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1974-10-17 第73回国会 衆議院 大蔵委員会税制及び税の執行に関する小委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    本小委員会昭和四十九年七月三十一日(水曜 日)委員会において、設置することに決した。 八月一日  本小委員委員長指名で、次の通り選任され  た。       栗原 祐幸君   小宮山重四郎君       三枝 三郎君    野田  毅君       坊  秀男君    松本 十郎君       村岡 兼造君    山下 元利君       佐藤 観樹君    武藤 山治君       村山 喜一君    増本 一彦君       広沢 直樹君    竹本 孫一君 八月一日  松本十郎君が委員長指名で、小委員長に選任  された。 ————————————————————— 昭和四十九年十月十七日(木曜日)     午前十時三十八分開議  出席小委員    小委員長 松本 十郎君       栗原 祐幸君    三枝 三郎君       野田  毅君    坊  秀男君       山下 元利君    山田 耻目君       増本 一彦君    広沢 直樹君  小委員外出席者         大蔵省主税局長 中橋敬次郎君         国税庁次長   磯辺 律男君     ————————————— 十月十七日  小委員村山喜一君同日小委員辞任につき、その  補欠として山田耻目君委員長指名で小委員  に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  税制及び税の執行に関する件      ————◇—————
  2. 松本十郎

    松本委員長 これより税制及び税の執行に関する小委員会を開会いたします。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  先般、各位の御推挙により、私が当税制及び税の執行に関する小委員会の小委員長に就任いたしました。  最近の経済環境のきびしい中にあり、わが国経済安定的成長に資するための租税政策あり方は、各方面から論ぜられているときであります。かかるときにあたり、当小委員会の使命もまことに重大と考えます。各位の御協力を得てその職責を全うしたい所存であります。何とぞよろしくお願い申し上げます。  税制及び税の執行に関する件について調査を進めます。  まず、今後の税制改正における重要問題及び税の執行状況等について政府より説明を求めます。中橋主税局長
  3. 中橋敬次郎

    中橋説明員 政府に設置せられております税制調査会は、先ごろ委員任期が三年で切れまして、十月の十四日に新しい任期を持ちました委員でもって新発足をしたわけでございます。  この政府税制調査会その他におきまして、今後いろいろ税制の問題が論議せられることになるわけでございますけれども、私どもといたしましてはやや長期的に考えなければならない問題と、当面御論議を願わなければならない問題と、二通りあると思っております。  長期的な問題といたしましては、まず租税負担率の問題がございます。これは従来から御論議のあったところでございまして、経済社会基本計画におきましても、その計画期間内において、いわば五十二年度までございますけれども、それまでの間に、税と税外負担とを合計いたしまして三ポイント程度高まるということを予測いたしております。これが今後のこういった経済の長期的な見通しの中で一体どういうことになるのかというのが第一の問題でございます。  最近とみに高福祉という要望が強まっております。政府の行ないます仕事の分野が拡張しなければならないという趣旨でございますが、そのためには、まずこれをまかなう財源といたしまして、租税あるいは社会保険料というものをどのようにそれに合わせて考えていったらいいかという問題があります。幸いわが国租税負担率は、戦争直後のかなり高い水準から、昨今はおおむね国民所得に対しまして二〇%程度になっております。また、社会保険負担も約五%程度でございます。ただ、この両者を合わせましたところの約二五%程度の税及び社会保険負担というものは、欧米先進国のそれに比べますとかなり低いことになっております。それを、今後欧米先進国のような社会福祉面において公経済分野が拡張するという場合におきましては、一体社会保険料をどの程度ふやすのがいいのか、あるいは租税をどの程度ふやすのがいいのかという問題が残っておるわけでございます。しかも、それにつきましてはどのようなテンポで進んでいったらいいのか、これが一番重要な問題であると思っております。  さらに第二の問題といたしましては、そういうある程度高まった社会保険料、それから租税負担というものにつきまして、特に税制におきましては、その税負担というものを一体いかなる税目でまかなっていったらいいのかという問題が出てまいります。これはいわゆる直接税、間接税という問題で提起をせられておりますが、もちろんその中におきましても、各税目の問題というのが当然出てまいるわけでございます。  わが国の直接税、間接税比率は、大体現在では七対三ということになっておりますが、これがまた欧米の国に比べますといろいろな差がございます。アメリカのように非常に直接税の依存度が高い国もありますれば、フランス、イタリアのように、間接税がちょうどわが国と全く逆の比率を示して三対七程度の国もございますし、ドイツのようにちょうどまん中あたり、ほぼ半々というような状態を示しておるところもございます。こういう問題を、高福祉をまかなう財源としましての税という問題としては今後考えていかなければならないと考えております。  それから、やや細目に入りましては、まずは所得税の問題でございます。  所得税は、国民所得に対するほぼ二〇%の租税負担率の中におきましても、累年高い高度成長にささえられまして所得が伸びてきたのに対応いたしまして、減税をかなり進めてまいることができました。こういう結果、いわゆる所得税課税最低限につきましては、欧米先進国のそれに比べてかなり高水準に達することができました。また、税率累進度につきましても、ことしの大改正によりまして相当程度緩和できたと思っております。しかし、やはり所得税というのは何といいましても税制の中の中枢でございますから、こういうものの負担というものを一体今後の経済成長と見合わせてどういうふうに考えていかなければならないかという問題がございます。  それから法人税でありますが、法人税につきましては、本年の改正で、ほぼ税率面からの負担といたしましては欧米のそれに比肩する程度になったと思っております。しかしながら、かねて当委員会においても御議論がございましたように、いわゆる課税所得につきまして欧米のそれと比べていかがかという御議論がございます。  たとえば、いわゆる損金になるものが過大になっているのではないかというような御指摘もございました。また一方、納税者の側からは、損金になる引き当て金等についての引き当て不足というような問題も提起せられております。そういうことを含めまして、課税所得が一体適当な水準にあるのかどうかという問題がございます。  それからさらに、基本的には、法人税課税と、その課税を受けました法人利得配当せられた場合におきまして、受け取り側においての課税をいかに調整すべきかという、これも古くからございます基本的な問題がございます。わが国昭和三十六年に現在のような形をとってきましたけれども、特に最近のヨーロッパ諸国におきましては、また再びこの問題がいろいろゆれ動いておるようでございます。そういうような動きと、またわが国法人企業におきますところの利益とその配当に対する課税について、国民が一体どういうふうに考えておるかという考え方基礎にいたしまして、この法人税の基本的な仕組みというものも一度問題にしなければならない事態になっていると思います。  それから間接税につきましては、これは先ほど申し上げましたように、直接税と間接税比率ということを問題にいたしますれば、またその比率を、いまのだんだんずっと直接税のウエートが高まってきたという傾向をかりにとどめるとか、あるいは逆の方向に持っていくということを考えます場合には、何といたしましても、一般的な消費税というのを爼上にのぼせなければならないと思います。現在わが国間接税が占めております個別消費税をどのように検討いたしましても、それは先ほど来申しました直接税のウエートが年々高まってきたという大勢を動かすものではありません。したがいまして、直間比率ということを問題にいたしましたときの一般的消費税というものをどのように考えるかという問題がございます。  以上が大体、少しく時間をかけて検討をすべき問題ではないかというふうに私どもは考えております。  それから、当面検討を要する問題といたしましては、実は喫緊に、少なくとも本年の年末におきます、来年度を頭に置きました税制改正として検討しなければならない問題がございます。  その一つはやはり所得税の問題でございまして、本年の大幅な所得税改正というのが本年の経済動きにどのように適応しておるか、減税の効果がどのようにあがっておるかという問題、それからまた、一方でいわれております、物価が非常に上がっておるのにそれをカバーできない減税であったからさらに追加的に大幅な減税をやるべきではないか、あるいは年内に減税をやるべきではないかというような声もございます。この問題につきましては、追って御質問等についてお答えをいたしたいと思いますが、そういう当面の所得税の問題でございます。  それから、次は相続税の問題でございまして、相続税は最近の特に地価の上昇を反映いたしました結果、その負担が従来に比してかなり重くなり過ぎておるという批判がございます。たとえば課税人員にいたしましても、相続人の中で相続税課税される人が四十一年の百人の中の一・四人に比較いたしまして、四十七年にはこれが四・四人になっておる。一体どの程度の人から相続税を取るべきであるか、そういうことから関連いたしまして、現在の課税最低限水準が適当であるかどうか。あるいはまた配偶者についての相続税負担が、前にかなり思い切って制度改正をいたしましたけれども、これが十分でない。あるいはもっと別の観点からこれを行なうべきではないかという御議論がございます。  さらにはまた、土地価格が非常に上昇しておるということが一番痛切に感ぜられますのが農地の問題でございまして、農地相続税、あるいはそれに関連いたしまして、都市におきますところの中小企業の土台となっておる土地課税、また都市に住んでおる人たちの住居となっております土地課税、こういうものにつきまして見直しをする必要があるかどうかという問題がございます。  それから間接税につきましては、やはり最近におきますところの物価上昇から見まして、いわゆる間接税負担率の問題がございます。  たとえば酒をとっていいますと、従量税をとっておりますがゆえに、小売り価格が伸びてきましたのに対比して、この負担率が十分伸びてこなかった。むしろ低下の傾向にある。それが他の従価制度をとっております間接税と比べて適当であるかどうかという問題がございます。かたがたたばこコストアップからたばこ価格を改定するというお話も出ておりますから、お酒につきましては価格の改定というのは順次行なわれてきておりますけれども、むしろ負担率という観点から一度検討をしなければならない問題だと考えております。  最後に、非常に年限を切られまして設けられた特別の制度がございまして、これが来年末にその期限が来るものが多うございます。  たとえば、土地譲渡所得についての分離課税制度利子配当所得につきましての課税特例制度、こういうものがございます。これは来年末に期限が参りますから、本年の末までに五十一年以降どうするかという問題の決着をつけなければなりません。  それから、日限は切ってございませんでしたけれども、長い間の懸案としていわれておりました社会保険診療報酬課税特例の問題がございます。これは先ごろ、前の政府税制調査会におきまして御答申が出ました。この考え方の線に沿って具体的に一体どういうような数値を当てはめていったらいいのかというのが、今後の私どもに課せられました課題になっております。これも今後の研究にまって措置をしなければならない問題だと考えております。  以上が私どもが考えております当面論議を要する問題でございます。  簡単でございますが、最近におきます問題を申し上げました。
  4. 松本十郎

  5. 磯辺律男

    磯辺説明員 最初にお断わりさしていただきますが、実は前々から国税庁関係式典を本日挙行いたすことになっておりまして、安川国税庁長官はお許しをいただきましてそちらの式典のほうに出席させていただいておりますので、私、国税庁次長でございますが、長官にかわりまして税務行政現状問題点につきまして概要を御説明申し上げさせていただきたいと思います。  まず、税務執行を取り巻く税務環境についてでございます。  昨年九月の本小委員会で御説明申し上げましたとおり、申告納税制度は、戦後四半世紀を経過した今日、相当国民各階層に定着してきているものと私どもは確信いたしております。しかし、税務当局行政対象の量なりあるいは質なりといった観点からいたしますと、課税対象執行に手数のかかる直税事案中心に年々累増してきております。中でも、調査日数のよけいかかる高額所得者売り上げ規模の大きい法人が著しく増加していること、また、土地取引増大所得源泉多様化等に伴いまして、実態把握のむずかしい譲渡所得をはじめとするいわゆるその他所得者増加が大きいことが特色でございます。  たとえば、申告所得者の数はこの十年間で二・二倍、法人数は一・七倍に増加しておりますが、このうち五百万円以上のいわゆる高額所得者は十三・五倍、資本金五千万円以上の法人は二・六倍という増加となっております。また、譲渡所得者は三倍の増加でございます。  しかも、このような事案は、納税者の出入りの多い大都市及びその周辺に集中して発生しておりますので、税務執行困難化に一そう拍車がかけられる結果となっております。  一方、税務をになっている職員定数は、年々若干の増加確保し得ておりますものの、わずかでございまして、ここ十年以上五万人余でほぼ横ばいに推移してきているのが実態でございます。  そのため、国税庁といたしましては、事務増大複雑化に対処して、事務運営重点化簡素合理化につとめるとともに、機構の改善を推進し、職員教育訓練充実をはかっているところであります。また、定員につきましても、事務量の直税事務への傾斜鶴処いたしまして、総務、間税徴収系統から直悦系統へ、さらに、事務都市集中化に伴いまして、地方局から都会局へとかなりの規模で振りかえを行なってきているところでございます。  そこで、次に、各税事務運営現状主要施策について御説明申し上げたいと思います。  まず、税務行政の大宗を占めております直税事務運営についてでございます。  先ほども申し上げましたとおり、直税部門課税対象の著しい増加にかかわらず、定員はさほど増加しておりませんため、職員一人当たりの要処理件数は、この十年間に、申告所得税では二百九十二人から五百九十五人へと約二倍、法人税では百一社から百五十一社へと約一・五倍の増加となっております。このため、実地調査割合は、所得税法人税とも年々低下してまいり、たとえば、四十七年分の営庶業所得者及び土地等譲渡所得者につきましてはそれぞれ四%、四十八事務年度税務署所管法人は九%となっております。  このような現状に対処いたしまして、国税庁といたしましては、四十八年末から直税事務運営につき大幅な改善措置に取り組んできております。  その基本的方向は、申告納税制度が今日相当国民各層に定着してまいってきております現状に立脚いたしまして、この制度のもと、今後一そう適正な申告水準確保し、円滑かつ公正な課税の実現をはかりますために、国民納税道義の一そうの向上を期待し、納税者各位の自主的な適正申告を支援する体制充実しようとすることでございまして、そのため、次のような施策を実施しております。  まず第一に、申告所得税処理方式につきましては、昭和四十八年分の確定申告期から、従来行なってきた納税者に対します来署依頼を原則的に廃止し、また、来署されました納税者に対しましては具体的な金額を示した申告慫慂を行なわないことにするなど納税者自主性をより一そう尊重する方向で、納税相談事務運営することといたしております。また、税務調査につきましても、納税者の自主的な申告を待ってその後実施する、いわゆる事後調査中心体系に改めることといたしました。  第二に、申告納税制度をささえる柱であります納税者の自主的な記帳及びこれに基づく自主的な申告を支援するための納税環境整備を一段と推進することとし、各種民間協力団体と提携しつつ、小規模事業者等に対する記帳慣行醸成のための指導税務相談体制充実をはかることといたしております。  特に、この春からは、全国的に税理士会協力を得まして、確定申告期無料納税相談所を開設し、納税者の便宜をはかることといたしております。  第三に、税務調査の点では、調査対象の選定の面で低額者より高額者へ、中小法人より事業規模の大きい法人により重点を置くとともに、指導によって良好な申告が期待される納税者に対しましては調査を省略するなど、重点化を強めることとし、また、その実施方法につきましても、納税者理解協力が得られますようきめこまかい改善を行なっているところであります。  第四に、広報活動分野におきましても、広報指導調査と並んで国民との大きな接触手段であるその機能の重要性にかんがみ、これが改善を進めているところでございます。  先ほど申し上げましたように、ますます複雑、多様化しております税務環境の中で今後一そう円滑に税務行政を推進していくためには、納税者はもちろん広く国民各層が税のよき理解者として、国家財政基礎をなす税務運営参加意識を持っていただくということが必要であることを痛感いたしております。そのため、各種の行事や媒体を積極的に活用いたしまして、国民各層税制及び税務現状について広報してまいりたいと考えております。  次に、間税事務について申し上げます。  間税は、御承知のとおり、酒税物品税揮発油税など十三に及ぶ多くの税目に分かれており、これらを限られた人数の職員執行しなければならないところに問題をかかえております。  このため、調査及び犯則取り締まりにあたっては、直税事務と同様に、大口悪質事案重点を置いて運営を推進してきております。また、指導の面でも納税者実態に即した適切な指導を効率的に行なう必要がございますので、今後一そう民間協力団体と密接に連携いたしまして、指導事務充実につとめてまいりたいと考えております。  次に、酒税行政の問題について申し上げます。  国民酒類に対する嗜好の変化に、最近の景気情勢の影響も加わって、清酒など一部の酒類には消費停滞傾向があらわれてきております。  他面、最近のわが国経済情勢にかんがみ、省資源、省エネルギー型への転換が強く要請されてきておりますので、この際、酒類につきましても、販売競争のための誇大広告や過大な景品つき販売は自粛されるべきものであると考えております。  省庁といたしましても、このような情勢を踏まえ、今後の酒類行政あり方について検討を進めているところでございますが、基本的には、秩序ある競争を基として、時代の要請に即応した形で業界の合理化が推進されますように環境整備をはかってまいりたいと考えております。  次に、管理徴収事務現状について申し上げます。  まず、管理事務につきましては、事務簡素合理化につとめる一方、納税者自主納付意識の高揚に訴えておりますが、納税貯蓄組合も年々増加いたして、国税組合数は約十万組合国税組合員数は三百四十四万人に達しようとしております。また、振替納税制度も着実に普及し、期限内収納割合は、四十八年度では九三%となっております。  次に、徴収事務につきましては、国税滞納は、ここ数年来きわめて低い水準で推移してきておりまして、昭和四十八年度末の滞納残割合はわずか一・八%にすぎず、二〇%近い高率に達しました昭和二十年代と比べますと約十分の一ということになっております。  しかし、最近は、経済情勢変化に伴い、国税滞納法人税中心といたしましてやや増加傾向を生じておりますが、この際、滞納整理にあたっても、納税者個々実情に十分配意しながら対処いたしますとともに、納税緩和措置の適切な運用をはかることといたしております。  以上申し上げましたとおり、国税当局といたしましては、直税、間税及び徴収の各事務を通じまして、事務量増大複雑、多様化してきております税務環境に対応した事務運営重点化簡素合理化を極力推進してまいっているわけでありますが、最近の変展する社会経済情勢の推移に即応するためには、事務運営とその処理体制の両面で、さらに一そうの機動的、弾力的執行確保に配慮してきておるのでございます。たとえば、所得税確定申告期譲渡所得処理のピーク時には、他の事務系統から職員を応援させたり、また、特に必要がある場合には、国税局間及び税務署間で広域的に職員相互応援を実施するなどの機動的措置も講じてまいってきているところでございます。  最後に、私ども内部事情として最も重要な課題一つとなっております中高年層職員の問題について御説明申し上げます。  現在の税務職員の構成を見ますと、国税局及び税務署に勤務いたしております男子職員のうち、年齢四十歳以上のいわゆる中高年層が過半の五三%を占めるとともに、三十歳台の中堅職員が一割余りにすぎないといった姿となっております。このような事態は、戦後間もなくの時期に、国の徴税確保の強い要請から一挙に五万人以上の定員増が行なわれたことに起因しているわけでありますが、これらの職員昭和二十年代の復興期、三十年代の高度成長期を通じまして、戦後四半世紀にわたって税務行政を第一線でささえ続け、今日のわが国財政基盤確立に大きな役割りを果たしてきたきわめて優秀な人材集団であると自負いたしております。しかも、彼らを継ぐべき三十歳台の職員は少なく、若年層を多くかかえる税務の職場の現状からいたしますと、今後少なくとも十年間は、なおこれら中高年層職員の豊かな知識と経験を税務行政に活用すべきであり、またそうせざるを得ない状況にございます。  当庁といたしましては、これらの職員の永年の労苦にこたえるとともに、その士気を今後とも高く保ち、若年層職員に対する指導を含めて、税務行政の大きな牽引力としての役割りをなお相当期間果たしてもらうため、税務職俸給表改善上位等級定数の拡大に努力を続けますとともに、五十年度の予算要求におきましては、今後の事務運営基本的方向に即応いたしまして中高年層職員の処遇の改善がはかられるよう、上位等級に格づけされるべき税務相談官特別国税調査官などの特別専門職の新増設を要求しておるところであります。  なお、申し上げるまでもなく、以上のほか、若年層職員能力向上のための研修体系整備中高年層職員に対する健康管理などのための厚生面施策拡充にも配意いたしますとともに、ADP処理拡充による省力化をはかるなど、引き続き事務簡素合理化を推進し、職員負担の軽減につとめてまいりたいと考えております。  以上、簡単でございますが、申告納税制度の一そうの確立を目ざしまして、困難な環境変化の中で税務行政を推進しております実情を申し上げまして、御説明を終わらせていただきたいと思います。
  6. 松本十郎

    松本委員長 以上で政府説明は終わりました。     —————————————
  7. 松本十郎

    松本委員長 これより質疑に入ります。  質疑の通告がありますので、順次これを許します。山田耻目君
  8. 山田耻目

    山田(耻)小委員 中橋主税局長に当面の事柄につきまして、二、三点お伺いしたいと思います。  十日の新聞でございましたか、大蔵省の諮問案が出て税調に諮問したと、五十年度税制について報道しております。その中身をちらっと見たのでありますが、ことしは二兆円減税ということをやったけれども物価のインフレ傾向を見ていけば、大きな減税ということはインフレ抑制に必ずしもプラスにならない、だから、今回の減税措置というのは物価調整的なものを中心に五、六千億やりたい、こういうものを骨格にして諮問をしたということを報道しておりましたが、大蔵省で定めました諮問の中心点、特にそういうふうな諮問をするに至った背景、こういうものについてひとつ御説明いただきたいと思います。
  9. 中橋敬次郎

    中橋説明員 ただいま山田委員が御指摘になりました今月の十日の新聞記事というのは、私は詳しくは承知いたしておりませんが、先ほど説明いたしましたように、新しく発足いたしました税制調査会に対しまして、政府なり大蔵省が諮問いたしましたことは、実は最近の経済情勢に応じて租税政策をどういうふうにやったらいいかという、非常にばくたる大筋の諮問事項だけでございます。今後の税制調査会論議につきまして、もちろんいろいろ私どものほうから問題点を提起し、あるいは要求に応じましてそれぞれの考え方を提出することには違いございませんけれども、現在までの段階といたしまして、正式に税制調査会に諮問をいたしたものは、それ以外にはございません。  ただ、私どもがこれまで国会の各種委員会において御質問にお答えしました考え方は、ただいま山田委員が御指摘になったようなものとほぼ大差はございません。私どもといたしますれば、本年の所得税の大減税というものがいわば二年なり三年分をまとめてやったという非常に大幅なものでございました。しかも、その平年度化が、来年度かなりの額で予定されておるわけでございます。  それからもう一つは、いまこれも山田委員が御指摘になりましたように、最近までにおきますところの物価の動向にかんがみまして、確かにその物価上昇したということに対応する税制も考えなければなりませんけれども物価を抑制するというための税制も考えなければならないわけでございます。  そういう先ほど申しました二つの問題点から見まして、私どもは、来年度におきましてそんなに大幅な所得税改正というのはできないし、また経済情勢からいいまして、やるのは適当ではないというふうに判断をいたしております。  もっともその際にも、消費物価の動向というのは、これは非常に重要な要素でございます。かなりの大幅な減税をやりましたことは事実でございますし、かなりの賃金の上昇があったことも事実でございますけれども、また消費物価上昇相当なものでございます。そういうものが、一体、来年度の税制改正論議いたします場合に、来年度の所得税課税最低限の平年度化によりましてはたしてまかなえるのかどうかという問題でございます。夫婦子供二人の給与所得者で来年度の所得税課税最低限は百五十万円から百七十万円に上昇することになっております。率で申せば約一三%余りでございます。その一三%余りのものとそれから物価上昇の度合いというものを考えまして、あるいは場合によりますれば、それにプラスする物価調整減税というのが必要になるかもしれませんけれども、それは一にかかって今後におきますところの消費物価の動向であると思っております。  それにいたしましても、新聞で伝えられますように、五、六千億円の減税という数字で私どもはいま考えておるわけでもございません。それからまた、伝えられますように、五、六千億円がミニ減税であるとも実は考えられない。やはり来年度も非常に財政は苦しい状態でございます。そういうようなことからいいまして、五、六千億円というのはかなりの数字だと思っておりますけれども、私どもは決してその金高につられて来年度の所得税減税を考えるつもりはございませんが、先ほど来御説明いたしましたように、本年度の大減税の効果というもの、それから消費物価の動向というものを両者かね合わせながら、これからの検討にまちたいと思っております。
  10. 山田耻目

    山田(耻)小委員 お話がちょっとわかりにくいのですけれども、要するに、ことし二兆円減税をやったので、あれは三年分ぐらいやったんだ、たいへん大幅な減税なんで、それを一つ前提に置くんだ。二つ目には、これ以上減税をすると、問題は二つある。一つは、物価を調整していく調整減税的なものをやはりやらにゃいけないと思うが、しかし、大幅な減税をするとむしろインフレを高進することに役立つことになる。だからその調整を考えるんだ。だから、五、六千億の減税ということを新聞が報じているが、それは金額に拘泥をしていないというふうな話のようですけれども、あなたが長期的な話の中でおっしゃった、いまの日本の税率は大体国民所得の二〇%、社会保険的なものは大体五%、合わせて二五%は、国際的に見て低い。私は、国際的なそういう一連のものを見て、あなたの御意見は否定はしないのです。しかしながら、日本の国民生活、日本の経済、こういうもの全体を比較してみますと、私は税率だけでは国際間の比較にはならないと思う。だから、それはお話として聞き流していいと思うのです。  問題は、そういう諸般のいろいろな要素が加わってきて、五十年度税制については、大幅な減税を考えるということはむずかしいという前提になっているのではないだろうかという気がするのです。この減税を行なっていくのには課税最低限を引き上げていくというやり方、去年のように税率に手を染めるというやり方、いろいろありますけれども、少なくともことしのこのインフレの傾向というのは、これはもう諸外国の高いところで二倍半、低いところでは三倍をこえるというふうな、日本は高物価の状態ですね。私は、せんだってIPUからヨーロッパに調査に行かされまして、いろいろ向こうの現状を見てきました。大体八・五、六%から一四・四、五%の間にヨーロッパの消費物価ははさまっております。いまの日本の消費物価上昇動向というのは、六月はちょっと下がっておりまして二一・二、七月は二・二%上がりまして二三・四だと私は理解しております。以後八月、九月、今度の国鉄、消費者米価まで加えていきますと、かなりの高騰ぶりを示していくんじゃないか。  だから、日銀が出しております都市の全世帯消費指数を見ますと、四十八年の平均で大体月十一万六千四百三十一円が消費指数総額、四十九年の六月を見てみますと十三万九千三百五十五円と、二万数千円の月間支出増です。この中ではやはり食料費が大きなウエートを占めています。人間の生存の原理であるといわれる衣食住、この衣食住の上昇率は非常に高い。だから、去年の二兆円減税というものがあったからかろうじて今日生活をささえておりますけれども、しかしここで物価調整をしてやらないと、生活は非常にきびしいものになっていくんじゃないだろうか。それはいまあなたがおっしゃいました長期的なものあるいは当面的なものを合わせて、何とかして減税をしてやらなければならぬ。  しかし、全体的な財政上の問題もあるし、インフレ抑止という条件も考えられていくことは私も全然否定はいたしません。いたしませんが、少なくとも課税最低限はどの程度引き上げなければ物価調整にならぬ、そういうふうな目安ぐらいは、私は税調に諮問なさったのではないかと思うんですよ。たしかいま平年度で百七十万七千円でございますね、これで夫婦四人食っていきなさい、こういう課税最低限では、今日のインフレの高騰下においてどうしようもないという現実は具体的な統計が示しているんですから、だから当面のものとしてもっと具体的に税調に諮問なさって、これから議論なさるんであまり先走って皆さん答弁なさることに気がねもあるのかもしれませんけれども、しかし、大蔵省として一応諮問の骨格をお出しになったのですから、その骨格の背景になるこうしたもろもろの条件、しかもその中でしぼられてきて課税最低限をどうするんだ、どの程度までやはり持っていかなくちゃ減税効果というものはあらわれない、何かそこに私はものさしをお持ちだろうと思うのです。それらについてもう少し具体的にお話しいただきたいと思うのです。
  11. 中橋敬次郎

    中橋説明員 いまお話しの点は、一にかかりまして一つはやはり本年度の大減税の効果の評価の問題であると思います。これにつきましては、別に私ども、これから税制調査会にいろいろ諮問するからといいましてここで発言を差し控えているわけではございません。私どもの従来から考えておりましたことは先ほど申しましたとおりでございますけれども、その背景となっております数字を御披露いたしまして、また御批判を仰ぎたいと思います。   〔小委員長退席、三枝委員長代理着席〕  本年度の所得税の大幅な減税、これはもちろんあの当時、今日の物価上昇というものを想定して行なわれたとは思いません。しかし、かなりの課税最低限の引き上げがあったことは事実であります。  実は、四十七年から四十八年を比べてみまして、夫婦子供二人の給与所得者課税最低限は八・一%上昇をいたしました。四十八年から四十九年にはこれが三四・四%上昇いたしました。独身者で見ますれば、四十七年から四十八年には八・四%上昇をいたしました。これが四十八年から四十九年には六〇・六%上昇いたしております。私は、やはりこの課税最低限の引き上げの本年度におきますところの大幅であるということは、最近に例を見ないぐらいであるというふうに感じております。なるほど、その後におきます物価上昇、また賃金上昇というのがかなりのものでございました。  一体そういうものを三つ総合いたしましていわゆる可処分所得がどういうふうに変わってきたか、これもわざわざ御説明するまでもないと思いますけれども、いまここで数字を申し上げますれば、かりに四十八年で夫婦子供二人の給与所得者で年収二百万円の人が、その年所得税を幾ら納めたかというふうに計算をいたしますと、七万九千七百九十八円でございます。それで、その人が年収三〇%伸びたというふうに仮定をいたしますと、四十九年におきましては年収は二百六十万円になります。これに対する所得税は八万三千九百二十円でございます。   〔三枝委員長代理退席、小委員長着席〕  そうしますと、二百万円から約七万九千円、あるいは二百六十万円から約八万三千円の所得税を引きましてそれぞれの可処分所得というのを出してみまして、それを四十八年と四十九年を比較いたしますと、四十八年で二百万円の年収の人につきましては、可処分所得は三一・三%上昇いたしております。同じような計算を年収三百万円の世帯について行ないますと、これが四十九年にかりに三百九十万円に収入が上がったといたしまして、可処分所得は三一・五%伸びております。大体どの年収の階層をとってみましても、ほぼ三〇%をこえて三三%とか三四%とかいうような数字を示しております。なるほど物価は、おっしゃいましたように昨年に比べて二割をこえ、最近は二五%以上上昇しております。しかし、私は、この一年間の比較だけを見てみましても、可処分所得の伸びのほうが消費物価上昇を上回っておるということが言えると思います。さらに来年は、さきに御説明いたしましたように、一三%の課税最低限上昇がすでに予定されておるわけでございます。  これに対しまして、一体物価がどういうふうな上昇になるのか、それは今後の見通しと兼ね合わせて考えなければなりませんけれども、最近におきますところの物価上昇が非常に高いということは事実でございますけれども、幸いにいたしまして本年度の大幅な所得税減税というのはそれを上回って可処分所得というものを伸ばしてきたというこの効果はやはり私は評価しなければならないと思っておりますし、それをもとに来年度の所得税の問題も考えなければならないというふうに考えております。
  12. 山田耻目

    山田(耻)小委員 お話はお話としてわかるのですが、その二兆円の大減税によって可処分所得は申されたようなパーセントでふえた。それが、急に上昇してきたこのほんとうに激しい狂乱的なインフレでどれだけの効用があったかということをやはり見なければいかぬと思うのですね。だから、それはもうあの減税効果というものは低所得者層にはほとんど影響がない。そこまでいま物価上昇は深刻になってきていると私は思うのですね。だから、いろいろな食料費の節約、まあ端的にいったら昼めし抜き、こういう生活がかなり都市部ではふえているのですよ。こういう現実をしっかり見定めておかぬと、税の不公平等も後ほど申しますけれども、こうした事柄といろいろな要素がからみついてきて、私はきわめて憂慮するような事態が起こるのじゃないかと心配をするぐらい不安感はかなり満ちているのです。  いまあなたのおっしゃいました二百万円標準世帯の例、確かにおっしゃっているように四十八年は七万九千七百九十八円、それが思い切った減税によって、二百六十万円程度になってきてもわずか一万ちょっとの増税にしかなっていない。しかしこれは二百万円、この階層が一番日本では多いですからその例を述べられたんだと私は思うが、しかし、あなたのさっきのお話の中で、ここ数年五百万以上の申告納税者は十三倍強もふえてきた、税務行政たいへんなんだと、こういま私はお聞きしました。五百万あるいは一千万の層の減税を見ていきますと、この効果はますます広がってきていますね。たとえば、五百万の人が昭和四十八年に納めた税金は六十二万九千二円、四十九年はこの人の税は三十八万六千五百七十五円になっていく。六十二万九千円から三十八万になっていく。この人が三割アップで七百万近い給料になってみたって七十九万二千百七十五円と、わずかに十六万強しかふえていかない。二百万と比較しまして非常に有利だ。  やはりいまの標準世帯における課税最低限というのは、二百万から二百五十万限度を中心にものを考えてあげるという税制にしませんと、この層が一番多いのですから、そういう意味から見てもいまの百七十万七千円を、まあ新聞報道になっているのが必ずしも正確だとは申しておられぬですが、二百万程度に今度の税調に諮問なさるというふうなことが書かれておりますけれども、この百七十万七千円が一三%ちょいの課税最低限アップで、これと物価上昇とをどうかみ合わせてみて課税最低限引き上げを考えていくかということに私は聞き取ったわけですけれども、この二百万前後のところに中心を置かれて課税最低限を引き上げてあげるというふうな税制操作はできないだろうか。しかもそれは、新聞に書かれておるように、二百万円前後に課税最低限を引き上げるということでは、少し少ないような感じがしてならないし、前国会でも私たちがしきりに御意見を申し上げましたように、二百三十五万ないし二百五十万程度までこの課税最低限を引き上げていくことが、今日の税全体のバランスから見ていいのじゃないか、こういう私たちの意見に対して、今回御考慮いただくというお考えは出てこないものだろうか、そこらあたりを少しお聞かせください。
  13. 中橋敬次郎

    中橋説明員 課税最低限を、来年度の平年度化とそれからその時点におきまして考えられる物価上昇の度合いというものを兼ね合わせて考えるということは先ほど申したとおりでございますが、一体それでは幾ら程度がいいかということになりますと、実は私どもも全くいま予測できません。  ただ申し上げられることは、課税最低限はいつまでも常に上昇をし続けなければならないかということでございます。かつて百万という時代がございましたし、課税最低限の要望としまして早く百万円に、早く百二十万円に、百五十万円にという話がございましたけれども、それに追いついていけばいくだけ、また要望の線というのは上がってくるわけでございます。すでに来年度の百七十万円という夫婦子供二人の課税最低限は、これは申すまでもなく世界では相当水準でございます。さらにこれを引き上げるかどうかということは、先ほど来申しました観点から検討すべきでございますけれども、それを上回りましてさらに実質的に課税最低限を引き上げるのがいいのか、特に所得税におきましてそういうことを行なうのがいいのかという問題になりますと、私はやはり消極的にならざるを得ないわけでございます。  物価の問題として考えることは先ほど来申しておりますけれども、さらに実質的になお課税最低限を二百万、二百何十万というふうに、いわばめどもなく上げていくということは、所得税制の落ちつくところがなくなるわけでございますので、私としますれば、やはり大体所得水準上昇をしてきたこのときにおきましては、欧米の各国においての課税最低限というようなものとバランスをとったところで、また所得税制を見直すというほうがよろしいのではないのかというふうに考えております。
  14. 山田耻目

    山田(耻)小委員 税制上、手直しをしていくことは国際比較等も考えてかなり無理な点があるというお話でございました。しかしその前提になるのは、ことしは二兆円減税が大幅にやられたのだ、可処分所得もふえていったのだ、だから平年度になると百五十万七千円から百七十万七千円に課税最低限が上がっていくので、そういう立場からも一三%ちょい効果が出てくるのだ、こういうものが前提になっておると思うのです。  しかし実態の生計支出を見てみますと、さっき私が申したように、くどうございますが、夫婦子供二人の標準世帯の月支出が昭和四十八年は十一万円。これは日銀統計なんですが、昭和四十九年になりまして、大体申し上げたように六月で十三万九千円ぐらい、十四万程度の月支出になってきているのですよ。この中核をなしておるのは食料費なんですね。だから、大減税のメリットはその瞬時には効果はあったけれども、自後ずっとインフレの高進で帳消しになってきつつある。それは月間総支出額を比較してみたら、そのことが具体的に指摘できるじゃないか。この状態を承知しながら放置をすることは、私はよくないと思うのです。  総需要抑制政策をとっているから、その意味での経費支出減をねらっていくという押え方は、政策的にはわからぬことはありませんけれども、しかし、この二百万前後の人たちの生計費実態というものの中には、むだな奢侈的な高いものを求めるという生計費支出はほとんど見られませんよ。ほんとうに生活費、子供の養育費、医療費、こういうものが実態なんですね。それでいて月間、四十八年平均の十一万が十四万になっていく、この実態を私は見のがしてもらっちゃ困るのです。だから、課税最低限を百七十万から二百万円ちょいに引き上げてほしいという私の気持ちは、ここを起点に出ておるのです。  しかしながら、所得の大きい人たちまで課税最低限を引き上げると共通的なメリットを受けますから、ここは何とか、一番多い勤労者層を構成しておる二百万から二百五、六十万の人たち、これ以下の人たちを、こういうインフレ高進期にどう具体的に救済するのかということに、私は税制とは別に目を向けていってもいいじゃないか。一般国民階層の中では特に勤労者を中心に、もうこのままじゃどうしようもないから、ことしの暮れには第二春闘をやっていかなくちゃいかぬ、こういう発想が出てきて具体化しつつある。そういう賃上げの問題にこの委員会で一々干渉することは、これは法律上許されません。ただ、私たちのこの分野でやり得ることは、日本の国民の生活を安定させることの一助として手をつけていけるのは税制である、そういう立場に立って私はいまの生計費比較を申し上げているわけです。  だから、二百五十万以下くらいの階層の人たちが一番多いのですから、その人たちに税の課税最低限を引き上げる等の改正を行なうということが一つの筋論でしょうけれども、それが全般的に影響を与えるというのであれば、二百五十万以下の年間所得者に対しては、かかった税金に対して税額控除をする、三万する、五万するという意見も出ていますけれども、そういう税額控除をしてでも、現実に結果として課税最低限を引き上げたことになるし、減税措置になっていく。そうして税の平等性も保たれていく。そうして生計費を少しでも安定さしていく。こういうふうな低額所得者以下の人たちに対する税額控除制度をインフレ高進期中だけでも導入する、こういうふうなインフレ期間の特殊な措置というものをお考えになっていただけるような、そういうきめのこまかい配慮をいただきたい。ただ税率が国際比較を見れば日本はほんとうに低いんだ、あるいは二兆円減税したから可処分所得もふえてきてかなりゆとりがある、これから初年度から平年度に移行すると、まだ課税最低限は一三%以上引き上がっていく、こういう数字上の理解だけでは、国民の中にある不安は解消されません。だから重税感ものけられないのです。  だから、いま私が言ったように、課税最低限を引き上げていただくというのが基本の原則。それがどうしても十分でない、結果としても全く十分でなかったということになるときには、低所得者層の税額控除でも行なって生活の安定をはかっていく。しかもその控除された金額はインフレを高揚させていく方向消費されていくものじゃない、人間としてぎりぎり最低の生き方をしていく食料費を中心とする、教育費を中心とする、そういうものなんだ、こういうふうにひとつ御理解いただけたら、何とかそこらあたりについての方向がお考えいただけるんじゃないかと思いますが、いかがでございましょうか。
  15. 中橋敬次郎

    中橋説明員 ただいまお話しの点で、課税最低限所得控除でやるのが弊害を伴うのであれば、税額控除でやればいいではないかというお話がございました。所得控除でやるか税額控除でやるかというのは、確かにおっしゃいますように、高額の所得者に対する影響という点では効果が違ってまいることは事実でございます。私は所得控除でやるか税額控除でやるかという問題の前に、ことしの減税の効果と、それから物価上昇の度合いというものとの関係を考えなければならないということを申し上げておるわけでございます。  先ほど山田委員も御指摘になりましたように、二百万円階層の家計が月々十一万円から十四万円になっておるというお話でございますけれども、私はその中にもちろん単なる物価上昇の部分もかなりの部分を占めておるというふうに思っておりますが、しかし、それは私が先ほど申しましたように、物価としますれば、これは数字でございますけれども、昨年に比べて二五%の上昇でございます。課税最低限上昇は、これも数字でございますけれども、夫婦子供二人で三四%の上昇でございます。給与が三割伸びたときの可処分所得上昇は三〇%をこえております、ということでございますので、この三つを考えていただきますれば、所得控除であれ税額控除であれ、私はことしの減税の効果というものから見まして、またいままでの物価の度合いからいいまして、この際いずれの方途をとるにしましても、特にいわゆる課税最低限を上げると同じような効果の税額控除をやるということも、この際は考えることは要らないのではないかというふうに考えております。
  16. 山田耻目

    山田(耻)小委員 なかなか中橋さん、かとうございますね。私は、きのうまでインフレであってたいへん国民が困っておるので、まあその部分について手当てをしなくちゃならぬということを言っているのではないのです。インフレがおさまれば、いまのような政府経済政策のやり方はしませんよ。ことしの二月、前の大蔵大臣の福田さんが狂乱物価と言っておりましたが、あのころ二四・一から四ぐらいでしょうが、もうこの暮れには消費物価は二七%をこえるのではないかと私は心配するのですよ。インフレはずっとこれからも持続していく、完全にスタグフレーションに入ってきておるのでしょう、不況下の中の物価高という最も好ましくない状態に入ってきておるのですよ。こういうときに低所得者層の救済ということを私は思い切って考えてもらわなくちゃいけないと思うのです。インフレはもう済んだ、物価は鎮静したということなら、いろいろ私たちの発想も変わってきますけれども、まだまだ物価は高騰が続いていくんでしょう。  こういう中で、去年二兆円減税した、可処分所得はこれだけあるということだけで、インフレの上昇率を全然無視しておって、ただそれだけを数字的に並べられていたのでは、私はどうも納得できない。だからむしろ、いまこの段階では過去の減税効果というものを非常に高い声で申されるよりか、いまのインフレ傾向というものを中心につかまえられて、そこから国民の生活実態、この生活実態の今日の水準が、一体過去あまりにも税というものの負担が高かったので、四十九年に二兆円減税でかなりの手直しをしてかろうじて維持されておるのだ、こういう受けとめ方をすることも私はできないことはないと思うのです。それに加えて、インフレは鎮静せずに依然として上昇過程にある、何とかしてこの分を調整していかなくちゃ国民の不安が増大をするのだ、ひとつこういうふうな観点に立っていただきたいと思って述べてみたのですが、なかなかあなたはかたい。  これはしかし、私が言っていることにも一つのやはり主張し得る側面があるというふうに御理解願わぬといけないと思うのです。そういう意見を全然考慮の中に入れずに税務行政あるいは税制をやっていくということは、私はいまの日本の社会では当を得ないという気が強くするものですから、その点を申し上げたわけです。  私は二番目に、もう時間がございませんので、もう一点だけお伺いしたいのです。  それは医師の特別優遇措置、必要経費七二%の問題なんですが、せんだって答申が出されました。私たちは税そのものが高い低いという議論の前提に不満があるわけですけれども、この不満の中には税が公平でない、不公平だ、こういう怒りというものがあるのです。それはさっきもあなたがお話しになりました特別措置の中にあるこの問題利子配当の問題、土地の分雛課税の問題、いろいろございますよ。私はこうした不公平の問題過去何回か指摘され、何回か議論されてきた事柄について放置しておかなければならぬ理由というものは今日の段階ではもう存在しない、こう思うのですよ。そういういろいろな国民の世論、動向というものを受けて今度は税調でああいう答申が出たのだと思うのですけれども、しかし、これもどうも私はすっきりしない、不明確なんです。だから、これによって税の不公平感が消えていったかというと、必ずしもそうじゃない。  七二%の問題法律でそれを制定していくというやり方、今度は特別に控除率を設けてやることが望ましいとかいわれておりますが、本来申告納税なんですから、必要経費は必要経費としてきちんと実質に計算をされて申請なさるのが税のあり方でしょうね。だけれども、いろいろな事務上非常に複雑であるとか、あるいは長い間料率との関係でこれでバランスがとられてきたんだという等々の歴史的なものもあったかもしれませんが、しかし、もう私はここまで来たらもっとはっきりと具体的に答申を出していただきたかったわけです。この答申で大きくいわれておる四点について、これから大蔵省は具体的な実際作業を求められておるんだと私は思うのですけれども、大蔵省がいわれている経費率五〇%程度が適当じゃないかということが、過去においてもいわれております。しかし、七二%を五〇%に下げると下げ幅がひどいから、かなり大きな議論を呼ぶんじゃないかというふうな意見も何となく聞こえるわけです。一体どのようにこの問題を措置しようとなさるのか、お考えをひとつ聞かせていただきたいと思います。
  17. 中橋敬次郎

    中橋説明員 社会保険診療報酬課税特例の問題は、昭和二十六年から二十九年ぐらいの間にでき上がった制度でございます。それで、それ以後わが所得税制の中にもかなりの制度の改変というのがございました。これが実はこの社会保険医の受け取ります診療報酬の問題にも非常に関係があるというふうに私は思っておりますし、そういう考えが基礎になってあの税制調査会の答申ができ上がっていると思います。いま山田委員がおっしゃいましたように、実際経費率はたとえばこれをかりに五〇としますれば、それは社会保険医が診療報酬を受け取りますけれども、これは薬価代とか雇い人費とかあるいは光熱費とかそういうもので、いわば右から左に出ていく金でございます。その残りは一体何かということになりますと、これは七二%の適用を受けておるお医者さんの実情を見れば、いわば自家労賃のかたまりと解釈せざるを得ないわけでございます。そのことは昭和二十九年においても同じでございましたし、今日でも同じでございます。これに対する所得税考え方というのは、私はこの二十年の間に少し変わってきておると思っております。  一つは、そういう自家労賃をその事業の中でそのまま課税するという体制から、法人成りという現象でもっていわば自家労賃を給与の形、事業主本人あるいは家族専従者の給与という形で分別して課税される道が実現をせられてきており、またそういう形が中小企業に多いことは御存じのとおりでございます。そういうことを受けまして、所得税の中でも、青色申告をもちろん条件にはいたしておりますけれども、家族専従者に対する給与というのを事業の所得と分別して課税をするということを採用してまいりました。しかもそれは昭和四十二年に至って、同種同等の企業から見て相当程度であれば限度なしに家族専従者の給与は認めるということになったわけでございます。  それからまた、昨年の改正におきまして、時限的ではございますが、あるいは青色申告を条件といたしておりますけれども、みなし法人制度というのが導入をされました。これによりまして、個人の事業主のいわば自家労賃の部分が分別して課税をされるという制度が導入されたわけでございます。  それから、ことしの所得税改正におきまして、従来給与所得控除につきましては厳密に頭打ちをとっておりましたが、ことしの改正からは、率の漸減ということはございますけれども、頭打ちはなくなりました。  この法人成りの傾向とそれから所得税におきますところの三つの改正というのを、医師の保険医の七二%の適用を受けておるいわば家族労働、お医者さん個人も含めましての家族労働でもってやっておる医師の所得というものを考える場合には考慮しなければならないのじゃないかと私は思っております。確かに七二とかりに実際経費を五〇としました差額二二は、いわばお医者さん個人あるいはそれを助けておる家族の労務に対する対価がそこに入っておるわけであります。これを分別して課税するためには、もちろん法人になればやれるわけでございますが、お医者さんには医療法人になるための条件がございます。すべてのお医者さんがこれを果たし得るというふうには思われません。それでは青色申告をとって家族専従者に対する給与を分別課税すればいいではないか。それも可能でございます。あるいはみなし法人制度を採用すれば、お医者さん個人のいわば自家労賃部分も分別して課税される道も可能でございます。  そこで、この答申は、そういう青色申告を条件としましたそういう自家労賃の課税というものを、社会保険医が社会保険診療報酬基金といういわば公的な機関に対してあれほど詳細な請求書を出し、その請求書は公的な機関において審査も受け保存もされておる、そういうようないわば社会保険診療報酬請求手続というのが非常に詳細をきわめ、複雑をきわめておるということと、それから国民皆保険といわれております社会保険機構の中に組み入れられておるその社会保険医というものの体制を考えまして、あえて青色申告といういま所得税の中にございます帳簿組織を備えなくても青色申告的な取り扱いを認めることによりまして、いわばある程度の自家労賃部分というものを分別して課税するような体制を類推適用することは可能ではないかということがこの答申の発想であると思っております。  そういうものを適用いたしました場合に、一体、社会保険医に対して、いわゆる右から左に出ております実際経費のほかに、どの程度の控除というものを行なえばいいのかという問題が出てくるわけでございます。それはもちろん答申にいわれておりますように、フラットなものではこれは合わないでありましょうし、収入階層に応じて逓減をするし、あるところではとまる必要があるのではないかということもいっております。そういう条件のもとにおいてでございますけれども、いま申し上げたようなものの考え方でもって特別控除をしてはどうかという考えであります。したがいまして、ただばくとした、いわばつまみで特別控除をやるという思想ではないと思っております。  それで、私どもといたしますれば、まず今後いろいろの資料を収集いたしまして、実際の経費率が一体どういうところが適当であるかという判断をしなければなりません。これは私ども税務では実際の調査はやっておりませんから、自由診療のお医者さんとかあるいは青色申告をしているお医者さんの申告状況その他を基礎に勉強しなければなりません。しかし、そのときには、収入階層とか診療科目別とかいうことについての差異はございますけれども、それはあの答申にも書いてございますように、そこまでいろいろこまかくやればかえって弊害があるので、概括的なものをきめなければならないでありましょう。そのときに、一体どの線が一番適当であるかということを検討しなければならないと思っております。   〔小委員長退席、三枝委員長代理着席〕  それからその次には、いま申しました特別控除率というものを先ほど来御説明しましたような思想で考えるならば、一体どういう収入階層についてはどのくらいの率が適当であって、一体それは現在の社会保険医の中でどのくらいの人がこれくらいの率に適応し、どれくらいの人がその次の逓減された率に適応するのか、どこら辺でその特別控除をストップさせるのがいいのか、こういう点を今後詰めまして、できますれば私どもは次の通常国会にはぜひともこの改正案を提出いたさなければならないと思っております。もちろんその前には新しい税制調査会にもおはかりをしまして、その結論を待って、いずれ可能でございますれば改正案として御審議を仰ぐことになっております。
  18. 山田耻目

    山田(耻)小委員 これで終わりますが、結局、五十年国会で片をつけたいということが前提ですね。問題は答申にいわれております実際の経費率、それに特別控除をプラスしたものが法定化されていく。そのつかみ方がなかなか困難だと私は思いますけれども、それらがますます税の不公平性というものを強めていかないように、そういう印象を与えないように可能な限り厳格に税の公平性を貫く、この立場で措置されるようにお願いしたいと思います。  非常に複雑な問題でありますだけに、これ以上この問題を進めることはこれで終わりまして、私の質問を終わります。
  19. 三枝三郎

    三枝委員長代理 増本一彦君。
  20. 増本一彦

    増本委員 先ほど主税局長の御説明があったわけですけれども、長期税制をここでもう一度見直しをしていく、その際租税負担率あり方一つの大きなポイントである、ここで欧米の例などもお引きになりまして、さらに租税負担率を引き上げていく、そういう方向をお話しになったわけです。  そのときに、何といってもいまの異常なインフレーション、物価のこの状況を無視して考えることはできないと思います。経済社会基本計画ではなるほど三ポイント租税負担率を引き上げていくということが指摘されていますけれども、あれは前提として年率四%程度消費物価上昇を見込んだ上での話になっているわけですね。今日のように対前年比で二〇%をこえる消費物価上昇という事態のもとで、ここでさらに租税負担率を引き上げていくということになりますと、これは国民にさらに大きな税負担あるいは税外負担を押しつけていくということにならざるを得ない。高福祉を目ざすということを言いながら、実際にはもういまでも福祉の土台そのものがこのインフレーションの中で非常に破壊されてきておる現状を見ますと、結局ますますそういう目標に対して逆行するものにならざるを得ない。  そこで、一体、長期税制を考える場合に、いま皆さんはその土台になる経済の見通しをどのように考えるのか。それはどういう土台に基づいて見通しが立てられるものなのか、その辺のところをまずもう少し御説明いただきたいと思います。
  21. 中橋敬次郎

    中橋説明員 長期税制という問題では、いま増本委員御指摘のように、経済社会基本計画におきまして、先ほど説明しましたような税及び税外負担で三ポイント上げるということでございますけれども、もちろんそれはこの計画に盛り込まれました諸元を前提といたしておることは申すまでもないと思います。   〔三枝委員長代理退席、小委員長着席〕 物価上昇がその当時予測されましたよりも非常に著しいものがある、あるいはその当時考えられておった経済成長についても何らかの調整が必要ではないかというふうにもいわれております。したがいまして、もちろん私は、ほかの諸元が動いておるのに税及び税外負担三ポイント、おそらくその中で国税が二ポイントぐらいを占めるのだろうと思いますが、それだけを取り上げてしゃにむに実行するということは考えておりません。そういう総合的、長期的な経済見通しのもとにおいて租税負担がいかにあるべきかというふうに考えなければならないと思っております。  ただ、わが国租税負担が長い間国民所得に対して二〇%前後でありました。それは欧米に比べてかなり低いことは御指摘のとおりでございます。それでやってこれたのは一体何かと考えてみますと、かつて試算をしたことがございますが、欧米諸国の軍事費と社会保障費とを除外いたしまして、わが国におきますそれに対応するものを除外いたしまして税負担というものを考えてみますと、ほとんど差異はないということでございます。ということは、幸いにいたしましてわが国は軍備の必要はございませんから、社会保障費をふやすに応じて租税負担率を高めていかなければならないことはもう明らかなことでございます。したがって、経済諸元がどのように変化するかということを考えながらも、やはり社会福祉をどのように進めていくかというテンポに応じて税負担率上昇ということも考えていかなければならないというふうに思います。これがやはり急速な上昇が必要であれば社会保険料なり税として急速に負担をしなければなりませんけれども、私はやはりこのテンポというのが非常に重要であると思います。したがいまして、社会保障の進め方、それをまかなう社会保険料の進め方、そして租税負担の進め方、これが今後の税負担率を考える問題だと思っております。
  22. 増本一彦

    増本委員 先ほど欧米諸国と日本との租税及び税外負担比率の数字が出されたわけですけれども、それから見ると日本が相対的には低いという指摘がされているわけですけれども、しかしそこで暮らしている国民経済実態を見てみますと、たとえばOECDが七月に発表した統計などを見ましても、日本が二四・七%の消費物価上昇率でほかの国が大体六%から十数%、高いイタリアで一八%くらい、こういう状態ですね。ですから日本は、そういう面ではきわ立って国民経済負担が高い。そういう状態のもとで租税負担率が若干相対的に低いというこのことだけでこれを欧米並みに引き上げていこうということは、そういう実質的な実体経済から見て欧米諸国とは比較にならないし、それを合理化することはできないというように思うわけですよ。  というのは、国民は結局、税負担税外負担で直接政府のほうに納める金のほかに、毎日の日常生活の中で必要とするものに対してほかの欧米諸国よりも余分に支出をしなければならないという点では、国民負担率そのものから見れば実質的には変わらない、そういう状況があるということだと思いますね。ですから、いまのこういう異常な経済実態のもとでは、この異常な物価の急騰という状況がほんとうにおさまって物価の安定がはかられるというこの土台を抜きにしては、租税負担率をあれこれするというようなことは不適当だ。言ってみれば、そういう検討の舞台や土台そのものが、現実のいまの日本にはないのではないか。  それにもかかわらず、この長期税制方向として租税負担率の問題を論議するということ自身が私は現実的にはきわめて問題があるのではないかと思いますけれども、その点で日本の経済を今後どういうようにしていくのか、どういう具体的な見通しを持っているのか、そこのところをもっとはっきり出して、そしてそれについての論議が具体的に先行して、そのための実体経済についての有効なかじとりが真剣に行なわれなければならないというように思うのですが、その点については政府はどうなんですか。
  23. 中橋敬次郎

    中橋説明員 私ども租税負担率の問題を先ほど長期的な問題として申し上げましたとおり、直ちにこれを欧米並みに引き上げるというようなことを言っておるわけじゃございません。もちろんその際に物価の動向というものも考えなければなりませんし、先ほどお答えしましたように、長期的な経済見通しにおける経済諸元がどういうふうに変動していくかということもあわせて考えなければならないわけでございます。  経済の見通し、一体わが国経済をどのように持っていくかということにつきましては、ちょっと私が答えるには不適当でございますけれども、税と関連いたしまして申し上げますならば、先ほど申しましたように、租税負担率というものは、私はひっきょう公経済分野の大きさを示すものであると思います。しかもそこで欧米と差異がありますのは、先ほど説明しましたように、軍事費と社会保障費であります。ですから、わが国におきまして今後社会保障を相当程度のスピードをもって進めるというのであれば、相当程度のスピードをもって租税負担率をふやさなければならないということは明らかでございます。ゆるやかに社会保障を進めるというのであれば、租税負担率上昇もゆるやかで可能でございます。もちろんその際に、先ほど来御説明いたしておりますように、社会保険料負担というものもからまってくるわけでございます。ですから、社会保障の分野を広げるという国民のコンセンサス、要望が強ければ、それはひっきょう租税負担率を高めてよろしいということがなければ、これは実現不可能でございます。そのことだけを長期的な問題として考えなければならないということで、今後の税制を考える場合にも、真剣に国民がこの問題を討議していただきたいという意味で私は御説明したのでございます。
  24. 増本一彦

    増本委員 そこで、租税負担率を高めていく、その上での問題として直間比率を見直していくという問題が提起をされたわけですが、その点については、一つは一般消費税をまないたの上に乗せてこれを検討していくということとのからみで問題は出されていると思います。そうすると、一つは日本のこれまでの租税制度の伝統が、言ってみれば直接税中心で進められてきたという点がありますね。それは逆にヨーロッパの場合には、間接税が昔から非常に大きなウエートを占めてきているという点があると思います。やはりこういう租税制度の成り立ちの違い、経過の違いというものを一がいに無視して、たとえば西ドイツが五対五だから、フランス、イタリアが逆に三対七だからということだけで、常に欧米先進国を模範にして直間比率の見直しをはかるということでは、実は日本の歴史的な経過や土台からいってもこれは非常に早計だし、短絡ではないか。  もう一つは、ここで間接税欧米諸国、特にEC諸国でウエートが高くなっているのは、たとえばイギリスにしてもイタリアにしてもECに加盟する際に付加価値税を導入しているという経過から直間比率が変わってきているという点もあるだろうと思うのです。そういうことになって、一般消費税ということで付加価値税的なものがこの際日本に導入されていく、それをまないたに乗せて検討していくということになると、この面ではやはり一そう物価上昇させて、そして物価安定とは全く逆の方向に行くことにもなりかねない。ですから、言うところの長期税制で皆さんが問題にされているそのポイントは、実は物価を安定させたりあるいは一般的な国民福祉をほんとうに向上させていくという目的とは逆のアプローチをむしろ進んでおやりになろうとしていることになるのではないか。このところをたいへん私は危惧するわけですけれども、その点についてはどういうようにお考えなんでしょうか。
  25. 中橋敬次郎

    中橋説明員 直接税、間接税比率の問題も、私は長期的な問題として御説明しましたとおり、早急にこの問題の改変が実施されるとは思っておりません。しかし、議論としましては、長期的な問題として取り上げなければならない問題と考えております。それは先ほども御説明しましたように、社会福祉分野を広げるならば、それに応じて租税負担というものもその率は上がらざるを得ないというふうに考えているからでございます。  これをまかなうために一体どういう税が適当であるか、この議論をまず国民全体としてしてみなければなりません。もちろんその次に、それはまずは特別措置の改廃でいいではないかといわれますけれども、その程度の金額ではまかなえないことは明らかでございます。所得税高額所得者に対する課税を強めればいいではないか。それもそんな大きな金額は予測できません。法人負担を求めればいいではないか。これも今回の法人税率の引き上げでほほ欧米並みになりましたから、そんなに大きな金額は期待できません。  一体、それではどこに社会保障をささえる財源を求めなければならないのかというのが大きな課題でございます。負担がいやならば社会保障の分野というのをそんなに拡大しなければよろしいのですけれども、ほんとうに高福祉ということを国民がコンセンサスとして要望いたしますならば、それをささえる財源というのはやはりみんなで考えてみなければならないわけでございます。そういう意味で私は短兵急な問題ではなしに、かなり長期な問題としてこの問題を取り上げてみなければならないということはかねがね言っておるところでございますし、これはまたあまり短い時間で論議ができることでもございませんから、長期的な問題として提起をいたしたわけでございます。  それから、わが国の従来の税制の歴史は一体直接税に重点があったか、間接税重点があったかということを考えてみますと、長い税制の歴史におきましては、むしろ私は間接税重点があったと考えております。ほぼこの二十五年間ぐらいがシャウプ税制にのっとって直接税に非常に重点を置いてきた。しかも、高度成長のもとにおいて所得税法人税の収入が上がったために、直接税にますます片寄ってきたということがありまして、長いわが国の歴史ではやはり間接税が非常に大きなウェートを占めてきたというのが事実でございます。  それから、欧米をながめてみましても、アメリカはもちろん直接税に非常にウエートを持っております。これはおそらくアメリカの建国の由来がこれをささえたんだと私は解しておりますが、ヨーロッパ諸国において間接税が非常にウエートを得たのは、御指摘のとおり、現在では付加価値税でございます。しかしこの付加価値税は、いまおっしゃいましたように、何も最近のECの加盟をめぐっての問題ではございません。これはわが国の直接税になったときよりももっとさかのぼりまして、実は第一次大戦前後の話でございます。あの当時に膨大なる歳出の需要をまかなうために、ヨーロッパの国々は多くいわゆる取引高税によったわけでございまして、その取引高税がだんだんと純化してまいって付加価値税の形をとったわけでございます。付加価値税そのものとしては最近の例でございますけれども、その基盤としては長い取引高税の歴史があったわけでございます。したがって、ヨーロッパにおきましても、やはり長いそういう伝統のもとに根ざした現在の税制であるというふうに思っております。
  26. 増本一彦

    増本委員 ですから、ヨーロッパの場合には、いろいろあった間接税を整理してくる。取引高税等をあなたもおっしゃるように純化して一本化するようになった。しかしそれは、具体的にそれを採用したそれぞれの国の実態を見てみますと、たとえば西ドイツは、財政当局はその移行が非常にうまくいったというように言っていますけれども、それでも消費物価がその時点で四%が六%くらいに上がったといわれていますし、イタリアやイギリスということになると、むしろ逆にインフレーションをそういう意味で非常に刺激して、物価上昇の非常に大きな要因になる。だから、今日のようにインフレーションが激化してとどまるところを知らない、それに対して打つ手がなかなかとり切れない。  こういう経済実態を見てみると、ここで安易に一般消費税をまないたにのせて、その採用のためのプロセスを考えていく、あるいはそのための移行を具体的に進めていくというようなことは、福祉の前提は何といっても物価の安定、経済の安定ですから、結局そういうものに逆行することになるのじゃないか。だからここ一番、もう一度付加価値税の導入その他の問題については、私はやはり再検討をすべきではないかという趣旨で申し上げているのですが、その点はどうでございますか。
  27. 中橋敬次郎

    中橋説明員 私は別にいま直ちに付加価値税を導入する、一般消費税を導入するということを言っておりません。しかし、長期的な問題としてこの論議は十分早い時期からやっておかなければならないということを申したわけでございます。  それから物価の点、確かにおっしゃるとおり、一般消費税を導入する場合に一番考えなければならぬ点だと思います。これはヨーロッパでもいっておりますけれども、本来この種の税と物価とは別問題でございます。おっしゃいますように、導入した国で物価が上がったということはございますけれども、税そのものを物価の中に一緒に考えるということは考え直さなければなりません。ただ、最も警戒すべきは便乗値上げでございます。ですから私は、この一般消費税の問題をこれから長期的な問題として議論をいたします場合にも、その必要性、テンポ、やり方とあわせまして、物価の動向というのも大きな検討課題であるというふうに思っております。
  28. 増本一彦

    増本委員 そこで、もう一つ法人税、特に大企業に対する課税の強化が問題になっていると思いますけれども先ほどのお話では、課税所得を拡大していくという問題が一つある、その一方で、もっと損金算入のワクをふやせという意見もあるので、その是非を検討することになっている、そういう趣旨の御説明でした。この点では、これはもう長い間国会でも議論されてきたことですが、課税所得を拡大していくという方向での検討は常に租税特別措置法を洗い直し、見直して具体的にやっていくんだというこれまでの御説明でした。この長期税制の中では、抜本的に租税特別措置を、特に課税所得を拡大していくという立場に立って前向きにほんとうに検討する、そういうことなのか、また、そうすべきであると思いますけれども、その点についての政府の考えはどうなんですか。
  29. 中橋敬次郎

    中橋説明員 私は先ほど申しましたいわゆる課税所得論につきましては、時限を限りました特別措置とは一応切り離して考えております。時限を切っております特別措置につきましては、これはむしろ短期的な問題でして、その時限がきます場合あるいはその前でも、よくその効果を判定し、それが慢性化しないようにということは、かねがね御指摘のとおりでございますし、私どももそういうふうに新しい目で常々見直していかなければならないというふうに考えております。もちろんそれもおっしゃるように、課税所得の計算に影響はするわけでございますけれども、ここで課税所得と申しましたのは、むしろもっと恒常的な制度にのっとった課税所得の大きさという意味で、これを欧米のそれと比較検討するということでございます。  たとえば、ある方面からは、わが国の固定資産税、特に償却資産に対する税金が非常に大きくなっておるということをいわれております。これはいわば法人税課税所得からいえば、課税所得を減殺する話でございますけれども、その負担というものが、法人税負担とからまっておるということであります。  それから、たとえば各種の引き当て金につきましても、これは当委員会で常々引き当て過大であるというおしかりを受けておりますが、また一方、納税者のほうからは、ある種のものにつきましては、引き当て金の新設でありますとか、その率の引き上げでありますとか、いわゆる引き当て不足であるという訴えが多くなされるわけでございます。こういうものも欧米のそれと比較検討いたしたいと思っております。  そして、まあここで課税所得といいますのは、かなり技術的にいわゆる会計的に考え得るものでございますから、むしろ欧米諸国とも非常に比較検討しやすいものという意味で課税所得を考えてまいりたいということでございまして、いわゆる租税特別措置につきましては、これとはむしろ別個に短期的な問題としてそれぞれの時期時期に十分検討してまいるつもりでございます。
  30. 増本一彦

    増本委員 租税特別措置の特に準備金制度というのは、これは企業会計原則から非常に乖離してきて、課税所得とそれから会計上の利益との間にも大きな開きが出てきている一つの原因になっているわけですよね。こういう制度というのはほかのところでは見られない制度ですし、そういう意味ではこの租税特別措置の特に準備金制度、それから引き当て金、これは本法に入っている部分については引き当ての限度、こういうものについてはやはり十分な検討をして、大企業がこれまでこういう点を利益隠しに大いに使ってきたわけですから、そういうものは特に抜本的な廃止の方向検討をされてしかるべきだと思うのです。  その点で六月期の決算申告所得を見てみましても、かなり石油化学を中心にして利益が伸びているという実際があるわけですね。それとの関係で、会社臨時特別税について、いま財界では特にこれを廃止しろという要求が強くなってきていますけれども、時限立法ですけれども政府のほうはこの臨時特別税はさらに存続をしていくのかどうか、この点についてはいかがですか。
  31. 中橋敬次郎

    中橋説明員 会社臨時特別税につきましては、その法律でもって定めておるように、二年間の存続期間を定めておられますし、またその途中におきましても状況を見直して、必要があれば二年以内であっても廃止をする措置を講じ得るという道も開かれております。私どもといたしますれば、この問題はいずれ年末までには一回論議税制調査会その他でやってみなければならないと思っております。  もちろん経済界の要望といたしますれば、最近のいわゆる不況色を強めてまいったという観点からは、この税金はぜひ早く廃止をしてほしいという要望があることも十分承知をいたしておりますし、また私どもといたしますれば、これからのわが国経済が一体どういうふうにこの下期から来年にかけて動いていくのか、その場合に、この年間約千七百億円ぐらいと言われております会社臨時特別税というものがどういうような効果を及ぼすのか、またこれを法人税の基本税と一体どういうような関係で考えていったらいいのかというような問題もあわせまして、今後税制調査会中心に討議いたしたいと思っております。
  32. 増本一彦

    増本委員 それから事務所事業所税の新設、これはもう私どももたいへん議論をしてきたところですが、こういうような新しい税の創設による企業課税、特に大企業に対する課税を強化していくということが当然議論にのぼるべきであるというように思いますが、この点についてはどのようにお考えなんですか。
  33. 中橋敬次郎

    中橋説明員 いわゆる事務所事業所税というものも一がいに申し上げるわけにまいりませんで、現在までのところ各省庁におきましていろいろな構想を持っておるようでございます。ある省では大都市財源確保するために特別に設けるということも考えておりますし、ある省ではむしろ大都市圏のいろいろな施設を講ずるための財源確保する道として考えておるようでございますし、また、ある省ではもう少し大都市と離れた地方中核都市的な施設を整備する必要からこれを考えておるというようなこともございます。一がいに申し上げられませんけれども、私ども税制の立場からいたしまして、この税はなお今後の検討を要する問題だと考えております。  といいますのは、一つには、ある特定の地域あるいはある特定の企業につきまして税負担を新たに求めようとするわけでございますけれども、一体それがどういう担税力を見出して課税するかという問題がございます。また、どういう目的でこの税を取るかという、先ほど申しましたようにいろいろな目的があるわけでございますから、どういう目的でこの税金を取るかということも考えてみなければなりません。それからいまの国税及び地方税を通じますところの租税体系の中で、こういった税が一体どういうような位置を占めるのかということも考えてみなければなりません。  いろいろ伝えられる各省の案でほぼ考えておられることは、いわば一種の事業税として構想せられておるようでございます。もちろんその課税標準としては固定資産税の価額をとりましたり、固定資産の面積をとりましたり、従業員の数をとりましたり、給与をとりましたり、いろいろな構想はあり得ますけれども、基本的には一種の事業税であると私は観念いたします。そうしましたときに、いま現在、地方税の中に事業税というかなりの税収をあげておる税が府県税としてございます。それとの関連を一体どういうふうに考えたらいいのか。あるいはまた、固定資産税もそういった意味ではかなり事業にかかっておる税金でございますけれども、そういうものとの関連を一体どういうふうに考えていったらいいのか、税制としていろいろ考えなければならない問題を含んでおると思います。  そういった問題がおそらくは、過去三年間いろいろ各省から議論が出されましたけれども、なかなか実現の日の目を見ないという理由であると思いますけれども、いずれはこの問題は税制調査会でも議論をされると思います。当面、一体これが国税分野なのか地方税の分野なのかということすらもまだきまっておりません。税制調査会での議論で私どももいろいろ御検討願いたいと思っております。
  34. 増本一彦

    増本委員 それから短期税制というか、当面の税制の問題に入りますけれども、この前の国会でも問題にしてきた受け取り配当の益金不算入を改善しろ、それから利子配当所得に対する特別措置もやめるべきだ、また、土地税制についてもむしろ重課の方向検討をすべきだということを私どもは主張してきましたけれども、この問題については来年度税制の中でどのように扱うつもりですか。
  35. 中橋敬次郎

    中橋説明員 いま御指摘の中の配当の益金不算入の問題というのは、実は私ども先ほど説明しました中での長期的な問題と考えておりまして、これはやはりこれだけを取り上げるわけにはまいらないと思っております。やはり法人におきましての利益の課税、それから支払われる配当をどういうふうに課税していったらいいのか、受け取り側で、これが一体個人の段階でどういうふうに課税したらいいのか、法人の段階でどういうふうに課税したらいいのか、一括して検討いたしたいというふうに思っております。  それから、第二の御指摘の点の利子配当の問題土地税制の問題というものは、御指摘のように非常に重要な問題でございます。私どもはいまここに何らの予断も持っておりません。もちろん、従来からこれを廃止して総合課税の線に持っていくべきであるというような御議論があることも十分よく知っております。それからまた、この税制が特別に設けられた経緯というものも承知をいたしております。それらを彼此勘案いたしまして、やはりこれは喫緊の問題として税制調査会で御議論をいただかなければなりませんし、いずれその問題として当委員会の御議論も仰がなければならないと思っております。
  36. 増本一彦

    増本委員 相続税ですけれども都市近郊の農業の問題、それから中小企業の営業資産、それからまた勤労者の居住用資産に対してたいへん高額な相続税がかかるようになってきている。特に農業の場合には、私の調べたところでも、私は神奈川県ですけれども、たとえばわずか二町歩ぐらいですでに二億円をこえるような相続税を払わなくちゃならないというような人がかなり出てきているのですね。これでは農業はますます縮小して、二代ぐらいで農地そのものが完全になくなってしまうというような事態にまでいまなってきているというように思われるわけです。  こういうような点を考えてみますと、しかも相続税が資産税であるという点を見まして、やはり一つは、それぞれ必要な、たとえば農業なら最小限農業に必要な農地、これは平均すると北海道では三町歩以上になるでしょうし、本土でも二町歩あるいはそれをこえるかもしれません、そういうようなものには相続税がかからない。あるいは居住用資産とか営業用資産で必要な一定範囲のもの、たとえば居住用資産でいえば百坪ぐらいの土地と五十坪ぐらいの建物などについては、これはむしろ非課税財産として相続財産の課税財産から取り除いてしまうというようなことを含めた抜本的な対策が必要ではないか。  それからもう一つは、特に時価主義、時価評価をたてまえとしてとっているところから、農業用資産については、結局農業所得との間に非常にとてつもない法外な隔たりができて、そこから相続税が非常に重くなっているという現状を見ますと、そういう農業を守っていくというようなたてまえからすれば、あるいは営業用資産あるいは居住用資産の一定規模のものについても、そういう時価評価に対して一定のそれは別ワクにして、もっと現実に合った評価というものを考えるようにすべきではないか。そういうような手だてがいまの相続税との関連では非常に問題になっている。  伝え聞くところによりますと、政府のほうは課税最低限をいまの一千八百万から三千万ぐらいに引き上げるというようなところだけしかお考えになっていないようですけれども、これでは現実には相続税に苦しんでいるこういう日本の経済の一番中心で、下でささえている人たちの利益を守っていくということにはならないというような点を考えますと、いま申し上げたような点まで含んだ抜本的な手だてをとるべきであるというように思いますが、その点について政府はどのようにお考えになっているのか伺いたいと思います。
  37. 中橋敬次郎

    中橋説明員 相続税につきましては、先ほど説明いたしましたように、当面の問題として解決を迫られておるものがあると思っております。その際、いま御指摘のように、ある種の財産につきまして一種の物的な課税最低限というようなものを設けるということは、これは相続税の性格から申しましてきわめて困難であろうと思います。いろいろな形態の財産というのが相続税課税財産にあるわけでございますが、その中で特別の種類の資産を持っておるものだけにつきまして特別の課税除外を行なうということは、これはやはり相続税が遺産そのものを考えておることからいいましてむずかしいと思います。やはり共通の尺度とすれば、何といいましてもこれを金銭で評価したところで、その財産価格について相続税がかかるということが筋ではなかろうかというふうに思っております。もちろん現在の課税最低限は、最近の事情から見ましてかなり引き上げなければならないことは明らかでございますし、場合によれば税率論議対象にしていただかなければならないとも思っております。  ただ、その場合に、いまおっしゃいましたように、一番むずかしい問題は農地でございます。増本委員のおくにのほうでは、まさにもういまや都市近郊になっておる農地が大部分であると思いますから、おっしゃいましたように、二町歩持っておって二億円ぐらいの評価が行なわれておるところがあるかもしれません。それは一体どういうことかということなんでございますけれども、現実にたとえば都市の近郊、大都市圏内におきますところの農地というのは、かなりの価格で処分されておるわけでございます。相続財産の評価を一体何でやったらいいのかというむずかしい問題がありますけれども、やはり一番簡明、客観的なのは、その処分価格を推定いたしまして、それによって評価をするのが一番いい方法であると思います。相続税がかかります財産というのは、やはり処分をしたときには一体どのくらいの価値があるのかということをめどに課税をすべきでございますから、農地といえどもやはりそういった評価で行なうべきではないかと思います。  現実にいま農業を営んでいる農地でございますけれども、それが売られましたときには一体どれくらいの金額になるのかということでございます。もちろん、その土地については予測をすることはむずかしいわけですが、近傍類地の実際に売買が行なわれておるその価格、しかもそれを非常にかた目にとりまして、さらにまた相当のしんしゃくをしまして現在評価をしているのが実情でございます。しかし、何といいましても土地価格上昇、特に農地が現実には宅地含みの価格で売られておる。その価格が非常に高いものでありますから、かなりのしんしゃくをいたしましても、いまおっしゃられるような数字になるかもしれません。  農家といいましても、そこにはもはやいわゆる農業という事業を営んでおるというだけでありませんで、かなり広大な土地を持っておる土地の所有者であるという地位も兼ねておるわけでございます。そういうものを一体ある程度規模を想定して課税除外をしていいのかという問題があります。都市に住んでおる人たちから見れば、やはりその農家の人たちの持っておる土地の財産価格というのはかなり高いという感じを持っております。そういうものを課税除外することが、はたして相続税の公平感という観点からよろしいかどうかというのが非常にむずかしい論議の的でございます。  もちろん、都市の中におきますところの中小企業の事業用地、居住用地、サラリーマンの居住用地そのものも非常に高くなっております。しかし、それはやはり課税最低限の引き上げでもってまかなわなければならない問題ではないかと思います。農地だけを特に、あるいは中小企業のある一定の規模だけを特に課税を除外するということは、冒頭に申し上げましたように、相続税が総体財産についてかかるものであるということからいえばとり得ない道でございますから、やはり現実の売買実例に相当のしんしゃくを加えた現在の評価制度というものをそのまま引き継ぎをしなければならない。  その上で、課税最低限をどのようにしたらいいのか、また被相続人の中で一体どの程度の人の数が相続税課税されて適当であるかどうか。たとえば、四十一年には百人の被相続人の中で一・四人課税を受けておりました。ところが、四十七年には四・四人になっております、やはり財産価格が上がったものですから。必ずしも昔に返る必要もございませんけれども、その中で一体どの程度相続人課税ということを想定したらいいのかというようなめどから、やはりこの問題はアプローチをしてまいらなければなりません。特に農地なら農地につきまして特別のしんしゃくをするということは、非常にむずかしい問題だと現在考えております。
  38. 増本一彦

    増本委員 これらの農地にしても、あるいは中小企業の営業用の一定の規模の資産とかあるいは勤労者の居住用資産にしても、こういうようなものはそれがたとえば売られて譲渡益が実現したというようなときに、いまは土地の譲渡益の課税は非常に低いですけれども、その時点で重課をするとかということで、現実にまだそれが使用されている段階では、たとえば農業所得というのは非常に低いですし、勤労者の居住用資産だって、結局現実の受益というのは地代とか家賃の相当額ですよね。だから、それが現実に売買されたときに調整すれば済むことで、単にそれをそのまま引き継いだときに高額な課税をするという根拠というのは私はないというように思うのです。ですから、そこの辺のところを、譲渡益課税を重課していくということとあわせて十分な検討をすべきではないかというように私は思います。  それでは時間もありませんので、最後所得税減税について、先ほど山田委員のほうからだいぶ詳しい論議がありましたけれども、私が一点申し上げたいのは、昨年度の課税最低限から今年度の課税最低限への引き上げ率を見てみますと、これは一・二五五ですよね。つまり二五・五%ぐらいしか上がっていない。つまり、百十二万一千円が百五十万七千円になったわけですからね。いまの物価上昇率がそのまま結局スライドしただけであって、勤労者にとっては実質的な減税の効果はなかったんじゃないか。だから、この所得税法の改正案が七十二国会で問題になったときに、実は私は総理にそのことを指摘して、物価上昇に見合って年内減税も含めてこれはまた検討をするという、そういう答弁を引き出したりもしたわけですけれども、そういう点を考えて来年度の物価上昇の見込みなど見てみますと、どうしてもやはりここで大幅な所得税減税を特に勤労者、低所得者中心にやらなければならない、これは経済的なあるいは国民生活上の要請があるというように私は思うのです。  それにもかかわらず、かなりかたい御答弁でありましたけれども、この所得税減税を、私はほんとうにもう一度年内減税を含めて検討されてしかるべきだというように思いますが、この点についての政府のお考えをいま一度お伺いしたいと思います。
  39. 中橋敬次郎

    中橋説明員 先ほどもるる山田委員の御質問にお答えをしましたのですが、夫婦子供二人給与所得者課税最低限は、百十二万一千円から四十九年には百五十万七千円になったわけでございまして、三四・四%伸びたことは先ほど申し上げたとおりでございます。いままた数字と数字の比較で恐縮でございますけれども消費物価は現在では約二五%ぐらい昨年に比べて上昇しておるということでございまするから、この点からいいまして、私どもは本年度の当初の大減税の効果というものはかなりであった。したがって、先ほども数字をあげて御説明をしましたけれども、可処分所得を比較いたしましても三割程度伸びておるということでありますから、物価上昇という七のを幸いにしましてかなり上回っておるというのが現状でありますので、年内減税というようなことは考えておりません。
  40. 増本一彦

    増本委員 終わります。
  41. 松本十郎

    松本委員長 本日は、これにて散会いたします。    午後零時五十九分散会