持ってお答えになったというように思うのですが、私も局長が非常に苦慮されているとうことはわかるのです。わかるのですけれども、いまあなたの方で、そうした地域は熱線とか爆風の影響だけで放射能の影響はないのだというふうに断定をされることはやはり適当でないと思います。放射能の影響というものもあるわけですから、県にいたしましても当該町村にいたしましてもいろいろな調査をしてデータもつくっているわけですね。だから十分その点に目を向けて、そしてこのバランスの問題も無視できないことですから、これはあなたがお認めになったところですから、大臣がお答えになったような線で問題を解決する、地域の拡大という方向で取り組むということをされる必要があるであろうということを申し上げておきたいと思います。  それから、今度は援護局長にお答えをいただきたいのですが、医療従事者が戦傷病者戦没者遺族等援護法の対象になっていない。医師、歯科医師、看護婦、助産婦なんかそうですね。ですから、これは当然その対象にすべきであるというように思うのですが、いままでこれを対象にしていないのはどういうことなのか。これは公衆衛生局長関係があるのでございましょうから、それぞれひとつお答えをいただきたいと思います。
  175. 八木哲夫

    ○八木政府委員 医療従事者の問題につきましては、援護法の対象にすべきではないかというたびたびの御意見でございましたけれども、昨年の改正によりまして、防空法に基づきます医療従事者ということで、多年の懸案を解決した次第でございます。
  176. 中村重光

    中村(重)委員 それは承知をいたしております。長崎医大の学生であるとかあるいは看護学校の生徒、それから警防団、これは対象にしたのです。ところが申し上げたように、防空法に医療従事者というのは医師、歯科医師、看護婦、保健婦とはっきりあるのですね。これは対象になっていないのです。そのままに放置されている。ですから当然これを対象にすべきだと思う。
  177. 八木哲夫

    ○八木政府委員 私の説明が十分でなかったかもしれませんけれども、昨年の改正によりまして、防空法によります従事命令が出ております医師、看護婦等、医療関係の従事者につきましては、防空法に根拠がございます者につきましては対象になった次第でございます。
  178. 中村重光

    中村(重)委員 防空法に医師、歯科医師、看護婦、保健婦というのが書いてあるのです。それが対象になっていないことは事実なんだから。だから、この前長崎医大の学生であるとか看護学校の生徒だとか警防団員を対象にするときに、これはもう三年、五年越しで十分政府も考えられてこれを対象にしたわけです。しかし、それを大蔵省との折衝段階で、大詰めのところで従事令書が出ていることというのがついたわけですよ。予算折衝の段階で、次官折衝の段階のときですね。それは私も取っ組んでおりましたからよく承知しているわけです。私は従事令書が出ていなかったとは言いません。しかし警防団なんかの場合はもっと早く大蔵省との話し合いがつきましたからね。その点はもう従事令書の問題じゃなくて、現実に防空業務に従事しておった、警防団員は。だから、これは当然その対象になったというのはあたりまえの話なんです。学生の問題だけが残っておった。結局最終段階で従事令書が出ておったということに——従事令書が出ている者に限るというそういう形になって、これは出ておったから、出ておったということで対象になっておるわけですね。ところが警防団の場合と同じように医師、歯科医師、それから看護婦、保健婦といったような者は防空法に明らかに医療従事者ということになっている。学生すら駆り出さなければならないという当時の事情からして、はっきり防空法に医療従事者ということになっている者がその業務に従事しておった、救護作業に従事しておったということは事実なんだから、これを対象にしないでそのまま放置しておくということは適当でないということです。これは警防団と同じ扱いにしなければならぬ。警防団は防空業務で、医師、歯科医師、看護婦、保健婦等は当然救護業務に従事しておった。それで足りないから学生まで、あるいは看護学校の生徒まで駆り出して従事さしたのですから、これは当然調査をして対象にしなければならないですよ。だから従事令書という形式論でこれを対象にしないということは当たらないですね。
  179. 八木哲夫

    ○八木政府委員 防空法の六条一項、二項の規定によります防空関係の従事命令、これは先生指摘のとおり、医療従事者、それから特別の教育訓練を受けました警防団員あるいは学校報国隊等に対して適用対象になっておるわけでございますので、昨年の改正に伴いまして、防空法六条一項、二項によります防空に従事しております医師、看護婦等は対象になっているわけでございますが、防空法に基づきませんで、一般の本来の医療関係業務に従事しておった方、これは防空法に基づくものではないわけでございますので、たまたま原爆によります被害を受けられたという方々でも対象にはならないわけでございますが、昨年の改正の際には、警防団と並びまして医療従事者もはっきり一つ改正の目的にしておったわけでございますので、防空法に何らかの根拠がございます、命令を受けているという根拠がございます場合には、やはり国の特別の権力関係が及んでおったというような考え方で対象になっているわけでございますので、国の強制力なり命令というのが及んでおらない医師等の一般の方々までは援護法の対象にはむずかしいということでございます。
  180. 中村重光

    中村(重)委員 いまのお答えはわからないではありません。一般の俗に言う開業医というような場合は……。学生が長崎でしたから長崎だけの例で申し上げると、長崎医大の医師それから看護婦さん、全部これは救護作業に従事したわけですね。ところがそれで足りなかったわけですよ。だから学生までこれに従事させるということになったわけです。その事実を認めて学生を対象にされたわけです。しかし肝心の防空法にある、それに基づいて行動しておった医師、歯科医師や看護婦が対象にされていない、積み残されている。だからこれは大変な不平、不満というのがあるのですよ。どうしてこういう現実に救護作業に従事しておった者を差別するのか、学生が入ってどうして自分らが対象にならないのかというのが、そうした関係の方々の声なんです。もっともだと私は思うのですよ。私はこのことをおかしいと思いまして問い合わせをしたことがあるのですが、従事令書が出ている者を対象にしたのだということでございました。警防団の場合はそうした従事令書ということよりも防空業務に従事するということが当然たてまえで、その業務に従事しておった警防団員は対象になったわけです。防空法にある医師、歯科医師、看護婦というそうした公立病院の人たち一つの組織化されて業務に従事したわけですね。私は一般開業医までは申し上げません、わかりませんから。しかし長崎医大の場合には明らかに従事しておった。だからこれは対象にしなければならないというように思います。早速調査をされてこれを対象にするのでなければいけないと思うのですけれども、いかがでしょうか。
  181. 八木哲夫

    ○八木政府委員 先生指摘の長崎医大のお医者さんなり看護婦さんなりのケースについて考えました場合に、私ども調査におきましては、確かに学生にっきましでは学校報国隊としましての命令を受けておるわけでございますが、長崎医大の医師なり看護婦さんなりにつきましては、防空法に基づきます防空従事命令という形にはならないわけでございますので、昨年の改正対象にならないわけでございます。もし防空法によりますそういうような業務が課せられておるということでございますれば、対象になるわけでございますが、その点先生の御指摘もございますのでさらに調査いたしたいと思いますけれども、私どもの現在までの調査では、長崎医大のお医者さん、看護婦さん等につきましては、そういうような形にはなっておらないような次第でございます。
  182. 中村重光

    中村(重)委員 どうも学生なんかの場合、直接折衝した関係もありまして、委員会において余り申し上げることは私はどうかと思いますから、その対象となりました学生あるいは看護学校の生徒についてはこれ以上言及はいたしません。いたしませんが、大学のお医者さんであるとか看護婦さん方が従事してなかったと断定されることは、私は適当でないと思います。まず医者の方が先に、あるいは看護婦が先に従事した。しかし、足りなかったから、看護学校の生徒とか学生とかを業務に従事させたわけです。だから、当初防空法を制定するときは、学生とか生徒を防空法に言う医療業務に従事させなければならないとは考えていなかった。日本が戦争で負けるなんていうことは当初から考えないでつくった法律ですからね。ところが、現実にはそういう形で追い込まれてきたから、医者や看護婦で不足したから、学生とか生徒を従事させなければならないということになってきたわけです。その学生とか生徒は、これは当然なことですが、援護法の対象にしたんです。しかし、医者とか看護婦というものを対象にしないでそのまま放置しているんですよ。それをいま局長は、従事していなかったというように断定されることは、それは適当じゃありませんよ。常識的に考えてみてもそうじゃありませんか。まず医者とか看護婦が先にやるでしょう、従事するでしょう、それで足りなかったときに未熟な学生とか看護学校の生徒にやらせなければ、手伝わせなければならなくなるわけですよ。
  183. 八木哲夫

    ○八木政府委員 確かに医師、看護婦等につきまして、防空法上によります緊急時におきます医療活動等におきまして、防空法上の医師、一般的には医師、看護婦等につきまして当然相当の国の命令という形での協力ということを予想しまして、防空法上に医療技術者とはっきり書いてあるわけでございますので、一般的には医師、看護婦等につきましては対象になるわけでございますが、現実問題といたしまして、長崎医大の場合にはそういう形におきます防空法上の特別の命令というのがなされておらなかった。それから、長崎医大の学生さんが対象になっておりますのは、医療従事者という形よりか、むしろ学校報国隊というような形で、一般的におきます防空活動の命令、学校報国隊としての命令という形が出ておったということで、医療従事者という立場ではないわけでございます。  なお、私ども調査におきましては、長崎医大におきましてそういうような防空法上の強制的な命令が出ておらないわけでございますが、ただいま先生のお話もございましたので、長崎医大におきますお医者さんなり看護婦さんの実態をさらに調査いたしたいと思います。
  184. 中村重光

    中村(重)委員 時間もありませんから、次に一点お尋ねして終わりますけれども、私が全くこの問題について取り組んでいなければいまのあなたの答弁で納得するのかもしれませんけれども、もう十年来この問題に取り組んできているすべてを知り尽くしている私ですよ。実態もよく知っているのです。知っていますから、あなたが従事していないのだというふうに断定をされても、これは私は納得できないのです。従事していることを知っている。自分の地域のことでもありますから、長崎医大の医師や看護婦がどうしておったかということも私は知っているのです。学生がどうしておったかということも、いろんな資料その他によって知っているわけです。ですから、一番最後に調査をするということをおっしゃったから、調査をされるだろうということを期待をして、きょうはこれで終わりますけれども、もう一点お尋ねをしたいことは戦後妻の問題です。  これは子供が動員学徒として動員あるいは徴用ということになった、そしてそれが亡くなった、そのショックをやはり父親は相当受けている、あるいは病気中の者もあった、そういうものを見かねて結婚している人だってあるわけですね。ところが、亡くなった犠牲になった動員学徒あるいは徴用工の人たちとは因果関係がないわけですね。因果関係がないからということだけでこの手当を、遺族年金を打ち切るということは少し無慈悲じゃないか。細々とした生活で、老後の蓄えなんというものもないわけです。その夫が死んだからということだけでこれが打ち切られると、直ちに生活保護によって生活をしていかなければならないということになるわけです。生活保護というものもやはり国の費用であるわけですね。年金を支給するのも国の費用であるということです。だから、それならばそうした後添いの人たちが置かれている状況、そういう点をもう少し温かく見てやる必要があるのではないかというように私は思います。年金を続いて支給をするというようなことが適当でないとするならば、額は当然これは半減されるでありましょうが、それすらも適当でないとするならば、一時金であるとかいろいろな温かい目を向け、対策を講じていくということでなければならないというように思いますが、その点はいかがでしょうか。
  185. 八木哲夫

    ○八木政府委員 現在の戦傷病者戦没者遺族等援護法の考え方といたしましては、先生指摘の準軍属の場合を含めまして、軍人軍属すべて共通でございますが、亡くなられました方、戦没者の方々に対しまして、国のために亡くなられたということでございますので、その御遺族の方々に対しまして国家補償という観点から遺族年金が支給されているわけでございます。したがいまして、戦没者が亡くなられました時点におきます御遺族ということに着目いたしまして年金が支給されておるわけでございます。したがいまして、戦没者のお父さんには年金が支給されておるわけでございますけれども、戦後戦没者のお父さんが新たに再婚されたという新たな妻の場合には、これは戦没者とは直接関係がないわけでございますので、現在の援護法の国家補償という考え方から申しましても、戦没者と直接その時点におきまして関係ないという方々まで援護法の対象にするというのは、非常にむずかしい問題ではないかというふうに思われるわけでございます。確かに老後のいろいろな問題等もあろうかと思われますけれども、そういう面につきましては、一般の年金なりその他の社会保障政策の問題として取り組んでいかなければならない問題ではないかというふうに考えておる次第でございます。
  186. 中村重光

    中村(重)委員 ともかく、子供を奪われた後、後添いに行った人は二人で心を合わせて再起をしたわけですね。そして生活を支えてきた。申し上げたように生活の蓄えもないわけだ。そのことを考えてみると、因果関係がないということだけで打ち切るということは、やはりこれは無慈悲だというように考える。だから、どこかで線を引くということはこれは当然ではあるわけですけれども、やはりそこらの実態がどうであったのかということを十分念頭に置きながら対策を講じていくというところに、温かい政治があり行政があるのだというように私は考えるのです。だから、その点は因果関係がないのだからだめなんだということだけで片をつけるのではなくて、十分調査をし、検討をして結論を出していくということでなければならないのではないか。現実にその問題が出てきている、陳情等が出されていることは事実であるわけですから、それに対しては政府のはっきりした回答をお示しになる必要があるであろう、だからして申し上げるわけですが、もう一度ひとつお答をいただきましょう。
  187. 八木哲夫

    ○八木政府委員 この問題につきましては、先生のせっかくのお話ではございますけれども、やはり援護法の体系というのは、一つの体系でございますので、戦没者の遺族に対する補償ということでございますので、戦没者がなくなられました時点において、御遺族でもなかったという方々まで延ばすというのは、援護法の体系の中では非常にむずかしい問題だと思うわけでございます。  確かに戦没者をなくされました父親に対しまして、その後御苦労されたということはわかるわけでございますけれども、その辺は今後老後の問題でございますので、一般的なやはり社会保障の問題として、もちろん考えていかなければいけない問題ではないかというふうに思うわけでございます。
  188. 中村重光

    中村(重)委員 これで終わります。  大臣、私どもはいま参議院の方に援護法の提案をしていることは御承知になっていらっしゃる、その中身についても、大臣は十分検討しておられるだろうと思うのです。  大臣は先ほどお答えのように、近距離被爆者保健手当というものが制度改善という形においてこれを新設をしたということでございますが、それはそのとおりに私は理解をするといたしましても、なお不十分であるというようなことを考えます。今後被爆者の援護強化を図っていくために、大臣としてどのように取り組んでいこうとお考えになるのか、それを伺って終わります。
  189. 田中正巳

    田中国務大臣 冒頭申し上げましたとおり、原爆被爆者に対しては、特別な事情がございますが、他の一般戦争犠牲者と違って、今日このような措置をとっているわけでございまして、その理由は、さっき申したように、放射能を多量に浴び、今日までなお健康ないしは肉体上の障害というものを顕在ないしは潜在的に持っているということに着目をしてやっていることでございますので、こうした二法の範疇の中でもって、私どもとしては施策の向上に努めていきたいというふうに思っております。  参議院に、野党の方々から提出なさった法案があることも私知っておりますので、これは参議院段階で、ひとつまたいろいろ彼此勘案して審議を進めていきたいというふうに思っております。
  190. 大野明

    大野委員長 次に森井忠良君。
  191. 森井忠良

    ○森井委員 いまわが党の中村委員の最後の質問、つまり野党が出しております被爆者援護法案について厚生大臣から御答弁がありました。一口で言いますと、現行の二法の枠内でやっていくということでありまして、きわめて野党四党案に対して否定的であると思うわけです。     〔委員長退席、葉梨委員長代理着席〕 私は去年の齋藤厚生大臣、もちろんきちっと事務引き継ぎをしていらっしゃいますから、田中厚生大臣と方針は変わらないと思うわけでありますが、参考までに申し上げますと、齋藤厚生大臣の答弁とかなり違っておるわけです。野党四党案に対する評価等が違っておりますので、この際厚生大臣の姿勢を占います意味でも、明確にしていただきたいと思うのです。  齋藤厚生大臣はいまから二年前、四十八年の三月二十九日の衆議院の本委員会で、こういうふうに話しておられるわけであります。齋藤厚生大臣でありますが、「人類の歴史において原爆が投下され、その洗礼を受けましたのは唯一、日本民族だけであります。」こういうふうに話をしておられまして、平和憲法を持つ日本として、まだこういった原爆の問題が処理されておらないことについてはきわめて遺憾であるということも話をされた後で、「私はいまここでいつのときこの法律をつくりまして提案したいというお約束はできませんが、何とか援護法というふうなものができないであろうかということを前向きに検討さしていただきたい。それにはもうちょっと時間をかしていただきたいということを私は率直に申し上げまして、お答えといたしたいと思います。」こうなっておるわけです。これが二年前の社会労働委員会での齋藤厚生大臣の発言であります。  それから去年は、同じく齋藤厚生大臣が昭和四十九年四月二十五日の衆議院の社会労働委員会におきまして、「いま直ちに皆さん方の野党四党の法律案に賛成かと言われれば、いまの段階では私は賛成いたしかねます。しかし、そのお気持ちは私も十分理解しておりますから、従来のような医療救済というワクだけではいきますまい、そういうことから一歩踏み出して、援護の充実をはかっていく、こういう方向に今後とも私は進んでいくべきである、こういうふうに考えておるものでございます。」これが齋藤厚生大臣の答弁でありますが、さらにこれも同じく私の質問に対する答弁でありますが、「野党四党の御提案については、それなりの評価をせらるべきであるということを私は初めに申し上げておるわけでございますから、私どもが将来のいろいろな施策をいたすときに、表現のしかたなどはいろいろあるにしましても、皆さん方の御意見は十分承り、貴重な御意見として、参考といいますか、もっと強く、努力の目標として進んでいくべきものがたくさんあると思います。」こういうふうに参考ではなくて、努力の目標だということを話しておられるわけでございます。  私も今国会におきまして厚生大臣の姿勢等について敏感にずっと感じておるわけでありますが、いまの私が読み上げました速記録の前厚生大臣の齋藤先生とそれから田中現厚生大臣との姿勢に少し食い違いがあるように思うのですが、この点いかがですか。
  192. 田中正巳

    田中国務大臣 齋藤さんが原爆被爆者対策についてどういう考えを持っておったか、非常にお気の毒に思って何とかこの援護の措置を強めて向上させなければならぬと思っておったことは私は事実だろうと思います。また心情的に私も齋藤さんの御意見とは同じでございまして、したがいまして、できる限りその方向に取り進んでいきたいというふうに思っておりますが、問題は援護法的な物の考え方をこの際国の施策の中に取り入れるかどうかという点については、齋藤さんもこれを確実にこれについて取り入れるというふうにおっしゃっているわけではなさそうでございます。いろいろと検討はしてみるというお話でございますが、私といたしましては、やはり今日までの積み上げてきた施策を振り返ってみて、やはり他の諸般の施策との関連において現行二法の範疇の中でものを処理する方がよいというふうに考えておるわけでございまして、その点について援護法の方向に踏み出すということについては、私としてはただいまのところ決意ができないというのが事実であります。ただ、被爆者の方々に対しできるだけ温かい手を差し伸べたいという気持ちについては、私は彼と同じだというふうに思っております。
  193. 森井忠良

    ○森井委員 私は援護法の基礎になる国家補償の問題についてもうすでにたび重なる委員会で議論をし尽くされている感じがありますので、たとえば国際法違反の問題等につきましても、いまここで議論を蒸し返すつもりはありませんが、ただ、言えますことは、厚生大臣に御認識をいただきたいと思いますのは、私ども野党も、それぞれ政党でありますから、いま参議院に、二院クラブも含めまして、五つの会派で、主義主張の違いはある意味で乗り越えまして、何とかして人道的な立場から被爆者援護法をつくろうではないかという真摯な気持ちで提出をしております。昨年は衆議院にし、ことしはまた参議院にしているわけなんです。したがって、齋藤元厚生大臣が言われた努力目標とするということについて、私は、そういう意味で、それなりにやはり評価をしなければならないと思うのです。  事実、援護法案ということになりますと、いま野党案しかないわけですけれども、この点について、いま一〇〇%これに同調しろということは、事実上政府は二法の改正案を出していらっしゃいますから、これは議論がかみ合わないと思いますけれども、やはりそれなりに中身について取り入れていただくべきものもずいぶんあるんじゃないか。したがって、そういった点を含めて、率直なお感じをまずお聞かせ願いたい、私はこういうふうに思うのです。
  194. 田中正巳

    田中国務大臣 援護法の一つ一つの条項についての検討を今後いたすことについては、私はやぶさかではございません。しかし、基底にある援護法を求めるところの背景あるいはスタンドポイント等については、私は、先ほど来るる申し上げているとおり、これが他の一般的な施策との関連においていかがであろうかというふうに思っているわけであります。  したがいまして、さっきから申し上げるとおり、この二法の範疇の中で最大の努力をいたそうということでいろいろ考えて、この象徴的に見られるのが保健手当でございまして、現在医学的に別にどういうこともないのですが、しかし、とにかく健康について御心配もあろう、またいろいろと配慮もしなければなるまいというような者についてこうした手当を支給をいたすといったようなことについて、ずいぶんと知恵をしぼった結果こういうことになったろうというふうに理解を願いたいというふうに思うわけでございます。
  195. 森井忠良

    ○森井委員 先ほど自民党の委員の方の御指摘にちょっとあったので、私気になるわけでありますが、被爆者援護法なんというものは必ずしもすべての被爆者が望んでおるものではないという意味の御発言があったかに思うわけでありますが、やはりこれは少し論理に無理がある。被爆者はいま、たとえば精神的なものでも何とかしてくれればそれでも満足だという意味の発言もあったように私は承りましたけれども、やはり被爆者がいま望んでいるのは、真の援護法だと思うのです。  事実これは無理もない点があるわけなんですね。私どものところへも、広島あるいは長崎の県、市の県議会、市議会、これは満場一致で、したがって自由民主党の皆さんも含んで、ぜひひとつ国家補償の精神に基づく援護法をつくってくれという陳情書をいただいておるわけですね。それから、自民党の国会議員の皆さんの中にもやはり、大方百名近く、援護法をつくってもいいじゃないかということを、本音とたてまえは別にいたしまして、ともかく被爆者の皆さんにそういう意思表示をしていらっしゃる方もあるわけです。  したがって、被爆者援護法をつくってもらいたいという要望か必ずしも一方的に——何か平和運動家が被爆者を機関車のように引っ張って、それで運動に引き込んでいるというふうな印象が私は受け取れたものですから……。そうではない。いま申し上げましたように、これはもう広島とか長崎とか、現実にこの被爆県の市議会に至るまで、国家補償に基づく援護法をつくってくれという強い要望がある。したがって、きょうこの議論は余りなじまないと思いますので、長くいたしませんけれども、十分頭に入れてひとつこれからの被爆者行政を進めていただきたい、このことをまず強く御要望しておきたいと思うのです。  そこで具体的に、先ほど大臣の御答弁にありました、今後の二法の改正の目玉は保健手当の新設である、こういうことなんですね。これは具体的なはっきりとした目的を、もう一度ちょっと局長から承りましょうか。
  196. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 従来被爆者のうち認定患者に対しましては特別手当を支給しておりましたし、また十の障害を持っていらっしゃる方々につきましては、健康管理手当を支給してまいりましたけれども、現在病気の状態にはないけれども近距離で非常に大量の放射線を浴びたという方々につきましては、今後病気が起こってくるおそれがあるわけでございます。したがってそういった方々の健康の保持と増進を図りますために、月額六千円の保健手当を本年十月から支給することとしたものでございます。
  197. 森井忠良

    ○森井委員 いままでは具体的な疾病にかかった場合に手当の対象になってきたわけですね。その意味では、いまのところ健康だという皆さんに支給ができるわけでありますから、したがっていままでの考え方とかなり変わってきておると思うのです。病気でない人に支給をするということですね。  これは先ほど厚生大臣がちょっとおっしゃいましたけれども、言うなれば、私ども流に解釈をすれば、野党が出しております援護法案にその意味で少し近づいてきておる、こういうふうに考えられなくもないわけですが、そうなんですか。
  198. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 その点では少しずつ近づいておるものと思います。
  199. 森井忠良

    ○森井委員 先ほど来聞きますと、この二キロという根拠につきましては、被曝線量二十五レムということですね。
  200. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そうでございます。
  201. 森井忠良

    ○森井委員 自民党の増岡委員の、これは国際的に権威のあるものであるかという質問に対して、そうだという答弁でしたから、厚生省も権威あるものとしてて考えていらっしゃると思うのでありますが、私は率直に申し上げますと、余り権威はないんじゃないか、こういうふうに思うわけです。  たとえばこの二十五レムというのは、一九五〇年代にはこれは百レムだったわけですね。そして一九六〇年代になりますと、今度はこれが半分の五十レムに減っている。一九六五年ごろになりますと、今度は二十五レムに減っておる。したがってまだまだどんどん減ってくる可能性があると思うのです。ICRPはずいぶんいろいろな勧告を出しておりますけれども、非常に流動的だという点については、厚生省の認識はどうですか。
  202. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 結論から申し上げますと、放射線保健学についてはまだ歴史の新しい学問でもございますし、また特に人体とか生物に対する影響という点では、非常に技術的にも解明あるいは測定等の困難な点もございますので、今後関連諸科学の進歩によって意見が変わってくることは十分予想されます。
  203. 森井忠良

    ○森井委員 そうしますと、もし厚生省の言うとおりだとすれば、二十五レムというのは、現在のところICRPの許容基準に合致をしておりますからいいとしても、もしこれの数値が下がった場合には、保健手当の支給対象の人は広がるのですか、いまそれで二キロという線を引いておられるようですけれども
  204. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 国際的にも採択されるようなはっきりした根拠が出てまいれば、広げざるを得ないと考えております。
  205. 森井忠良

    ○森井委員 その点は明確にしておきたいと思います。  そこで、二十五レムということなんですが、これは、一般人だれに対してでも当てはまる基準ですか。
  206. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 現在、主として職業被曝の場合に使用されておる基準でございますけれども、先ほど来御説明しておりますように、従来の医学的な経験でも、一回の被曝二十五レム以上のときにいろいろな障害があらわれてきておるわけでございまして、そういう面では一般人にも通用する考え方であり、基準であると考えております。
  207. 森井忠良

    ○森井委員 いま御答弁があったように、私の理解も、ICRPのこの基準というのは、職業人の緊急被曝時の危険地帯の立ち入り基準なんですね。緊急時の立ち入り基準、しかも、一般人じゃなくて職業人なんですね。被爆当時この二十五レムの放射線を浴びた人は職業人じゃないわけでしょう。少しおかしいのじゃないですか。
  208. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 確かに原爆の被爆をなさった方々は一般国民でございます。しかし、職業的な防護基準の場合にも、やはり慎重な配慮をし、安全率を見込んで決めてあるわけでございまして、緊急時の基準といたしましてもう一つ有名なのは、原子炉等で事故を起こして、中に職員がいる、その職員を救出しなければならない、人命救助の際の最大許容限度は百レムになっておるわけでございます。そのように、やはり職業被曝の場合もかなりの安全率を見込んでつくってあるものでございますので、一般的に申し上げれば、やはり二十五レム以上被曝した場合に初めて具体的な障害が問題になってくると考えていいものと判断しております。
  209. 森井忠良

    ○森井委員 私も参考までに、厚生省のお考え方を聞くためにこのICRP関係の資料をいただいておるわけで、あなた方の手元にあるわけでありますが、二十五レムが緊急時立ち入りの許容基準だったということを申し上げましたけれども、あなた方のこの資料にもこういうふうに書いてあるじゃないですか。「「二十五レムより高い線量の被曝は潜在的に重大な結果をはらむものとみなされなければならないので、適切な治療処置およびその後の職業上の被曝についての勧告を求めるために専門医にゆだねられねばならない。」としており、一生の内でただ一度の被曝の最大許容線量を二十五レムにしている。」こうなっているわけですね。一生のうちでただ一度の被曝なんです。しかし被曝者は、御案内のとおり、日本の現在の医療機関でエックス線その他、あるいはそのエックス線治療等でどうしたってこの放射線にお世話にならなければならなかった時期がずいぶんあるわけですから、二十五レムそのものを私は非常に問題にしたいと思うのですが、そういう場合はどうなるのですか。
  210. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 確かに日本国民の場合には、医療機関における医療用の放射線被曝が外国に比べて多いわけでございますが、これも平均的に観察をし、判断をするわけでありまして、平均で見た場合には、国民一人当たり〇・三レムぐらいの医療被曝を受けておるのではないかと思われます。そのようなこともいろいろ勘案の上で国際放射線防護委員会においてもこのような勧告、また、最大許容基準の設定等がなされておりますので、厳密に申しますと、また、個々のケースを見ますといろいろ問題はございますけれども、大局的に見ますれば、このような基準で制度を運用してよろしいのではないかと考えております。
  211. 森井忠良

    ○森井委員 職業人じゃなくて一般人を対象にした場合にも第一無理があるということはいま指摘しましたけれども、それでは、赤ちゃんも壮年も、それから老人も同じように適用しろと言うのですか。
  212. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 この考え方は、通常の成人の場合の基準でございます。
  213. 森井忠良

    ○森井委員 そうすると、ずいぶん問題があるじゃないですか。たとえば、二十五レムというのは成人で、しかも職業人でしょう。赤ちゃんの感受性が——これは説にもよりますけれども、成人の人よりも百倍も百五十倍も感受性が高いのじゃないかというぐらい言われているわけですね。何もかも一緒くたで二十五レムという基準には非常に無理があると私は思う。広島の場合は、御存じのとおり、赤ちゃんからお年寄りまで皆被爆をしたわけですから。こんな答弁じゃ納得できないです。
  214. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 その点につきましては、国際的にも高く評価されております広島、長崎の被爆者における白血病の発生状況の調査研究があるわけでございます。もちろん、放射線の被曝による白血病の発生といったものも、ただいま御指摘がございましたように、若い人ほど影響が強いわけでありますけれども、そういうものを含めまして観察いたしますと、やはり広島の場合で三十レム以上、長崎の場合では人口も少のうございますから、百レム以上にしか白血病増加の傾向が認められないわけでございます。こういったことも基礎にいたしまして、やはり二十五レム以上という基準で現在のところはよろしいのではなかろうかと考えております。
  215. 森井忠良

    ○森井委員 それは本気で答弁をしていらっしゃるのですか。あなたがABCCの資料をお出しになりましたから、私の方も出すわけですけれども、これは昭和四十六年のデータですけれども、「ラディエーションリサーチ」というアメリカの雑誌ですけれども、ここへABCCの石丸論文というのが届けられているわけですね。これを見ますと、線量と白血病の発生率は直線関係にある、五ラド以下でも白血病は増加をする。白血病が増加するということは、一般のがんはその二十倍と言われていますから、それだけがんがふえるわけです。これは五ラドの話なんです。この資料は厚生省にありましょうか、同じくABCCです、これは。
  216. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 その資料はございます。しかし、まだ学界で認められたものではございません。先ほど申し上げましたように、広島の場合で三十ラドまで、長崎の場合は百ラドまで直線的な関係があるというのが現在の定説でございます。
  217. 森井忠良

    ○森井委員 そんなにあなた、都合のいいのだけ引用して都合の悪いのは引用しないというのは——この「ラディエーションリサーチ」という雑誌は、これはもうこの学界では非常に権威のある雑誌ですよ。そこにABCCの石丸研究員が実態に基づいて報告している。高く評価をされている論文なんです、これは。あなたそんなことを言っても、これは五ラドの話なんですけれども……。まだ私は納得できないのは、この二十五レムにこだわられるのに非常に問題があるわけでありますけれども、日本でも、これは同じく昭和四十六年でありますが、例の千葉のイリジウム事件というのがございました。これも調べてみますと十レム前後で白血球の減少あるいは精子の減少が見られた、こういう報告をされておるではありませんか。いかがですか。
  218. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 急性の弱い放射線障害といたしまして白血球が減少することがございますけれども、そういったものについては従来から十レム前後でも白血球の減少が起こることは認められております。
  219. 森井忠良

    ○森井委員 そうすると、あなた答弁はしゃあしゃあとなさいますけれども、二十五レムというのは非常に無理があるのじゃないですか。第一子供には、赤ちゃんにはもう二十五レムはどだい無理だし、先ほどのICRPの勧告でもそうですし、いま私が申し上げました日本の事例やあるいはABCCの研究報告等を見ると二十五レム一律というのはどう考えても納得できないじゃないですか。
  220. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 その点は先ほどお話ございましたけれども、子供の場合が成人の場合の何十倍、何百倍というほどの影響はないようでございまして、確かに成人よりも子供の方が感受性は強いわけでございますけれども、そういうものも全部ひっくるめまして二十五レムで見た場合に、従来のいろいろな経験、またいろいろな調査研究のデータから、目下のところ大して問題はない、そのように判断していい、こう考えております。
  221. 森井忠良

    ○森井委員 科学技術庁が言うならともかくとして、私は厚生省が言うのはおかしいと思うのだ、実際問題として。厚生省は国民の健康を守る役所でしょう。具体的に私もいま幾つも例を持っているのですよ。本当にこれは問題があると思うのであります。  アメリカは一般人の年間における許容限度を決めていますね。職業人が年間五レム、一般人は〇・五レム、これはICRPの勧告なんです。日本は、そのとおり御無理ごもっともでやっているのですが、アメリカはそうじゃないわけですね。アメリカでは〇・一七レムに縮めているのです。あなた、権威がある、権威があるとおっしゃいますけれども、権威があるならICRPの一般人の年間許容量〇・五レムというのはアメリカも採用するはずなんです。アメリカは〇・一七レムなんですよ。私は、くどいようですけれども 科学技術庁が言うのなら、あるいは通産省あたりが言うのならまあまあとして、厚生省が言うのはおかしいです。アメリカでもう現実にやっているじゃないですか。
  222. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 アメリカの場合でございますけれども、原子炉周辺の住民の放射線防護の問題が中心になっておるわけでございまして、そのような場合には、もうできるだけ放射線は少ない方がいいに決まっておるわけでございます。〇・一七でも高いかと私は思います。もっと低くしていいと思いますし、また国際的基準も近いうちにそのように低くなるのではないかと思いますけれども、それは本当の安全性を考えて、できるだけ放射線を浴びない、また現在の技術で考えた場合に、原子炉等の放射線防護がどこまで技術的に可能か、また経済的にも判断されなければならないと思いますが、そういったことを勘案してできてくる理想的な基準の一つでございますが、いまここで議論をさせていただいておりますのは、実際に障害が起こってくる一回の放射線量は一体どれぐらいかという点でございまして、かなり問題の所在が違うのではないかと思うわけでございます。そこで私どもは、一回で健康障害が起こり得る放射線量ということになれば、現時点においてはまだ二十五レムということでよろしいと考えておるわけでございます。
  223. 森井忠良

    ○森井委員 私は厚生省が言うのは重大だというのは、単に被爆者の問題ではなくて、いま各地で原発の問題が起きておるわけですね。一般人で二十五レムを適用するのですか。そのときどうなるのですか。それはあなたの所管じゃないかと思いますけれども、実際問題としてこれは重大なことだと思うのです。しかも赤ちゃんからお年寄りまで全部同じょうに適用するという考え方は、これは私は納得できません。はっきり言いなさい。それよりも、やっぱり二キロに線を引いて、それ以上ふやしていくと保健手当の数がふえるからと言いなさいよ、それだったら。
  224. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 けさほどからお答えしておりますように、放射線のエネルギーは距離の自乗に逆比例して減ってまいります。そういう関係で二千メートルと二千百メートルでもかなり放射線の量は違うわけでございます。そういった関係で、私どもは決して財政の関係から二キロに無理に線を引こうとしておるわけではございません。先ほど来るる申し上げておりますように、現在の医学的、生物学的な試験をすれば、一回の照射で障害が起こり得る放射線量というのは二十五レムが通説という意味でこれを基準に採用したものでございます。したがって、これにつきまして科学的な反論が将来起これは、当然これは修正しなければならないものと考えておりますけれども、現時点においては、そのような各種文献を調査し、専門家の御意見を承った結果、この二十五レム以上ということでよかろうということになっておるわけでございます。
  225. 森井忠良

    ○森井委員 この問題であまり時間をとってもいけないのでありますが、非常に重大な問題でありますので、明確にしておきたいと思うのであります。肝心の原爆を落としたアメリカでいまどういうことになっておるかというと、いろいろ確かに議論はされておりますけれども、先ほど申し上げましたように、一般人の許容基準は〇・一七レムであるということを前提にして、それでもアメリカの科学者ゴフマンさんであるとかタンブリンさんという人の論文あたりを見てみますと、〇・一七レムの場合でもアメリカで年間十万人のがんによる死亡者がふえるはずである、こういう報告をしておるのですね。だからこの計算でいけば、もしこのとおりだとすれば、日本は先ほど申し上げましたとおり、一般の許容基準は〇・五レムですから、人口はアメリカの半分ですからそれを計算に入れましても、ざっと十五万人以上になるわけです、〇・一七レムを適用しても。この報告についてはアメリカの原子力委員会、AECが反論しようとして努力をしたようですね。結局BEIR、ベイル報告によりますと、反論しようとして一生懸命努力して実地に当たったらしいのですけれども、どういう答えが出たかというと、アメリカで年間三千人から一万五千人の死亡者がふえたそうです。数字は違うのでありますけれども、このゴフマンさんやタンブリンさんの論文を裏づける結果がAECで出た。非常に皮肉なことなんでありますが、これはAECが三千六百例の突然変異あるいは不健康な人が五%増したというふうなことも含めて、いま申し上げましたように反論にならずに、結局事実を認める形になったというデータが出ているわけです。  委員長、これはいまお聞きくださいますように非常に学問的にも問題がありますので、時期的にあした参考人をお呼びするという形になっておるわけでありますが、こういった科学的なことでもありますし、私どもも十分明確にしたい点もございますので、できれば国会にこの道の専門家を参考人として呼んでいただいて、意見を聞く機会をぜひつくっていただきたい。その上でこの問題についての結論を出していただきたいというふうに思うのです。
  226. 葉梨信行

    ○葉梨委員長代理 この件につきましては、理事会において後刻相談いたします。
  227. 森井忠良

    ○森井委員 それから保健手当にもう一つの問題点があると思うわけでありますが、二十五レムというのは中性子線あるいはガンマ線による直接被曝なんですね。ところがそうじゃなくて、残留放射能等でいわゆる間接被曝といいますか体内照射といいますかそういったものについては、厚生省としてはどのように考えておられるわけですか。
  228. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 まず中性子線によります核分裂生成物質の誘導放射能の問題でございますが、これが具体的には二つの問題を起こしてくるわけでございます。  まず広島を例にとって申し上げますと、こういった中性子線による誘導放射能は爆発直後から無限大までの永久累積線量で八十ラドと考えられておりますけれども、十時間で二分の一、二十七時間で四分の一になるというように、時間によって線量がどんどん減少していく性格のものでございます。そういう意味で、爆心地に二十四時間以内に立ち入った者についてだけ二十五レム以上の被曝の可能性が出てくるのではないかと思うのでありますが、あのような当時の爆発後の状況でございますので、二十四時間以内に爆心地に立ち入るということは無理であったと考えられるわけでございます。したがって、そういった影響は無視していいのではないかと思われます。  もう一つは、そういった核分裂の生成物質が風や雨に乗りまして、数キロ離れた遠隔の地に降下したという問題でございます。広島の場合を例にとりますと、高須の地域にそのようないわゆる死の灰が風に乗って多量に降下したようでございますが、当時の文献を調べてみますと、これも線量が一・四ラド程度でございまして、非常に低いものでございます。また、問題は長崎の西山地区でございますが、これも学者によって三十ラドから六十ラドまでの計算の相違がございますけれども、いずれにいたしましても屋内におりますれば家屋等による遮蔽効果が出てまいりますし、また家の外にいる時間によっても変わってくるわけでございます。そういう関係で、おおむね四分の一程度が影響したものと考えるべきではないかという統一見解でございますので、この際も二十五レムにはなかなか及ばないわけであります。したがって、そういった中性子線による誘導放射線またそういった死の灰の雨や風による降下、こういったものの影響は無視していいと考えられるのでありまして、御提案したように直接被爆者だけを本手当の対象としたわけでございます。
  229. 森井忠良

    ○森井委員 どうもあなたと議論がかみ合わなくて悪く思わないでほしいのですけれども、八十ラドという問題についても私は非常に問題があると思いますけれども、まことに失礼でありますが、核分裂生成物は水や食べ物には入らないのですか。
  230. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 もちろん水にも食べ物にも入ってまいりますし、また土壌が放射能化して外部被曝ということもあるわけでございますが、まず水や食べ物になって入ってまいりますものも半減期の非常に短い放射性物質でございますので、そういった点も厳密にいろんな研究機関で計算されておりますが、無視してよろしいのではないかと言われております。
  231. 森井忠良

    ○森井委員 私もたくさんの被爆者からいろんな話を聞いておりますが、あの熱線、爆風、すごい地獄の状態のときに、どの被爆者もそれこそ血の出るような叫びで求めたものは水なんですよ。あなたは屋内とか屋外とかということをおっしゃったりしておりましたけれども、私はずいぶん大量の水を飲んでいると思う。もちろんその後救援に行った人等も考慮に入れますと、その数ははかり知れない。少なくともあなたが言われたように、科学的な資料が整っていてその該当者はいないという断定をされることについては、私はきわめて僣越だと思うのです。水を多量に飲めば、ストロンチウム90にしてもセシウムにしても当然体内に入るわけです。体内に入れば、これは骨とか肺とか親和性のあるところに必ず吸収されるのですよ。そこで骨がんとか肺がんとかができるわけですね。もっと詳しく調査をした上でないと、第一その資料というものは厚生省がお調べになったものじゃないのでしょう。私は少なくとも直接被曝が二十五レムと言うなら、そういった残留放射能、内部照射あたりについてもっとはっきりしたものを出していただきたい。いま私が質問したからあなたは出したわけでありますが、表向きは直接被曝の問題だけあなた方は考えていらっしゃる。内部被曝の場合は要するに基準の中に入っていないのでしょう。その点いかがなんですか。内部被曝あるいは体内照射を計算に入れておられるのか入れられなかったのか、その点だけはっきりしてください。
  232. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 内部被曝も考慮に入れております。そういうことも勘案いたしまして、二キロでそういったものを全部含めて総合的に三十五レム以上という考え方をしておるわけでございます。
  233. 森井忠良

    ○森井委員 二キロの問題と内部被曝の問題というのは、それは関係あるかもわかりませんが、そう密接な関係じゃないと思う。先ほど申し上げましたように食べ物だとか水だとか、そういうものを摂取するだけで、それは個人差があるわけですから、たくさん水を飲んだり野菜を食べたりすれば、当然ストロンチウム90にしてもセシウムにしても、広島の場合は、もうちゃんと体内に入っているわけですからね。二キロと言えば、体内照射の問題についてもはっきり基準に合うということについて、これはどうしても納得できません。もうあなたはこれ以上責めませんけれども、これも委員長、先ほどお願いしました、ひとつ理事会で御検討くださって、いま申し上げました科学的な根拠、非常に明確でありませんので、ひとつ参考人の招致も含めて御検討いただきたい。  時間がありませんから、それでは次の質問に入らしていただきたいと存じますが、次は被爆二世の問題であります。     〔葉梨委員長代理退席、委員長着席〕 先ほど、わが党の中村委員に対する答弁を聞いておりまして、私は、これもきわめて遺憾だと思ったわけであります。被爆二世の問題については、一口で言いますと、調査研究をまだ終わっておりませんから続けておるということだけのように思うわけでありますが、これははっきり申し上げておきますが、私、調べてみた。昭和四十六年の衆参の社会労働委員会、もっと古いかと思いますが、私はそれ以上わかりませんでしたのですが、昭和四十六年の衆議院の社会労働委員会あたりからずうっとこの被爆二世の問題が毎回の附帯決議についているのです。いいですか、表現もほぼ似通っておりまして、「被爆者の子及び孫に対する放射能の影響についての調査研究及びその対策について十分配慮すること。」とこうなっているのです。先ほどの答弁だと、あなたはもう、たとえば具体的に本人希望するものについても被爆手帳も出さない、本当に冷淡なことを言っていらっしゃる。しかし、そんなものなら四十六年から今日まで、いま私が読み上げましたのは、昨年の社会労働委員会の本法案に対する採決のときの附帯決議なのですけれども、あなた、国会軽視じゃありませんか。国会で毎回決議しておる点についてどう思いますか。
  234. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 それだけ強い御関心と需要が被爆者を初め関係方面にあるものだと思いますが、やはり原爆二法もきちんとした基準に基づいて厳正に運用しなければならないわけでありまして、御指摘のように調査研究はいろいろな角度からいろいろな方面にお願いしてやっておるのでございますが、まだ被爆二、三世に対する原爆放射線の影響のはっきりしたデータが出てまいりませんので、そのような段階においては、現在の原爆対策を適用することは困難であると考えております。
  235. 森井忠良

    ○森井委員 あなたは先ほどの中村委員の質問に対する答弁で、たしか京都とか北海道では実態調査をやったけれども影響がなかった、こう言っておるのです。どうもこれは都合のいいところだけ出されて——それじゃ広島県や広島市がやったのは御存じですか。それじゃついでに言いますよ、もう時間がないから。これによると、これずいぶん調査も大がかりです、回答をよこした人だけで四万三千三百人余りの回答ですから。これは被爆者の数です。被爆二世は四万七千人ぐらいその調査で挙がっております。そのうちで、ざっと一八%強の人が大病にかかった、また現在かかっておるという人なんです。一八%ですよ。  内容は、胃腸病とか肝障害あるいは貧血、そういった消化器系疾患、それから血液造血器疾患、そういうものが多いのですけれども、いずれにいたしましても、広島の調査では具体的に——あなた、京都や北海道では影響がなかったとおっしゃいますけれども、広島では現に影響があったんですよ。  もっと申し上げましょう。どうもあなたはABCCがお好きなようですから、ABCCの資料でいきますと、三百八十七人の広島、長崎の子供の白血病患者、ABCCが調べた範囲で広島、長崎で三百八十七人、何とこのうち被爆二世が百三十八人おった。四割ぐらいです。これでもやはり被爆二世と被爆者との関係関係がないとおっしゃるのでしょうか。
  236. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 ただいまお話のございましたABCCの被爆二世の白血病の発生状況の調査研究も含めまして、現在のところは被爆していない子供さんとの間に差は出ておりません。
  237. 森井忠良

    ○森井委員 済みません。もう一度答弁してください。
  238. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 ただいまお話がございましたABCCの被爆二世の白血病の発生状況の調査研究を中心にいたしまして、そのほかにもいろいろな調査がございますが、現在のところは被爆二世と一般の子供さんの間に有意の差は認められておりません。同じような状態でございます。
  239. 森井忠良

    ○森井委員 そうすると、いま私が申し上げましたABCCの資料は、あなたの方の資料と違っていますか。
  240. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 これは私どもの持っておる資料の一部だと思いますが、ただいま先生のおっしゃいましたのは、全白血病患者のうち、被爆者の子供の患者というような言い方をなさったわけですが、集団で何歳から何歳までの子供で白血病がどのぐらい出てきた、それが被爆者のお子さんではどれぐらい出た、被爆者以外のお子さんではどれぐらい出てきたというふうに比較をしなければならないわけであります。そのように比較いたしますと、現在のところ差はございません。
  241. 森井忠良

    ○森井委員 それではもう一度申し上げますけれども、広島と長崎の子供の白血病患者、これは全員を調べているわけですよ。そうしましたら、三百八十七人のうちで百三十八人というのが被爆二世だったというのです。はっきりした証拠じゃないですか、四割もその中におるのだから。
  242. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 被爆しない方のお子さんからも当然白血病が出てくるわけでございますから、そういった方たちから出てくる割合と被爆した方のお子さんから出てくる割合、要するに、お子さん十万人に何人出てくるかというふうに見なければいけないわけで、全部の白血病の中の割合がどうなっておるかというふうに見るだけでは不十分でございます。そこで、いま申し上げましたような見方をいたしますと、現在のところ両者の間に差はございません。
  243. 森井忠良

    ○森井委員 質問のしようがありませんよ。三百八十人のうちで、先ほど申し上げましたような数が被爆者の被爆二世だということになれば、集団とおっしゃいますけれども、白血病にかかっておる子供のうちで被爆二世のパーセンテージが非常に高いということは、影響ないのですか。
  244. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 広島と長崎の全県民のうち、広島市とか長崎市の住民がどれぐらいの割合を占めておるか、またその現在の市の住民のうち被爆なさった方がどれぐらいいらっしゃるかということによって、おのずから両県の白血病の子供さんの数の内訳は出てくるわけでございますが、発生率ということになりますと、分母に人口を持ってこなければならないわけでございます。したがって、そのような厳密な比較をいたしますと、これまでのところ差はないとABCCからも国立予防衛生研究所の支所からも報告をされております。
  245. 森井忠良

    ○森井委員 そうすると、これは先ほど委員長に学問的なものについては専門家の意見を聞くということをお願いしてありますので、理事会に譲りたいと思います。  そうすると、どうでしょうか、放射能と遺伝との関係というのは厚生省の考え方としてはあるのですか、ないのですか。
  246. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 あると思います。ただ、それがどのような形で、どれくらいの数が出てくるかがまだはっきりしないわけであります。現在いろいろと学者の間で議論されておりますのは、ショウジョウバエを使った実験遺伝学のデータ、またそれをもとにした理論遺伝学のデータ、こういったものが使われていろんな議論をされておるわけでございまして、人類の遺伝に対する放射線の影響については、従来からも余り十分なデータがなかったわけでございますけれども、また現在までのところ広島、長崎におきましても、そのような徴候がはっきり出たという証拠はつかんでおりません。
  247. 森井忠良

    ○森井委員 放射能の及ぼす遺伝への影響があるということをお認めですから、それはそれといたしまして、そうすると、今回の広島、長崎の原爆については影響が出ていないということなんですね、あなた方の理解は ただ、遺伝的な影響というのはいろんな形であらわれますよね。すぐあらわれる場合もありますけれども、この次の孫にあらわれたり、いわゆる隔世遺伝というふうなものもありますし、数代ぐらい後のときもある、そのことはお認めになるでしょう。
  248. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのことは認めます。放射線の遺伝的影響は主として劣性遺伝の形で出てまいりますので、二代目、三代目というふうにぼつぼつと出てまいります。それだけその結果の判定が非常にむずかしいと考えております。
  249. 森井忠良

    ○森井委員 そこで、これは率直に話をしますのですが、あれだけの放射能を浴びて遺伝的な影響がないということは考えられないと思うのですね。したがって、放射能を浴びておるということ自体で、厚生省としては病人が出ないうちに、先ほど中村委員指摘をしましたように具体的には出ておりますけれども、むしろ大部分は出ないうちにこれから厚生省として予防措置をとられるべきじゃないか、もうあなた方がお使いになりますICRPの基準でも遺伝線量というのを決めておりますね。これは一世代五レムなんですね。一世代というのは大体三十年の計算をするようですが、要するに生殖可能な年齢ということでしょうけれども、三十年で割りますと〇・一七ラドというアメリカの基準も生まれたのだろうと思いますけれども、ともかく日本の場合は単位が違うわけですから、あなた方が考えていらっしゃる保健手当の対象にしても、申し上げましたように二十五ラドというような膨大なものですから、したがって当然科学的に考えてみても遺伝的な影響というのは明確に出てくると理解をされるなら、いま顕著に影響があらわれていないということだけで被爆二世の問題を片づけるべきじゃないと私は思う。  たとえば若い人なんかで、これは山口大学の社会学研究室というところで約三百名の人を対象にして被爆二世の健康状態というのを調べている。健康に異常を訴える者というのが二三・六%、あとこうずっと資料ありますけれども、出しません。それから生まれたときに体重は幾らだったか、これは被爆二世の場合ですが、これあたりは主観が入らない、かなり客観的な数字だと思うのですが、出生時に体重二・五キログラム以下というのが一一%もある。二・五キロから二・七キロ、どちらにしても小さい子です、これが四一・一%。被爆二世というのは、生まれたときからやはり非常に小さいというふうな問題、病弱だというふうな問題、これは若い人が自主的に調べて発表した数字なんです。彼らは一様に、いまは元気だけれども将来にわたってこれが続くであろうかどうであろうか——学問的にはあなたもお認めのようにこれは影響があるわけですから、しかもICRPでも明確に影響があると断定をして、遺伝線量というものを決めたりしておるわけですから、そうしますと、やはりいま被爆二世の皆さんが影響が少ないというだけで片づけるということについては非常に問題がある、私はこういうふうに考えるわけです。したがって、明確にこの問題については神経をとがらかしてもらわなければならぬと思うわけです。  被爆二世にはもう一つの問題があるのですよ。それは生活の問題なんです。これは厚生大臣聞いていただきたいのですけれども、被爆二世の問題というのは彼らの医療だけじゃないのですね。たとえば広島の原爆病院あたりにしましても、四十八年の資料でありますけれども、すでに入院患者の七割くらいまで六十歳以上、老齢化しているわけですね。これは昭和三十一年ころは四十歳以下の人が五割を越しておったわけでありますから、これだけとってみてもそれだけ老齢化をしている。それから病状も進んでいる。そうしますと、両親を被爆者に持つ二世というのは、つまり子供ですね、これは生活が大変なんですよ。その意味でも二世問題というのは、あなた方は先ほどのように目を健康の問題だけに向けていらっしゃいますけれども、もう生活の問題も大変なんです。被爆者の親を抱えて安月給で親を養っていかなければならない。もちろん医療にも手はとられる。ことし本当に二階から目薬くらい、家族介護の四千円という金額が計上されておりますけれども去年まではゼロなんです。その点についてももっと二世の問題は考えるべきじゃありませんか。
  250. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 二世の方々の問題には、そういった医学的なまだ解明されていない面もございますし、また一面においては、何と申しますか、就職とか結婚などの面でそういったことは余り言ってもらいたくないというお気持ちの方も多いわけでございますので、非常に慎重にこの問題は取り扱わなければならないと思います。  また、両親が被爆者の場合の二世の問題でございますが、これは私どもといたしましては、やはり両親に対する原爆対策、手当の額等の増額等に力を入れれば、自然そのお子さんの負担は軽くなるのじゃないかと考えるわけでありまして、従来どおり被爆者の方々の対策の充実に今後も力を注いでまいりたいと考えておる次第でございます。
  251. 森井忠良

    ○森井委員 だから冒頭に私が質問をしたのです。野党四党が提案をしております被爆者援護法については否定をされたのです。大筋でいけば、現行二法の枠内でやるというのが大臣のお考えなんです。そうしますと、いまのところそれはなるほど特別手当等ふえました。健康管理手当もふえました。しかしそれだけで、あとは全部被爆者に荷がかかってきておる。家族介護は四千円でしょう。たとえば二十歳代の被爆二世あるいは三十歳代という若い被爆二世は、本来ならまだ賃金が安くて共かせぎでもしなければ食えない、特に両親でも養っておる人は。ところが、もう少なくとも自分が会社を休むか、あるいは妻を共かせぎをさせないで親の介護をさせるか何かしなければならない。介護手当はわずかに四千円。しかも先ほどの質疑を聞いておりますと、この四千円というのは根拠はない、こういうことでしょう。何らかの形で、先ほども申し上げました医療面と同時に、被爆二世については、どうしたってこういった生活面についての援護が必要になってきておる。厚生大臣、この点どうでしょうか。先ほどは大臣、何と申しますか、わりとつれない被爆二世の問題に対するお答えだったわけでありますが、しかし公衆衛生局長は遺伝についてはある程度お認めになりましたし、生活につきましても私が申し上げたとおりなんです。いまは提案をしていらっしゃいますが、少なくとも被爆二世の問題については、先ほど申し上げましたように、国会決議も四十六年以来毎回続いているというふうな背景をお考えになると、あの答弁はもう少しひとつ前を向いていただく必要があるんではないかと思うのです。いかがでしょうか。
  252. 田中正巳

    田中国務大臣 被爆二世の問題を二つ御提起になりました。健康上の問題と経済ないしは生活の問題と、二つの観点から考えなければいかぬと思いますが、原爆二法に定められている政策要請、これが科学的に二世に当てはまるということになりますれば、私どもとしてはこれを適用することについてはやぶさかではございません。  ただ、私は素人でございますので、さっきからのやりとりを聞いておりましたが、よくわかりません。いずれにいたしましても、現在のところ科学的根拠が的確ではないというふうなことでございますので、そのまま健康上の問題について現行二法を適用することは、もう少し検討を必要とするなあというふうに思っておるわけでございます。しかし、そのような事象が研究の結果出たとするならば、私は適用すべきものだと思っております。  それから、経済問題あるいは生活問題につきましては、これは私は現在の政策が不十分であるということならば、これを改善することによって、親御さん自身のこうした健康上、肉体上によるところの、何といいますか、ディスアドバンテージをカバーするという手法でやっていくべきものであろうというふうに思いますので、こういったような理論から、おっしゃるような援護法の政策要請というものは一部類推はできますが、はっきりした理論根拠には私はなり得ないものじゃないか、あればもっと別なスタンドポイントからそれをフォローしなければなるまいというふうに実は思っているわけでございます。
  253. 森井忠良

    ○森井委員 経済的な面につきまして、親の方に措置すべきであるということになりますと、被爆二世のいる親といない親とがあるわけですね。だから、やはり不公平が出てくるのですよ。二世そのものに、いま申し上げましたように、両親とかあるいは片親でも働き手のお父さんの方が被爆者で病弱であるとかというふうな場合には、やはり子供にあてないと、一律に親の手当をふやすという形になると、これはそれなりに問題が出てくるように思います。したがいまして、大臣の答弁を多といたしますので、十分ひとつ御検討をいただきたいと思うのです。  ちょっとついでに聞いておくのですけれども、これも社労委員会のたび重なる決議なのですけれども、特別手当は生活保護の収入認定から外せというのが毎回国会決議に出ているのですが、ナシのつぶてなんですよ。これは一体どうなっているんですか。
  254. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 四十九年度までは完全に外すことはできませんで、二分の一調整、つまり四十九年度は特別手当一万五千円でございましたから、七千五百円の特別加算を生保の方で認めるというふうに措置されておりますが、五十年度についてはさらにその改善方法を社会局並びに大蔵省に対してお願いをしておるところでございます。
  255. 森井忠良

    ○森井委員 厚生大臣、これは局長の所管は違いますが、大臣としての所管は同じなんです。まあ大蔵省という壁がありますけれども、それは私も政治家として理解をいたします。しかし、特別手当を生活保護基準の収入認定から外せということは、これも毎回ずっと出ているわけです。しかもこの特別手当の受給者というのは、何十万人もいるわけじゃないでしょう。これは本当に数えるほどなんだ。一つぐらいは前向きなことを、しかも国会の権威を尊重されるなら、毎回毎回同じことを附帯決議に書かさずに、せめてことしぐらいは半分なんてけちくさいことを言わずに、もう外したらどうですか。しかも、被爆者の実態についても十分理解をしておられるわけでありますから、大臣の明快な御答弁をいただきたいと思う。千人そこそこなんだもの。
  256. 田中正巳

    田中国務大臣 この種の手当の生活保護法との関連における収入認定の問題は、実はいろいろと議論があります。実はかねがね財政当局と苦労して折衝をしておるもののようでございます。率直に言うて、けさほど私は主管の者に対し、この種のものはもう少し早くセットをしたらどうだ、目下努力中でございますと言うので、そういうことではいかぬということを申しておったのですが、実はこれについてはいろいろと複雑な事情があるもののようであります。他の手当、年金等々とのバランスの問題もありますし、またそういったような金額面をながめてバランスをすることがいいのか悪いのか。原爆被爆者という、また被爆者対策というような観点から特別の配慮をすることが必要ではないかといったようなことについていろいろと議論があるようでございまして、私としてはできるだけの努力をいたしたいというふうに思いますが、聞いてみますると、どうも私、ここでもはっきり、これは全部収入認定から外させますとか、金額加算をいたしますなどということを申し上げられるような客観情勢では実はなさそうでございますので、できるだけ努力をするということを申し上げさせていただく方が、私は後ほど食言にならぬというふうに思いますので、この辺は率直に申し上げておきます。
  257. 森井忠良

    ○森井委員 食言にならぬという厚生大臣のお言葉の意味を十分かみしめながら、これは来年を大いに期待をしておきたいというふうに思います。  そこで、三つ目の質問は、放射線影響研究所の問題です。旧ABCCの問題でありますが、これは先ほど来話がありましたように、いままでは日本国民、なかんずく被爆者の皆さんからは非常に評判の悪いものでした。これが今度ようやく日米対等の運営による機関になったわけでありまして、関係各位の皆さんのご苦労を多といたしますが、ただ、日米対等で運営ができるというだけでは問題の解決にならない。  まず第一に、何といいましても、いままでわれわれがモルモットになったじゃないかという被爆者からの信用回復の問題が一番必要だと思うわけです。この点について、新しいスタートに当たり、厚生省はこれの指導機関でないという形になっていますから非常にむずかしいでしょうけれども厚生省はどのようにしてこの旧ABCCの、あの市民をモルモットにした、被爆者をモルモットにしたという悪評を断ち切るための努力をされるのか、まず基本方針についてお伺いしたい。
  258. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 具体的には、先般新法人の第一回の理事会がございましたけれども、私も法人の監督官庁として出席をいたしまして、いろいろと今後の基本的なあり方についてお願い等もしたわけでございます。その具体的なあらわれといたしましては、近く広島、長崎の両市で、ABCC運営連絡協議会のようなものが被爆者団体等を中心にしてつくられまして、その運営協議会とABCCの理事者側が今後のあり方についてよく御相談をする、御意見を承るということになっております。  なお、従来モルモットがわりにされたということについては、多少の誤解もあるようでございまして、当初ABCCは自分で被爆者の治療等もやろうとしたようでございますが、むしろ地元の方で、治療はABCCでやらないことというような御要望が強かったようでございます。したがって、アメリカ政府としては広島大学と長崎大学に原爆治療用の病床百五十床を寄贈したというようないきさつもございまして、ABCC側、アメリカ側が治療の担当を避けたということはございませんので、念のために申し添えておきます。
  259. 森井忠良

    ○森井委員 いみじくも出たわけですけれども、この新発足をした放射線影響研究所でいま一番評判の悪いのが治療しないことなんです。ABCCの関係者の皆さんにいろいろ意見を聞きましても、ぜひ治療をさせてくれ、まあ確かにいままでモルモットにして調査だけして、しかも資料を、先ほど指摘がありましたが、私の聞いておる範囲では、すべての資料を公開したわけではない。したがって本当にモルモットだったという感じがある。十万人に上る被爆者を、言葉は悪うございますけれども、モルモット化したきらいがあるわけですから、信用を回復するのか——あれだけの機能を持った旧ABCCは、今度は目的にもはっきり出ておりますように、健康の維持と福祉の増進ということになっているわけですね。したがって、これは目的からしても当然治療を始めなければならぬ。  私は、いまあなたが言われた、地元から治療はしないでほしいという意見があったということですが、これは被爆者の声ですか。恐らくこれは、地元の医師会等の声かとも思いますけれども、それは定かでないので明確には申し上げにくいのですけれども、被爆者の皆さんも、従事しておられる研究所の皆さんも、ぜひ治療させてくれと言っておる。これはいかがですか。
  260. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 被爆者の間にも、やはり治療することによってさらにモルモットにされてはかなわないという気持ちがおありになったように聞いておるのでございますけれども、やはり戦後の混乱期でございますので、いろいろ双方意思の疎通も欠いたような面があったのではないかと思います。
  261. 森井忠良

    ○森井委員 厚生省にお願いをしたいのは、この寄付行為を見ますと、厚生大臣は予算とか事業計画とかあるいは決算とか、そういったものの届け出、報告、職員に関してもそうですけれども、その程度しか表面上は権能がないようになっていますね。しかし実際には今年度も十三億に上る予算を出しておられるわけですから、当然これは厚生省としても積極的に何らかの形で指導助言をされる必要がある。そういう観点からいきますと、いま申し上げましたように、あれだけの機能と陣容を整えて、しかも過去の、戦後から今日までの貴重なデータも持ち合わせた上での、言うならば放射線の治療に対しては私は世界一じゃないかと思うくらいすばらしい機能があると思うので、これを生かさない手はないと思うのです。ぜひひとつ地元を説得するなどして治療に当たるような努力をしてもらいたいと思うが、その点についていかがですか。
  262. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 実際に治療をするということになりますと、建物、設備から始まりまして、専門医を、しかも十四も十五もの専門領域にわたる専門医を集めなければならないというような新たな問題が起こってまいります。  そこで、外来で若干御期待に沿えるような治療をするということ等については、アメリカ側ともよく相談をしてみたいと思いますけれども、本格的な医療は、やはり現在の原爆病院を助成いたしまして、あそこでもっとりっぱないい医療がスムーズに受けられるようにしていくべきではないかと考えております。
  263. 森井忠良

    ○森井委員 時間の関係で、三つぐらい質問を簡単にやりますので、一緒に答えてください。  いまの治療の問題については、専門の医師その他とおっしゃいましたけれども、これは建物との関係もございます。あなたもごらんになったように、これは終戦直後の典型的な駐留軍の建物と言ってもいい建物なんです。しかも広島のど真ん中の都市公園の中に入っている建物なんですよ。したがって、地元からも、これは他に移転をして、もとどおりあそこは公園にすると同時に、建物についても新しくしてもらいたい、近代的なものにしてもらいたい。いまのところはかまぼこ兵舎で、本当にひどいものなんです。したがって、建物との関係もありますし、第一、被爆者があの山の上まで歩いていくんだって大変だと思います。したがって、そういう問題に認識をしていただきまして、もろもろの状況が許すなら、将来にわたっては治療も行うようにしてもらいたいと思うが、これはひとつ大臣から、建物の問題も含めて御答弁をいただきたいと思うのです。  それから二つ目は、昭和二十五年に日本政府が生存者調査を一度被爆者の問題についてやっておられますけれども、これを基礎にしてABCCが固定人口集団を設定いたしまして実施した死亡とか健康あるいは病理、この三つの調査の貴重な資料があるわけです。  もう一度申し上げますと、死亡調査、健康調査、それから病理調査、この三調査というのは非常に貴重な資料だと聞いておりますが、この中には個人が受けた放射線量も推定をしてもらったりした、非常に個人の治療にとっても欠かすことのできないようなものもあるようであります。したがって、これはもちろん公開といいましても、個人に対して治療上の参考にするという意味で活用しなければならぬと思うわけでありますが、そういったもろもろの資料について、やはりこの際、厚生省としてもぜひ、提出をさせるというと言葉が悪いですけれども、いま共同管理になったわけでありますから、共同管理下に置けるように措置をしてもらいたい。  それから、三つ目は役員の構成です。これは答弁は局長でよろしゅうございますが、これで評判が悪いのは、あの役員の日米五名ずつの理事というのが、これは実際には地元の意向をほとんど聞いていないという不評があるのですよ。実際には聞いたか聞かないか知りません。とにかく結果からいけば、ほとんど地元の人が入っていない、あえて地元と言えなくはない人が入っておりますけれども、少なくとも、地元の医療従事者等の皆さんの意見を聞いて決めたものではない、あるいは学界等の意見を聞いたものではないということで、地元との協調が非常に問題になっています。この点について将来改善をされる御意思があるのかどうなのか。これは局長でけっこうです。  それから四つ目は、現在理事長は日本ですけれども、三年たったらアメリカ側になる。普通、任期は四年ですが、とりあえず三年ずつで交代をしようという形になっておるようです。ぼくは副理事長とかあるいは常務理事とかいうふうなものにつきましては、これは日米折半でもいいと思いますが、理事長につきましては、やはりそうは言うものの、実際問題としてあそこに市民があるいは被爆者が寄りつこうとすれば、やはりキャップだけは日本人でないと非常に親近感が薄れるのではないか。これはもうすでに合意をしたことでありますけれども、改善を要する点じゃないかというふうに思います。この点についての御見解も承っておきたい。  以上です。
  264. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 まず治療の問題でございますが、これは先ほど申し上げました被爆者等も入っていただきましたABCCと地元の運営協議会のようなところで地元の御意見をよく聞くと同時に、その結論に基づいてアメリカ側とも相談をしてみたいと考えます。しかし、私のいまの見通しでは、先ほども申し上げましたような、外来等で特に希望なさる方に外来医療をするという程度のことはできるかもしれませんが、本格的な医療をあそこで行うことは困難であろうという感じがいたします。  次にABCCの資料の公開の問題でございますが、従来も別に秘密にされていたわけではないのでございますが、先ほど申し上げました、特にある特定の方が自分の被曝線量を知りたいというようなことであるならば、それをその方にお知らせするとか、あるいはそういったプライバシーに関係しないデータであるならば、もっと一般に明らかに公表するというような方法をとっていきたいと考えております。  それから三番目、役員でございますが、これは私どもとしては地元と相談をしたつもりでございますが、その相談の仕方が余り十分でなかったということであろうかと存じます。しかし、地元の意向も考え、またいろいろと地元のためを考えて当初選任したのがああいった理事でございますが、今後理事の交代期等に当たりましてはさらによく地元の御意見を聞いてまいりたいと考えております。  最後に、理事長の問題でございますが、これは当面、日米行政レベルの会議でそのようになっておりますので、直ちにかえることはできないけれども、やはり将来の大きな問題であろうと思っております。また、私どもとしては、理事長が必ず日本人になるという前に、少なくとも研究所長はいつも日本人であるという体制をぜひ敷いてまいりたいと考えておる次第でございます。
  265. 田中正巳

    田中国務大臣 ABCC、これがいろいろな御批判のあったことは私も知っております。また、こうした御批判が出てきたバックグラウンドというものも私はわからぬわけではないと思います。ああした原爆投下という背景のもとに、その後にああいうアメリカの閉鎖的な、外部との接触が余りない機関が設けられ、それが長く続いている。ここにいろいろABCCに対する疑問あるいは揣摩憶測等々が出てきておった事情は私もよく知っております。さればこそ、政府側もアメリカと相談をいたしまして、今回日米共同管理による財団法人放射線影響研究所というものに衣がえをしたわけであります。今後そうした過去におけるイメージをチェンジするためには大いに努力をしなければなるまい。しかし率直に言って、衣がえをいたしましたものの、ABCCとしてずっと長い間継続してきたものでございますので、したがって、このやり方なり、外部に対するイメージもそうですし、内部の実際の仕事のやりぶり等についても、これを改善していくことについては私は言うべくしてなかなかむずかしい面もあるのじゃなかろうかというふうに想像をしております。しかし、幸いアメリカ側から来た人たちもなかなか優秀な人が来ているそうでございまして、期待が持てるようでございますので、わが方の意のあるところを伝えまして、今後改善に大いに努めていきたいというふうに思って、今後努力をいたしたいと思っております。
  266. 森井忠良

    ○森井委員 時間が参りましたから、最後に一問だけ。  もう簡単に申し上げますが、黒い雨の降った地域の問題です。  今までの特別被爆地域に入らないところで御承知のとおりにわか雨が原爆投下後降りました。そして、その地域の調査によりましても、非常に放射能障害の急性症状を訴えている住民がおる。これは四十八年に広島市で調査をした結果出てきておるわけであります。それをもとに、いままで厚生省に特別被爆地域として認定をしてもらいたいという陳情が相次いでおるわけでありますが、いままでのところ明確なお答えがない、これについてすでに先ほど来申し上げましたように、これは先ほどの内部障害との関係もありますけれども、単にそのときの測定値だけでなくて、体内に吸収したストロンチウムやセシウム等のことを考えると、平面的に医学者の意見を聞くだけではどうにもならない。もう人数もそう多くはないのですから、したがって、ぜひこの認定をしてもらいたい、私はこういうふうに思うわけでありますが、この点についていかがですか。
  267. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 先般専門家に二、三人お集まりいただきまして、黒い雨の降りました地域の問題について御審議を願ったのでございますけれども、現在のデータでは、放射線の影響を受けたという確たる資料がないわけでございます。したがいまして、さらに県当局、市当局にもう一度お願いして、必要な資料を収集し、もうしばらく慎重に審査をしてみたいと考えております。
  268. 森井忠良

    ○森井委員 終わります。
  269. 大野明

    大野委員長 次に石母田達君。
  270. 石母田達

    ○石母田委員 私は、きょう政府提出原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部改正案について質問をいたします。  同時に私は、野党四党が共同作成いたしまして昨年の国会でも提出した、いわゆる被爆者の援護法案についてきょうはお尋ねしようと思っていたところであります。ところが残念なことに、ある党の事情できょう提出されるはずであった四党案が提出されておりませんので、議題になっておりません。しかし、参議院では同じ内容のものが継続審議になっているということもあり、またわが党としても、何としても今度の衆議院にも提出をしたいということでいままとめ中でございますので、そういうことを念頭に置きながら質問をしていきたい、こういうふうに思っております。  私は第一にお伺いしたいことは、この被爆者援護についての政府の基本姿勢についてであります。したがいまして、これから幾つかの質問は大臣直接にお願いしたいのであります。  その一つは、政府が現在の被爆者の援護について、現在のいわゆる特別措置法、今度の改正も含めまして、これで万全の措置だ、十分だというふうに考えているのかどうか、まず大臣にお尋ねしたいと思います。
  271. 田中正巳

    田中国務大臣 現在の原子爆弾被爆者に対する対策、いま御審議をお願いしている法律制度、これで全く十分であり、今後施策を進める必要がないのかということになりますと、これは今後やはり検討をして進めるべきものがあれば進めるということで、これで行きどまりということには考えておりません。  ただ、いま先生の方からお話がございませんでしたが、援護法的なものにこれを進めていくかということについては、私どもとしては踏み切れないという事情があるということでございます。
  272. 石母田達

    ○石母田委員 援護法的なものというのは、はっきり言うと国家補償の立場に立つ援護ということですか。
  273. 田中正巳

    田中国務大臣 さようでございます。
  274. 石母田達

    ○石母田委員 それでは、私どもが昨年の八月、共産党・革新共同の国会議員団として現地を視察してまいりました。私と沓脱参議院議員と長崎に参りまして、それから広島の方は寺前議員と田中美智子議員であります。で、私も被爆地へ行ってまいりまして、直接被爆者のいろいろな実情、御意見も聞いてまいりましたし、あるいはまたそれぞれの関係当局、それから施設にも行ってまいりました。その中で私は、いまなおこの被爆者の置かれている現状というのはきわめて厳しいものである、また、この問題の解決はきわめて緊急的なものである、そして、国家補償の立場に立つ援護法の制定が緊急になされなければならぬ、その正当性と緊急性を改めて確認してまいったわけであります。この調査の目的が、そもそもいわゆるこの原爆症の調査研究、治療体制の抜本的な改善と、それから今国会で成立を期しております四党共同提出の援護法の正当性があるかどうか、それを根拠づけるという目的で参ったわけであります。そして、いまのような結論を得まして、政府に対して早速この援護法の制定を含む幾つかの改善策について、八月に私どもは前の厚生大臣であります齋藤厚生大臣に申し入れをしたわけでありますが、このことについて大臣は知っておられるかあるいはそういう申し入れのことについて引き継がれているかどうか、お伺いしたいと思います。
  275. 田中正巳

    田中国務大臣 齋藤厚生大臣にそのようなお申し出があり、また国会でもしばしばこの問題について、援護法をつくるべきであるというお声があり、いろいろと議論のあることについてはよく知悉をいたしております。
  276. 石母田達

    ○石母田委員 さらに昨年の四月ですけれども、先ほどから再三問題になっております四党案について、その政府案と異なる最も大きな特徴、これはこの衆議院ではいま議題に提出されておりませんけれども、参議院でも継続になっておる。その内容について御存じですか。御存じならば二つ三つ特徴を、大臣が知っている限りでいいですから。ほかの方は黙っていてください。
  277. 田中正巳

    田中国務大臣 援護法におきましては、いわゆる国家賠償責任といったような思想に基づきまして年金をいろいろなカテゴリーに応じて支給しようというところが特徴的なものであるというふうに私は考えております。
  278. 石母田達

    ○石母田委員 もう一つ田中厚生大臣は、広島あるいは長崎の被爆地へ行きまして、直接そうした被爆者の方々の御意見、実態を調べてこられたことがあるか、あるとすればいつごろか、厚生大臣になってからあるかどうか、それをお伺いしたいと思います。
  279. 田中正巳

    田中国務大臣 厚生大臣になってからは、国会が忙しくて実は両県には参っておりません。しかし私は、いろいろ御批判がございますが、原爆二法の制定には、実は古くから、三十二年の医療法のときから、私ずいぶん若い時分でございましたが、これに関係し、その後、特別措置法の制定につきましても深く関係をいたしました。深く関係をしたというよりも、むしろ、特別措置法のごときは実は私が小委員長でこれをやったわけでございまして、したがいまして、その間ずいぶんと両県に足を運びまして、被爆者のお声を聞きましたし、また諸施設も拝見をいたし、その後も、その後の改正をめぐりましていろいろなお話を聞いたばかりではございません。その後の事情というものも把握いたすべく、その後も両県に参りましたが、率直に言うて、長崎県の方はやや交通が不便なものですから、広島県が二回に対して長崎県が一回という程度の頻度で参ったというふうに記憶しております。
  280. 石母田達

    ○石母田委員 厚生大臣としていらっしゃったことがありますか、いままでに。
  281. 田中正巳

    田中国務大臣 厚生大臣になったのは昨年の十二月九日で国会が忙しいものでございますから、あれ以来は、行きたいと思っておりますが、まだ行っておりません。
  282. 石母田達

    ○石母田委員 それではぜひ厚生大臣——余り早くやめられると困るから、三木内閣いつまで続くかわかりませんけれども、私は、厚生大臣の肩書きを持ってぜひ現地へ行っていただきたい。国会がどうなりますかわかりませんけれども、八月のあれも、いろいろ年中のあれもありますから、そうしたことで、いまからのことを、いろいろ援護法についての一致を見るためにはやはり共通の場で、特に大臣の肩書きでぜひとも現地を見ていただきたい、こういうふうに思いますけれども大臣どうでしょうか。
  283. 田中正巳

    田中国務大臣 暇があれば私は行きたい。また暇があればというのはやや消極的でございますので、是が非でもひとつ行ってみたいというふうに考えております。
  284. 石母田達

    ○石母田委員 あわせて私、長崎に行きましたときに、原爆の病院の患者さんから、一度総理大臣に来てほしい、こういうお話があったのですよ。これは三木首相も相当多忙の身でありますけれども、とにかく、ことしは三十周年という被爆者にとってもまたわれわれ国民にとってもきわめて大切な年でございますので、総理大臣にぜひ来てはしい、こういう要望がありましたので、あわせてそのこともあなたの方から大臣の方に要望していただけないかどうか。
  285. 田中正巳

    田中国務大臣 私の記憶では確かに総理大臣は長崎には行ったことがないようでございますので、ひとつお伝えをいたしておきたいと思います。
  286. 石母田達

    ○石母田委員 ぜひ実現するようにしていただきたいと思います。  私は、幾つかの点を大臣に御質問したのは、先ほど申しましたように、アメリカの原爆投下という問題は全く国際法にも違反した行為でありまして、その結果言語に絶する被害を受けたわけであります。この死亡者の数もまだ明確でない。しかし広島だけでも四、五十万の人口で恐らく二十万近くの人々が亡くなったのじゃないかとも言われております。そういう意味で、こういう言語に絶するような被害に対して、政府は一体何をしてきたのかという問題について、患者さんたちの中からもそういう点での非常に激しい批判がございました。これは政府が、現行医療法あるいは特別措置法によって、先ほどの説明によって手厚い保障をしていくというようなことに言っておりますけれども大臣自身が認めておられたように、これは一定の限られた被爆者に対する措置でありまして、今後これでいいなんというものでないことはあなた自身も認められておるとおりであります。特別手当の問題であるとか、あるいはまた、この特別手当の問題を見ましても、受給者はわずかいま千八百五十三人、これは四十八年度末であります。この原爆の調査団の一員として私はいろいろ被爆者から切実な要求を聞いてきましたけれども、その中でこういうことを言っておられた方があります。「私たちに対する健康管理も生活の保障もありがたく思います。しかし、腹が立つのは政府に情のないことです。一度だって私たちに悪いことをしたと謝ったことがありますか。死んだ私たちの遺族に対してお墓一つを立ててくれたことがありますか。」という言葉でした。私はこの言葉が非常に印象に残っているわけであります。現在生きておられる被爆者、またきょうも傍聴に遠く来られている方もありますけれども、そういう方々が体の苦しさあるいはまた経済的な苦しさということで、三十年間言うにたえない精神的な苦痛を味わっているということをこのはだで感じてまいりました。被爆者の中で現在六十歳以上の人はすでに三五・四%、三人に一人がもう老人になっているわけであります。したがって、後数年もたてば亡くなっていく方がどんどんふえる、こういう状況にあるわけであります。したがって、これまで苦痛の三十年を送ってこられた人々にいわゆる魂のある、情のある政治、こういう施策をとる必要があるんじゃないか、私はこう思うのです。いま踏み切れないとあなたは言われたが、国家補償の立場に立つ援護こそが、被爆者の方々のこの三十年の苦しみから何としてもそれを実現してほしいという一番大きな叫びなんです。したがって、どういうわけで踏み切れぬのか知らぬけれども、そこを踏み切ってほしい。それがことし三十周年を迎える被爆者に対する政府の情のある姿勢ではないか。  再三ここでも論議されておりますように、戦傷病者とかその遺族、いわゆる一定の国の戦争に参加し、特定の身分関係のある者だけに国家補償、そういう立場からいろいろな施策が出されておりますけれども、こういう中でなぜ原爆被爆者に対して、遺族に対して弔慰金の支給とかあるいは遺族年金の支給などをされないのかどうか、こういうことは被爆者だけではなくて、私は、国民が最も当然引き起こしてくる疑問だと思います。そういう点で、私は、原爆被爆者に対して厚生大臣として率直にこの罪の償いというものを表明していただきたい、こういうふうに思います。
  287. 田中正巳

    田中国務大臣 原爆被爆者に対する情のある、魂のこもった施策をせよ、こういうことでございますが、私どもとしては、このいままでやってきた二法並びにそれの拡充強化というもの、どうもそれでは情のある施策にならない、魂のある政治にならないという御評価をいただいていることはまことに残念でございます。しかし、われわれも決して原爆被爆者に対しこれを放置しておったわけではございません。他の一般戦争犠牲者と切り離しましてこうした特別の施策を進めてきたことについての評価が全くないということになりますれば、私どもとしてはまことに残念であります。ことに私は、さっき申しましたように、この二法の制定に熱意を燃やし、また心からあの被爆者に対してお気の毒であるというふうな気持ちから今日までこれを手がけてまいってきたわけであります。それが不十分であるというふうなおしかりもあることはわかりまするけれども、これを全部没却されることは、私としては耐え切れないことだというふうに思うわけであります。事実、私はあの両県に参りまして、被爆の実態、そしてまた——私、実は妙なことで、これは政治家としての経験じゃございませんが、被爆二週間後に長崎市に入りまして、相当な実は、これは普通のサラリーマンでございましたが、他の所用がございまして入って、生々しい場面を見ておった上に、国会議員としてあの両県に参り、皆さんの声を聞き、またあそこのいろいろな展示物を見て私は心を打たれまして、いろいろとこのことについて努力をしたところでございまして、これ以上施策を進めていく必要がないとはさっきから申しでおりませんが、援護法をやらないから政治の上に情がないというふうに断定なさることについては、いろいろな見方があろうかというふうに思います。
  288. 石母田達

    ○石母田委員 それは言い抜けなんですよ。いま野党四党案と政府の一番の大きな違いは、国家補償の立場に立つかどうか。先ほど大蔵省が所得制限の問題をやったときに、社会保障の立場だからと、こう言ったでしょう。     〔委員長退席、葉梨委員長代理着席〕 被爆者が要求し、私ども四党案として出されているのは、そういう立場じゃないのです。法案が根本的に違うのです。それは、何といっても、あの戦争を起こした責任、これからいったって、これは国民に責任はない。ましてや被爆者に責任があるものではないでしょう。そういうもとで戦争が引き起こされて、そうしてあのような原爆投下というような悲惨な事態に遭った。そしてサンフランシスコ条約でその賠償を放棄したのは日本の政府なんですよ。それならば、国家補償を要求する権利を持った政府がそれを放棄したとすれば、政府がかわって被爆者に対して補償をするのは当然のことだ。それはこの国家補償の立場に立てばどういう点か違うかということ——この四党案というのをあなた、よく読んでないのじゃないか。その思想に立つということは、実際の施策において違うのですよ。  たとえばこの四党案によれば、まず遺族年金の支給をする、それから被爆者年金も支給します。いま年金じゃないでしょう。大臣、これ知っていますか。そうして医療手当及び介護手当の支給についても、まあその当時、去年の提案の内容ですけれども、月額二万円の範囲内で医療手当、月額六万円の範囲内での介護手当、あるいはまたこの中には、はり、きゅう、マッサージもあわせ行えるような別途指針を出して、そうして健康管理及び医療の給付を全額国庫負担でやるんだというような、現在の施策とは比べ物にならない、被爆者にとってきわめて積極的な施策が出るというのは、その根本は国家が補償するという立場に立つことから出てくるのですよ。そういうものをいま四党が出し、自民党だけがこれに反対しておる、また政府自身も踏み切れないでいるということのためにこの四党案が実現しないでいるわけです。したがって、先ほどから、この被爆三十周年に当たってそれを大きく踏み切るべきじゃないかということを私が言っているのです。いままで何もしてこなかったとかなんとか極端な論議を言っているのではないのですよ。その国家補償の立場で当然やるべきことをやってこなかったのだから、これで大きく前進すべきじゃないか、踏み切るべきじゃないかということを言っているのです。大臣、どうなんですか。
  289. 田中正巳

    田中国務大臣 戦争を引き起こした責任についていろいろ申しますが、これについては国民一般がこうした被害を受けているわけでございまして、それなるがゆえに非常に幅の広い戦争犠牲者、極端な意味では、当時のほとんどの国民が戦争によるところの犠牲を受けているわけでございます。さればこそ、具体的にいろいろな戦争による被害を救済せよという声が国民の間から出ているわけでございまして、今日までこれについていろいろ検討をいたしましたが、原爆被爆者につきましては、健康上、肉体上、特別な環境にあるというところが他の戦争被害者とは違うという一点に着目をいたしまして、原爆被爆者だけはこういうことだから違うんだということで、他の戦争被害者に対して私どもは施策をお断り申し上げて、これについて二法をもってやっているわけでありまして、そうした観点からやっているわけであります。  国際法上の問題についてのお話がございました。私も存じております。当時、戦時国際法における不法行為の賠償責任は、たしか国対国という取り扱いだっただろうと思います。そうすれば、日本政府が米国政府に対し、いわゆる戦時国際法違反の損害賠償責任、まあ無差別爆撃などというものも、私の知る限りでは、いわゆる戦時国際法の違反でありますが、それは問わないといたしましても、このような典型的な非戦闘員に対する攻撃というものは戦時国際法違反であるということで、一応国際法上は、私は、日本政府が米国政府に対して損害賠償請求権を持つということになるだろうと思いますが、これは先生御案内のとおり、いまお話しのとおり講和条約で放棄をいたしました。そうなりますれば、あとは国対国の賠償責任が消滅をいたすということになると、個人対政府といったような問題については、これはあくまでも政策の範疇に属するものだというふうに考えられまするから、これについては下級裁判所でございまするが、裁判の判決もございますので、したがってこの法律論上からは、私は、賠償責任とか国家補償責任といったような問題は出てこない、この点からはもっぱら政策上の選択というふうな観点で処理をいたすべきものであろうというふうに思っているわけであります。
  290. 石母田達

    ○石母田委員 あなたはいま法律上からもそういう結論出てこないと言うけれども、あなたはどの点を言っているか知らぬけれども、いわゆる原爆裁判判決というのがありますね。昭和三十八年の十二月七日下田隆一ほか四名が国を被告として損害賠償を請求した併合訴訟事件であります。この判決文がここにありますけれども、この中でこういうことがあるのを知っているでしょうか。「人間の歴史始って以来の大規模、かつ強力な破壊力をもつ原子爆弾の投下によって損害を被った国民に対して心から同情の念を抱かない者はないであろう。」そうして以下、「戦争が発生した場合には、いずれの国もなるべく被害を少くし、その国民を保護する必要があることはいうまでもない。このように考えてくれば、戦争災害に対しては当然に結果責任に基く国家補償の問題が生ずるであろう。」こういうことを判決文の中に書いてあるんです。そうしてしかしながらこういう問題は「裁判所の職責ではなくて、立法府である国会及び行政府である内閣において果さなければならない職責である。しかも、そういう手続によってこそ、訴訟当事者だけでなく、原爆被害者全般に対する救済策を講ずることができるのであって、そこに立法及び立法に基く行政の存在理由がある。」ということを判決文では明確に書いてある。そして「終戦後十数年」というのは三十八年です。「十数年を経て、高度の経済成長をとげたわが国において、国家財政上これが不可能であるとはとうてい考えられない。われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである。」と、これがあなたの言ういまの裁判所の判決の内容に書かれている、判決にまで現在の被爆者に対する政治の貧困が明記されている。そういう事態の中で法律上何も問題はないんだというような、うそぶくような厚生大臣では、まさにこれは踏み切るどころか、これの障害になるんじゃないかと私は思うんであります。こういうふうにまで書かれている問題について、本当にいまこそ政府がこうした問題について真剣に検討するということなら別ですが、ふん反り返ってそれを踏み切る気にはなれないんだ、いままで何もやらなかったんじゃないじゃないか、こういう言い分は、私はあなた、被爆者に対してそういうことを厚生大臣としてどういう顔で言えるのか。  ここにもう少しあなたの認識を深めるために、こういう文章があるんです。厚生省ですよ、あなたたちの方だ。国立予防衛生研究所の長崎支所の所長のこれは河本定久、こういう方の「原爆後障害について」という文章があるんです。これは私、もらってきたものですが、「被爆時、小児であった方々を調査しました結果では、成人期になった現在、原爆当時十八才未満で近距離で被爆された方々には身長、体重とも低く、放射線による成長の遅れが認められました。尚、原爆当時母親の胎内で被爆された胎内被爆者は昭和三十一年から昭和四十年まで調査いたしましたところ、妊娠十八週未満に、近距離で胎内被爆した方々のうち、特に高線量を受けられた方々の中に頭囲が小さく、又、中には知能も遅滞している方もありました。又、胎内被爆者には身長、体重などの成長発育にも遅延がみられ、放射能の影響が認められました。又放射線が白血病、各種臓器の癌を誘発する事は決まっています。それで白血病は原爆後二年目から、発生例が増加し始め、昭和二十六年には発生率が最高に達し、昭和三十六年末までに千百六人の白血病患者が認められていますが、被爆時年令が十才以下であった方々に、その発生頻度が特に高いようでした。又、甲状腺癌、肺癌、乳癌も原爆放射線によって誘発されているようで、昭和二十五年から昭和四十七年までの調査によりますと近距離被爆者に多発しているようです。そして、癌の発生も又若年時、特に被爆時十才以下の小児期に被爆した人に多くみられるようであります。小児期に被爆された人には丁度これから癌年令層に達するのでありますから、今後益々健康管理に注意しなければならないと思います。」こういう人間の命にとって、原爆という被害を浴びたために一生こういう悲惨な状況に追い込まれていなければならぬ。これがあなたたちの方の厚生省の人がこうして報告しているんですよ。そういう被爆者に対して、あなたが、また政府がとっておられるというのは、余りにもこれは情のない政治だと言う方が一体無理なのか、それともこの患者の言うとおりなのかということになりますと、私は直接行ってきてつぶさに見てきましたけれども、全くこのとおりだと思いましたよ。  そういう点でぜひこの国家補償の立場で抜本的な改善について政府が再検討するよう、むしろ厚生大臣であるあなたが先頭になってそういう方向でやってほしい。すでに自民党の内部でも、そろそろ国家補償の立場でやらなければならぬなということで、紹介議員になった方もあると聞いております。そういう点で私はこれが皆無だと思っていない、自民党の中でも、自民党全部がそうだと思っていない。政府部内でも全部かどうかわからぬ。そういうことで、あなたがこの被爆三十周年において、そうした方向での検討のために大きな努力をされるように要望したいと思いますけれども大臣どうでしょうか。
  291. 田中正巳

    田中国務大臣 いまおっしゃったようないろいろなことがございますので、私どもは二法の拡充をやってまいったわけでございます。いまの判決についていろいろ御批判がありましたが、最後は、結局あれは政策の問題であるということを言っているわけでございまして、政策をどう選択するか、これは立法府なり行政府の問題であるというふうに思っております。決して私は、いままでこういうものをやったとかあるいは法律上どうだからと言ってうそぶいたり偉そうなことを言っているつもりは毛頭ございません。心情的には大変お気の毒だ、何とかしなければいかぬという気持ちで今日まで努力をしてまいりました。ただ援護法に入るか入らないかという点については、今日のところ私どものサイドではどうもその意見の一致を見ていないところでございまして、そういうことでございますので、二法系統の拡充強化をもって本問題に対処いたしたいというふうに思っておりますので、今後こうした二法関係の施策の充実については大いに検討、努力をいたしたいというふうに思っております。  援護法に進むべきかどうかということについては、御案内のとおり世間にもいろいろの議論もありますし、強い御要望もあります。党内にもいろいろな議論のあることを私は知っておりますので、そのことについて耳をかさないということではございませんが、ただいまのところは二法の充実をもって進むというのが政府部内の考え方でございますので、さような御提案を申し上げたわけであります。
  292. 石母田達

    ○石母田委員 提案者の立場からの発言だろうと思うけれども、これはこの間の四党案を出したときに、少なくとも社会労働委員会理事会では、自民党の理事も含めて、この国家補償の精神に立つ援護という問題については、一度決議文の案ができたのです。ところが出先ではよかったけれども、それがいわゆるあなたの方というか、政府部内か自民党のところへ持っていって、それで国対でどうにも承認がとれなかったということで返ってきたことを経験しているわけです。したがって、あなたのいまのは、いわゆる提案者の立場での政府の立場だと思うけれども、私は、田中個人としては、いま言った国家補償の立場に立つ援護というものに大きく踏み切っていかなければ、この被爆者に対する国の責任あるいは被爆者が望んでおられるような事態にはいかない、こういうことをはっきり申し上げたいと思うのです。しかし、これ以上あなたに聞いても個人的な発言をするはずはないだろうから、これはとめておきますけれども、肝に銘じておいてください。  さて、次の質問でありますが、あなたはいま非常に情のある政治もやっているんだと言われておりますけれども、具体的にいろいろの実例を見ますと、必ずしもそうではないということがあるのです。たとえば最近認定が非常に厳しくなったという話があるのですよ。被爆者がかかっている病気が原爆の影響に起因するか否かという認定制度なんですが、これは何かABCとかいうランクがあって認定しているという話を聞いたけれども、これは一体どういうことなんですか。これは局長で……。
  293. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 原爆症の認定の問題でございますが、御案内のように、被爆後二十九年とか三十年たってまいりましたので、原爆症であるという証明をするために必要な資料を集めたり証拠を集めたりすることがだんだんと困難になってまいりました。そこで、特に最近厳しくなってきたというわけではございませんけれども、最近はやはり差し戻しをしてさらに資料を集めていただくというケースが少しふえてきたように思われます。なお、従来の申請に対する承認率は八五・二%でございまして、決して低いものではないと思いますし、現に数%のものは差し戻しをして資料を集めていただいておるところでございます。  また、ただいまABCのランク等のお話がございましたけれども、原爆症と申しますか、原爆放射線による障害として独特というものはないわけでございまして、必ずほかの疾病でも起こってくるような障害であるわけでございます。そこで、おのずから関係の深いものとか浅いものが出てくるわけでありまして、たとえばがんの場合でも、白血病あるいは甲状腺のがんとか、そういったものは国際的にも放射線との因果関係が強く承認されておるわけでございますが、その他のがんになるとなかなかむずかしい問題が起こってくるということがあるわけでございまして、これについては原爆医療審議会の医学の専門の、しかもいろいろな科にまたがる多くの専門の方々に慎重に御審査を願っていただいておるところでございます。
  294. 石母田達

    ○石母田委員 はっきり言って、私ども厚生省から聞いているのだけれども、ABCランクで、Aは明らかに原爆に起因する、それからBは医学的にはっきりしない、Cは明らかに起因していない、こういうふうに大きく三つのランクに分けてあるというふうに聞いているのです。まあ最後はその審議会でやるんでしょうけれども、そういうふうに振り分けして、BやC、特にBなんかについては審議会に求める、こういうふうに聞いているんだけれども、実際の運営の仕方はそうなっているんじゃないですか。
  295. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのとおりでございます。
  296. 石母田達

    ○石母田委員 私、これは長崎へ行って長崎医大の教授に聞いたんですけれども、実際にはもう認定する基準がないと言うんですね。それは、長崎でも大体百何種類の放射線があったんじゃないか、そしてそのときにどのくらいの線量がはっと入ったかというのは、いまとなるとつかみようがないと言うんですね。ABCCが若干その直後にやって、あそこが一番データを持っているだろう。しかし全体から見ればそれは非常に少ないものだ。ですから、それが残っているものは、まあまあ後から見てこういう種類のものが残ったとか、いわゆる半減期といいますか、それの長いものとかそういうものはわかる。しかし、体内にどういう種類のものがその当時どのくらい瞬間的に入ったかということはつかみようがないんだから、そして出てくる症状は、これは原爆に起因すると出てくるのではなくて、あなたが言ったように、がんでも白血病でも一般疾病と同じような現象で出てくる。そうしますと、明らかにこれは原爆症に起因するんだと断定するものが、基礎がないんだと、こういうことなんですね。ですからこの四党案をつくるときに非常に苦労しましたのは、そういう事態の中で、被爆者という場合はどこかで線を引くといったってできないことをやるんだから、医学的にできないことを無理にやろうとすれば必ず問題があるんだ。ところが行政の立場から言うと、どこかで線を引かないとというような問題が出てくる。そこのところは、先ほどから再三言っている被爆者という特殊な問題医学上も解決できない未知の分野の問題でありますから、そうした特別な扱いをする必要があるんじゃないかということで四党案では認定制度を入れてないのです。そうしたところなんです。そういうことで認定制度そのものが不当なんだ。不当というとおかしいけれども、被爆者の実態から言うと合わないのです。これは私が言うんじゃなくて、その長崎大学の教授が言っていることなんですから。  そういうことから認定制度をあなたたちが設けて、しかもその認定の中で、これは個人にわたることなので住所までは言いませんけれども、ある病院からの資料でありますから、後でぜひ調べて善処していただきたい。こういう点なんです。  それは、沢村美知子さんという方がいます。この方は大正五年八月三日に生まれたのですけれども、昭和四十九年の五月に認定申請を出したわけです。ところがいまだにこれが決定されてない。一体どうなっているのかということでこの方からも疑問が出ているわけなんです。  それから、この認定が長くなっているために、不幸にも認定している返事が来ないうちに亡くなったという方もいるのです。たとえば秋本スエさんという方、この方は肺がんなんですね。それで昭和四十四年九月六日に申請を出し、決定されたのは四十五年三月四日。しかし秋本さんは四十四年の十三月二十九日にすでに亡くなっておるわけです。木村一さん、この人は白血病であったわけですが、昭和四十七年七月二十五日認定申請をして、同年十月二十一日認定された。しかしその間すでに亡くなっている。  こういう事態を見ると、被爆三十年で苦しんで、そうしてもう老い先短い、そういう中で認定の申請を出しなから——認定されるのですよ、されたのです。されたけれども、その前に亡くなったということによって認定によるいろいろな利益といいますか便宜、国からの施策を受けずに亡くなられたということを考えますと、この亡くなった人の立場を考えると、非常に私は残念でたまらない。あなたたちがこの亡くなった人のお墓の前で、認定されていましたからと言うのか。言えないでしょう。だからこの認定という問題そのもの自体が合理的にやれるものじゃないんだから、医学的に見てもそういうものをやること自体が原爆症というものについては無理なものを、それを設定した上にさらにこういう事態が起きているなんということは、本当にこういう人たちは死んでも死に切れない状態だと思うのですね。田中厚生大臣が言うように情けある政治というのだったら、こういうことを起こさないということで——これはまさに一、二の例なんです。ですから、いま挙げた人の問題、あるいは特にこれでは厳しく制限しているというようなことが言われておるので、この点については私は十分調査をしていただきたいと思うのです。それはたとえば同じ原爆白内障という病名でも、なっていない方があるのです。それから甲状腺機能障害、これも同じ病名なんです。ところがいま片方の人は認定されて片一方の人は認定されていない、こういう実態があるわけなんです。これはここに全部個人の名前もあります。ただ、私が国会でこの人たちの名前を出していいのかどうかということについてちょっと了解を得ておりませんので発表いたしませんけれども、一人大谷良恵さんという人だけ出しておきましょう。この方は原爆白内障です。この方は認定されているんだけれども、石田裁判では認定されてないでしょう。こういう問題が出てくる。これは認定されたものは発表しますけれども、認定されてない人については後でお知らせしますから、そういう認定が厳しくなっているとか、あるいは実務がおくれてそうした不幸な事態を招かないように、この点についてはまず大臣の方からきちんとやるように指示していただきたいと思いますので、大臣ちょっと……。
  297. 田中正巳

    田中国務大臣 認定についていろいろ問題があることを私も従来から知っております。当事者は自分は認定患者であるというふうに信じておるのですが、医学上の判定がそれと乖離をいたした、違ったということに対する不満というのを納得させることは容易ではないということは私もかねがね聞いておるところでございますが、いやしくも認定が必要以上に延びたり、あるいは特別に金の面からしぼるというようなことは絶対やってはならぬというふうに思いますものですから、したがって、できるだけ早くそして正確に患者さんの立場に立って認定をするように、これは今後ともしていかなければ制度が死ぬるということにもなろうと思いますので、その点はできるだけ血の通ったようにしたいと思います。何分にも長い期間たっておりますから、実際にはなかなかむずかしいという事情も聞いております。しかしさればといって、これをそのような口実でもってどうのこうのするようなことは、私はよくないというふうに思っております。
  298. 石母田達

    ○石母田委員 次に、先ほども再三論議されておりましたが、新設された保健手当のことについてお伺いしたいと思います。  これは、先ほどの説明では爆心地二キロの直接被害者ということは、二十五レムの放射線量を受けているということを根拠にしているそうですが、これは将来健康を害するおそれがあるというその配慮から支給されるものというふうに理解してよろしゅうございますか。
  299. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのとおりでございます。健康障害があらわれてくるおそれがある、したがってそれを予防し、健康の保持増進を図るために保健手当を差し上げるというものでございます。
  300. 石母田達

    ○石母田委員 そうしますと、将来健康を害するおそれがあると言えば、果たして二キロ以内だけなのかというと、やはり三キロの人にも四キロの人にもある。これは私も実際に行って、原爆病院に入院された方が全部二キロ以内かというとそうじゃないわけですね。現にここに広島市における健康管理手当の受給状況を調べたのがあるのです。それによりますと、広島市において一万四千五百三十六人の健康管理手当の受給者がいるわけです。このうち二キロ以内の受給者は六千三百九人となっています。つまり半分以下。半分以上が二キロ以上の人だということになりますけれども、まず、この数字がいいかどうか。これは、昭和四十九年五月末現在で、被爆距離二キロメートル以内の直接被爆者数が三万九千八百二十二人、そしてこのうちを年齢別に分けていまして、いま言った健康管理手当の受給者が二キロ以内が六千三百九人です。総数が一万四千五百三十六人ですから、それ以外は二キロ以上だというふうになりますけれども、この数字はどうでしょうか。
  301. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 ただいまの数字はそのとおりであると存じます。問題は、健康管理手当で見ると二キロ以内は半分以下ではないかという御指摘でございますけれども、現在の健康管理手当は原爆に関連のある疾患というような把握の仕方をしております。今回の創設されました保健手当の方は、近距離多量放射線被曝でこれからその放射線によって障害が起こってくるおそれのある方々というとらえ方でございますので、若干その角度が違うわけでございます。  そこで、一回の放射線被曝でどれぐらい以上被曝すればそういった危険があるかということになりますと、先ほど来るる御説明しておりますように、国際放射線防護委員会あるいはアメリカ合衆国の放射線防護測定委員会、さらに一般的な放射線医学上の経験、こういったものによりまして、二十五レム以上がそういう危険をはらむものであるという現在の通説を採用したわけでございます。
  302. 石母田達

    ○石母田委員 だからそこにぼくらから見るとトリックがあるんだな。病気にかかりやすいおそれがあるということで支給するものであるとすれば、病気にかかるおそれがあるのは二キロ以内だけじゃないんじゃないでしょうか。三キロの人だって四キロの人だってあるでしょう。そして、先ほども言ったのは、原爆の障害でなりやすい、まあ十の障害についてはというふうに健康管理手当はなっておるけれども、そういうデータであるけれども、しかし病気にかかるおそれがあるということでは、二キロ以内というふうに切るのはおかしいじゃないかということにはなるんじゃないですか。
  303. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 現に病気になってしまいますと、本当に原爆症であれば特別手当が出るわけでございます。原爆症とは言えないけれども原爆に関連がありそうだということで十の障害があれば健康管理手当が出るわけでございます。したがって、実際に健康障害の出た方はそういった手当をおもらいになればいいわけで、今回の新しい制度は、放射線の影響によってこれから障害が出てくるかもしれない、そういった方々を対象にしようということでございますので、健康管理手当等とは多少角度が違うとらえ方をしておるものでございます。
  304. 石母田達

    ○石母田委員 あなたは知っていて言っているのか知らないで言っているのか、それは議論から言うと健康管理手当と保健手当は違うものですよ。しかし、病気にかかるおそれがあるということから言えば——二キロというものはそれは二十五レムとは関連があるかもしれぬ、しかし二十五レムの線量を受けるのは二キロ以内だけかどうかというと、これはまたいろいろ論議のあるところなんですね。そういうふうにはなっていない。だから、病気にかかるおそれがあるものという趣旨で出されるものは、健康管理手当のものでさえこういう数字が出ているんだから、病気にかかるおそれがあるものを二キロ以内にやるのは、根拠が余りないのじゃないかということを私は言っているのです。  それでもう少し論議を進めて、あなたたち自身がすでに、線量がそういう距離というだけでは判断できないんだということを示した判決について、大体これは認めておられるんだろうと思うので出しますけれども、これは昭和四十九年の十月二十九日の東京地裁の出した判決なんです。これは被告は厚生省です。あなたたちです。原告が、昭和二十年八月六日広島において軍務に従事中原子爆弾に被爆し、昭和二十一年四月十日死亡した小林義雄ざんという方の奥さんで小林巴さんという方です。そして、結局この方が亡くなった直接の原因は発疹チフスだったのですね。発疹チフスであったけれども、やはり被爆が原因であるということを裁判所がこの判決の中で出したわけです。この論拠になっているのは「死亡原因は発疹チフスとされた。しかしながら、義雄が死亡した真実の原因は原爆病に起因するものである。」ということで、これを詳述している中で、「爆心地からの距離により放射能を規定し、その放射能から健康状態を規定する一般的な方法論については、次の点が問題である。」と言って、この「爆心地からの距離を基準にして受けた放射能の量が規定され、その放射能の量によってそこにいた人の健康が規定されるとすれば、当時広島にいた人の健康上の被害は爆心地を中心点として同心円的に重症から軽症へと移行することになるはずであるが、この方法のみでは広島の莫大な原爆による死者の数を説明することが困難である。右死者の数は二十数万人とされるが、これは当時の広島市の人口を四〇万ないし四四万とすると、その六〇ないし六四パーセントに当るのである。他方、致死量の放射線量が二・五ラドとすれば、これは爆心地より二キロメートル隔てた地点のそれであり、その区域は約三八〇万坪であるから、当時の広島市の全域が二、二〇〇万坪であったとすれば、その一七・三パーセントにすぎない。そうすると、当時の広島市全人口の六〇ないし六四パーセントに当る原爆死者が一七・三パーセントの市域に」住んでいたことになるが、こんなことはナンセンスだということで、現実にはそんなことはあり得ない、こう一つの論駁です。これはたくさんあるのです。そういう「四キロメートル以上はなれていても脱毛症状など身体障害が生じた人もいる。」ということで、厚生省の被爆者実態調査報告参照というふうにして、政府のあなたたちが調べたことも挙げられています。そして結局「放射能の強さの等しい点を結ぶと、爆心地から同心円とは必ずしもならないのである。地形、風向、降雨量その他の条件によりその地点の放射能は左右されるのであり、また、各人の身体、生命力の強弱等の個人差によっても被爆の影響度は相違するのである。」ということで、いわゆる二キロメートル以内が病気になりやすくて、あとはかかりやすくないのだというような単純な根拠のないことは、こういう判決によっても出されているし、あなたたちはこれに控訴しなかったのでしょう。しなかったということは、政府としては大体これの判決を了承していることでしょう。  そういうことになりますと、先ほどだれか質問していたけれども、いわゆる予算の、金の面からの制約で、これはここに引けば人数からいって何分の一になるのだけれども、しかしやはりこういう保健手当を出す、しかも情のある政治をやると言うのなら、被爆者にこれを渡すというふうになぜしないのか。それをわざわざ二キロメートルなんて余り根拠のないところでやって、一部の人たちだけにやる。いま被爆者の方が一番不満を持っているのは、被爆者の中にそういう壁をつくったり分断して、すべての被爆者に対して少しでもやってやろうという政府の姿勢がなぜ見えないのかということが、聞いてみると一番不満なんですよ。もちろん金の額もありますよ。ありますけれども、そこのところが被爆者の人たち政府の施策については一番冷たいと言っている点なんですね。こういう点で、この二キロメートルの根拠がどうのこうのなんということよりも、もっと広げて、いま言ったすべての被爆者にこうした施策を広めていくということについて検討できないのかどうか。こういう点で、大臣の努力を私は聞きたいというふうに思います。
  305. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 ただいま御提案のようなお考えも確かにあると存じますけれども、また実際面では個人差というものも幾分はございます。しかし大数観察をいたしますと、おのずから一つの傾向は出てくるのでございますし、また一回の被爆で障害が起こり得るという線量も現在の通説としては二十五レムとなっておるわけでございますから、今回は保健手当の基準として二十五レム、これを距離に直すと二キロということになったわけであります。     〔葉梨委員長代理退席、戸井田委員長代理     着席〕また、距離によって行政の区画を決めていくということは行政運用上もある程度やむを得ないことでございまして、ただ漫然と全員に支給するということはできないわけでございます。  また、先ほどの援護法に係る裁判の判決の問題でございますけれども、これは一般的な人道的な見地から援護局としては控訴しないという方針を決めたわけでございまして、医学的、科学的に厳密に申しますと、その判決についてはやはり種々の意見が出てくるところではなかろうかと考えております。
  306. 石母田達

    ○石母田委員 これは大臣、保健手当というのは前進であるというふうに私どもも評価をしておりますよ。しかしそういう二キロでやるということは、先ほどあなたが言われた情のある政治ということから言うと、やはりこれをすべての被爆者に広げるという点での今後の努力が必要なんじんゃないかということを私は言っているわけなんです。あなたは盛んに情のある情のあると言っているのだが、せっかくこの保健手当をつけたんだから、これがさらに年金というところまでいけばなおさらいいということになるわけですよ。ですから、そういう点でぜひこの点での努力をしてもらいたいということです。  あわせてもう一つ、これは先ほども質問がありましたが、所得制限の問題なんですよ。神奈川県の原爆被災者の会が、健康管理手当受給促進のための調査ということで昨年の十月一日から調査をしまして、約三百八十名の方々の調査の中間報告なんですが、これで見ますと、健康管理手当が支給されていることを知らなかったというのがまだ一三・七%もあるのですね。徹底しているようでもこれだけある。しかも健康管理手当をもらっていないという理由の中で、病気は当てはまるが所得税が八万以上でもらえないという、いわゆる所得制限にひっかかっているのが百五人で二七・六%あるのですよ。これは考えてみる必要があるのじゃないか。やはり情のある政治ということならばこういうところまで、先ほどの大蔵省の所得税云々でこれは社会保障だから当然所得制限がつく、ああいうものであればこれは行政だからみんなそうなりますよ。そこのところを被爆者という特殊な条件を考えて、特にこの中で、全然所得のない高齢者の扶養義務者の制限で受給できない者の率が高いと言われているのですから、こういう点は私は検討していく必要があるのじゃないかと思う。これは一体どうなんでしょうか。
  307. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 確かに本年度の所得制限の緩和は適用率八五%で、あるいはまだ低いということかもしれません。しかし四十九年度に比べれば八〇%から八五%に引き上げた、大いに努力をしたつもりでございます。従来もやってまいりましたけれども、この所得制限の問題につきましては原爆特別措置法は特殊な制限方式も採用いたしたりしておりますので、他の年金その他の制度の所得制限の制度ともよく比較検討しながら、今後も慎重に検討を進めていくべき問題ではないかと考えております。
  308. 石母田達

    ○石母田委員 大臣にも一言その点について。これで見ると本人が三十人、配偶者が三十人、扶養義務者が四十五人なんですよ、つまり所得制限にひっかかる率がね。そうすると、扶養義務者でひっかかるということになりますと、いまの日本の家族構成から言ってこれは非常に気の毒なんで、この点は大臣にも一段の努力を願いたいということで、私は大臣の答弁を願いたいと思うのです。
  309. 田中正巳

    田中国務大臣 さっきから二点私に質問があったのですが、立ち上がる機会がございませんでした。  一つは、今度の保健手当、二キロメートルということでございますが、これはいまのところは全然健康に支障のないという人に、今回手当を六千円ですが、とにかく出そうということに踏み切ったわけでございます。したがいまして、二十五レムという一応の国際基準を標準といたしまして、この範囲内におった、そして被爆を受けた人については、いまどういうこともないけれども差し上げようじゃないかというものでございますから、これについてはいろいろと御議論もあろうと思いますが、しかし今日のところは、全然いまのところどういうこともないという方に差し上げる手当といたしましては、こうした原爆の被害を直接受けたというプロバビリティーの高い範囲内の方々に限定をしたということについては、一応御理解を賜りたいというふうに思うわけであります。  所得制限につきましては、これが特別な施策でございますので、したがって普通の扱いをいたすことはいかがかと、かように私は思っております。しかし、さればといって、これには若干所得保障的な一面もあることはあるのでございますから、したがって、全然所得制限を設けないということになれるかどうかということについては実際問題として疑問がありますが、できるだけひとつ所得制限については緩和をするようにいたすのが正しいのではなかろうかと思っております。今後努力をいたしましょう。
  310. 石母田達

    ○石母田委員 もう一つ、情けある政治のところで、長崎の原爆の病院の患者から頼まれた、細かいことかもしれませんけれども、人工肛門袋ラパックというのがあるんだそうです。これを一枚五十円、一日四枚使う。また紙おむつ、三十円を三、四枚使う。国、県から補助をしてほしい、または保険が効くようにしてほしい。これは一般の問題については寺前さんがこの間国会で質問して、善処されているような話なんだけれども、日赤の病院なのでこういう点の要望についてはどんなものであろうか、ぜひ善処してほしいと思うのですが、どうでしょうか。
  311. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 このおむつ等の支給の問題は、患者さんにとってはなかなか大きな費用負担の問題でございますし、また医療保険の制度にいたしますと、従来のいろいろないきさつがございまして一気に踏み切れないような面があるようでございますけれども、今後ともその改善に向かって努力をいたしますとともに、地元の県や市からの助成、さらに原爆対策で支給しております手当等の増額といったことで、こういった面の改善も図ってまいりたいと考えております。
  312. 石母田達

    ○石母田委員 ぜひこうした患者さんの切実な声にこたえていただきたいと思います。  さて次は、私、ABCCの再編の問題について質問したいと思います。  これはことしの四月一日付で放射線影響研究所というふうに名前を変えたということは、先ほども言われました。まず、昭和三十六年八月十七日、当時の日本政府外務省松村慶次郎氏からABCCに寄せた十七項目の質問に対するABCC総務部長のM・E・ラパポートの回答がここにあるわけです。この中に「ABCCは、米国原子力委員会によって代表される米国政府と米国学士院の間で締結された契約第AT−四九−一−GEN−七二号に基づいて資金を供給され、業務を運営する。ABCCの不動産施設……主要備品も米国政府が所有するものである」というふうに言われております。この契約第AT−四九−一−GEN−七二号というのは、何かマル秘扱いにされている文書だというふうに聞いておりますけれども、この点について、外務省の方いますか。
  313. 深田宏

    ○深田説明員 ただいま先生指摘になりました米国原子力委員会と米国学士院との間の契約書AT−四九−一−GEN−七二でございますが、この文書の性格はあくまでも米国原子力委員会と米国学士院、アメリカの政府機関と準政府機関と申しますか、クエーズアイ・オフィシャル・エージェンシーの間の契約書でございまして、いわばアメリカ側の内部の文書でございます。したがいまして、それを私どもの方で公表というようなことは余り適当でございませんので、内々の扱いをしておる次第でございます。
  314. 石母田達

    ○石母田委員 それは日本の政府の方で内々扱いにしているのか、それとも、アメリカの中でも当然のこととして極秘扱いとか何かそういう特別な扱いにされているものですか。
  315. 深田宏

    ○深田説明員 本来アメリカ側の内部の書類ということを申し上げたわけでございまして、アメリカ側でこれを極秘扱いということで特に取り扱っておるというふうには承知いたしておりません。
  316. 石母田達

    ○石母田委員 その前文にこういうことが書いてあるのですね。「一九四六年十一月二十六日米国大統領は、契約者が」——というのは米国学士院がですよ、「政府機関の協力を得て、原子爆弾の人体に及ぼす生物学的ならびに医学的影響について長期的継続的研究を行なうよう要請した海軍長官の勧告を承認した」こういうふうに書いてあります。また、本文の中に、「本契約は一九四六年の原子力法にもとづいて社会全般の防衛と安全のために取り決められる」というふうに書いてありますけれども、私の訳はこれでよろしゅうございますか。
  317. 深田宏

    ○深田説明員 ただいま御指摘の契約書の性格については先ほどお答え申し上げたとおりでございます。したがいまして、これはアメリカ側内部の文書でございますから、それにつきまして私どもの方で権威をもって御説明するということはできないわけでございますけれども、その前提のもとで御答弁させていただきますと、ただいま先生指摘になりましたような内容がこの契約書の中に入っておることは事実でございます。
  318. 石母田達

    ○石母田委員 すると、この契約に基づいて運営されていたABCCというのは何年までですか。その後AT(三〇−一)−七二に変わったということだけれども、これはいつまでこういう契約に基づいて運営されていたのですか。
  319. 深田宏

    ○深田説明員 私ども承知いたしております限りでは、この原子力委員会と学士院との間の最初の契約は、昭和二十三年四月十三日に結ばれておりまして、その後数回にわたって改定を見ておるようでございます。最後の契約は一九七〇年、昭和四十五年十月一日に発効したものであるというふうに承知いたしております。
  320. 石母田達

    ○石母田委員 そうすると、昭和二十三年から四十五年まで、若干改定されたけれども、いまの契約で運営されて、そしてその後はAT(三〇−一)−七二というふうな契約に変わったということになりますか。ここに米国原子力委員会と米国学士院との間の契約書というのがありますけれども、これがその後に変わったものですか。
  321. 深田宏

    ○深田説明員 先生指摘のとおりでございまして、ただいまおっしゃいましたAT(三〇−一)−七二というのが昭和四十五年十月一日に効力を生じております。
  322. 石母田達

    ○石母田委員 ここに三つの文書があるのです。米国原子力委員会と米国学士院との間の契約書付属C、それから米国原子力委員会と米国学士院との間の契約書付属B、それから米国原子力委員会と米国学士院との間の契約書でAT(三〇−一)−七二改訂ナンバー六一、これは先ほどの契約と同じような取り扱いですかね。そのほかにもう一つAというのがあるから、A、B、Cといま読んだのと、四つあるわけですね。この四つの文書というのは、少なくともABCCは、四月一日以前まではこの契約で、七〇年十月一日からこれに変わって運営されているというふうに理解していいでしょうか。
  323. 深田宏

    ○深田説明員 ただいま御指摘になりましたように、数字を繰り返すのは省きますけれども、契約の本体と付属のA、B、C、都合四つの文書から成りますこれ全体を契約と申しますか、こういうものが原子力委員会と学士院との間に結ばれておりまして、これが、アメリカ側から見ますときに、四月一日に解消いたしましたABCCの活動の根拠になっていたというふうに了解いたしております。
  324. 石母田達

    ○石母田委員 今度の財団法人放射線影響研究所の設立に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の交換公文がここにあります。これを見ますと「日本国政府及びアメリカ合衆国政府は、両国の関係者の平等な参加の下に管理運営される「放射線影響研究所」が日本国の法律に準拠した財団法人として千九百七十五年四月一日を目途として日本国に設立されることが、委員会及び予研が協力して行つてきた平和目的のための放射線の人に及ぼす医学的な影響及び放射線により影響を受ける疾病に関する調査研究活動を更に促進するため望ましいと認め、両国の関係者によるその設立を促進するためそれぞれの政府の権限の範囲内において必要な措置をとる。」というふうにしているわけです。そうしますと、四月一日のあり方については、先ほど大臣は今後の検討だと言っておられましたけれども、ABCCの基本的な性格ということからすれば、この交換公文でなされたものが基本になるというふうに理解してよろしゅうございますか。
  325. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 そのように理解してよろしいと存じます。
  326. 石母田達

    ○石母田委員 局長、あなたは先ほど、治療しないということは少なくともアメリカの意思ではないということを言ったのです。あなた、こういう文書を知っていてそれを言ったのか、あるいはこれが極秘扱いにされていたということで、知らないからそういうふうに聞いていたというのか、もう一度はっきりとこの国会の場で言ってください。
  327. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 その米国内の契約については、私は詳しくは存じませんでした。先ほど御答弁いたしましたのは、一般的に日本国内においてABCC発足以来言われてきたことについて申し上げた次第でございます。
  328. 石母田達

    ○石母田委員 だから、知らないことをここで知ったふりをして言うと大変なことになるのですよ。この契約に基づいてABCCは運営されてきている。しかも改定されたものについても、この基本的な内容は変わってないのです。したがって、最初の、一九七〇年まで運営されていた基本であるものは、その目的がどこにあるかというと、先ほど言った「本契約は一九四六年の原子力法にもとづいて、社会全般の防衛と安全のために取り決められる」これがアメリカ側の基本なんですよ。いいですか。ABCCはその運営と性格の基本がここにある。だから、だれかれは治療したくなかったとかなんとかということで言っているのじゃない。  もっと詳しく言えば、ここに先ほど言った「海軍省海軍長官室 ワシントン 一九四六年十一月十八日」として、大統領に出した海軍長官の署名入りの勧告がある。これが基本になっているのです。ですから、ABCCの性格なんというものは、こういうアメリカの政策によって明確に定められているのですよ。後の方のAT−七二というところではこの字句は削られていますけれども、基本的には性格は変わってない。先ほど読んだ交換公文の内容を見ても、基本的には「医学的な影響及び放射線により影響を受ける疾病に関する調査研究活動を更に促進する」というふうになっているわけです。ですから、四月一日以降の変わった後でも、少なくともアメリカの基本政策、基本的な態度、またこの交換公文にあらわれた内容から見ると、明確にいままでの性格を継承するということになるのではないか。この点で大臣は、これと別個に、全然離れた日本的な立場での運営のあり方というものが自主的にできる立場にあるのか、そういう点から、あり方は今後の問題だというふうに言っているのかどうか、この点について大臣からひとつ答弁してください。
  329. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 その点につきましては、私どもは、今後開催されます専門評議員会において慎重に検討され、また現場の、先ほども申し上げました被爆者などもお入りになりましたABCCの新法人の運営協議会のようなものの御意見も聞きまして新たに決定されると聞いております。
  330. 石母田達

    ○石母田委員 こういう契約に基づいてABCCは運営されてきた、今度の新しいものも交換公文に基づいて運営されるということをあなたたちは答えているわけでしょう。繰り返さないけれども、交換公文の先ほど読んだところを見ると、いままでのこうした契約を基本的に変えるような内容じゃないでしょう。そうしたら当然ABCCは、この契約に示されているような基本的な性格で運営されるのじゃないでしょうかと私は言っているのですよ。これは何も局長でなくても、大臣聞いていておわかりでしょう。大臣どうなんですか。
  331. 田中正巳

    田中国務大臣 ABCCの従来の性格についてはいろいろ御批判のあったところでございますが、いまの契約書等を見ますと、さらにこういったような批判が出てくるゆえんの一つというものもわかるような気がいたすわけでございます。しかし、今度はABCCは発展解消しまして、財団法人放射線影響研究所としまして日米共同管理のもとに日本の財団法人ということになりましたものですから、したがいまして、今後日本が一般的に指導監督権を持つことは民法上当然でございますので、こうした監督権等を通じ、またこうした契約がある中においても、運用を改めることについては私はある程度可能だろうと思いますし、今後政治的にはやはりこうしたわれわれの希望するような方向にこの研究所が運営されるような指導、努力あるいは交渉をしなければならないというのが、われわれの一般的な政治的な態度であってしかるべきものというふうに思っているということでございます。
  332. 石母田達

    ○石母田委員 もっとはっきり言うと、じゃ、こういう契約とか交換公文ということにとらわれることなく、政府としては自主的にあなたたちの考えているような運営の方向にやるということなんですか。
  333. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 私はそちらの交換公文の具体的な内容をよく存じませんけれども、先ほどお話のありましたような内容、また昨年十二月末の日米交換公文、これから見まして、たとえば治療をやってはいけないということはどこにも書いてないように思うわけでございます。研究を円滑に推進するために、必要があればそういう場合もあり得ると考えられるのではないかと私は思っておる次第でございます。
  334. 石母田達

    ○石母田委員 いいですか、このアメリカの原子力法に基づく防衛と安全、そういうものがこの契約の基本的な性格になっているのです。そういう目的からアメリカはABCCをつくったのです。これに基づいて運営されてきたのです。そういう性格のものなんです。そういう直接の字句はなかったけれども、基本的な性格や目的は繰り返さないが、それが一九七〇年の十月一日のこのATの改訂ナンバー六一号のところに書いてある。これは基本的には変わっていないのです。それで、これはいままでは未公表であったからあなたたちは知らなかったと言うのですね。しかし、先ほど私が読んだ日米交換公文は知っているのでしょう。それに基づいてやるのだというから、日米交換公文でもこの基本的な性格は変わっていないじゃないかと私は言うのだ。そうだとすれば、四月一日以降の問題の基本的な性格、いわゆる米国の戦略的目的に従属するような機関という基本的な性格はどこで一体変わっているのか、いまから変えようというのかどうかという問題を私は質問しているのです。
  335. 深田宏

    ○深田説明員 先ほど先生がお読みになりました日米間の交換公文第一項でございますが、そこに「委員会及び予研が協力して行ってきた平和的目的のための放射線の人に及ぼす医学的な影響及び放射線により影響を受ける疾病に関する調査研究活動を更に促進するため」云々ということが書いてございまして、基本的な目的が平和的なものであるということはきわめて明確であると存じております。  また、新しい財団法人と米国学士院との間に本年四月一日に締結されました契約書におきましてもこの点は明確でございまして、放射線の平和利用、平和目的という言葉が出てまいっております。その意味におきまして、私どもといたしまして、新しい財団法人の性格が非常にはっきりしておるというふうに考えております。
  336. 石母田達

    ○石母田委員 あなた、はからずもまた読み直してくれたから、より明確になってきたのです。いままで、「四月一日を目途として日本国に設立されることが、委員会」つまりABCC、「及び予研が協力して行ってきた」——つまりいままで行ってきたんだ、過去のことを言っているのですよ。「平和的目的のための放射線」云々と書いてある。その行ってきたのは一体何かというと、この海軍長官の勧告に基づいて、いわゆるアメリカの安全と防衛ということを基本にした——これをただ平和的目的という字面で言っているんじゃないのです。いままでやってきたことがこういう性格であったということがこの文書によって明らかになっているんだ。そういういままでやってきた平和的な目的という字面でなくて、読みかえればアメリカの安全と防衛のための研究調査ということは変わってないじゃないか、交換公文でも「行つてきた」ということになれば。より明確になっている。継承されているというふうに理解するのは日本人なら当然のことでしょう。そうじゃないですか。何遍も言うけれども、ABCCでやってきて、四月一日から放射線影響研究所になるけれども、それはいままで「行つてきた平和的目的のための」云々、こういうことをやるんだ、そのいままで「行つてきた平和的目的」と称するものの基本が、きょう初めて国会で公表されたこの文書によれば、アメリカの安全と防衛だ、これが基本だということになれば、アメリカの戦略的な機関に従属したそういう性格を一体どこで変えるのか。これから変えるのか、どうして変えるのか、それを言っているんですよ。
  337. 深田宏

    ○深田説明員 財団法人の寄付行為、第三条をごらんいただきますと、「この法人は、平和的目的の下に、放射線の人に及ぼす医学的影響及びこれによる疾病を調査研究し、原子爆弾の被爆者の健康保持及び福祉に貢献するとともに、人類の保健の向上に寄与することを目的とする。」と明確にうたわれてあるわけでございまして、これが新しい法人の基本的な性格であるというふうに御理解いただきたいと思います。
  338. 石母田達

    ○石母田委員 いや、それはこの契約書が、そういういうものが未公表のときには私もうっかり、ああそうか、書いてあるものがそうだからと……。ところが、日本人は余りにもそういうことにだまされ続けているから簡単に信じないようになっているんだよ。  じゃ、あなたたちの言う平和目的というのはアメリカはどういうふうに考えているかというと、ジェームズ・フォレスタルの署名で米国大統領にあてた一九四六年十一月十八日の文書では、この勧告に基づいてやったものであることは先ほど言ったとおりですが、その中にこういう字があるんだよ。「その研究は現に人類一般の問題であって、単に戦争におけるばかりでなく、平和産業や農業に予測される問題にも、関係がありますから、」云々というふうに書いてあるんですよ。つまり戦争だけではない、平和の方にも影響があるんだ、だから研究するんだというようなことが書いてあるんです。  だからこの「平和的目的」ということは、字面で戦争のためにやるんだ、軍事的目的だなんていうことは言わなくたって、実際の問題としていま核兵器の持ち込みの問題、核戦争の問題が問題になっている中で、当然この放射能という問題は軍事的な問題でもこの研究は重要な問題になっているんです。そうでしょう。もちろん平和産業においても放射能の問題はあります。しかしアメリカの防衛と安全ということになれば、平和というのも——戦争だって全部平和のための戦争だって言うんだ。侵略のための戦争をやろうなんていうところはどこだってないのですよ。みんな平和と安全のための戦争、武力的な手段だ、こう言うわけでしょう。だから「平和的目的」云々だとかいうことが書いてあったとか、福祉が書いてあったとかいうのは問題じゃないんだ。こういう一連のものをいま言った字面のように変えるというなら、こういうものの契約だとか交換公文にとらわれないで本当にその字面のとおりやるというんだったらやりなさいと言うんです。それがいまの交換公文に基づいてとか契約に基づいてということになれば、これはいままでの戦略的な従属機関からの性格は抜けられませんよということを言っているんです。だからこの点はもう外務省の範疇じゃないから、外務省の人からいろいろ説明を聞かなくたってこっちはそんなことは読んでいますよ。これは大臣の、日本政府としての態度の問題ですから。
  339. 田中正巳

    田中国務大臣 背後にどういうことがあるか、余り私どもは存じませんが、私どもとしては、研究所の寄付行為に書いてあるこのとおり実行、運営すべきものであるというふうに思っておりますし、今後そういったような方向で指導監督をいたしていくべきものである、またそうでなければならぬ、こう思っております。
  340. 石母田達

    ○石母田委員 それと背反するようないかなる外国との契約あるいはまた交換公文なんというものにはとらわれないで、いまのことを実行する決意かどうかということをもう一遍聞いておきたい。
  341. 田中正巳

    田中国務大臣 そのとおりやります。
  342. 石母田達

    ○石母田委員 それでは次に移りたいと思います。  先ほどから出されている治療の問題なんです。治療、研究、調査の一体化ということを原爆の患者の人も県当局の人もそれから学者も皆言っているのですね。これはABCCでなく、ほかでもあるのです。これが非常にばらばらなんだね。これは私、長崎のことが主になるのですけれども、この問題について、わが党は昨年、こういうABCCなんかの資料とか建物を全面的に返還して、治療と研究の国立のセンターをつくったらどうかということを提案しているのです。これはぜひ検討していただく、その実現をぜひやっていただきたいということを提案しているわけですが、このABCCの再編成に関してのわが党のそうした提案、あるいはここに国会での要望があるのですね。昭和四十七年三月三十日に、これは先ほど質問した方でしょう、増岡博之議員、社会党田邊誠議員、大橋敏雄公明党議員、河村勝民社党議員、寺前巌、わが党の議員、この衆議院社会労働委員会の決議で、原爆被爆者特別措置法の附帯決議の第十項にこういうものがあるのです。「原爆傷害調査委員会(ABCC)と国立予防衛生研究所の協力関係について再検討するとともに、各省にまたがる研究機関及び民間医療機関が放射能の影響や治療についての研究を一元的に行ないうるよう促進を図ること。」こういう決議があるのです。  もう一つは、広島医療関係者の決議があるのです。広島大学学長の飯島宗一さん、広島県医師会長、あるいは広島大学の原医研の所長であるとか、同じ大学の医学部長さんであるとか、広島原爆病院の院長さん、こういう人々が集まって「ABCCの在り方を検討する会」を広島大学学長を座長にしてやって、「ABCC再編成に関する意見」とあるのです。それの四項目目に、被爆者主体の原則として「現状の長所は充分とり入れ、被爆者主体の原則にたって調査、研究、医療、福祉が結合するよう構成、運営さるべきこと。」ということで、福祉の問題が入っているようですが、この医療、ここには治療の問題がそういう表現で入っているのだと思います。こういった問題、あと詳しくは読みませんけれども、決議やら医療関係者の意見というようなものについて、みんなが望んでいる調査、研究、治療の一体化という点で、特に国の治療に対する問題が非常に弱いということですね、先ほどからるる言っておりますが。そういう点でこのABCCの再編成に当たって、ぜひ治療という問題を大きく取り上げて、そして調査、研究、治療、つまり治療のための研究、治療のための調査というふうにして治療ということを中心にしませんと、先ほどから誤解があるとかなんとかと言うけれども、誤解じゃないのですよ。アメリカの安全と防衛のためにやってきたABCCで治療なんて言ったら、みんなモルモットにされるのじゃないか、これは向こうがそうなんだから。もし先ほど大臣が言うようなことを前提とするならば、治療のための研究、治療のための調査というふうになる。そして当然治療もやるというような一体化——とにかく科学か発達し、医学も発達したと言われている現状において、いまの被爆者のこういう気の毒な病状をこのまま放置することはできない、こういう点でとにかく治すということに全力を挙げることを基本に、被爆者の立場に立ってそれぞれの調査も研究も進めるという点で、くどいようですけれども調査、研究、治療の一元化、一体化というこの国会での要望、決議をもう一度ABCCの再編成に当たって取り入れるよう大臣に要望したいと思うのです。
  343. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 まず一元化の問題でございますが、技術的にはABCCの新法人だけでやるという点では、人的、物的面でいろいろ問題もあろうかと思います。したがいまして、大学、大学付属病院、原爆病院、また大学の研究所、そういったところとの合理的なシステムの設計も考えてまいりたいと存じますけれども、基本的にはABCCの新法人においては、やはり被爆者の福祉を基本にして調査研究を進めていくように私どもは大いに努力しなければならないと考えておりますし、すでに日本側の役員等とはそのような話し合いも始めておるところでございます。
  344. 石母田達

    ○石母田委員 それから、これは私どもの意見じゃないのだけれども、何か放射線影響研究所という名称について、日本放射線影響学会というところの要望書を見ますと、これではいわゆる放射線といっても、これは原爆だけの放射線の影響を研究するとなるわけですから、それ以外の一般的な放射線を取り扱っている問題との混同もあって名称が適切ではないのじゃないかという点で、変更してほしいという要望書が出ていますね。これは厚生大臣あてにも行っていると思います。この新研究所の発起人会でも問題になって、広島、長崎あたりの学者から、あるいは関係者からも再検討の意見が出ているそうですけれども、この点についてはあなたたちはどういう考えなんですか。
  345. 佐分利輝彦

    ○佐分利政府委員 昨年の暮れ、日本放射線影響学会からそのような御意見が出てまいりました。そこで、去る二月六日の新法人の発起人会の席上で学会の御意見を資料として配り、いろいろと意見の交換をいたしまして、結論としては、新しい法人が発足した後、理事会で名称変更の問題はよく検討してもらおうということになったわけでございます。それを受けまして、先般四月十四日に第一回の理事会がございましたが、そこで日米双方検討いたしまして幾つかの案が出てきたわけでございますが、次期の理事会までに両方の態度を固めておくということになっております。
  346. 石母田達

    ○石母田委員 ぜひそれは検討してください。  それと、このABCCの問題ではもう繰り返しませんが、あくまでも被爆者を主体として、被爆者を単なる医学的な調査、単なる学問的関心とかあるいは不当な軍事的な目的の対象として扱うのじゃなくて、有史以来未曾有の戦争災害の被害者、世界で唯一の原爆被爆者という点で、被爆者の治療を中心とした運営をぜひ検討してほしい。そして原爆を落とした者、加害者が被害者の調査研究をするなんということは全く本末転倒でありまして、今後日本が主体的な力を持ってやるという先ほどの言明でありますから、あくまでもいま申しました字句だけではなくて、真に日本が主体性を持った被爆者の治療法確立のための被爆者の立場からの基本的な機関にしてほしいというふうに要望したいと思います。  最後に、私先ほど申し上げましたように、実はきょう四党案についての質問を予定しておったわけです。先ほどの事情で、ある党の意見で残念ながら見合わせられて、またあしたでも出れば四党案に対する質問もできるのでしょうけれども、私の持ち時間は残念ながらきようでございますので、先ほど出ましたけれども政府としてこの四党案について——まあここではいま議題になっておりませんけれども、参議院では当然出ているし、この中で、先ほど私どもが強調しましたように、国家補償の立場という問題とか、特にこの認定問題について制度問題としてはこれを設けてないというような問題。いろいろな施策については一番大きいのは何と言っても年金制度ですね。皆さん方も考え方としてはこの保健手当なんというのはかなりあれですけれども、いわゆる被爆者の生活と医療の保障ということで、生活として被爆者の年金あるいは遺族年金の支給という問題、それから特に医療手当、介護手当の支給、それから健康管理及び医療の給付で、健康管理の方は定期年二回ですね、それから随時二回以上の健康診断や成人病検査、それから精密検査を行うこととか、あるいは被爆者の負傷または疾病については医療の給付を行い、その医療費は常に国庫負担とするとか、先ほども言いましたように、はり、きゅう、マッサージなどは、放射能後遺症の特殊性も考えまして、ぜひあわせて行えるようにしたい。また二世、三世の問題に対しても、被爆者の子または孫で、希望者には健康診断の機会を与えるということで、そういう放射能の影響により生ずる疑いがある疾病にかかった者に対しては、被爆者とみなして健康診断、医療の給付及び医療手当、介護手当の支給を行う、こういうことが主な施策として述べてありまして、これは被爆者の方々の声もかなり聞きまして、そして四党が本当にかなりの長い期間にわたって慎重に審議して、逐条審議でつくり上げたものなんですよ。これが被爆者の念願であり、三十年を迎えた今日、何としてもこれを国会で実現しようという運動も国会の外にも高まっているという状況のもとで、ぜひとも政府としてもこの四党案に沿った方向での被爆者の援護について真剣に取り組んでいただきたい、こういうことをもう一度改めて大臣にお願いしたいと思います。この点についての大臣の見解をもう一度表明してください。
  347. 田中正巳

    田中国務大臣 石母田先生仰せのとおり、本院にはまだこれが提案されておりませんけれども、しかしいずれ参議院に参りますると、これとの対決法案という形で審議をしなければならぬと思いますので、野党四党の提案に係る法案についてもよく検討、勉強をいたして、対処をいたしたいというふうに思います。
  348. 石母田達

    ○石母田委員 最後に、私、委員長に提案がございます。それは、先ほど厚生大臣の方も現地の視察にできるだけの努力をしていきたい、こういう表明をされていましたし、また総理大臣にも、行けるようにいろいろ伝えたい、こういうことでした。私はこの社会労働委員会として、やはり広島、長崎というような被爆地に直接委員を派遣して、そして実際に現在一体どういう状況になっているか、あるいはまた関係者の、関係機関の視察を行うということについて、ぜひ委員長の方で委員会でそういうことができるようにしていきたい、こういうことを要望したいと思います。
  349. 戸井田三郎

    ○戸井田委員長代理 石母田委員の提案は理事会で諮って検討さしていただきます。
  350. 石母田達

    ○石母田委員 それはぜひ実現できるようにしていただきたいということを要望して、私の質問を終わります。
  351. 戸井田三郎

    ○戸井田委員長代理 次回は明二十四日木曜日午前九時五十分理事会、十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時四十五分散会      ————◇—————