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1974-09-03 第73回国会 衆議院 大蔵委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年八月一日(木曜日)委員長の指名で、 次の通り小委員及び小委員長を選任した。     税制及び税の執行に関する小委員       栗原 祐幸君   小宮山重四郎君       三枝 三郎君    野田  毅君       坊  秀男君    松本 十郎君       村岡 兼造君    山下 元利君       佐藤 観樹君    武藤 山治君       村山 喜一君    増本 一彦君       広沢 直樹君    竹本 孫一君     税制及び税の執行に関する小委員長                 松本 十郎君     金融及び証券に関する小委員       伊藤宗一郎君    宇野 宗佑君       金子 一平君    中川 一郎君       萩原 幸雄君    村岡 兼造君       村山 達雄君    森  美秀君       広瀬 秀吉君    山田 耻目君       山中 吾郎君    荒木  宏君       広沢 直樹君    竹本 孫一君     金融及び証券に関する小委員長                 森  美秀君     財政制度に関する小委員       大西 正男君    奥田 敬和君       鴨田 宗一君    小泉純一郎君      小宮山重四郎君    塩谷 一夫君       浜田 幸一君    山本 幸雄君       高沢 寅男君    塚田 庄平君       松浦 利尚君    小林 政子君       正木 良明君    内海  清君     財政制度に関する小委員長                 浜田 幸一君 ————————————————————— 昭和四十九年九月三日(火曜日)     午前十時三十八分開議  出席委員    委員長 安倍晋太郎君    理事 浜田 幸一君 理事 松本 十郎君    理事 村山 達雄君 理事 森  美秀君    理事 山本 幸雄君 理事 阿部 助哉君    難事 山田 耻目君 理事 増本 一彦君       宇野 宗佑君    奥田 敬和君       小泉純一郎君   小宮山重四郎君       三枝 三郎君    塩谷 一夫君       中川 一郎君    野田  毅君       坊  秀男君    村岡 兼造君       山下 元利君    佐藤 観樹君       高沢 寅男君    塚田 庄平君       武藤 山治君    村山 喜一君       山中 吾郎君    荒木  宏君       小林 政子君    広沢 直樹君       竹本 孫一君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 大平 正芳君  委員外出席者         経済企画庁調整         局調整課長   田中誠一郎君         外務省経済協力         局長      鹿取 泰衛君         大蔵政務次官  大野  明君         大蔵事務次官  高木 文雄君         大蔵省財務官  吉田太郎一君         大蔵大臣官房長 松川 道哉君         大蔵大臣官房審         議官      岩瀬 義郎君         大蔵省主計局長 竹内 道雄君         大蔵省主計局次         長       辻  敬一君         大蔵省主税局長 中橋敬次郎君         大蔵省関税局長 吉田冨士雄君         大蔵省理財局長 吉瀬 維哉君         大蔵省証券局長 田辺 博通君         大蔵省銀行局長 高橋 英明君         大蔵省国際金融         局長      大倉 真隆君         国税庁次長   磯辺 律男君         通商産業省産業         政策局物価対策         課長      黒田 明雄君         中小企業庁計画         部長      吉川 佐吉君         大蔵委員会調査         室長      末松 経正君     ————————————— 七月三十一日  一、銀行法の一部を改正する法律案広瀬秀吉   君外九名提出、第七十一回国会衆法第四一   号)  二、昭和四十九年分の所得税臨時特例に関す   る法律案武藤山治君外五名提出、第七十二   回国会衆法第七号)  三、所得税法の一部を改正する法律案山田耻   目君外三名提出、第七十二回国会衆法第八   号)  四、臨時資産税法案村上弘君外三名提出、第   七十二回国会衆法第一三号)  五、国家公務員共済組合法等の一部を改正する   法律案武藤山治君外六名提出、第七十二回   国会衆法第二五号)  六、公共企業体職員等共済組合法等の一部を改   する法律案武藤山治君外六名提出、第七十   二回国会衆法第二六号)  七、国の会計に関する件  八、税制に関する件  九、関税に関する件  一〇、金融に関する件  一一、証券取引に関する件  一二、外国為替に関する件  一三、国有財産に関する件  一四、専売事業に関する件  一五、印刷事業に関する件  一六、造幣事業に関する件 の閉会中審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国の会計税制金融に関する件(財政金融の  基本施策)      ————◇—————
  2. 安倍晋太郎

    安倍委員長 これより会議を開きます。  国の会計税制及び金融に関する件について調査を進めます。  この際、大平大蔵大臣より財政金融基本施策について所信説明を求めます。大平大蔵大臣
  3. 大平正芳

    大平国務大臣 先般私は、はからずも大蔵大臣を拝命いたしました。  わが国経済内外にわたってきびしい試練に直面しておる今日、財政金融政策運営の任に当たる職責の重大さをひしひしと痛感いたしております。微力ながら自重自戒し、政策運営に誤りなきを期してまいる所存でございます。この機会に、現下内外経済情勢並びに財政金融政策につきまして私の所信の一端を申し述べ、皆さまの御理解と御協力を得たいと存じます。  わが国をめぐる内外環境が近年急速に変化してきたことはっとに指摘されてきたところであります。特に昨年来の石油危機とそれに続く著しい物価高騰は、わが国経済をめぐる国際環境のきびしさを如実に示したものでありました。  近年来、ドルを軸とする世界通貨秩序の動揺、第三世界の台頭、東西間の緊張緩和等のため国際経済が果てしなく多極化し、通貨資源、通商、経済協力等分野に種々困難かつ複雑な問題が時を同じゅうして出てまいりました。かくして世界経済はいよいよ混迷の度を深め、世界的規模を持つインフレの高進と相まって、事態はますます深刻になってきております。  申すまでもなく、わが国の直面する資源問題、国際収支問題の困難さは、世界経済相互依存の網目の中にわが国経済がいかに深く組み込まれているかを示すものであります。  現下の最重要問題である物価問題も、もとより国内的な諸要因をかかえておりますけれども、国際的な要因もまた無視できないものがあります。また、これらの問題に加え、環境の汚染、破壊の問題も近年深刻の度を増しつつあります。  われわれは、このような諸問題の発生によって、これまでのわが国の目ざましい経済発展背景にあったきわめて恵まれた諸条件が大きく変化してきた現実を直視しなければならないと考えております。  このような物的側面に加えて、わが国では、過去の高い成長の過程で、ややもすると問題の解決にあたって安易な道を選びがちな風潮が生まれました。そのことは、幸か不幸か、恵まれた環境のゆえにさして問題となることなく、むしろ経済活動国民生活、さらには国民精神にまでこうした風潮が定着しつつあるかに感ぜられます。  しかしながら、今後のきびしい環境への適応過程にあってわれわれに強く求められているのは、このような安易な態度を捨てて、自制精神と節度ある態度を持することであると思います。  また、世界的な資源有限性が唱えられ、同時に資源が著しく高価なものになってきた今日、国民の一人一人が資源を大切にすることの重要性を真に理解し、これを着実に実行に移す努力が必要であると思います。生産活動及び消費生活のあらゆる分野にわたって使い捨てや乱費の風潮に終止符を打ち、物の持つ価値を最大限に引き出すことが肝要であると考えます。  以上申し述べたような環境変化に対応して、経済政策の究極の目標である国民福祉充実を達成するために、現在まずなさねばならないことは、経済の安定を回復し人心落ちつきを取り戻すことであります。  このため、政府は、当面の経済運営にあたって、まず国民の最大の関心事である物価の安定を第一の政策目標とし、強い決意をもってその達成をはかっておりますことは御承知のとおりであります。  最近の物価の動向を見ると、昨年来進められてまいりました総需要抑制策の効果が逐次浸透し、狂乱といわれた物価はようやく鎮静化の傾向を見せております。本年初めまでは、わが国物価上昇は、主要先進国のそれを上回っておったのでありますが、春以降は、諸外国に比してもかなり落ちつきを示しているものと考えられます。  しかしながら、今後は原油価格上昇に端を発するエネルギー及び基礎資材価格上昇や、春闘における賃金大幅上昇等コスト上昇要因波及的影響懸念されるのであります。また、消費支出設備投資など需要動きには、なお先行き根強い増勢をうかがわせるものもあるのであります。  このような情勢のもとにおいては、コスト上昇が安易に価格に転嫁されるような事態や、総需要の急速な拡大により再び需給の均衡を失するような事態は何としても避ける必要があります。そのためには現在の総需要抑制策を堅持することが基本でなければなりません。  したがって、金融政策運営にあたっては現在の引き締めを堅持するとともに、公共投資についても抑制の方針を貫いてまいることは当然であると考えております。  なお、わが国産業国際競争力懸念されている現状に加えて、従来ほどには生産性の向上がはかりがたい状況のもとで最も憂慮されておる問題は、賃金上昇物価上昇との悪循環であります。この問題については、私は、まず、物価の安定に全力投球し、その実をあげつつ、国民各層に広く理解を求め節度ある行動をとられるよう要請してまいりたいと考えております。  物価の問題と並んで重要な問題は国際収支であります。  国際通貨情勢は石油問題が生じて以来きわめて流動的な状態を続けております。この間にあってエネルギーの大半を輸入原油に依存するわが国国際収支は、四十八年度においてかってない大幅な赤字を記録いたしました。その後、資本流入規制緩和流出促進策の手直しによって、長期資本収支は相当の改善を見ております。また、最近に至り、総需要抑制策の浸透もあって貿易収支面にも好転のきざしがあらわれております。しかしながら、情勢はなお流動的で、不断の注意が必要であり、引き続き国際収支改善のためには、一そうのくふうと努力を傾ける必要があります。  もとより、国際協調をその存立の基盤とするわが国としては、自国の国際収支改善が、他国の経済に新たな負担をもたらすようなことは極力避けなければなりません。したがって、節度と国際協調精神のもとに着実に国際収支改善をはかることが、わが国のとるべき基本的態度であると考えます。  以上申し上げましたように、わが国はいま、きびしい内外環境のもとで経済運営に細心の配慮を求められる局面を迎えております。  この中にあって、物価の安定、国際収支均衡をはかりつつ国民福祉充実を達成していくことは容易ならざる課題であります。  顧みますと、過去の目ざましい経済発展もその過程は決して平たんなものではなく、国民の旺盛な活力とたゆまざる努力によって多くの困難を克服した後に初めて達成されたものであったのであります。  国民がみずからの活力に自信を持ち、新たな環境適応すべく、勇気をもってその豊かな資質を発揮していくならば、当面する困難を克服することは必ずや可能であると確信いたします。  われわれは、あせることなく、一歩一歩慎重に進路を見定め着実に問題を解決していかねばなりません。  私は全力を尽くし、まず第一歩である経済の安定の実現につとめ、もって真に充実した国民生活基盤を確立してまいりたいと存じます。  皆さまの御理解と御協力を切にお願いいたす次第であります。
  4. 安倍晋太郎

    安倍委員長 次に、先般新たに就任されました大野大蔵政務次官及び高木事務次官等よりそれぞれ発言を求められておりますので、順次これを許します。大野大蔵政務次官
  5. 大野明

    大野説明員 先般政務次官を拝命いたしました大野でございます。およそ若輩者でございますが、一生懸命がんばりますのでよろしくお願い申し上げます。
  6. 安倍晋太郎

  7. 高木文雄

    高木説明員 過日大蔵事務次官を拝命いたしました。当委員会におきましては、主税局担当審議官のころから合計五年間にわたりまして政府委員としてたいへんお世話になりました。これからまた非常にむずかしい時期でございますので一生懸命やりたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
  8. 安倍晋太郎

  9. 吉田太郎一

    吉田(太)説明員 同じく六月、財務官を拝命いたしました。銀行局長に二年間にわたりまして在職いたしました間にいろいろ御指導あるいは御鞭撻を賜わり、まことにありがとうございました。この機会に、はなはだ略儀でございますが、厚く御礼申し上げます。今後とも何かとよろしくお願いいたします。
  10. 安倍晋太郎

  11. 松川道哉

    松川説明員 同じく新たに官房長を拝命いたしました松川でございます。当委員会との御連絡その他、私の新たな職責にベストを尽くすつもりでございますので、諸先生方の御指導をよろしくお願いいたしたいと思います。
  12. 安倍晋太郎

  13. 竹内道雄

    竹内説明員 主計局長を拝命いたしました竹内でございます。よろしくお願いいたします。
  14. 安倍晋太郎

  15. 中橋敬次郎

    中橋説明員 主税局長を拝命いたしました中橋でございます。よろしくお願いいたします。
  16. 安倍晋太郎

  17. 吉田冨士雄

    吉田(冨)説明員 関税局長を拝命いたしました吉田でございます。よろしくお願いいたします。
  18. 安倍晋太郎

  19. 吉瀬維哉

    吉瀬説明員 理財局長を拝命いたしました吉瀬でございます。よろしくお願いいたします。
  20. 安倍晋太郎

  21. 田辺博通

    田辺説明員 証券局長を拝命いたしました田辺でございます。よろしくお願いいたします。
  22. 安倍晋太郎

  23. 高橋英明

    高橋説明員 銀行局長を拝命いたしました高橋でございます。よろしくお願いいたします。
  24. 安倍晋太郎

  25. 大倉真隆

    大倉説明員 国際金融局長を拝命いたしました大倉でございます。主税局時代たいへんお世話になりましてありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
  26. 安倍晋太郎

  27. 磯辺律男

    磯辺説明員 国税庁次長を拝命いたしました磯辺でございます。よろしく御指導のほどお願いいたします。
  28. 安倍晋太郎

    安倍委員長 これより質疑に入ります。  質疑の通告がありますので、順次これを許します。松本十郎君。
  29. 松本十郎

    松本(十)委員 ただいま大平大蔵大臣所信表明を伺っておりまして、最近の日本経済内外ともに大きく環境が変化した、特に国内では物価高騰に基づく問題、また国際的には資源国際通貨あるいは通商等いろいろな問題が出てきた、そういう背景のもとでこれに対応するためには、やはり財政経済運営にあたってまず物価の安定、次には国際収支改善、これを当面の課題目標としながらやっていくんだというふうなお話でございましたが、まさにそのとおりだと思うわけでございます。  そこで、きょうはまず物価の問題からお伺いしたいと思うのでございますが、新聞がけさ報じておりますように、きょうから米価審議会が開かれまして消費者米価審議される、しかも政府諮問案は、当初いろいろの議論があったようでありますが、三六%のアップという戦後一時の混乱期を除いては例を見ないような大幅な上昇案政府から諮問されておる。今後の審議会過程で、一方では消費者米価の心理的な影響の大きいこと、主食であるがゆえに物価体系の中におけるウエートの高さというふうなものを考えまして、これからたいへんだな、こういう印象を持つわけでございますが、こういう一方では、食管会計逆ざや解消赤字解消ということもまた財政的な見地からは大事でありましょうし、その辺今後の審議を待って、また党の意見も加わってきまることだと思うのでございます。  こういうふうな大幅な上昇案を諮問せざるを得なかった原因は、やはり過般にきまりました生産者米価の三七・四%という大幅な上昇にあったと考えるわけでございまして、ある意味では、これは大平大臣大臣就任後初めて決断された一つの大きな問題だと思うのでありますが、この三七・四%というものはどのような根拠できまったものであり、それに対してまた、大蔵大臣財政担当責任者としてどのような感触をお持ちか、まず伺っておきたいと思います。
  30. 大平正芳

    大平国務大臣 生産者米価は過去据え置きをお願いいたしておったのでございますけれども、昨年から若干の引き上げをいたしたと承知いたしておるわけでございます。それで、去年からことしにかけましての異常な物価状況を反映し、農家生産労働に対する対価というものをどのように見るべきかというような点につきましていろいろ検討を重ねたわけでございますけれども、われわれといたしましては、基本米価として三二・二%を適当であると判断いたしたわけでございます。三七・四%というものと基本米価との差額につきましては、今日異常な事態でございますので、これを基本米価として取り扱うことなく、本年度の一般会計において処理するということをいたしたわけでございまして、周囲の状況から判断いたしまして、農家経済の実情を見まして、やむを得ない改定であったと私は思っております。
  31. 松本十郎

    松本(十)委員 三七・四%の内訳の説明はございましたが、すでにこれはその当時いろいろ論議されましたので、あえて数字的なこまかな点については追及する気持ちはございません。しかし、ずばり申しまして、ややイージーゴーイングに過ぎたのではないかという感触を少なくとも私は持っております。大臣所信表明の中で、従来の問題の解決のしかたにともすれば安易な道を選びがちな風潮が生まれた、今後はきびしい環境への適応過程において安易な態度を捨てて、自制精神と節度ある態度を持することが大事だと思う、こう言っておられます。今後、予算の編成あるいは金融政策の遂行、その他物価賃金問題、いろいろ一山二山と大問題が出てくると思うのでございますが、ひとつ初志を貫徹されまして、生産者米価については済んだことでございますから、これ以上は申しません。しかし、どうしても安易な道を捨ててきびしい態度でいかれなければ、これからの日本経済は中期的に見ても長い目で見てもたいへんだと思うので、まずこの点について特に指摘をしておきたいと思うわけであります。  そして、そういうこととあわせまして、十月からは鉄道料金が半年の据え置きを終わって上昇するわけであります。最近はまたガス料金が上がった、あるいは交通体系の私鉄も上がった、あるいはバス、トラック、タクシーについても上がる、公共的な料金がメジロ押しに上がろうとしておりますし、さらにまた巷間伝わるところによれば、郵便料金、さらには電信電話料金、これも大幅な引き上げをしなければどうにもならないというふうなことが報じられておるわけでございまして、そういったものを踏まえまして、大蔵大臣としてこれからの物価動きについてどういう見通しを持っておられるか、そして、政府がある程度かじをとることができる公共料金に対しまして、どのような態度でこれに対処しようとされますか、これについて伺いたいと思います。
  32. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほどの所信表明でも申し上げましたように、いまの第一の任務は、御指摘のように、物価鎮静化人心落ちつきを取り戻すということであると思います。したがいまして、何としても物価を鎮静させるということに力点を置いた政策の立案、運営が私どもに求められておると思います。御指摘のとおりでございます。  その場合、政府が関与いたしておりまする公共料金あるいは米価その他の取り扱いでございますけれども松本委員も御承知のように、政府が関与をいたしておりまする公共料金一般物価水準よりも長く低位に鋭意押えてきたわけでございまして、事情が許せばそういう態度を終始とってまいりたいことはやまやまでございます。しかし不当にこれを押えてまいりますと、その後遺症は将来にわたって国民に害悪を及ぼしかねない懸念もございますので、必要最小限度是正というものは考えなくてはならないということでございます。すなわち、物価鎮静化をはかることが第一の政策目標でございますけれども最小限度是正はやむを得ない、またそうすることが国民のためになると私どもは考えておるわけでございます。  そういうことを踏まえて、そういうことを実現しながら物価鎮静化をはかってまいる目安はどうかということでございますが、いまごあいさつにも申し上げましたように、去年の秋からことしの春にかけましての狂乱的な状態におきましては、先進諸国と比べましても、わが国卸売り物価消費者物価上げ足は顕著なものがありましたことは非常に残念なことでございます。しかしながら、その後三月から夏にかけましてようやく鎮静化のきざしが出てまいりまして、その足取りは、ドイツを除きまして他の先進諸国に比べて、私はやや健全な足取りを見せておるよりに思うわけでございます。したがって、公共料金の若干の是正を勘定に入れて、私ども先進国には劣らないだけの物価鎮静化を実現しなければならぬと考えておりますし、それはまたわれわれが一生懸命に努力いたしますならば、不可能な目標ではないと考えておるわけでございます。これは今後の政府施策を御監視いただきまして、激励を賜わりたいところでございます。
  33. 松本十郎

    松本(十)委員 昨年の暮れから燃え盛りましたいわゆる狂乱物価というものは、福田大臣の総需要抑制という、予算の圧縮あるいは金融引き締め消費の節約、貯蓄の奨励、こういったもので国民協力等を得ながらある程度成功して、二月下旬ごろからようやく卸売り物価上昇率がスローダウンいたしまして、三、四、五月と続いたかに思うわけでございますが、六月に入りましてからはこのカーブがまた上向いてきた。さらに為替レートの変更と申しましょうか、相場の変動等がございまして輸入物資がそれだけ値上がりすること等も反映して、七月、八月等はまたかなり大幅に上がってきたのではないか「さらに米価引き上げその他が響いてまいりまして、これから先、一応おさまりかけた物価がもう一回再燃するのではないか、こういう懸念国民一般が広く持っているわけでございます。  そういうことにつきまして、絶対に狂乱物価再現はない、またさせない、こういうことをひとつ大蔵大臣からはっきり明言してもらえればみんな安心するわけでございますが、その辺のところはいかがでございましょう。
  34. 大平正芳

    大平国務大臣 狂乱物価再現はおろか、諸外国に比較いたしまして見劣りのするような物価政策をやってはならぬと考えておりますし、私は、それはわれわれの努力国民の御理解をいただくことによって不可能でないと考えております。
  35. 松本十郎

    松本(十)委員 もちろん政府側努力も必要であります。国民理解も必要でありましょうが、何としましても国民に、政府は何をしようとしており、それに対してここまでやってくれるという信頼感があって初めて協力が得られるわけでございまして、努力してやるんだという意気込みだけでは、これまでの例からしてもなかなか国民の支持を得て協力を確保するのはむずかしい、こう感じますので、やはり新しくなられた大蔵大臣としましても、ここでひとつ気持ちを引き締めてやっていただきたいということを要望しておきたいと思います。  次に、国際収支のほうに問題を移しますが、最近ようやく国際収量貿易収支がよくなったことも反映いたしまして、あるいは為替政策の若干の変更等も幸いいたしまして、やや好転しているやに聞いておりますが、現状をどのように把握され、今後の見通しについてどのような御見解を持っておられるか伺いたいと思います。
  36. 大倉真隆

    大倉説明員 計数的な問題を私からお答えいたします。  松本委員指摘のとおり、五月の十億ドルの経常収支の赤字のあと、六月五億、七月一億八千万というように、経常収支が着実に改善の方向に向かっております。この主因は、もちろん貿易の収支が輸出の好調、輸入の鎮静ということで改善のきざしを見せてきたことによるわけでございまして、今後とも引き締め政策を堅持していただきましてこのような傾向が続いてくれますならば、国際収支の先行きといたしましては、決して楽観はできませんけれども、一時に比べますとかなりいい姿になりつつあるのではないか。かたがた長期資本の収支につきましても、御指摘のような流出の抑制、流入の促進ということでいろいろの手直しをいたしておりますので、私ども努力経済全体の基調の推移によりまして、今後徐々に改善に向かうというように考えております。
  37. 松本十郎

    松本(十)委員 まあ貿易収支が改善しつつある、そして国際価格比較においても日本はかなり輸出条件がよくなっている、こういうことが貿易収支好転の一つの原因かと思うのでありますが、先ほどちょっと触れましたように、日本の卸売り物価の上がり方のカーブが上昇に転じた現在、国際的にはまたその点で条件が悪くなるということも考えられるので、その辺はあまり楽観的な見通しに立たないで、やはり現実に即した見通しというものを常に考えておいていただきたいと存ずるわけであります。  それから、もう一つは資本収君の関係でございますが、私、二月の上旬でしたか、日本銀行総裁が出席したところで、ちょうど石油消費会議の前でありましたが、大蔵委員会としては、いろいろな石油問題はありますが、このオイルダラーのリサイクリング、還流策というものはいまから考えておかなければならないんだ、たいへんな問題で、大蔵当局も日銀も十分先を見て手を打っていただきたい、こう言ったわけでございます。いろいろと政策当局が考えられたのでありましょうが、それに対する対応のしかたがやや少しおそかったのではないか。特にユーロダラー市場からジャパンレートといわれるような高いレートでどんどんと為替銀行が取り入れてくる。期限はわずか二カ月で来る。それがくるくる回っているうちは何とかやりくりはついたのでありましょうが、ヘルシュタット銀行の倒産をはじめ、ヨーロッパにおきまして中小金融機関がいろいろと問題を起こしているようでございまして、ヨーロッパはなかなか安心できないということで、オイルダラーが安心のできるニューヨーク市場あるいは一部ロンドンの市場等に行っているようでございます。そういうふうな動きになってくると、アメリカの連邦準備銀行法に基づく制約等いろいろあって、なかなかニューヨーク市場からは日本がユーロダラー市場からほどは短期資金を引けない、こういうことでございます。  そういうふうなことを考えます場合に、何か政府間のスワップ協定を拡大するとか、あるいは直接オイルダラーを持っている国々と交渉するとか、いろいろおそまきながらいまから手を打たなければならないと思うわけでございますが、そういったことについてはどういうふうな策を講じてこられたか、これからいかなる対策を打ち出そうとしておられるか、これについても伺っておきたいと思います。
  38. 大平正芳

    大平国務大臣 御指摘のように、去年の原油の急激な値上がり、その他原材料、食糧等の値上がり、それからことしの上半期の貿易収支の赤字等から外貨の金繰りがたいへん緊張してまいったわけでございまして、わが国の場合、為銀の輸入ユーザンスという方法でこのファイナンスをやってまいったわけでございます。したがって、その過程におきまして若干緊張を呼んだことは御指摘のとおりでございます。しかし、一月から八月になりましてこういう事態を脱出することができまして、東京市場におきましても対ドル相場が安定した状況を示しておりますことは御案内のとおりでございます。  しかしながら、国際収支が将来明るい展望をもって狂いがないという確信が持てる状況でございますならば特段の手当ては要らないはずでございますけれども、先ほどあいさつにも申し上げましたとおり、なお事態は流動的で不断の注意が必要であると申し上げたわけでございます。したがって、いま御指摘のように、資本収支の面におきまして、政府の非常に用心深い対応策が必要であることは仰せのとおりでございます。それにはユーロ市場からドルを引くとかあるいはアメリカを経由して引くとか、あるいはあなたの御指摘になるようにオイルダラーを直接産油国側から引くとか、いろいろな方法がございますし、それは銀行が引くかあるいは政府が関与するか、それらの方法はいろいろあるわけでございますけれども、この方法でいくというようなことをあらかじめきめておるわけではないのでありまして、いろいろな方法のコンビネーションを通じまして日本に一番有利な措置を講じなければならないわけでございまして、私どもといたしまして、不断にそういう問題意識を持って対応いたしておることだけは御信頼を賜わりたいと思います。
  39. 松本十郎

    松本(十)委員 国際収支の関係は、いろいろ議論すれば切りもございませんでしょう。しかし最近の貿易収支の好転といえども、先ほどちょっと触れましたように、日本の卸売り物価が国際的な水準から見てまた高くなれば輸出しにくくなる。さらにまた、世界の金外貨準備が、石油の異常な上昇に伴っていわゆるオイルダラーとして偏在しつつある。かつては先進工業諸国が相当外貨準備を持っておりまして、輸出がそういうものを当てに伸ばし得たわけでありますが、先進諸国大部分がむしろ赤字に悩みそうだという情勢でありますので、なかなかその輸出についても先行きそれほど甘い見通し、従来のようなパターンでいけるというふうな見通しは無理だろうと思うのでございますし、さらに発展途上国はからからに支払い能力が落ちているところもあるわけでございまして、そういう意味では世界的な貿易の趨勢というものを考えた場合、それほど貿易収支の大幅な好転というものを期待しておっては国際収支の見通しに大きな狂いが生ずるのではないかという懸念を持つわけであります。  したがいまして、何としましても貿易外収支の赤字を補う意味においても資本収支の改善をせざるを得ないわけでございまして、慎重な御努力、適当なコンビネーションによる今後の対策というものに期待いたしますが、従来のようなテンポなり、また何と申しましょうか、目先の対応策でなくして、中期的、長期的に見てどういうふうに持っていくかということについての態度を早く打ち出して、そして手を打っていただきたいということを、この点は特に要望しておきたいと存ずるわけでございます。  そういった物価問題、国際収支問題、いろいろとまた問題が再燃しかねないような情勢でございますが、そういう背景のもとで、これから大蔵大臣として財政金融政策をどのような方針のもとに運営していこうとされておるのか、その基本方針について伺っておきたいと思います。
  40. 大平正芳

    大平国務大臣 ごあいさつでも申し上げましたとおり、わが国をめぐる内外の条件が一変いたしましてたいへん困難な局面に立っておるわけでございまして、その状況に対処いたしまして物価鎮静化を急ぎ、国民福祉充実をはかっていくということが私ども財政経済運営基本方針でありますことは申し上げたとおりでございます。したがって、財政運営あるいは金融指導にいたしましても、そういうラインでやってまいらなければいかぬわけでございます。  ただ、事態が非常に困難でございますし、一挙に大胆な施策を行なうということはかえって事態を混乱におとしいれる危険もなきにしもあらずでございまして、私どもは細心なしかも周到な注意をもちながら事態に対処して、何としても物価鎮静化人心落ちつきに寄与するような方向で、予算の編成はもとよりでございますけれども金融政策の実行にあたりましても細心でしかも非常に周到な配慮を加えてまいる方針でございまして、具体的なことにつきましてはまた御質疑に応じてお答えいたしたいと思います。
  41. 松本十郎

    松本(十)委員 そういうふうな細心な配慮とあれで進められるということはいいのですが、さしあたり今度の補正予算というものをどういう考え方で編成されるのか、八月一ぱいで出てまいりました来年度の概算要求に対してどういう考え方で査定事務を進めていかれるのか、これらについて少しはっきりした方向をお伺いしたいと思うのであります。  といいますことは、大蔵大臣に対して失礼ではございますが、国民の各層、特にわれわれが接触する場合に、新しい大平大臣は、テレビでお話を聞き、ラジオ、新聞でいろいろなことを聞いておりますが、何をほんとうに考えておられるのかなかなかわかりません、こういう声が大きいわけであります。いま国民が一番気にしておりますことは、たいへんだ、たいへんだ、しかしながらこれから先どのくらいしんぼうしておればどういうことになるのだろうか、三年先、五年先までは言わなくても、せめて一年先、二年先の経済なり財政なりというものはどういうふうになっていって、経営をやっている方々はどういう対処をしていけば自分の会社なり企業なりが乗り越えていけるのか、あるいは家計を守っておられる主婦をはじめ一般国民の方々も、どういう対処をしていけば家計にゆとりができると申しましょうか、気持ちの上で何か安心感を持って対処できるのだろうか、こういう素朴な気持ちが強いわけでございまして、何かその辺について、なかなか条件がいろいろ錯綜していてむずかしいのだが、自分としては大体こういうスケジュールでこういうふうに持っていきたいのだというふうなことをどうしても言っていただくべきじゃないかと思うわけでございますが、それについては大臣いかがでしょうか。
  42. 大平正芳

    大平国務大臣 明確な展望を国民にお示しできて、財政運営、企業の経営、家計の切り盛りに確たる展望をお与えしたいという願望は松本君に劣らないものを私も持っておりますけれども、いまそういう明確な展望が自信を持ってできるような内外情勢でないことも、またあなたには御理解をいただいておると思うのでありまして、先ほど申しましたように、こういう事態に処しまして私どもが無責任な展望を申し上げるなんということは、私はかえって国民に対して非礼であろうと考えておるわけでございます。しかし、そういう中におきましてかすかながらわれわれが自信の持てる展望が出てまいりますにつきましては、あなたのおっしゃるように、国民理解協力を求める上から申しまして、われわれも鋭意そういう方向で努力をいたしたいと考えております。  そこで、当面の補正予算でございますが、歳入面はすでにお示し申し上げてありますように、第一・四半期、それから第二・四半期の七月末までの歳入状況は、全体としてはたいへん順調でございます。もっとも間接税は予定のようには収入が見られないわけでございますけれども、法人税、所得税を中心にいたしました直接税の伸びは順調でございます。しかし、これとても四カ月の実績をもちまして、こういう微妙な経済状況でございますので、一年間これだけの自然増収が期待できるというようなことをいま申し上げ、展望をお示しできる自信はまだないわけでございますが、四カ月間の実績は相当順調に入っているというように御承知をいただきたいと思うのであります。  歳出面におきましては、すでに人事院から大きな勧告がもたらされておるわけでございまして、この財源その他の検討をいま政府でいたしておるところでございます。  それから、すでに実行いたしました生産者米価引き上げが、今度の消費者米価の御審議を願ってどういう落ちつきを見ますか、いずれにいたしましても、米価にからんだ、食管にからんだ歳出は相当用意しなければならないわけでございます。  しかし、すでにもう確定いたしておりまする拠出制年金の物価スライド制の実施時期の繰り上げでございますとか、福祉年金等の改善充実時期の繰り上げ、生活保護費の改善等当然補正項目として措置しなければならないことになっておりまするし、麦価の引き上げでございますとか、乳価の引き上げでございますとか、飼料対策、漁業経営安定対策等、これらすでにきまりました財政措置も補正でめんどうを見なければならなくなっております。  それから、ことしは例年になく災害が多いわけでございまして、二百十日前にすでに相当大きな災害を受けておるわけでございますが、今後の災害の状況はわかりませんけれども、例年にない相当巨額の災害復旧費が要るのではないかと思うわけでございます。  その他義務的経費の清算等いろいろ合わせますと、残念ながら相当大きな規模の補正予算になるのではないかと考えておりますけれども、歳入歳出とも、いま具体的な金額を本委員会に御提出申し上げるまでにはまだ至っていないということを御承知願いたいと思います。
  43. 松本十郎

    松本(十)委員 当面の補正予算が当然増経費である程度大規模になるということは、これはもうやむを得ないと思いますが、繰り返すようでありますが、国民が知りたがっておりますことは、こまかなむずかしい議論よりは、比較的単純なことではないかと思うのであります。  たとえば、ある時期にまた瀬戸内海に三本橋をかけるのだとか、あるいは新幹線をもっとどんどんつくるのだとか、こういうふうなことがでかでか出ますと、あれほど狂乱物価を総需要抑制引き締めると言ったのに、また元に戻ったのか、こういう素朴な疑問を持つわけでありまして、大蔵大臣としては財政当局の立場で、日本列島改造は、とにかく当分の間、物価の落ちつくまで絶対やらぬのだとか、あるいは橋は三本もかけないのだ、新幹線については、計画としては長期的には考えられるけれども、この時期まではやらぬのだ、こういうことをはっきり国民の前で言われれば、国民は、そこまで考えておられるのならわれわれもそれに応じて対処しなければならぬなと思うだろうと思うわけでございまして、その辺のところをもう少しはっきり、列島改造論は長い目では一つの考えかもしれないが、当分の間できないからやめた、ここまではっきり言っていただいたほうがいいと思うのですが、いかがでしょうか。
  44. 大平正芳

    大平国務大臣 総需要抑制策は、御案内のように、財政面、金融面、個別物資対策の面で展開させていただいておるわけでございます。財政面におきましては、全体の予算規模を抑制型にしぼってまいるほか、公共事業あるいは公共投資につきましては、一般会計、特別会計、財投関係全部含めまして、四半期ごとに契約率の抑制をいたしておるわけでございまして、そうすることによって、総需要抑制を通じて物価鎮静化をはかろうというフレームを持った政策を手がたくいま実行させていただいておるわけでございます。  そういうことでございますので、こういう中におきまして具体的なプロジェクトにつきましてどういう態度をとるかということは、おのずからそういう政策上の制約があるわけでございまして、ともかくこれはやるのだというような、そういうやぼな考えは私は持っていないわけでございます。  ただ、この問題につきましては、補正予算あるいは本予算編成を通じまして、十分政府部内でも御納得いただいて、与党の方々にも十分の御理解をいただいた上で措置すべきことと思っておるわけでございますが、基本的に申しまして、財政による物資並びにサービス需要をできるだけ抑制していくという基本方針を踏みはずしてはいけないと私は考えておりまするし、あなたの御指摘のように、国民の心理というものが非常に微妙でございますので、そういうものに対する配慮も、これは怠ってはならぬと考えております。
  45. 松本十郎

    松本(十)委員 先刻来大臣所信表明で言われましたように、現下日本経済はまさに重大な局面に差しかかっておりまして、この三カ月、半年の財政経済のかじとりが、ある意味においては今後の国民生活の動向を左右し、ひいては、極端な表現でありましょうが、国家なり民族の運命にかかわるような、ほんとうにこの百年の間でも例を見ないようなむずかしい大事な局面に差しかかっておると思うわけでございまして、大蔵大臣とされましては、いまのような御決意のもとに、ひとつ断固わが道を行くという使命感に徹して、将来のためにがんばっていただきたいということをお願いしておきます。  財政関係は、後ほど税制はお聞きするとしましてこの程度にしまして、それでは金融関係に移りたいと思います。  昨年の一月以来、預金準備率の引き上げに始まりまして公定歩合の数次にわたる引き上げ、そして量的にも窓口規制の強化等を通じまして金融はどんどんと引き締まってきて、かなりこれが浸透しておると思うのでありますが、現在の金融情勢というものをどのように把握、認識され、これからの金融政策をどのように進めていかれようとされるのか、この点についてお伺いいたします。
  46. 大平正芳

    大平国務大臣 政府、日銀を軸といたしまする総需要抑制政策は、金融界におきましても御理解と協調を得まして、ただいままでのところ大きな問題を起こすことなく運営できてまいりましたことは、しあわせなことだと思っております。  しかしながら、御指摘のように、抑制策が逐次浸透するにつれまして、業界によりましては相当深刻な事態が出てまいっておりますことも私ども承知をいたしておるわけでございまして、そういう点につきまして弾力的に機動的に総需要抑制政策のフレームの中で一部処理しながら、他面、政府財政政策としてこれを補完しながらやってまいります以上、大きな支障がなく展開できるのではないかと考えておるわけでございます。金融の問題は非常に微妙でございますので、先ほども申しましたように、細心周到な注意を怠らず、かつ事態の変化に対応いたしまして、弾力的な措置もあわせて講じながら進めてまいりたいと考えております。
  47. 松本十郎

    松本(十)委員 総需要抑制は当分の間堅持する、そういうお話でございますが、いつごろまで堅持をすれば大体所期の目的に近いところまでいって緩和の方向にかじを切りかえることができるのか、これについての御意見。  それから、先ほど大臣がいみじくも指摘されましたように、一部の業界、たとえば建設業あるいは繊維、特に福井地方なり中部地方なりあるいは兵庫県の西脇等の繊維業界というものはかなり参っておるわけでございまして、そういった特殊の一部業界、自動車の下請関連、そういったものに慎重に総需要抑制のフレームの中で配慮していきたいとおっしゃるのですが、具体的にそういったことについての選別的な金融緩和措置と申しましょうか、部分的なカンフル注射といいますか、これについてどういうふうな具体的な策を考えておられますか。
  48. 大平正芳

    大平国務大臣 総需要抑制策をいつまで続けるかということでございますけれども、いま手がたくこれを賢持することが物価の鎮静、経済の安定に役立つということで現在進めておるわけでございます。その限りにおきまして、物価の鎮静、経済の安定というものについてめどがつけば、こういう金融ないし経済のメカニズムにつきまして強い干渉を試みることは決して本来の姿でないわけでございますので、これをやめられるような事態を早く招来したいものと念願いたしておりますけれども、いまいつまでということを聞かれますと、そういう展望はまだ私にはつかないのでございまして、いませっかく手がたく堅持してまいることが事態改善に役立つというように考えておるわけでございます。  しかしながら、そうは申しましても、いま御指摘のような業界におきまして、いろいろな問題が出てきておりますことも私ども承知いたしておるわけでございます。したがって、いま総需要のフレームの中で、たとえば、御案内のように各金融機関が、日本銀行の窓口規制で認められた範囲内におきましても、ことしの一月、三千億でございますか特別融資を設定していただきまして、こまかい配慮をいただいておりまするし、政府三機関のことしの予算の現額は去年より相当多く計画されておるのでございますが、さらに第一・四半期は千五百億増額をいたしてございまするし、第二・四半期は去年の同期に比べまして九百億の増を予算で見積もってあります上に、いま中小企業庁と御相談いたしておりますけれども、第二・四半期から第三・四半期にかけまして相当額の配慮をしなければならぬと考えておるわけでございまして、私どもといたしましては、そういう対策につきましては、先ほど申しましたように、細心な注意と機動的な措置はとってまいらなければならぬと考えております。
  49. 松本十郎

    松本(十)委員 まじめに仕事をしておられる中小企業あるいは特別の一部の業界、ほんとうにただ一筋にやってきたのに大きな経済の波の中で苦しい立場にある、これについては特に十二分の御配慮をお願いしておきたいと思います。  以下、いろいろとありますが、むしろ具体的に、個別的に質問してみたいと存じます。  まず、税制の一環でございますが、ことしは二兆円減税をやりました。しかし、三割以上三万円をこすベースアップによって、減税はされたが、また高いブラケットに当たって税額そのものは思ったより減らない、あるいはふえた、こういうふうな不満もサラリーマンには出ておるわけでございまして、インフレ調整というような角度からも来年度も減税を大幅にやるべきである、こういう議論が一方にあるとともに、いや、総需要抑制というものの見地から考えても、もう所得税の減税は小出しにすべきでない、もうやらないで、まとめて二年先くらいにやったほうがいいではないか、こういう極端な議論もあるやに聞いておりますが、大蔵大臣としては、この所得税について来年度どういうお考え方で臨もうとしておられますか。
  50. 大平正芳

    大平国務大臣 政府、与党の御決断で、ことしは平年度二兆円という大減税が実行されて、諸外国と比較いたしましても、課税最低限は最高位にあるというような状況まで持ってこられたことはたいへんしあわせであったと思うのでありまして、それが来年は平年度化されるわけでございます。それはすでにきまった大政策でございまして、これが円滑に実行できるようなことをまず私は期待をいたしておるわけでございます。さらに、その上に所得税の減税を考えるかということにつきましては、私自身としては消極的に考えております。
  51. 松本十郎

    松本(十)委員 次に、相続税でございますが、今度は数年ぶりなので大幅な軽減措置あるいは現状にマッチするような対応策を講じたいと言っておられますが、それについてのお考え。  特に農村地帯を回りますと、農家の相続税がいまのままでは農家経営を続けることができない、何とか農地の評価なりあるいは税の徴収のしかたについて特別の配慮をしてもらわなければならない、農政そのものにいろいろ混迷と混乱があるわけでありますが、相続税の見地からも農業経営を圧迫するようなことでは困るので、どうしても考えてもらわなければならないという強い要望を聞いておるのですが、農家に対する相続税についていまのところどういうふうなお考えですか。
  52. 中橋敬次郎

    中橋説明員 相続税につきましては一昨年に改正がございまして、課税最低限が約五割増になったわけでございますけれども、その後におきます地価の上昇その他から勘案いたしまして、確かに課税人員もふえております。来年度の税制改正におきましては、相続税の問題というのはまず第一に取り上げるべき問題ではなかろうかというふうに考えております。  その際に、いま御指摘のように、たとえば農村地帯におきますところの農地の評価が非常に上がっておることによりまして、農家の相続税というのが負担が重くなっておるということは確かでございます。ただ、同じようにこの問題は中小企業にもございますし、都市におきますところの普通の人の住宅、宅地の問題にもあるわけでございます。それからまた、一がいに農地と申しましても、純農地と都市近郊あるいは都市の中にある農地、それからその間に介在いたします中間農地につきましてはそれぞれ事情が違うわけでございます。そういうものを今後いろいろ検討いたしまして、御指摘のように、評価の問題あるいは税率の問題、さらには課税最低限の問題として、一体この問題を農家、中小企業あるいは一般のサラリーマンの相続税の負担の合理化、調整化にどういうふうに結びつけたらいいかということは、今後税制調査会等におはかりいたしまして検討してまいりたいと思っております。
  53. 松本十郎

    松本(十)委員 かねがね相続税については、妻の座を守って、妻の相続税をもっと緩和せよという議論もありますし、いま論じております農家の相続税、これは優良な農業後継者というものの立場を考えて、一方は都市近郊においてすら生産緑地という制度を入れて、農業生産を続ける方には固定資産税についても別途考えようという段階でありますので、十分きめこまかな配慮をして今度の改正に臨まれたいということを要望しておきます。  税制一般はその程度にしまして、税も金融も重なってまいりますが、物価がここまで上がってきた、インフレが進んだ過程において強い者が利得をし、弱い者がこみやられた、こういうことが現実の姿でございまして、これに対して救済策と申しましょうか、対応策を講ずるのが政治の責任だろうと思います。  そこで、金利その他の面はあとにしまして、まず税の面から申してみますと、資産を持った人たちが持たない人よりも顕在的、潜在的に利得をしたということはおおいがたい事実でありますが、そういう資産に対してどういうふうな税制で臨もうとするのか、あるいは資産所得に対しての考え方はどうでありますか、これを伺っておきます。
  54. 中橋敬次郎

    中橋説明員 所得税の問題を考えます場合に、いわゆる勤労性の所得と資産性の所得について均衡のとれた税制を持つべきであるということは御指摘のとおりでございます。現在でも所得税制の中におきます両者の権衡ということは、いろいろ御批判もある部面もございますし、また本年度の税制改正におきましては、そういう観点から給与所得控除の大幅な拡大ということも実施せられたわけでございます。私どもとしましては、今後ともそういう勤労性の所得と資産性の所得とを所得税制の中においてどういうふうにバランスをとって持っていったらいいのかということに努力をするつもりでございます。  かたがた、むしろもう少し資産に対する課税を重くしたらどうかという御意見もございます。また現にそういう税制をとっておる国がございますし、近々そういうことをやろうということを宣明いたしました英国の例もございますが、われわれとしますれば、むしろ当面は、先ほど申しましたように、所得税制の中におきましてその両方の所得の不均衡というものをできるだけバランスをとるような努力を重ねるとともに、いわゆる財産課税と申しますか、富裕税と申しますか、そういったものについてもなお今後とも幅広く検討してまいりたいと思っております。
  55. 松本十郎

    松本(十)委員 ちょうど財産課税が出ましたが、やはりここで第二財産税と申しましょうか、あるいはかって一時やりました富裕税と申しますか、これを創設の方向で検討されますか、あるいはただ議論だけしてみて、なかなかむずかしいということですか、その辺の見通しはいかがですか。
  56. 中橋敬次郎

    中橋説明員 いわゆる富裕税というものは、わが国においても昭和二十五年から二十八年までやりました経験がございます。そのときには一般の税務がなかなか軌道に乗っていない事態でもございましたけれども、非常に執行面からの難点といりのがございまして、廃止をせられたことは御承知のとおりでございます。  今後こういう面につきましてどういう方向で考えたらいいのかということでございますけれども、かりにそういう資産に対しますところの富裕税的なものを考えます場合には、やはり何といいましても、所得税との調整という問題をどうしても一度総合的に考えてみなければなりません。現にわが国におきますところの富裕税の創設の際にも、所得税の上のほうの税率があまりにも高過ぎるということから、シャウプ勧告におきましても富裕税というものが勧告をせられ、また富裕税の創設に伴いまして、当時所得税の最高税率が八五%でございましたけれども、それを五五%に下げ、あわせて富裕税という形で最高三%の資産課税をやった経緯がございます。そういうことでございますから、今後どちらの方向に進むかわかりませんけれども、われわれとしますればやはり西ドイツの経験、さらに英国が今後とろうとしておりますところの執行上の問題、それからわが国の過去におきますところの経験というものを考えながら、所得税制の問題とも合わせまして検討してまいりたいと思っております。
  57. 松本十郎

    松本(十)委員 次は資産所得重課の問題でありますが、特別措置法をいろいろ再検討して洗い直す、これはごもっともだと思います。一部伝えられておるところによりますと、株式譲渡のキャピタルゲインを課税対象にもっときびしく入れるというふうなことが出ております。キャピタルゲインに課税しようとすればキャピタルロスをどうするのかという問題も出ましょうが、税務の実際から見て当然やるべきことでありながら、ほんとうにやれるんですか、それはどういうお考えか、伺っておきたいと思います。  もう一つ、時間も何か早く切り上げなければならぬようでございますのでつづめて申しますが、資産の再評価。経済界からは、償却資産の再取得に備えて現実に合ったような償却がしたい、したがって、再評価を時価に応じてやりたいという意見がございます。しかし一部には、土地の値上がりが一番激しいので、土地所有者が土地を持たない者に比べてあまりにも利得をし過ぎておる、これを再評価して再評価税を取って、これを社会福祉なり物価対策なりその他に回すべきではないか、それが社会的公正を追求する道だ、こういう強い議論もあるわけでありますが、資産再評価についてどういう考え方で臨もうとしておられますか。  この二つについてお伺いします。
  58. 中橋敬次郎

    中橋説明員 株式の譲渡所得課税の問題というのは、現在は一般的には非課税になっておりますし、事業所得という形で課税になる、あるいは事業所得的なものとしまして株数、回数が一定の制限を越えますれば、また所得税で課税するという状況になっております。この五十回、二十万株というものが現在のところ実情とは非常に乖離いたしておりますし、あの当時に所得税におきまして株の譲渡所得を非課税にしました事態と今日におきますところの事態というものを、もう一度考え直さなければならないことは確かでございます。われわれとしますれば、いまの株式の譲渡所得の課税、それから五十回、二十万株の制限、もちろんロスの問題がございますけれども、それとあわせましておっしゃいますように執行の問題もこれにはかなりからんでまいることがございますので、少し時間をかけまして、執行面、税制面から検討を始めたいと思っております。  それから資産再評価の問題でございますけれども、これは税のほうから申し上げて適当かどうかわかりませんが、償却資産につきましてかつてわが国の再評価をやりました当時と現在とを考えてみますと、あのやりました二十五年当時は、昭和九−十一年ぐらいから勘案しまして卸売り物価の指数でも三百倍、三百五十倍というような事態でございました。それに引きかえまして今日は、その当時から比べて卸売り物価指数でも約一・六倍程度でございます。今日、いま直ちにそういう償却資産に対する再評価を議論するべき段階にはまだまいっていない。むしろわれわれとすれば、それよりも物価の安定ということにできるだけの努力を傾注してこの事態に対処をいたしてまいるのが適当かと思っております。  それにあわせまして、もちろん償却資産の再評価だけでございませんで、土地の問題がございます。土地は、なるほど先ほどの例で申しました九—十一年と、あの当時の二十五年と比べますと、あの当時は市街地の価格指数で約二百倍をこえておったと思いますが、今日はその当時から比べまして約三十五倍ぐらいでございます。そういう意味からは土地のほうがはるかに価格は伸びておりますけれども、それに対しまして現在ある程度の負担を求めるということは、実はいわゆる評価益に対して課税をする結果になるわけでございます。そういたしますと、現に事業の用に使っておる、あるいは住居の用に使っておる土地も、全然そういう用に使ってはいないいわば空閑地的なものも同じ税率で課税をしなければなりませんから、そんなに高い課税ができるわけではございません。そういたしますと、現在の譲渡課税に比べてある程度低い再評価税みたいなものがかかりますと、実際に土地を譲渡しました場合には、そのより安い再評価税とそれから現在のような譲渡所得税が行なわれるわけでございますが、総合いたしまして現在の土地の譲渡所得に対する課税よりは安くなるという事態を招来するわけでございます。そういうことは、現在土地の譲渡に対してむしろ負担を重くすべきであるという批判に対しましては相反することでございまするので、土地についてだけ再評価をやりましてしかるべき負担を求めるということも、この際はあまり適当ではないというふうに考えております。
  59. 松本十郎

    松本(十)委員 いろいろ問題もございましょう。したがって執行面かちする税務行政上の問題というものもあわせて税制改正には考えていただかなければならぬわけでありますが、同時にやはり国民一般の素朴な感情、どうも一部の者がうまくやっているではないか、こういう不公平感を特にこういうインフレ時代にはなくさなければならないと思いますので、税制の面においても格段の配慮をされたいと思いますし、資産全体の再評価問題については、やはり早くインフレを収束さして、収束したところでそのあと始末としてやるべきだということはおっしゃるとおりだと思うわけでございますが、いろいろな立場でいろいろな議論も出ておりますので、やはりある程度そういった議論について大多数の者が何を望んでおるか、そして何をやることが公平に合致するか、その辺のところを十分考えながら、早目早目に考え方というものを打ち出して、そして国民的なコンセンサスを得るようにつとめていただきたい、これを要望しておきます。  最後に、この不公平感の一番大きなものは、やはり預金金利の問題ではないかと思うわけでございます。ずばり申しまして、インフレが進行すれば、零細な預金債権者の犠牲において、その目減りの犠牲において、債務者が利益をする。何か借りているほうが得をして、預けているほうが損をする。これはかねがね当委員会においても議論されたところでございますが、そういう目減り対策をどのように考えておられるか。  さらに、預金金利引き上げの議論が巷間一部出ておるようでございますが、ある程度具体的にどういう方向に持っていこうとしておられるのか。  さらにまた、三月末の当委員会において通過いたしました会社臨時特別税、いろいろな紆余曲折はございましたが、まあいまの姿といえば、ずばり申しまして、債務者利益に対して課税するのだというふうな実態に近いのではないかと思うわけでございますが、この特別税はなおも来年度以降続けるのか、もうやめて別のものに切りかえるようにするのか、ここら辺もあわせて大臣からお答え願いたいと思います。
  60. 大平正芳

    大平国務大臣 預金金利につきましては、従来からできるだけ配慮するという考え方で、去年三回、おととし一回でございますか、改定があったと思います。しかし、他方その引き上げにつきましては、市中の貸し出し金利との関連、中小金融機関の経営に与える影響、郵貯を通ずる政府関係機関の貸し出し金利への波及など御承知のように多岐にわたる影響がございますので、今日まで慎重に検討を重ねてまいりましたけれども、まだ実行に至らなかったわけでございます。しかし、最近の金融情勢を見ておりますと、本年初めから最近までに市中の貸し出し金利はかなり上昇しておりますけれども、今後も総需要抑制策が続く中で、貸し出し金利水準はある程度高く推移することが予想されるわけでございます。そうした貸し出し金利の動向その他金融情勢全般を総合判断いたしまして、この際預金金利をある程度引き上げることが適当と判断される状況になったと私は思っております。したがって、この際、預金者の要望にもこたえるため、預金金利の引き上げにつきましての措置をなるべく早くとりたいと考えております。  それから会社臨時特別税でございますが、これは法律第一条にも明らかにされておりますとおり、最近における物価高騰その他わが国経済の異常な状態にかんがみまして、臨時の措置として設けられたものでございます。課税は二年間行なわれることになっておりますけれども、本税創設の趣旨にかんがみまして、ただいま述べたような異常な事態が消滅したと認められる状況になりますと、二年以内におきましても廃止することにやぶさかではないわけでございます。したがって、この税の取り扱いにつきましては、結論として、わが国経済動きを見なければきめられないわけでございまして、今後の経済動向を慎重に見きわめて処理いたしたいと考えております。
  61. 松本十郎

    松本(十)委員 預金金利に対する前向きの御答弁をたいへん歓迎するものでありますが、しかし、巷間伝えられるところによりますと、六カ月定期は別にして全体は〇・五%アップというふうな記事がありますが、その程度のことでは預金の目減りを補うにはあまりにもお粗末過ぎる。中小金融機関あるいは農協、漁協等の系統金融機関等の立場、郵貯の問題もありましようが、どうせやるならば、やはりこの際思い切ってやるという方向で対処していただきたいと思うわけであります。  同時に、農協、漁協等については、この金利改定の結果いろいろな政策金利その他について問題が出てくるわけでありまして、経営の合理化もさることながら、努力しても足りない部分については、利子補給について格段の配慮をしてもらわなければ困るというふうな声があるわけでありますが、そういったものに対してはどういうお考えで臨まれますか。
  62. 高橋英明

    高橋説明員 〇・五%という程度のことでは少ないというようなおしかりは重々覚悟しておるのでございますが、一方、いま御指摘のように、中小金融機関のほうに至りますと、経営に与える影響が非常に大きゅうございます。マクロで申しまして、数字をとれば一応経常純益に対して二割ないし三割というような影響でございますので、まあ見方によってはたいしたことはないではないかというようなことも言えるかと思いますけれども、これは全体の平均でございますので、中のなかのまた小、小のなかの小というようなところにはかなりのバードンになることは間違いございません。  しかし、私どもがこの程度というので踏み切りましたのは、いままですでに金融引き締めが長く行なわれておりますので、短期の貸し出し金利というものはすでにある程度上がっております。それで、金融機関の利幅も拡大傾向にございますので、その範囲内でできる程度というようなことできめたわけでございます。今後一連の金利改定が行なわれてまいりますと、あるいは長期の貸し出しというものの水準がいままでの短期の貸し出しの上がりに比べておくれておりましたので、そちらのほうが上がってくるかもしれません。しかし、一応資金の使用者と預け者と仲介者という三人の間で実は負担を分け合っていただくのが原則でございますので、まあ間にある私の立場からしますと、その中間にある金融機関の一そうの合理化というような経営努力に期待するということがまず第一でございます。そうしてみて、また事態の推移を見守って次の対策を講じたい、かように考えております。
  63. 松本十郎

    松本(十)委員 そういった中小金融機関あるいは系統金融機関等について、きめこまかな配慮もあわせて考えておいていただきたいと要望したいわけでございます。  しかし、何と申しましても、繰り返し申しておりますように、預金債権者の目減り対策ということはもう国民的な要望でありますので、預金金利で一定の制約があるとするならば、その他の方法によって何か具体的な対策を考えて早期に実施されるよう、これまた重ねて要望したいと存じます。  先刻来、大臣からいろいろと当面の金融財政政策についてお伺いしてまいりましたが、私の感じをずばり率直に表現さしていただきますと、日本の経済をこの半年、一年の踊り場でどのように考えて方向を見定めるか、そのあと三年、五年の中期の階段ののぼり方をどういう角度できめていくか、ある意味では一番大事な局面にあるわけでございます。仄聞するところによれば、官庁エコノミストの諸君も、いまのような政治情勢なり総理をはじめ大蔵大臣のお話の程度では自信をもって中期計画も策定できません、こういうふうなことで、経済審議会経済社会基本計画なり中期計画なんかを諮問しようとしてもスタンドポイントがはっきりしないので困るというふうな感じを持っているやに聞いているわけでございまして、やはり国民の前に、情勢が変わった、所得倍増中心の成長政策はもう終わったのだ、これからはどうしても資源の面、国際的な経済動き、国内の情勢等を見て、経済のこれからのかじとりはこういう方向でいかざるを得ないのだ、それを考えるのならば、この三月、半年でこういう手を打たざるを得ない、特に秋季闘争などといっておりますが、来年の春闘のベースアップというものがやはり将来の日本経済の動向をきめる一つのかぎになろうかと思うわけでございます。所得政策といえばタブー視されるわけでございますが、やはり先進工業国並みに賃金物価の悪循環を断ち切るという意味においてガイドラインを設定して、少し国民の前に一つの見通しを示しながら引っぱっていくような政治力も必要かと思うわけでございまして、そういう意味でなかなかむずかしい立場ではございましょうが、ここでひとつき然たる態度で今後の見通し、方向というものを打ち立てながら、むずかしい谷間を縫って進んでいっていただきたい、この点を要望いたしまして私の質問を終わりたいと思います。
  64. 安倍晋太郎

    安倍委員長 午後零時三十分より再開することとし、この際、暫時休憩いたします。    午後零時七分休憩      ————◇—————    午後零時四十分開議
  65. 安倍晋太郎

    安倍委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。武藤山治君。
  66. 武藤山治

    武藤(山)委員 大平さんが新しく大蔵大臣になられて初めての大蔵委員会でありますから、きょうは日本の財政金融経済の最高頭脳である大蔵大臣に抱負経綸を伺って、国民に日本の経済のかじとりを誤らないという確信のほどを示していただきたい、こういう期待を込めて、大臣所信表明に対する質問から入りたいと思います。  大臣所信表明の中で、世界経済がたいへん困難かつ複雑な問題をかかえ、同時にそれが吹き出してまいった、「かくて世界経済はいよいよ混迷の度を深め、世界的規模を持つインフレの高進と相まって、事態はますます深刻になって」いる。すなわち、混迷の度を深め、事態はますます深刻になっているという認識であります。このことの中身を伺いたいのであります。  いままでの資源の問題や国際通貨危機の問題、過剰ドルの問題等々、深刻に検討すればするほど頭の中が混乱するたいへん重大なむずかしい問題であることは承知をいたしております。世界経済はいま不安定低空飛行を続けている、この不安定低空飛行がこのままかなり長い期間続くと見るか、そして再び不安定低空飛行から上昇気流に乗ってある程度の一どの程度にするかはこれから大臣の見解を伺いたいのでありますが、どの程度の上昇気流に乗った安定的経済発展が可能なのか、それともこの不安定低空飛行は墜落をして、世界経済は、それぞれ輸入制限競争が行なわれ、それぞれの通貨の切り下げ競争が行なわれて大きな不況に飛び込むのか、不安定低空飛行の行くえは一体どうなるのか、そういう問題が国民の大きな不安の種であると思います。大臣はそのことを世界経済は混迷の度を深めている、事態はますます深刻になっていると受けとめているのではなかろうかと推察をいたします。  大臣、一体この不安定低空飛行がまた経済成長路線に乗っていけるのか、それとも不況の方向で墜落をするのか、これからの世界経済の行くえについての見通しはどのように把握をされていらっしゃいますか、大臣の見解を伺いたいと思います。
  67. 大平正芳

    大平国務大臣 戦後の世界経済は、ドルという信認のかたい通貨を軸といたしまして対ドルの交換レートが固定されて、いわば一つの秩序が長く続きまして、財政も企業も経済運営する目安が立っておったと思うのでありますが、数年前ドルが部分的な兌換停止をやらざるを得なくなり、三年前に完全な兌換停止を行なったということを契機といたしまして、世界経済全体のこれまで長い間維持されてまいりました秩序というものに大きなひびが入りまして、それが経済ばかりでなく、政治、軍事の方面にまで動揺を招いた状況にあると私は判断するわけでございます。したがって、今日の事態は、そういう意味でたいへん深刻であると思うのでございます。  これがどういう道筋を経ましていつごろどういう姿で安定するかというお尋ねでございますが、そういう壮大な展望を申し上げるような自信は私にはないのでありまするけれども、ただ若干の救いは、各国の協力態勢というものが曲がりなりにとられているということでございまして、通貨の面におきましても、C20、C10、C5とかいう中核になる国々の間で、新しい通貨体制をどう持っていくかということにつきまして、完全な合意を見るには至っておりませんけれども通貨の安定をどうしてもたらしたらいいかということにつきましての話し合いが間断なく精力的に行なわれておるということでございます。  それから貿易におきましても、たまたま去年の十月に東京でガットの総会が開かれて、私は議長役をつとめさせられたわけでございますが、そこで東京宣言が、たいへん幸いに採択されたわけでございます。これはこういう混迷の中にありましても、いま武藤さん御指摘のように、各国がかってに輸入制限をするというようなことによって世界経済がますます先細りになっていくというようなことは避けようじゃないか、経済のより自由な体制を、貿易のより自由な体制を維持していく場合のルールが、ともかくあそこで採択されたわけでございまして、それを踏まえた上でいまから各国のネゴシエーションが行なわれるという状況になっておるわけでございます。  第三の救いは、各国が高水準の雇用を内政上の必要からもどうしても維持していかなければならぬということで、国内の経済運営につきまして非常に用心深くなってきておるということでございますので、第一次大戦後しばらくして起こりました大恐慌というような事態は回避できるのではないかと考えるわけでございます。最悪の事態は私は回避できると思いますけれども、しかし、いまわれわれがもくろみつつある貿易や通貨資源やそういうものの世界的な配分が秩序正しく行なわれて、経済がどのような発展のテンポをたどるかというようなことにつきましては、いまお尋ねに答えるだけの自信がないのであります。  ただ、この間OECDにおきまして、そういう点につきまして各国の政策運営がよろしきを得ればという前提のもとで考えると、来年前半にかけて世界物価の騰勢を鎮静化の方向に向かわせて、世界経済がゆるやかな回復過程をたどることができるのではないかという観測をいたしておるわけでございます。将来の展望はまだ希望の域を出ないと思うのでありまして、私どもが心がけなければならぬと思うことは、国内の経済運営に慎重を期さなければならぬことは当然でございますけれども世界各国との間の協調、協力態勢というものは終始手がたく堅持して推進していく必要があるということではないかと思っております。
  68. 武藤山治

    武藤(山)委員 蔵相は、世界恐慌は来ない、来ないように国際協力が可能である、また国際通貨のルールについても話し合いがまとまる、だから、各国内で雇用を促進し経済を適切に運営をするならばという過程はありますが、そういう過程を踏んでいくならば不況というものはやってこないという見方であります。  私は、その点見解が違うのであります。戦後三十年間の経済成長をもたらしたものは何であるか。各国の経済運営というものがかなりうまく運べたのは何に基因するのであるかということを調べてみまするに、やはり何といっても、一つは第二次世界大戦後の発明、発見、技術革新、こういうものが生産力を高め、高度の需要に応ずるだけの生産体制に持っていけた、第二は、エネルギー資源というものが無制限的に金さえあれば手に入るという、経済成長に必要なそういう資源というものが容易に入手できた、第三は、技術革新に伴ってスケールメリットを追求する工業の大規模化、そういう幾つかの条件が戦後三十年間各国の経済に付与されてきたからだと思うのであります。  しかし、平和が三十年続いた今日の世界経済の動向というものを見るときに、この三つの条件というものが大体臨界点に達した。技術革新も大体使い切ってしまった。もしあり得るとするならば、人工衛星を打ち上げた技術、素材、こういうものがいかに耐久消費財に、平和産業に活用できるか、技術導入に生かされるかにまだ幾らか残ってはいると思いますけれども、技術革新は大体行き着いた。スケールメリットの点については、もはや公害環境問題からそうやすやすと規模の拡大化はできないという制約に達した。資源については、もう御承知のように、世界ナショナリズムが各国に台頭し、それぞれの民族の利益を守ろうという傾向が強くなり、おまけに金とドルとの均衡が破れたために、ドルに対する不信からかなりの原料高をそれぞれが要求し、油のごときは四倍以上の高騰を来たした等々の条件を見るときに、世界の今日のような情勢の中で通貨不安が続いていくならば、ケインズ的な国内における需要を拡大すれば雇用が維持でき経済の安定が保たれるという安易な手法では、もはや経済運営が壁にぶつかって成長できない段階に来たのではないか、私はかように見るのであります。  したがって、一たん今日の経済情勢というものをほんとうに安定的経済に持っていくためには、ケインズ的な有効需要を喚起し不況の到来しないような政策をとことん続けていくのは安易です。あなたもこの所信表明の中で、いままでは安易な道をたどり過ぎた、こう言っておる。だとすれば、安易でない道はどういう道か。ケインズ的手法でない新しい手法というものは何か、それを明示しなければならない。しかし、いまのところケインズ理論にかわる新しいそういう体制をつくり得る経済理論というものをまだ私は聞いていない。大臣は不況は到来しないと言われた。国際協力という約束を信頼し切ってそういう見通しを立てているのでありましょうが、もし不況を到来させないで乗り切ろうとするならば、ケインズ的政策による需要の喚起によって物価はますます上がらざるを得ない、こういう結論に到達をするのであります。したがって、国際的に見ても、国内のいまの経済政策の手法から見ても、物価問題にしわ寄せがいくのではないか、こういう感じがいたすのであります。大臣があえてここに、世界経済は混迷の度を深め、事態はますます深刻だという認識を所信表明に書かれるからには、私は具体的なやはりこれに対処する心がまえがおありだと思うのですが、先ほどの説明ではあまりにも貧弱過ぎるような気がいたすのであります。  時間が五十分しかありませんから、一つの問題をあまり論じておるわけにいきませんから次に進みますが、オイルダラーが現在の油の値段が四倍から四倍半に引き上げられたことによってアラブの国に集まる、年度間のドルは六百五十億ドルぐらいになるだろうというOECDの発表であります。もし六百五十億ドル年間アラブにドルが入り、そのうちの三分の一程度がかりにユーロダラーになったとして、投機的に短期的に運用されると考えてみますると、これから五、六年後にはたいへんなユーロダラーが世界じゅうをいたずらすることが予想されるのであります。しかも、金とドルとの兌換を一切停止して紙っぺらになったドルというものがそういう形で世界じゅうをかけめぐったときの世界経済の混乱というものは、想像以上に大きなものがあるのではないか。  したがって、この資本主義国間におけるルールの作成、OECDではモース案なる二つの案が提案されて、国際間におけるルールづくりをきちっとひとつやろう、さらにもう一つは、決済制度をきちっとつくろう、こういうモースの提案がOECDの中では議論されてはおりますけれども、その後新しく起こったこういう石油危機の問題、原価上昇の問題というものをもっと深刻にわれわれ経済を論ずる者は受けとめて、世界的なそういう通貨の問題をどうしようか、さらにオイルダラーというものに対処する各国間の話し合いをどうすべきか——日本政府はまだ何も提案していないじゃありませんか。あなたは大臣になってからも一度もまだ提案をしていないじゃありませんか。資源のない日本のような国こそ、そういう世界経済を混乱させる要因についてはかくすべきであるということをいち早く世界に向かって提案すべき責任が私はあると思うのであります。大平さんの不況は来ないということはわかった、じゃ不況の来ない手だてはどうすればいいかといえば、私がいま言ったようなことじゃないかと思うのであります。それを続けていけば、必ず際限なく物価上昇が続くという経済にならざるを得ないのであります。失業かインフレかという問題に迫られるそういう段階が近い将来に到来するのではないか、そういう深い読みを見て今日のこの所信表明は書かれたのではないのですか。  まず、時間がありませんから、オイルダラーの処理の問題についての見解をひとつ大蔵大臣に伺いたいと思います。
  69. 大平正芳

    大平国務大臣 オイルダラーは産油国の処理すべき問題でございまして、オイルダラーの処理につきまして日本政府がとやかく申し上げる立場にはないと思います。ただ、御指摘のように、世界経済の中におきまして産油国側に油の売却代金というものが集中していく。そのことは一方において消費国側の支出が前提としてあるわけでございまして、世界経済全体の円滑な運営をはかる意味におきましては、御指摘のように、産油国にたまりましたオイルダラーのリサイクリングというものが順調に行なわれて、ドルの需給のバランスがとれていく状態をつくり出すことが望ましいと思うのであります。産油国側におかれましても、そういう点につきましては配慮がだんだんと見えてまいりまして、あるいはアメリカ市場を通じて大量の供給をはかるとか、あるいは二国間ベースでみずから長期にわたってその活用をはかるとかいうことがだんだん地についてきつつある状況でございます。したがって、日本といたしましては、この安定したドルの有利かつ確実な取り入れということにつきまして十分保有国側の理解協力も得なければなりませんし、また市場を通じての受け入れというようなことにつきましては間断ない連絡をとっておりまして、処置を誤らないようにしなければならぬと考えております。
  70. 武藤山治

    武藤(山)委員 国際経済論ばかりやっていると五十分の時間がなくなりますから、第二の物価安定の問題に移りたいと思いますが、大臣、率直にいって物価は安定すると思いますか、安定しないと思いますか。安定すると思うならば、安定の概念はどういうことなのか、安定とはこういうことなんだということを明らかにしてください。さらに、安定するとするならば、安定の時期はいつごろをめどに考えているのか。第三には安定の処方せん、こういう方法でこうすれば安定するのだ、この三つの条件を明らかにしてください。
  71. 大平正芳

    大平国務大臣 武藤委員が御指摘のように、今日の物価問題というのは内外のいろんな錯綜した原因が化体してでき上がってきているものでございまして、物価を安定さすというようなことは容易ならぬことでございまして、そういうことを軽々に言って、おまえ少し頭がおかしいのじゃないかと言われかねないような複雑な問題だと私は思います。  ただ、あなたの言われる意味は、まあそういう非常に不安定な内外状況の中で政府物価の鎮静をはかろうとしておるのだが、その目安はどうだということだと思うのでございまして、これは先ほども申しましたように、春以来鎮静化足取りは見えてきておるわけでございまして、去年からことしにかけてのような状態でなくて、月刻みで申しまして、卸売り物価消費者物価も前月比一%を割るという事態がほの見えてきているわけでございます。月によりましては、いろんな事情がございまして一%をこえる月もありましたし、今後もないという保証はございませんけれども、大体この歩幅を狭くするということが当面われわれが神経をしぼって対処しておることでございまして、私どもといたしまして、この秋から来年の春にかけまして、ともかくこの歩幅をできるだけ狭くするということを通じて経済の安定あるいは人心落ちつきというものを取り戻すことに寄与したいと、いませっかく考えておるところでございます。
  72. 武藤山治

    武藤(山)委員 私も昭和三十五年から大蔵委員会に所属をして、歴代大蔵大臣にいろいろ御質問や意見を申し上げ答弁を聞かされてきたのでありますが、どうも大平さんの答弁が一番抽象的ですな。従来の大蔵大臣の答弁と比べてみると、まことに抽象的です。あなたは大蔵省出身でもあるし、日本のさいふを預かる最高責任者になってふさわしい人だと私はいまも思っている。したがって、いろんな知識も持っていると私は考えている。だから期待をし過ぎるのかもしれない。しかし、私たちが期待し過ぎるのではなくて、期待されたような大蔵大臣にぜひ私はなってもらいたい。  たとえば物価問題、安定はむずかしい、容易ではない、わかりますよ。複雑である、わかりますよ。そんなことは小学生だってわかっておるのだ。あなたは国の政権を担当しているのですよ。しかも次には総理大臣になるかもしれない人なんですよ。その人が、物価問題は容易ではない、複雑のものである、上昇幅だけ狭くする努力をしている、こんなことでは国会の答弁じゃないですよ。たとえば、安定の概念というのは年間どのくらいの水準にまで物価上昇率を落ち込ませることだ、私の見解はそうだ、工業先進十カ国の物価上昇率の平均、そのくらいまで物価水準というものをとどめることだ。あるいは福田さんに言わしむるならば、去年の十一月、十二月の狂乱物価のころに、この物価が十月段階に逆戻りする水準にまで春には下げるのだ、そういう具体的な目標を福田蔵相はばんと示したですよ。当たる当たらないは、経済ですから、生きものですから、私は少々の誤差は出ると思うのです。しかし、やはり一つの努力目標としてそういうものの設定をびしっと大蔵大臣はして、それに基づいて企画庁も農林省も通産省もみな協力せい、実際にさいふを持ち財政を動かしているのはわしなんじゃ、そういう確固たる不動なものがなければ国民は不安でしようがないですよ。私はいまの答弁を聞いてたいへん不安なんです。  しかも、大臣はこの所信表明の中で世界各国と比較して「春以降は、諸外国に比してもかなり落ちつきを示しているものと考える」と、たいへんな楽観論です。日本経済新聞で最近の世界主要国物価騰貴率を発表しているが、消費者物価を見ると、前月比で七月は二・二、アメリカは一・〇、イギリス一・〇、西ドイツ〇・四、フランス一・一、イタリア一・四。この所信表明の原稿はいつ書いたか知りませんけれども、四月、五月の統計だけを見て原稿を書いて、今日九月になった段階で原稿を棒読みするような感覚では物価問題はおさまらない。一カ月も前に参議院で演説をしたことを、そのまま一カ月後同じ文章を書いてこの大蔵委員会所信表明するようなことでは、経済はこの一カ月間にかなり変化している、この一カ月間にデータもずいぶん変わってきている、そういうものが今回の所信表明の中には何も反映されていないのですよ。「春以降は、諸外国に比してもかなり落ちつきを示している」と思うというのですね。七月のこの統計を見ていまでもそういう主張をされますか、見解を聞かしてください。
  73. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほどもお答えいたしましたように、月によりまして一%をこえ、いま御指摘のように、七月のように二%をこえる月もございます。けれども、一%あり、〇・三あるいは〇・四という月もあるわけでございまして、私は、全体といたしまして、先進諸国と比較いたしまして、春以来の足取りは健全な足取りだと考えておるわけでございます。だから、目標を具体的に言えといいますならば、先進国のいずれにも負けないようにやらなければならない、そうすることでないとわれわれは世界の中で名誉ある生存ができないわけでございますので、これはまたあなたの言われるように三歳の童子もわかっておる理屈じゃないかと思うのでございまして、先進国におくれをとるようなことはしない覚悟でいま当たっておるわけでございます。
  74. 武藤山治

    武藤(山)委員 そういたしますと、大平さん、先進国の平均卸売り物価上昇消費者物価上昇、現在の先進工業国なりあなたが言う先進国物価上昇率は平均幾らですか。
  75. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 お答えいたします。  ただいまございますのは消費者物価でございますが、OECDが一九七四年七月に出しました七三年の消費者物価におきましては、日本が一一・八、アメリカが五・三、イギリスが八・六、西ドイツが七・二、フランスが七・三、イタリアが一〇・八、カナダが五・六、七カ国平均合計で水準として七・二ということになっております。
  76. 武藤山治

    武藤(山)委員 そうすると、大平さん、いま岩瀬さんがおっしゃったのは平均七・二ですから、あなたがおっしゃる先進国よりも低い水準に上昇率を押えるということは、年間七%前後の消費者物価上昇ということでおさめようという意欲ですか。
  77. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう意味ではないのです。私が申し上げているのは、去年の暮れから春にかけての物価上昇率は非常に残念ながら先進国の中で一番高かったということは所信表明の中でも申し上げているとおりでございます。春以来しかしそれは鎮静化の方向をたどっております。その鎮静化の方向の度合いは、諸外国に劣らない健全さのきざしが見えておりますので、私はことしの春から今後の歩みを、先進国並みよりは日本が成績が悪いというようなことにはいたしたくない。そういうことにすることは日本の経済に非常な困難を増すことになるわけでございますので、何としても先進国並み以下には押えなければならぬ。具体的に言えということでございますならば、そういうことを目安にいま鋭意努力をいたしておるところでございます。
  78. 武藤山治

    武藤(山)委員 大平さん、経済というのは、あなたは一橋出身のケインジアンであり、経済通であり、経済学者だと思うのですよ、そんな人に釈迦に説法ですから私は申し上げたくないのですが、刻々動いているんですね。だから、いま田中内閣誕生して二年と一カ月、その間大蔵大臣が第一期は四十七年の七月からの植木さん。それから四十八年一月−十月ごろまでの、すなわちあの状況の中では愛知さん。石油ショックが起こって間もなく愛知さんが逝去され、福田さんにかわった。福田さんが第三期。福田さんは短期決戦で狂乱物価だけはとにかく何とか押えたい——大体福田さんの手法と方法論で狂乱物価はおさまったのですよ。おさまった、そう見ていいと思うのです。参議院選挙後、経済は新しい情勢なんです。それを引き受けたのが大平蔵相なんですよ。  したがって、田中内閣のわずか二年間の期間の中でも、経済は私は四段階ぐらいに区分して分析し考うべき特徴的な情勢があったと思うのです。その情勢を誤ったら、またたいへんな結果が出るのですよ。それを相変わらず福田さん当時と同じような考え方で、狂乱物価がまだもとにあるのだという認識のもとに、総需要抑制だ、やれ財政繰り延べだ、やれこれだと、そうやって大体同じスタイルでやっていたら思わざる結果が生まれて、気がついたときにはちょうど去年の、四十八年の春のような後手後手になるんです。  今日物価がこんなに上昇した最大原因は、大平さんもう御存じでしょう。田中内閣が経済の見通しを誤ったからですよ。外貨保有高一つ見たって明らかじゃないですか。四十三億ドルぐらいしがなかった佐藤内閣のどきのドルが、田中内閣の四十八年の七月には一挙に百五十三億ドルにもふえているのでしょう。年間百億ドルも流入ドルがふえた。それが国内の過剰流動資金になって爆発をしているのに不況カルテルを認めていたというちぐはぐな政策が日本の経済を重体にしたんじゃないですか。高血圧と糖尿病と心臓病が同時に併発をしてしまったから、注射を打っても薬を飲んでもなおらなくなっちゃったのでしょう。だから、今度またここで、福田蔵相が考えていたような短期決戦論のああいう考え方の総需要抑制をずっとそのままやっていたら、今度はこの前のとは逆な意味の結果が出てくるのですよ。私はそれをおそれる。総裁レースでしのぎを削ろうなんということにあまり精力を集中していて、そういう見通しや経済路線の転換を誤ったときには、一カ月手術がおくれたときには病気は一年も長続きするのです。  したがって、私はここのところは深刻に、ここに居並ぶ大蔵官僚の皆さんも遠慮なく大臣に進言をし、日本の総需要抑制のあり方は、ここはこうしなければ大臣たいへんですぞと、遠慮なくどんとん大平さんに言えるような空気をつくって——高木さんは率直に、次官に就任をしたときに新聞に出ておったですよ、大蔵省の経済見通しは誤りでした、十分反省いたしますと次官は言っているのだ。ですから、今度またその愚を再び繰り返してはいかぬということを私はいまここで警告を発しているのであります。そういう意味において、総需要抑制のあり方というものもこの辺から十分考えなければならぬ。  すなわち、いま福田蔵相のころを三期とするならば、あのころは石油ショック、便乗値上げ、売り惜しみ、買いだめ、まさに投機による価格上昇、ばくちによる商売、こういう混乱状態だった。しかし、あなたが登場した参議院選挙後の田中内閣第四期においてはコスト・プッシュ・インフレ。電力、鉄鋼、ガス、交通料金はすでに上がった。これから上げようとする消費者米価、国鉄運賃、航空運賃、医療費改定、来年の予算の中には電信電話、郵便料、塩、たばこまで値上げをしようとしている。こういう値上がりというものは総需要抑制で押えられるものなのかどうかということをもう一回総反省する必要がある。これから上がるであろうと思われるいまのような個別の料金というものは総需要抑制ではたして押えられるものなのかどうか、経済原論の原点に返って再検討する必要を私は感ずるのであります。  その処方せんも聞きたいのでありますが、一時三十分まであと十分しかありませんから不可能でありますが、ぜひひとつそういう点をやはり大蔵省としてはここでもう一回再検討し直すということをしないと、あとの結果が手おくれになって、重病がますます難病になってしまう心配が日本経済にあるのではないかと思う。総括的に大蔵大臣の所見を伺いたいのであります。
  79. 大平正芳

    大平国務大臣 まず第一に申し上げておきますけれども日本経済の命運のほうが私の命運より大事だと思っております。したがって、私といたしましては日本の経済の安定のために最善を尽くす公的な責任を痛感いたしておりますことは、先ほどもごあいさつで申し上げたとおりでございます。  それから第二に、歴代たびたび短期間の間に大蔵大臣はかわりましたけれども日本経済は一つなんでございまして、この病状はなお続いておるわけでございまして、これに対する療法を誤ってはならないわけでございまして、福田さんから私にかわったからこれはこうすると、手軽に療法を変えられるような軽症ではないと私は心得ておるわけでございます。したがって、いまの総需要抑制策にいたしましても、この状況におきましてこれをはずすというようなことは、私はとうていできない相談ではないかと思っております。  ただ、あなたがおっしゃるように経済は生きものでございますから、その時点時点におきまして弾力的な機動的な措置はこれに補完的に加えてまいらなければならぬわけでございますが、それとてもこういう症状でございますので、非常に細心にやらなければならないと考えておるわけでございます。大蔵省といたしましても、御指摘のように大きな転換期でございますので、在来の考え方あるいはマンネリズムというようなものは、排除すべきは排除しなければならぬと思っておるわけでございまして、事務当局ともども、その点は十分戒めていくつもりでございます。
  80. 武藤山治

    武藤(山)委員 私は大蔵大臣が衆議院のホームグラウンドより先に参議院で答弁しているのを議事録で全部読んでみたのですが、これはなったばかりのときですから無理のない答弁だな、抽象的な答弁をやっておるなと思って読んだのであります。そして、総需要抑制策というものを用心深くきめこまかくやっていく、むずかしいことだ、そういうことが日本経済新聞の対談の中に出ている。用心深くきめこまかくやっていくことには私も賛成です。総需要抑制を直ちに全部やめろなんという暴論を私は言おうとしているんじゃないのであります。  総需要抑制の中身というのにはいろいろ手だてがあるわけですね。去年の一月九日から預金準備率の引き上げを行ない、四、五回にわたる預金準備率の強化、さらに公定歩合九%への引き上げまで五回、また各銀行の窓口規制で金融統制を徹底的にやっている、予算の繰り延べ八%、あれやこれや、総需要という中身にはいろんな手だてがあるわけでしょう。その手だてを全部一挙にここでやめろなんという暴論は、経済を知っている者の言うべきことではありません。フレームはあっていいですよ。フレームはあっていいけれども、あなたが用心深くきめこまかくやると言うからには、この中でやはり現状に適合しない措置もある、そういうものはすみやかに修正をする、転換をする、そういう姿勢が私は望ましいと思うのですよ。その点についてはいかがですか。
  81. 大平正芳

    大平国務大臣 仰せのとおりでございます。また、そうしないと本体のほうの総需要抑制策を堅持することも私は不可能だと思うのでございまして、そういう補完的な手段は適時適切にやってまいるということは当然のことと私は思っております。
  82. 武藤山治

    武藤(山)委員 もうあと五分しかありませんからやむを得ませんが、最近の企業間の情勢を見ても、また労働者の労働時間数を見ても、残業の状況を見ても、労働省の発表した七月の製造業の所定外労働時間指数を見ても、昭和四十五年を一〇〇として六一・一、前年同月比で三〇・九%、所定労働時間外労働が減っているんですね。残業がなくなっちゃったわけですね。仕事量がなくなっちゃったわけですね。おまけに、中小企業は在庫量がどんどんふえているのです。だから、うしろ向き資金もたくさん必要になってきているわけですね。しかし、なかなかそういう情勢に対応できる措置がとられていない。三公庫に対して一千五百億円緊急融資をしたじゃないか、都銀が三千二百億円オイルショックの中小企業向け資金を今度の情勢の中で放出するようにしたじゃないかと大臣は答えるかもしれない。しかし、それよりも、総需要抑制の中の窓口規制、どういう産業には金を貸してはならぬ、前年同月比と同じにしなさい、あるいは去年十二月末現在の貸し出し額で押えなさい、そういう金融統制をやっているわけだ。窓口規制というのは、言うなれば統制ですよ。  その中で私はちょっと大蔵省の指導をこの際修正すべきだと思いますのは、たとえば建設業一つ取り上げてみましても、建設業というと、三井不動産や三菱地所や安宅産業や、ああいう大きい、何十億円の資本金の企業だけを連想するかもしれないけれども、そうじゃない。大臣、建設業には前年同月比以上これだけしか貸してはいかぬといういまの窓口規制のワクに縛られる企業は、大工さん、とび職、コンクリート工、塗装工、ガラス屋、電気設備屋、井戸ポンプ給排水設備工、こういうのが全部おしなべて建設業の中に入っているのだ。そういうこまかいものまでが全部建設業という範疇の中に入れられて、信用金庫の窓口へ金を借りにいったところが、あなたのところはいまの窓口規制の業種に入るので貸すわけにはいかないのだ、うちの信用金庫は建設業に貸せる範囲ら今月全体で百万円しかないのだ、実績が少ないから。相互銀行や信用金庫は建設業に従来貸した実績が少ないために、零細な大工さんやとび職や電気工事屋や、こういう零細なもののわずかな資金までが全部建設業一般で押えられているんですよ。その実態を、ぼくはぜひ大臣にお調べ願いたい。  あるいは飲食店にしたって、大きなレストランやナイトクラブや料亭や待合はともかくも、そば屋さんやすし屋さんまで全部飲食店の範疇に入れられて、回転資金を借りようとしても、こういう業種に入りますよということで、うるさくてどうにもならない。  これはもうちょっと詳細にこまかくこの窓口規制の業種別の中身を検討して——全く零細なものに対してまでこのワクを、信用金庫や相互銀行へ通達を出している。昨年十二月二十五日の銀行局長通達でこれはさまっている。その後手直ししていない。この際、昨年十二月の狂乱物価当時の銀行局長通達を再検討すべきであると思うが、大臣の所見はいかがですか。再検討については大臣いかがですか。銀行局長が再検討なんかできませんよ。局長が自分で再検討しますなんて、大臣におこられちゃうから、大臣、こういう事実を見てどう思うか。
  83. 大平正芳

    大平国務大臣 まず、当の銀行局長からお聞き取りをいただきます。
  84. 高橋英明

    高橋説明員 ただいま先生御指摘銀行局長通達でございますが、ただいま先生が例示されました業種の建設業は、抑制のほうには入っていないわけでございます。ですから、実績も、銀行で見ましても、一般の貸し出しの増加よりも大きい伸びをいたしております。非対象業種でございます。不動産業というほうは押えましたけれども、建設業は押えておりません。  それから飲食店。もちろん、風俗営業的なものとかあるいは大規模なものというのは対象にしておりますけれども、そば屋とかすし屋とか、そういう小売りのほうははずしてございます。小規模のほうは非対象業種になっております。  ただ、確かに、緊急時に行なわれましたこういう選択的な、選別的な規制というものは、私はあまり長く続けておるとひずみが出ると思います。したがって私も、先生の御指摘のように、こういう選別的な規制というものはやめられるような状態が来ればいち早くやめたいという気持ちにおいては人に劣るものではないのでございます。ただ非常に妙な風土がございまして、いままでやってはいけないよという通達をやめたというと、今度はどんどんやってもいいのかというような逆作用になってみたりする。やはり金融機関のお金というものは、いかなるときでも不要不急のところにいってはいけないと思いますし、それから多少存庫の話が出ましたが、これでいけないといっておる在庫の資金というのは、いわば売り惜しみ買いだめ的な在庫に金が回るものには厳重に注意しなさいというような趣旨の通達が、ことしの二月に出ておるわけです。しかし、最近の在庫増というのはむしろ意図せざる在庫増でございますし、むしろ石油ショック以来あるいは金融引き締めによって中小企業の経営が苦しくなってくる、そういった意味のお金でございます。それで、むしろそれはまた積極的に見ろというふうに書いてもございます。したがいまして、大きな基本的な議論ということでございますと、もちろん手直しをしなければならぬと思いますし、やめられるときにはできるだけ早くやめたいという気持ちは持っておりますけれども、もうしばらく諸般の物価情勢とかいったものと見合いながら検討していきたいというふうに私は思っております。
  85. 武藤山治

    武藤(山)委員 全く貸さないということがぼくのことばの中にちょっとあったかもしらぬけれども、全く貸さないのじゃないのですよ。従来の実績の何%、そういうのが全部銀行窓口へ行っているわけですよ。その業種だけちょっと申し上げますと、不動産業、サービス業、物品賃貸業、旅館、娯楽、飲食店、小売り、卸売り、建設業とこうなっている。だから、その率は違いますよ。不動産業は一番シビアにばっと締められている。それ以外のものも、従来の実績、前年の何月実績に基づいて何%以上貸してはいけないというのだから、小さい金融機関なんかは実績自体が小さい土台なんですよ。ところが、卸売り物価は一年間に三五%も上がっちゃった。そうすると、同じ量の取引存するについても、もう三五%資金はふえるのです。そういう具体的なこまかい、大臣が用心深くきめこまかくやっていくと言うからには、そういう点をきめこまかく配慮し、再検討すべきじゃないですか、できるできないじゃなくて。  大臣、もう一回伺いますが、いまの私の話を聞いて、再検討する気持ちになりませんか。このままずっと、とにかくばかの一つ覚えみたいに総需要抑制というので、もう少し様子を見て様子を見てと様子を見ている間に、病状は別の方向に展開していくのですよ。ガンが転移していくのだ。なおるガンがなおらないガンのほうに転移しちゃうんだよ。転移する前に手を打たなければいかぬというのが、ぼくのいまの立論なんです。大臣、まだ就任早々あまり言うのは酷ですけれども、ここで一回ぴちっとそういう姿勢を明らかにしてもらって、個々の窓口規制の問題について、相銀と信用金庫くらいは考えなければいかぬ。従来の金融引き締めには相銀や信用金庫は対象にしていなかったのだよ。今度はおしなべて全部やっているわけだね。それを一年半も、もう一月になれば二年間やるのだよ。こんなばかげた金融政策が、弾力的、用心深いこまかい配慮の運営などとは私は言えないと思うのですよ。そういう点、こまかい中身にわたって大臣の口から、これは再検討の必要があるということを言うべきだと思うのですが、いかがですか。
  86. 大平正芳

    大平国務大臣 前提としていまたいへん深刻な事態であるということでございまして、これが普通の時期の景気の変動という段階でないこと、もっと深刻な事態であるという受けとめ方は、武藤委員も先ほどの御発言を通じて御認識いただいておると思うのでございます。したがって、総需要抑制策というような、こういうある種の非常手段というようなものも、本来これは望ましいことでないわけでございますので、こういうものが早くはずされる事態をわれわれは望むわけでございますけれども、これをはずすことによって、需給が著しく緩和されたり、物価に好ましからざる影響を及ぼすおそれがいまなお十分考えられますので、これは堅持させていただきたいということも申し上げたわけでございます。  その一環として、日銀による窓口規制を実行いたしておるわけでございますが、これは四半期ごとに前年度の貸し出しワクにプラス幾らの範囲内でという押え方をいたしておるはずでございます。したがって、金融機関もロボットではないので、その与えられたワク内におきまして事態を判断し、永年の顧客でございますから、これに対しまして適切な判断を加えて融資を実行していただいておることと思うのであります。そこへいま高橋銀行局長が申しましたような通達も出ておるわけでございまして、通達の読み方いかんによりまして、若干の戸惑いが現実に起こるというようなこともいま御指摘のとおりでございますが、そういった点につきましては実情をよく調べまして、正すべきは正さなければいかぬと思いますけれども、全体のフレームというようなものにつきましては、こういう状況であるだけに、みんなにごしんぼういただくことによってこの事態を乗り切るということに御協力を賜わりたいものと私は思っております。
  87. 武藤山治

    武藤(山)委員 割り当ての時間、超過しましたからやめますが、結局、大臣、いまのケインズ経済理論で物価問題に対処し、財政金融政策をやっていけば、インフレはおさまらないのですよ。ただ狂乱物価というようなああいう事態は避けられるけれども、やはりインフレを徐々に進めながら完全雇用をはかるというのがケインズ理論の基本なんですね。したがって、新しい政策論理が生まれない限り、この二つの矛盾をどう解決するかという経済理論を大蔵省あたりが新たに展開しない限り、国民物価問題に対する不安は消えない。だとするならば、大蔵大臣は、安易に物価安定ができますとか、安定しますなんということを言うべきでないんだな。事実をやはり国民の前に明らかにすべきだ。そして、国民の創意と国民の英知を結集してくれと言うなら話がわかる。しかし、あなたのこの文章では、うしろのほうで、国民のこれからの英知や資質や優秀な民族性で何とかなるわ、おれは知らねえが何とかなるさという、これは無責任な評論家的所信表明の文章だ。やはりそれではだめですね。やはりもうちょっときめこまかく、具体的に一つ一つわれわれの前で、せめてこういうところでは答弁できるような姿勢を持ってもらいたい。  いずれにしても時間でありますからやめますが、委員長に最後に一つ要望しておきますが、われわれはもっと聞きたいこと、ただしたいこと、修正してもらいたい点がたくさんある。しかし、大蔵委員会が月に一回ぐらいぽっちり開かれたのでは国民の期待にこたえられないから、今後は月二回ぐらい大蔵委員会を開いて、全部の委員がみんな国民の代表になってここでやれるような委員会運営を特にはかっていただきたい。このことを委員長に要望して、私の質問を終わります。
  88. 安倍晋太郎

    安倍委員長 検討します。  佐藤観樹君。
  89. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 大平大臣に、いまの武藤質問の延長と申しますか、あるいはもっと底と申しますか、いま一体景気というのはどういう状況に来ていて、もうすでに来年度予算の概算要求が出ているという状況の中で、今後の金融政策財政政策というのは一体どういうふうにやっていくのだろうか、この点についてまず私は冒頭にお伺いをしたいわけであります。  大臣、先ほど武藤質問にもございましたけれども、抽象的ではいかぬので、端的にお伺いをしたいわけでありますけれども、いまの景気の状況ですね、これが完全にもう底なんだ、一番最後のところに来ているんだ、これがずっと横ばいになっていくのか、いわゆる横ばいというのは経済用語的にいえば下期停滞説といわれるわけでありますけれども、横ばいでいくのか、それともカップソーサー型というのでありますけれども、若干なりとも上がっていくのか、それとももっとV字型に上がっていくのか。後半の部分については今後の経済運営経済政策によって変わるわけでありますけれども、一体、景気というのはもう底に来て、もうこれ以上下がることはないのかどうか、そういう判断に立っていらっしゃるのか、まずその基本的な点についてお伺いをしたいと思います。
  90. 大平正芳

    大平国務大臣 景気の診断がたいへんむずかしい状況であると思うのでございます。御案内のように、生産が振るわないし、在庫が異常な記録で高くなってきておる面から申しますと、確かに相当深刻な場面であるという見解も成り立つわけでございますけれども、しかし、一面、消費需要落ちつきの傾向は示しておりますけれども、依然として根強いものがございまするし、投資意欲にいたしましてもなお衰えを見せていないわけでございますので、いまの事態が景気の底をついたという判断は私はいたしていないのでございまして、なおまだ警戒を要する段階であると考えております。
  91. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 おそらくいま大臣が言われた景気は底をついていないということは、大臣の頭の中にやはり物価問題との関連が、当然のことあると思うのですね。それで、物価問題についてはあとで若干触れさしていただきたいと思いますが、景気がまだ底をついていないということになりますと、いま武藤質問にありましたように、昨年一月からとにかく総需要抑制で、金融を完全にかってないほど締めてきたわけですが、今後とも公定歩合なりそのほか金融政策あるいは財政政策といったものでなお一そう景気は締めなければいけないのだ、そういうような判断に立っていらっしゃる。公定歩合の上げ下げについては、これはうそを言っていいというのが世の中の常識のようになっているようでありますが、そういうことはさておきまして、景気はまだ底をついていないということは、これはまだ金融なり財政政策なりは締めなければいけないのだという認識に立っていらっしゃる、こういうふうに判断してよろしいのでしょうか。
  92. 大平正芳

    大平国務大臣 現在の引き締め体制というものをくずしたくないという意味でございまして、現在よりさらに引き締めを強化するというつもりはないわけでございます。
  93. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 ちょっと経済企画庁にお伺いをしたいのでありますけれども、大蔵省にお伺いをしたときに、景気はいまや一進一退だと言うのですね。確かにいろいろな先行指標あるいはいろいろな指標を見てみますと、まさに一進一退なのでありますけれども、一進一退というのは、ちょうど天気予報の予報官が、晴れ後曇りときどき雨と言うみたいなものでして、つまり見通しというのは、これについてまだないわけですね。経済企画庁の月例経済報告を見ますと、生産活動、産業活動は非常に落ちているわけですが、なおかつ根強い経済基調が需要の面でもあるという判断に立っているわけでありますけれども経済企画庁の意見をお伺いしたいのです。
  94. 田中誠一郎

    ○田中説明員 現在の景気についてでございますが、現在、景気は御指摘のとおり生産、出荷については停滞傾向が見られますし、在庫がかなりふえておるということで、停滞局面が一方では見られるという状況にございますし、それを反映いたしまして、物価はかなり鎮静化しておるという面がございます。その反面、輸出需要がかなり堅調であるという面がございますし、設備投資需要につきましてもかなり潜在的に根強い状況にあるというふうに判断しておりまして、したがいまして、景気はかなり明暗を織りなしている様相にあるというふうに考えておる次第でございます。
  95. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 役人の方というのはいろいろいいことばをつくって、明暗を織りなしていると言えば、よくなればこれは明るいときだし、悪くなればこれは暗のほうだということで、一進一退ということと大体似たり寄ったりでして、正直言って、まだ判断がつかないというのが私は現状じゃないかと思うのですね、いままでのおことばを聞いておりますと。  そこで、もう少し立ち入ってお伺いをしたいのでありますけれども、景気の行く末を占う一つの大きな指標の中に、いわゆる個人消費があるわけです。個人消費は、何といっても六月には大型のボーナスが出たわけでありますけれども、いろいろな皆さん方が出されたデータを見ますと、思ったほど個人消費が伸びていない。やはりそれは消費者の中に、まだまだこれから物価が高くなるから買い控えておこうという気持ちがあることやら、それから時間外手当なんというものはいま非常に少なくなってきておる、あるいは非常に求人倍率も低くなってきておりますから、そういった意味で、消費態度がなかなか慎重になってきているのじゃないか。こういって見ますと、たとえば日銀の聞き取り調査、これは前年同月比の個人消費が、八月の場合には一五、六%の伸びしかないということなんです。ということは、これは物価上昇率を入れてみますと、むしろマイナスであるというのが日銀の判断として出ているわけであります。  そういった意味で、大臣として、あるいは経済企画庁にもお伺いをしたいのでありますけれども、GNPの五〇%、五二、三%を占めるこの個人消費の動向というものは、景気の停滞が今後どのくらい長くなっていくかということを占う大きな目安になっていると私は思うのでありますが、この個人消費の動向についてはどういう判断をなさっているか、大蔵大臣経済企画庁にお伺いをしたいと思うのです。
  96. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 個人消費につきましては、あれほどの大型な春闘がございましたし、その後大きなボーナスが出ましたので、おそらく相当盛り上がるであろうというふうに見ておったわけでございますが、七月の動向を見ますと、六月はむしろ百貨店の売り上げを見ますと急速に上昇して二八・一というような記録をいたしておりましたが、七月になりますと、逆に二二というふうに落ち込んでおりまして、これはあるいは夏の長雨というので気候の関係等もあったのではないかと判断されておったわけですが、その後の状況を見ましても、消費需要があまり伸びておりません。   〔委員長退席、松本(十)委員長代理着席〕 したがいまして、必ずしも天候のかげんではなくて、いま御指摘のような個人消費の買い控、えと申しますか、消費に対する非常に慎重な態度が出てきておるのではないかというふうに見られます。  もう一つは、先ほど申し上げましたベースアップは大きくはございましたけれども、逆に時間外労働が短縮しておるというような実質的な減少もございましたので、その辺もある程度響いておるかと思いますが、一応現在のところでは日銀券の増発傾向も二一%というようにわりあい落ちついておりますし、個人消費の動向というのはあれだけの押し上げ要因がありながら押し上がっておらないというのが現実でございます。ただ、秋に米の代金が相当出てまいります。それから年末には大幅なボーナスが出るわけでございまして、そういうボリュームを考えますと、消費需要を押し上げる要因というものはきわめて強いわけでございます。  したがいまして、私どもの景気に対する判断といたしまして、なお慎重に総需要抑制を続けていくと大臣が言われました面も、この消費の動向というものが総需要の中でどういうふうに変化していくかということがきわめて微妙な重要な問題であろうかと思います。したがって、もし安易に物価へ転嫁するような、いわば景気を押し上げるようなものが何かございますと、それをきっかけといたしまして、おそらく消費需要は盛り上がってくるおそれがある。そういうことになりますと、企業のほうは当然にそういったいろいろなコスト要因価格に転嫁してまいりますので、物価を押し上げる要因になりますので、慎重に総需要抑制を続けていきたいということにつながるわけでございます。
  97. 田中誠一郎

    ○田中説明員 消費につきましてはいま大蔵省のほうから御説明があったとおりでございますが、私どもも六月の百貨店の販売が二八%をこえたということで、消費がかなり回復してきたという判断をしたわけでございますが、その後の推移を見ますと、わりあい消費は落ちついた動きをしておりまして、七月には二二%台ということでございまして、御指摘のように、非常に鎮静化した動きを示しておるというふうに考えております。  その原因は、雨等の問題もございますが、やはり消費者の節約ムードと申しますか、節約の態度が非常に定着したということからきておるのではないかというふうに判断しておりますが、今秋以降に向かいましては、やはり消費需要はGNPの約半分ということでございますし、大型春闘、大型ボーナスをその前提にいたしますと、やはり底がたいものを持っておるのではなかろうかというふうに判断しております。
  98. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 いまの個人消費については、大体そういうような認識じゃないかと思うのです。  それからもう一つ、大臣のお話の中で、かなり機械受注について底がたいものがあるという話であります。確かに一月、三月ががくっと減って、四月から持ち直すというようなことでありますけれども、一月から三月の大幅の落ち込みというのは、これは私はあの石油ショックのときの反動が逆にふえたと見るべきじゃないかと思うのですね。あるいはいま出ている機械受注にしても、金融引き締めがここまでとにかく長引くとは思わなかった。要するに参議院選挙が終わったら金融はゆるむのではないか、こういうことを見越しての受注がかなりあったのじゃないかと私は思うのです。日本長期信用銀行の調べ、これは七月の上旬にやったものでありますけれども調査対象の企業のうち三七%が工事を縮小するという答えを言っているわけですね。そういうことからいいますと、私は、今後の設備投資、機械受注、こういったものはあまりにも底がたいと見るのは、この景気の動向について誤った総合的な判断をすることにはならないだろうかという懸念がするわけであります。その点について、いかがお考えでしょうか。
  99. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 御指摘のように、確かに三月に機械受注はマイナス三・二を記録いたしまして、四月に逆に三四・四と急にはね上がったわけでございます。五月、六月、一三・二、九・六とやや下がってまいりましたが、この読み方はたいへん私どもむずかしいと思っております。というのは、七月以降あるいは選挙のあとで景気は上昇していくんじゃないかというような企業家の見込みというのが七月にどういうようにあらわれてくるかということにつきましては、まだ数字が出ておりませんので判断いたしかねております。  先ほどから申し上げておりますように、総需要抑制を続けていく一つの目玉といたしまして、そういう機械受注がどのような動向を示すかということは重要なファクターでございますが、これがもし七月も八月も強い情勢であるということでありますれば、やはり民間設備投資意欲というものが相当刺激要因として大きいわけでございますから、総需要抑制に対しての意気込みというのは相当強いものでなければならないというふうに考えておりますが、まだ七月の数字が出ておりませんので、六月までの数字でございますと、先生御指摘のように、一月の落ち込みが三八・四でございましたので、それと四月がちょうど同じような戻り方をいたしておるという点においては、確かに四月の伸び方が大き過ぎたのか、あるいはならしてみた場合にこれがどの程度底がたいのかということについては、いろいろな見方があると思います。
  100. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 もう一つは国際収支の問題なんです。  もう時間がありませんから簡単にお伺いをしたいのでありますけれども、日本国内のインフレのためにかなり競争力が落ちてきているんじゃないか。それから、たとえば鉄鋼とか化学とか紙パルプとか、こういったようなものは、いわゆる設備投資がだいぶ行なわれておりませんから生産力が落ちてきて、輸出余力というのはだいぶいま下がっているのではないか、あるいは今後とも下がるのではないか、この懸念があるわけでありますし、日本の最近この一年間と申しますか、今年度一ぱいの国際収支は、ある程度東南アジアにも外貨がたまっているということで、日本の経済も何とかいまの調子でいけば国際収支に心配はないのじゃないかと私は思います。しかし今後は、特に東南アジア等は日本の輸入が減ってくれば向こうの外貨も減ってくるわけでありますから、そういった意味で、いわゆる相手国の外貨事情もそう芳しいことはないのじゃないか。  こういったようなことを考えますと、日本の国際収支も四十九年度一ぱいは何とかもつけれども、その先というのはいま言ったようなネックの問題があって非常にむずかしいのではないか。この辺は今後の日本経済の成長率をどの辺に持っていくかということとも関連をしてくるわけでありますけれども、四十九年度は私は何とか乗り切れると思うのですが、それ以降の国際収支の見通しについてどういう判断をなさっていらっしゃるか、伺いたいと思います。
  101. 大倉真隆

    大倉説明員 四十九年度につきましては、私ども、手元にいまわかっております各種の先行指標を見まして、大体佐藤委員と同じような感じで見ておりますが、五十年度あるいはもう少し早く五十年以降をどう見ればよいかということについては、まさしく非常に不透明な点が多うございます。世界経済全体の伸びをどのように見得るか。特にいまお話の中にございました非産油開発途上国の購買力が今後どうなるであろうかという点が、わが国の製品の輸入側としてかなりむずかしい問題を含んでおる。同時にまた、私どものほうのこちらの輸出競争力につきましても、今後やはり物価の安定に最大の努力を払うということはどうしても一番大事なことであるというように考えております。  その中で非産油開発途上国の購買力の問題、これはいま国連やIMFあるいは世銀というふうな場所を通じまして、また地域開発金融機関というところを通じまして、先ほど武藤委員の御質問にもございましたリサイクリングの一環としてどういうふうに考えていくか、それについては私どもも国際的な協調の場でできるだけの努力をいたしてまいりたい、かように考えております。  IMF、世銀ベースのリサイクリングは、御承知のとおり、現在IMFベースで約三十億SDR、世銀ベースで十二億ドル弱すでに実現の緒についておりますが、今後ともその方向の発展に私どもとしても協力してまいりたい、かように考えております。
  102. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 先ほど武藤委員大平大蔵大臣にお伺いをしたわけでありますが、まだまだいまは日本の国際収支の問題にはいろいろな問題が含まれてくると思うのでありますけれども、だんだんどこの国も、ドイツについても、イギリスについても、フランスについても、アメリカについても、国内のインフレのために貿易拡大というのは望めない、あまり輸入をしなくなる、いまは世界貿易が縮小の方向に向かっているのではないかと思うのですね。そういった中で日本の占める役割りというのは、御存じのように、日本自体が資源の大きな輸入国であって、たとえば鉄鉱石にしても原料炭にしても木材にしても小麦にしても繊維原料にしても、こういった原料を日本が買って生産をしている。要するに、この量がふえればふえるほど世界的なインフレを日本自身が引き起こす側に一つは回っているということも私は考えなければいかぬと思うのです。そういった意味で、まあ田中首相はよく、いまの日本のインフレは外国から輸入をしてくるものだと言いますけれども、輸入するそのインフレの一つの原因というのは日本の経済成長にあったという判断を今後は置いてかからないと、私は世界的なインフレの中でたいへんな問題になってくるのじゃないかと思うのです。  先ほどの武藤委員の御質問に対して、まあ世界不況というのは来ないだろうという大平大蔵大臣の答弁があったわけでありますけれども、たとえばロンドンの雑誌のエコノミストあるいはチェース・マンハッタン銀行の総裁ロックフェラー氏などは、世界不況はこのままでは来るのではないかという心配をしているわけですね。そこで日本も、世界に原材料を依存している国として、ある意味ではインフレ輸出国でもあったわけでありますけれども、このあたりで、これはどこでやるのがいいかわかりませんが、IMFでやるのがいいのか、世銀でやるのがいいのか、どこでやるのが一番適当かどうかわかりませんが、世界先進国のインフレをとめる意味においても、あるいは非常に流動性がなくなっているオイルダラーの問題を解決するためにも、ひとつ日本が主唱して、こういった、わが社会党流に言えば反インフレ世界会議みたいなものをやはり考える必要があるのではないか。各国とも国内の経済を縮小していく方向でかなり今後の世界インフレというのが問題になっていくのではないかと思うわけでありますけれども、そういったお考えについてはいかがでございましょうか。
  103. 大平正芳

    大平国務大臣 御指摘のとおり、わが国国際収支の前途というのは、大倉君がいま申しましたようになお不透明なものがあるわけでございまして、こういう中でやはり国際協調というものがじみちに実をあげてまいらないと、たいへんあぶない状況であることも御指摘のとおりだと思うのであります。そのためには、すでに御案内のように、OECDで先進国間の話し合いのフォーラムを持っておるわけでございますし、また通貨の面におきましては、先ほども申しましたように、IMFは当然のことといたしまして、その中の少数の国々、指導国家間のお話し合いもたびたび行なわれてきておるわけでございます。したがって、いまそういう仕組みに事欠いておるわけではないのでありまして、問題は、そういうところで話し合われておる問題に活を入れて実効をあげてまいるために何をなし、何をなしてはならぬかということが一つでございまして、その点につきましては、そういう機会をわれわれはフルに活用いたしまして積極的な提言もし、そのかわりに日本もとるべき責任はとるという態度でまいりたいと思います。  同時に、いま御指摘のように、日本がインフレを輸出するというようなことはたいへんな問題でございます。したがって、財政におきましても、経済におきましても、節度ある運営ということが国際的にも守らなければならぬモラルであると考えて、そういうラインに沿って運営に万全を期していきたいと思っております。
  104. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 それからもう一つ、私は、総需要抑制の陰に、日本経済基本的な問題について触れていかなければいかぬと思うのですが、それは要するに鉄鋼とか化学とか電力とか、電力はいまちょっとみんなが節約しているようでありますので、若干収益が落ちておるようでありますけれども、あるいは化学の、特にエチレンとか、こういったようなものの供給力、日本経済の供給力が非常に落ちているという問題ですね。これは私は非常に憂慮すべき問題ではないかと思うのです。  総需要抑制でありますから、こういった大型の設備投資をどんどん認めるということはなかなかむずかしい、これは総需要抑制に相反することだと思うわけでありますが、さりとてこれをほうっておいて、日本経済の供給力がなくなった場合には、もっともっと構造的な、鉄鋼が高くなってくる、あるいは化学製品が高くなってくる、こういった構造的な供給力不足というものが日本経済において心配をされると私は思うのであります。相反する、矛盾した政策をどういうふうに斉合性を持ってやっていくかというたいへんむずかしい問題だと思いますけれども、この点についてはどういうふうにお考えになっておりますか。
  105. 大平正芳

    大平国務大臣 仰せのとおります将来に向かって設備投資意欲がある。先ほど武藤さんも御指摘になったように、アベイラブルな技術を活用して生産性を高めてまいるという努力がない国は滅んでいくわけでございまして、そういう設備投資意欲があるということは非常にありがたいことでございます。それは尊重せなければならぬと思います。と同時に、先をおもんぱかって、非常に懐妊期間の長い設備につきまして前広にいまごろからちゃんと措置してまいっておく必要も私は痛感するものでございます。しかし、それはいまわれわれがとっておりまする総需要抑制策の壁があるからできないんだ、やろうとしてもできないんだということには直ちにならないと考えております。  と申しますのは、先ほども申しましたように、やみくもに何もかも押え込んでおるわけではないので、総需要抑制策のワク内におきまして、各金融機関並びに政策当局が配慮するマージンは相当あるわけでございますので、私どもといたしましては、そういう中で賢明な判断をしていただきまして、必要な設備資金を供給していただくということは一向差しつかえないことでございまして、産業政策当局からそういうお話がありました場合には、そういう態度で御相談をしてまいっておるところでございます。
  106. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 それから、今後の消費者物価の動向の問題と関連するわけでありますが、いま米価審議会が開かれているわけであります。新聞等によりますと、消費者米価は三六%上がるということが報じられているわけであります。まあ答申をされてもそのままになるか、政治減算になるかわかりませんが、いずれにしろ経済企画庁の試算ということで新聞に出ているわけでありますけれども消費者米価が三六%上がりますと、消費者物価指数が一・一五%上がる。それからこのほか国鉄運賃、私鉄、地下鉄、バス、こういったものが十月に上がると予定をされているわけでありますけれども、これが〇・三%の押し上げ、それから全体的な消費者物価の値上がり基調、これがほぼ一%あるのじゃないか。こういうものを入れますと、消費者物価はさらに二・四五%前月比上がる。これを年率に直しますと、二九%消費者物価指数を押し上げるという試算が出ているわけであります。  二九%と申しますと、あの狂乱物価のときでさえ二六%という数字でありますから、それ以上の、一挙にこういった公共料金を上げるということになると、総需要抑制卸売り物価指数はある程度押えられているようでありますけれども国民生活に全く密着をする消費者物価については一体どうしたらいいんだという嘆き、もう嘆きを越しているかもしれませんけれども、そういう声がますますあがってくると私は思うんですね。先ほど武藤委員からも質問がありましたけれども、確かに卸売り物価は基調としてある程度総需要抑制で押えられますけれども、こういった消費者物価引き上げ、これは政府がある程度財源措置で押える以外にやりようがないし、またそれができると私は思うわけであります。この点についていかがお考えか、御所見をお伺いしたいと思います。
  107. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほども松本君の御質問にお答えを申しましたように、政府物価料金に関与いたしておるものにつきましては極力押えてまいったわけでございまして、一般物価水準料金水準から申しまして、非常に低位に押えてきたわけでございます。しかしそれにはおのずから限度があるわけでございまして、なお押え込んでいくことによって、むしろデメリットが多くなる、後遺症があとに残るということになりますと、われわれのあとに続く国民に御迷惑をかけることになるわけでございますので、最小限度是正はさしていただくということでございまして、いま佐藤さんがおっしゃったようなことを十分頭に置いて、最小限度是正をさしていただくということでいっておるわけでございます。  しかしながら、御指摘のように、そのことが直ちにCPIに端的に影響してまいることも私どもよく承知いたしておるわけでございます。米に向かう購買力が他に向かう購買力を減殺するといたしましても、その他の物資の現実の値下がりが起こらなければCPIに影響してこないわけでございますので、端的に十月なら十月、われわれが消費者米価是正さしていただいた場合にそれだけの影響があるということは十分承知いたしておるわけでございます。  しかし、その場合も、ミニマム末端逆ざやぐらいは解消していただかなければならぬという財政の立場からも、また食管制度の健全な維持から申しましてもそういう要請はあるわけでございまするし、財源を公正に配分してまいるのが財政の役割りであるとすれば、ほかの政策分野のこともいろいろ考えなければなりませんので、私どもとしては、末端逆ざやぐらいまでは解消さしていただきたいということは年来の主張としておろしていないわけでございます。  しかし、御指摘のような事情がありまするし、いま非常に微妙な物価動向でございまするがゆえに、財政のほうもそういう点を勘案いたしまして、相当大幅の負担を甘受しようということにいたしまして考えてみたのが三六%ということでございまして、いろんな思いを込めて、願いを込めてつくり上げた率でございますので、御理解をいただきたいと思います。
  108. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 決して理解はできないのですが、それ以上どうせ出てこないことがわかっておりますし、時間がないから次の質問に移ります。  財政支出の問題でありますけれども、御存じのように、人事院勧告が出てから国家公務員の給与はどうするんだという問題がまだ一つ片づいていないわけであります。おそらく大臣としては、十一月末か半ばに行なわれる臨時国会で提案をして財政支出をしたいということだと思うのです。当然これは地方公務員の給与の引き上げにも響いてきます。それからもう一つは、米の代金が大幅に農家に回るわけですね。そして十二月にボーナスが出るということを考えますと、財政支出として、国家公務員の給与がおそらく四月からやられるのでありましようから四月からの分、地方公務員の分、米の代金、十二月末のボーナス、こういったようなものを全部考えてみますと、膨大な資金が市場に流れることになるわけですね。  そこで、国家公務員なり地方公務員なりのボーナスと給与の引き上げとはなるべく離したほうがいいんじゃないか。国家公務員の給与あるいは地方公務員の給与の引き上げというのはなるべく早い時期に国会に出して——国会を開かなければいけませんが、国会に出して、なるべくボーナスと重ならないようにしたほうが財政運営上はいいんじゃないかというふうに見るわけでありますけれども、そういうお考えはございませんか。
  109. 大平正芳

    大平国務大臣 何さま今度の勧告が高額、高率のものでございまして、一般会計、特別会計はもとよりでございますけれども、御指摘の地方公共団体がこれを受けとめてどのように消化してまいりますか、そういう点も十分見きわめておかなければなりませんし、それからこれだけのことをお受けするということになりますならば、政府の姿勢といたしまして、定員の適正化あるいは既定経費の節約あるいは執務管理の上でいろいろなくふうをこらさなければ国民の御理解も得られないと思うのでございまして、そういう点を十分念査いたし、用意いたしまして、それから政府態度をきめようといたしておるわけでございます。仰せのように、一時に財政支出がかたまるということは好ましい事態ではないのでございますけれども、それ以上に、こういう問題の処理にあたりましてわれわれとして正すべきものはちゃんと正しておく必要を痛感しておるがゆえに、いま中央、地方を通じまして、各省庁においていろいろその点についての吟味をいたしておるわけでございます。その事情は十分御同情をいただきたいと思います。
  110. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 それから、まあ八月一ぱいで大体各省の概算要求が出たように聞いております。総額が大体二十一兆五千億という数字を聞いておるわけでありますけれども、今度の五十年度の予算は、これも新聞報道でありますから大臣から直接お伺いをしたいのでありますけれども、次の安定成長への足がかりにしたいというようなことが新聞報道に出ておりますし、まさか大臣が、今後ともなお一そう高度成長を続けるという所信表明はここにはないと思うわけであります。  そこで、端的にお伺いをしたいわけでありますが、大臣が安定成長と言われるとき、一体どのくらいを具体的に数字を入れて考えていらっしゃるのか。いわゆる田中首相になって福田大蔵大臣のときには、まあ福田さんの持論は大体八%、これが安定成長でしたということであったわけでありますけれども、大体日本人がこのごろ高度成長になれちゃったもんですから、二けたじゃないと何か成長じゃないような感覚になっているわけですね。大臣が頭の中で描いていらっしゃる安定成長というのは一体どのくらいの数字のことを考えていらっしゃるのか。まあ一%、二%違ってもそうこまかいことは申し上げませんが、たとえば七%にすれば十年で二倍になるわけであります。もっと低いことを考えているのか、五%なのか三%なのか。これは数字を入れてお答えを願いたいと思うのであります。
  111. 大平正芳

    大平国務大臣 いま、申すまでもなく日本の経済資源の制約をこうむっているわけでございますし、武藤さんもいろいろ御指摘になられたように、環境上の制約を受けておるばかりでなく、それでなくとも人手不足であり高貸金であるというような状況のもとで、日本の経済は一体成長への歩みを続けられるかどうかという課題なんでございまして、現にことしに入りましてゼロ成長前後の低迷を来たしておるという報道にも示されておりますように、目下のところ停滞をいたしておるわけでございまして、私どもといたしましては、各研究所あるいは銀行の調査部その他がいろいろな前提を置いて、今後の日本の経済の成長率はどのくらいであるべきかというような点につきまして試算を試みておるのを拝見いたしますと、ほぼ六、七%というようなところが大かたの研究機関などが描いておる目標のように伺うのでございます。(佐藤(観)委員大臣目標を聞きたいわけです」と呼ぶ)  そこで私は、先ほどもおまえの言うことはどうもあいまいでわからぬということのおしかりでございましたけれども、私も確信が持てたらきわめて明快に具体的にお答えを申し上げるにやぶさかでないのでございますけれども、確信が持てないものをうわのそらで話したんじゃこれはたいへん申しわけない。特に国会という最高機関で申し上げることでございますので、私にいま安定成長はどうあるべきかなんということを聞かれても、私は全く当惑するわけでございます。  それで問題は、各種の制約要件が今後どのように展開し、変化してまいるか、そしてその中で武藤さんの言われる国民の英知がどのように展開してまいるか、それについて賢明な指導政府で行なわれなければならぬわけでございますので、私といたしましては、各英知を集められた研究機関などが考えられておるようなところへ持っていくことに成功すればいいがなという希望は持っておりますけれども、私はこういう点が安定成長の目安でございますなどということをいま申し上げる自信はないのでありまして、そういうことができるような日本に早くなりたいといま考えております。
  112. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 何か聞いていて心さびしくなってきたわけでありますけれども、いわゆる安定成長というのは一つの目標でありまして、これはいろいろな総合的な結果で何%になったというものじゃないと思うのです。つまり、たとえば七%に目標を置けば、それに合わして金融財政政策その他の産業政策をやっていくのであって、いわゆる大臣が安定成長と言った場合に七%も私はかなり高いと思うのです。大臣と縁の深い池田首相が所得倍増政策を言われたときが七%。七%は複利にしてみますれば、言うなれば十年で倍、もう一つの日本経済がこの国内にできるわけでありますから、私はこれでも早過ぎると思うわけです。それが一二、三%という今日まで超高度成長政策をやってきたわけでありますけれども、しかし、私は七%は早過ぎると思う。  それで、大臣がたとえば安定成長を三%なり四%と言った場合には、それに合わしてやはりいろいろな政策をやっていくんだと私は思うのです。つまり、目標があってそこに到達するためにどういう政策を選択をしていくかという問題。かつて一四、五%の成長をしていた日本経済が三%の成長をするということになると、いろいろな意味でかなりぎくしゃくしてくるものがあると思うのですね。それを調整していくのは私は政府政策の問題になってくると思うのです。ですから、どうも大臣のお話を聞いてみますと、いろいろな要件があって、おそらく四十九年度はゼロ成長あるいはやっても一、二%じゃないかという、これは結果としてこうなったわけで、政策としてこうなったわけじゃないわけですね。そういった意味で、どうも大臣が自信がないと言われるのではちょっとわれわれとしては困るわけです。だから政策目標を持っていなければいかぬし、それから今度予算を組むときに具体的に何%の経済成長で物価はどのくらいに押えるんだという目安がなければ、私は予算も立てられないと思うのです。これは苦言を申しておきますが、この点についてはまたゆっくりやらさしていただきます。  時間がありませんので、最後に預金金利の改定の問題についてお伺いをしたいと思うのです。  先ほど松本委員からも御指摘がありましたように、とにかく東京都の消費者物価指数がこの一年間に二三・四%上がっておる。この中で預金の金利を一%上げても、これは私はいわゆる目減り対策ではないと思うのですね。一%を何か〇・五%にするという話もあるようでありますけれども、二三・四%上がったときに一%というのでは、これは日本のことわざに二階の窓から目薬ということがありますが、これは二階の窓から目薬どころか、二三%に対して一%でありますから、霞が関ビルの上から目薬を落とす程度のものになるのじゃないかと思うのです。  私はこの考え方、いま論じられていることには二つ問題があって、一つはほんとうに目減り対策ということで考えるのだったら、本院の物価対策特別委員会でわが党の平林剛委員指摘をしましたように、マル優の範囲、つまり三百万円の範囲の中でたとえば一〇%の金利を考える、二・七五現状よりプラスをするわけでありますが、これは都銀はできるということをいっているわけですね。そういったような二・七五、これでも多いか少ないかということになると論議がありましょうけれども、まあ一律一%というようなものよりも、私はやはり目減り対策という点から考えるならばまだ若干なりとも前進なんではないかと思うわけです。  ところが、この論議の中に、いま事業債が売れなくなってきている、この八月から証券界は事業債の条件を改定してきた、したがって、これは金融債も変えなければいかぬだろう、ひいては国債も変えなければいかぬだろう、こういうことでいま長期短期の金利が逆転をしているという現象がある、これを何とか緩和しようということで一%ということがいわれているわけですね。  だから私は、問題をはっきり分けなければいかぬと思うのであります。目減り対策ということで考えるなら、一%というのではこれは目減り対策というものに相応しない。おそらくこういったインフレというのは異常なインフレでありますから、特別な機会でありますから特別なことを考えなければいかぬ。そんなことをやるなら、私は地方銀行が言うような半年複利のほうがまだましだと思う。しかし、これは五十歩百歩でしょう。したがって、目減り対策ということを考えるなら、これは大蔵省も検討をするということになっておりますいわゆるマル優の範囲内で金利を一〇%の特別のものをつくるということ、これを私はもっと真剣に具体的に事務的に詰める必要があるのではないかと思うのです。これが第一点であります。これがいわゆるわれわれ国民が望んでいる目減り対策の問題であります。  それからもう一つは、いま言ったように、長期短期の金利がずれているということ、あるいは事業債がなかなか売れなくなってきているどいうこと、ひいては金融債にも響いてきましょうし、あるいは何か報ぜられるところによりますと、公社債の利回りも改定するという話も聞いている。この話と私は別個に考えなければいかぬと思うのですね。  そこで、まずお伺いしたいのは、目減り対策として大臣は先ほど松本委員の御質問に対して、一律、おそらく六カ月ものだと思うのでありますが、一%ということを言われたわけでありますが、これではいわゆる目減り対策に値をしない。私は、衆議院の物価特別委員会で論議になりましたように、三百万円まで一〇%の利子をつける——これは事務的になかなかむずかしいことも私わかります。わかりますが、この際でありますから、ひとつ特別なこととして考えるべきではないかという問題。  それからもう一つは、いわゆる長短の金利がずれているわけであります。事業債が売れなくなっている。国債もいま一・二七%も事業債のA格債とは差ができているわけでありますから、これも改定しなければいかぬという問題があります。この二点について分けて私はものを考えなければいかぬと思うのです。  この二点について、大臣の所見をお伺いしたいと思います。
  113. 大平正芳

    大平国務大臣 前段の目減り対策は、大蔵省としては考えていないわけでございます。インフレ対策というのは二つに分けて考えなければならないわけでございまして、インフレ自体の克服に精一ぱいの努力をするのが政策当局として当然の態度であろうと思うのでございます。しかしながら、一面、過去のインフレによりまして受けた被害というものに対しましての配慮というものは社会保障その他で考えてまいるべき性質のものでございまして、私ども政策分野で目減り対策を考えるという発想はないわけでございます。  それから第二の点は、先ほど後段であなたが御指摘になったように、貸し出しにおきまして長短期のバランスがとれなくなってきておる、現実に事業債の消化が困難になっておるじゃないかという当面の事情は御指摘のとおりでございますので、私どもといたしましては、金利体系の中のそういうアンバランスを調整するという意味で今度の預金金利の幅を考えておるわけでございまして、先ほどあなたは一%ということでございましたが、私の頭には一%という数字はないのでありまして、どう考えてみましても〇・五が精一ぱいのところでございます。
  114. 佐藤観樹

    佐藤(観)委員 時間が来ましたからこれで最後にさせていただきますが、大臣、この衆議院の大蔵委員会でも二月の十九日、これは例のくじつき預金が通過をした日でありますけれども、附帯決議の三番目に「最近の物価の動向にかんがみ、預金者の立場を十分配慮し、預金金利のあり方について検討すること。」という附帯決議がついておりまして、これは当時の福田大蔵大臣も、考えてみましょう、ただし事務的にはいろいろむずかしいことがあるのは私はわかっておりますと。しかし、そのときかなり詰まったのは、特別に一家族五十万、というのは非常に少ないのでありますけれども、とにかくやらぬよりいいだろうということで、一家族五十万円、一〇%の金利をつける。こうなると戸籍謄本がどうなるか、住民票がどうなるかという問題まで考えなければいかぬのでたいへんむずかしいわけでありますが、それでもとにかく国民の期待にこたえて何とか少しやろうじゃないか。ほぼまとまったところでありますが、われわれも何か参議院選挙でかけずり回っている間に、片方のボーナス預金のほうで一%六カ月ものが上のせになるということでごまかされちゃって——正直いって私たちに言わせれば、ごまかされたような感がするのです。これは与党の理事の方に聞いていただいてもいいと思うのですが、とにかく一律一家族五十万円、一〇%の利子をつけたものを何かつくろうではないかというところまで話が詰まったわけであります。詰まったわけでありますが、そのうちそれが何かボーナス預金の一%一律引き上げにすりかえられちゃったわけですね。  そういった意味で、先ほどの松本委員の御質問の預金者保護、これだけ目減りしている預金について若干なりとも何らかの手当てをすべきではないか、これは私は国民の広い要求だと思うのです。新聞の報道等は、参議院選挙に自民党が負けたのでこれも考えざるを得なかったというような論調があるわけでありますが、その問題と預金者保護の問題と長短金利改定の問題、事業債、金融債などのような大手の企業が発行する債券についての金利の引き上げ、あるいはこれは国債まで響いてくるわけでありますが、そういったものとごたごたになっちゃっているわけですね。  後半のことについてはわかりました。これはまたゆっくり、いまの証券市場の問題等も含めて私は一度お伺いしたいと思いますが、肝心の前半の預金者保護の問題については、預金者保護の観点から〇・五%というのを上げるのではなくて、いわゆる長短のバランスの点、その辺から考えるのであって、いま申しましたようなマル優について特別に預金者保護という観点から考えるということはないというお答えに理解してよろしゅうございますか。
  115. 大平正芳

    大平国務大臣 目減り対策としてそういう政策理念で今度の問題を考えたわけではないのでございまして、金利体系の中でアンバランスを是正しながら今日の預金者の要望の一部にこたえるということを考えたわけでございます。したがって、幅といたしましては、たいへん御不満のようでございますけれども、精一ぱいのところを考えたわけでございます。
  116. 武藤山治

    武藤(山)委員 関連。大平さん、先ほどから福田さんの考え方と大蔵省というのは一体で、大臣がかわろうと大蔵省は変わらぬのだから、そう簡単には考え方も変わらぬのだと、そういうことをおっしゃっておりますが、いまの預金の目減り対策については、前の大臣とあなたとではえらい見解が違うのですよ。  福田さんは、こんなにインフレになっちゃ、なるほど預金をする者が債権者、借りる者は債務者だ、債務者利益ばかりインフレは保証して、債権者である預金者がないがしろにされるというのはやはり主客転倒だ、何とかこれは考えなければならぬ。そういうことで、堀政審会長と大臣との会談は三回やったと思います。さらに委員会においてもかなりいろいろな角度から詰めたと思います。そのときに福田さんは、何とか六月に十二月のボーナス預金が切れた段階で目減り対策も十分ひとつ検討し、考えましょうと、そこまで言ったのですよ。  それを、あなたになったら、全然そういう発想は別ですと。長短金利や大企業の事業債が売れやすいようにすることが発想の第一で、預金者を保護するというのは従の考え方、これはまさに国民無視だよ。国民不在ですよ。野党との間の信義にもかかわる重大問題だ。もう一回再検討すべきですよ。
  117. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 お答えいたします。当時、私、銀行局担当の審議官をいたしておりましたので、若干関係がございますのでお答えいたします。  当時、福田大臣といたしましては、確かにいろんな角度から預金金利を引き上げる方法はないかということについて研究を命じられたわけでございます。私どもも日夜それに専念いたしたわけでございますが、いま御指摘のようないろいろな小口の預金に対しまする対策とかそういうものは、いずれもどこかに難点がございまして、技術的に、これは野党の先生方にも一部御意見を伺ったことがあるのでございますが、とてもなかなかそういう対策はとれないなという御納得をいただいた方もあるようなことでございまして、大蔵省が、大蔵大臣がかわられましたから急にそういったような方策、方式が変わったということでなくて、すでに福田大臣のときに、私どもも答案はなかなかございませんということで、ほんとうにぎりぎりのところまで考えたのが、結局くじつき定期とそれからボーナス定期をもう一回繰り返すということであったわけでございます。  ただ、いまの御指摘の中でちょっと一言申し上げますと、債券金利が実際乖離がございますから、その乖離をなくするために金利をいじったのと預金金利とが同時に出てまいりましたので、あるいはそれを結びつけて初めてそこで預金金利が動いたというふうにお考えいただいているのじゃないかと思いますが、これはたまたまそういう時間的な一致でございまして、あくまでも私どもはこの時期に預金金利について少しでも上げられる余裕があるならば上げたいということで努力をしてきたところが、一月以降の貸し出し金利の上げ方から見まして、相当貸し出し金利が上がってまいりましたので、それに対していまの中小の金融機関の体力からいきましても、〇・五程度であれば預金金利を引き上げても何とかいけるという見通しを立てたので、この際預金金利を上げて預金者に対して幾ぶんでもおこたえしたいという気持ちでございます。これはいわゆる目減り対策という考え方ではなくて、預金者に対してかねてから政府が上げたいと思っておった預金金利をこの際可能な限り上げたいということでございます。
  118. 武藤山治

    武藤(山)委員 そうなると、あなたのほうは、目減り対策は、今後〇・五%おしなべて上げたあと、もう一回目減り対策として考えるのか考えないのか。私はおかしいと思うのは、金を預かる銀行側がすでに個人預金二%ぐらいの引き上げは可能だ、オーケーですといっておるんですよ。しかもこれは、日本経済新聞に報道されておりますように、都市銀行は二十一日、個人の小口預金に限定して預金金利を引き上げるという案をまとめた。そして大蔵省、日銀に対しその実現を働きかけることになった。方法についても、われわれが提案したと全く同じ、住民票をつけて、そして住民票の原本に、これはマル優に使ったということが残されるようにして、その手続で身分証明がちゃんと保証されるからオーケーだ。銀行側がオーケーだといっているものまで、大蔵省は前向きにやろうとしない姿勢は一体どうしたことなのか。  私はおそらく大蔵省の配慮は、信用金庫とか信用組合とか小さいところが預金金利が高くなって、とても経営が困難になる、採算がとれなくなるだろうというところにおそらく配慮があって、今度の〇・五%でごまかして目減り対策は逃げたと思うのだが、これでは、国民がいままでに何回も新聞報道を通じて小口預金について何らかの答えが出るだろうと期待をしてきたのをまるでペテンにかけたことになるのですよ。これじゃますます政府・自民党が国民に不信を買うのはあたりまえですよ、ペテンですもの。はっきり目減り対策としての預金金利をもう一度検討すると、その答えを出してくださいよ。ペテンですよ。われわれに対してだって、これはペテンをかけたことになるんですよ。
  119. 高橋英明

    高橋説明員 都銀懇がいま先生がおっしゃったような案を持っているという新聞報道がございましたことは承知しております。私、まだ都銀の人からは正式には聞いておりません。  ただ、これは推測でございますけれども、都銀の場合はあそこに出ておるようなことがゆうゆうとできると思います。あれと同じことをすべての金融機関がやれるかというと、やれないのではないか。私ども、結果として強きを助けて弱きをくじくような、そういう金融機関行政というのもできませんので、私のところへ正式にああいう案を持ってきてはおりませんけれども、非常にむずかしいのではないかというふうに私は考えております。
  120. 武藤山治

    武藤(山)委員 小口預金の金利を引き上げると、強きを助け弱きをくじくというのか。強きをくじき弱きを助けるのは人間の道理なんだよ。道理は勝つんだよ。ところが、いまやっている自由民主党政府のやり方は、強きを助け弱きをくじくから負けるのですよ。この際は弱い預金者の小さいものぐらいは思い切って救済をする。そして信用組合や信用金庫については別な手だてを考える。そのぐらいの発想がなければ、どこかへみんな当たりができるのですよ。だからそれを、私はそういう言いくるめようという態度承知できないのです。  これはいいですよ。きょうのところは宿題にして、大臣、もう一回いままでの経過、福田さんと野党との間のいろいろな折衝もあるのですから、大平さんにも私じっくりその経過をまた報告に行きますから、もう一回この目減り問題については根本的に議論する場所をつくりましょう。木で鼻をくくったような態度に対しては承服できません。これは私どものほうは党全体の問題です。きょうはこの程度にしておきますが、再検討の機会をつくってください。
  121. 松本十郎

    松本(十)委員長代理 増本君。
  122. 増本一彦

    増本委員 共産党・革新共同の増本ですが、先ほどから消費者米価の問題が出ていますけれども、まず大臣に伺いたいのは、答申の諮問案を三六%にして出した。これで国民に大きな負担をかけることになるのですが、これはもう財政的な手当てが現実にできない、ぎりぎりだというところで出されたのかどうか、ほかにいろいろな動機があるのか、その点をまずはっきりさせていただきたいと思うのです。
  123. 大平正芳

    大平国務大臣 今度の生産者米価の大幅な引き上げに伴いまして、食管会計の負担の配分にあたって財政も負担し、国民にも負担をしていただくという両方の考え方から作案いたしたものでございます。
  124. 増本一彦

    増本委員 国民に負担をかけないで財政の手だてをきちんととるという、それにふさわしい財源が今年度はそれでは見込めないのですか、見込めるのですか。これからの自然増収やその他の見込みから見て、それにふさわしい財源は確保できる見通しはあるのですか、どうですか。
  125. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほども御答弁申し上げましたように、七月までの税収のあがりは相当順調な足取りでございます。けれども、まだ四カ月の足取りでございまして、ことしの自然増収がどれぐらいになるかというような展望は、経済がこういう変動期であることも手伝いまして、確たる展望を持つに至っておりません。  それから歳出のほうも、先ほど申しましたように、各種の歳出要因があるわけでございますが、まだ不確定のものもあるわけでございまして、財政は公の財源を各政策分野に公正に配分してまいるという責任を持っておるわけでございまして、食管会計赤字補てんということだけを目的としたものでないことは御承知のとおりでございますので、私どもといたしまして、財政もこの際こういう時期でございますだけに、財政の都合ばかり言わないで相当の負担をあえて甘受しよう、国民にもこういう状況理解していただいて負担をお願いしよう、そういう態度で臨んでおるわけでございます。
  126. 増本一彦

    増本委員 七月までの税収の見込みから見て、昨年度の自然増収と比べて今年度はその程度までいくのか、あるいはそれ以上越えるのか、その点の見通しはどうなんですか。
  127. 中橋敬次郎

    中橋説明員 七月末におきますところの一般会計の税収の進捗割合を昨年度と比べてみますと、確かに四・八よろしいわけでございます。ただ、その中には予算額に入っておりません会社臨時特別税の収入が七月末で約八百億円入っておりますから、それを除外いたしますと、四・八といいますのは四・二いいということになります。  確かに四・二昨年よりはいいわけでございますが、各税目についておよそのこれまでの足取りを考えてみますと、先ほどもお話がございましたように、源泉所得税は給与の伸びがかなりありましたものですから、大幅な減税にもかかわりませず、いまのところ順調に入っております。  それから法人税につきましては、これは大体六カ月決算法人、一年決算法人を通じて順調でございますが、最近までの傾向から申しまして、実はこの七月収入からあの法人税率の引き上げ分が入ってくるわけでございますけれども、それを勘案いたしますと、大体六カ月決算法人というのは昨年に比べまして税額で一割くらいよろしいわけですから、法人税率の上昇というものに大体見合って入ってきておるということは言えます。それから一年決算法人はこれはかなり予算で見積もりましたよりも上回って、約五割くらい昨年の同期と比べて伸びております。  それは大体直接税の事情でございますが、間接税は酒税、揮発油税、物品税その他おしなべてみまして、この足取りはやや昨年度に比べまして鈍化の傾向がございます。七月までで申しまして、酒も、それから揮発油税は増税後の収入が七月から入ってきておりますけれども、これも鈍化をいたしております。それから物品税も七月の収入を見ますと、自動車、クーラー、テレビ等の出荷がよくないようでございまして、昨年に比べて決していい状況ではございません。あるいはまた増税をしていただきました印紙収入も七月までの収入を見てみますと、これはそんなに伸びてはいません。  ということが現状でございますが、なべて、先ほど申しましたように、源泉所得税の伸びと法人税の伸びとがこの四・八あるいは四・二という状況をもたらしたものと思います。  しからば今後の状況はどうかということは、何ぶん三三%余りの収入でもって即断することはむずかしゅうございます。しかもなお、先ほど来いろいろお話がございましたように、経済としましても非常にむずかしい段階でございます。われわれとしましても、問題としましては、たとえば源泉所得税におきましてはこの年末のボーナスというのが、昨年はかなり予想に反しまして上昇をいたしましたが、そういうボーナスの事情というのが今後の法人の収益と関連しましてどのくらいになっていくのかあるいは法人税につきましても、先ほど触れましたように、六カ月決算法人の事情というのが今後、あの狂乱物価という時期を含みました時代が去っておりますから、いまの経済事情を含んだ事業年度の収入ということになりますので、その収益に対します法人税がどういうふうに動いていくのか、それから昨年の年末から年初にかけましての時期を含んでおります先ほど申しました非常に好調であるという一年決算法人が、だんだんその時期をはずしたものを含んで申告してまいります。そういう法人の収益がどういうふうになるかというのも非常にむずかしいところでございます。今後私どもはできるだけ、法人収益がどういうふうに動いていくのか、それに関連しまして、給与、特にボーナスの問題、それからもう一つは、申告所得税としまして昨年の収入が非常によかった原因のおもなものの一つとしてあります土地の譲渡に対しますところの申告所得が、ことしはどの程度になるのか、そういう事情を見込みながら検討してまいりたいと思っております。
  128. 増本一彦

    増本委員 消費者米価引き上げられる、それから十月からいろいろな公共料金の値上げがもうすでにきまっている。こういう点を考えますと、特に政府が決定をする消費者米価についてはもう徹底的に押えて国民の負担を軽減するということが、物価を安定さしていく上でも重要だと思うのですね。まず大臣の御意見を伺いたいのですが、いまのこの異常な物価高をこれ以上もう促進させないという立場に立って、国の財政で補てんできる点はできるだけ最大限補てんさせるという、こういう政治的な姿勢なり立場というものをおとりになるべきだと私は思いますが、まず、その一般的な政治姿勢について大臣はどうお考えなのか、その点はっきりさしてほしいと思います。
  129. 大平正芳

    大平国務大臣 仰せのとおり、できるだけというか最大限、米価調整に充当する財源は、絶対額においてはもちろんでございますけれども、比率におきましても例年に比べて本年度充当する覚悟をいたしておるわけでございます。それはほかならぬことでございまして、いま物価鎮静化という点を政策の第一目標に掲げて努力しておるときでございますがゆえに、財政当局としてもそのように決意をいたしたわけでございます。
  130. 増本一彦

    増本委員 大臣がそういうお考えをお持ちならば、この三六%の消費者米価のアップというのは私は高過ぎると思うのですね。いまの一般的な政治姿勢から、具体的に出てくる回答が三六%だというのはこれはうなずけないと思うのです。  もう一つ、これは主税局長にもう一度お伺いしますが、もう補正予算については具体的に考えていかなければならない時期でしょう。その時期になって、いままだこれからの経済の変動があるから自然増収の見込みも立たない、補正予算の財源についての見通しも立たない。そのままではこれからの国の財政についての課題解決していくということはできないと思うのですね。私がその前に質問したように、では一体昨年と比べてこの自然増収等のこれからの財源の見通しはどうなのかという点についてはどういうようにお考えなのか、その点はどうですか。先に答弁してください。
  131. 中橋敬次郎

    中橋説明員 四十八年度の一般会計におきましては、当初の十一兆余りの予算額に対しまして、一兆五千億円の補正を計上いたしました。その補正後の金額に対しまして、決算剰余が大体七千八百億円ぐらいの金額が出ました。これはそれぞれ事情がございまして、われわれとしましては、当初の予算のときにできるだけの正確を期したことはもちろんでございますけれども、源泉所得税、特に賃金の伸びが予想を越えて大きかったということに関連しまして、源泉所得税がかなり入ってまいりました。それから先ほど申しましたように申告所得税が、営業所得が伸びたということのほかに、土地の譲渡課税の税率引き上げの段階時に際会いたしまして、非常に多くの譲渡申告があったことによりまして、かなりふえております。それから法人税は、先ほどは一年決算法人と六カ月決算法人についてことしの状況を申しましたけれども、昨年は六カ月決算法人も一年決算法人も、当初予算に比べて非常に伸びが大きかったわけでございます。そういうことで補正を一兆五千億計上し、さらにそれを上回って決算剰余額が出たわけでございます。  そういう状況をもちろん勘案しながら、そして本年度の経済の見通しを立てながら、また私どもはいまの段階から四十九年度の税収見込みというものを考えるわけでございますけれども、大体例年ごらんいただきましてもおわかりのように、補正予算でいわゆる自然増収を見積もりますのはもう少しあとの時期でございます。先日もある委員会で非常におしかりを受けまして、四十七年度の自然増収が多く出過ぎたと言われましたけれども、これでも十月の下旬に補正予算提出いたしました。これは実はかなり早い時期でございまして、もちろんある種の見通しの決断をつけながら補正予算の自然増収を計上したわけでございますが、私どもとすれば、できるだけ正確を期して、できるだけ多くのデータを組みながら自然増収の見込みを立てるのが望ましいわけでございまして、それはもちろんある段階ある段階で、決断をしなければならない時期にあれば補正の計上をする責務を持つものでございますけれども、それはそれといたしまして、できるだけ正しい見積もりをするために、できるだけ多くのデータを持って計上いたしたいというのがわれわれの気持ちでございます。
  132. 増本一彦

    増本委員 伺っていることに端的に答えてください。  前年と比べても、いまお話があったように、七月までの税収は臨時利得税を除いても四・二%高いわけでしょう。だから、前年と比べても自然増収はそれを上回るか、それくらいは出てくるという見込みが当然立つのじゃないですか。またそういう立場に立ってこれからの財政運営をはかっていこうという方向は持っていないのかどうか、その点もまだはっきりせぬというわけですか。
  133. 中橋敬次郎

    中橋説明員 七月末におきます現況を昨年の同期と比べまして四・二いいということから、簡単に逆算をいたしましてもちろんある種の計数ははじき出せるわけでございます。その前提といたしますれば、昨年と同じ経済情勢が今年も続くということが必要なわけでございます。そうしますと、昨年は前半よりはむしろ後半に、法人収益等が名目でございますけれどもかなり伸びたときにああいう状態であったわけでございまして、本年しからば今後の景況はいかがかといえば、先ほど申しましたように、非常に多くのかげりがあるわけでございます。むしろことしの初めのほうは非常によくて、それが四十九年度の税収としての初めの部分に反映をしておるわけでございますけれども、昨年と同じようなカーブが今後期待できるかといえば、これはいまそれを即断することははなはだ危険だと思っております。したがいまして、四・二というものをそのまま使いまして本年度の自然増収を推計するということは非常に大きな危険をはらむと思います。
  134. 増本一彦

    増本委員 そこで、大臣、先ほど国民に負担をかけないように、この時期だから一つは財政的な手だても十分とってやらなければいけない、こういう一般的な政治姿勢である。こういうお話でしたね。それならば、この自然増収の見込みがはっきり立って、それで十分に食管会計赤字をそこで最大限補てんする、そういう手だてがとれるかどうかが明確になるまでは少なくとも米価の値上げはきめないという、このぐらいのところまでははっきりさせるべきじゃないですか。それがあなたの一般的な政治姿勢から出るこの米価問題での具体的な処置のあり方であるというように思いますが、この点はどうですか。
  135. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほども申し上げましたように、公共の財源をどのように公正に配分してまいるかということが私どもの任務でございます。したがって、自然増収がたまたまその年にあるから、それは食管の赤字の補てんに向けるのだという態度を短絡にとってまいるという態度ではないわけでございまして、公正な財源の配分を考える場合に、私ども、ことしはこのような生産者米価の値上げに伴う巨大な財政負担がございますが、本来ならばこの負担をお願いしておきたいところでございますけれども物価鎮帯化のために政府努力し、国民にもがまんをお願いしておるときでございますだけに、財政といたしましては、例年に比べて金額におきましても割合におきましても多くの負担をあえてしょうというように決意をいたしたわけでございまして、自然増収が多い、少ないということと直接の関係はないわけでございます。
  136. 増本一彦

    増本委員 具体的に今後赤字を補てんできるだけの財源が見込まれれば、それはそれで、補てんをして国民の負担を軽くするというのは、これは当然のやり方ではないですか。いま大臣も、できるだけ国の財政の面からも補うものは補うと言う、それでなおかつ三六%だと、こういうことですね。  だけれども、まだ補てんできる財源は、主税局長の話だとはっきり見込みが立たないというわけでしょう。先に国民のほうには三六%で出して、それまできめていくということになったら、これはもう国民には負担だけ先に押しつけておいて、それがまたさらに物価を押し上げていくわけですよね。ツケばかり回って、そうして結局はその自然増収がもしかりに大幅に出れば、それがまた翌年度の繰り越し金になって次の財源に回るだけで、当年度に国民の生活を守るために具体的に使うということにはならないわけでしょう。  大臣は公正な財政の運用ということをおっしゃるけれども、一体公正ということの基準は何なのか。国民の生活を守り、国民の福祉を守るというのがいま一番の、最大の政治の理念だということをあなたもおっしゃるわけですから、それを基準として考えるならば、公正な財政の運用というのは、国民の直接の負担を軽くして財政負担でできるだけそれをカバーする、最大限カバーをするという態度になってあらわれてこなければいかぬというように思うのですよ。だから、そういう意味で、先ほどもおっしゃった公正な財政の運用というのは、大臣はそれでは一体どういうようにお考えなんでしょう。
  137. 大平正芳

    大平国務大臣 増本さんは消費者のことばかり言っておりますけれども、生産者もまた国民なんです。米をおつくりになった農民の方々に生産者米価をことし差し上げるわけでございます。そのために大幅の食管会計の負担がふえるわけでございます。それを国民皆さまにみんな負担していただくということはいかがかと存じまして、例年に見ない大幅の負担を財政が甘受しようという決意をしたと申し上げておるわけでございます。  また同時に、私ども財源の配分と申しますと、これは農業政策、福祉政策ばかりでなく、国家活動全体にわたりまして財源を配分してまいらなければならぬわけでございまして、御納得のいく公正な配分をどうして実現するかということにわれわれは毎日苦心をいたしておるところでございます。
  138. 増本一彦

    増本委員 いま私が申し上げている点は、生産者である農民とは直接短絡する問題じゃないのですね。いまここでお米を買う側の国民がどれだけ負担増になるか、それがひいてはこれからの、この米を中心にして消費者物価が上がっていく、これをいかにして押えていくか、こういう問題です。先ほどもお話が出ましたけれども、それでは大臣は、政府諮問案の三六%ということになると年率換算で二九%をこえるという、こういうような消費者物価の異常な上昇も、やむを得ないというようにお考えなんですか、その点はどうなんです。
  139. 大平正芳

    大平国務大臣 できるだけ消費者物価卸売り物価というものを低位に鎮静化していきたいと願っておる次第です。   〔松本(十)委員長代理退席、委員長着席〕
  140. 増本一彦

    増本委員 私の伺っていることに直接お答えください。  経済企画庁の先ほどの佐藤さんの質問に対する答弁では、三六%の消費者米価のアップになると年率で二九%という消費者物価上昇になる、こういうのですね。だから、そういうような物価上昇というものをこれはもうやむを得ないというようにお考えなのかということなんです。そのことを伺っているのです。
  141. 大平正芳

    大平国務大臣 一定率消費者米価を上げますとどれだけCPIに響くかということにつきましては、私どもよく承知いたしておるわけでございます。そういうことも含めまして、全体として消費者物価卸売り物価というものをどう下げてまいるか、どう鎮静化してまいるかという課題に取り組んでおることは御承知のとおりでございます。
  142. 増本一彦

    増本委員 政府がやっていることをいま聞いているのじゃないのです。年率二九%の消費者物価上昇というのは、これはやむを得ないのかどうかということなんですよ。米が三六%上がって、その結果どうなのかということなんです。これは高過ぎると思うのですが、それともまた十分だと思うのですが、あるいはやむを得ないというように考えるのですか。
  143. 大平正芳

    大平国務大臣 三六%消費者米価を上げますとどれだけCPIに響くかということでございますが、一〇%上げますと大体〇・三%程度CPIに響くわけでございます。あなたの言う二九%という数字は出てこないわけでございます。  問題は、全体として消費者物価が去年に比べてそういう水準に上がっておるところへ、さらにそういう要素を加えることによって消費者物価を押し上げる力になるじゃないかということはあなたのおっしゃるとおりでございまして、私どもはそういうことはよく承知いたしておるわけでございますが、それじゃそういうことをやらないでいくべきか、この際財政も負担するが国民にもお願いするのか、どちらが正しいかと問われるならば、こういう状況におきましても、財政がこのように大幅の負担にはたえないという以上、一部を国民にお願いすることもやむを得なかろう、しかし、全体として消費者物価鎮静化していく努力を鋭意続けてまいって国民理解を得たいと存じております。
  144. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 いま年率二九%という御質問が出ましたのでちょっとお答えいたしますが、十月の消費者物価上昇率というのを一応推定してみたわけでございますが、その場合に米の三六%、これが消費者物価に与える影響が一・一五、それから国鉄、地下鉄、バス等で大体〇・三、基調的に上昇するそれ以外の上昇率が一・〇、合わせまして十月の消費者物価上昇率をおよそ二・四五と踏んだ場合に、それを単純に十二倍いたしますと二九になるわけでございます。これは二・四五という上昇率が十月に上がりましてから毎月毎月同じように物価影響していくということを前提としたものでございまして、これを単純に十二倍するということ自身は私どもとしてはたいへんおかしな数字であろうと考えております。
  145. 増本一彦

    増本委員 十月一カ月の消費者物価が二・四五%ですよね。だけれども、結局いま上がっている消費者物価を土台にしてそれがさらにもっと上がるわけですね。消費者物価二三%だったのがさらにこれによって押し上げられる。そうすると、その分だけ国民の負担が一そう深刻になるわけですよね。それを国民に負担をさせないためにいまこの緊急な事態だから国の財政で手だてをとろう、そういうことをやらなければだめなんだという、一般的には大臣もそういう政治姿勢を持っていらっしゃる。しかし、具体的な問題の具体的な回答としてはそれが出てこないわけですよ。だから、年率で見れば二九%というような事態になるこういう事態をもあえて承知して、それでも三六%の値上げというものはやむを得ない、これ以上はもう国の財政では負担はしませんよというお考えというのは、先ほど伺った大臣所信表明に、物価の安定こそ最重要課題だと言っているそのこと自身にも背離することになるのじゃないか。  だから、国の財政的な手だてがはっきり財源が見込まれ確定できるまで、そしてどれだけそれをきちんと食管会計赤字分として補てんする、もう最大限補てんする、そういうきちんとした見通しが立つまでは、政府としては絶対に消費者米価の決定はしない、その上に立って検討をするというところまで、少なくとも国の財政運営する政治姿勢としては必要なんではないか。そのことも検討の余地がないというのだったらこれは何をか言わんやだと思うのですが、そういう意味で、もう一度いま私が提起した問題の所在を踏まえて大臣のお考えを伺っておきたいと思うのです。
  146. 大平正芳

    大平国務大臣 あなたは生産者米価は上げてよろしい——もっとも、あなたの属する政党ももっと高く上げろとおっしゃったはずです。しかし、消費者米価は値上げは全部財政で負担しろ。私はそういう見解をとらないわけなんです。全部を負担するということはあなたが御主張に相なるわけでございますけれども、私といたしましては、財政も負担するが国民にも御負担をある部分していただくという態度が正しいと考えておるわけでございます。  第二点でございますけれども、いま審議官からもお話がありましたけれども、一・一五%のCPIへの影響というのは十月の消費者物価にそういうように影響があるだろうということでございまして、それは十一月にまた同様の値上げが行なわれるわけでないことは増本さんも御承知のとおりでございます。もし十一月も十二月も同じような値上げをしていけばこうなるという数字は虚妄であるといま審議官から御説明申し上げたところで御理解をいただきたいと思います。  第三点は、自然増収の展望がはっきりした上できめたらどうかという御見解でございます。しかし、この自然増収というのは要するに昭和四十九年度の自然増収でございます。けれども消費者物価というものをベースにいたしまして来年度の予算も組んでまいらなければならぬわけでございまして、たまたま特定年度の自然増収の多寡ということによって消費者米価を上げ下げするというようなことは、私は不見識だと考えております。
  147. 増本一彦

    増本委員 私は、生産者米価についていえば、生産費、コストが非常に上がっているから、いまでもほんとに十分なのかどうかというのは、これはまたいろいろ大いに問題があるというように思うのです。それは、いままでの自民党政府物価政策そのものが、独占価格や独占利潤そのものにメスを入れたりしてきちんと価格をほんとに引き下げたり安定させる、農業用資材や肥料やなんかについても同じですよ、そういうことを全然してこなかったその結果が今日のようなこういう事態になっているわけですね。そのしりを農民のほうにも持っていけないのと同じように、消費者米価についてだって、そのツケは消費者そのものに持っていくことはできない。だからいまここで、これまでのような経済運営をやってきた政府がもう国の財政運営についても国民の生活を守っていくというそういう手だてで問題を考え処理をしていく、これ以外にないのじゃないか、その意味で申し上げているわけです。  時間に限りがありますので続けてもう一つ。  けさの所信表明演説を伺いましても、総需要抑制を堅持するということ、強化ではなくて堅持だ、そういう趣旨のことがありましたですね。総需要抑制というのは物価対策だというように一言で大臣もおっしゃっておりましたのでそういう前提で伺いますけれども、それなのに政府が進んでいま指摘した消費者米価をはじめ公共料金の値上げやいろいろな生産基礎資材指導価格の撤廃をして新しい価格体系づくりをしている。ここに一つの根本的な矛盾があるのだろうと思うのですね。ここで一つは、これからの財政金融運営をしていく上で、いま現に政府が進めている高値安定をもたらしていくようなこういう新価格体系づくりを根本的に見直すべきではないか。たとえば、石油の値段が上がったためにいろいろな物価影響をしていると言うだけで、実際には八〇%の石油をメジャーから買っているのに、そのメジャーのもうけが実際には四倍ぐらいになっているのに値下げの交渉をしていない。だから原油の価格は上がりっぱなしのままで、それに輪をかけていろいろな利潤を積み重ねて今日の新しい価格体系というものができ上がってきつつあるわけですね。こういうようなものをもっと基礎から根本的に見直して再検討していく、そしてほんとうに底のところから物価の安定をはかっていくようにすべきであると思うのですが、その点について政府としてはどういうようにお考えなんでしょうか。まず大臣の御意見を伺いたいと思います。
  148. 大平正芳

    大平国務大臣 いまの物資の輸入あるいは販売の過程におきまして不当な利潤の発生があって、そういうものを十分究明して価格に転嫁されないようにやるべきじゃないかという御意見でございますが、仰せのとおりの趣旨で、政府も石油二法をはじめといたしまして法的措置まで講じまして、そのラインで物価対策を行なってまいったことは御案内のとおりでございまして、そういう努力は鋭意やっておるということを御承知願いたいと思います。
  149. 増本一彦

    増本委員 現実にそうなっていないから申し上げているのですよ。全体として総需要仰制というワクをはめておいて、大企業の製品価格はどんどん値上げを認める。だから大企業は、生産量はあまり伸びなくても、販売額で結局やはり大もうけをしているわけですね。こういうときに、値上げだけは自由にこれから認めていくというようなやり方でなくて、もっと直接的にそういう独占価格とか寡占価格にメスを入れるような手だても実際にとっていくのでなければ、今日の物価の安定というのはうたい文句だけに終わると思うのです。現実にいま公共料金主導型だし、ちょっと数カ月前までは大企業製品の値上げが主導型だったわけですね。今度はそれが両々相まってこれからの秋を迎えようとしているわけですから、ここで単に物価安定が最重要課題だということで総需要抑制堅持だということだけの対処のしかたでは、やはり同じようにこれからも消費者物価卸売り物価もどんどん上がっていく。経済企画庁が大体一カ月に一%ずつ値上げ基調があるということを見込んで数字をはじくような、そういう事態というものがいつまでも続いていく結果になるんじゃないでしょうか。  だから、やっているからというのじゃなくて、ここでもう一度根本的にほんとうにこの新価格体系づくりというものを見直していく、そういう姿勢でこれからの財政金融の問題を含めて物価対策に臨まれるのかどうか、もう一度そのことだけはっきりさせていただきたいと思います。
  150. 大平正芳

    大平国務大臣 私ども政府は、経済の自律的な機能、市場の価格形成の機能をできるだけ尊重して、そこなわないような経済運営のしかたで物価政策その他に対処いたしておるわけでございまして、計画的なやり方をやっておるわけではないのです。計画的なやり方をやるよりはわれわれのほうのやり方のほうが、波力のある経済が維持できて国民のしあわせになるという信念に基づいてやっておるわけでございまして、あなたの言われるように、ある価格体系を設定いたしまして、それにどうしても持っていくというにはどうしても強制的な手段が要るわけでございまして、問題は統制に入っていかざるを得ないと思うのであります。もっとも、御指摘のように、市場のメカニズムを尊重する中におきましても、寡占の弊害、独占の弊害というのはあってはならないわけでございまして、そういう点につきましても、また機関を設けて適正な行政が行なわれておるわけでございますので、ただいま政府のやっておることは、私どもの行き方から申しまして間違ったやり方をやっておるとは毛頭思っていないわけでございます。
  151. 増本一彦

    増本委員 私はここで計画経済を提案しているんじゃないですよ。政府のほうが新価格体系というような価格体系を設定して、ともかく上げられるものはどんどん上げて、上げたところで高値で安定させる、そういう価格のメカニズムをつくろうということでいまいろいろやってこられて、そのやり方そのものをもっと検討して、押えるべきものは押えるようにすべきではないかということを申し上げているわけです。  そこで、いまのこの物価高のもとで、先ほどからお話ししましたように、国民はますます生活苦にあえがなければならない。ここではどうしてもいわゆる経済的弱者の救済が問題になる。年金の受給者、それから福祉関係についてスライド制の実施時期の繰り上げなどがありましたけれども、いまここでさらに補正予算等を含めて、財政当局の立場で一つは年金受給者について考慮をする必要があると思うけれども、この点はどうかという点。  それからもう一つは、ここで消費者米価をはじめいろいろな生活必需品や公共料金の値上げが行なわれる。そのもとで生活保護者とかあるいは福祉施設の措置費についてもさらに一段とこの時期に引き上げをはかって、こういう経済的な弱者の救済対策というものをきちんととるべきではないかと思いますけれども、その点についてどういうようにお考えになっておられるか、ひとつ伺いたいと思います。
  152. 辻敬一

    ○辻説明員 生活保護世帯あるいは老人ホーム等の施設の入所者などに対しましては、御承知のように、四十八年度におきましてすでに年度途中に三回にわたりまして基準の引き上げあるいはまた特別一時金の支給などの特別措置を講じたところでございます。また本年度におきましては、四月からすでに生活扶助基準、それから施設入所者の生活費を二〇%引き上げておりますが、その後の物価状況等にかんがみまして、六月からさらに六%引き上げたところでございます。これらの措置によりまして生活保護世帯等の生活の安定は確保されているもの、かように考えているところでございます。  それから、年金につきましては、四十八年の制度改正によりましていわゆる五万円年金の水準を実現したところでございますが、四十九年度におきましては物価スライドによりましてさらに一六・一%年金額を引き上げた次第でございます。厚生年金につきましては八月実施、国民年金につきましては九月実施と相なっております。また福祉年金につきましても、四十九年の九月から支給月額を五〇%と大幅に引き上げたところでございます。  先ほど来大臣から御答弁申し上げておりますように、物価の安定につきましては今後とも総力をあげて取り組んでまいる所存でございますが、それとともに生活保護世帯等の生活の安定確保につきましても、今後とも物価の動向等を見きわめながら適切に対処してまいりたい、かように考えておるところでございます。
  153. 増本一彦

    増本委員 具体的な内容ですが、この三六%の消費者米価の値上げをやると、もうこのことだけで年金受給者あるいは生活保護者とか福祉施設に入っている人たちの生活そのものが大きな問題になるわけですよ。こういう面については、一方では値上げをしておいて、他方ではその手だてを具体的におとりになる、そういうお考えはないのですか。鋭意これからも努力をされるということについての当面の具体的な内容はどうなんでしょう。
  154. 辻敬一

    ○辻説明員 従来から、消費者米価が上がりました場合には生活保護者等につきましては措置をいたしておるわけでございます。本年度の予算におきましても、年度当初の見込みといたしまして、米価約一〇%アップ分の所要額は、生活保護費等にすでに組んであるわけでございます。消費者米価のアップ率がそれを上回ります場合には、さらにそれに応じまして生活保護基準の改定等の措置を検討いたしておるところでございます。
  155. 増本一彦

    増本委員 それから、先ほどもほかの委員さんから若干お触れになりましたけれども、中小企業対策なんですが、いま中小企業、特に下請関連の中小企業は仕事がないし、金繰りも非常に詰まっている。そこで、先ほどの大臣の御答弁ですと、四−六の千五百億に続いて七−九は九百億円の政府系中小企業三機関に対するワクの増加をやる、こういうお話ですけれども、それはそのように伺ってよろしいのですか。私の聞き違いですか。
  156. 大平正芳

    大平国務大臣 それは間違いでございまして、政府の中小企業三機関につきましては、第一・四半期におきまして既定の予算現額にさらに千五百億増額ワクしたということでございまして、第二・四半期は既定の予算がすでに前年同期に比べて九百億多くしてありますけれども、なお事態状況に対しまして手当てすべきかどうか、いま中小企業庁と相談をいたしておるところでございまして、私どもとしては相談の上、処置すべきものは処置する用意を持っております。
  157. 増本一彦

    増本委員 中小企業庁にお伺いしたいのですが、大体いま、特に第二・四半期の中小企業の資金不足というのはどのくらいの規模になるのでしょう。
  158. 吉川佐吉

    ○吉川説明員 お答えいたします。  数字的に正確に把握するのは非常に困難でございます。それで、私どものところに各業界から毎日のように来ております陳情によりまして、われわれとしては各種の業界、第一・四半期までは建設業あるいは繊維工業、これが中心で資金繰りが困窮しておるということでございましたが、七月以降になりますと、自動車部品とか家電とかあるいは陶磁器とか製材、合板、家具、そういった各般にわたった業種が非常に金繰りに困っておるということを承知いたしております。
  159. 増本一彦

    増本委員 第一・四半期に政府関係の中小企業三機関に千五百億増ワクをした。これ以上にこの七−九の時期はさらに中小企業関係の金繰りについてもきびしいものになってきているというように思うのです。  そこでいま検討中ということですけれども、もう七−九の第二・四半期は最後の月に入ってきているわけですが、当然私は、前四半期と同じくらいの、あるいはもっとそれ以上の規模で増ワクをして、さらにこれから下半期に入るわけですが、年末それから最後の年度末にかけても一そう中小企業に対する資金の手当てを十分にすべきだというように思うのです。そのために財投の出資についても、当初の計画をさらに上回った増資まで含めて、財投の思い切った中小企業向けの活用をはかるべきだと思いますが、その点については大臣はいかがお考えですか。
  160. 大平正芳

    大平国務大臣 いま中小企業庁から御説明がありましたように、若干の業種につきまして事態は相当逼迫しておるということでございまして、先般来大蔵省と通産省の間でそういった点の検討をいたしておったわけでございます。しかし、御指摘のようにすでに九月でございまして、第二・四半期分というわけじゃございませんが、当面の金融の必要を勘案いたしまして、近く中小三機関についての資金手当てにつきましては、通産省と相談の上、早急に処置いたしたいと考えております。
  161. 増本一彦

    増本委員 それから、いまのこの時期は、中小企業信用保険法の倒産関連特別保証が、中小企業の皆さん方には業種指定を含めて非常に待ち望まれているわけですが、これの特に三号の業種指定ですね、これをさらに拡大していくということは中小企業庁としてはお考えなんですか。それから目下その計画のあるもの、すぐにやらなくちゃならないものは何か、その点についての手だてをひとつはっきり答えてください。
  162. 吉川佐吉

    ○吉川説明員 お答えいたします。  三号の指定につきましては、すでに繊維、建設、中小ガス、これについて行なっております。  それで、さっき申し上げましたように、いろいろな業種におきまして非常に資金繰りに困っておる、その中でも若干のものは担保、保証等で非常に苦しんでおるという状態でございます。いまわれわれとしても、そういったもの全部については非常に多くにのぼりますので指定するわけにはまいりませんが、その特に困っているものについては何とかしたい、こういうことでいま検討中でございます。
  163. 増本一彦

    増本委員 あなたのほうで特に困っていると考えているのはどういう業種ですか。
  164. 吉川佐吉

    ○吉川説明員 私どもで困っているというふうに聞いておりますのは、たとえば建設関連でございますね、それから機械、特に自動車部品関連といったようなところが困っておるというふうに判断をいたしております。
  165. 増本一彦

    増本委員 先ほど陳情がいろいろあって、業種も広がってきている、その中で合板とか陶磁器とかいろいろあげられましたね。そういうものは可能性が薄いというんですか。いまこの際そういうところまで含めて、この三号の業種の指定を拡大して、その面からも中小企業の資金の手だてをとってあげていくということが非常に必要だと思うのですがね。たった二つだけですか、いま考えているのは。
  166. 吉川佐吉

    ○吉川説明員 私が申し上げましたのは非常に広い分類で申し上げましたので、たとえば建設関連等には、もちろん合板といったようなものは含まれております。
  167. 増本一彦

    増本委員 もう時間があまりありませんので次に移りますが、ひとつ中小企業関係についても特段の手だてをとるようにお願い申し上げておきたいと思います。  もう一つ、これはほかの委員さんからも質問が出ましたけれども、定期性預金の金利の引き上げの問題ですが、先ほどの大臣の答弁でも、いわゆるインフレによる目減り対策ではない、全体の金利体系に修正を加えていく中でこの問題も考えるということで〇・五%という考えが出てきている、こういうお話だったですね。だから私は、これは結局、事業債の利回りの引き上げだとか金融債の金利の問題とかいうように、やはり大企業の資金集めを中心に考えて、その中で国民のインフレに対する目減りの問題は全く考えていない、こういうようないまの政府金融政策であってよいものかと非常に疑問に思うわけですね。私はこの点は強く指摘をしなければならないと思うのです。  いまそういう中で、都市銀行を中心にして経常利益はどんどん上がっているわけですよね。貸し出し金利もずいぶん上がっているから、その分だけ都市銀行などの経常利益はうんと上がってきている。結局国民は預け損をして、たくさんお金を借りている大企業は借り得をしているわけです。だから、どうしてもここで利益をあげている金融機関に対して、そこから国民がやはり一定の補償をきちんととるという、そういうような国民の少額貯蓄をほんとうに保護していくような金融政策というものを、いまこの際抜本的に考えてとっていかなければいかぬというように思うのです。  いろいろ提案がありますけれども、結局、いまのこういう異状なインフレの事態ですかも臨時的に考えて、やはり世帯主一人について五十万とか百万を限度にして定期性の個人預金の金利をむしろ思い切って、いま一年もの七・二五、二年ものが七・五というようになっておりますが、これにむしろ一〇%ぐらい上のせをして、これは国民がほんとうに火急のために預けている零細なお金ですから、やはりこれだけは絶対に目減りをさせないというような手だてをこの際抜本的に考える必要があるんじゃないか。  お年寄りだってそうですね。退職金のうちの幾ばくかをやはり定期預金に預けている。だから、こういう六十五歳とか以上のお年寄りについても、その定期預金のうちの一つは確実にこの目減りからきちんと守ってやるというような手だては、特別にいまのこういう金利体系のワクから越えて考えるべきではないかというように思うのですが、いかがでしょうか。
  168. 高橋英明

    高橋説明員 一つの御提案だとは思います。しかし、世帯主とか金額限度といったようなもの、これに伴ういろいろ技術的な繁雑な点もございますが、それよりも私が一番心配いたしますのは、いま先生もおっしゃいましたように、金利体系を無視してといいますか、一年で一〇%というような預金をつくりますと、当然十年の債券やあるいは金融債あるいは国債といったような、そういうほかの金融資産の利回りよりは断然有利になるわけでございます。そこで非常にシフトが起きるという点がございます。そういうものができますと、実はどういう影響が起きるか判断しかねるという面が一つございます。その点が、なかなか実行に踏み切れない、勇気を持ち得ない一つの点でございます。  それからもう一つは、さらでだにわが国金融構造といいますか、これが銀行に金が集まり過ぎておるというような、どちらかといえば、金融機関からの資金調達が九、証券市場から一という間接金融優位ということでとかく批判されておりますわが国金融構造でございます。このことをまた促進するようなことをいまやるのがいいのかということについても、私はちゅうちょを感ずるわけでございます。  それからまた、預金の主体別に金利差を設けるというようなことを預金金利の中でつくりますと、もちろんこの金利といいますものは、先生も御承知のように、上がるときもあれば下がるときもあるといったような金利政策を行ないます上に一つの大きなこぶができてしまうというようなことから、金利政策の弾力的な運用というようなこと、もちろんいままで弾力的に運用してきたかというような御批判はございますが、昔に比べればだいぶ弾力的に運用してきたつもりでございますが、そういったものに対しても将来大きな妨げになるのではないかといったようなことから、私としては、いまそういう特殊の預金について特殊の金利をつけるということについては消極的にならざるを得ないわけでございます。
  169. 増本一彦

    増本委員 時間がありませんので、この問題はさらに別の機会にやりたいと思います。  ここでプライムレートが上がり、しかもこうしてまた預金金利も上げていくという結果、住宅ローンの金利の問題が一つ出てきますね。それから中小企業に対する貸し出し金利がさらにここで一段と引き上げられるというような懸念もあるわけです。それから政府金融機関、特に中小企業向けの金融機関の金利もまたここで改定があるのではないかというような疑念も持たざるを得ないのですが、これは極力というか、絶対に引き上げを認めないという立場で私はちゃんと指導すべきだというように思いますが、この点についてはいかがですか。
  170. 高橋英明

    高橋説明員 住宅ローンの金利でございますが、現在民間でやっております住宅ローン、これは十年で八・七でございます。八・七のうちで金融機関が負担しております生命保険料というのがございますので、金融機関の手取りは八・四になっております。現在、金融機関の短期の約定金利が大体平均九・二の台になっております。都市銀行におきましては短期金利は大体九・四%ぐらいになっております。したがって、収益動機ということから申しますと、一般の貸し出しをやったほうが十年で八・四というような貸し出しをやるよりは断然有利でございますので、銀行といたしましては、住宅ローンというものについて多少意気込みが衰えてくるというようなことがございます。そこで、住宅ローンの量は落とすなというような指導を一方でやっておりますが、そういう金利を低く押えて貸せ貸せと言うことが一体いいのかどうか。むしろ金利は多少上げても量を確保してやるほうがいいのではないかという考えも出てくるかと思います。  それから政府系三機関、これも一般の開銀等は九・四でございます。中小三機関のほうは基準金利は八・九、〇・五差がございます。これは昨年の当初くらいまでは大体同じでございましたが、中小企業金融に対する配慮ということで、このような〇・五の格差がついてしまったわけでございます。今度かりに長期性の貸し出し金利が是正されるというふうなことになりました場合に、おそらく当然政府系三機関の基準金利といったようなものも上がらざるを得ないとは思います。その辺、ただ同じ幅上がるかどうかというような点には問題があろうかと思いますが、これも実は総需要抑制金融引き締めをやっております段階で、質的補完から量的補完に政府関係金融機関の性格が変わっていきつつある。そこで、幾ら出しても金が足らぬというような感じになることとのかね合いではないか、そんなふうに考えている次第でございます。
  171. 増本一彦

    増本委員 いろいろ詰めなくちゃならぬのですけれども、約束の時間が来てしまったので、あとは次回に回します。  終わります。
  172. 安倍晋太郎

  173. 広沢直樹

    広沢委員 当面する諸問題につきまして、限られた時間でありますが、いろいろございますので簡潔に承っていきたいと思います。したがいまして、ひとつ簡潔なお答えをいただきたいと思います。  まず最初は、景気の動向について経済企画庁も出席されていると思いますので伺いますが、けさの新聞に、経済企画庁が国民所得統計速報で四—六月のいわゆる実質国民総支出は前期比〇・六%の伸びにとどまった、こういう実態を二日に発表したと出ております。したがって、景気が予想以上に冷却している、こういう判断の上から、七—九月以降は在庫減らしの要因もあり本年度実質経済成長率がゼロないしマイナスの公算が多い、こういう見解を発表されているわけでありますが、今後の見通し等について、ひとつ現状を説明願いたいと思います。
  174. 田中誠一郎

    ○田中説明員 ただいま先生御指摘のとおり、今年度四−六の成長率は〇・六%と非常に停滞の基調を示しておるわけでございます。こうした〇・六%の成長と申しますのは、やはり総需要抑制の効果があがりまして、鉱工業生産なりあるいは出荷が低下したということで、産業活動がかなり停滞ぎみであったということを反映しておりますし、他方、在庫率が上昇しておるということを反映しておるわけでございます。そういった需給緩和が進んでおると同時に、物価の騰勢というのはわりあい落ちついておるというふうに見られるわけでございます。一方、今回の国民所得統計にもございますように、設備投資はわりあいマイナスになっておるということでございまして、消費需要も比較的落ちついた動きを示しておるというのが従来の基調でございます。  今後につきましては、先ほど来お話がございましたように、設備投資は潜在的にかなり根強いものがあるのではないか、かように考えております。一方、消費もわりあい底がたい動きを示しておりますし、輸出需要もかなり堅調であるというふうに考えております。しかし、景気はエネルギーコストなりあるいは賃上げの影響といったようなコストプッシュ要因がかなりございますので、今後とも総需要抑制策を堅持するというたてまえで政策運営を考えていくつもりでございますが、一方、中小企業なり供給力に不足の問題がございます生産の懐妊期間の長い産業につきましては、弾力的に総需要抑制のワク内において考えていきたいというふうに考えておる次第でございます。したがいまして、今後の見通しがどうなるかというのは、そういった総需要動きによるわけでございますけれども、漸次下期におきましては回復、安定の方向に向かうのではないか、かように考えております。
  175. 広沢直樹

    広沢委員 そこで、今後の動きについては明確なお答えがございませんでしたけれども、一応この発表と同時に、七−九月以降の動向についてはいまいう在庫の調整という問題があるし、あるいは個人消費の先行きも物価高に対する懸念から直重な状況である、こういう判断をして、いわゆる景気が、先ほども話がありましたけれども、V型に回復するのではなくて、当初経済主要指標の中にあらわれております計画でありますいわゆる経済実質成長率二・五%、これではなくて、おそらくゼロないしはあるいはマイナスになるのではないか。特に七−九月期以降毎四半期、年率七%の実質成長が確保された場合においてやっとゼロになるのではないか、こういう見通しを立てておるというふうに報道されているのですが、その点いかがですか。
  176. 田中誠一郎

    ○田中説明員 ただいま御指摘のとおり、今年度経済成長がゼロになりますためには、今後毎四半期一・七%の対前期比で成長する必要がございますので、それを年率に換算いたしますと約七%になるということでございます。
  177. 広沢直樹

    広沢委員 そこで大蔵大臣、この経済の見通しでありますが、いまこういうような状況の中で経済実質成長率が当初の計画から比べてゼロないしはマイナスになる、あるいは卸売り物価につきましても消費者物価につきましても、当然この見通しどおりにはいかないことは今回の発表でも一応予測されるわけでありますけれども大蔵大臣はどういうふうに考えておられましょうか。
  178. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 お答えいたします。  ただいまはゼロ成長ということを一応前提にした場合に瞬間風速が七%ということで企画庁のほうが説明されたわけでございますが、大蔵省といたしましては、現在大蔵大臣の方針も、成長率そのものに対してはまず成長よりも物価抑制というたてまえで、とにかくいまの物価に対してあらゆる措置をとって物価を押えていくということで対処しておられるわけでありまして、目標の成長率をどのくらいに置くということを基礎に置いた一つの計算は現在いろいろあると思いますけれども、その計算をしていることよりも物価抑制に対して全力投球する、こういうたてまえでございます。
  179. 広沢直樹

    広沢委員 その努力するということはわかるのでありますけれども、やはり一応ことし一月に発表されたその経済見通し、そういう青写真の上において、財政にせよ、あるいは金融政策にせよ、いわゆる経済運営というものがなされていくわけでありますから、一応この青写真を基準として運営されているはずでございますね。そうすると、実態がこのように変わってきているということは、いわゆる経済見通しの青写真をここでもう一ぺん描き直さなければならないのじゃないか、こういうように思うわけでありますが、その点をどう考えておられるのかということが一点と、かりにいま経済企画庁が一応推測しているゼロ成長ないしマイナス成長ということになれば、それを当初の経済見通しに合わせようとするならば、おのずと後半の総需要抑制政策は、財政金融政策も変わらざるを得ないし、あるいはいまお答えがありましたように、物価を最重点に考えるということは当然のことでありますが、そういうことになれば当然この経済見通し、当初計画というものは変えなければならないはずでありますが、その点はどういうふうにお考えになっておるのでしょうか。
  180. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 経済見通しの改定につきましては、これは経済企画庁の所管でございますので、見通し作成後半年以上経過した今日では他にも見直しをすべきいろいろなファクターがございますので、いずれ企画庁が各省との間でそういう見解を説明し、政府部内における意思統一をはかるべきだろうと考えております。  それから、先ほど申し上げました物価のほうが優先するということにつきまして、ただ成長率だけにこだわっておりますと、現実に一−三、四−六の実績はもう出ておるわけでございますから、たとえばゼロ成長にいたしましても、二・五%の当初の見通しにいたしましても、瞬間風速は相当高い風速にしなければならないということで、物価に非常に影響がある、無理をせざるを得ないということでございます。したがって、現在では成長ということにこだわっていると、どうしても物価を刺激するような要因というものをつくっていかざるを得ない。そういう点につきまして、私どもとしては成長よりも物価というふうに申し上げたわけでございます。
  181. 広沢直樹

    広沢委員 ですから私は、一応その物価の観点から考えるべきである、したがって、それがゼロでもマイナスでも今回の状況の中においてはいいと思うわけです。物価の安定というものは、あとから物価問題についてはいろいろ触れてまいりますけれども、見通しがまだ立たない。先ほどの大臣の答弁の中にも、明確な答弁がございません。そういうような状況の中ですが、しかしながら、私がいま指摘申し上げたのは、いわゆる経済見通しという青写真に基づいて経済運営というものがなされるわけでありますから、したがってこれが適当であろうとして示された青写真、それに基づいていくのならば、やはり現在とっている政策といったものは考え直すべきであろうし、あるいはまた現在の物価状況から考えて、どうしてもこの成長を押えていかなければならないということになれば、この青写真は変えるべきであると私は申し上げているわけであります。  そういうことで、この一年間の経済見通しを出されても、毎年のこと、ときどき実勢に合わせて変えられるわけですが、私は少なくともこのような経済の激動期においては四半期ごとの見通しを立てて、それと実勢とがどうあったかということをこまかくチェックしていくような形で経済運営をやっていかなければ、一年間の大ワクの見通しの中で考えているということは、この際はもう一ぺん検討し直すべきではないだろうか、こう思いますので、大臣のお考えを承りたいと思います。
  182. 大平正芳

    大平国務大臣 御指摘のように、ことし経済の見通しを立てました。それがすでに大きな狂いを生じておるわけでございます。したがって、それにこだわっておりますと、いま事務当局からも御説明申し上げましたように、この下半期の経済運営は相当アクセルを踏まないと達成できないというような無理をしいることになるわけでございまして、それもまずいと判断するわけでございます。したがって、この経済の見通しはいずれ改定をすべきものと私は考えます。  しかし、これは経済企画庁が発議すべきものでございますので、企画庁長官にはきょう御提起になりましたことはよく伝えておきたいと思います。その際、こういう変動期でございますから、漫然と一年間の計画というようなものではたして役に立つかどうかという点の御指摘もあわせて政府部内に伝えて検討をお願いしたいと思います。
  183. 広沢直樹

    広沢委員 次に、大蔵大臣所信表明の中で「当面の経済運営にあたって、まず国民の最大の関心事である物価の安定を第一の政策目標とし、強い決意をもってその達成をはかっております」と言われておりますが、全くその決意はごりっぱだし、当然なことだろうと思います。しかし、具体的にいろいろいままでおっしゃっておること、やられた計画を見ておりますと、あるいは実績を見ておりますと、どうも物価安定政策の上において一貫性を欠いているのではないか、私はこう指摘せざるを得ないわけであります。  物価の安定というのは経済運営の最基本でございますから当然のことでありますけれども、総理にいたしましても、歴代大蔵大臣にいたしましても、財政経済演説の冒頭には必ず物価の安定ということをお約束なさるわけでありますが、御存じのように、そう言いつつ今日のような狂乱物価だとかこういう経済的な一つの大きな試練を迎えるということになったわけでありますから、そういう面から考えていきますともう少し、その物価に取り組もうという決意はごりっぱですけれども、それならそのようにひとつ勇断をもってやっていただきたい、こう思うわけです。  以下、いろいろな点について指摘しながらお伺いしてまいりたいと思います。  そこで、去る八月二十八日に衆議院の物価特別委員会におきまして、景気対策に触れて内田経済企画庁長官は、景気対策と物価抑制策は相矛盾する関係にあるけれども、総需要抑制は来年半ばまで維持しなければならないだろう、そういう見通しを答弁なさっていらっしゃいます。何と申しましても、実際に総需要抑制金融にせよあるいは財政にせよ、かじ棒を握っておるのは大蔵大臣です。先ほどからいろいろ御質問の中に、非常に見通しのつきにくいような御答弁でございました。しかしながら、経済閣僚の主要閣僚であります経済企画庁長官はそういうふうに見ておられるわけでありますが、しからば、いま申し上げましたように実際のかじ棒を握っていらっしゃる大蔵大臣はどういうふうに見ていられるのか、まずその点から伺ってみたいと思います。
  184. 大平正芳

    大平国務大臣 ただいま実行いたしておりまする総需要抑制政策というようなものをいつまで続けてまいるかということにつきまして、政府部内で意思統一をはかったことはまだございません。内田さんの御見解は御見解として間接的に伺っておるわけでございます。それで、私といたしましては、こういうことは経済ができるだけ早く安定いたしまして、なるべく早く解除するということが望ましいことと考えておるわけでございますが、相当期間これは続けざるを得ないのではないかという判断でございまして、明年夏という企画庁長官の御見解でございますが、どういう根拠で言われたのかよく伺った上で、政府としてまだ意思統一をいたしておりませんので、私自身も考慮してみたいと思いますが、私はまだ当分これは続けざるを得ないであろうという一応の判断に立っておりまして、いつまでという確たる展望をいま持っておるわけではございません。
  185. 広沢直樹

    広沢委員 そこで、相当長期にわたるにせよ、とにかく総需要抑制政策を続けなければならない、引き締め政策をこのまま相当続けていかなければならないということは、大蔵大臣も先ほどからお答えになっていらっしゃるとおりですね。それはとりもなおさず、やはり物価が安定をしていない。しかし先ほどからお話しのように、鎮静化の方向にはあるのかもしれません。そういう傾向は経済指標の上にあらわれてきているかもわかりませんけれども、しかしながら、公共料金が上がる、あるいは凍結してあった、経済統制をやっておった品目を解除する、こういういろいろな要因が重かって、将来の物価の見通しというものはまだつきかねる、こういうような関係から総需要抑制策をどうあっても維持しなければならない、基本にはこういうようなお考えがあろうかと思うのです。  そこでお伺い申し上げたいのは、いわゆる物価安定のために総需要抑制をやる。片方ではあまりにも物価狂乱的な動きを示しているし、あるいは増勢が強いということで、基礎物資並びに生活必需品については、やむを得ずと申し上げたほうがいいのかもしれませんが、経済的に統制、凍結をなさる、こういう手段をおとりになって、いわゆる物価安定のための両輪的な考え方でこれを運営なさってきたはずであります。ところが、いま大臣も御答弁なさったように、物価の見通しがまだ非常に不安定である、あるいはまた内田経済企画庁長官はそういう意味からも来年までは何としてもこれは延ばしていかなければならぬのじゃないかという見通しを立てているほど、やはり物価上昇要因というものがまだまだ強く見られるし、不安定要因が非常に多い。こういう見当の中でいわゆる経済統制、いわゆる凍結品目の解除をほとんどなさっていらっしゃるわけですが、これはどういう理由で解除なさったのか、簡単にお答えいただきたいと思います。
  186. 大平正芳

    大平国務大臣 これは私が御答弁申し上げるのは必ずしも適当ではないと思いますけれども、閣僚の一員として申し上げますと、五十九品目でございますか、事前了承あるいは標準価格というような形で規制をしてまいったものがたしか十三残っておると思うのであります。それで、解除いたしましたものにつきましてはすでに需給の緩和が見られて、政府が介入しておりますこと自体がすでに価格の下ざさえ的な効果を持つおそれがあるのではないかという判断をいたしたものでございまして、物価安定に逆行してやっておるわけではないわけでございまして、物価の自然な安定というものに即応してそういう政策をとったというように御理解を願いたいと思います。
  187. 広沢直樹

    広沢委員 私は、現在の経済運営の中において価格を統制するやり方は基本的には考えておりません。必ずしも賛成ではないわけです。しかしながら、こういう経済の混乱の中ではそういう手段をどうしてもとらなければならなかった。私も生活二法案をつくるときの原案に参画したりしまして、いろいろ検討はいたしました。自由経済の中で統制をするということのむずかしさもよく知っておりますし、できることならば長いことこれは続けないほうがいいということも理解はしているつもりであります。  しかしながら、一たんそうせざるを得ない状態で凍結した以上は、先ほど大臣の答弁にありましたように、やはり需給がゆるむとか、あるいはそうやっておることが物価の下ざさえになってしまうということが明確になる、その見通しがはっきりしておるというならば解除するのもけっこうだと思うのでございますけれども、しかしそうではなくて、いわゆる凍結を解除したらすぐ値上げの問題に移っておるとか、あるいは公取がすでに手入れしておる分もあるようでありますが、時間の関係で一つ一つ具体的に述べておる時間はございません。しかしそういう品目は明らかに新聞にも出ております。こういうようなやり方になるということ自体が、冒頭に申し上げたとおり、物価に対する取り組み方がおかしいのではないか、そういう面が懸念されるわけであります。  特に、一、二例を申し上げますと、あの灯油にしてもそうです。標準価格というものをはずされれば、御存じのように、倍近く上がってしまう。あるいはトイレットペーパーについてもそうです。そしてまた最近三十二品目が八月に凍結解除になっておりますが、その中でもいまほとんどが値上げ交渉をしている。そういう状況にあるということは御存じじゃないでしょうか。下ざさえになるとかおっしゃいましたけれども、現に上がっておる商品だってあるわけでありますよ。片方では物価安定のための総需要抑制をやり、片方ではこういうふうにして凍結を解除していくやり方というのは、片方ではアクセルを踏んで片方ではブレーキを踏んでおるというようなちぐはぐなやり方をやっておるということではなかろうか。現にこうやって上がっている品目に対してどう対応していくのか、通産省も来ておると思いますので、ひとつお答えいただきたいと私は思うのです。
  188. 黒田明雄

    ○黒田説明員 凍結解除の考え方でございますが、私ども三月十六日に事前了承制をとりましたときに判明しておりました鉱工業製品在庫率指数というのが八二・九でございました。四十五年が一〇〇でございます。これがここ十数年の最低でございまして、つまり需給が極端に逼迫していたわけでございます。その後総需要抑制の効果が浸透してまいりまして、この七月に発表になりました同じ指数が一二二・六でございます。これまた十数年来の最高でございます。つまり最低から最高まで在庫の変動がこの六カ月間に起こったということでございまして、マーケットの状況が非常に変わったわけでございます。  それで、政府全体五十九品目のうち私ども通産省所管が四十五品目でございますが、その第一回の解除を五月二十一日に行なっております。合計で八品目でございますが、その後卸売り物価指数で見てみますと、解除後に八品日中三品目の卸売り物価が下落しているわけでございます。残りの五品目については値上がりはございません。  それから御指摘のございましたトイレットペーパーでございますが、これは事前了承制ではなくて標準価格を撤廃したわけでございますが、これも卸売り物価がその後下がっておるわけでございます。消費者物価指数で見ましても弱含みで安定いたしております。  そういうような情勢でございますので、確かに解除後一部業界で値上げ交渉を行ない、あるいは高唱えをしておるものがございますけれども、かりにこれを事前了承制のもとに置いておきますと、そういう業界は政府に対して値上げの事前了承の申請をしてくるわけでございます。この申請を受けますと、どうしても燃料費が上がっておるとか、人件費が上がっておるとか、金利負担が上がっておるとかいってコストの上昇が認められるわけでございます。私どもできるだけそういうコスト項目のうち、企業の努力によるべきものは了承しないということできびしい査定をしておりますけれども、結果としてはやはりコストの上昇を認めざるを得ない。査定はどうしてもコスト中心にならざるを得ないわけでございます。  ところが、先ほど申し上げましたように、市場の状況が非常に変わっておりますので、査定をいたしますとむしろこれがお墨つき効果を持って、値上げを容易にしてしまうという弊害が懸念されるようになってまいりました。したがいまして、私どもはそういうコスト中心の査定をするよりは、いまや需給の実勢にゆだねるほうが物価の安定になり、高値安定を防ぐ道だ、かように考えまして解除を進めているということでございます。
  189. 広沢直樹

    広沢委員 一品一品やっておりますと時間がないわけでありますけれども、トイレットペーパーの標準価格が廃止された。それでもやはり公取からいわゆる摘発を受けていますね。あるいはまた今回アルミ圧延品ですか、これもやはり公取から一応指摘を受けております。その他今回、合成ゴムにしても塩ビにしても、あるいはその他の高圧あるいは中低圧のポリエチレンにしても、一般家庭用の電球あるいは螢光ランプ、そういったものもそれぞれ値上げされているか、値上げの傾向にあるわけでしょう。  なぜこういうふうな狂乱物価になってきたかというと、いわゆる自由経済、自由競争というものをたてまえにしているけれども、その市場が完備されていないというところに問題があって、公取でも、独禁法を改正しなければならない、いわゆる土壌を整備しないでもとへ戻してしまったら、またそういう傾向があらわれるということは指摘しているわけです。ですから、当然こういうようなものを解除していくには、二度とそういうような不法なあるいは不当な価格つり上げは行なわれないという前提をつくってからやっていってもおそくはないのではないだろうか、こう思うわけです。そうでないと、解除したとたんに、こうやってなぜ公取が手入れしなければならないか、調査しなければならないか、あるいは摘発しなければならないか。こういったことがあっては国民はやはり物価に対して、政府の取り組み方に対して大いなる疑問を持たざるを得ないわけであります。  したがって、今後こういった値上がり——確かにいまのところ安定しているものもそれは中にはあります。だから私は、当初申し上げたように、統制はいつまでも続けろとは言いません。はっきりしたそういった見通しが立っているものについては解除してもけっこうなんですが、こういう今後上がっていくと目されるものの対策としてはどういうことを考えているのか、この点時間がありませんので簡単にお答えください。
  190. 黒田明雄

    ○黒田説明員 解除した場合に業界がカルテル行為を行なったという事例があるのは御指摘のとおりでございますが、マーケットが非常に弱くなっている関係上、業界としてはそのような誤った努力によって値上げを志したものかと思われます。こういった行為に対しましては、私どもも監視するつもりでございますが、公正取引委員会においてもいま鋭意摘発されているわけでございまして、そういう公正取引委員会の活動と、私どもは解除後事後審査制をとっておりますが、そういう事後チェックによって、不当な値上げがあればこれを行政指導によって値下げをさせたり、あるいは場合によっては事前了承制に再指定するというようなことを考えております。
  191. 広沢直樹

    広沢委員 行政指導でできることであればいままでもやっていただきたかったし、何もそういった統制措置をとるようなことも考えなくてもよかったのです。しかしながら、こういう事態になって、いわゆる法律もつくり、標準価格もつくり、あるいは凍結もしなければならぬという事態になってきたから問題があるのであって、一たんそうした以上は、やはり二度とそういう土壌が生まれないような、いわゆる独禁法を改正していくとか、すべての条件を整備しなければならないと思うのです。  大臣、そういうわけで、やはり、安定しているものも中にはあるかもしれませんが、いま私が二、三指摘申し上げました——時間があれば一品一品やりますけれども、時間がないのです。そこで、こういうような状況の中で、いまお聞きいただいておわかりになったと思いますけれども、一方では総需要抑制を長期にわたって続けていかなければならぬ、そのためにひずみが出てきて、中小企業はどうする、あるいは住宅ローンの問題はどうする、国民生活の問題はどうするといろいろなひずみがあっても、来年までいくとなれば約二年にわたって長期の引き締めということになってしまうわけですね。それでも物価が問題だからとして今日引き締めを続けているのであれば、やはりこういったところに対してももう少しこまかい配慮があっていいのじゃなかろうか。解除したとたんに公取からやみカルテルじゃなかろうかというようなことで指摘を受けてそれを調査しなければならないとか、いろいろな問題があるということは、これはひとつ大いに反省していただきたい問題だろうと思うのです。  そこで、政府はこの際、やはり物価を安定するめどとか、あるいはどの程度の水準なのかとか、あるいはその他の対策はどうなんだとか、こういった問題について、先ほどから再三指摘がありましたけれども大臣、これは明確に一ぺんきちっとして、そのために国民努力を呼びかけるのであれば、国民のほうもそれにつれて十分検討した上で対応できると思うのです。とにかく、やっている一つ一つがこうやって見てみると、現実に非常に矛盾な点が多い。そういうようなところをひとつ大いに反省していただきたい。  次に、先ほどから問題になっております消費者米価の値上げの問題でございますけれども、これは再三触れられて、もう大臣もお考えはさまっていることであろうと思うのですけれども、私がもう一考願いたいと思うことは、いま確かに食管会計が、今回の生産米価の大幅な値上げによりまして——大幅といいましても、生産者の実態からいえば私は別に大幅とは思っていません。いろいろな折衝の末三七・四%と、いままでとしては大幅にはなったでしょう。しかし、それはやはりインフレの中における農業の生産あるいは再生産というものを十分はかっていく上には欠くべからざる一つの線であったと思います。したがって、それにつれて、確かに御指摘のように逆ざや、食管会計赤字は大幅に増大する。財政を圧迫する。財政を担当している大蔵大臣としては、何とかこの赤字を解消したい。この気持ちは、だれが大臣になっても同じだろうと思うのです。  しかし、いま大事なことは、総需要抑制下において物価を一日も早く安定させなければならない。大臣は、参議院の大蔵委員会においても、日々これ物価安定に最大の努力をしている、日々が物価対策だ、こうおっしゃっておられるのですが、要するに、今の逆ざやを何とか解消しようとすれば、これは一ぺんにできないことはわかるのです。そして今回のようにちょうど折半という形ですが、政府消費者が折半していますね。前に国鉄運質の関係で三方一両損なんという話がありましたけれども、この消費者米価の問題についても、その赤字を半々で負担しよう。では半々で負担したらこの赤字がなくなるのでしょうか、なくならないですね。この逆ざやは解消するのですか、しないのです。  なれば、いま政策の手段としてとるべきはどういう手段を選ぶべきなのか。そういう中途はんぱと言ったら少しことばが過ぎるかもわかりませんけれども、少しは赤字が減るだろうという手段をとるべきなのか。国民がいまこういうインフレ下で苦しんでいるのであれば、財政的に少しでも多く負担をして、国民のそういう負担を軽減していくのだ、そしてその値上げというものをもう少し押えていくのだ。先ほど言いましたように、一〇%上がったら〇・三%消費者物価を押し上げる。そうして十月にはもろもろの要因を含めると二・四五%も消費者物価を上げる。いままで落ち着きかげんできた、あるいは鎮静化の方向が見えると説明された消費者物価が、急にまた上がってしまうわけですよ。二・四五上がるということは、これは極端な上がり方ですね。  こういうような時期においては、財政当局の苦悩もわかりますけれども、やはりもう少し国民の生活防衛という立場に立って取り組むべきじゃないでしょうか。物価安定のための強力な総需要抑制、片方においては赤字になって苦しんでいることは確かにわかります。しかし、政府は六カ月間も、生活防衛という国民の立場を考えて公共料金を上げることを延ばしてきたのです。そうでしょう。ならば、まだ安定していないこの時期において、もう少しここに配慮があってしかるべきだと思うのですが、すでに三六%、三閣僚で検討なさってきょう米審に諮問されたということであります。今後の結果がどう出てくるかわかりませんけれども、そういう配慮がやはり財政当局にあってしかるべきじゃないか。  確かに総需要抑制物価最重点、ことばはきれいです、そのとおりです。しかし、やっていらっしゃること自体がどうも一つ一つとるといま言ったように、凍結価格の解除の問題にしても、あるいはいま言う公共料金の値上げの問題にしても、私はどうも納得ができない。こういう点、所感を一ぺん簡単でいいですから承りたい。
  192. 大平正芳

    大平国務大臣 食管の末端逆ざやなんてもともとなかったわけでございます。一昨年でございますか、若干出てまいりまして、逆ざやをなくするなんというようなことはもともと当然のことであったわけでございますが、去年、ことしの状況におきまして大幅な逆ざやが出てまいったわけでございます。私ども財政当局といたしましては、売買逆ざやまでもカバーしていただきたいというような無理なことは言ってないわけでございまして、せめて末端逆ざやだけはひとつ、食管制度を健全に維持する上からいきましても考えてもらいたい。  かたがた、家計費の中で米の占める割合というものは、一時たいへん高かったけれども、いまは非常に少なくなってまいりましたし、米食の割合も減ってまいってきておるわけでございますので、国民にこの御負担をいただいてもそんな不当なことではなかろうと考えていますけれども、しかし、いま御指摘のように、物価と取り組んでおる非常に大事な時期でございまするので、財政当局といたしましても、絶対額におきましても比率におきましても、最大限の負担を申し上げたわけでございますので、私どもの気持ちは御理解をいただきたいと思うのでございます。  これは議論すれば両方から幾らでも議論の展開ができるわけてございまして、広沢さんのおっしゃることも私よくわかるわけでございますけれども、一方、財政当局といたしましては、国民の金をどう使うかという公正な使い方も考えなければいかぬわけでございまして、ほかの財政需要もたくさんあるわけでございますことも、あわせて御了解をいただきたいと思うわけでございます。
  193. 広沢直樹

    広沢委員 私は、やはりこういう時期においては政策の選択の問題だと思うのです。その点は十分わかるとおっしゃるのですけれども、今後も、この問題はやはり放置していい問題とは違います。私が申し上げたいのは、農産物のこれだけの価格引き上げの問題、いわゆる世界的な食糧危機の問題がございます。そういう不安がありますから、そういった面から考えていけば、これからどうあるべきかということは基本的に考え直さなければならない問題なんです。しかしながら、いまこういう重大な物価対策に取り組んでいる時期に、諸物価を上げていく基本になるような消費者米価をいまこれだけ大幅に上げようということは、もう少し反省していただかなきゃならないのじゃないかと思います。  時間がございませんので、強く意見を申し上げて次に移りたいと思います。  次は、これも先ほどから問題になっております預貯金の目減り対策の問題ですが、これはもう議論しておっても時間がありませんので、端的に大臣にお伺いいたします。  先ほどは、大臣の頭の中にはまだ目減り対策としておやりになることは考えていないというようなお考えのようでありましたけれども、それはそういう必要がないからそうおっしゃっているのか、あるいは技術的にそういうことをやることがむずかしいからそのことを当面の対策としておっしゃっているのか、その点ひとつ明確にしてください。
  194. 大平正芳

    大平国務大臣 目減り対策というのは、いわばインフレに対するうしろ向きの対策でございまして、政府としては、物価上昇をできるだけ低位に押えてインフレの終息を進めるというポジティブな姿勢に終始するのが政策的な姿勢として正しいと私は考えておるわけでございます。  それから、目減り対策ということになりますとこれまたたいへんむずかしい問題があるわけでございまして、インフレの犠牲に対する対策という点につきましては、むしろ社会政策の面でいろいろな手当てを考えておりますことは御案内のとおりでございます。  ただ、目減り政策などというタイトルを使いませんけれども、諸外国に比べても、日本の金利水準が預金のほうも貸し出しのほうも低いわけでございまするし、それから現に、貸し出しにおいてあるいは預金において長短期のバランスもおかしくなってきておりまするし、預金者保護という立場から、定期性の預金について配慮すべきじゃないかという声はかねがねから私どもよく伺っておるわけでございます。したがって、そういう要請にこたえる意味におきましても、現在の金利政策から申しまして可能な限りのことをいたす中におきまして、そういう要請がどこまで入れられるかというような点をいろいろ苦心検討いたしました結果、先ほど申し上げましたように、〇・五までの是正はこの際やってしかるべきじゃないかという結論に達したわけでございます。
  195. 広沢直樹

    広沢委員 時間がありませんけれども、この問題についてまた機会を改めて論議しようということでありますので、その際に具体的な資料等も勘案しながら考えたいと思いますが、この問題について最後に一言承っておきたいのです。  御承知のように、最近の新聞には、いわゆる預金金利の引き上げということにからんで目減り対策ということが毎日出ないときがないのです。これはもう国民的な世論なんです。確かにそれは技術的にむずかしいことはわかります。むずかしいからというのであれば、所を変えて議論をすれば、あるいはまたお互いの案を出し合えば、そこにまた一つの方法というものは生まれてくるんじゃないでしょうか。ですから、国民的なこういう世論、福祉の問題とからめてじゃなくて、やはり国民が一生懸命働いて将来のためにためていった勤労のたまものである預金に対しては、最低そこの限度まででも何とか政府政策的に考えていこうという考え方をお持ちになる、あるいは検討なさる、こういうことは悪いことじゃないと思うのです。  先ほども指摘がありましたように、借りた者は得をする。いま日本の企業はほとんどいわゆる他人資本で今日の企業を運営しているわけでありますから、借りたほうはうんと得をするわけです。そうして、一生懸命働いて預金していた者は損をする。こういうことであったら——福祉対策というのはまた別にあるのですから、それとからめて私は考えたくないのです。ですからそういう意味において、それじゃ検討しよう、大臣になったばかりでありますから、いろいろな問題があるのでむずかしいと言われれば、すぐにというわけにはいかぬかもしれませんが、少なくとも検討はしてみようということをお考えになっても私は間違いではないと思うのですが、いかがですか。
  196. 大平正芳

    大平国務大臣 当然仰せのとおり検討すべき課題でございますし、私も着任以来ずっと検討してきたわけでございます。卒然と手軽にこれに達したわけではないのでございまして、ここまで来るには省の内外で相当精力的な討議を遂げて、検討すべきものは洗いざらい検討したわけでございます。そして今日、われわれがやれる限界はこれじゃないかというように判断いたしたわけでございます。しかし、国会におかれましても、目減り対策というような点についてなお大蔵省においても検討せよということでございまして、これは私どもも検討してきたわけでございますけれども、なお引き続き検討すべきことは検討してまいります。
  197. 広沢直樹

    広沢委員 それでは、その検討の段階でわれわれもいろいろな案を申し上げたいと思います。  次に参りますが、中小企業対策の問題です。これは先ほど増本委員のほうからいろいろ具体的に融資の問題について質問がありました。私も同じ考えを持っているわけでございますけれども、ただ、相当引き締めが長引くということになれば、第一・四半期において千五百億の増ワクをいたしておりますが、第二・四半期においても、通産当局においては少なくとも一千億以上は増ワクをしなければいまの事態に対応できない、こういう意見がすでに述べられておることを聞いております。先ほども大臣は、前向きに早々に検討してその結論を出すんだと言われました。新聞報道によれば、もう九月、第二・四半期の末でありますから、二、三日後に出してくるだろうと思うのですけれども、私はやはりこの増ワクも、当面四半期ごとの増ワクは必要でありますが、総体的に考えてみますと、相当大幅な増ワクを考えなければいかぬ、補正予算の中でこれは当然考えていかなければならない。こう思うわけでありますが、その点を簡単にお伺いしておきたいことと、それから第二・四半期、今期において少なくとも前期より多くの増ワクをしなければやっていけないのじゃないか、私はこう思います。  先ほどの答弁の中で、どれぐらいの需要があるんだと聞かれて、それはなかなかわからないということでした。引き締めの期間がどこまでいくかわからないですからね。ですから、いま在庫をかかえている中小企業あるいは弱小の企業においては、どこまで引き締めが続いていくかわからないですから、どうしても民間金融機関が締められれば政府系機関にそれをたよってくる以外にない。だから、政策的に中小企業を守っていく立場にあるこの三機関に対する融資というものは、十分に中小企業にこたえられるだけ、堅実な企業がそれによって維持できるだけのワクは確保していかなければならぬ、この点を強く要望もし、お伺いしておきたいと思うのですが、簡単にお答えいただきたいと思います。
  198. 大平正芳

    大平国務大臣 第二・四半期分というわけではございませんけれども、当面の中小金融につきまして、三機関に対する手当ての問題は通産省といま相談をいたしておりますし、業種別にもいろいろ検討をいたしておるところでございまして、近いところ結論を出すことになるだろうと考えております。金額はどの程度になりますか、まだ申し上げる段階ではないと思いますけれども、当面の緊急必要なものにつきましての配慮は考えてみるつもりでございます。
  199. 広沢直樹

    広沢委員 最後に、住宅ローンの問題についてお伺いいたしたいと思います。  こういう金融引き締めになりますと、やはりいま申し上げました中小企業だとかあるいは住宅ローンだとか、そういった分野に一番しわ寄せが参るのがいままでの常なんです。ですから、当然住宅ローンは企業金融と区別して考えるべきであるという意見を述べてまいりましたし、あるいは当局におかれてもそういう考え方でいくんだということで、現実には企業金融と少し差がついていることはわかるのです。ところが、だんだんこうやって引き締めが長引いてまいりますと、そのしわ寄せが——今日のしようを見ておりましても、民間住宅の関係が相当落ち込んできておりますし、その一つの原因が、やはり金融関係が逼迫しているということがあげられるわけであります。  そこで、民間金融機関のほうはどうしても利率が悪い、いろいろな条件が悪い、その住宅ローンについては特に配慮するとは言いながら、これはだんだんに落ち込んでいく、こういう趨勢にあるわけでありますけれども、そのしわ寄せが住宅金融公庫のほうに相当やってきている。したがって、一般個人向け住宅の融資、当初計画で十五万戸、これに対して五月の末から受け付けていたわけでありますが、七月の二十日ですでにもう目標を大きく突破した。二十二万戸ですか。したがって、いま受付を中止しているということであります。やはりこの面にも、政府施策に住宅ローンが大きく依存してきているという結果が出てきているわけです。やはり引き締めはこういう面についても強く出てきているということを物語っている一つの証拠であろうと私は思います。したがって、この問題に対してどう対処なさるのか。一つには、いまの申し込み分について住宅金融公庫の融資を増額するとか、あるいは今後も申し込みに対して十分受けられるだけの原資を住宅金融公庫に増額する、こういうお考え方があるのかどうか。あと、民間の関係についてもお聞きしたいわけでありますが、時間がオーバーいたしましたので、次回に譲りたいと思います。その点のお答えをいただきたい。
  200. 大平正芳

    大平国務大臣 住宅金融公庫に対する申し込みを、七月の二十日でございましたか、早目に打ち切らざるを得ないほどたくさんの申し込みがございました。例年でございますと九月の半ばごろの打ち切りであったはずでございますけれども、ことしは早目に打ち切らざるを得なかったのは申し込みが非常に殺到いたしたからでございまして、ことし予算の予定いたしておりまする十五万戸をこえて二十二万戸までお申し込みになっているわけでございまして、これをどのように処置しますか、先般来いろいろ建設省との間でも協議いたしてまいったわけでございますが、何とかいままですでに受け付け済みのものにつきましての資金の手当ては、住宅金融公庫プロパーの資金の状況も念古しなければなりませんけれども、新しい財投を投入して処置する方向でいま検討を急いでおるところでございます。  ただ、あなたがおっしゃるように、それではもう一ぺん申し込みを再開して受け付けるかということでございますが、そこまでは考えておりません。
  201. 安倍晋太郎

  202. 竹本孫一

    竹本委員 いろいろお尋ねしたいことがありますけれども、重複を避けまして、私は二つ三つの点について御質問いたしたいと思います。   〔委員長退席、浜田委員長代理着席〕  物価が二〇%以上上がれば民主主義が破壊されるということを言った人がありますけれども、確かに二〇%以上物価上昇するということになれば、これはわれわれの国民生活の安定を確保するという上においてまことに重大な問題であろうと思います。現にイタリアのルモール内閣は、卸売り物価が四四%も上がるといったような世界一のインフレの前に一度は瓦解をいたしました。カナダがこの間選挙をやりまして勝ちましたけれども、一一%程度であったから予想を裏切って政府が勝利することができた。イギリスが総選挙を迎えておるわけでございますけれども、いま労働党の一番大きな悩みは、物価が二〇%以上上がるということになれば、今度の選挙で勝てないことになるのではないかということである。参議院選における田中内閣の受けた打撃というものも、そうした意味で理解ができるのでございますけれども、しかしながら一番大事なことは、このインフレの中で国民生活の安定を期するということであろうと思います。  先ほど大臣所信表明をされまして、物価の安定は財政金融政策の第一義的な重要課題であるということを言われました。全く同感であります。その際に大臣は、物価はようやく鎮静化の傾向を見せてきたということを述べられた。まず第一には、その点についてきわめて結論だけでけっこうですが、二つお伺いをいたしたい。  物価鎮静化の傾向を見せてきたということでございますが、物価はいつ安定するかということにつきましては、昨年以来、昨年の年末あるいはことしの三月、四月、あるいは夏、あるいはことしの少なくとも十月になれば、いやまあ十二月、年内一ぱいかかるかもしらぬけれどもというような意見が、大臣も御承知のように、田中総理大臣あるいは大蔵大臣その他の方から言われました。いま国民が一番心配しておるのは、一体いつになれば、鎮静化の傾向ではなくて、鎮静化するのであるかということであろうと思います。  そこで第一にお伺いしたい点は、もう三月も六月も七月も過ぎてしまいましたから、大体これは今年の十月ごろに安定ができるのか、あるいは年末一ぱいには、十二月ごろまでには鎮静化するのか、あるいは年度末の三月ぐらいまでかかるのか、総需要抑制その他の問題とも関連がありますし、国民は生活の問題に重大な関心がありますので、その点をはっきりと、鎮静化の傾向を見せてきたということだけでなくて、鎮静化そのものは大体いつごろという見通しなり確信を大臣は持っておられるか。具体的に何月という点をお示し願いたい。これが第一点。  時間がありませんから関連して申し上げます。  第二は、その鎮静化したときの状態でございますけれども、これも従来の国会の論議の中で、あるいは予算委員会の論議の中で、石油危機が爆発をした十月以前の水準にまで返すとか、あるいはその前の半年の水準にまで返すとか、いろいろ耳ざわりのいい答弁があったのでございますけれども、現実には大臣も御承知のように、物価は卸は大体三四、五%前後、消費者物価は二三%から四%前後、あれこれ平均して私の観測では、物価は落ちついたところで十月以前の水準に比べれば、大体三割高であろう、三〇%高であろうというふうに思います。  そこで、大臣のお考えとして、私は物価の安定は来年の三月末、すなわち年度末ぐらいまでは鎮静化を期待することは無理であると思うが、大臣は何月ごろと見ておられるか。また鎮静化したときの水準は、十月前の、石油危機前の水準に比べて、少なくとも三割ぐらいは上がるだろう。新物価体系というと非常に響きがいいけれども、要するに結論は、三割レベルアップというか、物価水準引き上げるということに終わるのではないかと思いますが、三割以内におさめる自信があるのか、あるいはもっと上がるのか、その鎮静化の時期と鎮静化したときの水準について、きわめて具体的に御答弁を願いたい。
  203. 大平正芳

    大平国務大臣 第一にお断わりしておかなければいかぬと思いますのは、今日のわれわれをめぐる環境は単なる景気の循環における好景気、不景気のある幅を持った動きでないということでございまして、去年からわれわれが経験いたしたことは、非常にショッキングなできごとを経験いたしたわけでございまして、そのショックは非常に巨大なものであるわけでございます。したがって、この事態をどのように見るかということをみんな、竹本さんはじめ皆さんもお考えになっておることと思いますし、私どもも日夜考えておるわけでございますが、従来の景気変動の展望というものよりはよほどむずかしいということは、まず前提としてお含みおきを願いたいと思うのであります。  第二に、それではそんなことを言っておっても、しかし一応のめどというものはつけられないものかということでございますが、これは国際的にいまの資源あるいは食糧あるいはことしの世界の天候、そういったものがどういうようになるのか。豊作が伝えられたり一部凶作が伝えられたりいろいろいたしておりまするし、穀物市場におきましても相場が安定いたしていないようでございまして、そのあたりもまず不安定な要素を含んでおるように思うのでございます。しかしながら、若干の不安定の度合いがございますけれども、去年からことしにかけて経験したような大きな幅における変動でないと予想されまするし、私ども国際収支の維持あるいは為替相場の安定というようなところに鋭意努力してまいりますならば、そういった幅も最小限度にとめられるということを考えますと、石油危機が始まり狂乱時代を経験いたしましたその前の時点に返せということは不可能といたしましても、そこで経験いたしました三割内外物価高というようなものを円滑に吸収してまいりまして、次の安定の目安を目ざしていかなければならないんじゃないか。その目安は三割内外とあなたがおっしゃいましたけれども、大まかな感じといたしまして、私どももそういうところが一応の目安になるのではないか。やや不安定な要素もありますけれども、そんな感じがいたしておるわけでございます。  それから、それはいつごろかということでございますけれども、これはこれからの努力にもかかるわけでございますし、国内の賃上げその他の状況にもかかるわけでございますので、国民のコンセンサスがどういうところで得られるか、まだ確たる展望が持てないわけでございますが、もし節度のある運営政府もやり、国民も御協力いただくということになりますならば、ことしから来年にかけて比較的鎮静を見る事態を招来することは私は不可能でなかろうと考えておるわけでございまして、幾つか柱になる条件というものを手がたく踏みしめながらやってまいらなければならぬし、そういうことをやってまいることに成功すれば、あなたの仰せられるような目標は達成不可能ではあるまい、そう考えております。
  204. 竹本孫一

    竹本委員 せっかく御答弁をいただいたのですけれども、結論がどうもまだ私にははっきり理解できない。  物価というものは、大臣もお話しのように、いろいろな内外の条件がありますし、簡単に見通しがつくものでないこともよくわかりますけれども、しかし、国民がいまいろいろインフレの問題を中心に悩み、心配をしておる問題は、先ほど来米価の問題も議論が出ましたけれども消費者米価も上がり、また公定料金も上がる、そういうようなことで、いつになったら物価鎮静化するのであろうか、また鎮静化したときにはどのくらい十月前の水準に比べて上がっておるのであろうか、これがほんとうにわからなければ、業界の人は事業の計画は立たぬと思うのですよ。だから私は、その点を端的に御答弁を願いたいと思って御質問を申し上げたのですけれども、政治家の答弁はたくさん答弁するけれども何にも答えないのが名答弁だということになっているそうですから、そういう意味で大臣の答弁はわれわれにはなかなか把握できないのです。  しかし、私はどう考えてみても三月までに物価が安定して、いわゆる鎮静化ができるということはむずかしいと思います。それから、議論をすれば、総需要抑制の問題等にしてもすべてそういう前提から議論をしなければ、大前提がない議論は意味がないと思うのですね。そういう意味で、年内あるいは年度内の物価安定はたいへんな努力がありましてもむずかしいんだ、しかも、その安定したときには三〇%アップということにおさめ得れば、まあ資本主義を前提にする限り、そしていまの政治の体制を前提にする限り、いいと言うのじゃありませんが、最大限度の努力であろうと私は思います。そういう意味で、私の思っていることは、すなわち時期的見通しとしては年内に物価安定というようなことはむずかしい、それから上がっていく物価は三〇%以下に押えるということも大体むずかしいと私は見ておりますが、それは間違いであるか間違いでないか、その点についてだけ簡単にひとつ大臣のお考えを承って、間接的に私の理解を結論づけておきたいと思うのです。
  205. 大平正芳

    大平国務大臣 たいへん常識的な御見解だと私も考えますが、それに対して、私申しましたようにいろいろな条件があるわけでございまして、政府といたしましては、そういう基本的な条件を整備するということを一生懸命にやるということで、なかなか来年の春までには無理じゃないかと言われますけれども、極力努力してまいりたいと思います。
  206. 竹本孫一

    竹本委員 次へまいります。  いま申しましたように、政府もいろいろ御努力をされるだろうけれども物価鎮静化もむずかしいし、鎮静化しても三〇%以上のアップになるということになれば、そこで政治の大きな課題として、私はインフレは——この前、これは大蔵委員会で自民党の皆さんも社会党の先輩も御一緒にドイツに参りまして、ドイツの主税局長その他と会談をやりましたときに、いろいろ議論が出ました最後に彼が言ったことばがいまだに印象に残っておるのですけれども、インフレはモーストアンジャスト、社会的不公正のはなはだしきものであるということを申しました。私もそのとおりだと思いました。  この数年間のインフレの過程において、そうでなくても社会的正義、社会的公正という立場から見ればいろいろ問題が多い日本の政治の中で、社会的な不公正というものがますます激しくなった、こういうふうに思うのです。したがって、インフレを半年なら半年で押え込むということができれば、それはそれなりの一つの努力として評価もできるし、政策はいわゆる総需要抑制を中心とした、インフレを押え込むということの政策努力だけで、一応問題が解決できると思うのです。  ところが、いま言ったように、インフレはなかなか押え込めないんだ、押え込んでも三割高だ、あるいは三割以上の物価高だ、こういうことになれば、その三割物価が上がったことの過程における拡大された社会的矛盾というものに対して、それを調整するということが政治の一番大きな課題になると私は思うのです。すなわち、インフレを押えるという一つの大きな課題とともに、インフレに伴う社会的不公正の拡大された矛盾の大きさというものをどう解決するかということが大問題だというふうに思う。したがいまして、私は、きょうは時間もありませんので、富裕税の問題についてひとつ大臣のお考えを伺いたい。  資本主義の社会というものは、大臣も御承知のように、すべてが債権か債務かという形をとっておる。インフレの過程において、債務者は膨大な債務者利益というものを受ける。しかしながら、債権者の立場に立つ者は非常な犠牲をしいられる。三割物価が上がるということは、債権が三割切り捨てられたということになるわけです。だからこそ債務者は、三割の利益を受けるわけだ。したがって、資本主義を前提にする限りにおいては、インフレの過程においては、債権債務の関係だけを見ても、あるいはフローとストックの関係を考えても、必要以上に社会的な不公正が拡大をされると思うのですね。したがって、この拡大された矛盾、不公正というものをどう押えるかということは、インフレに取り組む第二の課題として、インフレを押えるというのが第一の課題とすれば、インフレのあと始末の問題としての第二の課題として、第一の課題と同じように重要な問題である。したがってそれは、ただ年金生活者に少しお気の毒だから金一封差し上げましょう、あるいはインフレ弱者に二千円ほど包みましょうといったような思いつき的なあるいは事務調整的な考え方では不十分であって、政治の大きな課題としてこの社会的な不公正をどう矯正するか、直すかという問題であろうと思うのです。  私はその一つとして、税制の面から富裕税ということを愛知大蔵大臣のときに質問をし、これを推進すべきことを提言しました。富裕税につきましては、大臣承知のように、戦後一度経験があります。そしてこれは、必ずしも成功したとは言えません。しかしながら、今日の社会的な不公正、これをどう解決するかというせっぱ詰まった大きな問題があるということが一つ。それから第二は、その当時成功しなかったについては、あるいは報告義務を課するというような問題についても不十分な点もあったし、いろいろの事務的な準備不足なりあるいは不十分な点がありましたので、それをいま反省をし、再検討をしていくならば、富裕税について、税の把握の面で不十分だということでこの税は取り上げる価値がないと言うわけにはいかない。  いずれにいたしましても、今日の新しい段階においては、事務的にももっとそれは再検討して、準備体制を強化しなければならぬ問題があることはもちろんでございますが、政治の課題として、インフレ過程において物を持っておるために、ストックの面において不当にというか膨大な利益を得た人に対してそのままになっておるということはおかしい。ある人はいま第二次財産税を考えろという人もおります。考え方についてはそれぞれニュアンスが違うかもしれませんけれども、いずれにいたしましても、債権者と債務者との利害があまりにも食い違っておる、そして物を持っておる者あるいは債務を持っておる者があまりにも膨大な利益をあげておる。これに対して税制が全然無関心であったりあるいは不十分な対策しか対応ができないということであっては、税に課せられた一番大事な社会的正義の実現という面において問題があろうと思うのです。そういう意味で、大臣にこの際、富裕税という問題だけではありませんけれども、広い立場からインフレ過程に伴う社会的な不公正というものを政治の課題として直さなければいけないんだということを感じておられるかどうかをまずお伺いいたしたい。
  207. 大平正芳

    大平国務大臣 インフレは戦争と並んで最大の不公正を生み落とすものであるということ、仰せのとおりでございまするし、社会的不公正をどう直すかということが政治の最大の課題であることは、仰せのとおりと私も思います。ただ、それをどう実行してまいるかという方法論になりますと、これは吟味しなければならない問題がたくさんあると思います。  富裕税につきましても、いま御指摘がありましたように、昭和二十五年にわが国でも財産税というタイトルで創設されましたけれども、無記名の証券等の不表現資産の把握が困難だというようなこと、それから居住用の財産等の無収益財産に対してまで課税されるというようなことがありまして、必ずしも成功でなかったとあなたが御指摘のように、三年間実施されただけで二十八年度に廃止された経緯があるわけでございます。  しからば、この前車の轍を踏むことがないように、一つの一般的な財産税として富裕税を新たな構想で考えたらどうかという御提議のようでございますが、これにはなお執行上いろいろ問題があることのほか、基本的に相続税でございますとか固定資産税のような他の資産課税との調整を十分考えなければならぬと思いまするし、さらには所得、資産に関する全租税体系との調整が必要になるのではないかと大蔵省としては考えております。  すなわち、この問題は高率の累進課税を持つ所得税及び相続税を中心とした現行の租税体系にかえて、経常的な低率な一般財産税を創設して、所得税、相続税の高額階層についての税率引き下げと組み合わせた形で全体としての累進構造が保たれるような租税体系を採用するかという、いわば全租税体系の基本にかかわる重要な問題を含んでおると思います。したがって、この方法論につきましては、慎重に、相当時間をかけて検討をしなければなりません課題であると考えております。  それから、インフレのあと、御案内のようにいま経済が停滞いたしましてゼロ成長というようなことになってまいりますと、パイの大きさは変わらぬけれども、パイが大きくなった部分を漸次いろいろな政策目標に充当することによっていろいろな問題が解決できた過去と違いまして、これからはそういう手当てがなくなるとなりますと、あなたの言われる社会的不公正という問題がより先鋭な姿で政治の課題になってくるのではないかと私も感ずるわけでございます。したがって、私は、社会的不公正の是正というようなことは社会的緊張を呼んでおる最大の原因でもございまするし、政治の課題として鋭意追及していかなければならない、しかも、じみちに追及していかなければならない課題であると思っております。
  208. 竹本孫一

    竹本委員 大臣とこの問題については基本的に趣旨が若干違うようでございますが、まず第一に、所得税や相続税の体系を中心にした現在の税体系というものとの調整をどうするかということを御心配になっておるようでございますけれども所得税や相続税を中心とした正常な資本主義の経済体制というものが続いておるならば問題はないのですよ。それがくずれて、インフレというものはノーマルなものじゃないんでしょう。インフレ自体がアブノーマルなんだから、アブノーマルなものに対してどう措置していくか、そのまたあと始末をどう措置するかということは、本来インフレが資本主義の原則的な姿でない限りは、異常なものに対しては異常な対応をするのがあたりまえなんですよ。だからそれを、従来の所得税や相続税の基本体系とどういう関係に立つかなどということを言うのは、根本的にインフレに対する認識がぼくは間違っていると思いますね。インフレというものは資本主義の正常な姿から見て、おかしい、異常な、臨時的な過程なんでしょう。だから、その過程に対する税のあり方も当然に異常なものになる、あるいは臨時的なものになる、時限的なものになる。当然なんですよ。だから、租税体系との関係をこんなところに持ち出すのは、インフレを一体どう理解しているか。インフレが資本主義の原則的な一つの通常のあり方であれば、それはそれをも織り込んだ所得税、相続税、富裕税体系というものができるかもしらぬけれども、私どもが言っているのはそんなことではない。これは正常ではないんだ、正常でなくて不公正が大きくなったんだから、その不公正を押えるために臨時の特別の措置を考えてください、そのための富裕税を考えたらどうですかということを言っているのですから、租税体系の問題を言われるのは私には納得できない。  それから第二に、パイの問題も出ましたけれども、要するに慎重に期間をかけてこれは論議しなければならないということを言われるのでございますけれども、西ドイツでも、あるいはデンマークでも、あるいはオランダでも、主税局長もいらっしゃるが、富裕税というようなもの、あるいは富裕税らしきものは現にやっているでしょう。やっていませんか。それはそういう特別な過程に対応するために特別な努力をしているのですよ。日本のようにインフレが一番激しいところがそれに対して対応を考えないということは怠慢ですよ。西ドイツなんかはいまでも消費者物価は大体七%じゃないか。日本のように二四%上がっているのに比べれば三分の一ですよ、物価の値上がりは。そういうところでもそれぞれの努力をしなければならなぬということでやっておる。私は世界のどこでもやっていないことをやれというのではなくて、先進国では二、三の国ではあるけれども現にやろうとしておる。今度はイギリスは労働党だけれども、七千万円、十万ポンド以上の資産の所有者については、このインフレ過程の不当利得なら不当利得というものを押えるために、富裕税をかけようということを現に具体的に日程にのぼせておるじゃないか。  そういうときに、世界一インフレの激しい過程を持っておるこの日本が、その世界一のインフレの不公正が現実に露出している、出てきておるその日本の租税当局が、これに対する税の取り組みをいまから慎重に考えるというのは一体どういう意味か。よそとのバランスがとれないじゃないか。これは当局の怠慢としかいえない。私は、この際日本は慎重にどころではなくして、十分に研究して、この富裕税についてはまともに取り組むべきである、そしてこの最近数年間における過程の矛盾というものを何とか最小限度に社会正義感が保たれるように調整することが政治の課題であると思いますので、その慎重論について大臣にひとつ伺いたい。  同時に、主税局長がいらっしゃいますから、主税局長にひとつお伺いするのだけれども、英国では人口の一%の人で二五%の富を独占しているということがいわれておる。そこで、日本においては、たとえば昭和三十五年の段階においては一%の人は何%の富をあるいは資産を持っておったか、それがこの十数年間のインフレ過程において、最近においては一%の人で何%の資産を所有するようになっておるか、その辺がわかればいま答弁を願いたいし、わからなければあらためて数字を示してもらいたい。
  209. 中橋敬次郎

    中橋説明員 まず、富裕税を竹本委員はインフレ過程における不公正の是正税制というふうにお考えになっておりますが、確かにそういう面はございましょう。債務を得ましてそれによって資産を取得して、その資産が値上がりをするということで、資産から負債を引きました純資産額がふえていくという人に対して富裕税をかけるといたしますれば、それは確かにおっしゃいますようにインフレ時におきますところの一つの税制として考えられましょうけれども、また一面、かりに先ほど来いろいろ問題になっております預金だけをたくさん持っておる人についても富裕税というのはかかり得るわけでございます。預金だけを持っておるというのは、このインフレ時におきましては、先ほどの目減り論ではございませんけれども、むしろインフレにおいて打撃を受けるということでございますが、しかし、その金額が非常に多ければ富裕税はかかり得るわけでございます。したがいまして、富裕税をインフレ時におきますところの対応策としてだけ考えるのは私はいかがかという気がいたします。  御指摘のように、西独、オランダ、スウェーデン、オーストリアにおきましては、おっしゃいますような富裕税の形が現に存在をいたしております。が、どうもその経緯を考えてみましても、必ずしもインフレのために導入したというふうには考えられません。西ドイツにおきましては、実はこれは一八九三年にプロシアにおいて導入をいたしまして、それから一九二二年に全土に拡張いたしたようでございますが、むしろこれは、すでに御案内のとおり、西ドイツにおきますところの一般所得税の最高税率が五三%にとまっておって、それを補完する意味におきまして富裕税というものが課税になっておるというものではないかと思います。そのほかスウェーデンにおきましても一九一〇年以来この税が導入されておりますし、オーストリアにおきましても一九五四年以来導入されておるということですから、やはりどうも所得税との関連ということで考えたほうがいいのではないかというふうに私個人は考えております。イギリスにおいても御指摘のように導入をいま予定いたしておるようでございますが、グリーンペーパーによりますれば一九七六年を目途に導入するということでございますから、必ずしもやはり当面のインフレ対策ということではなしに、むしろこれもまたいま御指摘のように、イギリスにおきまして一九七〇年においては上位の一%の人が富の三〇%を保有しておるということを指摘いたしておりますが、そういういわば財産の偏在に対応してこういう税制を採用してはいかがかという問題の提起ではないかというふうに考えております。  ところで、いまお尋ねの、日本においてそれではそれに当たるような上位何%の人間が富を何%ぐらい持っておるのかという数字につきましては、まことに残念であり申しわけございませんけれども、私ども当局といたしましては、それに当たる数字は全然持ってございません。かりに富裕税があの当時三年間だけで終わりませんでずっと続いておれば、もちろんこういう資料は整備できたと思いますけれども、残念ながらそういう資料はございません。かりにいま一番最近におきますところの相続税の課税実績から考えてみまして、これはまさにその相続税が課税になった人たちだけの間の話でございますけれども、四十七年において相続税が課税になった被相続人の中で約二割の人が、これもまた相続税の課税になりました財産の中で約半分を持っておったという数字がございます。しかし、お尋ねの全国民の中で何%の人が全国民の富をどれくらい持っておったかという数字は、申しわけございませんけれども手元にないし、またちょっと当分はこれがなかなかできそうにもございません。
  210. 竹本孫一

    竹本委員 資料がないということは問題意識がないということなんですね。これはやはり大臣、重大な問題だと思うのですね。  それで、私は、ドイツのブラントさんがこの間総理をやめましたけれども、あの人が内閣を組織する前に選挙のときに一カ月御一緒にいろいろとドイツを歩きました。そのときにアイヒラー博士その他日本に来た人たちが驚いてこういうことを言いました。われわれは穏健な社会改革を訴えておるけれども、その場合に一番大事なことは、資本主義を一ぺんにひっくり返すということでなければ、資本主義社会における社会的な不公正というものをいかに矯正するかということが革新政党の最大の任務であるにかかわらず、自分は日本に行っていろいろ会ってみると、富の再分配という問題についての問題意識がまことに低調だ、あれは一体どういうわけだということを何度も私質問を受けました。   〔浜田委員長代理退席、委員長着席〕 私はやはりこれはさすがにドイツ社民党の先輩はいい問題意識をついておられると思うのだけれども、資本主義を前提とする限り、強い者勝ちの資本主義ですから、弱者に同情する、それがヒューマニズム、そして富の偏在というものをできる限り税は税の面から矯正をしていくということが大きな課題でなければならぬと思うのです。その富の再分配なり社会的な公正ということについての正しい問題意識があれば、一%の人が何%の富をいま独占しておる、それがインフレ過程においてはどんなにまた矛盾が大きくなったということの基礎数字がないなどということは、それ自身まことに恥ずかしいことだと思うのですね。  いま相続税についての御答弁がありましたけれども、相続税とは少し条件が違う。相続税をかけられない者だって財産はあるし、いろいろ問題があるのですから、まあ間に合わせの御答弁だと思うのだけれども、それはそれとして、やはり一%の人が昭和三十五年の段階においては富の何%を押えておったけれども、インフレ過程を通じてこれがこんなに大きくなったという数字が出て、それをどういうふうに再調整するか、あるいは富の再分配のための努力をするかということが、先ほど大臣の言われた社会公正のための正しい政治の課題だろうと思うのですね。そういう意味で私がここで指摘しておきたいのは、資料がないということは問題意識がないということで、それ自体政治的にも大きな認識不足であるし、また事務当局からいえば怠慢であるか何であるか知りませんが、やはり問題である。少なくともこの数字はあらためてひとつ用意をしてもらいたいということを要望しておきます。  そこで、時間になりましたから最後に大臣に伺いたいのは、一体この問題を税制調査会にかけられたのか、かけられる予定があるのかないのか、その点は一体どうですか。先ほど慎重に審議するとか検討するとかいうようなことがありましたけれども、私は、税調は何のための税調か、こういう重大な富の再分配という最も緊急の課題、インフレの不公正に伴う最大の課題、それについて少なくとも慎重に検討すると言われるならなおさらのこと税調にこれをかけるべきであると思うが、かけられたか、かけられる予定があるのかないのか、明確にお伺いいたしたい。
  211. 中橋敬次郎

    中橋説明員 四十九年度改正の税制調査会の答申の中にはそれに関しての項目がございます。これは先ほども説明しましたように、ドイツが所得税の税率を五三%にとどめて富裕税を採用しておることや、アメリカにおきましての一般所得税の最高税率と勤労性の所得の最高税率とを違えておることについての御指摘がございましたけれども、むしろ税制調査会としては、現在の所得税制の中で勤労性の所得と資産性の所得との不均衡というのをこの際検討して時宜に適した改正を行なうべきではないかという立場から、給与所得控除の大幅な改正というのを提案せられたわけでございます。  私は、やはり今度の改正問題におきましてもこの態度、いまの所得税の中のいわば勤労性の所得と資産性の所得との不均衡というものをできるだけ縮めていくというような方向で解決をするのが当面の問題として考えなければならないことだと思うのでございまして、その次に、かりにそういう所得税の補完といたしまして富裕税的なものを採用するならば、これも先ほど御説明しましたように、所得税の最高税率という問題をいかに考えて富裕税というものを考え合わせていくのか、またそれに対する執行の問題をどういうふうにするのかということについてのめどをある程度つけながら、税制調査会で御検討いただくのが順序ではないかというふうに考えております。
  212. 大平正芳

    大平国務大臣 いまあなたの御発言は、インフレ事後対策としての臨時的な税制という御提言のようでございますが、いままで経験的に行なわれているのは経常的な税目のようでございますし、いま主税局長指摘いたしましたように、税体系の間におきましていろいろな関連を検討せねばなりませんので、いま直ちに税制調査会に諮問するということは考えておりませんが、御指摘の問題意識につきましては私どもも十分持っておりますので、その問題ばかりでなく税制全般につきまして、そういう問題意識に照らして各税目についても鋭意検討していくことによって御要望にこたえたいと思います。
  213. 竹本孫一

    竹本委員 時間が参りましたから私は要望にとどめておきますが、とにかくこの問題は、資本主義を前提にする限り、そして社会的正義というものを政府もあるいは自民党さんも言っておられる限り、この不公正をどう調整するかということはやはり政治の大きな課題でありますので、ぜひより一そう前向きに取り組んでいただきたい。要望を申し上げて質問を終わります。
  214. 安倍晋太郎

    安倍委員長 阿部助哉君。
  215. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 だいぶ時間がたちましたから、なるたけはしょってお伺いをしたいと思うのであります。  大体いま当面する問題これは物価問題ということで、それぞれその問題に触れるわけでありますが、いまも竹本さんからお話がありましたインフレの問題、インフレは最悪の大衆課税だ、こう言われておるけれども、その点は大臣もやはりお認めになるんでしょうな。それならば答弁は要らぬのですがね。  そこで、今日の事態で先ほど来の質問、答弁を聞いておりまして、どうも大臣のおっしゃることはさっぱり私には理解できないのであります。と申しますのは、あなたの所信表明一つ見ましても、物価問題、これが第一の政策目標として重大関心事だ、こう言っておる。その次のページには、この物価問題では「物価の安定に全力投球し、その実を挙げつつ」云々と、こういうことでありまして、全力投球をされると言う。ところが、いま国民は次から次へと物価が上がっていくのではないか、新聞をちょっと見ただけでも、十月から国鉄が上がる、営団地下鉄が上がる、航空は今度上がったのですか、タクシーがまた上がる、バスが上がる、いま消費者米価審議されておる、ガスはこの前東京はきまった、灯油だ、郵便だ、電報だ、電話だと、軒並みに上がるほうは非常に具体的に出ておる。とこれが、あなたは物価安定に全力投球をすると言うけれども、一体どっちのほうへ向かって全力投球しておるのだろう、キャッチャーのほうへ向かって全力投球しておるのか、外野のほうに向かって全力投球しておるのか、さっぱりわからない。国民がいま心配しておる物価は、具体的にどのようにしてどの程度に安定をさせるのか、私は具体的にお伺いしたい。
  216. 大平正芳

    大平国務大臣 物価は申すまでもなく物の需給関係によってきまるわけでございまして、政府の任務はそういう価格形成の機能が円滑に働くという状況を保障しなければならないわけでございまして、一々の個別物価につきまして政府が責任を負える立場にはないと思うのであります。  ただ、いま阿部さんが御指摘のように、政府が関与いたしておりまする物価並びに料金があるわけでございます。これは私が先ほども御答弁申し上げましたように、どの料金、どの価格にいたしましても、政府は戦後終始これを低位に押えることによって国民の期待にこたえてきたわけでございます。今後もそれはなるたけそういう姿勢で貫きたいわけでございますが、無理をしてそれをやってまいりますと、後遺症を後世に残していくことになりまするし、現に自由企業として成り立たない局面も出てまいりますので、最小限度是正はさせていただかなければならぬわけでございます。物価政策を第一政策目標として全力投球することと、われわれが最小限度の調整をしてまいりますこととは、決して矛盾しないものと私は考えておるわけでございます。
  217. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 いまあなたの答弁で、国民は、ではどの程度でどうなるか、自分の家庭設計をどういうふうにやるかなんという案が出てくると思って御答弁をなすったのですか。もう現実に物価は上がっておるし、政府が関与する公共料金その他でもこれから続々値上がりしよう、こういうことでみんな国民は不安を持っているわけです。国民に不安を与えるということは、政治としては一番まずいことなんじゃないか。  そこで、あなたたちは物価の安定が第一義であるとか、この安定に全力投球すると大臣はおっしゃるけれども、では安定とおっしゃるならば、一体どの程度に物価を押えるということなんですか。年度内で、あるいはまた最近は消費者物価は月何%というような上げ幅をしておるようでありますが、九月はどの程度、十月はどの程度で消費者物価を押える、それを示していただきたいのであります。
  218. 大平正芳

    大平国務大臣 阿部さんに申し上げるまでもなく、政府はオールマイティーではないのでありまして、個々の物価につきまして、いつ幾らになるというようなことを国民にお示しするような力は政府にないわけでございます。先ほど申しましたように、価格形成機能というものをできるだけ公正に維持していくのが政府の役割りでございまして、そこで需給関係から物価がきまってまいるわけでございます。  ただ、政府が関与する物価料金につきましては、過去において、御案内のように、政府一般物価水準よりもうんと低目に押えることによって国民の期待にこたえてきたわけでございます。しかし、それが無限にできるわけではないのでありまして、私ども政府といたしましては、先ほど申しましたように、無理に押えることによってかえっていろいろなデメリットを多く生むようなことは、また政府として避けなければならぬわけでございますので、最小限度是正は当然政府の任務としてやらなければならぬということでございます。  しかし、一般的に申しまして、あなたが言われるように、物価がこう乱調であるというようなことではとても家計の目安も立たないし、企業の経営の展望もきかない。私自身財政をあずかっている者といたしまして、見当が立たないという状況は非常に不幸なことと思っておるわけでございます。しかし、これは世界をあげて異常な条件のもとにあるわけでございますので、その間に処して、できるだけ低位に安定さすべく努力するということが、私が言える最大限度のことではなかろうか。いつまでにどうするなんということを私が言うてみても、それは単なる感想にすぎないということでは国民に申しわけないわけでございまして、私は政治はもっと真剣にやらなければならぬものと思います。
  219. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 いや、そうすると私の言うことが真剣でないようなお話でありますけれども、そうではないのじゃないですか。私は政府がオールマイティーだなんということは言っていない。しかし、物価安定に努力するというならば、政府がこれを押えるなら押えるということを具体的に示されなければ、国民は不安を持つでしょう。また、あなたは国民の期待にこたえてきたとおっしゃるけれども、これは選挙等は別にしても、あなたはいま、いまの物価状態国民の大半の期待にこたえた姿だというふうに受けとっておられるのですか。ちょっとその辺、私は大臣の感覚がずれ過ぎておるのじゃないか、こう考えるのですが、いかがですか。
  220. 大平正芳

    大平国務大臣 私が申し上げたのは、政府が関与する物価料金の決定にあたりまして、一般物価水準よりも異常な低位に政府は長きにわたって押えてきたじゃございませんか。なるほどそれはただに越してのことはないわけでございますけれども、そういうことではなくて、国民の常識から申して、政府はいろいろのくふうをこらしながら低位に維持してきたということは、私は評価していただけるものと思っております。
  221. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 こんなことを言っていたら切りがありませんけれども……。  私は、国民の期待には沿わなかったと思うのです。いままでの高度成長政策にしても、当然物価が上がることを予想しながらきたのじゃないですか。そうしてまた、いま電力料金は大幅に上げる、都市ガスは上げる。その上にこれから先、いま述べたように軒並みに上がろうとしておるわけです。そこで、あなたが抽象的に全力投球するということではなしに、私がいまあげただけでも、これはこう押えますと言うならばまだ国民はそれで安心をするでしょう。先ほど来ここで論議になっております消費者米価一つとってみましても、これは皆さんが押えようとするならば押え得る問題なんです。なぜ一体、いま物価の一番大きな要素を占める、また国民生活には欠くことのできない消費者米価、これを押えようとしないのですか。
  222. 大平正芳

    大平国務大臣 それはきょうもいろいろ御質疑をいただきました委員の各位に御答弁申し上げたとおりでございまして、私どもといたしまして、財政の立場からはこうありたいという願いはありますけれども、いま物価対策に全力投球しておるわけでございますので、財政といたしましても、絶対的にもあるいは比率的にも最大限の食管赤字の手当ては財政によってやるということを精一ぱいやったわけでございまして、その点は各位に御答弁申し上げた趣旨で御了承をいただきたいと思います。
  223. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私はいままで御答弁なすったあなたの答弁に不満があるからここでこの問題をさらに取り上げようとするのでありまして、おそらくいままで質問なすった委員の方々も、あなたの御答弁に満足をしておるとは私は思えないのであります。この消費者米価の問題は、一つには物価の中における最大の問題であると同時に、これは日本の農業を将来どうしようかという農業政策の見地からもこれまた重大な問題なんでありまして、米価の問題は、そういう点から今日の問題における最も大きな問題じゃないだろうか、こう私は思うのであります。  それならばもう一つお伺いしますけれども、あなたは財政上の理由とおっしゃるけれども財政上の理由ということで米価諮問案ができておるのですか。
  224. 大平正芳

    大平国務大臣 そういうことを申し上げておるわけではないのです。財政上の理由であればもっと高い値段をお願いしなければならぬのでございますけれども物価政策上の配慮を加えて、財政といたしましては、従来よりも、絶対額におきましても財政負担の率から申しましても、最大限の財政負担をするという趣旨でつくり上げたのが今度の諮問案でございますと申し上げておるわけでございまして、財政としては大幅な妥協をせざるを得ない状況であることは私も十分承知した上で諮問案をつくったわけでございます。
  225. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 どうも私の質問とかみ合わないようですが、財政負担というものはやったっていいじゃないですか。国民の生活の安定のために金を使うということは、これはやむを得ないことなんじゃないですか。皆さんは、われわれが反対であるにかかわらず、防衛費なんというものを大きく財政負担なすっておるのです。いま物価問題にとって、またこれからの農業問題にとって、これだけ大きな問題である米の問題に財政負担があって当然なんじゃないですか。財政負担がその場合少ないほどいいというあなたのお考えは、わからぬではありません。そうしたら財政負担としてどの程度が限界線なんですか。
  226. 大平正芳

    大平国務大臣 財政負担をしてもいいじゃないか——現に財政負担をいたしておるわけなんでございます。今度はさらに大きくふえようといたしておるわけでございまして、そのふえる部分につきまして財政が負担し、国民に一部御負担を願うということでございます。  それはどの程度が妥当であるかという判断でございますが、これは先ほどから私が申し上げておりますように、公共の財源を各国家活動あらゆる面に公正に配分してまいるわけでございますので、食管赤字が増幅いたすものにつきまして全額財政負担をするということは、財政の適正な配分から申しまして私は適当ではないと考えるわけでございまして、今度ふえる部分につきまして半分は財政負担をさしていただこうというような判断をいたしたわけでございます。これは別に絶対的な原則があるわけではございませんで、今日の状況に照らしてそのように判断することが適当であると考えたわけでございます。
  227. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 だから、公正な配分という公正ということば自体、何が一体公正なんだろう。財政が窮屈だ、その窮屈な財政を公正に分配するのだ、こういうことになれば、窮屈な財政財政収入それ自体が、日本の場合にはやれ特別措置だなんだということで、われわれに言わせればたいへんに不公平な税制等のあり方をやっておるわけですね。いまも富裕税の問題が出ましたけれども、たいへんに不公平な税制をお立てになっておって、配分のときだけあなたはいま公正などとおっしゃる。  政府消費者米価の値上げを三六%かなんか要求した、そうして今度は自民党との話し合いで何か三〇%に押えるみたいな話になってくる。あなたが財政の限界だとこうおっしゃるから、それではその限界を示してもらいたいと言うと、限界はないと言う。それならば初めから三〇%なら三〇%で皆さんはなぜ一体諮問をしないのですか。私は生産者米価のときもそう感ずるのだけれども、何か初めからいいかげんな諮問をして、あとで政府と与党で適当にきめるようなことならば、もう米価審議会というものはおやめになったらいいんじゃないですか。米審なんというものを開いてひまをつぶすよりも一あんなところにかけなくてもきめ得るようなシステムをつくったらいいじゃないですか。ある意味でいえば、米価審議会をたいへん愚弄したやり方じゃないだろうか。さらにいえば、国民を愚弄したやり方じゃないだろうか。これが財政上の限界だというならば、その限界を示すべきであります。諮問をしておいてきまってきたのを、今度は、党の点数も考えるのでしょうけれども、相談の上でまた下げるなんていうのは、一体何が何だかさっぱりわからないじゃないですか。この点はどうなんです。
  228. 大平正芳

    大平国務大臣 政府としては、諮問いたしました以上、諮問価格を実現することを期待いたしております。
  229. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私は、米価の問題はまず第一に物価との関連でお伺いをしたいのと、もう一つは、先ほど言ったように日本の農業政策との問題です。  いま農業がどうなっておるかはあなた自体御存じだと思うのであります。たとえば私どものいなかに行けば、いままでの米価据え置きだ、作付の減反だということで、農農の家計はたいへんなところにきておるのです。私が夜の座談会に行きましても、昨年までは何がしか御婦人も来たけれども、もう御婦人は出る勇気がないという。聞いてみれば、朝の四時、五時に起きてたんぼに入って、それから朝めしを食べてから日雇いに行く、夕方それが終わって帰ってからまたたんぼに入る、それから夕飯づくりであります。まあだんなさんのほうは、ふろでも入って一ぱい飲んで寝れば、いびきをかいて寝るかもわからない。しかし奥さん方は、それからまた洗たくだ、子供のめんどうだとなれば、十一時前に寝ることはない。そんな生活を続けていけば疲労が重なって健康をそこねるのはあたりまえなんです。いまそのような状態になっておる農業に、もう青年たちは魅力を失っておる。いま世界の食糧問題が重大化しようとするときに、一体大臣は農業政策との関連でどう考えるのか。  生産者米価消費者米価は初めから分断していいのではないか。また現に皆さんはこれを別々に扱っておる。そういう観点からいけば、消費者米価財政投入をすることは一つも無理なことではないんじゃないか。それをあなたが渋って、今度は公平だなんだ言うけれども、何がしかここに値上げをせにゃいかぬという理由が私たちにはどうしてもわからない。もう一ぺんそれを教えてください。
  230. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほどからたびたび申し上げておりますように、現に財政が負担いたしておるわけでございます。その程度をどうするかという問題でございます。私どもといたしましては、せめて末端逆ざやぐらいまでは解消していただきたいという希望はございますけれども物価政策の上からも農政上のいろいろな理由からも三閣僚が相談いたしまして、三六%という諮問価格をきめたわけでございます。農政上の配慮につきましては農林大臣からお聞き取りをいただきます。
  231. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 農林大臣から聞くのはけっこうですよ。だけれども財政当局としての大蔵省の皆さんの「消費者米価の引上げについて」、私はこれを読んで、全く愚劣なものをつくったものだ、失礼だけれども、私はこう思うのであります。米価のために食管赤字が大きくなれば他の農林予算が少なくなるみたいなことをいっているのですが、それがどう関連するのです。また、コーヒーの値段が一ぱい二百円、ガム一個五十円、コーラ一本六十円なんという。生産者米価引き上げのときには何だかんだ言うて下げるほうへ皆さんやるけれども、今度消費者米価のときになると、こんなPRを皆さんはやる。中身を一つ一つあげてみれば、哲学もなければ物価対策もなければ、まずお粗末この上なし、こういうものを出してまで宣伝して、それで消費者米価引き上げをやろうなんという根性、これは一体どういうことなんですか、大臣
  232. 大平正芳

    大平国務大臣 事務のほうでつくりました資料があなたのお気に召さないということでございますけれども、その中に何か間違いがございますれば御指摘をいただきたいと思うのでございます。事務といたしましても精一ぱいのことをやっておるつもりでございます。どうしても今度の改定がお気に召さぬようでございますが、私は精一ぱい財政負担をいたしまして、この程度いたしますならば御理解をいただけるんじゃないかということでございます。阿部さんと私とどうも見解が違うようでございまして、私非常に残念に思います。
  233. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そんな程度でこれをやられたんでは国民はどうしようもないと私は思うのです。それならさきの問題へ戻しますけれども、あなたは、政府はオールマイティーでないからなかなかわからないということですが、そんなあいまいな形で国の財政運営されるんですか。あなたは閣僚の中でも私は最高だと思うのです、経済閣僚の最右翼におられる。場合によったら次期総理なんということを目ざしておられるあなたにして、全く行き先がわからない、景気見通し、物価見通し、そういうものが全然わからないで、出たとこ勝負でこれから経済運営をおやりになるように私は受け取ったんですが、そのとおりでいいんですか。
  234. 大平正芳

    大平国務大臣 いついつ物価がどの程度上がるであろうというようなことは具体的に申し上げられないと申し上げたわけでございます。これはきわめてはっきりしたことなんでございまして、あいまいでないのです。あいまいでなく、私は正直にそう思っておるわけなんでございまして、私に精一ぱい言えといえば、できるだけ低位に押え込むように最善の努力をいたしますということでございます。いついつ何%にいたしますということならお気に召されるかもしれませんけれども、私はそういうことを手軽に申し上げる用意はないわけでございます。
  235. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 それで国民にどういうふうに進めとおっしゃるのか。そうなると国民はわからないでしょう。それでも国民はついてくるとあなたは思っておるのですか。
  236. 大平正芳

    大平国務大臣 精一ぱいやっておる真剣さは国民にも理解していただけるものと思います。
  237. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 主観的にベストを尽くしたからといって、国の責任者がそれで責任を済ませるというわけにはまいらぬと思うのであります。そんなにあいまいな大臣であっては国民は災難だと私は思うのであります。全力投球をします、ベストを尽くします、それだけでやるならば、もう数字の説明もこれからの審議も何も要らぬということになっちまう。私はあなたが一生懸命やっていないなんということは言っていないのです。一生懸命かもわからない。しかし、能力のない者はやめてもらわなければいかぬ。国民全体のためには、能力のない者はこの重要なポストはやめていただかなければいかぬのですよ。あなたが一生懸命やっておるだろうなんということは、私だって想像はしております。御努力なすっておるだろう、苦労しておられるのだろうという御同情は申し上げるけれども、それでは国民のために私が質問したって何も出てこないということでは、質問すること自体、ここに立つこと自体ナンセンスだということになる。もう少し国民の前に、これからの物価をこうするんだ、このためにはこうするんだというぐらいのことが出てこなければただ努力しますだけでは、大平さん、ちょっと話にならぬじゃないですか。どうなんです。
  238. 大平正芳

    大平国務大臣 私もごあいさつでも申し上げましたように、去年からことしにかけて異常な物価高でございまして、諸外国に比べても上がり方がひどかったということは非常に日本のシェイムだと思っておるわけでございます。この事態を何とか早く鎮静化しなければならないということで政府も一生懸命に対処してまいりまして、春以来だんだんと歩幅が小さくなってまいりまして健全化のきざしが、鎮静化のきざしが見えたわけでございます。したがって、いま気をゆるめることなく、財政金融各般にわたりまして国民にごしんぼういただき、総需要抑制に御協力を賜わりまして、そうして物価をできるだけ早く鎮静の方向に持っていくということを申し上げておるわけでございます。これは十月になれば幾ら、十一月になれば幾らにするというようなことを具体的に数字をもってお示しすることができる経済の大勢でないことも、あなた御承知のとおりでございます。私どもといたしましては、精一ぱい低位に安定さすべく最善の努力をいろいろな政策手段をかまえてやっておるわけでございます。  しかし、そういうときに、おまえは消費者米価を上げるなんということはけしからぬじゃないかというおしかりでございました。言われる趣旨は私も重々承知いたしておるわけでございます。しかし、これは物価政策というような立場も考えなければならぬことも当然でございますだけに、物価政策を最大の課題といたしておるということを十分A、心頭に置きまして、財政政策上も私どもできるだけふんばって低位に米価を押えるということに努力をいたしたわけでございまして、三六%というのは高いじゃないかというおしかりでございますけれども、精一ぱい努力したところである、きわめて具体的な数字でございまして、あいまいさはないわけなんでございますので、御了承いただきたいと思います。
  239. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私は、消費者米価を下げるのには、三六%を三〇%にすることには低いほどいいということでありますけれども、ただそれが与党との話し合いでまた直されるなんということになるならば、精一ぱいだとあなたおっしゃるけれども、精一ぱいじゃないということなんですよ。大臣、食言をしたということなんですが、その点はだいじょうぶですか。
  240. 大平正芳

    大平国務大臣 政府として諮問価格を三六%といたしたわけでございまして、その実現を政府としてはこいねがっておるわけでございます。
  241. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 どうも大臣はしっぽをつかまれないようにということで答弁をなずんだろうけれども、やはりお互いに、私も何もあなたをとっちめようという観点でやるわけじゃないんでして、もう少し国民の前に問題を明らかにするという立場で御答弁を願わないと、国会というものが形骸化してくるんじゃないですか。そういう点で、大臣、あまりにもいわゆる大臣答弁というか、そういう答弁をなされ過ぎるんじゃないですか。われわれお互い人間ですから、何がしかベストを尽くして、間違ったら間違ったということでやむを得ない面はあると思うのです。だけれども、ただその場その場を抽象的な答弁で抜けるということだけで答弁をなさるならば、私のほうもそれに対応した質問をせざるを得なくなっちゃうわけです。  しかし、皆さん数字を示すわけにいかないと言うけれども、大体いまの情勢を見て見当がつけられないというような政府ではないでしょう。またこれから米価が一つ上がったとしても、便乗さえなければ幾ら、便乗があればそれからまた波及してくるわけですけれども、そういうものをずっと積み重ねて計算をして皆さんは予算も組むわけでしょう。いまの御答弁でいって、さっぱりわからないというのに、一体、来年度予算がそんなことで組めるんですかな。私はたいへん心もとなくなってきたんですよ。さっぱりわからない、数字もわからないというような、それはいまの経済情勢の中で多少の違いは出るでしょう、だけれども、全然それも出せないようなことで来年度予算が一体できるんだろうか。どうなんですか。そんな程度で来年度予算が組めるんですか。
  242. 大平正芳

    大平国務大臣 予算は申すまでもなく見積もりでございます。あなたのおっしゃるように、来年の経済がどういう姿になるかということ、またどういう姿にするかということも念頭に置かなければ、見積もりの基準が立たないわけでございます。したがって、政府といたしましては、御承知のように、いつも経済の見通しというものと予算の編成を同時にいたしておるわけでございまして、それについていろいろな御討議をいただいておるわけでございまして、やみくもに、めくらめっぽうで予算を組んでおるわけではないわけでございます。  ただ、きょうは九月三日でございます。したがって、先ほどの松本さんの補正予算の御質問にもありましたように、自然増収がことしどれくらいになるかというような点もまだいまの段階で材料不足でございまして、何ともまだ答えられないということでございまするし、歳出の要素もいろいろまだ出そろっていない状況でございますし、来年の経済をどのように想定してまいるかという点につきましても、政府部内でまだ材料を十分整えての討議が行なわれていない段階で、この段階で来年はこういう展望でこういたしますなんということを私がいま言えないということを申し上げているだけでございまして、やみくもに大事な予算をめくらめっぽうでやるなんというようなふらちなことを考えているわけではないことは、あなたもよく御承知のことと思うのであります。しかし問題は、予算を組むまでに九月、十月、十一月とこうあるわけでございまして、この時間帯というのも非常に大事な時間帯でございまして、精一ぱい努力いたしまして、できるだけ明確な、そして実のある展望を踏まえて予算を組まなければならぬじゃないかと私は考えておるわけでございます。
  243. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私も、いま大臣がおっしゃるように、めどをつけて予算を組まれるのだろうと思うのです。そうすれば、やはり国民も自分の生活設計に何がしかのめどをつけてやりくりをしたい、乏しい給料の中からやりくりをしたいと願うのは当然なことなんです。いまのような物価の上がる予想の中では、将来の心配もあるけれども、もうあすの問題、来月の問題、こういう不安があるからわれわれはこの問題をただそうとするわけです。  もう一つお伺いしますけれども、私は大体生産者米価消費者米価はリンクをする必要はない、こういう考え方、また食管法も私はそうなっておると思うのだけれども基本的にはそういう考え方に立つのですが、大臣はそう思いませんか。
  244. 大平正芳

    大平国務大臣 食管法は、生産者価格消費価格はリンクすべしとも書いてなければ、してはならないとも書いてないわけでございまして、この問題は、そのときの財政経済の事情全般を判断いたしましてきめていくべき性質のものと思います。
  245. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そのときそのときの情勢できめるとあなたがおっしゃるならば、日本の消費者物価のこの上昇の問題を考えれば、もう一つはいまの農家経済、これからの農業の再建の問題を考えれば、まさに今日はリンクをさせてはならない時期だ、私はこう考えるのですが、いかがです。
  246. 大平正芳

    大平国務大臣 現にいろいろ総合的に判断されて、わが農林当局もいま消費価格と生産者価格とはリンクしていない制度をとっておりまするし、財政当局もそれと同調いたしまして予算を組んでおることは御案内のとおりでございます。
  247. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そうすると、リンクをさせていないということになれば、いまのこの三六%の値上げというのはもっぱら財政上の問題ですか、そういうことになりますね。
  248. 大平正芳

    大平国務大臣 これは農林大臣経済企画庁岳官と私と三名で相談してきめたことなんでございます。大蔵省は大蔵省としての主張を持っておりましたけれども、しかし、農政上の配慮、物価政策上の配慮も加えまして政府として諮問価格をきめたことでございますので、さように御理解をいただきたいと思います。
  249. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 いや、私は大蔵大臣としての考え方を聞いているのですが、どうなんです。
  250. 大平正芳

    大平国務大臣 それは先ほど申しましたように、ことしは生産者米価を大幅に引き上げまして食管会計赤字が大きく増幅をいたしたわけでございます。したがって、この状態財政といたしましては異常な重い負担でございまして、でき得れば国民理解を得て国民に御負担していただくということであってほしいと思いますけれども、あなたもるる御説明に相なりましたように、物価の動向はきわめて微妙な段階でございますので、できるだけ上げ幅を小さくする。そのためには、財政負担もかってないほどの大幅でございますけれどもこれも甘受しょうという判断に立ちまして、三閣僚合意の線に私も同調いたしたわけでございます。
  251. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 だから、先ほどあなたはそのときそのときで考えて、現在はリンクはさせていないんだ、こうおっしゃるから、それでは財政負担さえなければ、消費者米価はできれば上げたくないわけでしょう。特に三閣僚の中で最も大幅に上げるのを主張した、こう伝えられているあなたでありますから、そのあなたは大蔵大臣としてこの財政問題をお考えになってやったのだろう、こう私は言っておる、そのとおりでしょう。そうですね。  そうだとすれば、私が一番最初に言ったように、あなたはそれは支出の場合にどうだこうだとおっしゃる、国民に財源配分の公平をとかいろいろおっしゃったけれども、そういう財政問題を考えるときには、同時にまた税収のほうも公平にしなければたいへん片手落ちなんじゃないですか。そのほうも公平にされるということならば私はある程度わかるのであります。租税特別措置やなんかで税のほうはわれわれから見ればたいへんに不公平なあり方を立てておって、出てきた財源に対してあなたは公平を言う。私はそれにも問題はあると思うのだけれども、一応それは百歩譲っても、いまのようじゃ一体何が公平なのかさっぱりわからぬ。いま消費者米価を上げる一番最大の問題は財政負担の問題ではないですかと、こう聞いているのですが、簡単でいいのです。
  252. 大平正芳

    大平国務大臣 歳入歳出全体にわたりまして、政府としては、ただいま御審議をいただいて執行させていただいておる歳入歳出予算がベストなものと承知いたしておるわけでございます。阿部さんといたしましては、阿部さんのお立場でそれについていろいろ御批判があろうと思いますけれども、いまの時点で政府といたしましては、いま執行いたしておりまする予算が公正なものであると判断いたしておるわけでございます。  それで、そういう前提に立ちまして、今度消費者米価生産者米価の問題が年度途中で出てまいったわけでございますが、これに対しまして、ことしは御案内のように大幅な生産者米価の値上げと相なったわけでございまして、赤字が非常な増幅を見たということでございます。したがって、それを財政が負担するかしないか、どの程度負担するかということをいろいろ検討いたしました結果、こういう時期でございますので、従来の年度における食管会計一般会計が負担いたしておりました負担よりも、絶対額においても相対的な比率においても、より多くの財源を負担するのはやむを得まいという判断をいたしまして三六%という水準にすることにいたしたわけでございまして、しかもこれは三省相談の上きめたことでございます。
  253. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 まあ三省できめようと何しようと田中内閣できめたのでありますけれども、私はいままで言ったように、生産者米価消費者米価はリンクさせること自体がおかしいのだ。また同時に、そのことによっていまの農業をこれだけ破壊してしまった。やはりいまの日本の農業は何のかんのいっても、米作を中心にしながら再建する以外にないんじゃないか。それは農林大臣の問題だとおっしゃるかもわからぬが、財政当局はいろいろなことを言っておるんですね。あなたたち全然農政に口を出していないのか、こういえば、そうではないじゃないですか。  これはちょっと古いのですが、財政制度審議会の資料であります。上のほうに極秘なんというむずかしい字が書いてあって、戦争中みたいに判まで押してあるのですが、これを見ますと、こんなものを農民に見せたらたいへん腹を立てますよ。何年か前ですけれども生産者米価は引き下げるべきであるなんということをいっておるんだな。結局、ぼくに言わせれば農業破壊政策をここで論議をし、答申をしておるんですよね。こんなものを農民に見せたらほんとうにかっかしておこりますよ。  いままでそうやって農業を破壊しながらいまの高度成長をし、大企業は太ってきたのじゃないだろうか。そうしてこれをリンクすれば、これはどうしても生産者と消費者との対立の問題も出る。そのことによって生産者の米価は押えつけられるという結果になってきておるのですよ。その辺を考えるから、私はこれは別個に立てるべきだ、こう言っておる。  同時にまた、物価問題がたいへん重大な今日の時点において、その中でも一番大きなウエートを占めるといわれる米価を据え置くために財政負担をすることは、物価のために全力投球をするという財政当局としては当然過ぎるほど当然の行為ではないだろうか。くどいようですが、私はそう考えたけれども大臣はどうもそうでなさそうであります。私はこの問題、まあ見解の相違ということになりましょうけれども、私の主張は譲るわけにはまいらぬのであります。  ただ、農業問題を言い出したので、ちょっとついでに私は先ほど来の質問と関連をいたしまして一つだけ聞いておきます。  いまの預金金利の引き上げには、預金者の目減りのめんどうを見るかどうかという問題もありいろいろ——皆さんはそうじゃないんでほかの理由だと、こうおっしゃっている。いずれにせよ預金金利が引き上げられる。そうすれば、農協の金利を引き上げられる。そうすれば、それを借りて畜産をやったり、養鶏だ、果樹だとやっておる農民の金利負担も、また当然のこととしてこれは引き上げられると思うのです。ところが、今日、養鶏、卵なんというものは十何年来ほとんど上がったことがないといわれるくらい、長いこと同じような価格できておる。もう養鶏をやっておる人たち、畜産をやっておる人たちは、借りた元本自体返済が不可能のような状態になってきておる。畜産問題はたいへんであります。  私は、預金金利の引き上げは同時に貸し付け金利の引き上げになるだろう、そのときに、一体そういう農業に対する対策も、当然これは利子補給や何かでお考えになっておやりになるのだろう、こう思うのでありますが、おやりになる意思は大臣いかがですか。
  254. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 先ほど預金金利のところで御答弁いたしましたように、わずかの預金金利の引き上げに関しましても、中小金融機関あるいは農協、そういうところでは当然にコストが上がりますので、貸し出し金利に影響してまいります。その点を考慮して、もし利子補給とかそういう社会保障的な問題を導入するということになりますと、これはもう農協自身が金融機関ではなくて、独立の採算的な経営ができなくなるというような問題もいろいろございまして、金融機関としてこれを認めていく上においては、やはり預貸の間において一つのバランスがとれなければならないということでもございますので、やはり大幅に預金金利を引き上げろ、あるいは小口の預金について特別な大幅な預金金利をつけろというような御要望が一方でございますだけに、今度はそれを何とか国がめんどうを見ろというような方向に発展していくということは、非常にある意味においては矛盾、ある意味においては非常に複雑な要素を持ち込むことになりますので、大蔵省としても預金金利を引き上げます場合に非常に苦慮してあれやこれやといろいろ検討をした結果、先ほど大臣から御答弁のありましたような幅を考えておるわけでございます。  農協につきまして、そういう利子補給とかあるいは何らかの手を施すということについては、今回の預金の変更については考えておりません。
  255. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私は農協に考えろということじゃないんです。農協さんがどうなるかということじゃなしに、それを使っていまでも困っておる農民に対してどういう手を打つのか、こうお伺いしておるのです。
  256. 岩瀬義郎

    ○岩瀬説明員 元来が農業に関します金融のルートというのは、御承知のように農協から出る金、あるいは農林漁業金融公庫における政府関係機関の低利の融資もございます。ただ、農協につきましては、農協に預ける預金者とそれから農協から借りる方と、両方とも農民であるわけでございます。それから、かなり最近は農協の資金がふえましたので、都市農協においては特にいろいろな産業に直接融資をいたしておりますので、その資金が農協系統の信連、農中に上がっていかないという非常な矛盾が出てきておるような状況でございますので、直ちに農協の貸し付け金利が上がるからということについては、確かに預金金利が上がれば当然貸し付け金利が上がるわけでございますけれども、いまの経済状況においては農協から資金をお借りになる場合のお苦しみは十分わかりますけれども、まあやむを得ないことだと考えております。
  257. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 財政当局は、いまお話しのように今日の畜産がどんな状態にあるかということをあまり御存じないようであります。いまの畜産は飼料の値上がり、その上に今度金利まで引き上げられたんでは、これはどうしようもない。私は当然それに対して検討をすべきだと思う。農林省にはいろいろな補助金やいろいろなものがありますけれども、それをやるならばやるで、これは預金者のほうをやるのはけっこうでありますけれども、そのときに一番しわを寄せられるであろうところの農民の問題をやはり支出面で当然検討はすべきだと思うのですが、大臣いかがです。
  258. 大平正芳

    大平国務大臣 その問題は農業政策の問題でございますし、畜産業をどうしてまいるか、養鶏業の対策をどうするかという問題でございまして、今度の金利政策というものにつきましてはそれ自体の構造を持っておるわけでございまして、その金利政策をとることによって金融政策としてどう配慮するかという問題として取り上げるべきものでなくて、業態の問題につきましては、農業政策として十分農林省で吟味をされることと思うのでありまして、農業の安定、振興という問題につきましては、大蔵省といたしましても深甚な関心を持っておるわけでございまして、出てまいりました問題につきましては、農林省とよく相談していきたいと思います。
  259. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私は昨年の暮れ日本社会党の訪韓調査団、韓国への調査団の一員として同僚と韓国大使館にビザの申請をいたしまして断られました。それで、外務省に対してその非を指摘し措置を要請したのであります。当時大平さんは外務大臣でありましたので、きょうは特別外務省を呼んでもらうよう要請はしておりませんけれども、当時の外務大臣でありますので、その辺は熟知しておられると思うのですが、どういう措置をおとりになったかおわかりになりませんか。
  260. 大平正芳

    大平国務大臣 社会党から訪韓ミッションを送りたいという御要望がありまして、その点は外務省から先方政府にその申し入れをいたして、それの受け入れ方を要請いたしたわけでございます。
  261. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 その当時、外務省はどんなふうな交渉を向こうとなすったか、こう聞いておるのです。
  262. 大平正芳

    大平国務大臣 いま申し上げましたとおり、受け入れていただくことが望ましいという希望を添えて先方政府の考慮を求めたわけでございます。
  263. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 昨年来どうも韓国と日本との間の問題は、田中さんや大平さんあるいは向こうの朴大統領やほんとうの幹部の方々は承知をしておるのでしょうが、世界じゅう、われわれ国民はいろいろな疑惑を持ちながら、真相はなかなかわからない、非常にあいまいなまま推移してきた。金大中事件もまたそうであります。どうも韓国と日本との間の問題はわれわれにはわからない。しかし、やはり国民の血税に関する問題は、われわれとしては国民の前にこれを明らかにする義務がある。  そういう点でお伺いしますけれども、昨年日韓閣僚会議を開いて、何か四千万ドルをこす援助を約束したようでありますが、それはもう執行されたのでありますか、されていないものがあるとすればどの程度あるのか、お知らせ願いたい。
  264. 鹿取泰衛

    ○鹿取説明員 いま先生かちお話しのありました問題は、従来の閣僚会議その他の機会におきまして、韓国に対していわゆる意図表明というものをやった後に、まだ実行に移されていないという案件のことであろうと思います。  そういう案件のお話であるといたしますと、それは農業開発、いわゆるセマウル運動関係のプロジェクトがございますのですが、それに昨年とその前のときと二回にわたって意図表明をしております。第六回の閣僚会議のときに、農業開発関係で二百四十六億円程度日本が援助をする用意があるということの意図表明をしたわけでございますが、昨年は閣僚会議ではこの問題を議論いたしませんで、事務レベルの協議をいたしました結果、いろいろな事情の変更、物価の値上がり等を考えまして、この農業開発にさらに八億円ばかり増加するということを話し合いまして、合計いたしますと二百五十四億円になるわけでございますが、その意図表明をしたわけでございます。  また、そのときの同じ事務レベルの会議におきまして、やはりこれも農業案件でございますが、大清ダムというダムにつきまして約百十八億円の意図表明をいたしました結果、その農業関係の案件を合計いたしますと、約三百七十三億円ほどになるわけでございます。  ただ、これは意図表明をしただけでございまして、いろいろプロジェクトを詰めて双方で合意する状態になってから正式に約束するという話し合いになっておりますが、まだ日本としてはその詰めが終わっておりませんので、約束をしていないわけでございます。
  265. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 どうもわが国の韓国援助は、韓国の農業の破壊の上に進められたように思います。韓国政府の高度成長政策のこれは促進剤になったかもわからぬけれども、農業はそのために破壊されたのではないか。特に最近の韓国経済は昨年の石油危機以来たいへん深刻な矛盾にぶつかっておることは、これは国際的にも知られているところであります。私の知り得た情報でさえ、最近一年間で卸売り物価は三〇%以上、実際には五〇%も暴騰したという。国際収支はますます困難な状況にある。一方、企業は製品の売れ行きが減少し困難になっておるけれども、それでも政府の命令で操業させられ、ますます赤字が累積するというようなかっこうになっておる。  この深刻な不況とインフレと共存する中で、韓国政府は来年度の予算で五百億ウォンの歳入欠落が予想されておる。また、追加予算の編成もなかなか困難で、補正予算さえなかなか組めないというような状態だ、こう聞いておるのであります。韓国政府は日本政府に対して経済援助をさらに要求する状態にあるのでありますけれども、もしそういう新規の経済要求があった場合、日本政府はどのような態度をとるのか、特に財政を預かる大蔵大臣としてはどのようなお考えでおるのか、これをお伺いしたいと思っております。
  266. 大倉真隆

    大倉説明員 大蔵省としてのというお尋ねでございますが、私どもとしましては外務省とよく相談をいたしながら、ケース・バイ・ケースに判断をいたしてまいるというに尽きるかと思っております。
  267. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 ケース・バイ・ケースということでありますが、いまの日本と韓国の事情、そういうものを、ではもう少しまたお伺いします。  ことしの三月二十六日、二十七日、パリで開かれた対韓協力グループの会議で、何か三年間で各年平均十五億ドルずつ援助をする、そしてその十五億のうち五億は政府借款、またその中で日本が三分の一でありますか、いや七割かぐらい日本が持つというようなことが伝えられておるのでありますが、これは事実でございますか。これは当時大平さんが外務大臣をやっており、今日大蔵大臣をやっておられるのだから、大蔵大臣いかがです。
  268. 鹿取泰衛

    ○鹿取説明員 本年の三月に世銀の主催で韓国の援助の協議グループが開かれました。世銀とかIMFが韓国の経済を詳細に調査いたしました結果、先生のおっしゃった数字でございますけれども、ことしと来年それぞれに十五億ドルぐらい外国の援助が必要であろうという見通しをつけまして、そういう見通しにつきまして世銀も、それから参加しておりました協議グループのメンバーたちも、大体そのぐらいな必要量はあるであろうということに大体の意見の一致を見たわけでございます。  それからさらに、その十五億ドルの外国からの資金の流れのうち、その三分の一の五億ドルは、やはり相当有利な条件のものであるほうが望ましい。有利な条件と申しますのは、世銀とかあるいはアジア開発銀行が通常貸し出すよりも有利な条件のものが入るのが望ましいということの認識について大体の意見の一致を見たわけでございまして、先生のおっしゃるように、それでは五億ドルをどうするかというような議論はなかったわけでございます。
  269. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そうすると、いまのお話は、この金は十五億ドルは必要だということで意見の一致を見たとすれば、日本もそれなりの要求に応ずるというたてまえでこれはやったわけですか。その辺はっきりしてください。
  270. 鹿取泰衛

    ○鹿取説明員 世銀の協議グループと申し上げましたが、いわゆる世銀主催のそういう援助国の会議にはコンソーシアムと協議グループと二つございますけれども、協議グループのほうは、参加国を義務づけるとかそういうものでございませんで、参加国が集まってその国の情勢を共同で分析する、そしてこういう状態であろうという見通しを立てるということでございますので、先生のいまおっしゃったような、そういうような意味はこの会議にはございません。
  271. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そうしますと、やはりこの協議グループでこれぐらい必要だとなれば、やがて日本へ要請をしてくるだろうことも当然のことだと思うのであります。韓国の新聞報道では、その十五億のうち十億は日本が受け持ってくれるのだみたいな報道がなされておるわけでありますが、大臣、これも先ほどの局長の話のように、ケース・バイ・ケースでおやりになることもあり得るのですか。いかがですか。
  272. 大平正芳

    大平国務大臣 韓国は韓国のお考えがあるのかもしれませんけれどもわが国といたしましては、わが国経済協力政策というものを自主的に立ててまいらなければならぬわけでございます。それで、私どもといたしましては、全体の経済協力、総額におきましても、またその内容の質条件等につきましても、日本といたしましては先進諸国の平均というようなところを目標にいたしまして、財政経済の許す範囲において考えていくべきものとして今日までやってまいったわけでございます。  それをどのように配分していくかということにつきましては、これは年々歳々よく吟味した上で、わが国財政事情も十分勘案してきめてまいらなければならぬことでございまして、韓国からどういう要請がございますか、まだ承っておりませんし、韓国ばかりでなく、ほかの国々からの御要請がございます場合に、それを精細に吟味いたしまして、いま局長からも御答弁のとおり、慎重にケース・バイ・ケースで判断していきたいと考えております。
  273. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 まあ結論からいえば、私は、今日の事態で対韓援助はやめるべきだという考えを持っておるのですが、政府は、吟味した上でとおっしゃるけれども、やる方向でお考えのようであります。  政府の対韓援助と同時に、わが国の企業の韓国進出企業にもいろいろと新しい問題が出ておるわけであります。  まずその一つは公害であります。日本企業が進出しておる蔚山の海は、もう死の海と化したといわれておるのであります。空気はよごれ、日本の四日市のようだそうであります。  第二の問題は、不況の進行につれて、進出企業は残酷に韓国労働者の首を切っておる。六月十六日付の韓国日報では、輸出地域で解雇勧告、休職が続出しておるという大きな見出しを掲げておる。馬山地域では、日本企業が退職金なしで二百二十九人の首を切った。しかし、首を切っても退職金は一文も支払われない。なぜかといえば、それは自由地域では法律で労働組合の結成が押えられておるから、結局交渉もできない、泣き寝入りでこれが首になる、こういうような残酷な労使関係が続いておるわけであります。  政府は、このような韓国民と日本国民との関係を破壊する進出企業の動向を御存じなのかどうか。私は知らないはずはないと思っておるのでありますけれども、知っておるとしたら大体どのような対策を立てるべきか、この辺も考えなければならぬけれども、まず、なぜこんなことをやるのか。私に言わしめれば、朴軍事独裁政権、これが韓国民基本的な権利を抑圧しておる、その抑圧しておることをいいことにして日本企業が進出をしてもうけるという、何かここに悪の相乗効果という形のものを感ぜざるを得ないのであります。もし日本の企業が、いま言ったように、朴政権が韓国民を圧迫しておるから、また労働組合もつくらせない、首を切っても一文も退職金も払わないで済む、そういうことをいいことにして、もうけるために出るとしたら、日本の企業がきらわれるのはこれまた当然なんじゃないか。  一般国民はふしぎでしようがないのですよ。国民の血税を援助でございますといって外国へ差し上げて、そうして日本の総理大臣がタイ国へ行けばデモをかけられる、それよりよけい援助をしておるはずのインドネシアへ行けば、それよりも大きなデモをかけられるなんというのは、一体どういうことなんだろうか。とうとい血税を納めておるところの国民にとってみれば、これぐらい不可解な問題はなかろうと思うのであります。一体政府はどういうお考えでこの援助を出しておるのか。援助問題は重大な再検討の時期に来ておると思うのですが、金を出すほうであり、またついこの前まで外務大臣をやっており、田中内閣の主要な閣僚である大平さんにその点をお伺いしたいのであります。
  274. 大平正芳

    大平国務大臣 経済協力は、わが国が国際社会の名誉ある一員といたしまして、先ほど申し上げましたように、他の先進国と同様、一つの国際的な責任といたしまして推進していくべき課題であると考えておるわけでございます。しかし、そのことは、先方の受益国の経済の自立、民生の福祉というものに役立つということを念願としてやるべきものでございまして、特定の政権を補強するとかいうような色合いでやるべきものではないと考えております。  しかし、いま阿部さんのお話の中で、進出企業と現地のいろんな摩擦のお話がございました。これは経済協力とまた別な話でございまして、わが国といたしましてOECDの行動を受ける場合におきましても、他国から資本をできるだけ自由に入れるかわりに、わが国からも対外投資について特別の制限を加えないという国際社会のルールに従いまして、民間の企業がみずからの資金を海外に投資していくということは原則として認められておることでございます。ただ、それが現地社会との間でいろいろの摩擦を起こしまして、いろんなもんちゃくが生じておるということは私どもよく承知いたしております。  これにはいろいろな原因があるわけでございまして、日本側の事情もございましょうし、現地側の事情もございましょうし、現地の政情という背景もいろいろございまして、一つの事件というものを究明してまいりますと、なかなかその背景は複雑なわけでございます。したがって、われわれといたしましては、進出企業側におきまして先方の商慣習、先方の社会事情というものを十分のみ込んだ上で、先方の理解と祝福が受けられるように節度ある行動を望むわけでございまして、大かたの企業は心得ていていただけると思うのでございますけれども、またそうでない企業がないとはいえないわけでございまして、これは日本人全体のモラルの水準を向上することによって改善していかなければならぬと考えております。民間におかれましても、一つの行動基準というようなものを自主的に設けまして、お互いに自戒をいたしておるようでございますけれども政府におきましても、現地の公館はもとよりでございますけれども、中央政府協力いたしまして、現地側との間の融和と協調という点については十分理解を深めてまいらなければならぬと考えております。
  275. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 モラルの水準とおっしゃるけれども、いま日本の新聞も数々報道しておりますけれども、アメリカの議会では人権論争まで起きておるようであります。政治的な自由を奪うような国には援助をすべきではない。そういう点で、朴政権の今日の韓国民に対するあり方、こういうところには軍事援助を打ち切れ、また削減しろという議論が起きておるわけであります。  そういう点で、今日の韓国は一体どうなんだろう。私は、これは本で読んだ程度で、行ってみないからわかりませんけれども、たとえばこれは「韓国からの通信」という本でありますけれども、ちょっと一節だけ読んでみます。「学生がどうしても抵抗しなければならないと私に相談してきたとしましょう。私は、そのことを思いとどまらせるように説得しなければならないだけでなく、彼を当局に密告しなければならないのです。でなければ私は死刑です。その学生がCIAのエージェントかもしれないからです。もう私たちは教育者ではありえないのです。」  もうここまで弾圧で疑心暗鬼にさせられておる、人権、言論の自由がないその国に、いま日本が援助をするということは、結局今日のこの軍事政権をささえるだけじゃないのですか。私は、アメリカの議会が人権問題を取り上げるということは、それなりに意味のあることだと思うのであります。私たちがそうやってそれを援助する。しかもその援助の内容に至っては、国民にはさっぱりわからない。また、韓国と日本の間に起きた問題も、一体何が何だか、どうやっておるのか。  あなたが外務大臣のときの金大中氏の問題についても、何か約束してめどがついたように伝えられたけれども、今日なお解決されない。よくわからぬけれども、七年も前の選挙のときの話を取り上げてけしからぬなんと言っておったら、日本は半年で時効でありますけれども、これはもう切りがない問題なんです。そういう人たちを弁護すれば、今度は弁護士が引っぱられるなんということになったら、もうその国に基本的な人権があるとは私は思えないのであります。これは世界じゅうがそう認めておるのじゃないか。もしあれならば、田中さんと大平さんぐらいがそれを否定しておるだけであって、世界じゅうがいま、韓国の朴政権のあり方が非民主的であるということを認めておるのじゃないか。そういう国に援助をし、その政権の存命をはかるようなことをすることは、決してその国民に対する友情にはならないのじゃないか。そうしてわれわれ国民がまた、そのやりとりの中でつんぼさじきに置かれる。そのことはまた、日本国民自体が同じような運命におちいる道であります。私はそのことを心配するのです。  ほんとうに民主主義を発展させよう、そして韓国の国民がしあわせになるということならば、われわれも対外援助を大いにやることにやぶさかじゃないのでありますけれども、やればやるほど韓国民がいま苦しむという状態ではなかろうかということを考えたときに、先ほどケース・バイ・ケースでございますなんと言われたことは、韓国の実情をあまりにも知らな過ぎる、むしろためにする御答弁ではなかろうか、私はこう思うのであります。そういう点で、韓国援助はしばらく停止すべきだ、少なくともこの対韓援助は再検討の時期へ来たと私は思いますけれども大平さんはいかがですか。
  276. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほど申し上げましたように、わが国の対外経済協力というものが特定の政権を培養する、それを助けるという目的でやるようなものであってはならないということは申し上げたとおりでございます。あくまでもその国の民生の福祉の向上に役立つようにこれを使わなければならぬことは、阿部さんが御指摘のとおりでございます。ただ、その国がどういう体制を選択するかという問題につきましては、それはその国民の選択でございまして、私どもがそれがいいの悪いのというコメントをする立場にないことは、政府の立場でございますのでお許しをいただきたいと思うのであります。  対韓援助につきまして、国会におきましてもいろいろ論議がございまして、これはプロジェクト・バイ・プロジェクト、国会でもよく吟味をしていただきたいと思うのでございますが、私どもやっておりますことは、韓国の経済の自立、そして民生の福祉の向上ということに役立つように考えて、厳重な審査をして実行に移しておるわけでございますので、その点につきましては十分御審査を願って、政府のやっていることにつきまして御指摘があれば、われわれも十分拝聴いたしますけれども政府が無原則でやっておるというようなことをもし万一お考えであるといたしますならば、そうでないと、政府を御理解賜わりたいものと私は思っております。
  277. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そこはきちんとしてもらいたいのです。私たちは文書で見るか、向こうからおいでになった人たちのお話を聞くか、間接的にこれを知る以外に道がないのです。特に私みたいなのは韓国へ入れてくれないのだから、この目で見るわけにはいかぬのです。しかし、いまあれだけ軍隊を送っておるアメリカですら、いまの朴政権に対する援助には人権上の論争が起きておるという現実、皆さんはわれわれよりもはるかによく知っておるはずであります。特に日本の外務省等はよく知っておるはずであります。いま韓国の民主主義がどのようなものであるかくらいのことはよく知っておるはずであります。  その国民がどういう政権を選ぼうが、そんなものは自由であるにきまっておるのであります。われわれが干渉する限りではございません。だけれども、現実の問題として私は提起しておるのです。現実の韓国が、この基本的な人権が守られておるような国であるのかないのかということを言っておるだけなのです。もしそれが少しでもどうも疑問があるとすれば、この援助は再検討するというのが私は当然のことだと思うのですが、あなたはそこまで国民にうそをつくつもりなのですか。私は、いまの韓国の実情、現状から見て、再検討をしたらどうかとこう言っておるのですが、それも検討するのじゃなしに、いまのような答弁では私は納得ができないのです。現状は私たちより皆さんのほうがよほどよく御存じのはずであります。
  278. 大平正芳

    大平国務大臣 私が先ほどお断わりしておったように、政府として韓国の体制というものに対してコメントする立場にありません、私は政治評論家でないんだから。だから、そういう立場でないということをお断わりしておるわけでございまして、韓国の実情がどうであるかということを大平個人といたしまして勉強いたしまして、私なりに承知いたしておるわけでございますが、政府といたしましてこれを公の席でとやかく申し上げる立場にない、お互いに独立国でございますから、相互に尊重してまいらなければならぬという立場にあるわけでございますから、そう申し上げておるわけでございます。  それから、いま経済援助につきましてはプロジェクト・バイ・プロジェクトと申し上げておるわけでございますが、私ども十分このプロジェクトを吟味いたしまして、このことがこの国の国民のしあわせに通ずるように考えてやっておりますということでございまして、これは十分吟味をしていただいても御理解いただける性質のものではないかと考えておりますが、政府が国の財政事情も考え、諸般の事情を考えまして、経済協力を慎重にやってまいらなければならぬことは当然の責任と考えております。
  279. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 私は先ほどから言っておるように、向こうの政権をどうのこうのせいというのではないのです。日本として援助をする場合、対韓援助は再検討をすべきではないかということなので、これは日本の国の問題であります。何も干渉するわけがない。援助するかしないかは、これは日本の国の問題であります。それを何か私が韓国の朴政権を倒せとか倒すなとか言っておるようにあなたは言うけれども、私はそんなことは言っていないのです。しかし、民主的でないではないか、そういう国に対する援助は、やがて日本自体も同じような立場になりますよ、だから私は、民主主義を守るという立場ならば、いまのような基本的な人権が侵されておるような国に援助はすべきでない。アメリカ議会もそう言っておる。私はそれが正しいと思うのですがどうかということなんで、簡単でいいのです。再検討もしないで、いままでどおりずるずるとやるということなんですか。
  280. 大平正芳

    大平国務大臣 毎年毎年経済援助につきましては真剣に吟味をいたしまして、慎重に取り運んできているわけでございます。あなたの御提言は、対韓援助は全体として再検討すべきでないかという御提言でございます。私どもといたしましては、個々の案件につきまして、日本の財政事情、その他の事情を十分慎重に吟味しながら対処してまいります、ということを申し上げておるわけでございまして、全般的に再検討するという方針を政府はいま持っておるわけではございません。
  281. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 そういうことをやっておられれば、少なくともいまのような状態の中では、われわれ国民は疑問を持たざるを得ない。  私はほんとうを言いますと、日本の政府自体も、私たち自体も、やはり総督府政治時代のことを、あの原罪をやはり反省をしなければならぬのじゃないだろうか。特に日本と韓国とは非常に身近な、接近した、いろいろなつながりを持っておる国でありますだけに、われわれの先輩の過去のあやまちというものに対して、やはりまずおわびをするというたてまえでなければならない。そういう点で、私も、韓国の国民のしあわせになるための援助であるならば、これは金をつぎ込むことにやぶさかでないと、こう申し上げた。しかし、いまのような韓国の政治情勢、これを踏まえれば、援助をすればするほどこの狂暴な政権を援助し、その延命策をはかることになるのではないだろうか。  いま大平さんはそういう全面的な再検討をできないというふうにおっしゃる、それは私の想像するところ、これはやはり米日韓のいろいろな取りきめのワクの中にあって、なかなか国民には言えないしがらみの中におありなんじゃないだろうか、私はそう受け取る以外、考える以外、受け取り方がないのであります。おそらく、もうあなたにこの問題をこれ以上お伺いしても、私はだめだろうと思うのであります。  いま日本に来ておるドイツの音楽家、いまドイツ国籍にありますところのこの人が、きのうかきょうの朝日新聞に載っておりますけれども、私はドイツからCIAに拉致されて、死刑の宣告は受けたけれども、私を救ったのはドイツの民主主義だと、こう言っておる。  いま日本の民主主義は金大中氏を救うことすらできないとすれば、私たち自体、いま国会に席を置くわれわれ自体、これは民主主義をもう一ぺん反省しなければならぬのじゃないだろうか。私はそういうざんきの念にかられるわけであります。特に、大平さんは外務大臣としてその衝に当たっておいでになったけれども、いまだに解決ができないじゃないですか。  私は、あなたにこの問題を質問しても、もうこれ以上のものはあなたから出そうにございませんので、この問題に対する質問はもうやめますけれども、私は、皆さんが政府としてもう一ぺん対韓援助は再検討し、いまのような政治情勢の中で援助をすべきではないとこう考えるのでありますけれども、私はこの点に関しての質問を終わります。  もう一点だけ、二、三分質問時間をお許し願いたいのでありますけれども、いま私は、大蔵省、これがどうもわからぬのです。いま住宅公団であるとか、金融公庫であるとかというところに働いておる労働者の諸君は、これは労働法の適用を受けておるわけであります。労働法の適用を受けておるけれども理事者側はといえば、これは大蔵省の言うなりを聞いて、一つも交渉相手にならない。大蔵省の指示がなければ交渉が一つも成り立たないなんということになれば、大蔵省は労働者の権利を一体どう考えておるのだろう。だんだんだんだん日本の大蔵省もこれは韓国の朴政権と同じような形で労働者の権利を奪っていくのじゃないだろうか。労働者の団結権、交渉権なんというものは本来労働者の基本的な権利であり、私は制約をすべきものじゃないと思うけれども、これは法律上はいろいろ皆さん抜け道を考えた答弁をされるかもわからぬけれども、現実の問題として、実際問題として、この交渉相手がどこかわからないように消してしまったのでは労働者の権利は行使するわけにはいかぬのでありまして、私はこれは憲法上も労働法上も問題があると思うのですが、なぜ一体こんなようにしておるのか、私はこれをちょっとお伺いしたいと思うのです。
  282. 辻敬一

    ○辻説明員 特殊法人の労使関係につきましては、ただいま御指摘がございましたように、労働三法が適用されておりまして、職員の給与その他の労働条件は、労使間の自主交渉による労働協約によって決定されるたてまえになっておるわけでございます。  しかし一方、これらの特殊法人は、業務の公共性あるいは特殊性にかんがみまして政府の出資などによって設立されておるわけでございます。また業務の運営につきましても、財政投融資の資金あるいはまた政府の補助金等が出されておりますし、経費についても予算として国会の御審議を受けるものも多いわけでございます。このように特殊法人は国の財政と密接不可分の関係にあるわけでございます。  したがいまして、その業務の運営や給与の決定につきましては、それぞれの主務大臣の承認を要することになっております。そしてその際に大蔵大臣と協議するということになっているわけでございまして、この点法令上におきましても一般民間企業と異なった制約があるわけでございます。そこで、このような特殊法人の業務の公共性にかんがみまして、ただいま御指摘がございましたけれども、特殊法人のいわゆる当事者能力が、その限度におきまして制限されるのはやむを得ないところではないか、かように考えております。
  283. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 ところが実際問題として、この人たちもほんとうはストライキをやって自分の権利をもっと広げていくのは私は労働者として当然のことだと思うのですが、もう少し元気よくやったらよかろうと思うのだけれども、この人たちも人事院勧告が実施されればそれに準拠するぐらいのことは承知しておる、しかし、やはりその配分の問題だとかいろいろな問題もこれはあるわけであります。またベースアップの率や何かはある程度きまるにしても、しかし何も公務員に全部払ってしまうまで待たねばいかぬなんという筋のものでもないのじゃないですか。もう少しその辺で——いまおっしゃるように国の金が出ておる、また利潤追求の企業とはこれまた違うという点は、個々の労働者の諸君も百も承知であります。しかし、それにしても、労働者としての機能を全然発揮させないというのは、私は大蔵省のたいへんな越権行為だ、こう思うのでございまして、限られたにしてもある程度当事者能力を理事者に与えることなしには、労働者の労働法に保障された権利というものは実際問題としてスポイルされておるということを大蔵省ももう少し検討するべきだと思うのですが、いかがですか。
  284. 辻敬一

    ○辻説明員 ただいまお話のございましたように、この特殊法人の給与につきましては、特殊法人の公共性、特殊性にかんがみまして、公務員準拠という基本方針をとることが適当であると考えておりますけれども、そういう基本方針を持ちながら、一方におきまして、労使の自主交渉によって妥結できる範囲をできるだけ広げてまいることが望ましいことは申すまでもないわけでございます。そこで、ここ数年来給与改定にかかわります規制の緩和と申しますか、あるいはいわゆる大蔵省の内示内容の弾力化と申しますか、そういうことにつとめてきたわけでございます。  本年度におきましては、先ほど来御質問があったわけでございますが、人事院勧告の取り扱いにつきまして最終の決定はまだ行なわれていない段階でございますけれども、完全実施する場合における必要な準備作業を進めるという閣議報告の趣旨に照らしまして、ちょうどきのうでございますが、九月二日に関係省庁に付しまして、公務員について完全実施をいたします場合に特殊法人職員の給与改定の協議に応じ得る基準、いわば条件つきの内示というようなことを連絡いたしたところでございます。これに基づきまして、関係省庁におきまして必要な準備作業を進めているところでございます。  なお、その内容につきまして、自主交渉ワクといたしましての財源付与額の増額をいたしておるわけでございます。これは御承知のように四十七年度から始めているわけでございますが、一人当たり四十七年度は自主交渉額四百円でございまして、昨年は六百円でございましたが、本年度におきましてはこれを八百円に増額いたすことにしております。また、従来は初任給の引き上げ額について内示を行なっておりましたが、今回は初任給の内示を撤廃いたしまして、本年度におきましては法人の自主性にゆだねるということにいたしているわけでございます。  このように公務員準拠という基本方針に即しながら、労使交渉の円滑化に資するよう今後とも努力、検討してまいりたいと思っているところでございます。
  285. 阿部助哉

    ○阿部(助)委員 終わります。
  286. 安倍晋太郎

    安倍委員長 本日は、これにて散会いたします。    午後七時十六分散会