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1974-03-26 第72回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十九年三月二十六日(火曜日)     午前十時十二分開議  出席委員    委員長 小平 久雄君    理事 小島 徹三君 理事 谷川 和穗君    理事 羽田野忠文君 理事 青柳 盛雄君       井出一太郎君    江崎 真澄君       河本 敏夫君    塩谷 一夫君       千葉 三郎君    中垣 國男君       野呂 恭一君    早川  崇君       松澤 雄藏君    日野 吉夫君       沖本 泰幸君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         法務政務次官  高橋文五郎君         法務大臣官房長 香川 保一君         法務大臣官房司         法法制調査部長 勝見 嘉美君         法務省民事局長 川島 一郎君  委員外出席者         人事院事務総局         給与局給与第三         課長      斧 誠之助君         最高裁判所事務         総局民事局長  西村 宏一君         最高裁判所事務         総局家庭局長  裾分 一立君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 本日の会議に付した案件  民事調停法及び家事審判法の一部を改正する法  律案内閣提出第一八号)      ————◇—————
  2. 小平久雄

    小平委員長 これより会議を開きます。  内閣提出民事調停法及び家事審判法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、これを許します。青柳盛雄君。
  3. 青柳盛雄

    青柳委員 私はこのいま問題になっております調停法改正法案に反対をする立場質疑をするわけでありますが、最初に裁判所非常勤職員というのはどういうようなものがあるのか、現行法立場お答え願いたいと思います。
  4. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 各種委員会として、たとえば規則制定諮問委員会等委員非常勤に当たります。そのほかにはたとえば家延裁判所技官などで非常勤技官がおられるように聞いております。
  5. 青柳盛雄

    青柳委員 私の調べたところと比較するとたいへん簡単なお答えのような気がするのですが、一応私の調べたところでは、司法委員、これは簡易裁判所の和解に協力する委員のようであります。それから家庭裁判所参与員、それから問題になっております調停委員、それから罹災都市借地借家臨時処理法その他に関係のある鑑定委員、それから防火地区内借地委員というのがある。これはどれに該当するのかちょっと私調べが不十分であります。それからいまお話しのありました裁判所に設置された委員会委員その他の非常勤職員、七番目に参与その他最高裁判所指定する非常勤職員、こういうのがいわゆる非常勤裁判所職員だというふうにいわれているようでありますが、この点はいかがでしょうか。
  6. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘をいただきました司法委員参与員鑑定委員調停委員等は、いずれも候補者として選任され、事件指定がありましたときに非常勤職員になる、こういう解釈でまいっておるわけでございます。その意味では、確かに指定がございますと非常勤職員として扱われておるわけでございます。
  7. 青柳盛雄

    青柳委員 こういう非常勤職員の中で手当支給されている人といない人、まあ人ということばはいささか個人のようにとれますけれども、要するにいずれも委員でございますから、手当支給されている非常勤職員たる委員とそうでない者との区別があるようでございますけれども手当支給されている委員はどういうものがございますか。
  8. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 裁判所に置かれております各種委員会委員につきましては公務員給与法二十二条一項の委員として手当支給されておりますが、先ほど申し上げましたような家庭裁判所技官の場合のような非常勤公務員につきましては二十二条二項の非常勤職員として給与支給されております。
  9. 青柳盛雄

    青柳委員 裁判所に設置された委員会委員には、一般職給与法の二十二条第一項にいう委員に該当するものとして手当支給するというお話でございますが、そうしますと、そういう委員一般職給与法の二十二条をそのままずばり適用されるという法的根拠があるのでしょうか。それともどこからか、準用されるというような準拠法があって、そして一般職給与法の二十二条の第一項が該当するということになるのでしょうか。
  10. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 直接に一般職給与法適用があるということではございませんで、裁判所非常勤職員といたしまして裁判所職員臨時措置法に基づきまして一般職給与に関する法律が準用されておるわけでございます。
  11. 青柳盛雄

    青柳委員 そういたしますと、いま言われました裁判所に設置された各種委員会委員に対しては裁判所法六十五条の二の適用があるわけでしょうか。
  12. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 裁判所法六十五条の二の適用はあると考えております。
  13. 青柳盛雄

    青柳委員 つまり裁判所法六十五条の二の適用があり、したがって、別に定める法律であるところの裁判所職員臨時措置法適用され、また、この法律から一般職給与に関する法律の二十二条が適用になる。こういう順序だろうと思います。そこで、ついでにお尋ねいたしますが、その給与の額はどのようになっておりましょうか。
  14. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 給与法二十二条一項の規定によりまして、一万二千円の範囲内で最高裁判所が定めるということになるわけでございます。
  15. 青柳盛雄

    青柳委員 それはわかります。ですから、一万二千円のワクの中で額は具体的にどういうふうにきめられるのか。これは国家公務員等旅費に関する法律というのがありますが、それの別表第一などを見ますと、「内国旅行旅費」として、車賃日当宿泊料及び食卓料というのがございまして、区分として「内閣総理大臣等」これは「内閣総理大臣及び最高裁判所長官」は日当は一日につき千七百円とかいうふうに日当についてはいろいろ規定がありますが、この日当のことはまたあとでお尋ねするといたしまして、手当について何か基準があるのではないかと思うのです。そこで、人事院の方、お見えになっていると思いますが、手当についてどのようなきめがありますか、お答え願いたいと思います。
  16. 斧誠之助

    斧説明員 委員等手当につきましては、給与法二十二条で一万二千円の範囲内で人事院承認を得て定める額ということになっておりますが、人事院では現行では八千百円以内の場合は承認があったものと見なしております。この四月からはそれを九千五百円に改正する予定にしておりますが、たとえば中央労働委員会とか公労委とか、あるいは船員中央労働委員会とかというように、それ自体が行政組織として独立しておりますようなものは、これが最高で、人事院が一万二千円を承認しております。  それから、ただいま申しました九千五百円以下のものにつきましても、委員会等いろいろ各省に存在するものですから、そういうものがアンバランスがあってはいけないということで、人事院が中心になりまして関係省庁の意見をいろいろ聞きながら額をきめておるわけでございます。  その額を申し上げますと、本省庁に設置されておりまして、本省庁の諮問的な業務を行なっておるような委員会、それは委員長で八千円、委員で七千円、それから、地方機関の諮問的な業務を行なっております委員会におきましては、委員長で七千円、委員で六千五百円というふうにきめております。
  17. 青柳盛雄

    青柳委員 そういたしますと、大体本省に設置されている委員会委員長は八千円、委員は七千円、地方機関に設置されている委員会等は、会長あるいは委員長は七千円で、委員は六千五百円、こういう取りきめは、裁判所に設置されている委員について手当支給する場合の何らかの基準になるというふうに人事院のほうでは見ておられるのでしょうかどうでしょうか。
  18. 斧誠之助

    斧説明員 私のほうできめておりますのは、給与法適用職員関係だけをきめておりまして、特別職等関係につきましては、それぞれの立場できめていただくことになっておりまして、直接は私どものほうのものを基準にしてきめてくださいというようなことは、指導したりあるいは指示したりということは全然ございません。
  19. 青柳盛雄

    青柳委員 そこで裁判所のほうに戻るわけですが、先ほどお答えでは、一万二千円の範囲内でお支払いになっておられるというのですが、つまり裁判所委員にはいろいろの委員があると思いますけれども、大体本省つまり最高裁判所に設置されるという委員会が多いんじゃないかと思いますが、そういたしますと、いまのランクづけからいうと、本省に設置される委員会等会長あるいは委員長は八千円の手当を受ける。各委員は七千円の手当を受けるというふうにも理解できるのですが、この点実際はどうなっておりますでしょうか。
  20. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 最高裁判所におきましても、行政機関に置かれております委員とのバランスの関係上、同様に最高裁判所に置かれております諮問委員会等委員については委員長八千円、委員七千円ということで定めております。
  21. 青柳盛雄

    青柳委員 こういう委員に対して日当を払われる例がありましょうか。旅費日当と俗に言われておりますが、この点はいかがでしょうか。
  22. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 遠隔地から委員の方においでいただくような場合には旅費日当を支払っております。
  23. 青柳盛雄

    青柳委員 そこで先ほどもちょっと触れましたが、国家公務員等旅費に関する法律別表第一によりますと、内閣総理大臣及び最高裁長官日当一日千七百円、宿泊料は省略いたします。それから、その他の者が千五百円、局長クラス指定職の諸君または一等級職務にある者は千三百円、二等級職務にある者は一千百円、三等級以下五等級以上の職務にある者は九百円、六等級以下の職務にあるものは七百五十円、こういうふうに現行法ではきまっております。これはいま国会改正法が出ているそうでありますから、それが制定されて四月ごろ実施されれば、幾らかまた値上げになるそうでありますが、そのうちのどの辺のところを委員に支払っておられるでしょうか。
  24. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 委員あるいは幹事という名称で参加していただいているわけでございますが、それぞれ人に応じまして一応の格づけをしておるのではないかと考えますので、一等級相当の方もおられるし、指定職相当の方もおられるし、あるいは一番若いほうですと三等級というようなところもあり得るのではないか。個々の具体的な事例については、私現在承知いたしておりませんが、それ以下ということはほとんど考えられないと存じます。
  25. 青柳盛雄

    青柳委員 先ほど調停委員非常勤職員であるということの御確認を得ました。もちろん調停委員と私が言いますのは、民事調停法でいうならば、俗にいう予定者とか、あるいは候補者ですか、候補者ということばを使っているのですね。毎年選任されるところの、指定を受ければ調停委員になる方。それから、それだけでなしに二号のほうで当事者の合意することによってきめられた人を、裁判所——裁判所がというのではない、正確にいえば調停主任指定した場合あるいは三項の臨時調停委員と俗にいわれております、調停主任が必要と認めて指定する方ですか。そういう指定された後の調停委員非常勤職員であることは争いがない。これは、俗には何か事実上の調停委員だとか、法的にはあまり明確な根拠がないというふうな誤解なども一部にあるようでありますし、また現在でも解明されているかどうかちょっと疑問ですが、この点はもう争いがないと思うのです。そういう方々に対しては日当を払っておられる。これは民事調停法でいえば九条ですか、それから家事審判法でいうと五条だったかと思いますが、それが法的根拠となって日当を払っておられますけれども、この日当は、現在千三百円、先ほど国家公務員等旅費に関する法律別表第一でいうと、指定職職務または一等級職務にある者というのにちょうど該当するわけですが、これは非常に好遇しているように見えるのですけれども、この点はどうしてこのように日当が高い額になったのかということについて説明をしていただきたいと思うのです。
  26. 勝見嘉美

    勝見政府委員 日当一般についてのお尋ねも含まれておると思いますので、私のほうから日当の概念につきまして説明さしていただきたいと思います。  いま御指摘の実定法上日当という用語につきましては、必ずしも一義的なものではないというふうに考えております。日当には、証人参考人鑑定人あるいは国選弁護人等公務員でない者に対する日当と、ただいま御指摘国家公務員等旅費法に基づく日当、いわば公務員に対する日当という二種類があろうかと思います。  前者の証人参考人鑑定人国選弁護人等に対する日当は、それぞれの根拠法規によって支給されております。たとえば民事事件証人でございますと、民事訴訟費用等に関する法律、それから民事訴訟費用等に関する規則、こういうものに基づいて支給されております。この内容につきましては、所要の場所に出頭して公の事務に従事する場合の出頭雑費のいわば実費弁償のほかに、出頭による収益の喪失というものの補償の要素が入っているものと考えられます。  他方、第二の分類にいたしました旅費法規定しております日当は、広い意味旅費のうちの日当でございまして、いわば旅行中の実費弁償という性質を有していると思います。  それで、具体的にお尋ね調停に対する日当でございますが、調停に対する日当も、その支給根拠といたしましては、先ほど指摘民事調停法九条それから家事審判法五条にございます。条文には旅費日当宿泊料というふうに並べて書いてございますので、この日当実費弁償性質を有するところの、いわば広い意味での旅費の一種と考えていいのではなかろうかと思います。  ところで調停委員は、先ほど指摘のように非常勤公務員公務員の身分を有しますので、公務員に対する日当につきましては、その額として、これも先ほど指摘のございましたように、最高裁判所が定めるところによるわけでありますが、これは旅費法に照らしてみますと相当高額なものになっております。普通の旅費法にいう日当は純粋の実費弁償だというふうに考えますが、調停につきましては、公務に従事するものでありながら現行法体系下では給与支給を受けておりませんので、そういう点も含めまして、日当の額を公務員に対する旅費法上の日当よりも相当高額に高めているものと理解している次第でございます。
  27. 青柳盛雄

    青柳委員 はからずも法務省のほうで、最高裁判所が定める旅費日当及び宿泊料の額の根拠説明をおやりになったのですが、最高裁も同趣旨お答えではないかと思いますが、現実にこの調停委員方々指定職のランクに置くことがいいか悪いかということはともかくといたしまして、千三百円払われている。それだけでなしに、ある特定の日に二件以上の指定を受けた調停事件調停に当たるという場合には、少なくとも一日その人の能力その他いろいろの関係でせいぜい二件くらいだろうと思いますけれども、千三百円プラス千円あるいは千円以上、つまり二件分の日当を支払っておる。現実には千円ぐらい上乗せするというような話も聞くんですが、つまり千三百円プラス千円、二千三百円くらいの日当を一日もらう。これは法的にはどういう根拠に基づくものであるか。事実があるかないか、またあるとすればその法的根拠お尋ねしたい。
  28. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 仰せのように、調停委員の方がたまたま午前一件あるいは午後一件以上、合わせて二件以上の事件を一日中かかって処理されたという場合につきましては、千三百円にプラス千円いたしまして、二千三百円の範囲内でお支払いしている例がございます。これは、本来調停委員候補者制度のもとにおきましては、調停委員の方には一日に一件担当していただくというたてまえがあるのではないか、そういう意味で、そういう運用原則として行なわれておるわけでございますから、一日に二件以上同じ調停委員の方が担当されるというのはきわめて異例の場合でございます。そういう異例の場合に非常に長時間にわたって御苦労いただきましたという趣旨で、若干プラスするという運用を行なっておる。これは調停制度発足以来今日まで、そういうような運用が行なわれてきているということでございます。
  29. 青柳盛雄

    青柳委員 裁判所西村さんにお尋ねいたしますが、先ほど法務省勝見さんのほうでお話がちょっと出ましたが、調停委員には給与がない。正確に言うと、私は手当が払われないという意味だろうと思いますが、何か裁判所のほうでも手当は支払うべきものではないというふうに現行法を理解しておられるのかどうか。
  30. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員司法委員等につきましては、あくまでも善意奉仕、無報酬奉仕していただくという原則に立って候補者制度というものができ上がっておるわけでございますので、報酬としては支払い得ないんだというふうに考えております。
  31. 青柳盛雄

    青柳委員 確かに善意とかボランタリーとかいうようなことばが使われて、あたかも名誉職のように自他ともに扱っているというような面がなきにしもあらずですけれども、これは法的には全然そういう規定は見当たらないわけです。たとえばよく引き合いに出される保護司法の十一条などでは、給与支給しない、費用支給する。それから人権擁護委員法でも、八条で給与はない、しかし実費弁償は行なう。民生委員法の十条では、民生委員名誉職であるというふうに書いてございます。調停委員給与支給されない、つまり非常勤職員として手当支給されないという、またしてはいけないという規定というものはないわけなんですね。にもかかわらず、かってにこれは無報酬のものである、名誉職と同じだというふうに解釈するというのは、何かよほどのことがないと不自然ではないかと思うのですが、この点はどうでしょうか。
  32. 勝見嘉美

    勝見政府委員 ただいま御指摘の点につきましては、条文を読みますと御指摘のように解することもできないわけではないと思います。ただし、先ほど最高裁のほうからお話がございましたように、調停制度が大正十一年に発足して以来、調停委員の性格というものにつきまして、無償の奉仕による民間司法関与という形で運用されてきたものと思います。当初の立法の際におきましても、給与支給しないということで発足いたしまして、戦後いろいろな変革がありましたけれども、戦後民事調停法に統一された際にも、一応公式な理由としては家事審判法にならった。家事審判法理由につきましては、ただ単に支給するということはいっておらないような状態でございます。そういうふうに、いわば施行後現在に至るまでそのように運用されてきておりましたし、私たちもその経過から見まして、現在先ほど指摘条文になっておりますが、むしろこれは給与支給しないというふうな趣旨に解すべきであろうというふうに考えております。なお、人権擁護委員保護司等につきましてはっきり給与支給しないということが規定されておりますが、これも一つの立法形式だと思いますけれども、これは私どもの考えでは確認的な規定であるというふうに解しております。
  33. 青柳盛雄

    青柳委員 調停委員会制度というものが国家事務の一部に属することは争いの余地がないわけでありますけれども、これが民間人協力によって行なわれる。つまり職業的な裁判官あるいは裁判所職員——職業的なという意味は、それのみによって生活を維持する収入を得ているという意味で私ども職業的ということばを使うわけであります。一番わかりのいい話は、私は弁護士の資格と弁護士会にも入っておりますから、その職務を行なうことができますけれども、一方、衆議院に選ばれて国会における仕事が重要なウエートを占めておりますから、弁護士業務というのはほとんどできない。つまり弁護士業務から収入を得ることがほとんどないわけですね。そこで職業は何だと言われたときに、収入を得るものだということになれば衆議院議員職業だ。カッコして弁護士などという書き込みを入れてみたところで、弁護士のほうは収入が入っておらないわけですから、ただ潜在的な職業みたいなものです。そういう意味職業的というのは専門家的というような、そういうことばにつながるものでありますけれども、あるいはまたそれを官僚システムのもの、官僚的というふうに考える人もあるようでございますが、いずれにしても民間人国家事務協力をするということを非常に民主的なものとして評価されてきたわけでありますが、そしてそれが実は無給与である、ボランタリーである、名誉的なものであるということで、それなりにとうといもののように思われてきた面がないわけではないと思うのです。戦前の地方自治体の議員どもほとんど名誉職といわれてそれらしい給与は受け取っておらなかったわけでありますが、戦後の民主主義の時代になってまいりますと、民間人国家事務協力する、主たる収入源職業は別にあるけれども、同時に非常勤とはいいながらひんぱんに国家事務協力する、つまり議員とかあるいは委員とかいうような名前でするようになってまいりますと、これに対してはしかるべき給与を与えるということがいいのだ、つまり金のある人は名誉職ということで社会奉仕ができるけれども、金のない者は事実上そういうものからシャットアウトせざるを得ない、これでは民主主義にそむくわけでありますから、村会議員さんにも従来とは違って一定の歳費を与える、こういうふうになってきたと思うのです。それは民主主義に沿うわけであるから、よく俗に村会議員市会議員などはお手盛りで歳費をたくさん上げて、そして一方でりっぱな収入源のある職業をやりながら公金をむさぼっているというような批判もあり、そういうものは少し減らしたほうがいいとか、やめてしまえなどという極論もあるわけでありますが、私はそういう議論は決して前向きなものではないと思うので、やはり議員であれ委員であれ積極的に国家事務あるいは行政事務協力をするということはいいことだ、だからそれに見合うような給与を与えるということは決して従来のいい伝統を破るということにはならないと思うのです。むしろ従来のいい伝統を実情に合うようにし、またもっとより広く発展させるという意味で、無給でないほうがいいと思うのです。人権擁護委員とか保護司の方などあるいは民生委員の方などを名誉職的なものにしておくという、確認的という説明がいまありましたけれども確認的にせよ何にせよ、無給与であることがいいのかどうかということはまだ検討を要する問題だろうと私は思います。しかし、少なくともこの調停委員を、新憲法の御時世になっても戦前考え方で無給与でいいんだ、ボランタリーでいいんだという考え方というものは決して民主的ではないと思う。だから、調停委員人たちのほうから、あまりにも日当が安過ぎる。本来調停委員国家公務員等旅費に関する法律別表第一などでいうと「六等級以下の職務にある者」くらいの扱いしか受けられないようなのが現状です。つまり七百五十円くらいしか日当としてはもらえないはずなのに、千三百円も事実上払っている。それだけではなしに、一日二件扱われる場合にはそれに千円上乗せをして二千三百円お払いする。これも、一方で無給与であるべきものでありこれは手当を払っちゃいけないんだということをかってにきめて、そしてそれがあまりにも不自然であるために、窮余の一策のような形で指定職一等級職務にある人と同じようにし、しかも上乗せまでする、こういう不自然なことが行なわれているんだと私は思います。  そこで、いままで私のいろいろの見解を述べたわけでありますが、これから現行法のままで調停委員手当支給することができないという特別な法律解釈がない限りはしたらどうかというふうに考えるのですが、この点いかがでしょうか。
  34. 勝見嘉美

    勝見政府委員 形式的に申しますと、調停委員も二十二条一項の委員に当たるのではないかという議論があり得るかと思います。ただ、現在の給与法の二十二条一項の委員は、前回も申し上げたと思いますが、顧問、参与と並んで並記されております。これはおそらく高い学識経験を有する民間人であるということが予定されていると解されるのであります。そうでございますので、現在の調停委員の資格要件のままで調停委員に二十二条一項の手当支給するということには、やはり問題があるのではないかというふうに考えております。  それから現在の候補者は、これも御承知のとおり調停主任または家事審判官の指定によって調停委員の身分を取得します。すなわち、先ほどからお話がございましたように、公務員として身分を取得するのは調停主任または家事審判官の指定によるわけでございます。ところが、この調停主任または家事審判官というものは手続法上の機関であります。公務員の身分の得喪というようなことにつきまして、本来の行政機関でないところの手続機関が関与して公務員が誕生するというようなことになっているわけでございますが、このような任命のあり方の公務員に対して給与支給するという形は、非常に変則的なものであろうかと思います。おそらくはかに例がないのではないかと思います。  いまのお尋ねの中にはございませんでしたけれども、まあ裏返しになるかと思いますが、いわゆる候補者制度をとっておきながら給与支給できるかという問題にも発展するかと思いますが、この例ももちろんないわけではございませんが、この場合はいずれも私どもの調べた限りにおきましては、やはり当の行政権の主体たる者が任命を行なっているようでございます。このたび、他の要請もありまして、調停委員の資質を向上して当初からの任命制の非常勤公務員ということにいたしまして、ただいま申し上げましたような障害がなくなったことによって手当支給できるということに相なるわけでございます。
  35. 青柳盛雄

    青柳委員 人事院の方にお尋ねいたしますが、一般職給与に関する法律二十二条第一項の委員というのは顧問などと並んでおり、そしてその後段のほうには、人事院がこれに準ずる者として指定するというのがありますが、現在のところ指定されている種類といいますか、そういう職種があるのかないのか。それからこの委員というのは顧問と並んでおるので、いまお聞きになったと思いますけれども法務省のほうでは、何か相当の地位の高い人が予定されておるというふうに解せられるというのですが、そういう民間から選ばれた人でも特別な学識経験というか、そういうようなものを備えて選ばれた者でない限り、委員という名前がついておってもこれは除外されるんだというような含みがあるものかどうか、二点お尋ねしたいと思うのです。
  36. 斧誠之助

    斧説明員 お答えいたします。  まず最初に、準ずる者ということで人事院指定している職員は現在一件もございません。給与法二十二条の第一項の職員といいますのは、委員、顧問、参与ということで、職務内容としましては諮問的業務を行なうことが主体になるであろうというふうに解しております。したがいまして、そういう諮問的業務を行なうに必要な高度の学識経験を有している方たちが一項の職員になるというふうに解しておる次第でございます。
  37. 青柳盛雄

    青柳委員 いまの御説明だと、顧問、参与というようなものと並んでいる委員であり、委員というのが大体、審議会というようなものがたくさんあって、そしてその委員だから諮問的だというふうに理解されるように言われるのでありますけれども、たとえば調停委員という委員は、別に諮問的なものではなくて、まさに調停という仕事を日常的に行なう。何か特別な諮問に応じて答えるというようなものではない。これは入らないということになれば、これから法律をつくっても、この法律適用されないことになりますね。二十二条は絶対にそこへいかないんだ。何か今度の調停法の改正によりますと、調停委員非常勤とする、これは民事の場合も家事の場合も。そしてそのあとへ、「別に法律で定めるところにより手当支給」する。その別の法律というのは、裁判所職員臨時措置法からいって、一般職職員給与に関する法律の二十二条と、こういうふうにいくんだ、こういう説明のようであります。そうだとすると、二十二条というものは、そういう本来諮問、的なものあるいは高級な知識、経験を必要とするものを対象にしているんだといえば、そういう解釈ももう余地がなくなって、別に法律で定めるのならば、民事調停委員には勤務一日につき、一万二千円をこえない範囲内において払うというような、そういう規定を設けることが必要になってくると思うのです。そうでなかったら、こんな法律つくってみたところで、二十二条のところへいかないのですから、いってしまえば、いま言った解釈とまさに矛盾をすることになりますから、この点、人事院のほうではどういうふうに考えるのか、また法務省裁判所のほうはどう考えるのか、この辺説明が必要だと思いますが、いかがですか。
  38. 斧誠之助

    斧説明員 現在、公務員の場合、給与法適用を受けている職員の中で一項職員として扱われております者の中には、先ほど申し上げましたような高度のというまでには当たらないのですが、勤務形態としまして、非常に常態的に勤務するというような形ではなくて、きわめてまれに出てくるような形で出てくるような、たとえば公労委の調停委員というような方がおりますが、そういう方は一項で取り扱っている例はございます。
  39. 青柳盛雄

    青柳委員 結局は、諮問的なものであるとか、あるいは高級というか、相当専門的な知識経験といったようなものが前提になっている委員に限るんだというその解釈そのものが間違っているのであって、委員という名前がついている限りは、私は、すべて非常勤職員としての給与を与えていいんじゃないか。もちろん一万二千円という最高額にするか、それともそのランクをいろいろと変えていくか、それはその委員の性格によって、また活動の内容によって違うと思います。先ほど説明もありましたように、委員会にもいろいろの種類があるようでありますから、AランクとかBランクとかCランクとかあっていいのかもしれませんけれども、この点で私は、何か専門的な学識経験ということが絶対のものだということにはなるまいと思うのです。その点は今度の改正からいっても矛盾しないと思うのです。もっとも今度の改正には、何か専門的な知識経験を重視して任命をするから、いまのような候補者制度とは質的に違った人物があらわれる、したがって、この一般職職員給与に関する法律二十二条の第一項の委員そのものに該当するんだというような説明もつくのかもしれませんけれども、じゃいままでの調停委員として指定された者は、全くこの知識経験がなく、ちょうど陪審制度の陪審員として予定されている人、これは現在日本にはそういう制度がありませんけれどもそういう人とか、検察審査会の委員ですかに指定される人というのとは同じではないと思うのですね。長い実績を見ましても、そういうただ偶然的に抽せんのような形で選ばれてくるのではないわけです。ですから、今度改正によってこの給与を合理化していくんだという議論というのはどうも私にはうなずけない。給与にこと寄せてほかにねらいがあるのではないか。いま調停に携わっている人たちの世論は、一斉に給与の改善、待遇の改善ということを求めておりまして、その点では、今度の改正法案の中でも給与を上げるという点では、そのことだけが目的であるならば別に異論はないし、大いに賛成である。ただ、ほかにねらいがありそうだからということで懸念を表明していると思います。したがって、どうもこの点がすっきりしませんと、一般的にこの法案がすらすらと承認されていくということにはなるまいと思います。  そこで、いま任命の問題に触れたようでありますので、そのほうに質問を移していきたいと思うのですが、調停委員裁判所法適用を受ける裁判所職員の一種であるのかないのかですね。その点、いかがでしょうか。
  40. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員裁判所法適用を受ける職員になるわけでございますが、調停法関係で詳細な規定を設ける関係上、直接裁判所法適用を受ける部分が非常に少ないということになるだろうと思います。
  41. 青柳盛雄

    青柳委員 裁判所法の六十四条の規定を見ますと、任免の項でありますが、「裁判官以外の裁判所職員の任免は、最高裁判所の定めるところにより最高裁判所、各高等裁判所、各地方裁判所又は各家庭裁判所がこれを行う。」こういうふうになっている。この適用を受けるのか受けないのかですね。この点はいかがですか。
  42. 勝見嘉美

    勝見政府委員 ただいまの点につきましても前回申し上げたと思いますが、結論といたしましては、改正法案の八条二項によりましてこの六十四条は直接適用はないというふうに考えております。改正案に八条二項として、「任免に関して必要な事項は、最高裁判所が定める。」というふうに規定いたしましたのは、ただいま御指摘裁判所法六十四条の精神は、これも申し上げるまでもございませんが、裁判官以外の裁判所職員の任免につきましては最高裁に一任されているところであります。これは三権分立のたてまえ上、こういう重要な司法行政事務裁判所にまかせるべきであるという趣旨であろうかと思います。このたびの法の改正につきましても、この規定趣旨に従いまして調停委員の任免に関して必要な事項は最高裁が定めるというふうにしたものでございます。
  43. 青柳盛雄

    青柳委員 結論から言うと、現在の調停委員裁判所法適用の対象になる裁判所職員であるけれども、その任免に関しては裁判所法六十四条の適用はないのだ。したがって今度改正してこれと同じものにするというのか。要するに、六十四条を確認するような形に直すという趣旨であろうと思うのですね。六十四条で裁判所職員の中に調停委員が入るとすれば、当然のことながら六十四条の「最高裁判所の定めるところ」できまるわけですから、今度の改正法でそういうことをうたうのは蛇足というようなものだろうと思うのです。確認的なものだと思うので、要するに現行法の七条の規定というものを廃止するのだ、そこにねらいがあると思うのですが、この調停委員をどういうふうにして選び出すかということについての七条の規定というのは、正確にいえば二項の規定ですね。二項、三項の規定などですが、私は非常に調停委員会制度というものにマッチした規定ではないかというふうに考えるわけです。これは六十四条の特別法といいますか、裁判所職員である限りは必ず六十四条の適用を受けるべきものかもしれませんが、その特別法として七条というものがある。特別法としてこれを存続することに意味があるのだ。これを六十四条の一般のほうへ持っていってしまうということは、調停制度をゆがめるもの、つまり世間で非常に心配しておられる官僚化を導入するものである。あるいは、もっと別なことばでいうと専門職化するものである。国民が一般に広く調停という仕事に参与する道を閉ざすというか、資格が専門化されて、そして資質や能力がある人が選ばれる。結局はこれは、給与関係を改正するというようなことで手当を与えるという意味からいうならば、またあとでもお尋ねいたしますけれども改正法案の八条一項の調停委員職務内容の問題など、そういうものともからめて職業化するというようなこと、こういうことになってくると思うわけですね。だから、なぜそのように職業化しなければならないのか。つまり現行法で「地方裁判所が毎年前もって選任する者」とか「当事者が合意で定める者」とかいう者を調停主任が各事件について指定するということには弊害があるというのかどうか。それから三項のいわゆる臨時調停委員というものを指定するのが悪いのかどうか、この点についてお尋ねをしたいわけでありますが、たとえば「地方裁判所が毎年前もって選任する者」の中に好ましくないというか排除したほうがいいと思われるような者はどの程度含まれているというのか、具体的にはどういうのがいけないというのか、これを改正しなければ弊害としてとどまるという根拠を知りたいと思うのです。
  44. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 一般的に申しましては、今回の改正の主たる目的はボランタリーと結合いたしました候補者制度の弊害ということが指摘されてきたということをきっかけといたしまして、調停制度を改善するという方策を検討した結果出てまいったわけでございまして、御指摘のように、民間人としての調停委員の司法参与というそれを最も生かすためにばどうしたらよいのかということで検討を始めた結果でございます。ボランタリーと結びついた候補者制度というものの弊害といたしましてただいま青柳委員指摘されました職業化というものもその弊害として指摘されておるわけでございます。と申しますのは、候補者制度と申しますのは、必ずしもすべての候補者の方が調停事件を処理するというたてまえには立っていないわけでございまして、あるいは処理しないかもしれないという方も含めた広い多くの方を候補者として一応選んでおきまして、その中から事件に応じて調停委員を指名する、こういう方式をとっておるわけでございます。その結果といたしまして、理論的なことは別といたしましても、運用面におきまして全く調停事件を担当しない、ほんとうの肩書きだけの調停委員候補者というのが一方に出てまいりますとともに、同時に非常に時間的な余裕のある方は非常に事件をたくさん担当される。これがいわば収入源という意味職業ではございませんけれども調停事件を非常にたくさん取り扱うという意味で一種の職業化という弊害も、この候補者制度からむしろ出てくるものというふうに指摘されたところでございます。  そのほかに、候補者制度をとる限りにおきまして、善意奉仕者の奉仕に依存しておる、そういう実際的な要請からどうしても調停委員候補者の適当な新陳代謝というのが行なわれにくい。したがって固定化し、あるいは老齢化するという結果も指摘されたわけでございます。そういう前提に立ちまして、やはりそれとあわせまして戦後の社会事情、経済事情、その他国民の法意識といったものの変化に対応いたしましてそれに耐え得る調停委員方々、そういうむずかしい紛争が多発してまいりましたその事態に対応できる能力を持った調停委員方々に入っていただきまして、調停活動というものを一そう充実したものにしていく必要が考えられたわけでございます。その意味ではやはり調停委員候補者という非常にあいまいな制度でなしに、はっきりとした身分を法律上明らかにした上でもって、資質、能力のすぐれた方、と申しますのは調停事務の面から見まして能力のすぐれた方々調停委員として参加していただき、その方々民間人としての知識経験をフルに生かしていただきまして、調停委員会の活動を充実し、それによって適正な紛争解決に役立つことによって国民の利益に適合した、国民のために役に立つ調停制度というものに持っていきたいということで、今回の改正法案をお願いしているわけでございまして、そういう意味調停委員の待遇をいかなる名目であれよくするということが主たる目的ではございません。やはりすぐれたりっぱな方々に充実した調停活動をしていただくというためには、身分をきちんとした上でもって手当支給するという形にしておく必要があるということでありまして、いわば一つの結果と申しますか、改善策の結果として、手当という問題が出てまいったわけでございます。  臨時調停委員の問題につきましては、ただいま申しましたように調停事務の面から見ましてすぐれた方々調停委員になっていただくということになりますと、最近のいろいろな各種の新しい類型の紛争事件を処理するにあたりましては、各界の専門的な知識経験を有する方にも調停委員になっていただく必要があるわけでございます。そういう方々に多数調停委員として参加していただくということができますならば、臨時調停委員という制度は要らないことになるわけでございます。この臨時調停委員という制度が従前認められた理由は、非常に特殊な事件調停に係属した場合にそれに適する調停委員の方がたまたま候補者の中におられないという場合に、それに適する方を特にその事件に限って調停委員にお願いするという趣旨で設けられた規定であると承知いたしておりますが、各界の専門的な知識経験を有する方々にも調停委員に入っていただくということになりますればその必要性はほとんどなくなるであろうということがございますし、またかりにそういう必要性が出てまいりました場合には、そのときにその専門家の方に調停委員として正式に入っていただければよいのではないか、そういうふうに考えますので、臨時調停委員制度というものは不必要であるということで案ができたものであろうと存じます。  なお、最初に申しましたとおり、今度の調停制度の改善はほんとうに民間人の知識経験を調停に生かすということを目的とした制度として考えているわけでございまして、官僚化とかいうようなことは全く考えておらないわけでございます。先ほどからあげられております給与法二十二条一項の意味というのはまさに民間人の知識経験を公務に反映させる目的として定められた制度でございまして、調停委員はまさにそういう意味での「委員」になるわけでございますので、二十二条の一項の「委員」として取り扱うということは官僚化とは何の関係もないことでございます。そういう意味で二十二条一項の「委員」として取り扱うことに弊害が認められない以上は、本来の公務員法体系のもとにおける原則的な形で一項の「委員」として任命することが今度の改正の上において最も必要なのではないかというふうに考えているわけでございます。  なお、念のために申し上げますが、私どもの理解する限りにおきましては、二十二条一項の「委員」と二項の「常勤を要しない職員」というのとは全く性質を異にするものである。いま申しましたように一項の「委員」のほうは民間人の知識経験を公務に反映させることを目的とする制度であり、二項の「常勤を要しない職員」というのは常勤公務員と同じ性質の仕事をされる非常勤職員についての規定であって、全く性質を異にするものであり、かりに官僚化という心配があるとすれば、まさに二項の「常勤を要しない職員」に任命するとすればその心配があろうかと思いますけれども、一項の「委員」ということであればその心配は全くない、そういうふうに確信いたしておるわけでございます。
  45. 青柳盛雄

    青柳委員 説明があったのかどうか私わかりませんが、現行法の二項の二号「当事者が合意で定めた者」を排除してしまうというのはどういう理由に基づくわけですか。
  46. 勝見嘉美

    勝見政府委員 ただいま御指摘の合意調停委員につきましては、おそらく「当事者が合意で定めた者」であればよろしいのではないかということで設けられたものと思いますが、これ自体を考えますと、この合意調停委員制度自体がより民主的なものであるかどうかについてはやはり問題があるのではないかと思います。また現にこの制度はほとんど活用されていないようでございます。いわばこの合意調停委員制度は当事者の個人的な関係ということが比較的表面に出てくるかと思いますけれども、いわば当事者の個人的関係で説得するということでなくて、先ほどから最高裁からお話がありましたように、資質の高い調停委員によって事案の的確な把握の上に適正な調停を行なうというところに目的がございますので、この際この合意調停委員は廃止いたした次第でございます。言ってみれば調停機関の客観性をより担保したものというふうに考えていただければと思います。
  47. 青柳盛雄

    青柳委員 こういう臨時調停委員とか合意調停委員というものを排除し、しかも候補者制度を廃止する、そして固定的に特殊の者だけを任命をしておく、こういうのは広く国民の協力を求めるというのから見れば明らかに閉鎖的であり、否定的であると思うのですね。弊害があるのかということで聞いてみますと、どうも積極的な弊害は考えられない。たとえば候補者について言うならば、これは地方裁判所が毎年前もって選任するわけだ。その選任のしかたがマンネリズムにおちいって、そして一ぺん選任をした人は特別なことのない限りはもう必ず再任させるというような惰性におちいっている。その結果は、名前だけで、事実上指定を受けることもないし、その可能性も薄い。それこそ名誉職といいますか肩書きだけという、そういうのはおもしろくないという、それは私どもわからぬではない。またボランタリー精神も喪失して、ただ顔を並べるだけで、少しも調停の仕事に積極的な活動をしないというような人もあるかもしれません。そうだとすれば、そういう人は毎年整理するチャンスがあるわけなんですから、そしていい人をどんどん、どんどん加えていって新陳代謝をやっていけばいいことなんであって、これを何か二年間固定すれば、まず固定するということの重要性から考えて、任命する際に非常に厳選をするから、安易に候補者をきめるのとは違ってりっぱな者がつぶぞろいになるのだというような、それはあまりにも人事という問題を官僚的に考えていることのあらわれにしかすぎないと思うのです。人をどのように使うかということが人間社会における非常に重要な仕事なんですね。人事の何がしというようなことを言って、人事が非常に巧みである人は人心を収攬してなかなかうまくやっていくというようなことも言われるぐらいに人事というものは非常に重要なものなんですね。社会的な意味においても芸術と匹敵されるとまでもいわれるくらいのもので、非常に重要なことなんですが、それを二年間最高裁判所が固定的にきめてしまう、特別のことがない限り罷免するというようなことはないでしょうし、また先ほど臨時調停委員のような人が必要になってくれば新しく任命すればいいというようなことも言われましたけれども、それはそういう道もないわけではないでしょうが、私は、調停委員というものの門戸を大きく開いておいて、そして積極的にこれに協力をするような意欲のある人、そしてしかも誠意を持ってその仕事に当たるというような人はどんどん指定をするということのほうが前向きであって、何かいままでのやり方も悪かったからそういう制度そのものをつぶしてしまうというところに問題があると思う。当事者が合意で定めるものは本来の調停趣旨からいうとおかしいのだというのは一体どういうことをいうのか。裁判所が関与する調停民間人が、当事者がきめた人間など入れるのは不自然だ。だから調停制度を言ってみると堕落でもさせるような考え方、もっと高級なものが調停なんであって、町の人たちが中に入って話をつけるなどということは、それはもういわゆる昔からよく使われることばですが、下方のやることであって、裁判外でやってくれ、そんなものを調停裁判所関係のないところでどんなことをやって争いごとをまとめたってそれは知ったことじゃない。しかしそんなものを裁判所の中に持ち込んでくるのは、調停制度の中に持ち込んでくるのは何か非常に見識を落とすというか、調停の資質を堕落させるというようなそういう考え方にでも通ずるのかどうかと思うのですが、なぜこれを廃止しなければならないのか。大体調停主任指定するから公務員になるなどというのはおかしいのだというような議論、これもなるほど公務員というものを選任する行為というのは非常に重要なことなんだから、たまたま調停主任になった人がこの事件をやってくださいといって指定するということによって選任が実を結ぶ、いわゆる候補者から格上げするというのか当選するというのか、そういった状態が出てくる、これはおかしいのだというけれども、大体地方裁判所が毎年前もって選任するという行為があるわけですから、そこで決して弊害となるようなことさえなければ、だれがどのように指定したところで別に不自然ではないと思う。これを、最高裁判所が任命しておいたほうがいいんであって、地方裁判所あるいは家事裁判所調停主任が適当に見つくろって指定するなどというのはよくないのだという考え方というのは、私どもにはとうてい理解できない。だから、人事は重要であるけれども、重要だといって、何か高級なところでやるべきであって、排他的でなければならないということではないと私は思います。この点、何か意見があったらお尋ねをしたいと思います。
  48. 勝見嘉美

    勝見政府委員 先ほどの合意調停委員を廃止しました理由につきまして不十分でございましたので補充さしていただきたいと思いますが、現行法の合意調停委員は、おそらく当事者が合意した調停委員ならば当事者に対する説得力に欠けることはなかろうというような趣旨で設けられたものと思います一そういうことでございますので、これを廃止することが決してこれが至って格の低いものであるとかどうとかという趣旨ではございませんが、そういう趣旨で設けられたものであるとすれば、それ自体がより民主的なものであるということは必ずしも言えないのではないかということ、それから現在ほとんど活用されていないこと、それから最も重要な点としまして、当事者に対する説得というものは個人的な関係で説得するということではなくて、やはりすぐれた人によって客観的に妥当な解決をはかるということが制度本来の目的だろうと思います。その意味におきまして合意調停委員は個人的な関係ということがどうしても根にありますものですから、この際これを廃止した。それから最高裁から申し上げましたように、このたびの調停委員のいわば身分の改正が是とされますならば、この調停委員と全く異質な形の調停委員になってしまうということで廃止に踏み切った次第でございます。  それから現行法下における調停主任ないし家事審判官の指定によって身分を取得する問題をなぜ変える必要があるのか、こういう問題でございますが、現行法は御承知のとおり最高裁が任命するという前提をとりまして、それで裁判所がその個個の事件について指定するという構造をとっております。これは調停主任が、現行法改正法もそうでございますが、事件を受理いたしますと、受調停裁判所におきまして、これを調停委員会で行なうか、裁判官単独で調停を行なうかを決定いたします。調停委員会で行なうということになりました場合に、調停委員を具体的にどなたにしていただくかということの問題でございますが、この点につきましては、やはりその事件を受理した受調停裁判所立場において指定したほうがより制度としてはすっきりしているのではないか。なお調停主任調停委員会の構成員でございます。その構成員の一人である調停主任が自分の機関を構成するというのもどうかということでございまして、裁判所指定するということになった次第でございます。  おそらくいまのお尋ねには根本的にはお答えしてなかったかと思いますが、一応制度的に見た形で合意調停委員指定の問題についてお答え申し上げた次第でございます。
  49. 青柳盛雄

    青柳委員 指定調停主任がやったのではなれ合いといいますか、いまのお話では何か不自然なものを感ずるというのでしょうか。だから裁判所がということは、結局裁判所長というほうになってくるのだろうと思う。人事に関しては裁判官会議とか常置委員会とかいうものの制度がありますけれども、いずれにしても調停主任がきめるということよりも昇格さしておいたほうがいいんだ、それもどうもわかりません。何か調停主任がなれ合いをやってよからぬことをやるというような心配があるのだろうか、それとも調停主任などというのはまだそんなに上級の裁判官じゃないのだから、そんなのは人事を扱うなんというのはよくないのだというような考え方がどこか潜在的にあるのか、どうもせっかくこういうふうな民主的な、別に弊害のない法制があるのに、これを変えていく、これが、あとでも質問いたしますけれども、八条の規定などとも相まって、どうも官僚化に道を開くものではないか、決してそうじゃないのだと強調されますけれども、すればするほどその疑いが濃くなるというふうな感じがしてしようがないわけです。  ついでにお尋ねいたしますけれども、今度最高裁判所が任命をするにあたって規則の案を持っておられるようでございますけれども最高裁判所の案としてすでにこの委員会で御説明があったような気もするのですが、それによりますと、第一に「民事調停委員及び家事調停委員の任免に関する事項(改正後の民事調停法第八条第二項、改正後の家事審判法第二二条の二第二項関係)」、それで、一は任命資格、二は任期、三は任命権者、四は任命の不適格事由、こういうふうにありますが、これは現行調停委員規則、昭和二十六年九月十五日最高裁判所規則第十一号、これとどういう関係になるのでしょうか。
  50. 勝見嘉美

    勝見政府委員 ちょっと最初に先ほど指摘指定の問題について一言補充さしていただきたいと思いますが、私の説明不十分で誤解を招いていると思いますので申し上げますと、そこでいう裁判所は手続法上の裁判所でございます。したがいまして、先ほど指摘の所長とかあるいは裁判官会議という趣旨ではございませんので、補足さしていただきます。
  51. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 現行調停委員規則の当該条項を改正することになるわけでございます。
  52. 青柳盛雄

    青柳委員 そうすると、具体的にはこれと照らし合わせていけばいいわけだと思いますが、選考手続について通達をお出しになると言っておられますが、これは通達ですから規則運用の内面的な基準だろうと思います。そこで現行規則の第二条第一項「調停委員となるべき者は、徳望良識のある者の中から選任しなければならない。」こうありますが、今度の試案では「民事調停委員又は家事調停委員は、弁護士その他民事若しくは家事の紛争に関する専門的な知識経験を有する者又は社会生活のうえで豊富な知識経験を有する識見の高い者で、年齢四十年以上七十年未満のものの中から任命するものとすること。」まあただし書きがありますが、それは省略いたします。つまり徳望良識というようなことばではまかない切れないから、これをやめて、そして専門的な知識経験を有する者あるいは社会生活の上で豊富な知識経験を有する識見の高い者、つまり一般人よりはレベルの高い人たち、まあエリートとまではいわないけれども、まあよく社会で指導階級などということばを使いますけれども、少なくとも指導、被指導という関係からいえば、指導階級に属するような人が必要なんだ、やはりこういう専門職のようなことに重点を置く、こういうふうにとれるのですが、「徳望良識」というような概念、二条の第一項は、いま私が読み上げた任命資格、つまり最高裁判所規則案大綱、第一の一号のようなものに改める方針ですか。
  53. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 「徳望良識」に一応相当すると考えますならば、今度の、私どもの考えております任命資格としての一つである「社会生活のうえで豊富な知識経験を有する識見の高い者」というのがこれに相当するということも言えないわけではないかと存じますが、「徳望良識」ということばにまつわる一つのイメージのようなものを払拭いたしたいということが一つの理由でございます。なお、現在の選任基準におきましても、第三項で「各種調停事件調停委員となるべき者の選任は、」「特別の知識経験を有するものの中からしなければならない。」ということになっておりまして、私どもの考えております任命資格の案でいえば、「民事若しくは家事の紛争に関する専門的な知識経験を有する者」というのが、これに一応パラレルになっておるのではないか、そういうふうに考えられるわけでございますが、ここであげてありますことは、結局はやはり調停事務の上において、知識経験の豊かな方であり、調停事務に適する方を調停委員としてお願いいたしたいのだ、そういう趣旨をあらわしているわけでございまして、いわゆる指導者層に属するとか、地位とか身分とか、そういったものには関係のない立場で人選が行なわれるというふうに考えております。
  54. 青柳盛雄

    青柳委員 今度の改正にあたりましても、農事調停とか、鉱害調停とか、交通調停とか、商事調停とかいうようなものは、——商事調停というのはなくなるのかもしれませんけれども、特殊な調停という特別の知識経験を必要とするものは残るわけです、そういう制度は。したがって、調停委員規則現行法の二条の二項とか三項とかいうものは、やはり必要として残るのではないかと思うのですが、そうだとすれば、そういう特殊な専門的な知識経験を必要とする事案というものを担当してもらう特殊な専門的な知識経験を有する人が必要だということは、だれも否定はしないし、積極的に賛成すると思うのですが、何か一般的に専門的な知識経験を有するものが必要だ、どんな調停にも必要なんだということになって、「徳望良識」という非常に広い概念で円満な人格者、だれがその人の話を聞いても、その持っている説得力に影響されて、互譲の精神を発揮するであろうというような、そういう人、しかしこの人は法律の知識は別にない、専門家でもない、それはだめなんだというようなことにはなるまいと思うのですけれども、こういうふうに専門、専門ということを、あるいは知識経験というようなことをあまりにも強調いたしますと、学歴がない者とか、職業歴があまり広くないといいますか、たとえば商業、商売人ならばりっぱなものだけれども、そういうようなことで調停委員には適さないといったような排他的なことになってしまっても困ると思うのですね。これは商事調停のところへ持っていけばいいのだというような議論もあるかもしれませんけれども、何か専門的な知識経験ということにあまりにもとらわれると、これが八条のほうに響いてくるわけなんですよ。それを活用したいという考え方、この点は、もう少し選考基準としても考え直す必要はないのかどうか、重ねてお尋ねいたしておきます。
  55. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 初めの問題でございますけれども、現在は、各種調停委員ということで、たとえば農事調停委員、民事調停委員、商事調停委員という形で候補者をお願いしておるわけでございますが、その点は、今度は民事調停委員、家事調停委員の二本立てで、すべて調停委員にお願いする、こういうことになろうかと思いますが、しかし、それぞれ専門的な知識経験を有される方は、そういう専門家を必要とされる事件、特殊な損害賠償とか医療過誤とか、交通事故とか、あるいは建築請負契約であるとか、そういったそれぞれの分野で的確に紛争の焦点を把握し、また適正な解決案を考えていただくことができるような知識を持った方に、そういう事件に一人は入っていただく、そういうことを考えているわけでございまして、それ以外に、特に専門知識のある方だけを調停委員にして、制限をしてしぼっていく、そういう趣旨では全くございません。また現実調停委員の選任にあたりましては、青柳委員指摘のとおり、各界から多様な方々調停委員として入っていただくということを考えておるわけでございまして、特別の学歴とか地位とか、そういったものを要件にするのではなく、先ほど申しましたとおり、調停委員として、事案について十分な認識、判断力、柔軟な思考力を持った、しかも適当な指導力等を持った方を調停委員にお願いする、そういう立場から選考を進めていく、こういうことでございます。
  56. 青柳盛雄

    青柳委員 時間もなくなってまいりましたので、ちょっと別なところへ移りますが、今度の八条によりますと、二年の任期を持った調停委員は、その資格のゆえに、本来の任務であるところの調停事件を担当し、これに関与するだけでなしに、自分の扱っていない他の調停事件について裁判所からの命令を受けて、「専門的な知識経験に基づく意見」を述べる、あるいはこの文章はどう読んでいいのかわかりませんが、「嘱託に係る紛争の解決に関する事件関係人の意見の聴取」というものを行なう。「その他調停事件を処理するために必要な最高裁判所の定める事務を行う。」この最後の部分については、現在のところ最高裁判所は、一応嘱託にかかわる事実の調査の実施を考えておる、それ以外のことは考えておらぬということでありますから、そういうものとして一応理解するとして、本来の任務以外にこういうことをやることについて、調停委員になっておられる人々の中で反対をしておられる方が非常に多い。これは全国平均で一〇%を占めている。弁護士の会であるところの日本弁護士連合会で、その点に対して、強い危惧の念を持ち、反対を表明しておられます。その理論的な根拠は、本来非常勤裁判所職員ということであるために、何かしら本来の任務以外のことに動員をかけられる、そうなって非常に多忙になるかもしれないというようなことで、それではとても調停委員などには任命してもらいたくないといって給源が減るであろうと、そういう御意見もありましたし、また弁護士のほうの給源がなければほかのほうで歓迎する人たちもいるから、そっちからどんどん採ってくれば少しも不足はない、そういう反論もあるかもしれませんけれども、いずれにしても、それよりもっと根本的な問題は、他の調停委員人たちが扱っている事件について、調停には直接関与しない、そういう民事あるいは家事調停委員というものが、専門的な知識経験に基づく意見を述べるとかあるいは嘱託にかかる紛争の解決に関する事件関係人の意見の聴取を行なう、こういうようなことはおかしいんではないか。やはり調停委員会というものが専門的な知識経験に基づく意見を吸収するということは必要な場合があるだろう。それから他に協力を求めるということで嘱託するということも、現行法でもあるわけだからいいだろうけれども、それを調停委員が、サイドワーク的な意味か何か知りませんけれども、とにかく担当するという、そういう調停委員職務範囲を、本来伝統的に調停に関与するということから広めていって拡充するというか、まあ職業化するという、これはおかしいんじゃないか。そしてそっちに協力したら手当をもらうというようなことになるわけで、そういうのがたくさんくれば手当がふえて大歓迎だ、まさかそんなばかばかしいことを考える人も調停委員の中にはないと思いますけれども、そんなことになったのではおかしいんで、やはり反対すべきではないかという、またこれが専門職化していくとか官僚化する一つのきっかけにもなる。またそういうことがあるものだから選考の対象の中に専門家的な資質、能力を備える人を重点的に置くとか、また任命された調停委員に対しては研修を強化するというようなことが行なわれ、ますます専門化による調停委員の強化ですか、そしてそういう専門家が紛争解決に当たる。つまり、まあ裁判所に準ずるような専門化になっていってしまう。だから一般国民大衆による、大衆的な感覚によって解決の道を講ずるということを否定して、そして何か特殊な人たちの集団がこれに当たるというようになってくる。つまり独善化してくるというようなことがおそれられているわけです。だからこういうサイドワーク的なものは決して調停委員の任務にすべきではなくて、調停委員以外に専門的な知識経験を持っている人はたくさんいるわけですから、経費はかかるかもしれませんけれども、そういう人たちから専門的な意見は聞く。それから事件関係人の意見を聞くというのも、一体どういう手続をとってこの意見を聞くのか、私どもちょっとわからないのですが、まあイメージとして浮かぶのは、ある嘱託を受けた裁判所が特定の調停委員に行って聞いてきてくれという命令を出す、そこでその調停委員は出かけていくなり呼びつけるなりして関係人の意見を聞く。これはどういうふうに録取されて、そして調停を行なっているところに反映していくのか。つまり書面にするのかどうなのか。その書面にするとすればだれがそれを行なうのか、こういうような点を非常に私どもは不審に思うわけです。従来のやり方でそれはできないのか、嘱託という問題は。従来は事実の真相を知るためにだけ嘱託を行なうんであって、当事者その他関係人の意見を聞く、事実を聞くのじゃなくて意見を聞くということはなかったんだから、これは新しい方法だ。たとえば隔地者間の調停というような場合には非常に能率的にいくんだというような議論もあるようでありますけれども、どうもこれは調停というものについて、その本来の任務であるところの調停委員が直に関係者の見解を聞くということが大事なのに、それをほかの人にまかせる、こういうことなんで私どもはちょっとおかしいと思う。しかも現行法の八条に「調停委員会は、当事者の意見を聞き、」というのがあるのですね。「適当であると認める者に調停の補助をさせることができる。」まあ補助の問題についてはともかくといたしまして、調停委員会は当事者の意見を聞くという規定、この八条を排除してしまうわけですね。だから民事調停委員の権限だけをきめて調停委員会が当事者の意見を聞くというのはもう削ってしまって、聞いても聞かないでもいいんで、それは嘱託すればいいんだ、まあそんな変な解釈もありませんけれども、なぜ削ってしまうのか。当然のことだから削ったんだといえばまあそうかもしれませんけれども、それだったら「適当であると認める者に調停の補助をさせることができる。」というのはどうして削るんだということにもなってくるわけなんで、その補助者のことはともかくといたしまして、意見を他人に聞いてもらうというようなことがはたして調停制度と合うものかどうか。それからいま最高裁判所規則できめる事実の調査というのを、これはもう現行法であるわけですから、これを調停委員にやらせるというようなことはすべきではないというふうに思います。この点、いかがでしょうか。
  57. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 まず最初に、八条一項のような職務内容を与えることが調停委員に対して労力を加重することになる、またそれが専門的調停委員を生み出す原因になるのではないか、そういう点の御心配のようでございますけれども、その点はおそらくこの法律案の八条で「裁判所の命を受けて、」ということばがあるので、裁判所が仕事内容をどんどんつくっていくのではないか、そして命じていくのではないかという御疑念から出ているのではないかというふうに想像されるわけでございますが、ごらんのとおり、専門的調停委員の意見を聞くとかあるいは隔地者間の場合に嘱託をするとかいうことをきめるのは調停委員会でございます。調停委員会で、この事件についてはひとつ専門家の意見をこの点について聞こうではないかということをきめた場合に、調停委員会から受調停裁判所に対してその旨申し入れ、受調停裁判所がその聞くべき事項について適当と考えられる調停委員の方にお願いする、こういう順序になるわけでございます。もちろんその場合にも、従前から調停委員にいろいろ調停の仕事をお願いするにあたりましては、調停委員の御都合を伺った上でお差しつかえがない限りにおいて来ていただいているわけでございまして、その専門的意見を聞く場合であれあるいは嘱託による事務をお願いする場合であれ、調停委員がやってあげましょうという場合に限ってお願いすることになるわけで、無理に来ていただくというようなことは全く考えておらないわけでございます。  それから隔地者間の調停について意見を聞くという点でございますけれども、これも隔地者間の調停の場合には、遠い方には全然調停委員会に出てきてもらわないでもって、嘱託によって調停委員が意見を聞くだけでもって調停を進めるというようなことを考えているわけではございません。遠方から毎回毎回期日のたびに出てくる必要のない場合も中にはあるのではないか、その地におられる調停委員の方に一応意見を聞いていただければ、それを前提にして本来の調停委員会での調停活動が進めていける場合というのもあるのではないか、そういうことを考慮いたしまして定められた規定でございまして、全く当事者、関係人の経済的、時間的な節約をはかることができるのではないか、そのために、また調停がおくれないようにするための方法として考えられたものでございます。  それから専門的な意見の陳述にいたしましても、また事実の調査にいたしましても、いずれも厳格な証拠調べである鑑定という方式をとるべき場合にはもちろんそれによらなければならないことは言うまでもございませんけれども、厳格な鑑定方式をとらなくても、その道の専門家に御意見を伺い、あるいは事実の調査をしていただければ、それによって調停事件における紛争の争点を把握しあるいは適切な解決案を調停委員会として発見できるという場合があり得るであろう。そういう場合にも必ず鑑定という方法によらなければならないとすれば非常に費用もたくさんかかるわけでございますし、時間的にもおそくなるわけでございます。そういう当事者の便宜とそれから調停事件の適切な処理、それをかね合わせまして、こういう方式でもって専門家であられる、専門的知識、経験を持たれる調停委員の知識を利用さしていただこうということでございます。ここでねらっている専門的知識というのはそういう趣旨でございますので、法律家は含まないというふうに考えてよいのではないか。法律問題について意見を聞く必要があるならば調停主任たる裁判官、家事審判官がおるわけでございますので、それがまかなうべきであって、そのために弁護士たる調停委員をわずらわすというようなことは考えられないわけでございます。どの程度活用されるかわかりませんけれども、こういう仕事が調停委員に加えられたからといって、調停委員の専門化というようなことはおよそ私どもとしては考える余地がないのではないかというふうに考えておるわけでございます。  それから、一つ落としましたが、隔地者間の調停の場合に調停委員の方が嘱託に基づいて意見の陳述を聞くというような場合には原則として書記官が立ち会いまして、書記官が調書をつくるということになるものと思われます。
  58. 青柳盛雄

    青柳委員 午後一時から本会議がありますからきょうは残念ながらこの辺で打ち切りますが、最後にこういう批判があるのですね。それは、調停が裁判官不在で行なわれているというような、つまり調停に参加される裁判官の数が非常に不足しているというのが実情で、これはもうあげて裁判官の充足が求められているのですが、これは単に調停だけではなくて、一般的な民事事件にあたってこれをさばく裁判官の数が少ない、したがって期日と期日の間が非常に長い、だから判決を得るまでに相当の時間がかかる、これは裁判官が多ければもう少し手分けして迅速に行なわれるのじゃないかという民事事件一般についての共通の現象が調停にもあらわれて裁判官不在の調停が行なわれている、そこをカバーするような意味調停委員職業化、専門化をつくり上げていく、また、裁判による長期化を避ける意味で裁判から調停のほうに移されて解決する事件も多い、結局はこれは司法の反動化なんだというような、こういう議論があるのです。  そこで調べたことがあるかどうかお尋ねしたいのですけれども、裁判から調停のほうに移されて解決された事件の数というものは逐年増加しているのか、それとも横ばい状態なのか、減少形態なのか、つまり、何か反動化といわれる指標となるようなものはあるのかないのか、これは私は調べようがありませんからお尋ねするのですが、調べたことありますか。
  59. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 裁判官不在の調停という点の御批判につきましては御指摘のとおりでございます。この点につきましては、臨調審の協議におきましても、調停制度運用改善のための最大課題の一つとして指摘されたところでございます。しかし、裁判官が不在である、調停に立ち会うことをしないということの理由としては、裁判官が不足している、要するに立ち会うひまがないということが全然ないとは申しませんけれども、それよりもむしろ従前、五十年来の調停制度のあり方といたしまして調停調停委員におまかせするほうが結果としてはよい結果を得られるのだ、また、調停事件に裁判官が立ち会いますと当事者としてもかたくなって思うとおり思うことが言えないとか、あるいは調停委員の方も裁判官に遠慮をされて調停委員としての識見が十分に発揮されないといったような問題もございまして、ともすれば裁判官のほうが遠慮して立ち会わないというような空気ができてまいりまして、それが一般化いたしまして、どういう事件についても立ち会わないというような空気となってしまったというのがおそらく現実の姿ではないかと思われるわけでございますが、ここ最近数年その点につきましては裁判官の間でも非常に反省が起こりまして、かなりの地方で裁判官が積極的に、少なくとも第一回期日はもちろんのこと、適宜調停委員との密接な連絡をとるということによって立ち会いの実質を確保するという努力を続けておるのが最近の状況でございます。こういう方向は今後とも一そう進められていくものと考えるわけでございます。  それから訴訟から調停に移した事件の件数でございますが、簡易裁判所事件で見ましても地方裁判所事件で見ましてもこの十年間にほぼ半減に近いくらい減少してきております。念のために数字を申し上げますと、昭和三十七年には簡易裁判所では七千五百四十件が職権調停という形で調停に付せられているようでございますが、四十六年には四千四百七十一件、地方裁判所におきましては、三十七年に四千六百八件ありましたのが四十六年には二千五百八十九件というふうになっております。
  60. 青柳盛雄

    青柳委員 ついでに、これはいま私お尋ねしたのは、移行した場合の話ですけれども、一般訴訟事件として民事と係属しているのとそれから調停として受け付けられたのとの相対的な推移ですね。全体として、両方合わせてみてどっちがパーセンテージで多いとか、それが年々どういうような推移を示しているか、そういうことを調べたことありますか。
  61. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 昭和三十八年と昭和四十七年を比べてみますと、第一審の民事訴訟の新受件と民事調停の新受件の合計件数に対する調停事件数の占める割合は、昭和三十八年度におきましては二九・二%、その後漸次減少いたしまして、四十七年には二三・六%になっております。
  62. 青柳盛雄

    青柳委員 きょうの予定された時間が来てしまいましたので、法務大臣せっかくお見えになっておられるから一問だけお尋ねをいたしたいと思いますが、実は法務大臣も所属しておられる日弁連のほうでは、今度の改正案は非常に問題があるから修正をしてもらいたい、ただ反対というだけの話じゃありませんで、たとえば給与が上がるというような点は歓迎すると言っておられますし、それから裁判所のほうできめるその調停委員職務内容などについても明確にしてもらわないと困るというようなこととか、それから一番問題になるのは、具体的事件を離れて身分として当初より非常勤公務員とすることは反対だ、こういう。だから今度の改正の眼目は幾つかあるかと思いますけれども、少なくとも重要な点について反対をしておられる。これ、修正すべきものだと私どもは考えるのですけれども、大臣のほうは、絶対修正はしてもらっちゃ困るんだ、委員会あるいは議会におまかせするということであるのか、それを要するに立法、提案された側としてお考えを承りたいと思います。
  63. 中村梅吉

    ○中村国務大臣 実は先日、日弁連の会長と副会長ですから、東弁や一弁、二弁の弁護士会会長さんと御一緒に会いまして、いろいろ御意見拝聴いたしました。  いまお話しのとおり、非常勤公務員にすることは調停委員制度の官僚化じゃないかという疑念があるようでございます。この点につきましては、私からも御説明をしたわけでございますが、たとえば一般の審議会の委員とかにいたしましても非常勤公務員でございます。それから従来の調停委員でございましても、調停委員候補者という制度でありましたが、一たび裁判所からこの事件を担当して委員になってもらいたいという連絡がありますと、同時にその期間非常勤公務員になるわけでございますから、非常勤公務員であるということが、たとえば公務災害のような行き来に起こった事故のようなこととかあるいはまた、その他にもいろいろあろうと思うのですが、そういうことはいままでかつてなかったことでございますが、たとえば涜職のようなことにいたしましても、依頼者は熱心ですからどういうことが起こらないとも限らないという予想はつきます。そういう場合に、非常勤公務員であるということによって、公務員でございますからそういう問題が制度上起こるわけでございますから、そういったようなこととかいろいろ考えてみますというと、やはり、ただ全然関係のない人よりはその職務に携わる間は非常勤公務員であるというほうがいいように思うのだが、どうですかという話をしたわけでございます。  そのほか、問題点のもう一つ言っておられたのは、本人が調停委員会におまかせをしますという一札を出した場合に、書面でとるような制度になっておるようでございますが、一札を出した場合に、かってに調停委員会が裁断を下してしまう、これは非常に圧政的でよろしくないのじゃないかということでございまして、いや、それはそうじゃないだろう、一札出したにしても調停のでき上がるまで、調停委員会が相談がまとまってこれで裁断を下すということになるまでの瞬間までは本人に自由意思があって、一ぺんはおまかせしますという一札を出しましたけれども私はまかされなくなりました、こう一言言えばそれはもう御破算になって、また新たな角度から調停をするということになろうかと思うのだが、それは私の見方なんだけれども、実際どうなのかよくわからないけれども、それならばいいじゃないですかという話などもいたしました。そういうようなわれわれの疑念に思っている点を委員会で十分に解明をして、質疑をし記録に残していただければいいのだけれども、そういう点がわれわれとしては疑問であるということでございまして、したがって、私そのときの感覚では、そういう質疑応答を通して疑問の点が解明されて速記録に明らかになればいいのだというような受け取り方を私はしました。  そこで問題は、修正の問題でございますが、私、ずっとこの案ができまして以来勉強して読んでみたのですが、そういう疑義の点を明らかにさえすれば修正まではしなくてもおさめていただいていいのじゃないかという私は気がいたしておりまして、こちらのほうは原案を提案しておるもんですから、できるならば、できるだけ修正なしに通していただくことがありがたい、かように思っております。しかし、国会でございますから、委員の皆さんのお考えがどうあるか、これからの問題として御討議をいただきたいと思いますが、できるならば修正なしで御賛成をいただければ非常にありがたい、かように思っておるわけでございます。
  64. 青柳盛雄

    青柳委員 いま大臣のお話も出ました、調停手続の強制調停じゃありませんけれども、まかせて適当に処理されてしまうのじゃないかという心配の問題、これも私きょうお尋ねする予定だったのですけれども、いかんせん時間が切れてしまいましたから、これはまた別の機会に留保させていただきまして、きょうはこれで終わります。
  65. 小平久雄

    小平委員長 本会議散会後直ちに委員会を再開することとし、この際、暫時休憩いたします。    午後零時二十九分休憩      ————◇—————    午後二時五十一分開議
  66. 小平久雄

    小平委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。沖本泰幸君。
  67. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私は、先に御質問をされた方々のように、調停なり何なりの調停する側のほうの御経験なりあるいはそういう点についての法律に詳しいほうではなくて、調停を受ける側、きわめて国民的な立場に立って、そういう立場からの御質問を主体にしてお伺いしたいと思います。それはそれなりにいろいろ問題を集めてみたわけで、重複する点も多分に出てくるとは思いますけれども、そういう角度から伺っているのだということで、できるだけむずかしい御回答でなくて、国民が平たく聞いてよくわかるような内容のお答えを得ていきたい、こう考えるわけです。また、私自身の質問が重なる場合もあります。これはいろいろ集めました資料でダブる場合が起きてくるわけでございますので、その点はお許しをいただきたいと思います。私がいただいたいろいろな資料の中で、飛び飛びにはなっていきますが、まず具体的なものから先に伺っていきたいと思います。  まず、私がいただいた資料で、「簡裁における民事調停の実態と問題点」というものをいただいております。そこで執務していらっしゃる方々の中から選んでいただいた問題点でありますので、そういう点を御了解いただきたいと思いますけれども、その資料によりますと、まず調停委員ですが、現在いらっしゃる調停委員は、出身階層が中流とか有産者の方が非常に多い。昭和四十八年度東京地裁選任の管内六簡裁三百四十五名の職業内訳は、弁護士の方が二百三十三、会社役員が二十三、医師が十、民生委員二、農協理事二、その他が三、これは宮司、保険代理業。無職の方が七十二、これは中身は定年退官の簡裁の判事さんであった方、あるいは副検事であった方、教員等がおもになっております。  そこで、これらの委員方々が、いわゆる勤労者階層、低所得者の生活実態をどの程度理解していらっしゃるか。労働者側の立場からいいますと、たとえば調停委員控え室での談話の中で、労組のストライキ、現在春闘が行なわれておるわけですけれども、おもに公労協に関して、これを非難するのみで、やむを得ないもしくは支持するような意見、こういうようなお話は全然出てこない。  特に、弁護士調停委員方々が圧倒的に多いけれども、例外なく本業の忙しさに追われ、引き受けた事件については片手間に簡単に調停を行なう傾向があり、期日は大体午前、午後に開かれるが、その両方を通じて出頭調停をやるようなことはない。午前中または午後に二時から三時を適当にやっているという感じである。若干の例外の方はいらっしゃる、こう述べております。  それから、裁判所職員との関係で、どの簡裁でも調停懇談会というようなものができておるけれども、その事務的処理の一切は庶務、調停係にまかしていらっしゃる。これはそのほうが非常に便利だという慣行もあるので、一様にいなめないという点もあるらしいのです。盆暮れの贈りものは最近少なくなったけれども、春秋二回の総会のときには裁判官、庶務係のほか、民事係全員を含めて宴会に招待している、これを述べていらっしゃるのは、深い意味で、そういうことがいかぬとかなんとかいう立場で述べていらっしゃるわけではなくて、そういうことになっていくと、調停委員の方と職員との間が必要以上に接近してしまうのじゃないだろうか、そういうきらいが出てくる、こういう意味の言い方をしていらっしゃいます。  それから、調停委員の方の裁判官への態度としては、委員の大部分の方がいわゆる権威に弱い点が共通で、職員にはいばって尊大にしていらっしゃる。裁判官には低姿勢で対照的だ。  それから、忙しいがやむを得ず引き受けているというような言動が日ごろの言動の中にある。その反面、調停委員という肩書きに魅力を感じておられるような点があり、選任時にはいつでも辞退できるのに、実際にはおやめになる方がきわめて少なくて、再任されていっておるという実態がある、こういうことが出ております。  それから、調停期日については、調停担当専任の裁判官の方が配置されている庁はきわめて少ない。大部分は訴訟事件処理の片手間に当たっておる。したがって、一日当たり開催件数が多いこともあって、調停主任として全事件に関与することなどおよそできない状態だ。それでも、専任裁判官配置庁ではある程度系統的に、そして重点的に指導、関与ができて、全体的にはうまく運営されていっておる、こういう点の開きがいろいろある。  第一回目の期日の指定指定期日の変更等はすべて係の書記が行なっておる。委員の選任も係書記官が一切行なっておる。終局、いわゆる成立、不成立まではすべて調停委員が取り仕切る。裁判官は右の終局時にのみ出席して、初めて正式の調停委員会が構成されて開催される。不成立の事件に出席した裁判官がみずから再び調停を試みて、その結果として、一転して成立するという事例が間々あるけれども、これは裁判官が第一回の期日から立ち会っておれば、成立の可能性が高いということを示す例ではないだろうか、こういうこともいっております。  調停の成立時には、まず必ず係書記官が入室し、条項を作成しもしくは案文を点検し、しかる後裁判官を招き入れて、あらためて出頭当事者の点検、条項の読み上げ、異議のないことの確認をしている。この時点での、書記官の果たす役割は多大である。委員がみずから条項案文を作成する事は約三分の一くらいで、あとはすべて書記官にまかせている。  それから調停をまとめる過程で、委員が当事者とくに本人のみの場合を強引に承認させることも少なくない。法律知識に薄い当事者にしてみれば、委員の言動が大きく影響する。委員の中には当事者をどうかつしたりして調停案をのむよう勧告する者もいる。成立という、調停の目的にかなった結果が最も好ましいことであるが、問題はそれまでに至る過程であって、当事者が真に納得して合意したものかいなかにある点を考えれば、権威主義に根ざす一切の強制は排斥されねばならないという点をはっきりいっておるわけです。  それから、代理人弁護士がついている事件は、その次回期日が長びく。現在は、次の期日まで大体三週間から一カ月くらいだが、当事者本人のみの事件の場合、比較的にそれが短い。右の弁護士代理人の事件の場合、ある程度の期日延伸はやむをえないとしても早期解決の趣旨に反することになる。一方、代理人が弁護士の場合、不必要に事案をこじらせ、合意を妨げる結果になる事件もあり、調停には必ずしも法律専門家を必要としないということもいえるんじゃないだろうか、こういう点も述べております。  それから、一緒にみな言ってしまいますけれども、受付と窓口。裁判所窓口に見えるかけ込み相談ないし訴えは一日当たり二件から五件くらいある。そのうち、家庭事件。離婚、相続を除くと大部分が調停事件になじむ事案である。また、その事件種別は現下の経済事情を反映したいわゆる賃料値上げが圧倒的に多い。この相談ないし訴え——口頭についてはその大部分を構内にいる司法書士に引き合わせて調停申し立て書を提出させている。  この窓口に見える一般市民に対し、手続面を中心に説明をしているが、間断なく続く受付事務の合い間にしかやれないのでつい不十分な説明に終わらざるを得ない。窓口配置の書記官が現状の一名か二名のままでは手不足でこれ以上やれないわけで、相談ないし口頭受理担当の書記官の増員が年来の関心事で要求もしておる。  それから、いわゆる交通事故による損害賠償事件について簡易書式による申し立てが始められて以来六、七年になるが、申し立ての簡易さから関係人に好評を得ている。そして、管轄が改正法案では加害者の住所、事故発生地でも可能とされているというところからますますこの種申し立てが増加するということを、いわゆる書記官というようなこういう職業立場の人で増加するということが予想される、こういう表現をしていらっしゃるわけです。  ですから、あとのほうで締めくくり的におっしゃっていることがあるのですが、職員問題がここに出てきております。  東京の場合は、新宿で週五日開催、一日当たり件数平均約十件、担当職員書記官が一名、台東で週四日、受付が一日当たり十件、一名です。大森が五日、十五件で二名、渋谷が十五件で二名、中野が四日で十五件、二名、豊島が五日で十五件、二名、北が三日で十件、一名、こういう訴訟事件にくらべてその扱い面で比重が軽く、とくに裁判官の場合、片手間に処理するもの、という形になっている。しかし、担当書記官にとっては、開催回数が多いこと、関係人が圧倒的に多いこと、当事者へのサービスが多岐にわたりその限度がないことなどから多忙であり、かつ不十分な処理に終わらざるを得ないのが現状である。したがって、調停係書記官と裁判官の増員を抜本的に検討し実施されるべきである。右の抜本的にという意味は、調停軽視の風潮をなくしてもらいたい。それから、前記交通事件のほかに公害事件もその管轄面で緩和、拡張されることから申し立て事件の増加が見込まれる。最高裁調停制度について、いわゆる訴訟手続と調停との根本的問題、調停は非訟事件という扱いから訴訟事件はすべて民事訴訟によるべきとする司法制度の大きな問題に目をそらし、一貫してその奨励拡張の方針を強めてきている以上、その人的措置が大前提である、こういうことを言っておられるわけです。  それから今度、これは物的な設備として、改築庁舎を除いて、老朽庁舎、東京の場合は、新宿、台東、足立、葛飾、江戸川、武蔵野それに日比谷の仮庁舎をふくめてこの調停室は、その数が少なくかつ貧弱であり、暖冷房設備などまるで地裁の比ではない。事件数、関係人の数において最も多い調停事件という観点からも、右の改善は早急に行なわれるべきである。新庁舎についても、調停室の数は少ない、予算上やむをえない設計という法廷、いずれも四つの不必要な設置は改め、事件関係人本位に設計されるべきであった。その改造をふくめて検討してもらうべきではないか、こういう意見を述べられております。  私、具体的にそこの場所に行って実際に見てきたわけではないわけですけれども、これは調停を受けるほうの立場からこういう話を聞くと、なるほどもっともだということになるわけですけれども、いまいろいろずっと申し上げたことは、今度の改正の中にずいぶん触れてくるようなことになってもいき、また、いろいろな点から指摘されていっている中身ときちっと合っていくところがあるわけですね。それで、それが具体的に表現されて事実をおっしゃっていらっしゃる。事実の中身を私自体が調査してしさいに合わしてきたということではないわけですけれども、ほぼ横浜のほうに行って勉強したりしておる感覚からいきますと、ほんとうではないかという点も言えるわけであります。そういう点を考えていきますと、この中に指摘された数点について、あとでもほかの視点から御質問はいたしますけれども、一つずつお答えをしていただきたい、こう考えるわけでございます。  そこで、初めの調停委員の皆さんの現在のいろいろな社会的なお考え方、こういうものは別といたしまして、弁護士さんが圧倒的に多いというようなこともありますけれども、いわゆる総会等があって、そこでみな関係者の方がお集まりになって親睦会を開かれる、あるいはねぎらいの意味でいろいろなものをいただけるという点を述べていらっしゃるわけですけれども、こういう疑問に対してはどういうふうにお答えになるわけでしょうか。
  68. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 現在の調停制度に対してきわめて多角的な面から御批判を賜わったわけでございまして、御指摘の多くの点については私どもとしても十分反省しなければならないというふうに考えております。しかし、すでにおわかりのとおり、こういう御批判にこたえるために今度の法改正なり予算措置なりをお願いしてきたわけでございます。  ところで、ただいまの御質問の懇話会のことでございますが、これは、おそらく各簡易裁判所調停委員方々裁判所職員との間の懇親の意味を含めた会合が年に一度ぐらいあるのでないか。そのときに一緒に会食をされるというようなことがあるのではないかと思いますが、その場におきまして裁判官なり一般職職員なりの側において不当なもてなしを受けるということがもしかりにありましたとすれば、私どもとしてももちろん反省しなければならないと考えております。  その程度でよろしゅうございますでしょうか。
  69. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ほかのことはこれから一緒にあわせながらお伺いしていきたいと思うのですけれども、そこでいろいろな問題があるわけで、結局臨調審の新しい改正案の設置理由というのは、近年民事及び家事事件の紛争が複雑多様化して処理が困難なものになってきているので、このような社会の変化に即応する適切な施策を講ずる緊急な必要があるという点で、加えて民事調停事件が横ばいないし減少の傾向であり、家事調停事件は成立率が非常に低いという実態が出てきておる。こういう面を打開するために国民の裁判、調停に対する信頼を高めること、だれでも簡易に利用できる、しかも国民の権利が十分に確保できる裁判所にする方策を講ずべきという点にあるわけなんですけれども、こういう点をやるには、いま言ったようなことを述べていらっしゃる立場方々のほうから見ると、裁判官不在の調停をなくするためにできるだけ裁判官の確保、当事者の主張を明確にして公正さを担保する調停記録の整備や事実関係、人間関係を把握、調整するに足るだけの書記官、調査高等裁判所職員の増強及び国民の各界各層から健全な良識を持った人たち調停委員指定できる方策等を講じなければならないはずだ、この点にかかっているんだということになるわけですけれども、ところが裁判官の適正確保というものについては、将来とも裁判官が調停期日に立ち会うことを可能とするに足るだけの裁判官の増員を行なうことはきわめて困難であるばかりでなく、必ずしもその必要もないと思われる。こういうふうにして、その辺に調停委員公務員化されていくのではないだろうか。そこへ、仕事の負担がうんとかかっていって変わっていくのではないだろうか。また手続が職権主義化というような、調停制度そのものを変質させるような内容をこれからこの中に盛り込まれてくるのじゃないだろうか。ですから、民主的司法制度の確立、発展の方向とは反対の方向にいまのような内容からいくといってしまうのではないか、こういう疑いが出てくるという点を言っているわけですけれども、この点についてはいかがでございますか。
  70. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 まず、裁判官不在の調停という点についての御批判でございますが、これも臨調審でも非常に大きな運用改善の問題として取り上げられたわけでございます。ただ、裁判官不在ということの意味でございますけれども、臨調審でも指摘されたわけでございますが、裁判官は必ずしも調停に終始立ち会うことは必要ではないのだ、むしろそれは害があるのだという御意見もかなり有力であったわけでございます。調停委員に非常にすぐれた方々がおられる場合におきましては、裁判官が立ち会ってへたな口を聞きますと、かえってせっかくうまく進行していた調停がこわれてしまうというようなこともいわれるわけで、また実際はそういう例もないわけではなかったわけでございます。また同時に、裁判官が常時立ち会っておりますと関係人としては思うように主張をできない、むしろ調停委員方々だけのほうが率直な意見を述べることができて非常によいのだという当事者側の御意見もございます。また調停委員の側からも、裁判官が立ち会っておられますとやはり裁判官のほうへの遠慮もございまして十分活動しにくい、その結果、せっかく民間の良識を反映させるべき調停において調停委員方々が十分に活動できない、その能力を十分に発揮できないというようなことも指摘されたわけでございます。そういう意味で、裁判官は必ずしも調停に終始立ち会う必要はないのではないか。もちろん事件によりましては裁判官が終始立ち会ったほうがよい事件もあると思いますし、その辺は事件ごとにそれぞれ裁判官が選択して、この事件についてはこの程度の立ち会いをするし、この事件についてはできるだけ調停委員におまかせして、ただ始終連絡は密にした上で、調停の進行について適当なアドバイスをする、そういう事件の選択によって適当に処置ができるということが最も理想的な姿であろうかというふうに考えられるわけでございます。その点、従前は必ずしもそういう運用がなされておりませんで、確かに調停委員の方におんぶしてしまって、裁判官は調停のほうにはほとんど顔を出さない、でき上がったときだけ顔を出すというような運営がかなり広く行なわれてまいりましたことは御批判のとおりでございます。しかし、最近その点につきまして裁判官の間でも非常に自覚が強まってまいりまして、調停について関心を持った上で熱心に調停運営について調停委員協力する、そういう裁判官の方々もふえてまいったわけでございまして、このような点につきましては、必ずし裁判官が多忙であるというだけの理由で立ち会わなかったということではないようでございます。むしろ裁判官の調停に対する心がまえの問題がかなり大きな影響を与えていたように私ども思うわけでございます。もちろん今後御指摘のとおり調停制度の改善によりまして調停事件が増加してまいるというような事態が出てまいりますならば、真剣に裁判官の増員というようなことも考えなければならないであろうと思うわけでございます。  それからさらに書記官、事務官の執務の関係でございますが、確かに今度の改正をもし実現いたしますと、あるいはまた改正法によらないにいたしましても、運用の点について諸種の改善をいたしますと、書記官、事務官の事務量というものがふえてくることも予測されるわけでございます。そこで、今回予算面におきましては地方裁判所家庭裁判所はそれぞれ事務官を二十六人ずつ増員を要求いたしまして認められたわけでございます。書記官の増員ということは、書記官の任用資格が非常に高い関係もございまして、直ちに充員するということにいろいろの問題がございますので、書記官の補助者である事務官をまず増員いたしまして、書記官の従前行なってまいりました雑用的な補助事務事務官に肩がわりしていただき、書記官の負担をその分だけ軽減するということを考えておるわけでございます。  そのほか、先ほど指摘のございました交通事故調停につきましては、簡易な受付の手段がとられましてから事件数が著しくふえたということもございますし、当事者の方々からも喜ばれているということでございますが、交通事故に限らずほかの事件、特にいわば定型的な申し立てが可能なような種類の事件につきましては、定型的な申し立て用紙を作成いたしまして各裁判所に配布し、そこで当事者に自由にそれを使っていただけるような処置をとりたいということで、その点に関する予算的な措置もある程度認められたわけでございます。そのほか調書の簡易化とか、あるいは調停に必要とされる計算機その他合理化に必要な器具類等についてもある程度の予算的措置をとりまして、一そう運用の改善をはかってまいりたい、このように考えておるわけでございます。
  71. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いまおっしゃっている点についてですけれども、結局先ほど申し上げた中で、たとえていいますと第一回の期日からついていらっしゃれば不成立が一転して成立したという事実がたくさんある、そういう点からも裁判官が立ち合っておれば成立の可能性が高いということを一つは示しているんだ。それから調停成立時に委員がみずからその案文を作成することは約三分の一ぐらいだ、あとはほとんど書記官まかせである、こういうふうなことがずっと慣行的に続いてきて、その結果簡易になっていって、手をくださなくても済むというような面が、むしろ感覚的に裁判官が少なくてもいいんだとか、そういうふうな考え方にまとまってきているんじゃないか。あるいは省略されている点とか、あるいはなしくずしに仕事の面が下のほうにずっと移ってしまって、そこで習慣的に行なわれていく。それが結局は裁判官が立ち合わなくても事は終わっていくからというような感覚が生まれてきて事が進んでおるというようなことで、不必要という考え方が生まれてくるということになるんじゃないかと思う。ともすればわれわれの一般社会でも、上に立つ人が目を通さない場合には事が足りていると思っていることが非常に多いわけですね。ところが目を通していれば、あるところに仕事なりなんなりが集中してしまって、そこではもう一生懸命苦労している、ところがその苦労というものが全然映っていないというような面が社会生活の中、あるいは政府関係の各官庁の中でもいろいろあるわけですね。それが自然に長い間のしきたりみたいになっているとどうしても目が届かなくなってしまって、それがあたりまえのような形に変わっておる。それも調停委員さんも任命されてかわるわけですから、かわってくると、自分のかわってきたところに同じ事態の内容のものが展開されておって、自分は直接に気づかない間にそのまま調停の中身が進んでいく。そういうことをあらためて振り返って、さて問題点を改正するために考えてみると、そんなこと必要ないじゃないかという結論が出てくるというような何か断層的なものが間にあってそういうことになるんじゃないだろうか。そういうものがあるから、むしろ現場にいらっしゃる方々の中からそういう非常な疑問がどんどん出てくる。で、その疑問の中からはこういう問題を軽視する風潮を改めてほしいという注文も出てきている、こういうことになってくるんじゃないかと思えるのですね。それからここにも述べていますけれども調停委員さんは、むしろおれたち奉仕してやっているんだ、こういうふうな風潮もあるというわけですね。そういうふうな間の中の問題というのは初めからしまいまでついている方の目にそういう内容のものが一番よく映るのじゃないだろうか。ただ勤労者であるから、労働力云々から、労働過重になっているからその分だけ省いてという計算づくの中から出てきている要求ということではないというふうな点から見てみる必要もあるというふうに考えられるわけですよ。結局、合意があれば当事者が委員指定できるようになっておるし、そういう意味で検察官審査制度とともに国民が司法に直接的に参加できる数少ない制度の一つであるという点から考えていくと、そういうものがだんだん省かれていくという点について官僚統制になっていくのじゃないか、こういうふうな疑問をここへ生み出してきているということになるわけですね。ですからさっき言ったとおり、軽視するような内容、そういうものの中から調停が形式化されていき、権威主義的な内容を持っていき、専門技術的な人たちの面がどんどん加わっていくと、今度は逆の方向に片寄ってしまう、こういう心配が出てくるという点に変わっていくのじゃないかと思われるのですけれども、そういう疑問を持っているから調停委員が官僚化されるのじゃないかというような疑問も発想点というのはやはりその辺から出てくる。これは外から見ていろいろ批判をしていらっしゃる面と、それから内からいろいろ見て批判している面、同じような官僚統制という指摘をしていらっしゃる。こういう点があるわけですから、この点についてはもっと多くの内容を検討していただいて、そうでないというのなら、こういうふうな形で整えていくからその問題は心配ありませんというふうに、これまでの問題はかくかくしかじかの問題点があったのだ、それをこういう形で変えるわけだからそれについては一切心配要らなくなるような形にきちっとでき上がる、こういう内容のお答えが得られなければならないと思うのですけれども、その点についてはいかがですか。
  72. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 確かにただいま御指摘いただきました考え方というものは従前の裁判所にあったことを私どもも完全に否定することはできないわけでございます。  まず何より第一に裁判官の調停に対する心がまえといいますか、意識を変えていく必要がある。調停事件の処理についてやはり裁判官は全責任を負っているという意識でもって調停事件に接していかなければならない。その意識の改革ということはいま逐次行なわれつつあると見てよろしいのではないかと私どもも考えておるわけであります。  調停委員のことに関しましては、今度の改正によりまして調停委員に真にふさわしい方々調停委員になっていただき、その民間人としての知識、経験を調停に生かしていただくということを目的として改めようとしているわけでございまして、官僚化とか統制するとかいうこととは全く関係がないものと私どもは考えておるわけでございます。もしそういうふうな見方が裁判所職員の中からされるといたしますと、その点については私どもとしてはやはり真剣に反省した上で、また理解も求めていかなければならないというふうに考えております。
  73. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これも先ほどずっとお述べしたわけですけれども調停をまとめる過程で委員が当事者、特に本人のみの場合、強引に承諾させることも少なくない。法律知識にうとい当事者にしてみれば、委員の言動が大きく影響するという点はうなずけないことはないと思うのですね。先ほどお答えの中でも、裁判官が初めからしまいまでついていると、裁判官がついているということで当事者が非常に萎縮してしまったりいろいろなことでむしろ円滑を欠いてしまうような点があるというお答えがあったわけです。だからそれにならっていけば、調停委員であっても、出る場所、建物、いろんな点、初めて出ていったりすると、特に気の弱い人だと、自分のかかえている問題は必死の問題なんですけれども、そういうふうな周囲の状況に押されてしまってものも言えない、あるいは萎縮してしまうという心理状態になるわけですね。ですからそういうところから、適当な答えを得ていって本人が自由濶達に意見を述べたり考えたりして答えを出そうとしてもなかなか出てこない、そのために調停委員が当事者をどうかつ、あるいは調停案をのむように勧告しておるような例も中には幾つもある。だから、成立という調停の目的にかなった結果が最も好ましいことではあるけれども、ほんとうに納得して合意したものかどうかという点を考えていくと、そういういわゆる権威主義的な姿勢なり何なりというものに押されてしまうという点があるわけです。それが今度専門化されていって、ともすれば専門的な方は自分の専門的な見解に対しては自信を持っておったり、また自分の考えを押しつけようとする、あるいは一切引かないというようなものもありますから、そういう御意見が強く出てくるとどうしてもその方向へ引っぱられてしまうというふうなことが考えられるわけですね。これは当然だと思うのですけれども、そうなっていくと、むしろ専門知識の上に立った人がそういう立場に立って専門的見解を述べられ、それに立会ったほかの同席の調停委員の方も、専門的な意見を持っていらっしゃる方の意見だから最も尊重すべきじゃないかという点を言われると、問題は当事者であるのに、当事者そこのけの議論が上のほうでかわされてしまってそれに同意させられてしまうということは、裁判所のほうでお考えになったことを飛び越えたところの辺まで問題が飛び込んでいかないかということなんですね。先ほど申し上げたのは、そういうことのない以前でさえそんなにあるんだということなんです。それを今度、専門家を入れてそこで専門的意見を立場上どんどん述べられると、何も言わないでということで、むしろその公平さあるいは合意を得ていくという当事者の合意が隠されてしまう、そういうものがやはり権威主義ではないかということになってしまって、調停という本来の目的から逸脱してしまった形でなっていく。まるで判決を受けてしまうというようなことになりますし、そこで得られたものは判決と同じような効力を発するというようなことになってきますから、これはいわゆるコンピューターでやるわけじゃないわけですから、その辺を十分考えていただいた制度にしていただかなければならないけれども、そういうものの歯どめというものをどこに置いてものさしではかれるかということになるわけですね。専門家のおっしゃった専門意見というものがどの辺で納得できるような専門意見であるか。それば専門的な立場からあらゆるものを考え、研究した上での公平な専門意見であるかどうか、一方的に片寄った専門意見であるかどうかという点も判断しにくいような内容になってくるんではないか、こう思うわけですね。あるいはまた当事者自身がある程度の専門知識を同じように持っておったとしますと、同じ専門知識というものがそこで衝突を起こして結論はよけい出なくなってくる。むしろ何にも専門的知識のない人が常識的に公平に判断したほうが一つの妥当な線が出てくるというような点もないことはないわけですから、そういう点を考えていくと、いま意図されているものがはたしてより効果的な結果を生むかどうかという点については非常に疑問があると言わなければならない、こう考えられるわけですけれども、そういう点、いかがでございますか。
  74. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員による押しつけ調停という批判も確かにおっしゃるとおりあるわけでございます。それが望ましいことでないことはもう言うまでもないことでございまして、その意味で、やはり調停委員方々には公正公平な判断力と柔軟な思考力を持った方に入っていただき、強制的に何でも進めていくというようなことのないように運用していかなければならないというふうに考えております。  また専門的知識を持たれる調停委員方々の御活躍の場を広げるということにいたしましても、その専門的な知識が事件の処理にあたって決定的な重みを持つというような形で運用されては、あるいに御指摘のような弊害が出てまいるのではないかというふうに考えられるわけでございまして、やはり当事者の主張を十分理解し、把握し、事実の争点がどこにあるかを調停委員会として判断する材料としてやはり専門家の知識をおかりする必要があるという場合に、そういう知識をおかりするということではなければならないわけでございまして調停委員会としての調停活動の一資料という意味で考えていくべきであり、決定的なきめ手というような形で利用されてはやはり問題があるということは御指摘のとおりであろうかと存じます。結局は運用の問題に帰するわけでございまして、法律制度を変えるだけでは御心配の点を完全に除くというわけにまいりません。運用の面につきましては一そう私どもとしても御指摘のような点を十分配慮して適切な運用ができますように今後の努力を傾倒してまいりたい、そう考えます。
  75. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それはわれわれだって、思想的に右寄りであるとか左寄りであるとか、自分はきわめて公平的な思想を持っておるのだと思っていても、話しているうちに、自分の言っている話の内容がきわめて左にかかっておった発言であったり、あるいは右のほうにずっと寄っておった意見であったりすることがあるわけです。自分はそういうことを考えてないのだけれども。同じように、同じことをこだわって言うようですけれども、結局公平な専門的な知識を持った、高度の知識をお持ちの方々にやっていただいて、より具体的なものをより公平に出していきたいと思っていることが逆に結果的には片寄ったことになってしまっているということが言えないかということになるわけです。たとえて言うと、弁護士資格のお方をよく調停委員にお選びするということは理想的なことでもあるわけです。法律の専門家でもあるわけですから、願ってもないことであり、その専門的な立場からいろいろな調停内容について判断していただける、意見もいただけるし、中もとっていただけるということになりますから、いい場合もあるのですけれども、逆の場合、その方によって、先ほど言ったとおり裁判官がお立ち会いにならないままにすっすっすっすっと仕事が進んでいくと、結果的には裁判官の仕事もお引き受けになってしまうのじゃないか、こういう疑問が出てくることになるのですがね。そういう心配がある、こういう意見を述べているわけなんですが、そういう点についてはいかがですか。
  76. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 前段の問題でございますが、公平公正ということを要件というふうに申し上げたわけでございますが、何が公平か、公正かということを客観的に定めることはなかなかむずかしいわけでございまして、仰せのとおり自分は公平だと思っておりましても、客観的には公正公平でないという場合もあり得るかと存じますけれども、何よりもやはり公平公正でありたいと念願している人というふうに言いかえたほうがあるいは正確かもしれないというふうに考えるわけでございます。専門家につきましても同様でございまして、単に専門技術知識が豊かであるというだけでは足りないので、調停委員としてはやはり人間性の豊かな方であること、いま申し上げましたように公平公正でありたいと願っておられる方であることがまず必要であろうか、そういうふうに考えるわけでございます。
  77. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そこで、即日調停の円滑な実施、争点整理、証拠資料の収集、事実の調査の実施、適正、迅速化ということがいわれているわけですけれども調停委員の主導で行なわれるときは弊害が出るのじゃないだろうか。なぜかというと、その改正法案では調停委員職務を拡充することとしておって、職務の内容を最高裁のほうでお定めになるという点を考えていくと、調停手続が職権主義的影響が起きてくるのじゃないか。または調停委員が成績主義が導入されるのではないだろうか。というのは、裁判官に対する勤務評定、考課調書、統計などによることはいままでも実施されておるというようなことから考えると、そういう心配が出てくるのじゃないでしょうか、こういう疑問があるわけなんです。この点、いかがですか。
  78. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 即日調停の実施ということにつきましては確かに答申の中に出ておるわけでございますが、今度の改正法案の中では盛り込んでおらないわけでございます。その理由は、庁によってあるいは調停委員方々によっておのずから違いがあるだろうということでございますが、たまたま申し立てがあったときに、調停委員の方でもってお手すきの方があり、時間的に余裕ある方があるということであれば即日調停ということは可能であるわけでございますけれども、常にそういう状況を予定していくということは不可能なわけでございます。もちろん裁判官がおりまして、裁判官が時間があれば裁判官による即日調停ということはできるわけでございますけれども、それも常に必ずできるということには現状におきましてはならないわけでございますので、そういう意味では即日調停ということは今回は見送っておるわけでございます。  調停委員職務範囲を拡充するという点につきましては、八条の一項で最高裁判所規則で定めるということになっておるわけでありますが、その規則の内容として私どもが考えておりますことは、嘱託による事実の調査の実施だけでございますので、それ以外に調停委員職務範囲が広がるということはないと考えておるわけでございます。  それから成績主義ということでございますが、どういう趣旨かわかりませんけれども調停委員として真に適格のある方であるかない方であるかというのは長年の間にはおのずから判断されてくる。これは裁判官が必ずしも判断するという意味ではございませんで、当事者の側から見ましてもあるいは代理人の側から見ましてもあるいは一般の裁判所職員の側から見ましても、おのずから評価というものは出てくるかと思いますが、そういう場合に不適格である、調停委員としては望ましくない、先ほどの例にあげましたような押しつけ調停をする、そういうような方は望ましくないということになれば、任期が変わるときには再任されないということは出てくるかとも存じますし、またそうでなければならないと思います。いわゆる考課表をつくるとか、日々そういう成績を評価する、あるいは事件の成立率が高いからどうか、成立させることができないからどうか、そういったような形での形式的な評価というのはおそらくあり得ないことではないかというふうに考えております。
  79. 沖本泰幸

    ○沖本委員 もとに戻るような御質問になるかもわかりませんけれども、この調停は訴訟に比べて、言わずもがなですけれども、手続に高度な法律技術を必要としないし費用もそれほどかからないし、だれでも簡単に利用できるという点に特色があるわけですね。その反面、そこに欠点があるということもいえるわけです。先ほどおっしゃっておったまあまあ調停とか人生観や考え方の押しつけ調停があるという批判があるわけですね。確かに当事者の権利主義関係があいまいにされる危険はあるのではないかということは考えられるわけですけれども、結局何度も繰り返すようですけれども、裁判官が少なくて訴訟事件の処理が優先して、調停事件調停委員まかせにならざるを得ないという点にあるというのです。たとえば東京の家庭裁判所では、一人の裁判官が通常午前十件、午後十五件くらいの処理を担当している。これに加えて調停委員のお年が非常に高い。平均六四・一歳、七十歳以上の方が二九・九%、それから職業化、任期が平均民事が一二・一年、家事が一一・七年くらいが平均だ、こういうようなのが顕著に見られる。これでは調停に対する国民の強い信頼を得るという点については非常にむずかしいんじゃないか。結論的にはやはり数をふやしていただいて、内容を十分整えていただく以外にいまより以上によくするということにならないんじゃないかという点を言っているわけですけれども、結局結論的にはそこへいくのであって、われわれだってこの法律を頭からいけません、だめです、こういうのではなくて、より国民のためにいい内容のものができてくればそれにこしたことはないわけですから、そういう角度からいろいろ考えていくと、むしろこれはもとのままでもう少し手直ししていただいたほうがよくなるのではないかというような意見がいま代表されているんじゃないかと思うわけです。だからそういう面、裁判官をふやしたり職員をふやしたりあるいは中身を整えていただいたり、扱い方をもう少しよくしていき、いろいろな点を、内容を整えていただけばそのほうがむしろいいのではないかという点を言っているわけです。そのほかに、結局国民がだれでも選んで飛び込んでやれる内容でもあり、内容が調停という点にかかれば、やはり一般国民参加的な調停委員を選んでもらったほうがいいんじゃないかということなんです。ですから専門化していくというのはこっちへ片寄っていき過ぎるんじゃないか。やはり中庸をとって、まん中をとっていただいたほうがいいのでないかという意見に固まってくると思うのです。その辺はいかがでございますか。
  80. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 よりよい運用を行なうためには、やはりよりよい運用の行ない得る基盤としての制度を改めるということが必要ではないかというふうに考えておるわけでございまして、今度の改正はよりよい運用を行なうための必須の条件としての制度の改善を法案でお願いいたしているわけでございまして、法律ができますればそれで足りるということではもちろんないわけでございまして、法案の精神を生かした運用ということに最善の努力を傾けていくということをこの機会に申し上げさせていただきたいと存じます。  なお調停委員が専門化するという点でございますけれども、ちょっとそこの趣旨が私ども理解が誤っておったのかもしれませんが、調停の専門家をつくるという趣旨では今度の改正はないわけでございまして、調停の対象となっている紛争に関連いたしまして専門的な知識、自然科学上の知識あるいは社会科学上の知識を必要とするような事件がふえてまいりましたので、そういう方面の知識を持っている方に調停委員として入っていただくという趣旨でございまして、調停委員全体を専門化するというようなことでは決してないわけでございますので、その点私の誤解でございましたならばおわび申し上げますけれども、一言つけ加えさせていただきます。
  81. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それから遺産分割の特則は評価がむずかしいけれども裁判所側からの仕事の片づけやすさという面が否定できないということで、このことについては日弁連も賛成していらっしゃるようだけれども職員のほうから見ると事務量がうんとふえてきて、かえってたいへんなことになってくる、こういう点を言っているわけなんですけれども、この点はいかがですか。
  82. 裾分一立

    裾分最高裁判所長官代理者 いま沖本先生から御指摘の遺産分割事件についてでございますが、これは家庭裁判所で扱っております事件のうちで一番たいへんな事件だと申し上げてもよろしいかと思うのでございます。御存じのように遺産分割は非常に当事者が多うございまして、現在まで裁判所で受け付けた事件のうちで一番当事者が多かった例は、一つの事件で五十七人も相続人がいるといったような事件がございました。そういう当事者が、中には東京で事件をする場合にも北海道にいるとかあるいは九州にいるとかいうふうに全国的に分布しておりまして、それが一堂に会して調停を受けるということはなかなかむずかしいということで、当事者の間に実質上もう問題がない、被相続人が死亡する以前にすでに財産分けを受けておる者などは、もう遺産分割で自分の分け前をもらわなくてもいいと言っているような者がいるというような、そういうふうな場合もございまして、実質上はもう問題がないから自分は調停期日に遠方までわざわざ行って調停を受けなければならぬ、そういうことはかんべんしてもらいたいというような場合には、その方が出て見えなくても調停が成立するような道を開いておきたいということが今度の遺産分割事件についての改正のねらいでございまして、当事者のために非常に便利のいい手続になるわけでございまして、またその手続によって生ずる不安、たとえば自分の真意に基づかないような書面の合意がなされるおそれがあるというような危惧、そういう危惧に対しては十分に規則手当てをいたしまして、真意を確認した上でなければ調停が成立するようなことはないというような配慮までいたしまして、この新しい道を開こうというのが趣旨でございまして、最後に沖本先生が御指摘の、そのために事務量が非常にふえて職員が難儀をするというふうな点は私どもは心配しておらないのでございます。
  83. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほど窓口問題を申し上げたわけですけれども、これは私も実際にほかの問題で行って、見た面では、確かにそうではないかと思われますですけれども、その辺はいかがなんでしょうか。かけ込みの相談が一日当たり二件から五件ぐらいある。家庭事件を除くと大部分が調停事件になじむ事案である。その事件の種別は現下の経済問題がおもである。だからその相談ないし訴えについては、その大部分を司法書士に引き合わせて調停申し立て書を提出させておる。そういう現状だ。窓口に見える一般市民に手続面を中心に相談をしているけれども、間断なく人が続いて来るわけで受付事務の合い間にしかやれない。つい不十分な説明に終わってしまう。窓口配置の書記官が現状のままの一人や二人では、手不足で、これ以上はできなくなってくる。これから先交通問題とかいろいろなものがどんどんふえてくることは間違いないわけですね。それでそれがまた、よりやりやすくなってくるとよけいふえくることは事実でもあるわけですし、そういう点を考えていくと、現状ではとうてい不十分であるし、説明もできなくなってくるし、サービスしてあげられないという点を言っておるわけなんですね。その点いかがなんですか。
  84. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 書記官の受付における相談事務というのはたいへんむずかしい問題でございます。確かに調停が適するかどうか、調停申し立てをしたらよいかどうかというその程度の相談でございます。ならば、書記官としてはもちろん受けてよろしいわけでございますし、調停担当であるということであれば、申し立てをどういうふうにするのかというようなことについての相談にあずかるということはけっこうなことでございますが、事件の内容にまで立ち入った相談を受けるということになりますと、そこからまた弊害が出てくるわけでございます。その点で書記官も非常に気を使って仕事をしておられることと思います。これは実例を申し上げますと、ある非常に親切な書記官が申し立て人からいろいろ相談を受けて、中身にまで入って申し立て書を書いてやった。そのことだけでもって相手方から、書記官は申し立て人の味方なんだ、仲間なんだ、裁判所は非常に不公平であるというような非難を受けて、たいへんあとで困ったという例もあるわけでございます。  そういう意味で非常に微妙な問題がございます。しかし、できるだけ手続の面では親切に配慮してやるべきであることは言うまでもないわけでございますので、現在交通事件について申し立て書の用紙をつくりまして、そこに申し立て人自身が適当に書き込みをすれば申し立てができるような用紙をつくって使っておるわけでございますが、ある庁におきましては、交通事件に限らず定型的な比較的簡単に書き込みをすれば申し立てができるような事案につきましては、申し立て用紙をつくっているところもございますし、先ほどもちょっと申し上げましたけれども最高裁判所におきましても今度の予算要求で相当予算を認めていただいて予算の中に入っておるわけでございますので、その点をさらに一そう徹底して、各種調停申し立て用紙を備えつけることによりまして当事者の便宜をはかりたい、そのように考えております。
  85. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それが新しい予算で少し検討しておるということなんですけれども、いわゆる管轄が今度の改正では交通なんかの問題は加害者の住所、事故発生地でも可能になってくるという点で、それだけどんどんふえてくるのじゃないかという点を心配しているわけです。その点もお考えになっていらっしゃるわけですか。
  86. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この法律案が成立いたしますと法律は十月一日から施行ということになるわけでございまして、本年度としては半年ということになるわけでございますが、その間にどれだけ事件数がふえるかということの予測は現在のところ立ちようがないわけでございますけれども、ともかく先ほど申し上げましたように、とりあえず事務官の増員ということでできるだけ対処してまいり、今後の推移を見ました上でもって、将来はさらに増員を必要とする場合には増員の手当てをしてまいりたい、そういうふうに考えております。
  87. 沖本泰幸

    ○沖本委員 さっきからのやりとりにダブるかもわからないのですが、これも勉強したところで出てきたのですけれども、この改正案の十六条の二、これは先ほどやりとりをやったわけですけれども、これを新設して主としてどのような事件について活用されていくかという点ですね。それはどうです。
  88. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この法律案十六条の二規定は、現在は商事調停事件と鉱害事件調停について規定されているところであります。それを一般の調停事件の通則的な規定に改めようということでございます。商事調停事件、鉱害調停事件についてこの規定が設けられております理由は、適切な解決案というものは専門技術的でかつ合理的な計算を基礎として、それに多少の裁量を行なうことによって得られるそういう種類の事件であるということを前提として設けられたというふうに承知いたしているわけでございます。したがいまして今後これを通則的な規定にいたしました場合には、たとえば人身事故に基づく損害賠償事件、交通事故に基づく損害賠償がその典型的なものでありますが、そういった損害賠償事件における過失の割合の算定やあるいは慰謝料の額の算定、あるいは地代家賃の増額の調停事件における額の算定、あるいは土地建物明け渡し事件の場合に、明け渡しを前提として明け渡しの点について合意が成立した後の立ちのき料の額の算定の問題、あるいは日照侵害による損害賠償とか、騒音による損害賠償といったような事件であって、特に被害者が多数いて申し立て人が多数いるような事件で、申し立て人に対してどのような割合でもって損害を支払うか、そういったような問題が出てきた場合におきまして、学説、判例、その他においてある程度集積してきた結果といたしまして、一定の基準というものができている、示されているような、そういう事件において利用される可能性があるのではないか、そういうふうに考えておるわけでございます。
  89. 沖本泰幸

    ○沖本委員 この中で当事者の意見を聴取しなければならないものとするということになっているのですけれども、その当事者の合意、これは多数にわたるということなんですけれども、どういう形で合意を得るような方法をとっていくことになるわけですか。調停事項を定めようとするときば当事者の意見を聴取しなければならない、数の多い場合には、いまのおっしゃったようにあちこちの意見を聞くということをおっしゃったわけですね。それを合意さしていく場合の合意を得るやり方というものは具体的にはどういう方法をとられるわけですか。
  90. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 ちょっと私の説明が不十分であったように思いますが、ある高層建物ができたことによって日照権の侵害を受けたという方がかりに三人おられたといたしまして、三人の方が日照権侵害に基づく損害賠償の調停を共同で申し立てたというような場合に、加害者側、要するに建物を建てた者の側が一定額の損害賠償には応ずるという合意が成立した場合におきまして、申し立て人の三人の間でどういうふうに分配するかというような点が問題になるということもあり得るのではないか。そういった場合にこの規定適用がなされる場合があり得るのではなかろうか、そういう趣旨で申し上げたわけでございます。
  91. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そうするとその分配の計算とか配分とかという点を納得さしていく上のいろいろな意見、そういうものを示してあげてそれから納得を、合意を得ていって、それで成立さしていくというやり方ですか。
  92. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 この法案で申します合意というのは申し立て人と相手方との間で調停委員会がきめてくださったことには従う、そういう趣旨の合意でございます。ですからたとえばいまの例で申しますと、A、B、C三人が共同申し立て人になり、Dという人を相手方にいたしまして調停を進めてきた場合に、Dは総額としてかりに五百万円なら五百万円払う。しかしあとA、B、Cの間でそれをどう分けるかをひとつ調停委員会のほうできめてくれ、またA、B、Cのほうでも自分たちの間でなかなかきめにくいからひとつ調停委員会できめてほしい、こういうような点で意思の合致があれば、本条で申します合意が成立するという、そういうことでございます。
  93. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そういう場合に、先にこうきめてしまって、事務の簡略化ですか、何かでこうこうこういうようになるから、どっちをどう計算したってこういうことになるのですから、だから先に合意しなさいというところから始まらないと、こういうことなんですね。その辺はどうなのでしょう。
  94. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 私どもとしてはこの十六条の二の適用される条件というものが三つあるのではないかというふうに考えております。  第一の条件は、事件の内容でございますが、この事件の内容につきましては先ほど申し上げましたように、一定の基準というものがつくられており、それを前提にして合理的な計算をすることによって最も適切妥当な解決が得られるような種類の事件というようなことが言えるのではないかと申し上げたわけでございます。  第二の条件といたしましては、調停がある程度進行しているということ、進行した段階にあるということでございまして、当事者双方の主張が十分に調停の期日の中で尽くされ、互譲がある程度行なわれており、双方の要求の差が非常に縮まってきている段階であって、しかも双方とも何とかこの際この事件を解決したいというふうに考えている。しかし現段階におきましてはお互いに自分のほうから譲歩するということを申し出することのできないような気持ちに立っておるという状態にあるということが第二点でございます。  第三の条件といたしましては、関係人全員が調停委員会を信頼しているということでございます。調停委員会を信頼し、調停委員会に最終段階の結論はおまかせするという合意をする場合でございますので、信頼がなければ、とうていそういう合意はあり得ないであろうと考えているわけでございます。  なお三つの条件がそろいましても一般的な場合として考えますならば、その段階において調停委員会が具体的な案を当事者に提示すれば、当事者双方がそれに承諾をして通常の調停として成立するという場合が考えられるわけで、おそらく大部分の場合はそのような形で調停が成立するのではないかと考えられるわけでございますが、ごく例外的な場合に、そういう形で譲歩はできないけれども調停委員会がきめてくれればそれには従いましょうという場合があり得るのではないか。その場合の一つといたしましては、従前の対立感情的なものが尾を引いておりまして、調停として成立させることをいさぎよしとしない。しかし調停委員会がきめてくれればそれに従おうという場合があるであろう。  第二の場合といたしましては、たとえば隔地者間の調停のような場合を考えてみた場合に、ごくわずかな差のところまで煮詰まってきた段階におきまして調停委員会のほうでせっかくここまで煮詰まったのだから、もう一回ひとつ考え直してみて、出てきたらどうだろうかということで、次の続行期日をきめるという段階におきまして、遠くから出てきておられる当事者が、いまさらまた遠くから出てくるのもたいへんだから、この際、調停委員会で案をきめてくれれば従いましょうという希望を持つという場合もあり得るのではないか。それに対して相手方もそれじゃそうしようかというような場合もあり得るのではなかろうか。  それから第三の場合として、事件としては何とか解決はしたいけれども、形の上で合意によって調停を成立させたという形はとりたくないという場合でございます。たとえて申しますと、交通事故による損害賠償の事件で相手方になっている加害者の側についてその交通事故による刑事事件が係属している場合、刑事事件においてはその被告人として無過失を主張している、あるいは自分のほうが過失割合が少ないんだというような主張をしている。しかし私法上の問題としては被害者に対して何らかの賠償をした上で事件としては解決したいと考えている。しかし刑事事件の手前上自分のほうに過失があるんだという前提で調停を成立させることは困る、そういう場合に調停委員会がきめたことならばやむを得ないからそれに従うという形をとりたい、そういう場合も考えられるのではなかろうか。そういった意味で比較的例は少ないであろうかと存ずるわけでございますが、事件をともかく円満に解決する一つの方法として認めておくことが望ましいのではないか、そういうふうに考えるわけでございます。
  95. 沖本泰幸

    ○沖本委員 結局それは理想的な面で一つの解決の方法としてこういうふうな改正の考えを出されたわけですけれども、結局それが一つ二つ省略されていって、だんだん先ほどから一番心配している方向できめられないかということなんです。それの歯どめとか、そういうことにならないようにする何かの方法はとられておるのでしょうかどうかという点です。
  96. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 私が先ほど申し上げました三つの条件が整っておる場合でございますれば、御心配の点はないわけでございますが、その歯どめという意味では私ども規則の上でもって規定いたしたいと考えておりますことは、この合意が成立した場合におきまして、調停委員会としては裁判官を含めまして三人で十分協議して最終の案をつくり上げるわけでございますが、案をつくり上げた上で当事者双方に対して調停委員会の決定に従うという合意がほんとうに真意の合意であるかどうか、また最終案としてつくられた案について、これで一応納得してもらえるかどうかといったような点も念のために確かめた上で、正式の調停条項として調書に記載する、そういう手続を必ずとらなければならないというような規則を定めたいと考えております。したがいまして、御心配の点はまずないものと確信いたしておるわけでございます。
  97. 沖本泰幸

    ○沖本委員 それからいわゆる当事者が考えもしてなかったような内容の調停の条項がきめられたとき、不服であるという申し立てができないんじゃないか、民事調停法の第十七条の調停にかわる決定がその異議申し立てによって効力がないことに比べてみると妥当でないんじゃないだろうかという点についてはいかがですか。
  98. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 調停委員会の定める調停条項に服するという合意の中でも、もちろんこの範囲での調停条項であれば服するという、そういう合意できる調停条項の範囲を限定することもできますし、先ほども申し上げましたように、十分に調停条項を調停につきまして練り上げてきて、最終段階で対立している範囲が非常に狭いということでございますれば、その範囲内での調停条項なら服するという趣旨の合意と考えることができるわけでございますので、その合意の範囲を逸脱いたしました調停条項をつくりましたならば、その調停条項はやはり調停として無効であるというふうに考えることができるのではないかと、当然解釈されるのではないか、したがって調停無効の訴えということでその調停条項を排除すること、調停調書の効力を排除することができるわけでございます。
  99. 沖本泰幸

    ○沖本委員 商事調停及び鉱害調停のみに適用されてきたこの中の規定を一般に通則化していくという緊急性というものはどの辺にあるのでしょうか。
  100. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 今度の法改正におきまして、調停委員としては先ほどから出ておりますように、調停委員としての資質、能力の高い方々調停委員になっていただく、また各界の事件に相応する専門的な知識、経験を有せられる方方に調停委員に入っていただくということでございまして、こういう事件適用される分野というのは、先ほど申し上げましたように専門的な知識経験に基づく合理的な計算等によって妥当な結論が出てくる事件でございますので、そういう事件範囲先ほど申し上げましたような交通事故、医療過誤事件、あるいは借地借家事件、あるいは請負契約に基づく事件、そういった事件がだんだんふえてまいっておりますので、そういった事件にこの法律適用される場合があり得る以上は、この機会に同時にその方法を開いておくということが必要である、そういうふうに考えるわけでございます。
  101. 沖本泰幸

    ○沖本委員 大体終わりになりますけれども、この調停委員会は、前の御質問に重なるようですけれども、どのような手続を経て調停条項を定めることになるわけですか。当時者の合意の内容とか、趣旨とか、意向を確認していく手続はどういう形でとられていくか。結局それは調停の内容が一任される方向をとりたがって、いわゆる権力化していくのじゃないかという点のおそれがあるということになるわけですが、その辺についてはいかがですか。
  102. 西村宏一

    西村最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたように、調停においてある程度双方の互譲があり、案が煮詰まってきた段階ということを前提にいたしますと、その段階で当事者双方から調停委員会の定める調停条項に服しますという合意書面が提出されるわけでございます。その書面が提出されますと、それに基づいて先ほど申しましたように裁判官を含めた調停委員の方三人で十分協議いたしまして、その合意の認めている範囲内における最も適切妥当な調停条項案を作成いたします。その作成した後にその調停条項案を当事者に示す。この示し方は適宜の方法があり得ると思いますが、たまたま当事者の一方が裁判所へ出てきておればもちろんそこで示し得るわけでございますし、あるいは電話で確かめてもよろしいかと思います。隔地者のような場合でありましたならば、その方がおられる地の裁判所に嘱託をいたしまして確かめるという方法もとり得るわけではないかと思いますし、そういったようないろいろな方法によりまして当事者の真意と調停条項案に対する意向を十分確かめました上で、それでよろしいという結論に達しますと、それを調停調書に記載させるということになるわけでございます。
  103. 沖本泰幸

    ○沖本委員 大体、全部終わったわけじゃないのですけれども、私がいろいろつたない勉強をした中身でこの程度のことを拾ってみたということに終わっているわけです。在来から私、ほかの方も同じような御意見ではないかと思うのですけれども、いわゆる保護司であるとか、あるいはそのほかのこういうふうなお立場にお立ちになる方々は非常に社会的にお立場を一般の市民、国民から尊敬されるという場にあるわけですね。ややもすると、その公の場所をはずれてしまって、公平なお立場でなくて肩書きが、ときには、極端なことを言いますと、選挙の票を左右するようなお立場に肩書きが使われてみたり、あるいはその人の尊敬度を増すためにその肩書きが使われてみたりということでもあるわけです。  先ほども具体例が出ましたように、お年の面でも非常に違うわけでもありますし、現代っ子的な感覚からいくと、時代相なりいろいろなものを考える考え方の中にギャップが相当あるということになるわけですね。いろいろな内容のものを御検討になって御判断をしていただく、こういうふうになるわけですから、公平にものをお考えになるには、若い人たち考え方、極端に言うと、ストリーキングとは何ぞやといったって、何だったかなと間違うようであっては困りますし、それがやはりこのごろの学生気質を代表するような一つのあり方でもあったり、社会をあっと言わせるようなことをやってかっさいを叫ぶような若者の時代でもあるというようなものを十分納得し、そういうものをそしゃくした上でいろいろなものに当たっていただくような感覚を身につけた方々を要するのではないか。そこに考え方の断層があったりしてはならないと考えるわけです。  ですから、保護司さんの場合あたりでも、ややもすると肩書きだけを家の応接間に高々しくお掲げになって、その横に金鵄勲章を一ぱい並べてみたり、それで得々としていらっしゃるという方を私幾らも見ておるわけです。そのほかのことには非常にうといということで、それで町のいろいろな代表的な行事にはいつも顔をお出しになっていらっしゃる。そういうことのみを追っていらっしゃるようなことであってはならないと思うのです。これは一例にすぎないわけですけれども、そういう中から社会的に洗練された感覚を持っていらっしゃる方にどんどん出ていただきたい。これはどなたも同じだと思うのですけれども、さりとて、それが極端な専門のお立場に寄りかかっていってしまうと、今度は逆効果というものも考えられるわけです。それは先ほどからいろいろな角度から申し上げたようなことでございますから、そういう点は十分お考えになっていただいて、それで問題を検討していただかなければならないのじゃないか。いままで非公式で御説明を伺ったりした面では、そういう面も多分にあるから、今度改正するのだというような御意見もあったわけですけれども、それは中のほんの一部の内容ではないかと思うのです。とにかく、国民のためによりよき、行って相談しやすい調停の場所になっていただかなければならない。国民がだんだん遠のいていくような調停の場所になっていただいては、はなはだ困るということになっていくわけですから、そういう点、いままで申し上げたのはほんの一部で、ごく国民的な素朴な立場で、調停を受けるほうの側に立って伺っていたのだ、こう受けとめていただきたいと思います。よろしくお願いします。  以上で終わります。
  104. 小平久雄

    小平委員長 次回は、明二十七日水曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時二十四分散会