○西村尚治君 私は、自由民主党を代表して、
昭和四十九年度
予算三案に関し、賛成の
討論を行ないたいと思います。
言うまでもなく、
昭和四十九年はわが国にとってまことにきびしい試練の年であります。戦後二十九年、当初何人も予想し得なかったほどの高い
経済成長を遂げて、その間、
国民の
生活水準は向上し、国際社会における地位も重要性を加えてきたわが国でありますが、昨年初め以来の異常な
物価高に加えて、にわかに台頭した
石油ナショナリズムの直撃をもろに受けて、わが国
経済は戦後最大の難局に逢着していると言わなければなりません。この難局に対処してどのような
政策を実行するか、その
内容のいかんはわが国産業
経済の命運を決するかぎとなるのでありまして、
政府の的確な判断と果敢な施策が強く要望されるところであります。
総理は、今
国会冒頭の施政
方針演説において、過去の一切の行きがかりにこだわることなく、
反省すべきは率直に
反省し、改むべきは謙虚に改めて、思い切った発想の
転換と強力な
政策を推進してまいりたい、かように申されております。このことばは、
政府が、身を挺してこの難局に処し、そこから前進と発展のための新しい活路を切り開こうとする強い決意の表明であると思うのであります。
昭和四十九年度
予算三案は、この決意の具体的な表現にほかならぬのでありますが、その
内容をしさいに検討しました結果、以下申し述べますとおりの
理由により、私はこの三案に賛成するものであります。
まず、
理由の第一は、
物価の問題であります。
物価の
抑制は
国民すべての切なる願いであり、
政府にとって何ものにも優先すべき緊急の
課題であると言わなければなりません。もともと、わが国の
物価上昇は、海外における
インフレなど多くの要因に基づくものではありますが、その中でも特に、国内
需要の増大と供給力の制約に伴う、
需給ギャップの
拡大によるところが大きいと見られておるのであります。このような
事態の
解決には、何よりも総
需要の
抑制が緊要でありますが、
政府は四十九年度
予算案の編成にあたって、この
方針を強く貫いているのであります。すなわち、
一般会計の
規模は、前年度に比べて一九・七%の増加に押えております。これは前年度の二四・六彩、前々年度の二一・八%に比べてかなり低い増加率でありますが、とりわけ
公共事業関係費については、昨年は一挙に三二%もふえたにもかかわらず、新年度は
伸び率をゼロ以下に押えたのでありまして、このことは、
物価の安定に対する
政府のなみなみならぬ意欲のあらわれとしてその
姿勢を高く評価するものであります。
また、
財政投融資計画の
伸びは一四・四%でありまして、前年度の二八・三%、前々年度の三一・六%に比すればはるかに低い
伸び率であります。
公債の発行額も、前年度当初予定額より千八百億円縮減し、
公債依存度は一二・六%に低下させております。
しかも、こうした
抑制型
予算の中にあっても、
住宅対策及び
生活環境施設整備については特別に配意しているのであります。すなわち、
住宅対策については、一戸当たりの
規模の
拡大をはかる等、質の向上を目ざすほか、
住宅建設を円滑に推進するために、特定
住宅地区整備促進事業を実施するなど、前年度に対して二〇・七%増の二千四百五十五億円を計上いたしております。
また、
生活環境を改善するために、下水道事業について補助率の
引き上げを行なうほか、上下水道、廃棄物処理、都市公園等の整備を推進すべく、
予算を大幅に増額しておりまして、これらはすべて
国民福祉の向上をはかろうとする
政府の周到なこまかい配慮のあらわれと言ってよいと思います。
さらに、国有
鉄道運賃及び
消費者米価の
改定時期をそれぞれ六カ月延期することとして、その
財政的
措置を講じましたことも、
物価抑制を強く希求する
政府の英断と言うべきでありましょう。
以上の一連の施策と相まって、金融
政策の推進と、いわゆる物資三法の
運用の万全を期することによって
物価騰貴はやがて鎮静化するものと期待されますし、現にその徴候は二月以降の
卸売り物価にあらわれているのであります。
なお、
物価安定のための
対策費は、
一般会計、
特別会計を通じて、実に総額一兆五千億円余が計上されているのでありまして、本問題に取り組む
政府の熱意がうかがわれるのであります。
以上が
政府原案に賛成する第一の
理由であります。
理由の第二は、
石油を
中心とするエネルギー
資源についてであります。
産業の血液ともいわれる
石油の大
部分を海外に依存するわが国にとって、このたびの
石油価格の大幅
引き上げは、まことに甚大な
影響をもたらしました。
資源に乏しいわが国としては、省
資源、省エネルギーの
産業構造への
転換をはかるとともに、代替エネルギーの研究開発を鋭意推進してまいらなければなりません。代替エネルギーの開発
計画としては、まず
原子力発電をはじめとして、石炭の液化、ガス化、さらには地熱発電や太陽熱発電など、いわゆるクリーン・エネルギーを開発するためのサンシャイン
計画、そしてまた、人類永遠のエネルギーといわれる核融合の開発などが予定されておるのであります。いわば新しい世界への挑戦でありまして、決してなまやさしいことではありませんが、わが
国民のすぐれた英知と、卓越した適応力は、必ずや所期の成果をあげるものと期待されるのであります。ただ、そのためには、必要にして十分なる研究
対策費の確保が
前提とならなければなりません。幸い
政府は、早くより本問題の重要性を認識して、四十九年度
予算においては、四百七十四億円余の
経費を計上して、この問題
解決への確固たる
方針を明示しているのであります。
以上が
政府予算に賛成する第二の
理由であります。
理由の第三は、
食糧問題についてであります。
従来、わが国の
食糧自給率はかなり低く、海外に依存するところが多いのでありますが、最近における農産物の国際
需給は決して楽観を許さない
状況にあることにかんがみますとき、このことは真剣に検討しなければならぬ
重要課題であります。
食糧をして第二の
石油たらしめることがあっては断じてならないと思うのでありますが、新年度
予算にはこの
課題に取り組む
政府の
姿勢が積極的に打ち出されているのであります。
すなわち、まず第一には、主要
食糧のうち、国内生産の可能なものは極力国内でまかない、自給度の向上をはかる
方針のもとに、農林水産業の生産基盤の整備を進めるとともに、麦、大豆等の生産の奨励、
畜産等の大
規模生産基地の建設などを推進することとして三千七百二十九億円を計上しております。
さらにまた、海外に依存せざるを得ない農産物等については、一定量の備蓄を確保することとして、そのための所要
経費九億八千万円を新しく計上しているのでありまして、
食糧の安定的な供給を確保するために、きわめて当を得た、適切な施策と言わなければなりません。
理由の第四は、社会保障の充実であります。
最近における
物価の動向を
考え合わせますとき、社会保障の充実は特別に力をいたさなければならぬ大事なテーマでありますが、その要請にこたえて、四十九年度の社会保障
関係費は二兆八千九百八億円、前年当初
予算に比べて実に三六・七%という飛躍的な
伸び率を示しているのであります。昨四十八年度は、いわゆる五万円
年金体制の確立と、
物価スライド制の導入をはじめとして、社会保障制度の画期的な改革がはかられた年でありましたが、さらに、本年度におきましては、ただいま申しましたとおり、三六・七%という文字どおり史上
最高の
伸び率を示したのであります。
少しく
内容に触れますならば、各種の
福祉年金は五〇%の増額が認められ、他の
厚生年金、
国民年金についても、また
生活扶助
基準についてもそれぞれ
引き上げが認められたのをはじめとして、
物価高の
影響を最も受けやすい老人、心身障害者、母子世帯、
生活保護世帯、失業
対策事業就業者等に対して特段の配慮がなされているのであります。
このほか、医療費の改善とか、社会
福祉施設の整備、施設職員の処遇改善等もはかられて、
予算に対する構成比率は、いままで一四%台であったものが、一挙に一七%に飛躍しまして、
地方交付税を別にすれば、
予算項目のうちで
社会保障費が第一位に登場してきたのであります。性格は若干違いますけれども、恩給や遺家族
年金も大幅に
引き上げられたことを
考え合わせますとき、本年度
予算は名実ともに
福祉予算たるの性格が証明されたと言っても過言でないと思います。
その他、
教育の刷新をはじめとして、中小
企業振興
対策、環境保全
対策等についても、いずれもよく配意されていて、どの面をとってみても
政府の苦心の
あとが十分うかがえるのであります。
ただ、最初にも述べましたとおり、わが国はいま大きな試練のもとに立たされて、数々の難問をかかえているのであります。中でも、
物価騰貴の問題は、最近ようやく鎮静化のきざしが見えたとはいうものの、
電力、ガス、交通などの料金
改定は必至と見なければならず、
春闘による大幅な賃金
引き上げとともにコストアップの要因となることはいなめません。したがって、基礎物資、
生活関連物資等についてもやがて
価格改定の動きが出ることは避けがたいのみならず、
不況下の
物価高を招きかねない情勢にあると言わなければなりません。その成り行きやいかにと
国民はいまかたずをのんで
事態の推移を見守っていると思うのであります。
政府は、責任をもって、今後、諸
物価が混乱なく平穏裏に新
価格体系に移行できるよう適宜適切なる
行政措置をとるとともに、
財政、金融両面を通じての総
需要抑制政策の推進にあたっては、機動性と弾力性をよく発揮して、的確に所期の成果をあげ、もって
国民の期待にこたえなければなりません。
そのことを特に強く要望いたしまして、私の賛成
討論を終わります。(
拍手)
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