○嶋崎均君 私は、自由民主党を代表しまして、ただいま議題となりました
昭和四十九年度
一般会計予算外二件につき、賛成の討論を行なうものであります。
戦後の復興期を脱したわが国経済は、一九六〇年代を通じてすばらしい発展成長を遂げましたが、このような成長発展を可能ならしめた環境や条件は、一九七〇年代に入って、国際的にも国内的にも急速に変化してきております。とりわけ、昨年秋中東紛争に端を発した石油の生産制限と、価格の三ないし四倍にも及ぶ引き上げは、近時ようやく鎮静化のきざしを示しているとはいえ、狂乱とまで呼ばれる異常な物価高と、現在進行中の春闘による大幅な賃金上昇を誘発し、国際収支の先行きに大きな不安を投げかけております。
われわれは、このような激しく、しかも深刻な条件の変化に対応して、いま、長期的な展望のもとに、当面する困難を乗り越えて、明日の
日本を切り開く処方せんを求められているのであります。
四十九年度予算は、このような諸情勢を背景に、わが国経済の運営の方向を転換して、これを安定成長路線に乗せることを主眼とし、
国民生活の基盤である物価の安定と福祉の充実に特に配意しつつ、厳に抑制的なものにするとともに、今後の経済情勢の推移に対応し得るように編成されたものであります。
まず、予算の規模であります。
一般会計の規模は、対前年度比一九・七%増の十七兆九百九十四億円となっており、一見伸び率も高く、規模も大きいように思われるが、前年度の伸び率を大幅に下回っているのみならず、社会保障、社会福祉の充実、文教及び科学技術の振興、中小企業対策、物価抑制のための財政
負担増などを考えると、十分に抑制的なものであることがうかがわれ、その苦心は評価できるものであります。
また、新年度の財政投融資の計画額は、七兆九千二百三十四億円で、伸び率は一四・四%となっており、前年度の伸び率が二八・三%であったのに比べれば、規模の抑制はまことに顕著なものがあります。このことは、景気刺激的な効果の強い公共事業費を対前年同額以下に圧縮したことと相まって、
国民経済計算における中央、地方を通ずる
政府の財貨サービス購入の対前年度伸び率を一四・九%にとどめることになり、物価その他の動向から判断して、四十九年度予算が、いかに総需要抑制の
立場を貫き、物価の異常事態を他のすべてに優先させて克服せんとしているかを示す左証と言わなければなりません。
また、物価の異常な高騰を早期に鎮静するため、すでに決定されていた
国鉄運賃及び米の
政府売り渡し価格の改定をそれぞれ六カ月間延期するとともに、郵便料金についても、通常郵便物の料金改定を行なわないこととし、予算及び財政投融資で手当てをしていることも、物価問題の緊急性を考慮しての適切な施策であると考えるものであります。
ここで国債問題について触れる必要があると思います。
四十九年度は、国債及び
政府保証債の発行額を減額しているが、なお二兆一千六百億円、四千億円も発行することを予定しており、インフレ的であるという批判があります。しかし、この点については、すでにさきに述べましたように、四十九年度の
政府財貨サービスの購入が一四・九%にとどまっているという事実を指摘するとともに、あとで述べる所得税の大幅減税との選択の問題があることに留意すべきであり、転換期の財政の姿としてやむを得ないものと思います。
以上のように、新年度予算は、総体として抑制的な性格を持つものでありますが、その中にあっても、
国民福祉の向上に資する諸施策については、これを積極的に推進しているものと認められます。
その端的なあらわれは、社会保障関係費の三六・七%にも及ぶ大幅な増額であります。
四十九年度においては、社会保障諸
制度を一段と拡充するほか、特に物価の影響を受けやすい人々に対する生活の安定と福祉の向上をはかるため、福祉年金の五割の改善、物価スライド別による厚生、
国民年金額の引き上げ、生活扶助基準の引き上げを行なうとともに、社会福祉施設の整備促進、老人福祉対策、心身障害者対策、母子福祉対策等各般にわたり、きめのこまかい施策を講じていること、及び公共投資全体の規模圧縮の中で、一戸当たり規模の拡大等、質的向上がはかられている住宅対策、下水道の補助率引き上げでわかるように、生活環境施設の整備について特に配意されている点は、適切であると思います。
以上申し上げましたほか、新年度予算においては、財源の重点的かつ効果的な配分に努力が払われ、教員の給与、定数の改善、私学助成の強化、中小企業対策、農林漁業の振興、公害防止及び環境保全対策、エネルギー対策、地方財政の健全化など、適切な施策が講じられており、
国民の期待に十分こたえ得るものと確信するものであります。
歳出予算についての終わりに、防衛関係費について簡単に述べておきたいと思います。
四十九年度予算において防衛関係費が一兆円をこえたことをとらえて、新予算の不当性を唱える向きがあります。しかし、一国が、その国の平和を守り、国の安全を保つために自衛力を保持することは当然であり、独立国の責務ですらあると私は考えるものであります。わが国の防衛費が、国際的に見て予算全体に占める割合はもちろん、
国民総生産に占める割合もきわ立って小さいことは周知の事実でありますが、特に四十九年度は、
一般会計予算の伸び率一九・七%に対し、防衛関係費の伸び率は、抑制予算の趣旨に沿って一六・八%にとどまっております。また、その増加額も基地周辺の民生安定に資する基地対策費と人件費の増加が大部分を占めている事実を指摘して、
国民の公正な判断を得たいと考える次第であります。
最後に私は、たぶん、空前絶後になると思われる画期的な所得税の減税を含む税制改正について申し述べたいと思いましたが、すでに税制改正法案は、自由民主党提案の
会社臨時特別税法案とともに可決成立いたしましたので、時間の関係もあり、簡単に所得税について触れるだけにとどめます。
今回の所得税法改正は、給与所得者の
負担軽減に重点を置き、給与所得控除の抜本的拡充、人的控除の引き上げ、税率の緩和などを行なったものでありますが、課税最低限は、欧米のどの先進国をも大幅に上回る状態であり、税率の刻みも、欧米のそれに比肩し得る状態に達しました。
政府は、今回の所得税の減税総額を初年度一兆四千五百億円、平年度一兆七千二百億円と称していますが、私は、進行しつつある春闘の状況から、私の推算によれば、減税規模は初年度一兆七千億円以上、平年度二兆円以上のものであることを確信しております。
総理は胸を張って、二兆円減税に公約違反なしと言うべきであると思います。
しかし、ここまで達した所得税制については、現在のわが国の財政体質、特に公債を多額にかかえた現状を考えるとき、ここは私の私見でありますが、今後の減税については、慎重かつ総合的な判断が必要であると考えます。
最後に、新予算の執行と運用について一言申し上げます。
当面の景気、物価の動向は、まことに微妙なものがあります。すなわち、一方で総需要抑制策の浸透に伴って、業種により、地方により、企業の規模によって景気停滞が深刻化していく反面、他方で、石油価格値上げ、電力などの
公共料金の改定、春闘による大幅賃上げなど、コストの面からの価格上昇要因が圧力を増していく可能性も少なくないと考えます。また、鎮静化している
民間設備投資が、環境条件に対してどのように対応していくかも必ずしも明らかではありません。このような微妙な景気や物価の動向に絶えざる注意と監視を怠らず、適時適切な施策が講じられる必要が、今日ほど高いときはないと思います。
新年度の予算と経済運営にあたって、
政府が格段の努力を払い、
国民生活のすみやかなる安定と
国民経済の健全な発展をはかられるよう強く要望して、予算三案に対する賛成の討論を終わります。(拍手)