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1974-05-08 第72回国会 衆議院 法務委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年五月八日(水曜日)     午前十時十四分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊三次君 理事 羽田野忠文君    理事 稲葉 誠一君 理事 青柳 盛雄君       奥田 敬和君   小宮山重四郎君       塩谷 一夫君    松澤 雄藏君       箕輪  登君    保岡 興治君     早稻田柳右エ門君    正森 成二君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         法務大臣官房長 香川 保一君         法務省刑事局長 安原 美穂君         法務省矯正局長 長島  敦君  委員外出席者         警察庁警備局参         事官      星田  守君         警察庁警備局警         備課長     山田 英雄君         外務省アジア局         次長      中江 要介君         最高裁判所事務         総局家庭局長  裾分 一立君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 委員の異動 五月八日  辞任         補欠選任   江崎 真澄君    小宮山重四郎君   河本 敏夫君     奥田 敬和君   千葉 三郎君     箕輪  登君 同日  辞任         補欠選任   奥田 敬和君     河本 敏夫君  小宮山重四郎君     江崎 真澄君   箕輪  登君     千葉 三郎君     ————————————— 五月二日  民法の一部を改正する法律案萩原幽香子君提  出、参法第八号)(予) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政検察行政及び裁判所司法行政に関  する件      ————◇—————
  2. 小平久雄

    小平委員長 これより会議を開きます。  法務行政検察行政及び裁判所司法行政に関する件について調査を進めます。  おはかりいたします。本日、最高裁判所裾分家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小平久雄

    小平委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————
  4. 小平久雄

    小平委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  5. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いま問題になっているというか、これから問題になろうとしておるというか、刑法改正にも関連することなんですが、大臣がおられる間に、ちょっと基本的なことで御意見をお伺いをいたしたいんです。  それは、いわゆる明治憲法時代刑法並びにその運用といいますか、それと、現在の憲法のもとにおいての刑法あり方というか運用といいますか、そういうふうなものについては、当然、条文そのものは同じであっても差異があってしかるべきだというふうに考えるわけなんですが、その点についての考え方大臣からお聞かせを願いたい、こう思います。
  6. 中村梅吉

    中村国務大臣 御承知のとおり、刑法改正問題は、かねてから法制審議会に諮問をいたしまして、刑事法特別部会、それも済みまして、いま総会で逐条的に審議を進めておりますので、この答申をまって、法務省としては、現在の社会情勢に照らして最も適切な改正を行ないたいという考え方でおりますので、まだ法制審議会結論が出ません今日、私どもとしてはかれこれ申しかねるわけでございますが、この審議会には、御承知のとおり、各界学識経験者がそれぞれ集まりまして、かなり専門的な知識も持っておられますし、十分に論議をかわしていただいておるというのが現段階でございます。
  7. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私の質問が悪かったのですが、刑法改正とか、それから法制審議会とか、そういうふうなことをちょっとまくらに言ったものですから——法制審議会ということを言ったかな、ちょっと忘れましたが、それにこだわられておると思うのです。そういうことじゃなくて、きわめて一般論としての話として、旧憲法時代刑法と現在の憲法下における刑法というものとは差異があってしかるべきではないか。戦争中の——戦争中ばかりではなかったわけですけれども、そういうものを中心として運営されてきた刑法の運営というものと戦後のものと違ってしかるべきではないだろうか、こういうことをお聞きをしておるわけなんです。一般論でございますがね。
  8. 中村梅吉

    中村国務大臣 確かにそのとおりで、戦前の帝国憲法のあったもとにおける刑法あり方と今日の刑法あり方は、おのずから考え方角度が変わってくる面があってしかるべきである、かように思います。したがって、刑法についても同じようなことが言い得ると思いますが、ただ、その点を個々的にどうするかということになりますと、これは専門家によって相当に議を練られて、その結論を見た上で対処いたしたいと、かように思います。
  9. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 刑法改正をどうするかというところに頭が行っちゃっているというとおかしいのですけれども、そこへ質問が行くんじゃないかというのでそこのほうばかり答えられるのですが、これは前の田中法務大臣答えを先取りしてよく答えるのですけれども、そこまで聞いておるわけじゃないんですよね。いま言った帝国憲法時代における刑法とそれからいまの憲法下における刑法とは、若干というか本質的というか、差異があるわけでしょう。だから、その差異というのは一体、どういう点に本来差異があるんだろうかということですよね。それをお聞きしておるわけで、何も含みがあって聞いているわけでも何でもないんですから、どうか遠慮なくお答え願いたいと思うのですが、どこがどういうふうに違っておるべきなんでしょうか。
  10. 中村梅吉

    中村国務大臣 たとえば尊属殺のような問題がありますが、昔の制度下においては尊属殺という制度ももっともであったと思いますが、今日においては尊属殺という特別の制度を設けなくても、情状によって重くもできれば、判決をする上で裁判官の考え方で軽くもできますし、酌量余地はあるわけでございますから、そういったものの考え方は、これは一つの例でございますが、当然あってしかるべきである、かように思っております。
  11. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いま尊属殺のお話が出て、尊属殺の場合は酌量余地があると言うけれども、それは確かに酌量余地はあるでしょうけれども酌量したって現行法では執行猶予にならないのじゃないですか。そうですね。そうすると、それに関連してお話があった刑法二百条の問題に限って言いますと、これは最高裁でああいう判決が出たわけですね。判決の中身についての理解のしかたはいろいろあると思うのですけれども、そうすると、当然それに伴って二百条の廃止というものが政府から提出されなければならないわけですね。それが提出されないというのは、どこにどういう原因があって提出されないのでしょうか。また早急に提出すべきものなんでしょうか。
  12. 中村梅吉

    中村国務大臣 この点は、いま新しい刑法改正審議をしておる最中でございますし、法務省としても部内的に、全体の改正を待つまでもなく、部分改正をやるべきではないかという意見もありいたしましたが、問題が社会的に非常にむずかしい問題とからんでおるものですから、おそらくいま事務当局考え方も、刑法一般改正がもう近い時期に迫っておるからその時期を待とうということではないかと思いますが、私どもといたしましてもできるだけ今度の改正の機会にそういうことが織り込まれることを望んでおるというような次第でございます。
  13. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いまの問題は、立ち入ったことは私ども聞いて知っておるわけですけれども、それはここで申し上げることでもありませんから申し上げないのですが、大臣自身はどういうふうにお考えなんでしょうか。二百条並びにそれに伴う尊属傷害致死や何かのあれがありますね。尊属傷害致死や何かについては、違憲違憲でないと両方の判決が出ているわけですが、いずれにいたしましても、このこと全体については削除すべきだ、田中さんはそういうふうに答えられたし、法務省としてもきまっておったのじゃないですか。そういうふうに聞いておるのですよ。だから刑法改正全体は率直な話なかなかむずかしい問題であって、その前に当然早急にやらなければならないことがある。しかも前向きなものであれば、別な形で前に早く改正をするということが、ものによっては必要になってくるのじゃないか、こう思うのです。これは、私どものほうでこの前法案を出したんだけれども、どちらの政党だかちょっと忘れましたが、なかなか内部意見がまとまらないというのでだめだった、どういう意味で意見がまとまらないのかよくわかりませんけれども。だから、早急に解決すべきもの、しかも前向きの形のものは、前もって別な形で出すべきもので必要になってくるのじゃないかと思います。そういうふうにお考えになりませんかね。内部で一たんまとまったのじゃないですか。
  14. 中村梅吉

    中村国務大臣 部内の話し合いがどこまで進行しておるか、あと刑事局長からお答えさせますが、私個人個人的考えから申しますと、尊属殺というものは今日の時代においては必要がないと思っております。たとえば刑法の規定の上からいいましても、死刑から執行猶予までできるわけですから、同じ尊属殺でもやはり執行猶予にして助けてあげたいというような事件も必ずあるに違いないと思う。ですから、幅が相当ありますから、あと裁判所の判断にまかせてしかるべきではないかというように考えておりますが、改正問題については広く各界の御意見を承らなければなりません。いろいろ問題点は確かにあるようでございます。後刻、今日どこまで刑事問題を専門に取り扱っておるところで考えておるか、これは刑事局長かちお答えをさせます。
  15. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 刑事局長答えは、大臣がほかへ行かれるので、あとでけっこうです。  そこで、いま一般論として申し上げましたいわゆる帝国憲法下刑法というものと現行憲法下刑法というものの差異というか、それは俗に言うと、前のものは国家主義的なというか治安主義的な傾向が非常に強いし、そういう形で運用をされていた。そうすると、現行憲法の場合は逆に人権を守るというか、そういう角度から刑法というものの運用なり何なりというものを考えていかなければいけない。治安主義的な面があまり強く出過ぎることは好ましくないというふうに私ども考えるのですが、そういう点について大臣考え方はいかがでしょうか。
  16. 中村梅吉

    中村国務大臣 全く同感に思います。
  17. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 全く同感に思うのはけっこうなんですが、そこで、それでは全く同感に思う大臣考え方を今度の刑法改正の中に生かしていきたいというふうにお考えになられる、こういうふうに当然承ってよろしいでしょうか。
  18. 中村梅吉

    中村国務大臣 これは法制審議会答申を見た上で、答申そのままというわけにもまいりませんでしょうし、答申を十分に再検討いたす段階でそういうことに考慮を払ってまいりたい、かように思います。
  19. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 考慮を払うということは、結局、国家主義的、治安主義的に刑法改正が流れないように十分注意をしていきたい、こういうふうなことだ、ちょっとくどいですけれども、そう承ってよろしいでしょうか。
  20. 中村梅吉

    中村国務大臣 そのとおりでございます。
  21. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、その考え部内によく徹底をさせて、刑法改正のこれからの仕事に当たるとすればですよ。当たるのがいいか当たらないのがいいか、ちょっと問題だとぼくは思うのですが、刑法改正をする必要があるかないか、あとでまたお帰りになってから質問をいたしますが、徹底をさせて、そういう角度から今後取り組んでいきたい、こういうようなことでございましょうか、お答えを願ってどうぞお引き取り下さい。
  22. 中村梅吉

    中村国務大臣 御指摘のような方向で再検討を遂げてまいりたい、かように考えております。
  23. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 大臣が来られるまでに別のことを質問していきたいと思うのですが、それは矯正関係に関連をするのですが、裁判所検察庁とが非常に離れておるところがありますね。それから検察庁拘置所あるいは拘置所裁判所が非常に場所的に離れておるところが相当あるわけですね。理想的なのは片方に裁判所があって、隣あたりに合同庁舎があって、そこに検察庁があり、その中に拘置所がある。たしか八王子はそうだと思いました。いろいろあると思うのです。  そこで、こういうことをお聞きしたいわけなんですが、拘置所から裁判所なり検察庁に出廷するときに、町のまん中をなわつけて看守が大体一人に三人ぐらいついていきますね。二人の場合もあるけれども大体三人。二人ないし三人ついて引っぱっていくのをよく見かけるのこすよ。よくというと、そんなことはないと言うかもわからぬけれども、現在でもそういうようなことをやっているのですか。現在検事の取り調べなりあるいは法廷への出廷をどうやっていますか。
  24. 長島敦

    長島政府委員 一般的に申し上げますと、現在予算的に各拘置所にできるだけ護送車を配置しておりまして、この護送車によりまして目につかないように裁判所あるいは検察庁構内まで連れていくというのが原則の形でございます。ただ小さな拘置支所におきましては全部護送車の配置が不可能でございますので、ハイヤーとかタクシー借り上げの予算をつけておりまして、できる限りハイヤータクシー等を使いまして護送するという方法をとっておるわけでございます。ただ、ただいま申し上げましたようにタクシーハイヤー等借り上げをいたすわけでございますけれども裁判所あるいは検察庁への距離が非常に近い場合でありまして、なかなかタクシーが時間にうまく間に合わないというような場合には徒歩で連れていくという場合があるようでございます。その点についてこのたび調査をいたしましたところ、さようなわけで徒歩で連れていっているということをときどき行なっておりますのが拘置支所の中に七カ所出てまいったわけでございますが、これらの庁におきましてもできる限りタクシーハイヤー等を利用しておりますし、距離から申しますと近いところは約五十メートル、一番遠いところで三百メートルという距離でございます。徒歩で連れてまいります場合には色めがねを着用させるとかいうようなことで、人相、ふうていがはっきりしないような配慮もしておるように聞いております。実情はそういうようなことでございます。(稲葉(誠)委員「七カ所というのはどこですか。」と呼ぶ)七カ所でございますが、これは松江の地方裁判所浜田支部がございますが、その支部の約五十メートル離れたところに浜田拘置支所がございます。それから第二が大島でございますが、鹿児島地裁名瀬支部でございます。その近く、百八十メートルのところに大島拘置支所がございます。それから前橋地裁高崎支部でございますが、このそばに高崎拘置支所がございまして、距離は百メートルでございます。それから水戸地裁土浦支部、これに対しまして土浦拘置支所がございますが、距離は百五十メートルでございます。それから山形地裁酒田支部、これに酒田拘置所がございまして、距離が三百メートルでございます。岐阜地裁御嵩支部でございます。この御嵩拘置所から距離が二百メートルでございます。広島地裁の三次支部。これは三次拘置支所がございまして、距離は二百メートルということになっております。
  25. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはどういうふうな形でいつごろお調べになったのかお聞かせを願いたいと思うのですが、七カ所というのは、いま言うのは絶えずそういうふうな形でやっているところですか、あるいは場合によっては車なんかがないというときにやっているというところなんでしょうか。それだけじゃないんじゃないですか。もっとたくさんありませんか。もちろん拘置所から検察庁なり裁判所に行くのに構内を通っていくところもありますから、人目につかないところもあるわけですね。それから東京の場合はあそこへすぐくぎづけになって下の仮監へ持ってくるのですか、そこの場合なんかもおそらく目につかないと思いますが、特殊な、法律家ばかり通るところですから。そうじゃなくて、たとえば私はこの前見たのですが、これは委員長の地元というか、栃木市で女の刑務所があるでしょう。あそこに拘置監がありますよね。拘置監から裁判所裁判所は取りこわし中は駅の近所にあったのでいま新しくできたのですが、そこへ行くのには町のまん中を通っていきますよ。三人でなわ引っぱって通っていく。あれは普通の車も通るし、商店も一ぱいあるところですよ。そこを通ってぷらんぷらん行くのですよ。そんなことの統計というか、報告ないでしょう。そういうふうなことで、法務省から調査が行ったときにどうもみんなほんとうのことを言わないんじゃないですか。この前ぼくは看守人たちに聞いたら人事院看守の人の勤務実態調査をやるでしょう。年に何回かやるのかぼくよく知りませんが、そんなときでも看守人たちに対して人事院が聞いたらこう答えろ、よけいなことを言うなということを、まあ文書で出すわけじゃないだろうけれども、何かやるらしいですな。だから看守の人の勤務で交代の特殊な実態があるでしょう、ああいうことの実態だとか仮眠の場合の施設というか、そういうものの実態はさっぱりわからないのですよね。だからどうもそういう点はほんとうのことは出てないんじゃないですか。それは栃木のやつは入っていない。あそこなんかたいして遠くはないけれども、町の中を連れて歩いていますよ。
  26. 長島敦

    長島政府委員 先ほども申し上げましたのは、今回御質問があるということで特に調査をしたわけでございますが、その際の私のほうの聞き方としまして、非常な繁華な町中を通って徒歩で通うところということでいまの七カ庁が出てきたわけでございますから、あるいはその繁華な町中ということの解釈でそこのところが出なかったかとも思います。  具体的に御指摘栃木関係は別途調べておりますが、栃木刑務所につきましては女子の場合には全部車を使っている、男子の場合にはときによりますと徒歩で行く、距離は五十メートルで、つとめて裏通りを通っているというようなことが書いてございます。混雑がないということのようであります。
  27. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは委員長もよく知っているけれども、あんなところは裏通りなんかないですよ。そういう報告をするからいけないのですよ。現場検証してみればわかるけれども裏通りなんかないですよ。検察庁のほうがあそこから近い。検察庁は出て右へ行けばいい、裁判所は出て左へ行くのですけれども距離はそんなに遠くはないのですよ。だけれどもあそこはガラス屋なんか一ぱいあるし、こっちへ来るとすし屋なんかもあるし、裏通りなんかあんなところにありっこないですよ。裏通りってどこを裏通りというのかちょっとわかりませんが、それはそれとして。  そこで、昔は人権を守るという立場からいろいろなことをしましたよね。番号で呼んだり編みがさをかぶせたりなんかしたわけでしょう。あれがかえって人権侵害だということになって、いまはそういうことはしないわけですか、どうでもいいですけれども。かえって本人だって番号で呼ばれたほうがいい人もあるわけですよ。名前を明らかにするのがいやな人もあるし、顔を見られたくない人もあるかもわからない。といって番号で呼ぶのは人間に対して失礼だということで議論が出てくるのだと思うのですが、いずれにしても、そういうふうな大通りというか非常に繁華かといわれると非常ということの理解のしかたで栃木の場合は確かに非常というところまではいかないかもわからないけれども、繁華であることは間違いない。銀座通りよりは人通りが少ないということですが。そういう点についてもう少し人権を守るようなことを何らかの形でしなくちゃいけないんじゃないですか。ぷらんぷらん歩いていきますよ、話しながら。話して悪いことはないけれども、話しながら歩いていくのだな。そういうのを町の人が見てもあまりよくありませんし、本人だっていやでしょうし、かえって逆にそこで本人は虚勢を張るわけですよ。そういう形がありますから、今後どういうふうに改善をしていくのか。小さな問題といわれれば小さな問題かもわかりませんけれども、どうやって今後改善をしていくのかということをお答え願いたいと思います。
  28. 長島敦

    長島政府委員 先ほど申し上げましたように、比較的規模の大きい拘置所にはすでに護送車は配置しておりますが、できるだけワクを広げまして、ただいま申し上げましたような比較的繁華なところにございますようなところにつきましては自動車を配車するという努力をしたいと思いますし、それから自動車の雇い上げ料につきまして、これはすこに予算的に金額が相当入っておりますので、この点についてもっと自動車を利用するようにということで指導したいと思います。それからやむなく徒歩で行かざるを得ない場合もあるかと思いますが、そういう場合、色めがねというのがいいかどうかわかりませんが、顔がなるべくわからないような方法、いま編みがさをかぶせるわけにもまいりませんが、何か方法を講じたい。それからなわつきだということがわからないような護送方法というか、できるだけそういうふうな配慮をするとか、やむを得ない場合にはあらゆるくふうをするというふうに指導したいと考えます。
  29. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それから未決に入っている場合に病気になる人が多いわけです。これは率直に言って、外に出ている間には遊んでいて中に入ったとたんに病気病気だと言うのもいますから、全部がほんとう病気かどうかなかなかわからぬし、それから中に入っていろいろな変なものを飲んで自傷行為をやる人もなきにしもあらずですから、一がいに事を論ずるわけにはいかないかと思いますけれども、冷えたりなどしてお医者さんを呼んでくれというのが多いわけですね。そうするとさっぱりお医者さんを呼ばないわけですよ。それからお医者さんは来るのだけれども、たいてい警察医が来るでしょう。あとで聞きますから答えてもらいたいのですが、未決の場合、拘置所の場合、どういうふうな形で医師との連絡をとっているのか。警察医が多いのじゃないですか。だから来て見ても、私の聞いてる範囲では、たいしたことない、たいしたことないと言うのが多いらしいのです。そこら辺はどういうふうになっているのですか。もしあそこで事故でも起きて病気でなくなってしまった場合、非常に困るでしょう。その場合の責任はだれが負うのですか。姫路支所で起きた具体的な事件法務省が三百万円お見舞い金を払ったとかなんとかいうのですが、事実関係はどうなんですか。
  30. 長島敦

    長島政府委員 拘置所における医療の関係でございますが、御承知のように拘置所の本所は全部医者専従で入っております。問題は拘置所支所でございまして、拘置支所の場合、比較的規模の大きな支所には専従医者が配置されておりまして、その数が、支所は全部で百七ございますけれども、そのうちの十カ庁常勤医師が配置されております。そのほかの残りの庁につきましては常勤医師が配置されておりませんで、非常勤医師というのが配置されております。非常勤医師の場合には、これは非常勤でございますから用事のあるときに出てきてくれるという関係になっております。ですから病人が出たというような場合には、その拘置所におります職員が先生に電話をかけて来てもらうというかっこうでやっておるわけでございます。  ただいまお話のございました姫路本町拘置支所の問題でございますけれども本町拘置支所には医師が一人専従で配置されておるところでございました。この事件は、そこに被告人で収容されておりました者が螢光灯ガラスをこわしまして、これを嚥下した事件でございます。それで本人は当初飲んだことを否定しておりましたけれども、便器の中に半分くらい破片があったようでございますが、残り破片がないということで問い詰めたところ、死ぬつもりだったとかいろいろなことを言ったようでございますけれども、そういう状況でどうも飲んだらしいということでお医者さんが診断をいたしまして、普通こういうものを飲みました場合にはイモ食を食べさせるということで、これが腸のほうに下っていくわけでございますが、そういうような処置をとっておったわけでございますけれども、その後容体が悪くなってまいりまして、それで本人姫路少年刑務所の本所のほうに移送したわけでございますが、時期がすでにおそかったせいでございましょうか、移送して二日目に死亡するという事故が起こりました。あとでこれを解剖いたしましたところ、相当多数のものを飲み込んでおりましたけれども、ほとんど全部が腸の中まで下っておりましたが、ただ一つだけ食道に突き刺さっておったのがございまして、そこからうんできて、うみが両方の胸に広がったという、膿胸と申しますか、それが死因であったということが判明いたしました。そういうわけで、この事件につきましてはいろいろ私どものほうで検討したのでございますけれども、施設の管理者でありました支所長とかあるいは担当医官がすみやかに効果的なレントゲン検査を行なっておれば、あるいは体内にあったガラス破片の位置とか量などが確認できて適切な医療上っ措置をとることができたのではないか。もしそういう措置をとっていればあるいはこうした不幸な結果の発生を回避することができたのではないかというふうに考えられる事例でございましたので、同支所長らのとった措置に全く過失がないとは言い切れないというのが私どもの判断でございました。そこで姫路少年刑務所長においてなくなった方の遺族と交渉いたしまして、ことしの一月二十五日に国から遺族に対しまして三百万円の見舞い金を支払いまして示談が成立したというような経緯でございます。
  31. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私はその事件のことを聞いているわけではございませんので、一般的なこととして、既決の場合と未決の場合とは違うわけですからね。未決の場合の収容者に対する処遇というのが非常に問題があるんではないか。有罪の判決があるまでは無罪だといいながら非常に問題がいろいろあるのではないかということを聞いているわけです。その中の一つとして、本人たち病気だとかいろいろなことを言ってもなかなか医者を呼んでくれないですね。普通の一般の家庭でも医者を呼ぶといったってなかなか来ませんから、そういう点は確かにあれがあると思いますけれども、なかなか呼んでくれない。来てもちょっと見てたいしたことない。ほとんどたいしたことないというのが多いらしいですね。兼務しているのは警察医が多いんじゃないですか。これが一つ。  もう一つは、いま言った拘置所の本所にはみな常置してあるというのですか。ほんとうですか。それはおかしいな。宇都宮の小幡は支所から拘置所になったんじゃないですか。あそこは常置してないんじゃないか。支所が本所になったはずじゃないですか。ならないかな。  それから非常勤職員を配置してあるといったって、ことばは配置というけれども、配置でもなんでもない。ただ普通の家にいるだけの話で、呼んだってなかなか来てくれないのではないですか。いま言ったようないろいろな問題が起きますから、医療の制度というものをもっと完備してもいたい、こう思うのです。日本全体が医療が完備してないし、ことに過疎地帯なんか無医村も一ぱいあるのに特別待遇するわけにはいかないとしても、病気になったけれども見てくれないという訴えが多い。見に来るけれども非常に簡単だということです。たいしたことない、たいしたことないと言う。ほんとうはたいしたことないのにたいしたことがあるように言うのもあるからかもわかりませんけれども、そういう点について、やはり人権の問題に関係してきますから、どういうふうにするのか、これからの行き方を明らかにしてもらいたい、こう思います。
  32. 長島敦

    長島政府委員 矯正施設における医療問題は非常にむずかしい問題でございますが、私どもとしましては、ただいま拘置所、本所は全部でございますけれども、大きな十カ所は常勤を置いておりますが、なお、できるだけ常勤医師規模の大きな拘置所支所から順次充実したいというふうに考えております。  なお、非常勤につきましては、これはいま聞いてみますと、警察医というのはほとんど少ないようでございますが、これにつきましては、やはり予算的な措置といたしまして、お医者さんに来ていただいて診察をしていただいたというような場合に、それにふさわしい十分な報酬が支払えるようにということで、これは予算要求を毎年努力をしておりまして、毎年ある程度増額を得ておりますが、なおその点も努力いたしたい。  それから、新しくお医者さんを採用してまいります場合に、矯正医官の奨学金制度がございますけれども、これについても、今年度は前年度の倍額になりましたけれども、なお少額でございますので、そういう道も努力をいたしまして、医師の確保につとめたいというふうに考えております。
  33. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、これは今度は刑事局長でいいですが、いわゆる爆発物の取り締まりの法律がございますね。これは太政官布告で出ているわけですが、実は栃木県の真岡というところがあるのです、そこの農学校の生徒たちが爆発物の件で事件になっておるわけですが、それにもからむわけですけれども、一見して、非常に刑は重いわけですね。一条は七年以上でしょう。非常に重い。それから三条は予備ですか、これも重い。いろいろ出てくるわけですが、この法律が太政官布告でできた背景ですね、なぜこういうふうな法律がこういう量刑でできたのかということを最初にお伺いをしたいと思うのです。これは憲法違反だとかなんだということについては、最高裁の判例が出ていますから、いまここで聞いても始まりませんから、その点は聞きませんけれども、こういう法律がなぜできたのか、その背景をお聞かせ願いたいと思います。
  34. 安原美穂

    ○安原政府委員 詳しい立法の沿革、理由等はさだかには承知いたしておりませんが、やはり治安の維持ということが目的であったことは、爆発物取締罰則の第一条の目的罪にしているところからもうかがわれると思いきす。
  35. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 できたときはどういう情勢であったときなんですか。これは明治何年でしたかな。それで、非常に日本が国家主義的な方向というか治安主義的な方向へ進むその段階だった、こう思うのですが、この法律が、今度の改正法、いま審議会審議しているものの中では、非常に刑が軽くなるわけですね。下限が三年になる。それで目的罪からはずれるわけですけれども。いずれにいたしても、こういう太政官布告というようなきわめて古い法律、法律かどうか、それが法律になってきて、現行憲法のもとでもなお生きているということについては、非常な奇異な感を持つのです。その点は、最高裁のあれが出ておりますから、かれこれ言いませんけれども。  そこで、これについて、今度の法制審議会の中ではまずどういうふうに取り扱おうとしておるわけですか。
  36. 安原美穂

    ○安原政府委員 現在審議中の法制審議会改正刑法草案ですでに採択をされておりますこの関係の条文といたしましては、爆発物取締罰則の規定の第一条を、さしあたり刑法改正草案の中の百七十四条一項ということで取り入れるということが方針として定まっておりまして、先ほどちょっと申し上げました目的罪、「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的」という、いわば治安妨害罪的性格の犯罪であるものを、考え方を変えまして、いわば公共の危険罪であるというカテゴリーのもとに整理するということで、まず「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的」という目的罪である規定をやめまして、単に爆発物を爆発させたということにした、目的罪でなくしたという点が一つ違います。  それから、現在の爆発物取締罰則では「爆発物ヲ使用シ」ということの規定になっておりますので、現実に爆発をいたしませんでも、爆発をし得る状態に置いたという状態で使用ということになるという意味において、爆発といういわば既遂に至らない段階においても処罰ができる、その既遂に至らない使用というものを既遂罪としたという点を、今度は爆発物の本来の用法に従って結果が出たという段階で押えるという点において制限をしたという点が違うということでございまして、なお、公共危険罪という性質からいいまして、目的罪とはしませんでしたが、「人の生命、身体又は財産に対する危険を生ぜしめた者」という、具体的危険の発生ということを要件にしておるという点が違います。  さようなことで、刑は、現在は死刑、無期または七年以上の懲役または禁錮ということでございますが、財産に対する損害という点もありますし、目的罪でもございませんし、というようなことから、爆発はさせたという結果でありましても、最低は三年以上の懲役ということになっておるという点で、刑を軽くしたという点が違うというようなこと。それから爆発物取締罰則におきましては、目的罪ではございますが直ちに死刑という規定になっておりまするが、今度の改正草案では、このような爆発物の爆発という罪を犯しましてその結果人を死亡させたときに、死刑、無期または五年以上の懲役ということにして、結果的加重犯でありますが、結果的加重犯として、死刑を科する場合を人の死亡ということにかかわらせておりまするが、爆発物取締罰則におきましては、使用したというだけで死刑ということもあり得るという点が違うという意味において、刑を軽くしておるという点が違うということが一応いえるかと思います。
  37. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だれが見ても、いわゆる爆取、爆取といっている法律が、非常に旧時代的なもので重いものである、いまの憲法に合わないものであるということはわかり切っているわけなんですが、それをいままでどうして、廃止なり改正——改正はちょっとしてありますけれども、刑の問題などについてもうんと下げるとかあるいは廃止をするとかという方向に進まなかったわけですか。これは議院内閣で立法府がやるべきことなんで、政府に聞くのがおかしいと思いますけれども、そういうことについては議論は出ていなかったわけですか。
  38. 安原美穂

    ○安原政府委員 詳細は存じませんが、刑法仮案当時から、やはり爆発物取締罰則の改正をしようという考え方はすでにあったわけでありまするが、特段改正の措置を講じなかった理由というものは、私つまびらかにいたしませんけれども、単に治守妨害罪的犯罪というだけではなくて、やはり爆発物を使用する、しかも人の身体、財産を害せんとする目的で爆発物を使用するというようなことは、治安妨害罪的犯罪といいながらも、やはりこれはすでに人倫に反する自然犯的な色彩を持つ犯罪でもあるわけで、それがゆえに今回の改正刑法の中に取り入れようとするわけでありまするから、この罰則の構成要件自体には若干問題があるにいたしましても、中核につきましては、やはりいつの時代においても、時代を越えて処罰すべき行為であるというふうに考えられますので、改正ということはなされなかったものと思います。   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕
  39. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、この法律を適用して、学生、高等学校の生徒を——Aというのはまだつかまらないわけですが、B、C、D、Eですかを家裁に送りましたね。そこで家裁での観護措置の期間、これは延長しても二十八日でしょう。それをB、CあるいはD、Eに対してはまた延長をして、さらに二十八日ですか、これを鑑別所に入れておいたということが現実にあるのじゃないでしょうか。ただそこで、最初の観護措置のときの事件あと事件とは違うのだ。違うのだからその点については違法ではないというふうな答えではなかろうか、こう思うのですが、これについては最高裁としては、少年法の精神からいって、こういうようなことを次から次行なわれていけば——最初はほんとうは二十八日じゃないのですね。延長して二十八日ですからね。それをまた別の事件、しかもその別の事件あとで聞きますが、前の二十八日の間にわかっている事件ですよ。わかっている事件あとで持ってきてまたやったのでは、少年法できめられたその精神というものは全然没却されてしまうのではないでしょうか。この事実関係と、それに対する家庭局長の考え方ですね。ただ、これは裁判の問題ですから、内容について批判がましいことを言うわけでなくて、そういう事実関係について、一体そういうことは少年法の精神から見てどうなんだろうかということをお聞きするのですがね。
  40. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 ただいま稲葉先生から御質問のような観護措置が行なわれている事案は、家庭裁判所に送られてまいりました五名の少年のうち、二名についてそのようなことがあるようでございます。これは審判を開きまして、その時点でおそらく別件があるということがわかったのではなかろうかというふうに考えられます。それで審判の後に余罪というかっこうで別件が送致されてきておる。それでその別件についてもなお調べなければならないような状態であったために、あとから追送されてきたその別件について観護措置をとったものというふうに考えられるのでございます。そのことがはたしていいかどうかということは、これは抽象的に一がいには申し上げられないかとも存じますが、本来ならば、最初事件を送ってきます場合に、全部非行事実がわかっていて、それを一つの記録で送ってまいれば、当然全部について二週間、あるいは更新いたしましても四週間以内で事件を済まさなければならないわけでありますが、このように前に送られてきた事件について観護措置をとっている期間だけではあと事件を調べることができないという場合にはあるいはやむを得ないのではなかろうかというふうな考えでおります。
  41. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ただ、二十八日間の中で、当然これはB、Cについてほかの事件があるということは少なくとも警察にわかっておったのじゃないですか。ただ、Aが逃げているわけでしょう。Aが逃げているから、善意に解釈すれば、Aの逮捕まで見ないというと事件の全貌がわからないからそういう処置もしにくい、はっきりした処置がとりにくいからということであるいはやったのかもわからないし、あるいはまた逆に、いまの段階でB、Cの身柄をかりに放してしまったのでは、取り調べその他について非常に困るからと、こういうふうなことでやったとも考えられるのですが、こういうことが続けられれば、二十八日間というのは全く空に期して、もう幾らでもできるんじゃないですか。こういうやり方は、それは違法ではないかもしれぬけれども、まずいのじゃないかと思いますが、真にこれが必要やむを得なかったかどうかということはちょっと争いがある、こう思うのです。  それからもう一つは、これは、家裁の審理の内容についてかれこれ私が言うべき筋合いのものではありませんから、私は申し上げません。そういう意味で言うのは国会ではふさわしくありませんから、私は言うのじゃないのですが、世間を騒がせたとか世間に対する影響が非常に大きいとかいう事件がよくありますね。そのことが一体家裁での少年に対する審理というか保護処分なり何なりにどういう影響を与えるのかということですね。世間を騒がせた影響が大きい。だから逆送して公開の法廷でやったほうがいいという考え方がかりにあるとすれば、これは少年法のあれから見てどういうふうに考えていいのだろうかということなんですね。これは、この事件として言うと問題がありますから、そうでなくて、全く一般論としてお聞きを願いたいのですが、そこら辺をどういうふうに把握したらいいのでしょうかね。
  42. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 まず稲葉先生のおっしゃったうちで最初の点について申し上げますと、現地の家庭裁判所からの報告のあった内容では、審判をした二、三日後に別件が送致されてきておるというふうに記録上はなっておるようでございます。したがいまして、家庭裁判所としては、その審判を開いた時点が観護措置の期間内でも、もう終わりに近いほうであったために、新たに余罪について観護措置をとらざるを得なかったという事情にあったのではなかろうかというふうに思われるわけです。  それからなお、社会の耳目を聳動し、世間の反響が大きいという事案について家庭裁判所としてどういう態度をとるかと申しますと、一般的に申しますと、この点は少年法第一条に現在の少年法の精神というものが書き上げられておりますが、それでは保護主義ということをうたっておりますので、家庭裁判所は改過遷善することのできる可能性のある少年はなるべく将来を大切にしたいということで、それを本旨として仕事をしておりますけれども、しかし非常に危険な仕事で、社会の安全にとってどうもこのまま放置することはできないという場合に、何から何まで保護主義ですべてを貫くということではぐあいが悪いのではなかろうかと思われるような事案については、刑事処分もまたやむを得ないというふうなことに少年法二十条では書いてございますので、それで少年をやむを得ず刑事法廷にさらすような処分もときとしてなされるのじゃなかろうか、こういうふうに思うわけでございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 誤解されるといけないのですが、いまのは、私は家裁が処置したことに対してかれこれ言っているわけじゃ決してございません。一般論として、抽象的なお話としてお聞きしたわけです。  そこで、大臣が来られましたので、前に戻るわけですが、現在刑法の全面的な改正——なるほど刑法ができてからずいぶんたちました。たっておりますが、全面的に改正する必要がいまあるかどうかということですね。この点についての考え方、これをお聞かせ願いたいのです。  といいますのは、非常に大きな変革があって、そして刑法改正しなければならないという場合、これはもちろんありますね。それからもう一つは、逆に非常に全体が平静である、だからいま刑法改正をしても波乱というか、影響力というふうなものがあまりない、こういうふうな場合はまたそれで考えられてもいいかと思うのですが、いまのようにいろいろな価値観が衝突し、いろいろな紛争というか、何というか人によって考え方が非常に大きく違ってきておる、そのときに、一体いま日本で刑法を全面的に改正をしなければならない必要性があるのだろうかどうだろうか。学者は、ないという人もいるし、あるいはそれはあるという人もいるかもしれませんけれども、いろいろな人がいますね。国民もいろいろな考え方を持っておる人がいると思うのです。それについて、これは元来の諮問は改正の必要があるかどうかということであったはずですが、ちょっとその議論は審議会で初め出たらしいですが、ずっと個別に条文に入っちゃっていますから、いまじゃ改正の必要はないという結論は出しにくいようなやり方ですよね。こういう行き方は私はおかしいとは思うのですが、一体現在の情勢で刑法改正の必要があるかどうか、どういう状態のときに刑法改正というものの必要があるのだろうか、こういう点について大臣のお考えをお聞かせ願いたい、こう思います。
  44. 中村梅吉

    中村国務大臣 先ほどお話がありましたように、一般的な観念としても、確かに刑法はいまの時点で改正ができるならばしたほうがいいという方向が一つあると思うのです。それからもう一つは、内容自体がわれわれから見ましても刑が重過ぎるものもあり、あるいは中には非常に軽過ぎるものもあり、こういうものを調整する必要もあろうかと思いきすが、いま法制審議会審議しているものに対して、どうも重罰主義だなんというお話も世間からありますから、こういう点について、量刑等については答申をまった上で法務省としても十分検討をしたいと思います。とにかく非常に古い刑法であり、それが手直しされつつ来ておりますので、できれば改正ができたほうがよろしいのではないか。私ども、ずっと刑法改正の方向で法制審議会が参与をしておるものですから、いまさらかれこれ申し上げにくいわけですが、できればしたほうがいいのではないかというように考えます。
  45. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはできればしたほうがいいということは……。だけれども、私が言ったのは、全般的な改正の意味ですね。いま大臣答えているのは個別的なことの中の、ある部分についてはこうだ、ある部分についてはこうだというような考え方のようにとれて、全般的に改正をしなければならないということをどうもアクチブにサポートしているとはちょっと考えられないのです。重罰主義だとかなんとかというお話がちょっといま出ましたけれども、どういう点が重罰主義だというような、何か意見が出ておるのでしょうか。こっちはわかって聞いておるわけですけれども
  46. 中村梅吉

    中村国務大臣 私もこまかいことはわかりませんけれども、世間にそういう意見がありますが、はたしてどの点がどうか、具体的なことはよく存じておりません。必要がございましたら担当の刑事局長からお答えさせます。
  47. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 刑事局長あとで出番があるからいいです。  いろいろ中に問題がありまして、たとえば名誉に対する罪に関連をして、報道の自由を侵すものであるとか、知る権利を侵すとかいろいろな議論がございますね。そこで、これは刑事局長にお聞きをしたいのですが、公訴提起前の犯罪行為に関する事実は公共の利害に関する事実とみなすというのですか、こういう規定、この規定ができた経過とこの規定が持つ意味、現在の法体系の中でどういう意味を持っておるかということを、これは専門的なことですから刑事局長からお答え願いたいと思います。
  48. 安原美穂

    ○安原政府委員 御指摘のとおり、現在法制審議会で一応採択になっております名誉に対する罪の規定の、事実の証明の個所につきまして、現行法におきましては二百三十条ノ二の第一項で、「公然事実ヲ摘示シ人ノ名誉ヲ毀損シタル者ハ其事実ノ有無ヲ問ハス三年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス」という規定の適用にあたりましても、そういう名誉を棄損した行為が「公共ノ利害ニ関スル事実ニ係リ其目的専ラ公益ヲ図ルニ出テタルモノト認ムルトキハ事実ノ真否ヲ判断シ真実ナルコトノ証明アリタルトキハ之ヲ罰セス」事実が公共の利害に関し、目的が公益をはかるためであれば、それが真実の証明があったら罰しないとありまして、そして二百三十条ノ二の二項に「前項ノ規定ノ適用ニ付テハ未タ公訴ノ提起セラレサル人ノ犯罪行為ニ関スル事実ハ之ヲ公共ノ利害ニ関スル事実コ看做ス」という規定があるわけであります。したがって、この規定によりまして、いまだ公訴提起にならない犯罪捜査中の人の犯罪行為に関する事実の報道というものは、刑法の規定から「公共ノ利害ニ関スル事実ト看做ス」ということでございますので、免責を受けようという者は公共の利害に関する事実の立証は要らない、捜査中の犯罪についての報道ということなら、当然に公共の利害に関する事実とみなされるわけでありますからその立証は要らないということでありますが、改正草案におきましてはその規定を落としておるという点が違うわけであります。これにつきましては、この二項は報道の自由というものをできるだけ尊重しようという意図、あるいは仄聞いたしますところによると、いわゆる戦犯指発という目的も背景にあったというふうに聞いておりますが、そういういわば戦争直後における一つの特殊な事情を背景にしながらそういうものができてきたということのように聞いております。  ただ、今回この規定を削除するに至りました理由といたしましては、稲葉先生にはもう申し上げるまでもないことでございますが、いわゆる正当な新聞の報道というものにつきましては、それが公共の利害に関する事実であるという判断は、当然裁判所によってなされる場合があるので、むしろこれを悪用するいわゆるヨタ新聞というかゴシップ新聞というようなものがこれをたてにとりまして、名誉にかかわる事実を、報道の自由を乱用してやるということを何とか防ぐ必要があるのじゃないか。これがあるために、何を書いてもどんな場合にでも許されるのだという一種の誤解でございますけれども、誤解を生みやすい規定だからこれは削除しようじゃないか、まともな新聞、雑誌の報道、評論というものは、こういう規定をまたなくても、当然裁判所によって公共の利害に関する事実だと判断されるはずだという自信のもとに、法制審議会におきましては、報道の自由というものを尊重すべきことは当然知っておりますが、報道の自由の乱用あるいは誤解というものを防ぐという観点から、特にこの規定はなくてもいいのじゃないかということになったものと承知しております。
  49. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、その規定がかりに削除されたとしても、正当な報道というかそういうふうなものについては事実上影響はないというふうにお聞きしてよろしいのでしょうか。
  50. 安原美穂

    ○安原政府委員 法文の解釈運用は、最終的には裁判所が有権的になされるわけでございますので、それにつまして裁判所を拘束するような発言をし得る立場にもなく、してはならないと思いますが、私どもといたしましては、いま稲葉先生に申し上げましたとおり、通常の場合犯罪の報道、評論というものは公共の利害に関する事実とみなされる、原則としてそう認められるのではないかというふうにわれわれは思っておるということを申し上げたいと思います。
  51. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは大臣、いまの点については法律の専門家の中ではいろんな意見があるわけです。こういうふうな規定があってもなくても、事実としては一般の報道の自由、そういうふうなものについては影響がないんだという議論もあるわけです。が、しかし、新聞協会やその他では、これが削除されることが、いま乱用の危検があるというふうなことにかりて一般の報道の自由が侵害されるのではないかという危惧の念を持っておられるわけです。そして、現実にあるならばあるということによってそれだけの作用をしているなら、なお、いまさらこれを削除することがかえって要らざる混乱というものを引き起こすことになるのではないか。だから、これはそのままの規定として存置しておいたほうがいいではないかという意見もあるというふうに聞いているわけです。  そこで、大臣にお聞きをしたいのは、これの問題あるいは機密の問題にも関連をしてくるわけですが、国民の知る権利というものについて大臣はどういうふうにお考えになるのかということ、ちょっと抽象的ですけれども。これと、特にそれについての法律上の保障というか保護ですね、あなただけのお仕事じゃないかとも思いますけれども、これを今後どういうふうな形でやっていこうとされるのか。それを妨げるような刑法改正ということは差し控える、こういうことでございましょうか。その点についての大臣の最終的な考えをお聞かせ願いたい、こう思います。
  52. 中村梅吉

    中村国務大臣 実は二百三十条ノ二ですが、条文をよく覚えておりませんが、刑法改正の草案を私どももよく読んでみたのですが、あの条文が今度落とされておりますので、どういうことでこうなったのかということを関係者に聞きましたら、いま刑事局長お答えしたように日刊紙や何かのように一般に報道機関として使命を果たしているものは当然なんだ。それは最高裁の判例もある。だから判例に従って今後も判断すれば一向に差しつかえない。ただ問題は、一年に一ぺん新聞を出したり出さなかったりするようなものまであの条文を悪用するおそれが社会的に非常に多いから、あり得るから、そういう危険がないようにしたいということの考え方であるということでございます。ただ、そこで問題は、あれを落としっぱなしにするのがいいのか、あるいはもっと何かうまい名文があってあれと同じ類似の規定——あの条文も何かとってくっつけたような条文に見えきすから、あんなとってくっつけたようなのでなくて、自然に報道の自由が保障されるような条文の書き方はないものかということを私も言っておるわけなんですが、仕上げの段階ではそういうことをもっと検討して、慎重に扱ってまいりたい、かように考えています。
  53. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 慎重に扱うということは、前向きに処理をするということと承ってよろしいでしょうか。
  54. 中村梅吉

    中村国務大臣 要するに、報道の自由が絶対に害されないということを基本的に考えて成文化する必要があろうか、かように思っております。
  55. 大竹太郎

    ○大竹委員長代理 正森成二君。
  56. 正森成二

    ○正森委員 私は、きょうは金大中氏の事件と太刀川、早川両氏の件等について最初にまず伺いたいと思います。  この席におられる同僚議員である田中前法務大臣は、第六感を非常に働かせられまして多彩な答弁をされたわけでございますが、中村法務大臣は非常に堅実な答弁をされておられます。しかし記録を見ますと、当委員会で二月二十日に同僚議員の横山議員の質問お答えになりまして、個人としての考えを率直に言えば、日本政府としては金大中氏を来日させて原状回復をすべきである。韓国での自由を保障されても原状回復とは言えない。その他の進展がないのが現状で、韓国側の協力を得るよう全力を尽くすと、要旨でございますが、そういう意味の答弁をされております。大臣のお考えは、この二月二十日時点の御答弁と変わりなく努力されてきたし、今後も努力される、こういうように承ってよろしいか。
  57. 中村梅吉

    中村国務大臣 そのとおりでございます。ただ、われわれは韓国側に対して直接折衝する機関でございませんので、すべてその努力は外務省にお願いする以外には方法がないというような次第でございます。
  58. 正森成二

    ○正森委員 法務大臣としては、そういうお立場だろうと思いますが、閣議の席等で外務大臣にいろいろ要望していただきたいと思います。  そこで、外務省が来ておられますので外務省に伺いたいと思いますが、最近新聞を見ますと非常に気になる記事があります。他の委員会でも質問をされたやに承っておりますが、たとえば四月二十二日の読売新聞を見ますと、韓国で金大中氏と二度にわたって面談されたジェローム・A・コーエン、アメリカ・ハーバード大学法学部教授は、韓国の韓駐米大使が金大中は出国させない。逮捕したいのだが、国際世論の圧力でそうもいかない。こう言っているということが載っております。つまり、日本政府との間では、これは出国も含めて自由であるとかなんとか言いながら、出先の一大使が金大中は出国させない。逮捕したいのだが国際世論の圧力でそうもいかないというようなことを公言しているということは、国際信義の上からいってももってのほかではないかというように思われます。それが一つ。  それから、もう一つ非常に気になりますのは、これは各紙に載っておったことだと思いますが、金氏と二度にわたって会見したアメリカのハリー・S・アシュモア氏が、金氏の出国の見通しは見当がつかないが、日本政府のトップが韓国政府に対し金氏を出国させないように要請したといううわさを聞いたということを言っているわけですね。これは外務省はその後直ちに否定しましたけれども。そして、金氏の出国が実現するかどうかはすべて日本政府と米国政府の態度にかかっている。こういう考え方も必ずしも首肯できませんけれども、しかし少なくとも日本政府については主権を侵害されておる、あるいはその疑いがあるということですから、原状回復を要求する当然の権利があるという意味では努力しなければならないと思うのです。  そこで、こういう新聞報道が出ていることについて、外務省当局はどう思われるのか、所信を伺っておきたいと思います。
  59. 中江要介

    ○中江説明員 ただいま御指摘の新聞記事、コーエン教授の話、それからアシュモア氏の話、その他、外国の、特にアメリカのジャーナリストとか学者に対していろいろ金大中氏が語ったという形で報道されている記事は、私どもも注意深く、一つ一つチェックしておりまして、その内容の中で、日本政府として首肯しがたいもの、または絶対に受け入れがたいもの、そういうものについては、現地の大使館あるいは東京の韓国大使館を通じまして、韓国政府の意図というものをそのたびごとに確かめておるわけでございますが、特に、いま一番最後に言及されましたアシュモア氏の話というのは日本政府にとっては非常に意外なことで、全く考えられないことであるというので、強く韓国政府にそういうことがないということについて確認すると同時に、その言われていることのソースが、どこからそういうとんでもない、根拠のない話が出たのかという点について、引き続き調べておりますけれども、はっきりいえることは、いま正森先生もおっしゃいましたように、日本政府としては当初から、金大中氏は、これは主権侵害があったかなかったかということについての国際法上の証拠についてはいまだ疑念があるといたしましても、そういう疑いがあるんじゃないか、それが疑いがあるなしを別といたしましても、捜査のために協力してもらう必要があるから来てもらう必要があるんじゃないかというような観点から、当初から一貫して、韓国政府に対しては、金大中氏の再来日というものを要請し、また、それが韓国の捜査の事情でいま直ちに実現しないにしても、金大中氏が出国の希望を持っておられるものなら早く出国を許可するということが、金大中氏の人権の問題から見ても重要ではないかということで、再三再四申し出ておるわけで、日本政府のほうから、金大中氏の出国はいかがなものかというようなことを言ったことは絶対にないということは私ども確信を持っておりまして、この記事は、全く日本政府の意図するところと何のかかわりもない、むしろ迷惑千万な記事であるということで、私どもは、そういった誤解といいますか、中傷といいますか、そういった意見がどういうふうにして捏造されたのかということには関心を持っておるというのが現状でございます。
  60. 正森成二

    ○正森委員 いま中江アジア局次長から所信の表明がありましたが、コーエン教授が言っていることについてはお触れになりませんでした。コーエン教授のそういうことについて外務省は直接確認する立場にないということかもしれませんけれども、私が重視したいのは、一出先大使が、金大中氏はもう出さないのだというようなことをハーバード大学の教授などに広言しているというのがもし事実だとすれば、これは韓国の中枢部はよほどそういう決意を固めて、出先大使が放言しても本国から何らおこられないという確信を持っておる。別のことばでいえば、日本政府をなめ切っておるからそういう放言をするのに違いない、こういうふうに思うのですね。その点についてどう思われますか。
  61. 中江要介

    ○中江説明員 私はいまアシュモア氏の記事を中心に申し上げたわけでございますが、コーエン教授に語ったといわれている内容につきましても同様でございまして、新聞記事の一つ一つについてどこまで反駁するということよりも、むしろ基本的な姿勢として、日本政府考え方、それから韓国政府考え方というものは、それに沿わない記事あるいはそういう談話が報道されるごとに、日本政府としては、それが根拠のないものであることを確認し、また、韓国政府からは、いままでと変わりがないということを全国務総理、それから金東作外務部長官の口から、つまり韓国の首脳部から、いままでと変わりがないという保証を得ておるわけでございまして、その点はコーエン教授の記事についても同じことである、こういうことでございます。
  62. 正森成二

    ○正森委員 いまそういう答弁がありましたが、しかし、韓国政府が出国も含めて自由であるとかそのために努力するという態度に変わりがないということを言われましても、あることば、あるいはある命題が真実であるかどうかということは、何べんそのことを言ったかどうかできまるのではなしに、実践、つまり実行がどういうぐあいにされたかによってきまるのです。これは私どもが立場としている弁証法的唯物論の立場であります。そういう意味からいうと、韓国政府は何ら実践していないじゃないですか。逆に、われわれが目撃するものは、金大中氏に面会してきた外国の教授などの語るのを聞いても、金氏の安全を保障するものは何もないとか、悪いことだけがひんぴんと起こってくる。しかも、そういうことを一方でやりながら、わが国の国民である太刀川、早川氏に対しては国際的水準から見て非常に過酷だと思われる態度をとっておる。こういう点を見ると、私たちは韓国政府考え方や誠意について疑問を持たざるを得ないと思うのですね。  そこで、早川、太刀川氏に触れる前に、警察庁が来ておられますから、あなた方は、金大中氏が来日できないという非常に不利な条件の中で、全力を尽くし、金東雲一等書記官の指紋を突きとめるというような進展を見られたわけですが、その後どういうように国内での捜査が進んでおるか。たとえば車はあと二台になったというようなことも前に答弁がありましたし、たとえばアンの家がどうであったとか、いろいろなこともあると思いますが、その点の国内での捜査状況、それから韓国に対して、捜査すると言っておったがどういうぐあいに捜査をして、日本政府にどういう通報があったか、あるいは通報を求めるために警察庁は何回ぐらい韓国にその要請をしたかというような点について、説明をしていただきたいと思います。
  63. 星田守

    ○星田説明員 正森先生の御質問お答えをさせていただきます。  私ども、金大中氏事件につきましては、現在まで、従来の捜査体制をそのまま引き続き維持しておりまして、基本的な方針についても、同様、全く変更なく、その後鋭意捜査を引き続いて継続しておる状況でございます。  現在まで行ないました捜査につきましては、すでに申し上げましたところもございますが、重複をいとわず申し上げますと、車につきましては、当時、犯行時間の近くに出庫いたしました約三十台の車のナンバーを手がかりにいたしまして、全国で約八千五百台の車について全部洗ったわけでございます。当日地下駐車場から出庫いたしました車のうち、二〇七七というナンバーの車につきましては、もと横浜の韓国領事館の劉永福副領事所有の「品川五五も二〇七七」という容疑がございまして、この点につきましては、韓国側に照会をいたしておりますが、まだ回答には接しておりません。  あと残っております四二九という番号の車でございますが、これにつきましては、入庫が十三時、それから出庫いたしましたのが十三時四十八分ということでございまして、ちょうど犯行時間帯には駐車いたしておったわけでございます。現在まで、同ナンバーの車約百六十台につきまして捜査いたしましたが、ホテルに行ったという人はまだ確認されておりませんが、それから、この四二九というナンバーにつきましても、乗用車という車種にとらわれずに、広く捜査を行なっておる、こういう状況でございます。したがいまして、捜査の基本的な方向といたしましては、一つずつつぶしていくといいますか、そういう形の捜査を鋭意継続いたしておるわけでございまして、アンの家につきましても、関西方面において約千軒のマンション、アパートといったものを捜査いたしましたが、まだ特定いたす段階にまで至っておらない。それから犯行に使用されました可能性のあるモーターボートにつきましては約千八百隻、船舶についても三十六隻につきまして聞き込み捜査を行なっておりますが、いまだにこれが確定に至っておりません。こうした方向につきまして、当初申し上げましたような基本的な方針に立ちまして、私どもとしては捜査本部をそのまま維持いたしまして、捜査体制をくずすことなく鋭意捜査を継続いたしたい、このように考えておる次第でございます。  韓国につきましての当方の連絡でございますが、先ほど申し上げましたような劉永福副領事の車の照会をはじめ、金東雲元一等書記官に対する任意出頭の要求、その他各般の問題について行なっておるわけでございますが、外務省を通しまして現在まで捜査状況を韓国に通報いたしましたのは五回、それから来日要請などを要望いたしましたのが七回にわたっております。同時にそのほか、外務省のほうからも機会あるごとに私どもの意図を韓国側にお伝えいただいておる、こういう状況でございます。
  64. 正森成二

    ○正森委員 そうしますと、わがほうはあまり進展していないにしても、捜査の状況を五回にわたって通報している。先方には外務省を通じて金大中氏の来日要請を書面で七回、そのほか随時行なっておる。ところが、それに対して回答はどういうぐあいになっているのか、見るべき回答がないと思われるよりしようがないわけですけれども、その点を重ねて伺いたいことと、劉永福副領事の車については、四二九という車をまだ全部つぶし終わっていないにしても、捜査当局としては非常に容疑の可能性、事件に関与した可能性が強い、こういうように見ているからこそ照会をしたんだと思いますが、そうなのかどうか、それについても回答があったかどうか、それを伺いたいと思います。
  65. 星田守

    ○星田説明員 お答えいたします。  現在のところ回答は全くございません。したがいまして、私どもあり方としては、繰り返しこれをお願いするという、方向でございます。劉永福副領事の車につきましては、御指摘のとおり非常に容疑の度は強い、こういうぐあいに私どもは確信いたしております。
  66. 正森成二

    ○正森委員 金東雲一等書記官の指紋が出てきたというだけでも、普通日本の刑事裁判あるいは捜査では決定的なのに、劉永福副領事の車の容疑がきわめて高いとすれば、これはまず一〇〇%間違いがないということなのに、たび重なる照会に対して回答もしないというのは国家間の関係としても非常に不誠実な態度であり、自分の責任を隠蔽する態度だというように、いわれてもしかたがない、こう思うのですね。一方、そういうようなことを自分はやっておきながら、わが国の国民に対しては、今度太刀川、早川さんというのを、四月五日出頭を求めて、二十五日突如として逮捕するということをやったわけですね。  そこで、法務大臣にこの点について伺う前に、まず外務省に聞いておきたいと思うのですが、新聞で報道されたところによりますと、外務省は、後宮大使などは、早期に釈放できるという韓国側の示唆に基づいて、事件が大きくならないように日本側としても慎重に見守ってきた、正式に外交的に釈放の要求をしたのはやっと十九日になってからだ、しかるに事実の通報もなしに突如として逮捕されたのは非常に遺憾であるという意味のことを言っておりますね、私どもの認識が正しいとすれば。そこで、四月五日に連行されてから、この時点では逮捕でないといっているのですが、二十五日の逮捕に至るまで、外務省は一体どういう認識のもとにどういう交渉をしておったのか、概略でよろしいですから説明してください。
  67. 中江要介

    ○中江説明員 太刀川、早川両氏が連行されましたという事実の通報を受けましたのは四月八日の月曜日のことでございまして、これは韓国の治安当局から在韓の日本大使館に対して事実を通報してまいったわけでございます。そのときに即刻大使館が、この両名は日本人であるということでございますので、身柄を慎重に取り扱ってもらいたい、さっそく面会をしたいので、それを取り計らってもらいたい、今後どういうふうになるかというようなことを照会いたしましたのに対しまして、先方は、身柄はもちろん慎重に扱うし、面会はアレンジいたしましょう、これからの見通しとしては、大体軍法会議にかけられることはなさそうだということを申しまして、韓国の治安当局の考え方というものはその当時においては一応根拠のあるものというふうに私どもはとったわけでございます。そういう程度のものであるので、これが早きに及んで表ざたになって大きく取り上げられると、本件の処理にかえって悪い影響があるかもしれない、だからこれは当分非公式の連絡通報にとどめたいという向こうの強い要請がありましたので、わがほうはそれを尊重したというわけでございます。しかし面会は早くしなければいけない。どういう状況でおられるかということを確かめるために、九日、十日と連日、早く調べを終わって釈放するようにしてもらいたい、それまでの間、即刻面会したい、こういうことを要請したわけでございます。その間、十日には早川さんの奥さんが早川氏に面会しております。十二日の金曜日に大使館員が太刀川、早川両氏と面会ができまして会ったところでは、当時における被疑事実というものを一応二人とも肯定されて、同時に、東京にある留守宅に対する連絡は、両親が心配するといけないから待ってもらいたい、二人とも奥さんが韓国におられるもんですから、留守宅への連絡は待ってもらいたい、こういう要請がありましたので、大使館はそのとおりにしておったわけでございます。  引き続いて十二、十三、十四日が日曜日で十五日と、治安当局と非公式に折衝を重ねまして、捜査を早く終わらせて釈放してもらいたいということを重ねて申し入れておりましたところが、その十三日に柳寅泰という、学生総連盟の幹部で、本件に関連する首謀者とみなされる男が指名手配になりまして、十四日にこの柳寅泰という男が逮捕される。この結果新たな事実が出たというふうに韓国側はあとで説明しておるわけでございますが、十九日になって、いき先生がおっしゃいましたように、連行の事実の通報を受けて十日もたってなお釈放もされなければ見通しもはっきりしないということでございましたので、在韓日本国大使館の前田公使から金外務次官補に対しまして正式に、本国政府の訓令によるものとして、取り調べを早く終わらせて、面会も早く実現させて、捜査状況を知らしてもらいたいということを強く申し入れまして、二十二、二十三と引き続き韓国側の回答を督促し、また東京では二十三日に東郷外務次官から在日韓国大使館に対して迅速な処理を要請しておりましたところ、二十四日の水曜日に至りまして、先ほど申し上げました柳寅泰という首謀者の逮捕に伴って金品の供与その他新たな容疑が出たので逮捕したということを通報してまいりました。その翌二十五日に、御承知の学生運動全般に関する調査結果の中間発表というものが行なわれまして、その中で太刀川、早川両氏について言及があったというのが、ただいま御質問のございました当初連行の通報を受けてから正式逮捕の通報があって本件の中間発表があるまでの現地大使館及び東京の外務省がとりました措置の概要であります。
  68. 正森成二

    ○正森委員 外務省がいろいろそういう配慮をされたのは国際法上いわゆる外国にいる自国民に対する外交保護権に基づいてそういうことをされたのだと思います。つまり外交的な保護権を発動すべき場合である。一般に外国にいるわが国の国民あるいは外国から見れば外国人は、その当該国の司法上あるいは行政上一定の保護を受ける権利があると思いますね。その保護がなされていない場合あるいは不十分であると認められる場合に外交保護権を発動するということだろうと思いますが、一般的に外国人に与えられる保護というのは、文明国が国際的に当然与えられるべき保護というのを必要とされるという見解と、ともかくその国で与える保護を与えておればいいのだ、別のことばで言えば、国際標準主義と国内標準主義あるいは客観主義と主観主義というのがありますが、わが国外務省は韓国に対して、日本国民が韓国内にいるときにどの程度の保護を与えられればいいと考えているのか、それをまず伺いたいと思います。それが第一点。  それから第二点に、四月八日ないし十日くらいの時点で、当時としては一定の容疑があったという言い方をいまされましたね。その当時の容疑というのはあなた方の理解されている限りではどういうものであったのか、その二つを伺いたいと思います。
  69. 中江要介

    ○中江説明員 第一点の在外にあります自国民を保護する場合にどの程度の基準で相手国が自国民を取り扱っておれば、それが国際法上容認されるものとみなされるかという点についての文明国水準によるのか内国民待遇でいいのかという点につきましては、これは日本政府は文明国水準といいますか、より正確に言えばおそらく一般国際法上認められている基準に沿って扱われているかどうかという点について関心を持ち、その基準に合っているかどうかという観点から自国民の保護に当たっているということは申すまでもないことかと思います。  第二点の当時における容疑といいますのは、これは一番最初は非常に微罪であるような印象を私どもは持っておりまして、それでは具体的な事実は何であるのかということについては、その時点では必ずしもはっきりわからなかったわけですけけれども、向こうの言い方といたしましては、緊急措置第四号の違反容疑で、どうも違反は明らかだけれども、日韓友好関係考慮して処罰する意思はいまのところはないのでいましばらく静観してもらいたい、身柄の取り扱いについては最大限の処遇をするということでございまして、現地の大使館といたしましては、根掘り葉掘り事実についてせんさくすることよりも、むしろ静観することによって本件が早期に、捜査、調査が終わって釈放されることを期待していたというのが現状であったわけでございます。
  70. 正森成二

    ○正森委員 そうすると、大統領緊急措置第四号に違反しているらしいということはわかったし、どうも微罪である、処罰しないということは聞いたけれども、一体太刀川、早川両氏の行動というのが大統領緊急措置第四号のどの条項に触れ、それを構成する具体的事実はどういうものであるかということについては外務省は確かめなかったのですか。というのは、私がこういうことを言うのは、あと中村法務大臣及び安原刑事局長に伺いたいと思いますが、大統領緊急措置第四号というのは、いわゆる破廉恥犯あるいは自然犯ではないのですね。人を殺したとか爆弾を投げつけてどうこうしたとか、だれが見ても悪いということじゃなしに、法律ができて初めてそれが犯罪になるという性質のものですね。ですから外国人が一般にこんなことをしてはいけないということを熟知している、そういう事案ではないわけですね。外国人であろうとだれであろうと、人を殺したらいかぬ、物をとったらいかぬ、なぐったらいかぬというようなことは知っておりますけれども、この緊急措置なんかを見たら、そんなもの、この措置が出るまでは、こういうことをしたのは犯罪になるなんということは考えられないことですからね。だからそういう場合には一そう、一体外国人である太刀川、早川君がこういう措置のどの条項に該当するような具体的などんなことをしたのかをまず確かめて、そしてそれに基づいて保護権を与えなければ、十分に保護権を与えたことにならないと思うのですね。それで、私は確認したいのですが、それは前田公使もあるいは後宮大使も確認しなかったわけですか。
  71. 中江要介

    ○中江説明員 一番最初に日本の大使館がとった措置の概略を御説明しましたときに申し上げましたように本件の早期釈放を期待し、また面会のアレンジを申し入れたときに、捜査の、調査の内容、それから見通し、そういったものについてもあわせ通報してもらいたいということは、そのたびごとに申し入れておったわけでございますけれども、正式に逮捕の通報を受けるまでは具体的な捜査結果についての通報はなかったというのが実情でございます。
  72. 正森成二

    ○正森委員 現段階では、逮捕されたわけですから、被疑事実というのはわかっておると思うのですが、外務省はどういうようにつかんでおりますか。私が非公式に大平外務大臣から伺ったところでは、学生運動をやっておる者に金品を渡した疑いもある、その金額は約八千ウォンだというようなことが外務省にわかっておるようですが、そうですか。
  73. 中江要介

    ○中江説明員 現在までのところ韓国側から説明を受けた被疑事実というものは概要次のようになっております。なおこれはまだ具体的にこまかい点でより詳細な説明を求めるべく韓国側に照会中でございます。  太刀川正樹さんにつきましては、韓国側の説明によりますと、昨年の暮れから全国民主青年学生総連盟の指導者である季哲と接触していた。四月一日に全国民主青年学生総連盟の指導者である柳寅泰、先ほど申し上げました柳寅泰に会ってデモの計画を聞いた。この点は本人も確認いたしたところでございます。その機会に何がしかの金を与えて活動計画を支援した。あわせ暴力革命の計画を激励、扇動した。次が四月三日にデモの現場写真をとってビラを携行していた。この点は本人が確認しているところであります。五日は当局に通報することなく出国しようとした。これも本人が確認したところでございまして、なお同人は観光ビザで入国しておりますので、学生デモその他の取材活動は韓国の入管法に違反している。これが太刀川さんについての韓国側の説明でございます。  一方早川嘉春さんにつきましては、やはり昨年の末から柳寅泰及び李哲、先ほど申し上げましたこの二名の人物と数回接触した。柳寅泰と接触したことについては本人が確認しているところでございます。四月一日に太刀川さんにデモの情報を伝達し、柳寅泰を紹介しております。この柳寅泰を紹介したという点は本人も確認しているところでございます。何がしかの金を与えて活動計画を支援した。また暴力革命の計画を激励、扇動した。これは太刀川さんと同じことになっております。四月三日にはデモの現場でビラを太刀川さんに手交した。この点は本人も確認しております。  なお、早川さんは、柳寅泰という人物が学生運動の指導者であることは知っていたけれども、全国民主青年学生総連盟の最高指導者であるということは知らなかった、こういうふうに陳述している。これが現在まで韓国側から説明を受けている被疑事実でございます。
  74. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は、中村法務大臣と安原刑事局長に伺いたいと思うのですが、外務省が、国際標準主義あるいは文明国で一般に与えられている保護、あるいはもう少し別のことばで言えば、国際法上一般的に認められている保護、これを与えられなければならないということで保護権を行使する、こう言われましたが、刑法の一般的に文明国として認められている基準、最も大事なものは何ですか。
  75. 安原美穂

    ○安原政府委員 それはやはり、もう御案内と思いますが、罪刑法定主義であろうと思います。
  76. 正森成二

    ○正森委員 すべてのおよそ刑法典を持っている国で一番大切なのは罪刑法定主義であります。つまり、法律があらかじめ設定されていなければ、刑罰もなく処罰もされない。特に刑法においては犯罪不遡及の原則というのはもう絶対的なものであります。そうでなければ、われわれは安心して行為をすることができない。きょうは何でもないと思われていたのが、突如法律ができて、一年前にさかのぼってこういう行為は処罰される。俗に、卑俗なたとえですけれども、暴力行為を伴って婦人と同行したとかいうようなことはいけませんけれども、任意に温泉クラゲに行くというようなことは、これは紳士としてはよろしくないけれども、犯罪にはならない。ところが、突如として日本政府が法律をやって、過去十年にさかのぼって妻以外の女性とそういう行為をした者は懲役三年に処するというようなことになれば、非常に失礼ですけれども、この席でも何人か犯罪者が出てくるということになりかねないわけですね。ですから、刑法ではそういうことは絶対にしてはいかぬ、こういうことになっているわけです。これはもう当然のイロハであります。安原刑事局長、私は少しくだいた表現をしましたが、私の言ったことは刑法上の原則であることは間違いないですね。
  77. 安原美穂

    ○安原政府委員 憲法の三十九条にも明らかに規定のございますように、何人も行為のときに適法であった行為についてはさかのぼって刑事上の責任は問われないという原則からいって、おっしゃることは正しいと思います。
  78. 正森成二

    ○正森委員 そこで、私は、大統領緊急措置第四号、これを中村法務大臣にも知っていただきたいと思いますが、この法律によってわが国民が処罰されようとしておる。これは、全国民主青年学生総連盟及びこれに関連する諸団体と接触したりいろいろした者を処罰するということで、もう非常に広い構成要件、しかもその関係のことを報道したってだめだ、それが死刑、無期もしくは五年以上の懲役になるというきわめて過酷なもので、わが国の憲法体系からいえば当然許されないことですが、韓国にはお国の事情があるとしてこれにかりに目をつぶるとしても、こういう規定があるのですね。「本措置宣布以前に第一項ないし第三項で禁止した行為を行った者は、一九七四年四月八日までにその行為の内容の全部を捜査、情報機関に出頭して隠すことなく告知しなければならない。上記期間中に出頭、告知した行為に対しては処罰しない。」、こう書いてあるのですね。そうすると、この法律は一体いつ施行されたのかといいますと、第十二項に「本措置は一九七四年四月三日二十二時から施行する。」、こうなっているのです。そうすると、わが国の通念からすれば、一九七四年四月三日二十二時以前の行為については処罰されないはずであります。これは、四月三日にデモが行なわれて、その日の夜に緊急に会議を開いて施行しているのですから、それ以前は何人もこんな法律があるとはわからないわけですね。ところが、この法律の非常にけしからぬといいますか、トリックは、この第四項に「本措置宣布以前に第一項ないし第三項で禁止した行為を行った者は、」つまり四月三日の二十二時以前でもそういうことを行なった者は、つまりその時点では明白に犯罰でも何でもないわけです。犯罰でも何でもないことについて「四月八日までにその行為の内容の全部を捜査、情報機関に出頭して隠すことなく告知しなければならない。」、つまり犯罰でもないことについて告知義務を課されておるわけですね。つまりいまの卑俗なたとえで言えば、過去に妻以外の女性とどんなことをしたことがあるというようなことは全部報告しろ、そして「上記期間中に出頭、告知した行為に対しては処罰しない。」、だから逆に言えば、本法は一九七四年四月三日二十二時から施行するのだけれども、四月三日二十二時以後にこういう行為を行なった者は当然のこと、その以前のことを告知しなかった者は、告知しなかったということで死刑または無期もしくは五年以上の懲役に処すると、この法律はこういうことになるのですよ。そういう解釈しかおそらく解釈のしようがないと思うのですね。これは実に重大なことじゃないですか。過去のことを告知しなければならない、そうすれば処罰しないというような、一見自首する者は処罰しないという寛大な措置をきめているように見せかけながら、そのことによって逆に、四月三日二十二時以前でもそういうことをやった者は報告しなかったということの理由をもって全部処罰する。これは罪刑法定主義の原則である犯罪不遡及をほんとうに巧妙に破るもってのほかの法律であり、文明国として断じて許されないことであるといわなければなりません。  いま中江次長が犯罪事実について言いましたが、うしろに傍聴の方もおられるがよく覚えておられるでしょう。柳寅泰に接触したというのは昨年の暮れのことであります。つまり当時としては犯罪でも何でもない。四月一日にデモのことを聞いた、四月一日とは三日より前であります。四月三日にデモの写真を写してビラをもらった、写真を写しデモでビラをもらったのですから、日中のことであります。二十二時以前のことであります。何ら犯罪ではない。だから私は、犯罪の容疑事実は何かということを聞いたのです。四月三日の二十二時以後の連行される五日までの四日とか五日の朝にやったなら、非常に不当な法律ですけれども、まだ外国の主権の範囲内だということはいえるかもしらぬ。しかし法律も何も出ていないときに、そんなことは外国人でやるのはあたりまえじゃないですか。それを韓国が二十五日に逮捕したときに、文明国としたら恥ずかしくて言えないようなことをわが国に、これが被疑事実だとして麗々と言う。そんな国が一体法治国ですか。そういうような国によってわが国の国民が二人軍法会議に処せられようとしている。それに対して断固として抗議するのはあたりまえじゃないですか。安原刑事局長、この緊急措置第四号を刑法学的にあなたはどう思いますか。私の指摘するのは当然でしょう。
  79. 安原美穂

    ○安原政府委員 前もってお断わりしておきたいと思いますが、この法律の解釈について日本政府が有権的に解釈する立場にはないと思いますが、たってのお尋ねでございますので、韓国語はわかりませんけれども、この翻訳を正しいものといたしまして、そうして日本語をすなおに理解するという立場で、私の推測を申し上げさせていただくということでごかんべんを願いたいと思いますが、この規定を「本措置宣布以前に第一項ないし第三項で禁止した行為を行った者は、一九七四年四月八日までにその行為の内容の全部を捜査、情報機関に出頭して隠すことなく告知しなければならない。」とありまして、「上記期間中に出頭、告知した行為に対しては処罰しない。」とありますから、上記期間中に出頭し告知しなければ、その宣布以前にした行為についても罰するというふうに読まざるを得ないのではないか、そういうように推察いたします。
  80. 正森成二

    ○正森委員 もちろん他国の法律について外国の政府機関が有権的解釈をすることはできませんが、一つの刑法上の学問的な問題として見れば、いま言われたようなとおりであります。つまり四月八日までに出てくれば、言えば処罰しないけれども、言わなければ告示された四月三日以前のことでも全部処罰する、こういう法律なんですね。これは実にひどいでしょう。中村法務大臣どう思われますか、こういう法律が日本にできたら、法務大臣といえども安全じゃないですよ。ちょっと見解を表明してください。
  81. 中村梅吉

    中村国務大臣 ほんとうに罪刑法定主義をとっておる日本の現状から見て考えられないことでございます。日本ではそういう立法はしたくもできない、またしようとするものも起こらないというように考えます。
  82. 正森成二

    ○正森委員 そうだとしますと、韓国が被疑事実としてあげていること自体、いいですか中江さん、国際法の一般的基準から見て、国際標準主義から見てあり得べからざること、許されないことであります。   〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕 そうすると、それに対して外交保護権を発動して韓国政府に対して強く自国民の保護を求める、あるいは場合によっては抗議するという措置さえとるべきであることは当然であります。しかも中江次長いいですか、きょうは大臣がいないから、大臣あとでよく言ってほしいのですけれども、そういうでたらめであるということをさらにおいても太刀川、早川君が任意連行されたのは四月五日ですね。ということは、四月八日のその期間までに告知した行為であれば処罰しないという期間内のことですね。したがって連行された四月五日以後に新たな違反行為を犯したと見られることはまずないと思いますね。そうすると、この非常に不当だと思われる緊急措置第四号によっても四月五日に連行されていろいろ言うて、それは四月八日以前なんだから、外国人であることでもあるし、事情をある程度言うたんだからこの処罰除外規定によって処罰しない、公安上好ましくないから国外追放にはするということで処理しようと思えば、この措置法自体で幾らでもできるのですね、ところがそれをしないで逮捕し、軍法会議にかけるということを現在言うておるということは、指紋まで出てきた重大凶悪犯罪である金東雲、これは何人が見ても一人の人物を暴力によって拉致して国外へ連れていった、ぶんなぐっておる、金品を途中で強奪しておるという明白な刑法上許されない犯罪、何人であってもそういうことはしてはいけないということがわかっている行為、それについて何です、去年の八月から九カ月たつのに何にも調べておらない。ところが一方わが国の国民に対してはこういう文明国なら恥ずかしくて外国に言えないような法律を適用して、しかもこの法律でさえ除外規定があるようなものを適用しないで、そしていたけだかに軍法会議にかける、もってのほかじゃないですか。わが国の外務省、わが国が韓国に完全になめられておるといっても過言ではありません。いつからわが国はそういう情けない国になったのか、外務省としてまことに責任が重大であるといわなければなりません。あなた方はこの事案に対してどういうように厳正に主権に基づいて外交保護権を行使されるつもりか、それを伺いたい。
  83. 中江要介

    ○中江説明員 御質問の冒頭にございました外交保護権を行使するにあたっての基準の問題でございますが、現在のところ一般国際法上確立している慣習法といたしまして、遡及効のある刑事法規の制定、適用が直ちに一般国際法に違反するというところにまでは至っていないというのが外務省……   〔正森委員「そんなばかなことを言うてもらったら困るよ、冗談じゃないよ、ちょっと待ちなさい。」と呼ぶ〕
  84. 小平久雄

    小平委員長 答弁を聞いてからにしてください。
  85. 中江要介

    ○中江説明員 その点は世界人権宣言の第十一条に不遡及の原則が掲げられておるというのがいままで国際法上成文化された唯一の根拠でございますけれども、世界人権宣言そのものは直ちには国際法上の法的拘束力を持たない政治的意図宣言という段階でとどまっておりますので、それが望ましいか、妥当であるかということは、これはもちろん不遡及の原則が貫かれるべきであると私どもは思いますけれども、厳密に一般国際法上の基準ということになりますと、その点は国際社会の法規範は未発達の面があるというふうに考えておるということがまず第一点でございまして、本件に関しまして最初に容疑事実を御説明しましたときに韓国側の説明によればこういうふうになっているけれども、これの点についてはさらに補足説明なり、明確化を要求しなければならない点があるので、引き続き韓国側に申し入れていると申し上げました中には、いま先生の御指摘のように、向こうのあげております容疑事実だけですと、すべてが三日以前のことになっておるので、その三日以前の事実をどういうふうに法の適用上認識しているかという点について必ずしもまだつまびらかでないという点も含まれて韓国側にその事実をさらに説明を要求しているということがございます。  それからもう一つは、先ほど容疑事実を逐一申し上げましたときに、この点は早川、太刀川それぞれ本人が認めている点だという点とそうでない点とを申し上げたわけでございますが、韓国側の現在までの説明によりますと、八日までにみずから申し出た者についてはあえて訴追しないという、あれは四条でございましたか、四号でございましたか、それの適用は受けない部分があるという解釈のもとに逮捕しているという説明でございまして、太刀川、早川両氏が連行されて正式に逮捕されるまで、特に八日以前にどの点までみずから説明されたのか、どの部分が説明はなかったけれどもあとではっきりしたのか、その部分が緊急措置令でどういうふうにひっかかってくるのかというような点についてはなお明確にする必要があるということで、私どもといたしましては決してなめられているというつもりではなくて、むしろ厳正に客観的な事実を確かめた上で外交保護権を行使して日本人について不当な法の適用がないように、またその過程において非人道的な扱いがないようにということで対処していく、こういう考えでございます。
  86. 正森成二

    ○正森委員 ある人間が断固として相手側に対して行為を行なう場合には、まず相手側の行為が不当であり、自分が恥辱を受けているという認識がなければ断固たる行為は出てこない。どれだけあざけられておっても、侮られておっても、それを侮られていると感じないというような感覚ではほんとにき然とした行為というのは行なえないのです。  そこであなたがいま答弁されたことについて二点私は指摘したい。  あなたはいま人権宣言の十一条か何かを持ち出されてそれだけだと、刑事処罰について不遡及の原則というのは確立されていないかのように言った。しかし、あなたは外交保護権を与える場合でもあるいは一国に対して自国の国民が保護さるべき基準を言う場合にも国際標準主義をとっておる、つまり文明国で確立された標準に基づいてそれが与えられない場合には要請をするという意味のことを言われた。そうでしょう。それが国際標準主義の意味、内容であります。ところが、いま答えられているのは国際法的に確立された基準にまではなっていない、こういうぐあいに答えられている。そこには明らかにすりかえがあります。国際標準主義というのは後進国も含めて国際的な確立された原則になっていなくても、文明国においては少なくとも確立された標準になっておるものについて、それが適用されることを求めるのが国際標準主義なんです。どの国際法の教科書にも書いてある。  そこで私はあなたに伺いたいが、文明国として認められている諸外国で、罪刑法定主義が規定されず、刑事処罰の不遡及が許されているような国があるのかどうか。あなたが刑法の問題御存じないというなら、安原刑事局長に伺いたい。一般に文明国と認められている国々で、罪刑法定主義がなく、国民がいつでも遡及されるような刑罰の威嚇のもとに許しておるような国があるのかないのか、それを伺いたい。
  87. 安原美穂

    ○安原政府委員 世界各国の刑法の条文を一々見たわけではございませんけれども、私の理解するところでは、いわゆる文明国においては、刑罰不遡及の原則というものが原則になっておるものと理解しております。
  88. 正森成二

    ○正森委員 いいですか外務省、それが国際的な考えであります。わが国では当然のことであります。それに対して、そういうものを国際標準主義としてとるということまではできないんだというように、そもそも自分の立場の大前提からして非常に低い水準からものを言うというようなことは、日本の外交官として、われわれ国会の立場からすれば、非常に、四方に使いして君命をはずかしめておるというように考えなければなりません。  第二に、あなたの答弁の中でもう一ついけない点がある。それは四月八日までに通報しなかったという部分があると思いますという意味のことを言いました。もちろん四月八日までに言うということは、この措置四号に基づいてさえ免責される事由であります。しかし私がいま問題にしているのは、四月八日までに言ったかどうかじゃなしに、およそ四月三日の二十二時以前にやった行為について通報せよとかなんとかいうこと、通報しなければ処罰するということがそもそもけしからぬことだ、こう言っているのです。それはきわめて重大な点であります。それを刑事不遡及の原則が確立されたものでないと言い、しかもこの措置第四号だけを解釈して、四月八日までに三日以前のことでもある程度言ったかどうか、言ってなければ処罰されるのはあたりまえだというような考えで保護に当たるとすれば、太刀川、早川両氏は、日本の外務省、はたしてわが国の外務省であるのかどうか、こう嘆かざるを得ないでしょう。少なくとも、私がそういう立場に置かれているなら、中江アジア局次長がここでそう答弁されたことを、後ほど速記録で読んだならば、非常に遺憾と思うに違いありません。いいですか、そういうことであるということを考えて、法務大臣も、わが国では考えられないような法律であるという意味のことを言われましたが、どうか日本国民がそういうことで不当な軍事裁判にかからないように、全力をあげてやっていただきたいというように思います。  時間がありませんので、次の問題に移りますが、警察庁に伺います。四月二十四日に、大阪の浪速区で国会議員の国会報告演説会が開かれました。その席に、私も国会議員として参加いたしましたし、また参議院選挙に出られる小巻敏雄、橋本敦という二人の方々も演説会に参加されました。ところが、その演説会場に、七時十五分ごろから約九時ごろまでの間に部落解放同盟の一部の諸君が、まいておるビラが差別ビラであるというようなことで押しかけて、演説会場の入り口に数十名群がりまして、そして、ここに写真がありますが、演説会の門の鉄のとびらを締めてしまうというようなことが起こりました。現場にいる警察官の注意で、あけられた時期があったそうでありますが、それもこの写真で示されるように、一ぱいたむろしておりますから、当然演説会場に入ることはできないということで、弁士である私、前の弁士である橋本敦氏、二人ともおそくも八時二、三十分ごろまでに入場する予定でありましたが、四十五分ぐらいまで入ることができなかった。小巻敏雄氏は、演説が八時二十分ごろに終わりまして、出ようと思ったけれども、小巻を出すなということで、正門からは出ることができなかったというような事態が起こりました。  それだけでもまことにけしからないのに、演説会が終わって、人々がマイクロバスに乗って帰るところを車で追跡しまして、マイクロバスを不当に停止させて、しかも中へ乱入して引きずり出して、それになぐる、ける、百五十センチメートルの棒でめちゃめちゃになぐるというような事態が、同日夜十時過ぎに発生しました。ここに私は写真を持ってきておりますが、被害者が顔面をなぐられて、鼻であるかどうかわからないぐらいはれ上がっております。こういうぐあいに棒でなぐられて、服は破れておる。公序良俗に反するようなこういう写真までありますけれども、背中じゅう赤くあざができておるというような状況で、五名の方々が七日ないし十日間の治療を要する、中には入院を要するけがをいたしました。  そこで私は、警察庁に伺う前に中村法務大臣に伺いたいと思うんですが、一体、議会制民主主義の立場から見て、演説会を行なう場合にそれを妨害し、あまつさえ参加した聴衆を追いかけて、マイクロバスをとめて中の者を引きずり出して組織的にぶんなぐるというようなことが許されていいと思われますかどうですか。それに対しては厳正な措置をとるべきだと思われるかどうか、伺いたいと思います。
  89. 中村梅吉

    中村国務大臣 よくわかりませんが、お話を聞いてそのとおりだとしたら、ほんとうにとんでもないことだと思います。かような事態は、法治国としてあってはならないことでありまして、厳正に処置されるべきものである。われわれとしては第一線ではありませんが、警察当局とともに、そういうことは厳重な処置を講じまして、今後二度とないように最善を尽くすべきである、かように思います。
  90. 正森成二

    ○正森委員 警察庁から答弁を伺いたいと思います。
  91. 山田英雄

    ○山田説明員 お答えいたします。  当日演説会が行なわれまして、それに対しましてただいま御指摘のように部落解放同盟員の反対行動も予測されまして、警備につきまして主催者側の事前要請も受けておりました。したがいまして浪速警察署におきまして、約百二十名の警察官を動員して、警備本部を開設して、警備に当たっておったところでございます。  事実の経過から申し上げますと、演説会は七時から始まったようでございますが、七時二十五分ごろに男女四名の部落解放同盟員が正門から入る、それに対して主催者側の警備に当たっておられた方が阻止するということから、問題が出てきたようでございます。そこで七時四十分ごろには、最盛時、部落解放同盟側の方が三十人ぐらいの人数に達しましたので、警察官を対峙の間に入れまして、事案の未然防止に当たったわけでございます。さらに警察官、最終的には約四十人ぐらいになりますが、対峙状態の中に増強しまして、気勢を上げる部落解放同盟員に対して早く引き上げるように警告をいたしまして、八時五十五分ごろには引き揚げたわけでございます。引き揚げる際にも、十分に引き揚げ先まで厳重な視察をいたしましたが、ただいま御指摘のようにマイクロバスでお帰りの聴衆の方々に対して、不審な車両が追尾しておるという情報も入手いたしまして、パトカーで検索したわけでございますが、マイクロバスの行くえというものは見当たらなかったところでございます。その間において、ただいま御指摘の事案が発生したわけでございます。  ただいま御指摘のとおり、車の進路を妨害して、マイクロバスの中に入って暴行を働くという事案、しかも一人の方からは時計を強奪しておるようでございます。悪質な暴力行為でございます。たまたま警備を終わりまして帰隊しておった警備の広報車が、暴行事案後の現場に通り合わせまして、直ちに部隊を応援して救護、付近の聞き込み、検索に当たったわけでございます。  当夜、直ちに被害者からの事情聴取、検証活動も行なって、ただいま大阪府警においては本部から応援を出して二十名の捜査本部を設置して、厳重に捜査をしておるところでございます。被害者の方からも十分に事情を詳細に伺いましたし、また時計については品ぶれを発して捜査をしております。悪質な暴力事案として厳正に処理するということで大阪府警も臨んでおりますので、被疑者特定の上、厳正な処分をしていくという方針でございますので、御報告いたします。
  92. 正森成二

    ○正森委員 いま警察庁からも、悪質な事案であるというようにお答えがありましたが、当然のことであると思うのですね。そして、女性を含む四名が演説会場に入るのを主催者側にとどめられたことからいざこざが起こったというように言われましたが、それについてもまたわけがあるのです。  それは、当日の一日前の四月二十三日に、日本共産党が演説会をやるということで、午後三時二十分ごろ宣伝カーで赤旗の講読と、この演説会が行なわれました木津中学校で国会報告演説会があるということを言っておりますときに、大国町二丁目四番地の勘助町の派出所の南側路上で、やはりる部落解放同盟の人たち約五名が乗りました自動車が立ちふさがるようにして、強制的に停止させました。そして運転手等を引きずりおろしまして、こづき回すということをやったわけであります。そこでその運転者でありました土肥さんという方が、すぐ近くにあった勘助町の派出所に飛び込んで救助を求めた。そうすると、事もあろうにその派出所まで二十名近い者がなだれ込みまして、警察官の面前でカッターシャツのボタンを引きちぎるあるいはけり上げる、胸ぐらをつかむというようなことをやって、あろうことか派出所の内部ガラス窓を割るというようなことをやったのですね。そこで、こういう暴力を加えておる、あるいは当日会場に来て、ビラでさえそれが差別文書だというようなことを言って抗議してくるという者に対して、平穏に演説会を行なうために入場を控えさせるというのは、主催者側として当然のことであります。ところがそうすると、今度は入るのを妨げられた、女性などはどつかれてもいないのにどつかれたというようなことを言って、人数がふえてくる、こういうことになったわけです。  そうすると、二十三日、二十四日及び演説会が済んでからの襲撃を一つの流れとしてみますと、演説会を事前に宣伝することも許さず、当日演説会場に聴衆が入るのを正門前にたむろすることによって許さず、中へ入った者は帰りに襲撃する、実に念が入っておる。民主主義社会では自分の気に入らないことは言論によって反駁すべきであって、それを暴力で阻止するというようなことは、いかに部落解放が国民的課題であるといえ。いかなる人物もそういうことは許されない、いかなる団体も許されないのは当然のことであります。法務大臣は、どのような団体であれ、そのような形で議会制民主主義の基本である言論活動、そのまた中枢である国会議員の演説会を妨害し、聴衆に危害を与えるというようなことは許されない。その所信を表明していただけますか。
  93. 中村梅吉

    中村国務大臣 全く話を聞きますと、もってのほかのできごとだと思います。かようなことは厳に取り締まりまして、起こらないように法務当局及び警察当局としては今後とも最善を尽くすべきである、かように思います。
  94. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は警察に申し上げたいのですが、本件については、マイクロバスを追尾して妨害をしたという車の番号も何台かわかっております。それはすでに告訴状が弁護士から出ておりますからよく御承知であろうと思いますので、一々番号は申しません。しかし数台、車の番号がわかっていることは明らかであります。私は車の所有者が即犯人であるとは言いません、車は他人によっても運転されますから。しかし、私どもがつかんでおるところでは、約十台の車が三台の車を追尾して、そのうち一台は浪速区からはるか離れた、大阪駅のすぐ前にある曽根崎警察まで、車に尾行され、進路を妨害されるから、帰りの道へ寄れなくて、ずっと離れた警察のほうまで誘導されて、そして、これはかなわぬというので警察署の中へ逃げ込んで、保護されたのです。また、はるか南方の、離れた、住吉区というところの住吉神社の前で停車させられようとして、必死になって逃げた車もあります。そういうような点を考えますと、約十台の車が動いております。この十台の車を全く所有者と関係のない人がどろぼうでもして乗ったんだということは言えない。やはり車に関係のある人がそういう車に乗ったといわなきゃなりません。また、マイクロバスについては、乱入しましたので、指紋が残っておるであろうということで、指紋の採取もしてもらっております。また、当日演説会場を妨害した人々が、同じく浪速区にある上田卓三という人物の、参議院の候補者の、浪速区選挙闘争本部というところに一たん帰りまして、そこからまた再び出てきた人物もおるということもわかっております。こういうような点がわかれば、私どもは、暴行を加えた人物が一体何ぴとであるかということは、これは日本の警察なら捜査して犯人を割り出すことができるはずである。  いままで昼部落解放同盟でしばしば告訴告発いたしましたが、起訴された事案がきわめて少ない。それについて安原刑事局長に言いましたら、それは被疑事実はあるけれども、被害はあるけれども、多人数で、犯人を特定することができなかったのだ、それが不起訴のおもな理由である。こう言われております。そういうことが今後も続くとすると、これだけ悪質なことについて、やり得だということになります。そういうことは、来たるべき参議院選挙を前に控えても断じて許されません。したがって、警察庁は、面目にかけても、これらの犯人を割り出し、部落解放同盟関係ではめったにされない、こういうのが常識になっておるが、ものに対する強制捜査、人物に対する強制捜査をして、必ず犯人を割り出し、厳正な処罰を加えることができるのかどうか、それについて伺いたいと思います。
  95. 山田英雄

    ○山田説明員 ただいま本件については告訴も出ておることでございますので、大阪府警で鋭意捜査中でございますが、御質問にありましたような捜査資料もあることは確かでございます。被疑者特定の蓋然性はきわめて高いわけでございます。厳正な処分を期したいと思っております。
  96. 正森成二

    ○正森委員 私は、本件について、被疑者を必ず逮捕し、そして処罰をしていただかなければ、これは日本の警察の威信にもかかわるというように思います。  そこで、時間が迫ってまいりましたので、一、二注意を喚起しますと、この勘助町の派出所に助けを求めた運転手が、これは数十人に取り囲まれて、政策論争をしよう、あの公園へ引っぱり出せというようなことを言っておりまして、ついに交番の巡査が本署のほうへ、ともかく応援に来てくれということで、パトロールカーが参りまして、それでもなかなか解放できないので、一応本署へ来てもらう、つまり本署へ保護するというかっこうをとって、本署へパトロールカーで連れていかれたそうであります。  この措置自体は当時の状況からやむを得ないというように思いますが、問題なのは、そのときに一緒にパトロールカーに乗った警察官、この警察官の名前は浪速署の司法係長の藤原流情、なかなか風流な名前でありますが、この人が、被害者であるその運転者に、これは共産党と解同の争いで交番に来てもらうのは迷惑や、共産党のほうで何とかすべきだ、こういう発言をしておる。緊急の事態で、身体に危険を覚えた人物は警察官に保護を求めるのは当然であります。それが、警察官に保護を求めたことに対して、これは共産党と解同の争いだから派出所なんかに来るのは迷惑や。こういう発言はもってのほかだと思うのですね。それなら一体警察は何をするところか、こう言わなければなりません。また、その後調書をとった浪速署の捜査二係長の菅山秀勝という人物は、あんたは共産党員かシンパかというようなことを盛んに聞いておる。こういう姿勢というのは、いま厳正に捜査されると言われましたけれども、当該被害者等にとっては非常に遺憾なことであろうと思うのですね。私は、特に司法係長といわれる藤原流情氏がこういう問題を警察へ持ってくるのは迷惑やと言うこと、暴行の、まさにその危険にさらされただけでなしに、されている人物が目の前の派出所にかけ込んで助けを求めたことに対してなおかつ言われるというようなことは、これは断じてあってはならぬことだと思うのですね。その点についてどう思われますか。その点について十分調べて、そういう警察内の精神構造というものはあってはならないということを指導されるお気持ちはありますか。
  97. 山田英雄

    ○山田説明員 ただいま御指摘の二十三日の事案につきましては、御質問にありましたような趣旨の申し入れが、当時警察署にもあったようでございます。私ども、厳重に調査いたしましたが、迷惑であるというようなことを申した事実は全くないという報告を受けております。  それから、共産党員かシンパかというようなことをくどく聞いたという点につきましても、そういうような聞き方ではなかった、警察の捜査でございますので、事実関係を明らかにするために、どういう宣伝活動をしておられるときに、どういう群がり方で解放同盟員と思われる人たちが寄ってきたのか、どういうふうに暴行を働いたのかということをきわめていく際に、どんな業務に従事しておられたかということを尋ねたということはございますが、共産党員かシンパかということを尋ねたということはない、そういう報告を受けておるわけでございます。  事実については、以上調査した結果申し上げたわけですが、もちろんこの種の事案には私ども厳正公平、先ほど御答弁申し上げましたとおり、厳正公平に事案に対処するという基本方針を持っております。双方の対立の中から出てくる事案につきましては公平さが特に必要なわけでございまして、係員の言動によっていやしくも誤解を与えて問題となることのないよう、従来からも指導しておりますし、今後とも十分に指導してまいりたいと思っております。
  98. 正森成二

    ○正森委員 それでは、答弁の中には不満な点もありますけれども、厳正に捜査されて、ほんとうに犯行を行なった犯人に対しては、これは厳重な処罰を行なうという態度をとっていただきたいということを重ねて申し上げまして、ちょうど時間が参りましたので私の質問を終わらしていただきます。
  99. 小平久雄

    小平委員長 次回は、来たる十五日水曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後零時四十四分散会