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参考人(
小口賢三君) 総評、
繊維労連の
委員長の
小口でございます。
私たちは平生、
中小企業の
繊維の労働者の問題を扱っておる
立場で産業政策を取り上げているわけですが、これから発言します内容も、どうして
中小企業の労働者に長期の雇用保障をすることができるか、また、製造業
一般の賃金、労働時間を保障することができるか、こういうことの
立場から、常に、
企業を取り巻く経済環境、あるいは
業界、あるいは国全体の金融、財政政策等のいろいろな問題を
考えて、そういう
立場で、従来、
繊維労連としては産業政策に取り組んでまいりました。そういう
立場で、以下、この
法律案に関して若干
意見を述べたいと思います。
最初に、
中小企業の労働者を代表して、このような発言の
機会を与えてくださったことについて感謝したいと思います。
要点をお手元に書面で提出しましたので、それを見ながら説明さしていただきたいと思います。
最初に、この
法律案は、
特定繊維工業構造改善臨時措置法という名前を、
繊維工業構造改善臨時措置法というふうに名前がちょっと変わるだけのように見ますが、
法律には、それぞれ負ってきておる歴史がございます。そういう
意味で、この
法律案が今国会に提案されています歴史的な意義といいますか、環境というものについて、
繊維政策の上でこの
法律はどのような
意味合いを持っているのかということについて、私
どもの見解を申し述べたいと思うんです。
第一に、
現行法の
特定繊維工業構造改善臨時措置法というのは、一九六六年から六八年段階の、高度経済
成長政策の目標でありました
国際競争力の強化というものを政策の基本にしてまいりました。したがって、政策手段も、
省力化、
高速化等、
機械設備投資が
施策の
中心でした。これらの問題が議論されました背景は、
一つには綿
製品協定、俗にLTAと言っていますが、これらの問題を含めて新しく
日本の
繊維産業を、体制的に、
開発途上国との
関係及び
先進国の
関係を含めて、このように
生産力自身の強化という点に
中心があったろうかと思うんです。
この
法律ができましたその後の環境は、第一に、一九七一年八月のニクソン・ショックがあり、続いて七二年十二月の為替レートの変更があり、さらに七三年二月の変動相場制があり、加えて、日米間の
繊維貿易協定の覚え書きが調印されました。これが
法律の
実施過程において、
日本の
繊維産業を取り巻く国際的、国内的経済環境を根本的に変えました。したがって、本
法律はこのような国際的、国内的な経済環境の変化に対応して、今後の
日本の
繊維産業をどうするかという部分の
立場から、いろいろな
施策が講じられておるという点が、まず特徴でございます。
しかし、この期間中に、
業界内部においても大きな変化がありまして、とりわけ外貨準備が百九十億ドルにも達したというのを
機会に、東レ、帝人、東洋紡、鐘紡等の独占
企業は、
海外に対して資本輸出を一そう拡大してきましたし、また、極東三国を
中心に
繊維製品輸入が急増してまいりました。また、国内の
消費需要にささえられて、二次
加工のニット化や既成服化が進行しました。したがって、経済を取り巻く環境と、
繊維産業自身の内部における各
企業の対応、また、
消費市場の変化、こういうものを追認する形で、特定
繊維工業を、
繊維工業全般に広めた
構造改善政策をこの
法律はねらっておるという点で、歴史的な意義を持っておると思うんです。
で、同時に、趣旨説明ではあまり強調しておりませんけれ
ども、従来、
繊維産業は、
日本の資本主義の発展とともに、典型的な輸出産業できましたけれ
ども、この
法案の基礎には、
日米繊維協定の
影響もこれあり、客観的に、また
日本の経済の重化学工業等もあって、
日本の
繊維産業というのは、今後は内需
消費者型に指向していく、そういう大きな
政策転換というものも背景に踏んまえております。これらがこの
法律の客観的な
条件として私たちに与えられているわけです。
それでは、従来やってきた
措置については、たいへんうまくいったのかと言いますと、先ほど
業界の
方々の御
意見もいろいろありましたけれ
ども、私たち自身は、よくいった点もないわけではないけれ
ども、かなり問題を含んでおるという点を持っております。
といいますのは、第一には、この
法律、
現行法が
省力化、
高速化というものを軸として出発した。また同時に、過剰
設備の
廃棄というのが重要な
施策の
中心であったんですけれ
ども、
法律が議論されている段階と、法が制定された段階で経済環境が変わりまして、初期の段階では、高度
成長によって国内
消費の
需要が拡大したのと、輸出の増加が進んだために、むしろ過剰
設備の
廃棄は遅々として進みませんで、かえって
ビルドのほうが非常に進んだために、合繊紡機、編み立て機、レース編み機、仮撚り機、これらの
設備が進行しました。そして、スクラップ・アンド・
ビルドというのが逆に
ビルド・アンド・
ビルドに変わったことも事実でございます。
加えて、国際通貨の変動によって、有利な交易
条件を得た極東三国、あるいはパキスタン等の
繊維製品がどんどん
日本の市場になだれ込んできて、総合
商社もこれを利用したために、過剰投資と急激な
繊維製品の
輸入が今日の過剰
生産の
原因になりました。この点は、当初の政策
目的と事志と違って、実態の上でこういう
現状になったという点は、これは事実でございます。またこのことは、政策自体が
現状に対して変化が激しかったこともありますけれ
ども、むしろ
現状追いかけ、追いかけというような部分もあったかと私たちは思っております。
二番目は、日米間
繊維貿易覚え書き協定の調印とか、為替レートの変更が輸出環境を変えたわけですが、このことが、第一に述べましたようなムードを冷やすのに一定の作用がありました。しかし同時に、冷やす作用が急激であったために、それがまた同時に、国内の
繊維産業における
混乱を一そう拡大したという増幅作用もございました。
特に、競争力の強化を目ざしたスケールメリット政策も、実際には
消費者自体に価格の低下というものとしてつながるんではなくて、結果的に国際的に原糸価格が値上がりして帳消しになったり、綿糸、綿
製品の
輸入の増大となって、必ずしも
生産性の向上、あるいは
省力化が行なわれたことが、
業界の体質の強化に十分なつながりにはなっておりません。かえって、スクラップ政策がやみ
織機の増大となったりしました。
そして、国内の
織物産地では、確かに
寺田さんがお話しになりましたように、木機が
機械織機に変わったり、
準備機械の点で多くの変化がありましたことは事実です。しかし、これは
融資でございますので、現在
繊維を取り巻く経済環境の変化もあって、
中小零細企業の
織物業者は、一台当たり三十万円から四十万円の借金が残って、その結果、景気の変動のために何かと
政府に
救済融資を求めるということが、もう慢性化することになってまいりました。この点は国会で御審議いただきましたので、諸
先生方御存じのように、為替レートの変更のときも、
日米繊維協定のときも、何かについて
繊維産業は
救済融資、
救済融資というようなことが加わっておるわけでございます。このことは、
救済融資が悪いということを言うのではなくて、実は
構造改善による体質の強化をねらいながら、
施策が必ずしも万全でなかったことの結果として、このような問題が次から次と累積してきているということを私たちは見ておるわけでございます。
それでは、この
法案の基礎になる
考え方についてどうかという点について次に触れますと、最初に申し上げましたような歴史的な
役割りとねらいを、政策構想をもって御審議いただいているこの
法案でございますけれ
ども、私
どもは当初、
中小零細の
立場から、最初から実は原糸
コストの切り下げにあまり力を入れることよりかは、
付加価値生産性の向上と高級二次
製品の輸出というものにむしろ基本を置くべきではないか。そういう
意味では、あまりスケールメリットというようなことについて力を入れることは、それは業者自身の自主努力はとにかくとしましても、
中心的にむしろ
中小の
近代化に力を入れたらどうか。それから
日本の
繊維産業の歴史的な発展を見ますと、二次
加工段階、縫製
企業段階についての
近代化が非常におくれておりましたので、私たちは、むしろ
現行法が制定される段階でも、すでにそこの部分にこそ、染色整理業、織布業、縫製業、メリヤス業に対してこそ体制金融
措置を講じたらどうか。また、
流通コストの切り下げについてのもっと抜本的な
指導をすべきではないかということを繰り返してまいりました。
幸い、その後の
状況変化に対して、特定
紡績業と特定織布業のほかにメリヤス製造業、染色業等に適用拡大してまいりましたし、また、今回さらに縫製業、撚糸
加工、サイジング、
流通部門に適用拡大した。こういうことは一歩前進だと私たちも評価したいと思うわけです。
しかし、この
法律の基礎になっております
考え方は、通産省
繊維工業審議会と産業
構造審議会による答申「七〇年代の
繊維産業政策のあり方」に具体的に述べられておりますけれ
ども、その
中心的なビジョンとして、国際分業の確立、知識集約産業化というのが触れられております。
しかしこれらのことが、私たちとして今回の
法案、具体的な
施策、予算化その他を拝見しますと、第一点は、先ほど申しましたような
繊維産業の実態でありながら、第一には原料と
繊維製品の無秩序な
輸入が最も多くの
混乱と滞貨の
原因になっていながら、この
輸入秩序の確立についての政策が明確でない。
それから二番目としては、知識集約型産業への転換ということばはありますが、具体的にそれは
生産、
流通過程で何をどのように
方向づけするのかという点についての内容が不明確だと思います。不明確だけではなくて、むしろまた私たちは、次のような危惧を持っておるものです。
というのは、後ほど述べますように、
日本の
繊維産業は、原糸
大手メーカーと総合
商社という強大な集中力を持った力と、そのすそ野に
繊維加工、
アパレル産業の
中小零細企業が結合しておるわけですが、
現状のような力
関係で、異業種間の協業とか、新商品の
開発というのが進んだ場合、はたしてこのようなことが政策的に進められることは、従来でも問題があった系列支配論理というものを強めるのではないか。また、せっかく
付加価値を高めても、はたしてその
付加価値を高めたことによる所得の分配が、
製品を
開発した実際の縫製業なり
繊維加工業に適正に配分されるかどうかということの危惧を持っています。また、国と地方自治体による
構造改善資金の
融資保証というのが、二・六%というような非常に安い金利でつくことになっておりまして、業者の
方々から見れば、これはいいことには違いないと思いますけれ
ども、また
立場を変えて労働者や
国民の
立場から
考えてみますと、本来的には、これは原糸
メーカーと総合
商社自身が、自分の
加工系列
企業の育成のため当然払うべき資本負担の肩がわりを、国家の名においてやっておるのではないか、こういう疑問も持たざるを得ない感じがいたします。こういうような点を、私たちは政策の根本的な
考え方の時点で実は持っておるのでございます。
それでは、この
法律についてどういうふうに私たちは
考えるかと言いますと、いずれにしましても、この
法律について幾つかの批判を持ちながらこの
法律は通過していただいて、今後の運営について、次のような点についてぜひ力を入れていただきたい。
第一点は、国際分業論の
考え方の中にだんだん
日本の
繊維産業は縮小していく、縮小再
生産に持っていこうという
配慮が一部にある気がいたします。これについては私たちは反対したいと思います。やはり、それぞれの国の衣服については民族性がありまして、また、それぞれの国で原料資源というものについても地域性がございます。したがって、歴史的に
日本の
繊維産業が輸出に負っておった
役割りは相対的に小さくはなったとはいっても、やはり
政府は、一貫して
繊維原料の安定
供給と
消費者需要にこたえる
繊維産業の振興、強化というものをはかる義務があろうかと思います。しかし、国がめんどうを見るからといって、資本主義体制下にあって
企業責任をあいまいにする、また、国が
基本方針を示すからといって、あまり自由
企業に対する統制的な
措置に流れるというようなことについても賛成しません。そういう原則的な
立場に立って、以下四点について私たちは特に力を入れていただきたいということを希望いたします。
第一点は、
加工賃の適正化と取引契約の
近代化でございます。
私たちが労働問題で接します下請
加工業者は異口同音に、
繊維業界にあっては、
製品の値段をきめる力のある者は原糸
メーカーとデパート、大型スーパーだけだ、その間で適当に織り工賃、染色仕上げ
加工賃、編み立て、縫製工賃が配分されるだけで、われわれにとっては
加工原価などは全く問題にされてないと言っています。実際に
繊維加工業と
アパレル産業の下請
企業が
商品開発やファッション性を高めても、実際はそれが自分たちの身につかないで、結果的に
メーカーのラベルあるいはデパートのラベルで販売され、そこにおいて独占利潤がまかり通っておるわけです。こういう
状態で、
現状において下請
加工業者の大半はまじめに仕事をやっても、自分たちは平均利潤を得られないばかりではなくて、とにかく仕事の割り当てをもらって、ぐるぐる自転車操業をやっているだけで、全然、自分たち自身が
企業の
自主性というものを高めるというような力が
加工賃の部分で許されていない、こういうのが実態でございます。
そこで私たちとしては、何とかこの部分を、
加工賃の適正化と取引契約の
近代化を進めるために、この
法律によってできます
取引改善委員会のもとで、
加工賃の調査とその公開をぜひお願いしたい。また、不当な
加工賃取引については、
取引改善委員会が調査
機能を持ってもらいたい。現在でも多少
業界がある
程度メーカー、
商社と話し合いをしていますけれ
ども、これはどだい問題にならない
程度の交渉
機能でありまして、とうてい対等の交渉などというものには、月とスッポンほどの大きな開きがございます。私たちがこの点を主張します趣旨は、いずれにしましても、
融資とか長期低利の金を貸すということが、必ずしも長期にわたって
繊維産業の
中小企業を育成するということにならない、むしろ自分たちの、みずからの
製品の取引の段階において不当を排除し、かつ、自分たちがまじめに努力したら、それが自分たちの力になるような取引機構というものをつくることが一番原則であるという
考え方を持っています。
それから二番目は、最低賃金法、家内労働法の強化、
改善により公正競争の基盤を整備するということでございます。
これは、
大手のほうから
加工賃の買いたたきにあいますと、私たち労働組合の
立場から見ますと、
繊維加工業や
アパレル産業の事業主は、そのしわ寄せを外注分として再下請、再々下請
企業と家内労働の
生産の組織化による収奪部分でまかなっております。そして、この方法では、そこにおいてはまさに商品規格や品質の統一化はもとより、
織物や染色、縫製
技術の向上や新商品の開拓などはとうてい期待されない。悪貨が良貨を駆逐しておるわけです。また、こういう
状態が放任されますと、せっかく
中小企業のために
構造改善施策をやりましても、まじめにやったところは合理化貧乏になる、そしてまた、こういう
状態が放置されますと、買い入れた
機械はほこりにしておいて、むしろ下請
中小企業の組織下にやったほうが業者がもうかる、こういうような慣行に実際はなっています。これは排除しないといけないのではないか。そのために私たちは、一時間一ドルの法定最低賃金制と家内労働の法定最低工賃制と週休二日・週四十時間制、あるいは労働基準法の完全
実施、こういうようなものがとりわけ
中小零細企業対策を進める上では、それは労働対策であって労働省の仕事だというふうによけて通れない部分を、産業政策の面で持っておるという点を痛感しております。
それから三番目は、原料と
製品の秩序ある
輸入規制の問題でございます。
この点は、先ほど
業界の
方々からもいろいろお話しになりましたので、文章にあります「GATT体制を守りながら、セーフガードの基準を設定する」、このことがやはり本法の
基本指針の上で非常に
中心課題であるということを痛感しておりますので、内容については
業界の
方々がお述べいただいた実態と同じ
立場から、この点を強調したいと思っております。
それから
最後に、業種、産業転換の
実施について国、自治体の協力、
指導のもとで計画的かつ長期対策として
実施してほしいということです。
私たちは、
中小企業の運動に参加しておりますし、また、
開発途上国との
関係についてもいろいろ考慮しておる
立場から見まして、
現状の
日本の
繊維産業を全体としてこのままが、全部そのままみんながいいようにということにはむずかしい経済環境になっているというふうに思っております。それだけに私たちは、これを系列化によって特定の
企業だけ育成して、あとの
企業はかってに転換しなさいという方法ではいけないという
立場をとっております。
繊維加工業と
アパレル産業は、御案内のように産地を
形成しておりますので、産地自体の経済共同体
機能というものを、系列支配によってだんだん分解していくということではいけないということを特に憂えているわけです。そういう
意味で、将来、商品の代替性とか
国際競争力、国内
需要度などから見て、長期的には転換を必要とすると認められた産地については、積極的に国と地方自治体の責任において行政
指導し、業種の選択、
技術の再訓練、
設備転換
資金の
融資保証、休業または待期期間の労働者及び零細事業主の所得保障
措置について計画的に対処をお願いしたい。当然のこととして、この場合に、責任を持つ産地労働組合については事前協議制をお願いしたいと思っておるわけです。
特に私たちが
中小零細の労働問題にはまっておりますと、
零細企業対策をとる場合に、産業政策としての
零細企業対策と、事業主に対する所得保障政策との競合という問題についてもぜひお
考えいただきたい。本来、年金制度でカバーすべき問題を、就業
機会を与えるということで
零細企業を育成しているというような部分も率直に言ってあります。そういう
意味で、私たちは、とりわけ本法が今後とも
日本の資本主義の恥部である
中小零細企業にメスを入れるということから
考えますと、産業政策と労働政策、長期的な所得保障というようなものを含めた総合的なものとしてセットされることを、特に強調したいと思います。
長くなりましたが、以上で私
どもの
意見にかえます。