○磯辺政府
委員 田中角榮氏及びその親族並びにその関連企業といわれている法人等に関します国税課税関係の見直しのための
調査につきましては、昨年の十一月以降
実施してきたところでございますが、このたび
調査を完了するに至りました。
この結果、全体として特に税務上に大きな非違は個人、法人を通じまして発見されておりませんけれども、ただ、所得
計算に当たっての誤りや税務当局の解釈との食い違いなどが見受けられ、その結果、是正を要すると認められた点につきまして所要の
措置をとることにいたしました。
この見直し
調査の内容、それから問題点、それに対する結論、そういったことにつきまして御
説明をさしていただきます。
まず第一に、
調査は東京国税局及び関東信越国税局が中心となって行い、
国税庁が総合調整並びに指導に当たりました。
調査に投じました人員は、その最盛期におきましては一日約二十名といったような人員でございます。
調査に際しましては納税者本人、法人の役
職員その他関係者の出頭を求めまして事情聴取を行うとともに、帳簿書類、物件の見取り図、公簿の写しその他の証拠書類の提出を求め、また必要に応じて現地
調査を行うなどをいたしまして、課税関係を判断するための基礎となる事実を的確に把握することに努めた次第であります。
なお、この場合、田中氏本人に関します事情聴取あるいは目白の私邸に対します現地の確認
調査等につきましては、当局の求めに応じまして税務
調査に必要な資料が提供され、また、
調査上協力を得なければ実情がわからない、本人に会わなければ実情がわからないといったような問題もなくなりましたので、本人に対する面接
調査あるいは目白私邸に対する立入
調査というものは行っておりません。
調査の対象としましては、個人につきましては、田中角榮氏のほか、その秘書、親族それから関係者等数名の
所得税及び贈与税の課税関係を中心として行いましたけれども、なお、
調査の過程で関連
調査の必要があると認められた人につきましても、逐次見直し
調査の対象といたしました。
また、法人につきましては、新星企業、室町産業、東京ニューハウス、浦浜開発、パール産業等の会社を中心として行いましたが、個人の場合と同じように、関連
調査の必要があることが判明したものや、これらの会社と関連が深いと判断されたもの約二十数社について、逐次
調査の対象といたしました。
調査の結果といたしましては、現在、個人、法人を通じまして事実関係の
調査は終了しております。その結果は、先ほど申しましたように、税務上全体として特に大きな非違は発見されておりませんけれども、所得
計算の誤りあるいは税務当局との解釈の食い違い、その他通常の税務
調査で発見される否認
事項等があることが明らかとなりましたので、これら是正を求めるべき点につきましては、それぞれ修正申告を徴しまたは更正処理を行うことにいたしております。
問題となりました点のうち主要なものについて、以下御
説明さしていただきます。
まず第一には、法人による資産取得が多額に行われているけれども、この実態は田中氏個人の資産の隠蔽等のために行われたものではないかという問題でございます。
それで、問題となった事案、各種の不動産、物件等につきまして検討いたしましたが、それぞれの資産の取得
資金が当該法人から
支出されております。また、その法人の
資金の出所も明らかであるというふうなことから、さらにまた、法人が資産を取得した後も、法人側におきまして法人の資産として経理されておるというふうなことから見まして、税務上は法人所有であることが明らかとなり、その法人名義の資産が個人のものである、法人格を否認してこれを個人に帰属させるということはできず、これは法人のものとして認めることとしております。
それから第二の問題としましては、田中角榮氏が関連企業からいろいろの経済的な利益を受けておるようであるけれども、それに対する課税関係はどうなっておるかということであります。
その具体的な例を拾い上げて申し上げますと、
一つには、田中角榮氏の目白にある邸宅の一部として使用しております東京ニューハウスの所有地でございますが、それにつきましては、税務で
調査いたしました結果、その使用の実態等から見てこれは東京ニューハウスが田中角榮氏に経済的利益を与えておるものだというふうに認定いたしまして、個人につきましては雑所得として課税し、法人につきましてはこれを寄付金として、限度
計算をやった上その限度オーバー分については課税処理をいたしました。
また、これは若干古い時代でありますけれども、
北海道宮の森の土地でありますが、それを田中角榮氏その他の方々に贈与したといったようなことが指摘されておりますけれども、それをさかのぼって
調査いたしましたら、当初登記名義の移転があったときに、田中角榮氏はこれを一時所得として申告しておるということがわかりましたので、税務上の問題はないと認めました。
それからまた、政治活動に従事しています使用人等の給与を関連企業において負担しておるという問題がありましたが、これにつきましては、当該法人から支払いましたその使用人に対する、従業員に対する給与というものを否認いたしまして、これを寄付金と認め、当該法人に対しての寄付金課税を行っております。
なお、関係者につきましても、これは田中角榮氏以外の関係者につきましても同様に若干の関連企業からの経済的利益の享受が認められておりますので、それぞれ経済的利益を享受した人たちに対しましては、給与所得または雑所得として認定して課税しております。
また、田中氏が使用しておられる東京ニューハウス所有の軽井沢の別荘の件でありますが、これは田中氏から応分の賃借料が支払われておりますので、経済的利益として認定、課税するということはいたしておりません。
第三番目には、田中角榮氏は競走馬をかなり持っておられる、そしてそれに対する申告
状況はどうなっておるかということであります。また、田中角榮氏の持っておられる競走馬が田中角榮氏の妻名義に変更されておる、これは贈与関係があるのではないかといったような疑問点が出されましたので、それについて
調査をいたしました。
その結果、競走馬に係る
経費あるいは譲渡原価の
計算誤り、あるいは所得区分の入り繰り、雑であるとかあるいは一時所得とか、そういった入り繰りがありましたけれども、全体として把握した場合に特に漏れば発見されておりません。
なお、田中氏が自己の所有する競走馬を妻名義で登録しておるという問題につきましては、その競走馬の登録はレースに出場するための名義の変更、つまり出走馬の登録手続上なされたものであって、そこに所有権の移転、そういったものが行われてないということが明らかになり、また、もともと、この競走馬に係る所得というものはすべて田中角榮氏個人の名において申告されておるということが明らかとなりましたので、課税上の問題は生じておりません。
それから第四番目に、これもよく議論になった点でありますけれども、個人が多額の不動産を取得しておられる、これは一体どうしたことなんだという問題であります。
問題は、脱税
資金からそれが回ったんじゃないか、あるいは政治
資金の流用があったのではないかといったような疑問点が提出されたわけでありますが、問題となった個々の不動産につきまして、それぞれの資産の取得の時期、それからその資産を取得したその取得
金額、それを把握いたしまして、そしてその不動産を取得するため
支出した
資金の出所、そういった点につきましての念査をいたしました。同時に、この不動産の取得につきましては、それはやはり本人の
資金繰りということが問題となりますので、その不動産を取得いたしました年分だけではなく、可能な限り過去にさかのぼりまして田中角榮氏の
資金繰りを念査したわけでありますけれども、その不動産を取得した
資金の出所というものが明らかとなってまいりましたので、新たに課税関係を生ずるというものはないと認定したわけであります。
また、田中角榮氏の関連の会社が次々と設立され、また多額の増資が行われておりますけれども、同様に、不動産の取得と同じようなかっこうで、その増資
資金あるいは設立
資金の出所、真の株主はだれかといった問題についても
調査したわけであります。
その結果、その一部に名義株の存在というものが認められております。しかし、その場合も単なる他人名義の使用である、そしてその間に贈与の事実ということは認められておりませんので、贈与税の課税はいまのところ生じておりません。ただ、田中氏とは直接関係はございませんけれども、ごくわずかにそういった一連の関連会社の間に贈与税の課税を要するものがありましたので、これについては課税処理を行っております。
それから、いわゆる関連法人が関与した土地の売買の問題であります。
これは関連法人間で土地の売買があるというふうなことがございますので、その売買の価格は適正かどうか、そしてそれが正当に申告されておるかどうかということについて
調査をいたしました。
売買価格につきましては、近傍類似地の売買の実例価格あるいは税務署の見込み時価額等を比較検討いたしまして、その結果、そのいずれも、譲渡価格が時価に比し著しく高いあるいは著しく低い、つまり税務上で否認をしなければならない程度に極端に低いとか高いとかいったような事実はございませんでしたので、その間の否認ということはございませんでした。
以上申し上げましたほか、田中角榮氏及びその他の個人につきましては、配当金、印税、テレビ出演料、家賃
収入などの若干の申告漏れがございます。それから関連企業からの
資金の無利子立てかえ、それから有価証券の客観的時価に比し低廉な価格による取得、そういった経済的利益の享受がございます。そういったことがありましたので、これらの事実に対しましては課税処理を行っております。
なお、
経費の控除漏れやすでに源泉徴収済みの税額の控除漏れといったような減額要素もあわせて処理いたしました。
また、法人関係では、ただいままで申し上げました、あるいは指摘されました
事項に関連を要する
事項のほか、通常の税務
調査において
調査する
事項につき、それぞれの角度から
収入、
経費の各項目につき基礎的事実の精査、帳簿経理の分析、取引先に対する反面
調査などを行い念査したわけでありますが、その結果、関連企業間の受取配当金、手数料の計上誤りなどがあったため、これを益金に加算いたしました。
さらに、さきに述べました個人における経済的利益の享受について、個人に対して課税したことに伴い、供与した法人側においても寄付金として限度
計算を行いまして、限度を超える分は益金に加算したわけであります。
このほか、貸し倒れ損失の計上で否認を要すべきもの、あるいは損金に計上した役員賞与や損金扱いをした中間納付
法人税額で否認を要するものなどを否認し、課税処理を行いました。
以上が田中氏並びに関連企業等の見直し
調査の結果でありますけれども、個人関係につきましては、一般の例によりすでに修正申告を受理しており、また法人関係につきましては、ただいま国税局の内部におきまして内部手続を進めており、近く所要の更正処分を終了するという見込みであります。
以上、簡単でございますけれども、いわゆる田中金脈問題につきましての税務
調査の
概要につきまして御報告させていただきました。