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1975-06-04 第75回国会 衆議院 外務委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年六月四日(水曜日)     午前十時四十八分開議  出席委員    委員長 栗原 祐幸君    理事 石井  一君 理事 鯨岡 兵輔君    理事 小林 正巳君 理事 水野  清君    理事 毛利 松平君 理事 河上 民雄君    理事 正森 成二君       加藤 紘一君    坂本三十次君       正示啓次郎君    住  栄作君       田中  覚君    竹内 黎一君       谷垣 專一君    戸井田三郎君       登坂重次郎君    福永 一臣君       山田 久就君    勝間田清一君       金子 みつ君    川崎 寛治君       土井たか子君    田中美智子君       大橋 敏雄君    渡部 一郎君       永末 英一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 宮澤 喜一君         国 務 大 臣         (科学技術庁長         官)      佐々木義武君  出席政府委員         防衛庁防衛局長 丸山  昂君         科学技術庁原子         力局次長    半澤 治雄君         外務政務次官  羽田野忠文君         外務省アジア局         長       高島 益郎君         外務省アメリカ         局長      山崎 敏夫君         外務省経済局長 宮崎 弘道君         外務省条約局長 松永 信雄君         外務省条約局外         務参事官    伊達 宗起君         外務省国際連合         局長      鈴木 文彦君         厚生省児童家庭         局長      上村  一君         厚生省保険局長 北川 力夫君         運輸省船員局長 山上 孝史君         労働大臣官房長 青木勇之助君         労働省婦人少年         局長      森山 真弓君  委員外出席者         厚生大臣官房国         際課長     綱島  衞君         厚生省環境衛生         局水道環境部水         道整備課長   国川 建二君         厚生省年金局企         画課長     持永 和見君         社会保険庁医療         保険部健康保険         課長      小島 弘仲君         労働大臣官房国         際労働課長   森  英良君         労働省労働基準         局労災管理課長 田中 清定君         労働省労働基準         局賃金福祉部企         画課長     川口 義明君         外務委員会調査         室長      中川  進君     ————————————— 委員の異動 六月四日  辞任         補欠選任   江田 三郎君     金子 みつ君   金子 満広君     田中美智子君   大久保直彦君     大橋 敏雄君 同日  辞任         補欠選任   金子 みつ君     江田 三郎君   田中美智子君     金子 満広君   大橋 敏雄君     大久保直彦君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  船舶料理士資格証明に関する条約(第六十九  号)の締結について承認を求めるの件(条約第  七号)  社会保障最低基準に関する条約(第百二号)  の締結について承認を求めるの件(条約第八  号)  核兵器の不拡散に関する条約締結について承  認を求めるの件(条約第一二号)  国際情勢に関する件      ————◇—————
  2. 栗原祐幸

    栗原委員長 これより会議を開きます。  国際情勢に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。河上民雄君。
  3. 河上民雄

    河上委員 外務大臣お尋ねいたします。  先般、OECD閣僚会議に御出席になって帰られたわけでございますが、このOECD会議出席されまして、どういうような印象を持って来られたか。特にインドシナ情勢変化の後、各国がどういうような態度に出ておるか、受け取り方をしているか、そのような点についてまず初めに御報告いただきたいと思うのです。
  4. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 OECD閣僚会議に二日間出席をいたしまして、どのような印象を受けたかというお尋ねでございますが、私がかつて出席いたしました十年前、一九六〇年代と今回との違いを一番端的に感じましたのは、やはり発展途上国に対しての先進国側考え方、この問題はいまやこれ以上解決を遷延することを許さない問題になってきたという、そのような基本的な認識であったと思います。  また同時に、一九七三年以来の石油危機から、各国が相当いろいろ苦悩もし、また教訓も学びとろうとしておるというようなことであったと存じます。  インドシナ情勢以後の云々というお尋ねでございましたが、このこと自身河上委員がよく御承知のとおり、OECD会議に直接に反映されておったわけではございませんで、パリに行きました機会にその問題についてどのような話をしたかというお尋ねでございましたらまた別途申し上げたいと思います。
  5. 河上民雄

    河上委員 今度の御旅行の際、キッシンジャー国務長官と会っておられるのですけれども、宮津・キッシンジャー会談においてどのような議題が主要な議題になったか。
  6. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 双方ともエネルギーあるいはOECD会議出席をするということが主目的パリに行っておりました関係もあり、会談そのものもそういう意味ではきわめてインフォーマルなものでございました。議題というようなものをあらかじめ決めずに四十分ほど話をいたしたわけでございますが、主たる話は、やはりベトナム後のベトナムの問題、あるいはタイの問題、それから中近東の関連の問題、大体そんなものを主として二人で話をいたしたわけでございます。
  7. 河上民雄

    河上委員 その際、三木総理大臣訪米につきまして両者で意見を交換されたことがありますか。
  8. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ほとんどございません。ほとんどと申し上げましたのは、キッシンジャー国務長官から、総理大臣訪米予定どおり八月の第一週ということは変わりませんかという話がありまして、変わらないはずですと、それだけはございましたけれども、それにつきましてそれ以上の話はございませんでした。
  9. 河上民雄

    河上委員 去る二十五日にバンコク東南アジア大使会議が開かれておりますけれども、これに高島アジア局長出席されておりますが、この問題につきまして少しく伺いたいと思います。  今度の東南アジア情勢インドシナに起こった情勢は大体二つに要約できると思うのであります。つまり、それぞれの民族主義が勝利をする中で、社会主義的な方向志向を示しているということと、にもかかわらず同時に中立的な傾向も持っておる。それが第一だと思うのでありますが、それに伴っていわば外縁ともいうべきASEAN諸国で起こっておる現象として、社会主義諸国との関係を調整しようということ、もちろんその国国によりまして多少ニュアンスが違いますけれども、そういうことと、もう一つアメリカ離れタイにあらわれているようなアメリカ離れという二つ傾向があらわれていると思うのであります。こういうような情勢を踏まえて、日本としてはどういうふうな対応をするつもりであるのか、またインドシナ情勢をどのようにとらえておるのか、そのことを高局さんに伺いたいと思います。
  10. 高島益郎

    高島政府委員 バンコクでの大使会議と申しますのはきわめて臨時的な会合でございまして、新しいインドシナ情勢変化対応して、特にASEAN諸国がどういう対応をしているのであろうかという問題と、かたがたインドシナ諸国情勢をどういうふうに判断しているかという問題につきまして自由な意見交換をすることが目的でございました。もとよりそういうことでございますので、結論を出すというようなことでもございませんし、またいろいろな意見が出されまして、したがって私どもとしてこの会議結論がこうであったということを申す立場にはございません。  一般的に申しましてASEAN諸国つまりタイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシア、こういった五カ国が新しいインドシナ情勢対応してどういうことをすることがいま当面一番大事であるかということは、最近ASEAN諸国閣僚会議がございまして、この会議の場でもいろいろ各国それぞれ意見を述べられた経緯がございます。こういった会議を踏まえて、その後の各国の動向について意見を交換したわけでございますが、結論的に申し上げますと、新しいインドシナ諸国との関係については、できる限りこれら諸国との関係をいわゆる平和共存ということで、協調体制を築いていきたいということでございまして、そういう観点から、従来から方針として掲げております対中国あるいは対北越との国交正常化、あるいは従来ASEANの中で構想を練ってまいりましたいわゆる中立化構想、こういったことを今後さらに促進していくというような傾向が出てきているように思われます。  さらにまたもう一点、ASEAN諸国が内部の問題として、外部からのいろいろな変化対応して、強い社会的、経済的、あるいは政治的基盤をさらに強めていく必要があるということで、いわゆるナショナル・レジリエンスという言葉をよく使っておりますが、国民的な対抗力、そういったものを強固にしていく必要があるということで、大体コンセンサスがあるように思われました。それぞれ各国はいわゆる反政府ゲリラの活動を抱えている国もございまして、こういった運動に対して、インドシナの新しい情勢がどういう影響を及ぼすであろうかという点についての不安、動揺があることは否定できませんが、しかし一般的に申しまして、新しいインドシナ情勢動き対応して特別な不安、あるいは特別の動揺があるということではございませんで、これを冷静に受けとめ、新しい事実を事実として、これとの協調関係を将来に向かってどう固めていくかということが大体の各国の共通した立場であるように思われました。
  11. 河上民雄

    河上委員 去る十九日シンガポールリー・クァンユー首相訪米帰途日本に参りまして、その後日本人の記者クラブでこんなことを言っておるのでありますが、これについて外務大臣はどういうふうにお考えになるかを伺いたいと思うのですけれども日本政府東南アジア社会主義国への援助が与える利害のバランスについて十分計算していると思う。社会主義国にどんな援助を与えるかは、東南アジア安全保障政治経済に大きな影響を持つ、こういうふうに述べておりますが、こういうASEAN諸国の一角を占めるリー・クァンユー首相の見解について、外務大臣として、今後の東南アジアに対する日本の外交の基本を決める上でどういうふうにこの発言を受けとめておるか、コメントを持っておるか、御意見を承りたいと思います。
  12. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 今後、東南アジアの国々が志向するであろうと考えられます道は、やはり自分たち民族によって自分たちの将来を切り開いていきたいということ、その場合できるだけ大国支配というものから脱却したいということ、そうして恐らくは、これをどういう名前で呼びましょうと、国民一人一人の生活水準向上と、富の不均衡所得のできるだけ公平な配分と申しますか、所得格差をなくしていくというような一般的な国民志向、そういう方向をとっていくであろう、少なくともそういう志向をするであろう。意図と現実とが必ずしもすぐに一致するとは申せないにいたしましても、そういうことであろうと私は考えておるわけでございます。したがいまして、そういう国民希望自身をその国の体制の問題としてすぐに仕分けをするということはどうも余り適当でないのではないか。現実的には特定の大国支配とか、あるいは革命の輸出とかいろいろな努力が他方でなされるかもしれないという危険はございますけれども志向としてはただいま申し上げたような方向志向したいと考えるのではないか、そう思いますので、私どもとしていたすべきことはやはりそのような国民の、民族生活水準向上民生の安定あるいは所得格差の是正と富の均衡化というようなことに貢献するということが、われわれの基本的な態度でなければならないであろう。  その問題と、もう一つ、ことにインドシナ半島においてはそうでありますけれども、とりあえずの生活、まあ本当に毎日毎日の衣料、食糧というような問題、さらに進んで次の段階では、それらの難民が生業に復帰する、リセツルメントする、そういう問題が次に出てくると思いますので、これらの問題にわれわれは人道的な立場でやはり対処し、可能な限りの援助をするということでなければならないであろうと思います。
  13. 河上民雄

    河上委員 それは大臣リー・クァンユー首相が言われた一つ考え方で見た場合に、いわゆる東南アジア社会主義国とその外縁にあるASEAN諸国というものを二つ仕分けして、ASEAN諸国をいろいろな意味で強化するというような方向はとらないというふうに考えてよろしいんですか。たとえば北ベトナムに対する五十億円の援助についていまペンディングのままになっております。特にサイゴン陥落直前という情勢の中でこれを決めることをためらったわけですけれども、そういうような観点から見まして、いわゆる東南アジア社会主義国への援助ASEAN諸国に対する援助というものを区別してやるということではないんだというふうにいまの御発言を理解してよろしいですか。
  14. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 恐らく河上委員が提起されようとしておる問題は非常に深いむずかしい問題であろうということは、私にも実はわかりますが、さしずめただいま五十億円というお話をなさいました。インドシナ半島においてこれからわれわれがしなければならない援助性格は、恐らくは先ほど申し上げましたように、難民の救済であるとかあるいはそのリセツルメントであるとか、そういう性格を帯びておると考えますので、これについてはつまり非常に問題が少ない、どういう観点をとりましてもわれわれは人道的な立場で対処できる、こう考えております。
  15. 河上民雄

    河上委員 いわゆるサイゴン政権があるいはプノンペン政権が倒れたその前後、ASEAN諸国に対する基盤強化という考え方に基づく経済援助が非常に積極化しているように思うのであります。たとえば五月十三日のインドネシア債権国会議を通じて、わが国から四百十億円ですか、一億四千万ドルのインドネシア円借款の供与、それからタイに対する百六十八億四千万円の援助を具体的に検討するというような報道、それからリー・クァンユー首相が先日日本に来られましたときに、石油化学プロジェクト援助するという約束をされておりますけれども、こういうような一連の動きは、ASEAN諸国をこの際経済的な側面からですけれども、強化する必要があるとお考えになっておるというふうに私ども理解してよろしいでしょうか。
  16. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ASEAN諸国は、インドシナ半島に比較いたしますと、今回のような戦乱もございませんでしたし、したがって、いわゆる難民というような問題をいま持っておるわけではなく、いわゆる経済建設を通じてテークオフに向かおうとしておるわけでございますので、これらについては私どもは従来どおり、たとえばいまインドネシアお話がございましたが、これも毎年行われますところのいわばルーチンの仕事にもなりつつございます。そういう経済建設民生向上のためのおのおのの国の施策を私どもは私どもなりに助けるということは続けてまいりたいと思っておりますけれども、恐らく河上委員の御質問の含意は、そういうものをつくっていって、インドシナ半島に発生するかもしれない社会主義的な政権なり国家を、ASEAN諸国を使っていわばコンテインするとでもいったような物の考え方があるか——そうはおっしゃいませんけれども、そういう思考があるかとおっしゃる——私はそうではない、そういうふうに考えるべきものではないと思います。
  17. 河上民雄

    河上委員 そういたしますと、インドシナの三国に対して、単に人道上の配慮だけではなくて、長年にわたる戦乱の後の経済復興についても、条件が整えばでありますが協力する、たとえば北ベトナムの場合などはそういうことになろうかと思いますけれども国交が正常化して、条件さえ整えば経済建設についても協力する用意があるというふうに私どもは理解してよろしゅうございますか。
  18. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 冒頭に申し上げたところに戻るわけでございますが、恐らくその地域の住民が志向しておりますのは、自分たち民族によって自分たちの将来を決したい、そしてお互いに生活水準を上げて、富、所得格差、偏在をなくしていきたいということであろうと私は思います。私としては、大国支配が行われてそのような民族の純粋な希望が妨げられるということがないことを祈っておるわけでございます。したがいまして、そのような民族の純粋な希望が達成されるために、そしてそういう可能性が高まっていくに従って、仮にそのような志向が幾らか社会主義的な志向であろうとなかろうと、そういうことに関係なく、そういう民族希望に沿うものであれば、いわゆる難民援助を超えて、やがて経済再建のための援助もこれはしてしかるべきものであると私は考えております。
  19. 河上民雄

    河上委員 私どもといたしましては、やはり長年にわたるインドシナの戦争について、アメリカの政策に加担した結果の反省を込めて、次の段階として、先ほど私が申しましたような意味で、単にASEAN諸国に傾斜するということをまた繰り返すことは、私は必ずしも賢明でない、こんなふうに思っておりますので、いま大臣のお答えがありましたが、ひとつそういうような角度で今後の問題を処理していただきたい、こう思うのであります。  ここで新聞報道などに出ておりますけれども北ベトナムに対する五十億円の無償援助交渉をいつから始めるのか、また、それをラオスのビエンチャンで開くというわが国提案でございますけれども、そういう提案をした理由です。それからハノイわが国大使館開設の時期の見通しなどについて高島局長に伺いたいと思います。
  20. 高島益郎

    高島政府委員 三月東京で行いました交渉の後を受けまして、その後四月に先方に対しまして、ビエンチャン大使館を通じて交渉の再開をこちらから申し入れました。これに対しまして先方から六月の初めという提案がございまして、そういう段取りにしておきましたところ、最近先方都合で十日過ぎにビエンチャンでというふうな話がございまして、私どもといたしましては、先方都合もいろいろあるわけでございますので、そういうことでビエンチャン交渉を再開したい、こう考えておりますが、まだ具体的にいつからというはっきりした日にちは先方から提示がございません。いずれにしても、私どもとしては大体ビエンチャンで行われることになるだろう、こう考えております。  それから、他方ハノイ大使館を設置する問題につきましては、去る三月末に先方との間で四月早々に大使館を開設するということで先方の同意を得ておりますが、その後のいろいろ情勢の進展もございまして、延び延びになっております。それで、今般ビエンチャンでもしそういう経済協力交渉が始まりますれば、この機会を利用して、先方政府とこの大使館開設の問題についても話をしてできるだけ早い機会に設置したい、こう考えております。ただ具体的にいつということをいま申し上げるほどの自信はございません。
  21. 河上民雄

    河上委員 それでは少し話題を変えまして、先般来、他の委員会でも問題になっておりますけれども、有事の際の日米防衛分担という構想構想のみならず具体的な作業が始まっているというふうに報道せられております。きのうの衆議院の内閣委員会におきまして、かなり詳しくいろいろ質疑応答がなされておりますので、ここでまた繰り返し申し上げませんけれども、その御答弁の中で、今後これは調整機関で詰めをしたいというような考え方が述べられておりますが、防衛庁はこの問題についていままでの経緯と、そして調整機関というのは一体どういうものを想定しておるのか、その点を伺いたいと思います。
  22. 丸山昂

    丸山(昂)政府委員 お答え申し上げます。  そもそもの本件の経緯を申し上げますと、先般の参議院の予算委員会におきまして、上田哲議員から防衛庁長官に対しまして、在来日米軍事担当者の間におきます作戦上の分担というものについての話し合いというものが行われていないんではないか、これについては当然論理的にこういうものの存在ということが考えられるので、それについて秘密取り決めを行っているという疑いがあるというお話があったわけでございます。それに対しまして防衛庁長官から、その秘密取り決めということは行っておらない、軍事担当者同士話し合いということは、いままでそれぞれのカウンターパートの間に研究をするということでずっと続けてきておるわけでございまして、たとえば、私どもの方の統合幕僚会議在日米軍司令部、あるいは陸海空のそれぞれの幕僚監部とそれぞれの在日司令部という間におきます作戦研究ということはやってきておりますけれども、いま上田議員の御指摘のような線に沿った秘密協定と言われるようなものは存在しておらない、ただこれについては、安保を運用するために当然行っておかなければならない問題であるので、十分研究検討をして、たまたま元山中防衛庁長官シュレジンジャー国防長官招待を出されておりました経緯もございまして、改めて坂田防衛庁長官からシュレジンジャー長官に対しまして招待をされ、もしシュレジンジャー長官が見えるようであれば、その機会にこの問題も含めて話を煮詰めてまいりたいという御発言があったわけでございます。いま坂田長官お話にもありましたように、私どもといたしましては現在制服がいろいろ検討しております問題について、在来政府が直接その点についての関与といいますか、政治的な関与はしておらなかったわけでございますが、シビリアンコントロールの立場から十分その中身について検討をいたしますと同時に、こういう作戦すり合わせということが、両国間の合意の上に、政治的にオーソライズドされた形で行われるということが順当ではないかということでございまして、私ども事務当局としてはその問題についての具体的な検討をなすべく指示を受けまして、ただいま作業を続行中というところでございます。したがいまして、昨日の内閣委員会におきます大出議員の御質問に対しましても、そういった線について御答弁を申し上げておるわけでございまして、特に昨日御指摘になりましたのは、かねてから言われておるシーレーン、航路帯等について日米間に空域分担海域分担交渉があるのではないか、こういうお話があったわけでありますが、私ども在来経緯にかんがみ、またわが国の憲法上、安保条約上のそれぞれの制約なり根拠なりに従いまして、海域あるいは空域を定めるというような考え方考えておらないということを申し上げておるわけでございます。  いずれにいたしましても、まだ事務レベル検討しておる段階でございますし、また一部に取り決めというようなお話も出ておるわけでございますが、将来そういうことが必要とあれば取り決めということも考えられるかと思いますけれども、私どもは、実質的にその作戦すり合わせということの効果の上がる、実効を期し得る体制であればそれでよろしいわけでございまして、そういった意味で、必ずしも形式にこだわっておるということではございません。  それからただいまの調整機関というお話でございますが、これもまだ私どもの頭の中にある考え方でございまして、まあ一つの実例として、第九回の安保協議委員会におきまして幕僚会同というのが設置されております。これは私どもの方の統合幕僚会議の事務局長と在日米軍の参謀長との間に行われる会議でございまして、在日米軍基地の軍事的な側面について検討をするという趣旨で設けられたものでございますが、こういったものが一つ頭の中に考えられる形でございますけれども、また必ずしもそういったものに拘泥するわけでもございませんし、まあこの点についてもコンクリートな案として定まっておるというところではございません。いずれにいたしましても、防衛庁単独でできる問題ではございませんし、ただいま外務省その他関係省庁ともいろいろお打ち合わせをしている段階というところでございます。
  23. 河上民雄

    河上委員 きのうの御答弁の繰り返しのようなことでございますが、それでは外務大臣にお伺いいたしますけれども政府は、こういうわが国周辺海域の防衛について、日米両国で政府取り決め締結するというお考えですか、そしてまた、これを外交ルートに乗せるようなお考えがおありですか。特にこの八月に三木総理が訪米されますが、そういう場合に、日米首脳会談の一つ議題になるというふうに考えられるかどうか、外務当局としてのお考えを承りたいと思います。
  24. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいま防衛庁政府委員から御説明がございましたように、坂田防衛庁長官としてはただいまお話のありましたような問題意識を持たれて、それを具体的にどのように展開していくかということをいま事務当局に作業を命じておられるという段階のようでございまして、したがいまして、私としましても、具体的に防衛庁長官のお考えを承ってはおりません。しかし考えますと、外交面で申しますと、日本の安全確保について、日米間での協力の大きな枠組みというものはもうすでにでき上がっておるわけでございますから、それをどのように具体化されるかということは防衛庁長官においてお考えくだされば十分なのでありまして、恐らくそのこと自体を外交の問題にする、あるいは首相が訪米されましたときに首脳会談の話題にするということはないのではなかろうか、またその必要もないのではなかろうかと私としては思っておりますけれども、なお、防衛庁長官がそのときまでに非常に具体的な形で何かを必要とするとおっしゃいますればこれは別でございますが、恐らくそういう性格の問題ではないであろうと私は思っております。
  25. 河上民雄

    河上委員 外務大臣アメリカの国防省の報告によりましても、またブラウン統合参謀本部議長の報告によりましても、アジア・太平洋地域という項目で日本の海軍力の増強、特に対潜水艦作戦能力の拡大への期待ということが述べられておりまして、きのう内閣委員会で発表されました防衛庁の基本方針とぴったり一致しておるわけです。そういうことから考えまして、今回の日米首脳会談でアメリカ側からそういうものが出てくるんではないかという予想は当然成り立つわけですけれども、もしそういう要請が向こうから出てきた場合にどうするかということを、外務大臣としてはどのように考えておられますか。
  26. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 その点は多少私の見方は異なっておりまして、確かにわが国安保体制というものは、ことにわが国の場合もっぱら防衛的な性格のものでございますから、考えられます問題は、有事の際にわが国に対する海上からの、つまり商船ということでございますが、この出入りというものはわが国国民生活にとってきわめて大切でございますので、これが危険にさらされることは国民生活そのものに影響がある、こういうことは恐らく客観的に明らかでございますので、従来とも日米両国において、ことに防衛当局においてその問題に重点を置いて施策をしてこられたことは間違いないであろうと存じます。それで、今回、坂田防衛庁長官一つ作業を事務当局に命ぜられたということにかかわりなく、従来から継続してそのような事実があり、必要があったものと考えておりますので、新しい問題としてそれが首脳会談で提起されるという性格のものではないであろうというふうに私は実は見ておるわけでございます。
  27. 河上民雄

    河上委員 今度の日米首脳会談でどういうことが議題になるか。恐らくインドシナ情勢後のアジア・太平洋地域における日米間の行動を調整するということになろうと思うのでありますけれども、その場合に一番大きな問題の一つは、やはりインドシナ情勢後の韓国の問題だと思うのであります。その場合に、ことしの秋、国連でUNCの解体問題というのが必ず出てまいります。外務当局では、この国連軍司令部の解体問題について非常に悲観的な見通しを持っているように伺っておりますけれども、その点重ねてどういうような見通しを持っておられるか伺いたいと思います。
  28. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 お答え申し上げます。  今秋の国連総会における朝鮮問題は、昨年の総会の経緯を若干顧みますと、昨年の総会では西側の決議案と北朝鮮側の決議案と二つ出たわけでございますが、最終的にはわが方の決議案が通り、一応北朝鮮側の決議案は可否同数で否決されたわけでございます。仮に去年と同じ決議案を北朝鮮側が出してきました場合には、恐らく今秋国連の加盟国は約十カ国程度ふえるであろう、それからその国柄が非同盟に近いということから、票数だけでは通る可能性が非常にあるという意味で、事態を放置する限り、悲観的な考え方というのは当然われわれとしては持っておるわけでございます。ただ、この情勢に対してどういうふうに対処すべきかということは、これまた別問題であろうかと思います。
  29. 河上民雄

    河上委員 外務大臣はきのうの参議院の外務委員会で、在韓国連軍司令部の解体はもはや阻止できないという認識を持っておられるようですけれども、その場合、もし通った場合どうするかという問題と、いま国連局長から、傍観しておればそうなるけれどもというお話がありましたけれども日本政府としては、かつて台湾の国連における議席が失われる直前、アメリカ政府と共同してこの流れに逆行するような最後の努力をされたのでありますけれども外務大臣としてはもう世界の大勢に対してむだな抵抗はやめるというお考えですか、それとも拱手傍観すればという言葉がありましたけれども、拱手傍観せずに何とかアメリカと協議の上、同一歩調をとってもう一回最後の努力をするというお考えでございますか、昨年同様の努力をされるというお考えでございますか、それをまず伺いたいと思います。
  30. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 この問題の今年の国連総会における帰趨は、先ほど政府委員から申し上げましたように、昨年の結果にかんがみましても、恐らくは国連軍を解体すべきであるという多数の意思が国連で決められるのではないかというふうに私は考えておりますし、それが国連の大勢であるというふうに考えられます立場に立ちまして、その際わが国は、わが国の国益から見て何を考えるべきであるかということになりますと、朝鮮半島における平和取り決めが御承知のように国連軍司令官を一方の当事者としてなされておりますので、その国連軍というものが解体されてしまいますと、平和取り決めの一方の当事者がなくなってしまって、平和を維持するための法的なフレームワークが失われてしまう、そのこと自身は今後の朝鮮半島の平和安定の法的な基礎を崩すことになりますから、それは好ましいことではない。したがって、その点をどのようにすべきかということを中心にわが国としての外交努力をすべきである、私はそういうふうに思っております。
  31. 河上民雄

    河上委員 そういたしますと、通るであろうという前提に立ちながらも、いまの御答弁でございますと、七四年の国連総会で韓国側が出した決議案、つまり代案のない国連軍司令部解体反対という決議案を破れてもともかく出すというお考えでございますか。そして、破れた後どうするという二段構えで行かれるのか。その点を伺いたいと思います。
  32. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 いわゆる戦術的にはいろいろなことがあろうかと思いますけれどもわが国の外交努力は、これを阻止することに置かれるのではなくて、そういう事態が現出いたしましても、なお朝鮮半島における平和の法的な枠組みが壊れないようにしておくということの方に置かれるべきだというふうに考えております。
  33. 河上民雄

    河上委員 そういたしますと、いまの御答弁は、もう破れるとわかっているような代案のないUNC解体反対という決議案を出したり、あるいはそれに賛成するということに主眼を渇くのではなくて、もしUNCが解体した後に、平和を保障するというか、現状を保障するような枠組みをつくるような外交的努力をするという点に主眼がある、こういうふうにわれわれ理解してよろしいわけでございますか。
  34. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 そのようにお考えくださいまして結構でございます。
  35. 河上民雄

    河上委員 それでは、その問題はいろいろ戦術の問題もあろうと思いますけれども、それは具体的に言うとどういうものを構想しておられるわけでございますか。
  36. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 これはこの問題についての法的な解釈ばかりでなく、政治的な立場につきましては各国の間でいろいろな立場の違いがあろうと思います。したがいまして、わが国は具体的に何をどうするかということを明確には申し上げにくうございますけれども、要するに、この取り決めに署名をいたしました国連軍の代表者、国連軍がなくなりますとそれも消滅をするということでございますが、しかし、それで法的なフレームワークがなくなってしまってはこれは困る事態になりますので、仮に国連なら国連というものが依然としてそういう法的なフレームワークを維持する立場を確認する、非常に抽象的になりますけれども、何かそういうことでなければならないだろうと思っております。
  37. 河上民雄

    河上委員 それでは、ちょっと角度を変えて伺いますが、条約局長、もしこの国連軍司令部が解体されました場合は、署名の一方の当事者が消えてしまうわけですが、そういう場合には当然その協定の効力の問題が起こりますけれども、これは国連総会でもし解体を要求する決議が通過いたしました場合、それは直ちに協定は失効状態に入るというように理解できるでしょうか。
  38. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 この問題はかなりむずかしい問題を含んでいると思います。すなわち、協定に署名いたしましたのは、一方においては国連軍の司令官でございます。しかし、これはその当時国連軍の司令官が個人的な責任において休戦協定を締結したのではなくて、その背後にあります締結する権限を与えた国なり機関なりというものがあるというふうに考えるべきであろうと思います。したがいまして、その場合に、署名をした人ないしはその地位にある者のその地位が消滅したから、直ちに休戦協定の法律的な効力そのものがなくなってしまうということは、直ちには言えないのじゃないかというふうに考えるわけでございます。  ただし、先ほど外務大臣からもお答えいたしましたように、この休戦協定の内容というものを見てみますと、軍事境界線を確定するあるいは軍事休戦委員会を設定する、それから中立国監視委員会を設置する、それから捕虜の送還に関する取り決めを行うということがその主たる内容になっておりますけれども、現在南北朝鮮の間に設けられております軍事境界線の維持について、軍事委員会が非常に重要な役割りを果たしている、その軍事委員会そのものが国連軍の解体によってやはり解体するという結果が出てくるわけでございます。したがいまして、その朝鮮半島における平和維持について非常に重要な機能を果たしておりますところの、現在存在している仕組みというものがなくなってしまうわけでございます。そういう意味において、朝鮮半島における平和維持についての法律的な基盤であります仕組みというものがなくなってしまう、それにかわるべき何らかの取り決めと申しますか、それにかわるべき機構なり仕組みなりというものがやはり出てくる必要があるのではないかというふうに考えておるわけでございます。
  39. 河上民雄

    河上委員 そういたしますと、軍事休戦委員会がいまの軍事境界線を支える唯一の法的な枠組みである、それが国連決議によって事実上解体してしまった場合に、それにかわるものとして、新しい機構と言いますけれども、どういうものができると想定されておりますか。ともかく法的には当然若干の空白の期間が出てくるわけですけれども、その空白期間はだれが責任を負うのかという問題、それからかわるべき法的なフレームワークというものはだれの手によってつくられるのか、たとえば国連なのかあるいはここの当事者である南北朝鮮だけなのか、あるいはこの休戦協定に関与したアメリカ、国連軍はもういなくなるわけですけれども、その実質的なアメリカ軍であるのか、あるいは中国義勇軍というのが休戦協定の一方の当事者としていたわけでございますけれども、中国はこの場合何も発言しないのか、そういうような点について少し詳しく伺いたいと思います。
  40. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 なお、先ほどちょっと申しませんでしたけれども、現在問題になっております国連における決議、これは総会における決議という形で実は昨年——昨年だけではございませんけれども、問題になっているわけでございます。その決議の中で、いわゆる西側の決議の内容をごらんいただきますとわかりますけれども、私ども立場といたしましては、国連軍の設置、派遣に関する権限そのものは安全保障理事会の権限に嘱する問題である、したがって、この問題は、安保理において決定をすべき問題であるという基本的な立場に立っているわけでございます。  この立場から申しますと、総会において何か決議をしたということによって直ちに、国連軍を設定いたしましたその源になります安保理決議そのものがなくなってしまう、あるいはその安保理決議によって設定されております国連軍の法律的な地位に直ちに影響があるということではないというふうに私ども考えているわけでございます。  それからもう一つは、国連軍がもし国連における決定によって解体をされるという状態が生じた場合に、その後のいま御指摘になりました空白状態について、どういうことが考えられるかということは、これはやはり国連と関係当事国の間で協議をして決めるべき問題であろうというふうに考えております。
  41. 河上民雄

    河上委員 条約局長はいま、国連総会で決定しても直ちにそれですべてが決まるのではなくて、安保理事会にかけられなければならない、なぜなら、国連軍の派遣は安保理事会で決定されたものだからと、こういうことでございますが、その場合、わが国はいま安保理事会の非常任理事国にたっていると思うのでありますけれども、そうなりますと、これは日本の決定というのは、一票というのはきわめて重要な意味を持ってくるのでありますけれども、もしいまのようなことでありますならば、日本政府として、これはどうしてもかかわらざるを得ないと思うのであります。したがって、これについて当然、UNC解体問題、まずそめ前段としてその解体要求の決議が出た場合に、これに対してもう一度、むだとわかっても抵抗するのかどうかという問題、それから、もし解体決議が通過した場合に、今度は安保理事会でどう対処するかという問題が当然出てくるはずであります。  したがって私はそこで、外務大臣にもう一度伺いたいのでありますけれども、そういう安保理事会の問題になった場合に、日本政府としてはどういうふうにする心づもりであるか、それを伺いたいと思います。
  42. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 いろいろな複雑な経緯をたどると思いますし、ことに先ほど御指摘のように、中国が安保理の常任理事国になっておる。中国はこの国連決議が行われました際には、いわば国連決議のたてまえから言えば、北側に加担をしたという立場に当時はなっておるわけでございますから、したがいまして、安保理事会が全体としてこの問題にどう対処するかは、必ずしも帰趨は明白でございません。しかし、その間にわが国としてどうすべきかと言えば、これはわが国が求めるべき問題は、主たる外交努力は、このような決議の通過を阻止することではなくて、国連軍が解体された後もなお有効に平和取り決めが維持され、そうして運営される、それがわが国の外交努力の主たる点になるべきであることは先ほど申し上げたとおりでございますから、したがいまして、いろいろないきさつを全部抜きまして、わが国のあるべき外交努力の方向を申し上げれば、やはり総会のメンバーとしても安保理事会のメンバーとしても、このような問題がいずれの場で取り上げられるにせよ、その結果として平和維持機構、機能が、フレームワークとしても現実としても、維持されるような努力をすることに外交努力の重点を志向すべきである、こういうふうに考えております。
  43. 河上民雄

    河上委員 いまの御答弁で明らかだと思うのでありますが、中国は、この問題について、朝鮮戦争が勃発したときのいきさつは別として、軍事休戦委員会が消滅した後のフレームワークをつくる場合には、これはもう全くそういういきさつを抜きにして、安保理事会の常任理事国としてこれに参加してくるというふうに当然認識しなければならぬと思うのでありますけれども日本政府としては、いま言ったような御努力をなさるといたしまして、当然この南北朝鮮両国の意向というものが一番重要でございますけれども、その関係各国の中に当然中国が入ってくるというふうに御認識なさっておりますか。
  44. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 つまり、先ほど政府委員が申し上げましたように、仮に総会の意思が一つ決定いたすといたしますと、具体的な国連軍の解体、それに伴うもろもろの問題は、安保理事会が決定をしなければならないわけでございますが、そのときにわが国としては、安保理事会の一理事国としまして、やはり安保理事会はこの問題を受けて立つべきであるという立場わが国はとらなければならない、総会の意思でございますから。さてしかし、安保理事会の意思がそのように決定するかどうかということになりますと、これは中国等々各国の出方にかかってくることになろうかと思うのでございます。中国がそのときにどのような立場をとるかは、実は明確でございません。
  45. 河上民雄

    河上委員 国連軍の司令部の解体につきまして、解体後のいろいろな法的なフレームワークについて、新聞その他いろいろなところで推測が行われておりますけれども、その中の一つに、南北朝鮮両国で不可侵協定を結んで、これを米ソ中日の四国が保障するというような案がちらほら出ておりますけれども、こういうような案が出てきた場合に、日本政府はこれに賛成し、関与されるおつもりがあるかどうか、用意があるかどうか。まあそういうふうになるかどうかはわかりませんけれども、そういうような案が、すでにもうあちこちに出ているわけでありますけれども、そういうような場合に、これに関与される用意があるかどうか、これを伺いたいと思うのです。
  46. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 この問題は、国連における議論あるいは扱い方によりましては、確かに事態の新しい展開、進展に宙与し得る性格の問題だと私は考えております。できるだけそういうふうになってほしいと思いますが、帰趨は、先ほど申しましたように必ずしも明確でございません。それで、たとえばただいまのような仮説のお尋ねでございますが、基本的なわが国の方針として申し上げられることは、平和に寄与するのであればわが国としてはできるだけのことをいたしたい、しかし同時に、憲法等々の制約がございます。したがって、そういうことも考えてまいらなければなりません。平和寄与のために努力は決して惜しむものではございませんけれども、憲法の制約からしまして、わが国が現実になし得ることにはきわめて制限があるという事実がございますので、その辺も考えてまいらなければならないと思います。
  47. 河上民雄

    河上委員 いまのいろいろな案の中の一つと申し上げましたのは、これは韓国側の方であるいはアメリカ——おそらくアメリカと話し合ってじゃないかと思いますけれども、出されている案でございますが、先ほど来お話にもありましたように、これは国連総会で、そしてさらには安保理事会で協議せられるということになりますると、単に日韓の関係、特に一九六九年の日米首脳の共同声明にある韓国条項というようなものを基軸にして処理はできない事態になってきておるということだけは御認識いただかなければならないと思うのであります。外務大臣といたしまして、その点、どのようにお考えになっておりますか、重ねて覚悟を伺って、私の質問を終わりたいと思います。
  48. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 お言葉ではございますけれども、その二つのことは矛盾をするとは私は考えておりません。すなわち、韓国の安全がわが国の安全にとって緊要であるということの認識は、言ってみれば、朝鮮半島において現在のバランスが崩れ、平和状態が壊されるということは、わが国にとって重大な関心事であるという意味でございますから、私は、そのこと自身は今日といえども真理であるというふうに考えます。しかし他方で、先刻来御議論のこの国連軍の問題は、確かにわが国と韓国だけの問題ではございませんで、一つの国際問題として国連で取り上げられている問題でございますから、もう少し広い世界的な平和のコンテクストにおいて議論されなければならない。それは、先ほど言われましたとおりでございますし、私どもとしても、基本的にはそういう立場で対処してまいりたいということを私から申し述べた次第でございまして、これがいわゆる佐藤・ニクソン会談の共同声明に述べられております認識というものと別段矛盾するところはないというふうに私は考えております。
  49. 河上民雄

    河上委員 時間が参りましたので、私、これで終わりますが、前外相の木村さんが言われましたように、もういまや朝鮮半島全体の安全と日本の安全というものが非常に緊要な関係にあるというふうな理解をしなければ、少なくとも従来の、日本政府としてもそうしなければこの問題が処理できない段階に来たということだけはここに御認識いただきたいということを要望いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
  50. 栗原祐幸

    栗原委員長 水野清君。
  51. 水野清

    ○水野委員 私は、最近の日ソ、日中両国との関係について、漁業協定その他の問題で御質問申し上げたいと存ずるわけでございます。  最初に、日本とソビエトとの間の日本近海の操業協定について、近く締結をされるというふうに新聞紙上でも伝えられておりますし、現にイシコフ漁業大臣が来日をされておりますが、この概要について、差し支えなければ御説明をいただきたいと思います。
  52. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいま御指摘の日ソ漁業操業協定につきましては、このたびのイシコフ漁業相の滞日中に調印をいたしたいと考えまして、ただいま準備を急いでおるところでございます。  内容につきまして、可能な限りで政府委員から御説明を申し上げます。
  53. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 まだ協定が署名されておりませんので、具体的な詳細について御説明することは差し控えさせていただきたいと思いますけれども、この協定の主たる内容と申しますのは、一つは漁船の標識、信号あるいはその漁具の標識、それから操業規則の遵守、情報交換といったような、先般来非常に見られました事故が発生することを未然に防止するための措置を協定いたしております。  それからもう一つは、万一発生しました事故について、その損害賠償の請求の処理につきまして委員会を設けて、その賠償請求が円滑かつ迅速に処理されるということを内容といたしております。
  54. 水野清

    ○水野委員 条約局長に二、三伺いたいのですが、実はこれは利害関係者、漁業関係者にとっては非常に真剣な問題なのでございますが、私に与えられた時間が余りないものですから、二、三私の関心のあることを伺って、それはどうなっているというようなお答えをいただきたいと思います。  そのまず第一は、実は私は千葉県出身でございますが、千葉県の沖合いで昨年あるいは一昨年に、いろいろなソビエトの漁船との間の問題が起こってまいりましたが、いわゆる海のひき逃げというような事件がわりあいに多いわけであります。夜、漁業をやっていたのだが、大きなソ連の漁船が入ってきて網を切ってしまった、あるいはその波のあおりで沈没をしたとか衝突をしたとか、こういう事件が非常に多々あったわけでありますが、その際に、相手のソ連の船の名前が全くわからない、だから文句の言いようがない、ただ大きなソ連の船が来てやられてしまったというような事件が頻発をしたわけであります。この問題について、この協定ではどういうふうに規定をされていくのかということが一つであります。  それから、船には船籍とかいうようなものはどの船にも書いてあるわけでありますが、夜間でありますと、どんなに船に船籍を書いてあっても実は見えないというような問題がありますが、そういった問題についてはどう考えておられるか、これが一点であります。  それからもう一つは、これは水産庁からでも、どちらからでもいいのですが、海事事件というのは、普通事件が——要するに海事訴訟の場合でありますが、大体一年前にさかのぼった事件については取り上げることができるわけでありますけれども、今回この協定が調印されますと、ことしからさかのぼって一年、昭和四十九年の事件は対象になるかもしれません。さらにその一年前、昭和四十八年ぐらい、あるいは四十七年ぐらいに起こった事件についてもこの協定によって話し合いをしてその対象になるであろうか、協定の内容として両国の紛争処理委員会ができるそうですが、この紛争処理委員会の中で議題として対象にできるだろうかということであります。  さらに、地域的な限定はどう考えておられるのか。現実に日ソ間の操業問題で事件を起こしているのは、北海道の沖合いから東北地方の三陸沖、福島県の沖合い、茨城、千葉、静岡付近、あるいは伊豆七島周辺というのが主とした地帯でありますが、これについてはどういう限定を示しておられるのか。  それから、現在御承知のように領海の範囲の問題が非常に問題になっておりますが、日本はまだ三海里説をとっておられます。しかし、ソビエト側は御承知のように十二海里説をとっております。そうすると、この協定は双務的であるのですが、一体日本側は十二海里のつもりでこの協定を読んでいいのかというような、非常に技術的なことでありますが、その三点についてお答えをいただきたいと思います。
  55. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 第一点の損害が発生いたしましたときの処理については、在来からこの種の事故はときどき発生いたしておりまして、両国間に何らの協定、取り決めがございませんがために、通常の一般国際法上の原則に従って処理するしか実は方法がなかったわけでございます。と申しますことは、具体的にはソ連の漁船によって損害を受けた日本の漁業者は、ソ連の政府に対し、あるいはソ連の裁判所において問題の請求を提起するというほか実は道がなかったわけです。しかもこの方法というものが実際には全然動いていなかった、あるいはその実効を期することができなかったという状況にあったわけでございます。この協定ができますると委員会というものが設定されまして、これは東京及びモスクワの両地に設置されることになりますが、損害を受けた漁業者はこの委員会に対して問題の請求を提起することができるということになっております。もちろん、いろいろな証拠物件その他情報等は十分整備して、請求を提起しなければならなくなると思いますけれども、この委員会がいろいろとあっせんをいたしまして損害補償を円滑かつ迅速に処理するという仕組みになっているわけでございますので、将来の問題といたしましては、万が一こういう問題が発生しましたときには、その解決が従来の状態に比べますと大幅に改善されるということになろうかと思っております。  それから第二点の、発生しました事故についての請求をどのくらいさかのぼって提起することができるかということでございますけれども、これは過去二年間前にさかのぼって請求を提起することができるという仕組みになっております。  それから第三点の地域的な適用ないし領海問題との関係についてでございますけれども、この協定で、操業の区域をどういう地域に限定するというような地域的な限定というものはございません。しかし実際には、両国間の漁業の操業が従来錯綜してと申しますか相重なって、そのために非常にトラブルがたくさん生じておりました日本近海における問題に対して、その解決に資するということを目的としてつくられる協定でございますから、この協定が適用されます範囲というのは、おのずから日本近海に限られてくるであろうというふうに考えているわけでございます。  なお先ほどちょっと申し落しましたけれども、損害補償請求を提起いたしますときに、相手国漁船の確認の手段というものが在来ほとんどなかったというお話でございましたけれども、この点につきましても今回の協定ではできる限りの配慮を加えまして、先ほど申し上げましたように、漁船の標識でありますとか信号であるとかいったものについて一定の規則を協定して、できる限りそういう面における困難を軽減しようという規定をいろいろと設けているわけでございます。
  56. 水野清

    ○水野委員 もっと細かいことを承りたいのですが、協定を調印する前でございますから御遠慮申し上げます。  大臣、二、三これに関係して大事なことを承りたいのです。  実は一昨々日、大臣の御招待になったイシコフ漁業相の歓迎のレセプションに私も出席をさしていただきました。その席で在日ソビエト大使のトロヤノフスキー氏が、実はこの協定はもうかなり前から日本側に御提案を申し上げておったのですが、日本側がまことに乗り気がなくて今日に至った、もっと早く締結をすればできたことであるということを、私たまたま行っておりましたので、この交渉の過程において日本側がそれほどこの協定には乗り気でなかったのかということ、その事情を承りたいわけであります。  それからもう一つ、時間の関係で恐縮であります。これは海洋法会議のときの同僚の野党委員質問にもございましたけれども、先ほど条約局長もお答えがなかったのですが、この協定は一体領海の範囲をどの辺に考えておられるのか、三海里なのか十二海里なのかということであります。ソビエト側は御承知のように十二海里をとっております。ですから両国は別の領海の範囲を念頭に置いて一つの協定を結んだわけでありますが、そこの食い違いを一体どう考えておられるのか。どう矛盾を処理しておられるのかと言った方がいいかもしれません。  お答えをいただきます。
  57. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 わが国といたしましては、ことに一昨年、昨年来頻発をいたしました事態に対しまして、このような協定をぜひ必要とすると考えまして、また交渉の途中におきまして、そのようなわが国立場をかなり強く主張をいたしました。という点から申せば、日本側がもっと簡単なことを言えばもっと簡単にできたというような見方が先方にはあろうかと思いますけれどもわが国としてはこの協定をできるだけ早くつくりたいと考えて努力をいたしたことは、もう間違いがない事実でありまして、先ほど御紹介のような、ソ連大使がどのような意味でそういうことを言われましたか、ちょっと私には十分にわかりかねる次第であります。  なお、三海里、十二海里の問題につきましては条約局長からお答え申し上げます。
  58. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 先ほども申し上げましたように、この協定の中で日ソ間の漁業の操業に関する地域的な配分と申しますか区分というような意味で、地域的な限界を設けている協定ではございません。操業の秩序をどうやって維持するか、発生しました事故についてどういうふうに処理するかということが主たる内容になっておりますので、そういう意味での操業の区分、配分協定というものではございません。したがいまして、先ほど御質問がありました三海里ないし十二海里との問題を直接この協定で取り上げて処理しているわけではございません。ただ、先ほども申しましたけれども、操業規則の遵守ということが実は協定の内容になってくるわけでございますが、その内容を若干敷衍して申し上げますと、日本の漁船が操業しているところにソ連の漁船が入ってきてそれを排除して、あるいは妨害して操業するということは許されなくなるわけでございます。したがいまして私どもとしては、日本の近海において日本の漁船が操業しておりますところに、在来間々——実は昨年来たくさん起こりましたけれども、ソ連の漁船が入ってきて妨害をする、あるいは漁具等に非常な損害を与えるという事態は、これによって大幅に改善されてくるのではないかというふうに期待しているわけでございます。
  59. 水野清

    ○水野委員 先ほどから少し反論的な魚皮から御質問申し上げたのですが、私も決してこの操業協定が締結されたことに対して歓迎をしないわけじゃない。いままでむしろこういう協定がなかったということについて御質問申し上げているわけであります。これは念のために申し上げておきます。ともかく、こういう操業協定ができたということについては非常に喜ばしいことだと私は思っております。  ところで、実は最近調べてみたんでございますが、ソビエト側から日本に対して一極の対日外交における攻勢といいますか、非常に積極的にいろんな行動を起こしておられるのであります。ちょっと私読み上げてみますと、たとえば一昨年でございますか、大シベリア博というのが日本に来て、その後、この博覧会を北海道へ持っていったりあるいは各地でこれを巡回をしておられます。あるいはソビエト連邦展覧会というのをもうやっております。これはいろいろな新聞社の後援が入っております。あるいは最近五月にはロシア・ソビエト管楽祭というのがありまして、非常に大型のオーケストラであるとか合唱団を日本に送り込んできておる。あるいは最近はソビエトの国宝の絵画展、これも新聞社の主催でありますけれども催している。あるいは終戦のときにソビエト側に押収されていたんだと思いますが、福田平八郎画伯の絵画四十二点がソ連政府から日本政府へ寄贈されたというようなこともあり、ソビエト側から進んで対日外交の手を差し伸べてきておられます。これは大変結構なことなんでございますが、実はそれと反対に、今度は、最近三木内閣になってから、日中間の外交の方が余り進まないじゃないかというような声が盛んに出ております。たとえば日本と中国の間の漁業協定——日ソの漁業操業協定が出てきましたから、対照的な例として申し上げますが、日中の漁業協定はその後どうも遅遅として進まないというふうにも聞いておりますが、最近の進捗状況はどうなっておりますか、御説明願いたい。
  60. 高島益郎

    高島政府委員 日中間の漁業取り決めでございますが、いま、この六月二十二日に失効することになっております民間取り決めがございまして、このもとでいままで操業してまいったわけでございますが、余すところ二週間余りという非常に切迫した雰囲気の中で、北京で第三回目の交渉を双方とも非常に熱心に続けておりまして、おそらく現状のまま交渉を進めれば、この二十二日までには何とか妥結に持ち込めるんではないかという気持ちを持っております。  交渉の内容につきましては、いままでも多少新聞にも出ましたし、先生も御承知かと思いますけれども、規制措置の内容が一番重点でございまして、この内容について最後の詰めをいま真剣に行っているということでございまして、日中間の漁業協定はもとよりのこと、ほかの日中間のいろいろな交流その他が進んでおらないということは全くうそでございまして、三木内閣になりましてからも、日中の政府間あるいは政府間以外の諸交流を含めまして、日中国交の基礎はますます固まりつつあるというふうに考えております。
  61. 水野清

    ○水野委員 日中の漁業操業協定について、本当はいろんな内容を承りたいところですが、これは両国が外交折衝をしておられる最中でありますから、私もこれをあえて承らないことにいたします。  ちょうど大臣お帰りになったものですから、もう一つ次の問題。いまアジア局長から漁業協定の方は大変うまく進んでいる、決して日中間に冷たい風が吹いているわけでもない、こういうお話で、大変結構なことなんですが、やはり日中間の最大の問題は、日中平和友好条約をどういうふうにまとめていくかということであろうと思います。これは当委員会にもこの会期中には提案をすることができるであろうというようなお話大臣から当初あったわけでありますが、その後、日中平和友好条約交渉はどうなっているか。この会期ももう余すところ三十幾日しかございませんが、この会期中に御提案なさる見通しがあるのか。あるいはこの会期はもう見送らざるを得ない、次の臨時国会なり来年の通常国会に批准を求めるようなことになるかもしれないというふうな悲観的な結果になってきているのか、その辺のことを、これも交渉中でございますからお話のしにくい問題だと思いますが、できれば実情を御説明をいただきたいと思うわけです。
  62. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 私自身も、日中平和友好条約はお互いの理解のもとに、なるべく早く調印をいたしまして、国会の御審議をこの会期で仰ぎたいと考えまして、そういう希望も幾たびか委員会において申し上げたわけでございますが、今日までそれが実現しておりませんのはまことに残念なことに存じております。  最近の経緯はどうなったかというお尋ねでございますが、実は東京において長く行っておりました東郷・陳楚会談におきまして、御存じのような問題につきまして十分な意見の一致を見るに至りませんで、先般北京から小川大使を呼び戻しまして、わが国としてこの段階に立っていかにすべきかという協議をいたしました。三木総理大臣から、この交渉に臨むその段階においてわが国がとるべき基本的な態度についての指示があったわけでございます。その指示の主たるところは、わが国としてはこの交渉の妥結に、条約締結について非常な熱意を持っておるということ、一九七二年に出されました共同声明の趣旨から後退する意思は毛頭持っていないこと等々につきまして、三木総理大臣の真意、交渉妥結についての熱意を小川大使をして中国の首脳部に伝えさせるということで、小川大使が北京に帰りまして、その旨を中国首脳部に伝達をいたしたわけであります。それに対しまして中国首脳部から、その段階に立ちまして、中国首脳部としてそのような総理大臣の意思表明をどう受けとめるかということについての意思表示を私どもとしては待っておる段階でございますけれども、今日現在では、まだ中国側の意思表示がございません。もっともそう長い時間がたっておるわけではございませんので、事態が遷延しておるとまでは考えておりませんけれども、今日まで中国側の意思表示がないということでございます。要するに、問題の本質であると思われますのは、わが国としては中国との国交をさらに深めたい、この条約を結ぶことによりまして、さらにその実を上げたい、きわめて熱心にそのような希望を持っておるわけでありますが、しかしながら他方で、現在中国が他の第三国と持っておりますいろいろな関係を、そのままわが国とそれら第三国との関係に移されるということは、これはわが国の外交の方針としては適当なことではございません。わが国としては、中国との友好親善が深まることをもとより希望いたしますが、さりとて他の第三国との関係がそれによって阻害されるというようなことはわが国の外交の基本ではございませんので、この条約交渉がそのような結果に帰着するということはわが国の外交方針としてとるところではない。これはごく当然のことでありまして、中国側としてもその点についての理解は示されてしかるべきであろうというふうに考えておりますので、やがて、中国側から三木首相のそのような意図の表明に対して反応があるものと期待いたしておりますが、今日、まだその反応を見るに至っておりません。
  63. 水野清

    ○水野委員 最後に、ただいまの大臣のお言葉についてもう一つ承っておきたいのです。  日本と中国あるいは第三国との関係というようなお話でしたが、恐らく巷間伝えられる覇権問題についてのお話であろうと私は推測するわけでありますが、この覇権問題について、先般社会党の成田委員長が訪中されて、成田委員長としては、中国との覇権をともに求めず、あるいは第三国の覇権についてはこれを排除していくというような中国側の意向を共同声明に盛り込まれておられます。しかし、私は自民党の一議員として、この問題はきわめて重大な問題で、日本と中国との友好親善ということは幾ら尽くしても尽くし足りないと思います。同時に、それが第三国、たとえば国際情勢上問題になっている日ソ間の不和とか疑心につながるようなことになれば、これはまたきわめて重大なことだと私は思います。日本とソビエトとの間に一つでも実務協定がまとまって、日ソ間にきわめて友好なムードがあるということは大変結構なことだと私は思います。それと同時に、中国からも最近いろいろな使節団が来たりして、きわめて友好的なムードが向こう側から示されておりますし、この両方から友好的なムードをもって日本に接近してこられるというのも、日本政府が偏らない外交態度をとってこられたからだと私は思いますし、今後もとっていただきたいわけであります。ということは、この日中平和友好条約の中における覇権問題の取り扱いというのは、日本の国運にとってきわめて重大な問題であろうと思うからでございます。  この点について、私が申し上げるのは僣越でございますが、ひとつ外交方針を誤たないでやっていただきたい。これはお願いを申し上げるだけで、御答弁は、いただけなければいただけなくても結構でございます。  以上で私の質問を終わりたいと思います。
  64. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 わが国といたしましては、平和憲法を持ち、すべての国と友好関係を深めたいと考えておりますし、それ以外に、軍備のないわが国としての生きる道はないわけでございます。御指摘のように、中国との友好関係をさらにさらに深めたいということは、もとよりわれわれの心から願うところでございますが、さりとて、中国と他の第三国の関係をそのままわが国に引き写されるというような結果になりましては——それは中国の意図するところではないでございましょうけれども、そのような結果に第三国の目から見て映るということになりますと、これはわが国の外交のいわゆるサムトータルから言いますと適当な結果ではない。そのような意図を中国が持っておられるとは私は思いませんけれども、しかし、第三国側の見る目というものも当然考えておかなければならないので、よく注意をいたさなければならないと思っております。
  65. 栗原祐幸

    栗原委員長 正森成二君。
  66. 正森成二

    ○正森委員 きのうの他の委員会での外相の答弁関係するわけでございますが、この間、金鍾泌首相が来られましたときに外務大臣にもお会いになり、また三木総理にもお会いになりました。そのときの新聞報道等で私どもが承っておるところによりますと、三木総理は、八月初旬に訪米される前に、七月の上旬ないしは中旬にかけて、日韓定期閣僚会議を開くことに合意をしたというように報道されておりました。また新聞に記載されました外相自身の談話を見ましても、それは若干留保条件みたいなものがついておりまして、韓国側が関係改善に努力されるなら——ということは金大中事件を考慮に入れてのことだと思いますが、そういう前進があるなら、七月上旬ないしは中旬に開くことは結構だ、こうとれるニュアンスに報道されておったと思うのです。ところが、きのうの内閣委員会を見ますと、七月に開くような条件は整っておらないと明言されたように見受けられるわけですが、その間の経緯はどうなっておりますか。日韓定期閣僚会議を開く雰囲気というのは、金鍾泌首相が来られたときの感触と現在では違う点があるのかどうか、伺いたいと思います。
  67. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 先般来、韓国の首脳が幾たびか訪日をしておられまして、総理大臣あるいは私との間で幾つかの会談が行われておりますが、その間を通じまして、七月に閣僚会議を開こうということを申しましたことは、実は一度もございません。私がないのみならず、総理大臣におかれてもそのようなことを言っておられるとは私は考えておらないわけでございます。  もとより、原則として年に一遍開くという会議性格でございますから、早く開ければいいと私ども思っておりますけれども、しばしば申し上げますように、開くといたしますと、これは本当に文字どおり、日韓が将来に向かって友好関係へ進んでいく象徴的なものでなければ国民的な支持も得られないと考えておりまして、そのための雰囲気がやはり両国の間になければならない。お互いにそういう雰囲気の改善に努力しようではないかということは何度も約束をいたしておるのでございますが、もう今日すでに六月になりまして、七月と申しますと来月でございますから、そのような雰囲気が醸成されて、雰囲気として十分だというふうに、いま私自身にはもう一つ考えられないところがございます。したがいまして、昨日、七月に開くかというお尋ねがございましたときに、私としては、どうもただいまの時点ではそのようにはにわかには考えにくうございますという趣旨のことを申し上げました。
  68. 正森成二

    ○正森委員 そういう御答弁ですが、少し詳しく突っ込みますと、外相が日韓定期閣僚会議を開く雰囲気という一つの大きなものに金大中事件、さらにもっと的をしぼりますと、日本側が提起している金東雲一等書記官の疑問に対して、韓国側が十分答えるかどうかという問題があると思うのです。そこで、外務大臣のきょうの御言明は、現在のところ、韓国側において、金東雲事件について、わが方で雰囲気が改善されたと思われるだけの措置をとられるという感触を得ていない。したがって、七月に開催するということは現段階では考えられない、こういうように伺ってよろしいですか。
  69. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 韓国側にもいろいろ御事情がおありであろうと私も思っておるわけでございますけれども、金東雲氏の問題については、韓国側でさらに一段の何がしかの努力をしていただけないものであろうか。その結果が必ずわが国が満足すべきものでなければならぬということを申しますと、これは勝手な言い分になろうと思いますけれども、なお韓国側でさらに努力を尽くしてもらえないものであろうかと考えております。
  70. 正森成二

    ○正森委員 さらに、こういう質問をして恐縮でございますが、統一日報その他で報ぜられているところでは、七月四日に日本の国会が終わる、それが終わった後で早急に開くような状況になるのだ、こういうのが出ているのですね。勘ぐりますと、現在、金東雲問題について何らかの措置がとられますと、早速国会の外務委員会なり法務委員会なりで、それが果たして満足のいくものであるかどうかが議論の対象になる。ところが、七月四日に国会が終わっておりますと早急にはそういうことにはならないので、七月四日に国会が終わり、何らかの措置が韓国側からとられて、その措置がとられたということで日韓定期閣僚会議をソウルで開くというように勘ぐれば勘ぐれないでもないのですね。そういうようなお考えはございませんか。
  71. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 何時にもあれ、韓国側でさらに努力をしてくれたということがございますれば、私どもとしてはそれを評価をいたしたい、いたさなければならないと考えておりますが、韓国側がどのような事情で考えておられますのか、いまのところはっきりしたことを私ども聞かされておりません。早ければ早いほどいいと思っておりますが、しかし、ただいまのお話のようなことでございますと、やはりこれだけの会議を開きますのにある程度の準備も要ることでございますので、なるほど評価すべきことを、韓国側でも努力をしてくれたということを私ども考えるに至りましても、それならすぐに日を決めて閣僚会議をといっても、やはりちょっと準備の関係もございますので、なかなかただいまお話しのようにまいりますかどうか、ちょっと時間的には苦しいという感じの方がむしろいたします。
  72. 正森成二

    ○正森委員 それでは七月四日に国会が終わってから何らかの措置がとられても、七月中に開くのは時間的に無理だというように伺います。さらに私どもといたしましては、国会開会中なら早速審議をいたしますが、国会開会中でない場合には、わが国の警察当局の要望もございますし、筋の通った解決を見るまではやはり雰囲気は改善されていないというように見るべきだということを重ねて指摘して、次の問題に移らしていただきたいと思います。  そこで、防衛庁が来ておられますから私は伺いたいのですが、韓国の有力紙の中央日報に、日本の防衛当局の有力筋が、朝鮮半島は日本のわき腹に突きつけられたあいくちとなっており、朝鮮半島全域が共産化すれば日本の防衛展開は事実上不可能である、したがって、日本の防衛戦略は韓国、沖縄、日本本土が一体であるという認識に基づいているとか、あるいは韓国が共産化されるという場合には、日本だけが現状のまま存続することは不可能であり、日本に親共政府、たとえばフィンランド型の親共的な政府が樹立される可能性が強いとの判断を防衛当局は持っているというように報道されているのですね。これは御承知のとおりだと思うのですが、こういうように韓国の中央日報に報道をされてもやむを得ないものを防衛当局はどこかで言明をなさったのかどうか、それをまず伺いたいと思います。
  73. 丸山昂

    丸山(昂)政府委員 お答え申し上げます。  ただいまの韓国の中央日報の記事でございますが、権威ある軍事消息筋からの話ということで、日本防衛当局は云々ということを報道されておるようでございます。私どもといたしましては、もちろんこういった見解を外部に表明したということは一度もございませんし、この点について当方の責任ある御回答はきわめて困難であるというふうに考えております。
  74. 正森成二

    ○正森委員 それでは、中央日報の報道というのは防衛当局が関知しないことである、こういうように伺っていいわけですね。そうでなくて、武力によらず、どの民族が民主主義であれ社会主義であれ何主義であれ採用するのは自由であって、それが起こったからわが国の防衛ができないとかいうようなことを一国の責任ある当局が言明するということになれば、これは他の国家あるいはその民族の自決権を認めない、それには自分の防衛に関係があるということで、平和的にそういう変化が行われる場合にも介入するということを公言することになって、ゆゆしいことだと思うのですね。そこで、そういう言明をした覚えもないし、関知しないということを明言してほしいと思います。
  75. 丸山昂

    丸山(昂)政府委員 もちろん、ただいま申し上げましたように、中央日報に掲げられております意見日本の防衛当局の意見であるというふうな点につきましては、私どもこれには関知しておりませんし、明らかにいまそういう考えを持っているというようなことはございません。  それから朝鮮半島の問題につきましては、現在三十八度線をはさみまして二つの国が存在しておるという現状を踏まえて、この地域において紛争が起きることは日本の安全に好ましくないというふうに私ども考えておるわけでございまして、ただいまのように、ある特定の一国があった場合にどうなるかというようないわば仮定の問題につきましては、私ども現在、はっきりした見解を申し上げるのを差し控えたいと思います。
  76. 正森成二

    ○正森委員 そこで外務大臣に伺いますが、当委員会での質疑によりますと、韓国条項ということについて、この間アメリカに行かれた場合に記者会見の席上で質問があったので、いろいろ枝葉のことはあるかもしらないけれども、大筋としてはイエスと言ったのだというお言葉がございました。そこで、外務大臣に伺う前に条約局長に伺っておきたいのですけれどもアメリカわが国とだけでなしに、韓国とも二国間の条約を結んでおりますね。で、わが国の場合には非核三原則というものを堅持しておりますが、別に朴政権が非核三原則を堅持しておるというようなことは聞いたことがありません。したがってアメリカと韓国との間に関する限り、その条約の実施において戦術核兵器をやむを得ず使わなきゃならない場合があるとか、そういうことについては制限はないと思いますが、いかがですか。
  77. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 私どもが承知しております限りにおいては、そういう制限、制約はないと考えております。
  78. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は宮澤外務大臣に伺いたいと思うのですが、例の一九六九年の佐藤総理とニクソン大統領との間の共同声明及びナショナル・プレス・クラブでの有名な演説がございます。そしてそのときに、同行いたしました外務大臣が背景説明で説明をいたしておりますね。それは、佐藤総理の言明と一体となってわが国としてはやはり遵守すべき、あるいは効力のあるものだというように伺ってよろしいでしょうか。長いですから韓国条項に限ります。
  79. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいまここに記録がございまして、外務大臣が説明をしておる由でございまして、当然これは政府の見解であるというふうに考えなければならないと思います。
  80. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は伺いたいわけですが、佐藤総理のナショナル・プレス・クラブでの演説を見ますとこうなっておるのですね。「従つて、万一韓国に対し武力攻撃が発生し、これに対処するため米軍が日本国内の施設・区域を戦闘作戦行動の発進基地として使用しなければならないような事態が生じた場合には、日本政府としては、このような認識に立って、事前協議に対し前向きにかつすみやかに態度を決定する方針であります。」これは御承知のとおりであります。  これに対応する部分の外務大臣の説明要旨というものを拝見いたしますとこうなっておるのです。「従つて万一かかる事態が起った際、これに対処するため、仮に米国より安保条約上の事前協議が行なわれれば、政府はこの一般的認識を判断の重要な要因として、その態度を決定することは、もとより国益上当然のことと考えられます。」こうなっているわけです。  つまりここに非常に大きな相違がありまして、佐藤総理の場合には、いわゆる事前協議の三つの問題のうち戦闘作戦行動についてどうだと言われれば、前向きかつ速やかにというようになっておりますが、外務大臣の場合には必ずしもそれに限定されておらないのですね。ということは、戦闘作戦行動だけでなしに、配置における重要な変更あるいは装備における重要な変更についても、相談があれば事前協議によって善処するということを外務大臣の場合は言っているんじゃないかというように思うのです。  そして、さらに佐藤総理の共同声明を見ますと、こういうようになっておるのですね。七項ですが、「総理大臣は、日本政府のかかる認識に照らせば、前記のような態様による沖縄の施政権返還は、日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負っている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではないとの見解を表明した。大統領は、総理大臣の見解と同意見である旨を述べた。」こうなっております。  そうしますと、私がいま松永条約局長に伺いましたように、韓国とアメリカとの間の条約においては核兵器を使用することについては何らの制限が行われておらない。そういう韓国とアメリカとの間の、そういう負っておる条約の義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではないという見解を佐藤内閣総理大臣は当時表明しておる。そして背景説明によると外務大臣は、戦闘作戦行動だけでなしに、事前協議一般について善処するというように言っておるということを考えますと、これは理屈からいっても当然でありますが、一たび戦闘作戦行動において出るならば、米軍は、もちろん配置における重要な変更をやらなければ戦闘作戦行動を遂行することはできません。また状況によっては、韓国とアメリカとの間においては核兵器の使用の何らの制限もないわけでありますから、場合によっては核兵器の使用ということも考えられる。そうすると、韓国条項を認めるということになれば、結局のところ、わが国がこの三つの事前協議の問題についていずれも前向きかつ速やかに対処しなければならないようなところに引きずり込まれていくのではないか。一九六九年の共同声明や演説、外務大臣の背景説明では、それを阻止する何物もないというように私は思いますがいかがですか。そういうことを御承知で韓国条項を改めてイエスとおっしゃってこられたのでしょうか。
  81. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいまここに記録がございますが、正森委員がお読みになりましたまさにそのとおりこの記録には記されております。  で、韓国に対する武力攻撃が万一発生すれば云云と、事前協議が行われれば一般認識を判断の重要な要因として云々と書いてございますから、文字の上では、広く、事前協議には対象になるあらゆるケースを含むのではないか、論理的にはそういう解釈にならないかというお尋ねであろうと思いますが、あるいは論理的にはそういう解釈になるかもしれません。  しかし、私この文意を読んでみますと、恐らくこのときに外務大臣が言われたことは、いわゆる直接の戦闘行動を心に置いて言われたのであろうというふうに思います。  それは解釈でございますが、今度は政府の方針といたしまして申し上げますが、こういう当時の昭和四十四年十一月二十一日の外務大臣の説明がございますが、政府といたしましては、この場合の事前協議というものをいわゆる直接戦闘行動ということに限って考えておりまして、それ以外の事前協議をこの際含むものではない、そういうふうに考えております。
  82. 正森成二

    ○正森委員 時間が参りましたのでもう一点だけ伺いますが、この間シュレジンジャー国防長官が、万一韓国で事態が起こった場合にはベトナム戦争の教訓に学んで、出てくる戦力を個々にたたいておったのではだめだ、相手側の心臓部に対して、ベトナム戦争のときよりもより以上に強力な攻撃を即刻かけるのだという意味のことを言明されたことは御承知のとおりであります。ベトナム戦争というのは、御承知のように第二次世界大戦を何倍も上回るような猛烈な爆撃を加えたわけですが、それをさらに上回るようなものを即刻心臓部に対して行うということになれば、それは巷間伝えられておりますように、核兵器による攻撃をも否定しないというものであろうということは明らかであります。そういう韓国の事態に対して、わが国が前向きにかつ速やかに戦闘作戦行動を認めるということになりますと、これは非核三原則の一つが危うくされるというような事態になるのではないかと考えたから私が質問したわけであります。それについてそういうことではないと言われるならばそういうように伺いたいと思いますが、よろしいですか。
  83. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 これは仮定の問題であり、またシュレジンジャー国防長官の言明をどのように解釈するかにも幅があると思いますが、先ほど条約局長が申し上げましたように、韓国に核兵器あるいはそれに類似するものが置かれておる、置かれ得るということは、法的には韓国でも米韓間でも否定されておらないことでございます。したがいまして、シュレジンジャ下国防長官が万一の場合、それを何かの形で外に向かって使用するということを仮に言われたといたしましても、それはわが国関係のあることではございません。少なくともわが国からそのような行動が行われるということは事前協議の対象の問題である、私どもとしてはこういうふうに考えております。
  84. 正森成二

    ○正森委員 論理的にはそういうことが通りましても、韓国に置かれている戦術核兵器を使ってどんぱち始まった場合に、その戦争にわが国の国内からアメリカ——わが国からは直接核を持っていかないけれども、戦闘作戦行動に加わるということになれば、わが国だけがそういう戦術核戦争の域外に置かれるという可能性は非常に少ない。むしろ丸山防衛局長は軍事の関係でよく御存じだろうと思いますが、そういうことは本当に少ないケースだ。また、わが国はそういう物騒なものに参加することはきわめて危険だというように思いますが、時間がなくなりましたので、私の見解だけ申し上げて質問を終わらせていただきます。
  85. 栗原祐幸

    栗原委員長 渡部一郎君。
  86. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 私は先日の沖縄特別委員会における問題点の継続をまず申し上げたいと思いますから、アメリカ局長よろしくお願いします。  米兵の暴行が、この間から中学生に対する暴行事件であるとか薬きょうを拾っている人に対する射撃事件であるとか、継続いたしているわけであります。ところがこのたびは去る二十四日、沖縄県でアメリカ側の憲兵、法規に違反した兵隊を取り締まるべき立場にある者が、日本人記者を強制的に連行したという事件が起こったわけであります。これはもう明らかにめちゃくちゃな行為でありまして、こうした問題について外務省は直ちに反応をするべきだと思うのでありますが、事件の経緯、それに対する対応策等をひとつ述べていただきたいと存じます。
  87. 山崎敏夫

    ○山崎(敏)政府委員 この事件に関しましてはまだ警察において取り調べが行われておりまして、われわれも全体の事実を承知いたしておりません。ただ、判明いたしました限りにおきましては、御案内のとおり、五月二十四日に沖縄にありますアメリカの海兵隊のキャンプ・フォスター前の国道上、これは米軍基地のゲートの北方約五十メートルの地点でございましたが、そこで海兵隊の普天間航空基地の憲兵隊所属のローズボロー及びムーレー両上等兵が、基地内から追跡してきた自動車に乗っていた米軍人二名がナイフ、ワイン等を所持していたため、凶器所持、アルコール携帯等の容疑によって検挙したわけでございます。その際にアメリカの憲兵が拳銃を手にしていたことから、たまたまそこを通りかかりましたパーカーというアメリカ人の記者及び琉球新報の高嶺という記者がこれに割り込みまして、憲兵に対して、地位協定違反ではないかというふうな詰問をして、立ち去るよう求めた憲兵の指示に従わなかったところから、双方でもみ合いになって、その際、高嶺記者に対してムーレー上等兵が警棒で大腿部を殴打して、ローズボロー上等兵が携帯式の催涙ガスを噴射するなどして制止をしまして、そしてそこで三人の米軍関係者とともにこの二人の記者が憲兵車に乗って約一キロメートル離れた普天間航空基地の憲兵隊事務所に連行されたという事件であります。この問題に関しましては、先ほど申し上げましたように全体の事実をまだわれわれとしても承知いたしておりません。  それから、さらにこれは三段階に分かれると思うのでありますけれども、最初にアメリカの憲兵が米軍の関係者三名を基地の外で取り調べていたこと、それから第二段階としての、アメリカ憲兵とこの二名の日米の民間人との間でもみ合いがあったことについては、事実の全貌も明らかになっておりませんので、われわれとしてはこの点はコメントを差し控えたいと思います。  ただ、第三段階の、その二人の日米の民間人が米軍の憲兵の詰め所に連れていかれたという点については、われわれとしても若干問題があるように思うわけでございまして、そこで私は、五月の二十七日に在京米国大使館のシュースミス公使に対しまして、いま申し上げたような見地から、この第三段階であります民間人二名を米憲兵の詰め所に連れていったという点につきまして、これはどうも地位協定に規定されているアメリカ軍の持っている警察権の逸脱した使用ではないかということを指摘した次第でございます。これに対しましてシュースミス公使の方から、このような事件が発生したということ自体は非常に残念なことであり、また日本政府の関心も十分理解できるので、アメリカ側としても至急事実関係を究明したいと考えるというふうなことを述べた次第でございます。  その後、警察の方でも取り調べが行われているようでございまして、警察の取り調べ、さらに検察庁の見解等も聴取いたしまして、本件についてはわれわれとしては対処してまいりたいと存じます。
  88. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 その後、アメリカ側から謝罪その他の意向の表明はありましたか。また、関係する日米合同委員会あるいは協議委員会安保運用委員会等でこの問題を正式議題として取り上げる用意がありますか。
  89. 山崎敏夫

    ○山崎(敏)政府委員 ただいま御説明申し上げましたように、この事件はいろんな面を持っているわけでございまして、その点についての全貌がまだ判明いたしておりませんので、われわれとしてもそれ以上の措置はいまとっておらないわけでございます。アメリカ側としてもまだ事実を調べておりますし、わが方もわが方でもちろん調べておるわけでございまして、その点について話を十分聞きまして、その全貌を把握いたしましてからわれわれとして適当と考える措置をとりたいと考えております。
  90. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 その適当の措置というのはどういう措置をとられるのですか。少なくともこういうような米兵暴行とか、こうした新聞記者関係にまで手をかけるような事態というのは、日本国の中において基地を使わしてもらっているという感覚がなさ過ぎる。それだけではなくて、こうした挑発をするということは、明らかに日本側の姿勢を試しているとしか思われない。こういうようなばかげたやり方をするのであったならば、日本政府は強硬な意思をもって日本国民の利益を守らなければならない、こう思うわけですが、いかがでしょうか。どういう措置をとられますか。
  91. 山崎敏夫

    ○山崎(敏)政府委員 先ほど申し上げましたように、この事件の前の方の段階、第一段階及び第二段階の事実については、われわれも十分把握しておらないわけでございまして、したがいまして、この点についていまどういう措置をとるかということについては申し上げかねる次第でございます。  ただ第三段階の連行していった件は、われわれとしては、一見、これは地位協定から大分逸脱しているのではないかというふうに感じたので、とりあえず米側の注意を喚起した次第でございますが、この点についても全体の事実がわかりませんとちょっとこれ以上の措置をとることは困難でございますので、米側の言い分、さらに日本側の捜査当局及び検察当局の御判断を十分伺った上で対処してまいりたい。ただわれわれとしては、もちろん地位協定というものは文字どおり実施さるべきであるということについてはその立場を堅持してまいるつもりでございます。
  92. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 ただいまのこの事件はまことに不当でありますが、私は特にこうした問題について外務省に十分の注意を喚起したいと思います。対応が非常にのろい。事件が二十四日に起こって、実際に外務省が対応されたのは、ただいまもお話しがあったように二十七日であります。日本国民の権益を守ることにおいてスピードがのろ過ぎる。そうしてその時点でやっと注意を喚起するという程度にとどまる。こういうことであるからこそ、マヤゲス号事件における日本の事務次官の発言とともどもに、日本は対米外交に対する自主的姿勢を喪失していると批評されてもやむを得ないかと私は存じます。その点、今後しっかりしていただきたい。  もう一つ申し上げますが、五月二十二日、沖特において、アメリカ局長政府委員を代表されて、沖縄県の沖縄市、北谷村、読谷村、嘉手納村の四つの市及び村から、嘉手納米軍基地に対する給水を管理する問題について約束をされました。これは日米合同委員会の了承によって、いままで沖縄県から給水されていたものをこれらの四つの地方自治体から給水する、そしてそれに見合うところの報酬を受けるというふうになっておったわけでありますが、その後これが一向に進捗しない。しかもこの合同委員会において話が決まっておったにもかかわらず、その後米軍のあいまいなる回答のままに今日まで推移いたしておる。この点私が御質問いたしましたところ、アメリカ局長政府を代表して、「合同委員会の合意どおりに実施に至っていないということは大変遺憾でございます。早速関係省とも御相談いたしまして、合同委員会の合意どおり、できるだけ早く実施に移されるように努力いたしたいと存じます。」と述べられ、また厚生省の説明員の方からも同じような意見の表明があったわけであります。ところが、私が地元に聞いたところ、今日もなおかつその問題が全く進捗していない、こういうことは全く遺憾でありまして、事情の御説明を求めます。
  93. 山崎敏夫

    ○山崎(敏)政府委員 嘉手納の飛行場に対します給水問題に関しましては、外務省としてはその後厚生省と協議してまいりましたが、厚生省から、五月中旬に米側から沖縄市に契約書案が提示されて、近く米側と沖縄市との間で技術的な問題等の細部について折衝が行われる予定であるというふうに聞いております。外務省といたしましては、この問題が現地米軍と沖縄市との間で早期に円満解決されることを望んでおる次第でございまして、今後も必要に応じて厚生省と連絡をとってまいりたいと存じます。  なお、詳細につきましては厚生省の担当の方から御説明をしていただきたいと存じます。
  94. 国川建二

    ○国川説明員 お答えいたします。  先般先生から御指摘のありました嘉手納飛行場に対する給水問題でございますが、若干申し上げますと、五月の中旬に沖縄市に対しまして、米側からこの給水に関する契約書案並びにその他いろんな質問事項と申しますかそういうものが提出されまして、五月の二十日ごろ県当局にその旨報告がまいってきたところでございます。沖縄市当局におきましては、直ちにその米側の契約書案あるいは質問事項と内容、技術的な問題等も含めまして検討を行ったわけでございまして、その後県当局とも協議しながら検討を行ったわけでございますが、五月二十七日に沖縄市から米側にその結果について回答いたしたわけでございます。で、さらにその具体的な折衝につきまして、本日午後米側の契約担当官、それから沖縄市の水道管理の責任者並びに県当局も立ち会いの上、具体的な折衝に入ることになっております。  厚生省といたしましては、先生の御指摘もございましたように、この問題ができるだけ早く解決をすることを望んでおるわけでございまして、これは米側と沖縄市との間の問題でございますけれども、必要とあらば県当局におきまして積極的に調停、あっせんに入ってほしいという旨を、先月の末、県担当課長の来省を求めまして指示し、さらに指導をしているところでございます。今後とも十分留意いたしまして、速やかな解決を図りたいと考えております。  以上でございます。
  95. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 いま水道整備課長からお答えがありましたけれども、昭和五十年一月二十一日付、沖縄県企業局長から嘉手納の第十八戦術戦闘機航空団嘉手納基地あて給水契約締結を通知してありまして、三十日以内となっているわけであります。ところがその後百何十日も過ぎているにもかかわらず、今日なおかつ百五十日近くになっているわけであります。こういう事態を放置しておいて、しかも地元では、日本政府の沖縄事務所に対して抗議をすると、それは担当でないと言う、厚生省の担当だろうと思って厚生省の係官に言うと、おれはそんなことは知らないと、そんなのは東京に行って聞けと放言したと言う。また県に行ったら、それは外務省の所管である、外務省が悪いのだから外務大臣に抗議せよと言うたと、要するにそこら辺に座っておられる方が全員で責任のなすり合いをなさったことは明瞭でございます。私は、こういうようなやり方が沖縄県民をどれくらい怒らせるかということだけでなくて、事態が紛糾しているこの一つの例として御参考に供したいと思うのです。ひとつ早急に努力していただいて、電話だから指図がうまくいかぬというようなことじゃなくして、責任を持って速やかに、少なくともアメリカ側の会計年度の切りかえ時である七月一日には、この事業会計が明確になるようにしていただきたいと思うのですが、いかがですか。
  96. 国川建二

    ○国川説明員 具体的に折衝事項の中に若干技術的な問題がございますので、なお合意に達するまでは若干時日を要するかと実は思いますけれども、県当局もこの問題を非常に重視いたしておりまして、先ほども申し上げましたけれども、極力調停あっせんと申しますか、それに当たりたいと称しておりますし、私どもも可能な限り強力に助言と申しますか、できることはいたしたいと思います。御指摘の趣旨に沿いまして、最大の努力を続けたいと思います。
  97. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 時間がありませんので、最後に、インドシナ半島における政治的な隆替は非常にスピーディーでありますが、それに対する外務省の基礎的な方針を述べていただきたいと思っているわけであります。特に大使館あるいは総領事館等の関係の問題、設置の問題並びにその再開の問題、特に北ベトナム政府との間の五十億円に上る援助再開の問題、あるいはラオス政府、カンボジア政府に対する、政府と言うかどうかは別といたしまして、ラオス、カンボジアに対する接触の方途等につき御報告をいただきたいと思うわけであります。
  98. 高島益郎

    高島政府委員 最近のインドシナ情勢にかんがみまして、外務省として外交活動を進めていく上で問題になりますのは、サイゴンとカンボジアのプノンペンだろうと思いますが、サイゴンの方はそのまま大使館が残っておりまして、いま残っております在留邦人の生命、財産の保護の問題を中心に、軍事管理委員会と接触を続けてまいっております。したがって、何しろまだ新しいので、政府としての外交活動という面での接触は、先方の方の体制も整っておりませんし、そういう状況のもとで、いわゆる外交関係、外交活動そのものはまだ展開されておらないように思っております。しかしいずれにしても、そういう事態になれば、大使館が残っておるわけでございますので、そのまま継続されるものと考えております。  それからカンボジアの方につきましては、現在われわれが得ておる情報では、いずれの大使館も存在しておらないように思っております。現在非常に鎖国的な、農業革命と申しますか、そういった体制をとっておるようでございまして、当面外交面での活動は考えておらないようにも思われます。いずれにいたしましても、わが方といたしましては、新しいカンボジア政府承認いたしまして、いつでも外交関係を再開できるような体制はとって用意しておりますが、先方の方でそういう体制にないというふうに考えられます。  それから、ただいま御指摘の北越との関係でございますけれども、これはわが方も一昨年九月以来外交関係そのものは持っておりまして、いままで大使館ハノイにまだ設置されておりませんでしたので、ビエンチャンを通じましていろいろな話し合いをしてまいりました。現在無償経済協力のうちの一部でございますところの五十億円につきまして、先般三月の段階で中断いたしました交渉ビエンチャンで近々のうちに再開したいということで、大体話し合いがついておりまして、まだ期日までははっきり決まっておりませんけれども、十日過ぎに交渉を始めるということでございますので、これはいずれ近いうちに妥結されるものと考えております。  それから大使館の方は、これと並行いたしまして、先方との間に四月早々には開館するという合意ができておりますので、ただ新しい情勢のもとで先方都合もいろいろございまして、若干おくれておりますけれども、これもそう遠くない将来に当然開館されるものと期待いたしております。
  99. 栗原祐幸

    栗原委員長 永末英一君。
  100. 永末英一

    ○永末委員 外務大臣にお伺いいたします。  六月二日にガイラー太平洋軍司令官が外務大臣を訪問いたしましたときに、あなたの質問に答えて、核についての支援部隊は日本には配置されていないと答えたという報道でございますが、あなたはそのときにどういう質問をされたのでしょうか。
  101. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいま質問に答えてというふうに仰せられまして、あるいはそういう報道があったのかと思いますが、その部分は間違いでございまして、ガイラー司令官から軍事情勢について説明をしたいという話がありまして、小一時間いろいろ伺ったわけでありますが、先方お話の中にあったわけでございます。私の質問に対して言われたのではありませんで、先方お話の中で、日本に核のための作戦をサポートするために軍隊等の配備はしていない、その必要はないという部分がございました。私の質問に対してというわけではございませんでした。
  102. 永末英一

    ○永末委員 外務大臣はそのガイラー軍司令官の話を聞いておられて核の作戦をサポートするための軍隊、それはどういうものだと概念されましたか。
  103. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 私も深い専門的な知識はございませんが、このガイラー氏の説明の基本的な背景は、わが国における米軍の配備等は基本的に非常に防衛的なものであって、その主点はわが国の海上輸送路を確保するための活動に置かれておる、潜水艦というようなことになるわけでございますが、そのような背景のもとに、したがっていわゆる核兵器あるいはそれに伴ういろいろの体制というものは日本の施設、区域を利用しては行われていない、こういうコンテクストの説明であったと思います。
  104. 永末英一

    ○永末委員 この核の作戦をサポートするための軍隊自体が核を持っていると、このように受け取られましたか。しかし、そのサポートするための軍隊は核は持っていない、このように受け取られましたか。いずれでしょうか。
  105. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 私が聞きました、これは文章でのやりとりでもございませんので、聞きました理解では、いわゆる核兵器というものはわが国に置いていない。それから一般的にそのようなものが置かれることを前提にした体制というものは持っていない、こういう意味合いと私は解釈をしております。
  106. 永末英一

    ○永末委員 私は、その核を使用する作戦をサポートするための軍隊は配置していないということをわざわざ言われたというのは、裏の解釈が二つあるわけですね。サポートするための軍隊も置いていないのだから、いわんや核を使う軍隊は置いていないということを言外に言ったのか、それともそれは触れないということで、わざわざサポートするための軍隊は置いていないと言われたのか、この辺がよくわからないので、あなただけがお聞きになったわけでありますから伺っておるのでありますが、いずれなんでしょうか。
  107. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 そうおっしゃいますと、なるほど、どういうふうな表現が適当であったかということになりますけれども、使われた言葉は、たしかニュークリア・サポートというものはない、こういう言葉であったと思うのであります。その意味が、前後のコンテクストから申しますと、正確に表現すれば核体制というようなものを日本の施設、区域に置いていない。広い意味での核に関するすべてと申しますか、そういうものは日本の施設、区域には置いておりません、そういう日本語があるいは一番正確な表現であるかと思います。
  108. 永末英一

    ○永末委員 あなたはまたこれからたびたびそういう機会があろうと思いますが、そういうことをアメリカ側が説明をしたという場合には、やはり日本国民のために正確に相手方の言おうとしている意味をぜひぜひくみ取るようにお努め願いたいと思います。  さて、先日外務大臣OECDパリ会議に行かれましたが、その中で、EC諸国のいわゆる発展途上国に対しての態度というものを親しく体得されたと思うのでございまして、私はこの点で二月二十八日にアフリカのトーゴの首都ロメで調印されましたECとアフリカ、カリブ海、大洋州諸国との間の一緒に会合されましたその会議で通商経済協力協定が結ばれる。いわゆるロメ協定が結ばれました。これはわが国がこれから発展途上国に対する関係考えるに、非常に重要な影響を持つ協定であると私は思います。外務大臣はいわゆるロメ協定というものをどう評価されておられましょうか。
  109. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 率直に申しまして、いままでこの問題についてできるだけ避けて通りたいと考えておりました多くの国々、ことにEC諸国が、いまやこの問題は避けられないという姿勢をとったということが、このロメ協定に象徴されておると考えております。したがいまして、もう少し申しますと、とにかく意味合いはそういう基本的な取り組み方の変化にあるのであって、この協定が果たしてどのように有効に両者の間で運営されるかということについては、なお推移を見る必要があるであろう。私は何も否定的な批判をするつもりで申し上げるのではございませんが、姿勢の変化というものは十分に評価をいたしますが、それが果たしてどれだけの実効を上げ得るかということについては、なお推移を見る必要があるであろうと考えております。
  110. 永末英一

    ○永末委員 もともと域内の貿易の自由化ということを目標にして成立いたしましたECが、そのECのいわば大枠を外しまして、カリブ海あるいは遠くわが日本の近辺でございます大洋州地域にまでこの通商協力の範囲を広げてきたというのは、私は画期的な事件ではないかと思うわけです。いわんや、これら特に大洋州地域についてわが方の経済協力が具体的に始まっていきます場合には、EC諸国が対処しようとしていることと、われわれが対処しようとしていることとに差異があったのではわが方の真意が疑われる、そういう意味合いで二つの点にしぼってわが方の用意、態度というものを伺っておきたいのであります。  その第一点は、このロメ協定によりますと、ACP各国のいわゆる一次産品についてその価格の安定を図ろうというので、EC側の負担で輸出安定化基金を設けて、もし価格が下がった場合には価格差補給金としてこれを出そう、ここまで決めておるのでございますが、わが国もまたそういう用意をしなければならないと外務大臣はお考えになりますか。
  111. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 このロメ協定というのは、確かに私どもとしても簡単に見逃すことのできない一つ動きだというふうに考えております。  しかしさらに申しますと、概して御承知のように、コモンマーケットの国々が、ほぼ過去の宗主国あるいは植民地関係というようなものを考えながら打ち立てた考え方でありますし、EC以外の先進国がこの際どういう立場に立つかということも十分には考えられていない。批評すれば、いろいろ言いたいことはございます。ございますが、しかしこれはなかなか軽視できない一つの事実であろうというふうに思います。しかしわが国の場合、そのようなこれが誕生するに至りました経緯、事情奪いろいろ異なっておりますから、すぐにこれからどうということは出てまいるまい。けれどもこの協定が発展途上国あるいはその一次産品のこれからの先進国間での問題の処理について一つの示唆を与え、また影響を与えていることは事実でございますから、十分に検討しなければならない協定であるとは思っております。
  112. 永末英一

    ○永末委員 確かにロメ協定に参加をした発展途上国は、EC諸国とかつて宗主国対植民地的な関係にあったところが大部分でございます。全部が全部そうであると思いませんけれども。しかしながら、いまやかつてのそういう植民地、非植民地関係というものは歴史のかなたに置かれておるのでございますから、そういう過去の経歴とは離れて、やはり先発国と後発国との関係一つの典型だ。したがって、われわれが後発国に対して臨みます場合に、一つのパターンとして彼らはこれを考えてくる。その場合に、わが国の事情だけを固執してそこまで行かないということになると、どんなにいいと思っておりましても日本国の後発国に対する態度を疑われはしまいか。  たとえばもう一つの点を申し上げますと、EC諸国が後発国の工業製品のすべてについて関税を免除したり数量制限もしない、こういうような約束をしているわけですね。わが国はそういうことをやっておるわけでございます。したがって、わが国も未来への方向としては、なるほどいますぐに、過去の経緯からしましてEC諸国とACP各国との間のような関係はできないにいたしましても、目標とすべきものとしては十分に考慮をしてこれから考えるべきではないか。それを目標としつつ国内の経済体制の整備を行っていくということでなくてはならぬのではないかと私は思いますが、いかがでございましょう。
  113. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 御指摘のようなことは概してやはり私もそういうふうに考えております。わが国も、御指摘のように特恵関税のようなことはやっておるわけでございますが、そのような方向をさらに進めていくといったようなことは当然考えるべきことでございますし、概して申しまして、やはりこれは一石を投じた協定である、わが国としてもよく研究をし、また、ここから出てくるであろう新しい発展にわが国なりの方法で対処をしていかなければならないというふうに考えております。
  114. 永末英一

    ○永末委員 ロメ協定というのは今後ある意味一つの先発国の後発国に対する一里塚になろうと思いますので、十分慎重に対処されるよう期待を申し上げまして、国際情勢に対する質問は終わります。      ————◇—————
  115. 栗原祐幸

    栗原委員長 次に、船舶料理士資格証明に関する条約(第六十九号)の締結について承認を求めるの件及び社会保障最低基準に関する条約(第百二号)の締結について承認を求めるの件、以上両件を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。永末英一君。
  116. 永末英一

    ○永末委員 ILOの百二号条約について外務大臣に伺いたいのでございますが、今回の批准案の内容はもともとそこで取り上げられております諸問題のうち、いま政府のやれそうなものを取り上げて、まだ準備の整わないものはやめておる、こういうのでございまして、第七部家族給付、第八部母性給付、第九部廃疾給付等は今度はやらない。特に母性給付にまつわる母の問題については、日本の女性からは非常な非難を受けておる条項でございますが、対外的になぜその百二号条約の中でそこだけを取り上げたかということになりますと、外務大臣が外国の方々に会われた場合に、日本政府というのは何を考えているのだ、こういうことになりかねないのでございます。したがって、当然日本政府としても、特に外務大臣としては何とかやはり一括批准をしなければならぬとお考えだと思いますけれども、その辺のお考えのほどを外務大臣から篤と承りたい。
  117. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 このような条約締結するに当たりまして、わが国の場合には従来からかなり慎重と申しますか、いやしくも一遍約束をしたことは当然履行されておらなければならない、そのための国内体制が整備されておらなければならないと考える点におきましては、恐らく他のどの国よりも厳格に神経質に考えてまいったと思います。  このたびこの百二号の御承認を求めるに至りましたのも、まずどの観点から考えましても、この三、四、五、六、わが国の場合完全であると考えておりまして、そういう意味合いでは、わが国がある意味で非常にまじめに、厳格に条約の内容に国内体制を整えました上で批准をしておるという国柄であるというふうに考えております。したがいまして、先ほど御指摘の七、八、九あたりは、まだわが国の国内体制が義務を受諾するためには十分でないと考えたのでございますが、当然先進国の一つといたしまして、国内体制を整備して、その他の部門につきましてもこの条件を満たしたい、将来の問題としてそう考えなければならないと思います。主としてこれは厚生大臣の御所管でございますが、私といたしましても、そういう体制の整備につきまして厚生大臣にもお願いをし、要請をいたしまして、政府としても努力をしてまいりたいと考えております。
  118. 永末英一

    ○永末委員 せっかく外務大臣としても御努力を願いたいと思います。外務大臣への質問はこれで終わります。  さて、政府委員の方にお伺いいたしたいのでございますが、いま外務大臣が申されましたように、この条約上の義務を受諾するにはまだ熟していない点がある、こういうことでございますが、どういう点が熟しておらぬのでありますか、お答え願いたい。
  119. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  今回の百二号条約におきまして、日本がまだその最低の域に達しない、そのために義務の受諾ができない、こういう部門の具体的なお尋ねでございますが、一つには、先生御指摘ありましたように、出産の給付の関係でございます。これは医療給付という部門とそれから母性給付、この両部門に同じような規定がございまして、日本におきましては健康保険法で現金の給付ということでやっております。しかしながらその額がまだ足らない場合がある、こういう点で、その部門は受諾できないわけでございます。  次に、廃疾給付でございますが、これにつきましては、条約上の規定といたしまして、傷病給付が切れた後まだ廃疾状態がある、こういう場合にもおやりなさい、こう書いてあるわけでございます。しかしながらわが国の健康保険法におきましては、傷病給付つまり傷病手当金と申しますものが、普通の病気でありますれば六カ月、結核性の疾病におきましては一年六カ月、こうなっておりまして、その後廃疾給付にいきますのに、治らない場合には三年目に初めて廃疾認定というものをいたしまして、そこで障害年金、こういうものが出るわけでございます。したがいましてそこにギャップがある、こういう点でございます。  もう一つは遺族給付でございまして、これは先生御承知かとも存じますが、大体日本の年金制度におきましては、沿革上の理由もございまして、老齢年金の半額、こういうのがいままでの原則的な形になっております。この点におきまして、条約の要求しております従前所得の四〇%、拠出期間が短ければこれが三〇%でよろしいわけなんですが、その三〇%にもまだもう少し及ばない、こういう点がございます。  以上のような理由におきまして、先生御指摘の五部門におきまして義務の受諾ができない、こういうことになったわけでございます。  以上でございます。
  120. 永末英一

    ○永末委員 それぞれの今度提案をされていない部門については、後それぞれどれぐらいたったら提案ができるようになるのですか。
  121. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  ただいまのところ、それぞれ給付の改善につきましては、国内問題といたしましても努力はいたしておりますが、ただいま申し上げられますのは、最後に申し上げました遺族給付の部面でございますが、これは年金制度の改正を五十一年度に予定しておりますのですが、ほかの年金制度のほかの部面の改正ともあわせましてこれはぜひ実現させたい、こういう方向で努力いたしております。そのほかのものにつきましては、それぞれいろいろ問題がございまして、真剣に検討はいたしておりますが、時期的にいつと申し上げることは、現在のところ残念ながらいたしかねる、こういうことでございます。
  122. 永末英一

    ○永末委員 官庁の事務から申しますと、いつというのはなかなか言えぬと思いますが、だんだん接近しようとしているのですか、ほってあるのですか。
  123. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  接近すべく努力中でございます。
  124. 永末英一

    ○永末委員 このILO条約というのは、なるほど国内法で完全にできるようになってから条約をやるというのも考え方でありますけれども、他国の例から見ますと、条約は批准して、そしてそれに合わして国内法体系の整備を急ぐ、こういうことをやっておる国もございますが、わが方は後者の方はおとりにならぬのですか。
  125. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 ILO関係条約は、一般的に申しまして、一般的な原則を定めるものが多いわけでございます。これを受けて実施する国内法の整備といいますか、これがございませんと国際約束の履行に支障を来たすばかりでなく、実際に労働行政を進める上にも支障が起こってくるという点をわれわれとしては考えなければいけないと思います。したがって、ILO条約の場合には、できるだけ事前に関係の国内法の整備、これに合わせる措置をとった上でこれに参加するという措置をとるのが妥当だと思います。  ちなみに、政府は昭和二十八年十二月の閣議におきまして、これは御承知だと思いますけれども、ILO条約の批准に関連して立法を要する場合には批准前に立法の措置を講じ、これにつき国会の議決を求めるという決定がございます。大体この考え方に沿ってやっているわけでございます。
  126. 永末英一

    ○永末委員 この百二号条約とあわせて今回六十九号条約が上程されておるのでありますけれども、この六十九号は船舶料理士資格証明に関するものでありますけれども、もともと百二号は社会保障最低基準、船員のための社会保障に関する七十号条約、船員の年金に関する七十一号条約、これはむしろ百二号に関係のあるものでございますが、何か船関係は料理の資格証明だけがぽんと出てきて、基本的な船員の社会保障、年金は知らぬ顔をしておる。これはどうも提案の仕方がつまみ食いみたいなものじゃないかと思うのでありますが、なぜこの七十号条約と七十一号条約は批准を求められないのですか。
  127. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘の船員関係二つ社会保障関係条約でございますが、これは実は先生御承知かと思いますが、百二号条約よりも先にできておる条約でございます。したがいまして、御指摘のように、そちらの方を先にすべきではないかという気持ちが私どももいたすわけでございます。ただ、百二号の方は包括的に陸上労働者全般について規定しておりまして、その中で特則を書きまして、船員関係についてはこれは適用しないという書き方をいたしております。  それからもう一つ、実際的な理由と申しますか、そちらの方からまいりますと、船員関係のおっしゃった二つ条約も鋭意検討を進めておりますが、多少まだ細かい点につきまして疑問の点があるわけでございます。ごく大ざっぱに申し上げますと、おおむね日本の国内法、つまり船員保険法でございますが、水準に達しているとは存じますが、もうしばらく検討させていただきたい、こう思っておる次第でございます。
  128. 永末英一

    ○永末委員 私はいま七十号条約、七十一号条約が百二号条約と時間的な先後だからと言うているのではございませんので、現在のわが国の船舶業界というのは、外国船籍のある船を使ってみたり、あるいはまた外国人を船で雇用して船員をやらしたり、きわめて国際化しているわけですね。そうしますと、わが国における船員のための社会保障の基準に関して、わが方もまた国際的な一つの基準を承諾しておるということは重要な問題ではなかろうかと思うわけであります。したがって私が申し上げましたのは、その中の料理士の話だけをやっているというのは片手落ちではなかろうか、こう申し上げたわけです。どういう点に一体船員の社会保障に関する二つ条約を批准できない点があるか、御説明を願います。
  129. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  具体的に申し上げまして、わが国の船員保険法は、先生御指摘二つ条約について、ほとんどその水準まできておりますが、多少細かくなりますが、たとえば老齢年金あるいは船員に対する失業保険金の支給、こういう点におきまして、現在の船員保険法の規定によりますと一つまり陸上労働者の失業保険法より下回ってはならぬというのが船員関係条約の基本原則でございまして、先般の失業の保険関係の法律改正によりますと、期間を長くするという規定がございまして、期間が長くなっているわけでございます。しかるに船員保険におきましては、その期間が以前のままでございますので、そこでどうも条約と合致しない点があるのじゃなかろうかと思うわけでございます。ただし、船員保険の場合には老齢年金が陸上に比べまして短期間で、それから年齢が早く出るわけでございます。そうしますと、高年齢者に対する失業保険の期限を七十号条約によりまして長く延ばす、それから船員保険の老齢年金が早く出る、つまり老齢者に対する年金給付が早く出る、こういう点の食い違いというものをILO当局にも実は照会したい、こう思っておるわけでございます。したがいまして、まず実質的にはおおむねカバーできておりますが、そういう技術的な問題におきまして時間をとっておる、こういう次第でございます。
  130. 永末英一

    ○永末委員 いまお話を伺いますと、技術的な段階に立ち至っておるというのでございますから、これは議会に承認を求められる時間が早いものだと理解してよろしいか。
  131. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生おっしゃいますように、問題点が解明され、時期が熟しましたならば、国会の御審議をお願いいたしたい、こういうつもりで作業を進めておる次第でございます。
  132. 永末英一

    ○永末委員 六十九号条約関係につきまして省令が準備されておるようであります、船舶料理士に関する省令。今回この条約が批准されれば省令が施行されて、そしてこれによってこの六十九号条約の内容が実現するわけでございますが、これらについて二、三質問をいたしておきます。  第一は、船舶料理士の試験でございますが、もともとほかの何とか士というのは国が行うもの、国が委任をして都道府県知事が行うものでございますが、この省令の案を見ますと、「運輸大臣の指定する者」と、こういう非常にぼやっとした規定になっておるようでありますけれども、これはどうしてですか。
  133. 山上孝史

    ○山上政府委員 先生御指摘のとおり、船舶料理士に関する省令というのは、船員法第八十条第一項の規定に基づきましてすでに三月に公布されております。これには御指摘のとおりに、船舶料理士の試験を指定機関に行わせるようになっております。この理由につきましては、先生も御承知のように、この条約の第四条第四項の規定によりますと、船舶料理士の資格取得のための試験は必ずしも権限のある国家機関が直接に実施することを必要としておりません。権限のある国家機関の規制のもとに認められた料理人訓練学校等が実施できる方途をこの条約上、規定しております。わが国の場合には、この条約の規定に基づきまして、行政簡素化の趣旨にも資するために、運輸大臣の監督のもとに運輸大臣の指定する機関に試験を実施させたいと考えたわけでございます。  なお、本件につきましては船員法に基づきまして船員中央労働委員会、すなわち、先生も御承知のとおり、公益、労働、使用者三者構成の委員会に諮問をいたしまして、その全員一致の答申に基づきましてこのような措置をした次第でございます。
  134. 永末英一

    ○永末委員 この試験のやり方について、たとえば海上安全船員教育審議会等の関係者の意見を聞く用意はありますか。
  135. 山上孝史

    ○山上政府委員 試験の具体的な実施の細目につきましては、現在私どもで案を練り、関係者の意見を十分に聴取したいということで意見を取りまとめ中でございます。先ほども申し上げましたとおり、本件につきましては、すでにこの制度自体、船員中央労働委員会の答申に基づいてやっておりますので、先生御指摘の海上安全船員教育審議会ですか、これとは性格が違いますので、今後必要があれば、この船員中央労働委員会の意向を参酌しながら措置したい、こう考えております。
  136. 永末英一

    ○永末委員 公的な機関でないものが試験をやるということになると、受験料も高くなるのではないかという心配をする向きがありますが、そういう心配はございませんな。
  137. 山上孝史

    ○山上政府委員 運輸大臣が指定する試験機関の指定基準につきましては、私どもはこのように考えております。  まず、運輸大臣の監督下にある公益法人であること。それから試験の実施に関し財政的基盤の確立しているものであること。それから試験の執行に当たり公平、厳正を確保できるものであること。それから試験が定期的に実施され、かつ試験科目が座学及び実技とされており、座学につきましては衛生法規、公衆衛生学、食品衛生学、栄養学、食品学、船内食品貯蔵、それから船内調理理論について行うことができるというものであること等の基準をつくりまして、この基準に具体的に適合した公益法人を指定したいと考えております。  先生御心配の手数料につきましては、おおむね私どもといたしましては、現在の調理師試験の手数料程度のことで賄えるのではないか、こう考えております。
  138. 永末英一

    ○永末委員 大臣指定の養成施設で通常講習を行われるようでございますが、この場所が、やはりそこで講習を受けようとする者に便利なように所在地を考慮すべきと思いますが、お考えのほどを承りたい。
  139. 山上孝史

    ○山上政府委員 先生、いま御指摘のは指定講習でございますね。先ほど御答弁申し上げましたのは試験でございますが、指定講習につきましては、私どもはまず国におきましては三つの海員学校、清水、門司、口之津、この本科司厨科におきまして百六十人、年間養成をいたしたいと思います。また、民間におきましては、現在すでにやっております財団法人日本船員福利協会の船舶調理師講習所、これにおきまして年間百二十人、さらに新設で財団法人日本船舶職員養成協会にこの養成課程を新設いたしまして、塩釜を含みまして三カ所に設けることといたしております。これが大体年間三吾六十人、こういう養成施設を考えております。  なお、先生も御心配のように、場所につきまして、特に関西等につきましては、具体的な計画は目下のところございません。今後必要が具体的に生じてきた場合に、前向きにその指定講習所の設置につきまして検討いたしたいと存じます。
  140. 永末英一

    ○永末委員 最後に申された点でございますが、先ほど塩釜ほか三カ所というのは横浜、長崎、沖縄ではないかと思うのでありますが、やはり瀬戸内海があり、船舶が非常に入ってくるのは阪神地方でございますから、やはり阪神地方に一カ所設けられるのが、これらの養成施設で講習を受ける者にとっては非常に利便だと思うのですが、いかがでしょう。
  141. 山上孝史

    ○山上政府委員 具体的にそのような要請が強い場合には、前向きに検討いたしたいと存じます。
  142. 永末英一

    ○永末委員 これらの講師は、いろいろ御選定されると思いますが、やはり陸上の調理だけでは船方上の調理はだめでございまして、私もかつて海軍の主計長をやっておりましたので、どういう違いがあるかをいささか存じておるのでございますが、海上実務の経験者を入れることが必要ではないかと思いますが、いかがですか。
  143. 山上孝史

    ○山上政府委員 全く同感でございますので、そのように具体的に措置するように配慮したいと思います。
  144. 永末英一

    ○永末委員 この省令では経過措置で、運輸大臣が認めた者につきましては無試験、無講習で資格を与えるようになっておるようでございますけれども、やはりちゃんと折り目、けじめというものが必要でございますので、ちゃんと講習を受けて、これは先ほどの指定講習ではございませんけれども、補充講習とでも申しましょうか、そういう講習をちゃんと受けてからやはり資格を与える、こういうぐあいにけじめをつけるべきだと思いますが、いかがですか。
  145. 山上孝史

    ○山上政府委員 先生御指摘の経過措置、これは多分船舶料理士として必要な知識及び技能を有していると運輸大臣が認める者、これの取り扱いの問題だと思います。これにつきましては、先ほど来触れておりますように、船員中央労働委員会でいろいろ御審議を願いまして、その審議の過程におきましても御要望がございまして、本来、制度としては指定講習を義務づけはしないけれども、行政指導として極力これを受けさせるように配慮するということでございますので、私どもといたしましてもそのような方向で措置したいと考えております。
  146. 永末英一

    ○永末委員 直接の資格証明とは関係ないことでございますが、船員に適切な食品を与えるためにはその施設が必要でございまして、近来、冷凍貯蔵施設というものが非常に発達しておりますが、古い船はそういうものはございません。冷却冷蔵庫ぐらいのものでございまして、私もかつて船に乗っておりますときに冷蔵庫がぶっ壊れて、いいものを食べさせられないので往生したことがございました。ぜひひとつ、できるだけ冷凍冷蔵庫、マイナス二十五度ぐらいになるようなものをやっておけば、大体冷凍食品が多いのでございますし、これによって乗組員の健康管理が進むのでありますから、そういう行政指導をやっていただくとともに、設備規則をやはりちゃんとつくって、そして新しい船にはぜひ冷凍冷蔵庫を置くように指導せられたいと思いますが、いかがですか。
  147. 山上孝史

    ○山上政府委員 御指摘の冷蔵庫につきましては、船員法に基づく船員労働安全衛生規則の第三十七条に食料の貯蔵について規定がございます。すなわち「船舶所有者は、食料の貯蔵については、食料の種類に応じた保存方法を講ずるとともに貯蔵設備を清潔に保たなければならない。」ということでございまして、この制度の対象になります船舶につきましては、実態的にもおおむね冷凍食品につきましてはマイナス十五度以下で貯蔵できるような設備がすでに整備されております。
  148. 永末英一

    ○永末委員 せっかくひとつ御努力いただきます。  終わり。
  149. 栗原祐幸

    栗原委員長 午後二時三十分より再開することとし、この際、休憩いたします。     午後一時四十九分休憩      ————◇—————     午後二時四十八分開議
  150. 栗原祐幸

    栗原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。土井たか子君。
  151. 土井たか子

    ○土井委員 私は、ILO条約の内容それ自身、つまり本題に入ります前に少しただしておきたいことがございますので、この事柄から取り上げていきたいと存じます。ILO条約はILO憲章によりまして採択されて後、一年以内に国会に提出されるということになっております。ILOの百二号条約についても、わが国の場合は条約について日本語の訳文を作成をして、そうして国会に提出をされているわけでありますが、今回、このILO百二号条約の批准承認を求めるために、新たに国会へ提出されました条約の条文の日本語訳文と比較をいたしました場合に、二十三年間、いままでこの訳文に従って取り扱いを進めてこられましたその本来の訳文との間で差異がある場合、それは内容に対する変更があったというふうに考えるべきなんでしょうか、いかがなんでしょう。
  152. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  ILOの条約採択後、一年以内にそれぞれの権限のある国に、権限のある当局、機関と申しますかに報告しろということが、先生御承知のようにILO憲章十九条で定まっておるわけでありまして、わが国では昭和二十八年以来これに訳文と政府の簡単な対処方針というものを添えまして、日本の権限ある機関である国会に御提出、御報告申し上げているわけであります。  この訳文の相違ということでございますが、この国会への提出に際しましては、事務的に外務省、労働省その他の関係主管庁との協議で訳文を作成いたした上で御提出するわけでございますが、これはあくまでも正確に言えば仮訳文という性質のものでございまして、今回のように国会の承認を得るために出しますためには、法制局での十分な審議を経た上で訳語なども厳密に選定をいたしましてっくったものでございまして、今回百二号条約と、前回二十年前にお出しいたしましたこの訳文との間で乖離がございますといたしましても、それは用語の問題ではなかろうかと思われます。したがいまして、内容の変更には至っていないものだと私ども考えている次第でございます。用語の変更に関しましては、何分、時期もたっておりますし、日本語も、法制局審議におきます日本語の用語、用例というものが時とともに若干変化いたすこともございますので、その当時の用例に従って訳したりしたものが、正式に国会に御提出前に法制局で審議いたす場合に、用語が若干異なるということもあるわけでございまして、その点は御了承いただきたいと思います。いずれにいたしましても、今回御提出申し上げた百二号条約の案文は、これは正規の訳でございます。
  153. 土井たか子

    ○土井委員 従前のは仮訳であって、ただいまこの国会に提案をされている条約文はこれを本訳文というふうにお考えいただきたいということですが、仮訳文とはいえ、二十三年間この訳文で日本の国内的には通用させてきたわけでありますから、社会的に考えていきますと、ただいまこの国会で初めて本訳文として提出をされている訳文以上にある意味では重みを持って考えられてきたというふうに言っても私は間違いじゃないと思うのです。二十三年間の重みというものは大変なものですよ。単なる表現上の違いであって、内容にはいささかの変更もないという向きのお答えでござますけれども、国際間で協議をした結果採択をされているILO条約の条文に対して、国内的に用語の上での日本語訳が以前と以後とで違ってくるというのは、これは適当であるか適当でないかということを考えていったら決して好ましい状態ではない。適当とは言えないというふうに考えるのが私は一般的な考え方じゃないかと思うのです。いろいろ洗い出していくといっぱいこれあると思うのですがね。伊達参事官御承知のとおりいっぱいありますよ。これ、洗い出していきますと、ちょっと見ただけでも気がつくところというのは、一条一項の(b)にすでにあります。伊達参事官のことばをかりれば、仮訳文で言うところの「住民」が今回の本訳文では「居住者」となっている。また八条では、仮訳文では「原因のいかんを問わないすべての病的状態並びに妊娠、分べん及びこれらの結果とする。」というところが、今回の、おっしゃる本訳文では「すべての負傷又は疾病(原因のいかんを問わない。)」になっているのです。十三条では仮訳文で「疾病」が今回は「傷病」ということになっている。さらに四十条では「適用を受ける事故は、所定の子に対する扶養の義務とする。」と言われてまいりましたところが、今回はがらりと変わりまして「給付事由は、国内の法令で定めるところにより、子を扶養する責務とする。」という条文に本訳文が変わっているわけなんですね。いままで二十三年間は国内的には伊達参事官の言われる仮訳文で通用させてきたわけでありますが、おっしゃるとおり、このILO条約それ自身関係のある省庁が寄って協議をなさるのでしょう。協議をなさる以上は国内のいろんな法令に対して矛盾を来たさないように、訳語の上でも注意を払い、原文に対してあくまで忠実に日本語に訳していくという作業をお進めになったに違いないと私は思うわけであります。そこでいま改めて訳文を比較した場合に、あっちにもこっちにもこういうふうにいままで使われてきたことと表現の上での違いがある。内容にはさほど差がないとおっしゃってしまえばそれまでかもしれませんが、最後に私が指摘をした四十条なんというのは、考えてみると、内容から言うと、解釈によっては二十三年間国内的に通用させてきた仮訳と、今回この国会に提出をされている、伊達参事官の言われる本訳文とではかなり意味が違うというふうに解釈論上問題になる点なしとしません。  そこで私は申し上げたいのですが、一年以内に国会へ提出される際に、あらかじめ法制局の審査をお受けになって国会に提出をされるというそういう作業をおやりになってきたのかどうか、その点はいかが相なっておりますか。
  154. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  先ほども申し上げましたとおり、この総会閉会後一年以内に権限のある機関に出せという場合の国会への御報告の際の訳文作成に当たりましては、法制局の審議を経たものではございません。
  155. 土井たか子

    ○土井委員 これは訳文を出されて、すぐに国会で批准するための審議をして、承認を得る作業が相次いで起こっている場合にはこんなことにならないのですよ。二十三年間ずっと伊達参事官の言われる仮訳文で国内的には通用させてきたわけですよ。あらゆる印刷物を見ると旧訳文で取り扱われています、ILO百二号に関する文献というのは。今回ILO百二号が国会承認を得るか得ないか、これはまだ未知数でありますけれども、国会承認を得てから、昭和五十年を境に、ILO百二号についての条文に対しての表現が同じ条文の場合、まるでそれ以前と違うということも作業上出てくるのです。一々それについては、従来はこういうふうに表現をしていたけれども、五十年の国会審議で国会承認を得て、批准をして後はこういう表現に改めるという注釈をお書きになるのですか、いかがなんです。
  156. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 百二号条約に限らず、その他のわが国が国会の御承認を得て加入した条約につきましても、同じような事情が若干はあったものと、私個々に具体的に承知しているわけではございませんが、やはり仮訳文と法制局審議を経た定訳文というものには、若干の変化があったものと思いますが、その際に、ただいまおっしゃいましたような注釈をつけたことはございません。この百二号条約についても特に意味の変更はないわけでございますので、用語の変更として、その点だけについて注釈をつけるというようなことは、いまだその点について考えが決まっているわけではございませんけれども、恐らくつけるようなことはないというふうに考えております。
  157. 土井たか子

    ○土井委員 しかし、いずれにいたしましても、二十三年間仮訳文で国内的に通用させてきて、あらゆる文献がその訳文に従って作成をされ、一般にも国内的に流布されているわけですよ。そういうことから考えますと、いままでは単なる仮訳文であって、いま出しているのが本訳文だから、仮訳文は全部御破算にして本訳文のみを考えてくれればいい、用語上だけの違いなんだから大勢に影響はない、内容に変更はないんだからいいじゃないかという安易な考えはやめてもらいましょうと私は言いたいんです。やはり一年以内に国会に提出される際には、これは慎重を期して法制局の審査を受けるというのは当然の手続上考えられていい問題じゃないでしょうか。そして慎重を期して、訳文についても正確な訳文を国会に提出するという作業をしてしかるべきだと思うのですが、この点はどのようにお考えになっておりますか。
  158. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上、げます。  確かに先生御指摘のように、国会へ御報告申し上げる仮訳文とその後国会の御承認のために提出いたします定訳文との間に相違があるということは、先ほども先生もおっしゃいましたように、私も同感でございますが、決して好ましいことではないと思います。ただ、そういたしますと、国会御承認のために出す条約をいつ御承認のために出すか、ある程度、時間的に早急にめどがつかないような場合に、法制局で直ちに審議を開始いたしましても、法制局の審議と申しますのは単に翻訳の作業だけではございませんで、内容の審議にもかかわってくるものでございますので、それだけの手数を経たものを、改めて、たとえばこの条約の場合のように、二十年近くもたった後でまた改めて法制局の審議は要らないかと申しますと、やはり法制局の審議が必要になってくる、そのようなことがございますので、国会に御報告申し上げるときに法制局の審議を経た上で出されたらいかがであるかということでございますれば、直ちにいまそのような手続を経た訳文を御報告の際に出すというふうにお約束いたしかねるわけでございます。  ただ、冒頭にも申し上げましたように、確かに相違があるということは好ましいことではございませんので、私どもとして何とか、この事態と申しますか、このようなことを極力少なからしめるようにするためにはどういうふうにしたらよいか、検討させていただきたいと思います。
  159. 土井たか子

    ○土井委員 検討とおっしゃいますから、一つはそれを考えていただくということにゆだねなければならないわけですが、検討とおっしゃると、これはもう永久に検討なさる例がよくあるので、これは条約の原文を日本語に翻訳して、そして訳文としてこれを国内的にこのように通用させていただきたいという意思表示をなさるときには、その時点で慎重な訳文をひとつ御検討なさるように私は申し上げたいと思います。  法制局の審査を経るというのは、これは一般だれでもが、やはり国会段階では、ここに提出される法文について考えることでございまして、特に国際間で合意を得て採択をされているILO条約については、やはり日本の国内でどういうふうな認識をこのILO条約に対して持つべきかということにもかかわりがございますので、ひとつこの国会に提案をなさる——まあこれは審議する国会ではないというふうな言いわけをさらになさるかもしれませんけれども、資料として御提出をなさる段階でも、法制局の審査というのがあらかじめあっていいんじゃないかと私は思います。そのことも含めてひとつ御検討、お願いしますよ。よろしゅうございますね。
  160. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 十分まじめに検討させていただきたいと思います。
  161. 土井たか子

    ○土井委員 今回の百二号条約というのは、もら周知の事実でございまして、日本の場合は、非常に恥ずかしながら二十三年間も放置されてきたわけであります。このILO憲章の十九条の5というところを見ますと、条約を採択して後一年以内に、遅くとも十八カ月以内に国会に提出することになっていると考えますが、この点はいかが相なっておりますか。
  162. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  御指摘の十九条の5の(b)でございますが、「おそくとも一年以内に、又は例外的な事情のために一年以内に不可能であるときはその後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にも総会の会期の終了後十八箇月以内に、条約を当該事項について権限のある機関に提出することを約束する。」と書いてございます。そのとおりでございます。
  163. 土井たか子

    ○土井委員 これは本来、国会に提出するという意味は、条約を採択して後一年以内に、遅くとも十八カ月以内に国会承認を得るための提出をしなければならないという意味に解して当然だと思いますが、いかがでございますか。
  164. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  ただいまおっしゃいましたような解釈は、私ども初め、このILO憲章の解釈といたしましてとっていないわけでございまして、これはやはり権限のある機関にそれぞれの国が報告をする、することによりまして、このような条約が国際機関である国際労働機関によって採択をされたということから、国内立法の参考に資するという意味で提出をするものであって、ここでは、必ず一年以内に条約の批准をしなければならないということは全く含まれていない、そのような解釈を私どもはとっておりますし、かつまた、国際的にもそのような解釈になっているというふうに承知しております。
  165. 土井たか子

    ○土井委員 日本の外務省がそういうふうな解釈をされ、国際法的にもそういうふうに解釈がされていると思われるその根拠はいずれにございますか。
  166. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  これはILO自体でもこの点が問題となったものでございまして、一九五八年と聞いておりますが、ILOの条約及び勧告の適用に関する専門家委員会というものが、この点に関しまして覚書と申しますか、メモランダムと申しますか、権限のある機関へ条約を提出する義務に関する覚書、メモランダムというような一文を物しまして、そしてそれがその年のILO理事会の、これは第百四十回会議でございましたが、そこで採択、理事会のアプルーバルを得たものでございまして、ただいま私が申し上げましたこの十九条5の(b)の解釈につきまして、それが確認されているわけでございます。
  167. 土井たか子

    ○土井委員 いま伊達参事官、一九五九年の報告というふうにおっしゃいましたか、一九五八年とおっしゃいましたか。
  168. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 五八年と申し上げました。
  169. 土井たか子

    ○土井委員 五八年にそういう報告ございましたっけ。
  170. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 このメモランダムが作成された時点はいま私つまびらかにいたしませんが、このメモランダムを採択いたしましたILO百四十回会期におきますILO理事会は一九五八年のILO理事会でございます。
  171. 土井たか子

    ○土井委員 条約勧告適用委員会の報告は一九五九年となっておりますので、ひとつそこのところをもう一度確認をしていただきたいと思うのです。いずれにしろ私はそういう報告があったことはわかっております。  しかし一方、この憲章の十九条の原案についてはどうであったかをひとつ御説明賜りませんか。
  172. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 恐れ入りますが、ちょっと御質問意味がとれかねましたので……。恐れ入ります。
  173. 土井たか子

    ○土井委員 いま十九条について一年以内に、遅くとも十八カ月以内に国会に批准を求める提出をするという義務がないというふうに解する、それは国際法上もそのように解釈をしているという御趣旨で、ILOの一九五八年とおっしゃる、かの条約勧告適用委員会の趣旨のほどを御説明になったわけですね。これは一九五八年なのか、一九五九年の報告なのかはひとつ再吟味をお願いしたい。  しかし、そういう趣旨の条約勧告適用委員会の、このILO憲章十九条5に対する認識があることを私は存じております。しかし、本来この憲章の十九条の原案ではこの問題についてどういう認識があったかおわかりですかと言っているのです。
  174. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 この憲章起草の原案のことだといまわかりまして、失礼を申し上げました。  ILO憲章起草の原案では、現在の第十九条5の(b)に相当いたします個所は、「立法府が条約承認を与えない場合を除き、総会の会合の終了後一年以内に条約の正式の批准を事務総長に通知し、かつ、条約を実施するための必要なすべての措置を直ちにとることを約束する。」というふうになっていたわけでございます。
  175. 土井たか子

    ○土井委員 そのとおりですね。この憲章の作成された原案時点では、もう一度その部分を言いますと、「立法府が条約承認を与えない場合を除き、総会の会合の終了後一年以内に条約の正式の批准を事務総長に」云々というふうに決められていたわけですね。そのとおりなんですね。  そうしますと、これは十九条の原案の方が時間的には先立つ問題、つまり一九一九年の出来事でございます。その後に、これは一九五八年と言われた、かの条約勧告適用についての委員会のこれに対する解釈があるわけなんです。原案とこの解釈の上で少々のずれがあるというふうにお考えになりませんか。本来、十九条の原案からいたしますと、一年以内に立法府へまず批准のための提出をすることに相なりますよ、原案からいたしますと。  したがって、今回も日本の外務省とされては条約勧告適用委員会の趣旨にのっとって批准を求めるための国会提出は、一年以内にしなくとも、十八カ月以内にしなくとも差し支えないとお考えになっていらっしゃるようでありますけれども、本来十九条の原案の趣旨からすれば、これは批准を求めるために国会に提出をするというのが条文を的確に読んだ場合の趣旨ではなかろうかと私は思うのです。いかがでございましょう。
  176. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 おっしゃいますように、原案の文言でございますれば、立法府が条約承認を与えない場合を除いては、一年以内に条約の正式の批准を行えということでございます。このような表現をとっておれば、まさに先生のおっしゃいましたように、一年以内に国会の承認のために日本国会へ提出せよということになりますが、その後変わって、結局この原案は採択するところとならずに、現在の憲章におきましては十九条の五項の(b)の表現になっておりまして、そこでは趣旨が異なっておりまして、批准の通告を一年以内にしろということは書いてないわけでございます。  そうして先生がおっしゃいましたような疑問と申しますか、一種の議論ができ上がったところから、この条約及び勧告の適用に関する専門家委員会によるメモランダムというものが出まして、そうしてその権限ある機関への提出とそれから批准とは全く別問題で、別個の問題であるということが確認されているわけでございまして、したがって私どももそれと同じような考え方をとっているわけでございます。
  177. 土井たか子

    ○土井委員 本来条約を国会に提出するというのは、批准を求めるという、批准を行うということのための憲法上の手続じゃないでしょうか。このILO憲章十九条に対する解釈が条約勧告適用委員会の解釈によって、いま伊達参事官の言われたようになっている事実も私は存じております。  しかし、片や先ほど申し上げたとおり、憲章十九条の原案からいたしますと、本来は採択された条約については、それぞれの採択をした国の国内でできる限り早くこの条約締結することが好ましいのでありますから、少なくともその期間を一年以内、あるいはおくれても十八カ月以内というふうな期限を問題にされた意味はそこにあると思うのです。  したがいまして、日本の場合十八カ月以内に批准のために国会に提出をしていないということは、すなわち、残念ながらいま条約勧告適用委員会の理解によりますと、この憲章の義務違反とはいえないようであります。けれども、本来ILOという国際機構が構成され、そうしてそのILOで問題にされるいろいろな事柄について憲法とも言うべきILO憲章の十九条の原案では、先ほど読んだとおりに、できる限り採択されたILO条約あるいは勧告については、それぞれの国が国内において誠実にそれを遵守するという国内体制をつくっていくことが当然大事な問題だということで、「一年以内に条約の正式の批准を事務総長に通知し、」云々の問題も私は出されたのだと思うのです。だから、そういう点からすると、本来これはILO憲章の目的から考えてまいりますと、日本がこのILO百二号というのを採択してから一十三年間放置していたということは、これは憲章の義務違反にはならないけれども、ILO憲章の本来の目的から考えてまいりますと、ILO機構のあるべき本来の目的から考えていきますと、好ましいこととお考えでいらっしゃいますか、どうですか。その点をお聞かせください。法違反とはいえないから、違法合法の問題じゃない、好ましいか好ましくないかを私は承っております。
  178. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 先生のおっしゃる御趣旨もよくわかるんでございます。理想論といたしまして、ILO機構というものに参加をしている以上、労働問題に関する国際間の協力ないしは労働者の地位向上というものを目的としているILO機関におきまして採択された条約というものに、なるべく早く国内的な立法手続を終えて加盟するということは好ましいことであろうと思います。そのゆえにこそ、なるべく多くの国が早くある一定の条約に入るようにという趣旨から、先ほどの十九条の原案というものもでき上がったものだと思いますけれども、何分やはり国際社会には国の事情というのはいろいろございますし、そう期間を区切りましても実効性は期待し得ない、また反対する国もあったんでございましょう。十九条の原案というのは採択にならなくて、権限ある機関への報告という形におさまったというのは、まさに批准を強制するというか、やはりそれぞれの国の事情を考慮に入れたものであるというふうに考えてよろしいんじゃないかと思います。
  179. 土井たか子

    ○土井委員 伊達参事官、ただいま私はそういうことをお伺いしていたんじゃなかったのですよ。法違反になるのかならないのか、ILO憲章に違反するのかしないのかということじゃない。恐らく違反にはならないだろう、好ましいか、好ましくないかという点から考えれば、今回、いまここで審議しているのはILO百二号ですから、この百二号条約について採択されて二十三年間これが放置されてきたということは、一体好ましいとお考えでいらっしゃいますかということを私はお伺いしているわけです。
  180. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 でございますので、私もなるべく早く入ることが好ましいことであるというふうに申し上げたわけでございまして、ただそれぞれ国には事情があるので、やはりその事情は勘案しなければいけないであろうということも申し上げたわけでございます。
  181. 土井たか子

    ○土井委員 日本の場合はそうするとどういう事情があったと伊達参事官はお考えでいらっしゃいますか。できる限り早くこれを締結をすることが好ましい、これはわかりきっている話なんだ。けれども、それぞれの事情がございましょうから、この二十三年間の事情というのは一体わが国の場合はどの辺にその事情がございましたんですか。
  182. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 申しわけございませんが、この二十二年間、実は社会保障の問題について私はつまびらかにしておりませんので、概括的なことしか申し上げられないと思いますが、一般論といたしまして、受諾するに日本の各部門における社会保障基準というものがこの条約に定める基準に合致していないからだと思います。
  183. 土井たか子

    ○土井委員 ILO条約はほかの条約とは少し趣が違いまして、間々それぞれの国の行政府の意思に反する条約もあるわけであります。行政府が行っている政策の中身からすれば、必ずしもこのILO条約に対して適合していないという中身もあるわけであります。けれども、そういう条約についてILOで採択をされますと、批准のために加盟国にはこれは好むと好まざるとにかかわらず送付をされてまいります。その場合に、国の行政府が自己の意思に反してでも、立法府に対して批准の同意を求めなければならないということになるだろうと思いますが、この義務というのは一体どこから発生してくるんでしょう。
  184. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 ただいまちょっとあるいは私の聞き違いかもしれませんが、条約がILOにおいて採択になりまして、それが各国に送付されてくるということは、必ずその当該国がその基準に合致した立法をしてその条約を批准せよという義務を伴うものではございません。何かそれでお答えになっておりますか。
  185. 土井たか子

    ○土井委員 義務を伴うものではないから、政府が好まなければいつまでたっても批准をするための国会提出はしなくともよいということになるわけですか。
  186. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 是非善悪はともかくといたしまして、法律論といたしましては義務を伴わないものでございますので、別に批准をすべき期限もなく、批准できる状態にならない限り批准しなくともよいということでございます。
  187. 土井たか子

    ○土井委員 ILO憲章の十九条の5の(e)という個所をごらんいただきたいと思うのですが、(e)の個所を見ると、同意がなかった場合の手続というのがございますね。このILO憲章十九条の5の(c)に基づく報告について、ILO百二号の場合、いままでにわが国としては何回、いつ、どういう形で、どういう報告をなしたのか。その場合の記載事項について、特に批准を遅延させている理由というものをどういうふうに報告をなすっていたのか、これをひとつお聞かせくださいませんか。
  188. 森英良

    ○森説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘のとおり、憲章十九条の5項(e)に基づきまして、未批准条約につきましては、その関係の事項についての国内の法令、慣行につきまして現況報告というものを理事会から求められました時期に提出することになっております。百二号条約につきましては、採択後二回、一九六〇年と一九六八年に現況報告を求められたわけでございますが、一九六〇年の報告におきましては、要旨といたしましては、失業給付については実施可能と思われるということ。それから業務災害給付については、特に扶養者の死亡に対する給付等につきまして若干の問題があるのでありますが、それ以外の点はおおむね基準に達していると思われるということ。それからその他のものにつきましては、これは制度の実情を詳しく説明したということでございます。  それから一九六八年の現況報告は、これは国際人権年に当たりましたので、ILOの言う基本十七条約につきまして、未批准のものについてその批准促進の見地から報告を求められたわけでございますが、この報告につきましては医療と母性給付、遺族給付については基準に達していないということを述べまして、家族給付についてはまだ制度も存在しないということなどを中心に報告を行ったわけでございます。
  189. 土井たか子

    ○土井委員 先ほど来、ILOが一たん採択をされますと、それは国内においてこれを批准することに対する手続を早い機会に求めるということが好ましいことだという伊達参事官の御意見でございます。     〔委員長退席、水野委員長代理着席〕 報告もこれはだてにおやりになるのじゃない。報告をおやりになる際は、たとえば母性の給付に対して、日本の場合にはやはりILO百二号の基準にまだ達していないという実情について、反省を込めながらできるだけ早い機会に百二号の言う中身に近づける努力というものを払うのが、これが報告の一つ意味だと私は思うのですよ。そこでそのことに対しての深追いは、実は十一日に参考人を呼んでいただく機会がございますので、きょうは総論で、各論はそっちに持っていってまたひとつ確かめをさせていただきたいと私は思いますが、いまここで聞いておきたいのは、同じくILOの憲章の二十二条という個所を見ますと、ここでILO百二号についても、日本といたしまして批准をしますと、批准をして後、年次報告を行うという義務が生じてまいります。  そこでお尋ねをいたしますが、この年次報告ふお取り扱いになる省庁はいずれでございますか。
  190. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 一応外務省が窓口といいますか、まとめてこれを提出することになっておりますけれども、実際は国内的には労働省が中心になっております。  ただ、海事関係は運輸省がこれに関係いたしております。
  191. 土井たか子

    ○土井委員 一切を取りまとめる役が外務省という御答弁でございますが、関係するのは労働省も厚生省も、具体的にこの中身についてはやはり関係をなさる責任ある省庁ということになるかと思うのです。  この百二号の場合、今回受諾をしない部門について受諾するための努力というものが、もし今回批准が成立するということになりますと、国内的な立法措置の上でもこれを進めていかなければならなくなってきます、当然のことながら。これを国内的に立法措置、行政措置等々について進めていくという機構はいずれかにございますか。それともそういう機構を設けるというふうな構想がいずれかにございますか。それともいまのような、外務省は外務省で取りまとめればいい、労働省は労働省でやる、厚生省は厚生省でやる、先ほどおっしゃった運輸省は運輸省でそれぞれやるというふうなかっこうでこれをお取り扱いになるのか。運輸省と先ほどの御答弁でありましたけれども、百二号について私は問題にいたしておりますから、その点を念頭に置いてお答えいただきたいと思います。
  192. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  この百二号条約の御承認が得られまして批准をする、こういうことになりますと、それに伴って当然義務的に今回義務の受諾のできなかった部門についてやらなければならない、こういう法的な義務は生じません。ただし、先生御指摘のように、これは社会保障全般につきまして、国際的にもこの百二号条約というものの基準を尊重するという意味がございますので、当然のことといたしまして、これが一つの国内制度をこの基準に向かってさらに充実してまいるための目安と申しますか、そういうものになると考えております。  なお、具体的に申し上げますれば、たとえば今回義務の受諾のできません遺族給付部門につきましては、この次の年金の大きな改正、これは昭和五十一年に予定されておりますが、この時期におきまして内容を改善するという方向検討は進められておる次第でございます。
  193. 土井たか子

    ○土井委員 いまのはお答えになっていないのですがね。つまり、私のお伺いしているのは、百二号の条約について今回受諾しない部面があるわけでしょう。受諾しない部面について、私たちは、むしろ積極的にこの内容こそ整わなければ、ILO百二号条約締結する意味がないと考えているわけであります。  したがいまして、そういうことからすると、この受諾して後、国内立法措置として、行政措置として今回受諾をしない部門については整備をしていくという必要がどうしてもあるわけですね。従来どおり厚生省は厚生省で、労働省は労働省で、そして外務省はそれを取りまとめればいいというふうな態度で取り扱われてまいりますと、先日の審議の場でもはっきりしましたように、一つの事柄についても、これはなかなか問題が動かないのです。模索する検討から始めていらっしゃるようなかっこうでありますから、いつまでたってもこれはらちが明かないということだろうと思います。だからこれを機会に、百二号を日本としては締結をするならば、百二号の中身については今回受諾をしない、しかし、早急に何とかこの内容については充実をさせていかなければならない部門について、各省庁間で横の連絡をとりながら、一つの新たなそれを整備する組織といいますか機構といいますか、取り扱う部門というものをお考えになっていらっしゃるか、また、そういうこともやってみようというふうなことをこの節御用意なすっていらっしゃるかということを私はお尋ねしておるわけです。
  194. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘の、今回義務の受諾のできない部門につきましては、これはいわば厚生省の守備範囲でございます。したがいまして、この次、幸いにその基準の線に達しまして、追加してこの部門を指定するというときには、もちろん関係省庁とも十分連絡をいたしますが、内容の改正につきましては当面厚生省が主になって努力を続けてまいりたい、こういうふうに考えるわけでございます。
  195. 土井たか子

    ○土井委員 昨年十一月段階でございますが、ILOと日本政府との共催で、婦人労働行政アジア地域計画というものの会議がございましたね。これはどこで、どれくらい日本がこれに対して予算を出して、どういうことの討議をおやりになったかということを、ひとつ御出席になりました婦人少年局長さんの方からお聞かせいただきたいと思います。
  196. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 お答え申し上げます。  昨年十一月、日本ILO婦人労働行政アジア地域会議というものを東京において行いましたが、これは国際婦人年を控えました昨年から始まりまして、日本とILOの共同事業といたしまして、ILO婦人労働行政アジア地域計画というものを実施いたしました中の一環といたしまして会議を開催したものでございます。  これにつきましては、ILOとの協力ではございますが、予算的には日本政府からILOへの拠出金といたしまして二千三百万、開催国の経費といたしまして五百四十万、合わせて約二千八百万の経費を日本政府の負担によって開催いたしたものでございます。  会議の内容といたしましては、まず、この計画全体の一番最初の段階に事前調査というものをいたしまして、アジア各国の中から九つの国を選びまして、婦人労働行政に関する事前の調査をいたしました。専門家がいたしたものでございますが、その結果の発表を行いまして、その後、ILOのアジア地域事務所から参りました専門家が、国際労働基準というものについての講義をいたしましたり、また参加各国の実情発表、意見交換、それから開催国における経験の紹介、また日本側からは、特に労使あるいは婦人団体等から具体的な実情の紹介を行いまして、あわせて関西地区におきまして実情視察などをいたしまして、最後に結果報告を採択して終わったわけでございますが、この会議が終わりました後、計画全体の締めくくりといたしまして、特にアジアの国の中からベトナムとバングラデシュを選びまして助言サービスを行うということをいたしまして、昨年度末の三月末をもって終了したものでございます。
  197. 土井たか子

    ○土井委員 いまの御報告によりますと、多額の日本の予算を計上しながら、そこで討議をされた中身は、ILOと共催で婦人労働行政、それからその行政組織の改善強化についての討議というのが主なる問題なんですね。今回のILO百二号の中では、婦人労働行政であるとか、婦人労働の行政組織の改善強化という点から考えてまいりますと、当然考えられていなければならないはずの家族給付の問題や母性給付の問題というものがすっぽり抜けてしまっておるのです。これについてはまだ国際水準まで至らない、つまりILOの百二号の基準まで至らないからというので抜けてしまっておるんですね。私はそういう地域計画を日本で組むということであり、このことに対しては、恐らくこれだけの費用をお使いになったんだから熱心に討議も進められていると存じますが、先ほど百二号ですっぽり抜けているところ、日本がこの条約締結して後、抜けた部門については整備が必要だ、それに対して、いままでどおりではいかぬ、整備するのに何らかの組織、何らかの連絡機構というものを新たに設ける御用意があるかと言ったら、厚生省が主なる問題でございますから、厚生省を主管事務官署としてという御答弁でございますけれども、労働省の森山局長さんとされましては、厚生省に万事そういう問題をゆだねていっていいというふうにお考えでいらっしゃるのでしょうか、いかがでしょう。
  198. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 当面問題になっております百二号条約につきましては、この条約において義務を受諾できない部門についての問題点は、健康保険法その他、厚生省が所管されております法律の内容の問題であると思いますので、厚生省が中心になってお進めいただくということが適当ではないかと思いますが、私どもも、婦人の立場からできるだけ早く義務が受諾できますように諸条件が整備されるよう要望いたしたいと考えております。
  199. 土井たか子

    ○土井委員 厚生省に対していろいろと要望を持ち運ぶというふうなこともここで御表明になるわけですけれども、しかしILOの問題については、昨今働いている婦人の労働条件についてあるいは本来労働者としての権利という問題について、中身をよりよく改善していくということが考えられてしかるべきだと思うのです。そのことについて婦人少年局長さんとしては日ごろの御苦労がおありになるに違いないと私は思うのです。したがって今回百二号条約に対しても、日本締結をして後、いままでどおりの縦割り行政ではたして私たちの考えているような中身がうまく充実されていくかどうかですよ。今度抜けてしまっている部門について整備していくということを考えると、いままでどおりだったら整備は遅々として進まないということなんでありますから、これを機会に出直すくらいのつもりで考えてみることも必要だと私は思います。それについての何らかのお考えがあるならお聞かせください。
  200. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 ただいまおっしゃいました百二号条約のことにつきましては先ほど申し上げたようなことでございまして、特に厚生省の所管しておられる法律につきましては、厚生省が責任を持ってお進めいただくことになるんではなかろうかと思いますが、それ以外のいろいろな婦人労働条件あるいは婦人労働者にかかわる問題につきましては、私どもの方でもそれぞれ必要なところと連絡をとりまして十分進めていきたいと日ごろから心がけているつもりでございます。
  201. 土井たか子

    ○土井委員 それならばちょっとお伺いしたいんですが、今回問題になっているのはILO百二号ですね。婦人労働行政という点からいたしますと、婦人労働者を対象とする母性保護条約、例のILO百二号というのは、端的に具体的に直接に、働いている女性についての母性としての権利、母性の保護ということを中身にした条約です。百三号については日本でもこれを批准するのは一体いつの日かわからない。今回も百二号から、実は私たちにとってはかけがえのない部門が外されているわけでありますから、したがいまして、百三号についても大変先の見通しが暗いということを言わざるを得ないわけでありますが、これなどは国民の声として考えていった場合に、百二号も大事かもしれないけれども、百三号というものをできる限り早期に何とか締結してもらえまいかという声というのは、もう数年来非常に強くあることは御承知のとおりだと私は思うのです。百三号であるとか、百十一号であるとか、百号であるとかあるいは百二十三号の勧告であるとか、そういう問題に対して今後のお取り扱いがどのように考えられているか。その辺少しお聞かせくださいませんか。
  202. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 ただいま先生がお挙げになりました百三号、百十一号、その他の条約に関連いたしましては、特にわが国の労働基準法との関係がございまして必ずしも合致しておりませんものですから、国内法令との規定の相違によりましてまだ批准が行われていないわけでございます。しかし婦人は次代を担う重要な役割りを持っております者の生育ということの役割りを持っているわけでございまして、その母性は尊重され、保護されなければならないということは、基本的にわが国においてもみんなの十分承知しているところでございまして、その理念ができるだけ達成されるように施策を講じているところでございます。いまお話の出ました条約につきましても、特に労働基準法に関連いたします部分につきましては、現在御承知のように労働基準法研究会におきまして研究が進められておるところでございますので、その結論を待ちまして前向きに検討いたしたいというふうに考えております。
  203. 土井たか子

    ○土井委員 前向きに検討というのは、何に対しての前向きかということをひとつお聞かせをいただいて、私はきょうは総論の入り口みたいなことで時間を終わってしまいますけれども、参考人の来られる十一日にあとは譲りたいと思うのです。  何に対しての前向きなんですか。
  204. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 労働基準法研究会の結論を待ちまして、批准に向かって前向きに努力を、研究検討をいたしたいということでございます。
  205. 土井たか子

    ○土井委員 それでは、あとは十一日の審議の場所に譲ります。はたして、いま研究会がお考えになっていらっしゃる内容について進められていることが、ILO条約あるいは勧告の基準に近づけるという意味での国内法の整備になるかならないかという問題も、ひとつその節改めて私は問題にしたいと思っておりますから、よろしくお願いをいたします。
  206. 水野清

    ○水野委員長代理 田中美智子君。
  207. 田中美智子

    田中(美)委員 外務大臣質問いたします。  三十日に質問を一時間半いたしましたその残りとして大臣に残しておりますので、きょうは大臣だけに質問いたしますので、簡潔にお答え願いたいと思います。  ILOの百二号条約ですが、日本社会保障は発達した資本主義国の中で最低であるということは、もういま日本国民の一般の常識になっているわけです。その中で、ILO百二号条約さえ批准していないじゃないかということが国民の声だったわけです。やっとことしこれを批准しようというその年が国際婦人年にちょうどぶつかった。その批准するときに、婦人に関する遺族の問題、遺族の給付とか家族給付、母性給付、こうした問題がすべて落とされたままに国際婦人年にこれが批准されようとしている。こういうことを日本の婦人は非常に皮肉な現象だというふうに見ているわけです。中には、政府の、特に外務省は婦人の問題というものは全く頭にないのではないか、婦人を軽視した姿ではないかとさえ言っている方たちもたくさんいるわけです。こうした皮肉な現実を大臣はどのようにお考えになりますか。
  208. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 確かに、四部門を除きまして条件が充足していないというわが国の現状は残念なことでございますが、それが何か婦人問題に対する外務省の無神経さということに云々、その最後のおっしゃる意味は私にはよくわかりません。
  209. 田中美智子

    田中(美)委員 無神経な方にはそれはおわかりにならないんだと思います。しかし、国民の半分である婦人がこれに対して批准をすることは悪いとは言っていません。そのときにこういう現象で批准するということに対して非常に抵抗を感じている、それがおわかりにならないということは、外務大臣がいかに無神経であるかということを表明したというふうに私は思います。このような無神経な外務大臣を中心にしたいまの政府の中を見ましても、この間伺いましたように婦人の課長が一人しかいない、大使、公使は婦人が一人もいない、こうした外務省の人事の中にもこういう無神経さが、宮澤外務大臣の無神経さだけでなくて、外務省全体の中に婦人の上級職が非常に少ないというところにあるのではないかと私は思いますけれども、この点はどのように大臣考えになりますでしょうか。
  210. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 重ねてのお話でございますから申し上げますけれども、こういう条約はできるだけ早く批准をしたい、わが国が批准し得る状況にいままでなかったことは残念なことでございますが、今回とにかく四部門について国内体制の整備ができましたので、御審議をお願いしておるわけでございます。たまたまその年が国際婦人年に当たりましたが、何もこの年を避けてこれを来年に延ばす、そのことの方がよかったというような意味でおっしゃっていらっしゃるのではないと思います。問題は、いままで十分な整備ができなかったことは残念である、これはおっしゃるとおりだと思います。  それから外務省の職員の問題でございますけれども、何か職員の採用に当たって、任用に当たって、男女間に差別を意識的につけておるというような意味でのお尋ねでありましたら、そういうようなことを私になりましてからもやっておりませんし、従来もやっておらないように存じます。
  211. 田中美智子

    田中(美)委員 まさか差別しているということはおっしゃることはできないと思いますが、少なくとも、いわゆる俗語で言う外交官試験というものにパスしている方が昭和三十二年から一人もいないというようなことは、婦人がそれだけの力がなかったというふうにおっしゃるのかもしれませんけれども、一人もいなかったというふうなことは、これはやはり考えるべきでないかというふうに私は思います。これが差別であるかないかということを、いま時間がありませんのでできませんけれども、私といたしましては、やはり国際婦人年に政府代表として婦人を派遣するときに、閣僚級の婦人がなくて非常に困ったということを聞いているわけです。発展途上国の国でさえそうした婦人が何人かいるにもかかわらず、経済大国の日本にそういう地位につけられた婦人がいないということは、日本の婦人が非常に能力が低いというのではなくて、やはりさまざまの差別の中からそういう地位に婦人がついていないという結果が出たのだというふうに思うわけです。そういう意味で、私はいまこのことを宮澤外務大臣と論争しようとは思いません。そういう結果、外務省の中にも非常に婦人が少ない。三千人の職員の中でわずか四百人しか婦人がいない。上級職はこの十年以上一人もパスしていないというふうな現象というものは、はっきりと証拠を挙げて差別ということは言えないとしても、これはやはり明らかに結果的に、客観的にこれは差別があるのではないかというふうに婦人たちが受けとめている事実はあるというふうに思います。それを十分に胸に入れまして、今後婦人の上級職の採用には十分の配慮をしていただきたい。もっと婦人がたくさんいるならば、このような無神経な批准の仕方というものは出てこないと思います。先ほど申されたように、もちろん私は国際婦人年を避けて批准せよと言っているのではなくて、せめて何とかして婦人の問題を入れる努力をするという努力をしてほしかったということです。  次の質問に移りますが、その努力の一つとして遺族給付の問題を今度の批准の中に何とか入れて、五項目でもって批准をしていただきたいというふうに思うわけです。三十日の質問のときに、また社会労働委員会の中でも、また予算委員会の中でも、厚生省はしばしば五十一年度は遺族給付については、これを引き上げることを検討するということを言っているわけです。ですから来年度もし遺族給付が、夫の年金のいま五〇%になっているのを八〇%に引き上げることができれば、ILOの最低基準、従前所得の四〇%、日本はいま二六%です、四〇%に合致するわけです。ですからこういうことが五十一年度にはできるのだということがはっきりしさえすれば、ことしの批准に遺族給付を入れることが可能なわけです。残されたわずかの努力ですけれども、これを何とか入れて五項目で批准するという道を切り開いていただけないでしょうか、その点外務大臣にお答え願いたいと思います。
  212. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 問題の性質上、私から有権的にお答えを申し上げることは不適当かと存じますけれども、もともと遺族給付の問題は、これは長いこと問題があるわけでございます。恐らく関係省ではいま御指摘のような努力をしておられる、しつつあるのであろうと思いますし、それはまた理由のあることだと私は存じておりますけれども政府全体といたしまして財政等を含めまして、それについてはっきり五十一年度から実施をされるということをいま申し上げるわけには、これはどうも私の立場からはなおさら申し上げにくい。そういう問題がありますことは私もよく承知をしておりますし、政府全体としてもそういう努力を払われることが望ましいというふうには私も考えております。
  213. 田中美智子

    田中(美)委員 いまのお答えは私は非常に不満です。といいますのは、外務省と厚生省、労働省は、あなた方からすれば別々のものかもしれませんけれども国民からすれば一つ政府なんです。ですから外務大臣が自分の立場で言うことは適当でないというのはおかしいことです。批准をする責任は外務大臣にあるわけですから、何とかして遺族給付を入れて五項目にしたいという要求を厚生省に働きかけ、閣議に働きかけ、その努力をするというのは外務大臣の努力じゃありませんか。厚生大臣はもちろんこれを努力をする、五十一年度にはするというふうに言っているわけなんですからね。批准するという責任者は外務大臣なんですから、自分は適当ではないなんという言い方というのは、国民から考えたら非常におかしい話です。その努力をする、厚生省に働きかける、閣議に働きかける、総理大臣に働きかける、こういう責任者は外務大臣ではないのでしょうか。その点もう一度はっきりさせていただきたいと思います。
  214. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 問題は、批准をするために各部門の給付あるいは条件を充実するのではなくて、充実されたがゆえに批准ができるということでございますから、私は問題の出し方は、むしろただいま御指摘のような考え方は逆であって、十分に国内の条件が整備されたときに御承認を得、批准をいたすのであって、批准という目的のために何か国内の条件を整備をする、そういうことではない。やはりこういう各種の施策が整備された段階で、初めてわれわれが国会の御承認を得て批准へ持っていくという条件が熟するのであるというふうに私は考えるわけでございます。
  215. 田中美智子

    田中(美)委員 時間が参りましたので、最後に一言だけ申し上げますが、いまの宮澤外務大臣考え方はやはり逆立ちしていると思います。政府はこれを二十三年間放置して批准することができなかったわけです。余りにも日本社会保障が低かったからできなかったわけです。ですからこれを批准するために何とかしてこれをよくしようとすることは正しいことじゃないでしょうか。そのために、年金が何とかよくなってきた、やっと批准ができそうだということでやったんじゃないですか。どちらが鶏か卵か。もちろん一番大切なことはこれをよくしていくということが最初です。しかし政府国民から一番不信を買っていることは、百二号条約でさえ、世界は二十五カ国が批准しているのに日本政府はいまなおできないほど社会保障がおくれているということで急いでいるわけでしょう。そうすればこれを四項目でなくて五項目にする。あなたは御存じないのかもしれませんけれども、来年度これができるんだということがはっきりしていれば、いまできていなくても五項目で批准できるわけじゃないですか。その努力をするのが大臣ではないですか。政治というのは人間の心が通ったものです。寝ぼけたような顔でただ机上の理屈だけで御返答なさるような態度というのは改めていただきたいと思うわけです。もし婦人のものがすべて落とされたままでことしこれが批准されるということになりますと、自民党政府は婦人問題を軽視して社会保障の問題、百二号条約を批准したのだということは永遠に歴史に刻まれる、こういうそしりは免れないと私は思いますが、大臣はその点どうお思いになりますか、一言でお答えください。
  216. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 一言で申し上げますならば、このような社会保障の基準が国内として充実されることが鶏であって、批准というのはその結果、卵であるというふうに私は考えています。
  217. 田中美智子

    田中(美)委員 外務大臣のお言葉というのは、国民社会保障に対する切実な要求というものがあなたの胸にも頭にも響いていないということを非常に強く感じました。  私の質問これで終わります。
  218. 水野清

    ○水野委員長代理 金子みつ君。
  219. 金子みつ

    金子(み)委員 本日は大臣の御出席の時間が大変に限られていらっしゃるように承っておりますので、本来ならば私の質問をずっと流して聞いていただければ御答弁いただくのにも都合がいいんじゃないかと思うのですけれども、それができませんので、大変に質問は順序不同になりましたりいろいろするだろうと考えますが、その辺は御理解いただきたいと思います。そういう形で、少し前段でお聞きいただきながら最後に大臣から御答弁いただきたい問題がございますのでそれを聞かせていただきたい、そんなふうに考えておりますのでお願いいたします。  まず初めに外務省の方にお尋ねしたいことがございます。私は条約その他の関係につきましては大変素人でございまして十分なことがわかりませんので、教育的答弁でもしていただければありがたいと思うのでございますが、条約とそして勧告とがございますね。条約に関連のある勧告が続いて出るというようなことがあるわけです。それで、一つ条約に含まれている事項の中で、勧告のほかに別途新たな条約ができているものもございます。この三つのものが関連がどうなるのかなというふうに思うわけでございます。大体の場合、基本的な条約のほかにつくられた新たな別個の条約というのは基本のものよりも標準が高い、それからそれに関連した勧告が出される場合に、勧告の内容もまた高い、そういうふうに私は理解しておりますが、これが間違っておるかどうか教えていただきたいと思います。  そこで具体的な事例として申し上げてみたいのは、百二号条約関係でまいりますと、この中に九部門ございますが、その中の一つ、今回批准の四つの部門の中に入っております労災関係の問題でございますけれども、これは別個の単独の百二十一号条約もできておりますし、それから勧告もできているわけですね。このように一つの項目については大変に高い水準で認められていこう、承認されていこうとしておりますにもかかわらず、その反面には先ほど来お話のございますように、全然手がけることができないという部門があったりしているわけでございます。その点は非常にバランスが壊れていると思うのでございますけれども条約を批准する場合に、日本立場と申しますか取り扱いと申しますか、このような不均衡な形であってもそれは差し支えないというふうに理解してよろしいのでございますか、まずそれから聞かしてください。
  220. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  一般論といたしまして、条約と勧告と申しますと、これは申し上げるまでもないと思いますが、前置きといたしまして、条約というのは要するに権利義務関係というものをはっきりと法律的に定めまして、条約に入った国はその条約に定める基準というものを守っていかなければならない法律的な義務があるわけでございます。勧告は当然のことながら勧告でございまして、そのような義務がない。これが一般論でございます。  それから、この百二号条約のように一般的な基準というものを定めた条約のほかに、後になってある部門についてそれよりも高い基準を定めました条約ないし勧告ができ上がるということは、これは時代の趨勢といいますか社会の進歩発展の結果、だんだんと適用される当該部門の基準というものが世界的に高まってくるという事実を反映しているものだろうと思うのでございます。  それから最後に、このような五部門を残して四部門だけで入ることが適当であるかどうかということでございますが、適当であるかどうかはともかくといたしまして、この条約は、九つの部門のうち三つの部門を受諾すればこの条約の一応の批准国、締約国となれるというふうに規定してございますので、今回受諾できない五つの部門がございましても、法律的にはこの百二号条約の批准は可能である、そのように考えております。
  221. 金子みつ

    金子(み)委員 批准が可能であるということはいまのことでよくわかりました。それは三つ以上ならばいいということはもう決まっておりますからそれでいいのですけれども、私がお尋ねしたかったのは、このようにアンバランスの形で批准が行われるということは、言葉を返せば日本の国の社会保障がいかに未発達でありそして不統一であり、国民のためには決してプラスになってない実態にあるということはお認めにならなければならないと思うのですが、それをお認めになるかどうかということであったわけですが、この点はいかがでしょう。
  222. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 この最低基準条約に定められております九部門につきまして、四つの部門が受諾でき、五つの部門が受諾できない。言葉をかえて申しますならば、そのことは、とりもなおさず、受諾できないその五つの部門については基準を満たしていないということで、それは現在の日本におきます社会保障の実態から生じてきていることであると私ども考えております。
  223. 金子みつ

    金子(み)委員 それではその問題はおきますが、ということは、私は外務省からいただきました資料を拝見しますと、この百二号条約の批准に関して諸外国の実態を拝見しますと、二十五カ国批准しているということで名前が全部挙がっております。もちろんフランスですとかイギリスですとかあるいは西ドイツですとかというような先進国はともかくといたしましても、たとえば発展途上にあるのではないかと思われるような国、コスタリカですとかニジェールですとかペルーですとかセネガルですとかというような国々ですら、今回のこの百二号条約は批准しているわけでございます。そのことを考えますと、先ほどもお話が出ておりましたけれども、国際的には地位が高い日本というふうに理解ができます、経済大国日本という考え方もあると思いますが、その日本が二十三年間批准することができないでいたということは、先ほど来の御答弁意味はわかったような気がいたします。私が伺いたいのは、それは結果であって、二十三年間無関心に済んでおられたのではないだろうか、積極的にこれを批准するような努力があったのかなかったのかということが知りたいわけです。あるいはそうでなければ、少し言葉は悪いかもしれませんが、いまさら、この日本がこの最低基準を批准するのはかっこうが悪い、恥ずかしいから、いっそ批准しないでということでいままで延びていたのか、私はその辺をちょっと大臣から御返事いただきたいのですが、いかがでございますか。
  224. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 わが国社会保障制度が国際的な比較において非常にすぐれておるのかあるいは中ほどであるのかあるいは低いのかということは、これはいろいろな見方があろうと思います。経済大国であるから社会保障の施策も国際的に最もすぐれておると即断するわけには私はまいらない。もっといわば小さな国で社会保障の基準が非常に高い国がこれは十分あり得ることだというふうに思います。しかしながら、いまお挙げになりました幾つかの国々がすでに批准をしている、わが国はようやく批准をする段階ではないかとおっしゃる点につきまして、それらの国々のことを私詳しくは存じませんし、とやかく申すつもりではございませんが、一つは、やはりおのおの社会保障の特色が国によりましてかなり異なっており、また重点の置き方も違っておる場合もございます。それからその国の法律、制度、その実施の方法というような面において、少なくともわが国などは一度批准をいたしましたらばその基準についてはかなり神経質に厳格に考えている国の一つでございますから、世界のすべての国がわが国ほどそういう点についてあるいは厳格に神経質でないということもあり得ること——あるとは申しません。あり得ることでございますので、簡単な比較はできないのではないだろうか。まあ、しかし、どちらかと申しますと、わが国が自由主義経済体制をとってまいりましたから、勢い社会主義体制をとりました国に比べますと、国民生活水準向上はやはり一人一人の自発的な努力を基本にして行うということを重点を置いて考えてまいりましたから、あるいは御指摘のような面があるかと思います。いずれにいたしましても、わが国経済大国であるから当然社会保障の施策も充実しておるであろうというような即断をするわけには残念ながらいかないという実情はあるであろうということは、私も認めるにやぶさかでございません。
  225. 金子みつ

    金子(み)委員 最近の日本の人口統計を見ておりますと、将来三十五年間日本の人口はふえ続けるということになっています。そしていま百三十万ふえているわけですけれども、一年に大体百三十万ぐらいふえていくであろうというふうに報告されているわけでございます。しかもそれがふえていくということの結果は、老人、そして非生産人口がふえていくという結果になってくるというふうに考えられます。そうしますと、老人医療費の無料化のこともございますし、あるいは老人は壮年に比べれば倍も病気にかかりやすい。そして小さい子供もまた同様。そうなりますと、医療費の増大ということも当然考えられてくるというふうに思います。そうなりますと、日本の国の国民たちの所得保障はどうするのかということが問題になると思うのですが、その所得保障に要する資金の問題を考えますときに、絶対的にも相対的にも非常に増大してくるだろう、しないではいなくなるだろうと考えられます。その結果、婦人の労働力はいまよりももっともっと要求されてくるのじゃないかというふうに考えるわけでございます。  そこで労働省にお尋ねしたいのですけれども、いまの勤労婦人の中で未婚、既婚の人たちがどんなような比率になっているか、そして将来それはどういうふうに変わっていくであろうかというお見通しがありましたら教えていただきたいと思います。
  226. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 お答えいたします。  婦人の労働力中に占めます既婚者の比率は年々高まっておりまして、昭和四十九年現在で申しますと、未婚者の割合が三九・二%、それから既婚者の割合が六〇・七%という数字になっております。  今後のことにつきましては、若年労働者の減少ということ、それから婦人の就業条件の整備等が徐々に整っていくということを考えますと、既婚婦人の割合が次第に増加する基調にあるのではないかと予測されるところでございます。
  227. 金子みつ

    金子(み)委員 いまのお話でもわかりますように、既婚者はふえるのではないだろうかというお話でございました。私もそうじゃないかと、素人なりに推察いたしておったのでございます。そうなりますと必然的に考えなければならなくなるのは妊娠、出産といった問題でございまして、母性の保護ということがどうしても問題になってくると思うわけです。  そこで、この母性の保護の問題につきまして、今回百二号条約の批准に際して母性給付が外されているという問題、百三号条約も批准するにはまだほど遠いであろうというようなことを考えますと非常に心が暗くなるわけでありますが、ここで私は、婦人労働の立場から、労働省のお立場で、今回の百二号条約の中に母性給付が外されているという問題、母性給付もあわせて批准されていくことが必要なんだというふうな考え方がおありになるかどうか、伺わせていただきたい。
  228. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 百二号条約の母性給付の部分につきましては、働く婦人だけの問題ではございませんで婦人全体のものというふうに解釈しているわけでございますが、このことにつきましては厚生省の所管でございまして、厚生省の方で責任をもってお進めいただくというふうに考えておりますが、婦人少年行政に携わる者といたしましても、今後速やかに義務が受諾できますように条件の整備が行われるように期待したいと考えております。
  229. 金子みつ

    金子(み)委員 大臣がお帰りになるようでございますので、一つだけお尋ねさせていただきたいと思います。  いままだ話は途中でございまして、もちろん十分煮詰まっておりませんけれども、私が伺いたいと思っておりますことは、ILO百二号条約と申しますのは、申し上げるまでもありません、これは社会保障最低基準を決めたもの。社会保障というのは、私が申し上げなくともよく御理解の上だと思いますが、国民の健康とそして生活の保障ということになりますから、これは所得保障と医療保障というふうに考えていいと思うわけでございます。ですから、経済的な問題だけが解決したからといってそれで問題を論ずるのではなくて、この二つのことが成立していくのでなかったら、社会保障としては完成した形にはならないというふうに思うわけでございます。  そこで、いまこの百二号条約の中で問題になっておりますのは、その中の母性給付の問題でございますけれども、これから先、既婚者が労働力として駆り出されていくであろうと思うときに、必ず考えなければならない問題として出てくるわけです。そういたしますと、もうすでにILOでは一九一九年に出産保護条約というのが採択されておりまして、これは産前、産後の休業を含めて無料、言葉をかえて申しますれば、出産が社会保障の対象となるというふうに理解されて、そのように進められている。このことは国際的にもうすでに確認されているわけでございます。そういうことをバックに考えましたときに、今度の百二号条約の中にこの母性給付の問題が当然入れられていくべきではないかと、特に国際婦人年ということもございますけれども、私たちは強くそのことを訴え続けてきているわけでございます。  そこで大臣お尋ねしたいのは、先ほど来の同僚議員の質問に対するお答えなどからも拝察できるわけでございますけれども、ばらばらの行政でなくて、総合的な政府としての一つのあり方を示していただく上にも、厚生省の問題だ、労働省の問題だと言わないで、厚生省も労働省も、そして外務省も、関連のあるところが全部一緒になって共同で作業をして、そしてこの問題を解決するための御努力が、先ほど大臣おっしゃった鳥か卵かという立場があると思いますが、その鳥を早くつくり上げると申しますか、大臣条約は卵だとおっしゃっていました。ですから、まず鳥がなければ卵が産まれないのですから、まず鳥をつくるということを考えていただくために、何か特別なことをお考えいただくことができないだろうかということです。それをまずやっていただいて、そして真剣に十分時間をかけて審議した上で、この百二号条約という問題を改めて考えるということはできないでしょうか。そのことを大臣のお考えとして聞かせていただきたい。
  230. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 御承知のように、先進国においてはこのような給付はもう五十年ぐらい前から実際進んでおった国が幾つかあるわけでございますが、わが国の場合いわゆる女性の就労ということが、農業は別といたしまして、それ以外では戦後にこれだけ広くなってまいりました。比較的そういう意味では歴史が新しかっただけに、こういう方面についての施策が進んでいないということは御指摘のとおりだと思います。これからを展望いたしますと、先ほど金子委員政府委員との間で意見の一致がおありになりましたように、ますます既婚の婦人就労者がふえるであろうということになりますと、こういう施策というのは今後急速に整備をしていかなければならないということは確かであろうと思います。で、今回この一部門を含む四部門の条件の整備がございましたので、とにかく批准をいたしたいと考えておるわけで、そのこと自身は御理解をいただけると思いますが、願わくは、もっとすべてのより多くの部門で整備されておれば、現在の段階でなおわが国としてはりっぱであったではないかというのは仰せのとおりですが、しかしこれを批准をするということによりまして、今度は各省行政をいたす者にとりましては、批准をしたからこれで後はもういいのだということではなく、やはりまだ幾つかの部門が残っておる、充足をされなければならないという、いわば一つの努力目標を与えられるということに、行政上はやはりどうしてもなってまいります。そういう意味で、批准をした結果、さらに各部門への充実についての政府、行政府としての努力が倍加せられるであろう、強化せられるであろうということは、これは私は申し上げてもよろしいと思いますし、またそうしなければならないというふうに考えております。
  231. 金子みつ

    金子(み)委員 私は、いま言葉が足りなかったかもしれませんけれども、母性給付に関する部門だけを追加してもらいたいという意味を申し上げたのではなくて、残されております部門の中で、いま一番問題になるのはそれじゃないでしょうかということなんです。ですからそれを中心にして、そのほかにも残されておる部門がございますから、それらをあわせてそして慎重に審議をする組織でも設置して、そして諮問機関でも何でもいいと思います。ILOの委員会でも結構だと思いますが、そこで十分審議をされた上で、その中から結論が出てくると思いますので、それを待って条約の批准に進むならば、私は批准してよかったという結果になってくるのではないだろうかというふうに思うわけでございます。その点のお尋ねでございました。
  232. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 そのお尋ねの御趣旨はよくわかっておるつもりでございまして、結局要は、もう批准をしてしまったから、この百二号条約は済みであると、これについては行政はもう忘れてしまって大丈夫だということになったのでは、非常に問題があるわけでございまして、むしろ、私の申し上げましたのは、この整備を全部、ことに第七部門を待って批准をすべきであったのかといえば、それはやはり一応条件が整備されたところで批准をすることについて差し支えばなかろう、むしろそれは好ましいことであろう、その結果この条約は批准をしたのである、それからその他の部門についてなお足りないところは極力努力をしなければならない、そういう行政努力が忘れられてはならないし、事実問題としては、批准をいたしますとやはりそのような行政努力が促進をされる、そうなければならないし、そういたしたいということを申し上げたわけでございます。
  233. 金子みつ

    金子(み)委員 そのように御答弁いただきましたから、重ねて問うことはないと思いますが、実は私は、老婆心かもしれませんけれども政府は一遍批准をなさいますと、ほかの残された部門についてさらに積極的に進んでやるという姿勢をいままで余り見せていただけないのですね。ですからその点を非常に危惧するわけでございますが、そういうことのないようにということ、そして必ずそういうことはないであろう、そうしたくないといういまの御答弁でございましたけれども、私どもはそういうことを非常に懸念しております。したがって、ILO百二号条約社会保障の最低の基準をここで決めるのでありますならば、この四つだけでは余りにも貧弱ではないかというふうに考えますので、そのことをあわせて検討なさるチャンスをおつくりになるおつもりがおありになるか、ならないかということだけで結構でございますから、最後にお答えになりまして、御退場なさって結構でございます。
  234. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 御懸念の点はよくわかりますので、関係閣僚にもお伝えをいたし、御心配のような事態になりませんように、今後他の部門での努力をさらに促進をし、強化いたしますようにお伝えをし、努力をいたすつもりでございます。
  235. 金子みつ

    金子(み)委員 私はそれでは、ただいまからは母性給付の問題を中心に、少し関係の御当局に質問をさせていただきたいと思います。  日本の国は戦争前には母性の健康状態というのは非常に優秀であった。それで、実は終戦直後アメリカの占領時代GHQがおったわけでございますが、GHQの統計の主任官が疑うくらい、日本の国の妊産婦の死亡率は非常に低かったわけでございます。厚生省がお出しになっていらっしゃる資料で数字を見ていただきますとわかりますが、たとえば昭和十五年、これは終戦直前でありますが、日本が出生十万に対して二百三十九・六の時代にアメリカは三百七十六ですし、カナダは四百ですし、オーストラリアは四百というふうに、みんな日本よりも高かった、日本が一番低かったわけです。ところが終戦を境にして今日どうなったかと申しますと、四十五年の数字でありますが、日本だけがはるかに跳び上がって五十二・一という数字を持っておりますが、よその国はみんな十台ないし二十台に下がったわけです。日本だけが以前と比して最高を保つというかっこうになってしまっているわけでございます。こういう実態をよくわかっていただきたい。  それからいま一つ問題になります数字は、やはり国際比でございますけれども、周産期死亡率、周産期死亡率と申しますのは、妊娠の後期、そして産まれた赤ちゃんの最初の週でございますね、その間の死亡の問題でございますが、日本の場合は、いわゆる早期新生児の死亡はそれほど高くございません。しかし問題になりますのは後期死産というのでございます。妊娠の終わりのころに死産が多い。これが日本は十五・一です。これは出産千に対して。よその国は、いわゆる先進国と言われる国々は九・九、もっと低いのは八・八、八・四のスウェーデン。高い国でも十三・二のイギリス。こういうふうに日本は母性に関する衛生統計上数字はまことにまずいと言わなければならない。なぜこういうことが起こるのか。なぜこんな数字が出てくるのかという問題です。  さらにもう一つ問題になります数字は、これは労働省のお調べでございますけれども、妊産婦の死亡率が高いあるいは周産期死亡が高いだけでなくて、出産する前のいわゆる妊娠期間中に起こる障害、たとえば流産ですとか早産ですとかそういうこと、あるいは今度は出産に関して、分娩に関して非常に異常の分娩が行われるというようなことが、この数字で拝見いたしましても、お産に関して異常分娩は三四・二%、全体の十人のうちの三人以上は異常分娩をしているという実態がございます。  こういうふうに母性を中心といたしました健康状態は大変に悪い。なぜこんなふうに悪いのかということについて厚生御当局はどのように考えていらっしゃいますか。その理由は何なのか。そしてその原因は、なぜそんな原因が起こるのかということについてつまびらかにしていただきたいのが一つでございます。
  236. 上村一

    ○上村政府委員 いまお話しになりましたように日本の妊産婦の死亡率、昭和二十五年に比べますと非常に改善の跡があるわけでございますけれども、まだ諸外国に比べて二ないし四倍、御指摘のとおりでございます。  そこでその原因でございますが、私どもが調べました点では、妊産婦の死亡というのは妊娠中毒症なりあるいは敗血症、そういったものが主なものでございますが、特に日本の場合には諸外国に比べまして妊娠中毒症と出血が非常に高いというふうな数字が出ております。
  237. 金子みつ

    金子(み)委員 なぜそういう病気が多いのかということがまた原因になると思うのですね。
  238. 上村一

    ○上村政府委員 御案内のように日本のお産が施設の、たとえば病院、診療所といった施設の中で行われる割合というのが、昭和二十五年当時出産の中の約五%足らずであったわけでございますが、現在九八%ぐらいまで上がってきている。そこでその出血等が原因で死ぬというのは、結局施設の中で分娩がございましても、それに対する緊急的な措置が容易にとられなかったという点に原因があるのじゃないかというふうに私は思います。
  239. 金子みつ

    金子(み)委員 原因の追及を議論していますと時間がかかりますから、承っておきます。  そういうような事情で、実態を申し上げれば、いま申し上げたように大変に状態が悪いということですが、いま一つの原因と考えられる、厚生省はおっしゃいませんでしたけれども、私はここにひとつ経費の問題があると思います。費用の問題です。いろいろな条件が悪くなっております、早いころに比べますれば。労働条件も悪いし、あるいは公害の問題もありますしいたしますけれども、診療に関する経費、妊娠期間中の診療に関する経費というようなものが非常に大きなウエートを占めているということはわかります。きょうは時間がございませんので、参考人をお呼びしたときに譲らせていただきたいと思うわけでございますけれども、私どもがいろいろと知り得ております範囲では、現在の日本の母性給付というのは、御案内のように分娩の出産費は標準月収の二分の一、そして六万円が最低額として保障されているということです。そしてそのほかには育児手当が二千円出る。これも保険の種類によってはまちまちでございまして、必ずしもこのとおりではない。たとえば日雇い労務者の場合だったら、たった二万円しか手に入らない。こういうような状態。ところが実際のお産の費用は六万円では上がらない。これは皆様方よく御存じのところです。どんなに安く計算をいたしましても、十万円はかかっている。それにそのほかの赤ちゃんのおむつとかあるいは着物ですとかいろいろ合わせますと、どうしても十五、六万円はかかる。ところが妊娠期間中にいろいろな事情が起こってそして検診を受けなければならない。診察を受けるあるいは診療を受けるということになりますと、これは全部自己負担になっているわけでございます。ですからこれらを考え合わせますと、大体三十万円近くかかっているのが普通のお産です。妊娠が始まってそしてお産が終わるまでかかる経費が、安く見積もってもそれぐらいかかるというのがいま言われている数字でございます。そうなりますと、とても二十代ではお産ができないということになるということをみんなが言っているわけでございます。とても大変だということが言われるわけでございますが、ここでこういうことを考えますと、日本の場合は母性保護政策というものが保健衛生の面の健康管理の面からも、あるいは経済保障の面からも大変立ちおくれていると言わなければならないと思うのですけれども、この点は御当局ではお認めになりますでしょうか。
  240. 上村一

    ○上村政府委員 妊産婦の死亡を防ぐための一番重要なことは、そのお金の問題もさることながら、妊娠期間中あるいは出産後の健康管理についてその公のサービスを行き届かせることではないかというふうに思うわけでございます。従来から保健所では妊婦について無料で健康診査を実施しておりますし、四十八年度から全妊婦を対象にいたしまして、保健所以外の病院、診療所で、妊娠前期あるいは妊娠後期の二回一般の健康診査とそれに基づきます精密検査を行っておるわけでございます。したがいまして、論議されておりますILO条約を横に置いて考えますと、お金の問題というよりもむしろ健康管理のサービスを行き届かせるということが私、大事なことではないかというふうに思います。
  241. 金子みつ

    金子(み)委員 健康サービスを行き届かせることはもちろん大事なことだと思います。それが妊娠期間中十カ月あるわけですが、前後一回ずつで健康サービスが行き届いているというふうに判断できるのでしょうか。
  242. 上村一

    ○上村政府委員 前後二回と申し上げましたのは、保康所以外の病院、診療所についてでございまして、保健所については随時無料で健康診査をするということになっておるわけでございます。
  243. 金子みつ

    金子(み)委員 話は細かくなって恐縮ですけれども、健康診査は保健所でただで受けることはできますが、異常があった場合は病院あるいは診療所に行って診療を受けなければならない。その場合は全部有料でございますね。ですから私は申し上げているのは、いま厚生省の局長はお金の問題だけではない、健康管理のことが重要だとおっしゃいました。それは確かにそうだと思いますけれども、その健康管理すら十分行われてないから診療を受けなければならないというはめになる。診療を受ける場合にはこれが有料になる。そこで若いお母さんたちはとてもそんなにしていられない。だからついそれがおろそかになったりする。これは本人の自覚の問題もありましょうけれども、そのことが結局、今度は異常分娩につながってみたり、あるいは妊産婦死亡の高い数字を出してみたりということにもつながるんだと考えるわけでございます。ですから私は、健康管理を十分徹底しておればそれでいい、経済的な問題は考えなくてもいいじゃないかという御説には、納得しかねるわけでございますけれども、私が申し上げたいと思っておりますのは、いまこれだけの費用がかかる、諸物価の値上がりの中でお産をするために三十万円もかかるということになるのでしたら、本当に大変なことだと思うのです。  そこで、このILOの母性給付が申しておりますように、出産に関する費用、妊娠並びに分娩、そしてその後の問題に対する取り扱いは、社会保障として取り扱うということを考えて、そういう考え方に立脚しておりますし、先ほど申し上げたように、すでにそれを採択している条約もあるわけでございますから、その考え方からいって私は、この出産の費用を何らかの形で、これは本人の負担にならないように考えられないかということなんでございます。  ILOの規定によりますと、被保険者あるいは被扶養者の別なくこの問題は無料だ、本人がその費用を負担することを認める規定は何もないわけなんです。ですから、これは無料で行われているわけですね。そのことがどうしてできないのかというわけでございます。  一つは、日本の場合は、健康保険では医療という言葉の中に通常分娩が入れてない。ILOの方の考え方は、医療という言葉の中に通常分娩が入っております。通常分娩の介助が入っている。ここの違いがあるのだろうと思うのでございますが、日本の場合に、なぜ通常分娩を医療として——医療というカテゴリーを使うか使わないかは別といたしましても、健康保険でこれを見ることができないのかということを私は伺いたいのでございます。
  244. 北川力夫

    ○北川政府委員 分娩の費用につきまして、現在、健康保険の中で見ておりますのは、いまお話のありましたように、出産手当金のほか直接に要しました費用は、被保険者本人の場合は標準報酬月額の半分、それから被扶養者の場合につきましては六万円という定額でございます。この額は、先生も御承知のとおり、一昨年の法律改正で、当時としてはおおむね分娩に要する費用を賄えることができる程度のものとして、国会でもお認めを願った額であるわけでございますけれども、現状から申しますと、その後のいろいろな社会経済条件の推移の中では、確かにこの額で十分とは申せない面があると思います。  ただ、いま御指摘になりました異常分娩でない正常分娩まで、現在の国内法である健康保険法等の体系で見るかということになりますと、これは一応その国際的な問題を離れまして、健康保険制度の根幹にもかかわる問題でございますし、これを給付として取り入れました場合に、よく言われておりますように、その評価をどうするか、また給付として見る対象の範囲をどうするか等々の問題も、現在のほかの診療行為との兼ね合い等もあって、非常に大きな問題が残っているわけであります。したがいまして、この正常分娩まで保険の枠組みに入れるかどうかという問題は、かなりこれは慎重に検討しなければならない問題と思いますが、当面、分娩の費用をできるだけ自己負担の少ないように、ないようにということで、今後の制度改正を考えていくということにつきましては、私どももそういう方向考えてまいりたいと思っておりまするし、現在、健康保険を専門的に審議をいたしております社会保険審議会等におきましても、次回の改正において現金給付の改正についてはどういうような取り上げ方をするかということの一環として、この問題も検討されるわけでございますから、そういうところの検討を待ちました上で、今後の方向考えてまいりたい、このように考えております。
  245. 金子みつ

    金子(み)委員 いまの御説明でお考えになっていらっしゃることはわかったわけですが、正常分娩を健康保険で賄うことがそんなに困難であるというその事情が十分つかみかねるわけでございますが、正常分娩を健康保険で見る方向検討を進めていらっしゃるのでしょうか、それとも、これは見られないという方向検討を進めていらっしゃるのでしょうか、その辺ははっきりさせていただきたいのですが……。
  246. 北川力夫

    ○北川政府委員 見る方向か見ない方向かというふうに言われますと、まあはっきりと申し上げることが適切かどうか、問題が残ると思うのです。と申しますのは、いまも申し上げましたように、やはり現在の医療保険各般の制度の仕組みは、疾病、負傷、いわゆる傷病というものについての給付という立て方でございますから、そういう中で、後どのようなものを取り込んでいくかというふうな問題があるわけです。そうなりますと、これはもっぱら国内法の問題といたしまして、たとえばよく言われておりますように、予防関係についてはどう処理するか、あるいはリハビリテーション関係についてはどう処理するかというような、いわば医療の包括的な処理ということの中での問題でございますので、制度上この問題を早魚に取り入れるということにつきましては、私どもは非常に慎重にならざるを得ない。いわば制度の全体の健康保険制度としての整合性というものをどう図っていくかという中での問題でございますから、今後ひとつ十分に慎重に考えていく、こういうことを申し上げておきたいと思います。
  247. 金子みつ

    金子(み)委員 厚生省となさっては、おっしゃりにくい点がおありなのかと思うのですが、この正常分娩を健康保険で取り入れますと、多分点数計算をされることになりますね。いまの方式でいけばそうなるでしょう。何点とおつけになるか存じませんが、いずれにしても点数で決められるそのことは、分娩費がマル公になるということになるわけです。そうすると、現在、分娩費につきましては全く自由奔放、幾らでも徴収することができるのですね。ですから、そうなりますと、これは多分、お医者様の方から、あるいは医師会からと言ったらいいのでしょうか、その辺はわかりませんが、反対が強く出ているんだろうというふうに想像できるわけです。  そういうような問題もあわせて私は考えられるのではないかと思いますので、厚生省となさっては、それがそういう面でないとするならば、私は先ほどから話しておりますように、出産につきましては、社会保障という考え方でILOは採択しているわけでございますから、社会保障ということであるならば、これは個人の責任ではない、保障として与えられるべきであると考えますから、何も健康保険に限ることはないと思うので、その場合には方法としては、あるいは国庫負担あるいは公費負担、いろいろなことが考えられると思うのでございますが、いずれにしても、本人がその費用を負担するということの規定がないILOのその考え方を受けとめて、そうして日本でもこのことを成就させることができるような方向で進めていっていただけないものであろうか、このことをお考えとして聞かせていただきたいと思うわけです。
  248. 北川力夫

    ○北川政府委員 いまのお話の中で、社会保障として考えたらどうかということでございましたけれども、これは社会保険でございましてもやはり社会保障の手法でございますから、社会保険でやっておるからといって、それは社会保障ではないということにはならないと思うのです。それから先ほど私は、たてまえ論として制度の本質を申し上げたわけでございますけれども、確かにお話しのとおり、費用の問題、この問題は、これも先ほど申し上げましたが、保険に組み入れました場合にどういう評価をするか、あるいはまたどの程度の範囲で取り上げるかというような、技術的にもまた医療の社会にプロパーないろいろなファクターを考えた上での非常に困難な問題、むずかしい問題もあるわけでございます。  ただ、先ほど児童家庭局長からも申し上げましたが、保険で処理をするかあるいはまた保険以外のヘルスサービスで処理をするかというような問題も、この問題には実は兼ね合ってくるわけでございます。でありますから、今後この条約の御承認をいただきました後の問題として、その趣旨をいかに生かして、また国内法のたてまえを貫きながら、社会保障全体の体系を維持しながらどういうようなうまい処理の仕方があるか、これは私ども厚生省全体として十分に検討してまいりたい、このように考えております。
  249. 金子みつ

    金子(み)委員 それでは考えていただく材料としてもう一つ申し上げたいと思います。  それは財源の問題ですけれども、厚生年金保険の収入の問題です。ものすごい高額な剰余金が残されておりますですね。四十八年度厚生省がお出しになった数字で拝見しますと、六兆六千七百三十六億二千四百万円、これが年度末の積立金になっているわけでございまして、同じ年の給付の総額は三千三百十億六千百万円でしかないわけでございます。ですから、これをすぐそっちへ持っていけばいいというような簡単な計算にはならないとは思いますけれども、しかし財源として考えるならば、この厚生年金の積立金が財政投融資などに使われておりますけれども、財政投融資に使って悪いとは申しませんけれども、少なくともこの部分だけは給付の費用の中に追加して、そして余剰金をこんなに残さなくても十分賄うことができるのではないかというふうに考えるわけでございます。そういうような方法が考えられないかどうかということもあわせて伺っておきたいのでございます。
  250. 持永和見

    ○持永説明員 厚生年金保険の収支のお尋ねでございますけれども、五十年度の予算で申し上げますと、四十八年度の改正以来、厚生年金保険も給付改善によりましてかなり給付が上がってまいりました。そういう点で五十年度について簡単に申し上げますと、五十年度が保険料収入が二兆三千億でございます。運用収入その他国庫負担を入れまして歳入合計三兆二千億でございますが、これに対しまして保険給付費が一兆百億ということで、約二兆円の差がございます。  ただ、厚生年金保険は、御承知のとおり現在まだ老齢年金の受給者が年間で約七十万足らずというきわめて未成熟の状態でございまして、こういう点で、今後人口の老齢化が進みますとともに年金受給者が急速にふえてまいります。そういう意味合いから、現在はいわゆる修正積立方式という形の財政方式をとっておりますけれども、これにつきましては長期的な観点から、将来の財政収支を見ながら事業の運営をしていかなければならぬ、こういう問題がございますので、現在持っている積立金を直ちに給付に回してしまうというようなことになりますと将来の財政がきわめて不安定になる、こういう問題があるわけでございまして、こういった財政問題を含めまして、現在私どもといたしましては五十一年度に年金制度の財政の再計算をもう一遍やり直しまして制度の見直しをしよう、こういうことになっておりますので、そういった問題もあわせてここで検討していきたいというふうに考えております。
  251. 金子みつ

    金子(み)委員 なかなかはっきりした御答弁をいただくことができないので残念でございますけれども、私もそんなに急いで右から左へということを申し上げているわけではないのです。ただ問題は、その方向に向かって、いま申し上げたように、母性給付、妊娠そして分娩に関する経費を本人の負担にすることなくこれを保障することができるという方向で協議を進め、研究を進めていただきたいということをお願いしたいわけで、その内容につきましてはあるいは手段、方法につきましてはどのようにするのが最もよろしいのかということは御専門でお考えのことだと思いますけれども、あれもだめ、これもだめ、あれはこういうことだからやり切れない、こういうふうな御答弁だけをいただいておりますと、非常に先の見通しが悪いのでございますけれども、そういうことでなくて、先ほど外務大臣出席のときに大臣の御所感も伺ったように、今後これらの問題を進めていらっしゃるにつきましては、厚生省の所管のものは厚生省で十二分にやっていただけばいいと思うのですけれども、しかしそれも、ILO百二号条約の批准に関連するということになりますれば、決して厚生省だけの問題ではないというふうに考えられますから、それぞれの所管と御一緒に検討を進めていただくということが、今後必ずそれがおできになるかどうか、そのようにお考えでこのいま申し上げている母性給付の問題も検討を進めていただけるかどうか、今度は厚生省のサイドでお返事を伺いたいと思います。
  252. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘になりましたように、この条約が幸いに御承認を得られました後におきましては、主として厚生省が中心になりましてその後の改善について検討を進めてまいる所存でございますが、当然のことながら、関係各省とは十分に連絡をとりつつ進めてまいりますことを申し上げておきたいと思います。
  253. 金子みつ

    金子(み)委員 では、そのことは十分お願いをしたいと思います。  同じような問題、同じ質問を労働省の方にもさせていただきたいと思いますが、労働省のお立場ではどのようにお考えでいらっしゃいますか。
  254. 青木勇之助

    ○青木(勇)政府委員 お答え申し上げます。  ILO条約の批准につきましては常々前向きで対処いたしておりますが、先生いま御指摘の点につきましても、厚生省等と十分連絡をとりまして前向きで検討してまいりたい、こういうふうに思っております。
  255. 金子みつ

    金子(み)委員 時間でございますので、まだほかに質問ございますが、また次回に譲らせていただきまして、最後に一つ外務省にお願いをしたいと思います。  ILO百二号条約に関連いたしまして、いま関連の厚生省と労働省の方から御答弁をいただいたわけでございますけれども、これをこのままにしておくのではなくて、何か具体的な目安を立てていただけないものでございましょうか。たとえば半年以内にとかあるいは数カ月先にどのような委員会を設けるとかというようなことを即刻考えていただくことはできないでしょうか。私は、これをこのままにしてしまいますとどこまでもそのままになる可能性があるという危惧を持っておりますので、恐縮でございますけれども、具体的に進めていく意図がおありになるかどうか、外務省、取りまとめ役としてお答えをいただきたいと思います。
  256. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 ただいま厚生省及び労働省の政府委員から御答弁がございましたが、外務省もこれらの省と連絡を密にしまして、いま先生の言われた点を含めまして、できるだけ前向きに具体的なかっこうで進めていきたいというふうに考えております。
  257. 金子みつ

    金子(み)委員 あとは次の機会に譲らせていただきまして、中途でございますけれども、終わらせていただきます。
  258. 栗原祐幸

  259. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 社会保障最低基準に関する条約、ILO百二号条約に関連いたしまして、若干質問をいたします。  その国が社会保障の充実度がどうあるかということで福祉国家であるかないか、そのバロメーターになっているということを私よく聞いたわけでございますが、わが国はこれまで産業経済第一主義といいますか、大企業優先で参ってきたのでありますけれども、野党の追及によりまして、最近は多少なりともその方向を転換をなさったようであります。いわゆる福祉優先政策に転換したということでございますけれども、言葉は確かにそうであっても、その内容をつぶさに見てまいりますと、まだまだその水準は低いし、立ちおくれが目立つ。特に国際的なその基準に照らしてまいりますと、その立ちおくれが明瞭になってくるわけでございます。  ILO百二号条約というのは、御承知のように昭和二十七年に第三十五回ILO総会で採択されたわけでございますが、今日までこの条約を批准できなかったわが国の事情といいますか、理由、これをまず聞いてみたいと思いますが、いかがでしょうか。
  260. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  このILO百二号は医療以下九部門にわたりまして社会保障最低基準を定めておりますが、今日までこの条約にはいれなかった理由と申しますのは、そのそれぞれの部門におきまして、わが国における社会保障の基準というものが至っていなかったということが原因になっております。ただ、災害補償関係につきましては、先生も御承知のように、昨年の国会におきまして百二十一号条約を批准しておりますので、この点については、昨年の時点においてはこの条約の基準を満たす体制は整っておったということが言えると思います。
  261. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 わが国はもっと以前から批准できたのではないかと私は思うわけです。それは、外務省がこの批准に対する基準の受けとめ方が余り厳しく考え過ぎていたのではないか、このように私は考えるのです。実は、これは事務当局の皆さんのお話でございますけれども、はっきり言って、外務省のこれに対する窓口の熱意といいますか、それにも大きな影響があるんだ、つまりこのILOのいろいろな条文というものは英文であり、あるいはフランス語、そういうことで成文化されているというわけですね。したがいましてそれを翻訳するに当たってニュアンスが大変違うというようなことなど、いろいろありまして、要するにその批准要件の受けとめ方、これが厳し過ぎて、当然批准の条件を備えながらおくらしたのではないか、こういうことも実は聞いたわけでありますが、この点についてはどうですか。
  262. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 お答え申し上げます。  この百二号条約に定めております基準は、翻訳のいかんにかかわらず基準は基準でございまして、外務省といたしまして、それを百二号条約が決めております以上に厳しくするとか、ないしはそれ以下にやわらかく解釈するとか、そういうことはやはりいたしておらないつもりでございまして、御質問のような点は私どもとしてはないものと確信しております。
  263. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 これは関係の役人さんの口から出ている話でございまして、私はまんざら的外れではないというような気もするわけです。これはこれ以上お聞きしても展開する話じゃないので次に移りますけれども、いまおっしゃったように、この条約は九部門に分かれているわけですね。その批准要件というものは、失業給付あるいは業務災害給付、年金関係三給付、合わせまして五部門のいずれか一部門を含む三部門について基準に達していることとなっているわけでございますが、今回わが国が批准しようとしているその要件の中には、九部門中に傷病給付、失業給付、老齢給付、業務災害給付の四部門について、義務を受諾して批准しようということになっていると思うのであります。まず確認しておきますが、ぼくの言ったことについて、間違いありませんね。
  264. 伊達宗起

    ○伊達政府委員 そのとおりでございます。この条約の御承認を得た暁には、第三部、第四部、第五部、第六部、ただいまお話しになりました四部門について受諾の通告をするつもりでございます。
  265. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 そこで、あと残りの五部門を見てまいりますと、医療、家族給付、母性給付、廃疾給付、遺族給付、いずれも婦人、女子に最も関係の深いものばかりが残っていると言っても過言ではないと思うのです。要するにこれら五つの部門が批准の要件の基準に達していない。こういうことは大問題だ。いわゆる国内法の整備が余りになされていない。こういうことから、御婦人の関係者から今度の批准についてきわめて厳しい批判の声が上がっております。批准すること自体を云云しているのではなくて、こうした婦人対策がわが国は非常におくれているということがこれではっきりと浮き彫りにされた。その立場から婦人の皆さんが、一体このままでいけばこの五部門が置き去りにされていくのではないか、このような懸念と怒りの中から反対の声が上がっているわけでございますが、ことしは国際婦人年でもあります。戦後、女性とくつ下は強くなったと言われてきたわけでございますが、戦前と比較しまして、戦後わが国の婦人の地位や働く婦人の労働条件はどのように向上してきたか、お尋ねをしたいと思います。
  266. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 大変大きい、非常に広範囲にまたがる御質問でございますので、概略だけさしあたりお答え申し上げたいと思います。  働く婦人のまず数でございますが、ただいま四十九年の統計で申しますと、約千二百万人になっておりまして、全労働者の三分の一を占めるようになっております。その中で既婚婦人が約六〇%に及んでおりまして、この点につきましては特に戦後の新しい現象であるというふうに考えます。戦後と申しましても、戦争直後におきましては若い未婚の人が多かったわけでございますが、昭和三十五、六年ごろから非常に既婚者がふえてまいりまして、既婚者及び年齢の高い婦人がふえているということでございます。それと関連いたしまして、勤続年数も長くなりておりまして、また平均年齢も高くなっておりまして、三十歳を超えている実情でございます。そのほか、職場といたしまして、以前には婦人が余りついておりませんでした職業に婦人が進出し始めているというものもたくさんございまして、まだ数は十分ではございませんけれども、各方面に婦人が進出するようになっているというのがいろいろな資料でわかっているところでございます。
  267. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 戦後二十年を経過して、働く婦人に対する諸法規はどのように改善されたか、これもあわせて聞いておきたいと思います。
  268. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 戦争直後に、働く婦人の関連いたします法律といたしましては、特に労働基準法が昭和二十二年に制定されまして、その中で婦人の保護のことがいろいろと決められておりますが、その後先ほど申し上げましたような働く婦人の側の変化に伴いまして、いろいろな新しい措置が求められるようになりまして、昭和四十七年に勤労婦人福祉法という法律が新しくできまして、特に家庭を持って働く婦人、既婚婦人についてのいろいろな措置を新たに決められたところでございます。
  269. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 今度の百二号条約の批准に当たりまして、政府はこれを国際的にあるいは国内的に見ていかに意義づけられようとされているのか、その立場からの考えお尋ねしたいと思います。
  270. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 百二号条約の内容につきましては、ほとんどが厚生省の所管のことでございますので、義務を受諾できない部門につきましての問題の解決につきましても、今後厚生省が中心となってお進めいただくようになると思いますし、それが最も適当であると存じますが、私どもの働く婦人という立場から申しましても、さらに条件が整備されますように関係当局と連絡をいたしまして、要望していきたいというふうに考えております。
  271. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 厚生省の方にお尋ねしますが、この百二号条約というものを国際的に見た場合には、日本社会保障の姿勢とその水準について明らかにしたということとともに、ILOの活動に対する積極的な態度を具体的に示したことになると私は思うのでございますが、こういう考えは間違っていませんか。
  272. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生のおっしゃるとおりでございます。  なお、あえてつけ加えて申し上げますと、国内の社会保障の状況を明らかにするのみならず、今回もし御承認を得まして批准をすることができますれば、やはりわが国の今後の社会保障の充実の方向というものにつきまして一つの強力な目安をつけた、そういう意味もあるかと存じます。
  273. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 じゃ、国内的に見ればこの条約の批准自体は私は賛成する、すべきだと思うわけでございますが、わが国が義務を受諾しなかった各部門に関し、先ほど言った五つの部門、直接的には義務を負うものではない、しかし、今後わが国社会保障のあり方を検討する上で一つの具体的な尺度を提供することとなると私は思うのですね。いまもそのような御答弁があったと思うのでございますが、そういう立場から、先ほど言った五つの部門に対する厚生省の今後の推進「促進のあり方についてお尋ねをいたします。
  274. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘の、今回義務の受諾ができない五つの部門でございますが、総論的に申し上げますれは、いずれの部門につきましても前向きと申しますか、一層その改善をしてこの水準に到達するように努力する所存でございますが、個々にごく概略的に申し上げますと、一つは医療給付でございます。医療給付の中で今回水準に達しませんのは、出産の関係でございます。この出産の関係は、後の方の出産給付、この方と重複しておりまして、問題は同じでございます。この点につきましては、先ほど来御説明申し上げておりますように、基本的な問題としていろいろな克服さるべき困難な問題があるということでございますので、具体的な改善計画というものはこれから真剣な検討に入ってまいる、こういうことでございます。  次に、もう一つの部門といたしまして水準に達しませんのは遺族給付でございます。御承知のように、古くから遺族年金というものは老齢年金の半額というような原則がございまして、これにつきましては、明年度、五十一年度におきまして年金関係の再計算時期に当たっておりますので、この機会向上、改善を図る、こういうような計画予定になっております。  さらにもう一つ残っておりますのは廃疾給付でございます。この部門につきましては、廃疾給付の額そのものにつきましては、厚生年金の障害年金というところで基準に達しておるわけでございますけれども、ただし、傷病給付というものとそれから廃疾給付というものと、その間に現金給付が抜ける期間がございます。なぜかと申しますと、厚生年金の障害給付と申しますのは、治らない場合には三年目に初めて廃疾認定というものをいたしまして、そこで年金化するわけでございます。したがいまして、傷病給付の方が一般疾病では六カ月、それから結核性では一年六カ月となっておりますので、その間にギャップが生ずる、こういう点でございます。これにつきましても、関係の審議会等々におきまして真剣な改善のための検討が続けられているわけでございます。
  275. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 要するに、今回批准することによって、問題にされております母性給付あるいは廃疾給付、遺族あるいは家族そして医療、これらが積み残しにならないように、国内法の整備を急がれることを強く要求いたしておきます。  次に、社会保障の国際比較についてお尋ねしたいと思うのですが、わが国とILOとの社会保障の定義についての相違点はいかがでしょうか。
  276. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  ILOのこの社会保障条約百二号でございますが、これができましたのは一九五二年でございます。その前の段階におきましては、社会保障という言葉よりも、むしろ条約その他におきましても社会保険、こういうものを使っておったようでございます。したがいまして、国際的な意味社会保障という言葉がはっきり出てまいりましたのは一九四四年と思いますが、フィラデルフィアにおきましてILOの総会がございました。このときにILOで使われるようになったと理解しております。もちろんソシアルセキュリティーという言葉自体は、一九三五年でございますか、アメリカのルーズベルトのニューディール政策のときにソシアル・セキュリティー・アクトというものをつくっておりますので、言葉自体としてはあったわけであります。  なお、日本の国内におきまして社会保障という言葉につきましては、これも戦後に至りましてただいま申し上げましたようなILOその他で使われてまいりましたので、その意味で採用されたと理解いたしております。もっとも憲法の規定にございます社会保障というのは、ほかの意味、公衆衛生等々を含めました形で使っておりますので、多少観念的なずれはあろうかと存じております。
  277. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 社会保障の定義が各国とも多少の違いがあり、国内を見ても関係する各省の定義のとらえ方がばらばらなんですね。私はこういうことでは本当の意味社会保障の推進は阻害されていくんではないかと思うのです。  実は御承知と思いますけれども、わが党は社会保障基本法という案をこの国会に提案いたしております。お読みになっていると思いますけれども、その中にこういうことを言っております。  「このようなわが国社会保障の渋滞あるいは後進性というのには種々の要因がありますが、第一に指摘できることはいまだ社会保障の定義が明確でないということであります。政府部内においても、又学者間においても異説のあるところであります。定義が曖昧であるところに、有効な施策は期待できません。わが党はこの機会社会保障に関する施策を次のように主張するものであります。  すなわち社会保障制度とは、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基づき、国民にひとしく疾病・負傷・廃疾・死亡・老齢・分娩・失業・多子等によって国民生活の安定がそこなわれることを、国民の共同連帯によって防止し所得の再分配的な効果をあげ、もってすべての国民が健全な生活の維持及び向上に寄与することをいう」このように明確に定義づけしているわけでございますが、いまの定義をお聞きになって、おかしいと思われるか、そのとおりだと思われるか、御返事を聞きたいと思います。
  278. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生のいまお述べになりました社会保障の定義というもので、大筋といたしましては決して間違っておる点はないと存じます。
  279. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 わが党では前々から社会保障基本法という基本的な法案を提案いたしております。どの程度真剣にこれを取り上げられ、取り組んでいらっしゃるか知りませんが、この際私は強く要求しておきます。きっとこの内容を玩味されればなるほどという理解をいただき、あるいは厚生省の社会保障の推進の中心になっていくんじゃないかという自負すら持っておりますので、強くこれも要求しておきます。  次に、世界各国における社会保障は、大別をしてどういう系類に区分されているか。
  280. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  世界各国、ILO加盟国でも百二十を超えておると存じますが、やはりそれぞれ国情によりまして、社会保障と称しておりましても内容は相当異なっておるのではないか、こういうふうに理解しております。したがいましてILO自体で、社会保障はこうでなきゃならぬという言い方を各国に対して強制をするというようなことはないというふうに理解いたしております。
  281. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 それでは、わが国社会保障は先進国と比較して大変おくれているんだ、こういうふうによく言われるのですけれども、どういう点が一番問題だと思っておりますか。
  282. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  わが国におきましては、一言で申しますと社会保障体系の中を大きく分けまして医療保障の部分と所得保障の部分とがございますが、どちらかと申しますと、従来医療保障の方にウエートがかかり過ぎておりまして、所得保障、つまり年金制度でございますが、この方がおくれておったというふうに理解いたしております。ただし制度自体といたしましては、年金制度もかなり充実を見てきているところでございますが、何分にも発足後日が浅いためにまだ成熟しておらぬ、つまり受給者がまだ多くないという段階にあるわけでございます。
  283. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 百二号条約に規定する社会保障給付に関する国内法規はどうなっているか、お尋ねします。
  284. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  国内法規といたしましては、健康保険法、厚生年金保険法、児童手当法があります。さらに、労働省所管ではございますが、雇用保険法、労働者災害保険法、これらがあると存じます。
  285. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 これは労働省に聞くのがいいのか、厚生省に聞くのがいいのか、運輸省に聞くのがいいのか知りませんが、この百二号条約は労働者保護の立場から社会保障が推進される基準が決められているわけでございますが、これには船員の問題が落ちていると思うのです。これについてはどうお考えになっておりますか。
  286. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  先生御指摘のように、この百二号条約には、この条約は船員関係には適用しないという規定がございます。船員関係につきましては、一九四五年と記憶いたしますが、船員の社会保障条約、船員年金条約、この二つ、七十号と七十一号ができておるはずでございます。
  287. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 では船員についてはこれ以外で十分社会保障的なものは保障されると理解して間違いありませんか。
  288. 綱島衞

    ○綱島説明員 船員の社会保障関係につきましては、厚生省の所管でございますが船員保険法というのがございます。船員保険法におきましては、医療の関係、年金の関係、さらに失業、業務災害、この四つの関係の部門を全部総合的にやっておりますので、この船員保険法におきまして船員に対する社会保障というものは一応できておる、こういうふうに理解しております。
  289. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 それでは第七条についてお尋ねしますが、予防的または治療的性質の医療というのがあるわけでございます。ここで言う予防的性質の医療とはどういう医療を言っているのかということであります。
  290. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  第七条で「予防又は治療の性質を有する医療」云々と書いてございます。ここで申しておりますのは、次の第八条に給付事由について定めてあるところと読み合わせてみますと、仮に、けがをした、病気になった、こういう場合、そういうものが起こる前に予防するという意味よりも、むしろ給付事由の生じた場合、そこからさらにほかに広がっていくということがないようにという意味での予防だ、こういうふうに解しております。
  291. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 この予防は、たとえば病気にかからないための予防ではなくて、病気になってしまってその病気がさらに拡大しないための予防ということですか。
  292. 綱島衞

    ○綱島説明員 そのとおりでございます。
  293. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 わが国の健康保険の立場から見てまいりますと、わが国の健康保険というのはまだ予防的なものは取り入れられていませんね。つまり健康保険では、第七条に規定する予防の性質を有する医療が行われていないのではないかと私は思うのでございますが、いかがですか。
  294. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  健康保険法におきまして、仮に体に異常を覚えた、こういうことで診療を受けるといたしまして、その後で結果的には何でもなかったということがわかりましても、これは保険給付の対象になっているわけでございます。  なお、健康保険におきまして法定の、つまり法律で定めた給付ではございませんが、保険の施設といたしましてそこで健康診断その他こういうものがやれるということになっております。
  295. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 第八条の「妊娠、分べん及びこれらの結果」という言葉がありますけれども、この範囲というものはどういうものを指しているのですか。
  296. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  たとえば「妊娠、分べん及びこれらの結果」で医学的な概念からいたしまして、妊娠という事態が確認される、さらに分娩あるいはそれに基づく結果、つまり後の処置でございますが、こういうものが含まれているというふうに解釈いたしております。
  297. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 第八部の「母性給付」、第四十七条に当たるわけですが、同文章との関係について説明願いたいと思います。
  298. 綱島衞

    ○綱島説明員 先生の御指摘になりました四十七条でございますが、給付事由として二つございまして、「妊娠、分べん及びこれらの結果」、それから「それらに起因する勤労所得の停止」というのがございまして、つまり妊娠、分娩あるいはその結果そのために働けない、そのために収入がなくなる、こういう場合には現金給付をおやりなさい、こういうことでございます。
  299. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 要するに第八条と第四十七条というのは、どちらでもよろしいということですね。
  300. 綱島衞

    ○綱島説明員 この四十七条の方には「勤労所得の停止」の場合に対する保護が入っておりますから、その部分が違うわけでございます。
  301. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 了解しました。  それでは第十条2においては「妊娠、分べん及びこれらの結果」の場合、受給者の一部負担を認めているようでございますが、分娩費に関する規定を改正すべきではないかと思うのですが、いかがですか。
  302. 北川力夫

    ○北川政府委員 分娩に関する給付につきましては先生も御承知のとおり、現在分娩費として被保険者本人の場合には標準報酬月額の半額、それから配偶者の場合には六万円の定額、全体を通じまして最低保障六万円というのが現行の健康保険制度の定めるところであります。  実情から申しますと、果たしてその程度で全部賄えるかどうか、この点は多少この法律ができ上がりました当時と比べまして条件は変わっていると思いますけれども、こういう問題は将来の問題として十分な改善を行えるように今後努力してまいりたい、このように考えています。
  303. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 分娩費の実態について調査してまいりましたので、よく記憶しておってください。国立病院で東京都新宿区にある国立医療センター、ここにお尋ねしましたら十二万円ないし十三万円かかるそうです。ところが医科歯科大学付属病院はお茶の水にありますけれども、ここは六万円でいいのだそうですよ。都立病院の豊島病院は板橋区にありますけれども、これも六万円だそうです。私立病院の姉崎病院はやはり板橋区にありますけれども、聞いてみましたら十二万から十三万かかるということでした。それから目白にあります法人立病院の社会保険中央総合病院に聞いてみたら、ここはやはり十二万から十三万と言っておりました。  これは厚生省の役人の方に聞いてみたのですけれども、それをそのまま申し上、げますと、五万から六万あるいは十万ということも言われているし、まあ十万から十五万とも言われております、高いのは三十万までありますということで、厚生省の直接の担当官に聞いてもこの分娩費というものが非常にあいまいなんですね。つまり、これはもっと本気になってその実態を調査して、いま私が申し上げましたようにこの規定を本当に改善をしていただきたい、こう思うわけでございます。  また、条約の基準を満たすためには現物給付を行うのが筋ではないかと私は考えるのでございますが、いま現金給付ですね。この点はいかがですか。
  304. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  この条約におきましては第一条の第二項でございますが、ここで給付につきましていわゆる現物給付であってもよろしいし、あるいは本人が負担した費用を償還してもよろしい、こういうふうに選択的に決めております。したがいまして、必ず前者でなければならぬというふうには解釈いたしておりません。
  305. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 好ましい姿はどちらですか。
  306. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  これはやはり各国それぞれの国内法制あるいは社会的バック等々におきまして決定せらるべき問題であるというふうに考えるわけでございます。
  307. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 では次にいきますが、母子保健の問題に移りたいと思います。  保健対策がおくれていると言われておりますけれども、その現状について説明願いたいと思います。
  308. 上村一

    ○上村政府委員 母子保健のいろんな指標を申し上げればよろしいわけでございましょうか。乳児の死亡率が一つの指標になるわけでございますが、これは現在世界各国に比べましても一番高いところにあるわけでございます。問題は、先ほど来議論されました妊産婦の死亡率でございまして、昭和二十二年に比べますと約四分の一くらいに低下しておりますが、ほかの国に比べてなお高い。そこで、そういう妊産婦の死亡率を見れば、妊産婦に対する保健衛生行政がまだおくれているということにならざるを得ないわけでございますが、これに対しましては、先ほど来お答え申し上げておりますように、妊娠すれば必ず届け出を励行させる。届け出を励行した妊婦については、保健所で、あるいは昭和四十八年からは特定の病院、診療所で無料による健康診断を受けさせておる。そして、保健婦等による保健指導をする、そういった施策をとっておるわけでございます。
  309. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 私は、わが国の母子保健対策が非常におくれているということを実は指摘したいわけですが、妊産婦の死亡率はきわめて高いわけですね。この母子保健法の一部を改正する法律案というのをわが党はすでに提案しているところでございますけれども、先進国に比べてわが国の妊産婦の死亡率ははなはだ高率である。また戦後著しい改善、向上を見た乳幼児の死亡率あるいは体位、栄養状態についてもその地域格差が依然として縮小されていないなど、なお努力する課題が多く残されている。  そこで、社会保障制度審議会というのがありますね。その答申にこのようなことを見つけております。政府の母子保健法について、「本案は、母子の健康確保の方向にわずかに一歩を踏み出したにすぎないものであって、各部面に未熟不備不徹底な点が多く、特に優生保護法との関係その他医学的に検討すべきものがあるが、今後ひきつづき改善を図ることを条件として了承する」これが答申の内容ですけれども、四十年四十九国会において母子保健法が制定されて今日まで、ほとんどその改正がなされていません。  私は、先ほど申し上げました出産費用について、現在の政府が健康保険で出している最低保障額六万円、あるいは標準報酬月額の二分の一というのは、実態から見ればとても低い金額である。これではどうにもならぬ。健康保険法の上でそれが是正されないのならば、この母子保健法にその不足分をあがなっていくように努力すべきではないか、こう考えるわけでございますが、その点はいかがですか。
  310. 上村一

    ○上村政府委員 初めに、先ほど言い違いをいたしましたので、訂正させていただきます。  乳児死亡率、先進諸国の中でも高い方だと申し上げたのですが、一番低い方でございます。レベルが高い方だと言うつもりでございました。  それから、母子保健法の一部改正について公明党から出されております案は、私、承知いたしております。ただ、母子保健の体系の中で分娩費をどうこうするというのは非常にむずかしい問題だと思います。と申しますのは、母子保健の体系と申しますのは、妊婦なりあるいは産婦なりあるいは乳児、ことに新生児、未熟児といったものに対する健康管理体制を、国なり地方公共団体が中心になってサービスとして提供するという点にねらいを持った制度でございます。したがいまして、この法律の中に、たとえば未熟児について養育医療というのを給付する仕組みがございますけれども、この制度で医療が受けられる赤ちゃんにつきましては、その所得に応じて費用は負担してもらう、そういったサービスは提供するけれども、あくまでも費用は負担してもらう仕組みをとっているわけでございますから、こういった母子保健の体系から考えますと、分娩はただにするという、いま論ぜられておりますILOの絡みでは少しむずかしかろうというふうに考えます。
  311. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 それでは、現在の健康保険法の中で、ILOが要求しているだけの条件が満たされるように将来改善されるのかどうか。
  312. 北川力夫

    ○北川政府委員 私は、先ほどお答えを申し上げました中で、健康保険のサイドで現金給付としての分娩費を改善しないというふうには申し上げておりません。現在この問題は社会保険審議会等におきまして次の改正の一環として非常に熱心に検討されておりますから、そういう意味合いで次回の改正の際にできるだけの改善をしたい、このように考えております。
  313. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 せっかく外務大臣いらっしゃっておりますので、お退屈だろうと思いますから一言お尋ねをいたします。  これは冒頭に私申し上げたのですけれども、今回の百二号条約の批准について、その批准要件が九部門中四部門、それもあと残りの部門がほとんど婦人、女子関係になって、その基準に達していないということになっているわけです。私たちはこの批准をすることについて反対するものではないのでありますけれども、これを批准したことによって、残りの五部門が置き去りにされていくのではないかと大変な懸念を持たれている関係者が多いのであります。先ほど関係者からはそういうことがないように今後努力していくということでありますが、まず直接の所管大臣である外務大臣から、その辺の確たる言質をとっておきたいと思います。
  314. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 実は、先刻もその点についてお尋ねがございまして、このたび九部門のうち四部門についてのみ条件を充足した、残りについて充足をしていないということは、わが国社会保障の現状から見ましてまことに残念なことであって、願わくば他の部門も、ことに残りには女性に関する部門が多いのでございますので、現在の段階におきまして充実されておるようなわが国であってほしかったと考えます点では、私も大橋委員と同じ意見を持っております。しかし、ともかくもこの一部門を含む四部門につきまして条件を具備するに至ったと考えられますので、御審議をお願いして批准をいたしたいと考えました。  ただ、これは批准をすればもう百二号関係はこれでともかくも済んだというようなことであってはならないわけでありまして、むしろ批准をしたがゆえに、残りの部門についても急速にこれを充実して本来のたてまえを満たすべきである、そういう努力をいたさなければならないと考えております。  おのおのの部門の問題は私自身の所管というわけではございませんけれども、少なくとも批准をしたことをもって事足れりというのではなく、逆に批准をしたことによって、そのような政策目標を目の前に設定されたというふうに考えて、施策を進めていくべきであると考えております。
  315. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 私のこれからの質問は細かい具体的なことばかりでありまして、せっかく大臣いらっしゃったのですけれども、恐らく大臣お尋ねする内容はなかろうと思いますから、どうぞ御退席なさって結構です。  じゃ、次に移りますが、心身障害の発生原因としては、妊娠中あるいは出産周辺の何らかの事故または病変に起因するものが多いと考えられているわけでございますが、「心身障害の発生原因究明の重要な手段として全国的な疫学的調査を行うことも有効である。」と中央児童福祉審議会ですか、そこが答申をしているようでございますが、果たしてそれが実施されているのかどうかお尋ねをいたします。
  316. 上村一

    ○上村政府委員 心身障害の原因はいろいろあると思います。身体障害の場合には途中で起こることが多うございますが、精神発達の遅滞を伴います場合には、先天的なもの、あるいは妊娠中の異常によるもの、あるいは出産時の異常によるもの等々あるわけでございます。私ども心身障害の発生予防を含めました特別の研究費というものを計上しておるわけでございます。五十年度の予算では、前年度四億五千万円でございましたけれども、一億ふやしました五億五千万円で研究しておる、その研究の大きな柱に心身障害の発生予防というのを置いておるわけでございます。
  317. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 疫学的調査は積極的に進められていると考えていいですね。
  318. 上村一

    ○上村政府委員 疫学的なものあるいは遺伝的なもの、いろんな分野に分かれまして専門家にお願いしておるわけでございます。ただ、問題が非常にむずかしゅうございますので、いま直ちにどうこうするというふうな研究の成果が上がっておるわけではございません。
  319. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 じゃまた次に移ります。  地方公共団体で行われている乳幼児の医療費の無料化の実態はどうなっているか、また、これを法制化し、費用は公費負担とする考えはないかということです。
  320. 上村一

    ○上村政府委員 地方公共団体で行われております乳幼児の医療の無料化というのは、昨年の十二月末の数字では四十二県六市について行われておるわけでございます。もちろんその態様も、乳児に限られておるもの、あるいは二歳児までのもの、あるいは未就学児といったようにいろいろ態様があるわけでございます。ただ、厚生省といたしましては、乳幼児の医療の無料化を国の施策としてやる考えはございません。
  321. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 これはその気持ちはないと言っても、各地方団体は次々とこれを実施してきているわけですよ。それについてやる気持ちがないなんということで野放しにしていたらまた大変なことになろうかと思いますが、具体的にその問題について地方団体に指導なさる考えがあるのかどうか。
  322. 上村一

    ○上村政府委員 自治体の首長が自治体の首長の御判断としておやりになっておる行政でございますから、私どもの方でこれについて格別の指導をするというわけにはまいらないと考えております。
  323. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 私は、いずれは、児童手当が推進されたように、各地方団体からの要求として上がってきて、ついには国としてそれを法制化せざるを得ない段階が来るだろうと考えております。したがいまして、そういう安易な物の考え方ではなくて、あるいは後退した考え方ではなくて、一歩前進した、掘り下げた積極的な考えでこれを見ていっていただきたい。強く要求しておきます。  それから現行の母子保健法における妊産婦、乳幼児に対する保健指導、栄養補給というものが低所得者に対してのみ行われているわけでございますが、これをすべての妊産婦、乳幼児に拡大し、充実強化する考えはないかということです。
  324. 上村一

    ○上村政府委員 現行母子保健法の中で「健康診査」、これは保健所で行われるものとそれから病院、診療所へ委託するものとあるわけでございますが、これは全妊婦、全乳児でございます。  それからその次に、現行母子保健法で「栄養の摂取に関する援助」ということで、妊産婦なり乳幼児に対して栄養費の支給その他の援助を行う問題があるわけでございますが、いまお話しになりましたように、現在やっておりますのは低所得世帯、要するに所得税が非課税になる程度の世帯の妊産婦、乳幼児に対して、栄養の強化のために牛乳等の母子栄養食品の支給をしておるわけでございますが、やはりこういった栄養になるものを現物として支給しておるわけでございますので、そういった牛乳を買い得るような世帯にまでこの制度を広げるかどうかにつきましては、少々問題があるのではないかというふうに考えます。
  325. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 時間の関係もありますので次に移ります。  これは労働省になろうかと思うのですけれども、労働基準法における女子労働者及び労働者たる妊産婦については、労働条件として安全衛生、労働時間、深夜業、危険有害業務、生理休暇等の安全及び健康の保持については、民間企業では現状はどのようになっているのかということです。
  326. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 労働基準法によります産前産後の休業につきましては、昭和四十八年の女子保護実施状況調査という調査によりますと次のような数字になっております。一人平均産前産後の休業を何日ぐらいとっているかということでございますが、全体といたしましては、産前は三十五・六日、産後は四十六・五日という状況でございます。  それから妊娠中の軽易業務への転換者、これも労働基準法に決められた措置でございますが、同じ調査によりますと、この点につきましては一一・〇%の者が軽易業務に転換しております。  それから育児時間請求者は同じく二一・二%ということになっております。  特に産前産後及び育児時間に関しましては以上のような数字でございます。
  327. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 女子労働者が妊娠、出産、育児の機能を有することを理由に不利益な取り扱いを受けることのないようにという規定を設ける必要はないかということと、それから妊産婦に対しては、勤務時間の変更、通院休暇、つわり休暇、育児休暇、有給の育児休暇、十分に母体を保護したければならない等を規定すべきではないかと考えるのでありますが、この点についてお尋ねします。
  328. 森山真弓

    ○森山(真)政府委員 昭和四十七年に制定されました勤労婦人福祉法の中に、特に第九条におきまして、「母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるような配慮をするように努めなければならない。」ということが決められております。また同じく第十条には「事業主は、その雇用する勤労婦人が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講ずるように努めなければならない。」というふうになっております。さらに第十一条では育児休業のことを決めておりますようなわけで、労働基準法以外にこのような努力義務が決められております。
  329. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 その努力義務の規定があるということでございますが、それが十分発揮できるように行政指導をよろしくお願いいたします。  次に、傷病給付についてお尋ねいたします。  傷病給付の支給期間は、第十八条においては原則的には事故の全期間支給するとされておりますが、傷病手当金の支給期間を延長する考えはないかということです。  次に、一緒にお尋ねしますが、条約第十八条によれば傷病給付の支給期間というものは最低二十六週間とされております。健康保険法における支給期間六カ月というものは条約の基準を満たさない場合があるのではないかという懸念がありますので、これをあわせてお答え願いたいと思います。
  330. 綱島衞

    ○綱島説明員 お答え申し上げます。  傷病給付の支給期間につきましては、条約にありますように二十六週間ということになっております。健康保険法におきまして、一般疾病につきましては六カ月、それから結核性疾病については一年六カ月、こうなっております。  先生後段でお尋ねの、場合によってはその日数を満たさない日があるんではなかろうか、これは月の長短によりましてそういうケースも生じ得るわけでございますが、計算の仕方が暦月計算ということになっておりますので、たとえば二月がはさまった場合に日数として足りなくなる、日数としては足りなくても計算の仕方が月単位でございますので、この点は条約の基準に抵触しない。この点につきましては、ILOに照会し、あるいはほかの国の事例等も参照いたしました結果、そういう結論を得ております。
  331. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 それでは厚生年金の障害年金と健康保険法の傷病手当金との関連についてお尋ねしたいと思うのですが、厚生年金の障害年金は、医師の診断を受けた日から三年経過後に支給されることとなっておりますね。その間の生活保障は健康保険でも一定期間六カ月、あるいは結核でも一年六カ月しか行われていないので、障害者の相当者が生活に困窮を来していると聞いているわけでございますが、私はこれは何としても改善せねばならぬ問題だろうと思います。障害年金の支給期間を早めるとともに、その間の生活保障として健康保険の傷病手当金を障害年金の支給を受ける時点まで支給すべきではないかという考えを持っているのでございますが、この点についての御見解をお願いいたします。
  332. 持永和見

    ○持永説明員 障害年金の廃疾認定日でございますけれども、先生御案内のとおり、傷病の発生してから三年目ということが一応廃疾認定日になっておりまして、そこから障害年金の支給が始まるという形になっております。  ただこの問題につきましては、傷病の態様あるいはその廃疾の種類、そういったものが非常に区区でございますので、これを一律に短縮してしまうということについていろいろ問題もあろうかと思いますけれども、現在、私どもの方といたしましては、制度の基本的な見直しもいろいろ検討しておりますから、その課題の一環といたしまして障害年金の廃疾認定日の問題も検討いたしたいというふうに考えておりますが、専門的なことでございますので、そういった専門家の方々の御意見も十分にしんしゃくしながら検討を進めてまいりたいというふうに考えております。
  333. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 いま私が述べた意見は決して私の持論ではなくて、今度の百二号条約の規定がそのようになっているということですね。廃疾給付の支給は就業不能が永久的なものとなるおそれがあるものに限らず、傷病給付の終了後も存続する一時的なものについても要求されているという百二号条約の規定でございますので、これを受けて立つならば、私が先ほど申しました意見というものを十分理解され、改善されるものと私は確信いたします。専門家の意見も当然そこに落ちつくものと思います。もっと深く検討していただきたい、強く要求しておきます。  それから、業務災害給付に関連してお尋ねしますが、厚生年金保険と労働者災害補償保険との調整問題になるのですけれども、業務上の災害の場合、労働者災害補償保険法の障害補償給付及び遺族補償年金の額について厚生年金との調整が行われているわけでございますが、厚生年金保険法における年金給付、いわゆる障害年金または遺族補償が全額支給されて、労働者災害補償保険法は労災保険給付から厚生年金給付の二分の一を引いた残りを支給しているのは不合理ではないか、こういうことです。おわかりになるでしょう。
  334. 田中清定

    田中説明員 お答えいたします。  労災保険にいたしましても厚生年金にいたしましても、それぞれの制度の趣旨に従って給付の事由を定め給付を行っているわけでございますが、同じ人が両方の保険に入っておれば、当然そこに給付事由が競合する、給付がダブるということが起こるわけでございます。一応、これはそれぞれ別の制度ではございますけれども、ともに国の制度という面で一つの共通の制度の体系の一環をなしているわけでございますので、やはりそこに何らかの交通整理が必要になってくるのじゃないか。両方の給付はそれぞれ全く性格が違う、異質のものであるという場合は格別といたしまして、多かれ少なかれ、労災の年金にいたしましても厚生年金にいたしましても、所得の補てんの効果を持っておるという面では共通しておる、あるいは給付費用の負担者もある面ではダブっているということもございますので、その辺を勘案いたしまして何らかの調整措置が必要であるというふうに考えるわけで、これはやはりやむを得ない点ではないだろうか。ただ、現在のやり方が最善の、不動のものかということになりますと、私どもいろいろ問題の指摘も受けておりますので、十分検討しなければならない問題だというふうに考えておる次第でございます。
  335. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 労働者が不幸にも労働災害に遭った、その場合はやはり労災保険の保護を十分に受けていきたいという気持ちがあるわけです。この厚生年金と労災保険の問題についてはもうすでに指摘され、検討せよということがはっきりしておりますね。労働者災害補償保険法における昭和四十年六月十一日、法律第百三十号の附則第四十五条に「(業務災害に対する年金による補償に関する検討)」の規定があるはずでございます。それを私は読んでおきます。「労働者の業務災害に対する年金による補償に関しては、労働者災害補償保険制度と厚生年金保険その他の社会保険の制度との関係を考慮して引き続き検討が加えられ、その結果に基づき、すみやかに、別に法律をもって処理されるべきものとする。」こうあるのですよ。  この条文について、すでにこれも十年間を経過してきているのですけれども、これが十分検討なされていないと私は思うのですけれども、いかがですか。
  336. 田中清定

    田中説明員 先生御指摘のように、昭和四十年の改正の際には、従来の労災保険の一時金中心の給付のあり方を年金中心の給付に切りかえたわけでございますが、そういうことから厚生年金等といろいろな面で競合する事例が出てくる。その際に政府部内でもいろいろな角度から検討して、一応その段階では現在のような調整方式が結論として出されたわけでございますけれども、もとより両保険制度も、その時点から考えれば今日までそれぞれの立場で給付改善が進められてきたということで、両保険ともその条件変化があるわけでございますので、実は昨年の暮れの臨時国会の労災法の改正の際にも衆参両院の附帯決議で御指摘がありましたように、十分検討すべき課題であるというふうに考えておりますし、現在労災保険審議会の中の懇談会におきまして慎重な検討を進めているわけでございますので、その結果を待ってまた対処をいたしたいというふうに考えておるわけでございます。
  337. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 これは重要問題ですから、いまのとおりに慎重に取り扱っていただきたいと思います。  それから五人未満事業所の従業員に対する適用問題についてちょっとお尋ねします。  まず労働省にお尋ねしますが、雇用保険法と労災保険法では全面適用になっているのかいないのか。簡単でいいです。
  338. 田中清定

    田中説明員 御指摘の点につきましては、今年度の四月一日から労災保険につきましても全面適用ということで、すべての事業、すべての労働者を強制適用の対象にしているわけでございます。ただ、ごく一部の個人農業従事者等につきましては、なお若干の事務的な制約等もございますので、暫定的に残っている面もございますけれども、ほとんどの事業、ほとんどの労働者が全面的に労災保険の適用を受ける、こういうふうに相なっているわけでございます。
  339. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 厚生省の方にお尋ねします。  いまお聞きのとおり、労働省関係の雇用保険法あるいは労災保険法では全面適用ですね。五人未満の事業所の皆さんに対してまで適用されていますけれども、同じ社会保険である厚生省所管の健康保険、厚生年金については依然として現在まで適用されていないと思うのですけれども、その理由はなぜか。
  340. 北川力夫

    ○北川政府委員 五人未満の事業所に対しましての健保、厚年等の適用の問題につきましては、労働省関係の場合といろいろ仕組みも違っておるわけでございます。これはもう先生御承知のとおりであります。ただ、こういう事業所はいつまでも国民健康保険あるいは国民年金の適用でいいかどうかという問題は前々からございますし、どのようにして適用をしていくか、いま申し上げました仕組みの違う点もありますので、そういう問題を十分詰めて検討をやっておる段階であります。  現在の状況を申し上げますと、事業所の数におきましても、現在適用をしております事業所数の二倍に及ぶ零細事業所があるわけでありまして、事務的にもなかなかむずかしい問題がございます。したがって、当面の問題といたしましては、現在の任意包括加入制度というものを活用いたしまして、五人未満はもとより、適用してない業種につきましてもできるだけ適用拡大を図る、そういう意味で積極的な施策の推進を図っているような状況でございます。
  341. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 確かに仕組みは違う、よく知っています。しかし昭和四十四年、厚生年金保険法の改正のときに、附則第二条の二の規定によって適用事業所の範囲拡大については調査研究をいたします、こうなっているわけですよ。昭和四十四年ですよ。じゃその研究の結果はどうなったのかということですね。五人未満の事業所の実態はどうなっているのか、あるいは任意包括の実態はどうなっているのか、この点についておわかりですか。
  342. 小島弘仲

    ○小島説明員 お答え申し上げます。  現在、五人未満等の未適用事業所は約百二十八万で、従業員数にいたしまして三百四十万程度でございます。このうち五人以上の非強制適用業種の労働者数は九十万、したがって純然たる五人未満は二百五十万程度という形になっております。現在のところ、毎年任包で入ってまいりますのが、六万程度の被保険者が入ってきております。五十年度は特に任包の適用拡大、あるいは今後適用施策を進めてまいります場合の問題点を積極的に洗いつつこの適用を拡大していきたいというので、大体三十四万くらいを目途で現在作業を進めております。
  343. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 要するに労働省関係の方はかなり積極的に推進されていっているのだけれども、厚生省関係はその仕組みが違うというような理由で、何だかおくれている理由にしているようですけれども、私はこれはやはり熱意の問題だと思うし、行政体制の問題ではないかと思うのですよ。現在、社会保険事務所における業務量と定員増減についての推移状況というものはどうなっておるのか、お尋ねいたします。
  344. 小島弘仲

    ○小島説明員 社会保険事務所におきます職員の定員は約一万五千でございます。したがいまして、被保険者数は毎年十数万ずつ増加しておりますので、業務量その他は、任包と零細事業所に対する適用拡大も含めまして次第に増加しつつある現状でございますが、一人当たりの細かい業務量までいま準備してございません。
  345. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 私はその辺が仕事がおくれる大きな問題があるのではないかと考えておりますので、その点も参考に、今後の推進についてはしていただきたいと思います。  時間ばかりたってきたのですが、老齢給付に関係しましてちょっと定年制のことをお尋ねしたいと思うのですが、定年制の実態を見ますと、六十歳に延長しているところもありますけれども、依然として五十五歳周辺の定年が多くを占めていると思いますけれども、労働省はこの点について行政指導を行っているのかどうか、今後における定年制の見通しについてお尋ねいたします。
  346. 川口義明

    ○川口説明員 御指摘のとおり、最近わが国の定年制は次第に延長されてきてはいますけれども、五十五歳定年というのが半ばを占めているというのが、実際の状態でございます。その点につきまして労働省といたしましても、年齢の高い方の職業の安定という点では定年延長が非常に重要であろうということで、定年延長を指導することにいたしておりますが、何分にも日本の長い間の雇用、賃金慣行に深く根ざしておりますので、一挙に定年延長に持っていくのは無理がある。したがって段階的に進めていきたいということで行政指導しておりますし、もう一点は、特に高年齢者になりますと仕事の種類とか体力、能力等によりまして、仕事につくかつかないか非常に大きな差がございますので、当面六十歳を目標にして定年延長を進めるということで行政指導をいたしております。
  347. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 厚生省の方に尋ねますけれども、いま労働省としては六十歳定年延長を行政指導しているということでございますが、まだまだ六十歳以前の定年事業所がかなり多いわけでございますけれども、年金支給時期との関係においてこの調整をどうしようと考えておられるのか、お尋ねをいたします。
  348. 持永和見

    ○持永説明員 老齢年金の支給開始年齢でございますけれども、先生御案内のとおり、厚生年金保険につきましては現行六十歳ということになっております。この被用者年金の六十歳という支給開始年齢でございますが、これは諸外国の例に比較いたしまして決して高い方ではなくて、むしろ外国比較で見てみますと低い部類に属するかと思います。私どもといたしましては、今後年金の受給者も加速度的に増加してまいりますし、人口も老齢化する中でございますので、そういう意味でこの六十歳の支給開始年齢につきましては、先ほど労働省からもお話がありましたように、むしろできるだけ定年制をそちらに近づけてもらうという形で対処すべきであろうかというふうに考えております。
  349. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 今度の百二号条約批准について、老齢給付は厚生年金保険法を対象としまして、その基準が満たされているということになっているわけですが、これを国民年金の立場から見ますと、全く話にならないと私は思うわけでございます。     〔石井委員長代理退席、委員長着席〕 公的年金制度のうちでも国民年金は被用者年金に比較して受給開始年齢あるいは年金額等で最もおくれていると言われております。今後これについてどのようにお考えになっているのかお尋ねをいたします。
  350. 持永和見

    ○持永説明員 国民年金の年金給付水準でございますが、先生御承知のとおり、四十八年度の改正で、二十五年拠出した人につきまして、夫婦二人で、いわゆる厚生年金の通常のモデル年金でございます五万円年金の水準を確保したところでございます。で、これにつきまして、いまお話のありましたようにILOの今回の百二号条約との関連では、厚生年金が批准要件を満たすということでそちらで批准をいたすことになっておりますけれども国民年金について見てみますと、実はこの夫婦二人分で年金の基準にするかどうかという問題がございまして、一九五二年のILOの報告書で、夫婦それぞれに独自の年金が与えられる普遍的な保険制度の場合には、条約の基準との適合性を見るときには二人分合算することが適当であろうというコメントもついておるわけでございますが、果たして国民年金がこれに該当するかどうか、いろいろ条約上の解釈の問題があるわけでございます。とりあえず今回は厚生年金保険で批准をするということになっておりますけれども、いずれにいたしましても、国民年金につきましても、来年度、制度の基本的な見直しをするということになっておりますので、私どもといたしましては、なお一層の制度の推進なり給付改善に努めていくというような検討をいたしておる段階でございます。
  351. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 家族給付についてお尋ねしますが、保護対象に対して支給される児童手当の支給総額は、条約の要求する家族給付の水準とどの程度開きがあるのかということが一つ。また、水準に到達するための目標と努力についてお尋ねをしたい。  時間の関係がありますので、あわせて質問しておきますが、この児童手当は、世界各国の児童手当制度の支給対象を見ますと、六十六カ国中第一子が五十五カ国、八七%で、大半は第一子であります。第二子が六カ国で、六十六カ国中六十一カ国が二子以上であります。  児童手当は第一子から支給対象としてこそ、その目的を達成するのではないか。第三子というのは南アフリカ連邦、北ベトナム、マウリティウスの三カ国、そして日本。  日本人口の動向を見ますと、純再生産率はほぼ一・〇であって、わが国の人口が将来増加も減少もしない静止人口となる可能性を示している。また、現在一家族における子供は平均二人であることからすれば、第三子とするのは、将来の人口推移から見ても支給対象はきわめて少なく、その目的は半減されると思う。第三子以降の推計数は約三百万人弱で、十八歳未満の児童数は三千万人と言われております。そして所得制限とか、あるいは第一子が十八歳未満でなければ第三子でも支給対象とされないなどの理由から、昭和四十九年度ではわずかに約二百三十一万人が支給されただけでございます。第三子から児童手当を支給しようとすることは、対象者がほとんどいないところに児童手当を支給するものと言われても過言ではなく、児童手当の目的を達成するような効果が上がらないと考えているわけでございますが、いまの三つの問題、あわせてお答え願いたいと思います。
  352. 上村一

    ○上村政府委員 まず第一点のILO条約の家族給付部門との関係でございますが、給付の総額がILO基準に達しないためにこの部門が批准できないわけでございますけれども、四十八年度あるいは四十九年度、おおむね条約上の基準の四分の一程度でございます。  今後の対策でございますが、こういうふうにILOの諸部門の中で家族給付部門のおくれが非常に大きいことは事実でございますけれども、児童手当制度をどうするかというのは、児童福祉、社会福祉の分野で緊急を要する問題等もいろいろございますので、今後の課題として取り組みたいというふうに考えております。  それから対象拡大の問題でございますが、二子にいたしますと約四倍金がかかり、それから一子からにいたしますと約九倍の金がかかるわけでございます。いずれも事業主なり国なり地方公共団体の負担でございますので、そう簡単に踏み切れる問題じゃないと思います。  同時に、将来の人口がどうなるかということでございますが、昭和六十年ぐらいまで見通しましたら第三子以降の児童というのはまだ三百万台で、しかも若干ふえつつあるというふうな数字が出ておるわけでございますので、三子という現行の制度で対象がなくなるというふうなことはない、現在程度の数はあるというふうに思っております。
  353. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 これは徹底的に審議したいところでございますが、もう時間が迫ってまいりましたので、最後に、船舶料理士資格証明に関する第六十九号条約に関連して若干お尋ねします。一度にまとめて質問いたしますから、関係者はきちっと記憶してお答え願いたいと思います。  この条約の適用の対象となる船舶の範囲については、わが国の船員法及びこれに基づく省令に規定されておりますけれども、千トン以上に決めた理由はどこにあるのかということ、これが一つです。それから資格要件はどうなっているのか、また管理、監督はどうするのかということです。三つ目が、この条約の批准の目的は一体何なのかということです。この三つ、お願いいたします。
  354. 山上孝史

    ○山上政府委員 まず第一のこの条約の適用船舶についてでございますが、これにつきましては、船員法に基づきまして船員中央労働委員会と言います公労使三者構成の委員会に諮問をいたしまして、三者の合意によりまして答申をいただき、それを船舶料理士に関する省令でもって交付いたしました。  それでこの理由といたしましては、長期航海をする船舶におきまして船舶乗組員に対する衛生的かつ栄養に富んだ食事の供給の確保がきわめて重要であること、それから船内の司厨組織の整備の実態等を考えまして、御指摘のとおり、遠洋区域もしくは近海区域を航行区域とする船舶または漁船の場合には、これに相当する第三極の漁業制限をする漁船を対象といたしましてそれぞれ千総トン以上という答申をいただき、それを具体化したものでございます。  それからその次の御質問船舶料理士の資格要件につきましては、これも同じ省令によりまして、船中労委の答申に基づき、条約にありますとおり二十歳以上であり、かつ船舶に乗り込んで三年以上調理に関する業務に従事した経験を有する者でありまして、運輸大臣の指定する者の行う料理士試験に合格した者に対しまして、その者の申請によりまして運輸大臣船舶料理士資格証明書を交付するということにいたしております。  それからこれの実行についてでございますが、まず、これは新しい制度でございますので、PRをしなければなりません。これにつきましては必要な予算を確保し、たとえば、すでにパンフレットを五千部用意いたしまして、地方の各海運局、これは十局ございますが、これを通じまして対象の事業者の方に配付をいたしております。それからさらに、日本短波放送が船員に対しましての特別な放送をいたしております。これも活用いたしまして、七月に二回計画をしております。それからこの実行の確保につきましては、船員労務官の監査によりましてまず指導を行い、それから逐次違反等の行為につきましては監査、摘発するという体制にまいりたいと思います。  それから最後の、この趣旨でございますが、これにつきましては、御案内のように、船舶における食事の調理を一定のこのような有資格者に行わせることによりまして、船舶乗組員に対する衛生的かつ栄養に富んだ食事の供給を確保し、もって乗組員の健康の維持増進に資しますとともに、あわせて国による船舶料理士資格証明書の発給によりまして、船内の司厨部員の地位の向上を図ろう、こういうことでございます。
  355. 大橋敏雄

    大橋(敏)委員 終わります。     —————————————
  356. 栗原祐幸

    栗原委員長 ただいま議題となっておりまする両件のうち、船舶料理士資格証明に関する条約(第六十九号)の締結について承認を求めるの件に対する質疑はこれにて終了いたしました。  これより討論に入るのでありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  船舶料理士資格証明に関する条約(第六十九号)の締結について承認を求めるの件について採決いたします。  本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。
  357. 栗原祐幸

    栗原委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。  お諮りいたします。  ただいま議決いたしました本件に対する委員会報告書の作成等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
  358. 栗原祐幸

    栗原委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————      ————◇—————
  359. 栗原祐幸

    栗原委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  ただいま当委員会で審査中の社会保障最低基準に関する条約(第百二号)の締結について承認を求めるの件について参考人の出頭を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
  360. 栗原祐幸

    栗原委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  なお、日時、人選等につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。      ————◇—————
  361. 栗原祐幸

    栗原委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  362. 栗原祐幸

    栗原委員長 次に、核兵器の不拡散に関する条約締結について承認を求めるの件を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。毛利松平君。
  363. 毛利松平

    ○毛利委員 私は、拡散防止条約について私の所信を申し上げて外務大臣の御意見を承り、数点にしぼって質問を申し上げたいと思います。  最初に申し上げます。  いま、日本国民初め地球四十億の人類は重大な転機を迎えております。まさに激動の時代の名のごとく、石油価格の高騰、重要資源の枯渇、公害の深刻化、そして人口爆発といった人類共通の問題に見舞われております。ある意味で、人類が営営として築き上げた文明そのものが、いま厳しいチェックを受けているとも言えます。この中で従来からの体制、常識も急変を迫られております。もはや核兵器を持つ国のみが超大国であり、経済力を有し、物質水準の高い国が繁栄し、先端技術を有した国が先進国であった昔日の面影は失われつつあります。いま世界は新しい枠組みの中で新しい秩序を指向し、新しい価値観が要求されているのであります。  人類がかつて直面したことがないものだけに、人類の英知と総力を結集し、人類の持つ新たな可能性を追求していく以外、これにこたえるすべはありません。また、ひとりわが国だけの解決方法ではなく、広く国際協調を通してこそ、人類共通の真の解決方法があると信ずるゆえんであります。一九七二年のストックホルム人間環境会議に引き続き、昨年のブカレストの人口会議、ローマの食糧会議パリの国際環境閣僚会議、本年のジュネーブでの国連海洋法会議と、すべて新しい世界秩序を求めようとする人類の英知のあらわれであります。  エネルギーにおいても、新しい時局を迎えようとしております。石油の大部分、すなわち九九・七%を海外に依存しているわが国にとり、将来の省エネルギー社会への転換は急務としても、現実には、まず石油にかわるエネルギーを見つける作業、すなわち、脱石油化を目指さなければなりません。このため、わが国の持つ技術を結集し、サンシャイン計画に見られるようにあらゆる可能性を目指し、追求していく姿勢が必要であります。しかし、現実の問題として、技術、経済、量的な面から見て、即石油にかわれるものとしては、当面原子力しかないことは科学常識でもあります。わが国の原子力開発は現在環境と安全の両面から重大な転機を迎えておりますが、原子力もしなかりせばの視点に思いをいたすこともまた重要であります。エネルギー供給源の分散、多角化は、いまや世界の潮流でもあります。  一九九〇年における原子力のシェアは、ベルギー五九%、西ドイツ四九%、オランダ四六%、イギリス、イタリア四三%、アメリカ四二%、スウェーデン四一%であります。日本は計画どおり進んでも三三%であります。また、ソ連も現在千八百三万キロワットの建造計画を持ち、石油産出国のイランにおいても、一九九〇年までに自国内に二千万キロワットの発電設置計画を持っております。サウジアラビア、イラク、リビア等においてもそれぞれ検討中であります。ブラジルも西独に原発八基を一兆二千億円で発注しました。このように洋の東西、開発国、開発途上国、資本主義、社会主義といった地理、発展段階体制の違いを問わず、一様に共通した傾向であります。わが国においては、原子力の平和利用は、広く国民の理解のもとで、また国会の場でも超党派で、先輩諸議員の固い結束のもとでスタートし、昨年で満二十年を迎えました。しかし、いかに平和利用を目指しても、まず原爆という悲劇のスタートを切った歴史が物語るように、原子の火は古代ローマのヤヌス神に似て、平和的側面以外にも軍事的側面を持つという二面性を有しております。  わが国においては、この間、民主、自主、公開の三原則をうたった世界にも例のない原子力基本法を制定し、あるいは対外的にも平和利用に徹することを機会あるごとに宣言してまいりました。日本は将来必ず核武装する、核の軍事利用を必ず行うという内外の執拗な中傷あるいは予言の中で、わが国は終始一貫して平和利用に徹してまいりました。これを支えた関係者諸兄のみならず、わが国の実績は世界に誇り得るものであります。  しかし、研究から一足飛びに実用化という一大転換期を迎えました。今後、日本が原子力の平和利用を遂行していくために、ヤヌス神の一面、軍事的側面に目をつむって通っていくことはできません。現在でも、わが国の東海村には、プルトニウム二百九十二キログラム以上、また、わが国各地の原子力発電所で使用中の核燃料は、ウラン235換算で総計十六・三トン以上に達します。  ウ・タント前国連総長の報告によりますと、プルトニウムは八キログラムで長崎型と同程度の核分裂が生じ、ウラン235は二十五キログラムで広島型原爆がつくられます。さらに、プルトニウムは人類がかつて経験したことのないほどの毒性を有している事実を忘れてはなりません。長期にわたり慎重に管理しておく体制づくりが必要であります。平和利用とはいえ、これほどの多量のプルトニウム、ウラン235が一カ国に集中しているのは世界にも例を見ないことであります。この傾向は年年強まるだけに、いかにわが国民が平和利用に徹すると言っても、世界各国の不安がこの事実に集中するのは、客観的に見ればむしろ当然と言えます。  世界においても、この原子力の平和利用の急激な拡大は新たな軍事面での緊張を引き起こしてきているのは否めない事実であります。  今年三月、アメリカ議会でイクレ軍縮庁長官は、米ソ超大国間の軍縮ははかどっていないだけではなく、インドに引き続き核を保有する意向を持ち、可能性がある国が数カ国あると証言いたしております。このもとでは、核兵器のもたらす軍事的な秩序も大幅に変わっていきます。新しい秩序を求め、核の平和利用のみでなく、核軍縮、核を意図的に保有していない国を含めた非核国の安全保障をもう一度考え直していく必要があります。  また、わが国が主体的、積極的に世界の平和をリードするこのことこそ、この激動期の世界におけるわが国安全保障とも言えるわけであります。この意味において、わが国が核不拡散条約を批准するか否かが検討されるべきだと存じます。  五月五日ジュネーブで始まった再検討会議は、潮流の中で核についての新しい秩序を求める努力を行ったことだけでなく、戦後初めてわが国が国際的な場での核軍縮、非核保有国の安全保障について実質上の参加ができ、また、わが国意見を主張した点で、大きな価値を持っていると信じています。言わば、新しいわが国の外交がここに始まったと言っても過言ではないと思います。  今年の八月は、広島、長崎という日本民族にとって忘れてはならない経験のみでなく、人類が永遠に記憶しなければならない日からちょうど三十年目に当たります。このとうとい犠牲を通じ、決して二度とこの悲劇を繰り返してはならないというかたい決意をわが国民は誓ってまいりました。この貴重な先人の経験を守り、激動の中でも、この平和の遺産を引き継ぐためにも、わが自由民主党としても、野党の諸兄ともどもに、故佐藤元首相の悲願でもありました核防に対し、国権の最高機関である国会の場で国民の前に徹底的に議論を尽くしたる後、国際信用及び燃料、技術確保、ひいては経済上得られる利点等々を考え、速やかに批准承認すべきものと信ずるゆえんであります。  以上の所信表明に対し、NPT批准についての大臣の御見解を承りたいと思います。
  364. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいま、激動する世界情勢の中において、わが国として国際協調の必要性を説かれ、さらに及んで、原子力の平和利用の必要性につきまして政府の所信をお尋ねになったわけでございますが、確かに御指摘のように、最近の国際関係におきまして、資源、エネルギーあるいは開発途上国の貧困というような問題、一次産品、それから食糧、環境の保全、通貨、海洋法等々、各国間の相互依存関係が深まってまいりましたことは御指摘のとおりでありますし、わが国としても、そのような国際間の依存関係を考察しつつ、自己の立場のみにとらわれずに、世界共通の利益を見出して問題を解決する努力をする必要がございます。  ただいま御審議をいただいております核拡散防止条約は、御指摘のように、核兵器国の増加を防止することによりまして核戦争の勃発の危険を少なくする。それによって国際関係の安定度を高めますとともに、他方、原子力の平和利用につきましてはこれを極力推進しようという意図の国際取り決めでございます。特にこの点、昨年五月にインドの核実験がございまして、核をより一瞬拡散させてはならないというための積極的な措置を講ずることが必要であるという意識が国際的に高まってまいりました。そのようなことを背景にいたしまして、去る五月に行われました再検討会議におきましても、全会一致で、このNPT体制の強化についての最終宣言が採択されたわけでございます。  また、このような機運を反映いたしまして、ごく最近でも、ユーラトムの諸国を初め、韓国などもこのNPTに相次いで参加をいたしまして、締約国の数も九十三を数えるに至りました。それによりまして条約の普遍性が高まってきておりますが、この間、いまや世界の主要国の一つであるわが国がこの条約に参加をするかしないかということが、このたびの会議でも非常に注目を集めるに至りましたし、また、事実上、わが国が参加をいたしますならば、この条約体制が飛躍的に強化をされることは各国の目にも明らかなようでございますし、また、もしわが国が参加をいたさないということになりますと、それなりに大きな反作用を各国の意識の中に生むのではないかというふうに心配をされるわけでございます。したがいまして、わが国としては進んでこの条約に参加をいたしまして、条約体制を一層強化をいたしまして、そうして、そういう立場から、軍縮の分野におけるわが国の主張をさらに一層推し進めますとともに、わが国安全保障上特に重要な、わが国周辺の国際関係の安定にも資してまいりたいと考えておるわけでございます。
  365. 毛利松平

    ○毛利委員 科学技術庁長官の御所見を伺います。
  366. 佐々木義武

    ○佐々木国務大臣 私は、原子力開発の平和利用の面から御賛同の意を表したいと存じますけれども、お説のように、今後日本のエネルギー状況を考えていきますと、ここ三十年くらいの間は核分裂による発電がぜひとも必要であることは、お説のとおりでございます。ところが、この原子炉の燃料になりますウラニウムあるいは濃縮ウランがわが国にはほとんどございません。したがいまして、これをいかに確保するかということが今後のわが国のエネルギー問題としては一番大きい問題になるわけでございますが、これを確保するという意味合いからおきましても、また同時に、先ほど来お話しございましたように平和利用に徹してはおりますけれども、しかし各国では、あるいはプルトニウム等を利用して日本は核武装に踏み切るのじゃなかろうかという危惧の念も持ち、そのために国際機関による査察も行われるわけでございますが、いままでの二国間協定におきます査察状況は、過去の経験を見ますと非常に無制限に、それから一方的に、あるいは機密保持等に保障なしに行われるわけでございまして、わが国の原子力開発上はなはだ危惧の念を持たれておったわけでございますけれども、しかしこの条約が成立いたしますれば、わが国で批准いたしますれば、新しい査察協定に基づきましてユーラトム並みの査察が行われるわけでございますので、そういう面から申しましても大変平和利用を進める上におきましてありがたいことだと存じますので、どうぞひとつ、一剣も早く皆様の御支援によりましてこの条約が批准されることを御希望申し上げたいと存じます。
  367. 毛利松平

    ○毛利委員 再検討会議開催を機会に締約国数が急激に増加しておると問いておりますが、現在の締約国数が何カ国になったかということが一点。さらに、わが国条約参加ということが国際的にいかなる意味を持っているか、また近隣諸国に与える影響等について、大臣の御答弁をお願いします。
  368. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 ただいま締約国は九十三カ国になりまして、今回の再検討会議の開催を目の前におきまして非常に締約国がふえたわけでございます。現在署名国で締約国になっておりませんのは、わが国を別にいたしますと、ラテンアメリカにはブラジル、アルゼンチン等がございますけれども、その他で申しますとイスラエルとエジプト、あるいはインドとパキスタンと申しますように、おのおの顕在的なあるいは潜在的な紛争を持ておる国でございます。したがいまして、ユーラトムが入りました現在、会議の最も注目いたしますところは、わが国がいかに行動するかということでございまして、このたびの会議におきましてもしばしば幾つかの国から、わが国は今回は単なる署名国として参加をしたわけでございますので、正式なメンバーではなかったわけでございますが、わが国の加盟について幾つかの要望が会議の席上述べられております。したがいまして、わが国が参加をいたしますとカナダ、豪州あるいはスウェーデン、わが国、ユーラトムの国々等と一緒になりまして、非常に大きな骨格を形成することができるわけでございますが、現在のところそれを欠いておるというのが締約国の認識のように存ぜられます。そのような意味から、わが国が加盟することの積極的な意味は御了解をいただけると存じますし、また加盟をいたしませんでした場合に、せっかく盛り上がってまいりました拡散防止の機運というものが相当大きな衝撃を受けるであろう、将来に向かって運動の盛り上がりが場合によりましてはとんざをするということにもなりかねないような雰囲気と存じます。  また、これがわが国の周辺に与える影響でございますが、御承知のようにアジアの周辺には中ソという二つの核保有国がございますが、それを除きまして、わが国以外の各国では、概して民族、言語、宗教等、かなり複雑であり、また経済、社会的な基盤も決して強くない国々でございますので、その間にあって、わが国がどのように行動するか、わが国が現在のような姿勢をとっております限り、これらの国々は、いわゆる平和の信奉者として、あるいは経済繁栄のための同志としてわが国を見ておると存じますけれどもわが国がこの条約に加盟しない結果になりますと、将来のわが国の意図の変化を恐らくこれらの国々は疑うということにもなりかねないわけでありまして、ただいまのアジアのバランスというものに行く行くは不測の憶測あるいは変化等を与えかねないという情勢であろうかと存じます。
  369. 毛利松平

    ○毛利委員 ただいまの御答弁で、わが国条約参加がいかに近隣諸国並びに拡散防止関係国に大きな影響があるか、しかもさらに進んでは、わが国が国際社会に孤立するかしないかの大きな問題をはらんでおるように受け取りましたが、今回の再検討会議において、非核兵器国の安全保障を最も重視したと聞き及んでおります。安保理の決議二百五十五号を含めて、この点に関してわが国はいかなる主張を行ったか、またわが国の主張が成果の中にどのように取り入れられたか、この点について御答弁願います。
  370. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 先刻も申し上げましたように、わが国は単なる署名国の立場でございましたので、最終決定につながるような会議文書を提出する資格はなかったわけでございますけれども、それにもかかわりませず、会議を通じまして、いわゆる最終宣言をまとめるに際しまして、わが国の主張が各国からきわめて尊重され、また実はある意味で頼られたような形になったわけでございます。  御指摘の点につきまして、わが国は今回の会議に臨みまして安保理の決議二百五十五号の意味に言及をいたしまして、これに示されました核保有国の、核兵器国の意図を少なくとも今回の会議を通じて再確認をすることが必要であること、さらに進みまして、国連憲章の規定に従って、すべての国が、これは核保有国であるとないとにかかわらず、いかなる兵器、いかなる武力をも行使しない、核、非核兵器を問わず武力の行使を慎むべきであるということを最終宣言の中に盛り込むべきであるという主張をいたしたわけでございます。これらの主張は幸いにしてわが国の意図どおり会議の最終宣言として採択をせられました。
  371. 毛利松平

    ○毛利委員 再検討会議において原子力の平和利用についていかなる成果があったと考えられるか、また核物資、原子力の資材等の供給面での締約国の優先問題、IAEA保障措置の強化、核技術の平和的応用、核物質の盗難防御等の諸点について成果があったと聞いているが、いかようであったか、承りたいと思います。
  372. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 政府委員からお答え申し上げますことをお許し願います。
  373. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 お答え申し上げます。  今回の再検討会議の原子力平和利用面での全体的な評価を申し上げますれば、核の拡散防止と平和利用の推進が調和のとれた形で最終宣言に盛り込まれた点が一つのわれわれとしての評価でございます。今後はこれを機会に、NPTを軸とします核拡散防止体制及び原子力平和利用の推進体制が一層強化されていくものと思われます。  特に、核物質あるいは原子力資材等の供給においてNPT締約国優先の考え方会議の一般的空気でございます。そしてその空気が最終宣言にも勧告として盛られたことは、NPT体制の強化及び核拡散防止の見地から大いに評価し得ると思います。わが国としましては、今後アメリカ、カナダ、豪州等のNPT締約国たる核物質、原子力資材等の供給国が、いかなる形でこのフォローアップを行っていくかきわめて注目を要するところであると思います。NPT非締約国への核物質等の供給をめぐる国際環境は今後厳しさを増していく可能性があろうかと思います。  それから、次に具体的問題につきましては、特に国際原子力機関の保障措置の強化と関連しまして、核物質、原子力資材等の供給に際して、当該核物質のみでなく、NPTの非締約国である受領国のすべての原子力平和利用活動に対する保障措置の適用等、すべての可能な方法で供給国間の共通政策を確保することが強く要請されたわけでございます。したがいまして、実質的にはほとんどすべての原子力活動にIAEAの保障措置を受け入れているとはいえ、全核燃料サイクル、すなわち国産のものを含めた燃料サイクルにはIAEAの保障措置を受け入れてないわが国に対し、今後いかなる影響が出てくるであろうかということは、十分注目する必要があろうかと思います。  最後に、NPT締約国間の平和利用面での協力の促進、それから核爆発の平和的応用を早期に実現するための国際研究の促進、それから核物質の盗難防護、フィジカルプロテクションと申しておりますが、そのための具体的な勧告の作成、それから地域的な核燃料サイクルセンターの構想についての国際研究の開始等の諸点が合意されました。いずれもNPT体制の強化及び平和利用の促進の観点から評価し得るのではないかというふうに考えております。
  374. 毛利松平

    ○毛利委員 約束の時間、持ち時間が来ましたから終わります。
  375. 栗原祐幸

    栗原委員長 鯨岡兵輔君。
  376. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 一九五八年十三回の国連総会で、核兵器みたいなものが多くの国に拡散されることは非常に危ないということが指摘されて、一九六七年、米ソ両国で合意された条約案が十八カ国軍縮委員会に提出されて審議された後に、一九六八年二十二回の国連総会に送付されてそこで採択された。そして一九七〇年に効力が発生しておる。日本は一九七〇年の二月に声明を発表して、これに署名をして今日に及んだわけですが、外務大臣お尋ねしますが、なぜこれはすぐに批准の手続なしに今日まで延びたのでしょうか、その理由は何でしょうか。
  377. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 わが国といたしまして当時政府の声明をいたしまして、核軍縮の進行並びに非核保有国の安全、そうして平和利用につきましての査察に関して、わが国が他国よりも不利な条件を受けないことというような幾つかの観点を満足したいと考えたわけでございますが、その中で、これは考えようにもよりますが、まず軍縮は遅々ではありましたが前進の方向をたどってまいったと観測されるに至りました。また、非核保有国の安全につきましては、ただいま御指摘のような米ソの宣言あるいは安保理事会の決議等々が行われました。  結局残りました問題は、いわゆる査察に関しましてのわが国が受けるべき義務、それが他国より不利であってはならぬというこの問題が、主としてわが政府として取り組まなければならない間願として残ったわけでございます。このいわゆる保障措置協定の満足な締結につきまして、何回か予備折衝が行われておったわけでございますが、昨年前半までは十分な満足すべき結果を上げることができませず、昨年末近くになりまして、ようやくわが国とIAEAとの間でわが国が満足し得るであろうと考えられるような予備折衝の可能性が高まってまいりました。その結果、予備折衝を本格的に始めまして、ほぼ満足と考えられる結果を得たわけでございます。したがいまして、過去を振り返りますと、やはり一番今日まで時間をとりました大きな原因は、保障措置協定についてわが国の満足のいくような結果を得たい、そういう努力の中にかなりの年月が費やされたというふうに考えております。
  378. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 核兵器をたくさんの国、全部小さい国もみんな持つということになれば、これはだれが考えてみたって非常に危ないということはもう常識以前の問題で、特に核兵器を持っている国はそれだけの責任がありますから、相当の管理体制、機構というものがなければならない。失礼ながら、世界じゅうの国がそれだけの管理機構、責任体制というものを持てるかどうかということは疑いなきを得ないですから、ともかく核兵器をそこらじゅうの国が持たないようにと願う気持ちは当然のことで、その意味から言って、いろいろな不備があろうけれども、核拡散防止条約は早く締結されて、方々の国がみんな入ってくれたらいいと、そういうふうに思うわけですが、これはあたりまえのことですが、そう考えて間違いないと思いますが、いかがですか。
  379. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 この問題は従来余り議論されていない問題でございますけれども、私としては、鯨岡委員が御指摘になりましたいわゆる核兵器の管理能力という問題は、実は非常に大きな問題ではないかと存じます。すなわち、核兵器保有国にとりましては、これが抑止力で働きますためには、事と次第によっては、使うという意思は気持ちの中に持っておらなければ抑止力にならないわけでございましょうけれども、しかし、それを使うということは人類の破滅につながるという意識もまたはっきり持っておらなければなりません。したがいまして、これは非常に高度な政治的な判断と、その判断を有効に制御し得ると申しますか、コントロールできるための管理能力であるというふうに私は考えております。幸いにしてと申しますか、不幸中の幸いは、現在米ソ両国、少なくともこの両国はその管理能力を持ち、またお互いの間に話し合いをするだけのこの兵器の恐しさについての認識も持っておるようでございますが、今後仮にこの核兵器が非常に拡散をいたしますと、技術的にあるいは科学的にこれを持ち得るということはそうむずかしいことでございませんでも、これを人類の平和のために有効に管理する能力ということになりますと、仰せのように、どれだけ多くの国がそれだけの能力を持ち得るだろうかという点にはかなりの疑問がございまして、その点がやはり一番人類の危険につながるのではないかというふうに私も考えております。
  380. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 大臣のおっしゃることもそうだと思いますが、管理能力があって、それができるから持っていいということではもちろんないわけですね、これは。けれども、もちろんそうではないが、方々の国が全部そういうことができるというふうにも考えられないし、ともかくたくさんの国が持つことは危険だから——これは署名をいたしましたときに日本が声明を出しました、その声明の一番冒頭に書いてあるその言葉だと思いますが、それはぞれとして、外務大臣、中国、フランス、まあこの二つは特殊としても、アルゼンチン、ブラジル、イスラエル、エジプト、インド、パキスタン、先ほど大臣が挙げられたそういう国が、いまだこれに加盟していないというのはどういう事情に基づくと御判断なさいますか。
  381. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 これらのすべての国が、敵対関係にあると申しましては実は言葉が過ぎますが、いずれも隣接して相手をかなり意識しておる国でありますことは御承知のとおりでございます。したがいまして、万一の場合に備えて相手を意識した立場におるのではないかというふうに存ぜられますが、実際にはしかし、このたびの再検討会議等の結果によりまして、非締約国には、核保有国からいたしますいろいろな原燃料の供給あるいは資材の供給、技術インフォメーションの供給にまで、非加盟国よりはよりきつい保障措置協定を設けるということになってまいりましたので、実を申しますと、これらの国々が保有国からそれらの援助を受けよう、それによってやがてはみずからの核兵器を開発しようと仮に考えましても、今度のレビュー会議の結果、それはさらに困難になりつつある。したがいまして、そういう実情を認識するに至りますれば、これらの国々も、むしろ平和利用のために有利な条件として加盟を志すというふうになるのではないかと考えますが、現在までのところ、それほどその問題についての認識が深くございませんでした。これは、あるいは加盟しないことによって、将来のいわゆるこれらの国国にとってのフリーハンドというようなものを持ち得ると、こう考えておった結果ではないかと推察をいたします。
  382. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 日本が一九七〇年二月三日に声明を出しましたときに、この声明の中で前文があって、その次に「軍縮および安全保障」という欄があって、その後に「原子力平和利用」という欄になっている。この順序は十分意味のあることだと思うわけですが、この「軍縮および安全保障」の中の三に、「日本政府は、核兵器の使用を伴う侵略の犠牲又はそのような侵略の威嚇の対象となった条約締約国である非核兵器国に対しては、国連憲章に従い、援助提供のため直ちに安全保障理事会の行動を求める意図がある旨確認した米、英、ソの宣言を重視すると共に、核兵器国が非核兵器国の安全保障のための実効ある措置につき更に検討を続けることを希望する。」ということが書いてあります。この「希望する」という、この希望はどういう形で今日までの間に満たされたか、先ほどお話もありましたけれども、重要な点ですからもう一回承りたいと思うことと、四番目に「日本政府は、条約批准までの間、軍縮交渉の推移、安全保障理事会による非核兵器国の安全保障のための決議の実施状況に注目すると共にその他日本国の国益確保の上から考慮すべき問題につき引き続き慎重に検討するであろう。」とこういうのですが、どういう検討をして、その結果はどうであったか、どんなふうに御認識であるか、承りたいと思います。
  383. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 まず、非核保有国の安全保障の問題でございますが、先ほども申し上げましたが、安保理決議二百五十五号というものによりまして、ある程度米ソの自制的な意図というものは明らかになったわけでございますが、ことにこの決議の三号におきまして国連憲章五十一条に言及をしておりますところは、いわゆる安保理事会の拒否権の問題を、五十一条を適用することによって、必要があれば、報告は必要といたしますけれども、回避し得るということになったのではないかと考えております。さらにまた、このたびの再検討会議におきまして、この二百五十五号の趣旨に加えまして、いかなる国も、核兵器あるいは非核兵器いずれをも問わず、武力を用い、あるいは武力の脅威を与えるべきではないという最終宣言を出すことができましたことも、これに付加することができたと存じます。  次に、軍縮交渉の推移でございますが、この条約が調印をせられまして以後初めて米ソ間に軍縮問題についてのいろいろな接触が行われるようになりました。核実験の制限等々を初め、六個の条約、協定等が結ばれるに至ったわけでございますが、さらに、最近におきましてはSALTの交渉が進んでおりますことは御承知のとおりでございます。これらはいずれも、私ども立場から見ますと、もっと早く、もっと大幅にという気持ちは私どもとしてはございます。しかしながら、従来この問題について何らの対話がなかった米ソ間において幾つかの軍縮に関する条約が結ばれ、またSALTの交渉も第二段階を迎えておるということは、そのテンポがたとえわれわれの希望するごとく速やかでなかったといたしましても、明らかに傾向としてはこの条約調印以来のこれは新しい傾向でございますので、問題の性質上、多少長い目をもって観察をしなければならないと思います。そういう意味では、軍縮交渉の推移というものもまず努力の跡は認められる。このたびの最終宣言でもそのように述べられておりまして、さらにそれを推進すべきことを最終宣言で申しておるわけでございますが、まずかなりの努力の跡が認められた、こういうふうに認識すべきではないかと存じます。
  384. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 私は、何回も言うように、方々の国が核兵器を持つということは、どう考えてみても人類の平和のためにはよくないですから、だからこの条約についてはもう大賛成ですけれども考えてみればこのぐらい不平等な条約はない。外務大臣はそれをお持ちになっていいですよ、私は持っちゃいけないというのですから、こんな不平等の条約は、私は考えてみればないと思うのです。そこのところを気にするととてもたまらないのですけれども、しかしながら、申し上げましたように、そうかといって、それじゃ方々の国が平等に持ったらなお危険だということなら、これはもうどうしても賛成せざるを得ないということになるのですが、持たないことを長期にわたって約束する国の安全についてどう保障してくれるのだろうかということは、どんなに気にしても気にし足りるというほどでない重要な問題だと思うのですが、どうもその点について、なるほど国連の決議もありましたし、アメリカとソ連とイギリスの会議どもあって、宣言などもありましたけれども、国連憲章五十一条で、お互いの国が話し合うことを妨げるものではないというふうなことだけで、どうもその辺がもう一つ親切なことをしてくれないかという気持ちがするのですが、間違いでしょうか。
  385. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 そのような疑問を持たれることは私は決して間違いと思いませんし、また、そのような疑念を持っておられる国民がかなりおられるのではないかと私も考えます。したがいまして、このたびの再検討会議におきましても、最も各国が中心的な課題として冒頭から最後まで議論をいたし、また原則として確定をいたしましたことは、核兵器国及び非核兵器国のすべての締約国の間で相互の責任と義務の均衡を図る、こういうことを申しております。つまり、持っているものも持っておらないものも、お互いの責任と義務についてバランスがとれなければならない、こういうことを最終宣言の中でも述べておりますが、これは、持っておらないものが不平等の扱いを受ける、持っておるものは得手勝手ではないかということではなく、持っておるものについても、やはりそれだけの責任と義務を課さなければならないという思想が、このたびの最終宣言で全会一致で採択をせられました。したがって、その点は、確かに持つものと持たないものとの基本的な関係というものは、これによって解消するわけではございません。ございませんが、しかし、再検討会議で、いわゆる持つものに対して持たないものと同様の責任と義務を課したということは、やはりただいま鯨岡委員の言われましたようなところから発想をして、それだけであってはならないというところに再検討会議が至ったゆえんではないかというふうに考えます。  そのような意味で、米ソ間の軍縮の進展というものも、このたびの会議でさらに努力すべき旨がうたわれておるわけでございますが、そうなりますと、残りました問題は、この締約国でない、署名国でない核保有国ということになります。これらの国にも、このたびの宣言で呼びかけをいたしておるわけでございます。  それの関連で申しますと、現実にいま世界の問題といたしましては、まず中国にいたしましてもフランスにいたしましても「核保有国ではございますけれども、米ソの核保有能力が圧倒的でございますから、事を軽視してはならないわけでございますが、中仏というものは、そういう意味では第二義的なものと考えれば考え得るのではないか。米ソ間にそういう自制が生れるということによって、やがては最終的には核兵器、核実験の全面禁止、新しい核兵器の開発の禁止、最終的には核兵器の廃棄というところまでたどりつける可能性がある。これは長い道であると思いますけれども。つまり、この平等性というものは、いまわれわれが核兵器を持つことによって平等性を回復するのではなく、現在持っておる国が、実験をやめ、開発をやめ、最終的には廃棄に進む形で平等を実現するということが、この条約の理想であるというふうに考えるわけでございます。
  386. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 大臣お話はわかるのですが、それなら私ちょっと不満と言っちゃおかしいですけれども、再検討会議の宣言、これを見ますと、「前文」というのはずっとこうありまして、そして前文が終わったところで「目的」というのが書いてあるのです。これは原文ではどう書いてあるのか、「目的」と日本訳ではそう書いてあって、そしてこの再検討会議目的がここにうたわれているわけですが、その「目的」の最後のところへ三項目挙げてある。「核兵器のより一層の拡散を防止する。」それから二番目は、まさにいま大臣が言われた「核軍備競争の停止を達成し、核軍備の縮小め方向で有効な措置をとる。」三番目が平和利用の問題。そう書いてあって、その次から今度は「第一条及び第二条の再検討」、「第三条の再検討」、「第四条の再検討」とやってきて、七条の、まさに私が心配していることについて、七条の検討の中に加えられているのです。ですから、この再検討会議の中では、大臣がおっしゃられたように、アルゼンチンとか方々の国で、後でまた承りますが、核を持たないことを約束する国の安全保障をどうしてくれるのだということをやかましく言われていながら、最終宣言ではわりあいに軽く扱われているという印象を免れないのですが、いかがなものでございましょう。
  387. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 確かに、言われましたとおり、この目的の項を見ますとまあいわば大事な点が抜けているような感じがいたしますが、この最終宣言の構成を見ますと、NPT条約本体の条文の順序にならってそれぞれについての宣言というのですか、考え方を書き並べたものというふうにもとれるわけでございます。NPT条約本体には安全保障そのものを目的とした条文はございません。ただ、核兵器に関連する条約でありますだけに、安全保障というのが一番これ重要な関係を持つことは当然でございます。したがいまして、いま先生言われましたように、第七条のところに、特に第七条というふうにとどまらないで、「第七条の再検討及び非核兵器国の安全保障」というタイトルを特別につけまして、つまりこの部分だけは安全保障というものがついたタイトルをつけて、この中に幾つか非核兵器国の安全保障について、条約本体にない考え方、重要性を強調しているわけでございます。したがいまして、全体として見ました場合に、確かに目的のところには載っておりませんけれども、むしろ本文の七条に関連しまして非核兵器国の安全保障については相当重点を置いた項目を掲げた。つまり、これによって安全保障について再検討会議が非常に重視しているということがわかるのではないかと思います。
  388. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 お言葉ですが、われわれが心配している問題は、軍縮の問題、核兵器なんかというものは世の中になくなっちゃえば一番いいのですから、しかしいまそんなことを言ったってなくならないから、持っている国は実験もやめる、ふやさない、だんだん減らす、そのことを努力しなければならぬ、これが一つ。それからいま持っている国も認めて、私は持たない、かなり長い年月にわたって持たないことを約束する以上は、私のことをどうやって守ってくれますかということ。三番目は、爆発も含めるけれども、平和利用について差別があっては困りますということでしょう。そのことは本文の中に、この条約の中に幾つかあるにかかわらず、今度の宣言の中で、目的として幾つか抽出しておきながら、安全保障だけは目的の中に抽出しなかったということが、お話ですがやっぱり気になる。気になりませんか。
  389. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 御指摘の点はよくわかっておりまして、このたびの最終宣言というのが、逐条ごとに一条から条文の最後に向かって各条ごとについての宣言をいたしましたために、順序としてそうなっておりますことは、いま政府委員から申し上げたとおりですが、そもそもこの不拡散条約が誕生いたしました背景というものを考えてみますと、核兵器保有国の軍縮でありますとか、あるいは非核保有国の安全というものは、軍縮会議であるとか、軍縮委員会であるとか、あるいは国連というようなところで行われる。そういう背景のもとに、そういうことを前提にいたしまして、したがって、現在持っておらない国には核を持たせない、またそのようなことを核兵器国もさせないということ、その部分を抽出したものがこの条約になっておりますので、そういう背景の中において読まれなければならないものだと思います。したがいまして、この条約だけをとりますと、いかにもこれは核保有国がいわば既存の地位を確立をし、それをほかに広げないという条約のごとくでございますけれども、その背景にありますものは米ソの共同宣言を初めにいたしました軍縮委員会あるいは国連等における全体的な軍縮及び非核保有国の安全を確保する、そういう努力の背景のもとにこの条約考えられておる、こういうふうに御理解いただくべきではないかと思います。
  390. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 いま大臣が言われたように穏やかに、素直に考えていけばそれはわからないものでもありません。だからこの質問はやめますが、やはりわれわれは、これからも核を持たないと覚悟した以上は、そしてこれはどう考えてみても不平等ですからね、不平等がわかっていてやるのですから、それじゃ不平等ならどうするんだ、おまえも持ったらいいじゃないかということでみんなして持ったら大変なことになるから、そこでこの条約に賛成する、この考え方違いますか。
  391. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 つまり、不平等を持たないものが持つという形で解消するのでなく、持つものがだんだんそれを減らしていって、最終的には使えないような形にする、あるいは廃棄をする、こういう形で平等を実現しなければ、逆の方法では世界全体が危ないではないか、こういう認識に立っておるものと考えております。
  392. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 同じそのことをまた言うようですが、何回心配しても心配し切れないから申し上げるのですが、この再検討会議でメキシコとかユーゴスラビアから出された核軍縮に関する追加議定書、これはどんなものであったろうか、それからルーマニアが非同盟国と歩調を合わせて非核保有国の安全保障を約束させる提案を出したというのですが、これはどんなものであったろうか、このことについてちょっとお話を承りたい。
  393. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 お答えいたします。  メキシコあるいはユーゴから、この再検討会議で特に核軍縮についての追加議定書案というのが出ましたが、その内容を申し上げますと、NPTの締約国の数がふえるに従って地下核実験の停止期間を延長する、また米ソがウラジオストクで合意いたしました核兵器の運搬手段の総数、これは二千四百と決まりましたが、それをやはりNPT締約国の増大に従って漸次減らしていこうという考え方がこの核軍縮についての提案でございます。で、米ソはともに、この核軍縮というのはきわめて複雑な要素を内臓しているものであって、そう簡単に機械的に、あるいは算術的かっこうで進めるわけにいかないということから、これに猛烈に反対いたしたわけでございます。  それからもう一つルーマニアの出しました提案は、これは非核兵器国の安全保障に関連する提案でございますけれども、核兵器国は、その領域に核を持っていない国については核兵器を使わないという提案をいたしたわけです。これは特に同盟関係にあります国から見ますと、核と通常兵器の総合軍事力でバランスされている現在の戦略体制の中で、核兵器だけ抽出してその節を決めるということは非常にバランスを崩す、つまり同盟関係の基礎を揺るがすものであるということから特にアメリカを中心としてこれに大変な反対がございました。結局、会議の結末においてはこれが落ちてしまったわけです。ただこれにかわるといいますか、この非核兵器国の安全保障を強化するという観点から、先ほど大臣が申されましたように日本考えました提案、すなわち核兵器であると非核兵器であるとを問わず、核を持たない国に対しては国連憲章に従って核を使用しない、あるいはその核の使用の脅威を与えないというかっこうの条項でこの点がおさまったというのがこの会議における締めくくりでございます。
  394. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 それは日本提案は穏やかに言うから、反対する人もないでしょうが、この条約に入ってくる国がだんだんふえていったならば、いま持っている核兵器を少しずつ減らしていくという提案、それはどういう理由でソ連やアメリカが賛成しなかったのか。猛烈な反対があった、こういう話ですが、どういう理由で……。
  395. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 米ソとも会議の場ではその理由は必ずしも説明いたしませんでした。しかし、このSALT交渉というのは、米ソが戦略的な考慮の中であらゆる要素を総合した上の交渉であるので、外部から非常に機械的な削減というような考え方、これは受けつけられないと米ソともそれぞれ反発いたしたわけでございます。これは単に普通の軍備といいますか、通常兵器を幾ら幾ら減らすということで済まない非常に複雑な戦略体制の基本にかかわる問題であるだけに、米ソはその理由は説明しないで、ただこれに猛烈に反対し、結局最後までその反対を貫き通したということでございます。
  396. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 核兵器というものはこわいものだから——この核兵器を持っている国はいまアメリカとソ連とイギリスと、加盟してないけれどもフランスと中国。特にたくさん持っているのはアメリカとソ連。この国が核兵器というものをなくしてしまいなさいということは、いまのお話にもあるように、そう簡単にはいきませんよ、これはあなた方持たない国にはわからない非常にむずかしいことがあって、そんな簡単なわけにいきますかというお答えを見てもわかるように、なかなか容易なことではないと思いますが、やはりそれにもかかわらず、人類の理想としてはああいうものがなくなってくれることを念願をします。けれども、それがあるのだからおれもつくると言ったのでは大変なことになるから、そこでわれわれはいち早くこの条約を批准して、そうして大っぴらにそういうものをなくしなさいという運動、それから、もしある間はわれわれの安全保障をどうするかという運動、そういうのをやっていかなければならないと思いますし、また毛利委員からも科学技術庁長官に質問がありましたように、これからは何と言っても原子力。ただ残念なことには、日本は広島、長崎という苦い経験がありますから、平和利用と言うても何かこわいものじゃないかなという感じで、よその国のようなわけにはいかない。このことは平和利用においておくれをとる原因になるのではないかと心配をします。けれども、まあお互いみんなの努力、それから国民の認識で、こわいものはこわいものとして十分警戒しなければならぬことは言うまでもないですけれども、よその国にこれにおいておくれをとるようなことになれば大変ですから、努力しなければならぬし、研究も進めなければならぬが、その過程において、日本に原料はないですから、その原料の査察、それから設備の査察等において不平等があっては大変ですから、その不平等が除かれたということであれば、この条約を批准することは大賛成。まあ野党の方々からはまた立場を変えていろいろ御質問があろうと思いますから、私も時間が参りましたからこれでやめますが、今度の再検討会議ではわが国の代表はどういう立場でやったんですか、署名だけして批准してないというのは正式の参加国とは言えないのでしょう、大臣。言えないでしょう。言えないとすると、正式の参加国でない人がどういう立場で演説したのですか。ちょっとそれを答えてください。
  397. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 この会議出席した国の中で、日本のように署名はしたけれどもまだ批准をしてない国につきましては、最終的な取り扱いは、会議の決定には参加できないあるいは決定につながるような文書の提出権、つまり決議案の提出のようなことはできないけれども、それ以外の点につきましては普通の正式のメンバーと同じような扱いになったわけでございます。  ただ、日本側が主張しました諸点につきまして最終文書にどういうふうに入れるかという点につきましては、いま申し上げましたように、日本自身がフルメンバーでないためにやりにくい点はございましたけれども、しかし現地の代表は、主要な志を同じくする国に日本考え方をよく伝えまして、間接にそういった国を通じて日本側の考えができるだけ反映するように努力したということでございます。
  398. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 発言はできるけれども、最終の決定権はない。よくありますよね、会議にそういう立場で出ていく。情けない、これは。ですから、ちゃんと最終の決定権も持てるような形にして、いままで三十分ぐらいにわたって私心配してきたことは、もう一回言いますが、ソ連やアメリカやイギリスは持ちなさい、私は持ちませんよというのですから、それはちょっと聞いたらわかりませんよ。不平等だと思いますよ。それにもかかわらずこれに参加するのですから、その点いま心配している点について正式のメンバーになって努力ができるのですから、これはもう早く正式の立場にたることがよろしい、こういうふうに私は思いますが、違いますか、大臣
  399. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 いろいろな観点からこの条約につきまして御批判、御解析をいただきまして、れしろこれは国民各位の理解を深めるゆえんであると思います。まさしくそういう性格を一面において持っておりますけれども、先ほど申し上げましたように、平和を希望するわれわれとしては、やはりみずからの立場をこの条約に加盟することによって各国に主張していく、この道がわが国の憲法の定める国是に一番適したものである。しかし、またそれなりの努力と決心の要ることであります。さように考えております。
  400. 鯨岡兵輔

    ○鯨岡委員 終わります。
  401. 栗原祐幸

    栗原委員長 小林正巳君。
  402. 小林正巳

    ○小林(正)委員 私も、この核防条約について同僚議員からすでに基本的な立場を明らかにしての質問があったわけですけれども、この核防条約の本質というのは第一義的には、日本が将来にわたって核武装の余地を残しておくのか、それとも永久に放棄をするのかというこういう第一義的の選択の問題であると思うのです。しかる後、第二義的選択として、それでは核武装の道を放棄した日本安全保障をどういうふうに守っていくのかということが第二義的選択である。言うまでもなく、もう第一義的にはあらゆる角度から考えて、日本はこの核拡散防止条約に加盟すべきであるということは当然のことであります。そうした大原則を踏まえて、以下、核を持たない日本安全保障の問題、それから軍縮の問題について若干お尋ねをしたいと思うのです。  すでに毛利委員から総括的な質問がございましたので、若干ダブるところがあるかもわかりませんが、時間もないことですから、できるだけ重複を避けて伺いたいと思います。  今度の最終宣言で具体的には非核保有国の安全を保障するような条項といいますか、取り決めというものは実は余りないわけでございます。精神的条項というか、非常に理念的なものでまとめられておるように思うわけでございます。そこで西堀大使が再検討会議の本会議で、この件に関して、「かかる成果を得るにあたっては、非核兵器国の安全保障に特別の責任を有する核兵器国がその責任にふさわしい積極的な貢献をなすことが極めて重要である」、こういう発言をされておる。この発言に対して、核兵器保有国がこの西堀発言に対して何か答えておるか、何か発言をしておるか、あるとすればそれをお聞かせいただきたいと思います。
  403. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 西堀代表の演説、特にこの点について会議の場でこれを引用しながら意見表明あるいはコメントした事実はございません。ただ、日本代表の考え方なり立場というものは、日本の特殊な立場から見まして、各国とも非常に注目いたしておりまして、できるだけ日本の心配なり希望が入れられるように努力するということは、直接間接各国のいろいろな動きからわれわれとしても十分知り得たところでございます。最終的にはこの最終宣言の中に日本側の考え方が相当程度入れられたということになったかと思います。
  404. 小林正巳

    ○小林(正)委員 その最終宣言の中に日本提案が入れられた、こういうふうに外務省は評価しておられるわけですけれども、そこがどうも私の言う精神条項的なもののような気がするわけでございます。しかしそれはそれで私は大いに意義はあったというふうには評価はしておるわけでございます。日本はこの核防条約に加盟をして、そうした立場で、大臣言われるところの説得力を持つ立場に立って、これから非核保有国の安全保障、そしてそれにつながる軍縮について大いに発言をしていこう、こういうことだろうと思うのです。  ところで、この核軍縮を一方で日本は大いに核防条約加盟国として主張をしていく。その反面で、日本日米安保条約を結んでおって、アメリカのいわゆる核のかさのもとに置かれておる。要するに核の抑止力に日本安全保障をゆだねておる、こういう現実があるわけでございます。これはあくまで理想的には、将来は先ほど言われたように軍縮それから核兵器の全廃にまで持っていかなくちゃならぬ。しかし経過措置として——経過措置といいますか、さしあたりはやはり今日の国際情勢の中でアメリカの核のかさに入っていなければならない、こういうことであろうと思います。ならば、核軍縮と核の抑止力に頼っておるという立場とは若干矛盾があるわけだろうと思うのです。そういった一つの経過的な段階としてそういう矛盾はやむを得ないとしても、それじゃ日本はこれから核軍縮への努力と、核抑止力に頼るといいますか、それとのウエートをどういうふうに置いていくのか、その辺ちょっと伺いたいと思います。
  405. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 御指摘のとおり、わが国日米安全保障条約によりまして、いわば米国の核抑止力のもとに安全を保つことを考えておるわけでございますが、もちろん小林委員の言われますように、人類最終の理想的な状態から言えば、これはもとより理想的な状態とは申しがたいわけで、この点がしばしば国会におきまして論戦の行われるゆえんでございますが、私どもとしては、現実になお核兵器による脅威というものはゼロにはなっていないと考えますがために、この条約によってわが国を核抑止力のもとに置いているわけでございます。したがいまして、そういう観点から申しますと、われわれは核軍縮というものが推進されなければならない、そのためにわが国も、地下実験等々を全面禁止するについても地震学等の知識をもって寄与をしたいとしているわけですし、事あるごとに、いかなる国の核実験にも反対ということを申しておるわけですが、しかしそれは先ほどもお話がございましたように、たとえばこのたびの再検討会議において、非同盟国と言われる国々からいわば米ソの立場、米ソのバランスというものを余り顧慮することなく、急進的な、一方的な軍縮の提案が出ました場合に、わが国としては、にわかに、全面的にそれに賛成ができないという立場になるわけでございます。  すなわち、今日の現実におきまして、米ソの核能力のバランスというものがとにかく世界のこれ以上の破局を招かないでいるということは、事実として認めなければならないわけでございますから、今後の核軍縮というものは、やはりそのバランスを崩さない形で考えることが、残念なことではありますが、現実的に可能な唯一の方法であろう、こういう立場をとらざるを得ないかと存じます。その点は、ある意味で小林委員の言われました一つの矛盾であろうかと思いますけれども、しかし、そういうことは不可能ではない。つまり、米ソ両国とも持ち過ぎるほどの核を持ち、そして、しかもそれが容易に使えないものであるということは知っておる。お互いに相手を意識して相手との合意が得られるならば、その対比において軍縮をしていこうということまではきたわけでございますから、そういう動きをわれわれとしては推進をする。何でもかんでもアメリカは全部やめてしまえばそれで事が済むというようなわけには、わが国立場としてはまいらない。そういう一方で現実の事態に対処して、わが国の安全を守りながら、他方で理想に向かって核保有国が軍縮を進めていってほしい、そういう立場であろうと考えております。
  406. 小林正巳

    ○小林(正)委員 大臣お話はよくわかるわけでございます。現実的にはこれは外交問題、とりわけ日本安全保障をどうするか、こういうことは頭の体操をやっておってもしようがないわけでございます。やはりあくまで現実的な国際情勢の中で対処をしていかなければならない、こういうことだと思うのです。  そこで、そういう観点からまいりますと、今日では、やはり日米安保条約日本安全保障をゆだねておらなければならない。私は、本会議の代表質問で、アメリカが果たして自分の身を危険にさらしてまで、日本を助けるかどうかはきわめて頼りないという趣旨のことを申し上げたわけでございますが、それはともかくとして、日米安保条約を今後も有効に機能させなければならないという立場で、外務大臣がさきにキッシンジャー国務長官とお会いになった際に、そういう口頭了解を取りつけてこられたと伝えられておるわけでございます。  そこで、八月に三木総理が訪米をされるということが明らかになっておるわけでございますが、その際、日米首脳の間で当然共同声明が出されるであろう。その共同声明の中に、外務大臣が口頭了解として取りつけられてきた内容を盛り込まれるのかどうか、そういう努力をされるのかどうか、その点を伺いたいと思います。
  407. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 四月に、私とキッシンジャー国務長官との間で了解し合いましたことにつきまして、その一つは、米国の核能力が日本への攻撃に対する重要なる抑止力であること。また、その第二は、わが国に対し核兵力であれ、通常兵力であれ、武力攻撃があった場合、米国は日本を防衛するという安保条約に基づく誓約を引き続き守る、こういう二点がございますが、これはこの国会でも御報告を申しましたところで、文章にはなっておりませんが、正式の了解というふうに私ども考えております。  八月に行われます首相と米国大統領の会談におきまして、この点をこのまま共同声明で確認することがよろしいか。あるいはむしろ、事柄は私とキッシンジャー国務長官との話できわめて明らかになっておりますから、より抽象的な形で表現することで十分であるか。そのあたりのことは、実は私、まだ総理大臣の御意向も伺っておりません。必要という点からいえば私はあえて必要ではないという感じもいたしますけれども、そのときの国内の世論あるいは世界の情勢等々考えまして、その時点で判断をいたしたいと考えておりまして、いま別段それについてはっきりした考えを持っておりません。
  408. 小林正巳

    ○小林(正)委員 外務大臣は必要でないのではないかと思う、こういうお話でございますけれども、私はぜひ共同声明に盛り込むべきだ、こういうことを申し上げておるのではないので、単に伺っておるわけでございますけれども、どうも必要でないように思う、その根拠はどういうことでしょうか。
  409. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 多少私の表現が適当でなかったかもしれませんが、これについての確認は、私が四月に国務長官と話をいたしまして明白になっておるというふうに、実は考えております。もちろんそのような会話というものは、総理大臣と大統領の間でも交わされることは恐らく当然であろうと存じますが、事実上確認されるということは当然であろうと思いますが、それを共同声明という形であらわすことが特に入り用であろうかどうか。私は何もそれがあってはならぬというふうには一向に考えておらないわけでございますけれども、国際、国内の状況等をも考えまして、その必要があるであろうかどうか、私としてはただいまいずれとも固定した考えを持っておらないということを申し上げたわけでございます。
  410. 小林正巳

    ○小林(正)委員 それはそれで結構です。  そこで、アメリカ日本防衛の誓約を果たさせる確認をする、そういう一方では、理屈で言えば、日本も同時に日米安保条約が有効に機能できるように、日本側としての体制考えなければならぬのではないか、そういう理屈になってくると思うのです。  そこで、三木総理もそうですし、歴代内閣が、非核三原則は平時、戦時ともに不変の原則である、こういうことで国会答弁をしてきておるわけでございます。それで、それは有事の際とか平時の際はとかいうふうなきわめて抽象的なやりとり、まあどっちかというと頭の体操に類するようなところがあるわけです。  そこで、具体的にお尋ねをいたしますけれども、これはもう言わずもがなのことかもわかりませんが、わが国が仮に核兵器による攻撃を受けた場合も、なおかつ持ち込ませずという原則は厳然として守るのかどうか、それをちょっと伺いたいと思います。
  411. 宮澤喜一

    宮澤国務大臣 わが国の置かれました地勢ということから考えますと、たとえばNATOにおきましては、陸続きでございますので、恐らくは戦術核兵器というものはNATOの諸国の中に置かれているであろうと私は考えておりますが、わが国は陸続きの地勢ではございませんので、そういうようなものが国内に置かれておることはございません。  したがいまして、ただいまのお尋ねで、わが国が仮に核兵器による攻撃を受けた場合ということを考えますと、それは多分は戦略核兵器による場合であろう。といたしますと、攻撃を加える側は当然に相手国から同じく戦略核兵器による報復を受ける、いわゆるセカンド・ストライク・ケーパビリティーを持っている国から報復を受けるということを考えなければならないわけでございますから、そのような危険を冒してわが国にそのような核攻撃が果たして行われるであろうか。わが国の場合、陸続きでないという地勢上の利益もございまして、やはり戦略核兵器による報復を受けることを覚悟しない限り、わが国に対して核兵器を使うということはあり得ないことではないだろうか。したがって、そういうことはきわめてありそうもない事態だというふうに私は考えます。考えますが、しかし、全く仮想の御質問でございますから、どのような態様によってそのようなことが起こるかということをやはり具体的に考えませんと、お答えを申し上げることがむずかしいのではないだろうか。別の言葉で申しますと、これは有事と申しますよりは、わが国民の文字どおり生命そのものに関する事態と考えられますので、そのような状態をただいまの時点において抽象的に想定するということはなじまない問題ではないであろうか。お答えをはぐらかすという意味ではございませんで、ただいまそれにお答えをすることは、どうも態様もはっきりいたしませんきわめて異常な事態における仮想のことでございますので、お答えを申し上げるのになじまない種類の問題ではなかろうかと存じます。
  412. 小林正巳

    ○小林(正)委員 ありそうもない事態を想定して条約というのは結ばれているんじゃないかと思うのですけれども、それは結構でございます。  この条約の持つ重要な問題の一つとして、核兵器その他の核爆発装置の製造、取得を禁止しつつ、並行的に非核兵器国の原子力平和利用の推進を阻害しない、こういうことであろうと思うのです。  その条約四条の二項に、積極的に平和利用について国際協力をするということが記されておるわけですが、これは原則的な条約なのか、それとも、条約の締約国になれば、この条約を引用してどこの国からも、たとえて言うならソ連からでも情報を受ける権利が加盟国には生ずるのか、その辺ちょっと伺いたい。
  413. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 この四条の二項だと思いますけれども、この規定によって、つまりこの条約に入った国で原子力の平和利用を希望する国が、核燃料その他原子力機材を供与し得る国に対してこれを要求する権利、逆に言えば、向こう側が与える義務があるという規定ではございません。ただ、この条約に入ることによって、条約当事国間の原子力平和利用面における協力関係が強化されるというのが、この条約の趣旨であると解しております。
  414. 小林正巳

    ○小林(正)委員 ちょっといまのお答えは余りに抽象的でわかりにくいのですが、もう少しわかりやすくお答え願えますか。
  415. 松永信雄

    ○松永(信)政府委員 この第四条の規定は、いわば原則的な規定であると解すべきものであろうと考えております。したがいまして、具体的に、技術あるいは技術情報を交換するという場合には、恐らく関係国間におきまして、当然二国間の協定なり取り決めが結ばれる、それに従って交換が行われるということになろうと思います。  したがって、この規定自体から直ちに、たとえばソ連が関係の情報を、締約国から要請があった場合に、それに応じて直ちに提供しなければならないという義務が発生するような規定であるとは考えておりません。
  416. 小林正巳

    ○小林(正)委員 それからもう一点、宣言の中で核燃料サイクルセンター構想というのがうたわれておるわけでございます。これは具体的にどういうものなのか。  新聞報道によると類似したものがヨーロッパには二、三カ所あるんだというふうなことも出ておりました。それからアメリカは東北アジア地区に一カ所、それを日本に設置したいという要請を日本側に対して何度かしてきた。こういうふうなことが報ぜられておるわけでございますけれども、これに対して日本はどういうふうに対応しておられるのか。
  417. 鈴木文彦

    ○鈴木政府委員 地域核燃料サイクルセンターを日本に設置したらどうかという打診があったかどうかということでございますけれども新聞報道は私たちとして必ずしも事実とは考えておりません。事実、われわれに対してそういう打診はどの国からもなされておりません。
  418. 小林正巳

    ○小林(正)委員 わかりました。  もう時間もないので、最後に、せっかくおいでをいただいております科学技術庁長官にお尋ねをいたしますが、日本が核防条約に入り、将来原子力の平和利用の面でさらに進んでいかなければならないということであろうと思います。これは先ほど毛利委員からも指摘されたところでありますけれども、私はさきの衆議院の本会議の席上で、問題提起のような形で申し上げたわけでございます。つまり、原子力という問題について、日本は非常にいわゆる原子力に対するアレルギーの強い国である。それは国民感情としてそういう経緯があるからやむを得ぬわけですけれども、それが原子力の平和利用の分野にまで及んで、そういう意味でのこれからの平和利用が阻害をされるということであってはならない。非常に不幸なことに、例の「むつ」の問題があるわけでございます。これは今後の日本の原子力の平和利用を進める上で非常に大きな障害になるというふうに私は非常に残念な事件だと思っておるのです。それに対して、もちろん政府として安全面には格段の努力をしなくちゃいかぬわけですが、同時に、平和利用の安全性と有用性について、やはりもっと進んでPRをしていかなければならないむそういうものはやはり政府の責務じゃないかというふうに私は思うのです。そういう意味で、この間の「むつ」の問題は逆PRになっちゃった点が非常に私は残念であり、今後に大きな禍根を残したように思うのです。日本の原子力行政、そういう体制的な面で欠陥があったんではないか、あるいはまた将来に対して、いま私が申し上げたような点で、科学技術庁長官はどのようにお考えになっていらっしゃるか、その点を伺いまして私の質問を終わります。
  419. 佐々木義武

    ○佐々木国務大臣 日本が油の問題以来、原子力エネルギーを発電に応用いたしまして、今後のエネルギーの重要な部分として持っていきたい。あるいはその必要性に関しましては、私から申すまでもないことでございまして、先ほど毛利先生の御指摘にもございましたとおり、ヨーロッパでは、フランス、またイタリーの状況をこの前に大使が参りまして聞きましたが、同じでございまして、一切の発電は油を使ってはいけない、全部原子力に切りかえろということでただいま進んでおるようです。ドイツもほぼ似たような傾向で、アメリカなどにおきましては、この十カ年間に二億数千万キロの原子力発電を計画して進めております。日本のいまの発電量の大体三倍くらいのものを原子力発電にかえようということでございますから大変なことでございますけれども日本は翻って考えてみますと、日本ほど資源面からいたしまして原子力発電に頼らざるを得ない国は世界になかろうかと存ずるくらいでございます。しかしながら、それではどうして日本の原子力発電は進まぬのだと申しますと、いまの状況ではほとんど立地条件が不可能でありまして、原子力発電をやろうといたしますとみんな反対するという状況で、その根本は何かと申しますと、いろいろございますけれども、何といっても安全性に対する不安、不信というものが根本であることには間違いございません。したがいまして、お話しございましたように「むつ」の問題以来、従来のままの体制では、考え方では、あるいは政府の姿勢ではいけないぞ、この際日本のエネルギーの将来も考え、抜本的な行政機構の改革等に取り組まなければいかぬということで、この一月以来、総理大臣みずからその責任者になりまして、内閣に原子力行政懇談会を設けまして、有沢広已先生を首班といたしまして、ただいまこの問題を進めつつあることは御承知のとおりでございます。  そのねらいの主なものは、原子力委員会まで含めて、従来日本はややともすると、原子力開発に急なる余り、安全性に対する力の入れ方が不十分だったのではなかろうか、もしそういう点ありとすれば、先ほど申しましたような必要性はその点にあるわけでございますから、安全性の確保のためにどういう考慮を払うべきか。特にアメリカはこの一月から従来のAEC、すなわち、いままで長い間アメリカの開発をしてまいりました原子力委員会が解消いたしまして、安全規制委員会に衣がえをいたしまして、そして開発部面は挙げてエネルギーを開発する官庁に吸収されたことは御承知のとおりでございまして、世界の傾向もそれに近い状況にございます。したがいまして、日本もこの際思い切って安全面にウエートを置くような体制にすべきでなかろうかという点が主なねらいであるように承知してございます。  それに先立ちまして、今度の予算で、その有沢機関の結論をまつまでもなしに、まず原子力の安全に関する体制を少しでも整備しようというので、閣議では一切の局、課の新設を許さぬという決定をいたしておりましたが、たった一つ、原子力の安全問題に関してのみはこれは特例を設けようというので、総理あるいは幹事長の特段の御配慮によりまして、安全局を設けることにいたしました。ただいま、内閣委員会でこれから審議をしていただくことになっております。同時に、先ほど申しましたように、安全に対するもっと強力な原子力委員会の存在そのものまで考えた、改変まで考え一つ体制づくりをしようではないかというので、ただいま有沢機関で審議中です。  一つは、原子力の安全研究日本は十分なりやいなや。これは御承知のように原子力にはたくさん種類があるわけですけれども日本で発電に使っている主なものは、アメリカで開発しました軽水炉でございまして、世界の大半もこの軽水炉であることは間違いございません。しかし、アメリカと同じ軽水炉の発電をしておりましても、その安全面に対しては非常に独自の研究を進めておりまして、この安全面に関しては非常な自信を持っておるやに承知しております。日本は軽水炉の安全に対する研究がまだ立ちおくれておりまして、決して十分だとは申せないと私存じます。したがいまして、特に新しく開発する増殖炉とかあるいはその他の新型転換炉等の問題に対しては、みずからがこれから開発していくのですから、安全の面もあわせていま研究を進めておりますけれども、しかし軽水炉のように、よそから輸入したそのものに対する安全サイドの研究は確かにまだ不十分でございましたので、その点を数年前から一生懸命ただいま取り組んでおる最中でございます。今後も安全に対する研究は、さらに一段と強化して進めなければならぬことはもちろんでございまして、これは原子力研究所のみならず、発電会社におきましてもあるいはメーカーにおきましても、国を挙げまして総力を結集してその完成に向かわなければならないことはもちろんでございます。  第二点は、検査あるいは審査等の問題でございまして、これにも確かに一貫性と申しますかあるいは総合性等におきまして、まだまだ改正の余地のある問題かと私は存じます。  最後に、もう一つの点は、御指摘のございました国民の理解あるいは協力を得るための措置というのはどうすればよろしいか。お話のように、確かに世界の唯一の被爆国でございますから、特に放射能に対する神経的な面は非常に強いことはやむを得ないことかとも存じますけれども、さらばといって、平和利用の面に対しても非常な恐怖の念を持つということは、これはもっとそのPRあるいは話し合い等を適確にしていけば、まだまだ理解を得ることができるんじゃなかろうかと存じます。たとえば発電炉自体がいかにも爆弾そのものとどこが違うんだというふうな趣旨のことさえ、まだ御理解いただけないような節もございまして、これは申すまでもなしに、濃縮ウランが原爆のときにはほとんど一〇〇%近い濃縮度のものが必要でございますし、いま発電炉に使うのはたかだか三%ぐらいの濃縮度の程度のものでございます。あるいは軽水炉そのものの性格といたしまして、温度が高くなりますと反応が薄れまして、それ自体爆発するということはございません。そういう性格を持った炉でございますけれども、いかにもこれが原爆そのものと同じように考えたり、あるいはいまの発電炉自体の故障がすぐ大きい事故に結びついて、第三者あるいは環境汚染につながるんじゃないかというふうな懸念がまだございますので、そういう点は心配はないんだという点に関する話し合い、あるいは御理解等をいただく努力は、確かに今後とも必要かと存じます。  それこれ申しましたが、いずれにいたしましてもそういう安全サイドに対する今後の国を挙げての整備研究と申しますかを通じまして、逐次日本も原子力発電等を先進国同様進め得るよう処置すべきだという所存で、ただいませっかく進めておる最中でございます。少し長くなりましたが開陳といたします。
  420. 栗原祐幸

    栗原委員長 本日はこの程度にとどめ、次回は公報をもってお知らせすることとし、これにて散会いたします。     午後八時二十四分散会